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ぶぇくしょぉい!!いーっきしょぉいチクショウメェ!?

#アポカリプスヘル


●黄色い悪魔
 そのベースキャンプからはクシャミが絶えず聞こえてきた。
「は、はふっ、ビェックショイちくしょうめぇ!!」
「っぷしっ!おっぷしゅぅ!!」
 ずるずると鼻をすする音もあれば、鼻が詰まってフゴフゴと豚のような鳴き声も。
 赤くなった目をぐしぐしと乱暴にこすり、中にはボロボロと大粒の涙をこぼしている者まで。
 症状が重い者は肌がかぶれ、湿疹だらけの顔を掻きむしりたい衝動にもだえていた……。
「くそっ、あいつらのせいで……このベースはおしまいだ!」
 苛立った様子で泣き虫親父が一斗缶を蹴飛ばし、ガランガラン!と騒音を立てた。
 その音に「うるせぇ!静かにしやがれ!!」と掴みかかった鼻垂れ野郎に「なんだとテメェ!?」と殴り返し、とたんに乱闘が始まる。
 ――それを止める気力すら、他のメンバーには湧いてこなかった。
「うぅ……しぇめへ、ま、マスクの代えが……ありぇばぁ、あ、ほぁ…………ほぇっくしゅあぅいん!!」

 荒野の乾いた風には悪魔がひそむ。
 ――俗に言う、花粉である。

●深刻なマスク不足
「ちょっとアポカリプスヘルまで行ってくださる方ー」
 ババア改め李・蘭玲(老巧なる狂拳・f07136)の様子がおかしい。
 というか普段のノリとの落差に変な空気が……咳払いしてごまかそうとしても無駄だぞババア!
「実はとんでもない状況の放浪者の一団がおりましてね。そこのグループを救援してきて欲しいのですよ、下手すると死ぬよりしんどい状況でして……よよよ、聞いてくださいませんかねぇ」
 まさか耐久実験という名の拷問とか、聖帝の威光を示すために岩を積む奴隷とか……まさか生体実験!?
 身を乗り出す猟兵に、泣きマネしていたババアさんはすぐに微笑みを浮かべ、本題を持ち出す。
「花粉症です」
 ――は?
「だから花粉症なんですよ。花粉症が蔓延して半壊状態なんです。放浪者同士での諍いも起きちゃったり、割と洒落にならないんですよ。これが……私も肉体改造(物理)するまではえらいこっちゃ、えらいこっちゃ」
 生身だった頃を思い出してか、蘭玲はわしっ鼻に指を当てゴシゴシする。
 説明しよう!
 花粉症とはひらたく言うと季節性のアレルギー症状である。
 くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみが四大症状と言われているZO。
 ちなみに人によっては、皮膚や気管支が炎症を起こす。そちらも注意が必要だ!

「まずは花粉症で苦しんでいるノマドの皆さんを手当してあげてください。症状を確認しつつ飲み薬や塗り薬、それとセルフケアの指導も必要でしょうねぇ。余裕がありましたらストレスケアもしてあげてくださいね」
 長続きするとマジやばいことで定評がある花粉症。
 下手に負傷するより完治する見込みが解りづらいだけに、しんどさマジ1000%はある。
「半数以上が動けるようになれば、キャンプ地を移動することもできるでしょう……なる早でお願いします」
 実感こもごもなババアのセリフに、一部の表情がシワァ……としぼんでいく。
 経験者はとくに辛さが解ってしまうのがTSU・RA・I。

 とはいえ、時期が時期だ。ノマドらも何も考えていなかった訳ではないのだ。
 ……ちょっとした想定外が起きてしまっただけで。
「この放浪者グループも手立てがなかった訳じゃないんです。近くの治験施設からマスクや抑制の原料となる薬品を回収する予定だったのですが、そこオブリビオン化した実験動物がチョロチョロと……しかも抜ける体毛のせいで、重症化した者もチラホラと」
 ここまで見事に相性最悪な組み合わせがあるか!? あるんだよね、ここにー!
 過敏症に追討ちをかけるこの仕打ち、おのれオブリビオンめ!!
「この実験動物は治験用の実験マウス。とにかくサイズが小さく、数も多いネズミ算で増えてきたヤバいオブリビオンです、あと野生化したネズミは不衛生極まりなく素手で触るとかぶれますから。ソースは私」
 よりによって実体験かよぉ!
 一部の猟兵が『ぴえ……』と恐れおののいているが、ここで行かねば誰が行く!?(他の猟兵が頑張ってくれるとはいえ)

 諸々は置いておいて。
 回収したものを最後にベースキャンプへ送り届ければミッション完了である。
「食欲が落ちていた方も多いようなので、お料理を作ってあげると喜ばれるでしょうね。武器や改造バンのメンテナンスも出来ない状態だったようですし、メンテナンスのお手伝いも必要でしょうか」
 生活維持もままならなくなる季節性アレルギー性疾患。
 それが花粉症だ!!
「皆さんも気をつけてくださいね」と言って、蘭玲はベースキャンプへの転送を開始する。
 ………………おい待て準備くらいさせろ!!


木乃
 なぜか秋から冬にかけて花粉症になる木乃です。花粉シスベシ。
 OPではそのまま転移させてますが万全な体制で転移して頂いて大丈夫です!
 コミカルシナリオなのでゆるーく考えてくださいませい!!

 第一章 花粉症で苦しむ放浪者を手当してあげてください。
 人数はおよそ小隊レベル、改造キャンピングカーを数台共有しています。
 🔵が規定数まで達した時点で『半数以上の治療が終わった』ことにするので、
 人数のことは気にしなくてオッケーです。

 第二章 荒野に生きる実験動物を掃討しましょう。
 治験施設の周辺や潜伏するネズミ型オブリビオンを倒してください。
 めちゃくちゃ多い上にちっちゃいので作戦が必要ですね。
 かわいいからって触るなよ! 絶対、さわるなよ!?

 第三章 回収した薬品やマスクを届けましょう。
 ノマドの薬学班がお薬を作ったり、マスクを配給している間に、
 お料理を作ったり、車や武器のメンテナンスをしたり、キャンピングカーを分析して改造したり。
 キャンピングカー内のキッチンも使えるので遠慮なく使っちゃいましょう。

 以上です! それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。
 執筆開始:4月10日(金) 21:00~適時。
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第1章 冒険 『傷病者を救え!』

POW   :    傷病者や物資を運ぶなど力のいる作業をする

SPD   :    傷病者の容態や必要な物資などを素早く確認する

WIZ   :    傷病者を自らの知識・技術で治療する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

●花粉症で苦しむ放浪者を手当してあげてください
「うぇっくしゅ、いぃっきしんっ!!」「おっちょ、おっひょひょひょぉぉぉい!!」
「えーっきしょほほほぉぉんってぇぇい! ……ずずっ」「ホゴ、フガ、フゴゴッ」

クシャミと鼻をすする騒音が響く中、サンシェードテントの下に通された。
「ようこそ、奪還者(ブリンガー)の皆さん。私はベースリーダー代行のハルナです」
 猟兵を待っていたのは知的な雰囲気の女性。
 この世紀末にはめずらしい、柔らかな空気をまとっている。
 しかし、統括責任者ではないとは? 猟兵の表情にハルナはすぐに察した。
「ああ、私は薬物管理の班長で……本来のリーダーも花粉症で動けないんです。それで医薬に詳しく、症状のない私が代わりに指示してくれたほうがみんなも納得するから、と。でも、最近はみんなストレスが溜まってきたせいで、全然言うこと聞いてくれなくて……ホントは砂埃が多いここに居続けるのも良くないって、解ってるんですけどね」
 たはは、と力なく笑うハルナは盛大に溜め息をこぼす。

