帝竜戦役⑤〜シロツメクサの約束
●花の聖女外伝~果たすべきもう一つの約束
それは巨大な穿孔だった。想像を絶する力にて抉られ、削り取られたであろう竪穴は、かつてその地にて起きたであろう激闘に想いを馳せるには十分な威容だった。
ここは勇者の墓標と呼ばれる地。かつて群竜大陸に渡った数千人の「勇者」達が、生前のヴァルギリオスと決戦を行った場所だ。彼らはここで全滅し、ヴァルギリオスと相打ちになった。
寒々しい荒れた大地の一角に咲く花があった。小さい、白い花を幾つもさかせるそれは、場所によってはシロツメクサと呼ばれた物だ。
――約束、守らなきゃ。
それは声なき声、人としての命果てて尚、この地にしがみ付き続けた残留思念。遥かな過去、生前には「勇者」の一人に列せられた少女。『花の聖女』と呼ばれた者の残留思念だった。
――約束。
草木を愛で、宿る人ならざる者達と心通わせた少女は、愛する者達と共に在る為に世界を害する竜と戦う道を選んだ。後に「勇者」と讃えられる数多の冒険者達と共に苦難の道を歩んだ。その少女が最期に妖精(とも)と交わした約束。『思い出の丘へ必ず帰る』それを果たすべく人の形を捨て、小さな花としてここで生きた。僅かな光と水と土で生きながらえた。その『シロツメクサ(もう一人の自分)』は空へ旅立ち続けている、約束を果たすために。
故に、人として死し、此処に残る残留思念たる自分はもう一つの約束を守らなければならない。
『うん! 私たち、ずっと、ずーっと一緒よ!』
人の生を終えた事で知った世の理、現在を脅かす過去の脅威。オブリビオン。自分と仲間達が命を懸けて討ち果たした彼の暴虐の帝竜すらもこうして甦る。
――『帰った私』の邪魔は、させない。
甦りし帝竜を放置すれば再び世界に危機は訪れ、いずれ滅ぶ。それでは永遠の友たる妖精達との、ずっと一緒にいるという約束は果たせない。
だが、彼女は既に魂すら消え失せ、この地に焼き付けられた残滓でしかなく、生まれ変わったもう一人の己は足を持たぬ花でしかない。故に彼女は信じて待った。かつての己たちと同じく、帝竜に立ち向かう意思をもった戦人が現れるその時を。
彼らへの障害となる、眼前の邪悪なる樹を討ち果たす一助となる時を。
●欲を弄びし大樹を断て
「群竜大陸、勇者の墓標へ向かわれる猟兵の方はおられますか?」
グリモアベースの一角で、一人の少年が声を上げる。真月・真白(真っ白な頁・f10636)だ。帝竜戦役へ参戦しようとした猟兵の幾人かがそれを聞き留め真白の前にやってくる。
真白は彼らに感謝の意を示すと、本体である本を手の中で開く。
「かつて、勇者たちと帝竜ヴァルギリオスが相打ちとなった勇者の墓標と呼ばれる場所は、その激しい戦いの結果か大きく穿たれた竪穴となっていて、ここにも多くのモンスターや竜が配置されています」
そうした敵の一体を撃破してほしいと真白は告げる。
「皆さんに戦っていただきたいのは、不和の林檎と名付けられた呪いの樹木です。それ自体は大地に根を張り動き回る力は無いですが、宿す果実が放つ光は、それを見た者に実への執着心と周囲が実を狙う敵だという猜疑心を植え付けます。更にその結果生まれた犠牲者の幽霊や蛇竜というモンスターを召喚し攻撃してくるでしょう」
飛翔能力を持つ集団の敵への対処、そして本体である不和の林檎の洗脳能力への対処が必要だろう。と述べた真白は更に付け加える事があると言葉を続けた。
「この勇者の墓標には、数多の勇者たちの残留思念が残されています。丁度不和の林檎からそれほど離れていない場所にシロツメクサの群生地があり、ここにも一人勇者が眠っています」
その勇者は『花の聖女』と呼ばれた一人の少女だ。植物に宿る妖精と心通わせた優しく、また一度した約束は必ず守るとする芯の強い少女でもあったという。
「彼女とは会話が可能です。心を通わせる事でそのパワーを借りられるでしょう」
シロツメクサに宿る妖精を呼び出し、植物の蔓で相手の動きを阻害したり、心の強さを高めてくれたりするようだ。
「敵を撃破して余裕が出来れば、周囲にある魂晶石という宝物を回収も出来ると思います。どうか、現在を守ろうとする過去と共に邪悪なる樹を倒してください」
本を閉じ、よろしくお願いしますと頭を下げた真白は、すぐに転送準備に入るのだった。
えむむーん
閲覧頂きありがとうございます。えむむーんと申します。
●シナリオの概要
ボス戦のみのシナリオフレームです。ボスはこちらの心を狂わせる光で動きを抑え込んだ所に、飛行能力を持つ手下を複数召喚して襲わせるという攻撃スタイルです。尚、幽霊となって操られる犠牲者は過去の勇者であるとかそういう事はありません。
近くにいる勇者、『花の聖女』の残留思念は敵の行動を邪魔したり、精神攻撃に対する抵抗力を上げてくれるサポートが出来ます。彼女と心を通わせる事が出来ればよりサポートを受けやすくなるでしょう。
彼女の力を活用しつつ様々な方法で攻撃を凌いだり無効化したりする策を練ると良いでしょう。
魂晶石は、かつての激しい戦いの余波で生まれた、高純度の魔力結晶体で、1個につき金貨600枚(600万円)の価値があります。
●合わせ描写に関して
示し合わせてプレイングを書かれる場合は、それぞれ【お相手のお名前とID】か【同じチーム名】を明記し、なるべく近いタイミングで送って頂けると助かります。文字数に余裕があったら合わせられる方々の関係性などもあると嬉しいです。
それ以外の場合でも私の独断でシーン内で絡ませるかもしれません。お嫌な方はお手数ですがプレイングの中に【絡みNG】と明記していただけるとありがたいです。
それでは皆さまのプレイングをおまちしております、よろしくお願いします!
