●帝都を彷徨う怪異
サクラミラージュの日は暮れて、夜の帳が落ちようとしていた。
帰宅の途につく、部活帰りの女学生が一人。
それなりの家柄なのであろう、彼女の懐には小洒落た懐中時計がぶら下がっている。
それをちらちらと見ながら、少女は時間を気にしていた。
「嫌だわ、もうこんな時間。お父様に苦言をいわれてしまいますわ」
更衣室で着替えが終わったあと、友人達と話し込んでしまったのがいけなかったらしい。
家路を急ぐ少女の耳に、どこからか声が聞こえてくる。
「あら、どなたか唄をうたってなさるのかしら」
それは静かな街に漂い響き、彼女の耳にしっかりと聞こえてくる。
その唄は彼女もよく知っている。
子供の頃、自分もよく口ずさんだものだ。
なんのことはない、ただの童謡ではあるが、人気のない夜に歌われるといささか不気味に感じられた。
自然、女学生の脚は動き、足早になっていく。
だが、唄はどこからか、少女の元へと確実に近づいてくるのだった。
不安を隠しきれず、顔に出る少女。
もうすぐだ。もうすぐで我が家につける。
そう思いながら角を曲がると、誰かにぶつかった。
「きゃっ!?」
ぶつかった衝撃で路地へと倒れる女学生。
「ご、ごめんなさい。申し訳ありませんでしたわ」
上目使いに相手を見上げ、少女は息をのんだ。
ぶつかった相手は自分と同じくらいとおぼしき少女。
だがその目は紅く、爛々と輝いていた。
不気味に輝く眼でこちらを見下ろしながら、その娘は尋ねた。
「ねえ……私、綺麗?」
小首を傾げ問いかける、謎の乙女。
答えようもなく小刻みにガクガクと震えながら、少女は無言でうんうんと頷いた。
「そう……」
乙女の口の端がつり上がる。
「……嘘つき」
視界が真っ赤に染まった。
それが女学生の見た、最後の光景であった。
●グリモアベースにて
「これが、私の見た予知でございます」
ここはグリモアベース。
ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げていた。
その背後に生じている霧には、さきほどの光景が幻となって現れている。
頭を上げると幻は雲散霧消していき、周りの霧と溶け込んでいった。
「近頃サクラミラージュの世界では、連続殺人が発生しています」
被害者は全て、年若き女性。
身体の一部分が失われ、どれも真っ赤に染まった死体が翌日に発見されるのだ。
人々は影朧の関与を疑い、最近の噂話の種はそれでもちきりだ。
「そして、噂通りに今回は影朧が事件を起こしています。と、なれば我々の出番。皆様方には現地に赴き、この連続殺人を止めて欲しいのです」
とは言っても広大な帝都。
範囲を絞らずに闇雲に探索しても、骨折り損になるだけだ。
「そこで私は、あの唄に注目しました」
予知で女学生が襲われる前に聞こえた童謡。
綺麗な靴を履いた少女が異人に連れ去られる、もの悲しい唄だ。
「私が調べた処、この唄の作者には妹がおられました。ですが現在は行方不明となっております」
ライラが杖の先で地面を軽く叩くと、霧が変化し姿を形どる。
そこは帝都のとあるカフェー。
年の頃は三十ほどであろうか、一人の男性がくつろいでいる。
あれが件の男性であるらしかった。
「影朧が現れる前に童謡をくちずさんでいました。これは偶然とは思えません。あの人物が何かを知っている、または情報の一端を掴んでいつ可能性は高いと思われます」
もし男性が影朧の凶行を黙って見過ごしているのならば。
いや、現段階では何も判断出来ないだろう。
「たとえ過去に何があったにせよ、罪も無い方々が犠牲になっていい道理はありません。皆様におきましてはサクラミラージュに赴き、どうかこの事件を解決してくださるようにお願いします」
そう言ってライラは、猟兵達に深々と頭を下げたのであった。
妄想筆
こんにちは、妄想筆です。
童謡にまつわる怪異。大正浪漫って感じがしませんかね?
一章は対象の人物へと接触し、情報を入手するパートとなっています。
男性の名は雨口 野情。これはペンネームです。
詩人であり作家である彼は、創作の一環としてカフェーでくつろぎながら執筆することが常です。
彼が作詞した「赤い靴」は、大衆に愛されるヒット曲となりました。
牧歌的、人情に溢れる小説にもファンが多いです。
彼もその事は承知していますので、長話でなければ交流を拒否することはありません。
ファンを大事にする作家なのです。
グリモア猟兵によって彼が居るカフェーは既にわかっていますが、別の線から情報を集めるのは構いません。
身分を明かせば影朧と戦う猟兵達に対し、官憲や民衆は好意的に知ってることを話してくれるでしょう。
オープニングを読んで興味が湧いた方、参加してくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。
第1章 日常
『古今伝授のわらべ歌』
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POW : とにかく歌ってみた
SPD : 何処からの口伝なのか探してみる
WIZ : 法則性などを探してみる
👑11
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帝都の一角のカフェー。
そこで雨口 野情は原稿用紙にペンを走らせていた。
落ちついた雰囲気の店内に、ラジヲ放送から昨今の現状が流れていく。
彼はそれをBGMに、気ままに手を動かしていた。
ようやく一段落がつき、ひと息いれることにする。
マスターに苦めの珈琲を頼み、彼は口をつけた。
見れば作業の合間を狙ってか、こちらに視線がちらちらと見つめているのがわかる。
休憩がてら、彼らと話を交わすのもいいかもしれない。
そう、野口は思ったのだった。
帝都の街中を歩いてみれば、人々の口にのぼるのは最近の事件。
「怖いわね、うちも気をつけないと」
「ぜったい影朧の仕業よ」
女性達は不安げな顔を浮かべているが、男性陣はどことなく危機感がない。
今までの被害者の内訳によるものであろう。
自分は大丈夫とたかをくくっているのだ。
そんな雑踏の中、猟兵はひとつのカフェーの前で足を止めた。
この先に対象の人物がいる。
入るも良し。他へ行くも良し。
影朧の情報を、集めるのだ。
ソフィア・シュミット
大切な方をなくすのはとても辛いものなのです
その気持ちが歌にも現れているのでしょうか
ソフィアは書店に赴いて情報を得てみようと思います
この世界は初めてですし、事件の噂、歌のこと、ソフィアも不安に思っている女性に扮してみます
ファンの方もいらっしゃるでしょうし、そちらでは事件の噂はどの程度広まっているのでしょうか
女性の方も不安に思っているかもしれないのですよ、すこし、不安を和らげるために歌えれたらいいのですけど
すこしでも早く事件が収束しますように祈りを捧げて
サクラミラージュの世界へと降り立ったソフィア・シュミットが足を運んだ場所。
それはカフェーではなく書店であった。
自分は野口についても、彼が生み出した作品についても何もわからない。
いきなり当人に会うよりは、まず周りから固める方がいいだろう。
そう彼女は思ったのだ。
「これですね」
本棚から一冊の本を取り出し、確認する。
著者は雨口 野情。短編詩集。
彼の代表作なのであろう、背表紙にも書かれている『赤い靴』は、前付けをめくればすぐに目に飛びこんできた。
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
帝都の埠頭から船にのって
異人さんにつれられて行っちゃった
今では綺麗になっちゃって
異人さんのお国にいるんだろう
赤い靴見るたび考える
異人さんに遭うたび考える
「なんというか、哀しい歌ですね」
遠い異国の地に行ってしまった少女の唄。
これを書いた雨口は、どんな気分で歌ったのであろうか。
行方不明になった妹。それが関係しているのか。
「大切な方をなくすのはとても辛いものなのです」
その気持ちが歌にも現れているに違いない。
ソフィアはそう感じたのであった。
詩集を店主へと持って行き購入すると、それをきっかけに最近の噂をそれとなく聞いてみる。
「ああ、あんたらみたいな年頃は大変だねえ」
初老を通り越した店主は、気の毒にといった顔を浮かべ、ソフィアに色々と話してくれた。
犠牲となった者はいずれも女性。
それもソフィアと同じく、十代半ばの娘たちだそうだ。
発見された時は、それはもう無残な姿だったらしい。
「若い娘さんには言いたくないねえ。可哀想に、まだ若い別嬪さんだってのによ」
自分の娘が殺されたように沈痛な表情を浮かべる店主。
歌についても尋ねてみるが、それについては知らないようだった。
どうやら影朧が歌うのを知っているのは自分たちだけらしい。
店主に礼を言い、ソフィアは街中の書店を巡ってみることにした。
探す対象は雨口のファン。
自分と同じ、雨口の書籍を持ち歩いている少女を見つけるのは、そう難しいことではなかった。
自分と同じファンと思ったのか、少女はソフィアに気さくな態度を見せてくれた。
噂がどの程度まで広がっているのか。
ソフィアは彼女に尋ねることにしたのだ。
女性達が次々と襲われる殺人事件。
帝都で知らぬ者はいないらしい。
「警察では変質者や異常者、影朧の仕業だって言ってたわ」
被害者の遺骸は、不必要に傷つけられていたらしい。
身体の一部を切りとられた被害者は自分の血で染まり、真っ赤になって発見されるのだそうだ。
今まで犠牲になった者、全員だそうだ。
「怖いわ……貴女も気をつけてね」
噂に怯えながらも、気遣いの声をかけてくれる少女。
自分は、そんな少女達を護りにきたのだ。
次の犠牲者を出さないためにと。
「ええ、ありがとうございます。あなたも気をつけて。そうだ、歌でもうたいませんか?」
「歌?」
優しく微笑むソフィアと、戸惑う少女。
根本的な解決にはならないが、気分を紛らすことはできる。
不安を晴らすために、一緒に歌おうとソフィアは提案したのだ。
「じゃあ、それを一緒に歌おうか」
少女がソフィアの胸元を指さす。
それは先ほど購入した詩集。赤い靴だ。
もの悲しい唄だ。はたして気分は晴れるであろうか。
「うん、でもわたし、その唄が好きなの」
そういうことであれば仕方がない。
ソフィアは少女の手を握って共にうたった。
不安が晴れるように。
事件が収束するようにと祈りを捧げながら。
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
帝都の埠頭から船にのって
異人さんにつれられて行っちゃった
今では綺麗になっちゃって
異人さんのお国にいるんだろう
赤い靴見るたび考える
異人さんに遭うたび考える
成功
🔵🔵🔴
四王天・燦
SPD
妹が関わってそうだけど雨口の様子があまりに普通なんだよな。
演技か裏があるのかね。
何にせよ乙女を殺すなんざアタシが赦さん!
表の顔であるJK燦に変身。
女学生仲間に著書のストーリーを聞いておくぜ。
今から熟読は無理だ
手垢を付けた本を手に雨口に熱視線を送る。じー!
ちょっぴり殺気技能の応用さ。
目が合ったら俄かファンを装って近づくよ
挨拶して著書の内容より発想を得る過程を聞いてみる。
経験が想像を膨らませるのか、などと
「あのお歌も先生の作詞でしたね」
童謡を歌うぜ(※演歌調で)
連れ去る辺りで「そういえば妹さん…行方不明って」と反応を伺ってみる
疑われたら珈琲を零して拭くものを借りに行こう。
次の猟兵に選手交代さ
エミリロット・エカルネージュ
話から聞くに妹さんが、影朧になっててと言う線も考えてたけど……確証も無いし
●POW
赤い靴を口ずさみながら、ファンを装って、赤い靴の原作者に接触
事前に『料理』してきた桜モツアン餃子(武装欄にもあるよ)をご挨拶がわりに勧めちゃうよ
今、コーヒーを飲んでるんだったら丁度良いお茶うけに良いかも
餃子のお菓子だし
赤い靴の内容が
何か他人事じゃない様な気がして気になったのが切欠かな?
