どうぶつ、どうでしょう?
#アポカリプスヘル
タグの編集
現在は作者のみ編集可能です。
🔒公式タグは編集できません。
|
●アポカリプス適応外
「出来るかぁっ!こんなもん『慣れろ』と言われても無理に決まってるだろー!」
その場に、まるで効果音でちゃぶ台をひっくり返した時のような怒りの叫び声が響いた。
「いや、でもリオン親分。気が付いたらこういう風になっていたわけですし」
人の太腿くらいの大きさをした柴犬が、諭すように少年の風合いの残る青年に告げる。
「そうですぜ、リオンおやびん。自分でも良く分からねぇですが、こうなっちまったもんはしゃあねぇでさぁ」
同じく、似たような大きさのチンパンジーが、若干泣きの入り始めた青年の肩をぽむ、と叩いた。
「馴れ馴れしく人の肩を叩くなぁっ!」
見れば、その『人間』の青年を取り囲むように、わちゃっと様々な種類の『賢い動物』たちが集まっている。
「おまえらみたいな弱そうな奴ら信用出来るか! 俺はこれから、この拠点放棄の準備で忙しいんだ、邪魔するな!」
「まあまあ、リオンおやぶん。ニンジンでも食べるぴょん」
「確かに。リオン親分、にんじんは美味であるヒヒン」
「もーうーいーやーだーぁー!」
多種多様な賢い動物たちが、様々な方法で相手を褒め称えたり宥め賺したりしている傍らで『親分』と呼ばれた半泣きの青年は、既にヒステリー状態に陥っている。
「また始まったよ……」
「あの動物嫌いさえ直ればなぁ……」
それを拠点の大人たちは途方に暮れたように見ていた。そして、諦め気味に賢い動物たちに語り掛ける。
「なぁ、動物たち。どうか俺たちと戦っちゃくれないか。お前たちが戦ってくれりゃ、オブリビオンとやり合えてこの拠点だって棄てずに済むかも知れないんだ」
賢い動物たちは、声を揃えて口にした。
「もちろん――『親分』と一緒に戦えるなら!」
「嫌だ! 見るからに役立たずそうなお前らとなんか戦えるかぁっ!!」
●グリモアどうぶつ天国
「――という、動物の楽園を見……こほん、アポカリプスヘルの予知夢を見た」
淡々と語るが、どこか脳がお花畑になっているレスティア・ヴァーユ(約束に瞑目する歌声・f16853)が告げた。
「予知夢では、近いうちにその拠点は『いまいち良く分から……』いや『もこもこした動物型のオブリビオン』の襲撃に耐えきれずに放棄される。
しかし、そのリオンと呼ばれる青年が、拠点にいる『賢い動物』たちを率いて戦う意志を見せれば、形勢は逆転するだろう。彼がリーダーとして覚醒すれば、拠点は後により強堅なものになると思われる。
ただ――」
レスティアは、記憶から見た予知夢を辿りながら口にした。
「何故、そこまで慕われているかは不明だが、当のリオンは『大の動物嫌い』で『動物たちは役に立たない』とまで言っている。
しかし賢い動物たちは、それでもリオンと一緒でなければ、戦線に出たくないのだと」
悩ましい、と一言で片付けそうになった状況を、レスティアは喉に押し込めて言った。
「そのリオンの偏見を取り除き、動物嫌いを克服させてほしい。ややこしいが、これも世界の戦況を覆す確かな一歩になるだろう。どうか、よろしく頼む」
春待ち猫
こんにちは。新米マスターの春待ち猫と申します。まだまだ不慣れですが、どうか宜しくお願い致します。
今回は、第1章が冒険。第2章が集団戦。第3章が日常となっております。
章内の概略は以下となります。
○第1章:リーダー候補生「リオン」の『動物嫌い』『動物は役に立たない』等の偏見を、猟兵が様々な『賢い動物』たちと一緒に更生させることになります。
一例として、POWであれば『身体能力による訓練』SPDは『一緒に何かに貢献』WIZで『愛を語る』などで『賢い動物たちが、世界の為に何かデキるやつら』であることを、リオンに見せて証明します。
○第2章:リオンと賢い動物たちの初の実戦として、拠点を襲ってきたオブリビオンを、リオンと動物たちを伴い迎撃します。拠点の住民は避難済みで、場所はコンテナなどの軽い遮蔽物がある広い倉庫的な形となります。リオンと動物たちは自分の身は自分で守ることができ、また猟兵の戦い方から戦闘を学んでいきます。
○第3章:撃退したオブリビオンから確保した、普通に絶品な味の肉を交えての闇鍋が食べられます。材料は好きなものを自由にお持ちよりください。
(第1章、第3章につきましては、プレイングによる【POW】【SPD】【WIZ】はゆるやかにて問題ありません。ご自由に行動をいただけましたら幸いでございます)
それでは、どうかよろしくお願い致します。
第1章 冒険
『保護せよ未来への芽吹きを』
|
POW : 訓練だ。剣を取れ、組み付け、家族を守るため。
SPD : 耕作だ。花を植え、語り継げ、世界を守るため。
WIZ : 告白だ。愛を告げ、子を育め、未来を守るため。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
杼糸・絡新婦
役に立たない言われても慕ってくれるとか健気やねえ。
ほな癒やされながら人肌脱ごか。
動物たちに手伝ってもらいながら
【野生の勘】で拠点の危険な場所を探し、
【罠使い】で罠を作り、
逆に地形の利用をする。
ついでい動物たちがどれくらいのもんか見れるしな。
それも踏まえてまた罠作成やや警戒地点を探す。
あんたさんら足は早い方?伝達とかもお願いできそうやけど。
「この役立たず! 俺なんかに付きまとってないで、どうせなら拠点放棄の準備でもしてこいよ!!」
拠点に降り立った先に見えたのは、自分に付きまとう『賢い動物』たちに怒鳴り散らす『リーダー候補生』リオンの姿だった。
「なぁ、リオン。考えちゃくれないか。ここの動物たちは、お前さえ頷けば一緒に戦うと言ってくれてるんだ。戦力が増えればここだって――」
「ほっといてくれよ! 絶対に嫌だからな!!」
リオンは頑として首を縦に振る様子はない。
「あ、もしかして奪還者さん?」
その中で、賢い動物のアライグマが杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)の姿を目に留める。人の四分の一くらいの大きさをした様々な『賢い動物』たちのつぶらな視線が一斉に集まった。
「なんや、役に立たない言われても慕ってくれるとか健気やねえ。飴ちゃん食べる? 食べれたらやけど」
「食べるー!」
絡新婦が端正な縫い模様の入った白い着物の袖口から、包み紙に収められた飴を開けて差し出すと、賢い動物たちの半分がわっと集まった。
器用なロボットアームを装備している賢い動物にはそのまま飴を渡し、そうでないものたちには一つずつ包み紙を開けてあげながら、絡新婦はしみじみと感じ入る。
「可愛いし、ほんま健気やなぁ。あんたさん、こんな可愛いこたちの何が気に入らないんや?」
「ふん! 賢くないし馬鹿だし役立たずだしすぐ死ぬし! 気に入らないところだらけだ!」
リオンに問い掛け返ってきた答えに、絡新婦はしばし考える。
「ほなら、癒やされながら一肌脱ごか。皆で一緒にオブリビオン対策で罠とか作るのはどうやろ?」
「行くー! リオン親分も一緒に!」
「……こいつらと一緒なのは嫌だけど、確かに放棄の準備中にオブリビオンに襲われたら厄介だ。行く」
リオンは仏頂面を隠すことなく、ぼやくようにそう告げた。
賢い動物たちをずらずらと連れて、絡新婦はリオンを伴い、拠点をぐるりと一週することにした。
歩いていると、前方に歩いていた先のアライグマがぴたりと足を止めた。不安そうに辺りを見渡し、周囲の賢い動物たち一緒にそわそわし始める。
「ここ、何かおかしいかも。ここ、こわい」
「ふん、そんなでたらめ言ったって――」
条件反射的に否定しようとしたリオンが、辺りを見渡し何かを感じたように黙る。絡新婦も、日常からの趣向で磨かれた第六感がこの場の危険性を告げてきた。
「どうやろか? 自分もこの辺り少し怪しい思うんやけど」
「……ここから音を潜ませて敵に入られたら、中からじゃ気付けない。昔にこういう場所は全部潰したはずなのに」
「ほな、ここに罠張ろか。通れないように落とし穴とかどうやろか」
「それなら、ドリルで穴を開けるぴょん。ドリル持ってるぴょん」
語尾の何だかおかしなウサギが、禁忌の科学の粋を尽くした、いくらでも物が出し入れ出来るポケットからドリルを取り出した。そして、ジャンプと共に凄まじい音を立てて地面に穴を開けていく。
そして、上に薄いトタンを被せれば即席とはいえ立派な落とし穴が完成した。
「次も行くぴょん!」
「その前に、あんたさんら足は早い方? 足早かったら伝達とかもお願いできそうやけど。新しく張った罠とかの連絡とかも出来れば楽やない?」
賢い動物たちが少し考えて頷く。
「それならチーターさんにお願いすれば、早いんじゃないかな? 広いところなら一番早いよ。逆に狭いところなら、大きさはあまり変わらないけどネズミさんの方が得意」
「なるほどねえ」
絡新婦はそれらの言葉を聞いて、納得するように頷いた。そしてリオンに軽く問い掛ける。
「あんたさん、動物たちの何が気に入らないんや? どれくらいのもんかと思ったら、たいそう出来るこたちやない」
「……ふん」
リオンは不服そうに鼻を鳴らす。だが、絡新婦の言葉は否定をしなかった。
大成功
🔵🔵🔵
藏重・力子
何ができて、何を思うか。知る所から始めるか
【コミュ力】で明るく登場!
「持てる力を見せてみよ!」と【鼓舞】し、彼等と鍛錬だ!
『フォックスファイア』で狐火を出し全て個別に操作
遠距離攻撃訓練用の、命中したら即消火する的として、
或いは障害物として利用するぞ
「心技体揃った見事な動きよ
動物殿達もやるではないか、なあリオン殿!」
頃合いを見て「……いかん!火が滑った!」
狐火の一つを故意にリオン殿めがけて飛ばそう
「誰ぞ!」この窮地、動物殿に切り抜けてもらおうか
「すまなかった。しかし、慕われておるな
君達はリオン殿のどういった所が好きなのだ?」
リオン殿の前で動物殿の話を聞こう
内容次第では暖かな眼差しを向けたいな……
サギリ・スズノネ
【POW】を選択
嫌われても、嫌われても、慕っている……ううっ、良いお話なのですよ……!
合点承知です、サギリにお任せあれなのです!
賢い動物たちのイイトコロ、どーんと見せてやろうなのです!
んー、それではサギリは特訓のお手伝いするのです。
リオン親分が「足手まとい」って跳ねのける理由はまだ分かりませんけどー、動物たちが避ける・逃げるが、ちゃんと出来ていれば少しは安心しますかねぇ。
【火ノ神楽】で火の鈴玉を複数出現させてー、オブリビオンの攻撃に見立ててー避ける特訓をするのです。
仲間が大勢いる中でー、お互いの行動を把握しながら動けるようになれば、戦いになっても、パニックになったり、慌てねーと思うのですよ。
「ふむ……」
藏重・力子(里の箱入りお狐さん・f05257)の前方。そこには、やはり何かに対する苛立ちを交えたリオンに向かって集まっている、多種多様な『賢い動物』たちが目に入った。
「嫌われても、嫌われても、慕っている……ううっ、良いお話なのですよ……!」
それを力子の傍らで見ていた、サギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう・f14676)が思わず袖で、じわりと潤んだ金の瞳を押さえる。
「動物さんたちの事情は合点承知です、サギリにお任せあれなのです!
リオンさんに、賢い動物たちのイイトコロ、どーんと見せてやろうなのです!」
どーんとサギリが自分の胸を叩いてみせる。
「そうであるな――では、何ができて、何を思うか。知る所から始めるか」
左右色の輝きが違う瞳を一つ瞬きさせると、力子は『狐の羽衣「朝霞(あさがすみ)」』を、その身と共にくるんと翻した。
チリンと『鈴「共音(ともね)」』が心地良く鳴る音が響き、賢い動物たちが一斉にそちらの方へと向き直る。
その先には、いつもよりも更に心なし、桃紅の袖と丈を短く快活にさせた着物へと変化させた力子が、初対面とは思えないパッションを伴って立っていた。
それを感じたのは動物たちも一緒だったのであろう。特に何かをしたわけではないが『おおお……!』という声にならない情熱と共に力子を見つめている。
「――これから! 鍛錬により、お主らの能力を見定めさせてもらう!
持てる力の全てを、我らとリオン殿に見せてみよ!!」
振るいはしないが、これから鍛錬を行う勢いづけとして、力子は『なぎなた「一道之刃(ひとみちのじん)」』の石突きをコンクリートにどんっと力強く叩き付ける。
「いや、俺は別に――!」
「おおーッ!! リオン親分に力を見せるぞぉー!!」
否定しようとしたリオンの声がかき消される。こうして、音と共に賢い動物たちの雄叫びが響き渡った。
「んー、それではサギリは特訓のお手伝いするのです。
リオン親分が『足手まとい』って跳ねのける理由はまだ分かりませんけどー、動物たちが避ける・逃げるが、ちゃんと出来ていれば少しは安心しますかねぇ」
「確かに、強力な敵を前にしては、攻撃を躱すのは全てにおける基本となるであろうな」
「せっかくですし、どこか広い場所で特訓できればいいですねー」
「――ふん、それなら拠点の外れに、廃棄準備の終わった倉庫があるから勝手に使ってもいいけど……どうせやるだけ無駄なんだ。早く終わらせろよ。俺だって暇じゃないんだ」
話を聞いていたリオンから案内された場所は、いくつかのコンテナが積まれた空が見える崩れかけの倉庫だった。
「おおー、これなら訓練出来そうじゃねーですか」
「うむ、これならば問題なく鍛錬できそうであるな」
「これから皆で何やるぴょん? さっき、ドリルの削岩作業やったばかりだから少し疲れたぴょん。お手柔らかにしてほしいぴょん」
「ウサギさん! そんな甘ぇ根性じゃ駄目なのです! レオン親分にいいとこ見せねーとなのです!」
「はっ!」
サギリの喝に、ウサギが曲がり気味の背を正す。
「そうですねー。例えば、仲間が大勢いる中でー、お互いの行動を把握しながら動けるようになれば、戦いになっても、パニックになったり、慌てねーと思うのですよ」
「良い案であるな。では、こういうのはどうか」
賢い動物たちに囲まれているレオンに届かない範囲で、サギリと力子が軽い相談をする。
そして、まず二人は小さな瓦礫を手に取り、地面を引っ掻いて線を引くと、四角い空間を作り出した。
「ここから出ぬようにせよ。細い線ではっきりとは見えぬ故、終始の注意が必要であるからな」
そして、リオンから引き剥がした動物たちをその範囲の中央に集めると、サギリと力子は、同時に互いのユーベルコードが発動した。
『鈴を鳴らして舞いましょう』――唱え言葉と共に発動した、サギリの炎で出来た数え切れない小さな鈴玉【火ノ神楽(ヒノカグラ)】と、力子が両目を閉じて念じ開いた先に生まれた無数の狐火【フォックスファイア】が、一斉に場所を制限した空間内に展開される。
「これをー、個別操作して、オブリビオンの攻撃に見立ててー、避ける特訓をするのです!」
しかし、炎に囲まれた動物たち以上に、先にその光景を見たリオンが悲鳴を上げた。
「ギャー! 動物なんかがあんなの喰らったら火傷じゃすまないだろ! 何考えてるんだ!!」
「うむ、問題ない。互いの炎は、任意で延焼の炎を含めて、瞬時に消火出来ることを確認しておる。つまりは燃えておるが対象を燃やさずにする事も出来るということ。リオン殿も安心して見ておるがいい」
そして、サギリと力子は頷き合い、さっそく特訓が開始された。
「サギリ殿の鈴玉形の炎は全て回避せよ! 喰らってはならぬぞ!」
「力子さんの狐火は、完全に敵だと思って撃ち落としやがってくださいー! 当たったら減点ですよー」
外縁から一斉に中に飛び込んで動き回る炎に、最初はパニック状態であった賢い動物たちであったが、少しの混乱を経て、見る間に適応と呼ぶに相応しい動きを見せ始めた。
金属製で稼働するマジックアームに短銃を装備したモグラは、炎鈴を躱しながら華麗に狐火を撃ち落とし、またあるイヌは口にくわえたナイフで自ら狐火の中に飛び込み、その素早い動きで手当たり次第に炎を落としていく。
「すげぇ動きなのです……! ここまでとは思わなかったのです……!」
炎の鈴の動きを見定める為に『桜日和の白和傘』に込められた空中浮遊能力で上から眺めていたサギリが思わず声を漏らす。
「心技体揃った見事な動きよ。
動物殿達もやるではないか、なあリオン殿!」
いつの間にか、境界線近くまで立って凝視しているリオンを傍らに、力子がサギリと目を合わせる。そして、
「……いかん! 火が滑った!」
互いが認識したタイミング。力子は中央にあった狐火の一つを、一見そうは見えないようにリオンの元へと弾き飛ばした。
「誰ぞ!」
力子が賢い動物たちに声を飛ばす。
実践であれば窮地。リオンは驚きに目を見開き動けない。
その瞬間、賢い動物の一体――その中にいたチーターは、躊躇わずに目印の境界外に飛び出し、リオンの服を咥えて何もない空間に傾れ込んだ。
「お前……! おまえまで……!!」
これが戦場であるのならば、命を賢い動物に救われた事と同義であろう。リオンは、零した言葉以上の事を語らず、顔面を袖で強く押さえる。
リオンの様子に鍛錬終了の声を上げ、慌てて力子とサギリがリオンに駆け寄った。
「大丈夫か!」
「大丈夫ですかー!」
「……大丈夫、なんでもない」
リオンが付いた汚れを乱暴に拭くように拭う。その顔に何か起こった様子は既に見受けられなかった。
特訓に悲鳴を上げていた賢い動物たちの、荒れに荒れた呼吸がようやく戻ってくる。
「先はすまなかった。しかし、慕われておるな。
君達はリオン殿のどういった所が好きなのだ?」
集まった動物たちに、力子が問い掛ける。
「こう見えて、昔はすっごく優しかったところ!」
「頭が良いんだ! すごく!」
賢い動物たちが嬉々として、リオンの良い所を上げていく。力子はその様子に思わず胸温かく微笑んだ。
その隙間に一つの言葉が挟まれる。
「うーん、後は――『親分の親分』だから?」
その言葉に、今まで無表情でいたリオンが小さく俯いた。
「親分のおやぶん、ですか?」
サギリの言葉に、賢い動物たちが一斉に『失敗した』という雰囲気を隠さずに伝えてくる。
「……ちょっと前に、こいつらの『本当に親分だった』賢い動物がいたんだよ」
リオンの口からそれだけ語られ、その場を離れるように歩き始めた。慌てて動物たちがついて行こうとするのが目に入る。
「――それでも。
先、とっさにチーターがリオン殿を庇ったであろう。あの早さは、何か思うところがあって出来る行動ではないであろうよ」
「……わかってるよ。そのくらい」
殆ど誰にも聞こえないほどの声で、リオンの呟きが耳に届いた。
そこには、確かに言い切れぬ何かあったのであろう。だが、それでも今まで動物たちが取った行動にも、口に上げた『良い所』にも、そこに嘘偽りはないと確信できる。
故に。それさえ分かっているのならば、きっと何とかなるはずだと。強く二人にははっきりとそう思えたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フローエル・フロゥノート
連○/ア○
賢い動物、この世界でともに生きる種族
どうしてそこまで無碍にするのかな?
この極限の世界で生きていくなら
どんな存在も等しく仲間、でしょ?
…助け合わなくちゃ生き残れないよ
ぼくは彼らと兵糧を作るよ
お腹が空いては戦はできぬって言うしね
お団子やおにぎりなら一緒に作れるかな
ふふ、きみたちが好きな具はなに?
親分も作って欲しいものがあったら言ってね
みんなでとっておきを作っちゃうから
出来上がったら親分に味見してもらおうね
どう?おいしいでしょ?
