●
霧の深い夕刻、神社の石段の前でひとりの行商人の男が立ち止まっていた。
『大切な人の名前を綴りなさい。汝の想いが神に届けば、夢の世界で逢えるでしょう』
こんな立て札、以前はあっただろうか? 大切な人、逢いたい人……。
首を傾げつつも、男は何かに導かれるように階段を昇っていく。
境内のお社の前には、ヒトガタの紙と筆がポツリと置かれていた。
これに名を書け、ということか。
男はヒトガタに誰かの名を綴り、祈りを込めるように指先でそれを撫でた。すると、
ちりぃん。
どこからか鈴の音が鳴り、ヒトガタの紙が風に攫われる。
反射的に追いかけようとするが、より濃くなった霧によって視界のほとんどが奪われていた。見えるのは自分の数歩先くらいで――なんだ、この藍色の糸は。
いつの間にか男の小指には藍色の糸がくくられていた。
解こうとしても切ろうとしても、糸は男を離さない。
神社の外へ駆けようとしても、ピィンと張る糸が逃がしてもくれない。
鼓動が五月蠅い……男は固唾を呑んで、恐る恐る糸の先を辿ってみると……。
「あぁ、嘘だろ……お前は…… !?」
――次の日。胸を掻き毟り苦悶の表情で硬直した男の遺体が発見されたのだった。
●
「妙な予知夢を見たんだ。ちょっと手を貸してもらえるかい?」
メリー・アールイー(リメイクドール・f00481)はサムライエンパイアで見た不可解な予知の詳細を説明した。
「その神社は普通のこじんまりとした神社のはずなんだけどね? どっかのオブリビオンが住み着いて、人間の魂を喰らおうとしてるみたいなんだよ」
しかも、その神社にはオブリビオンにより妙な術が仕掛けられているという。その場でただ待機するだけでは敵が現れる確率は低いだろう。猟兵達にはわざと術にかかって、敵の懐へ潜り込んでもらいたいのだ。
「立て札の指示に従うのが、術が発動する条件みたいだよ。『立て札を見る』『ヒトガタに大切な人の名前を書く』『その人の事を想い、逢いたいと願う』……そうすれば、予知の中で男性が経験したように、霧が濃くなって……何かが起こるはずだ」
その何かはまでは分かんなくてごめんねぇ、とメリーは苦笑いをして頬を掻く。
話に出て来た『大切な人』に対する感情は、家族愛、恋愛、友愛……何でもよいだろう。今は亡き人に、もう会えない人に、もしくは高嶺の花に。理由は問わないから、大切で心から逢いたいと願える相手がいる者に今回の依頼をお願いしたい。
「他に分かってるのは……術が発動すると霧が深くなるから、視界は大分悪そうだという事、あと『藍色の糸』ってのも何なんだろうね?」
そして、ここからは憶測に過ぎないのだが……。
「行商人の最期の言葉は……多分、『名前』だと思うんだよ。もしも、藍色の糸が繋がる先に、逢いたいと願う人の姿があったら……。それでも心を乱さずに、よく状況を読んで対処しておくれ」
今回は本当に情報が少なくて面目ない、とメリーは小さな頭を下げた。それでもすぐに、いつものように信頼の笑顔を向けて、猟兵達を送る転移ゲートを開く。
「面倒事の丸投げで悪いが、あんた達なら上手くやってくれるって信じとるよっ。それじゃあよろしゅうにー!」
葉桜
OPをご覧いただきありがとうございます。葉桜です。
あなたが繋がれているのは愛でしょうか。それとも哀でしょうか。
第一章、日常『いとしのなまえ』。
『神社に向かって、大切な人の名前をヒトガタに綴って下さい』
『そしてその人のことを思い出し、逢いたいと願って下さい』
それが第二章以降の術が発動する条件となります。
行商人の男が現れる前に猟兵達は到着して、一般人が神社へ立ち入らないように封鎖していただく予定です。(プレイングに書かなくても大丈夫です)
もし彼に質問したいことがあれば、神社へ侵入する前にどうぞ。
第二章、集団戦。
霧が深くなり、鈴の音が聞こえると敵の術が始まります。
詳しい状況は断章で説明致しますが、視界が悪い戦場になることは確かです。
『第二章では、第一章で名前を書いた人(ヒトガタの変化)が登場します』
『途中参加の場合は、既にヒトガタに名前を書いているものとして話を進めます。大切な人の名前を教えて下さい』
第三章、ボス戦。
敵の術が完了し、霧が薄くなり視界は回復されます。
詳しい状況は断章で説明致します。
『第三章では、第一章で名前を書いた人(ヒトガタの変化)と敵対します。ヒトガタとボスオブリビオンを撃破して下さい』
『途中参加の場合は、既にヒトガタに名前を書いているものとして話を進めます。大切な人の名前を教えて下さい』
ユーベルコードは指定した一種類のみの使用となります。
プレイングはOP公開から募集開始です。
必要最低限の青丸が集まりましたら、締切の日時をマスターページにてご連絡致します。それでは、皆様のご参加をお待ちしております!
第1章 日常
『いとしのなまえ』
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POW : 家族の名前を綴る
SPD : 友人の名前を綴る
WIZ : 恋人の名前を綴る
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宴・段三郎
………わしはこういう、人に合わせてくれる系の咒を使う化生で毎回呼んでおる者が一人いるのじゃ
【行動】
わしがヒトガタにつける名前…
その名も『天国』っ!
最古の刀鍛冶の一人、実在するが、刀工名と作刀以外全てが謎に包まれたやべー奴なのじゃ
其奴の鍛刀した刀が全部どうやってできたかもわからんほどやべー刀ばかりなのじゃ
しかも昨今では、天国とは人ではなく刀工集団の名前であるとの説もある…とにかく謎な刀鍛冶なのじゃ
わしは奴の技術や知識を手に入れるため、奴を完璧に再現できる、人に会わせてくれる系の化生を毎回探してるのじゃ
わしは奴に会いたいのじゃ!
おらっ!出てこい天国!
願ってやるから出てこいなのじゃっ!
