アルダワ魔王戦争7-A〜熾炎の紅砡
●燃え続ける炎
呪われた絵画が陳列された回廊迷宮。
その一角には『熾炎』と題された紅い絵が飾ってあった。
燃え続ける紅、血のような赤、揺らめく橙、飛び散る朱。
一面に描かれているのは燃え盛る焔。しかしそれは穏やかなものではなく、苦痛や苦悶を齎す地獄のような光景にしか見えない。
そして、その中には災魔が封じられていた。
「ああ、まだなのかな。私の炎と情熱を存分に揮える相手は、まだ来ないのだろうか」
彼女の名は情熱のルビー。
胸に紅玉を宿す宝石人形である彼女は絵の中で待ち続けている。
己に宿る情熱の炎と、不滅の焔を解き放てる相手が訪れることを――。
●絵の中へ
「その絵画は近付くと問答無用で吸い込まれてしまうのじゃ」
其処は絵画展覧会、という呼び名がつけられた迷宮の一フロアだ。グリモア猟兵のひとりである鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)はその場所について語り、絵の中の災魔を倒しに向かって欲しいと願う。
このままでは通路が阻まれ、先に進むことが出来なくなるのだ。
戦場は絵画の内部。
それも、地獄を思わせる激しい炎の絵の中だ。
「中に入ればすぐに敵の宝石人形が迎え撃って来る。相手の攻撃も火が中心であるゆえ、戦いは炎だらけになるじゃろう」
あちあちなのじゃ、とエチカは困ったように腕を組む。
しかも、絵の中の炎も猟兵達にダメージを与えてくるという。
絵の炎だけで倒れることはないだろうが、其処に宝石人形の攻撃が加わってくるとなると話は別だ。炎を完全に消し止めることは難しいが、一時的に払うことくらいは出来る。自分なりに工夫して戦って欲しいと伝え、エチカは転送の準備を始めた。
「それと、情熱のルビーは何度も復活する力を持っておる。一度倒したと思っても炎の中から不死鳥のように蘇ってくるゆえ、油断するでないぞ」
だが、何度も倒せば相手の力も弱る。
怯まずに戦い続けることが勝利に繋がると告げ、エチカは魔方陣を描いた。
「皆の武運を祈っておるのじゃ。さあ、往くぞ!」
そして――数多の絵画が飾られた、不思議な迷宮への道がひらかれてゆく。
犬塚ひなこ
こちらは『アルダワ魔王戦争』のシナリオです。
戦場は『絵画展覧会』の回廊に飾られた絵の内部となります。
今回は少数採用(六名様前後)で運営致します。
先着順ではなく、OPやこちらをちゃんと読んでくださっている方や、プレイングボーナスを利用した大成功判定の方を優先して描写します。
プレイングの受け付け締め切りをマスターページに記載しておりますので、お手数とは存じますがご確認頂けると幸いです。執筆と完結処理は早めに行いますので、もし想定以上のご参加を頂いた場合、プレイングに問題がなくとも不採用の可能性があります。ご了承の上でご参加頂けると幸いです。
●プレイングボーナス
『絵画世界の雰囲気に合わせた戦い方をする』
戦場は魔法の絵画の中。
一面に炎が燃え盛る、灼熱地獄を思わせる世界が舞台となります。
リプレイは絵画に取り込まれた後から描写します。(絵画に入る前の心情や行動などはカットしてしまうのでご注意ください)
絵画の中では何処にいても、炎によってじわじわと体力が削られる効果があります。消しても新たな火がすぐに巻き起こります。
一時的に周囲の炎を沈下する。炎を魔力として取り込む、炎を切り裂くなど、皆様の個性にあった方法で戦ってください!
第1章 ボス戦
『『宝石人形』情熱のルビー』
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POW : パッション・オブ・ファイヤー
レベル×1個の【絶対に鎮火する事も無く、全てを燃やす不滅】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
SPD : スティレットレーザー
レベル分の1秒で【全身から、光速で放たれる超威力のレーザー】を発射できる。
WIZ : 人形転生~リバーシブル・フェニックス~
自身が戦闘で瀕死になると【自身と同じUCが使用可能な自分自身】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
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鬼切・雪火
じわじわ焼く炎なんて気にならない
髪の先端まで燃えるように熱い!
俺は炎の中で打たれた刀。
灯火が見つめた、人の思いを背負った刀。
そんな俺が炎に負けるわけない!
でもお前の炎を本当に綺麗だな!
さあ、焼き尽くすまで戦おうぜ!
