アルダワ魔王戦争9-A〜其は『希望』を喰らうもの
「アルダワ魔王戦争への参戦に感謝します。リムは戦況を報告します」
グリモアベースに招かれた猟兵達の前で、リミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は迷宮を表した大きな地図を広げると、淡々とした口調で語りだした。
「ついにファーストダンジョン最深部までの探索が完了し、大魔王最終形態『ウームー・ダブルートゥ』が姿を現しました。いよいよアルダワ魔王戦争も大詰めです」
玉座の間にて猟兵を待つその姿は、異形なれども畏敬すら誘う美しき強靭な肉体を有し、これまでのどの形態よりも強大な、ある種の神々しささえ感じる覇気を有している。
「最終形態を守護するバリアはすでに破壊されています。あとはオブリビオンとしての復活限界に達するまで魔王を撃破できれば、この戦争は猟兵の勝利となります」
開戦からわずか半月強で、ここまで到達できた猟兵達の攻勢は驚嘆に値するものだ。
この勢いを乗って一気に決着を――そのためにリミティアは自らが予知した情報を語る。
「最終形態『ウームー・ダブルートゥ』の脅威は、相対する者の願いを反映し、自らを強化することにあります」
かの魔王は願い、望み、祈り――すなわち知的生命体の証左である『希望』を、喰らい、壊し、奪う。武力を願えばより強き形態を、勝利を望めばそのための術を、幸せを祈れば幸運を。ありとあらゆる『希望』を糧として、ウームー・ダブルートゥは進化する。
「確かに一切の希望を捨てることは猟兵にも困難。他者のどんな願望でも力に変えてしまうウームー・ダブルートゥの力は、あらゆる知的生命体にとっての天敵でしょう」
だが、どれほど凶悪な能力の持ち主であろうとも『絶対』や『無敵』はあり得ない。
それはかつて大魔王の封印に成功し、大迷宮『アルダワ』を築いたこの世界の人々が証明している。
「『希望』を現実にするのは大魔王の力ではなく、皆様自身の磨き上げた力と技と戦術とユーベルコードです。どうか全身全霊を以ってこの戦いに決着をもたらしてください」
猟兵なら必ずできるとリミティアは信じている。それは『希望』ではなく『確信』だ。
彼女の手のひらに浮かぶグリモアは燦然と輝き、ファーストダンジョンの最終フロア――『はじまりの玄室』への道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
ついに決戦の時です。今回の依頼は大魔王最終形態『ウームー・ダブルートゥ』の撃破が目的となります。
このシナリオでは下記のプレイングボーナスに基づいた行動を取ると判定が有利になります。
プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
『ウームー・ダブルートゥ』は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります。
非常に強大で、かつ厄介なユーベルコードを使用するボスですが、ここで敗北すればアルダワ世界の全ての『希望』が喰らいつくされてしまうでしょう。どうか全力をもってこの難敵を攻略していただければ幸いです。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『『ウームー・ダブルートゥ』』
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POW : ホープイーター
【敵対者の願い】【敵対者の望み】【敵対者の祈り】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : ホープブレイカー
【敵が恐れる大魔王形態(恐れなければ全て)】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : ホープテイカー
戦場全体に、【触れると急速に若返る『産み直しの繭』】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
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ウィリアム・バークリー
希望を、願いを喰らう。“聖願(ホーリーウィッシュ)”たるぼくには、まるで天敵ですね。
ぼくが願うは、誰も傷つかない平和な世界。
これへの反応は、生物全てを眠らせたりでしょうか?
それなら、剣の刃に手を滑らせて、その痛みで意識を繋ぎましょう。
トリニティ・エンハンスで攻撃力強化、「全力魔法」のSpell Boost。スチームエンジン、影朧エンジン起動。
ルーンソードにありったけの魔力を乗せて、全身全霊のルーンスラッシュを魔王に放ちます。
二の太刀を考えない一刀一閃。もちろんぼくの斬撃一つで魔王が頽れるとは思いません。続く皆のために捨て石にでもなれたら。
ルーンスラッシュを放った後は、「武器受け」で皆の援護を。
黒城・魅夜
ふふ、恐ろしい相手ですか
強いていうならまさにあなたでしょうね
なにせ、希望をつなぐ希望の依代たる私の前で希望を蔑む言辞を弄するのですから
その命知らずぶりは本当に恐ろしいですよ、その総身をねじ切りたくなるほどにね
ふふ、それは別にしても、あなたの分身はまた分身を呼ぶ無限増殖
さすがにそれは手に負えませんし確かに怖いのも事実
ですが
「絶対先制」こそがあなたの弱点
そう、あなたは「絶対先にUCを使わざるを得ない」
UCはあくまで分身であり攻撃までには一瞬のタイムラグがあります
一瞬さえあれば十分
鎖を舞わせて攻撃と見せかけ陽動し
タイムラグの隙をついて時を止めます
ただ一撃にすべてを賭ける
これが真なる希望の力です
十文字・武
願い、望み、祈りを喰らう大魔王
正しくヒトの天敵たる絶望的な能力だ
だが、知ってるか?
例え地獄の底に堕ちようと、ヒトの希望に果ては無いってな
幾らでも喰らうが良い
オレ達はそれ以上に希望を勝利を此処に願おう
勝負だ、大魔王
恐れるべき形態などありはしない。全て乗越え討ち果たしてきた過去の物
周囲に湧き出る絶望共を前に○覚悟を決めよう
群れて戦う事を知らん大魔王達なぞ恐れるに足りん
他猟兵と連携を取り絶望の壁を突き崩せ○団体行動・おびき寄せ・かばう
血反吐を吐こうと起き上がり、ただ奴を目指せ○激痛耐性・継戦能力・生命力吸収・限界突破
UC発動
狙うは唯一つ、奴の首級のみ
……アルダワが滅んだら、紅玉団長が泣いちまうだろ?
「来たか、この世界の『希望』よ」
大迷宮アルダワの最終フロア『はじまりの玄室』にて、それは猟兵達を待っていた。
これまでの形態とは一線を画する威圧感。禍々しさと神々しさを同時に備えた異形。
大魔王の忌み名にふさわしい、この世界を侵食する最大の脅威にして破滅の象徴。
「我はウームー・ダブルートゥ。汝らが『大魔王』と呼ぶ、この世の全てを喰らうもの。好きに望み、好きに願え。我はすべての希望を聞き届け、我が糧としよう」
その言葉に偽りはない。対峙した猟兵が感じるのは、魂の奥底を覗き込まれるような不快感。この大魔王の前では希望を抱くことが絶望の兆しになってしまうのだ。
「願い、望み、祈りを喰らう大魔王。正しくヒトの天敵たる絶望的な能力だ」
おそらく知性を持っている限り、その力から完全に逃れられるものは居ないだろう。
十文字・武(カラバ侯爵領第一騎士【悪喰魔狼】・f23333)は改めて理解する。
この大魔王は正真正銘、人間、猟兵、その他あらゆる知性体にとっての天敵だ。
「だが、知ってるか? 例え地獄の底に堕ちようと、ヒトの希望に果ては無いってな」
彼は笑っている。裂けるように歪めた口元からは歯を剥き出しにして、細められた眼は獣のように爛々と輝き――それは獲物を前にした捕食者の笑みであった。
「幾らでも喰らうが良い。オレ達はそれ以上に希望を勝利を此処に願おう」
二刀流の構えを取り、大魔王と対峙する武と共に並び立つのはふたりの猟兵。
そのひとり、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)はじゃらりと鎖を鳴らし微笑する。
「ふふ、恐ろしい相手ですね。希望をつなぐ希望の依代たる私の前で希望を蔑む言辞を弄するとは」
その微笑みは武のそれとはまた異なった意味で恐ろしい。艶やかでありながら氷のように冷たく、まるで目の前の相手の一切を否定するかのような女王の笑みだ。
「その命知らずぶりは本当に恐ろしいですよ、その総身をねじ切りたくなるほどにね」
これまでに対峙したどの形態の魔王にも、これほどの感情を抱くことは無かった。
その身に収まり切らない殺意を示すように、魔鎖「呪いと絆」がゆらりと宙を舞う。
「希望を、願いを喰らう。"聖願(ホーリーウィッシュ)"たるぼくには、まるで天敵ですね」
熱く、あるいは冷たく殺意を漲らせるふたりとは対照的に、ウィリアム・バークリー(ホーリーウィッシュ/氷の魔法騎士・f01788)の言葉は穏やかなものだった。
無論、それは彼の士気が他者よりも劣っているということでは無い。己の気質と敵との相性が悪いことを理解してなお先鋒に加わったのは、不退転の決意の証だろう。
胸には希望を抱きながら頭脳は冷静かつ現実的に――困難な戦いから一筋の勝機を切り拓くために、少年はルーンソード『スプラッシュ』を抜き放った。
「好い。汝らの魂は希望に満ちている。我が糧とするにふさわしい最高の贄だ」
ウームー・ダブルートゥの無機質な顔に変化はない。だが彼は確かに笑っていた。
互いに臨戦態勢は整っている。戦闘の口火を切ったのは、武からの宣戦布告。
「勝負だ、大魔王」
その瞬間、3人の猟兵は示し合わせたように駆けだすと、攻撃の構えを取る。
だがそれよりも刹那の差で、大魔王のユーベルコードが戦いの先手を取った。
「我は希望を喰らい、希望を砕く。汝らが最も恐れる絶望を見るがいい」
【ホープブレイカー】を発動した大魔王の前に現れたのは、新たな大魔王。
一体一体が姿も名前も異なる、これまで猟兵達が戦ってきた大いなる脅威達。
第一形態『アウルム・アンティーカ』。
第二形態『レオ・レガリス』。
第三形態『セレブラム・オルクス』。
第四形態『ラクリマ・セクスアリス』。
第五形態『モルトゥス・ドミヌス』。
そして最終形態――『ウームー・ダブルートゥ』の分身までもが玄室に現れる。
「征け――」
勢揃いした全ての大魔王に、ウームー・ダブルートゥ本体は蹂躙を命じる。
兵器、暴力、魔法、魔女、言霊、絶望。それぞれが全く異なる性質を持った致命的威力のユーベルコード。これを同時に受けて耐えられる者はこの世界に存在すまい。
一矢報いる猶予すら与えられずに。絶望的な力の奔流が猟兵達を一掃する――。
――はず、だった。
「――何が起きた」
ウームー・ダブルートゥは異常を察知する。確実に仕留められるタイミングだったにも関わらず大魔王達が動かない。否、"動けない"のはウームー自身も同じだった。
働いているのは意識だけ。指先どころかまばたきひとつできない完全なる硬直状態で、彼は自分を含めた玄室の"すべて"が停止していることに気付いた。
「これは……"時"を停められたのか……」
「さすがに大魔王ですね。それに気付くばかりか、この領域を認識できるとは」
応えたのは魅夜。万象が停止した空間において、彼女だけが平然としている。
何故ならば彼女こそが、この戦場の時間を止めた張本人なのだから。
「あなたの分身はまた分身を呼ぶ無限増殖。さすがにそれは手に負えませんし確かに怖いのも事実」
ですが、と、鈎の付いた鎖を振って勢いを付けながら魅夜は語る。絶対的にこちらの攻撃に先制してくる、その能力こそがウームー・ダブルートゥの弱点であると。
「そう、あなたは"絶対先にユーベルコードを使わざるを得ない”」
「我が分身を召喚したうえで攻撃を命ずる、その間隙を付いたという事か」
ウームーの理解は早かった。ユーベルコードの発動から実際の攻撃までのタイムラグはほんの一瞬でしか無かったが、その一瞬に魅夜は己の全てを賭けたのだ。
【我が白き牙に喘ぎ悶えよ時の花嫁】――ダンピールたる彼女は『時』すらも吸血し支配下に置く。隷属させた時の流れを操り時間を止めることで、この状況を作り上げた。
「刹那の『希望』に全てを捧げたか。我が喰らい尽くすには時が足りなかった訳だ」
術中に嵌まったことを大魔王は憤るでもなく嘆くでもなく、淡々と受け容れる。
いかにユーベルコードと言えども『時』を支配するほどの力がいつまでも続くはずが無い。それを理解しているからこその余裕。
「汝が我に与えられるのはせいぜい一撃。その一撃で我を滅ぼすことは出来まい」
「ええ、その通り。ですが希望は繋ぐことができます」
