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アリス・イン・ナンバーズーMetals(作者 北瀬沙希
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●金属の国のアリス
 世界のあらゆる物質が金属で構成された「不思議の国」。
 草木の一本、生物の毛の一筋まで金属で造られ、鈍い灰色に覆われた世界を、右手に銀のナイフを持ち、血まみれの白ワンピースを纏っている銀髪の少女が歩いていた。

 少女の眼に映るのは、はるか遠くに光り輝く扉。
 おそらく、あの扉が「自分の扉」……己の元居た世界に帰るための扉。

 ――不意に、記憶の彼方のヴィジョンが再生される。

『――。いよいよ吸血鬼どもと戦う日が来た』
『お前はこの組織で最も力ある戦士だ。――の名に恥じぬ戦いを期待しているよ』

 ヴィジョンに映る大人たちが少女にかけるのは――期待。
 しかし、大人たちが口にした少女の名は、少女をひとりのヒトとしては見ていない証でもあり。
「――」
 その名を無意識に口にするだけで、少女は嫌悪感を催し、わずかに顔をしかめた。
「……大人たちはみんな、私のことを――としか呼んでくれなかったわね」
 嫌悪感をこらえつつ記憶の欠片を言の葉で零す少女の脳裏にふと過るのは、鏡の迷宮で出会った猟兵達の姿。

 ――貴女の髪、綺麗な銀色だね!
 ――笑った顔も可愛いよ!

 己の容姿を、表情を褒められたのは、あの時が初めて。
 それは恥ずかしくも嬉しい記憶として、少女の脳裏に焼き付いていた。
 ――あの組織では結果がすべてで、容姿や表情を気にしたこともなかったから。

「私の名前は数字じゃない。それを証明するためにも、あの世界に帰るわ」
 軽く首を振りヴィジョンを振り払いながら、言の葉に力強い決意を籠めて。
 少女は鈍色の世界の彼方に見える光輝く扉へと歩みを進める。

 ――背後から迫る死の気配を、肌で敏感に感じ取りながら。

●グリモアベース
「やっと「扉」が見つかったのか……長かったな」
 グリモアベースの片隅でほっと一息ついたグリモア猟兵藤崎・美雪の呟きは、心底安堵したようで。
 それを耳にし集まってきた猟兵たちを見回しながら、美雪はグリモアが見せた光景を告げる。
「ああ、皆。聞いてくれないだろうか。以前、鏡の国のデスゲームから生還した『アリス』が、ようやく「自分の扉」のある世界に辿り着いた」
 集まった猟兵たちの一部から、おお、と感嘆の声があがる。
「そこで、皆には『アリス』が扉に辿り着くための手助けをしてほしい。頼めるだろうか?」
 猟兵達に深々と頭を下げる美雪に、猟兵達は其々の想いを胸に頷いた。

「『アリス』の「自分の扉」がある世界は、鈍色の金属に覆われた世界だ」
 それは長い間「不思議の国」を渡り歩いてきた『アリス』が求め続け、探し続けた場。
 しかし、美雪のグリモアの予知にかかったということは、扉に辿り着く前にオウガの妨害が確実に入ることを意味する。
「妨害の手始めに襲ってくるのは、影を操る暗殺者の集団。ナイフと影で敵を翻弄し、確実に仕留めようとして来るぞ」
『アリス』も暗殺者の1体程度なら互角に渡り合えるが、数体同時にかかられると為す術がない。猟兵の助力は必須だ。
「暗殺者集団を排除し先に進むと、待ち構えるのはアリスを斬り裂こうとする斬り裂き魔。アリスを斬り裂くことのみに執念を燃やしている故、厄介だぞ」
 斬り裂き魔は『アリス』では到底太刀打ちできないため、猟兵のみで相手することになる。どうやら何らかの弱点を持っているようだが、実際に対峙してみないとわからない。
 しかし、斬り裂き魔を退けても気は抜けない。『アリス』を永遠にこの世界に閉じ込めるために、幸福な幻影を見せる罠が発動するからだ。
「もしアリスが幻影を現実と信じ込んでしまったら、元の世界に戻ることを諦めてしまう。帰還を諦めた『アリス』に待っているのは、幸福な幻影に囚われたままオウガに無惨に殺される未来だけだ」
 バッドエンドを回避するためにも、皆で幻影を振り払うための声かけを行ってほしい。美雪は強い口調でそう告げた。

「元の世界に戻ることが『アリス』にとって幸せなことなのかどうかは、私には正直判断が付きかねる」
 虚空に浮かぶグリモア・ムジカから音符を奏でて転送ゲートを形成しながら、心底不安そうに呟く美雪。
 ――それでも、「自分の扉」に辿り着かないことには、戻るか否かも決められないから。
「皆には『アリス』が扉まで辿り着き、戻るか否かを選択できるよう、全力を尽くしてもらいたい。頼んだぞ」
 改めて一礼する美雪に送り出されながら、猟兵たちは音符奏でる転送ゲートを潜り、鈍色の金属の世界へと赴いた。