 だが、口を開いたハルナの心の声も留まることを知らなかった――!!
「ったくよぉ……女はすっこんでろとか、さっさと治療薬つくれとか、どうせマスクを隠し持ってんだろとか、お前だけ花粉症になってないのはおかしいとか、このグループを壊滅させようとしてるんだとか、言いがかりもいい加減にしろってんだよ誰のおかげで維持できてると思ってんだ、クソが…………ハァァ」
 加速するぼやきっぷりに彼女の気苦労がしのばれる。
 というかこの人も別の意味で心配な荒みっぷりだ、虚無で濁る目は殺人者のそれに近い。
 こいつぁいちばん怒らせちゃいけない人種だわ――猟兵は直感する。
 無法地帯の世紀末で最も危険なタイプだぞ! 気をつけろぉ!!
 ……ドン引きする猟兵の空気に「あ、すみません」と笑顔を取り戻すハルナに最初の柔和なイメージを持ち直すことはできなかった。

 ハルナから聞いた状況によると。
 症状が重い者はキャンピングカー内に、それ以外の者は就寝時を除いて車外で待機している状態。
 ハルナ以外の動ける者は水汲みや資材、使えそうな廃品を探したり、見張り役にまわっているそうだ。
 マスク代わりにスカーフやバンダナを口元に巻いているものの、周囲の花粉量が多いからか、あまり効果は出ていない。
 幸か不幸か、食欲不振が続くおかげで食料は余裕があるとのことだ。

「あ、言うこと聞かない人がいたら遠慮なく殴っていいですよ。私たちは奪還者の皆さんに助けてもらってる立場ですから、ね?」
 満面に笑みを浮かべるハルナに、もはや猟兵も笑顔で応じるしかなかった。
 …………みんな、なるべくそうならないようにしような……。
 思いがひとつに固まった猟兵達の救護活動がいま、始まる!
タリアルド・キャバルステッド
治療は専門知識のある方にお任せするとして、私は対策をお手伝いしましょう。

花粉は服に結構付着するものなので服を綺麗に……と言ってもこの世界で常に服を清潔に保つことが難しいのは重々承知です。しかしこの世界だからこそ、衛生はより重要なのです。
花粉だけでなくウイルスや雑菌も服に付着しますからね。
せめて、キャンピングカーの中に入る時だけでも花粉をしっかり払い落とすことを意識してください。重症者のいる大事な室内に花粉を入れないように。

水も貴重でしょうから毎日やれとは言いませんが、とりあえず一回だけでも皆さんの服をしっかり洗濯したほうが良いです。洗ったら私のUC「TORNADO」で速攻で乾燥させます。


アリアケ・ヴィオレータ
アドリブ・連携OK
【POW】
あー……あんま病気になったことはねぇんだが、
しんどそうってのは見てりゃわかるな。
医者の真似事ができるわけじゃねぇから、
荷物運びでもさせてもらうぜ。
動ける奴らもあんま休めてねえんだろうし、
俺に任せて休んどいてくれよ。大丈夫大丈夫、
二本の腕だけじゃなくて『念動力』も使えるからよ。
しんどい時にゃ他人を責めたくなるのも仕方ねえが、
それにしたってあの姉さんがいなきゃ、
ここがどうなっちまうかわからんでもなかろうに。
あんまり責める奴がいるようなら『恫喝』することも考えるか。
……しかし、この乾いた世界のどっかに
こんだけの花粉を飛ばす根性のある樹が残ってんのか。
ヒトも樹も逞しいぜ。


寧宮・澪
あれまー……つらたん、ですねー……。くしゃみ鼻水はなずまりー……うーん、きつい……。

ひとまず……この辺少し湿らせましょか……。歌って、世界に干渉ー…霧吹きぽく霧を呼び出してー……湿度高めましょね。花粉や砂埃飛ばない、ようにー……地面に落としちゃいましょー……それ用に水持ち込んでおきましょー。

あと寝れる人は寝ましょうねー……体力落ちると、ひどくなりますからー……。【揺り籠の謳】歌いましょー……。甘いおくすりもありますよー……。
それでも暴れる子は、うん……お空に、飛んでみますー……?はるか上空は、空気澄んでるかとー……。風に乗せたり、お空に運んであげますよー……。

アレンジ、歓迎ですー……。



「くちゅんっ、ひくちょっ、ふぇっくちょっっ!!」「ぶるるぁっ!ぶるぁくしゅぁあっ!!……っう゛ぁああ」
 響き渡るくしゃみ! 耳に張り付く粘ついた鼻水の音! 反して鼻づまりで鼻を鳴らす声はブタのよう、だがここは養豚場ではない。人類の存亡を賭けたベースキャンプぞ!
「あれまー……つらたん、ですねー……」
 キャンプ内をぐるりと一週してきた寧宮・澪(澪標・f04690)の悩ましげな声に、同行したタリアルド・キャバルステッド(紳士服のヤドリガミ・f25640)も袖のない右手を顎に添えて思案する。
「このホコリっぽい環境、良くないですね。ハウスダストほどでないにしろ、呼吸器官や皮フの炎症を悪化させる要因となり得ます」
「くしゃみ鼻水はなずまりー……うーん、きつい……皮フ炎の人も、かゆかゆー……」
 つまり、このキャンプ地に足りないものは――タリアルドの瞼がスッと開く。
「足りないものは 衛 生 環 境 です」
 花粉は服に付着するもの、この世界で常に服を清潔に保つことが難しいのは重々承知。「しかしこの世界だからこそ、衛生はより重要なのです。統計学の母。クリミアの天使も言いました――患者の過ごす環境は常に清潔であれ、と」
 徹底した彼女の看護理念により感染症は激減、負傷者の死亡率も5パーセント以下に低下させる功績を残した。衛生環境の大切さは歴史の中で証明されているのだ!
「環境改善……とっても、大切ですねー……ホコリぱさぱさ、空気カラカラー……」
 澪の頰を乾いた風が撫でつける。
 乙女の柔肌すら荒れ野に変えてしまう禍津風(まがつかぜ)に、澪の指先が懐へ伸びていく。
「ひとまず……この辺少し湿らせましょか……。霧吹きぽく、霧にして……花粉や砂埃飛ばない、ようにー……――♪」
 きゅぽ。栓を抜いた指で瓶の口をさすり、澪がしっとりと歌を口ずさむ。歌声に反応して謳匣が起動し、キリキリキリと歯車が回り始めた。
 電脳世界を経由……接続を開始、サーバー名『アポカリプス・ヘル』 空間、展開。
 ――La LaLa La LaLaLa……♪ LaLa La La LaLa LaLaLa Aaa……――♪
 溢れでる霧は澪を中心に広がる。肌を傷める乾いた空気は水を得て、少しずつ変化し始めた。
「私は本体が本体なので、湿気は得意ではありませんが……この地では恵みの雨となりそうですね」
 湿度の上昇を感じ、タリアルドは本体のスーツから砂埃を軽く落とす。
 澪が霧を撒いて加湿し始めたタイミングで、タリアルドも別行動を開始する。


