帝竜戦役⑧〜岸寂々と、波音のみ在りて
「やあやあ皆、よく来てくれたね。大陸の進撃も恙なく進行していると聞いているよ。本当にお疲れさま」
開口一番、徒梅木・とわ(流るるは梅蕾・f00573)が猟兵たちに向けたのは労いの言葉。
猟兵たちの進撃は群竜大陸全土の三分の一程を既に越え、帝竜の発見も進んでいる。順調な事の運びにとわの尻尾はゆらゆらと、機嫌よく揺れて。
「今回キミたちに赴いてもらいたいのは『不死蟹海岸』と呼ばれる場所だ。そこでオブリビオンを撃退してきてもらいたい」
『エレメンタル・バット』。身体に携えたコアへ魔力を溜め込む蝙蝠型のオブリビオン。
好物は魔力。魔力の篭った鉱石に始まり魔力の高い冒険者や彼らの放つ魔法、果ては死した仲間まで捕食するという存在だ。
「こいつ自体は、ここまで進んできたキミたちにとっては恐らく大した敵じゃあないのだが……」
数こそ多いものの、凶悪な戦闘力を持つオブリビオンではない。
しかしながら眉根を寄せ、とわは苦い笑みを見せる。
「これまで多くの場所での戦いが一筋縄ではいかなかっただろうが、ここもその例に漏れない。今回は環境の方がよっぽど手強いとさえ言えてしまうだろう」
資料の頁を捲り、彼女が視線を落とした先には、
「この海岸ね、キミたちの戦いの障害となる厄介な生物が生息しているんだ」
とある蟹についての情報が記されていた。
「――名を『不死蟹』。真相は定かじゃあないが最低でも不死の名を冠するぐらいには長命の生物だ」
万難を排すためにと、とわは情報の提示を惜しまない。……結果として生物学の授業のようになっているのは、ご愛嬌だろうか。
「この海岸にも気の遠くなるくらいの、それこそ太古の昔から生息しているのだろうね。脱皮に脱皮を繰り返し、その体高たるや数百めえとる。ぶ厚い甲殻に敵うものはなく、万々が一傷ついたとしてもすぐさま復元する再生能力さえ持つ」
ざっと説明をし眼鏡を直すと、
「こいつがその巨体で大暴れしたらと思うと、ぞっとするねえ」
冗談では済まないような事態を冗談のように口にする。
恐らくは最も懸念すべき事態に違いない筈だが、軽い調子で手短に終わらせてしまうのは必要以上に猟兵たちの不安を煽らないためにだろうか。
「だからそうさせないように、キミたちには細心の注意を払って立ち回ってほしいんだ」
いいかい? と人差し指を立て、妖狐は切り返すように、懸念を断つように、不死蟹対策の話へと順を進めていく。
「彼らには騒音や振動、あとは匂いなんかにも反応してその発生源を踏み潰そうとする習性があるが、それ以外は極めて温厚なのだよ」
それは生態系の頂点と言って過言ではない程の能力を有するからこその性質。自ら進んで他の生物と争う理由がこの蟹には無いのだ。
「触らぬ神に祟りなしということさ。変に刺激さえしなければ、エレメンタル・バットの相手だけに集中できる筈だ」
立てた人差し指を今度は口元へ。静かに戦ってきてくれたまえよ? ととわは悪戯っぽく微笑む。
しかしながら、その点はエレメンタル・バットたちも十分に心得ている。だからこそこの海岸に居られるのだろう。その飛翔は音も無く、発する音波は通常の聴覚で捉える事もできない。自滅は望めないという事だ。
とわは注意すべき点を全て語り終えると、
「それじゃあ今度の戦いも、くふふ、雄叫びを上げない程度に気合を入れて、勝利してきてくれたまえ」
楽しげに破顔し、浮かべたグリモアに力を注ぐのだった。
芹沢
5月に入り健康目的でジョギングを始めてみたのですが、スマホにアプリを入れて走るとどの辺りをどれくらいの時速で走っていたか等が分かって楽しいですね。
より目的に沿って走るにはどうしたらいいか、データとにらめっこするのが芹沢は好きです。
●特記事項
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プレイングボーナス……大きな音や振動、匂いを発さずに戦う。
宝物「生命の書片」……不死蟹の子蟹の抜け殻で、重く硬く、煮ると芳醇な出汁がいつまでも出続けます。なぜ生命の書片と呼ぶのか分かりませんが、ひとつ金貨750枚(750万円)の価値があります。
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●各章について
第一章:『エレメンタル・バット』との戦闘(集団戦)
のみで進行します。
どの様な行動であっても結果はプレイング内容とそれによる判定にのみ依存します。ですので自由な、猟兵の皆さんのらしさ溢れる発想で戦いに臨んでいただければと思います。
●その他
公開され次第プレイング募集中となります。
戦争シナリオという事もあり採用数はそう多くはならないかもしれず、プレイングを流してしまう可能性があります。何卒ご了承いただければ幸いです。
