帝竜戦役②~春告花の目覚め
●花と妖精
荒野に咲いた花を散らすほどの強い風が吹く地。
其処には今、春を告げる妖精達が集っていた。淡い春色の幻想花を纏った妖精は、くすくすと笑いながら楽しげに周辺を飛びまわっている。
「春といっしょに帝竜さまが来たよ!」
「みーんな、お花といっしょに眠っちゃえ」
スプリングエルフと呼ばれる春告の妖精は一見は無邪気だが、何処か不穏な言葉を交わしている。そして、彼女達の身は異様な形に変化していた。この地に吹き抜けている竜化の風の影響によってドラゴンめいた翼や鱗に覆われているのだ。
「目覚めの春がきたから、ね!」
「恋の季節には心の高鳴りを爆発させるの」
「花の嵐で魅了しよう!」
妖精はそれぞれに微笑み、この地に訪れる者を自分達の世界に誘おうとしている。
それはすべて、この世界を破壊する目論見を抱くというオブリビオン・フォーミュラ――帝竜ヴァルギリオスのため。
春の花を纏う妖精たちはくるくると空を舞い、猟兵達を待ち受けている。
●春彩の戦い
天空に浮かぶ群竜大陸。
大陸の最中にある皆殺しの平野。物騒な名前の其処はオブリビオンをドラゴン化するという風が吹き抜けている荒野だ。
「その場所に春の妖精を名乗る敵が現れたのじゃ」
グリモア猟兵のひとり、鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は戦の状況について語り、広大な大陸を踏破するための一歩が必要だと告げる。
今回、向かうべき場所はスプリングエルフが多く飛び回っている区域。
「妖精達は荒野に幻想の花を咲かせておる。普段は愛らしい娘のような姿をしておるのじゃが、此度は竜化しておっての。腕や足などに鱗があったり、背に竜の翼があったりと妙な形になっておるようじゃ」
通常の力に加えて敵は竜鱗によって高い防御力を得ている。
妖精は何体もいるので、一組につき一体を相手取って確実に仕留めて欲しい。そう願ったエチカは敵について更に詳しく話していく。
「妖精なのじゃが、妙な力を使ってくるようでのう。無理にお主達の真の姿を引き出す能力、同行した者と手を繋いで離せなくなる力、それから花の空間を荒野に出現させる不思議な力……どれも厄介なのじゃ!」
どの力に対抗するかで戦い方も全く違ってくるので気を付けて欲しい。
そのように話すエチカだが、仲間達への心配は抱いていないようだ。お主達ならば大丈夫じゃろう、と胸を張ったエチカは転送陣の準備を進めていく。
「帝竜ヴァルギリオスへの道はまだ遠い。しかし、これが確かな一歩になるのじゃ!」
それゆえに頼んだ、と少女は明るく笑う。
信頼の宿った瞳を皆に向けたエチカは魔方陣に魔力を籠めた。そして――皆殺しの平野へと繋がる陣が淡い光を放ち、戦場への道がひらかれた。
犬塚ひなこ
こちらはアックス&ウィザーズの『帝竜戦役』のシナリオです。
戦場は『皆殺しの平野』となります。
プレイングの受付締切についてはマスターページに記載する予定です。お手数ですがご確認頂けると幸いです。
●プレイングボーナス
『空中からの攻撃に対処し、硬いうろこに覆われた「急所」を攻撃する』
●対策
敵は皆様が指定したUCと同じ属性の攻撃を行います。
PSWによって展開が違う形になるので、敵のUCに対抗する形でプレイングを書いて頂けると幸いです。(指定したUCと対策の属性が合っていない場合、内容に何も問題がなくとも採用できなくなります)
▼POW
あなたが、暴走した『真の姿』になります。
真の姿イラストがある場合はそちらを参照して描写します。ない場合や、複数ある場合はお手数ですがプレイングにどんな姿か、どのような力を使うのかお書き添えください。圧倒的な力で妖精を倒すことが出来ますが、暴走している状態なのでご注意ください。
▼SPD
二人以上のグループにおすすめ!
グループ全員で手を繋ぎながらの戦いを強いられます。お一人様の場合、手を繋げずに寂しい感じになりますので、何らかの相棒(バディペットや精霊など)のご一緒が必要になります。
▼WIZ
妖精の力によって、皆様の周囲に春の花が咲き乱れる空間が展開されます。
お好きな春の花を指定して頂ければその通りの光景が見られます。ご希望がなければお任せください。花を楽しみながら戦う不思議な形となります。
第1章 集団戦
『『春告の妖精』スプリングエルフ』
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POW : 目覚めの春~目覚めを促す鍵~
【対象を眠れる力】に覚醒して【暴走した真の姿】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 春は恋の季節~心の高鳴りが爆発となって~
【対象二人の意思疎通】が命中した対象を爆破し、更に互いを【互いのレベルの合計の技能「手をつなぐ」】で繋ぐ。
WIZ : 春はお花見~花々の美しさに魅了され~
【お花見】を給仕している間、戦場にいるお花見を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
亜儀流野・珠
これは……満開の桜だ!
ふは、見事な光景じゃないか!
戦場で桜を楽しめるとは思っていなかったな!
……今はこうして俺とお前が花を楽しんでいるが、
竜に暴れられたら花見どころではなくなるからな。
俺達だけではなく皆が楽しめんとな!
この饅頭をやろう。お互い花見と戦いの供にしようじゃないか。
……さあ始めるか!
武器は脇差を持とう。
鱗が硬いだろうから相手の攻撃にも気を付けつつ
全力で踏み込み斬り掛かる!
相手が飛行するならば「焔弾」の爆発にて攻撃・撃墜だ!
遠近二種の攻撃を使い分け絶え間なく攻めるぞ!
追い詰めたなら脇差での全力の一振りにて止めを。
この脇差、名を「夕桜」と言う。
良き一時、感謝するぞ。
●桜花と夕刃
群竜大陸内、皆殺しの荒野。
何とも物騒な名前が付けられた平野には春の妖精達が飛び回っていた。
竜の翼や鱗を生やした妙な姿の妖精は猟兵達を迎え撃つように、くすくすと笑っている。その姿を見据えた珠は、一体のスプリングエルフが飛んできたことを察した。
「さぁ、あなたも春を楽しんで!」
妖精が手のひらを広げた瞬間、珠の周囲に淡い色の花弁が舞い散りはじめる。はたとした珠は荒野だった場所が桜並木のような景色になっていることに気が付いた。
「これは……満開の桜だ!」
きっとこれが春を告げる妖精達の力なのだろう。
不思議とわくわくした気持ちを抱いた珠は口許を緩め、花のように笑う。
「ふは、見事な光景じゃないか!」
両手を広げれば周囲に舞った花弁がひらひらと珠の近くに落ちてきた。それはまるで花が自分と戯れてくれているようで心地良い。
戦場でこんな桜を眺められるなんて思ってはいなかったが、なかなか悪くはない。楽しまなければ力が削がれるならば、この気持ちのまま戦っていけば良い。対する春妖精は花を楽しんでいる珠に笑顔を向けている。
「ね、きれいでしょ」
この幻想は攻撃の類ではあるが、どうやら妖精は花を良いものだと感じている珠の姿が嬉しいらしい。不思議なやつだな、と口にした珠は妖精を見遣った。
花舞う景色は美しい。
妖精も楽しんでいる。されど、此処でずっとこうしているわけにもいかない。
「……今はこうして俺とお前が花を楽しんでいるが、竜に暴れられたら花見どころではなくなるからな」
「永遠にこのお花の景色の中にいればいいのに?」
「それは遠慮する。俺達だけではなく皆が楽しめんとな!」
「残念ね……」
「この饅頭をやろう。お互い花見と戦いの供にしようじゃないか」
珠と妖精の間で視線が交差する。これが花を見せてくれた礼だと告げた珠は言葉通りに饅頭を手渡し、妖精を見つめる。
春の妖精はそっと饅頭を受け取ると、悲しげな表情を浮かべた。
だが、次の瞬間にはオブリビオンとしての敵意を珠に向ける。それでいい、と静かな視線を向けた珠は宣言していく。
「……さあ始めるか!」
「望むところよ!」
珠が脇差を抜けば、鋭い竜の爪を顕にした妖精が飛翔した。素早く滑空した妖精が迫って来ると気付いた珠は刃で爪を受け止めた。
甲高い音が響いたが、即座に身を翻した珠は刃を切り返した。
相手の肌は硬い鱗に包まれている。だが、それすら貫いてみせると決意した珠は全力で踏み込み、ひといきに斬り掛かった。
更に鋭い音が珠の耳に届く。鈍い痛みを感じたらしき妖精はそのまま空高く飛び上がった。だが、珠もその対策は考えてきている。
「逃がすか!」
珠が天高く拳を向ければ、其処から超圧縮された狐火の弾丸が解き放たれた。
「きゃあ!」
飛んだ妖精を追って翔けた焔弾が爆ぜ、竜の翼を爆発に巻き込む。撃墜だ、と強く言葉にした珠は敵が落ちてくる様をしっかりと見据えた。
そのとき、一部の鱗が光を反射して光った様子が見えた。あれが急所に違いないと確信した珠は脇差を妖精に差し向ける。
妖精が自分の元に落下してくる一瞬が勝負だ。
いざ――この全力の一振りにて止めを。
「貰った!」
凛とした珠の声が響いた刹那、振るわれた刃が鱗を貫いた。
力なく崩れ落ちた妖精は地に伏し、後は消滅を待つだけとなった。珠はその姿を見下ろしながら、光を受けて煌めく刀を示してみせる。
「この脇差、名を『夕桜』と言う」
「……すてきな、名前。お花を、楽しんでくれて……ありがとう――」
桜が見れて好かったと話す珠に向け、妖精は最期の力を振り絞って彼女なりの礼を告げた。オブリビオンと猟兵という関係ではなかったら、共に花を楽しみ続けられたのだろうか。そして、彼女は骸の海に還ってゆく。
「良き一時、感謝するぞ」
一礼した珠は春告の妖精を見送り、刃を鞘に仕舞い込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
サギリ・スズノネ
あれが竜化ですかー。
話には聞いていましたけど、妖精さん、竜化ですげー硬そうなのですよー!
それにお花もとっても綺麗なのですよ!
敵だけど―、ニクイ事するじゃねーですかー!ありがとうなのです!
ならサギリはそのお礼に、炎の花を咲かせるのですよ!
【火ノ神楽】で炎の鈴を複数出現させて、数個ずつに分けて操りぶつけるのです。
鱗が硬そうなので、ぶつけた炎を延焼させて、攻撃が効きそうな場所を探します。
上手く見つける事が出来たらー、残りの炎の鈴を合体させて、そこをめがけてぶつけるのです!
敵の攻撃はー動きをよく見て『見切り』つつ、『桜日和の白和傘』を手にふわりと【空中浮遊】で回避を試みます!
※アドリブ、連携歓迎です!
●春の花と鈴の音
果てしなく広い荒野の向こうに淡い色の花が舞っていた。
春を思わせる花弁を纏う少女達――否、春告の妖精の姿を見つめたサギリは、なるほどー、と納得したようにちいさく頷く。
「あれが竜化ですかー」
妖精には竜の角や翼は勿論、皮膚の所々には鱗が生えている。感心した様子のサギリは竜と化した妖精が此方に向かってきていることを察した。
「いらっしゃい、猟兵さん」
「話には聞いていましたけど、妖精さん、竜化ですげー硬そうなのですよー!」
くすくすと笑っているスプリングエルフ。竜の翼を羽撃かせる姿を間近で見れば見るほど普通ではないことが分かった。そして、春告の妖精は両手を広げる。
「わたしは硬いけれど、ふわふわのお花をどうぞ」
その言葉と同時にサギリの周囲に春の花が咲き始める。土色の荒野に明るい黄色が一面に広がっていったことで、サギリはそれが蒲公英だと気付いた。
足元を包み込むように咲く花は目映いほどで、見事に咲き誇っている。
「それにお花もとっても綺麗なのですよ!」
「でしょ? 春のお花はすごーく綺麗なの!」
サギリが周囲を見渡すと妖精は上機嫌に笑ってみせる。本当は春の花を楽しまない相手の力を抑える能力なのだが、サギリが喜んでいることで妖精も嬉しがっているようだ。
「敵だけど――ニクイ事するじゃねーですかー! ありがとうなのです!」
「えへへ。敵だけど、お花の素敵さが分かってくれるなんて素敵!」
敵同士であるということをお互いに認識してふたりだが、交わした言葉には快さが巡っている。しかし、このまま戦わない選択肢はない。
「ならサギリはそのお礼に、炎の花を咲かせるのですよ!」
凛と宣言したサギリは神楽鈴を鳴らした。其処から響いていくのは澄んだ音色。すると鈴の形をした金色の炎が周囲に現れる。まるで新たな蒲公英が咲いたようだ。
対するスプリングエルフは竜爪を振るおうと迫ってきた。
「その前に斬り裂いてあげる!」
「させませんです!」
火ノ神楽の焔が向かってくる妖精に幾つもぶつけられていく。避けられてしまわぬよう、数個ずつに分けて操っていくサギリは着実に敵へと炎を当てていった。だが、竜鱗が誇る防御もかなりものだ。
「そんなの効かないもの。えーいっ」
春告の妖精は爪を振るって炎を切り裂き、サギリに一撃を見舞った。鋭い痛みが身体に走ったがサギリはすぐに体勢を立て直す。
更に鈴の炎を生み出した彼女は、ぶつけたものを延焼させていった。そして、ある箇所に炎が命中した瞬間。
「いたっ!」
「あそこが弱点みたいですね!」
それまで痛みを見せていなかった妖精が反応を見せた。あの腕の部分で光っている鱗が弱い部分だと気が付いたサギリは攻撃を集中させていく。
残りの炎鈴を合体させた彼女は一気に勝負をつけようと決めた。
それでも敵は更なる攻撃を重ねようと狙っている。相手の動きをしっかりと見据えたサギリは、白地に桜の花が描かれた和傘を広げた。
竜の尾が自分を薙ぎ払おうとする瞬間を見極め、サギリはふわりと浮いて回避する。
そして――。
「鈴を鳴らして舞いましょう。いきますよー!」
合体させた炎が解き放たれ、春告の妖精の弱点を深く貫く形で巡った。それによって敵は均衡を崩して地に落ちる。
そんな、と力なく伏した妖精の姿は薄れ、蒲公英の景色も消えていった。
「やりました!」
これで此度の役目は果たしたことになる。
勝利の証に神楽鈴を鳴らしたサギリは、花の如く咲く明るい笑みを浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵
パルピ・ペルポル
お花見と言われると…春だと今は桜が浮かぶわねぇ。
舞い散る花びらの間を縫って飛ぶのはなかなか楽しいわよ。
まずは念動力で雨紡ぎの風糸を自らの周囲に張り巡らせておいて、敵の行動を阻害兼盾として使用するわ。
そこからさらに蜘蛛の巣状にこっそり風糸を展開しておいて。
花見を楽しみつつ偶然の不運なる遭遇を使って隙を作って、敵に風糸を絡めて切り落としてあげるわ。
弱点がわかればいいんだけど、わからなければ鱗のない関節部を狙うかしら。
もしくは翼を切り落とせば落下するだろうし、そのあたりを重点的に狙っていくとするわ
あとお返しに穢れを知らぬ薔薇の蕾も使うわ。そちらが咲く様を見られるかはわからないけれどね。
●桜と薔薇
春告の妖精によって荒野には花の彩が満ちていた。
此度の戦場となる皆殺しの平野に集っているのは、春色を纏う可愛らしい妖精達だ。しかし彼女達の姿は現在、硬い鱗と竜翼に覆われていた。
其処に踏み込んだパルピは周囲が桜の景色になっているのだと察する。
「これがお花見の世界なのねぇ」
パルピはひらひらと舞う桜の花弁を見遣り、淡く微笑む。舞い散る花の間を縫って飛んだ彼女は、なかなか楽しいと感じながらスプリングエルフの元へ向かった。
「ねえ、私の作った世界はどう?」
春告の妖精はパルピに気付き、その場でくるくると回る。対するパルピはすごく良いと答え、自分に向かって落ちてきた花弁をひらりと躱した。
「ええ、とても綺麗だわ」
そう告げたことによって妖精はふわりと笑んだ。
お花見を楽しまない者には相手の力が作用して動きが抑えられてしまうが、今のパルピにはその効果は巡っていない。
これで普通に戦えるとして、パルピはまず念動力で雨紡ぎの風糸を自らの周囲に張り巡らせていった。
「お花見しながら戦っちゃうの? いいよ!」
春告の妖精は身構え、自らの腕を掲げる。其処には鋭い爪が生えていた。
それを振り下ろす心算だと読んだパルピは身構える。巡らせておいた糸は蜘蛛のそれより細く透明だ。向かってきた妖精は糸に気付かず突撃してくる。
「まっすぐ来るだけが戦法じゃないのよ」
ほら、と前を示したパルピはスプリングエルフが糸に絡まった様子を見つめる。行動を阻害された妖精は出鼻を挫かれ、じたばたと暴れた。
「なにこれ……!?」
「まだまだ始まったばかりよ」
パルピが展開したのは第一手だけではない。其処から更に蜘蛛の巣状にこっそりと風糸を巡らせていたのだ。
その間にも桜の花は美しく咲き誇っていた。
花の光景を楽しみながら、パルピは意味ありげな視線を敵に向けた。
その瞬間、偶然の不運なる遭遇が発動する。すると突然に何処からか現れた超高速で移動する鉄球が妖精へと迸った。
「ふええ!?」
「驚いた? そのまま風糸で絡めて切り落としてあげるわ」
瞬時に竜翼に糸を巻き付けたパルピは言葉通りに鋭利な一閃を与える。痛い、という声が上がると同時に妖精が苦しみはじめた。
どうやら翼を縛ると同時に、腕の鱗にも糸が引っ掛かったようだ。
あれが弱点だと悟ったパルピは其処を重点的に狙っていくことに決めた。糸が迸り、スプリングエルフを徐々に弱らせていく。そして――。
「このお花の景色のお返しよ」
パルピは白い薔薇の蕾を掲げ、伸びた茨を絡みつかせた。血を吸いあげた薔薇は真紅に染まり、新たな花を咲かせてゆく。
「あ、ああ……そんな――」
「咲く様を最後まで見せられなくて残念だわ」
断末魔が響く中、桜の世界が消えていく。
そうして、この荒野に蔓延る妖精の一体はパルピによって葬られた。
大成功
🔵🔵🔵
スミス・ガランティア
【花:お任せ】
こんな我だけども……春は好きだよ。春は凍てつく冬からの解放の季節でもあるからね。
だから春を齎してくれる君達を倒すのは抵抗があるけど……この世界がなくなったら春どころじゃなくなってしまうから……悪いけど、進ませて貰うよ。
【極寒の天変地異】で氷属性の嵐を生み出して敵の空中での行動を阻害しながら攻撃しようかな。
春の花々に不似合いなのは許して欲しいな。ほら我そういう神だからね!
花の種類とか名前とかは我、よくわかんないんだけども……だからこそ、こんな花があるのかと楽しみつつ、敵の急所を見極めることも忘れないよ。
急所を見つけ次第、そこに攻撃を集中させよう
●冬と春が交わる所
あたたかな風と春の花。
そして、冷気と氷で全てを閉ざしていた自分。
妖精の力によって荒野に広がる花々と己の過去を比べ、スミスは静かに頷く。
「綺麗だな……」
氷と虚像の神であっても春は好きだと思える。何故なら春は凍てつく冬からの解放の季節でもあるからだ。
木蓮――マグノリアとも呼ばれる花が咲き乱れる景色は美しい。
この光景を作り出したのはスプリングエルフと呼ばれる妖精達だ。自分達の花の世界を自由に飛び回る彼女達は竜の羽や爪を生やしている。
それは何だかひどく不釣り合いで、帝竜にこの世界が穢されていく様をあらわしているかのように思えた。
スミスは此方に一体の妖精が向かってくることを察し、そっと身構えた。
「春を齎してくれる君達を倒すのは抵抗があるけど……この世界がなくなったら春どころじゃなくなってしまうからね」
「ふふっ、わたしたちに任せて貰えばずっと春でいられるのに」
スミスが静かに告げると、春告の妖精はくすくすと笑う。しかしそんなわけにもいかないと答えたスミスは首を横に振ってみせた。
「……悪いけど、進ませて貰うよ」
そして、スミスは六花の大杖を胸の前に掲げる。
其処から発動したのは極寒の天変地異。氷の力を宿す嵐が瞬く間に生み出され、空中を飛んでいた敵に襲いかかった。
冬と春の花は相容れないもの。寒さと冷たさが重なったことで周囲のマグノリアが散り、凍りついていく。はっとした妖精は怒りの表情を見せた。
「ひどい! なんでこんなことをするの?」
「春の花々に不似合いなのは許して欲しいな。ほら我そういう神だからね!」
「ずるーいっ! マグノリアだって寒いっていってるよ!」
子供のように駄々を捏ねる妖精は反撃に入る。鋭い竜爪を振り上げた妖精の動きに気付いたスミスは杖を構え、一撃を受け止めた。雪の結晶めいた杖の先端とドラゴンの爪が衝突して鈍い音が響く。
衝撃は重かったが、耐えられないほどではない。
スミスは散らせてしまった花に、ごめんねと告げてから更に天変地異を起こしていく。周囲に咲いていた花の名前は妖精が口にしていたことで初めて知った。
雪のように白い花が春を象徴するものだと思うと、少しだけ親近感が湧く。
「こんな花があるのか……我も、その名を覚えておくよ」
彼なりに花を楽しんでいるゆえに妖精の妨害は効かないでいた。スミスはふと、敵の腕にある鱗が淡く光っていることに気が付く。
あれが急所かもしれないと感じたスミスは氷を操り、ひといきに腕を狙った。
その瞬間、妖精から悲鳴が上がる。
弱点を見つけたスミスは重点的に腕を狙って妖精を一気に穿った。それによって体力をすべて奪われた春告の妖精は地に落ちてしまう。
「これで終わりだね」
スミスは最後に一言、さよなら、と告げて一閃を放った。その言葉は手向けであり、花を見せてくれたことへの最大限の敬意でもある。
そして――春の妖精は消滅し、骸の海に還っていった。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふえ?妖精さんの羽って蝶々さんとかの綺麗な羽ですよね。
でも、ここの妖精さんはドラゴンさんの翼ですね。
さすが群竜大陸です。
ふえぇ、妖精さんが鍵を持って襲ってきました。
ふえ⁉アヒルさんが攻撃を代わりに受けてくれてって
これがアヒルさんの真の姿なのですか?