可愛くて頼もしくて素敵な存在じゃない
彼らを否定する理由…
大切にしていた動物に先立たれたとか
だからそうやって遠ざけようとしているのかな
悲しい思いをもうしたくないから…
先ほど、奪還者――猟兵たちが、賢い仲間たちと共にリオンを押し潰すように圧迫していた。
そこからなんとか脱出したリオンだが、その心は軽くなったとはいえ、少なくとも完全に晴れているという気配はない。
フローエル・フロゥノート(Replica note・f26411)は先から、その光景をじっと見ていた。この世界に禁忌を破って生まれ育ったフラスコチャイルド。フローエルは外の世界など知らないが、物心ついた――意識が覚醒したときには、この身は劣悪な空間にしか対応しておらず、更にその身は、重なるようにソーシャルディーヴァという『人類の救世主』という名において、生贄にも近く捧げられていた後だった。
だが、お陰で自らの事はまるで分からないまでも、フローエルは情報網を通じ数多の世界を知っていた、この世界の悲劇を知っていた。そして思うのだ『この、アポカリプスヘルは、文字通りの地獄だ』と――
「どうしてそこまで無下にするのかな?」
先ほど情熱的な押しくらまんじゅうに遭い、熱さから貴重な水を飲んでいたリオンに歩みを寄せて、フローエルは告げた。
「この極限の世界で生きていくなら、どんな存在も等しく仲間、でしょ?
……助け合わなくちゃ生き残れないよ」
静かに、大人しめに告げられるフローエルの言葉は、正しく正鵠を射るものだった。
それは、先ほどから奪還者――猟兵たちと賢い動物たちとの活躍を見えきた、リオンの心にもはっきりと理解している事柄だ。
しかし、
「それでも……!」
リオンは、聞いているだけでも分かる、弱音じみた何かを言い出し掛けた言葉を、喉の奥まで呑み込んだ。
フローエルは一旦リオンへの対処を置き、拠点の人々に食事の状態について聞いてまわり、そして兵糧などの食事の準備をさせてもらえることになった。
「え? 僕らもそれ手伝ってもいいのかな?」
「うっかりで、つまみ食いしすぎないように注意するぴょん」
軽く声をかければ、賢い動物たちがフローエルの元へ集まって来る。
「せっかくだから、いざという時の兵糧を作りたくて。そもそも、お腹が空いては戦はできぬって言うしね、おにぎりやお団子なら、君たちでも作れるんじゃないかな」
言いながらフローエルはさっそく、非常用のお団子として使えそうな素材を丸めてみせる。
それに合わせて、賢い動物たちが、気が付けばフローエルを中心にして、日持ちのする食べ物を並んで作り始めていた。
「ふふ、きみたちが好きな具はなに?
親分も、欲しい物が言ったら教えて」
「俺は――」
近くにいたリオンは、振られた内容がとっさに思い浮かばず言葉に詰まる。だが賢い動物たちは、それを余所に、次々に中に入れる具に様々な食材のリクエストをしていく。
――この今にも陥落しそうな拠点に、贅沢な物は揃っていないが。その明るい声が未来の可能性を暗示しているようで、フローエルには少し嬉しく感じられた。
「みんなでとっておきを作っちゃうから。出来上がったら親分に味見してもらおうね」
「はーい!」
そして、賢い動物たちの一体が団子状のものを手に、そっとリオンに差し出した。猟兵たちが最初にここに来たときには、リオンは賢い動物たちが作ったもの等、決して口に運びはしなかっただろう。
だが、しばらく――否、リオンは長く考えてのち、その一つを口に運んだ。
「……」
変わらないリオンの沈黙。固唾を飲んで賢い動物たちが見守る中で、ぽそりと続きが聞こえた。
「……美味い」
賢い動物たちから歓声が上がった。
「動物たち、可愛くて頼もしくて素敵な存在じゃない」
「……」
フローエルの言葉には、皮肉も嫌味も動揺もなかった。ただ、リオンはその話題と共に、場に立つ賢い動物たちを精査するように見つめている。
「彼らを否定する理由……。
大切にしていた動物に先立たれたとか――だからそうやって遠ざけようとしているのかな。
悲しい思いをもうしたくないから……」
フローエルの言葉は、あまりにも的確過ぎた。リオンは小さく、ふと賢い動物たちを目にする都度思い浮かべてきた心のわだかまりを、静かに方向性を添えて独り言のように口にした。
「……俺を庇って。オブリビオン・ストームに呑まれた、ライオンがいたんだ」
――その一言から、フローエルは静かにこの状況の全てを察した。
「それでも……このままだといつか、オブリビオン・ストームに呑まれるのは、きみか、拠点の人間か、ここで食べ物を作ってくれた賢い動物たちのどれかだよ」
「……」
リオンは無言で立ち上がる。そして、深い吐息をつくと、リオンは誰に何をいうでもなくその場を離れた。
しかし、それでも先ほどまでのような、賢い動物たちから無理に距離を取る様子は見せなかった。
――少しずつ、猟兵たちの活躍により、一人の青年の心が明らかに変化していく。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】
ア◎
せっかく勝てるかもしれないのに
棄てるなんざ勿体ねぇだろ
よく見て見ろよ
ちゃんとどいつもソイツなりの武器を持ってるだろ?
俺には剣、アレスには盾があるように
キアノには剣の他にも爪も牙もある
四肢全部武器って考えたら俺達より多いくらいだ
あと話しかけりゃちゃんと応えてくれるし
連携してだって戦えるぜ?
なぁ、キアノ
牙を見せるキアノの頭をくしゃくしゃ撫でて
それにな、寒い季節は埋もれて寝れば暖かいんだぜ
ほら見ろこの毛並み!
頑張って整えてやればこんなにもモフモフだ!
…整えたのはアレスだけど
この辺じゃ冬じゃなくても夜はさむいんじゃねぇか?
力がない奴も十分に役に立つだろ
モフモフ特攻キメるキアノを笑って眺める
アレクシス・ミラ
【双星】
ア◎
あんなにすれ違うのは…少し悲しいかな
キアノの頭を撫でる
うん、リオンくんに話を聞いてみようか
不満でも何でもじっと耳を傾けよう
…少し見てもらえるかい
【暁穹の鷲】でアルタイルを呼び、腕に止まらせる
例えば、彼には優れた飛行能力と目を持っている
セリオスを…友を探す旅の中でも力を貸してくれたんだ
キアノが爪や牙を活かすように
動物達にはそれぞれ己を活かす為の強さを持っているよ
そして、それを君の為に使いたいと言っているのは知ってると思う
…一度、彼らの事を「見て」はどうかな?
あはは…確かに温かいね
整える時も気持ちよさそうで…
って、キアノ!押し付けはよくないから程々に!
セリオスも笑ってないで止めてくれ!
キアノ・クシフォス
【双星】
ア◎
アドリブ◎
※人間の言葉で書いてますが人間の言葉は喋りません
狼の鳴き声です
※心の声の描写はなくても大丈夫です
動物が弱くて役に立たないだと!
爪も牙も持たない種族が
ブルっと首を振ってひと吠え
だがこの群れのリーダーであるならまあそれなりにやるヤツなんだろう
認めさせる為に俺も協力するぞ!
まずは人間にはない武器があることを示してやろう
爪も牙もあるヤツは並べ
構えはこう!そうだ!
そして噛みつけ!
どうだ俺の牙は恐ろしいだろう!
褒められるたびにドヤ顔でキメ
ふふん!特別にモフモフさせてやろう
呼ばれなくても近寄って行って
大きな体を全力で押し付ける
お前たちもアピールするぞ!っと賢い動物に呼びかけて囲んでやる
「一万歩譲って、役に立たなくはないかも知れないとは譲ってやってもいいかも知れない!
でもな! やっぱりお前たちは役に立たないんだから、戦場なんか出ないで大人しく逃げる準備してろよ!」
他の猟兵と兵糧を作る少し前――
段々リオンの言葉が迷走してきた気がするが、その意見は未だに変わる事がない。
その発言に、キアノ・クシフォス(四足の剣士・f20295)が、不服を顕わに小さく唸った。逞しくも凜々しい狼として、キアノは鋭い牙も爪も持ち合わせる身。しかし見れば『役立たず』など、そんな不遜な事をのたまう相手は、そもそも爪牙一つまともに役立ちそうにない人間だ。
納得ができようはずもない。キアノは大きく首を振ると、不満を訴えかけるように一つ大きな声で吠えた。
「つーか、なんであそこまで頭が固ぇんだ?
情報が確かなら、せっかく勝てるかもしれないのに、棄てるなんざ勿体ねぇだろ」
キアノの隣で、状況に不可解な様子を滲ませてセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)が見つめている。
視線の先で喚くリオンに対して、セリオスの眼差しは少し斜に構えているようにも見えたが、そこから導き出した言葉は極めてもっともなものだった。
「きっと誰からも意識されていない、本当に無自覚の彼が引き金なんだろう。彼が――賢い動物たちが起たなければ、オブリビオンが来た時に持ちこたえられないんだ。
それにしても……」
アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)の目には『親分』と呼び慕う賢い動物たちと、喚きながら仰け反るリオンの光景が目に入る。
「あんなにすれ違うのは……少し悲しいかな」
アレクシスとセリオスは、何とはなしに同時に家族や親友同然であるキアノの姿を目に留めた。
種族は違えど、言葉は違えど、心許せる存在にはなれるはず――アレクシスは傍にいるキアノの頭に手を乗せそっと撫でた。
「うん。少し、リオンくんに話を聞いてみようか」
不満があるのかも知れない。何か事情があるのかも知れない。頭を撫でられたキアノは、するりと乗せられた手を抜けて動物たちの方へ向かっていった。ならば、人から話を聞くのは自分たちの役目であろう。アレクシスとセリオスはその言葉に根気強く耳を傾ける為、リオンの方へと足を向けることにした、
キアノが動物たちの傍に立つ。人の言葉を話す動物たちの為、等しく聞き分ける動物たちの言葉を認識する必要はない。
動物の本能も平行して持ち合わせている賢い動物たちへ向かい、キアノがワゥと小さく吠えた。
「ずっとこの拠点に仲間内だけでいたから、お話をしない動物って珍しいヒヒン」
そうしてしばらく、見た目完全に動物たちによる人言語と狼言語による対話が繰り広げられた。
「そうそう。親分はもうぼくらのリーダーと言っても過言ではないよ。ああ、早く戦闘で指示出してくれないかな……もうどんなことでも頑張るのに」
とある賢い動物の言葉に、動物たちから同意の声が上がる。もう動物たちの中では腹が決まっている事を確認し、キアノはそれを了承として、状況打開の為の協力要請を申し出た。
そして高々と上げられた遠吠えと呼応するように、賢い動物たちが一斉に声を上げる。
「いぇっさー! 親分のお役に立ちたーい!」
碌に話を聞こうともしていないリオンには、賢い動物たちが何を話していたのか分からず、突然の大声に慄いている。しかし、セリオスとアレクシスにはすぐ、キアノが動物たちの為に何かを始めたことを理解した。
まず、キアノは集めた賢い動物たちを前に、自分たちに出来る事を再確認するように見渡した。キアノは爪と牙を持つ賢い動物たちを前に集める。動きが俊敏なイヌやネコたちを中心に、その後ろをクマなどが、キアノの前に円陣を組むように囲んだ。
それを確認すると、キアノはまず白い狼の牙をカッとむき出す。そしてつい肉球に目が行ってしまいそうだが、その『四つの足』には木すらもなぎ倒す鋭い爪が光った。それが人間には持ち合わせていない自分たちの武器であると証明するようにアピールをする。賢い動物たちも、歓声を上げながらそれに倣うようにと真似をする。
「え、え。いいの? 噛み付いたら痛くない……?
――そ、それじゃあ、全力で――」
いつでも襲い掛かってこい、そう言いたげなキアノの様子に動物たちから動揺が走る。
しかしキアノの雄叫びと共に、次の瞬間から、直ぐに牙と爪を武器にできる賢い動物たちを対象とした、一対多数の一斉乱闘が始まった。
少し距離の離れたリオンが驚いたようにそちらへと顔を向ける。
「よく見てみろよ」
セリオスの言葉に促されるように、リオンが改めてそちらに目にした。
キアノは自分の牙を見せつけ煽るように吼えると、賢い動物たちは殆ど例外なく震え上がるが、直ぐにより一層の激しさをもって模擬戦が再開された。
「うええぇ、噛み付くのも噛まれるのも怖いよー! でも頑張るー!」
「あの狼と……訓練、しているのか。あれは」
その言葉に、セリオスは頷いた。
「ほら、ちゃんとどいつも、ソイツなりの武器を持ってるだろ?
俺には剣、アレスには盾があるように、キアノには剣の他にも爪も牙もある」
リオンが動揺しながらも目の前の光景を目にする。キアノは現状、実力の加減をしているようで己の剣は使用していない。
セリオスは身に付けている自分の双剣を手に、感銘にも近い眼差しでキアノを見た。
「武器全部使って、四肢全部武器って考えたら俺達より多いくらいだ。
あと話しかけりゃちゃんと応えてくれるし、連携してだって戦えるぜ?」
それは、共に『戦友』として在るには十分すぎる条件だ、と――リオンにも、セリオスの言わんとすることを理解した。しかし、一所懸命に戦っている賢い動物たちへ、リオンは心のやり場に困るように俯き気味に沈黙する。
目にしたアレクシスは、それはどこか、何かに対する傷心にも少し似た、ほんの僅かな否定的な躊躇いであると理解した。
「……少し見てもらえるかい」
その様子を見たアレクシスは、そっと己のユーベルコードを発動させる。
『天翔る導きよ、暁より来たれ』――優しい声音の請願と共に、アレクシスは腕の位置まで右腕を上げる。その空間には最初何も無いように思われた。しかし、一つの羽ばたきの気配と共に腕に止まったそれは、空間に溶け込むのをやめ、その場で輝かしい朱を伴った暁の光を纏う鷲――【暁穹の鷲(アルタイル)】として姿を現した。
リオンはその美しさに目を奪われるように、暁の鷲を目に留める。
「例えば、彼には優れた飛行能力と目を持っている。
セリオスを……友を探す旅の中でも力を貸してくれたんだ」
アレクシスがほんの僅か、愛しそうに腕に止まる鷲を見やる。全てが自分で出来る訳ではない。そんな己に、自分よりも遙かに優れた力を貸してくれていた――大切な親友を探す為、彼は自分の目の代わりをしてくれていたもの。
その瞳には、存在に対する確かな信頼があった。
「キアノが爪や牙を活かすように。動物達にはそれぞれ己を活かす為の強さを持っているよ。
そして、それを君の為に使いたいと言っているのは知ってると思う。
……一度、彼らの事を『見て』はどうかな?」
リオンにも、言外に伝わる。先の奪還者――猟兵たちが見せた訓練においてでも、実感だけはしていたのだ。
「……」
何もかも……準備ができていないのは、自分だけなのであろうと。
先に行われていた訓練が終わり、息が乱れ死にそうになってその場にへばっている賢い動物たちを余所に、ほんの僅かに乱れた呼吸をすぐに整えて、キアノがセリオスたちの所へ戻ってくる。
「なぁ、キアノ。
皆、十分過ぎるほど戦えてただろ?」
自分が訓練したのだから当然だと言わんばかりに、自信満々で、返答代わりに牙を見せたキアノの頭をセリオスがわしゃわしゃと撫でる。もふもふの毛並みがくしゃくしゃになるが、キアノ的には非常に満足げな様子だ。
「それにな、寒い季節は埋もれて寝れば暖かいんだぜ。ほら見ろこの毛並み!」
セリオスが先程撫でた箇所を軽くなでつければ、再びふかふか艶やかになるキアノの毛並み。
ちなみにキアノは、セリオスが自信と自慢を溢れさせ彼の紹介する度に、ジャーンと効果音が流れるほどのドヤ顔を決めている。
「頑張って整えてやればこんなにもモフモフだ!
……整えたのはアレスだけど」
リオンがたくさんの納得と、少しの意外性を交えてそちらを見ると、その視線に気付いたアレクシスは困ったようなほんの僅かに照れたような表情で目を閉じた。
「この辺じゃ冬じゃなくても夜はさむいんじゃねぇか?
なら、力がない奴も十分に役に立つだろ」
「あはは……確かに温かいね。
整える時も気持ちよさそうで……」
確かに空調が気温回りまで整っている拠点は恵まれている部類になるだろう。放棄を考えるまでに到ったこの拠点にそれを望む術はなく、確かに夜はとても冷えるものだった。二人の言葉に、リオンが少し興味深そうな瞳をキアノに向ける。
それをキアノは見逃さず、数歩重量のある身体を感じさせない動きで『特別にモフモフさせてやろう!』とばかりに、その身を全力でぐしぃっと押し付けてきた。
「うわぁ!」
確かにこれならば、毛並みは存分に堪能出来る。しかし、いつも囲まれている賢い動物たちよりも遙かに大きな体躯で力一杯身を寄せられたリオンは、見事にその場にもつれ転んだ。
「ああっ、おやびん!」
先程までぜーひー声を上げていた賢い動物たちが集まってくる。
それを見たキアノは、集まって来た賢い動物たちへ向けて、さらなる温かさによる暴力を敢行すべく一つ遠吠えをした。
「ええ!? よし! おやびんにあったかさアピールだぁー!」
「ぎゃあああ!?」
キアノと共に、一斉に賢い動物たちがリオンの元へ押し掛けてくる。
リオンは見事にキアノを中心に黒山の獣だかりに呑まれて見えなくなった――
「――って、キアノ! 押し付けはよくないから程々に!」
「た、すけ……!」
もふもふの山の中から、リオンの腕だけがまるでそれ以外全部食べられたかのように突き出している。
「おーおー。こりゃ、いーモッフモフ具合じゃねぇか!」
「セリオスも笑ってないで止めてくれ! 助けないと!」
そうして、リオンがケモナーにとっては楽園とも呼べる『けものだまり』から救出されたのは、約十五分後。
当然、分類『アンチケモナー』であるリオンは、ほぼ生ける屍状態になっていたのは言うまでもない――
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
茜崎・トヲル
まーまーお兄さん、そうかっかしないで。沸騰石たべる?