魅夜は回転により加速させた鎖の狙いをつける。たとえこの一撃で大魔王を仕留めることが叶わずとも、与えたダメージは必ずや後に続く仲間達の好機となる。
ならばこの一撃は無駄にはならない。彼女の希望は鎖のように他の誰かと繋がり、受け継がれ、ウームー・ダブルートゥに決定的な滅びをもたらすことだろう。
「これが真なる希望の力です」
渾身の力を込めて放たれた呪いと絆が、ウームー・ダブルートゥの胸に突き刺さる。
その瞬間、魅夜のユーベルコードが解除され、止まっていた時間は再び動きだす。
「ぐ……ッ!!」
苦痛に呻きながらよろめくウームー・ダブルートゥ。召喚された魔王達はいつの間にか本体がダメージを受けているのに驚き、一斉攻撃のタイミングを逃してしまう。
一瞬の好機に賭けた魅夜の乾坤一擲の秘策が、猟兵達の壊滅の危機を救ったのだ。
「今です、行ってください!」
呪いと絆の鎖を握り締めながら魅夜が叫ぶ。その先端の鈎はウームー・ダブルートゥの胸に深々と突き刺さり、まるで道標のようにまっすぐ彼女と魔王を結んでいた。
「おうよ!」
「感謝します!」
繋がれた希望を辿って武とウィリアムが駆ける。狙うは唯一つ、大魔王の首級のみ。
そうはさせじと希望を砕くべく立ち塞がるのは、分身した大魔王の各形態だった。
「恐れるべき形態などありはしない。全て乗越え討ち果たしてきた過去の物」
己を鼓舞するためにあえて言葉にして、湧き上がる絶望を前に武は覚悟を決める。
邪魔をするものは全て切り払うのみ。閃く妖刀と退魔刀が魔王達に傷を刻む。
「どんなに絶望の壁が高くても、ぼくたちの希望は必ず超えていきます」
ウィリアムも【トリニティ・エンハンス】を発動し、切れ味を増したルーンソードで魔王達と斬り結んでいる。共闘する武と互いに背中を合わせ、死角を補いながら時にかばい、かばわれる。即席ながらも見事な連携で魔王達の猛攻に対抗していた。
「何故だ……何故たったふたりの猟兵相手に攻めあぐねる……?」
ウームー・ダブルートゥはまたも疑問を抱く。ただでさえ6対2、それも個々の実力でさえ此方が上回っているはずが、どうしてひと押しに蹂躙できないものかと。
その理由は極めて単純なこと――集団戦における連携の習熟度合いにあった。
「群れて戦う事を知らん大魔王達なぞ恐れるに足りん」
元々、数の力に頼るまでもなく強大な魔王は、逆にその強大さゆえに他との足並みが揃わずにいた。乱戦においては威力過剰なユーベルコードは味方を巻き込みかねず、ワンマンであるがゆえに相互の意思疎通も上手く取れていない。
言わば魔王達は互いに足枷を嵌めあった状態で、完璧に連携の取れた猟兵達と戦っているのだ。双方の戦いが拮抗しているのはそれが理由であった。
――だが、それはあくまで"拮抗"である。戦況は決して猟兵に有利とは言えない。
傷つきながらも致命傷を避けて善戦を続ける武とウィリアムであったが、依然として本体であるウームー・ダブルートゥの元には近付けないでいた。
「このままだと、ちと不味いな……」
「……ぼくが道を切り開きます」
口元の血を拭って刀を握り直す武に、意を決したようにウィリアムが提案する。
このまま戦っていても絶望の壁を突き崩すことはできない。この戦況に埒を明けるためには、魅夜が仕掛けたような大きな賭けに出るしか無いだろう。
「ぼくのありったけの魔力を、全てこの一撃でぶつけます」
ウィリアムは呪文を唱えながら、ルーンソードに搭載したスチームエンジンと影朧エンジンを起動。魔導と蒸気と影朧の力で、愛剣の威力を極限まで増幅していく――だが、その時ふいに彼を襲ったのは、綿布団に包まれたような強烈な睡魔だった。
「っ……これは……」
「汝の希望。"誰も傷つかない平和な世界"という願いは我が糧となった」
返答したのは今だ鎖に繋がれたままのウームー・ダブルートゥ。【ホープイーター】にてウィリアムの願いを捕食した彼は「生物全てを眠らせる能力」を獲得していた。
「あらゆる生物が眠りにつけば、争いも痛みも生じまい」
「その結果に待つものが、緩やかな破滅だとしてもですか……!」
ウィリアムは愛剣の刃に手を滑らせて、その痛みで落ちかけた意識を繋ぎ留める。
こんなものは自分の望んだ平和では断じてない。かの大魔王の行為は他者の希望を喰らうだけでなく、希望そのものを冒涜している。
「やっぱりあなたはぼくの天敵です。だからこそ、ぼくはあなたが許せそうにない」
睡魔を上回る怒りを総身に漲らせて、聖願の少年はルーンソードを振り上げる。
籠めるのは言葉通りの全身全霊。もちろんこの斬撃一つで魔王が頽れるとは思っていない。続く皆のために捨て石にでもなれたら、それで本望。
「断ち切れ、『スプラッシュ』!」
二の太刀を考えない一刀一閃の【ルーンスラッシュ】が、はじまりの玄室を断つ。
膨大な魔力によって強化されたその斬撃は、軌跡上にいた魔王共をことごとく切断し、その先にいるウームー・ダブルートゥの身体に深い刀傷を刻みつけていた。
「……ッ! またも我が、喰らい切れぬとは」
大魔王は驚きを露わにする。確かに喰らったと思った希望に牙を剥かれたのだ。
ウィリアムはやりきったようにふっと笑みを浮かべると、その場に膝をつく。
「後は……頼みます……」
「おう!」
一閃により道は切り開かれた。この千載一遇の好機を逃すまいと駆けるのは武。
今だ健在であった分身が横合いから攻撃を仕掛けてくる。しかし彼は止まらない。
血反吐を吐こうとも即座に起き上がり、最短で、最速で、一直線に標的を目指す。
魔王達の猛攻を受けてきたその身体はとうに限界であったが――彼はその限界すら突破して、ついにウームー・ダブルートゥの間合いに踏み込んだ。
「捉えたぞ」
突撃の勢いをそのまま技の威力に転換して、放つは我が身を捨てた最速の一撃。
窮地を悟ったウームーは身を躱そうとするが、胸に刺さった鎖がそれを許さない。
「今のうちです」
「やって下さい!」
後方では鎖を手繰る魅夜と共に、ウィリアムが剣を振るい分身を足止めしている。
ふたりが託した『希望』はカラバの騎士に繋がれ――ついにその成就の瞬間を迎えた。
「カラバ二刀流・零ノ太刀……【悪喰】」
音速を超えた斬撃と刺突が、ウームー・ダブルートゥを斬り裂き、そして貫く。
ほとばしる鮮血で玄室を濡らしながら、大魔王はかっと目を驚愕に見開いた。
「これほどの、希望……一体、何が汝をここまで衝き動かす……」
「……アルダワが滅んだら、紅玉団長が泣いちまうだろ?」
"守りたい"と想う者のために剣を振るう、それこそが騎士の本懐にして本望。
仲間達の希望を繋ぎ合わせた武の表情は、満身創痍なれども晴れやかであった。
成功
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別府・トモエ
私の希望で強くなる?
……いいね
テニスしたい
テニス楽しみたい
テニスを大魔王にも楽しんでほしい
私の希望はそんなもん……おいおい、大魔王、テニスプレイヤー形態なってない?
「今やテニスの達人ウームー・ダブルートゥ!ただしその腕前は……アルダワじゃあ、二番目だ」
証明してやる
【先制攻撃サーブ】が来るな
強烈だがやるようってもんがある
【視力】で【見切って】【ダッシュ】で追い付いて【ラケット武器受け】からの【誘導弾】で返球する
リターンエースにはならないだろう
苦しい展開が続くだろう
「けど、それが楽しいんだなあ……」
楽しむ気持ちが奇跡を呼ぶ……大魔王、あんたも楽しめよ
これが!これこそが!
「私のテニスだ!食らえぇ!」
「これが猟兵の力か……良いぞ、もっと我に汝らの『希望』を喰らわせよ……!」
猟兵の力をその身に刻みつけられた大魔王は、激痛を上回る歓喜に打ち震えていた。
かつてこの地の底に封印された時でさえ、これほどの『希望』を味わったことがあっただろうか。全てを喰らうという本能のままに、彼はさらなる戦いを希求する。
「私の希望で強くなる? ……いいね」
そこに現れた別府・トモエ(人間のテニスプレイヤー・f16217)は、敵が『希望』を求めていることを知ると、愛用のテニスラケットを構えながら試しに念じてみる。
「テニスしたい、テニス楽しみたい、テニスを大魔王にも楽しんでほしい」
哺乳瓶より先にラケットを握った筋金入りのテニスバカである彼女にとって、テニスを上回る『希望』などあるはずがない。テニスを愛し、テニスに愛された少女の願いはどこまでも純粋な、とにかく「テニスを楽しむ」の一言に尽きる。
「私の希望はそんなもん……おいおい、大魔王、テニスプレイヤー形態なってない?」
「ふむ……この『希望』はテニスと言うのか。理解したぞ」
【ホープイーター】にて希望を喰らったウームー・ダブルートゥの右腕はテニスラケットと一体化しており、左手には魔王サイズのテニスボールが握られている。
その姿が虚仮威しでは無いことを、トモエはテニスプレイヤーとしての直感で理解していた。
「今やテニスの達人ウームー・ダブルートゥ! ただしその腕前は……アルダワじゃあ、二番目だ」
にやりと不敵な笑みを浮かべながら、愛用のテニスラケットを突きつけるトモエ。
大魔王だろうが何だろうが、ことテニスにおいて誰にも負けはしない。彼女の表情は自信に満ち溢れていた。
「汝の希望、汝の理想を喰らったこの我が、現実の汝に遅れを取るというのか?」
「証明してやる」
「よかろう」
一流は多くを語らない。すっと構えを取ったトモエに対して、ウームー・ダブルートゥは先制攻撃サーブを仕掛けた。異形ながらも美しいフォームから繰り出されるショットは、容易に人間を粉砕するほどの圧倒的破壊力を誇る。
(強烈だがやりようってもんがある)
百戦錬磨のテニス経験をフル活用して、トモエは大魔王のサーブに対抗する。
剛速球の軌道を見極める視力、弾道に追いつくダッシュ力、そして球を打ち返すラケット捌き――全てはテニスのために鍛えたもの。彼女の返球はまるで誘導弾のように大魔王の死角に吸い込まれていく。
「……言うだけのことはあるか」
だがウームー・ダブルートゥも負けていない。まさしく人間離れした運動能力と五感を駆使してトモエのリターンエースを阻止し、より強烈な一打を以って返球する。
そのまま戦いは両者一歩も譲らぬラリーの応酬となる。大魔王の球を受ける度に、トモエの手には隕石が衝突したような衝撃が伝わってくる。どう返球しても即座にそれ以上の威力で打ち返してくる魔王を相手に、彼女は次第に追い詰められていく。
「けど、それが楽しいんだなあ……」
勝機を見いだせない苦しい展開ながら、トモエの口元には笑みが浮かんでいた。
逆境の中で彼女の意識は極限まで研ぎ澄まされ、やがて【無我の境地】へと至る。
余計なことは何も考えない。頭の中にあるのはただ、テニスが楽しいという気持ちだけ。
「何だ……?」
ウームー・ダブルートゥが違和感を察知したのは、彼女のプレーの質が劇的に向上したためだった。戦場(コート)を駆けるスピードは音速を超え、無我のオーラを纏った打球は大魔王のそれに匹敵するほどに重い。
「ありえぬ……我がテニスの技量は汝のそれを上回っているはず……」
「楽しむ気持ちが奇跡を呼ぶ……大魔王、あんたも楽しめよ」
テニスの勝敗を決めるのは数値化できるようなスペックデータだけではない。
心からテニスを楽しむことを忘れない限り、トモエは常に成長を続けている。
それは一分一秒、この瞬間でさえも。ただ『希望』を喰らうことしか知らないウームー・ダブルートゥには、決して到達できない境地に彼女はいるのだ。
「『楽しい』……それは我にも喰らい尽くせぬほどの『希望』を生むのか……」
ラリーの応酬に先に耐えられなくなったのは、ウームー・ダブルートゥだった。
返し損ねたボールが高々と上空に浮かび上がる。またとない絶好球。
「これが! これこそが! 私のテニスだ! 食らえぇ!」
溢れんばかりのテニス愛を込めて、打ちつけられたのは渾身のスマッシュ。
流星のごとく打ち出されたボールは、大魔王の顔面に見事にヒットした。
「テニスとは……奥が深い、ものだ……」
がくり、膝を突くウームー。それは敵の希望を喰い尽くせなかった精神的敗北。
猟兵vs大魔王の異種テニス戦は、かくしてトモエに軍配が上がったのであった。
成功
🔵🔵🔴
ルカ・ウェンズ
いきなり大魔王が美形になったわ…ん?これは弱くなった大魔王を楽して倒したいと願っても強くなるの!
スタングレネードは第二形態に使ったからネタバレだし…【オーラ防御】で敵の攻撃を防いでから、ユウベルコードを使って私も自身を強化するわ。
理性を失うから味方には避難してもらわないと。
ユウベルコードを使ったら後は【怪力】オーラ刀切り、怪力仕事人の拷問具で引っ叩き、怪力顔面を殴る蹴る、怪力羽引きちぎり、ひたすら怪力任せに攻撃して敵に【恐怖を与える】わ!恐怖を与えることができたら…もっともっと、ひたすら怪力任せにオブリビオンを攻撃しないと!