 そこかしこから聞こえてくるクサメに鼻をかむ音。
 病気とは縁遠いと自負するアリアケ・ヴィオレータ(夜明けの漁り人・f26240)だが、周りはいい大人が揃いも揃ってはな垂れ状態。しんどそうな状況は見て取れる。
「姉さん、人手が必要そうなところはどの辺っすかね?」
 リーダー代行のハルナに人手が足りない班を尋ねると「では、水汲み班を」と、大型プラスチック製タンクを囲む一団を指さす。屈強な男が5人といえど、持てる量は両手にひとつずつ。
(「水はどこでも必要だよな、オレも一肌脱ぐとすっか」)
 アリアケが声をかければ、困ったように眉を垂れた顔がチラホラ。
「どうした? しめっぽいツラ並べて」
「ああ……あっちから服の山を洗ってこいってよこされてよぉ」
 困惑した様子で親指を向け、アリアケもそれに従って目を向ける。
 そこには帆布のように厚い布を仕切り代わりに、段幕の向こうからタリアルドの声が。
「服には花粉だけでなくウィルスや雑菌も付着しますからね。せめて、キャンピングカーに入るときだけでも、花粉をしっかり払い落とすことを意識してください。特に重症者のいる車内に持ち込んでは治まるものも治まりません」
 殺菌までいかずとも抗菌、除菌は意識次第!
 タリアルドは一人一人の意識で抑制作用は高まる、と熱心な衛生指導を続けている。
「ったく、簡単に言ってくれちゃってさ……何往復させる気だよ」
「水汲みもしなきゃならねぇのに、洗濯までやれとか」
 ぶつくさと陰口をこぼし始め、しみったれた空気を漂わせながらプラスチック製タンクを拾おうとする手にアリアケが「待った」をかけた。
「休む間もなく働いてたんだろ? 代わりに水汲みと洗いモン済ませとくからよ、オレに任せて少し休んでな」
 こう見えて念力だって使える――服を詰め込んだ籠を浮かばせてみせれば、最初は眉をひそめた男達も顔を見合わせる。
「それにさ。しんどい時にゃ他人を責めたくなるのも仕方ねえが、誰が好きこのんで他人のケツ持ちなんてやるかよ。けど、誰かやんねえと全部ダメになっちまうってわかるから嫌な役だって受けるんだ」
 肩書きしか興味のない人間は『リーダー代行』なんて役割は回されない。ずる賢い人間なら『リーダー代行』なんて役割は引き受けない。
 誰だって他人の負担なんて肩代わりしたくないし、面倒な争いの仲裁なんかやりたくないし、八つ当たりされるのだって意味わからないし、嫌味を言われる理由もだいたい性別とか体質の話だし、ここまで損な役割を率先してやりたい訳ねぇだろうがあぁっ!!
 ……今の陰口を利いていたら、ハルナは半狂乱でこう叫びだしたかもしれない。
 初めて会ったばかりのアリアケにだって想像できることが、同じグループの人間に解らないハズがない。
「休むついでに頭も冷やしとけ。あんまみっともねえこと言ってると、オレの拳が黙ってからな?」
 漁で鍛えた力こぶを惜しげもなく披露し、怖じ気づく男達を背にアリアケは水場へ一人出発した。


 澪は辺り一帯を霧で包みこむと、症状が重いノマドを集めたというキャンピングカーにやってきた。衣服についた砂埃を軽く落としてササッと乗車。
「おねむな人、居ますかー……居ませんかー……?」
「うぃっきし、いぇっしょーいっ! はが……ど、どぢらしゃ、ま、まひょっぽ!!」
 車内には毛布を頭まですっぽり被った者が密集し、新手の宗教団体に見えなくもない……理由はみなまで言わずとも解る。
「眠れない人に、甘いおくすりとー……眠れる歌を、届けにきましたー……」
 フラスコ状の小瓶には夜色の糖蜜。蓋をひらけば蜂蜜のような甘やかな香りが密室いっぱいに広がり、眠気が誘われたノマドはたゆんだ隙間から顔を覗かせた。
(「お顔とおめめが、まっ赤に……寝不足、ですねー……」)
 水ぶくれのように赤らんだ肌が映り、澪は瞼を降ろして『揺り籠の謳』を放つ。
 歌声に合わせて夜糖蜜は煙のようにもくもくと、声音(こわね)は月夜に吹くそよ風のようにさやさやと。
「ゆらゆら、眠れ…………お休みなさいー……」
 そっと毛布をかけ直して澪はキャンピングカーを後にする。
 外へ出ると、そこへちょうどアリアケが戻ってきた……だが、一人ではない。
 アリアケが出た後、水汲み班はハルナに相談して資材回収班と合流、タリアルドも同行して十分な人員が回されたのだ。
 アリアケの言葉から、己の振る舞いに恥ずべき点があったと気づかされたこそ、彼らの行動に変化が生じたと言っていい。
「皆さん、お帰りなさーい……洗濯もの、よく乾きそうですねー……」
 出迎える澪は手をふりふり。今日は佳きお洗濯日和である。
「こんだけカラッカラな空気じゃヒレまで干からびちまいそうだぜ、ぱぱっと終わらせようぜ」
 物干しロープ代わりにビニール紐を車の間で右へ、左へ折り返す。
 足りないスペースはサンシェードテントの端にかけて……数十人の衣服は20分たらずで並び終えた。
「やりきると気分いいなぁ! ……しかし、この乾いた世界のどっかにこんだけの花粉を飛ばす根性のある樹が残ってんのか」
 逞しい生命力に「たまげたもんだぜ」とアリアケは感嘆の息を漏らす。
「では、長時間の空気乾燥を防ぐため風乾燥を施します――」
 正にこの場のために用意したようなタリアルドのユーベル・コード、発動!
「――除湿!」
 ヒュォォォォォオオ……!!
 タリアルドが手をかざすと、細く小さな竜巻が列を作り洗濯物を撫でるように通過する。乾いた空気を含んだトルネードは湿った衣類に飛び込み、追い出された湿気は空気中を潤していく。
「おおー……乾燥機もおどろきの速さですー……」
 色褪せたジャケットを澪が軽くはたいてかざしてみる。
 ホコリっぽさのとれたそれは、清々しい顔をしているように思えた。      

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セプリオギナ・ユーラス
花粉症。人体の構造上駆逐することの叶わない疾病の一つだ。
物資の少ないこの世界においては根本的な治療はまず行えまい。継続的な支援も難しい。口惜しいが花粉の時期が過ぎるまでの対症療法を行うことを基本方針とする。

患者を一人ずつ診察し、症状や体質に合わせた処方薬を与えよう。
必要なものは持ち込めるだけ持ち込む。検査のための薬品、症状の緩和のためのマスクやゴーグル、それと処方薬。

おい、そこの。医者の言うことが聞けないのなら帰れ。スタッフの指示に従えないやつもだ。“死なない内に”俺の視界から消えろ。
そうだな花粉症では普通ひとは死なない。だが俺は貴様らのような聞き分けのない患者が大嫌いなんだ。意味が分かるな?



 キャンピングカーを一台そのまま診察室として利用して構わない。
 それほど侭ならない状況にあり、かつ大胆な判断でセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)をサポートした。

 車載テーブルに広げたメモに診察した患者の症状を記載していく。
 グループ内の薬学班がカルテを作成していたため、セプリオギナが問診をとる手間は省けた。
 今日の診察で得た統計データを追加すれば、同様の問題が起きた際の緊急マニュアルに使えるだろう。
(「……花粉症、人体の構造上駆逐することの叶わない疾病のひとつか」)
 そも、アレルギー反応とは免疫反応の一種――免疫反応が特定の抗原に対して起こす過剰反応。
 つまるところ生体機能として正常な防衛機能であり、免疫反応が誤作動を起こした状態と言える。
 花粉症も『これ』に含まれるのだから、厄介きわまりない。
(「物資の少ないこの世界において根本的な治療はまず行えまい、継続的な支援も同様……外でやっている衛生指導が精々か」)
 清潔な環境作りと意識向上キャンペーン。効果が薄いとはセプリオギナも思わない。衛生環境は意識してつくるもの。
 そして、徹底した清潔環境なしに傷病者の復帰は有り得ないのだから。むしろダニ一匹でも巻き添えにしてくれて構わない。日なたに引きずり出して干物にするがいい。
「次の方、どうぞ」
 外で待機させていたノマドを招き入れると、ノマドは着古したパーカーのフードと口元のスカーフを降ろしてみせた。
 現れた両目は真っ赤に腫れ、絶え間なく鼻をすすり続けている……鼻をかみすぎて鼻の下も肌荒れしていた。
 セプリオギナの擬態する体から黒い霧があふれ、それとともに黒い正六面体が転がりだす。
 ――……体温、36.5。軽度の鼻炎、中度の両眼結膜炎あり。人中部分に軽度の皮膚炎あり。
 サイコロに似たそれは患者の足下を四方から取り囲み、セプリオギナの脳内へ各々の所感を送り込む。
「花粉症からくる鼻炎と結膜炎だな。目は擦れば悪化するぞ、どうしてもかゆくなったら濡れタオルで冷やせ。多少は落ち着く。それと鼻の下の荒れは外用薬を出すが、薬は他の者と共用しないように。他に体調は変わ」「――んだとォ!?」
 セプリオギナが携帯薬品庫をあさっている最中。
 問診を遮る罵声に患者が小さく跳ねた。
「…………ハァァァ……服用薬は食後に一錠ずつ、特になければ交代だ」
 盛大な溜め息を吐くセプリオギナに会釈し、薬を受け取った放浪者はそそくさと席を外す……いちおうその背を見送ってから、セプリオギナは苛立ちを滲ませ立ち上がった。