以上、芹沢でした。
皆さんのプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『エレメンタル・バット』
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POW : 魔力食い
戦闘中に食べた【仲間のコアや魔法石、魔力】の量と質に応じて【中心のコアが活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 魔力幻影
【コアを持たないが自身とそっくりな蝙蝠】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 魔力音波
【コアにため込んだ魔力を使って両翼】から【強い魔力】を放ち、【魔力酔い】により対象の動きを一時的に封じる。
👑7
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氷雫森・レイン
なるほど、寝た子を起こすなってことね
なら敵の機動力を考えても地上で応戦するのは分が悪いわ
「こうしましょう」
自前の翅で敵が最初に居る所より少し高い所を目指して上がる
まぁ追われるでしょうけど空中戦と見切りを活かして躱す
ある程度上がれば少なくとも匂いはもう届かない筈だわ
ブレスレットから光の弓を展開
本来は広範囲魔法が一番得意な私だけれど
「弓でも有能な所、見せてあげる」
UC発動、コアのある敵だけを意識して一瞬で射抜いていく
コアが弱点と知っているから狙いたいけど出来ればそれを剥がすイメージでそのすぐ横を目掛けて
氷属性を載せれば断末魔はほぼ上がらない筈
そして死体が下に落ちる前に念動力で浮遊状態をキープするわ
リコリス・ミトライユ
絡み・アドリブ歓迎
うるさくしたり、どすん、って落ちたりしちゃダメなのですよね。
じゃあ、まずブーツの力でふわりと浮いて……。
これならたぶん、だいじょうぶですよね。
【ムーングラヴィティ】で、じゅーりょくを無視して……。
静かに、素早く。上に向かって落ちて、放たれる魔力を避けていきますね。
こう見えて、空中戦は得意なんですから。
さっと近づいてー、蹴飛ばす方向は、出来るだけおんなじ、エレメンタルバットのいる方向に。
地面のほうに吹っ飛ばして、カニさんに倒してもらうのも考えましたけど、危ないかもですし。
地面に落ちそうなのはキャッチして別の方のほうにポイしちゃいましょう。
地面に降りるときも、そーっと、ですよね。
ほわ、と零れる感嘆の篭った吐息。
海岸を包む波音に飲み込まれ、それは誰の耳にも届かない。
山の如き巨体。脚の一本一本さえ楼閣のよう。不死蟹の姿には、きっと誰もが瞳を奪われてしまうだろう。
リコリス・ミトライユ(曙光に舞う薔薇・f02296)もまた、例外ではない。
一体この蟹はどれ程の時を生きたのだろうか。長命種のエルフである彼女にとってもそれは計り知れないもので、悠久の時を生きてきた大樹を眺めるような、そんな感慨が心に浮かぶ。
一方で、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)の胸中にあるのはどのような感情だろうか。
静かな水面のようにその相貌に変化を見せないが、
――こんなに大きくて困らないのかしら。
なんて、当て所も、さしたる意味も無い疑問が、一滴くらいはあったかもしれない。
何れにせよ、二人の視線が不死蟹に向いていたのは幸運なことだった。
樹木や横穴の見受けられないこの海岸。蝙蝠の好む暗がりといえば、不死蟹の作る巨大な影くらいしか見当たらない。
故に。彼らの足元から音も無く飛び立ち、こちらへと向かってくるエレメンタル・バットたちの姿をいち早く捉える事が出来たのだから。
リコリスとレインは視線を合わせると言葉の代わりに頷きを送りあい、片やブーツに、片や翅に力を籠めていく――。
リコリスは自身の身体を重力の楔から解き放ち、その脚に携えたブーツで宙を滑るように翔け昇っていく。
後を追うエレメンタル・バットであったが、その差は詰まる気配を見せない。翼の力で以って重力に抗う彼らと、それに縛られないリコリスとでは、機動性にも運動性にも埋め難い差があった。何とか追い縋ろうと、動きを損なわせようと魔力波を翼から放つも、その射程に収めることすらままならず、劣勢を覆せない。
では同じ条件で、自身の翅を翻して飛ぶレインが蝙蝠相手に一進一退の攻防を繰り広げているかと言えば、それは否だ。
四枚の翅を巧みに操り、彼女は空へ背を向けて上昇していく。それは即ち、追って来る敵の姿を注視し、彼らが見せる機微に因って的確な回避を選べるということであり、
――……!
