酷い話もあったものだ。
あんなに皆んな、砦の完成を喜んでいたのに。『嗚呼!これで安心して眠れる!』だなんてちっぽけな安堵で宴を催して、男達は酒を飲んで、女達は料理を振る舞って、子供達も少しの夜更かしが許された。そんな矢先の事だった。
最近生まれたばかりのまだ首も据わっていなかった妹の亡骸を抱えながら、少年は酷く悪臭のする陰惨な夜を彷徨い歩いている。先刻まではあんなに活気に満ち溢れていたのに、今は誰一人として声を上げる事すらせず血溜まりに倒れ伏していた。赤、赤、赤。其れは小さな靴にぬちゃりと染み付き、歩を進める度に赤い足跡を残して行く。
圧倒的な数の暴力。男達は皆勇敢に戦ったが、武器が粗悪品の剣や農具では歯が立たなかっただけの話だ。女達は、暴れる者は同じ様に酷たらしい死を。そして妙齢の者は軒並み連れ去られた。きっと慰み者にされて玩具の様に弄ばれて、それから殺されたり、あの醜悪な化け物達の子供を孕まされるのだろう。
やがて村の広場、焚き火の煙が燻る中で比較的綺麗な短剣を握った亡骸を見つけ、硬直しているその手からやっとの思いで得物を奪うと、少年は――、
「だってこんなの、死ぬしかないじゃないか」と涙滲む顔を歪ませて。
首に短剣を宛行い、一人生き残った幸運にも似た不運と、ただ今ある生をひたすら呪いながら。渾身の力を込めて喉を貫き、吸い込まれる様に地面へと崩れ落ちて風景への同化を果たすのだった。
●
「――と、言う様なお話があったら、乗ってくれるかい?」
猟兵達の拠点『グリモアベース』。その一角に集まった猟兵達の顔を確かめれば、テイア・ティアル(ヤドリガミの人形遣い・f05368)はそんな痛ましい話を語ってみせた。当然、顔を顰める者も少なくはない。そんな仲間を「待って、まだ大丈夫なんだ」と引き留める。
「ある村が砦の建設をね、している最中なんだけど…… 規模が小さい。それから、如何せん長閑な所でさ。村人達も戦いとは無縁なものだから知識が少なくて、穴だらけ、って感じ。そこで猟兵の出番なの」
彼女が手前にあったグラスの水を一口含むと、ふうと一息ついて。緊張しているのだろうか、その手は少しばかり震えている様だ。
「続けるね。そうだな、此処からは例えばで…… 先ず、力持ちな人は砦の建設作業を手伝ってあげて。あっちこっち行ってみたい人は周囲の探索をしたり仕掛け罠を用意するのも良いかも。あとは、いざって時どう砦を運用するかとか、どうしたら戦えるかを一緒に考えたり、知恵を貸したりだとかして、各々の得意分野を活かして欲しい。もっと他に良いアイディアがあればそこは君達に任せるよ」
村人達は猟兵の言葉には真摯に耳を傾けてくれるだろう。小さい子供も多いから彼等と仲良くなるのも良いかも知れない。子供ならではの視点という物は貴重だ。くれぐれも、作った罠に仲間や村人達が引っ掛かる様な事態にはならない様気をつけておくれ、と細く白い指に繋がれた糸で器用に何体かの人形を操ると、『痛い、痛い』と泣いて見せたり、その隣で『ほうれんそう大事』と丸っこい文字の書かれた小さな紙を掲げてテーブルの上を歩かせたりした。
砦が出来たらどうすれば良い?と問われれば、テイアは「勿論、やる事は決まってる。防衛戦さ!」と答え、燃えないかい?だなんて目を輝かせる。どうやら本気で言っているらしい。
「と、言うのもね。お誂え向きにゴブリンの群れが攻めてくる。だから、砦の耐久力テストと洒落込もう。君達が戦うだけなら、それ程の守りは必要ないだろうさ。その点は信頼してる。でも、今後も現地で住民が戦える相応の硬さと利便性が必要なんだ。それで……」
勿体振る様に暫しの間。やがて声のトーンを少しばかり下げ、これは最初は村の人には言わないで置いて欲しいと前置きしてから、『そいつらを陰で糸を引いてる奴が居る。良い感じに体が温まったら倒しに行っちゃうと良い』と言う彼女に、そんな事だろうと思ったと誰だかが肩を竦めて。
それから、村人には猟兵は行き摺りの親切な『冒険者』だと思われる事、不思議な力や武器を見せても大概『魔法』で片が付くので、身の振り様にはそこまで気を遣わずとも良いと話す。服装なども、余程突飛な物でない限り、大体の物は今のトレンドだ、位で済むと予測される。
「あとはお約束。ひとつ、君達の事は責任持って連れて行くけれど、わたしは一緒に行動したり戦ったりは出来ない。 ふたつ、その分、支援はきちんとするから、援軍などは任せておくれ。それから、怪我人が出たらわたしの所まで連れて来てくれれば撤退させられる。 ――みっつめ、決して無理はしてくれないでな?」
上手く説明出来たかな、とテイアは残りの水を飲み干す。彼女も覚悟が決まったのか、もう先程までの震えは見られない。
「じゃあ、忘れ物がない様に。準備の出来た人から集まってね、解散!」
と手を打ち鳴らして場を締めくくった。
しらね葵
初めまして、マスターのしらね葵(――・あおい)と申します。
この度は当シナリオのオープニングを読んで下さり、有難う御座います。皆様に楽しんで頂ける様に努めて参りますのでよろしくお願いいたします。
今回向かう先は『アックス&ウィザーズ』の世界です。
リプレイは、そちらにテレポートし村に到着した所から始まりますので、グリモアベース内でのお話や、NPCのテイアに対する行動などは描写出来ませんのでご了承下さい。
内容としましては、砦の建築に関わり無事完成させるまでを一つの章として扱い、ゴブリンの群れとの戦闘、そして示唆されていた黒幕との戦闘は順を追って、となります。
どうか、小さな村ではありますが救いの手を差し伸べて下されば幸いです。
初陣の方も、もう何処かの世界で経験を積まれている方も、頑張って参りましょう。
以上です。皆様のご参加、プレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『砦の建設』
|
POW : 砦の建設に必要な力仕事を行う
SPD : 周辺の探索を行う、仕掛け罠を用意する
WIZ : 砦を利用した戦い方を提案する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
早見・葵
資材を運べばいいのですか?
村人のためならそれくらいお安い御用です。
防衛を担うなら侵入されづらい塀か堀があるといいのですが……
私はそっちの知識はあまり持ち合わせていないのです。
それらしき同僚がいたら聞いてみましょう。
村人と交流をしながら、率先して危なそうな物や大きな物を運んでいく。
働いた後のご飯は格別です。皆でワイワイと賑やかな食事はもっと美味しく感じます。
事故があって、何かが落ちてくるならドラゴニアン・チェインで捕まえて防ぎましょう。
敵も来るなら、村人が逃げれるように殿を担って戦いましょう。
死ぬ気はないですが、救えるだけ救うのが私の流儀です。
ティル・ライハ
俺の世界の聞き逃せねぇ話聞いちゃったし、いっちょ参戦すんぜ。
っと、まずは砦建設の手伝いかぁ…。俺そんな力無ぇし、探索係に立候補しとく。そぉだな、敵が通りそうな道に罠仕掛けとけば、人の通らない場所……侵入経路目星できそうじゃね?“レプリカクラフト”をつかって偽罠作るのも手だよな。
あと俺、ガキ集団の一員として生きてきたから、子供と仲良くなんの得意!一緒に罠作りすればいい感じに交流できそうじゃん。
……ほら、今後の為にも罠作れるようになるのは大事だろ?
『SPD 周囲の探索で敵の通りそうな場所を発見後、仕掛け罠&レプリカクラフトで偽罠作成、設置』
『罠作成時に子供たちに声を掛け、一緒に罠を作りながら談話』
黒金・華焔
やれやれ、どこの世界でも悲劇のバーゲンセールだな全く。
ま、人間を助ける事は私の利益にもなる。
まずはそうだな。村の連中には『旅の途中の冒険者達が宿を求めて村を訪れ、一宿の見返りに砦の建設へと協力する』って感じで協力を申し出る。
で、砦を利用した戦い方か。まず高所に交代制で見張りは必要だろうな。
敵の接近前になるべく数を減らすなら、弓や投石なんかで遠距離攻撃していくのも有効だろう。
物資や人手が足りないなら敢えて守りの薄い部分を作って、そこに罠を集中させるって手もある。
パッと出るのはこんな所か。おっと、私は力仕事には向いてないんでな。
後は現場指揮でもさせてもらうぜ。
フェルト・ユメノアール
通りすがりの旅芸人という体で行動、みんなの笑顔を守るため、ボクもお仕事頑張っちゃうよ!
とりあえず、まずは周囲のマッピング!群れで攻めてくるって事はある程度通りやすいルートから来るはずだからね
そんな場所にいくつか目星をつけてブービートラップを仕掛けていくよ
下に木の杭を埋め込んだ落とし穴とか張ってあるワイヤーに引っかかると石や木が落ちてくるようなの
砦の近くには草結びとか油床とか簡単に作れるものを仕掛けて敵を足止めしている間に攻撃してもらおう
それと罠作成時にはSPクラウンジェスターを召喚してできるだけ素早く正確に行動
あっ、もちろん罠の場所も地図にのせてみんなに配っておくよ
ほうれんそうは大事だもんね!
