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ワンダー×マーダー

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●迷宮『殺人事件が起こるホラー洋館』
 錆色の蒸気機械に侵食された中世の洋館に、『貴方』は居た。
 始まりの玄関ホールから伸びる長い廊下と階段。豪奢な調度品と彫刻絵画と、頭上に煌くシャンデリア。そして天井と壁を蔦のように覆うパイプと歯車と伝声管を見つめた。その微弱な音を奏でるムーブメント等は、時折、羽虫のような雑音も混ざり、恐らく、これらは館全体の呼吸器官で全ての部屋に共通する構造なのだろうと想像がつく。
 夜空の青い光を薄く映す廊下を歩く度に、開く部屋の扉に触れる度に、貴方の呼吸は乱れ、背後の気配をたびたび伺う事だろう。
 そこからは幻影と現実の繰り返し。
 遠くで男と女の争う悲鳴が聞こえた。続く破壊音。断末魔の叫び。不当に断罪する聖者の罵り。獣達の咆哮。慌しい跫音、遠ざかる跫音、複数にて、単発にて、空耳かと思う騒音がすぐ耳元で鳴り響き、または遠ざかる。
 窓と鏡に映る姿は何も無し。視界の片隅によぎる影は何かのナニカ。
 足元が波打つ感覚に、思わず尻をつけば、振り仰いだ空間に――居た。

 目の前が紅く染まったその先で、

 ――貴方は殺されたのだ。

●グリモアベース
「こんちゃ! ようこそ、紳士淑女の皆サマ。今宵は、迷宮『殺人事件が起こるホラー洋館』&『巨大迷宮脱出作戦』ツアーに集まってくれて、どうも有難うゴザイマス!」
 叡智の黒カラス・男爵を肩に乗せたヤドリガミの破魔・案山子(かかし)が、乱雑に天井高く積み上げたガラクタ山のてっぺんから手を振り、猟兵達を出迎えた。今回は皆の姿が、上から一望出来る事もあって、大層ご機嫌だ。俯瞰で見る世界って、素晴らしい。
「皆はホラー体験と脱出ゲームは好きかな? 今回の依頼は、それらを楽しんで貰って、最後にアルダワ魔法学園地下迷宮名物、隠れラスボスの災魔を倒すだけの簡単なお仕事デス!」

 まず最初のホラー館には、絶対的なルールがある。
 ひとつ、館から逃げられる術は無い。
 ふたつ、殺人鬼は必ず皆の傍に、順に現れる。
 みっつ、最初に選んだ部屋以外は、出入する毎にランダムな場所に飛ばされる。
 それらに眼を瞑れば、探検自由だ。

「あ、美味しい食事と風呂トイレは用意されてマス。各自、ご利用クダサイ」
 そこは聞いてない。……え? あるのか!?
「お休み用の寝室とベッド、豪華な貴族衣装の着替えゴザイマス」
 あるのかよ!
「遊びたい人は、遊興室でボードゲーム各種、ビリヤード、ダーツ。収集(コレクション)部屋で武具や絵画鑑賞等もいいデスネ。お花好きな人は月光が降る温室が素敵デスヨ。暖炉が灯る応接間で、ゆったりと、お酒と果実汁や茶(ミルクはありません)、お菓子を堪能し、厨房や保存庫で珍しい食材を物色するのもイイデスネ。……って、まあ、こんなの楽しんだ者勝ちじゃんっ」
 但し、全てホラー仕立てだという事を、ゆめゆめお忘れなきよう……。
 同胞達の悲鳴が貴方の心臓を凍らせる、かもしれない。
「物語本で見る貴族が住まうような中世の館を模している所為かな。何処の部屋も豪華なシャンデリア、調度品でいっぱいだぜ。けど大抵、無粋な配管や歯車と伝声管が通っていたりして、そこは、ちょっとアルダワ風味で面白いかもっ」
 部屋によっては視界が悪い箇所もあるだろう。隣に居る友が、別の誰かだという事もあるかもしれない。自分の命が狙われる、その時には――。
 殺人鬼に殺される瞬間、与えられるものは壮絶な苦痛だろうか、絶望だろうか。
 猟兵を襲う殺人鬼とは、一体どんなヤツなのだろうか。
「ハハッ!」
 軽快に笑う案山子の耳を、「あ、イタッ。ゴメンナサイ!」教育係の男爵が嘴で引っ張って諌めた。男爵が怜悧な視線で語る。どんな状況だろうと『死』には敬意を払い、軽く扱うものではないと。
 ――死とは、『私』が、ほどけてゆくもの。『私』を形成する全てがほどけるもの。
 世界から大切な存在が消えていく刻を、この童子は見ていた事がある。それらと等しい刻を識(し)る猟兵も、今ここに居る事だろう。「楽しんで来て」と、同時に「識(し)って来て」と呟く。
「殺人鬼については、敢えて秘密にしとく。ヒントは予知物語に、ちょっとだけ」
 そんじゃ、気をつけてー!
 次々とアルダワ魔法学園の地下へ転移されて行く猟兵達に、ぶんぶん手を振った。

 程なくして。
「積みすぎた……ぐすん」
 人気がなくなったベース内に、崩れたガラクタの下から、か細い泣き声が漏れていた。
 まあ、そんな事はどうでもよろしいので、改めて、いってらっしゃいませ!


イコロ
●『転校生』の皆様に最初に挑んで頂きますのは、迷宮『殺人が起こるホラー洋館』です。
 皆様のプレイングによってシリアスモードに入る事も可能ですが、現状ですと「何処かの遊園地アトラクションのホラー洋館体験のアレでソレなノリだよね」です。
 お好きな方をお選び下さいね。
 希望者が多い方を【確定モード】とします。

●ホラー洋館
 アルダワ魔法学園特有の蒸気機械に覆われた洋館。
 全室、何かしら定番のホラー仕掛けがあると思って間違いありません。
 殺人鬼は必ず館内に居り、転校生全員を順に狙います。
 部屋は出入する度に、ランダムな部屋へ強制移動します。

●第1章 (夜。戦闘なし。戦ってもOK。一部光源必須)
 貴方は殺人鬼から逃げられるのか、敢えて被害者となるのか。
 全滅するか、或いは真の殺人鬼を炙り出せた所でクリア出来る簡単なお仕事です。
 被害者は、1章を終了するまで行動不能になります。
(※実際の重傷・死亡判定はありません)

●第2章 (朝。戦闘なし。戦ってもOK)
 館が一変して巨大化します。
 脱出口は1F玄関の扉。
 1章で登場した殺人鬼も巨大化して妨害に来る事もあるでしょう。
(※もしも、1章で殺人鬼が判明していない場合、妨害度が増し増しになります)
 一定数が脱出出来たら、クリアです。

(※1章で被害者になった貴方は死体のままでもいいし、復活宣言をしてもいい)
(※死に顔しか出番がなくなるので、後者が推奨かなっと思います)

●第3章 (戦闘あり、ユーベルコード必須)
 ラスボス登場。鬱憤を晴らしたければ、思いの丈を叫ぶといいですね。
 倒す→(叫ぶ)→倒す。
 簡単ですね!
30




第1章 冒険 『洋館アンダーグラウンド』

POW   :    各部屋の仕掛けを力技で突破する

SPD   :    各部屋を足を使って隅々まで調査する

WIZ   :    各部屋に仕掛けられた魔術的な仕掛けや謎を解く

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

銀座・みよし
コレは好機にございます!
わたくしが今、お仕えしてるお屋敷も昔ホラーな洋館だった(らしい)ので
いずれまたお屋敷がホラー風味に戻った時のシミュレーションをさせて貰いましょう!
アトラクションだとは思ってますが、
やはり怖いから一緒に居てくださいねメジェドさん…

…ふーむ、まずは情報収集を頑張って犯人像を探れば良いのかしら…?
ともあれ夜で暗いようですし、明かりを求めて行動しましょうか
暗くてよく見えないので足元には注意して歩きますね

それにしても蒸気機関があちこちにあるから、
不振な物音かどうかが分かりづらいのでございます
暗闇に乗じて飾られてる絵がぐわー!って襲ってきたらどうしましょう…

(絡みやアドリブ大歓迎!


赤星・緋色
そんな!殺人鬼がいるようなところにいられないよ
私は自分の部屋に帰らせてもらうね!

あ、でももし。
すぐに襲ってきたら私が食い止めるからみんなは先に安全な所に行って。
私にかまわず早く!

それはそれとして
私知ってる!こういうお屋敷って「普通の屋敷にこんな仕掛けないよ」っていう仕掛けがあるんだよね
ふっふーこんな時のためにとっておいた技能が沢山あるよ

とりあえず最初は扉をガチャガチャして全部屋のパターンみておこ
せっかくだしね
暗視、忍び足、迷彩を使いながら探索
追われたらスカイステッパーの立体移動でシャンデリアや配管を利用しながら逃走
空中までは追えないでしょ

始まったら仲間は信用しないよ
多分すり替わった敵だし


寧宮・澪
おおー……ホラー……脱出ゲーム……好きです、よー。
(無表情にわくわく)

ドレスに着替えてー……。
歯車、伝声管、ムーブメント、蒸気機関ー……ギミック、見てるの楽しい、ですねー……。

魔術的な、仕掛けや謎にチャレンジしましょー……。
【情報収集】、【世界知識】……何か、不思議な魔力の流れや、蒸気機関で変わったギミックを見つつ……仕掛けや謎を解いて、いきましょー……。

あ、悲鳴が一定でないのは伝声管のせいです、かねー……。
足元が波打つ……紅く……紅いカーペット、でしょかー。
こういうお屋敷には……ひいてますでしょ、しー……。
その下に潜むか、そのものかー……。
もし出会ったら【霞草の舞風】ー。

アドリブ、連携お任せ




【確定モード】アレやソレな感じで、行きましょうね。


 地底をごりごり削るかのような重々しい音をたてながら、玄関の扉は開かれた。
最初に招かれた銀座・みよし(おやしきのみならいメイド・f00360)、赤星・緋色(サンプルキャラクター・f03675)、寧宮・澪(澪標・f04690)の3人、続く数人の猟兵達は玄関ホールに佇み、各々に視線を巡らせた瞬間、背後の扉に無情な音を鳴らされ、館と云う名の檻の中へ閉じ込められた。
 そして突如、

 ――ギ ィ ぃぃぃ ヤ ァァ ァァ アーッッ!

