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黒と青の狂死曲

#ダークセイヴァー #人類砦 #闇の救済者 #シリアス

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●芽生え始めたもの
 そこはおそらく、かつて滅ぼされた城だったのだろう。
 吸血鬼にすら見捨てられるほどに激しく破損され、長き歳月の過ぎ去った今、誰も住まぬ場所であった。
 今は微かに城としての面影を残す廃墟となっているそこの周りは、かつては城下町だったのだろう。
 ただ、ところどころに見受けられる朽ちた何か、それらを隠すように生い茂った草や苔。廃墟以上に当時の面影が残されていないため、類推するしか無いが。
 しかしそんな場所に、幾年月ぶりかに『生命(いのち)』が滞在していた。

「きしさまー!」
「あら、騎士アシュリー、今夜も見張り?」
 着古したボロ服を纏う幼子に駆け寄られた青年は、足を止めて。その子の母親である顔見知りの女性の問いに「ええ」と頷いてみせる。
「この拠点を守るのが、『騎士』の努めですから!」
 アシュリーと呼ばれた青年は二十歳過ぎだろうか、拳で胸元を叩いて自信ありげにそう告げた。
 騎士とは言っても、立派な鎧や武器を持っているわけではない。正式に叙勲を受けたわけもない。ただ、近い祖先に騎士がいた――そう代々伝え聞いてきただけだ。
 けれどもこの、ヴァンパイアの支配の及ばない地において生活の秩序を守るためには、『騎士』という役職は上手く機能している。
 アシュリーを代表に、四十代くらいまでの様々な種族の男女で構成された『騎士団』は、本来の『騎士』の姿と比べたら子どものごっこ遊びに見えるかもしれないが、それでもこの場所では要としてその存在を確かなものにしていた。
 夜毎の見張り、喧嘩の仲裁、廃墟の修繕の手伝い、食料の調達――共に暮らす住人たちのため、様々なことをこなしてくれる彼らは、住民たちにとって頼りになる存在であり。
「じゃあこれ持っていって。薄いけど、味が付いてるわ」
「果実水! いいの? 君たちの分でしょう?」
 常に闇に覆われているこの世界では、作物が育つ場所が限られていて。この果実水も他の世界のものと比べれば、ほんのりと甘味と酸味が感じられる程度のものだけれど。
 それを大切に大切に飲んでいることを、みんな知っているから。
「いいのよ。騎士様たちがいなかったら……こんなに心穏やかに暮らせることは、一生なかったでしょうから……」
 そう告げて笑む女性から、アシュリーは木製の容器を受け取った。そうすることで彼女たちが安心するのなら、それは受け取るべきだと思ったのだ。
「わかった、ありがとう。これで一晩頑張れるよ!」
 笑顔に笑顔を返してアシュリーは、見張り台のひとつへと向かっていった。

●忍び寄る黒と青
「ああ……あそこに『騎士』がいるのね」
 遠くから廃墟を見て呟くのは、黒い衣を纏った女性。
「ならば……彼らも彼の軍勢に加えなくては」
 彼女の背後には、漆黒の全身鎧を纏いしモノたちが、立っている。
「嗚呼、嗚呼、この栄誉を誇り、咽び泣きなさい――あなたたちにも『強さ』を与えてあげるわ――……」
 女性の背に浮かぶのは、その髪と同じ青い色をした翼。
 そして女性と鎧姿の者たちの足元で揺らめくのは、青き焔――。

●グリモアベースにて
「……、……」
 グリモアベースに佇む長身の男の背には、ふぁっさーとした黒い翼が広がっている。髪に咲く花も見えることから、オラトリオなのだろう。
「時間があるなら、聞いていけ」
 ぶっきらぼうな物言いの彼の手には、数枚の羊皮紙。ちなみに特段機嫌が悪いというわけではないようだ。
「ダークセイヴァーに存在する『人類砦』については知っているな? その人類砦のひとつがオブリビオンに襲われ、蹂躙される」
 グリモア猟兵リーナス・フォルセル(天翔ける黒翼のシュヴァリエ・f11123)は淡々と告げる。
 リーナスによれば、襲われる『人類砦』は遠き昔に城だっただろう場所を拠点としており、廃墟同然だった城を修復しながら居住しているという。
 人口は徐々に増えて現在300人ほどになっており、人々の自治を尊重しながらも『騎士団』と呼ばれる者たちが人々を取りまとめている。
「騎士団と言っても、その単語でお前たちが想像するようなものではない。しっかりとした鎧もなければ、頑健な武器もない。叙勲を受けたわけでもない。『自警団』と呼ぶほうがふさわしいだろう」
 彼の言い方が若干辛辣であるのは、なにか個人的感情が混ざっているのか……それはわからぬけれど、確かに彼らは『騎士団』と呼ぶには足りないものが多く、『自警団』ならば、というところだ。
 そもそも長いことヴァンパイアたちの支配下にあったこの世界の人々が、支配体制に抵抗することすら珍しいのだから。
「『騎士団』の団長としてこの『人類砦』を統率している青年は、近い祖先に本物の騎士がいたと伝え聞き、『闇の救済者』として立ち上がった者だ」
 アシュリーと呼ばれる青年は、騎士への憧れもあったのだろう、自ら騎士と名乗り、人々を守るために、人々の生活の為に日夜働いている。
「『騎士団』が住人の生活を守り、手助けをすることで、住人も騎士団への信頼を厚くしていった。『騎士』として足りないものは多々あれども、その心は、そして住人たちにとっては彼らは、紛れもなく『騎士』なのだろう」
 そんな『騎士』たちの守る人類砦が、オブリビオンに狙われている。希望の芽を摘み取るべく、オブリビオンたちは容赦なく彼らの生活拠点である『城』へと襲いかかるのだ。
「城といってもかつて城だったと思われる廃墟に手を加えたもの、だ。防衛力など期待できない。オブリビオンに襲われれば、『騎士団』の者たちでも殺戮と滅びを回避できない」
 襲い来るオブリビオンたちも、残虐で容赦のない者たちだ。猟兵たちの助けがなければ、小さな希望の芽は軽々と摘まれてしまうだろう。
「お前たちならきっと、上手くやれることだろう。期待している」
 リーナスは淡々と述べ、猟兵達を導くために三日月型のグリモアの準備を始めた。


篁みゆ
 こんにちは、篁みゆ(たかむら・ー)と申します。
 はじめましての方も、すでにお世話になった方も、どうぞよろしくお願いいたします。

 このシナリオでは、オブリビオンを退けることで人類砦やそこに住む人々を守ることが目的となります。

 小テーマ・騎士、騎士道精神

 第一章・集団戦では、人々を守りながら多数の敵と戦います。

 第二章・ボス戦では、メンタルに触れる内容と戦闘とご選択頂ける予定です。

 第三章・日常では、二章が成功している前提ですが、オブリビオンの襲来で希望を見失いかけている人々を元気づけてあげるような、住民との交流になります。

※三章に限り、ご要望があればグリモア猟兵のリーナスもお手伝い、交流などさせていただきます。初対面でも大丈夫です。

●お願い
 単独ではなく一緒に描写をして欲しい相手がいる場合は、お互いにIDやグループ名など識別できるようなものをプレイングの最初にご記入ください。
 また、ご希望されていない方も、他の方と一緒に描写される場合もございます。

●プレイング受付日程
 オープニング公開後に、冒頭文を挿入予定です。その際にお知らせいたします。
 また、マスターページの【変更連絡】をご一読いただけますと助かります。

 初めての方はマスターページをご一読いただけますと、様々な齟齬が少なくなり、互いに少し幸せになれるかと思います。

 皆様のプレイングを楽しみにお待ちしております。
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第1章 集団戦 『『暴虐の青風』カエルラマヌス』

POW   :    蹂躙する騎竜
戦闘中に食べた【犠牲者の血肉】の量と質に応じて【身を覆う青紫色の鱗が禍々しく輝き】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    飛躍する騎竜
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    邪悪な騎竜
自身の装備武器に【哀れな犠牲者の一部】を搭載し、破壊力を増加する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●日常は斯くも脆く
 この『人類砦』には5箇所の見張り台がある。見張り台と言っても城であった廃墟の一部を利用し、足場をつけて登れるようにした程度。
 それでも高い位置から拠点の内外を見渡す、という用途は果たしている。
 ここを拠点としたばかりの頃と比べて住人の人数も増え、『騎士団』の人数も増えた。もちろん、すべての騎士団員が戦いの経験を持っているわけではない。武器の扱いすらおぼつかぬ者もいる。
 だが、この拠点での『騎士』のなすべきことは、何も戦いだけではないのだ。
 拠点の修繕や人々の生活の手助け……やることはたくさんある。
 戦いを伴う、人々を保護して拠点へと連れてくる役目は、主に『闇の救済者』として立ち上がった者たちが行っていた。そして合間を縫って、望む者には武器の扱い――といっても満足な武器が人数分あるわけではないが――を教えたりしている。
「アシュリーさん、もうすぐ夜明けですね」
「そうだな、このまま何事もなく朝を迎えられることを祈ろう」
 人間の青年ジョナスの問いに、アシュリーは頷いて答えた。
 騎士団の人数が増えたことで、夜間の見張りも二人以上で行うことが可能になっていて。ジョナスは武器の扱いこそ未熟だが、足が速い。何かあった時に伝令として拠点内を行くには適している。
 常夜のこの世界においても僅かな光が刺すこともあり、それを基準にこの拠点の皆は生活リズムを整えていた。今はちょうど、ほとんどの者が深く眠りについていることだろう。
「怯えながら朝を持つ生活から解放されるなんて、思わなかったです」
「……そうだな」
 感慨深げに告げるジョナスではあるが、アシュリーは絞り出すように相槌打っただけだった。
(今もなお、危機から脱したわけじゃない。この見張りは、住民を安心させるためだけのものではない。でも、ここで正論で水を差してしまえば、ジョナスの士気は下がってしまう)
 ここに住む人々は、ヴァンパイアたちの支配から解放されたことで、怯え続ける日々から解放されたことで、ようやく『安堵』を噛み締めている。誰しも一度得たそれを手放したくない――手放すことなんて考えたくないのはよく分かる。
 けれども、未だにヴァンパイアの支配に苦しんでいる人々を解放し続けているアシュリーたち『闇の救済者』は、この状態がいつ壊されてもおかしくないことを身を持って知っていた。
「俺、見張り交代したら、リリアンと一緒に採取に行く約束しているんです」
「寝ないでいくのか?」
「大丈夫ですって。少しでも彼女と一緒にいたいですし……いえ、採取の手伝いも立派な仕事ですから!」
 本音が先に漏れてしまったジョナスの様子に口元に笑みを浮かべ、アシュリーは木製の容器を手に取る。見張りにつく前に女性からもらった果実水の入った容器だ。
 それを開けようとしたその時、視界になにかが映った気がして、アシュリーは立ち上がる。
「どうかしたん……」
「ジョナス」
 自身を見上げるジョナスの言葉を制し、アシュリーは視界に映る『異物』を凝視した。
「あれは……」
 視界にあった『異物』は、徐々に大きくなっていくとともに数を増して行き。
「ジョナス、詰め所に走れ! 各見張り台にも伝令! 敵襲だ!」
「えっ……あ、は、はいっ……!!」
 転びそうになりながら、言われるがままに見張り台から降りていくジョナス。アシュリーは前方に見える敵の群れから目を離してはいない。
 徐々に大きくなり来る敵は、複数。視界を埋め尽くさんばかりに展開されているそれらは、青みを帯びた体表の竜。
 竜としては小型であり、おそらく騎竜として使役されるタイプだろう。攻めてくる彼らの背に操者が乗っているように見えないのは、僥倖か、それとも凶兆だろうか。
(住民が避難するまで――いや、無理だ)
 眠りについている人々を起こして、全員避難させるには相当の時間と労力が必要だ。敵の進行速度を考えれば、到底その時間はない。
(なら、せめて騎士団員たちが守備につくまで――)
 アシュリーは果実水を一気に飲み込み、容器を置いた。そして佩いていた剣を抜き放つ。
「できるだけのことは、してみせる……!」
 彼の背に広がるのは、真白き翼。
 絶望に背を向けて、騎士は立つ――。

 * * *

 ジョナスが騎士団詰め所にたどり着くよりも早く、竜たちが接近していることは他の見張り台にいた者たちの目にも映っていた。

「え……敵……ってあの数はないだろうよ!」
「なによ、あれ……」
「報告に走れ!」
「ハッ……やってやろうじゃねーか」

 そう、竜はアシュリーの見張っていた方角からだけ攻めてきたのではなく――この拠点を囲むように全方位から迫ってきたのだ。
 数の暴力を活かした全面包囲。
 猟兵たちが到着した時にはすでに、見張り台を起点とした拠点の一角が落ちていた。



----------------

●戦況
皆さんが到着した時、すでに拠点は敵と交戦中です。
拠点に向かって敵の背後から、横から、敵の合間をすり抜けて自警団員とともに、など初期配置はご自由に設定できます。
指定のない場合は、こちらで判断します。

敵の侵攻が深い(住民の危険度が高い)順 ※見張り台を起点とする

●その地にいる主な騎士団員名と主な武器:状況
A・ルーサー(人間男性、弓):駆けつけた騎士団員数名死傷。竜は一部住宅に向かいつつある。

B・ドリス(ダンピール女性、銃):騎士団員数名死傷。数名の騎士団員が戦闘中だが一部拠点内に侵入を許している。

C・セシル(人間男性、斧):騎士団員数名死傷。数名の騎士団員が戦闘中だが時間の問題。

D・ダンカン(人狼男性、槍牙爪):騎士団員数名死傷。数名の騎士団員が戦闘中だが時間の問題。

E・アシュリー(オラトリオ男性、剣使い):騎士団員数名死傷。数名の騎士団員が戦闘中。他所より徐々に敵の数が増している。

※騎士団員は一番強い者でも猟兵よりは弱いです。
※一般的な『騎士』というほどの装備は持っていません。
※猟兵が全部の箇所に行き渡らずとも悪い判定にはならないので、助力したい場所へ自由に向かってください。
※何処に向かうか指定なしの場合は、お任せとして判断させていただきます。

●プレイング受付
 11月7日(土)8:31~開始。

※締め切りなどはマスターページと旅団『花橘殿』にて随時告知します。
※のちほど、マスターページにこのシナリオの運営方針などを記載しますので、ご一読いただけますと幸いです。
セリオス・アリス
【双星】A
アドリブ◎

故郷の街には騎士団があった
…ただの人ではあったが
守ろうとしてた背中を覚えている
その意思を次いでるヤツも…隣にいるしな
守るって覚悟決めたヤツらなら
託したっていいだろ

敵はこっちで引き付けるが…
あぶれた分は任せたぜ
出来んだろ、それくらい
鼓舞するように強く明るい音で呼びかけて
アレスに視線を向ける
こんな状況だ、文句言うなよ
そんかし…信じてるぜ
アレスが見失わないから大丈夫だろ
歌うは【囀ずる籠の鳥】
敵を煽って、誘って、惹き付けて
獲物はここだと主張する
住人や街には踏み込ませない
襲ってくる敵は攻撃を見切り避け
風の属性を纏わせた剣で斬りつけ蹴散らす
避けきれねえ分は
アレスがなんとかしてくれるだろ


アレクシス・ミラ
【双星】A


失った故郷の騎士団の…守る為に戦う背中を思い出す
たとえ、真似事かもしれなくても
人々の盾となり、守る覚悟があるのなら
彼らも「騎士」だ

前線に出て盾で敵を押し返し
鼓舞するように凛と
此処は私達が引き受けます
騎士団の皆さんは怪我人の救護と住人の避難誘導もお願いしたい
武器を手に戦う以外にも…人々を「守る」事は出来ます

彼の言葉に少し心配が過ぎる、けど
―分かった。君を支えるよ
その代わり、僕から離れないで

惹きつけられた敵も、街へ向かおうとする敵も逃しはしない
この目に捉えたものは【天破空刃】で斬り伏せてみせる!
セリオスに迫る敵があれば
庇うように盾で受け止め、光纏う剣で斬りつけよう
君を絶対に…見失わない



 ――聞こえる。獰猛な獣の咆哮が。剣戟の音が。希望を捨てずに立ち向かう人々の、命の音が。

 もう存在しない彼らの故郷、その街には騎士団があった。彼らはただの人でしかなかったが、『守る』為に戦うその背中は何よりも力強く、輝いて見えて。
 脳裏に蘇る姿は、尊敬と憧れをいだくのに十分すぎた。
 ちらり、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)が視線を向けたのは、隣に立つ彼。すでに騎士剣と盾を構える彼は、故郷の騎士団の意思を継いでいる。
(たとえ、真似事かもしれなくても)
 その手に『双星暁光『赤星』』と『閃盾自在『蒼天』』を宿し、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は『人類砦』へと視線を向ける。
(人々の盾となり、守る覚悟があるのなら――彼らも『騎士』だ)
 その蒼に宿すは強き思い。揃いの『蒼』で彼を見つめたセリオスは、地を蹴る。
(守るって覚悟決めたヤツらなら、託したっていいだろ)
 自身の動きに彼がぴたりとついてきているのを感じる。
 ふたりは、『双星』であるがゆえに。

 * * *

 見張り台を起点として『騎士団』の敷いていた防衛線が、崩れている。横から敵の間を縫って、それを盾で押し返すようにしながら前線へと滑り込んだふたりは、素早く状況を確認すべく視線を走らせた。
「あ、あなた達はっ……!?」
 弓を手にした騎士――ルーサーが声を上げる。
「此処は私達が引き受けます!」
 返すアレクシスの声は凛としていて。屈強というよりもしなやかな強さと安心感をいだかせた。
「騎士団の皆さんは怪我人の救護と、住人の避難誘導もお願いしたいっ……」
 盾に感じる敵の力と数からその強さを読み取って、彼らには荷が重いと判断した。けれども騎士団を前線から引かせるのは、それだけが理由ではない。
「武器を手に戦う以外にも……人々を『守る』事は出来ます」
 ここはすでに突破されていて、住宅地に向かった敵もいるという。ならば、彼らに託すべき『守り』は――。
「敵はこっちで引き付けるが……あぶれた分は任せたぜ」
 なにか言いたげに口を開きかけたルーサーに、セリオスが告げる。
「出来んだろ、それくらい」
「っ……!」
 挑発にも似た明るい声色のそれは、鼓舞を孕んでいる。すでに血にまみれたルーサーは、小さく唇を噛んで。
「動ける騎士団員は住宅街へと向かえ! 住民たちの避難を優先せよ!」
 ルーサーの指示で団員たちが拠点内へと向かう。それを確認したセリオスは、『双星宵闇『青星』』を握り直して。視線を向けるのは、もちろん――。
「こんな状況だ、文句言うなよ」
 言い出したら彼が簡単に意を変ずる者でないことは、アレクシスが一番知っている。だからこそ、憂いがよぎるのだ。
「そんかし……信じてるぜ」
「――分かった。君を支えるよ。その代わり」
 それまで均衡を保っていた盾へと、アレクシスは力を入れる。押された騎竜たちが不満げな声を上げたけれど。
「僕から離れないで」
 そんな騎竜たちにアレクシスは白銀の剣を振り下ろした。彼の蒼はセリオスの蒼を捉えてはいない。けれど。
「アレスが見失わないから大丈夫だろ」
 嬉しそうにそう紡いだセリオスは、騎竜たちの群れの中心へと身を躍らせてゆく。

 そこにあるのは絶対的な、信頼――。

 セリオスは紡ぐ。その旋律に乗せるのは、煽って、誘って、惹きつけるちから。
 獲物はここだ、かかってこいと、全身でその存在を騎竜たちへと刻みつけてゆく。
(街には、住宅街には踏み込ませねえ)
 跳ぶように迫り来る鋭い爪を、舞うように見切って避けていく。所々で同士討ちが起こったのは儲けもの。
 その背面から、側面から斬りつける刃には、風を纏わせて鋭さを増して。

「ギャアォォォォォォォ!!」
(ああ、これは避けられねえな)

 剣を振り抜いた先、セリオスの視界に入ったのは、騎竜の鋭い爪。
 避けられない、直感でそう悟ったけれど。焦りや諦めは微塵もなかった。だって――。

 ガツッ……!
 鋭い爪がぶつかる金属音、一拍ののち。

「光一閃、駆けよ、果てまで!」

 極光がすべてを斬り裂いてゆく――その蒼が捉える限り。
 彼の金糸がセリオスの視界に溢れて。
 そして、雄弁に語る。

 ――君を絶対に……見失わない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

桜雨・カイ
D.
これ以上敵に侵入させるわけにはいきません
ここはまだ中へ入られていない、ならばここを止めます
【錬成カミヤドリ】発動
普段なら防御にも錬成体を割きますが、今回はその余裕はなさそうです。
最大数を錬成して、敵の目を砦から少しでも逸らすために、砦の外側から一気に攻撃を仕掛けます。
あなたたちの敵はこちらです!

砦の人達は、今のうちに体制をを立て直して下さい!
余裕ができれば怪我人の応急処置もできるはず
どうかお願いです…一人でも多く助かって下さい

相手は飛んで砦の中に入るつもりでしょうが、それもさせません
【念糸】でその身を絡め取ったあと
こちらも他の人形を踏み台にして、空中へ駆け上がって攻撃します!


禍神塚・鏡吾
技能:鼓舞、集団戦術、時間稼ぎ、部位破壊、体勢を崩す、空中浮遊、目潰し

場所はお任せ
アドリブ・連携歓迎

(此処に来るのも何年ぶりか。
嫌な思い出しかない世界でしたが……或いは過去に立ち向かう良い機会かも知れません)

「よくぞ耐えてくれました。この場は猟兵に任せて、騎士団の皆さんは戦えない人の避難をお願いします!」
初期配置は拠点内

目立つ色に塗装したレギオンを召喚
浮遊して見張り台まで移動し、戦場を俯瞰します
レギオンは敵1体に3体以上で当たらせ、1体犠牲にして残りに敵の脚を攻撃させましょう
部位破壊、又は体勢を崩して時間を稼ぎます

突破してきた敵は、光源を鏡で増幅した光で目潰し、その隙にレギオンで止めを刺します



 嗚呼、常闇の世界で青き暴竜が拠点に殺到しているのが見える――。

(此処に来るのも何年ぶりか)
 もはや数えてなどいないけれど。
 感慨深さなど無いけれど。
 禍神塚・鏡吾(魔法の鏡・f04789)の肌を撫で上げるこの世界の風の匂いは、変わっていない。
(嫌な思い出しかない世界でしたが……或いは過去に立ち向かう良い機会かも知れません)
 心中で息をつき、同じ方向へと向かう彼へと声をかける。
「桜雨さん、そちらはお任せします」
「はいっ。鏡吾さんもお気をつけて!」
 応えた桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、拠点へと向かう鏡吾とは別の方向――敵の群れへと向かってゆく。
(これ以上、敵に侵入させるわけにはいきません)
 この量で戦力の少ない拠点を攻められているとすれば、すでに内部へと入られている場所が生じてしまっているのも頷ける。
 けれどもそちらへは、他の猟兵が向かってくれたに違いない。
(ここはまだ中へ入られていない、ならばここを止めます――)
 カイが喚び出すのは、己の本体であるからくり人形の複製体。九十体近い青年サイズの人形は、さながらひとつの部隊だ。
 いつもならば、自身や本体の防御にも錬成体を割くところだが、さすがに今回はその余裕がないと判断して。
 拠点の外側から一斉に攻撃を仕掛ける――騎竜たちの意識を少しでも多く、引きつけるように。

「あなたたちの敵はこちらです!」

 注意を引くべく声を上げるカイ。同時に錬成体たちは、騎竜を軽く傷つけては後方へと跳んで、騎竜たちを拠点から引き離そうとする。
(砦の人たちが、今のうちに体制を立て直してくれますように……)
 鏡吾を始めとした猟兵たちが内部へと向かったはずだ。きっと、大丈夫だろう。余裕ができれば、怪我人の応急処置もできるはずだ。
(どうかお願いです……一人でも多く助かって下さい……)
 切なる祈りがその、青い瞳に宿る。
 それを『隙』と見たのか、数体の騎竜が宙を蹴って跳んだ――。

「――させません」

 だがそれは、カイの想定内だ。『念糸』を放ち騎竜たちを絡め取ったカイは、近くの錬成体を踏み台にして自身も空中へと駆け上がる!
「「ギャアォォォォォォォォ!!」」
 焦りか威嚇か、醜い鳴き声を上げる騎竜たち。しかしこのくらいでカイは怯まない。
 そんなに脆い覚悟で、ここに立ってはいないのだ。

 * * *

「アンタらは……」
 拠点内に現れた鏡吾に問うたのは、返り血を浴びた人狼と思しき男性、ダンカン。彼の後方には、動けなくなった騎士団員たちが投げ捨てられている――否、これ以上深い傷を負わないよう、とどめを刺されないよう、彼が自身の後方へ投げたのだと鏡吾は一瞬で理解した。
 彼に付着した血液は、敵のものよりも仲間のもののほうが多いかもしれない。

「よくぞ耐えてくれました。この場は猟兵に任せて、騎士団の皆さんは戦えない人の避難をお願いします!」

 ダンカンと視線を合わせつつも、鏡吾は敵への警戒を怠らない。
(敵の動きが変わりましたね……桜雨さんのおかげでしょうか)
 執拗に拠点内へと攻め込もうとしていた騎竜の数が、明らかに減っていて。だからこそ、今が彼らと猟兵たちが入れ替わる絶好のタイミングだと言えた。
「っ……」
 鏡吾の言葉を受けてもなお、猟兵という存在の到来を受けてもなお、ダンカンには自身が戦わねばという思いがあるのだろう。だから。
「皆さんのほうが、私たちよりも明らかに拠点内に詳しいでしょう。誰がどこに居住しているか、どの場所に人がいるか、私たちにはわかりません」
 迅速な避難対応には、情報が必要です――金の瞳で彼を真摯に見つめる鏡吾。
「これは、適材適所です」
 皆まで言わずとも、彼ならば分かるだろう。
 騎士団が敵と戦って猟兵たちが避難誘導をするよりも、猟兵に戦いを任せて騎士団が避難誘導をしたほうが効率がよく、ゆえに助けられる命も多いはずだ。
「……任せるぜ?」
「ええ、お任せ下さい」
 絞り出すように告げたダンカンに、鏡吾はゆっくりと頷いて。
 次の瞬間、ふたりは弾かれたように別方向へと動き出した。
「騎士団、比較的軽傷の奴は傷の深い奴に肩を貸してやれ! 走れるやつは近くの家のやつを起こして中心部へと誘導しろ!」
 ダンカンの指示に、それまで消耗する一方だった団員たちの表情が変わる。
「さて……」
 そして敵へと向かった鏡吾が喚び出したのは、蛍光色に塗装されたエレクトロギオン。四百体近いそれらを従えて地を蹴り、そのまま浮遊して見張り台へと立つ。
 ここからだと戦場の光景がよく見える。騎竜たちがカイと彼の錬成体たちへと向かって流れを変えたのも見えたけれど、もちろん騎竜全てではない。

「最後の一線は、超えさせませんよ」

 蛍光色のレギオンを、三体以上纏まって騎竜へと向かわせる。目立つ色をした見覚えのないそれに本能的に警戒心をいだいたのか、騎竜たちの意識がレギオンに注がれて。
 うち一体を的に、あるいは弾として騎竜の相手をさせているうちに、残りでその足を狙う。関節を破壊するように、あるいは巨躯がバランスを崩して倒れるように。
「ギャァァァァァ!」
「ギャッ!?」
 不意をうたれた騎竜が驚きや痛みから声を上げ、自らを傷つけた謎の物体を始末するべく、または大勢を立て直すべく躍起になっていた。
 レギオンは程々の強さを持つものの、一撃で消滅してしまう。だが、数にはまだ余裕がある。
 それでも中にはレギオンを突破して、当初の目的通り拠点内部を目指そうとする個体もいた。

「おとなしくレギオンに夢中になってくれていれば、よかったのですけれどね」

 そのような個体が出ることを、もちろん鏡吾は予測していた。手にしたのは、騎士団が置いていったカンテラと『鏡』。
 カンテラの放つ光を、鏡に映して。そして角度を調節すれば、真っ直ぐに光線が放たれる――。

「シギャァァァァァァ!?」

 突如目を襲った焼けるような痛みに、騎竜はその場で地団駄を踏むように暴れる。たとえ痛みがおさまったとしても、その赤い瞳はもはや何も映さない。
 暴れる騎竜に、レギオンたちが容赦なく襲いかかる。
 レギオンを感知するすべも余裕もない騎竜は、ただただレギオンたちになぶられてゆくだけだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ブラミエ・トゥカーズ

B

砦の中、ドリス含め生存者の所に顕れる。
臭いを辿れば”混じり”がいるとはな。
ここは、なんとも狭く、空気も悪く、汚れも酷い。
酷く不衛生であるな。
だからこそ余の宴に相応しき所であるな。
人間達。余が護ってやろう。故に、恐怖せよ。

【POW】
敵へ正面から無防備に優雅に近寄る。
喰われると同時にUC使用、戦場を覆い尽くす。
疫病をばらまき、貧血、飢餓、狂乱による共食いを狙う。

放っておいても伝染する数を付与した後、砦に戻って優雅に霧から集まる血を楽しむ。

余に血を捧げたい者がいれば歓迎するぞ?
あの蜥蜴共、美味くなさそうであるからな。
なに、グラス一杯でよい。


陽が昇れば慌てて従僕日傘or適当な物陰に隠れる。プスプス


東雲・一朗


▷服装と武装
帝都軍人の軍服、少佐の階級章付き。
刀と対魔刀の二刀流、2振りとも腰に帯刀。

▷行先
Bのドリスの元

▷撃退
民の為、志を胸に武器を執った彼らは紛う事なく我らと同じ。
騎士、軍人、表す言葉の違いは些細な事、我らは共に戦う同志だ。
「騎士達よ!援軍が駆けつけたぞ!」
桜花の霊気【オーラ防御】を纏いながら敵中【切り込み】突破、敵を二刀【2回攻撃】にて斬獲しながらドリスの元へ。
「貴官は我が隊と共に銃列隊伍を組め!まずは敵を退け態勢を立て直すのだ!」
【威厳】ある声で素早く指揮を執り、【戦闘知識】を元に【団体行動・集団戦術】を用いて【大隊戦術指揮『壱』】を発令、騎士達と共に【制圧射撃】を行い敵を一掃する。



