白雪姫に人魚姫。
ピノキオ、アリババ、ラプンツェル。
ガラスの靴に赤い靴。
パンくず、豆の木、クルミ割り。
ウサギとカメと青い鳥。
チクタクワニにロック鳥。
ここはすてきな絵本の世界。
みんな仲良く夢の中。
おとぎ話はまだまだ続く。
あなたの心臓、止まるまで。
☆ ☆ ☆
「ようこそ皆様。今回は私、クララマリーがご案内します」
トレードマークの白い帽子を取り、クララマリー・アイゼンバウム(巡るメルヒェンの旅人・f19627)はグリモアベースに集まった猟兵達へ深々と一礼した。
だが笑顔を浮かべたのも束の間、すぐにその眼差しは真剣なものへと変わる。
「今回、皆様に向かっていただくのはアリスラビリンス――『絶望の国』です」
グリモアを内蔵した銀時計を掲げ、クララマリーは己の予知を語り始めた。
「アリスラビリンスに召喚されたアリスが、深い絶望によってオウガへと変異した時。
アリスの『扉』が存在する国も、絶望を反映した悪夢の世界へと変貌してしまいます」
それが『絶望の国』。かつてアリスだったオウガ、その心の闇が塗り替えた世界。
「今回の国も例外ではありません。一人の少女がアリスとして呼び出され、訳も分からないままオウガに追い回されて、最後には脱出を諦めオウガに成り果ててしまった……」
自分自身もアリスラビリンスからの生還者であるクララマリーの表情は暗い。
「本当はこうなる前に助けてあげれば良かったのですが……嘆いても仕方ありませんね。
オウガを人間に戻す術はありません。ただ、絶望を和らげることはできるはずです」
絶望の国は存在するだけで際限なくオウガを生み出す『オウガのゆりかご』でもある。
これ以上、悪夢の連鎖を起こさないためにも、この国は終わらせなければならない。
最優先なのは絶望の国の主、かつてアリスだったオウガを撃破し、消滅させること。
その上で、少しでもオウガの苦しみを取り除いてほしいとクララマリーは口にした。
「皆様が向かう絶望の国は、変貌する前は『絵本の国』と呼ばれていたようですね。
今はアリス自身が絵本のオウガ『幻創魔書』と化し、物語の内容を具現化しています」
禍々しく捻じ曲げられたおとぎ話の住人で溢れかえる光景は、まさしく悪夢そのもの。
そしてこの『絵本のオウガ』こそがアリスの絶望の象徴だと、クララマリーは話す。
「おぼろげな予知ですが……アリスだった少女が一番恐れていたのは、自分が元の世界の人々に忘れられてしまうことだったようです。絵本の中の存在ならば、お話が続く限り忘れ去られることはない……そういう思いが、終わらない絵本の悪夢を呼んだのでしょう」
歪んだ形でも構わないから、自分のことを覚えていてほしいという悲しい願い。
ただ倒すだけでなくその魂を癒やすことができれば、絶望の国は自ら崩れ去るだろう。
「彼女について分かっているのは、かつて『ルカ』という名前だったということだけ。
皆様には辛い思いをさせてしまいますが、どうか絵本に結末を与えてあげてください」
クララマリーが一礼するのと同時に銀時計が作動し、猟兵達を絶望の国へ送り出す。
滝戸ジョウイチ
滝戸ジョウイチと申します。
今回はアリスラビリンスが舞台のシナリオとなります。
歪んだ絵本の国に飛び込み、その物語を終わらせてあげてください。
●シナリオ概要
絶望の国の主である『元アリスのオウガ』まで辿り着き、打倒してください。
オープニングで言及されている『アリスの絶望を和らげたか』がシナリオの成否を左右することはありませんが、ボス戦以降の展開に影響を与える可能性があります。
●舞台について
醜く変貌した『絵本の国』です。
オウガの能力によって実体化した物語の住人が徘徊し、侵入者を狙います。
また内部では新たなオウガが次々に生まれ、目覚めの時を待っているようです。
●今回のアリス
名前を「ルカ」という少女であること以外、出身世界含め全て不明です。
他人から忘れられることを酷く恐れており、オウガ化の一因にもなりました。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。
第1章 冒険
『危険が危ない猟師の森』
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POW : 自らが的になって銃を受け止める事で、皆を守ります。
SPD : 森に潜んでいる猟師を探し出して処理していきます。
WIZ : 猟師の死角となる場所や、狙撃ポイントを割り出して猟師の行動を予測します。
👑11
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ようこそ、素敵な絵本の国へ。
お客さんなら大歓迎。住人総出でお出迎え。
森の中からプレゼント。鈍く輝く鉛玉、四方八方撃ちまくり。
あなたの全身、食い破る。
▼ ▼ ▼
猟兵達が転移してきたのは、『絶望の国』の中心に位置する奇妙な森だった。
鋭いトゲを生やしたイバラが茂り、拗くれた巨大な豆の木があちこちにそびえ立つ。
しなびた実をつけたリンゴの木があると思えば、季節外れのクリスマスツリーまで。
まるでおとぎ話の世界をでたらめに混ぜ合わせたように無秩序な森だ。
この世界の主であるオウガが待つはずの最深部へと、猟兵達は用心深く進んでいく。
だが、突然に放たれた鉛玉がすぐそばをかすめて近くの葉を散らした。
どうやら森に潜むおとぎ話の猟師たちが、一斉に狩りを始めるつもりのようだ。
このまま何の対処もしなければ、いずれ蜂の巣にされてしまうだろう……。
ローズ・ベルシュタイン
WIZ判定の行動
アドリブや他猟兵との共闘歓迎
■心情
絶望の国、ですか。絶望の先には何もないのに、悲しいことですわね。
せめて、絵本に素敵な結末を与えてあげたいですわ。
■行動
猟師の位置を【聞き耳】で割り出しますわね。
その際は【第六感】で気配も察知しますわ。
その後【地形の利用】で猟師の死角となる場所を進みますわね。
また、【迷彩】で森の中に溶け込む様にして猟師の目を欺き
もし狙撃されても【見切り】で避けたり【盾受け】で防御しますわ。
森の中で猟師を発見したら、『夕暮れ時に薔薇は踊り咲く』を使用し
【気絶攻撃】で敵を倒し、騒ぎを大きくしない様に心掛けますわ。
「このまま何もせず狩られる訳にはいかないですわよ」
ノア・ブラン
なんて悲しい世界でしょう
目覚めることのできない悪夢なら、終わらせるのがせめてもの情け
悪い猟師がいなくなれば少しは穏やかな夢になるでしょうか
【SPD】
「兎がいつも狩られるとは思わないことです」
焦らず紅茶を楽しみましょう
遅い鉛玉など恐るるに足らず
私の<野生の勘>と<逃げ足>で避けてやるのです
猟師を見つけたらハートアタックを叩きこみます
全ての魂が安らかならんと<祈り>を込めて
他の猟兵が近くにいるなら連携歓迎なのです
息を殺し、足音を殺し、気配を殺して、猟師たちは忍び寄る。
手に手に鉄砲、すなわち物語を終わらせる力を有した凶器を持って。
猟師とは人を撃つ者ではない……そんな道理などこの国では何の意味も持たない。
ここは絶望の国で、侵入者は獲物に他ならず、猟師は己の仕事を成すだけだから。
「――とはいえ、焦ることはありません」
鬱蒼と茂る森の中、姿無き狩人たちの殺気を浴びながら、ノア・ブラン(時計ウサギの探索者・f20945)はウサギの前足で器用にカップを持って優雅に紅茶を嗜んでいた。
可愛らしい衣装を纏った二足歩行のウサギがティータイムを楽しんでいる姿は、この歪んだ森よりもよほど本来のアリスラビリンスらしい光景と言えるかもしれない。
裏を返せばこの状況においては場違いとも思える行動。だがノアは別段焦りを見せることもなく、即席のティーテーブルを挟んで向かいに座る少女にも紅茶を勧めた。
「さあ、ローズさんもどうぞ」
「ありがたくいただきますわ。……ん、良い茶葉をお使いのようですわね」
生まれ育った高貴な家柄に相応しい洗練された所作でティーカップを手に取り、ローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)は讃辞を口にした。
その優雅な物腰は、時計ウサギのノアとは別の意味でおとぎの国によく馴染む。
「それにしても絶望の国、ですか。絶望の先には何もないのに、悲しいことですわね」
目を伏せながら呟いたローズの言葉に、ノアは心からの同意を籠めて頷いた。
「目覚めることのできない悪夢なら、終わらせるのがせめてもの情けでしょうか」
「ええ……せめて、絵本に素敵な結末を与えてあげたいですわ」
ティーカップを置いたのは、ほとんど二人同時。
その瞬間、周囲の木々が一斉にざわめき、無数の銃声が鳴り響いた。
「――遅い鉛玉など恐るるに足らず。ウサギがいつも狩られるとは思わないことです」
だが、通常の『五分の一』の速度で直進する鉛玉を、ノアは跳躍で容易く回避した。
先程までのティータイムは単なる休憩ではなく、れっきとしたユーベルコード。
紅茶を飲んでいる者以外の対象全てを減速させる効果で、敵の奇襲は好機に変わる。
「お茶をいただきながら音と気配を探っていましたが、答え合わせは完璧でしたわね」
深紅の薔薇が刻まれたラウンドシールドで弾丸を弾きつつ、ローズは周囲に目を走らせた。流石にこの場から目視は出来ないが、これまでの情報にたった今受けた銃撃の射線を加えて考えれば、漁師達が潜伏している場所は割り出せたも同然だ。
「美味しい紅茶をご馳走様。名残惜しいけれど、お暇させていただきますわ」
ノアに目配せしてから、ローズは長剣『夕の憩い』を構えて茂みに身を投じた。
複数の動く気配。狙撃が失敗したのを受けて、漁師達が移動を始めたのだろう。
「ですが、このまま何もせず狩られるわけにはいかないですわよ」
既に相手の位置は把握している。音と気配で移動する方向も割り出せるだろう。
ローズは敵の死角から死角へ森の中に溶け込むように動き、同時に愛剣へ魔力を送る。
「夕焼け色の薔薇よ、数多に咲き誇りなさい!」
持ち主の鮮やかな髪と同じ色をした刀身が、その周りを彩る無数の造花と共に、夕暮れ時の空のような橙色の薔薇の花びらとなってローズを中心に美しく舞い踊る。
その花びらが夕焼け色の花吹雪となって吹き荒れた時、全ては音もなく終わっていた。
一瞬で意識を刈り取られた猟師達の目には、鮮やかな橙色が焼き付いたことだろう。
一方、ローズと別れたノアもまた、残る猟師を相手取っていた。
ウサギならではの逃げ足と野生の勘で、鬱蒼と茂る森の中だろうと軽快に走り回る。
その動きに気を取られた猟師の一人に、空飛ぶプリンセスハートが叩き込まれた。
「たとえ猟師が相手でも、私は追う方のウサギです!」
狙撃を凌がれた時点で猟師の策は破れていた。獲物を狩る側の優位は既に無い。
ハートアタックが飛び交い、一転追われる側になった猟師達は次々倒れていった。
「こうして悪い猟師がいなくなれば、少しは穏やかな夢になるでしょうか」
ノアはこの世界の造り主のことを思い、祈る。全ての魂よ、安らかならんと。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
メアリー・ベスレム
そんな絶望、知らないけれど
殺せと言うなら殺しに行くわ
まぁ怖い
ぐるり周りを取り囲まれて
黒い銃身、突き付けられて
哀れに狩られてしまうのね
だけれどどうかご用心
あなたが撃つのはホントにウサギ?
