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アルダワ魔王戦争6-C〜願いの果て、裁定の魔王

#アルダワ魔法学園 #戦争 #アルダワ魔王戦争 #大魔王 #モルトゥス・ドミヌス #オブリビオン・フォーミュラ


●幕裏 
 ──鼓動が聴こえる。
 帳の落ちた闇の向こう、脈打つ迷宮の心臓で、二つの眼窩が燃え上がるように真紅を燈した。
 闇を祓い、輝きを湛える心臓たちが、刻一刻と迫り来る音がする。
 決して耳慣れぬ音ではない。剣戟と火花、魔法と詠唱、銃声と撃鉄、蒸気と歯車、そして──あらん限りの生命の咆哮。
 いずれも、かつて耳にしたことのある音であった。いずれも、かつて歯牙にもかけず蹂躙した、取るに足らない贄共の叫びであった。
 だと、言うのに──。
「……嗚呼、そうだ。『我』はかつて『敗北』した。」
 覆しようのない『真実』を吐き出して、真紅の眼窩を闇に焦がす。
「そして、また『再び』『汝ら』と『相見え』ようとしている……!」
 言葉尻が震えるのを自覚する。怒りと嘲笑、怨嗟と恐怖の入り混じった、ともすれば酷く『人間的な』声音。幾つもの戦場、数多の時、様々な形態で衝突を繰り返しても尚、彼らは未だに不可解な生命体であった。
 彼らは『協力』することで、飛躍的な成果を生む。しかして是を真似た第一の己は、分かたれたが故の不一致で敗北を期した。
 彼らは強大な『力』を有することで、更なる発展を遂げる。しかして是を真似た第二の己は、力を活用しきれず敗北を期した。
 彼らは『理解』することで、多くの同胞と手を取り合う。しかして是を真似た第三の己は、矛盾する心理を前に敗北を期した。
 彼らは『産み育む』ことで、繁栄をより確かなものとする。しかして是を真似た第四の己は、粗製乱造の果てに敗北を期した。
 何故だ。
 形態変化という『退化』を重ね、模倣と解析を繰り返しても尚、理解できない。何故、これほどまでに不安定な生命体が、己をこの奈落の底に封ずるに至ったのか。
「……『裁定』せねばなるまい。『汝ら』と『我』、どちらが『世界』を『食らう』に『相応しい』のか」
 これは最早、単なる戦争ではない。『現在』を歩み続けるヒトという種と、この世界でもっとも強大な『個』である魔王という名の現象の、未来をかけた生存競争だ。
「……『来るがいい』、『贄共』よ。『我』は『第五形態』にして『裁定者』、『モルトゥス・ドミヌス』。『我』は『我が敷く法』のもと、『汝ら』を『我が真実』にて『打ち砕かん』……!」
 魔王の咆哮に呼応するように、迷宮の心臓たる巨大蒸気反応炉が唸りを上げる。嵐の如き魔力の奔流。生ける命の輝き、その全てに帳を下ろさんと蔓延る闇を切り裂いて──ガコン、と。古めかしい巨大な鉄門が、悲鳴のような軋みを上げて、大きく口を開いた。