 少数とはいえ拠点内へ敵の侵入を許してしまったことで、その女性は酷く焦っていた。
 二十代前後に見える美しい彼女は、血と汗と敵の体液にまみれながらも指揮を続けている。
 本来ならば、自分が敵を追ったほうがいいのは分かっている。けれども、ただでさえ半ば崩れた前線を離れてしまうのは――そんな彼女、ドリスの前に突如現れたのは。

「臭いを辿れば『混じり』がいるとはな」

 白いを通り越して青白い肌。尖った耳。口から覗く牙――。

「っ……!!」
 ドリスが銃を構える。なぜここに『ヴァンパイア』がいるのだ、と、彼女の思考に混乱の赫い雫が落とされる。
 けれどもこの『吸血鬼』、ブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)は余裕綽々で言の葉を紡ぐ。まるで己に向けられたその銃口など、些事であるかのように。
「ここは、なんとも狭く、空気も悪く、汚れも酷い。酷く不衛生であるな」
 ぐるり、あたりを見回すブラミエ。彼女を狙うドリスの手は、震えている。
 この世界においてヴァンパイアとは、恐怖の代名詞にて圧倒的な支配階級であるからして。
「だからこそ、余の宴に相応しき所であるな」
 ブラミエの余裕も意味のわからぬ発言も、その気になれば簡単に自分たちを始末できるからだろう――ドリスを始めとした騎士団の者たちにはそう思えてならなかった。
 だから。

「人間達。余が護ってやろう」
「えっ……」
「故に、恐怖せよ」

 ニヤリと口元を歪めた彼女の言葉の意味が、理解できなかった。

 * * *

(民の為、志を胸に武器を執った彼らは紛う事なく我らと同じ)

 サクラミラージュの軍服に身を包んだ精悍な壮年男性――東雲・一朗(帝都の老兵・f22513)は、拠点へと急ぎながら思う。
 世界は違えど、武器も練度も違えども、その思いは同じ。

(騎士、軍人、表す言葉の違いは些細な事、我らは共に戦う同志だ)

 桜花の霊気を纏い、外套を風になびかせて、走る。
 両の手に携えた刀で迷いなく敵を切り捨てながら、先へ、先へ。
 疾(と)く、かの元へたどり着くべし、と。

 * * *

 拠点に到着した時に一朗の瞳に入ったのは、攻め寄せる騎竜に対してではなく、『猟兵に』対して恐怖の表情で銃を向ける女性――。

「トゥカーズ殿。誤解を解かずに遊んでいる状況ではないと、分かってるのだろう?」

 そうだ、銃口を向けられている『猟兵』は、確かグリモアベースで見かけた顔だ。彼女の『存在』が、現地の者に混乱を与えかねないと思い、頭の隅に名前を記憶していた。

「やれやれ。その手の些事は貴公たちに任せる」

 告げて彼女――ブラミエは、前線へと向かった。

「あ……の……」
 言葉を絞り出すドリス。彼女の周りにいる騎士団たちも、恐怖で表情が固まったままである。だから。
「安心しろ、我々は猟兵だ」
 そう、吸血鬼とはいってもブラミエはこの世界のヴァンパイアではない。カクリヨファンタズムにおける、お伽噺や伝説などのテンプレ的特徴を持つ、西洋妖怪に分類される吸血鬼なのだ。
 この世界の住人である騎士団の者たちが、ヴァンパイアというだけで畏怖してしまうのも仕方のないこと。けれども今は、詳しく説明をして理解を求めている時間が惜しい。だから一朗は、敵ではないと、簡潔に伝わる言葉を選んだ。

「騎士達よ! 援軍が駆けつけたぞ!」

 そして高らかと声を上げれば、力の籠もったそれに背中を押されて、騎士団たちに気力が漲る。

「貴官は我が隊と共に銃列隊伍を組め! まずは敵を退け態勢を立て直すのだ!」
「は、はいっ!」

 他の団員たちに拠点内へ侵入した敵を追うようにと指示を出したドリスは、一朗の指揮に従うべく銃握る手に力を入れた。

 * * *

「さて、如何に料理してやろうか」

 ブラミエは敵へと近づく。
 正面から。
 無防備に。
 そして優雅に。
「グヴヴヴヴ……」
 獲物が自分から向かってきた――その『異常』に気づくほどの知能がないのか、はたまた好きに暴れてもいいという状況に興奮しているからなのかはわからないけれど。
「グァウッ!!」
 数体の騎竜が我先にと、ブラミエの身体に噛み付いた――その時。
 獲物の姿が消えたことに気づくのが先か、己の身体の不調に気づくのが先か。
 霧へと変じたブラミエは、青の騎竜たちの間を飛んで、飛んで、飛んで。
 奴らが『霧』を視認するよりも、『霧』の孕む疫病を吸い込むほうが早い。
(この蜥蜴共、美味くなさそうであるな)
 放って置いても伝染するくらいの数感染させれば、良いだろう。
 ブラミエである『霧』の通った場所にいた暴竜たちは。
 体勢を保てず巨体をふらつかせる個体、狂ったように近くに居るモノに攻撃をする個体、同種へと噛み付く個体、仲間であるはずのソレを蹴り飛ばして、拠点へと向かう個体――。

「総員、構え!」

 拠点では、一朗の召喚した第十七大隊の軍人たちが、隊列を組んで銃を構えている。その中に、ドリスの姿もあった。
 敵の動きがこちらを攻めるだけではなくなったことに、一朗は気がついていた。恐らくそれが、先に敵へと向かったブラミエの技によるだろうことも。
 冷静に状況を分析した結果、暴走状態と思われる敵個体の接近に備え、指揮を執る。
 仲間であったはずの個体をも、障害物としか思っていないような動き。真っ直ぐにこちらへと向かってくるだけの個体の数を素早く数え。
 まだ、遠い。
 もう少し、引きつけてから。
 可能な限りの個体を、巻き込めるように。
 第十七大隊の技能や装備については、誰よりも熟知している。そんな一朗だからこそ、最も効果が高い一瞬を見極めて。

「――撃て!」

 威厳ある号令に寄って放たれる弾丸。
 面制圧が如き砲弾が、騎竜たちへと降り注いだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
ようやく芽生えたこの地の希望
それを護るべく立ち上がった人々に助太刀せずして何が騎士でしょうか

センサーでの●情報収集で戦闘音探査
味方の手が少ない箇所へ

この物量…命護る為に手段は選べません
殲滅優先
敵の持つ「食料」…遺体の損壊もやむを得ません…

UCで突撃
頭部、肩部格納銃器展開し●乱れ撃ちスナイパー射撃
近づく敵は●怪力で振るう剣を●なぎ払い、大盾で殴打
センサーでの●情報収集で周囲の状況を●見切り●瞬間思考力で対応
四方八方の攻撃を脚部スラスターでの●推力移動滑走で回避や●盾受け武器受けで防御し騎士団員達をかばいます

負傷者は退避させ、余力ある方は私に続き敵を掃討!
私達の背後…力無き人々を忘れぬよう!


フィッダ・ヨクセム


服装武装は普段通り
二足で行動出来る範囲UCで半獣化する

一番流血の臭いが濃い所を嗅ぎ当てて、そこに加担する
本体バス停は、騎竜共の意識をこちらに向ける為に投擲してやるぜ?
魔術で鎖の長さを増やした銀鎖を本体に繋いどく(ロープワーク)
ついでに迷彩でなるべく見えなくしておけば、俺様武装なしの獣だろう?
ハハ、ノー武装だ格好の的だな?さあ狙え!(存在感を出す)

来ないならこッちからだ!
最も近い騎竜に飛び乗ッて、騎乗だ
暴れるだろうな?だが好都合
鎖に繋がったバス停本体を、背の上から遠心力を利用して怪力で振り回す!

おい頭下げろ、怪我するぞ!
……生憎、ハイエナは騎士から大分遠いんだわ!
俺様は頭下げるなんてゴメンだね



(ようやく芽生えたこの地の希望)
 今、粉々に打ち砕かれようとしている希望。
(それを護るべく立ち上がった人々に助太刀せずして、何が騎士でしょうか)
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は自らに問う。今の己のベースとなっているのは、騎士道物語・御伽噺のたぐいで。
 初期からの行動基準・理想はそれを元にしている以上、自身が紛い物の騎士であると自覚しているとしても――それでも、騎士として。

「思いッきり暴れられそうだなァ」
 視界に満ちる『青』にそう呟いて、フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は『Emergency』で自らの肉体の一部を、妖怪鬣犬へと変える。
 二足歩行できる範囲に留めたからして服装に影響はないが、鋭敏になったその嗅覚に触れるのは、血の臭いばかり。
 一瞬だけ、一瞬だけ。 
 他の誰にも悟られぬよう表情を歪めたのは、血の臭いが想定より濃かったからか。
 血の臭いの濃さが意味する先へ、思考が走ったからか。

「同じ方向に目をつけたか」
「はい。こちらが一番、敵の数に対して戦力が少ないと判断しました」
 同じ方向へと走り出したトリテレイアに声をかければ、センサーを使用して己が向かうべき場所を判別していた彼は、フィッダへとそう答える。
「あァ、一番、血の臭いが濃い」
 すでに会敵している猟兵もいるようだが、なにぶん敵の数が多い。
(この物量……命護る為に手段は選べません)
 殲滅を優先する――そう決めたトリテレイアは、もうひとつ、確認するように自身の心の中で告げる。
(敵の持つ『食料』……遺体の損壊もやむを得ません……)
 遺体を傷つけぬようにしたいという思いは山々だが、その気持ちを押し通して新たな遺体を生んでは元も子もない。分かっているから――断腸の思いで覚悟を決めた。

「俺様は敵を引きつけるぜ」
「私は一点突破します」

 任せた――皆まで言葉にせずに、ふたりは別の方向へと地を蹴る。

「よッと」

 拠点へと向かう敵の群れの中へ、フィッダが投擲したのは――歪んだバス停。歪んではいるが鈍器として優秀なそれは、彼の本体でもあるのだが。
 ドスッ……突然降ってきたそれに、僅かに停止した騎竜たちが、次の瞬間警戒を顕にした。
(さァて……)
 もちろん、本体を捨て駒にしようというわけではない。魔術で長さを増し、更に迷彩加工を施して目視されづらくした『銀鎖』を、本体に繋いである。
 つまり現在のフィッダは、武装なしの獣に見える。

「ハハ、ノー武装だ格好の的だな? さあ狙え!」

 もちろん挑発だ。無視できぬほどの存在感を顕にして、大きく声を張る。
 じりじり、じりじり。
 バス停とフィッダの様子を窺っているような騎竜たちは、次の瞬間彼へと向かって駆け出した。

 * * *

 最も人手が少ないと思われる地点――ルーサーのいる見張り台を目指すトリテレイアは、頭部と肩に格納している銃器を展開し、前方の敵を撃つ。
 道を空けさせるための乱射であるが、彼の持つ卓越した狙撃技術がそれをただの乱射で終わらせることはなかった。
 的確に手足を撃ち抜かれて、醜い声を上げる騎竜たち。そのまま体勢を崩した個体もいれば、傷を負わせたトリテレイアに向かい、怒りに任せて突進してくる個体もいた。
 けれどもそれらの個体は、ありったけの力を込めて振るわれた長剣のひと薙ぎで両断され、地に伏せる。
 進むトリテレイアへ向かって来る更なる個体には大盾を打ち込んで、怯んだ隙に脚部スラスターによる滑走で拠点との距離を詰めた。

「助太刀に参りました!」

 そう告げて、反転。拠点へと向かい来る敵へと向き直る。
 センサーを使用して常に周囲の情報を収集しているからこそ、その時取るべき最善の行動を選ぶことができた。

「負傷者の退避を続けて下さい! 余力のある方は避難誘導、または私に続き敵を掃討!」

 告げて、滑るように移動して敵の攻撃を防ぎ、そして掃討してゆくトリテレイア。その白銀の体は、暗く淀んだ空を切り裂いて現れた希望の彗星の如く。

(私達の背後……力なき人々を忘れぬよう!)

 彼ら騎士団は猟兵と比べれば、対オブリビオン戦力としては心許ない。
 けれども誰かを護りたいと、そのために戦いたいと思うならば、戦わせてやりたいとトリテレイアは思う。
 その分、己が彼らをカバーしつつ戦えばいいのだ。
 自身もまた、彼らを守りたいと思うがゆえに。

 * * *

「おらよッ!」

 自身目指して突進してきた騎竜たち。彼らをギリギリまで引きつけて――フィッダは跳んだ。
 獲物が目の前からいなくなったにもかかわらず、急に止まれぬ数体はそのまま拠点から離れて駆けてゆく。
「ギャァッ!?」
 耳障りな声を上げたのは、フィッダのいたあたりで足を止めた――否、止めさせられた一体の騎竜。
「ハハッ……暴れろ暴れろォ!」
 その背には、フィッダ姿が。跳んだ彼は目をつけていた一体の背へと着地し、その足を止めたせたのだ。
 だが、騎竜とて黙って乗られたままでいるわけではない。彼を振り落とそうと、酷く暴れる。
(好都合だ)
 ロデオ状態のフィッダは、脚に力を入れて振り落とされぬようにしつつ、何かを引き寄せるように手を動かす――そう、視認性を落とした鎖を、鎖で繋いだ己の本体、バス停を引き寄せたのだ。

「おい頭下げろ、怪我するぞ!」

 形ばかりの忠告。引き寄せたバス停を、遠心力を利用して振り回す。怪力あっての戦法ではあるが、鎖を視認できぬ騎竜たちにはどこから得物が飛んでくるのかわからず。
 しかも彼の騎乗している騎竜が、自らの本能に従って暴れているものだから――軌道など、読めるはずもない。
 鈍器として十分すぎるほど力を発揮したバス停は、次々と敵を殴打していった。
 この戦法は、荒すぎるだろうか?
 でも。

「……生憎、ハイエナは騎士から大分遠いんだわ!」

 そういうのは、そういうのが得意な奴に任せればいい。自分は、そういう奴らが担えない部分を受け持とう。

「俺様は、頭下げるなんてゴメンだね」

 獰猛に嗤いながら、フィッダは鎖を振り回し続けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユーイ・コスモナッツ

シャルさん(f00330)と

いけない、すっかり囲まれてる!
急いで加勢しましょう、シャルさん!

言うが早いか【流星の運動方程式】
最大の取り柄である機動力をいかして、
遊撃として立ち回ります

騎竜を倒すことよりも、
砦の人達を守ることを優先
間に割って入ったり、
抱えあげて避難させたり、
時には囮になったりと

騎乗と空中戦の技能には自信があります
急降下に急上昇、高速旋回、曲芸飛行……
無茶な機動もなんのその、
とにかく誰も傷つけさせない!

守るだけが戦いではないことは百も承知
けど大丈夫、シャルさんが一緒だ
私が救助に専念すれば、
彼女は攻撃に専念できるはず

ですよね、シャルさん!
と、目と目で伝えて、さあ次へ!


シャルロット・クリスティア

ユーイさん(f06690)と

後手に回りましたか……あまり時間の余裕はなさそうですね。
どうにか進行を鈍らせなければ……!

レンに騎乗。空から仕掛けます。
持ち前の視力と闇夜鷹との連携で戦場を俯瞰、空中機動力を活かして猟兵の手が薄い=危険度の高いエリアを見極め、ユーイさんに指示を飛ばしつつ遊撃に回ります。
彼女は守り手、であれば蹴散らすのはこちらの役割。
ガンブレードに風の魔力を纏わせ切れ味を底上げしつつ、速度と質量を乗せた急降下攻撃、たかがトカゲの鱗程度抜くのは容易い!

騎士……って柄でもないですが。今回ばかりはご同伴にあずかるとしましょう。
人の底力、見せつけてやりますよ!



「いけない、すっかり囲まれてる!」
「後手に回りましたか……あまり時間の余裕はなさそうですね」

 わらわらと拠点へと攻め寄せる青の騎竜たちを見れば、誰であっても危機的状況なのは一目瞭然だ。

「急いで加勢しましょう、シャルさん!」
「どうにか進行を鈍らせなければ……!」

 隣に立つ少女に声をかけるが早いか、ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)は『流星の運動方程式』を発動させて自身の機動力を上げる。
 対するシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は、翼竜のレンへと飛び乗り、一気に上空へ。闇夜鷹の『エイル』と共に戦場を見下ろして。
「ユーイさん、そのまま右前方へ!」
 シャルロットの指示を受け、ユーイは『反重力シールド』に騎乗したまま速度を上げる。
 騎竜と騎竜の間をすり抜ける彼女の存在は、時には中途半端に知覚しようとした騎竜たちが目を回し、互いにぶつかり合うほど。
 自身最大の取り柄とも言える機動力を活かし、ユーイはシャルロットの支持する方向を目指していく。
(現在、あの場所が一番危険度が高いと思います)
 上空から広い視野で状況把握に努めたシャルロットは、斧を振るって騎竜たちを相手にしながら指示を出している男性――セシルのいる見張り台へと向かうことに決めた。

(もう少しでっ……)
 騎竜たちの間から、戦う人影が見える。ユーイは高度を上げ、そしてそのま前進!
 一見無茶に見える動きも、空中戦に長けた彼女が『反重力シールド』に騎乗すれば、なんのその。
 忽然と消えた彼女に、襲いかかろうとしていた騎竜たちが互いに衝突したことなんて、気にしていられない。

「助けに来ました!」
「えっ……!?」

 敵の群れの中から何かが飛び上がったと思ったら、次の瞬間には自分たちの前に少女がいた――セシルたち騎士団は、夢でも見ているのだろうかと目をしばたかせる。
「他の場所にも仲間が向かっています。私と、空にいる彼女は、ここを守ります!」
 告げてユーイは、前線で動けなくなっている団員を庇い、その流れでピックアップして後方へと運んで下ろす。その動きを見て、我に返ったセシルが声を上げた。
「動ける者は彼女の運んだ負傷者を、拠点内へと避難させろ!」
「っ……はいっ!!」
 ユーイの機動力で、たちまち前線から負傷者が救出・運搬されてゆく。
(守るだけが戦いではないことは、百も承知)
 ここへ訪れたのがユーイひとりだったら、状況はまた違っただろう。
(けど大丈夫、シャルさんが一緒だ)
 そう、今のユーイはひとりではない。

(私が救助に専念すれば、彼女は攻撃に専念できるはず)
(彼女は守り手、であれば蹴散らすのはこちらの役割)

 騎士団を守り、救助を続けるユーイに対し、レンに騎乗したまま拠点側から敵と相対したシャルロットは。
 握りしめた『アルケミック・ガンブレード』に、風の魔力を纏わせる。
 増した切れ味に、速度と質量を乗せるべく急降下の命を出し――。

 ――――ッ!!

 最前線の騎竜たちの群れと高度を合わせたのは、ほんの一瞬。
 再びレンと共にシャルロットが宙空へと戻ると、ずるり、最前線の数体の首が胴体からずれて、落ちた。
 悲鳴すら上げる余裕を与えられなかった彼らの胴体は、暫くの間その場で動いて、続く騎竜たちの妨げとなってくれる。

「たかがトカゲの鱗程度、抜くのは容易い!」

 再び急降下して飛翔――ふと拠点へと視線を向ければ、ユーイの緑色の瞳と視線が絡んで。互いに小さく頷き合う。
 ほんの僅かな間だったけれど、目と目を合わせて思いが伝わったから。
(騎士……って柄でもないですが。今回ばかりはご同伴にあずかるとしましょう)
 素早く拠点、救助活動に専念しているユーイの背後へと迫る一体の騎竜。シャルロットがそれを見逃すわけがない。
(人の底力、見せつけてやりますよ!)
 救助活動に支障が出ない角度を瞬時に判断し、シャルロットは何度目かの急降下を始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘルガ・リープフラウ
・ヴォルフ(f05120)と
・防衛地点おまかせ

戦場に入った途端、目に入る光景
赤に染まる地、夥しく流れる血の臭い
そして、目の前の青き邪竜が誇らしげに身に纏うモノは

ああ
なんという地獄
ここでもまた惨劇が繰り返されるというの

歌え、レクイエム【怒りの日】
犠牲者の魂に哀悼と慰めを
生き残った騎士団員たちと民衆に神の慈悲と救済を

そして悪逆の竜には悉く神罰を
お前たちは人々を殺めるばかりか、死者の尊厳までも貶めた
許すものか
魂の一欠片も残すものか
裁きの光輝に灼かれ疾く滅せよ

頬を伝い、はらはらと流れる涙
たとえささやかでもその身に背負う願いの尊さを
立ち向かう勇気と優しさを守って
どうかこれ以上、悲しみのない世界を……


ヴォルフガング・エアレーザー
・ヘルガ(f03378)と

自ら盾となって騎士団員を庇い、激痛耐性、覚悟で耐える
ここは俺たちに任せて、君たちは村人たちの避難を
彼らには慣れ親しんだ君たちの存在が必要だ
逃げることは恥ではない
命あれば必ず再起の時は訪れる
生きろ。生きて希望を繋ぐのだ

生きたまま食われ、死後もその遺骸を辱められた騎士団員の苦痛と恐怖を
愛しい人を殺された騎士や村人の嘆きを
そして……それらを目の当たりにしたヘルガと俺の尽きせぬ怒りを!
全てをこの剣に乗せ、地獄の業火で焼き尽くす
【怒れる狼王】は決して貴様らを許さない
その穢れた牙も肉も骨も砕き焼却して
塵も残さず消し去ってやる

……助けられなくて、すまない
君たちの無念は、必ず晴らす



 嗚呼、嗚呼――……なんということだろう。
 視界に入ったのは、赫に染まる地、夥しく流れる血の臭い。

「ああ……何という地獄」

 目の前の光景に対し、自然と零れ落ちた言葉。 
 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)の視線の先にいる青き邪竜は、『それ』を誇らしげに纏っている。

「ここでもまた……惨劇が繰り返されるというの……」

 ヘルガの中に蘇るのは、決して消えぬ記憶。遠き日の出来事と言うには、生々しすぎて。凄烈すぎて。
 今、この拠点で行われている虐殺が、記憶の中のそれと重なって――。

「ヘルガ」
「……ヴォルフ」

 傍らに立つ夫、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)の呼び声に答えたヘルガは、けれども視線は邪竜に据えたまま。
 嗚呼、邪竜が騎士団員を、住民を襲おうとしている。
 ふっと、ヘルガの隣から気配が消えた。その意味を、視覚で捉えるより早くヘルガは理解しているから。
「っ……!」
 犠牲となった騎士団員の腕や頭を搭載した邪竜の攻撃を、ヴォルフガングがその身を以て庇い受けた。

 ふたりが向かったのは、すでに騎竜の侵入を許してしまった地点。他の猟兵が前線へと立ってくれているからして、侵入した竜を追って拠点内へと入ったのだ。
 そこで相対することになったのは、自らの装備に、命尽きた騎士団員の一部を搭載した竜たち。
 住民の避難にあたっていた騎士団員も、避難しようとしていた住人たちも、そして避難の指揮を執っていたルーサーも、その酷い行いに衝撃を受けて動けなくなっていた。

「ここは俺たちに任せて、君たちは避難を続けるんだ」
「っ……でも……」
「彼らには、慣れ親しんだ君たちの存在が必要だ」

 敵の攻撃を受け止めるヴォルフガングの声に、正気に戻ったルーサーが声を絞り出す。

「逃げることは恥ではない。命あれば、生きていれば、希望は繋がる」
「……、……」

 ヴォルフガングの言葉は正しい。けれど、今の彼らに必要なものは。

「ここから先へは侵入させない。そして――彼らの無念は俺たちが晴らす」
「……!!」

 そう。ルーサーたちだけではなく、ヴォルフガングとヘルガもまた、竜たちの行いに不快感と燃え上がるような怒りを覚えている。
 その言葉で、ルーサーたちも彼らの思いを知ったから――遠ざかるのは足音と、すすり泣く声。

「ああ、嗚呼――……」

 目の前の、悪夢のような醜悪な光景が、夢であればいいのに。
 そうではないことを誰よりも知っているからこそ、願ってしまう。
 真白き両の翼を広げたヘルガが紡ぐのは、祈りの音。

 ――無辜の願いを冒涜し命を愚弄する者よ。何者も因果応報の理より逃れる術は無し。今ここに不義は潰えん。悪逆の徒に報いあれ――。

 光が、生じた。
 多くの光条となりて、邪竜たちのみを多方向から貫く。
 それは、裁きの光。
 犠牲者の魂に、哀悼と慰めを捧げる。
 生き残った騎士団員たちと民衆に、神の慈悲と救済を願う。
 そして悪逆の竜には、悉く神罰を。

「お前たちは人々を殺めるばかりか、死者の尊厳までも貶めた」

 その青く輝く瞳からこぼれ落ちる雫をそのままに、ヘルガが告げるのは罪状と、それから。

「許すものか、魂の一欠片も残すものか、裁きの光輝に灼かれ疾く滅せよ――」

 光条に貫かれる竜たちの鳴き声などに、耳を貸すことはない。

「生きたまま食われ、死後もその遺骸を辱められた騎士団員の苦痛と恐怖を。愛しい人を殺された騎士や村人の嘆きを」

 裁きの光を受けている竜たちが滅するのを、そのまま黙って見ているつもりはない。ヴォルフガングが纏うのは、地獄の業火と呼ぶに相応しき炎。

「そして……それらを目の当たりにしたヘルガと俺の尽きせぬ怒りを!」

 すべてを剣へと乗せて、竜たちを見据える。

「怒れる狼王は決して貴様らを許さない。その穢れた牙も肉も骨も砕き焼却して、塵も残さず消し去ってやる」

 ヴォルフガングの声から、抑揚が失われた。その青き瞳が凪いで見えるのは、怒りがすべてを超越したからだ。

「地獄の炎に焼かれて消えろ!」

 地獄の業火は正しく竜だけを焼く。一度、二度、三度……幾度も振るわれる刃によって、竜たちの体は斬られたそばから焼かれてゆく。
 いつしかその、醜い鳴き声は、聞こえなくなっていた。

(たとえささやかでもその身に背負う願いの尊さを、立ち向かう勇気と優しさを守って……)

 燃えて崩れ落ちた残骸は、風に運ばれてゆく。騎士団員の身体の一部も、同様に。

「……助けられなくて、すまない」

 その場に何も無くなっても、ヴォルフガングは視線を向けたまま。ヘルガは、はらはらと落ちる涙を拭うこともせず、彼の元へと歩んで寄り添う。

「君たちの無念は、必ず晴らす」
「どうかこれ以上、悲しみのない世界を……」

 誓いと祈りとが、風に乗ってそらへと昇りゆく――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

サフィリア・ラズワルド
WIZを選択

【幽冥竜の騎士団】を召喚しアシュリーさんの元へ向かいます。

アシュリーさん、指示をお願いします。私達はここのことをよく知りません、だから指示してください、今この時だけ幽冥竜の騎士団の指揮権を貴方に渡します。
いいですよね?おばば様!……リーダーであるおばば様も良しと言っていますから大丈夫です。
さあ遠慮せずに、彼らは霊体です。やられてもあの世に帰るだけです。

ペンダントを竜騎士の槍に変えて構えます。

『行くよ皆!我等は平和を望む者の盾!我等は明日を望む者の刃!』

アドリブ協力歓迎です。



「皆、行くよ!」

 サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は、喚び出した幽冥竜――戦士した仲間たちを連れたおばば様と共に、空を飛んでアシュリーの元を目指した。
 四百を超える竜騎士たちは、空を占めるように近づいてくる。新手かと、アシュリーたちが警戒する素振りを見せたのも当然だ。
 けれど。

「アシュリーさんですね!? 私達は助力に来ました。指示をお願いします」
「っ……味方!? ということは、君たちは……」
「はい、猟兵です」

 闇の救済者として立ち上がったアシュリーは、猟兵たちのことを知っている。その実力も目の当たりにし、尊敬さえしていた。
 多くの竜騎士を率いて現れた少女が猟兵だと言うならば、納得できる。名前を教えてほしいと言われ、サフィリアは丁寧に名を名乗った。

「サフィリアさん、来てくれてありがとう。敵の数が徐々に増えているように感じる今、頼らせてもらうことになるだろう。しかし……君の部隊? は、君が指揮をした方が……」
「いえ、私達はここのことをよく知りません。だから、指示して下さい。私達を一番効果的に『使える』のは、アシュリーさんだと思うんです」

 胸に手を当てて真っ直ぐに告げるサフィリア。

「今この時だけ、幽冥竜の騎士団の指揮権を貴方に渡します」

 いいですよね? おばば様! ――多くの竜騎士たちを連れてきてくれたおばば様に尋ねれば、ゆっくりと頷き返してくれた。

「……リーダーであるおばば様も良しと言っていますから大丈夫です」
「そう、かい? それじゃあ……」
「さあ遠慮せずに、彼らは霊体です。やられてもあの世に帰るだけです」
「霊体……」

 やられてもあの世に帰るだけで、根本的に消滅するわけではない――サフィリアはそのような意味で告げたのだが、アシュリーにはいまいちピンとこないようだ。
 しかし、問答を続ける時間がないことを、彼は知っているからして。

「では、最終防衛ラインに残る者以外は、隊列を組んで波状攻撃で敵を迎え撃ってくれ!」

 アシュリーの指示に従って、拠点を守る竜騎士達と敵に相対する竜騎士たちが素早く分かれる。
 サフィリアは『ラピスラズリのペンダント』を握りしめて念じた。するとペンダントが、『竜騎士の槍』へと変形してゆく。