いかにも勇者ぽい恰好をしただけじゃないですか。
ふえ⁉アヒルさんが一瞬で妖精さんの弱点を持っていた剣のようなもので斬って倒してしまいました。
すごいです。
ふえええぇ、私が妖精さんと髪の色が同じだからって私まで退治しなくていいんですよ。
暴走したアヒルさんは強化効果を受けているのでお洗濯の魔法で効果を落としました。
今回のUCはかける相手を間違っていませんか?
●勇者アヒルさんの暴走
皆殺しの平野という名の戦場。
其処に降り立ったフリルは、周囲を飛び交う妖精の様子を眺めていた。
「ふえ? 妖精さんの羽って蝶々さんとかの綺麗な羽ですよね」
しかし現在、スプリングエルフ達の背には竜の翼が生えている。可愛らしい見た目の少女達が纏う竜鱗や爪はアンバランスで妙だ。
「でも、ここの妖精さんはドラゴンさんの翼ですね。さすが群竜大陸です」
感心の気持ちを抱いたフリルだったが、妖精の一体が自分に近付いて来ていることに気が付いた。鍵を持っている妖精はどうやら何かを仕掛けてくるようだ。
「くらえーっ!」
「ふえぇ、妖精さんが鍵を持って襲ってきました」
「あなたも暴走しちゃえ!」
「ふえ!?」
フリルに向けて目覚めを促す鍵が振るわれたが、咄嗟に飛び出したガジェットのアヒルさんが攻撃を代わりに受けてくれた。
だが、その鍵の一閃こそがスプリングエルフの持つ厄介な力だ。
「アヒルさん?」
次の瞬間、フリルの前にいたアヒルさんが勇者のような格好になっていた。真の姿が解放されたらしいが、どう見てもコスプレのように思える。
「これがアヒルさんの真の姿なのですか? ふえ!?」
きょとんとしたフリルが不思議がっていると、アヒルさんが素早く動いた。それは目で追えないほどの速さだった。
一瞬で妖精が切り伏せられ、アヒルさんは持っていた剣のようなものを鞘に収める。
そのことから分かったのは敵の弱点を突いたということ。あの刹那の間に急所を見極め、剣を振るったというのだから驚きだ。
妖精の方は断末魔すら残さずに消えてしまっている。
「すごいです……」
呆気にとられたフリルはアヒルさんを称えようとした。
だが――。
「ふえええぇ、待ってください! 私が妖精さんと髪の色が同じだからって私まで退治しなくていいんですよ、アヒルさん!」
アヒルさんが自分を追ってくることに気が付いたフリルは逃げ出す。
しかし暴走したアヒルさんは止まらない。そうして暫し、大きな帽子と暴走ガジェットの追いかけっこが繰り広げられた。
やがて、はっとしたフリルがお洗濯の魔法を使ったことで暴走も収束する。
「倒されると思いました……」
本当に良かったです。そんな風にちいさく呟いたフリルは何とか事態が収まったのだと感じて、ほっと胸を撫で下ろした。
大成功
🔵🔵🔵
樹神・桜雪
※花の種類はお任せします。
お花、綺麗だね。ボクも好き。
こんな場所にも花が咲き乱れるのならすごく素敵な光景なのかもしれないね。
そんな場所で眠るのは素敵。
……でも、帝竜を呼ぶのはダメ。一緒に花を楽しめないもの。
うん、素敵なお花だね。やっぱりきれい。
ゆっくり見たいんだけど、ボクの花も見てみない?
UCで武器を氷の花に変換させておく。
相手のの急所を狙って氷の花で攻撃しよう。
薙刀の柄でもぺちぺち急所を狙って叩きにいくね。
防御はあまり考えない。近寄るならカウンター入れるよ。
お花は相棒とおやつを持ってゆっくり愛でたいなあ……。
これはこれですごく綺麗だとは思うのだけど。
●咲く花の境界
果てしない荒野に花が咲く。
それはとても美しい景色で、桜雪は双眸を緩く細めた。
目の前に広がっているのは桜と桃が両方咲き乱れる景色。戦場であるというのに和やかな気持ちが浮かんだのは花が可憐だからだ。
「お花、綺麗だね。ボクも好き」
桜雪は辺りの花を見渡しながら、そのように言葉にした。
「ふふ、そうでしょ?」
彼の少し先にはこの光景を作り出した春告の妖精が嬉しそうに笑い、羽ばたいていた。花を纏う少女めいた姿のスプリングエルフは今、背に仰々しいほどの見た目をした竜の翼を生やしている。
更に細い腕に鱗があり、手には鋭い爪もあった。
「こんな場所にも花が咲き乱れるのならすごく素敵な光景なのかもしれないね。それに、この場所で眠れるなら素敵」
「私達の力を認めてくれるなんて、あなたは良い子ね」
桜雪が花の光景を褒めると妖精は更に明るい笑顔を見せる。このまま一緒に此処で過ごそう、というようにスプリングエルフから手が差し伸べられた。
しかし桜雪はその手を取ることはなく、首を横に振る。
「……でも、君が帝竜の配下だっていうのならダメ。一緒に花を楽しめないもの」
「そう……」
少しばかりしゅんとした様子の妖精は手を下ろす。その腕には光を受けて煌めく竜鱗が見えた。彼女とは戦う運命にしかないのだとして、桜雪は決意を固める。
「うん、素敵なお花だね。やっぱりきれい」
「綺麗ならずっと見ていて!」
「ごめんね。ゆっくり見たいんだけど、ボクの花も見てみない?」
そして、桜雪は透空の札を掲げる。
氷の花に変換した札が周囲に舞い、幻想の花を散らすように巡っていった。それは心苦しかったが、妖精と戦うならば避けられないことだ。
春告の妖精は唇を噛み締め、竜翼を広げたかと思うと滑空してきた。あの爪で穿つ心算なのだと察した桜雪は薙刀を構える。
「氷のお花なんて冷たいだけ!」
「そうかな。ボクはこっちもきれいだと思うよ」
鋭い爪を刃で受け止めた桜雪は衝撃に耐えた。相手の急所を探りながら、氷の花で咲かせ続ける桜雪は真剣そのものだ。
爪と刃、氷花の攻防が巡る中で桜雪は妖精の腕にきらりと光る鱗を見た。
あれが急所だと感じた彼は一気に踏み込み、其処を狙って華桜の刃を振り下ろす。
「!?」
「見えたよ。貫かせてもらうね」
弱点を突かれた妖精が驚く最中、桜雪は氷の花を腕に集中させた。そして――。
春告の妖精は崩れ落ち、力なく倒れる。それと同時に周囲の景色も消えてしまったらしく荒野の光景が桜雪の瞳に映った。
「消えちゃったね。お花は相棒とおやつを持ってゆっくり愛でたいなあ……」
あれはあれですごく綺麗だったけれど幻想はもう終わり。
あとは消滅していく妖精を見送るだけ。桜雪は冥福を祈るように瞼を閉じる。そうすれば桜と桃の花弁が舞う景色が思い起こされ、桜雪はそっと薙刀を下ろした。
大成功
🔵🔵🔵
アウレリア・ウィスタリア
ボクの……私の心の奥底に眠る花
ネモフィラの花で戦いましょう
【空想音盤:追憶】
神さえ縛るボクの剣
その姿を花へと変えてボクの敵を捕らえろ
ネモフィラの花畑でネモフィラと共に舞い踊りましょう
花と共に踊るのは花見になりませんか?
花弁の嵐と共に空を舞い踊り
花弁の群れで敵の視界を遮りましょう
妖精の羽なら空を飛ぶ音が小さくても聞き取れなかったかもしれない
けれど力強い竜の翼では風を裂く音を消すことは難しい
なら、聞き耳でその音を頼りに敵の位置を把握
あとは花に紛れて接近して急所を魔銃で撃ち抜くだけ
アドリブ歓迎
●瑠璃の花彩
戦場となっている荒野の片隅。
妖精と対峙したアウレリアの周囲には花の景色が広がっていた。
(これは……ボクの……私の心の奥底に眠る花)
スプリングエルフが作り出した花の世界に咲くのは、自身とも縁が深いネモフィラの花々だ。どこか懐かしく愛おしい気持ちを覚えながらアウレリアは身構える。
「どう? 春のお花ってきれいでしょ?」
春告の妖精はくすくすと笑い、アウレリアを見遣った。
対するアウレリアは真直ぐな眼差しを向け返し、その通りだと答える。そして、彼女は蒼の花の中で自らの力を顕現させていく。
――空想音盤:追憶。
それは神さえ縛る己の剣。
鋭い牙を思わせる刀身は瞬く間に花に変わり、妖精が生み出したネモフィラの花畑の上に重なるように舞い踊ってゆく。
「ボクの敵を捕らえろ」
凛とした口調で言葉を紡いだアウレリアは花を操り、敵であるスプリングエルフに遣わせていった。妖精とはいっても今の見た目は違う。荒野に吹いていた風の影響により、オブリビオンは所々が竜化している。可憐な見た目には不釣り合いな竜の翼や鱗、爪は奇妙だった。
ネモフィラの花畑でネモフィラと共に舞う。
それはとても美しい光景であり、激しい戦いであるとは思えぬほどだ。
「花と共に踊るのは花見になりませんか?」
「むむ、このお花……すごい」
アウレリアが問いかけると、スプリングエルフはたじろいだ。舞うネモフィラは容赦なく妖精を貫き、包み込むことでじわじわと相手の力を削っている。
しかし、敵も押されてばかりではなかった。
竜の翼を羽撃かせて花の嵐を突破した妖精はアウレリアを狙い打つ。瞬時に鋭い爪が肌に傷を描いたが、こんな痛みなど耐えられると感じられた。
アウレリアも翼を広げて空を舞い、花弁の嵐に乗る。
花と共に踊り、花弁の群れで敵の視界を遮れば更なる攻撃を防ぐことが出来る。それに、とアウレリアは今の状況を思う。
妖精の羽なら空を飛ぶ音が小さくても聞き取れなかったかもしれない。しかし力強い竜の翼では風を裂く音を消すことは難しい。
「そちらですね」
アウレリアは次の一閃がどちらから来るのか察して身を躱す。其処から宙で身体を捻って回転した彼女はネモフィラの花を手に集わせた。
「きゃ、何っ!?」
其処から放たれた嵐が敵の目の前に広がる最中、アウレリアは破魔の魔銃を構える。
あとは花に紛れて撃ち抜くだけ。
「――終わりです」
どうか、花の彩の中で眠りに落ちて。
そっと願ったアウレリアの銃弾は見事に敵を貫いた。地に落ちて力を失った妖精はそのまま骸の海に還っていく。
消えゆくネモフィラの花畑を見つめながらアウレリアは銃を下ろした。
妖精の花は消えてしまったが、自分が舞わせた瑠璃唐草はまるで蝶々のようにひらひらと風に乗って飛んでいく。
この果てない荒野に少しでも彩を宿せただろうか。
アウレリアはそんなことを考えながら、空に舞う花弁を見送った。
大成功
🔵🔵🔵
レザリア・アドニス
ふーん…妖精も、竜になるんですね…
春はお花見、ですか…それも悪くない…
鈴蘭の花嵐を吹かせて、風の防壁を作る
妖精が近づいて来たら風で飛行をかく乱する
そして『鎧無視攻撃』を付与した炎の矢を編み出して、
可能なら敵の顔面など、鱗に覆われていない所を狙って集中攻撃
あと敵の飛行能力を下げるように翼の付け根も狙ってみる
クロッカス、福寿草、待雪草に私の鈴蘭…
風に乗って、飛び上がって、空を春の色に染める…
春を告げる花の舞う空は、本当に綺麗ですね
これは、あなたが望むことですか…?
思わずそう呟くけど、妖精の答えは望まない
あなたが散れば、またどんな花になるんでしょうか
●竜と花の世界
「ふーん……妖精も、竜になるんですね……」
皆殺しの平野の最中、強い風の効力によって竜化した妖精が飛び回っている。
強靭な爪と煌めく鱗。そして、背に生えたドラゴンの翼。それらを見遣ったレザリアは、一体の妖精が自分に狙いを定めたことに気が付いた。
身構えたレザリアに向け、春告の妖精は掌を掲げてみせる。
「あなたもお花見を楽しんで!」
すると、周囲の景色が瞬く間に春の花が咲き乱れる光景へと変わっていった。
「春はお花見、ですか……それも悪くない……」
辺りには春らしい小花がたくさん咲いている。そのひとつずつの種類を確かめずとも、春に咲く花だということがよく分かった。
どうやら妖精はレザリアの言葉に満足したらしく、えへん、と胸を張った。対するレザリアは相手の更なる攻撃が来ないよう鈴蘭の花嵐を吹かせてゆく。
風と花の防壁を作ったレザリアは竜化した妖精の姿にアンバランスさを感じた。
「……妖精竜。不思議ですね」
「かわいいしかっこいいでしょう?」
「どうでしょうか……そのままの姿の方が、良かったような……?」
問いかけてくる妖精にそう答えたレザリアは、風で飛行を撹乱出来ないか狙った。だが、力強く飛翔した竜妖精はびくともしない。
少しばかり煽られたようだが、真っ直ぐにレザリアを穿つために爪を掲げて来た。
「それじゃあこの爪の痛さを味わわせてあげる!」
「そうはさせません……」
レザリアは即座に炎の矢を編み出し、爪に向けて解き放つ。炎の軌跡が宙に走り、赤い色を宿しながら線を描く。
敵の顔面を狙ったレザリアは、その矢が爪によって弾かれるさまを見た。
鱗に覆われていない所を狙って集中攻撃をしようとしたが、どうやらそれは効果的ではないらしい。ならば、と身構え直したレザリアは敵の飛行能力を下げるべく翼の付け根も狙ってゆく。
激しい戦いが巡る中、其処に舞うのは地面の花弁。
クロッカスに福寿草。待雪草に鈴蘭。花と共に風に乗って飛び上がり、空を春の色に染めれば清々しいほどの色が戦場に巡った。
「春を告げる花の舞う空は、本当に綺麗ですね」
「ふふ、戦っていて楽しいわ!」
対する妖精はレザリアの言葉に笑ってみせる。そして、其処に疑問を覚えたレザリアはふと問いかけてみた。
「これは、あなたが望むことですか……?」
思わず聞いてしまったが、妖精の答えは望んではいない。望むとも望まざるとも相手はオブリビオンであり帝竜の手先。
倒すほかないのだとしてレザリアは炎の矢をひといきに解き放った。弱点は見つけられなかったが、このままこの力と鈴蘭の嵐で押し切れるだろう。
「あなたが散れば、またどんな花になるんでしょうか」
そう告げたレザリアは喉を矢に貫かれた妖精を見遣った。相手は何も答えることが出来ずに倒れ伏し、周囲の春の花も消えていく。
敵を倒せたのだと察したレザリアは地に降り立つ。
春色の彩が消えた荒野には、元あった色のない地面が広がっていた。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
◆POW
※真の姿=月光に似た淡い光を纏い、犬歯が牙のように変化し瞳が輝く
討伐対象への攻撃を開始しようとした瞬間
意図せず無理やり引き出されていく真の姿に足が止まる
暴走する力と同時に湧き出る破壊衝動を抑えなければと、いくら焦っても制御できない
…この感覚には覚えがある
人狼の特性、満月を見た時の凶暴化だ
今は月など出ていない筈なのに、どうして…
制御しようとする理性が消えて行き、目の前の妖精を獲物と定める
銃で狙いを付けるのも、敵の動きを予想しようとするのも面倒だ
ナイフを構え、力とスピードに任せ突っ込んでいく
回避されても執拗に攻撃を繰り返す
戦い方を変えようとも考えられず、得物が動かなくなるまで攻撃を繰り返す
●月光と狼の牙
荒野の戦場には花が舞っていた。
春告の妖精によって所々に咲かせられた春の花は淡く、時には鮮やかだ。
そして――その最中に立つシキは今、一体の妖精が振るった鍵によって或る目覚めの力をひらかれてしまっていた。
荒野の中、光り輝くのは月光に似た煌めき。
「これは……?」
シキは本来、すぐにでも討伐対象に攻撃を仕掛けようと考えていた。だが、竜化した妖精がくすくすと笑って鍵を振り下ろした瞬間に足が止まってしまった。その理由は、自らの意志とは関係なく姿が変貌していったからだ。
変わったのは纏う月光だけではない。
シキの犬歯が牙のように変化して、その瞳が昏く輝きはじめる。
「どう? 本当の姿になった気分は」
春告の妖精は鍵を手の中で回して問いかけてきた。シキが返答すら出来ないのは真の姿の解放と同時に暴走の力が引き起こされたゆえ。
湧きあがる破壊衝動。
それを抑えなければと焦るシキだが、否応なしに広がる力は制御できなかった。
(……この感覚には覚えがある)
胸を押さえ、衝動に何とか耐えようとするシキは思い返す。これはあれだ、人狼の特性に似ている。満月を見た時の凶暴化する感覚と同じ。
今は真昼間。心を揺らがせる月など出ていない筈なのに、どうして――。
敵から受けた力の所為だと心の何処かで理解しているが、それを判断する理性さえ徐々に消えていく。
そして、シキは一度だけ俯いた。
「……獲物か」
次に顔を上げた彼の瞳には狂気めいた光が宿っていた。言葉と同時に地を蹴ったシキは一気に敵との距離を詰める。
――ルナティック・インパルス。
まさにそう示すに相応しい動きでナイフを構え、刃を振り上げたシキはもう止まらない。元あった理性などかなぐり捨てたような状態の彼は、目の前の妖精をただの獲物として見ているだけだ。
銃で狙いを付けるのも、敵の動きを予想しようとするのも面倒でしかない。
それゆえに得物は刃一択。
力とスピードに任せ、衒いも迷いもなく突っ込んでいったシキの刃は妖精が纏う竜鱗を貫く。何処が弱点であるのか、どの部位が急所であるのかすら今は関係ない。
「……っ! この狼、つよい!」
妖精は竜化したことで妙な自信を持っていたらしいが、自分が太刀打ち出来ないと知って驚愕した。対するシキは逃げる隙すら与えぬ勢いで更にナイフを振るう。
後はただの蹂躙だった。
助けて、やめて、と叫ぶ妖精に何度も何度も刃が振り下ろされた。
そして――獲物が息絶え、動かなくなった頃にシキは正気を取り戻す。血塗れの竜化妖精が事切れている様を見下ろしたシキは己の身が元に戻っていくことを感じた。
「そうか、俺は……」
役目は果たしたが、暴走した獣性に心を奪われていたのだ。
これまでの蹂躙の軌跡を思い返したシキは血に染まったナイフを見下ろした。
荒野に吹き抜ける風は酷く強く、血の跡を無情に乾かしてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
ミフェット・マザーグース
楽しそうなお花ばたけも
悪いドラゴンにたどりつくために、のりこえなきゃね
ティエル(f01244)と一緒に挑戦するよ!
UC【バウンドボディ】(SPDで判定)
いつもは髪の毛にギタイしてる触手をにゅっと伸ばして先っぽの形を変えて
しっかりティエルと「手をつなぐ」よ
くるくるメリーゴーランド、触手の盾で防御して、勢いをつけてドーン!
伸縮自在のカラダを使って、敵の攻撃からティエルを「盾受け」で「かばう」よ
そこからすかさず敵のスキを「見切り」して、「怪力」でゴムみたいに触手をしならせてティエルの動きをサポートするね
ティエルが目を回さないように注意して、しっかり「手をつなぐ」で攻撃!
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
友達のミフェット(f09867)と一緒に戦うよ!
ミフェットとは一緒にいっぱい冒険したもんね!
悪い竜のところにもどかーんって向かっちゃうよ♪
片手にレイピア、もう片方の手をミフェットと繋いで戦うよ♪
ふふーん、ミフェットに掴んでもらったまま戦ったことなんて何回もあるもんねー、こんなの楽勝だよ♪
ミフェットのバウンドボディでうにょーんと伸びる手を掴んだまま相手の周りを飛び回ってチクチク刺しちゃうぞ☆
むー、でも鱗みたいになってるところはすごく硬いね!それなら、ミフェットとの合体技だ!