お前の炎、貰い火させてもらうよ
俺の鬼火とお前の炎、全部食らって俺の力にしてやる!
鬼火をぶつけた後に、本体の大太刀の鞘に貰い火した炎を宿して!
さあ、一刀両断!この一撃に燃える思いをのせて!
こんな狭苦しい所なんて出て、俺と一緒に行こうぜ
なあ、こんなとこに1人なんてつまらないだろ
俺の炎と1つになって、不滅の焔を此処から解き放ってやるよ!
●ふたつの炎
揺らぐ熱の感覚。
眼前で燃え盛る炎の色を見つめ、鬼切・雪火(はじめての・f04419)は双眸を緩く細めた。感じるのは熱さ。だが、こんなものは何とも思えなかった。
じわじわ焼くだけの炎なんて気にはならない。
「――俺は、」
炎の中で雪火は己の存在を見つめ直す。
自分は灯火が見つめた、人の思いを背負った刀。
炎が燃え盛るかのように色付いた髪の先。その彩が示しているのは、雪火がこれ以上に激しい炎の中で打たれた刀だということ。
熱い。熱い。ただ、燃えるように熱い。
刀であったときのあの感覚。打たれて強くなった刃の鋭さ。あれに比べればこんな絵の中の炎など、ちいさな障害物にしか過ぎない。
雪火は目の前に現れた宝石人形、情熱のルビーを見据えて構える。
「俺が炎に負けるわけない!」
「そうか。お前も炎の化身なのだね。しかし、これではどうかな?」
強く宣言する雪火に対し、宝石人形が掌の上に炎を紡いだ。腕が掲げられた瞬間、火の鳥のような形へと変化した焔が雪火に向かって襲いくる。
だが、雪火も同時に鬼火を解き放った。
彼が操る炎を貫くようにして火の鳥が一直線に飛ぶ。避けられない、と瞬時に判断した雪火は敢えてその一撃を受け止めた。
「どうかな、この炎の味は」
「なかなかに痛いぜ。でも、お前の炎は本当に綺麗だな!」
「……綺麗?」
宝石人形が問いかけると、雪火は衝撃を堪えながら笑う。その言葉に訝しげな表情を浮かべたルビーは微妙に戸惑っていた。
きっと真っ直ぐに褒められたことなどないのだろう。
雪火は嘘偽りなど言っていないと分かるからこその宝石人形の戸惑いは、戦いにおいて少しの隙を作り出した。
ニカっと笑った雪火はその瞬間を狙い、ふたたび鬼火を紡ぎ出す。
「さあ、焼き尽くすまで戦おうぜ!」
周囲に燃え盛る炎すら取り込む勢いで迸った幾つもの鬼火。それらは宝石人形の身を貫き、時には頭上や足元から迫ることで体勢を揺らがせる。
ルビーも負けじと火の鳥を放ったが、一度受けたそれを見逃す雪火ではない。
「お前の炎も、この周囲の火も、貰い火させてもらうよ」
呼吸を整え、迫りくる敵の炎を見据えた雪火は自分の目の前に鬼火を集めていく。
敵がはっとした、次の瞬間。
「何!?」
「俺の鬼火とお前の炎、全部食らって俺の力にしてやる!」
火の鳥に鬼火がぶつけられたかと思うと、雪火の大太刀の鞘に炎が宿される。炎の合間を縫うように駆けた雪火は一気に宝石人形に肉薄した。
そして――。
「さあ、一刀両断! この一撃に燃える思いをのせて!」
振り下ろされた炎の一閃が情熱のルビーを切り裂く。倒れ伏した宝石人形は動きを止めた。そう思いきや、その場に激しい炎が巻き起こっていく。
「まだ、私の炎は止められない」
「そうか、お前の綺麗な炎をまだ見られるってことだな!」
焔の中から現れた情熱のルビーは不死鳥の如く復活した。雪火は咄嗟に其処から距離を取り、更に身構え直す。
その瞳は周囲の炎を映して、爛々と輝いていた。
大成功
🔵🔵🔵
樹神・桜雪
どこを見ても炎、炎、炎…。
ここまで燃え盛ると対処に困るね。
お札をUCで氷の華に変換して、一気に凪ぎ払おう。
火力が弱まっている間にお人形さんの相手をしようか。
UCを撃つと同時にルビーに近づいて先制攻撃を仕掛けよう。薙刀で思いきり凪ぎ払う。
周囲の炎の様子を見ながら、UCを使いつつ攻めに入るね。
ルビーが増えたなら、こちらもUCやカウンターを使って勝負を仕掛けにいく。さすがに二人一気に相手をするのは辛いし暑いけど頑張る。
長期戦になるとさすがに不利だもの。可能な限り積極的に反撃には出るよ。
燃え盛る炎はあまり好きじゃないんだ。少し、涼しくなろう?いや、凍って涼しくなろう?