「──決戦です。」
 深みのあるバリトンが、その開幕を告げる。愛用の帽子を胸に当て、老いた紳士人形ヘンペル・トリックボックスは静かに首を垂れていた。
「もはや語る事柄も、そう多くはありません。大魔王最終形態到達に王手がかかった今、障害となるのは生き残った魔王の欠片たち。そして貴方たちがこれから刃を交えるのは魔王第五形態、『裁定者』モルトゥス・ドミヌスです。」
 杖が床を突く音。夢幻のごとく浮かび上がったのは、巨大な蒸気機関を有する空間の見取り図と、その中心に座す異形の魔王の巨躯であった。
「圧倒的な巨躯による物理的制圧力に加え、巨大蒸気反応炉から供給される無尽蔵の魔力……これだけでも十二分に破格の性能と言えましょう。しかしこの形態の大魔王の真に恐るるべきは、『放った言葉が真実として現実に影響を及ぼす』という能力にあります。」
 酷く苦々しい表情を浮かべて、老人は猟兵ひとり一人の顔を見やる。掛け値なしの強敵だと、その瞳が告げていた。
「……この能力をどうにかして封じ込めない限り、戦闘のスタートラインに立つことすら危うい。魔王の放つ言霊に対策を立て、そのうえで物理・魔法的に最高クラスの力を持つ本体への攻撃を仕掛ける──ハッキリ言って至難です。一人では到底攻略しきれないでしょう」
 他の猟兵との連携が必須だと、そう口にして──紳士は今一度、深々と首を垂れる。
「……危険な戦場故、身の安全は保障できません。私に出来る事は、ただ皆様を信じて待つことのみ。どうか、どうか──」
 世界を救ってくれ、イェーガー。
 老人の肩から、白い鴉が飛び立つ。舞い散る羽が淡い燐光を帯び、転移の門が口を開ける。
「──言葉とは、想いです。想いとは、願いです。願いとは本来、ヒトにのみ赦された権能。で、あればあの魔王も、また──」
 呟くような人形の言葉は、無数の羽根と共に吹き散らされて──。
 そうして目を灼く輝きが、猟兵たちを包み込んだ。


信楽茶釜
 願いと願いをぶつけ合い、砕けたほうを夢と呼ぼう。
 どうも皆様はじめまして、信楽茶釜と申します。陶器製です。
 最終決戦前夜、魔王は何を望むのか。
 以下補足です。

●最終目的
 『裁定者』モルトゥス・ドミヌスの撃破。

●プレイングボーナス
 先んじて放たれる、ユーベルコードへの対処。及びその後の反撃。

●戦場について
 無数の蒸気機関に満ちた、大規模戦闘可能な広大な空間です。ファーストダンジョン全体に魔力を供給する巨大蒸気反応炉が存在しますが、これを破壊すると全ダンジョン及びアルダワ魔王学園ごと消滅するレベルの爆発が発生します。お気を付け下さい。

●予知による断片的な情報
 『 ヒト 』

●!重要!
 このシナリオは戦争シナリオです。状況・仕様により採用人数が少なくなる場合も御座います。あらかじめご了承ください。
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第1章 ボス戦 『大魔王第五形態『モルトゥス・ドミヌス』』

POW   :    『貴様らの攻撃は我が肉体には届かぬ』
無敵の【全身を包む『裁定者』のオーラ】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    『己の力にて滅びるがいい』
【ユーベルコードをも『喰らう』両手】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、ユーベルコードをも『喰らう』両手から何度でも発動できる。
WIZ   :    『裁定者に仇為す者には災いあるのみ』
【悪意と魔力に満ちた言葉】を向けた対象に、【放った言葉を現実化すること】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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アンネリーゼ・ディンドルフ
アドリブ連携大歓迎
SPD
「必ず先制攻撃ですか」
アンネリーゼは思案する

モルトゥス・ドミヌスのユーベルコードのうち、『己の力にて滅びるがいい』は、こちらのユーベルコードを受け止めてコピーしたこちらのユーベルコードを我がものとして使うらしいです
つまり、発動してもそれ自体が直接こちらに何かするものではないということです

「それではこのユーベルコードで対抗しましょう」
相手の攻撃は見切りで回避しつつ問答無用でユーベルコードを放ち、モルトゥス・ドミヌスの急所への攻撃を試みる

「このユーベルコードはオブリビオン相手にしか効果がありませんよ?」


カイム・クローバー
f01440シャルと第六感連携

──あの魔王にも『ヒト』に近しい部分があるってか?
ま、例えそうだとしても。手を繋いでめでたしって訳にはいかねぇだろうしな。
便利屋の仕事だ。駆除するぜ。

俺のUCを喰らって自分の力にしようってんだろ。強大な『だけ』の力じゃ俺のUCはお前に使いこなせないぜ?
BSは受ける。俺は人である事を信念とし、猟兵である事を誇りに、力を背負う覚悟だ。
魔剣を顕現し、黒銀の炎を刀身に宿して【属性攻撃】、【二回攻撃】を行使し、一撃目を【フェイント】。本命は【串刺し】を込めた、胸奥の水晶体への一撃。
俺達は喰う為に戦うんじゃない。意味が分からないか?
次会うまでに理由を考えときな。俺からの宿題だ


