帝竜戦役⑤~勇者の伝説と勇者の墓標
かつて、人魚と共に旅をしていた勇者がいた。
けれども勇者は、群竜大陸に渡る前に、ある村で人魚と別れる。
人魚の安全と幸せとを願って。
必ず帰ると自分に誓って。
けれども人魚の元に勇者は戻らず、人魚は勇者を追って村を出る。
勇者にまた会いたいと願って。
大切な人を想い、信じ抜いて。
そして。
人魚と勇者は、数多ある勇者の伝説の1つとなっていた。
そんな幾つもの勇者の伝説を追うことで、発見された群竜大陸。
魂喰らいの森を、皆殺しの荒野を、万毒の群生地を越えた猟兵達の前に広がるのは。
「かつての勇者達がヴァルギリオスと相討ちになり全滅した地……『勇者の墓標』と呼ばれる大きな竪穴が無数にある場所だ」
九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は硬い声で告げた。
かつて群竜大陸に渡った勇者達は、数千人にも及ぶと聞く。
その総戦力を結集して、最強の帝竜であるヴァルギリオスを討ち取ったものの。
全ての勇者達も命を落として『勇者』となった。
戦いの激しさを物語るように、その地には幾つもの大きな竪穴が穿ち作られている。
そして、その竪穴が『墓標』と呼ばれる理由は。
「そこには、勇者の残留思念が漂っているらしい」
死して尚、勇者達はオブリビオンと戦い続けているのだ。
「向かってもらう竪穴にいるのは……知ってる者もいるね。私がこの群竜大陸までの道を掴んだきっかけとなった、人魚と勇者の伝説に出て来る勇者だよ」
夏梅は改めて、その伝説を諳んじて、猟兵達に聞かせる。
伝説になかった勇者の末路は、その竪穴にあるのだと。
思念体ゆえに、オブリビオンを倒すことなどできず、ただ抗うのみだけれども。
「勇者には、人魚の加護がある」
人魚が信じ、人魚を信じる者に与えられるという力。
勇者がまだ人魚を想っているのなら、失われていないはずのもの。
それは、オブリビオンの能力から勇者とその仲間を守ってくれるものだから。
「勇者の協力を得て、共に戦ってほしい」
それこそが戦いの最善手であり。
終わりなき伝説に刻まれた勇者の結末となるはずだから。
夏梅は真っ直ぐに、猟兵達を見つめ、頷く。
応えるように、幾つかの頷きが生まれた。
そこに、ああそうそう、と思い出したように夏梅が手を打つ。
「かつての激しい戦いが生んだのは、竪穴だけじゃない。
魂晶石と呼ばれる、高純度の魔力結晶体があるようだ」
1個で金貨600枚程の価値を持つ、この地の宝物の情報も付け加えると。
夏梅は、群竜大陸への道を開いた。
「うふふ。そろそろ認めたら?
アナタが捨てた人魚は、私の予言の通り、悲愴な最期を迎えたのだと」
深い竪穴の奥で、蠱惑的な声が響く。
それは、青いヴェールで顔を隠した占い師のもの。
額に、腕に、胸元に、腰に。しゃらりと鳴る金の飾りを揺らして。
青い鱗に覆われた蛇のような下半身をくねらせ、嗤う。
オブリビオン『ミスティ・ブルー』。
「過去から来たオブリビオンの私が、同じ半獣の末路を分からないと思って?」
ヴェールの下から覗く艶やかな唇は、歪んだ笑いを浮かべて。
目の前に佇む勇者の残留思念を弄んでいた。
緩く編まれていた緑色の長髪は解かれ。
前を見据えていた緑色の瞳に陰りが生まれて。
「もうアナタに人魚の助力はない。
それが何よりの証拠でしょう?」
勇者は、胸元のペンダントを、輝きを失った鱗を握り締める。
それは、人魚に貰ったもの。
人魚が信じ、人魚を信じる者を守る加護。
さらに手の力を強めた勇者に、ミスティ・ブルーは愉し気に嗤って。
「それでもまだ認めないなら、何度でも見せてあげる」
再び幻覚を紡ぎだした。
勇者の大切な人魚が、独りで息絶える様を。
帰らぬ勇者に会いたいと願い、それが叶えられぬまま骸の海へ堕ちていく様を。
「私の香毒は効かなくても、私の幻惑は堪えるでしょう?」
見せつけて、ミスティ・ブルーは嗤う。
ようやく、厄介な人魚の加護を奪うところまで追い詰めた。
ここまでくればあと少し。
「さあ、堕ちなさい」
骸の海へ。
私と同じところへ。
堕ちてきなさい。
佐和
こんにちは。サワです。
つづく、で終わる伝説の、おしまい。
当シナリオに出て来る勇者は『勇者の伝説と~』で始まるシナリオ群にて語られていた伝説に登場する勇者です。
概要はOPに記載しましたので、未読でも対応は可能です。
竪穴の奥で『ミスティ・ブルー』と勇者の残留思念が対峙しています。
ミスティ・ブルーの幻惑により、勇者の心は揺らいでいる状態です。
本来勇者が持つ人魚の加護が取り戻せれば、ミスティ・ブルーの幻惑や香毒を弱めることができるでしょう。
そのため、当シナリオには特別なプレイングボーナスが設定されています。
それに基づく行動をすると判定が有利になります。
【プレイングボーナス】勇者の残留思念と心を通わせ、そのパワーを借りる。
それでは、勇者との共闘を、どうぞ。
第1章 ボス戦
『ミスティ・ブルー』
|
POW : 邪の道は蛇
【幻惑】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【青い鱗の蛇】から、高命中力の【猛毒】を飛ばす。
SPD : 神秘的な青
【艶やかな唇から】から【摩訶不思議な予言】を放ち、【幻惑すること】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : プワゾン
自身の【体から発する甘い香毒】を代償に、【敵】を虜にして、もしくは【既に虜にした者】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【無我夢中】で戦う。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
亞東・霧亥
【POW】
・毒耐性、毒使い、医術、早業
周囲に漂う毒香の中では会話も難しい。
毒耐性を高めて毒香に突入。
毒の特定、中和剤を作製、散布し周囲の毒香を晴らす。
・勇者と会話
勇者の顔には生気が無く、俺にも気付かない。
悪意の声と幻惑に晒されてきたなら、下手な声掛けは疑心を招く。
(柏手を打ち、清浄な音で幻惑を払い、俺に気付くまで待つ。)
「まさか、蛇女の二枚舌に惑わされるとは。ヴァルギリオスを倒してからの600年、この竪穴で君を守り続けてきた人魚の加護を思えば、二人の絆に些かの翳りも無い事などすぐに解る。後はアレを倒して、足早に彼女の元へ馳せ参じるべきだ。」
【UC】
幻惑も猛毒も効かない。
二枚舌ごと潰れて消えろ!