狙いを過たないということでもある。
燐光。
小さくも強き、確かな光。それはレインの手元を飾るブレスレットから。光は意思を持つように己を紡ぎ合い、弓と矢とを形作っていく。凍てつくような冷気を纏わせて放てば、光は先頭を行くエレメンタル・バットを貫き、断末魔を上げさせることもなく塵へと還していった。
油断なく次なる矢を番えるレイン。そんな彼女に身体に降りる、影。
しかし動揺はない。翅が伝える。それは敵ではないと。
響く風の音。垂直に吹き降りる疾風。リコリスが敵の群れ目掛けて一直線に蹴り込んだのだ。
空を道とする彼女のブーツは無窮の中に天蓋さえ作る。そこにある筈の無い壁を蹴り、身体を再び重力に従わせれば、弾丸のように降下していく少女の身体。その運動エネルギーを以って蝙蝠たちを文字通り蹴散らしていく。
群れに穿たれた風穴。一挙に目減りした敵を前に、レインには風に乱れた髪を直す余裕さえある。
隙間を埋めるように、失った戦力を補填するようにエレメンタル・バットは自分たちの似姿を魔力によって作り上げて見せるが、それでも彼女の余裕を崩すことは叶わない。
レインの本領は広範囲への魔法の行使にある。それを効果的に実現させるには、元となる魔力と制御するための集中力、そして空間認識力が欠かせない。
その力は弓を扱う間も如何なく発揮される。
彼女は視界内を四方八方に飛ぶエレメンタル・バットたちの真贋をその身のコアの有無で見分けると、矢を放つ――放つ。放つ。放つ!
瞬く間の内、精緻迅速に放たれる矢はさながら光の雨。
低空から見上げる事となったリコリスには、それが流星群のように映ったかもしれない。幻想的な光景を前に、月光を纏い、少女は星目掛けて再び空を翔けていく――。
大成功
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レパイア・グラスボトル
蟹の甲羅だから喰い物じゃないな。つまり持って帰っても問題なく、美味いスープが飲み放題なわけだ。
【WIZ】
いいかガキ共、今日はかくれんぼだ。静かに騒がずあの蝙蝠にコイツをぶつけて回れ。
【医術】により時間差で反応し臭いを発する薬品を子供達と共に蝙蝠に投げつけて回る。
魔力酔いを起こした子供は各々の【医術】で緩和、またはレパイアがアポヘルの家に帰す。
レパイア自身は子供達の囮兼保護者として蝙蝠から目立つように動く。
極力静かに。
可能であれば【医術】にて蝙蝠の声帯部分を攻撃し、無意味に音を発するようにする。
怪我をした人がいる場合は治療に回る。
無意識の優先度
子供>出汁>任務成功
アドアレ絡み歓迎
髪塚・鍬丸
隠密行動なら任せてくれ。多少なら心得がある。
UC【遁甲の術】を使う。体を、身に着けた装備ごと、不可視の不定形状態に変化させる。匂いも発さない半霧状態。色、即ち是空なり。
【忍び足】で、行動する際の物音を立てない様心掛けつつ、蝙蝠の討伐にかかる。
忍者刀「錣」で【暗殺】を仕掛ける。敵に気取られぬ様移動し、【早業】で一瞬で切り裂き仕留めていく。
とは言え、相手は音波での感知が可能。俺も実体を持つ以上、見つかるのは時間の問題。
問題ない。己に向かってくる敵群に対し、左手に装備した「土蜘蛛」から網を投射、絡め捕り【捕縛】する。
激しく藻掻けば蟹の餌食。動かなければ俺が仕留めるのみ。
御下命如何にしても果たすべし。
――いいかガキ共。