●氷の軌跡
――どこを見ても炎、炎、炎。
樹神・桜雪(己を探すモノ・f01328)は吸い込まれた絵の中を見渡しながら、肌を焦がすような熱を感じていた。
この光景を見ていると幽かに思い出す。
炎に包まれた館と、差し伸べられた手。ただそれだけの記憶を――。
しかし、このままじっとしているだけでは体力が奪われ続けるのみ。
桜雪は先を見据え、宝石人形の姿を捉えた。情熱のルビーと呼ばれる敵の周囲には更に激しい炎が舞っており、物理的な熱量が違うのでよく目立つ。
「ここまで燃え盛ると対処に困るね」
近付くことさえ困難な炎だが、桜雪とて何もせずにいるわけではない。
透空の札を指先で挟んだ桜雪は其処に力を込める。
「一瞬でいいんだ、道を開ければ――」
真っ直ぐに宝石人形を見つめた彼は札を投擲する。その瞬間、氷の華に変化した透空がひといきに炎を薙いだ。
弱まる炎。氷に揺らがされて開けた一筋の道。其処に向かって駆けた桜雪は更なる札を構えながら、宝石人形との距離を詰めた。
「こんにちは、お人形さん」
「お前も人形だろうに、ご挨拶だね」
ルビーは桜雪の接近に気付き、指先を差し向ける。其処に紡がれた炎は瞬く間に火の鳥のような形を成した。
くらえ、と告げた宝石人形が火の鳥を解き放つ。
咄嗟に動いた桜雪は札を投げることで炎の勢いを相殺しようと試みた。だが、周囲の絵の炎と違って火鳥の勢いは鋭い。
「……!」
声なき声をあげた桜雪は相手の炎の力をその身を以て悟った。じわりと滲むような炎の熱さが身を焦がしたが、耐えられないほどではない。
華桜の薙刀を握り、支えにした桜雪は体勢を立て直す。そして相手がふたたび動く前に思いきり地面を蹴り、刃で薙ぎ払った。
刃先が当たる寸前でルビーが身を翻して避ける。だが、それを見越して踏み込んだ桜雪は刃を切り返すことで二撃目を叩き込んだ。
傾ぐルビー。
しかし相手も掌を広げることで炎を巻き起こした。
「此方がやられてばかりだと思うかい?」
「ボクだって、負ける気はないよ」
人形の炎に対して氷の華を咲かせていく桜雪。勢いに穿たれたルビーは追い詰められていく。されど彼女の身体が見る間に炎に包まれ、其処に新たな影が現れた。
「まだ、終わらないよ」
「……流石に一度倒しただけじゃ駄目なんだね」
一体は炎となって消えた。
だが、きっと相手は何度も、それこそ幾度も復活し続けるのだろう。桜雪は周囲の熱の温度が上がっていくことを感じつつ薙刀を構える。
「燃え盛る炎はあまり好きじゃないんだ。少し、涼しくなろう?」
ねえ、と宝石人形に呼び掛けた桜雪は白の軌跡を描く。溶かされながらも炎を打ち消していく結晶めいた華。
煌めく彩は、戦場に美しく舞っていった。
大成功
🔵🔵🔵
ホーラ・フギト
素敵な世界ね。赤も炎も好き
馴染み深い相手だもの
ね、ティーナ(ランタンにいる火の精霊へ呼びかけ)
でもそう、これは……誰かにとっての地獄なのね
身体の温感機能はオンのまま。苦しくても焦げても笑みは絶やさず
これが貴女の命なのね(呼ぶのを少し躊躇ってから)……ルビーさん
(災魔は災魔だから、あまり名で呼びたくない)
火の精霊の力を借りてエレメンタル・ファンタジア
全身全霊を尽くして炎の渦を起こす
天へ昇りたそうな炎が行き場を失う頃合いで
戦場や災魔の炎もなるべく巻き込んで、火の手を広げていく
これが私の炎なの。ねえ、一緒に試してみましょ?