「改めて。サフィリアさん、力を貸してほしい」
「はい、もちろんです」

 アシュリーの要請に頷き、サフィリアは槍を手に声を上げた。

「行くよ皆! 我等は平和を望む者の盾! 我等は明日を望む者の刃!」
「「「オォォォォォォォォ!!」」」

 竜騎士たちが呼応して、騎竜たちへと襲いかかる。
 この間に騎士団は、負傷者を後方へと下げて、体制を立て直すことができるだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

吉備・狐珀
住宅に侵入させないことはもちろんですがこの拠点を守ることも大切です。この先も今日のようなことが起きないとも限らないのですから。
ウカ、ウケ、月代、全力でいきますよ。

UC【神使招来】使用
ウカ、四神宿るその神剣で疾風を起こし月代の衝撃波と共に竜を吹き飛ばしし、竜の進入を阻止してしまいなさい。
この地を守る為に戦った者を己の武器に使い、望まぬ破壊行為をさせるなど言語道断です!
ウケ、後方から月代達を援護射撃しつつ、破魔の力を宿した御神矢で武器を浄化し開放するのです

ウカ達が竜の進行を阻止している間に、結界をはり負傷した騎士の方々を救助活動しつつ共に戦うため祝詞を唱え鼓舞を
絶対にこれ以上犠牲を出したりしません



「住宅に侵入させないことはもちろんですが、この拠点を守ることも大切です」

 拠点に殺到する数多の騎竜たちを見据え、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は静かに紡ぐ。
 彼女の傍らには、『倉稲魂命『ウカ』』と『保食神『ウケ』』、そして仔竜の『月代』が。

「この先も、今日のようなことが起きないとも限らないのですから――ウカ、ウケ、月代、全力でいきますよ」

 狐珀が喚ぶのは、ウカとウケに眠る近衛兵の霊。四神の力を宿す宝剣を持つ近衛兵と、破魔と浄化の力を宿す弓矢を持つ近衛兵が、狐珀の指示を待つ。

「ウカ、疾風を。月代の衝撃波と共に、竜を吹き飛ばしてしまいなさい」

 戦場に於いてなお凛とした声。その藍の瞳に秘められた意思を感じ取り、ウカと月代が動く。
 宝剣の周りに渦巻く風。月代が体表に纏う風のオーラ。
 それらが最高潮に達したその時、振り抜かれた宝剣から放たれた疾風が、オーラが姿を変えた重量ある風が、狐珀たちの前方にいる騎竜たちへと飛んでいく。
 一体、二体……また一体。その巨躯を吹き飛ばし、体勢を崩させてもなお風の勢いは衰えず。
 狐珀は駆ける。彼らの作り出した『道』を。三体の人ならざる仲間と共に。
 彼らは彼女に並走しつつ、押し寄せる敵がいれば攻撃を仕掛けて吹き飛ばしていった。
「……!!」
 拠点付近で戦っている見覚えのある姿を見つけた狐珀は、頼もしさとともに安堵を感じる。
 そのまま拠点に走り込んだ狐珀。ウカと月代は反転し、襲い来る騎竜たちを迎える構えだ。

 嗚呼、視線の先にいるのは。
 嗚呼、他の騎竜たちとは違う。
 胴に装着した装備から生えているのは、竜のものではなく――。

「この地を守る為に戦った者を……」

 狐珀は、体内を巡る血が沸騰する感覚に、逆に冷静さが増すのを感じた。

「……己の武器に使い――望まぬ破壊行為をさせるなど言語道断です!」

 それが効くと、確証があるわけではない。けれども、勝算が無いわけでもなく。

「ウケ、後方から月代達を援護射撃しつつ、その御神矢で武具を浄化し解放するのです」

 ウケの持つ弓矢は、破魔と浄化の力を宿す。 ならば、この、悪夢のような『呪い』から、勇敢なる騎士を解放できるかもしれない。
 矢が、放たれる。常なる弓使いでは行えぬ連射――清浄なる鏃は、竜の鱗を割り、肉へと食い込む。
 聞こえてくる竜の尋常でない叫びは、浄化の力がその邪悪なる体を廻っている証左。
 その叫びを聞き、狐珀は拠点内へと向かって走り出した。
 結果を見届けないのは、彼らへの信頼。そして自分にできることを成すため。

「――、――、――」

 唱えた呪(しゅ)で結界を張り、更に奥へと向かえば。

「私にもお手伝いさせて下さい!」

 負傷した騎士団員たちを連れている、血にまみれた騎士団員たちに追いついた。

「結界を張りました。すぐには壊されることはありません。前線にも、戦力を置いてきました」
「……そうか。お前ら、ここは安全になった。少し休め」

 狐珀を一瞥したのは、人狼の男性ダンカン。彼の命で、負傷者を運ぶべく動いていた団員たちが座り込んだ。
 自力で動くことが難しい負傷者に肩を貸し、または運搬にあたっている彼らもまた、例外なく傷を負っている。

「走れる奴らは先に行かせた。住人の避難のためにな。だから」

 助かった――ダンカンはそう告げる。
 仲間たちを運ぶ彼らもまた、体も心もギリギリだったのだ。

「医術の心得があります。応急手当をさせて下さい」

 そう申し出て、狐珀は団員たちの様子を見て回る。
 彼女が手当をしながら唱えるのは、不思議な音程と抑揚の言葉。歌のようにも聞こえるが、歌と言い切るのは何か違う。
 この世界の人々には馴染みがないかもしれない。
 狐珀が唱えていたのは、祝詞。

(絶対にこれ以上、犠牲を出したりしません)

 強い思いを乗せて、騎士たちを鼓舞する詞(うた)――。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォルク・リア

場所はA
呪装銃「カオスエンペラー」やフレイムテイルを用い
【範囲攻撃】で敵を攻撃。
攻撃してダメージを与える事より
自分に引き付ける事を目的として【挑発】。
敵の気を引きながら【残像】を伴った【ダッシュ】をして
間をすり抜け敵の先頭の敵に追い付く。

挑発して集まった敵の群れを見て
「やれやれ、ようやく追いついた。
しかし仕事は此処からか。」

今まで敵に与えていた殺意を利用して
敵全体に作用する様に誘いの魔眼を発動。
【呪詛】により肉体を蝕み。感覚を狂わせ動けなくさせて
騎士達が攻撃する為の隙を作る。

騎士達に
「今のうちにこいつらを仕留めてくれ。
これ以上数が増えると流石に手に負えなくなる。」
と協力して殲滅していく。



 放たれるは、弾丸ではなく呪詛。
 放たれるは、暴食なる炎鞭。
 威力よりも多くを対象とすることを重視して放たれたそれらは、騎竜たちを襲い、その鱗を舐めるように焼く。
 後方からの攻撃に騎竜たちが足を止めて振り返るのを、フォルク・リア(黄泉への導・f05375)はフードの下から捉え。
 その攻撃に挑発された騎竜たちは、我先にとフォルクを目指す。

 ――そう、それでいい。

 ギリギリまで引きつけて、見えた道筋。地を蹴りフォルクは、己の出し得る最速でその道筋をゆく。
 騎竜たちが見ているのは、彼の残像。そこに獲物はいないと、いつ気づくだろうか。

「やれやれ、ようやく追いついた」

 敵集団の戦闘へと追いついたフォルクは、それを追い越してのち。

「しかし仕事はこれからか」

 くるりと反転して、騎竜たちと対する。
 今、彼の背後にあるのは、拠点と騎士団員たち。そして拠点の中にはもちろん、戦えぬ住人が。

「さあ、始めるか」

 ――常世を彷徨う数多の怨霊よ。禍々しき力を宿すものよ、その呪詛を解き放ち。混沌の眼に写る魂を混沌の底へと誘い連れ去れ――。

 詠唱に呼応して闇に浮かび上がるのは、無数の赤眼。瘴気を纏ったそれは不気味さを帯びており、闇に並ぶその姿はそのままでも狂気をもたらしそうだ。
 騎竜たちが一瞬、怯んだように見えた。それが、致命的な隙となる。

「グァ……」

 赤眼は騎竜たちを見据えたまま――否、その本領は常人に目視できるものではない。
 放たれるのは呪詛。肉体と精神を蝕み、五感を狂わせる強力なそれは、フォルクの挑発に乗った騎竜たちを例外なく蝕んでいく。
 呪詛が全身に回る頃には、騎竜たちの様子がおかしいことが誰にでも分かるだろう。
 真っ直ぐに歩けない。立っていられない。方向感覚がおかしい。近くに居る味方の存在がわからない――症状は様々ではあるが、呻き、鳴くその姿は、戦場に在る者とは程遠い。

「今のうちにこいつらを仕留めてくれ」

 ゆるりと振り返ったフォルクは、騎士団員へと声かける。

「これ以上数が増えると、流石に手に負えなくなる」

 この地点は一番敵の侵入が早く、そして犠牲者も多い。
 けれども彼らがまだ戦うというならば、協力する準備はもう整っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

クラウン・アンダーウッド

最少の戦闘で敵の合間をすり抜け、拠点を目指し猛進。拠点に到着するや否や10体のからくり人形を展開し、騎士団とオブリビオンの戦闘に介入して騎士団員を守らせる。

クラウンは負傷者の元へUCの炎を飛ばし治療するが、助けられなかった死者を見つけて憤る。

あぁ、全く。自分の力不足をいやに感じるねぇ。もっと早くから居れれば良かったのに...

粗方負傷者の治療を終えたらクラウンも戦闘に参加。犠牲者の一部を搭載しているオブリビオンを確認次第、接近して強引に一部を剥ぎ取り頭を潰していく。



 五感を研ぎ澄まし、感じるすべてから情報を得る。
 それを分析し、クラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)は拠点へと向かった。
 最少の戦闘でたどり着けるルートを、その都度更新しながら。
 目から耳から肌から――感じるものすべてから必要な情報を摘出して。
 向けられた鋭い爪をガントレットで受けていなし、噛みつこうと高度を下げた頭に丁度いいと、飛び乗って宙へ。
 着地から間を置かず、敵の合間を縫ってゆく。

 見えた――他の猟兵の姿もある。けれども手は、どれだけあっても余るということはないはずだから。

 クラウンは拠点に到着するや否や、即座に十体のからくり人形を展開して。向かってくる敵達を騎士団員の元へ行かせないよう、守るように彼らを操作していった。
 視線を巡らせて、拠点の状況を把握してゆく。先に到着した猟兵が、前線で動けなくなっている騎士団員を後方へと運んでいる。下げられた負傷者を安全地帯へと運ぶ指揮をしているのは、セシルという騎士団員だろう。
(状況は大体わかったよ)
 クラウンの周囲に現れ始めたのは、神々しく輝く炎。それを放つ先は前方の敵ではなく――いつ敵に踏み潰されてもおかしくない、前線で動けなくなっている騎士団員たちだ。

「っ!?」
「なっ……!?」

 自分たちへと向かってくる炎に、団員たちは酷く驚いた。けれども彼らは動くことができない。炎を避けようとすることすらできないのだ。
 できるとすれば、固く瞼を閉じることくらい――。

「えっ……」
「……身体が、軽く……」

 けれども覚悟していたしていた熱さは、痛みは彼らを襲うことはなかった。
 確かに何かに包まれた感覚はあったのに。
 痛いどころか、それまでの痛みが消え、鉛のように重かった身体が動くようになったのだ。

「癒やしの炎だよ。動けるようになったら、退避して後方を手伝ってあげて!」

 自らの身に起こった奇跡を、実感している暇など無い。クラウンの声でそれを思い出させられた団員たちは、立ち上がって後方へと駆けていく。
 ――けれども。

「――、――……」

 炎を向かわせたはずなのに。癒やしの炎で包んだはずなのに。
 起き上がれない者がいる。ピクリとも動かない者がいる。
 癒やしの炎の力は強大ではあるが、万能ではないのだ。
 命の灯尽きた者を、癒やすことはできない。命の火種がない身体をいくら癒そうとしても、身体(そとがわ)だけ癒やすことができたとしても。
 ――魂を呼び戻すことは、できないのだ。

「あぁ、全く」

 ハットを目深にかぶり直し、誰にも見咎められぬ角度で唇を、噛みしめる。

「……自分の力不足を、いやに感じるねぇ」

 小さく紡いだのは、自虐。その裡(うち)に燃え盛るのは、憤り。

「もっと早くから居れれば良かったのに……」

 猟兵は万能ではない。
 グリモアの予知も、万能ではない。
 それは分かっている、分かっているけれど。
 ほんの少しのラグで失われた命があるのだから、たらればの話をしても許されるだろう?

「……、……」

 それでも自分にできることを。
 クラウンは他の猟兵の負傷者ピックアップと合わせて、できるだけ負傷者が自力で後方へと向かえるようにと炎を操った。

 だが――それが視界に入ってしまったのだ。

 見なかったことになど、できるはずがない。
 身に纏った防具から、人間の一部を生やした騎竜なんて――。

「――」

 もはや、言葉を発することすらしない。
 この感情を的確に表す言葉なんて……。
 地を蹴ったクラウンは、その騎竜に接敵する。彼の手には、アレキサンドライトでできたナイフ『Hoffnung zurück』が握られていた。
 騎竜が知覚するよりも早く、究極の切れ味を持つそのナイフで防具を、鱗を、肉を抉り。
 強引に引いて奪い取ったのは、奴らには不相応な部分。
 奴らにくれてやるなんて、許しがたいそれを胸に抱いて。
 トンッ、と地を蹴って宙空へと跳んだクラウンは、重力に逆らわずにそのまま――騎竜の頭へと、ナイフを突き立てた。

 希望は戻る――その名を冠したナイフでクラウンは、騎士団員たちの希望を取り戻すのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

西塔・晴汰
【晴ル】◎
敵は増えてきてるけど、今ならまだ……!
……って、ええっ!?
いやほら、戦場で多少の怪我は仕方なくないっすか……ダメ?

相手は早いし空中で飛ぶ。
オレが相手するには不利っすけど……オレ一人じゃなきゃあ何とでも!
先行したルーナが撹乱してくれりゃあ、地上から狙い撃つ隙だってできるっすからね!

【楔】が放つのは金色の炎、矢の雨みたいに浴びせてやるっす!
こいつはじゃじゃ馬だからオレの加減なんて効かないっすけど、騎龍相手に加減の必要無いっすからね!
落ちてきた奴には直接槍の斬撃を見舞ってやるっす!

……わかってる。オレたちの手の届く限り、誰一人だってやらせるモンか!
やるっすよ、ルーナ!


ルーナ・オーウェン
【晴ル】◎
晴汰とE優先で手薄なところ

たくさんの人を守る砦
落とさせるわけには、いかないから
でも晴汰、無理は駄目だから
怪我したら、怒るよ
しないくらいの勢いなら、きっとしないから大丈夫

お待たせ、私たちも手伝う
戦いには、慣れてるから
騎士を襲う敵や市街地へ向かう敵を優先して攻撃
『縮地法』で移動を短縮しながら、敵の死角から隠し持ったマチェットと銃で攻撃するよ
できれば声を掛け合って、晴汰とターゲットを合わせたいな
空をジャンプしてたって、上から現れれば対処できないでしょう?
その時は落下の勢いを乗せた斬撃で攻撃するね
落とした子たちは晴汰、任せたから

誰一人欠けたりさせたくないから
力を貸してね、晴汰
うん、やろう



「敵は増えてきているけど、今ならまだ……!」
「たくさんの人を守る砦、落とさせるわけにはいかないから」

 騎竜たちの数は、徐々に増えているように見えた。
 このままにしておいては、アシュリーのいる地点を突破されてしまう可能性が高い。
 ぐっと『覇狼の楔』の柄を握り直した少年、西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)の言葉に、こくりと頷いたルーナ・オーウェン(Re:Birthday・f28868)の白銀の髪が揺れる。

「でも晴汰、無理は駄目だから」
「……って、ええっ!?」
「怪我したら、怒るよ」

 今にも敵の群れの中へと走り出してしまいそうな晴汰に、ルーナはしっかりと釘を刺す。

「いやほら、戦場で多少の怪我は仕方なくないっすか……ダメ?」

 彼女の顔色を窺うように問えば。

「しないくらいの勢いなら、きっとしないから大丈夫」

 ルーナはぽつり、告げた。

「よし、行くっすよ!」
「うん」

 ふたりは拠点に向かい、走り出す。

 * * *

「お待たせ、私たちも手伝う」
「オレたちにも手伝わせてほしいっす!」

 先行した猟兵が連れてきたのだろう竜騎士たちが、すでに戦いを始めているけれど。
 ここへと向かっている敵は、増加の一途を辿っているから。きっと、役に立てるはずだ。

「ありがとう、是非力を貸してほしい!」
「戦いには、慣れてるから」

 アシュリーの言葉に頷いたルーナの姿が、消えた。
 霊体へと変化した彼女がその場に残したのは、微かなノイズのみ。

「ギャッ」

 聞こえてきた醜い鳴き声は、他の個体よりも拠点近くへ迫ろうとしていた騎竜のもの。姿を消したルーナが敵の死角から現れて、マチェットで攻撃したのだと晴汰には分かった。
(相手は早いし空中で飛ぶ。オレが相手するには不利っすけど……オレ一人じゃなきゃあ何とでも!)
 そう、今はルーナが共にいるのだ。
 彼女の『縮地法』は制限こそあれ、その制限の中では距離を問題にしない。敵が宙へと踊り上がれば、ルーナはその死角に出現するだけ。
 次々と仲間が死角から襲われて、騎竜たちがざわめいている。ルーナの姿を見つけてはそちらへと迫る騎竜たちも、その爪が、牙が触れる前に彼女を見失っている。

「晴汰」
「おしっ!」

 ルーナが指したのは、彼女を探す騎竜たちの中心で、宙へと躍り上がる個体。
 晴汰の返事を確認したルーナの姿が、消える。そして。

「空をジャンプしてたって、上から現れれば対処できないでしょう?」

 飛んだ個体の死角へと転移したルーナは、まず至近距離から銃で一撃。次いで、落下の勢いを乗せてマチェットで斬り裂いた。

「任せたから」

 落ち行く個体を、そこにいるルーナを、騎竜たちは獰猛な瞳で狙っている。
 今が好機だ――そう判断した晴汰は、『覇狼の楔』の封印を解き放つ。
(こいつはじゃじゃ馬だからオレの加減なんて効かないっすけど、騎竜相手に加減の必要無いっすからね!)
 むしろ加減なんてしないほうが好都合だ。
 
「金狼よッ! その力を借りるっすよ!!」

 晴汰の声に応じて槍先が輝く。そして発せられた金色の炎の矢は、まっすぐ騎竜たちを狙うのではなく。
 一度、空へと昇り、そして――雨のように降り注いで、多くの騎竜へと突き刺さり焼いていく。

 ルーナが落としてきた個体には、晴汰が直接槍をお見舞いした。
 命尽きた騎竜は、青いシミのようになって消えていくけれど。
 それでもまだ、多くの騎竜が残っている。

「誰一人欠けたりさせたくないから」
「……わかってる。オレたちの手の届く限り、誰一人だってやらせるモンか!」
「力を貸してね、晴汰」
「やるっすよ、ルーナ!」

 思いは同じ。
 背中を任せられる相手がいる、共に戦うことのできる相手がいる、それはとても頼もしいことで。

「うん、やろう」

 晴汰の声に頷き、ルーナは再び敵を撹乱するべく、姿を消した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル


…たとえ主から叙勲を受けていなくても
…たとえ特別な力を持っていなくても

…誰かの為に困難に立ち向かう勇気があるならば、
貴方達は誰が何と言おうと立派な『騎士』よ

左眼の聖痕で死傷した騎士の魂を暗視して見切り、
心の中で彼らに祈りを捧げてUCを発動

…聞け。戦場に倒れし騎士達の魂よ
死してなお、この地を守護する意志があるならば我が声に応えよ

…貴方達の遺志は私が引き受ける
共にこの地を襲う暴虐を打ち払いましょう

彼らの魂を降霊して全身を呪詛のオーラで防御して覆い、
限界突破した空中戦機動の早業で敵陣に切り込み、
闇属性攻撃の魔力を溜めた大鎌で敵陣をなぎ払う

…この地に芽生えた希望を、お前達に潰えさせたりはしないわ



 少女は、ドリスのいる見張り台近くの戦場に立った。けれども彼女は、拠点へと向かおうとはしない。
 拠点へは、他の猟兵が向かっているはずだから。
 だから彼女は、敵に近い位置に佇む。

(……たとえ主から叙勲を受けていなくても……たとえ特別な力を持っていなくても)

 その紫水晶の瞳が捉えるのは、戦闘中の騎士団員や騎竜たちの姿だけではない。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の左眼に刻まれた聖痕は、彼女に命尽きたる騎士たちの魂をも見せるのだ。

(……誰かの為に困難に立ち向かう勇気があるならば)

 騎士たちの魂を見据え、リーヴァルディは心中で祈りを捧げる。

「貴方達は誰が何と言おうと立派な『騎士』よ」

 その言葉は、現在戦い続けている彼らにだけ向けられたものではない。リーヴァルディの左眼に映る、確かにそこにいる魂にも向けた言葉だ。

「……聞け。戦場に倒れし騎士達の魂よ」

 決して大きな声ではない。戦場に於いて、簡単にかき消されてしまいそうな声量だけれど。
 届けたい相手に届けば、それでいいのだ。

「死してなお、この地を守護する意志があるならば我が声に応えよ」

 リーヴァルディの左眼の聖痕が一瞬強く光を放ち、そして次の瞬間。彼女の全身を覆ったのは、優しくも悲しみと無念を捨てられぬ魂たち。

「……貴方達の遺志は私が引き受ける。共にこの地を襲う暴虐を打ち払いましょう」

 胸元に手を当てて、リーヴァルディは騎士たちの魂へと語りかける。
 その身に漲る力が、彼らの返事だ。

「――っ!」

 飛躍的に上昇した戦闘力で、リーヴァルディは敵陣へと突っ込んでいく。騎竜たちに、彼女の姿を捉えることができた個体はいないだろう。
 彼らはきっと、己が斬りつけられたことに気づくよりも早く、その命を失ってゆく。
 呪詛のオーラで防御した状態の彼女が振るうのは、『過去を刻むもの』。死者の思念を吸収して力とするその鎌には、闇属性の魔力が上乗せされている。
 知覚される前に群れの中に入り込み、目にも留まらぬ速さで大鎌を振るえば。
 数瞬後にバタリバタリと倒れた騎竜たちは、青いシミとなって消えていった。

「……この地に芽生えた希望を、お前達に潰えさせたりはしないわ」

 まだ、まだ……。まだ足りない。
 もっと、もっと倒さねば、希望は――。

 散ってしまった騎士たちの無念を抱いて、リーヴァルディは戦場を進んでゆく。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ルパート・ブラックスミス
(場所指定無し。敵を【おびき寄せ】るべくとにかく激戦区へ)

…退け、砦の騎士たちよ。お前たちは住民たちの避難と直衛を。
この場は、黒騎士が引き受ける。

(UC【燃ゆる貴き血鉛】を纏う大剣で敵を【なぎ払い】斬撃に載せた炎鉛で【範囲攻撃】。犠牲者の死体に群がるなら諸共【焼却】する)

疼く。
一度死に、ヤドリガミとして鎧に宿った魂が、かつてない程の衝動に駆られる。
騎龍共にではない、何処かにいる『彼女』に。
記憶は未だ一欠片も蘇らないのに。存在を知覚し探さずにいられない。

何処だ。
見えているのだろう、この青い炎が。
俺は、黒騎士ブラックスミスは此処だ。

…いるんだろう!!
(鋭くも思いの外、流麗な『声』を必死に響かせて)



 他の場所と違い、ここに向かってくる敵は増え続けている。ならば、ここが――。

 ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は、静かに、静かに告げる。

「……退け、砦の騎士たちよ。お前たちは住民たちの避難と直衛を」
「っ……」

 黒き全身鎧を纏うルパートの表情を、窺い知ることはできない。けれども彼が『抑えようとしている』ものを、アシュリーは肌で感じとったようで。

「……わかりました。お任せします」
「ああ。この場は、黒騎士が引き受ける」

 アシュリーを始めとした騎士団の者たちが、拠点内へと向かう足音が聞こえる。
 ルパートはその場で、真っ直ぐに騎竜たちと向かい合った。
 すでに他の猟兵たちが騎竜の数を減らしていっている。
 騎竜が増えるのが早いか、猟兵たちが殲滅するのが早いか――しかしルパートには、それよりも気を引かれてならないことがあった。

 ――疼く。

(一度死に、ヤドリガミとして鎧に宿った魂が、かつてない程の衝動に駆られる。これは――)

 この衝動は、騎竜どもに対してのものではない。それははっきりと分かっている。
 何処かにいる、『彼女』に対してのものであると。
 失った記憶は未だに一片たりとも蘇らないのに。己の魂が、その存在を知覚している。
 いる、のは分かっている。ならば、探さずにいられるだろうか。

 騎竜たちと猟兵たちとの戦いが、酷く遠いものに思える。
 青き流動炎しか詰まっていないその鎧の中から、衝動と何がしかの想いが、零れ出てしまいそうだ。

「……何処だ」

 呟きは、酷く低い声。
 鎧から溢れる青き炎はこの場に於いて、酷く目立つはずだ。

「見えているのだろう、この青い炎が」

 眼前の光景が、次々と騎竜たちが青いシミとなって消えていく光景が、まるで紗幕越しのように見えて。

「俺は、黒騎士ブラックスミスは此処だ」

 ルパートは己の存在を誇示する。
 騎竜たちにではなく、どこかにいると断言できる『彼女』に。
 勘違いをして迫ってきた騎竜は、一瞥もくれず青い炎で燃やし尽くした。
 それでも、それでも。『彼女』は姿を見せない。

「……いるんだろう!!」

 荒げたはずの『声』は、鋭くはあるが思いの外、流麗だ。鎧の中から発せられたというよりも、肉声に近い。
 必死に、必死に、必死に。
 届けと、届けと、届けと。
 なんとしても『彼女』に会わなくてはならぬ――その想いは強い。
 理由は思い出せぬけれど、青き炎が酷くうねるほど、『衝動』は強く。
 その『衝動』に内包された想いの種類は、今はまだわからぬけれど。
 きっと『彼女』に会えば――。

 いつの間にやら拠点の周囲には、青いシミが広がるばかり。
 ルパートは、自分がどれだけの騎竜を倒したのか覚えていないけれど。

 一瞬の沈黙。
 そして、響き渡るその声、は――。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『黒騎士の武具造りし黒魔術師ブラックスミス』

POW   :    捧げなさい、我が黒騎士にその命を。
【黒騎士の武具を作り出す黒魔術の青き炎の海】を披露した指定の全対象に【呪詛】を放ち【この炎に飛び込まねばという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD   :    誇りなさい、彼の軍勢に加われる栄誉を。
自身の【黒魔術を施した一般人たち(生死問わず)】を代償に、【創造したレベル×1体の黒騎士】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【剣や鎌、弓矢など様々な呪いの武器】で戦う。
WIZ   :    換わりなさい、いずれ摘まれる贄の姿に。
【呪いの鎚及び鎚から放つ無数の鉛の花びら】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を生命力を吸収し朽ちさせる鉛の花園で覆い】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はルパート・ブラックスミスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●終焉か、それとも。
 それは悪夢のような襲撃だった。
 おびただしい数の青き騎竜に拠点を囲まれて、『騎士団』が善戦したとしても倒しきるどころか耐えきることも難しい――そんな絶望的な状況。
 けれどもそれでも諦めない彼らの前に、猟兵という名の光が、希望が現れたのだ。
 猟兵たちは、延々に続くとも思える騎竜たちの襲撃を抑えきり、気がつけば青いシミだらけの血に動くモノは彼らたちだけとなっていた。
 拠点が囲まれるように襲撃を受けているのを知っていたからして、自分たちの守った区画の安全が確認されれば、誰からともなくまだ戦いを続けている別の区画へと向かった。
 そうしていくことで自然と、猟兵たちは他の区画よりも騎竜の増加が著しい、アシュリーの守っていた区画へと集まることになったのだ。

 他の区画よりも多くの騎竜たちが攻めてくるということは、ひとつのヒントともなり得た。
 すなわち、騎竜たちを指揮している首魁がどの方面にいるのかと推察する標(しるべ)となったのだ。
 多くの猟兵達によって、騎竜の青よりも斃された騎竜たちの作る青いシミの方が多くなり、視界がひらける。
 常闇の空が、うっすらと色を変えてゆく――朝が来たのだ。
 しかしそれは、安堵を連れてきたのではなかった。
 他の世界であれば、暗闇が去り陽が射す朝は『解放』や『終焉』、そして『始まり』の象徴かもしれない。
 けれども『朝』がこの拠点に連れてきたのは――。

「ああ……暴竜たちに駆逐されし弱き騎士たちよ」

 騎竜たちの押し寄せてきた方向に、光が見える。否、青き光はただの光に非ず。焔、だ。

「あなたたちに『力』を授けましょう。『強さ』を授けましょう。そして、彼の軍勢に加わる栄誉を授けましょう」

 しずしずと近づいてくるのは、女性だ。騎竜たちの作った青いシミを、足元の青い焔で燃やしながら、焔の道を――否、彼女の歩いた道が、青き焔の道となるのだ。
 焔と同じ深い青色の長い髪には、黄金(きん)色の花を咲かせて。同じ花の意匠を持つ槌を手にし、黒きローブを揺らしながら歩んでくる。

「嗚呼……」

 そんな彼女が足を止めると、彼女の後方に控えている、漆黒の全身鎧を纏いしモノたちも足を止めて。

「『騎士たる者』が増えたようね……」

 拠点の前に集う猟兵たちを視界に入れ、彼女は酷く上品に笑んだ。今は狂気に染められているように見えるその顔(かんばせ)は、もしかしたら遠い昔には男性たちを魅了したのかもしれない。