●
「立て札はこれじゃな。ひとまず立ち入り禁止にしとくのじゃ!」
宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)は一番乗りで神社の石段に到着すると、石段の両脇に生えている木々にロープを結んで道を塞ぎ、立ち入り禁止の紙を張り付けた。事情を知っている猟兵達なら構わず乗り越えて来るだろう。
段三郎はひょいとロープを潜ると、階段を一段飛ばしで軽快に駆け上がって行く。
彼の後ろ姿はとても小柄だ。しかし、その華奢な背と左右の腰には複数本の刀が帯刀されていた。彼は幼くとも刀鍛冶、荒魂を持つ妖刀のみを打つ稀代の刀工だから。刃文のように輝く瞳はいつも胸に抱いているひとつの目的を見据えて、真直ぐに社を目指す。
段三郎は鳥居を潜ると、社の前に用意されていたヒトガタの紙をつまんだ。
これから術が発動すれば、勝利するまで神社の外へは帰れないだろう。
しかし、彼の行動に躊躇いは微塵もなかった。段三郎がこのような奇怪な術を使うオブリビオンと対峙するのは、初めてではないのだ。寧ろ自分から選んで飛び込んでいる。理由は勿論、
「………わしはこういう、人に合わせてくれる系の咒を使う化生で毎回呼んでおる者が一人いるのじゃ」
逢いたい人がいるから。ヒトガタにさらりと綴る、その名は――『天国』。
『天国』。それは段三郎が逢いたいと願う者の本名とは言えない。
しかし、彼はその者を指す名をそれしか知らなかったのだ。
最古の刀鍛冶の一人。実在はするが、刀工名と作刀以外全てが謎に包まれている。
天国の鍛刀した刀は、全てどのように作られているのか不明な代物ばかり。
昨今では、天国とは人ではなく刀工集団の名前であるとの説もあるらしい。
そんな謎に包まれた刀鍛冶に、どうしても逢いたい。
「わしは奴の技術や知識を手に入れるため、奴を完璧に再現出来る者を毎回探しているのじゃ」
全ては刀のため。骨の髄まで刀鍛冶である段三郎は、己の知りうる限りの天国の情報を思い浮かべながら、名前を綴ったヒトガタに願いを込めた。
「わしは奴に会いたいのじゃ! おらっ! 出てこい天国! 願ってやるから出てこいなのじゃっ!」
その熱き想いに不要な不純物は全て叩き出して。強く美しく研ぎ澄ませた信念の刃を胸に携えて。そうして段三郎は術が発動する瞬間を今か今かと待ち望んでいた。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「高嶺の花、逢いたいと乞い願う方ならおります。真名は存じ上げませんが」
ヒトガタに大正帝と書き込む
サクラミラージュを700年の永きに亘り統べる方
不死帝とも呼ばれる方
あの世界で唯一力あるオブリビオンなのではないかと疑う方
世界の命運を賭けた大戦争があの世界でも起これば逢えるのかもしれないけれど
影朧を呼び寄せる幻朧桜
そのネットワークに包まれた世界を統べるのは
骸の海より顕現した神ではないかと
UDCアースのようには間に合わなかった結果ではないかと
あの世界でお会いできて
例えオブリビオンでも世界を守る一助だと思えれば
協力は惜しまないけれど
「もしも此処でお会いするのなら…臨済録の実体験になるかもしれませんね」
●
桜色の長い髪が優しく揺れた。
サムライエンパイアの花見の季節はもう終わった筈なのに。その髪に生える桜は、サクラミラージュの幻朧桜のようにいつもいつでも淑やかに咲いている。
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は件の神社へ訪れると、ヒトガタの紙と筆を手に取った。
「高嶺の花、逢いたいと乞い願う方ならおります。真名は存じ上げませんが」
それでも良ければ、と。綴られた名前は――『大皇帝』。
「サクラミラージュを七百年の永きに亘り統べる方。不死帝とも呼ばれる方。……あの世界で唯一力あるオブリビオンなのではないかと疑う方」
最後の其れは桜花の憶測に過ぎない。けれど、
「影朧を呼び寄せる幻朧桜。そのネットワークに包まれた世界を統べるのは、骸の海より顕現した神ではないかと……UDCアースのようには間に合わなかった結果ではないかと……」
そう、考えてしまうのです。
桜花はヒトガタを指先で撫でながら、自分の考えを纏めるように語りかける。
影朧、サクラミラージュのオブリビオンを転生させられる唯一の種族である桜花は、その転生というシステムについて日頃から考察を重ねていた。
(世界の命運を賭けた大戦争があの世界でも起これば、逢えるのかもしれないけれど)
その前に彼の御方との会話が可能なら。何か新たな発見はあるだろうか。
私の考察は正しいのか。答え合わせが出来る機会があるならと心が逸る。
(あの世界でお会いできて……例えオブリビオンでも世界を守る一助だと思えれば、協力は惜しまないけれど)
穏やかな微笑みの裏側で、桜花の思考は狂い咲く。
小さな仮定、推測、想像の花びらは散っては生まれて、枯れ果てることはない。
「もしも此処でお会いするのなら……臨済録の実体験になるかもしれませんね」
これから攫われる運命にある掌のヒトガタを、桜花は閑やかに見守り続けていた。
大成功
🔵🔵🔵
相沢・友子
「このヒトガタの紙に会いたい人の名前を書けば会えるって本当かな?」
相沢全(あいざわぜん)書き込んだのは、お父さんの名前。
お父さんの子は、私一人だけ。お父さんの家族も、私一人だけ。
初めてあった頃はいつもそばに居てくれた。
お父さんの、お仕事が忙しくなってからは一緒にいてくれる時間が減った。
私が怪我をした時も、学校と寮をバリアフリーにするように手配してくれたけど。一緒にいてはくれなかった。
次はどうしようかな?なにをすれば、また一緒にいてくれるかな?
「会いたいな・・・、私のことだけを思ってくれていた頃の、お父さんに」
●
「このヒトガタの紙に会いたい人の名前を書けば会えるって本当かな?」
相沢・友子(淡水人魚・f27454)は指先で摘まんだヒトガタを、裏表と訝し気に観察する。人の形に切られただけの何の変哲もない紙。これにそんな凄い術式が込められているなんて信じがたいけれど。
でも、大切で逢いたい人と言われたら――友子が思い浮かべる名前はひとつだ。
『相沢全(あいざわぜん)』。友子は父の名前を綴る。
父、と言っても彼は友子との血の繋がりはない。それでも、
(お父さんの子は、私一人だけ。お父さんの家族も、私一人だけ……)
友子と全は、たったふたりだけの家族なのだ。
(初めてあった頃は、いつもそばに居てくれたな)
友子は実験体として生み出された怪奇人間だ。脱走後、満身創痍で海に漂っていたところを拾ってくれたのが父だった。
暫くして、父の仕事が忙しくなってからは、一緒に過ごす時間が減った。
友子が怪我をした時も、学校と寮をバリアフリーにするように手配してくれたけど……一緒にいてはくれなかった。
ぶくぶく、ぶくぶく。気持ちが沈んで行く。
次はどうしようかな? 何をすれば、また一緒にいてくれるかな?
直接告げられない想いはいつだって、泡となって消えてしまう。
けれどここなら、願いを言って赦されるなら……。
友子は噛み締めていた唇を開き、胸に秘めていた願いをヒトガタに告げる。
「会いたいな……、私のことだけを思ってくれていた頃の、お父さんに」
やっと零せた心の声は酷く掠れていて、自分の事ながらちょっと笑えてしまう。
一番幸せだった頃の父との思い出を振り返りながら、友子は瞳を閉じた。
大成功
🔵🔵🔵
清川・シャル
父様と、母様です。
けれど会ったこともないのに分かるでしょうか?
青の瞳は父様、金の髪は母様からの遺伝だと聞いています。
もし会えるのなら、それがてがかりになるかもしれません。
分かるものなのかな…
会ってみたいな…
赤ちゃんだった私を土地神から守るために死んだからひとりぼっちになったけど、恨んではいませんよ。
自分を肯定する事が親孝行だと思っています。
だから大丈夫。
問題は、反抗期の捻くれ者期の私が素直に父母だと認めるかどうか、です。
どうしようかな、簡単には認めてあげませんからね。
●
金髪碧眼の美しい少女が鳥居を潜った。
桜が舞う振袖を揺らす後ろ姿には、漆黒の小さな角が覗く。清川・シャル(無銘・f01440)は羅刹と吸血鬼のハーフだ。忌み子として生まれた彼女は少々複雑な過去を持つ。
真っすぐに向かった社で見つけたヒトガタに綴ったのは、父親と母親の名だった。
「父様と、母様……会ったこともないのに分かるでしょうか?」
シャルが物心がつく頃には、既に両親を亡くしていた。
赤ん坊だった彼女を土地神から守る為に命を落としたのだ。
青の瞳は父親から、金の髪は母親からの遺伝だと話には聞いている。
「もし会えるのなら、その特徴がてがかりになるかもしれません。でも、分かるものなのかな……会ってみたいな……」
シャルは指先で髪をくるくると巻いて、切なげな笑みをこぼす。そして静かに深呼吸をすると、ヒトガタに向かって、父と母と言葉を交わす練習のように語りかけた。
「ひとりぼっちになったけど、恨んではいませんよ。自分を肯定する事が親孝行だと思っています。……だから大丈夫」
両親へ向ける為の笑顔は、青空のように澄み切っていた。
けれども、シャルは十三歳。ちょっぴり難しいお年頃だ。
私が父だよ母だよ、なんて。覚えのない人に告げられても。
反抗期の捻くれ者期の自分が、素直に認められるのか。そこが問題だ。
「……それとも、本物の両親だったら、会えば分かるものなのでしょうか」
期待半分不安半分、乙女心と同じくらい複雑な子供心を持て余して妙な気分だ。
会いたい。会ってみたい。けれど、
「簡単には認めてあげませんからね」
それがシャルの素直な気持ちなのだろう。
親の前でなら、子供は飾らない自分で許されるはずだ。
ありのままの自分の願いをヒトガタに込めて、シャルは静かに祈りを捧げた。
大成功
🔵🔵🔵
照宮・梨花
【蝶番】茉莉(f22621)と
私が書くのはカガリ様のお名前
(出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)。名前はぼかしても可。ぼかす場合は「憧れの城門様」)
カガリ様は廃墟の砦に佇む壊れた門だった私を、パパと一緒に直してくれた人
それから同じ門のヤドリガミ、良き先輩として憧れの存在なのだわ
だけど会いたいと願う理由は私の為ではなくて、妹の茉莉が会いたがっているから
私は自分自身が幸せであるより、愛する家族が幸せなのを見るのが好き
だから妹茉莉が嬉しそうにしているのを見たいのだわ
だって私は門、人の営みを守るのか使命、人の幸せを眺めていたいの
もっと遊びに来てくれるといいわね
二人で祈ったからきっと大丈夫なのだわ
照宮・茉莉
【蝶番】梨花(f22629)と
会いたい人の名前を書いて、会いたいって願えば…何が起こるの?