それとも……
多少の被弾は【激痛耐性】で我慢できるけれど
それでもこの数をお相手なんてしていられないからと【逃げ足】で
撃たれる方向と、【聞き耳】で銃声から猟師達の凡その位置を把握
追い込まれる【演技】をしながら風下へと移動する
そこから【獣の嗅覚】で臭いを嗅ぎ取る
火薬の臭い、それにあなた達の汗の臭い
いいえ、絵本の国ならインクの臭いかしら?
ここから先は攻守交代
メアリがあなた達を食い破る番よ
だって、メアリはオオカミだもの
奇妙に歪んだ森の中、散発的に響く銃声。
それは狩りの始まりを告げる音か、あるいは命の終わりを呼ぶ音か。
そしてここにも、獲物として追い立てられる少女がひとり。
「まぁ怖い。ぐるり周りを取り囲まれて。
黒い銃身、突き付けられて。哀れに狩られてしまうのね」
歌を口ずさむように呟きながら、メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は木々の合間を縫って逃げ惑う。黒兎を模したヴェールをなびかせながらひた走る少女の姿を見れば、誰もが彼女をただ狩られるだけの無力な獲物と思うに違いない。
むき出しの肩を掠めるように鉛玉が飛び、メアリーは小さく悲鳴を上げて飛び退くと、怯えた様子で別の方向へと逃げ始めた。その後を身を隠しながら猟師たちが追う。
今やメアリーを襲う銃撃は、獲物をじわじわと追い詰めることを狙いとしたものに変わっていた。一撃で仕留めてしまってはあまりにも味気ないとでもいうかのように。
それはこの狩りが万に一つも失敗しないと、猟師たちが考えつつある証でもある。
無理もない。怯え惑うこの哀れな黒兎を、容易く狩れる獲物と思うのは自然なことだ。
もっとも、それは……。
「だけれどどうかご用心。あなたが撃つのはホントにウサギ? それとも……」
この少女が本当に見た目通りの無力な弱者であれば、の話だが。
狩人たちは獲物を甘く見るあまり、自分たちが誘導されていることに気付かない。
自分は風下、敵は風上。メアリーは常にその位置関係を保って逃げてきたことにも。
そして、これまでの弱々しい弱者の振る舞いが、全て演技だったことにすら。
猟師たちは気付かず、それゆえに想像しない。獲物が反撃する、その可能性を。
「くんくん、ふんふん……」
鉄砲から漂う火薬の匂い、猟師自身の体が発する匂い。風上から風下へと空気に乗って流れたそれらの匂いを、メアリーは鋭敏な『獣の嗅覚』で嗅ぎ分けていく。
「あら、絵本の国の住人なのに、インクの匂いはしないのね?」
残念そうなのは口調だけ。銃声と射線と匂いから『獲物』の位置など容易く分かる。
「ここから先は攻守交代。メアリがあなた達を食い破る番よ」
そう呟いたメアリーの手には、分厚く無骨な肉切り包丁が握られていた。
「――だって、メアリはオオカミだもの」
かつてアリスとして不思議の国に呼ばれた時と同じに、今の彼女は狩人をも狩る獣。
たとえこの世界が、ひとりのアリスの絶望によって歪められた国だとしても。
「そんな絶望、知らないけれど。殺せと言うなら殺しに行くわ」
無力な獲物とは自分のことだと猟師たちが思い知るまで、さほど時間はかかるまい。
成功
🔵🔵🔴
アイリス・ラトウィッジ
ルカ…どんなに怖かっただろう、どんなに帰りたかっただろう
私もアリスだもの、少しは分かるよ
今のあなたの苦しみを少しでも和らげられたらいいのだけど
まずはここを切り抜けないとね
「狙いやすそうな場所って言うと、高い所とか?」
うーん…
つまりは猟師の場所が分かればいいのよね?
【ガラスのラビリンス】で迷路を出現
ガラスの壁なら弾も防げそうだし、撃ってきた場所も分かるんじゃないかしら
仲間の攻撃の邪魔はしないように、迷路を解除したりして連携できたらいいなぁ
なお成功するなら些細な失敗はやむを得ないものとします!
――アリスラビリンスは不条理の世界。
この世界を訪れた者なら、誰もが大なり小なりその事実を実感するだろう。
オウガの餌としてこの世界に召喚された『アリス』であれば、なおのこと。
何も知らされずに連れてこられ、ただ理不尽な死のみを要求される。
その過酷な現実へと、全てのアリスが立ち向かえるわけではないのだ。
森に潜む猟師から身を隠しながら、アイリス・ラトウィッジ(アリス適合者の王子様・f20943)はこの絶望の国の主になってしまった『ルカ』という少女のことを想う。
「ルカ……どんなに怖かっただろう、どんなに帰りたかっただろう」
同じように『アリス』として召喚された過去を持つアイリスだから持ち得る共感。
信じることを諦めない強さと困難に立ち向かう勇気を備えていたから、アイリスは猟兵としてアリスラビリンスから生還できた。だが、そうやって過酷な運命に抗った彼女だからこそ、アリスを追い詰めるこの世界の恐怖と絶望を誰よりも知っているつもりだ。
「今のあなたの苦しみを少しでも和らげられたらいいのだけど……」
しかし、そんな感傷に浸る時間すらも、追手は許してくれないらしい。
アイリスは愛剣の柄を握りしめながら、周囲に油断なく目を走らせた。
「まずはここを切り抜けないと。猟師の場所が分かればいいのよね」
そう呟いたアイリスを狙って放たれた弾丸。だがそれは見えない障壁に弾かれた。
ユーベルコード『ガラスのラビリンス』が作り出した超硬度のガラスの壁だ。
迷路を障壁として防御に使い、自分たちの行動を阻害しないよう即座に解除。
それを繰り返しながら、アイリスは弾いた銃撃の射線から敵の位置を推測する。
「よし、これなら他のみんなも援護していけそうね」
追われていた黒兎フードの少女を再出現させた不可視のガラス壁で守ってから、アイリスは他の仲間の元へも向かった。直接敵を倒すだけが戦いではない。困っている人に躊躇わず手を差し伸べる……それもまた、アイリス・ラトウィッジのひとつの戦い方だ。
「そして……ルカ、私達は必ずあなたのところに行くからね」
他の猟兵たちが攻撃に転ずる気配を感じながら、アイリスは目指すべき先を見つめた。
成功
🔵🔵🔴
風見・ケイ
夏報さん(f15753)と。
(転移時点で赤眼の螢。夏報は呼び捨て)
猟師っつーと、赤ずきんか?
奴らが撃つのは狼だが[スナイパー]が撃つのは人間だ。
役割を果たそう。
【終末を共に】
物語開始早々だが猟師の出番は終わりだ。
ライフルを二発ずつ。初撃で鉛玉を撃ち落とし、追撃で猟師を撃ち抜く。
森に潜んでいようが関係ない。奴らの『終末』が視えるから。
射線も視えるし避ければ一発ずつで済むんだが、夏報に流れ弾が当たりでもしたら――
――ッ、(気配無く声を掛けられ一瞬強張る)
こんな物(ライフル)抱えて自覚はあるが……ハ、違う意味で溶け込んでる奴に言われてもな。
……こんな硝煙塗れの奴に絵本なんぞ、それこそ似合わんだろ。
臥待・夏報
風見くん(f14457)と。
(彼女の別人格のことは訓読みをもじったアダ名で呼ぶ)
童話に出てくる猟師って、やったらめったら強いのがお約束だもんな……
って訳でこっちもスナイパーを連れてきたぞ。これでどーだ。
見せてあげよう『茜のいろはにほへと』――夏報さん一流の『目立たなさ』を。
自分で言ってて悲しくなるけど、獲物ともお客さんとも認識されなきゃ撃たれっこないよ。敵が正確無比であればあるほど、尚更ね。
そういえば、『きみ』と一緒に出掛けるのって何気に珍しい気がするな。
正直、このメルヘンな世界にハードボイルドなホタルくんって、まるで似合ってなくて味わい深い……
ごめんごめん。
ねえ、君にも好きな絵本とかあるの?