 不可解な断末魔が恐らく二階奥からここまで反響すると同時に、階下にある無数の部屋の扉が暴力的に開け放たれては叩き付ける事を繰り返し、天を仰ぐと天井のシャンデリア達は遠心力で振り回されたまま数段連なる蝋燭の光が半数以上、失われた。
「きゃっ」「ハッ!」「ふぉっ?!」
 猟兵の口々から飛び出しかけた悲鳴の塊を飲み込む気配。
 次に音は止み、ホールに薄く闇が落ちると、みよし達の足元の赤い絨毯の上に留まる影すらも、おぼろげにぼやけてしまった。
 今のはまるで、洋館が来訪者達に、あざとく歓迎の挨拶をしたかのようだ。

 紳士淑女の皆様、歓迎致します。
 そう、ここは迷宮『殺人事件が起こるホラー洋館』でございます。

 ……と、でも。

 殺人! 殺人! 今夜は殺人鬼が蠢き、ここで犠牲者が出る!
 無数の蒸気機関に覆われた未知なる洋館に惨劇が!
「おおー……ホラー……脱出ゲーム……好きです、よー」
 少しとろりと瞼が落ち無表情に見える澪は、内心わくわくしながら、足元の影が映る絨毯を、にじにじと足先で撫でながら興味深く見ていた。ぼやけた影が絨毯の繊毛が乱れた途端、一見怪物の顔に変わると、「おおー……」と感心したように呟く。
「そんな! 殺人鬼がいるようなところにいられないよ!」
「いえ! コレは好機にございます!」
「はぁ?!」
 緋色が至極真っ当な事を云った。云いました。
 その言葉を、みよしは決意に溢れた瞳を緋色に向けて遮り、
「わたくしが今、お仕えしているお屋敷も昔ホラーな洋館だった(らしいんですって)ので、いずれまたお屋敷がホラー風味に戻った時のシミュレーションを、今夜させて貰いましょう!」
「え……、はい」
 本当は、みよしはホラーが得意ではないように、その優しそうな顔から伺えるが、本人が奮起しているし、とりあえず、年上のお姉さんの云う事には頷いておこう。
「あ……2人、見てー……」
 足元の絨毯の仕掛けを気にしてか、じっと眺めていた澪の視線は、やがて固く閉まった玄関の扉に移っていた。
「「何か?」」
 とろりと身をかがめて座り込む澪を2人は挟んで、彼女が指差す先を見つめる。
 意匠の彫刻が刻まれた両開きの硬い扉の片側下部分に、その小さな窪みはあった。
 大きな扉と同じく取っ手と蝶番が丁寧についているもの。
「にゃんこさんわんこさん用の扉でございましょうか?」
 ふと、他の猟兵達の中に居る愛らしい尻尾の仲間達を見つめる。
「いや、違う。もっと……」
 小さいのだ。


「さて、それでは何処から参りましょう?」
 先ほどの騒音は止み、今は穏やかに戻った己の鼓動に等しい微かなムーブメントの音が辺りを包む。それぞれ移動を始める他の猟兵達の中で、特に最初の行き先を決めていなかったみよしは、何処から殺人鬼像の情報収集を始めればよいのか思い悩む。ともあれ、光源が半分落ちてしまった玄関ホールから、早く明かりを求める事から始めたいのだが……。
「ドレスに着替えてー……。歯車、伝声管、ムーブメント、蒸気機関―……ギミック、見て回ると楽しそう、ですねー……」
 澪の言葉に、ぴっこーんと閃く。
「ドレス! わたくしに、お任せくださいませ! 」
 メイド(見習い)の勤めは、日頃主人の着替えのお手伝い。得意分野だろう。
 そうとなれば、行き先は決まった。
 緋色さんは?
「私は自分の部屋に帰らせてもらうね!」
 自分の部屋、とは?!
「とりあえず最初は扉をガチャガチャして全部屋のパターンをみておこ。せっかくだしね」
 扉に鍵はかかっていない事は、洋館が証明した。開け放題に違いない。
 しかし、
 ――みっつ、最初に選んだ部屋以外は、出入する毎にランダムな場所に飛ばされる。
「な、なんと反則的な……っ!!」
 恐ろしい子ッ!
 ひぃっと両手で頬を押さえて、すくみ上がるみよしに、壁の歯車を調べていた澪が諭すように云う。
「いえー……あり、ですよー……。きっと洋館は……せっかくお部屋をー……作ったのだから、入らずとも見て見てー……思って、ますよー……。特に、バストイレ回りに……仕掛け、作ったのに、残念でしたー……とかー……」
「思っているのでございますか?!」
「……気の、せい、ですよー……」
 それはそれとして。
「私知ってる! こういうお屋敷って「普通の屋敷にこんな仕掛けないよ」っていう仕掛けがあるんだよね」
 ふっふー。こんな時のためにとっておいた技能が沢山あるよと、得意げに胸を張る緋色に
「や、やはり恐ろしい子ッ!」
 生き残るという事は、こういう事なのかもしれないね。


 澪とみよしが選んだ最初の部屋は、二階バルコニーのある見晴らしが良い貴賓室。
 少々変わっている点は、やはり蒸気機関のパイプと歯車と伝声管。最初の断末魔が反響したのは、伝声管の影響かもしれないと澪は触りながら考えたが、異様なそれらも、洋館に来てから既に見慣れてしまえば、窓は決して開かぬが夜空に輝く月の姿も自然に楽しめるし、この部屋は比較的、ホラー色が薄い事も安堵する。
 天蓋付きの寝台、円錐形に見えるシャンデリアは何段も蝋燭が並んで金色に輝き、白に金の彫刻が施された家具と調度品、そして続き間の衣装部屋。
「沢山―……素敵……」
 どんな体型の種族が客人として招かれようとも、ここでは全てが叶うだろう。
「このバラ色のドレスとか、ちゃんと尻尾用の穴が空いてございますよ。きっと乳白色のお嬢様、ケットシーさんに似合いそうですよね」
 うきうき♪ ルンルン♪ 素敵な刺繍、シルクにリボン、手編みレースに縁取られたお姫様ドレスを両手に抱えた後、みよしは澪の着替えを手伝い始めた。リネンの肌着から始まり、シルクのストッキングからガーター、ペチコートとパニエ……(以下略)、全てを重ねて身につけ、細い腰からふわっと花蕾が膨らむシルエット、白い肌に映える清廉な色のドレスは澪を華やかな貴婦人へと変え、その姿を普段の主人と面影を重ねたせいか、メイド(見習い)冥利に尽きたかもしれない。
「じゃ、次、おかえしー……」
「は、わわわ」
 みよしの身体に合ったドレスを着せあう。ふんわりしたピンクの髪に大きな純白のレースリボンを添えて、いつものメイド服からフリルいっぱいのドレスへ。
 これは、ほんのひとときの。
 この洋館に居る時間だけの、メイド(見習い)さんに贈るプレゼントなのかもしれない。

 すっかりホラー気分を忘れた頃、着替え終わり、沢山出したドレスを2人で片付け始める合間、ピタッと互いの手が止まった。沢山のドレスの中で、異質なもの。
 血染めのドレスが混ざっていた。
 どくんっと、2人のうち、どちらかの心臓が跳ねる。
「これ……」
 このドレスは、何故赤い。
「これはー……、【返り血】に、違いないですよー……」
 いつのまに。
 沢山のドレスに混ざって、気づかなかっただけなのかもしれない。
 いや、それでも。
 2人が顔を上げると、室内の光が揺らめいた。シャンデリアが振り子のように激しく。
 更に螺旋を描きながら円錐形に並ぶ蝋燭が次々に消失していく。
 互いの脳裏に浮かぶのは、警戒の二文字だけ。

 ダンダンダンダン!!

「ひゃ?!」
 室内の灯りが奪われ、闇に塗り替えられていく中で、外から扉が叩かれる音がする。
 切迫?
 まるで誰かが助けを求めるような……。
 蒸気機関のムーブメントの音が拡張と共鳴を始め、澪の気がそちらへ逸れた瞬間、みよしが叩音の方へ気が逸れた。最後の蝋燭が消えた時、残る光は部屋を青く染める月明かりのみだった。バルコニーに向けられた硝子を覆う格子が檻のように室内に延びて来る。
 澪はムーブメントの音を耳に詰め込まれながら、足元のカーペットに潜んでいるかもしれないモノを警戒した。
「かすみが如くー……舞……」
 言葉が続かなかった。
 無数の花びらに変えかけた力が消え、澪は口を閉じる。
 必要なかったからだ。
 指定すべき対象が【足元】には居ない。

 そして、みよしが消えた。


 伸びる廊下は青い光に薄く染めあげ、迷彩・忍び足で歩く緋色の姿を溶け込ませていた。しかし、今は灰色に見える絨毯が足音を吸収してくれても、ガチャガチャ回すノブの雑音までは消してくれない。見て回る部屋の数が増えれば増えるほど、自分の存在を誰かに報せてしまう事に気づくだろうか。
 部屋の造りは、それぞれ違いはあれども、共通するものは
「蒸気機関のパイプ管、伝声管、シャンデリア。まさか、バストイレにまでシャンデリアがあるとは思わなかったよ」
 変なの。
 確かに館の中で唯一の光源だけれども、暗視を使う自分には用を足さない。
 他の猟兵の皆だって、個々に光源を用意していれば、シャンデリアの灯りが消えた所で障害にはなりえないだろう。
 用意してあれば、なんだけどね。

