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廻天

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #影朧甲冑 #スタア、門倉チエ

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 この身に黒の鉄輪(かなわ)を嵌めて以来、今日のことは覚悟しておりました。
 ですからどうか、哀愍の情を抱かれませぬよう。
 晴れの舞台なのです。
 私は呵って征くので御座います。
 不退転を胸に宿し、朗らかに散って参ります。
 希わくば、大正ならざる可惜しき世が訪れたることを。
 櫻散りし世にて、貴方様もまた莞爾と笑っておられることを夢見て。
 征って参ります。
 どうか末永く健やかに、体に気をつけて。

 ……精悍な顔つきの若者は己の文を再読しひとつ頷くと、大事そうに封をした。
 ちょうどそこへ、上官と思しき痩せぎすの男がふらりと現れる。
 ふたり揃って、黒い鉄の首輪を着けていた。
「認め終えたか。お前で最後だ」
「は。この通りであります」
 敬礼とともに差し出された封筒を受け取り、上官らしき男は頷いた。
「必ず届けさせよう。悔いなく征ってこい」
「は! この身を賭けて必ずや!」
 精悍な顔つきの若者はぴしゃりと背筋を伸ばし、敬礼をもう一つ。
 これから死にに行く者とは思えない、青々と穏やかな目をしていた。


「幻朧戦線、って知ってるかしら?」
 グリモア猟兵、白鐘・耀は言った。
「サクラミラージュで色々な事件……ようはテロ行為をやらかしてる連中よ。
 世界を変えるだとかなんとか、妙なこと言って暴れまわってるわけ。
 影朧……つまりオブリビオンじゃない一般人だってとこが、かなり厄介なのよね」
 しかし、ただの危険思想集団ならばまだいい、と耀は頭を振る。
「こいつら、大昔に起きた戦争の兵器を使いまわしてるみたいなのよ。
 で、今回使われるのがわかったのがこいつ……"影朧甲冑"ね」
 背後のグリモアに投影されたのは、人間ひとりがすっぽり収まる巨大な蒸気甲冑。
 それだけ見れば、ガジェット兵器のひとつに見えなくもない……が。
「この甲冑は、影朧そのものを燃料として動くっていうとんでもないブツよ。
 ロボみたいなもんだから、中に人間が乗り込んで動かすんだけど……。
 燃料に使われた影朧の呪いのせいで、乗ったら最後二度と降りられなくなるの」
 比喩ではなく、搭乗者が降りようとすれば即座に死ぬ。
 まさに不退転の覚悟を以て運用される、極めて非人道的な兵器だ。
「そこまでして今の世の中を変えたい……っていう熱意は大したものだけどね。
 それでせっかくの平和をぶち壊されるなんて、たまったもんじゃないわ」
 耀曰く、敵の狙いは横濱にある大きなオペラホールであるという。
 予知された時刻はちょうど公演の真っ最中であり、大勢の人々が詰めかけている。

「連中を止めるには、まず最初に一般兵どもをなんとかしないとダメね。
 みんなには施設と民間人を守りながら、幻朧戦線の対処をしてもらうことになるわ。
 ……相手も同じ一般人だし、出来れば生かして捕らえてほしい、けど……」
 どうしても必要があるのならば、躊躇はしていられないだろう。
 それを告げる耀の表情もやや翳る。彼女とて、殺人を勧めたいわけではない。
「とにかくあんた達も他の人達も、出来るだけ無事に帰ってくることを願ってるわ。
 ……ほんと、オブリビオンの相手だけでも手一杯だってのにねえ……はあ」
 耀にしては珍しくため息をつきつつ、彼女は火打ち石を鳴らした。
 その音が、転移の合図となった。


唐揚げ
 キセルです。なにげに初サクラミラージュ依頼だったりします。
 心情寄りの純戦系というか、なんかそんな感じでやっていきます。

●第一章補足
 舞台となるのは『横濱地区にある大きなオペラホール前』です。
 皆さんの転移が終わった直後に幻朧戦線の一般兵軍団が攻め込んできますので、
 押し止めるなり民間人を逃がすなり無力化するなり、自由に動いてください。
 一般兵の扱いは"出来る限り捕縛"なので、まあつまりそういうことなのですが、
 自ら進んで殺してしまうとむしろ相手のやる気がアップするかもしれません。

●プレイング受付期間
『2020年 03/06(金)13:59前後』まで とします。
 戴いたプレイングは問題がない限り出来るだけご案内出来るよう頑張りますが、
 戴いた数によっては再送のお願いをすることになるかもしれません。
 その場合は断章リプレイなりお手紙なりで改めてご連絡いたします。
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第1章 冒険 『幻朧戦線の襲撃』

POW   :    襲い来る幻朧戦線の一般兵を肉壁となって阻止し、重要施設や一般人の安全を守ります

SPD   :    混乱する戦場を駆けまわり、幻朧戦線の一般兵を各個撃破して無力化していきます

WIZ   :    敵の襲撃計画を看破し、適切な避難計画をたてて一般人を誘導し安全を確保します

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ……志を胸に別れたあの日より、貴女の歌を忘れたことは御座いません。
 耳に残った旋律は、何時でも私を勇気づけてくださいました。
 私は、己が間違ったことをしてゐるなどとは思っておりません。
 されど我らの思想は、帝都の人々には受け入れられぬもので御座います。
 後ろ指を指され揶揄され、歸らぬ仲間も多く在りました。
 心折れそうになったことも御座います。
 そのたびに、貴女の歌は私を勇気づけてくださいました――。

●襲撃当日早朝:帝都・幻朧戦線秘匿基地「ほ壱○○二」
「総員、勇敢なる利鷹隊員に敬礼!」
 上官の声を受け、黒い首輪を装備した若者達がいっせいに最敬礼をした。
 栄えある眼差しを誇らしげに受け、精悍な顔つきの若者は同じように敬礼する。
 首元の鉄輪は、戦闘機乗りめいた白マフラーで隠されている。
「七生報国を胸に。男・利鷹、参ります!」
「「「我らもともに! いざ!」」」
 ごしゅう……と音を立て、蒸気が噴き出す。
 光射さぬ深海めいた黒々とした間口を前に、利鷹はごくりと唾を飲んだ。
 そしてエイ、と鬨の声をひとつ。意を決して闇へと――甲冑へと踏み込む。
 無骨な搭乗席に腰掛けた瞬間、ぞっとするような悪寒が体を駆け抜けた。
 利鷹は、遠くしかし近い場所で、恨み呻く鳥の怨嗟を聞いたように思う。
 もはや逃れられぬぞ。
 逃さぬぞ。
 我とともに貴様も死ね。
 そう呪うような声であった。
(案ずるな。我はもとよりそのつもり。貴様とともに征くなり)
 利鷹は心の中でそう答え、操縦桿を握る。
 ……寝そべっていた影朧甲冑が、不穏な蒸気を噴き出し起き上がった。
 見守っていた隊員達が、おお、とどよめく。
「万事問題ないか!」
『は! この通り快調にございます!』
 上官は頷き、腰に佩いた軍刀を抜いた。
「いざや、いざ! 幻朧桜散らすために参ろうぞ!」
「「「応!!」」」
 馬鹿垂れどもを乗せた狂気の機関車が、軋みを上げてレールを外れた瞬間である。

●某日午前:帝都・横濱地区、横濱歌謡大劇場
 多くの人々が詰めかけるオペラホールに、どかどかと軍靴の音が響く。
 見よ。あれこそは喪われたはずの兵器、不退転の覚悟で動く狂気の甲冑。
 見よ。雷纏う大鷲の幻を纏った、くろぐろたる勇敢なフォルムを。
 見よ。大正を終わらせるため、命を懸けて国に仇なす馬鹿垂れどもを。
「――突撃ィイイイ!!」
 軍刀がひゅんと風を切り、猿叫とともに血気盛んな若者どもが飛び出した。
 そして生まれるのは悲鳴と混乱、すなわち阿鼻叫喚の地獄である。
マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と
信条、信念、忠義……それらの為に武人には命を賭けて戦わねばならぬこともあろう
しかし幻朧戦線のやり方は好かない
誰かを殺めることで誰かが救われるのならばまだいい
彼らのしていることは市民を虐殺するだけのテロリズムだ

だがな、そんな彼らの命とてこの地に咲く桜の一輪
無益に散らせる気にはなれない
大方はカガリが【泉門変生】の中に敵兵を取り込み一般人から隔離するだろうが、取りこぼしや増援もあろう
俺はカガリの外で槍を振るい、残る敵兵を無力化して散る花の命を救おう

【竜牙氷纏】で花を凍らせる春の嵐のように吹雪で敵兵を凍らせる
吹雪で間に合わぬなら氷の槍を無数に生み、遠投して縫い止めるぞ


出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と

幻朧、戦線
……ああ、ああ、嫌だ
ひとと、ひとが、殺し合うのも嫌だし
一方的に殺すのも、とても嫌だ
どうして、ひとが、そんなことを考えなければならない
勇者は、いらない、いらない……

……殺してでも、止めたいところだか
まずは、隔離せねば
カガリは門であるのだから
【泉門変生】にて、兵士達を壁の内へ囲ってしまおう
ここは、境界であるカガリが、外から閉じた世界
『武器持たぬ民がいるかもしれぬ外界』から、閉ざした世界だ
ここでの争乱は、何も残さぬし、何も生まぬ
意味のない刀は、下ろせ
壁の内に封印の呪詛を込めて、足を重く、目蓋を重く
意志も重く沈んでしまえるように……



 軍刀や槍といった古風な武器を手に、青年将校じみた兵隊が殺到する。
 そのすべてが、首に黒い鉄の輪を嵌めていた。
 それこそが幻朧戦線の証――この大正の世を破壊せんとする者どもだ。
 怯える人々に振り下ろされるかと見えた刃は、しかし突然現れた強固な壁が、
 がちんと弾いて止めてしまう。当然、突撃する兵士らの足も。
「な、なんだ!?」
「ユーベルコヲドか! 小癪なり猟兵……!」
「ならば崩してしまえ! エイッ!」
 幻朧戦線の兵士達は、みな急進的かつ虚無的な思考に支配された者どもだ。
 永く続いた太平の世に閉塞感を憶え、戦乱によって打破しようとする者達。
 壁の中を重く冷たく圧する呪詛を浴びてなお、彼らはなお抗った。
 そのさまを見守る双眸――すなわち出水宮・カガリの眼は、淀んでいた。
(……ああ、ああ、嫌だ)
 なんと醜く哀れで、そして無益なことをする。どうしてだ。
 なぜ、ひととひとが殺し合う。一方的に殺そうとするのだ?
 この世界にはもっと多くの危機がある。為すべきことがあるじゃないか。
 そんな"勇者"など、いらない。必要ない……いっそ死んでしまえ。
 昏い思考はしかし、壁の外側から届く鬨の声と戦の音で、かろうじてとどまる。

 壁によって隔離された兵士達が、幻朧戦線の全てではない。
 さらに突っ込んできた若者達を迎撃するのは、マレーク・グランシャールだ。
 淡々と龍槍を振るって武器を破壊し、あるいは気絶させる。
 手加減で足りぬ者があれば、彼もまたユーベルコヲドを躊躇なく使った。
「どけ! この閉塞した世を我らが終わらせるのだ!」
「そのためならば、命も惜しくないというのか」
「当然だッ! どけ猟兵! どかねば命はないぞ!」
 龍を相手に、なんとも勇ましく出たものである。それを蛮勇と人の云う。
 マレークは短く嘆息して頭を振り、対話を放棄して吹雪の力を解き放った。
 春の息吹が色づく三月の横濱に、凍えるような冷気が吹き荒ぶ。
「あ、脚が!」
「ぐぐぅ、う、動けな、い……!」
「……お前達の仕業で、誰かが救われるのならばまだいいだろう」
 ひゅんひゅんと龍槍を構えながら、マレークは言った。
「しかし、お前達の殺戮は何の益もない。いたずらに死と混乱をばらまくだけだ。
 信条や信念のために命を賭す武人ならいざ知らず、お前達のやり方は好かない」
「黙れッ! 我らを愚弄するか!!」
 激高した若者の首筋を槍の柄で打ち、マレークは若者を昏倒させた。
「愚弄などはしていない。ただ、呆れているだけだ」
『……まる。どうして彼らは、こんなことをするのだろうか?』
 カガリの念話がマレークの脳内に響く。
「さあな。テロリストとは総じて、過激な思想に支配された者ばかりだ。
 人の死というショッキングな出来事で、世に変革をもたらしたいのだろう」
『……理解、出来ない。カガリには、何もわからない』
「それでいいんだ、カガリ」
 マレークは壁に触れる。その内側から、若者達の寝息が聞こえた。
 カガリの充満させた呪詛によって、荒ぶる意志を無理矢理に抑え込まれ、
 眠りという枷に縛られ無力化された者達の、寝息である。
「どれだけ理解できずとも、彼らの命とてこの地に咲く桜の一輪。
 それを止めたお前の行いは、間違っていない。だから、これでいい」
『……このひと達も、みな、そう考えられればいいだろうにな……』
 城壁たるヤドリガミの言葉には、深い困惑と嫌悪、そして悲しみがあった。
 マレークに、もっと人らしい情動を表現できる機微があったならば、
 あるいは同じように瞼を伏せることで、その気持ちを共有できただろうか。
「……ままならないものだな、人の世とは」
 人ならざる龍もまた、苦み走ったように呟いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朱酉・逢真
ひっひっひ、人間がまーた馬鹿やってらぁ
どうせいつかは死ぬってぇのに、なァんで縮めたがるかねえ……
わっかんねえなあ

さぁて、今回は猟兵として動くわけだからしっかり助けねぇとな?
俺だって気まぐれに病毒ばらまいてるわけじゃねえ
ガキじゃねえんだ、そンくれぇは計算するさぁ

<祝福>を乗せた小せぇ羽虫の大群と、それに目を行かせない為の鳥どもを飛ばす。種類は麻痺だ、甲冑の隙間から入っちまえ。心も体もしびれちまいな。ヤベェ毒だって使い方しだいさ。モルヒネは麻酔になるだろお?

パンピー巻き込むなよお。俺も避難すっかね。ホールの上にある証明にでも座ってっかねえ、一望できンだろ



「ぐ、が……ッ!!」
「なんだ、このしびれ、は……!?」
 影朧甲冑に乗る青年・利鷹は、随伴する若者達の苦悶に困惑した。
『どうした? 何が起きている? 何の攻撃を受けているんだ!』
「あ……案ずるな、同志よ。貴様に影響は出させんとも!」
 甲冑の外、利鷹という決戦兵力を守るために配備された精兵達は、
 大量の羽虫、そしてばさばさと羽ばたく鳥の群れに悪戦苦闘していた。
 間違いなく、この強烈な痺れはこいつらがもたらしているものだろう。
 ならば、我らの同志でありこの作戦の要たる影朧甲冑には、
 なんとしてでも手は出させぬ。そう覚悟して戦っていた。
 ある者は武器を振り回してその群れを追い払い、
 ある者は自ら群れの囮になることで弾除けとなり、
 ある者は麻痺した同胞を看護し、再び立たせる。
 ……凶神たる朱酉・逢真の遣わせた"祝福"の使徒とその病毒は、
 燃えるような革命精神を持つ彼らをして、前後不覚に陥らせるほどである。
 体は痺れ、心は麻痺し、熱情は行き場をなくして頭をぼんやりさせる。
 されど、そう簡単に膝を折ってたまるかと、中には自傷する者すらいた。
 狂気に近い革命精神。利鷹はその熱を浴びて、一層発奮する。
「……貴様らの献身、無駄にはすまい。俺は必ず成し遂げるぞ……!」
 恨みを抱く影朧のオーラに護られた甲冑は、病の影響を緩和させ、進む。
 少なくとも、オペラホールへの直接の強襲は大きく遮られていた。

 一方、そのオペラホールの場内。
「ひひっ。おとなしく痺れときゃあ楽なもんを、まーた無理をしやがるねぇ。
 そもそもなァんで、いつかは終わる寿命をわざわざ縮めたがるんだか……」
 わっかんねぇなあ、と、逢真は照明の上にあぐらをかいて言った。
 神たるその目をもってすれば、虫達を通して外の状況を知ることはできる。
 実際、毒に冒されてなお這い進もうとする人間どもの精神力は脅威的だ。
 人間にありがちな、自己犠牲的精神を発揮しているあたりも実に"らしい"。
 だが、それならそれで、こんな馬鹿げたことをしなければいいのだ。
 その矛盾が実に愚かで滑稽で、死神たる疫病の使者にはとんと理解出来なかった。
 本当はホールの外で悠々と見物をしていたかったところだが、
 狙いを察知されたらたまらないと、こうして中に避難したのである。

 ところで逢真には思いもよらぬことだが、そのおかげで一つ功名があった。
「……あン?」
 避難してきた一般人達を先導する、きらびやかな衣装の女である。
 装いからするに、本来催されるはずだった興行のスタァか何かだろう。
「皆さん、落ち着いて。いま、外ではとても強い人達が対処してくださってます。
 だから私達は、冷静に行動しましょう。慌てることはありませんからね」
 と、穏やかに語りかける様を見て、逢真は頬杖を突いた。
(パンピーにしちゃ肝が据わってやがる。しかし……ふむ)
 神たる身の直感が、その女に何か妙な気配を察知していた。
 幻朧戦線のスパイ? まさか。それならとっくに殺気に気づく。
 もっと別の……そう、女をとりまく因果にまつわる、超自然的な気配だ。
(さてはあの女、なァにか今回のことに絡んでやがるのかね。ひひっ)
 そもそも幻朧戦線の連中は、なぜこんなオペラホールなどを狙ったのか。
 奴らの主張通り戦乱をばらまくならば、もっと剣呑な施設を狙えばいい。
 人がたくさん集まる日常の象徴……そういった向きもあろう。
 だが別のなにかがある。そしてその理由は……きっと、あの女絡みだ。
「やぁれやれ、人間ってのはすぐ因果で雁字搦めになる。めんどっちいねぇ」
 今回の仕事、ただ下手人を毒で痺れさせて終わりとはいくまい。
 逢真は、うんざりした様子で紫煙を吐いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
私に云えた義理では無いが……馬鹿な事を
其の志迄もは否定せんが、死んだ処で何が変わる訳も無い
視野狭窄にも程がある
ともあれ先ずは止めねばならん――少々痛い目に遭って貰うぞ

事を成したければ私を排してからにする事だな……出来るものならば、だが
生憎だが、お前達とは熟した戦場の数も培った経験も違う
大言壮語か否かは其の身で確かめるが良い

多少の戦経験が有る相手程、其の行動は逆に読み易い
戦闘知識で以って動きを計算し、加減した衝撃波で行動を制限
殺しはせんが、此れ以上余計な真似をされても困る
――来い、火烏
炎は使うな。羽根だけで止めろ
動き回れない様、手脚の1本折れても構わん

此れより先、此処にお前達の途は無い



 どうやら今回の作戦に参加した若者達は、みな武術に心得があるらしい。
 付け焼き刃の力を持つからこそ、精神を鍛えきれずにテロリズムに走ったか。
 実に青二才らしい、しかしまったく迷惑千万な話である。
(――とはいえ、私に言えた義理ではないか)
 鷲生・嵯泉は心の中で呟くに留め、隻眼で若者どもを握りしめた。
 彼が相対するのは、そんな兵士らの中でも相当に"出来る"類の若者達だ。
 こんな馬鹿げた企みに与さず鍛え続けていれば、あるいは達人となれたろう。
 油断ならぬ相手だ。数は五……いや、六か。いずれも刀ないし槍で武装。
 それらの獲物からも、影朧にまつわるであろう瘴気を感じる。
「結果は見えているが……立場上のこともある。まずはあえて言葉で問おう」
 嵯泉はじとりと殺気を放ちながら、対峙する兵士らを睨みつけた。
「ここで退き、官憲に自首するならば私は見逃す。あとは學府の沙汰次第だ。
 しかし……ここでなおも諦めないつもりならば、少々痛い目に遭ってもらうぞ」
 青年らの頭目らしき若者が言った。
「愚問! 我らはとうに命を捨ててきた。すなわち不退転の覚悟あり!」
「「「応とも! もはや死など惜しくなし!」」」
「……莫迦めが」
 嵯泉は舌打ちし、そして殺気の圧を倍以上にも膨れ上がらせた。
「畢竟、私とお前達では至った武の域が違う。こうしてみせても判らんと見える。
 この私の言葉が大言壮語か、あるいはお前達を慮ってのものかは――」
「問答無用! 覚悟ッ!!」
 一の太刀が打ってかかる。嵯泉は流水の如きなめらかな動きでこれを躱した。
 若者が驚愕するよりも速く、刃の峰を返して背中を打ち、吹き飛ばし昏倒。
「その身で確かめてみることになるぞ、小僧ども」
「「「か、かかれぇっ!!」」」
 残り五人が同時に仕掛ける。嵯泉は隻眼を細めた。
 悪くない狙いだ――しかしそれゆえに、読むのは容易い。
 どんなものであれ、道を極めることは先駆者の形をなぞることで行われる。
 ある一定の域に達した武人にだけ、我流というわがままが許されるのだ。
 この者どもは腕利きなれど、武芸者においてはひよっこも同然。
 型通りの斬撃を徒手空拳で躱し、大地を薙いで衝撃波で吹き飛ばす。
「ぐわっ!!」
「……立ち上がるか。そのしぶとさを別のことに活かせばいいものを」
 嵯泉はうっそりと呟き、符を霊力で燃やした。
 散りゆく灰は一体の燃え盛る鳥に編み上がり、優雅にばさりと羽ばたく。
「仕事だ、火鳥。ただし炎は使うな……羽根だけで止めろ」
「小癪! チェエエエストォオオオッ!!」
「――手足の一本は折れても構わん。"わからせて"やれ」
 飛礫のごとくに羽根が舞い、若者の視界を覆った。
 そして斬撃が、横断幕めいた羽根を切り裂き、肘をへし折って無力化する。

 もはや、最初の若者どもの意気はどこへやら。
 残る連中も、みな敵対者の武芸に萎縮し及び腰になっていた。
 だが退くつもりはない。それを目の色から読み取り、嵯泉は言った。
「これより先、ここにお前達の途は無い」
 警告はした。これはある意味で、"先達"なりの餞別でもある。
 まだやり直せる若者達への、痛みを以て与えられる教訓だ。
「肚に力を入れてかかってこい。一生忘れんような痛みを与えてやる」
 若者どもの鬨の声が苦悶の呻きに変わるまで、長い時間はかからなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

朽守・カスカ
命を賭してなお果たさねばならない使命、か
…気に入らないな

自らを奮い立たせ、決意を胸に死地へと向かうことは
美談のように映るかもしれない
されど、これから起きることは
狂気に満たされた地獄絵図
自らを勇猛果敢なる兵であると謳い本懐を遂げようと
その足が踏み躙るのは私のような娘の腑や骸だ
全くもって、気に入らない

前へ出よう
目を引き、囮になるように

手に持つガジェットは鋼線の網を放つものへと変じ
そして、もう片手に持つは私のランタン
【幽かな標】
仇なす全てをいなすため
踏み外した者が、なお進むことのないように
此処に、標を灯そう

……この場で死ぬことは誉ではない
愚か者の犬死にだ
(そして、君達も無為に散らすな)



 彼らはみな、この大正の世を終わらせる決意を胸にしたテロリストどもだ。
 しかし。それはオブリビオンのもたらす、完全な混沌と邪悪ではない。
 つまり――それが間違っているのだが――彼らにも、彼らなりの正義がある。
 大義に殉じる覚悟と意志があり、つまりは人間らしい倫理観もあった。
 だからこそ、それを踏みにじる強固な(あるいは愚かな)決意をしたのである。

 そんな彼らだから、ただひとり前に出た少女に気圧されたのは言うまでもない。
 朽守・カスカはそんな若者達を見渡し、物憂げに目を瞬かせた。
「……少しは頭が冷えたか。自分達のやろうとしていることがなんなのか」
「な、何を……」
「自らを奮い立たせ、決意を胸に死地へと向かう。それは綺麗に聞こえるだろう」
 ランタンを手に、カスカは語りかける。
「されどその結果起きることは地獄絵図。もたらされるものは死と混乱だ。
 君達が殺すのは、同じ決死の覚悟を秘めた兵などではなく、私のような娘であり」
 空いた手で自らを示し、そして若者達を指差す。
「君達のような、あるいはもっと若い子供であり――その腑と骸が転がる」
「……し、知れたこと! それも我らの大義の犠牲なり!」
「そうか」
 もとより言葉で止まりはすまい。動き出した車輪はそういうものだ。
 カスカは嘆息し、そして嫌悪と侮蔑に眉根を顰めた。
「まったくもって気に入らない――しばらく、おとなしくしていてもらうぞ」
 かかれ、と誰かが叫び、青年達は一気呵成を得て飛びかかった。
 カスカはランタンを掲げると、幽玄なる灯火があたりをぼんやり照らす。
 彼女の目には、その灯火が導く害意の道筋が視えていた。
 どのように避け、どのように進み、そしてどこを縛ればいいのか。
 十を超える兵達の攻撃は、たったの一度もカスカを捉えることはなく、
 代わりに彼女がいつのまにやら手にしていた、鋼網がその手足を捕らえた。
 もんどり打った若者達は網の中に取り込まれ縛り上げられ、昏倒する。
「ちょ、猪口才な! この程度の戒めで、我らの大義は揺るがぬぞ!」
「まだわからないのか」
 カスカは、もがく愚か者どもを見下ろして言った。
「私が煩わされているのは、君達が殺そうとしている人々のことだけじゃない」
「なんだと」
「――君達も同じだ」
 その目には嫌悪と侮蔑――そして、悲嘆と憐憫があった。
「あたら命を散らすな。この場で死ぬことは、決して誉れではない」
「…………」
「愚か者の犬死だ。それがわかったら――」
「だ、だが! 我らの同志、利鷹はすでに命を散らす覚悟を決めている!
 ならば我らが応えずしてどうするか! だからこそ、だからこそ我らは……」
 言葉を失い歯噛みする若者を見て、カスカは瞼を伏せた。
 振り返って目を開けば、そこには少しずつ近づいてくる影朧甲冑のフォルム。
「……人は、いつもそうだ。命はそんなことで散らしていいものではないのに」
 一度走り出した車輪は止められない。
 そのことが、歯車を胸に抱く人形にとっては、たまらなく悲しかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

花剣・耀子
……業の深いこと。
好きに生きて好きに死ねばいいとは思うのよ。
他人が何を言ったって、そう在ると決めたのなら仕方がないもの。
――でも。
ヒトを理不尽に巻き込むなら、此処で止めるわ。通さない。

最優先はヒトのいのちと安全。
庇うのも守るのも得意ではないから、割って入って先んじて斬るわ。
あたしの負傷は動きに差し障りなければ良いから、剣でも体でも使って防ぎましょう。

狙いは手足。大人しくなって貰うわ。
出血で死なれるわけにもいかないから、峰打ち程度に留めるけれど。早々諦めもしないかしら。
骨の一本二本は貰っていきましょう。
死に場所なんてあげないから。
……おまえたちはまだ、ヒトの領分だもの。

ほんとう、業の深いこと。



 オペラホールの中に居た関係者やVIP客は、すでに保護されている。
 問題は、今回のイベントをひと目見ようとやってきた一般の観客達だ。
 横濱の町並みを楽しもうと、朗らかに散策していた者も少なくない。
 そうした人々はいま、殺到する幻朧戦線の凶気に晒されていた。
「た、助けてくれぇ!」
「革命の礎となれ! 覚悟ォッ!!」
 目を血走らせた青年が、古めかしい軍刀を振り上げ、そして下ろす。
 恰幅のいい男性は、そのまま袈裟懸けに斬られ絶命し――否。

「何ッ!」
 仕手は瞠目した。刃は、割って入った少女がその身で受け止めていたからだ。
 片腕を盾めいて掲げ、肉を斬られるのを厭わず己を鞘としたのである。
 しかし何よりも驚いたのは、食い込んだ刃が押すも引くも叶わないこと。
 まるで万力で締め上げられたかのように、びくともしない。
「……業の深いこと。どうせ死ぬなら、迷惑をかけずに死になさい」
 花剣・耀子は、軍刀が刺さったままの腕をぐいと引く。
 見た目にそぐわぬ膂力が若者の脚をもつれさせ、そして刃が走った。
 狙いは脚。刃は返しているため、肉を割くことはない。しかし。
「がああッ!!」
「動けば動くだけ痛むわよ。治ればきっと骨太になるでしょうね」
 鮮烈なる峰打ちは、青年の丸太じみた両足の大腿骨をへし折っていた。
 しかし、綺麗な一撃だ。彼女の言葉は世辞ではあるまい。
「お、おのれぇ、なぜ我らの邪魔をする……ッ!!」
「言ったでしょう。おまえ達がどう生きるかなんてのは、個人の好き好きなの。
 けれどそこにヒトを、しかも理不尽に巻き込むならば、あたしは見過ごさない」
 若者は立ち上がろうとして……しかし、剣を落とした。
 少女との力量差を痛感したのもさることながら、それだけではない。
「……何故だ。なぜ、我らの身まで慮る」
「おまえ達はまだ、"ヒト"の領分だもの」
「!!」
 若者は再び瞠目した。驚愕? ……それもある。
 一番に彼の胸を打ったのは、少女の言葉の意味するところだ。
 すなわち、影朧。過去の残骸、もはや生まれ変わる他にないものども。
 幻朧戦線はそれを兵器に利用する。非人道的な兵器をも躊躇なく投じる。
 対してこの女達の、なんと気高きことか。同類と斬って捨ててもよかろうに。
「……畜生、畜生……ッ」
 若者は溢れる涙を拭わずに地面を叩く。どうして泣いているかもわからない。
 悔しさと、我が身の恥ずかしさと、様々な感情が綯い交ぜになっていた。
「……ほんとう、業の深いこと」
 耀子はもはや構わず、傷を筋肉の緊張でかりそめに塞いで歩き出した。
 後悔などするなら、最初からこんな愚かな真似をしなければいいのに。
 ――あの禍々しい甲冑に乗るという青年は、どうするだろうか。
 悔やむのか、
 殉じるのか、
 あるいは。
 少女はそれ以上の思索を止め、戦場へと身を投じた。
 そうすることが、己に出来る最大唯一のことだと信じて。

成功 🔵​🔵​🔴​

陽榮・天明
たとい只人であれど……世の危難となるのであれば、我がつるぎにてお相手いたしましょう。

銃弾のたぐいは剣にて払い、距離を詰めます。
火器ならば斬撃による破壊を、刀剣などには持ち手への打撃を以て、戦力の粉砕を図ります。
敵は多勢……単体あたりの時間は多くございません。少々の手荒は、受け容れていただくほかなく。
めぼしい武器を制したのちは、鋼線にて拘束します。

以上による各個撃破を繰り返します。

敵が車両などを投入するようでございましたら、防衛線への接近自体を阻止したいところで。
そういった相手には、遠当てによる早期撃破をこころみます。



「状況劣悪! "グラッジ弾"の使用を許可するッ!」
「「「グラッジ弾、装填! 構えーッ!」」」
 指揮官と思しき痩せぎすの男が言えば、兵士らは何やら妙な銃器を取り出した。
「グラッジ弾ですって……!?」
 その名を聞いた陽榮・天明は、我が耳を疑った。
 しかし間違いない。グラッジ弾、影朧甲冑と同じ廃棄されたはずの非人道兵器!
 影朧の恨みを凝縮し、傷を腐らせ負傷者を死に至らしめる凶悪な弾丸だ。
 すでに幻朧戦線の連中が、それを持ち出しているという噂はあった。
 彼女は参戦したことがないものの、実際にそれを使った事件も起きている。
 それをここで投入するなど。まさに狂気の沙汰に他ならない!
「撃てーッ!」
「させません……!」
 天明は韋駄天の如くに駆け、飛来する呪いの弾丸を神速にて切り払った。
 グラッジ弾は負傷を遅行させるという非人道的な効果もさることながら、
 場合によっては、それ自体がオブリビオンを呼び寄せかねない代物だ。
 あまりにも強い恨みが凝縮されれば、影朧が生じ乱戦も起きよう。
 一発とて無事に着弾させてはならぬ。一刻も早く斉射を止めるべし!
「「「次弾、構え! 目標、前方の學徒兵!!」」」
(狙いが私に集まるのは僥倖。すべてこのつるぎにて――!)
 パパパパパパッ! と硝煙が吹き上がり、弾丸が無数に放たれた。
 天明は意識を極限まで集中させ、主観時間を鈍化させる。
 空気をゼリーめいて切り裂きながら飛来する弾丸が、見えた。

 ギャギギギギンッ!!

「な、なんだと!?」
 撃ち手のひとりが驚愕した。弾頭、すべて切断撃墜!
「――絶剱肆式、天ツ風・寇。我がつるぎは間合いの裡の獲物を逃しませぬ」
「小賢しい女め! 第三射、構――」
「否、三度目はございません。覚悟ッ!」
 雷速抜刀、天ツ風再び。斬撃が敵集団の銃器を切断し爆砕せしめる。
 霧めいてわだかまる恨みの残滓をもつるぎにて切り"祓い"、再々絶踏。
 天明が通り過ぎたあとには、鋼線が蜘蛛糸の如く乱舞し手足を絡め取る。
「があっ! お、折れる……ッ!!」
「世間騒乱の罪は重くございます。少々の手荒は受け容れていただきましょう」
 銃器の爆発に手を巻き込まれ、あるいは鋼線によって拘束され、
 天明が対処できる限りの若者達は無力化し、口惜しみながらも地を転がる。
 しかし安堵は出来ない。むしろ状況は悪化するばかりだ。
 影朧甲冑のことも気になるが、他の機動兵器が投入されないとも限らない。
「自ら世の危難を望むならば、このつるぎにて祓うのみ。いざ!」
 颯爽たる影が戦場をひた走る。
 この狂った企みを、なんとしてでも止めるために。

成功 🔵​🔵​🔴​

マリー・ハロット
むぇー? 襲ってくるのに、殺さない方がいーの? だって、あの人達、みんなを殺そうとしてるんでしょ? 悪いヤツらじゃん! なのにダメなの? むつかしーね。
……でも、その方がみんながうれしいなら、マリー頑張るね!

でも、どーしようかな……そうだ!
なんだか、あっちの方からきそーな気がする(【第六感】)から、隠れて待って……あのでっかい鎧?がきたら、すりーぴんぐ・えなじーでみんな眠らせちゃうよ!
ほらほら、みんなみんなおやすみの時間だよ!

……この人たち、マリーよりずーっと長生き出来るのに、ふたいてんのけついーとか死んででもーとかつまんない事言うのかな?
もっと楽しーこと探せばいいのに。わけかんないね!



 どうして、このヒト達を殺しちゃいけないんだろう?

 マリー・ハロットの頭の中は、そんな疑問でいっぱいだった。
 だって、誰かを殺そうとするのは悪いヤツだ。
 悪いヤツは殺していい――というより、殺すしかない(あるいは、出来ない)
 マリーの情緒は、その年頃を差し引いてもあまりに幼く無知で、
 だからこそ残酷だ。もちろん、相手がオブリビオンだからということもある。
 ……しかし彼女にとって、"悪いヤツ"にヒトか否かの違いはない。
 殺せば終わるからだ。隠れている間も、ずっとずっと考え続けていた。
「突撃ィーッ!」
 裏手から殺到する青年達。そこにはすでにマリーが隠れていた。
(やっぱり来た! よーし、"えなじー"をほーしゃして……)
 マリーは念動力の波長を意識に集中させ、睡眠波を集団に向けて放つ。
 勇んでやってきた青年達は、みな脚がもつれて崩折れてしまった。
「な、なんだこれは……」
「ま、瞼が、重い……」
「よーし! ほらほら、みーんなおやすみの時間だよー!」
 ご満悦といった様子で現れるマリー。青年達は眠気に必死に抗っている。
 しかしもう立つことは出来ないようで、恨めしげに少女を睨めつけた。
「こ、小娘が……」
「むう、マリーその"こむすめ"ってゆーのキライ! なんかムカつくもん!」
「こんな子供ごとき、に……不覚」
 鉛のように重くなった手足で、青年はなおも立ち上がろうとする。
「へー、すごいね! まだガンバるんだ。"ふたいてんのけつい"っていうやつ?」
「そうとも……我らもはや、命は惜しくなし……!」
「なにそれ、つまんないの。マリーよりずっと長生きできるのに」
「語って聞かせるつもりもない……文句があるならば、いっそ殺せ……!」
「――殺していいの?」
 マリーの手には、禍々しい蛇腹剣があった。
「いいんだ? いいんだよね。だっていのちなんて惜しくないんでしょ?
 なんかマリー、むかむかしてきちゃった。やっぱり悪いヤツは――」

「ま、待ってッ!」
 悲鳴じみたその声に、マリーはきょとんとした顔で振り向いた。
 女がひとり、オペラホールから飛び出してきて叫んだのである。
「ま、待って、ください……こ、殺す必要は、ないと思い、ます」
「だれ?」
「わ、私は……チエです。今日、ここで歌う予定だった……」
 マリーは首を傾げる。彼女にはあまり具体的にはわからなかった。
 ……実際、チエと名乗る女性は、今日の催しのメインスタァなのだ。
 彼女はこの襲撃に際し、まずホール内で保護された人々をなだめていた。
 そこで妙な気配を察して出てきてみれば、このとおりというわけだ。
「でも、この人達、あなた達のこと殺そーとしてるんだよ? 悪いヤツらだよ」
「……それでも、いけません。やめてください」
「ふーん」
 わけがわからない。だが、その表情は青ざめていて"楽しくなさそう"だ。
 なら、やっぱりやめよう。マリーはおとなしく武器を下ろした。
 青年は恨めしげにうめき、そしてついに耐えきれず眠りの沼に落ちる。
「あっちもこっちも、へーんなの!」
 無邪気に言うのは、マリーだけであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヌル・リリファ
アドリブ連携歓迎です

ふうん。しんでもかなえたいことがあるってくらいの覚悟なら説得は無意味だろうね。わたしもマスターにいわれたことだったらなにいわれてもかえないし。
そういう相手をとめるなら、実力行使しかない。

シールドを展開。一般人を【かばった】り、こっちにくる相手を【シールドバッシュ】でとどめるのにつかう。

あとは一応殺さないほうがいいらしいしそらをとんでひとりづづ無力化していくよ。


(一応気絶させる程度にとどめようとはしますが、危険と判断したら殺すことを躊躇う事はありません。
また、腕や足を折る・切り落とすなど苦痛を与える形で無力化することも躊躇いません。)



「た、助けてくれーッ!」
「大正を終わらせるために、死ねッ!」
 悲鳴と怒号が飛び交う、まさしく阿鼻叫喚のざまと化した劇場前。
 逃げ惑う人々を守るのは、ヌル・リリファが展開した光のシールドだ。
 敵はなにやら"グラッジ弾"とかいう妙な影朧兵器を持ち出し、
 容赦なく銃撃を仕掛けてきていた。おそらく、威力は絶大なものだろう。
「あれ、ヤなかんじがする」
 ヌル自身は空に浮遊し、敵の配置と戦況を冷静に俯瞰する。
 ……そして実際、彼女の第六感は正しい。
 グラッジ弾もまた甲冑と同様、廃棄されたはずの前大戦の異物である。
 場合によっては、それが新たな影朧の呼び水になりかねない。
 殺すか? そのほうが手っ取り早くはある。相手も予想以上の殺意だ。
 グリモア猟兵はああ言っていたが、民間人の保護を優先するなら、
 さっさと息の根を止めてしまったほうが話は早いし、安全なのもたしか。
 ヌルは試しに考えた。こんな時、"人間"ならどうするだろうかと。
 戦闘人形としての判断は、当然手段を厭わない。まあ手間も惜しまないが。
 たとえば、彼女の知る中でもっとも殺しの技に長けた彼ならどうだろう?
 どうでもいい、と言って、躊躇なく頭をふっとばしていただろうか?
 きっと、否だ。なんとなく、それは確信することが出来た。
 あるいはハッカーなら、はたまた電脳の少女なら……。

(――わたし、なにかんがえてるんだろう?)
 そしてヌルは、そもそもその思索が無駄であることを思い出した。
 必要のない行為である。いちいち他者に照らし合わせて行動を吟味するなど。
 戦場において優先されるべきは自己判断であり、そのための材料は揃っている。
 マスターの命があったならば、もちろん話は別だが……。
 ……やはり、殺傷はまだ必要ない。無力化で十分だと彼女は判断した。
 急降下してシールドを振り下ろし、弾幕を遮りながら昏倒させる。
 実際に行動に起こせば、かかる手間はあっさりしたものだった。
「ゆ、許せ利鷹、我らは……ッ」
 口惜しげに呻いて昏倒した青年を見下ろし、ヌルは一瞬だけ佇んだ。
 彼の呼んだ名は、おそらく影朧甲冑の乗り手のことだろう。
 もはや救うことの出来ぬ男。その不退転の決意が彼らを後押ししたか。
 敵なりに、結束力は強いらしい。ヌルはその熱を浴びて……。
「……そんなにだれかのことを想えるなら、こんなことしなければいいのに」
 無意味だろうと思っていた言葉を、誰に云うともなく呟いた。
 実際に言葉として投げかけたところで、もはや幻朧戦線は止まるまい。
 だからこれも無駄なノイズ。考えなくていいことだ。けれども。

 ガラス色の瞳を瞬かせ、少女は再び空に舞い上がり戦場を見下ろす。
 恐れはない。脅威ではあるが、オブリビオンに比べればよほどマシでもある。
 なのに。熱に浮かされたような、あの若者達の姿を見ていると、
 妙に自分と自分が関わってきた人々のことが思い起こされて、胸がざわついた。
 平たく言えば――彼らのことを、他人事とは思えなかったのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

緋翠・華乃音
今の世を変えてどうしたいと君らは望むんだ?
その熱意と矜持は結構だが、理想の為に他者を犠牲にして良いとは思えないな。

……いや、変革には少なからず痛みを伴うものか。
だがそれは必要に迫られてのこと。意味も無く流れる血ほど虚しいものはないだろう?

