4
暗晦に芽吹く(作者 瀬ノ尾
18


 ――雨が、降っていた。

 あのおぞましい化け物たちから逃げ惑い、命からがらにたどり着いた一つの扉。
 それが、一体何なのかは分からない。ただ、「アリス」は漠然と知っていた。

 これを開けば、「アリス」は此の地獄より抜け出せる。
 これを開けば、「アリス」は此処ではないどこかに行ける。
 これを開けば、「アリス」は“わたしがいたところ”に帰る、ことが――。

「……わたしの、いたところ?」

 あと、少し。指の先を伸ばしさえすれば、「アリス」は扉に触れられる。
 何を躊躇う事があるだろう。此処にいれば殺される、あの化け物どもの餌になる。
 それが嫌で、「アリス」はここまで逃げて来たのだろう。
 化生を恐れて、帳を忌避して。あるやも分からぬ己の扉を必死に探して来たのだろう。

 なればこそ。「アリス」は一刻も早く、その扉を開くべきであった――はず、なのに。

「……ぁ、ぁぁ」

 ――雨が、降っていた。
 ノイズが走る。頭が痛む。チカチカと眩む瞼の裏に、いつかどこかの情景が映り込む。
 薄暗い部屋戸のスキマ風伸ばした掌揺れる視界灯の消えたランプだいすきな●●●●●「×め×なさ×」堅い床頬打つ雨伸ばされた腕ツキアカリ振翳された――つめたい、刃。

 知ってる。知っている。あの音も感触も冷たさも痛みもひかりも恐怖も、すべて。
 これは、紛れもない「アリス」の記憶だった。
 それは、だいすきなひとに裏切られた――「わたし」の記憶、だった。

「ぁぁあああぁああぁあぁあああああ!!!!」

 泣き伏せるように崩れ落ちる「アリス」の、その後ろで。
 鬼たるものの影が一つ、うそりと歪な笑みを浮かべていた。

●暗晦に芽吹く
「かの不思議な国に迷い込んだアリスは、いずれオウガへと変質する可能性を秘めているそうだね。最近では観測された事例も多いから、耳馴染みのある人も多いだろう」
 ぺらり。数多の報告書が挟まれたファイルを捲りながら、ハロルド・マクファーデン(捲る者・f15287)は猟兵たちへと語りかけていた。
 これより現地へ赴く彼等へ情報を伝えようとしてか、ハロルドの視線が紙面の上を滑っていく。
「だが、今回予知に捉えたアリスはまだ変質しきっていない少女だった。云わば種の状態だ……もっとも、このままでは芽吹くのも時間の問題だろうけどね」
 そう遠くない内に、「アリス」はオウガと化してしまうだろう。
 あなた方にはそれを阻止して欲しいのだ、とハロルドは言葉を続けていく。

「ただ、少女を助けるに当たって障害が幾つかあるようでね――順を追って述べよう」

 一。絶望しかけた「アリス」を“まるで護る様にして”寄り添うオウガの姿がある。
 二。オウガは「アリス」の絶望を深める為の「絶望の国」を作り上げ様としている。
 三。アリスの昏い感情を反映した「絶望の国」は、濃い狂気へと染まりつつある。

「このオウガというのがまた厄介でね、どうやら悪意の塊のような御仁らしい」
 曰く。凛々しい少女騎士のような姿をしたそのオウガは、絶望に暮れる「アリス」へ親身になって声を掛け、あたかも彼女の味方であるかのように振舞っているようだ。
 だが、その目的は救済とは真逆のもの。「アリス」の信頼を得た後に手酷く裏切り、より深い絶望へ落とす手段をこそ、そのオウガは好んでいるらしかった。

「現在、オウガはアリスを連れて扉から離れようとしている。アリスの方も、オウガに心を預けたわけではなさそうだが……元の世界には戻りたくないのだろうね。戸惑いこそすれ、大した抵抗もなく従っているみたいだ」
 もしも、彼女たちの前に邪魔者――猟兵たちが現れたなら。
 オウガはこれ幸いとこちらを悪者に仕立て上げ、「アリス」を護るという演出の材料とするだろう。「アリス」を確保した後の事を考えると、余計な手は打たせず早急に倒したいところである。

 そして、オウガが不思議の国を塗り替えて作ったとされる「絶望の国」。
 其処は「アリス」が取り戻した記憶に影響された世界になっているのだと言う。
 その詳細を告げようとするハロルドの眉間には、僅かに皺が寄っていた。
「……どうも、件のアリスは『信じていたものに裏切られた』記憶を甦らせてしまったみたいだね。おかげで、今の彼女は何かを信じる、信じ続けるという事に強い拒絶感を抱いている」
 そして、少女のその感情を源にした狂気が「絶望の国」全体に満ちている。
 その狂気は、「アリス」は元より――その場にいる猟兵たちにも、襲い掛かるだろう。

「その国に居れば居るほど、自分が信じている人やもの――己が重きを置いていればいるほどに、それらが『疑わしく』思えてしまう。強制的な猜疑心の芽生えだ」
 それは、大切な人に対してか。かけがえのないものに対してか。
 もしくは、自分自身にすら。その狂気は牙を剥いてくるやもしれない。
「外部からの精神汚染、とでも言うべきかな。影響の出方は人それぞれだろうが、放っておけば厄介なことになるだろう。アリスとの対話や、その後の戦闘にも差支えが出てしまう可能性もあるから、皆にはある程度の対策を考えておいてほしい」