第1章 ボス戦
『不和の林檎』
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POW : 疑似顕現:ラードーン
召喚したレベル×1体の【蛇竜】に【百の頭と無数の口】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
SPD : 堕ちた犠牲者
【弓矢や剣、槍や斧等】で武装した【果実に魅了され死んでいった冒険者達】の幽霊をレベル×5体乗せた【飛竜】を召喚する。
WIZ : 誘惑の光
【その果実】から【催眠光】を放ち、【生じた果実に対する渇望と独占欲】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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ソラスティベル・グラスラン
【盾受け・オーラ防御】で全力で守りを固め、突撃!
飛翔する蛇竜を【怪力】を以て受け止め弾き、本体の邪悪な樹へと前進
時に【範囲攻撃】の大斧で蛇竜たちを薙ぎ払い、一歩一歩進んでいきます!
【勇気】と【気合い】で気を強く持ち、洗脳に耐える
『花の聖女』よ、わたしに力を貸してください
貴方の約束を護る為に、貴方の友を護る為に
わたしには木々や草花の声は聞こえませんが
貴方の想いは間違いなく尊いもの
貴方の願いが踏みにじられぬよう…わたしが戦います!
洗脳も蛇竜の群れももはや関係ありません!
尊い想いを背負うわたしの【勇気】はとまらない
邪悪の根源へ、この大斧を叩き込むまでは―――ッ!
●始まりを告げる一撃
葉の一枚も無い、まるで枯れ果てたかのような一本の樹。しかしその樹が与える印象はまるで真逆で、悍ましさすら感じる程の生命力、他の命を喰らわんとする獣性を感じざるを得なかった。
ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は呪樹を前に僅かに身を震わせた。眼前のそれが『捕食者』である事がわかるのに、そのやせ細り異様に伸びた枝の先に重そうに垂れさがる真っ赤な果実から目が離せない。呪樹本体への恐怖から逃れる対象としてあの実を求めたくなる。
「ーっ!! 勇気っ! 気合っ! 根性ーっ!!」
暁に現れ地へ伸ばされる陽の腕を思わせる橙色の髪を振り乱し首を激しく振るソラスティベル。魂の底から絞り出した掛け声とともに自らの両頬を両手で包むように叩く。白い頬に赤みが残り、青空の瞳には涙が滲んだ、が、喝は入った。
「『花の聖女』よ、わたしに力を貸してください。貴方の約束を護る為に、貴方の友を護る為に」
そうしてソラスティベルは駆け出した。その手に蒼空色の大戦斧を構え、纏わせたオーラを併用して守りを固める。彼女の周りにシロツメクサの花弁が舞った。花弁はすっとソラスティベルの胸元へと溶け込む。彼女の心に温かなヴェールが被せられるのを感じた。
『花の聖女』はそもそも只の村娘だった。戦う心得を持たぬ彼女にとって、群竜大陸を求める旅は恐ろしい物でもあった。それでも大切な友と約束を護るために立った。まさに今のソラスティベルのように。
己と同じものを感じた聖女の残留思念はソラスティベルの心を護り鼓舞する。
向かってくるソラスティベルへ呪樹は枝を震わせ蛇竜の群れを呼び出し迎い撃たせる。ソラスティベルの周囲を取り囲むように飛び回る蛇竜。
「せえええいっ!!」
ソラスティベルの細く柔らかそうな腕に喰らいつかんと、百の頭に携えた無数の口を開き襲い来る蛇竜。対するソラスティベルは勇気を心に燃やし、気合を込めて巨大な斧を振るう。細腕からは想像もつかない彼
女の膂力は巨大な蒼空色の大戦斧を、まるで羽毛か何かの様に軽やかに操った。蒼の線が彼女の頭上に円を描けば、蛇竜達はどれもこれも首を断ち切られ、命の滴を吹き出しながら墜落する。
「勇気で攻め!」
一歩。前方を埋め尽くす蛇竜の一群が横殴りの暴力に断ち砕かれる。
「気合で守り!」
二歩、背後からの奇襲を仕掛けた蛇竜達は、すぐさま己が背後にまわされた大戦斧に激突、自身の速度と質量で全身を砕かれ肉塊へと変ずる。
「根性で進む!」
三歩。呪樹への接近を阻まんとソラスティベルの足へと組みつこうとする蛇竜は、踏み出す勢いのままに遥か彼方へと蹴り飛ばされる。
「一部の隙も無い、完璧な作戦ではないですか!」
それこそ、彼女を支える絶対の真実。彼女にとっての勇者理論なのだ。
前進するソラスティベルを鼓舞するように、彼女の周りにシロツメクサの花びらが舞う。その中にソラスティベルは一人の少女の姿を幻視した。
「わたしには木々や草花の声は聞こえませんが、貴方の想いは間違いなく尊いもの。貴方の願いが踏みにじられぬよう…わたしが戦います!」
ソラスティベルの宣言に幻の少女は笑顔を浮かべたように見えた。それはただの幻かもしれない、だが、間違いなくソラスティベルを勇気づけた。
「洗脳も蛇竜の群れももはや関係ありません!」
尊い想いを背負うソラスティベルの勇気はとまらない。
「邪悪の根源へ、この大斧を叩き込むまでは―――ッ!」
数え切れぬ蛇竜の妨害を全て突破して、ついに彼女の間合いは呪樹を捉えた。万感の想いを込めた一撃がその幹へと叩き込まれる。鋼と樹皮の激突。侵略。ソラスティベルの『勇気』は不和の林檎と名付けれし呪いの大樹、その太い幹の実に三分の一に食い込んだ。それが戦いの始まりを告げる一撃となった。