(「これは……香毒が濃いな」)
深い竪穴に飛び込んだ亞東・霧亥(峻刻・f05789)は顔を顰めた。
穴といってもかなり大きなもので、小隊が演習をできる程度はあるだろうかと、素早く視線を巡らせ、目算する。
そんな竪穴に甘い香毒が充満していた。
その毒に耐えつつ、医術を以て解析を進めていく傍ら、霧亥の黒瞳は、より香毒の濃い穴の中央を見据える。
そこにあるのは2つの人影。
だがそのどちらも人間ではない。
片方は、香毒を生み出すオブリビオン。
金の装飾を煌めかせ、青いヴェールの下で妖艶に微笑む美女は、その豊かな胸や艶やかな肌と共に、青い鱗に覆われた蛇の下半身を見せつけている。
人を虜にし、人界を乱すと言われた半蛇の怪物『ミスティ・ブルー』。
片方は、実体のない残留思念。
青年と呼ぶにはまだ少し足りないと思える程に年若く、細身の身体に防具を纏ってはいるが、地面に膝をつき俯いたその顔は、長い緑髪に隠されて良く見えない。
かつてこの地で帝竜と相打ち、この竪穴を墓標とする勇者。
対峙する2つの人影は、だが明らかにミスティ・ブルーの優位に見えたから。
霧亥は香毒の中へと突入した。
解析したその毒の中和剤を早業で作製し、それを散布して香毒を晴らしながら。
蹲る勇者の横を素通りし、ミスティ・ブルーに迫る。
「あら、お客さんが沢山ね。うふふ」
ミスティ・ブルーがその赤い唇を蠱惑的に歪め、霧亥や他の猟兵達をぐるりと見回す一方で、勇者は乱入者に気付く様子すらない。
生気のないその姿は、ミスティ・ブルーの甘い毒に囚われかけているように見えた。
(「悪意の声と幻惑に晒されてきたなら、下手な声掛けは疑心を招く」)
だからこそ霧亥はそう判断し、勇者の意識がこちらへ向くのを待つ。
香毒を中和し、散らし。
幻惑をもたらす唇を閉ざすべく半蛇へと挑みかかり。
そしてその最中に、柏手を、打つ。
竪穴に響く清浄な音。
1つ。また1つ、と。
小さくも響き渡る柏手は、空気を、魂を震わせて。
幻惑を払う、見えない浄化の波となる。
1つ。また1つ。
祝福の音は邪気を払い。
人魚の鱗で作られたペンダントに淡い光が灯り。
勇者はゆっくりと顔を上げ、緑色の瞳で霧亥を、見た。
「まさか、蛇女の二枚舌に惑わされるとは」
その緑瞳にまだ力はなく、迷い揺れているようだったから。
肩越しに振り返った霧亥は、その迷いを断ち切るように、強く短く、言葉をかける。
「ヴァルギリオスを倒してからの600年、この竪穴で君を守り続けてきた人魚の加護を思えば、2人の絆に些かの翳りも無い事などすぐに解る」
今ここにまだ勇者の思念が残れていることが。
今こうして、勇者と霧亥が会えたことこそが。
人魚の想いを証明するものであるのだと。
勇者自身が、2人の絆の証なのだと、告げて。
「後はアレを倒して、足早に彼女の元へ馳せ参じるべきだ」
霧亥は再び、ミスティ・ブルーへと向き直る。
「待ってもいない相手の所に帰れと言うの? 酷いわね」
嘲るように笑うミスティ・ブルーは、その周囲に青い鱗の蛇を呼び出し、言葉と共に更なる毒を生み出そうとするけれども。
それより早く、天からの雷がミスティ・ブルーを撃ち抜いた。
その隙に、霧亥は足元の大地に手を差し込む。
掴んだ大地は巨大な岩板となり、大きく掲げられて。
「冥土の土産だ。遠慮するな」
そのまま、ミスティ・ブルーを叩き潰すように振り下ろされた。
「二枚舌ごと潰れて消えろ!」
大成功
🔵🔵🔵
ルゥー・ブランシュ
【旅】
ココはすごくさびしい
まるで還ることができない哀しみで出来ているようで
この哀しみを
聴いてはだめ
視てはだめ
―させないっ!
その惑わしをかき消すよう勇者と蛇との間に風を生む
ほんの少しでいいの
あの幻惑から遠ざけれるなら
オズに合わせ、祈りの光を勇者の胸へ
思い出して…首飾りの物語
哀しみではなく
心を通わせた『ふたりのこと』
光を取り戻せたのなら
一緒に行こう
待つべき人へと還れるように
破魔の力で幻惑から心を守り
香毒と猛毒を風の壁にて押し留め
二人も惑わされぬ様、祈りの力を光にして届ける
あの惑わしの悪夢には、終わりの花びらを!
あたしも、ずっと待っていた人がいるから
今度こそ幻ではない『アナタ』で迎えに行ってあげて―
オズウェルド・ソルクラヴィス
【旅】
そうか―
この地は、彼奴を斃して終わりでなかったのだと墓標を見て想う
アンタは礎だ
彼奴を斃した先に、ようやく辿り着く事ができた『物語の果て』
だからこそ、その背に問う
破魔と覇気の魔力を乗せ
―おい、どこまで堕ちる気だ?
桜が作った一瞬の隙
鼓舞するように目を覚ませと
この地で望んだモノは、邪が見せる骸なのか?