ボク、元々この世界の人間じゃなくて小さい頃に神隠しにあって……色々あって今に至るけど
神隠しに合う前の記憶が無いって違いはあれど、異人を神隠しとも例えれそうだし
と然り気無く怪しまれない様に『情報収集』を
※アドリブ絡み掛け合い大歓迎
帝都を歩く猟兵が二人。
四王天・燦とエミリロット・エカルネージュ。
彼女たちは今回の事件について、自分の意見を言いながら、対象が居るカフェーへと歩いていた。
「妹さんが、影朧になっててと言う線も考えてたけど……」
現時点では確証はない。
だがそうでもないとも言い切れない。
歯切れの悪いエミリロットの言葉に対し、燦は頷き同意をあらわした。
「アタシもそんな感じがするぜ。でも、いまいち掴みきれないんだよなぁ」
エミリロットと同じく、燦も彼と、彼の妹が怪しく思っている。
だからこそ、情報を入手するためにこうやって雨口 野情に会いにいくのだ。
「エミリー、野情について調べてきたか?」
「うん、ボクは歌なら覚えてきたよ。燦ちゃんは?」
「ま、アタシに関しちゃ一夜漬けってところかな?」
女学生姿に変装した燦は、以前この世界で知り合った女学生仲間から借りてきた、書籍をエミリロットに見せつける。
それは雨口 野情が書いた小説だ。
燦から渡されたエミリロットは、それを手に取ってざっとあらすじを斜め読みしてみる。
少し読んだ限りでは、よくあるティーンズ小説のようだった。
田舎地方都市の少女が、異性の友達と親しくなり、くっつきすぎず離れすぎず、そして周りの面々を巻き込んで成長していく。
そんな話を思わせる内容であった。
「燦ちゃんは全部読んだの?」
返してもらった本を懐にしまい、燦が苦笑する。
「実は続刊中でね。続きはまだまだあるみたいだぜ。まあ全編こんな調子らしいや」
とてもじゃないが、全部読む気にはならない。
第一、男と女がくっつく話は性に合わない。
こう、タイが曲がっているような話なら首を向けるのだが。
そうこう話をしているうちに、目的のカフェーへと着いた。
二人は目配せをし、ドアノブに手をかける。
燦とエミリロットは、雨口が居ると思われる店内へと入っていったのだった。
中に入ってざっと見渡すと、原稿用紙が積み上がった卓に書生風の男が一人。
彼が雨口 野情に間違いない。
彼の興味を惹くために、まずはエミリロットが行動に出る。
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
その歌声は彼に届いたようだった。
雨口の視線がエミリロットに注がれ、次に燦へと流れる。
目があった燦は何か言いたそうな目つきで彼を見つめ返した。
そして、さりげなく本を抱きかかえて彼に見せつける。
歌と本。
どうやら彼は、二人は自分のファンであると察したようだ。
万年筆を置き、珈琲を口につける。
その態度から話しかけてもよさそうだと感じたエミリロットが声をかける。
「あの、雨口先生ですよね?」
「ああ、そうだよ?」
笑みを二人に返す雨口。
その態度からはいつものことなのだろうか、邪険にする様子はなかった。
「あの、ファンなんです。よろしかったらこれを」
事前に調理してきた手作りの餃子。
桜モツアン餃子を彼に勧めてみる。
「これは?」
どうやら彼は馴染みがないようだった。
ご挨拶代わりにと、エミリロットは自分で作ってきたことを説明する。
「そうか、ありがとう」
じゃあ立ち話も何だしと、雨口は向かい席に二人を座らせ、自分は彼女たちのために珈琲を追加で頼む。
菓子と飲み物。
運ばれてきた珈琲に口をつけ、燦は尋ねる。
「先生とお会いできて嬉しいです。どうやったらこんなお話を書けるんですか?」
「どうと言われても、困るな。ただ気ままに筆を走らせているだけだから」
はにかむ雨口。
おそらくこんなたわいの無い会話は誰彼問わず受けているのだろう。
そこで燦は、もう少し突っ込んでみることにした。
「あのお歌も先生の作詞でしたね」
「あの歌というと、入って来たときに彼女が歌っていた……」
「ええ、赤い靴です」
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
帝都の埠頭から船にのって
異人さんにつれられて行っちゃった
エミリロットとは違い、拳を聞かせて歌う燦。
途中まで歌い、しみじみとした顔で余韻に浸る。
「しんみりとする歌ですね。やはり私たちと違って年季、経験が違うのですかね」
「そうかな。とはいってもまだまだ若造だけどね」
少女たちとの無駄話に付き合ってあげる青年。
今の処、彼の態度はそれだ。
「あの、お気を悪くしたら申し訳ないんですけど、そういえば妹さん…行方不明って」
切り込んだ発言。
あまり話題にしたくない内容だったのか、その言葉に動揺が見られたのを燦は見逃さなかった。
雨口が何かを言おうと、口を開こうとする。
それよりはやく、燦の肘が自分の珈琲をこづき、卓にこぼした。
「わ! ごめんなさい! 先生の原稿が! 私、拭く物持ってきますね!」
急いで席を立って離れる燦。
後には空気を割られ、無言の二人が残されるのみとなった。
「……妹さん、行方不明なんですか?」
先に口を開いたのはエミリロットだった。
「実はボク、小さい頃に神隠しにあったことがあるんです」
うつむきながら、ぽつんぽつんと、あとに続ける。
幼い頃に神隠しにあったこと。
そのせいで記憶がなく、名前しか覚えてないこと。
こんな自分でも周りは良くしてくれて、毎日が楽しいこと。
「だから先生の赤い靴を聞いた時、親近感を覚えました。何か他人事じゃない様な気がして」
そして再び、あの歌を口ずさむ。
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
帝都の埠頭から船にのって
異人さんにつれられて行っちゃった
今では綺麗になっちゃって
異人さんのお国にいるんだろう
赤い靴見るたび考える
異人さんに遭うたび考える
静かに歌うエミリロットを雨口は止めず黙って聞いていた。
顔をあげ、エミリロットは笑う。
「先生、女の子は消えちゃっても余所の国で楽しくくらしているんですよね?」
しばし無言で見つめる雨口。
その眼にエミリロットの話したことを、戯事と一蹴するような色はなかった。
ただただ、憐れみと慈しみの感情が宿っていることはわかった。
まるで兄が妹を見つめるように。
「ああ、そうだよ。きっと楽しく暮らしているさ。君には兄が……」
いるのかい。
その先を言おうとして、雨口がすまないと謝る。
記憶がないのを失念していたのだろう。
「いえ、気にしないでください」
「いや、本当にすまない。今し方話してくれたばかりなのにな」
恐縮する雨口。自分より年下の娘にあたふたとする彼は、根はいい人なのだろう。
「あの、妹さんが行方不明というのは」
「ああ、本当だよ」
なんとも言えない顔をする雨口。
エミリロットをみつめ、ため息をつくように問いかける。
「君の、その髪と肌は生まれつきかい?」
「はい、そうですけど?」
明るく答えるその声に、雨口の眉が曇る。
「そうか、いや何でもないんだ。最近は物騒でね。君みたいな可愛らしい子は日が暮れる前に家にいた方が良い」
最近は物騒だからね。
そう言って視線を逸らす雨口。
また繰り返される無言。
その沈黙を破るかのように、燦が謝りながら布巾を持ってやってきた。
丁寧に礼を述べて、店を後にする二人。
どうだった? と燦が尋ねる。
「う~ん、あの人、やっぱり何か隠している気がするんだよ」
エミリロットが疑問符を頭に浮かべ答える。
何か隠してはいるが、やはり一見の人物に話してはない。
いや、だからこそその情報は確信に近づくものなのであろう。
とりあえず、他の猟兵の行動も合わせて待ってみる必要がある。
ふと、エミリロットが顔をあげる。
「そういえば続刊中、て言ってたよね。雨口の書いた小説の主人公って誰なの?」
その言葉に、うろ覚えの記憶を思い出しながら、燦は本をめくった。
「椿だよ。アタシたちと同じ十代の乙女さ。そう、これ」
本を開いて挿絵で見せる主人公の姿は、白黒では分からぬが、おそらく赤い椿の背景で描かれる、可愛らしい女性の姿であったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
テイラー・フィードラ
……この事件自体について調べてみるか。
グリモア猟兵が語るに、この殺人事件自体、共通している事項もある。相手は紅き瞳に異人の唄、更に顔面や体型に劣等感があると思われる存在。そこから何か、手掛かりを得られないか。
官憲より身分を明かし、情報を収集。対象として若き女性が狙われたという事であるが、その際での死体の損傷についてや死因について、推定死亡時刻で唄を聞いたものは居ないか、狙われた女性の身分や身体に共通する事等を聴取する。
その後は事件現場に向かう。血の臭いが微かに残っているならば、吸血鬼の血が混じった私の鼻ではそれを知れるはずであろう。臭いを元に出没したと思わしき場所や殺害後の経路を追跡する。
一連の事件について調べたい。
そう考えたテイラー・フィードラがむかった先は、カフェーではなく警察署であった。
グリモアベースで見た光景を思い出してみる。
紅き瞳に異人の唄。
奇怪ではあるが、それゆえに何かしらの証拠を残しているのかもしれない。
何か手がかりを掴めないか。
テイラーは署へと赴いて身分を明かし、堂々と協力を求めたのであった。
一室へと案内されたテイラーは、官憲が次々と持ってくる書類に目を通してみた。
いずれも最近起こった事件の詳細が書かれたものだ。
そこから何か共通点はないかと、彼は目を皿のようにして探すのだった。
「酷いな……」
現場写真には、発見当時の被害者の姿が残っている。
いずれも損傷は激しく、血達磨という表現が適当だと感じるほど朱に染まっていた。
同じ部位だけ狙うのかと、そう思いもしたがそれは違ったようだ。
ある人物は足首から先を、ある者は指をちぎり取られていた。
首を刎ねられたのであろうか、首無し死体も見受けられる。
共通点は見受けられない。
しいて言うならば、どれも身体の一部を引きちぎられたかのように失い、朱に染まって殺されている。
ざっと見て、予知で見た女性は探せなかった。
だとすると、これから確実に一人失われるという結末を迎えてしまう恐れもある。
「これだけの出血であれば、悲鳴などは誰か聞いてはいないのか?」
書類から目を離し、テイラーは警官に声をかける。
残念ながら、とその男は被りを振っ手答えた。
「いえ、それが誰も聞いてはいないとの事です。周囲の人間が騒ぎを聞いたということはなく、明るくなってから発見されました」
すると被害者は一撃のもと、悲鳴をあげることもなく殺されたのであろうか。
騒ぎを聞いたという者もない。
それは歌を聴いた者もいないということだ。
だが、あの被害者は歌をはっきりと聴いていた。
「妙だな……」
顎に手をかけて、テイラーが呟く。
歌も、激痛に声をあげる被害者の喧噪も、報告書には上がってはいない。
これは何かしら、そう、影朧の異形の力なのであろうか。
「被害者の失われた部位は見つかったのか?」
「それも残念ながら。今のところ見つかったという報告は上がっておりません」
淡々と答える警官に、そうかとテイラーはため息をつく。
書類ばかりでは見えてはこない。
やはり現場へと赴くべきか。
「すまんが、貴殿はこの書類の複写を頼む」
テイラーは席をたち、署をあとにする。
女性達が発見された現場にいき、何かを掴むために。
殺害された被害者が発見された現場の一つへと、テイラーは向かった。
今はすっかり何事もなかったようには見えているが、ここで事件が起こったことは確かだ。
吸血鬼の嗅覚、血痕の残り香を辿ろうと試みる。
あれだけの出血だ。犯人も返り血を浴びている可能性が高い。
神経を研ぎ澄まし、その跡を辿ろうとテイラーは辺りを捜索した。
だが、いかな彼の感覚といえど、経路を辿ることは出来なかった。
現場には、血の形跡を感じることが出来る。
しかし、それから何処へ行ったかはわからずにいた。
見つからず失われた部位。
悲鳴も歌も聴いていない周囲。
そしておそらく、持ち去ったか何かした犯人の、消えた血の痕跡。
「異人に、連れられたか……」
相手はもしかしたら、空間に干渉する力を持っているのではないだろうか。
だとすれば、相手を探し出すのは中々に困難なことになるかもしれない。
他の猟兵の情報も聞くために、テイラーは現場をあとにするのであった。
成功
🔵🔵🔴
エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎
サクラミラージュにやってきたからにはやる事はひとつじゃな。
サアビスチケットを使い、おしゃれなカフェーで【巨狼マニトゥ】と相席し儚げなサクラを眺めながら食べ放題じゃ!
