【旅団】花天蓋の下で
【これは旅団シナリオです。旅団「(旅団名)」の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです】
●花天蓋の下で
良いところがあるの、とトスカ・ベリル(潮彩カランド・f20443)は言った。
「花天蓋、って呼ばれてる場所でね。今は藤と花水木が見頃らしい」
薄紫の藤の木々から、薄紅の藤の花へと並木道を進むうちに移り変わり、気付けば桃色の花水木、更に白の花水木……と移り変わっていくのだという。
「花で空が覆われちゃうくらいの場所だから、花天蓋、なんだって」
まっすぐに並木道を進んで移り変わりを楽しんでもよし。
小径に入って天蓋の下で寝転ぶもよし。
「色んなところにね、ちょっと腰を下ろしたりできる木製のベンチとかもあるんだけど。そこをコンコンしたら、薯蕷饅頭<じょうよまんじゅう>が出てくるの」
わくわくそわそわ。ロップイヤーの耳を心なし持ち上げて、トスカは普段眠たげな瞳を輝かせた。
薯蕷饅頭の柄は様々らしい。通常の白から、めでたい赤やら、藤が描かれたり、桜の塩漬けが乗っていたり。中の漉し餡も、桜餡や抹茶餡、栗餡の場合もあるらしい。
「色んなところをコンコンしたら、他のものも出てくるかも。もちろん、お茶とかを持ち込むのは問題ないよ」
更にね、とトスカはその手をぎゅっと握る。
「そこに、花狐って呼ばれるキツネがいるんだって。大きさは小型犬くらい。ふっかふかで懐っこいけど、追いかけると遊んでると思って全力で逃げるんだって」
花と名に冠する理由は、『花天蓋』の花の色と同じ色に毛色を変えるから、だそうだ。
「すごいよね。だから今は、藤色と、ピンクと、白のうちのどれか」
おそらくは保護色なのだろうと想像はつくが、さすがはキマイラフューチャー、進化の方法が独特だ。
「追っかけて遊んでも、もしくは寄ってきてくれるのを忍耐強く待つのでもいいよ」
そこまで告げて、ふふ、とトスカは微笑んだ。
「きみはなにして過ごすのを選ぶ? 良ければわたしと一緒に遊びに行こう」
朱凪
目に留めていただき、ありがとうございます。
朱凪です。
こちらは【旅団シナリオ】となっておりますが、このシナリオに参加したいので入団したい、という希望は問題なく受け付けております。
良ければ【https://tw6.jp/club/thread?thread_id=42811&mode=last50】をご確認ください。
『迷ひ路』の団員さまは、ご自由にどうぞ。
第1章 冒険
『ライブ!ライブ!ライブ!』
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POW : 肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!
SPD : 器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!
WIZ : 知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!
👑1
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都槻・綾
トトさんセロさん皆様と過ごしたり
独り佇んだり
穏やかな佳き日を
ゆるり逍遙
淡い光が
花影が
私の身をも花色に染める
藤の花房へ手を伸ばすけれど
触れるのは躊躇われて
そっと指を引く
いとしと書いて藤の花、と言うでしょう
藤娘の謡いは
戀心も愛も覚えぬ己には
清らか過ぎると思われたから
一休みに開く本の頁
花弁の栞は樹々からの贈り物
足元を狐が駆け抜けたら
目配せして追いかけようか
秘密の苑へ案内してくれるかもしれない
そうしたら
抹茶を点てて振る舞いましょう
饅頭を取り出すのも忘れずに
狐さんへも菓子贈呈
空の皿には礼のつもりか、藤の花
掌に乗せた花は愛らしく
胸に灯りを燈すような「うつくしきいろ」で
あぁ
此れもまたきっと
――愛しという、心
オズ・ケストナー
セロ、すごいよっ
シュネーを連れて、花で覆われた天を見てはしゃぐ
いいにおい
花の色がかわったよ
今度はセロの色だね、きれいっ
あれ?