「いきなり大魔王が美形になったわ……ん? これは弱くなった大魔王を楽して倒したいと願っても強くなるの!」
「言うに及ばず。汝らの『希望』――全ての願い、祈り、望みは我が糧となる」
おそらく多くの者が考えたであろうルカ・ウェンズ(風変わりな仕事人・f03582)の疑問に、ウームー・ダブルートゥは当然のように答えた。相手の不利益を望んだとしても、大魔王に喰らわれた『希望』は"大魔王の視点から"具現化されるためだ。
「弱者を圧倒するのが汝の望みならば、我はその『希望』通り汝を蹂躙するまで」
「あちゃぁ……思ったより面倒くさいわね」
大魔王がじろりと敵を睨めつけると、ふいに脱力感と倦怠感がルカの身体を襲う。
ルカの願いはどうやら"弱体化"という状態異常付与能力として具現化されてしまったらしい。
「汝の願った結末の通りに逝くがいい」
ウームー・ダブルートゥの翼の羽ばたきが、凄まじい魔力嵐を玄室に巻き起こす。
吹き飛ばされまいとオーラの防壁を纏って踏ん張るルカだったが、弱体化の影響で思うように力が入らない。重度の過労と貧血が同時に襲ってきたような感覚だ。
「スタングレネードは第二形態に使ったからネタバレだし……こうなったら」
ルカはなんとか嵐に耐えながら周囲を見回す。今、このタイミングで前線に立っているのは彼女だけだ。援護を望めるような状況では無いが、逆に言えば誰かをルカ自身の戦闘に"巻き込む"恐れも無い。
「ちょっと避難しておいてね!」
後方の味方にも聞こえるよう叫んでから、ルカはユーベルコードを発動する。
【そして誰もいなくなった】――それは唯、オブリビオンを殲滅する為だけの姿に自らを変化させ、驚異的な攻撃力と耐久力を得る能力。その代償は、本人の理性。
「何だ……?」
ウームー・ダブルートゥは違和感を覚える。目の前の敵から急に『希望』を感じられなくなったからだ。理性を捨てたルカには願いも、望みも、祈りもなく、その身を衝き動かすものはたった一つの衝動だけ。
「オブリビオン滅すべし」
蟲のように無機質な殺意を放って、ルカはウームー・ダブルートゥに襲い掛かる。
弱体化を強化で上書きし、より大きな力を得た彼女が振るう「変形式オーラ刀」の刃は、大魔王の硬質な肌にざくり、と喰い込んだ。
「よもや自ら『希望』を捨てるとは……」
感嘆とも驚愕ともつかない言葉を漏らす大魔王に、ルカは休まず追撃を仕掛ける。
刃鞭のごとき形状の「仕事人の拷問具」を叩きつけ、絡ませ、引き寄せては顔面を殴る蹴る――技術ではなく強化された膂力にものを言わせた、ただ力任せの猛攻。
およそ知的とは言い難い行動であったが、知的生命体の『希望』を糧とするこの怪物相手には、意外にもそれは理に適った戦法だった。
「煩わしいな……」
眉をひそめながら反撃を仕掛けるウームー・ダブルートゥ。すっと無造作に振るわれた腕に撫でられるだけで、ルカの身体からごっそりと力が抜け落ちた。
これが"この世の全てを喰らう"という大魔王の力。しかし彼女は怯むことなく飛び掛かると、腕を伝って背中にしがみつき、天使と悪魔のごとき翼を引っ掴んだ。
「滅すべし」
肉と筋が裂ける嫌な音。理性を捨てた剛力が、大魔王の翼を根本から引き千切る。
猛獣のごとく手の付けられないその暴れように、ウームーの精神を不可思議な感情が襲った。
「この感情……これは、恐怖か……?」
それはほんの微かに脳裏をちらつく程度の動揺。だがこの瞬間、ウームー・ダブルートゥは初めて猟兵の存在を"恐れた"。弛まぬルカの猛攻が大魔王を怯ませたのだ。
(もっともっと、ひたすらオブリビオンを攻撃しないと!)
オブリビオンを絶対殲滅するバーサーカーと化したルカは、まだまだ止まらない。
反撃を受けようが傷つこうがお構いなしに、動けなくなる最後の瞬間まで、彼女は力任せに大魔王を殴り続けたのだった。
成功
🔵🔵🔴
西堂・空蝉
あたしの願いは今も昔も変わらず、「もっと強い奴と闘いたい」。この望みを糧に力を増すのならそれこそ望むところってぇもんです。いざ尋常に、勝負といきましょう。
搦め手は得意なタチでして。あちらさんがあたしの願いを喰らってもっと力強く、もっと硬くなるなら、そんなときは……目ぇを狙います。どんな豪傑でも、ここと金的だけは鍛えられませんからね。【残像】を使用し、多少攻撃が当たりダメージを受けてもなんとか接近し、【グラップル】で目潰しをしかけます。視界を一瞬でも塞ぐことに成功したら【剣刃一閃】を発動。その体、確実に斬り裂いてみせますよ。
尋常に、とはいいましたがここは戦場。最後に立っていた方の勝ちなんですよ。
「あたしの願いは今も昔も変わらず、『もっと強い奴と闘いたい』。この望みを糧に力を増すのならそれこそ望むところってぇもんです」
全身が燃え上がるような闘志を漲らせて、はじまりの玄室に現れたのは西堂・空蝉(血錆お空・f03740)。まだ見ぬ強者とまみえることを望む彼女の『希望』は、果たして望むとおりの結果を大魔王にもたらした。
「強く、より強く、か。ならば汝は今日、その『希望』の果ての絶望を見るだろう」
ウームー・ダブルートゥの外見に劇的な変化はない。しかし空蝉には分かった。
自分の『希望』を喰らった魔王が得たものは、ただ純粋な"強さ"であると。
「いざ尋常に、勝負といきましょう」
「よかろう。簡単に倒れてくれるなよ」
高枝鋸「土瓶落とし」を構えた空蝉の視界から、ウームー・ダブルートゥが消える。
否、あまりに速すぎて消えたように見えただけだ。次の瞬間には空蝉の目前に迫っていた彼は、無造作な動きで手刀を振り下ろした。
「……っ!」
間一髪で身を翻す。残像を生んでその場から飛び退いだ空蝉の身体には、袈裟懸けに深い傷が刻まれていた。あと少しでも遅ければ、そのまま両断されていただろう。
「なるほど、とんでもねぇですね」
衣服を血の色に染め上げながら、表情を変えぬまま空蝉は呟く。それなりに修羅場を潜ってきたはずの自分がまったく動きを見切れなかった。加えてただの手刀がこの威力――こちらの攻撃は当たるかどうかは愚か、刃が通るかどうかも怪しい。
自分の『希望』が作り上げた絶望的な強敵に、しかし彼女は高揚感を感じていた。
(あちらさんがあたしの願いを喰らってもっと力強く、もっと硬くなるなら、そんなときは……)
得物をぐっと構え直し、地面を蹴る。とにかく敵の懐に入らなければ始まらない。
緩急をつけた機動で残像を生じさせながら接近してくる空蝉に、ウームー・ダブルートゥは強者の余裕を示しながら、ばさりと翼を羽ばたかせる。
「特攻、のつもりか?」
ただの羽ばたきで嵐のような突風が巻き起こり、鎌鼬の刃が敵対者を切り刻む。
舞い散る血飛沫――しかし空蝉は止まらない。元より無傷の勝利など望んでもいない、奥歯を噛み締めて薄れかける意識を繋ぎ止め、ただ前に、前に。愚直とも思えるほど進撃を続ける少女を、ウームー・ダブルートゥは冷たい眼差しで睥睨していた。
「近付いたところで、実力の差は歴ぜ――っ」
その言葉は最後まで続かなかった。ふいに大魔王の視界が真っ赤に染まる。
流した血を手元に溜めて浴びせる。受けたダメージを利用した血の目潰し。
「どんな豪傑でも、ここと金的だけは鍛えられませんからね」
空蝉の口元に微かな笑みが浮かんだ。こんなものはすぐに拭い取られて終いだろうが、一瞬でも目を塞ぐことができれば良い。自分はその一瞬に全てを賭けるまで。
「その体、確実に斬り裂いてみせますよ」
残された心技体の全てを絞り尽くして放たれる、乾坤一擲の【剣刃一閃】。
ひょうと風切る音を響かせながら、大鋸の刃が大魔王の片腕をばっさりと切断する。
「最初から、これを狙っていたのか……卑怯な奴め……」
「尋常に、とはいいましたがここは戦場。最後に立っていた方の勝ちなんですよ」
切り落とされた腕の断面を押さえながら、ウームー・ダブルートゥが後退する。
悔し紛れとも取れる発言に空蝉は飄々と応えるが、さりとて彼女にも余力は無い。
決着はあとの皆さんに任せましょう、と、最後の勝ち組に居座るために、血錆お空はさっさと前線から撤退していくのだった。
成功
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ジュリア・ホワイト
ハハ、希望を喰らう?
希望の体現者たるヒーローとしては見過ごせないね
「ボクが逆にキミを呑み込んであげよう。希望の最後は死に非ず!」
ボクの願いや祈り?
一番は『希望を齎す者として恥ずかしくない振る舞いをすること』だよ!
相応しいだけの武力を身に着けたい、も多少含むけど
一番は言動…精神性だ
この願いを食ってキミの振る舞いが英雄的になった所で戦況に影響はない
UCを使ったにしては小幅な強化で留まるだろう
「キミのそのUCは…希望に縋るのではなく、そのものたらんとするボク相手には相性が悪いんだよ!」
反撃にはボクの最大最強の技をお贈りしよう
【そして、果てなき疾走の果てに】!
希望は、突っ走った先にある!
【即興歓迎】
「ハハ、希望を喰らう? 希望の体現者たるヒーローとしては見過ごせないね」
舞台役者のように爽やかな笑みを浮かべながら、ジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)は颯爽と戦場に降り立つ。生まれ故郷は違えども、世界に絶望をもたらす大魔王(ヴィラン)がいると聞いては黙って居られるはずが無い。
「ボクが逆にキミを呑み込んであげよう。希望の最後は死に非ず!」
「我は全てを喰らう者なり。生命が絶滅した果てには希望も残るまい」
堂々と担架を切るヒーロー・オーヴァードライブを前に、大魔王は泰然たる威厳を以って応じる。光が強ければ影もまた濃くなるように、猟兵の『希望』を喰らった絶望の力は増大を続けていた。
「汝の祈り、汝の願い、汝の望み。すべて我に差し出すがいい」
己の力を誇示するかのように、ウームー・ダブルートゥは翼を大きく広げる。
全身から生じる魔力の波動は嵐となって戦場に吹き荒れ、力弱き者の接近を拒む。
ただそこに"居る"だけで、心を鷲掴みにされるような威圧感。しかしジュリアは立ち止まらない。
「ボクの願いや祈り? 一番は『希望を齎す者として恥ずかしくない振る舞いをすること』だよ!」
大魔王の前で怯えて立ちすくむような無様な姿は、ヒーローにはふさわしくない。
ヒーロー・オーヴァードライブとしての正装である白のパワードスーツを装着した彼女は、一歩も引き下がることなく大魔王の波動を耐え抜いてみせた。
「よくぞ耐えてみせた。ならば受けてみよ、我が必殺の一撃!」
小手調べはここまでだと言わんばかりに、ウームー・ダブルートゥが追撃を放つ。
切断された腕の断面から生えてきたのは、ジュリアの「残虐動輪剣」によく似た無骨なチェーンソー剣。唸りを上げる連刃の凶器を、真っ向から大上段に振り下ろす。
「これで終わりだ!」
「いいや、まだだっ!」
ジュリアは装甲の分厚い箇所でガードを固め、さらに身に纏う「スチームレイヤー」の蒸気を一点集中。持てる全ての力を尽くして大魔王の刃を受け止めんとする。
「くぅ……っ!」
ガリガリガリガリッ!! と耳障りな音を立てて装甲が削り取られていく。
だが、そのまま標的を真っ二つにするはずだった斬撃は、その寸前で辛くも停止する。
「受け止めた、だと……? なぜだ、汝の『希望』は我が喰らったはず……」
「気付いていないのかい? 自分の中で起こっている変化に」
重傷なれども一命は取り留めたジュリアは、不敵に笑いながら魔王の疑問に答える。
確かに魔王はジュリアの希望を喰らって進化した。だがその結果がすべて魔王の益になるとは限らない。
「ボクの願いは相応しいだけの武力を身に着けたい、も多少含むけど、一番は言動……精神性だ」
ジュリアと対峙してからの堂々とした大魔王の振る舞いや正面切っての攻撃は、彼女が望んだ英雄的精神性が反映されたものだった。しかしそれが戦局に大きな影響をもたらすことは無く、戦闘力強化という視点からはむしろ小幅に留まる。
唯一の誤算はあの異常な威圧感――"希望をもたらす"願いが反転した"絶望をもたらす"精神攻撃だが、それも真の希望たらんとするジュリアの心を折るほどでは無かった。
「キミのそのユーベルコードは……希望に縋るのではなく、そのものたらんとするボク相手には相性が悪いんだよ!」