「ああ、ああ、嗚呼! 強き者にも弱き者にも与えましょう、『力』を、『強さ』を。我が作りし武具は、間違いなくお前たちに強さを授ける」

 ガシャ、ガシャン……全身鎧の黒きモノたちが、彼女の両脇を固めるように位置度った。その胸元には勲章のように、彼女のもつ黄金(きん)の花が飾られている。
 彼女の言う『力を授ける』とは、その手で作り出した黒い武具を纏わせることで成り立つのだろう。それは猟兵たちにも分かる。
 そしてその黒い武具に身を包めば――彼女の手駒と成り下がることも。

「この、ブラックスミスの栄誉を拒否するならば――我が黒騎士たちのためにその身を差し出しなさい!」

 彼女の背に広がるのは、髪や焔と同じ深い青色の翼。
 翼を大きく広げた彼女は、宙空へと浮かび上がり、くるりと一度だけ、回転して。

「ああ――……私を『呼んだ』のは――……」

 眼下に見える『黒』へと視線を向けて、口角を上げた。



----------------

●戦況
皆さんは、第一章で言うE地点付近にいます。
砦を守るために戦っていた人にはもちろん、拠点中心部に近い位置にいる人たちにも、彼女の声は届きます。
宙に浮かんだ彼女からは拠点内も見下ろせますので、当然ながら拠点内の騎士団員や拠点内部にいる猟兵たちもその姿を捉えることができます。

●展開選択
A:メンタルに影響
 『強くなりたい』『力がほしい』という思いに作用します。
 力を得るためには彼女の焔に触れなくてはならない、邪魔をする者を倒さなくてはならないという思いに駆られ、敵味方一般人関係なく、邪魔者に見えたりもします。
【解決方法】⇒自分で増幅する思いを抑えるなどのひとりで解決する方法と、誰かに助けてもらう方法とあります。
※正気に戻りましたら、プレイングに書いてなくとも敵へと攻撃しに行ったことになります。

B:助力
 Aのように、メンタルに影響を及ぼしてしまった人を正気に戻す行動をメインとします。
 対象は猟兵でも騎士団員でも一般人でもOKです。
※正気に戻したあとは、プレイングに書いてなくとも敵へと攻撃しに行ったことになります。

C:正面対決
 ボス『黒騎士の武具造りし黒魔術師ブラックスミス』と対決をメインとします。

各選択肢は、プレイング頭に記載して頂けると助かります。
なくても分かるプレイング内容でしたら、省略しても構いません。

●プレイング受付
 12月16日(水)8:31~開始。

※締め切りなどはマスターページや旅団『花橘殿』などにて随時告知します。
東雲・一朗
☆B

▷服装と武装
帝都軍人の軍服、少佐の階級章付き。
刀と対魔刀の二刀流、2振りとも腰に帯刀。

▷心を斬る
なるほど、絶望に追い込んでからの甘言…敵は人の弱さというものはよく知っている。
しかし人はただ脆弱なだけではない…絶頂の淵にいてなお心に光を宿すものとは知らぬようだ。
「本末転倒だ、強さは与えられた時点で弱さになる。
何故なら、他者から与えられた力は、その与えた者への絶対的な敗北と隷属を示すからだ。
ゆえに、それは弱さである」
見れば共に戦った者はドリスまでもが惑い取り込まれている。
私は『破魔』の霊気を宿す『威厳』ある声ではっきり断言し、『浄化』の【強制改心刀】で惑う者達の弱さを斬り捨てる。



 青い焔。青い翼――宙空へと浮かび上がった黒魔術師を見上げる東雲・一朗(帝都の老兵・f22513)の心には、焦りや惑いはない。
 軍服に身を包み、少佐の階級章を戴いた彼は、歴戦の猛者である。腰に佩いた二刀と共に駆け抜けた戦場は、数え切れぬほど。踏んできた場数が多ければ、『見て』きたモノも多い。
(なるほど、絶望に追い込んでからの甘言……敵は人の弱さというものはよく知っている)
 だからこそ、黒魔術師のやり口が理に適っていることも分かった。
 けれども、だけれども。一朗は、知っている。黒魔術師は、恐らく知らない――もしくは『過去』となった時にその記憶を置いてきてしまったのか。
(しかし人はただ脆弱なだけではない……絶頂の淵にいてなお心に光を宿すものとは知らぬようだ)
 一朗は一瞬たりとも迷わなかった。即座に地を蹴って駆け出したのだ。
 向かうのは、拠点内部。あの高さなら、拠点内からも黒魔術師の姿は見えているだろうから――。
 無駄のない動きで目的地へと向かった一朗は、己のそれが杞憂では済まなかったことを知る。

「あ……強く、強く……私にもっと、力があれば――」

 視線を黒魔術師に固定させられたまま、亡者のようにおぼつかない足取りで進み来るのはダンピールの女性――ドリスだ。
 彼女と同じように、ふらりふらりと歩みだしたものたちの顔にも見覚えがある。先程、一緒に戦った騎士団の者たちだ。
 ドリスが、彼女たちが強さを求める気持ちはわかる。目の前で己の無力さを見せつけられて、仲間を守れず、失って。そして自分たちよりも圧倒的に大きな力を持つ、『猟兵』たちの戦い振りを見たのだ。彼らに救われたのだ。
 力が欲しい、力があれば――そう思うなというほうが難しい。
 だから、一朗は迷わずここへと来たのだ。
 彼女たちと対峙するように立った一朗は、すらりと『旧式退魔刀』を抜いて。

「本末転倒だ、強さは与えられた時点で弱さになる」

 発せられたその声は、ぴりりと空気を震わせ、身体の芯まで届くような威厳のある低さ。
 彼女たちの視線が、一朗を捉える。

「何故なら、他者から与えられた力は、その与えた者への絶対的な敗北と隷属を示すからだ」

 彼女たちは一朗を『敵』と捉えているのだろう。けれども彼の声は、揺らがず、それどころか威厳と強さを増して。

「ゆえに、それは弱さである」

 その事実は揺るがぬと、強い意志を以て断言した一朗は、地を蹴って斬り込む!
 破魔の力乗せた言霊は、彼女たちの身体に響いたはず――ならば。

 ――!

 ――!

 ――!

 まず、上段からドリスへと一閃。
 返す刃で斬り上げるように、別の騎士団員へ一閃。
 二歩、踏み込んで振り下ろすように、次の騎士団員へ一閃。

 それは、傷をつけるための一撃ではなく。
 ただ、その心に宿る『邪心』のみを斬り捨てしもの。
 一朗の十八番であるこの技は、どの技よりも彼が矜持を持つ技。
 だから『帝都桜學府』出身である彼としては、この場で他の技を選ぶという選択肢はなかった。
 物理的に何かを斬った音はしない――けれども斬られた彼女たちは、糸の切れた操り人形のように膝を付き、あるいはしゃがみこんで。

「目が覚めたか?」
「……は、い……。私は……」

 刀を収めた一朗の言葉に、震える声で返したのはドリス。先程まで、己の中に蔓延していた思いを覚えているのだろう。その瞳は戸惑いで揺れている。

「私、は……。……私には、何が、できますか……」
「……」

 強大なオブリビオンを前にして、多少腕に覚えのある程度の彼らが役に立つとは言い難い。けれども、ここにいるのは。

「落ち着いて耳を傾けろ。聞こえるだろう?」
「あっ……」

 戦闘音に混じって響くそれは、赤子や子どもたちの泣き声。不穏な空気を敏感に感じ取り、聞こえてくる音に恐怖が爆発したのだろう。子どもたちの泣き声は連鎖して広がってゆく。

「あの子らを泣き止ませ、たとえ僅かでも安堵させることは、私たちにできることではない」
「……、……」
「あやす親たちも、不安で押しつぶされる寸前だろう」

 ならば。

「民の心の平穏を守るのも、大事な『騎士の努め』ではないのか?」
「っ……はいっ!!」

 その漆黒の瞳に射抜かれ、その重厚なる声に奮い立たされたドリスは、己の頬を己の手でパチンッと叩いて。

「行ってまいります!」

 他の騎士団員を引き連れて、拠点の奥へと向かってゆく。
 その瞳が揺らいでいないことを、彼女の声が覇気を取り戻したことを確認した一朗は、遠のいてゆく彼女たちの背に背を向けて。
(さて……あとは)
 戦場となっている方角へと視線を向け、『影切』の柄を撫で――そして。
 来た時と同じように、無駄のない動作で駆け出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

月水・輝命

C
WIZ
本体五鈴鏡で対峙。負傷も厭いません。
……遅くなりました。わたくしも参りますの。
本当なら、周りの方々へ手助けに行くところですけれど……わたくしは、こちらへ。
花びらを振り撒くのなら、風で吹き飛ばしましょう。
UC発動。
「破魔」による、「範囲攻撃の浄化」で、花園も無に帰しましょうか。
攻撃には、光「属性攻撃」の「オーラ防御」や、鏡像を映して(残像)「見切り」ます。
わたくしはまだ……それほどお話はしておりません。ですが、これだけは言えます。
わたくしは、信じます。信じています。
それと、強さや名誉は与えられて得られるものではありませんのよ。
うつりゆくものに、安寧があらんことを。
……道を繋げます。



 彼女が拠点にたどり着いた時、『それ』はもう、拠点を見下ろしてすべてを操ろうとしていた。
 そこここに広がる青いシミに、気を取られているいとまなどない。ブラックスミスを名乗る黒魔術師のいる方向とは別の方向から拠点へと進入した月水・輝命(うつしうつすもの・f26153)は、急ぎ他の猟兵たちと合流して。

「……遅くなりました。わたくしも参りますの」

 神妙な面持ちで、黒魔術師を見据えた。
(本当なら、周りの方々へ手助けに行くところですけれど……)
 輝命が強く握りしめるのは、己の本体たる『五鈴鏡』。ヤドリガミである彼女は、この本体を壊されてしまえば仮初の肉体を再構成することができなくなってしまう。
 それでも、それでも。ここで怯むような弱い心は持ち合わせていない。たとえ、この身が傷ついたとしても――。

「……道を繋げます」

 そう、紡いで。輝命は地を蹴る。

「――換わりなさい、いずれ摘まれる贄の姿に」

 黒魔術師の方が動きが早い。手にしたその槌が変化したのは、花びら。けれどもその花弁は、花の常ならざりしもので。

「っ……」

 その鋭さと重さは、鉛のもの。避けたはずなのに、輝命の白い頬に赤い筋が浮かぶ。

「ならば――風の如く舞い、風の如く流れる力を、ここに」

 風で吹き飛ばしてしまおう。
 自身には光によるオーラを纏わせ、鏡としての本領発揮とも言うべき鏡像を作り出す。
 それによって輝命を傷つけ損なった花弁たちは、青いシミの残る地に落ちてなお、その身を賭して黒魔術師の力になろうとしていた。
 地を覆い尽くさんと広がるのは、鉛の花園。大地の生命力を吸収し、その上に立つ黒魔術師へと力を捧げる――。

「させるものですか――」

 輝命が『五鈴鏡』を振る。その鈴の音が、破魔の力を帯びて戦場の空気を震わせる。
 震えた空気は鉛の花園に触れ、その『邪』を祓うと同時に花びらを巻き上げて。

(わたくしはまだ……それほどお話はしておりません。ですが、これだけは言えます)

 清浄な音が、響き渡る。
 同時に巻き上げられた花びらが、黒魔術師へと放たれた。
 それはすでに、鉛の花弁に非ず。
 破魔の力を宿す光の花弁となりて、悪意の元へ――。

(わたくしは、信じます。信じています)

 その花弁には、輝命の強い意志も乗せて。

「強さや名誉は、与えられて得られるものではありませんのよ」
「キャァァァァァッ!?」

 宙空に浮かぶ黒魔術師が、襲い来た花弁たちの力に悲鳴を上げる。
 けれども輝命は、まっすぐに彼女を見つめたままだ。
 油断も慢心もしない。しっかりと、自身の役目を果たすのだ。

(わたくしは、道を繋げますわ――……)

成功 🔵​🔵​🔴​

吉備・狐珀
【B】

強ければ、被害を抑えられ、もっと助かる命があったかもしれない
己の弱さや不甲斐なさに強くなりたいと何度思ったことか
強くなりたい、力が欲しいと願うことは悪いことではありません
ですが…

真の姿になりてUC【鎮魂の祓い】使用
祈りを込めて魂迎鳥の奏でで、欲望に惑わされる心を鎮め、弱さに嘆く心を宥める
強さは己の弱さに目を背けるのではなく弱さと向き合って強くなるもの
仲間を、守ると誓った人々を傷つけてまで得られる力などたかが知れています
この街に恐怖を与えたご婦人の操り人形になることが望みではないでしょう?

何より、この街を守ると奮い立った貴方は決して弱くありません
この地に笑顔を取り戻すため共に戦いましょう



「あ……ちか、ら……」
「……力が、あれば……」

 黒魔術師の言葉を聞いた吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)が騎士団員たちのいる場所にたどり着いた時、すでに数人の騎士たちが焦点の合わぬ瞳で狐珀が来た方へ――黒魔術師のいる方へと歩き出そうとしていた。
 ふらり、ふらふらと、負った傷をも気にせずに歩き出そうとしている彼ら。その中に、ひとり。

「お前ら、待て……! あんな甘言に乗せられ……っ、……ちから、が……」

 団員たちを静止する声を掛けつつも、自らも片手で額を押さえているのは、ダンカンだ。恐らく強靭な精神の持ち主なのだろう。他の団員たちのように簡単に心を侵されてはいないようだが、それでも彼にも影響は及んでいる。
「っ……!」
 狐珀は駆け出し、甘言の主の元へと歩もうとする団員たちの前に立ちはだかった。両の手を広げ、これ以上は行かせまいと。

「確かに、強ければ、被害を抑えられ、もっと助かる命があったかもしれないですね」

 真っ直ぐに彼らを見据えて紡ぐ言葉は、彼らを糾弾するものではない。

「私とて、己の弱さや不甲斐なさに強くなりたいと何度思ったことか」

 それは『共感』だ。

「強くなりたい、力が欲しいと願うことは悪いことではありません」

 そして、肯定。けれども続くのは――ですが、という接続詞。

 薄青い人魂が狐珀の周囲を浮遊し始める。肩口で切りそろえられた艷やかな黒髪は、いつの間にやら後頭部でひとつに結い上げられ。彼女の着衣もまた、水干へと変わっていた。
 何よりその愛らしいかんばせは、鼻より上の部分が狐の面で覆われて、その手にあるのは三種の神器を模した神楽鈴『鉾鈴』。

 ――絶えざる歩みを続ける貴方に我は一時の休息を与えん。

 真の姿へと変じた狐珀が『魂迎鳥』を口元へあてると、清浄なる旋律が編み上げられる。
(強さは己の弱さに目を背けるのではなく弱さと向き合って強くなるもの……)
 その旋律に、続きの言の葉と思いを乗せて。
 祈りと浄化の力を乗せた霊力の音色は、心惑わされし人々の耳からだけでなく、皮膚からも染み込み、体中を駆け巡る。
 欲望に惑わされし心を鎮め、弱さに嘆く心を宥めゆく。
(仲間を、守ると誓った人々を傷つけてまで得られる力などたかが知れています)
 この場に、他にも『音』はあるはずなのに。不思議と狐珀の紡ぐ音だけが、彼らの意識を占めている。
(この街に恐怖を与えたご婦人の操り人形になることが、望みではないでしょう?)

「ぁ……あぁ……」
「うっ……」

 歩みを止めた団員たちが、次々と膝をついてゆく。その瞳からこぼれ落ちる涙は、彼らの悔しさや無念が凝縮されたもの。

「何より、この街を守ると奮い立った貴方たちは決して弱くありません」

 団員たちの様子を見て音色を止めた狐珀は、ゆっくりと、柔らかく言の葉を紡ぐ。
 同情でも憐憫でも、お世辞でも社交辞令でもない。本当に心から、そう思うから。

「またあんたに助けられたな。ああ、頭がスッキリした」

 膝をついた団員たちの中で唯一立ち続けているダンカンが、礼の言葉を紡ぐ。対して狐珀は、頷いて。

「この地に笑顔を取り戻すため、共に戦いましょう」

 差し出したその手は、武力行使のみが戦いでないことを知っている。
 団員たちもそれを知っていたはずだ。だが、やはり目に見えて実感できる武力を求めてしまうのも仕方ない。
 けれども今、彼らは改めて知ったはずだ。目の前の彼女がそれを、見せてくれたのだから。
 純粋な戦力を行使することだけが、戦いではない。
 だから――。

「場所は違うが、ここのために戦うのは同じだ」
「はい」

 手を取ったダンカンに頷き、狐珀は安心して黒魔術師の元へと戻っていくことができた。

成功 🔵​🔵​🔴​

サフィリア・ラズワルド
【B】
WIZを選択

おばば様、戻ってしまった仲間を再びここへ連れてきてください、それまで残っている仲間となんとかします。

騎士団員を正気に戻しましょう。
本当に強くなりたいんですか?力が欲しいんですか?それはあなた達が守ってきたものを失うことになってでも得たいものですか?
私なら大切なものと引き換えにするくらいなら惨めでも這ってでも卑怯と言われようとあるものを最大限に利用して勝ちに行きます、騎士道?敵は一方的で此方の意思を完全に無視しています、そんな奴に礼儀など必要ない。

『さあアシュリーさん、騎士団員の方々、どうぞ先程の様に私達を使って勝利へと導いてください』

アドリブ協力歓迎です。



 黒魔術の声は決して大きなものではなかった。けれども拠点内に響き渡る、不思議な力があった。
 それは猟兵たちも、そのひとりであるサフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)も感じていて。

「っ……!!」

 だからサフィリアは、即座に己の行動を決めた。

「おばば様、戻ってしまった仲間を再びここへ連れてきてください」

 語りかけるのは、先程仲間たちを連れてきてくれた『幽冥竜』のおばば様。

「それまで残っている仲間となんとかします」

 サフィリアの言葉に、おばば様はゆっくりと頷く。
 先程アシュリーの指揮で戦っていた竜騎士たちは霊体であり、そして半数以上の竜騎士たちはそれぞれ役目を果たし、あの世へと還っていってしまっていた。
 妖しい黒魔術師が、先程相手にしていた騎竜たちとは明らかに格が違うとわかったからこそ、サフィリアは再び戦死した仲間たちを呼ぶ決意をしたのだ。
 そして彼女は、銀の髪を靡かせて拠点内へと向かう。嗚呼、危惧したとおり、向こうから千鳥足の騎士団員がやってくるではないか。

「ちか、ら……力、を……」
「待って!!」

 黒魔術師の元へと向かおうとしている団員を、正面からその肩を掴むことで止める。

「本当に強くなりたいんですか? 力が欲しいんですか?」

 済んだ紫の瞳で、団員の淀んだ瞳を見つめる。

「それはあなた達が守ってきたものを失うことになってでも得たいものですか?」
「……、……」

 言葉によるいらえはない。けれどもサフィリアの言葉に、その団員の身体がビクッと震えたのが分かる。

「待て! あんなやつの言うことを聞くなんて!! 仲間たちが傷つけられ、命を落とした者もいるんだぞ!」
「!? アシュリーさん!!」

 聞こえた声に視線を向ければ、複数の団員がふらりふらりと歩んでくるではないか。それを止めようとしているのは、白翼を背負った彼、アシュリー。

「みなさん、聞いてください!」

 サフィリアは、今、動きを止めている団員だけにではなく、他の団員にも届くようにと声量をあげて。

「私なら、大切なものと引き換えにするくらいなら、惨めでも這ってでも卑怯と言われようと、あるものを最大限に利用して勝ちに行きます」

 それは落ち着いた物言いではあるが、明らかな強い意志に裏打ちされた言葉だ。彼女のその言葉に、いつの間にか他の団員たちも足を止めていた。

「騎士道? 敵は一方的で、此方の意思を完全に無視しています。そんな奴に礼儀など必要ない」

 目の前に広げられ、叩きつけられた正論は、力を求める団員たちの目を醒ましてゆく。

「そうだ、仲間たちがやられて……」
「住民たちはまだ、恐怖に震えていて……」
「ええ。だから、皆、それぞれができることで『戦う』必要があるんです。あんな卑怯で一方的な甘言に、惑わされている暇はありません」

 正気を取り戻した団員たちが、次々と己のできることをすべく拠点内へと戻っていく。
 ありがとう――ゆっくりと近づいてきたアシュリーと傷の浅い騎士たちに、サフィリアは告げる。

「さあアシュリーさん、騎士団員の方々、どうぞ先程の様に私達を使って勝利へと導いてください」

 彼女の言葉にアシュリーたちが空を見れば、おばば様に連れられた竜騎士たちが空を埋め尽くさんばかりにこちらへ向かってきている。
 初めてその光景を見た時は、新手の敵かと思ったアシュリーたちだったが、共に闘った今、彼らが非常に心強い助っ人であることはもう、知っているから。

「サフィリアさん……本当に感謝するよ。俺たちは君たち猟兵には力が及ばないけれど……」
「それ以上は口にしないでください。アシュリーさんの指揮で戦うの、みんな喜んでいますから」

 自身と猟兵の力の差を知っているからこそ、彼は猟兵に頼らざるをえないことを申し訳なく思うのだろう。
 けれどもサフィリアは、そんな彼の言葉を遮る。
 だってこの拠点を守りたいという気持ちは、同じなのだから。

「わかった。じゃあ、また君たちの力を借りるよ!」
「「「オォォォォォォォォ!!」」」

 アシュリーの声に竜騎士たちが応じるのを見て、サフィリアも槍を手にして頷いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
C☆

…そう。お前の眼には竜に蹂躙された彼らが弱者に映るのね

…護るべき者の為に命を賭して闘った彼らを、
死んでいった騎士達を弱いと断じるのか

前章の犠牲者達の魂を左眼の聖痕で暗視して、
敵の精神属性攻撃をそれ以上の殺意と怒りで受け流し、
大鎌に取り込んだ霊魂と自身の生命力を吸収させてUCを発動

…ならば魔術師よ。その両の眼を見開いて、とくと見よ

貴様が侮辱した騎士達の魂の力を…!

魔力を溜めた大鎌で眼前に展開した暴走魔法陣をなぎ払い、
限界突破した呪詛のオーラで防御した黒炎鳥を召喚
高速の空中戦機動で突撃させて自爆する2回攻撃を行う

…質問にまだ答えていなかったわね
彼らの強さに見向きもしないお前の力なんて不要よ



 その歩みは静かに、然れども強固な意思と思いをいだいている。
 薄紫の細い髪を戦場の風に揺らしながら進みゆくのは、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。
 その右眼では、黒魔術師をしっかりと見据えて。左眼では――。

「……そう。お前の眼には、竜に蹂躙された彼らが弱者に映るのね」

 聖痕宿す左眼に映るのは――先程の戦いで斃れた者たちの魂。

「ええ。力を授けましょう。哀れでいじらしい、『騎士』たちへ!」
「……、……」

 リーヴァルディの言葉に応えた黒魔術師の顔に浮かぶのは――愉悦。それを見たリーアヴァルディは、表情こそ大きく変えぬけれど。
 左眼を通じて増幅されてゆくのは、殺意と怒り。

「……護るべき者の為に命を賭して闘った彼らを、死んでいった騎士達を弱いと断じるのか」

 静かな、静かな言葉。けれどもそこに、感情が込められていないわけではない。むしろ、抑えて、抑えて抑えて紡ぎ出された言葉だ。
 黒魔術師の、力を与えるという誘惑は、リーヴァルディには通じない。否、彼女と、彼女が宿した死したる騎士たちの魂が、そんなもの、受け入れずに受け流していく。
 手にした大鎌『過去を刻むもの』に取り込んだ霊魂、そして自身の生命力を吸収させて彼女は、それを発動させる。

「……ならば魔術師よ。その両の眼を見開いて、とくと見よ」

 彼女の眼前に展開された血の魔法陣は、呪いを極限まで増幅させる装置。

「貴様が侮辱した騎士達の魂の力を……!」

 魔力を溜めた大鎌を振るい、暴走する魔法陣を薙ぎ払えば、そこに喚び出されたのは黒炎の獄鳥。大鎌に取り込んだ霊魂とリーヴァルディの生命力、そしてこの地で果てた騎士たちの霊魂――それらを魔法陣で増幅させることで出現した黒炎鳥は、これ以上無いほどの呪詛で身を固めている。

「あれは……」

 黒魔術師が黒炎鳥の姿を捉えることが出来たのは、一瞬。けれどもその一瞬で彼女は鉛の花びらを召喚すると同時に、全身鎧の黒きモノたちが黒魔術との前へ出た。黒魔術師の身を守るつもりなのだろう。鉛の花びらもまた、自身を守るために使うつもりなのだろう。
 けれども。
 視認の難しい速度で接敵した黒炎鳥は、容赦も躊躇いもなく黒魔術師へと迫り――二度の爆発――全身鎧の黒きモノたちも、鉛の花びらも巻き込んで自爆して。

「あぁぁぁっ……あぁっ……」

 切り札としてリーヴァルディが用意した手だ。爆風の向こうから、黒魔術師の苦悶の声が聞こえる。

「……質問にまだ答えていなかったわね」

 黒魔術師の耳には届いていないかもしれない。けれどもそれで構わない。

「彼らの強さに見向きもしないお前の力なんて、不要よ」

 そう言い放ったリーヴァルディの頭上には、多くの竜騎士たちが再集結していた。

成功 🔵​🔵​🔴​

西塔・晴汰

A
青い焔……オレの金色の炎とは全然違う
ちぃっと不気味で、熱いのに背筋が冷えるような焔
それが力を、強さをと呼ぶ声が聞こえて――

…ルー、ナ?
ああ…そうだ、違う
壊すための力が欲しいんじゃない
出来ることはこの手の届く範囲だけでいい
この手の届く範囲だけは零さずに守り抜く力
この手を取り合える友達と共に立つ力
こんな冷たい炎はオレには要らない
大丈夫、ごんってするのはアイツに向かってっすよ

少しは自力でも使えるようになってきた黄金の炎だけど
まだ足りないから楔からも力を借りて
ルーナの合図に合わせて、炎を集めて放つ

人々を、仲間を、友達を――守りたい者の為に使う黄金の炎
害為すだけの青い焔には負けられないっす!