桜の花のように散るのは君たちの方だ。


陣取る場所は可能な限り後衛。
前衛が討ち(或いは捕縛)漏らした敵を狙撃で処理していく。

命を奪うことに何ら抵抗は無いが、出来るだけ首から上と心臓は狙うのを避ける。
集中的に狙うのは四肢の付け根。

戦況によって狙撃より接近戦の方が効率が良いと判断した場合はその直感に従う。
人ならざる知覚によって敵の一挙手一投足まで把握して戦闘を行う。



 燃えるような熱意、鋼のような矜持、大いに結構。
 どんなものであれ、魂を燃やして生涯をかけるのは尊いことだ。
 理想を謳い世を変えようとするのは、ある意味猟兵とて同じなのだから。
 世界を渡り、頼まれてもいないのに未来を覆う闇を払う。
 それは――もちろん猟兵によって信念や事情はあれど――はたから見れば、
 あまりにも壮大で現実味がなく、ともすれば彼らのように狂気的にも移ろう。
 たとえば緋翠・華乃音には、義憤や正義感と言ったものは存在しない。
 瑠璃のような透明な心を持つ彼にとって、敵は敵でありそれ以上の価値はない。
 世界を救いたいというひたむきな欲求も、
 悪党どもを嘲笑うニヒリズムも、何もない。
 ――だからといって、犠牲となる他者を見過ごすつもりはない。
 ましてやそれが、あえて平和を破ろうとするような手合の仕業ならば、
 人として猟兵として、一個の生命として、彼は彼なりに戦うのだ。

 だからこそ華乃音はここに来た。
 だからこそ華乃音は、群がる幻朧戦線の若者を止める。
 しかし彼らを見るその瞳は、氷のように冷ややかで凍てついていた。
「ぐあっ!!」
 腕と脚の付け根を狙撃された若者が、苦悶をあげながら倒れ込む。
 華乃音はそんな若者を見下ろし、何の気なしに問いかけた。
「今の世を変えて、君らはどうしたいと望むんだ?」
「ぐ、う……な、何……?」
 若者は華乃音の顔を見上げ、その感情の宿らぬ瞳に畏怖を覚えた。
 磨き上げられた鏡のように、
 あるいは透き通った朝露のように、
 その瞳に映る若者自身の姿が、自罰的な感情を呼び起こす。
「理想のために無辜の市民を犠牲にするのなら、確固たる目的があるのだろう」
「そ、それは……戦乱によって、この世界を真に進歩させるための……」
「具体性のかけらもない理想論。それで世界を壊すつもりなのか」
「…………」
 若者は答えに窮する。顔に冷水を浴びせられた気分だった。
 熱狂とは恐ろしいものだが、醒めてしまえば拍子抜けするほど他愛ない。
 華乃音の問いかけは、図らずしも彼を正気づかせたのである。
「変革には少なからず痛みが伴う。だがそれは、必要に迫られてのことだ」
「……ひ、必要、なのだ。この世界には。それが!」
「君達が定義することじゃない」
 にべもなく一蹴する。
「それでもなお、人々の命を奪うというのなら――」
 銃口が若者の額にマウントされた。
「桜の花のように散るのは、君達のほうだ」
「…………」
「俺は、君達の命を奪うことに抵抗はない。けれどこうして生かしている」
 BLAMN。迫りくる別の戦士を、華乃音のぞんざいな射撃が足止めした。
「その意味はわかってるんだろう。君達の理想は、土台叶わない大言壮語だ」
「……けれども、あいつは……利鷹はもう、命を捨ててここにいる。
 それに報いられねば、俺達はあいつを裏切ったようなものじゃないか……!」
 利鷹。おそらくはあの影朧甲冑に乗り込んだ青年の名だろう。
「――それを許した時点で、君達は彼を裏切ったようなものだ」
 なによりも残酷な真実を突きつけられ、若者は嗚咽した。
 華乃音はもはや彼に構うことなく、次の乱入者を待ち構える。
 その瞳は、氷めいて凍てつき、どこまでも透明だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミザール・クローヴン
貴様らの思い通りにさせるか!
學徒のひとりとして、この國の護りとして
貴様らの野望をこの場で潰してやる!!

前線、ひとりでも多くを救うべく、駆ける
一般人の避難ならばおれ様でなくとも可能だろう
が、こいつらを殺さず、壊して、叩き直すのは容易ではない
おれ様なら出来る。やれる

戦術思考開始、武装接続完了
切り裂く黄金で影朧甲冑ごと中の誰ぞも切り裂く
案ずるな、見えはしないが貴様は殺さん
おれ様が殺し壊すのは貴様が理想へ捧げた決意――戦う意思のみだ

貴様らを死なせん
貴様らも死なせん
おれ様は貴様らも救い出す
目の前で死なれてたまるか
死して願いを叶えようとするな、生きて望みを掴み取れ!
出来ないならば其処で大人しくしていろ!



 ふざけるな。
 ふざけるな。
 ふざけるな。
 ……ミザール・クローヴンの頭の中を、ぐるぐると同じ言葉が巡っている。
 イライラする。それは、影朧どもに対する苛立ちとよく似ていた。
 命を捨てて大正を終わらせる? そのために無辜の帝都民を犠牲とする?
 ふざけるな。この護国の戦士たるおれ様を前にして、大言壮語を抜かすな。
 誰ひとりとして殺させはしない。
 誰ひとりとして死なせはしない。
 ミザールは憤っていた。熱した鋼の如き、静かで熱い怒りである。
 戦術思考がもたらす合理的なメンタルでなお、彼の怒りは収まらなかった。
 それは、心優しい者だからこそ持ち得る、烈しい憤怒だ。

『……! 来たか!』
 歩兵に任せて進軍していた影朧甲冑=利鷹は、瞠目した。
 ひとり。猟兵が、他の仲間を意に介さずまっすぐこちらへ来る。
 ここで己がやられれば、そもそも今回の作戦は完全に瓦解してしまうだろう。
『やられてたまるものか。大正の世を終わらせるために!!』
「腑抜けども、どけ! 貴様らにおれ様を阻む資格はないッ!」
 行く手を遮る青年どもを蹴散らし、ついにミザールが肉薄する。
 影朧甲冑は蒸気を噴き出して巨大な刀を構え、黄金の機械爪を迎え撃った。
 がぎん――!! と鋼と鋼がぶつかり合い、火花を散らす。
(この鎧……分厚いだけじゃない。影朧そのものを纏っているのか!?)
 ミザールはその手応えに驚愕する。そして然り、甲冑の護りは二重なのだ。
 動力に利用された影朧の恨みは、漆黒の靄めいて甲冑を覆っている。
 護ろうとしているのではない。逃れようとしているのである。
 動力として燃料として燃やされるのは、影朧にとって至極の苦痛なのだから。
「チッ……おい、見えないが甲冑の乗り手! 貴様はなぜそれに乗った!!」
『知れたこと。我らの大義のためだ!』
「大義のためだと。そのために、不退転の覚悟とやらで命を捨てたか!!」
 激昂するミザールに、背後から幻朧戦線の兵士達が組み付いてくる。
 殺到する兵士を振り払い、ミザールはなおも叫んだ。
「いいか、よく聞け! おれ様は貴様らに殺させん。誰も死なせん!」
『ならば押し通るのみ!』
「勝手にしろ。おれ様は――貴様ら"も"死なせんからな!!」
 利鷹は、ミザールの言葉にコクピットの中で目を見開いた。
 救う? 我らを? 不退転にして決死の覚悟を決めた我らを?
『……嘗めるなよ學府の犬め。我らは貴様に救われる筋合いなどない!!』
「知ったことか! 死んで叶えようとする願いになど何の価値もない!
 貴様らもだ! どうせ何かを望むならば、生きて掴み取ってみせろッ!!」
 黄金の爪が大地をひっかく。衝撃が放射状に兵士を吹き飛ばした。
 今は、あの甲冑と正面衝突するには状況が悪い。ミザールは歯噛みする。
 苦み走った顔で撤退しながらも、少年はなおも叫び続ける。
「おれ様は……貴様らの野望も、自死も、見過ごすものか……ッ!」
 苛立ちが沸き立ち続ける。
 はらわたが煮えくり返りそうな、熱した鋼のような怒りがこの胸にある。
 だのに――双眸からは、なぜか涙が溢れそうで仕方がなかった。
 少年は、戦う。こみ上げる涙を奥歯噛み締めこらえながら、戦い続ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

和島・尊
●プレイング
■心情
……幻朧戦線、か
そこまでの想いを持てるということは、ある意味羨ましいものだね
だが、その行いを良しとする訳にはいかない
故に……全力で、止めさせて貰おう

■戦闘
氷結男爵で全身を氷に変化させ、足場に冷気を這わせ一般兵の足を凍らせていくとしよう
それでも動こうとするものがいれば、近づいてその身体を死なない程度に凍りつかせていく
これで、戦う意思を折ることができればよいのだが……

■その他
アドリブ等は大歓迎だよ



 幻朧戦線。
 學徒兵の一員として、その名を耳にしたことは一度きりではない。
 彼らは皆、この大正の世を憎み、歪んだ間違いだと言ってはばからないのだ。
 間違いなく、帝都に牙を剥くテロリスト集団である。
 摘発のための作戦は何度も行われているが、功を奏していない。
(……そこまでの想いを持てるということは、ある意味羨ましいものだ)
 和島・尊は、心のなかで思う。口に出したりはしない。
 仮にも學府の戦闘員として、テロリストに敬意を払うなど不謹慎だからだ。
 ましてやこの状況。任務を遂行するのに、雑念は不要である。
 ゆえに彼はその敬意を戦意に変え、向かってくる若者達と相対した。
「さあ進め皆の者! 大義は我らにありーっ!!」
「実に熱血で好ましいね。だが――その頭、少し涼めてあげよう」
 尊の体がパキパキと霜を張る……いや違う、冷気は彼自身から放出されている。
 そしてその体は霜を這ったのではなく、冷気そのものに変身していた。
「こ、これは!? まさか……氷結男爵(ミスタア・コォルド)か!」
「暴走する車両であろうとたちまち凍りつかせるという、あの……!」
『ほう、私の名を知っているのかな? それは光栄だ』
 いまや尊は、人型のシルエットを持つ冷気の化身と化していた。
 その二つ名に由来するユーベルコヲド――"氷結男爵"。
 逆巻く海原であろうが、
 暴走する大型トラックであろうが、
 本気を出した尊にかかればたちまち凍りつき動きを止める。
 學徒兵として振るわれたその力は、テロリストにも有名らしい。
『ならばわかるだろう。私が来た以上、君達の行為は全力で止めさせてもらう。
 殺すつもりはないが、反抗するならばそれだけ苦しくなるよ。どうかな?』
「……ッ、な、嘗めるなよ氷結男爵! 我々は不退転の覚悟でここに来た!」
「いまさら貴様ひとりに、臆していられるものかぁーっ!!」
 軍刀、槍、はたまた剣呑な銃器などの武器を構え、若者達が来る。
 凍れる化身は、眉根を顰め悲しむような表情を作った。
『そうか。では――存分に、凍らせてあげよう……!』
 ぱきぱきと霜がウィルスめいた速度で地面を覆い、兵士らの脚を伝う。
 下半身をまるごと凍結し、それでも暴れる者があれば四肢を凍結。
 心臓や呼吸器と言った重要な器官は避け、完全に無力化してしまう。
「く、くそっ! 動けない……ッ!」
『……君達のその決意。せめて學府のために振るわれればよかったものを』
 底冷えするような冷気が戦場を支配する。
 尊はそれでもなお、道を誤った若者達を見て頭を振った。
 ――己にも、そのぐらいの燃えるような熱意があればよかったものを。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒城・魅夜
私は希望の依代にして希望をつなぐもの
ゆえに、幻朧戦線よ、あなた方の「希望」も頭から否定はしません
……ですがあなた方の「希望」が他の方々の希望を蹂躙し
他の方々の未来を顧みないものとなった今
それは名前を変えるのです
……「邪悪」とね

時を操り超加速して戦場を走り抜けましょう
「残像」を作り出しつつ、私本体は「闇に紛れ」て敵の目を欺き
「見切り」「第六感」で相手を見極めながら
「早業」「ロープワーク」「範囲攻撃」「スナイパー」で広範囲に鎖を撃ち出して敵兵を攻撃
鎖に触れた相手に「生命力吸収」して無力化していきましょう

「精神攻撃」「呪詛」「情報収集」で
捕縛した敵兵から影朧甲冑とやらの情報を聞きだせるといいのですが



 希望の依代にして希望をつなぐもの。
 己をそう定義する黒城・魅夜にとっては、彼らの決意もまた同じ"希望"だ。
 その在りよう、思想、覚悟をけして否定はしない。
「ですが、あなたがたの希望(それ)が、他の方々の希望を蹂躙するならば。
 他の方々の未来を顧みないものになったのならば、もはや話は違います」
 鎖で縛られた若者達を見下ろし、魅夜は静かに言った。
 残酷なまでに感情を籠もらせない、どこまでも冷たい声で。
「――それは"邪悪"と名前を変えるのです。ゆえに、見過ごしません」
 一流の戦士たる魅夜にとって、敵は烏合の衆も同然である。
 狙いがオペラホールとわかっているなら、正面に陣取って迎撃すればいい。
 風を後に引く速度で駆け抜け、鋼鎖を展開し手足を縛る。
 時をも欺く悪夢の滴にとっては、目を瞑っても出来る仕事だった。
「……それはそれとして、幻朧戦線よ。あなたがたに聞きたいことがあります」
「聞きたいこと、だと……?」
 鋼鎖に生命力を奪われ、若者達の意識はぼんやりとしていた。
 さながらそれが自白剤めいた効果を生み、魅夜の言葉に逆らえなくする。
 彼女は、相手を殺さない程度に弱らせる手管を知り尽くしていた。
 まるで一流の拷問吏めいた、無慈悲だが容赦のある技量だ。
「あなたがたが頼みの綱としているあの"影朧甲冑"とやらについてです」
「……ッ」
「あれに搭乗した者は、もはや生きてそれを降りることは出来ない。
 そのことはご存知なのですか? 知った上で、見過ごしたと?」
「……見過ごしたのでは、ない……我らは、同志として彼の決意を……」
「表現はどのようにでも変えられましょう。ですが、それが現実です」
 魅夜は淡々と言う。
「仲間を見殺しにし、自ら命を捨ててまで叶えようとする邪悪、それこそが、
 あなた達の謳う大義とやらの正体であり、やろうとしていることなのですよ」
「…………」
「……それで? 搭乗者の名はなんと?」
「……利鷹、式山・利鷹……だ」
 若者はぽつぽつと語る。
「今回の作戦に際して、甲冑の搭乗者が立候補形式で集められた……。
 奴は最初に名乗りを上げ、必要なテストをクリアし認められたのだ……」
「愚かなことですね……」
「だが、このオペラホールが作戦目標になるとは……皮肉な、ものだ」
 若者の言葉に、魅夜はぴくりと眉を動かした。
「どういうことです?」
「……我らの目標はこの大劇場、そして……ここに来た、ひとりの女」
 魅夜は大劇場のほうを見やる。避難者達がざわついていた。
 それをなだめているのは、本来ここで公演をするはずだったスタァの女性。
「……あの女は……ヤツの、利鷹の……知己なのだから、な……」
「…………」
 魅夜は眉根を顰める。若者の口振りからして、搭乗者はそれを知るまい。
 遠くホールの入り口では、パニック寸前の民間人を落ち着かせる女の姿。
 その横顔は、彼女自身もそんな事実を露知らないことを意味していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルトリウス・セレスタイト
命懸けなら良いというものでもないぞ

絢爛を展開
起点は現地の空気
秩序の原理により任意の対象に「害すること」を禁じる空間を作り出し周辺一帯を覆う

対象は幻朧戦線の構成員
但し構成員の殺害を意図した動きがあればその実行者も対象に
『天光』で状況は逃さず把握

逃げはしないと考えるが別の場を狙うくらいはあり得るか
離脱を試みる者から優先して幻朧戦線構成員を捕縛する
必要に応じ『励起』で能力上昇、『刻真』で加速
魔力は『超克』で“外”から汲み上げる


玉砕もお断りだ
頭を冷やすが良い

※アドリブ歓迎



 命を懸けるに値するものを、己は知らない。
 そんな熱情は裡になく、ゆえにアルトリウス・セレスタイトは孤独だった。
 繋がりの有無ではない……精神性の問題だ。
 多くの猟兵達のように、生き生きと感情を燃やすことが出来たなら。
 あるいは、煮えたぎる憎悪や憤怒をくろぐろと揺らめかせられたなら。
 そのどちらも持たない己は、やはりただの人型の残骸に過ぎぬ。
 ――視界を灼かれるような憧憬に、空洞の胸まで焦がされることは何度もあった。

 だからアルトリウスは、決して幻朧戦線の者達を殺そうとはしなかった。
 もしもここに、嬉々として殺戮に走るような者が居たのであれば、
 彼はそのユーベルコヲドを躊躇なく味方にも向け、殺戮を止めただろう。
 幸い彼が見える限りにそんな猟兵はいなかったわけだが……。
「う、動けん! なぜだ……!?」
「この俺の前で、何者かを"害すること"はできん。お前はもはや誰も殺せん」
 切れ味を失った軍刀を手に、若者は混乱している。
「無論、お前自身もな。俺の光が届く限り、ここで命は散らさせんよ」
「なんだと? ふざけたことを! 我らの不退転の覚悟を愚弄しているのか!」
 アルトリウスは怒号にも眉一つ動かさず、魔力の圧で若者を圧した。
 見えない圧力に膝を折る若者。恨めしげにアルトリウスを睨め上げる。
「我らに……生き恥を晒せというのか……!!」
「俺のような者が、お前達と言葉を交わして納得させられる自信はない。
 だが……命懸けであれば、どんなものもいいというわけではないぞ」
 立ち上がろうとする若者を魔力でねじ伏せ、アルトリウスは言う。
「罰は逃れられないだろう。だがここで死なれるのは、誰しも御免だ。
 ……少し頭を冷やすがいい。それでもなお理想に殉じるというのならば」
「ぐ、うううう……ッ!!」
「せいぜい、好きにしろ」
 圧力に耐えかね、若者は意識を手放した。
 倒れ伏す敗者の姿を見下ろすアルトリウス、その双眸に感情の色はない。
「……何かに命を懸けようと想えるだけ、恵まれたものだと俺は思うがな」
 その呟きは阿鼻叫喚の喧騒にかき消され、誰にも届くことはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アナスタシア・ムスハルト
まぁ、本人たちがどう思ってようが、やってることは結局ただのテロリストなのよねぇ
綺麗な劇場、どうせならお客として来たかったわぁ

振り回される軍刀を「見切って」、こっちも刀で斬り結ぶわぁ
命を捨ててでも、っていうのはたしかに強いんだけど、それだけなのよねぇ
ここで死んでもいいって思ってるから、防御や回避が疎かなのよ
だからこうして――最初の一太刀を凌がれたら、隙だらけ
がら空きの胴体を「怪力」で殴りつけるわぁ
昏倒したら手なり足なりを掴んで、「びったんびったん」で敵の方へ投げつけるわよぉ
隊列が乱れたところに斬り込むわぁ
殺しはしないけど、人を斬ることに躊躇はないわよぉ
手足の一本くらいは覚悟しなさいねぇ?



 横濱歌謡大劇場は、帝都に名だたるオペラホールの中でも指折りの大きさだ。
 長い歴史を歩んできた趣深い施設でもあり、地元の人々に愛されている。
 本来であれば、きっと和やかなムードで公演が催されていただろう……。
「ほんと、どうせならお客として来たかったわぁ」
 壮麗ある大劇場の様相を見上げ、アナスタシア・ムスハルトは嘆息した。
 いまや劇場を包むのは、歓声や賑やかさではなく阿鼻叫喚の悲鳴や狂乱。
 品のいい来場客達が起こす、恐怖と混乱の叫び声でごったがえしていた。
「うおおおおっ! 大正の世を終わらせるために、覚悟ーっ!!」
 時代錯誤な軍刀を振り回す若者どもは、目を血走らせて叫び続ける。
 アナスタシアはうんざりといった様子で頭を振り、その間に割って入った。
「世の中を変えるだとかどうとか、ご立派なお題目を叫ぶのは結構だけどぉ」
 がぎんっ!! と、振り下ろされた軍刀を軽く受け止める。
 体格で見れば、アナスタシアは若者の2/3……ともすれば半分程度の背丈だ。
 だのにその膂力は、鍛え上げた青年よりも明らかに上である。
 ドワーフであることを差し引いても、格別の膂力と言えよう。
「何……ッ!?」
「やってることは結局、ただのテロリスト。それがあなた達の本性、よッ!」
 アナスタシアは急激な力をかけ、バネのように軍刀を弾き飛ばした。
 溢れ出るほどの力を殺しきれず、青年はたたらを踏んで胴をガラ空きにする。
 アナスタシアはすでに踏み込んでいる。そして脇腹への強烈なブロー!
「がはっ!?」
 内臓が破裂しそうなほどの激痛に、若者は目を見開き悶絶した。
 倒れ込む若者の手を掴み、アナスタシアは……それを、思い切り投げる!
「どうせ死にたがりなら、あなた達同士で遊んでなさぁい!」
 ぶおんっ、と剛速球めいて投げつけられた若者に、あちらは混乱する。
 そして隊列が乱れた瞬間、アナスタシアは稲妻の如き速度で斬り込んでいた。
「な、なんだこの馬鹿力は!?」
「馬鹿とは失礼ねぇ、あなた達よりはマシよぉ?」
 容易い敵だ。アナスタシアは刀を返し、峰打ちに留める。
 人を斬ることに躊躇のない彼女は、手足の一本二本は切り落とすつもりでいたが、
 そこまでする力量の相手ではない、と判断したのである。
「まったく、こんなにきれいで楽しいものがたくさんの世界なのにぃ、
 それをわざわざぶち壊したがる気持ちがわからないわぁ。もったいない……」
 アナスタシアはもう一度、立派な大劇場を見上げた。
 それは人々の平和の証。日常の象徴であり、壊してはならないものだ。
 世界を見聞する好奇心旺盛な少女は、そのありふれた自由を愛する。
 だからこそ、ここでわけのわからないテロリズムに付き合うわけにはいかなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鹿地院・澄蝶
POW

おぉおぉ、熱血なこって
でも暑苦しいんは好みやないわ、ちょいと血ぃ抜いたろか
っちゅうことで兵隊んとこに飛び込んで暴れたるで!

言うてもこの数相手に乙女の腕2本では手ぇが足りんし
【神降ろし「どるが」】!女神はんからお手を拝借、猫の手ならぬ神の手借りよか
10本の腕で攻撃を捌きながら殴りまくりや
四方からこられても対処は腕2本ずつでまだ余るってな

本来なら武器も持っとるものなんやけど、殺しはあかんし刃物は勘弁したる
そん代わりゲンコツは思っきしコン!といったるからな
「さあさあ「近づき難い者」の憑り代に一発当てよ思う猛者はおらんかいな!」



「くそっ、猟兵どもめ……我らの大義を邪魔するか!」
「臆するな、こちらには数の利がある。グラッジ弾も出せ!」
 劣勢を見て取った幻朧戦線の若者達は、むしろ士気を高揚させ突き進む。
 奴らの作戦の要は影朧甲冑であり、歩兵はその活路を拓くための捨て石だ。
 もしも猟兵達が殺すつもりでかかっていたとしても、
 彼らは臆さず命を捨てて、命を捨てた同胞に報いたことだろう。
「おぉおぉ、熱血なこって……でも、暑苦しいんは好みやないわ」
 鹿地院・澄蝶は貴族令嬢めいて、豪華な扇で口元を覆い、眉根を顰めた。
 立ち振舞だけ見れば貴人そのもの……といってもその性質は大概なのだが。
 しかし、あの熱血テロリストどもに比べれば、自堕落粗忽者もマシであろう。
 己の命を捨て、人々が謳歌する平和を壊そうとするなど、ろくな行いではない。

 澄蝶はぱしん、と扇を閉じた――その下に隠されていた口元は、笑っている。
 よく見ればそれらしく顰められていた目元も、にんまりと愉快げだ。
「せっかくやし、あちきも暴れさせてもらおか。ちょいと血ぃ抜いたるで!」
 気品ある見た目にそぐわぬ、実に彼女らしい解決方法であった。
 そしてのしのしと歩き出す彼女の肩と脇の下から生えてきたのは……腕である。
「なんだあれは? ユーベルコヲドか!?」
「へっへーん、ええやろ? 猫の手ならぬ神の手借りた十刀流やでぇ!」
 荒ぶる女神の如き多腕の一つ一つには、神々しい神器のレプリカ。
 三叉戟、槍、羂索、弓矢、刀、独鈷杵……それぞれが強力な器物だ。
「いっぺんにかかって来ぃや! 乙女の腕で相手ぇしたりますえ!」
「嘗めるなよ、かかれっ!」
 腕に覚えのある若者たちが、軍刀や槍を構えて飛びかかった。
 さらに後方から、恨みを籠めた"グラッジ弾"による狙撃まで来る始末。
 普通であれば対処不可能――しかし今の澄蝶にとっては、朝飯前だ!
 ――がきん! と、刃や矛、そして弾丸すらも神器に弾かれていた!
「な……ッ」
「なんや、もう終わりかえ? せやったら、次はあちきの番やな!」
 澄蝶は神器を消失させ、代わりにぎゅっと拳を握りしめた。
「殺しはあかんし勘弁したる――代わりにゲンコツで思いッきし「コン!」や!」
 SMAAAASH!! 鋼をも砕くであろう豪腕が同時に大量の敵を叩きのめした!
 砲弾めいて吹き飛ぶ若者達に巻き込まれ、別の兵士も薙ぎ払われる。
 空白と化した戦場をのしのしと威風堂々突き進み、澄蝶は腕組し身構えた。
「さあさあ、"近づき難い者"の憑り代に、一発当てよ思う猛者はおらんかいな!」
 傍目から見れば貴人なれど、その戦いぶりは鬼神の如し。
 不退転の覚悟を決めた兵士達ですら、その威風と自信に呑まれ手が出せぬ……!

成功 🔵​🔵​🔴​

国包・梅花
SPD

まずは一番元気であろう先頭集団に【殺気】を放ちましょう
この梅花の剣気と、妖刀の怨気にて怯まぬなれば
決死の覚悟があるとお見受けいたします
さればその覚悟、斬って落とすまで

用いるは我が奥義【渦蛇喰】にて
狙うは一般兵の持つ武器、そして(巻いていれば)襟巻き
「首を切られた」と【恐怖を与える】刃の閃きを見せましょう

「志を持つは結構。しかし蛮勇のまま来るならば…この剣にて瞬きの間に、ただ終わります。それでもなお、参りますか?」

脅し…「説得」にて通じねば、我が剣気の至らぬ所恥ずかしい限りですが鞘か峰で【気絶攻撃】
あるいは【グラップル】…柔の技にて投げ飛ばしをば
私の「説得」が通じれば良いのですけど



 鬨の声をあげ、熱狂的革命精神に取り憑かれた若者達が殺到する。
 彼らの頭の中にあるのは独善的な正義であり、ゆえに説得は極めて難しい。
 痛めつけて黙らせるにしても、生半可な攻撃では火に油を注ぐだけだ。
 良きにつけ悪しきにつけ、怒りや恐怖はヒトの心を麻痺させる。
 国包・梅花は、そのことをよく知っている。
 ……だからこそ彼女は逆に、最悪の場合をも想定した上で事に臨んだ。
 活人剣とは、殺人よりもなお難く険しい道を征く剣技なのだから。

 ……そして、今。
 一気呵成の勢いで猛進していた幻朧戦線の若者達は、
 たった一人のうら若き――姿をした――乙女を前に、微動だにしなかった。
 否、動けぬ。張り詰めた殺気が、彼らを彫像の如くに縫い止めている。
 彼らにとってはそのことが腹立たしく、それ以上に梅花が恐ろしくて仕方ない。
 少しでも身動ぎすれば、そのまま首を刎ねられてしまうのではないかという恐怖。
 ……良きにつけ悪しきにつけ、怒りや恐怖はヒトの心を麻痺させる。
 まさにそうして、彼らは狂乱の熱から引きずり降ろされたのであった。
「志を持つは結構。しかし蛮勇のまま来るならば……」
 ちきり、と、梅花は鯉口を切った。
 実のところ、彼女はすでに一度刃を抜いている。
 ただし斬ったのは、若者達ではなく彼らが持つ武器そのものだ。
 神速の抜刀による壊器術――腕自慢の若者達をして目視すらできなかった。
 今の鞘鳴りは、いわば最後通牒の代わりに鳴らしたものである。
「この剣にて、瞬きの間に……ただ、終わります」
 誰かが、ごくりと生唾を呑み込んだ。
 ……彼女がそうしようと思って剣を振れば、現実になるとわかったからだ。
「それでもなお、参りますか?」
 じっとりとした殺気があたりに重くのしかかり、沈黙をもたらした。
 命を懸けたはずだった。
 死など惜しくないはずだった。
 だが――現実にちらつかされた恐怖は、彼らの想像と覚悟を越えていた。
「……投降、する」
 誰かが言い、刃の折れた剣を捨てた。
 そして他の若者達もそれに続き、膝を突いて頭の後ろで腕を組む。
 白旗の代わりだ。梅花は、そこでようやく緊張を解き、息を吐いた。
「"説得"が受け容れられたようで、嬉しく思います」
 まだ敵は来るだろうが、少なくともこの一団を抑えることはできたのだ。
 しかしそこで、若者の一人が嗚咽を漏らした。
 恐怖ゆえか? 否である。梅花は訝しむ。
「畜生……すまん、利鷹、許せ……ッ」
「……それは、あの影朧甲冑に乗っている方の名ですか?」
 悔しさに涙を流す若者は、梅花の言葉にこくりと頷いた。
 すでに死を覚悟した同胞に報いれなかったことを、嘆いているのだろう。
「……いっそ、その死さえも斬って捨ててしまえればよいのに」
 迫りくる甲冑を睨み、梅花は悔しそうに歯噛みした。

成功 🔵​🔵​🔴​

矢来・夕立
狭筵さん/f15055
目的:避難誘導の援護

ご依頼ありがとうございます。暴力はお任せください。
高いぶんよく働くんですからイイでしょう。

公演中の劇場。民間人の混乱。
《忍び足》の用もないかもですね。
移動には劇場の建築構造も利用します。
上から俯瞰する形で狭筵さんの周囲を警戒。
行く手に道を作って、追っ手は排除。

殺しちゃうほうがラクなんですけど、嫌がるでしょうから。
依頼人の顔を立てて、全員不殺で許してあげます。

【梔】。気絶に留める。
『朽縄』での捕縛、無力化。柄打ち。
蝙蝠の式も体当たりだけ。

歌劇に思い入れがあるんじゃないですか?
或いは民衆の娯楽を奪う。心の拠り所を壊す。
立派な破壊工作ですよ、こういうのも。


狭筵・桜人
◼️矢来さん/f14904

泰平の世に在っても格差や思想、音楽性の違いで
人々が争いあう姿は実に愚かだと思いません?
興味ない?ンッフフ。全然聞いてない。

仕事の依頼です。暴徒は任せました。
すげえ金取るんですからあの暴力漢。

エレクトロレギオン全機で民間人を包囲。
暴徒と民間人の間に壁を作り追い立てるように避難誘導。うーんまるで牧羊犬。
足が遅い小さいのとお年寄りはなるべく直接拾って行きます。

勢い余って殺さないでくださいね。
この混乱の中に死体を棄てたら踏み荒らされて
目も当てられないことになるので。

こんなところで暴れてレジスタンスを気取ろうってのも可笑しな話ですよね。
フーン……性格悪。概ね同意しますけど。




『……というわけで、依頼したい仕事の内容は以上です請け負ってもらえますか?』
『もちろんですよ。殺さなくていいならラクなんて。まあカネはもらいますが』
『……はあ!? なんですこの額、ボりすぎじゃないですか!?』
『では、商談はなかったことということで』
『あーあーはいはいわかりましたよ。ったく足元見やがって……』
『そのぶんよく働くんですからイイでしょう』
『そうですね! ……ああ、ただ私、思うんですよねぇ』
『なんですか』
『泰平の世にあっても格差や思想の衝突は、どうしたって生まれます。
 それこそ、売れっ子のバンドが音楽性の違いで解散するみたいにね』
『…………』
『そんなことで人々が争い合う姿って、実に愚かだと思いません? ねえ』
『このたびはご依頼ありがとうございました。では、あとは現地で』
 通話が切れる。
「ンッフフ。興味ないような顔してるんでしょうねえ、あの人」
 少年は実に愉快そうに嗤っていた。


 逃げ惑う人々を取り囲むのは、幻朧戦線の若者達……ではない。
 エレクトロレギオンで呼び出された機甲兵器の群れだ。
「はいはーい、はぐれると危ないですよー。急がず焦らず避難してくださーい」
 それを指揮する狭筵・桜人は、まるで学校の避難訓練めいた調子で言った。
 避難するのは皆、身なりのいい裕福そうな人々ばかり……と、いうわけでもない。
 現代で言えば中流家庭、ないしそれにやや劣る程度の身なりの者もいた。
「ふうん? こんな立派なオペラホールには似つかわしく無い気がしますけどねえ。
 ……それとも、ご公演のメインスタァのご所望なんでしょうかね、っと」
 桜人は、劇場の入り口近くにはためくいくつもののぼりとポスタァを見た。
 本来この劇場では、『門倉・チエ』なる女性スタァの公演が予定されていた。
 事前に彼が調べたところでは、もともと庶民の出だったらしい。
 この公演も、チャリティーの一環として行われたものなのだという。
 "こんなところ"で暴れてレジスタンスを気取る。それがどうにも引っかかった、
 ひねくれ者の桜人なりに見出した、グリモアでは知られなかった事実。
 ……あるいは、こんな女性だからこそ標的にされた、か?
「もしもし~? こちらクライアント。仕事の調子はいかがですかねえ?」
 桜人は通信端末を取り出し、これみよがしに言った。
 相手が忍びであることを見越した上で、わざと大声を出している。
 仕事を頼みたいのか邪魔したいのか、この若者の思考は今一わからない。
「片付けましたよ、おおよそね」
「うおっ!?」
 声は背後からした。矢来・夕立が、いつのまにかそこに立っている。
 なるほど彼の足元には、昏倒し捕縛された幻朧戦線のメンバーが転がっていた。
「ビビらせないでくださいよ、そういう依頼してないんですが?」
「仕事の報告に来ただけでしょう。つーか、あなたの周りもチェックしてましたから」
「それはありがたいですねぇ。……で? 矢来さんはどう思います?」
 桜人は先のポスターを親指で示し、小首をかしげてみせた。
 カゲはちらりとそちらを一瞥し、興味なさげに向こうを見やる。
「さあ。変人(カブキ)の考えなんて、オレにはさっぱりわからないんで」
「変人のくせによく言いますねぇ」
「顔殴ればいいんですか」
「どこまでも暴力しかねーなあんた! 私依頼人なんですけど!?」
 ぎゃあぎゃあと騒ぐ桜人のペースには乗らない。
「民衆に愛される娯楽の象徴、まあそういうのはテロのいいカモですよ。
 連中のやりたいことは、そういうありふれた日常を壊すことなんですから」
「ま、そうですねぇ。誰しも日常はいつまでも続くと思ってるもんです」
 また騒ぎがひどくなってきた。新手の連中が殺到したのだろう。
「昨日と同じ今日、今日と同じ明日。そんなもん続くわけないでしょうに」
「非日常に備えてないボンクラが言うと、説得力ないですね」
「性格悪く喧嘩売ってないで次の相手、お願いしますね」
 もちろんですよ、と言って、夕立は再び影となった。
「ま、概ね同意しますけどね」
 そう言う少年の口元は、あのときと同じように愉快そうな笑みだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アダムルス・アダマンティン
愚かなり。選ばれもせぬ身でありながら、鎧とも呼べぬ出来損ないに己が命を預けるなど言語道断
貴様らの熱は認めてやらぬこともないが、己が熱に浮かされて、傲慢になっているようだな
この俺が、手ずから醒ましてやろう