大成功
🔵🔵🔵
ベール・ヌイ
『無音鈴』を使った「ダンス」の舞を奉納します
どうかボクに力を、草木を守れる力を
犠牲者たちを眠らせれよつにできる力を
勇者の力を借りて【不死鳥召喚】を起動
いたみは「激痛耐性」でたえます
「フェニクス…狙うのは…あの木だけ」
地獄の炎で林檎を狙います
また、仲間達やヌイ、自分を癒しの炎の力と光で洗脳光線を防ごうとします
ヌイへの攻撃は「激痛耐性」で耐えながら『氷火双銃』で対処し、フェニクスへ「援護射撃」を行います
アドリブ等歓迎です
●死と再生の中で
しゃん、周囲に澄んだ鈴の音が響く。
「(どうかボクに力を、草木を護れる力を)」
本来なら玉も無い、音の鳴らぬ筈の鈴。それを携え踊るのはベール・ヌイ(桃から産まれぬ狐姫・f07989)だ。
「(犠牲者たちを眠らせられようにできる力を)」
普段は白狼に運ばれる彼女も、今は己が二つの足で大地に立つ。流れるような美しい足運び。それに合わせて振られる、白い着物から伸びる腕は更に白く、体に追随する銀糸の如き髪と相まって、神秘的な光景を生み出していた。
ベールの思いに応える様に、シロツメクサの花びらが、舞う彼女の周りを飛び回る。花が力を貸し渡してくるのを感じながら、ベールは力ある言葉を解き放つ。
「大罪の内、怠惰の悪魔ベルフェゴールの名を借りて命ず。我が肉を喰らいて現われろ。汝は死より再生せし不死たる悪魔なり」
突如としてベールの全身が激しい炎に包まれる。熱気が周囲の空気をも歪ませる。幻覚ではない、本物の炎だ。
「っ! ――ぁっ!」
劫火の如き炎の中でベールはその美しい顔を歪める。大きく開かれた口からは叫び声は上がらない、声を発していないわけではない。既に肺と喉が焼かれて機能していないのだ。
その身から発生した炎は、内臓を焼き、血を蒸発させ、骨を炭へ、肉と皮膚をずぐずぐと焼け爛らせる。美しかった銀の髪も大半を焼失させ、人の体が燃える時の異臭が辺りを覆う。
ベールだった物のつい先ほどまで軽やかに舞を舞っていた二つの足だった部位が、遂に割れて崩れて、体の大部分が崩れ落ちそうになったその時、彼女を焼死させた炎に変化が生じた。突如として左右に広がった炎はそのまま高々と掲げられる、まるで翼だ。頂点から火柱が噴き出すとうねり先端が二つに避けた、それは首と頭、そして嘴だった。その胴体の、普通の鳥ならば恐らく胃であろう部分に、もはや僅かな塊となったベールだった物を抱えながら炎の鳥がそこに顕現する。
これこそは癒しの炎と地獄の炎を操る悪魔フェニクスだ。ではベールは己が命を代償として彼の悪魔を召喚せしめたのか。否だ。
フェニクスの体内でベールの残骸に変化が訪れる。まだ辛うじて残っている部分が蠢き、焼失した部位が出現する。骨は白さを取り戻し、内蔵が形作られていく。そして神経が繋がり肉が被せられ……まるで逆回しの様にベールが命ある形へと戻っていく。
フェニクスが、全てを灼きつくす地獄の炎から、全てを再生させる癒しの炎へと切り替えたのだ。それによりベールは再びの生を受ける。けれど、ある意味でベールの地獄は終わらない。肺が戻れば炎中の酸欠を再び苦しみ、神経が戻れば生きながら焼かれる痛みと熱さをもう一度感じるのだ。そう、その『痛み』。己を顕現させている間続く痛みこそが、フェニクスとの契約の代償だった。
「(フェニクス…狙うのは…あの木だけ)」
ベールを気遣うように漂うシロツメクサを焼かぬように命じて、彼女はフェニクスを解き放った。
血も涙もなく狡猾ではあるが悪魔は契約そのものには誠実だ。確かな代償を受ける召喚主の命令を、フェニクスは忠実に遂行するべく羽ばたいた。呪樹の放つ心惑わす光を、それをはるかに超える癒しの炎の発光が疎外し、仲間達を癒していく。更にその嘴から地獄の炎が放たれ、呪樹の幹や根を燃やしていく。
強力な悪魔に不利を感じたか、呪樹は召喚者であるべールへ召喚した蛇竜をけしかける。今なお地獄の炎で焼かれ、癒しの炎で治される終わらない痛みを代償に捧げ続けるベールは、苦しみながらも両手に一丁の双銃を取り出して構えた。フェニクスも召喚主の意図を理解し、彼女の両腕だけは一時的に燃やす対象から外す。双つの銃口から放たれるは炎と氷の弾丸。それらは的確に蛇竜を撃ち抜き近寄らせない。
召喚主を害せられず苛立つそぶりを見せる呪樹へ、フェニクスが突撃する。翼を大きく広げて炎の筋を後に残しながら幹と根の間辺りへと飛び込んだフェニクスは、そのまま暴れ回り、地獄の炎を表面だけではなく、戦斧によって大きく削られた傷口から延焼させ、呪樹の内部も焼き始めたのだった。
大成功
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鈴木・志乃
開幕早業でオーラ防御展開。そのまま大声でわざと敵を外しながらUC発動。聖女さんと話す前から操られちゃ困るからね!
貴女の願いは届きました。
心優しい聖女さん、貴女と妖精が一緒にいられるように、私も全力を尽くします。どうか力をお貸しください!
第六感で攻撃を見切り光の鎖で早業武器。事前に鎖に油を塗っておきそのまま念動力で操作、敵に絡み付かせ高速詠唱で発火。延焼を狙う。
素敵な仲だよね。
私も私の精霊と共に行くと約束したの。他人事に思えないな。
定期的にUCを発動し結界は重複して展開するよ。念には念を押さなきゃね。
妖精に好かれた貴女がこの先もずっと、末長く共に在れますように。私の精一杯の祈りを籠めて……!