 この狂気の源は「アリス」の感情だ。
 仮初めの疑心に惑わされず、無事に「アリス」の心を絶望より救うことが出来たなら。
 世界に満ちる狂気も薄れ、「アリス」を扉へ送り届ける事も楽になる筈だ。
 予知には例のオウガの他に、鋭い歯を持った植物のようなオウガたちが「アリス」の扉の前で群れている光景も見えていた。「アリス」を元の世界へ帰すためには、そちらとの戦闘も避けられないだろう。
「どうか、偽りの芽生えに惑わされないように。――アリスも、皆も、無事に帰れる事を祈っているよ」





第3章 集団戦 『ミミクリープラント』

POW ●噛み付く
【球根部分に存在する大きな顎】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【習性と味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD ●突撃捕食
【根を高速で動かして、突進攻撃を放つ。それ】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ ●振り回す
【根や舌を伸ばして振り回しての攻撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ……雨が、降っていたの。

 つめたい風の吹く、夜だった。
 お空には大きなお月さま。もうすぐ『満月』になるのだと、村のだれかが言っていた。

 わたしたちの村は、ずっとずっと、リョウシュサマにまもられていて。
 十と三つ、お月さまが大きくなるころに。だれかがひとり、リョウシュサマのところにオツカイに行くの。

『これからも、どうか、村をよろしくおねがいします』
 もしもオツカイに選ばれたら、そうやってちゃんとおねがいするのよって。何度も何度も、言われてた。

 前にオツカイにいったのは、三つとなりの家に住んでたおねえちゃん。
 元気でねと手をふってから、また十と二つ、お月さまが『満月』になって。
 つぎは「わたし」の番なのだと。村の一番のおじいちゃんが、●●●●●に言っていた。

 「わたし」は、村の大きな人みたいに力もなくて。おねえちゃんたちみたいに、キヨウでもなかったから。
 だから。今度のオツカイは、ちゃんとやり切って見せようって思ったの。こんな「わたし」でも、できることがあるんだって。いつも優しい●●●●●のためにしてあげられることが、あるんだって。

 言ったの、「わたし」。
 ちゃんとがんばってくるね、って。オツカイが出来てイチニンマエになったら、●●●●●もよろこんでくれるよねって。

 ……よろこんで、ほしかったの。
 それだけ、だったのに。

「――め、――さい」

 あのひとの、ゆびが。

「――ごめ、――い」

 ずっと、ずっと。おんなじ言葉を繰り返しながら。
 あのひとが。だいすきな「わたし」の●●●●●が。
 「わたし」の首を、ぎゅううっと。すごい力で、しめつけて。

 いたかった。
 息ができなくて、くるしくて。やめて、やめてって、何度もいった。

 けれど、あのひとは。なにかをずっと、繰り返すだけのまま。
 最後は、机に置いてあったナイフを、もって。

 ……おぼえているのは、そこでおわり。


 ――ただ。
 だんだんとぼやけていく世界のなか。まぶしいお月さまの光に照らされて。
 ぽつり、ぽつりと。頬に落ちてきた『雨』のつめたさが、ふしぎと心にのこっていた。



 少しずつ、少しずつ。
 彼らに問われ、掛けたれた言葉に応えるようにして。

 己の感情を、己の意思を。何よりも己自身を見失っていた少女は、砕け散った欠片を拾い集めるようにしながら記憶を語る。

 それでもやはり、全てを思い出したわけではなく。
 名前も分からぬ“あのひと”との最後の記憶が、少女の胸を締め付ける。
 キュウと、喉の奥が締まったような心地がして。「アリス」の頬を、雫が一つ流れて言った。

 けれど。
 誰かが言った――それでも、大好きだったのだろうと。
 誰かは言った――こわくても、もう一度。ちゃんと、前を向いてみようと。

 ひとりで押し潰されてしまいそうなら、傍にいる。
 怖いと思う気持ちも、迷ってしまう心もわかる。それこそ、痛いほど。
 それでも、だとしても。このままでは、取り返しが付かなくなってしまうから。

 どうか――もう一度、信じて欲しいと。

「……わた、し」

 告げられた言葉は、とてもやさしくて、あたたかくて。
 ちょっぴりだけ。いつか、“あのひと”と過ごしていた時の気持ちを思い出す。

「まだ、こわくて。おぼえてることだって、少なくて。『わたし』の名前だって、思い出せなくて」

 けれど。もし、あの『扉』の向こうで、“あのひと”に、もう一度逢えたなら。

「……『わたし』の名前、呼んで、くれるかなぁ」


◆◇

 誰かが。ようやくに掬い上げた『願い』を、聞く。
 少女が望むのであればと、彼らはかの『扉』への道を往くだろう。

 ――しかし。

 未だ誰にも喰われていない「アリス」の気配に釣られてか。
 複数のオウガが、「アリス」を食らわんとして其の姿を表すだろう。

 『扉』に至る道に、また既に『扉』の周囲にも。
 森の植物に擬態していたオウガが、鋭い歯を剥き出しながら蔓延っている。
 腹を空かせたオウガ共は、隙あらば少女へと食いつくだろう。

 少女と共に道を往き、護るも良い。先んじて『扉』に群がる者共へ手を打つも良い。
 どうあれ、少女を『扉』に送り届ける事ができたなら。
 今の彼女であれば、きっと『願い』に準じた選択をする筈だ。


 ――夥しい数の敵意は。もう、すぐそこまで迫っている。