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🐟＜ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアア！！

作者：空白革命

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「ゴリラバックドロップ！」
「へぶっし！？」
　見たか！　キマ本プロレスのスター選手デストロイヤーゴリラ坂の必殺ゴリラバックドロップ。
　ゴリラの腕力とゴリラの繊細さとゴリラの優しさすべてが詰まった華麗なる技に観客たちは大興奮だ。
　今日も賑やかなプロレス会場。
　食うも寝るも豊かなキマイラたちにとって肉体を使った娯楽がウケぬはずがなかろうて。
　だが、そんな会場に――！
「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
　首から上がマグロ。他には赤褌くらいしかつけてねえヤッベェ怪人ツーナーが全力疾走してくるではないか。
　パイプ椅子というパイプ椅子を蹴飛ばし跳躍からのリングイン。
「ねこが！　ネコガアアアアアアアアアアアアア！　アアアアアアアアアン！」
　キマイラたちの中に嫌な予感がわき上がった。
　振り返れば、そう、奴らが居る。
　大量のマグロ怪人が全速力タックルで壁をぶち破り、会場内へとなだれ込んできたではないか。
「「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」」
　あ、やべ。そう思うが時既に遅し。マグロ雪崩が全てを巻き込んでいく。

「ひとつ告白しておこう……私は実は、海の生き物が苦手だ」
　海の中を泳いでいると自分よりデカい魚が真横を泳いでいるとか、恐怖以外の何物でも無い。そんな風には思わないだろうか？
「食うのはいいんだ。泳いでいるのが苦手でな。水族館とかもう……おっと」
　所変わってグリモアベース。話題がそれかけたことに気づいて、ナンシー・アラタメは首を振った。
「キマイラフューチャーで、怪人が集団暴走事件を起こしている。
　場所は、ここだ……」
　ナンシーが手を翳すと、風景は広大なプロレスリング。と、それを囲む巨大なドーム会場になった。
「ここへマグロ怪人がものすごい勢いで突っ込んでくる。
　こいつはどうも走り回るだけで周囲を破壊して回る性質があるらしくてな、会場はめっちゃくちゃだ。
　当然キマイラたちだって逃げる。私だってそうする。
　だがこのまま放っておけば会場どころでは済まなくなるだろう。それに、これだけの群れが一斉に動き出すのも不自然だ。
　きっと何か裏が……黒幕がいるに違いない。
　まずは会場へテレポートして、マグロたちを倒してくれ。
　あとは……うん、なるようになるだろう！」

第1章 集団戦 『マグロ怪人ツーナー』

POW   :    止められない止まれない 【食べられるという恐怖心から無限のスタミナ】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。 SPD   :    そんなことより助けて欲しい レベル分の1秒で【腕を振り払うことで自らに噛み付いてる猫】を発射できる。 WIZ   :    水を得たお魚 【水鉄砲】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を水浸しにし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
「ああっ！？　もう、折角キラキラの筋肉ショーを楽しんでたのに台無しっすよ！」
　蹴倒されるパイプ椅子。
　金剛・狂は素早く飛び退くと、周囲の状況を確認した。
　右はマグロ左はマグロ。総員全裸一歩手前のマグロたちが決死のダッシュで押し寄せるマグロウェーブである。
「筋肉のぶつかり合いならぬ魚肉のぶつかり合いっすか。そうだね。プロテインもカルシウムも豊富だね――ってちがう！」
　狂はグッとファイティングポーズをとると、背後にダイアモンドでグレートなゴーストを呼び出した。
　取り出したクシで前髪を整え――。
「このままじゃプロレスどころじゃないっす。かかってくるっす！」
「ヴァアアアアアどけええええええええ！」
　どこからともなく（本当にどこだろう）から取り出した水鉄砲をびしゃーと浴びせてくるマグロ怪人。
　狂はそれを高速ガトリングパンチで迎撃。
　あたりにマグロ水（水素水と同じ成分）が飛び散っていく。
　そんな中で狂の頭にひらめきが走る！
「こいつらの弱点……そうか！　ネコっす！　ネコさんたちを元気にすれば！」
　狂は『Shine On You（シャインオンユー）』の輝きを拳に宿し、そのへんに寝転んでいたねこさんたちに元気を分け与えた。
「さあいくっす！　ごちそうが押し寄せるっすよ！」

成功 🔵​🔵​🔴​

「ヴァアアアアアアアアアアアアアアン！？」
　元気になったネコたち相手に荒れ狂うマグロ怪人たち。
　水鉄砲を四方八方に撃ちまくりおねがいねこさんこないでやめてとゾンビ映画で追い詰められた人みたいになっていた。
　ザ・好機！
　ミコトメモリ・メイクメモリアの瞳にきらりと英知の光が宿る！
「ボクのユーベルコード《君を送る記憶の欠片》は記憶のかけら越しに視線を向けた対象を任意の位置に移動させるもの！　つまり――」
　左腕を水平に広げ、両足首をクロスさせ、ミコトメモリの力の根源でもあるピースオブメモリアを二本指の間に挟んで目の前に翳した。
　するとどうだ！
　マグロ怪人は次々と数メートル後ろに移動させられ走っては戻り走っては戻りそうまるで人生のようだねって思い始めた段階でミコトメモリは気づいた。
「あっだめだこの量はむり」
　乾いた目でつぶやくと、たちまちマグロの波に呑まれていった。
「ミコトメモリいいいいいいい！」
　割と一方的に知っていた鏡島・嵐はマグロウェーブにながされていく少女をダッシュで追いかけた。
　そんな彼を一斉ににらみ付けるマグロ怪人の群れ。
「ヴァアアアアアアアアアアアアアア！？」
「普段の戦いとは別の……別の意味でこわい！　そしてネコがいたい！」
　マグロ怪人にしがみついているぐるめにゃんこの群れ（実質的にマグロ怪人の数倍多い）がべしべしと投げつけられてくる。
　このままでは流された少女も助けられない。
「そっちがネコの力を借りるなら……こっちはライオンだ！　手を貸してくれ、クゥ！」
　嵐が召喚のサインを空中に描くと、焔を纏った黄金のライオンがプロレス会場の壁を突き破って登場。そのへんのマグロ怪人を適当に撥ね飛ばしながら走ると、嵐の横を併走し始めた。
「よしっ！」
　颯爽と飛び乗る嵐。
「頼むぞクゥ……具体的にはよくわからないけど、こう、なんか……なんか頑張ってくれ！」
「グォウ！」
　勇敢に吠えるクゥ！
　腕を振りかざすクゥ！
　マグロ怪人を取り押さえるクゥ！
　口にくわえるクゥ！
　そのままむしゃむしゃとや――。
「まったまった！　たべるな！　ぜってぇ腹壊すから！」
「たすかった……」
　クゥのしっぽにしがみついて事なきを得たミコトメモリ。
　嵐はクゥの頬をぺしっとやってマグロ怪人をはき出させると、あらためて戦闘をはじめるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「ヴァアアアアアアアアアアアアアア！！」
「ウォアアアアアアアアアアアアアアッ！？」
「にゃあああああああああああああああああああああ！！！！！」
「ネコちゃああああああああああああああああああん！！！！！」
　プロレス会場がマグロコミケ会場と化しているので一瞬どこで何がおきてるのかわっかんねーが、さっきの『ねこちゃん！』を中心に探してみよう。
　そう、いたね。マグロに銃を突きつけて目を血走らせたネレム・クロックワークだね。
　……強盗かな？
「ねこちゃん！　ねこちゃん！　ねこちゃん！」
「ヴァアアア！？　ヴァー！」
　両方日本語を忘れた生き物みたいにもみあっているが、これをネレム学の専門家ネレムマイニチミテオール博士に解説させるとこうだ。
『ねこちゃんをこちらに渡しなさい！　こんな可愛いネコちゃんを振り回すなんて、冷凍マグロの刑もしくはフリーズマグロの刑に処しますよ！』
「ヴァヴァヴァヴァー！！」
　マグロ怪人はこんなのほしけりゃくれてやるぜ！　とばかりにネコを連続スローイング。
　ネレムはそれを右へ左へジャンプしてキャッチした。
「ねこちゃん！」
「にゅああああああああああああああああん！！」
　そんなネレムを大胆に飛び越える巨大ネコ。じゃなかったステラリア・ミューズライン。
「にゃあああああああああん！　にゃあああああああああああああああああ！」
「ヴァアアアアアアアアアアアアアアア！？」
　今度はステラリア学の専門家ステラリアフォローシテオールをお呼びいたしました。
　彼女はなんて？
『にゃーんと言っていますね』
　くっそつかえねえなこのネットストーカー。
「にゃにゃーん！」
　はいでは代わって解説の桜庭・英治さんに来て頂いています。
　英治さんこれは？
「おそらくステラリアの中に眠る獣的な血……かなぁ？　そういう……あれが、こう、なんかなったんだろう！　ほら見ろ、他のネコのように噛みついていく」
「にゃーん！？」
　噛みついたステラリアがそのあとマグロ怪人のネコスローイングアタック（というより生きるのに必死な振り乱し）によってステラリアがすっとんできた。
「そうつまり彼女もまたネコってこと――ぐっは！？」
　直撃をうけた英治。
「遊んでる場合じゃなくなってきたな。だが俺は聞いたことがある。マグロは……泳ぐのをやめると死ぬ！」
　つまり、止めれば死ぬってことだよな！
　異能バトルもので勝機を掴んだ主人公の顔をして、英治はカッと右手の平を突きだした。
「てめぇらの速度と俺のサイコキネシス。どっちが上か決めようぜ！」
「ヴァヴァッ！？」
　びしり、と動きを無理矢理にとめられたマグロ怪人。
　が、英治はわかっていた！
　マグロ怪人……止まっても死なないって！
「知ってた！」
「けどぐっじょぶです！」
「にゃーん！」
　ステラリアとネレムがむくりと立ち上がり、それぞれ凍結魔法弾と炎の矢を連射。
　マグロ怪人たちを凍らせたり焼いたりたまに溶かしたりぬるくしたりしていった。
「「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ！？」」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