ふかふかが視界の端を横切ったらぱっと振り返り
セロ、キツネさんだよっ
思わず駆け寄ったら逃げられて
よーし、おいかけっこだっ
ピンクのキツネを追いかけて
セロ、そっちにいったよーっ
えい、つーかまーえたっ
ふふ、ふかふか
たまはもふもふーっ
セロとたま、キツネさんをぐるり見て
春のいろだね
冬だったらきっと
雪みたいで、きれいな冬のいろって思うんだろうけど
みんなの色も日差しもぽかぽかだからうれしくなって
そうだ、おまんじゅう
たべよう、ベンチさがそう
あと、トトもさがそう
みんなでいっしょに食べようねっ
クロム・ハクト
花天蓋:
暫し歩いた後、花水木の辺りのベンチに腰掛ける
空を覆うのは夜だけじゃないと知ってからだいぶ経つが、それでもこれは
見事なもんだな
花狐:
待つというより近付かれたと言った方が近い
警戒させない方がいいと思っていたが、花を眺める中で気を抜きすぎていたらしい
こいつはおもちゃでも枕でもないぞ
言いつつも、振り解いて驚かせても悪いかと思い人形はじっとそのまま
饅頭…は食べて良いのか?
代わりに食べられるものが出てくるだろうかと手近な所をコンコン
場所で出てくるものは決まっているからそれ目当てかもしれないな
与えるなりした後、眺めつつ無言でもぐもぐ
耳には青色硝子のイヤーカフ(心にあの時の体験の感覚
アドリブ・絡みOK
千波・せら
わあ、綺麗な場所!
この世界に来るのは初めてなんだ
だから今日は思いっきり楽しみたい
こんこんってしたら何か出てくるの?
試しにこんこん
わっ!お饅頭!
白色で藤の描かれた饅頭だ!
美味しそうだね。
こんなに綺麗な場所でこんこんを楽しんで
それから……あれ?キツネ?
遊びたいのかな。
今からお饅頭を食べようかと思ったけど
それは後回し!
キツネと一緒に遊びたいな。
君はお饅頭食べる?
あれ、食べないの?
あ、逃げた!待てー!
お饅頭は一口で一気に食べたら
キツネを追いかけて一緒に遊びたいな
全力で走って追いかけっこに疲れたら
もふもふしてもいい?
遊び疲れたら今度はこんこんって一緒にしよう
もふもふもしたいな。
シュリ・ミーティア
姉貴分のフィーリス(f22268)と
呼び方はフィー
皆ともタイミングが合えばお話したいな
見上げれば藤の花
向こうには花水木
遠くにいくほど色が変わって
聞いて想像したよりずっとずっと
すごいね、キレイだね
ふふ、フィーなら花の間に隠れられそう
ひょっこり動いた花の影
…あれ狐かな?
追いかける?私も遊びたい
尻尾ゆらゆら、うずうず
追いかけっこなら負けないよ
花を傷付けないよう跳ね回り
追い付いたらじゃれ合って遊ぶ
ふかふか…気持ちいい
満足したらベンチで休憩
コンコン、何が出るかな
フィーを肩に乗せ
出てきたお饅頭を分けあいっこ
色んな場所で試したいけど
いっぱい出たら大変かな
でも皆いるし。お土産も出来るかな?
まだまだ、楽しめそう
フィーリス・ルシエ
妹分のシュリ(f22148)と参加
他の皆ともお話出来るなら、是非
本当に綺麗な花達ね、素敵素敵!
思わずはしゃぎながら
花のところまで飛んで行って香りも楽しみます
シュリも一緒に飛べたら楽しいのだけどね
シュリが花狐を見つけたら
私もあの子と遊びたいと頷いて
よーいドン、で追いかけっこ
私は飛んで追いかける事になるけど
ちゃんと追いつけるかしら…
可能なら、あのふわふわの背中に全身ですりすりしてみたいわ!
遊び疲れたら、小腹も空いたし休憩ね
シュリの肩に腰かけて、どんなお饅頭が出てくるかわくわく
出てきたお饅頭を少しずつ分けて貰います
色んな味を味わいたいし
色んなところをコンコンしましょ
余ったお饅頭は、お土産にも出来る?