この世界を、燃やし尽くせるかどうか
どれだけ焼けてもいいわ。貴女の炎、綺麗だから
●燃え上がる焔
灼熱の炎。
一面に広がる火と揺らぐ熱を見つめ、ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)は瞳を幾度か瞬かせる。
炎獄すら思わせる激しい焔の中であっても、ホーラの瞳に畏れは映っていない。
「素敵な世界ね。赤も炎も好き」
この光景も色も馴染み深いものだと感じられる。
その理由は、ホーラが携えた魔導燈に火の精霊が宿っているからだ。
「ね、ティーナ」
軽く灯火を掲げて絵の中の光景を精霊にも見せる。ホーラの声に応えるように魔導燈の中で炎が揺らめいた。
だが、ホーラとてちゃんと理解している。
「でもそう、これは……誰かにとっての地獄なのね」
纏わりつくように燃え盛る炎はすべてを焼き焦がすように巡っている。
敢えて身体の機能を封じぬまま、ホーラはその熱を感じ取った。熱い、という感覚は苦しみになる。肌を焦がす痛みを覚えたが笑みは絶やさない。そして、ホーラは宝石人形へと歩み寄る。
「これが貴女の命なのね……ルビーさん」
「お前もこの炎に焼かれに来たのかい」
ホーラが相手を呼ぶのを僅かに躊躇ったのは、相手が災魔だからだ。あまり個別の名前で呼びたくないと感じたホーラだが、もうその名を口にすることはないだろう。
何故なら、そんな余裕すらなくなるほどの戦いが巡り始めたからだ。
「……来るのね」
ホーラは敵が炎を巻き起こす動作を見て魔導燈を掲げた。ティーナは瞬く間に魔法の杖に変身し、其処から炎が紡がれていく。
迸る火の鳥。
それを迎え撃つ炎の渦。
ふたつの焔が燃え盛る紅の中で衝突し、拮抗する。
「力比べといこうか」
「押し負けたりしないわ」
杖を胸の前に掲げ、全身全霊を尽くすホーラは真っ直ぐに敵を見つめていた。
激しく揺らめく炎が天へ昇りたそうだと感じた彼女は、その火が行き場を失う頃合いで一気に動く。真正面だけではなく戦場や災魔の炎も巻き込み、自らの火の手を広げ――そして、火の鳥をひといきに穿った。
「……!」
「これが私の炎なの。ねえ、一緒に試してみましょ?」
――この世界を、燃やし尽くせるかどうか。
ホーラは敵が復活することを見越しながらちいさく笑った。己の身を焦がす炎の痛みはあるが、そんなものにだって微笑みを向けよう。
「どれだけ焼けてもいいわ。貴女の炎、綺麗だから」
何度も、何度でも炎をぶつける。
そうすることが勝利を得る道筋なのだと識っているのだから――。
大成功
🔵🔵🔵
朝日奈・祈里
おー。うおー。すっげぇ
ほんとに地獄じゃん
順当に水の精霊のウンディーネか、温度の精霊セルシウスだな
じゃあ、喚ぼうか
意識を集中させてコネクトしていると
イフリートが何か喚いている
珍しーじゃん、そっちから語りかけてくんの
いいよ、来いよ
イフリートを喚んで、戦おう
こちとら、1番長い付き合いだもんな
炎の熱さには慣れている
あついけど。
イフリート!お前の炎を見せてやれ!
あいつの炎をも喰らい尽くせ!
全てを燃やす炎を飲み込み、我々のものとしよう!
お前の炎と情熱を見せてみろ
全てを出し尽くせ
全部飲んで、糧にしてやるぜ!