「先に並んでたのはこっちだろ!!」「ハァ?列から一旦出たじゃねえかよ!?」
「ここでションベン漏らせってのか!? テメェふざけんなよ!」「テメェだろふざけてんのは!!」
 一触即発の空気を避けるように、前後に並んでいた者達は少しでも距離をとろうとすし詰め状態になっていた。
 胸倉を掴みあい、今にも殴り合いが始まろうとしたとき。
「おい、そこのお前ら」
 目の据わるセプリオギナが仁王立ち睨みつける。
「騒ぐ元気があるなら通常業務に復帰しろ、俺も遊びに来ている訳ではない」
「アァ!? てめぇそれでも医者かよ!?」
「そうだ」
 食ってかかる男にセプリオギナはひるまず反論した。「だからなんだ?」と。
「医者の言うことが聞けないのなら帰れ。他のスタッフの指示に従えないやつもだ――“死なない内に”俺の視界から消えろ」
 そう言ってセプリオギナはおもむろにメスを手にする。
 くるくると指先で回るたび、メスが跳ね返す陽光は背筋に冷たいものを感じさせた。
「いいか。ショック症状が出ない限り、花粉症では普通ひとは死なない。だが俺は貴様らのような聞き分けのない患者が大嫌いなんだ」
 その意味は語る必要もあるまい――メスより鋭い眼光で圧倒せしめたセプリオギナは「次から互いに一言かけるように」と言い残し、診察室へ踵を返す。
 その後、長蛇の列を作っていたクランケに一人対応し続けたセプリオギナだが、騒ぎを起こす者は一人も出さなかったという。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『荒野に生きる実験動物たち』

POW   :    トランスミューテーションDNA
自身の身体部位ひとつを【自身に内包させた他生物】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    スーパーナチュラル・イノベーション
【自身の装備品をこれまでにない使い方】に変形し、自身の【固定概念】を代償に、自身の【装備品の得た新たな使用法に合わせた特性】を強化する。
WIZ   :    ロジカル・ワイルドインチュイション
【野生の勘を論理的に組み上げることにより】対象の攻撃を予想し、回避する。
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●チューチューパニック!
 ベースキャンプ内でのくしゃみや鼻をすする音が少しずつ減り始めた頃。
 再びハルナから招集をかけられた。
 こころなしか、ハルナ自身の顔にも生気が戻りつつある……気がする。
「おかげさまで皆の体調もかなり落ち着いてきたようで、これでベースを次の仮拠点へ移動させられます……問題がひとつ残ってしまうのですが」
 計画上、もともと長居するつもりはなかった――そう。『奴ら』が現れなければ……!!
「まさか施設内のマウス達が異常増殖して生き残っていたなんて、あのネズミのせいで薬物が調達できなくて……クソ、うちのベースの交換資源が無くなっちまうってのに……畜生どもが舐めたマネしやがって」
 また闇の波動が漏れ始めていますよお嬢さん。
 しかし、そのネズ公がオブリビオンなれば猟兵案件。再発予防も兼ねてやったるゾイ!

「……施設の配置図、ですか? それならあります」
 丸めていた紙をテーブル一面に広げると、施設内を表した手書きのイラストが現れる。
 教鞭(きょうべん)を手にし、ハルナはイラストを指し示す。
「この治験施設は地下1階、地上3階建ての建物です。3階は主に責任者が本社社員と打ち合わせするオフィス。2階も主に食堂や休憩所、更衣室など。薬物はないと思って構いません……着替えや非常食はあるかもしれませんが、急ぎ必要ではないです」
 肝心の薬品は地上1階、地下1階に保管されているとハルナは断言する。
「地上1階は正面玄関から入れます、自動ドアなので簡単に壊せると思いますよ。正面ロビーから左右に通路が分かれていますが、建物内部をぐるっと一周しているだけです。二手に分かれてもどこかで合流するかと……1階部分に既にマウスがうろついているので、気をつけてくださいね?」
 さて、問題は無菌室や薬品倉庫と書かれた、明らかに機密情報たっぷりの地下部分。
「地下は消毒用アルコールやガーゼなど実用向きの道具もあるのですが、その中に取扱注意の薬品も保管されていて……資源回収班に『ネズミが試験管に入れて持ち歩いてた』なんて言ってた人も居たんですよね」
 目撃していないハルナは半信半疑、正確には信用7割、疑念3割の様子。
『見間違い』で片付けるより『警戒したほうがいい』というスタンスだ。
「できれば劇薬類や調剤器具も回収してほしいですが、『埋め尽くすほどの保菌ネズミ』と言っていたので無理はいえません。どうか、どうか薬品類の回収をお願いします……っ!!」
執筆開始 『4月17日(金)21:00~適時』の予定。
タリアルド・キャバルステッド
余裕があるようなら皆さんの着替えなども確保したいところですが、今回は薬品の回収が優先事項ですね。

地下に降りたら速やかに必要性の高い薬品を探し、なるべく多く確保してハルナさんに届けます。

怖いのはネズミですね……
動物の毛は静電気でスーツに付着すると取るのに苦労するので、ネズミと遭遇したらなるべく近づかないように遠距離からUC「COOL EFFECT」で凍らせます。
せっかくの毛並みですが、毛皮にするには小さすぎます。おとなしく駆除されて下さい。



 ベースキャンプを出発して十数分。手書きの地図を頼りに、猟兵達は件の治験施設へやってきた。
 元は真っ白だっただろう施設は薄汚れ、窓のサッシには煤(すす)のようなものが。長年、人の出入りがなかったことを窺わせる。
 これもオブリビオン・ストームが残していった爪痕なのだろうか……廃墟(はいきょ)同然の建物を前にして、タリアルドの灰色の瞳はじっくり見つめる。

「余裕があるようなら皆さんの着替えなども確保したいところですが……」
 物事には優先順位がある。
 アポカリプスヘルでは文明崩壊の影響で通貨は機能していない。
 いまは物々交換が主流となっている。
 ハルナ達の共同体は、薬学のプロフェッショナルが精製する『調合薬』が物流を支えていた。
 だが、肝心の薬品が足りない。
 野生化した動物達に回収を阻まれてしまったために。
 着替えや食料は急いで確保しなくてもよい、と彼女らが判断している以上。
「今回は薬品の回収が優先事項ですね。優先すべき物資は間違えないようにしないと」
 目的を再確認し、タリアルドは身支度を調えるように、左手の手袋をキュッと引き絞る。
 仕上げに、スーツに付いた砂埃をはたいてから、ガラス張りの自動ドアの前に立つ。

 自動ドアは体感センサーが壊れていた。ドアの隙間に指を差し込もうとしても、鍵がかかっている。
 回収班が撤収する際、マウス達の追撃を阻止するためにロックをかけたようだ。
(「確か……温めたコップを氷水に入れると、割れてしまいますよね?」)
 たたき割ることも不可能ではないが、スマートではない。
 なにより本体であり、大切なスーツを傷つけてしまうかもしれない方法は避けたかった。
「では、失礼します」
 数歩、後ろに下がってタリアルドは右手を正面に――涼やかな風が吹き始めた直後だ。
 空気中の水分が白み、摂氏0度を下回る極寒の風がガラスにぶち当たる!
 急激な温度変化に耐えきれず、自壊したガラスはたやすく砕け散った。