●花天蓋
「わあ、綺麗な場所!」
両の手を広げくるり回って千波・せら(Clione・f20106)が見上げたのは、視界いっぱいの風にそよぐ藤の花。その澄んだあおい瞳に鮮やかな薄紫が反射して輝く。
探索者のせら。そう名乗る彼女もキマイラフューチャーに訪れるのは初めてだ。
「見てみてセロ、すごいよっ」
片手にどこか嬉しげな表情に見えるシュネーを抱え、片手に友達の手を引いて、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)も声を跳ねさせ瞼を伏せた。深く胸に息を吸い込む。
「ふふ、いいにおいっ」
「ほんと、すげぇモンですね」
同じように弾む声で花を見上げるセロ・アルコイリス(花盗人・f06061)のマフラーの内側には白いもこもこの毛玉が等しく瞳を輝かせている。
ね、とオズはセロ、毛玉だけでなく、せらや天蓋に目を丸くしているクロム・ハクト(黒と白・f16294)達へと笑いかけ、その姿に都槻・綾(糸遊・f01786)は眦を和らげた。
連なる藤の花々の下へめいめいに消えいく背中を見送り、綾はゆるりと歩を進める。
見上げずとも視界を染め抜く淡藤色の隙間から温かな白い光が射し込む光景に、思わずついと伸ばした指先を、けれど揺れる房に触れる直前で微か強張らせ握り込んだ。
「……?」
くてり傍で首を傾げるトスカ・ベリル(潮彩カランド・f20443)の長い耳が揺れるのに、綾はどこか困ったように微笑んだ。
「いとしと書いて藤の花、と言うでしょう。……藤娘の謡いは私には清らかに過ぎると思えたもので」
――戀心も愛も覚えぬ、己には。
思えばほんの僅かに痛む気がする胸の裡が、噺に聞く“焦がれ”であったなら良かったのにと、残念にこそ思えど哀しみはない。
その事実こそが切ないものだと、口許に笑みを刷いたまま綾は思うのだけれど。
見上げれば薄紫の藤。まるでトンネルのように続く並木道の色は徐々に薄紅へと移り変わり遠い遠い先には白を望む。出口の辺りは藤の花ではなく花水木の樹々なのだと言う。
緩やかに変化しながら続く様は、話に聞いて想像していたよりもずっとずっと鮮明で、温かだった。
「すごいね、キレイだね」
「本当に綺麗な花達ね、素敵素敵!」
そよぐ風の音に耳を震わせ、このときばかりはその瞳の奥に年相応の煌めきを宿すシュリ・ミーティア(銀色流星・f22148)の傍で、フィーリス・ルシエ(フェアリーのシンフォニア・f22268)はその風と戯れて泳ぎ花へと寄り添う。
甘い香りはともすればむせ返るほどだが、全身を包み込み浸ることのできる空間はなかなかあるものではない。
「ふふ、フィーなら花の間に隠れられそう」
世話役のおねえさんであるフィーリスのはしゃぎようにシュリは口許に拳を添えてちいさく笑うけれど、フィーリスも笑み返して翅を震わせた。
「シュリも一緒に飛べたら楽しいのだけどね」
かわいい妹分に自分と同じこの景色を見せてあげたい。幾多と連なる花の内側から見る世界は、きっと更なる感動を与えてくれることだろう。
だけど、それは難しいから。
――今は、私が合わせてあげなくちゃね!
ひらりとシュリの肩に降りてきて、共に穏やかに道を行く。やわらかな春の陽射しが花々の間から降り注ぎ、足許にも散った花弁の絨毯が続いている。
そして天蓋の色合いが桃色に移り変わり始めた頃。
シュリの耳が「、」ぴこりと跳ねた。ひょこりと揺れた、花の向こう。
「……あれ狐かな?」
花狐と呼ばれる小型の狐。ひと懐こい性質ではあるが、追いかけると遊んでもらったいると思って全力で逃げるという、件の。
ふたりはどちらからともなく顔を見合わせる。
「追いかける?」
悪戯っぽい色を帯びたシュリの問いへの答えはもう、決まっている。だって彼女の尾がそわそわうずうず、揺れているから。
ふふとフィーリスは目許を和らげ、力いっぱい肯いた。
「ええ、私“も”あの子と遊びたい!」
「追いかけっこなら負けないよ」
得意げに耳を立てて意気込む妹分に、確かに飛んで追いつけるかしら、とちょっぴり思いはするけれど。だからと言って躊躇う理由になんてならない。
「よーい、ドン!」
●花舞う中で
煌めく髪に花の色を映し込みながら、せらはいろんなものに興味津々。だって聞いたのだ、この世界ではコンコンってしたらなにかが出てくる、だなんて。
ちょっぴりどきどき。きょろ、と周囲に誰もいないのを確認してからそっとどう見てもただの木製のベンチへと手を伸ばした。試しに、
――こんこんっ。
するとノックしたところからころんと転がり落ちたのは、
「わっ! お饅頭!」
慌てて両手でそれを受け止めたなら、白い藤を描かれた上品なこしらえの薯蕷饅頭だった。ふっくらと蒸しあがっているそれはちょっぴり小ぶりで、
「……美味しそう」
折角だからとお饅頭を手に、ベンチに腰掛けて花に埋まった空を見上げてひと息。
頬を撫でる風は花の香を運び、髪の揺れる感触すらも心地いい。
――こんなに綺麗な場所でこんこんを楽しんで、それから……あれ?