不死蟹の住まう海岸に激が――いや、潜められた声での命令が飛ぶ。
抑えた声量でもケラケラ、クスクスと器用に笑って見せるレパイア・グラスボトル(勝利期限切れアリス・f25718)は声が届きやすいようにと膝を折り、子供たち、未だ年端もいかない見た目ながらもレイダーである彼らに、今回の仕事に於ける役割を伝えていく。
曰く。これからかくれんぼを執り行う。静かに、騒がず、こっそりと、蝙蝠相手に遊んでやるのだと。
そうして銘々に渡されるのはレパイアが手ずから調合した薬品。幼きレイダーたちはそれを手に力強く頷いたり、或いは張り切って敬礼して見せたりとやる気を見せている。
そんな光景が遠足中の子供たちと引率する教師のように見えて、髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)の口元が――常日頃からの柔和な表情故にそれを変化と捉えられる者が居るかは定かではないが、綻ぶ。
とはいえ、和んでばかりもいられない。暖かな日差しがあるとはいえ、心地よい波音があるとはいえ、ここは敵地。一つのミスで超質量の鉄槌が降り降ろされかねない危険地帯。
お先に。と軽く手を振り合図して、歩き出す鍬丸。二歩、三歩と歩む内、彼の姿は潮風にさらわれるように掻き消えてしまうのだった。
色即是空。
現世にあるあらゆる物事や現象にはすべて実体はなく、空無である。そうした意味を内包する言葉であり、鍬丸の現状を表現するに相応しい言葉でもある。
今の彼には人としての形は無く、その赤紫の髪には色もない。無色透明の霧のように己が姿を変え、歩くように漂い、流れるように走り、エレメンタル・バットの群れに近づいていく。
エレメンタル・バットが異変に気付いたのは程なくの、しかして鍬丸が一仕事終えるには十二分過ぎる程の時間が経ってからのことだった。
仲間の数が減っている。一体どこへ行ったと――。
ある蝙蝠の思考は、そこで身体ごとに寸断される。
まるで独りでに、空気にでも裂かれたかのように絶命し塵へと還っていくエレメンタル・バットたち。
……ありゃ敵に回したくねーな。とレパイアは胸中で零す。彼女の瞳にはエレメンタル・バットが両断されていくその一瞬、大気が寄り集まるように形作られる忍者刀と、それを振るう腕を捉えていた。
そして同時に、慌てふためき、翼の動きを活発にする蝙蝠の姿も。
掻き回すなら今だ。彼女がそう判断すると同時に岩陰から、不死蟹の脚の裏から、方々から薬品が投擲される。
今度は実体を伴った、明らかな攻撃だ。エレメンタル・バットたちの思考が動揺から警戒に、そして反撃へと転じていく。
真っ先に標的となったのは、子供たちの囮となるべく姿を隠さずにいたレパイアだ。蝙蝠たちは彼女の元に殺到すると魔力波を見舞うべく翼を広げる。
殺傷力こそないものの、それは対象を酔わせ、弱らせるのに十分な程の魔力。被ったレパイアの視界が揺らめくがしかし、彼女は手持ちの薬を身体に打ち込んで凌ぐと敵を引き連れるように駆けだす。
その走りはがむしゃらなようで、ルートには規則性があった。行く先々には見つかってしまった、魔力に当てられ目を回す子供の姿がある。レパイアはすれ違いざまに彼らに薬を打ち、時には家へ帰すように召喚元へ送還し、無事を確保しているのだ。
引き連れ。走り。子供を狙う個体も引き入れ。レパイアの走りに次第に一塊になっていく蝙蝠の群れ。彼女の体力にも限りがあるが、
――あと、頼んだ……!