ヒーローとは希望の体現者。いくら大魔王が人々から希望を奪っても、希望そのものを喰らいつくせはしない。それがジュリアが志す"ヒーロー"の在り方だ。その信念に基づいて大魔王の攻撃を凌いだ彼女は、反撃のユーベルコードを発動する。
「反撃にはボクの最大最強の技をお贈りしよう」
カン、カン、カン、カン、と響く警告音と、ガタン、ゴトン、と何かが近づく音。
召喚された二筋の軌条型の踏切結界が、ウームー・ダブルートゥを拘束する。
「これは
……?!」
危機感を覚えようがもはや遅い。移動を封じられた大魔王に襲い掛かるのは、ジュリアの本体であるヒーローズアース製蒸気機関車「D110ブラックタイガー号」。
それは頑丈な車体そのものを武器とした質量攻撃。【そして、果てなき疾走の果てに】――。
「希望は、突っ走った先にある!」
最高時速で突っ込んだ機関車の体当たりが、ウームー・ダブルートゥを突き飛ばす。
希望を満載したその破壊力は、かの大魔王にさえ喰らい尽くせるものでは無かった。
成功
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トリテレイア・ゼロナイン
(自身を●ハッキングし疑似感情を抑える論理的思考優先度低下)
私の願い、望み
御伽の騎士の様に振舞い善を為すこと
その姿、その振舞い
私の原初の理想の体現なのでしょう
…だから、読みやすい
強力なれどその眩しい程に裏も無く真っ直ぐな攻め
片腕を犠牲に●見切って●限界突破した●怪力の●盾受けで逸らし
私の願いも望みも叶うこと無く
祈るのは手の届かぬ事象や逝ってしまった方々だけ
それに比べれば魔王に手を届かせること等…
すかさずUC
格納銃器での●だまし討ちの●目潰しで牽制しアンカー射出
●ロープワークと剣を頼りによじ登り魔王の背に●騎乗
普段より増した自己嫌悪を振り払い鉄爪展開
貫手で背を●串刺し内部に炸薬増量腕部銃器発射
「想像以上の力だ……」
玄室の奥まで吹き飛ばされた大魔王は、獅子の四肢を踏ん張って即座に起き上がる。
猟兵の攻撃によってダメージは蓄積されている筈。しかし今だその動きに淀みはなく、表情には苦痛よりも歓喜が色濃く浮かんでいる。
「流石はこの世界の『希望』を担う者達だ。一筋縄ではいかぬか……?」
再び臨戦態勢となった大魔王は、新たにやって来る『希望』の気配を嗅ぎつける。
現れたのは白き装甲を纏う騎士。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)だった。
「感じるぞ、貴様の『希望』を。そして、手が届かぬがゆえの絶望を」
「全てお見通しということですか。流石は大魔王です」
メモリーの奥底まで見透かすような視線を感じながら、トリテレイアは盾を構える。
元より自分の『希望』を隠し通せると思ってはいない――むしろ逆に、彼は自己ハッキングによって平時の論理的思考の優先度を下げ、疑似感情の抑制を解くことで、確実に敵の【ホープイーター】が発動するように誘導さえしていた。
「ならば汝に代わって、我が汝の『希望』を体現してみせよう」
ウームー・ダブルートゥの姿が変わっていく。右手にはランスを、左手には大盾を。全身には白銀の甲冑を纏い、下半身は獅子から白馬と化したその姿は、威風堂々たる人馬一体の騎士を模したものだった。
「…………」
トリテレイアに言葉は無かった。ああ、まさしく目の前に立つのは彼が憧れたもの。
この機体にそんな機能は無いはずなのに、どうしてか胸が締め付けられるように痛む。
「征くぞ猟兵よ。紛い物なれども汝も騎士なれば、正々堂々と矛を交えよ」
その言葉遣いから振る舞いに至るまで完全に騎士道の作法に則りながら、ウームー・ダブルートゥは馬蹄の音を響かせる。仕掛けるのは誉れ高き騎士にふさわしい、真正面からの騎馬突撃(ランスチャージ)だ。
「私の願い、望み。御伽の騎士の様に振舞い善を為すこと」
トリテレイアは目に焼き付けていた。己が『希望』を喰らった大魔王の勇姿を。
倒すべき敵だと分かっていても、それは余りにも輝かしく、勇ましく、美しい。
「その姿、その振舞い。私の原初の理想の体現なのでしょう」
喪失した記憶の中に唯一残されていた御伽噺。焦がれてもなお見果てぬ夢想。
何度心に思い描いたことだろうか。斯様に華々しく戦う騎士としての姿を。
「……だから、読みやすい」
真っ向から突き出された騎士槍を、トリテレイアの重質量大型シールドが防ぐ。
その威力は絶大なれども、眩しい程に裏も無く真っ直ぐな攻め。多少の犠牲を覚悟の上ならば見切るのは容易く、捌くことも不可能では無い。
「私の希望を体現しているだけはありますね。シミュレート通りの動きです」
皮肉ともつかぬことを呟きながら、トリテレイアは全出力のリミッターを解除。
限界を超えた膂力で大盾を保持し、艦船の衝角にも匹敵しようかという突撃の威力を逸らし切った。
「我が全霊の一撃、防ぎ切ったというのか……!」
「驚かれる程のことではありません」
辛くも初撃を凌いだトリテレイアだったが、その被害は決して浅いものではない。
突撃を受け止めた大盾は貫通こそしなかったものの大きく歪み、それを保持していた片腕も使い物にはなりそうもない。だが、それでもまだ戦えるのならば充分。
「私の願いも望みも叶うこと無く、祈るのは手の届かぬ事象や逝ってしまった方々だけ。それに比べれば魔王に手を届かせること等……」
すかさず展開するのは機体各部に内蔵された格納銃器。騎士道を鑑みれば言語道断とも言える【機械騎士の二重規範】が、突撃をいなされた無防備な大魔王を襲った。
「む……貴様、それでも騎士か!」
だまし討ちに等しい攻撃を受け、ウームー・ダブルートゥは憤る。喰らった『希望』の影響か、どうやらその精神性も騎士道をなぞったものに変異しているらしい。
だがトリテレイアが構うことは無い。牽制射撃で敵を怯ませることが出来れば、今度は射出したワイヤーアンカーを大魔王に引っ掛ける。
「自分が騎士道に反していることなど、最初から分かっています」
抑制のきかない自己嫌悪の感情を振り払いながら、紛い物の騎士はまだ動く片手で儀礼剣を突き立て、巨体をよじ登る。振り落とさんと暴れる大魔王の手綱を取るようにワイヤーを手繰り、その背中へ。
「それでも、私は―――!!」
それ以上は言葉にならなかった。
抑え切れぬ激情のままに、トリテレイアの貫手がウームー・ダブルートゥを穿つ。
そのまま腕部格納銃器を展開。限界まで増量した炸薬を、魔王の内側で炸裂させる。
「ごぉ……ッ!!!」
銃声と爆音が玄室に木霊し、大魔王の口から苦悶に満ちた声が漏れる。
トリテレイアの執念が、『希望』を喰らいし偽りの理想を打ち砕いた瞬間だった。
大成功
🔵🔵🔵
ソラスティベル・グラスラン
お任せください、過去の英雄たちよ
あなた方が紡いだ物語は、今決着を迎えます
これは我らの英雄譚!結末は勿論、大・団・円!です!
【オーラ防御・盾受け】で守り【怪力・見切り】で受け流す
【第六感】で察知し万全な【継戦】を
只管に耐え延びて前進
攻撃を縫い【ダッシュ】、我が大斧を叩き込む為に
物語の英雄たちと並ぶ為に、何より愛した大魔王
『勇者』とは勝利を願われ、望まれ、祈られる者故に逆は無い
ですが唯一願います、『艱難辛苦』を!!
より強く、激しい試練を!
無数の試練を越え貴方を打倒し!わたしは真に『勇者』となる!
さあ…待たせましたね、勇者の大斧よ
胸中に燃える我が【勇気】に応え
『勇者』の証明をここに―――ッ!!!
「お任せください、過去の英雄たちよ。あなた方が紡いだ物語は、今決着を迎えます」
ファーストダンジョンに蔓延る幾多の災魔やトラップを乗り越えて、遂にはじまりの玄室へとたどり着いたソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)。
彼女が誓いを立てる相手はかつて大魔王をこの地に封じた英雄たち、そして災魔の脅威から人々を守るため、地下迷宮アルダワに挑んだ全ての勇者たち。
「これは我らの英雄譚! 結末は勿論、大・団・円!です!」
勇ましくも豪語しながら、蒼雷を纏いし大戦斧「サンダラー」を高々と掲げる。
その勇姿はまさしく、この世界から絶望の闇を払う『希望』の体現であった。
「否。汝らの『希望』は全て我のもの。この戦いの結末は我が勝利である」
希望という光明が燦然と輝けば、相対する絶望の暗黒もより深くなるように。
【ホープイーター】たるウームー・ダブルートゥからは質量すら感じられるほどの邪悪なオーラが放たれる。心弱き者ならばそれだけで心臓が止まるほどの威圧感だ。
(物語の英雄たちと並ぶ為に、何より愛した大魔王)
ソラスティベルは想う。目の前に立つものはまさしく自分が待ち望んでいた宿敵――いや、あるいはそれ以上かもしれない。英雄たちの伝説にも劣らぬ勲を立てるのに、これにも勝る脅威はおよそ存在しないだろう。
「『勇者』とは勝利を願われ、望まれ、祈られる者故に逆は無い」
信念を胸にソラスティベルは駆ける。待ち受ける大魔王の懐目指してまっすぐに。 ウームー・ダブルートゥが手をかざせば、無数の魔法と攻撃が彼女に襲い掛かる。
炎に、雷に、風に、剣に、槍に、矢に、無慈悲にも打ちのめされる勇者。しかし彼女は止まらない。
「ですが唯一願います、『艱難辛苦』を!! より強く、激しい試練を!」
これはソラスティベル自身が望んだもの。確実なる勝利になど彼女は興味は無い。
どんな苛烈な攻撃にも耐え、絶望的な力の隔たりも乗り越えて、万に一つの勝機を手繰り寄せる。それこそが彼女の思い描く理想の体現だった。
「無数の試練を越え貴方を打倒し! わたしは真に『勇者』となる!」
「愚かなり。自らの意志で勝機を捨てるとは」
気炎を吐くソラスティベルの『希望』通り、大魔王の攻勢はより苛烈さを増した。
吹き荒れる暴風や地獄の業火、轟く雷鳴で戦場はさながら天変地異の様相と化す。
オーラで全身を保護していなければ呼吸さえままならない。猛威を受け止めるスチームシールドには亀裂が走り、今にも壊れてしまいそうな有様だ。
それでもソラスティベルは屈しない。絶体絶命の窮地の中で研ぎ澄ませた第六感で活路を見出し、竜人の怪力と見切りのセンスを駆使して致命傷を受け流す。
彼女の視線は決して揺らがない。打ち倒すべき宿敵だけを見据えて、前に、前に。
炎に焼かれた。もはや火傷の痛みすら感じない。
雷に貫かれた。斧を握る感覚さえ残っていれば充分。
風に飛ばされた。すぐに立ち上がってまた走りだす。
これぞ我が勇気の証明、至るは戦火の最前線。
諦めを知らぬ進撃は、遂に大魔王を戦斧の間合いに捉えた。
「さあ……待たせましたね、勇者の大斧よ」
胸中に燃える勇気に応え、ソラスティベルの手の中で大斧が蒼雷を放つ。
艱難辛苦を超えたその身は満身創痍で、立っているのもやっとのこと。
ならば残された全身全霊をこの一撃に籠めるまで。憧れ続けた夢の果て、その最後に立ちはだかる最大の障害に、新たなる伝説の誕生を刻みつけるために――。
「『勇者』の証明をここに―――ッ!!!」
【我が名は神鳴るが如く】。その一撃は、まさしく天をも焦がす雷霆がごとし。
蒼雷が天変地異を吹き飛ばし、雷鳴と閃光が戦場から全ての音と光を消し飛ばす。
その中心にいたのは、満足そうな笑みを浮かべ崩れ落ちる勇者ソラスティベル。
そして、肩から胸にかけてを両断寸前なまでにばっさりと断ち斬られた、大魔王ウームー・ダブルートゥの姿であった。
大成功
🔵🔵🔵
フレミア・レイブラッド
希望は人が持つ唯一無二の力…魔王だろうとそれを消す事ができると思うな…!
わたしはわたし自身と大切な者達の為におまえを倒す…!
・先制対策
【念動力】で防御壁を張り物理的な防御だけでなく、精神的な防壁を張る事で敵に「願い」等を読み取らせ難くさせ、敵POWUCに対抗。魔力弾【誘導弾、高速詠唱、全力魔法】で目晦まし兼ねて弾幕を張り牽制。時間を稼ぎ、【吸血姫の覚醒】発動させるわ。
覚醒後は真っ向から激突。額と胸の宝石部を急所と判断し、そこを狙って高速移動からの魔槍での連続突き【怪力、早業、串刺し】で攻撃。時折魔力弾や【念動力】も織り交ぜつつ、全魔力を込めた魔槍【限界突破、力溜め、怪力】を叩き込んであげるわ!