 一階の部屋を覗いて見て回った所で、緋色は階段を登り始めた。
 最初の玄関ホールをちらりと見遣ると、半分消えかけたシャンデリアの灯りが、ホールをぐるりと囲むエライ人の肖像画をぼんやりと影のように歪めて、ちょっと不気味。
「ああ、『暗闇に乗じて、飾られている絵がぐわー! って襲ってきたらどうしましょう!』って、みよしさんが云ってたっけ。はは」
 そんなバ……
『バ~カ~な~って~?』
「!」
 不意に耳元で甘い吐息と、しかしそれに反する重低音な声が耳朶を打った瞬間、「えっ!?」、緋色の身体が後方へ弾き飛ばされた。
昇りかけた階段の中腹、落ちれば背後に迫るは転落死。
「な、にっ、を!」
 不意打ちに、気合をいれるかのよう歯を噛み締め、くるりと宙返りして、飛び上がった。
 これは勘だが、確信した。
 居た。すぐ傍に。
 今のが殺人鬼なのか。咄嗟で見えなかった。見なかった。
 下へ逃走するか、上へ逃走するか。
 緋色の判断は逃走のみ。
 空中を次々とジャンプし、二階のエントランスへ着地し、正体が見えない殺人鬼の気配から振り切る為、扉を開いた。


 青い光がひときわ輝く薄闇の世界が広がっていた。
 黒い影が床に横たわり、それが人だと区別が付かなかった。暗視で見る世界はどれだけ緻密な性能で世界を見る事が出来るのだろう。
 歩を進めて近づく事を、ひとときの間、ためらう。
 それは仲間か、殺人鬼か、少年は判断に迷ったからだ。

「おおー……緋色さ……ん、ですねー……」
 こちらの気配を察して、このとろりとした感嘆を唇から漏らすのは、つい先ほど会話を交わしたあの人だ。
 澪だ。
 彼女の身体の上に、無数の蝋燭が……両翼を焼き落とされた天使の羽根のように無残に散らばっていた。円錐に似た金の器物は、シャンデリア。
「一体、何が?!」
 こふっと、弱々しく息を吐き出した澪が、「やられた、ですよー……」と呟いた。
「みよしさんは?!」
 駆け寄って、彼女の身体を押し潰すシャンデリアの器物を掴んだ。両腕が千切れそうな程、重く動かない事に愕然とする。これが迷宮の法則であり、魔力なのだろうか。
「……これ、痛くは、ないですよー……。ちょっと程度、ですかね……。みよしさんは、たぶん、殺人鬼に、あの時、部屋から弾きだされたんだと、思います……」
「じゃあ、何処かの部屋に?」
「……たぶんー……」
 力尽きたかのように、澪がぐったりとした。
「澪さん!」
 身体の力がどんどん奪われていくので、
「……寝る、ですよー……」
「あ、はい!」


 みよしが最後に居たのは食堂。
「メジェドさん、やはり怖いから傍に居てください」
 これだけは身につけておかなければと思い、エプロンをフリルのドレスの上から被り、きゅっと腰のリボンを結ぶ。これは覚悟の儀式だ。
 細長くきりとられた空間の中、天井には貴賓室で見た物より、更にひときわ硝子細工が豪奢に飾られたシャンデリアが複数釣り下がり、白いテーブルクロスが掛けられた長いテーブルには、中央に花と燭台、端に磨かれた金の食器達の列。だが、椅子に座しているのは、髑髏顔の貴族人形ばかり。
 不可視の存在を傍に待機させたみよしは、周囲をぐるりと見渡した。
 次の部屋へ逃げても、いずれ襲われる。
 他の仲間のために、殺人鬼の情報集めが必要なのだ。

 ・玄関の扉の【小さな扉】
 ・血染めのドレスの【サイズ】

 あと少しなのに、大事な事が欠けている。
 
 気配がする。
 周辺のムーブメントの音に混じり、ぱたぱたと羽虫のような雑音が聞こえる。殺人鬼は何処からやって来るのか、そこまで考えていなかったかなと思う。
 カタッと揺れる椅子の音に、
「メジェドさん!」
 と、叫んだ時には、白いテーブルクロスが一気に四隅の一点から引っ張られ、盛大に金の食器達が次々と美味しそうな食事を撒き散らして宙に散乱し、みよしの身にも降りかかる災いの対象物が複数にも増え、撹乱された。不可視からのビーム射線より、食器を盾として、一気に頭上高く移動する影。
 そこには綺麗な光の屈折が計算されたクリスタル細工に彩られたシャンデリア。
 影は脆く吊り下げた鎖の輪を揺さぶって、落す。 千切って、落す。
 次々と、みよしの頭上へ目掛けて。

「メジェドさん……ごめんなさい」

 羽虫の音が、少し軽快に硝子と蝋燭の渦の上を飛んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

テン・オクトー
不思議な雰囲気を感じるお仕事だね
怖い気もするけど行ってみよう

厨房からSPD

まずは伝声管を調べる
どのくらいの大きさかな?人は通れる?ボクは通れる?
伝声管使ってみようかな?無防備すぎる?
「こんばんは~誰かいますか?」

反応無しならそのまま
反応有りなら少し会話
名乗るのは有
所在は言わない
犯人かもしれないからね

あとは室内の戸棚や引出しを片っ端から調べる

おや 美味しそうな食材がある
長丁場になりそうだし(料理)で少し作ってみよう

厨房にいる仲間と一緒に食べるのもいいし
後から来た仲間が食べてもいいし

メモ書き置き
サンドウィッチとスープお気軽にどうぞ 転校生のテンより

移動できるタイミングがきたら移動

連携アドリブ歓迎


ルルエリ・エールディール
『応接間』を最初の部屋にして、アンシェさんと一緒に行動するよ。
部屋は隅々まで調べてみたいかな【SPD】
お菓子がある?じゃ、もらう。人形にお金かけすぎて、おやつ中々食べられなくてさ。行儀悪いけど、食べながら調査はできるし。間抜けそうで、囮にはいいかも。

伝声管には人形用の糸を中に一本張っておく。
切れてたら、そこから何か出てきてる? って情報を誰かに残せるかも。
あと入れ替わり対策でアンシェさんと、互いの手首を人形用の糸で繋いでおくよ。
熟練の猟兵を暗殺する相手は、わたしじゃあ対処むり。人形とトランクで防御はするけど…やられてる間に、誰か情報もってって。
テンさんも居るなら、伝声菅使えれば情報共有したい。


アンシェ・ローム
ルルエリさんとテンちゃんと参加。

きゃーっ面白そう!
わたくしはこの応接間を選びますわ!い、いや、殺人鬼探しは忘れてませんわよ!?
それにここにいても殺されちゃうだけですしね。

……その前に!この伝声管ちょっと気味悪くて気になるんですわよね。使えるかしら?もし全部屋に繫がってるなら……、テンちゃーん!

さて、暖炉から火を貰ったロウソクを片手に探索開始!行けるとこまで全部屋行きましょう。テンちゃんと出会ったら何か情報交換できるかも。
片方になにかあってはいけないので、ルルエリさんから案が。お互いの手にからくり人形の糸を結んでおく。
まあでも、何かあったら守ってあげますわよルルエリさん!【技:かばう】




 最初のお部屋は何処にしよう。
 ててててー、てててー、青白い廊下を3人は駆けていく。
 最年少のテン・オクトー(気弱な小さき猛獣・f03824)と人形遣いのルルエリ・エールディール(自由を手にしたニャリオネット・f13370)と、お転婆なお嬢様アンシェ・ローム(ですわ~・f06211)は、廊下の向こうからドドドドとかき鳴らす軍隊靴の群れに追いかけられていた。姿は何も見えないのに、本当に一糸乱れぬ軍隊が哀れな猫を追いかけて、背後に迫り来るかのよう。
「きゃーっ♪ きゃーっ♪ きゃーっ♪」
「「楽しそうですね。アンシェさん」」
「ホラー洋館って楽しいですわ! い、いや、殺人鬼探しは忘れませんわよ?!」
 通り過ぎる窓の向こう側に浮かぶ亡霊の顔共が、おぞましく生者を妬む貌で3人を見送れば、アンシェはくるっと後ろに走る2人に振り返って、とととと軽くステップを踏んで向き合う。急ブレーキをかけ、前のめりになるテンとルルエリ。
「あぶなっ!」
 どぉーんっと、軍隊靴の群れも3人の下に追いつき、秒遅れでバラバラバラバラーっと麻雀牌が振り落ちるような音を最後に静かになった。
「フィニーッシュですわ」
 両腕をビクトリーポーズで決めるアンシェに、他の者は尻尾の毛が膨らむ想い。
「もー、危ないって」
「殺人鬼さえいなければ、こうしてホラー洋館を存分に楽しめたと思いますのに、とても残念ですわ」
 何もしないままなら、皆、殺されちゃうだけ。
 どんな殺人鬼なのか、どんな殺され方なのか、答えは勘で判るような判らないような、そんな感じ。探索を始めなくては。
「テンちゃん。わたくしとルルエリさんは、最初は応接間へ行こうと思いますけれども、ご一緒にいかが?」
 手を差し伸べるアンシェに、テンはふるふると首を振った。
「怖い気もするけど、厨房に行ってみようと思う」
 1人で頑張る子、えらい、えらい。
 健闘をたたえ、互いに手を振り合いながら、それぞれの目的の場所へと足を運んだ。


「誰かいるのかな」
 テンがやって来たのは、石造りの簡素な大部屋。
けれど、ここでも天井から釣り下がるシャンデリアが部屋の隅々まで照らし、蒸気機関のパイプ、伝声管が揃っていた。
 更に一歩足を踏み入れて眼にするのは、ほんの今しがた、誰かがここで料理をしていたかのような、木のテーブルに切りかけの野菜とベーコン。床に倒れた木桶からは剥いたジャガイモと皮が零れ、火にかけられた大きな鍋と、パン焼き用の石竃からは香ばしい焼きたてパンの匂いが漂い、白い湯気達が宙をくるくる回って立ち上っていた。
 テンが手ごろな椅子を踏み台替わりに登り、大鍋の中を覗いてみると、まんまるな白い玉ねぎ、赤い人参、青キャベツ、黄色いじゃがいもとお肉の塊がくつくつと煮込まれていた。大きな木のスプーンですくって、ふぅふぅと冷ましながら味見をしてみると、野菜と肉の甘みがスープにしっかりと溶けていて、じんわりとテンの小さな舌をとろかしていくかのよう。
「はっ。もしや、これは毒では?!」
 こくっと、飲み下した後で、ハッとする。
 喉を押さえ、お腹を押さえ、時間を待つ事、ちっちっちっ……。
「……ではなかった。美味しい」
 丁寧に灰汁を除いた透明なスープ。塩で味を整えれば、美味しいポトフの完成だ。竃から取り出した焼きたてパンの表面はパリッとして、スライスすると、小麦の芳醇な香りが一気にテンの鼻をくすぐる。そこへ塊から削いだ生ハム、レタスを挟めば、サンドウィッチに。バリエーション豊富に、スライスオニオンとトマト、焼いたベーコン。あ、そうそう。最初に調べた戸棚と食器棚からみつけた濃厚チーズと燻製も挟んでみよう。
「後で皆にも食べて貰えるかな」
 手軽につまめるようにお皿に盛り付けて、メモ書置きを、さらさらと残す。
『サンドウィッチとスープお気軽にどうぞ 転校生のテンより』