存在感で敵の注目を集め、庇うように敵の攻撃を受け止めよう
刻器、神撃
鎧砕きだ。捨て身になるが、甲冑の四肢を破砕する

遺憾だが、鍛冶の神性を喪った我が身では貴様らのその鎧をいかようにもできぬ
ゆえ、その手足を封じて大人しくさせよう。熱に浮かされた者など、戦いの中で殺す価値もない

下らぬ自己犠牲だ
奴らは己が命をあたら散らして、手前勝手に満足する
…奴らは遺された者のことを考えぬ

…今は亡き者を思うべきではないな



「――愚かなり」
 影朧の瘴気を纏う非人道的甲冑を睨み、アダムルス・アダマンティンは言った。
 こうして肉眼で視て、改めて思う。あれは、あってはならないものだ。
 オブリビオンとは世界を害する癌のようなものであり、
 どんな性質であれ、存在しているだけでその世界を滅びへと導く。
 この世界において影朧と呼ばれるそれらは、場合によっては救いようもある。
 ……だがあの影朧甲冑は、幽き救済の可能性すら放棄する最悪の代物だ。
 だからこそ、そこから引き出される恨みの力はすさまじい。
 輪をかけて最悪なことに、敵は別の非人道的兵器をも引っ張り出していた。
 それが、"グラッジ弾"。影朧の恨みを凝縮した、極めて危険な弾頭だ。
「選ばれもせぬ身でありながら、過ぎた力に己の命を預け恨みを徒に利用する。
 貴様らの熱は認めてやらぬこともないが、その傲慢さは目も当てられん」
 のしりと、岩山の如き巨体が進軍する。
 全身から放たれるオーラのせいで、アダムルスの背は数倍は高く思えた。
「この俺が、手ずから醒ましてやろう――来い。人の子らよ」
 殺気立つ幻朧戦線の若者達は、鬨の声をあげて銃器を構える。
 装填されたグラッジ弾は、場合によっては新たな影朧を呼びかねない代物。
 アダムルスは刻器の力を解き放ち、ただ一振りで弾雨を弾いた。
「な、何……!?」
「退くがいい。俺の狙いは貴様らではない」
 暴風じみた衝撃波が若者達を吹き飛ばし、昏倒させる。
 随伴歩兵を削がれ現れたのは……そう、まさしく影朧甲冑であった。
『何者か! 我らの歩みを邪魔するとは、學府の狗め!』
「俺を狗と誹るか。ならば貴様は、誇りを捨てた畜生にも劣るだろう」
『なんだと……!!』
 甲冑を纏う若者……利鷹は、昏いコクピットで歯噛みした。
 怒りを己の胸の炉に焚べ、闘志を燃やす。蒸気を噴き出し、甲冑が軋んだ。
 人を叩き斬るには巨大すぎる刀が、大上段に振り上げられる!
『ならば押し通る! チェストォッ!!』
「――ぬんっ!!」
 ごがんっ!! という轟音。アダムルスの足元の石畳が砕けた。
 彼はその槌を掲げて刀を受け止めたのである。なんたるタフネスか。
 甲冑と神とが拮抗し、みしみしと大気が張り詰めた。
「遺された者のことを考えぬままに、己が命をあたら散らし手前勝手に満足する。
 なにが不退転の覚悟か。貴様らのやっていることは、畢竟下らぬ自己犠牲よ」
『黙れ……ッ! このいびつな世を終わらせるには、犠牲が必要なのだ!!』
 がいんっ! と衝撃音をあげ、両者は大きく退いた。
 甲冑を覆う影朧の瘴気は分厚く、そのものを叩き縛るにはまだ足りない。
「……本当に、愚かなことだ」
 アダムルスは顔を顰め、うっそりとした声で言った。
 その身を呈した進軍妨害は、敵の作戦を大きく遅れさせている。
 彼の稼いだ時間が、人々が逃げるための猶予となるのだ――。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
…ハッ、玉砕覚悟か、見上げた根性だ
結構!信念に命を燃やす心意気は評価してやる
だがダメだな、全然ダメだ
"心意気だけでは夢は叶わない"
大望を成すには、資格が必要なんだよ
英雄たる、資格がな…お前たちにそれは無い
なんで分かるかって?俺と同じ匂いがするから、かな

さてさて、民間人に勝手にパニくられても面倒だしな
全員、静かにしろよ──『Nighty night』
血気盛んな連中も、怯える民間人も…皆、おやすみ

眠りから漏れた一般兵は、ニューロンを【ハッキング】して意識を刈る
眠ってる奴らは縛り上げておくよ

何もかも失って、後で泣きを見るよりかはずっといい
今の内に諦めて、分を弁えろ
お前たちでは何もできない
俺のようにな



「な、なんだ? 瞼が、重く……」
「か、体が動かない……誰か、助け……」
 幻朧戦線の若者達も、
 その凶刃から逃れようとする民間人も、
 皆が同じように眠気を訴え、困惑しながら膝を突き、斃れた。
 あとに残るのは静寂(ミュート)のみ。
 桜咲くこの帝都には似つかわしくない、寒々とした冬のような静けさだけ。
「おやすみ、坊や(ナイティ・ナイト)――どいつもこいつも、寝ときな」
 か細い寝息が響く通りを、ヴィクティム・ウィンターミュートが歩く。
 彼らを襲った眠気……正確に言えば戦闘能力を奪う特殊な術式は、
 もちろんヴィクティムが手ずから作り上げた電脳プログラムの賜物だ。
「き、貴様の仕業か、猟兵……」
「へえ、寝付きの悪い坊やがいたぜ。驚いたもんだ」
 かろうじて意識を保つ兵士の前にしゃがみこみ、ヴィクティムは言った。
「おとなしく寝とけばよかったもんを。頭ン中、かき混ぜさせてもらうぜ。
 テメェらはちっとばかし痛みってモンを知ったほうがいい。教訓にしな」
「……どれだけ痛めつけられようと、我らの志は、潰えぬぞ……!
 不退転の覚悟を以て、必ずやこの大正の世を終わらせてみせる……!」
 悔しげに吐く若者――だが、そんな彼は息を呑んだ。
 見下ろすヴィクティムが、突然笑い始めたからだ。
「ハッ! ハ、ハハハハハッ! 玉砕覚悟で世界を変えるってか!
 いいねぇ、ナイスなジョークだ! 見上げた根性だぜ、テメェらは」
「何がおかしい……」
「――何もかもさ」
 すっと熱が引いたように、ヴィクティムは表情を失くした。
「信念に命を燃やす心意気は評価してやる。だがダメだな、全然ダメだ。
 ――"心意気だけでは夢は叶わない"っつう、大事なところが抜け落ちてるぜ」
「なんだと……?」
「わかんねぇかなあ……そんな大望を成すには、資格が必要なんだよ」
 ヴィクティムはずい、と顔を近づけた。
 その虚無じみた双眸がもたらす圧力に、若者は畏れを抱く。
「資格、だと」
「英雄たる、資格だ。お前達にはそれがない。そこに至る可能性すらもな」
「貴様に、何がわかる……!」
「わかるさ。テメェらは、俺と同じ匂いがするんだからよ」
 若者が最後に見たのは、ヴィクティムの自嘲の笑みだった。
 まだなにか囀ろうとする若者のニューロンをシャットダウンさせ、男は立ち上がる。
「だから寝とけ。今のうちに諦めて、分をわきまえとくがいい。
 ……何もかも失って、後で泣きを見るよりはずっといいのさ」
 踵を返したヴィクティムの脳裏に、あり得ざる未来の可能性の姿がよぎる。
 勝利だけに固執し、悪魔となった己。
 "この"自分がたどる末路は、きっとそれよりもひどいものだろう。
 だがそれでいい――どうせ自分には、何もできない。
 ただ、端役として彼らの側にいるしか、できないのだ。
 たとえ友と呼ばれ、
 絆を深め、
 乙女の純情を向けられたとしても。
「俺には何も、為せやしねえさ」
 未来に待つのはきっと、この静寂と同じ虚無だけなのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

ナトゥーア・クラールハイト
はぁ……。
まったくもう。
賑やかなのは好きだけど、騒がしいのは嫌いだよ。
折角の歌劇が台無しじゃないか。

まぁ、血気盛んな連中に加えて、大型の鎧装兵器まで引っ張り出してるんだろう?
なら、正面切っての特攻がいいとこだろうねぇ。
じゃあ、お客さん方には裏方の方から逃げてもらった方が良さそうだね。
誰かそっちの援護に回ってくれる人もいるだろう?

魔力を放出してオーラ防御、勢いで侵攻を押し返すよ。
そのまま、高速詠唱して全力魔法といくわ。

『安寧休息(レスト)』――
さて、坊や達。


『意識沈殿(イマース)』――
悪いけど、ここでおねんねよ。


――『平穏鎮静(ピース)』
――Agkaliazo


届かぬ夢に微睡んでいなさいな。



「進めーっ!! 正義は我らにある! 臆するなーっ!!」
 指揮官と思しき男の怒号に背中を押され、若者達が死ににやってくる。
 その姿は恐ろしげで、しかし冷静に見ればどうしようもなく愚かで滑稽だ。
 ――殺到する雪崩のような人垣を、オーラの障壁が真正面から受け止めた。
「ぬうっ!? 魔力の壁か!? 小賢しい……!」
「そんなに息巻いて目を血走らせて、言っとくけどここは劇場だよ?
 ぎゃあぎゃあ騒がしいのは嫌いなんだ。少しは頭冷やしなっ!!」
 ナトゥーア・クラールハイトはオーラを炸裂させて若者達を押し返し、
 破裂したオーラ=魔力を再び体の裡へと取り込む。
 このまま風で切り裂くなり魔力でその体を貫くなり、
 彼女の技量と腕前からすれば朝飯前ではあった。
 だが、出来るだけ殺さないよう言付けられている――いや、それだけではない。
 こんなふうに道を間違えた若者を、何も考えずに殺せるほど、
 彼女は冷血漢でもなければ無慈悲なわけでもないのだ。
「そんなに世の中を変えたいなら、もっと地道なことをすればいいだろうに。
 あんた達はつまり、大それたことに陶酔してるだけなのさ、わかるかい?」
「だ、黙れぇ! 我らはこの間違った大正の世を終わらせるのだ!」
「――ま、言っても聞かないだろうとはわかってたけどさ」
 ナトゥーアは嘆息し、練り上げた魔力を風に変え、両手から放った。
 その風は敵を切り裂く――かと思いきや、ふわりとそよ風がすり抜けていく。
 殺気立っていた若者達も、その優しい肌触りにやや困惑していた。

 ……次いで彼らを襲ったのは、痛みではなく強烈な眠気だ。
 風がもたらす、抗いようのない安寧への誘惑である。
 安寧休息(レスト)、
 意識沈殿(イマース)、
 平穏鎮静(ピース)。
 ナトゥーアが小さく呪文を唱えるたび、ひとりまたひとりと眠りに誘われる。
「悪いけど、ここでおねんねよ――届かぬ夢にまどろんでいなさいな」
 若者達は口惜しげに呻き、そして瞼を閉じて寝息を立てる。
 わがままな子供達を寝かしつけ、女はようやく安堵のため息をついた。
「ままならないもんだね、まったく……」
 ただ、呆れと悲しさだけが胸に残る。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルト・フィルファーデン
……馬鹿な事を。
命を賭ければ上手くいく、というわけではではないでしょうに……まあ、わたしも人のこと言えたものじゃないけれど。
それでも絶対にこの蛮行、止めてみせるわ。誰も死なせずにね。

電子の蝶を使いましょう。目的は2つ。
一つは幻覚で前後不覚にし時間を稼ぐ事。
二つめは、心をへし折る事よ。
蝶を介して兵達の記憶にハッキング。特に色濃く残る記憶から大切な人の姿を幻覚として見せ、止めさせるの。家族、想い人、親友等、誰かしらいるわ。
それが幻だと解っても大なり小なり効果はあるはず。……わたしも、この手の幻に苦しめられてきたしね。

力ずくではまた同じ事をする可能性があるもの。悪いけど、心に傷を刻ませてもらうわよ。



 彼らの姿を見ていると、フェルト・フィルファーデンの胸は苦しくなった。
 憐れみもある。呆れもある。馬鹿なことを、という憤りもあった。
 ただそれ以上の彼女を苦しめていたのは……そう、自責の念である。
 はじめの頃、彼女はあらゆる戦いにおいて命を惜しむことがなかった。
 否、捨てようとしていたと云うべきだろう。死に場所を探していたのだ。
 国を喪い、
 民を喪い、
 家を喪い、
 もう自分には何も残っていないと、彼女はひとりよがりに絶望していた。
 希望を謳いながら絶望の闇に膝を突き、
 絶望を払いながら希望の光を拒絶する。
 そうして、どこかで死んでしまえばいいと自嘲していたのだ。

 だから、不退転を謳いながら突き進む彼らの姿は、鏡像のようだった。
 はたから見れば、自分もあんなふうに愚かに見えたのだろうか。
「……ねえ、あなた達にも、大切な人がいるのでしょう?」
 言葉とともに電子の蝶が放たれ、幻朧戦線の兵士らにまとわりつく。
「家族でも、想い人でも、親友でも……誰でもいいわ。誰かしらでいいわ。
 思い出して。あなたが想い、あなたのことを想ってくれる誰かのことを」
 蝶のもたらす幻に、あるものは家族を見た。
 あるものは愛する女の姿を見、
 あるものは友誼を結んだ友を見る。
「母さん……ごめん、俺……!」
「あ、あああ……わ、私は、なんてことを」
 膝を突き、うなだれ、自戒して泣き叫ぶ者もいた。
 戦意を喪失した若者達を見下ろし、フェルトは悲しげに頭を振る。
 幻に苦しめられたことは一度や二度ではない。
 その痛み、悲しみ、真に迫る感情は自分もよくわかる。
 だからこそ。
「……あなた達の感じたその心の痛み、見えない傷のことを絶対に忘れないで。
 帰る場所があるのは、幸せなことなのよ。まだ、やり直せるってことなのだから」
 少女の言葉は、幻に裂かれた若者達の心に深く染み込む。
 後悔は痛く苦しい。だがそれは、生きているからこその痛みなのだ。
 死んでしまえば、笑うことも苦しむことも、何もありえない。
 ――記憶の中の民達の姿が、脳裏によぎる。
「死んでしまえば、何もかも終わりなのよ――」
 少女は切なげな瞳で空を見上げた。
 幻朧桜が、その悲しみを慰撫するように舞い散っている。

成功 🔵​🔵​🔴​

忠海・雷火
私に、今の世の正誤を論じる事は出来ないけれど
平和を乱し、ただ日常を生きる生命を奪うのは、少なくとも良くないことよ


人格はそのまま
入口から雪崩れ込んでくる事を防ぐ為、侵入直後の兵達の足を狙い、刀を素としUC使用
一先ずそこで折り重なって倒れてくれれば、少しは足止めになる

その間にネクロオーブで死霊をありったけ召喚し、それらも足止めとしつつ民間人達に避難指示。関係者が使う裏口の類、或いは避難経路がある筈
其方側からも兵が来る可能性を考慮して、私も護衛として先行

避難路で兵と遭遇した際も同様にUC使用、足と得物持つ腕狙い
討ち漏らしは、隠しておいた短刀での騙し討ち。手首と足の腱を狙い、なるべく殺さないようにする



 幻朧桜の桃色に混ざり、凍りついた桜の花弁が舞い散る。
 それは、忠海・雷火が生み出した刀の残滓、触れれば凍てつく雪花の煌めきだ。
「――死霊達よ、民間人のことをお願い。裏口なりなんなり……」
「あ、あのっ!」
 ネクロオーブから召喚した死霊達に、民間人の避難を任せようとした雷火は、
 背後からかけられた女の声に、物憂げに振り返った。
 そこには舞台衣装を身につけた、同じぐらいの年頃の女がいた。
「……あなたは?」
「こ、ここで公演をするはずだった、チエという者です。
 ……避難経路があります。そちらにご案内しますから、どうか」
「護衛が必要なのね。わかった」
 雷火はすぐに頷き踵を返す。氷桜に縫い留められた兵達の呻き声は無視。
 じきに寒さで気を失うだろう、しかし死ぬことはないはずだ。
 正面玄関に折り重なって斃れていてくれれば、敵の足並みを乱せる。
 問題は、別働隊の存在……雷火の懸念はそこにあった。
 だからこそ、彼女自身がチエとともに避難経路へと赴いたのだ。
「……ところで、どうしてあなたは避難していないの」
「わ、私……混乱してるお客さん達を落ち着かせていたんです。
 でも、正面玄関はあのとおりでしたから、どうしようかと」
 スタァにしてはなかなか見上げた……だが少々、手のかかる女だった。
 雷火はしかしチエの判断を誹ることなく、なるほどと頷いた。
「内部の混乱が比較的穏やかだったのは、あなたのおかげなのね」
「……ダメ、だったでしょうか」
「いえ。……といっても、私にその是非を論じることは出来ないけれど。
 この世界の、今の社会の正誤と同じように……口を出す資格がないわ」
 厭世的とも言える雷火の言葉に、チエはわずかに表情を曇らせる。
 しかしふたりの会話は、避難路の先から響く軍靴の足音にかき乱された。
「……回り込んできた別働隊ね。私が片付けるわ」
「あ、あの」
「大丈夫。殺しはしない」
 チエに言い、怯える民間人に先んじて雷火が飛び出した。
「いたぞ! 全員殺せッ!」
「――させないわ」
 再び氷桜が舞う。血走った兵士らの手足を凍結し、地面に縫い止める。
 鮮やかですらある手並みで、数人の兵隊は一瞬にして無力化された。
「く、くそっ! 我らの大義が……!」
「平和を乱し、ただ日常を生きる生命を奪う。少なくともそれはよくないことよ」
「そうだろうとも! だが、世界を変えるにはそれが必要なのだ!」
「……見解の相違ね」
 雷火は峰打ちし、若者を気絶させた。
 そして遅れて、客の一部とそれを先導するチエがやってくる。
「……どうしたの? 何か、ほっとしているようだけれど」
 そんなチエの横顔を見て、雷火はふと言った。
 スタァの女ははっとした表情になり、おずおずと呟く。
「……実は、私の幼馴染が……幻朧戦線の一員になったようでして」
「…………」
「けれど、この中にはいないようで、よかったです」
 チエはほっとした様子で言って、もう一言呟いた。
「利鷹さん……馬鹿なことは、考えていなければいいのだけれど……」
 雷火はその名に、第六感めいた胸騒ぎを感じる。

 ……影朧甲冑に乗る当人こそがその"利鷹"であることは、
 この時雷火も、そしてチエも預かり知らぬことであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルナスル・アミューレンス
あー、うん、まぁ……。
世界を変えようっていうその心意気は良し。
ただ、死ぬために突っ走るのは宜しくないねぇ。

ま、とりあえず関係のない人達の避難に勤しみましょうかねぇ。
牽制の為に、足元とか当たらない位置に撃ち込んで時間稼ぎかなぁ。
向こうへの攻撃意識見せれば、敵ではないって思ってくれるでしょ。

え?
見た目?
無理言わないでよぉ。

安全圏まで護衛しつつ、追ってくるなら当たらないように制圧射撃を。
それでもなお迫るなら……

拘束制御、開放。

これは警告、最後通告だ。
それ以上来るなら、纏めて『侵食(キエテ)』貰うよ。


人の形を残しつつ不定形の異形を壁の様に広げ、本能に訴えかける恐怖を与えるよ。
それでも来たら、それまで。



 BRATATATATATATA!!
「ひいいっ!」
「ああ、大丈夫大丈夫。ほら見て、向けてるのはあっちでしょ?」
 怯える民間人に、アルナスル・アミューレンスは朗らかに言った。
 彼が構えているのが馬鹿げた大きさのガトリング砲でなければ、
 それはまるで世間話のように聞こえる調子でもあった。
 当然、幻朧戦線の面々に直接当てたわけではない。足元狙いの威嚇射撃だ。
 だが敵は臆しつつも、どうやら諦めるつもりはないようだった。
「で? このまま見逃してくれるなら、こっちも深追いはしないんだけど」
「ほざけ! 我らがこの程度で怯むとでも思っているのか!」
「ま、そうだよねえ――ならじゃあ、やるしかないか」
 ぞわりと、アルナスルの大きな体が"揺らいだ"。
 人型のシルエットはぞわぞわと波打ち、蠕動し、あるべきカタチを失う。
 ……うごめく漆黒のスライム、あるいは波打つ虚無とでも言うべき姿に、
 護衛されているはずの人々ですら、恐怖と困惑の色を隠せない。
『これは警告――最後通告だ』
 うごめく闇の塊が、畏れを抱く幻朧戦線の若者達に言う。
 それはヒトの形をところどころに残しつつ、壁めいて広がった。
「な……」
『それ以上来るなら、まとめて"侵食(キエテ)"もらうよ』
「…………!!」
『骨も遺さない。跡形もなく、ってやつだねぇ。さあ、どうする?』
 ……彼らはみな、不退転の決意を胸にここへ来た。
 命を捨てる覚悟で甲冑に乗り込んだ、無二の同胞に報いるために。
 しかしアルナスルの異形と、それがもたらす強烈なプレッシャーは、
 鋼めいた彼らの決意を砕くには、あまりにも十分だった。
『……そう、それでいい。こっちも仕事はラクなほうがいいしね』
 ざり、と若者達が退いた気配を察し、アルナスルはにこやかな声で言った。
 ぞわぞわと異形がヒトの形に戻り、もはや戦意喪失した若者らには構わない。
「さて、それじゃあ避難を……って、あれぇ」
 そしてアルナスルは、同じように怯える人々を見て、頭をかいた。
「さすがに見た目までどうにかするのは、無理な話なんだけどなぁ」
 畏れを浴びる当人は、まるでなんてことのないように呟く。
 だが彼を見る人々の眼は、疑いようもなく怪物を見るそれだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴宮・匡
◆ニル(f01811)と


正義の為、国の為、世界の為
……なんで人間って、そういう言葉で自分を“善く”見せようとするんだろうな
どんな大義をかざしたとしても、
人殺しはどこまで行ったって人殺しなのに

一般人へ向く攻撃の阻止と身柄の保護はニルに任せ
こっちで敵の制圧の大半を受け持つよ
適材適所っていうしな
自身への攻撃は回避でやり過ごし
距離を詰められないよう立ち回りながら
致命的な臓器や血管を避けて膝か足関節を破壊し、行動不能にする
命までは取らないからさ、痛いくらいは大目に見てくれ

たとえば自分の大切なものが犠牲になっても
こいつらは同じように、同じことを言えるんだろうか
……俺には、その気持ちは一生わかりそうにないよ


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

さあなあ……
こんなことが、本当に「そのため」になると思ってるんじゃねえか
馬鹿な奴らだ
何を思って何を考えたって、「自分のため」でしかねえのにな

大半の動きを止めるのは匡に一任する
起動術式、【死者の岸辺】
眠っていたところ悪いが、一般人を守ってやってくれ
無尽蔵の死者を壁として扱いつつ、生者は出口の方へ誘導してやろう
積極的に一般人を狙う者には呪詛をくれてやる
もう二度とこんなことに首を突っ込みたいと思えなくなる程度の奴をな
ふは。安心しろ、死にゃあしないさ。私が生きてるんだから

率先して大事なものを喪いたいなら、自分たちだけでやってくれ
――痛みがなければ分からないなんて、馬鹿な奴らだ、本当に



 地より起こるは死者の群れ。
 この泰平の世を生み出すために散っていった、護国の士達。
 ……理想の狂気に駆られた遠き子孫たる若者を見る彼らの眼差しは、
 悲しそうでもあり、憤ってもいて、何より穏やかだった。
 我らは皆、彼らを生かすために死んだのだ。
 ならばいまここで、その身を晒して何が惜しかろうか。
 死者達は何も言わぬ。ただその働きで答えを示す。
 自らの腐り朽ちたはずの体を垣として壁として塞ぎ、刃を受け止める。
 放たれる恨みの弾丸――敵が持ち出した遺失兵器"グラッジ弾"――を受け止め、
 影朧をも生み出しかねぬ恨みとともに、再び物言わぬ塵へと還る。
 岸辺より再び来たりし死者達の献身は、若者達を惑わせるに十分だった。
「な、何故だ。何故、この世を守るためにあなた方が立つのだ……!?」
「わからんか? 貴様らの思想など、畢竟その程度だということだ」
 死者達を呼び醒ました邪竜――ニルズヘッグ・ニヴルヘイムは、尊大に言う。
「貴様らは大正の世がどうこうと言いながら、若者ばかりではないか。
 その弾丸も、あの甲冑も、すべてはもう終わった戦争で使われたもの。
 貴様らの中の誰が、その戦争を実際に経験したというのだ? 言ってみろ」
「「「…………!!」」」
 ニルズへッグは、言葉を失った若者達を睥睨し、鼻で笑う。
「何も言えぬか。ならばやはり、貴様らの志など"その程度"ということだ。
 ――そんな連中に、いたずらな殺生は許可出来んな。しばし、眠っていろ」
 左目の炎が煮え立つように燃え上がり、呪詛の闇が瞬いた。
 見えない矢で射抜かれたように、若者達は崩折れ、そして昏倒する。
 しかし意識に安寧は許されない。彼らは心の世界で地獄を見るだろう。
「あ、ああああああ……!!」
「ふは。安心しろ、死にゃあしないさ。私が生きてるんだから」
 恐怖の幻影に悶え苦しむ若者を見下ろし、ニルズへッグは嗤った。

 その一方で、鳴宮・匡は別方面の敵部隊に対処している。
 グラッジ弾とは、影朧甲冑同様に、前大戦で使われた非人道的兵器だ。
 影朧の恨みを弾薬として凝縮することで、傷を腐らせるために造られたもの。
 それは場合によっては、影朧の呼び水ともなり得る邪悪な兵器である。
 匡はその性質を、一から十まで知っているわけではない。だが、"見ればわかる"。
 材料とされた影朧の恨みは、幾年を経て闇のように凝っていた。
 それを武器とするあの若者達は、その恐ろしさが"見えて"いないのだろう。
「そんな物騒なもの振り回してまで、人殺しがしたいのか?」
「黙れッ! すべては世界を変えるため! 戦乱こそが成長をもたらすのだ!」
「――そうかよ。おべんちゃらなら、自分の住処でやってくれ」
 BLAM、BLAMN。銃声が幽く響き、膝小僧を撃ち抜いて足を奪った。
 崩折れた若者は取り落した銃を拾おうとする、その手の甲も撃ち抜く。
「がああッ!」
「命までは取らないよ。痛いくらいは大目に見てくれ」
 場合によっては片足の機能を失うだろうが、死ぬのに比べたらマシだ。
 仮に重傷化したとしても、それは相手が悪足掻きをして傷を悪化させたせい。
 匡はシンプルにそう考えて、迫りくる敵を次々に無力化していく。
 誰もが同じように理想を叫び、
 誰もが同じように武器を振り回し、
 そして同じように斃れ、
 同じように呻き、
 同じように諦めた。
 その姿は判を押したように同じだ。匡にとっては奇妙でしかたない。
 ――どうして彼らは、そこまでして人を殺したがるのだろうかと。

「こっちの制圧は終わったよ、ニル。そっちは?」
『私の担当する民間人は避難し終えた。上々だ』
 端末からの通信に、匡はふう、と息をひとつ吐いた。

『……正義のため、国のため、世界のため。
 なんで人間って、そういう言葉で自分を"善く"見せようとするんだろうな』
「……さあなあ」
 端末を手に、ニルズへッグは空を仰ぐ。
 幻朧桜は今日も景気よく咲いていた。こんなときであろうと。
「こんなことが、本当に"そのため"になると思ってるんじゃねえか?
 何を思ったって考えたって、"自分のため"でしかねえのにな。馬鹿な奴らだ」
『……もしも自分の大切なものが犠牲になったとして』
「ん?」
『こいつらは同じように、同じことを言えるのかな』
 匡の言葉に、ニルズへッグは目を細める。
「無理だろうさ。思いも恐れもしてないだろう。あの様子じゃ」
『……やっぱり、俺には一生わかりそうもないよ。あいつらの気持ちが』
「それでいいのさ。あいつらだって、人を殺す重みなんざわからんだろ」
 その血を汚し魂を穢し、それでもなお生きようと底の底で足掻き。
 希望の光に身を灼かれてなお、諦めきれず死ぬことさえ出来ぬ愚か者。
 ……誤った理想に殉じようとする愚かしさに比べれば、それはまだマシであるのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リア・ファル
POW

玉砕兵器……か。
明日を目指し戦う艦として、
特攻を前提にするのは認めたくないね

「無辜の民へのテロ行為なんて、明日への道とは繋がるはずもない。
まずは市民の避難を! いくよ、イルダーナ!」

機動力を活かして、孤立した市民を
『イルダーナ』で救助!
(空中浮遊、救助活動、かばう)

演算把握した避難路へ市民を送り、避難路前で防衛開始
(拠点防衛、時間稼ぎ)

「命の使い方、改めて考える時間をあげるよ。……ヌァザ!」

UC【銀閃・概念分解】! 対象概念を「戦意」に設定
返す刃で斬り伏せる!
(カウンター)

大人しくなれば、『グラヴィティアンカー』で捕縛して完了
(ロープワーク)

「世を想うなら、血反吐を吐いても生きるんだ」


雨野・雲珠
※アドリブ連携歓迎

民間の方の安全確保を最優先に走り回ります。
逃げ遅れた方や、物陰に隠れたまま動けなくなった方を探して
出口までご案内を。
もう大丈夫ですよ、落ち着いて。歩けますか?
大丈夫ですよ、ゆっくりで大丈夫。
襲いかかってくる方々は眠って頂きますから。

桜の精として治癒を行い
猟兵の立場で帝都を歩くうち、
大正七百年の平穏の裏で福祉の手が届かず
貧困に喘ぎ苦しむ方々に何度もお会いしました。
世を良い方向に変えたいと仰るなら俺もそうです。

ですがこの行いは、どんな大義があろうとだめです。
誰がいいと仰ったって俺はいやです。
到底賛同いたしかねる皆々様のお振る舞い、
散る花もない桜の身ですが、押し止めさせて頂きます!


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

はぁ…なんだってまたこんな平地に波瀾を起こすようなことするのかしらねぇ…
とりあえず、暴れてる連中をどうにかしないとねぇ。
詳細ははっ倒してふん縛ってから聞き出しましょうか。

正面から吹っ飛ばそうかとも思ったけど、一般人に流れ弾当たっても困るし。●圧殺で地道に制圧してきましょうか。
ルーンの拘束・催涙・○毒・マヒ・目潰し・足止め・武器落とし、鎧砕きに精神攻撃。手札はいくらでもあるもの、片っ端から〇先制攻撃で○蹂躙してやるわぁ。
生かして捕らえてほしい、って依頼だし。ちゃんと殺さないように手加減はするわよぉ。
…トラウマとか精神的なほうまでは責任持てないけど。


氏家・禄郎
この大正の世に抜刀突撃とはなんとまあ……

とは言え、こういう時に狙うのは決まっている
突出してくる血の気が多い奴だ
こういう奴ほど、周りに目が見えない
だからね
『嗜み』でバランスを崩させたり、地面に転がした後、相手の足を【クイックドロウ】から銃で撃ち抜いたり、【咄嗟の一撃】で顎先を蹴っ飛ばして気絶させるんだ

少し頭のいい奴なら、間合いを取ってくるだろう
だったらそこらへんに有るものを拾って【武器落とし】で叩き落してから自分の間合い落ち込むよ
後は最初のように『嗜み』で転がってもらう

「幻朧戦線も派手に仕事をするようになったな? 君達はどこから金をもらっているんだい?」

知らない? なら【気絶】してもらうよ



「ええい、猟兵どもめ、學府の狗め……! まだ戦果は挙がらんかッ!」
「はっ! 総員全力を挙げておりますが、遅々として進まず……」
 指揮官と思しき男は、苛立ちまじりに吐き捨て壁を殴った。
 なんたることか。綿密に計画してきた襲撃作戦がこうも水泡に帰するとは。
 だが、まだだ。……まだ我らの要、影朧甲冑は無事である。
 随伴する兵士達の九割以上は無力化されてしまったが、
 甲冑が無事であればどうとでもなるのだ……!
「利鷹! 聞こえるな、味方は構うな。全力で進め! 貴様に任せる!!」
『は! 粉骨砕身の覚悟で参ります。ご武運を!』
「応、あの世で会おうぞ。……我らも進むぞ、グラッジ弾準備!」
 最後方で待機していた最後の兵士らが、指揮官とともに凶悪な弾丸を装填する。
 グラッジ弾。影朧甲冑と同じく、廃棄されたはずの前大戦の遺物!
 影朧そのものを材料とした、恨みを凝縮した極めて危険な弾薬だ!
「――へぇ。そんなものまで持ち出して、ずいぶんとやる気なもんだ」
「「「!!」」」
 出し抜けな男の声に、兵士達は弾かれたように振り返り銃を構えた。
 しかし、BLAMBLAMN! 神速のクイックドロウ、声の主のほうが速い!
「ぐあっ!」
 手元を撃たれた兵士達は、苦悶とともにグラッジ弾入りの銃を取り落とした。
「幻朧戦線も派手に仕事をするようになったな。おまけに遺失兵器の大盤振る舞い。
 なあ指揮官さん、あんたならご存知だろ? どこから金をもらっているんだい」
 探偵、氏家・禄郎は銃を構えたまま詰めより、倒れ伏す指揮官の胸ぐらを掴む。
 指揮官は狼狽した。ここには腕利きの護衛をつけていたはず……。
「全員のさせてもらったよ。誰も彼も血の気多く突っ込んでくるからやりやすかったがね」
「おのれ……學府の狗がぁ……!」
「……それで? 質問の答えを聞かせてもらってないな」
 指揮官は苦悶に脂汗を浮かべながら、ぎらりと探偵を睨みつける。
 その瞳の色から、彼はこの男が答えを知らないことを読み取った。
「仮に知っていたとしても、お前なんかに言うつもりはないって顔だね」
「…………」
「この期に及んで反省しないってんなら――全員、もう少し痛い目を見てもらおうか」
 探偵が言った瞬間、兵士達の視界が白い輝きに灼かれた。
 それが足元に投げ込まれたグレネードのせいであることは、
 その瞬間、幻朧戦線の誰にもわからなかったことである。

 ……横濱歌謡大劇場、正面玄関前!
「ひ、ひいい……」
「もう大丈夫ですよ、落ち着いて。歩けますか?」
 物陰で頭を抱えて縮こまっていた老紳士は、優しげな声に顔をあげる。
 雨野・雲珠はそんな彼の肩を叩き、落ち着かせて立たせてやった。
「も、もう大丈夫なのか……?」
「ええ、ご心配なさらないで。他の方もほとんど避難を終えています」
「だ、だが幻朧戦線の奴らがまだ……」
「ご安心を。――あの方々には、眠っていただきますから」
 そこで老紳士は、降りしきる桜の花びらが妙なことになっていることに気付いた。
 慣れ親しんだ幻朧桜ではない……雪のように白い、氷めいた桜吹雪である。
「これは……?」
「お気になさらず。あちらが避難経路です。さあ」
 困惑する老紳士を送り出し、雲珠は振り返る。
 ……背後では、最後の若者達が膝を突き、襲い来る眠気に抗っていた。
「ま、まだだ、我らはここで屈するわけには……!」
「……あなた達の、世をいい方向に変えたいという思い、それは俺も同じです」
 抗う若者に対し、雲珠は言った。
 桜の精として治癒を行い、猟兵として帝都を歩き……。
 泰平の世の裏に隠された貧困、あるいは筆舌に尽くしがたい悪環境の真実。
 そこでは多くの人が苦しみ、嘆き、己の不幸に悶えていた。
 どうして自分達は苦しまねばならない、
 どうしてこんな目に合わなければならない。
 彼らの嘆きは雲珠の嘆きであり、
 彼らの苦しみは雲珠の苦しみでもあった。
「ならば……わかるはずだ、我らの大義の正しさが……!」
「いいえ」
 雲珠はきっぱりと言った。
「どんな大義があろうと、誰かを苦しめて達成されるなんてのは、だめです。
 誰がいいと仰ったって、俺はいやです。賛同いたしかねます。……だからこそ」
 雪のような桜吹雪が舞い上がる。眠りをもたらす白が空を染める。
「皆々様のことは、断固として押し止めさせていただきます」
「そ、それでも、我等の仲間が、必ず……」
「それも、いいえです。――ここに来たのは俺だけではありません」
 雲珠の言葉を肯定するかのように、風めいて翔ぶ機影が頭上を通り過ぎた。
 リア・ファルが駆る航宙戦闘機、イルダーナの機影である。
「無辜の民へのテロ行為だなんて、明日への道とは繋がるはずもない……!
 市民の避難誘導はほぼ完了、あとは劇場の一部スタッフと関係者だけだ」
 雲珠と同じように戦場を飛び交っていたリアは、ようやく安堵のため息を漏らす。
 あちこちで幻朧戦線の若者が倒れ伏し、無力化されていた。
 しかしそれをくぐり抜けた一団が、避難経路に殺到しようとしている!
「……っ、ほんとうに、どこまでも馬鹿なことを!」
 リアはすぐに表情を引き締め、彼らのもとへと急速落下した。
 重力アンカーを放つと同時、次元を切り裂く魔剣ヌァザを展開する。
「命の使い方、改めて考える時間をあげるよ――その戦意を、切り裂くっ!」
「「「がああ……ッ!?」」」
 肉体ではなく概念そのものを断つ魔の剣に斬られ、若者達は斃れる。
 改めて息を吐いたリアのもとに、ティオレンシア・シーディアがやってきた。
「そっちも片付いたみたいねぇ。こっちも指揮官格を捕らえたわぁ」
「後方にいたっていう連中だね……これで、影朧甲冑以外はほぼ全滅、か」
 猟兵達の足止めを食う、巨大な甲冑の姿を睨み、リアは歯噛みする。
 ティオレンシアは新たなグレネードや銃弾を点検しながら、視線を追った。
「そいつの話なんだけどぉ、ちょっと気になることがあってねぇ」
「……それは?」
 合流した雲珠を見やり、ティオレンシアは続ける。
「甲冑(あれ)に乗ってる男のヒト、知らないことがあるんですってぇ」
「……幻朧戦線の狙いは、この大劇場ともうひとつ。
 今日公演を行うはずだった女性スタァ、"門倉・チエ"だったんだ」
 そしてティオレンシアとともに現れた禄郎が、言葉を次いだ。
「――"門倉・チエ"は、甲冑の乗り手となった"式山・利鷹"の知己らしい。
 それをわかっていて、あの指揮官は彼を役目に任命し、この仕事を与えた」
「! ……それは、どうしてそんなことを」
「そのほうが、"恨み"を動力とした甲冑はよりよく動く、ってことかな……」
 リアは推察しつつも、幻朧戦線が仕組んだこの事態に眉根を顰める。
 命を捨てて甲冑を駆る男は、何も知らず仲間達の無念と大義を叫び続けていた。
 己らが壊そうとしているその劇場に、幼馴染である女がいることも知らずに。
 ――もっともいまさら知ったところで、もはや状況は変えようがないのだが。

 幻朧戦線の歩兵達による、劇場の強襲と虐殺はひとまず防がれた。
 しかし一同の間には、言いようのない嫌悪感と苦味めいた感情が走っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『雷禍』

POW   :    雷抛
【怒れるままに電撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    雷珠
【雷球】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    穿雷
【怒り】を向けた対象に、【積乱雲からの雷】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:龍烏こう

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鈴・月華です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 あるいは貴女様も、私のことを莫迦な人と仰られるでしょう。
 いまさら、己の身の潔白をつらつらと述べるつもりも御座いませぬ。
 ただ私にはどうしても、今の世は歪んでいると思えてならないのです。
 枯れることなき桜が永劫咲き誇り、
 世界は帝の名のもとに統一され、かれこれ七百余年。
 影朧というものはあれど、世界は……帝都は戦いを忘れて久しく御座います。
 それは、正しいことなのでしょうか。
 それは、停滞と同じではないのでしょうか。
 それは、本当に世のためなのでしょうか?
 私は何度も自問し、そして彼らの――この幻朧戦線のことを知るに至り、
 黒い鉄輪を首に嵌め、その一員となって密かに戦って参りました。
 ですが同様に、貴女様と過ごした幼き頃の思い出もまた、
 かけがえのないものとして、私の胸に残っているので御座います――。


 憎い。
 憎い。
 憎い。
 憎い。
 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。

 今なお解放されぬ影朧――"雷禍"は、すべてを憎んでいた。
 影朧甲冑の動力になるということは、転生も消滅も許されないということ。
 永劫続く苦しみはもともと存在しない理性を完全に破壊し奪い去り、
 そして呼び起こされる憎悪と恨みこそが甲冑を突き動かす。
 あまりにも強すぎるそれは、漆黒の靄めいて影朧を覆い、
 すでに喪われたはずの"雷禍"の姿――巨大な怪鳥のそれを露わにする。
『おれが憎いか! 世が憎いか! ならば恨め、苦しめ、そして憎悪を燃やせ!』
 仲間達を無力化され、甲冑の乗り手である利鷹は激憤していた。
 もしも猟兵達が、同胞を殺してしまっていたのであれば、
 その狂気は歯止めを失い、悪鬼じみた戦闘力を示していただろう。
『おれもともに在るぞ。おれもともに死ぬぞ! 影朧よ! だから力をよこせ!
 この世が憎いのはおれも同じだ。破壊せねばならん。この歪んだ世を終わらせるために!』
 そんな御託など、苦しみ続ける影朧には関係ない。
 言葉も届かぬ。ただ苦しみと怒りと憎悪だけがある。
 影朧甲冑を覆う靄は怪鳥の姿として結実し、恐るべき雷撃を撒き散らした。
 まずその"雷禍"の幻影を倒し、甲冑を覆う影朧の恨みを払わぬことには、
 本体である甲冑を止めることは出来ないのだ――。

●第二章の概要
 影朧甲冑は、燃料として取り込んだ『雷禍』の姿を纏い、その力を操ります。
 第三章で影朧甲冑を破壊するためには、まずこの『雷禍』の姿をした形態を倒し、
 一旦影朧の力を取り除かねばなりません。
(なお、第三章でボスになることからわかる通り、甲冑そのものは稼働を続けます)
 皆さんが不殺を貫いたため、シナリオの難易度はそのままで進んでいます。
 加えていくつかの方のプレイングにより、以下の事実が明らかになりました。

『この劇場では、本来スタァによる歌謡公演が行われるはずだった』
『主役スタァの名前は"門倉・チエ"。
 民間人をなだめ避難を支援するなど、心優しく穏やかな庶民出の女性』
(人となりは登場しているリプレイがありますのでそちらをご参照ください)
『影朧甲冑の乗り手の名は"式山・利鷹(しきやま・としたか)"』
『利鷹はチエの幼馴染である』
『ただしチエ・利鷹両名とも、相手がここに居る事実は知らない』
(利鷹は、その事実を伏せられた上で今回の作戦に参加しています)
『幻朧戦戦の最大の狙いは、この大劇場そのものとスタァであるチエの命だった』

 以上の通りです。
 二章および三章では、利鷹への説得を行うことが出来ます。
(プレイングボーナスには基本関わりません。任意)
 が、OPで示されている通り、甲冑は一度乗ると生きて降りることはできません。
 そのため通常の影朧依頼のように、説得での無力化は不可能とお考えください。
 皆様それぞれのキャラクター性ややりたい・伝えたいことに照らし合わせ、
 自由にプレイングしていただけたらと思います。

●プレイング受付期間
『2020年 03/15(日)18:00前後』までとします。
和島・尊
■心情
……ふむ、影朧を燃料とするか
奇しくも、『縁』を感じてしまうよ
さて、説得……は仮に行われるのならば、他の者に任せようか
幼馴染が劇場に居ることを知ったことで彼がどうなるかわからないし……個人的には、知らない方がよいこともあると思うのでね

■戦闘
憑魔神装・氷結男爵で怪人となりつつ巨大化し、敵へ攻撃を行おう
敵の的が大きくなれば、劇場への被害も減らせるかもしれないだろう?
攻撃は……他の猟兵もいるんだ、敵味方の区別はしっかりとしていこう
細かい調整は難しいからね、うっかり巻き込んでしまうのは本意ではないさ

■その他
アドリブ等は大歓迎だよ
氷結男爵の姿は、氷のシルクハットとコートに身を包み氷剣を携えた怪人さ



 雷鳴の如き怪鳥音をあげる怪物に対し、和島・尊はまっすぐに挑む。
 決断的に歩む彼の足元からは霜が立ち上り、その体をぱきぱきと覆っていく。
 やがて形成されたのは、伊達男めいた氷のシルクハットとコートだった。
「こんな状況だけれど、その構造には『縁』を感じてしまうな」
 尊――否、氷結男爵は謎めいて言い、あるかなしかの笑みを口元に浮かべる。
 恨み骨髄の影朧は荒ぶる本能のままに雷球を生み出し、ほとばしらせた!
 狙いは怪人……ではない。なおも背後の劇場を狙うか!
「――残念だけれど、そうはいかないね」
『何……氷の壁で防いだだと!?』
 甲冑を駆る利鷹は驚愕した。
 今や氷結男爵の身は、もはやヒトならざる巨体に変じており、
 はためくコートが壁のように突き立つことで、雷球を弾いたのである。
「当然だろう? 私達はあなた達の企みを妨げるためにここへ来たのだから」
『ええい……學府の狗め! 私の同胞を倒すばかりか、なおも我らを阻むか!』
 利鷹は怒りとともに吐き捨て、さらなる雷のエネルギーを集めた。
 そのたびに、体の内側を、血管を怨みのエネルギーが駆け抜けて灼くのだ。
 もはや己は甲冑と一心同体。生きて降りることは出来ぬだと痛感する。
 怒りだ。世への怒り、自分達を阻もうとする猟兵どもへの怒りが燃え上がる!
『変革の邪魔を、するなァッ!!』
 氷結男爵は、雷球を伴とした甲冑の突撃を真っ向から受け止めた。
 あえてひとりで前に出たのはこのため。拳は敵味方の区別が非常に難しい。
 しかし自分が最前線に立つならば話は別。破城槌の如き拳が――衝突!