 ガラス片はタリアルドが踏み越えるたび、パキ、パキと微かに音を立て、中へと招き入れる。
「……ケホ、ずいぶん埃っぽいですね」
 受付カウンターは埃が積もり灰色に染まり、天井にも蜘蛛の巣や埃の束が垂れ下がって、見るからに不衛生な環境だ。
 本当にここが医療関係の施設だとは思えない変貌ぶりに、思わず視線が周囲に向いてしまう。
(「早く地下へ行きましょう、ハルナさん達が待っているのですから」)
 まず下へ降りる階段を見つけなければ……通路に入って一歩、二歩。対面に見える小さな光にタリアルドの足が止まる。
 不自然なほど小さな光。
 それが僅かに入り込む光を返す実験マウスの瞳だと気づき、対峙するタリアルドとほぼ同時に動き出す――!
「チュー、チュチュッチュー!!」
 小さい手足をばたつかせたる姿はソーシャルネットワークにアップしたいほど、きゃわたにえんのやばまる水産だが、埃と体毛を飛び散らしている時点で萎えぽよの鎌足。
 さらに、通気用ダクトから同じサイズの個体がなだれ落ちてきたぁーーーー!!
「これは……山のようなマウス、ですね。それに、例の試験管のネズミも一緒ですか」
 クールな表情を崩さず、タリアルドは先ほどと同じように右手をかざし、風の魔力をカフスボタンへ込めていく。

「チューチュ、チュ! チュッチュー!」
 リーダーマウスの号令に、通路を埋め尽くすほどのマウスが一斉突撃!
 埃を巻き上げ接近する超大群を、タリアルドの『COOL EFFECT』による極寒の風が迎え撃つ。
 埃ごと跳ね返す突風だけなら耐えただろうが、室内育ちのマウスにとって気温の急激な変化は全く耐性がない。
「きゅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~…………うぎゅ」
 魔力の風を浴びて凍えたマウス達は縮こまり、鈍くなった突撃隊はブルブル震えて身を寄せ合う。
 これでしばらくは動けないだろう。
「せっかくの毛並みですが、毛皮にするには小さすぎます……大人しく駆除されてください」
 あとは後続に任せ、自身は階段の踊り場へ飛び込むと、急ぎ地下フロアへ突入する。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリアケ・ヴィオレータ
アドリブ・連携歓迎

取り扱い注意の薬かぁ。
そういうのよくわかんねぇから詳しいヒトに
回収は任せた!オレはネズミ退治させてもらうぜ。
地図上で、薬品庫とか倉庫は覚えておく。
そこじゃない場所でネズミ共の相手をしたいからな。

「滄海の王魚、大海原進むその一息をお借りする!」

UCで体の前面に現れた海水を勢い良く噴射。
ネズミ共にぶっ放してやるぜ!
陸の小動物相手に『不知火』は向かねぇんでな。
奴らが薬を使ってくるようなら
『覇気』の『オーラ防御』に回して
直接肌に触れないよう気を付けるぜ。
それでも何か仕掛けてくるようなら、そこらの扉とか
テーブルとか何かしらを『怪力』や『念動力』で
『投擲』して防御兼攻撃だ。


燈夜・偽葉(サポート)
★これはお任せプレイングです★
『ぶった斬ってあげます!』
妖狐の剣豪 × スカイダンサー
年齢 13歳 女
外見 黄昏色の瞳 白い髪
特徴 長髪 とんでもない甘党 柔和な表情 いつも笑顔 胸が大きい
口調 元気な少女妖狐(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)

性格:
天真爛漫年下系ムードメーカー(あざとい)

武器:
刀9本
黄昏の太刀(サムライブレイド)を手に持ち
場合によっては念動力で残り8本を同時に操る

ユーベルコードはどれでもいい感じで使います

敵の動きは見切りや第六感を生かして回避
避けられなければ武器受けで対処します

多彩な技能を持っていて、問題に対していい感じで組み合わせて対処します



 突破していくタリアルドを見送ったアリアケ。
 凍えて震えっぱなしのネズミに視線を巡らせ、ゆっくりと躍り出ていく。
「取り扱い注意の薬かぁ……ま、そういうのは詳しいヒトがなんとかしてくれっだろ」
 その手の小難しいことは、得意な誰かがやってくれるだろう。
 アリアケはいつもの調子で「回収は任せた!」と言いきり、ニヤリと口角を釣り上げた。
 獲物は野生化マウス、幾千万。
 イワシとて一尾(いちび)ならば脅威とはほど遠いものの、魚群ほどの釣果となれば話が変わる。
「大物にゃあほど遠いが一気に潰していくぜ!」
 アリアケが拳を手のひらに打ちつけ『パシッ』と小気味よい音を響かせ、
「もっふもふでかわいい子達なのですが……ここはまかり通らせてもらいますっ」
 助っ人の燈夜・偽葉(黄昏は偽らない・f01006)は黄昏の太刀の一振りを抜刀し、大挙するネズミに刃を向けた。
 しかし長らく不在にしていたのは人間であり、マウスからしてみれば食糧供給も絶たれた中でやっと縄張りを確保したのだ。
『縄張りを荒らしに来た侵入者』は猟兵側だと主張したいだろう。
「チューゥー……!」
 睨み合う視線が火花を散らし、埃っぽい空気が張り詰める。
 互いの生活圏を死守するため、猟兵VSワイルドマウスの火蓋が切って落とされた――!!

 まずはネズミ達を薬品庫や倉庫のルートから引き離したい。
 だが、冷凍状態だったネズミはみっしりと通路を覆っている。
(「ただの野生動物よりは頭が切れるみたいだが」)
 アリアケは重心を落とし、内に秘めた覇気を全身にみなぎらせていく……常人ならざる気配にはマウスらも警戒して距離を保ったまま。
「そっちが来ねぇんならこっちからいくぜ――」
 陸の小動物では銛のメガリス『不知火』と相性が悪い。
 だが、人間の知恵を舐めてもらっては困る――いざ、尋常に!
「滄海の王魚、大海原進むその一息をお借りする!」
 現れた大量の水を噴射して通路の奥まで押し返す。
 放水機のごとき水圧で一部のネズミが飛び散り、誇りっぽかった空気もこころなしかマシになったような?
「チュチュチュー!!」
 おそらく『怯むなー!!』と叫んでいるのだろう、直撃を避けた一匹は周囲を一喝して仲間の試験管を奪い取った。
「チュ、チュチューッ!」
 ジャイアントスイングよろしく、大回転を見せるマウスと試験管の液体が円を描いて――アリアケめがけ飛んだァ!
「そんなモンっ」
 覇気を前面に押し出し、オーラの盾を展開して試験管は目の前で破裂し、
「……くっっっさ!?」
 オーラシールドにネズミは衝突しビターンと張り付く……まではよかったが、薬品から漂う強烈な刺激臭までは防げず。

 アリアケが怯んだと思い、飛び出すネズミどもに今度は偽葉の刃が飛ぶ。
「薙ぎ払っていきますよ! ……これが、剣の極致です!」
 不動なれ、我が心。
 其は無念、其は無想より至りて開眼せし極意――すなわち、画竜点睛の剣技!
 ……目にも止まらぬ早さで振るわれた偽葉の一太刀。
 それはネズミの大群を宙へと叩き上げ、さらに自由落下の最中に峰を打ち命を刈り取っていく。
「ゲッホゲホ、特攻たぁイイ根性してるがなぁ」
 鼻の曲がりそうな薬品臭を剝がそうと、鼻を乱暴にこするアリアケの拳がスライドドアを力任せに掴みとる。
 直後、強引に引き剝がされたドアをオーバースローの構えで振りかぶり、
「こいつぁ、どうだ!?」
 力任せに投げ飛ばし、巻き込まれたネズミは下敷きやら、壁との間に挟み込まれるやらの大・惨・事!
 物量ならネズミ達は有利だが、質量と力量でアリアケと偽葉は圧倒していく。
 一階フロアはパニック状態になりつつあるマウスの悲鳴がこだまする……!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セプリオギナ・ユーラス
なるほど実験用のネズミか。科学医学の発展犠牲はつきものだが、その犠牲にならなかったモノの末裔。それの犠牲になるのが人間では、ある意味では自業自得か。
俺はネズミもヒトも憐れみはしない。だが、俺の治療の障害になるのなら排除するまでだ。物資の枯渇はそのまま、提供できる医療の枯渇に直結するからだ。