●その在り方の為に
「私と私に宿る全ての祈りを、神々へ……高天原爾神留坐須!」
鈴木・志乃(代行者・f12101)の口から祝詞が紡がれていく。力強く大きな声で紡がれていくそれは邪悪を祓う力として放たれるも呪樹とは見当違いの方向へと飛んでいく。
「聖女さんと話す前から操られちゃ困るからね!」
地面に落ちた力は大地を伝い広がり満ちる。清浄な空気が漂い猟兵達の心を優しく守る気配が感じられた。
「貴女の願いは届きました」
呪樹の精神汚染に対する防御を整えた上で、志乃は聖女の残留思念へと語りかけはじめる。
「心優しい聖女さん、貴女と妖精が一緒にいられるように、私も全力を尽くします。どうか力をお貸しください!」
志乃の思いに応えてシロツメクサの花が舞い、神の力によって生み出された結界がさらに強化されていく。
洗脳を無効化されたことに気付いた呪樹は志乃にも蛇竜をけしかけるが、肉体に備わった五感を超えた超感覚が彼女にそれを察知させる。
背後死角からの高速突撃を体を半回転させることで回避、と同時に踊る光。いつの間にか志乃の手には一本の鎖が収まっていて、輝きを放つその不可思議な鎖によって蛇竜は強かに打ち据えられたのだ。
「いけっ!」
振りかぶる動作よりも早く志乃に迫る次の蛇竜だったが、彼女の言葉に命じられた輝く鎖は独りでに動き次なる脅威を打ち捨てる。
志乃の用いる不可視の手、すなわち念動力がまるで生きているかのように鎖を動かして、道中の蛇竜を叩き落しながら呪樹へと襲いかかる。
皮肉にも自らが呼び出した手下である蛇竜のように長い体をくねらせて、鎖は呪樹上方、枝の間を通り抜けていく。枝と枝の間をくぐり、半ば削るように枝に巻き付き、それはもはや容易にはほどけないほどに複雑に絡みあった。
「奔れ奔れ、ここにお前の大好きなものがあるぞ、辿れ辿れ、その先にお前の大好きなものがあるぞ、大いに貪るがいい、たらふく腹に収めるがいい」
志乃の口から紡がれる力ある言葉は手元の鎖に小さな火を灯した。次の瞬間、発光する鎖の上を炎が走った。鎖の表面には油が塗られていたのだ。油を飲み込みながら鎖の光に導かれるように呪樹の枝へと到達する炎。
呪樹は既に別の猟兵の攻撃によって根と内部に多大な延焼を起こしていた。そこにまだ無事だった枝部分を志乃によって燃やされる。樹である呪樹に果たして痛覚が在るのかは不明だが、新たな延焼に呪樹は苦しそうに身悶えし、果実からの発光を強める。
「おっと、念には念を押さなきゃね」
志乃は再び祝詞を読み上げ周囲の結界を補強していく。その手助けを行うシロツメクサの花。
「(素敵な仲だよね)」
自身の精霊と共に行くと約束した志乃にとって、花の聖女の在り方はとても他人事には思えなかったのだろう。
「(妖精に好かれた貴女がこの先もずっと、末長く共に在れますように)」
志乃の精一杯の祈りはシロツメクサの力と共に、より強固な結界として顕現するのだった。
大成功
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セラフィール・キュベルト
死して尚、お友達の為に在らんとするその想い、大変尊きものと思います。
貴方様の想い、必ず叶えられるよう。私の力を尽くしましょう。
そしてオブリビオンと対峙致します。
基本は精霊様(angelus luxis)より【属性攻撃】にて光熱属性の光線を放ち攻撃。
何らかの召喚存在が襲いくるならば神威顕現・破邪天光を発動、これらを撃ち抜きつつ敵本体へも攻撃を。
催眠の光に対しては、己の耐性と【祈り】による精神の安定化を以て抵抗。
「尊き御方、どうかこの小さき身を見守りくださいませ…」
凌ぎましたら神威顕現・破邪天光による反撃を。
その実りは滅びへ至るもの。この大地を守る為、剪定させて頂きます。
●揺らぐ事無き慈愛
「死して尚、お友達の為に在らんとするその想い、大変尊きものと思います」
花を飛ばし猟兵達の戦いをサポートする聖女の残留思念。その様子を見つめながらセラフィール・キュベルト(癒し願う聖女・f00816)はその細く白い指を重ねる様に祈りの形を取った。
敵対する者にすら慈愛の心を向けるセラフィールにとって聖女の覚悟と決意、そして実際にそれを成す胆力は尊敬に値するものだったのだろう。
「貴方様の想い、必ず叶えられるよう。私の力を尽くしましょう」
セラフィールは、知らない者が見れば殆どが少女と誤解するであろうその整った美しい顔を呪樹へと向ける。眉間に力を籠め、深淵に繋がり吸い込まれそうなほどに深く澄んだ青い瞳を細めている。やはりその表情には強い決意はあれど憎しみや敵意は無い。
「精霊様、どうか正しき道をお示しください」
祈りを告げるセラフィールの両手、その間から光が生まれる。それは愛おしむように彼の周りを飛ぶと、眼前の呪樹へ光線を放ち始める。光線は光と熱に属する力を持っているようで打ち据えられる呪樹の幹にはいくつもの焼け焦げた穴が作られる。
呪樹は光を操っていると考えたセラフィールへ蛇竜達をけしかける。
無数の口を開き牙を剥いて殺到する蛇竜を前にセラフィールは一歩も引くこと無く祈りを捧げ続ける。柔らかな彼の頬肉を喰い千切らんと鋭く不潔な牙が、汚らしい唾液を後方にまき散らしながら開かれ、今まさにその咢が閉じられようとした、その時。
「貴き天光束ねし者よ、彼の悪しき意を撃ち浄め給え!」
空に浮かぶ群竜大陸の、その大地よりさらに上、遥かなる高み、そこより光が飛来する。光、それはこの世にあって最も速き存在(もの)。万物万象如何なる力、存在であっても光を超える事は敵わない。故に、後ほんの僅かコンマ数秒でセラフィールの頬肉を喰い千切るはずだった蛇竜は、永遠にその結末に到達し得ない。光に呑まれてこの世から消え去ったからだ。
光は一つではない。何十何百もの光が降り注ぎ蛇竜達を飲み込む。他の猟兵やシロツメクサが触れても光は只通り抜けるだけだ。セラフィールの祈りを聞き届け顕現した神威は、邪悪のみを破る天の光となったのだ。