迫り来る炎に炎をぶつけ
胸に抱く宝石に熱を当てる
…っくしょお
はしゃぎやがって…
血ぃ、足りねぇ…
菱川・彌三八
此の色を見て、悟った
波は野暮だ
求めているのは鎮めじゃねェ
燃え尽き、生まれる為の焔だ
来な、待ち人が此処に居るぜ
纏うは鳳凰
背から出る程の焔の翼で羽搏いて、先ずは辺りをひと薙ぎに吹き飛ばす
刹那で構いやしねえ、留まる心算も毛頭ねェンだ
空飛ぶ時ァ風を纏い、地に足着けば羽搏きで辺りの炎は遠ざけ続ける
不滅の炎の間を縫い、未だ遠ければ近づく迄空に灯明を描く
描く程に力増す鳳凰
丹色に焔を乗せて、地獄を焼き尽くす程の神威を捧げ
或いは絵を不滅の炎が燃えやうと、俺に向かう炎が減れば善し
地獄にゃ相応しくねェ華美な人形に追いつけば、浄化の炎を拳に乗せてひと思いに砕いちやる
焔に善しも悪しもねェ
お前ェの焔も、存外悪かなかったゼ
●血と焔
絵の中の光景。
現実感がないほどの芸術的な色合いが広がる世界を前にして、朝日奈・祈里(天才魔法使い・f21545)は感心していた。
「おー。うおー。すっげぇ」
ほんとに地獄じゃん、と零した祈里は身を焦がす炎の熱を感じている。
じわじわと焼く焔。一思いに焼き尽くさないところがまた、永遠に苦しみが続くと云われる地獄を思わせる。
されど、祈里とてこのまま焼かれ続けている心算はない。
順当に考えれば火を消し止めるのは水。もしくは火すら調整する力。それゆえに水の精霊ウンディーネか、温度の精霊セルシウスがこの場に相応しい。
「じゃあ、喚ぼうか」
祈里が精霊と意識を連結しようとすると、水色のメッシュがふわりと浮かび――そうになったが、それを押し退けるように赤いメッシュが揺らいだ。
「イフリート?」
この炎を前にしてか、別の精霊が何かを喚いていた。
イフリートはどうやら炎には炎で対抗したいと所望しているらしい。
「珍しーじゃん、そっちから語りかけてくんの」
祈里はそのまま火の精霊を喚ぶことを決め、意識を集中させていく。
彼の精霊は付き合いも一番長い。出てきたいと云うならば、この状況を打破する力を示してくれるということなのだろう。
「いいよ。――さぁ、来いよ」
ふんわりと浮かびあがった赤いメッシュ。
其処から顕現したイフリートは瞬く間に周囲に紅蓮の焔を生み出していく。
それによって祈里の身体に更なる炎が纏わりついたが、その程度の熱は我慢できる。常に付き合ってきた精霊であるからこそ、炎の熱さにはもう慣れてしまっている。
あついけど。
そんな呟きを零したのも僅かなこと。祈里は指先を宝石人形に突き付け、幾度も復活している災魔を焼き尽くそうと狙う。
「イフリート! お前の炎を見せてやれ!」
その声に応えた精霊が紅蓮の炎撃をルビーに解き放った。対する宝石人形も双眸を鋭く細め、別の炎を巻き起こす。
紅蓮と不滅。ふたつの炎が衝突し、周囲の火を糧としながら迸った。
祈里は熱と失血にふらつきそうになりながらも己の魔力を明け渡す。そうすることが勝利を得る方法だと解っているからだ。
「あいつの炎をも喰らい尽くせ! 全てを燃やす炎を飲み込み、我々のものとしよう!」
燃え盛る焔の彩が、戦場を見つめる祈里の瞳に映って揺らめいている。
お前の炎と情熱を。その力の総てを見せてみろ。
全てを出し尽くせ。
全部を飲んで糧にしてやれば此処はイフリートの戦場となる。宝石人形も次々と炎を飛ばしてくるが、その度に精霊が受け止めて吸収する。
「そこだ、イフリート!」
そして、祈里は攻め込む好機を見出した。
迫り来る炎に炎をぶつけて狙うのはただひとつ。ルビーが胸に抱く宝石だ。其処に熱を当てれば、敵の身体が大きく揺らぐ。
「しまっ……た……」
宝石人形が倒れ、炎に包まれる。
しかし祈里は知っている。まだ相手は復活してくるのだろう。だが――。
「……っくしょお」
少女の身体もまた、大きくふらついていた。イフリートを使役する代償として喰らわれた魔力と血液の量が多すぎたのだ。
「はしゃぎやがって……血ぃ、足りねぇ……」
箒星の杖を支えにした祈里は、これ以上は続けて力を行使できないかもしれないと悟る。しかし、瞬く間に復活した宝石人形が彼女を狙って炎を紡いでいた。
このままでは直撃する。