ファラン・ウルフブラッド
ふむ、まさか俺が砦の建設に携わる事になるとはなぁ。昔は砦の上から指揮する側であったが、人生ってのは分からんモンだな。(心底楽しそうに笑いながら)
おーっし!やるとなったら全力だ!お、何だ、その建材を運べばいいのか?任せろ!力仕事は俺の得意分野だ!
【行動:築城に参加】
・持ち前のPOWの高さを利用して、重量のある建材を中心に建築場所へ運搬します。
・攻める場合は何をされたら攻め辛いか、守る際は何をしたら守り易くなるか、過去の経験を思い出しながら堀や柵を設置していきます。
手が空いたら子供たちと遊びます。肩車したりカード遊びを教えたり!
飯の時も村人と意見交換を忘れずに!
ヘラ・テンタクルス
防衛戦ですか……
昔、戦術書を読んだ事があるのでその時の知識を元に少し助言をさせていただきましょうか。
相手は多数、まずは村中から木箱や家具などを集めて建設中の砦に合わせてしっかりとバリケードを作る事を提案しましょう。
しっかり穴をふさいで少しでも時間を稼げるように……
次に男の方々には鋤や鍬といった柄の長い農具を携帯していただきましょう。
他の方が仕掛けた罠もありますし、手負いのゴブリン程度ならバリケードの中から長物で攻撃して仕留められるはずです。
「ファランクス」……でしたっけ?
最後に念のため死霊騎士と死霊蛇竜に周囲を哨戒させましょう。
見た目はアレですが村の方々の盾にはなれますから……
エン・ギフター
攻めるより守る方が難しいって言うよな。
だからつまりは、防衛線マジスゲー滾るって事だ!
遠足と一緒で準備すんのが楽しいんだよなこういうの。
俺罠係やるわ。
すげ基本だけど落とし穴掘ろうぜ!
んで穴の中に杭立てとこうぜ!
エグいとか言ってらんねえだろ、戦うんだろ?
あでもちびっ子が知らずに落ちたら悲惨か。
んじゃあこの手書きの砦地図にバツ印付けてー、と。
ここが罠設置予定場所だからな。
パパママにもちゃんと伝えといてな?
よっし、穴掘り頑張りますかね。
シャベル担いで砦の周辺を掘り返し、杭を埋めて上から草で蓋をする。
……よし完成!!(やりきった顔)
にしても、ほんと長閑ないい村だなここ。
ちょっとゴブリンには勿体ないわ。
斬断・彩萌
は~、か弱い乙女に力仕事は無いでしょ~。白魚の肌が傷つくわー。てワケで私はその辺散策しに行くから。ついでに罠でも仕掛けとくかなー。
【SPD】
まずは地形の把握大事じゃんね。ゴブリンが攻めてきそうな方向や隠れてそうな箇所に見当つけてみたり、簡易的だけど鳴子つけとこ。こんなのひっかかるヤツいんの?って感じだけど念の為ってヤツよ。
あとは水源も見ておこ。今後も砦使うのに、いざって時に水なかったら困るし。
はー散歩……じゃない、散策疲れたわー。え、この後戦うわけ?かーっ、つらいわーマジぶちのめさないと気が済まないわこれ。
アララギ・イチイ
到着後、親切な冒険者として笑顔で村人に挨拶
ゴブリンの集団が接近している事を伝えた後
防衛や砦の強化を手伝いたいと伝える
外見に反して力持ちなので砦の建設では力仕事を担当
周囲の木の伐採・運搬、及び切り出した木材で柵や壁を補強(【怪力7】使用
木々の伐採は砦の周囲、見晴らしを良くする様に伐採(ゴブリン達の遮蔽物を無くす為、伐採時は剣刃一閃で木々を切断
柵の前には堀を掘削しておく(使用可能なら【トンネル掘り1】応用
敵の進路予想上(柵や障害物の配置などで進路強制させる
装備品の軽迫撃砲の砲弾の信管部分を上向きにして設置、地雷原代わりとする(ルール上、この行為が可能なら実行
依頼完了後には撤去作業も忘れずに実施
旅の途中の一宿一飯の恩義として。または通りすがりの旅芸人を装って。集まった冒険者――否、猟兵達は砦建設の為のアドバイザーとして予知された村へ滞在し村人との親交を着実に深めている。
本当に長閑な村だった。牛や鶏を飼い、作物を育て多く採れた物や加工物を週に一度来る行商人に売り、それで得た金で生活必需品を得て暮らす。裕福とは言えないものの決して貧しくもなく、村人達は皆朗らかで、だからこそあのグリモア猟兵の彼女が語って見せた様な未来を辿らせまいと誰もが精を出していた。
最初に起きた異変。其れは早朝の村の端、乳牛の餌である乾草を積んでいる付近で青年が見つけた小さな足跡だったと言う。まるで獲物を吟味する様に歩いて、帰って行っていたそうだ。また、前日の夕方にはなかった事からして村の子供が悪戯でつけた物であるとは考え難い。纏め役の大人達で話し合った結果、少し離れた町の冒険者を斡旋する酒場へ依頼を出したがそんな不確定な要素だけでは駆けつけてくれる者も居なかったらしく、何とか戦いの術を自力で作ろうとしている最中だったそうだ。
急ピッチで進められる砦の建設で、先ず現場監督を買いテキパキと指示を飛ばす黒金・華焔(黒の焔・f03455)。幼い出で立ちながら彼女が提案した事は、戦い慣れしていない村人の蒙を啓いた。
一つ目、先ずは高さを活かした戦い方。高所に交代制の見張りを立て、なるべく敵が接近する前に弓矢や投石などによる遠距離攻撃を行う事。それであれば粗悪品の剣など馴れぬ物を振るう必要もなく、いざ化け物と対峙する時の恐怖心も多少は薄れる事であろう。今、華焔が立っている見張り台はつい昨日出来上がったばかりの物だ。
「おうおう、見晴らしは上々じゃない?」
辺りを見渡し満足気に頷いていると他にそこに立っていた若者達から、流石っす姉御!だなんて声が上がる。その滲み出るカリスマ性からか此処数日で随分と慕われる様になってしまった。現代で言うファンクラブ的な物だろうか。
――やれやれ、どこの世界でも悲劇のバーゲンセールが行われているのに何とも呑気なものだな。そう小さな肩を竦めると、一番近くの男を小突く。
「私が云ったもう一つのはどうなってる?」
二つ目に『敢えて守りの脆弱そうな箇所を作って誘い込む様にし、罠を集中させる』。見張り台の案と共に出しておいた物が気に掛かったのだ。声を掛けられた男はニッと人の良さそうな笑みを見せると、あっちも良い感じっす、と答えた。
「そうか。然し私は力仕事には向いてないんでな、他の所の現場指揮でもさせてもらうぜ」
「ついて行くっす姉御!」
「……ついて来なくていい」
ふいっと顔を背け歩き出す。が、どうにも悪い気がしない。己が利益と思って買って出た事だったと言うのに、どうにもこの村を気に入っている、そんな自分が居る様な気がして。だが、まだ甘さを見せて良い時では無いな、と緩む頰をぺちんと叩き気を引き締めるのであった。
――まさか俺が、砦の建設に携わる事になるとはなぁ。
昔は砦の上から指揮する立場、一国の王であったというファラン・ウルフブラッド(深淵を歩く剣豪・f03735)が、いやはや人生ってのは分からんもんだな、と心底楽しげに笑いながら、本来であれば複数人で運ぶ様な重量のある建材を一人で軽々と持ち上げ運搬を担っていた。
また、過去の経験を活かし敵の立場から見た攻め辛さ、或いは守る側はどうしたら守り易くなるか、と彼が話せば仲間達もアイディアを出し易く、砦全体の方針に大きく貢献している。
そんな力強い姿を見て、皆が元気付けられ忽ち彼は人気者となった。気さくさからか、老若男女問わず話しかけてくる村人も多く、とある娘などすれ違う時には赤らめた顔を俯かせ足早に去る程だ。うちの孫娘の旦那に欲しい、と嘘か誠か分からない事を初老の男から持ちかけられれば、カカッと笑い飛ばし。
「俺は猟…… 冒険者なんでな! いつ帰るかも分からない男を旦那にしたら娘っ子も可哀想だろう?」
と嘯くのだ。
「兄ちゃん、もうすぐお昼だよー! カードで勝負してよ!」
「おっ、任せろ! 待ってろ、運ぶのを手伝いに行く!」
実は無類の子供好き、手の空く食事時や休憩時は決まって子供達と遊んでいる。カード遊びも彼が教えたもので、次は絶対負けない!と豪語する少年の頭をくしゃりと撫でるのであった。
村人ほぼ総出での今回の取り掛かり。重たい土嚢袋を運ぼうと腰を曲げる老人に駆け寄って制すと、早見・葵(竜の姫騎士・f00471)は代わりに其れを担ぎ、率先して行っては来てを繰り返す。
「ああ! ウチのお爺ちゃんがすいませんね」
「いえ、これくらいお安い御用です」
声を掛けて来たのは村の若い女だ。手には美味しそうなスープの香りのする鍋を抱えて居る。続々と女達が同じく鍋や、パンの入ったバスケットや食器やらを抱えて出て来れば、それが配膳され、葵やファランを始めとし猟兵達を囲んでの食事が始まって。
「……美味しい」
働いた後のご飯は格別で、賑やかに談笑をしたり意見交換をする時間がとても楽しく、そして美味しく感じるのだ。他の皆も同じなのだろう、此処数日、決まって食事の時間になれば各々が好きに腰を掛けて女達の料理に舌鼓を打っていた。お代わり如何、と手を差し伸べられれば、葵は少し気恥ずかしながらも皿を出す。そうして顔を上げた時、ふと気になっていた事に思い至り、ポツリと声を漏らす。
「もっと…… あの、防衛を担うにあたって、もっと侵入され辛くするのに塀や堀などを増やすと良いと思うのですが、何方か詳しい方はいらっしゃいませんか?」
今なら他の猟兵も食事を摂っているから、訊ねるには打って付けのタイミングだ。私はそっちの知識はあまり持ち合わせていないのです、と申し訳なさそうに葵がいうと、一同が考え込む中、まあ!と最初に声を上げた女性へと、視線が注がれる。
「――ファランクス、……でしたっけ?」
「ファランクス?」
皆の目が一斉に向いている事を感じ取ると、少し居心地悪そうに口元を覆って思案しているのはヘラ・テンタクルス(キマイラのUDCエージェント・f05286)だ。聞き慣れぬ単語に、葵は詳しくお聞かせ願えますか?と彼女に問うた。歪で巨大なアンモナイトを目深に被った様な頭に奇妙な出立ちをしたキマイラであるヘラの姿は、最初こそ村人達は皆戸惑いはしたものの今ではすっかり馴染んでいる。