っていっても逆効果かなあ。うーん。
よし。
おれはツバメになろう。そして何も言わず近くにとまるよ。
賢くないツバメのように羽繕いとかしていたら、うっかり何かをこぼしてくれるかも作戦。
聞かれると言いたくない! なヒトもいるよなー。北風と太陽。ちょっと違うか。
あはは、案外仲良くなっちゃうと食べにくくなるとかだったりなー。動物食べないとかむりだもの、この環境。
「あーもう!!」
リオンが叫び声を上げながら走る。けむじゃらのオンパレードから全力で逃亡し、動物たちをまきながら、人気もとい『動物気』のない所まで駆け込むこと少し。
「あー、もう! 何なんだよ! もう!!」
「まーまーお兄さん」
当たり散らすように側のコンクリートをばんばん叩き始めたリオンの真上から、とても優しく奇麗に響きながらも、一度聞けばその記憶にずっと残りそうな声が届いた。
リオンが顔を上げると、自分が寄り掛かる壊れたコンクリート塀の上から、純白の山伏の様相を思わせる衣に身を包んだ茜崎・トヲル(白雉・f18631)がこちらを見おろすように、ひらひらと細い柔和な手を振っていた。
そのまま、身軽に衣装をふわりとなびかせてトヲルがリオンの隣に舞い降りる。
「そうかっかしないで。沸騰石たべる?」
「そんなケミカルストーン、人間が齧って治まれば苦労しないだろ! むしろ、治まるならいくらでも齧るさ!」
「やっぱり逆効果かぁ、うーん」
ほんの少しの間、トヲルがふわりとゆらぐように思案して、
「よし」
トヲルは何か思いつくと、朱色の足袋を思わせる和洋が重なった靴先を、とんっと軽い足音一つ立てて、リオンの前から姿を消した。
驚き辺りを見渡すリオンの死角で、トヲルは己のユーベルコードを発動させた。
【ツバメ形態(ツバメケイタイ)】――トヲルが身軽な体捌きで軽く地面を蹴ると、次の瞬間その身は軽やかなツバメへと変化した。そのまま羽ばたきをすると、空気に乗って再びリオンの元へと訪れた。
「わ、オブリビオ……違うか。賢い動物でもない。普通のツバメだなんて、見たの何年振りだろう……」
ツバメに姿を変えたトヲルは、そっとリオンの肩端に止まる。そして、鳴き声一つなく、ちまちまと自然な様子で羽繕いを始めた。
人並みの知性を持つ動物たち相手には、語れない言葉もあるだろう。ならば、完全に普通の動物の真似をすれば、語れない言葉も出てくるかも知れない、と。
少し異なるが『北風と太陽』の方向性――と心の中で思って、やはり違うかな、と。そのようなことを考えながら、トヲルは改めてリオンの方を見た。
リオンは、しばらくじっとツバメになったトヲルを見ていた。ぼんやりと、というよりは思い詰めた様子で。
「普通の動物か……いいよな。
お前らは、自分の身が危なくなったら真っ先に逃げてくれるんだ」
ずるりと、リオンはコンクリート塀に寄り掛かるように座り込んだ。張り詰めた風船がしぼんだような気配で遠くにある空を見る。
「――賢い動物みたいに、動物の本能以上に――『自分の命より大切なもの』なんて……あってたまるか……」
リオンはその場で膝を抱え、顔を埋めた。小さな嗚咽が聞こえ始めた。
「俺なんか、庇わなくたって良かったのに……! 俺なんかより、強くて戦えて、ずっと凄いやつだったのに」
そこにははっきりと、後悔に泣く声が聞こえてくる。
ツバメとして聞いていたトヲルは、それを『そこはかとなく、少し聞かない方がよかったかも知れない』と思った。
ここには、リオンの見られる夢がない。その内容に幸せらしきものも見当たらない。それは、ちょっとした花をついばむつもりで、鉛をつついてしまった気分。
最初は、賢い動物と仲良くなったら仲良くなってしまうと、この弱肉強食の世界において動物そのものを食料として食べにくくなるからではないのか――その辺りを思案していた。その辺りの未来に繋がるであれば、それらはとても楽しいものであっただろうに。
そっと、ツバメの姿をしたトヲルはその場を離れる。
そして、リオンに気付かれない場所に人の姿で舞い降りたトヲルは、ひょいとそちらの方を覗き込む。ハッとその気配に気付いたリオンは、良く分からない声と共に慌てて顔をゴシゴシと拭いて誤魔化した。
トヲルはそれ以上リオンに近づくことなく、一度軽く手を振ると彼に軽く背を向けてその場を後にする事にした。
夢を見るようにふらふらと。ふと一筋の風が吹く。
恐らく、これからより面白い事があるとしたら、もう少し先の未来であろうと。そう感じさせる風だった。
大成功
🔵🔵🔵
瀬名・カデル
わー初めての世界!
そして、すごいいっぱいの動物たちだね!
親分さんと戦いたいんだね…わかったよ、ボク、頑張って君たちの力を親分さんに見せれるようにするからね!
ね、アーシェも一緒にがんばろうね!
それじゃあ君たちがどんなことが出来るのかをたっくさん見てもらおう!
使うUCは「幸せ色の祝祭」
ボクたちの踊りがきっと親分さんの心に届いてくれますようにって祈りながら踊ってみようか。
ボクとアーシェの踊りに合わせて君たちも一緒に踊ってね!
右手を挙げてー
左手を伸ばしてー
来るっと回ってジャーンプ!
足しかない子は前足を挙げてくるっとターン!
踊りをばっちり出来るなら君たちは親分さんの言うことだってばっちりこなせちゃうよ!
先ほどまで姿を消していたリオンが拠点へと戻ってきた。少し俯き気味だったが、動物たちに囲まれるといつも通りの仕草へと立ち返る。
「オヤビン、どうかしやしたか!」
「……何でもないよ」
「……。なぁなぁ、おやびん、何か気分でも悪ぃんかな?」
「悲鳴を上げて叫ばない親分は何だか親分らしくないぴょん」
チンパンジーとウサギたち、そしてその場の賢い動物たちの半分以上が、不思議そうに顔を合わせて首を傾げる。
そんな中、一つ声が響き渡った。
「わー初めての世界!」
左右で対照的なまでに違う色合いをした宝石のような瞳にキラキラとした眼差しを携えて、瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)が、連れ歩く大切な人形【マ・カブル『アーシェ』】と共に降り立った。動物とリオンの眼差しがその声に一斉に向けられる。
「やったー! また戦うのに、奪還者のひとが何か教えてくれるぞー!」
どうやら今までの猟兵たちにより、賢い動物たちは、目的としては間違ってはいないものの『今日来てくれている奪還者たちは、皆自分たちがリオンの役に立てるようにしてくれるもの』と、完全に信じ切っているようだ。
「わーっ!」
そうして、冒頭よりカデルとアーシェは、興奮しきった賢い動物たちの波に、一気に埋め尽くされた――
「うん! ――わかったよ、ボク、頑張って君たちの力を親分さんに見せれるようにするからね!」
賢い動物たちの話を聞いて、やはり不服そうな様子を隠さないリオンを傍らに、カデルは元気に頷いた。
「ね、アーシェも一緒にがんばろうね!」
そして腕に乗せたアーシェを見つめ、十指のうちの一つをすいっと引くと、それはまるで生きているかのような仕草で動物たちへと頷いてみせる。
「それじゃあ君たちがどんなことが出来るのかをたっくさん見てもらおう!」
カデルはさっそく、賢い動物たちに前方にそれなりの距離を取って集まってもらうことにした。リオンも何だかんだ言いつつも、少しの距離を取ってそこから様子を眺めている。
カデルは『これから何をやるのか』という賢い動物たちの視線を一身に集めながら、舞うような仕草でユーベルコードを発動させた。
『ご覧あれ、これから踊るは祝いの祈り。あなたに祝福があらんことを』――幸せを祈る踊りを披露することで、幸せに満ちた温かい感情を引き起こさせる、ユーベルコード【幸せ色の祝祭(カーニバル・ディ・ヴェルティメント)】に合わせて、カデルの舞姿と彼女が操るアーシェが賢い動物たちの前に出る。
「ボクとアーシェの踊りに合わせて君たちも一緒に踊ってね!
はい! 右手を挙げてー。次は、左手だよー!」
軽やかに動くアーシェの動きに合わせて、賢い動物たちも狼狽えながら急いで右手を上げる。驚くべきは、アーシェを糸で操っているはずのカデルの動きが、見る限り全く制限されていない事だった。人形繰りとしての動きを一切感じさせず、カデルは金の宝石とジャスミンがあつらえられたアンクレット『モアルーシュ&アダム』を軽やかに揺らし、アーシェと全く同じ華やかな動きをしてみせた。
「……」
リオンの目にするその動きは、本当に幸せに満ちた音楽が聞こえて来そうな程に楽しく、そして温かいものだった。
最初は人間よりもどうしても身体の可動範囲に難があり、慣れないペースで踊っていた賢い動物たちであったが、それでも段々とコツを覚えていく。そして、動物として出来る範囲で皆軽やかに踊り始めた。
「……ふん」
確かに胸に届く、温かな感情が伝わるのを隠すように。リオンは小さく鼻を鳴らして、自分の思いを誤魔化した。
「ここで、くるっと回ってジャーンプ!
足しかない子は前足を挙げてくるっとターン!」
カデルの声に、最後ビシィッとポーズを決めた賢い動物たち。それをリオン以外で、遠巻きに見ていた大人たちから一斉に拍手が溢れた。
「踊りをばっちり出来るなら、君たちは親分さんの言うことだってばっちりこなせちゃうよ!」
その言葉に、賢い動物たちは一斉にリオンの方へと押し掛ける。
「わーっ、親分どうでしたか! どうでしたか!!」
「馬だけれども頑張ったでヒヒン! どうだったでござるか!」
「……」
リオンの胸にカデルのユーベルコードによる、幸せの名残が残る。先に泣いた衝動も少し落ち着いた気がした。
「……ふん、全部出来るかはともかく、こんなんじゃ戦場に出せるかも分からないけど……悪くないんじゃないか」
今までの努力の積み重ねを見てきたからであろう、全否定ではないリオンの言葉。それを耳にした賢い動物たちの間から歓声が沸き返った。
大成功
🔵🔵🔵
地籠・陵也
【乱入アドリブ連携諸々歓迎】
【WIZ】
敵を倒すだけが戦いじゃないと俺は思う。
人間の脚じゃ追いつかれる相手も馬の力を借りれば逃げられるかもしれない。兎は耳がいいから敵が近づいてるのにすぐ気づいてくれる。犬は鼻が利くから敵の罠に気づきやすい。それぞれの得意分野を活かせば仲間が生き残りやすくなるハズだ。
でも動物は寿命が人と比べて短い。
もしかして、あんたはそれが原因で動物を嫌いって言うようになったのか?
もし、そうだとしたら俺も気持ちはわかるよ。
辛くて、とても怖い……あんな想い二度としたくない。でもそれは動物たちも同じだと思うんだ。
だから、その。もしそうならこの子たちと一度きちんと向き合ってみて欲しい。
クレア・フォースフェンサー
ここが今回のキャンプ地じゃな
案ずるな、受験生。いや、賢い動物達か
わしがしっかり鍛えてやろうぞ
とは言うても弓や剣は持てぬ者が多いか
ならば、動物ならではの突進力を生かすべきじゃな
相撲の稽古をつけてやろう
手加減は不要。こう見えてもおぬし達よりは力は上じゃ
リオン殿、おぬしはあの者達を見るからに役立たずと言っておったな
ならば、わしのような者とのやり取りも遊びにしか見えぬかもしれぬ
じゃが、この世界で生きておるならば、見た目など何の当てにもならぬと知っておるのではないか?
おぬしはまず、あの者達と腹を割って話すことから始めた方がいいのかもしれぬの
ツイン? 馬鹿を言うでない
シングル? とんでもない
4人部屋じゃ
「ふむ、ここが今回のキャンプ地じゃな」
辿り着いたアポカリプスヘルの拠点にて。クレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)は、状況把握の為に金色の瞳を辺りを見回すように煌めかせた。
辺りには一人の青年と、そこに集まる賢い動物たちの群れ。
「わーっ、新しい奪還者さんが来たぞー!」
「あ、こら! お前たちいい加減に――!」
リオンの制止も聞かず、小さな両手足を広げたオオアリクイを始めとして、一斉に賢い動物たちがクレアに向かって駆け寄ってくる。
「――ふむ、なるほど。そういうことか」
今までの状況を理解して、クレアが頷く。
「親分を説得できるあと一押しがほしいんだよ!」
「案ずるな、受験生。いや、賢い動物達か。
ならば、わしがしっかり鍛えてやろうぞ」
「やったぁ! やったぁ!!」
賢い動物たちのその様は、まるで『絶対、希望校に合格させる!』を掲げたカリスマ塾講師の助力を受けた瞬間の、一瞬前まで救い求め彷徨っていた受験生の様相を呈していた。
その輝きに溢れる様子を見ていたリオンが、思わず顔を覆うように頭を抱える。
「いい加減にしろ! 俺はお前らが戦うなんて認めた訳じゃ!」
「――悪い、ちょっといいか?」
そんな、まるで『そんな学校への入学は認めん!』と、強制する父親のような表情を見せているリオンに、クレアとほぼ同時にここへ訪れた地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)は、そっと人を冷静にさせる声で言葉を掛けた。
「……とは言うても、弓や剣は持てぬ者が多いか」
クレアは鍛えると宣した中、嬉々と目を輝かせている賢い動物たちへ、早速思案を巡らせた。既にアポカリプスヘルのオーバーテクノロジーによって、ミサイルランチャーを装備していたり、または近接戦に剣は咥えて扱える存在もいるが、集まる賢い動物たち全てがそうというわけでもなさそうだ。クレアは直ぐに思考を切り替える。
「ならば、動物ならではの突進力を生かすべきじゃな。
よし、相撲の稽古をつけてやろう」
「相撲?」
動物たちの不思議そうな表情をよそに、丈の短い衣類とハイブーツによる絶対領域が眩しい女性が、躊躇いなく四股を踏む――その露わさ加減に、ピュア過ぎる動物たちの代わりに、遠くで見ていたまだ純情カテゴリにいるリオンが噴いた。
「ぶつかったら、お姉ちゃんが吹き飛んじゃわない?」
賢い動物たちの中からイノシシが心配そうに問い掛ける。
「手加減は不要。こう見えてもおぬし達よりは力は上じゃ」
そして、クレアと賢い動物たちによるぶつかり稽古が始まった。
言葉通り、賢い動物たちがちぎっては投げちぎっては投げされて次々空を飛んでいく。
「うぅ……無茶だった~」
投げ飛ばされたビーバーが、陵也の隣にいたリオンの目の前でぽてりと力尽きる。
リオンの表情に、やっぱりコイツら弱すぎるだろうという考えがありありと浮かんでいた。軽々とクレアの手により愉快に投げ飛ばされていく様は、むしろ遊んでいるようにすら見受けられる。
「……もう駄目だろ! 見るからに役立たずじゃないか、これ!」
リオンが見ていられないと叫んで止めに入ろうとする。
この場合クレアが例外なのだが、現状ではか細い女性にぽいぽい投げられているようにしか見えないのだから、これはある意味、誰しもが出しそうな当然の判断とも言えた。
「いや、ちょっと待ってくれっ」
慌てて陵也がフォローに走る。
「敵を倒すだけが戦いじゃないと、俺は思う」
相撲を止めようとしていたリオンの動きがピタリと止まる。その不機嫌そうな視線が陵也と思いきりぶつかった。
「犠牲の避けられない戦いの中で、人や賢い動物たちを『生かす』事も、戦いだと俺は思う。
人間の脚じゃ追いつかれる相手も馬の力を借りれば逃げられるかもしれない。兎は耳がいいから敵が近づいてるのにすぐ気づいてくれるし、犬は鼻が利くから敵の罠に気づきやすい。
――それぞれの得意分野を活かせば、仲間が生き残りやすくなるハズだ」
「……そんなの、理解してない訳じゃない」
今日一日で学んだことがある。リオンはそれが昨日であればまず出なかった言葉を置いて『でも』と続けた。
その瞬間、リオンの次の言葉を代弁するように、賢い動物のナマケモノがコロンと転がってきた。
「……特技がないやつはどうしたら?」
どうしてこのタイミングでナマケモノなのか。ナマケモノにも特技がある、陵也は慌ててそうフォローを入れようとしたが、即座にその内容が出て来ない。
「特技、あるモーン……首が回るから、たくさん物を見られる、モーン……」
その言葉に、二人が一斉にナマケモノを凝視する。見れば、息も絶え絶えながらも、ナマケモノが首を270度にまでゆっくり回す姿があった。
「偵察とかいけるんじゃないか……!?」
もはやこれに縋るしかという気分で告げる陵也の言葉に、リオンが唸る。
そこにクレアが一通りの訓練をつけて戻って来た。転がっている賢い動物たちは生ける屍に近いが、皆どこか清々しそうな顔をしている様子が印象的だった。
「リオン殿、おぬしはあの者達を見るからに役立たずと言っておったな」
「……」
「ならば、わしのような者とのやり取りも遊びにしか見えぬかもしれぬ。
じゃが――この世界で生きておるならば、見た目など何の当てにもならぬと知っておるのではないか?」
この荒廃しきった世界ならば、本当に判断すべきは見た目ではない――リオンも認識だけならば既に十分していた。見た目ではない、そこに必要な物は今まで見続けてきた、何度も自らぶつかって投げられに向かっていった動物たちの不屈なのではないか、と。
しかし、それでもリオンは頷こうとしない。
陵也がふと思うように重く口を開く。
「動物は寿命が人と比べて短い。
もしかして、あんたはそれが原因で動物を嫌いって言うようになったのか?」
「……」
その空気に、間違っている様子は無かった。詳しく語られることこそないが、そこには明らかに『何かに先立たれた』者の沈黙があった。
「それでも……人間は逃げ足が遅い以上、同種に襲われれば迎撃しかない。でも、殆どの賢い動物たちは人間たちよりも早く逃げられる。
なら動物たちは『人間なんか放置して逃げた方が、ずっと個々の生存確率が上がる』んだ。特に賢い動物と人間が立ち並ぶこの拠点みたいな状況なら、一緒に拠点を守って戦う理由なんかどこにもない。
――逃げた方が、動物たちは生き延びられるんだ」
怒りも焦りもない。ただ事実を告げるように。その声が聞こえていた賢い動物たちから、息を呑む声が聞こえてきた。その発言が聞こえる場所に、大人たちがいなかったのは幸いであったかも知れない。
「……。俺も気持ちはわかるよ。
辛くて、とても怖い……あんな想い二度としたくない。
でもそれは――動物たちも同じだと思うんだ」
「……っ」
陵也の言葉に、リオンが息を呑む。集まって来ていた賢い動物たちが一斉に、必死に訴えかけるように首を縦に振り始めた。リオンは驚き動揺した様子で、その場の賢い動物たちを目にする。
「動物たちも、同じ……?」
考えもしなかった様子でリオンが呟く。陵也は躊躇いつつも、頷き告げた。
「だから、その。もしそうならこの子たちと一度きちんと向き合ってみて欲しい」
いつしか夕日が落ちる時間帯となっていた。歩いていた数人の大人たちが、奪還者――猟兵たちにも、是非ここで夜を明かしてほしいと告げに来る。
「ふむ、なるほどの。おぬしはまず、動物達と腹を割って話すことから始めた方がいいのかもしれぬの。個室があるなら借り受けよう。
そこで夜通し話し合いでもするが良かろう」
「空き部屋ならいくつかあるけど……だけど、狭い部屋で動物とサシで話す事なんかないからな。俺は一人で寝る」
「シングル? とんでもない。話し合いは必要じゃ。幸い大人は協力的なようじゃし、話をつけておこうかの」
「う……めんどくさいな。じゃ、じゃあ、誰か人が一緒にいるなら」
「ツイン? 馬鹿を言うでない。
――動物三匹におぬし一人。三対一の四人部屋に決まっておろう」
「ぎゃーっ!! 冗談じゃない! いーやーだー!!」
こうして、拠点の夜は一人の青年の絶叫と、誰が一緒になるかで盛り上がった動物たちの歓喜の声によって更けていった――
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『煮慈威露愚喪の獏羊族』
|
POW : 強奪の時間だヒャッハー!
自身が操縦する【山羊】の【突撃威力】と【物資強奪確率】を増強する。
SPD : ヒャッハー!突撃だ!!
【トゲ棍棒】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : 1ヒャッハー!2ヒャッハー!!3ヒャッハー!!!