祈里が更なる痛みを覚悟して身構えた、そのとき――。
炎の前に立ち塞がる誰かの影が見えた。
●画と炎
「――退いつくんなァ」
菱川・彌三八(彌栄・f12195)は踏み込み、纏う鳳凰の力で炎を薙いだ。
絵の中に吸い込まれた途端、少女が危機に陥っている場面が見えた。其処に駆け付けずして何が猟兵だろうか。
精霊を使役していた様子の少女は魔力不足で倒れそうになっていた。その前に立ち塞がり、彌三八は「休んでいな」と声を掛けた。
頷いた少女が後方に下がる。
その気配を背に感じながら、彌三八は宝石人形を見据えた。
広がる赤、紅、朱。
此の色を見て、すぐに悟った。波で消し止めるのは野暮だと。
それゆえに彌三八は即座に鳳凰の力を身に宿し、仲間を守りに向かったのだ。身体は自然に動き、背から出る程の焔の翼を用いて彌三八は羽搏く。
「求めているのは鎮めじゃねェな」
それは――燃え尽き、生まれる為の焔だ。
すると宝石人形が此方を睨みつけ、頭を振る。
「お前もあの少女も炎で対抗するだなんて、余程の自信があるようだね」
「水で流しても復活するだろうに。来な、待ち人が此処に居るぜ」
「そんなに燃やし尽くされたいのかい」
彌三八と敵の視線が交錯し、ふたつの炎が衝突しあう。片や、不滅の炎。片や、鳳凰の齎す焔。それらは描かれた火が燃え続ける舞台で広がっていく。
「留まる心算も毛頭ねェ。だから、吹き飛んじまいナ」
辺りをひと薙ぎすれば刹那の間だけ道がひらける。相手は自由に炎を延焼させる力を持っているのだから、いつまでも遠距離で打ち合うのは分が悪い。
風を纏い、飛翔した彌三八は炎の合間を羽撃く。
それは描く力に比例して強くなるもの。炎を遠ざけ続ける彌三八は、後方にいる少女にも被害が向かわぬよう努めていた。
その間にも不滅の炎は迫りくる。されど彌三八はその間を縫い、空に灯明を描く。
――翔雲に弥栄、鳳鳴朝陽。
筆を振るい、描く程に力を増す鳳凰は翔ける。
丹色に焔を乗せ、地獄を焼き尽くす程の神威を捧げれば鋭い斬撃めいた衝撃が宝石人形を深く穿った。
「く……」
「地獄にゃ相応しくねェ華美な人形だなァ」
「褒められているのだろうけれど、意味のない戯言だね」
言葉を交わしながら、両者は対峙し続けていた。
絵の中で画を描く。そんな状況は中々無いと感じながらも、彌三八は敵への攻撃を決して止めなかった。自らの身体も周囲の炎や不滅の焔に焼かれているが、鳳凰の翼がその痛みを消し祓ってくれている。
それでも、身体に負担がないわけではない。
筆を仕舞い、敵との距離を一気に詰めた彌三八は浄化の炎を拳に乗せる。
そして――。
「ひと思いに砕いちやる。焔に善しも悪しもねェ。何方かが燃えるかだけだ」
振り下ろした拳は宝石人形の胸元へ。
其処に宿る輝石が炎に包まれ、瞬く間に砕け散った。
「お前ェの焔も、存外悪かなかったゼ」
倒れ伏した宝石人形を見遣り、彌三八は素直な言の葉を落とす。だが、彌三八はすぐに身構え直した。
巻き起こった炎が宝石人形を包み込んでいく。
倒したはずのそれは焔の中から蘇り、再生していった。彌三八の背後、体勢を立て直した祈里が敵を見据える。
「庇ってくれて助かった。けどアイツ、また復活してるのか……」
「ったく、厄介極まりねェとはこの事か」
彌三八は少女を密かに気遣いながら筆を取り出した。戦いは未だ終わらない。
だが、後は託して戦い続ければいい。
此処には自分達だけではなく、共に戦う仲間がいるのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
綾くん(f01194)と
ははぁ、よう燃えとるね
めらめらと、激しく派手に…地獄のようじゃな
わしはこういうの結構好きなんじゃけど綾くんは?
さて、焼かれる前にやってしまおうか
ここで水…なんてことはせん
野暮じゃしそもそも扱えんわ
炎を燃やすのであれば、燃やし返してそれを食らってしまうのみ
狐火を集わせ、相手の炎を飲み込んでもっと大きく育てていこう
綾くんの炎も一緒にしてしまお
併せてしまえば一層、よう燃えるじゃろ
派手に火柱あげて、炎吸い上げて蘇るを叩き折ろう
焼けただれるも構わんが、綾くんは大丈夫か?