霧が濃くなって、どうなるの?会えるの?
どう思う?梨花
…会いたい人。茉莉は…(少し寂しげに)
城門の、人(梨花と同じ名前を書く)
パパでも、ママでもないんだけど、茉莉にとっては親みたいな…
きらきら眩しい金の髪が、真っ直ぐ長くて綺麗で。
赤いリボンがお気に入りの。
茉莉とは全然違うんだよ
むしろ、ちょっとくらい似たかったかなぁ?
でも、今の茉莉があるのは、あの人のお陰だから
すごく、会いたいんだけど、あんまり会えない人で
会えたら…嬉しい、かな
梨花と一緒に、もっと会えますようにってお祈りするよ
梨花も、会いたいのかな、あの人に
●
「会いたい人の名前を書いて、会いたいって願えば……何が起こるの?」
立て札を読んだ照宮・茉莉(楽園の螺旋槍・f22621)は、そわそわと落ち着かない様子で階段を上って行く。予知の説明を聞いても、霧が深くなった後のことは分からない。
どうなるの? 会えるの? どう思う?
そのすぐ後ろを歩く姉の照宮・梨花(楽園のハウスメイド・f22629)に何度も振り返って尋ねて来るものだから。梨花は茉莉を前を向かせて、その背を軽く押す。
「分からないから、これから試しに行くのだわ」
妹がこれほどまでに会いたいと願う人。
きっとあの人だわ、と梨花には予想が付いているようだ。
しかし、社に到着した茉莉の手は筆を持ったまま止まっている。
「……会いたい人。茉莉は……」
アメジストの瞳を寂しそうに細める茉莉を見るに見かねて、梨花は茉莉の筆をひょいと奪うと、先に自分が持つヒトガタの紙に名前を綴っていく。
それは『憧れの城門様』の名前――茉莉が思い描いていた名前と全く同じだった。
想いをしっかり込めた方が、会える確率が上がるかもしれない。梨花はヒトガタを撫でるように指を添えて、彼の姿をなるべく正確に思い描いて行く。
「あの御方は……廃墟の砦に佇む壊れた門だった私を、パパと一緒に直してくれた人。それから同じ門のヤドリガミ、良き先輩として憧れの存在なのだわ」
次は茉莉の番だわ、と。
梨花から返された筆を受け取った茉莉は、丁寧に、丁寧に、同じ名を綴っていく。
「パパでも、ママでもないんだけど、茉莉にとっては親みたいな……」
目を瞑って思い出す。
きらきらの眩しい金色の髪が、真直ぐで長くて綺麗で、赤いリボンがお気に入り。
自分のショートカットの黒髪を耳にかけて。茉莉とは全然違うんだ、とちょっと残念そうな声を漏らす。ちょっとくらい似たかったなぁ? なんて……。
鉄門を入口に繋ぎ止めていたネジのヤドリガミである茉莉は、まだ門からネジとして分離してからの日は浅い。
時折ぐるぐると不安定になる妹に、梨花は寄り添って穏やかな声をかけた。
「もっと遊びに来てくれるといいわね」
「梨花も、会いたい?」
「勿論なのだわ」
「……うん、茉莉も。今の茉莉があるのは、あの人のお陰だから。すごく、会いたいんだけど、あんまり会えない人で。会えたら……嬉しい、かな」
やっと零してくれた本音に、慈愛に満ちた緑の瞳が柔らかく細まる。
実は、梨花が彼に会いたいと願う理由は自分の為ではなく、茉莉が会いたがっているからだったのだ。
梨花は茉莉を、大切な家族を心から愛している。
自分自身の幸せよりも、家族の幸せを見る方が好きなのだ。
(だから茉莉が嬉しそうにしているのを見たいのだわ)
――だって私は門。人の営みを守るのか使命。人の幸せを眺めていたいの。
会えるかな? 初めと同じ問いに、今度は力強く答えてあげる。
「二人で祈ったからきっと大丈夫なのだわ」
霧の奥にあの御方かいるかどうかは、未だに分からないけれど。
二人なら何が起こっても乗り越えられるし、茉莉の願いは私が守るから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『編笠衆』
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POW : 金剛力
単純で重い【錫杖】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 呪殺符
レベル×5本の【呪殺】属性の【呪符】を放つ。
WIZ : 呪縛術
【両掌】から【呪詛】を放ち、【金縛り】により対象の動きを一時的に封じる。
👑7
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――ちりぃん。
鈴の音に耳を傾けたその瞬間。
名と願いを受けたヒトガタは、スルリと簡単に人の手から逃げてしまう。
風の流れを追いかけても、眼前は一面の濃霧で埋め尽くされていた。
そして予知の通り、猟兵達の小指には藍色の糸が結ばれている。
この糸の先にいるのはオブリビオンか、それとも――。
●
予知の男と全く同じ状況に陥った猟兵達。
すぐに糸の先へ接近するか、まずその場で何か行動を起こすか。お任せ致します。
この状況はオブリビオンの術が作り上げています。霧は払えないし、糸は切れません。
技能の行動・UCでも、術は解除出来ないものとして下さい。
接近すると、糸の先が見えてきます。
糸は『猟兵が綴った名前の人物に変化したヒトガタ』の小指と繋がっています。
これは願った者の記憶を頼りに作り出されています。
はっきりと姿を思い浮かべられる場合は、その通りの姿が。
姿が不明な場合は、願った人がこういう姿だろうと心の底で想像していた姿になります。
ぼやけている、または複数人の場合も可です。
『ヒトガタが化けた人物』は、まだ人形のように動きません。
その隣では、オブリビオン『編笠衆』が怪しげな呪術を続けています。
まずは編笠衆から倒していきましょう。
相沢・友子
霧の中、糸を辿りながらお父さんの姿を探す。
「糸の端は、地面に落ちてない。繋がってる。お父さん、居るの?」
走ってるつもりだが、大して動き回れるわけではない。怪我で両足を失って義足が痛くて投げ出して、下半身だけ本来の姿を晒す、人魚のような姿に成っていた。尾の先で地面を弾くように跳ねる事、数十回。居た。