護り、帰ると誓ったならば
その還るべき『光(人魚)』を思い出せと
古き竜言語にて桜の光を増幅させる
あの蛇は穢れだ
槍を一閃
香毒をなぎ払い
同時に本体をも焼く炎を与え
覇気を纏いて幻惑を払い
毒を風の魔力を乗せた衝撃波にて飛ばし防ぐ
勇者が還れるよう
この墓標ごと昇華するよう閃炎を呼び降ろし
その最期までを見送る―
「ココはすごくさびしい」
竪穴に降りたルゥー・ブランシュ(白寵櫻・f26800)は、ぽつりと呟きを零した。
幾つもの穴が開き、荒れ果てたその地は、かつての激しい戦いを思い起こさせ。
風もなく空気が淀み、留まる中には、生命の息吹すら感じられなかったから。
(「まるで還ることができない哀しみで出来ているよう……」)
胸に迫る切なさに、ルゥーはそっと祈るように両手を握る。
「そうか……
この地は、彼奴を斃して終わりでなかったのだな」
その傍らに立ったオズウェルド・ソルクラヴィス(明宵の槍・f26755)も、竪穴を見渡して静かな声を紡いだ。
各地の伝説や平穏を取り戻した世界から思っていたのとは、違う結末。
死して尚、囚われ戦い続ける勇者の姿を、その青い瞳を細めて見やる。
勇者の残留思念は、香毒の中にいた。
身体を失った勇者に毒そのものは効いていないだろうと思う。
だが、勇者は膝をつき俯いて。
その前に立つミスティ・ブルーが勝利を確信したかのように唇を歪めている。
勇者を蝕むのは、言葉の毒。
ミスティ・ブルーの紡ぐ幻惑。
竪穴に満ちて淀む、哀しみ。
それを聴いてはだめだと。視てはだめだと。
ルゥーは風を呼び、オズウェルドと共に歩き出した。
(「ほんの少しでいいの。あの幻惑から遠ざけれるなら」)
香毒を、そして紡がれた惑わしをかき消すように、ルゥーは勇者と半蛇との間に、生み出した風を奔らせる。
祈るようなその風を感じながら、オズウェルドは勇者の背に近づき。
「……おい、どこまで堕ちる気だ?」
破魔と覇気の魔力を乗せ、問いかけた。
勇者は、礎。
彼奴を斃した先に、ようやく辿り着く事ができた『物語の果て』。
だからこそ、蹲ったままのその背に、問う。
「この地で望んだモノは、邪が見せる骸なのか?
護り、帰ると誓ったならば、その還るべき『光』を思い出せ」
勇者にとっての光は人魚だと、伝説は語る。
護るために別れ、戻ると誓って残した、大切な相手。
それならば、とオズウェルドは問い、呼びかける。
失った光を取り戻すために。
「あの蛇は穢れだ」
そして、その光を蝕む香毒を振り払うように、オズウェルドは槍を一閃する。
さらに炎を操ると、幻惑を吹き飛ばし、焼き払うように放ちながら、ミスティ・ブルーへと挑みかかった。
毒や幻だけでなく、ミスティ・ブルー本体をも焼き尽くさんと纏った炎は浄化の輝きを見せ、燃え上がる。
「思い出して……」
そんなオズウェルドの背を見送ったルゥーも。
入れ代わるように、勇者の背に祈りを向ける。
生み出した優しい風が、香毒を払い、ふわりと毛先だけ桜色の白い髪を揺らして。
祈りは光となって、勇者の胸に灯っていく。
その胸で色を失った、小さなペンダントを。
優しく照らし出していく。
それは、伝説には語られていなかった、人魚と勇者のもう1つの物語。
人魚が信じた勇者に託した、護りの力を持つ人魚の鱗。
その物語にあったのは、この地に満ちているような哀しみではない。
信じ合い、心を通わせた『ふたりのこと』。
風が、祈りが、吹き抜けて。
毒が薄まり、炎が輝き、手を打つ清浄な音が響く中で。
光は、人魚の鱗を淡く照らし出す。
オズウェルドも古き竜言語にてその光を助け、ルゥーはまた祈りを重ねて。
勇者が、ゆっくりと顔を上げるのを、見た。
「待ってもいない相手の所に帰れと言うの? 酷いわね」
半蛇の占い師が紡ぐのは、嘲りの言葉。
けれども。
「いいえ、待っている」
ルゥーはきっぱりと、首を横に振った。
「あたしも、ずっと待っていた人がいるから」
太白桜の精であるルゥーが目覚めたのは、遠き日の『約束』を果たす為。
幾百の樹齢を重ねて、それでも待ち続けた、想い。
それを勇者に示すように、ルゥーは胸を張り。
真っ直ぐにミスティ・ブルーを見据える。
勇者と同じ緑色の瞳に迷いなどなく、信じる想いだけが灯り。
その周囲に無数の桜の花びらが舞った。
「あの惑わしの悪夢には、終わりの花びらを!」
そして、叫ぶような声と共に、花びらはミスティ・ブルーへと向かう。
舞い踊るその様は嵐となって、岩板を何とか砕き顔を上げた半蛇を巻き込み。
「謳え。我が祖にして始なる力を……」
さらにそこに、オズウェルドが召喚した幻緋竜の暁星の咆哮が響き渡る。
呼び降ろされた閃炎は、毒も、幻も、惑わしも、そしてミスティ・ブルーも飲み込んでなお、広がっていく。
この墓標たる竪穴そのものを昇華するかのように。
広がって、燃やし尽くして。
「今度こそ幻ではない『アナタ』で迎えに行ってあげて」
立ち上がっていた勇者に、ルゥーは小さく微笑んで、囁くように告げた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
氷雫森・レイン
「クズの振る舞いもその辺になさいな、身も心もブスとか救えないわよアンタ」
ふん、オブリビオン風情が喚かないで
「そしてそこのヘタレ」
これだから男は
「腐ってもユーベルコードを使うこのブスが何故最早命も無い貴男如きを正攻法で潰せないかも分からないなら纏めて氷漬けにするわ」
加護は途絶えてなどいない
貴男が勝手に曇らせているだけ
「私とてこんな矮躯の命よ。それでも大切にしてきた人に大切にされたから生きてるの」
私を何かから守る時だけ舞う桜鬼の護り
そう私はあの子を信じてる
「最期まで信じて大切に思い続けるだけの人事も尽くさずに天命の前でうろうろしないで頂戴」
さぁ待たせたわね魂ブス
今最高に機嫌が悪いの
滅ぼしてあげるわ
深く大きな竪穴の底。
淀む香毒の中で、勝ち誇るミスティ・ブルーと、蹲る勇者。
氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は、雨妖精の翅を煌めかせながら、そこへと近づいていった。
「あら、お客さんが沢山ね。うふふ」
半蛇の占い師が蠱惑的に笑う。
その一方で、勇者は顔すら上げず、レインはおろか他の猟兵達の存在にも気づいていないように見えたから。
ふぅ、とため息をついて、レインはまずミスティ・ブルーにその青紫の瞳を向けた。
「クズの振る舞いもその辺になさいな、身も心もブスとか救えないわよアンタ」
雫のように美しく、氷のように繊細な、その小さく愛らしい姿から紡ぎ出されたのは、思いもよらない乱暴な口調。
その落差に、ミスティ・ブルーもヴェールの下で驚きの気配を見せ。
でもすぐに笑みを取り戻す。
しかしそれは虚勢にしか見えず。
「アナタも充分ブスのようだけれども?」
「ふん、オブリビオン風情が喚かないで」
何とか返した言葉も、あっさりとレインに切り捨てられた。