はたと視野に入った薄藤色は樹の根元。鼻先と一対の瞳が黒く、大きな耳がぴるぴると揺れる。花狐だ。好奇心に満ちた表情は、獣の顔つきでも雄弁に伝わってくる。
せらはちらと手にしたお饅頭を見下ろす。
それからそれの、なるべく餡の入っていないところを千切って狐へと差し出してみた。
「君はお饅頭食べる? ……あれ、食べないの?」
キツネはせらの顔を見つめたままゆらゆらと尾を振る。そして機敏な動きで身を翻した。
「あ、逃げた! 待てー!」
咄嗟に立ち上がったならお饅頭をちゃんと味わうのは後回し! ぱくりとひと口で食べて、せらは花狐を追って藤の迷宮の中へと駆けて込んだ。
花の色がかわったよ、と。
天蓋を見上げてオズが指差すから、セロも毛玉を己の頭に載せてやって共に見上げた。
「今度はセロの色だね、きれいっ」
「おれの色ですか。なんかオソレオオイですねぇ」
シュネーもおんなじ色でしょ? 項の髪をくしゃりとやって言っても、オズは彼の東雲色の瞳をまっすぐ見つめてふぅわりと笑うだけ。
甘い香りの中を進んでしばらく。「あれ?」オズの硝子のような蒼い瞳がきょろっと動いた。しなやかでふかふかななにかの影。考えるまでもなく、彼の表情に喜色が浮かんだ。
「セロ、キツネさんだよっ」
と。咄嗟に駆け寄るけれど、あまりにも俊敏な動きで薄紅色のキツネはあっという間に遠く離れてしまった。そしてこちらを振り向いて、ふわふわの尻尾をゆらり、ゆらり。
「ふふ、おさそい? よーし、おいかけっこだっ」
わくわくっ、と胸に競り上がった期待にぱっと隣のセロへ視線をやったなら、東雲色の双眸も悪戯気な色を帯びて、毛玉をマフラーの内側に詰め直し腕まくりをしたところだった。
「落ちねーようにしがみついててくださいよ、たま。本気でいきますから」
視線を交わし合い、二人笑って花散る中を走り出す。
「セロ、そっちにいったよーっ」
「はーい任せろです、おょっ?」
素早い花狐は樹々の合間を縫うようにセロの足も潜り抜けて駆け去って。
離れところでこぉんと鳴く声が呼んだなら、「こんにゃろ」「まだまだっ」それを探してまた駆け出した。
楽しげな笑い声が花々の間から耳を掠めるのにほんのり口許を緩めつつ、綾はひと休みにとベンチに腰掛け開いた書の頁を繰った。
甘い香に誘われて顔を上げたなら丁度、ひらりと花弁が書の白い頁の上へ舞い降りる。
「あっ、アヤ!」
呼ばわれ視線を向けるとお陽さま色の髪を揺らした青年がこちらを指差していて、――それを認めたと同時にするりとベンチの下をくぐってなにかが通り過ぎていった。
花狐というこの天蓋に住まう特別な存在だろう。そう思えば膨らむ好奇心。考えるより早く授かった藤の花をそのまま栞に、ぱたりと書を閉じて荷を負った。
――なにせ、秘密の苑へ案内してくれるかもしれませんからね。
キツネを追う顔見知り達へと目配せひとつ。
彼も花景色のひとつへと身を溶かした。
ああ変わったと。
薄紅色の藤から薄桃色の花水木へと移り変わった辺りのベンチに腰掛けて幾許か。
クロムは相棒の熊猫を隣に座らせて飽くことなく風にそよぐ彩を眺めていた。
――空を覆うのは夜だけじゃないと知ってからだいぶ経つが、それでもこれは。
「……見事なもんだな」
ぽつり自然と賞賛が口をついた。
夜と闇の世界では決して見ることができない光景。黒と白だった彼の世界にも随分といろが増えたように思う。
なあ、と。
「、」
特に声を掛けるつもりもなく隣の白黒の相棒を見遣ったクロムの身体が思わず静かにぎくりと強張った。