「我が劣勢だと……あらゆる生命から『希望』を奪うこの我が、何故……」
「希望は人が持つ唯一無二の力……魔王だろうとそれを消す事ができると思うな……!」
信じられぬと言わんばかりの面持ちで、勇者に付けられた深手をなぞる大魔王。
その傲慢をフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は糾弾する。この世界には、魔王にさえ奪い尽くせぬほどの『希望』が満ちているのだと。
それでも彼がこの世の全てを喰いつくし、カタストロフを齎そうとするのなら――。
「わたしはわたし自身と大切な者達の為におまえを倒す……!」
この世界で出会った人々や、掛け替えのない思い出の数々。
その全てを守るために、誇り高き吸血姫は魔槍を取る。
「ならば汝の大切な『希望』も、我が糧としてくれよう……」
ウームー・ダブルートゥが手を伸ばす。フレミアの心の中にある『希望』を理解し、それを反映することで自らを強化し、より強大な存在へと進化するために。
だが、普段なら瞬時に読み取れるはずの『希望』が、今回は中々捉えられない。こうなることを見越して、フレミアは予め念動力による精神防壁を張っていたのだ。
「わたしの心を簡単に覗けると思わないことね!」
『希望』の捕食に抵抗しながら、彼女はさらに魔力の誘導弾を放って敵を牽制する。この程度の攻撃が大魔王に通じるとは思っていないが、時間を稼ぐことができれば充分だ。
「小癪な……」
目眩ましの魔力弾幕を払いのけ、大魔王はようやく【ホープイーター】を発動する。
しかしその時にはフレミアも【吸血姫の覚醒】を発動し、真の力を解放していた。
「我が血に眠る全ての力……今こそ目覚めよ!」
爆発的に解き放たれた魔力の中から現れるのは、17、8歳程に成長したフレミア。
背中に生えた4対の翼を広げ、優雅に空に浮かび上がるその姿は、まさに夜の貴族たるヴァンパイアの名にふさわしい。
「その姿が汝の全力か。ならばその力も喰らってやろう」
「できるものなら、やってみなさい!」
はじまりの玄室の上空を舞台として、大魔王と吸血姫は真っ向から激突する。
ウームー・ダブルートゥは白と黒の翼を羽ばたかせ、魔力のオーラから無数の魔法を発動させる。対するフレミアは強化された魔力弾と念動力でそれを迎え撃ちながら、瞬間移動と見紛うほどの猛スピードで接近戦を仕掛ける。
狙いは額と胸に埋まった青と赤の巨大な宝石。そこを魔王の急所だと判断した彼女は魔槍ドラグ・グングニルに魔力を集め、目にも留まらぬ速さで猛然と突き掛かる。
「くらいなさい!」
「むぅ……っ」
両腕と両翼を盾として、魔槍の連続突きをガードするウームー・ダブルートゥ。
宝石を庇った――ということはやはり、あの部位は魔王にとって攻撃されたくない箇所ということ。確信を得たフレミアはさらに勢いをつけて攻勢を繰り出す。
「調子に乗るなよ」
大魔王とて防戦一方な訳がない。目まぐるしい魔槍の連撃を捌きながら、その巨体でフレミアにも匹敵するスピードで空を翔け、膨大な魔力で反撃を仕掛けてくる。
念動力の防御壁を張っていなければとうに致命傷を負っていただろう。それでも戦いが苛烈さを極めていくにつれ、彼女の負傷は無視できないものとなっていく。
「流石に大魔王と言われるだけはあるわね……だけど!」
バラの花弁のように鮮血を散らしながらフレミアは戦場を舞う。攻防の最中に少しずつ集束させた魔力によって、その手の魔槍は篝火のように赫々と輝いていた。
「おまえがどんなに強大でも、人の希望は喰い尽くせない」
魔弾と念動力と魔槍を織り交ぜたコンビネーションが、大魔王のガードをこじ開ける。敵が体勢を立て直すまでの僅かな隙、その刹那にフレミアは全てを賭けた。
「わたしの全力、叩き込んであげるわ!」
全ての魔力を込めた真紅の魔槍が、滑りこむように大魔王の胸の宝石を貫く。
ピシリ、と金属が砕けるような音を立てて、赤い宝石に亀裂が入った。
「ぐぅ……っ、喰らい尽くせぬ……猟兵の力は、これほどだと言うのか……?」
ひび割れた宝石を押さえながら、苦しげに呻くウームー・ダブルートゥ。
それはかつての封印時にも味わったことのない、規格外の力に対する恐れだった。
成功
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シャルロット・クリスティア
いくら意気込もうと、いくら願おうと、人は己にできること以上の事はできません。
己のやれることが上回れば勝てる、できなければ負ける……それだけです。
発動は阻止できないにせよ、願望を取り込むのであれば実際に攻撃に回るまでは多少なり時間的猶予はあるはず。
呼吸を整え、雑念を抜き……あとは、やれることをやるだけ。
動きを見切り、捌き、壁や地形を活かし、誘導し、誘い込み、隙を作り、すかさず撃ち抜く。
あくまでも基本に忠実に、理詰めの狩りを。
希望や願望など、ただの不確定要素。こと、こういう強敵相手だからこそ、見たままの現実だけを正しく認識し、処理する。
未来など、その結果なだけ。今は余計な思考です……!
「猟兵の『希望』とは凄まじい……もっとだ……もっとその力を我に寄越せ……!」
まさにその猟兵によって苦境に立たされようとも、大魔王の行動原理は変わらない。
この世の全てを喰らわんとする彼にとって、強大な敵とはすなわち美味なる糧だ。
極上の『希望』を見せつけられたことで、その飢餓衝動はさらに加速していく。
「いくら意気込もうと、いくら願おうと、人は己にできること以上の事はできません」
――だが、そんな大魔王が求めている『希望』を、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は敢えてばっさりと切って捨てた。こと戦いにおいては冷静沈着を旨とする彼女は、不確定な希望に頼って戦うことを良しとしない。
「己のやれることが上回れば勝てる、できなければ負ける……それだけです」
それは彼女の年齢にしては不釣り合いなほどドライな思考だったが、紛れもなく真実の一端を突いている。願いや祈りで銃弾の狙いが良くなるわけでも、威力が向上するわけでも無いのだから。
「汝がいかに否定しようとも、『希望』こそは知的生命体の証左なり」
鋭い眼光と共に銃口を向けてくるシャルロットに対し、大魔王は悠然と返答する。
どんなに心を律しても、人は希望を捨てられない。生物の基本的欲求から"生きたい"という根本的な願いまで糧とする【ホープイーター】を阻止するのは不可能だ。
それでも努めて願望を表に出さないようにすれば敵の強化は抑制できる。そして敵が願望を取り込んでから実際に攻撃に移るまでには多少の時間的猶予があることも、シャルロットは見抜いていた。
(大丈夫……落ち付いてやればできます)
その僅かな猶予を使って、彼女は呼吸を整え、雑念を抜き、【精神統一】する。
肩の力が抜けてほどよく緊張がほぐれ、視界がクリアになる。実力を100%発揮できる万全のコンディション――あとは、やれることをやるだけ。
「滅びよ」
翼を大きく広げて大魔王が上空から襲い掛かってくる。シャルロットは即座に反転して踏み潰されないように身を躱しながら、近くにそびえ立つ柱の陰に隠れる。
重要なのは視野を広く保つことだ。敵の動きをよく見切りながら、戦場の地形を把握して利用する。狭まった視野ではふとした危機に気付くことができず、いつの間にか窮地に追い込まれていることが往々にしてある。
(視野を狭めてはいけない。よく見て、そして素早く判断する)
魔王の放った魔法が柱を破壊する。その直前に飛び出したシャルロットは倒壊で巻き上げられた土埃に紛れて、マギテック・マシンガンの照準を合わせ、引金を引く。
「ぬぅっ」
小気味よく連なる銃声と共に、銃弾の雨に打たれるウームー・ダブルートゥ。
大ダメージではないだろうが構わない。射撃地点を把握されて反撃が来る前に、すぐさま移動を再開する。
シャルロットの戦い方はあくまでも基本に忠実な、理詰めの狩りだった。
自分に有利な場所に敵を誘導し、誘い込み、隙を作り、すかさず撃ち抜く。
言葉にするほど容易ではない。しかし偶然の介在する余地の最も少ない戦法だ。
(希望や願望など、ただの不確定要素。こと、こういう強敵相手だからこそ、見たままの現実だけを正しく認識し、処理する)
焦る必要はない。それは行動の幅を自分から狭める行為でしかない。
恐れる必要もない。それは敵の認識を過大に歪めることになるから。
ただ、ブロックを積み重ねるように、出来ることを堅実にやればいい。
(未来など、その結果なだけ。今は余計な思考です……!)
徹底して己を律しながらシャルロットはマシンガンを手に戦場を駆け巡る。
機械的とさえ言えるその戦法は、こと大魔王に対しては最も有効だった。
「この娘を動かしているのは『希望』では無い……ならば、一体何だ……?」
これまでに出会ったことのないタイプの敵を相手にして、ウームー・ダブルートゥは戸惑っていた。単純な能力差は歴然としているのに、どうしても攻め切れない。
困惑のままシャルロットを追っていた彼の動きが、ふいにがくんとよろめきながら止まる。他の猟兵との戦闘で破壊された瓦礫と床の亀裂に、足を取られたのだ。
「しまっ――」
直後、降り注いだのは強烈な機銃掃射の嵐。射手たるシャルロットの冷たい眼光と同様、銃弾には希望もなければ慈悲もない。ただまっすぐに標的を撃ち抜くだけだ。
華々しい英雄譚とは異なる、狩猟のように淡々とした戦い――だが、その積み重ねは少しずつ大魔王ウームー・ダブルートゥを追い詰めつつあった。
成功
🔵🔵🔴
「……見事なり、猟兵よ。ここまで我が追い詰められたのは、封印を受けて以来か」
破壊された『はじまりの玄室』に、大魔王ウームー・ダブルートゥの声が響く。
猟兵達から数多の『希望』を喰らい、その存在は開戦時よりも強化されている。
にも関わらず彼が劣勢に立たされているのは、全身の負傷から明らかだった。
「『希望』だけでは汝らには勝てぬようだ。ならば我は、汝らの全てを奪い尽くす」
その宣言と同時に、玄室内の空間が歪み、床や壁や天井が作り変えられていく。
荘厳な石造りの玉座の間は、またたく間に巨大な繭の中のような空間に変貌した。
「この『産み直しの繭』を以って、我は汝らに勝利する」
【ホープテイカー】。希望を捕食、破壊に続く第三のユーベルコード。
大魔王ウームー・ダブルートゥとの戦いは、新たな局面へと突入する。
クリナム・ウィスラー
これが大魔王の最終形態……
かつて彼をこの地に封じた人達に敬意を称し、再び彼を倒しましょう
骸の海に封じるわ
まず最初は……『産み直しの繭』?
若返りが実年齢に対するものなら余裕はあるけれど、肉体年齢に依存するなら危険ね
【呪詛】をこめたUCで魚の霊を召喚し、その背に乗りながら迷路を進んでいきましょう
なるべく直接迷路に触れないように気をつけて
そして迷路の中では絶えず【情報収集】をして効率よく進んでいきましょう
こんな時こそ冷静にならないと
迷路を無事に脱出したらあとは一気に仕掛けるわ
【全力魔法・範囲攻撃】で嵐を起こし、魚達をけしかける
これは願いじゃない、わたしの本能
嵐と破壊の神としてただひたすらに暴れるだけ
「これが大魔王の最終形態……かつて彼をこの地に封じた人達に敬意を称し、再び彼を倒しましょう」
神々しくも禍々しいその威容を目の当たりにしても、クリナム・ウィスラー(さかなの魔女・f16893)は冷静だった。この大魔王から世界を守るために命を賭した人々の想いを無駄にしないためにも、ここで自分達猟兵が臆するわけにはいかない。
「今度は骸の海に封じるわ」
二度と現世に復活できぬよう、深く、深く。この世界の禍根を完全に断つのだ。
「まず最初は……『産み直しの繭』?」
迷路の中に取り込まれたクリナムは、それに触れるのが危険だと即座に判断する。
大魔王の力にて創造されたこの繭は、触れたものを急速に若返らせる効果を持つ。
「若返りが実年齢に対するものなら余裕はあるけれど、肉体年齢に依存するなら危険ね」
直接迷路に触れずに移動できるよう、彼女が発動するのは【魚魔女の使役術】。
彼岸より召喚された深海魚の群れはクリナムの足となって、迷路の中を遊泳する。
「まずはここから出ないと話にならないわね」
深海魚の幽霊の背にちょこんと乗りながら、クリナムは脱出のための糸口を探る。
一面似たような光景が続く繭の中だが、これがユーベルコードの産物である以上、どこかに出口はあるはずだ。
「汝はここで滅びるが定めである」
だが、みすみす脱出するのを待っているほど敵も悠長ではない。迷路を彷徨うクリナムに襲い掛かるのは、全身に魔力を漲らせた大魔王ウームー・ダブルートゥ。
放たれる強大な魔法から彼女を守ったのは、傍にいた深海魚達だった。個々では大魔王に敵うほどの力はない彼らは、それでも身を挺して魔女をかばう。
「ありがとう」
散っていった魚達に感謝を告げながら、クリナムは急いで大魔王の手から逃れた。
同時に微かな大気の流れや構造の違いを繋ぎ合わせ、頭の中で迷路の地図を作る。敵に再び追いつかれる前にここを脱出できなければ、いよいよもって窮地だ。
「こんな時こそ冷静にならないと」
焦りは思考を鈍らせるだけ。問題ない、迷宮ならここまでずっと越えてきた。
凪いだ海面のように落ち着いた心持ちのまま、効率的に最短コースを選定。
足となる深海魚を全速力で泳がせて、一目散に突き進んだ先は――。
「――やっと出られたわ」
息苦しい繭の迷路から脱出したクリナムは、ほっと息を吐きながら地面に足をつく。
ここからは反撃の時間だ。迷路から魔王が追って出てくる前に、一気に仕掛ける。
「繭ごと水の中に沈みなさい」
叡智の杖を掲げ、肩に乗るウミウシの「ピローくん」と共に魔力を解き放つ。
荒ぶる魔女――否、神の魔力は地の底に風と雨雲を呼び、またたく間に巨大な嵐を巻き起こして、『生み直しの繭』に襲い掛かった。
「これは……なんだ、この力は……『希望』では無い……?」
迷路の外から吹き付ける暴風と豪雨が、ウームー・ダブルートゥを巻き上げる。
さらに嵐に乗って襲来した深海魚の群れが、今こそ報復の時とばかりに襲い掛かる。彼らの鋭い牙や鱗は、群れをなせば大魔王さえも傷つける刃となった。
「これは願いじゃない、わたしの本能」
嵐と破壊の神としての本質のままに、クリナムは秘めたる暴力性を解放する。
浮世離れした平時の姿からは考えられないほどの猛々しさで、暴風嵐は繭全体を大きく揺るがし、荒ぶる幽魚の群れと共にウームー・ダブルートゥを脅かす。
「神の力……これほど、とは……!」
苦悶に満ちた大魔王の呻き声は、荒れ狂う嵐の咆哮によってかき消される。
異界において畏怖と恐怖の対象であったその力を、彼は身をもって味わった。
成功
🔵🔵🔴
銀座・みよし
アルダワの危機ですが、それでも貴方にお聞きしたい事がございます
わたくしはシャーマンズゴースト
人に友好的なUDC-Pのオブリビオンで、人にあらぬ者です
ねえ大魔王様、オブリビオンも若返るのかしら?
仮に若返ってもお屋敷で引き取られた6歳までしか若返れないかもしれません
でもオブリビオンに効くならばフォーミュラで術者は無効なんて道理もないでしょう?
きっとそちらも第一形態まで若返っているでしょう
ちなみに猟兵は6歳であっても十全に猟兵なのです
ご理解と納得はいただけました?
それではスフィンクスさん、ビームにございますればー!