それはまるで、鋭く砥がれた氷の刃。
「そしてそこのヘタレ」
その刃は俯いたままの勇者へも向かう。
「腐ってもユーベルコードを使うこのブスが、何故最早命も無い貴方如きを正攻法で潰せないか……それすらも分からないなら、纏めて氷漬けにするわ」
レインは、人魚と勇者の伝説を聞いた。
そしてあの万毒の群生地で、多分、この勇者と人魚の過去を垣間見た。
だからこそ、思う。
(「加護は途絶えてなどいない」)
惑わされた勇者が勝手に曇らせているだけなのだ、と。
冷たい氷の刃は容赦なく勇者を切りつける。
勇者に纏わりついている、絆を曇らせ惑わせる毒の幻を。
レインはばっさりと、切り落とした。
両手を打つ清浄な音が、小さくも広く響き。
勇者の胸元のペンダントに、淡く光が灯る。
それは、2人の絆の証。
人魚が勇者を信じて渡した、加護の鱗。
そして。
じっと待つように見下ろすレインの前で。
勇者がゆっくりと顔を上げた。
でもその緑瞳は未だ迷い、惑わしの中から抜け切れていないようだったから。
「私とてこんな矮躯の命よ。
それでも大切にしてきた人に大切にされたから生きてるの」
ふわり、とレインは勇者の目の前を舞うように飛ぶ。
その周囲に仄かに、甘く蠱惑的な桜の香りが漂った。
それは、レインを『飼う』桜鬼が纏っているもの。
冬に眠っていたレインが、望んで囚われた常春の、想い。
……あなたを傷つける何もかもから護りましょう。
(「そう。私はあの子を信じてる」)
今一度、その想いを確かめて。
私の春を想って。
「最期まで信じて大切に思い続けるだけの人事も尽くさずに天命の前でうろうろしないで頂戴」
妖精は桜と共に、勇者へと厳しくも優しい氷の刃を振るった。
示される様々な思いに、重ねられていく言葉に。
次第に勇者の迷いは晴れ、緑瞳は強く輝いていったから。
もう大丈夫、とレインは勇者に背を向ける。
「さぁ、待たせたわね魂ブス。今、私は最高に機嫌が悪いの」
そしてその小さな指先が差し示すのは、嘲りの笑みを浮かべた半蛇の占い師。
「滅ぼしてあげるわ」
レインの祈りに応えるように、天からの雷がミスティ・ブルーを撃ち貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
堂島・ひかり
【光と夢】他連携◎
これ、いったいどうなってるの?
『幽霊なんて俺の管轄外、だが状況は分かる…ようは口説かれてるんだろ?』
む!そういう恋愛ドラマもあるけど、ああいうのは好きじゃないな!
『おおそうかい、それじゃ一発入れるか!』
勇者が立ち直るまで前で【オーラ防御】や【見切り】で派手に立ち回って【時間稼ぎ】!
合図と共にUC【光邪】でフォームチェンジ
ありがとうほのか、後は任せて!
【ダッシュ】で接近【指定UC】で渾身の一撃!
敵が何か言ってるけど【超覚遮断】中はよく分からないんだよね
『聞くこたぁない。ただの恨み節だ』
それじゃ、恋敵――たいさーん!
ところでエビル、意外と恋愛ドラマ…好き?
『誰がだふざけんなアホ』
長谷嶋・ほのか
【光と夢】
ひかりと恋愛ドラマの話はするけど、これもある意味熱烈な求愛なのかな?
でもうん、ああいうのはよくないと思うし、勇者さんもしっかりしてもらわないと
皆の支援と勇者さんの目を覚まさせる事を重視
九瀬さんの話だと人魚の行方が曖昧だよね
縁を辿ってみるよ
UC【童話憑依【人魚姫】】で人魚の属性を得て
【指定UC】で空の娘さんの風で香毒を払ってもらいながら、件の人魚さんの事を【情報収集】
小さな子が知ってる?私の身体を使うなら、いいよ、おいで
本人なのか、言伝なのかは分からない
けれど、口から溢れるのは彼を【慰め】【鼓舞】する【祈り】の【歌唱】
さあ行ってひかり、眼鏡さん
…誰かを愛するって、こういうことなのかな
深い竪穴の底で対峙する、半蛇のオブリビオンと残留思念の勇者。
その様子を見た堂島・ひかり(アンドロイダー・ジャコウ【邪光】・f14480)は、眉を寄せて首を傾げた。
「いったいどうなってるの?」
『さあな。幽霊なんて俺の管轄外』
ひかりの疑問をばっさりと切ったのは、ひかりがかけている近未来風の眼鏡。
ヒーローマスクであるエビルの声に、ひかりは、むむ、と口を尖らせるけれども。
『だが状況は分かる……』
続いた言葉に聞き返すより早く。
長谷嶋・ほのか(聖者の行進 ~グリムライダー~・f19636)も、少し自信なさげながらも、理解を示した。
「これもある意味熱烈な求愛なのかな?」
人魚を信じ続ける勇者を惑わし、堕とそうとするミスティ・ブルー。
その姿は、ただ勇者を倒そうとしているのではなく。
人魚の元へ行こうとしている勇者を、引き止めようとしているようにも見えたから。
疑問の形を取ったほのかの推論に、エビルも同意を見せる。
『だろうな』
「え? どういうこと?」
『ようはあの勇者ってぇのが口説かれてるんだろ?』
1人解ってないひかりに、エビルが端的に説明した。
ようやく、なるほどと手を打って、でもひかりはすぐに、む! と顔を顰める。
「そういう恋愛ドラマもあるけど、ああいうのは好きじゃないな!」
『おおそうかい、それじゃ一発入れるか!』
「そうする!」
意見の一致を見たひかりとエビルは、地を蹴りミスティ・ブルーへと迫った。
「あら、お客さんが沢山ね。うふふ」
駆け込んでくるひかりに、次々と襲い掛かって来る猟兵達に、だが半蛇は青いヴェールの下で蠱惑的な笑みを見せて。
「アナタ達にも、私の幻惑をあげる」
さらに重ねられる香毒だが、それは片っ端から中和され、また、風に散らされていく。
その中でひかりは、意図して派手に立ち回り、ミスティ・ブルーの目を惹いた。
ちらりと肩越しに見やるのは、俯いたままの姿。
(「勇者が立ち直るまで、私が引き付ける」)
小さくも響く柏手に。勇者にかけられる皆の声に。
ひかりは自分の役割を決め、勇者からミスティ・ブルーを引き離すように飛び回った。
「わたしも、ああいうのはよくないと思うし……」
ひかりの動きにその意図を読み取って、ほのかは勇者の元へと歩き近づく。
俯き、長い緑色の髪に隠された勇者の表情は見えない。
でもその心がミスティ・ブルーの毒に囚われ、揺さぶられているのは分かるから。
「勇者さんもしっかりしてもらわないと」
ほのかは俯く勇者を見やった。
大切な人魚を置いてきた勇者。
その勇者は、戦いの果てにこの地で散って。
今も尚、その思念が戦い続けている。
目の前の光景から導き出される、人魚と勇者の伝説の、1つの結末。
けれどもそこに、人魚の行方はなくて。
勇者の迷いもそこから生まれているとほのかは思ったから。
ユーベルコードを、空の娘の息吹【人魚姫】を発動させた。
人魚の属性を得たほのかの周囲に、風の精霊が喚び出され、ふわりと踊る。
「人魚の行方を……縁を辿って」
風の精霊に頼むように告げると、その肩口で髪がさらりと揺らされて。
「小さな子が知ってる?