そこには、相棒に顎を乗せてくつろぐ薄桃色のキツネが居たから。クロムの視線を感じたのか、花狐の黒い瞳が彼を見る。「あー……」どうすべきか迷ってクロムは耳を倒しつつ、一応前のめりに潰されている熊猫のからくり人形を指差した。
「その。そいつはおもちゃでも枕でもないぞ」
伝えてはみるが、キツネはくわぁと大きな口を開けてあくびを返すだけ。
正直、野性動物相手に警戒させぬ心づもりではいたが、ここまで落ち着かれるのも想定外である。とは言えど、近付かれて気付かぬほど気を抜いていた――気を抜くことができるようになっていた――己としても、改めてこの“空気”を壊したくはなかったから。
「……まあいいか」
もう少しだけ我慢してやってくれ、と心の中で相棒に謝って、クロムもベンチの背もたれに改めて背を預けた。
そしてまた幾許か。不意にクロムは思い立った。ここはキマイラフューチャー。コンコンとノックしたら色々ものが出てくる場所だ。一年前の白い遺跡でのことを思い出して、クロムは右耳に揺れるイヤーカフにそっと触れて口角を上げた。
――その場所ごとに出てくるものは決まっているから、それ目当てかもしれないな。
この地を紹介した少女は言っていた。薯蕷饅頭が出てくるのだと。
――饅頭……は、食べて良いのか?
それとも、このベンチは饅頭以外の、花狐も食べられるものが出て来るのだろうか。とりあえず手近なところをコンコンしてみれば、転がり出てきたのはやっぱり薯蕷饅頭。
中を割ってみたなら白い皮の中に薄桃色の餡がしっかりと詰まっている。空を覆う花水木と同じ色だが、桜餡と呼ばれるものだ。
「……食べるか?」
少し迷ったけれど、割った半分を差し出してみた。花狐はふんふんと鼻を寄せたものの、口を開くことはなく。突如身を起こすなり、じっとクロムの目を見つめてから木々の合間へと駆け去った。
遊ぼうと告げている眼ではなかったなと、手に残った饅頭をもくもくと食みながらクロムが消えた背中の方向を眺めていたら、違う方角から数人の足音が聞こえてきた。
――どちらかと言えば、いい場所を教えてやるとでも言いたげな。
花狐を見なかった、と問われた彼が案内を引き受けるまで、あと少し。
●春色の休日
木々の根が張る地を、散り落ちた花弁が嵩高く覆う。
さすがは縄張りだけあって慣れたもの。跳ねるように進む花狐の進み方は独特で、いつしか追うシュリもそれを真似て駆けた。
「ここは行き止まりよっ!」
シュリとキツネの進行方向、フィーリスが両手をめいっぱい広げて花狐の鼻面の前に飛び出したなら、キツネは驚きのあまり嘘みたいにもんどりうって転がった。
その隙を逃がすシュリではない。躍り掛かり触れた藤色の毛並みは不思議で、
「わ、ふかふか……気持ちいい」
思わず目を瞬くほどの触り心地。充分に駆け回って満足したのだろうか、花狐ももう逃げる素振りはなく、ただ無邪気に撫でようとするシュリの手にじゃれかかっている。
だからフィーリスは意を決してその背にえいっとしがみついた。元より浮くほど軽いフェアリーの身だ、花狐も特に嫌がるふうもない。
どこか花の香がするふわふわの毛並みを全身で堪能して、しあわせ、と頬をうずめるフィーリスにシュリも眦を和らげつつ――向こう側から駆けてくるキツネを指した。
「見て、フィー。フィーと同じ色」
「えい、つーかまーえたっ」
藤と花水木の花弁を舞い上げて、薄紅色の花狐を両手で抱っこしたのはオズ。
つかまった、つかまったとはしゃぐように四肢をばたつかせるキツネはまだ幼いのかもしれない。嬉しそうに尾を振るその子の毛並みに頬を寄せて、
「ふふ、ふかふかっ」
破顔するオズの元へ、花弁の絨毯に座り込んでいたセロのマフラーから白い毛玉がぽーんと飛び出した。ボクもお手伝いするっとでも言いたげな様子に、だからオズは毛玉ごとキツネをきゅーっと抱き締める。