 轟音と雷鳴で天地を揺るがし、両者は大きく飛び離れた。
 ダメージは一目瞭然。影朧の幻影はノイズ混じりに揺らいでいる。
 対する氷結男爵は……ほぼ無傷。亀裂は即座に凍結・修復される。
『ぐ、うう……ッ』
「……そうまでして世を変えたいならば、どうして他の手段を使わなかったんだ?
 あなたは聡明に思える。一時の感情に流されなければ選択肢はあったろうに」
『否……この歪んだ世を変えるには、常識的な手口ではもはや大衆は動かぬ。
 血を流し衝撃をもって亀裂を走らせてこそ、戦乱は人々を成長させる……!』
 氷結男爵はわずかに顔を顰めるような仕草をした。
 はたして何が、彼をここまでのテロリズムに走らせたのか。
 対立する公僕たる己には、もはや考えても詮無きことだ。
「いいだろう。ならば私は、あなた達の理屈を真っ向から否定し粉砕する。
 それが仕事であり――何より、私自身がそうしたいと今、決めたからね」
 ぱきぱきとコートをなびかせて、巨体の怪人はまた一歩進んだ。
 いかな理由であれ、人々が安寧を得たこの世界を終わらせるわけにはいかない。
 それは義務であり責務であり――同時に、尊の願いでもあったのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アダムルス・アダマンティン
愚かな。憎しみに突き動かされて戦わんとするか
傲慢な。破壊神ならぬ身にて、世界をいかにできると思い上がるか
衝動のままに暴れ狂う貴様らは、まさしく獣と呼ぶ他なかろう

封印を解く
――刻器、真撃

我が電磁力でもって、敵の無差別な雷撃を抑え込む
ここで押し返しても、周囲に損害を与えるのみ。ならば俺は場が整うまでの時間稼ぎに徹しよう

鋼の内へ押し込められ、ただ利用されるがままのオブリビオン
古馴染みに気付かぬまま決死の戦闘を続ける人の子
敵ながらかくも惨い境遇にあるとは、実に哀れだ

運命神が回した車輪は戻らず、止まらぬ
破滅は必定。なればこそ、その苦しみを僅かにでも短いままに断ってやることができるのは、我らのみであろう



 ヒトの身であったならば、あるいは悔悛するよう諭したかもしれぬ。
 もはやその命は救えぬとわかっていたとしても、せめて心残りないようにと、
 望まぬ殺戮をこれ以上重ねぬようにと、心に語りかけたかもしれぬ。
 だがあいにくと、アダムルス・アダマンティンはヒトではなく神だった。
 その視点はヒトと異なり、されど多くのヒトの生死を……民であれ仲間であれ……見届けてきたからこそ、
 アダムルスの選択はシンプルなものだった。

 すなわち、戦いをもって打ち砕き、一瞬でも早く終わらせてやるべし。
 無慈悲だが、そこには確かに彼なりの優しさがあった。

『止まれるか……このようなところで! 終わってたまるかッ!!』
 利鷹は目を血走らせ、体を突き抜ける影朧の怒りと怨みに同調した。
 そうとも。憎い。この泰平を謳いながら停滞した大正の世が。
 終わらせねばならぬ。閉塞へと陥った世界を革命せねばならぬのだ!
 ……その思想の是非については、いまはさておこう。
 唯一たしかなのは、ここに居る多くの人々は無関係の無辜の市民であるということ。
 斯様な殺戮を、アダムルスは神として戦士として許容しない。
 嵐めいて荒れ狂う雷撃を、刻器の真なる力でもって押し留めた。
 バチバチバチバチッ!! と雷撃が相殺され、イオンの焼ける匂いが漂う。
 槌を掲げ雷鳥の暴威を留めるさまは、まさに神話の巨人のよう。
「愚かな。憎しみに突き動かされて戦わんとするか、人の子よ」
『黙れッ!! 貴様らにはわかるまい。この世界がいかに歪んでいるのかなど!』
「貴様の言は否定すまい。されど人の子の言葉は、それを傲慢と云うのだ。
 破壊神でもなき身でありながら、破壊と殺戮で世を変えられると本気で思うか」
『変えられるとも……変えねばならぬのだ! 我らが!!』
「――哀れなり」
 アダムルスはもはやそれ以上語る言葉を持たなかった。
 一歩。
 また一歩。
 荒ぶる雷撃を御しながら、槌を掲げ歩む。
『お、おのれぇ……!!』
「運命神が回した車輪は戻らず、止まらぬ。時の河はただ流れ去るのみ。
 貴様の破滅はもはや必定であり、されどそれが世を変えることなどない。
 貴様は何も変えられず壊せぬまま、ここで我らに討ち果たされるのだ」
『……認めん、断じて認めん! 私は……おれは! 命を賭けてでも!!』
「――愚か者が。それは懸命と言わぬ」
 相対距離が必殺の間合いに縮まる。トールの創槌が唸った。
「捨命であると知れ――刻器、真撃!!」
 天地が砕けるかと思えるほどの轟音が響き、影朧の怨みを叩きのめした。
 鎧の中から響くのは苦悶の絶叫。口惜しげな男の叫び声。
 ――死ねば、その苦悶すらもなくなるというのに。
 アダムルスはただ口を真一文字に引き絞り、槌をまた振り上げる。
 彼は語る言葉を持たない。神であるがゆえに。
 命を捨てるヒトの決意――万能であるはずの神は、どうしようもできないのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミザール・クローヴン
畜生、畜生、畜生!
貴様らは、貴様らは何故死に急ぐ!
どうしてそんなものに頼った!畜生!!

影朧も、これを鎧う阿呆も、何もかもが気に食わない
今の奴らに言葉も桜の癒しも届かない
ならば、ならば!打ち壊す、壊し尽くす!
それがおれ様の、帝都桜學府が兵たるおれ様なりの情けだ!

おれ様の怒りは麦穂に落つる稲光よりも鋭く
貴様の怒りを、憎悪を、この拳を以て破砕する
雷がなんだ
喰らう覚悟なくして奴に届くものか
どうせ無差別、中れば運が悪かったというものだ
玉砕はしない、だが無茶はするぞ!!

貴様は誰の為に命を懸ける!!
己か!家族か!同胞か!
誰が為であろうとおれ様は貴様を認めない!
貴様の理念、為させはしない。為させはしないぞ!



『命を喰らえ! 怒りを寄越せ、怨みを寄越せッ!!』
 ざりざりとノイズ混じりに消えかかった影朧の幻影が、
 血を吐くような利鷹の叫びと執念によって、無理矢理に引き戻される。
 影朧の怨みは彼の命をその甲冑に縛り付け、
 そして利鷹の覚悟と妄執が、影朧を鎧に縛り付け苦しめる。
 まるで、互いに血を吐きながら臓物を抉るような、無残で哀れな双車輪。
 ミザール・クローヴンは、何の益もない苦しみに地団駄を踏んだ。
「畜生、畜生、畜生――貴様らは、貴様らは何故死に急ぐ!
 どうしてそんなものに頼った、畜生!! どうしてだァッ!!」
 気に食わない。
 影朧も、それを縛り付ける鎧も、あんなものを鎧う阿呆も、何もかも。
 届かないのだ。その怒りに、怨みに、桜の癒やしなど何の意味もない。
 焼け石に水、などという言葉では表し尽くせぬほどの、絶望と妄執。
 何故だ、何故。どうしてそこまで踏み外してしまった!
「おれ様は貴様らを認めん! 貴様らが誰かを殺すことも認めんッ!
 情けをかけてやるぞ、幻朧戦線! 貴様を止めるという情けをな!」
『ほざけ帝都の狗が! 我らは止まらぬ、何があろうとも!!』
「――止めてみせると言っているのだ、おれ様は!!」
 ミザールもまた血を吐くように叫び、黄金の機械爪で戦いを挑んだ。
 KRAAAAACK!! のたうつ蛇めいた雷撃がその身を灼く!
 全身を高熱と衝撃が駆け抜け、視界がちらつき意識が飛びかかる。
 ……それがどうした。この程度の痛みがどうした!
 この程度で、はらわたを煮え尽くすほどの怒りがはがせるものか!
 あの鎧を纏う阿呆は、死を覚悟してあれに乗っているのだ。
 ならば! それを止めようとする己が、苦痛ごときに怯んでどうする!
『ハッ! 語るに落ちたな狗め。貴様も命を捨てようとしているだろうに!』
「おれ様は、この程度で死んでなどやるものか」
『……ッ!?』
 凄絶なる少年の声音に、つかの間利鷹は呑まれた。あるいは、彼を畏れた。
「おれ様は命を捨てた憶えはない! 貴様と一緒にするな、阿呆めッ!!
 おれ様は――ただ無茶をしているだけだ! 死のうとする貴様とは違う!」
『何を――』
「答えろ!!」
 降り注ぐ雷撃を切り裂き、ミザールが走る。そして叫んだ。
「貴様は誰のために命を懸ける!? 己か! 家族か!! 同胞か!!!」
『……ッ、信念だ。私は信念に死ぬ! この世界を真に進ませるために死ぬぞ!!』
「そうかよ……そんな理念、砕けてしまえ。砕けて、消えてしまえ!!」
 黄金の機械爪が、影朧の幻影に突き刺さり、そして引き裂いた!
 フィードバックしたダメージを受け、利鷹は甲冑の中で吐血する。
 血を拭うことも忘れ、青年は叫び、少年を睨みつけた。
 絶対に退けない。退けるラインを彼はとうに踏み越えたのだから。
 少年もまた退かない――この怒りを晴らすまでは。
「この、阿呆め――!」
 怒り狂っていた。嵐のような憤怒がはらわたを焦がしていた。
 だのに、吐き捨てた少年の声には、隠しようのないやるせなさが溢れていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と

カガリには分からぬだろうな
有限の命を持つ者が、その命を捨ててまで何かを成し遂げようとする信念や執念の類いを
テロは好かないが、命を賭けることについては理解出来るつもりだ
俺もそうだから
だが利鷹よ、影朧を利用しても影朧にはなるなよ?
死ぬなら飲み込まれずに人として散れ

カガリが俺と敵とを【泉門変生】で囲ってくれる
これなら外に逃げることも、外に被害を出すこともあるまい
雷撃はカガリの飛ばす鉄柵を避雷針代わりに避ける
直撃さえ喰らわなければ何とかなる、と思うしかない
ホバーリングした機を狙い碧血竜槍を槍投げ
【真紅血鎖】で雷鳥を繋いだら手繰り寄せて飛行能力を奪い、魔槍雷帝で串刺す


出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と

何故、何故、彼らは死のうとする
生きていたくないのか
とし、なんとか
お前は己の命と引き換えにしてでも、幼馴染みを殺したいのか
それほど憎いのか、それとも、知らないのか
知っていれば、やめたのか
知っていても、殺したのか
知っていれば、やめたなら
幼馴染みでなければ、誰を殺しても構わないと

まる、まる
カガリはとても、悲しい
久遠の停滞と平穏の、何がいけないのか
カガリにはまるでわからない…

【泉門変生】で、まると甲冑を囲う
周りの建物にも、害がない方がいいからな
壁内のまるの傍に『籠絡の鉄柵』を泳がせて、雷からの防御を
雷を受ける時は鉄柵を大きくしてまるを守るぞ(オーラ防御、『不落の傷跡』)



 ――ヤドリガミとは、結局のところ器物の化身でしかない。
 百年を閲しようと、そもそもの根本が人間と異なる。
 生命とも異なる霊的存在……それゆえに、出水宮・カガリは解らなかった。
 何故だ。どうして、彼らは命を捨てて馬鹿げた思想を叶えようとする。
 生きるための戦いならばわかる。それは生命が生きる上で必然の闘争だから。
 けれども彼らは違う。生きようと思えば安穏と生きていられたはずだ。
 この世界はダークセイヴァーやアポカリプスヘルのように終わってはいない。
 だから、彼らがあそこまで鬼気迫って戦う必要など、ないはずなのだ。
 護るもののために影朧――オブリビオンと戦うのならば、それもまだわかる。
 オブリビオンとは戦う以外の選択肢がないゆえに、必然なのだから。
 けれども、彼らは違う。彼らは同じ人間を殺そうとしている。
 憎悪でも憤怒でもなく、もっと別のなにかのために。
「……まる、まる。カガリはとても、悲しい。何故彼らは死のうとする?
 久遠の停滞と平穏の、何がいけないのか。カガリにはまるでわからない……」
「……そうか、そうだな。わからなくて当然だ、カガリ」
 相棒の困惑に、マレーク・グランシャールは穏やかに頷いた。
「限りある命を持つ者が、その命を捨ててまで何かを成し遂げようとする。
 その信念や執念は、命という概念を持たない者には理解し難いことだろう」
「ああ……けれどまる、彼らは違う気がする。何かもっと、別の……」
「……そうとも。問題はあれらの、その命懸けの行動の向かう先だ」
 マレークは嫌悪を露わにして言う。
 テロリズム。世界を変えようとする歪んだ思想の向かう先。
 そうして人の世では、どれほどの争いが生まれ命が散っただろう。
 あまつさえ、影朧という全人類共通の敵がいるはずのこの世界で、
 それを燃料として利用してまで、彼らは世界を壊そうとしている。
 ……その行いは、オブリビオンと何が違うというのか。
「利鷹よ、聞こえるな」
 カガリの肩を叩き、マレークは影朧甲冑を振り返って叫んだ。
「影朧を利用しても、影朧そのものにはなるなよ?
 死ぬのならば、飲み込まれずに人として散れ。それが最低限の矜持だ」
『……ッ、貴様らに指図される謂れなど、ない!
 我らの理想を達成できるならば、いっそ影朧になろうとも……!!』
 その言葉に、マレークは険を帯びた。
「――カガリ、あれの被害が周囲に出ないよう、囲えるか?」
「もちろんだ、まる……とし、なんとかに、やらせるわけにはいかん」
 カガリは頷き、その身を黄金の城壁へと変えて周囲の空間を包み込んだ。
 すなわち、影朧甲冑とマレーク、その両者だけが存在する決闘空間へ。
『そうまでして我らを阻むか! 何故この歪んだ世を護ろうとするのだ!?
 戦乱こそが人を進化させる! 停滞では何も変わらない! 何も生まれない!』
「理解は出来る。たしかに戦いは人を新たな領域へと押し上げるだろう。
 命を懸けた極限の戦いは、たった一度の機会で兎を獅子に変える――」
 ガガガガガッ!! と荒れ狂う雷禍の攻撃を、避雷針めいた鉄柵が受け止める。
 影朧の幻影は怪鳥音をあげ飛翔、さらに強烈な雷撃を落とさんとした。
 マレークの目が、ぎらりと光る!
「だが、誰がそれを望んだ? 人々がいつ、お前達にそうしてくれと頼んだ。
 お前達は自分勝手な願いを標榜し、世界をそれに巻き込もうとしているだけだ」
『理解など得られずともいい! だが戦乱が起きれば誰もが納得するだろう!
 この世界の誤ち、歪み! そして我らの言葉の意味、そのことごとくをッ!』
「――だから、俺はテロリストが好かん」
 マレークは静かに言い、満身の膂力を籠めて竜槍を投擲した。
 ホバリングする影朧の幻影翼を貫いた龍槍を銛めいて思い切り引く。
 鮮血の鎖が両者をつなぐ。影朧は悶え苦しむが、逃れることが出来ない!
『貴様……ッ!!』
「――もはやお前は生きて救えまい。ゆえに俺達は、お前を殺す。
 お前の達のその歪んだ思想で、これ以上犠牲を出させはせん……!」
 二振り目の魔槍雷帝がバチバチと稲妻をあげ、振り下ろされた。
 串刺しにされた雷禍は、叫ぶ。苦痛と怒り、そして殺意の絶叫を。
「……どうしてひとがひとを殺そうとする。なぜなんだ……」
 その戦いを見"護る"カガリは、何度めかの困惑を吐露した。
 人の形を得ようと、人の心までもが理解できるわけでもない。
 それは素晴らしいことでもあり――時として、隔絶という痛みをもたらすのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アナスタシア・ムスハルト
そうねぇ……あなた、色々考えすぎなんじゃないかしらぁ?
正しいとか世のためとか、そんなことよりも、今夜飢え死にしないで明日を迎えられることの方が大事だと思うわよぉ?
戦乱は色々発展するかもだけど、失うものが多いわぁ
あなたたちにとってはつまらないものでも、それこそが大事って人の方が多いと思うわよ、私は

言いたいことは言ったし、どうにかしたい人がいるなら任せて……私は斬るのに専念するわぁ
オペラホールの中なら、大空と比べて自由には飛べないでしょう?
「怪力」で刀を振り抜いて、翼を狙って「虚空斬翔剣」を放つわぁ
バランスを崩して落ちてきたら、再び飛ばれる前に可能な限り斬って斬って斬り裂いてダメージを与えるわよぉ



 影朧の幻影が怪鳥音をあげ、無数の雷球を生み出す。
 ひとつひとつが白熱するほどの高温を持った、危険な光球だ。
 空気を焼き焦がしながら飛来するそれらを、アナスタシア・ムスハルトは切断。
 超一流の剣豪ともなれば、空気を、雷を断つなど造作もないことである。
『なんという剣の腕前……! それほどの使い手ですら、學府の狗となるか!?』
「心外ねぇ、別に私は偉い人達に忠誠を誓っているわけじゃないわよぉ?」
『ならばなぜ、私の前に立つ!? 我らの理想を阻もうとする!?』
「だってぇ――あなた達の思想(それ)、正しい気がしないんだもの」
 猟兵のユーベルコードによって封鎖された空間の中、両者は対峙する。
「そもそもあなた、色々考えすぎなんじゃないかしらぁ?」
『どういう、意味だ……』
「正しいとか世のためとか、そんなことよりもぉ~……。
 今夜餓死しないで明日を迎えられることのほうが大事だと思うわよぉ?」
『ならば、停滞し間違った世でもいいというのか? 人類の進歩がなくとも!?』
「少なくとも、あなた達の起こす戦乱で喪われるものは守られるわねぇ」
 アナスタシアはあるかなしかの笑みを浮かべたまま、小首を傾げてみせる。
「あなた達にとってはつまらないものでも、それこそが大事っていう人のほうが、
 きっと多いと思うわよ? 私は――あなたも、それは同じじゃないかしらぁ?」
『…………』
 甲冑の中で、利鷹はレバーを強く強く握りしめる。
 ……そうとも。己もまた純然たる理想闘士とはとても言いがたい。
 たったひとり故郷に残してきた幼馴染のことを、今も忘れられぬのだから。
 それでも、決めたのだ。この世界を変えるためにはいかなる犠牲も払おうと。
 己が血に塗れたとしても、多くのものが失われたとしても、
 その先に、彼の信じる正しい世界があるならば……!
『……私は認められん。この世界の歪みを見ていることは出来んッ!』
「そう。――なら、斬るしかないわねぇ」
 アナスタシアの口元から笑みが消え、そして次に姿が消えた。
 疾い。影朧が羽ばたくよりも先に剣戟がざうっ!! と虚空を切り裂く。
『ぬうっ!!』
 片羽根を削がれ、影朧は飛翔姿勢から体幹を崩して落ちかけた。
 この閉鎖空間……巨鳥としての特性を活かしきれないのがもどかしい!
「私にはあなた達みたいな高邁さはないし、義務感とかもないけれどぉ……。
 間違った理屈で人が死ぬのは、あんまり見たくないのよねぇ――だから」
 剣閃。剣閃、剣閃、剣閃剣閃剣閃剣閃剣閃剣閃!
『うおおおおおおッ!?』
「斬り裂いてあげるわぁ。その帳」
 剣豪の双眸が、研ぎ澄まされた刃めいて鈍く輝いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

朱酉・逢真
俺がなに言ったって、説得力なんざあるめえよ。てことで説得はしねえ
相かぁらず離れたトコからコソコソさせてもらうぜ
遠くから《恙》で狙い撃ちだ。当たるも八卦、当たらぬも八卦たぁ言うがへぇきへいき、当たる当たる。当たるまで射るだけさ
味方に当たらんよぉにだけ気をつけようかねぇ

しっかしシュミが悪いねえ、愛するヒト同士で殺させようなんてサ
ま、それをしたらもうブレーキがなくなるぜってぇ話なんだろぉが……アクセルベタ踏みで自分たちに向かってくるとか、カケラも思わンかったのかねえ?
愛するヒトに殺されるなら本望とか思ってるんなら、そりゃもう手のつくしようがないバカだぜ。死んでも治らねえや、ひっひ



「ひっひ、ひ、ひひっひ」
 何がおかしいのか、朱酉・逢真はひきつけを起こしたように笑う。
 不気味だ、それ自体が何かよからぬ出来事の凶兆のようだった。
 苦しみ抜いたはてに痴れ狂った重症患者の起こす痙攣のような、
 何もかもを厭い人里を離れた隠者の自嘲のような、そういう笑い声だった。
「シュミが悪いねぇ、ニンゲンってのはよ」
 朱酉・逢真は神である。
 人の姿をした、しかしヒトならざる、もっと恐ろしい凶神だ。
 ヒトの営みを――正しくはその輪廻を――正しくサイクルさせることが仕事であり、
 ヒトという総体は見れど、個々人のパーソナリティに踏み入ることはない。
 逢真自身それを避けているし、彼の仕事には必要のない"蛇足"だ。
 だから彼はただ、さながら目に見えぬ天一神めいて病毒をもたらす。
 腐食の矢。肉を壊死させ血を蝕み、骨を解れさせる致命の矢。
 神話において、ヒトの領分を超えた者にもたらされる神の罰の如く、
 その矢は影朧の幻影に突き刺さり、怪鳥を蝕み苦しめていた。
 そして、やはり逢真は嗤っていた。おかしそうに、悲しげに嗤っていた。
「よっぽど、てめぇらは正しくて他のモンが間違ってると思い込んでるらしいや。
 おお、怖ぇ怖ぇ……そういうニンゲンはなぁにやらかすかわかんねぇからなあ?」
 一説によれば、人類圏で起きた戦争の七割以上は、宗教に依存するのだという。
 神の慈愛を説く人々が、その口で敵を悪魔と罵り、祝福を与えた手でヒトを殺すのだ。
 まったくおかしな話だ――そこに罪の意識などないのだから。
 きっとこの状況を仕組んだ幻朧戦線の上役とやらも、
 よりスムーズに事態を進行するために、わざわざこうしたのだろう。
 あるいは、利鷹の狂信を試そうとしたのか……事態は神すらも知らず、だ。
「――それに、あのオンナのカオ」
 紫煙をくゆらせながら、逢真はここに来る少し前のことを思い返した。
 例の女――すなわち門倉・チエの様子。
 まだ己を殺しに来ているのがよく知る男だと知らない女は、
 自分が狙われているというのに避難せず、この場に残ろうとしていた。
 スタァの矜持だか、他の人々が安全に逃げるのを見守るためだとか、
 なんとか言っていたような気がするが、まあ逢真には関係のない話だ。
「賭けなくてもいい命を賭けて、必要のねぇ危険にわざわざのっかる。
 それこそ"死んでも治らねえ病"だぜ、ひっひ。あぁ、まったくどいつもこいつも――」
 神は空を仰いだ。
「嫌ンなるほど、バカだねぇ」
 だがそれが、ヒトというものでもあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
◆ニル(f01811)と


そういや、鳥は竜の天敵なんだっけ?
俺には竜の方が強そうに見えるけどな
オーケー、任された

雷球を可能な限り撃ち落とし、被弾を抑えると共に
間隙を縫って本体へ狙撃
【静海響鳴】――全ての動きを余さず捉え
攻撃への反応から癖を覚える
視界が潰れれば余計に“癖”や“本能”で動くだろう
動きを見切り、先読みして射撃を重ねていく

……なあ、その理想とやらは
お前の大切なものよりも重いものなのか?
この先戦禍が訪れれば、その人を危険に晒すかも知れない
そうだとしても、その道に迷いはないものなのか?

……どっちにしろ、わからないけどさ
その覚悟もなく、武器を取ったのだとしても
大切なものを、犠牲に出来るとしても


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

雷に猛禽な……
どうもどっちも苦手な相手だけど、こいつ程度に負けるつもりもねえ
匡、頼むよ
鳥の弱点っつったら、銃ってのが相場だし

現世失楽、【悪徳竜】
幾ら何でも匡に任せっきりじゃあな
先に協力してくれた霊たちの嘆きを引き受け、呪詛として攻撃へ回す
この蛮行、我々が食い止める
一時的にでも視覚を奪って、動きを単純化してやろう
ま、そんなことしなくたって匡は当てるけどさ
この方が沢山撃ち込めるだろ?

利鷹と言ったか
別段、貴様の命の使い方に口を挟む気はないよ
貴様が私を止める権利を持たないのと同じだ
好きに殺して、好きに死ねば良い
その蛮行に大事なものを巻き込むことくらい、当然、覚悟の上なのであろうしな?



『どけ、猟兵!! 我らの――我らの理想の邪魔をするなァ!!』
 利鷹は半ば影朧『雷禍』の怒りとシンクロし、狂乱の雄叫びをあげた。
 呼応するように影朧の幻影は高く怪鳥音をあげ、雷球を撒き散らす。
 それ自体が白熱するほどの高温を持つ上、雷を伝達する中継点のようなもの。
 傷ついた羽根を再生させ嵐を起こすさまは、神話の怪物めいていた。
「雷に猛禽、な。どうもどっちも苦手な相手なんだが……」
「鳥は龍の天敵、なんだっけ。俺には龍のほうが強そうに見えるけどな」
 鳴宮・匡の言葉に、ニルズヘッグ・ニヴルヘイムは少年めいて笑った。
「もちろん。あいつ程度に敗けるつもりもねえよ。匡、あの球頼めるか?」
「オーケー、任された」
 匡は親友の言葉に頷き、飛来する雷球を素早く撃墜。
 新たに雷球が生成される隙を縫って、嵐の中へと飛び込んだ。
「――さて」
 そしてひとり後方に残ったニルズへッグは、冷たい冷気の霧を纏う。
 現世失楽、悪徳竜(デッドエンド・オブ・ニヴルヘイム)。
 北欧神話に名高き地獄めいた世界の名を冠したそのユーベルコードは、
 獲物の視覚を奪い、思考と挙動の挙措を理解してより的確な攻撃を可能とする。
 そして冷気の霧の中に現れたるは……おお、亡者の群れである。
 先の抜刀突撃を受け止めた、前時代に散った勇士達の成れの果て。
「霊達よ。私に何を望む。貴様らは何を嘆く?」
 さざなみのように、どよめきのように、死者達は悲嘆をもたらした。
 ――悲しい。我らの礎の上に立つ若者が、この世界を壊そうとしていることが。
 血塗られた兵器を引きずり出し、戦乱を起こそうとしていることが。
 あってはならぬ。認めてはならぬ。そのような形で平和が乱されるなど。
 我らの犠牲は、無駄だったのか? すべて、結局、無意味だったのか?
 ……無意味にしてはならぬ。無意味にしたくない。どうか。どうか!
「いいだろう」
 ニルズへッグは傲岸不遜に頷き、嘆きを引き受け、そして練り上げた。
「ならば私とともに来い。戦知らずに若造を、蛮行を我々が食い止める。
 ――匡に何もかも任せっきりにするわけにもいかん。その嘆きを私に寄越せ」
 死者達の嘆きを啜り呪詛に変える様は、まさに根喰みの邪竜めいていた。
 王の如き傲岸さとともに、邪竜は冷気を伴として戦場に遅参する。

『っ!? これは……見えない、何も! 何が起きている……!?』
 そして、冷気の食指は怪鳥を絡め取り、その視覚を奪い去った。
 匡にとってはその一瞬さえあればいい。もうすでに"観察"は済んでいる。
 敵は羽ばたこうとする、予測通り。上昇点に"置いた"弾丸が幻影を貫いた。
「もうお前の癖はだいたい"視えた"よ。悪いがこの先へは行かせないぜ」
『この……ッ、そこまでして私の理想を阻みたいのか……!!」
「――なあ」
 匡はす、と目を細め、銃口を向けたまま問いかけた。
「その理想とやらは、お前の"大切なもの"よりも重いものなのか?」
『……何を』
「この先戦禍が訪れれば、お前の"大切な誰か"を、危険に晒すかもしれない。
 そうだとしても、その道に迷いはないものなのか? ――覚悟は、あるのか」
 怪鳥の幻影は荒ぶり続けていた。だが利鷹はそうではなかった。
 まるで匡の言葉が弾丸めいて彼の胸を貫いたかのように、愕然としていた。
 何を、言っている。まるで確信的な物言い。
 奴らは"何を知っている"? まさか、己のことも見通しているのか――?

 ……その困惑に追い打ちをかけるように、ニルズへッグが言った。
「利鷹と言ったか? 私は正直、別段、貴様の命の使い方に口を挟む気はないよ」
『……! な、ならば退けッ!』
「それは断る。貴様に、私を止める権利はない……どちらも同じことだからな」
 だが、と邪竜は言った。
「その蛮行に大事なものを巻き込むことくらい、当然、覚悟の上なのであろうしな?」
 やはりだ。この者達の物言いは、明らかに何かを知った上でのものだ。
 利鷹の脳がひえつき、狂信と理想の熱が引いていく。
 何かがおかしい。何が起きている。いや、ここには――何が、"居る"?
『わ、私は……』
 利鷹は冷静に言葉を紡ごうとした。だが怒れる影朧はそれを許さない。
 弾丸の拘束を逃れようと荒れ狂い、雷球を生み出して撒き散らす!
「なるほど、これはたしかに効率的な兵器だ。搭乗者が迷っても止まらないとは。
 一度動き出せば、どうあれ"死ぬまで止まらない"甲冑。実に、合理的だな」
「――わからないまま突き進むってのは、馬鹿げてるな」
 わからないとしても、己の目で、耳で、こころで"それ"を知ろうとする男は言った。
 きっと何もかもを"どうでもいい"と切り捨てたまま歩み続けていれば、
 己もああして何も知らぬまま一線を超え、おぞましいなにかに成り果てたのだろう。
 人でなしですらない、名状しがたい怪物のような何かに。
 獣が荒ぶる。竜と人でなしは、弾丸と爪牙でもってそれを止めにかかった。
「私は――」
 冷たく昏いコクピットの中。利鷹は、ありえないはずの可能性に顔を覆った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェルト・フィルファーデン
後は、この者を倒せば終わり。……いいえ、まだ出来ることがあるはずよ。

まずは兵士人形を呼び出し、雷禍の対処と周辺の安全確保をお願いするわ。よろしくね?

わたしはチエ様の元へ。会って直接、包み隠さず知っている全てをお伝えするの。
……幼馴染みの利鷹様が、乗れば確実に命を落とす幻朧甲冑に乗っている事もね。

そして全てを知った上で、チエ様がどうしたいか聞くわ。わたしは、貴女の力になりたいの。
何もない、分からないというのも分かるわ。唐突だものね。
会って話したいならその身を護りきるし。
一発殴ってやりたい、でもいいわよ?わたしが手を貸すわ。
助けたいというなら、全身全霊で助けましょう。

さあ、言って。貴女の望みは何?