――問題ない。御下命、滞りなく遂行しよう。
突然に姿を現し投げかけられた網が、文字通り一網打尽に群れを絡め取る。すんでの所で躱した蝙蝠が幾匹か居るが、鍬丸の振るう忍者刀――その刃を微細に振動させる、科学の力によって鍛えられた刀の前に露と消えるのみ。
仕事は終わったと、網に踠く蝙蝠たちへ悠々とした一瞥を送り、肩で息をするレパイアを抱えて鍬丸は走り出す。
ややの後、背後で響く――背を抜け、内臓までもを震わせるような地鳴り。それはさんざ蝙蝠たちの浴びせられてきた薬品が効果を表した印。時間差で発生した強烈な刺激臭が、不死蟹に無慈悲な鉄槌を振るわせたのだった。
成功
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シキ・ジルモント
◆SPD
音も振動も匂いも発さずに戦わなければならないとは難しい状況だ
普段は頼る銃だが、今回は使わない方がよさそうだ
発砲音もに硝煙の匂いも、防ぐことが難しいからな
現地では狼の姿に変身して行動する
この姿であれば、足音もあまり響かない
加えて不死蟹には出来る限り接近しないように気を付ける
戦闘中に触れれば直接振動を与えてしまうだろう、それは避けたい
敵を観察しコアを持つ個体だけを狙って攻撃する
無駄な攻撃を減らし、音や振動を防ぎたい
攻撃方法はユーベルコードも併せて爪や牙を利用する
これなら飛び掛かる音も攻撃時の音も最小限で済むはずだ
あまり好まないとはいえ、この際仕方がない
あの蟹を暴れさせるよりはいくらかマシだ
エスターテ・アレグレット
生命の書片って食材が気になってきたけど、大きな音や匂いを発さずに戦え…かぁ。
刃ぁ…マジっすか。えー、いちいちそんなこと気にしないといけないなんて面倒
……まぁ、できる限り注意してみますか
ひとまず僕が持ってる煩い銃は使わない方向で
不死蟹にばかり気を取られると肝心の敵を仕留めらんないんで、蝙蝠退治に集中しますよ
音を立てないようにスピード勝負で
なるべく一撃で仕留めますかね。コア狙えばいいかな
【目立たない】ように息を潜めて敵の動きを視る
その間にポケットからサプリメントを取り出し飲み込む
敵の動きが一瞬でも止まったら、その隙を狙う
【戯れるように】
一気に加速してコアを破壊する
食材ちゃんと手に入るんすかね、これ
シャルロット・クリスティア
音は立てられない。迂闊な振動もできない。
接近戦での大立ち回りは厳禁です。
やるなら長距離での狙撃……ですが、銃だと発砲音が危険ですね。
サプレッサーを使用するにしても限界はありますし……。
……となると、やはり弓ですか。
射程距離ギリギリから、敵に気付かれないように潜伏して狙撃。これしかありませんね。
岩場や木々の合間、蟹を刺激しないように極力距離を取って隠れられる場所があればいいのですが。
ともかく、そこからコアを持つ本体を見極め、一撃で射抜く。
無駄射ちをすればその分居場所も気づかれやすくなる。余計な動きをさせられることのないよう、確実に仕留めなければ。
轟音。遠く、同じ海岸ながらも別の区画より。
それだけのことで、察するに余りある。あそこで不死蟹が動いたのだ、と。
音や匂いを発さずに戦うというその題目、エスターテ・アレグレット(巻き込まれる男・f26406)は面倒極まりないと思っていたものの、あの音を聞いてしまえば、その発信源を想像してしまえば、出来得る限りの注意を払わなければならないと、改めて胸に刻みつける。
そうして彼が構えた獲物は二振り一対の短剣。飛び回る敵を相手に銃を引き抜きたくもなるが、この戦場で扱うには発砲音/アクセントが強すぎる。
音も当然のことながら、発砲には硝煙の匂いも切っては切り離せない。この不死蟹海岸では、極めて相性の悪い武器だと言える。
故に、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)とシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)も頼れる愛銃を封じて戦場に立つことを余儀なくされていた。
では二人の戦力は減じてしまっているのだろうか?