「昔読んだ戦術書での知識ではありますが…… 皆さん、食事が終わったら木箱や要らない家具などを集めて頂けるかしら? あと、鋤や鍬など長柄の農具があればそちらも」
その言葉を聞いて、それなら家にはあれが! 母さん、あれはもう使ってなかったか?などと、居ても立っても居られないのか早々に食事をかき込んで、男達が各々の家から指定された物を持って来てあっと言う間に大量の資材が集まった。
「皆さんにはこれでしっかりと穴を塞ぐ様に、先ずはバリケードを作って貰います。時間を稼げる様に……」
ええ、そんな感じで良いでしょう。と彼女も食事を切り上げて、次々と築かれる木箱や家具の山を見て回る。この農具はどう使えば良いのか、と首を傾げる村人達から一本の鋤を拝借し、バリケードの上から振るって見せれば、成る程と皆が感心する。これ以外にも、突き出して構えているだけでも良いと説明した。
「本来では盾を持ち、長槍を使うものだったと記憶してますからあくまで代用に過ぎませんが」
これであれば、他の者が仕掛けた罠と合わせて、手負いのゴブリン程度なら仕留められるだろうという彼女に、任せてくれと力のある若い者達がその役目を買って出てくれた。農具であれば満足行く数が確保出来るし、無闇矢鱈と剣を振るうより有効な手立てだろう。
「はいはーい、堀の掘削ならあっちの方は結構進んでるわよぉ、安心して。ご馳走様! それじゃあお仕事に戻るわぁ」
燃える様な紅く長い髪や白い肌に土が付いているのを気にする素ぶりも見せず、笑顔で挙手したアララギ・イチイ(ドラゴニアンの女子・f05751)も、その見た目に反して力仕事に尽力していた一人だ。持ち前の怪力を使い周囲の木の伐採から運搬、それらを加工して辺りを補強して回るイチイには、村の男達も顔負けと言った感じである。
能天気に鼻歌混じりで、食後の運動とでもいうかの様に刀を振るう彼女が取り掛かっているのは、特に砦の近辺を中心に、見張り台から見ても敵襲が判りやすくする為の樹々の撤去だ。化け物が身を隠す遮蔽物が無い様にするのがもう一つの目的。剣技を以って巧みに木を薙ぎ倒す彼女に何か手伝いましょうか、と声が掛かるが、
「良いの良いの。こっちは私に任せてねぇ」
と、強がるわけでもなく言ってのけて見せた。
村に到着した直後、ゴブリンの集団が近い内に襲って来ると知らせてから、村人達もあまり休まずに慣れぬ力仕事などをしている為か、表情や動きに疲労の色が滲んでいた。成る可くなら楽な仕事を割り振ってあげたいと考えての返答だ。
「んー、あとは敵の進路を絞れればかなぁ。これ斬っちゃったら地図班に訊きに行こうっとぉ」
背伸びを一つ。日暮れまでにはまだ時間は十分あった。
場所は移り、砦の手前。探索兼罠制作係に立候補したティル・ライハ(好奇心の末・f04613)を筆頭に、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)や、エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)の3名の思惑は概ね一致していた。
ティルは敵が通りそうな経路を予測しそこに罠を仕掛け、かつあまり人が使わないと言われている場所を虱潰しに歩いて見る事で、侵入経路の目星をつけようと連日地図を片手に東奔西走。
元々彼はこの世界の出身で、子供達と仲良くするのは得意だと自負する通り、明るく笑顔を絶やさぬ彼の周りには村の子供達がいつしか一緒について歩いて回っていて、賑やかで宛ら小さな冒険隊だ。
子供達の話から得られた物は色々あった。例えば、子供だけが通れる秘密の抜け道。かくれんぼに使うのに有利な隠れ場所。大人であれば通るのが無理な場所でも、小さな彼等はすいすいと歩くものだから、お陰で小柄なゴブリンが使うには充分過ぎる程の物として全てを地図に記入していく。
「お兄ちゃん、昨日の続きやろうよ」
最近妹が生まれたばかりだと言う少年は、父を、母を、そして小さな妹を守る為、積極的に協力してくれる子供の1人だ。テイルは交流の一環として、そしてこれからを生き抜く為に子供達と罠作りも行ってきた。平時であればそんな事をさせるのは気が引けるが、今は猫の手も借りたい程に忙しい。スリや盗みで培った手先の器用さが人の役に立つと言うのは未だに少しむず痒いものがあるが――
「おっしゃ! じゃあ色々持って広場に集合な!」
「あっちは賑やかだなぁ」
駆け足で村に戻って行く小さな戦士達を見送ると、フェルトは幾つめかの落とし穴を作るべく、穴を掘っている。地道な作業ではあったが、思うのは一重に『みんなの笑顔を守る為』。
子供達の協力もあり、砦周囲のマッピングはかなりの精度の物となっていた。彼女が作った仕掛け罠は多岐に渡る。ワイヤー製の括り罠や、砦の手前には草を束ねたものを幾つも作り隣り合う物の先端を結んだ草結びと呼ばれるもの、つるりと滑る油床で敵の機動力を削ぐものまで。また、フェルトが呼び出した王冠を被った道化師に協力を仰ぐ事で、手数も増え素早くかつ正確な行動を叶えており、多少罠作りの知識があった者も舌を巻く程だ。
自分の足がすっぽり埋まる位の穴を掘り終えれば、中に木の杭を打ち込み、麻を編んだ物を被せ、乗せ過ぎない様に慎重に土を盛る。
「これ、自分が落ちたらって思うとゾッとするね。敵だとしてもちょっとなんか」
「エグいとか言ってらんねえだろ、戦うんだから」
近くで同じ様に落とし穴の制作に勤しんでいたエンからの言葉に、それもそっか、と頷くフェルト。
「えぇっと、砦から15歩、旗から21歩。ん、此処ら辺」
長さを測る物が無い為、罠の位置の把握は基本的に歩測と、等間隔に目印として地面に挿した小さな旗を頼りとし、一つ作る度に何度か同じ事を繰り返しては地図に印をを付ける。これで3つ目が出来上がり。ほうれんそう大事だもんね!と落とし穴の場所を共有すべく顔を上げると――、
「って、そっち穴掘り過ぎじゃない!?」
初日からシャベルを担いで砦の周辺を掘り返していたエンは、3つどころの話ではなく、彼女はギョッと目を見開く。
「遠足と一緒で準備すんのが楽しいんだよなこういうの」
防衛線マジスゲー滾る!と無節操に穴を掘っている様にも見えるエンだが、ちびっ子が知らずに落ちたら悲惨だよな、と事前に罠設置予定場所を地図上にバツ印を付けてきちんとその辺をうろつく子供達に持たせ、周知を図っている。
「攻めるより守る方が難しいって言うよな」
誰が聴く訳でもないが、これから近い未来に訪れる戦いを想像すると、腸が煮えくり返りそうになるのだ。足音を一早く耳が察知し振り返れば、小さなバスケットを提げた女の子がこちらに向かって歩いて来ていた。教えをしっかり守っているのだろう、罠は回避しているが如何せん危なっかしい。エンが駆け寄り、どうした?と屈んで目線を合わせてやれば、ふにゃりと柔らかく少女は笑う。
「ぼうけんしゃさまにさしいれです!」
ママとクッキーをやいたの。そう渡された紙袋。エスコートするよ、なんて運び屋の矜持で送り届けてから、丁度小腹が空いている所だったとやや歪な形をしたクッキーを頬張りつつ、砦を仰ぎ見る。
「ほんと長閑ないい村だなここ。……ちょっとゴブリンには勿体無いわ」
日が落ち始めているのだろうか、空には仄かに橙が混ざり始めていた。
「は〜、か弱い乙女に力仕事は無いでしょ、白魚の肌が傷つくわー」
付近の散歩――否、散策をする者はここにもいた。先程まで一緒に穴を掘らされていた斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)が、文学少女の様な見た目にそぐわない、軽いノリでボヤきながら地図を片手に歩いていた。彼女のお陰で村の一部の少女達は半分くらい意味は分かっていない侭、『うぇ〜い』等の所謂ギャル語と言う物を使い始めてしまった事は今は置いておくとして。
「こんなの引っかかるヤツいんの?って感じだけどー」
先日取り付けた鳴子が機能するかどうか調子を確かめて回っている最中だ。
「しかし井戸が使えて良かったじゃんね~」
彼女が危惧していた水源の確保については、砦の程近くにあまり使われていない物の、定期的に攫い作業などが行われ人が飲めるギリギリを保たれた井戸があった為、事なきを得ている。バッチリ縦ロールに決めた髪を指に絡めながら、水があれば焚いて熱いお湯ぶっかけるとか出来るもんねー、てか早く帰ってお風呂入りたいわ等とブツクサ言ってる内に、とある事に気付き足を止める。
「あ、ま? ネイルハゲてるし。はぁ〜マジテンサゲなんですけど。え、っていうかこの後戦うわけよね? かーっ、辛いわーマジぶちのめさないと気がすまないわこれ」
そう怒り心頭に発すると、禍時の空の下を駆けていく。その形相はとてもじゃないが人には見せられないものだったに違いない――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ゴブリン』
|
POW : ゴブリンアタック
【粗雑な武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 粗雑な武器
【ダッシュ】による素早い一撃を放つ。また、【盾を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 足払い
【低い位置】から【不意打ちの蹴り】を放ち、【体勢を崩すこと】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
ファラン・ウルフブラッド
さーて、お待ちかねの防衛戦だな。何、やれることはやった!後は結果を出すだけだ!