「よし」
 と、一息ついた所で、「テンちゃーん!」とアンシェ達の声がする。伝声管の蓋を持ち上げてみると、ムーブメントの規則正しい音に混じり、友達の声が届いた。伝声管は人間の拳が通るくらいの大きさで、ケットシーの自分の身体なら、カポっと顔がハマっちゃう程度かな。
「……」
 手早く手短に互いの部屋の状況等、伝え合う。
 他の猟兵達も利用するかと思っていたが、この伝声管を使用しているのは、どうやら自分達だけのようなのだ。各部屋の共通の付属品、殺人鬼像の推理。
 ルルエリが応接間の伝声管に人形の糸を仕掛けたと云った。もしも、この中に通れる者が居るとすれば、それは……。
 報告が終わった後、意を決し、テンは伝声管に呼びかける。友2人宛にではない。
「こんばんは~。誰かいますか?」
 応答を待つ事、数秒。

『ハァーイ♪』

 鈴のような声が、テンの耳に届いた。
 名乗るかどうか迷った。アンシェとルルエリとの報告会で、徐々に確信が持てた為、自ら名乗るのは危険だと判断した。
何故なら、この声の主は間違いなく……。
『今、行くワ♪』

 皆が探していた【殺人鬼】だからだ。


 少し時間を遡る。
 テンが厨房で料理に時間を掛けていた頃、行動を共にしていたアンシェとルルエリの方に大きな進展があった。
 他の部屋よりも一層豪華に拍車をかけた室内。炎が踊る暖炉、華麗な図案が織り込まれた絨毯、
巡るパイプ管の隙間に金模様の壁面に掲げられた絵画、ビリヤード台、ハルバートを持つ甲冑騎士、そしてシャンデリアの明かりの下に浮かび上がる焼き菓子と紅茶。
「お菓子がある? じゃ、もらう。人形にお金掛け過ぎて、おやつ中々食べられなくてさ」
 大事な人形が入ったトランクを抱え、テーブルにセッティングされたお菓子を見る。
「もうルルエリさん、お行儀が悪いですわ」
 アップルムース、プティング、タルト、ワッフル……キツネ色の焼きあがった甘いお菓子達に蜜のような果肉ソースとフルーツ、ルルエリはアンシェが切り分ける端から椅子に座る事もなく手づかみで受け取り、口に運びながら、室内を歩き回り調べる事に余念が無い。
 一番気になる伝声管の中に人形用の糸を張っておくのは、【そこから出て来る何か】の情報を得る為。お見事です。パァーン、パァーンと洋館全体に不可解なラップ音が響き渡った。
「びっくりしましたわ」
 アンシェが耳をおさえ、周りをきょろきょろと見渡した。
「ルルエリさん、これは?」
 アンシェの手首と自分の手首に、からくり人形を繰る糸と同じものをルルエリは結んだ。
「もしも入れ替わりが起きた時の対策。糸が切れない限り、互いに本人同士だって判るように」
 敵の姿が見えない以上、ホラー洋館のギミックすら、何が起こるか判らないのだから用心を重ねていいくらいだ。二人は頷き合い、互いの絆を結び合う。


 テンと報告し合い、お菓子をいっぱいお腹に詰めた所で、アンシェも本格的に室内の調査に乗り出し、暖炉の火を燭台に移した。今しがた座っていたソファーの下、調度品の引き出し、鏡と絵画。
「きゃ!」「わっ」「きゃっ」「きゃっ」
 水辺に戯れる天使達を描いた絵画の表面が、嵐に浮かぶ悪魔に変わったり、鏡に映る自分達の姿が歪んで、亡霊集団に変身したり。
 甲冑騎士の傍を通ると、騎士が掲げていた筈のハルバートがアンシェ目掛けて倒れて来た。寸での所で避けたけれども、
「これは、ちょっとシャレにならないですわ」
「大丈夫? アンシェさん」
 と云っている間に、がしゃーんと甲冑の兜がルルエリ目掛けて振って来た。
「きゃーっ! ひとりでに動きましたわっ」
 当らなかったけれど、2人の足元を転がっていく兜を見送ったルルエリは、ハッとして、伝声管の元へ走って行った。
「アンシェさん、伝声管の糸が切られてる」
 先ほど、ルルエリが仕掛けた伝声管の糸は引きちぎれていた。
 それは、この伝声管を伝って、【何者かが通った】という紛れも無い証拠。
「じゃあ、わたくし達が追っていた殺人鬼って……」
「【小さい】んだ」
 玄関ホールで澪が発見した小さな扉。
 自分達ケットシーの方を見つめて、それよりまだ【小さい】大きさだと云った。

 シャンデリアが揺らいだ。ぐらぐらと。たちどころにシャンデリアの蝋燭の群れが消え、暗がりが見上げる2人の元へ襲って来る。ルルエリはトランクを引き寄せ、燭台を握り締めるアンシェを背に庇う。
「かばうのは、わたくしの方ですわよ!」
「どっちでもいい。アンシェさん逃げて!」
闇が濡れた烏羽根のように覆う前に、シャンデリアが2人目掛けて四散した。
 降り注ぐ硝子の破片は氷の弾丸の如く、容赦なく頂いたお菓子のお皿、ソファー、絵画、絨毯、盾となるルルエリのトランクへも突き刺さった。
 扉へ向かう2人。
 繋いだ絆の糸は、ここを越えた瞬間にランダムにそれぞれ次の部屋へ飛ばされると同時に断ち切れる事だろう。飛び出す瞬間、暗がりの部屋に、アンシェの燭台が弾丸の合間を飛ぶ者を一瞬捕らえた。
 アンシェとルルエリの眼がソレを目撃するには十分だ。
 小さきもの。
 血染めのドレスに丸い羽根を持ち、逃す2人を残念そうに見送る者。
「「【フェアリーの女の子】!」」

『あーあ。見つかったの。残念なの』

 バァーンと応接間の扉が閉まる隙間に、肩を落とす殺人鬼の姿が垣間見えた。


「テンちゃん! テンちゃん! テンちゃーん!! 無事? 無事?」
 ぺちぺちぺちぺち。
 二階の暗い寝室の床に、小さなテンが倒れている所をアンシェは思いっきり頬を叩いて起した。
「え、何」
 痛い。
「わーっ。生きてたーっ」
 テンが起き上がると、心配そうに自分を見下ろすアンシェとルルエリの姿が燭台の明かりで浮かび上がった。
「2人も無事ですか?」
「無事だよ。部屋を何度も行き来して、やっと合流出来た」
 はー、とルルエリがトランクを抱え、安堵の息をついた。
 
「じゃ、もういいよね? 殺人鬼さん」
 何処にでもなく、ルルエリが天井へ向かって叫ぶと、ぱんぱかぱーん♪ と、ファンファーレが洋館全体に鳴り響いた。ぱぱぱっと明かりが灯れば、壊れた筈のシャンデリアが瞬く間に天井を輝かせ、元のホラー洋館へ戻っていった。

「殺人鬼の正体、見破ったりっですわ!」
 てーん♪ と、宙をアンシェが指をさせば、そこに血染めのドレスを纏った女の子が現れた。
 殺人鬼は、フェアリーの女の子!
『見つかったの。アタシの名前、聞く? チェリオット・マーダー。この洋館で起こる殺人事件の殺人鬼役なの』
 丸い羽根をはためかせ、伝声管を伝って、何処の部屋へも往来出来た。薄暗い暗がりに身を潜めば、被害者達の視界に入りづらい。そして凶器は倒壊するシャンデリア、ガラクタ、骨董品。洋館にあるあらゆるモノが殺人鬼の殺人道具。
 アンシェ達が回った部屋に仲間の猟兵達と思わしき死体が見つかった。ほぼ同時にホラー洋館に入った仲間達が、自分達の知らぬ所で殺人鬼に殺されていたのだ。特に、二階貴賓室、一階食堂、収集部屋に安置されていた棺桶には白い花々と共に、澪、みよし、緋色の3人の遺体がそれぞれ納められていた。
『ごめんねぇ? だって【ボス】が殺せって、うるさいの。しつこいの』
 でも痛くないからね。
 本当は【死んでいない】からね?
 殺された子達は、背後がガラ空きで狙いやすかった。下は警戒しても上は警戒が薄い。それでも手を焼いた子も居た。緋色だ。
『その子、飛ぶアタシより空中を飛んで、すばしっこかったの』
 空中を素早く飛びまわる緋色は、追いかける方も大変。
『でも、アタシを捕まえに来る訳でもなく、逃げるだけだったから、最後には低い天井の部屋に追い込んで、どーんっ!』
 反撃に来てみれば良かったの。惜しいの。
 逃げても逃げても追いかける。次の部屋へ脱出は出来るし、テンも危機一髪逃げられた。
 けれどね。
「運命の分かれ道は、【伝声管を警戒し、出入口の侵入を抑えること】かな。合ってる?」
 ルルエリが顎に手を当てて呟いた。
 合ってるーっ♪ とチェリオットは肯定した。
 伝声管がある限り、何処へでも追いかけられちゃう。
『皆、殺人鬼と云うと、斧を持った仮面の大男でも想像するのかもなの。アタシ、ちゃーんと傍に居るのに、全然眼に入ってないみたいなの。失礼しちゃうの』

 はー……。

 3人は溜息をついて、座り込んだ。
 これでホラー洋館の探検も終了したかな。
 おつかれさま!