…ねえ大魔王様
もし若返りすぎたら、わたくしもあなたも同じように躯の海に還るのかしら?
月宮・ユイ
尽きぬからこそ『希望』でしょう
直感<第六感>+知覚全開<情報収集>
動き見切り回避集中
外套[コスモス]+<オーラ>肌覆い<風属性>付与
風噴射や流れ操り速度<限界突破>飛翔浮遊
<念動力>併用風圧縮、周囲に層作り斥力生み迷路と接触防ぐ
始源に託され刻まれた意志
例え戻され様と消えはしない
《封絶縛鎖》UC喰らい封じる鎖操作
<破魔>呪<呪詛>付与、効力強化し迷路壁に対抗。
射出や<怪力>のせ鞭の如く扱い
張り巡らせ足場や被弾時体受け止め、数重ね盾受け防御。
縛り封じた瞬間、鎖収縮<早業>接近
<呪詛:生命力吸収>のせ斧槍[ステラ]渾身の一撃<捕食>を
暴食の王…私は護る為に、貴方/敵を喰い尽す
アドリブ絡み◎
ヤドリガミ
「アルダワの危機ですが、それでも貴方にお聞きしたい事がございます」
生み直しの繭の中に取り込まれたまま、銀座・みよし(あまおう苺を食べた犯人・f00360)は大魔王に問いかける。生命を若返らせるという迷路をしげしげと眺めながら。
「わたくしはシャーマンズゴースト。人に友好的なUDC-Pのオブリビオンで、人にあらぬ者です。ねえ大魔王様、オブリビオンも若返るのかしら?」
その答えを知るために、彼女は敢えて自分から迷路の壁にぺたりと触れる。
直後に感じたのは"何か"が身体から奪われていくような感覚。人ならざる者でもオブリビオンでも例外はなく、この繭はあらゆる存在を若返らせるようだ。
「どうやら有効なようですね。ではオブリビオンに効くならばフォーミュラで術者は無効なんて道理もないでしょう?」
「道理である。だが汝は如何にしてこの繭に我を触れさせるつもりか?」
みよしの問いかけを肯定しながら、大魔王ウームー・ダブルートゥは宙に浮かぶ。
その背中には黒と白の翼がある。迷路の創造主でありその構造を全て把握している彼は、迂闊に自分から生み直しの繭に触れるようなことはしないだろう。
「我が力を以って我を滅ぼす、それが汝の『希望』か。だがそれも我が糧である」
希望も、生命も、時間も、全てを食い尽くすことが大魔王の宿業にして本能。
みるみるうちに若返っていくみよしとは対照的に、彼の者の存在は不変であった。
「尽きぬからこそ『希望』でしょう」
だがその時、一陣の風と共に月宮・ユイ(月城紫音・f02933)が魔王を強襲する。
はためくは風を帯びた精霊の外套『コスモス』。精霊の浮遊能力と風の噴射や気流を操る彼女は、繭に接触することなく迷路の中を自在に翔ける。
「自分から触れないのであれば、触れさせるまでです」
「その『希望』が叶うか否か、試してみるがよい」
その手で鞭のような鎖状の概念兵装を振るい、上空の大魔王に挑み掛かるユイ。
だが新手の襲来をすぐさま察知した大魔王は、後の先を取って鋭い手刀を振るう。
莫大な魔力を宿したその切れ味は真剣にも勝る。ユイは咄嗟に新たな鎖を召喚して重ね合わせ、即席の盾として攻撃を受け止める。
「く……っ」
切断は免れたが、それでも衝撃はすさまじい。跳ね飛ばされた少女の身体は壁に叩きつけられ、繭の力が彼女を生まれたときの状態へと巻き戻していく。
「原初へと回帰し、無力な存在へと還るがよい――」
「始源に託され刻まれた意志、例え戻され様と消えはしない」
大魔王は勝利を確信したが、されどもユイはそのままの姿で再び立ち上がった。
壁に衝突する瞬間、彼女は念動力で圧縮した風の層によって、斥力を生みだし繭との接触を防いだのだ。
「それよりも気付いていないのですか? 窮地に陥っているのは貴方の方です」
「む……? 何だ、これは」
ユイに指差されて大魔王は初めて気付く。自らの腕に鎖が絡みついていることを。
それは先刻彼女が防御のために使った概念兵装『封絶縛鎖』。"封じ"の概念を鎖として具現化したこの武装は、実体の有無を問わずあらゆるものを拘束し力を封じる。
しかも今回魔王が触れたのは、破魔の呪いによって効力を高められた特別製だった。
「鎖の渦よ、喰らい封じろ……」
「ぐ……ッ?!」
詠唱が紡がれると、縛鎖はその真の力を発揮して大魔王の力を喰らい始める。
動きが鈍った好機を逃さず、ユイは鎖を収縮させて敵を引き寄せながら、風と鎖を足場にして再び宙に舞い上がる。その手に顕現させたのは、星剣『ステラ』のコアより創生した呪詛纏う斧槍。
「暴食の王……私は護る為に、貴方/敵を喰い尽す」
渾身の力を込めて振り下ろされた一撃は、獲物の胸を深々と抉り、その生命力を捕食する。凄まじい衝撃を受けた魔王は、先刻のユイのように壁に叩きつけられた。
「う、ぐ、おぉぉぉぉぉぉぉっ」
苦しげな呻き声を上げながら、ウームー・ダブルートゥの姿が変わっていく。
骸骨悪魔のごとき姿から、さらに女達を取り込んだ異形へ――これまで猟兵達に見せてきた形態変化を、そのまま逆に辿っていく。
「感謝いたしますユイ様。これでわたくしの仮説は正しいと証明されましたね」
安堵混じりにそう言い放ったみよしの前で、大魔王の姿はとうとう第一形態――三位一体の蒸気機械兵器『アウルム・アンティーカ』にまで巻き戻っていた。
かくいうみよし自身も繭に触れた影響で、今の働き口であるお屋敷に引き取られた頃――だいたい6歳くらいの姿にまで若返っているので、メイド服がぶかぶかだ。
「ちなみに猟兵は6歳であっても十全に猟兵なのです。ご理解と納得はいただけました?」
「この状況……全て汝の『希望』通りということか……」
封絶縛鎖と形態変化による弱体化で、大魔王はすぐに立ち上がることもできない。
対して若返っても能力に変化のないみよしは微笑むように目を細め、【数多の知恵備えし者】――獅子の身体と人間の頭を持つ聖獣を召喚する。
「それではスフィンクスさん、ビームにございますればー!」
"理解からの納得"という感情を与えた標的に送られるのは、目も眩むほどの閃光。
その直撃を受けた大魔王の身体は、迷路のはるか奥底まで吹っ飛ばされていった。
「……ねえ大魔王様。もし若返りすぎたら、わたくしもあなたも同じように躯の海に還るのかしら?」
ビームが止んだ後、みよしは敵の消えていった方角を見つめながらぽつりと呟く。
彼女の若返りが6歳で止まったのは、ユイの封絶縛鎖が繭の効力を弱めたからだろう。もし、あのまま迷路に触れ続けていたらどうなっていたのか――UDC-Pであろうと他のオブリビオンと同じ結末を迎えていたのか、その答えは誰も知らなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
スヴェトラーナ・リーフテル
「この迷路、使えますね」
「対象の解釈を実行、コード【パズズ】」
これはちょっとした解釈の話なのですが、若返りはアンチエイジング(生物が死に至るまでの間に起こる機能低下やその過程である老化の防止)を意味します。しかし、この魔王が意図している「若返り」はむしろ機能低下を引き起こします。つまり、彼は「若返りに付随する年齢を低下させる」などの表面的な現象を悪用しているのみなのです。
「おお!哀れなる者!回帰せよ!」
つまり、事は単純です。忘れ去られてしまったこの迷路の本来のアンチエイジングな側面を思い出させ、私のUCへと合わせ他の猟兵への生命溢れるバフとするのです。戦闘に不参加ですが、後は任せます。
雛菊・璃奈
希望は消させない…わたし達の希望は、願いは、祈りは、おまえなんかに簡単に潰えさせられるものじゃない…!
おまえを倒し、世界を救う…!
・UC対策
【呪詛、オーラ防御、呪詛耐性】で防御術式を纏い、敵のUCの効果を少しでも軽減…。更に黒桜の呪力放出【呪詛、衝撃波、早業】で広範囲の繭を呪力で侵し、バルムンクに力を集中し、呪力の斬撃を放射する【呪詛、力溜め、衝撃波、鎧砕き】事で繭を破壊し迷宮を砕くよ…!
【九尾化・魔剣の巫女媛】封印解放…!
全魔剣で攻撃…!
黒桜で牽制し、アンサラーで敵の攻撃を反射…。
凶太刀の高速化と神太刀の神殺しで連続攻撃し、全ての力を収束させたバルムンクで胸の核と思われる部分を両断するよ…!
「猟兵の全てを喰らい尽くすには、これでも不足か……」
【ホープテイカー】により作り出された『生み直しの繭』の最深部で大魔王は呟く。
一時は第一形態にまで"若返り"を受けたその姿は、既に最終形態『ウームー・ダブルートゥ』に戻っている。だが、その間に受けたダメージまで回復した訳ではない。
「まだ我には糧が必要だ……もっと多くの『希望』を寄越せ……!」
窮地に陥ることで加速する捕食衝動は、猟兵を含めたこの世の全てに向けられる。
世界が終焉を迎えるその時まで、彼の飢えが満たされることは決して無いだろう。
「希望は消させない……わたし達の希望は、願いは、祈りは、おまえなんかに簡単に潰えさせられるものじゃない……!」
世界の『希望』を守るため、立ちはだかるのは雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)。
人々の願いや祈りを我がものとする大魔王ウームー・ダブルートゥ。掛け替えのない希望を冒涜するに等しい所業を、彼女は決して許すことはできない。
「おまえを倒し、世界を救う……!」
「それが汝の『希望』ならば、それさえも我は喰らうのみよ」
普段は表情に乏しいその顔に、勇ましい決意を浮かべながら璃奈は踏み込む。
迎え討つウームー・ダブルートゥは静かに告げ、繭の迷路に魔力を注ぎ込んだ。
「回帰せよ。弱く、儚く、無力な時代へ」
「こんなもの……っ」
生み直しの繭による若返りに対抗せんと、璃奈は全身に呪力のオーラによる防御術式を纏う。この"若返り"自体がある種の呪詛である以上、呪術で抵抗はできる筈だ。
「呪力解放……!」
さらに彼女が呪槍・黒桜を振るうと、放出された呪力が桜の花弁のように迷路に降り積もり、繭そのものをじわじわと侵食していく。純白の迷路が漆黒へと塗り替えられていく様は、まるで領域そのものの支配権を奪い返していくようだった。
「この迷路、使えますね」
璃奈の呪力と大魔王の魔力がせめぎ合う中、ふいに呟いたのはスヴェトラーナ・リーフテル(実装者・f03738)だった。彼女は若返りを受けない黒い領域から白の領域を観察し、【生ける海】の発動と共に『生み直しの繭』への干渉を開始する。
「対象の解釈を実行、コード【パズズ】」
死霊術士にして電脳魔術士である彼女の組み上げたプログラムが、繭と接触する。
その効果は速やかに、そして劇的に現れた。若返りの呪詛から懸命に抗っていた璃奈は、ふいに身体の奥から湧き上がるような力の高まりを感じたのだ。
「これは……?」
「どういうことだ?」
璃奈にもウームー・ダブルートゥにも何が起こったのか分からない。ただ確認できる事実は生み直しの呪いが停止したことと、璃奈の力が飛躍的に増幅したことだ。
「これはちょっとした解釈の話なのですが、若返りはアンチエイジング――生物が死に至るまでの間に起こる機能低下や、その過程である老化の防止を意味します」
その答えを知るスヴェトラーナは、コードの展開と実行に没頭したまま語る。
淡々としていながらも解説が饒舌なのは、研究者としての性なのだろうか。
「しかし、この魔王が意図している『若返り』はむしろ機能低下を引き起こします。つまり、彼は『若返りに付随する年齢を低下させる』などの表面的な現象を悪用しているのみなのです」
つまり、事は単純です――と、生命普遍原理の追求を目的とする彼女は言い切る。
忘れ去られてしまった"本来の"アンチエイジング的な側面を思い出させてやれば、この迷路はむしろ生命体である猟兵達にとって有益な領域へと変化するのだと。
「おお! 哀れなる者! 回帰せよ!」
高らかに木霊するスヴェトラーナの宣言と共に、生み直しの繭が変質していく。
いや、それは変質というよりも彼女の言う通り『回帰』したのだろう。今やこの繭は触れているだけで生命力を賦活させる、強力なバフフィールドとなった。
「ユーベルコードを維持する都合上、私は戦闘に不参加ですが、後は任せます」
「充分だよ……ありがとう……」
溢れんばかりに全身にみなぎる力を、璃奈は魔剣「バルムンク」に集中させる。
そして渾身の力で一閃すれば、斬撃から放出された呪力は凄まじい衝撃波を巻き起こして生み直しの繭を破壊し、大魔王の迷路を打ち砕いた。
「なんという
……!!」
【ホープテイカー】を完全攻略されたウームー・ダブルートゥは愕然としている。
この機を逃さず畳み掛けるために、璃奈は【九尾化・魔剣の巫女媛】を発動する。
「我らに仇成す全ての敵に悉く滅びと終焉を……封印解放……!」
解き放たれた莫大な呪力はオーラとなってその身を包み、妖狐の証たる尾は九尾に変わる。飛翔能力と共に魔剣・妖刀の力を増幅する力を得た彼女は、自らが有する全ての魔剣と共に一気に攻勢を仕掛けた。
「いくよ、みんな……!」
勢いよく振るった呪槍から放たれる呪力の奔流は先刻の比ではなく、巨大な桜吹雪が大魔王の視界を覆う。敵がこちらを見失っている隙に、璃奈は疾風のごとく大魔王の懐に飛び込むと、妖刀・九尾乃凶太刀と九尾乃神太刀による連続攻撃を仕掛けた。
「ぐ、うぉぉ、ぉ……っ!!」
音速を超えるスピードを使い手に与える凶太刀と、神殺しの力を秘めた神太刀。
この二刀による斬撃は回避不可能、かつ再生不可能な傷を大魔王に刻みつけた。
「『希望』の高まりを感じる……その力、我が糧となれ……!」
苦痛と歓喜の混在した表情を浮かべながら、大魔王は全身から魔力の爆発を放つ。
璃奈は咄嗟に魔剣「アンサラー」に得物を持ち替え、膨大な魔力の衝撃をそのまま大魔王自身へと反射する。
「これはおまえの糧なんかじゃない……おまえに終焉を齎す力……!」
「ぬぉ……ッ!」
強烈な"報復"の力をその身に叩きつけられた大魔王が、空中でバランスを崩す。
すかさず璃奈はバルムンクを再び構えると、流星のごとく迷宮を翔け上がる。
「Фонтан любви, фонтан живой!」
砕けた『生み直しの繭』の断片から力が伝わってくる。スヴェトラーナの実行したコードは今も有効であり、疲労も負担も感じないし、気力も生命力も充実している。
璃奈は満ち溢れる力の全てをバルムンクに収束。文字通りの全身全霊、いやそれ以上の力を注がれた魔剣は凄まじい呪力を纏い、その刀身は数倍まで巨大化する。
「この一撃で……断ち斬るよ……!」
振り下ろされた乾坤一擲の一太刀は、ウームー・ダブルートゥの胸部を捉えた。
終焉の漆黒に染まった刃は、ひび割れていた赤い宝石を真っ二つに両断し――滑らかに割れた断面から、洪水のような勢いで膨大なエネルギーが放出される。
「ぐ、おぉぉ、おオォォォォォォッ
!!!!!!?!!」
それはウームー・ダブルートゥがこの世界で喰らい集めた『希望』のエネルギー。
核たる宝石のひとつを破壊したことで、大魔王に奪われていた願いが、望みが、祈りが、一斉に世界へと解き放たれたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐伯・晶
僕の願いは邪神を分離して
元の姿に戻る事だけど
戦闘中に考えるのはやめておこう
邪神との結びつきを強化されたら困るしね
その時は力を使い易くなるだろうから倍返しかな
まずは自分の体を固定する事で
空中浮遊して繭に触れないようにするよ
女神降臨で飛行したり
繭から創った使い魔を活用したりして
迷路を抜けよう
繭から創った使い魔なら繭に触れても若返らないだろうし
会敵したらガトリングガンで攻撃
援護射撃で味方を援護したり
神気で相手の攻撃を防御したりして戦うよ
進化を繰り返すなら繭から創った使い魔の状態異常攻撃で
若返らせてリセットを狙おう
余裕があれば胸の赤い宝石を狙ってみようか
どの形態にもあるから
重要な器官かもしれないし
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
あたしの望みかぁ…なんだろ?