マニトゥ、サクラミラージュはよい所じゃのう。ほれお主もケヱキを沢山食べるのじゃ。
ん?調査?…お、覚えておったぞ?ほれ、【精霊のささやき】で方々に風の精霊を放っておるのじゃよ。
こうやってケヱキを食べながらもしっかり事件の噂や帝都内の状況を把握しておるよ。
雨口殿にも他の猟兵が接触を図っておるようじゃな。
小さな呟きや誰も見ていない所での行動等、入念に調査するかの。
入手した情報は皆へ遂次報告するのじゃ。
サクラミラージュ。
その名を冠する世界の通り、この地では何処へ行っても舞い散る桜を眺める事が出来る。
別世界では春にしか見られない光景であるが、ここでは年中魅入られても何ら不思議なことではないのだ。
「マニトゥ、サクラミラージュはよい所じゃのう」
オープンカフェーで辺りを眺めながら、エウトティア・ナトゥアは傍らに座る巨狼マニトゥに声をかける。
彼女の卓にはメニューの上から下、端から端までで目についた甘味処が所狭しと置かれていた。
普段であれば会計が気になって喉が通らなくなる有様であるが、別段財布の紐を気にする必要は無い。
ここでは紐を緩めてサアビスチケットを店員に見せれば事足りる。
猟兵様様といった身分であろう。
一度はやってみたいと思っていたお大尽に、エウトティアは腹も心も満足していた。
「ほれお主もケヱキを沢山食べるのじゃ。どうした? すすんではおらんではないか」
マニトゥの前に盛られたケーキの皿は、さきほどからちっとも減ってはいない。
はてな、別に嫌いな物を頼んだ訳はないのじゃがと、若干訝しがるエウトティアの顔を、マニトゥは静かにじぃと見上げた。
食べる前にやることがあるだろう。そんな眼であった。
急かすように吠える狼の声に、エウトティアの眉が八の字に下がる。
「ん? 調査? ……お、覚えておったぞ? 別に遊んでいるわけではないのじゃぞ?」
タクトを振るように軽快に動かしていたフォークを皿に置き、彼女は肘を伸ばして手を開く。
その細腕に桜吹雪がくるくると絡みつき、桜の花びらをひとつ、つまんでみせた。
「精霊のささやきで方々に風の精霊を放っておるのじゃよ。こうやってケヱキを食べながらもしっかり事件の噂や帝都内の状況を把握しておるよ」
彼女の元へと集まってきた風は、人々の噂を便りとして運んできた。
それらに耳を傾けながら、エウトティアはその伝達内容を整理する。
「雨口殿にも他の猟兵が接触を図っておるようじゃな」
今回の事件に関与していると疑いのある雨口 野情。
ずかずかと大勢で押し入っては、かえって警戒されるというもの。
逆にその場に居ずからこそ、見える顔もあるのだ。
エウトティアは精霊の一つを彼につけさせ、他の精霊達に人々の噂を集めさせていたのだ。
人々の口に戸は立てられぬ。だが、人前ではつぐむ口もあるであろう。
そんな街の声を、彼女は拾っていたのあった。
巷を騒がす連続事件。
人々の口からは不安が漏れていた。
襲われるのは十代の女性ばかり。
まだ位牌を前にして泣き崩れる遺族の胸中は、風の便り越しでも痛々しいものだ。
「あの娘に靴を買ってあげたのに、まさかこんなことになるなんて」
「彼女にお揃いの真っ赤なスカアフをプレゼントしたのに。首が、首が無くなるなんてそんなの……もしかして俺のせいなのか!?」
「ルビイの指輪が指ごと見つからないって、物盗りの可能性もあるって」
嘆き哀しむ人達の声に、エウトティアの心が痛む。
盗み聞きをしているようなものだ、出来ればこういうことはしたくない。
だが大勢の声を聞くうちに、共通点に気づく。
「犯人は赤い品物に興味があるのかのう?」
被害者は身体の一部分が失われていたと聞く。
もしやそれは、赤い品々を身につけていたからではないだろうか。
もしそうならば、相手に近づく重要な手がかりとなる。
そして、雨口につけていた精霊がまだもどってこないことが気がかりだ。
居場所を探ろうにも何処だか判断がつかず、感知できないのだ。
何者かに倒されれば、それも感覚としてフィードバックされる。
だが、それすらないということは。
「一般人がユーベルコヲドを使えるはずもなかろうて」
おそらく雨口と接触した何者かが、結界のようなものを使用した。
そうエウトティアは結論づけた。
「神かくし、か。連れ去られたくはないのう」
真剣な眼をしながらエウトティアはガツガツと、マニトゥは行儀良く、ケヱキを頬張るのであった。
成功
🔵🔵🔴
鶴澤・白雪
わらべ歌か
昔、妹に歌ってあげたっけ
聞く限り口裂け女の話に近い気がするけど
赤い靴の事は調べてみてもよさそうね
どういう心境でこの歌を作ったのか
興味もあるから本人に直接聞いてみようかしら
自らをファンであると偽って
喫茶店にいる雨口さんとやらに声をかけるわ
髪を下ろして赤いヒールの靴を履いて
ガラの悪さは隠して不良娘に見えない恰好でいくわ
妹は赤い色が好きで
赤い靴を謳ってあげるととても喜んだので
なんて口実で近づいて
この歌は悲しい歌ですよね
どうしてこの曲を作ろうと思ったのですか?
話してくださり感謝いたします
お礼に妹が好きな子守唄を謳わせていただいても?
ラジヲからは悲しいニュースばかりですから息抜きに如何かしら
「わらべ歌か。昔、妹に歌ってあげたっけ」
鏡の前で髪をすきながら、鶴澤・白雪は独り呟く。
グリモアベースで見た光景は、噂に聞く口裂け女の話に近い。
しかし、歌をうたったなどとは自分の記憶にはなかった。
やはりそれ以外のなにか、調べるべきことがあるのだろう。
「とりあえず、赤い靴の事は調べてみてもよさそうね」
そのためには作詞した人物、雨口 野情と接触する必要がある。
鶴澤は相手に悪印象を与えないように、身だしなみを整えてから出発しようとしていた。
「こうして見ると、あらためてあたしって癖っ毛よね」
ようやく髪を下ろしてストレートロングに直した彼女は、履き慣れているパンツとブーツではなく、スカートとヒールの靴に着替え直す。
普段と違いどうも慣れないが、一般人相手にガラの悪さは悪影響だ。
ここは清楚な女学生を演じるべきであろう。
赤いヒールとはまた違った朱色のルージュを口に差し、鶴澤はカフェーへと向かうのであった。
カランカランと音を立てて店内を見渡すと、対象の人物はすぐにわかった。
原稿用紙があるからすぐにわかる。
しずしずと進んでまずは名乗り、雨口にファンであると自分を説明する。
「雨口さんとお会いできて嬉しいです。妹も歌が大好きでしたので」
「ほう、妹さんがおられるので」
筆を休めてこちらの話を聞いてくれる雨口に対し、鶴澤は当たり障りのない内容を話ながら、相手の態度を伺っていた。
こう話していると、人当たりの良い人物に見える。
一回りも年が離れた自分の話を邪険にしないあたり、人の出来た男なのであろう。
そのような人物がなぜ、あのような歌を作ったのか。
鶴澤はどういう心境であの歌を作成したのか、それも興味があった。
「妹は赤い色が好きで、赤い靴を謳ってあげるととても喜んだので」
話をしながら、座りを変えてスカートを翻し、赤いヒールをさりげなく見せる。
彼の顔に動揺が浮かんだのを、鶴澤は見逃さなかった。
彼は何かを隠している。それは間違いない。
そう確信した鶴澤は、少し突っ込んだ質問をする。
「この歌は悲しい歌ですよね。どうしてこの曲を作ろうと思ったのですか?」
雨口の眼に複雑な色が浮かぶ。
一つの感情ではあらわすことの出来ない、混じり合った色だ。
「……まあ、色々ありましてね」
彼の声には、あまり話したくはないという拒絶の圧があった。
「そうですね、話したくないこともありますしね。お話できて嬉しかったです。お礼に妹が好きな子守唄を謳わせていただいても? ラジヲからは悲しいニュースばかりですから息抜きに如何かしら」
拒絶が膨らむ前に、鶴澤は話題を変えることにした。
雨口が頷き、了承を取る。
鶴澤は歌う。普通の歌ではない。
彼の心を癒やす、優しい調べの歌を。
希わくは涙ではなく優しい華を
希わくは此の謳を耳に留めて
掛け替えの無い貴き生命に途絶えぬ願いを
美声。
それに聞き惚れた雨口の脳裏に、情景が浮かぶ。
満点の星空、そしてその下で浜辺を歩く美しい女性の後ろ姿を。
月光が海岸線と彼女を照らし、白く輝かせている。
その純白が彼の眼から心へと届き、郷愁を抱かせるのだ。
彼女が振り向いた。それは鶴澤であった。
星空の灯りが綺羅綺羅と振り下りて、まるで白雪のように彼女へと舞い散り落ちる。
鶴澤が手を伸ばし、雨口の後ろを指さした。
雨口は振り返り、見た。
過去の、明るく笑う妹の姿を。
雨口の目から涙がつうと、こぼれ落ちる。
いつの間にか差し出してくれたハンケチを手にとり、涙を拭った。
子守歌はとうに終わり、ラジヲからは他愛の無い曲が流れている。
ここはカフェー。幻想は終わりを告げていた。
「いや、良い歌でした。ありがとうございます」
「それは良かったですね」
鶴澤にハンケチを返し、しみじみと雨口が語った。
自分には妹がいたこと。
妹が15の時、中学を卒業する前に行方不明になったこと。
いつかは帰ってくると思い、その空想を本にしたこと。
小説の主人公は、もし妹が生きていたらという、想像の世界なのだということ。
「なんででしょうね。なぜか……貴女には話したくなりました」
「いえ、話してくださり感謝いたします。大変なことを経験なさったんですね」
礼を言って席を立つ。
店内には、雨口と話したそうなファンがちらほらと見えた。
長居はほどほどにするべきであろう。
店の外に出て、鶴澤は確信する。
彼の心は未だ癒えていない。
「彼はまだまだ、隠していることがあるようね」
とりあえず、他の猟兵達の話も聞いてみよう。
鶴澤は一旦、店を離れるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『その目、ダレの目』
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POW : 何されようと構わない、迎え撃ってやるさ。自ら囮になって真実に接触。
SPD : 情報こそ命、噂や内密な話を手にいれろ。あの手この手で情報収集。
WIZ : ここには何かがあるはずだ。現場を巡り痕跡やパターンを探す。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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帝都を騒がす連続事件。
それの調査に出ていた猟兵達は、一旦情報を整理することにした。
・殺された女性はいずれも10代半ば
・遺骸は真っ赤に染め上げられている
・被害者が身につけていた赤い所持品は見つかってはいない
・犯行時に悲鳴や騒動を聞いた者は無し
・犯人は空間に干渉する、あるいは結界を張る能力の疑い有り
・雨口 野情の妹の名は椿。10代半ばで行方不明
・唄と小説のモデルは雨口の妹、もし生きていればという想像の産物
・雨口は赤い物に関して何やら思う処があるようだ
皆の結果を纏めてみると、大体こんなところであろうか。
もうすぐ日が暮れる。
今夜にも犠牲者が出るかもしれない。
この情報を元に、影朧を捜索しても良いかもしれない。
あるいはまだまだ情報を絞り込むか。
日は傾き、空が赤く染まっていく。
影朧もこの帝都の何処かで、紅い瞳で犠牲者を見つめているのであろうか。
猟兵達は考え、次なる行動に出るのであった。
※雨口 野情はサクラミラージュの住人ですので、猟兵がどんな存在か知っています。
※彼と接触する場合、猟兵として会うか身分を隠して会うかは自由です。
エミリロット・エカルネージュ
雨口さんが、あの時……ボクの赤い髪、赤い肌(体毛含めて?)に反応して、意味ありげな事を言っていたのは
……気になるね、どちらにしても、今回の事件に大なり小なり近いかも。