「ヴァー！？　なにするっすか！　デストロイヤーゴリラ坂の試合楽しみにしてたのに！　俺大ファンなのに！」
　ガタッと立ち上がったリゲル・ロータリオ。彼の肩を、少女のように美しい男性が……雨咲・ケイがぽんと叩いた。
「わかります」
「っすよね！！」
「落ち着かせようっていうモーションだったろ今の」
　思わず二人を二度見するガルディエ・ワールレイド。
　彼が開いていたのは『異世界に転生したけどプロレスでハーレムつくたわ』という漫画だった。読む本間違えてそうだけど、さっきその辺に落ちていたので都合良く拾って読んだ次第である。
「いや、俺、しらねぇんだけど……プロレスってそんなに楽しいものなのか？」
「モチのロンっすよ！」
「熱いですよね、プロレス」
　ぱっと見プロレスよりもお紅茶が好きそうな顔をしているケイだが、古武道を習っていたせいだろうか、プロレスの潔いバトルスタイルがエンタメとして好きらしい。
「そのプロレスを台無しにするとは……許せませんね！」
「っすよね！　ゴリラ坂のゴリラスープレックスはアピールモーションが」
「待った待った」
　ガルディエは両手を翳した。
「その話、後でいいか」
　視線で後ろをさししめす。
「「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア！！」」
　マグロ怪人たちがネコをぶんぶんしながら高速で走り回っていた。
「おっと、そうでした」
　眼鏡のブリッジを押すケイ。
　ガルディエは咳払いをすると、跳躍してマグロ怪人の前に着地。
「プロレスのことは大体分かったぜ。第一に、敵の攻撃はよけねえ！」
「ヴァー！」
　マグロ怪人のタックルが炸裂。
　ガルディエはとんでもない距離を吹き飛ばされたが、気合いで耐えた。
「第二に、観客への呼びかけ……皆！　俺を応援してくれ！」
「「がんばれガルディエ！　負けるなガルディエ！」」
　ケイたちの声援を背に浴びて、ガルディエは黒剣を放った。
　切りつけるため？　ちがうね！　金網電流デスマッチにするためだね！
「うおおおおおおおおお勝負だマグロ怪人！！」
　ポールから跳躍するガルディエ。
　彼の勇気がマグロ怪人を倒すと信じて！　ご愛読ありがとうございました！

「て、まだ終わったらダメっす！」
　頭の上でばってんを作るリゲル。
「クククその通りだ」
「俺たちはまだ負けていない」
　自分が怪人だってことをようやく思い出したのか、マグロ怪人たちがなぞのポーズ（手をわきわきさせながらがに股でゆっくり近づくポーズ）でリゲルたちを取り囲み始めた。
　対抗して謎のポーズ（手をネコちゃんフォームにしてくいくい両手でまねくポーズ）をとるリゲル。
「にゃーっすよー、ネコっすよー」
「ふん！　俺たちがその程度の猫マネにおびえると思っているのか！」
「かかかかかかたはらいたいわ！」
　マグロ怪人たちの足がガクガクしはじめた。
「効いてますよ！　すごく！」
「今っす！」
「はい！」
　ケイはサッとマグロ怪人たちの死角にまわると、鋭く手刀を構えた。
「ハッ、しまった！」
「今さら気づいても遅いんです！」
　しゅばーっとした謎の光と蝶のトーンと虹色のトーンがこうふわーってしてケイがマグロ怪人たちを通り過ぎた直後にマグロ怪人たちはサシミになった。ゴウランガ！
「今度は、プロレスが終わってから来るんですね」
　ケイは眼鏡をちゃきっとやって振り返った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