「童話に出てくる猟師って、やったらめったら強いのがお約束だもんな……。
……って訳で、こっちもスナイパーを連れてきたぞ。これでどーだ」
「何が『これでどーだ』なんだ一体」
臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)の自信満々な様子を横目で見ながら、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)は手際良く攻撃準備を整えた。小口径高速弾を採用したマークスマン・ライフル。『Lily』という名を与えた愛銃のグリップはいつも通りよく馴染む。
「猟師っつーと、赤ずきんか? 奴らが撃つのは狼だが、スナイパーが撃つのは人間だ」
「つまり、猟師に狙われてる夏報さん達は人間じゃなかった?」
「違う。連中は人撃ちのアマチュアってことだ。俺がスナイパーの役割を果たそう」
夏報は一瞬きょとんとした後、得心したという風に大きく頷いた。
「さっすが。『ホタル』くんはハードボイルドだ」
ホタルと呼ばれたケイ――正確には多重人格者である風見・ケイの一人格である『螢』は短く「茶化すなよ」と答えながら、マークスマンライフルを油断なく構える。
「それより、奴らがこちらに気付いたのが『視えた』。そろそろ始めよう」
「りょーかい。それじゃ、見せてあげよう――夏報さん一流の『目立たなさ』を」
夏報のユーベルコード『茜のいろはにほへと(ハウ・トゥ・フェイド)』。彼女の輪郭が滲むように色褪せて、この奇妙な森の風景へと溶け込んでいく。
「自分で言ってて悲しくないか、それ」
「実は夏報さん的にも結構悲しかったり――」
その時には既に、螢にも彼女がどこにいるのか分からなかった。消えて無くなったわけでも、透明人間になったわけでもない。ただ、限りなく「いそうでいない」だけだ。
いくら相手が腕のいい猟師でも、獲物と認識されなきゃ撃たれっこない。
そして、狩人たちが狙いを螢一人に絞ったとき、『終末』はすぐそこに迫っていた。
「……物語開始早々だが、猟師の出番は終わりだ」
敵が息を殺して銃爪に指をかけ、正確無比な狙いで発砲する――螢はその時既に銃撃を『視て』いた。『終末を共に(デッド・スター・エンド)』は未来予知とその未来への攻撃からなるユーベルコード。視えていれば、銃弾の軌跡すら読み切るのは容易い。
異形と化した螢の右腕が燃え上がり、その焔は赤い瞳へと伝播する。右腕によって支えられた『Lily』の銃身もまた同様に熱を纏い、その力を弾丸へと宿らせた。
そして。螢は続けて二回、銃爪を引いた。撃ち出された銃弾は火の鳥のように舞い、自在に空を切って獲物を襲う。一発目の狙いは直前に猟師が放った鉛玉。既に『視て』いる弾丸を火の鳥は難なく弾き落とし、続く二発目が猟師の急所を正確に撃ち貫いた。
続けて次に視えた『終末』に従ってもう二発。同様に敵弾を弾き二射目で仕留める。
猟師一人につき二発。効率の良くないことをしているという自覚は螢にもある。
(視えてる弾は避ければ済む。だが万が一、夏報流れ弾が当たりでもしたら――)
「そういえば、『きみ』と一緒に出掛けるのって何気に珍しい気がするな」
「――ッ」
全く気配を感じない状態で声を掛けられ、螢の全身が反射的に強張った。
視えていた敵は二発ずつの射撃で一通り仕留めた。これ以上の攻撃は視えない以上、ひとまず危機は去ったと見ていいだろう。螢は息を吐き、声のした方へ視線を向けた。
程なくして螢にも、話しかけてくる夏報の姿が認識できるようになる。
「正直、このメルヘンな世界にハードボイルドなホタルくんって、まるで似合ってなくて味わい深い……」
「こんな銃(もの)抱えて自覚はあるが……ハ、違う意味で溶け込んでる奴に言われてもな」
「ごめんごめん。夏報さんの馴染みっぷりはちょっと次元が違ったね」
他愛ないやり取り。そんな中、夏報はふと思いついたように問いかける。
「ねえ、君にも好きな絵本とかあるの?」
螢は赤い瞳で夏報を見つめ返した。それから僅かに考える素振りを見せ、口を開く。
「……こんな硝煙塗れの奴に絵本なんぞ、それこそ似合わんだろ」
話は終わりだとばかりにライフルを担ぎ、螢は目的地の方角へと歩き始めた。
「そういうものかなぁ」
「何か言ったか?」
「なーんにも。さ、行こ行こ。この先には新たなるメルヘンが二人を待ってるぞ」
夏報が小走りで追いついて隣に並び、二人は絶望の国の最深部へと歩みを進めていく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
スミンテウス・マウスドール
アリスが悲しんでる気配をさっち。
ルカ。きっと可愛いアリスだったんだろうねー。
…でも、こんなバンバン撃たれる中で進むなんて絶望。
さすが絶望の国。
ネズミ狩りは勘弁して欲しい。
[オーラ防御]を展開して進みましょー
さすがに全部防げる気はしないので。[見切り]でわかるものは玉を避けて。
アリス、アリス。
可愛いアリス。愉快な仲間は君のため。
悲しい絵本は誰のため。
(アドリブ他歓迎)
月詠・莉愛(サポート)
『あの……宜しくお願いしますね。』
オラトリオのシンフォニア×聖者、14歳の女です。
普段の口調は「丁寧口調(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、独り言は「普通かな(私、~さん、ね、わ、~よ、~の?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
大人しくて口数が少ないですけど、心優しく
動物や植物などの自然が好きな少女。
争い事は苦手ですけど、依頼の成功の為なら戦う事も厭わないです。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
銃声が響く歪んだ森の中を、小さな眠りネズミが奥へ奥へと進んでいた。
「こんなバンバン撃たれる中で進むなんて絶望。さすが絶望の国」
ネズミ狩りは勘弁して欲しいと呟きながらも、スミンテウス・マウスドール(だれかが視てる夢・f25171)はいつもと変わらない表情のまま、軽快な足取りで歩いている。
オーラで身を守りつつ、かわせそうな弾は器用に避けながら前へ前へ。
数歩遅れて、月詠・莉愛(銀の月を謳う・f16320)は自分とスミンテウスを狙う猟師に光の矢を放って応戦しつつ、小走りでその後を追いかけていた。
「……ええと、こちらの方角で間違いないのでしょうか?」
「アリスが悲しんでる気配をさっち。なので、ばっちりです」
隣に追いついた莉愛の横顔を見上げながら、スミンテウスは進む先を指さした。
「アリスの気配……愉快な仲間の方には、そういうものが分かるのでしょうか」
「アリスっぽいなら何となく。ちなみにお姉さんも美人なのでアリスっぽいです」
どこまで本気なのかよく分からない口調でそんなことを言いながらスミンテウスはどんどん進んでいき、思わず立ち止まりかけた莉愛は慌ててそのスピードに合わせた。
想像以上に掴みどころがない少年だが、こんな小さな子を放っておけない。
森のあちこちで散発的に響いていた銃声は、いつの間にか聞こえなくなっている。
猟兵達によって一掃されたのか、敵わないと見て逃げ出したのか、それとも猟師の縄張りを抜けただけなのかは分からないが、ひとまず脅威が去りつつあるのは確かなようだ。
森の中で散り散りになった仲間達とも、恐らく目的地で合流できるだろう。
「……ルカ。きっと可愛いアリスだったんだろうねー」
丸太のように太い豆の木のツルを乗り越えながら、スミンテウスがふと呟く。
「あ、もしかしたらお姉さんのほうが断然可愛いかもしれないですが」
「あはは……でも、そうですね。きっと普通の可愛い女の子だったのでしょう」
ルカという少女はきっと、本当に何処にでもいるような少女だったのだろう。
そしてアリスラビリンスという理不尽で不条理な世界は、そんな何処にでもいる当たり前の人間が『アリス』であることに対してあまりにも厳しい。
脱出を諦めてしまったという事実が、オウガと成り果てた少女の内面を語るようだ。
どちらが先というのでもなく、二人は次第に足を速めていた。
目的の場所が近付いているという実感が、無意識に自身を急がせているのが分かる。
恐らく他の猟兵達も、きっと同じようなことを感じているに違いない。
「アリス、アリス。可愛いアリス。
愉快な仲間は君のため。悲しい絵本は誰のため」
静けさを取り戻した森の中で、スミンテウスの独り言が歌のように響いていく。
▼ ▼ ▼
突然、木々に遮られていた視界が開けた。
森の出口まで辿り着いたということは、ここが『絶望の国』の最深部。
そして、その先にあるものは。
「村……でしょうか」
莉愛が思わず呟く。そこは先程までの森と同じように混沌とした村だった。
一見する限りでは、人の気配はない。だが、スミンテウスはまっすぐ走り出す。
「気配をさっち。そのままこっち」
その視線の先、広場に置かれたテーブルの上には――一冊の本。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 ボス戦
『『幻創魔書』飛び出す絵本』
|
POW : 『赤ずきん』の物語
【レベル体の漁師】と【レベル体の人食い狼】の霊を召喚する。これは【猟銃】や【驚異的なスピードの噛み付き】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 『アラジンとまほうのランプ』の物語
無敵の【飛び出す絵本の願いを叶えるランプの魔人】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ : 『ハーメルンの笛吹き男』の物語
【幻惑に陥れる濃霧】【幻惑に陥れる笛の音色】【レベル×5体の組み付く子どもたち】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
ここはゆかいなお話の村。
絵本の仲間が勢ぞろい。みんな仲良く暮らしましょ。
おとぎ話に終わりがなけりゃ、いつでも楽しくみんなと一緒。
あなたもここから、逃がさない。
▼ ▼ ▼
絶望の国の最深部。猟師の森を抜けた先には、奇妙に歪んだ村があった。
藁の家からお菓子の家まで、国も時代もバラバラの家が無秩序に並んでいる。
先程までの森と同じで、おとぎ話を考え無しに混ぜ込んだような印象だった。
そんな村とも呼べない空間の真ん中には広場があり、中央に巨大な扉があった。
あれが絶望の扉。この世界の核であり、かつてはアリスの扉だったもの。
そしてその扉の前には、一冊の絵本が置かれた場違いなティーテーブルがあった。
猟兵達が近付くと、絵本はひとりでに浮かび上がり、どこからか声が聞こえてくる。
『ここはわたしの夢の国。時の止まった終わらない国』
少女の声だ。それに合わせて絵本のページがめくれ、中から何かが飛び出してくる。
阻止する間もなく、絵本から登場人物が実体を持って次々に出現した。
『絵本の中は永遠がある! 独りぼっちはもうたくさん! 壊そうとしたら許さない!』
少女の声の絶望に呼応するように、実体化した登場人物達が襲いかかってくる。
本そのものを攻撃するには、この『物語』の群れを掻い潜らなければならない。
彼女に言葉を投げかけるなら、なおさら一筋縄ではいかないだろう。
ここが正念場だ。最後のページは、既に手を伸ばせば届くところにある。
ノア・ブラン
これは異な事を
絵本の中は永遠があると
…いいえ、それだけ絶望が深いのでしょう
ルカ、どんな物語にも、終わりがあるのですよ
そして終わりは、絶望ではないのです
【ドレスアップ・プリンセス(WIZ)】
舞い散る花びらを纏い霧を吹き飛ばします
攻撃は飛翔して回避です
私には<野生の勘>と自慢の<逃げ足>があるのです
絵本に向かってはそっとプリンセスハートを放ちます
些細な事ですが、出来るだけ怖がらせたくないのです
ルカ、記憶に残したい“あなた”は、オウガとしてのあなたですか?
人としてのあなたですか?
答えはどちらでも構いません
私は出会ったあなたをルカとして覚え、最後のページをめくるまでです
メアリー・ベスレム
あぁ、本当におバカなアリス
そんな絶望、「知らない」って言ったでしょう?
【ヴォーパルの獣】に変身して
ランプの魔人を食い破る【捕食】
あなたのホントの願いも叶えられない
そのクセに無敵だなんておかしいわ
だってそうでしょう?