手を繋いだまま限界まで引っ張って、それが戻る速度を乗せた【妖精の一刺し】で貫いちゃうぞ☆
※アドリブも大歓迎です
●手と手を繋いで
荒野に広がる妖精の花々。
春の色を宿す花の景色は美しくて綺麗だと感じ、ミフェットとティエルは微笑みを交わしあった。その笑顔もまるで春の花のように綻んでいる。
されどこの場は既に戦場。
ミフェットは気を引き締め、ティエルに語りかけた。
「楽しそうなお花ばたけも、悪いドラゴンにたどりつくために、のりこえなきゃね」
「ミフェットとは一緒にいっぱい冒険したもんね! 今だって何も怖くないよ!」
頼もしいほどの意気込みを見せたティエルはレイピアを元気よく掲げる。その姿はとてもちいさくて可愛らしいが、彼女が何よりも強くて勇敢であることをミフェットはちゃんと知っていた。
「悪い竜のところにもどかーんって向かっちゃうよ♪ でも、その前に!」
「まあ、仲良しさんがいるのね」
ティエルが見据えた先には一体の春告の妖精がいる。
竜化した妖精はくすくすと笑ってミフェットとティエルを見つめた。そして、敵は可愛い姿には不釣り合いな竜翼を広げる。
その瞬間、不思議な感覚がふたりを包み込んだ。
「ティエル!」
「うん、ミフェット!」
とっさに動いたミフェットは、いつもは髪の毛に擬態している触手を伸ばしながら先端の形を整える。其処へ手を伸ばしたティエルは触手をぎゅっと握った。抗えない形で手を繋ぐことにするのが相手の能力らしいが、元からこうして繋いでいれば何も悪いことはない。
しっかりと手を繋いだミフェットはこくりと頷く。
ティエルも片手にレイピア、もう片方の手をミフェットと繋いだまま戦うことを受け入れていた。いつもとは勝手が違うが一緒なら上手くやれる気がする。
対するスプリングエルフは竜の爪を掲げた。
「その状態でこの爪を避けられる?」
翼を広げて滑空した春告の妖精はミフェットを狙ってくる。
しかし、ミフェットは慌てずに触手を柔軟に伸ばして対抗した。くるくる、メリーゴーランドを思わせる触手の盾で防御したミフェットはティエルに合図を送る。
「ふふーん、ミフェットに掴んでもらったまま戦ったことなんて何回もあるもんねー、こんなの楽勝だよ♪」
ティエルは何の心配も抱かずにいた。自分は自由に飛び回ることが出来、しかもミフェットの触手だってよく伸びる。
うにょーんと伸びる手を掴んだまま相手の周りを飛んだティエルは、妖精が纏う竜鱗を狙って刃を突き刺した。
「いたっ!」
「何度だってチクチク刺しちゃうぞ☆」
「こっちも忘れないでね」
痛みを感じたらしき妖精に対してティエルは軽くウインクをしてみせる。其処に続いてミフェットが動かした触手に勢いをつけて、ドーン! と反撃に入った。
その連撃にたじろぐ妖精は押されている。
ティエルはそこかしこから突き攻撃を放ち、ミフェットは伸縮自在のカラダを使って彼女を庇う。ふたりの連携は隙がないほどばっちりだ。
だが、妖精も爪を振るって対抗してくる。通常のスプリングエルフならばそれほど防御力はないはずだが、此度の彼女は竜化の影響で強くなっていた。
ティエルは攻撃が通じ難いことを感じ取り、むむ、と少しばかり考え込む。
「鱗みたいになってるところはすごく硬いね!」
「どうにか弱点を見つけないといけないのかな?」
ミフェットも軽く首を傾げる仕草を見せ、どこが急所であるのかを見据える。はっとしたティエルは先程、軽く突き刺しただけであるのに相手が痛がった箇所を思い出す。
きっとあそこが弱点だといって、ティエルはミフェットに耳打ちした。されど敵も急所を見せたままにしてはいないだろう。
「それならミフェットとの合体技だ!」
「うん、一緒にがんばろう!」
ティエルが全力を出すのだと察したミフェットは身体の伸縮性を更に増す。そして、ティエルの方は手を繋いだまま限界まで引っ張る勢いで飛んだ。
「あれ? 逃げるの?」
ふたりを見遣った妖精はきょとんとしていた。何故ならティエルが飛んでいったのは逆方向だったからだ。しかし攻撃は此処からだ。
ゴムめいたバウンドボディの勢い。
それが戻る速度を乗せた妖精の一刺しが一気にスプリングエルフに迫る。
「ティエルの本気はすごいんだよ」
「いっくよー☆」
防御など一切に顧みない、レイピアを構えた全速力での体当たりが敵に直撃する。しかもそれはミフェットのサポートつき。
捉えられぬほどの速さで激突した衝撃はかなりものであり、妖精は目を回してばたんきゅーと倒れ込んだ。
「ふふーん。ミフェット、ボク達の勝ちだよ♪」
「やったね。かっこよかったよ、ティエル」
勝利を確かめたふたりは繋いだままだった手を握りあう。
そうして、彼女達の間にふたたび花が咲くかのような明るい笑みが巡っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と
手を繋いで離せなくなるとか
なんて恐ろしい力なんだ…(ごくり)
ラナさん、気をつけて下さいね
例え片手が塞がれようとも、ラナさんはちゃんと守りますから
…あれっ?
何故か当然のように真ん中にうさた(兎)がいて
俺とラナさんと手(足)を繋いでて
おれがここにいるほうが動きやすいだろうとばかりに鼻を鳴らしてる…?
…予想(期待)してたのと違うけど仕方ない
ぱたぱた翼を動かして頑張ってるうさたと手を繋いだまま
ラナさんへの攻撃は庇えるように注意しつつ
空いた手で雷とか氷とかスピリットの属性攻撃
戦いが終わったらうさたは定位置の頭の上に
ラナさん、折角だから…
少しだけ、手を繋いでもらってもいいですか?
ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)と
拘束して不利にさせるってことですかね?
強力ですけど…
はい、蒼汰さんと一緒なら大丈夫だって信じてます
私もしっかりお守りするので、頼って下さいね
手が触れれば、そこには人とは違う温もりが
うさたさん?
繋いだ兎さんの姿に、驚いたように瞳を瞬いて
ふふ、うさたさんも心配してくれてるんですか?
3人で手を繋いだまま、協力しましょう
薬瓶で敵の力を封じ込めつつ
炎の魔法で敵を討ちます
傷を負ったら回復も
手を繋げないのが、残念なような
安心したような
不思議な感覚でいたら差し出される手に
想っていたことが気付かれてしまったのかと
少し胸を逸らせながら
はい、勿論です
温もりを確かめるように手を繋いで
●翼兎と繋ぐ掌
これまでに数多の世界をめぐり、戦場を渡ってきた。
猟兵として、危機から人々や世界を救う力を持つ者として共に戦ってきた二人。蒼汰とラナの意思は同じであり、然と繋がっている。
それは此度の敵の餌食となる理由でもあった。敵の能力を知っている蒼汰達は春告の妖精の力が厄介なものだと感じている。
「手を繋いで離せなくなるとか、なんて恐ろしい力なんだ……」
或る意味で恐れおののいた蒼汰の傍ら、ラナは首を傾げている。春の妖精は荒野の風の効果によって竜化しており、辺りを自由気ままに飛び回っていた。
他の猟兵達もどうやら手を繋がされているようだ。
彼女達に見つかれば、間違いなく蒼汰とラナにもその力が掛けられるだろう。
「拘束して不利にさせるってことですかね? 強力ですけど、それだけなのでしょうか」
「きっと何か理由があるはずです。ラナさん、気をつけて下さいね」
掌を軽く広げた蒼汰は手を繋ぐ準備、もとい決意を抱いた。こくりと頷いたラナは逆に両掌をぐっと握り締める。
「はい、蒼汰さんと一緒なら大丈夫だって信じてます」
「例え片手が塞がれようとも、ラナさんはちゃんと守りますから」
「私もしっかりお守りするので、頼って下さいね」
交わす言葉には信頼が宿っていた。どんな状況になっても慌てず平静を保っていようと決めた蒼汰は密かに意気込む。
大仰な理由をつけなくても必然に手が重ねられるのは役得でしかない。そんな期待を持っていることは隠しながら、蒼汰はラナと共に妖精の元へ急ぐ。
「わあ、仲良しさんみーつけた!」
すると此方に気付いたスプリングエルフがくすくすと笑った。えい、と相手が掛け声と同時に魔力を放った、次の瞬間――。
「あれっ?」
「ふわふわ?」
蒼汰はてっきりラナと手を繋ぐものだと考えていた。ラナも彼の手の感触があるものだと思っていたが、二人が感じていたのは柔らかな毛並みの感覚。
「うさた?」
「うさたさん?」
何故か当然のように真ん中にいる兎と、その前足を握っている二人。
ラナ達が同時にうさたの名を呼べば、おれがここにいるほうが動きやすいだろう、とばかりに兎が鼻を鳴らした。
もし手を繋いでいなければ蒼汰は落胆でその場に崩れ落ちていただろう。しかし平静でいると決めた以上、動揺は隠しきった。ラナはというと驚いたように瞳を瞬いたが、すぐにふわりと微笑んでみせる。
「ふふ、うさたさんも心配してくれてるんですか?」
「期待……じゃなくて、予想してたのと違うけど仕方ない」
蒼汰はぱたぱたと翼を動かして頑張ってるうさたに視線を送り、頑張ろうと告げた。そんな様子をスプリングエルフが楽しげに見つめている。
「もっと仲良しになったね。それじゃ息のあった戦いを見せてね!」
竜の翼を羽撃かせた妖精は爪を振り上げ、蒼汰達に襲いかかってきた。見た目は愛らしくともその攻撃に容赦はない。
「ラナさん、こっちへ!」
「はい、うさたさんも守らないといけませんね」
兎を通じて彼女の手をしっかりと引いた蒼汰は彼女に攻撃が至らぬように位置取っていく。同時にラナも足手纏いにはならないよう、桜の花を詰めた薬瓶を解き放った。
兎は翼をはためかせ、二人にエールを送っている。
そして、空いた手で魔力を紡いだ蒼汰は雷の力を敵へと放った。
同じ方向へと駆け、竜化妖精からの攻撃を避けて、時には受け止める彼らは視線だけで意思を交わしあう。
幸いにも敵は一体だけ。そっと頷きあったラナと蒼汰は同時に攻撃を仕掛けることを決め、一気に勝負をつける作戦に出た。
「ふふ。どうかしら、お互いに恋する気持ちは湧いてきた?」
どうやら妖精は恋模様が見たいらしい。
「恋ですか? 無理に繋がされただけで起こるような気持ちではないはずです」
「それだけで恋心が生まれるなら、俺達はうさたに恋しなきゃいけないですね」
ラナは妖精から掛けられた言葉に首を振り、蒼汰もその通りだと答える。妖精はつまらなさそうな顔をしたが、其処に蒼汰の氷撃が放たれる。
今です、と告げられた声に応じたラナは炎の魔力を巻き起こした。
「この魔法、解かせて貰います!」
凛と告げた言葉と同時に炎の一閃が妖精を貫く。氷に手間取っていた妖精は為す術もなく地に落とされ、戦う力を失った。
次の瞬間、蒼汰とうさたとラナを繋いでいた魔力が途切れる。
ぱっと前足を離した兎は定位置である蒼汰の頭上に戻っていった。敵は倒れ伏した状態で消え去り、骸の海に還っていったようだ。
安堵を抱いたラナだが、その中でふと思うこともあった。
たとえ敵の力であっても蒼汰とちゃんと手を繋げなかったこと。それに対して残念なような、安心したような不思議な感覚が巡っていく。
そのとき、蒼汰がラナの前に立った。
「ラナさん、折角だから……」
「どうかしましたか?」
不意に差し出される手。想っていたことが気付かれてしまったのかと思って少し胸を逸らせながら、ラナは次の言葉を待つ。
「少しだけ、手を繋いでもらってもいいですか?」
「……! はい、勿論です」
彼の真っ直ぐな願いを断る理由はラナの中にはなかった。差し出された掌を、今度は魔法の効力ではなく自分の意思で繋ぐ。
互いの温もりと存在確かめるように重ねた手と手。
其処には訪れた春のあたたかさと快い気持ちが宿り、巡っていく。そんな二人の姿をうさたが何処か得意げな様子で見守っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
榎本・英
【春嵐】
可愛らしい妖精なのに、この姿はなんとも侘しい
偽りの竜は本の中だけで良い
だから、著書で眠る獣がお相手をしよう
問いかけは至って簡単
「春に嵐は如何かな?」
花を巻き上げ攫う嵐さ
少々お転婆だが手を繋ぐと満開になる
君の左手を掬い、絡める指先
ほら、このように咲き誇る
嗚呼。君に合わせよう
いや、合わせてくれるかい?
体力の無さは君も知っている通り
其々のはやさで隣を駆けて
そして春に嵐を花を届けよう
疲れたら小休憩
春の花々も見てくれているはずさ
君に合わせて駆ける手は
一人ではないと言う証
握った手から伝わる熱もその証
私も、私以外も、常々君の隣にいるのだと
さあ、春の嵐は散らす風ではない
春を届ける嵐だよ
共に、咲こう
蘭・七結
【春嵐】
いびつなあいらしさ
龍化を解く呪文はもっていないの
魔法ではなく、もっとあまくほどけるもの
とろかす春の熱は如何かしら
此度の彩はあなたたち
あかい花嵐は眠らせて
春を咲かす風を届けましょう
あなたの右手を絡めて結わう
かさなる糸と糸。まるで縫われるようね
共に駆けてみましょうか
だいじょうぶ。加減はするわ
もしもの時には後ほど休みましょうね
鎖された夜も永劫の冬も無いのだと
あなたが、教えてくれたから
胸に咲いた花もその花の名もしっている
この身へと滲んだ春のぬくもり
わたしに宿った心と微熱
ふたつの温度を注ぎましょう
あなたたちという花々を舞わせて
めざめを告げる嵐となるわ
花曇りを越えた彼方
あけの彩は、とてもあたたかい
●春の嵐に花曇り
皆殺しの平野に飛び交う竜化した妖精。
荒野に花が舞うという不可思議な様相は物語の中であってもそうそうない光景だ。
英と七結は顔を見合わせ、この奇妙な景色への思いを言葉にする。
「可愛らしい妖精なのに、この姿はなんとも侘しいね」
「いびつなあいらしさが何だか不思議ね」
偽りの竜は本の中だけで良いと語った英は片手に著書を掲げた。七結も此方に向かってくる春告の妖精を見つめ、緩やかに身構える。
「春に嵐は如何かな?」
英は著書で眠る獣を呼び起こし、問いを投げかけた。それと同じくして七結が暗澹と融解の毒を放つ準備を整えた。
「生憎、龍化を解く呪文はもっていないの。けれど――」
魔法ではなく、もっとあまくほどけるものがある。とろかす春の熱は如何かしら、と掛けた言葉に呼応する形で侵喰の戀慕が巡った。
はっとした妖精は宙で身体を回転させ、その身に不釣り合いな竜の翼をはためかる。
「あなたたちも、もっと仲良くして!」
そして、妖精は反撃として魔法を巡らせていった。すると七結と英の手が自然と重なり、しっかりと繋がれてしまう。
英が問うたのは花を巻き上げて攫う嵐は好きかというもの。
少々お転婆だが手を繋ぐと満開になると示したのは勿論、その左手を繋いで指先を絡めている七結のことだ。
「ほら、このように咲き誇る」
「ええ。もう春は訪れたの」
自分の腕を軽く掲げて七結の片手を持ちあげた英は緩く双眸を細めた。七結も妖精の言葉を聞いて淡く笑む。
右手を絡めて結わうのはまるでかさなる糸と糸。縫われるようね、と今の状況を語った七結は妖精にお返しの一閃を放つ。
「此度の彩はあなたたちね」
――あかい花嵐は眠らせて、春を咲かす風を届けましょう。
七結の毒と共に情念の獣が無数の手で絡め取ろうと動く。竜の力を得た妖精は硬い鱗で以てそれらを受け止め、耐えていた。
一筋縄ではいかないと察した七結は英の手を引く。
「共に駆けてみましょうか」
「嗚呼。君に合わせよう。いや、合わせてくれるかい?」
体力の無さは君も知っている通りだと英が悪戯っぽく、それでいて半分は本気の様子で話せば、七結は彼を導くように駆けた。
「だいじょうぶ。加減はするわ」
もしものときには花の嵐のように敵の目を眩ませるから。そんな風に告げてくれた七結の手を英は確りと握り返した。
其々の速さで隣を駆ければ、妖精の力によって咲かせられた花弁が舞う。嵐と花を届けよう、と言葉にした英は獣を敵に向かわせた。
「どうかな、春の花々も見てくれているはずさ」
「ふふっ、お花畑を一緒に巡るふたりも素敵ね!」
対する妖精は手を繋いだまま戦う彼らをみて満足しているようだ。英は共に駆けていく心地も悪くないと感じながら、七結の横顔をちらと見た。
君に合わせて駆ける手。
それは一人ではないと言う証。握った手から伝わる熱も、その証だ。
自分も、己以外も、常々君の隣にいるのだと思える。英にとってその事実はいま此処に立ち続ける理由にもなっている。
彼の視線を感じた七結もあたたかな気持ちを覚えていた。春が訪れたのだと妖精に告げた言の葉は本当の気持ちだ。
鎖された夜も永劫の冬も無いのだと、あなたが教えてくれた。
胸に咲いた花も、その花の名もしっている。
この身へと滲んだ春のぬくもりは、彼そのもの。
「あなたたちが恋模様を望むなら、みせてあげる。わたしに宿った心と微熱、ふたつの温度を注ぎましょう」
あなたたちという花々を舞わせて、めざめを告げる嵐となる。
そのように宣言した七結は、その瞳に或る竜鱗を映していた。戦う最中に見えた薄っすらと輝く鱗。屹度、あの鱗こそが竜化妖精の急所に違いない。
「君も気付いたかい?」
「いっしょに終わらせましょう」
彼からの問いかけに頷きを返した七結は狙いをしかと定めていく。
そして、英は獣へと更なる呼びかけを行う。同時に七結の手を握れば、握り返された淡い熱がはっきりと感じられた。
「さあ、春の嵐は散らす風ではない。春を届ける嵐だよ」
共に、咲こう。
英の声があたたかい。そして、繋いだ手こそが確かなもの。
明ける暗澹。それは花曇りを越えた彼方の景色。戀慕は猛毒となれど、抱く気持ちは手放したくはないもので――。
「しってる? あけの彩は、とてもあたたかいの」
そうと落とされた七結の言葉は戦いの終わりを静かに飾った。
舞っていく花はただ散ったわけではない。
この先にも続いていく春の彩を示すために、花の嵐は天へと翔けていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
🦈櫻沫
真の姿:満月の瞳
心蕩す歌うたい泡沫の護りを纏う美しい漆黒の人魚
春が舞い幕開く
愛歌い、こい咲かす―開演時間だ、有頂天外の喝采を!
今日の舞台は春を喰らう龍の舞台だ
龍の角に掴まり笑う
鞭を打ったなら桜が吹雪いて命を散らす
春の舞台
演者は櫻龍だけでいい
他の花など邪魔なだけ
僕の櫻に寄り添うなど不相応
妬ける
哀歌い、こい散らす!
歌唱響かせ奏でる『恋の歌』
全て燃えて仕舞え
衝動に身を任せ全て燃やそうとして
父の言葉を思い出す
ヨルが泣いてる
僕の託された劇団は
僕の夢は
舞台は
これで良いの?
違う
違う
僕が託されたのは!
泡沫弾けて櫻が舞う
待って!櫻宵!
蹂躙し尽くそうとする龍に抱きつきとめる
もう舞台は終幕だ
ほら…戻ってきて
誘名・櫻宵
🐉櫻沫
真の姿:桜嵐吹雪かせ瞳映すものを桜に変え喰らう、完全な桜龍(大きい東洋風の龍)
私の前で春告を名乗るなど
良い度胸をしているわ
吹雪く桜でなぎ払い呪殺してしまえ
春宵の人魚が歌ったならばここは私達の舞台
開幕の合図が響いたわ
さぁ演じましょ!あかい桜舞う絢爛の舞台を
あなた達も桜吹雪くらいなって頂戴
衝撃波と共に『哭華』吹雪かせ爪で切り裂き喰らってやるわ
鱗も何も喰ろうてしまえば関係ないわ
噫なんて美味しい春だこと!
潰して裂いて喰らって蹂躙してあげる
私の桜になって頂戴な!
噫もっと!もっと殺して壊して蹂躙したい
――っ
リル!
黒の人魚が飛びついて
名を呼ばれ思い出す
いけない、私は
慾のままに食い散らかす悪龍ではない
●黒の人魚と桜花の龍
春は芽吹きの季節だという。
冬を越えた桜が蕾をつけて、花が綻んでいくように数多のものに目覚めを促す。
荒野に舞う花の彩は春告の妖精が齎しているものだ。その光景を見つめていたリルと櫻宵は、妖精が鍵を振りあげた姿に気付いた。
「櫻、あれって……?」
「注意して頂戴、リル」
まるで扉がひらかれたかのように回される鍵。
一連の流れをリルも目にしており、何かが裡から沸き起こってくる感覚をおぼえた。それは櫻宵も同じであった。
途端にふたりの身が真なる姿へと変貌していく。
櫻宵の周囲には桜嵐が吹雪き、身体は花を纏う龍のものに変わった。それは瞳に映すものを桜に変えて喰らう完全なる桜龍だ。
「私の前で春告を名乗るなど良い度胸をしているわ」
響き渡った声は重々しく、普段の櫻宵の嫋やかな声にはない冷えきった荘厳さが感じられる。龍が妖精をひと睨みする中、リルの瞳は満月のように輝きはじめていた。
月光を思わせるヴェールめいた尾鰭は今、暗夜のような漆黒に変わっている。
纏う鱗も、髪すらも黒。
その姿はかの黒い人魚、エスメラルダを知っているものならば彼女のそのものだと錯覚するほどに美しい。
心蕩す歌をうたい泡沫の護りを纏う漆黒の人魚。リルは本来、この姿で生まれるはずだった。それが今、呪縛や願いを越えて白から黒に変わっている。
春が舞い、幕が開く。
「愛歌い、こい咲かす――開演時間だ、有頂天外の喝采を!」
匣舟の座長として、凛と宣言したリルは傍らの龍を振り仰いだ。吹雪く桜で敵を薙ぎ払うべく動き出した桜龍は呪いの力を振りまいていく。
「開幕の合図が響いたわ。さぁ演じましょ!」
あかい桜が舞う絢爛の世界を。
リルは彼の姿をしかと見つめ、今日の舞台は此処からはじまるのだと感じた。
そう、これは春を喰らう龍の舞台。
ふわりと游いで龍の角に掴まったリルは少し不敵に笑う。それは嘗て、享楽の匣舟の座長だった者を思わせる笑みだ。
そして、手にした鞭をリルが打ったならば更に桜が吹雪いて妖精の命を散らす。弱点や急所が何処であるかなど関係がない。圧倒的な龍と人魚の力は次々と竜化妖精を穿ち、地に落としていった。
春の舞台にあがる演者は櫻龍だけでいい。
他の花など邪魔なだけだと断じたリルは裡に巡る感情を押し隠さなかった。
「僕の櫻に寄り添うなんて不相応だよ」
妬ける。だから歌う。
――哀歌い、こい散らす。全て燃えて仕舞え。
そうやって容赦なく歌う春宵の人魚が歌ったならば、櫻宵とて加減はしない。暴走の力が巡っている今、加減など出来ないと表した方が正しいかもしれない。
「あなた達も桜吹雪くらいにはなって頂戴」
逃さないわ、と告げて龍瞳に妖精を映せば、喰らわれた妖精が花となる。
それは美しい蹂躙だ。力を振るい続ける櫻宵はもう止まらない。龍と共に在るリルも、何もかも散ってしまえばいいと高らかに嘲笑った。
だが――。
衝動に身を任せて全てを燃やそうとした刹那、リルは父の言葉を思い出した。
それにヨルも荒野の最中にぽつんと蹲って、きゅきゅ、と泣いてる。リルと櫻宵の変貌ぶりに驚き、縮こまっているようだ。
僕の託された劇団は。
僕の夢は。舞台は。ほんとうに、これで良いの?