【行動:砦の上で陣頭指揮】
村人に指示を出しつつ、伸びしろのありそうな者(男女問わず)を一人二人指揮の補佐につけ、この場合にはこうする。あの場合にはあれをする。といった感じで簡単な防衛戦術を実地で覚えてもらおうかな。
俺達が此処を離れても、防衛指揮が出来るヤツが居れば長期的な安全性も向上するだろう。
もし砦やバリケードを突破しそうなゴブリンが居たら即座に突っ込んで剣刃一閃で叩っ斬るぜ!
民を守るは王の役目。すでに我が国はなくとも、王としての在り方、忘れてはおらんぞ!
斬断・彩萌
うわマジで出たんだけど。知性低そ~!でも腰布してるって事は恥じらいくらいはあるの?急所守ってるの??まぁどうでもいいけど。私が戦ってあげるんだから、サクっとやられちゃってよね。
しっかし超能力使えて良かったわー。肉弾戦だったら完全にネイル逝ってたっしょコレ
【POW】
サイコキネシスで砦にあるものを飛ばしてみるかー。矢とか建材とか色々あるっしょ。投げるモノが無くなったら戦場に落ちてるもの片っ端から操って敵をこ……こう、……。そう撹乱させる!(思い出した)
いちお砦の耐久力にも気を使って、大丈夫そーならそのまま戦うし破壊されっぷりがヤバたんなら穴やらヒビのとこに敵が行けないように道塞いどこ。
ヘラ・テンタクルス
「あんな痛ましい未来を辿らせない様、私たちのやるべきことをやりましょう。」
まずは探索兼罠制作係の方々の作成した地図を借り、
罠の位置を頭に入れます。
そのまますぐに黒金さんの提案した
『敢えて守りの脆弱そうな箇所』向かいます。
現場に到着すると敵を一瞥、
ゴブリンが遠距離攻撃可能な装備を持っていないことを確認し
頭数は多いほうが良いということで
バリケード中からリザレクト・オブリビオンを発動します
死霊騎士と死霊蛇竜には罠にかかった死に損ないには確実に止めを、
無傷の個体は罠に誘導しつつ数を減らす事を優先して戦うよう命じます。
また、共闘しつつ村人や他の猟兵に危害が加わりそうであれば
身を挺してかばう事を徹底します
エン・ギフター
おーおー、鳴り物入りでのご登場か?
弱いモン苛めしまーす!楽しい!って顔に書いてあんぞクソゴブどもが。
村の奴等に指一本でも触れると思うなよ!
つっても折角張った罠の有効性なんかは、今後の為に村のモンには見てて欲しいので俺は暫く砦で待機するわ。
ほらあれ見てみろ、アンタらの造った罠にバッチリ嵌まってんぞ!
まあ見てるだけじゃ暇だろうし、上から石投げたりはするけどもな。
討ち漏らしが侵入してきた場合には、ユーベルコード蹴刄で応戦しとく。
奴等に近付かないと食らわせられねえから、よーく引き付けてから、こう、ガッと一撃必殺
?
ほらさっさと親玉出せや、ゴメンナサイさせてやるから。
●
深夜、砦では絶やす事無く火を焚べながら交代制での見張りに、その場に残っている猟兵達も参加し、皆、村人達と共に気の抜けぬ時間を過ごしている。
星の綺麗な夜だった。今日もこのまま何も起きないで朝を迎える事が出来れば。 そんな願いは虚しく、静寂を切り裂いて斬断・彩萌の仕掛けた鳴子がけたたましい音を立て鳴り響き鼓膜を劈く。念入りに何度も実験を行い、罠の箇所は徹底して村人全員にも周知を図っている。だからこそ、そうだ。
――こんな簡単な仕掛けにわざわざ引っ掛かるものは、『奴等』しか居ない。
「敵襲! 敵襲――ッ!!」
眠っていた者達も跳ね起き、俄かに騒がしくなる砦内。猟兵達は堂に入った態度で手持ちの武器を確認すると、それぞれが配置へと走り出す。一等高い見張り台に立ったファラン・ウルフブラッドが目を見張り、王にのみ持つ事を許された大剣を掲げ、吼えた。
「案ずるな! 何、やれることはやった!後は結果を出すだけだ!」
その姿に、遅れて各所から雄叫びが上がる。己を奮い立たせる為に、家族を、愛する者を守る為に、次第に一丸となった雄叫びは澄んだ空へと鳴り渡り大気を震わせていく。
『敢えて作られた守りの脆弱な場所』。逸早くそこへ着いたヘラ・テンタクルスは、鳴子を仕掛けていた箇所へと死霊騎士と死霊蛇竜を遣いに出していたが、細やかな異変を感じ取ると見張り台へと走り出す。
「おかしいですわ、敵を仕留めた筈なのですが……、敵が『一体しか』来ておりません」
そう、彼女の使役する死霊はゴブリンを仕留めた。罠に掛かり右往左往していた所に忍び寄りその首を狩った。が、どうだろう? 確かに、鳴子が一回鳴った以外には他の罠に何か掛かった形跡は見て取れず、辺りはまた静まっているではないか。
「えっ」
思わず素っ頓狂な声を出してしまうファラン。なんか村人に発破掛けちゃったけど大丈夫だろうか、そんな不安が頭を過る。が、隣で聞いて居た彩萌が思い掛けずしてある答えへと至ったらしく、えぇっとホラ、何だっけ。アレアレ、と眉間をぐりぐりと指で解すと、言葉を捻り出す。
「それってさ〜…… セッコーなんじゃないの?」
「おーおー、斥候ねぇ」
罠の有効性を見ようと同じく見張り台へ上がって来たエン・ギフターが、彼女からそんな言葉が出て来るとは驚きである、という目で彩萌を見ながらも頷いた。成る程、そうであれば合点が行く。
”ゴブリンの大半は知性が低く、粗野な生き物である。” 当たりくじなのか、外れくじなのかは分からないが――。初っ端から、その前提を覆すとはすげぇモン引いたぜ、と独り言ちる。うんうん、と頷く彩萌にどう言う事でしょう、と訊ねるヘラも本当は頭では理解しているが考えたく無かったことで、聞かずには居られないとばかりだ。
「つまりー、少しは骨がある賢いのがゴブリンの中にいるってコトっしょ! そう、私のよーに!」
眼鏡に手を添えながら、ポーズを決めて彼女が言い放った言葉は、どういう事だと集まり始めていた周囲をどよめかせ混乱の渦に陥れる物となった。
●
時は一刻程して、遠く地面を踏む音を始めにその耳で察知したエンは、夜目の効く橙の双眸を細めるとマスクの下で口を大きく歪める。大きいものが3体。それから、無数の小さい群の足音。斥候に出した物が帰って来ず焦ったのか。それはきっと、猟兵達が居なかったら一瞬にして辺り一面を血の海に沈める程の災厄の形を為して訪れた様だ。
やがてそれが他の者達にも視認出来る距離まで近付くと、誰しもが息を飲んで押し黙っている。逃げたい、怖い、あんなの――勝てっこない。そんな思惑が表情から伺える。
「やぁっとご登場か? 弱いモン苛めしまーす!楽しい!って面だな、クソゴブどもが」
そう吐き捨てて石を投じれば、ゴブリンの群れは彼や村人達が必死に作り上げた落とし穴へや罠へ掛かり、戦線を大きく乱していた。
「オイ、目を閉じるな! ほらあれ見てみろ、アンタらの造った罠にバッチリ嵌まってんぞ!」
エンががなると、村人達は恐る恐る砦から顔を覗かせて、それから互いに顔を見合わせると覚悟は決まったと言う顔で石を投げ出す。この石も砦の建設の傍ら、罠を作りながらせっせと子供達が中心となって掻き集めてくれた物で、当てずっぽうに投げ続けるとしても数は十分にある。皆が投げ易い様に石を補給しつつ鼓舞して回った。
「そらッ! 投げ続けろ、討ち漏らしは俺が片付けるからそう心配すんな!」
「うわマジで出たんだけど。ねぇねぇ、アレさー腰布してるって事は恥じらいくらいはあるの? 急所守ってるの?」