清川・シャル
f08018カイムと第六感で連携

…願いが叶うようにそう成る様に生きていくのが大事じゃないでしょうか
彼と生きてきた道みたいに。
即席で何かに縋って叶うモノではないと思うんです

UC起動、貴方の悪意出来る限り頂きます
激痛耐性で耐えます
オーラ面倒ですね
鼓膜になら届くでしょうか
Amanecer召喚、鼓膜破壊の超音波を出します
神経衰弱の催眠術を乗せた音もプラス
何とかなったら熱光線射出とぐーちゃん零全弾発射
毒使い、マヒ攻撃、呪殺弾が込められたフレシェット弾を装填しておきます
跳ね返り防止と防御用に氷盾の展開
そーちゃんでの呪詛を帯びたなぎ払い攻撃も追加です

アルダワって好きなんですよ、シャルの遊び場返してくださいな


テラ・ウィンディア
魔王に挑む
勇者みたいだな

対POW
何が肉体に届かないだ!
そんなもんおれの連続攻撃を防いでから言ってみろ!

なんて事を言いながら【戦闘知識】で魔王の動きを冷徹に分析する
但し驕った様子を見せてそれを悟らせない
【属性攻撃】
炎を全身と剣と太刀に付与

魔法と斬撃の混合だ!防げるわけねーだろ!
と言いながら【早業】で高速斬撃!
効かないのは想定済み
それでも何度も「斬撃」を繰り出し

な、なんで効かないんだよっ!
【第六感・見切り・残像・空中戦】で必死に回避する様を見せ何度も斬撃で反撃
嘘だっ…そんなっ(そのまま後退

斬撃を残した空間に入った瞬間
オーラ内の肉体を狙
消えざる過去の痛み発動!
他の猟兵の斬撃も利用
(斬斬斬斬斬!)


曾場八野・熊五郎
うーんなんだか小難しいことを言う骨でごわすなー
骨……よろしい、どちらが贄か賢い我輩が教えてあげませう(ジュルリ)

(pow)
言葉が武器というなら我輩ら犬も大昔からやってるでごわす。つまりーー吠え合戦でごわす!『破魔・大声』で思いっきり吠えてかき消すでごわすよ!
我輩らはこれで負けたと感じたら引き下がるでごわすがどうでごわすかな
「ワンッ!!!」(ちょっとしゃぶらせてーーっ!!!)

『ジャンプ・ダッシュ・野生の勘』でオーラの攻撃を避けるでごわすよ
当たる位置まで来たら腹の石を【犬ドリる】でごわす!『怪力』
我輩賢いから知ってる。あーいうのはピカピカしてるのが弱点でごわす

アドリブ連携歓迎


リューイン・ランサード
(大魔王さんに)あの~盛り上がっている所、申し訳ないのですが、僕達は世界を食らいたいとは思っていません。
確かに色々消費してはいますが、程々にしたいと思ってますよ~。

『UC対策』
貴方は『貴様らの攻撃は我が肉体には届かぬ』と言いましたね。
では僕は肉体を傷つけずに貴方の【魂】のみを攻撃するUCを使います。
貴方は魂には届かぬとは言わなかった。ならば『魂への攻撃は通用する、それが貴方の真実』です!」と断言。
(ここで言い直す=能力に疑念を感じた、事になる筈。)