 しかし、安堵したのも束の間。
『これで勝ったと思わないで欲しいの。さあ今。呪文を唱えてあげちゃう』
 チェリオットが、ふんす! と気合を入れて叫ぶ。
「「「 え?! 」」」

 レアナクキオオ、ナンーミガテベス!

 ♪不思議、不思議
 ♪こんなにも不思議
 ♪不思議、不思議のワンダー・マーダー♪

 ムーブメントの音がルルエリ達の耳へ、より鮮明に届いた途端、カーンと一気に膨張した気がした。
 視界がどんどん急降下していく。
 いや違う。
 周りの家具も部屋もどんどん猟兵達の背を追い越したのだ。
 建物が大きくなったのか、自分達が縮んでしまったのか。ぐるりと変わってしまった巨大世界。普段は見ぬものが眼前に立ちはだかる。すなわちテーブルの脚、柔らかな絨毯の草原。乱雑に投げ出された本の山。硝子の破片。
『みーんな、ネズミさんになったつもりで脱出してねぇ。ここを誰か1人でも脱出しないと……』
 永久に、この洋館から出られなくなるの。ステキね。
 とても愛らしい声なのに、ぞくっと背中を撫でられた気がした。

 つづくよ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『アルダワンダーランド』

POW   :    自慢の力で巨大な障害を乗り越える

SPD   :    持ち前の速さを活かして巨大な障害を迂回する

WIZ   :    知恵を駆使して巨大な障害をどうにかする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 洋館に朝の風景が宿った。
 各部屋の窓から差し込む光は、平穏な一日の始まりを模した柔らかな朝日。
 薄く淡く、猟兵達の遥か天上に起こる事象を包み込み、時には早送りに時間を巻き上げ、その風景を見せる。
 迷宮「殺人事件が起こるホラー洋館」では、ほぼ影を潜めていた亡者達が各々に衣服を纏い、しかし頭部は人とは遠く、丸く薄っすらと電球に目鼻が付いている程度の朧な風貌の貴族と使用人と成り、絨毯に転がって見上げる猟兵達には、何ひとつ気づく事もなく、平穏に朝の行動を行い始めた。
 それが【ボス】から与えられた彼らの役割なのだろう。
 さて、彼らは、脱出する猟兵達の障害となりうるのか。


 食堂には、昨晩の殺人事件の痕跡は何もない。
 メイド(見習い)が見た髑髏の席に、今は亡者達が館の主とその家族として座し、使用人が給仕に回る。白パンに木の実ジャム、ゆで卵、ベーコン、紅茶、バラで香り付けしたカカオのココア、子牛や子羊の腎臓、魚達が、順にテーブルへ並べられる中、
『さて、昨晩の事だが……何やら随分とネズミが増えて、暴れまわっていたようだね』
 おもむろに館の主が声を発する。
『ええ、お父様。シャンデリアが壊れるのはいつもの事。更に衣裳部屋が掻き回され、応接間はお菓子の屑が沢山落ち、厨房では食材まで拝借されておりましたのよ』
『恐ろしいですわ。捕まえて、皮を剥いでしまいましょうよ。お父様』
 ドレスを纏った娘達が不満げに云うと、主人は優雅に手で制し、言葉を繋ぐ。
『なかなか元気なネズミ……もとい【小さきモノ】だ。お前達は、さぞや不快に思い、心ならずも不満があるだろう』
 ――だがね。
『私は、【小さきモノ】が好きなのだ!』
 カッ! と、電球顔が光った。
『『ええええー?!』』
『お前達。もしも【小さきモノ】を見つけても、捕まえたり、虐めたりしてはいけないよ』
『わ、判りましたわ。例え【服にくっついて】来たとしても、見て見ぬフリをしますわ』
 主の言葉は、家族のみならず、使用人全員にも伝えられた。
 主は、この洋館の掟そのものである。
 優雅に微笑みながら、特別なココアをひと口飲む。
『ああ、そうだ。ただし【玄関へは決して連れて行かない】ように』
『どうしてですの? お父様』
 ――小さきモノが家から出てしまうと、とても淋しいだろう?
 と、主は笑った。
 ――あと、……【ボス】がうるさい。
 と、主は、しかめっ面をして(いるらしい)云った。

 そんな亡霊達の亡霊達による亡霊達の為の秘密会議を知らぬ猟兵達は――。
寧宮・澪
結構、寝心地いいですねー……棺ってー。
そして、今度はちっちゃくー……。
楽しい、ですねー。

障害物とか、ドアとかー……。
チェリオットさんと同じく、伝声管、伝っていくといくつかは、無視して、部屋を抜けれますかねー……。
遭遇、は、注意しないとですけどー……。
【聞き耳】と、【第六感】、しっかり働かせてー……警戒、警戒ー……。

あと、私も、飛べるのでー……全部の障害物、超えれるかわかりませんがー……できるものは、上から、糸下ろして登りやすく、助けたりしましょー……。
【地形の利用】で、動かせる小物を積んでー……階段や台にする、のもありですかねー……。

おー絨毯、クッション大きくー……小さいのもいいですねー……。




 洋館のあらゆる場所に点在し、そこから脱出口である玄関を目指す猟兵達。
 一方、二階貴賓室に置かれた棺に篭る寧宮・澪は、心地よくまどろんでいた。
「結構、寝心地いいですねー……棺ってー」
 殺人鬼に殺された死体達は棺へ。
 死者に永遠の眠りを。
 だがしかし。
 棺の内側は肌触りの良い赤いビロード、深き眠りへ誘う微香の花。澪は瞼を閉じては、再び薄く開け、長く揺り返す微睡みと戦った後、死者から復活する事を決意する。
「ふっ、……かー……つ」
 宣言した途端、奪われていた身体の力が見る間に、頭の先から全身を巡り、元通り。
 のろりと蓋を押し上げながら身を起してみれば、絹糸のように広がる長い髪やドレスを覆っていた白い花が棺から溢れ零れ、彼女の周りに小さな花畑を作る。
「そして、今度はちっちゃくー……。楽しい、ですねー」
 外に出て初めて見る巨大立体物。
 周囲を見渡せば、澪はテーブルの上に居るのだと理解した。ホラー洋館バージョンで見た室内と内装は同じ。ただ人の気配はする。
 この朝の巨大迷路には、殺人鬼チェリオットの他に、亡者が居るのだ。
 但し、亡者は何のために居るのか判らない。
 テーブルから顔を覗かせて様子を伺うと、天蓋付きベッドのシーツを交換する人影を見た。人と呼ぶには、ぼんやりとした薄い影のようだが……、サッサと寝台から引き下げたリネンのシーツから、滑り台代わりに床へと転がり落ちる【小さきモノ達】が居ようとも、さして気にする風でもなく、淡々と作業を続けている。
「メイドの亡者さんと云った所、ですかねー……。メイドさんならー……、あちこちの部屋へ行きそうですかねー……。攻撃して来ないなら、有難いですねー……」
 見守っていると、やがて移動するメイドさんの長いスカートに飛びついたお仲間の猟兵達が移動を開始した。恐らく試しに、くっついてみたら、そのまま運ばれる事に成功したので、当人も驚いた様子。
 そこへ、わらわらと数人の猟兵達が現れ、メイドが通った扉が閉じきる前に、シルクのルームシューズを挟み込み、僅かな隙間を作った。
「おおー……なるほど」
 これで徒歩を余儀なくされる猟兵は、この部屋からの移動手段を確保する事が出来ただろう。
 その時、扉近くに居た猟兵達が澪へ振り仰ぎ、叫ぶ。
「おーい。そこの人―。チェリオットは見たか?」
「見て、ない、ですよー……」
 そうか。気をつけろと、猟兵達は忠告をした。
 あちこちの部屋で悪戯をやらかして、障害物を作っているから、と。
「それではー……、私は飛べるのでー……他のお手伝いに行って、みるですよー……」
 羽根を羽ばたかせ、テーブルから離れた澪は例の伝声管へ初めて侵入した。巨大化した洋館と対比して、今の澪はフェアリーの大きさに等しいだろう。楽に入れる。
「チェリオットさんと同じく、伝声管、伝っていくと、いくつかは、無視して、部屋を抜けれますかねー……」
 管の中は暗く、ムーブメントの反響も外側から聞こえる。それに混じり、何処かの部屋から漏れる人の声、器物の破損音。閉鎖的且つ狭い場所を進み進み、進む内に、どんどん不思議気分が増して来た。
 また、カシャーンと金属が倒壊する音。
 何処の部屋の音なのか。
 実にチェリオットは、あちらこちらと移動して、妨害をしているのかもしれない。
「遭遇、も、注意しないとですけどー……」
 暗闇の中、しっかりと耳で聞き分け、第六感を頼りに、「……警戒、警戒―……」と、進む先で、曲がり角。また曲がり角。ぐねーっと曲がって、一体何処へ繋がっているかは判らないが、とうとう突き当たった箇所で、ポンっと両手で先を押し出せば、パカッと伝声管の蓋が開き、澪の目の前に新たな視界が開けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンシェ・ローム
【CSF】テンちゃんとルルエリさんと行動

むっ、アレ(妖精)はなかなかしつこいですわね

予め装備の【リフレクトシールド(以下盾)】にUC【猫の毛づくろい】をかけておきますわ
目立たなく、こっそり進みましょー
もしもの為にわたくしがみんな(参加者全員)に選択UC【カケルカケルカ】で増えた【盾】を等分して付けましょう!
巨大な障害物があったり、高いところへ行きたいなら盾を並べて浮かせて、橋や階段にして道を作りますわ!