まぁとりあえず今は、あんたをブッ潰したい、とは思ってるけど。
…とは言うものの。多分あたしの火力じゃどうあがいてもダメージソースには力不足なのよねぇ。
…この際、火力は捨てるわぁ。あんたを倒すのは、あたしじゃなくてもいいんだもの。
〇目潰し・拘束・〇マヒ攻撃、遅延起動と接触起動を織り交ぜた〇だまし討ち…
強化をどれだけ相殺できるかは分からないけど。手札と手管洗い浚いブチまけて、●圧殺で徹底的に邪魔してやるわぁ。
…ホント、ボス連中ってどうしてこう「雑に強い」のかしらねぇ…
まあ結局は「虎が強いのはそいつが虎だからだ」ってことなんでしょうけど。
「おぉォォォォォォ……我が、力が、『希望』が、失われてゆく……」
斬られた胸を押さえて苦しげにもがきながら呻く大魔王ウームー・ダブルートゥ。
多大なダメージによりこれまでに喰らった力の多くを失った彼は致命的な飢餓状態に陥っていた。魔王らしい泰然とした振る舞いは失われ、瞳には獣の眼光が宿る。
「喰らわねば……猟兵の……この世界の『希望』を
……!!」
さながら蜘蛛が獲物を捕らえるための巣を張り巡らせるように、荘厳な玄室を白い繭が覆っていく。再発動した【ホープテイカー】は魔王を守る盾であり、猟兵を喰らうための牙であった。
「あたしの望みかぁ……なんだろ? まぁとりあえず今は、あんたをブッ潰したい、とは思ってるけど」
迷路の奥に消えていく大魔王を睨みつけながらティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は呟く。これもある種の『希望』となるのかもしれないが、だからと言ってこの戦争の元凶を前にしてその感情を抑えることはできない。
「……とは言うものの。多分あたしの火力じゃどうあがいてもダメージソースには力不足なのよねぇ」
手負いとはいえ敵は最終形態。装甲耐久ともにこれまでの形態とは比較にならぬほど強化されたバケモノを殺し切るには、彼女の手持ちのリソースには不安があった。
だからと言って指を咥えているわけにもいかない。まずはこの迷路を突破して、引きこもった大魔王を鉄火場に晒してやらなければ。
(僕の願いは邪神を分離して、元の姿に戻る事だけど)
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は日頃から抱いている切実な希望を、今は思考の奥底に押し込める。あの大魔王を前にして迂闊なことを望めば、どんな悪辣な形で反映されるか分かったものでは無いからだ。
(邪神との結びつきを強化されたら困るしね)
その場合はより邪神の力が使いやすくはなるだろうが、そのまま元に戻れなくなるかもしれない。戦闘中は有利でも長期的に考えればあまりぞっとしない話だ。
「自分の願いを他人にどうこうさせるものじゃないね」
そう呟きながら晶は"停滞"や"静謐"を司る邪神の力で自らの身体を空中に固定し、『生み直しの繭』に触れないよう浮かび上がる。そのまま【女神降臨】で可憐なドレス姿に変身した彼女は、大魔王を追って迷路の奥へと進んでいった。
「……ホント、ボス連中ってどうしてこう『雑に強い』のかしらねぇ……」
触れるだけで致命的、という身も蓋もないほどに厄介なユーベルコードの迷路を、ティオレンシアはバイク型UFO「ミッドナイトレース」に跨って翔け抜ける。
敵の希望を喰らって強くなるのも、これまで戦ってきた魔王形態を召喚するのもそうだが、ぼやきの一つも入れたくなるくらいには極悪な能力の目白押しである。
「まあ結局は『虎が強いのはそいつが虎だからだ』ってことなんでしょうけど」
「だけど、どんなに強い相手でも、僕たちはこれまでにも倒してきたよ」
ティオレンシアと並んで飛行しながら晶が応える。生来の個としての能力で勝る相手でも、知恵や技術、あるいは仲間との連携で凌駕するのが猟兵達の戦い方だ。
晶は『生み直しの繭』から妖精型の使い魔を創造し、複雑な迷路の水先案内をさせている。同じ繭から作られた存在であれば、接触しても若返ることはないだろう。
「見つけた」
妖精の導きに従って迷路を抜けたふたりは、繭の最奥にて潜む大魔王を発見する。
会敵の瞬間に晶は携行型ガトリングガンのトリガーを引き、手負いの魔王に銃弾を浴びせる。
「回復する暇なんてあげないよ」
「ぐぅぅぅゥゥゥゥ……ッ!!」
"敵をブッ潰したい"、"元に戻りたい"という『希望』を再び喰らうことで大魔王はいくらか力を取り戻したようだが、その傷は今だ深い。手負いの獣のような余裕の無さで反撃を――その寸前に、ティオレンシアが撃ち込んだグレネードが炸裂する。
「がぁッ?!」
強烈な閃光が大魔王の視界を眩ませ、一時的にだが動きを妨害する。その隙を突いて晶は邪神の力でガトリングの弾薬を創造すると、追撃の弾幕を叩きつけた。
「……この際、火力は捨てるわぁ。あんたを倒すのは、あたしじゃなくてもいいんだもの」
ティオレンシアが放つのは催涙ガスや閃光音響、あるいは麻酔薬などを込めた、殺傷性ではなく身体の拘束、そして五感や精神へのダメージを狙った攻撃だった。
クレインクィン・クロスボウから射出されたグレネードが大魔王の周囲で爆音を上げ、束縛のルーンを刻んだ「オブシディアン」の銃弾が撃ち抜く。手札と手管を洗い浚いブチまけて、徹底的に敵を邪魔してやるつもりだ。
「小癪、な……!」
大魔王は翼を羽ばたかせて【圧殺】から逃れようとするが、ティオレンシアは相手がどう動くかも予測したうえで、偏差射撃や遅延起動を織り交ぜて敵を逃さない。
「今がチャンスだ。さあ行って」
大魔王を妨害する爆発と銃撃に紛れて、ひっそりと近付いたのは晶の使い魔。
『生み直しの繭』から作られた妖精がそっと触れると、魔王の様子に変化が起こる。
「ぐ、うぅぅッ?!」
まるで風船が萎びるように弱まっていく気魄と威圧感。"若返り"を利用した進化のリセットにより、【ホープイーター】にて喰らった『希望』の力はまたも失われた。
ふらふらとよろめきながら高度を落としたウームー・ダブルートゥに、ここぞとばかりにティオレンシアがありったけの銃弾とグレネードを炸裂させる。
「墜ちなさい」
鼓膜と目玉を吹っ飛ばすような轟音、そして閃光。平衡感覚を失った魔王の巨体はバランスを崩し、どうと音を立てて玄室の地面に落下した。
「さあ、今のうちよぉ」
「分かってる、ありがとう」
墜落した大魔王にガトリングの照準を合わせるのは晶。狙うのは頭部の青い宝石。
どの形態にもあった胸の赤い宝石はすでに破壊されているが、敵はまだ活動を止めてはいない。他に重要そうな器官と言えば、そこしか無かった。
「胸の宝石が"力"の象徴だとするなら……頭の宝石は"知恵"かな?」
ぐっとトリガーを引き絞る。放たれた銃弾は狙い過たずに大魔王の頭部を穿つ。
ピシリと澄んだ音を立てて、頭上に戴かれた碧き宝石に大きな亀裂が走った。
「ぎぃぃぃィヤァアァァァァァァァアッッ
!!!?!!」
その瞬間、大魔王の口からほとばしったのは、知性のカケラもない獣の絶叫だった。
この世の全てを喰らい尽くすために知恵を、そして力を得たかの災厄に、いよいよ終焉の刻が迫りつつあった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シェーラ・ミレディ
戦争もいよいよ大詰めだ。
残る魔王はお前のみ。──その顔を絶望に染めてくれよう!
万一、繭に触れても問題ないよう、先に精霊の祝福を得ておこうか。(呪詛耐性)
終われば敵のUCを焼き払うぞ。
焼却、属性攻撃、全力魔法。繭の迷路を炎で蹂躙し、焼き払ってしまおう。
硬度が高かろうが、繭なのだろう? ならば燃やせぬ道理もあるまい。
炎に巻かれて迷路を攻略するのも骨だ。
「これが大魔王とやらの実力か? 成程、長きにわたる封印によって、未だ精彩を欠いているようだな!」
希望のある言葉を大声で叫び、敵を誘き寄せるぞ。
4丁の精霊銃の照準を敵に合わせUCを放つ。
──執着される心当たりは、あるだろう?