は、そうじゃな
これは、楽しい
まさに血が騒ぐというやつじゃ
負った傷は後で治したげよ
たまには焦がれるのも、良いからの
浮世・綾華
嵐吾さん(f05366)と
ええ、ほんとに
俺も好きデス
頷いて
消せねーなら、全部俺らのもんにしちゃいましょ
共に戦う中で、幾度も重ねた熱を
今回も同じように放てばいい
意図を汲み取り狐火に合わせるように鬼火を
嵐吾さん、こいつは任せました
地獄なんて、知らねえケド俺らのは燐火――怪火だ
どんな場所だって燃える、何だって燃やしてやる
蘇えったって、同じこと
扇で炎巻き込み拡大する風起こし
熱い、焼けて熔けてしまいそうだ――でも
やっぱり熱さは嫌いじゃない
はは、野暮なこと聞かないでくださいよ
…ね、楽しくなってきたとこでしょ
うん、今、すげー楽しい
(敬愛する)嵐吾さんと、ちゃんと隣で戦いたい
だから、どうか、あんたの思うように
●隣へ
其処は絵の中の世界。
燃える、燃える。全てを包み込むように炎が燃ゆる。それ以外には何もない、熾炎と題された炎しか存在しない異空間。
「ははぁ、よう燃えとるね」
「ええ、ほんとに」
終夜・嵐吾(灰青・f05366)と浮世・綾華(千日紅・f01194)は身を焦がす――とはいっても譬えではなく物理的な炎の感覚をおぼえながら周囲の気配を探る。
「めらめらと、激しく派手に……まさに地獄のようじゃな。わしはこういうの結構好きなんじゃけど綾くんは?」
「俺も好きデス」
少なくとも嫌いではない。嵐吾が好きだと云うなら、特に好ましい。
そんな風に頷いた綾華は、遠くに激しく燃え盛る炎の渦を見咎めた。おそらくあれが宝石人形、情熱のルビーが放つ炎だろう。
既に猟兵達が交戦しているが、敵は何度も復活することで戦い続けている。
「さて、焼かれる前にやってしまおうか」
嵐吾も敵への道筋を見据え、それを阻む炎の揺らぎを瞳に映した。
火には水。
通常ならばそう考えるものだが、消しても再び燃えあがると解っているものにそのような野暮なことはしない。
「水って言っても、文字通りの焼け石に水ですかネ」
「そうじゃの、そもそも扱えんわ」
「消せねーなら、全部俺らのもんにしちゃいましょ」
頷きあった二人は身構え、其々の力を紡ぎあげてゆく。
炎を燃やすのであれば、燃やし返してそれを食らってしまうのみ。共に戦う中で、幾度も重ねた熱を今回も同じように放てばいいだけ。
言葉にせずとも互いの出方はよく分かっている。そして、嵐吾が掌の上に狐火を集わせていった。其処に合わせて動いた綾華が鬼火を周囲に顕現させる。
炎は重なり、渦巻きながら絵画の炎を飲み込む。
「うむ、ちゃんと喰らえるの」
「嵐吾さん、こっちの炎もどーぞ」
「おお、綾くんの炎も一緒にしてしまお。併せてしまえば一層、よう燃えるじゃろ」
嵐吾が狐火で周囲の火を喰らって行けば、敵までの道がひらける。
「それじゃ、行きましょ」
火を操る嵐吾に先んじて駆けた綾華は情熱のルビーの目を引きつけていく。
「また猟兵が増えたのだね。邪魔だよ」
対する宝石人形は綾華を狙って炎を撃ち出してきた。緋色の鬼火を操る綾華は次いで駆けてきた嵐吾を一瞥し、片目を瞑って見せる。
「嵐吾さん、こいつは任せました」
「構わんが綾くんは大丈夫か?」
「はは、野暮なこと聞かないでくださいよ」
「は、そうじゃな」
心配など今は必要ない。そう語るように敵へと肉薄した綾華は扇を振るいあげた。その一閃と同時に纏う鬼火が宝石人形を穿つ。
だが、綾華はただの陽動。
本命はその後ろで相手の炎すら飲み込み、狐火を更に大きく育てていた嵐吾だ。
「――往くぞ」
凛とした嵐吾の声が落とされた刹那、火柱が宝石人形の足元にあがった。炎を吸い上げるように迸る焔の奔流は災魔を大きく揺らがせる。
されど、宝石人形は腕を掲げた。
「小癪な君達にはこれを進呈しよう。喰らわれて堪るものか」
さあ、地獄を味わえ。
そういって解き放たれたのは火の鳥のような形を成した炎だ。瞬く間に綾華を貫き、更に嵐吾にまで向かった火鳥は炎を舞い上がらせた。
「地獄なんて知らねえ……ケド、俺らのは燐火――怪火だ」
「これはこれは、やんちゃな火じゃの」
されど二人は怯みなどしない。
どんな場所だって燃える、何だって燃やしてやるという誓いを込めた鬼火だ。
たとえ宝石人形が蘇ったとしても同じこと。