緊迫感のない事を訊いて来る彩萌に、知りませんよぅ!と何処からか声が上がる。こちらは精鋭の弓部隊、と言えば聞こえは良いが、村人の中で弓を多少扱った経験のある一握りの者達を集めた箇所だ。
「まぁどうでもいいけど。私が戦ってあげるんだから、サクっとやられちゃってよね~」
素っ気無い答えに少し口を尖らせながらも、指で銃を型取りそれを構える様にすると、不可視のエネルギーを用いて彼女は辺りにある建材などを片っ端から投げ続けていた。大きな材木の余りを打ち出すと、落とし穴に落ちた個体を踏み付けて足場にし、接近しつつあった前衛部隊を纏めて盛大に後ろへと吹き飛ばす。
「って、マ?」
景気良く投げ過ぎた所為で近くに積んであった物が尽きかけている事に気付くと、今度は遠くをイメージしてサイキックエナジーを操り、先程投げた物やゴブリンの持つ武器を奪い縦横無尽に駆け巡らせ、場を撹乱して回る。
「私ヤバいエコくない? しっかし超能力使えて良かったわー。肉弾戦だったら完全にネイル逝ってたっしょコレ」
はげて怒るなら、仕事に行く時はオフして行けば良いのに……とは同居人の少女が口酸っぱく言っている事だが、聞き入れる気が更々無い、というより毎回『忘れていた』というのが正しい様だ。乙女の正装ならば致し方あるまい。
「大丈夫です、私たちのやるべきことをやりましょう。」
敵を一瞥したヘラは再び死霊を召喚し戦場へ送り出すと、瞑目して神経を研ぎ澄ませている。自身が傷を受ければ解除されてしまう技でありながら、危険に臆せず守りの薄い場所に身を置いて手を組み佇む貴婦人の姿は、まるで聖母の様でもあった。
騎士が罠に掛かった死に損ないに鋭く細き短剣を以って止めを差し、蛇竜が場を駆け巡り無傷の個体を誘導しては罠に嵌めて行く。ゴブリンは成人するまでに長い時間を必要とせず、高い繁殖性を持つ為に1匹でも逃せばその『たった1匹』が直ぐに地を埋め尽くす程の大集団となる。そんな危険を徹底的に排除すべく、気の遠くなる様な程に彼女の掲げた祈りは血に塗れていた。
皮膚の色こそ違うが、二足歩行を行い限りなく人間に近いゴブリンに手を掛けるのを畏怖する者も少なくない。そんな優しい村人達の心に傷が残らない様に、終わった後のケアも必要だろうか。そう考えながら彼女は自分にも言い聞かす様に何度も大丈夫ですよ、と唱えて見せるのだ。
「私が守りますから、きっと大丈夫」
「さしづめ、ゴブリンナイトと言う所か…… あのデカいのが厄介だな」
砦の上で指示を絶え間なく飛ばしながら、己の補佐に男を2人付けファランは忙しなく変化し続ける戦場において、この場合は、あの場合はと、どの様に人を動かせば良いかという防衛戦術を叩き込んでいた。ただの群れだけではなく、ゴブリン側にも指揮官がついて来るとは予想外であったが、この熾烈な戦いを乗り切ればそれは大きな糧となり、猟兵達が村を離れても長期的な安全性の向上は彼が思っていたより見込めそうである。
しかし、敵も馬鹿ばかりではない。下っ端である物は砦に辿り着くまでには蹴散らせている現状だが、大きな4個体のチームワークたるや目を見張る物であった。盾と剣を持ったナイトが敵視を集める様に動き、後ろにはまだゴブリンクレリックとゴブリンシーフが控えている。強化魔法が使われているのであろう、ナイトは石や弓では歯が立ちそうにない。
「仕方ない、俺が出よう」
誉れ高き王の証たる紋章をしつらえたマントを翻し、下へと駆けると漆黒の鎧が彼の意に呼応するかの様に紅くちりりと光る。バリケードに肉薄し、剣を振るおうとするナイトの間に滑り込み大剣で受け止め弾くと、斜めの振り下ろしからの剣先を一回転させ振り下ろし深い傷を作る。思わずよろける敵に、掛かってこいと挑発する様に雷声一発。
「民を守るは王の役目。すでに我が国はなくとも、王としての在り方、忘れてはおらんぞ!」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
アララギ・イチイ
来たわねぇ、ゴブリンの団体さんのお出ましよぉ
敵が有効射程に納まったらバリケードの内側で召喚・剣豪悪鬼視を使用だわぁ
装備は着物の袖から取り出したハンドバルカンと投擲砲、その二つを【一斉発射・援護射撃】のスキルを使用して同時使用ぉ
【範囲攻撃】でまとめて攻撃しつつ【マヒ攻撃・気絶攻撃】を合わせて行動の阻害も狙いたいわねぇ
もちろん召喚した鬼の武器は大口径化して使用よぉ
射撃持ちが居るなら優先的に処理しておくわぁ
もちろん孤立しない様に仲間の状況は観察よぉ
もし接近された場合は、カタナを引っ張り出して斬撃を浴びせるわぁ
きっちり(ゴブリンの)首を跳ね飛ばしたいわねぇ
黒金・華焔
こういう村で過ごす時間も意外と悪くないもんだ
砦の建設は盤石、敵さんもいいタイミングで来てくれたよ
さぁて、戦いを始めるか
なにせこの私が建設に関わったんだからな、負け戦は許されないぜ?
村の連中に後方支援を頼んで、私自身は前線に出る
自分が砦の罠に引っかからない様には気を付けておくぜ
雑魚共の相手は手慣れたもんだ、『黒焔呪月』で敵を纏めてなぎ払ってやる
なるべく村にゴブリンが向かわない様に惹きつける事を意識しつつ、戦闘知識を活かして立ち回るぜ
いいタイミングが来たら、攻撃に関する技術を全部乗せた『黒華術・幻想桜花』を叩きこんでやる
「私が居る村に手ぇ出そうなんていい度胸だよ。死にたい奴からかかって来な!」
ティル・ライハ
探索は得意でも、こういうガチ戦闘は…正直不安だ。でも、あの子達を…あの“家族思いの子”を守れるなら、俺も参戦すんぜ。
危険な抜け道は子供達に聞いてあっから、そこ重点に広範囲見張れる場所…できりゃ隠れられる場所に待機。
標的を見付け次第、まずはナイフを“投擲”。SPD勝負、一気に距離詰めて“2回攻撃”用のもう一本のナイフで『ユーベルコード』攻撃。“盗み攻撃”が出来たら奴等の持ってる粗雑な武器でも盗み取りてぇな。
でも、大量に相手にゃ出来ねぇから、危機感覚えたら、即砦に戻って皆に報告する。ソレ大事。
『SPD重視』『1章の情報を元に隠れ待機』『戦闘の流れは上記を基準』『敵の数の多さや状況により退却&報告』
アルル・アークライト
出たわね、ゴブリン達!
村を襲わせたりなんかしないわ、此処でボコボコにしてやるんだからっ!
砦の方のお手伝いはあんまりできなかったけれども、
その分はここでしっかり活躍して見せて、取り返させて貰うからね!
【精霊蝶の召喚・攻】で攻撃。
「行きなさい、おまえ達。眩まし、惑わし…打ちのめしなさいッ!」
ゴブリンの頭上から鱗粉を撒き散らして惑わせて、
動きの止まった所に蝶の自爆攻撃を仕掛けるわ
ふふん、決まった…(超ドヤ顔)
そのまま大地の養分に戻る事ね!
フェルト・ユメノアール
いよいよゴブリン退治だね!ドキドキしてきたよ
とりあえず地形と罠を有効活用するためにある程度ゴブリンを引き付けて、罠にかかるか、避けようと分散した所で一気に攻撃を仕掛けるよ
そして、ボクが使うのは【<スペルカード>無人造の機兵】
このカードは自分のレベルと同数のLV1機兵トークンをバトルエリアに召喚する事ができる!
力には力、数には数で対抗さ!
仮に敵の方が強くても1対1の状況にしてしまえば砦からの援護も期待できるしね、とにかく複数の相手をする状況は避けないと
戦闘時は敵の素早さを殺すため接近して戦って、距離を取られた場合は事前設置の罠の後ろにおびき寄せるように移動
道化師に軽業で勝てると思わないでよね!