ルーナ・オーウェン
【晴ル】


これが、あの竜たちの親玉
大事な拠点、次への灯
ここで消させたりなんてしない

力、力があればできることはあったかもしれない
けど、これが振るう力は欲しいものじゃない
……晴汰?
ダメ、駄目
強くなりたいのは、知ってる
力が欲しいのも、分かる
でもこれの言葉に乗ったら、守りたいものを自分で壊すことになる
それはいけない、悲しいこと
だから、駄目
もし分かってくれないなら、ごん、ってするから

よかった
部下になんてならない
私たちは私たちの力で戦っていけるから

過去の残影を呼び出して共闘する
私たちはフラスコチャイルド、悪環境には強いから
囲んで、お互いカバーし合いながら隙を作ったら
晴汰、今だよ
合図するから、一撃をお願い



 視線の先の女――黒魔術師は語った。
 それは己が正しいと、微塵も疑う事無き口調で。己が受け入れられると、それが当然の摂理だと、信じた顔で。
(これが、あの竜たちの親玉)
その姿を赤い両の瞳で捉えたルーナ・オーウェン(Re:Birthday・f28868)は、自身の胸のうちに広がる強い思いを感じていた。
(大事な拠点、次への灯――ここで消させたりなんてしない)
 この世界で吸血鬼の支配から逃れることが、ヒトが吸血鬼に怯えず暮らしていくことが、どれほど難しいか……知っているから。
 この拠点の、ここに集っている人たちの大切さを、彼らが『ここ』に辿り着くまでにどれほどの犠牲が出たのか、識っているから。
 力――力があれば、できることはもっとあったかもしれない。それは事実だ。この拠点の騎士団たちだけでなく、ルーナ自身も……。

「けど、これが振るう力は、欲しいものじゃない」

 それだけはわかる。自信をもって、言えるから。

 * * *

(青い焔……オレの金色の炎とは全然違う……)
 ルーナの隣に立っている西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)の視線は、黒魔術師の足元に咲く青き炎に釘付けになっていた。
(ちぃっと不気味で、熱いのに背筋が冷えるような焔……)
 なぜだろう、視線をそらすことが出来ない。
 脳内に響き渡るのは、力を、強さを与えよう――そんな誘惑の言葉。
 けれども晴汰にはそれが、誘惑のような悪いものには聞こえず。ただただ自分の欲求に触れられて、それが外へと導かれるような――……。

「……晴汰?」

 ふとルーナが隣に立つ彼へと視線を向けたのは、彼の欲求を知っていたから。
 嗚呼、あぁ――名を呼んでも、彼の視線はルーナを捉えない。

「ダメ、駄目」

 晴汰の正面に周り、彼の両肩に手を添える。

「強くなりたいのは、知ってる。力が欲しいのも、分かる」

 知っているから、知っているからこそ、彼を止めねばならないのだ。

「でもこれの言葉に乗ったら、守りたいものを自分で壊すことになる。それはいけない、悲しいこと」

 彼の肩を揺すって、ルーナは懸命に訴える。いつものように彼のふた色の瞳が、自分を捉えてくれるのを願って。

「だから、駄目。もしわかってくれないなら、ごん、って――」
「……ルー、ナ?」
「……!」

 彼の唇が紡いだのは、紛れもなく彼女の名。固定されていた視線がほどかれて、ゆっくりとルーナを捉えた。

「ああ……そうだ、違う。壊すための力が欲しいんじゃない」

 頭の中にかかってた靄が、ゆるりとではあるが晴れていくのが分かる。
(出来ることはこの手の届く範囲だけでいい)
 晴汰が欲しいのは、この手の届く範囲だけは零さずに守り抜く力。この手を取り合える友達と共に立つ力だ。

「こんな冷たい炎はオレには要らない」
「よかった」
「大丈夫、ごんってするのはアイツに向かってっすよ」

 いつもの調子に戻った晴汰に心底安心して、ルーナは頷く。

「部下になんてならない。私たちは私たちの力で戦っていけるから」

 他の猟兵たちの攻撃を受けてなお、その妖艶な視線を向けてくる黒魔術師に視線を向けて、そう宣言する。
 そして喚び出すのは、自身と同型のフラスコチャイルドたち。過去の残影ではあるけれど、それでも。
(私たちはフラスコチャイルド。悪環境には強いから)
 四百体を超えるフラスコチャイルドの霊体が、互いにカバーし合いながら黒魔術師へと向かっていく。

(少しは自力でも使えるようになってきたけど)
 晴汰の操る黄金の炎は、以前に比べれば自力で扱える比率が増えてきた。けれども、まだ足りない。だから『覇狼の楔』から力を借りることを、晴汰は躊躇わない。
 自らの力が足りなければ、信頼できる相手と協力すればいい。力を借りることを、恥ずかしいとは思わない。

「合図するから、一撃をお願い」
「うん」

 晴汰の反応を受けて、ルーナ自身もフラスコチャイルドたちの中へと飛び込む。黒魔術師を囲んで、こちらから仕掛けてはあちらからも仕掛け、故意に隙を作りだそうとしているのだ。

「嗚呼……邪魔ね!」

 数多のフラスコチャイルドたちに仕掛けられて、しびれを切らしたように黒魔術師が零した。そしてその手の槌から鉛の花びらを喚び出すと同時に、槌を振るう。
 その攻撃に、いくらかのフラスコチャイルドたちが消えていく――けれど。

「晴汰、今だよ」

 槌を振るったその時を『隙』とするべくルーナたちは動き。

「はぁぁぁぁぁっ……」

 合図を受けた晴汰は、可能な限りの炎を掌に集め、そして。

「人々を、仲間を、友達を――守りたい者の為に使う黄金の炎。害為すだけの青い焔には負けられないっす!」

 ルーナたちの作り出した隙へと、全力で放った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

禍神塚・鏡吾



技能:呪詛、多重詠唱、郷愁を誘う、浄化、鼓舞、衝撃波、覚悟

あの口ぶりでは、呪詛に掛かった人には直接攻撃しない筈……ならば
「呪詛には呪詛です」
焔に魅せられた人にナルキッソスの水鏡を使い、ショック療法で正気に戻します
多重詠唱で可能な限り対象を増やします

映すのはその人の現在の姿ではなく、過去。辛さに耐えた事や努力を重ねた事、親しい人との楽しい時間……そんな姿を美しく映し出します
「貴方が強くなりたいのは、誰のためですか?」
「魔術師に命を捧げて、その人を守れますか?」
重ねてそう呼びかけましょう

自分への攻撃は衝撃波で弾きますが、防御より助力を優先し、被弾は覚悟します
「後は、皆さんにお任せします」



(あの口ぶりでは、呪詛に掛かった人には直接攻撃しない筈……ならば)
 優雅な貴婦人のようにも見える黒魔術師の言葉を、禍神塚・鏡吾(魔法の鏡・f04789)は冷静に分析して。彼は黒魔術師へと背を向けた。
 戦闘を放棄したわけではない。自らにできる最善の『戦い方』をするためだ。
 彼の視界には、黒魔術師の呪詛じみた誘惑に抗えなかった人々が映っている。彼女の炎に触れて力を授かろうと、拠点奥から前線へと向かってきているのだろう。
 鏡吾の他にも、騎士団員や住人たちを案じて拠点奥へと向かった猟兵はいるはずだ。それでもすべてを正気に戻せていないのは、ここに住む彼らが弱いからではない――共に居住する仲間たちを護りたい、その思いが強いからだろうと思うから。

「呪詛には呪詛です」

 鏡吾が紡ぐのは、ユーベルコードの詠唱。多重詠唱することで可能な限り、対象を増やす。
 けれどもそちらに注力している間、彼の背後は無防備だ。万が一の場合は衝撃波を利用して攻撃を防ごうと考えてはいるが、そちらに気を取られて正気に戻す方が疎かになっては本末転倒。だからもちろん、被弾は覚悟している。

「この鏡を御覧なさい」

 穏やかな声色で鏡吾は紡ぎ、語りかける。彼の手にあるのは、己の本体である『西洋鏡』。多重詠唱によって複数を対象にしているからして、対象が見ている鏡に映るモノは、それぞれ違う。

「貴方が強くなりたいのは、誰のためですか?」
「強く……」
「……チカラ……」

 鏡吾の問いかけで、うつろな瞳の人々が鏡の中に見るものは。

「……か、ぞく……」
「たい、せ、つ……な……」

 彼らは鏡の中に現在の姿を見ているのではない。そこに映っているのは大切な家族や恋人との、ささやかだが平和で楽しい時を過ごした過去。

「魔術師に命を捧げて、その人を守れますか?」

 重ねて問う鏡吾の声に、映像は移り変わる。厳しい暮らし、搾取に耐えた日々。少しでも力をつけようと、努力を重ねた日々。
 今、目の前に差し出された甘い言葉に乗って力を得たとしてそれは――彼らの本当に欲した『力』だろうか。彼らの本懐を遂げられる『力』だろうか。
 鏡吾は思うのだ。真実を説くのは簡単だ。言葉にするのは簡単だ。けれども自分がそれを口にするよりも、彼ら自らにそれに気づいてもらう方が、効果が高いと。

「っ……!!」

 何かが飛来する気配はわかった。けれども今、一番大事なところなのだ。だからその何かが弾丸のように背中を穿っても、鏡吾は彼らが正気に戻るための助力を絶やすことはない。

「さあ、思い出してください。貴方が欲した力は、誰かから与えられて容易に得られるものでしたか?」

 鏡吾の声色は変わらない。幾度、鉛の花びらが背を穿とうとも。

「この地を襲った相手に貰った力で、貴方はその人を守れると思いますか?」

 穏やかな問いかけに、ひとり、またひとりと膝をついていく人々。その瞳からは、例外なく涙が流れ出していた。

「後は、皆さんにお任せします」

 拠点奥から出てきた正気の騎士団員たちにそう告げ、鏡吾は涙を零している人々を託した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィッダ・ヨクセム
☆A
施される力に、夢希望を抱いたことはねェよ
ましてや俺様は強くなんて、ない

戦いに手を出して、結果的に人助けをしてるだけだ
何をしたいのか、目的を定める心を未だ……掴めずに居る
物でいた時間が長すぎて、ヒトの心は難しい

炎によく馴染む魔法寄りの武器としてバス停(おれ)は創られたんだ
浴びるほど触ッた所で燃え解けたりはしないさ
強くは在りたいが何の…誰の為?

思考の堂々巡り
俺様単体では解決しないだろうが
居たい場所を護る為――それで、良いじャないか

全てが敵対者に見えても、匂いは惑わせないだろ
新たに増えた匂いを追い回そう
使う赤の炎を、わざとらしく青で燃やして吼える
野良犬に嵌めるのは鎧じャない、…首輪だ、覚えとけ!



 嗚呼、嗚呼、嗚呼――嵌ってしまった。陥ってしまった。それは分かる。
 けれどもどうしたらいいのか、どうすればいいのか、それは――……。

 思考だけでなく、視界にも靄がかかったかのよう。
 フィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)がゆるりと気だるげに首をめぐらせれば、先程までそこにいた他の猟兵に不思議と敵意が湧いた。
 ああそういうことか――なんとなく、大雑把に理解して。そして零すのは。

「施される力に、夢希望を抱いたことはねェよ。ましてや俺様は強くなんて、ない」

 小さな、言の葉。
 戦場に於いては容易にかき消されてしまいそうなそれを、フィッダは誰に聞かせるともなく紡ぎ続ける。

「戦いに手を出して、結果的に人助けをしてるだけだ」

 あえて誰に、と定めるならば――己に対してだろうか。

「何をしたいのか、目的を定める心を未だ……掴めずに居る」

 悔しげな音色で絞り出すように紡がれたそれは、彼の出自と関連が深い。
 彼はバス停のヤドリガミだ。ヤドリガミ――そう、彼はモノ、だ。永い時を経たモノに心や自我が宿って実体化できるようになった……それがヤドリガミ。
 中でもフィッダは、モノでいた時間が長すぎて。未だ、ヒトの心を難しいと思う。
 それは、己の『心』も同じ。本来ヒトの持つものであったソレが湧いても、自分のものであったとしても、未だ、解には至らない。

「あァ、炎によく馴染む、魔法寄りの武器としてバス停(俺)は創られたんだ」

 靄のかかったような視界の中で、はっきりと見えるのは――黒魔術師の青。

「浴びるほど触ッた所で、燃え解けたりはしないさ」

 あの青に、青い炎に触れなくては――思考の端を走っていく衝動。無意識にソレを抑え込むように、フィッダは己の半面に片手をあてた。

「強くは在りたいが何の……誰の為?」

 ぽつりと零した疑問。しかしいくら考えようとしても、答えには辿り着けない。思考は行ったり来たりを繰り返す、堂々巡りだ。
 けれどもこれは、今に始まったことではない。ヒトの心への理解が進めば、少しは巡る道が変わるかもしれないが。
 それは今のフィッダには、今ここで変えるのは、無理な話。彼一人では、そして短時間では解決せぬ問題。今ここで簡単に解が見いだせるのならば、とっくにそこにたどり着いている。
 だから、彼は。思考の舵を、半ば強引にきる。

(居たい場所を護る為――それで、良いじャないか)

 それがひとまずの、結論だ。

 ――俺様自身はなんとでもなる、……ほォら、出発進行だ!

 視界に映る猟兵たちへも敵対心が湧く。すべてが敵に見える。けれどもそれは、あの黒魔術師の術中に陥ったゆえだと先程理解した。
 だからフィッダは、視覚に頼らない。喚び出した妖怪鬣犬が追うのは、『新しく増えた匂い』だ。
 視覚や認識は惑わせても、匂いにまで気を使ってはいないだろう。
 ほォら、覚えのない匂いが、ひとつ、ふたつ、みっつ……。
 紅蓮の炎を吐き散らし、黒魔術師の青き炎の海をわざとらしく燃やしながら、ハイエナと共に吼える――!

「野良犬に嵌めるのは鎧じャない、……首輪だ、覚えとけ!」

 青が、赤に飲まれていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
C◎
ユーイさん(f06690)と

あれで取引のつもりとは。商談は得意でないようですね。
他への押し売りに対処する余裕はあまりありませんが……こちらできっちりとお引き取り頂くとしましょうか!

何よりも厄介なのはその配下の物量。
護衛に回られては攻撃を通すのも一苦労。
であれば、こちらの役目は奴に届かせる『道』を作る事。
手駒はこちらで引き受けます。ユーイさん、本体に集中を。

元は住民、あまり犠牲は出したくないところ。
鎧の頑丈そうな部分をあえて狙い、着弾の衝撃での足止めや、ユーイさんから離れるような回避の誘発に徹します。
それで引かないなら、手足くらいは撃ち抜きますが致し方なし。
少しの間、黙ってて頂きますよ……!


ユーイ・コスモナッツ
C◎
シャルさん(f00330)と

黒騎士の壁をどうしましょうか
行く手を阻むのであれば
突破するしかありませんが、
操られているとはいえ、
一般人を手に掛けることは、
騎士として何よりのタブー

せめて、一瞬だけでも、
敵将までの道筋が見えれば……
と、シャルさんに、求めるような視線を向けてみます
こういうとき、
人頼みになってしまうのが私の欠点ですが、
反省するのはあとでもできる

シャルさんが作ってくれた『道』を、
【天の川の流体力学】で、
隙間を射抜くように駆け抜けます

ブラックスミスへの接近に成功したら、
突進の勢いそのままにランスチャージ!
返す刀でもう一撃!
敵UCの効果を強制終了させるべく、
一気呵成に畳み掛けますっ



「あれで取引のつもりとは。商談は得意でないようですね」

 黒魔術師の言葉を受けて冷静に分析をするのは、シャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)。あの女の言い分は、もはや交渉ではない。
 この拠点に住む騎士団や一般人たちになら、騎竜によって壊滅的な被害を受けた後に漬け込む言葉としては、心を折った後に投げかける言葉としては、有効だったかもしれないが。
 今ここに、騎竜は残っておらず。黒魔術師を出迎えたのは、多くの猟兵だ。
 それをわかっていてなお、あのような言葉を向けてくるのはよほどの自信があるのか、交渉下手なのか。

「他への押し売りに対処する余裕はあまりありませんが……こちらできっちりとお引き取り頂くとしましょうか!」
「はい、シャルさん。……でも……」

 シャルロットの強い意志に同意を見せたのは、ユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)。けれども彼女の言葉は、なんだか歯切れが悪くて。
 その視線の先にいるのは、黒い全身鎧を纏った――黒騎士たちだ。当然のことながら、黒魔術師を守るように動き、こちらの行く手を阻むことだろう。
(行く手を阻むのであれば、突破するしかありませんが……)
 ユーイが戸惑っているのは、その黒騎士が、生死こそわからぬが一般人たちを代償に創造されているからだ。
(操られているのか、もう自我はないのか、そこはわかりませんが)
 一般人を手に掛けることは、『騎士』として何よりのタブーである。それは『宇宙の騎士』を名乗るユーイにも、当てはまるから。

「何よりも厄介なのは、配下の黒騎士の物量ですね。護衛に回られては、攻撃を通すのも一苦労でしょう」
「!!」

 シャルロットの言葉に、ユーイは弾かれたように彼女へと視線を向ける。

 ――せめて、一瞬だけでも、敵将までの道筋が見えれば……。
 ――であれば、こちらの役目は奴に届かせる『道』を作る事。

 互いに言葉にはせず、視線を交わして。

「手駒はこちらで引き受けます。ユーイさん、本体に集中を」
「ありがとうございます、シャルさん!」

 こういう時、人頼みになってしまうのが自分の欠点だと、ユーイは知っている。けれども、今は反省よりも先にすべきことがある。
 今は、その欠点を補ってくれる仲間がいるのだから。

(元は住人、あまり犠牲は……)
 自分は騎士ではないから、一般人に攻撃することを躊躇わない――なんてことはない。シャルロットとて、あまり犠牲は出したくないと思っている。
 だからまずは、鎧の頑丈そうな箇所をあえて狙い、撃つ。着弾の衝撃で足止めができれば良し。躱されたり黒魔術師の守りに入るようならば、更に撃って、撃って、撃って――見定めるのは、黒騎士の動き。その癖や傾向をひとつたりとも見逃さぬよう、撃つたびに情報をアップデートして次弾を打ち込むシャルロット。

「少しの間、黙ってて頂きますよ……!!」

 それでも引かぬならば、手足くらいは撃ち抜いても致し方なし――シャルロットの攻撃とそれに対する黒騎士の動きを、ユーイはしっかりと見据えている。
 いつその時が来ても、駆け出せるようにと。

「――!!」

 それは、ほんの一瞬だった。
 僅かな、ほんの僅かな間だけ、『道』が見えたから。
 合図はいらない。合図より先に、『道』が消えるより先に駆け出せるようにと、そのために全神経を集中させていたのだから。
 乳白色のバリアを全身に纏ったユーイは、視認するのも至難な速度でシャルロットの作った『道』を駆け抜ける!
 それは黒騎士たちの隙間を射抜かなくてはならないような細い『道』であったけれど、それで、十分だ。

「!?」

 突如眼前に現れたユーイに、黒魔術師が瞠目したのが分かった。けれどもユーイは躊躇わない。
 勢いそのままに、手にした『ヴァルキリーランス』を彼女の身体に突き刺して。引き抜きざまに、もう一撃!

「っ……あっ……」

 一気呵成に攻め込まれて、黒魔術師はふらりと身体を揺らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン


あの炎、視認時に電子頭脳にエラーが…
いえ、同型機『六番』との決着で得た電子防御、易々と抜かせはしません
(UCで精神干渉弾き)

炎に魅入られた他の騎士や人々の元へ急行
義護剣ブリッジェシーの●破魔の力で呪詛取り除き

ダンピール(剣の送り主)の神殺しの力(ダクセ世界設定)、お借りします

意識は取り戻せましたか?
戦闘力無き方々の護衛をお頼みします
どうか私達にお任せを

あの鎧の意匠、間違いなくルパート様に連なる系譜…!
同じ騎士の道を志したモノとして、宿縁に決着付ける助力は惜しみません

迫りくる黒騎士達に脚部スラスターでの●推力移動で接近
●怪力で振るう盾を●なぎ払い撃破

少しでも数を減らし味方を援護



 黒衣の女性――黒魔術師の青い炎に、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は己の中に湧いた異常を知覚した。
(あの炎、視認時に電子頭脳にエラーが……)
 精神干渉の一種だろうか。そう判断した彼の判断は早かった。

「その程度の干渉能力で、護衛用機種を混乱させられるとお思いですか」

 自身を変形させ、思考を電子演算に変更することで精神干渉を防ぐ。これは護衛用機種としての最上位機能であり、宿敵であった『六番』との邂逅で解禁された機能だ。
(同型機『六番』との決着で得た電子防御、易々と抜かせはしません)
 それは護衛用機種の矜持であると同時に、『六番』によってもたらされた力――つまりこの力を有効に使うことが、同型機である『六番』への餞、報いになるのではと思えるから。
 青い炎による干渉を完全に防いだトリテレイアは、己の推力をフル稼働して、拠点内部へと向かう。
 その手には、白銀の騎士剣『義護剣ブリッジェシー』が握られてる。薄紫の壮麗な装飾が施されたその剣は、とある人から贈られたものだ。

「あれは――!」

 視界に入ったのは、見覚えのある顔。そうだ、確かルーサーという名の騎士だ。彼と共にうつろな瞳をしているのは、騎士団員だけではないようだ。
 動くことも難しいはずの負傷者も、うつろな瞳をして何とか身体を動かそうとしている。このままでは、黒魔術師のもとに辿り着く前に命を落とす者が出てもおかしくはない。
(先ほど救った命が喪われるのをそのままにしておくことなど、できるはずがありません……!)
 トリアレイアは眼前に剣を立て、剣礼――サリューの動作を取った。

「ダンピールの神殺しの力、お借りします」

 そして紡いだのは、剣の送り主への言葉。
 この剣は、この世界で神殺しの力を持つ、ダンピールの女性から贈られたものだ。この世界の人々を救うには、これ以上無い品だと言えよう。
 トリテレイアは、うつろな瞳の人々の周囲で剣を振るう。決して彼らを傷つけないように、けれども剣の持つ破魔の力でその呪詛を取り除くべく。
 剣を振るい終えた相手がどさり、と崩れ落ちる音がする。けれどもそれを確認する間も惜しく、彼は次の人々へと剣を振るい続けた。

「あ……れ……?」

 しばらくして、この付近の呪詛を払い終えたトリテレイアは、涙を流しながら呆然と座り込んでいるルーサーの元へと戻り。

「意識は取り戻せましたか?」
「あぁ……また助けてくれたのか」
「ルーサー様、戦闘力無き方々の護衛をお頼みます。どうか、あの首魁は私達にお任せを」

 トリテレイアの言葉に、ルーサーは諾を示した。すぐさま涙を拭いて立ち上がり、彼は正気に戻った者たちへと指示を出し始める。
 それを確認して、トリテレイアは再び前線へと戻る――。

 * * *

(あの鎧の意匠、間違いなくルパート様に連なる系譜……!)
 多くの黒騎士たちが、黒魔術師を守るように布陣していた。けれどもその合間を縫うようにして、猟兵の誰かが黒魔術師へと迫ったのだろう、軌跡が見える。
 そしてその黒騎士たちが纏う鎧の意匠には、覚えがある。
 いくたびも戦場を共にした、同じく騎士を志した彼のものと同じだ。
 ならばその黒騎士を作り出すあの黒魔術師は、彼に縁のある者と見て間違いないだろう。
(同じ騎士の道を志したモノとして、宿縁に決着付ける助力は惜しみません)
 脚部スラスターの推進力を全開にして、トリテレイアは黒騎士たちとの距離を詰める。彼らの合間に割り入って振るうのは、彼の身の丈程もある大型盾だ。
 凄まじい力で重量のあるそれを振るえば、聴覚を刺激する金属音を響かせて黒騎士たちは体勢を崩してゆく。
 黒騎士たちにとどめを刺す必要はない。その動きを止めることができれば、『彼』が黒魔術師と相対する邪魔にならないようにできれば、それで――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ
【双星】B
アドリブ◎

…この世界での『朝』はまだ遠いのは分かってる
だが…『騎士』というものを見縊らないでもらおう
この焔も呪詛だとしたらどうにかしない、と…!?
セリオス!?…ッ!
脚鎧に光の魔力を限界まで充填し駆ける
彼が焔に触れてしまう前に…!
手を掴めたら自分の元へ引き寄せ
【理想の騎士】で焔を呪詛ごと断ち切ってみせる

…大切なものを守る為の力を、強さが欲しいと願う想いは
猟兵となった今の僕にもある
…きっと、君にも
だけど、今の僕達は…ひとりじゃない
―今度は『ふたり』で強くなるんだろう
君がひとりで背負わないように、僕も一緒に戦わせてくれ
彼の髪にポンと軽く触れる
ああ、一緒に絶望を変えよう
もう一度、光を敵の焔へ


セリオス・アリス
【双星】A
アドリブ◎

守るんじゃなく奪うために
そんな相手の騎士になるなんざ、死んでもごめんだ
そう…思っているのに
敵の炎が揺れる度
鳥籠の中で反芻した強さへの渇望が
奥底で揺さぶられる

敵が朝と共に来たからか
違う…朝は―

ふらりと傾いで足を前に
炎に向かって走り出す
少しでも早く
朝を、取り戻す為
その為の強さを
ああ、炎に触れないと

ぐっと手を引き戻される
感じるのは冷たい鎧の感触
なのにどこか暖かくて
ああ…そうだ『ふたり』で

…悪いアレス、助かった
心配症のお前の方が
いつも多く背負ってる気がするけどな
誤魔化す様に言いながら剣を握る
けど一緒に、つってくれるなら
あの炎、ふたりで、塗り替えてやろうぜ
全力の【蒼ノ星鳥】を敵の炎へ



 響く、響く、響く――黒魔術師の、あの女の声が。耳朶から? いや、肌からもじわりじわりと否応なく体中を駆け巡っていく。
(守るんじゃなく奪うために――そんな相手の騎士になるなんざ、死んでもごめんだ……、……)
 そう……思っているのに。
 ゆらゆら、ゆらゆら。ぼんやりとしてきた視界の中でも煌々と光るそれは、青い炎。
 揺れて揺れて、揺れるたびにセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)の奥底にあるそれが、大きく揺さぶられる。
 鳥籠の中で永い永い間反芻し続けた、強さへの渇望が。
(敵が、朝と共に来たからか。違う……朝は――)
 思考に靄がかかる。感情が、走馬灯のようにセリオスの心の中を駆け巡る。

「あぁ……」

 口の端から漏れたそれは、意味のある言葉ではなく。
 ふらりと傾いだ身体、反射的に足が前に出る。それをきっかけとして、セリオスは走り出した。

 * * *

「……この世界での『朝』はまだ遠いのは分かってる」

 その澄んだ青い瞳で黒魔術師を睨めつけ、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は低く紡いだ。
 あの女は『騎士』にこだわっている。その理由は知らないし、知りたいとも思わない。

「だが……『騎士』というものを見縊らないでもらおう」

 それは自身が騎士であるから――だけではない。他の騎士たる猟兵も、そしてこの拠点で人々と暮らす『騎士』たる彼らも含めて。
 このような、『騎士』を愚弄するような考え方が、言動が許せないのだ。

「この焔も呪詛だとしたらどうにかしない、と……!?」

 黒魔術師が広げる青い炎の海は、ただの炎ではないだろう。何らかの意図を持って作り出されている――ならば対処を、アレクシスが思考を切り替えようとしたその時。

「――!」
「セリオス!? ……ッ!」

 隣にいたはずの彼が、アレクシスの一等星が、動いたのだ。否、ただ動いたのではない。青い炎の海へと、駆け出したのだ――。

 * * *

(早く、早く早く。少しでも早く――朝を、取り戻す為……)
 その為の強さを、手に入れないと。
(ああ、あの炎に、早く炎に触れないと――)
 セリオスの思考を占めるのは、強さへの渇望。視界を占めるのは、青き炎の海。
 ほら、あと少し。あと少しで手が――……。

「セリオスっ!!」
「――!?」

 けれどもセリオスの手は、海たる炎に触れることはなかった。彼の手が炎に触れる寸前、強く耳朶を打った聲と引き戻される感触。
 とんっ、と頬が触れたところから感じるのは、冷たい鎧の感触――だのに、不思議とどこか暖かく感じるのだ。

 * * *

「ッ――!!」

 咄嗟の判断であった。
 アレクシスは『曙光の脚鎧』に光の魔力を限界まで充填し、そして駆ける。
 靡く長い黒髪の先を、追いかけて。
 募る危機感。あの炎に触れてはいけない――理由はわからないけれど、そう本能が叫ぶから。
 彼が、あの炎に触れてしまう前に――その手を掴むことが、出来たから。
 強く引いて彼を身体ごと抱き寄せ、白銀の騎士剣『双星暁光『赤星』』を振るう。
 その一撃にこめられた『ちから』が、ふたりの眼前の炎を斬り裂いた。

「……大切なものを守る為の力を、強さが欲しいと願う想いは、猟兵となった今の僕にもある……きっと、君にも」

 斬り裂かれた炎は、はらりはらりと花弁のように舞い、空気に溶けていく。
 海たる炎をすべて斬り捨てたわけではないけれど、今はそれだけで十分だ。
 アレクシスは引き寄せた彼にのみ聞こえるように、言葉を紡ぐ。

「だけど、今の僕達は……ひとりじゃない――今度は『ふたり』で強くなるんだろう?」

 その言葉は、靄のかかったセリオスの思考の中に差し込む、朝の光。
(ああ……そうだ、『ふたり』で)

「君がひとりで背負わないように、僕も一緒に戦わせてくれ」

 アレクシスが彼の頭に乗せる手は、優しく、愛情に満ちている。
 それを受けてセリオスは、朝空の瞳を見上げた。

「……悪いアレス、助かった」

 まず礼を。そして。

「心配症のお前の方が、いつも多く背負ってる気がするけどな」

 いつもの調子で、誤魔化すようにそう告げて、セリオスは『双星宵闇『青星』』の柄を握りしめる。

「けど一緒に、つってくれるなら、あの炎、ふたりで、塗り替えてやろうぜ」
「ああ、一緒に絶望を変えよう」

 ニヤリ、悪戯を思いついたかのように口元に笑みを浮かべたセリオスに、アレクシスは頷き返した。

 赤き一等星に宿るは光。
 青い炎の一等星に宿るは炎。

 星の尾を引く炎の鳥が、光を受けて輝きを増して。

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
「行けっ!!」

 双つの剣が振るわれると同時に放たれた焔鳥は、『海』を塗り替えるべく飛んでゆく――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブラミエ・トゥカーズ
なんか焦げ臭い。
UDCアースで買った化粧品で軽減はされている。

日の出と共に来る敵が吸血鬼なのか悩む。
実際どうあれ吸血鬼ではないと認識し従者に任せる。
こういった時の日雇い契約なのだから。

【WIZ】
妖怪【一本だたら】と炉を含めた鍛冶道具。
鍛冶神の零落、あるいは妖になった鍛冶師。

カクリヨにある彼の工房の赤い炎を持って鉛の花園を融解する。
鉛を武具に鋳造し直すことによって敵効果を軽減する。
作った武器は敵鍛冶師に投げ返したり、
近くの黒騎士に刺して足止めに流用。(他支援)
同業と見、鍛冶道具は狙わない。

敵の鉛の花や鎧と彼の鉛の武器、出来の良さ比べを始めてしまう。
つまり、本当に出来の良い物があれば融かさない。



「ふむ……」

 後方で黒魔術師の様子を見ていたブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)からは、なんだか少し焦げ臭い匂いがする気がする。
 本人曰く、これでもUDCアースで買い求めた化粧品で軽減はされているのだとか。
 朝と言ってもこの常闇の世界では、ほんのり陽が射すか射さないか――けれども、古きよき御伽噺の吸血鬼であるブラミエは、少々の朝日であっても影響を受けてしまうのだ。
(日の出と共に来たあやつは、吸血鬼なのか?)
 しばしの思案。出た解は、実際はどうであれ、『否』という認識。

 ――やつした身を解き、この地に示せ、貴公の伝承を。震え恐れよ。怯え伝えよ。カクリ世よりいずる彼のモノこそは。

 ならば、対応は従者に任せよう。ブラミエが喚び出したのは、『一本だたら』と呼ばれる妖怪と、炉を含めた鍛冶道具である。

「後は任せたぞ」

 雇用主の声に、一本だたらは戦場へと向かっていく。
 その正体は定かではないが、鍛冶神の零落した姿、あるいは妖になった鍛冶師とも。
 彼はカクリヨにある自身の工房で使用している赤い炎を放ち、黒魔術師が広げた鉛の花園を次々へと融かしてゆくではないか。

「なっ……!?」

 珍妙なモノが来た――黒魔術師はその程度にしか思っていなかったかもしれない。けれどもその一本だたらはブラミエと同じ強さを持ち、更にはその力を十全に発揮できる環境を用意されているのだ。
 しかし彼女が目を見張ったのは、鉛の花園を融かされているからだけではない。なんと一本だたらは、溶かした鉛を使い、その場で武具を鋳造し始めたのだ。
 そして作り出したその武具を、黒魔術師であり鍛冶師である彼女に投げ返したり、黒騎士たちの足を止めるべく刺したりと、自由だ。

「忌々しいっ……!!」

 その様子を彼女が、黙って見ているはずはない。手にした槌を一本だたらに振り下ろしながら、再び鉛の花びらを発生させる。
 その場でならば、鋳造した武器で槌を受け止めるのが最善だろうと、後方から見ているブラミエは考えた。
 だが、一本だたらは無理な体勢で回避を試みたのだ。

「……何をしているのであるか?」

 その結果、槌は避けられたがいくつかの花びらを受けてしまった一本だたらに、ブラミエは眉根を寄せる。
 そう、この一本だたらは鍛冶に携わるモノ。黒魔術師兼鍛冶師である彼女を同業者と見、鍛冶道具である槌を狙うのを避けているのだ。
 同業者へのリスペクトか情けかは、わからぬけれど。
 そして広がった鉛の花園を、再び融かす一本だたら――だが、なんだか様子がおかしい。
 先ほどと違い、全てを融かしていくわけではないのだ。

「きちんと働け。何のための日雇い契約だと思っている」

 ブラミエの声にも、一本だたらは動じない。それだけではなく、自身の鋳造した武具と融かさなかった鉛の花を見比べているではないか。
 そう、それが鍛冶師としての矜持や同業者への尊敬から来ている行動であるとブラミエが理解するのは、もう少しあとの話。
 彼は、本当に出来が良いものだけは、融かさない――融かせなかったのだ。
 この事情を知ったら、ブラミエは追加手当の支給をどう判断するだろうか。

 どうあれ現時点で鉛の花園はほぼ、融かされ尽くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
B
・ヴォルフ(f05120)と

あの邪竜を放って、無辜の人々の命を踏み躙って
その上甘い言葉で人々を惑わせ、心無き下僕に変えようというの
許さない
この女だけは絶対に許さない

どうか皆様
この女の甘言に騙されないで
皆様にはわたくしたち猟兵がついています
どんな邪悪にも決して臆せず立ち向かう者が

歌うは【英雄騎士団の凱歌】
平和を願う祈りと優しさ
死した同胞への慰めと哀悼
苦難に立ち向かう勇気と覚悟を込めて

騎士たる所以はその正義の御心の下
弱き者を守らんとする意志
互いを思いあう友愛の心

わたくしの歌は、救世の意志は
その尊き心を守るためにある

あの女が嘯く呪詛の言葉を浄化し、狂気に耐える心の強さを
願いよ、この祈りよ届いて…!