わたしの身体を使うなら、いいよ、おいで」
穏やかに微笑んだほのかは、躊躇いなくその身体を依り代に差し出した。
勝手に動き出した唇から紡ぎ出されるのは、風の小精霊が集めた人魚の情報。
『待ってる』
『あの川でずっとずっと』
『姿が変わっても』
『過去を歪められても』
本人なのか、言伝なのかも分からない。
それでも止めどなく溢れてくる、祈るような歌うような、勇者へ向けた想い。
『あの人に会いたい』
『あの人はどこ?』
『ずっと待ってる』
『ずっと信じてる』
(「……誰かを愛するって、こういうことなのかな」)
自分の中に入ってくる、ただ一途で真っ直ぐな感覚。
ほのかの知らない淡く優しい感情に、恋愛ドラマを見るのとは違う気持ちを抱いて。
ほのかは、ゆっくりと顔をあげる勇者を見つめる。
人魚の気持ちが伝わったなら、迷いは晴れるはずだから。
もう一度人魚と想いを交わせたならば、揺らぐことはないはずだから。
『ずっと信じてる』
口から溢れてくる感情を、勇者に届けて。
胸元のペンダントに不思議な七色の光を取り戻して、立ち上がった勇者に微笑んだ。
「さあ行って。ひかり、眼鏡さん」
「ありがとう、ほのか。後は任せて!」
こっちは大丈夫だと、声を張り上げ伝えれば。
返ってくるのは元気で頼もしい言葉。
「コール! A・Dコウジャ!」
そしてひかりは、軽装高機動の白兵フォームに変形し、跳ね上がった速度で一気にミスティ・ブルーへと肉薄した。
防御を削って得た速さの中、超覚遮断で念動力を集中した状態のひかりには、周囲の音は良く伝わらないから。
「何か言ってる?」
『聞くこたぁない。ただの恨み節だ』
「そうだね。それじゃ……恋敵、たいさーん!」
ミスティ・ブルーの幻惑を跳ね除けて、ひかりは大威力の一撃を叩き込んだ。
勇者の持つ人魚の加護をも得て、一意光駆は、辺りを包み込んでいた炎ごと、ミスティ・ブルーを吹き飛ばす。
勇者から離れ、体勢を崩したそこに、続いて天から光が降り注ぐのを見てから。
ふと、ひかりは笑って尋ねる。
「ところでエビル。意外と恋愛ドラマ、好き?」
『誰がだふざけんなアホ』
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鈴木・志乃
第六感で敵の隙を突き
念動力で光の鎖を操作、敵に足払い&捕縛
早業高速詠唱の破魔を籠めた一撃で敵幻想を破壊
愚弄するのもいい加減にしろてめぇ!!
黙って聞いてりゃ好きにいいやがって
そもそも手前らが戦争なんてするから
二人が引き裂かれたんだろーがよ!!
勇者様、いつか貴方とお会い出来たらと思っていました
人魚の伝説を伺って村まで行った者です
……彼女はずッッッと貴方のことしか考えてませんでしたよ
えぇ惚気かってぐらいね!
■■■尊に代わって私が二人を引き合わせる!!
人の恋路を邪魔するやつは
千引岩で轢いてやろうか!
私が壊れても絶対やってやる
全力魔法UC発動
人魚の意志を失せ物探し
指定人物勇者
千引岩対象は敵
頼む、繋がれ!
『あの人に会いたい』
『あの人はどこ?』
紡がれた声色は聞き覚えのないもので。
けれども、聞いたことがある想いだったから。
鈴木・志乃(ブラック・f12101)は降り立った竪穴の底で、小さく笑みを浮かべた。
それは紛れもなく人魚の想い。
勇者を待ち続けた、伝説通りの、いや、伝説以上に純粋な願い。
だからこそ。
「待ってもいない相手の所に帰れと言うの? 酷いわね」
「愚弄するのもいい加減にしろてめぇ!」
嘲るようなミスティ・ブルーの声に、志乃は怒りを爆発させた。
「黙って聞いてりゃ好きにいいやがって。
そもそも手前らが戦争なんてするから2人が引き裂かれたんだろーがよ!」
それは半ば八つ当たりに近いと志乃にも分かっていた。
例え帝竜がこの世界を荒らしていたとしても。
そこに1人で向かうと決めたのは勇者で。
それを待つと決めたのは人魚だから。
でも。それでも。
思わずにはいられない。
その戦いがなかったならば、2人は別れずに済んだのではないかと。
平和な世界であれば、あの村で一緒に暮らせたのではと。
願わずにはいられなかったから。
志乃はミスティ・ブルーに背をむけると、勇者の前で膝を折った。
顔を上げたものの、まだしゃがみ込んだままの勇者に、胸に片手を当てた礼を送りながら微笑みかけて。
「勇者様、いつか貴方とお会い出来たらと思っていました。
人魚の伝説を伺って村まで行った者です」
その事実を、告げる。
今も温泉で魚が泳ぐ、大きな川の側の小さな村。
人魚と勇者の伝説が昔語りとして残る地。
子供達と一緒に聞いた老婆の話から、志乃は人魚を追って川を下り。
その先で出会った人魚は、その過去を骸の海から引き上げられ、オブリビオンと化してしまっていたけれども。
「……彼女はずッッッと貴方のことしか考えてませんでしたよ」
『ずっと待ってる』
『ずっと信じてる』
その想いだけは変わっていなかったから。
過去を歪められても、その根本は消えていなかったから。
「えぇ、惚気かってぐらいね!」
満面の笑みを見せた志乃を、勇者は見上げる。
そして志乃は立ち上がると、ユーベルコードを発動させるべく祝詞を紡ぎ出した。
「掛け巻くも畏き■■■尊に、恐み恐みも白さく……」
その背に広がる白い翼に合わせたように、黒髪が真っ白に変わって。
世界の祈りや願いと繋がる真の姿を現した志乃が、強く強く願ったのは。
(「■■■尊に代わって私が2人を引き合わせる!」)
人魚と勇者の再会。
黄泉の国に埋もれた故人の意志を、今ここに呼び出すこと。
人魚の時は、幸福な幻想を、偽りの再会を見せることしかできなかった。
でも、今ならば。人魚を知り、勇者と出会った今ならば。
(「私が壊れても絶対やってやる」)
その力の全てを祈りに捧げ。
例え一時であっても、再びその縁が結ばれることを望んで。
(「頼む、繋がれ!」)
天使は祈る。
「人魚はアナタと会えずに、アナタを恨んで終わったのよ。
だからアナタもここで終わり。それが私の予言」
それすらも嘲笑うように、炎の中でミスティ・ブルーは艶やかな唇を歪め、その身体から甘い香毒を発すると共に不可思議な予言を告げるけれども。
「人の恋路を邪魔するやつは、千引岩で轢いてやろうか!」
志乃は叫びながら、念動力で操った光の鎖を向かわせる。
体勢を崩し、光に貫かれたその隙を逃さず、半蛇の身体を捕え。
動かすのに千人力が必要と言われる程の大岩に縛り付け、抑える。
ミスティ・ブルーの動きを封じた志乃が振り返ると。
勇者は虚空を見つめて、優しく穏やかな微笑みを浮かべていて。
しっかりと立ち上がったその胸元では、人魚の鱗が七色に輝いていた。
大成功
🔵🔵🔵
ケルスティン・フレデリクション
…ほんとうに、そうおもうの?