兄かぁ……記憶を失う前に
居た様なデジャブは感じたけど
●POW
『情報収集』しながら整理し
襲われた被害者は影朧に赤い物を持ってかれてる、雨口さんの発言、大なり小なり関わってる事を考えると
ボク自身の身体的特徴は
影朧を誘き寄せる囮に持ってこいかも
今まで被害があった所を中心に『情報収集』しつつ警戒も兼ねて『第六感』を頼り【赤い靴】を歌いながら徘徊し
影朧を探し当てる
怪しいのを見付けたら
警戒しながら『追跡』も忘れず
※アドリブ絡み掛け合い大歓迎
逢魔が時。
夕日を背にエミリロット・エカルネージュは、カフェーで起こったことを思い返していた。
顎に手をやりながら、雨口の言葉の意味を考えていた。
己の手に、体毛が小さく振れる。
彼は何かを言おうとし、そして躊躇っていた。
何かしら事件に関係しているのは違いないだろう。
「雨口さんが、あの時……ボクの赤い髪、赤い肌に反応して、意味ありげな事を言っていたのは……気になるね、どちらにしても、今回の事件に大なり小なり近いかも」
今まで特に気にはしてはいなかった自分の特徴であるが、今回の事件であれば、影朧を影朧を誘き寄せる囮に持ってこいであろう。
襲われた被害者たちも、赤い物を奪われていたと聞く。
ならば囮の役は、自分がいちばんふさわしい。
「ちょっと危ないけど、他の人が襲われるよりは良いかな」
懐から武器を取り出すエミリロット。
傍目には麺棒にしかみえない竜騎士の槍は、今まで数々の困難を一緒に乗り越えてきた相棒だ。
雨口の顔が脳裏に浮かんだ。
気遣いの言葉。兄というのはあんな感じなのだろうか。
「ボクにも兄がいたのかな」
だが、その記憶は曖昧だ。
居たようなそうでないような、おぼろげな情景。
「ま、悩んでも仕方ないよね」
今の自分は猟兵エミリロット。
サクラミラージュの事件を解決しようと、彼女は街へと繰り出すのだった。
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
帝都の埠頭から船にのって
異人さんにつれられて行っちゃった
わざと人に聞こえるように大きく歌いながら、エミリロットは帝都の道を歩く。
その姿は奇異の目に映るようで、すれ違う人は足を止めて眺めてくる。
「こんにちは。ちょっと尋ねたいんだけどいいかな」
そんな人達に、声をかけて話を聞くエミリロット。
囮として徘徊しているわけではあるが、相手が先を越している可能性もないこともない。
そのような場合にも対応するため、怪しい者を見なかったかどうか、尋ねながら歩くのだ。
やがて、エミリロットは気づく。
すれ違う人々がいないことに。
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
唄。自分以外の声。
武器を握りしめ、エミリロットは周囲を警戒する。
辺りに人気はすでになく、自分一人かと疑うような、そんな無人の街。
街灯だけがエミリロットを照らし、ここに自分がいるということを感じさせてくれる。
帝都の埠頭から船にのって
異人さんにつれられて行っちゃった
前方から聞こえていたはずの童謡が、いきなり後方から聞こえてきた。
しかも、距離を詰めて。
思い切り飛び跳ねて距離を取り、エミリロットは武器を構え相手を見据える。
そして彼女は見た。
朗々と歌う、朱に染まった女学生の姿を。
今では綺麗になっちゃって
異人さんのお国にいるんだろう
赤い靴見るたび考える
異人さんに遭うたび考える
「君が、椿ちゃんかな?」
尋ねるエミリロット。だが相手は答えず、逆に問う。
「貴女の髪、素敵ね。私より」
すう、と相手の腕が持ち上がった。
脅威を感じ、エミリロットは腕の指し示す方向から跳びずさる。
椿の花びらが吹きすさんで、虚空を切り刻むのを感じた。
「ねえ、ちょっと話をしたいんだけど」
ようやく見つけた影朧と思われる対象。
相手を刺激しないように、話しかけるエミリロットであったが、予測もしない方向から何者かが襲いかかってきた。
すんでのところで回避し、乱入者を確かめる。
それは奇妙な、人型の化け物であった。
ボロボロの様相に身を包み、赤い返り血に染まりすきっ歯をカチカチと打ち鳴らしていたのであった。
よくみれば、それが何処に隠れていたのか、大勢姿を現していた。
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
帝都の埠頭から船にのって
異人さんにつれられて行っちゃった
今では綺麗になっちゃって
異人さんのお国にいるんだろう
赤い靴見るたび考える
異人さんに遭うたび考える
椿の歌声が聞こえる。しかしその姿はみえない。
だが、殺気ははっきりと自分を狙っているのを感じる。
「もしかして、この人達が異人さんってことかな」
異形たちが姿を見せた途端、エミリロットは周りの気配が良くわからなくなってきた。
そしてこの騒動にもかかわらず、通行人は一人もみえない。
これは相手の能力なのであろうか。
「悪いけど、二度も神隠しには会いたくないかな」
相手を引きつけるべく、囮の役目を全うするべく、エミリロットは四面歌の状況の中で、戦いの火蓋を切るのであった。
大成功
🔵🔵🔵
四王天・燦
露骨に赤いリボンタイを追加したJK燦で再び帰路の雨口に会う
正直言って野暮ったい男性がどうして乙女の恋愛をこうも上手く書けるのかを問う。
「まるで主人公を見ていたようで―」
「妹さん、本当に行方不明なのですか?」
揺さぶるぜ。
怪しい動きをしないか見切り態勢
「常に剣を抜ける。猟兵だよ」
観念させるように諭す。
影朧とグルなんじゃないかと疑っていると伝える。
妹が影朧か、影朧に妹を幻視させてもらっているか。
代価は現実世界で目となり、結界を開く役割…とか
「所詮は妄想さ。力づくで解決より事情が知りたい。妹を想うならどうすべきか考えな」
最後の手段は抑え込んで読符『攻撃的な思念測定術』で読む。
荒事させないで欲しいけどね
日も暮れて帰宅の途につこうとしていた雨口 野情。
「……なにか?」
その先に、四王天・燦が立ち塞がる。
赤いリボンタイをつけた女学生姿。
しかし彼を睨むその眼は、歴戦の戦士であった。
仲間が調査へと赴く中、彼女は直接雨口に話を聞きに行ったのだ。
どうしても彼が怪しい。しかし確証はない。
業を煮やした燦は、多少強引ではあるが、彼を揺さぶることにしたのだった。
「正直言って野暮ったい男性がどうして乙女の恋愛をこうも上手く書けるのか……」
わしわしと頭を掻き素を出しながらも、燦の目は雨口から離してはいない。
「まるで主人公を見ていたようで……妹さん、本当に行方不明なのですか?」
単刀直入の言葉。
そしてその目に疑念がありありと浮かんでいた。
「どういうことでしょうか?」
「常に剣を抜ける。猟兵だよ」
女学生の仮面を脱ぎ捨て、文字通り突き刺さる言葉を放つ。
それが脅しではなく、本気ということを見せるために、燦は証を見せた。
夕闇に短刀の稲光が奔り、両者の顔を光らせた。
雨口は動かず、燦を見据えている。そんな彼に、燦は続けた。
「正直に言うよ。アタシはアンタが影朧とグルなんじゃないかと疑っている」
自分の仮説を相手に伝える燦。
妹が影朧か、影朧に妹を幻視させてもらっているのか。
代価は現実世界で目となり、結界を開く役割なのか。
話をしながらも、持っている符と短刀は雨口を捕らえている。
「所詮はアタシの妄想さ。力づくで解決より事情が知りたい。妹を想うならどうすべきか考えな」
すごんでみせる燦の態度に雨口は乾いた、自嘲気味の笑みを浮かべた。
「わざわざ変装なされて猟兵が私のもとへと来られるとは……こんな日がくると思っていましたよ」
疲れたようなため息。観念したのか。
「そうですね、どこから話して良いものか」
「あんまり揉め事は起こしたくない。話してくれれば助かるよ」
「正直、私は……まだ迷っているのです」
「どういうことだ?」
訝しがる燦に対し、雨口は語り出す。
雨口には妹がいた。少し年の離れた妹が。
15になり、卒業まであと少しという時に、妹の椿は行方不明となった。
家族と自分はそれはそれは哀しんだ。
哀しみを押さえることが出来なかった自分は、唄を綴った。
皮肉にもそれは世間の注目を浴び、詩人としての一歩を踏み出すこととなった。
多少上向きになろうとも、妹のことを忘れることは出来なかった。
自分は妹が生きていればどんな生活をしていたのかと、物思いに耽ることが多くなった。
それを筆に綴り、生き生きと妹が紙面で動くようにと推敲を続けるうちに、やがてそれは小説として脚光を浴びるようになった。
いくら他者がもてはやしても、妹は帰ってはこない。
そう、思っていたのだった。
「そんなアンタの元に、昔の姿をした妹さんが帰ってきたと?」
「そうです」
雨口は頷く。信じて貰えないでしょうがと言った諦観に溢れている。
「わからないな。それが殺人事件とどう関係があるんだ?」
「おそらく妹は歪んでしまったのでしょう。いや、アレが本当に椿であるのかすらどうか。生前、椿は赤い色が好きでした。自分が最も良く似合うと偏愛に囚われているのです。多分ですが……相手がそれを身につけているのが許せないのでしょう」
はあ、とため息をつく雨口。
「ですが、私にどうしろというのでしょう。貴女は力をお持ちだ。しかし私は何の取り柄も無い一般人なのですよ。恐るべき力を持っている存在に、対処できるはずがありません」
じっと、燦を見つめる雨口。
その目を見つめ返す燦。
どうやら嘘を言っている様子はなさそうだと思った燦は符を下ろす。
「一つ聞きたい。妹さんは結界かなんかを張れるのか?」
「いえ……それが何か?」
そうかい、と踵を返す燦。
思い出したかのように立ち止まり、雨口に尋ねる。
「それともう一つ、アンタは妹さんが人を殺めているのを知っていたのかい?」
しばしの沈黙。
やがて絞り出すように、……はい、と声がした。
そうかい、と燦が答える。
「そのせいでアンタと同じように、家族を失って哀しんでいる人がいる。それを忘れるな」
燦はそう言い捨てて、仲間へと合流を急ぐのであった。
妹を、椿を止めるために。
暮れる帝都の路地に、赤いタイがひらひらとひるがえるのであった。
成功
🔵🔵🔴
エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎
ふー、お腹もくちくなった事じゃしそろそろ動き出すとするかの。
それにしても空間に干渉するとは予想外じゃな、どうしたものか…
日も傾いてそろそろ常世の者共の時間か。
うーむ…考えても分からぬしわしは対処療法でいくとするかの。
結界内の探知が出来ぬのなら逆に探知できない所に居る筈なのじゃ。
風の精霊の声に【耳を傾けて】、精霊の感知できない場所に【巨狼マニトゥ】を派遣するかの。
マニトゥ、お主だけなら間に合うじゃろ?風の如く駆けて影朧を捕捉するのじゃ。
わしは【秘伝の篠笛】を吹いて呼び出した狼に【騎乗】して後を追おう。
他に人が居たら保護するのじゃよ?
さて、事が動き出すまでゆるり過ごすかのう。
テイラー・フィードラ
……納得出来ぬ点が多数。影朧自体は奴の妹の可能性が高く、犠牲者の無くなった箇所も、好んだ赤い物があった物。そこまでは良い。
だが、何故赤き物がある場所ごと持っていき赤くしたか。見当たらぬ痕跡にあの歌に出てくる『異人さん』
考えれば出てくるだろうが、今はこの数点を絞って調べていく。
フォルティに騎乗し、帝都内で事件が起きた場所を順繰りに調べていく。そこで以前と同様に血の臭いについてや近隣の官憲に事件の詳細を調査していく。
それと異人、帝都とは別の国の住人が多くいる場所にも訪れ、何か知りえないか尋ねてみるか。
……しかし、何故臭いすらしない?連れ去った?持って行った?歌にあった埠頭に本体がいるのであろうか?