黒城・魅夜
電撃使いですか
私にとっては処しやすいですね
早業・範囲攻撃・ロープワークで鎖を広範囲に撃ち出した後
瞬時に見切りを使って切り離し
避雷針として電撃を受け止めさせながら間合いを詰め
この牙を深く沈めてとどめとしましょう

元より説諭などするつもりもありませんし、その柄でもない
ですからただ呟きます

あの人に気付かなかったということ自体、あなたの視野が狭窄な証
大切な人もろとも手に掛けるというのなら
あなたは外道に堕ちた咎人にほかならず
大切な人だけは救いたいというのなら
所詮は独善を大義と言い張る咎人でしかない
――どちらにせよ咎人殺したる私の獲物です

……ゆえに
せめて己の咎を自覚なさい
あの人の目を見て詫びられる程度には


氏家・禄郎
さて仕事だ
まずはこの外套をはがさないといけない
【闇にまぎれて】移動
【クイックドロウ】で射撃すれば、再び闇に紛れる形で見つからないように立ち回るよ
まあ、見つかったら髪の毛がパーマになるだけだ
誰か治してくれ

そんな感じで攻撃を積み重ね『戦術』を発動
どんどん当てていき、雷禍をはぎ取らせてもらう

「悪いが調べさせてもらった。式山・利鷹君。ここには君の幼馴染の門倉・チエ君が居る」
「君が何故、このような理想の為に不退転を選んだか私には分からない。だが、一言告げるだけの猶予と勇気を頂けないか?」
「それともだ……その鋼鉄の外套を纏わないと華やかな彼女が眩しいとか言わないだろうね?」
「どちらにしても時間あるかい?」



『う、嘘だ』
 甲冑の奥から漏れ出た声は、とても理想に燃える軍人とは思えないものだった。
 青年将校・利鷹の声は、それほどまでに弱々しく震えていた。
「この状況で、そんなウソをつく理由が私達にあるとでも思うかい?」
 氏家・禄郎は銃口を向けたまま肩をすくめ、改めて言った。
 彼が聞き漏らすことなく、その事実を理解できるように、ゆっくりと。
「もう一度言おう――式山・利鷹君。ここには君の幼馴染の門倉・チエ君が居る」
『……!!』
「君が何故、このような理想の為に不退転を選んだか私には分からない。
 だが、一言告げるだけの猶予と勇気を頂けないか? どうだろうかね?」
 探偵は言う。これまで告げられなかった事実を、淡々と、理性的に。
「せめてその影朧をなんとかしてくれると嬉しいんだがね……っと!」
 だが一方で、甲冑を覆う怒れる怪鳥の幻影はそれを許さない。
 燃料とされた影朧は、究極的に言えば甲冑の搭乗者の意志に関係なく暴れる。
 そうせざるを得ないほどの苦しみと絶望が、影朧を苛み続けているからだ。
 利鷹の声は聞こえない。あるいは、己でももはや影朧を止められぬことに、
 コクピットの中で苦悶しているか。禄郎はやれやれと頭を振った。
「――愚かですね。視野狭窄に陥り、事実一つに困惑してろくに言葉も紡げない。
 もとより説諭するつもりなどありませんでしたが、あなたは実に愚かです」
 ガガガガガガッ!! と迸る電撃を、その悪夢の鎖によって受け止め、
 黒城・魅夜が言った。その表情には、侮蔑も嘲笑もない、淡々としたもの。
 見下してすらいない――彼女は利鷹という男に何の価値も感じていない。
 路傍の石をわざわざ罵倒する者はいるか? 否である。
 誤った理想に振り回され、いまさら混乱する男など、その程度ということだ。
「あなたはこうして教えられるまで、あの人の存在に気づきすらしなかった。
 そして今、あなたは大切な人をもろとも手にかける外道に堕ちる覚悟も、
 救いたいとのたまう独善さもない。まったく中途半端で、何者でもありませんね」
『……わ、私は……知らなかった!! そんな、だって……ッ』
「知っていたらやめていたのか……なんてのは、いまさらな話だろうかね」
 禄郎は言う。魅夜もまた、そんな仮定をここで論ずるつもりはなかった。
 なにせ彼女のやることは初めから決まっている。なぜならば彼女は咎人殺し。
「これからのあなたが外道に堕ちるにせよ、独善を大義と言い張るにせよ。
 こうして戦乱を起こそうと行動した時点で、あなたは咎人に他なりません。
 私は、あなたを殺します。あなたが後悔しようと、すまいと。どちらであれ」
「……しかしだ。その前に、心残りを晴らすことぐらいは出来るだろう?」
 禄郎の言葉に、魅夜はちらりと無機質な視線を向け、頷いた。
「あなたは己の咎を知った。自分が何をしようとしていたのかを理解した。
 ならば、せめてそれを自覚なさい。その重さ、愚かしさ、蒙昧さを」
 探偵は頭を振る。魅夜の言葉は正しく、だが無慈悲だ。
 説得のためには非合理的で――しかし遮るつもりもなかった。
 彼女の言葉は、理にかなっている。なにせもう"どうしようもない"のだから。
「もう一度問おう、式山・利鷹君。君に勇気を振るうつもりはあるか?」
『……………………』
「彼女に、ただ一言。告げるつもりがあるなら、僕らは待つさ」
「そのためには、まずあの荒ぶる巨鳥をなんとかしなければですけれど」
「そこは同意見。まあ私達が健闘している間、考えてくれたまえ」
 探偵がおどけて言えば、そこをめがけて雷が降る。鎖が引き寄せる。
 様子見の銃撃が翼を穿ち、魂をも穿つ牙を光らせて女は飛翔した。
 そんな彼らをサポートするのは、フェアリーサイズの騎士めいた人形達だ。
 電脳魔術によって制御されたそれらは、数の利で敵を押し留めている。
 そしてその操り手は――いま、オペラホールの内部にいた。

「……これが、外で起きていることのすべて。そしてあの影朧のすべてよ」
「……そん、な」
 妖精の少女、フェルト・フィルファーデンの前で、チエは崩れ落ちた。
 彼女もまた、フェルトの口から"何が起きているのか"を聞かされたのだ。
 幼馴染が、他ならぬ自分を殺すためにここに来ていること。
 もはや、彼は生きて甲冑を降りることは出来ないこと。
 猟兵達は彼を押し留め、最終的には無力化するつもりであること。
 ――彼もまたいま、チエの存在を知ったということ。
 外からは断続的に雷鳴と銃声、そして鎖の鳴る音、怪鳥音が響く。
 戦いは続いている。かろうじて、大劇場そのものには届いていない。
「た、助けられないのですか? 皆様の、ユーベルコヲドで」
「……残念だけれど、それは不可能だと言われているわ。どうあっても」
 フェルトは顔を顰めて頭を振った。彼女としても不本意ではあった。
 希望を謳い絶望を払う少女にとって、"出来ない"ということは苦痛に等しい。
 されど、グリモアのもたらした予知と結果はおよそ覆しがたい事実。
 いかに世界の理を超えるユーベルコードとて、不可能は存在する。
 たとえば、彼女の滅びた国と民が、もはやどうあっても戻らないように。
「ねえ、わたしは聞きたいの。チエ様がどうしたいのかを」
「わ、私、が……?」
「わたしは、あなたの力になりたい。あなたの望みを叶えてあげたい。
 ……いきなりのことで、何もかもわからなくなっているのは理解できるわ」
 けれどね、とフェルトはチエの肩に手を置いた。
「どうかあなたの望みを考えて、そして聞かせて。わたしはそれを叶える。
 あなたが彼に会って話したいと言うなら、わたしはその身を護りましょう。
 一発殴ってやりたい、とかでもいいわよ? もちろんわたしが手を貸すわ」
「……………………」
「ありえない可能性に賭けてでも助けたいというのなら、全身全霊を尽くしましょう。
 ……わたしとしては、あなたがそれを願うことを、愚かとは言えないし、ね」
 ありえない希望を謳い苦しみ続け、現実を乗り越えた少女だからこその言葉。
 自嘲の笑みを浮かべたフェルトは首を振り、崩れ落ちたチエに手を差し伸べる。
「わたしは、希望を叶えるもの。誰かの希望を護るためにわたしは戦う。
 ――さあ、言って。あなたの望みは、叶えてほしいことは、何?」
 チエは何かを言おうと口を開いたが、唇はわななくのみだった。
 幼馴染の凶行。存在。避けられぬ死。理解。困惑。絶望。そして問いかけ。
 チエは顔を覆い、泣く。外からは断続的に戦闘の続行音が響き続ける。
「……だいじょうぶよ。あなたの痛みも、わたしは引き受けてあげるから」
 フェルトはただそう言って、彼女が泣き止むのを待ち続けた。
 そうするしかないと、彼女は知っていたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
狭筵さん/f15055

やけに身体を張りますね。
じゃ、ひとつ教えておきます。

【紙技・化鎮】。《忍び足》で接近。
『朽縄』を脚なり頭なりに直接引っ掛けて
行動を妨害しがてら懐に入る。
見えない相手に乱発もできないでしょ。
自分だって焼き鳥になりますよ。

…化鎮のもう一枚を隠しておきました。
狭筵さんに『教えた』のは、その場所です。
効力を発揮すれば倍速で疲れますから、巻きで殺す。
疲れるなんて言いませんけど。
余計なことは知らない方が、あちらも自由に動けます。

そう。
余計なことは知らない方がいい。
その真実は『余計なこと』ですよ。
躊躇いは刃を鈍らせます。満足に死ねやしない。

…? はあ。
教えたのは必要なことですが。


狭筵・桜人
◼️矢来さん/f14904

そんなに大事なんですかねえ、正しい世の中。
正しくなければ幸せになれない?
歪んだ世界でだって、幸せになる道もあったでしょうに。

【先制攻撃】、レギオンによる砲撃【一斉発射】。
タゲ取り後はレギオンを雷撃から身を【かばう】盾にして
【逃げ足】頼みで時間を稼ぎます。
とはいえ長くは持ちません。
レギオンの数も有限。フィジカルにも自信がない。なるはやでお願いしますね!

ねえねえ矢来さん。
たとえばですよ?大切な人を自らの手で殺そうとしているのだと
知って死ぬのと知らずに死ぬのなら、どっちが気分良く死ねますかねえ。

じゃあもひとつ質問。
最初に私に『教えた』コレは『余計なこと』には含まれない?



 世の中には、知らないほうがいいこともたくさんある。
 ヒトが知り理解できる情報には限りがある――そしてその容量は、ひどく少ない。
 取捨選択せずに情報を集めようとすれば、普通は頭がパンクしてしまう。
 特にこの情報化社会では、必要ない情報を切り捨てる技能は重要と言える。
 裏仕事人(ウェットワーカー)として、矢来・夕立はその原則を痛感している。
 依頼人の正体、事件の背後事情、標的のパーソナリティ、etc……。
 知ってしまったでは済まされないことが、闇の世界には山ほどあるのだ。
〈ほら見たことか。やっぱりこのざまですよ)
 何かヒトの言葉らしき異言を喚き散らしながら狂乱する影朧甲冑を前に、
 夕立は声に出さず辟易し、ため息をつく。実にやりづらい。
 おおかた、何処かのお人好しが――あるいは自分よりも冷血な人間が――"真相"を利鷹に教えたのだろう。
 受け止めきれない事実に頭がパンクした標的は、完全に混乱していた。
 もっとも、利鷹が戦闘意欲を失っていたところで、甲冑は止まらない。
 その身を覆う影朧の幻影は怒りと憎悪に突き動かされているがため、
 あれを払わない限りは暴走状態を止めることが出来ないのだ。
 まあ、もう一つのセーフティが発動する可能性もなくはないだろうが。
 ともあれ、夕立は利鷹が何も知らないままさっさと仕事を終えるつもりだった。
 作戦はありがたくもご破談だ。無計画(プランB)で動くしかない。
 そのための仕込みを済ませているからこそ、彼は一流の忍足り得るのだが。

 さて、そんな夕立はいま、影に潜み徹底して"仕込み"に勤しんでいた。
 では暴走する影朧甲冑――正確にはその身を覆う雷禍――は、誰が相手するのか。
 当然、夕立とコンビを組んでここへやってきた狭筵・桜人の仕事である。
 普段なら逆だ。桜人はなにかにつけて仕事をサボるか後方に退こうとする。
 だが今日は違う。かれはあえて前に出て、機甲兵器編隊を指揮していた。
「おやまあ、見苦しいぐらいの取り乱しようですね。そんなにショックでした?
 なら武装解除でもしてくれると助かるんですけど、難儀ですね。影朧兵器」
 いつものように本気か冗談かわからない調子で言いつつ、攻撃を身代わり防御。
 桜人は気取った仕草で肩をすくめ、雷禍の怒りをわざと惹きつけた。
 余裕面だが、実際これは極めて非効率的な時間稼ぎだ。
 機甲兵器の数は有限であり、しかも再召喚は即座に行えるものではない。
 雷撃を回避するために横っ飛び回避するうち、あっという間に息が切れた。
 では――なぜ、桜人はこんならしくない体の張り方をしているのか。
 もちろんそれは、夕立から注意を自分に惹きつけるため。
 ……戦術上の理由は、そうだ。だがそれでもやはり納得出来ない。
 桜人は、誰よりも自分の安全を優先する"ごくごく普通の"少年なのだから。

 ――ねえねえ矢来さん。たとえばですよ?

 影に潜む夕立の脳裏に、おかしそうな桜人のニヤケ顔が蘇る。

 ――大切な人を自らの手で殺そうとしているのだと知って死ぬのと、
 ――何も知らずに死ぬのなら……どっちが気分良く死ねますかねえ。

(その真実は、"余計なこと"ですよ)
 己が返した言葉が、レコーダーめいて蘇る。
("躊躇いは刃を鈍らせます。満足に死ねやしない")
 ――気軽に首斬る自殺志願者は言うことが違いますねえ。
 スピードが夕立を抱きしめ、桜人のからかい顔が洗い流されていく。
 夕立の主観時間が現実に追いついた。
 蛇めいた紙垂型の式紙が、桜人に飛びかかった雷禍を締め上げる!
『――~~~~!?!?!?』
 怪鳥は暴れた。それでも桜人だけは殺そうとした。
 だが少年の姿は消えた。夕立が仕掛けておいた"仕込み"のおかげである。
 もうひとつ用意された朽縄! 夕立は生命力を吸われるような疲労感に顔を顰めた!
「こっちもスタミナ勝負なんで、巻きで死んでもらいますよ」
 棒手裏剣が怪鳥の喉元に突き刺さる。悲鳴――それは怪鳥のものか利鷹のものか。
 悶え苦しむ影朧をさらに紙垂で絡め取って縛りながら、夕立は険を深めた。

 ――じゃあもひとつ質問しますね。

 再び桜人の言葉が蘇る。

 ――いま私に"教えた"コレは、"余計なこと"には含まれない?

 夕立が顔を顰めたのは、その質問の意図をまだ判じかねていたからだ。
 彼は、少年にユーベルコードの代償のことを伝えていなかった。
 少年もまた、わざわざ質問の答えを教えてやるほど優しくはないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
さて甲冑の者
大義のため。国のため
その理由で奪われたい者がどれだけいるとお前は考える

始源を展開
オーラに乗せて身に纏い、向けられる雷、或いは怒りの感情を辿って撃ち込む


宿す原理は時と自由
甲冑に縛られた影朧の時間を遡り束縛を絶つ
魔力も出力も必要なだけ『超克』と『励起』で補い、至るまで繰り返す

攻撃自体は致命のものだけ『無現』で否定しつつ受け、『刻真』で即復元
被害者には違いなく理性で動ける状態でもなければ恨みくらいは受けてやろう
俺が受け続ければ周囲への被害も減る

上手くいく保証はないが
事が済んだ後にでも、通りすがりの桜の精が癒やしてくれるかもしれん

※アドリブ歓迎


雨野・雲珠
・アドリブ、連携歓迎

かっ…影朧を燃料にするって、そういう…!?

苦しみまで都合よく解釈して利用するなんて、
想像を絶するむごい仕打ちに言葉もありません。
利鷹さまも、純粋だったお志を
逆に利用されたのではないでしょうか…

戦闘中は距離をとり、雷を見切りで避けつつ
【三之宮】でひたすら
自分と周囲の雷の無効化を図ります。
利鷹さまとチエさまは俺より適任がおられると信じて、
使い潰される影朧を気にします。
俺は桜ですから。
けれどこの凄まじい怨嗟の権化に、
もう言葉は届かないこともわかるんです。

せめて、散り際の痛みと苦しみが和らぎますように。
戻った先の海で、恨みがほどけますように。
解放を祈りながら、手向けの花で包みます。


ヌル・リリファ
アドリブ連携歓迎です

……。もう、おそい。どうにもならない。
だったら、わたしはなにもしらないままただしぬほうがいいっておもう。
しりあいを殺そうとしていたなんてしっても後悔するだけだとおもうし、ただころすほうが手間もない。ただ相手をふみにじるわたしがうらまれるだけでおわり。

だけど。もしもだれかがそれでもつよく説得したいというのなら、それでもおしとおすほどのつよいおもいはない。

わたしは、こういうときの自分の判断に自信があるわけじゃないから。

だから基本は殺すつもりだけど、場合によっては攻撃をふせいで時間を稼ぐことに専念するかもしれない。

……指示がないなかで、色々かんがえるのは。むずかしいね。


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

…捨て身の自己犠牲、って言えば聞こえはいいけれど。結局は自己満足の狂信よねぇ、これ。

雷撃かぁ…あたしの得物拳銃だし、銃弾の軌道が電磁誘導で狂うからあんまり相性よくないわねぇ。
…なら、逆に利用しちゃいましょうか。
向こうの雷球に合わせて●的殺の○先制攻撃。高伝導体の銃弾でかき乱して散らしちゃいましょ。

正直あたし、あなたの動機とかはさほど興味ないんだけど。
…「この世界をどうしたかった」のぉ?
まさかその後のビジョンもなく「とりあえずぶっ壊せばうまくいくだろう」…なんて嘗め腐った事考えてた訳じゃないでしょ?
…もしそうなら、あなたホントに救いようないわよぉ?



 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。
 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。
 憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。

 荒れ狂う憎悪、そして憤怒。呼吸すら忘れてしまいそうな激情の嵐。
 甲冑の乗り手である利鷹が、真実を知り混乱状態に陥ってしまったことで、
 雷禍は……あるいは影朧甲冑は……完全に暴走していた。
 厄介なのは、それが戦闘に関してプラス効果だけを産んでいることだ。
 むしろ攻撃が激しくなっているぶん、こちらのほうが"正しい"のかもしれない。
 まさしく、影朧と乗り手の命を燃料として燃え上がる業炎。
 非人道の極み。雨野・雲珠は圧倒され、呆然とし、そして呻いた。
「かっ……影朧を燃料にするって、そんな……こんな、ことが……!!」
「単純計算で影朧二体分の戦力発揮するんだから、効率的な兵器だわぁ」
 笑みめいた表情の女、ティオレンシア・シーディアは淡々と言った。
 フィクサーである彼女にとって、こうした兵器は枚挙にいとまがない。
 "慣れている"ということが、好意的印象につながるわけはないのだが。
 愛銃のリボルバーを構えるその目つきは、笑っているようで鋭く細まっていた。
「でも、もう、おそい。いまさらしっても後悔しても、どうにもならない。
 あれにのってるひとは死ぬし、影朧だって、ときはなつことは――」
「いや」
 ヌル・リリファの言葉に、アルトリウス・セレスタイトが口を挟んだ。
「直接影朧を解き放つ……つまり浄化して転生させることは出来なくとも、
 奴の味わっている苦痛を和らげることで、戦力を削ぐことは出来るかもしれん」
「……俺も、そう思います。いえ、そうしたい。少しでも、痛みと苦しみを……」
 サクラミラージュの大原則――影朧は転生の可能性を持つ。
 それゆえに、雲珠のように影朧に慈悲と憐憫を見せる者も居なくはない。
 特に彼は桜の精であるため、なおさらに雷禍に思うところあるのだろう。
(お人好しが多いわよねぇ、猟兵って。……ま、言わないけど)
 ティオレンシアは脳裏でドライな言葉をひとりごちながら、口ではこう言った。
「……それでぇ? その間あいつを抑えなきゃいけないわけでしょお?」
「なら――わたしが、時間を稼ぐよ」
 ヌルはガラスめいた瞳を見開き、言った。
 戦闘人形として純化された思考を持つヌルに、慈悲という概念はない。
 その芽生えのようなものがあるとはいえ、人間のそれには遥かに程遠い。
 けれども。ヌルはヌルなりに考え、そして結論を出すことは出来る。
 今この場で彼女に出来ること。つまりは、救いのための時間稼ぎである。
「雷は、俺が無効化します。……して、みせます」
 雲珠は言う。その言葉が暴走状態の雷禍に正しく届いたかは定かでないが、
 小康状態にあった雷禍は、突如として無数の雷球を生成、攻撃を本格化!

「雷そのものは視えなくてもぉ、"起こり"なら見切れるのよぉ?」
 だが、ティオレンシアが一息速い。ほぼ同時と思えるほどの神業的な抜き撃ち!
 BLAMN!! 何の変哲もないリボルバーの弾丸が雷禍の巨大な翼を撃ち抜くと、
 白熱化しかけた雷球は雲散霧消し、稲妻は無制御かつランダムに飛び散った!
 怒りだ。怒りがある。己を捕らえ苦しめ痛ぶり利用する人類への怒り。
 雷禍は憤った。この世のすべてに対し、尽きぬ憎悪と怒りを煮えたぎらせた。
 穴の空いた翼の再生もそこそこに、雷禍は収束しないまま雷撃をばら撒く。
 卓越した猟兵である一同なら回避あるいは防御は出来る――だが!
「この機に乗じて、もともとの攻撃目標を破壊されては困るのでな」
 アルトリウスは冷静に魔力を汲み上げ、オペラホールに薄い障壁を張る。
 正しくは後方の大劇場そのものの次元を一時的に切り離してしまうことで、
 ランダムな稲妻がその先へ被害を起こすことを避けた。
 然り。アルトリウスの操る"原理"ならば、時や因果すらも解すことが出来る。
 青い燐光が双眸に宿り……その力は、稲妻を辿り雷禍の核を捕らえた!
「このままお前の時間を遡り、束縛を絶ってやろう……」
『~~~~~~~ッッッ!!!』
 雷禍は悶えた。外からの不可知なる存在介入を本能的に畏れた。
 ランダムに思えた雷撃は再び一点に――つまりアルトリウスに収束する。
「もう、俺達の言葉すらも届かないのでしょう。けれど――」
 そこに雲珠が割って入り、なんと、その雷撃を自ら食らったのだ。
 四肢の力を抜き、穏やかですらある表情で。まるで安楽死する重病者めいて。
 あるいは殉教する聖人のように、そこには恐怖も苦痛もなかった。
「……せめて、その痛みと苦しみが和らぎますように。
 戻った先の海で、少しでも怨みが解けますように……」
 願うは解放と安穏。桜の精の少年は、ただ影朧の憩いを願った。
 稲妻が彼を灼くことはなく、他の誰かに届くこともなかった。
 体を駆け抜けた稲妻は、代わりに桜吹雪となって舞い散ったのだ。
 傷を癒やす桜の精の慰撫。雷撃が――一瞬だけ、途切れた!
「――ねえ。まだ、あなたには聞こえているんでしょ」
 一瞬の静寂を破ったのは、甲冑に肉薄したヌルの囁きだった。
 彼女はルーンソードに魔力を集め、影朧の帳を切り払うように剣を振るう。
 されどそこに痛みはない。雷禍は痛みを感じることすらもない。
 甲冑の鎧に刃は未だ届かず、けれども言葉は鋼を通じていたはずだった。
「わたしは、あなたになにかつたえたい言葉があるわけじゃない。
 けれど、わたしもかんがえたよ。あなたをころすべきなのか、どうかって」
 そうすれば、自分は相手を踏みにじり、そして恨まれて終わる。
 それはとてもラクな――けれども、なんの発展性もない終わり方だ。
 だがそもそも、救えぬ相手に言葉を届ける必要などあるのだろうか?
 合理性で考えれば不要。戦闘人形としてのヌルは切り捨てろと判断する。
 けれども。
「……あなたは、なにもかんがえないままたたかいつづけるの」
『…………』
 甲冑の内部からの声は帰ってこない。
「そもそもあなた、"この世界をどうしたかった"のかしらねぇ?
 あたし、動機とか興味ないけど、まさかそのビジョンもなかったわけぇ?
 ――だとしたら、あなたホントに救いようないわよぉ?」
 ティオレンシアは甘ったるい声で、けれども厳然たる事実を伝えた。
 もはや利鷹の命は救えない。けれども、彼にもまた"考える自由"は生まれた。
 怨みと怒りと憎悪に染め上げられた影朧とは違う。
 己の最期をどんなものにするか、過去を省みて決める自由が。
 甲冑の中から声は帰ってこない。影朧の攻撃が完全に止むことはない。
 それでも、少女は考え続け、少年は祈り続けた。
 思考と祈りは――無力であろうと、無駄ではないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

忠海・雷火
貴方が利鷹ね
チエと名乗る人がいて……幼馴染だそうね。彼女、心配していたわよ
何を選ぶも貴方の自由。そして貴方が何を選んでも、私のやる事は変わらない
兵器を破壊し、影朧は死を以て解放し……貴方に関しても、出来る限りの事はやってみたい


名の音が同じ鳥の注意を惹く。実体がある以上、刀で斬れない事はない筈
怒りが向いたらUC使用、まずはその雷を滅ぼしましょう
UCの対象は鳥へ限定、その力、呪詛、存在を滅す
同時に左掌の刻印も試用
本来は対UDC用だけど、何方も呪詛持つ過去の亡霊であるのは同じ
名もまた呪に通ずというなら、多少は取り込めるやも

各種耐性に吸収に破魔も駆使し、一連の行動で搭乗者への呪詛も弱められれば、或いは



「……あなたが利鷹ね」
 影朧の幻影を纏う甲冑に対し、忠海・雷火は言った。
 答える声はない。だが彼女はなおも言葉を紡ぐ。
「その様子ならもう聞いているのでしょう、あなたの幼馴染のことを。
 ……彼女、心配していたわよ。そしてあなたと同じぐらい困惑していた」
 雷火の脳裏によぎるのは、大劇場内部で泣き崩れるスタァの姿。
 門倉・チエもまた影朧甲冑の乗り手が誰なのかを、知らされているのだ。
 そしておそらく今も、泣き続けている。困惑と混乱、なによりも哀しみに。
「……何を選ぶもあなたの自由。そしてあなたが何を選んだとしても、
 私がここでやることは変わらない。兵器を破壊し、影朧は死を以て解放する」
 返ってくる声は、ない。ただ影朧は無制御に荒れ狂った。
 いまも与えられ続ける痛みと苦しみに悶え、怒りを雷として吐き出す。
 ――雷火と雷禍。奇しくも同じ名を持つ者同士の戦いは、拮抗している。
 雷火は迸る雷を、自身の体に纏ったエネルギー体によって滅却。
 負の感情を糧として力を増す狂沌の鎧は、この上なく"向いていた"。
 影朧に論理的思考はない。無駄だという合理的判断もない。
 攻撃を無力化されればそれだけ激憤し、さらに攻撃を繰り返す。
 そして、エネルギー体はそれを滅ぼし力を増す。完全なサイクルだ。
「あなたに関しても、出来る限りのことはやってみたいと思うわ。
 だから私は、あなたの纏うその呪詛を斬り、滅ぼす。そして――」
 ……あなたの纏うその鎧も、とは、雷火は言葉にしなかった。
 それは彼を殺すということと同義であり、言うまでもないことだからだ。
 "兵器を破壊"するだけなら、動力部なり関節部なりを完全に壊すという手もある。
 甲冑そのものが無事なら、少なくとも"彼の命は"生かせるだろう。
 もっともあんなものから二度と降りられぬ生など、死ぬほうがマシだが。
 だから、はっきりとは言わなかった。
 それが利鷹へのせめてもの慈悲なのか、雷火なりにためらわれたのか、
 あるいは合理的判断がゆえなのかは、他者にはわからない。
 ともあれ彼女は呪詛を喰らい力とし、迸る雷すらも斬り捨てて走る。
 甲冑から返ってくる声はない。影朧の幻影はほとんど暴走状態にある。
 災害じみた敵に、雷火は挑む。そして同じように言葉を紡いだ。
「あなたはどうするの? このまま無思考に同じことを繰り返すのかしら。
 あなたには考える時間がある。……私のやることは、変わらないわ」
 それは決断であり、己に言い聞かせるようでもあった。
 刃が呪詛の塊を削ぎ落とす。返ってくる声はやはりない。

 ただ、影朧甲冑の中で。
 操縦桿を強く強く握りしめる手のひらの音だけが、たしかに伝わってきた。
 退路を自ら喪ってしまった男もまた、現実に向き合いつつあったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽榮・天明
一帯に鋼線をめぐらせます。
これは攻撃、あるいは足場としてではなく、間接的な防御を意図するものにございます。
あの者の業(わざ)が電(いなづま)や雷(いかずち)の類なれば、鋼の糸は「滞空する避雷針」としてはたらきましょう。

みずからは中空を跳び、鋼線の合間を縫って接近を図ります。
翼はなくとも、宙を戦場とするは叶うものと。

軍刀にて接近戦を挑む――に際して。
かれも覚悟を持って此処に立った戦人でございましょうから、ならば、

「これなるは護国のつるぎ、陽榮の天明」

……名乗るが礼節と心得ます。

(※プレイング意図:相手の名乗りを引き出せるなら、それが門倉・チエ嬢の耳に届く可能性もあるものと)



 利鷹は、すべてを知った。
 己が何も知らなかったことを。
 ここに誰がいるのかを。
 そして彼女が何を知っているのか――己の存在を知ったことを。
 何もかもを知った。そして混乱し、影朧はただただ暴走し暴れ続けた。
 そんな敵と、陽榮・天明はたったひとりで相対している。
 戦場を有刺鉄線めいて覆うのは、彼女の展開した鋼線であった。
 バチバチと稲妻が迸る。天明は三次元的な機動でこれを辛うじて回避する。
 鋼の糸は言わばアースであり避雷針であり、雷の攻撃をよく防いだ。
 それでもなお、雷球を経由した雷撃はランダムかつ執拗だ。
 裏返せば、影朧の浴びる苦痛と怒りはそれだけ根深いということでもある。
 もはや、影朧を安らぎのままに転生させることなど不可能に近いが。

 バチィッ!! と飛来した雷を、天明は神速の居合で斬り捨てた。
 畏怖したかのように稲妻は束の間途切れ、奇妙な静寂が訪れる。
 好機である。天明は地に降り立ち、真っ向敵を見据えて腰を落とした。
 影朧を? ――否、その向こう、影朧甲冑を。
 そしてその中に居るであろう乗り手……つまりは、利鷹を睨んだ。
「あなたも覚悟を以て此処に立った戦人でございましょう」
 天明は云う。軍刀の柄に手をかけたまま、静かに。
「ならば私は名乗りましょう。ひとりの戦人として、學徒兵として」
『…………』
「――これなるは護国の絶剱(つるぎ)、陽榮の天明」
 寂寂とした名乗りであった。
 憎しみ合う天敵ではない、人と人、死合う剣士同士の流儀である。
 天明としても、これは賭けに近かった。
 もしも利鷹が、あくまでテロリズムの熱狂に浸ることを選んだのなら。
 この名乗りは戯言でしかなく、雷撃はたちまち彼女を焼き払うだろう。
 だが。もしも彼が、事ここに至って人として戦うことを選ぶなら。
 もはやその命は救えずとも、彼なりに己の最期を認め、考えたなら。
 ……何をなせるか、何をなすべきかを、思考したのなら。
 きっと声は返ってくるはずだと、天明は信じていた。

 そして。
 オペラホールのエントランス、泣き崩れていたチエは、聞いた。
 彼女にもしかと届く声であった。
 チエもまた利鷹の真実を知り、衝撃に膝を突いて泣き暮れていた。
 耳に届いた声は残酷な現実を後押しするものであり、心は乱れたが……。
『……幻朧戦線・決死隊"元"筆頭、式山・利鷹』
 聞き馴染みのある声は、彼女の心に少なからぬ安堵ももたらした。
『武人の礼節を以て名乗らん。護国の兵よ、私は』
 みしりと、操縦桿を強く強く握りしめる音がした。
『私は、貴殿と……否、貴殿らと戦う。影朧甲冑、仕る!!』
 血を吐くような声であった。
 彼は己の死を受け入れた――正しくは再び受け入れた。
 そして肚を決めたのだ。あくまで戦士としてこのまま戦うと。
 影朧が再びエンジンをかけられたマシンのように唸り雷を生み出す。
「承知。ならば陽榮の剱を以て、お相手いたしましょう……!」
 天明の双眸が燃えた。もはや彼女にも、一切の逡巡はありはしない。
 そして堰を切ったように雷撃が溢れ、絶剱は嵐を切り裂き影朧をも断つ。
 霹靂の如き戦音に、チエは枯れたはずの涙をまた一筋流した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
──御大層な正義だ
別に構わないぜ、何かに意志の炎を燃やすことはな
だが気づいてるのかよ
この大劇場のスタァが誰なのかを

どうせお前には何も殺せやしないさ
何故なら、その手には慈悲が溢れている──『Mercy Hand』
殺ったと思ったかい?
出来た隙にクロスボウを撃ちながら接近し、ナイフの機構を開放
二刀流化して【二回攻撃】しつつ、ショットガンで【零距離射撃】をぶちかましてやる

お前、利用されてんだぜ
門倉・チエが此処に居ること、知ってたか?
この戦いに俺達が居なかったら、死んでいたことを知ってたか?
幼馴染を殺す覚悟があるなら、俺はもう何も言わん
だがその覚悟が無いなら、お前は──
足元が見えてない、真の愚か者だ



「ザマぁないな」
 ヴィクティム・ウィンターミュートは、言った。
 小馬鹿にするような声だけれど、その表情はチームメイトのように凪いでいて、
 双眸には皮肉や嘲弄といった感情は、欠片も見受けられなかった。
「御大層な正義を掲げ、あれやこれやと理想を吐いて挙げ句に取り乱す。
 "誰を殺そうとしてたのか"を知って、利用されたことを理解して、
 それで戦意をなくしちまうようじゃ、つまりテメェはそこまでってわけだ」
 そう。利鷹はすべてを知り、一度は混乱し制御を手放した。
 だが――今は? 今は、影朧は暴走ではなく秩序立った制御下にあった。
 影朧の幻影はヴィクティムの言葉に唸り声を返し、ごろごろと稲妻が舞う。
 しかしそれはもはや己を灼かぬことを、ヴィクティムは知っている。
「お前には何も殺せやしない。……ああ、ユーベルコヲドって意味でもな。
 だが、もっと根っこの部分――つまりお前の心根の問題さ、スクィッシー」
 そのうえで利鷹は、猟兵の戦士としての名乗りに応じた。
 戦うと、彼は答えた。そしてヴィクティムが、その牙を奪ったのだ。
『……そうとも。私は利用されていた。騙されていた。そして取り乱した。
 私は愚かだ。どうしようもない愚か者だ。私は――私には!!』
 利鷹は血を吐くような声で言い、そして影朧が飛翔し突っ込んだ、
 ヴィクティムは弾かれたようにクロスボウを引き抜き、装填、射撃。
 悪足掻きめいて溢れた雷球の起こりを潰し、やけくそのような翼撃を回避する。
 次の瞬間には手品めいて手の中がナイフに入れ替わっており、
 体内に仕込んだショットガンをゼロ距離射撃で叩き込みながら、幻影を斬った。
 ほとんど芸術的な立ち回り。影朧の幻影は苦悶し怒りに吠え猛る。
 稲妻は何も灼かない。ヴィクティムの左腕が輝き続ける限りは。
 くるくると踊るようにステップを踏んで分厚い翼を斬りつけながら、
 ヴィクティムは冷静に距離を取り、そして敵を睨んだ。
『……私には、彼女を殺す覚悟などなかった』
「…………」
『笑え、猟兵。蔑み憐れみ、嘲り、そして見下すがいい!
 ……それでも私は戦う。戦わねばならん。戦わねば……!』
「そいつは、テメェの御大層な理想のためかい?」
 沈黙があった。
『……ここで戦うことすらやめたら、私は何もかもが無駄なガラクタとなる』
 返ってきた言葉に、ヴィクティムは顔を顰めた。
 バカな話だ。目的を喪ってまで続ける戦闘行為になんの意味がある?
 テロリズムとしての思想すらもないなら、それはただの児戯と同義だ。
 だが――そうとも、それすらも捨てたなら、もはや"何もない"。
 過去の意味がなくなる。散った命と、懸けた命が無駄になってしまう。
 それはまさに、そう、一度足を踏み外しておきながら勝利しようとする……。
「……糞が(Drek.)」
 舌打ち混じりに吐き捨てて、もうヴィクティムは何も言わなかった。
 幼馴染を殺す覚悟など、彼にはなかった。
 だが利鷹は戦うことを選んだ?
 なぜ? ――幻朧戦線の思想に酔いしれているから? 否。
 彼は彼なりに、己の命の支払い方を決めたのだ。
 それがヴィクティムには腹立たしく、忌々しく、鬱陶しかった。
 自分の愚かさを見ているようで、どうしようもなく苛立たしかったのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ナトゥーア・クラールハイト
馬鹿ね……。
怨みでは何も変わらない。
力だけでは何も変えられない。
壊すだけでは何も好転しない。

変えられないと諦めていたんじゃないの?
自棄になってしまったんじゃないの?
でも――

――もう、手遅れ、なのよね。


『空間干渉(コネクト)――』
出来れば、あまり傷つけたくないのだけど。

『森羅掌握(コントロール)――』
とりあえず、封じ込むわ。

『――天地騒乱(コマンド)』
――Katasrotofi


落雷は魔力放出によるオーラ防御で防ぎながら、高速詠唱するわ。
全力魔法を以て、周囲の建造物を崩して砂――土属性――の竜巻や大波を起こすわ。
自在に操り、襲い掛からせたり、味方や自分への雷撃を妨害するわ。



 グリモアの予知は万能に見えて、その実あまりにも力不足である。
 猟兵達にその事実が知らされた時点で悲劇が起きていることは多々あるし、
 予知によって得られるアドバンテージを盤石とするために、
 これから失われる命をあえて見過ごさねばならないことすらもある。
 今回はその典型例だ……いや、それを差し引いてもあの兵器はたちが悪い。
 起動した時点で尊い命が失われ、それは味方に決死の覚悟をもたらす。
 手遅れなのだ。影朧も、あの利鷹という男も。完全に救うことは出来ない。
 たとえ彼が真実を知ったとしても。後悔したとしても。
 だからこそ、利鷹は戦う意志を捨てず、なおも猟兵達に挑んだ。

 ナトゥーア・クラールハイトは、雷撃をオーラで防ぎながら頭を振った。
 愕然とし、混乱し、そしてうなだれた男は、戦うことをやめなかった。
 それが何を意味するのか、わからぬ彼女ではない。
 ……もはや、利鷹に幻朧戦線の思想に陶酔する未熟さはあるまい。
 彼は己の命を、支払ってしまったものに報いようとしているだけなのだ。
 あるいは、その愚かさを示すことで、あえて反面教師になろうとしているのか。
 どちらであれ、哀れで矛盾している。けれども、理解も出来た。
「できれば、あまり傷つけたくないのだけど――」
 空間干渉(コネクト)、
 森羅掌握(コントロール)、
「とりあえず、封じ込むわ」
 ――天地騒乱(コマンド)。
 かくして災厄(カタストロフィ)が、砂の竜巻が怒れる怪鳥を包み込んだ。
 利鷹の混乱も覚悟も、囚われた影朧は知ったことではない。
 たとえ仮に利鷹が戦うことをやめたとしても、あれは暴走する。
 だからこそ、一度はその軛を絶ち影朧を開放せねばならないのだ。
 内側から響くのは激憤の唸りと苦悶の雄叫び。それが心を苛む。
『う、おおおお……!!』
「……あなたは戦うことをやめないのね。なら、こっちだって容赦しないわ。
 誰も殺させない。何も壊させない。たとえ、もう手遅れだとしても、ね」
 決断的に言いながらも、ナトゥーアの表情からは翳りが消えない。
 愚かだ。人間とは時々、どうしても愚かで呆れることすらできなくなる。
 けれどもここで戦いを放棄して背を向ければ、それこそ何もかも無駄だ。

 だからこそ。
 彼が戦士として人間として、そして致命的な間違いを犯してしまった者として。
 あえて愚かであることを選び突き進もうとするのなら。
「あたし達は、戦うわ」
 それを迎え撃ち叩き潰すことが、せめて彼に出来る唯一の救いだろう。
 ……手遅れでも、何か意味のあることは出来るはずだと、彼女は信じている。

成功 🔵​🔵​🔴​

花剣・耀子
己の信じるもののためにいのちを遣うのなら。
ここを死場と遣い処を決めたのなら、あたしが何を言おうと意味はない。
……だけど、聞きたいことはあるの。付き合って貰うわ。

電撃は視認していたら間に合わない。
空気や熱、敵のうごき。予兆が判るならそれを察して、
致命傷だけは避けて接敵しましょう。
手持ちの鋼糸で雷の方向を逸らせれば良いのだけれど。

真実の所在が何処にあろうと瑣末な事。
あたしが聞きたいのは、おまえの言葉なの。

信じたものは何。
欲しかったものは何。
どうして世界を変えたかったか、その起点は憶えている?