●
「さてさて、砦の方はお手伝いあんまり出来なかったけれど、その分はここでしっかり活躍して見せて、取り返させて貰うからね!」
とくとご覧あれ! そう、ウィンクするアルル・アークライト(星剣使い・f01046)は、援軍として新たに村に訪れてくれていた一人だ。魔法で編み出した精霊蝶を引き連れ軽々と階段を一段飛ばしで駆け登ると、あら良い眺めね、なんて笑い宝剣を引き抜いて森人の耳を上下させる。
「はばたけ、蝶よ…」
それは、惑わす光。彼女の声に応じ現れた七色に輝く蝶々の霊が燐光を伴いながらふわりふわり剣の切っ尖から湧き出でて、あっという間にゴブリン達を埋め尽くし、ふるふると身を震わせて鱗粉を撒き散らし、その幻想的な光景に、敵は呆けた様に空を仰ぐ。
「行きなさい、おまえ達。眩まし、惑わし……打ちのめしなさいッ!」
味方ですらすっかり目を引かれ手を止めていた所に起きた爆発。焼け爆ぜたゴブリンの肢体があちこちに散らばり、肉の焼ける厭な匂いが大気に混じってそこは先程までの戦場の景色に早戻りだ。ふふん、と自慢気に澄ました顔でお馬鹿さん達ね!と決めて見せるアルル。
「そのまま大地の養分に戻る事ね! さぁ、次に私に挑むのは誰?」
子供達が教えてくれた、砦の近くで広範囲を見張れるとっておきの隠れ場所。夜陰に紛れて敵を観察していたティル・ライハは、報告に戻ろうとした矢先始まった激しい斬り合いに、戻るのをやめて汗ばむ掌でナイフの柄を強く握りしめる。
「はは…… まだ手が震えてやがる」
移ろい行く戦場を見張っていて尚、不安が拭い去れない。でも、あの子達を。――あの“家族思いの子”を守れるなら。今は子供達は村長の大きな家で身を寄せ合って眠っている。こんな怖い思いを何度もさせたくない、彼等の為にもこの防衛線を勝ち抜かなければならぬ。隙を見て頭を狙って投擲されたタガーナイフはナイトの顳顬を鋭く突き、どっと巨体が地面へと倒れ伏した。男と会釈をすると、駆けつけナイフを引き抜くが、血脂で今は使えそうにない。致し方なく隠し持っていたもう一本のナイフを抜き取ると駆け出し、身近なゴブリンへと接近。腹を横一文字に斬りつけると、もう一度今度は心の臓を貫き、念を入れる為ナイフのハンドルを足で踏み抜く。
事切れたゴブリンの持っていた粗野な剣を奪い取る頃には、手の震えも忘れる程の衝動がティルを突き動かしていた。
「……ちゃんと終わらせて、『ただいま』って言って、あと、」
有難うって、伝えなきゃなぁ。きっと、彼等も『おかえり』って言いたいだろう、だってそれは、とても暖かい遣り取りなのを自分は知っているのだから。
「やっこさん達もいいタイミングで来てくれたよ、この私が建設に関わったんだからな、負け戦は許されないぜ?」
黒金・華焔が、身の案じついて来ようとした若者達を止め、前線に繰り出す。手に持つ獲物は、まるで今日の月夜を映すが如く、深と内に焔を宿した薙刀だ。手慣れた手付きでそれを振るい敵を薙ぎ払う様はまるで舞。砦に敵が向かわぬ様に戦場を駆る艶姿に、その体が欲しいとばかりに追い求める雑魚達を次々と蹴散らして行くと、それもまた惹きつけられたのであろう、ゴブリンシーフが立ちはだかった。
「やれ、か弱いものをぶっ潰す方が好きなのだが…… 私が居る村に手ぇ出そうなんていい度胸だよ。死にたいならかかって来な!」
刹那、腕に痺れる様な腕の痛み。シーフの持つ短剣には毒が塗布されているのだろうか、やがてその傷が酷く熱を持ち、華焔は小さく舌打ちをする。そんな自分を見て中指など立てられたら、それ相応の報いを返すのが礼儀と言うもの。握っていた薙刀がはらり、黒い桜の花弁に姿を変え、シーフに喰らい付く様に吹雪く。
「せめてもの手向けだ、華やかに散りな!」
そう彼女が甘やかに謳った後には、何も残らない。黒き春夢は夜空へ昇り、溶け行った。
あとに控えるのはゴブリンクレリックと数体だ。然し、何時援軍が来てもおかしくない状況下において村人達は大分疲弊している。バリケードの内側から鋤や鍬を振るう者達――ファランクス部隊と行動を共にしていたアララギ・イチイは魔術装置が組み込まれた着物の袖をたくし上げ、小口径弾と小型砲弾、2丁の魔銃を手に持ちひたすらに援護射撃を行っていたが、クレリックを狙うにはやや距離不足と見るが否や、アレの出番かなぁ~と銃弾を一発空へ向けて撃ち上げた。
「何が出るかなぁ、何が出るかなぁ~」
空を割り、自身の2倍もある大口径の銃を持った幻影の悪鬼がクレリックの側へ降り立てば、イチイはその場に立ったまま踊る様に動き出す。すると悪鬼が彼女の動作をトレースして巨大な銃を操り、寸分違わぬ精巧な動作を見せて。
クレリックも何もせずにそこに立っていた訳ではない。障壁だろうか、見えぬ何かに阻まれ悪鬼の攻撃が届かない。そうと判ればイチイは乱雑に腕をブゥンと振るい、悪鬼がそれに倣って不可視の壁を打ち壊さんと何度も何度も銃をその障壁へと叩きつけた。
「中々しぶといわねぇ」
時間稼ぎでもする寸法だろうか。そんな事はさせない、と渾身の力を込めて打ち下ろすとピシッと何か皹が入った様な音が聞こえ、もう一度腕を振り上げ叩けば、可視化した障壁がガラスが砕け散る様に粉々に砕け散った。呪文の詠唱を始められてしまう前の今が好機。イチイは仲間に声を掛けると同時にバリケードを乗り越え、接近して来ていたゴブリン目掛けて刀を一閃。見事に首を撥ね飛ばした。
「いっくよー! ボクが使うのは…… ジャジャーン! <スペルカード>無人造の機兵っ!」
魔法が封印されているというカードセットから切り札となるカードを一枚引き抜くと、高らかにそれを掲げるフェルト・ユメノアール。
「このカードはななな、なんと! 自分のレベルと同数のLV1機兵トークンをバトルエリアに召喚する事ができる! 数で畳み掛けるよ!」
カードの効果を宣言すれば、そこに現れしは合計16体の機兵。余りに部が悪過ぎる、とクレリックが逃げようとするが、それはどうやらそれ程足が素早くないらしく、彼女の遣わした機兵が他のゴブリン達を吹き飛ばしながら直ぐに追い付き取り囲んだ。
「此の期に及んで、逃げるだなんて思わないでよね!」
あとはもう、それから先はそう長くは無かった。障壁を張り直す事も、逃げる術すらも失った敵に突きつけられたのは圧倒的な数の暴力というものだった。その光景はまるで、猟兵達がこの村を看過していたら、予知が遅れていれば、砦の整備が整わなかったなら、全く逆の立場だった筈の末路。目を逸らす者もいた。逆に網膜に焼き付ける様に見張る者もいた。どちらも間違ってはいないし悪くない事だとフェルトは軽く首を振るう。本当はゲーマーらしく、フェアプレーと行きたかったんだけどね、だなんて事を思いつつ。
●
今宵の戦いは、人間達の優勢という形で幕を閉じた。
「勝ち鬨を挙げよ!」
華焔が砦に向かってそう促せば、安堵の声や勝利を喜ぶ声が上がり宴が始まる。女達も寝ずに子供を見守りながら料理を拵えていたらしく、暖かい夜食と喉を潤す果実が振舞われている。
「はー、ボク、ドキドキしちゃったよ」
何だか自分も生きた心地がしなかった、と言ってふにゃりとフェルトが笑うと、イチイがお疲れ様よぉ〜と笑い返す。
「でも、なぁんか忘れてるようなぁ……」
首を傾げる彼女と共に何だろう?と皆が一斉に首を傾げるが、やがてティルが手をぽんと打ち鳴らした。
「あーあー、そうだ、『陰で糸を引いてる奴が居る』だったか……」
取り急ぎ進めた砦の建設と、思いがけぬ激戦ですっかり皆の頭から抜けていたが、この一件、少なくとも猟兵達はまだ諸手を挙げて喜ぶ訳には行かないのだ。果たして、何が待ち構えているのか。白み始めた空を見上げながら、皆が長い溜息を吐く。
「何かは判らないけど、倒しに行っちゃおう!」
アルルが言えば、そうしますかね、とティルが立ち上がり、続いて他の猟兵達もぞろぞろと重い腰を上げ、疲弊した体に鞭を打ち装備を整え始めた。もう直ぐ夜が明ける。恐らくあのゴブリン達の足跡を辿れば、敵の総本山に行けるだろう。それに、ゴブリン達の死骸だって片付けない事には、何か悪い病気が流行るかも知れないしどうにも気を落ち着けて眠れそうにない。
「こういう村で過ごす時間も意外と悪くないもんだ、気分が乗ったついでだ。やってやるか」
懐から絹袋を取り出すと、たっぷりの蜂蜜で作られた甘い飴を華焔は精がつくぞ、と勧めて回る。あ、何コレおいしーと口をもごもごするフェルトがカードパックの確認を終えると皆と頷き合う。
行こう。各々がそんな言葉を口にした。此処まで来たのだから、悪い様にはならない。後は野となれ山となれだと、猟兵達は歩き出す――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ハーピー』
|
POW : エキドナブラッド
【伝説に語られる『魔獣の母』の血】に覚醒して【怒りと食欲をあらわにした怪物の形相】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : ハーピーシャウト
【金切り声と羽ばたきに乗せて衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : ハーピーズソング
【ハーピーの歌声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑17
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
フェルト・ユメノアール
一難去ってまた一難、でもハーピィを倒せば流石にもう打ち止めだよね?