まとめて“処置”だ。

ネズミ共にメスを食らわせついでに殺菌消毒してやる。手術具は何も切り刻むためのものばかりではない。
薬品を携帯しているとかいうふざけたやつはどいつだ。地下の薬品倉庫までの通路の確保がてら、どれもこれも片端から回収してやる。
現地の人間が少しでも自己治療できる環境を作らせねば。


寧宮・澪
あれまー……ねずみさん、お薬持ってったんですねー……。
んじゃ回収しましょか……。いってきまーす……。

おやたくさん、ですねー……。
めーですよー、持ってっちゃやーですよー……。返してください、ねー……。

あー……やまもり……ふわもこはかわいいんですが、ふかふかほこりはちょっとー……。あと、排除対象、なんですよね……かわいそですが。
丸洗いは、お水足りなそうですねー……埃くらいは、払いましょか……。
【霞草の舞風】ー……くるんと、群れを覆う位置、群れの中央に、陣取りましてー……避けられれてもいいように、範囲攻撃ー……。

…………触った、何が伝染るんでしょか……ちょっと、いやだいぶ、気になります、ねー……。


カズマサ・サイトウ(サポート)
普段の口調は「あっし、お前さん、でさぁ、ですぜ、だよ、ですぜ?」、お偉いさん「わたくし、~様、です、ます、でしょう、ですか?」

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、連携の際はライオットシールドで味方をかばう優先。
基本的に己の能力を武器として使用し手に負えない状況にUC使用。
防衛系の戦闘の場合は守備を優先。ただの殲滅の場合、単独または味方が援護系なら突撃する。
近接攻撃を主とする味方が多い場合はライオットシールドで防御しつつ囮になるように行動する。
ガスマスクを装備し耐毒能力を底上げ。



ところ変わって、アリアケ達の活躍で到達した地下フロア。
 薄暗い通路は地上階より数倍に空気が淀み、床には埃に足跡が残るほど……これは確かに鼻炎持ちならばツラかろう。
 地上階から響くネズミの絶叫と戦闘音に、踊り場で話し合っていたセプリオギナと澪がそれぞれ見上げる。
「実験用のネズミか……科学医学の発展に犠牲はつきものだが、その犠牲にならなかったモノの末裔。たくましく生き残った点だけは、さすがの生命力と評価せざるを得んな」
「ねずみさん、子だくさんで家族いっぱいですもんねー……」
 性格は正反対のセプリオギナと澪だが、互いにネズミの持っているという試験管――できるならアレも回収したい、という意見で一致していた。
 斥候役にガスマスクを被るカズマサ・サイトウ(長きに巻かれる、おにぎり大好き風来坊・f26501)は通路から顔を引っ込めると、二人に顔だけ向ける。
「案の定ネズミがわんさか居まさぁ。その中に試験管を背負ってる奴も」
「あれまー……やっぱりねずみさん、お薬持ってったんですねー……」
 懸念したとおり、マウスは薬品を持ち出していることに、澪は困ったように首をかしげた。回収には少し骨が折れそうだ。
「あっしが前に出ますんで、お二人さんは回収を頼んますぜ」
「ああ、わかった。……俺はネズミも人も憐れみはしない。治療の障害になるなら――排除するまでだ」
 手術式(オペ)に移ろうとセプリオギナはマスクの位置を直し、カズマサは得物を手に指を鳴らし、既に臨戦態勢。
「んじゃ、回収しましょか……」
 謳匣を通して再び世界と電脳魔術を繋げ、カズマサを先頭に警戒しつつ澪達も後を追う。

 人の気配に敏感になっていたのか、数秒と立たずにマウスの群れが行く手を阻む。
「チュチュチュー、チュチュ!」
 先頭に立つマウスの指示に、後方にびっしりと群がるマウス達が一糸乱れぬ動きをみせた。
 カズマサは宣言通り前衛で壁となる中、セプリオギナの眉間に僅かなシワが浮かぶ。
「医師の行く手を阻むか……相応の覚悟は出来ているのだろうな?」
 物資の枯渇は、医療サービスの枯渇に直結する。
 それは生命を預かる医師にとってもっとも回避すべき事態だと、セプリオギナは突破の一手をかける。
「雑菌まみれの病原体は感染症の原因でしかない、まとめて“処置”だ」
 セプリオギナの姿がヒト型から一時的に正六面体へ戻り、周囲を霧が立ちこめていく。
 一点の角を地に付け、正六面体はコマのように回転する。
 音もなく、加速度的に回転数は増していき、
「メスを食らわせついでに殺菌消毒してやる、手術器具は何も切り刻むためのものばかりではない――!」
 汚染区域は徹底的に洗浄してやると、数多の手術器具が四方八方へ襲いかかる!
 ケリー鉗子にコッヘル鉗子、各種ピンセットやら、医療鋏に果てはブローチホルダーまで。
 ダーツのように飛ばした器具で張り付けたネズミ達から、セプリオギナは次々に薬品入りの試験管を奪い取っていく。

 どこからともなく飛んでくる器具にすし詰めマウス達は戦線を下げざるを得なかった。
「チュゥ!?」「チュ、チュチュッ!」
 試験管が狙い、と野生の勘が囁きかけたらしいマウス軍は、試験管持ちを後退させ、他のネズミ達が進撃を開始!
「お前さんら、面白い動きしなさんなぁ? だが簡単には通してやれねぇんだよ」 その意気やよしと、少しずつ前進していたカズマサも両手の拳を合わせ、極小の乱気流を生み出す。
 限界まで高めた風の拳を放てば、手のひらサイズのネズミ如きに暴風を凌ぎきれるハズもなく――巨大な竜巻と真空の刃の餌食となる。
「めーですよー、もってっちゃやーですよー……」
 電脳ゴーグルで埃が目に入らないよう防ぎつつ、一気に押し上げられた戦線を維持しようと澪の電脳魔術が介入する。
 謳匣から流れるメロディーから逃れるように、残る数百匹のマウスは離れだす。
 廊下をぽてんぽてんと転がっていくマウスの姿に、
「あー……やまもり……ふわもこはかわいいんですがー……」
 ほっこり気分になるものの、毛皮を上回る量の埃つきはマイナス評価である。
「んー……埃くらいは、払いましょか……」
 残り少しと逃げるマウスの背中を追いかける。

 ――ネズミ達が最後に逃げ込んだ部屋は『第三実験室』と書かれたプレートがかかっていた。
 中には割れたケースがずらりと並び、実験台や金属棚には器具が入っていた名残がある。
 どうやら、ここがマウス達の生活拠点だったようだ。
「チュー……!」
「恨むなとは言わない。だがこちらも忙しい、これから現地の人間が少しでも自己治療できる環境を作らせねばならん」
 セプリオギナからの無慈悲な通告があろうと、ネズミ側は主張を曲げる様子はない。
「チュ、チュー……」
「排除対象、なんですよね……かわいそですが。お薬、返してください、ねー……」
 可哀想だと感じるが、薬を求める者達も生きるか死ぬかの瀬戸際にいる。澪も譲れない一線なのだと解っていた。
 だが……むざむざ殺されてたまるかと、マウス達は最後の抵抗に打って出た!
「――チュチュー!」
 背後の棚がガタガタと揺れて、なにかが澪の頭上へ――カズマサが咄嗟に叩き落とし、すり抜けた影のひとつが澪の腕を掠める。
「伏兵か、悪あがきをするな」
 セプリオギナの円刃刀がネズミを床ごと貫き絶命せしめる。
 伏兵ネズミは素早く仕留められ、澪は掠り傷に一瞥くれたのち最後の一撃を放つ。
「かすみが如くー……舞い踊れー……」
 ふわふわり、白雪のごとき花が舞う。澪を軸に柔らかき花嵐が生ず。
 くるくるり、甘やかな香りに満たされていく。
 それは甘き毒、霞のごとく御魂を溶かす嘆きの香り。
「……チュー……――」
 マウスは眠るように続々と伏していく。
 そのまま起き上がる気配もなく、澪は試験管のひとつをつまみ上げた。
「お薬、たくさん、ですねー……さっき触ったのは、なにが伝染るんでしょか……?」
 ちょっと、いやだいぶ気になる――傷をよく見ようとして、セプリオギナに腕を掴まれた。
「おおかた接触性皮フ炎だろう、雑菌で湿疹が出ることもある。すぐに洗って消毒したほうがいい」
 施設を出たら外用薬を渡すので塗るように、と言っている間に処置を終えたセプリオギナは残った試験管を集めだす。