【ヒャッハー系歌詞で大音声の羊数え歌】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
イラスト:ロクイチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
(第1章、誠に有難うございました! 第2章プレイングは『5/4(月)08:31~5/6(水)08:31』を目安に受付を行わせていただきます。
開始時刻までに、第1章の情報を合わせ、断章の追加を行わせていただく予定です。併せてご覧いただけましたらと思われます。
受付開始時刻に少し間が空いてしまいますが、ご検討をいただけましたら幸いでございます。それでは、どうか宜しくお願い致します)
「リオン、ここを『動物たちで時間を稼ぐ』だなんて――!」
真夜中三時。リオンが手に装着しているレーダーが、小さな警報音を鳴らしている。
「敵は小型で群れて何かに乗ってる。それなら多少建物に被害があっても制限の掛かる屋内に入れた方が都合がいい。
人は奪還者ほどの戦力が期待出来ないなら邪魔になる。それなら、賢い動物たちの方が遙かに小回りが利くんだ。
分かったなら早く行けよ! 時間がないから稼ぐんだろう!」
今までとは様変わりしたかのようなリオンの様子に、様々に憶測をまじえながらも、大人たちは一抹の願いを託して倉庫から姿を消していく。
倉庫を一時の静寂が訪れた。
「俺にできるかな……いや、まだ怖い」
リオンは銃を目にしながら、それでも心の何処かでは冷静に呟く自分を見つめた。
――逃げる途中、友であった賢い動物が、自分を庇ってオブリビオン・ストームに完全に呑み込まれた瞬間を見た。人の手ではどうしようもなかった。しかし、人間の自分がいなければ、足の早かった友は助かったはずだ。今でも、そう思う。
それ以来――人間は、脅威に対し、逃げ惑うべき生き物だと思っていた。賢い動物たちを巻き込んでまで戦うだなんて、もっての外だと。
それを覆せたのは、今日現れた奪還者――猟兵が『仲間の強さ』を教えてくれたから。
危機に対して『共に戦う』という選択肢があるということを、賢い動物たちが自分に見せてくれたから。
「よし! 勝つぞー!!」
吹き飛ばすように、リオンが掛け声を一つ上げた。それを支えるように、一斉に雄叫びじみた声が沸き上がる。
そして――
『ヒャッハー!!』
盛大な声と共に倉庫の中に飛び込んで来たのは、キラキラとした虹を纏う『煮慈威露愚喪の獏羊族』だった。
――小型で山羊に跨がり、駆けずり回るその姿は、何だか良く分からないけれども、とってもモクモクしてキラキラしている。
「……は?」
「あれは! 鍋にすると舌がとろけそうなほど美味しいと言われている『煮慈威露愚喪の獏羊』――!! 美味しすぎると評判のレア種族だぴょん!」
「……」
状況に理解が追いつかない。言葉にならない沈黙に、ウサギがさらに錯乱しそうな事を口にする。
今まで真摯に考えていたことは何だったのか。しかし、それでも敵が敵であることには違いない。たとえ、そのモヒカンも身を包むそのフォルムも、全てが可愛い虹色に輝いていたとしたって――
「……今日は鍋! 君に決めた!!」
リオンはほぼ自棄気味に、今まで大切にしていた感傷に別れを告げ。そして周囲の状況把握に努めつつ、コンテナの上から虹色の生命体に、容赦無く鉛玉をぶっ放した。
――ちくしょう、今までの感傷を返せ。
オークティス・ルーヴェルト
【SPD】
『連◎/ア○』
動物苦手なリーダーを克服させる。TakeYourHart♥!感動シマシタ!
HOTOKEの如く悟った表情でリーダーの肩を叩いて
「OH、何事にもアクセルとブレーキ、大事デース。仲間を信じて流されない事、ユーなら出来るヨ」と励ましマース。
覚声器「spea-ker」📢とUC【E.C.H.O.+】を使って、獏羊族を挑発、if,UC攻撃が来るのなら、ドでかい一撃を全力で受け止めマース!。ついでにUCの効果でみなさんもバリバリ(◎王記風のダミ声で)PowerUPね!
細かいこと?リーダーや猟兵サンがNiceなidea💡で導いてくれるし、無言でサムズアップすればなんとかなるヨ!
地籠・陵也
【乱入アドリブ連携諸々歓迎】
そんなに美味い肉なのか。それで鍋をしてみんなで囲んだらきっとおいしいと思う。
……ところでリオンは何でそんな顔をしてるんだ?いや、別に何もないならいいんだが。
暴走族みたいな……獏?羊?どっちなんだ?いや、どっちもか??
とりあえず、真っ直ぐ突撃してくるならそこで出鼻をくじく感じにできれば勢いは削ぐことができそうだな。
わざとあいつの車線?羊線?とにかくあいつが走る先辺りに陣取ろう。
それから衝突するほぼ手前までひきつけてから【指定UC】を使う。
結界を展開してるから俺は痛くも何ともないし、あっちは加速しているのもあるから派手にぶつかってくれる……と思う。止まりにくいだろうし。
「動物苦手なリーダーを克服させる――TakeYourHart! 感動シマシタ!」
沸き立つ心が押さえきれない。賢い動物たちの話を聞いたオークティス・ルーヴェルト(仮)もふみの求道者✨️・f06321)は感激をそのままに胸を押さえた。
コンテナの上に籠城を思わせる形で陣取った動物たちがオークティスと共に大喜びする中。リオンは元々斜にかまえていた影響で、それを素直に受け止めきれずに仏頂面のまま沈黙している。
その様子を目にしたオークティスは、パーフェクトな『HOTOKE』を思わせる見識を開いた賢者の如き表情でリオンの方をポンと叩いた。
「OH、何事にもアクセルとブレーキ、大事デース。仲間を信じて流されない事、ユーなら出来るヨ」
その口調は、冗談ではなくオークティスの経験から発せられたものだと思い。リオンは基本、否定ばかりを続けていた言葉と逆のものを探して、何も浮かばずやはり沈黙した。
「――コレカラ激戦が予想サレマス。
ソンナアナタニ『Pro-theine(ぷろ-ていん)』!
飲ンデ鍛エレバ、今日からアナタもMUKI-MUKIの第一歩デース!」
そんなオークティスから高らかに差し出されたのは、突如現れた光り輝く高品質タンパク飲料。リオンはその厚意の眩しさに自棄を起こして、きちんと受け取り飲み干した。
「しかし、そんなに美味い肉なのか。それで鍋をしてみんなで囲んだらきっとおいしいと思うんだが……」
その隣にいた地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)がしみじみと語る。それに同意と共に、こくこくと頷く動物たちを見ながら、リオンは遠くから迫る頭のわるそうな虹色と重ねて、さらに頭を抱え込んだ。
「……ところでリオンは何でそんな顔をしてるんだ?」
敵対生命体との戦闘遭遇。それだけでも思考が弾けそうなのに、敵の見た目はあの姿。しかも美味い。
「何でもない……」
「いや、別に何もないならいいんだが――って、そんな泣きそうな顔で言われても!」
「おやびん、もう少しで『煮慈威露愚喪の獏羊族』が!」
「暴走族みたいな……獏? 羊?
どっちなんだ? いや、どっちもか?」
いよいよはっきりと見えてきた山羊に跨がり全力突進をして来る存在を目に、陵也は思わず混乱しそうになる。
「誰だよ、あんなのにそんなおかしな名前つけたやつ……もうデータ見る度、心折れそうだよ……」
「おやぶん、心折れてる場合じゃないぴょん! 来るぴょん!」
リオンが俯きながらぼやくのに、賢い動物たちが活を入れる。
「あ、ああ――
あのさ、奪還者ならこういう時、何か策みたいのがあったりするのか?」
「そうだな……とりあえず、このまま真っ直ぐ突撃してくるなら――」
今後の動物たちの指示もある。リオンの問い掛けに、耳を傾けていたオークティスを交えて陵也が頷く。
「そこで出鼻をくじく感じにできれば、勢いは削ぐことができそうだな」
「策ありデスカ! ソレナラ敵を挑発シマース!」
「分かった。それなら今のまま、進行方向真っ直ぐで頼んでもいいか? 入り口でもっと勢いを削ってみる」
「OKデス!」
勢いのある言葉と共に、オークティスが人狼としてのしなやかな動きで、正面入り口から直線上に、遮蔽物のない倉庫奥に立つ。
そして一見スマートフォンに見える『覚声器「spea-ker」』を手に、倉庫の外まで響く拡張された声を敵に叩き付けた。
『Hi! リーダーのイナイ彷徨える憐レナ暴走子羊タチ!!』
オークティスのボイスと同時に、彼のアリスナイトとして存在が、イメージを形として倉庫内に戦歌を思わせる士気昂揚曲を奏で始める。耳にした獏羊族たちから、遠くながらも明らかに動揺が走った。
「なにお~~!! ざけんなぁ~!!」
遠くから獏羊の罵声が響く。しかし、そこに全てを打ち貫く勇ましさを感じる遠吠えが響き渡った。
オークティスのユーベルコード【E.C.H.O.+(エコー・ドット・プラス)】発動――その勇ましさに、共感した場の仲間たちの戦闘力が一気に跳ね上がる。
「力がモリモリ湧いてくるー!」
雄叫びを聞いた動物たちから歓喜の声が聞こえてくる。
「なんだぁ! てめぇら、強奪じゃ許さねぇからなー!」
そして、挑発に煽られた獏羊たちが、敵が奥にいるオークティスをターゲットに、あまり広くない入り口の倉庫に一斉に傾れ込もう集中した瞬間。
拠点防御に必要な情報を把握して、袖長の純白のジャケットを翻した陵也が、高さあるコンテナの上から入り口の中央に降り立った。
「――」
陵也の、敵を前にして胸に抱く『恐怖に覆われた心の欠片』が、不安と恐れを掻き立てる。
ふざけた外見をしてみても、敵は一般人にどうにか出来るものではない。ここで失敗したら、この背後にいる人も動物も皆が大変なことになるかもしれない。
震えが走る。それでも、陵也は既にその解を知っている――それ故に、自分は猟兵なのだから。
『これ以上手出しをするなら、俺を倒してからにするんだな!』――宣戦の声と同時に、陵也のUC【永久無穢の白銀結界(アブソリュート・パーマフロスト)】が発動した。敵に対する威圧と共に、両手を広げた陵也の全身を、光輝く銀雪を思わせる結界が奔る。
「強奪の時間だ、ヒャッハー! 身ぐるみはいでやるぜー!!」
敵が乗る山羊の威力が更に加速する。しかし、激しい突進と共に陵也を排除しようとした獏羊の一匹が、逆に弾き飛ばされ宙を飛んだ。
それは、身の自由と引き換えに、ほぼ全ての攻撃を無効化するユーベルコード――今、入り口の中央に現れた陵也の存在は、川の中を突如巨大な岩石が現れたかのように、敵の流れを分断した。
しかし、分断と言っても綺麗なものではない。
「なんじゃこりゃー!」
「ひでぶ~!!」
当然、流体になれない敵は、急に詰まった入り口で総崩れになり、様々な声を上げながらその手前で山積みになりひっくり返った。
入り口に詰まったり、山羊から落ちたり。その他にも何体もの敵が、勢い余って可愛らしくポップコーンのように倉庫内に飛び込みポンポンと空を舞う。
「うおーっ、俺の愛山羊が~!」
もつれるように中に入った獏羊族たちの声が響く。そして、マイバイクもといマイゴートを必死に探すが、見つけた愛山羊たちは息も絶え絶えで、主に遺言を残すべくふるふるしているところだった。
「し、しっかりしろー……っ!
『一煮慈威露愚喪でヒャッハー! 二煮慈威露愚喪でヒャッハー! 三煮慈威露愚喪を数えてヒャッハー!!』」
自分も天国に召され掛けていた獏羊が、仲間の為に最後の力を振り絞って歌い出す。歌詞が全て『ヒャッハー系』で構成された数え歌に、集団で転がっていた獏羊と山羊が眠り出した。
それが『眠らせた相手を回復する』歌だと判断したオークティスは急ぎ止めようと走る。だが、それを邪魔するように、無事だった獏羊がオークティスへと襲い掛かった。
「ヒャッハー!」
「オオォ!!」
猛烈な勢いと共に、トゲ棍棒が振り上げられる。しかし、オークティスはそれを、走りながら『聖斧:B.T.A』によって余すところなく受け止め、逆に獏羊ごと全力で跳ね飛ばした。
「え? ――ちょっ、まっ!! こっちに飛ばすんじゃ――ぎゃああ!!」
カッキーンと錯覚音が聞こえた先、獏羊が吹き飛んだ先にいたリオンから悲鳴が上がる。
あわやぶつかるという惨事を前に、リオンは先に強化された戦闘能力でその獏羊の足を掴むと、絶叫と共にとっさに陵也の元へと投げ返した。
そして陵也にぶつかった獏羊は、再度別方向へと飛ばされていく――
「……」
リオンが青ざめた顔で肩で思いきり息をつく。確かに『賢い動物たちの指示』という立場に、半分自覚していたとはいえ、残り半分無自覚でふんぞり返っていた自分が、いきなり『飛んできた敵を、装備も無しにとっ捕まえてぶん投げる』など想像もしていなかった。覚悟が足りず、心構えがなっていなかったとはいえ、正直今も膝が笑っている。
そんなリオンが賢い動物たちの喝采の中を、未だ残る恐怖と共に、ジト目で飛来元へと顔を向ければ。視線を向けられたオークティスは、輝ける爽やかな笑顔と共に『ぐっ』と無言でその健闘を称えるサムズアップをした。
――ダメージが出せる気はしないが、獏羊は陵也ではなくあちらに投げるべきだったかもしれない――リオンは、現状オークティスには何の非も無いにもかかわらず、心にほんのり魔が差した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
藏重・力子
こちらの世では貴重な食糧……?ああ、とにもかくにも戦わなくては
リオン殿には動物殿も我等も付いておる!相手が何者でも受けて立とうぞ!
獏には、ばくで対抗だ!武器を穿金棒に持ち替え、意気揚々と「しまって参ろう!」
『雲脚』で宙を跳び回り、敵と距離を取りながら戦うぞ
金棒を振るい、炎の【属性攻撃】を付与した【衝撃波】で攻撃である
「我の金棒が何故ばくの名を持つか教えてやろう!」
敵に急接近して【先制攻撃】の【零距離射撃】!芯の鉄杭を発射し、穿つ!
「一つ、滅びの悪夢を砕き、喰らい清めて祓う為……」
「二つ……なんと、新手とな!?」続きはまた、だな。まだまだ行くぞ!
この場所も、我等の想いも、お主等には決して譲らぬ!
「あれが……こちらの世では貴重な食料……?」
トゲ棍棒を持った『煮慈威露愚喪の獏羊族』の一部が、少しずつだが体勢を立て直し、虹色の毛をモフモフさせながら倉庫内へと侵入しつつある。
だが、改めて見るそのインパクトたるや。藏重・力子(里の箱入りお狐さん・f05257)は思わず疑問符と共に呟いた。
「ヒヒン、それはもう悔しきかな、自分のような馬肉よりずっと美味であると聞いているのであるヒヒン」
それは悔しがる所なのであろうか。小さなポニーの姿をした賢い動物の傍らで、力子はつい思案に暮れかける。
「……この拠点の賢い動物にはツッコミが足りていないと思うん――違う! 頼む、手を貸してくれ!」
目が少し彼方に行っていたリオンが、慌てて力子に声を掛ける。
「あ、ああ! とにもかくにも戦わなくては――よしっ」
力子が自分の両頬を叩いて気合いを入れる。
「リオン殿には動物殿も我等も付いておる! 相手が何者でも受けて立とうぞ!」
力子は高らかに響く声と共に、華やかな『なぎなた「一道之刃(ひとみちのじん)」』を収め、勇ましくその手の内に『穿金棒(うがちかなぼう)「ばく」』と呼ぶ棍棒型の打撃武器を構える。そして常に碧い炎を激しく噴き上げているその柄を力強く掴むと、力子はコンテナの上から、己の意気揚々とした心を隠さず叫んだ。
「しまって参ろう!」
掛け声が場に響く。獏羊たちがそちらを目にすると同時に、力子はコンテナから勢い良く、何も無い宙へと身を投げ出すように躍り出た。
「危ない!!」
動物たちの声を後目に、力子のユーベルコード『雲脚』が発動する――『宙を踏み締め、渡れよ天を!』――中空でありながら、大地を踏みしめる音が聞こえそうなほどに逞しく、力子が宙を走り敵の前方まで駆け抜ける。
「はぁっ!!」
そして、上空から金棒から噴く澄んだ碧い炎を纏わせた衝撃波で、獏羊族たちを一撃の下に焼き払った。
「わー、ちくしょう~! ウェルダンだぜぇー!」
力子は空を自在に駆け、多方向からの衝撃波を容赦無く放っていく。そして、ユーベルコードの効果切れと共に力子は華麗に地面へと舞い降りた。
「地面にいるなら、攻撃が当たるぜー!」
そこを狙い、もう焦げて美味しい匂いを漂わせている仲間もいる中、自慢のモヒカンに火を付けながらも、獏羊の一匹が全力で飛び込んで、破壊力抜群のトゲ棍棒を振りかざす。
「甘いわ!!」
それを力子は、縮地法を錯覚させるほどの早さで、脚掛け一歩で敵の懐へと潜り込んだ。
「我の金棒が何故『ばく』の名を持つか教えてやろう!」
高らかなる声と共に、虚を衝かれた敵の虹色もふ毛の胸元に、手にしていた『穿金棒(うがちかなぼう)「ばく」』を押し付けられる。
「穿つ!」
そして、力子の覇を唱えるような掛け声と共に、穿金棒の芯である鉄杭が、勢い良く美しい炎をまき散らし、獏羊を貫いて見事その身を砕き去った。
「一つ、滅びの悪夢を砕き、喰らい清めて祓う為……。
二つ……」
悪夢すらをも砕くが故の『穿金棒(うがちかなぼう)「ばく」』――その力を遺憾なく発揮し、力子はその鉄杭を再び穿金棒に収める。
「おのれ~、ヒャッハー! 敵討ちだー!」
しかし、満足に謳う勝利は、新手の獏羊たちによって思いきり邪魔された。
「なんと、新手とな!?
――続きはまた、だな。まだまだ行くぞ!
この場所も、我等の想いも、お主等には決して譲らぬ!」
鮮烈な言い立てが響き渡る。その言葉に嘘偽り無し。
穿金棒は新たな悪夢を砕くべく、更に一層の豪快さを増して敵を屠っていく――
成功
🔵🔵🔴
サギリ・スズノネ
あれが煮慈威露愚喪の獏羊!
すげーキラキラなのです、虹色で格好良いのですぴょん!
……ぴょんがうつったのですよ!
昨日の敵は今日の鍋という、古い言葉があったりなかったりなのです
リオン親分がー動物たちと一緒に、とってもやる気なのですよ
ならサギリもお手伝いするのです!
背中のあいつは後回しなのです。まずは足を潰すのですよ!
【火ノ神楽】で火の鈴玉を複数出現させて、羊の体や足を狙ってぶつけます
その時に体や地面の一部を延焼させて、焦げた臭いで鼻の効きの低下を狙い、
動きが鈍ったら羊の顔を狙って『鈴ノ小鳥符』を放ち、目を塞ぐのです
羊の動きが止まったら、残りの鈴玉を集めてでぶっとばすのです!
※アドリブ、連携歓迎です!
「ふおぉぉぉ! あれが『煮慈威露愚喪』の獏羊!」
「どんどん美味しそうに見えてくるぴょん!」
ウサギと並んで戦況を観察していた、サギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう・f14676)が見るからに興奮を隠す様子無く叫ぶ。
「すげーキラキラなのです、虹色で格好良いのですぴょん!」
「マジか」
サギリの『口調が移った』以上の爆弾発言じみた感激に、思わずリオンから冷静な突っ込みが入る。
「ぴょん!」
「……ぴょんがうつったのですよ!」
しかし『それはともかく』とばかりに。完全なる意見の一致で、幸せそうなウサギと意気投合したサギリに、リオンが無言で頭を抱えた。
「というか――あれ食べるとか本気なのか……? 美味いらしいけど……!」
「まあまあ『昨日の敵は今日の鍋』という、古い言葉があったりなかったりなのです」
「親分、さっき『今日は鍋』って言ってノリノリで銃ぶっぱしてたぴょん? ここで鍋の材料増やさないと親分のオトコがすたるぴょん」
「あーはい! そうでした!!