ヴォルフガング・エアレーザー
C
・ヘルガ(f03378)と

貴様の甘言になど騙されるものか

俺の誓いの拠り所は、この胸に刻んだ「フェオの徴」だ
ただがむしゃらに力を求めるだけだった俺に
ヘルガがくれた人の心だ
隣人を思いやる優しさ
苦難に立ち向かう勇気と覚悟だ

その邪な顔で吐き散らす呪詛に惑わされる俺ではない
戯言をほざくな!

ヘルガたちが敵の呪詛から騎士たちを救い出したのを確認した後
【守護騎士の誓い】を心に刻み
鉄塊剣に破魔と浄化の魔力を込めた炎を纏わせ
元凶たるこの女を打ち砕く

燃え盛る紅蓮の炎は、全ての邪悪を焼き尽くす
呪わしき蒼炎すら消し去ってくれよう

何度この身を砕かれようと
俺は地獄の炎を纏い甦る
彼女を守る意志ある限り
決して斃れることはない



 カタカタと、彼女は細い肩を震わせる。

「あの邪竜を放って、無辜の人々の命を踏み躙って……」

 視線の先の、黒と青を纏った女が吐いた言葉が、その言動が、何よりも受け入れがたくて。

「……その上甘い言葉で人々を惑わせ、心無き下僕に変えようというの」

 ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)を襲う震えは、恐怖からのものではない。
 強く、強く強く強い怒りから生じたものだ。

「許さない。この女だけは絶対に許さない……」

 普段は穏やかなヘルガが、こんなにも怒りを顕にしている――夫であるヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)とて、黒魔術師の言動には怒りを覚える。だが。

「ヘルガ」

 震える彼女の細い手を、自身の骨ばった手で優しく包む。
 言葉はなくとも、思いは通じる。
 ふたりは頷き合って、拠点内部へと駆けた。

 * * *

 予想はできていた。だから、息を呑むことも躊躇うこともなかった。
 騎士団員だけでなく、戦うすべを持たぬ住民や子どもや女性、怪我人や老人までも、うつろな瞳で黒魔術師の『炎』へと向かおうとしている。
 いくらかの正気な者たちが、それを止めようとしているけれど。
 小さな子どもが泣きじゃくりながら、家族と思しき相手の足にしがみついて止めようとしているけれど。
 強さを求める彼らの瞳には、それが『邪魔者』にしか見えておらず、容赦なく投げ飛ばし、蹴り飛ばし――進行を続けようとしていた。

「どうか皆様、あの女の甘言に騙されないで!」

 一同の前に立ちはだかった、ヘルガとヴォルフガング。このままでは自分たちも『邪魔者』とみなされるのは明らかだ。
 だからヴォルフガングは、黙したまま彼らの動きに注視している。
 夫の意図と行動を察しているから、ヘルガはまっすぐに、彼らに向けて言葉を紡ぎ続けることができるのだ。

「皆様には、わたくしたち猟兵がついています。どんな邪悪にも、決して臆せず立ち向かう者が」

 猟兵の登場に、正気の者たちの表情に光が灯る。
 ヘルガは真白き翼を広げ、祈るように手を組んで、大きく息を吸い込んだ。

 ♪――騎士たる所以はその正義の御心の下――♪

 紡がれる旋律には、平和を願う祈りや優しさが込められている。
 死した同胞たちへの慰めと、哀悼の意が乗せられている。

 ♪――弱き者を守らんとする意志 互いを思いあう友愛の心――♪

 そして、苦難に立ち向かう勇気と、覚悟を。

 ヘルガの歌声は、戦場の喧騒の中でも不思議とよく通った。
 その清浄なる歌声と旋律、強い想いが、正気を失った住人たちの身体の中から呪詛の言葉を浄化してゆく。
(わたくしの歌は、救世の意志は、その尊き心を守るためにある)
 だから、歌う。民衆を守る勇敢な騎士団を称える歌を。鼓舞する歌を。
 この歌はこの場にこそ、ふさわしいと思うから。

(願いよ、この祈りよ、届いて……!!)

 呪詛の言葉を浄化するだけでなく、どうか彼らに、狂気に耐える心の強さを――。

 * * *

 ヘルガの歌で人々が正気を取り戻したのを確認すると、ヴォルフガングはまっすぐに黒魔術師の元へと向かった。

「貴様の甘言になど、騙されるものか」

 唸るように低く告げ、手を当てた胸元。鎧の下の肌に刻まれているのは『フェオの徴』。
 それは、ただがむしゃらに力を求めるだけだったヴォルフガングに、ヘルガが与えてくれたものだ。
 人の心、隣人を思いやる優しさ、苦難に立ち向かう勇気と覚悟――彼女からは本当にたくさんのものを貰ったのだと、改めて感じる。
 同時に、これがある限り、揺らがない自信もあった。

「誰であっても、『力』と『強さ』は欲しいものでしょう? 強がらなくても良いのです」

 何度目だろうか。青き炎の海を作り出した黒魔術師は、傷を負いながらもなお、余裕の表情で妖艶に告げる。
 けれどもヴォルフガングは、彼女に妖艶さなど微塵も感じなかった。

「その邪な顔で吐き散らす呪詛に惑わされる俺ではない。戯言をほざくな!」

 ヴォルフガングはそう言い捨てて、手にした『鉄塊剣』へ炎を纏わせる。
 この炎はただの炎ではない。破魔と浄化の力を込めた、元凶たるこの女を打ち砕くための炎だ。
 剣の纏う燃え盛る紅蓮の炎は、すべての邪悪を焼き尽くす炎。
 呪わしき蒼炎を消し去るべく、ヴォルフガングは青い炎の海へと飛び込んだ。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 青い炎が、彼の全身を包み込まんとする。彼の意識を、正気を焼かんとする。
 けれどもヴォルフガングには、誓いの拠り所がある。それは、胸に刻まれしルーン自体だけではない。

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 どれだけ焼かれようとも、彼は蘇る。彼は揺らがない。
 むしろ焼かれれば焼かれるほど、その力は、想いは増して。
 ヘルガを守る――その意志がある限り、彼は決して斃れることはないのだ。

 炎を纏いし大剣が、常以上の力を得たヴォルフガングによって、振り下ろされる――!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・アンダーウッド
☆C
何を言うかと思えば、襲ってきておいて強くしてやるだって?とんだマッチポンプだね♪何処までもふざけた御仁だよ、全く。貴女という存在がボクには許容出来ない。

器物が嘗ての輝きを放ち、姿が器物の持ち主だった人形技師の姿に変身。ギャァァァと悲鳴のような駆動音を発するバンシーを片手に無言で敵に向かって歩き、自身に向かってくる武器や敵は攻撃範囲に入った瞬間に切断し解体していく。
自身の寿命が削られるのも気にせず、相手に恐怖を刻み付けんと行動する。

この世は力こそ全てだと思ってる。強者による弱者の虐殺や支配は非難しない。弱いのが悪いのだから。ならさ、それまでの強者が今度は弱者として蹂躙されても文句はないよね?



「何を言うかと思えば、襲ってきておいて強くしてやるだって? とんだマッチポンプだね♪」

 口調こそ、いつものクラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)のものである。だが、彼の裡(うち)――比喩ではなく、文字通り体内を占める地獄の炎は、その熱をどんどん上げていた。
 先ほど、騎竜たちに命奪われた騎士団員を助けることが出来なかった無力感――それをいだいた時よりも、強く強く、熱く熱く。

「何処までもふざけた御仁だよ、全く」

 口元を笑みの形に歪めるクラウン。だがその青い瞳に宿るのは、笑みどころではない。静かな怒りのもたらす鋭い光が、黒魔術師を射抜いている。

「――貴女という存在が、ボクには許容出来ない」

 いつもよりも数段低い声色で、腹の底から絞り出したかのような声色でそう呟くと、煤けて動かなくなった懐中時計がかつての輝きを取り戻していく。
 止まっていた長針と短針が、忙しなく逆周りを始め、そして。
 クラウンの姿が――変化した。
 それはいつもの道化師姿ではなく、銀髪とも白髪とも言えそうな毛先に癖のある髪に、赤い瞳の男。
 手先の器用そうな、やや神経質なところも持っていそうなその男は、クラウンの真の姿のひとつ――彼の本体である器物、懐中時計の持ち主である人形師の姿だ。
 だが今その手には、人形作りのような繊細な作業には不要に思えるチェーンソー剣が握られており、眼鏡の向こうの赤い瞳には、先ほどのクラウンの瞳と同じ光が宿っている。

 ――ギャァァァァァァァァァ!!

 これは、黒魔術師の悲鳴ではない。もちろん、クラウンの悲鳴でもない。手にしたチェーンソー剣『バンシー』のチェーンが高速で振動しながら回転することで、その駆動音が悲鳴のように聞こえているのだ。
 伝承のバンシーの叫び声は、死を呼ぶとされている。クラウンの手にある『バンシー』が呼ぶ『死』は、もちろん眼前の女のものだ。
 バンシーの『叫び声』でよく聞こえぬが、他の猟兵が黒魔術師に迫り、大剣を振り下ろすのが見える。

「……、……」

 それを視界に収めながら、身体を大きく揺らす女をしっかりと捉えながら、クラウンは無言で歩いてゆく。
 走らない、早足でもない。
 ゆっくりと、黒と青を纏う女だけを、視線で射殺さんとばかりに見据えて。
 このユーベルコードを使用している間、クラウンの寿命は削られていく。だがそんな事、知ったことか。些事以前の問題でしかない。

「……、……」

 傷ついた女の視線がクラウンを捉える。新たに生み出された黒騎士が、クラウンへと向かうけれど。

「……、……」

 彼は一瞥すらもくれずに、向かい来た黒騎士たちの足を切断し、機動力を奪った。
 そしてそのまま、何事もなかったかのように、一歩一歩、女との距離を詰めていく。

「――っ……」

 その時女が感じたのは、どんな感情だろうか。
 息を呑んだ彼女が感じたのは恐怖か、或いは、強者を自分の手で更なる強者へと作り上げるという想像――創造者ゆえの期待か。

「この世は力こそ全てだと思ってる。強者による弱者の虐殺や支配は非難しない。弱いのが悪いのだから」

 女を見据えて足を止めたクラウンは、淡々とそう紡いだ。その言葉は『悲鳴』にかき消されて、女以外には届いていないかもしれない。

「――ならば、我が思想を……」
「ならさ」

 口元を笑みの形に歪めようとした女の言葉を、クラウンは容赦なく遮って。

「――それまでの強者が今度は弱者として蹂躙されても文句はないよね?」
「――!」

 その言葉の意味を女が理解したのは、クラウンの刃が自身の黄金(きん)の花を散らし、花弁が青い炎に飲み込まれてからだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ

その名前と後ろの鎧…もしかして

彼女の言い分は分かる。でもあなた(黒魔術師)のそれは…私の望むものではない気がします。
【破魔】で呪詛を相殺しUCを耐える

そして何より……力がなくても人は強いんです。
力ではなくても、言葉や思いで救われる事もあるんです。
ここにいる騎士団の人達の「強さ」を否定する事はさせません

翼…これなら彼女に近づける(【払暁】で【焔翼】を描く)
私が望む力は払暁-暗闇を払う炎のような、誰かを守れる力

【想撚糸】発動
どうですか、これがあなたが弱いと評価した人間の…人の思いの力です。断ち切ることができますか?
彼がとどめをさせるよう動きを封じると共に、可能なら地上へ引きずり落とす


ルパート・ブラックスミス
C


青き炎。従える黒騎士。そして『声』。
似ている、ではない。同じだ。
未だ思い出せず、それでも解ってしまう。
お前が俺にとって何なのか。

鎧を漆黒に染める真の姿と青く燃える鉛の翼展開。
【火炎耐性】【呪詛耐性】で敵UCの炎も呪詛も構わず真直ぐに【空中浮遊】【ダッシュ】。
通じるわけがないんだ。それこそがこの身魂を象っているのだから。
大剣で【串刺し】抱きしめるように【グラップル】、【指定UC】で【生命力吸収】【焼却】する


放さない。これ以上、傷つけさせない。
この『力』も、『強さ』も、こう在る為のものなのだから。
もはや全てが忘却の彼方でも。
この『衝動』が命ずる通りに。

『騎士であれ』と、お前が願い捧げた通りに。



 戦場に現れた黒魔術師の姿と炎、それだけなら気づけなかったかもしれない。
 けれども彼女はこう言った――ブラックスミスの名誉を、と。
 そして彼女の従える全身鎧の黒騎士たちは、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)にとって見覚えのあるものだったから。

「その名前と後ろの鎧……もしかして……」

 ちらりと視線を向けたのは、『彼』へ。『彼』もまた、呼ばれたかのようにこの地に来ているのを知っていたから。
 そして宙空に浮かび上がった彼女が、『彼』へと視線を向けたのを見ていたから。
 けれども『彼』の表情は窺えない。フルヘルムの下にあって無いが如き『彼』の表情は――……。
 だからカイは、黒魔術師へと視線を戻した。
 彼女の言い分は、分かるのだ。けれど、だけれども。

「でも、あなたのそれは……私の望むものではない気がします」

 人の身を得て、そう長い年月を経ていないカイには、まだ知らぬこと、わからぬことも多い。
 だけれども、彼女が提示したそれが、自分の望むものと重ならないことは、分かるのだ。
 カイの視界の中で、青い炎の海が、ゆらゆらと、ゆらゆらと揺れている。人の身を得たばかりの頃ならば、その誘惑に簡単に負けてしまったかもしれない。
 しかし今のカイは、たくさんの出会いと経験を積んだ彼は、心身ともに成長し、強さを持っている。
 着衣の合わせ目に手を触れれば、お守りのように懐に入れた『それ』から、香りが広がる気がする。
 その身にいだく魔を破る力を増幅し、カイは炎の海を見据えた。
(大丈夫、耐えられます)
 炎の向こうへと至った猟兵たちが、彼女へと武器を振り下ろすのが見える。
 幾度もの攻撃を受けた彼女からは、すでに姿を見せた時のような端正な美しさは喪われている。
 着衣も髪も、花も破れ切られ傷つけられ――それでも彼女は、深い青色の翼で羽ばたき、再び宙空へと浮かんだ。

「あなたは、本当に知りませんか? ……力がなくても人は、強いんです」

 炎の海の際まで走り、カイは彼女を見上げる。

「力ではなくても、言葉や思いで救われる事もあるんです」
「……そんな、もの……」

 負傷の大きい彼女は、カイを見下ろしてなお、彼の言い分を否定する言葉を紡ごうとする。
 けれどもカイには、その続きを聞くつもりはない。彼女がオブリビオンである時点で、もはやその思想を変えることは叶わぬのだろうと思うから。

「だから――ここにいる騎士団の人達の『強さ』を否定する事はさせません」

 取り出した玻璃製の筆、『払暁』で彼が描くのは炎の翼。『焔翼』を背に宿し、カイは地を蹴る。

「私が望む力は払暁――暗闇を払う炎のような、誰かを守れる力」

 羽ばたけば、彼女と対等の視線の高さで相対できる。
 何よりも手に馴染んだ『念糸』を、思いや記憶の数で強化して『想撚糸』へと変形させて――彼女へと放った。

 * * *

 ――来た、と。
 直ぐに、分かった。
 己が呼ばわった『彼女』が、青き炎が姿を見せたその時。
(青き炎。従える黒騎士。そして――その『声』)
 記憶にないはずなのに、耳朶から脳内へとよく馴染む『彼女』の『声』。
(似ている、ではない。『同じ』、だ)
 肉体が死した時に、共に記憶を喪ったルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)。現在の彼は、器物でもある『黒騎士の鎧』に魂が宿った『ヤドリガミ』であるが、その成り立ちは少し生粋のヤドリガミとは異なっていて。
 鎧に宿る自我や魂は、鎧の持ち主であった『ルパート・ブラックスミス』のものである――ただし、ヒトであった時の記憶は無い。
 その頃のことは、未だに思い出せない。だのに、それでも解ってしまうのは。彼女の視線を受けた途端、広がっていったモノは。
 この魂自身に刻まれているからに、他ならないのだろう。

(お前が俺にとって、何なのか――)

 ルパートの纏う『黒騎士の鎧』は、彼女が引き連れている『黒騎士』が纏っているものと同じ。
 そして彼女が操る青き炎は――ルパートの鎧の中を巡るそれと同じ。

 嗚呼、あぁ――猟兵たちが彼女に向かっていく。
 仕方がない、彼女はオブリビオン。そして彼女のしたことは、しようとしていることは、道理に照らし合わせれば許されざることだ。
 それでも、それでも。
 彼女が自分にとって如何なる存在だったのか――それを理解ってしまったルパートは、彼女と猟兵たちの戦いを、一瞬たりとも見逃すまいと見つめる。
 その言動から、黒騎士たちの纏う鎧は――ルパートの鎧も含め――彼女の手によって作り出されたものなのだろう。
 そしてその鎧を纏うことで、防御面だけでなく様々な能力が向上するというのは……ただの鍛冶師には、ただの鍛冶師の作った鎧では、起こり得ないことだと分かる。
 彼女が、何らかの力を付与しているのは間違いないだろう。けれどもそれが『正』よりも『邪』に近いのは、彼女がオブリビオンであるからだけだろうか。

 嗚呼――彼女が再び宙空へと浮かび上がった。最初に姿を現したその時の面影は、見る影もない。
 流動鉛しか詰まっていないはずの胸が、強く締め付けられるのは何故――いや、その理由をルパートはもう、知っている。
 記憶にはない。記録も残っていないけれど、肉体を喪ってなお鎧に宿った魂が酷く震えて叫びだしそうなほどに。

「――、――」

 彼女の名すら思い出せぬものだから、紡ぐことも呼ぶことも叶わぬけれど。
 ルパートは真の姿を解放し、その鎧を漆黒に染める。
 かつての、最盛期の輝きを取り戻した鎧の背に生えるのは、青く燃える鉛の翼。地を蹴ったルパートは、宙を浮遊しながら彼女との距離を詰める。
 青い炎の呪詛? そんなモノ知ったことか。炎の海に飛び込んだところでルパートには、その鎧には何の影響もない。
 通じるわけがないのだ。
(この青い炎こそが、この身魂を象っているのだから――)
 視線の先で、同じ旅団の仲間であるカイが彼女と対峙している。

「どうですか、これがあなたが弱いと評価した人間の……人の思いの力です。断ち切ることができますか?」
「くっ……」

 彼の放った糸に絡め取られ、彼女は身じろぎするけれど。その束縛から逃れる力は残っていないようだ。

「!」

 その時、カイが振り返った。一気に接近してくるルパートの気配に気づいたのだ。
 炎の翼を背負ったカイは、ルパートの姿を捉え、彼に道を譲る。ぎりぎりまで、『想撚糸』で彼女の動きを封じて。
(嗚呼――……)
 彼と彼女の身体が重なったのを確認して、カイは『想撚糸』を解いた。

 * * *

 むかしむかしあるところに、ヒトの治める王国がありました。
 その国には『黒騎士』と呼ばれる、国防の要となる存在がいました。
 この国では、貴族だけでなく、平民も望めば『黒騎士』になることができましたが、平民出身の『黒騎士』は消耗品のような扱いをされることも多くありました。。
 けれども『黒騎士』となることは大変な名誉であり、得られる報酬も平民の稼ぎに比べたら段違いなのです。
 だから家のために、家族の暮らしを安定させるために、『黒騎士』となることを望む者は多かったのです。
 頭数が増えれれば、しかもそれが教育の差のある者たちの集団となれば、優れた統率者と規範が必要となります。
 ゆえにこの国に於いて『騎士道』は、遵守すべき規律として存在していました。
 そしてその『黒騎士』たちの筆頭は、『黒き鎧のブラックスミス』と呼ばれる家系が務めていました。
 ブラックスミスが、筆頭騎士として『黒騎士』たちの頂点へと君臨し統率していたのには、理由があります。
 彼らの身につける武具には、強い呪いがかけられていたのです。
 それは他の生命力を利用し己のものとして生を繋ぎながらも、その武具を利用する本人たちもまた、その呪いに蝕まれるというものでした。
 この呪いは、万人が耐えられるものではありません。
 発狂する者や暴走する者も、もちろんいました。
 そしてそうした者たちを粛清することは、『黒き鎧のブラックスミス』の役目だったのです。

 何代目かの、ブラックスミス当主――『黒き鎧のブラックスミス』の時代は、極めて戦いの多い時代でした。
 王国は自ら攻めることはありませんでしたが、防衛に専念してなお、たくさんの兵が、『黒騎士』が命を落としました。
 国の危機に、『黒き鎧のブラックスミス』を始め、『黒騎士』たちは奮闘しました。
 けれども戦況は、悪くなるばかりです。
 誰よりもそれを憂えたのは、黒騎士の武具を作製していた黒魔術師であり鍛冶師である、当主の妻でした。
 鎧にかけられた呪いにより、致命傷こそは避けられても疲弊していく夫のために、妻は自分にできることを精一杯考えました。
 そして辿りついたのは――禁呪でした。
 この禁呪を使用すれば、自身も呪われることになります。
 けれども彼女は、躊躇いませんでした。
 禁忌を犯し、自らの身に呪いを受けても、それでもより強い武具を造る事ができるのならば、と。

 それでも、それでも。
 国の滅亡を止めることはできませんでした。
 彼女の夫も、国が滅亡したその日に命を落としました。
 そして彼女も、また――……。


 これは、今となってはだぁれも知らない昔のお話。
 遠く遠く、忘却の彼方に置き忘れられた、昔のお話――……。

 * * *

「――!!」

 彼女が瞠目したのが分かる。
 それは、その身に突き立てられた大剣による痛みゆえか。
 それとも、強く、強く――抱きしめられたがゆえか。

「――放さない。これ以上、傷つけさせない」

 彼女の細く、ぼろぼろな身体を抱きしめ、ルパートはぽつりと零した。その『声』は先ほど彼女を呼ばわった時と同じく、鎧の中から発せられたというよりは限りなく肉声に近い。
 ルパートの青い炎が、彼自身ごと彼女を包み込む。

「あ……ぁ……」

 青き炎に抱擁され、彼女が小さく声を上げた。

「この『力』も『強さ』も、こう在る為のものなのだから――そうだろう?」

 問いかけに答えるように、ルパートの腕の中の彼女の身体がびくんと跳ねる。
 その指先から力が抜けて、手にしていた槌が地上へと落ちていった。

(もはや、全てが忘却の彼方でも)

 腕の中の彼女の感触を、懐かしくすら感じるのに。何も、彼女の名前の一文字すらも思い出せない。
 けれども彼女を包む炎とともに、ルパートの中から湧きいでて止まらぬものが在る。

(この『衝動』が、命ずる通りに――)

 青き炎が彼女の深い青色の髪を、翼を燃やしてゆく。
 もうこれ以上は――だから、自分の手で終わらせようと決めた。

「『騎士であれ』と、お前が願い捧げた通りに」
「あぁ……」

 彼女の瞳から、幾筋もの涙がこぼれ落ちる。それは不思議と即座に蒸発はせず、ルパートの肩へと落ちて蒸発していく。
 その現象によって、今のルパートの鈍い嗅覚をくすぐる香りは――否、ルパートにのみ届く香りがあった。
 花の香だ――それだけは分かる。
 少し抱きしめる力を緩めて彼女を見れば、嗚呼これは、今燃え落ちようとしている彼女の黄金(きん)の花の香だと、ごく自然にそう理解した。

 生前の記憶を喪ったルパートと同じく、彼女もまたオブリビオンとなったことで、強い武具を、強い黒騎士を生み出したいという執念以外は忘れ去ってしまっていた。
 けれどもその身体が、もはや上半身しか残っていないその身体が燃え尽きる寸前、彼女はルパートを見た。

「――××××××、××××――」

 その時彼女が紡いだ言葉は、奇跡だったのか。それとも焼却と同時に彼女の生命力を吸収したルパートが、無意識に生命力と同時に読み取った、彼女の中に最後に残った思念なのか――。


 彼の腕の中の彼女が跡形もなく燃え尽きた時、一枚だけ、黄金(きん)の花弁がふわりと、地に横たわった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『闇に閉ざされた世界に、癒しの光を……』

POW   :    力仕事を手伝ったり、勇壮な英雄談を語る。

SPD   :    破壊させた施設を修復したり、軽妙な話術や曲芸で楽しませる。

WIZ   :    怪我や病気を癒したり、美しい歌や芸術で感動させる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●終焉――そして始まり
 青い騎竜の群れ、そして青い炎の海。そのどちらもが消え去ったあとに残ったのは――壊された日常だった。
 猟兵たちの活躍のおかげで犠牲は最小限にとどめられたといえる。
 けれども、犠牲が出てしまった事実は変えられない。
 騎士団を中心に死者は二十数名――中には遺体の残っていない者や、騎士団以外の者も含まれる。
 そして怪我人においては、怪我の程度の差こそあれ、かなりの数が出ていた。
 中には黒魔術師の炎に魅せられた者に、傷つけられた者もいる。
 騎竜の侵入を許してしまった箇所や見張り台付近は、建物や拠点を取り囲む外塀も破壊されている箇所が多数。
 そしてなにより、ヴァンパイアの支配より逃れて落ち着いていた人々の心には、改めて恐怖が刻まれたことだろう。

「っ……ぁ……」

 憔悴しきった様子の皆を、傷ついた仲間を見たアシュリーは、口を開いたものの言葉を紡ぐことができないでいた。
 ただ励ましの言葉を紡げばいいわけではない。謝罪の言葉を紡げばいいだけではない。
 何よりも――自分が皆を守れなかった――そのことでアシュリー自身も傷ついているのだ。
 本人がそれを自覚しているのかはわからない。けれども自身の無力さを噛み締めているのは、アシュリーだけではないはずだ。

 騎士団ではない民たちは、騎士団の皆が精一杯対応してくれたことを知っている、理解しているはずだ。
 それでも、ヒトの心というのは難しいもので、心のどこかに浮かぼうとするのは――。
 どうして。
 守ってくれるんじゃなかったの。
 なんでこんな目に。
 そんな気持ちの、恐怖の、怒りの矛先が見つからなくて……このままでは誰かがそれを口に出せば、他の者も連鎖的にその思いを口に出してしまうはずだ。
 今、騎士団と、彼らについてきた民たちの間に溝ができてしまったら、この拠点はどうなる――?

 彼らに、精神的にも肉体的にも癒やしが必要なのは、フォローが必要なのは確実だ。

 猟兵たちは考える。
 自分たちには何ができるのか――?


----------------

●状況
 皆さんの活躍で、危機は去りました。
 しかしこの拠点の人々は、精神的にも肉体的にもダメージを負っています。もちろん、拠点の建物も外側を中心に破壊された箇所が多いです。
 このまま彼らを放置して帰還しても構いませんが、もしなにか思うところがあれば、彼らに寄り添ってあげるのが良いでしょう。
 彼らに足りない部分を補ったり、与えたりも良いかもしれません。

 具体的に関わる人名を指定しても良いですし、○章で関わった人という指定でも、一般人の子どもたち、というような指定でも構いません。
 この場所にいそうな相手ならば、好きに指定してくださって結構です。

 また、建物修復に専念したり、他の猟兵の手によって明るさを取り戻していく人々を見守るような、物思いパートも大丈夫です。

 よほど突飛だったり場にそぐわない内容でなければ、大丈夫です。


●プレイング受付
 2月24日(水)8:31~27日(土)23:59。

※プレイング内容を拝見したのち、再送希望日時をお手紙で告知させていただきます。
シャルロット・クリスティア
◎ユーイさん(f06690)と

ひとまずは、要修復ヶ所の確認をしながら、一回りしてみます。
無理はないですが、疲弊の色が濃いですね……。ユーイさんも辛いですか。

残念ですが、現実なんてこんなものです。総てうまく回ることなんてありえない。
ですが……そうですね。確かに甘い考えなのかもしれませんが。
それでも、その気持ちは、忘れてはいけないと思います。
仕方ないと受け入れてしまえば、それは諦めにもなってしまう。
夢や理想を語らずして、どうして叶いましょう。

……あるいは、私も諦めきれないからこそ逝き損ねているのか。
あぁ、いえ。個人的な話です。そのうちちゃんと話しますよ。
行きましょう、やることはまだ山積みです。


ユーイ・コスモナッツ
◎シャルさん(f00330)と

砦の皆が負った、
カラダの傷とココロの傷
私には、
そのどちらを癒すこともできない

こういう光景を見るのがはじめてというわけじゃない、
だけど……
「何度見ても慣れないや」

総てがうまく回ることなんてありえない
だけど、叶うなら、
総てを守ってあげたかった
「叱られちゃいますかね。『甘いことをいうな』って」

そうだ
どんなに困難だって、
たとえ現実的じゃなくったって、
理想を諦めたらいけないんだ

痛みを忘れるわけじゃない
だけどいまは、下を向くよりも、
するべきことがある
ですよね、シャルさん!