あなたはだぁれ?
あなたはオウガ
ルカじゃないわ、もうアリスですらない
このまま殺されたらそうなってしまうもの
ホントのあなたは誰にも知られないまま
それでいいの?
そもそも「知らない」ものを「忘れる」だなんて
不思議の国だからってそんなおかしな話があるかしら?
忘れられたくないのなら、きちんと話して御覧なさいな
あなたのお話、あなたの絶望、あなたの全部
獣の耳で良ければ【聞き耳】立てて聞いてあげるから
幻創魔書のページがめくれ、次々に飛び出してくる絵本の登場人物たち。
この飛び出す絵本こそが、かつてアリスだった少女がオウガと化した存在。
もはや人の姿すら捨て去った絵本の中から、ただ少女の声だけが聞こえてくる。
『わたしはここが一番いいの! 永遠のままでいさせてちょうだい!』
絵本の中からのその声は、表情なんて見えないのに何処か悲壮な響きすら感じられた。
「これは異なことを。絵本の中は永遠があると……」
いいえ、それだけ絶望が深いのでしょうと、ノア・ブラン(時計ウサギの探索者・f20945)は独りごちた。それも、自分自身を絵本に変えてしまうほどの絶望。
『分かったふうな口利いて! わたしの気持ちも知らないくせに!』
少女の叫びに呼応して、幻創魔書から暗く淀んだ魔力が漏れ出してゆく。
言い返そうとしたノアだったが、それよりも先に隣の少女が呆れたような声を上げた。
「あぁ、本当におバカなアリス。そんな絶望、『知らない』って言ったでしょう?」
メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)はそう言って頬を膨らませた。彼女自身もかつてアリスラビリンスに召喚された『アリス』だからこそ言えること。ただ自分の絶望を押し付けるだけの叫びには耳を貸すことなく、ただ一言で切って捨てる。
「ルカ、どんな物語にも終わりがあるのですよ。そして終わりは、絶望ではないのです」
メアリーの後を引き継ぎ、ノアは諭すように語りかけた。だが『ルカ』という名前を聞いた途端、幻創魔書が息を呑んだかのような気配が伝わってきた。
「なんで、その名前……うるさいうるさい、わたしはとっくにルカじゃないもの!」
本から漏れ出した魔力が濃霧と化して周囲を包み、笛の音が鳴り響いた。
「やはり、言葉だけでは通じませんか」
視界の封じられた霧の中、ノアは持ち前の野生の勘を頼りに攻撃を回避した。襲ってきたのは虚ろな子供たちだ。まるで笛の音に操られているような無機質で生気の感じられない動き。ノアの脳裏に『ハーメルンの笛吹き男』の物語がよぎった。
「……ですが、彼女が動揺していたのも事実。諦めるにはまだ早いですね」
瞬間、舞い散る花びらが嵐となって幻惑の霧を吹き飛ばした。豪華絢爛な衣装へとドレスアップしたノアは、花びらを纏ったまま飛翔して子供たちの突進を回避する。
その直後、標的を見失った子供たちが不定形のイメージとなって掻き消えた。彼ら自身にも、爆発的な速度で接近した獣人の爪によって葬られたなど分からなかっただろう。
アリスであると同時に人狼。これが半人半獣と化し、月の欠片を加工したという聖印『狂月の徴』によって一時的に満月の力を引き出されたメアリーの姿。
彼女が自身をオオカミと呼んでいたのは、決して比喩などではないのだ。
『……素敵な無敵な魔神さん! 願いに応えて、やっつけて!』
その戦闘力に脅威を感じたのだろう、絵本の中から新たな登場人物が現れた。持ち主の願いを何でも叶えるランプの魔人が、幻創魔書の命を受けてメアリーに迫る。
筋骨隆々の外見は伊達ではなく、魔人は強化されたメアリーをも抑え込もうとした。
だがメアリーは怯まない。こうして力づくで来ること自体が、万能ではない証だから。
「あなたのホントの願いも叶えられない、そのクセに無敵だなんておかしいわ」
『おかしくなんてない! わたしの願いは、邪魔者が消えることだもの!』
叫ぶ幻創魔書を、上空から放たれたプリンセスハートがそっと打った。
花びらを纏ったノアが、宙を舞いながら飛び出す絵本へと語りかける。
「本当にそうでしょうか。あなたは自分の願いに気付いていないように思えます」
だってそうでしょう? と、今度はメアリーがノアの言葉を引き継いだ。
「あなたはだぁれ? あなたはオウガ。ルカじゃないわ、もうアリスですらない」
予知で知った通り、忘れられたくないというのが彼女の本当の願いなら。
彼女がオウガとして倒されてしまえば、彼女の願いは叶うことなどなくなるだろう。
「ホントのあなたは誰にも知られないまま……それでいいの?」
「ルカ、記憶に残したい“あなた”は、オウガとしてのあなたなのですか?」
それとも人としてのあなたですかと問うノアに、かつてアリスだったオウガは答えるための言葉を持っていないようだった。魔人の力がふっと軽くなったのがその証左。自分の願いを魔人が叶えてくれるということを、無意識に疑い始めているということだ。
「そもそも『知らない』ものを『忘れる』だなんて、そんなおかしな話があるかしら?
あなたのお話、あなたの絶望、あなたの全部。きちんと話して御覧なさいな」
「全て話してその上で、あなたがどんな形で記憶に残ることを望むとしても。
私は出会ったあなたをルカとして覚え、最後のページをめくるまでです」
メアリーが狼の耳を、ノアが兎の耳をそばだてる。話を聞く用意はあるというように。
『そんなこと言って、惑わしたって無駄なんだから!』
帰ってきた言葉は刺々しい。だが裏腹に、ランプの魔人は力のほとんどを失っていた。
無敵という幻想を打ち破るように、メアリーの鋭い牙が魔人の体を食いちぎる。
少しずつ、本当に少しずつ。猟兵たちの言葉はオウガへと届きつつあった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
スミンテウス・マウスドール
ずっーとは飽きますよー。
たのしいお茶会だってずーっとやれるのはきちがいです。
でもティーテーブルがあるならお茶をよういしないとしつれいなのでは?
『とってもとってもしつれいですね』
今日の紅茶はヤマネ漬け。茶菓子はオウガ。頭のわるいお茶会ですー。
スミンはポットに隠れて、カトラリーたちに攻撃してもらいます。やっちまえ。
隙があれば、ポットから出てダガーで[早業]攻撃。その際に敵からの攻撃は[オーラ防御]。
危ない時はポットに戻るをくりかえそー。
絵本のアリス、夢見るアリス。
最後のページはどこですか
(アドリブ他おまかせ)
ローズ・ベルシュタイン
WIZ判定の行動
アドリブや他猟兵との共闘歓迎
■心情
絵本の物語ですか、どんな物語にも必ずハッピーエンドはありますわ。
私たちは必ず、ハッピーエンドをつかみ取って見せます。
■行動
白銀勇霊装(UC)を使用して戦いますわ。
戦闘では、UCの甲冑に身を包み
攻撃は【マヒ攻撃】で敵の動きを止めつつ【2回攻撃】で一気に攻めますわ。
敵から受けた負傷はUC特性の【生命力吸収】で回復。
『ハーメルンの笛吹き男』の物語に対しては
濃霧を【衝撃波】で払いのけ、笛の音色は【狂気耐性】で耐え
組み付く子供たちは【範囲攻撃】や【気絶攻撃】で無力化しますわ。
「さぁ、物語もそろそろお仕舞にしましょう」
『あなた達ってば、とっても迷惑! 絵本はずーっと、終わらせない!』
少女の声が叫ぶ。それに呼応して、一度晴らしたかに見えた霧が再び満ち始める。
更に続々と絵本から溢れ出していく、新たなる童話の登場人物たち。
オウガとしての力は全く弱まっていない。たとえ猟兵達の言葉が届いていてもだ。
「ずっーとは飽きますよー。たのしいお茶会だってずーっとやれるのはきちがいです」
眠りネズミのスミンテウス・マウスドール(だれかが視てる夢・f25171)がそう返したのは、自分自身が生まれた「お茶会の国」を思ってのことだろうか。少なくとも見た目の上では今まで通りマイペースに、幻創魔書が置かれていたテーブルを指差してみせる。
「でもティーテーブルがあるなら、お茶をよういしないとしつれいなのでは?」
とってもとってもしつれいですね。スミンテウスがそう呟いた途端、ポットにカップ、スプーンにフォークと、ティーセットの一式が想像力によって具現化された。ただしどれもが、並んだ人がまるで小人になったように感じるほど大きなものばかり。
「今日の紅茶はヤマネ漬け。茶菓子はオウガ。頭のわるいお茶会ですー」
最後に降ってきた蓋を帽子のように被ると、スミンテウスはポットの中に飛び込んだ。
「ふふっ、今回は何かとティーパーティーに縁がありますわね」
ローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)は、独りでに周囲で踊り出す巨大なカップやスプーンを見て、思わず微笑みを浮かべた。
戦場らしからぬ光景ではあっても、ここ不思議の国には相応しいように思える。
「ならば私も、出席者に相応しい装いをしなければ無礼というもの!」
決然と前を向いたローズの全身を薔薇で彩られた甲冑が覆う。『白銀勇霊装』――薔薇の名はアルヌワブラン。聖なる乙女を早期させる名を持つ花が、白く輝きし鎧を飾る。
鎧を纏ったローズは、前を見据えたまま夕焼け色のロングソードを抜き放った。
「それでは、お茶会を始めましょう。援護はお願いしてよろしいですわね?」
「がってんです。お姉さんもなかなかアリスっぽいので」
「……? 言葉の意味はよく分かりませんが、お願いしますわ!」
ポットの蓋を被ったまま顔だけ出したスミンテウスに目配せし、ローズは駆け出した。
「さぁ、物語もそろそろお仕舞いにしましょう!」
ローズが放つ気迫が衝撃波となって、幻惑の霧を一瞬にして吹き散らす。
その霧に紛れて近付いていた子供たちを気絶攻撃で纏めて沈黙させ、更に前へ。
『どうしてお口が大きいの? それはあなたを食べるため!』
だが幻創魔書から新たな影が飛び出し、俊敏な動きでローズに組み付いた。耳まで裂けた口に並ぶ鋭い牙。おとぎ話における恐るべき脅威、人食い狼だ。
驚異的なスピードで繰り出される噛みつきが、鎧で覆われたローズの肩口を襲う。
「……っ、この……!」
「カトラリーたち、やっちまえー」
スミンテウスの指示で飛んできた巨大なケーキフォークが狼の背中に突き刺さり、ティースプーンがフルスイングで狼の頭を殴りつけた。敵が怯んだ隙をついてローズは牙を引き剥がし、白銀勇霊装の負傷に反応する戦闘力増強をも込めた一撃でとどめを刺す。
「助かりましたわ!」
「なんのなんの。もひとつおまけもつけちゃいましょー」
その言葉に反応したのか、ソーサーに載ったティーカップが滑るようにやってきた。
意図を察したローズがその中に飛び込むと、カップは最大速度でオウガへ突進する。
「まるで遊園地の乗り物ですわね」
頑強なカップは群がる雑魚を撥ね散らし、敵の最深部まで突入した。その加速をも利用して一気に跳躍し、ローズは夕焼け色のロングソードを手に幻創魔書へと肉薄する。
「どんな物語にも必ずハッピーエンドはありますわ。私達は必ず掴み取って見せます」
神速の刃が飛び出す絵本の動きを封じ、更に放たれた追撃がそのページを斬り裂く。
本の姿だろうとオウガだ、本物の絵本のように一太刀で真っ二つになりはしない。
だが敵の抵抗は弱まった。ハッピーエンドはきっとこの一撃の先にある。
「絵本のアリス、夢見るアリス。最後のページはどこですか」
ティーポットからひょっこり顔を出したスミンテウスが、また歌うように呟いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
風見・ケイ
夏報さん(f15753)と。
(慧に戻っている)
私があなたを忘れない。それはなにか違う気がして。
『誰でも』いいんじゃなくて、(元の世界の)『誰か』に忘れてほしくなかったはずだから。
この国をよく見て。絵本の住人たちは、あなたの『誰か』なの?