おらぁ! そろそろ本腰入れるぞ!」
完全に自棄の入ったリオンと、興奮状態になりつつある賢い動物たちに、サギリが頷く。
「リオン親分がー動物たちと一緒に、とってもやる気なのですよ。
ならサギリもお手伝いするのです!」
サギリは手にぐっと気合いを入れて、コンテナの上から白地に桜模様の模様が入れられた『桜日和の白和傘』を開くと、ふわりと柔らかく敵の少ない地面へと降り立った。
どうやら、ここは入り口から特攻してきた獏羊たちの死角になるようだ。そこから獏羊族を観察すること少し。
「ふむ、背中のあいつは後回しなのです。まずは足を潰すのですよ!」
「お! ここにも人がいやがるぜ、ヒャッハー!」
気付かれたサギリは即座に、族の中でも吹き飛ばされてここに迷い込んだ獏羊と対峙する。今の獏羊の声に、さらに数匹の獏羊が現れた。
『鈴を鳴らして舞いましょう』――しかし、そこからのサギリの行動に迷いはなかった。どこからともなく鳴る鈴の音と共に、サギリのユーベルコード【火ノ神楽(ヒノカグラ)】が発動する。次の瞬間、敵を巻き込んだ空間内を、無数の金色に揺れる炎の鈴が現れた。そして、小さいながらも確固たる炎である鈴玉は、それぞれ一番近くにいる獏羊の足や、乗り物にしている黒山羊に小さな炎上音と共にぶつかり始める。
「ぎゃああ、あついー!! あ、こらー! ちゃんと動けー!」
乗っていた黒山羊たちが、サギリの意図に則り延焼を始めた炎に慌てふためく。そして獏羊を乗せたまま、まるで蜂の巣をつついたかのように辺りを駆けずり回った。
「あついー! 敵のあいつを眠らせるから、火を消せー!」
「分かった! 一煮慈威露愚喪~! 二煮慈威露愚喪~! 三煮慈威露愚……ぎゃー! 熱いのに悠長に歌ってられるかー!!」
炎は歌う事が大前提である敵の特技を封殺し、そんなことをしている合間にも火は虹色の毛を容赦無く焦がし、タンパク質を燃やしたような臭いを立てる。
「おおお、ヤベぇ! 臭いも分からなくなってきやがった!」
「ここで――くらうのですよ!!」
それに重ねるように、サギリは動揺の極みとなった獏羊たちの顔面を狙い、衝撃波に乗せて札絵に小鳥と鈴が描かれた破魔札『鈴ノ小鳥符』を叩き付けた。
「ベフッ!! うわぁああー!」
獏羊たちの目に札が貼り付き視界を奪う。感覚情報を根こそぎ奪われた獏羊族が、完全に己の動きを制御出来なくなったところで、
「終わりなのです!」
サギリの操る炎の鈴玉が、一挙に駆けずり回る敵の数分だけ収束して巨大化し、獏羊たちへと襲い掛かる。それらは、激しく炎が巻き起こす風を伴い、獏羊たちを纏めて思いきり彼方へと吹き飛ばした。
大成功
🔵🔵🔵
杼糸・絡新婦
なるほど、餌が自らやってきたということやな。
食料もこれで確保できるんやろ?ほな頑張ろう。
【パフォーマンス】で視線誘導、
【挑発】でこちらに意識を向け、
他のメンバーが攻撃しやすいよう好きをつくる。
鋼糸で攻撃していき、
絡みつけて捕獲できた【敵を盾にする】ことで
他の敵からの攻撃を防ぐ。
味方への攻撃を【かばう】ことを合わせ、
こちらへきた攻撃は【見切り】でタイミングを合わせ
脱力し受け止めオペラツィオン・マカブルを発動。
さあ、出番やでサイギョウ。
『煮慈威露愚喪の獏羊族』たちの虹色のウールがぶすぶすと燃えた後。今までの煙い臭いを丸呑みするかのように、まるでBBQを思わせる肉々しい香りが漂ってくる。
「お腹がへるいい匂い~」
「遊んでるんじゃないんだぞ!」
動物たちが歓喜するのを、半ば呆れ気味にリオンが叱咤する。
「なるほど、餌が自らやってきたということやな。
食料もこれで確保できるんやろ?」
コンテナ上での緊迫感のない情景に、杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)が納得した様子で頷きながら、リオンに問い掛ける。
「あ、ああ。もし本当に食えるんだったら……」
「躊躇う理由もなさそうやね。ほな頑張ろう」
絡新婦はそう告げると『七つ道具』である行商箪笥を背にしながら、尚その重みを感じさせない軽やかさで、敵の密集していない所へと飛び降りた。
「あちらに密集してるから、少しこちらに寄せよか」
少しの思考の逡巡と共に、絡新婦が取り出したのは日頃から何かと世話になっている『ゲームデバイス』――絡新婦がそのボタンを少し弄ると、中にインストールしたゲームの激しいオープニング曲が、耳が痛くなるほどの爆音で再生された。
「うおっ!」
不意を突かれた驚きに、倉庫内をあまり意味なく走り回っていた獏羊たちが、転んだり前方不注意でコンテナに突っ込み始める。
「あんたさんたち、前方不注意は感心せんねぇ。このまま戦わなくても勝てそうやな」
「なにを~!!」
その言葉に、思いきり挑発に乗った獏羊たちが、絡新婦の方へと引き寄せられるように集まってくる。それを凝視していたリオンが、その場で待機していた賢い動物たちに攻撃の意を示し出す。
そして遠くで激しい爆撃音が聞こえ始めた。少しずつだが、着実に賢い動物たちが戦況を動かしている様子に、絡新婦の整った口端を薄く微笑をかたどった。
「――ほな、始めよか」
すいと、取り出したのは機織りに使われる杼に巻かれた鋼糸。硬質でありながら、ぎこちなさを感じさせない複数の鋼糸が、絡新婦の周囲を一波ふわりと漂った。
次の瞬間、それらはまるで意志を持つかのように敵に絡みつき、または地面を滑って敵を盛大に転がした。
「わぁあ! このやろー!」
それでも根性見せようとぶつかってくる敵に、絡新婦は先ほど鋼糸で捕らえた敵を引き寄せ、自分との間に挟んで盾にして見事に直撃を回避する。
「わー! 仲間を殺っちまったー!」
絡新婦に向かっていた敵が、一瞬にして総崩れになった。
しかし――その光景を見ていた賢い動物の中で、一匹のイヌが興奮冷めやらぬ様子で、口にサバイバルナイフをくわえ戦線に加わってきた。
「おれだって戦えるんだ!」
「こら、待て!!」
「おや」
リオンの制止を振り切り、イヌが戦況を立ち回る。弱くはないが、如何せん敵の数は少なくない。あっという間に疲弊の色を見せ始めたイヌが、いつ獏羊の一撃に当たってもおかしくない状態まで追い詰められる。
リオンが慌てて救出の為に、他の賢い動物たちへの指示を出そうとする。その前に、絡新婦はイヌを鋼糸で絡め庇うように自分の傍らまで引き寄せた。
「俺の獲物だぞー! ヒャッハー!!」
前に出た獏羊の一体が、当たればただでは済まないトゲ棍棒を振りかざし絡新婦へと迫る。しかし、絡新婦はそれを凝視すると、まさに自分へと直撃する瞬間を見据え『全身の力を抜き切った脱力状態』でそれを受け止めた。
条件は整った――絡新婦のユーベルコード【オペラツィオン・マカブル】が発動する。それはからくり人形『サイギョウ』覚醒の合図。
高威力の棍棒を受け止めた絡新婦は無傷。同時に背にしていた行商箪笥が、激しい物音と共に開かれた。
そして、そこに現れた狩衣を纏った狐人の人形が、弾け飛び降りるように絡新婦の前に立つ。
「さあ、出番やでサイギョウ」
絡新婦がまるで愛し子に声を掛けるように『サイギョウ』に告げた。驚きに獏羊の動きが止まり、それに目が釘づけになる。
それは明らかな命取りだった――そう気付く間もあったかどうか。
次の瞬間には、向けられた三つのかぎ爪状の奥から、先の攻撃と同じ破壊力を持つ激しい業火の球が生まれ、一瞬にしてその獏羊の体を焼き払っていた。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】
ア◎
全員正面から向かってくってのも芸がないしな
それに…正面から斬ったら消し炭にしちまいそうだ
鍋、楽しみにしてるぜ♡
リオンはそいつらがどういう組み分けで
どこに隠れてるのがイイか指示してやれよ
大丈夫大丈夫、コイツもついてるからよ
話半ばにひらりキアノに飛び乗って駆けだそう
アレスに白馬…似合いすぎかよ
戦闘中だけど思わず笑っちまいそうだ
アイツがあんなにかっこよくて目立つなら
こっちは音で誘ってやろうぜ
歌うは【囀る籠の鳥】
さあ、夢中になりやがれ
ある程度誘えたらキアノから飛び降りて二手に分かれ
リオン達のいる方へ
ギリギリまで攻撃を誘い
見切り躱す
攻撃の瞬間が一番無防備ってな!
ははッアレスマジで王子様じゃん
キアノ・クシフォス
【双星】
※人間の言葉で書いてますが人間の言葉は喋りません
狼の鳴き声です
※心の声の描写はなくても◎
ああ敵だ!強い敵か!
さあかかってこい!
気合を入れて遠吠え一つ
…む、囮だと
仕方がない
セリオスは放っておけないヤツだからな
俺が面倒を見てやろう
お前たち!あの修行を思い出してしっかりと仕留めろ!
口に剣を咥え【疾風破陣犬】
セリオスを背に乗せ風を纏って駆け抜ける
殺気を込めて吠えたてて
ひらりと跳んで距離をとる
背から降りたセリオスと別れたら
それぞれに小さい奴らが隠れている場所へ
敵の攻撃を剣で弾いて
さあ、今だ
噛みつけ!そう、その調子だ
守るのは苦手だが
まあコイツらは実質弟子のようなものだ!
しっかり面倒を見てやろう
アレクシス・ミラ
【双星】
ア◎
ま、まあ
リオンくんが動物達と共に戦ってくれるようでよかった
で、君は食べる気満々だね…
気を取り直して
僕達が誘い込むからリオンくんは動物達を指揮して欲しい
君なら的確な指示を出せると信じているよ
【耀光の天馬】でヴェガ…白馬を召喚し騎乗
征こう。皆の力を一つにする時だ
セリオス達も調子に乗って誘いすぎないように…って、こら!
…気を引き締め直さねば
剣を手に、目立つように攻撃を仕掛けよう
さあ、追いついてみろ!
リオンくん達がいる場所まで誘き寄せるように駆ける
敵との距離には気をつけ
…いつの間にか1人のセリオスも手を伸ばし回収
白馬の光翼でコンテナを飛び越え
リオンくん達と交代しよう
なら、君はお姫様なのかな
「あれの鍋、か……食うの、か。あれを」
賢い動物たちが歓喜に沸いている。それを諫めながらも、リオンは痛くなりそうな頭を押さえた。
友への傷心に浸る間もなく、そこに襲い掛かって来たものは『羊鍋』――今、傷心よりも哀愁を漂わせているリオンの様子が、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)には一際痛ましく目に映った。
「ま、まあ……でも、リオンくんが動物達と共に戦ってくれるようでよかった」
アレクシスは、改めてコンテナの一段下から辺りを見やる。敵もかなりの数だが、今までの猟兵たちの活躍もあって着実に動く数を減らしている。しかし、賢い動物たちへの指揮に、リオンは不慣れというよりも躊躇いを滲ませていた。防衛と現状維持を中心に出される指示。しかし、そろそろ攻撃に出ても良い頃合いだと思われた。
「そろそろ、頃合いじゃねぇの?」
アレクシスの隣に立っていたセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)もリオンに声を投げる。
「……だよな。こんな現状維持だって、いつまでも続けられるものじゃない」
諦め気味に頷いたリオンに、セリオスも何か思いついたわけではないが、全体の戦況について眺めてみる。
「んじゃ、どうすっか――全員正面から向かってくってのも芸がないしな。
それに……俺らが正面から斬ったら、肉も残さず思いきり消し炭にしちまいそうだ」
その先に見えている楽しみと期待を、眩い限りに隠さないセリオスにアレクシスが息をつく。
「――君は食べる気満々だね……」
「まぁな。消し炭にしたら何も残らねぇだろ。鍋、楽しみにしてるぜ」
『鍋』――集約された美味が待つ未来に、セリオスが期待に胸を膨らませるのが伝わってくる。額を押さえたリオンに、アレクシスが小さく咳払いをして話題を変えた。
少し未来の鍋も悪くはないが、今やるべきは敵の掃討。
「気を取り直して――僕達が誘い込むからリオンくんは動物達を指揮して欲しい。……できるかな?」
リオンがもし否と答えても、他に取れる選択肢は現状それほど多くない。それでもこちらに問い掛けたアレクシスの気遣いを感じながら、リオンは不安げながらも小さく頷いた。
「リオンはそいつらがどういう組み分けで、どこに隠れてるのがイイか指示してやれよ。
――大丈夫大丈夫、コイツもついてるからよ」
セリオスの言葉と共に、軽やかに弾けるような音を立てて、純白の毛並みを翻したキアノ・クシフォス(四足の剣士・f20295)が飛び込んできた。リオンが驚く間に、セリオスはその身を翻してキアノの上に預けると、あっという間にコンテナ下の戦場へと飛び出していく。
「セリオス! 少しは話を――!」
アレクシスが慌てて留めようとするが、伸ばした手の先には既に誰もいなかった。一人と一匹、その力量においても信頼している。だが、そこに親友と家族にも近しい存在を放って置くという選択肢も無い。
「リオンくん――君なら的確な指示を出せると信じているよ」
正面に向けた開けた空間へ、アレクシスが言葉と共に、その腕を胸元から横に柔らかく広げるように振るう。その滑らせる指先に星屑のような光の帯が流れ、ユーベルコード【耀光の天馬(ヴェガス)】が発動した。アレクシスの眼前に、光の帯から湧き上がるように身を顕わにした光翼を持つ白馬が、何も無い中空に佇んでいる。
そしてアレクシスは己の倍はあろうかという白馬に跨がると、倉庫全体の状況を確認し、その地上へと降り立った。
「――征こう。皆の力を一つにする時だ」
「まだまだ、ぶいぶい言わすぜー!」
倉庫内を縦横無尽に、黒山羊に乗った虹色のもこもこ『煮慈威露愚喪の獏羊族』が駆けずり回っている。
その中を疾走するキアノが、まるでこれから巨大な敵を駆るという興奮を伝えるように、激しい気合いのこもった遠吠えを上げた。
「ああ、悪ぃ。俺たちの今回の役目は囮なんだ。っつっても、この数じゃ油断は出来ねぇけどな」
その意を感じ取って、彼の上に身を預けるセリオスが告げると、キアノはとても不服そうに「ワゥ」と洩らした。それでも、セリオスはキアノにとっては放っておける存在ではない。敵を引きつけつつも、キアノはその身に危険が及ばないように再び動きを加速化させた。
遠くに、昼間爪と牙による戦闘を教えた、近接戦を得意とする賢い動物たちがリオンの指示で敵の少ない場所へとこっそり移動するのが目に入った。可能な限り目立たず、見つかったらその敵は他に気付かれる前に確殺していく――その様子を見る限り、リオンの案は先の話の通り、こちらで集め切った獏羊を、賢い動物たちの全力で叩きのめすつもりのようだ。
気付かれないよう、キアノは言葉の代わりに賢い動物たちに鋭い叱咤激励の視線を送る。動物たちの瞳が尊敬にきらめいた。
勢いを上げて、周囲を駆けるキアノの身体に風が乗る。『剣』の力により空気抵抗を消し、さらにそれを追い風とした瞬間、キアノはユーベルコード【疾風破陣犬(シップウハジンケン)】を発動させた。
キアノは己の視野に獏羊族の群れにいた一匹を捕らえると、疾風の早さで追い詰め、口にくわえていたロングソードで真っ二つに斬り裂いた。
「なにしやがるー!」
気付いた仲間がトゲ棍棒を振り上げて、キアノと乗っていたセリオスを狙う。だが、それを見越してキアノが距離を取る。先にキアノがいた場所をトゲ棍棒がすり抜けた。
同時に、他の獏羊が追撃するように振るったトゲ棍棒が、まだ手入れして大して経っていないそのフワフワな毛のぎりぎりをかすめていく。
「危ねっ! 悪ぃな、キアノ」
自分の身がキアノの身軽さの邪魔をしている。気遣うセリオスに、気にするなとばかりにキアノが軽く吠えて、走るスピードを上げた。既に先の敵がキアノを追い掛け始めている。
瞬間、セリオスの視線の先に、流星の光を残す白馬が飛び込んで来た。
「うおっ――あれアレスか!」
乗っている人物をほんの一瞬で視認すれば、そこには確かに蒼の外套を豪奢にたなびかせた親友の姿が見えた。
「――さあ、追いついてみろ!」
遠くに響いた敵を挑発する、声の主の存在をそのまま写し取ったかのような剣『赤星』が鞘から引き抜かれるの。
そして、その軌道に更なる暁光の残像を残した白馬が、一人と一匹の前を、敵を引き連れ駆け抜けた。
「アレスに白馬……似合いすぎかよ……!」
ほんの瞬間、思わずセリオスの喉から笑いが溢れそうになるのを堪える。
――可笑しいわけではない。ただ、単純に、似合いすぎていて、ずるいのだ。
親友がこんな心躍る戦場で、あんなにも眩く、格好良く心を打つほど目立つのならば――こちらに、加減も容赦も必要ない。
駆けている不安定なキアノの上。だが、それはセリオスの『歌声』の前では些事でしかない。
『目も耳も意識も全部、――全部寄越せ!』――空気がたわんだ。そこから歌われたものは、セリオスのユーベルコード【囀ずる籠の鳥(レイド・セレナーデ)】――その光景は天国か地獄か。この世のものとは思えない域にまで達した歌声が、抗いがたい魅了と挑発を以てして、次々に敵の自由意志を塗り潰していく。
そして洗脳に近く思考が途切れた獏羊たちが、駆け抜けるセリオスたちの後ろに波のように雪崩れ込んで来た。
「さあ、夢中になりやがれ!」
今回は振るうつもりのない『赤星』の暁を燦めかせ、アレクシスが走る。
「後はこれをリオンくんの方へ引けば――セリオス達も調子に乗って誘いすぎないように……って、こら!」
先ほど目の端が捉えた方へ少し顔を向ければ――そこは、セリオスの歌声で既にぐちゃぐちゃの領域にまで惹きつけられた獏羊たちの姿を見た。思わず確認の声が叱咤に変わる。
「……気を引き締め直さねば」
アレクシスは改めて、こちらの敵の数を把握すると片手にしていた『赤星』の柄を握り込む。現状として、引きつけた数としては十分だろう。
こちらに向かってくる敵との距離を警戒しつつ、アレクシスはリオンのいる所まで、まとめて引き寄せるように走り始めた。
「よしっ、後はリオンたちの所に運ぶだけだな――じゃ、後で合流な」
今まで自分を乗せてくれていたキアノを労るように軽く触れると、セリオスは駆ける背から飛び降りた。追い掛けて来た敵が二つに分かれ、片方がこちらへと迫って来る。
セリオスは今までの機動力の代わりに、己の命を削って尚も意に添う愛しい歌声――ユーベルコード【望みを叶える呪い歌(アズ・アイ・ウィッシュ)】を伴い、ブーツ『エールスーリエ』へと爆ぜた風の力で、リオンの元へ走り始めた。
リオンの指示を出す声が聞こえてくる。あちこちを駆けたキアノはその収拾タイミングに合わせ、敵を引き連れ指示場所へと駆け込んだ。
そこには、既に小さくも近接能力で戦う賢い動物たちが待機していた。リオンがスピーカーで音の悪い号令を出す。次の瞬間、連れてきた敵に向かい賢い動物たちが一斉に襲い掛かった。
キアノもそれに交じり、不意の角度から襲われそうになったビーバーへの一撃を、自分の剣で受け止める。
キアノの一吼。ビーバーはそのタイミングで獏羊の鼻へと思いきり噛み付いた。
「ぎゃああ! いたいー!!」
各所で、敵である獏羊たちの悲鳴が聞こえ始める。キアノは防衛戦は得意ではないが、戦闘を教えたここの賢い動物たちは実質弟子のようなもの。最後まで面倒を見るのを忘れない。それに昼間に比べ、遙かに強くなった弟子たちを見るのも悪くないと、そう思うほどに胸が熱くなった。
セリオスの元にも、かなりの数の敵が引きつけられていく。既に魅了と挑発の効果も切れ、何故セリオスを追い掛けているのか忘れた獏羊たちだが、少なくともここまで無意味に自分を引きずり回した以上、それが味方な訳がない。
「うりゃー、くたばれぇー!」
一度振り返ったセリオスの元に、先頭にいた獏羊のトゲ棍棒が襲う。セリオスはそれを戦闘に上気した瞳で凝視すると、当たる直前で身を翻して大きく躱す。そして、バランスを崩した敵の黒山羊を、風のエネルギーを纏う足で激しく蹴り飛ばした。それは止まらない後続の一帯を巻き込むと、ボーリングのピンのようにはじけ飛んだ。
「ハッ、攻撃の瞬間が一番無防備ってな!」
その満更でもない光景を目に、セリオスはまた風の如く走り始める。
そして再び嬉々として矢面に立ち、敵を引きつけては先頭にいる獏羊の攻撃を躍り舞うように避けて挫くを繰り返す。
――そんな危険と隣り合わせにいたセリオスの襟首を、不意に飛来した何かが、乱暴に掴んで引き込んだ。
「まったく……!! そんな量をいつから一人で――!」
「そう言うアレスも、大分引っ張ってきてんじゃねぇか!」
声の主は――親友。こちらの窮地に現れるのは、その姿を確認する必要もないほどに分かり切っている。
そのままセリオスは、白馬に乗るアレクシスの後ろに跨がった。アレクシスは二つの流れが合流するまで白馬を走らせると、その先をリオンの方へと向ける。
そして、走る白馬の光翼が大きく燦めき、前方にあったコンテナの上空を飛び越えた。獏羊族は、その向こうへ前方を確認もせずに流れ込んでいく。
――その先は、逃げ道のないコンテナに囲まれた袋小路。周囲には全て、銃器を持ち合わせた賢い動物たちの配置済み。
「リオンくん、後は任せた!」
「わ、分かった! ――皆、撃て!!」
急には止まれず、戻ることも出来ない獏羊族たちに、一斉に爆撃音が響き渡った。
硝煙の煙と臭いがあっという間に辺りを包む。
そこから少し離れた所に軽い蹄の音を立てて、アレクシスの騎乗していた白馬が片足をついた。
アレクシスが役目を終えたように深く息をつく。それを見ていたセリオスが、ようやくその姿を目にして笑いを零した。
「ははッ、アレスマジで王子様じゃん」
「なら、後ろに乗っている君はお姫様なのかな」
「何ぃッ!?」
さらりと返ってきた言葉に反論しかない。
そのセリオスの激昂に、親友の無事を肌で感じたアレクシスは、気付かれることのないよう、そっと小さく微笑んだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
クレア・フォースフェンサー
何やら、ウィリーで看板に突っ込んで自滅しそうな奴らじゃの
初戦の相手があやつらというのは、運が良かったのかもしれぬ
わしらが出れば、パイ生地を練るかのように潰すことも可能であろう
しかし、リオン殿にはこの戦いを糧とし、次からの戦いに臨んで貰わねばならぬ
ならば、わしはそのサポートに回るとしようぞ
リオン殿
おぬしはこの場の指揮官じゃ
指揮官は全体を見切り、命令を下さねばならぬ
この場の全てに目を向け、耳を傾けよ
わしがおぬしの命をあの者らに伝えよう
大丈夫じゃ、おぬしにはその才がある
あやつらにお見舞いしてやろうではないか
光珠を用いて、賢い動物達に伝令を出す
命に危険が及びそうな場合は、光弓で敵の攻撃を阻害する
フローエル・フロゥノート
連○/ア○
身構えていれば襲撃者は羊さんたちだったなんて
ふふ、ふふふふ…ご、ごめんね
わ、笑ってないよ
不幸中の幸いってやつかな?