　ジャーンジャーン！
「我こそは料理人、ウィーリィ・チゥシャン！」
「「ヴァアアアアアアアア喰われるヴァアアアア！！」」
　血走った目でパイプ椅子とかポップコーンとか投げつけてくるマグロ怪人たち。
　ウィーリィは咄嗟に中華鍋ガードをした。
「やめて！　食べないから！」
「……たべない？」
「食べないから！」
「……ほんとに？」
　長机を持ち上げてこっちをじっとみるマグロ怪人。
「ひゃっはー！　新鮮なマグロだー！」
　星宮・亜希がナイフとフォークを手に飛び出してきた。
「「ヴァアアアアアアアアアアアアアアア！！」」
「やめて俺に投げないで！」
　責任の無い投擲がウィーリィをおそう。
　亜希は悪しき者を打ち払う風を授けるという聖なる槍を銛の構えで振り上げた。
　こうなってくるともう海の幸を授ける銛である。
「あなたも新鮮なサシミにしてやりますよ！　がんばりましょう！　ねこさん！」
「「にゃーん！」」
　いつのまにかネコさんたちが味方になっていた。
　利害の一致かな？
「刺身？　お寿司？　どっちでもいいですね。斬ってから考えましょう」
　燈夜・偽葉が、あらわれた！
　茜色の刀をすらぁっと抜いて、悲しいけどこのあと築地に並ぶ運命なのねって目でマグロ怪人たちを見下ろした。具体的にはたぢま式ざぁこアイコンの顔で見た。
「覚悟してくださいマグロ……まぐ、えっと……マグロ怪人！　ツーナー！　ねこごと斬ってあげます！」
「今何と間違えたんです？」
「わかるよ。まぐろ、こわい」
　星羅・羽織がこっくこっくと頷いた。
　片手を出して指折り数えはじめる。
「さしみもこわいし、おすしもこわいし、カマ焼きもこわいし、つみれ汁もこわい。ツナ缶もこわいしフライもこわい。あと、えっと……ネギトロ軍艦もこわいかな」
「好きな食べ物を挙げているだけでは？」
「『ここらでひとつ熱いお茶がこわい』」
「そこだけ流ちょうに言われましても……！」
　まあまあ、と手を翳す羽織。
「まぐろはこわい。けど、ねこは、かわいい」
「なるほど。ネコを斬るのはやめておきましょう」
「「うんうん」」
　亜希とウィーリィとご飯待ちのネコさんたちが同時に頷いた。
「貴様らいつまで遊んでいる！」
「この私の力によってネギトロとなるがいい！」
　急に立場を思い出したらしいマグロ怪人たちがベットジャンピングクロギャルフォーム（がに股で飛び上がるフォーム）で飛びかかってくる。
「「俺たちをくわせはせんぞー！」」
「うわー！　俺食わないって言ってるのにー！」
　防御を固めるウィーリィ。
　その一方で。
「刺身盛り合わせ！」
　偽葉がユーベルコード『鮪よ、魚肉を分かちて（オサシミ）』を繰り出した。
　【ただ一度だけの抜刀斬撃】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【同時にレベル本の縦横無尽の広範囲空間切断】で攻撃するのだ。説明をコピペしてきました。
「グワーーーーーッ！」
　一瞬でマグロ怪人がマグロ刺身の盛り合わせになった。
「「ヴァアアアアアアアアアアア！？」」
　恐怖のあまり長机やマイクを投げつけてくるマグロ。
「やめてっ！　だからこれ俺のせいじゃないから！」
　責任のない投擲がウィーリィを襲う。
「とったどーーーーーーーーーーーーーです！」
　一方で亜希がマグロを貫き掲げていた。
　それを羽織がおこしたエレメンタルな強火でじっくり焼きながらぐーるぐーる回し……。
「「じょうずにやけましたー」」
「「ンヴァアアアアアアアアアアアアアア！？」」
「やめてだから俺のせいじゃ……せいじゃ……あーもう『神火の竈（プロメテウス・レンジ）』！」
　ウィーリィが包丁をガッてやると額にガッてなったマグロ怪人が一瞬にして強火でこんがり焼かれ、更に羽織と亜希と偽葉が飛びかかり気づいた頃にはマグロハンバーグになっていた。
「「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！！！」」
「ああっ、こればっかりは言い逃れできない……！」
「もっと刺身をー！」
「えほうまきをー！」
「ステーキをー！」
　鮪肉猟兵（マグロイェーガー）の戦いはまだまだ続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「ステラー！」
　マグロをお腹いっぱい食べて（本当に食べたのかはわからない）にゃんごろにゃんごろしている相方を抱えおこし、リリサレナ・ハイヴァーンは歯噛みした。
「く……ここまでネコを引きつけるなんて、うらやまけしからん！」
「食べ物として見られてたがな……」
　たまたま居合わせたモリ・ダニーが後ろから声をかけた。
「そうね。と言うことは、あれを獲得したらネコが沢山寄ってくる、ということでいいわね？」
「そうなるな」
　振り返ると。
　ゴーグルをしたサモエド犬がいた。
　犬が本体のヒーローマスクってありなんだっけ？　まいっかアリアリ！
「オン！　オン！」
　あの有名な笑顔みたいに見えるという愛らしい顔でハッハしている犬、ダニー。彼のつけているゴーグルがだれあろうヒーローマスクのモリである。
「丁度良かった。ダニーも奴らを気にしててな。奴らを今からマグロ怪人からドッグフード怪人に改名するところだ」
「改名というか戒名というか……ってうおおおおおお！？　なぜ私はこっちの世界に飛ばされている！？　今頃武術の達人と渡り合いかっこうよくダンクする予定が！」
「そのテンションでどうやって……まあいい」
　モリはフッと笑うと、こちらへ駆け寄ってくるマグロ怪人へと視線（？）をうつした。
「さあ来るぜ！　やってやれ桜田！」
「ヴァアアアアアアアアアアアアア！！」
　細かいことをすっとばして考えられる才能があるらしい。桜田は突如パイプ椅子の群れへとダイブすると、無数のパイプ椅子と合体。パイプ桜田と化し、がっしょんがっしょんする独特のナックルウォークでマグロ怪人へと突撃していった。
「ヴァアアアアアアくるなああああああ！」
　マグロ怪人は手足にしがみついたネコちゃん（とステラリア）をぐるぐるパンチの要領で投げ飛ばしてくる。それをダイビングキャッチでそっとキャッチアンドリリースしていくリリサレナ。
「ああっ、やめて暴れないで！　投げられたら恐いのはわかるけど暴れないでっ」
　ふぎゃーふぎゃーいいながら暴れるねこちゃんたちをリリースしながら、リリサレナはキッとマグロ怪人をにらんだ。
「こうなったら……行くわよ、ブラック！」
　リリサレナが叫ぶと同時にプロレス会場の大きな窓ガラスがかち割られ、巨大なフェンリル『ブラック』が飛び込んできた。
「あいつらを食い散らかしちゃいなさい！」
「ダニー、お前もだ！」
「オンオン！」
　ずばっと飛びかかるダニーとブラック。
「貴様もダニーのキューティクルへと変換されるがいい。DHAも豊富で頭もよくなりそうだなあ！？　ダニー！？」
「オンオン！」
「「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！？」」
　ばぐりとかじりつかれ、悲鳴をあげるマグロ怪人。
　わりとみんな誤解してそうだけどマグロ怪人のマグロ部分は『マグロのカシラ』だけなのでマグロの身とかほとんどないのだ。
　えっじゃあさっきまで刺身とかハンバーグとかいってたやつは……！？
「安心して」
　グリーンの髪をふぁさあっとかき上げながら現われる揺歌語・なびき。
「おれが本物のマグロとすり替えておいたんだ」
「なんのために！？　あっ倫理的なあれか！」
「会場の破壊もよくないけど、おっさんを食べたことにされるのもよくないからね」
　配慮のできる男、なびき。
　彼はなんだか眠たそうな目で薄く笑うと、連れてきたネコちゃんたちへ振り返った。
「さあネコちゃんたち。お魚だよー」
　なびきは袖の下から小型銃を滑るように取り出すと、ネコちゃんを投げきったマグロ怪人へ銃撃。
　さらにはこう、あの、いろんなあれをこうあれして、なんかこう最終的には……。
「ヴァアアアアアアアアアア！？」
　マグロ怪人は大量の茨にぐるぐる巻きにされたあげく柱にくくりつけられていた。
「途中経過が雑すぎる！」
「いや、おっさんが茨に絡め取られるさまとか見せられても困るわ私」
「流石配慮のできる男、なびき」
「二つ名みたいにいうのやめてくれない？」
　なびきはついさきほどリリサレナにリリースされたばかりのねこちゃんたち（あとネコちゃんたちに和みまくっていたブラック）にウィンクすると、マグロ怪人にマタタビ粉末をぶちまけた。
「さあみんな、ごはんだよー！」
「「ニャーン！」」
「「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアン！？」」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　イェーガーパワー（と食欲）でめりめり駆逐されていくマグロ怪人たち。
　しかし彼らはプロレス会場を飛び出し、会場脇のカフェや物販スペース、公園や駐車場へと飛び出していった。
　このままではプロレス会場の破壊じゃすまされない！
「あらぁ、またマグロさんたちがぁ……大変、大変ねぇ？」
　キャラメルフラペチーノを片手にカフェテラスに座っていたフェム・ポー。
　ヴァーと言いながら突っ込んでくるマグロ怪人をよけるべく席をたつと、中指と薬指で撫でるような動作ですれ違った。
「ヴァン！？」
　何をされたのかわからぬうちにテーブルへ突っ込み転倒するマグロ怪人。
「もっとぉ、悪いことする前にぃ、ちゃんと救ってあげなくちゃねぇ？」
「うん。俺も救って欲しい。今すぐ救って欲しい！」
　レニー・ヴァッサーがカフェテーブルに突っ伏していた。
　というか大量のネコに群がられて巨大にゃん団子と化していた。
「喰われるんですか！？　鳥だから！？　俺、鳥だから！？」
「落ち着くのでございます。寒いからって暖を取ってるだけでございます」
　駆け寄った銀座・みよしがレニーにひっつくネコちゃんたちを抱えてはおろし抱えてはおろし。
「それにしても……ひどい有様でございますね」
　大量のマグロ怪人がヴァーとかいいながらカフェテラスを走り回る光景に軽く引くみよしさんである。寛容なしゃまごさんだって引くときは引くんだ。