その影は今よりも若いお父さんだ。とはいえ前に会えたのいつだったっけ。
ご飯が並べられてて、お父さんが、いただきますするまで待ってたけど。書類片手に電話ずっとしてて、視線だけで先に食べるように促してたけど、そうじゃなくて一緒に食べたくて。私は、ご飯に箸を付けれなくて、そのまま、自分の部屋に帰ってしまった。
●
息が詰まるような濃霧だった。
相沢・友子(淡水人魚・f27454)が不安気に自分の胸元を掴むその左手には、藍色の糸が結ばれている。そぅっと糸を手繰り寄せようとすると、途中でぴぃんと張り詰めた。それが意味するのは……。
「糸の端は、地面に落ちてない。繋がってる……お父さん、居るの?」
友子は霧の先に届くように声を上げた。しかし、一呼吸、二呼吸置いても返事はない。
気付けば、友子は霧の中に飛び出していた。しかし、それは駆け出した、とはとても言い難く。その姿はまるで、砂浜に打ち上げられた人魚が藻掻いているようだった。
彼女は以前の怪我で両足を失っていたので、普段は義足を使用しているのだ。普通の人のように走ろうとしても、痛みで前に進めない。
この先にお父さんがいるかもしれない。その想いに急かされ、もどかしい義足を放り投げた。下半身だけ、本来の姿を晒せば――現れたのは魚の尾。
友子は必死で跳ねた。とてもとても少しずつ、霧の奥へと身体を運んでいく。そして、尾の先で地面を弾くように跳ねる事、数十回。――居た。
「お父さん……」
友子の糸と繋がる男性の顔を覗き込む。
瞳が閉じられたその男性は、友子の記憶にある父よりも若い姿だったが、間違いなく父だった。とはいえ、前に会えたのはいつだったかなんて思い出せないのだけれど。
いつの日かの父を思い出そうとする。
(あの日は、ご飯が並べられてて、お父さんが、いただきますするまで待ってたけど。
書類片手に電話ずっとしてて、視線だけで先に食べるように促してたけど。
そうじゃなくて一緒に食べたくて。
私は、ご飯に箸を付けれなくて、そのまま、自分の部屋に帰ってしまった……)
何とか目に浮かぶのは、横顔や後ろ姿ばかり。
「……私のこと、見てよ。お父さんっ」
私、ここまで来たよ。お父さんに会いたくて会いたくて、頑張ったよ。
ねえ、返事をして……。
友子は自分が会いたいと願った姿、『父の姿をした何か』を食い入るように見つめたまま動けないでいた。その隣で呪術を続ける編笠衆は、視界にも入っていない。このままでは予知の行商人と同じ運命を辿る恐れもあるが、それまでには他の猟兵も動くだろう。
今はただ、餌としての役割を果たして、友子はオブリビオンの術式に溺れていく。
成功
🔵🔵🔴
照宮・梨花
【蝶番】茉莉(f22621)と
まあ、本当に会いたいと願った人が現れるのね
長いさらさらまの金髪に真っ赤なリボン、それからロートアイアンの城門扉の盾
本当に憧れの城門様みたい……って茉莉! そっちに行ったら危ないのだわ
【黒猫宅急便】で羽根の生えた大きな黒猫を作り出したら、その背に乗るわ
そして城門様に向かっていく茉莉を編笠の人達の中から掬い上げ、一緒に乗るのだわ
編笠の人達が地面を壊したり汚したりしても飛んでいるなら平気
錫杖の届かない背後に回ったら上空から特攻をかけて茉莉に倒して貰うのだわ
私も箒(お掃除グッズ《だす巾》)を手に、編笠の人を叩いて攻撃を妨害したり、わざと防御させるわね
茉莉、やっちゃえ!
照宮・茉莉
【蝶番】梨花(f22629)と
あれは…あの人は……!
茉莉だよ、ねえっ!出てきてくれたんだよね?
全部全部、覚えてるもん、全部一緒だもん、茉莉が間違える訳ないもん
背が高くて、綺麗な金の髪で、目だけお揃いの色で……
ずっと、会いたかっ――
(藍の糸を辿ってヒトガタを見つけ、駆け寄ろうとして梨花に回収される)
あ……そっか……本物じゃないんだね……
……茉莉の感動、返せー!!
(怒りに任せて【アリスナイト・イマジネイション】発動、戦闘鎧はウニ型バリアとなって敵に突き刺さる)
オブリビオンは『螺旋槍』で骸の海に留めちゃうんだから!
いくよ!梨花!
●
藍色の糸が結ばれた左手を握りしめて、照宮・茉莉(楽園の螺旋槍・f22621)は霧の中を進む。茉莉を見失わないように、照宮・梨花(楽園のハウスメイド・f22629)も後ろで控えていた。梨花の左手の糸も、茉莉の糸と同じ方向へずぅっと続いている。
「あれは……あの人は……!」
「まあ、本当に会いたいと願った人が現れるのね」
霧の奥、糸の先には二人が思い描いていたあの人の姿があった。
「全部全部、覚えてるもん、全部一緒だもん、茉莉が間違える訳ないもん」
閉じられた瞳の色は確認出来ないけれど。すらりと高い背、さらさらの長い金の髪にくくられた、彼のお気に入りの真っ赤なリボン。そして、彼の本体でもあるロートアイアンの城門扉の盾。どこを見ても、彼と異なる所など見つけられない。
じんわりと目の奥を熱くして、茉莉が『彼』へ駆け出す。
「茉莉だよ、ねえっ! 出てきてくれたんだよね? ずっと、会いたかっ――」
「茉莉! そっちに行ったら危ないのだわ」
敵の術に嵌りそうだった茉莉の手を引いて回収したのは、翼の生えた黒猫に乗った梨花だ。【黒猫宅急便】を発動しておいてよかった、と胸を撫で下ろす。
「幾ら本当の憧れの城門様のように見えても……あれはきっと偽物なのだわ」
黒猫の背に乗った二人が空から地上を見下ろすと、『彼』のすぐ隣にはオブリビオンの網笠衆が怪しげな呪術を行っている最中だった。
「あ……そっか……本物じゃないんだね……」
「茉莉……」
「……茉莉の感動、返せー!!」
胸の奥で大切に育んでいた憧れの気持ちを踏みにじられて。心底沈み込んだ呟きは、一瞬で怒声に変わる。茉莉の激怒で生まれた【アリスナイト・イマジネイション】の戦闘鎧は、ウニのようにトゲットゲだ! 編笠衆の背後を取った黒猫から伸ばされたウニ棘が、羽織も笠も風穴だらけにしてやった。
「いくよ! 梨花!」
「茉莉、やっちゃえ!」
それっぽっちの折檻では茉莉の怒りは収まらない。『彼』を囲う編笠衆は、照宮家がみんな掃除して、骸の海に捨ててやるのだ!