疑問が浮かんた瞬間、リルの胸裏にこれではいけないという感情が巡った。
「違う、違う。とうさんから託されたのは!」
泡沫が弾け、櫻が舞う。
リルは櫻宵の角に掴まりながら、荒れ狂う哭華の吹雪と共に彼が敵を爪で切り裂く様を見つめた。そして、大きく首を横に振った。
「櫻……!」
「喰らってやるわ。鱗も何も喰ろうてしまえば関係ないもの」
未だ彼にリルの声は聞こえてない。荒ぶる力に飲み込まれかけているようだ。
噫、なんて美味しい春だこと。
潰して、裂いて、喰らって――私の桜になって頂戴な。
そんな風に語る櫻宵が更なる蹂躙を行う前に止めなければいけない。リルは危険を覚悟で角から離れ、龍の櫻宵の前に飛び込んだ。
「噫もっと! もっと殺して壊して蹂躙したいわ!」
「待って! 櫻宵!」
「――っ」
刹那、人魚が龍に抱きつく。櫻宵はその姿を見て思わず動きを止めた。
同時に今まで忘れかけていたことが脳裏に蘇ってくる。
喰らった者達のこと、巡り遭った神のこと。暁の鬼のこと、大切な息子のこと。
そして、目の前にいる愛おしい人魚のこと。
「リル!」
「もう舞台は終幕だ。ほら……戻ってきて」
自分の名を呼んでくれたことで安堵したリルは、櫻宵をそっと撫でる。既に周囲の敵は散らされており、このままでは大地が破壊されるところだった。
ふたりの姿が元の白い人魚と桜を纏う龍人に戻っていく。
私は慾のままに食い散らかす悪龍ではない。そう思い出したのはリルが果敢に、そして愛を以て止めてくれたからだ。
櫻宵はリルを抱き締め返し、ありがとう、と耳元で囁いた。
「また助けてもらったわね」
「いいんだ、これが僕の役目だから」
櫻宵が迷っても、自分を見失ったとしても必ず見つけて泳ぎ着く。
そうありたいんだと告げたリルの笑みに櫻宵の微笑みが重なった。ヨルもぺちぺちと駆けてきてふたりの間に飛び込んだ。
その周囲に舞う桜の花は鮮やかに、果てない荒野を彩っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フレズローゼ・クォレクロニカ
💎🐰
アドリブ歓迎
ん?兎乃くんとお手手がくっついちゃったんだ!
これでずっと一緒だね……なんて冗談さ!
でもこのままじゃ動けなくて――きゃっ?!
ボクとしたことが、乙女みたいな声がでちゃったんだよ
お姫様抱っこなんて慣れなくて照れちゃうね……照れてないんだ、ボクは!
目をつぶれの合図でぎゅと瞳を閉じて
よーし!透明になって、不意打ちしてくんだ!
攻撃は任せておくれ!
兎乃くんの両手が塞がってる分、ボクが頑張るぞ!
飛んできた妖精を「女王陛下の気まぐれ裁判」!手や足をジャバウォックに変えてガブリと喰いちぎってあげるのさ
……判決は死刑
絵筆に乗せる爆破の全力魔法
バーンと花を描いて散らせてく
友情パワーで乗り切るんだ!
兎乃・零時
💎🐰
アドリブ歓迎
あ、あれ、何で手が離れねぇの!?
どーゆうこと―!?
あ、そうだ
こんな風に抱えりゃ動けるな!
【手をつなぐ】ようにしつつもお姫様抱っこ!
する前に、自分達に光属性の【魔力溜め】て疑似【ドーピング】なエンチャント
多少は動きも良くなるだろ!
抱き締めてるようなもんだしUCもしっかり使えるさ!
一回目瞑ってろよ、フレズローゼ!
地面を【踏みつけ】光【属性攻撃】の閃光<フラッシュ>を出し敵【目潰し】
その隙にUC使ってフレズローゼ共々姿を消すぜ!
流石にこれだと攻撃は出来ない、けど!
空からの攻撃は【ダッシュ・逃げ足・地形の利用・ジャンプ】で頑張って逃げるんだ!
UCは常時展開しとく
今のうちに攻撃頼む!
●描く彩花と先を示す光
きらきら、ふわふわ。妖精と花が荒野に舞う。
皆殺しの平野だなんていう恐ろしい名前の戦場に集っているのは春告の妖精。
戦いの場に訪れた猟兵達を見つけ、竜の翼をはためかせた妖精達はフレズローゼと零時を見つけるや否や、えいっと魔法の力を振るった。
「なかよしこよしになーれっ」
どうにも気の抜けた掛け声だったが、魔力はふたりを包み込む。
あまり敵意のない相手に呆気にとられてしまっていたが、零時とフレズローゼは自分達の身に異変が起こっていることに気が付いた。
「あ、あれ、何で手が離れねぇの!?」
「ん? 兎乃くんとお手手がくっついちゃった。不思議だ!」
それぞれに驚きと興味を抱くふたり。その様子を眺める春告の妖精は楽しげだ。
「どーゆうこと―!?」
「春は恋の季節なの。心の高鳴りは爆発になって、どーんって弾けるんだよ」
困惑する零時に妖精が無邪気に語る。
爆発かあ、と何処かのんびりした声をあげたフレズローゼはそれほど慌てていない。何故なら友達と手を繋ぐのは楽しいからだ。
「これでずっと一緒だね……」
「そりゃそうだが、動きづらくないか?」
「なんて冗談さ! そうだね、このままじゃ動けなくて――」
明るく笑ったフレズローゼの隣、零時は暫し考え込んでいた。そして少女が何かを言いかけた瞬間、彼は思いついたことを行動に移す。
「あ、そうだ。こんな風に抱えりゃ動けるな!」
「きゃっ?!」
零時は手を繋ぎながらもフレズローゼを抱きかかえた。それはいわゆるお姫様抱っこというものだ。驚いた少女は思わず零時に掴まる。
ボクとしたことが、と口にしたフレズローゼは乙女めいた声が出てしまったことにほんの少しだけ頬を染めた。
「いい考えだろ?」
得意気にフレズローゼに笑いかけた零時は抱きあげる前にしっかりと光属性の魔力を溜め、疑似ドーピングなエンチャントを行っていた。
「うん……でも、慣れなくて照れちゃうね……。ううん、照れてないんだ、ボクは!」
自然に声に出た言葉にはっとしたフレズローゼは首を横に振る。
零時の方は特に気にしていない様子で、天才的な自分の発想に満足しているようだ。そして、零時はフレズローゼに告げる。
「一回目瞑ってろよ、フレズローゼ!」
「わかったよ!」
その合図でぎゅとフレズローゼが瞳を閉じれば、零時が己の力を発動させた。するとその姿が透明になり、竜化妖精の視界からふたりが消える。
「あれ? あの子達は??」
急に零時達が見えなくなってしまったことで妖精が慌てはじめた。きょろきょろと辺りを見渡す妖精を見上げ、フレズローゼは口許を緩める。
「よーし! これなら不意打ちができるね!」
攻撃は任せておくれ、と宣言したフレズローゼは片手を振りあげた。
零時がこうして自分を抱いて移動してくれているならば、その分だけ自分が頑張るのが道理だ。二人分以上の攻撃で以て全力で向かうと決めた少女は、自分達を探している様子の妖精に狙いを定める。
其処から巡っていくのは、女王陛下の気まぐれ裁判。
手や足をジャバウォックへと変え、飛んでいる妖精が下りてきたところでガブリと喰らいついて、容赦なく千切ってしまう。
「いいぞ、フレズローゼ!」
「なに? どこから攻撃が来てるの?」
妖精は慌てているが、フレズローゼを抱いたまま戦場を駆け巡る零時の動きを捉えられないでいた。更に零時は跳躍と同時に地面を踏みつけ、閃光を巻き起こすことで敵の目を眩ませていく。
今だ、と耳元で囁かれた言葉に一瞬はどきりとしたフレズローゼだが、零時の言う通りにこの瞬間こそが好機だ。
「……判決は死刑!」
宣言と共に虹薔薇の絵筆を振ったフレズローゼは其処に爆破の魔力を乗せた。
こんな風に無理矢理に手を繋がされたことで恋が生まれるなんて思っていない。けれども妖精が言っていた爆発するという言葉は何だか気に入っていた。
「いくよ!」
「これが俺様達の――!」
フレズローゼが高らかに声をあげれば、零時も熱く叫ぶ。
いつかも同じようなことをしたと思い返しながら、ふたりは声を響かせた。
「友情パワーなんだ!」
「全力攻撃だ!!」
目映い閃光。其処に描かれた春の花。太陽が差し込んだ所に花が咲いたかのように彩が巡り、そして――妖精の命を散らせる爆発が周囲に巡った。
それによってふたりの手が離れ、零時の腕からフレズローゼが下りる。
「やった!」
「やったぜ!」
少女と少年の声が再び重なり、ふたりは自由になった掌を重ねて勝利を喜んだ。
そうしてまた一体、春告の妖精が骸の海に還されていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
東雲・咲夜
【春剣】
🌸アドリブ可
常日頃、清閑且つ心配りをお持ちのアネットさん
うちでお役に立てますやろか
何処迄も続く白青の華路
瑠璃唐草に花薄雪草
まやかしだとは気づいても
驚喜に躍り…嗚呼、花笑む
《神籠》開きて風光る
花見序でに桜はいかがどす?
春告げ鳥の如くのびやかに
甘く囀る麗らかなる咏
優しいあんさんが、花の惑いに振り向かぬよう
毀れぬ剣で在るように
援護と防御は任せとくれやす
彼の隙を突かれるようであらば
神鳥と容を成した水神霊を放つ
毒を孕む啄み、受け止め切れるやろか
自由に翔けられては長引いてまう
さざめく花風…玉響に桜吹雪で視界を遮り
貫くは、剣のお役目
アネットさん…お怪我はあらへん?
痛いところがあれば言うてくださいね
アネット・レインフォール
【春剣】
▼静
ふむ…こうして咲夜と肩を並べて戦うのは初だ。
この空間を打ち破るには魔術的な素養が有効そうだが…
足を引っ張らないようにしないとな。
…成る程、彼女には花々がよく似合う。
そう言えばアレらの花言葉は何だったか――
▼動
花々の結界を冷静に観察しつつ敵の気配を探索。
茶でも嗜みたい所だが、な。
接敵時は刀剣を念動力で周囲に展開し
攻撃方向を探るセンサー代わりに。
霽刀を手に近接時は居合での一閃か受流そう。
方角を伝えて連携も。
【無限換装】の吸引力をフェイントに使い
葬剣を無数の鋼糸状にし絡ませる事で足止めも検討。
突進時には敵の間合いに踏込み攻撃を片手で受け
急所への一撃を見舞う。
花はエーデルワイス
アドリブ歓迎
●咲いて散るのは竜と花
荒野に舞い散る花の色は淡い春の彩を思わせる。
其処に飛び回っている春告の妖精達には不釣り合いな竜の翼や爪、鱗があった。
「あれが此度の敵さん……」
「ふむ……こうして咲夜と肩を並べて戦うのは初だな」
咲夜がスプリングエルフ達を見つめると、その傍らに立っていたアネットがちいさく頷いてみせる。はい、と答えた咲夜は彼と共に立ち向かうことになる戦いへの思いを抱き、そっと双眸を細めた。
常日頃、清閑且つ心配りを忘れないアネットは頼もしい。
「うちでお役に立てますやろか」
「……それはこの戦いで分かる」
されど心配などしていないと告げたアネットは咲夜に呼び掛ける。来る、と聞こえた声に顔を上げた咲夜は一体の妖精が自分達に向かってきているのだと気付いた。
「春はお花見! この花々の美しさに魅了されちゃえ!」
手にしている鍵を魔術杖のように妖精が振るえば、瞬く間に咲夜とアネットの周囲に花の景色が広がっていく。
それは何処迄も続く、白青の華路だ。
瑠璃唐草に花薄雪草。春を象徴する花の景色がまやかしだとは分かっていたが、あまりの美しい景色に咲夜の胸が高鳴る。
驚きと喜び。心は躍り、花蕾が綻んでいくような笑みが咲夜の口許に浮かんだ。対するアネットは展開された空間に感心を抱いていた。
「この空間を打ち破るには魔術的な素養が有効そうだが……」
自分こそ咲夜の足を引っ張らないようにせねばならぬと考え、アネットは花に手を伸ばした咲夜に視線を向ける。
この空間はどうやら花を楽しまなければ動きが制限されるようだ。
しかし咲夜に関しては全く問題はない。何故なら花に笑む彼女は既に大いにこの世界を楽しんでいるからだ。
「成る程、花々がよく似合う」
咲夜を見ていると自分まで花を楽しめる。そんな気がした。
アネットはふと、エーデルワイスの花が咲いている景色を瞳に映した。そういえばアレの花言葉は何だったか――。
花々の景色を観察しつつ、アネットは妖精の方にも意識を向ける。
敵はこちらが花を楽しんでいることが嬉しいらしく、にこにこと咲夜を見守っていた。無害に思えるが、あれも帝竜の配下だ。
少しばかり戦い難くもあるが妖精達を倒さなければ先には進めない。
咲夜は花から視線を外し、アネットが見ている妖精へと眼差しを向けた。いつまでも花の美しさに浸っていては敵の思う壺だ。
「茶でも嗜みたい所だが、な」
「戦うのもうちらの役目。さあ、花見序でに桜はいかがどす?」
アネットが霽刀を構えれば、咲夜は神籠の扇をひらく。風光るという表現が相応しいほどの優雅な動きは春の花に映えていた。
そして、アネットが他の刀剣を念動力で周囲に展開する。
其処だ、と言葉にした彼は妖精との距離を一気に詰めて刃を振るった。硬い鱗と刀が衝突したことで鋭い音が響く。
咲夜は春告げ鳥の如くのびやかに、甘く囀る麗らかなる声を紡いだ。
(優しいあんさんが、花の惑いに振り向かぬよう――毀れぬ剣で在るように)
願う思いは胸に秘め、咲夜は花神の舞でアネットを包み込んでいく。竜化妖精はアネットに鋭い爪を振り下ろしたが、その傷はすぐに咲夜の力で癒やされた。
「助かった」
「任せとくれやす」
交わした言葉は短いが、ふたりの意思は戦いの中で通じ合っていた。咲夜は敵の攻撃を避けていなすアネットに信頼を抱き、神鳥と容を成した水神霊を解き放つ。
「そんな、二人がかりなんてっ!」
妖精は慌てて避けようとしたが、その方向にはアネットが待ち受けていたので逃げることが出来なかったようだ。
「毒を孕む啄み、受け止め切れるやろか」
そして、咲夜の水神霊はひといきに春告の妖精を穿った。
其処へ駆けたアネットが稲妻の魔力を広げる。吸い込まれるような感覚を覚えた妖精が抵抗しようとした瞬間、彼は葬剣を無数の鋼糸状にした。
無限換装の力はフェイントに過ぎない。糸を敵に絡ませたアネットはその動きを止め、一気に勝負を付けに掛かった。
「アネットさん、彼処や」
咲夜は敵に自由に翔けられては戦いが長引いてしまうと感じていた。それゆえにアネットが攻防を繰り広げている間に敵の弱点を探っていた。
そうして、咲夜は敵の腕に淡く光る鱗があることを察していた。
呼びかけた咲夜はさざめく花風を起こし、桜吹雪で敵の視界を遮る。其処から急所を貫くのは剣たるアネットの役目。
ああ、と答えて駆けた彼は敵の間合いに踏み込んだ。
接近を察知した妖精は爪を振るってきたが、その攻撃を片手で受けたアネットは刃を鋭く振るいあげた。
そして――急所へと見舞われた一撃は竜化した春告の妖精を穿った。
一瞬後。妖精はその場に崩れ落ち、消滅していく。刀を鞘に収めたアネットの傍に咲夜が駆け寄り、淡い笑みを湛えた。
「お怪我はあらへん? 痛いところがあれば言うてくださいね」
「問題ない。それよりも……」
「嗚呼、花が消えてしまうみたいやね」
アネットが示した先に瞳を向けた咲夜は、少し残念やけど、と言葉にした。それでもこれは自分達が勝った証でもある。
薄れていく花の景色を最後に然と目に焼き付け、ふたりはそっと勝利を喜んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
竜化した妖精が相手ですか
奇妙な力を使ってくるようですが……
僕ときみならばどんな敵が相手でも乗り越えられると信じています
さぁ、行きましょう
敵の攻撃を受ける前からザッフィーロと「手をつな」ぎながら赴きましょう
ふふ、いつもは僕はきみの背中を見ていてばかりだったので
こうして手を繋いで横に並んで戦うのは新鮮ですねと笑いながら 繋いだ手をしっかりと握り締め
かれの無骨な手指を指の腹で確かめるように撫でましょう
この手があれば、かれがいれば、僕は最強なのです
「全力魔法」「範囲攻撃」「属性攻撃」をのせた
【天響アストロノミカル】にて攻撃しましょう
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
…この平原ではぷよりとした敵に埋もれ潰され宵と逸れかけた思い出があるからな
あの悪夢を繰り返さぬ様確りと『手を繋ぎ』ながら平野を進もう
敵の攻撃を『盾受けにて庇える』様に自然と前に出かけるも、宵の言の葉を聞けば表情を緩めながら宵の歩調にあわせよう
ああ。お前となら確かにお前とならば恐れる物は何もないなと、互いの意思疎通を爆発させながら強く手を握りなおそう
そう笑みと共に空中の敵へ【全能の目】を
…お前達、その姿になり本当に疑問は抱かぬのか?元の身に未練はないのか?