??
……ええ、
シャルさんとお話したいこと、
私もたくさんありますよ

ありがとう
シャルさんがいてくれて良かった!



 拠点の外を、ゆっくりゆっくり歩いてゆく。
 ふたりの少女の足取りは、軽くはない。

(無理もないですが、疲弊の色が濃いですね……)

 かつては拠点をぐるりと囲っていた『城壁』だったであろうそれは、今回の襲撃がある前にすでにほとんど『廃墟』の仲間入りをしていたと思われる。
 それでも役目を果たさんと残っていた一部の壁は、騎竜たちの猛攻によりあっさりと瓦礫と化した。
 その瓦礫の積み上がっている場所、修繕と補強をすればまだ拠点を守る役目を果たせそうな場所、新しく設置せねば駄目そうな場所……段階別に確認をし、簡単にマッピングしてゆく。
 必然的に外側から拠点内を見ることになり、視界に入るのは――疲れ果てた人々の姿。
 シャルロット・クリスティア(弾痕・f00330)はどこから見ても見える人々のその姿に、小さく息をつく。

(砦の皆が負った、カラダの傷とココロの傷――私には、そのどちらを癒すこともできない……)

 シャルロットの隣を歩くユーイ・コスモナッツ(宇宙騎士・f06690)もまた、その光景を見て、自分のできることには限りがあると痛感していた。
 このような光景を、傷ついた人々たちを見るのが初めてというわけではない。だけど……。

「何度見ても慣れないや」

 しおれた花のようにややうなだれた、ユーイの呟き。それを、シャルロットは拾い上げて寄り添うように紡ぐ。

「ユーイさんも辛いですか」
「……うん」
「残念ですが、現実なんてこんなものです。総てうまく回ることなんてありえない」

 シャルロットの言葉は正しい。総てがうまく回ることなんてありえないと、知っている。
 だけど――ユーイは想いを紡ぐ――叶うなら、総てを守ってあげたかった、と。

「叱られちゃいますかね。『甘いことをいうな』って」

 いつもの元気な彼女の顔に、少し陰りが見える。苦笑を帯びて向けられた視線を、シャルロットは受け止めて、のち。

「ですが……そうですね。確かに甘い考えなのかもしれませんが」

 少し考えるようにして、浮かんだ思いを言葉に変えていく。

「それでも、その気持ちは、忘れてはいけないと思います」

 ユーイの持つ『それ』は、とても大事なもののように思えるから。
 だって、『仕方がない』と受け入れてしまえば、それは諦めにもなってしまうから。

「夢や理想を語らずして、どうして叶いましょう」

 言霊という概念が、この世界にあるかどうかはわからぬけれど。
 誰かに語ったそれが、語り合って共有したそれが、そうすることでヒトの心の支えになり、そして――。

「――!!」

 シャルロットのその言葉は、ユーイの胸を衝いた。弾かれたように目を開いて、そして咀嚼する。

(そうだ。どんなに困難だって、たとえ現実的じゃなくったって、理想を諦めたらいけないんだ)

 夢や理想、望みや希望は、ヒトにとって大切な糧となる。
 実現は難しくても、それに向けて動こうと――原動力にもなるものだ。
 だから。

「痛みを忘れるわけじゃない。だけどいまは、下を向くよりも、するべきことがある――ですよね、シャルさん!」
「はい。ユーイさん」

 彼女の表情に生来の明るさと活力が戻ったのを確認して、シャルロットは口元に笑みを浮かべて小さく頷いた。

「シャルさん、あそこは修繕だけでよさそ――」
「……あるいは、私も諦めきれないからこそ逝き損ねているのか」

 指差して告げるユーイの明るい声と、シャルロットの呟きが重なった。

「?? シャルさん?」

 上手く聞き取れなくて、ユーイは小首をかしげるけれど。

「あぁ、いえ。個人的な話です」

 そう返したシャルロットは、彼女の真っ直ぐな瞳に見据えられて。

「そのうちちゃんと、話しますよ」

 そう、付け加える。

「……ええ、シャルさんとお話したいこと、私もたくさんありますよ」
「ユーイさんのお話、楽しみにしています。行きましょう、やることはまだ山積みです」

 この話はまた後ほど、と、シャルロットが歩みを進めれば。

「ありがとう。シャルさんがいてくれて良かった!」

 明るい声色で告げて、ユーイは彼女を追った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘルガ・リープフラウ
❄花狼

傷ついた人々の心身に癒しの歌を
祈りと優しさ、慰めを込めて

傷つけられた悲しみ
やり場のない怒り
「なぜ助けてくれなかったの」と嘆く人々を責めることはできない
それは、あの災禍の中ただ一人生き残った
わたくし自身が背負ってきた業でもあるから

大丈夫、ヴォルフは決して道を違えないわ
一年前…二人が敵に記憶を奪われた時のこと
互いの愛を忘却させられ、歪んだ悪夢に塗り潰され
踏み躙られた恐怖と屈辱は今も心を苛む
絶望の淵からわたくしを救ってくれたのは
あなたが唯一守り抜いた愛の記憶
その胸の徴に刻んだ誓い

不安も絶望も、簡単には消えないのかもしれない
それでもあなたの愛で
わたくしは立ち上がれるの

人々を救う願いの星は、きっと


ヴォルフガング・エアレーザー
❄花狼

荒れ果てた拠点の修復に携わる
人々が再び立ち上がり、希望を繋げるように

作業の傍ら、ふと過ぎる思い
あの女の言葉を肯定する気はない
だが「もしヘルガを失ったなら」
誓いの拠り所を壊され、穢され、奪われたなら
果たして俺は冷静でいられるのか
己の無力を呪い、力を求めずにいられるだろうか

ああ、忘れるものか、あの日の屈辱
俺が唯一「お前を守れなかった」苦い記憶
この胸の徴に刻んだお前の優しさがなければ、俺は…

お前を失う恐怖が俺を怒りに駆り立てる枷ならば
俺の「心」を守ってくれたのもまた、お前の愛だ

人の愛や願いすら歪めることがオブリビオンの本質なら
俺はそれを駆逐し、世を正そう
真実の愛は歪みを凌駕すると証明してみせる



 嘆きや嗚咽、ため息や諦め、無気力の満ちる拠点内に旋律が響き渡る。
 清廉で高貴で甘美なるその歌声は、広げられた真白き翼とともに人々に『光』を与える。
 届け届け、傷ついたすべての人に――優しい思いと慰めの心、そして彼らのための祈りが乗せられたその歌声は、美しい。
 否、その一言で言い表すのは適切ではない。救いをもたらす御使いが奏でる天上の旋律――そう思えるほどに形容し難い素晴らしい歌声が、広がって行く。
 歌声の主、ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は、誰よりもよく知っていた。
 傷つけられた悲しみを。
 やり場のない怒りを。
 なぜ助けてくれなかったの――そう嘆く人々の気持ちを。
(人々を責めることは出来ません……)
 ヘルガ自身もかつて、同じように思ったことがあるのだから。
(それは、あの災禍の中ただ一人生き残った、わたくし自身が背負ってきた業でもあるから――)
 だから歌う。紡ぐ。
 この歌声で少しでも、彼らを癒やすことが出来ますようにと、希い――。

 * * *

 拠点内に吹き飛んだ瓦礫を、拠点と外との境であった場所まで運ぶ。自身の腕力と恵まれた肉体を活かし、ヴォルフガング・エアレーザー(蒼き狼騎士・f05120)は修復に携わっていた。
 ただ直すだけではない。
 人々が再び立ち上がり、希望を繋げるようにと願いながら。
 それにはこの場所が、必要不可欠だと思うから。

「――!」

 ピクリ、ヴォルフガングの耳が小さく跳ねた。人狼の特徴でもあるその耳が捉えたのは、歌声。
 恐らくこの場にいる普通の人間には、聞き取ることが出来ないだろう。
 けれどもヴォルフガングには、どれほど離れていてもこの声を拾う自信があった――大切な、妻の歌声なのだから。
 歌声に力を貰った気分で、もういくつめかの瓦礫を持ち上げる。
 それを境界の場所に積んで、拠点の外をふと見れば――。

(――あの女の言葉を肯定する気はない)

 あの場で嘲笑(わら)っていた黒魔術師の姿が、言葉が思い出される。
 もちろん、それは今でも、肯定できるものではないと断言できるけれど。

 もし、愛する妻、ヘルガを失ったなら――?

 ふとよぎったその思いに、ヴォルフガングは動きを止める。

(誓いの拠り所を壊され、穢され、奪われたなら――)

 果たして自分は、冷静でいられるのだろうか。
 己の無力を呪い、力を求めずにいられるだろうか。

「……、……」

 即断できない。
 グローブを嵌めたままの掌をじっと見る。それでも――……。

「大丈夫、ヴォルフは決して道を違えないわ」

 空耳かと思った。けれども背後から首に回された腕は、触れる温もりは、香る芳香は、彼の良く知ったもの。

「――ヘルガ?」
「一年前……二人が敵に記憶を奪われた時のこと」

 白き翼で羽ばたき舞い降りた彼女が、耳元で紡ぐ。その時のことは、思い出したくもないけれど。忘れられるものでもなくて。
 お互いの愛を忘却させられ、歪んだ悪夢に塗りつぶされ――ふたりの想いは、絆は、愛は、重ねた時間は、酷く踏みにじられた。
 その時の恐怖と屈辱は、今もヘルガの心を苛み。
 屈辱と自分へ向けるしかない怒りは、今もヴォルフガングの心に宿る。

「ああ、忘れるものか、あの日の屈辱。俺が唯一『お前を守れなかった』苦い記憶を――」

 ヴォルフガングは、自らの手をその胸元にあてる。鎧と衣服の下に刻まれた徴に、手を重ねて。

「この胸の徴に刻んだお前の優しさがなければ、俺は……」
「……、……」

 ヘルガを絶望の淵から救ってくれたのは、彼が唯一守り抜いた愛の記憶。その胸の徴に刻んだ誓いだ。
 もう、立ち上がれないと思った。立ち上がる力すらなかった。
 すべて壊れてしまったと思った。何もかも、終わりだと思った。
 けれども――ヘルガは再び、彼に救われたのだ。

 自身を抱きしめる彼女の細い腕に、ヴォルフガングは手を添える。

「お前を失う恐怖が俺を怒りに駆り立てる枷ならば、俺の『心』を守ってくれたのもまた、お前の愛だ」

 告げる声色は、普段よりも柔らかく甘やかで。彼女にだけ向けられる、特別なものだ。

「不安も絶望も、簡単には消えないのかもしれない……」

 ぽつり、ヘルガは呟く。けれどもそれは、絶望や諦観の言葉ではない。

「それでもあなたの愛で、わたくしは立ち上がれるの」

 だから。
 その大きな背中に縋って。抱きしめて。
 言葉にせずとも互いの想いがわかるのは、夫婦へと関係を変化させてから積み重ねた、時の為せる技かもしれない。

「人の愛や願いすら歪めることがオブリビオンの本質なら、俺はそれを駆逐し、世を正そう」

 まるで誓言のような、ヴォルフガングの想い。

(真実の愛は歪みを凌駕すると、証明してみせる)
(人々を救う願いの星は、きっと――)

 これからも歩み続けるふたりは、何度壁にぶつかろうとも、共にそれを超えてゆくのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

西塔・晴汰
【晴ル】
外塀を早いとこなんとかしねえと
オレたちも手伝うっすよ!
医療とかはオレの分野じゃないっすし体動かしてるほうがまだ役立つってもんっす
ルーナはめっちゃくちゃ軽々飛び回るっすね!
遠目に眺めつつオレは地道な運搬とかの方で頑張るっすよ

こうして見てるとこっぴどくやられたもんっすね
騎士団の人ら、よく持ちこたえてくれたっすよ
…助けが間に合わなかったのは悔しいっすけど
それでも1人でも多く生かす為に戦ったのが、騎士道ってやつなんっすかね。

全部片付いたら、花くらい届けに行くっすか?
…亡くなっちまった人にはそんくらいしかできねえの、悔しいっすけど
せめてこれ位はやりたいなって…これは優しい、っていうんっすかね?


ルーナ・オーウェン
【晴ル】
終わった
勝ったけど、無事とはいかなかった
うん、壁が崩れていると危ないから
……見ると思いだしちゃうかもしれないし
こういうのは、人手がいるからね

……うん、もう少し早く来られてれば、なんて思うけど
今は守れたものを、守りたい
資材運びや、壁の補修の時には、壁を蹴ってまるで忍者のように
槌や縄を軽々扱ってみたりして
普段の戦い方が曲芸じみてるから、こういうのでも楽しんでもらえるかな

うん、終わったら花を手向けに行こう
優しいね、晴汰
全員が全員、死者を悼んでくれたりはしないから
……私の世界では、なのかもしれないけど
うん、
誰かのために祈れるのは、優しいこと
死んでる私が言うんだから、間違いないでしょ?



(終わった――勝ったけど、無事とはいかなかった)
 拠点を取り囲んだ騎竜たちの攻撃は、もともと脆くなっていたであろう多くのものを破壊していった。
 それが物理的なものだけではないことは、ルーナ・オーウェン(Re:Birthday・f28868)にも分かる。

「外塀を早いとこなんとかしねえと。オレたちも手伝うっすよ!」
「うん、壁が崩れていると危ないから」

 こんな状況でも隣の彼――西塔・晴汰(白銀の系譜・f18760)は、生来の明るさと前向きさで、自分にできることを即行動に移そうとしている。

「医療とかはオレの分野じゃないっすし、体動かしてるほうがまだ役立つってもんっす」
「……見ると思いだしちゃうかもしれないし。こういうのは、人手がいるからね」

 ふたりは、外塀のあったと思しき地点のひとつへと向かう。
 そこは、確かに長い間何かが置かれていたらしき痕跡はあるが、それが何であったか、今の状態からは推察するのが困難に思えるような状態だった。
 瓦礫というには粉々に破壊されすぎていて、瓦礫を再利用して修復するのも難しそうだ。

「こうして見てるとこっぴどくやられたもんっすね」

 ところどころに見える赤黒いシミは――。

「騎士団の人ら、よく持ちこたえてくれたっすよ」

 ――助けが間に合わなかったのは悔しいっすけど。

 唇を噛みしめるように告げた晴汰の気持ちが、ルーナにも伝わってくる。

「それでも1人でも多く生かす為に戦ったのが、騎士道ってやつなんっすかね」
「……うん……」

 騎士道というものを、よく知っているわけではないけれど。誰かのために、何かのために戦うことも、それが果たせなかった時のことも、ルーナはよく知っているから。

「……もう少し早く来られてれば、なんて思うけど」

 でも、でも。時は戻らない。もし、なんて存在しない。
 だから。

「……今は守れたものを、守りたい」
「……そっすね」

 ルーナの言葉に、晴汰は同意を示す。
 騎士団員の死が、無駄死にだったなんて思いたくない。生き残った人たちにそんな風に、思わせたくない。
 だから、『守れたものがある』という事実を大切にして、それを守るために力を尽くしたい――ふたりは思った。

 * * *

「ルーナはめっちゃくちゃ軽々飛び回るっすね!」

 他所から石材や木材を運ぶ晴汰は、遠目にルーナの姿を見つけて、驚いたような感心したような声を上げた。
 彼の視線の先でルーナは、建物の壁を走って目的地までの距離を短縮し、手にした縄や槌を使って曲芸のように移動を重ねている。
 彼女のスゴ技に興味を惹かれた子どもたちが、我先にと彼女を追いかけて精一杯走っているのも見えた。

「さすがっすね」

 負けていられない。
 自分には彼女のように、誰かを楽しませられるようなことは、すぐに思いつかぬけれど。
 けれども運んでいるこの資材が、この拠点の人々の心の拠り所となることを願って。

 * * *

「晴汰」
「ルーナ!」
「休憩」

 ルーナが両手に持ってきた粗末な木のコップには、ほんのり味のついた果実水が入っていた。
 この世界では貴重なそれを、分けてくれた住人がいるのだという。

「……うまいっすね」
「……うん」

 他の世界の果実水に比べれば、甘さも酸味も仄かに感じられるくらいだけれど。今のふたりには、それがよく染みる。
 甘さと酸味と、それを分けてくれた人の心に、癒やされるような思いだ。

「全部片付いたら、花くらい届けに行くっすか?」
「うん、終わったら花を手向けに行こう。優しいね、晴汰」

 自身の提案に返ってきた言葉に、晴汰はこそばゆさともどかしさを感じて。

「……亡くなっちまった人にはそんくらいしかできねえの、悔しいっすけど。せめてこれ位はやりたいなって……」
「――全員が全員、死者を悼んでくれたりはしないから」

 ルーナの紡いだ言葉に、晴汰の心臓が跳ねる。

「……私の世界では、なのかもしれないけど」

 彼女の世界は過酷で、そして価値観が著しく違うものも多い。そしてそれがその世界の『普通』なのだ。

「……オレのこれは優しい、っていうんっすかね?」
「うん。誰かのために祈れるのは、優しいこと」

 戸惑いつつも紡いだ問いに、即答されて。

「死んでる私が言うんだから、間違いないでしょ?」

 どんな反応をしようかと考える間もなく告げられたその言葉に、確かに、と思いつつもやっぱりちょっと反応に困る晴汰。

「一緒に祈ろう、晴汰」

 そんな彼の反応を見つつ、ルーナは微かに笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

吉備・狐珀
犠牲になった人や襲われた恐怖を思えば明るく振舞えとはいいません
ですが冷えた体や疲れた体では思考も暗くなるばかり

みけさんに運んでもらった持参した食材
食材は干した肉や野菜の保存食
これなら沢山運ぶことができますからね
干し肉や野菜から良い出汁が出ますし、温かいスープを作りましょうか
これなら大勢の人に振舞えます

死は終わりではありません
魂は愛した者を、土地を守るためにあり続けます
この地を守るのは騎士団の人たちが懸命に戦っていることを、その騎士団を街の人たちが支えているの知っているから
この街が大好きだから守ってくれているんです

まずはスープを飲んで体を温めて少し休みましょう
街の復興はまだまだこれからですから


禍神塚・鏡吾
技能:医術、救助活動、言いくるめ



自分の手当ては後にして、負傷者の救助を騎士団に呼び掛け、自分も手伝います

作業中、多くの人に聞こえる所でわざと事実を誇張した事を言います
「正直、間に合わないと思っていました
生存者が一人でもいれば……とね」

「此処には、吸血鬼が本気で攻めてきたとき対抗できる戦力はありませんでしたから
何せ、猟兵でも無傷では済まない相手です」
背中の怪我を示しつつ、呼び掛けます
「それは、皆さんもわかっていたのではありませんか?」

「わかった上で皆が騎士団に信を預けた
わかった上で騎士団は矢面に立った
おかげで、私達が間に合った
良かった等とはとても言えませんが、私は皆さんを尊敬します」



 ざわざわと、不穏な空気が拠点内を包み込んでいる。
 不安、恐怖、嘆き、諦め、悲しみ、疲労――。
(犠牲になった人や襲われた恐怖を思えば、明るく振舞えとはいえません)
 この状況でさすがにそれは無茶な要求だと、吉備・狐珀(狐像のヤドリガミ・f17210)は理解している。
(ですが、冷えた体や疲れた体では思考も暗くなるばかり……)
 ならば。狐珀は比較的、話ができそうな、動けそうな騎士団員や住人に声をかける。煮炊きできる場所と道具を借りたい、と。

「食料を持参しました」

 告げる彼女の隣には、白い生き物が。否、この『みけさん』はAIロボットであり、更には御食津神が宿っているのだ。
 みけさんが運んできたのは、干した肉や野菜などの保存食。利点はたくさん運ぶことができること。

「温かいスープを作ろうと思います。手を貸してもらえますか?」

 干し肉や野菜からは良い出汁が出る。ほんの少しの調味料で味を整えれば、拠点の人達の身も心も温めることのできるスープが出来上がるだろう。
 これならば、大勢の人にも振る舞える。
 狐珀は提案を飲んでくれた者たちとともに、スープ作りを始めた。

 * * *

「負傷者はなるべく同じ区画に集めましょう。負傷度合いを確認して、傷の浅い人と傷の深い人を分けて――」
「あの、あなたも傷を……」

 無事、または軽傷で動ける騎士団員に負傷者への対処や簡単なトリアージの指示をしているのは、禍神塚・鏡吾(魔法の鏡・f04789)。
 彼も背中に、黒魔術師の鉛の花びらを受け、傷を負っているのだが。

「私は動けますから大丈夫です。早く負傷者の皆さんを」
「は、はいっ……!」

 声を掛けてきた騎士団員にそう返し、鏡吾もまた負傷者の救助や運搬を手伝う。動かすのが危険と思える重篤な者は、その場に治療のできる猟兵を呼んで、せめて動かせる状態まで回復してもらった。
 しばらくして、かつて噴水があったと思しき広場には、負傷者と彼らを心配する者たちが集まることになった。
 もともとその近くに避難していた者たちや、騎士団に所属していた家族や友人の姿を探す者たちもいる。
 その光景を眺めて、鏡吾は。

「正直、間に合わないと思っていました」

 普段の彼と比べると明らかに大きな声で、そう告げる。

「――生存者が一人でもいれば……とね」

 彼の言葉に、その場の空気が張り詰めた。
 鏡吾の紡いだそれは、事実ではあるが真実ではない。誇張された事実である。そして彼は、凍りついた空気の中で更に続ける。

「此処には、吸血鬼が本気で攻めてきたとき対抗できる戦力はありませんでしたから。何せ、猟兵でも無傷では済まない相手です」

 そのままにした鏡吾の背中の傷から、赤い雫がぽたり、石床に落ちた。

「それは――皆さんもわかっていたのではありませんか?」

 決して、責めるつもりではなく。ただただ事実を。この拠点に居住する、より多くの人に、正しく認識してほしくて。

「わかった上で、皆が騎士団に信を預けた」

 ちらりと視線を向ければ、軽傷の住人たちがハッとしたように顔を上げた。 

「わかった上で、騎士団は矢面に立った」

 重傷者の殆どは騎士団員だ。意識のない者もいる。痛みに苦しむ者もいる。
 仲間には、命を落とした者もいる。
 けれども彼らは、自分たちの力では敵うことのない相手から、住人たちを守ろうとしたのだ。

「おかげで、私達が間に合った」

 万能とはいえないグリモアの予知。今回はすでにこの拠点が包囲され、騎士団が各所に散って交戦している段階で駆けつけねばならなかった。
 襲撃より少しでも前に到着できていれば、もっと状況は違った――そう思う猟兵も多い。
 けれども結果として、助けられた命もあるのだから。
 すぐには無理だと分かっているけれど、彼らが日常に戻ることのできるよう、少しでも助力できれば――。

「良かったなどとはとても言えませんが、私は皆さんを尊敬します」

 鏡吾の言葉は不思議な力を帯びて、それを聞いた者の心のうちへと響き渡る。

「そう、だな……」
「……私達が、今こうしていられるのは……」

 ぽつりぽつり、小さな呟きが広がっていく。
 それは鏡吾の『演説』が、効果的に働いたことを示していた。

「!! いいにおいがするよ!!」

 沈んでいるが確かに良い方向へと向かいかけた空気を破ったのは、子どもの声と鼻孔をくすぐる香り。
 その香りの流れてくる方向を見れば、狐珀と騎士団員や住人が協力して鍋や食器を運んできていた。

「この拠点は侵攻を受け、命を落とした方がいるという事実は変わりません。けれども」

 優しく、そして諭すように紡ぎながら、狐珀はゆっくりと歩んでくる。

「死は、終わりではありません。魂は愛した者を、土地を守るためにあり続けます」

 そう説いても、大切なヒトの死は、にわかに受け入れがたいものだ。だから、今はまだ、受け止められなくても良い。

「この地を守るのは、騎士団の人たちが懸命に戦っていることを、その騎士団を街の人たちが支えているのを知っているからなのです」

 ただ、心の隅に留めておいてくれればいい。

「この街が大好きだから、守ってくれているんですよ」

 狐珀の柔らかな微笑みを受けて、すすり泣く声が聞こえはじめた。

「まずはスープを飲んで体を温めて少し休みましょう。街の復興はまだまだこれからですから」

 禍神塚殿も手伝っていただけますか――問われて頷き、鏡吾はスープを配る手伝いへと加わるのだった。

 温かいものが体内を巡ると、不思議と気持ちが落ち着く。
 ホッとして、涙がこぼれるかもしれない。
 それでも、いいのだ。
 誰かが誰かを責めるよりは、ずっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・アンダーウッド

さぁて、被害者へのフォローは他の猟兵方に任せて、倒壊した建物の瓦礫の除却や御遺体の回収作業をしようか。二次災害の防止や秩序の回復には欠かせない事だからね。

10体のからくり人形をもって瓦礫を運びつつ犠牲者の捜索を同時並行で実施。広場を確保し仮設の遺体安置所を設置。欠損した遺体は可能な限り欠損部位を探して一緒にする。瓦礫は邪魔にならない場所へ一括集積。

失った人を悲しむのはいいけど、受け入れて前に進まなくちゃね。悔やんでばかり生きてるようじゃ、それこそ亡くなった人達に申し訳無いって話だから。


桜雨・カイ
誰かを責めたくなる気持ちも分かります。
けれど傷つけまいと、ふみとどまろうとする気持ちも
きっとあると信じているので

壊された建物や外堀の修理へ
辛そうにしている人を見かけたら、周囲に聞こえない所でそっと声をかけて心の内を聞きます

傷つけられて怖いと感じたり、なぜこんな目にと思うのは当たり前の事ですよ

辛いなら、いま口にしてしまいましょう
ここでなら何を言っても誰も傷つけません。

思う事は悪くないです。
だから自分を追い詰めないで下さい。
声が漏れないように自分の外套をかける

…自分がもっと強くて、上手く苦しみを払えるような言葉を自分がもっていたら、といつも思うけれど
今は自分にできる事を(懐の袋に触れつつ)



 それぞれ思うままに散っていく猟兵達を見て、クラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)は拠点の外側へと向かう。
 特に騎竜たちに内部に侵入されたあたりは、倒壊した建物もあり、そして犠牲者の数も多い区画だ。

(さぁて、被害者へのフォローは他の猟兵方に任せて)

 クラウンが喚び出したのは、十体のからくり人形。クラウンの指に結び付けられた糸で動く十体は、彼にとっては欠かせないパートナー。
 まずは倒壊した建物の瓦礫を退ける数体と、瓦礫を取り除きながら、拠点内から外あたりを捜索する数体に分けて。
 二次災害の防止や秩序の回復には、やはり必要なことだから。
 瓦礫はとりあえず、外塀のあった方に運ぶ。今すぐには建物を建て直すのは難しいだろうから、せめて瓦礫で怪我をする人が出ないようにと。
 そして瓦礫をどけた先、騎竜との交戦が激しかった場所などで見つかるのは――。

「大切に運ぶんだよ」

 見つけたご遺体、もしくはその一部を手にした人形たちに、クラウンはそう声を掛けて。 
 この作業に入る前に、比較的動けそうな騎士団員や住人たちに、屋根付きの広い場所を確保して欲しいと告げてあった。
 そして確保されたと報告があったのは、かつて城の広間であったと思しき場所。
 そこへご遺体やその一部を運び、仮の遺体安置所とするのだ。
 騎竜たちの所業によって、遺体が残っていない者もいるからして。見つけた武具や装飾も、安置所へと運んだ。
 欠損部位は可能な限り探し出して一緒にして。刺激的な光景であるからして、袋か布で目隠しは忘れない。

「ジョナスは!? ねえ、ジョナスはどこ!?」

 遠くから聞こえてきた声は、若い女性のもの。続けて響くのは、慟哭。
「……、……」
 クラウンはそれを耳にしながら、作業を続ける。
 次第に、その慟哭が近づいて来るような気がするが、黙々と作業を続けた。

 * * *

(誰かを責めたくなる気持ちも分かります)

 桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は、クラウンとその人形たちとともに倒壊した建物の瓦礫を運んでいた。その作業の合間に見つかったご遺体には、黙祷を捧げて。

(けれど傷つけまいと、ふみとどまろうとする気持ちも――きっとあると信じているので)

 だからカイは、黙々と作業に従事する。遠くから聞こえてくる声が、楽しそうなものではないことに、胸が締め付けられるけれど。

「ジョナスはこっちに行ったの! きっとまだ、みんなの手助けをしているのよ!」
「リリアン! 待って!!」

 遠くから聞こえていた女性の声が、だんだんと近づいてくる。複数の足音が、近づいてくる。
 ふと、カイは顔を上げた。視界に入ったのは、二十歳前後くらいの泣きじゃくる女性。そして彼女を止めようとする年かさの女性だ。

「ジョナス! ねえ、どこ? 約束したわよね、一緒に採取に行くって!」
「リリアン、まだここは危ないから……」
「どうして姿を見せないの? ねえ、なんで? あなたはまだ戦闘は訓練中だったじゃない。誰があなたを戦場に出したの?」