血が騒ぐ。炎を炎で塗り替えていく光景に心まで燃えていくかのようだ。
綾華は扇で炎を巻き込み、嵐吾の放った狐火を拡大するように風を起こしていく。
熱い。このまま焼けて熔けてしまいそうだ。
でも、と綾華は顔をあげた。やっぱり熱さは嫌いじゃない。それは敬愛する嵐吾と共に並び立てているからでもある。
「この炎を取り込むなんて……どうして怯えないんだ、君達は」
宝石人形は戸惑っている。すると嵐吾が口端を軽くあげ、災魔に笑んで見せる。
「寧ろ、楽しいと感じるほどじゃの」
「そ、楽しくなってきたとこでしょ」
綾華は更に扇を振るい、周囲の炎を全て退ける。そして渦巻く風の流れで嵐吾に炎の残滓をすべて集めた。揺らぐ炎の流れを感じ取った嵐吾は静かに双眸を細め、ひといきに力を解放していく。
「やるとするかの」
「お願いします。――だから、どうか、あんたの思うように」
隣で戦いたい。戦っていられる。
その心地を感じながら告げた綾華。彼の言葉を聞き、嵐吾は双眸を細めた。
そして――。
二人の力が重ねられた炎が宝石人形を貫き、鮮烈な色を戦場に広げた。
●情熱は炎と共に
「――こんな、ことって……」
炎に包まれ、何度目かの死を迎えた情熱のルビーは立ち上がる。
これまで幾度も復活していた。だが、猟兵達はその度に自分を追い込んで来る。流石に力が保たないと感じているらしい災魔は大きくふらついていた。
猟兵達はその隙をしかと捉える。
よろめいた宝石人形を見つめ、桜雪はすかさず札を掲げた。
「もう熱いのはいいよ。凍って涼しくなろう?」
氷の華を解き放った桜雪。
すべてを鎮火させていくかのように舞う氷の花弁を見上げ、ホーラは淡く笑む。
氷が収まったならば次は自分の番。
「貴女が災魔なら、こうするしかないの。私の炎、存分に味わってね」
ふたたび火の精霊の力を使い、炎の渦を起こしたホーラは其処に全力を込める。もう二度と、復活などさせない。
そうさせぬ好機がいま此処に巡っているのだと、桜雪もホーラも察していた。
そして、その炎に加勢するかのごとく別の精霊の焔が戦場に巡る。
「イフリート! そのまま宝石ごと焼き尽くせ!」
精霊に命じた声の主は祈里だ。
血は足りないが、天才ゆえに魔力は何とか回復できていた。祈里の声に応じながら紅蓮の焔を解き放つイフリート。更にその炎に添う形で鳳凰の翼が舞う。
「嬢ちゃん、本当に大丈夫かい」
「天才だからな! それに、誰かさんが援護してくれてるしな?」
彌三八から掛けられた声に頷いた祈里は、気付いているのだと告げるように笑った。
そうか、と可笑しそうに笑みを返した彌三八は地を蹴り、筆を振るう。其処から描かれた絵を力に変え、彼は一気に滑空した。
様々な炎に貫かれ、揺らぐ災魔。
「う、あ……私の炎と情熱よりも、熱いだって……?」
弱りきったルビーはもう抵抗することすら出来ず、此方の炎から逃れるように下がることしかできない。
だが、それを逃すような嵐吾と綾華ではない。
綾華が右へ、嵐吾は左へ。並走する形で駆けた彼らは一気に其々の炎を放った。
「――ほら、喰らいな」
「たまには焦がれるのも、良いからの」
鬼火と狐火。
似て非なる、けれども思いを同じくした熱が迸っていく。
今だ。今じゃ。声も、意志すらも重ねて、視線を仲間に向けた綾華と嵐吾。その眼差しを受けた雪火は大きく頷いた。
誰のどんな炎も、雪火にとっては素晴らしく熱いものに思えている。
勿論、災魔が宿す情熱だってそのひとつだ。だから、と雪火は心に決めていた。大太刀を振り上げた彼は宝石人形に呼びかける。
「こんな狭苦しい所なんて出て、俺と一緒に行こうぜ」
このような絵の中に一人きりだなんてつまらないだろうから。けれど、連れ出すのは災魔としてではなく――。
「俺の炎とひとつになって、不滅の焔を此処から解き放ってやるよ!」
宣言と共に鬼火の乱舞が宙を舞う。
照らせ照らせ、明るく照らせ。この世界の未来を、哀しき生命の行く先を。
宝石人形が崩れ落ちる。
炎は揺らいだが、其処から新たな宝石人形が蘇ることはなかった。こうして此処に集った猟兵達の力によって熾炎の紅砡は討たれた。
完全なる勝利によって、迷宮の脅威はまたひとつ潰える。
そして、先に待ち受けるのは――世界を揺るがせる強大な力を持つ大魔王のみ。
大成功
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