真実を言おうと言わずとも、動揺させられればそれで良い
宵の星が撃ち落としてくれるだろうからな
ああ、本当に。いつ見ても美しいな…
●降りそそぐ光
猟兵達が対峙するのは春告の妖精。
愛らしい見た目に似合わぬ竜の鱗や翼、爪を纏う少女は奇妙に思えた。
「竜化した妖精が相手ですか」
「ああ、不思議なものだな」
宵が遠くに見える標的を見遣ると、ザッフィーロが小さく頷く。彼らは今、そっと手を繋いでいた。その理由は以前、ぷよりとした敵に埋もれて潰され、宵とザッフィーロが逸れかけた思い出があるからだ。
あの悪夢を繰り返さぬよう、確りと手を重ねる。それがきっと今の最善策だ。
見れば、此方に気付いた妖精が宵達の元に近付いてきている。
「奇妙な力を使ってくるようですが……僕ときみならばどんな敵が相手でも乗り越えられると信じています。さぁ、行きましょう」
「そうだ、お前となら確かにお前とならば恐れる物は何もないな」
敵を迎え撃つ覚悟を決めた宵の言葉を聞き、ザッフィーロは表情を緩めた。彼の歩調に合わせて進むザッフィーロも身構える。
すると妖精が明るい声を響かせた。
「もう手を繋いでるの? じゃあずっと離れなくなっちゃえ!」
えい、と魔力を紡いだ春告の妖精はザッフィーロ達に魔法をかける。元から繋いでいた手は強い力で固定された。
しかし二人は動じたりはしない。
「……ふふ」
「どうした、宵」
「いつもは僕はきみの背中を見ていてばかりでしたからね」
「そういえばそうだったな」
「こうして手を繋いで横に並んで戦うのは新鮮です」
そう笑った宵はザッフィーロと繋いだ手をしっかりと握り締める。ザッフィーロも不思議な感覚をおぼえながら、強く手を握り直した。
宵は詠唱を紡ぎ、彼の無骨な手指を指の腹で確かめるように撫でる。
それは少しくすぐったかったが、ザッフィーロは心地よさも感じていた。
――この手があれば、かれがいれば。
「僕は最強なのです」
「むむっ、どういうこと?」
宵が宣言したことで妖精が戸惑う。しかし、次の瞬間には宵が解き放った天響の力が戦場に巡っていった。
隕石が次々と降り注ぐ。その勢いに吹き飛ばされた妖精を追い、ザッフィーロは全能の目の能力を発動させていく。
「お前達、その姿になり本当に疑問は抱かぬのか? 元の身に未練はないのか?」
「帝竜さまの力だから、わたしたちも最強なの!」
ザッフィーロの言葉に妖精が答えた。相手が真実を言おうと言わずとも、少しでも動揺させられればそれで良い。
そうすれば――ほらな、とザッフィーロは宵を見遣った。
「これで最後です」
凛と宣言した宵は更なる隕石を落としてスプリングエルフを穿っていく。ザッフィーロはその手を強く握り、宵とその力の存在を確かめるように呟いた。
「ああ、本当に。いつ見ても美しいな……」
宵の星は春告の妖精を撃ち落とし、戦いに終止符を打つ。
それと同時に二人を繋いでいた魔法も切れたが、彼らは手を離そうとはしなかった。このぬくもりと心地を手放したくはないから――。
視線を交わしあった宵とザッフィーロは微笑み、改めて互いを大切に想った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月舘・夜彦
【華禱】
紫の花びらが舞い、視界に入る髪の色も変わっていく
己の意思に関わらず本来の姿へと戻される
ただ異なるのは――膨れ上がる殺意
その中で普段と変わらず前に立つ彼
ただ違うのは、伸びた髪と背に黒い太陽があるという事
水霊『紫水』を召喚
攻撃力を重視で氷の槍で拘束されている敵を狙う
敵が仕掛けてきた際には防御力重視の水壁にて防御
複数の敵が倫太郎殿を狙った際にも防いで援護
防御した後、毒性の水飛沫を飛ばしてカウンター
倫太郎殿が落とした敵を早業の2回攻撃にて追撃
視力にて敵を観察
守りの強い部分を鎧砕きにて破壊
彼が如何なる姿になろうとも私を守る盾
この姿も彼が受け入れてくださったのですから
私もそうで在らねばなりません
篝・倫太郎
【華禱】
背に浮かんだ羅刹紋が熱い
その熱が肌を這う
強制的に引きずり出された姿
敵は全て屠る
全て、だ
拘束術使用
敵の攻撃は見切りと残像で回避
必要なら空中戦で射程圏内の敵は鎖での攻撃と同時に拘束
拘束した敵は吹き飛ばしを利用して地上に叩き落す
華焔刀でなぎ払いからの2回攻撃
すべての攻撃に鎧砕きと鎧無視攻撃を乗せて
鱗のある個所を重点的に狙う
どれかが弱点だろ
同じ対象を攻撃するのは真の姿の夜彦
そう、夜彦だ
あれは敵じゃない
あれは傷付けてはイケナイ
気を付けねぇと力も思考も暴走する
でも大丈夫、夜彦は判る
竜胆色の髪をした俺の最愛の花簪
それが判ってればいい
真の姿時
背中の羅刹紋が呪印のように広がり左目も侵食気味
普段より物静か
●揺らぐ心、抑える魂
鍵の力が巡り、望まぬ変化が齎されていく。
妖精達が生み出した春の花に混じり、夜彦の周囲に紫の花が舞った。
そして、同時に視界に入る髪の色も変わっていく。己の意思に関わらず本来の姿へと戻された夜彦は違和を感じ取っていた。
普通とは異なる部分。それは――膨れ上がる殺意が強く巡っていること。
そのとき、倫太郎にも異変が起こっていた。
背中の羅刹紋が呪印のように広がり、左目が侵食されていく。このような場面ならば何らかの声を上げるはずの倫太郎は物静かになっていた。
背に浮かんだ羅刹紋が熱い。
その熱が肌を這い、強制的に引きずり出された闘争心が倫太郎を支配した。
「敵は全て屠る」
「倫太郎殿……?」
普段の彼よりも冷たい言葉を放ったことで夜彦が倫太郎を呼ぶ。しかし彼は振り向くことなく、この変化を齎した妖精を見据えた。
「全て、だ」
倫太郎は言葉と同時に地を蹴った。
夜彦は普段と変わらず前に立つ彼の背を見つめる。ただ違うのは、伸びた髪と背に黒い太陽があるということ。
はたとした夜彦は水霊、紫水を召喚した。
同様に倫太郎も拘束術を使用して敵の攻撃は見切りと残像で回避していく。
姿かたちは違ってもいつもとやることは変わらなかった。倫太郎は前に出て行き、夜彦はそんな彼を見て氷の槍で拘束されている敵を狙う。
身体は自然に動いた。
何も言葉を交わさずとも互いが次にどう動くかも理解している。倫太郎は声を発さぬまま、勢いよく飛び上がった。
射程圏内の敵を視界に収めた彼は、鎖での攻撃と同時に妖精を更に拘束する。そして、その敵を吹き飛ばすことで地上に叩き落とした。
圧倒的な力が巡っており、妖精は反撃にすら移れないでいる。
苦痛に耐える声が聞こえたが、倫太郎も夜彦も容赦などしなかった。敵が仕掛けてきた際には水壁を展開する用意もあったが、それすら必要ないほどだ。
敵が倫太郎を狙っていると察した夜彦は援護にまわり、自ら防御した後に毒性の水飛沫を飛ばしてカウンター攻撃を行った。
そして、更に敵を早業の一閃にて斬り伏せていく。
うう、という呻き声をあげた妖精はまだ生きているようだ。鋭い視力にて敵を観察した夜彦は倫太郎に呼び掛ける。
「彼処です」
「……それか」
弱点は腕で淡く光る鱗だ。そのような胸を伝えた夜彦の声を聞き、倫太郎は華焔刀を大きく掲げた。弱っている妖精はあと一撃で死すだろう。
そして、一瞬後。
振り下ろされた刃が鱗を貫き、竜化妖精の息の根を止めた。夜彦は敵に止めを刺した倫太郎を見つめている。
彼が如何なる姿になろうとも自分を守る盾だ。
(この姿も彼が受け入れてくださったのですから……私もそうで在らねばなりません)
強く自分を律した夜彦は胸に手を当てる。
だが、振り返った倫太郎はそんな夜彦に鋭い眼差しを向けていた。
「夜彦……」
「はい、倫太郎殿」
「そうだ、夜彦だ」
彼の名を呼んだ倫太郎は暴走しそうになる心を抑える。夜彦もそれが分かっているのか、必要以上の言葉を返すことはなかった。
あれは敵じゃない。
あれは傷付けてはイケナイ。
「……っは、あっぶね」
息を吐いた倫太郎の身体が元の姿に戻っていった。気を付けねぇと、と呟いた彼と同じくして夜彦が纏っていた紫も色を失っていく。
力も思考も暴走する前になんとか踏み止まることが出来た。
「苦しくはないですか、倫太郎殿」
「大丈夫、夜彦は判る」
呼びかけられた言葉に平気だと答えた倫太郎は胸を撫でおろした。どのような姿をしていても彼は倫太郎を見守ってくれている。
竜胆色の髪をした、俺の最愛の花簪。それが判ってればいい。
倫太郎は常と変わらぬ笑みを浮かべ、夜彦に笑いかけた。そうして夜彦もまた、愛おしいひとへと穏やかな微笑みを向け返した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
春だな…戦争がなければ穏やかな季節のはずだったのだが…しかたない。
(そっとマクベスの手を繋いでいたが)
ん、マクベスと手が離せなくなったな…。
まぁ、こうやって戦うのもたまにはよいか。
戦いにくい様だったら言ってくれ。
マクベスに合わせる。
ん、弱くなるはずがないか…そうだな私もそう思うな。
とりあえずこのUCなら手も自由だしな。
このUCを使う。
UC【神銃連弾】
銃弾に【属性攻撃】炎【呪詛】を付与。
ダンスのよう…なら私も普通のダンスよりは上手く踊れたのではないか?(悪戯っぽく笑って)
マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
こういう季節は桜とか見に行きたいとこだけどな
空気読んで欲しいもんだぜ
っと、片手使えなくなっちゃったな
まぁグラナトさんが傍に居て弱くなるわけねぇけど!
空から来るってんなら、2人で撃ち落としてやろうぜ
空いてる手で魔装銃を構えてUC使用
炎【属性攻撃】【2回攻撃】【鎧無視攻撃】で
鱗なんか関係なく骨の髄まで燃やしてやるよっ!
相手の攻撃にはグラナトさんと動きをあわせて回避
避けられなさそうなのは【オーラ防御】で弾くぜ
ふふっ、こういう戦い方もたまにはいいね
ダンスしてるみたいだ♪
●竜と銃弾のダンス
「春だな……」
風に舞う花弁を見上げたグラナトは春色に彩られた空を見つめる。
この戦争がなければ穏やかな季節のはずだったのだが、帝竜戦役が始まってしまった以上は仕方がない。それゆえにこうして此処に戦いに訪れたのだとして、自分を律したグラナト。その隣にはいつものようにマクベスが居る。
「こういう季節は桜とか見に行きたいとこだけどな。空気読んで欲しいもんだぜ」
マクベスは竜化した妖精に視線を向け、不機嫌そうに尾を揺らした。
その掌はグラナトによって繋がれている。
すると其処へ、ふたりの様子を察した妖精が飛んできた。
「春の空気は読んでるよ!」
そんなことを言って無邪気に笑った春告の妖精はグラナト達に自分が持つ魔法の力をかけていった。最初は何が起こったのか不思議だったマクベスだが、繋いでいた手がどうやっても離れないことに気が付く。
「っと、片手使えなくなっちゃったな」
「ん、マクベスと手が離せなくなったな……」
どうやらこれが妖精がふたりに掛けた魔力のようだ。しかし、マクベスはさして慌てたりなどしなかった。
「まぁいいか。最初から繋いでたからな!」
「こうやって戦うのもたまにはよいか」
「寧ろこれで最強?」
「そうかもしれないな。戦いにくい様だったら言ってくれ」
マクベスに合わせる、とグラナトが優しく告げてくれたことで嬉しくなった少年は翼を大きく羽撃かせた。
「グラナトさんが傍に居て弱くなるわけねぇけど!」
「ん、弱くなるはずがないか……そうだな、私もそう思うな」
そして、意思を確かめあった彼らは妖精を倒すために動き出していく。マクベスは空いてる手で魔装銃を構えた、
「空から来るってんなら、ふたりで撃ち落としてやろうぜ」
炎、そして鎧無視の攻撃を放ったマクベス。其処にグラナトが複製していった神銃が展開され、敵に銃口が向けられた。
だが、マクベスが使った力に反応した妖精が花の世界を周囲に広げる。
「えーいっ、お花の中に閉じ込められちゃえ!」
見る間に彼らの傍に春の花が咲いていく。その花はとても可憐で愛らしかったが、対象の動きを遅くする効果を持っているものだ。
「鱗なんか関係なく骨の髄まで燃やしてやるよっ! ……って、あれ?」
「拙いな、動きが……」
マクベスは更に炎の銃弾を打とうとしたが、妖精の花の力が身体を縛る。
対策さえ出来ていれば怖い力ではないのだが、今は手を離すことが出来ない。動きが遅くなってしまったことで状況は不利に傾く。
「避けられないなら受け止めるぜ!」
「マクベス、無理はするな」
「大丈夫! オレだってグラナトさんを守るんだ」
咄嗟にオーラ防御の力を放ったマクベスは敵からの竜爪の一閃を受けた。その際も手を繋いだまま、ぎゅっと彼の掌を握りしめる。
グラナトも動けなくなっている代わりに神銃連弾に炎と呪詛を籠めていった。
竜化した敵は手強そうだ。それに硬い鱗の急所を探さなければ、この戦いは延々と続いてしまうだろう。
しかしマクベスはふたりが一緒ならば乗り越えられると信じている。
そうして少年は苦境にありながらも、楽しげに笑った。
「ふふっ、こういう戦い方もたまにはいいね。ダンスしてるみたいだ♪」
「ダンスのよう……ならば私も普通のダンスよりは上手く踊れたのではないか?」
悪戯っぽく笑い返したグラナトは片目を瞑ってみせる。
戦いはまだまだ続く。
それでも共に戦い続けるのだと心に決め、マクベスとグラナトは敵を強く見据えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ハーモニア・ミルクティー
【wiz】
春の妖精ね?
微妙にわたしとキャラが被っているのは、気のせいかしら……
まあ良いわ
早く倒して、皆で帝竜への道を切り開きましょう!
春のお花?
もちろん、リラよ!
UCで変身して、ハープボウの【Astraea】を構えて戦うわ
空からの攻撃は、「スライディング」で躱したり、「乱れ撃ち」で攻撃させる隙を与えないようにするわ
「情報収集」で、敵の行動パターンを推測しつつ戦うわよ
隙を突けたら、「目立たない」ように接近して、「先制攻撃」の「零距離射撃」で竜の鱗を攻撃ね!
●流星と海の音色
皆殺しの平野に集う妖精達。
淡い彩と花を纏う彼女らを瞳に映し、ハーモニアはぱちぱちと瞼を瞬かせた。
「春の妖精ね?」
「春を告げるのがわたしたちのお仕事!」
するとハーモニアの声を聞いた妖精がふわふわと近寄ってくる。ハーモニアは自分と彼女が戦うことになるのだと察し、そっと身構えた。
「微妙にわたしとキャラが被っているのは、気のせいかしら……」
「あら、あなたには格好良い竜の爪も鱗もないわ!」
「たしかにそうね。まあ良いわ」
対する妖精は竜化の風の効果で得たドラゴンの部位を見せる。背には屈強さを感じさせる翼が生えており、可愛らしいはずの指先は鋭い爪に変貌していた。
その姿はアンバランスで奇妙だ。
春を告げるようには思えないと感じたハーモニアは、得物を握って強く意気込む。
「早く倒して、皆で帝竜への道を切り開きましょう!」
「そうはさせないんだから!」
片手を掲げた春告の妖精は周囲に花の世界を展開してくる。視界一面が薄紫のライラックが咲き乱れる光景になった。まあ、と口にして双眸を細めたハーモニアはその景色が綺麗だと感じる。
「こんな戦場なら楽しんで戦えそうね」
「ふふ、気に入ってくれた?」
ハーモニアと妖精の視線が交差する。互いに花が好きだということも同じ。対抗心と同時に僅かな親近感もあったが、相手が敵である以上は容赦などしない。
既にハーモニアの身体は翅の生えた人間女性へと変化しており、力も増している。
星空と海をあしらったハープボウを構えた彼女はひといきに矢を放つ。戦場を翔ける矢は流星の如く、鳴り響いた音は海鳴りめいていた。
されど竜化した妖精の鱗は固く、矢も弾き返されてしまう。
そして、妖精は空から一気に滑空することで勢いよく爪を振るった。
(あの鱗のどこかに弱点があるはずなんだけど……)
スライディングで攻撃を躱したハーモニアは巡る攻防の中で情報収集を試みる。妖精に追われ、時には追い掛け返しながら戦う彼女の瞳は真剣だ。
そうして乱れ撃つ矢が一瞬、竜化妖精の腕の一部に当たった。
「痛いっ!」
「そこが急所ね!」
「しまった――」
思わず痛みに反応してしまった妖精が隙を見せる。ハープボウを構え直したハーモニアはそれこそが弱点だと察し、避けられぬほどの乱れ撃ちを放った。
慌てふためいた妖精だが、もう何もかもが遅い。
腕の鱗を貫かれたスプリングエルフはそのまま地に落ちて戦う力を失った。それと同時に周囲のライラックも消えていき、ハーモニアは勝利したのだと感じる。
「これで道が開けたかしら。上々ね!」
この先はまだ長い。
それでもこうして果敢に戦っていけば必ず帝竜にも辿り着けると信じて、ハーモニアは遥かな荒野の先を見つめた。
大成功
🔵🔵🔵
フィッダ・ヨクセム
真の姿:3メートル近い大きさのハイエナ
理性なんて置き去りに暴走の影響で苛々しながら
怒りと妙に楽しい気分をごちゃまぜにゲラゲラ馬鹿みたいに笑って
この姿でも言語能力は失われていないので『敬語で』罵詈雑言を言い募る
「ふわふわ良い匂いですね、鼻が曲がりそうで不快です」
急所への対処はフリスビーをキャッチする犬みたいに
機敏に動き回り飛び上がって、強靭な顎に捕らえて噛み砕こうかと
「その悲鳴、耳障りです」
協力は必要ならする
ただし、誰に対しても体に触れる事を許さない
騎乗45以上ある友人以外、誰も騎乗なんて許さない
手を出されるとがるるぐるると喉を鳴らしながら
腹の中の炎の精霊イフリートを無茶苦茶吹きこぼして威嚇する
●焔の獣と逆鱗
皆殺しの平野を獣が駆けていく。
花を纏い、鍵で目覚めをひらいた春告の妖精。竜化した少女妖精を容赦なく追い掛けていく獣。三メートルはあるかというハイエナ――その正体はフィッダだ。
「やめてやめて、こないでよう!」
春告の妖精は竜の翼を広げて逃げ惑っていた。
自分で鍵を使ってフィッダの目覚めを促したというのにこの有様だ。フィッダは理性など置き去りにして、与えられた暴走の力のままに行動していた。
その影響で苛立つ気持ちを隠さぬまま、怒りと妙に楽しい気分がまぜこぜになってゲラゲラと高らかに笑っている。
「ふわふわ良い匂いですね、鼻が曲がりそうで不快です」
きっと後から思い返せば自分でも馬鹿みたいだと思うほどに怒って笑っていた。
醜い翼ですね。
鱗が不釣り合いで仕方ありません。
そんな風に、妖精に対しての罵倒を敬語で言い募るフィッダ。それは不思議な光景であり、妖精は更に怯えてしまった。
だが、逃げていただけの春告の妖精も戦うことを決意する。
「えーい!」
鍵を振り回した妖精はフィッダの頭を殴り抜こうと迫ってきた。しかし真の姿の力を得ている彼がそれを避けられないはずがない。
「そんな動きで当たると思っているんですか。情けないですね」
罵詈雑言も抑えぬままフィッダは牙を剥く。
そして、まるでフリスビーをキャッチする犬のように機敏に動き回り、ひといきに飛び上がった。空を舞う妖精を捉えたフィッダは強靭な顎で以て相手を捕らえ、鋭い牙で鱗ごと噛み砕く。
「いやあああっ!」
「その悲鳴、耳障りです」
「ううっ……離して、離してよう!」
じたばたと暴れる妖精がフィッダの毛並みに触れようとした。だが、それは彼の逆鱗に触れることだったらしく、威嚇の唸り声があがる。
がるる、ぐるると喉を鳴らしたフィッダは更に牙を妖精に食い込ませる。
更に腹の中の炎の精霊イフリートを無茶苦茶に吹き零したフィッダはもう止まらない。止められないと示したほうが正しいかもしれない。
そして――。
妖精を噛み砕いたフィッダはその命を奪い取った。勝利を得たフィッダは暫し、炎を撒き散らしながら戦場を巡ることになる。
その暴走が収まるまで、赤い焔の軌跡を描く獣は駆け続けていく。
大成功
🔵🔵🔵
ルベル・ノウフィル
白髪紫目
狼さんのお耳になる前はこういうお耳だったのです
無意識に念動力で周囲に穴を作りながら
おはようございます、可憐な妖精さん
貴方と過ごせる素敵な朝ですね
降りてきて?
墨染も先程からソワソワしておりますよ
力の加減がうまくいきませんね
それに、なんだか乱暴に妖刀を奮いたい気分
墨染も荒ぶっていますね
彩花飛ばし地上にご招待
皆で好きに暴れる日にしましょう、お誘いします
急所当てクイズはヒントを出し合って
いけない、少し乱暴でしたでしょうか
でも、貴方もちょっぴり攻撃的で敵意がチラついていますからお互い様
ね、僕の死霊達可愛いでしょう
必死に噛み付いておりますな
僕も噛み付いてよろしい?
そこ、穴がありますよ、お気をつけて
●死霊と墓穴
花の舞う荒野に妖精が飛び交う。
戯れに、無邪気に手にしている鍵を振るう春告の妖精。その軌跡から魔力が生まれたかと思うと春の目覚めが促されていく。
「おはようございます、可憐な妖精さん」
ルベルは瞳を幾度か瞬き、春告の少女に穏やかな言葉を向ける。
されど彼の眼や髪の色は普段宿すものとは違う彩を纏っていた。それだけではなく、獣耳もエルフめいた形に変貌して――否、元の在り方に戻っている。
白髪に紫の眸。
人狼病を患う前のルベルはこのような姿をしていた。妖精の魔力によって真の姿となったルベルは現在、無意識に念動力で周囲に穴を作っている。
「ふふ、それがあなたの本当の姿なのね」
「ええ。貴方と過ごせる素敵な朝ですね。降りてきて?」
「いやよ、せっかくこの翼で飛べるようになったのよ」
ルベルが呼び掛けると、妖精は竜化した翼をはためかせてみせた。そうですか、と軽く肩を落として見せたルベルは妖気を纏った黒刀を示す。
「墨染も先程からソワソワしておりますよ」
ほら、と刃を振れば瞬時にルベルの姿が元あった場所から消えた。一瞬で空中にいた妖精の元に跳躍したルベルは一閃を見舞う。
「きゃあ!」
一刀のもとに斬り伏せられた妖精が悲鳴を上げた。地に落ちた相手が、あっという間に事切れてしまったことを確かめたルベルは不思議そうに首を傾げる。
「力の加減がうまくいきませんね。それに……」
なんだか乱暴に妖刀を奮いたい気分だ。
手にしている墨染も荒ぶっていて未だ斬り足りないと叫んでいるようだ。ルベルは落ちた妖精から視線を外すと、別の妖精を見つけて駆け出した。
彩花を飛ばして空を舞う春告の娘を地上に招く。口許に浮かんだ笑みには徐々に静かな狂気が宿っていく。
「あなた……何だか怖いわ」
「今日は皆で好きに暴れる日にしましょう」
「いやよ! こないで!」
「いけない、少しお誘いが乱暴でしたでしょうか」
戦う準備の整っていなかった二体目の妖精は逃げ惑う。しかし今のルベルにはそれすら追い掛けっこのように思えていた。
呼び起こした死霊も妖精を追い掛け、禍々しい気を放っている。
「ね、僕の死霊達は可愛いでしょう」
「ひ……っ」
泣きそうな妖精に対し、死霊も必死に噛み付いている。ルベルはにこにこと、けれども静かな眼差しを敵に差し向けた。
「僕も噛み付いてよろしい?」
問いかければ、ぶんぶんと首を振って拒否する。妖精は慌てて地上に下りて死霊を避けたが、ルベルは冷静に地面を示す。
「そこ、穴がありますよ、お気をつけて」
「え……?」
妖精は驚く時間も与えられず、ルベルが掘った穴に落下した。其処に死霊達が群がり、断末魔めいた悲鳴が響き渡る。
かの穴は墓代わり。むしろ墓穴として用意されていたのかもしれない。妖精に命の終わりが訪れたことで、徐々にルベルの姿も普段の人狼のそれへと変わっていく。
「……あれ、僕は――」
先程まで昂ぶっていた気持ちがすっかり冷えていた。
どうやら暴走させられていたようだが、二体も敵を倒せたゆえに問題はない。
「勝ったのですから良いことにしましょう」
そうして、狼尾を揺らしたルベルは荒野の向こう側に目を向ける。此処から続いていく群竜大陸の景色を眺めた少年は、墨染を鞘に仕舞い込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
千桜・エリシャ
【桜蓮】
なんだかおかしな姿をした妖精さんが沢山
ふふ、そんなお洒落をせずとも
そのままが一番可愛らしいというのに、ね?