セラフィールの手元にある光だけではなく、天からも襲われた呪樹は、物理的な障害排除を諦め、不和の林檎を怪しく輝かせる。自らの心をかき乱す催眠光を浴びたセラフィールは静かに目を閉じた。
「尊き御方、どうかこの小さき身を見守りくださいませ……」
天高き所より自分達を見守る存在を信じ、仰ぎ、その御心に沿うべき者になれるよう日々精進し祈る。
セラフィールは決してか弱くはない。正しくあらんとするその心が、たかが呪物の催眠ごとに負ける道理は無いのだ。
呪樹の催眠光線をはねのけたセラフィールは、再び神威の顕現を願い破邪の光で呪い樹樹を祓う。その目標は枝に垂れ実る果実だ。
「その実りは滅びへ至るもの。この大地を守る為、剪定させて頂きます」
呪樹は慌てたように枝を動かして果実を破邪の光から遠ざけんとするも、大きく削られる結果となってしまった。
大成功
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ヘンペル・トリックボックス
花言葉は『愛情』『幸福』『信仰』そして──『約束』でしたな。大したものです、その揺るがぬ強い信念こそ、貴女が勇者と讃えられし所以……どうか、この老骨に手を貸してはくれないでしょうか、レディ・クローバー。
手持ちの火行符を全て【破魔】の気を籠めたシロツメクサの花弁に変え、接近してきた敵への自動防御機能として周囲に纏います。
林檎の樹の洗脳に対しては、花の聖女さんには精神防御の手伝いをして貰いつつ、『果実は嫌い』『見つけ次第滅ぼすべし』という【催眠術】を自分自身にかけて対処。
攻撃範囲に入ったら纏った花弁を一斉放出、直撃したところでUCを解除し、火行符による火【属性攻撃】で焼き尽くすとしましょう。
●紳士は歩む
シロツメクサが舞う景色を見つめていた猟兵はもう一人いた。高貴さを漂わせるワインレッドの紳士服に身を包んだ一人の紳士(おとこ)。口元には紳士的に綺麗に整えられた髭を蓄え、服と合わせた帽子を紳士的に被っている。紳士的な白く清潔な印象を与える手袋越しに握っているのは、これまたとても紳士的な、上品に金をあつらえたステッキだ。ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441) が上から下まで、完全に紳士らしい佇まいである理由はただ一つ。
「えぇ、紳士ですので」
チャーミングなウィンクを一つ。
「花言葉は『愛情』『幸福』『信仰』そして──『約束』でしたな」
ヘンペルは帽子を取ってシロツメクサの咲いている場所を向いた。
「大したものです、その揺るがぬ強い信念こそ、貴女が勇者と讃えられし所以……どうか、この老骨に手を貸してはくれないでしょうか、レディ・クローバー」
帽子を被りなおすとヘンペルは優雅にお辞儀をし、その手を真っすぐ前に差し出した。彼に応えるように掌の上にシロツメクサの花が降りてきて、そして手の中に溶けていった。
「ありがとう。それでは参りましょう、レディ」
呪樹へ向き直ったヘンペルの手の中には何枚もの符があった。彼が手のひらの上にあるそれにそっと息をかけると、符は瞬く間に無数のシロツメクサの花弁へと変わり、ヘンペルの周囲を舞うのだった。
そのまま呪樹へと歩み始めたヘンペル。片手を隣に差し出して、見えない誰かをエスコートするかのようにしながらゆっくりと歩を進める。
呪樹はヘンペルを害さんと蛇竜をけしかけるが、何かをなす前に彼の周囲を漂うシロツメクサの花弁に触れると発火。たちまちのうちに燃え尽きてしまうのだ。
手下で倒す事が叶わぬとみるや欠けて不完全な形となった果実から催眠光を放つ呪樹。心をかき乱す光にヘンペルは僅かにうめき声を漏らした。
「くぅ……レディに精神防御の手伝いをして貰うとして、紳士らしく催眠には催眠ですな」
ヘンペルはステッキを煙と共に消滅させると、代わりに何かを取り出した。それは穴の開いたコインに紐を通した物で、紐を摘まみコインを垂らすと、ヘンペルは目の前でゆっくりとそれを動かし始めた。
「果実は嫌い……見つけ次第滅ぼすべし……果実は嫌い、特に赤くて丸かったけど今は欠けていて光ってる奴とか大嫌い……」
精神防御と自己暗示によって、一時的にだがすっかり赤い果実を嫌いになったヘンペルは、催眠光の誘惑も無視して呪樹の元へとたどり着く。
「やあやあどうも、大嫌いな果実殿、ご機嫌いかがかね? 私? 私は最悪だとも、目の前に大嫌いな果実があるのだからね」
ニヤリと僅かに口角を上げるヘンペル。
「それでは、ホリデイにご招待いたしましょう」
その言葉と共に花弁が一斉に放たれる。花弁は呪樹の幹に、枝に、根に、そして果実に直撃する。
タイミングを合わせてヘンペルが指を鳴らすと、彼の異能は即座に解除され、シロツメクサの花弁だったものは、元の符に、火行の印が刻まれた符へと戻り、即座に発動した。符に込められた火の力は呪樹の果実を焼き尽くしたのだ。
大成功
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アンバー・バルヴェニー
【双謌】
アドリブ◎
心優しき花の聖女よ。
貴女の想い、願い、祈りが果たせるようにわたくし達が力を貸しますわ。
だから貴女の力も貸して頂戴。
さぁ、マリア、いくわよ。
聖女と妖精達の絆と同じ位強いわたくし達の絆の力で、邪悪な樹を枯らして差し上げましょう。
マリアの呼び出したユニコーンに乗って、高らかに歌いあげるのは慰めの歌。
堕ちた冒険者と飛竜達の戦意を削ぎ、邪悪なる樹を清めるように。
樹が放つ妖しい光に対してはユニコーンをマリアの方に寄せ、マリアに微笑み手を差し伸べて繋ごうと。
マリア、マリア、挫けてはダメよ。
わたくしがいるわ。
それに聖女さんと妖精さん達も。
一緒に歌いましょう、紡ぎましょう、これからもずっと!