　一方その頃物販エリア。
　デストロイヤーゴリラ坂クリアファイルを蹴散らし、属性過積載猫巫女ナースロリ巨乳のフィギュアを粉砕し、マグロ怪人の集団が暴れ回る。
　なんで暴れてるのかっていいえばそりゃー群がるネコちゃんを振り払うためですわよ。
「まって、なんですかこの状況なんですか！　かかげますか！？　大漁旗かかげますか！？」
　状況に若干ついていけてない芦谷・いろは。
「いまどういう状況なんですか！？」
　一方でマグロ怪人の群れにマタタビ粉末を節分の豆かなってくらいの勢いでばっさばっさ投げつける多々羅・赤銅。
「見てわかんねェのか！」
「わかると思うんですか！？」
「落ち着け。状況を整理すれば簡単なことだ」
　セリオン・アーヴニルが片目を左手で覆い、シリアスな顔で横へと立った。
　禁忌を収集せし異能の鮪魔術師。その対価として彼の中に封じられた魔黒は暴走を求め、鮪抑制剤を打ち続ける彼の目にはマグロが映っていた。
「…………待とうか」
　右手を翳して時空停止（タイム）を要求するセリオン・マグロ・アーヴニル。
「俺のプロフィールにマグロを混ぜ込むのをいますぐやめろ！」
「あの、大丈夫ですか？」
「くっ、はなれろ！　貴様まで巻き込まれるぞ！　俺の呪縛（マグロ）に……！」
「言ってることはそれっぽいのに……！」
　腕をぶんぶん振りながら片目をもっかい押さえるセリオン。
「オイ」
　そんな彼の肩を、赤銅が強く掴んだ。
「初めのうちからギャグに身を染めると、戻れなくなるぞ」
「言ってることはそれっぽ――くない！」
　二度見するいろは。
「心配ない。やるべきことは変わらない」
　セリオンはシュッと白い手袋を脱ぐと、立てた二本指をゲートにみたてて開いた。
　短縮されたサインによって、封印されし魔眼の力を解放。瞳から魔の奔流をときはな――。
『ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアア！！！！』
　セリオンの目から飛び出したマグロ型のビームがマグロ怪人たちに直撃。
「「ヴァアアアアアアアアアアアア！？」」
　マグロ怪人はしめやかに爆発四散。
「やるじゃんお前」
「ちがう！」
「わははははは！　おもしろくなってきた！　もっと私を楽しませろォ！」
　早速気が変わったらしい赤銅が巨大な包丁（マグロ包丁っていうよ。二人がかりでマグロを解体する道具だよ）を振り回しながらマグロ怪人へと突撃した。「オラオラ走れェー！　赤銅鬼がくっちまうぞォー！」
「…………」
　この場で深く考えたら負けだ。
　そう悟ったいろはポケットに両手を突っ込んだ。
　否、差し込んだのはポケットに仕込まれたからくり人形操作端末である。
　指ぬき型の端末を振り上げ、見えない糸で戦闘人形を立ち上げる。
　大きなアタッシュケースが開いて現われたのは、およそ１８体のぬいぐるみたちであった。
「裏も黒幕も、倒せばきっと出てくるはず！　事情はしらないけど倒されやがれですよー！」
「ヴァアアアアアアアアアアア！？」
　襲いかかる無数のぬいぐるみが、マグロ怪人たちを切り刻み始める。

　シリアス展開だと思った？
　残念！
「うるせえええええええでござるううううううううううう！！！！！！！！！」
「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！？」
　羽久依・集葉ちゃんの拷問シーンでした！
　するがどい（最近急に有名になった海老反り吊り下げみたいな拷問術）にされたマグロ怪人が集葉にべしべし叩かれながらぐるぐる回っていた。
　一見遊んでるように見えるけどこの状態でロープを締められると死ぬほど苦しいので、立派な拷問テクである。
　それをなんとなあく眺めるリンカーベル・ウェルスタッドとハンドレッド・コール。
「なんで私こんなところにきちゃったんでしょう……」
「分からないし、わかりたくない」
　ハンドレッドは帽子を深く被って目元を隠した。
　どうやら彼に宿った第二人格ことフローラとなにやら話しているらしいが……。
「とにかく、ネコさんを発射するなんて許せません！」
「それは分かる！　なんて卑怯な……！」
　ネコの前に色々吹っ飛んだらしい。
「いくぞフローラ！」
　ハンドレッドは第二人格であるフローラと分裂。清らかな装いの精霊術士が現われ、炎の矢を無数に生み出し始めた。
「たしかに、罪の無いネコまで怪我をしたらかわいそうね……手伝うわ」
「ヴァッ！？」
　車を飛び越えて襲いかかるマグロ怪人に炎の矢が突き刺さり、ハンドレッドは革製ホルスターから抜いた黒光りする銃を連射。額を打ち抜いたことで、マグロ怪人は崩れ落ちた。
「ヴァアアアイッ！」
　物陰から飛び出したマグロ怪人が水鉄砲を乱射。
　割り込んで防御したリンカーベルは、反撃をしかけながらねこちゃんたちに呼びかけた。
「猫さーん！　カリカリあげますからっ！！　あつまってくださーい！」
「「にゃーん！」」
　わりかし素直に集まるネコちゃんたち。
　マグロ怪人がホッとしたところで……。
「貴様も吊るしマグロになるのでござる！」
「ヴァアアアアアアアアアア！？」
　瞬く間に集葉の拷問術にかけられた。
　両手両足を拘束して逆さ刷りにしたあと水槽につけるっていうとても有名な拷問である。マグロに効くのか？　と思ったけどめっちゃ効いていた。
「ヴァボボボボボボボ！？」
「よしネコよ、好きなだけかじるがよい。この拷問は……ふ、そうだな。『肉食なはずな猫が魚好きと言われる由来を答えよ』とでもしておくか」
　黒幕の正体を聞けばいいのに、と思ったけどあえて黙っておくリンカーベルであった。
「では、私はこう、色んな人のユーベルコードをあれしてねこちゃんたちを安全なところに送り届ける役目がありますのでっ」
　リンカーベルはびしっと敬礼ぽいことをすると、抱えられるだけのねこちゃんを抱えて走り去っていった。

　さて、場面はもどってカフェテラス。
「元気が有り余ってるみたいだからぁ、すこし分けてもらうわねぇ？」
　フェムがうっとりと笑うと、周囲に闇と光の魔方陣がそれぞれ発生した。
「ヴァッ！？」
　水鉄砲で迎撃しようとするマグロ怪人だが、フィールド構築能力はフェムのほうがずっと上であった。魔方陣から伸びた大量の鎖がマグロ怪人を縛り上げ、生命力を強制的に吸い上げていく。
「ヴァヴァヴァヴァヴァ！？」
「そういえばぁ、マグロってぇ、確か泳ぎ続けてなくてはぁ、息ができなくてぇ、死んでしまうのでしょぉ？」
　縛られたマグロ怪人にキャットウォークで歩み寄り胸板に中指を立てるフェム。
「うふふぅ。足が止まったマグロ怪人さんはどうなるのかしらぁ？　やっぱり息が出来なくて苦しくなってしまうのかしらぁ？　そうでなくてもぉ、とってもくるしそうねぇ？」
　縛り上げるのが楽しくてたまらないというフェム……の様子を、レニーとみよしは黙ってみていた。
「行かないのでございますか？」
「あの空気に入っていくのはかなりカロリー高いですね」
「フフフ空気の心配をしている場合かな？」
「今からここが貴様の墓場となるのだ！」
　なんだか突然怪人ぽさを思い出したらしいマグロ怪人たちがレニーたちを取り囲む。
「「食らえぃ！」」
　両手を頭の上でくっつけてぐるぐる回転するマグロ怪人。くっついていたネコたちがうにゃーと言って飛ばされてきた。
　レニーは飛来するネコへ身構える。
「俺の一部、使わせてもらいますよ――『ウィング・フェザー』！」
　レニーの翼から無数の羽根が飛び出し、飛来するネコをキャッチしては払い落としキャッチしては払い落とし、残る羽根がそれぞれマグロ怪人たちの額に突き刺さる。
「「フヴァ！？」」
　動きの止まったところに、みよしが渾身の召喚術を行使した。
　具体的には黄金のケータイでもしもししはじめた。
「あ、メジェドさんでございますか？　いまちょっとお時間……あ、はいー。できれば今……はいー、そう、はいー……あっ、よろしくおねがいしますー」
　すると突然、頭上に黄金のゲートが開き、シーツを被った人みたいな謎の物体が降りてきた。知る人ぞ知るゆる神、メジェド様である。
「薙ぎ払ってくださいましー！」
「……」
　メジェドさまはあのシーツの表面に書いてあるのかなっていう目みたいな部分からびゃーってビームをうちマグロたちを一層した。
　どーやらメジェドさまは誰にも見えてなかったようで、ぱっとみケータイでもしもしした直後にマグロが死んだように見えるだろう。暗殺依頼かな？
「ふう……これで一安心」
　レニーは前髪をかき上げ、かいた汗をハンカチでぬぐった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第2章 ボス戦 『怪人アルパカマッスル』

POW   :    ポージング 自身の【肉体美の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。 SPD   :    鋼の筋肉 全身を【力ませて筋肉を鋼の如き硬度】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。 WIZ   :    つぶらな瞳 【つぶらな瞳で見つめること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【瞳から放たれるビーム】で攻撃する。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

　破壊されたキマ本プロレスドーム。
　砕け散ったカフェテラス。踏みつぶされた物販スペース。自動車のひっくりかえった駐車場。
　リング周辺は特に酷いありさまで、マグロ怪人たちが残らずネギトロったあとでも修復にかなりの時間を要するありさまだ。
「パーッパッパッパッパパ！」
「「その声は！？」」
　ハッとして振り返るイェーガーたち！
「……誰だろう？」
「聞いたことないですね」
「特徴的な笑い方だけど初耳」
「キャラ出そうと必死なんじゃね」
「知名度って大事だよな」
「シャーラーップ！」
　ファーファーという謎のコーラスをバックに、光と共に降臨するは――アルパカ頭の男！
　首から上がアルパカ。
　ビキニパンツ一丁で他はほぼ全裸といういでたちの、男！
「あれは！　アルパカマスク！」
「いやアルパカ男！」
「アルパカマンじゃなかった？」
「パカタロウだって聞いたけど」
「シャーーーーーーーーーラーーーーーーップ！」
　リングにおりたちマッスルポーズをとると。
「俺の名は！　……怪人アルパカマッスル！」