あら、手が…離れませんわね?
魅蓮さんのぬくもりが伝わってきて心地よいこと
嘘ではなくてよ?
では、このまま私とひとつ
舞を踊っていただけませんこと?
ダンスのステップのように二人息を合わせて高速移動
妖精さんの死角からや隙を見て斬撃を放って
好機と見たら御首をいただきましょうか
爆撃は見切って避けるか
回避不能ならば花時雨を開いてオーラ防御を
今度は私がリードしますから合わせてくださいまし
ふふ、あなたとならば戦場ごと魅了してしまえそう
私たちとの“死の舞踏”
どうかその首が落ちるまで堪能してくださいまし
白寂・魅蓮
【桜蓮】
随分と荒々しい妖精さんがいたものだね
春を告げるにはその竜の飾りは華やかさが足りないと思うけど
あれ、手が離れない?エリシャさんと手を繋いだままだ
本当にそう思ってる?思わせぶりな言葉を使う君の事だからね
まぁでも、このまま一緒に踊るのも悪くなさそうだ
リードはするからしっかりついてきて
ステップを合わせながら高速移動を行い、死角を狙う妖精を扇子で斬り飛ばそう
敵の攻撃は避けに集中して避けれない時はエリシャさんの防御に任せる
エリシャさんが攻撃に専念する間は足取りを合わせてバランスを取ってあげよう
いつもは一人舞台が多いけど、二人で踊るのも悪くない
君達には戦いが終わるまで…僕達の舞を堪能してもらおうか
●舞い躍るは貳つ花
愛らしい少女めいた姿をした妖精が飛び交う荒野。
幻想の花が咲き乱れる光景はとても美しい――とは、呼べなかった。何故なら、可愛い春告の妖精には不釣り合いな竜の翼や鱗が生えているからだ。
「なんだかおかしな姿をした妖精さんが沢山」
「随分と荒々しい妖精さんがいたものだね」
エリシャと魅蓮は竜化した春告の妖精を瞳に映し、それぞれに双眸を緩く細めた。
荒野に吹き抜けた風はオブリビオン達の姿を変えてしまっている。春を告げるには、その竜の飾りは華やかさが足りない。
そんな風に思うのだと魅蓮が語れば、エリシャは口許に手を添えて笑う。
「ふふ、そんなお洒落をせずともそのままが一番可愛らしいというのに、ね?」
「可愛いよりも強い方がすてきよ!」
するとエリシャ達の声を聞きつけた妖精が竜翼を羽撃かせながらやってきた。春告の妖精は、その身に不釣り合いな竜の尾を揺らしながら魔力を紡ぐ。
「あなたたちも、仲良しになっちゃえ!」
その言葉と共にエリシャと魅蓮の間に不思議な力が巡った。隣り合って立っていたふたりの掌が触れあい、自然に繋がれる。
それは彼女達が意識する暇もないあっという間のことだった。
「あら、手が……離れませんわね?」
「あれ、手が離れない?」
ふたりは同時に同じ疑問を零し、どうやっても離れない手を軽く持ち上げた。エリシャと手を繋いだままの魅蓮は不思議そうな視線を向ける。
淡く微笑んだエリシャは彼に眼差しを向け、自分から手を握り返した。
「魅蓮さんのぬくもりが伝わってきて心地よいこと」
「本当にそう思ってる?」
思わせぶりな言葉と仕草。それがエリシャの常だと知っている魅蓮は軽く肩を竦めてみせた。魅蓮も居心地が悪いというわけではなく、手を繋いでいて別段困りはしない。
「嘘ではなくてよ?」
「それならいいよ。まぁでも、このまま一緒に踊るのも悪くなさそうだ」
「では、このまま私とひとつ、舞を踊っていただけませんこと?」
重なる視線と言葉。
魅蓮もそっと手を握り直せば、エリシャが嫋やかに問いかける。うん、と頷いた魅蓮は申し出を受け入れ、自分達の様子を眺めている妖精に目を向けた。どうやら妖精は手を繋がせた相手がどんな反応を見せるかが楽しみでならないらしい。
「リードはするからしっかりついてきて」
魅蓮はエリシャに呼びかけ、軽く地を蹴った。
悪戯な妖精には少しばかりのお仕置きが必要だ。首肯したエリシャはふたりで共にステップを刻むように駆けていく。
片手には魅蓮の手を。そして、もう片手には桜花を模す鍔の大太刀を。
魅蓮は四葩扇を揺らし、斬撃を放つエリシャと同時に動く。刃が閃けば振るわれた扇子で妖精が斬り飛ばされる。
その動きは手を繋いでいるという不利さを感じさせないほどに流麗だ。
魅蓮はさりげなくエリシャと歩幅を合わせ、先へ誘うように軽やかに駆けていく。導くようなステップだと感じたエリシャは戦いやすさを感じながら次の一手に移る。
「――さあ、御首を、」
「頂戴しようか」
エリシャの言葉を次いだ魅蓮は、彼女と共に更なる斬撃を放った。
対する竜化妖精も鋭い爪を振り上げてくる。はたとしたエリシャは魅蓮の手を引き、回避に動いていく。
「今度は私がリードしますから合わせてくださいまし」
「それもまた良いね」
口端をあげた魅蓮はエリシャが進む方へと歩を進め、竜爪の一閃を避けた。花時雨を開いたエリシャは追撃の尾の一撃を弾き返す。
「ふふ、あなたとならば戦場ごと魅了してしまえそう」
「こうやって二人で踊るのも悪くないかな」
エリシャが花のように微笑めば、魅蓮は紫陽花色の左目を眇めてみせた。
いつもは一人舞台が多い。けれども今は一緒に踊ってくれる彼女が居る。エリシャが斬り込む姿を間近で見られるのも、今の魅蓮の特権だ。
そして、エリシャは敵の首を狙って墨染を大きく振りあげた。
「これが、あなたと私たちとの“死の舞踏”――」
「君達には戦いが終わるまで……僕達の舞を堪能してもらおうか」
魅蓮も静かに死の宣告を伝え、紫陽花が描かれた舞扇を鋭く薙いだ。その瞬間、妖精が声なき悲鳴をあげる。
「……っ!」
「どうかその首が落ちるまで堪能してくださいまし」
エリシャがそう告げた次の瞬間、春告の妖精の首が荒野の最中に落ちた。
それによってふたりの間で繋がっていた魔力も途切れる。されど魅蓮もエリシャも、暫しその手を離すことはなく――。
ちいさなぬくもりを感じながら、ふたりは花舞う荒野の景色を見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
菱川・彌三八
雲の字/f22865
半信半疑だったが、何か爆ぜたと思ったら此れよ
…今は考えんなァやめる
幸い雲の字の機転で、動きァ如何とでもなりそうだ
空いた手に持つ筆で、此度纏うは韋駄天の梵字
一先ず避けに特化して素早く動く
離しゃしめえが、此の背に確と掴まっていな
急所なんざ俺じゃあ皆目見当もつきやがらねえが、お前ェさん何か知ってるかい
いやさ頼もしい限り
為れば雲の字の力で天地を駆け乍ら、軌跡に置いた剣を弩の様に放つ
此奴ァ牽制
動きを絞りゃ捕まえ易かろう
さァ、任せたぜ
刹那で構やしねえ、止めちまえば的が小さくとも当てられる
硬ェな百も承知
故に一本、鑿で穿つかの如くもう一本
ちいとおいたが過ぎたな
その力、もちっとマシに使いな
雨野・雲珠
菱川さんと/f12195
うわっ…!
咄嗟に左手を左手で繋ぎます。
このつなぎ方なら後ろに回り込める…
…というわけで、失礼します(よじよじ)
ともあれ、上をとられたままは分が悪いですね。
おんぶおばけの状態で恐縮ですが【UC】発動、
【羽音】に着替え『空中戦』強化。
『空中浮遊』と併せ、地の軛からひととき解放を。
重量軽減に加え、菱川さんの滞空時間の補助を。
は、はい!
一般的には、竜の急所は顎下と聞きます。
逆むきに生えた鱗があるとか、
そこだけ鱗がなくて攻撃が通るとか。
ですがこの小柄な相手を捕まえるには…
!なるほど。
剣の放射で動きが鈍った瞬間を狙って
【枝絡み】を伸ばします。捕まえた!
……菱川さん、お願いします!
●韋駄天に雲
妖精が飛び回る荒野で何かが爆ぜた。
そのことによって奇妙な魔力が流れ、其処に居たふたりの間に巡っていく。
「うわっ……!」
思わず声を上げた雲珠は咄嗟に左手で彌三八の左手を掴む。はたとした彌三八はこれが妖精の力なのだと察し、繋がれた手を見遣った。
「半信半疑だったが、此れが……なァ」
「やっぱり手が離れませんね。何の目的があってこんなことを」
雲珠は人の手と手を繋がせる妖精の能力を思い、肩を竦めた。彌三八は特に何も気にしていない様子で少年に笑いかける。
「……今は考えんなァやめるか」
幸いにも雲珠の機転で右と左の手を繋ぐよりも動きやすくなっている。この繋ぎ方なら後ろに回り込めるのだ。
「そうですね。というわけで、失礼します」
雲珠は彌三八の背によじ登ることでおぶわれる形になった。彌三八はその方が都合も良いとして、空いた手に筆を持つ。
「離しゃしめえが、此の背に確と掴まっていな」
「お世話になります。ともあれ、上をとられたままは分が悪いですね」
筆で韋駄天の梵字を描けば、彌三八の身に新たな力が巡る。雲珠ひとりくらいならば背負って動くには十分な力だ。
ふたりの様子を見ていた妖精はくすくすと笑っている。
「なあに、それ。へんなの!」
妖精はどうやら手を繋ぐ者達を眺めて楽しんでいるようだ。しかし携えた爪を振りあげ、彌三八達を攻撃しようともしている。
一先ず、避けに特化して素早く動くべきだと察した彌三八は地を蹴った。
多少の揺れが雲珠に伝わったが、居心地は悪くない。おんぶおばけみたいだと思って恐縮だった雲珠だが、戸惑うことなく己の力を発動させる。
そうして羽音の衣を纏った雲珠は彌三八に自らの能力を伝播させた。
「これでどうでしょうか」
「こいつぁ悪くねェな」
地の軛からひととき解放されたふたりは彌三八が軽く地面を蹴り上げるだけで妖精の居る空に飛び上がれる力を得ていた。
空中を駆けるふたり。翼を広げて飛ぶ妖精。
双方の攻防は暫し巡り、爪と独鈷柄付剣が衝突する鋭い音が戦場に響いた。
「して、雲の字」
「は、はい!」
「急所なんざ俺じゃあ皆目見当もつきやがらねえが、お前ェさん何か知ってるかい」
「竜の急所は顎下と聞きます。逆むきに生えた鱗があるとか、そこだけ鱗がなくて攻撃が通るとか――」
一般的な話を思い出した雲珠は敵を見遣る。
天地を駆け乍ら、軌跡に置いた剣を弩の様に放つ彌三八はそれで十分だと笑う。
「いやさ頼もしい限り」
「ですがこの小柄な相手を捕まえるには……」
「動きを絞りゃ捕まえ易かろう」
「! なるほど」
ひとりでは諦めてしまうかもしれない状況でも、ふたりならば突破できる。そう感じた雲珠は彌三八の手を少しだけ強く握った。
その心地は妙によく、彌三八は更に口許を緩めた。
「さァ、任せたぜ」
刹那で構わない。一瞬でも止めてしまえば的が小さくとも当てられる。彼の呼びかけに頷いた雲珠は意のままに伸び、蠢く桜の枝を解き放った。
「なになに、なにこれ!?」
「捕まえた! ……菱川さん、お願いします!」
「任された。硬ェな百も承知サ」
故に一本、鑿で穿つかの如くもう一本。独鈷の刃を投げ放てば竜の鱗が貫かれる。
わあ、という声を上げた春告の妖精は見る間に地に落ちた。見事に弱点を突くことができたようだ。軽く着地をした彌三八は剣の切っ先を妖精に差し向ける。
「ちいとおいたが過ぎたな。その力、もちっとマシに使いな」
「……さようなら」
そして、雲珠が告げた別れの言葉が紡がれた刹那。
刃は妖精の喉元を真っ直ぐに貫き、その存在は骸の海に還されていった。やがてふたりの手は離れ、魔力の拘束もなくなっていく。
「良かった、離れましたね」
「雲の字、おぶわれたままで居る心算かい?」
「あっ! すみません、下ります!」
安堵する雲珠が背に乗ったままだったので、彌三八は揶揄い気味に双眸を細める。はっとした少年は慌てて背から退き、ありがとうございました、と頭を下げた。
そんな彼に視線を向けた彌三八は可笑しそうに口端をあげる。
こうして、妖精との戦いは静かな終わりを迎えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
砂羽風・きよ
【秋】
こんなもん、俺の屋台で遅くさせて
綾華が攻撃すりゃ勝てるだろ
うおおおお?!なんだなんだ
身体が勝手に綾華の所へ向かい
ガシッと手を繋ぐ
…?
いやいやいや!わざとじゃねーよ?!
(やべ、少し汗ばんできた)
くそ、綾華わりぃ!我慢してくれ!
下準備しといた肉を鉄板へ
タレに漬けといたから味付けしなくていいから楽だよなぁ
ほい、綾華の分
…!!(手を繋いでるから食いずらいのか)
あ、綾華……
肉を箸で持ち彼の口元へ
アチー!!なんで返すんだよっ
あ、敵の動き遅くなったぞ!いけー!綾華!
よっしゃ、俺も戦うぜ!
デッキブラシを敵に向かって思いっきり投げて
うお!?綾華大丈夫か?
咄嗟に手を引っ張る
――ぐぇっ
おいおい!おかしいだろっ
浮世・綾華
【秋】
うまく行くといいケドねえ
っつか、お前はそれしか出来んの――
っは?おいきよし
何してんだ放せ
(いや、つーか俺も握ってるな…
おい手しめってんだケド…
あー、やだよーやだよー(顔を抑える
なんでこんな目に…
とりあえずきよの料理を待つことにした
幸い片手は空いてるからUCで鍵刀を操って攻撃を食い止める
出来た?
はよ
(俺の分もあんのかよ
……(えっ何その気づいたみたいな顔
向けられる肉に無の顔をして箸を持つ手を握るときよしの口へ
いや、やだったから…
でも食わんと俺も遅くなんだっけ
ひょいと肉一口
まあうまいケドさあ
鍵刀を操って攻撃しようと
あーおい、引っ張んな引っ張んな
うわっ(こけるっ
危なかったー(きよが下敷きに
なに?
●今日も屋台は通常営業
強い風が吹き抜け、竜と化した妖精が荒野の空を飛んでいく。
春告の妖精は竜翼を広げ、この戦場に現れた猟兵達を次々と迎え撃っているようだ。既に始まっている戦いの光景を見渡し、きよは拳を握った。
「こんなもん、俺の屋台で遅くさせておいて綾華が攻撃すりゃ勝てるだろ」
「うまく行くといいケドねえ」
「いつも通りにやりゃ問題ねえって!」
意気込んだきよが屋台の準備を始めていく。綾華は軽く肩を竦め、スクラップ製の屋台が出来上がっていく様子を見遣った。
「っつか、お前はそれしか出来んの――」
「うおおおお?!」
その途中、綾華の言葉を遮る勢いできよの悲鳴があがる。なんだなんだ、と戸惑いを隠せないきよは綾華の元に駆けてきた。
「っは? おいきよし」
「??? え、あれ?」
そして、きよは綾華の手を取ったかと思うとしっかりと握る。それはそれはもうぎゅっと。いわゆる恋人繋ぎと呼ばれる重ね方だ。
「何してんだ放せ」
「違うんだよ、身体が勝手に! わざとじゃねーよ?!」
「……何で絡めてんだよ、手」
いや、つーか俺も握ってるけど。
綾華はそんな思いを押し隠しながら、あたふたするきよの手を振り解こうとした。
しかし、手は離れない。指先を絡めてしまっているのも、どうしてかそうしなければならない気がしてしまっているからだ。
「おい、手しめってんだケド……」
「いやいやいや! 焦ったらこうなるだろ?!」
嫌がる綾華と慌てふためくきよ。
そんなふたりの元に、この状況を作り出した張本人が現れた。春告の妖精達だ。
「わあ、とっても仲良しさんね!」
妖精は遠くからきよ達に春の魔法をかけていたらしい。今は恋の季節。心の高鳴りが爆発となって繋がれるのだと語る彼女は実に楽しそうだ。
この有り得ない展開の現況を知った綾華は空いている片手で顔を抑える。
「あー、やだよーやだよー」
「泣いてるのか綾華! そんなに嫌か?!」
「なんでこんな目に……」
泣いてはいねえよ、と呟いた綾華はわざとらしく項垂れていた。敵の魔法とはいえど友人がこれほど落胆している場面を見てしまっては、きよも落ち着かなかい。
何とかして敵を倒さねばならないとして、きよは屋台へ向かう。
「くそ、綾華わりぃ! 我慢してくれ!」
「仕方ねーな」
きよは下準備をしておいた肉を鉄板に並べる。タレに漬けておいたので味付をしなくていいのは幸いだった。綾華は片手に鍵刀を構えて妖精の出方を窺ったが、敵はきよの行動をじっと見ている。
「ねえ、それなあに?」
「ああ、肉だ。興味があるのか?」
「うん!」
(これ、妖精も屋台楽しみに来てるな……)
屋台越しにきよと妖精が交わす言葉を聞き、綾華は嫌な予感を覚えた。しかし自分達の周囲だけは戦闘の雰囲気が微塵も感じられない。
これはこれで良いかと考えた綾華は肉が焼けていく香ばしい匂いに意識を向けた。
「出来た?」
「ほい、綾華の分」
「俺の分もあんのかよ」
きよは綾華に焼けた肉を差し出したが、なかなか受け取ってはくれない。はっとしたきよは手を繋いでるから食べ辛いのだと判断した。
「あ、綾華……」
(えっ何その気づいたみたいな顔)
「あーん」
「…………」
向けられる肉に無の顔をした綾華。箸を持つきよの手を握り、肉を彼の口元へ移動させた。熱々の肉を押し込まれそうになったきよは驚愕の表情を浮かべた。熱い。
「アチー!! なんで返すんだよっ」
「いや、やだったから」
何が悲しくてきよしに食べさせて貰わなければならないのか。百歩譲って可愛い女の子なら話が別だが、相手はきよだ。綾華はとても深い溜息をつき、自分で箸を持って一口だけ肉を味わった。
「まあうまいケドさあ」
「へー、おいしいのね!」
すると妖精が興味津々に綾華達を覗き込む。きよはいつもの屋台の調子で妖精に笑いかけ、焼けた肉を差し出す。
「お前も食うか?」
「何で勧めてんだきよし」
先程に浮かんだ懸念の通り、このままでは妖精も屋台を楽しんでしまう。綾華は少しばかり慌てたが、妖精の方が先に首を振った。
「お肉きらーい」
「好き嫌いはよくねぇ……って、あ。この子の動きが遅くなったぞ!」
「何この展開」
なんとか危機は切り抜けたが、他と同じような戦いの雰囲気はない。全くない。綾華は調子が狂わされてしまっていたが、鍵刀を操って竜化妖精を貫こうと狙う。
「いけー! 綾華!」
「とりあえず、あの光ってる鱗が急所な」
「よっしゃ、俺も戦うぜ!」
綾華は既に敵の弱点を見つけていた。すげー、と感心したきよはデッキブラシを敵に向かって思いっきり投げ――勢い余って綾華の手を引いてしまう。
「あーおい、引っ張んな引っ張んな」
「うお!? 綾華大丈夫か?」
「きゃーっ!?」
「うわっ」
よろめいて倒れそうになった綾華の手を咄嗟に引っ張ったきよ。何故かそこに交じる春告の妖精の悲痛な悲鳴。
様々なことが同時に起こったが、どうやら鍵刀とデッキブラシが敵の弱点にクリティカルヒットしたようだ。可哀想に。
同時にきよが倒れ、ぐぇっという声が響いた。
「危なかったー」
きよを下敷きにして転倒を避けた綾華はその背に座っている。妖精が倒れたことでふたりの手も離れており、一応は一件落着といったところだ。
「おいおい! おかしいだろっ」
「なに?」
「重い! 重いぞ綾華!」
「……」
きよの抗議も虚しく、綾華はわざと暫し背中に座っていた。此度の戦いは何だか妙に疲れたのだから仕方がない。
賑やかに喚くきよ。彼を完全無視する綾華。
辺りに漂うのは屋台の鉄板の上で焼けた肉の良い香り。
そんなこんなで、彼らの破茶滅茶な日々の一幕は今日も無事に過ぎていく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
春告のはずが、とんだおてんばさんになっとるようじゃね
ああなってしもたら仕方ないの
倒してしまお
虚、手ぇ貸して
お? なんかやる気じゃね。全部薙ぎ払うかのよに茨ごと爪伸ばして攻撃かけよ
せーちゃんは狙ったらだめじゃよ
まぁ狙っても避けるじゃろが
……なんで手ぇ繋いどるん?