……終わらない夢の中では、永遠に独りぼっちだ。
『走馬灯』を見て、見せて、[情報収集]。
引き出せなければ写真から推理した後に【猫に噛みつく鼠】で過去を投げかける。
音色は子どもを撃つ拳銃の音で相殺。
幻惑は避けきれなければ[狂気耐性]で打ち消す。
口さえ動けば、言葉が届けば。
君の『誰か』をよく見て。忘れられたとしても、忘れなければいい。
君が思い出すんだ。君は、できるよ。
臥待・夏報
風見くん(f14457)と。
この【羊の皮】は一度視たものを忘れない。
君の存在は、ともすれば永遠に写真に残るだろう。
……でも、それで君が満足するとはあんまり思えないんだよね、夏報さんには。
さてさて。
ルイス・キャロルはたった一人の少女のために不思議の国のアリスを書いた。
語り継がれる物語には、宛先があるものなんだ。
君はいったい、『誰』に忘れてほしくなかったの?
猟師の射撃は致命傷にならない程度に【逃げ足】で対処。
狼が噛み付いてくれれば上々だ。
『通りすがりの走馬灯』
UCさえ発動できればそれ以上の傷は負わずに済むし――触れた以上は、君の過去を視せてもらうよ。
(写真には喋る口がない。後は任せたぜ、風見くん)
「本体の動きが止まった……仕掛けるなら、今しかありませんね」
風見・ケイ(星屑の夢・f14457)は纏わりつく子供たちに対して拳銃で応戦しながら、隣の臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)にアイコンタクトを取った。その両目は先程の森での赤ではなく、右目だけが青へと戻っている。それは彼女の人格もまた狙撃手の『螢』ではなく、主人格である探偵の『慧』に戻っているということを示していた。
その赤と青の視線を送られた夏報はというと、登場人物たちの攻撃をひょいひょいと身軽にかわしながら考えを巡らせていた。オウガ本体へ与えられたダメージゆえか、召喚された登場人物たちの動きも精彩を欠いていて、思案しながらの回避も難しくはない。
「この『羊の皮』は一度視たものを忘れない。ともすれば永遠に写真に残るだろう」
羊の皮とは、夏報が持つアルバムと無数のポラロイド写真の集合体。その写真の一枚として、かつてルカと呼ばれたオウガの存在を記録に留めることは、出来る。
「……でも、それで彼女が満足するとはあんまり思えないんだよね、夏報さんには」
「彼女が既にオウガの姿だから、ということではなく?」
「それもあるけど、それだけじゃなくて。あの子の救いになるのかな、ってさ」
んー、と考えてから、夏報は頭一つ分ほど高いところにある慧の顔を見上げた。
「風見くん。ちょっと無茶するけど、いい?」
「駄目って言ってもやめないでしょうに」
「もっともだ」
夏報はオウガに声が届く距離まで走り、慧は拳銃で牽制しながら随伴する。
『いったいなんなの、なんなのよ! わたしと何を話すというの?』
「おいおい、それは君次第だろ。夏報さんの知りたいことは、君の中にしかないよ」
幻創魔書は明らかに消耗している様子だった。戦闘でのダメージのみならず、精神的にも動揺が隠せなくなっている。彼女の絶望に向き合うのならば、今をおいて他にはない。
夏報は「さてさて」と呟き、それからオウガを真正面から見据えて口を開いた。
「ルイス・キャロルはたった一人の少女のために不思議の国のアリスを書いた。
語り継がれるような物語には、得てして宛先があるものなんだ」
そこで一旦言葉を区切り、夏報はまっすぐにその言葉を投げかける。
「君はいったい、『誰』に忘れてほしくなかったの?」
水面に劇薬を垂らしたように、問いがオウガにもたらした変化は劇的だった。
「そんなの、そんなの、決まってる! わたしは、わたしは……うう……」
少女の声は、彼女自身も混乱しているということをはっきりと伝えてくる。恐らくは彼女も自覚していなかったのだ。忘れられたくないという想いに、対象がいることなど。
そしてそれほどまでに大切な存在のことを、今の今まで考えもしなかったということ。
『……忘れてない! 忘れてなんかない! そんなの、最初からいなかったのよ!』
オウガが叫び、ページから飛び出した狼が俊敏な動きで夏報に襲いかかった。
だが夏報はかわそうとも防ごうともせず、逆に自分の腕を差し出すように掲げた。
「――『通りすがりの走馬灯』。触れた以上は、君の過去を視せてもらうよ」
狼がその腕に噛み付いた瞬間、夏報の全身は49枚の写真となって舞い散った。ユーベルコード『通りすがりの走馬灯(フラッシュバック・モンタージュ)』によって自身を変化させた写真は、触れた対象の過去を写す。この場合は狼を生み出した『彼女』の過去を。
(写真には喋る口がない。後は任せたぜ、風見くん)
その思いすら今は言葉としては伝えられないが、だからといって迷いも不安もない。
「……『螢』じゃないですが、私は私の役割を果たしましょう」
獲物を見失って戸惑う狼の眉間に流れるような動きで弾丸を撃ち込んでから、慧は素早く49枚の写真を拾い集めた。敵が更なる反撃をすることも警戒し、急いで目を走らせる。
最初の数枚は、彼女が既に『幻創魔書』に姿を変えて絶望の国を造る過程だった。 その後に続くのは、アリスラビリンスに召喚された彼女が、理不尽なゲームの中で逃げ惑う姿を写した写真。そこには確かに、オウガへと変じる前の姿が写っている。
(……この子が、『ルカ』)
まだ十代前半くらいの、何処にでもいそうな少女だ。服装は中世風のワンピース。布地や色合いの雰囲気から見て、出身はダークセイヴァーだろうか。彼女のアリスとしての記憶は正視に耐えないものも多かったが、今はそれよりも、必要なのは更に過去だ。
何枚かめくって『その写真』を確認し、慧は小さく「なるほど」と呟いた。
そして一番写りがいい一枚を抜き出し、かつてアリスだった存在へと突きつける。
「あなたは『誰でも』いいんじゃなくて、『誰か』に忘れてほしくなかったはず」
その写真に写っていたのは鉛色の空と朽ち果てた建物、アリスラビリンスに召喚される前のルカ――そしてもうひとり、同じ年格好の少女。顔つきはルカと似ておらず、また決まって自分の家の外で会っている。家族ではないだろう。だがその一枚だけではなく、何枚もの写真にその少女は写っていて、ルカはその子の前でだけ笑顔を見せていた。
「……この子が、あなたにとっての『誰か』なんだね」
返事はなかった。ルカ自身も思い出せないのかもしれない。だが慧が発動しているユーベルコード『猫に噛みつく鼠』は、推理を語った相手にそれが真実であると思わせる。そして過去を見る限りそれは紛れもなく真実で、彼女の記憶の底に存在するはずだ。
「この国をよく見て。絵本の住人たちは、あなたにとっての『誰か』なの?
……終わらない夢の中では、あなたは永遠に独りぼっちだ」
『う、うう……』
幻創魔書が、その中のルカが呻いた。そして、絞り出したような声が続いた。
『し、知っているはずなのに。忘れられたくなかったはずなのに――』
「君の『誰か』をよく見て。忘れられたとしても、忘れなければいい」
はっと息を呑む気配があった。忘れられることへの絶望からオウガと化した彼女にとって――「忘れられたとしても忘れなければいい」なんて、考えたこともなかっただろう。
「君が思い出すんだ。君は、できるよ」
封じられていた記憶が紐解かれ、時計の針は動き出す。最後のページは、すぐそこに。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アイリス・ラトウィッジ
絶望のま終わらせない
見ててねルカ
アリスは強いのよ
必ず希望への道を切り拓くわ
そしてあなたの記憶と共に、先へ進むよ
【アリスナイト・イマジネイション】!
かかってらっしゃい
私の鎧は何者にも貫けない
だから銃も狼も、怖くなんてないんだから!
私の剣は世界を変える為にこそ振るわれる
絵本を革命剣で両断する
ルカを縛る絶望を断ち切るように
独りぼっちじゃないよ
あなたが本の姿をとるのなら、私が読み手になるわ
ルカ、あなたの物語を聞かせてくれる?