予言、なんて不確かなものだよ。あの人の言葉は信用できるの?
…あなたの、あいしていたひとのことは、あなたにしかわからないよ
…あのひとの、いってることばが本当のことなのかは、貴方にしかわからない
…あなたの人魚さんは、確かに貴方を待っていたのだと思う。
それは、貴方への気持ちゆえだよ
私には、まだ恋や、そういう気持ちは解らないけれど…
大事なこころは、あなたの中にあるよ
たいせつな、だいじな、あなたのおもいは、うそじゃないよ
ねぇ、きこえる?人魚さんがあなたをよんでる。そんなこえ
だから、まけないで
【祈り】
お話してる間は攻撃が来ないよう、魔法で壁作成
そして【ひかりのしらべ】で攻撃。
俯く勇者の傍らに、紫色の花が降りる。
ふんわりとウェーブのかかった紫色の長髪に、青い小花を散らしたケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)は、幼いその顔をこくんと傾げた。
「……ほんとうに?」
問いかけるのは純粋な疑問。
「人魚さんのさいごが、かなしくいたましいものだった、って。
ほんとうに、そうおもうの?」
勇者を捕らえ沈める、ミスティ・ブルーの幻惑への抗い。
「あのひとの言葉は信用できるの?」
予言なんて不確かなものよりも。
信じるものは他にあるはずと。
ケルスティンは、澄んだオレンジ色の瞳でじっと勇者を見つめた。
「……あのひとの、いってることばが本当のことなのかは、あなたにしかわからない」
人魚と同じ時を過ごしたのは、勇者だけで。
人魚と心を通い合わせたのも、勇者だけ。
だからこそ。
伝説を聞いただけのケルスティンよりも。
惑わしの言葉を紡ぐオブリビオンよりも。
誰よりも、人魚のことを分かっているのは……勇者。
だから。
(「まけないで」)
勇者を香毒から守るように、魔法の壁を作りながら。
ケルスティンは祈るように言葉を重ねる。
「あなたの人魚さんは、確かにあなたを待っていたのだと思う。
それは、あなたへの気持ちゆえだよ」
勇者の胸元で揺れる、人魚の鱗のペンダント。
人魚が信じ、人魚を信じる者を守る加護。
今は色を失っているそれは、きっと、ずっと勇者を護ってきたもの。
それは、人魚がずっと勇者を信じていたから。
勇者が人魚を信じていたから。
だからこそ、ペンダントは勇者を護り。
そして勇者が揺らいだ今、色を失くしているのだ。
「あなたとおんなじ気持ちゆえだよ」
優しく温かな2つの同じ想い。
そのうちの1つ、人魚の気持ちはきっと変わっていない。
そう、思うから。
(「まけないで」)
ケルスティンは、ゆっくりと顔を上げる勇者を見つめて、祈るように言の葉を紡ぐ。
「だいじなこころは、あなたの中にあるよ」
ケルスティンにはまだ、恋やそういう気持ちは解らないけれど。
きっとそれは、悲しいものではなく、優しく温かなもので。
ずっとずっと、例え惑わされても、消えないものだと思うから。
「たいせつな、だいじな、あなたのおもいは、うそじゃないよ」
ケルスティンは願う。
囚われた勇者の心を、その思いが解き放ってくれるようにと。
ケルスティンは祈る。
大切な大事な思いが、勇者の心に灯り続けられるようにと。
願い、祈って。
勇者の前に跪いていた白い天使が紡ぎ出す祝詞に、そっと声を乗せた。
「ねぇ、きこえる? 人魚さんがあなたをよんでる。そんなこえ」
虚空を見上げる勇者を導くように、ケルスティンはふわりと微笑み。
そこにミスティ・ブルーの声が響く。
「人魚はアナタと会えずに、アナタを恨んで終わったのよ。
だからアナタもここで終わり。それが私の予言」
再び、勇者を惑わさんと。
半蛇の占い師は、歪んだ予言をまた紡ぎ出そうとするから。
「まけないで」
ケルスティンは勇者へ願い、祈り。
ミスティ・ブルーへその白い指先を向ける。
物凄い勢いで突撃してきた少女に弾き飛ばされた半蛇を、指はしっかりと追い。
指し示し続けた先で、天からひかりのしらべが降り注いだ。
大成功
🔵🔵🔵
木元・杏
【かんにき】
まつりん(祭莉)と
ん、シリンも来た
いつも傍に
近くにいてくれる
大事な2人に手を繋ぎ勇気の祈りを分け
勇者、貴方に触れ、知らなかった感情を知った幼い人魚は、貴方を信じ、今も信じてる
信じてるから、帰る貴方を迎えに行った
おかえりなさい、を言う為に
ただいま、を聞く為に
人魚の欠片は、魂は、いつでも貴方と共にある
なのに貴方が人魚を信じてあげなくてどうするの?