せーちゃんとと繋ぐんは初めてじゃなぁ
えっ? 初めてではない? …記憶にないんじゃが…
まぁええか
左手と左手で、手を繋ぐというより握手しておるような
じゃが、これはこれで死角も補えてええの
こっちはわしが守ろう、そっちは任せたんじゃよ
くるくる回るように遊んで戦うのは楽しい
時折悪戯するよにひっぱって驚かせてやろうかの!
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
春告の妖精か
悪戯が過ぎるのはいただけないな
ああ、俺の桜花弁で還るべき場所へと送ってやろう
敵が竜化しているのならば
俺は零れ桜咲かせ強化を
虚の爪と遊ぶのも楽しそうだが、今は妖精の相手だな(楽し気に笑みつつ
この様に手を繋ぐのは初めてではないが?
らんらんが酒に酔い歩けなくなった際、
何度も手を引いた事があっただろう?(くすりと
確かにこれでは握手の様だが
まぁ死角も補い合えるし、互いの動きはよく分かっているからな
何も問題はない
くるくる回り戦うのも、友と舞う様でなかなか楽しい
それにらんらんの事だ、きっと何か仕掛けてくるだろう
戦に支障ない程度に、逆手に取り、急に逆に回ったりしてみようか
●繋いだ心地と春の彩
風が流れ、花が舞い躍っていく。
荒野の景色にあらわれた妖精は無邪気に空を飛び交っている。しかし、その光景は平穏なものではなかった。
「春告のはずが、とんだおてんばさんになっとるようじゃね」
嵐吾は春を告げるはずの妖精を振り仰ぎ、竜化してしまった姿を確かめる。
スプリングエルフ達は気儘に竜の翼を広げ、この地に訪れた猟兵達に悪戯の魔法や暴走の魔力を振りまいているようだ。
「悪戯が過ぎるのはいただけないな」
「ああなってしもたら仕方ないの」
清史郎が口許に手を当てれば、嵐吾も軽く首を横に振る。倒してしまお、と彼が口にしたことで清史郎は深く頷いた。
「ああ、俺の桜花弁で還るべき場所へと送ってやろう」
そして、ふたりはそれぞれに構える。
妖精はまだ此方に気付いていない。相手よりも先に動くことができると察した清史郎は零れ桜を咲かせ、自らに力を巡らせていく。
嵐吾は己の傍に虚の主を呼び、前方に見える春告の妖精に狙いを定めた。
「虚、手ぇ貸して」
するとその爪が勢いよく薙がれ、周囲に衝撃波めいた風が走る。
虚の様子が格好良く思えた清史郎は双眸を細めた。楽し気に笑んだ彼の傍にも疾風が駆け抜け、その髪を撫でる。
「虚の爪と遊ぶのも楽しそうだが、今は妖精の相手だな」
「お? 虚、なんかやる気じゃね」
せーちゃんは狙ったらだめじゃよ、と告げた嵐吾も片目を眇めた。たとえ虚の力が清史郎に至ったとしても彼ならば避けてくれる。揺るぎない信頼を抱いた嵐吾はすべてを薙ぎ払うかのように茨を伸ばす虚を見据えた。
だが、ふたりに気が付いた妖精も竜の翼を広げて近付いてくる。
「何するのよ! 痛かったんだから、もう!」
怒っている様子の妖精は両手を広げ、小さな爆発の嵐を巻き起こした。それは彼女達が持つ春の魔法のひとつ。
恋の季節を導く、何とも不思議な魔力の波紋だ。
「……おや」
「なんで手ぇ繋いどるん?」
爆発は何とか凌いだが、清史郎と嵐吾は気付けば手を重ね合っていた。どうしてこうなったのかは分からないが、このように繋がなければならないという思いが胸の裡に宿ってしまっていた。
されど、ふたりは慌てることなく今の状況を受け入れる。
「せーちゃんと手を繋ぐんは初めてじゃなぁ」
「この様に手を繋ぐのは初めてではないが?」
「えっ?」
語られたことに心当たりのない嵐吾は清史郎に首を傾げてみせた。すると彼はくすりと笑って、以前のことを話す。
「らんらんが酒に酔い歩けなくなった際、何度も手を引いた事があっただろう?」
「記憶にないんじゃが……まぁええか」
「あらあら、おふたりは元からとても仲良しだったのね!」
彼らの様子を眺めていた妖精は楽しげだ。どうやら彼女達は手を繋がせた相手の様子を観察するのが好きらしい。
とはいっても、彼らが繋いだのは左手と左手。
手を繋ぐというよりも握手をしている形なので戦いに関しての支障は少ない。
「これはこれで死角も補えてええの」
「そうだな、互いの動きはよく分かっているからな」
「こっちはわしが守ろう、そっちは任せたんじゃよ」
手を繋がされる前と変わらず息のあった動きで以て妖精に対峙するふたり。虚が爪を振るえば、其処に合わせて清史郎が片手で蒼桜綴の刃を振るう。
対する妖精は竜の爪を振るいあげ、滑空することで彼らを切り裂こうとした。
「せーちゃん!」
「ああ、らんらん」
嵐吾が危機を報せ、応じた清史郎は手を引かれるままに歩を進める。軽い足取りでくるりと踏んで回って戦えば楽しい気持ちが湧いてきた。
「ふふ。あなたたち、とっても素敵よ!」
妖精も明るく笑いながら、ふたりと躍るように竜の力を振るった。真剣な戦いではあるが両者とも楽しんで挑んでいる。
友と舞うようだと感じた清史郎の手を、不意に嵐吾が悪戯に引く。
「やはりそうきたか」
「ありゃ、ばれとったか」
それを予想していた清史郎は逆手に取り、急に逆に回って対抗する。されどそれもまた楽しいことのひとつ。
くるくる、花が風に躍って友と手を繋いで踊る。
春と共に戦の始まりを告げた妖精との闘いは間もなく、彼らの力によって終幕を齎されることになる。けれども、それまでは――。
あたたかで穏やかなこの心地を確かめながら、共に力を揮おう。
そう決めた嵐吾と清史郎は春告の妖精と戯れるように闘い続けていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メルト・プティング
【SPD】
大好きなベアータ(f05212)さんと参加
アドリブ絡み歓迎
強制手繋ぎで妨害されても、《念動走査》を発動して触れた手からベアータさんの思考を読み取れば、ダンスも踊れるくらい息はピッタリ!
あまりにも余裕なので恋の季節というUC名に乗っかって恋人繋ぎにしてドヤ顔します!まぁ恋人ではなくお友達なのですが!
あっあっ、ベアータさん怒らないで。ちょっとオフザケしてしまっただけなのです。
とと、はしゃいでないで戦闘はマジメに
攻撃を避けながら、上がった【第六感】で弱点をスキャン
正確な位置をベアータさんに伝えてカウンターでドーンしてもらいましょうっ
えへへ、ボクたち二人ならどんな状況でもバッチリですねっ!
ベアータ・ベルトット
メルト(f00394)と
へぇ…コレで自由を封じたつもり?お生憎、こういうのは慣れっこなの。メルト、行くわよ!
手のひらに伝わるぬくもりを信じて。一先ずは空中からの攻撃を見切り、思念で伝達。ステップを踏むように、二人息を合わせての回避に専念するわ
大丈夫。メルトは絶対に守り抜く。…何かドキドキしてんのは、敵のUCのせい?それとも…ってコラ!メルト!この繋ぎ方…絶対わざとでしょアンタ!
マジメにやんなさいっての!…ふんっ!(赤くなる)
敵が2発目のUCを撃った時が勝機。BECで受け止め、メルトが探知した急所目掛けて打ち返し爆破するわ
バッチリね。でも油断は禁物。先を急ぎましょ
(…もう少し。手は繋いだままで)
●繋いだ手と重なる心
激しい戦いが巡る皆殺しの平野。
奇妙な名を付けられた荒野には今、これまた妙な存在が飛び交っていた。
「みーんな、恋しちゃえ!」
えい、と脳天気な声が響いたかと思えば春告の妖精が不思議な魔法を解き放つ。
すると竜化した妖精と対峙しようとしていたメルトとベアータの間に小規模な爆発が起こった。その途端、ふたりの手がくっついて離れなくなってしまう。
「へぇ……コレで自由を封じたつもり?」
「強制的な手繋ぎですが、大したダメージはありませんね!」
ベアータもメルトも慌てたりなどはしなかった。確かに物理的に手が離せなくなったことで多少は動きが妨害される。
しかしメルトはすぐに念動走査の力を発動させていた。
触れた手から伝わってくるのはベアータの思考。それが感じられるのはメルトの情報収集の力の賜物だ。
「お生憎、こういうのは慣れっこなの」
「ダンスも踊れるくらい息はピッタリです」
「ふふ、仲良しなのね。それでこそよ。やっぱり春は恋の季節だわ!」
ベアータ達の様子を見た妖精は楽しげに笑った。どうやら痛みを与えることが目的ではなく、手を繋がせた相手の仲の良い姿を眺めたいだけのようだ。
されど春告の妖精もオブリビオン。
竜化の風の影響で生えた翼を羽撃かせた妖精は攻撃に移ってくる。
「メルト、行くわよ!」
ベアータは掌から伝わるメルトのぬくもりを信じ、敵の動きを見据えた。空中からの一閃が来ると読んだベアータはその旨を伝える。
「流石ですね、ベアータさん」
すぐに地を蹴ることで敵の一撃を避けたメルトは得意気だ。ベアータもステップを踏むように、息を合わせて竜爪の攻撃を回避していく。
「大丈夫。メルトは絶対に守り抜く」
ベアータが告げてくれた言葉は何よりも頼もしい。
きっとこのふたりならば大した苦労もなく敵を倒せるだろう。思えば妖精も恋の季節がどうだとか言っていた。少しばかり調子に乗ったメルトは手を握り直す。恋人繋ぎだ。其処に浮かんだメルトの表情はドヤ顔と表すのが一番相応しい。
「あなたたち、可愛いわね」
「まぁ恋人ではなくお友達なのですが!」
妖精が零した感想に対して胸を張るメルト。その傍ら、ベアータはどうしてか妙な胸の高鳴りを覚えていた。
ドキドキしているのは敵の魔法のせいなのだろうか。それとも――。
握られた手を一度だけ見下ろしたベアータは僅かに戸惑っていた。だが、すぐに気を取り直して声をあげる。
「ってコラ! メルト! この繋ぎ方……絶対わざとでしょアンタ!」
「あっあっ、ベアータさん怒らないで。ちょっとオフザケしてしまっただけなのです」
「マジメにやんなさいっての!」
ふん、とそっぽを向いたベアータだが、その頬は赤く染まっていた。
しかし其処へ妖精の更なる竜爪撃が振るわれてしまったことで、手を繋ぎ直す暇は与えられなかった。仕方ないわね、と繋いだ手に力を込めたベアータは反撃に入る。
メルトも頷き、敵の動きをしっかりと見極めていった。
「とと、はしゃいでばかりもいられませんね」
攻撃を避けながら、メルトは相手の弱点をスキャンしていく。おそらくは腕の辺りで淡く光っている鱗が急所だろう。
正確な位置をベアータに伝えたメルトは彼女に後を託す。
「そんなに手を繋いでいたいなら、もう片方の手も繋がせてあげるね!」
「それはちょっと困るわね」
妖精が二撃目の魔法を放った瞬間、ベアータは右眼の特殊義眼から伸ばした獣の舌で相手の魔力を受け止めた。
そして、写し取った爆発の力で春告の妖精をひといきに爆破していく。
「ドーン! といけましたねっ」
「バッチリね」
急所を突かれて空から落ちた妖精は戦う力を失い、骸の海に還っていった。敵の姿が薄れて消えていったことで勝利を確かめたメルトは嬉しげに口許を緩める。
「えへへ、ボクたちふたりならどんな状況でもバッチリですねっ!」
「ええ。でも油断は禁物。先を急ぎましょ」
ベアータはというと、冷静さを保ちながらそんな風に答えた。本当ならば妖精の魔法はもう解けていて手も離せるはずなのだが、ふたりは掌を握りあったままだ。
(……もう少し。手は繋いだままで)
(ベアータさん、何だか可愛い)
互いが抱く思いは言葉にせず、彼女達は荒野の先に続く未来を思う。
まだ群竜大陸の道程は始まったばかり。これからどのような戦いが待ち受けているのか分からないが、ふたりでなら乗り越えていける。何故だかそんな気がした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
…この世界が破壊されたら
咲く地面は無く
春や花も、無くなりますが…
…彼女達は、良いのかな…
どの花も好きですけれど…勿忘草やネモフィラを
空も大地も、境界の無い様な一面の同じ色…
…一時の空間でも
動いて花々を踏みたくはありませんので
私はその場で風の精霊をリラに変え
この世界…故郷にある花の歌の一つを唄います
妖精がその歌を知っていても知らなくても、一緒に歌いましょう?
春に芽吹き、花の咲く喜びに
生まれて咲く小さな命を、言祝ぎ
眠りから目覚めて告げる、おはようを
鱗の内側、心や魂へ届く様に…永遠揺篭
…芽吹き、生まれ、目覚める、始まりの春を告げる君達が
悲しい破壊を告げる事の無い様に
…いつかの春まで、おやすみなさい…
●目覚めと眠りの詩
春を告げる穏やかな妖精も、今や帝竜に従う配下竜の一体。
ヴァルギリオスが語る世界の破壊を受け入れているであろう妖精達の姿を見つめ、瑠碧は悲しげに頭を振った。
「……この世界が破壊されたら、咲く地面は無く春や花も、無くなります」
花を愛する彼女達はそれで良いのだろうか。
それとも破壊の先にも自分達が花を咲かせられると自負しているのか。瑠碧は深く考えを巡らせそうになったが、憂う思いを振り払う。
そんな中、瑠碧の姿を見つけた春告の妖精が羽撃きながら近付いてきた。
「あなたもお花が好き?」
「ええ、どの花も好きですけれど……」
「それだったら私の世界を見せてあげる!」
問いかけてきた妖精は両手を広げ、一瞬で周囲の景色を変えていく。するとそれまで荒野だった場所の光景が春の花が咲き乱れる美しい世界になった。
勿忘草にネモフィラ。
空と大地の境界をなくしてしまうほどの一面の青と蒼。
花の彩に満ちた世界を映す瑠碧の瞳もまた同じ色を宿していた。花畑の真ん中に立つような形になったことで瑠碧はそっと足元を見つめる。
これは幻に過ぎない。
けれども、たったひとときの空間であっても花々を踏みたくはなかった。それゆえに瑠碧は動かず、その場で風の精霊をリラに変えてゆく。
「この世界に、歌を――」
それは瑠碧なりに周囲の花を楽しみ、慈しむの心の顕れ。其処から紡がれていくのは故郷にある花の歌のひとつだ。
春に芽吹き、花の咲く喜びに
生まれて咲く小さな命を、言祝ぎ
眠りから目覚めて告げる、おはようを
唄いあげられていく音色は青の春景に重なって穏やかな空気を作り出していく。
「わあ、素敵なうた!」
妖精はその歌を知らなかったが、一緒に歌いましょうと瑠碧が告げたことで拙いながらも真似をしていった。
やがて瑠碧の歌声は永遠に導く揺篭の如く響き渡る。
硬い鱗の内側へ。
妖精の心や魂そのものに届くように。
「……芽吹き、生まれ、目覚める、始まりの春を告げる君達が、どうか――」
悲しい破壊を告げることのないように。
詩に込められ、願われた思いは穏やかな微睡みを齎していった。
「あれ? 何だか、眠く……」
妖精の瞼が次第に下りていき、オブリビオンとしての存在が揺らがされていく。そして、地に伏すように眠りに落ちた妖精は戦う力を失った。
「いつかの春まで、おやすみなさい……」
瑠碧の声は優しく、歌の最後の一節が子守唄のように落とされる。
妖精と共に消えゆく花々を見送った瑠碧は戦いの終わりを感じ取り、静かに瞼を閉じた。きっと、この荒野を抜けた後も様々な者達と対峙することになるのだろう。
これは未だ始まりに過ぎない。
自分を律した瑠碧はゆっくりと瞼をひらき、群竜大陸の彼方に思いを馳せた。
大成功
🔵🔵🔵
ユヴェン・ポシェット
UC「ライオンライド」を使用
…したのが、いけなかったのか。
ロワの背に乗る事は出来ず、何故か前脚と俺の手と繋がる羽目になってしまうとはな。
…ふわふわの毛が…。
いや、ロワの脚、流石にでかいな。そして前片脚をあげてバランスとらせて悪い。というか大きさの差がやべぇな。
そして爪…見なかったことにする。
繋がれた手と逆の手で槍を握る。
槍…否、ミヌレは竜化した敵を前にやる気を感じる。
…両手、熱いな。
ロワ、俺を気にせず自由に動いてくれ。その中で俺は俺で最善の動きをしよう。
空から敵が向かってくるのならロワが後脚で立ち上がり近づき、翼の付根を狙って攻撃。
鱗が薄そうな内側を狙う。
俺のコンビネーション見せてやろうぜ。
●繋いだ力と意志の証
荒野に集う妖精は竜の翼や鱗を纏い、自由気儘に飛び回っていた。
明るく笑っている春告の妖精達から滲み出ているのは、無邪気であるからこそ厄介な敵意だ。その感情を察したユヴェンは傍に金獅子を呼ぶ。
「ロワ!」
その声に呼応した獅子がユヴェンの隣に現れた。これは普段と同じユヴェンの戦い方であり、ロワも即座に召喚に応じる。だが――今回はそれがいけなかった。
「仲良しさんになーれっ!」
ユヴェン達の元に飛んできた妖精が魔法の力を振り撒く。
瞬間的な爆発。其処から巡る不可思議な魔力。獅子の背に乗ることは叶わず、ロワの前脚とユヴェンの手が繋がるという事態になってしまった。
「まさか、こんな羽目になってしまうとはな……」
相手がミヌレであったならばまだ何とかなったかもしれない。槍の状態であれば、それ自体が手を繋ぐことになって普段通りに戦えたはず。
しかし今は全てが後の祭りだ。
「ふふ、しっかり手を繋いでるみたいね。ライオンさんも宝石さんもよいこ!」
「……ふわふわの毛が」
此方の様子を眺めてはしゃぐ妖精の前、ユヴェンは繋がれた手と前脚を改めて見遣った。心地は悪くないが、これは双方にとって初めてのこと。
背や鬣に触れたことは多々あれど、お互いの手をこんなにも長く繋いだことがあっただろうか。いや、ない。
「ロワの脚、流石にでかいな。それに立ち辛いだろう」
片脚をあげてバランスを取らせている状況に申し訳無さを感じたユヴェンだが、ロワは懸命に頑張っている。いつまでもこの状態では拙いので何とかして妖精の魔法を解かなければならない。
ユヴェンの瞳にはロワの爪が映っている。
この鋭い爪が数多の敵を斬り裂いていたのだと思うと、頼もしさと同時に自分の手の心配も裡に巡ってしまう。見なかったことにしようと決めたユヴェンは気を取り直して妖精に視線を差し向けた。
「……両手、熱いな」
繋がれた手と逆の手で槍を握れば、ミヌレの並々ならぬ意志を感じる。
きっと竜化した敵を前にして意気込んでいるのだろう。ロワも主の役に立つ為に動いてくれるに違いない。ならばユヴェン自身も最善を尽くすだけだ。
「ロワ、俺を気にせず自由に動いてくれ」
その中で自分も最善の動きをする。そのように宣言したユヴェンは駆けたロワに合わせて地を蹴った。
対する妖精はくすくすと笑い、頭上から滑空してくる。
「その状態で私の攻撃が受けられる?」
ロワは後脚で立ち上がり、竜爪を振るってきた春告の妖精に向けて吠えた。そして、翼の付根を狙って攻撃する獅子に続いてユヴェンが竜槍を振るう。
「おっと。なかなか上手く動けたんじゃないか」
少しばかり遣り辛くはあるが、鱗を狙っての一撃を叩き込むことが出来た。傍から見れば獅子と手を繋ぐユヴェンは不思議な姿勢をしていたが、彼らとて真剣だ。
「俺のコンビネーション見せてやろうぜ」
ミヌレ。そして、ロワ。
それぞれの名前を呼んだユヴェンはひといきに斬り込み、竜化妖精を穿った。
そんな、と驚愕の声をあげた妖精。その鱗はユヴェンが握る竜槍ではなくロワの爪によって貫かれていた。ユヴェンは自らに気を引かせ、ロワに止めを託したのだ。
「私の負けね。元から仲良しだったなんて……」
「当たり前だ。俺達はずっと共にいるからな」
倒れ伏していく妖精の姿を見つめたユヴェンは、その命の終わりを見届ける。
そうして彼は相棒達に静かに笑いかけ、皆で得た勝利を確かめた。
大成功
🔵🔵🔵
ジェイ・バグショット
拷問具
『荊棘王ワポゼ』棘の鉄輪を複数空中に召喚。自動で敵を追尾
妖精の動きを封じる為、UC『従属の枷』を使用
手繋ぎは信頼出来る方法で対処
アズーロ。
その名を呼べばUDC『ユエント』が
細く編んだ金の髪、空の青を宿した瞳の青年をこの世へ呼び戻す
『やぁジェイ。私の力が必要かな?』
ただ手を繋ぐというためだけに呼んだとは言えず、けれど強制的に繋がされることにアズーロの方が察してくれる
『ふふ…、なにを今更恥ずかしがっているんです?』
……茶化すなよ…。
握った手は温かさすら感じるようで懐かしい
意外と茶目っ気のあるアズーロが、視線を逸らす俺を笑う
『…さぁ、世界を救うとしよう。』
ひとつ頷いて、並び立つ
あの頃のように
●あの頃と今と
荒野の空に羽撃くのは竜の翼。
春告の妖精に宿った鱗と爪が煌めき、棚引く尾が不敵に揺れる。竜化の風を受けて変貌した妖精達を振り仰ぎ、ジェイは拷問具を宙に召喚していく。
「空を飛ぶ竜の妖精か。気分はどうだ?」
ジェイが声を掛けると、妖精は楽しいとでも語るようにくすくすと笑った。
空中に浮かぶ棘の鉄輪。
荊棘王の名を抱くそれらは空中を翔けるように動き始め、妖精達を追尾していく。しかし、竜の力を得た春告の妖精も素早い。
「そんなのに当たりませんよーだ!」
べ、と舌を出した妖精の仕草も言動も幼かった。だからといって加減などしない。妖精の動きを封じる為、ジェイは従属のウュズミガを解き放っていく。
手枷に口枷、足枷と鉄の首輪、そして鋼鉄の鎖。
枷が全て命中すれば敵の動きも封じられるが、相手はその前に魔力を紡いだ。
「あなたなんて、ひとりで手を繋いでおかしなことになればいいんだから!」
「……アズーロ」
妖精が放った魔法に対抗するべく、ジェイは彼の名を呼ぶ。
白い靄だったものは瞬く間に青年の姿に変わり、ジェイの傍らに立った。細く編んだ金の髪に空の青を宿した瞳。アズーロと呼ばれた青年はジェイに手を差し伸べる。
『やぁジェイ。私の力が必要かな?』
「ああ、出番だ」
短く答えたジェイは頷き、アズーロの手を握った。
まさかただ手を繋ぐというためだけに呼んだとは言えない。それでもアズーロの方はジェイが普段は戦闘中にしないような行動をしたことで、敵の魔力が巡っていることを聡く察してくれた。
強制的に繋がされた手と手はもう離れない。
「つまり、こういうことだ」
『ふふ……なにを今更恥ずかしがっているんです?』
「……、茶化すなよ……」
アズーロは動じず、寧ろ余裕や茶目っ気すら感じさせる問いをジェイに投げかけた。握った手にはぬくもりが感じられる。これも恋の季節の魔法とやらにそう錯覚させられているだけなのかもしれないが、懐かしい心地は悪いものではなかった。
繋いだ手には信頼と、久方振りの熱が宿っている。
アズーロは視線を逸らすジェイに笑いかけ、宙を舞う拷問具を見上げた。そうして彼はあの頃のように呼び掛ける。
『……さぁ、ジェイ。世界を救うとしよう』
「勿論だ」
ジェイはひとつ頷いて、彼に並び立つ。
世界も違えば状況も違う。それでも変わらないこともあった。それは――共に同じ場所に立ち、同じものを見つめているということ。
「わ、わわ。あなたたち、何なの?」
拷問具や枷に追い掛けられている妖精は慌てながら彼らに問う。
すると二人は視線を交わしあい、こう答えた。
『そうですね、さしずめ……』
「しがない猟兵ってとこだな」
アズーロの言葉を継いだジェイはさらりと告げる。世界を救う心算ではいても、勇者だとか英雄だなんて名乗る気はない。それゆえにジェイ達は驕らずにありのままの自分を示し、力を振るい続けた。
やがて、荒野での戦いは収まっていく。
妖精との戦いは一方的な展開であっさりと幕が下りた。
地に伏した妖精を見下ろしたジェイは、繋がされていた手が自由になっていることに気付く。しかしほんの少し、数度の瞬きの間だけ離さないでいた。
『どうかしましたか、ジェイ』
「……いや、」
別に何でもないと答えた彼は掌を離す。
そんなジェイの心の裡を見透かしているかのように、青年は再び微笑んでみせた。
大成功
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花川・小町
【花守(W)】枝下桜と藤が戦ぐ中
ふふ、敵の術中なんて困った状況ではあるけれど、貴方の希望が叶ったなら私も幸いよ
さぁ、風に遊ぶ花々の共演の如く、私達も一等華やかに舞い踊りましょう
――まぁあれはあれで楽しそうだし、放っておきましょ(花守の男衆を一瞥し生暖かく微笑み)
花の香や彩を楽しみつつもUCやオーラで攻守強化
ひらりと舞って花影から衝撃波
羽の付根や鱗が薄い箇所を重ねて狙い、地に落としましょう
同時に反応も観察し急所の情報収集
花枝や花弁、そして澪ちゃんと戯れる様にして連携やフェイント織り成してゆけば――心まで踊るよう
この光景は幻でも、貴方と楽しんだ時間は真
例え荒野に帰っても、色褪せはしない鮮やかな一時
鳳来・澪
【花守(W)】桜と藤が咲き乱れる舞台
戦の真只中でなんやけど――それでも、姐さんとまたお花見出来るなんて嬉しいなぁ
うん、咲き誇る花と共に、うちらも笑顔満開で――晴れやかに舞い遊んで、春を謳歌しよ!