急いで駆け込みたかったら【猫の毛づくろい】を施していた盾をスノーボードのよう使って一気に駆け抜けますわ!念力込みだから変な方向にはいかず助走無しで高速で滑りますわよー!きゃーっ♪


テン・オクトー
【CSF】アンシェさんルルエリさんと参加
脱出なら犯人探しよりは楽かな?(周りと自分のサイズ比を改めて見て)・・そうでもないね(遠い目)

WIS
【クライミング】でソファやカーテンに登って進路を探す。まずはドアだよね。ドア閉まってたら鍵穴に武器フレイルさしてガチャガチャ【鍵開け】開くかな?
もし館に鼠さん等がいたら【動物と話す】で【情報収集】出口や伝声管みたいな抜け道や近道教えてもらえたらいいな。
もしフェアリーに見つかったら
「なんてでっかいフェアリーぃぃ!」
勝てる気がしないからUCの竜巻効果で吹っ飛ばしてその間に逃げるよ。切迫した事態になったら【時間稼ぎ】して仲間に脱出を託すね。

連携アドリブ大歓迎


ルルエリ・エールディール
参戦タグ【CSF】、アドリブ絡み大歓迎。

誰もやられなかったんだから、3人揃って脱出したい…してやる。
トランクは重いけど、テンくんやアンシェさんの前で、かっこわるいとこ見せたくないよ。
皆について歩くしかないけど【SPD】、アンシェさんが面白いこと考えるっぽいから乗ろう。
少しくらいのフォローなら【メカニック】でできるかも。

もし邪魔が入るようなら、トランク使っての防御で援護。
テンくんも迎撃に入るみたいだし、わたしは今回縁の下の力持ちになれたらいいな。
できれば隠したいけど、事態悪化したらトランクからクーシー展開するよ。
誰か逃げ遅れたら拾わせる、迎撃が間に合わなかったら【フェイント】でかきまわしてやる




 開けた先に広がる全方位の巨大世界。
 ちゅるりら~っと、アンシェ・ローム、テン・オクトー、ルルエリ・エールディールの3人組がリフレクトシールドに乗り、巨大ソファーの下を滑って進行中。
 すっすめ、すっすめ、どんどん、すすめっ♪
 ちょっと前の事、アンシェがトントントンと地面を叩いて、自身が装備するリフレクトシールドにカケルカケルカを使い、テンとルルエリや他の猟兵達に配布してくれた。摩擦抵抗を極限まで減らした猫の毛づくろい迄、施した念の入り用。
 まだまだ使い道は、こんな平坦な所じゃないけれど、お試しで使ってみたら、滑りは良好。ルルエリに至っては重いトランクも一緒に運べて、とっても楽。
「誰もやられなかったんだから、3人揃って脱出したい……してやる」
 こうして3人が物陰にコッソリ身を隠しながら進むのも、妖精の悪戯妨害のせい。
 アンシェは、むっとした顔で、
「アレは、なかなかしつこかったですわねっ」
 呪文を唱えたチェリオットが目の前から飛んで消えた後、周囲が大きくなっただけでも大変なのに、あちこち暴れまわって、床や絨毯の上に額縁だの本だの、障害物をめいいっぱい残して行ってくれた。今は別の部屋へ居るのだろうけれど、そこでも他の猟兵達へ妨害しまくっているに違いない。そして、飽きたら、またこちらの部屋に戻って来るかもね。
 素早いんだから、油断ならない。
「脱出なら犯人探しよりは楽かなって、思ったんだけど……そうでもないね」
 テンは溜息をついて、遥か先にある扉を思い浮かべた。
「ちょっと状況整理をしましょ!」
 ぽんっと、ソファー下から這い出したアンシェが2人に振り返った。
 わたくし達が今居る場所は何処ですの?
「寝室っぽいから、たぶん2階だよね」
 ルルエリは稜線が見える山々を見渡すように遠くのベッドを見遣り、
「階段を降りなくちゃいけないよね」
 テンがホラー洋館で見た限りの記憶を頼りに推理しながら、
「出口は玄関ホールの扉ですわ!」
 一番判りやすい事を、アンシェは、どやっとして云った。

 部屋から出る→廊下を突っ切る→階段を降りる→玄関ホールを通り扉へ

 そこまでの障害を力あわせて乗り越えなくちゃ。
 3人頷いて、てててーとシールドを抱えて、飛び出して行く。先頭はアンシェで、周囲に注意しながら、後方の2人を誘導する。
「大丈夫のようですわ」
 まずは最難関の扉攻略。
 妖精のように羽があればいいのだが、3人にはそれがない。
 だからこそ、3人居てくれて良かった。
 下から見上げる扉は遥かに高く、真鍮のドアノブが何と遠い事か。周囲を見渡せば、本が散らばっている。ルルエリとテンと、よいしょよいしょと本を押して掻き集めて高さを稼ぎ、落ちていたカーテンタッセルも拾って来た。
 アンシェがシールドを並べた後、「ボクが行くよ」と、テンがそれを階段がわりにタッセルを抱えて登って行き、ドアノブに縛る。
「テンくん、鍵はー?」
 ルルエリが声を掛けると、鍵穴を覗いたテンは、うーんと唸る。鍵穴に丁度合う武器フレイムを差してガチャガチャ動かしてみると、カチッと手ごたえはあった。ぎゅっとドアノブに抱きついて、身体ごと回すと、扉も向こう側へ動いた。
「やった!」
 更にタッセルを腕に巻き込んで手繰り寄せながら引っ張ると、ぎぃっと隙間が!
「「やったね!」」
 その僅かな隙間を確保しようと、ルルエリが自分のトランクを差し込んだ時、
『なーんか、やってるの♪』
 チェリオットの声が背後から聞こえた。
「なんて、でっかいフェアリーぃぃ!」
「出ましたわね! しつっこいですわ!」
 叫ぶテン達より背が大きくなったチェリオットが楽しげに微笑みながら、3人を見下ろしていた。サイズ的には、皆が普段見る人間のお友達と変わらない大きさになっている。
 せっかく開けた扉は一縷の望み。ルルエリが扉を大きく押し、テンがドアノブから飛び降りると、アンシェがシールドを回収し、周囲に盾として囲い込む。
 絨毯に着地したテンが叫ぶ。
「ご先祖様力をお借りします!」
 突如現れたテンと瓜二つのケットシーは厳かに魔道師の装束を身に纏い、テンの前に現れた。
『びっくりするの』
 数冊の本を拾ったチェリオットが3人目掛けて一気に放物線上に投げたと同時に、魔道師の周囲から竜巻が起こる。
『え? きゃあああ!』
 本を巻き上げ、暴れて抵抗するチェリオットを威力で以って圧していく。ぶつかり合う力と力が相乗効果で盾も周辺の物も吹き飛ばし始めた。
「わ、わ、わ!」
 遂には予想以上に竜巻が嵐となり、ルルエリが2人を促す通りに絨毯の毛足にしがみ付き、風圧で浮いてしまう身体が風に持っていかれないように3人で耐えるが、
「「「わーっ!!」」」
 更なる嵐が吹き上がると、空中でじたばた泳ぐ間もなく押し流され、寝室から追い出されてしまった。


 もうダメかと思ったけれど、結果的に3人は無事に廊下へと放り出された。

 パタン……。
 チェリオットは追いかけて来ない。
 偶然、ぼすっと通りすがりのメイドさんが抱えている洗濯籠の真っ白なシーツの山に埋もれ、そのままそれぞれにひっくり返った体勢で運ばれて行く。慌てて柔らかいリネンの中をころころ動き続けながら、手と手を取り合った後、洗濯籠の淵から、そろーっと外を覗き込む。
 巨大迷路になって初めて、3人は亡霊を見る事になった。
 敵? と思ったけれど、すぐに害意はないとルルエリが判断した。
「今、廊下。運ばれて行ってるみたい」
 妖精の悪戯妨害との奮闘がルルエリ達にとって、功を奏した。

 しかしこのまま階段を降りていけるかと思いきや、メイドさんは次の部屋へ、シーツを回収しに行き、籠の中の3人を確認する事もなく、上から新たなシーツを追加していくのみ。
 また次の部屋へ行く度に上に上にと積まれ、その度に3人はころころ泳ぎまくる。肌触りが良くて気持ちいいけれど、持ち主の体臭や香水が入り混じる匂いは、少々耐えられない。
「もう、出ようよ!」
「ですわ~」
 たまらず、ルルエリが、ぼんっとシーツから顔を出して叫び、アンシェが鼻を押さえて、同じように顔を出す。
 テンが、ハッとして身を伸しだして前方を見れば、念願の階段に近づいて来た。
「アンシェさん、ルルエリさん!」
 タイミングを見計らって、「降りますわよ!」と、アンシェがテンとルルエリそれぞれを乗せたシールドを念力で籠から浮かせて丁寧に下ろし、自身も廊下へ降りた。
 階段へ! と、テンが一歩踏み出した所で
「「危ない!」」
 テンの小さな鼻先を掠め、一台の巨大ワゴンの重い車輪が回りながら目の前を通り過ぎていき、間一髪。思わず出かかった悲鳴を飲み込んだ。
 危ない。危うく轢かれてしまう所だった。
 廊下では、まだ朝の片付け仕事の真っ最中で、主人達の洗濯物や掃除に行き交うメイド達が忙しく働いていた。見つからないように、踏まれないように、3人は盾で身を隠しながら、廊下の端を歩いて移動していく。
 階段の元へ、それぞれ盾とトランクをよっこいしょよっこいしょと運んで、再び手すりまでアンシェの念力で運び上げる。
「たっかーいですわー♪」
 …………。

「ここ、降りるの?」
 テンとルルエリがどちらともなく呟く。
「もちろん! 一気に滑り降りますわよ! さあ乗って乗ってですわ!」
 シールドに、あわわと乗る2人。ルルエリは大事なトランクも乗せた。大事。
 最後尾につけたアンシェは楽しいとばかりに、2人を急かせ、どんっとルルエリの背中を押し、押されたルルエリは先頭のテンを押し出してしまう。
「ごーーっ! ですわー♪ 念力コミコミですから、脱線はしないですわ♪」
「「!!!!!」」

 シュパーーーーーーーーーーーー!!!!

 滑っていく程に、どんどんどん3人の毛を吹きぬける風と共に速度が増していく。二階から階下へ流れる風景よりも目の前に膨らんだ皆の尻尾の方が気になる。階段の下は、あの玄関ホール。どんどん目的地が近づいて来る。
 一気にそのまま扉に体当たりするつもりで滑りぬけて行く事だろう。
「きゃーっ♪」
 階段の終わりに、しゅっぱぱーっと、連なって、宙へと飛ぶ3人。
「アンシェさん、着地! 着地は?!」
「念力ですわ♪ きゃーっ♪」
 この速度で?!!!!