むしろ美味しい食料が手に入るチャンス?
勝って美味しいお鍋食べようね、親分
戦うことは苦手だけれども…少しは役に立てるかな
シフォン、出番だよ
連れの相棒を呼べば花弁に変えて
獏羊たちを魅了して
聴かせてよ、君たちの歌声
お互いを眠らせるように仕向けよう
君たちはどんな夢を見るのかな?
おやすみ、佳い夢を
僕にできるのはここまで
じゃあ、親分たち
あとは頼んだよ
…今日はたまたまラッキーだったけど
またいつ襲撃されるかわからないし
やっぱり動物たちと和解できたことは
前に進む大きな一歩だよね…?
コンテナ下は、まるであちこちに虹が架かっているかのようだった。
『煮慈威露愚喪の獏羊族』名前通り――否『読みがな』通りの外見をした存在が、ヤンキーちっくな掛け声と共に山羊に乗って駆け回ったり、既に猟兵の攻撃によって地面に転がっていたり、場合によっては空を飛んだりしている。
それはアポカリプスヘルにおいて、非力な住民たちには確かに脅威だ。脅威なのだが――
「身構えていれば襲撃者は羊さんたちだったなんて」
猟兵となって初めての依頼。フローエル・フロゥノート(Replica note・f26411)が、非常に何とも言えない顔をして、状況を見下ろしていた。心の奥が現状と『今まで想像していた敵対勢力』とのギャップについていけておらず、心のやり場が分からない。
少なくともフローエルは、その心が今まで滅多に浮かべることのなかった笑顔を作ろうとしているのを認識して、不謹慎だと必死に抑えていた。
「……何やら、ウィリーで看板に突っ込んで自滅しそうな奴らじゃの」
同じく、それを見ていたクレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)が、フローエルが思っていても言わなかった事を、はっきりと言の葉に乗せてしまった。的確過ぎる言葉にフローエルが思わず俯く。しかしその先にあったものは、
「へいへいへいへい!! あ――」
バイク――もとい黒山羊を元気に飛ばして、制御しきれずコンテナの一角に突っ込む獏羊たちの姿だった。どがん、と音がする。激突音まで本当に間抜けだった。
「ふふ、ふふふふ…ご、ごめんね。
わ、笑ってないよ」
「――」
あくまでレアケースでありながらも、このような『世紀末牧歌的伝説』と敵対してきたのかと思うと、リオンにも思う事はあるのか、心なしどんよりと俯いている。
「まぁ、気を落とすな。リオン殿。
まずこの初戦の相手があやつらというのは、運が良かったのかもしれぬ」
もしも、今回の相手が本格的なオブリビオンとなっては、最悪一睨みされるだけで人の命は保障できない。現状も油断は出来ないが、そう考えれば、初めての実戦としてここにいるのは、そうそう無い奇跡とも言えた。
「不幸中の幸いってやつかな?
むしろ美味しい食料が手に入るチャンス?」
フローエルと作った兵糧を思い出して、賢い動物たちの食欲が歓声と共に沸き上がる。
「なら、勝って美味しいお鍋食べようね、親分」
「……」
勝利に勇むべきか、未知なる食や情けなさに泣くべきか。リオンがどう反応して良いのか分からず、それら全てを表情に出しながら沈黙を置く。
しかし、ふと表情を切り替え、リオンはしばし考え込んだ。
「……確かに。奪還者たちのお陰で、このままなら余裕で切り抜けられる。けど――」
リオンが言い淀む。様子を見ていたクレアがその先を察したように頷いた。
「自身にて、分かっておるようじゃの。リオン殿」
確かに奪還者――猟兵がいれば、この場は悲劇を生まずに収束出来るだろう。だが、リオンに必要なのは『これから』だ。
「ここから更に、わしらが出れば、残りをパイ生地を練るかのように潰すことも可能であろう。
だが、いつまでもわしらがここにいられる訳ではない。
これからの為に、リオン殿にはこの戦いを糧とし、次からの戦いに臨んで貰わねばならぬ」
フローエルもその言葉に、これからの事を思い直したようにすっと表情を律した。そう考えれば、笑うのはきちんと成果を出してからだ。
「リオン殿。おぬしはこの場の指揮官じゃ。
指揮官は全体を見切り、命令を下さねばならぬ。
――この場の全てに目を向け、耳を傾けよ。わしがおぬしの命をあの者らに伝えよう」
それを聞いたリオンの喉が緊張に鳴った。先ほども少し指揮を執ったが、一度や二度で到底慣れるものではない。不安そうに、周囲の賢い動物たちへと目を向ける。
「親分、攻撃でも特攻でも、何でも良いから他の指示も出してよ! 大丈夫、何でもやるよ!!」
賢い動物たちも、一斉にリオンの方を見る。
万感を埋めるような信頼。眩しいまでに希望を見る眼差し。それを見たリオンが堪え兼ねるように、滲んだ目を逸らし俯こうとする。
「大丈夫じゃ、おぬしにはその才がある」
その仕草を、クレアは止めた。
「さあ、あやつらにお見舞いしてやろうではないか。今回はわしはそのサポートに回るとしようぞ」
そう告げるクレアの凛とした立ち姿、その仕草には何一つ取っても無駄がない。クレアはその手に、戦闘補助と情報処理を担う百八の珠『光珠』を、コンテナ上から一定間隔で満遍なく空間へと広げ渡らせた。
「さあ、これから動物たちと共に打って出ようぞ。リオン殿、指示を」
リオンは、先の沈黙からしばし。完全に覚悟を決めた様子で立ち上がった。
「……俺の今立っている場所から左。コンテナのマークAに銃器持ちは再集合。上ってこようとする奴らの迎撃は忘れるな。
それから、近距離を得意とする動物は――」
「……うん。戦う事は苦手だけれども…お手伝いなら、少しは役に立てるかな」
クレアがリオンの指示を的確に伝えると同時に、己の武器である弦と矢が輝く光源によって生み出された『光弓』を手に取った。その鏃に、ユーベルコード【対抗能力Ⅰ(カウンターコード)】を添えて、敵と味方を隔離するようにその狭間を射抜く。沸き上がるエネルギーの壁が、獏羊たちの勢い迫る、激しい突撃威力すらをも反射して大ダメージを与えていく。しかし、やはりそれだけでは防御が薄い。
「手伝うなら、この辺り……」
フローエルは援護だけでは心許ない敵たちの集まり見つけて、そこに意識を傾けた。そして、積まれていたコンテナ上部から、敵と対峙する為に、危険を承知で一段降りる。
「――シフォン、出番だよ」
そして『シフォン』と、名を呼ばれ出てきたものは――見た目に白いオコジョのような、胴の長い柔らかな毛並みの生き物だった。
するりとフローエルの肩に乗る。フローエルがすっと手を伸ばせば、その先へ。見た目は動物だが、これはれっきとしたフローエルが所持する香を操る魔杖の一姿だ。
『これは夢、夏の夜に見る悪戯な恋の夢――』囁くような言の葉に乗せて、フローエルのユーベルコード【恋の媚薬(アロマ・ラブ・イン・アイドルネス)】は発動した。瞬間、ふわりとシフォンは最初から花びらで作られていたのではと錯覚するほどの自然さで、その身体を菫の花びらへと変えて、敵の元へと魅了の香を運んでいく。
「おお~」
それを受けた、その場一帯の獏羊たちは突然フラフラし始める。同じく瞳を蕩けさせたマイゴートの黒山羊共々、見る間に足を止めていく。
そして完全に魅了状態に陥った獏羊族に、フローエルはそっと言葉を寄せた。
「君たちはどんな夢を見るのかな? ……聴かせてよ、君たちの歌声」
「オーケーベイベー!」
魅了でフローエルに完全に骨抜き状態にされた獏羊たちが、一斉に歌い始める。どんな夢を見るのか、と問われた。ならば対象は自分たち以外の一体何があるだろう。
今までに数度聞いた覚えのある数え歌。それを穏やかに歌い終えた頃には、その場には完全に陶酔しきって眠りにつく、無数の獏羊族たちの姿があった。
「――おやすみ、佳い夢を」
一見優しく、もしくは見放すようにも聞こえるフローエルの最後の言葉と共に。リオンの指示は、互いに歌って眠り始めた獏羊たちの中央へと、的確にミサイルランチャーを着弾させた――
「もう少し! もう少し!!」
賢い動物たちのコールが響く。ついに獏羊たちから逃亡するという発想が出たのか、内部の敵が背を向けて一斉に入り口に向かい殺到し始めた。
「近距離武器のメンバーは下がれ。遠距離武器を持ったやつは、全力で追撃。
残りの弾数は気にしなくていい。ここで減らした分だけ、次の襲撃の敵数が減る」
リオンの言葉が、明澄な音と共にクレアの『光珠』の伝達機能によって倉庫内に響き渡る。獏羊たちは悲鳴と共に、完全敗走を余儀なくされた。
「……うん、今日はたまたまラッキーだったけど。またいつ襲撃されるかわからないし」
追撃されて、敵がぽんぽん吹き飛んでいく様子を眺めながらフローエルが頷く。
「やっぱりこうして動物たちと和解できたことは、前に進む大きな一歩だよね……?」
フローエルの問い掛けるような言葉に、リオンは複雑な表情のまま、呟くようにそれに答えた。
「……自分が、前に進めているかは分からないけど。
でも――言うことを聞いてくれているこいつらだけでも、前に、進ませたいんだ」
倉庫内から、動いている敵が完全にいなくなった。
そして今、目に映る残っているものは――大量の、鍋の食材。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『マジカル・ホットペッパー・デス・ヤミナベ』
|
POW : 辛いのを入れようとする。
SPD : 甘いのを入れようとする。
WIZ : すごいのを入れようとする。
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
(第2章、ご参加ご閲覧いただきまして、誠に有難うございました!
第3章プレイングは、少し間を置いてしまいますが『5/10(日)08:35~5/12(火)08:35迄』を目安に受付を行わせていただきます。
開始時刻までに、第3章の断章を追加させていただきますので、併せてご覧いただけましたら幸いでございます。それでは、どうか宜しくお願い致します)
拠点は、リオンと賢い動物たち――そして猟兵たちの手によって守られた。
全体の被害は最小限。今回の戦闘は『この拠点でも、これだけ被害を減らして戦える』という証明に他ならなかった。そして、見事に敵を追い払える力をもった『賢い動物』という存在が、今後、同胞として力を貸してくれる事になったのだから、改めて拠点を棄てる理由もなくなった。この拠点はますます発展していくことだろう。
そして、今。
獏羊というレアかつ美味な食材を山と手に入れて、拠点は活気だっていた。どうやら、全体方針としては『羊鍋』らしい。
「羊を捌くのは、もっと拠点の器用な人たちに任せるヒヒン。
我々は、その間にリオン親分に『何でも良いから』栄養がついたものを用意して、食べてほしいでござるヒヒン」
そして、その一角では賢い動物たちが、鍋に栄養が付きそうなものを手当たり次第、鍋の中に叩き込んでいった。
●二十分後
「え? ……これ、食え、と……?」
「素材ならもっとあるヒヒン。遠慮せずに食うとよいでござるヒヒン」
賢い動物たちを率いて自信を得たのか、どこかに覚悟を決めたような風格を感じさせるリオンであったが、それでも『闇色の液体がゴポゴポ言っている鍋』を見た瞬間、脱兎のごとく他の鍋のところへ逃げ出した。
それを見ていたウサギが、猟兵に小さな手を振って話し掛ける。
「これから、あちこちで『絶品羊肉ベースの鍋』パーティだぴょん。鍋は借りられるし、その他の食材持ち込みも自由だから、奪還者さんは自由に食べて欲しいぴょん。
さっそく今みたいに食わず嫌いしてる、だめだめなリオンおやぶんも捕まえてくるぴょん。
――『闇鍋でも食え!』それがオトコだぴょん」
勇ましくそう告げると、ウサギは闇色の鍋の中に『美味しくなぁれ』と、綺麗にスライスされた生ニンジンを入れて去って行った。
――元が絶品であるはずの羊鍋の味は、全て猟兵たちの腕にかかっている――
オックスマン・ポジクラーシャ(サポート)
※ボス戦終了後のみ登場
『遅れてすまない。状況は理解した。俺の立ち位置は破壊者だ』
黒い鎧と兜を常に纏ったダンピールの男。
本人はいたって真面目だが何故か行動や発言を不安がられる。
遅れてやってくるのは呪いのようなもの。
彼はすまないと思っているし状況も理解しているのだ。たぶん。
真面目さゆえのボケをかますこともあるが善良かつ誠実。
俺には破壊することしか出来ないと語り、破壊力とそれを活かすための知力は侮れない。
何かを作る事ができる人を高く評価する。
そんな彼は日常も全力で挑むが破壊することしかできない。
災難や騒動を引き起こすのだ。
その姿はちょっと寂しそうである。
口調は『~だ。~なのだな。』
地籠・陵也
【乱入連携アドリブ諸々歓迎】
えーと、まずちょっとスープの味を見させてもらっても(味見)
…………うん、もう一回味付けし直したら多分なん、なんとか、なんとかなる……??
ちょ、ちょっとUCの応用で適当に氷を作ってそれを入れて味を薄めよう……味付けはええと、だしの素とかはここにはないよな。え、何入れよう……な、何を入れたらいいんだ……だって薄めても紫色……え、えー……
あ、そうだ。捌いた残りのあらとかそんな奴も煮込めば出汁が出てくる!それに縋るしかない……!それでもダメだったらあとは塩と胡椒とかで……あ、でもここではそういうの貴重品なんだろうか。ううん、昔の俺だったらどうしていただろうか……
「……いや、これはない。ないだろ」
何か闇色の物体がガブゴブと音を立てている。賢い動物たちが取り囲む中、リオンは『この世の闇を見たかのような眼差し』で鍋を見ていた。
「っていうか! お前たち、これちゃんと味見したか? 動物味覚でもこれって絶対危険物だって――」
「味見はしてないけれども、絶対栄養価はバツグンだよ!」
「味見はしていないでござるが、見た目は栄養価の為に犠牲になったのだヒヒン」
「いや、だからそれ以前に、味を!!」
泣き叫ぶ一歩寸前のリオンを側らに、緊張気味にその鍋を見つめていた地籠・陵也(心壊無穢の白き竜・f27047)は、この闇を纏う敵――もとい闇を纏う鍋に近づくと、賢い動物の手にしていたスプーンを借りて、ひょいと味見をしてみた。
「………………」
賢い動物たちとリオンの視線が集中する。何だかんだ言いながら、賢い動物たちを含めて、この場の殆どは知っていたのだ。
『これは間違っても、味見なんてする類のものではない』――と。
陵也の味覚を渋さが襲う。甘みが襲う。しょっぱさが襲う。
「……。
うん、もう一回味付けし直したら多分なん、なんとか、なんとかなる……?」
しかし、その味覚へのダメージを、陵也は見事に切り抜けた。賢い動物たちから大きな歓声が上がる。
「ま、まずは――ちょ、ちょっと味を薄めよう。薄めればなんとか……」
何とかなるかは分からない。しかし、現状のこの鍋の色。そして、味。
他の手段は何も思いつきはしなかった。
陵也は自身のユーベルコード【霧氷侵蝕(グレイシャルイロージョン)】を鍋の上に展開させる。浮かび上がった魔方陣から冷気が吹き上がり、氷結の応用として中空に浮かんだ、いくつもの氷の塊が鍋へと注がれる。
期待に満ちた賢い動物たちの表情と、後の無さを感じさせるリオンの眼差し。しかし、その結果を目にした陵也の表情は、やはり芳しくないものだった。
「こ……ここから、何を入れたらいいんだ……?」
闇を薄められた鍋の色は、とても綺麗で鮮やかな紫色をしていた。食べ物に近く例えるならば、スミレ色のシチュー。氷で薄められ、前よりも軽快に泡が吹き出している。賢い動物たちにも実感として伝わってきた。これは『絶対に美味しくないやつ』だと。
その事実を、誰もが口にするのを躊躇われる鍋を前に、重苦しい空気が流れた。しかし――
「遅れてすまない。状況は理解した」
不意に、その状況に新しい風を吹かせてくれそうな声がした。その場の全員が目を向ける。そこには遅れてやって来た、立つ漆黒の甲冑と兜を身に纏ったオックスマン・ポジクラーシャ(遅れてきた破壊者・f12872)の姿があった。
「状況は理解した。俺の立ち位置は破壊者だ」
その言葉に、その場の存在は一斉に戸惑い、状況を再認識する――先ほど襲い来た敵たちは、既に鍋の中。
故に、今は完全に平和と言える状況下、のはずだ。
「破壊者……」
よって都度『破壊者以外の立ち位置にはいられない』その男の佇まいや発言は、平和の前には相容れず、いつもその場に不安を巻き起こす――のだが。
「破壊――!? このどうしようもない『鍋』を何とかしてくれるのか!?」
オックスマンの言葉に、リオンの藁にも縋るような声が響く。
そうしてオックスマンは、今回めちゃくちゃに歓迎された。この上なく歓待された。それは、おそらく生きていればレアケースもあるという、典型例であったかもしれない。
「何とか酷い味は薄めて、ここまで持ってきたんだが……ここからが」
沈痛な面持ちで陵也が伝える。
ふむ、と頷いたオックスマンを目に、現在進行形で努力をしてくれている陵也を側らに『リオンと違い、新たに話を聞いてくれる』と理解した賢い動物たちが、一斉に集まって、彼にどうしてこういう事になったのかを説明し始める。
その間にも、孤軍奮闘にも近い陵也の思案は続く。
「ううん、昔の俺だったらどうしていただろうか……」
過去、オブリビオンに心の殆どを喰われたことに起因し、陵也における当時の感情や記憶、思いは殆どばらばらとなった。実際、過去と今が繋がっているという実感すらも薄い。しかし、それでも思いを馳せる事は出来る。
そうして、陵也が思案にふける中――
「つまり、栄養価の高い鍋が作りたかった。そういうことなのだな」
オックスマンが賢い動物たちの意見を纏め上げた――『味』が、そこには含まれていない。賢い動物たちは、大切な親分の為に、やはり『味』よりも、この闇色の鍋の主原因となった『栄養価』を譲ることが出来なかったのだ。
『状況は理解した。つまりこういう事だろう?』オックスマンのユーベルコード【破壊者の指摘(プロット・クラッシュ)】が発動した。
それは、遅れてきた時間に応じて『行動の成功率』が上がるユーベルコード――オックスマンは賢い動物たちの思いに応えた。偶然、ここに来るまでの道中に手に入れた、環境にしては珍しく食べられる『栄養価が高く、美味な黒い果物』を丁寧に皮を剥いて鍋に入れる。
――確かに、鍋自体の栄養価は更に上がった。鍋の密度が上がった。
しかし、味と色は――
「うわっ」
そうして、前以上に『良い色』をし始めた鍋に、ふと思考を戻した陵也が、思わず隠しようのない悲嘆の声を上げる。
賢い動物たちも人の知能的に『ヤバい』と感じ取ったのか、危険を覚えて震え始めた。
「……すまない。これで合っていると思ったのだが……」
オックスマンが大変な見た目になった事に気づき、申し訳なさそうに告げる。しかし、動物たちのリクエストに応え、ユーベルコードは成功した。この状況において、オックスマンには何の非もない。
「い、いや! あ、そうだ。捌いた残りのあらとかそんな奴も煮込めば出汁が出てくる! それに縋るしか――」
陵也は最後に思いついた、あらを手にして考えるが、果実分だけフルーティになった鍋に、それを入れても本当に良いものかを悩む。
「でも、隠し味で果物を入れる事もある。いざとなったら塩と胡椒とかで……あ、でもここではそういうの貴重品なんだろうか……」
「入れてみれば分かるぴょん! 闇鍋は躊躇ったら終わりぴょん!」
他の鍋を見てきていたウサギは、器用に、そして容赦無く陵也の手にしていた食材のあらをロボットアームで鍋の中に叩き込んだ。
そして――リオンの断末魔が響き渡った。
――リオンの味覚を猛烈な渋さが襲う。どうしようもない甘みが襲う。激烈なしょっぱさが襲う――
かくして、先ほどよりも酷く栄養価の高い闇の存在へと昇華した鍋により、賢い動物たちによって、半ば無理やり食わされたリオンの味覚は見事、木端微塵に破壊された。
冒頭、リオンが求めていた『味』のリクエストについて聞けていれば――今回、遅れてやってくるということは、おそらく『美しさと並ぶ罪』だったのかもしれない。
「すまない、本当にすまない……」
「いや、いろいろ……俺もすまない……」
オックスマンと陵也が二人並んで俯きつつ、完全な葬式ムードで、何処に向けるべきか分からない謝罪を口にする。
「気にすることないぴょん。
リオンおやぶんが軟弱なだけだぴょん。食べものによる味覚だなんて直ぐに元に戻るぴょん!」
「――おまえをウサギ鍋にしてやろうかぁっ!!」
リオンが全力でウサギを捕まえに走り回り始める。見るからに元気そうだ。これならば何の問題もないだろう――
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
サギリ・スズノネ
こいつはえらいもんが出てきたのですよ!