…ところであっちは何してるんやろね(騒がしい花守男性陣に呆れ気味に)
花の淡く優しい色彩と、姐さんの強く鮮やかな精彩
対照的でよう映えるなぁなんて楽しみつつも、同様にUC
揺れる花に合わせ舞いつつ、狙い合わせ衝撃波
うちは第六感働かせ急所突き止める援護
同時に、交互に、身も心も舞い踊らせて連携
さぁもうお休み
私達は次の季節、次の舞台へ進ませてもらうよ
姐さんと一緒なら、いつでも、どこまでも、華々しい世界が開けるね!
呉羽・伊織
【花守(S)】
――頑張れば何とかふりほどけるだろとか思った俺が甘かった
女子は優雅に花愛でて舞い踊ってんのに、今日もまた俺達は何してんのコレ??
猫の手も借りたいなんて言葉もあるケド、ちがうこうじゃない…
あっ…でもこのぷにぷには最高…っっ爪立てないでイヤー!
早業と2回攻撃駆使
UCの鴉+同様の呪詛込めた風切飛ばし牽制
反応見て急所探りつつ、自由に飛べないよう呪詛重ね地に落とす
敵攻撃は残像で眩ましたり見切りで探り回避
よし行くぞちょこニャン――俺を踏み台にして思いっきりやるが良いさー!
なんて言いつつ鴉も風切も継続
急所付近の鱗の部位破壊援護
ぷにぷにには確かにちょっと心高鳴ったケド――くそう俺にも春をクダサイ
鈴丸・ちょこ
【花守(S)】
俺のこの必殺の右を封じる(伊織と繋がれてる)とは、可愛い顔して中々やりやがるな妖精め だが奥義の左は残ってる――これさえ届けばこっちのもん――ん?何また独りで騒いでんだ、伊織
おいこら勝手にぷにぷにすんな、腕ごと強引に叩き折ってひっぺがされてぇか?(爪をにゅっと!)
伊織の呪詛が回るまで、俺は急所の見定めに専念
何か掴めば動物会話で鴉に伝達
じっと機を待ち、高度が落ちればしゅたっと伊織の頭や肩をかりて高さを調整しつつUCでがぶり
攻撃は伊織と合わせ早業や見切りで回避
●華やかなる舞台
妖精の力によって桜と藤が戦ぐ。
荒野だった周囲の景色は今、花の色に染め上げられていた。
小町は辺りを見渡し、澪は美しい光景に双眸を細める。花々が咲き乱れる舞台は綺麗だとしか言いようがなく、戦場であっても心が躍った。
「戦の真只中でなんやけど、素敵やね……」
「ふふ、敵の術中なんて困った状況ではあるけれど、悪くはないわね」
「姐さんとまたお花見出来るのは嬉しいなぁ」
「貴方の希望が叶ったなら私も幸いよ」
視線を交わしたふたりの心持ちは快い。花と共に笑顔まで咲いていくかのようで悪くない心地が巡っていく。
「さぁ、風に遊ぶ花々の共演の如く、私達も一等華やかに舞い踊りましょう」
「うん、うちらも笑顔満開で――晴れやかに舞い遊んで、春を謳歌しよ!」
小町と澪は妖精のつくりあげた世界を愛おしく思いながら、竜化した敵に立ち向かうことを心に決めていた。
一方、その頃。
「ああ……なんだコレ」
頑張れば何とかふりほどけるだろうと思った俺が甘かった。そんなことを語って項垂れる伊織の手は今、しっかりとちょこと繋がれている。
「俺のこの必殺の右を封じるとは、可愛い顔して中々やりやがるな妖精め」
ちょこは頭上でくすくすと笑いながら飛び回っている春告の妖精を振り仰ぐ。そう、彼らは見事に妖精の爆発と手繋ぎの魔法に巻き込まれてしまっていたのだ。
されどちょこは慌てておらず、空いた左手の爪を掲げる。
「だが奥義の左は残ってる。これさえ届けばこっちのもんだ」
「女子は優雅に花愛でて舞い踊ってんのに、今日もまた俺達は何してんの??」
「――ん? 何また独りで騒いでんだ、伊織」
哀しげな伊織を見遣ったちょこは訝しげだ。すると彼は更に溜息をつく。
「猫の手も借りたいなんて言葉もあるケド、ちがうこうじゃない……あっ、でもこのぷにぷには最高……っ」
「おいこら勝手にぷにぷにすんな、腕ごと強引に叩き折ってひっぺがされてぇか?」
「爪立てないでイヤー!」
伊織を睨みつけたちょこが爪を出したことで恐れおののく声があがった。
●散りゆく花の影
「……ところであっちは何してるんやろね」
騒がしい男性陣に呆れ気味な視線を送った澪は肩を軽く竦める。小町はいつものことだと断じ、生暖かく微笑んだ。
「――まぁあれはあれで楽しそうだし、放っておきましょ」
男衆を一瞥しただけに止めた小町は自分達を狙っている妖精に狙いを定めていく。それがいいと同意した澪も身構え、巫覡載霊の力を巡らせた。
花の淡く優しい色彩と、姐さんの強く鮮やかな精彩。
それらが対照的でよく映える。そう思いながら薙刀を構えた澪は、此方を見下ろしている妖精に一気に斬りかかる。
「うふふ、あなた達がお花を楽しんでくれてるのが嬉しいわ!」
春告の妖精は余裕の笑みを浮かべながら衝撃波を避けていった。小町は竜化した妖精の力がかなりのものだと察し、オーラで攻守を強化していく。
ひらりと舞った小町は、澪と同じように花影から衝撃波を放つ。
狙うのは羽の付け根。
更には鱗が薄い箇所を探りながら狙い、地に落とそうと画策していく。
「共に舞いましょう、澪ちゃん」
「姐さんとなら、何処までも」
小町からの呼びかけに応えた澪は機を合わせ、交互に身も心も舞い踊らせていった。その連携は流れるが如く巡り、花と共に踊るような舞となった。
花枝や花弁、それから澪と戯れるように衝撃波を織り成してゆけば――身体だけでなく心まで踊るかのようだ。
「痛っ!」
やがて、特に妖精の痛みの反応が強い箇所が分かった。急所を見つけたふたりは頷きを交わし、視線で合図を送りあう。
そして、彼女達は一気に妖精に刃を振り下ろした。
それによって春告の妖精は地に落ち、戦う力を奪われることになる。
「さぁ、もうお休み」
「花と一緒に眠りなさい」
この光景は幻でも楽しんだ時間は真のもの。
例え荒野に帰っても、色褪せはしない鮮やかなひとときだと小町は知っている。
澪は倒れ伏す妖精を見つめ、最期を見送ることを決めた。
「私達は次の季節、次の舞台へ進ませてもらうよ」
消えゆく春の妖精を瞳に映したふたりは淡く笑む。
一緒なら、いつでも、どこまでも――華々しい世界がひらけるはずだから。
●噛み砕く獣の牙
女性陣が戦う最中、男性陣も妖精に応戦していた。
伊織はちょこと手を繋いだまま、もとい片腕で抱いた状態で――早業で以て闇翳の暗器を放っていく。
影より生ずる鴉の群れと共に飛ばす呪詛と風切は妖精の牽制となっていた。
「ちょこニャン!」
「おう、任せておけ」
敵の反応や急所を探るのは腕の中にいるちょこが担当している。伊織に抱かれた状態であるのは少しばかり不服だが、これもまた己の特権。
伊織は妖精がこれ以上自由に飛べぬよう、呪詛を重ねて地に落とそうと狙う。
「お兄さん、邪魔だよ。そのネコチャンをちょうだい!」
対する春告の妖精はちょこが気になるらしく、伊織よりも其方を狙って竜の爪を揮おうとしていた。しかし、その攻撃は残像を纏った伊織が動くことで避ける。姿を眩ませ、敵の行動パターンを見切る伊織の働きは実に見事だ。
「こうやって真剣に戦ってる姿を披露できればモテそうだよな、伊織」
「ん? 何か言ったか?」
「いいや、別に――」
ちょこは首を横に振り、伊織の呪詛が回るまで急所の見定めに専念していく。
やがて、ちょこは敵の弱点が腕にあることに気付いた。伊織が操る鴉にそのことを伝達したちょこは、いよいよ自分の役目が来たことを悟る。
そして、重い呪詛によって妖精が地に引き摺り落とされた。
「よし行くぞちょこニャン――俺を踏み台にして思いっきりやるが良いさー!」
「遠慮はしないぞ。駆けろ、伊織!」
ちょこからの呼びかけに応えた伊織は地面を大きく蹴る。妖精を倒すまで手と手が離れないならば、自分がちょこの足になるしかない。
即席ではあるが、その連携もまた上手く巡っていった。
伊織の頭や肩をかりて高さを調整したちょこは一気に仕掛けていく。刹那、智慧ある獣の牙が鱗を噛み砕かんとして突き立てられた。
「きゃ……!」
春告の妖精から悲鳴が上がり、伊織は追撃として鴉と風切を其方に向かわせる。急所である鱗は彼らの力によって破壊され、妖精はその場に崩れ落ちた。
戦いの終わりが訪れることでふたりの手も離れ、ちょこは一先ず安堵を覚える。
「あっちも敵に勝ったみたいだな」
荒野の戦いも間もなく終わっていくはずだ。自分達も完璧に仕事をこなせたとちょこが語る中、伊織は再び俯いていた。
「ぷにぷにには確かにちょっと心高鳴ったケド――」
「おい、伊織?」
繋ぐ相手が可愛いちょこだったとはいえ、やはり女性と手を重ねたかったのだろう。
「くそう、俺にも春をクダサイ」
「駄目だな、こりゃ」
尻尾を揺らしたちょこは伊織を置いていくことに決め、小町と澪の元に歩いていく。遠ざかるちょこの後ろ姿に気付いた伊織は慌てて後を追い掛けた。
そんなこんなで一件落着。
こうして――花守の面子による春色の戦いは無事に終結した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティル・レーヴェ
ライラック殿(f01246)と
荒野が花で染まる
あゝ戦場である事を忘れそうじゃ
好む花を見つければ指差して
ほら、あそこ!
爪先向けた先には
淡紫の彩りが満ち満ちる
春に綻ぶ薔薇前に
彼の面も綻べば
温かな心地が胸にも満ちて
視線移せば風靡く藤とルピナスの花
天より降る藤花へと
手伸ばす様な昇り藤
共にと眺めた桜花の宵も
夢心地じゃったが
此処もまた夢に誘われるよう
『想像力』に富み『優しい』其方と共に
眺めるに好き景色じゃなぁ
いつかの日
花は雄弁と告げた其方へと
言の葉添えて
天より来れば空中戦で応えよう
彼の花弁に添い乍ら
放つ羽根は同じ箇所
一点突破で鱗砕く
外れても淡紫の花が身を護ろう
裾引く言葉に添い乍ら
あゝ夢醒めるまで共に居ろう
ライラック・エアルオウルズ
ティルさん(f07995)と
荒野が花園に変わるのを、
不思議な心地で眺め乍らも
互いが望む花を見付ければ、
思わず笑みも綻び咲くもので
ああ、見事に咲いているね
共に向けた眸と同じ彩
淡紫を纏う、春の薔薇
寄れば高貴な春の香りに、
戦地を往く爪先も軽くなる
藤を喜ぶ子も微笑ましくて
前に共と眺めた桜も良いが、
春咲く花はどれも華やかだな
更に言葉添えば、面映ゆく
――『気品』ある貴方にと、
そう言って頂けるとは光栄だ
何て、心より花は楽しめども
妖精が寄るのは《第六感》で察知
鱗砕いて攻撃通るように、
《全力魔法》で強化すれば
魔導書を花弁に変え、一斉と
ひとつ倒せば、裾引くように
春花たちが消えゆくまでは、
春の余韻を楽しみたいから
●花の夢
戦場たる荒野が花の彩に染まる。
その光景は美しく、この場所が激しい戦いの最中であることを忘れてしまいそうだ。
ティルは春告の妖精達がつくりだした春の花を眺め、双眸を緩く細めた。同じくしてライラックも荒野が花園に変わる様を見つめ、不思議な心地を覚えていた。
「ライラック殿。ほら、あそこ!」
口許を綻ばせたティルが指差したのは淡紫の彩り。
「ああ、見事に咲いているね」
春めいた高貴な香りと色が満ちる薔薇を前にすれば、ライラックも破顔する。
其処に咲くのは薔薇だけではない。視線を移せば風に靡く藤とルピナスの花が揺れている景色が見えた。
戦地を往く爪先も自然に軽くなり、藤を喜ぶティルの姿も微笑ましいと思える。互いの間に咲く笑みもまた花のようで好ましかった。
「桜花の宵も夢心地じゃったが、此処もまた夢に誘われるようじゃ」
「そうだね、春咲く花はどれも華やかだな」
「花の言葉を借りるなら、『想像力』に富み『優しい』其方と共に眺めるに好き、ぴったりの景色じゃなぁ」
いつかの日、ライラックは花は雄弁だと告げた。
ティルがそうやって花に宿る言葉で以て褒めてくれるものだから、何だか面映い。
「『気品』ある貴方に、そう言って頂けるとは光栄だ」
ライラックも同じように花言葉を返してくれる。その声を聞いたティルは、春彩と共に温かな心地が胸に巡っていくようだと感じた。
しかし、ふたりはこの花々を楽しむだけではいけないことも知っている。
「ふふっ、わたしの力はどうかしら?」
お気に召したかと問いかけてきたのは竜化を受け入れた春告の妖精。自分が広げた春薔薇の世界を示し、くるりと宙で回ってみせた彼女は得意気だ。
「素晴らしい景色だね」
「実に美しいな。じゃが、其方の思い通りにはさせぬ」
ライラックとティルは素直な感想を告げながらも身構える。その理由は妖精が竜の爪を此方に差し向けているからだ。
愛らしい見た目をしていても相手はオブリビオン。
猟兵である自分達とは相容れぬ存在であることもよく解っていた。そして、くすくすと笑った春告の妖精は勢いよく滑空してくる。
天より来るかと察したティルは地を蹴った。翼をはためかせた彼女は、空を舞う相手には此方も同じように応えるだけだとして飛ぶ。
同時にライラックは魔導書を花弁に変え、一斉にリラの花を解き放った。
彼の花弁に添う形で飛翔したティルは自らの翼から幾重もの羽根を射出する。急所である鱗は何処かを探り、見つけたならば一点突破で砕く。それがふたりの狙いだ。
もし外れたとしても淡紫の花が身を護ってくれる。
それに、ふたりで共に戦う今――自分達はきっと何よりも強い。
周囲に広がる景色を大いに楽しんだ彼らを遮る力はない。自由に、思うままに、攻撃と魔力の軌跡を描けば勝利を導くことだって出来るはず。
竜の爪撃がティルを襲い、鋭い一閃が肌をなぞる。痛みを堪えたティルは、間近で見た妖精の腕に淡く光る鱗があることに気が付いた。
おそらくそれこそが敵の弱点だ。
「ライラック殿、彼処じゃ」
「それならもう終幕だ。やろうか、ティルさん」
ライラックが放った淡いリラの花が迸り、春告の妖精の片腕に向かっていく。
「きゃ、何……!?」
「このひとときが終わるのは惜しいが、仕舞いにしてやろう」
慌てふためく敵に宣言したティルは花の魔法陣から力を引き出していく。花の詩と白き羽根の聖譚曲が重なり、春の妖精を真正面から貫いた。
散りゆく花弁と翼の欠片。
それらをその身に受けた妖精は倒れ伏し、戦う力を失った。
「ああ、あなたたちの色も、きれいね……」
そんな言葉を最期に遺した春告の妖精は骸の海に還されていく。そうしてひとつを倒せば、裾引くように――。周囲の花までもが消え去っていくと察したライラックは、その瞳に藤色の景色を映した。
「この春花たちが消えゆくまでは、」
春の余韻を楽しみたい。
そう語ったライラックに倣って花を見つめたティルは、そっと頷く。
「あゝ夢醒めるまで共に居ろう」
花の彩は移ろっていくが、ふたりで一緒に見た景色の記憶までは消えはしない。
彼女達は荒野に舞い散る花弁を目で追い、空の先へと思いを馳せた。
こうしてまたひとつ、路が繋がる。
春を告げる花が導くのは目覚めと、そして――これから進むべき旅路の果て。
群竜大陸の戦いは此処から更に巡っていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