お胸だけご立派な人はさっさと蹴散らし、一緒に帰ろう
今でも貴方を待つ
あの懐かしい村へ
人魚の元へ
予言?知らない
未来はわたしが自分で決める
それに摩訶不思議、よくわからない
一気に近接し
大剣の灯る陽光で衝撃波を放つ
ペンダントに勇者の魂を入れ
村に連れて帰る
木元・祭莉
【かんにき】!
緑の髪の兄ちゃん。人魚の勇者だよね?
どうしてそんなにボロボロなの?
後悔してるの? 今頃になって?
ダメじゃん!?
人魚の姉ちゃんはね。
前を向いて進んじゃう兄ちゃんだから、止めなかったんだよ?
姉ちゃん、悲しそうだったけど。
後悔はしてなかった。ぜったい。
信じてくれた姉ちゃんを、裏切っちゃダメ!
男なら、耳尾一筋初心完徹、背伸びとやせ我慢!
そしたら、姉ちゃんの信頼した兄ちゃんを、おいらも信じる!
ふたりの力を、貸してね?
ばいんばいんの姉ちゃんなんかに、騙されちゃダメ!
おいら、幻惑なんか……蛇だし!(牛若印爆発)
兄ちゃんは戻る。姉ちゃんは待つ。
それでいいんじゃない?
って、母ちゃん言ってた!
シリン・カービン
【かんにき】
双子の手の温かさに力が湧く。
勇者もかつては人魚の手に力を貰っていたのでしょう。
今こそ、それを思い出す時。
ミスティ・ブルーの弄言を嘘と証明できれば、
勇者の迷いも晴れるでしょう。
【賢者の影】を発動、彼女に質問を。
「人魚の最期は本当に悲惨だったのですか」
朗々と答える彼女の嘘を、影がダメージで証明。
双子の励ましが勇者の背中を押してくれます。
予言の幻惑には【賢者の影】で反対に質問を。
「私達の悲惨な最後… 本当にそうなると?」
繋いだこの手がある限り、私達は揺らがない。
答えが嘘でも本心でも、眉間を撃ち抜きます。
「この魂晶石… あの勇者ですね」
欠片を杏に渡します。
二人で迎えて下さい。安らぎの時を。
シリン・カービン(緑の狩り人・f04146)は、飛び込んだ深い竪穴の底で、漂う甘い香毒に顔を顰めた。
鋭く緑色の瞳を細め、睨むように見据える先にいるのは、俯く勇者と嘲笑う半蛇。
対峙する2つの影に我知らずぐっと手に力が入り。
「ん、シリンも来た」
「やっほー」
そこに、木元・杏(食い倒れますたーあんさんぽ・f16565)と木元・祭莉(とっとこまつさんぽ?・f16554)の双子の妹兄が駆け寄ってきた。
2つの手が、シリンの繊手をそれぞれ取って。
伝わってくる温かさに、ふっとシリンは微笑む。
子供の小さな手には、物理的な力強さなどない。
けれども、繋いだ手から湧いてくるのは、紛れもなく、大きな力。
近くにいてくれる大事な存在がくれる強さ。
(「勇者もかつては人魚の手に力を貰っていたのでしょう」)
シリンは、勇者に自分を重ねて思い。
(「今こそ、それを思い出す時」)
双子と共に、勇者の元へと歩きだした。
「あら、お客さんが沢山ね。うふふ」
青いヴェールの下で、蠱惑的な赤い唇が歪むように笑う。
でも祭莉は、ミスティ・ブルーに見向きもせず、俯く勇者を覗き込んだ。
「兄ちゃん、人魚の勇者だよね?
どうしてそんなにボロボロなの?」
乱れた長い緑髪に隠されて見えないその顔に覇気は感じられず。
祭莉の問いかけにも何の反応も示さない。
その残留思念が纏うのは、嘆き、哀しみ、そして。
「後悔してるの? 今頃になって?
ダメじゃん!?」
ぷんすかと祭莉は怒りの声を上げた。
分かってはいる。
それは、勇者の魂を蝕む絶望の毒のせいだと。
幻惑に囚われ、毒に捕らわれた勇者を、そのままにしたくないからこその、怒り。
「この地で望んだモノは、邪が見せる骸なのか?」
「あのひとの言葉は信用できるの?」
オズウェルドが、ケルスティンが、次々と言葉を重ねる中で。
少しずつ香毒が中和され、吹き散らされていく。
柏手が小さくも清浄な響きを広めて。
勇者の胸元で揺れる、色を失った鱗に淡い祈りの光が灯って。
それぞれに少しずつ反応を見せるように、勇者の姿が揺らめいた。
「では、貴方の迷いを1つ、晴らしましょう」
そんな中で、シリンは、牽制の戦いを挑む猟兵達を受け捌いていくミスティ・ブルーに相対すると、ユーベルコードを発動させながら問いかけた。
「人魚の最期は本当に悲惨だったのですか?」
同時に魔法でシリンの影が長く伸び、ミスティ・ブルーに迫り寄る。
そして。
「あら、待ち人が来ないまま死んだ者が、悲惨ではなくて何だと言うの?」
朗々と答えたミスティ・ブルーへと影は襲い掛かった。
「嘘、ですね。影がその証明です」
真偽を見抜く賢者の影を示し、シリンは凛と言い放つ。
恐らく、待ち人が来なかったのと人魚が死したのは真実だっただろう。
でもきっと、人魚はその最期を悲惨とは思っていなかったはずだから。
叶わぬ想いが必ず悲愴な結末になるとは限らないから。
それを明かしたてたシリンが振り向くと、勇者がその顔を上げていた。
「勇者」
それでもまだどこか虚ろな緑瞳に、杏が呼びかける。
「貴方に触れ、知らなかった感情を知った幼い人魚は、貴方を信じ、今も信じてる」
信じてるから、帰ってくる貴方を迎えに行った。
おかえりなさい、を言う為に。
ただいま、を聞く為に。
「ヴァルギリオスを倒してからの600年、この竪穴で君を守り続けてきた人魚の加護を思えば、2人の絆に些かの翳りも無い事などすぐに解る」
その存在こそその証明だと霧亥が告げ。
「人魚の姉ちゃんはね。前を向いて進んじゃう兄ちゃんだから、止めなかったんだよ?」
そして祭莉は、万毒の群生地で見た人魚と勇者の過去を思い出す。
偽りとはいえ変えられる過去の中で。
祭莉の勧めにも首を振り、旅立つ勇者に手を伸ばさなかった人魚。
「姉ちゃん、悲しそうだったけど。
後悔はしてなかった。ぜったい」
淋しさを哀しさを湛えながらも、穏やかに微笑んでいたあの人魚を。
祭莉は今も鮮明に思い出せるから。