 ――上階での騒音もなくなり、無事に薬品と医療品を回収した。
 試験管の総数はおよそ百数本。手分けして運びだそうと、緩衝材がわりに穴だらけのソファから抜いたスポンジと一緒に、運搬用ケースへ詰め込む。
「すっげぇ臭いヤツもあったから気ぃつけろよ」というアリアケの忠告もあり、内容物はベースキャンプのノマドに確認してもらうべく、彼らの移動先へと向かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『荒野キャンプ』

POW   :    武器の手入れや作戦を練るなどの戦闘準備をする

SPD   :    テントを張ったり、見張り役をしたりする

WIZ   :    体力の温存・回復の為にひたすら休む

👑5
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●荒野のディナータイム
 ベースキャンプの移動先である自動車整備工場へ着く頃には、空から照らされる光は陽光から月光へと移り変わっていた。
 工場前で待っていたハルナに運搬用ケースを渡すと、中を見た彼女は驚きの声をあげる。
「こ、こんなに獲ってきてくれたんですか!? おまけにマウス達に盗られてた薬品まで……正直なところ、もう回収は無理かなって諦めていたので」
 心からホッとした様子で「これで我がベースは安泰です」と今日一番の笑顔を浮かべた。
「何かお礼をしたいのですが……そうだ、これから夕飯の時間なので食べていきませんか?」
 それでもまだ足りない気はするのですが、とうなり声を漏らすハルナに連れられて、工場内へ。

 元々、車両を整備するための建物だったこともあり、キャンピングカーごと工場内に仮拠点が設置されていた。
 ランタンから広がる灯火が、ほんのりと赤みがかった光で工場内を照らす。
 工場の窓は以前使ったグループが補強したのか、トタン板が木材で貼り付けられ、正面をシャッターで塞いでいるため防衛面も安心。
 何より、花粉や砂埃を完全に遮断できる環境が良い。いまの彼らには最重要の条件だ。
「お薬の需要はどこもインフレしていて、けっこう良い食品と交換してもらえるんですよね。缶詰の非常食、即席麺、袋詰めのドライフルーツ、それに小麦粉と塩とコンソメと……あ、重曹もありますよ」
 胃薬などの制酸剤に使うため調剤用に確保しているが、ベーキングパウダーの代わりにも使うのだとか。
「今日は豪勢に獲れたてのとり肉も使いますので! ご飯は出来るまでもう少し時間がかかるかと……みんな料理中だったり、車や武装の整備をしていたり騒がしいですが、お礼を言いたいと言ってた人も多かったので……もう少しだけお付き合いいただけませんか?」
 図々しいお願いなのは承知ですが、とハルナは恭しく一礼する。
 ――活気を取り戻しつつあるコミュニティの様子を、最後に確かめていくとしよう。

(リプレイ執筆開始は『4月24日(金) 21:00~適時』を予定しております)
セプリオギナ・ユーラス
夕食、「は?」「莫迦か?」
悪態が口をついた。

ただでさえ物資が少ないんだ。猟兵なんぞに与える余剰があるなら備蓄に回すべきだ。夕食だと。俺は携帯食があるからそれでいい。
…いや、勝手にしろ。
手伝いが必要なら“手”は貸してやる。そこの黒いのになんでも言いつけろ。適当に伸ばしてもいい。基本的にはブラックタールだからな。ああ、料理をさせるのだけはやめておけ。


「具合の悪い方はいらっしゃいませんか?」「怪我をしている方はもういませんね?」「お薬は足りていますか?」
ころん、ころん、ころ。
人々の合間を縫って正六面体◆が転がる。いくつも。いくつも。
「わたくしたちに手伝えるのはここまででございますから」



「……は?」
 夕食という言葉にセプリオギナの周囲だけ気温が下がり始める。
 不機嫌な声にハルナや他の者達の視線が彼へと集まった。
「莫迦か?」
 悪態を吐くセプリオギナは侮蔑ではなく、怒りの色で冷えきっていた。
「ただでさえ物資が少ないんだ。部外者に与える余剰があるなら備蓄に回すべきだ……夕食だと? 俺は携帯食があるからそれでいい」
 言いたいことだけ言ってセプリオギナは背を向けた。
 ピリピリした空気の中、一歩、二歩……足を止める。
「……いや、勝手にしろ」
「いいんですか?」
「どうせ明日には離れる身だ、内政干渉は意図するところではない……明日までは手伝いが必要なら“手”は貸してやる。そこの黒いのになんでも言いつけろ」
 ころころ転がる黒いキューブ。ダークマターじみた正六面体をハルナは角度を変えてまじまじと観察する。
「特殊な医療スタッフだと思え。形も変えられるから適当に伸ばしてもいい、基本的にはブラックタールと同じ……ああ、料理をさせるのだけはやめておけ」
 ぶっきらぼうな言葉を残して、今度こそセプリオギナは整備工場の端っこへ、自ら収まりにいった。

 ――ころころ。ころころ。
 さいころころころ、ころん。ころん。足下ころん。合間を縫ってころころん。
「……あ、さっきの先生の検査、機?」
 霧の尾を引く60個の真っ黒◆六面体は足下を転がり、先ほど診察を受けていた人々が見つける。自力で動く正六面体を不思議そうに見つめていると、
「――具合の悪い方はいらっしゃいませんか?」
 セプリオギナの声がした。
 診察のときほどの堅さはなく、柔らかな口調で。
 正六面体の中にスピーカーが入っていると思ったのか。ノマド達も驚きはせず、笑顔で正六面体に視線を合わせにいく。
「ユーラス先生のおかげで眼が痒かったの、すっごく落ち着きました」
「ありがとう、先生! 今日は久しぶりにゆっくり寝られそうです」
 ウサギのように真っ赤な目をしていた少年も、鼻づまりで息苦しそうにしていた女性も暗い屋内でも気分を明るくさせる笑顔を見せた。
「それはよかった、お薬は足りていますか?」
 先ほどとってきた薬品もあるため、「大丈夫」とすぐに色よい返事が返ってくる。

「あ、」
 赤い目の少年が気まずそうな顔をすると、視線の先には先ほどセプリオギナに食ってかかってきた男だ。
「――調子はいかがですか?」
「あ? ああ、問題ない」
 人が変わったような対応に男も面食らった様子で頷く。
 気まずそうな態度は男も先ほどの無礼な態度を反省しているからだろう……調子が上がっているなら良いことだ。
 正六面体はいくつも、いくつも、転がっていき回診を続ける。
 ころん、ころん。ころ、ころん……コンクリートを賽の目が転がり行く。
 元気な声が聞こえてくる。笑い合う空気が流れてくる。
 ――暗く静かな夜の世界が、面白いほど活気に満ちあふれていた。
(「わたくしたちに手伝えるのはここまで、でございますから……」)
 もう一度歩きだす準備が整えられるように、セプリオギナの◆正六面体はころんころん、転がっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