▼ ▼ ▼
どうして忘れてしまっていたんだろう。
わたしはただ『あの子』に忘れられるのが、怖くて、辛くて、悲しくて。
それで何もかも諦めて、こんなことになってしまったっていうのに。
そんな大事なことさえ忘れて、ただ独りぼっちで、わたしは――
▼ ▼ ▼
『わたしの絵本……わたしの世界……う、うう……』
少女の葛藤に満ちた声が響く。その心に呼応するように、絶望の国が歪み始める。
他ならぬ彼女によって生み出された登場人物たちが、一体また一体と崩れていく。
使い手の精神に影響されるランプの魔人に至っては、既に煙となって消え失せていた。
――エンディングへのカウントダウンが始まっている。
「絶望のまま終わらせない。見ててねルカ、アリスは強いのよ」
消耗と葛藤によって半ば自壊の道を歩みつつある幻創魔書を見据え、アイリス・ラトウィッジ(アリス適合者の王子様・f20943)は革命剣を手にして一歩を踏み出した。
猟兵とオブリビオンとの戦いという観点ならば、既に勝負はついたようなものだ。幼い少女の精神はもはやオウガ自身の能力すら操れず、終わりはすぐ目の前にある。
だが、何もしなければただ終わるだけだ。ハッピーエンドに辿り着くことはできない。
だからこそ、見せつけなければならない。絶望に抗う、その力と意志を。
「必ず希望への道を切り拓くわ。そしてあなたの記憶と共に、先へ進むよ」
アイリスは決然と前に進む。その身に想像力が創り出した鎧を纏って。
「私の鎧は何者にも貫けない。だから銃も狼も、怖くなんてないんだから!」
『そんなの嘘よ! アリスなんて強くない、ただ寂しいだけだもの!』
泣き叫ぶ声と共に、狼が吼え猟師が銃爪を引く。だが、どちらもアイリスの言葉通りに彼女を傷つけない。アリスナイトの鎧は、己を信じる心が鍛え上げた鋼なのだから。
アイリスは一足飛びに踏み込んだ。滅ぼすためではなく、絶望に抗うために。
「私の剣は、世界を変える為にこそ振るわれる!」
まるで少女を縛る絶望を断ち切るように、革命剣が煌めいた。
『……時の止まった終わらない国も、もうおしまいなのね』
力を失って地に落ちようとする幻創魔書を、アイリスは優しく受け止めた。
おとぎ話はこれにて終わり。だけどもうひとつ、語られるべき物語が残っている。
「あなたが本の姿をとるのなら、私が読み手になるわ」
きっと今なら、彼女はもう一度向き合うことができるはずだから。
「……ルカ、あなたの物語を聞かせてくれる?」
▼ ▼ ▼
幻創魔書のページが独りでにめくれる。
その中から実体を持って現れたのはおとぎ話の住人ではなく、二人の少女だった。
年格好は二人とも十代前半くらいで、質素なダークセイヴァー風のワンピースを着ている。二人の少女のうち一人は内気そうで、もう一人は快活そうな表情を浮かべていた。
二人で石の塀に腰掛け、快活そうな少女が内気そうな少女に話しかける。
『まったくもう、ルカったら。今日も一人で帰ってきたのね』
『……だってわたし、教会のみんなとは上手く話せないもの』
ルカと呼ばれた少女がうつむくのを見て、もう一人の少女は呆れながらも微笑んだ。
『もっと自信を持ちなさいな。ルカの優しさは、この一番の親友が保証してあげるから』
それは特別なことなど何もないありふれたお話だった。両親を亡くした少女は教会の孤児院に引き取られ、そこで自分とは正反対の性格の女の子と仲良くなった。少女にとって彼女はたった一人の友達で、彼女がいればこの辛い世界でも生きていけると思った。
だからアリスラビリンスに召喚されて脱出できないと悟った時、その大事な友達がいずれ自分を忘れてしまうだろうということが、自分が死ぬことより恐ろしかった。
「だけど、違ったのね。あの子のぶんまで、私が覚えておけばいいんだもの。
それに、私のために泣き続けるなんて、笑顔が素敵なあの子には似合わないわ」
幻影が消え、絵本がまた独りでにめくられていく。
最後のページに描かれていたのは、手を繋いで微笑み合う二人の少女の姿だった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『夢喰いクラゲ』
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POW : おやすみなさい
いま戦っている対象に有効な【暗闇と、心地よい明かり】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD : 良い夢を
【頭部から眠りを誘う香り】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 気持ちよく眠って
【両手】から【気持ちいい振動】を放ち、【マッサージ】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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かつてルカと呼ばれたオウガ『幻創魔書』は、世界の主としての力を失った。
世界の中心にそびえ立っていた『絶望の扉』に、大きなひびが入っていく。
それはこの『絶望の国』そのものが崩壊する定めにあることを意味している。
猟師と戦った森が、童話の住人達の村が、音を立てて崩れていく。
だが、猟兵達の感覚は、崩れていく世界の中で新たなオブリビオンを感知した。
それはこの絶望の国を『ゆりかご』として誕生したオウガの群れ。
夢喰いクラゲと呼ばれるその奇妙なオウガ達は、人を自在に眠らせる力を持っている。
終わらない物語の世界を、より盤石なものとするための役割を担うはずだったのか。
いずれにしても、このオウガの群れを絶望の国の外に出すわけにはいかない。
それ以前に猟兵達が眠らされてしまえば、世界の崩壊に巻き込まれてしまう――。
『……もう夢なんて、見なくていいの。目覚める時が、来たんだわ……!』
その時、猟兵達へと近付いた夢喰いクラゲの一体目掛けて、牙を剥き出しにした狼が襲いかかった。更に幻惑の笛が動きを止め、猟師の鉄砲が続けざまに撃ち込まれる。
振り向いた猟兵達が目にしたのは、最期の力を振り絞る幻創魔書の姿だった。
既にそのページはぼろぼろと崩れつつあり、長くは保たないことが明らかだ。そうと知りながら少しでも時間を稼ぐために、彼女は物語の住人を操ってオウガを食い止める。
『ありがとう、見知らぬ猟兵さん。これは、せめてもの恩返し』
幻創魔書の……いや、『ルカ』の穏やかな声が猟兵達の耳に響く。
『最後にわがまま言うけれど……私のことを、覚えていてね』
彼女の言葉をも掻き消すように、轟音を立てて世界が崩れていく。
この国が消えて無くなる前にオウガを殲滅しなければ、脱出は困難になるだろう。
かつてアリスだった少女の願いと共に、最後の戦いが始まる。
ローズ・ベルシュタイン
WIZ判定の行動
アドリブや他猟兵との共闘歓迎
■心情
夢喰いクラゲですか、折角皆で築き上げてきた夢や物語
そう簡単に奪わせる訳にはいかないわ。
■行動
夕暮れ時に薔薇は踊り咲く(UC)を使用して戦いますわ。
【ダッシュ】でクラゲの群れの中に入り
UCを【範囲攻撃】も駆使して使用して戦いますわね。
【気絶攻撃】や【マヒ攻撃】も使用して、敵の動きを止めつつ戦いますわね。
敵のマッサージは、両手に触れない様に【見切り】で避けますわね。
動きを封じられても【気合い】で頑張って動くようにしますわね。
■戦闘後
ルカの事は決して忘れませんわ。
物語が存在する限り、その思い出は色あせたりしませんので。
音を立てて世界が沈む。鮮やかだった絵本の世界が、色褪せて崩れ去っていく。
少女にとっては長い長い夢の終わり。だが、その目覚めを良しとしない者もいる。
半透明の体をくねらせて、夢喰いクラゲの群れが猟兵達に迫る。
「折角皆で築き上げてきた夢や物語、そう簡単に奪わせる訳にはいかないわ」
世界の終わりを前にして、あくまでも凛として優雅に。ローズ・ベルシュタイン(夕焼けの薔薇騎士・f04715)はその夕焼け色の髪をなびかせて前へ進む。
必ず掴み取ってみせると決めたハッピーエンドは、すぐ目の前にあるはずだ。
「絶望の先には何もありません。だからこそ、希望の先のハッピーエンドが輝くのです。
その結末を邪魔するのなら、このローズ・ベルシュタインが相手になりますわ!」
一切臆することなく、ローズは夢喰いクラゲの群れの中へとその身を投じた。
同時に、魔力を込めたロングソードの輪郭が解け、オレンジ色の薔薇の花弁となってローズの周囲を舞い踊る。『夕暮れ時に薔薇は踊り咲く(ローズ・ワルツ)』――色褪せていくこの世界の中で、夕焼け色をした薔薇の嵐は際立って華やかなものに映る。
「さあ、目が覚めるほど美しく! 薔薇よ、鮮烈に踊り咲きなさい!」
ローズの意のままに、花弁の旋風が戦場を駆け抜ける。触れるものに気絶やマヒを与える特性を加えたオレンジ色の花弁が、本来は眠らせる側である夢喰いクラゲの動きを次々に封じていき、純粋な威力でもって打ち倒す……攻防一体の華麗なる動きだ。
だが敵の数もまた多く、それら全てを単独で封じるのは難しい。ローズは自分目掛けて伸びる腕状の触手を舞うようにかわしつつ、反撃の花びらを構え――放つよりも先に、彼女を守るように放たれた銃弾の雨が、立て続けに目前の夢喰いクラゲへと撃ち込まれた。
「森の中では私達を狙っていた鉄砲が……不思議な感覚ですわね」
クラゲを撃ったのは味方の猟兵ではなく、幻創魔書が呼び出した猟師の鉄砲だった。
その事実に内心少なからぬ驚きを感じながらも、ローズは薔薇の嵐で敵を追撃する。
そして呟く。満身創痍でありながらも戦うのを止めない、一人の少女へ向けて。
「決して忘れませんわ。物語が存在する限り、その思い出は色あせたりしませんので」
この世界はルカという少女の物語として幕を閉じようとしている。たとえこの世界が滅びても、その物語を忘れない限り、彼女が生きた証は消えてなくなることはない。
ローズには、夕焼け色の花びらの向こうで絵本の少女が微笑んだように感じられた。
大成功
🔵🔵🔵
臥待・夏報
風見くん(f14457)と。
(人に戻るタイミング測ってたら、お別れを言い損ねたな)
(ま、いいか。柄でもないし)
(さて。ルカくんの眠りを邪魔する訳にはいかないけれど――)
【放課後から逢魔まで】
――起きろ!
(風見くんの隣に「出現」して)
君まで眠っちゃ駄目だからね。
授業中じゃあるまいし、この状況で取り残されたら洒落になんないよ?
嫌な音だけど、我慢しててね。少なくとも安眠妨害になるのは確かだよ。
あとは【スケープゴート】の呪詛の炎で風見くんのUCを援護。
火に灯油を注いで範囲攻撃化するよ。一度に沢山燃やせた方が、風見くんの負担も少ないし。
……メルヘンが似合わない件については、夏報さんも他人の事言えないな。
風見・ケイ
夏報さん(f15753)と。
(慧のまま)
……さよなら、ルカ。きみの物語、忘れないから。
本を読み終えたら余韻に浸りたいのにな。
写真のままの夏報さんを飛んでいかないように仕舞い込む。
クラゲは拳銃で対処。どれほど効くかわからないけど、発砲音で目は覚めるかな、
……これは、夜と、星の灯、り――
――ッ!