「たまはもふもふーっ。ほら、セロもっ」
されるがままのキツネを示す彼に、わあいとセロも両腕を差し出し――「ぶ」抱いた花狐の黒い靴下履いた前足を顔面に突っ張られた。
そんな彼の傍。全力で駆けたせらも膝に両手をついて肩で呼吸を繰り返す。
藤色のキツネは彼女の足許をうろうろしながら、ふかふかの尻尾をふりふり。まだ整わない息の下、せらはしゃがんで視線を合わせて首を傾げた。
「もふもふしてもいい?」
「……」
どうぞ、と言わんばかりに耳を左右に倒すのだからこにくらしい。お礼を告げたなら、せらは遠慮なくもふもふ! するとぴょいとキツネがせらを跳び越えるから、彼女がまたそれを捕まえて。
心ゆくまでもふもふを楽しんだなら、緩む頬でせらは視線を巡らせた。
「疲れた? じゃあこんこんって一緒にしよう」
「そうだ、おまんじゅう」せらの台詞に、セロの頭にのしかかる花狐を剥がそうとしていたオズが手を打つ。
「たべよう、みんなでいっしょにっ」
「小腹も空いたし、休憩ね」
「ならば僭越ながら抹茶でも立てましょう」
フィーリスを始めとして、めいめいにキツネへと一時休戦を伝える姿に綾は微笑を浮かべて荷を解いていく。野点ももちろん初めての経験であるクロムは彼の行動のひとつひとつを興味深く眺め、その横では花狐がまた熊猫の人形に顎を預けた。
「コンコン、何が出るかな」
ゆらりゆらりと揺れるシュリの尾。いろんなところに据えられたベンチのひとつをノックしてみれば、掌に転がり落ちてきたのは桜の塩漬けが乗ったお饅頭。
彼女の肩から共に覗き込んでいたフィーリスと共に分け合ったなら、甘い餡にほんのちょっぴりの塩味が疲れた身体にちょうどいい。ぴる、と耳が揺れる。
「おいしいね、フィー。色んな場所で試したいけど、いっぱい出たら大変かな」
そうね、と小さいはずの欠片を両手でせっせと頬張るおねえさんは、明るい瞳で悪戯っぽく笑ってみせた。
「色んな味を味わいたいし、色んなところをコンコンしましょ。余った分は、お土産に出来るでしょうし、」
ちらと周囲を見遣ったフィーリスの視線の意味を正しく受け取ってシュリも肯く。その視線の向こうで、花狐を膝に乗せてお饅頭を半分に割ったところだったせらが、どうぞ! と片方を差し出して笑うから。
「そうだね。皆もいるし」
まだまだ、楽しめそうと。咄嗟にもひとつ掌に転がしたお饅頭を手に、妖精と共にそちらへ駆け出した。
そんなあたたかな景色に目を細め、傍に居たクロムやトスカ達に茶を振る舞い花狐には饅頭を差し出して。綾は穏やかな空気と薫り高い茶を味わって――ふと空になった皿に返礼とばかりに添えられた藤の花。
掌に乗せたならふわりと胸に燈るのは“うつくしきいろ”で。
――あぁ、此れもまたきっと、
――愛しという、心なのだろうと。
「どうしました、オズ?」
薄桃色の饅頭を小さく小さく割って、キツネと毛玉に分けていたセロが首を傾げる。オズはううんとかぶりを振った。
彼の横にはブローチからもう一度出てきてもらったシュネーが座り、その長い髪が藤と花水木の色を映すのに自然と口許が緩む。
「春のいろだなっておもったんだ」
冬だったらきっと雪みたいで、きれいな冬のいろって思うんだろうけど。想像すればそれはそれでとてもわくわくするけれど。
あお、ももいろ、しろ、くろ――。
「みんなの色も日差しもぽかぽかだからうれしくなって」
ね、と笑い掛けた彼の隣で、藤色のキツネがゆるりと一度、尾を振った。
大成功
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