マリアドール・シュシュ
【双謌】
アドリブ◎
過去の報告書は要所確認済
魂晶石は貰えればで
月下で交わされた約束
白の花を手ですくい寄添う
優しくて強いひと
マリアもこの地を守りたいのよ
あなたの想いもハープの音色に乗せて響かせるわ
丘(こころ)を開いて
花(こえ)を届けて
妖精さん、どうか力を
アンバー、マリアね
あの飛竜や呪いになんて屈したくはないのだわ
もしも挫けたら
いつものように叱って
高速詠唱で【華水晶の宴】使用
煌めく一角獣を64体召喚
3体合体させ背に乗り移動
アンバーへは2体合わせた一角獣を
残りで飛竜へ角で攻撃し挟撃
鋭敏な音の誘導弾で木へ演奏攻撃
竪琴で聖女の祈りが編まれた純真な旋律を奏でて謳う
敵の攻撃は一角獣で防御
最後は茉莉花添えて祈祷
●導きの音色と歌
マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は瞳を閉じていた。瞼の裏に隠された満月が見るのは月下の丘。異なる命を持つ友人達が月明かりの中で交わした約束。
これはマリアドールが実際に見た光景ではない。地上に残された花の聖女の伝説と、それを基に調査を行った猟兵達の報告書を、彼女はしっかりと確認してからここにやってきていたのだ。
「優しくて強いひと」
開かれた満月(ひとみ)は次に現実の光景を、約束を果たすために咲きほこる白い花達を見る。
中空を舞うシロツメクサの花弁を、マリアドールは手を伸ばして優しく掬う。
「あなたの想いもハープの音色に乗せて響かせるわ」
マリアドールに応えた花弁は、彼女の手の中へと沈み込んでいく。
「心優しき花の聖女よ」
自在に大きさを変える不可思議な黄昏色の竪琴を携えたマリアドールの隣で、アンバー・バルヴェニー(歌う琥珀嬢・f01030)もまた花の聖女へと語りかける。
「貴女の想い、願い、祈りが果たせるようにわたくし達が力を貸しますわ」
茶色の丁寧にブラッシングされた毛並みに包まれた耳を立てるアンバー。だから貴女の力も貸して頂戴、と柔らかそうな毛に包まれた手を伸ばす。
シロツメクサはアンバーに応えてその身の内に入り込む。
「さぁ、マリア、いくわよ」
植物が生み出す奇跡の宝石、琥珀を思わせる瞳がマリアドールを見上げる。
「えぇアンバー……可愛い可愛い一角獣さん、いらっしゃい──さぁ、マリアに見せて頂戴? 合わさりし時に目覚める真の力を」
マリアドールの呼びかけで彼女達の周囲には煌くクリスタル製の一角獣達が現れる。総数実に64体。そのうち3体と2体を合体させた一角獣に、それぞれ自身とアンバーが乗った。
「聖女と妖精達の絆と、同じ位強いわたくし達の絆の力で、邪悪な樹を枯らして差し上げましょう」
アンバーの宣言と共に一角獣達は呪樹へ向かって駆けだした。
迫りくる一角獣の群れに対して呪樹は、かつて実に魅了され破滅し幽霊となった多くの冒険者達を呼び出す。それぞれ生前使っていた獲物だろうか、使い慣れた様子で弓矢や剣等武器をその手に弄ぶ。幽霊冒険者達は共に呼び出された飛竜へとまたがり空を飛んだ。
「……っ!」
迫りくる亡者の群れ、かろうじて生前の姿を保ちながらも、その瞳が在った場所にはどこまでも虚ろな穴だけで、己の全てを実に囚われてしまった彼らは、人を模倣する醜悪な人形のようでもあった。
亡者のあり様にマリアドールは息を呑む。もう彼らの中には幸せも楽しいも残っていない。死んだからではない、死ぬ前に全て奪い尽くされ塗り替えられ、上書きされたからだ。
「アンバー」
マリアドールが呼ぶ。
「アンバー、マリアね、あの飛竜や呪いになんて屈したくはないのだわ」
だから、もしも挫けたらいつものように叱って。馬上で取り回し出来るサイズにした竪琴へかけた指に力を込めて、マリアドールは伝える。
「えぇえぇ、よくってよマリア」
快諾するアンバー。その言葉は抑揚があり、まるで歌の様だ。彼女の返事にマリアドールははじけるような笑顔でありがとう、と伝える。
戦端を開いたのはレンジャーだったであろう幽霊だ。飛竜の背から矢を射かける。
正確無慈悲に放たれた矢はマリアドールの心臓めがけて空を裂き飛ぶが、彼女の周囲を護る一角獣達がその身を挺して盾となる。
「空っぽにさせられてもなお苦しめられているのね……マリア、演奏をお願い」
アンバーの要請にマリアドールは首肯して竪琴を奏で始める。
「迷い子達へ届け、導きの歌!」
マリアドールの旋律に合わせてアンバーが歌いあげるは慰めの歌。その歌声に包まれた飛竜や幽霊達は、糸の切れた人形のように襲い掛かる事を忘れて立ち止まったり地面に降り立ってしまう。そこにマリアドールの指示で回り込んできた一角獣達の別動隊が迫り、角による挟撃で一網打尽にしていく。
「これで残るはあの樹だけ……はっ!」
最後の目標へ視線を向けた時、マリアドールはその視界に美しく輝く果実を捉える。赤く、丸い、瑞々しく美しいそれが、私を手に取って、貴方の為に、貴方だけの為にここまで大きくなったの、貴方が私を好きにしていいの、もぎ取って味わっていいのよ、だから私を手に取って、私を狙う他の生き物を許さないで、とマリアドールに妖しく囁き招くのだ。
「マリア、マリア、挫けてはダメよ」
心の中へ入り込もうとしてきた呪樹を妨害したのは、いつの間にか近づき一角獣を並走させ、手を繋いでいたアンバーの、その暖かな手の感触と声だった。
アンバーはケットシーだ。立派な淑女である彼女だがその体躯はマリアドールに比べれば遥かに小柄だ。彼女はマリアドールの手を握り、体を伸ばして微笑む顔を近づけて語りかけていたのだ。
「わたくしがいるわ。それに聖女さんと妖精さん達も」