※アドリブ&絡み歓迎
「戦争もいよいよ大詰めだ。残る魔王はお前のみ。──その顔を絶望に染めてくれよう!」
追い詰められたウームー・ダブルートゥに、シェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)は力強く宣言する。迷宮の果ての地の底で、世界の『希望』を喰らわんとする災厄に、相応しい末路をくれてやると。
「絶望……? あぁあグぅゥゥ否……希望、キボうを、きボウをよこセ
……!!」
大魔王はひび割れた頭部の宝石を押さえながら、獣のような唸り声を上げた。
剥き出しとなった本能のままに『希望』を喰らわんとする、彼の衝動を反映するように【ホープテイカー】の迷路は戦場を侵食していく。
「ふん。若返りなどしなくても、今のままで僕は完璧だ」
『産み直しの繭』の侵食を防ぐために、シェーラは精霊たちの力を借りる。
美しき人形に魅せられた精霊の祝福は、その身体を妨げるあらゆる呪いから彼を守る。大魔王級の呪詛ともあれば耐えていられる時間は限られようが、猶予を作れれば充分だ。
「硬度が高かろうが、繭なのだろう? ならば燃やせぬ道理もあるまい」
抜き放った精霊銃に宿すは炎の精霊力。トリガーを引けば放たれた魔弾は焼夷となって壁や天井を焼き焦がし、またたく間に燃え広がっていく。触れてはいけない邪魔な障害物は焼き払ってしまえばいい、極めてシンプルな解答だ。
「他愛ないものだ」
繭の迷宮を炎で蹂躙しながらシェーラは考えた。炎に巻かれて迷路を攻略するのも骨だ。それなら自分は待ち構えたまま、敵のほうから此方に来てもらえばいい。
「これが大魔王とやらの実力か? 成程、長きにわたる封印によって、未だ精彩を欠いているようだな!」
迷路の一番奥まではっきりと届くように、高く、澄んだ美声で挑発する。まだ戦いの最中でありながら勝ち誇るような、自信と『希望』に満ち溢れた態度と言葉で。
手負いの獣は傷を癒やすためにエサを求める。ウームー・ダブルートゥにとってのエサは知的生命体の発する『希望』だ。この状況であれば間違いなく食い付くはず。
「ぐうぅゥゥゥゥ……きぼウ、希望を我にささゲよ
……!!」
果たしてシェーラの狙い通り、繭の迷路の奥から飢えた大魔王は姿を現した。
その眼光は血走り、優美な相貌は肉食獣のごとく歪み。魔力と殺気と飢餓を全身に漲らせたその様子は、さながら"捕食"という衝動が生物になって動いているようだ。
「醜いものだ」
待ち受けていたシェーラは4丁の精霊銃の照準を敵に合わせる。その構えは【彩色銃技・尤雲殢雨】。薬室に込められたのは非業の死を遂げた女の悪霊である。
「彼がお前の背の君だ」
四発の発砲音は同時に鳴り響き、銃弾として放たれた悪霊達は目標に的中する。
ゆらぁり、と巨躯にしなだれかかった女の霊は、呪詛の念にて大魔王を束縛し、力を封じ、蝕んでいく。
「なンだ……コやつ等は……ハナセ……ッ!」
「──執着される心当たりは、あるだろう?」
其は大魔王に『希望』を奪われた者達。魔王の脅威に抗い、魔王の暴虐に斃れ、この大迷宮アルダワを彷徨い続けてきた魂の残滓。伝承の時代から現代に至るまで、積もりに積もったその情念は、もはや怨嗟と呼ぶのも生ぬるい。
「があぁぁァァァァァァァァッ
!!!!!?」
女霊達の呪詛にその身を炙られて、大魔王ウームー・ダブルートゥは絶叫する。
その心に湧き上がるのは、これまでに彼が感じたことのない情動。数多の人々から喰らい続けてきた『希望』とは対極の、暗く、冷たく、闇の底に沈むような――。
「――そうだ。それが『絶望』だ、魔王よ」
シェーラは告げる。もはや貴様がこの世界で希望を味わうことは二度と無い、と。
待っているのは絶望と、そして死だけ。女霊達の腕に抱かれながら、大魔王が骸の海に還るときは目前に迫っていた――。
成功
🔵🔵🔴
ヴィクティム・ウィンターミュート
・彩萌(f03307)と
武装、コンディション、諸々準備はオーケー?
よろしい…一丁地獄の舞台で踊るとしよう
主演女優はお前だ、大魔王に見せてやろうぜ
俺たちの強さってやつをな
ハッハー!大魔王の軍勢だ!壮観じゃねーか!
こいつら相手にたった2人!普通じゃ勝てねえ
『普通』じゃな
初撃は自己サイバネの【ハッキング】で、神経をオーバーロードして紙一重の回避
すかさずサイバーデッキを操作
セット、レディー!『Truth Adept』
それでは主演女優のご登場だ!無敵の力をくれてやる!
そして舞台には、良い脚本が必要だろ?
俺はここで戦術指揮のみに専念する
思いっきりやれ!今ここではお前が最強だ!
大魔王に華々しい幕引きを!
斬断・彩萌
ヴぃっちゃん(f01172)と
先制攻撃に対しては渾身の破魔をありったけ武器に宿して受け流す!
急所への攻撃は第六感を駆使して咄嗟の見切りで回避
支援は彼に任せて、私は唯屠るのみ
主演女優は優雅に、華麗に舞うものでしょう?
自身とヴィっちゃんの二重の強化を宿して、確実に急所を狙い狙撃
敵数は多くとも、邂逅したことない相手であろうとも
目や口、爛々と耀く核が弱そうだってのは見て分かる
素早く抜いて、放つ。それを繰り返して
私だけの力では勝てなくても、二人なら負けない
希望を越えた夢と矜持が、私の武器である限り
彼が支えてくれる限り
負ける負ける脚本などありえない!
ねぇ、気分はどう?溢れるほどの煌めきを喰らう気分は?
「ようやくクライマックスだ。武装、コンディション、諸々準備はオーケー?」
「もちろんよヴぃっちゃん。いつでも最高のパフォーマンスを見せてあげるわ」
炎上する『はじまりの玄室』に最後に降り立ったのは、ヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)と斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)。
気安くも息のあった会話を交えながらふたりが見据えるのは、神々しくも禍々しい――されど今は満身創痍と成り果てた、アルダワの大魔王ウームー・ダブルートゥ。
目前に迫ったカーテンコール。幕引きの準備は万端、気合も充実している相方を見て、サイボーグの青年はにやりと笑いながら、腕のサイバーデッキを起動させて。
「よろしい……一丁地獄の舞台で踊るとしよう。主演女優はお前だ、大魔王に見せてやろうぜ、俺たちの強さってやつをな」
「ええ……最高の舞台にしましょう。私たち二人なら誰にも負けるはずがない」
少女が握り締めるのは「Oracle」。精神力を実体化させた彼女のための剣。
胸の内に宿る、溢れんばかりの想いを受けて、その刃はキラリと鋭く煌めいた。
「うぅぅゥゥアァァぁぁぁ……『希望』を……汝ラの『希望』ヲ……!」
追い詰められたウームー・ダブルートゥを衝き動かすのは純然たる生存本能のみ。
己を脅かすものの『希望』を砕き喰らうために、喚び起こされるのはこれまでに猟兵達が攻略してきた難敵。第一から第五にまで至る、大魔王の全形態が姿を現す。
「恐れを知らヌ……愚かなるモノよ……汝らノ全て……我ガ糧としテクれる……!」
三位一体の兵器が。暴力と自然の化身が。肥大せし知恵の魔性が。魔女を囚えし怪異が。言霊を司る裁定者が。そして全てを喰らうものが、一斉に死の矛先を向ける。
「ハッハー! 大魔王の軍勢だ! 壮観じゃねーか!」
常人であれば対峙するだけで息が詰まるような、絶望的な光景と魔王達の威圧感。
しかしヴィクティムは高らかに笑う。普通なら竦み上がるような戦力差を前にしながら心の底から愉快そうに――そう、盛り上がってきたと言わんばかりに。
「こいつら相手にたった2人! 普通じゃ勝てねえ……『普通』じゃな」
彼は確信している、自分達の勝利を。その表情を絶望に歪めるために大魔王達が放つは全力のユーベルコード。一体一体が世界を脅かすに足る脅威による、六体同時の先制攻撃が、"たった2人"の猟兵を襲う。
「凌げよ彩萌」
「分かってる!」
彩萌が意志の剣を構え直した直後、第一と第三の大魔王が襲い掛かって来る。
腹の口から発射される【真紅崩天閃光撃】と、知性あるものを蝕む禁呪【クルトゥス・フィーニス】。それぞれが致命の威力を秘めた魔撃を、彼女はありったけの破魔の力を刀身に宿して受け流す。
「くぅ……っ!!」
渾身の気力を振り絞ってもなお圧倒されるほどの衝撃。どうにか直撃だけは凌いだものの、体勢が崩れた直後に迫るのは猛然と突撃する第一の魔王の巨体。
『我ら三位一体……否、六位一体の力、凌げますかな?』
「舐め……るなぁっ!」
第六感が鳴らす警鐘のまま、咄嗟の判断と見切りで身を躱す。
急所を捉えるはずだった『腹の口』の牙は、紙一重の差で空を切った。
『俺達はただ本能のままに全てを破壊し喰らい尽くす! 諦めるがいい知性体よ!』
「はいそうですかと諦める訳が無いだろう。俺達は勝ちに来てるんだ」
咆哮と共に繰り出される第二の魔王の【王たる脅威】を、ヴィクティムは驚異的な反射速度で避ける。神経が焼き切れんばかりにオーバーロードした、自己サイバネによるハッキング。
『貴様らに未来は無い。"魔女"共のように大人しく我らの糧となれ!』
間髪入れず叩きつけられる、第四の魔王の【魔女狩りの一撃】。『魔女』を封じた巨腕による鉄槌を、サイボーグの少年はさらなるクロックアップで緊急回避。
過剰な運転によって彼のサイバネは高熱を放ち、生身との境界に炎症が起こっている。このままでは肉体や神経に異常が出かねない負荷――だがそれでも彼は止まらない。
『裁定者に仇為す者には災いあるのみ』
猛攻を辛うじて凌ぐふたりに向けて、第五の魔王が悪意と魔力に満ちた言葉を放つ。
現実化された言霊はたちまち災害を巻き起こし、崩れかけた玄室を完膚なきまでに破壊していく。逃げ場などどこにも無い、全てを蹂躙する天変地異の猛威。
対する彩萌の剣は折れ、ヴィクティムのサイバネは停止寸前。それぞれ目の前の魔王の攻撃を凌ぐだけで精一杯だったふたりには、さらなる追撃を耐え凌ぐ術は無い――大魔王が勝利を確信した、その時だった。
「セット、レディー!」
死が全てを呑み込む、まさに刹那の差で、Extend Code『Truth Adept』が起動する。
ヴィクティムの操るサイバーデッキから放たれたプログラムは彼自身を、そして彩萌を包み込み――押し寄せる天変地異と魔王達の攻撃をことごとく弾き飛ばした。
『なんだと?!』
大魔王が驚愕する。ああ、これこそがまさに状況を一変させる起死回生の一手。
電脳魔術士謹製の能力向上複合プログラムは、たったひとりの猟兵を無双の強者に変える。
「それでは主演女優のご登場だ! 無敵の力をくれてやる!」
コードの操作に没頭するヴィクティムがその力を託すのは、麗しき斬断の令嬢。
湧き上がる力に身を委ね、彩萌は腰のホルスターから二丁の拳銃を抜き放った。
「思いっきりやれ! 今ここではお前が最強だ!」
「ありがとうヴぃっちゃん。さあ、ここからが本番よ!」
相棒の期待に応える、神速の抜き撃ち【BoostRoar】。放たれた銃弾は狙い過たず、正面にいた第一と第三の魔王の腹部――そこに爛々と耀く赤い宝石を撃ち抜く。
『なんと――!』
核の破損によって霞のように消えていく魔王達。敵陣に動揺が走るのをよそに彩萌は駆けた。すべての魔王の召喚者であり元凶、ウームー・ダブルートゥに向かって。
『行かせるな!!』
第五の魔王が号令すれば、即座に第二と第四の魔王が進路上に立ちはだかる。
迫るは瞬速の獣爪と剛力の巨腕。しかし『Truth Adept』の効果によりスピードも強化されている彩萌は、それまでとは見違えるほどの身のこなしでひらりと躱す。
「主演女優は優雅に、華麗に舞うものでしょう?」
野兎のように軽やかに跳ねながら、二丁拳銃を左右に向ける。敵数は多くとも、邂逅したことない相手であろうとも、弱そうなところは見れば分かる。
同時に木霊する二発の発砲音。処刑人と叛逆者の名を冠した彼女の魔銃は、瞬きする間もないほどの早業で、第二と第四の魔王の核を撃ち砕いていた。
「そのまま行け彩萌。そのドクロ頭に喋る暇を与えるな!」
前線にて鮮やかに舞う彩萌の後方から、ヴィクティムの檄と戦術指揮が飛ぶ。
彩萌が主演女優なら彼は脚本家であり演出家だ。この舞台の筋書きを描きだして、役者にすべてを託す。一騎当千の強者の裏に控える、神算鬼謀の策略家。
『き……貴様らの攻撃は、我が肉体には……』
「遅い!」
不壊のオーラを纏おうとした魔王の喉笛を、コードにより強化された銃弾が穿つ。
文字通りに"言葉を失い"愕然とする裁定者。直後に彼もまた核を撃ち抜かれ、先の四体と同じ末路を迎えた。
「バカ……な……!」
第一から第五までの全魔王は消滅し、残るはウームー・ダブルートゥただひとり。
己を守る駒をすべて失った裸の魔王へと、無双なる彩萌は一気に距離を詰める。
「この我に、喰らい尽くせぬ力が……『希望』が……存在する筈が……」
「私だけの力では勝てなくても、二人なら負けない」
魔王が翼を羽ばたかせるたびに、その周囲には暴風のような魔力が吹き荒れる。
それでも彼女は止まらない。その瞳に宿る輝きは、揺るぎのない勝利への確信。
「希望を越えた夢と矜持が、私の武器である限り」
放つ弾丸に、ほとばしる意志の力を込めて。
「彼が支えてくれる限り」
想い人から託された力を、全身に感じて。
「負ける脚本などありえない!」
少女はついにターゲットを照準に捉える。
「大魔王に華々しい幕引きを!」
「ええ!」
ヴィクティムの檄に応えながら、彩萌は「Executioner」のトリガーを引く。
その銃は使い手の精神力を弾丸に変える。この時、この瞬間、最高潮に達したふたりの想いは眩い閃光となって解き放たれ――魔王の頭部に埋まる碧の宝石を貫いた。
「ガ――――ッ
!!!!」
ウームー・ダブルートゥの身体から魔力の放出が止まり、ふらりとよろめく。
かっと見開かれた真紅の瞳に睨めつけられながら、彩萌は微笑みと共に告げる。
「ねぇ、気分はどう? 溢れるほどの煌めきを喰らう気分は?」
碧の宝石が砕け散る。それと同時に大魔王の身体が原型を失っていく。
まるで、自らが喰らい過ぎたものの重みに耐えかね、朽ち果てるように。
「こレが……猟兵の力……嗚呼……もット、喰らイ、タカッタ、ノニ……」
あまりにも眩い煌めきへの渇望と飢餓、そして無念と絶望を抱えながら。
大魔王『ウームー・ダブルートゥ』は、断末魔と共に骸の海に還っていった。
――それはこの世界を、アルダワ魔法学園を脅かしていた全ての元凶の滅び。
長きに渡り封印されてきた大魔王は、ここに真なる滅びの時を迎えたのだった。
大成功
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