怨むも憎むも好きになさい。
――でも。
それすらなくしてしまったら、おまえ、ほんとうに戻れなくなってしまうわよ。



 花剣・耀子は剣士であり死合者であり、そして比喩的な意味でも羅刹である。
 戦いにいのちを懸けるを厭わず、むしろ戦士としての誇りすらあった。
 ゆえに。全てを知った利鷹がなおも戦うことを選ぶというのなら、
 いまさら彼女がかける慈悲などない――否、むしろ戦うことが慈悲だろう。
 やることは変わらないのだ。影朧を祓い、斬り、そして甲冑を壊す。
 どのみち彼は死ぬ……それでも、耀子にはどうしても問いたいことがあった。
「この際、真実の所在がどこにあろうと、瑣末なことでしかないわ。
 あたしが聞きたいのは、おまえの言葉なの――だから、答えなさい」
 飛来する電撃を切り払う。当然、稲妻を見てから剣を振っているわけではない。
 如何に絶人の域にある剣豪だろうと、光を視認して斬ることは出来ぬ。
 空気のゆらぎ、かすかな熱、そして敵の僅かな動きといった予兆を視るのだ。
 視・聴・触、さらに味覚と嗅覚すらも総動員して全力で起こりを知る。
 そして後の先を取る……一手間違えば致命傷、それが剣士の戦いであった。
「おまえが信じたものは、欲しかったものは何」
 二度、三度。飛沫めいて火花を散らす電撃を切り払い、耀子は言葉を紡ぐ。
「どうして世界を変えたかったか、その起点は憶えている?」
 花剣・耀子は剣豪である。
 いのちを懸けるを厭わず、だからこそその信念をこそ重視した。
 何を思い、何のために戦い、そして何をもって死のうとするのか。
 理想か。
 遺志か。
 矜持か。
 あるいは破れかぶれの怒りか。
『……私は……!!』
「恨むも憎むも好きになさい。どうせもう、おまえのいのちは取り戻せない。
 ――でも、わかるでしょう。"それ"すらもなくしたら終わりなのだと」
 影朧は怪鳥音をあげ、鋼めいて鋭い爪で耀子を切り裂こうとした。
 がぎんっ!! と刃で爪を打ち払い、レンズ越しに、甲冑の鋼越しに、
 耀子の冷たくも穏やかな、それでいて何よりも鋭い双眸が男を射抜いた。
「答えなさい。おまえが人間であるなら。まだ戻れる"もの"であるのなら」
 利鷹は呻いた。その問いかけのなんと残酷で真摯なことか。
 いっそテロリズムに熱狂出来ていたならばまだよかった。
 病人のうわ言めいた妄言だろうと、ひとつの答えではあったろう。
 だが。利鷹は真実を知り、混乱し、そして事ここに冷静に至った。
 肚を決めてしまった。だからこそ、向き合うしかなかった。
 人の世に仇なすような真似をしておきながら、幼馴染に文を綴る矛盾。
 戦乱を望んでおきながら、自分の大切なひとはどうか健やかであれと祈る。
 なんと傲慢でふざけた話か。だが、己はそうしたのだ。
 そうして、ここに来たのである。
『憶えているとも。わからいでか! 私はただ一方的に決めつけただけなのだ!
 それでいて安寧を望んだ!! あのひとだけはどうかと!! 私は……!!』
 影朧が襲いかかる。耀子は稲妻を、そして翼を斬る。
『私は!! あのひとにとって、よりよい世界であってほしかったのだ……!!』
「――そう」
 剣戟が幻影を払う。影朧甲冑が、その衝撃に蹈鞴を踏んだ。
 少女の瞳は、どこまでも澄んでいて怜悧だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿地院・澄蝶
あぁあぁこないな立派な鳥さん痛めつけよって
こういうのに敬意を払えへん輩はなんでも粗末にするんや
例え自分の命でもな

ま、それはそれとして影朧になってもうた以上はいてこまさなあかんけどな
憎悪は心の毒、影朧は世の毒
【神降ろし「かるら」】!っちゅぅことで毒喰らう火の鳥に食ってもらおか
かるらに乗って雷禍の上を取ったらかるらは突撃
毒を喰ってもろうて楽になってくれたらええんやけどな
あちきは飛び降りて狙うは脳天に蹴りや!
墜ちてくれなあちきが楽に殴れへんやろ!

あいつらが何考えてるかなんて興味あらへんけど
こないな立派な劇場壊そうなんてロクなもんやあらへん
女子が舞って歌ってるの見て胸ときめかんのかい、男の癖に



 鹿地院・澄蝶の背に顕現せしは、大気を焦がす神なる炎。
 八部衆が一、迦楼羅天より賜りし病毒退散の焔翼である。
「憎悪は心の毒、影朧は世の毒――なんちゅうて、な?」
 怒れる怪鳥がそうしたように、澄蝶もまたばさりと焔の翼をはためかせた。
 両者は空を悠々と舞い、飛来する憎悪の稲妻を熱によって霧散せしめる。
 高速で飛翔し稲妻と猛火を散らす両者は、地上から見れば色のある風めいていたろう。
「あぁ、あぁ――こないな立派な鳥さんこぉまで痛めつけよって。
 あんたらが何考えてるかなんてあちきはさぁっぱり興味あらへんけど、
 こないなことして立派な劇場怖そうなんてロクなもんやあらへんわ!」
『そうだろうとも……ああ、そうとも! 我らはどうしようもなく愚かだった!
 私もまた理想に目が曇り酔いしれていた……否定もすまい……ッ!』
 返ってきた男の声に、澄蝶はあら、ととぼけた声を漏らした。
 なるほど、あのなんとかいう男はおおよそのあらましを知ったか。
 それでいて戦いをやめない、けれども己の愚昧さを認めてもいる。
「――アンタ、肚ぁ決めたんやねえ」
 つまりそれは、命の散らし方を覚悟した戦士の振る舞いであった。
「ならええわ、あちきも……まあもともとやる気満々やけど……本気で行くで!」
 澄蝶は背中の炎を、舞い飛ぶ鳥の形に再成して体から解き放った。
 怒れる怪鳥に食らいつく迦楼羅天の化身は、火の玉に変わりその身を包む。
 ごうごうと燃える炎は、いかな憎悪の雷とて外には漏らさない。
 否、だからこそ……憎悪もまた病毒、世と己を蝕む害意なれば、
 これなる神にとっては燃やすに易き手合。つまりは好相性であった。
「そうら、いつまでも偉そうに飛んどらんと、あちきと一緒に堕ちよか!」
『ぐう……ッ!!』
 澄蝶は落下速度を乗せ、怪鳥=影朧甲冑の頭部に強烈な回し蹴りを見舞った。
 衝撃が巨体を揺らがせて加速。澄蝶はそのあとを追い、落下姿勢を取る。
 再び鳥の形態を取った迦楼羅天が背に宿り、羽ばたきで再加速をもたらした。
「まぁだまだ、コン! といきますえ? 敬意も払えん輩はいてこまさなな!」
 破城槌じみた真上からの一撃! 影朧甲冑の足元がひび割れ砕けた!
『……ッ!!』
「骨の芯まで教訓響かせたるわ、ありがたく噛み締めながら食らっとき!」
 どのような理由であれ、斯様に獣を苦しめあたら命を散らすなど、
 覚悟していようが肚を決めようが、愚かであることには変わらない。
 だからこそ叩く。それは裁きでありある意味での手向けでもある。
 影朧への。そして、己の愚かさを受け入れた男への、唯一出来ることでもあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
愚かと切って捨てるには一途に過ぎる
だが決して赦される行いでは無い事を奴自身も知ってはいよう
ならばこそ“止められない”足は“止めてやらねば”なるまい

命を奪って変えられるのは人の心位のものだ
変えた憎しみが齎す改変なぞ後退よりも始末が悪い
唯の破滅への一本道だと知るがいい――今のお前の姿の様にな

――烈戒怒涛、縛を解く
視線や力の流れる向き、速度を戦闘知識にて計り
雷球は後ろへと通さぬ様に見切り躱して斬り落とす
打撃を飛ばし、其の後を追って一気に踏み込み
怪力乗せた鎧砕きの斬撃で以って、纏う影朧を叩き斬ってくれる

壊そうとしている世界に「誰」が生きているのか
今一度其の目で確かめるが良い……死する、其の前に



 人は、あまりにも弱い。
 諦めることは簡単なのに、愚かと解っていることは止められないのだ。
 それが世にとって己にとって悪であればあるほど、止まらないし止められない。
 不思議な話だ。善行を為すのはとてもとても難題だというのに。
 革命。
 堕落。
 そして――復讐のような、何の益もない自罰的な行い。
 そういったことは、始めたはずの当人にすら止められないのである。
 ……鷲生・嵯泉が、背負ったものの重さゆえに止まらないのと同じように。

 斯様な男を、愚かと切って捨てられるほど、嵯泉は無邪気ではなかった。
 赦されぬこととわかっていながら突き進む無謀と驕慢、そして省みなさを、
 彼はよく知っている――嫌というほど。であれば、どうすべきか。
「もう理解していよう。命を奪って変えられるものなど、畢竟人の心くらいだと」
『……ッ』
「変えた憎しみがもたらす改変なぞ、後退よりも始末が悪い。
 ただの破滅への一本道でしかない……そう、今のお前の姿のように、な」
『……わからいでか。それでも、私は!!』
「すべてを知ってなおも刃を振るわんとするか。まったく――」
 なんと、嫌になるほど見知った姿であることか。
 言葉を呑み込み、嵯泉は代わりに雷球をも断ち切る刃を振るった。
 達人とて雷を見てから斬ることは出来ぬ。五感を以て予兆を捉えるべし。
 虫の知らせめいた幽かな起こりをおのがものとし刃に命を乗せる。
 ある意味では狂気じみた行い。されどそれを可能にしてこその烈戒怒涛。
 稲妻が一つ煌めけば斬撃は二つ放たれ、雷球が二つ生まれれば刃が三度奔る。
 稚児でもわかろう単純な数式は、結果として嵯泉の優勢として答えを出す。
『ぐ……ッ!!』
「その影朧、叩き斬ってくれる――!」
 雪崩堕ちる瀑布の如き剣戟が、打撃のあとに叩き込まれた。
 巨人めいた怪力でもって振るわれる剣は、さながら稲妻めく。
 怪鳥の幻影は苦悶の雄叫びをあげ、その姿がノイズ混じりに揺らいだ。
 凄烈なる剣は、苦痛も憎悪も別け隔てなく断つ――ある意味では慈悲深い。

 そして嵯泉はさらに踏み込む代わり、背後を一瞥し甲冑に向け言った。
「今一度その目で見よ。お前が何をしようとしたのかを」
『……!!』
「お前の壊そうとした世界に、誰が生きているのかを。
 ――お前はもはや後戻り出来ん。されど、終わりにはまだ速いゆえな」
 息を切らせてオペラホールから飛び出したひとりの女が、遠巻きに見ていた。
 門倉・チエ。甲冑の中の男に戦慄が走る。嵯泉はもはや何も言わなかった。
 それでも彼が肚を決めてなお戦うことを選んだのなら、これは必要な邂逅だ。
 その痛みが、いかなる名刀の齎す傷よりも胸を抉るとしても。

成功 🔵​🔵​🔴​

朽守・カスカ
影朧の形を纏う兵、か
思えば影朧も哀れではあれど
見過ごすつもりもない

自らの命を賭してでも
歪んだ世を正すと言うならば、問おう
その歪んだ力と決意すら阻まれ
君達の命も想いも、誰の記憶にも残らず
後に続く者も現れず、霧散するだけであっても構わないのかと

戦いの最中、遠く剣戟の向こうで、倒され止めを刺されようとした幻朧戦線を、庇ったものがいると聞く

そのような人すらも
自らの正しさのために殺すのか
優しさが人を鈍らせるとでもいうのか
何故、強く優しくあろうとしない

【星灯りの残滓】
きっと、此処に訪れるだろう
その人を守るため
星屑を広げよう

もし、問いたい想いが
告げたい言葉があるならば
伝えるといい
多分、それはすべきことだから


国包・梅花
憎み、煽られ我を失いし霊鳥とは憐れなことですが
影朧となった以上は最早切伏せるしかありませぬ
空の敵なれば「錬成カミヤドリ」にて私自身こと国包景光を複製し【念動】にて斬りつけまする
五十数本にて一斉にかかり、時には顔に刃の壁にて迫り
我が手にて振るほどの精妙な斬撃こそありませぬ、なれど
複製なれど込められし【破魔】の意思に曇りなく、十重に二十重にまとわりつかば
翼を切り続け、文字通り尾羽打ち枯らしていただきます
私のほうは地を駆けひたすら回避に専念をば

そして利鷹さん、影朧と手を結び事を成しても跡に残るは影朧の世
命がけで作る世にしてはあまりに救いのないではありませんか
あなたはそのような世に誰を残したいのですか


アルナスル・アミューレンス
知らないっていうのは、中々に難しいねぇ。
このままなら、幸せなのか。
今際の際に、底知れぬ絶望を覚えるのか。

まぁ、どの道絶望だよね。
既に踏み外した後だ。
後は、どう後悔するか、かなぁ。

とりあえずは、押さえ込もうかなぁ。
でも、こう飛び回ってピカピカやられるのは面倒だよねぇ……。
まぁ、逃がさないけどね。
どこまで飛ぼうとも、僕の弾丸は君を『断絶(トラエ)』て離さないよ。

既に形がなくて、憑いてるタイプなら、これで行けるはず。
天に向けて放つは一発の砲弾。
されどどこまでも追跡し、
どこまでも加速し、
何度も何度も穿ち貫き、
その存在を蹂躙し、消し飛ばす。

さぁ、地に足を付けてお話ししよう。



 ――これを運命の悪戯と切って捨てるのは、いささか驕慢が過ぎよう。
 ただ夢を叶えるために邁進しスタァとなった女はともかく、
 男には何度でも戻れるタイミングがあった。
 立ち止まり、頭を冷やし、馬鹿なことをと自戒するチャンスがあった。
 だが、そうはならなかった――そうしなかったのだ。
 その結果として、同胞と仰いだ者らに騙され裏切られたのだとしても、
 それは身から出た錆であり、つまりは自業自得でしかない。
 だからこれは、運命の悪戯などというありふれた言葉で済ます悲劇ではない。
 男にとっては、自業自得の愚かで哀れな"ざま"である。
 ……では、女にとっては? 夢を掴み取ったことの代償だと?
 誰にも問えまい。そして、チエ自身にとってもどうでもよかった。
 その影朧の姿を目の当たりにした時、そんな瑣末なことは頭から飛んだのだから。

「……知らないままっていうのは、なかなかに難しいねえ」
 アルナスル・アミューレンスは頭をかいて、ひとりごちた。
 何が起きたか――まず、利鷹はすべての事実を知り、うなだれた。
 そして己の愚かさを理解し、受け入れ、なお戦うことを選択したのである。
 理想に酔いしれるテロリストとしてではなく、
 もはや後戻りできない愚か者として、なおも突き進むことを選んだ。
 そしてその場に、同じくすべてを聞かされたチエが現れた。
 両者は遠く、その間には猟兵達があるためチエが殺されることはない。
 影朧はなおも荒れ狂い怒りを撒き散らすが、稲妻が届くことはない。
 朽守・カスカの掲げたランタンの、星屑めいた輝きがヴェールのように広がり、
 国包・梅花の展開した五十と七つの名刀が乱舞し、道を遮っていたからだ。
「……やっぱり、ここに訪れたね。きっと来るだろうと、思っていた」
「どなたかがお連れになったのですね……ならば、なおのこと通せません!」
 カスカも梅花も、全力を以て影朧の猛攻を食い止めていた。
 重要人物を護るという意味では、その当人がわざわざ姿を晒すのは、
 極めて非効率的で非合理的だとアルナスルは思う。
 だが、仕方のないことだとも思う――何せもう、"踏み外したあと"なのだ。
 影朧甲冑は乗り手の命を奪う。いかなる奇跡でもそれは捻じ曲げられない。
 であれば、あとは"どう後悔するか"であり、"どう見届けるか"だろう。
 それもまた、戦略的に見れば無駄で無益な贅肉ではある、が……。
「ま、少なくとも影朧はなんとかしないと、落ち着いて話も出来ないねえ。
 ――だから、影朧くん。悪いけど、君を僕の弾丸で"断絶(トラエ)るよ」
 BLAMN――アルナスルは、無造作に天に銃を掲げ、トリガを引いた。
 しかし見よ。弾丸は弧を描いて地に落ちるかと言えばそんなことはなく、
 重力に反してネジ曲がり、軌道を撚り合わせ、そして怪鳥を追いかけた。
 オブリビオンだけを食らう、暴食の偽神細胞がなせる業。
 捕らえた獲物は捉えるまで逃さない。どこまでも加速し何度でも穿つ。
 翼を貫き、雷を喰らい、その苦痛も憎しみも怒りをも貪る魔弾であった。
「好機と見ました。その尾羽根、打ち枯らしていただきます……ッ!」
 梅花が追い打ちを仕掛けた。まず、浮遊する五十余本の複製刀が刺突する。
 破魔の意志と霊力を籠めた刃は荒ぶる雷撃を斬り裂いて鎮め、
 そして弾丸から逃れようと悶える怪鳥の全身をミキサーめいて切り刻む。
 されどもっとも凄絶なるは、他でもなき梅花自身が振るう刃であろう。
 十重に二十重にと振るわれる剣は、空気すらも斬り裂いて真空を生む。
 畢竟、苦しみ悶える残滓でしかない影朧に、逃れるすべはなかった。

 ……怪鳥の幻影が断末魔めいて長く高く鳴き、ぐったりと斃れ、消える。
 そのさまを、カスカは淡々と、しかしどこか悲しげに見送った。
「……苦しみ憎しみ抜いた哀れな影朧は、ようやく解き放たれた。
 これが、君達の理想がもたらしたもの。過去から引きずり出したものだ」
『…………』
「問おう。幻朧戦線に従いし者よ」
 ランタンの輝きは、逃げ隠れする場所など残さない。
「君達の命も想いも、歪んだ力と決意すらも阻まれ誰の記憶にも遺らず……。
 あとに続く者も現れず、霧散するだけであってもいいのか。構わないのか」
「……あとに残るのは影朧の世。それはもはや人の世ではありませぬ」
 梅花は痛ましげに頭を振って言い、カスカもそれに頷いた。
「まあ、冷静になってももう一度戦うことを選んだっていうなら、
 聞いたところで話が通じないか、解った上でやってるんだろうけどねぇ」
「……だとしても、問わねばならない。ボクは迷い惑う人を導くものだから」
 アルナスルの言葉に、カスカは答えた。
 ……しばしの沈黙ののち、甲冑の中から声がした。
 言葉を喪って見守るチエのもとにも、その答えは届いた。
「……いいわけがない。私は、いや、私達は何もかもを間違っていた。
 いかにこの世が歪んでいようと……否、その歪みも所詮は幻想か……」
「……それを知って、どうしてまだ強く優しくあろうとしない。
 あそこに、キミを見守るひとがいる。キミを知っているひとがいる」
『だからこそだ』
 青年は血を吐くような声で答えた。
『私は愚かだ。愚かだった。だからこそ私は、この命を以て愚かさを示す。
 ……幻朧戦線は鬼畜外道の集い。熱狂に酔いしれたすくたれものの集いだと』
 ごしゅう、と蒸気を吹き出し、影朧甲冑が再起動した。
『さあ構えろ猟兵、私は生きているぞ! そしてまだ戦おう……!
 たとえすべてが過ちで誤りだったとしても、私達はもう血を流したのだ!!』
「……そう、か」
 カスカは俯き、頭を振り、そして言った。
「ならば――私達は、ボクらは、キミをたおそう」
「…………」
「……本当、どっちのほうがマシだったんだろうねぇ。知るのと知らないのと」
 梅花は無言で剣を構え、アルナスルはため息混じりに言った。
 動き出した車輪は止まらない。切って落とされた火蓋が戻ることはない。
 影朧の帳は晴れ、狂乱の熱は醒め、真実の痛みが胸を突き刺す。
 されど男は止まらない。鞘走り剣を構え、そして吠えた。

 終わらせねばならない戦いがある。
 歌姫は、涙を流しながらそれを見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『影朧甲冑』

POW   :    無影兜割
【刀による大上段からの振り下ろし】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    影朧飛翔弾
【甲冑の指先から、小型ミサイルの連射】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    影朧蒸気
全身を【燃料とされた影朧の呪いが宿るドス黒い蒸気】で覆い、自身が敵から受けた【影朧甲冑への攻撃回数】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:雲間陽子

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 廻天(かいてん)――世の中の形勢、流れを一変させること。
 あるいは、衰えたものが勢いを盛り返すこと、またはそのさま。

●襲撃当日:横濱大歌劇場前
『私は……いや、私達は何もかもを間違っていた』
 帳めいた幻影は払われ、そこには今度こそ甲冑がそびえていた。
 青年は全てを知った。その上で戦うことを選んだ。
『いかにこの世が歪んでいようと……否、その歪みも所詮は幻想か……。
 私達の行いは赦されることではない。……赦されることでは、なかった』
 だからこそ、と青年は言った。
『私は……おれは愚かだ。もはや溢れた水は盆に帰らず、生き延びるつもりもなし。
 ……私はこの命を以て愚かさを示す。流れた血に報いて死のう』
 ごしゅう、と蒸気が吹き出した。
 甲冑は剣術めいた構えを取り、大型刀を大上段に持ち上げた。
 スタァの女は、ぽろぽろと涙をこぼしながらそれを見ていた。
『幻朧戦線は鬼畜外道の集い。熱狂に酔いしれたすくたれものの集い。
 我が愚昧な様を以てそう喧伝し、どうか世に知らしめるがいい……』
 祈りめいたねがい。道化を選んだ男の、血を吐くような声。
『さあ構えろ猟兵、命すらも惜しまぬ馬鹿たれが、貴様らに挑むぞ!!
 たとえすべてが過ちで誤りだったとしても、おれは止まれぬのだ!!』
 青年の声は、女の知るそのままだった。
 けれども、どうしようもないくらい、血と諦観にまみれていた。

 ――出来ることならば、無垢であったあの頃に帰りたいと思います。
 何も知らず笑えていたあの頃に。けれどもそれは叶わぬ願いで御座いましょう。

「利鷹、さん……っ」

 貴女様に「ばかなひと」と笑って頂けるのならば、この使命も悪くありません。
 御然らばで御座います。どうか――どうか、あなたの夢が叶いますことを。
 門倉・チエ様。先立つ不幸を、お許しください。

「利鷹さんっ!!」
 悲鳴じみた女の声は幼馴染に届いた。だが青年には届かなかった。
 蒸気が吹き出す。甲冑は剣を構え殺意を放出し、男は猿叫をあげる。
 戦いは終わらない。……ゆえに、終わらせねばならない。

●これまでのまとめ
『利鷹・チエ両名は事態のおおよそを把握済み』
『利鷹は自分の過ちを認め、チエ殺害とオペラホール破壊を断念』
『ただし、戦闘は継続。狙いは猟兵に絞られる』

『チエはオペラホール前で、涙ながらに戦いを見守っている』
『彼女に出来ることはなく、それを彼女自身も理解している』
(「チエの願いを知りたい」といった旨のプレイングを頂きました。
 答えとしてはこの通り、幼馴染の死を見届ける、といったところです)

『利鷹を救うことは出来ない』
『動力部を破壊するなどして甲冑が無力化された場合、利鷹は自決を選ぶ』
(直接本人を狙うか、無力化を狙うかは個々人の自由です)


 もはやすべては過ぎ去り、巻き戻すには時間は流れすぎました。
 皆さんそれぞれの思いをプレイングに籠めて頂けたら、と思います。
(もちろんんな御託関係ねえ! みたいなプレイングも大歓迎です!)

●プレイング受付期間
『2020年 03/26(木)13:59前後まで』
 
●蛇足かもしれない追記
 利鷹の言う「流れた血」は今回の襲撃での犠牲者のことではなく、
 影朧甲冑を起動させるまでに犠牲となった同胞達のことを指しています。
(起動実験とかあったと思いますし、そもそも幻朧戦線自体テロリストなので小規模な作戦で犠牲者も出ているだろう、という想定です)
アルトリウス・セレスタイト
手向けはくれてやる

始源を展開
対象外への影響を排す因果の原理と万象一切を砕く破壊の原理を宿す魔弾として行使
対象は影朧甲冑と搭乗者及びその行使するユーベルコード

高速詠唱に『刻真』の無限加速と『再帰』の無限循環を重ね、さらに『天冥』で因果を操作
過程を無視し生成・射出・着弾を同時とした絶え間ない飽和攻撃で封殺する
全身くまなく叩き付ければ蒸気もミサイルも吹き飛ぶのみ

魔力は必要なだけ『超克』で“外”から汲み上げ
出力が足りねば『励起』で補う

終わりを見届けたら『天護』と『天冥』を以て彼の者の願いを幻朧桜へ結ぶ

その終わりを知ったとて、誰が何を感じるか俺に判断はできんが
愚かな選択をする誰かが思い留まるかもしれん



 この行為になんの意味がある?
 死は避けられない。だがもはや、あの男に戦う理由はないはずだ。
 幻朧戦線への幻想は失われ、戦力差的にも影朧甲冑が勝利する可能性は0%。
 何の意味もない、つまりこれはただの犬死だ。
 なにもかも、アルトリウス・セレスタイトには理解できなかった。
 だが敵対するというならば、潰す。どのみちあれは破壊せねばならない。
 ゆえに彼は術理のちからを以て魔力を循環加速させ、影朧甲冑と相対した。
 放たれるのは無限の弾幕――生成・射出・着弾を時間差なしに行う飽和攻撃。
 影朧甲冑の身を鎧うどす黒い蒸気をも、魔弾の弾幕は吹き払っていく。
『ぬ、うううう……ッ!!』
 利鷹は奥歯が砕けるほどに噛み締めて、振動衝撃に耐えた。
 ……無意味だ。魔弾の弾幕を超えることは、影朧甲冑の性能では不可能。
 にもかかわらず。あの男は大太刀を構えながら、前に進もうとする。
「――生に意味を求めるか。それならば理解できなくもないが……」
『……否……!!』
 血反吐を垂らしたような声を絞り出し、利鷹は言った。
『おれは、すくたれものだ。狂信の幻想に逃げ込みながら覚悟しきれなかった。
 完全な狂気に陥ることも出来ず、中途半端に利益を求めたただの莫迦だ!!』
「…………」
『こんな"ざま"を見せれば、誰もが気づくだろう……幻朧戦線の愚かさに。
 そして何よりも、おれがここに立つのは、多くの同胞の犠牲あらばこそ……!』
「――……そうか」
 アルトリウスは瞼を閉じ、そして開き、魔力をさらに汲み上げた。
「ならば俺たちが手向けをくれてやる。せいぜい醜く足掻き、散れ」
 甲冑越しでは相手の顔はわからない。
 だが利鷹は笑っていると、なぜだかアルトリウスには見て取れた。
 魔弾の雨が甲冑を襲う。利鷹は止まることなく前に進もうとする。
 それはまったく理解できない、何の益もない無駄な行為だ。
 だが――ヒトには、無駄とわかっていてもそうしないとならないこともある。
 それこそ、命を懸けて。――アルトリウスは、それを識った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アナスタシア・ムスハルト
そうねぇ、流行り病に罹ったようなものよぉ
自分が満たされない時、周りの方が間違ってるように思えちゃうの
あなたの不幸は、そういうのばっかりが集まっちゃったから、誰もそれを指摘してくれなかったことねぇ
まぁ、だからって許されることじゃないし、落とし前はつけてもらうわね

目指した先を間違えても、その鍛えた武芸は本物だと思うわよぉ
だから、やけっぱちなんかじゃない、あなたの技を見せてちょうだい?
私も最強の技で迎え撃つわ
最初っから最後まで間違えっぱなしでも、最後の最後で最高の死合いが出来たと、冥途の土産にしなさいな
真っ向から「鏖殺無尽剣」で激しく打ち合うわ
その太刀筋、覚えておいてあげるわ



 ――ガギンッ!!
『ぐ……ッ!!』
 巨人に投げ飛ばされたような衝撃に、利鷹は奥歯を噛み締めた。
 強烈なGが影朧甲冑を揺さぶり、脳髄が頭蓋の中で転げ回るのを感じる。
 もしも彼が甲冑の乗り手として然るべき鍛錬を積んでいなければ、
 この一合の打ち合いで意識をブラックアウトさせていただろう。
「さあ、まだまだいくわよぉ?」
 一方の仕手――アナスタシア・ムスハルトは、涼しげな顔でさらに踏み込む。
 先の轟音は、影朧甲冑と彼女とが打ち合ったものだ。
 質量と背丈で勝る敵を、アナスタシアは膂力と技量で上回っていた。
『見事なもの……! これが、超弩級戦力の真髄か……ッ!』
 利鷹の肚のうちからこみ上げるのは、武道を学ぶ者としての称賛と尊敬。
 まさしくアナスタシアの膂力は天稟であり、優れた者の発露であった。
 外道に堕ちたとて剣を修めた者として、純粋な称賛の念が湧き上がる。
 憎悪、悲嘆、迷い、恐怖――そういった悪感情が、洗い流されるようだ。
『おれは果報者だ! 死の間際に貴様のような使い手と打ち合えるとはッ!』
「もっと早く会えなかったのが、あなたの不幸かしらねぇ」
 ガ、ガッ、ガギンッ!!
 鋼と鋼がぶつかり合い、両者は火花を散らしながら地面を滑る。
 利鷹は目を血走らせて五感を総動員し、神速の剣戟をかろうじて捉えていた。
 ――そしてアナスタシアもまた、笑顔の裏で口惜しさを感じていた。
 甲冑越しとはいえ、利鷹の持つ技量は十分に計ることができる。
 惜しい。この男、まっとうに剣を修めていたならひとかどの達人となっていたろうに。
 あるいはもしやすれば、剣術を以てユーベルコヲドの域に達していたやも。
 実に、惜しい――されどもはや、賽は投げられた。
 剣士が剣を以て立ち合うならば、そこに待ったは存在しない。
「流行病に罹ったもの――私もそう思って、斬ることにするわ」
 もしも(if)は有り得ない。ここにいるのは、道を違えたひとりのばかたれだ。
『まだだ……まだ、終われんッ!!』
 利鷹は受け太刀を構えた。しかしアナスタシアの斬撃はなお疾かった。
 寸断の一撃が鋼を断ち切り、衝撃は甲冑内に伝わり利鷹は血を吐く。
 内臓をやられたか。男は凄絶たるありさまで口元を拭い、莞爾と笑った。
『まだ、おれは死ねぬ……二の太刀、仕るッ!』
「悔いが消えるまで存分に来なさぁい。その太刀筋、憶えておいてあげるわ」
 アナスタシアは乙女のように微笑んで言った。
 まさしくそれこそ、剣士としての男への手向けであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミザール・クローヴン
いいだろう。最期まで付き合ってやる

式山利鷹と言うのだったな
おれ様はミザール・クローヴン
貴様を屠る敵意のひとつだ。頭の片隅にでも入れておけ

負傷はあれど、苦ではない
接続した機械爪にも不備は、ない
ならばやることは変わらん
接近、攻撃
先にやつの兜割が来たなら武器で受け、流し、反撃の構え
カウンターで一撃、渾身をお見舞いしてやる

もし、先に動力部だけを壊せたなら
死に逝く前の貴様にもう一度問いたい

誰の為に命を懸けた?
今の貴様なら胸を張って言えるだろう

……そうか
ついでだ、句のひとつでも詠んでいけ
貴様の墓標に刻んでやる
どんなに不出来であろうと永劫残るぞ。覚悟しろ

さらばだ、式山利鷹
国を想い、道を違えた我等の同胞よ



 ――怒りはとうに臨界点を越えて、いっそ頭は凪いでいた。
 煮えたぎるような憤怒も、瀑布のように流れる哀しみもない。
 ただ、目の前の男を終わらせねばならないという決意だけがあった。
 曇りなき晴れ空のような、いっそ澄み渡るような気持ちだ。
「……いいだろう。最期まで付き合ってやる。式山・利鷹よ。
 おれ様はミザール・クローヴン――貴様を屠る敵意のひとつだ」
 頭の片隅にでも入れておけ、と吐き捨てて、ミザールは構えを取った。
 傷が疼く。だがこの程度、戦うのに支障をもたらすほどではない。
 機械爪にも不調なし――むしろ頭は冴えていた。好調とすら言えた。
『……参るッ!』
 利鷹が仕掛けた。がりがりと地面を薙ぎ払いながらの切り上げ。
 まともに喰らえば人体両断どころか木っ端微塵に吹き飛びかねないそれを、
 ミザールは毬めいて身を丸め跳躍回避、そして着地と同時にロケットスタート。
 敵が胴を晒したところへ機械爪を突き刺す――だが不発。刀が素早く返されていた。
 突き出された機械爪と刃が打ち合い、がぎんと火花を散らして両者は離れる。
「……ッ」
 強烈な反発衝撃を噛み殺し、ミザールはがりがりと爪で地面を引っ掻いた。
 バーンナウト痕めいた軌跡を刻みながら速度を殺し、体勢を整える。
 影朧甲冑の復帰はほぼ同時。次なる攻撃は上段からの兜割りだ。
 なるほど。半端に守りのことを考えていては通じないと覚悟したか。
『チェエエエエストォオオオッ!!』
 猿叫。ミザールはびりびりと痺れるような雄叫びを全身で受けた。
 見据えるのは刃だけ。哀しみも怒りもなく、頭はいっそ澄んでいる。
 どうしてだろう。もう、彼にできることはこれしかないと理解したからか。
 自分勝手な物言いに呆れが湧いてきて、涙すらも枯れ果てたか。
 違う――自分以上に泣きたくて、怒るべきひとが背中を見ているからだ。
「……貴様は愚か者だ。国を想い道を違えた我らの同胞よ」
 静かに、少年は言った。同胞と。
「どこまでも愚かで哀れな男だ。おれ様は、貴様のことを忘れてはやらん」
 辞世の句を遺すならば墓標に刻み永劫語り継いでやろう。
 その戦いぶりを引き合いに出し、愚かなやつだと何度も誹ってやろう。
「だが、それならば――誰のために命を懸けたかぐらい、胸を張って言ってみせろッ!」

 ――がぎんッ!!

 刃は降ろされた。しかし、少年を真っ二つにすることはなかった。
 機械爪が受け止め、流し、そしてすり抜けたからだ。
『ぐ……ッ!!』
「貴様の覚悟とやらはこの程度か、式山・利鷹ァッ!!」
 裂帛の気合とともに振るわれた一撃が、影朧甲冑をがりがりと裂いた。
 その一撃は、死を肚に据えた戦士の意気のみを切り裂く黄金の一撃だ。
『……まだ、だ……! おれは、愚かでも腑抜けなどではない……!!』
 心を裂くような一撃を受け血涙を流しながら、利鷹は言った。
『あのひとが――チエが見ている前で、情けない終わりを晒せるかッ!!』
「……!!」
 泣きむせぶ女は、己の名が出たことに瞠目する。
 ミザールは軽やかに着地、そしてじっと甲冑を睨み据えた。
「……命を懸けねば、名一つ叫ぶことも出来んか。やはり、貴様は愚かだ」
 その双眸からも、煮えるように熱い涙が流れていた。
 怒りも哀しみもない。澄み渡った心には、ただ無念の一語だけがあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
【壁槍】カガリ(f04556)と

最早命は救えぬ
ならば彼を武人の誇り、人としての尊厳を守ったまま逝けるよう手を貸すまで

いざ真っ向勝負
仲間を犠牲にした責任、罪無き人を手に掛けた後悔
それらの重責を今は忘れられればいい
影朧として甦らぬようにな

女に勇姿を見せるぐらいの気持ちでいればいいさ
影朧甲冑も遠慮せず使うがいい
ロボだのアーマーだのは男の浪漫だしな

さて、カガリ,お前の出番だ
甲冑には甲冑
こっちも【汗血千里】を発動したら機神兵となったカガリに乗り込み戦う
敵の攻撃力の上昇は風竜の槍による機動力と防御力で対処
加えて槍の方が刀より間合いがある
接近される前に射程距離を上げ遠距離から槍を投げ、接近されたら串刺す


出水宮・カガリ
【壁槍】まる(f09171)と

やはり、やはり、わからない…
誇り、というのは、ちょっとわかる
役目を存分に果たしたい、譲りたくない、ということだろう
死ぬことになっても果たしたい、というのは、わかるのだが
…生きては目的を果たせない、死によっても果たせない、のに
まる、武人の誇り、とは何だ
彼はなぜ死のみを望み、彼女はそれを見守ることを選ぶ
選ばざるを得なかった、ではなくて
なぜ、それを望むのだ
ものは、爆弾でもない限り、壊れることを望みはしない
ひとは、弾には、なり得ない
ああ…だから
立派なひと、などというのは…(いらない)

……【黄金機兵】で、まるを取り込む
大きさは影朧甲冑と同程度に
武器の扱いはまるの意志に添おう



 ……影朧甲冑と相対するように、黄金の機神兵が身動ぎした。
 それは、出水宮・カガリがマレーク・グランシャールを裡に取り込んだ姿。
 甲冑には甲冑。鎧には鎧。そうした相棒の意を、城門が汲んだのだ。
 手に持つは荒ぶる疾風の竜槍、吹きすさぶ翠風はそれ自体が刃めいていた。
「もはやその命は救えぬ。ならばお前の望み通り、武人として相対しよう。
 いまはその重責も、後悔も、すべて忘れ去り、武器を振るうがいい」
 マレークはことさら傲慢に聞こえるような声音で言った。
 それが戦士の意気を奮起させることを、戦士として知っているからだ。
『ならば、いざ真っ向より勝負を挑ませてもらう――!!』
 利鷹は口元から溢れた血を拭い、甲冑を走らせた。
 忌まわしき影朧を動力とした黒い蒸気が噴き出し、軌跡を穢す。
 カガリがヒトとしての姿を保っていたなら、そのドス黒さに顔を顰めたろう。
 あれは、あってはならぬものだ――いかにオブリビオンが世界の敵であり、
 人類にとって滅ぼさねばならない敵なのだとしても。
 オブリビオンとて、過去に世界に存在したもの。悪ではあるがそれは敵としての話。
 斯様に苦しみを与え、その魂を、存在を薪のように消費するなど、
 ある意味では同じ器物の霊として、けして許容できるモノではなかった。

 けれどもカガリをそれ以上に困惑させていたのは、男の在りようだった。
 同じように男の戦いを、涙ながらに見守る女の生き様でもあった。
 理解できない。わからない。なぜ、あんなことをしなければならない?
 武人の誇りとは、なんだ。なぜ彼は、死だけを望み自ら死のうとする?
 なぜ女は、あれほど悲しげに泣きながらそれを見守ろうとする。
 彼らには他の選択肢があった。
 たとえば女であればすぐにでも逃げ出すか、彼を罵ることも出来たろう。
 あるいは男には、どうか生かしてくれと助命を嘆願する道もあった。
 ――それが叶うかどうかは、この際置いておく。
 それが、普通だ。ひととはそのぐらい弱く、だからこそ守らねばならない。
 なのに、なぜ。彼らは、自ら痛みに向き合い、愚かであろうとしている。
 ものはひとにはなれない。
 ひとも、ものにはなれない。
 あの無益で何の意味もない選択が、世に言う"立派なひと"であるというのなら。
(――カガリは、そんなものは、"いらない")
 そう思いながら、黄金の機兵は影朧甲冑の仕掛けを真っ向迎え撃った。

 もしもそれが死にゆく男と、それを看取ろうとする男のぶつかり合いでなければ、
 あるいは男のロマンなどと軽々しい冗談を言って囃した者もいよう。
 黄金と黒鉄の打ち合いはそのたびに衝撃波を起こし、凄絶ですらあった。
 だが技と膂力において黄金が上回る。黒鉄の甲冑を蹴り飛ばし、吹き飛ばした。
「これなるは草原を吹き抜ける野性の風、汗血を食みし疾風の竜だ……ッ!」
 ごおう、と翠風が吹きすさび、竜巻めいて槍を包み込んだ。
 マレーク=機兵はこれを抛ち、吹き飛ばされた甲冑をがちりと射止める。
 さりとて利鷹も見事なもの、かろうじて串刺し手前で槍を弾くことに成功した。
 黄金の機兵は竜巻のあとを追うようにして地を駆け、弾かれた槍を掴む。
(……生きては目的を果たせない。死によっても果たせない、だのに……)
 相棒にその手綱を渡しながら、カガリは考え続けた。
 ひとはなぜ、避けるべき死を受け容れてまで無益なことをするのか。
 武人とは、誇りとはなんだ。それは、命を懸けるという行為に見合うものなのか。
 ひとはこんなにも弱い。守ってやらなければ死んでしまうというのに。
 なぜ――。
『……見事……ッ!!』
 カガリはたしかに見た。甲冑の中で、利鷹が愉快そうに笑っているのを。
 莞爾たる微笑みは、まさに城門にとっては理解不能の極致だった。
 マレークが槍を振り下ろす。矛がばっさりと甲冑を叩き切り、スパークした。
 絶叫。死にゆくひとの断末魔。それは城門にとっては聞きたくないものだ。
 それを見守る女も、身と心をばらばらにされるほど苦しいだろうに。
 ――懊悩と疑問を捨て置いて、戦いは進む。無慈悲なほどに一方的に。
 器物が答えに辿り着くためには、戦いの瞬撃はあまりにも刹那的だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒城・魅夜
哀れむつもりは欠片もありませんが、皮肉ですね
あなたが影朧ならば、転生という僅かな救いにすがることもできたでしょうが
あなたはただの人間……いえ咎人
ここで滅び、果て、無に帰す以外に結末はないのです