大魔王さんの怒りを受け、【空中戦】で派手に動き、【第六感、見切り、残像】で躱して囮となりつつ、機を見てUC&【光の属性攻撃、2回攻撃】で攻撃します。


トリテレイア・ゼロナイン
アルダワに息づく人々の為、打ち砕かれる訳には参りません
第五形態…『裁定者』、騎士として討たせて頂きます

初撃は●防具改造で追加装甲を施した●怪力での●盾受けで防御
相手は巨体、質量の差がある以上受け止めるのはほぼ不可能
攻撃の角度を●見切り、脚部スラスターを吹かした●スライディングも併用して受け流し

UC発動、攻撃を躱し行動を誘導
無敵に胡坐をかき、此方を捉える為に無理な体勢からの攻撃を放った瞬間、相手の重心バランスを●見切り●怪力で大盾を●投擲する精密攻撃を放ち転倒させます

地に倒れ伏したその姿、攻撃が肉体に届かぬと宣うのは裁定者として如何な物でしょうか?

言葉で揺さぶりつつ取り付き剣で腹部宝玉を●串刺し


ソラスティベル・グラスラン
世界を喰らうとは…貴方は何を知っているのですか?
…いいえ、それは先へ進めば分かる事ですね
参ります、第5の魔王よ!
我々は、貴方の示す『真実』を否定します!

今までの戦いと同様に、正面から一歩
オーラ防御で守り、第六感・見切りで攻撃が弱い場所へ跳ぶ
怪力・盾受けで受け流し、気合いで耐える!

どうしました、大魔王よ
わたしはまだ『立っています』よ!!

継戦能力で何度でも耐え、燃え滾る【勇気】を胸に一歩ずつ前進
見た目は無防備に見える防御重視の【勇者理論】
着実に距離を詰め恐怖を与える

わたし一人倒せない、貴方の『裁定』はその程度なのですかッ!!
無敵を否定、恫喝し更に彼に恐怖を
【勇気】を胸に、大魔王に渾身の一撃を!!


杜鬼・クロウ
アドリブ歓迎

言霊が力となるか
…デキる魔王だなァ(ひりつく空気に顔歪み
願いは時に呪いや枷にもなりえる
テメェは神鏡(おれ)にどう言葉を紡ぐ?
果たして正しく裁定出来るかねェ

現実化した言葉を玄夜叉で武器受け・カウンター
肉を切り骨を断ち剣でもいなす
環境耐性でカバーし極力回避
地形利用し蒸気の煙で保険で姿眩ます
【聖獣の呼応】使用
援護攻撃

(ちィ…このままだとジリ貧でこっちが不利だ

囮役
大地と火の精霊を剣に宿し溶岩の如き赤熱で灼やす
派手に撹乱
敵の攻撃集中させ取っ掛かり作る
多方面を剣で攻撃
何処が敵の肝か探る
仲間に渾身の一撃託す

俺もまた人でないモノから生まれた身
テメェと俺の違いは

人との絆
想いの強さ
力では決して測れない


シン・コーエン
エリクシルか、(エンドブレイカーの)両親から何度も話を聞いた。
そんなモノを腹に抱えているなら、多くの願いを叶えられよう。

大魔王に比べ、ヒトは不完全で弱くてバラバラだ。
しかし一人一人違うからこそ、出会い、ぶつかり、和す事で、自分達の願いをも上回る結果を引き寄せられる。
今度もその結果(奇跡)を見せてやる!