 信じたいけど信じられない!!!
 眼を瞑って、南無三! と唱えた時、ぽんぽんぽんっと、3人は何かに柔らかく包み込まれた気がした。
「フィニッシュが決まりませんでしたわ」
 残念に呟くアンシェの遥か頭上に、亡霊の館の主の姿があった。
 この人も敵だろうか?!
 しかし、巨大な掌に乗せられた3人は、ゆっくりと床へと降ろされた。誰かと問えば、館の主はそう身分を告げた。

『行ってしまうのかな? 小さな客人』
「そうだよ。そのつもりで脱出を目指して、ここまで来たんだしね」
 ルルエリは背筋を伸ばし、アンシェとテンも頷く。
 館の主は片膝をついて、猟兵達を見下ろして告げる。
『ふむ……。ここから先は、大変危険だよ。それでも君達は行くのかね? 外には恐ろしい【ボス】が居るのに』

 行こう。
 本当は、ここではない現実世界を知っているのだから。
 お友達と笑って語り合う世界。
 戦争が起きる世界。
 けれど、これは未来を守る為に戦う世界。
 そこが自分達の大切な現実なのだから。

 あと少し。あともうちょっと。
 残る【ボス】を倒せば、皆が胸を張って迷宮から帰れる。

『そうか。ならば私も呪文を唱えないといけないね』
 さようなら。
 小さな扉が、扉の下方にあった。
 それは猟兵達が通る為のものだった。扉を開いて、アンシェが後ろを振り返り、亡者を見上げた。

 ――イタリムネ、クガナ、ハツジウュキ。イタリムネ、クヤハ、ハツジイヘ。

 淡かった影が、いっそう薄く儚げに、巨大世界と共に混ざって溶解していく。
 しかし、それが彼らの解放とは程遠い、【ボス】による絶対従属の残酷な吸収なのだと気づくのは、この先の事だった。

 ぱたん。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『スペシャル・ライター』

POW   :    修正箇所
【修正箇所を確認する目の青白い光】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    印字作業
【26個のキーから青白い光】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    より良い作品を
対象のユーベルコードに対し【正確に全く同じユーベルコード】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はライラック・エアルオウルズです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

寧宮・澪
おやー……出たと思ったら、館が、消えて……しまい、ました、ねー。
で、あちらがボスー……。

タイプ、ライター……。

お仕事、ですよー……れぎおーん……。
【Call:ElectroLegion】、で、いっぱいの、機械をー……。

綺麗な、ドレスやー……びっくり、な、仕掛けとかー……寝心地のいい、棺、とかー……。
楽しかった、です、よー……ありがとう、ございましたー……。

死を、また、知れた、ことも。
いい、経験、でしたー……。

たくさんの、機械で波状攻撃ー……他の猟兵も、支援したい、ですねー……。
【かばう】、とか、【時間稼ぎ】で、ボスのすき、誘ったりー……。

がんばり、ましょかー……。

アドリブ、連携、お任せですー。


銀座・みよし
しばらく死んでいたら大変なことになっておりました…っ!
…自分でも何か矛盾してること言っておりますが、この際気にしてはいられません
ともあれ死んだ鬱憤をはらすのでございますー!

UCのライオンライド使用してライオンさんを呼びます
ライオンさんに【騎乗】し【地形の利用】をして敵へと近づいて、ライオンさんの【怪力】でぐわーっと!ずばーっと!
すっごく怖かったんですからー!ばかー!!って気持ちをこめて攻撃にございます
次はもっと、こう…平和で明るいお天気の下でピクニックみたいなのを所望いたします!

(アドリブや絡みは歓迎にございます!




 乾いた解放の音は、終焉ページに綴る文字に等しく始まる。
「おやー……外へ出たと思ったら館が……」
 先に飛び出したアンシェ達に倣い、後ろを振り返る寧宮・澪の瞳に映った巨大な洋館は、アルダワの蒸気に包まれ¬、雪解け水のように融けていく。
 一面に溢れ広がる質量の水は、何処からともなく宙からひらりと舞い落ちた一枚の羊皮紙に、ゆっくりと滲(し)みこみ、滲み込み……。
 一滴残さぬまで滲み……。
 やがて猟兵達が見守る中、跡形もなくなった。
「消えて……しまい、ました、ねー」
 そして館も迷宮も、それら全てを滲み込ませた一枚の羊皮紙は、紙飛行機のように猟兵達の頭上を浮遊したかと思うと、地上に現れた青い光が灯る機体へと着地した。
 26のキーで、紙上に物語を永遠に綴り続ける『効率的な作家』という一体の無機物。
「で、あちらがボスー……。タイプ、ライター……」
 ボスの名前は、スペシャル・ライター。
 高速の打鍵音が左から右端へ流れる度、チーンというベル音が鳴り、文字を印字していく。
 そこに綴られた文字は言葉となり、(面倒なので便宜上、音声に切り替えて)全ての猟兵達に伝わる。
『ムッ。我は貴様らの心臓を止める程の恐怖を与えよと、【殺人鬼ナビゲーター】【障害サポーター】達に命令を下したのに!!』
 憤懣を無数の『!』をタイプに打ち、ベル音とシリンダー音を連続鳴らしてみせた。
 そんな張り詰めた苛立ちが場に漏れると、それに動ずる事もなく、ゆったりと澪が手を合わせ話し掛ける。
「綺麗な、ドレスやー……びっくり、な、仕掛けとかー……寝心地のいい、棺、とかー……。楽しかった、です、よー……ありがとう、ございましたー……。死を、また、知れた、ことも。いい、経験、でしたー……」
『!!!!』
 パァッ。
 パァッ。
 おかしい。ただの機体なのに、心なしか猟兵達の眼には、花咲ける乙女の輝く笑顔が見える。澪が小首を傾げると、キーがカタカタカタ鳴り響き、
『……いや、そのッ。違うぞ! 我が貴様らに求めたものは違うぞ!』
 あ、元に戻った。
 その顔、鬼軍曹の如く(顔はないけど)形相を湛え、澪と己を囲む猟兵達に対し、26個のキーを青く光らせ、臨戦態勢に入った所で、

 ドーン!

『何だぁぁぁ!!』
 ふと、この白い空間には不似合いな棺桶が空中から出現しては、どんどんどんと地響きを唱えて積み上がり、一つの山を形成した。それは最初の迷宮「殺人事件が起こるホラー洋館」で殺された数々の犠牲者達の死体。停止していた一部の時間が遅れて排出されたのだ。
「おおー……もしやあれは……」
 澪達が見上げる中、てっぺんの一つの棺桶が、ごとごとごと震えたかと思うと、蓋が、ぱっかーんと押し上げられた。
「しばらく死んでいたら、大変なことになっておりました……」
 エプロンドレスがトレードマークのシャーマンズゴースト、銀座・みよしが零れる白花と一緒に起き上がり這いずり出て来た。ホラー洋館から、暫く姿を見かけないと思っていた猟兵達と澪は、暫し呆気に取られた後、我に返って、ぽんっと掌を打つ。
 とうっ! と、足元を蹴り、跳んだみよしの元へ雄々しき鬣を靡かせるライオンが突如出現し、みよしを背に乗せたかと思うと、棺の山を駆け下りて、シナリオ・ライターへと突撃していく。
「もうっ! もうっ!! もうーっっ!!!!」
 距離を縮めていく程に、喉元から絞る声は必死で大きく、
「すっごく怖かったんですからー!!! ばかーーーーーー!!!!!!」
『な、にぃぃー?!』
 改めて灯るキーの光が乱れ、高威力レーザー線があちらこちらへ逸れたまま、ライターは懐に巨大ライオンの体当たりを受け、吹っ飛んだ。
「ホントにもう! 殺されるし! 殺されるし! シャンデリアが、どかーっって! 降って来て! がしゃーんって!!」
『ちょっ、こら! 貴様! b武ホっ!(誤字)』
 すっ飛んだライターに、ライオンの前脚に有した爪で、ずどずどっ引っかき傷を連続で与え、もうこれは、みよしの鬱憤払らしが炸裂し放題だ。
「次はもっと、こう……平和で明るいお天気の下でピクニックみたいなのを所望いたします!」
 最後の強烈どるぅぅぅんパンチが、再び炸裂し、ライターの機体を螺旋回転させたまま、吹っ飛ばした。
『な、成る程。永久凍土の植物も微生物も不在の閉ざされた氷結世界で、探索者絶叫! クレバスの垂直裂け目の奈落を生き残るサバイバルピクニックだな。面白味180%……』
 チーン。カシャ。
「いえいえいえいえいえっ! フツーの! フツーの! ピクニックでございますから!」
『面白味15%……』
 ライター、ちょっぴり、しょぼーん。
「何でですかーっ!」
『恐怖が登場しない作品等、全てこの世から滅んでしまえばいいのに』
「 暴 論 !」
 改めて、これは災魔以外何者でもないのだと深く認識する。
 滅するしかないのだと。
「お仕事、ですよー……れぎおーん……」
 みよしの怒涛の先制攻撃で、今は、やや動作停止したライターへ向け、折り畳みかけるかの如く、澪の【Call:ElectroLegion】琥珀金の機械兵器が次々と周囲に召喚されて行く。
 白の空間で、それらはライターが紡ぐ文字よりも美しく飛来し、武器を振る猟兵達の合間を縫いながら、彼らの攻撃にぴたりと寄り添い始めた。

 戦いは始まりを迎えたばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルルエリ・エールディール
【CSF】テンくん、アンシェさんと参加。アドリブ絡み大歓迎。
二人のお陰でクーシーを隠し通せた、この札、ココで切らずにいつ切るか。
わたしの仕事は接近戦の間合いに皆を運ぶ、そして無事に返す。

「ぼくを信じてつっこんで!クーシーは猫妖精の番犬だ!皆に指一本触れさせるもんか!」

【猫の毛づくろい】を予めトランクにかけておく。
隙を見て、摩擦殺したトランクをカーリングみたいに投げる。糸繋がってればクーシーを飛び出させられるから!
驚かせてからの【フェイント】で、相手を攪乱して突撃を援護する。
相手のUCは人形に受けさせる、回避なら仲間をクーシーの背中に乗せて【逃げ足】
テンション上がって何か色々叫んでも見逃してね?