　知らない人のために説明しておこう！
　アルパカマッスル。彼は知名度のわりにあんまり名前が浸透してないことにイラッときてキマ元プロレスを物理的かつ文化的に破壊し、自分専用のリングに作り替えようとしているのだ！　今知った！
「ククク、それが嫌なら……かかってくるがいい！　あと俺の名前を覚えるがいい！」


「おー……カッコイイ」
　リングに下りてくるだけでここまで演出するとはすっごい練習したんだろーなーと内心思ったナイツ・ディン。
　あんまり表情には出さず薄めに反応して置いたが、槍のほうは薄い反応じゃあすまなかった。
『破壊……？　破壊なら負けぬぞ……！』
　とかいってドラゴンランス『ディロ』がバイブレーション機能で通知してきた。ごめん言い方間違えた。魂より響く竜のささやきであの……なに、ごめんかっこいい言い方思いつかない。
「ま、やる気あるのはいいことだ」
「フンッ！　この俺様に対抗しようというのか！　おもしろい！　あと俺の名前はアルパカマッスルだ！」
「さっき聞いた！」
　ナイツはリングへと飛び込むと、素早く相手に接近。妖精の翼を鋭く羽ばたかせ、アルパカマッスルの肉体によって生じる上昇気流をあのあれして、あれ、飛行機が急に上に飛ぶときのあれあるじゃん？　あれでこう――あれ！
「語彙力！」
　ナイツは時空を超えたツッコミと共にアルパカマッスルの顎に槍をガッてした。
「ぐおお！？　このアルパカマッスルの顎に！　アルパカマッスル顎に！」
「しつこい！」
　紅い竜『ディロ』が唐突に出現。炎のブレスを発射した。
「ぐおおおおおおおおおおお！　思いの外熱い！」
「熱いで済むのか……！？」

成功 🔵​🔵​🔴​

　絶賛火だるま中のアルパカマッスルをぼんやーり眺める燈夜・偽葉。
「なんだか……首上下のギャップがすごいですね？」
「あなどるな。首から上もしっかりマッスルだ！」
「毛深（？）すぎて見えないんですよ！」
　なんでマグロを追い立てていたのかとかどうやってネコをあんだけ用意したのかとか疑問は残るがそんなことはどうだっていいんだ。重要なことじゃない。
「さあ来い！　俺に挑め！　そして俺はアルパカマスクだ！　間違えた、アルパカマッスルだ！」
「…………」
　リングの端っこにちょこんと両手をかけてじーっと見ている偽葉。
「さあ来い！」
　ダブルバイセップスのポーズで待ち構えるアルパカマッスル。
　じーっと見てる偽葉。
「来い！」
　ラットスプレッドのポーズで待ち構えるアルパカマッスル。
　ポテチつまみながら見つめる偽葉。
「来ぉい……！」
　サイドチェストのポーズで以下略。
　フリーペーパー開いて読み始める偽葉。
「……ねえなんで来ない？」
「今です！」
「うおおおしまった！」
　ポーズをとった瞬間にサッといってガッ！
　偽葉は素早く近づいて茜色のあのあれをガッてやった！
「ぐああああああああああああああ！？」
　アルパカマッスルが盛大に血を吹き上げる！

成功 🔵​🔵​🔴​

　燃えさかり頭を血まみれにするアルパカマッスル。
　普通死んでる筈なんだけどなんでピンピンしてるですかねぇ。
「よし、次は俺だ！」
　鏡島・嵐は勢いよくリングに飛び乗り、身構えた。
　浴びるスポットライト。
　闇のように広いドーム。
　アルパカマッスルと嵐は、向かい合ったまま停止した。
「…………いや、なぜ来ない」
　アルパカマッスルはゆっくりとポーズを切り替え、そしてつぶらな瞳で嵐を見た。
「何か言えよ」
　背筋を見せつけるポーズをとり、つぶらな目で振り返る。
「言えって！　なんだよ！　さっきの奴の仕返しかよ！　俺は関係無いだルルォォォオオオ！？」
　突如発射されたアルパカアイビームを咄嗟ののけぞりで回避する嵐。
「ちっくしょう！　これが狙いが！」
　嵐がファイティングポーズを取り直すと、アルパカマッスルは黙ったまま連続でビームを発射してきた。
「まずい――『二十五番目の錫の兵隊（フェモテューヴェ）』！」
　片脚が義足の武装した兵士の霊を呼び出し、自分は伏せる。
「すまん、奴のビームを何とかしてくれ！　このままじゃ――」
「いいぜ」
　えっなにこの兵士喋るの？　と思った途端に兵士はポケットから取り出したレモンをアルパカマッスルの目にシュッ。
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！？」
　アルパカマッスルは両手で顔を覆ってのけぞった。

成功 🔵​🔵​🔴​

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお！！」
　悶絶するアルパカマッスル。
　火だるまだし血だるまだし両目にはレモン。死んで無くても死にたい気分に違いない……が！
「俺はアルパカマッスル！」
　自己主張をしマッスルポーズをとることで事なきを得た。
　……得たの？　これ？
「次は誰だ！　二人同時でもいいぞ！」
「では、お言葉に甘えて……」
　星羅・羽織はおでこに『は』って書かれた白いマスクを被ると、リングによじよじと登った。
「へあっ」
　それっぽいポーズをとる羽織……否、はおりんマスク！
　マッスルらしきポーズをとってみるもマッスル配合率零パーセントのはおりんマスクである。すごく、こう、ちょこんとした。
「かかってこい。私に、死角なし」
「ちょっとまったー！」
　鳴り響く芦谷・いろはの待ったコール。
　びよーんとジャンプしたブラックアルパカのぬいぐるみが空中でがしょがしょがしょーんと合体（ブッピガーン）した。
　巨大なパカグルミとなってリングインした。
「さあ行きなさいブラックパカリオン！　あのパカ……えっと、なんでしたっけ。アルパカマン？」
「アルパカマックス！」
「アパマンマッ――」
「今そのネタはいけない！」
　アルパカマッスルがグッと目力でにらんできた。
「アルパカマンを倒すのです！」
「名前！」
　アルパカマッスルは両目をカッてするとつぶらなビームを乱射してきた。
「はおりんますく必殺――」
　といって両手をぴって前に出すと、羽織はころんとでんぐりがえしをしてからＹ字ポーズで立ち上がった。
「ぜんてんかいひこうどう……相手はしぬ」
「いや、さすがに死なな――」
　と見せかけてはおりんすぱーく！
　説明しよう！　はおりんスパークとは事前に仕込んで置いたメタルロープにスタンガンを繋いだやつをバチッとやって相手の足の裏からびりびりさせる技なのだ！
「あばばばばばばばばばば！」
　頭がアフロめいてきたアルパカマッスルだがマッスルポーズをとってなんとか我慢――したところを！
「ブラックアルパカパンチです！」
　いろはのぬいぐるみがアルパカハンドをロケットみたいに発射。
　アルパカマスクの顔面に直撃させた。
「パッカーッ！？」
　リングの外へと吹き飛ばされるアルパカマスク……！

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「えっと、お名前は存じませんがよろ――むっ！？」
「パッカー！？」
　丁寧にご挨拶しようとしたらリングから降ってきたアルパカマッスルに押しつぶされる石津・くろえ。
「ああっ、すみません突然」
「いえ、よくあることですので」
　アルパカマッスルとくろえは気まずそうに立ち上がると、お互いに小さく頭を下げ合った。
「あー……あの、あれですね。よく見るんですか、プロレス」
「いえ、こういうのは初めてで……」
「へー……」
「……んん」
　ふった話題が秒で終わってきまずい二人。
　くろえは咳払いをすると、自分から話題を切り出してみた。
「あの、マッスル太郎さ――」
「アルパカマッスルだ！」
　セイハーと言って繰り出されるアルパカラリアット！
　くろえは突然のラリアットに吹き飛ばされるも空中で身を丸めてくるくるってやることで衝撃を逃がし両足でしっかり着地。
　一方のアルパカマッスルはふんぬとポージングすると、肉体を黄金に輝かせ始めた。
「ポージング勝負ですね、受けて立ちます！」
　ハッと叫んでテコンドーみたいな構えをとるくろえ。
「貴様……我が筋肉に対抗するつもりか。良かろう！」
　さっきからいまいち口調が安定しないアルパカマッスルは全身からシュオンシュオン戦いのオーラを吹き出すと、少しばかり空中に浮かび始めた。
「アルパカマッスルの真の恐ろしさ、見せてくれる！」
「おや？　どこからそんな話に？」