範囲攻撃・ロープワーク・早業で鎖を舞わせ、周囲の瓦礫を巻き上げてミサイルへの防御幕とすると同時に、闇に紛れて我が身を潜ませる盾ともしましょう
くぐり抜けてくる攻撃は、漆黒の呪力を身に纏うオーラ防御で防ぎます

間合いを詰めて発動したUCは甲冑の内側からあなたをじかに引き裂くでしょう
自害などさせません
悲劇めいて己に酔った言動も死に方もあなたには分不相応
つまらぬ咎人として逝きなさい

……彼女が憎むのは私だけでいい


国包・梅花
もはや問答無用となりました
私も元は怨によって生まれし身、良縁なくばあるいは貴方のようになったやもしれませぬ
故に後は剣にて語りましょう、ただ一振りの妖刀なれば

この巨体を一閃に断つは難く、悪戯に刻めば教化の元と
さればこちらも強くかかるのみ
我が奥義「九重和螺」にて

切結び続け【見切り】、我が身の【戦闘知識】と刻みましょう
大上段は【先制攻撃】にて機先を制し、飛来物は【フェイント】をかけ軌道を逸らし
一太刀入れたらば一つ動きを覚え、もう一太刀でもう一つ
ただ只管に、剣の命じるまま動きと技を覚え続け制圧いたします
愚直な男の最期に足る剣戟を、冥土の土産に贈りましょう



 あるいは彼が、影朧であったならばまだ救いはあったかもしれない。
 無念を抱いて顕現する影朧であったならば、と考えるのも皮肉な話だが。
 ……影朧には、"転生"という救いが用意されている。
 それ自体が世界を害する邪悪であり、未来を侵すマイナスであるからこそ、
 一切の罪業を灌がれ、次の未来へ歩みだすチケットを手に入れられる。

 だが、そうはならなかった。
 憐れみはない。だが黒城・魅夜は、その皮肉を儚みはした。
 どのみち、己が咎人殺しであるがゆえに、彼を滅ぼすしかないとしても。
 己のやることが何も変わらないとしても――。
「疾ッ!」
 一方で、国包・梅花は鎖が蜘蛛の巣めいて張り巡らされた戦場で、
 ただ一振りの刃となりて剣(おのれ)を振るい続けた。
 一撃ごとに鋼と鋼が火花を散らし、大地を揺らし、天を驚かせる。
 剣戟の余波が地を砕き、あふれる剣気は余人の口出しを許さなかった。
『…………!!』
 利鷹もまた、積み上げてきた技芸と全身全霊でこれに臨んでいた。
 梅花の奥義――九重和螺は、妖刀たる己の本体を以て敵の技芸を識るもの。
 一太刀打ち合うごとに技量と知恵を識り、さらに一を刻む魔の術理である。
 剣は身を削ぐ。だが妖刀の重ねる刃は、敵対者の心をも削ぎ落とす。
 一撃で仕留められねば、その一撃から己の手の内を知られ、次が速まる。
 さらに次を受けきれねば、梅花はさらに重い一撃で敵対者を断つ。
 一対一の使い手同士ならば、およそ負けはない無双の魔剣と言えた。
 それは、まさしく怨憎より生まれし妖刀が振るうにふさわしい剣である。
「――いまの私を形作る良縁なくば、私もまたあるいはあなたのように、
 道を違え独善に陥り、何もかもを喪ってから気付いていたかもしれませぬ」
 ゆえに。もはやこの剣を以て、彼のいのちを奪うに仔細はなし。
 嵐の如き剣戟が打ち合う。梅花の十重二十重を防ぎいなせている時点で、
 利鷹の剣客としての技量は並以上――明らかに達人の域に達していた。
 無論、影朧甲冑の出力もある……されど彼は十分に卓越している。
 剣を修めた身として、そこに口惜しさはないでもない。されど。
 もうひとつ。足りぬならばもう一太刀。冥土の土産に足る剣へともう一段。
 斬る。
 払う。
 受ける。
 撃つ。
 防ぐ。
 薙ぐ。
 撃つ、撃つ、撃つ――!
『ぐ……!! 正道では敵わぬ、か……これが、超弩級戦力……!!』
 ならば、と男は言い、操縦桿に備え付けられたボタンを親指で強く押した。
 影朧甲冑の脇腹部、スリットが開きそこから小型弾頭がせり出す。
 剣技で敵わぬならば外道技、すなわちミサイルを以て吹き飛ばすべし。
 これぞ下賤な愚か者の足掻きよ。刮目せよ、と悪漢めいて男は嗤った。

 ――されど、悪足掻きが梅花を灼くことはなかった。
 KA-BOOOOM……弾頭は張り巡らされた鎖の急制動によって即座に爆砕し、
 さらなる発射を防ぐため、黒き鉄鎖はがらがらとその身を縛り上げたのだ。
 鎖を滴るように伝う漆黒の呪力が、忌まわしき影朧の出力をも束の間止めた。
『これ、は……ッ!』
「悲劇めいて己に酔い、高潔な戦士の如くに散るなどあなたには分不相応」
 影に潜み機会を伺っていた魅夜が、無慈悲な声音で言った。
「あなたはただ、己のしでかした罪業にふさわしく、つまらぬ咎人として逝くのです。
 あなたの思想が世界を動かすことはなく、誰かを揺り動かすこともありません」
 滴る漆黒の呪詛は鋼の隙間から滑り込み、男が懐に呑んだ短刀を絡め取った。
 鋼はどろりと融けて崩れ、男は身の裡に染み込む呪詛に恐怖する。
『……は、は、ははは! そうか、愚か者に自害など許されぬか……!
 だが、おれはまだ死ねん。足掻くぞ! つまらぬ愚かな咎人らしく……!』
 漆黒の鉄鎖が、コクピットを内側から切り裂く鎖となりて、
 その肌と肉を裂いてなお、利鷹は戦意を諦めることなく身動ぎした。
「――すでにその剣、その意気、十分に憶えました。ならばあと一太刀にて」
 これまで斬って捨てた者らと同じように、忘れ去ってしまおう。
 最期にはただ、ひとりの愚か者の墓標だけが遺ればよい。
 これがつまらぬ熱狂に惑わされた者の末路なのだと、寂寂と世界に示せばよい。
 ――男の懊悩も後悔も、愛するひとへの思慕の熱も、妖刀は斬って捨てる。
 梅花の放った剣閃は横薙ぎに鋼を裂き、溢れる威力は男の肚に届いた。
 喀血。それはまさしく、罪人の首を刎ね飛ばす刃のように無慈悲である。
 男の最期に憐憫は要らぬ。罪人を憐れみ涙を流す者など戦士ではない。
 ……女達の背中は、戦いを見守る人々に、言葉なくそう語るようであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽榮・天明
正気の沙汰にて、それでもと仕合いをのぞむのならば。
もはや人びとを巻き込むものでもなし。すなわち、委細問題ございませぬ。
改めて。
いざ、尋常に立ち合いましょう――!

縮尺にいくらかの違いこそあれ、こと刀術ならば知るところ。
応手には自由が利きます――が。
さすがは悪名高い影朧甲冑。硬度も厚みも甚だしく、攻め手は限られますね。

狙うならば、上。
かれの攻撃が大振りになった隙をつくなどして、甲冑の上をとります。
宙を蹴り、重力を乗せ。

陸式・崩仙花。

地をも割り砕く一刀を以て、かれの意志に応えましょう。

過去をやり直すなど、元より誰にも叶わぬこと。
なればこそ、あすを臨むねがいを、私は尊重いたします。



 これまでの立ち合いにより、甲冑にはいくつもの刀傷が刻まれていた。
 されど。並のオブリビオンならばその一撃で仕留められていよう攻撃ですら、
 影朧甲冑の分厚き鎧を、完全に断ち切るには至らない。
 なるほど、あれこそはまさしく、廃棄されるに足る恐ろしき兵器だろう。
 非人道性とそれに見合う戦力……見境なき国や組織ならば使うに躊躇すまい。
「さすがは悪名高い影朧甲冑……そうやすやすと断つことは出来ませんか」
 陽榮・天明は慎重に間合いを詰めながら、しずかに言った。
 あるいは彼が狂乱し、ただ人々を鏖殺せんと暴走したのであれば、
 護国の剣士として相応の剣を振るい、燼滅せしめたであろう。
 されど彼は正気の沙汰にて仕合を望み、照準を猟兵にのみ絞った。
 利鷹とてわかっていよう――影朧甲冑が強壮だとしても、
 この場に集った猟兵すべてを鏖殺することなど、絶対に不可能であると。
 只人が振るう剣と鎧はいずれいのちを失い尽き果てる。
 つまりこれは、彼の武人としての介錯嘆願と言えた。

 ならば剣士としての正道を以て断ち切るが、絶劍振るうものの礼儀。
 いかにして攻めるか。正面からは難く、背面を取るはなお難し。
 斬・突・払、いずれも鋼ははねのけよう……ならば。
「いささか乱暴ではございますが――」
 天明はまずまっすぐに駆けた。利鷹は愚直に大上段を振り上げる。
『一刀、仕る! 断たれて潰えよ、護国の兵ッ!!』
 ぶうん、と剣が折りた。まさしく雲耀の太刀である。
 されどその剣が、女を真っ二つにすることはなかった。

『――上かッ!?』
 然り。弾かれて天を仰ごうといまさら遅い。
 剣を避け跳躍した天明は、すでに毬めいた姿勢から構えに転じている。
「絶剱・陸式――!」
 これなるは天地を断つ一撃。魔を斬り邪を払う護国の剣なり。
 ……もはや時は流れ去り、過去をやり直すことなど神にも不可能。
 なればこそ。あすに臨み、次へ繋ごうとするねがいをこそ、彼女は尊ぶ。
 そこに血が流れねばならないならば、一刀を振るうが剣士の本懐――!
「……あなたの道は誤っていたとしても、その意志に間違いはないのです」
 "崩仙花"と銘された剣が、ゆったりとすら見える太刀筋で堕ちた。
 剣は大地を割り、そして鋼を……ばっさりと、断ち切る。
 血のように吹き出すどす黒い蒸気。剣戟は間違いなく内部へと伝わっただろう。
 幻朧桜は、変わることなく咲き誇る。
 戦いを、女の決意を、その剣の向かう先を見守るがごとく……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルナスル・アミューレンス
あゝ
僕が言うのは皮肉かな


「魔弾の射手」って知ってるかい?
とある狩人が、愛する者の為に、仲間に唆されて悪魔の力を求めるオペラさ。

君が力を求めた狩人で
思いを寄せた女性(ひと)がいて
君を唆した仲間がいて

君の手には、時代への魔法の弾丸になると信じたその甲冑があって
力の果てに命を奪う魔がいる

僕らはエンヒェンにはなれる
オットカールの真似事も出来る

でも、君を救う隠者にはなれない
都合のいい存在(デウス・エクス・マキナ)じゃないんだ

だから
仕方ないけど、お「怒涛(ワカレ)」だよ
ザミエルとして、
君も
君の暴力も
蹂躙し、捕食し、地獄へ連れ逝こう。


ああ、でも
僕の「地獄」は偏食家でねぇ
魂ごと鎧は頂くけど、亡骸はお返しするよ



「魔弾の射手、って識ってるかい?」
 ぎぎぎ……と軋みをあげ再起動する影朧甲冑に対し、男は言った。
 コクピットの中で血反吐を吐く利鷹は、霞む視界でその男を見ようとした。
 ……男であったはずのフォルムは不定形に変じ、うごめいていた。
 けれども、変わることなくアルナスル・アミューレンスは語りかける。
「とある狩人が、愛する者のために、仲間にそそのかされて悪魔の力を求める歌劇(オペラ)さ。
 この状況、配役。ぴったりだと思わないかな? 君が狩人で、彼女が想い人だ」
「……あ、悪魔……ザミエル」
 歌劇を識るスタァの女は、不定形の黒き体を見て震える声音で呟いた。
 くくっ、と、アルナスルが喉を鳴らすように笑う声が、聞こえた気がする。
「まあ、僕らの立ち位置はそうなる――エンヒェンにも、オットカールにも。
 けれどその真似事が出来たとして、あゝ、救いの隠者にはなれないのさ」
 物語をありふれた大団円に導く、機械じかけの神は此処には居ない。
 神ですらその終わりに救済を求めるかもしれないが、あいにく、
 世界は神々が都合よく書き換えられるほど、シンプルには出来ていない。
 ならばせめて悪魔のように。無慈悲に、容赦なく、蹂躙し喰らい尽くすのみ。

『……知っているとも。本で読んだことがある』
 かすれる声で男は言った。
『だがあの歌劇の悪魔は、何も狩人の魂を持っていくばかりではあるまい』
「へえ?」
『……射手をそそのかした愚者の魂を、代わりに持ち去る終焉もあったろう?
 おれの魂など、いくらでもくれてやる。だが、叶うならば、おれは……』
「――確約は出来ないよ。けど、"いずれ"とは言っておこう」
 利鷹がそそのかされた狩人なのだとすれば、
 彼に悪魔の魔弾を渡し、さあ放てと甘言を吹き込んだものがいる。
 幻朧戦線。思想を同じくする同胞を拐かし、あまつさえ騙した外道ども。
 悪魔めいた男は言った。いずれそれらも全て"終わらせよう"と。
 もっともその世界線を、鎧の君が見ることはもはやない。
「だから、仕方ないけど――お怒涛(ワカレ)だ」
 地獄が沸騰し、爆ぜた。ミサイルの弾雨がこれを迎え撃った。
 炎をも喰らい、くろぐろとした闇黒は鋼に食らいつき、これを捩じ切る。
 鎧が悲鳴をあげる。侵食される利鷹もまた、悲鳴めいて叫んだ。

 悪魔は狙い定めた魂を逃さない。
 けれどもそれは、一線を越えたものにとっては慈悲ともなろう。
 偏食家の悪魔は、己の"無慈悲さ"に皮肉めいた笑い声を漏らした。
 事実は歌劇よりも奇なり――されど救いはなく、終わりはやるせない。
 いっそこの身も心も悪魔であれば、心から嗤い嘲られたのかもしれないと、彼は思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

氏家・禄郎
さて、最後の仕事だ
ユーベルコードでも銃弾でもない、最後の一矢
『思考しろ』
彼と彼女を救うギムレットの為に

――式山君があの性格なら持っているよね遺書?
指揮官の所に向かって、問いかけつつ身体検査。
居場所は知ってるよ、私が捕えたもの

後は簡単だ、これをチエ君に手渡す
「彼の……最後の言葉だ、封は開けていない。君はこれを読む権利がある。そして男の最後を看取ってやってくれ」

では、本番の本番
蒸気甲冑の前に立とう
「式山・利鷹、手紙は届けた。嘘だと思うならオペラホールを見ろ」

拳銃に弾を装填し、近づく
「君の想いは届き、後は武人としての意地と面目が残り、そして命の支払いを済ます時そうだね?」

狙う
「なら、手伝おう」

撃つ!


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

…そう。それが、あなたが決めた「命の使い道」で「終わり方」なのねぇ。
…あたしたちがきっちり潰してあげるから、安心なさいな。

指先なんてわかりやすいとこに発射装置あるんだもの、攻撃の起こりは○見切りやすいわねぇ。○先制攻撃で●的殺を撃ちこむわぁ。
刻むルーンはエオロー・ソーン・イサ。
「結界」にて「門」を閉ざし「固定」する…発射を中止できない状態で火砲の砲「門」が詰まったらどうなるか、なんて。わざわざ言わなくてもわかるでしょぉ?

…ああ、まったく。この期に及んでそんな覚悟決めるぐらいなら。
もっと早く「省みる覚悟」くらい決めときなさいよ、馬ァ鹿。


ナトゥーア・クラールハイト
っ……!

ふざけんじゃないよ!

止まれないから?
行き過ぎたから?
間違ったから?

だからって、何もかも抱えて砕けるつもりかい?!
あたしゃそんなの認めないよ!

空間干渉(コネクト)――
残す側も辛いのはわかるんだよ!

森羅掌握(コントロール)――
でも、残される側も辛いんだよ!
だから――

天地騒乱(コマンド)――
口を閉じてないで、どっちも思いの丈を吐き出しなよ!!
――『Katastorofi』!

叩きつけるのは、あたしの魔力をそのまま叩きつける、無属性のマイクロバースト!
大地に圧し付けて、動きを奪うよ!

蒸気?
強化?
動けない?
んなこと考えてる暇があったら、思ってること全部ぶちまけな!
それとも、更に後悔を残すのかい?!



 ――KRA-TOOOOM!!
『ぐう……ッ!!』
 指先が爆炎をあげ、破裂した。その衝撃に利鷹は歯噛みする。
 放たれようとしたマイクロミサイルが、その前に爆発四散したのである。
 再使用には時間がかかりすぎる。やはり剣以外に頼るなど邪道も邪道か。
 ティオレンシア・シーディアの目と指先は、小手先よりもよほど疾い。
「そんな図体で、ミサイルだなんて小細工されたら被害広まっちゃうわよぉ?
 ……ま、剣を振ろうとしたとしても、あたしは止めてみせるけどねぇ」
 ティオレンシアは薬莢を排出し、新たな弾丸をリロードしながら言った。
 ルーンが刻まれし弾丸は、あらゆる行動に先んじて鎧を狙い撃つ。
 彼女ほどの使い手ならば、なるほど言葉は大言壮語とも言えないだろう。
 全力で大上段の一撃を仕掛けたとしても、弾丸はおそらく先を征く。
『……そうか。そうでなければ超弩級戦力として召されるはずもあるまい。
 だが、おれはまだ倒れん……! この身で、命で、己の愚かさを示さねば……!』
「……莫ァ迦」
 ティオレンシアは、つかの間笑みめいた普段の表情を振り払った。
「そんな覚悟をできるならぁ、"省みる覚悟"を最初からしておきなさいよぉ。
 ――アンタがそうやって自分の悲劇に酔いしれてる姿もぉ、彼女は見てるのよぉ?」
『……!! 言うな、猟兵よ! 言うなッ!!』
 もはやこの命は救われない。救われてはならないのだ。
 ゆえに利鷹は、つかの間生まれた迷いを振り払うように叫んだ。
 弾丸に先を行かれようとも構わぬ。猿叫とともに刃を振り上げ――!

 ……降ろされると見えた剣は、しかし、ガンッ!! と地面に押し付けられた。
 急激な見えない圧力が、剣だけでなく甲冑そのものを地面にへばりつかせる。
『こ、れは……!?』
「なぁにが、"言うな"だい! そもそも言葉が足りないくせに!!」
 片手をかざし甲冑を大地に縛り付けたのは、ナトゥーア・クラールハイト。
 その表情は苛立っているようでもあり、悲しんでいるようでもあった。
 あるいは両方なのか。怒りがあり、悲嘆があり、哀れみと呆れもあり。
 年かさを経た女だけが見せる、やるせない表情だった。
「ふざけんじゃないよ……止まれないから、行き過ぎたから、間違ったから!
 だからって、何もかも抱えて砕けるつもりかい!? あたしゃそんなの認めない!」
 空間に干渉し、森羅万象を掌握し天地をも騒乱せしめる。
 いまやこの瞬間、この領域はナトゥーアの支配下にあった。
 もはや、悪足掻きめいた攻撃など、青二才の若者には許さない。
『く、そ……! 動け、蒸気甲冑よ、動け……!!』
「違うだろうッ!! あんたが考えなきゃいけないのは、そうじゃない!!」
 ナトゥーアは叫んだ。そして背後を振り仰ぎ、チエを睨んだ。
「あんたもだ! 遺す側も、遺される側も、どっちだって辛いのはわかるさ!
 ――けれどね、だからこそ、いま。思いの丈を吐き出さないとだろうが!!」
「……わ、私、は……」
「それとも、さらに後悔を遺すのかい!? あんた達は!!」
「私は、でも……」
 言いよどむチエを見て、ティオレンシアは肩をすくめた。
「いいんじゃないのぉ? むしろ罵倒してやってもいいぐらいだと思うわぁ。
 いつのまにか姿を消してまた現れて、しかもいきなり死んでいくってんだもの。
 痛罵して石でも投げつけて、そのぐらいしてやる権利はあると思うけどねぇ」
「……けれど、利鷹さんが、それを望まないでしょうから……」
 スタァは目をそらして言った。彼女はあくまで青年の遺志を尊重しようとしていたのだ。
 もはや語る言葉はなく、ただいのちを散らすのみと決めた彼を。
 ――己に言葉をくれるはずはないと、そう思っていたから。

 けれども、その時、ひとりの探偵が言った。
「そうでもないさ。彼にもまた遺したい言葉があり、あえて切り捨てようとした。
 ――そうだろう? 式山・利鷹君。君は、"そういう男"だと私も思っていたよ」
『……それは!!』
 利鷹は、探偵――氏家・禄郎の持っている封筒を見て、瞠目した。
「案の定、あの指揮官(おとこ)はこれを懐に呑んでいたままだったよ。
 おおかた握りつぶすか、さもなければ墓まで持っていくつもりだったんじゃないかな。
 そもそも、届けようとする相手を殺させようとしているのだからね……」
 それは、利鷹がチエに遺そうとした手紙……つまりは、遺書であった。
 禄郎は戦闘中にあえて捕縛された幻朧戦線指揮官のもとへ戻り、
 "紳士的な身体検査"で、大事な事件証拠を"情報提供"してもらったのである。
 禄郎は封筒の表裏を見せ、封を開けていないことを示した。
「君が何も言わずに散ろうとしたのは、もうここに言葉を認めたからだろう。
 だからこそ、武人としての意地と面目だけを遺し、命の支払いを済ませようとした」
 ……男は何も言わない。探偵はスタァに歩み寄り、手紙を手渡した。
「これが、利鷹さんの……」
「私なりに"思考"したんだ。この場で彼とキミのために、何ができるのかを。
 もはや命の支払いを避け得ないならば、何を残せるのか――できるのかを、ね」
 探偵にとって、この事件ははなはだ不愉快で不本意なものだ。
 真相を解き明かしたところで変えられるものはなく、悲劇は避けられない。
 己の目の前で命が失われていくさまを見届けなければならないなど、
 謎を解明し真実を突きつける探偵としては、まったく業腹であった。
 だから思考した。考えに考えた。己は、この場で、探偵として何ができる?
 ……結果が、これだ。闇に葬られるはずの真実は、たしかに存在した。
 もはや何も変えられず、失われるものを止めることは出来ないとしても。
『…………』
「不服だったかい、式山君」
『……いいや。感謝する、探偵よ。貴殿の思慮に、感謝と謝罪を』
 男の声音は、どこか安らいでいた。
『……チエ。おれの言葉はそこに遺した。いまさら繕いはすまい』
「……!」
『ただひとつ、それでも重ねなければならない言葉があるなら……』
 甲冑が、立ち上がる。ナトゥーアは顔を顰め……見守った。
『――すまなかった。君をこんなに悲しませたくは、なかった』
「……ばかな、ひと……本当に、あなたは……ばかなひと……っ!!」
 探偵とフィクサーの女は頷き合い、並び立ちともに銃を構えた。
 ナトゥーアの拘束を、甲冑は強引に振り払おうとする。黒い蒸気が溢れる。
「――あとはあたしたちがきっちり引導を渡してあげるわぁ。だから」
「安心するがいいさ、式山君。キミの精算、私達が手伝おう……!」
 狙い、撃つ。弾丸がゆっくりと放たれ、そして跳んでいく。
 桜は、ただ同じように咲き誇り続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨野・雲珠
【真の姿】
桜織衣「白妙」+枝の白桜満開

利鷹さまの苛烈な筋書きは、
幻朧戦線の心理的な退路まで断ってしまいそうで危ういです
それに、大切な幼馴染が
愚かさの象徴として後世に語り継がれてるなんて、
チエさまがあまりにお気の毒

『鬼畜外道の幻朧戦線』
はそのまま、
『若者は道を誤ったが、
 心底悔いたがゆえに幼馴染に見送られ来世へ旅立った』
っぽく見えるよう
「転生を司る桜の精」をやります
ひとの子の転生は専門外ですが嘘つきます
【花吹雪】で活動停止した影朧兵器を包み
魂送りの演出を

チエさま。彼をお送りします
お心安らかに逝けるよう、祈ってさしあげてください

生きていかなきゃいけないチエさまが
彼に何かしてあげられたと思えるように



 これは戦い終わったあとの風景の話。
 遺されたものと、見届けたものの、少しの語らいの話。
 今より少し先の未来――男が散ったあとの、終わりの先の話である。


 ……停止した影朧甲冑を、雪のような白い花吹雪が包み込む。
 舞い散る桜は、遅い春に見合わぬほどに美しく、そして冷ややかだった。
 されどその静謐と冷気は、けして冷酷には繋がらない。
 冬はいずれ芽吹く春の前にあるからこそ、穏やかな終わりなのだ。
「……ひとの子なれど、その魂は来世へと旅立ち、きっと転生するでしょう。
 影朧でなくとも、心底からの悔悟と贖罪がなされたならば……」
 雨野・雲珠は、誰に言うともなく呟いた。
 それが真っ赤なウソであることは、他ならぬ桜の精にとって明らかである。
 されどそれを見届けた一般人は、そして幻朧戦線の捕縛された者たちも、
 はらわためいて引きずり出された利鷹の亡骸を、鎮魂の念を以て見届けた。
 雪めいた桜吹雪は、亡骸をも包み込み、慰撫するように染め上げていく。
「チエさま」
 雲珠は振り返り、言った。
「彼を、お送りします――お心安らかに逝けるよう、祈ってさしあげてください」
「……心、安らかに? そんなこと、ありえるはずがありません。
 だって、だって! 利鷹さんはあんなふうに、無残に引きずりだされて……!」
「あなたは、生きていかなければならない方です」
 雲珠は言った。
「彼が望んだのは、あなたが憎悪や怒りに駆られて道を違えることではありません。
 ……だからこそ、あの方に、せめて最期は何かをしてあげてください」
「…………わかり、ました」
 チエは涙を拭い、一心に祈った。
 無念を払い、どうか安らかに。どうか。
 ――もはやその来世が、己の死んだ遠いあとでもいい。
 縁が再び結ばれなくてもいい。遠いどこかで、別の世界で生まれてもいい。
 だから、どうか――その魂よ、安らかにあらんことを。
「私はもう、大丈夫だから。……ありがとうね、利鷹さん。もう、大丈夫よ」
 女の言葉に、そのかんばせに、雲珠は胸がちくりと痛んだ。
 すべて偽りだ。自分に、ひとの子の魂を転生させる力などない。
 けれども、『あんな形』で終わって誰も彼もを憎んでしまうなど、
 そんな最期はやりきれないじゃあないか。
 愚かで間違った男は、その罪を贖い醜く死んだなどと、そんな終わりは……。
「――遺される方が、あまりにも気の毒じゃあないですか」
 雲珠は、白と桃色の花弁が舞い踊る空を見上げて、言った。
 その言葉が、祈りが、彼の魂に届いたかどうかは定かではない。

 ――ただ少なくとも、彼という男が骸の海から還ることはないだろう。
 雪めいた桜吹雪は、何もかもを飲み込むように咲き誇り続けた……。

大成功 🔵​🔵​🔵​



 鎮魂はなされた。
 男は斃れ、その亡骸は桜のもとで見送られ、魂は旅立った。

 されど、記さねばなるまい。
 男がいかにして死んだか。
 死ぬまでにいかなる言葉を交わし、剣を打ち合ったか。
 その愚かさを、醜さをこそ世界に見せつけることを、間違った男は望んだ。

 ゆえにこれより語られるは、男の末期までをたどる再びの旅路。
 雪のような桜吹雪が全てを染め上げるまでの、猟兵たちの戦いの記録である。
鷲生・嵯泉
……そうか
元より生きて降りる事の叶わん代物と聞いている
ならば己が過ちを後世への戒めへと変えよという其の志
確と請け負おう

刃や頭部・脚部の向き、甲冑の可動域等から動きを先読みして攻撃は見切り
武器受けにて後ろへは通さぬ様に受け落とす
既に糧と成る影朧は無いとは云え“動かしているもの”は存在する筈
――漂簒禍解
戦闘知識で結合部等の脆い部分を見極め、怪力乗せた鎧砕きを以って突き通し
其の内を流れる動力源を灼き尽かせて「止めて」くれよう
……自ら死を選ぶと云うのなら、せめて最後の責を果たせ

自ら止まる事が出来ぬ侭、大事なものを悲しませた其の顛末
彼の涙こそがお前への何よりの罰――忘れずあの世へ持って逝くがいい



 生きることを諦め、何かを為そうとする。
 その心意気が、「理解できぬ」とは口が裂けても言うまい。
 ゆえにこそ、鷲生・嵯泉は意志を問うこともあげつらうこともなく、
 血反吐を吐いてなお突き進もうとする利鷹に対し、まっすぐと相対した。
 ……剣士としての誉れだとか、武士の情けであるとか、
 そんな正道を征く者の言葉も、己には吐いてやる資格がない。
 死者の遺志を糧にただひたすらに復讐の魔道を歩み続けた己には。
 だからおそらくこれは――ある意味で、同じような者からの手向けだろう。

 どす黒い蒸気が動脈血めいて噴き出し、半壊した甲冑が軋みをあげた。
 悲鳴じみたそれは、あるいは男の内心を示していたのやもしれぬ。
 嵯泉は隻眼を以て敵の動きと駆動限界を先読みし、生身で駆けた。
 喰らえば鋼鉄とて両断、人体ならば四散の憂き目も避け得ぬ巨躯の一撃。
 しかし、当たらねば意味はない。その紙一重を掴んでこその剣豪である。
 ――横すれすれを大太刀が駆け抜け、大地を叩き割った。振り下ろし。
 時間が鈍化する。嵯泉の眼が、甲冑を通し利鷹そのものを視た。
 万物の流れを読み取るその眼は、男のいのちが甲冑と繋がるのを視た。
 もはや分かちがたき結合。利鷹は甲冑の心臓とでも言うべき状態になっている。
 ならばやはり――止めるには、あれを殺すほかない。
「いまさら、私が貴様に罰をくれてやる必要もあるまい」
 男は言った。
「自ら止まることも出来ぬまま、大事な人(もの)を悲しませたその顛末。
 ――あの涙こそがお前への何よりの罰。ならば、贖罪はとうに為されていよう」
 死は結果でしかない。だが真実のはらわたはさらけ出され、
 男は心が千々に乱れながらなお、己の愚かさを証明せんとした。
 勝手といえば勝手であり、唯一できる贖いと言えばそうでもある。
 沙汰は下されている。ならば自分はただ、剣を振るえばいい。
 楽な話だ――それしか出来ぬ口惜しさは、苦み走って敵わぬが。
「幻朧戦線の愚か者よ。せいぜいその責、最期まで果たすがいい……!」
 ことさら露悪的に言い、嵯泉は刺突を繰り出した。
 甲冑をすり抜けるように刺さった鋒が、利鷹の腹部を貫く。
 忌まわしいほどに慣れ親しんだ手応え。いのちが消えていく感触。
 ……男がそれを哀しむには、流すべき涙はとうに枯れ果てていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朽守・カスカ
最早、事ここに至っては是非もなく
自らの持てる全てで意地を通すのみ

……本当に、そうか?

幻朧戦線は
血を流したかもしれない
鬼畜外道の集いだったかもしれない
キミは道を誤ったかもしれない

過去に起きた事実は変わらない
けれど、その意味は変えられる

キミは幻朧戦線として戦いに赴き
誤った道に駆け出し
それでも、自らの愚かしさに気付いた

後戻りは出来ずとも
これ以上進まぬように
踏み止まっているのではないのか?

【微睡の淵】
花のように散ることが贖うことになるのか?
その道理はよくわからない
血が流されたことを悔やむなら
その万倍を救えばいい
例え険しい道であっても
望むならば、私が標を灯そう

彼女の、笑顔をみたくないのか?



「……本当に、そうか?」
 朽守・カスカは言った。
「幻朧戦線は無辜の血を無数に流し、世を乱そうとした鬼畜外道の集い。
 キミはそこに加担し、道を誤った愚か者……だったのかも、しれない」
 ランタンを掲げ、寂々と、静かに語りかける。
「過去に起きた事実は変えられない。もはやことここに至っては是非もなく、
 自らの持てるすべてで意地を通すのみ――本当に、そうするしかないと?」
『…………何が、言いたい』
「キミは大事なことから目をそらしていないか」
 カスカの眼差しは、分厚い鋼の鎧を通し、利鷹本人を射抜くようだった。
「キミはたしかに幻朧戦線として戦いに赴き、誤った道に駆け出した。
 だが今この瞬間、キミは自らの愚かしさに気付き、贖わんとした」
『…………』
「後戻りは出来ずとも、これ以上進まぬように踏みとどまっているだけではないか?
 キミの歩んできた道が血塗られた罪深い道であるなら、他の贖い方もあるだろう」
『……おれに、なおも生きろと?』
「――血が流れたことを悔やむなら、その万倍を救えばいい。違うか」
 利鷹は呻いた。傷の痛みにではない、カスカの問いかけの重さに。
『おれは……怖いのだ』
 そして吐露する。はらわたを吐き出すように、己の胸の裡を。
『生きようとするならばそれは単純な話、甲冑(これ)から降りなければいい。
 だがこの甲冑自体が、かつてこの世を創るために流れた血の権化のようなものだ。
 現に乗っているおれだからこそわかる。こんなものは、遺っていてはならない!』
「……けれどキミは、もっとも大事なものから目を逸らしている」
『わかっているさ』
 自嘲の笑み。頭を振り、利鷹は言った。
『だがな――おれはもう、あのひとの涙を止める資格も、拭う資格もない。
 ……おれははじめから、すべてやり方を間違えてしまっていたのだ』
「……」
 魔道蒸気の霧が立ち込め、半壊した甲冑を抱きとめるように包んだ。
「そうか」
 カスカはそれ以上言わなかった。
 正直なところ、彼女に彼の理屈はよくわからない。
 いかなる時であれ、人が死んで喜ぶ者などいない。
 どんな人間であれ、生きていたほうがいいに決まっている。
 そこで涙ながらに見守る女など当然だ――男には、生きていてほしいのだ。
 どれだけ愚かでも、
 どれだけ無様でも、
 どれだけ血にまみれていたとしても。

 それでも、と男は言った。
 ヒトの愚かさとは、かくあるものか。人形少女は頭を振った。
「ならば微睡みに沈むといい。夢を見ることもなく、深く、深く――」
 ランタンの灯火が瞬く。ならばせめて、安らかに。
 もはや戻ることも、異なる道も歩めないというのならば。
 少しでも安穏たる最期を目指し、標は灯る。
 ……己が人形であることを、少女は心より口惜しく思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アダムルス・アダマンティン
貴様の死が運命神の定め、また貴様自身が定めたことであるならば、廃神なれど俺はそれを尊重せねばならぬ
我が手では運命の輪を止めること叶わぬ。それが我らの理なれば

纏うは漆黒、ダークヴェンジャンス
今まで受けた負傷を戦闘力増強に繋げ、影朧蒸気に対抗する

我が胸に刻まれし数字は“Ⅰ”
我が創めるは“原初”
我が担う刻器は“破壊と創造”を冠せし“ソールの大槌”
――長針の“Ⅰ”、アダムルス・アダマンティン

我が身、万能なれど全能にあらず
されど貴様を修羅としてではなく、人として葬ってやることはできる

輪廻転生の権能を持たざる我が身なれど
次なる生は悔いなきものであらんことを



 まだ斃れられぬ。
 まだ死ねぬ。
 まだ、示さねばならぬ。
 己の、そして幻朧戦線の、この遺棄されし兵器の愚かさを。
 利鷹はただその一念のみによって、霞む視界をいまだ繋ぎ止めていた。
 同時に接続された影朧の怨念が、彼と甲冑とを突き動かしていた。
 貴様だけが満たされ死ぬことなど許さぬ。
 我らの怨み続く限り、
 我らの怒り続く限り、
 甲冑を動かす動力源となりて戦い続けるがいい。
 ――頭蓋に響く怨みの声音に、利鷹は応、と自嘲気味に応えた。

 闇めいた蒸気が、半壊の甲冑を包み込む。
 一方でそれに相対すは、同じように光通さぬ漆黒の塊であった。
 ダークヴェンジャンス――纏いし男の名は。
「……我が胸に刻まれし数字は"Ⅰ"」
 闇の裡より神の声が響く。
「我が創(はじ)めるは"原初"」
 闇がうごめく。
「我が担う刻器は"破壊と創造"を冠せし"ソールの大槌"」
 そびえ立つ姿は巌のごとく。
「――長針の"Ⅰ"、アダムルス・アダマンティンなり」
 凋落せし神は、神に相応しき威風を備え、禍々しき甲冑の前に立った。

 もはや戦いは終わったも同然である。
 人の子は己の愚かさを識り、運命を認め、ただ終局へと駆けるのみ。
 されど定められた運命は、神なる身であろうと変えるに能わず。
 こぼれ落ちた水を、二度と盆に戻すことは出来ない。
「されど貴様を修羅としてではなく、ヒトとして葬ってやることはできる。
 ……征くぞ、人の子よ。朽ちゆくいのちを燃やし、我に挑むがいい……!!」
 大山が鳴動するかのごとき勢いで、アダムルスが仕掛けた。
 大槌と大太刀が激突、火花を散らす! 両者、傷を恐れずさらに一歩前へ!
 闇と蒸気とがせめぎあい、喰らいあい、鋼と鋼が互いの身を削る。
 そして傷が新たな力を生み出し、ふたりを前に進ませる。
 ……もはや戦いは終わったも同然、これは大勢に何も影響せぬ戦いだ。
 されど。ヒトはそうせねば進めないことを、廃されし神は知っている。
『感謝するぞ、猟兵! ――おれは、最期まで足掻き続けてやろう!!』
「存分に、醜くも足掻いてみせろ。ヒトの足掻きを受け止めるのも神の責務なり!」
 一撃ごとに天地を砕くような轟音が響き渡り、蒸気と闇が凝り合う。
 神話の闘争を現実化したような白熱の戦いは、しかし。
 ――なぜだか、胸が裂けそうになるほど痛々しかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
そう。――そうね。
よりよい世界を、明日を目指して、そうして進んで来たのなら。
おまえは間違っていたって、正しかったのだわ。
只、あたしと相容れないだけ。
あたしがヒトを理不尽に巻き込む事を赦さないだけよ。
……言われなくとも、此処で止めるわ。

正面から征きましょう。

人々に語られるには華が必要だと、知っているでしょう。
此処が何処だと思っているの。
おまえに出来る最大の一刀を寄越しなさいな。
生半な刀では、あたしに着くまえに斬ってしまうわよ。

そうは言っても、質量が段違いではあるのだけれど。
勝負は最初の一合。
ギリギリまで引き付けて、斬り祓い、懐へ。

ねえ、利鷹くん。
笑って欲しいと願うなら、ちゃんと笑って死になさい。



 相手がオブリビオンであろうと、ヒトであろうと。
 花剣・耀子がやることは変わらない――ただ、敵対者を斬るだけだ。
 それが生者であれ過去の残骸であれ、とうに耀子は覚悟している。
 実際に手にかけてきたこともあるし、いまさらそれを悲劇と嘆きはすまい。
 ……ただ。口惜しさと虚しさは、いつだってあとをついてくる。
「おまえはよりよい世界を、"いまとは違う世界"に求めた。
 あたしは世界を護ることで、"よりよい明日"に届くと信じた。
 ――おまえは間違っていたって、その見方は正しかったのだわ」
 正義の対極は悪ではなく、異なる正義がそこにあるのみ。
 たとえそれが、歪んだテロリズムの犠牲になったとしても……。

 ガギンッ!! と、大太刀の一撃を剣が受け止めた。
 有り余る衝撃が大気をたわませ、甲冑は揺らぐ。だが耀子は退かない。
「征くわよ」
 二撃。敵は後ろに、耀子は前に。少女の体躯では不可能と思える追撃だった。
 されどその身でたゆまなく鍛えてきた技量と膂力は、不可能を可能とする。
 躯体で勝る甲冑を、膂力で上回るという矛盾。耀子ならば、出来る。
 続けざまに繰り出された鋼ががりがりと甲冑を削り、蒸気が噴き出した。
『が……ッ!?』
「最初の意気はどうしたの。たった一合撃ちあっただけで萎える程度のものなの。
 ならば、残念ね――おまえの覚悟とやらは、その程度だったのだから」
『……ッ!! 嘗めるな……嘗めるなよ、猟兵ァッ!!』
 利鷹は血を吐くような声音で叫び、操縦桿をつかみ、体勢を取り戻した。
 三撃目は互角。再び大気が爆ぜ、耀子の眉根がぴくりと揺れた。
「まだ足りないわ」
 されど踏みとどまる。甲冑もまた同様、四、五――剣戟が、打ち合う。
 優勢は互角に変わり、互いに趨勢を得ようとして退く一進一退。
 一撃ごとに剣戟は疾く鋭く重くなっていく。致命の一瞬を目指して。
 段違いの質量を技量と膂力で誤魔化す――前のめりな剣技であった。

 そして、高速回転する独楽同士がぶつかり合うように。
 互いの速度と重さが頂点に達した瞬間、耀子は両目を見開いた。
 間違いなく彼の繰り出せる最大の一刀。祓い、ねじ伏せるに足る一撃。
 刃を重ねる。打ち合うのではなく、わずかにいなすように。
 剣戟の威力は彼方へ放たれ、大地を割る。その瞬間、少女は懐へ。
 時間が鈍化する――男は、少女の唇が動くのを視た。

 "笑ってほしいと、願うなら"

 剣が鋼に食らいつく。

 ――"ちゃんと笑って、死になさい"。

『……はッ』
 その笑みは自嘲か、完敗か、あるいは。
 男は嗤った。己の愚かさを、未熟を、女を泣かせた己の弱さを。
 けれども――火花散らし鋼が断たれてなお、あのひとは泣いていた。
 どのような痛みよりも苦しみよりも、その事実が男の眦に涙を零させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

忠海・雷火
人を想う人の言葉を聞いたから
死は免れずとも、呪を弱められれば、少しは二人が話す時間も作れるやもと考え動いていた
伝えたい事を伝えず終われば後悔が残るから……というのは経験則よ
けれど、貴方達は決めたのね。今の状況に於いて、己の心の示す儘に
……本当にもう、良いのね?