 あああぁぁぁ……泣き叫んだリリアンと呼ばれた女性は、その場で膝をついた。年かさの女性は、困惑したように立ち尽くしている。

「ここは危ないので、あちらへ行きませんか?」

 そっとふたりに近づいて、カイは優しく告げた。瓦礫のそばではなく、すでに瓦礫が片付いた場所へとリリアンに肩を貸して移動し、彼女ともうひとりの女性を腰掛けさせる。

「リリアンさん……大切な人を探しているんですね」

 そしてその相手が、還ってこないことを、彼女は察している。けれど、受け入れられないでいる。

「傷つけられて怖いと感じたり、なぜこんな目にと思うのはあたり前のことですよ。だから、辛いなら、いま口にしてしまいましょう」

 しゃがみこんでリリアンと視線を合わせ、カイは優しく告げる。

「ここでなら、何を言っても誰も傷つけません」
「なん、で……」

 自身の言葉に反応して口を開くリリアンを、カイはじっと見つめて。その言葉の続きを待つ。

「どうして……騎士団なんかに入ったの……。なんで……前線から離れたのに、また、戻ったの……。どうして、帰ってこないの……。私が、止めなかったから? 騎士団に入るのも、前線に戻るのも、もっと強く止めれば、私が、私が――」

 吐き出された言葉に、年かさの女性が涙ぐむ。同じような思いを、彼女も持っているのだろう。

「そう思うことは悪くないです。だから自分を追い詰めないでください。あなたが悪いのではありません」

 告げて、カイは自身の外套をリリアンの頭へかぶせた。彼女の声が、嗚咽が、漏れないようにと。そして無意識に触れたのは、懐に入れた小さな袋。

(……自分がもっと強くて、上手く苦しみを払えるような言葉をもっていたら、といつも思うけれど)

 そんな魔法の言葉を、カイは持ち合わせていない。ヒトとして、または生命あるものとして『生きた』の経験が深い者ならば、もっとうまい言葉を紡ぐことが出来たかもしれない。自分にそれが出来ぬことを、悔しく思うけれど。

(……今は、自分にできることを)

 きっと、この袋の送り主なら、カイ自身ができる精一杯のことをすればいいと、言ってくれる気がして。
 だからカイは、このふたりに寄り添うことに決めた。

「ねえ、これなんだけど」
「あ、クラウンさん」

 不意に背後から掛けられた声に振り返れば、そこにはクラウンが立っていて。彼が差し出した掌を見れば、そこにはところどころ血で汚れた、質素な布製の腕飾りが乗っていた。

「ここに刺繍があるんだれけど、リリアンって読めないかい?」
「あ……本当ですね。『リリアンから……』」
「!? 見せて!!」

 クラウンとカイの言葉に、嗚咽を零していたリリアンが立ち上がった。そしてそれを目にした彼女は、再び崩れ落ちる。

「……わた……が、……あげ……」

 その様子を見て、クラウンもカイも悟った。これは彼女が、探しているジョナスという人物に宛てたものだと。

「ここまで綺麗に残っているなんて、奇跡だね」
「はい。きっと、リリアンさんの元へ帰るためですね」

 クラウンが腕飾りを渡せば、彼女はそれをギュッと抱いて涙を流す。
 嗚咽が、響く。

「今すぐに、じゃなくていいけどさ」

 リリアンに背を向けたクラウンは、カイにだけ聞こえるように言葉を紡いだ。

「失った人を悲しむのはいいけど、受け入れて前に進まなくちゃね」
「……、……」
「悔やんでばかり生きてるようじゃ、それこそ亡くなった人達に申し訳無いって話だから」

 その言葉は、大切な人を失った経験のあるカイの心中にも、響き広がっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブラミエ・トゥカーズ

ドリスに会いに行く。
守れなかったのなら、改めて守らせればよい。
皆で協力できればさらに良し。
純粋な勇気の下、退治されるのも妖怪の役目。

妖怪は人を驚かせるのが大好きなのだ。

パニックに陥らない程度に子供達を驚かせ、ドリスと子供達に退治される。
吸血鬼は怖いが、弱点だらけのため誰でも退治できるのだ。

彼等の抵抗の下、吸血鬼はコウモリに化けて、城から逃げ出してゆく。
そうして、彼等も自分達で守ったという自負を与える。

落ち着いたら【真の姿・赤い霧を漂わせた中世時代の村娘】で戻ってくる。
企みが成功していたら、ブラミエへの報酬としてドリスなどから持ち帰り用血液を貰う。

わしはブラミエの様に血は飲まんからな。



「あのとき私たちを守ったのは、あとから自分だけの獲物にするためだったのね――ヴァンパイア!」

 キッと己をにらみつける女性――ドリスを、ブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)は余裕の笑みを浮かべて見つめる。
 ドリスのそばには、数人の子どもたちがいて。彼女の足にしがみついたり後ろに隠れたりと、怯え、泣いている。

(守れなかったのなら、改めて守られせれば良い)

 だからブラミエは、ドリスの位置を確認し、その近くにいる子どもたちを脅かした。
 とはいえ本当に危害を加えるつもりがあったわけではない。脅かしたと言っても、驚かせる程度だ。ブラミエは西洋妖怪。妖怪は、人を驚かせるのが大好きだからして。
 大きなパニックにならない程度に子どもたちを驚かせば、ブラミエの予想通りドリスが駆けつけてきた。

「お主らごときに余は倒せぬ。諦めるがいい」
「っ……」

 ブラミエのその言葉が故意の煽りだと知らぬドリスは、唇をかみしめて銃を手に取る。

「ドリスおねーちゃん、これっ」
「えっ……」
「さっきね、りょーへーさんがくれたの」
「困ったときにつかう、銃のたまだって」

 子どもたちの声に、差し出されたものを見るドリス。その小さな掌の上には、銀色の弾丸が乗っていた。

「えっ、銀の弾丸……?」

 ドリスが驚きの声を上げる。
 もちろん本物の銀製の弾丸ではなく、それは銀色に塗装した弾丸である。ひとりの猟兵に協力してもらい、それを子どもたちに渡してもらった。
 この世界の『ヴァンパイア』に確実に通じるとはいえぬが、御伽噺の『吸血鬼』であるブラミエには、弱点が多い。
 日光やニンニクや塩、十字架や聖水――たくさんある弱点の中には、銀もある。
 ドリスが、その弾丸が伝承の吸血鬼の弱点であると知っている必要はない。ただ、この状況を打開するための、ブラミエを撃退して子どもたちを守るためのアイテムとなればそれでいいのだ。

「……みんな、祈って。あのヴァンパイアを追い払えるように」
「「「うん!!」」」

 子どもたちが祈りを捧げる中、弾丸を込めたドリスは、銃をブラミエへと向ける。

「いくらあがこうとて、無駄であ――!?」
「今度こそ、守ってみせます!!」

 放たれた弾丸を肩に受け、ブラミエはそれでも余裕の表情でいた。だが、その余裕の表情はすぐに崩れ。

「っ……これは……くっ……」

 肩を抑え、ふらり、ふらりと。苦しみと悔しさの演技ののち。
 彼女はコウモリへと姿を変えて、拠点から飛び去っていった。

「うそ……守れた……」
「ドリスねーちゃんすごーい!」
「すごいやー」
「ありがとー!」

 猟兵から見たら、それは茶番と思えるかもしれない。けれども『守った』という事実と自負を与えるのも大切だと、わかっているから。
 誰も、ブラミエの計画を邪魔するようなことはなかった。

 * * *

 しばらくしてのち。赤い霧を漂わせた村娘が拠点を訪れた。
 その娘は、母親に新しい治療法を試すため、などもっともらしい口実でドリスたちから持ち帰り用の血液を譲り受けた。
 この娘はどこから来たのかなど、本来なら不思議に思う点も、安定していない今の拠点の状況であれば、追求されることはなかったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィッダ・ヨクセム

『俺様に何ができる?』
……尋ねるのは簡単だろうな
だが、俺はヒトがある意味最強に怖いモノだと思ッているから素面では話せる気がしない

だから半獣人化して、獣人を装う
それでもするべき答えを見つけられたらと考える
だがそれでも…意を決して聞けなかッたり答えが出なかッたら
隙間を見つけて影に入り込んで、闇に溶け込む

第二次災害なんぞ、起きては事だ
影から手を伸ばして未然に防ごう

…バス停である俺にとッては、ヒトは話しかけてくるものだから、必要か解らなければ手を貸せない
だから、俺様がするのは……危険から守る事だけだ

ここに必要な道標は俺様ではないからな
志を抱くなら、前を向け
そのための騎士、そのための……仲間、だろう?



 ――俺様に何ができる?

 そう、尋ねるのは簡単だ。尋ねることができればだが。

「……、……」

 思い思いに動き始める猟兵たちの背を見送って、ポツリと立ち尽くすフィッダ・ヨクセム(停ノ幼獣・f18408)は思う。
 何をしたら良いのか、わからない。何ができるのか、どう必要とされているのか、わからない。
 ならば、尋ねればいい――そこまで思考は辿りついたけれど。
 フィッダにとって『ヒト』とは、ある意味最強に怖いモノなのだ。だから、素面では話しかけることができる気がしない。
 ならば――半獣人化して獣人を装うことを考えた。
 もともとこの世界には、人狼という種族がいる。それに加えて、猟兵たちはどんな種族でも姿でも現地の人々に怪しまれることがないという特性を持っている。
 だからこれは、この変化は、この世界の人達の目をごまかすためではない。
 フィッダが自身を守るための、鎧のようなものである。

「……、……っ」

 獣人姿で拠点内を歩いてみる。
 悲しみに沈むもの、恐怖に包まれているもの、自責の念に苛まれているもの、それでも誰かを支えようとしているもの、明日(みらい)へと進もうとしているもの――彼らを見て、考える。
 問うて、己のするべきことを、答えを見つけられたら。
 けれどもその思いと同時に湧き上がってくるのは。

 それでも――意を決して聞けなかったり、答えが出なかったとしたら――?

 その結果は、フィッダにとって恐怖や不安に近い。
 本体がバス停である彼にとってヒトとは、話しかけてくるものである。
 バス停はその場にあって、目印となるものだ。自発的に動くものではない。定位置に『在る』、『在り続ける』――そうあれかしと作られたもの。
 当然、ヒトの身を得たといってもフィッダはその性質を強く持っていて。だから、必要か解らなければ手を貸すことが出来ない。
 だから、何をしたら良いのか、何ができるのか、聞いてみようと思った。
 そのために、半獣人化もした。
 ……けれど。

「っ……」

 やはり自ら尋ねることが出来ず、フィッダは建物と建物の間にある影へと入り込み、その姿を闇に溶け込ませた。

(第二次災害なんぞ、起きては事だ)

 だから、影から手を伸ばして未然に防ごうと思う。
 己が必要かわからない以上、彼ができるのは、彼がするのは――危険から守ることだけだ。

 * * *

「どうしてっ……どうしてあんたがっ……」
「とーちゃん、とーちゃん!!」
「……まだ、十七歳だったのに……」

 遺体安置所には、変わり果てた姿の大切な人たちと対面した人々の、慟哭や行き場のない思いが充満している。
 影の中からその光景を見ていたフィッダは、一人の騎士団員に気がついた。

「俺は……俺は運良く……」

 近づいて見れば、その団員――セシルは、爪が食い込むほどに強く拳を握りしめている。
 彼は猟兵の力で傷を治してもらい、負傷者の退避に力を注いだ。
 だが、その治療が間に合わずに命を落とした仲間たちもいる。間に合った彼は、運が良かったのだ。

「……俺の……」

 彼が、遺族たちの元へと歩もうとしたのを、フィッダは止めた。足首を掴まれたことに、驚いた様子のセシルだったけれど。
 フィッダが姿を現せば、猟兵の一人だと認識したようで。

「今はやめとけ」
「でも、俺に怒りや悲しみをぶつけることで気が晴れるなら……」
「それで? 怪我人が増えるだけだろ?」

 セシルが遺族の感情を受け止めても、失った命が戻ってくることない。
 だから。彼が彼らのためにすべきことは。

「志を抱くなら、前を向け」
「……、……」
「そのための騎士、そのための……仲間、だろう?」

 この拠点に必要な道標は、自分ではない。それをフィッダは分かっているから。
 その道標たる彼が、正しく『道標』となることができるように。
 彼を危険から守ると同時に、道標の先輩として、道を示した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
ついた傷が、痕が
消えることはない
ああ、ああよくわかってる…
せめてそれが和らぐように
感情を発散させてやろう

騎士団も住人も
怪我人以外を集め一緒に墓を作る
掘った穴に体か…その人の持ち物をいれて
名前を彫った木を立てる
生きてくためにする事は
そりゃいっぱいあるけどさ
少しくらい
今くらい、いいだろ
明日からまた前向かなきゃいけねぇんだから

街の人に
死んだ人に
祈りと一緒に歌を贈ろう
“ちゃんと”泣けるように
悔しい気持ちや悲しい気持ち
その他のいろんな気持ちを押し込めた鎮魂歌を

触れる手にアレスを見て
そこではじめて
俺も泣いてるのに気づいた
招かれるまま肩に顔を埋め

(…ああ、生きてる音だ)

安堵にまた涙が零れた


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

刻まれた傷は消えはしない
…身を以てよくわかっている
(思い出すは滅んだ故郷
僕の手で作った…母さん達の墓)
彼らの行き場の無い感情が
守れなかった痛みが
“傷痕”が…せめて和らぐよう
力を尽くそう

騎士団や住人を集め
一緒にお墓を作ろうと提案を
…お別れの為だけじゃなくて
彼らが帰る場所へ、導かれるように…その祈りと道標の為に

街に
人々に
騎士団に
そして…亡き人々に
彼の歌が届けと
祈りと【生まれながらの光】を
どうか、守る事を
信じる事を
…朝を迎える事を
諦めないで欲しいと想いも込めて

隣を見れば、潤む瞳に気づき
その手に触れ
僕の肩を貸すように
黙って彼の頭を抱き寄せる

(…泣いていいよ、セリオス
僕は…此処にいる)



 刻まれた傷は消えはしない。
 ついた傷が、痕が、消えることはない。

(……身を以て、よくわかっている)
(ああ、ああよくわかってる……)

 故郷を滅ぼされたアレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)とセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)には、人々の負った傷や痛みがよく理解できた。
 ふたりの体験してきたそれは、この拠点の人々のものよりも過酷で深いものだったけれど。
 こういうものはどちらが、と比べるものではないから。
 アレクシスの脳裏に浮かぶのは、自らの手で母親たちの墓を作った滅びの記憶。始まりの記憶でもあるそれを思い出すと、口の中に名状しがたい苦味が広がってゆく気がした。

(彼らの行き場の無い感情が、守れなかった痛みが――『傷痕』が……せめて和らぐよう)

 隣に立つセリオスを見れば、彼もまた、アレクシスを見ていた。

(せめてそれが和らぐように、感情を発散させてやろう)
(力を尽くそう)

 視線を合わせて頷きあって、ふたりは遺体安置所に集った人々に提案する。
 怪我人以外、騎士団も住人も一緒に、墓を作ろう、と。
 掘った穴に遺体やその一部、遺体がなければなにか持ち物を入れて。名前を彫った木を立てる。
 この作業は、区切りのためだけではない。死を、受け入れるためだけではない。

「……お別れの為だけじゃなくて、彼らが帰る場所へ、導かれるように……その祈りと道標の為に」

 アレクシスの言葉に人々は、頷きあって。泣いたまま、泣きはらした顔のまま、涙をこらえたまま――墓を作ることを決めた。

 * * *

 墓碑代わりの木を立てれば、墓が出来上がる。
 それはその人が生きた、存在した証であると同時に、その人の命が散ったことをも意味する。
 呆然と、刻んだ名前や埋めた箇所を見つめているだけの人たちもいた。
 だから、セリオスは、促すように声を上げる。

「生きてくためにする事は、そりゃいっぱいあるけどさ」

 それは、彼らの気持ちが痛いほど解りすぎるから、紡ぐことのできる言葉。

「少しくらい、今くらい、いいだろ」

 泣くことや、感情を発散させることは大切だ。そのまま溜め込んでしまえば、それは常にその人を蝕む毒となり、いつ爆発するのかわからない時限爆弾になる。
 感情を爆発させたあとは忘れろ、というわけではない。

「明日からまた、前向かなきゃいけねぇんだから」

 そう、これは前を向くために、必要な儀式なのだ。

 大きく息を吸ったセリオスが紡ぐのは、鎮魂歌。その旋律に押し込められているのは、悔しい気持ちや悲しい気持ち、そしてそれ以外のいろんな気持ち。
 墓地としたこの場に来ることが出来なかった人々に、死んでしまった彼らに贈る、祈りの歌。『ちゃんと』泣けるように――。

(街に、人々に、騎士団に――そして……亡き人々に)

 セリオスの歌が届くように――そう願いながら、アレクシスは聖なる光を纏う。
 その光はセリオスの歌声と共に、この場にいる人々へ、この場に来ることが出来なかった人々へ、光条となり飛んでいく。

(どうか、守る事を、信じる事を……朝を迎える事を、諦めないで欲しい)

 諦めずに進んだ結果、彼の隣にはセリオスがいるのだ。
 だからこそ、この拠点の人達にも、ここで諦めてしまわないで欲しいと強く思う。

「……、……」

 歌を紡ぎ続ける彼を見やれば、その青が潤んでいる。だからそっと、アレクシスは彼の手に触れて。
 自身の肩を貸すように、その頭を抱き寄せた。

「……!」

 触れた手に、隣に立つ彼を見て、そこでセリオスは初めて気がついた。己もまた、泣いているのだと。

「っ……」

 招かれるままに肩に顔を埋めれば――。

(……泣いていいよ、セリオス。僕は……此処にいる)
(……ああ、生きてる音だ)

 言葉にせずとも伝わる思いと、聞こえてくる鼓動。
 それは夢でも幻でもなく、今、一番近くにある現実で。

 だから、安堵して、また――涙が零れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
(あの気を落とした後ろ姿は…ルーサー様ですね
無理もありません
騎士でありながら炎の呪詛で前後不覚となった不覚を誰よりも本人が恥じている筈
…慰めは逆効果、ならば)

自己●ハッキングで声音を厳めしい物に

この惨状の責任を取る為、騎士として貴方に為せる事があります
(猟兵が集落の復興に尽力する旨の契約書を取り出し)
貴方が支払う対価の欄は空白…『白紙の契約書』です

人々の前で、その覚悟をお示しください

……

承りました

皆様、ご覧下さい
彼は真(まこと)の騎士として、我が身を捧げました
どうかそれをお忘れなきよう

……
さて、これから忙しくなりますね
怪我人の治療、建物の修繕に葬儀…

対価?

貴方は覚悟を示されたではありませんか



 動ける者は騎士団、住人関係なく集まって墓を作ろう――そう呼びかけられて人々が移動してゆく。
 動けない者たちのそばには、猟兵たちがついている。皆がそれに安心して移動してゆくのを、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は静かに見守っていた。
 だが、その中に、気になる背中があった。
 背を丸めて下を向き、とぼとぼ、とぼとぼと最後尾を歩いていくのは――。

(あの気を落とした後ろ姿は……ルーサー様ですね)

 何度も接触した、騎士団員の一人だ。彼は……。

(無理もありません。騎士でありながら炎の呪詛で前後不覚となった不覚を誰よりも本人が恥じている筈)

 こんなときに慰めは逆効果だと、トリテレイアは知っている。ならば?

 * * *

 人々が墓を作り終えたのち。それでも背を丸めたままのルーサーの前へと歩み出たトリテレイアは、自身をハッキングすることで声音を威厳のあるモノへと変化させて。

「騎士、ルーサー」
「……!?」

 場に響く電子音。名を呼ばれたルーサーは、驚いた様子でトリテレイアへと視線を向ける。

「この惨状の責任を取る為、騎士として貴方に為せる事があります」
「えっ……」

 そう告げてトリテレイアが差し出したのは、契約書。それは、猟兵がこの拠点の復興に尽力するという内容のものだ。

「これは……」
「貴方が支払う対価の欄は空白……『白紙の契約書』です」

 対価の欄が白紙の契約書にサインをする――それは、対価に何を求められるかわからないまま契約を結ぶ、つまり何を対価として求められても、差し出す覚悟を示すということ。

「人々の前で、その覚悟をお示しください」

 いかめしい声音。威厳を纏ったトリテレイアの差し出した契約書。それを拒むという選択肢は、ルーサーにはないはずだ。
 否、拒むことが出来ない内容、出来ない場所でこの契約を持ち出したのだ。
 人々の視線が、トリテレイアとルーサーへ集まっているのを感じる。
 もちろん、この契約書を盾にして無茶な対価を要求するつもりはない。
 これはあくまでも、『儀式』である。

「……」

 ごくり、ルーサーが唾を飲み込んで、契約書へと視線を落とす。
 しばしの沈黙。
 のちに彼は、自身の懐からナイフを取り出し、躊躇わずに指を切りつけて――。

「……承りました」

 これにより、契約は成立した。トリテレイアは契約書を掲げ、人々へと見せつけるようにして。

「皆様、ご覧下さい。彼は真(まこと)の騎士として、我が身を捧げました」

 そう、これが一番肝心なところ。
 彼が人々の前で、臆すこと無くその身を差し出した――その事実を周知すれば、彼へのヘイトは減るはずである。

「どうか、それをお忘れなきよう――」

 トリテレイアの声が響き渡る。
 水を打ったように静かだったその場に、拍手が湧き始めた。

 * * *

「さて、まだまだやるべきことは多いですから、忙しくなりますね。怪我人の治療、建物の修繕……」
「あの、対価は……」

 トリテレイアが指折り数えるように紡いでいると、不安そうなルーサーに声を掛けられて。

「対価?」

 いつもの声音に戻して。トリテレイアは不思議そうにそう返し、続ける。

「貴方は『覚悟』を示されたではありませんか」
「っ――……ありがとう、ございますっ……」

 言葉をつまらせながら頭を下げるルーサーの肩を叩き、トリテレイアは彼を促すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
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アシュリーさんと皆様へお話があります、叙任式をしましょう、正式なものではありませんしただ誓いの言葉を言うだけのものですが幾多の騎士の誕生を見てきた幽冥竜があなた達を騎士と認めました、話を受けますか?

では、おばば様の前に跪いて“この魂が別の器に宿るまで騎士であることを誓う”と言ってください、はい、それだけです。

本来なら騎士には剣や馬等を贈るのですが用意ができなかったので別のものを、おばば様に今回死んでしまった人達を呼んでもらいました、手順を省いた急な呼び出しだったので彼等が生者と話せるかはわかりませんがそこにいるのは確かです。
どうぞ最後の一時を、おばば様から新たな騎士達へ贈り物です。



「アシュリーさんと皆様へ、お話があります」

 埋葬も一段落ついた頃、サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は一つの提案をした。

「叙任式をしましょう」
「……叙任式?」

 驚いたようにその言葉を繰り返すアシュリーに、サフィリアは続ける。

「正式なものではありませんし、ただ誓いの言葉を言うだけのものですが……幾多の騎士の誕生を見てきた幽冥竜が、あなた達を騎士と認めました」

 サフィリアは、アシュリーに幽冥竜の導く騎士団の指揮を託した。そして幾多の騎士を見てきたおばば様――幽冥竜は、果敢に戦う彼らを騎士と認めたのだ。

「――話を受けますか?」
「騎士になるには、そういった儀式を経る必要があると、聞いたことはありますが……」
「やはり正式なものではないと……」
「い、いえっ」

 アシュリーが即答できないのは、正式だかそうでないかが問題ではない。サフィリアは分かってはいたが、あえてそのような言い方をしてみた。

「むしろ、猟兵の方に認めていただけるなんて、これ以上はありません!」

 ヒトの治める国が存在しない今、国から正式な叙勲を受けるのは難しい。
 ならば、彼らにとって救いの光である猟兵から騎士として認められるのならば、これ以上はない。

「では皆さん、おばば様の前に跪いてください」

 サフィリアの喚び出した、巨大な幽冥竜。その前に、自力で動くことのできる騎士団員たちは跪いて。
 傷が深く動けない騎士団員たちをも等しく騎士として認めるために、叙任式は簡易救護所のそばで行われた。

「『この魂が別の器に宿るまで騎士であることを誓う』と言ってください」
「誓うだけで……?」
「はい、それだけです」

 ただ言葉を紡ぐだけではない。その誓いが何よりも大切であることを、『騎士』を名乗る彼らは知っているはずだ。

「幽冥竜よ」

「「「我ら、この魂が別の器に宿るまで、騎士であることを誓う」」」

 彼らの誓いにゆるりと幽冥竜が頷き、ここに彼らは騎士として認められることとなった。
 どこからともなく、拍手が沸き起こる。
 騎士団はこれからも、この拠点の希望となることだろう。

「本来なら、騎士には剣や馬等を贈るのですが、用意ができなかったので」

 別のものをとサフィリアが示せば、おばば様の背から降りてきたのは、この地の戦いで亡くなった人たちだ。

「手順を省いた急な呼び出しだったので彼等が生者と話せるかはわかりませんが、そこにいるのは確かです」

 言葉を失った騎士団員たち。
 助けられなかった仲間が、散ってしまった仲間が、そこにいるのだ。
 言いたいことはたくさんあるだろう。生と死で分かたれてしまった仲間にいだく想いは、言葉にならないかもしれない。

「どうぞ最後の一時を。おばば様から新たな騎士達へ贈り物です」

 彼らに駆け寄る者、その場で崩れ落ちる者、嗚咽を零す者――新たな騎士たちの門出を、サフィリアは静かに見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルパート・ブラックスミス
襲撃者と同じ意匠の黒騎士鎧など忌避されるだろう。
だからこそ自分がするべきはアシュリーら砦の騎士団への発破をかけること。

傷、恐怖、狂気、そして罪過。
どれもが生命である限り避けられんものだ。

故にその総てを背負え。護るべき民たちの分まで。
呑まれるのではなく、拒むのでもなく、己の理性と魂の一部として。
それが騎士道だ。騎士が進まねばならぬ未来だ。

(今までと違う、『彼女と同じ青い大翼』を広げる真の姿を展開)

我は、炎にくべられたこの翼を背負うて己の騎士道を行く。
汝らは今日の恐怖を、怒りを、無力を、背負うて行けるか。
行くと決意できるならば、この翼と鎧に対峙し宣言せよ。民たちに確と示せ。

砦の騎士は此処に在りと。



(襲撃者と同じ意匠の黒騎士鎧など、忌避されるだろう)

 いくら猟兵であっても――ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)はそう考えている。
 記憶にないとはいえ、あの首魁と自分とは繋がりが深すぎる。加えて、視覚的に自身の姿は、この拠点の者たちにとっては恐怖の対象足り得るだろう。
 だからこそ、自分がするべきは――。

 叙任式を終え、命落とした仲間たちとの語らいも一段落ついた頃。
 夜も、近づいてきていた。
 住人たちはそれぞれ、無事だった建物へと分散し。
 騎士団たちは住人たちが建物へと入ったのを、確認して回っていた。
 そんな彼らの前へと、ルパートは姿を現す。

「――っ!!」
「あっ……」

 騎士団員たちが身構えるのが分かる。アシュリーが、彼は猟兵だと告げるけれど。
 ルパートとしてはその反応も無理はない、と。想定内だ。
 だから、告げる。
 彼女と、同じ声で。

「傷、恐怖、狂気、そして罪過。どれもが生命である限り避けられんものだ」

 ルパートと彼らの間には距離がある。それでもその言葉の持つ重みは、ルパートの容貌を伴って彼らへとのしかかる。

「故にその総てを背負え。護るべき民たちの分まで」

 ゆっくりと、噛みしめるように告げる。

「呑まれるのではなく、拒むのでもなく、己の理性と魂の一部として」

 それが、ルパートにできることだからだ。

「それが騎士道だ。騎士が進まねばならぬ未来だ」

 騎士たる先達として、彼らに教えられること。
 この世界で、誠の騎士が存在した時代に、騎士として在ったルパート。記憶はなくとも刻まれた騎士道が、彼には確かにあるのだから。

 ふぁさ……。

 彼の背に広がる翼は、青い流動鉛のものではなかった。
 それは『彼女』の、あの、青い大翼――。

「我は、炎にくべられたこの翼を背負うて己の騎士道を行く」

 ふわりと宙に浮かぶそのさまは、『彼女』の襲撃当初の行動を思わせる。

「汝らは今日の恐怖を、怒りを、無力を、背負うて行けるか」

 けれどもルパートが投げかけるのは、彼らを誑かす言葉でも傷つける攻撃でもない。
 彼らが今後も『騎士』として、しかと在ることができるための、標(しるべ)。

「行くと決意できるならば、この翼と鎧に対峙し宣言せよ。民たちに確と示せ」

 その言葉にアシュリーたちが振り返ると、いつの間にか建物へと入ったはずの住人たちの姿がそこあった。
 窓や出入り口から顔だけだして様子をうかがっている者、距離を置いて怯えた表情を見せる者、様子は様々ではあるが。

「砦の騎士は此処に在り、と」

 ルパートの言葉に、アシュリーが頷き。
 彼の視線を受けて、他の騎士団員たちも頷きあって。

「我ら、砦の騎士」
「今日の恐怖を、怒りを、無力さを胸に刻み、糧として、騎士道をいざ征かん!!」

 アシュリーの宣誓に、騎士団員たちが呼応する。
 それを見つめる住人たちの表情を確認して、ルパートは内心安堵してた。
 己は自身の役目を、果たすことが出来たのだと。
 償い、ではない。自身と縁深い『彼女』が起こした災禍ではあるが、償うとしたらこの程度では足りぬ。
 この翼を背負って己の騎士道を行く――それが償いと言えよう。

「ご指導、感謝いたします。騎士道を歩む先達に出会えたこと、我々は心から嬉しく思います」

 アシュリーは意欲に満ちた顔で、ルパートへと右手を差し出した。
 ゆっっくりと地に戻ったルパートは、その手を――。

 * * *

 この世界には、かつてヒトの国が在った。
 その国には『騎士』が存在しており、人々のためにその職務を全うしていた。

 今、ヒトは支配されることを余儀なくされている。
 それが『あたりまえ』となってしまっている。
 けれどもこうして、語り継がれてきた『騎士』というものに憧れ、希望を見出し、誰かを守りたいと思う者たちがいる。
 それはきっと、この闇の世界に差す、光となりえることだろう――。 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年03月22日
宿敵 『黒騎士の武具造りし黒魔術師ブラックスミス』 を撃破!


挿絵イラスト