アンバーの言葉と共に、シロツメクサの花弁がマリアドールの頬に触れる。催眠光の影響を脱したマリアドールが再び実に目をやれば、それは他の猟兵達の攻撃で既に欠け燃やされ、見るも無残な姿になっているのだった。マリアドールは約束通り己を叱り助けてくれたアンバーとその手助けをしてくれた聖女達に向きなおる。
「ありがとうアンバー。それに貴方達も」
「一緒に歌いましょう、紡ぎましょう、これからもずっと!」
「えぇっ!」
アンバーの言葉に力強く首肯するマリアドール。竪琴を奏で歌いだす。聖女の祈りが編まれた純真な旋律とそれに乗せられたマリアドールの鎮魂歌。それは呪樹が僅かに残していた、他者の心を奪い取る力を完全に消失させ、それに囚われていた幽霊達を解き放っていく。
シロツメクサの花弁に誘われ、心を奪い塗りつくす偽りの光ではない、真なる光へ向かって昇っていく者達へ、マリアドールは茉莉花を添えて黙祷するのだった。
大成功
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アリス・フォーサイス
『花の聖女』か。あの妖精たちが待っていた勇者だね。
キミの故郷へ行ったよ。丘を見上げる場所にシロツメクサの花畑ができてた。キミの約束は守られてたよ。
あの場所を守るためにも、また力を貸してもらえないかな。
蘇った帝竜を再び倒すんだ。
ちびアリスを召喚して、不和の林檎が生み出した冒険者の幽霊に立ち向かうよ。
ちびアリスは剣を持った白兵戦仕様。花の聖女による支援を受けて、果敢に幽霊を倒して行くんだ。
「いくよー。」
「わー。」
ぼくは後ろから、不和の林檎への全力魔法攻撃をしかけるよ。
帝竜を倒すためにもこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ。通してもらうよ。
●クライマックスのその先に
「『花の聖女』か。あの妖精たちが待っていた勇者だね」
アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)は、以前物語を完成させるために向かった花の咲き乱れる丘を思い出していた。あとひと月ほどでちょうど一年だ。
「キミの故郷へ行ったよ。丘を見上げる場所にシロツメクサの花畑ができてた。キミの約束は守られてたよ」
茶色の瞳を閉じたアリスはかつて自分が見た景色の情報を空間に投影する。
「あの場所を守るためにも、また力を貸してもらえないかな。蘇った帝竜を再び倒すんだ」
成果を見る事は叶わなくとも、絶対に約束を守る。その一念で花となった自分を飛ばし続けてきた聖女の残留思念。アリスによって奇跡的にその成果を確認できた彼女は喜びに打ち震える。
そしてまた、帝竜を倒すと、あの場所を守るためにと、アリスの言葉は聖女の残滓たる残留思念が求める事そのものだった。
魔力を宿したシロツメクサの花弁を受け取ったアリスはそれを解析し取り込む。
「いでよ!ぼくの分身!」
情報操作によってアリスの周囲に彼女自身をデフォルメしたような人型実体の群れが現れる。彼女達こそは『ちびアリス』
今回のちびアリス達はみな一様にその小さな手に剣を持っていた。ちびアリスのサイズに合わせていてまるで玩具の剣のようだが、このちびアリス達は本体であるアリスが白兵戦仕様に組み上げている。つまりこの剣は十分に敵に立ち向かえるだけの強度と、切れ味を持っているのだ。
「今回は聖女の支援もあるしね。それじゃあ、ごー!」
「いくよー」
「わー」
取り込み解析した聖女の魔力は白兵戦仕様ちびアリスに存分に使われている。ちびアリス達はアリスの号令で剣を掲げると果敢に突撃していく。
実際の所、小さな的というのは狙いづらく、それだけで難易度が上がる。呪樹に操られる幽霊達も、弓矢等の遠距離射撃はことごとくがちびアリスの小さな体を活用されて回避されてしまう。魔法の使い手もいない事は無いのだが、聖女の支援を受けているちびアリスは幽霊の魔法を完全に防ぎ切ってしまう。
結果として幽霊達は飛竜に乗っているという利点をほぼ潰して接近戦を挑まねばならなくなっていた。そして、いざ接近戦となれば白兵戦仕様のちびアリスの独壇場となるのだ。
幽霊達も生前はいくつもの冒険を乗り越えた冒険者で、近接戦闘の心得を持つ者も多い。だがここでもやはりちびアリスの小ささが大きなネックになってくる。とにかく幽霊達は武器を当てづらい。対するちびアリス達はその小さい体を最大限に活用し飛竜の腹の舌へと滑り込んで幽霊の武器が届かない場所から飛竜を一方的に攻撃が出来る。
他の幽霊が割って入って正面からの斬り合いに持ち込んだとしても、その小ささからは想像もつかないほどの鋭く重い斬撃を連続で繰りだされ、順当に力負けして倒されてしまうのだ。
そうして幽霊達がちびアリスにかかりきりになっている間に、本体のアリスは呪樹を攻撃する準備を進めていた。情報操作によって周囲の空間からも魔力を集め、圧縮、更に集め、圧縮。幾重にも集積された魔力は周囲の空間を歪ませるほどになっている。
「帝竜を倒すためにもこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ。通してもらうよ」
十分に魔力を束ね終えると、アリスはしっかりと照準を合わせ、全力の魔法攻撃を発射した。
空間を喰らいながら進む一撃は、果実を失った呪樹の枝部分を完全に空間事削り取り消滅させた。他の猟兵達の攻撃によって幾重にも傷つき、燃やされた呪樹のダメージは深刻であり、枝部分を守るだけの力はもう残されていなかったのだ。
大成功
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木元・杏
花の勇者が眠る場所
世界に飛び立ったシロツメクサの、始まりの場所
わたし、あの丘で貴女と妖精を見届けた
守りたい、ずっと一緒という貴女達の叶えた願い
力を貸して?