黒猫は濃霧の中、猫目を光らせて彼女達が戦いやすいように空を翔けまわった。黒猫、黒虎も彼女達と共に砦に住まう家族なのだ。クールに見えてご立腹なのかもしれない。
そんな黒猫の背に乗りながら、梨花は『お掃除グッズ《だす巾》』の箒で、網笠衆の笠を狙って叩きまくる。
「茉莉を傷つけるのは、駄目なのだわ」
箒に反撃する錫杖は、反射的に伸びる茉莉のウニバリアが弾き飛ばして、
「人の心を弄ぶオブリビオンは、骸の海に留めちゃうんだから!」
茉莉は『螺旋槍』で網笠衆の胸を深く貫いて消滅させた。
怒りをひとしきり敵にぶつけ終わると、再び視線は『彼』の方へと引き寄せられてしまう。偽物だと分かっていても、どうしようもなく似ている……会いたいあの人の面影に。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御園・桜花
「大正帝は不死帝の現人神、昔の講和条約や皇室新聞、学校の教本等ご尊顔をお写真で拝する機会はいくらでもありますもの…影武者かも知れませんが」
人型は写真で見たいかにも皇族、な姿
UC「精霊覚醒・桜」使用
高速で飛行し編笠衆の傍を周回
人型ごと糸で編笠衆をぐるぐる巻きにして高速・多重詠唱で破魔と氷結の属性攻撃を連続で叩き込む
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
「此処はエンパイア、界を越えて大正帝は絶対に現れません。ですから…神に会うては神を殺せ、臨済録の始まりですの」
「人の想いを劇のように操るなど、許されることではありません…どうぞ骸の海へお還りを。人形への愛なら、ただの人形師となってお戻り下さい」
鎮魂歌で送る
●
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は濃霧に包まれても、その穏やかな笑みを絶やす事無く、藍色の糸が導く方へ楚々と歩いて行く。
その先には、桜花が思い描いていた通りの、見覚えがあり過ぎる皇族の姿があった。
「大正帝は不死帝の現人神、昔の講和条約や皇室新聞、学校の教本等ご尊顔をお写真で拝する機会はいくらでもありますもの……影武者かも知れませんが」
これほど予想通りの姿という事は、願った者の記憶がヒトガタに移り、形成されているのかもしれない。そんな分析をしながら、桜花は【精霊覚醒・桜】の詠唱を紡いだ。
「我は精霊、桜花精。呼び覚まされし力もて、我らが敵を討ち滅ぼさん」
どこからともなく喚ばれた桜吹雪が桜花に纏って、真白の霧から彼女を遮断する。
桜の渦が高速でヒトガタとの距離を詰めると、そのまま旋回してグルグルと同じ軌跡を辿って行く。すると、桜花とヒトガタを繋いでいた藍色の糸は、ヒトガタと編笠衆と纏めて縛り上げてしまう。
「此処はサムライエンパイア、界を越えて大正帝は絶対に現れません。ですから……」
――手加減は無用です。
冷たい言ノ葉は氷結の破魔の力を宿し、桜の花びらから飛び出した氷柱が纏め上げたオブリビオン共の頭部を穿ち、氷の針山地獄を作る。
「神に会うては神を殺せ、臨済録の始まりですの」
糸でくくられなかった編笠衆が濃霧から飛び出し、桜花の背後から錫杖を振り下ろそうとするが、その腕には無数の桜の花びらでみっしりと覆われている。そして、桜は氷へと姿を変えて、腕を振り上げたまま編笠衆を氷結させたのだった。
「人の想いを劇のように操るなど、許されることではありません……どうぞ骸の海へお還りを。人形への愛なら、ただの人形師となってお戻り下さい」
命を止めたオブリビオンが骸の海へ消え去るまでの間、桜花は鎮魂歌を紡いだ。
死者を慰める歌に氷が溶けていくと、多くの編笠衆がいなくなったその場には――。
「……あら」
あれほど手荒な攻撃を行ったというのに。不思議と無傷のままのヒトガタの大皇帝が、はじめと変わらぬ姿で静かに佇んでいたのだった。
成功
🔵🔵🔴
相沢・友子
???:庇護対象“相沢友子”への異能による悪性負荷を検知。
モード:セキュリティーブロック・シフト。
モード:カウンターブレイク。
異能発生源:編笠のオブリビオン・タブンキットゼッタイ。
マチガッテイタトシテモモンダイナイ・イケ。
アタック可能距離まで接近。
ヨウスヲミ・・・マセン!全機特攻!
オートマトン型UCの意地を見せてみろ。
「……私のこと、見てよ。お父さんっ」
霧の中、友子の服のポケットから、お守り代わりに持ち歩いていた硝子の寝ず見がこぼれ落ちる。それは、瞬く間に数を増やしながら、編笠衆に、雪崩込んで行く。
俊敏で靭やかで獰猛な、術者の性格を色濃く彷彿とさせる、相沢全のUCだ。
●
「……私のこと、見てよ。お父さんっ」
相沢・友子(淡水人魚・f27454)は確かにオブリビオンの術式に溺れていた。
しかし、規定値以上の危険度が確認されたその時、彼女の身に仕掛けられていたユーベルコードが自動発動する。
『庇護対象“相沢友子”への異能による悪性負荷を検知』
霧の中、どこからか機械的な声が零れたが、その姿を確認出来た者はいなかった。友子のポケットから無色透明な【硝子の寝ず見】が零れ落ちていたのだ。
『モード:セキュリティーブロック・シフト』
『モード:カウンターブレイク』
一匹、二匹、と瞬く間に増殖していくグラスラットが、敵と認識した編笠衆を囲うように群がって行く。
『異能発生源:編笠のオブリビオン・タブンキットゼッタイ』
『マチガッテイタトシテモモンダイナイ・イケ』
鼠の本性を知っているか。奴らは俊敏で靭やかで、酷く獰猛だ。
小さき獣の群れのギチギチと前歯を噛み合わせる音が、虚空より忍び寄る。
とはいえ、何者かの敵意を察知したのは、友子の鼠だけではない。編笠衆もまた見えざる侵入者の襲撃を防ぐ為、呪殺符を撒き散らす。
『ヨウスヲミ……マセン! 全機特攻!』
見えないが故に無差別に放たれる攻撃を友子に受けさせるわけにはいかない。
ある鼠はその身を挺して呪殺符から彼女を護り、ある鼠は外敵である編笠衆の喉元に喰らいついた。ブチブチと筋線維を断ち切って地面に押し倒せば、不可視の獣に少しずつ身体を飲み込まれていく恐怖で埋め尽くしてやる。
隣で地獄が終わろうとしていても、友子の視線はヒトガタに釘付けのままだ。その一連の光景を友子が認識する事は無かったようだ。
自覚もなく発動されたユーベルコードは、彼女の父、相沢全が仕掛けたものらしい。
彼女が零した記憶の欠片を覗いても、彼の意図は未だに不明である。が、彼女が心の底から会いたいと焦がれる父親の手により護られていた事だけは、確かであった。
成功
🔵🔵🔴
清川・シャル
ぼやけた「それっぽい姿の男女」はきっと父様と母様
鬼の角の男性と金の髪をなびかせた女性のシルエット
純粋なオブリビオンなら躊躇いなくやれる…んですけど、それが心を映したものだとしたらまだ迷いがあるから直接攻撃は…避けたいですね
編笠衆に狙いを定めて。
修羅桜での攻撃を行います
UC起動
2回攻撃、破魔、串刺しでの攻撃
斬撃で舞うように一体一体仕留めて行きましょう