答えは否。断じて否だ。
数多の戦場を銃と共に駆けてきたからこそ、その特性を誰よりも理解している。理解しているからこそ、銃が扱えない環境を――銃を用いない戦闘手段を確りと想定している。
彼らはそれぞれの手段を手に、それを振るうに相応しい場所へと歩を進めていく――。
狼が海岸を疾駆する。
その毛並みは白銀。品矢かさと逞しさを併せ持つ四肢で音も無く地を蹴り、高々と跳ね、宙を舞うエレメンタル・バットに牙を立てて見せる。
牙で砕いては爪で裂き、咢に入り込んだ魔石/コアを吐き捨て、狼――狼へと姿を変じたシキはその能力を如何なく発揮し、エレメンタル・バットたちを蹴散らしていた。
一見して荒々しく、野性的なシキの戦い。しかし主戦場から一歩引き、岩場より俯瞰するシャルロットにはそれが理性的に映る。視界内の狼は常に不死蟹との位置関係を意識し、不測の事態を起こさぬようにと立ち回っていた。
絶えず動き回るシキに対し、エスターテの身の熟しは静と動の調和。静かに、歩くように蝙蝠との間合いを測り、飛び来る牙を避け、隙を見せた個体を見つければ目にも止まらぬ速さで短剣を振るう。
瞬く間に目減りしていくエレメンタル・バット。彼らは魔力で自らの姿を複製し、失った戦力を補っていく。二倍、三倍と数を増すそれは同時にシキとエスターテを取り囲む狡猾な包囲網。切り抜けようと立ち回りを大きくすれば、不死蟹に察知をされかねない。
このままを選ぶのであれば数に任せて消耗戦に持ち込むだけだと、蝙蝠の翼が潮風に踊る。
しかしこの状況は二人にとって、いや、三人にとって想定内のものだ。
浅はかな余裕を咎めるように飛来するのは一本の矢。エレメンタル・バットの持つコアへ吸い込まれるように辿り着き、易々とそれを砕く。一拍置いて、数匹の蝙蝠が纏めて塵へと還っていく。魔力を供給する本体が死んだことでその複製も共に霧散していったのだ。
二射。三射。蝙蝠の急所へと正確に射掛けられる矢の軌跡、その根元。シャルロットは呼吸をするように敵を射ち続けていた。
その射撃はさながら精緻な機構。矢を番え、弦を引き、解き放つ。一連の所作は淀みなく、その最中に狙いは研ぎ澄ませて。指を離せば蒼い瞳はそれまでの標的に一瞥もくれず、次なる標的へと焦点を合わせる。指を離したその瞬間には、必中を当然のことと確信しているからだ。
火薬の炸裂に比べれば、弓矢の射撃音などあって無いに等しきもの。シキとエスターテが前線を張っていることもあり、射撃があって尚エレメンタル・バットたちは彼女の存在を察知できないでいる。
後衛からの正確無比な援護射撃。虚を突かれ、広がるのは動揺。混乱。それをこそ二人は待っていた。
統率が乱れたその隙に、エスターテはポケットからサプリメントを取り出して口に放り込む。効能は調律。乱れたものを正すもの。何かをリセットするように、乱れの無い『最初』に立ち返るように、彼の身体を整えていく。
そうして繰り出される、風の如き速さ。斬撃の暴風。両手の短剣で玩ぶようにエレメンタル・バットたちを屠り、彼はシャルロットの穿った穴を更に広げてみせる。
群れの中を駆け巡るのは焦燥の匂い。一度体勢を立て直さなければならない。蝙蝠たちのそんな思考を、翼の動きを阻むのはシキの牙と爪だ。
シキは蝙蝠たちとの攻防の中で彼らの習性と思考とを理解し、彼らが取り得る行動のパターンをさえ見透かしていた。反転する蝙蝠たちの前へと先回り、我先にと飛び出す彼らを噛み砕き、引き裂いていく。
退路を塞がれ、往生するエレメンタル・バットをシャルロットの矢が射貫く。背面から突き立つ矢は正面からと同様の正確さ。見えていないコアでさえ容易く貫き、確実にその命を絶っていった。
――彼女の指が止まるのはそれから程なくしてのこと。最後の蝙蝠を射ち落すと岩場に腰掛け、手にした弓を元あった形へと折り畳んでいく。
耳に届くのは波音と、仲間の足音。
一仕事終えた労を静かに労いあい、そっと戦場を後にするのだった。
成功
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