シロツメクサの花言葉は「約束」
さあ、沢山の花でうさみみメイドさん達を乗せて空に向かって
約束の力は
魅了さた猟兵と冒険者達の魅了をもひも解く強い光
そして葉達を空に広げ
わたしのオーラと共に防御壁で攻撃阻害を
葉の枚数が増える毎に意味が変わる
四葉は「幸運」、七葉は「無限の幸福」、そして十葉は「完成」
メイドさん達、今
隙を狙い幽霊の大群に目潰し&キック
うさみん☆は飛竜の目を狙い飛行の邪魔を
わたしは幅広の大剣にした灯る陽光を構え
一気に木に向かい駆け抜ける
●果たされたもう一つの約束
「わたし、あの丘で貴女と妖精を見届けた」
花の聖女の『物語』の終わりを見届けた猟兵はここにもう一人いた。木元・杏(食い倒れますたーあんさんぽ・f16565)だ。花の聖女が眠る場所。世界に飛び立ったシロツメクサの、始まりの場所に立ち、杏は言葉を紡いだ。
「守りたい、ずっと一緒という貴女達の叶えた願い。力を貸して?」
すると群生地に咲き誇る無数のシロツメクサが輝きだし、白く淡く発行する巨大なシロツメクサ状のオーラを生み出す。
「さあ、沢山の花でうさみみメイドさん達を乗せて空に向かって、いってらっしゃい」
杏の相棒を複製した沢山のうさみみメイドさん達が、杏の念力によって動き出す。
オーラのシロツメクサは花弁一つ一つがうさみみメイドさん達が乗れるサイズの花に変じ、彼女達を空へと上げる。
「シロツメクサの花言葉は『約束』」
杏は利き腕を掲げる。その手の中から白銀のまばゆい輝きが生まれる。
「約束の力は魅了さた猟兵と冒険者達の魅了をもひも解く強い光」
シロツメクサの輝きと杏の手の中から生まれる輝き。猟兵達の活躍によって実も失った呪樹にはもはやそれを超えて催眠光を届ける術はないだろう。
であれば、と呪樹は幽霊冒険者を呼び出して飛竜を飛ばす。既に相当数の幽霊達が倒され祓われているが、未だ尽きぬほど、この樹は人々を飲み込んできたのだ。
このまま放置すれば空を行くうさみみメイドさん達が撃墜させられてしまう。杏は幽霊達の攻撃を疎外する為に防御用のオーラを展開し始める。そんな杏の背中から温かい魔力が流れ込んでくる。シロツメクサが後押しをしてくれているのだ。
「ん、葉達を空に広げる」
展開された防御のオーラ。それはまるでシロツメクサの葉の形をしていた。
シロツメクサ、またの名をクローバー。その葉は様々な人が想いを乗せてきた。中空に展開する葉は四枚。
「シロツメクサは葉の枚数が増える毎に意味が変わる」
四葉は『幸福』、四つのオーラ葉の周りでは突風等の些細な幸運が起きて、幽霊達の放ってきた矢や槍を防ぐ。そして葉は増える。
七葉は『無限の幸福』、うさ耳メイドさん達の能力が強化されていく。
そして十葉は『完成』、ついに剣が届く距離まで近づいた幽霊達だが、どんな一撃も葉を貫通することが出来ないでいた。
「メイドさん達、今。うさみん☆も、ごー」
幽霊達の攻撃が通じなかった事で生まれた隙、それを杏は見逃さなかった。幽霊の大群へ、その目を狙った目つぶしキックが次々と炸裂する。さらに相棒であるうさみん☆は飛竜の目を狙い、叩き落していく。
その幽霊や飛竜が落下してくる中を駆け抜ける杏の姿があった。手には白銀の輝き放つ幅広の大剣。杏は既に枝の部分を吹き飛ばされた呪樹へと肉薄した。
「っ!!」
ぐるりと一回転する杏。その遠心力を加えて振り抜かれる大剣、最初に与えられた斧傷とは反対から光の刃が呪樹の幹に食い込む。そして遂に、木が裂ける、悲鳴のような音を立てて呪樹は倒れたのだ。
●シロツメクサは咲き続ける
呪樹が倒れた後、周囲の幽霊達が光となって天へと昇っていく。
そして呪樹の根が隠していた地中にはには大量の魂晶石が埋まっていた。参戦した猟兵達は各々それを手にし、先へと進む。
聖女の残留思念はその姿を見送っていた。
――ありがとう。どうか、気を付けて。
それは約束ではなく祈り。ここから先を手伝えない残留思念からの。竜を倒す事を祈るのではなく、猟兵達(かれら)が無事に、各々の大切な人と共に、大切な場所へちゃんと帰る事が出来る事を。
風が吹く、優しい風が。シロツメクサは風に身を委ね揺れていた。いつまでも。
大成功
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