第3章 冒険 『幸せな誘惑』

POWこれは夢だ! 自分をつねったりはたいたりして、力ずくで正気に戻る
SPD種も仕掛けもあるんだろう! 幻影を見せている罠を探し出し、解除する
WIZこれは現実じゃない! 現実にはありえない部分を指摘し、幻影を破る
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幸福な幻影の誘惑を打ち破れ
 気づけば、あなたは乳白色の濃い煙に包まれた空間で、独りになっていた。

 周囲を見回しても、ライナや猟兵達の姿はない。気配すら感じ取れない。
 思いっきり手を伸ばしても、すぐ傍にいたはずの戦友や家族に触れることすら、かなわない。
 どうやら、何らかの理由で空間ごと隔離されてしまったようだ。

 ――突然、目の前の風景が変わる。

 目の前に広がる風景は、あなたの心に秘められた「幸福」な光景。
 しかしそれは、圧倒的な現実味を伴う「幻影」。

 幸い、あなたは事前にグリモア猟兵から罠の存在を示唆されていたため、心の準備はできている。
 故に、目の前に広がる光景が「幻影」であると気づき、打ち破って抜け出すことは難しくないだろう。
 目の前の幻影を打ち破れば、乳白色の煙は一瞬で晴れ、幻影に囚われている他の猟兵の姿が見えるようになる。そうなれば、他の猟兵に助けの手を差し伸べられるだろう。

 ……問題は、幻影の罠の存在を知らなかったライナだ。

「……え?」
 幻影から声をかけられたのか、驚いて後ろを振り向くライナ。
「ああ、ああ……よかった、よかった……!!」
 ライナは大きく目を見開き口を覆い驚きつつ、感嘆の涙を流し始めている。
「みんな、みんなこの世界に辿り着いていたの……無事だったのね……よかった……」
 涙を流しながら喜ぶライナは、いつの間にか辿り着いたはずの「自分の扉」に背を向けている。
「でも、どうやって……え、この扉をくぐって?」
 背後の「自分の扉」を指差すライナの表情は、どこか納得したそれ。
「え? 私はもう、戦わなくていいの?」
 幻影に何か示唆されたか、こくりと頷くライナ。
「ええ、みんなここにいるなら……私もこの世界に残るわ……」
 両手をだらりと下げ、「自分の扉」から離れるようにふらふらと歩きだすライナの手からは銀のナイフが滑り落ち、地面と接して乾いた音を立てるが、ライナはそれに気づかない。

 徐々に「扉」から離れるライナの瞳からは、「自分の世界に帰る」強き意志を秘めていた光が少しずつ失われていく。
 この光が完全に消えた時、ライナは「仲間とこの世界で暮らす」幻影に囚われたまま抜け出せなくなってしまい、幸福感に満たされたまま、無惨にオウガに殺されてしまうだろう。

 ――そうなれば、この1年の苦労は、全て水泡に帰してしまう。

 オウガの仕掛けた悪辣な罠を破るために。
 ライナを幻影の呪縛から解き放つために。

 猟兵達は、各々の幸福な幻影に立ち向かい始めた。


※マスターより補足
 第3章は「各々の幻影を打ち破る」パートと、「幻影に囚われたライナを救う」パートの二部構成となります。
 この章から参加される方は、グリモア猟兵に転送された直後に乳白色の煙に包まれ、いきなり分断された、とします。

●前半「各々の幻影を打ち破る」
 全員、強制的に乳白色の煙に包まれ、「幸福な幻影」を見せられます。
 プレイングで各々見せられる「幸福な幻影」の内容を指定し、それを打ち破る術を記してください。
 前述の通り、猟兵達はグリモア猟兵から事前に罠の存在を示唆されておりますので、幻影を打ち破ること自体は難しくありません。
 見えぬ力で全員分断されておりますので、原則個人で抜け出してもらうことになりますが、早く幻影から抜け出した猟兵が他の猟兵の手助けをすることは可能です。(合わせプレイングでの参加をお願いします)

●後半「幻影に囚われたライナを救う」
 各々の幻影を打ち破ったら、幻影に囚われているライナに干渉できるようになります。
 ライナが見ている幻影の内容は、ライナの台詞から察していただいて構いません。
 その上で声をかけるなり、腕をつねるなりして、ライナが幻影を打ち破る手助けをしてあげてください。
 もし、ライナ救出後にやりたいことがございましたら、是非その旨を記してくださいませ。

 ちなみに、ライナにあえて声をかけず、自分の幻影を破ることに専念するプレイングも可能としますが、誰もライナに声をかけない場合、ライナは幻影に囚われたままオウガの群れの中に足を踏み入れてしまい、殺されてシナリオ失敗となりますのでご注意ください。

 後半のライナ救出パートにおける描写の都合上、全員一括して採用し、執筆するため、誠に勝手ながらプレイング受付期間を指定させていただきます。

 プレイング受付期間:8月7日(金)8:31~8月9日(日)いっぱい
 リプレイ執筆期間 :8月8日(土)夜~8月10日(月・祝)いっぱい

 ――それでは、良き幻影との邂逅と脱出を。