よーし、最後まで頑張っちゃうよ!
飛んでいる相手に近接攻撃は不利、ならSPDで攪乱しつつまずは『トリックスターを投擲』して攻撃するよ!
相手の攻撃は広範囲を巻き込める衝撃波だから直撃を貰わないように岩や木を盾にしつつ攻撃の動作とかタイミングを把握して
必殺のタイミングで【<スペルカード>写し身の呪術人形】を発動!
このカードは相手の攻撃を無効にして、その攻撃によって発生するダメージを相手に与える!
鏡写しのように相手の姿を写し取る人形を召喚、攻撃を反射して強力なカウンターを決めちゃうよ!
●
明朝。深い深い、森の小路を猟兵達はゴブリンの足跡を辿り歩いている。朝露が草を、木を濡らし、辺りには薄っすらと霧が立ち込めていた。人の目の向き難い迷路の体を成しており、そこは物好きな冒険者でもなければ見つける事が出来ないであろう。その奥に、決戦の場所――ゴブリン達の根城にして、その統率を取っていた何かがいる砦はあったのだ。
清廉な空気すら感じさせる森に、道中何度も皆が躊躇ったが、あの悍ましいゴブリンの群れは確かにこの藪や草木を掻き分けやって来ている様だった。擬態するには打って付け。成る程、連中も馬鹿ばかりではないらしい。
砦に踏み入れば、何処からか『歌』が聴こえる。その声は、甘く、そして重く、頭が支配される様な感覚。意識を手放してしまいそうになるその声音は、侵入者達を奥深くへと誘う様に鳴り響いて止まない。
「見ーつけた!」
先陣を切って駆けつけたフェルト・ユメノアールが声の主と相対する。少女の様な愛らしい顔に、一糸纏わぬその体。猛禽類が如く鋭い爪と見かけに寄らず力強そうな趾。背に生やした翼を羽撃かせて浮遊するその姿は中々どうして堂に入っているではないか。ハーピーが続いて辿り着いた者達の姿を認めると、艷やかな唇を釣り上げ嗤う。
直後、裂帛の金切り声が挙がると同時に奔った鋭い痛み。堪らず腕を押さえれば、温かい血が手袋を濡らしていた。
「一難去ってまた一難かぁ、でもアイツを倒せば流石にもう打ち止めだよね
……?!」
滴る赤を乱雑に服で拭うと、華美な装飾が施されたダガーを投擲すると同時に遮蔽物目掛けて走る。岩陰へと
飛び込めば、カードをシャッフル。引き抜いた一枚にニマり、己の引きの良さに感歎すると負けじと声を張り上げた。
「オープンッ! <スペルカード>写し身の呪術人形! このカードは相手の攻撃を無効にして、その攻撃によって発生するダメージを相手に与える!」
お気に入りの服に穴を開けられた恨みは深い。鏡写しの様に敵の姿を写し取る人形を召喚すると、忽ち全ての攻撃が相手に跳ね返り、同じく痛みに喘ぐ仲間を守る事となる。ハーピーの顔が醜く歪んだのを見て取ると、周りを励ます様に努めて明るく拳を掲げるフェルト。
「よーし、最後まで頑張っちゃうよ! 皆んな、ボクに続けーッ!」
大成功
🔵🔵🔵
ティル・ライハ
あ、かわいい!……じゃなくって。
よっしゃ、アイツが手を引いてるヤツだな? あの人達が平穏に暮らすためにぶっ倒すしかねぇなら頑張んなきゃなぁ!
俺は堂々と動いて戦うタイプじゃねぇから、皆が戦ってる裏で「目立たない4」ように「忍び足3」で近付いてタガーナイフで「2回攻撃1」!
範囲攻撃はこえぇよな…。 敵の様子を観察しながら行動して、ヤベェって感じたら「逃げ足2」で出来るだけ距離おかねぇと。
…もしあの子にお土産として持って帰れそうな物があったらちょい「盗……」けふけふ……持って帰ろっかなぁ
『SPD 密かに近付いて近距離2連攻撃』
『敵の行動を観察し、無差別範囲攻撃から逃げる』
黒金・華焔
気分よく雑魚どもを狩ってたってのに、そういや大物がいたんだったな
ま、しゃあねぇ
乗りかかった船って奴だ、最後まで付き合ってやるよ
空を飛ぶ奴相手ならまずは機動力を削ぐ所から始めるか
戦闘が始まったら属性攻撃で強化した『フォックスファイア』を発動、空への逃げ道を塞ぐように狐火を展開して、敵に地上戦を強いてやろう
その状態のまま『黒焔呪月』を使って戦闘、2回攻撃も狙いつつリーチを活かして翼を集中攻撃してやる
強引に狐火を突破しようとするなら、狐火で翼を焼却だ
敵の接近攻撃にはなぎ払いや戦闘知識を活かした立ち回りで対処するぜ
「五月蠅い奴だ。黙って焼き鳥にでもなるんだな」
●
「可愛いのは見た目だけってか!」
持ち前の観察眼と逃げ足を生かしていち早く岩を盾にしていたティル・ライハが、フェルトが切り拓いた道に続く為に、足音を立てず素早く距離を詰めればナイフでハーピーの羽根を穿ち、岩肌へと磔にする。
「よっしゃ、ヒット! アイツが手を引いてるヤツで間違いないんだよな? あの人達が平穏に暮らすためにぶっ倒すしかねぇなら頑張んなきゃなぁ!」
村人達の顔を思い出せば、自然と手に力が入るというもの。それと同時に疼くのは、自分の“シーフ”としての性分と好奇心。砦の深部、豪奢な祭壇らしき場所へと駆け寄ると、耳に掛かる花色の髪を搔き上げて辺りを物色して回った。
あったのは、恐らくハーピーの趣味か、綺羅びやかな宝石の飾りが幾つか。見惚れる程のお宝はそこには無かったが、売れば少しは金になりそうだ。吟味する程の暇はない、急いで布袋に放り込んでいく。
「これはあの子にお土産として盗……けふけふ、拝借するとしますかね、ってうげぇっ!」
直後、ごろりと出てきた人間のものと思わしき頭蓋骨。思わず後ずさって注意深く暗闇に目を凝らせば、夥しい数の骨が転がっていた。何時からそこに眠っていたのか、どうして此処にそんなものがあるのか。瞬時に総てを理解し、体が竦んだ。
「あとでちゃんと、弔ってやらなきゃな……」
――許せない。そう、ティルが顔を上げた矢先、ハーピーを炎が包む。
「何、悠長な事してやがる! 弔いなんぞは後だ、ったく、気分よく雑魚どもを狩ってたってのにしゃあねぇな」
鼻につく肉の焦げる匂い。黒金・華焔が放った狐火が、茫と磔になった羽根を灼くと、その愛らしい顔に涙を浮かべ藻掻き逃れようと四肢をばたつかせた。
構うものか。じわり、じわり、甚振る様に巧みに焔を操れば、やがてずるりと肩甲骨が露わになり、その身体が地へと落ち行く。
「全く……頭が高いんだよ、五月蠅い奴め。黙って焼き鳥にでもなるんだな」
羽根をもがれ、地上戦を強いられても流石は敵の統領。早々に諦めをつけたのか、大人しく負けを認めるつもりなど毛頭ないらしく、何事か歌を奏でれば、その姿は獰猛な怒りを浮かべた魔獣へと変貌して華焔へと牙を向け襲い掛かる。
「はは、化けの皮が剥がれたな!」
第二の姿を見せた敵に臆する事なく、薙刀『黒焔呪月』を脇に構え迎え撃つ――!
「上等! 乗りかかった船って奴だ、最後まで付き合ってやるよ!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヘラ・テンタクルス
ゴブリンを煽動して村を襲わせるなんて一体何を企んでいるのでしょうか……?