苦戦 🔵​🔴​🔴​

　シュオンシュオンいいながらちょっと浮いてるアルパカマッスル。
「リングは四角いジャングルとはよく言ったものだ。何が出てくるか全く読めんな……」
　不敵にいうモリ・ダニーに、羽久依・集葉が振り返った。
「そういうものでござるか！？　浮いてるでござるよ？　しゅおんしゅおんいってるでござるよ！？」
「破ァッ！！」
　アルパカマッスルがこう手のひらをハッてやるとアルパカ型のエネルギー弾が連続で発射された。
「ひいっ！　しまいにはハッてしはじめたでござる！　本当にこれプロレスでござるか！？」
「間違いない。プロレスだな」
「連続エネルギー弾はプロレスの鉄板っすよね」
　ハンドレッド・コールとリゲル・ロータリオがうんうんっていいながら腕組みしていた。
「へえ、プロレスってエネルギー弾ありなんだ……」
　揺歌語・なびきが納得した顔をしたのを、（いまさっき来たばっかりの）レイブル・クライツァが視線で止めた。
「多分、だいぶ違うと思うけれど……ところで」
　レイブルは深く息を吸い込むと薙刀を地面に突き立てた。
「あれの名前、なんだったかしら。覚えられる気がしないわ」
「ええと、パカノ助？」
「アルパッカンじゃないっすか？」
「アルパカマスクじゃなかったのでござるか？」
「アルパカバスターだったと思うぞ」
「アルパカマッスルだ！」
　こっちにもハッてしてくるアルパカマッスル。
「見ろこの筋肉を！　まごうことなきマッスルだろう！」
　空中で大胸筋を強調するポーズをとるアルパカマッスル。
「なるほど……」
　モリはキラリと目（？）を光らせた。
「お色気勝負だな！」
「絶対違うと思う」
　丁寧にツッコミをいれてあげるなびきも、しかしモリとダニーをとめられなかった。
　なんつっても犬だし。サモエド犬だし。
「栄養をたっぷりとってキューティクルがつやつやになったダニーに勝てると思うなよ！」
　あおーんと言いながらリングへ飛びかかるダニー。
　セイハーと言いながら殴りかかるアルパカマッスル。
　ついにシリアスなスーパーバトルが始まるのか！　始まってしまうのか！
「見れば貴様はほとんどのモフモフを捨て去ってしまってるようではないか、モフモフの無いアルパカ怪人とか涎の臭いだけのオッサンとほとんど変わらんぞ！」
「――えっ、そうなのか！？」
　キキーッて空中ブレーキをかけるアルパカマッスル。
「それはおれも思った。アルパカなんだから全身ふわふわじゃないと女の子に人気出ないよ」
「そうなのか！？」
　なびきはアルパカのふわふわボディに女子がきゃーきゃーいってるインスタ的写真を見せた。
「みんな全身ふわふわなほうが好きだと思うな」
「そ、そうなのか……」
　アルパカマッスルはリングに体育座りした。
「俺様もなんかおかしいと思ったんだよね。女子の大好きなアルパカと男子の大好きなマッスルが組み合わされば大人気だと思ったんだけど」
「カツ丼に生クリームのせるようなもんだぞそれ」
　ハンドレッドの的確な表現に、アルパカマッスルは涙目で振り返った。
　ただでさえつぶらな瞳なせいですげー悲しそうだった。
「うっ、こいつ顔だけはピュアじゃねえか……」
『だまされないでハンドレッド』
　第二人格のフローラがやたら心配そうにしていた。していたとおもう。
　一方で涙をはらはら流すアルパカマッスル。
「うそやん！」
「こいつ口調全然定まらないっすね」
　リゲルは集葉にゴーサインを出してあげた。
　ゴーサインのゴーは拷問のゴー。
「はい『羽久依流拷問術（ウグイリュウゴウモンジュツ）』！」
「ヴァアアアアアアアアアアアッ！？」
　ロープで簀巻きにして吊るされるアルパカマッスル。
「今回の内容はえーっとえーっと……あっそうでござる！　『キマ本プロレスで一番人気な選手の名前はなーんだ』！？」
「デストロイヤーゴリラ坂！　デストロイヤーゴリラ坂！」
「せーかーい！」
　頭からリングに落ちるアルパカマッスル。
「なあに、この人、ちゃんと勉強していたの？」
　まだ飛び込むタイミングじゃないなあと思ってパイプ椅子に座ってポップコーンをぽりぽりしているレイブル。
　そこからひとつまみ貰っていたリゲルが思わず身を乗り出した。
「えっじゃあじゃあ、デストロイヤーゴリラ坂のデビュー戦で出した必殺技は！？」
「ドライミングスープレックス！」
「あたりー！　なーんだ話せるじゃないっすか！」
「ねえ、今言っていいかどうか迷ったんだけど……」
　パイプ椅子に座ってコーラーちゅーちゅーしていたなびきが顔を上げた。
「銃で急所撃ったりナイフで傷口えぐったりしたらだめなの？　今戦闘中だよね？」
「何言ってるんすか！　今はクイズ大会中っすよ！」
「はい『羽久依流拷問術（だいにもん）』！」
「ビャーーーーー！？」
　もっかいアルパカマッスルが逆さ吊りにされていく。
「キマ元プロレスの創設者の名前は！？」
「あ、知ってる！　ジャイアントヒヨコ殿下！」
「せーかーい！」
「へぶっし！？」
　また顔から落ちたアルパカマッスル。
「全問正解したアルパカマッスルどのには豪華な賞品がプレゼントされるでござる」
「えっほんと！？　やったー」
　ピュア１００％の目で上半身だけ起き上がるアルパカマッスルの周囲を、レイブルたちが取り囲んでいた。
　デデドン。
「じゃあ、そろそろ終わりにしましょうか」
　レイブルがぐいーんって薙刀を高く掲げた。
　前髪が長くてあの半透明なあの……なんていうのあの綺麗でオシャレなやつ、ベール？　をしているせいで目元が隠れてめっちゃ恐かった（アルパカ視点）。
「ああああああああああああ待って！　待たれよ！　待ってくれたらいい物見せる！　見せるから！」
「……見るだけ見ましょうか」
「よっしゃ！」
　アルパカマッスルは自身をぐるぐる巻きにした糸をパンプアップで引きちぎると、おもむろに立ち上がった。
「モスト・マスキュラー！」
　説明しよう！
　モスト・マスキュラーとは最も力強いという意味を持つボディービルポーズの総称である。鍛えた筋肉のスタイルによって最適なポーズは異なるがアルパカマッスルのそれは腕と腹筋に重きを置いた、そうダブルバイセップス変形版のポーズなのだ！
「死になさい」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛！？」
　レイブル断頭台（今考えた必殺技）が炸裂。
　流れでリゲルライオンバイト（今考えた必殺技）が炸裂しなびきどくろウェーブ（今考えた必殺技）が炸裂し集葉ヒモ無しバンジー（今考えた拷問）が炸裂しハンドレッドレモンスプラッシュ（今手元にあったおやつ）が炸裂しダニーペロペロ（今のダニーの気分）が炸裂しなんやかんやでアルパカマッスルは爆発四散した。
「この私を倒しても第二第三のわちゃち――あっ噛んじゃった！」
　大爆発の光が、プロレス会場を茜色になめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第3章 日常 『サインください！』

POW   :    パワフルなサインをする SPD   :    テクニカルなサインをする WIZ   :    インテリなサインをする 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　それはもうボロッボロになったキマ本プロレス会場。
　しかし！
　キマイラは滅んでいなかった！（当然だけど）
「イェーガー勝ってるじゃーん！」
「マジやべー！」
「チョースゲー！」
　スマホ翳してぱしゃぱしゃしまくるキマイラの皆さん。全員そろってキマ元プロレスのＴシャツを着込んでいた。
　事件が終わるとサッと戻ってくるあたりトラブル慣れしてんなって感じだが、ここで『じゃあ俺帰るね』っていなくなるのも流れが悪い。
「よっしゃ、ひとつ場にのって遊んでみるか！」
　ずどんと置かれた長机。
　積み上げられたサイン色紙。
　組み上げられる物販ブース。
　もう復活してるプロレスリング。
「ここからは……イェーガープロレスの時間だぜ！」

＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
【たとえばこんなプレイング】
・急にできたファンにサインをする／混ざってサインをねだる
・物販スペースに自分の商品を売る／勝手に売られてる
・今夜限りのレスラーになってリングインする
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝




「生配信をご覧の皆さんこんにちは！　ホップステップ、テルプです！」
　ついさっき考えたみたいな挨拶をしながらめちゃくちゃ柔軟なＹ字ポーズをとるテルプ・ステップアップ。桁で上がっていく視聴数。
「今日はキマ元プロレスの会場でおこったマグロウェーブ騒動を生放送してみたいと思――」
　自撮り棒を翳して振り返ると、そこはサイン会場。
　天井と壁が吹き飛んでやたら風通しが良くなったドームがキマイラたちでわいわい賑わっていた。
「もう終わってるー！」
「プロレス……ラァァァァヴッ！」
　独特のポーズをとりながら大量のスマホに囲まれるマスクド・キマイラ。
　転んでもただではおきないテルプ。この際だからと突撃取材を敢行してみた。
「あれはレスラーのマスクド・キマイラ……あの人なら一部始終を知ってるかも！　皆さん、聞いてみましょう！　マスクドキマイラさーん！　事件の様子はどうでしたかー！？」
　勢いよくマイクを突き出すテルプを、ポーズ中のマスクド・キマイラが二度見した。
「えっ俺今来――いやいい試合だった！　いい、試合、だった！！」　
「なんで二回言ったんです？」
「こう、アレがな、すごくバーッとしていたな。特にこう、なんだ、怪人の……プロレス、ラァァァァヴッ！」
　おなじみの決めポーズ。桁で上がっていく視聴数。
「はいそんな今回ご用意したのがこのマスクドキマイラ特製Ｔシャツ！」
「ん、あれ？　事件の様――」
「なんとキマイラギューチャー限定バージョン！」
　ずんと突きだしたＴシャツ。胸に書かれた『Chimera!!』の文字。
　ちゃんと水平にプリントされてる辺りに、マスクド・キマイラの真面目さが出ていた。
　こいつルール無用の最凶レスラーって肩書きなのに真面目だな。うんみんな知ってる。
「サイン？　勿論しよう！　シャツの腹にしよう！　キマスタグラムにも是非アップしてくれ！　ハッシュタグは――プロレス、ラァァァァヴッ！」
　はい秒で桁上がりする視聴数。
「では皆さんこの後はマスクド・キマイラさんのマスク脱ぎデスマッチ！」
「待てそれはさすがに」
「じゃあパンツ脱ぎデスマッチ！」
「待て待て事務所！　マネージャー！　マネーーージャーーーー！」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　レイブル・クライツァ、３０歳。座右の銘は『色彩は愛でるもの』。
　劇的な過去を過ごしたつもりはないと語る彼女だが、過去と現在と未来を潰すのならば、刃を持つことに躊躇はしないという。
　そんな彼女は今。
「クマ次郎へって書いてもらっていいですか？　握手お願いします！　ありがとうございます！」
「レイブル断頭台素敵でした！　次の試合も見に来ます！　握手お願いします！」
　なんかサイン会のサイン席に座らされていた。
「うちの子抱っこしてもらっていいですか？　はい、チーズ！」
　無表情で鹿角生えた子供を抱きかかえるレイブル。
「……どういうこと？」

　遡ること一時間前。
　もう終わったし帰ろうと思っていたレイブルを新たな波が襲った。
　マグロでもない。アルパカでもない。キマイラ民による波である。
　衣食住に困らないせいで日々娯楽に飢えまくってるキマイラ民である。レイブルみたいなタイプでも容赦なく……じゃなかった喜んでファンになるというキマイラが山といた。

　名刺代わりに仲間のサインでも貰うのも悪くないわね、とか思ってた一時間前の自分なんだったの。
「オオー！　オレ達、モテモテじゃん！　握手？　いいぜいいぜ！　子供の名前？　つけていいの！？」
　一方でハンドレッド・コールが女の子にモッテモテだった。
　キマイラに、テレビウムに、バーチャルキャラクターにモテモテだった。
「ファンです！　デビューシングル買います！」
「えっ出ないけど……出す？　出しちゃう？」
「写真集買います！」
「マジで！？」
「写真とってくださーい！」
「おっいいぜいいぜ、皆で撮ろう皆で。ツーショットは順番な！」
　水着の美少女たちの肩を両手に抱いてスマイルするハンドレッド。
「あれ？　そういやフローラは？　引っ込んじまったのかな？」
　心の中でげんなりしているフローラのことは一旦横においといて、普段そうそうないスター気分を味わうハンドレッドである。
　むろんモテモテなのは男女問わず、犬も問わず。
　モリ・ダニーは差し出されるサイン色紙に肉球をぺったんしては流しぺったんしては流しを高速で繰り返していた。
　端から見ると業務用レーザープリンタみたいな速さでしゃかしゃかやっていた。
「いいぞダニー！　指紋……いや肉球紋べったりだ。もう悪いことできないな！　けどこんだけ作れば全員に行き渡って……」
　ふと顔を上げるダニー。
　できあがる長蛇の列。
　いやもう列っていうか波っていうか『もうもの売るってレベルじゃねえぞ』のアレになっていた。
「ダニー」
「おんっ」
「……本気で行くぜ！」
　ギラーンと光ったゴーグル、もといモリ。
　サイン色紙を空中にばっとまき散らすと、飛びかかったダニーが極限高速千手観音回転残像分身肉球スタンプを解き放った。なんかすげーぺたぺたしたんだとおもってくれ。
「おんっ！」
　すちゃっと着地するダニー。
　降り注ぐサイン（？）色紙がキマイラ民たちの手に平等に落ちていく。漫画かな？　ちげーよイェーガーだよ。
「わー！　さもえどさん！　さもえどさーん！　さもえどさんのサイン欲しいのでございます！」
　銀座・みよしがファンのキマイラたちに混じってサイン色紙を振りかざして跳ねていた。
　ぱっと見メイドさんのシルエットをしているみよしだが、よく見ると（よく見なくても）シャーマンズゴースト。
「サインお願いします！」
「おんおんっ」
　ダニーが色紙にぺったんこすると、みよしはきゃーといいながら色紙を抱きしめた。
「わー、もっふもふでございますー！　さ、触っても……？」
「おんおんっ！」
「ありがとうございますー！　あ、握手しても！？」
「おんおんっ！」
「やったー、でございますー！」
　肉球を握って上下に振るみよし。
「ハッ、いけない。メジェドさんにお土産――いやお礼の供物を買っていかなくては。それとえーっとネコの写真集ネコの写真集……無限武空猫第十八巻くださーい！　メジェドさん欲しいものございますか！？」
　ネコの写真集をごっそり買い漁りつつ振り返ると、メジェドさん（あのなんかシュールな神）がじっと物販コーナーを見つめていた。
　そう、それは禁断の物販。
　イェーガースペシャルグッズ・オークション会場である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　物販。
　それは憧れとつながるためのカウンター。
　一見ただの露天商に見える粗末な長机には、憧れのあの人やこの人に由来した品が置かれ、それを手にし、身につけるだけで、まるで世界が共有されたかのような幸福をえることができる。
　故に人はＴシャツを買い、キーホルダーを買い、ラミカを買うのだ。
　だがしかし。時に売れないものもある。
「なぜでしょう。お線香もお数珠も、ハイレゾエンドレス木魚.flacも売れません。急な葬儀の際にも便利なうえ小粋なビートも奏でますのに……」
　石津・くろえ。在庫の山を背に苦悩。
　オートドラムシステムによって奏でられる木魚の音が悲しく響く。
「文字を書いた紙。特異なプリントの衣装……ここは仏具販売店ではなかったのでしょうか」
　くろえは根本的に間違えていた。
　だが絶望することはない。
　世界を絶望が襲ったなら、それを切り裂き吹き払うのが、イェーガーなのだから。
「のーぷろ」
　ぽん、と後ろから肩を叩く星羅・羽織。立てる親指。
　羽織のどや顔後光が差した。
「まさか、この大不況を救う手立てが……！？」
「ある。例えば、これ」
　羽織が取り出したのは一枚のカセットテープであった。知ってる？
　知らない人のために説明するとＣＤのおじいちゃんみたいなアイテムである。
　ケース表面には和服（この前別世界で着た）姿の羽織はマイク片手にうつった写真がプリントされたカードと共に、一枚のＱＲコードつきカードが入っていた。
「これは……『握手券』？」
「これを使うと、１０秒だけ握手ができる」
「１０秒……」
　短い時間。
　しかし握手という直接的接触を持つことは物販というスペースにおける至上の高位。
「これでがっぽがっぽできる」
「がっぽがっぽ！？」
「お札ぺいぺいできる」
「ぺいぺい！？」
　くろえはうーんと考えたあと、目を光らせて顔を上げた。
「つまり御仏の御心が伝わるということですね」
　全然違うけど。
「そのとおり」
　羽織は全肯定した。
　そのあふれ出る自信と後光に、くろえは思わず手を合わせるのだった。
　あとカセットテープはめっちゃ売れた。木魚も。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「くるるすーぷれっくす！」
「べらっぱ！？」
　金剛・狂の投げ技に、あばれペリカン五郎はリングマットに沈んだ。
　鳴り響くゴング。沸き上がる歓声。
「わーすごい！　すごいですー！　プロレスは普通のバトルとはひと味違いますね！」
　燈夜・偽葉は観客席からきゃーきゃーいいながらキマ本プロレスの特別試合を観戦していた。
　会場は壁も天井も吹っ飛んでいるが幸いにもリングは無事。
　パイプ椅子を並べ直せば青空会場のできあがりってんなもんで、キマイラたちは細かいことを考えず試合に熱狂していた。
　衣食住が満たされたこの世界。娯楽としてのバトルはより先鋭化し、その中でも特に娯楽に特化したプロレスはキマイラフューチャーにおける一大ジャンルとしてあちこちでブームになっていることだろう。
　そんなプロレス界にイェーガーが特別参戦したとなれば、会場が沸かないはずはない。
「さあ次は誰っすか！？　アルパカを倒し損ねたわたしの筋肉が！　温まった筋肉が唸る先を探してるっすよ！」
「俺が俺が！」
「俺が俺が！！」
　リングにわらわら上がってくるキマ本プロレスのニュービーレスラーたち。
　一対一の縛りを破り大量にリングインするこの光景もまた、おきまりの筋書きだ。
「いいっすよ」
　狂はピッと鼻頭を親指で払うと、大胆なファイティングポーズをとった。
「全員まとめてかかってくるっす！」
「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン！！」」
「というわけで行くっすヒシガタさん！」
　オラァと言いながら飛び出した狂の背後霊。
　輝く筋肉と輝くパンチ。
　高速で放たれる連続パンチが一斉に飛びかかるレスラーたちを殴りつけ、ほぼ同時にリングの外へと吹き飛ばした。
　その絵になること絵になること。
　偽葉もきゃーきゃーしながらスタンディングオベーション。
『えーただいまより特別物販を開始いたしますー』
　山羊ぽいキマイラが段ボール箱を開くと、狂のポーズがプリントされたシャツや下敷き、クリアファイル、えんぴつ、ふでばこ、シールなどが売られそれをキマイラたちが片っ端から買いあさる。
「あっあっ、私も……！　私も買います！」
　試合の熱狂にやられたのか最初からそうなのか、偽葉はファン根性をむき出しにして物販に飛びついていく。
　端から商品をざっと見た偽葉の視線が、ぴたりと止まる。
　『ＤＸ黄昏の太刀』
　ビニールとプラスチックでできた茜色の刀が売られていた。
「これ私のグッズじゃないですか！？」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