敵攻撃には激痛耐性、第六感で避けて、武器受けしてカウンターで対応します
●
(あのシルエットは……)
清川・シャル(無銘・f01440)の左手には二本の藍の糸がくくられていた。
二本、二人……。シャルの糸は、霧の奥にぼやけて揺らぐ男女へと続いている。
男性には羅刹の鬼の角。女性には金色の髪。眠っているように目は伏せられているようだから、瞳の色は確認出来ないけれど。
「きっと、父様と母様……なんですね」
それはシャルが『こうであろう』と想像していた姿、そのままだったのだ。
例えばこれがオブリビオン自身が化けているのなら、躊躇いなく殴れるだろう。
けれどそうではなく、自分の心を映し出したものだとしたら……。
父と母の姿をした二人を自らの手で壊す事など、シャルには出来なかった。
「でも……心を覗かれて思惑通りに利用されるのも。捨て置くわけにはいきませんね」
二人の隣には、いかにも怪しげな呪術を行っている編笠衆がいるのだ。
シャルに見つかっても一向に怪しげな術を止めようとしないオブリビオンを睨み付けて、シャルは腰に携えていた本差と脇差、二本の『修羅櫻』をすらりと抜いた。
桜色の柄糸が巻かれたその二刀は、シャルの父と母の形見だ。
「血の桜よ。咲き誇れ」
【百花繚乱・桜舞】――修羅櫻の斬撃が編笠衆を抉り、散る血飛沫。鮮やかな赤に合わせて、刃の太刀筋の後には桜吹雪が舞う。この一角だけは、真白の濃霧の中に赤と薄紅の桜の木が浮かび上がるようだった。
術を邪魔するシャルに他の編笠衆も襲い掛かって来るが、錫杖の重い一撃は桜の羽織を靡かせて寸での所で躱していく。そして地面に沈んだ錫杖を握る腕を脇差で刺し、本差の刃で恰幅の良い腹部を深々と貫いた。
血振りをした刀を鞘を納めて、シャルは今一度二人の方を見やる。
父と母に見える彼らの瞳が開かれた時、自分はどんな言葉をかければよいのだろうか。
成功
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第3章 ボス戦
『藍羽姫』
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POW : 鬼女の性
全身を【鬼の闘気】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD : 刃舞いの鈴
【鈴の音】を向けた対象に、【刃と変じた布】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : 風鳴りの鈴
【鈴の音】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【風の刃】で攻撃する。
👑7
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●
――ちりぃん。
編笠衆を全て倒し終えると、あの時と同じ鈴の音が鳴り、猟兵達を覆っていた濃霧が消え去った。
「そのまま大人しく術にかかっていたら宜しかったのに……まあ、良いですわ。あなた方の記憶と少しばかり異なる所があってもお許し下さいね?」
霧が晴れた境内には、先程までと同じ藍色の糸に繋がれた『ヒトガタが化けた人物』と共に、一人の鬼女が佇んでいた。
彼女は『藍羽姫(らんばひめ)』。人同士の争いを好む悪趣味なオブリビオンだ。
「あなた方は、ヒトが一番美しくなる瞬間って何時だと思われますか? わたくしは勿論、命を落とす瞬間、特に愛しい人に命を奪われる……その絶望に満ちた顔が、最も好ましいと思うのです」
うっとりと語りながら、藍羽姫はふわりと羽衣を揺らして宙に浮かんだ。
そして、瞳を閉じたまま佇むヒトガタの前で鈴を垂らす。
「手下に命じて、こうしてあなた方の大切な人をお作り致しました。彼らに、こうして命を吹き込めば……」
――ちりぃん。
瞳が開かれたヒトガタが、自分を呼んだ者へと向けたのは……明らかな殺意だ。
「ほら、中々の出来栄えでしょう? それでは……どうぞ殺し合って下さいませ」
●
編笠衆を倒して術を止めた猟兵達でしたが、裏で糸を引いていた『藍羽姫』により命を吹き込まれた『ヒトガタ』が、猟兵達に襲いかかってきます。
本来ならヒトガタは内面までも完璧に写し取って、糸に繋がれた者が思い描く人物と全く同じように語り掛け、そして殺しに来るはずでした。
ですが、今回は術式を途中で止められたので、ヒトガタは人形のように無感情のまま猟兵達の命を狙います。
ヒトガタは本当の身体を持たないので、幾ら攻撃しても破壊する事は出来ません。
藍羽姫を倒せばヒトガタは紙に戻ります。繋がれた糸を頼りに追いかけ続けるヒトガタの攻撃を回避しながら、藍羽姫を倒しましょう。
照宮・梨花
【蝶番】茉莉(f22621)と
貴女ね、会いたいと焦がれる気持ちを餌にするオブリビオンは
乙女心を弄んだ罰を受けて貰うのだわ
鈴の音が聞こえたらエプロンのポケットから【夢の洗濯機】を召喚するのだわ
刃のような布も、憧れの城門様の偽物も、みんな吸い込んでしまいましょう
そして尋ねるの、貴女には会いたいと思う人はいたかしらって
完全密封とまで行かなくてもいいのだわ
だって吸い込まれたり質問されたりしている間は他を攻撃出来ないもの
茉莉、今よ!
きっとあの鈴が鍵なのだわ
梨花の憧れの城門様は守る人
攻撃なんてしてこないのだわ
だからやっぱりあれは偽物……茉莉、落ち込まないでね
遊びに来てと一緒に手紙を出しましょう
照宮・茉莉
【蝶番】梨花(f22629)と
今回の黒幕、見つけたよ!
絶対許さないんだから!
おいで!わんわんおー!(【わんだふる・わ~るど】)
ロッテ、メイジ、グリコ!
ルック、アポロ、ガトー、カカオ!
ロイズにメリー、そしてチロル!
たくさん呼んで、布の狙いを絞れないようにしちゃうよ
隙あらば鈴をひったくったり、噛みついて足止めとかお願いできるかな?
梨花、その人まで吸い込んじゃうの!?(城門様)
確かに偽物だけど、でも……
……あの人は、梨花に攻撃なんてしないもん
こいつは、あの人の姿をしてるだけ……!
自分に言い聞かせて、『螺旋槍』で藍羽姫を貫くよ
落ち込んでないよ……あれは偽物……偽物……
……手紙、一緒に書こうよ、梨花
●
霧が晴れてはっきりと『あの人』の姿が浮かび上がった。
見目形はあの人そのもの。しかし、照宮・茉莉(楽園の螺旋槍・f22621)と御揃いのはずの紫の瞳は酷く冷たく、まるで空っぽな人形のようだ。
その隣には、鈴を片手に紅色の唇で美しい弧を描く鬼女が、ゆらあり浮かぶ。
「貴女ね、会いたいと焦がれる気持ちを餌にするオブリビオンは」
「今回の黒幕、見つけたよ! 絶対許さないんだから!」
照宮・梨花(楽園のハウスメイド・f22629)と茉莉は、人々の心からの願いを踏みにじる悪意に溢れたこの事件の首謀者へ、募り募った怒りをぶつける。
まずは傷ついた痛みを力に変えて、茉莉が大きな声を空まで響かせた。
「おいで! わんわんおー!」
ロッテ、メイジ、グリコ! ルック、アポロ、ガトー、カカオ!
ロイズにメリー、そしてチロル!