であれば私「達」は、もう何も言うまい
終わりにしよう。いざ

鎧も操縦者も形は人
故に動作は人基準、足運びや構え等の戦闘知識と蒸気音での動作予兆を以て攻撃を見切り。躱せぬなら武器で受け流す
相手が刀を振った直後に懐へ飛び込みUC発動、左掌を押し当てた周囲の甲冑を捻じ切り穴を開ける
距離を取られれば穴を狙い短刀を投擲、仕掛けてくるなら捨身で刀を突き込む



 もはや甲冑は、機動兵器として意味を為せるようには見えていなかった。
 あちこちから火花を散らし、蒸気を漏らすさまは動脈血のよう。
 駆動部はいくつも焼け焦げていて、物理的に限界をとっくに超えている。
 ……それでもなお、影朧甲冑は動く。まるで鋼の死霊めいて。
 影朧を燃料にするということは、つまりはこういうことなのだ。
 影朧甲冑は現世のモノでありながら、限りなくオブリビオンに近い存在。
 もはやそれは、この世の常識で計れぬモノに成り果てている。
「……もう、いいのね」
 忠海・雷火は背後のチエを見て、言った。
「わ、私、は」
「伝えたいことを伝えず終われば後悔が残る……というのは、経験則よ。
 だから、あなたに伝えたい言葉があるなら、私たちは身を粉にしましょう。
 せめて彼に言葉を伝えられるように、そのためならば命も惜しまないわ」
「…………」
 チエはしかしうなだれて、寂しげに微笑み、頭を振った。
 手の中には、利鷹がしたためていた遺書がある。
「もう、いいんです。――ありがとうございます」
「……そう」
 ならば、もはや何も言うまい。言葉は不要なのだから。
 ただ終わらせるのみ。――終わらせてやるのみ。
 雷火は、立ち上がる甲冑へと駆け出した。

『オオオオッ!!』
 吠えたける咆哮は、はたして男のものか、囚われた影朧のものか。
 あるいはモザイクめいて混じり合い、それは半ば判然としなかった。
 動作予兆を視てなお疾く重い剣戟。受け太刀は不可能と判断。
 疾風怒濤めいた連撃を躱し、しかし雷火は下がることなく前へと進む。
 退いてはならない。退いては、彼を終わらせてやることができない。
 討つべき敵は前にあり――終わらせるべきいのちは、そこにある。
「骸の海よ――」
 左掌の裡に時空の虚無が凝った。
「零れた落し子を、再び抱け……!!」
『……ガ、ハッ!?』
 叩きつけられた掌は、べきべきと音を立てて鋼を捻じ曲げていく。
「ヒトを思うヒトの言葉を、あなたの口から聞いたわ」
 めきめきと音を立てて鋼が歪む。
「その上で、あなたが己の心の示すままに戦うというのなら――」
 雷火はさらに一歩前へ、踏み込む。鋼が悲鳴をあげる!
「私たちが、終わらせてあげる……ッ!!」
 それは彼女だけのものではない。
 彼女の身の裡にありし者もまた、同じように願い、決めたことだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

和島・尊
■心情
それを愚かだと言うのならば。
幻朧戦線の行いを鬼畜外道だと言うのならば。
それでもなお、屍を築いた過ちに報いようとするのならば。
私はその業を『邪心』とみなして、斬り捨てよう。
その『邪心』、もはやその身には重すぎる。
この地に、その躯と共に置いて逝け。
そして願わくばーーこの永久に咲く桜花によってあなたの魂が『転生』し、彼女の傍にあらんことを。

■戦闘
真の姿である『怪人・氷結男爵』に変化し、霊凍一閃で攻撃する
この技は相手の邪心のみを斬る技だが……今の彼に邪心はあるのだろうか?
だが、効果をなさずただの太刀になろうとも、その刃で彼を打ち倒そう
それが、私の仕事だからね

■その他
アドリブ等は大歓迎さ



 ヒトひとりに背負える罪業など、たかが知れている。
 幻朧戦線とは一匹の巨大な"けだもの"であり、底知れぬ闇そのものだ。
 その業苦をただひとりが背負い逝くなど、そもそも出来る話ではない。
「あなたのその責任感と覚悟は、もはやその身には重く大きすぎる。
 ――ゆえに、私はその『邪心』を斬り捨てよう。この剣によって」
 ぱきぱきと音を立て、退魔刀が凍りつき、巨大な冷気の刃となった。
 影朧甲冑はあちこちの裂け目からどす黒い蒸気を血のように噴き出し、
 とうに動けぬはずの体でありながら、ぎぎぎ……と軋み立ち上がる。
『やってみせろ、氷結男爵……おれの邪心を、斬れるというなら……!!』
「――やってみせるとも。私の力は、そのためにある」
 猿叫が響いた。それは影朧の雄叫びと混じり合いノイズめいていた。
 歪んだ雄叫びとともに繰り出される剣戟は、まさに魔の域に踏み込んでいる。
 氷結男爵の巨体をもってしてなお、まともに喰らえば両断は避け得ぬ大太刀。
 凍結霊刀とひび割れた鋼との刃が撃ち合うたび、氷の破片と火花が散る。
 されど、怪奇なるその氷は、いかな熱にも融けることはない。
 温度ではない、硬度でもない――和島・尊の決意がそうさせている。
 ここで退いてはならぬ。この鎧を、そのいのちを、邪心を斬らねばならぬ。
 學徒兵としての決意。覚悟。いのちを振り絞る武士への敬意。
 それが、嵐のごとき一撃を踏みとどまらせ、そして踏み越えさせるのだ。
『これほどの力でも揺らがぬか……! 見事なり、超弩級戦力……ッ!!』
 口惜しげに叫ぶ利鷹。一方、尊はその技量と膂力に内心で口惜しさを憶えた。
 あるいは彼が道を違えることなく、學府の徒として戦っていたなら。
 その才能を開花させ、肩を並べることもあったやもしれぬ。
 ――道は異なれど、彼もまた護国を願い世界の未来を祈ったのだ。

 けれども、そうはならなかった。
「私の仕事は、この世界を、帝都を護ることだ」
 ぴしりと音を立てて、霊刀が鋭さを増す。
「泰平に仇なす敵を斬り、払う――あなたの遺志に、敬意を払おう」
 ゆえに、せめてその邪心を断つことで、魂に平穏あれ。
 怪人は霊刀を一閃させた。その剣は、しかし鋼も肉も断たなかった。
『――あゝ』
 利鷹は、いっそ穏やかな声で吐息を零した。
 喪失の哀しみと安らぎが同時に押し寄せる。血塗れの顔に涙が零れた。
 絶斬の一撃は、まさしくその邪心/業苦を断ち切ったのである――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リア・ファル
WIZ
アドリブ共闘歓迎

其れに乗れば、影朧と同化したも同じ

その道程が誤りだらけであっても
戦うヒトが、自らの意志と覚悟で、その命の使いどころを定めたのなら

銀河帝国からボクを逃がし、命を賭した人々と変わらぬ
その意志と覚悟だけはボクに否定はできない

だけど、敢えて言おう
キミは、大馬鹿野郎だ!

ボク自身は『ヌァザ』で動力機関へのハッキングと
『グラビティアンカー』で妨害を試みる
(ハッキング、捕縛、ロープワーク、武器落とし)

世の流れは廻り巡る
だがこの幻朧桜の世界では
影朧の有り様もまた巡り転ずるんだ!

UC【三界の加護・戴艦石の小さな奇跡】!
どうか彼の魂が彼女との縁と共に
転生を果たせますように
(祈り、全力魔法)


ヌル・リリファ
そう。まちがってるとはおもわない。
かんがえてもただしいことっていうのがなになのか、まだわたしにはわからないし。
わたしのただしいがわかるのはマスターだけだともおもってる。

ただ、敵としてたつのなら殺す。
それはマスターにいわれたことで、わたしがやるべきこと。

だから、貴方がそうするというのならわたしの全力で、本気でとめる。

だから無力化の方法にはこだわらない。チャンスがあれば本人を殺すし、甲冑を破壊するほうがらくならそうする。

自分を強化して【属性攻撃】で強化したルーンソードできりあう。
わたしの動体【視力】と【怪力】なら甲冑ともわたりあえるとおもう。マスターの剣はおれたりしないってしんじているしね。



 猟兵たちの攻撃は、甲冑をひび割れさせ切り裂き、同時に心を砕く。
 それは痛みだが慈悲でもある。痛みは贖罪の証明だからだ。
 利鷹を絡め取ろうとする影朧の怨みと怒りはそのたびにほどけていき、
 彼が感じる罪悪の念も、はらわたを切り裂くような自責の念も、
 いまは遠く暁のように霞んで久しい――それでも、なお。
 もはや退けぬところへ踏み込んだという後悔、
 誰よりも大切なひとを傷つけてしまったという哀しみ、
 それだけは消えることがなかった。
 だからこそ、利鷹はなおも己を嘲り、戦えと叫ぶ。
 戦おうとする。
 戦ってくれと願う。
 ……その戦いも、終わりに近づきつつあった。

『まだだ、まだ! おれは、死んでいないぞッ!!』
 叫びながら放たれる剣戟を、ヌル・リリファが受け止める。
 一撃ごとに足元の石畳が割れて砕け、飛沫のように残骸が宙に舞った。
 質量と速度で上回る敵を、戦闘人形は無表情で受け流し、相対する。
 およそヒトにできることではなく、そして彼女はヒトではない。
「わたしには、あなたがまちがっているかどうかは、まだわからないよ」
 その嵐のごとき剣戟の中で、ヌルは言った。
「かんがえても理解できないし、わたしの"ただしい"はマスターのものだから。
 ――だから、あなたがたつなら、敵として殺す。あなたが、たおれるまで」
『ハ、ハハハハ……ッ、そうだ、そうとも! おれは、まったき帝都の敵だ!
 人々を! 世を!! 乱し、壊し、誤った方法で糺そうとした愚か者なのだ!!』
「――この、大馬鹿野郎っ!!」
 グラビティアンカーが絡みつき、影朧甲冑の自由を奪った。
『っ!?』
「キミはどうしようもない大馬鹿野郎だ! その愚かさのことじゃないぞ!
 キミの遺志と覚悟は間違っていない。ああそうとも、ボクには否定できない!」
 ぎちぎちと引きちぎろうとする影朧甲冑と綱引きめいて力比べしながら、
 リア・ファルは言った。眦に光るものは涙か汗か、あるいは。
「キミは遺されるヒトのことを何も考えちゃいない。今も傷つけている!
 それで何もかもを洗い流せるつもりになっているなら、それこそ愚か者さ!」
『……それでも、おれにはこうするしかないのだ……ッ!!』
「わかってるさ――だから、ボクらが止めてやるしかないんじゃないか!!」
 リアの叫びは、半ば世界そのものに対する慟哭のようでもあった。
 動き出した車輪は止められない。
 失われると決まった命を取り戻すことは出来ない。
 それでもと、ありきたりな大団円を願う己が居る。
 叶わぬifを嘆き、みんなが笑顔になれるような道を模索する自分が。
 そのたびに冷たい方程式は、0というわかりきった可能性を返す。
 ――ならば、せめて。我等の手で、終わらせてやるのみ。
 グラビティアンカーとリアの体が、ほのかに光り輝いた。
「ヌルさん!!」
「――わかった」
 動きを奪った刹那、ヌルが走り、そして鋼をばっさりと斬り裂いた。
 絶叫……しかしそれは影朧のものであり、利鷹のものではない。
 あるべき痛みはなく、不思議な暖かさがそこにあった。
「キミはその鎧の裡に入ることで、影朧と半ば同化した。
 ――ならばキミの次の生は、どうか安らかで、穏やかであることを」
『こんな、おれに……転生の機会を願うと、いうのか……?』
 愕然とした男の声に、リアはただ祈りを捧げることで応えた。
 命は廻る。この世界に咲き誇る花々がそれを可能としてくれる。
 だからどうか――少女の祈りに、桜吹雪は応えるように吹きすさんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェルト・フィルファーデン
……そう。わかったわ。それが、チエ様の望みと言うのなら。利鷹様が愚か者としての死を望むのなら。

(最初から分かってた。出来る事は何一つ変わらない。奇跡など無い。死の運命は覆らない)

――ならば、その死に最大限の意味を。華々しく、散らせてあげるわ。


わたしの騎士人形よ、力を貸して。影朧甲冑などただのガラクタだと見せてあげる!
(もう二度とこんな悲劇を起こさない為に、【演技】で余裕で圧倒するフリをして全力で蹂躙する。
笑顔を浮かべ、この程度朝飯前だと見せつけ、わたしが命を削ってる事も伏せ、こんな物役立たずだと吹聴するわ)


ふふっ、見なさい。これが愚か者の末路よ……!
(本当に、愚かで無力で、結局何も、救えない)



 ……思えば彼女の問いかけたときから、こんなことはわかっていた。
 グリモアの予知は絶対であり、ユーベルコヲドにも不可能はある。
 取り戻せないものが存在する――誰であろう己がその証明者なのだ。
 だから彼女への問いかけは、半ばぐずる幼子の悪足掻きにも似ていた。

 けれども。
 泣き崩れる彼女に、救いの手を差し伸べられずにいようか。
 無駄とわかっていたとしても、問わずにいられようか。
 他ならぬすべてを失い、絶望し、足掻きにあがいて輝きを掴んだ己が。
 無駄とわかっていても、手を差し伸べることをやめてしまったなら。
 ――それは、今日までの己の歩みを否定するようなものではないか。
 奇跡などない。
 死の運命は覆らない。
 男は死ぬべきように死に、それを終わらせてやるのがおのれらの仕事だ。
「こんなガラクタで、いつまで足掻いているのかしら!?」
 ならばせめて、ことさらに悪辣に、滑稽に、愚かに振る舞ってやろう。
 フェルト・フィルファーデンは命を賭して指輪を輝かせ、敵を蹂躙した。
 然り、敵だ……愚かにも非人道的兵器に乗り、そのくせ後悔した愚か者。
「旧世紀の兵器ひとつで、世界を変えることなんて出来るわけないでしょう!
 わたしたち"超弩級戦力"を前に、たかが甲冑一基で勝てると思わないことね!」 少女は笑う。かつて偽りの希望を謳い絶望から目を背けていた頃のように。
 血の涙を流しながら歌い踊り、仮面のような笑顔で己を騙す。
「こんなものは、何の役にも立たないわ――憶えておきなさい、幻朧戦線!
 アナタたちに世界を変えるなんて大仕事、出来るわけがないのよ……っ!!」
 騎士たちの剣が鋼を貫く。甲冑はその手を拡げ、少女を押し潰す……ように、思えた。

 けれども掌は、少女を包み込むような形で止まった。
『――すまなかった』
「…………」
 男の声が、寂々と響いた。
『おれの愚かさに、付き合わせて。すまない。猟兵よ――もう、いいのだ』
「…………っ」
 フェルトは拳を震わせる。
『愚かで無力なのは、おれだけでいい。貴様らは、そうなってはなるまい……』
「……本当に、愚かで哀れね。どこまでも」
 フェルトは俯く。その表情は見えない。
 己を切り裂くような言葉は、もう紡げない。
 けれども無力感は、少女のこころのなかでわだかまり続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
匡/f01612と

馬鹿者が
だがその意気や良し
道化を演じ切ると言うのならば
貴様という「悪」を、猟兵という「正義」が斃そう
――いつか悪徳として大義に討たれることを願った、私のように!

本体は匡、お前に任せる
代わりにあの弾丸は任せろ
天罰招来、【氷霜】
弾丸がこちらを捉えるより先に、呪詛を乗せて堅牢にした氷柱で打ち砕く
射撃と射撃の間に余裕があれば本体も攻撃しよう
匡の射撃から逃れられると思わんことだ
逃げる気もないであろうがな!

死にたかったのは昔の話
そうなるより前に受け入れてくれた奴らが沢山いる
匡だってその一人だ

――命を懸けるとさ、匡
普通は皆が見てくれるんだよ
だから勘違いするんだ
死ねば世界が変えられるってさ


鳴宮・匡
◆ニル(f01811)と


たった一人の命程度で、流した血が贖えることも
世界なんてものが、変わることもない

……でもきっと、そんな言葉は届かないんだ
そうすると決めた人間をどうにかしてやれるほど
俺のこころは、ひとの形をしていない

影の弾丸はそう何度も撃てない
今日はニルに、文字通り背中を預けるよ
こちらで対応するミサイルは射線を塞ぐ最低限のみ
相手の動きを見切ることに注力し
避けられないタイミングで動力部を精確に狙い撃つ

誰かの死なんて簡単に忘れられていく
世界を変えるのはいつだって死じゃなくて
そこに生きる誰かの意思だけだ

それなのに、どうして
人はこんな風に死ねるんだろうな
……傍にいるべき誰かが、ちゃんといるのに



 スパパパパパ……と音を立てて、指先から小型ミサイルが放たれた。
 半壊の甲冑から溢れるのと同じように、ミサイルの煙もまたどす黒い。
 影朧に由来するそれは、おそらく質量に依存せず無限生成出来るのだろう。
 もしも甲冑が全能力をオペラホール破壊に注ぎ込んでいたならば、
 戦いはいまよりもやりづらく、困難なものになっていたはずだ。

 しかし結局のところ、それは単体の戦力でしかない。
 戦況を覆すにはあまりにも足りず、それはヒトのいのちも同等。
 たったひとりがいのちを懸けたところで、世界は変えられない。
 罪を贖うことも、流れた血に報いることも、ヒトを救うことも出来ない。
 だからこそ、ヒトはいのちを大切にする。いのちは代えが効かないと云うのだ。
 ――なのにどうして、ヒトはいつも、何かが出来ると思い込むのだろう。
 鳴宮・匡は降り注ぐミサイルを迎撃し躱しながら、淡々と思った。
 散りゆくいのちを必死に繋ぎ止めるほど、彼の心はヒトらしくなかった。

 ――ドウドウドウドウッ!!
 爆音がいくつも連鎖し、そしてミサイルは匡を捉えるより先に燃え上がった。
 爆炎をも遮るように突き立つのは、冷気を凝縮した無数の氷柱である。
「馬鹿者が――その程度の攻撃で、私たちを殺せると思ったか?」
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイムは、ことさらに悪辣に笑ってみせた。
 傲慢なる邪竜のように、双眸を愉悦に歪め、口の端を吊り上げて。
 それはいかにも邪悪で歪み、この世の穢れを凝り固めたようである。
 ……ここに居る誰もが、そうは思わなかっただろうが。
『超弩級戦力……敵に回すにこれほど恐ろしいとは! だが、まだだ!!
 おれは、生きているぞ。貴様らを全員鏖にして、本懐を果たしてやろう!』
「出来んよ。――貴様には何も出来ん。殺戮も、救済も、何もだ」
 ニルズへッグの声音には、どこか諦めのようなものがあった。
 彼もまた、かつて悪徳として君臨し大義に討たれることを願った残骸だ。
 されど邪竜はそれを為せず……あるいは幸運にも救われ……今に至る。
 ニルズへッグという男はここにあり、家族と仲間と友を得た。
 死にたいのかと問われれば、邪竜の残骸とでも言うべき男は否というだろう。
 死にたくないし、死ぬわけにはいかない。遺す者、遺るものが多すぎるからだ。
 受け容れてくれた者たちに報いるには、このいのちはあまりに足らない。
 ――散らして贖うとしても、あまりにも小さすぎるのだ。

 匡はちらりと、戦いを見守る女を視た。
 泣き崩れてうなだれていた彼女はしかし、いま、しかと立っていた。
 充血した瞳を見開いて、流れ落ちる涙を拭うこともせず、
 愚かで哀れな幼馴染の最期の生き様をしかと見届けていた。
(――どうして、ヒトはこんな風に死ねるんだろうな)
 匡は思う。
(傍にいるべき誰かが、ちゃんといるのに)
 理解できない。誰かを遺し死ねるものの気持ちが、理屈が、何一つ。
 己は、出来ない。死ぬことを選べないし、差し出された救済を否定してここに来た。
 ありきたりな終幕で贖えるほど、己が積み上げた屍は安くない。
 ならば生きて罪を贖うのかと言えば、そんな人間らしい贖罪精神は己にはない。
 なんと醜く、殺された人々からすれば自分勝手な、巫山戯た話だろうか。
 けれども。彼もまた、"それでいい"と受け入れてくれた人たちに救われたのだ。
 同じ愚かであるならば、せめてそんな仲間たちに報いれる己でありたい。
 だから。
「猟兵(われら)は"正義"を以て貴様を討とう――満足して散れ、愚か者よ」
 無数の氷柱が、鋼を貫いた。
 同じように影の弾丸が、蒸気吹き出す動力部を撃ち貫く。
 匡は、手向けとなる言葉を口にはしなかった。
 そんなことをのたまう資格もあるべきことばも、己にはないと感じていたから。
 せめて一瞬でも早く、終わらせてやるほかになし。
 ――あるいはそれは、ひとでなしなりの慈悲であったのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
──俺ぁ、お前が羨ましい
お前と俺は、きっと同じだ
愚かで現実を見なかった代償を、何とかして払おうとしてる
…俺も、死にたかった
けど哀しいかな…お前は世界の敵で、俺は世界の味方だ
簡単に死ぬことを、誰も許しちゃくれない
羨ましいよ…本当に

あぁ、ちゃんと殺してやる
その蒸気、いいな
真っ黒な感情が渦巻いてやがる
俺にも寄越せよ…もっと苦しみたいんだ
Void Link スタート
そのユーベルコードを使ったという過去を、『強奪』する
積み上げてきたお前の業も、経験も意志も!俺が持っていく
地獄に行く前に、余計なものは置いていけ

俺もお前も、間違えすぎた
だけどもう、お前は間違えない
そっちで、間違え続ける俺を嗤っててくれ



 多くの猟兵は彼を哀れみ、なじり、あるいは見届けんとした。
 けれどもひとりだけ、彼にまったき羨望をぶつける男がいた。

 ヴィクティム・ウィンターミュート。
 向こう見ずに天上(そら)へ手を伸ばし、そして落伍した男。
 分不相応な栄光を求めて、けっきょく何もかもを喪ったどうしようもない愚者。
 仲間も、居場所も、名誉も、何もかも失い、けれども命は遺った。
 ――遺ってしまった。
 自ら命を捨てて贖えるほど、ヴィクティムは思い切りがいいわけでなく、
 そんなありきたりな終幕が許されるほど、彼の罪は軽くなかった。
「羨ましいよ、お前が。……本当に、羨ましいよ」
 何の因果か己は世界に祝福され、未来を護るべき正義の味方となった。
 いっそ、オブリビオンとして堕ちることが出来たなら。
 この世すべての悪へと堕落し、何もかもに敵対して忌むべきものになれたなら。
 ――今からそんなことを目指したとして、彼らは許してくれまい。
 輝かしき主役ども。栄光と名誉を一身に受けるべき連中。
 こんなどうしようもないクズにも、笑顔を向け手を差し伸べるお人好しども。
「お前は苦しめる。敵として殺してもらえる。お前が、羨ましいよ」
『……貴様、は……ッ!!』
「なあ、その真っ黒な感情を、俺にくれよ。その苦しみを俺にくれ」
 漆黒の虚無に染まりし右手が、どす黒い動脈血めいた蒸気を掴んだ。
 壊れた動力部より溢れる蒸気を、その怨念と憎苦を引きずり、強奪する。
「お前の罪を、業も、経験も意志も、全部俺にくれ。お前の浴びる怨みも痛みも」
『……やめろ』
「お前が背負うべき業苦も。愚かさも、全部奪わせてもらうぜ……!」
『やめろ! なぜそんなことをする!? 貴様は、貴様らは猟兵だろうに!』
「――ほしいんだよ」
 虚無に濁った眼で、無限じみた苦しみと怨みに苛まれながら彼は言った。
「俺も、お前のように敵として討たれたい。俺もまた間違えすぎたんだから。
 ――だけどもう、お前は間違えない。お前はここで終わる。だから、要らないだろ」
 それは慈悲ではない。
 ただ羨ましくて、妬ましくて、誰かに裁いてほしくて。
 それも叶わないならば、苦しみと痛みで後悔を誤魔化したいだけだ。
 虚無は業苦を貪る。男が背負い抱くべき過去を奪い去っていく。
「――代わりに、お前は地獄で俺を嗤い続けていてくれよ」
『貴様は……』
「俺は、お前みたいに潔く散ることも出来やしないんだ」
 事情はわからない。けれども、しかし。
 虚無に埋まる男の口元に浮かんだ、自嘲と皮肉の笑みを見た時――。
 利鷹は、彼を斬ってやれぬ己の未熟を恥じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
狭筵さん/f15055

承知しました。惨たらしく殺します。

防衛は狭筵さん任せです。
…あれ、呪詛の肩代わりをしてますね。
自我のある間に、彼が彼である内に殺せ、という意味でしょうか。
酷なことをする。

【竜檀】で甲冑をカッ剥いで中の人を出せないか試してみます。
出した時点で死んでるでしょうけど
見せしめであることが肝要ですから。
処刑みたくするのも、他人の怨みを買うのも、慣れています。

幻朧戦線のバカさ加減を周知してあげる義理はありません。
でもそう願うんなら、引き受けましょう。
あなたは、よい悪でしたよ。
よい悪例として死んでいい。

コイツが暴動の首魁ですよ。…顔は、見えますね。
悪人の風貌、よく覚えておくことです。


狭筵・桜人
矢来さん/f14904

最初からこうなると知っていて人を雇いました。
自分の手を汚すのが嫌で
私の代わりに人を殺してくださいってお願いする為に。

いいですよ矢来さん。彼の願いを叶えてあげてください。

一時的ですがUCで陽朧甲冑の動力源を断ちます。
燃料たる【呪詛】のみを喰らい続ければ
搭乗者を冒し続けている耳障りな恨み言や雑音も
少しは静かになるかもしれませんね。

門倉・チエさん。
駆け寄るなどしてはいけませんよ。
テロリストの主犯格と知己だと民衆に知れれば
あなたが彼らを手引きしたと
根も葉もない噂を立てられてもおかしくはないのです。
それともう一つ。
あの男に『テロリストを見せしめに惨殺してくれ』と命じたのは私ですよ。



「……最初からこうなると知っていたんですよね」
 矢来・夕立の背中に、狭筵・桜人は言った。
 その表情は、いっそ場違いなほどに穏やかな笑みを浮かべていた。
「ほら、"こういう仕事"って、やっぱり慣れてない方も多いじゃないですか?
 私の知る限り、矢来さんが一番向いていましたので。だから頼みました」
「…………」
 夕立は冷たい瞳で振り返る。怒り、逆恨み、あるいは侮蔑、いずれもなし。
「どうして最初から、正しく依頼内容を伝えなかったんです?」
「いやあ――だって断られてたら、私が手を汚さなきゃならないじゃないですか?
 そういうの、ヤだなあって。それに、あなたなら怒らなさそうですし」
「そうですね。慣れてますんで」
「でしょ? いやあ、やっぱり私の審美眼ってたしかだなあ。ははは」
 世間話めいて言って、桜人は笑った。
 たたっ、と背後から駆け寄る足音がして、桜人はぐるりと首だけで振り返る。
「門倉・チエさん」
「……っ!!」
「いけませんよ? あんな最低最悪のテロリストに駆け寄るだなんて。
 あいつはあなたを殺そうとし、この大歌劇場を破壊した大悪党なんです。
 しかも遺棄されたはずの非人道的兵器を引っ張り出すなんて、いやあまったく」「やめて」
「――どうしようもないクソ野郎ですねえ」
「それ以上、利鷹さんを愚弄しないでっ!!!」
 悲鳴じみた声で女は叫んだ。双眸から滂沱の涙。
「どうしてそんなふうに言うの。どうしてあの人を"あんなふう"に殺したの!?」
「そりゃあ、まあ。テロリストですし?」
 ……利鷹は、はらわためいて影朧甲冑から引きずり出されていた。
 一瞬の隙を狙い、夕立が生身を鋼の中から無理矢理引っ剥がしたのだ。
 もはや命は尽きようとしており、夕立は無慈悲にも胸を苦無で貫いていた。
 膝を突いた影朧甲冑の胴体部は、ばっさりと両断されている。
「利鷹さん……利鷹さんっ!!」
「だから、ダメですって。風評被害喰らいたいんです?」
「嫌、どいて! お願い――どいて、この人殺しっ!! 離してっ!!」
「そうですよ。私が指示しました。彼に仕事を依頼したのは私です」
 笑ったままチエの腕をつかみ、行かせないようにしながら、桜人は言う。
「帝都騒乱の罪は重いですからねえ! 見せしめにはこのぐらいやりませんと!
 いやあ矢来さん、お見事です! これ以上ないくらいの惨殺ぶりで満足ですよ!」
「……ご満足頂けたなら幸いです。こちらとしても仕事をした甲斐があります」
 夕立は感情を感じさせぬ声音で呟いて、利鷹の襟首を掴んだ。
 これこそ暴動の首魁、學府に仇なした愚か者だと釣り上げるために。
 涙を流すチエが何かを叫んだ。鬼だとか悪魔だとか、そんな罵詈雑言を。
 ふたりはけして表情を変えない。片方は微笑み、片方は笑顔のままだ。
『…………すま、ない』
 掠れるような声で、利鷹が言った。
『貴様ら、に……こう、まで……させ、て……しま……』
「……いいですよ。慣れてますから」
 夕立は小さく言った。
「あなたはよい悪でした。よい悪例として死んでいい――死んでもらいます。
 仕事として頼まれたらそれをこなすのが、オレの信条(スタイル)なので」
『…………』
 利鷹は、ありがとう、と言おうとした気がする。
 けれども消えゆく命で紡げたのは、ひゅうひゅうというかすれた声だけ。
 利鷹の体から力が抜けた。夕立はギロチンにかけられた罪人の首を掲げるように、
 その亡骸を掲げて見せつける。聴衆に、捕縛された同胞に。
「よく憶えておいてください。帝都を乱すものは"こうなる"ということを」
 チエが何かを叫んでいる。聞き慣れた言葉を涙ながらに叫んでいた。
 少年らは顔色を変えない。憎まれることは、慣れきっていた。

「…………はーあ」
 桜人はしかし、降り始めた雪めいた桜吹雪を見上げて、ため息をついた。
 彼は望んだ。桜人はそれに応えた――だからこそ愚かな悪党として、
 彼を殺させ、吊り上げさせ、見せしめとなるように頼んだのだ。
 けれども降り注ぐ雪めいた桜吹雪は、桜の精がもたらす救済の花びらだった。
「……ま、憎まれ役になった程度で世論を変えられるなら、楽ですよねえ」
 人々は彼らの横暴を見た。だが、誰もがわかっていた。
 結局それは露悪であり、彼らにそこまでの残酷さはないのだと。
 愚かではある。だが、謳われるような悪党ではないと人々は解っている。
 巨悪を討った正義の味方として謳われるようなことも、
 人の心を踏みにじる外道として誹られることも、自分らにはないのだ。
 むしろその所業を、そうせねばならなかったことを憐れまれるのだろう。
「本当、世界なんてそう簡単に変わりませんよ。ねえ、矢来さん?」
「さあ、よくわかりません。変えようとしたことがないので」
 けれども少年が一番恨んだのは、なによりも。
「あなた、本当に性格が悪いですよね」
「オレのどこが?」
「――少しぐらい、不平不満ぐらい漏らしてくれていいと思うんですが」
 少年は忍びを恨めしげに睨んだ。忍びは目を合わさぬまま応えた。
「そういうの、どうでもいいんで」
 それがウソであることは、桜人の眼にも明らかだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
さぁて、いよいよ大団円だ。毒煙を吸って毒酒をかっくらう。派手に祝おうぜ大将。主役は堂々と退場しねえとな?
《恙》を鎖鎌に変形さして、鎖分銅を利鷹の兄さんに投げて、鎧のどっかに引っ掛けんだろ。それをおもっきし引くかなンかして近づいてよ。
まあ切られるワケだが。俺の体はやべえモンの《宿》だ、浴びちまえば金属も影朧も関係ねえよ。《軛》があっから空気感染はしねえしさ。なにより、俺ぁ神だ。こんくらいじゃ死なねえ。

愛おしいぜ人間、かわいいぜ影朧。憎んで苦しんでもがいて叫んで、バカったれめ。
その心の『病み』、ひとまず俺に預けな。償えるようになったら返してやる、そのためにも次は幸福に生まれろ。
さあ、神様が来たよ。



 ……雪のように真っ白な桜吹雪が、しんしんと降り続ける。
 それは救済であり癒やしであり、斃れた男と遺された女への手向けだ。
「さぁて、さて。これにて大団円、悪党は斃れてスタァは守られた、と」
 朱酉・逢真はそんな空を見上げ、毒酒の注がれた盃をぐいっと傾けた。
 白い桜吹雪に覆われた甲冑が、音もなく、影もなく、腐りほつれ滅びていく。
 逢真のもたらした滅びの毒が、あるべきでないモノを土へと還すのだ。
「憎んで苦しんでもがいて叫んで、バカったれめ――愛しいぜ、人間」
 解き放たれた影朧の怨みすらも、凶神にとっては愛おしい。
 幻朧桜はその魂を慰撫し、苦しみに見合うだけの安らぎを与えるだろう。

 けれども。
「その心の『病み』は、てめぇが持っていくにゃあ大きすぎる」
 逢真には視えていた。
 いのちを失い朽ちた体から離れていく魂、地の獄へと惹かれる男の魂が。
 その身には怨み怒りを抱えた影朧どもがまとわりつき、鎖めいて絡みつく。
 男の魂は泣き崩れる女を見下ろし、頭を振り、消えようとしていた。
 ――そこへ、凶神は手を伸ばす。神なるその指先で、たましいに触れる。
「そんなもんを人間ひとつっきりで償えるなんざ、思い上がるんじゃねぇよ。
 そんなことが出来ンなら、神(おれ)らは必要ねぇ――そうだろう?」
 男の魂は何かを言おうとした。切り捨てる。
 そのたましいに絡みつくくろぐろとした怨み、怒り、そして罪と苦しみは、
 しゅるしゅると解けて崩れ、逢真の指先に絡みつき、同化した。
「だから、俺が預かっておいてやる。いずれてめぇが償えるようになったなら、
 そのときはきっちり返してやる。……そのためにゃ、少しでも軽くしな」
 背負うものを。業を――罪を。己が流した血の重さを。
 魂が向かう先は贖いの地獄ではなく、桜吹雪が導く次の生。
 魂の姿は薄らぎ消えていく。逢真はことさら皮肉げに微笑み、言った。
「次はせいぜい幸福に生まれな――神様が、来てやったよ」
 その桜の名のとおりに、たましいの姿は幻めいて朧に融けていった。
 生命の輪廻を司る神ならばこそ、死したたましいの道行きは決められる。
 その身は影朧ならず、されど彼の次の生はきっと幸福なものであろう。
 今度こそ道を違えずに済むかどうかは、すべて人間次第だが。
「毒と病を抱えてくれてやるのは、俺の仕事だからなア」
 逢真はひとりごちて、桜吹雪を肴にもう一度盃を傾けた。

「……?」
 チエが振り返り仰いだ時、そこには誰の姿もなかった。
 ただ彼女はなんとなく、心の何処かで思い至ったのだ。
 あのひとの苦しみは、おおいなる誰かが持っていってくれたのだと。
「……ありがとうございます。神様……あのひとを、どうか安らかに見守ってください……」
 だから女は、名前も知らない神様(だれか)に祈り、感謝を捧げた。
 ひとには結局、祈ることしか出来ないのだから。

 いのちは重くかけがえがなく、しかし世界を変えるにはあまりに軽い。
 ありきたりな廻天など訪れず、昨日と同じように明日はやってくる。
 どれほどの犠牲が、血が流れようと、滅びぬ限り世界は同じように続く。
 誰にとっても――生者にとっても、死者にとっても。
 それを無慈悲というか救いと呼ぶかは、人間次第だろう。
 明日をどう変えるかも、生きる者だけが選べることなのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月30日
宿敵 『雷禍』 を撃破!


挿絵イラスト