「信じてくれた姉ちゃんを、裏切っちゃダメ!」
勇者を精一杯、怒る。
「最期まで信じて大切に思い続けるだけの人事も尽くさずに天命の前でうろうろしないで頂戴」
レインも氷刃のような冷たい言葉で、でも迷いを断ち切るように言い放った。
それぞれの思いが、それぞれの言葉が。
勇者の魂を少しずつ揺り動かすけれども。
「待ってもいない相手の所に帰れと言うの? 酷いわね」
そうはさせないとばかりに、ミスティ・ブルーがまた幻惑の言葉を紡ぐ。
「いいえ、待っている」
でもルゥーは、それを許さないとばかりに自身を語る。
「あたしも、ずっと待っていた人がいるから」
人魚と同じ、待つ者としての立場から。
「彼女はずッッッと貴方のことしか考えてませんでしたよ。
えぇ惚気かってぐらいね!」
そして人魚の村を訪れた志乃が、満面の笑みを見せる。
『あの人に会いたい』
『あの人はどこ?』
『ずっと待ってる』
『ずっと信じてる』
風の小精霊が伝えた人魚の思いが、ほのかの口から歌うように祈るように流れ出て。
「だいじなこころは、あなたの中にあるよ」
ケルスティンは優しく温かなその気持ちを語る。
「人魚の欠片は、魂は、いつでも貴方と共にある。
なのに貴方が人魚を信じてあげなくてどうするの?」
杏も、金色の瞳で真っ直ぐに勇者を見て。
握ったままのシリンの手と勇気の祈りを分け合って。
「一緒に帰ろう。
今でも貴方を待つ、あの懐かしい村へ。人魚の元へ」
もう片方の手を勇者へと差し出した。
その間に、ミスティ・ブルーは周囲に無数の青い鱗の蛇を呼び出し、新たに猛毒を広げようとしていたけれども。
天からの雷が半蛇を撃ち抜き、巨大な岩板が無数の蛇を潰してそれを阻止する。
さらに花びらが舞い、炎が踊る中で、しかしミスティ・ブルーは艶やかな唇を開いた。
「人魚はアナタと会えずに、アナタを恨んで終わったのよ。
だからアナタもここで終わり。それが私の予言」
「予言? 知らない」
炎の中で嘲笑うミスティ・ブルーを、だが杏はきっぱりと否定する。
「未来はわたしが自分で決める」
「ええ、そうですね」
シリンも迷いなく頷くと、再びその影を伸ばして問うた。
「勇者の、私達の悲惨な最期……
本当にそうなると?」
真っ直ぐにミスティ・ブルーを見据えるその緑瞳は揺るがない。
杏と祭莉と繋いでいた手を離し、猟銃を構えても。
その手の温かさは消えないから。
(「私達は揺るがない」)
悲惨な最期など訪れるはずがないと確信し、シリンは影を伸ばす。
それはきっと、勇者も同じはずと信じて。
「男なら、耳尾一筋初心完徹、背伸びとやせ我慢!」
祭莉もぐっと拳を握ると、おひさま笑顔を振りまいた。
「姉ちゃんの信頼した兄ちゃんを、おいらも信じる!
ばいんばいんの姉ちゃんなんかに、騙されちゃダメ!」
ぶんぶんと拳を振り回し、必死に勇者に声をかける祭莉。
その横を高速ですり抜けて。
「恋敵、たいさーん!」
ひかりが叩き込んだ一撃に、ミスティ・ブルーは辺りの炎ごと弾き飛ばされた。
さらに天からの光が降り注ぎ、体勢を崩したそこに光の鎖が纏わりついて、千引の大岩へと縛り付けると。
「ふたりの力を、貸してね?」
勇者へと振り向いた祭莉が、にかっと笑う。
数多の声に勇者は立ち上がり、その緑瞳は真っ直ぐに前を見つめていて。
その傍らに幼い人魚の姿が現れていて。
光を受けた胸元のペンダントは、不思議な七色に輝いていたから。
「ありがとう、少年」
勇者は祭莉に、そして自身を助けてくれた皆に笑いかける。
「ありがとう、猟兵達」
傍らの人魚と手を繋ぎながら。
取り戻したその加護を、これまで以上に広げる。
ふと見ると、力尽きたように地面に仰向けに転がった志乃が、白い天使の姿で、両手を空に掲げたガッツポーズを見せていたから。
おひさまのように、ひまわりのように、祭莉は嬉しそうに笑うと。
「おいら、幻惑なんか……蛇だし!」
ミスティ・ブルーへ飛ばした舞扇の幻影が爆発を起こした。
続けてシリンも猟銃を構え、爆風の中、鎖に捕われた半蛇の眉間を撃ち抜き。
「お胸だけご立派な人はさっさといなくなって」
白銀のオーラを花弁のように舞い散らしながら高速で間を詰めた杏が、灯る陽光を振り抜き、ミスティ・ブルーを切り伏せた。
大岩と共に姿を消す半蛇の怪物。
そして竪穴から香毒が完全に霧散して。
勇者の傍らに在った人魚の姿も、消えていく。
黄泉の国からの、今一時の再会。
それはあくまで一時的なユーベルコードだから。
「待っていて」
勇者は、消えゆく人魚に約束を告げる。
あの時は言葉にしなかった約束を。
今度こそ。
はっきりと。
「もうすぐ帰るから」
そして、志乃達が見守る中で人魚の姿は風に消え。
続いて勇者の姿も薄れていく。
「待っ……」
呼び止めようとした杏に、だが勇者は嬉しそうに笑いかけて。
最後の言葉は、音を紡がぬままに消えて行った。
猟兵達だけが残った竪穴の中で、風だけが吹き抜ける。
それぞれの思いに留まる猟兵達の中で。
ふと、シリンは勇者が消えたその場所へと近づいた。
しゃがんで伸ばした手が拾い上げたのは、1つの石。
この地に眠る財宝である、高純度の魔力結晶体・魂晶石。
「……あの勇者ですね」
何の根拠もあったわけではないけれども。
シリンはその魂晶石に宿るものを感じた気がして。
目を瞬かせている杏の手元へと差し出し、渡す。
「兄ちゃんは戻る。姉ちゃんは待つ。
それでいいんじゃない?
……って、母ちゃん言ってた!」
にぱっと笑う祭莉に、杏の顔にも仄かな笑みが戻ってきて。
「ん。一緒に帰ろう」
喜び踊るようにその場で跳ねまわる双子に、シリンの口元も小さく緩む。
(「二人で迎えて下さい。安らぎの時を」)
杏が光の中に掲げた魂晶石は、人魚の鱗のように不思議な七色に輝いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