……ありがとう、夏報さん。チャイムに起こされるなんて、何年ぶりかな。
大丈夫。眠気覚ましにちょうどいいくらいです。
【死と眠りは兄弟】
目覚まし以外にも影響はあるけど、呪詛耐性で耐える。
チャイムが耳に残るうちに、自らクラゲの手をとって燃やしたら、広がった炎に巻き込まれないように離れる。
さあ、みんなもう、おやすみ。
「……さよなら、ルカ。君の物語、忘れないから」
崩れていく世界の中で、風見・ケイ(星屑の夢・f14457)は小さく呟いた。
その手には、先の戦いで臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)が姿を変えた49枚の写真の束。少女ルカの封じられた記憶を解き明かす一助になった一連の写真には、彼女が短い人生の中で歩んだ軌跡が映されている。ただ一つ、最後のページだけを除いて。
「ただ君を忘れないんじゃない。君が手に入れた君だけの物語を、私は忘れない」
彼女と対峙した時、慧と夏報は「ただ彼女の存在を記憶に留めるだけでは、彼女は救われないんじゃないか」と考えた。それはきっと、その通りだったのだろう。だからこそ、彼女が自分自身と向き合って手に入れた物語の結末は、覚えておきたいと思った。
だが感傷的になる余裕すら、もはやこの世界は与えてくれないらしい。
「本を読み終えたら、余韻に浸りたいのにな」
風で飛ばされないように49枚の写真をジャケットの内ポケットに仕舞い込み、慧は拳銃を構えて振り返った。視線の先には、半透明の体を空中でくねらせる奇妙なオウガの姿。
夢喰いクラゲ。脱出まで一分一秒を争う状況で、このオウガの人を眠りの世界へと誘う能力は厄介極まりない。慧は手近な一体に狙いを定め、続けて三発、その傘へと銃弾を叩き込んだ。その銃声が、多少なりとも眠気覚ましに聞くことを期待しながら。
「当てても怯む様子がない……これでは、効いているのか、分から、な――」
最初は目眩がしたのかと思った。次に視界が暗く閉ざされていくのを自覚し、危機感を覚えた。だが、夜の闇とその向こうで明滅する星の灯り、不思議と心地よくて。
慧の体は、眠りに落ちようとしていることすら気付けないまま傾いていく。
▼ ▼ ▼
その今にも眠りに落ちそうな慧の、ジャケットの内ポケットで。
(うーん。人に戻るタイミング測ってたら、お別れを言い損ねたな)
写真の束に姿を変えたまま、臥待・夏報は考えていた。このユーベルコードはダメージに対して無敵だが、代わりに自力で動けないし口も聞けず、こういう時は不便だ。
(ま、いいか。柄でもないし。そういう役は風見くんのが向いてるしね)
一人で納得して、夏報は改めて状況を把握しようとする。束ごと仕舞われているので外の様子は直接分からないが、少なくとも慧の体は不安定なことになっているようだ。
(……さて。ルカくんの眠りを邪魔する訳にはいかないけれど――)
夏報は意識を集中させた。やることはシンプルだ。写真化の解除と、別のユーベルコードの即発動。イメージの中だけで、息を大きく吸い込み、そして叫ぶ。
「――――起きろ!!!」
直後、軋みを上げるような歪んだチャイムの音が周囲に響き渡った。
「――ッ!」
慧の体が、チャイムの音を聞いて反射的に跳ね起きた。夏報の『放課後から逢魔まで(ロスタイム・リミット)』は、この歪んだチャイムを聞いた者の精神を無差別に侵食する。味方に使うのは本来リスクが大きいが、今は四の五の言える状況でもない。
夏報は人の姿で慧の隣に出現(テレポート)し、その顔を下から覗き込んだ。
「授業中じゃあるまいし、この状況で取り残されたら洒落になんないよ?」
「……ありがとう、夏報さん。チャイムに起こされるなんて、何年ぶりかな」
「礼なんていらないさ……って、おい。昔は起こされてたのか意外だな」
軽いやり取りをしつつ表情を伺うと、やはり顔色が良くない。音の負担が大きいのか。
「嫌な音だけど、我慢しててね。少なくとも安眠妨害になるのは確かだよ」
「大丈夫。眠気覚ましにちょうどいいくらいです」
慧が大丈夫と言うからには大丈夫なのだろう。夏報は呪詛の炎を灯し、戦闘に備えた。
「チャイムの音が耳に残っているうちに……!」
精神を侵食する音を呪詛への耐性で跳ね除けつつ、慧は夢喰いクラゲの一体へそっと手を伸ばした。クラゲは歓迎するように手で応えたが、意思を持った行動かは分からない。
しかし、いずれにしても『死と眠りは兄弟(グッド・バイ・プレゼント)』 の発動は免れない。慈愛を示す行為がトリガーとなって発動するこのユーベルコードにおいて、手と手を取るという行いすらも「眠りへといざなう炎」を燃やす条件を満たしてしまう。
夢喰いクラゲの手から炎が燃え広がるにつれ、その身は耐え難い眠りに沈んでいく。
「よーし援護だ、こいつも喰らえー」
燃え上がるクラゲ目掛けて、隣の夏報が思い切り灯油をぶち撒けた。続けて『スケープゴート』――トラウマが具現化した呪詛の炎を投げかけると、熱で揮発した灯油へと引火して更なる炎を生み、慧の眠りを誘う炎と混ざり合って周囲をも巻き込んでいく。
「……メルヘンが似合わない件については、夏報さんも他人の事言えないな」
およそ子供には見せられない光景を前にして、夏報は思わず苦笑した。
「今度ホタルくんに、灯油と硝煙はどっちがメルヘンだと思うか訊いてみようか」
「構いませんが、あまり螢を困らせないであげてくださいね」
夢喰いクラゲ達を灼熱の眠りに誘い、崩れゆく国への送り火めいて炎は燃える。
「さあ、みんなもう、おやすみ」
慧が呟いた言葉は炎に煽られ、眠りに就こうとするこの世界に溶けていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メアリー・ベスレム
悲しいだけ、哀れなだけのお話だったらごめんだけれど
だって、この世界はそんなアリスばかりだもの
だけれど、最後にちゃんと戦ったあなたの事は
えぇ、確かに覚えておいてあげるから
メアリは良い夢なんてまっぴらごめんよ
血の通わないあなた達が見せる夢なんて
骨がなくってつまらないに決まっているもの
【凍てつく牙】のまとう冷気と魔氷の痛みで眠気を払って戦う
その痛みは【激痛耐性】で耐えられるから
まるでお水みたいなその身体
凍らせて動きが鈍ったところを肉切り包丁で叩き切ってあげる
ガチガチに硬くなったら【ジャンプ】して
落下とともに振り下ろす【重量攻撃】
きらきら飛び散る破片はきれいだけれど
シャーベットというには味気ないかしら
夢喰いクラゲを何度も撃ち続けていたおとぎの国の猟師が、遂に鉄砲を取り落した。
幻創魔書のページが一枚ばらばらと崩れ、猟師もまた崩れて影へと溶けていった。
この世界の、そして『ルカ』の終わりは近い。
「悲しいだけ、哀れなだけのお話だったらごめんだけれど」
メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)は終わる絵本を思い、そう呟いた。
「だって、この世界はそんなアリスばかりだもの」
自身もアリスだったメアリーの言うことは、確かにひとつの真理だった。ここアリスラビリンスにおいて悲劇は最もありふれたもののひとつで、日々どこかの国で新たな悲劇が生まれ続けている。アリスならば、皆何らかの悲劇を背負うとすら言っていい。
だけれど、とメアリーは続ける。
「最後にちゃんと戦ったあなたの事は、えぇ、確かに覚えておいてあげるから」
ありふれたアリスの物語は、最後の最後でようやく彼女だけの物語になった。
ただ悲しいだけのお話よりも、記憶に残すならそういうお話のほうがいい。
「さて、あなた達。メアリは良い夢なんてまっぴらごめんよ」
そう呟き、改めてメアリーは夢喰いクラゲの群れへと立ち向かった。
「血の通わないあなたが見せる夢なんて、骨がなくってつまらないに決まっているもの」
骨無しのクラゲでは、所詮人の心に届く夢など見せられないと。そう口にしたメアリーの全身が、超低温の冷気で覆われていく。『凍てつく牙(フロストファング)』――眠りへと誘うオウガ達の能力など歯牙にもかけないとでも言うように、その圧倒的な冷気は魔氷となって全身のあちこちから現出し、メアリー自身の体を傷つけてすらいた。
「目覚めるほどのこの痛み、夢よりよほど刺激的じゃない?」
魔氷が生む痛みすらも眠気覚ましとして利用しつつ、メアリーは愛用の肉切り包丁を掲げて疾駆した。距離を詰められることで『凍てつく牙』の範囲内に入ってしまった夢喰いクラゲの体表を、瞬く間に魔氷が覆ってゆく。ほとんど水分で構成されているのだろうその体は、程なくして熱を奪い尽くされ、氷漬けになるのも時間の問題だった。
「まずはその品のない手から、割って刻んでしまいましょうか」
メアリーが振るう肉切り包丁を、凍結しつつある触手はかわすことなどできない。手のひらを持つ一対の腕はほぼ根本から断ち割られ、反撃を封じられたままに魔氷で覆い尽くされていく。元々半透明の体が凍りつく様には、ある種の美しさすら感じられた。
「そして、鮮やかに華やかに。絵本の最後を飾りましょう」
人狼のバネを活かして跳躍したメアリーの、落下の勢いをも込めた渾身の一撃。それは一撃にて凍結した夢喰いクラゲの体を木っ端微塵に粉砕し、無数の氷片へと変えた。
「きらきら飛び散る破片はきれいだけれど、シャーベットというには味気ないかしら」
空中に散る輝きで、メアリーはこの終わりゆく世界を彩っていく。
大成功
🔵🔵🔵
スミンテウス・マウスドール
覚えているよ、可愛いアリス。
愉快な仲間はアリスのため。
………相性がわるい。普通に寝そう。
やべー眠い眠い。ポットに帰って寝たい。
きらきら光れ、コウモリさん。
コウモリ共に助けを依頼。
クラゲたちを誘惑して1箇所におびき寄せて。毒使いで動きを鈍らせよう。
武器はダガー。
[早業][フェイント]を使って、鈍ったクラゲたちを攻撃していきます。
眠……くない!
[オーラ防御]でマッサージはさせない。
ゆりかごはもう無くなりました。
ベイビーなクラゲはお眠り下さい。
(アドリブ他おまかせ)
アイリス・ラトウィッジ
ルカのこと、教えてくれてありがとう
この物語はハッピーエンドで閉じるのよ
無粋なクラゲに邪魔はさせない!