連携して戦う。
【空中浮遊・自身への念動力・空中戦】で自在に空を飛びつつ、UC&【念動力】でエリクシルを潰したり、大魔王から引き剥がしを試みる。
「これはお前の肉体ではないから無敵では無い!」

大魔王の敵意を引き受け、【残像】を数多生み出して幻惑しつつ、【第六感・見切り】で攻撃を躱して、仲間の行動を援護



●第一幕 -1-

 ──鼓動が聴こえる。閉ざされた門の向こう側、これから相対する強大な、悪意の鼓動が。

 ファーストダンジョンの心臓たる炉心制御空間。厳めしい巨大な門の前に集った猟兵たちは、一様に覚悟を決めた顔で並び立っていた。
「世界を喰らう……いやな響きです。第五の魔王は何か知っているのでしょうか……?」
 誰にともなくそう呟いたのは、勇者を目指す竜族の少女、ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)であった。この階層に到達するまでの間、幾つもの戦場で様々な形態の魔王と鎬を削ってきた彼女であったが、依然として“大魔王”という存在がどういったモノであるのか、掴み切ることはできずにいた。
「……今はなんとも言い難い状況ですね。ともあれ先へと進めば解る事──というのは、他でもないソラスティベル様が一番良く理解されているようだ。であればこのアルダワの未来のため、私もまた騎士として戦い抜くのみです。」
 呟きに応えたのは、白亜の甲冑に身を包んだ騎士──そう形容すべき姿のウォーマシン、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。彼もまた、多くの戦場を駆けた歴戦の兵である。
「ハッ、お前の言う通りだろーよ、トリテレイア。推測に憶測を重ねて時間を食っちまうより、魔王サマの特殊能力とやらに対策を立てる方がよっぽど有意義ってモンだ。戦場に立っちまったら、あとは自分にしか出来ねェコトをヤる。そンだけだろ。」
 その隣、唇を釣り上げてニッと笑うのは、身の丈ほどもある黒剣を携えたヤドリガミの男、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)だ。夕赤と青浅葱、左右で色の違う瞳を眇め、風雲児は扉のむこうへと静かに闘気を燃やしていた。
「むむっ、お前さん、なかなか良いこと言うでごわすなぁ……! シンプルが一番なのは蕎麦も作戦も一緒でごわす。小難しいことは、吾輩の様に賢い輩に任せておけばよいのでごわすよ。」
 ブンブンと、ふさふさの尾が揺れる。黒剣を担いだクロウの足元、身の丈ほどもある鮭(分類:チープウェポン)を背負った小型犬が、黒い目を輝かせて彼の脚をペシペシと叩いていた。どこぞから迷い込んだ野良犬──な訳もない。曾場八野・熊五郎(ロードオブ首輪・f24420)……賢い動物である彼もまた、此処に集った猟兵の一人であった。
「……とは言え、『口にした事象が真実として現実に影響を齎す』などという反則級の力、慎重すぎて慎重すぎるということはないだろう。魔王が体内に秘める力の源──それが両親の言っていた秘宝であるのなら、己が願いを現実化するなど造作もないはずだ。」
 そう口を開いたのは、軍服に身を包んだ凛々しい青年、シン・コーエン(灼閃・f13886)。凛としたその眼差しは、鋼の如き覚悟を以て鉄門へと向けられている。
「口にするだけで願いが叶ってしまう能力、ですか……ううん、私的にはいらない力ですね。ある意味、即物的で一番人間らしい能力かもしれませんけど。」
「……あの魔王にも『ヒト』に近しい部分があるってか? 例えそうだとしても──ま、お手て繋いで目出度しめでたしって訳にはいかねぇだろうさ。何しろベットされてるのは世界丸一つ、あちらさんが死に物狂いな以上、こっちも全身全霊でレイズしていかねぇとな……!」
 金色と銀色が並び立つ。思案気に青い瞳を瞬かせた羅刹の少女、清川・シャル(無銘・f01440)の言葉を受けて、蒼いコートの便利屋カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が硬く拳を握る。互いに信頼して背中を任せることの出来るパートナー故に、その覚悟に迷いはない。
「ここまで来た以上、引き返すことなんて出来ませんよね……えぇ、分かってます。ここで戦って勝たなきゃ、どのみち逃げてもお終いだってことくらい……!」
 震える声音を押さえつけて、竜人の少年リューイン・ランサード(竜の雛・f13950)もまた、心のうちに覚悟を決める。敵は自分の出身世界最強最悪の“大魔王”。今まで戦ってきた敵とは比べ物にならない程の力を持っているだろう。それでも、自分は──。
「心配すんなリューイン。一緒に魔王に挑むんだ、おれたち皆勇者みたいなもんだろ? だったら胸張って戦うだけだ。背中は任せるぞ!」
 少年の背を叩く様に、快活な声が響き渡る。ふり返れば真紅の剣を携えて、テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)がニカッと笑っていた。年相応に小さな少女の身体からは、しかし場を塗り替えるような強烈な熱量が放たれている。
「皆さん、気合は十分のようですね……この魔王は食べる部分がまるでなさそうですから、個人的には研究のし甲斐がありませんが。……せめてアルダワの食文化保全活動の一環とでもしましょうか。」
 打って変わって落ち着いた声。この場に集った十名の猟兵最後の一人、アンネリーゼ・ディンドルフ(オブリビオン料理研究所の団長・f15093)が、藍色の髪を躍らせてそう呟いた。静かに手のひらを鉄門に添えた彼女に続いて、皆もまた臨戦態勢で門に手を駆ける。