十匹。全員分の名前を呼び、【わんだふる・わ~るど】でお利口なわんこたちを召喚する。口に出して呼ぶと、何だか甘いものを食べたくなる気もするが……きっと気のせいだ。これらは全てこのわんこたちの名前なのだから。
「みんな行くよ! 布の狙いを絞れないようにしちゃおう。足止めもお願いね」
「茉莉、きっとあの鈴が鍵なのだわ」
「分かってるよ、梨花。あの鈴も狙っちゃって!」
茉莉の指示通りに動くわんこたちの第一陣は、藍羽姫の羽衣に食らいついた。
「犬如きがわたくしに触れていいと思っているのですか、汚らしい! ヒトガタ、やってしまいなさい!」
藍羽姫は鈴を鳴らし衣を刃に変えてわんこの牙から逃れると、城門の盾と篝火の剣を構えたヒトガタを茉莉に嗾けた。
すると、わんこたちも直感する。こいつは違う。ご主人様が好きなあの人じゃない。先程とは別の子らが低い唸り声をあげて、これ以上茉莉に近寄らせまいとヒトガタに飛び掛かった。それと同時に、揺れる鈴に噛み付こうとするわんこもいる。
しかし、藍羽姫は能力の要となる鈴を護る為、わんこたちの牙が届かない空高くへと舞い上がった。
「ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん五月蠅いわねぇ! まとめて刃の餌食になれ!」
怒りで本性を現した藍羽姫は、真の鬼のような形相で鈴を鳴らす。だが――、
「乙女心を弄んだ罰を受けて貰うのだわ」
刃の布が地上へ落とされる前に、タイミングを見計らっていた梨花が白いフリル付きのエプロンから【夢の洗濯機】を召喚した。
「不潔なものは全て洗わないといけないのだわ。その刃のような布も、貴女も。憧れの城門さまの偽物も、みんなみんな吸い込んでしまいましょう」
梨花に指定されたものは、言う通りに超巨大な洗濯乾燥機の中へ囚われてしまう。
「梨花、その人まで吸い込んじゃうの!?」
「ええ。私の憧れの城門様は守る人。私と茉莉を攻撃するその人は偽物なのだわ」
「くっ、なんなのこの術は!? 出せぇ!!」
藍羽姫は洗濯機の内側からバンバンと壁を叩き、また刃で切ろうとするが、洗濯機は内側からの攻撃を全て吸収してしまう。そんな洗濯機の窓を覗き込んで、梨花が尋ねた。
「貴女には会いたいと思う人はいたかしら」
「はっ、下らない質問ね。人間のような心の弱い生き物と一緒にしないで頂戴!」
「……全然駄目なのだわ。もっと綺麗にならないと」
梨花の質問を鼻で笑い飛ばした鬼女の藍色の瞳は、自分さえ満足すればよいという欲で酷く濁っている。梨花は静かに首を振って、洗濯機をスタートさせた。
猛回転する洗濯機は、悲鳴すらも巻き込んで、中のものを熱風と洪水で一緒くたに洗っていく。
「茉莉?」
「うん……あの人は、梨花に攻撃なんてしないもん。こいつは、あの人の姿をしてるだけ……!」
茉莉が大丈夫だと頷くと、梨花は洗濯機の窓を開け放つ。
勢い良く飛び出る藍羽姫とヒトガタを、ひと思いに――茉莉の『螺旋槍』が貫いた。
●
「茉莉、落ち込まないでね」
戦いを終えた梨花は心配そうに茉莉の顔を覗き込んだ。
「落ち込んでないよ……あれは偽物……偽物……」
藍色の糸はいつの間にか解けていたが、哀の情だけは残ってしまった左手に視線を落とす。頭では理解していても、心の柔い所を抉られてしまった茉莉は中々元通りの明るさを取り戻せないでいた。そんな妹に何が出来るだろう。
「そうだわ。遊びに来てと一緒に手紙を出しましょう」
帰って手紙を書きましょう、と。梨花は茉莉が見つめていた手を引いた。
「うん……手紙、一緒に書こうよ、梨花」
そうして、二人は手を繋いで階段を下りて行く。
早く帰ろう。大好きな私達のおうちへと。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御園・桜花
一瞬だけスッと表情が抜け落ち
「ああ、それでは私は貴女と相容れませんね。私は、人が家族や誰かと歩いている姿を見て、尊さと安心を感じる質ですので」
UC「精霊覚醒・桜」使用
「所詮木偶は木偶、木偶らしい使い方をして差し上げます」
高速飛行し糸で木偶を振り回して藍羽姫にぶつける
高速・多重詠唱で破魔と炎の属性攻撃
木偶ごと藍羽姫を焼き尽くす勢い
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
「写真でしか拝見したことがない尊いお方ですもの。例え本物と同じようにお話になったとしても、同じ扱いをしましたわ。天子さまが私如きの前に現れるわけがありませんもの」
コロコロ笑う
「さあ骸の海へお還りを。人と共存出来るものになったらお戻り下さい」
●
上機嫌にヒトガタを嗾ける鬼女を前に、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)の微笑みが、スッと抜け落ちる。
「ああ、それでは私は貴女と相容れませんね。私は、人が家族や誰かと歩いている姿を見て、尊さと安心を感じる質ですので」
ぴぃんと張り詰めた空気の中、先刻と同じ【精霊覚醒・桜】が発動される。しかし、それは編笠衆を氷結させたあの時の桜吹雪とは異なり、今の彼女は熱い想いを秘めた火の玉のような桜の渦に包まれ、揺らめいていた。
「あら、何かお怒りの様子かしらお嬢ちゃん。この御方にずっと会いたかったのでしょう? ほら、もっと近づいてよくご覧になって?」
藍羽姫は鈴の音で大正帝のヒトガタを操り、神気の刃で桜花を捕らえようとする。
しかし、刃が切り裂いたのは桜の残像。陽炎を残して高速移動する桜花は、糸に繋がったヒトガタを一切の容赦もなく乱暴に振り回す。
「所詮木偶は木偶、木偶らしい使い方をして差し上げます」
遠心力をかけてヒトガタを藍羽姫に猛突させると、追い打ちをかけるように破魔の炎を連射した。ヒトガタ諸共、藍羽姫を焼き尽くす勢いで。
「この女、想い人と同じ姿をした者を、こうも乱雑に扱うなんて……正気か!?」
信じられんと口調を変えた鬼女は本性を現すと、纏った衣を鋭い刃と化す。
「いいさ……それならお返しに、わたくしがこの手で八つ裂きにしてやる!」
鬼の形相、鬼の乱舞。その刃の軌跡に合わせて、桜花も桜織衣の袖を振りながら踊るように避けて行く。コロコロ笑う余裕も見せながら。
「写真でしか拝見したことがない尊いお方ですもの。例え本物と同じようにお話になったとしても、同じ扱いをしましたわ。天子さまが私如きの前に現れるわけがありませんもの」
初めから分かっていたことですわ、と。
術に嵌ったふりをしただけ。罠にかかったのは貴女の方だと碧の瞳が美しく細まる。
「さあ骸の海へお還りを。人と共存出来るものになったらお戻り下さい」
悪しきオブリビオンにご案内出来るのは、過去の席だけだ。
至近距離から放たれた炎の弾丸が、藍羽姫を撃ち抜いた。
成功
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相沢・友子
「お父さん、なんで痛いことするの?私のお父さんはそんな事しないよ!?表情も硬いし、偽物なの?でも、偽物のお父さんにも使い道は在る。」
「使い道は在るって言葉、大好き。だって、お父さんの口癖だもん」
「前から試してみたかったこと在るんだ♪」
【行動】UC怪奇ヘビ人間で、全身を大量の毒蛇に変えて、相沢全・偽の体の穴という穴から、内部に入ろうとします。相沢全・偽が裂けたり動かなく成ったら、藍羽姫の所へ行き、
「作ったのはあなた?」
もっと色んな意味で『使い道は在る』お父さんを作ってくれるように頼みます。もし断られるか、はぐらかされる様なら、今度は、藍羽姫の内部に入ろうとします。だって、ぬくもりが恋しい、から。
●
相沢・友子(淡水人魚・f27454)が縋りついていたヒトガタの瞳が漸く開かれる。
「お父さん……?」
ガラス玉の瞳は友子を映すけれど。待ち望んでいたはずのその瞳は冷たくて、空っぽで……。それは、鏡を見ているのと何も変わらなかった。
すぅっと音もなく動いて、一瞬友子の頬を撫でるような仕草を見せたヒトガタの手は、彼女の顔を素通りして……心臓部に伸ばされる。
「く……苦しいっ!? ……イヤだよお父さんっ!」
ヒトガタに心を奪われた人間は、その命も奪われる――それがこの術式の狙いだった。予知された行商人の男もこうして心を握り潰されて息絶えたのだろう。
「お父さん、なんで痛いことするの? 私のお父さんはそんな事しないよ!?」
友子は尾鰭でヒトガタを蹴ると何とか距離を取り、胸を押さえながら息を整える。
娘がこんなに苦しんでいるのに、その表情は変わらない。
認めたくはないけれど、嫌でも理解してしまう。このお父さんは偽物なのだと。
「……でも、偽物のお父さんにも使い道は在る」
俯いた人魚の口元が歪む。
「使い道は在るって言葉、大好き。だって、お父さんの口癖だもん」
だからね、私も真似てみるの。
「前から試してみたかったこと在るんだ♪」
偽物なら、何しても、どうなっても……いいよね?