「ふー、お腹もくちくなった事じゃしそろそろ動き出すとするかの」
さんざんカフェーで飲み食いしたエウトティア・ナトゥアはようやく重い腰をあげる。
日は傾いて来たが、やはり精霊は戻ってはこなかった。
ひょっとしたら、と待ってはみたものの、結局は戻らずじまいであった。
「日も傾いてそろそろ常世の者共の時間か」
夕日にエウトティアは呟く。
斥候は敵の手によって倒されたとみる方が良さそうだ。
しかしそれは、敵の手がかりの一端でもある。
「結界内の探知が出来ぬのなら逆に探知できない所に居る筈なのじゃ」
多少の遅延はあるが、精霊の行動をエウトティアは感知できる。
それがこうもあっさりと仕留められるとは、彼女もあまり良い気分ではない。
再び、風の精霊を四方へと飛ばすエウトティア。
二の轍は踏まない。
「マニトゥ、お主だけなら間に合うじゃろ?風の如く駆けて影朧を捕捉するのじゃ」
周りの気配に神経を済ませながら、エウトティアは信頼する朋友に願う。
このような事態ならば、神獣であるマニトゥの方が、自分より早く違和感に気づいてくれるに違いない。
巨狼は巫女の意図をくみ取ると、疾風のように駆けだしていったのだった。
テイラー・フィードラはあれからも調査を続けていた。
「どうも腑に落ちぬな」
難しい顔でテイラーは独り悩む。
今回の事件はわからないことが多すぎる。
おそらく影朧事態は雨口の妹の線が濃厚であろう。
赤い色を好む影朧が、それを身につけている人から奪っていく。
よくあることだ。
「しかし何故被害者を赤く染める必要があるのだ?」
好物を持ち去ったあとは、被害者は影朧にとってなんら興味はないはずだ。
『異人』という存在も気にかかる。
自分たちはまだ、何か見落としてはいないだろうか。
その点がテイラーには気にかかっていたのである。
調べる必要性はまだある。
彼はそう確信し、愛馬にまたがって事件現場をもう一度捜索することにしたのである。
事件が起きた場所を一つずつ、丹念にと調べていくテイラー。
近隣の住人や官憲に協力を頼み、洗い直していく。
流血騒ぎや遺失物について、また怪しい人物は見なかったか。
異国の人がよく出入りするという場所にも赴き、彼は入念に調べていくのであった。
だが、彼の必死の捜査にもかかわらず、手がかりは髪の毛一本掴めはしない。
落胆の色を露わにするテイラー。
「……しかし、何故臭いすらしない? 連れ去った? 持って行った? 歌にあった埠頭に本体がいるのであろうか?」
焦燥と苛立ち。
眉間に皺を寄せる彼の前に、自分と同じく、騎乗する者が現れた。
「そこにいるのはテイラー殿か?」
「……貴殿は」
狼にまたがった少女、エウトティアが声をかける。
白馬に乗ったままテイラーも会釈で返す。
どうやら彼女も、この帝都を走りまわっていたらしい。
自分とは違う目的で。
「感知出来ない場所へ赴くと?」
「左様、ともがらが先にそこへと赴いているので、わしはあとをついていくのじゃよ。良かったらそなたも来るのかのう?」
しばし考え、テイラーは頷く。
どうせ八方塞がりだ。
ここは協力して事にあたった方が良いかもしれない。
「いや、同道しよう。案内をお願い致す」
「かしこまった、それでは行こうとするかの」
狼と馬、二人の騎乗者は轡をならべ、帝都の夕暮れを疾走するのであった。
二人が赴いたのは港埠頭。
船も停泊してはおらず、閑散とした空気が二人を迎える。
「何もなさそうだな」
「いや、そうでもないぞ」
エウトティアが指さす方に、テイラーが顔を向けると、そこには一回り大きい獣が港倉庫の前に鎮座していた。
待っていた、とばかりに二人を見てマニトゥが尻尾を振った。
正面から見る限りは、別段違和感を感じる気配はない。
「まず、私が先に行こう」
重々しい倉庫扉に手をかけ、重厚な音を響かせながらテイラーが戸を引いた。
夕陽が倉庫の中へと差し込み、様子を照らす。
埃まみれの床、がらんとした空洞。
家の三軒四軒は楽に入れそうな港の倉庫内は、もぬけの空であった。
武器を帯刀したまま、テイラーが踏み込んで辺りを警戒する。
やはり、何者の気配も感じない。
踵を返して出ようとした彼を、エウトティアが押しとどめる。
「マニトゥが何の考えもなく、留まりはせぬ。そうであろう?」
巨狼が同意するように、ひと声吠える。
よし、とエウトティアが頷いた。
「ならばマニトゥ! お主の本気の力を見せてやれ! わしとテイラー殿に、神獣の力をみせてやってはくれまいか!」
マニトゥは、その声を受けて更に吠える。
倉庫全体に響き渡るように。
神獣の聖なる咆哮が、振動によって邪気をはじき飛ばす。
そして二人は見た。
港倉庫の真実の姿を。
倉庫内は赤く染まっていた。
夕陽に照らされているのではなく。人の血に染まって。
壁や床に塗料のようにぶちまけられたかのような血の跡はすでに黒ずみ乾き、その中に数々の品が無造作に転がっていた。
テイラーは、それらに見覚えがあった。
調書の資料で一覧した、被害者の所持品であったもの。
それらは無残にも、所持者の血痕がこびりつき、朱を赤黒く覆っていたのだ。
「酷いものだな……」
横目でエウトティアを見るテイラー。
少女をこんな凄惨な場所へと赴かせるとは。
舌打ちする彼に、気にするなと彼女は答える。
ずっと年下ながらも、エウトティアはれっきとした猟兵なのだ。
様相を変えた港倉庫。
どうやらここが敵のアジトで間違いなさそうだ。
「不覚、このような場所を見落とすとはな」
怒りを露わにするテイラー。
その両腕に力がこもる。
「……そして貴様らのような輩を、見逃していたとはな」
死角から彼を狙おうとしていた不届き者に、膂力のこもった一撃をもってテイラーは迎えたのだった。
ボロボロの衣服を身に纏い、人外の様相を浮かべる人型の化け物。
なんとも形容しがたい姿、しいていうなら――。
「異人か」
両断した魔物の先に、同じような化け物共が姿を現す。
一変した倉庫に異形の魔物。
逢魔が時とはよく言った。
「どうやら此奴ら、失せ物に長けておるそうじゃぞ」
エウトティアが肩に風の精霊を乗せて矢をつがえる。
この魔物たちは、人々の目から真実を隠していたのであった。
たぐいまれなる術がなければ、常人ではそのまやかしを打ち破ることは出来なかったであろう。
「なるほどな。足取りを掴まれないように細工をしたのも此奴らか」
攻撃をしのぎながら、テイラーは周囲を確かめる。
辺りに椿の姿はない。
どうやらコイツラは、影朧がいない間の見張り役なのであろう。
すると敵は、ここ以外のどこかにいる。
「ナトゥア殿、蹴散らして仲間と合流するぞ」
「おう、承知した!」
マニトゥと連携しながら敵を防ぎ、エウトティアが頷く。
二人の猟兵は、協力して遭遇した敵を蹴散らすのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鶴澤・白雪
赤いものに対して思い入れがあるのは
噂の影朧もあの作家さんも同じなのね
あたしはもう一度雨口 野情に接触してから影朧を探しに行こうかしら
昼間の恰好のまま再び彼の前へ
自分が猟兵だという事は秘密にして
こんばんは、奇遇ですね
日が暮れますし、そろそろ帰ろうと思っておりました
また会えるなんて幸運だわ
赤い靴と瞳、被害者とあたしは同世代
貴方は止めるかしら?それとも……
無関心に送り出されなかったら
事件について何か知っているのかと問いかけてみるわ
必要ならそこで猟兵だと明かす
真実がどうであれ猟兵として何か出来るなら手は貸すわ
あたしにも妹がいたことは本当だから
あの子が好きだった歌を良い歌だって言ってくれて嬉しかったから
帰宅中の雨口の前に、女学生がまた独り。
鶴澤・白雪は、彼に会釈をして微笑んだ。
「こんばんは、奇遇ですね」
斜陽が彼女を赤く染め上げていた。
立ち止まる鶴澤を、雨口はじっと見つめていた。
影朧と雨口には、何か繋がりがある。
それを聞き出そうと、彼女はもう一度彼に会いに来たのだ。
「日が暮れますし、そろそろ帰ろうと思っておりました。また会えるなんて幸運だわ、そちらもお帰りですか?」
「……ええ」
彼は言葉を発さない。目は赤い瞳と赤い靴に注がれていた。
やはり彼は、赤い物を気にしている。
彼は何かを知っているのだ。
それではこれで、と失礼しようとする鶴澤。
その背に、雨口の声がかかる。
「待ってください」
「……なにか?」
振り返る鶴澤。
「いえ、最近は物騒ですし、貴女の家まで一緒に行きますよ」
「まあ、それは嬉しいですね」
くすりと鶴澤が笑う。
「それは物騒だからかしら。それとも、犯人について心当たりがあるからなのかしら?」
凜とした声。口をつぐむ雨口。
先ほどと今の態度で、鶴澤は彼を何となく察した。
彼は善人なのだ。良くも悪くも。
だからこそ家族の情と、人の情に絡み取られている。
どちらも突き放すことが出来ないのだ。
影朧は人の過去を映す。それは形を変えて人を悩ます。
彼もまた然り。
妹が罪を犯しているなどと、常人がどうやって対処すればいいのだろうか。
彼の重荷を解いてあげよう。それが猟兵の役割。
鶴澤は、雨口に正体を明かすことにしたのだった。
「お互い、隠し事は無しにしませんか」
静かに語りかけ、猟兵ということを教える鶴澤。
詐称したことを詫び、そして事実を隠している雨口に対し、打ち明けてくれることをのぞむのだ。
「真実がどうであれ猟兵として何か出来るなら手は貸すわ。歌を好きと言ってくれましたしね」
「……歌、ですか?」
「ええ、あたしにも妹がいたことは本当だから。あの子が好きだった歌を良い歌だって言ってくれて嬉しかったから。だからこそ、悲しい歌を作ったあなたが気にかかるのよ」
そういって鶴澤は微笑んだ。彼が口を開くその時まで。
長い長い沈黙。
そして、ようやく口を開いた時、彼は一つの身の上話を語ったのであった。
雨口 野情と椿は仲の良い兄妹であった。
野情は良い兄であろうとし、椿もまたそんな自分を慕ってくれていた。
椿は赤が好きだった。
きっかけは幼い頃、自分の名前の由来を親に尋ねた、そんな他愛の無い出来事。
それから妹は赤い椿と、赤い色を好んで身につけるようになったのだ。
椿が15になり卒業しようとしていた頃、野情にとって忘れられない出来事が起こった。
中等を卒業して高等へと進む椿に、野情はひとつの贈り物をした。
ちょっと小洒落な赤い靴。
少女から大人へと階段を登る妹のために、兄が奮発して購入した物だ。
椿は非常に喜び、履き心地を試してくるとはしゃいで出て行き、そして――帰ってこなかった。
両親と自分は非常に哀しんだ。
打ちひしがれる野情は気が狂いそうになりそうであった。
何も手がつかない彼は、ひとつの歌を綴った。
行方知れずの妹が、生きて、遠くで元気にやっている歌を。
心情を吐露するかのような作詞は、皮肉にも大衆の心を掴んだ。
ヒット曲となり、人々がくちずさみ帝都を彩る頃、そして彼女はやってきたのだ。
ここまで話し、うなだれてため息をつく雨口。
鶴澤は語らない。彼の話を黙って聞いている。
「それはそれは喜びましたよ。しかしやがてそれは……私を苦しめるようになりました」
椿は帰ってきた。
両親と野情は歳を取っても、以前変わらず昔のままの姿で。
自分たちは非常に喜んだ。
不可思議の差異を気にせずに、いやあえて目をむけようとはしなかったのかもしれない。
ある日のこと、椿は帰ってきて昔と変わらない笑顔で兄に問いかけたのだ。
私、綺麗と。
返り血を浴びた椿は赤く染まり、その手には誰かから奪った品が身につけられていた。
「私、綺麗にならないと。他の人は私なんかよりずっとずっと大人だし、頑張らないとね」
これは夢か現か。
帰ってきた妹は幻だったのか。
椿は人を殺め、我が身と遺骸を赤く染めあげ、妖人を使役する化け物となって帰ってきた。
自分と同じ年代の女性に激しく嫉妬する、赤い赤い影朧となって。
「もしかして私が歌を作ったからでしょうか。私が帰ってこいと望んだせいで、妹はああなってしまったのでしょうか。私は……私の小説を喜んで読む妹が、悪人だとは思いたくないのです」
打ちひしがれ嗚咽する雨口。
「妹さんが喜ぶから、続きを書こうとしたのね」
なるほど、編集に女性がつけば同年代の心に響くものは作れるかもしれない。
彼が小説を書く原動力。
それは、現実に起こっている悲劇から目を逸らすための自己防衛だったのかもしれない。
家族。
それは鶴澤にとっても、思い出しては複雑な感情が渦巻いてくる。
「雨口さん、貴方の妹は人殺しではありません。アレはただの幻影。実体を伴った悪夢です。あなたは、十二分に苦しみました」
踵を返し、鶴澤は去ろうとする。
自分も親に反発した不良娘だ。慰めるのは柄ではない。
今の自分にできること。
それは猟兵として、影朧を討つことであろう。
彼に背を向け顔をあげる鶴澤の顔は、たおやかな女学生ではなかった。
悪鬼を滅ぼす銃士の顔であったのだった。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『卒面ノ怨念『椿姫』』
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POW : 紅眼ノ煌
【紅色に輝く瞳で見定めること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【超高速で放たれる紅光線】で攻撃する。
SPD : 貴女ノ顔ヲ欲スル
自身が【女性として劣等感】を感じると、レベル×1体の【死んだユーベルコヲド使い】が召喚される。死んだユーベルコヲド使いは女性として劣等感を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : 血粧ツバキ
自身の装備武器を無数の【血液で出来た椿】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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赤は好きだ。
それが鮮やかであればあるほど、その名を冠した自分もなんだか綺麗になったような気がする。
兄と家族は、自分の姿を見て喜んでくれた。
何故自分が外にいたのか。
何故自分と家族の歳が違うのか。
考えてもわからないし、記憶は曖昧だ。
ただ、漠然とした感覚だけが残る。
兄は自分のために歌や小説を作ってくれた。
自分もそれに相応しい妹にならなければ。
それにはもっと、綺麗にならないと。
朱に染まる度に、昨日の自分より綺麗になった気がする。
その証拠にほら、地に伏す彼女は、朱に染まっても美しくない。
乙女の私に、神様がくれた授かり物。
歳を取らない私は、明日は今日よりもっと綺麗。
それにはもっと、もっともっと赤く染まらないと。
綺麗になった私を、兄はどんな目で見てくれるのだろうか。
それを考えると、はしたなくもにやにやと笑みがこぼれて仕方が無い。
今宵もまた、獲物が一人。
さあ、私を彩るお手伝いをしてくださらない?
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
帝都の埠頭から船にのって
異人さんにつれられて行っちゃった
今では綺麗になっちゃって
異人さんのお国にいるんだろう
赤い靴見るたび考える
異人さんに遭うたび考える
全身に返り血を浴び、衣服から乾いた血痕がバラバラと落ちる。
野情はこの姿をどう思ったのか。
血を滴らせ、被害者の血で唇に紅をさす妹をどう思ったのか。
異形を従え、人々を殺める椿をどう思ったのか。
雨口 野情は、妹が生きているようにと想いをこめ歌を綴った。
願いは叶えられ、彼女は帰ってきた。
生前のまま、変わらぬ姿と声で、犠牲者の血で己を染めながら。
雨口 椿は異人となってこの世に再び姿を現してしまった。
現実を直視できぬ弱さを人は持つ。
それを見据え、立ち向かう心の強き者たち。
それを人は、猟兵と呼ぶ。
「ねえ、私綺麗? 綺麗な貴方の、ソレを頂戴」
影朧 卒面ノ怨念『椿姫』が猟兵たちに襲いかかってきた。
※※※
死んだユーベルコヲド使いは「カミカクシ」を使用してきます
これはSPD:スキルマスター。技能名「物を隠す」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する技です
気配や武器などを消え去ったように見せかけることが出来、集団で結託すれば周囲から範囲内の動向を気づかせずにすることも可能です
戦闘では椿や自分たちの身を隠すなどしてサポートします
影朧に対し、「退治」か「説得」を選んでください
どちらに多数が傾くかで結末が変わります。
申し訳ありませんが、プレイングは4/3(金) 8:31~より送信してくださるようお願いします
エミリロット・エカルネージュ
グルを疑ってたけど……ボクを案じていたあの目は『第六感』的にも違うよね
●POW:説得
多分、貴女の今までの凶行……良かれと思ってるんだろうけど、お兄さんを苦しめてるだけだよ
説得の材料の為に『情報収集』しつつ
『早業』でUC発動し攻撃を『第六感』で『見切り』低空『空中戦』で駆け回りつつ『オーラ防御』と『属性攻撃(鏡)』を込めた実体『残像』で回避
その鏡(実体残像)に映る血塗れの姿、貴女を想い詩を作った彼がどう見ていたか
良く思い出してと訴える
如何し様も無いなら【緋色の炎の龍】を拳に込め『グラップル』から『早業』で【島唐辛子餃子のオーラの乱気流】を込めた発剄(武装)をお見舞い
※アドリブ絡み掛け合い大歓迎
テイラー・フィードラ
……討つか転生させるか、それは他の者に任せる。
私は出来る事をする。それだけだ。
奴が何か仕掛けてくる前に口を素早く動かし呪言詠唱。
呼び出すは罪人。くだらん言霊を吐き出してくたばる前に仕事ぐらいはさせよう。
奴が好むかもしれん「赤き」宝石のある凶月之杖を持ったままフォルティに騎乗し肉薄。長剣の刃を指で押し出し、攻撃を仕掛けようとはしよう。
だが、あくまでフリだ。即座に手綱を引き寄せ側方に転身、囮とでもなって奴の行動を誘導する。
攻撃もある程度は鎧が受け止めてくれよう、遅ければフォルティに駆けさせ付かず離れずの距離を保とうか。
其れを以って罪人に攻撃を観察させ、解析し秘術を発動する時間稼ぎとでもしようか。
エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎
兄を喜ばせる為か…その想いには共感できる部分もあるが、最早お主は兄を苦しめる存在に成り果てておる
お主が正気であるならば今の振る舞いは本意ではあるまい、安心せいわしが止めてやろう。
まずはその花びらが邪魔じゃな、信仰する大いなる意思に【祈り】を奉げ【破魔】の力を引き出して【浄化の風】を巻き起こし『血粧ツバキ』を吹き払ってやるわい。
道が拓けたら『血粧ツバキ』を吹き払った【浄化の風】を操り縒り合せ【手製の短弓】につがえて放ち『卒面ノ怨念『椿姫』』の怨念を打ち貫くのじゃ。
過去の残滓とはいえひとかけらの想いは残っておろう。
怨念さえ振り払えれば家族への想いを思い出せるじゃろう?
鶴澤・白雪
本心は説得したいところね
雨口 野情の願いは椿が罪を犯してまで綺麗になることじゃないわ
兄のことが大切ならもうやめて
でも説得に応じないならあたしは引鉄を引くわ
これ以上あなたにお兄さんを悲しませてほしくないから
再び奪う結果になったとしても
それがあたしに出来る事だから
貴方は血の椿を咲かせるのね
だったらあたしは、焔の花を咲かせる
血の椿ごと燃やして咲け、焔華
影朧だったらきっと最後に何も残らない
けど叶うなら最後にもう一度雨口 野情に会いに行きたいわ
手を貸すって言った以上
悲しませることになるだろうけど
どうなったのか末路を話す義務はあると思うから
今度は本当のあたしで
どうか妹が幸せになる話を書いてくれと伝えたいわ
四王天・燦
殺しに興じる人間と異なる価値観の者―異人さん。
葬るべし…否
アタシには虐殺を贖罪する親友がいる。
懐に『鍵』も在る。
野情の想いも知った
縁の結実を見た。
椿を転生させる!
視聴覚・第六感でカミカクシを見切り椿にダッシュ。
慰めの四王稲荷符で静め、ダメージなしのUC読符で行方不明の記憶を覗き皆に伝える。
「未練が暴走しただけだ!」
懐の小説を読む。
―面々を巻き込んで成長する。
「野情は仲間と成長する、ただの少女でいて欲しかったんだ。読め」
小説はあげる、持って逝け。
人に戻れと説得
「転生先でどんな椿になりたい?小説ネタとして伝えておくよ」
輪廻に往く前に問うよ
本は弁償で返却。
「ありがと。この本で人に戻れた娘がいるんだ」
周囲を敵に囲まれても、エミリロット・エカルネージュは引かない。
果敢に望み、影朧と対峙しようとする。
自分に向けられる殺気、その凶気の眼。
彼の兄である雨口の目を思い返し、エミリロットは確信する。
「グルを疑ってたけど……違うよね」
雨口に会った時、彼が見せてくれた表情。
それは今目の前にいる椿が見せたような顔では無く、誰かを気遣う顔。
脳裏にそれを思い返し、エミリロットは椿を見つめ返した。
「貴女の今までの凶行……良かれと思ってるんだろうけど、お兄さんを苦しめてるだけだよ」
こちらを見つめる影朧の凶気が増す。
それに気づいたエミリロットは己の闘気を燃焼させた。
内なる気は足から大腿、腰から腹、そして肩から両掌へと渦のように駆け巡り、頭上にて爆発する。
それは昇龍のように燃え上り、炎鱗はエミリロットに纏わり四肢を緋色に染め上げていった。
これぞ餃牙練空拳・緋龍咆。
龍と同じように、地を蹴って空へと飛ぶ。
エミリロットが先ほどまでいた場所に影朧の熱視線、紅い光線が通り過ぎていく。
「あなた素敵な物を持っているわね。それ、くださらない?」
矢継ぎ早に飛んでくる、影朧の攻撃。
哄笑とともに熱い視線を向けられるが、風のように空を駆けるエミリロットの体術は、捕らえさせることを由とはしない。
「残念だけど、貴女にはやれないかな。これはボクの研鑽の賜物だからね!」
両腕で弧を描く。
目の前に半月の炎が生まれ、影朧の攻撃を防いだ。
エミリロットは受け続け、攻めに転じようとはしない。
それは彼女と、椿と会話をしたいからだ。
神隠し。過去の出来事。
それを慮れば、彼女に拳を向けることは躊躇われた。
「ボクと貴女は、何か他人事じゃない様な気がするよ……出来れば、話を聞いて欲しいかな」
エミリロットの目は純粋だった。
だがそんな彼女に向ける椿の眼は、殺意に満ち赤黒く濁っていたのだった。
空を駆けるエミリロットを影朧は掴めずにいる。
埒が明かないとみた影朧が次なる行動に出た。
両腕をふるい、己の鮮血を辺りへと散らす。
それは赤い椿となって虚空に留まり、エミリロットの行く手を阻む障害物となった。
速き故に急には止まれない。
「くっ!」
ぶつかるのを覚悟したエミリロットであったが、宙を浮かぶ椿は次々と燃えて散っていった。
「間に合ったようじゃの」
声に振り返る、エミリロットと影朧。
そこにいたのは、駆けつけた猟兵達の姿であった。
急を救おうと、テイラー・フィードラが駆ける。
その手に持つのは長剣と長杖。
杖に嵌められた赤い宝石が、ふわりと宙に浮かんで輝いた。
その光景に、影朧の顔がこちらをむいた。
(良し、食いついたか)
どうも今回の敵は赤い物を好むようだった。
奇しくも赤い物を所持している女性が此度の依頼には幾人もいる。
自分が囮を買って出るつもりではあったが、相手が女しか襲わない危惧もあった。
だがこうして自分に矛先を向けてくれることは、仲間に被害が向けられることはないことを示す。
完全にこちらに身体をむけたことを見定め、影朧の視界を覆わんとテイラーはさらに前へと駆ける。
「枷囚われし懐旧の記憶抱くモノよ。未だ消えぬ事なき知を以て打ち消せ」
駆けながらくるくると武器を回すテイラー。
それを見て、影朧が対抗に出る。
一瞬にして椿の花々が発現し、彼の行く手を阻んだ。
だが一手、テイラーの詠唱の方が早かった。
悪魔が現れ、彼の両肩にまたがり哄笑する。
その手には、鉄球を鎖でつけたフレイルが握られていた。
軽快な口調で悪魔はテイラーに語りかけた。
「Hey 大将! 相変わらずシケた面してやがんな!」
迫り来る椿の花。
影朧が生み出しきそれは、ただの花ではないのであろう。
剣を掴む手で愛馬の首を押し方向を転身させ、杖に悪魔の首筋を引っかけ旗印とする。
側面から放出してくる花々が、まるで弾丸のように悪魔へと食い込む。
黒い躯を、それはそれは赤く染め上げるのであった。
「くだらん言霊を吐き出してくたばる前に、まずは己の仕事を全うせよ」
「オイオイ、久方ぶりの挨拶がソレかよ☆彡 眉間の皺が一本増えてるぜぇ☆ミ」
キャハハハハ、と悪魔が嗤う。
自分の負傷を気に止めてはいないようだった。
テイラーは影朧の反応を確かめながら、つかず離れずの距離を置く。
彼もエミリロットと同じく、刃を向ける気はないようであった。
「……討つか転生させるか、それは他の者に任せる。私は出来る事をする。それだけだ」
「じゃあ大将、オレを盾代わりは無しじゃねーのん? キャハハハハ☆」
騎士は仲間ために、まず時間を稼ぐつもりだった。
四王天・燦は目の前の戦闘に加わらずにいた。
燦は影朧を、椿を救う気でいた。
「アタシは、あの娘を救いたいと思っている」
その気持ちを素直に周りに打ち明ける。
「まあ、私も説得はしたいところね」
鶴澤・白雪も頷く。
ここに来る前に兄である野情と会ってきた。
兄妹が再び何処かで出会う。
ハッピーエンドとはかくありたいものだ。
「でも、説得に応じないならあたしは引鉄を引くわ」
石のように冷たく、冷静に撃鉄を鶴澤が引く。
そうはさせないで。
鶴澤の横顔がそう語っていた。
異人どもが次々と現れ、エミリロットとテイラーに襲いかかろうとしている。
ここで結を躊躇うようなことがあれば、仲間の身が危ない。
「お主ら優しいのう」
エウトティア・ナトゥアが弓矢をつがえ言う。
「アレは最早、兄を苦しめる存在に成り果てておる。じゃが彼奴の正気を取り戻そうと考えるならば……」
そこまで言って弓を引き絞った。
「面白い。安心せいわしが止めてやろう」
何事かを呟いて祈りを捧げ、矢を放つ。
矢は風をともなって唸りを上げ、敵陣へと。
祈りを捧げた一矢。
それは精霊の力を帯びた、巫女の浄化を込めた一撃であった。
唸りは風を生み、風は音となって周囲の魔を清めていく。
その証拠に、見よ。
周囲に漂う血椿が、枯れ散っていくではないか。
破魔の矢が邪気を切り裂いて道を拓いた。
浄化の風が、影朧の頬を薙ぐ。
視線が、こちらをむいた。
影朧の紅い眼を、鶴澤の瞳がまっすぐに見据える。
「じゃあ、お先に行かせてもらうわね」
銃剣を片手に、鶴澤が向かっていった。
酷薄な笑みを浮かべ、影朧が問う。
「貴女、綺麗な眼をしてるわね。私、綺麗?」
その問いに、表情を変えず鶴澤は答える。
「雨口 野情の願いは椿が罪を犯してまで綺麗になることじゃないわ。兄のことが大切ならもうやめて。それとひとつ、誰かと比較されるって好きじゃないの」
「嘘つき」
それは、何に対しての言葉であったのか。
影朧が踊るように動く。
ぽたぽた、ポタポタと朱が舞い、それは椿となって鶴澤へと襲いかかった。
銃剣に指をかけ、しかしそれを下ろして鶴澤が呟く。
「……引鉄を引かせないで」
自らに迫る紅き花。
それが触れようとする刹那、焔が花に咲き、燃やし落としていった。
「血の椿ごと燃やして咲け、焔華」
アマリリスの花の形をした焔。
周囲を燃やしつくす、鶴澤のユーベルコヲドである。
椿の替わりに一面のアマリリスが華を咲かせた。
それを見て、影朧が笑う。
「貴女も花を咲かせるの? ああ、なんて素敵。でも私の方がもっと素敵。貴女を朱に染めて、私はもっと綺麗になるの!」
自らを抱きすくめ、影朧が爪をたてる。
傷口からの血化粧は新たなる花々を生み出し、更に覆い尽くさんと鶴澤に襲いかかった。
その花に焔の華がぶつかり、拮抗するのだった。
相手は何人も人を殺めている、それは事実だ。
だがだからこそ、オブリビオンとして滅すのではなく、人として生まれ変わらせるべきではないだろうか。
罪を悔い、そしてなお生きる友人の姿が、燦の目に浮かんだ。
「人ってのは過ちを犯す。だから罪を償う機会を与えてやってもいいんじゃないかな」
何を今更と、自分の甘い考えを他人は笑うかもしれない。
だがここにいる皆は、椿に一太刀を浴びせず受けに徹している。
態度の差はあれど、彼女を救う気でいる。
それが燦には嬉しかった。
過去は変えられない。
だからこそ、未来を変えてみせる。
「未練が暴走しただけだ!」
燦もまた、影朧に肉薄しようと飛び出していった。
近づこうとする彼女の前に異形が突如として姿を現す。
いや、居たのに感知出来なかったというべきか。
痛みが腹部に走るのを感じ、見れば投げられた小刀が刺さっていた。
異形の者共は、椿が影朧となった過去に関係するのであろうか。
「関係ないね!」
その眼はまっすぐ、椿を見据えていた。
彼女を救う。
燦は無造作に刀を抜き投げ返し、走る。
走る。奔る。
フラッシュバックのように眼前に出現する異形たち。
四方より迫る異国の刀。
数々の修羅場をくぐってきた猟兵の勘。
それが攻撃を避ける燦の助けとなった。
しかし多勢に無勢。
自らをやがて朱に染める燦。
それでも勢いを止めようとせず、椿のもとへと向かおうとする。
雲霞の如く、影朧の元へとむかう彼女を阻止しようと、異人たちが次々と現れる。
カーテンがあがるように姿を分かつと、生み出された死角から、赤い椿が瞬時にして現れた。
防ぎようのない赤壁。
それは味方の一撃によって脆くも崩れ去った。
「よう別嬪さん☆ 危なかったぜキャハハハハ☆彡」
テイラーの馬に跨がった悪魔が持つフレイルに、赤い花びらがはらりと落ちた。
異人が身を隠そうとする前に、長剣が深々とかの身を抉り、横へと裂く。
「随分と時間がかかる。所詮悪魔だな」
「そりゃ大将の無様な姿が見たいからな☆ミ でも仕事はするぜい☆彡」
不快につんざく、悪魔の哄笑。
回旋したフレイルが金属鎖の響きをあげる。
テイラーと燦の周辺へと降り注ぐ、赤い花々が散っていく。
この機を逃さずと、燦が再び駆ける。
行かせては置けぬと振るわれる、敵の刃。
それはテイラーの厚い鎧によって阻まれた。
お返しとばかりに剣を振り上げ、異人が受け止めようとした。
だがそれは対照的に、両断された屍骸がひとつ出来上がる結果となるだけであった。
影朧の目前へと迫る燦。
その姿を見て、影朧の眼が妖しく輝く。
相手を射貫く、紅い熱視線。
いと速き光線は、避ける暇も与えず燦を貫いた。
――はずであった。
バラバラになった燦の姿から、火の粉を巻き付かせた燦が突撃してくる。
影朧の眼が驚愕に開く。
それを見てエミリロットは安堵した。
自分と同じく、彼女を説得しようと試みる燦を助けようと、陽炎によって幻像を生み出し、必殺の一撃をずらしたのであった。
生まれた隙を逃さず、エミリロットは影朧を押さえ込む。
こんなときのために鍛え上げたこの身体。
赤き龍が、影朧の身を捕縛した。
「ありがとうっ!」
懐から符を取り出し、燦は影朧の額へと貼り付けた。
そして影朧の記憶の断片が、おぼろげながらも燦の身へと流れていく。
走馬灯のように、記憶は巡る。
影朧は歪な過去から生まれた存在だ。
すなわち、覗く過去も歪なものとなる。
喜び、不安、恐怖。
様々な感情と断片が、脳髄を揺さぶり叩く。
妹、椿は暗い底に溺れていた。
ここが何処かも分からず、彷徨い歩く。
疲れ果て途方に暮れる椿の耳に、声が聞こえる。
それは良く聞いた声。
聞き忘れることの無い声。
妹に語りかける、兄の歌であったのだ。
赤い靴はいてたおんなのこ
異人さんにつれられて行っちゃった
帝都の埠頭から船にのって
異人さんにつれられて行っちゃった
妹を想う兄の声。
それは疲れ切った椿の身に染み入り、血潮となって身体を温める。
兄の声を聞こうと椿は歩く。
いつしか一筋の光明が差していて、それに従って椿は歩いていた。
今では綺麗になっちゃって
異人さんのお国にいるんだろう
赤い靴見るたび考える
異人さんに遭うたび考える
声は大きくなり、光も明るくなる。
感覚も段々取り戻せたようだ。
見れば懐かしい我が家の風景。
嗚呼。嗚呼。
自分は帰ってきたのだ。帰って来れたのだ。
戸口に手をかけて、椿は兄の名を呼ぶ。
激痛に椿の意識は覚醒する。
見れば周りには赤い炎。見知らぬ人達。
肩口には突き刺さった矢。
短弓を下ろし、エウトティアは小さく微笑んだ。
浄化をこめた一矢。それは影朧の怨念を払拭することに成功したようだった。
椿の眼は赤黒く濁ってはおらず、自分のように澄んで晴れている。
「過去の残滓とはいえひとかけらの想いは残っておろう」
それを思い出すことが出来れば、椿も成仏出来るはず。
許せぬ所業ではあるが、今の振る舞いは本意ではあるまい。
椿を囲む仲間達。説得は彼女たちに任せよう。
そう眺めるエウトティアであったが、それに襲いかかろうとする異人達の姿が見える。
「やれやれ、無粋な連中は何処にいっても変わらぬな」
巨狼のたてがみを撫であげ、またがり武器を構える。
「最後の仕上げじゃマニトゥ。兄妹の絆、それを解さぬ無粋な輩には退場を願うとするかのう?」
唸りをあげるマニトゥ。
再び闇が椿の心を捕らえることの無きようにと、周りの連中を退治しに。
露払いとばかりに、巫女と神獣は駆ける。
炎に巻かれる椿。
その目が見るのは陽炎に映る鏡像。
血に染まった自分の姿。
身体を掴んでいるエミリロットは囁く。
「良く思い出して」
貴女を想い詩を作った彼がどう見ていたかを。
彼女は思い出す。
自分が帰ってきた時に見せた兄の喜びの顔。
そして凶行を続ける自分に見せた、物憂げな顔を。
「貴女は椿。影朧なんかじゃない、神隠しから帰ってきた、心優しい人間さ。それを、思い出して欲しいかな」
エミリロットの真摯な声。
自分に似通った境遇者を気遣う優しい声に、オブリビオンとして復活していた椿が、人の心を取り戻し始める。
「わたしは……一体? 何……、誰?」
異人達が椿の元へと殺到する。
我らが主を護ろうと。
「無粋ね」
異人達の姿が赤く包まれた。
血化粧で作られた椿の花が赤く燃え続き、その火の粉を背景に異人達が篝火と化して狂奔する。
それは周囲を染めあげ、椿の頬を照らす。
まるで人の温かみを取り戻せたかのように。
「妹に歌をうたってあげたと言ったわね。あれ、嘘じゃないのよ」
銃剣をおさめ、鶴澤は歌う。
彼女の兄の前で披露した、妹が好きだった子守唄を。
希わくは涙ではなく優しい華を
希わくは此の謳を耳に留めて
掛け替えの無い貴き生命に途絶えぬ願いを
「良き歌じゃ」
周囲の敵を掃討したエウトティアとマニトゥが、その美声に酔いしれる。
歌を邪魔せぬように動作に気を配りながら、弓矢をつがえた。
屠るためでは無い。
邪気を祓い、清浄なる気を呼び戻さんために。
三度放たれた矢は、カミカクシの結界を打ち破り、幻朧桜の花吹雪を辺りに散らす。
頭上から降り注ぐ花びらを、椿は見上げていた。
黒い瞳に、淡い桜の花片がちらほらと映る。
ああそうだ。そうだった。
自分は卒業しようと、その前に散歩しようと思っていたのだ。
茫洋としていた記憶の溝が埋まるたびに、意識がはっきりとしてくる。
「こんなのじゃ、兄さんに申し訳ないわ」
「笑わないさ」
そっと、椿に本を渡す燦。
それは小説。
兄、野情が書いた妹を主人公に綴った小説。
「野情は仲間と成長する、ただの少女でいて欲しかったんだ。読め」
あらすじをざっくりと説明し、本を押しつける。
椿はそれを胸に秘め、両腕でそれを抱え込んだ。
抵抗する素振りがないと分かったのか、エミリロットは解放した。
「ごめんなさい。私、謝っても取り返しのつかないことをしてしまった……」
凶気は晴れ、その目は哀しみに満ちていた。
人の心を取り戻した分、己が何をしてきたのか、その凶状に気づいたのであろう。
燃えさかる炎の中で、椿は身動きしない。
祈るように膝をつき、本を抱えたままだ。
「転生先でどんな椿になりたい? 小説ネタとして伝えておくよ」
燦の声に、椿は被りを振る。
「許されないわ、そんなこと」
そう言い残し、地へと崩れ落ちた。
地に着く前に椿の身体は火の粉となって舞い上がり、風が桜と共に巻き上げて、何処へと散っていく。
「仕事は終わりだ。戻れ」
「はっ、呼んだと思えば今度は帰れと来たもんだ☆彡 大将はろくな死に方ぁしないぜ☆ミ」
テイラーが剣を納め、悪魔に命じた。
そして哄笑と共に、悪魔も去る。
「だろうな」
居なくなってから、テイラーもまた夜空を見上げていた。
夕陽はとうに沈み、すでに月は高く上がっている。
そしてちらほらと、人の気配と喧噪が聞こえてきた。
帝都を騒がしていた胡乱な気配はもう、何処にも感じない。
平和になった帝都を、月と桜が静かに見つめ、桜舞う夜空を猟兵達はしばし見上げていた。
●それから~
事件が終わり、日中のサクラミラージュ。
「ふむ、これは中々美味であるのう」
来たときとは別のカフェーで、エウトティアは再びサアビスチケットの威光を味わっていた。
後味の悪い事件のあとは、たらふく食べるに限る。
「どうしたのじゃエミリロット殿、そのケヱキはお気に召さなかったかの?」
「うん……」
事件は解決したのだが、エミリロットの顔は浮かない。
気が晴れればと、メニュゥの上から下まで満貫全席のように並べてみたのであったが、彼女の色は晴れないようだった。
キミは悪くないよ、とエミリロットがカップに口をつける。
「あの子、どうなったのかなって思ってさ」
「影……椿殿のことじゃろうか?」
「うん」
間近で見た椿の顔は満足げであった。
彼女は成仏できたのであろうか。
転生出来たのであろうか。
それがエミリロットには気になっていたのである。
一口でケヱキを放り、もぐもぐと嚥下してエウトティアはこたえる。
「わしらは桜の精ではないからのう。それは桜のみぞ知るという奴じゃな」
エウトティアが放った浄化の祈願は、影朧に染みついた妄執を打ち砕いたはずだ。
むくわれれば転生の縁があることは違いないであろう。
だよね、とエミリロットは呟く。
転生出来たかどうかは自分たちには判断出来ないことだ。
骸の海へと送り返してはいない。
いつかこの世界に、再び巡ることを想うだけであろう。
「転生しちゃったら記憶がないんだよね。それもまた、なんか嫌だな」
神隠し。
この世から人が消えてしまう不可思議。
自分は戻って来られた。
しかし彼女は、過ってしまった。
同じ事象でありながら、結果は違う。
どうも椿という存在に、エミリロットは他人じゃない感情を覚えてしまうのだ。
また、記憶が無くなってしまう。
その事を想うと、胸がチクリと痛む。
故郷の事、家族の事。
それらを全て忘れてしまうのは、それが罪だからなのであろうか。
しんみりとしているエミリロットに、温かい感触が触れる。
見ればエウトティアが使役している獣、たしかマニトゥくんといったはず。
それがエミリロットの傍に寄ってきているのであった。
「辛気くさい顔をしていると、飯がまずくなるとマニトゥが言っておるぞ」
巨狼が吠える。
それが肯定なのか否定なのかはエミリロットにはわからなかったが、自分を励ましてくれているのは確かなようだ。
ごめんね、と謝りエミリロットが食卓の品に手をつけようとして、はたと気づく。
「そうだ、良かったらキミにあげるよ」
「お、なんじゃ?」
サクラミラージュ風・特製桜モツアン餃子。
雨口のために用意してきたが、余分に作りすぎたのを今になって思い出したのだ。
たとえ頼み放題のチケットと言えども、お手製のこれは注文できないであろう。
それを見て、ふむとエウトティアが首を傾げる。
「それもまた美味ではありそうじゃが、店先で食べるは少々無作法である気がするのう」
なにしろたくさん注文した後だ。
それを差し置いて持ち込み品を召し上がるのは、たとえ猟兵と言えども顰蹙を買うというものであろう。
しばし考え、そうじゃとエウトティアは提案する。
「これを食べた後で遠乗りでもするのじゃ」
どこぞへと出かけ、そこで頂く。
そうエウトティアは提案したのだ。
「お主は運がいいぞ。マニトゥの特等席はいつもならわし一人であるからな」
既に予定は決まったものと、エウトティアは食卓の続きを開始する。
エミリロットもそれに誘われるように、皿に手を伸ばした。
二人の顔には、不安の色はない。
揺れる桜の花びらのように、明るく満ちていたのであった。
女学校前。
燦も同じく、女学生姿でそこに立っていた。
「ありがと。この本で人に戻れた娘がいるんだ」
今回の依頼の助けになればと、借りた本を返却しにきたのだ。
本を受け取った女学生は、ん? と首を傾げる。
「なんだか、真新しいような」
女学生の推察は正しい。
借りた本は椿が形見に持って行った。
紛失するつもりはなかったのだが、結果的に無くしてしまったのは事実だ。
だから買い直してきたのだが、やはりばれてしまったらしい。
「ごめん!」
両手を合わせて謝る燦。
そんな彼女を見て女学生が笑う。
「そんなに気にしなくても。悪いと思ったからこうやって新品を持ってきてくれたんでしょ?」
実際そうだが、やはりバツが悪い。
お返しはないかと考える燦であったが、やがて名案を思いつく。
「そうだ、これがあった!」
猟兵に支給夕されているサアビスチケット。
これでカフェーの一杯でも奢れば詫びになるであろう。
奢るよ、と言いかける燦の前に、女学生の黄色い声が飛ぶ。
乙女というのは現金だ。しかしありがたくもある。
いつか、どこかで、転生した椿がこうやって笑える日が来るのだろうか。
「きっと来るさ」
燦には確信がある。何故かと言われても答えようがないが、とにかくそうなのだ。
とりあえず、カフェーに行くついでに顛末を話そうか。
燦と女学生は、商店並木へと消えて行くのであった。
「協力、感謝する」
「こちらこそ、ありがとうございました」
敬礼する官憲をあとにテイラーは署をあとにする。
影朧は撃ち倒した。
連続殺人は途切れ、依頼は解決した。
もう、ここにいる理由もないだろう。
愛馬に跨がり、テイラーは帝都を去ろうとした。
煉瓦作りの街並みを馬上から見下ろすと、そこには人の波。
もう怯える必要もなくなった人々には笑顔が見える。
そこには家族連れの姿もあった。
「家族、か」
あの影朧はこの世に未練を残し、それを辿って家族のもとへと返ってきた。
結果、それが悲劇を生むということを知らずに。
じっと、手を見つめるテイラー。
もし、もし己ならば、どうしたであろうか。
在りし日の故郷へと帰れるとしたら。
亡くなった家族に会えるとしたら。
悪魔と契約すれば、それが叶うとしたら?
アレは、道を誤った己の末路ではないだろうか。
そんな錯覚が、テイラーの身をよぎる。
ぶるるるる。
フォルティがいなないた。
その声に物思いから我を戻し、テイラーは自嘲する。
「ふん、詮無き事よ」
たとえ冥府魔道に墜ちようとも、国を取り戻す。
あの日、誓ったではないか。
それに、と愛馬フォルティのたてがみを撫でる。
自分は一人ではない。ここに家族がいる。
「思えば、お前にも大分迷惑をかけているな」
手綱を引き、道筋を変える。
この世界で使えるサアビスチケット。
フォルティのために使うのも悪くはない。
テイラーは馬用の施設を探しに、帝都の街をまわるのであった。
埠頭。
そこには海を眺める雨口の姿があった。
人の気配に気づき振り返ると、そこには鶴澤の姿があった。
「終わったわ」
鶴澤の言葉に雨口はうつむき、息を吐く。
「そうですか」
その顔には、悲しげな色が浮かぶ。
影朧を討ち滅ぼす猟兵に事を託し、そして戻ってきた。
これがどういう結果なのか、おそらく身に染みているのであろう。
「帝都を騒がす連続犯はもういないわ。この街にも平穏が戻るでしょう」
妹、椿、とは言わずあえてぼかして報告する鶴澤。
あれは、歪んだ過去が見せた幻。人の身にあまる代物なのだ。
だからこそ自分が始末し、それをしらせる義務がある。
雨口に協力を願ったのは自分なのだから。
「……ありがとうございます」
深々と、頭を下げる雨口 野情。
港は湿気が多い。
ポツポツと、足下に水滴が落ちた。
「これからどうするつもりですか」
「私はあなたの方が気になるわね」
頭を上げた雨口の眼がぎょっと開く。
いつの間に奪われていたのか。
鶴澤の手に握られていたのは白い封筒、それは自分が用意したものである。
封筒には達筆で「遺書」と書いてあった。
「前にも話したけれど、あなたは十二分に苦しんだわ。そのうえ命を絶つつもりかしら」
「ですが……!」
人殺しを見過ごした。
その呵責に耐えられないのであろう。
「ありがとう。あなたの妹さんは末期にそう言い残したわ」
じっと、雨口を見つめる鶴澤。
幻朧桜の風に吹かれ、彼女の亡骸は何処へと去っていった。
転生出来るか否か。
それは鶴澤にわかりはしない。
しかし影朧は、その魂と肉体を鎮めた後、桜の精の癒やしを受ければ転生できるはずなのだ。
ありがとう、と椿は言った。
魂が人の器を取り戻したのなら、いつの日か幻朧桜の下に肉体を取り戻せるはず。
「その時にあなたがいないと、生まれ変わった妹さんが可哀想だわ」
それに、と鶴澤が続ける。
「実はあなたにお願いがあってね。ミィハァな頼みなんだけど、それを叶える前に亡くなって貰っては困るわね」
鶴澤の願い。
それは、自分をモデルに小説を書いて欲しいということ。
椿が出てくる小説に、等身大の自分を描いてほしいのだ。
それは自殺を留まらせる方便だったのかもしれない。
しかし先ほど言葉と合わせ、雨口の首を縦に振ることを成功させたのだった。
「……わかりました」
雨口は約束する。
妹の小説を書き続けることを。
そしてその中に、鶴澤を採用することを。
「そう、嬉しいわ」
鶴澤は微笑む。雨口の顔に、希望が浮かびはじめていた。
「じゃあ、いらないわね。これ」
白封筒を失敬し、鶴澤は埠頭をあとにする。
火種がついた封筒は赤く燃え尽き、燃えがらが風に投げ出される。
その風に、帝都を舞う桜吹雪が寄り添うのであった。
大成功
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