「──いくぞ」

 誰からともなく口にしたその言葉に、猟兵たちが力を籠める。重苦しい響き。地鳴りのような軋みを上げて、巨大な鉄門が内側へと開いてゆく。途端にドロリと溢れ出したのは、最早物理的質量すら獲得した暗黒──即ち魔王の下ろせし闇の帳、ダークゾーン。
 視界を塗り潰す悍ましい闇の奔流に、押し流されないようにと抗う彼らの、視線のその先。噴き荒れる蒸気のその向こう。赤熱する巨大な蒸気反応炉を背に屹立する巨影に、誰もが一様に息を呑んだ。

「──『遂に』『来た』か、『贄共』よ──」

 闇の帳が薄れてゆく。巨大蒸気反応炉の発する不気味な赤い光の中で、巨影はゆっくりと頭を上げた。
 真紅の炎が、二つの眼窩に揺らめいている。甲冑が如き堅固な外骨格。大樹の根を思わせる無数の太い背骨は地を這い回り、背に負う十枚の翼は天蓋の如く宙を覆う。規格外の巨躯であった。それはまるで、暗澹たる闇に座す巨神の骸。或いは理を冒涜し捻じ曲げる異形の祭壇。その中心に埋め込まれた真紅の宝玉が、正しく心臓の如く脈動しているのが見て取れる。是なるは裁定者にして悪法を敷く者。己が言霊にて現実を塗り潰す概念上の圧政者。大魔王第五形態、モルトゥス・ドミヌス……!
「……『待ちくたびれた』というのも『強ち』『間違いではない』か。『汝ら』が『この場所』に『到達する』ことは、『この戦争』を『始めた時』から『既に判明っていた』。」
 大気が震える。その言葉一つ一つに、現実という脆いテクスチャが悲鳴を上げている様であった。
「……『汝ら』『脆弱なる』『贄共』の『刃』が、『至高』にして『絶対』たる『我ら』に『届く』……『判明っていた』。『判明っていた』が──『理解は出来ぬ』……!」
 魔王に呼応するように駆動音を上げる巨大蒸気反応炉。無尽蔵ともいえる魔力の奔流が、魔王の巨躯へと流れ込んでゆく。
「……教えてくれ、ヒトの仔よ……」
 何かの間違いのような呟きは、つんざく排熱と蒸気の音に紛れて。魔王モルトゥス・ドミヌスは、その巨大な左手をゆくっりと掲げた。