ドロリ――友子の身体が溶けた。
否、【怪奇ヘビ人間】となり、小さな毒蛇の集合体になったのだ。
そうして毒蛇はチロチロと赤い舌を出しながら、ヒトガタの、相沢全の偽物の身体の穴という穴から内部へと侵入していく。耳、鼻、口……うぞうぞと蠢くそれを追い出そうと、ヒトガタは自分の手で引っこ抜こうとするが間に合うはずもない。
ヒトガタは幾ら壊しても壊れない人形のはず……けれど、内側から続く破壊には為す術を持たなかったようで、やがて完全に機能を停止した。
藍色の糸に繋がれていた小さな蛇の元に、他の蛇達が集合する。
半分人間の姿に戻った友子は、蛇を従えたまま藍羽姫の元へ。
「作ったのはあなた?」
「来るな、○○○○!」
なんだか、酷い事を言われた気がする。あなただって鬼みたいなのに。
「ねえもっと、使い道の在るお父さんを作ってよ」
けれど私のお願いは叶えてもらえないみたいだから、代わりに実験台になってもらう。
ヒトガタじゃ足りない、ぬくもりが恋しくて。
オブリビオンの中はそれなりにあたたかかった。
成功
🔵🔵🔴
赤倉・杏奈
ヒトが一番美しくなる瞬間なんて、そりゃ……なんだろうね。
そういえば考えたことなかったや。
でも、貴女と同じ考えにはまず至らないから大丈夫。
むしろ貴女の絶望する顔が見たい、だなんて、流石に悪趣味かな。
まぁどんな顔しても良いけど、さっさと倒されてちょうだい。
妖剣解放、いくよ。
高速移動でヒトガタの間を縫って移動して、射線が見えたら斬撃!
敵の布もちょっと面倒そうだけど、高速起動を活かして
避けれたらラッキーってことで。
●
「ヒトが一番美しくなる瞬間なんて、そりゃ……なんだろうね。そういえば考えたことなかったや」
「あら……? わたくしの領域内に侵入した人は、だあれ?」
藍羽姫が振り返ると、妖狐の猟兵、赤倉・杏奈(妖狐の妖剣士・f04209)が境内の御神木に寄りかかりながら此方を眺めていた。その左手には他の者のように藍色の糸はくくられていない。本来なら外部からの侵入を許さないはずの術式が、この娘の持つ妖刀により破られたというのか。
「名乗るほどの者でもないよ。初めの質問は……うん、貴女と同じ考えにはまず至らないから大丈夫。むしろ貴女の絶望する顔が見たい、だなんて、流石に悪趣味かな」
戦場にそぐわない気軽な雰囲気で杏奈は微笑んでいる。
此処で何が起こっていたかなんて、知らない。
けれど其処にオブリビオンがいるのなら、倒してはいけない道理はないはずだ。
「生意気なお嬢ちゃんですこと。あなたが願うヒトガタがいないのなら、わたくしが直接手を下して差し上げるまで、ですわね」
「まぁどんな顔しても良いけど、さっさと倒されてちょうだい」
妖艶に笑う藍羽姫は鈴を、気ままに笑う杏奈は妖刀を構えて、其々の術を発動する。
「【妖剣解放】、いくよ!」
「きませい、【刃舞いの鈴】」
鈴の音が境内に響くと、刃と化した藍羽姫の衣は生き血を欲するように獲物を追いかける。そして鋭い布で編んだ籠の中へと杏奈を囲い込んでしまった。
籠の中は刃の乱舞。けれど、杏奈は妖刀の怨念を自身に纏って疾風の速度を得ていた。
風に乗るように、自由奔放を好む彼女らしく、ふわり、ひらり――。
刃の舞に合わせて跳んでは妖刀で布刃を薙ぎ、少しずつ布の隙間を作っていく。
「ほらほら、このままでは細切れになってしまいますよ?」
「でもほら、全部避けられてるでしょ。ラッキーってことで」
ここまで来れば、杏奈には勝機が見えていた。
布の隙間から藍羽姫の豪奢な姿が覗いた瞬間――衝撃波の斬撃が走る。
風刃の一撃は手薄になっていた藍羽姫の懐を抉ったようで、杏奈を捕らえていた布刃は力を失い、パサリと地面に落とされた。
成功
🔵🔵🔴
清川・シャル
悪趣味も悪趣味。シャル、命を粗末にする行為がいちばん嫌いなんです。
真の姿は鬼神也。
矢張り父様と母様らしき姿をしていても所詮は傀儡。
貴方も鬼なのですね。
何方が強い鬼か力較べと行きましょうか?
そちらが強化ならこちらも強化してみましょうか
UC起動して、今回は攻撃力特化にしてみます
狙うは藍羽姫のみ
愛用のそーちゃんをチェーンソーモードにして、呪詛を帯びたなぎ払い攻撃を行います
櫻鬼の仕込み刃で蹴りあげたりもしながら連撃を行います
敵攻撃には激痛耐性、武器受けにカウンターで対応です
●
藍羽姫の台詞で、この父と母は完全なる偽物だと確定したが……会いたいと願われた者の姿を、これほどまでに忠実に再現するのか。
父の瞳は、青かった。しかし、清川・シャル(無銘・f01440)と同じその青は、娘のシャルの姿をただ無感情に映すのみ。こんなものはただの硝子玉。ただの人形だ。
「矢張り父様と母様らしき姿をしていても所詮は傀儡……」
中身のない此れらなら、すぐに傀儡と分かる。けれど、本来の術式は更に本物に近づけて本物を騙らせて、人の命を奪おうとしていたなんて。
シャルのように、もう現世で会う事は叶わない亡き人を、縋るような気持ちで願う人もいただろう。藍羽姫はそんな願いをも無情に踏み躙り、自分の歪んだ欲望に酔いしれている。――其の妖艶な笑み、まさに鬼女。
「悪趣味も悪趣味。シャル、命を粗末にする行為がいちばん嫌いなんです」
其方も鬼なら、此方も鬼となろう。
シャルは真の姿を解放して鬼神となる。青の瞳が赤く紅く耀いた。
「さて……何方が強い鬼か力較べと行きましょうか?」
ゆらりと笑みを返して、発動された【幻想喰ゐ】。
藍羽姫の殺気や呪力が可視化され、ざらざらとシャルの口へ吸い込まれていく。
「闇よ、私の身体の中へ。──頂きます」
人には猛毒な負の感情も、鬼にとっては糧となる。湧き上がる力を攻撃力に転換して、桜色の金棒をぶぅんと振った。
「物騒ですよ、お嬢さん。大切な御両親から目を逸らして宜しくて?」
藍羽姫は優雅に浮かびながらヒトガタを嗾けるが、シャルは脇目も振らずに鬼を狩りに走る。彼女の道を塞ぐヒトガタは、先刻の戦いでシャルが使用していた修羅桜と同じ刀で切りかかるが、チェーンソーモードにチェンジされた金棒で返り討ちにされた。
崩れた影が地面に落ちる。しかし、ヒトガタは息絶えず、尚もシャルに手を伸ばしていた。
「邪魔です。父様と母様が黄泉から私を手招きするなんて、あるはずないのですから!」
「いいねぇ、その殺気っ。わたくしも殺し合ってあげるわ!」
戦闘狂の本性を表した鬼女は、鬼の闘気で操る刃の衣でシャルの上空を覆う。
後ろはヒトガタ、前は布刃。両側から命を狙われるこの場でも、鬼神は好戦的に笑っていた。ピンクの鼻緒の高下駄でヒトガタを蹴る。足を掴もうとする腕は仕込み刀で切って、そのまま魔力ジェットで跳躍した。目の前の布刃の山に自ら接近すると、呪詛により力を増した金棒で全てを打ち払う。
「終わりにしましょう」
空中で再び魔力ジェットを放出させると、鬼女へ向かって急降下する。防御に布や風を集めても、もう遅い。重量級の呪力を帯びた桜の金棒は、鬼女の頭に落ちて――真っ赤な花を派手に散らしたのだった。
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藍羽姫が消滅すると、ヒトガタも藍色の糸も階段下の立て看板も全て消え去っていた。
人を惑わす鬼の鈴の音も、もう聞こえて来ることはない。
けれど、サムライエンパイアの魑魅魍魎は、まだまだどこかに潜んでいるはずだ。
世の為人の為。猟兵達の世直しの旅はこれからも続いて行く。
大成功
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