【POW】
白銀の鎧を纏い白銀の槍を携えます
どんな暗闇の中だって、この輝きは覆えない
攻撃毎に槍の形を変え、傘を貫き触手を斬り払います
そして頑張ってくれているルカの隣に立ちます
アリス同士の共同戦線もいいんじゃない?
ランスチャージの構えを取って、クラゲを貫く大きな槍に形を変えます
力を貸してくれてありがとう
ルカの事、もちろんこの先も覚えているわ
こんな派手な共闘して、忘れられるわけないじゃない?
さぁ、一気に行くよ
アリスの強さ、見せてあげましょう!
猟兵達の奮戦により、夢喰いクラゲは一体また一体と倒されていく。
だが状況は未だ予断を許さない。世界の崩壊が想像以上に速過ぎるのだ。
しかし殲滅よりも脱出を優先すれば、生き延びたオウガは他の国で人を襲うだろう。
崩れゆく世界にぎりぎりまで踏み留まり、このクラゲの群れを一掃するしかない。
もちろん、クラゲ達に眠らされてしまえば、そもそも脱出すら出来はしないのだが。
「やべー眠い眠い。ポットに帰って寝たい」
特にスミンテウス・マウスドール(だれかが視てる夢・f25171)にとって、数々の心地よい刺激で眠りに誘ってくる夢喰いクラゲは相性が悪すぎたようだ。
何しろお茶会の国生まれの眠りネズミ。眠気に弱いのも仕方がない。
「気をつけて! ここで眠ったら、それこそ永遠の眠りになってしまうわ!」
スミンテウス目掛けて伸びたクラゲの腕を、アイリス・ラトウィッジ(アリス適合者の王子様・f20943)のアリスランスが薙ぎ払った。既にアリスナイト・イマジネイションによって白銀の鎧を纏った彼女は、群れ集うオウガ達の前に凛として立ちはだかる。
「寝てそうで寝てないです。今日はアリスっぽいお姉さんによく会う日ですね」
「私は正真正銘のアリスなんだけどね……!」
クラゲの触手を跳ね除けながら、アイリスはその向こうを見据えた。視線の先には、限界を超えた状態でなお敵を足止めし続けている幻創魔書……『ルカ』の姿がある。
たとえ元は人間だったとしても、世界の敵であるオブリビオンが猟兵に手を貸すなど本来はあり得ないことだ。猟兵達との交わりが、起こり得ない何かを引き出したのか。
「……やっぱり、あのままにはしておけないよね」
スミンテウスからクラゲ達の注意が逸れたのを確認してから、アイリスは己の槍を突撃向きの形状に変化させ、真っ直ぐにルカの元へと駆け出した。
「行ってしまった。これはもしやアリスたちの危機では?」
残されたスミンテウスは、アイリスの背中を見送りながら首を傾げた。この距離から見るとはっきり分かるが、幻創魔書の元へとオウガ達が集まりつつある。彼女が消滅すればこの世界は完全に崩壊し、逃げ切ることが出来ると本能的に理解しているのだろう。
その渦中へと自ら飛び込んだアイリスもまた、危険な状況には変わりがない。
「――きらきら光れ、コウモリさん」
スミンテウスの呼びかけに応え、輝くコウモリ達が周囲に集まってきた。何やら甲高い声で叫ぶコウモリへと向かってスミンテウスは二言三言言い含め、その以来に納得したのか、コウモリ達は群れを成して夢喰いクラゲの元へと飛んでいく。
「これでよし。スミンはいつでもアリスの味方」
クラゲ達がコウモリの群れに気を取られているうちに、スミンテウスは愛用のダガーを取り出した。アリスの危機だ、コウモリ達だけには任せておけない。これまでもずっと、アリスの助けとなるために行動してきた。最後までその目的が変わることはない。
「覚えているよ、可愛いアリス。愉快な仲間はアリスのため」
スミンテウスは詠うように呟き、コウモリ達の後を追いかけて走り出す。
▼ ▼ ▼
「この物語はハッピーエンドで閉じるのよ、無粋なクラゲに邪魔はさせない!」
夢喰いクラゲの作り出す暗闇すらも眩く輝く白銀の鎧で打ち払い、変幻自在のアリスランスで触手を切り裂き道を拓いて、真っ直ぐに駆けつけたアイリスの視線の先。
かつてアリスだった絵本は、見る影もないほど傷つき、朽ち果てつつあった。
本来ならば猟兵に破れた時点で滅びているはずの体を、精神力だけで強引に動かしているのだろう。物語の住人を操る力も、当初とは比較にならないほどに弱っている。
「ルカ、アリス同士の共同戦線もいいんじゃない?」
アイリスは絵本を庇うように立ち、ランスを一撃で敵を穿てる形に変化させた。
『……わたしも、アリス……?』
「ええ、もちろんよ。だって力を貸してくれたじゃない」
ルカの返事は消え入りそうなほどにか細く、限界が近いことを否応なしに実感させられてしまう。アイリスは労りの言葉を飲み込み、迫る敵へとランスを突き立てた。
夢喰いクラゲ達が一斉に集まってくる。満身創痍のルカを庇いつつ、あれだけの数と戦えるだろうか。アイリスがそう考えた矢先、空から輝く何かが降下してきた。それがきらきらと輝くコウモリの群れだと理解した時には、既にコウモリ達はその光でオウガ達を誘惑して一点におびき寄せ、更に毒を浴びせてその動きを封じてゆく。
「眠……くない!」
コウモリを追って現れたスミンテウスは、動きの鈍った触手をフェイントでかわし、オーラ防御でいなし素早く懐に飛び込んで、夢喰いクラゲの傘をダガーで一気に裂いた。
更に毒を受けながらも眠りに引きずり込もうと腕を伸ばした一体をアイリスの巨大な槍が一突きで貫き、ルカの操るおとぎ話の狼がその触手をばらばらに食いちぎった。
「ルカのこと、私もみんなも、もちろんこの先も覚えているわ」
こんな派手に共闘して忘れられるわけないじゃないと、アイリスが微笑みかける。
「さぁ、一気に行くよ! アリスの強さ、見せてあげましょう!」
それぞれが力を振り絞る。物語の本当の終わりが、すぐ目の前まで近付いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ノア・ブラン
これはこれは、まだこんなにいましたか
立つ兎跡を濁さず
綺麗に片付けていきましょう
心優しき少女の傍に、物騒なクラゲは似合わない
さぁ、悪い夢は終わりです
【レプリカクラフト(SPD)】
ああ、もうこんな時間なのですね
部屋の大時計を見上げます
時計なんかあったか、ですか?
ええ、これは私の時計を模した物です
攻撃はこれを盾に防ぎます
周囲の方もどうぞ陰へ
プリンセスハートの尖端を矢じりのようにして飛ばします
情け容赦は致しません
時計が傷つく酷い音、騒がしいですね
でも、目覚まし時計にはちょうどいい
…忘れませんよ
あなたの魂が故郷に戻れますように
強く、強く<祈り>ます
時計の針が進む音がする。正確に時を刻み、曖昧な夢から現実に引き戻す音が。
ふと気付けば、戦場の一角に見上げるほど背の高い大時計が立っている。
子山羊どころか人間を容易に隠せそうな大きさで、最初からそこにあったかのように。
「ああ、もうこんな時間なのですね」
ノア・ブラン(時計ウサギの探索者・f20945)は大時計を見上げ、そう呟いた。
この時計はノアが自分自身の時計を元にレプリカクラフトで造り出した模造品だ。偽物であっても時計の針は動き、文字盤を見る者に正確な時間を教えてくれる。
そしてその時刻は、脱出するための猶予が残り僅かだということを示していた。
夢喰いクラゲの群れはほぼ壊滅しているが、猟兵達にとっても余裕がない。
「皆様、帰還の時間です。この時計を盾にしますから、どうぞ陰へ!」
ノアは猟兵達に声を掛け、同時にプリンセスハートを飛ばして援護を始めた。この世界からの脱出は、グリモアベースへの直接転移しかない。一人も置き去りには出来ない。
だが、僅かに残った数体の夢喰いクラゲが、ノアと大時計を狙って迫り来る。最初に出現した数に比べてあまりにも数を減らした群れは、タイムリミットまでに猟兵達を眠らせてしまわなければ自分達も脱出できないと、本能的に察知したのだろう。
「これはこれは、まだこんなにいましたか」
無論、元より一体も逃すつもりはなかった敵。ノアの表情に焦りはない。
「立つ兎跡を濁さず、綺麗に片付けていきましょう」
ノアはプリンセスハートを矢じり状に尖らせ、クラゲ目掛けて放った。所有者が念じる通りに空を飛ぶハートは、瞬時に敵の死角へと回り込んでそのまま急所を穿つ。幻創魔書に対して加減していた時とは違い、その攻撃には一切の躊躇いも情け容赦もない。
致命傷を受けた敵はなりふり構わずに触手を振り回し、その触手が時計に絡みついて耳障りな音を立てる。だがその騒がしい軋みすら、今は目覚まし時計にちょうどいい。
「心優しき少女の傍に、物騒なクラゲは似合わない。さぁ、悪い夢は終わりです」
最後の一体をハートが撃ち抜く。落下したその体は地割れに飲まれ見えなくなった。
世界が悲鳴を上げている。もう、一刻の猶予もない。
天蓋にひびが入り、空の欠片が音を立てて降り注ぐ。
大地が割れ砕け、地盤が底知れぬ虚無へと沈んでいく。
自らも脱出のために走りながら、何かに引かれるように振り返ったノアは、崩れていく世界の只中で、ひとりの少女が手を振っているのを見たような気がした。
ただ消滅の時を待つ彼女に、幻を創り出す力が残っているのかは分からない。
だからそれは、あるいは猟兵達の心が見せた都合のいい幻覚なのかもしれない。
「……忘れませんよ」
それでもノアは、微笑みと共に手を振り返してみせた。
「あなたの魂が故郷に戻れますように……強く、強く<祈り>ます」
少女が頷くのを見届けたその時、グリモアによる転移の光が猟兵達を包んだ。
▼ ▼ ▼
さよなら、楽しい絵本の世界。
最後のページは遠すぎて、それでも確かにそこにはあった。
きっと素敵なハッピーエンド。おとぎ話はこうでなきゃ。
あなたの心に、残ればいいな。
【最後のページは遠すぎて】終
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年05月15日
宿敵
『『幻創魔書』飛び出す絵本』
を撃破!
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