アンシェ・ローム
【CSF】2人と。

あぁ楽しかった!
さて噂のボスさん、ご対面〜ですわ。そろそろこの物語を終わらせましょう

わたくしは後方から攻撃いたしましょう!
【カケルカケルカ】で、アイテム【白い粉】を袋ごと増やし、粉をぶわーっと操ってオブリビオンの周りに漂わせますわ!
実はこれ、わたくしがいつも使ってる滑り止めですの。まあ滑り止めでなかろうが、粉が精密そうな機械に大量に入り込んじゃったら、故障するとか、動きが鈍くなると思うのですわ?
えっ…💧レーザー…??
あちゃ〜そこまでかんがえてないのですわ!
盾で防御するしかないですわー!

では、二人共頼みましたわ!
もし倒れなかったらわたくしが…!(メイスを握りしめる)


テン・オクトー
【CSF】アンシェさんルルエリさんと参加
タイピングライターなボス…この館を、このお話を作ったモノかな?この冒険は少し怖くもあったけれど少し居心地良くもあったよ。そして楽しかった。でもこれは夢。骸の海に帰って静かに眠りについてね。 素敵な時間をありがとう。
WIS
UCをぶつけるよ。【より良い作品を】で相殺されちゃうかな?でも大丈夫!ルル兄さんのトランク奇襲やアンシェ姉さんが活路を見出してくれる!
隙を見つけたら(武器フレイル)ブンブン回して【範囲攻撃】【衝撃波】で壊しに行くよ。

連携アドリブ大歓迎です




 最前線で、荒ぶる黄金の鬣の獣がライターを幾度か吹っ飛ばした時、
 ――れぎおーん……。
 緩やかな呼び声が風に乗り、戦うルルエリ・エールディール、アンシェ・ローム、テン・オクトーの足元から吹き上がる。
 風などないのに……。
 そう疑問が浮かぶ小さな自分達の傍に寄り添う琥珀金の機械兵器が、丸く見開いたルルエリの視界の端に映った。右から、くるりと左へ。お腹側から背中側へ。足元から頭上へ。自分達を起点に周回する緩やかな律動が、そよ風に吹かれる綿毛の心地よさを髣髴とさせる。
「これは澪さんの守護ですわ!」
「うん。心強いね」
 初動から、ライターの機体が、みよしの力で(八つ当たり的な何か)ボッコボコにされた事は僥倖。周囲を囲む猟兵達の交錯する力が通り易くなった。更に仲間の数は居れば居る程、敵の集中攻撃を受けなくて済む。

 噂のボスさんとのご対面。
 ……既に、雑魚っぽい。
 けれど、その攻撃の威力は未だ侮れない。
 前衛の仲間達が次々と理不尽な命令を下され、また無差別な青白い光に蹂躙され、澪の守護兵器が幾つか身代わりに味方の窮地を救いつつも、やむなく一撃で堕とされる中、アンシェが高らかに、自分の前に頼もしく立つテンとルルエリに声を掛ける。
「さあ! そろそろこの物語を終わらせましょう」
 いつだって皆の力があれば。
 未来はどこまでも続くのだから。


 連続して光る青白い光。
 単体の他の技より範囲攻撃なだけに、戦場で最も駆け巡る光をルルエリのトランクとアンシェの盾で防ぐ。後方からライターに近づけば近づくほど、光は密度を増し、精密に当りやすい。
 だが、3人で駆け回り、生き残れた迷宮「殺人事件が起こるホラー洋館」、多彩な知恵と結束力で踏破した脱出ゲームの巨大迷宮。ここまで来られた。
 怖かったけれど、あぁ楽しかった!
 いつでも活路は、ここにある。
「わたくしは後方から攻撃いたしましょう!」
 アンシェが懐から取り出した袋をとんとんとんと叩くと、見る間に数が増えて来るのを、摩擦抵抗を殺す準備をしていたルルエリは不思議そうに見つめ、
「アンシェ姉さん、それは?」
 テンが、ちょこんと小首を傾げて問う。
「実はこれ、わたくしがいつも使ってる滑り止めですの」
 見覚えある、かも?
「それを取り出した意図は」
「粉をぶわーっと操って、ライターの周りに漂わせますわ! 粉が精密そうな機械に大量に入り込んじゃったら、故障するとか、動きが鈍くなると思うのですわ?」
 バンザイポーズでルルエリにキラキラした眼で返すアンシェに、他の猟兵達が何かを予感して、「あ」と思ったらしい。
 ちょ……それ投げるの。
「いっきますわよー!!」
 わー。
『何だーーー?!』
 皆が一様に眼をつむると、投げた袋から白い粉が大量に舞い、意志を持つ霧のようにライターを追い、包み込んだ。
 ガ・ギギギ。タイプライターの機体にギチギチ・ガ・ガ……と騒音が。

 効いた、だと?!

『ぶるぁあッッッ!!! 我の輝く鬱駆しイ(誤字)ボディ荷(誤字)名にを(誤字)するか!』
 けど、うっざ……っ!!
 ※以降、ライターはまともに喋れ(?)なくなりました。

「きゃー! 効果アリですわー!」
 何が幸運に転じるか判らない。動作を一時止めて、ギガギガと、キーを打鍵しようともがく隙を、テンが召喚したご先祖様が見逃す事もない。竜巻召喚し、ライターを翻弄する。
『ぐ着……ユダン、し他ゾ。喪、猛、z全力全開!!!!』
 機体を巻き込む竜巻の中で禍々しき26個の青白い光のキーが鈍く光りだす。見上げる猟兵達の眼に、ライターの姿が二重に重なったかと錯覚した途端、竜巻は掻き消え、白い世界に重々しい機体が光臨する。
 傷んだ機体は狂ったように稼動を続ける。
 今まで軽快且つ滑稽に鳴り響いていた筈の打鍵音もシリンダーのベル音も、ルルエリ達の耳に突き刺さるような禍々しい音に変わり、誰もが息を飲む。
 来る!
 青き蹂躙。
 光が高速で全ての生きとし生ける者達へ刺さる、妬く。
 3人に寄り添っていた澪の守護兵器が次々と穿ち焼かれ消失。
 一度きりの身代わりが猟兵達を救った。
「2人とも乗って!」
 ルルエリが自身のトランクを地へ投げ出し、アンシェとテンを乗せた。
「ルル兄さん?!」
「ぼくを信じてつっこんで! クーシーは猫妖精の番犬だ!」
「クーシー?!」
 ライターへ向け、2人を乗せたトランクを送り出す。
 ルルエリの手に繋がれた糸は止まぬ光線の雨を縫うようにトランクの走行を操り、2人を先へ先へと進ませる。未来へ繋ぐ道筋がルルエリには視えていた。

 トランクの中は誰にも見せていなかった。
 ホラー洋館でも、巨大迷宮でも。
 隠し通せたのも、2人のお陰。
「この札、ココで切らずにいつ切るか。わたしの仕事は――」
 ここに在り。
 トランクがライターの元へと滑りながら2人を運ぶ。後方のルルエリに頷く2人の手には、既に自ら取り出した武器が握られ、到達地点の衝撃反動で開いた蓋の勢いに乗ると、合わせた呼吸でライターの間合いに飛び込んだ。
 そしてルルエリのトランクより飛び出したモノは、蒸気機関を組み込んだ大型犬の人形。
 後方から、バッと繰る両腕が複雑且つ高速に動く。周囲の者達には、彼の肉球の先からどれだけの命令が繊細に人形へと伝達されているか計り知れない。蒸気機関の強度、操り糸の角度、彼の呼吸、全神経統が収束して繋がり、我が身を越す大きな番犬の鼓動を震わせる。
 ライターが次のキーへ光灯す刹那に、2人を守護する番犬は、その頑健で高速機動な身体を打ちつけて阻止し、更に、じゃらりとした鈍器を振り回すテンの合間を抜けて、ぴよメイスを手にしたアンシェがライターへ肉薄する。
 振り翳す一撃。
「皆に指一本触れさせるもんかっっっ!」
 ルルエリの叫びに呼応するクーシーと、彼らの腕は、足は、軽く、疾る、疾る。
『bッッ! gおッ!!』
 ライターが幾つかへしおれたキーを足掻くように、微かに動作するが、もう遅い。
「そーれ! ですわ!」
 小さな身体で、敵を殺す重厚な武器。
 クーシーの背から飛び込んだアンシェの小鳥を模したメイスの先端は、彼女の身体が振りかぶって躍動する度にボコボコと機体を凹ませ、『ふぐぁあ!』 遂に絶叫するライターの周囲にぴよぴよ、ひよこが飛び回って沈黙させたと同時に、テンのフレイルが最後の一撃を与えた。
 何処に顔があるか判らないが、テンはゆっくりと語りかける。 
「この冒険は少し怖くもあったけれど、少し居心地良くもあったよ」
 そして楽しかった。
 パァッ。
 キーに点る青白い光が一瞬の強い光がランダムに点滅した後、タイピングが止まった。
 ――でも、これは夢。
「骸の海に帰って、静かに眠りについてね」
 ――素敵な時間をありがとう。

『…………』

「「やったぁーーーー!!!」」
 沈黙したライターの機体は、歓声をあげる猟兵達の目の前で、その姿は揺らぎ、程なくして消失していった。残るは、地も空もない白い空間に訪れた平穏だった。
 やがて猟兵達はアルダワ魔法学園の地上へと戻っていく事だろう。

 そして、お話は終わる。


 白い世界に静寂が宿る。
 この白い世界は、まだ物語が紡がれていない白紙と同じ。
 ここに綴るは貴方のこれから先の未来。
 遠い未来へ続く貴方の物語をここに記して行こうと思う。

 ――【続】の一文字が染みて来る。

 それは、この世界の片隅に、ポッと咲いた一輪の花のようだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月15日


挿絵イラスト