サギリの『第六感』が、これはやばいと訴えかけているのです
でもせっかく動物たちがリオン親分のために頑張って作った鍋なのです
何とかしたいのですよ
サギリこれでも『料理』の心得はあるのです
安心してまかせてぴょん!
まずは鍋を見て中身の『情報収集』
とりあえずスプーン一口味見
普通に美味しかったら大丈夫と親分を呼びます
味が残念だったら味をリカバリーできないか試みます
……これいっそカレー味にしたら何とかならないですかね
カレールーがないか聞き
あったら分けて貰って鍋に入れ『祈り』ながらかきまぜます
なかったら調味料で出来るだけ味を調えるのです
これが今のサギリの!全力の!闇鍋・改!
藏重・力子
まさか文字通りの闇鍋だったとは
精を付けるのは誠に結構であるが、食べられる味であってくれよ
鍋に合いそうな食材か……我が入れるのは切り餅、で良いか?
食べやすい大きさにして、『フォックスファイア』を使い宙に浮かせた狐火で少々炙ってから投入しようか
我の分の肉類は、拠点の方々や動物殿に譲ろう。この世界で生きる君達に栄養を摂って欲しいのである
我は他に食べられそうな具材を【第六感】で【見切り】よそって頂くぞ
しかと手を合わせ「それでは、いただきます」
食事時は食べ物に集中し、静かに食べるのである
落ち着いてきたらリオン殿と動物殿を眺めよう
打ち解けられたようで何よりだ。心の中で【祈り】を。彼等のこれからに幸あれ、と
「こ、こいつは――」
とある鍋の元を訪れた奪還者――猟兵であるサギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう・f14676)と、藏重・力子(里の箱入りお狐さん・f05257)の姿を見て、賢い動物たちは今まで囲んでいた鍋を嬉々として見せてくれた。
「リオンおやぶんの為に作った力作ぴょん!」
自慢げにウサギが語る。だが、そこにあったものは。
「こいつは、えらいもんが出てきたのですよ!」
目にした瞬間、息を呑んで言葉を止めていたサギリが、その『どう見ても危険物』に、感極まった様子で口を開く。
「……まさか文字通りの闇鍋だったとは」
同時に力子の方も、鉛のように重い言葉を何とか外へと押し出した。
鍋はまさしく文字通りの『闇色』をしていた。その存在は、確かにこの瞬間『名状しがたい何か』となっていた。
「サギリの『第六感』が、これはやばいと訴えかけているのです」
これはもう『鈴鳴り簪』の権能に頼るまでもない。サギリの喉が危険を察知してごくりと鳴った。賢い動物たちにも本能がある以上、十分にこの鍋の危険性を認識できそうなものでもある。しかし如何せん、人間としての『栄養価を重視した』という知性が、明瞭にその本能の邪魔をしていた。
「おやぶんに精をつけてもらいたいぴょん!」
「精を付けるのは誠に結構であるが、食べられる味であってくれよ」
鍋は全ての皆に平等に振る舞われるものだ。不安と共に告げた力子が、ウサギから差し出されたスープを一口喉に通して――次の瞬間、口を押さえて、無言で肩を震わせ始めた。
「ち、力子さん!」
「こ、これは……」
常に、己の言葉には強い意志と突き抜けるような覇気を纏わせてきた力子であるが、それが現在、あまりの衝撃に表現の道をなくして完全に迷走している。
その様子を見たサギリが『この味に未来はないのだ――』と悟り、取り囲む賢い動物たちも『やり過ぎた……?』という困惑を浮かべ始める。
「で、でも――せっかく動物たちがリオン親分のために頑張って作った鍋なのです。何とかしたいのですよ」
「う、うむ……そこまでいうのであれば」
力子の言葉に、サギリは不安を圧し殺して力強く頷いた。
たとえ、そこに未来がなかろうとも――込められた想いだけは確かなこの鍋を『可食物』に変えてみせると――
「取り出したるは、愛用のマイ『鉄鍋』! 今回は材料の取り分けに使うのです!」
さっそく、すちゃっとサギリの隣に用意されたのは、いつも常備している鉄鍋であった。使い込まれて、たくさんの料理の味を覚えている鍋でもあり、これを元にゼロから作ればさぞかし美味しい羊鍋が出来るはずなのだが、あくまでも今回の目的はそこではない。
「た、確かに味については三の次にしていた感はあるぴょん。美味しくなるぴょん?」
「サギリこれでも『料理』の心得はあるのです。
安心してまかせてぴょん!」
ウサギの語尾が完全に移ったままのサギリは、そのまま可愛らしくぴょんぴょん口ずさみながら、改めてベースである鍋を見た。
敵を知る為には情報を不可欠だ。そう判断したサギリは、まず中身の『情報収集』を開始した。
香りを嗅いでみる。湯気と共に刺激臭が感じられる。しかし、このような刺激臭を、サギリは食べ物から感じ取った事はない。
「……これは、やはりサギリも一口――」
味自体は、先の力子の様子から分かっている。自殺行為だ。
だが、これ以外に味の詳細を知る手段は残されてはいない。
「……――!」
スプーンで一口。サギリが口を押さえて、やはり肩を震わせうずくまる。
――口にすることまでは出来た。だが、呑み込むのを断固拒否する身体については、必死に意識下での嚥下を言い聞かせる必要があった。
「え……栄養価と愛は感じ取ったのです……!」
サギリはそれを何とか食すると、段々その味の危機感を露わに感じ取った様子で、賢い動物たちが用意してくれた水を飲んだ。
確かに、サギリはそこに高そうな栄養価と、賢い動物たちの愛を感じ取った。しかし、残酷だがそれだけでは到底食べてはもらえない――
「……これいっそカレー味にしたら何とかならないですかね」
「なるほど、カレー味は名案であるな!」
カレーと言えば『カレーの中には、たとえ世界中のどのような食べ物を入れたとしてもカレー』というほどに、自己主張の激しい香辛料のオンパレード。先に鍋の味を確認した身として、力子も納得とばかりに声を上げる。
サギリはさっそく力子にその場を任せると、一旦鍋を離れカレールーを探しに行った。
「ふむ。もしカレーとなるのであれば、もう少し具材がほしいところであるな」
鍋の番を任された力子は思案する。もちろんそれは、この闇鍋がリオンの食せる真っ当なカレー鍋となることが前提であるが、このままではどのみちリオンの味覚の危機である。
動物たちの想いは真っ直ぐであるのに、それはあまりに悲しいものだ。
「ならば、せめて一筋の未来を信じてみるのも一興」
賢い動物たちが緊張の面持ちで鍋を見つめる中で、力子は本当にカレーになるかは分からないが、一縷の希望と共に鍋に合いそうな食材として、身近な切り餅を用意した。
スープカレー的なものになるのであれば、選択肢として胃にたまる切り餅も十分適応範囲内だ。力子はそれらを細かく食べやすい大きさに切ると、ユーベルコード【フォックスファイア】を発動させた。中空に浮かぶ小さく幻想的な狐火。それに切り餅を触れさせて炙りながら、柔らかくなったものを鍋の中へと投入していく。現状では、その炙り餅を単品で食した方が絶対に美味しいだろう。
そして、サギリがカレールーそのものこそはなかったが、アポカリプスヘルにて新たに開発しされた、その類似となるルーを持って戻って来た。
「最終手段として『最先端の禁忌テクノロジーによる醤油系の何かと塩っぽいもの』も借りてきたのですが――
後は……祈りながら、かき混ぜるのみなのです!!」
サギリが鍋の中に、緊張の面持ちでルーを入れる。
明らかに自然ではない発色でカレー色になったのには目を瞑りつつ、サギリは力一杯祈りながら鍋をかき混ぜた。
「美味しくなりますように、美味しくなりやがりますように……!」
賢い動物たちも、嫌がらせで不味いものをリオンに食べさせたい訳ではない。その意味においても、願いは一致した。
鍋をかき混ぜるサギリを中心に賢い動物たちが取り囲み一心に祈る様は、全力で怪しい薬剤を作る魔女儀式を彷彿とさせる。その祈りに取り残された力子は、思いきり動揺をしながら辺りを見渡した。
「そして、これが!
今のサギリの! 全力の! 闇鍋・改!」
かくして――不自然なまでに見覚えのあるカレー色をしたカレーっぽいものが完成した。
「え? あ……美味いじゃないか、これ!
懐かしい、複雑な味が昔にあった本物のカレーみたいだ!」
誘われてこちらの鍋に来たリオンが、一口食べて喜びの声を上げる。
――元の色と味は黙っておこう。その場にいたリオン以外の全員がそう思った瞬間だった。
「我の分の肉は君達に譲ろう」
「いいの!? この羊肉美味しいのに!」
皆で鍋を囲む。力子の言葉に、賢い動物たちの目が輝いた。その眼差しを見ながら力子は、これからもこの世界で生きる事になる彼らにこそ、その栄養が必要になるだろうと、改めて温かい目と共に頷いた。
「いただきます」
サギリと力子が同時に手を合わせて『いただきます』と告げる。
リオンをはじめ世界が荒み、そのような余裕もなくしていたこの世界の存在は、それを目に何かを思い出した様子で、合わせるように同じ言葉を口にした。
「お、お餅とは違う、噛みきれない不思議な物体が……!」
隣に座って一緒に鍋を食べるサギリが、力子と同じく、食材への感謝を忘れないながらも、本当に可食物かと疑う何かと苦心の格闘を繰り広げている。
並ぶ力子は、持てる感覚をフル稼働させて、無難に食べられる食材を見極めながら、見事上手くよそっては黙々と食べていく。
そうして、ひとしきり鍋でお腹いっぱいになって食事中の喧噪が収まりつつある中。
ふと力子は、リオンが賢い動物たちに囲まれ笑顔で会話しているのを目にした。
ここに日は差していないが、まるで日だまりを思わせる温かさがそこにはあった。
「――」
その光景に、力子は目を閉じて静かに祈った。それはまるで優しい陽光のような柔らかさを以て。
どうか――『彼らの、これからに幸あれ』と――
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
杼糸・絡新婦
おい、闇鍋て言うてたぞ。
・・・【料理】はするけど、修正できるもんなんかい?
いや、まあ、できるだけのことはするけども。
ていうか、せっかくの絶品材料を無駄にするわけにいかんやろ。
ひとまず鍋の中身みて、食べたやつがおるんならその様子みつつ、
味付けしていく。
安全性は【第六感】に頼ろう。
自分、何を作っとるんやろうなあ・・・。
見た目はあれやけど、修正できたんやったらいけると思う。
リオンに健康になれそうなものを食べてもらいたい。どうやらそのような思いの元、各所にて『闇色を思わせる味と見た目の鍋』――略して、名実共に偽りのない『闇鍋』が発生している――
杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は、その光景を『からくり人形:サイギョウ』を腕に乗せて見て回っていた。
どうやら、その賢い動物たちの願いは、語尾に風評被害が発生している一部のウサギやらポニーに限らないようだ。主に人が鍋の主導権を握っている所は無事なのだが、賢い動物たちが囲んでいる鍋は、ほぼ壊滅している。目も当てられない有り様だ。
その中で、絡新婦は遠くから逃げるようにして走ってくるリオンの姿を目に留めた。賢い動物たちは彼を中心に行動しているのだから、ある意味、諸悪の根源だ。
傍らを抜けようとしたリオンの腰に、文字通り蜘蛛の糸を思わせる柔らかさで鋼糸が絡み、その動きを引き留める。
「ぐえっ」
「おい、闇鍋て言うてたぞ」
「あーあーあー!! 聞こえない! 俺は何も聞こえない!!」
耳を押さえて絶叫するリオン。それにようやく追いついたとばかりに、賢い動物のキタキツネが二人の元へとやって来た。
「リオン親分捕まえたー! 僕たちも鍋作ったよー。
あ、僕たちを助けてくれたおにいさんも! 一緒に食べてー」
「自分も? ……まあ、ええけど」
キタキツネの眩しそうな視線が、絡新婦の腕に乗る、先の戦闘で活躍したサイギョウへと向けられているのが分かる。少し落ち着かないが悪い気もしない――そう思い、逃げようとするリオンを、鋼糸で引っ張り連れて行った先。絡新婦は『どうしようもないもの』の一歩手前を見た。
「……なんや、甘い匂いがするなぁ」
絡新婦からは、それ以上の言葉が出なかった。
リオンからは「またか。またかよ……」という病んだ呟きが聞こえてくる。
目の前には鍋があり、今回の戦利品である肉も入っていた。肉の表皮は黒い為、色も心なし鍋の中身も黒く感じる。それは良い。だが、
「そうだよー。僕らね『禁忌のテクノロジーによる、どんな味でもたちまち砂糖』借りたのー。入れ過ぎちゃったー」
キタキツネの示したその鍋を覗けば、そこはまるで砂糖を煮詰めて飴でも作る一歩手前のように、泡がボッコボッコ立ち上がっていた。
「これは――闇鍋の下地には十分やねぇ」
「食いたくない!」
「食べて欲しいよぉー……美味しくならないかなぁ?」
このくらいなら、まだ食べても死にはしない。ならば、リオンを生贄に投げ出すのも、それほど悩ましい問題ではないだろう。
だが。しばし考えた末、絡新婦は口を開いた。
「……料理はするけど、修正できるもんなんかい?」
「わかんない……」
目算としては無謀なのかも知れない。しょんぼりと俯くキタキツネに、しかし絡新婦は鍋を見つめて頷いた。
「いや、まあ、できるだけのことはするけども。
――ていうか、せっかくの絶品材料を無駄にするわけにいかんやろ」
その言葉に、キタキツネをはじめ、付近で沈痛な面持ちをしていた賢い動物たちが、一斉に表情を明るくした。
「誰かこれ、味見したやつおる?」
「僕やった! うぇって、なるくらいに甘かったー……」
「甘いだけなら、まだ手遅れやないな。
醤油とかないやろか? 試しに、甘辛く仕付けてみよか」
その言葉に、いそいそと他の賢い動物たちが、曰く『最先端の禁忌テクノロジーによる醤油系の何か』を持ってくる。
「……。そうやねぇ」
思わず、その説明を目に、沈黙と共に疑心暗鬼にならざるを得なかった絡新婦だが、試しに軽くスプーンに移して匂いを嗅げば、第六感的なものが『一応、これは可食物だ』と告げてくる。
「自分、何を作っとるんやろうなあ……」
もはや、やっている事が化学実験に近い。絡新婦が思わず、ふと遠い目をしながら呟いた。
「あ、甘辛くて美味しい! お肉いくらでも食べられそう!」
そして完成――動物たちから歓声が上がった。
既に入っていた処理不足の肉の黒さはどうしようもなかったが、味付けは大好評だ。
「スキヤキ……? 美味い。食える……マジか……」
猟兵たちが各所にて努力をしているが、やはり『完全に闇堕ちした鍋』はどうしようもない時もある。それらに触れてきたリオンは、思わず感涙に目を押さえながら食べていた。
「さて……」
絡新婦も、好評となった自分の鍋を羊肉と共に唇の元へと運んで一口。
「おや」
悪くない――それは自分でも、想定以上にずっと美味しいものだった。
大成功
🔵🔵🔵
フローエル・フロゥノート
連○/ア○
お鍋って栄養があるものをなんでも入れていいんだね
ぼく、みんなでお鍋を食べるのってはじめて
…お鍋借りられるんだ?
じゃあぼくも自分なりのお鍋を作ってみようかな
獏羊のお肉に、ぼくの温室で作っている薬草
それに色とりどりの花を浮かべて
味を整えれば完成
うん、我ながらきれいな出来だと思う
親分、食べてみて?
お花も食べられるよ?エディブルフラワーっていってね
食用のお花だから
きれいなだけじゃなくて栄養もたっぷりあるんだ
食事って味はもちろんだけど目でも楽しむものでしょう?
この世界じゃなかなか難しいけれども、ね
そうだ
ぼくも闇鍋っていうの食べてみようかな
せっかくみんなが作ってくれたし…
…?どうして止めるの?