タリアルド・キャバルステッド
さすがに少々疲れましたね。
せっかくですのでお言葉に甘えてご相伴に預かりましょう。

料理はお任せするとして、待っている間に仮拠点の整備をお手伝いさせて下さい。
外からの花粉を遮断できるのは素晴らしいですが、まだまだ内部は埃っぽいようですから、より良い環境にするために「掃除」くらいなら出来るかと。
服の洗濯も……いえ、そこまでは野暮ですね。

今はとにかく新たな拠点の誕生を祝いましょう。



 昼間からずっと動きっぱなしとあり、空のコンテナに腰掛けるタリアルドは疲れを追い出すように大きく息を吐いた。
(「さすがに少々疲れましたね」)
 ベースキャンプを困らせた花粉症問題は無事に解決できた。
 求めていた薬品を手に入り、持ち直す体制が整った以上、このまま帰還してもなにも問題はない。
 だが、遊牧民は猟兵達に助けられっぱなしのまま、別れてしまうことを寂しく思うだろう。
「……せっかくですので、お言葉に甘えてご相伴に与りましょう」
 立ち上がるとスーツに付着した埃を落とし、ランタンで照らされる工場内を歩きだす。

 料理はきっと自慢のキャンプご飯を用意しているだろう。なら、後の楽しみとしてお任せして――。
「ハルナさん、仮拠点の整備をお手伝いさせてください」
 不安げな顔が見えて、タリアルドは小さく首を横に振る。
「外からの花粉を遮断できるのは素晴らしいですが、まだまだ内部は埃っぽいようですから、外に出してしまおうかと」
 提案すると意外な答えが返ってきた。
「サビが目立ちますものね、ですが大がかりな掃除は必要ないかと……着いてからすぐに大掃除したので」
「大掃除、ですか?」
「あなたのご指導のおかげですよ。今まで着いたらすぐ休んでた人が参加してくれたんですから」
 いわく、整備工場に到着したとき。
 雨風を凌ぐために訪れた際、工場内は治験施設と同じくらいに埃まみれだったという。 それを見て拠点設営の前に、すぐに使えそうな箒で掃いて出し、シャッターを下ろす前に衣服やスカーフに残る砂煙も払い落とす。
 今まで設営が終わったら、さっさと横になる者達が自発的に動いた、と。
「今回の件がいい教訓になったのかと……ああでも、車の機関部に砂が、って言ってた人がいたと思います」
『エンジントラブルの原因になりかねないから』とまだ整備している者はいるかもしれない。
 その話に「では、そちらの掃除に伺います」とタリアルドは踵を返す。
(「服の洗濯も、なんて……野暮なことは言わなくて良さそうですね」)
 伝えたい気持ちが理解してもらえたことがわかり、今日一日の仕事の充実感がタリアルドを満たしていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
おやまー……歓待のお気持ち、ありがたくー……。
うん、じゃー……ご飯、いただきましょか。
お手伝いしますよー……大勢のご飯作り、大変でしょうからー。
切ったり焼いたりくらいはできるでしょー……。
鼻歌でも歌いながら、混じってご飯作りに、ごー……。
おや、この材料なら、パンケーキ作れそうですねー……甘みは、ドライフルーツで……。美味しい蜜もありますよー……作りましょうかー?
甘いものは、たまーには、いいと思うんですよね……。

ご飯は、控えめに食べますよー、少食なので、ということで……。
大食いなんて、知らない方達ですしねー。

ご飯食べつつ、祈りましょー……このキャンプの明日も、いい日でありますようにー……。



「おやまー……歓待のお気持ち、ありがたくー……」
 食事は生命維持に必須であり、アポカリプス・ヘルでの数少ない楽しみといえる。それを共有したいと彼らが言うのなら。
「うん、じゃあー……ご飯、いただきましょか」
 澪が鼻歌交じりに向かう先から、トントン。コトコト。楽しい音が聞こえてきた。
「ふふん、ふふーん……こんばんはー、お台所はここでしょか?」
 カーテンをひょっこり覗き込むと、中央に吊されたランタンの下で料理するノマド達の視線が澪に集中する。
「奪還者のお嬢さん。代わりに薬品回収を済ませてもらってありがとうございました」
 帽子のツバを摘まんだ青年が頭を下げたのを皮切りに、他の料理班も澪に向かって会釈しはじめ、「お構いなくー……」と澪はほんのり頰を赤くして入っていく。
「お手伝いしますよー……大勢のご飯作り、大変でしょうからー」
 帽子の男が料理長らしく、今日の献立を教えてくれた。
 夕食は『缶詰野菜のコンソメスープ』『トリ肉のムニエル串』『小麦粉をこねたパンっぽいもの』だそうな。
 野菜、肉、炭水化物。過酷な環境下においては『豪勢な食事』の部類と言って良い。
 それだけ薬の需要が高く、多くの拠点で求められるのだろう。

 材料を手に取り、確かめているうちに、澪は先ほど聞いた話を思い出した。
「おや、この材料なら、パンケーキ作れそうですよねー……」
「パンケーキですか?」
「重曹、ベーキングパウダーの代わりに使ってる、と聞いたのでー……甘みは、ドライフルーツで……美味しい蜜もありますよー……?」
 提案に料理長がうなり声をこぼすと、他の面々が口を挟み始め、
「班長~、たまには違うものも食べたいですぅ!」
「あ、乾パンやビスケットも混ぜれば近づきそうですよね? ねっねっ!」
 かーんみ! かーんみ! ――熱烈な甘味コールを受けながら、澪の最後の一押し。
「甘いものは、たまーにはいいと思うんですよね……」
 ここまで言われて意固地になるのも野暮というもの。
「……じゃあ予定を変更して、パンっぽいものはパンケーキで! 担当は奪還者のお嬢さんと一緒によろしくね」
 料理長が根負けし今日一番の盛り上がりを見せるキャンパーの面々に、甘い物の偉大さを感じながら澪は輪に加わる。
 ビーカーで小麦と水の分量を量り、重曹は入れすぎないよう摘まんで少々。
 ドライフルーツと砕いて粉にした乾パンを混ぜて、隠し味に蜜を仕込んだら、熱い鉄板の上へとろーり……。
「パンケーキなんていつぶりかなぁ、もう覚えてないや」
「味わって食べなきゃですねぇ」
 食べる機会が途絶えたと思っていたパンケーキを前に、子供のようにはしゃぐ声が聞こえる。
 遠い遠い、記憶の彼方にいってしまった甘い香りが、工場内を包んで……人数分できあがる頃には、覗きに来たノマド達に出入口のカーテンを塞がれていた。
 それくらい、久しく感じていなかった刺激でもあるのだ。

 ――車内で休むのメンバーにも配給し終えたところで、レッツご飯タイム!
「ん~……!! このパンケーキ美味しいっ、ドライフルーツのおかげで満腹感もいい感じっ」
 ドライフルーツ入りパンケーキは大好評。足りない甘さをドライフルーツで補い、ほんのり香る蜜が懐かしい味わいを思い出させる。
「なるほど、それでパンケーキに……次から糖類とのトレードを提案してもいいですね」
 料理長に話を聞いていたハルナが、澪の皿が空っぽだったことに気づき、
「おかわりご用意しましょうか?」
「いえ、小食なのでー……タリアルドさんと半分こ、で大丈夫ですー」
 実は大食らい、ということはノマドの面々は知らない。
「見た目よりお腹に貯まりやすいようですからね、お気遣いなく」
 タリアルドもそう言ってやんわり断ると、ハルナは「リーダーと次のプランを相談しないとなので」と頭を軽く下げて踵を返していく。
「……昼間はずっとピリピリしていたのに」
「かなーり、お疲れでしたからねー……」
 くしゃみと鼻をすする音は笑い声で賑わっている。
 ころころ転がる◆正六面体がノマド達の間を抜けて、二人の前を通り過ぎていく。
「このキャンプの明日も、いい日でありますようにー……」
 つかの間の平穏でも心穏やかであればと、心の中で祈った。
 タリアルドは新たな拠点に祝福を、澪は彼らの明日に幸あれと。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月28日


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#アポカリプスヘル


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト