●
昼の温かさは残っておらず、ただ、冷たい夜の暗さだけがテラスを包んでいる。
倒された影朧、それが残した怨念の気配に白いドレスが舞う。
「――」
灼光を吹き上げ世界をその獄炎に満たさんと産声を上げる星のような球体を、愛おし気に抱きかかえる女性体のオブリビオンは、静かに悲し気な声を漏らす。
言葉と呼ぶにはあまりに不明瞭な、しかし、宿る意思を確かに感じる声。
「――」
目も開かぬ姿で毒に満ちた世界へと飛び出さんとする卵のような球体を愛おし気に抱きかかえる女性体のオブリビオンは、その瞳に凶気を滾らせて、静かに憎しみの声を漏らす。
「――」
ピシ、ビキ、とひび割れ、砕ける音と炎を発しながらも、しかし、時の進まぬ星のなりそこないを慈しむそれは、夜の静けさの中に降り立った。
泥濘にも似た黒がその周囲に沸き出でては、やがて人の姿を形作る。滑るようにそれらは、四方へと散っていく。
目指すは、人。
望むのは、人。
それだけであった。
●
「豪華観光列車の中で事件が起きるようだ」
ルーダスは、
「昨日、影朧の襲撃を受けた列車だが、その気配に惹かれたか、それとも偶然か」
ともかく。襲撃があるのは確実だ。
ならば、列車を止めるか、乗客をみな途中の駅で下ろせば、とも考えはしたが。
「できない、いや、するべきではないだろうね」
ルーダスは首を振る。
「最悪、このオブリビオンが乗客を狙って、更に被害を広げていく可能性も十分に考えられるからね」
狙われるのが、この列車、列車の乗客、もしくは、猟兵。それであるならば、これを迎え撃つ事が安全策である、と判断したのだ。
「乗員の協力もある。この襲撃を超弩級戦力である猟兵が迎撃しきれば、乗客は予定通り帝都に辿り着くことが出来る、とね」
重い信頼か。浅慮な無謀か。
だが、任されたのなら応えても良いだろう。
予知で知れるのは、夜の惨劇、それだけ。あくる日の午前には、帝都へ着くはずだった、彼らの死の未来だけだ。
迎え撃つのは、観覧車両の端、その両側の客車と食堂車を防衛ラインとする。
乗客には、そこより前方、または後方に避難してもらう手筈だという。
「我々が一匹たりとも逃さねば、彼らに危険はない」
安心してほしい、と言う。それは猟兵達ならばやってのけるという信頼に満ちていた。
「とはいえ、彼らも昨日の今日、襲撃で不安だろう」
時刻までに余裕がある。
それまで、ただ手をこまねくわけにもいかない。だが、襲撃の無い間に対抗策が行えるわけでもない。
「だから、まあ、これはお願いのようなものなんだけれどね」
彼らが、それまでの時間を安心して過ごせるよう、励ましてほしい、という。
「あまり場所の取らないパフォーマンスでも、武勇伝を語るでもいい」
老若男女、様々な人がいる。彼らを元気づけてほしいと。
詰まる所、ルーダスが言いたいのは。
「希望の星、光になってきてくれたまえ」
という事だった。
オーガ
●
ロマンな話です。
シナリオ「濡れた轍に春蒔いて」の後の設定ですが、事件は単体完結なので、気に合いなくていいです。参加に制限などはありません。
各章毎に断章を挟みます。
第一章 乗客を励まして、安心して夜の避難時刻まで過ごさせる。
第二章 集団戦
第三章 ボス戦
という流れです。
客車は、寝台付きの個室。丸机と椅子が一揃え。ルームサービスとしてアルコールやソフトドリンク、スナックのメニューがあり、広めの窓からは景色を眺めることができる造りだ。
食堂車は、ランチ、ディナーを除けば簡単な軽食を利用できるカフェになっており、簡単な売店も備えられている。
観覧車両はテラスになっており、風避けで緩和された風を感じながら、風光を楽しむことができる。
貨物車は、ついでに運輸業として扱う荷物を積めた車両で、機関車両は、その名の通り乗組員の為の車両。簡単な生活スペースや制御装置がある車両です。
それではよろしくお願いします。
第1章 日常
『大喝采を得よ!』
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POW : 鍛え抜かれた肉体によるパフォーマンスで観衆を湧き立たせる
SPD : 磨き上げた技術によるパフォーマンスで観衆を驚かせる。
WIZ : 芸術的な感性によるパフォーマンスで観衆を魅了する。
👑11
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●
空は晴れている。
昨夜の雨を纏った平原の自然が、陽光に煌めいて束の間の平穏を全身で示しているようだった。
夜にはまた、厚い雲がかかる。
吹く風に、嵐の予感を感じさせながら列車は、線路を行く。
人々は様々だ。
超弩級戦力に目を輝かせるものもいれば、不安げに愛する者の手を握るもの。
慣れぬ不安に感情を高ぶらせるものもいれば、使命へと眦を決するものがいる。
しかし、彼らは、一様に不安を抱えている。
それを拭い去るのも、超弩級戦力、というものなのだろう。
●
第一章
色々パフォーマンスしたりして不安を拭う話です。
個性を出してもらえればいい感じになるかと思います。
よろしくお願いします。
●
――二日目、朝。予定外の影朧による襲撃。超弩級戦力により撃退。旅程に変更はなく、しかし、再度の襲撃の為厳警戒を続行。
鈴木・志乃
UC発動第三人格ナナシで続行
参ったね、パフォーマンスか。
こういうのはあの子の方が得意なんだけどな。僕は大層な武勇伝も無いし、歌もダンスも慣れてない。力自慢も無理だ。
……先から子供の表情が目につくな。大人の緊張を敏感に察するから、彼らの動揺が伝わってしまっているんだろう。あの子が幼かったころを思い出して胸が痛むよ。
志乃のショルダーバッグからアクリル板とシーグラス、適当な飾りを取り出して万華鏡を製作する。罠使いの要領でやれば僕にもこれぐらいは出来るかな。
外側は模様の付いた和紙を張り、中のパーツは高速詠唱で魔法の極小の花火を投入。安全性にも配慮して。
花火自体がパフォかもね
……はい、良かったらどうぞ。
「パフォーマンス……、パフォーマンスか」
依然として鈴木・志乃(ブラック・f12101)の体を借りている人格、ナナシは困ったように、観覧車両に落ち着かない様子で居座る乗客たちを見つめる。
こういうのは、主人格である志乃の方が得意のように思える。ナナシ自身は猟兵としての大層な武勇伝を持っているわけでもないし、歌や踊りを練習したりもしていない。
いや、それ以前に『人に見せる』という行動自体、慣れていないのだ。
ナナシはどちらかと言えば、ずっと『見てきた』側でしかなく――。
「……ああ、うん」
そうして考えて、ナナシはふと考えて、そして観覧車両を後にする。戻るは自分にあてがわれた客室だった。
数分後。
「ふ、わあああー……」
決して大きくは無いが、それでも、子供ならではの感情がまっすぐに伝わってくる声が観覧車両に、緩やかに響いていた。
その手に在るのは、十数センチサイズの円筒。子供の手でも十分に軽く持ち運べるようなもの。円筒は、子どもが覗いている覗き穴以外は隙間なく、鮮やかな和紙が巻かれている。
円筒の中の小さな世界。
光の取り入れ口もないその世界を覗いた子供が見るのは、無限に広がる色彩豊かな幻想の世界だ。
志乃の持ち込んだショルダーバッグから使えそうな材料、アクリル板やシーグラス、使わないアクセサリー等を素材にして作った万華鏡。
「ねえねえ! 凄いよ! きらきらがぱちぱちって、お星さまがわらってる!」
少女は、たっと駆けて両親へとその筒を差し出していた。
「あら、ほんと? それじゃあ、私も」
「しかし、それだと何も見えんだろうに?」
光の取り入れ口もないそれは、通常であれば、唯々暗闇ばかりしか見えない円筒だっただろう。
だが。
「……まあ、綺麗ね……」
「でしょー?」
まるで我が事のように、少女が胸を張る。そして、その円筒、万華鏡を覗き込んで、何歳か若返ったような声を出す伴侶の姿に、父親らしき男性はどことなく気を引かれたように視線を彼女へと送っていた。
「……ふ、ふうん。少し私にも貸してみなさい」
「素直に見たいと仰ればよろしいのに。ほらどうぞ」
少し声に皮肉を利かせた奥方に、些か渋い顔をして見せた男性は、しかし興味には逆らえず、それを覗き込んだ。
初めに見えたのは、やはり暗闇であった。だが、僅かに手が震えたその瞬間に。
「……ほお」
パチチ、と。さながら世界が生まれ広がるように、幾重もの光が輝いたのだ。
その中にあるのは、前述したシーグラスやアクセサリーの部品。それに加えて、魔法で極小の花火を詰めている。
それら自体は発光しないが、魔法同士が揺れて触れ合うと、弾け、光を生み出す。その連鎖と光の折り重なりによって、中の星が瞬いて、さながらにミクロな宇宙の様を映し出しているのだ。
「ねえ? 凄いでしょ!」
父親にも胸を張る少女に、少し離れた場所で他にも万華鏡を配りながら、ナナシはほっと息をする。
ナナシは、見られる側ではなく、見る側だ。
だからだろうか。その目には無理をする子供の硬い表情や繕った表情が見て取れていたのだ。
子供は敏感で、そして素直だ。大人の緊張を感じ取ってしまえば、心配させまいと心を偽ってしまう。
「……幼かった頃を思い出す」
ナナシが見てきた、彼女。己よりも他人を慮り、自らを知らず傷つけるような――。
「あ、あの……」と、声を掛けられて思考を止めて、彼は振り返った。
「ああ、……うん、良かったらどうぞ」
微笑む。
ナナシは、彼女の小さな声に導かれたらしい、その小さな手に、瞬く星の光を手渡していた。
大成功
🔵🔵🔵
ジェイクス・ライアー
食堂車にて
「こんにちは御嬢さん」
いや、あるいは少年だろうか
向こうは少し、騒がしいだろうか
穏やかに紳士は笑む
「珈琲はお好きかな」
喧騒離れ向かいの席へ君を誘おう
時間が許すのなら君の話を聞かせてほしい
誰と一緒に、どこへ、何をしに向かうのか
昨夜はよく眠れたかな
他愛もない話をしよう
明日の未来を語ろう
不安の多い旅路を憂うことはない
「――ああ、名乗り遅れたね。」
「私はジェイクス・ライアー。君たちを送り届ける猟兵だ」
●方針
襲撃までの間に車内構造等々見ながら先に備える
その間乗客と穏やかに言葉を交わす
女子どもには意識的に優しい口調に
ただでさえ昨晩の傷が癒えていないだろう
アドリブ歓迎/台詞場面変更OK
よしなに
過行く景色は、幾度か目に焼き付けた光景で。
それでも、こんな心地で帝都へと向かう事は無かった。女性は、一人、テーブルから体を逸らすように窓を見つめる。
「ああ、こんにちはお嬢さん」
そんな彼女に、柔く沈み込む声が掛けられていた。
女性は振り向いた。
「ご合席、頂戴してもいいかな」
そこにいたのは、糊を利かせたような洋装に身を包んだ異国風の男性だった。
女性は、しばし目を瞬かせる。
満面に笑顔を咲くのではなく、夜の燈灯のような暖かに穏やかな笑みを浮かべた彼に、女性は静かに頷いていた。
「ところで、珈琲はお好きかな」
「……ええ」
「そうか、それは良かった」
どこか嬉し気に目を瞑り、彼は頷く。
だが、その腕は呼び鈴を鳴らす素振りすらない。
だというのに、ほんの数秒も女性に確認を取ってから時間を置かずに、二人の前に暖かなコーヒーが運ばれてきていた。
背凭れにもたれるように僅かに背を反らし、こちらを覗う給仕へと小さく合図を送っていたのだ。
合図が在ればコーヒーを、呼び鈴を鳴らせば他の物を。
少し驚いたように、目の前に供された暖かな香りを見つめて、彼女は目の前の整えられた髭を撫でる男性へと、いぶかし気に眼を少し細める。
「ちょっとしたサプライズが好きなものでね、私の趣味に付き合わせてしまってすまない」
そんな事を言う男性の髭を摩る仕草は、どこか照れを隠しているようにも見える。
この一杯は、そのお詫びだ。と手を組みながら言うその男性は、少し呆れたような、肩の力を抜いたような、女性の小さな溜息を聞いていた。
「……なら、ありがたく頂戴するわ」
「そうしてくれると、ありがたい」
計算だ。
警戒される事は分かっていた。
だから。
先に解きやすい警戒を与えて、鍵を緩和する。
それだけではない、二人席の向かい。体を正面切って向かい合うのではなく、長い足を組む為、とばかりに体を椅子ごとずらして女性と斜め向かいになる。
カップを持ち上げるタイミングを出来るだけ女性と合わせる事。彼女が見ている景色へと目を向ける事。
だが、それへの明確な感想や感情を表さない事。
手の組み方、瞬き、咳払い一つとっても、計算だ。
悪意はない。彼女の心が安らぐのなら、騙し誑かす事も活用する。それだけだった。
少しずつ、言葉を重ねていく。
どこへ向かうか。
「帝都の昔の家へ、……忘れ物を取りに」
明日はどうするか。
「晴れたら、花でも見に行きたいわ。珍しくもない花だけど」
誰かを待っているのか。
「逢いに行くの」
そういって、零した笑みは儚げに輝いていた。
「昨夜はよく眠れたかな」
オブリビオンの襲撃があったと聞く。オブリビオンに協力していた乗客以外は無事だったとは聞くが、すぐ傍で戦闘があれば落ち着いて休めはしないだろう。
「……いいえ、あまり」
どことなくつかれた声色は、真に満ちて眠気を湛えていて、それ故に僅かな違和感を放っていた。
果たしてその不眠は、昨日だけかと。
高い襟のドレスは、彼女に似合うデザインと言うよりも、首元を隠すような服を着ている、という方がしっくりとくるものだったからか。
それとも、一人の旅で机を挟む二人席に座っていた事がそう思わせるのか。
ほぼ、無彩色のドレスにか。
「ならば今夜は、出来る限り手早く肩を付けるよ」
どことなく、彼女がこの場から少し浮いている。そんな気がしていた。
立ち上る煎ったコーヒー豆の香りを尾行に燻らせながら、再び窓の外をどこか焦燥めいた瞳で見つめる女性の横顔を静かに覗う彼の言葉に、女性はもう一度、目の前の男性の姿を見つめる。
「……あなたは……」
「ああ、名乗り遅れたね」
片目を瞑り、笑んで見せる。
「私は、ジェイクス・ライアー。君たちを送り届ける猟兵だ」
ジェイクス・ライアー(驟雨・f00584)は、空になったカップをソーサーへと音も無く重ねた。
大成功
🔵🔵🔵
飛鳥井・藤彦
期待の色、不安な色、苛立ちに焦りの色。
列車の中に仰山色が見えますが、折角の鉄道の旅……もっと明るく楽しい色で花を添えたらええんちゃいます?
しがない絵描きですが、皆さんの為に一筆披露させて貰います。
さぁて、そこの坊ちゃんにお嬢さん。
犬猫鳥に蝶々、何でもええから好きなものを僕に教えておくれやす。
成程成程、ほんならよぉ見とき。
(筆と絵具、画帖を取り出すとさらさらと子どもらの好きなものや心安らぐ綺麗な花々の絵を描き)
おっと、この絵が完成するのはこれからや。
(仕上げに描いた絵にフッと息を吹きかけ『踊ル画精』を発動。描いたものが紙から飛び出し、実体化する)
使用技能:【アート】【パフォーマンス】【コミュ力】
肌に感じるのは、揺らぐ暗い鮮明な色たちだ。
不安。
苛立ち。
焦り。
警戒。
そして期待。
飛鳥井・藤彦(春を描く・f14531)は渦巻く感情の中、消え入りそうな希望の色の弱弱しさに、そやなあ、と今はまだ明るい空の青を見上げる。
春じみて霞みがかる青は、始まりを予感させる色だ。
「……うん、やっぱもうちょい明るい色がええわな」
折角の鉄道の旅。そこに置かれる色彩はもっと明るく楽しい色であった方がいい。
自分に何ができるのか。とは考えない。出来る事は自分が出来る事なのだから。
出来る事を出来る様にする。
だから彼が迷いなく用意するのは手に馴染んだ筆、絵具に、そして空の画帖。
「さぁて、そこの坊ちゃん」
と観覧車両の端の方で、落ち込んだ顔をしている少年へと彼は歩み寄って、しゃがみこむ。
傍に仕える女性は、そんな彼をしかし、咎める事はない。
「何か、好きなものあるかいな?」
「……え?」
「犬猫鳥に蝶々、何でも言ってもろてええんやけどね」
画帖を広げ、筆を指に挟む男性に、少年はたじろいでいる。
「えっと……」
と、藤彦の意図することが分からないのだろう。戸惑いの表情を浮かべている。
ただ、彼は説明することもなく、微笑んで少年に目線を合わせているばかり。気分を変える為には、驚きと言う起爆剤が必要なのだ。
ここでその答えによって起きる事を先に述べてしまっては台無しになる。
「そうですね、私は勿忘草ですね。小さな花びらが青に燃えて瞬くように咲くさまが可憐で」
と、そう答えたのは、少年ではなく、傍に控えていたメイドらしき女性であった。
本来、従者が話に割り込む事は不躾なものだが、しかし、従者からの助け舟の合図を読み取るにも、助け舟を求めるにもまだ若い彼に配慮したのだろう。
それと、藤彦が『この場において一体何なのか』を理解している声色でもあった。
「そうかそうか、じゃあ――
「これは、……」
そうして、彼女の手の中に収められたのは、青い花と緑の葉が瑞々しく輝くような小ぶりの花束だった。
描いていたものが現実となって、その香りすらも感じさせる藤彦の御業に、彼女は手の中にある物が信じられないという様子で、しかし、使えるべき相手を慮る事もやはり根付いているようだった。
「お坊ちゃまも、何かございませんか?」
そう問いかけたメイドに、少年は藤彦に食い入るように言葉を発したのだ。
「……っ! ぼ、僕は鷹が、好き……です」
「鷹やね、うんお安い御用」
こくりと頷く少年に、藤彦は手早く、その筆を走らせて。
「上々」
そうして、数秒も待たず、広げた画帖の上には、眠りから覚めたように鷹が翼を広げていた。
「そんでこれや」と続けざまに、少年へと差し出したのは猛禽用の手袋だった。受け取り首を傾げた少年の腕に、メイドがそれを装着させると、鷹が雄大に羽ばたいてメイドが支えるその少年の拳へと舞い降りていった。
「……っ」
恐怖と感動、半々の感情に目をまくるする少年が、おっかなびっくりその首を撫でると心地良さげに瞳を細めていた。
「……おっと、忙しなりそうやな」
藤彦は、ふと自らに集まる好奇の視線にそれを予感しながら、再度響いた羽ばたきの音に振り返る。
少年の腕から飛び立った鷹がテラスから飛び出し、空に舞いあがる。腹の白い羽を空の色に滲ませるその影を見上げる少年の顔を心地良く思いながら、藤彦は気合を入れなおした。
さあ、次は何を描こか? と問えば、きっと様々な要望が押し寄せるのだろうから。
大成功
🔵🔵🔵
イージー・ブロークンハート
豪華観光列車に乗ってみたかったから飛びついたけど…芸のことを…失念…してました…ッ!
余興ならいけるか?…薬売りとか大道芸の真似事で…
此方は古今東西探しても滅多お目にかからぬ一振り…硝子の剣でござい。斯様な見目とて剣、よっ、切れ味は保証済み。しかし皆々様お気になりやしょう。硝子?壊れちまうんじゃねえのかい?
音出るぜ、失敬。
ご明察。簡単にガチャン。粉々だ。
いざご覧あれ。此れなるは幾度如何様砕けど蘇る不滅の剣。敵前にてすぐ傷心する当方に、砕けて尚敵を叩っ斬りつ戻り諦め許さぬおっかな美人。
オレでこれなら他は?もっとすごいぜ。此より先は瞬き厳禁。しからばお後の皆様へ!
(アドリブ・ピンチ・協力他歓迎です)
「さて、困った困った」
彼は、客室の廊下にありながら、しかしどこへ行く訳でもなく、その壁に頭を押し付けていた。
傍目から見れば怪しさ満点である。
「困ったな、これは困った」
革の服を着た、――と言うよりも、その革が人型をしているから人の形と取っているという方がしっくりくるような、首から指先までひとつなぎになった革の服の彼は、いま自分が此処にある事を少し後悔していた。
「豪華観光列車って聞いて、飛びついたはいいが」
何も芸の一つ用意していない。
詰まる所、パフォーマンスどうしよう、という事だった。それを完遂できなければ、ここに猟兵として招かれた意義がなくなってしまう。
彼、イージー・ブロークンハート(硝子剣士・f24563)は悩みの言葉を壁へと反射させて、落ち込んでいる。
「……壁って結構冷たくて気持ちいいな」
いや、意外と落ち込んではいないようだった。
自分の額の温度を壁に移し終わった彼は、若干冷えた頭を離して人のいる車両へと歩いていった。
「さあさ、お集りの皆々様」
そうして、大仰に彼は観覧車両にいた乗客の前で腕を広げていた。
「此方は古今東西探しても滅多お目にかからぬ一振り――」
そうして、彼の腰に佩いていた剣を引き抜いていた。
「硝子の剣でござい」
名の通り、澄んだ刃は無色透明の硝子そのものであった。
軽くなげた鉄塊を瞬く間に二等分にしてしまうその鋭さたるや、正しく名刀名剣の名を冠するもの。
その滑らかで、しかし鋭い刃に乗客は感嘆の息を漏らすが、しかし。
「硝子? そんな代物すぐに壊れちまうんじゃねえのかい? そうだろ?」
そう。
澄んだ美しさに、頑強さは欠片もなく。
そして、それは次なるイージーの行動であっけなく実証されてしまう。
近くのテーブルの縁へと、刃の腹を叩きつけたのだ。
ぱ、きぃん、と甲高い音と共に一つの澄んだ刃が無数の破片へと、舞い散ってしまう。
敵からの攻撃を一つ受けるだけで、それは同じく砕け散ってしまうのだろう。
「こんな簡単に砕けちゃあ」
そう言いながら、二つに割れた鉄塊へと柄だけになったそれを振るっていた。
きゅかッ、と音が跳ねて、更に二つ。四等分にされた鉄塊がイージーの手に落ちていった。
「訳に立たないってもんだ」
のたまいながら、しかし、彼の持つ刃に傷一つ残っていない。
だが、それを見る人々の記憶にあるのは確かに、机の縁に刃が壊れる光景だった。先の一瞬、宙を舞ったきらめきが、台詞の最中にぎゅきゅ、と剣へと舞い戻り刃を作っていたのだ。
「此れなるは幾度如何様砕けど蘇る不滅の剣。敵前にてすぐ傷心する当方に、砕けて尚敵を叩っ斬りつ戻り諦め許さぬおっかな美人」
真直ぐ、横に寝かせた刃は、春の光を浴びて凛とその美貌を惜しまず晒す。
「御覧あれ」
瑕疵一つない姿。イージーは、正しく己の命を預けるそれの様相に、満足げに笑みを浮かべる。
それが、乗客には自信と映っている事の自覚もなく、彼は確かに乗客へと希望を振り撒いていた。
「……うん?」
が、その視線に気付いて、よもや続きを期待されている? と勘繰ってしまった彼はそのまま、注目から逃げるような急き具合でその場を離れていったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
漆島・昂一
希望の星か…求められるもの高ぇな超弩級戦力…やるだけやってみるか
主に小さい子の話し相手をする。大人が不安じゃ、子供はもっと不安だろうからな
旅行の行先、予定…影朧が出なけりゃ当然にあった未来のこと
それをゆっくりと聞き、相槌を打ち、緊張をほぐしていく
狂気耐性…精神錯乱を抑える技術の応用だ
ニミュエと互いに言いくるめのカウンターを交わすことで、図らずも漫才で場を盛り上げていく
手品でも見せたら?超弩級戦力さん
うるせー、それお前の領分
※アドリブ大歓迎
叶わないんじゃ、なんて雰囲気になれば、それは即否定する
この先の景色も、目的地も必ず見れる。その為に来た俺達だ。
心配しなくていい
求められるもの高ぇな……超弩級戦力。
漆島・昂一(/邪神結合外殻システム『ABYSS』・f12856)は、目を伏せる少女の前でしゃがみこみながら、そう思わざるを得なかった。
なにせ、希望の星になれ、などという曖昧極まりなく、複雑な申し出だ。
軍事企業勤めの時は、もう少しまともな指令の元行動していたはずなのだが。
「それから、博物館によって色んなひょうほんを見てね――」
「そうか、それで?」
ともかく、不安をほぐす。
であるならば、大人よりももっと不安がるだろうと踏んだ子供たちへの接触を彼は図っていた。
旅先の予定、これからどうするつもりだったのか。
彼女たちが思い描く、未来の事を考えさせて、意識を変えていく。
何があるのか分からなくて怖い、から、何かをしたいという欲求へと。
「それから、おっきなレストランにいって」
だが、昴一は、その顔から消え去ることなく残る不安の色に、僅かに眉をしかめそうになってどうにかそれを抑え込む。
一瞬でも、そういった兆候を見せれば、途端に不安がぶり返すだろう。
どうしたものか、と考えた昴一の心を読んだかのように、傍から放たれる声があった。
〈手品でもお見せしたら、超弩級戦力さん?〉
「うるせー、そういうのお前の領分だろ、ニミュイ」
妙にかしこまった口調で、笑んだ声を浴びせかけてくる声に冷めた目を返して昂一は言う。
少女は、突如として聞こえた声に、驚いて周囲を見回しつつ、昴一へと目を向けていた。
「手品、できるの?」
「コイツがな」と彼が掴んだのは、腰に提げたカメラ。いやカメラの機能と形を持った何か。と言った方が正しいのか。
ニミュエ、と呼ぶその存在は。
〈訂正〉
と、そんな紹介にいささかの怒りを覚えたのか、少し険をのぞかせた声がそのカメラから響かせていた。
〈手品じゃなくって、私のこれは変異変質に近いから、本当にタネも仕掛けもないものよ〉
「よっぽど手品じゃねえか、見せてやれば?」
〈幼気な子供に集合体恐怖症の種を植え付ける趣味はないの〉
「ああ、そうかよ」
取り出したカードを揺らして見せれば、ニミュエは
「ま、大丈夫だ」
昴一は、少女にそう言ってやる。
この得体のしれない男の言葉一つで、彼の不安が全て払えるなどとは思わないが、それでも、少しでも気がまぎれるなら、それで十分だ。
帝都の大きな駅も、博物館の標本だって見れる。
「その為に来たんだ。だから」
だから、心配しなくていい。
慮る、と言うよりはどこか突き放すような声と共に、彼はそう少女を見つめていた。
大成功
🔵🔵🔵
ニノマエ・アラタ
ハ?
は?(ルーダスの顔を真顔で見て)
……(困った。とても困った顔。)
あー。
凄腕の猟兵として取材を受けるぞ(棒読み)。
記者がいれば丁度良い。
いるー? いるだろー?
豪華列車の取材に来てる奴が。
そうだな?
宣伝しろ噂を流せ、それも良い話を良いように、だ。
どんな敵もバッタバッタと斬り倒す。
ちょうどきゅうりょうへいニノマエアラタとはおれのことだ。
あとこいばなのあいてもぼしゅうちゅう。
そこのおじょうさんにかべどんしちゃうぜ?
(あ、なんか捏造されてるっぽい? と思っても頷いとけ)
要するに、慌てず騒がず、
猟兵にご協力下さいってことが言いたい。
不安以外に眼が向けば。
車窓へ桜を流すとか、さ。
(腕をそっとさすりつつ)
「はぁ……」
溜息をついていた。
終わったと思えば、続けざまに次の事件の予知。いや、あの口ぶりからすれば、オブリビオンを討伐し、解決したからこそ生まれた事件なんだろうが。
それにしても、不安を抑えるために『希望の星』になってこいなどと、軽く言ってくれるものだ。負傷した腕もまだ痛むというのに。
とはいえ、パフォーマンスに関してはほかの猟兵に任せるとして、ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)は、ちょっとした根回しの為に、とある人物を探していた。
「いや、困った、困ったなあ」
と客室の廊下で声を上げて歩く。
「助けてくれれば、凄腕の猟兵として取材を受けるつもりなんだがなあ」
棒読みであった。
「そんな丁度良く記者がいるはずないかあ」
と、立ち止まって虚空へと言葉を投げるアラタの真横で、客室の扉が開いた。
「あからさま過ぎて怖いんですけど、多分私がおびき出されてるんですよねそれ?」
「やはり、お前か」
こちらを探るような気配があったので、ひょっこりと扉から顔を覗かせた女性にアラタは驚きもせず、嘆息した。
昨夜も逢ったその顔である。
「ついに忍び込んだか」
「ここ私の部屋です」
失礼な、と憤慨する彼女は、しかしそのままアラタを部屋に招き入れる。思春期であれば、年若い女性の部屋に招かれるなど、頬の一つや二つ上気させてしかるべきではあるが、このアラタにそんな機微を期待できるはずも無く。
当の女性にしても、気にした様子はない。資料がばら撒かれたベッド脇のテーブルに腰かけた彼女は尋ねる。
「それで、超弩級戦力であるあなたが、私にどんな用ですか?」
どうやら、昨日の騒ぎで感づいていたらしく、彼女は猟兵であることを疑いもしていない様子だった。
敬語になっているのもその影響か。
「喧伝しろ」
短く言い放ったアラタの言葉を、女性は数秒咀嚼する。
「プロパガンダですか?」
「……有体に言えば」
心理誘導、植え付け。と言えば、あまり聞こえは良くないが。
この車両で猟兵達への信頼を高める事が出来れば、即ち不安もいくらか納まる事だろう。
有事では、一つの不安で作戦の全てに乱れが生じる事も少なくない。味方であろうと、心情の操作は重要だ。
彼女は一つ頷いて、紙とペンを取り出しながらそれで、と問うた。
「どんな風にしろと?」
「どんな敵もバッタバッタと斬り倒す」
「ふむ」
「ちょうどきゅうりょうへいニノマエアラタとはおれのことだ」
「……」
「あとこいばなのあいてもぼしゅうちゅう。そこのおじょうさんにかべどんしちゃうぜ? ……なんだ」
適当に言葉を並び立てていると、じり、と目の前の女性が椅子ごと後ずさりするのを、アラタは見とがめていた。
問えば、薄気味悪い物を見るような目が返ってきた。
「……あなたそんなこと言う人ですか?」
「じゃあ、なんかいい感じにしといてくれ」
「……分かりました」
呆れた目でアラタをみながらにも、その手は素早く文章を綴っていく。速記の類か、アラタには虫が這ったようにしか見えないが。
「要するに、慌てず騒がず、猟兵にご協力下さいってことが言いたい」
「ええ、そのように」
女性が何を言えば、どう返すか。という一覧だった。変則的な台本、とでもいうだろうか。アラタの台詞は相槌程度だが。
「演技は期待してませんから」
と台本をアラタに渡しながら、席を立った女性を見送りかけたその時、女性が止まる。
「あなたも行くんですよ、婦女子の部屋に居座ろうとしないでください?」
「……ああ」
とアラタは改めて部屋を見回し、所々の女物の荷物に、些か失礼な納得の声を漏らす。
「……」
メモを暗記しながら、アラタは漸くに立ち上がる。
朴念仁、と彼女の手帳に追加された事に、彼女の速記を読めぬアラタが気付く事はなかった。
大成功
🔵🔵🔵
ダンド・スフィダンテ
乗っている子供たちと、遊ぼうか。
何をする?何でもいいぞ!俺様に登ってみるか?
(子供たちが怪我をしないようにだけ気を付けながら、後は基本ノリ良くされるがままに)
大丈夫だ。貴殿らの、明日は明るい。
俺様が誓おう。心配ないとも。
不安は、恐ろしいよな。
ただもし、自分も戦うという勇敢があるのなら、夜、近くに居る者を励ましてくれ。
家族でも、見知らぬ者でも。
貴殿らの笑顔と信頼は、明るく、強い。
そうとも。俺様には出来ない事だ。
ああ、そうとも。頼りにしているぞ?
ああ、任せておけ。
俺様も猟兵。扉を越させはしない。
信用できない?はっはっはっ!そうだな!
まぁ俺様以外のつよーい猟兵が、どうにかしてくれるさ!安心してくれ!
「うぉっと、はは! これはなかなか元気がいい」
子供を体に上らせ、さながら木登りの木となっているダンド・スフィダンテ(挑む七面鳥・f14230)は溌溂と声を上げていた。
手を泳がせるように、彼らの親があたふたと心配げな声を出すのに、ダンドは軽く笑って返す。
「はっは! 何、問題ないさ、ご安心あれ」
振り返って、ウインクがてらにこう見えても力はある、と余裕たっぷりだ。
実際、細身の体は多くの『おもり』が掛かっているのにも関わらず、ブレの一つない。ただ、彼らの顔色が優れるようなことはなかった。
確かに、心配の六、七割は安全の心配だろうが。しかし。
どちらかと言えば、超弩級戦力である猟兵の体を遊び道具にしている、という不遜が心臓に悪い、というのが三割ほどを占めていたのだ。
当の本人が気にしていない、となれば、それ以上何も言うわけにもいかず、おずおずと彼らは身を引いて見守る事にしたらしい。
「不安は、恐ろしいさ」
誰にともなく、ダンドは言うた。
それは、大人たちへ、いや、子供たちへ。
親が不安そうに声を挟むことを止めた、その事に漸くに不安を感じ始めたらしい子供たちは、ダンドの体を下りていく。
親に見放されたとは思ってはいないだろう。しかし、危ない、と口を酸っぱくする親の静けさは、少しずれたものではあるが彼らの心に不安を確かに湧き抱かせていた。
きっとそれは自分が、親に不安を起こさせているのでは、という不安だ。
「もし、それを戦いたい、という勇敢があるのなら、近くにいる者を励ましてくれ」
そこにいるものが、家族でも、見知らぬものでも。
彼らの笑顔と信頼は、何もにも勝る光だ。
彼らこそが光になってくれるのであればこそ。
「貴殿らの、明日は明るい」
振り仰ぐ子供に視線に、ダンドは手本のように笑って見せる。
「少なくとも、俺様は頼りにしている」
そして、オブリビオンに、影朧に彼らへと続く扉を潜らせはしない。
「俺様とて猟兵。これは絶対だ」
言い放つ声に、しかし、ほんとに? と声が上がる。
まったく、自分の信用の無さには呆れる、とばかりに溜息をついて額を抑えてダンドは、しかし、腹の内に笑みを揺らしている。
ああ、口答えをする程度には余裕が出来たか、と。親も困ったように、再度失礼を気にしている。
気に出来ている。
「うん? 何を言う!」
ダンドは、胸を張って堂々と言い放つ。それはもう、自信満々に。
「俺様が転んで放り出されても、他の猟兵が何とかしてくれるさ!」
安心してくれ、と叫ぶ声に、安心できる要素は無く。
ただ、どこか心が軽くする何かがそこにはあった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『『夜香影』群青』
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POW : 真ニ非ズ
【対象の全身を完全模倣し、適応させた異能 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【独自に再現した対象のユーベルコード】で攻撃する。
SPD : 真ニ有ラズ
【UC『真ニ非ズ』 】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【思考、記憶、経験、対象が対象である要素】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ : 真ニ在ラズ
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【自らの体を作り替え、対象の完全再現模倣体】を作った場合のみ極めて精巧になる。
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|
●
夜。
準備は整った。
まもなく、観覧車両のテラスは、星を抱える女性体の降臨と共に、暗泥に埋まる。
模倣する泥。
ブラックタールじみた怪物。
一体たりとも逃してはならない。
一体たりとも通してはならない。
背後にいるのは、猟兵を信じた人々だ。
●
――二日目、夜。襲撃。旅程に乱れ無し。影朧の対処を猟兵に任せ、警戒を続行。
●
第二章、模倣する影朧との戦闘です。
外面、攻撃を模倣するだけで内面は模倣しません。
雑魚敵なので、複数体を相手にする感じです。
ではよろしくお願いします。
ニノマエ・アラタ
この桜散る限り、猟兵死せず。
信頼に応じるべく、いざ。
……俺を真似ても、まあ、いいこと無いぞ。
動きを模倣するってんなら、この場から動かずの斬り合いにも応じるか。
わかるな?
前へ進みたきゃ俺を倒すしかない。
斬撃を小出しに繰り出し、相手の出方を見る。
相手が踏み込んできた瞬間を狙い、
桜を敵へ向かって一気に吹き付けるように流し、
足止めをしたところで一閃。
首を斬り飛ばす。
それでも止まらなければ胴を。
脚を。
どの部位を攻撃すれば一撃で、または少ない手数で倒せるのか。
こっちだって学習するんだぜ?
花弁舞い散る中で乱闘も喜んで。
距離が詰まればガントレットで突き飛ばし間合いを取る。
……見切れる程度じゃつまらないからな。
人の形を取った泥は、瞬く間に見慣れた男の造形を削りだしていた。
刀の佩き方までをまねるそれに、心底からニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)は嘆息する。
鋭い目つきは、どこか胡乱気に睨むようで、その硬い不気味にも映る無表情に好感情を覚えるのは難しいだろう。
「……俺を真似ても、まあ、いいこと無いぞ」
アラタの戦い方は、後の後を取るものが主だ。相手の出方応じて、臨機応変に対処してから動く。
「ナイ……イイ事、マネ、ても……真似、真似てもナイ」
「聞いちゃいないか」
数秒の睨みあい、痺れを切らしたように飛び込んだ己の姿に、刀を桜花弁へと変えその胴体を切り刻み。
踏み込み、刃へと束ねその首を撥ねた。
まさに早計と言わざるを得ない愚行に、僅かに眉間へと皴を寄せた直後、アラタは圧力にも似た危険信号に、花弁を打ち放っていた。
ボ、バッ! と。轟音が弾ける。
模倣された黒い泥の飛沫と桜の花弁がテラスの中で衝突したのだ。食い合い、喰らいあう黒白。衝突に忽然と円を描くように空いたその刃のトンネルへと、アラタは踏み込んでいた。
ドゥ……ッ!! と身を低く駆け抜けたアラタが握るのは空の腕。ガントレットに包まれた拳だ。
武器を花びらへと返る。故に武器を一時的に喪失する。そんな所まで再現する必要などないだろうに、律義に武器を失ってた群青の手に、泥が再び刀を形作ろうと蠢いて――。
「遅ぇ」
生半可な泥の盾を突き破って、アラタの拳が群青を打ち抜いた。
ガ、パ。と内部の骨格が砕けるような感触を残して、アラタの姿をした群青が打ち出され、直後、その胴体が斬撃によって別たれ、泥へと変わっていく。
「俺は殺す、……殺す」
明瞭な言葉を発するアラタの姿を取る泥。それが無手のアラタへと駆けだし刀を握る、その瞬間。
「――か?」
既に、喉を刃が貫いていた。
「まだ、その程度か」
花弁として放っていた刃の変身を解いて、元の刃へと戻していたのだ。柄を捻じり、首を引き裂く。
血管を千切り、骨を擦る感触。内部まで真似しようとしているのか。人体弱点が悉く通りそうだ。アラタは、崩れ落ちる個体を蹴り退かし、更に三体がかりで斬りかかってくる己の姿をした群青の刃を、連続して受け止める。
「俺を殺したいならば、もっと学習しろ」
再び、変じた無数の花刃が、群青の剣を伝いその体を包み込まんとしたその時、群青は既に柄から手を離していた。
そして、それは拳を握り、アラタの懐へと迫る!
身を穿つ程の鋭さを持つ突きの拳を、更にその下から蹴り上げて軌道をずらして、腕に当てて威力を削ぐ。
だが、それで終わりではなく。
「……ッ」
先ほど同時に攻撃してきた残る二体。片方が放った黒の花弁がアラタを呑み込むように遅い、そしてその帳に隠れた残る一体が、ズッパア! とその刃を振り下ろした。
触れれば忽ちに切り裂かれる熟練の太刀筋。しかし、そこにアラタの体の断面は開かれてはおらず。
群青の首が、ごとりと、車両の床へと転がって解ける。花弁を放った群青は全身を刻まれ倒れ、そして、始めに肉薄した個体の胴体へとアラタの突き出した刀が深々と牙を立てていた。
ぐぐ、と群青の体が落ちる。
「俺は、まだ」
「ああ軽い、まだ軽い」
自重で己の体に刃を滑らせる群青に、アラタはそう言い捨て、己を模した出来損ないに眼光を瞬かせていた。
「俺と殺し合うには、まだ軽い」
ゆらりと、刃が眼光に応える様に揺れた。
大成功
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鈴木・志乃
第三人格ナナシで続行
【高速詠唱】と【早業】【念動力】で戦場にトラップを大量配置。
【破魔】の力を宿した銀の糸の【捕縛】トラップが主だけど、トラバサミやトリモチなんかも用意してるよ。
一瞬、隙が出来てくれれば結構。(【罠使い】)
たとえ彼らが僕を模倣していたとしても、彼らの狙いは僕らの後ろの乗客だ。その場で待ち構えるという選択肢は有り得ない。
おいで。足を踏み入れた瞬間UCを発動する。
念の為【オーラ防御】を展開。
万が一逃がしそうになった場合は【全力魔法】で敵陣まで追い返す。
いい加減平和な旅をさせて欲しいね。
僕らが昼間皆に見せた希望は、一時凌ぎに過ぎないのだから。
……ここで、決めるよ。
荒れ始めた風が、頬に髪をそよがせる。
雨粒はまだないが、いつ大降りの雨となってもおかしくはない、そんな冷えた、重い空気が下りている。
静かに、伏せた青い瞳で鈴木・志乃(ブラック・f12101)の一つの人格として降臨するナナシは、それを睨め上げていた。
自分が不用心に踏み出した一歩の先で、銀の糸湧きあがり、その体を即座に拘束せしめている。
「あまり好きな手ではないんだけれどね」
ナナシは言う。
好かぬ手だろうと。
好く手だろうと。
ナナシが手心を加える事などない。それが己の姿をしていても。
張り巡らせたのは、淡い光を放つ銀糸の罠。破魔の宿るそれは形こそ捕縛のものではあるが、ひとたび捉えれば、魔なるものはその光に焼かれ、逃れることは叶わない。
指先一つ、瞬き一つ、動きなど無く。銀糸の罠にかかったナナシの姿を真似る群青へと、床から、天井から、柱から、伸びた光の鎖が締め上げる。
いや、締め上げる、だけで済みようもない。破魔の輝きを煌々と放つそれが群青の体を万力のように軋ませ、掴み、歪ませ、絞上げ、元が人型だったと辛うじて分かるような、三流ホラーの造形じみた形にまで壊す。
解けて、そして床に泥溜まりを作っていく。
既に、何体そうして屠っただろうか。
「これだけの仕事なら、楽なんだけど」
願いに反して、やはり、罠の配置の癖や構造的弱点を覚える個体は出てくるものだ。
「そんな都合のいい事はないよね……ッ」
その時、ナナシの視界に飛び込んできたのは、無数の黒い糸の線だった。
細いレーザー光が横ばいに走るような。その黒色を避ける間がないと判断したナナシは、全身に破魔を滾らせるようにオーラを纏う。
まるで、風に裂かれた蜘蛛糸のように千切れたそれらは、直後、その形を変え繋がりあい。
「……っ」
黒ずむ鎖へと変じ、オーラに掻き消えることなく、ナナシの体へと巻き付いていた。これがナナシの術を模倣するのだとしたら、このまま、鎖が増えていけば、身動きどころか己の命すら危うい。
ギリギリ、と締め上げる鎖に身動きを封じられたナナシへと、罠を抜けた群青が駆けた。足止め、そして、突貫。続けざまに放たれる糸と鎖に、足止めは一体や二体ではないのだろう。
いつの間にか学習している。後ろに一体でも抜けてしまえば、そこからは混乱と恐慌の地獄が待っていると。
故に。その群青はナナシへと攻撃を加える素振りも無く、扉へと向かう。
「……それで、通すと?」
だが、ナナシの反応は、淡白なものだった。
群青が目前へと来たその瞬間。
ぱちん、と。
冷静なままに、指先だけを動かし、弾指する。それだけで、銀色の光が小規模の爆発を起こした。
衝撃。
ゴパ、ッ! と噴き出した破魔の爆風が、ナナシの体を縛りつけた鎖を砕き焼いて、傍を通り過ぎようとした群青ごとに吹き飛ばしていた。
それは、万華鏡の中に詰めた魔法の威力を強化し、破魔に集中させたもの。
猛烈な勢いの中で、罠を幾つも巻き込んだ群青は、全身を銀鎖の光に焼かれ動きを止めている。
自らの術で耐性があるとはいえ、間近で魔法の爆弾を破裂させてナナシ自身にもダメージが無い訳はない。
だが、それをナナシは一切厭わなかった。
「僕の後ろは通さない」
ナナシが、猟兵達が作り出した彼らの笑顔を失うことなど、許せはしない。
それは絶対だった。
所詮、万華鏡の景色は、ナナシのみせた幻想でしかない。込めた魔法が全て弾けてしまえは、ただ暗い闇が広がるばかりだ。
一時しのぎ。気を紛らわせただけ。
だとしても、あの笑顔を一時の物にしない為に。
「……ここで、決めるよ」
それが、己の姿をとっていたとして、もしそれが己自身だったとしても。
あの顔を綻ばせられるのであれば。
銀の光が、悪夢を鎖す。
大成功
🔵🔵🔵
漆島・昂一
アドリブ歓迎
「―纏神」
腹に巻き付けた相棒へと始動のレンズキーを上から挿し込み、シャドウフレームを装着
夜の電車で、騒いでんじゃねぇぞ…!!
UC・戦闘知識で敵の攻撃を躱しグラップルで反撃
泥人形壊すのに列車を荒らす無駄な力は要らねぇ
ゆっくりと歩み寄り、見知った拳を避け、合理的最速最小動作でブチ抜く!
間に合わせの模倣で破れる【超循環】じゃねえんだよ
まして俺の“内側”を学習しだしてるなら…いっそ自分で自分を殴れ!!
旅行客の命を前回と今回の2度も狙う!?しつけえ!
お陰でこの旅にケチがついた…眠ってる人らの旅に泥塗ったんだ…
お前らが自分を殴れようが殴れまいがもういい…。その体、俺にブチ撒かれて詫びろ…!
開いたテラスを横殴りに降りだした大粒の雨に打たれながら、漆島・昂一(/邪神結合外殻システム『ABYSS』・f12856)は腰に装着したカメラ型のデバイスに手を添えていた。
群青が、彼の体を模倣してこちらへと視線を無数に向けている。
〈敵性存在の模倣行動を確認。そっくりじゃない、……そうね、素材は良いんだから、もうちょっとオシャレに気を遣ったら?〉
「数が多いな」
〈あら無視なの〉
表情など無いのに、にやにやと笑う様すら明確にイメージされるその声に、昴一は、うるさい、とため息交じりに呟き、添えていた指を押し込んだ。
カシリ――、と機械的な音と共に、黒色の液体がレンズ口から溢れ出て、瞬く間に昴一の体を閉じ込めていた。
「――纏神」
前方から勢いよく黒い水を被ったせいか、ハリネズミのように後方へと飛沫を上げた液体は、しかし、瞬時に凍ったように固まり。
そして、昴一の声に動き出した。
さながら、滑り落ちる水銀の映像を逆再生したような動きで昴一の体を這いずるその黒は、直後、流線的な意匠をしたパワードスーツへと変化していた。
〈Face up, to SHADOW〉
「これでいいか」
〈オシャレの方向性の問題かしらね〉
浮き出る生物じみた眼球の禍禍しさは、その素材の本質か。しかし、鬼を模ったようなマスクの奥に眼光は、澄んだ色で世界を睨んでいる。
〈さ、来るわよ〉
と、無駄口も押し込めて、ニミュエが注意を促す。
「ああ、そうなるのか」
眼前で、自らと同じく姿を変える群青たちに、昴一は呆れを返していた。昴一を模倣した鬼。UDCというここには存在しない要素を、自ら代用し、結果を模倣しているのか。
確かに動きの格段に素早くなった群青が、一斉に駆けだした、その直後。
ドッパアッ!! と盛大に轟音を引きずりながら、泥の塊が後続を巻き込みながら後方へと吹き飛んでいった。
「たく、夜の電車で騒いでんじゃねぇぞ」
迫り来た己のマスクを鷲掴み、ハンドボールのシュートのように群青の一体を投げ飛ばしていたのだ。
外装を砕き、諸共に泥へと崩れていくそれらに昴一は、怒声を上げる。
「お前らは、この旅にケチ付けやがったんだ」
一歩、緩慢なほどに、彼は足を踏み出した。ぎしりと軋むのは、床か、それとも、空気か。
「お前らのせいでぬくぬくと布団に潜ってるはずの子供が震えてんだ」
もし、その怪物が昴一の心情までも模倣するのであれば、自らの体を穿ち自死を選ぶだろう。だが、昴一と似た力を使い、その内側を学習しようと、それらは昴一ではないのだろう。
秒を読むごとに己の動きに近しく、しかしかけ離れていくそれらへと、昴一は肉薄する。全身を廻る外装を作る黒い液体、黒水。その循環を加速させ、身体能力と反射神経を増強させた昴一の体は。
「邪魔なんだよ」
更に動きの精度を増した群青の拳を容易く躱す事を可能にしていた。その懐に潜り込んだ昴一はその拳をきつく握りしめる。
ゴ、と。吹き付ける雨粒を全て弾き飛ばすような衝撃と共に、打ち出した拳が群青の腹をぶち破り、大穴を穿っていた。
「その体全部」
泥に濡れた手のひらを振るいながら、昴一は己に在らぬ怪物へと告げた。
「ぶち撒かれて詫びろ」
それは紛れもなく、死の宣告であった。
大成功
🔵🔵🔵
イージー・ブロークンハート
…うわあ、自分の真似されるのって気持ち悪いのな…しかも複数体…心が挫けそう…。
やだあ俺の構えそんなに隙が多いんだ…うわ…つら…。
見切りと残像で、より的確に真似されるまえに斬りたいところだな。
けど、真似されて戦闘で剣が砕けたのなら好都合、折れた刃でカウンター。範囲攻撃だ。
…剣もコピーされてんのかな、これ。されてるなら攻撃がてら向こうの剣も狙いたいな。
向こうは複数だ。飛び散る硝子片が多いほど敵さんにダメージ入る確率あがるもんね。範囲の限られる列車じゃ避けにくいそうだし。
…この戦いが終わったら俺、ちょっと真剣に戦い方基礎から見直そう。
(アドリブ・ピンチ・協力歓迎です)
「ええ……うっそ……」
イージー・ブロークンハート(硝子剣士・f24563)は愕然とした衝撃を受けていた。
それはもはや恐怖としか言いようがなく、ある意味では、心臓を刃で引き裂かれるよりも痛みを伴う戦慄であった。
イージーの握る硝子の刃が、姿を同じくした群青の一体。その喉元を切り裂いていたのだ。
脆く鋭い透刃は、欠け一つ無く、イージーの首を胴体から自由にしている。
ほんの数秒前、自分と同じ顔形の人型が複数襲い掛かってくるという、悪夢のような気味悪い光景すらも霞んでしまう、そんな衝撃。
見慣れた構えだった。そうだ戦い方、武器すらも群青はイージーを模倣していた。
(オレの構えって、こんななの?)
だが、見慣れているとはいえ、敵対者として見た時、イージーは自らの構えに強烈な違和感を覚えていたのだ。
なんというか、こう、踏み込んで一閃するだけで、防御も回避も間に合わず簡単に殺せてしまいそうなビジョンが明確に浮かぶ。
(いやいや、誘われてるだけ、そうだよな?)
と、自分を模倣する敵を弁護する、という回りくどい自己弁護を展開しながら、しかし、浮かんだビジョンに従って刃を振るってみた。
あっけなく、首を斬り落とせたのだ。落とせて、しまったのだ。
衝撃である、と言わずしてどうするのか。
模倣の精度がまだ低いとはいえ、しかし、その構えは確かに自分のものだと言える程には、イージー自身の体捌きだった。
「んんー……、っと」
「オレが、殺……こ、ろす」
「うえ、声までか」
敵は多数。唐突に突きつけられた事実に肩を落としている暇はない。
斬りかかってきた群青の一撃を避けながら、イージーは己の刃を握る。
空振りの勢いをそのままに、刃を逆袈裟に振り上げた群青へとイージーは、真正面から刃を打ち合わせていた。
黒色の刃と、硝子の刃が猛烈な勢いで、交差する!
ギ、カァン! と軋むと同時に鉄の風船が破裂するような音が響き、互いの刃が瞬く間に砕け散った。
瞬間、イージーはにやりと笑む、
やはり、群青の持つ刃も、イージーの持つ硝子剣のもろさを再現している。首を掻き切った一体の持つ刃からそれを見抜いた彼は、初めから剣同士をぶつけ合う為に剣を振っていたのだ。
激しく衝突した剣の破片は、イージーへではなく、周囲の群青たちを巻き込むように爆散する。
猛烈な勢いを纏い、しかし鋭利な薄刃は容赦なく人体と化した群青の体へと突き刺さっていく。慣れたイージーはそれに巻き込まれる下手は打たないが、群青たちは違う。
『経験』が足りていない。節々を刃の弾丸に穿たれた眼前の群青を、半ば砕けた硝子剣で切り崩し、イージーはひゅっ、と息を吸った。
「あー、痛いんだよな。分かる」
自分そっくりなそれが硝子に穿たれる様子に、散々破片に見舞われた思い出がよみがえるのだ。
砕かれた衝撃のままに、自分に降り注ぐガラス片。しかも、刃を復元しようとすると、埋まった刃が、傷を広げる様に飛び出して二重苦。
いや、群青は、体と同質の泥で再現しているのであれば、復元の痛みはないのかもしれない。
それは、ちょっとずるい様な気もする。
黒い硬質な破片と己の持つ硝子片を大粒の雨風に舞わせ、少しの理不尽を感じながらもイージーは刃を振る。
「……なんか」
ピンチらしいピンチもなく、自分を斬り殺していく。
「……複雑」
自分が思ったよりも戦い方が不得手で自分との闘いに苦戦しない、という状況に、ちょっと本気で落ち込む。
その時、イージーは心に決めた。
「この戦い終わったら、オレ……戦い方基礎から見直そ……」
と。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ホシガネ』
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POW : 再誕
自身の【取り込んだ影朧数体】を代償に、【抱く天体より産み落とした合成影朧一体】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【元となった影朧と同じ攻撃手段】で戦う。
SPD : 再来
自身が戦闘で瀕死になると【抱く天体より取り込まれていた影朧全て】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : 再生
【抱く天体】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、抱く天体から何度でも発動できる。
👑11
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●
雨は激しさを増し、風が世界を揺らす。
夜闇に包まれた列車は、まるで虚空を駆ける一つの完結した世界のようで。
死にゆく影朧を見つめる異物の瞳が、悲し気に鐘の音を鳴らすかのように瞬いた。
それは唐突に、いや、しかし前触れはあったのだろうか。
無数に湧きだしていた群青が崩れ、泥濘と化して渦を巻く。その中心に立つ、星持つ女がその白い髪を雨を滴らせながら口を開いていた。
「――」
声は意思を滲ませる。
怒り。
悲しみ。
星が明滅する。鼓動するように、炎を上げる。
瞬間。時がさかのぼるような錯覚が起きるような光景が広がっていた。
ゾ、ゾゾ、と周囲の泥濘となっていた影朧が重力に反するようにその星へと吸い込まれていったのだ。
周囲の影朧を全て吸い込み、そして、独りとなった星持つ女は、その星を愛おし気に撫で、そうして初めて猟兵達をその目に捉える。
敵意。
憎悪。
赤い光が、瞳を燃やしている。
――二日目、夜。車体の損傷は軽微。加速、暁の刻を目指し、計画を実行へ。
●
第三章
ホシガネとの戦闘です。
吐き出す影朧は、強化された群青、模倣と独自の強化を経た猟兵模倣体です。
よろしくお願いします。
ニノマエ・アラタ
…そういう眼を向けられる理由、わかんねえし。
ちっとは喋れるなら「殺す」以外のことも語っていいんだぜ。
提灯に先導されて一体何が集って来てるんだかなァ。
ま、思い残すことが無いようにしとけって話だ。
お互いに、な。
消化して新たに吐き出したか。
…だが、長々付き合うつもりはない。
初手は刀を鞘から抜かずに応戦。
滑りやすい床の上を歩き回らず、相手を動かす。
テーブルや床に水がたまっていれば、
そいつを目潰しに使う。
防戦一方、押されているように見せかけて隙を誘い。
夜の暗さと雨に紛れ剣筋を読ませないよう、
光源があればその影に入り込んで斬り込む。
おまえ自身で戦ってみせろよ、なあ!
模倣体を倒せば即座に星を一閃しに行く。
「――」
言葉亡き声に、踏み出した脚裏が濡れた床を鳴らす。
吹き付ける雨粒が鬱陶しい。
星を抱く女が、僅かに瞬く。禍禍しく、しかし深く慈悲に満ちた光が瞬く。
「聞こえねえな」
ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)は、それが零した声に、ただ無機質に返していた。
意思を感じるも、しかし、それをアラタの脳が言語化することはない。
その憎しみを向けられたところで、憎しみを向けられる理由に心当たりなど無いのだから、彼が発する言葉に感情が滲みようもない。
ただ、刃を納めた鞘を握り、柄へと手を添える。
「あの提灯がお前を呼んだのか」
いいや、違うだろうな、とアラタは自らの言葉を否定する。
「あの提灯に先導されたのか」
それも違うだろうと、アラタは髪から瞼に垂れ落ちる水滴に、首を振る。
「あれが殺されたから、憎いか」
「――」
その声は肯定か否定か。それは分からないが、しかし、そこに含まれた憎しみはよくわかった。
炎が瞬く。星が震える。時間を巻き戻すように、いや、戻り続ける時間を正常に戻すように。か。
飲み込んだはずの泥が、テラスの床に流れては、瞬く間にアラタの姿を形作る。
「……吐き出した、か」
もはや慣れたそれの姿にアラタは、静かに長く息を吐く。その動きをつぶさに観察する。
先を取らせる。
その動きを狩る。
そう、組み立てたアラタの視界に広がったのは、自らと同じ顔立ちの無表情であった。
「――遅いな?」
肌が触れ合いそうな程の距離。青い不気味な双眸を捉えるアラタの両目が、瞬時に風を切る音に反応する。
肉薄した群青が握る刃が、アラタの胴を食い破らんと走る!
咄嗟にアラタが選んだ行動は防御ではなかった。
傍のテーブル。白く塗られたその上に溜まった水たまりを腕で弾き飛ばしていたのだ。小さな波のような飛沫が跳ねる。
それは、狙いをたがわず、群青の顔面へと叩きつけられる、が。
――それは、瞬きすらしない。
故に、その動きは乱れることなく。
「……ッ」
ギュ、カ、と、濡れた床に目潰しの勢いを利用し、足を滑らせるように無理に体を動かして、腹へと吸い込まれる刃を躱したアラタはその腕へと抜刀し、斬りつける。
断ち切れずも、しかし、確かに傷をつけたそれは、瞬く間に他の体が解けてその傷を埋めていく。
ただの人なら、握る力を確実に弱め、血を失わせる傷にも関わらず、純粋に傷を埋めるだけの消耗しかしていないようにさえ見える。
「数分で随分と成長したもんだ」
「ああ、お前の技は易くて助かる」
「成程、そうか。それは……」
群青が踏み込む。見事な構えだ。
アラタは目の前の存在の剣を素直に認めながら、しかし、彼はその先を行く。
自ら、攻撃のリズムをずらし、速めて、防戦を崩す。
「俺らしくない口ぶりだ」
それは、あまりに一瞬だった。
雨の通すように、帳に隠すように。
ともすれば、ただ無造作に刀を振るったかのように、真一文字に振るわれたアラタの刃が群青の腹を裂いていた。
グラリ、と崩れる群青の首を返す刀に撥ね飛ばし、心臓の辺りを突き殺す。
「これで、動かないだろ」
胴を裂き、首を落とし、心臓を貫き。一つで人間を容易く殺せる斬撃に、群青はその体をぐずぐずと溶かして消える。
「さて」
軽く刃を振るって、僅かに奮えた闘いに眼光を鋭く雨を睨むアラタは、その帳の向こうへと僅かに笑む。
「お前自身で戦ってみせろよ」
――なあ?
と言葉を置き去って。ダッ! と駆けだしたアラタの足が、瞬間、床を大きく揺らしていた。
大成功
🔵🔵🔵
イージー・ブロークンハート
…目指すのは人、望むのは人、か。人になりたかったのか、人に成り代わりたかったのか…どっちでもないのか。
オレによく似て、オレのじゃない技。
…もしかして。群青の戦い方は、オレが会得するかもしれなかった戦い方で……その母にあたるホシガネは、あるかもしれなかった、人間の、過去の、可能性の、そういう存在なのかな。
……。こういうのも変だけど。
来てくれてありがとな、ホシガネ。
穿つ硝子片で縫い止め。重い硝子片で負荷をかけ、張り付く硝子片制限をかけて斬る。ホシガネを無効化できれば万々歳。
もしホシガネがそういうものだったなら、現在たる猟兵としては、かっこ悪くても、勝たないとな。
(アドリブ・ピンチ・協力可能です)
揺れる黒海。
藍色の化物。
群れる青色。
「……目指すのは」
人。
ヒト。
ひと。
「望むのは人か」
イージー・ブロークンハート(硝子剣士・f24563)は澄む刃を引き抜きながら、それを見つめる。
星を抱える母から滑り落ちる子。
狂った生神女福音か、記憶の端に浮かんだ絵画の景色に目の前の暗い光景を合わせながら、イージーは、形作るそれを見つめる。
ごぼごぼと落ちる泥が形作るのは、自らの似姿。イージー・ブロークンハート。
そこに他の猟兵の要素を取り込んだ姿。純正がイージー自身であれば、それは他製ともいえるだろうか。
踏み込む群青に、己にない足さばきを見て、合わせる刃を僅かに戸惑わせていた。
「……っ」
現在のイージーにないものを持つそれは、敗れぬ刃を持つ剣筋。脆いガラスの刃など容易くに裂いてイージーを裂くだろう。
雨に濡れた木の床が、甲高く悲鳴を上げる。咄嗟に捻り上げた硝子の刃が泥の剣を逸らし、そして己の限界を迎え砕け散る。
音。
キュッ、パ、ガ。と認識が遅れ、脳が音を漸くにそれを感じ取っていた。半ばから千切れた刃で折れぬ刃を再び逸らして、大きく後ろへと後退する。
その動きに隙は無く。
その刃に欠けは無く。
もし、この刃を、この武器を命を削り、一度も傷一つなく戦おうとすれば『そう』なったのか。
幾度砕けようと折れぬ刃ではなく、幾度ぶつかろうと砕けぬ刃とする、そんな業を持つに至ったのか。薄氷を割らず、刃とするような。
イージーは己の動きでありながら、様々な違う過去を、経験を集められたそれを、そう仮定する。
「……オレの、そうであったかもしれない、可能性」
胸に、腹に、腕に。自ら砕いた刃の破片が傷を穿っている。
肩から真下へと、泥の刃が開いた傷が肉を覗かせている。
心臓が脈打つ。
痛みが走る。
折れた剣を握る。
届かない。幾度も割る刃を、欠片も割らぬその腕に、イージーは足りぬ。
「ああ――」
声が漏れる。折れた刃を両目の間に立てて。
「良いな」
眼前に刃を振り上げた群青を見つめる。
折れた刃が、再びそれを防ぐには遅い、残る刃は、その一撃を止めるには脆い。だから、イージーは自らの掌にそれを突き刺すようにぶつけ、残る刃を全て破片と砕いていた。
き、と硝子の音が鳴るよりも早く。大上段から振り下ろされた刃が奔る。
イージーの脳天を狙ったそれは、しかし、肩を裂き斬り大腿までを破り、鮮血を巻き散らして、床に落ちた。
否、傷は浅い。
肩へと突き立ったはずの刃は、浅くそれを斬りさいて、まるで皮の一枚奥に鋼を持つようにその皮膚だけを裂いたのだ。
ゆっくりと、手を伸ばす。
瞬間、己の傷から何かが抉り出ていく激痛が襲う。
「綺麗だ」
汚い。
砕ける事を前提に、破片にすら命を託して、縋る。それをイージーは美しいとは思わず、それでも破片の輝きに心を躍らせずにはいられない。
群青の刃を防いだ自らの体に突き立った硝子の破片、自らの欠陥を千切りながらイージーは溢れ出るそれを操る。
直後。
床に落とされた泥の刃は硝子に固められ、振り下ろした群青はイージーからまろび出た刃に裂かれて、崩れ落ちる。
果たして、自らの武器の傷、群青の傷、どちらがより深いのか。いや、問うまでもない。この痛みは自ら生んだものだ。
だとしても。その様がみっともなくとも。
「……ホシガネ」
立っているのは、イージーであった。
ガラスが、星の母へと渦を巻いていく。
大成功
🔵🔵🔵
漆島・昂一
※アドリブ大歓迎
その怒りの目の理由も、把握はできる。が、共感はしない
生まれてすぐにやる事が列車襲撃の奴に容赦も憐憫もするかよ
そいつらを生み出すお前にもだ…!
先の泥人形達を更に合成した影朧か
…いよいよ冒涜的なフォルムになりそうだな…
何人分の力だろうがもう同じ事だ
前回の戦闘からの収集した情報と戦闘知識による戦闘勘から攻撃を見切りいなす
その瞬間に選んだUCのカードを早業で発動
カウンターに拳で直接マーカーを刻みつけ、踏みつけで黒渦を叩き込む!
爆散して締め!…は列車が危ねえのでしない。ただ崩れる泥を見つめる
嫌なら次から教え込んどけ、「電車で騒ぐな」ってな
人であって欲しいなら、人を苦しめさせるな…!
ごぼり、と星から生まれた泥濘が、ずぐずぐと人の形を作っていく。
漆島・昂一(/邪神結合外殻システム『ABYSS』・f12856)そうして瞬く間に作られた己の姿に、警戒を高めていた。
「先ほどの影朧、何体分だ?」
うねるその泥の量は一体分では効かないだろう。少なくとも、先ほど昂一が吹き飛ばした一体の泥よりは多い。
最初に床に蠢くそれらを見た時は、いよいよ、人を切り貼りしたような冒涜的な姿にでもなるのか、と考えたが。しかし昂一の眼前に現れたのは、一人の昂一だった。
姿だけを見れば、先ほどと変わらない。だが。
〈気を付けて、随分と――〉
鬼の似姿。
それは、その準備が整ったとばかりに、ドガッ!! と床を蹴りつける。
瞬きの間、正しくその瞬時に昂一の頭上を、触れれば頭蓋が砕けていただろう蹴足が突き抜けていた。
「……っ、と!」
僅かに油断していた。直前までの続きだと考えていた昂一は、見えた足裏を反射的に避けたまま、肉薄し、連打した拳の全てを捌かれて、その考えを破却していた。
〈……強化されてるようだから〉
群青の猛襲に言葉をきられたニミュイが、漸くその続きを発していた。
「もう少し早く頼む」
〈無茶言わないでよ〉
「……俺と闘っていた以外の個体も混ざってるか」
昂一が断定する。
これまで昂一を真似するだけだった群青の動きに、別のリズム、というか癖のようなものがある。
〈それで?〉
と問うニミュエに昂一は答えない。
いや、答えられない。
再び踏み込んできた群青が、そんな安寧を許さない。
打ち出される轟腕。猛蹴。
ご、ぅ、と唸りを上げる群青の体の内部は、凝縮された泥が全身を活性化させているのか。それは、独自に再現した昂一の技そのものか。
肉を抉る突きを弾き、骨を砕く回し蹴りを避け、防戦に防戦を重ねる。只押し負けているようにしか見えない光景が数秒の間だけ続き。
――そして、転機はニミュエの声で訪れた。
〈承認〉
静かな声。
その瞬間、突き出された拳を潜るように躱し、昂一が群青の懐に踏み込み。
ぴたり、と群青が動きを留めた。
昂一は、懐へと拳を突き出しただけだ。
それも殴るではない。小突くというにも弱い、ただ触れさせるだけのような接触。
何かがあるとすれば、その拳に刻まれているマーカーが、呪いを帯びて群青の体にも刻まれているという事くらいだった。
いや、正しくそのマーカーが群青の動きを留めている。呪縛の呪い。
その場で旋回するように、体を宙へと舞わせる。ギュカッと軋むような床が跳ねる音を残し昂一の足が離れた。
「……ッ、ラァアアア!!」
粗暴にも、叫ぶ。裂帛の声が全身の限界を引き上げるのだ。
跳び蹴り、と呼ぶには些か変則的な、踵落としじみた胴回し回転蹴り。昂一の体から這い出て、彼の足先に渦を巻く黒水のドリルが群青の体を容赦なく抉り。
貫く。
それは、ただ貫くのではない。
傷の内側から無数の楔がごとく、その人体じみた群青の体を蹂躙するのだ。腹の傷から広がっては、全身からおびただしく出血するように、黒水が噴き出している。
それが人体であれば、それは正しく全身から鮮血を噴き出すような技だが、群青は綺麗なものだ。
スポンジのように無数の小さな穴を全身に穿たれたそれは、自重に押し潰されるように泥へと変わっていく。
凝縮されていた泥が膨らみ零れていく。
「――」
悲し気な声。ホシガネが、ただこちらを見ていた。
その瞳に映る赤い光は、批判でもしているのか。昂一はそんな事を考えながら、零れる泥からホシガネへと目を向けた。
指を突きつける。
いつもならお行儀の悪い、と小言を言うミニュエもただ、行く末を見守っているようだった。
「次から教え込んどけ、『電車で騒ぐな』ってな」
暗い青のぬかるみとなった群青を踏み越え、昂一がホシガネに踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
平良・荒野(サポート)
羅刹のクレリック × フォースナイト
年齢 16歳 男 (6月13日生まれ)
外見 174.4cm 漆黒の瞳 黒髪 白い肌
特徴 散歩好き 肌を露出しない 短髪 大切に育てられた 求道者
口調 未熟(僕、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)
あわてた時は 未達(俺、あなた、呼び捨て、か、だろ、かよ、~か?)
似非修験者に大事に育てられた山育ちの羅刹です。
似非修験者の息子なのでそれらしい格好をしていますが、似非なので、仏教・神道用語は使いません。
武器は錫杖です。
基本的に生命のあるすべてのものの善性を信じており、可能であるなら対話での解決を試みます。
無理ならPOWが唸ります。
カカン、と下駄の歯が床を甲高く鳴らす。
平良・荒野(羅刹の修験者・f09467)は、床を叩いた錫杖の石突を蹴り上げる様に跳ね上げて、振り下ろされた暗い色をした錫杖を弾き飛ばしていた。
「成程、僕の真似事……確かに見事ですね」
叩きつける雨粒を弾き、撃ち合わさった錫杖の遊輪が激しくギャン、と音を鳴らす。
自らと同じ姿をしたそれ。
「――オン・アミリタ」
阿弥陀仏の印相を結び、祈りを捧げる荒野に対するホシガネからう乱された群青の個体は、同じく印を結んでいる。
祈る神仏がいるのか。荒野はそんな疑問を自分の模倣体を映す瞳の奥に浮かばせながら、錫杖を回し、背へと回すように振り払う。
「テイセイ・カラ・ウン……!」
ガ、ん!! と下駄が雨を払うようなけたたましい声を響かせて、荒野の体を弾丸がごとく打ち出した。
「何が、ノゾミ……望、なンデす、ですか」
駆ける。
皮膚を叩く雨粒も気にせず、突貫する荒野の耳朶をそんな声が叩いた。
その声は、聞き馴染みがあり、それでいて、聞き馴染みのない声だった。まるで、高度な音響機器で録音した自分の声を再生するような。
荒野が接敵の瞬間に問いかけた言葉。それを繰り返す影朧に、荒野は薄気味悪さすらも感じていた。
それが無機質な響きだったからではない。生物的な揺らぎを感じながらも、尚、人格や思考という情動を知りえることができない。
水を吸い重くなった修験者の僧衣を遠心力で振り回しながら、身を屈めた状態で器用に錫杖を振りかざす。
「ノゾ、みは……、人」
『人』――それだけをいやにはっきり、明瞭に告げた声に荒野は僅かに息を呑んだ。会話の通じなかった群青が初めて、回答を述べたのだ。
「――ッ」
瞬間、鈍痛が奔る!
放った錫杖を交差するように差し込まれた泥の杖が、その一瞬の逡巡を突いたのだ。
胸をまっすぐについた泥の錫杖に、吹き飛びながら体勢を整え、荒野は、再び祈る群青、己を見る。
身を捻じる滞空、その最中、着地をすら待たずに荒野は印を結び。
「オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン」
声が二つ重なる。
荒野と群青の、声。
ゴ、ばん!! と着地と同時に体を弾き出した、着地音と踏み込み音の混ざる轟音が荒野の背を叩く。
奇しくも、互いに選択したのは待ち受けるのではなく、己から肉薄するという選択だった。
瞬きの間に、互いに手の届くような距離へと至った荒野は、突き放たれた錫杖を弾き、薙ぎ、弾き、突き、逸らし。
「……こ、れでっ」
折り重なる衝突音の中、荒野は、放たれた攻撃を躱し、刹那、勝機を見出した。
瞬間、荒野は上げた錫杖の尻で、群青の錫杖を巻き取るように乱していた。
空いた群青の懐へと滑り込んだ荒野は、それと同時に錫杖を突き上げる! 轟、と唸り上げて突き放たれた錫杖は群青の体を跳ね上げ、首にめり込んだままに床へと反転し、叩きつけた。
ぐ、ド、と重く何かが弾ける音と共に首を砕いた群青は、ぐずりと壊れていく。
「出来るなら、言葉をもっと交わしたかったですね」
敵わぬ願いを口にしながら。
「――」
聞こえた声に、荒野は顔を上げた。
●
悲しみ。
怒り。
憎しみ。
慈しみ。
灼熱の業を抱えるそれは、声を発した。
炎をも吹き消すような嵐の中。消えゆく命を守るように星を抱く女性体は。
ホシガネは。
顔を上げた。
禍禍しい紅煌を宿す瞳を開き、だが、それは猟兵を見つめてなどはいない。
朽ちた泥。そこにあった影朧を見つめ。そして。
――泣いていた。
いや、それは泣いてなどいないはずだった。
燃える星から漏れる光に輝くその涙は、絶え間なく吹き付ける雨が頬を伝い滴り落ちているだけのものだ。
「――」
だが、それを理解しながらも、思わずにはいられなかった。
泣いている、と。
●
踏み込んだアラタの目に映ったのは、そう思わせる光景だった。
それでも、そんな感慨は、次の瞬間に消えて失せた。
泥からアラタへと視線を移したその瞳の底の見えぬ怨嗟が、彼の意識を研ぎ澄ませたのだ。
防がれる。そう理解しながらも、アラタは刃を振るう己の腕を制そうとはしなかった。
ギュ、コと、剣が空気を丸太の如く割るような剛剣が唸る。
「――ッ」
振り切った刃が、天体に大きく傷をつけていた。噴き出る血流の如く、炎が叫びを上げる。
だが、影朧がそれだけで終わるはずはない。アラタは胸の奥に揺れた感覚のままに刃を立てた、直後。
ギィン!!! と刃が衝撃に揺れた。
見えぬ斬撃が、瞬時、アラタを襲っていたのだ。
一つを剣で弾き、一つを躱し、尚も、放たれるそれに肩を裂かれ、そして、痛みに揺らぐ視界を叱咤するように唇の端を軽く噛み切って、刃を立てて更に来る斬撃を打ち払う。
刻んだ傷から放たれる斬撃が絶え間なくアラタを襲い、攻撃に転じる暇を与えない。
だが、それで構わなかった。
「……っ!!」
少しずつ移動したアラタが生んだ死角。
そこへと荒野が、その意図を確かに汲み取って奇襲を仕掛けたのだ。
突き出された錫杖の攻撃が強かに星を打ち、見えぬ斬撃が二人を巻き込むように周囲に大きく薙ぎ払われた。
その頭上に影が躍る。
「――上が」
赤の瞳が、その影を追う。
あるのは、冒涜を纏う無機質な鬼の姿。昴一。
「ガラ空きだ!」
さながら高跳び競技がごとく斬撃を飛び越えた昴一が、全身の強化をそのままに、拳を振り下ろした。
放たれた斬撃が、昴一の拳と鍔迫り合い。その拳を一瞬留める。
「アイツらに人であって欲しいなら……ッ!!」
咄嗟に放たれた斬撃が、昴一の怪力を防ぎきれるはずはなく、昴一の装甲を掻き切れるはずもなく。
轟音。
硬質化した黒水の拳が斬撃を砕いて、ホシガネの体を吹き飛ばしたのだ。拳を握り、彼は数歩先に起き上がるホシガネを言葉を突きつけた。
「……人を、苦しめさせるな……!」
〈右〉
睨んだ、その昴一へと灼憎の瞳が輝き、声。
〈防ぎなさい!〉
「っ!!」
ご、ドと強烈な斬撃が、ニミュエの言葉の直後展開させた黒水ごと昴一の体を跳ね飛ばす。車外へと弾き出されそうな軌道をテラスの柱を掴み取って、床に足をつけた昴一が顔を上げてホシガネの追撃に備えた。次の瞬間。
キン、と。
いっそ軽快な音と共に。
雨が星を貫いていた。
いや、それは透明な確かな物質の刃だ。
雨に混ざった硝子の欠片だ。
立ち上がったホシガネの星が、刃を生んだかのように。
星の罅を伝い、溢れ出た針のような刃が、星を抱いていたホシガネの体をも貫く。
胸を貫く硝子に、それを為したイージーは口を開いていた。
「ありがとう」
来てくれて。とイージーが静かに感謝を述べた。
砕いた硝子の刃をアラタの刻んだ傷と罅の中に潜り込ませて薄刃と化し、削ぎ切る。
星が、砕ける。
眩い光が、明滅するように、息を吸い産声を上げるように、息を吐き命を閉ざすように。
「……アンタ嫌がるだろうけど」
溢れ出た星の灼光が、周囲の水を瞬く間に蒸発させながら、視界の全てを覆いつくしている。
呟いた声は、ホシガネには届かない。
「――!!」
眩い光は、世界を真白に染め上げるように膨れあがり。
そして、唐突に掻き消えた。
僅かに、光に慣れた目が夜闇を認識できず、暗闇に落ちたような錯覚すら覚えながら見回した景色の中。
ホシガネの姿はもう、どこにもなかった。
自らの憎悪で、体を燃やし尽くしたように。泥の一つも、炎の一つも残さず、消え失せていた。
●
列車は進む。
雨は次第に、勢いを弱め。
そして、雨がそれを抑えていたかの如く、風がうねり始める。
烈風。突風。
雨あがりの湿り気を帯びた風が暗い夜を揺らし始めた。
成功
🔵🔵🔴