「お鍋って、栄養あるものをなんでも入れていいんだね」
あれも、これも、それも。賢い動物たちが目を輝かせながら鍋に物を入れていく。それを、フローエル・フロゥノート(Replica note・f26411)は少し不思議そうな面持ちで見つめて呟いた。皆で鍋を食べるという経験がないフローエルにとって、その光景はとても新鮮なものだった。
「うん、栄養満点なのをリオン親分に食べてもらうんだ!」
賢い動物たちの眼差しがきらきらしている――例えその先に、今はまだ見えない『闇鍋』の未来が待ち構えていたとしても。
「あ……お鍋、借りられるんだ?」
「借りられるよ! 火が怖くなくて、鍋が管理できれば貸してくれるって。この鍋も借りたの!」
「じゃあ、ぼくも自分なりのお鍋を作ってみようかな」
心に、ふわりと優しくイメージのするものがある。それを形にすべく、フローエルはさっそく鍋となる器を借りに向かった。
「なにこれ! 美味しそう!」
「いいなぁ、見てるだけでもおいしそう!」
そして、いつしかフローエルと場に誘われたリオンを中心として、賢い動物たちの輪が出来ていた。
ベースはやはり、先ほど倒した獏羊の肉。
「それは?」
フローエルの手に取り出された綺麗な緑色の草に、様々な物を見すぎて疑心暗鬼になったリオンが、少し怯え気味に問い掛ける。
「ん……? これは、ぼくの温室で作ってる薬草。栄養価は高いけれども、このままでも食べられるよ」
フローエルから小さく切って渡された薬草を、リオンが勇気を出して口に入れた。すると、渋みも毒味もない自然な味が口の中に滲んでいく。
「食える……」
リオンの驚きを交えた小さな感銘をよそに、フローエルは賢い動物たちの期待に応えるように、ふと手元に様々な色の花を取り出した。
ローズの花びらから始まり、バーベナなどの小さな花まで――それらを最後のトッピングとして、文字通り色とりどりに鍋へと添えていく。
「あとは、味を調えて……完成」
そっと、フローエルが鍋から手を離す。すると鍋の中は、小さな花畑のようになっていた。
しかし、そこでアポカリプスヘルの存在としてはどうしても気になってしまうところがある。
「逆に……綺麗すぎて心配になるな」
オブリビオン・ストームが現れ、生態系は崩壊し、完全に荒廃したアポカリプスヘル。今となっては、美しくとも触れただけで人間が死ぬほどの毒性を持つ花も少なくない。
「大丈夫、このお花も食べられるよ。
エディブルフラワーっていってね。ちゃんと人も食べられる食用のお花だから」
一切の毒性を持たないこれらは、この荒廃世界からも忘れ去られた廃墟の温室で、フローエルがそっと面倒を見てきた花。
リオンがおそるおそる口にすると、優しい花の香りが口の中に広がった。
「きれいなだけじゃなくて栄養もたっぷりあるんだ」
「こんなに綺麗なのに栄養まで!?」
皆で栄養価を最優先し、はからずも闇鍋製造組織となっていた賢い動物たちが『自分たちの知らない異世界』とばかりに感動にどよめきを起こす。
「食事って味はもちろんだけど目でも楽しむものでしょう?
――この世界じゃなかなか難しいけれども、ね」
フローエルの言葉に、少し黙った後、リオンが小さく呟いた。
「そうだな。でも……
やっぱり、どのくらい掛かるか分からなくても。またこんな料理って呼べるような食べ物が、普通に食べられるようになりた――いや、そうしたいな」
リオンの言葉。なりたい、ではなく、したい――小さく、それでもリーダーとしての強い意志が、そこには籠もっていた。
フローエルの鍋をひとしきり堪能した後。
「親分たちも、こっちの鍋、食べにきてよ!」
賢い動物のチンパンジーに誘われて。その見た先には『闇』が吹きこぼれていた。
「い、いや、ちょっ……!」
しかし、大分見慣れた光景でもある。フローエルはその光景に、数度瞬きをして頷いた。
「そうだ。ぼくも闇鍋っていうの食べてみようかな。
せっかくみんなが作って振る舞ってくれてるんだし――」
「やめとけ! 悪いこと言わないからやめとけ!」
「……? どうして止めるの?」
純粋なフローエルの視線が、頭ごなしに否定するリオンへと向けられる。
その眼差しに、つい己を疑ってしまったリオンは、改めてフローエルと共にその闇鍋の一つを味見しに向かっていった。
「……独創的な味だね。でも、確かに栄養価は高そう」
冷静に分析してフローエルが呟く。
しかし傍らでは、やはり味覚崩壊を起こしたリオンが、うずくまって悶え転がっていた――
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】
ア◎
鍋に入れる具っつったらやっぱ肉だろ肉!
なぁ、そう思うよな
キアノの頭をわしゃわしゃ撫でて
アレスの見てない隙にこっそり増量しようと
肉塊をそのまま鍋へと
げっ…バレた
だって、デカい肉がゴロゴロ入ってた方がうれしいじゃねぇか
なあ、キアノ
ふたりで阻止されたことに不満の声を上げつつも
アレスが調理してくれるんならとご機嫌に
アレスが料理してるすぐ後ろで
キラキラした目でその様子を見る
なぁ、もういいか?
だって今の段階でもううまそうじゃん
言いながらもちゃんと鍋ができるまでそわそわと
よっしゃ!その皿だな!
他にもあったら言えよ!
…ぅん!うまい!
やっぱアレスの料理は最高だな
どうだリオン、アレスは凄いだろ(ドヤァ
キアノ・クシフォス
【双星】
ア◎
※人間の言葉で書いてますが人間の言葉は喋りません
狼の鳴き声です
※心の声の描写はなくても◎
肉だ肉!やはり食べ物は肉に限る!
頭を撫でるセリオスに大きく頷いて
一番新鮮でデカい肉塊を鍋に入れよう
鍋にドボンと突っ込もうとしたところでアレスに止められた
デカい方がうまい!薄い肉では食った気がしない!
同意を込めてワフッと鳴いてみせる
ああ、けれど
アレスが作るなら今日はこれくらいで勘弁してやろう
そっと肉を机に戻して
セリオスと一緒にアレスの後ろをついて回る
スンスンと嗅げばうまそうな匂い
ああ!やはりお前はやるやつだ!
尻尾をふって褒めたたえる
ああ、涎がでてきそうだ
力仕事なら任せろ
働いた後は飯がうまいからな!
アレクシス・ミラ
【双星】
ア◎
闇鍋、とは…
と、取り敢えず僕は野菜を入れるよ
白菜に根菜に…赤や黄の野菜もあった方がいいかなと用意してる隙に
…勝手に何かを入れられそうな気配を察知
君達は何を入れようとしてるんだい
ガシッと阻止
だからって肉塊をそのまま入れようとするんじゃない!全く…
…でも、折角君達が用意してくれたんだ
調理器具を借りて
肉塊を薄く切ったり、一旦焼いたり下拵えを
ちゃんと火は通さないとね
お鍋もこのまま作って…
ああ、まだだよ
待ちきれない様子の2人に苦笑しつつ
少し手伝ってもらえるかな?と運ぶのを頼もう
…美味しいって喜んでもらえるのは素直に嬉しいな
頬張る姿に目を細め
ほら、野菜も食べるんだよ?
リオンくんも一緒にどうかな
「しかし闇鍋、とは……」
アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)が辺りを見渡す。周囲には美味しそうに湯気を立てている鍋と、見るからに不安を煽るどどめ色の煙を上げた鍋のニ種類が混在していた。
「何を入れたら、ああなるのだろう……」
アレクシスが動揺と困惑を隠せない中、傍らでは、がっつりとした羊肉を手にしたセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)と、鍋を背に乗せて念の為にと紐で結わいてもらったキアノ・クシフォスが、一人と一匹、目を輝かせて歩いていた。
「鍋に入れる具っつったらやっぱ肉だろ肉!」
セリオスの言葉に、完全同意としてキアノが感極まる様子で遠吠えをする。
「なぁ、キアノもそう思うよな!」
この同意者が身近にいる事のなんと嬉しいことだろう。さっそく皆で鍋の準備が出来そうな所で立ち止まり、セリオスが嬉しそうにその頭を撫でれば、キアノはもう否定するところなど無いとばかりに、大きく上下に頷いた。
「と、取り敢えず僕は野菜を入れるよ」
野菜も大事――アレクシスにとっては当然のことでありながら、しかし肉派である親友と、家族のような存在を前にした時のアウェー感ときたら、もう半端なものではない。
さっそくその発言に、一人と一匹が文字通り顔に『えー』という不満を隠さないでいるが、これは他でもない彼らの為でもあるのだと、アレクシスは己に強く言い聞かせる。
「白菜に根菜に……赤や黄色の野菜もあった方がいいかな」
そのような覚悟を決めて、アレクシスは鍋に最低限の下味をつけ火に掛けた。手元にある食材を眺めながら、その中から使えそうな野菜の選別に入り始める。
そして、鍋を視界の端にして、選んだ野菜を入れるタイミングに熟考しているその瞬間。アレクシスは、その視界の端で、邪悪な気配が蠢いているのを感じ取った。
「――君達は何を入れようとしてるんだい?」
僅かに見えたセリオスの手をガシッと掴み、キアノの動きを目で制す。
見えた先には、手元の食材の中で一番鮮度の良い獏羊の肉塊を携え、親友の見ぬ間に鍋にこっそり入れて増量を企んでいたセリオスと、咥えた肉をそのまま鍋にドボンしようとしていたキアノの姿が――
「げっ……バレた」
「君達は……」
アレクシスが見る瞳に、あきれたような様子が映し出される。しかし、想定外ではない。どこかで分かっていたかのような、その眼差し。
「だって」
セリオスが我が儘を言う子供のように訴え始める。
「だって、デカい肉がゴロゴロ入ってた方がうれしいじゃねぇか。
なあ、キアノ」
我が儘のように聞こえるが、これはセリオスにとって食を左右する非常に重要な事案である……とはいえ、これはやはり、どう頑張っても我が儘であるかも知れなかった。
それでも、きちんと同意者がいることを伝えることも忘れない。切なる願いに賛同するように、キアノも肉を咥えたまま「ワフッ」と鳴いて訴えた。狼なのだから、余計に薄い肉では物足りない。せめてこのくらいの大きさでないと――
「だからって肉塊をそのまま入れようとするんじゃない! 全く……」
一人と一匹の趣向と、言わんとしている事は良く分かる。だが、その中において『食健康における良心』とも言えるアレクシスとしては、本能のままに肉がゴロゴロしている鍋を、貪らせる事を許容するわけにはいかないのだ。
「えー……」
「ゥ~……」
一人と一匹が、今度は無言の圧力に打って出る。是が非でも食いつきたい構えだ。
しかし、沈黙が続く。そして、彼らの声の端に『これは駄目かも知れない』と思い滲み始めたところ、
「……でも、折角君達が用意してくれたんだ」
そう告げたアレクシスは、一度その場を離れると、拠点の人から調理道具を借りて戻って来た。
「せめてそのままの塊ではなくて、ちゃんと下拵えしないとね。少し時間が掛かってしまうけれど――」
アレクシスの言葉が、一人と一匹の耳に届く。それが指し示すものは『肉のかさ増しの許容』と、それ以上に『アレクシスが、ちゃんと下拵えをして味を調えてくれる肉』――それは目先の、生煮えの肉がゴロゴロしている野性味あふれた無法地帯ではない。
この瞬間、食材における絶品の味が約束されたのだ。
一人と一匹の心に、期待に満ち溢れた風が吹く。その瞳が大いにきらめきを増して輝いた。
煮るだけではない。料理としての鍋の為には様々な準備がいるものだ。
黒のギャルソンエプロンを後ろで結び、少し調理について思案したアレクシスが行動を開始する。
その後ろを、肉をこのベースの調理台へと置いたキアノとセリオスが、親鳥についていくひな鳥のように歩いてまわった。
「肉塊は、ちゃんと火を通さないとね」
さっそくアレクシスはとても器用な手先で、下拵えを追えた肉に刃物を入れて細く切っていく。それだけでも、セリオスから見れば後ろからつまみ食いをしたいくらいに美味しそうだ。実行すれば、これでもかと言うほどに怒られそうなので、やるのを我慢するだけでも大変で仕方がない。
「なぁ、もういいか?」
「お鍋もこのまま作って……
ああ、まだだよ」
「だって今の段階でもううまそうじゃん」
中がジューシーにローストされた肉が、綺麗にスライスされて置かれている。これはもう空腹でなくとも食欲を我慢しなくてはならない。
隣では、いつ出来るのかと鼻を鳴らしているキアノの姿。もう『このまま齧りついても、何ら問題はないだろう』と言わんばかりに美味しそうな見た目をしているのだから、キアノとしては我慢しろという方に無理がある。
とはいえ、鍋完成にはあと少し。アレクシスは彼らの様子に微笑ましくも苦笑しながら、気分転換にと食事の準備をしてもらうことにした。
「少し手伝ってもらえるかな。セリオスにはその皿と、キアノには――」
アレクシスは次々と、一人と一匹に向けて的確な指示を出す。
「よっしゃ! その皿だな!」
「ワゥ!」
「他にもあったら言えよ!」
一人と一匹が弾けるように動き出す。面倒などとは微塵も考えない。何故なら、働いた後の食事はひときわ最高なのだから。
「ワォーン!」
完成した鍋から、今までかつてないほど肉汁を感じさせる匂いが漂ってくる。
それを嗅覚をフル稼働させて感じ取ったキアノが、尻尾を千切れんばかりに振りながら、溢れそうになるよだれを我慢して全力でアレクシスを褒め称えた。
「はい、熱いから気を付けて」
そんな興奮冷めやらないキアノの前に、そっと沢山の羊肉と野菜が乗った皿が置かれた。イヌではなく狼もまっしぐら。キアノは火傷しないようにしながらも一気に食べ始める。
「…ぅん! うまい!」
傍らでは、アレクシスのよそった皿を受け取り、一口食べたセリオスが感嘆の声を上げていた。
「やっぱアレスの料理は最高だな。うまい!」
何回目かは分からないが、美味いものは美味いと何度でも口に出して言いたいものだ。その満面の笑みにアレクシスも目を細め、心と共に表情を綻ばせた。
「ほら、野菜も食べるんだよ?」
「ん!」
セリオスから差し出された器に、アレクシスが改めて、純粋な高級一品料理レベルにまで跳ね上がった鍋の中身をよそって渡す。
「――うわ、美味しそうだな……!」
とても美味しそうな気配がする――ふと、今まで動物たちの鍋の誘いから逃げ惑っていたリオンが、驚きを交えてその光景を目にしていた。
届く匂いも遠目からの湯気の見た目も、とてつもなく食欲をそそり溢れて仕方がない。ゴクリとリオンの喉が鳴る。
「リオンくんも一緒にどうかな」
アレクシスの誘いを有難く受け、リオンはさっそく一口、鍋の肉を口に運んだ。
――瞬間、リオンは拠点の人間の鍋でも少ない、この獏羊の肉の良さを引き出した味に当たった気がした。動物たちの思いは厚意と好意に満ち溢れていたが、若干リオンには『何十枚にもわたる、見た目かんばしくない手編みのマフラー』並に重すぎたのだ。
感動を通り越し、いっそ感涙にむせびそうな域に達して、リオンは急ぎその思いを自制する。
「どうだリオン、アレスは凄いだろ!」
これぞ、自分の誇れる友が作る味。
この上はないという程の、セリオスの自慢げな顔に納得するように、リオンはその味に力一杯頷いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クレア・フォースフェンサー
此度はさほど被害を出さずに済んだが、いずれ小を捨て大に就く選択を迫られる日も来よう
などと、説教じみたことを言う日ではないな
まずはその労をねぎらおう
来訪者であるわしらにあれこれ言われるだけならまだしも、突然、戦場で指揮をすることになったのじゃ
自分でも気付かぬほどに気を張り詰めていたことじゃろう
パーティの主役ゆえ、しばし主役としての務めは果たして貰わねばならんが、限界が来ているようであれば、切り上げて寝室へと連れてゆこう
古来、メシより宿とも言うしの
今日はゆっくり休んで貰わねばな
見たところ、この砦に御家族はおらぬようじゃ
うなされることがあるやもしれぬ
しばし付き添い……あとは動物達と交代しようかの
「あ~……もう無理だ……鍋は、もう……」
拠点から安全が確認されている範囲――人気の少ない、建物の裏手側にリオンはいた。
胸の高さくらいまであるコンクリート塀の残骸に、べたんと両腕を乗せてその上に顔を突っ伏している。
鍋は食べた。特に今回戦ってくれた、賢い動物たちの所は悲鳴を上げながらも何だかんだで全部回った。本来、こちらが労るべき功労者が、こちらをねぎらってくれているのであるから、行かない理由は何処にも無かった。
自分などの指示で命を懸けてくれたのだ。一時の味覚を差し出すくらいは笑い話だろう。それがきちんと戻るかは、ほんの少し心配なところではあるが。
「あー……」
今度は一人故に緩みきった、だらしのない声を上げて夜空を見つめる。
今回の戦闘による犠牲者はゼロだった。多少の怪我こそありはしたものの、被害者はほぼいなかったと言ってもいい。
星のように眩しい勝利だ――だが、だからこそ。リオンはそこに懸念を感じる。不安を感じ、恐ろしさを感じる。
「此度はさほど被害を出さずに済んだが、いずれ小を捨て大に就く選択を迫られる日も来よう」
――声が聞こえた。それらリオンの心を代弁するように、クレア・フォースフェンサー(UDC執行者・f09175)の言葉は響いた。
「ああ、そうだ。
戦い続けるなら、避けられない……犠牲は、絶対に」
昔、といっても数年前にも満たない。リオンは何度も武略や戦略のシミュレーターを弄った。その中において――毎回ではない。しかし、それは確かに呪いのように発生するのだ。大の為に小を捨てなくてはならない選択。一部を囮にして全体を生かす勝ち方。
――リオンは、いつもそこにデータではない、犠牲となった死体を見ていた。
「……でも、もし本当に戦えるなら、その犠牲の絶対数は減る……それで良いって言ってくれてるやつらがいる間は、他に誰もいなきゃ、やるしかないって思えたんだ」
「ふむ、そこまで己の心に決めておれば、敢えて言うこともない。
そも、説教じみたことを言う日ではないな。まずはその労をねぎらおう」
「いや、俺はそんな柄じゃ……! 頑張ったのはあいつらだし」
そう言うと、リオンは気恥ずかしげにその場を後にしようとした。すれ違うクレアに、軽く頭を下げて立ち去ろうとする――刹那、リオンはクレアの後ろで突如よろけると、膝が折れて顔面から全力ですっ転んだ。
「痛ぁっ!! な、何でここで転ぶかな……!」
「ふむ……今回は来訪者であるわしらに、あれこれ言われるだけならまだしも、突然、戦場で指揮をすることになったのじゃ。
自分でも気付かぬほどに気を張り詰めていたことじゃろう」
リオンが起き上がろうとするが、身体が起き上がるよりも地面の方が心地良いと言わんばかりに動かない。
「……闇鍋、のせいか……?」
「言うてはならぬ。皆、精魂込めて作っておったからのう。万一でも、生きて消化しきってこそ将というものであろうよ」
冗談交じりの会話だが、リオンが立ち上がる様子はない。体力の限界。それを理解すると、クレアはひょいと軽々リオンを肩に担ぎ、喚き上がる制止と悲鳴に耳を貸さずに寝室にまで運んでいった。
人や賢い動物の少ない道を選んだつもりであったが、それでも目はある。
『親分が運ばれた!』等の声を聞きながら、見た目に年端も大して変わらないクレアに容易く運搬されるリオンは、羞恥に身体的よりも精神面で死に掛けながら部屋に到着した。
「うああ……」
リオンが恥ずかしさにより、降ろされたベッドの上で転がり縮こまる。
「古来、メシより宿とも言うしの。今日はゆっくり休んで貰わねばな」
部屋の入り口はドアなど大層なものはなく布で仕切られていた。クレアは、何かあれば声を掛けるようにと告げて部屋を出た。よほど疲れていたのであろう。あれだけ叫び悶えていたのに、部屋を出た時には既に寝息が聞こえて来ていた。
「……さて」
クレアはしばし思案する。この激動の一日。あれだけの大騒ぎともなれば、リオンくらいの年頃なら、親の影くらいは出てきても良さそうなものだ――それが、健在であるならば。
思った先、ふと部屋から微かに聞こえて来た声は、耳を澄ますには切なく思えるものだった。レオンの尊厳を守る為、クレアは心の中で、敢えて静かに耳を塞ぐ。
「ふむ……?」
一息ついて辺りを見渡せば、通路の陰から賢い動物たちがこちらを覗いていたところだった。
クレアはそちらをそっと手招いて、彼らと立ち位置を代わると、自分は皆の元へ戻ることにした。
一度戦えることが周囲に判明すれば、もう後に退けることはないであろう。
だが、傍に支えてくれる賢い動物たちがいるのであれば、いつしかそれは乗り越えられる時が来ると、クレアは信じた――
大成功
🔵🔵🔵