「サイン会？　握手……？　おれが？」
　言われるままにパイプ椅子に座らされた鏡島・嵐。
　目の前にできあがる列の長さに、軽く引いた。
「これ全員何しに来たんだ！？」
「握手とサインを求めに来たのですが」
　横で列整理をしていたスタッフキマイラが当たり前でしょというテンションで言うもんだから嵐困惑。
「人違いじゃなくてか」
「人違いじゃありません」
「うーん……まあ、できることならやるけど」
「んっ？　いま『なんでもする』って」
「言ってねえ！」
　いっそ逃げようと振り返ると、焔を纏った黄金のライオンことクゥがそばでひたっすらブラッシングされている。
　逃げ道を塞がれた気がして嵐は列を見返した。
　これはもしかしたら、どんな強敵と戦うよりしんどいかもしれない。
「よ、よし……わかった。全力でやってやる！　かかってこい！」
「んっ？　いま『なんでもする』って！？」
「言ってねえ！」
　嵐はその後、波のように押し寄せる嵐ファン（通称あらしっく）に握手を求められサインを求められ、色紙やシャツや腕や頬にマジックで自分の名前を書き続けるというかつてない体験をすることになった。
　一生分の名前を書いた、とは、後の感想である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「うーん、めがねめがね……」
　この眼鏡を探して走る少女は雨咲・ケイ。この流れから有名なホモマンガのパロディに流れ込む発想が舞い降りたけどヤメロぁ！　ケイきゅんはそういうんじゃねえんだよ！
　見えない何かの加護をうけしケイくんが物販エリアをうろうろしていると、ふとおかしなものが目にとまった。
　娯楽大好きキマイラ勢。イェーガー祭りになると何十という物販ブースがたちならびそれこそお祭り騒ぎになるのは常だが、その中から特定の一つを見つけ出すのはケイの動体視力のなせるわざ。眼鏡がないのに見えるのかって？　むしろ見えすぎるからかけてノーマライズしてるって設定どうですか。
「あ、あれは……！」

「ごりらが座っても壊れない」
　色気あるダンディズムボイスでお尻の下からすっと出してくるキマイラ俳優ゴリひろし。
「『雨咲ルーペ』」
「やめっ……やめてください！　それ私の眼鏡――」
「はい五十万円からスタート」
「五十五万！」
「七十万！」
「百万！」
「オークションになってる！？」
　この後ケイくんの眼鏡は八百万の値が付いたがなんやかんやでケイの手元にもどってきたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　ほどほどカオスになってきた物販会場。
　このままでは自分もハンマープライスされちゃうんじゃと思ったナイツ・ディンはそーっとその場から逃げだ――逃がさん！
「うおおやめろ！　虫取り網はやめろ！」
　ネットに捕まえられたその勢いで台座に乗せられるナイツ。
「ここまで来たら流石に逃げられないか……いいぜ、なんでもかかってこい！」
「んっ、いま『なんでもする』って」
「そうは言ってねえ！」
「はいではナイツ先生撮影会５分千円となりまーす」
「商魂たくましいなお前！？」
　とかいってる間に周りはカメラだらけに。
　パシャパシャーされる中、ナイツはどういうポーズをとっとけばいいもんか分からずとりあえず腕組み姿勢で立っていた。
「な、なあ」
「なんでございましょ」
　札束数えてたキマイラが振り返る。
「俺のフィギュアとか作られて――」
「７タイプありますけど」
「もう作られてる！」
　初版ナイツ・ディンフィギュア。
　肉体表現シリーズナイツ・ディンフィギュア。
　フルアクションナイツ・ディンフィギュア。
　ナイツ・ディンね○どろいど。
　ナイツ・ディン等身大フィギュア（かわってない）
　ナイツ・ディン超絶技巧シリーズ。
　食玩ナイツ・ディンシリーズ。
「最後シリーズ化してる……！」

大成功 🔵​🔵​🔵​

「サインください！　握手おねがいします！　ありがとうございます！」
「こっちこそ、どうもっす！」
　どこまでも伸びる行列に応えるように、リゲル・ロータリオはぎゅっと握手を交わした。
　リゲル専用ブースの床や壁にはリゲルのデザインしたクラシックな模様が描かれ、絵筆を使ってかき上げるリゲルのサインは竜のごとき迫力……といった具合に気合いが入っていた。
「サイン会とは戦場。つまりは俺も戦士っす！」
　てな具合でサインを書きまくりたまに『色紙に何かいてほしいっすか？』とか聞き始める始末。おいおい自分の首をしめるぞという係員の視線もどこふく風で、謎のイェーガーパワーもといリゲルパワーでサインを次々にこなしていった。
「これはリゲル君人形っす！　お腹押すと喋るんっすよ！」
　『イッテミルッス！』と喋る人形を子供に手渡すリゲル。
　ありがとうと興奮気味に見上げる少年の姿に、リゲルは目を見開いた。

　遠い過去。
　自分はあっち側にいた。
　憧れのフィルターで見ていたイェーガーたちはどれも輝いていて、自分がイェーガーになるさまを空想してビニール剣を振り回したこともあっただろうか。
「ぼくも、イェーガーになれますか！？」
　子供の無邪気な質問に。
　だから、こう応えることが出来た。
「なれるっす！！！！」

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年01月25日