いえ、今は気持ちを切り替えましょう
徒党を組み、役割分担をするゴブリンなんて聞いたことがありません
そんな稀有なゴブリンを裏で糸を引く存在
考え事をしながら戦える相手ではないでしょう
戦闘では他の方のサポートを重視します
衝撃波の範囲内に入らないようハーピーとは距離をとって対峙
飛ばれると厄介なので「謎を喰らう触手の群れ」で牽制しつつ
地面や木などに縛り付けられないか、試してみます
また、人語を解するかはわかりませんが意図や目的を問いかけて見ましょう
何かしらの情報が得られれば良いですし
こちらに疑問の感情を持てば「謎を喰らう触手」を放ちます
●
――徒党を組み、役割分担をするゴブリンなんて聞いたことがありません。
胸中穏やかではないヘラ・テンタクルスは、そんな稀有なゴブリンを裏で糸引いていた存在、ハーピーであって今は悍ましく牙を剥く怪物と成り果てた姿を見遣り、息を飲む。
「考え事をしながら戦える相手ではなさそうですね……」
一旦、思考を後へと見送ったヘラが放った濃紫の触手の群れは、彼女の手足となり蠢き、押し寄せ敵を喰らい、その機動力を殺いで行く。柔らで靭やかなそれが、まるで一個一個意思を持つかの如く絡みつくと、ドッと魔獣を地面に縫い付ける様にして吸い付き離さない。
「答えなさい! 貴女の目的は何ですか!」
「ギ、ギ…… モクテキ……?」
人語を解するかは半ば疑念的ではあったが、敵は高い知識を有しているようで、触手の波に飲まれながらもその問いかけに応じた。
「ソンナノ、”タノシイ”カラニ、キマッテイル!」
だが、人と獣、弱者と強者。そこにある溝は到底解り合えないものであり、それ故に生じたのは『そんな当たり前の事を何故訊くのか』という『疑問』。
「……!! そんなの、」
刹那的な快楽が答えでは、それ以上の情報は望めそうにない。深海の貴婦人は激昂するのを抑えると、しかし疑念の声を上げるそれに、するすると触手を解く。解けた物が絡まり、一つの大きな杭の様相を呈して好機とばかりに身体を浮かせた敵の腹を穿つ。
「そんなの、まるで獣じゃないですか。……いえ、失礼。獣でしたね」
大成功
🔵🔵🔵
ファラン・ウルフブラッド
敵の総大将の首でも取りに行くとすっかね。鬼が出るか蛇が出るか、果たしてどちらだろうな。
道中死体ゴブが転がってたら、一纏めにしてブレイズフレイムでカリッカリに焼き上げて穴掘ってポイしときます。汚物は消毒するに限るな!
そしてボスがハーピーである事が判明したら、「鬼でも蛇でもなく鳥が出てきたな。美女と野獣?いや、痴女(鳥)とゴブリンか。引くわー」
【行動】
行動する際は技能【残像・フェイント】を使って捕捉させないように動き、戦闘技能をフルに使った王剣解放で叩っ斬る!ただで済むと思うなよ?
戦闘中は【鼓舞】で士気を上げます。
【トドメ】
そろそろ終いにしようか鳥女。これが俺からお前に捧げる最後のレクイエムだ!
●
「鬼でも蛇でもなく鳥だったとはな。美女と野獣? いや、痴女とゴブリンか。いやはや、引くわー」
そう軽口を叩くファラン・ウルフブラッドも、表情は明るくない。『楽しいから』、そんな理由で民草を蹂躙されていたら、例え王であろうとその身が幾つあっても足らぬ。話し合って協定を結ぶ、だなんて事すら到底不可能であろう。
腹を謎喰らいの触手によって貫かれたその獣は、血を流しながら唸り、半ば地を這う様に蹌踉めきながらも。その眼は戦意を失っていない様に伺えた。
「いい風穴じゃねぇか、姐さん」
ヒュウ、と一つ口笛を吹いて見せながら、己を鼓舞し、後は任せてくれとばかりに立ち塞がる。
「お前の手下共は俺達が一匹残らず伸しちまったぞ、今頃穴の中でカリッカリに焼き上がっている頃合いだろうさ」
一歩、一歩、大剣を携え歩み寄りながらゴブリン達の顛末を高らかに歌い聴かせると、案ずるな、笑ってみせて。
「なに、お前さんも直ぐに奴らと仲良く燃やしてやるよ、汚物は消毒するに限るってなァ!」
汚物。そう呼ばれた事に酷く腹を立てたのか、死に体とは思えぬ力で飛びかかって来たそれをいなし、青年は吠えた。
「そろそろ終いにしようか鳥女。受けろ! 我が剣、我が力。これが俺からお前に捧げる最後のレクイエムだ!」
ファランの剣が獣の首を跳ねる。どっと血を吹いてその巨大な体躯は地に倒れ伏す――。
大成功
🔵🔵🔵
斬断・彩萌
ありゃ、トドメをとられちゃった。ま、いっか討伐の目的は完了したしね!
……で、まぢで死んだ?や、アレ受けて生きてたらビビるってレベルじゃないんだけど。(ガツガツと死体?を細切れにする。特に何とも思わない)
とりま首と胴体は離れてるし、うーん鶏肉に……はならないか。流石に食欲出ないよねー。
さてー、一仕事終えたし。皆帰ろ!んでテイアにも報告しておーわりっ。はーシャワって何か食べて……砦のヒトとお疲れ会しよー!
●
「ありゃ、トドメとられちゃった。ま、いっか討伐の目的は完了したしね!」
お見事!と手を叩きながら、斬断・彩萌はごろり、転がって来た獣の首をボールの様に受け取ると、念には念をとばかりに何度も、何度も踏み付ける。肉が削げ、眼窩が溢れ落ち、脳漿が溢れ流れて、ローファーが汚れ服に返り血がついていても御構い無しといった様子だ。あまりの残虐な光景に堪らず皆が静止を掛けると、それでも尚不服とばかりに口を尖らせている。
「流石にまぢで死んでるよね? や、アレ受けて生きてたらビビるってレベルじゃないんだけど~ とりま首と胴体は離れてるし、うーん鶏肉に…… はならないか。流石にコレに食欲出ないよねー」
で、なんかイイのあった?とティルに訊けば、そこそこだな!と少年は疲弊を滲ませながらも笑顔で親指を立てた。
「この砦は他の悪党がまた住み着く前に燃やして壊しちまうのが良いかもな」
「そうですね。……この方々も、いつまでも冷たい場所で眠って居たく無いでしょうから」
肯き合うファランとヘラ。どうか、死した者の御霊に救済と安息を、そう願わずには居られない。
「火種だったら幾らでもあるぜ」
そう華焔が狐火を掌に灯し、明るくなった砦内を見渡せば、祭壇周りだけではなく随所に人骨が積み上げられて居た。大分風化しているものもあったが、その細さから女性のものである事が伺える。
「……ボクもそれが良いと思うなぁ」
オブジェにも似たそれを見て、げんなりした様にフェルトが呟けば、彩萌がうん、と一つ背伸びをして。
「よーし決まり! そんじゃ盛大に燃やして皆帰ろ! ンで、村のヒトとお疲れ会しよー! その後テイアにも報告しておーわりっ」
放たれた炎で段々と崩れて行く砦を背に、来た道を通って村へと歩き出す。後ろからドォン、と大きな岩が落ちる一際大きな音が聴こえた。きっと、砦の入り口が崩れ去ったのだろう。渦巻いていた悪夢が、崩れた音だ。各々が弔いの言葉を呟くが、それでも漸く重たい肩の荷が下りたとばかりにその足取りは軽い。
●
一同が村に辿り着いたのは正午過ぎ。そこでは、皆が猟兵達の帰還を待ちわびて居た様で、村の長が礼を述べ、御馳走が用意された広場へと案内される。家々からテーブルを出し集めたのだろう、そんな些細で幸せな光景が眩くて、誰もが目を細めた。自由に出歩ける様になった子供達が押し寄せ、冒険譚を強請ればあっと言う間に『お疲れ会』の出来上がりだ。
ねえ、もう村は平気なの。
ボク達が悪いヤツは片して来たから暫くはきっと大丈夫。
僕、教えて貰った罠作り、続けてみるね。
君は、本当に強いんだなあ。そういえばお土産があるんだけど。
お姉ちゃん、うぇーい。
うぇい。
また負けた! 兄ちゃん強過ぎるんだよ!
ははは、精進するこった。しかし博打打ちにはなりなさんなよ。顔に出過ぎてるんだ。
ずっとそれを被って居たから、お顔が見たいなぁ。
秘すれば花、という言葉がありますのよ。
あねごー、この村にはどれ位いれるの。
おい、お前達の所為で子供達にまで変なクセがついてしまってるじゃねぇか。
あっという間に夕暮れはやって来て空が茜色に染まった頃、誰からともなく立ち上がった。オブリビオンの脅威が去った以上、この村に長居する訳にもいかない。この世界の他の何処かで。若しくは、別の世界で。自分達の助けや力を待ってる人がいる。
引き留める声も多かったが、そもそも自分達は行きずりの親切な『冒険者』。もういずれ、グリモア猟兵の少女が迎えに来る頃合いだろう。それならせめて、と村人達がここで作ったチーズや成った果物、乾物まで渡して来るものだから、ポケットもぱんぱんだし、腕からこぼれ落ちそうな程だ。
――またいつか。そう、約束をする。ぐずついて別れを惜しむ、小さな指とも指を絡めてそう契って。遠く、砦の上から声が聞こえた。何事を言ってるかは分からなかったけれど、後ろ手を振って応える。皆の姿が遠く、見えなくなるまで、村人達は見送ってくれていた。
始まりの場所、アルヒ村。それが、君達が手始めに守った、小さな村の名前である。
大成功
🔵🔵🔵