「では『始めるとしよう』──『汝ら』を『分断する』。『散逸せよ』──!」

 ビシリ、と。現実に亀裂が入る音を、聴いた。

●第一幕 -2-
 
 瞬間、世界が斜めに“ズレた”。
 暗転する視界。玻璃と化した脳髄に、ビシリとヒビが入る様な感覚。
「……っ、何が──?」
 眩暈にも似た感覚に、リューインは頭を振って目蓋を開く。
「……無事か? リューイン」
 一方、その一歩先で額を押さえながらもテラは、星刃剣『グランディア』を隙なく構え、眼前に聳える魔王と対峙していた。
「は、はい! たしかに……無事です、けど……!」
「……他の猟兵たちと分断されたようですね。これが『裁定者』としての魔王の力──“次元ごと”位相を変転させるとは。どうやらこの空間にいるのは、私たち三人だけのようです。」
 言葉とは裏腹に、どこか落ち着いた声音でアンネリーゼが眼を瞑る。魔王の言霊によって塗り潰された現実は、猟兵達の有していた数の利をあっさりと覆して見せたらしい。
「そんな──」
 どこか悲壮さ漂うリューインの声を背に受けて、テラの星刃剣が燃え上がる。
「別に、そこまで大騒ぎするほどのことでもないだろ。どのみちアイツと刃を交えるのは変わらない、立ちはだかるなら倒すだけだ……!」

「……『中々に』『良く吼える』『贄』よ。『然らば』『汝の覚悟を見せてみよ』、『貴様らの攻撃は我が肉体には届かぬ』……!」

 ビリビリと空間を震わせて、魔王の言葉が雷鳴の如く轟く。瞬間、足下から噴き上がる様にして迸る『裁定者のオーラ』が、魔王の巨躯を包み込んだ。
「──『来るが良い』、『身の程も弁えぬ愚かな贄よ』……!」
「……合わせてくれよな、リューイン」
「えっ、な──テラさんっ!?」
 困惑する少年の声を置き去りにして、弾けるように少女は大地を蹴った。
 聳え立つ魔王へと突貫する。灼熱する『グランディア』が真紅の軌跡を描き、右手で抜刀した『錆鞘之太刀』から銀閃が迸る。瞬間、大樹の根の如き無数の脊柱が奔流となって、テラの小さな身体を呑み込み押し潰さんと迫った。
「捕まってたまるかよ!」
「……『小癪』……!」
 自身に刻まれた“経験”と言う名の戦闘知識を総動員し、少女がさらに加速する。大地を抉り砕く怒涛の攻撃を尽く掻い潜り、テラ・ウィンディアはモルトゥス・ドミヌスの懐へと一直線に疾走った。
「──へっ、何が肉体に届かないだ! そんなもん、おれの連続攻撃を防いでから言ってみろ!」
 接敵。左右の刃が閃くも束の間、眼にもとまらぬ無数の斬撃が魔王の懐へと叩き込まれる。
「そらそらそらそらそらそらそらそら──!」
 太刀筋は精妙、且つ強靭。打ち鳴らされる鋼の音は嵐の如く、並みのオブリビオンであれば耐え切れずに膾切りとなる程の撃剣であった。
「……『無為』。」
「────っ!」
 並みのオブリビオンで、あれば。
 テラの放つ高速連続斬撃はしかし、魔王の肉体に一片の傷すらつけることなくオーラの上を空滑りしてゆく。しかしこれは想定内、少女は諦めずに刃を振るい続ける。
「なら──こいつはどうだ!?」
 轟、と大気が渦を巻いて、『グランディア』の炎が『錆鞘之太刀』に、そしてテラの肉体にも灼熱のオーラを纏わせる。魔法剣士としての本領発揮、即ち武具と肉体へのエンチャント……!
「魔法と斬撃の混合だ! 防げるわけねーだろ!」
 真紅の軌跡が空を灼く。振り翳す炎剣は灼熱の渦と化して、魔王の胴を焼き斬らんと迸る──が。
「……『無駄』。」
 一際高い、激突音。テラの二刀は魔王に届くことなく、刃を阻む裁定者のオーラを前に大気を焦がすだけであった。
「な、なんで……!」
「……『この程度か』『脆弱なる贄よ』……!」
 眼前の虫を叩き落とすような無造作で、モルトゥス・ドミヌスが右手を振るう。
「ぐ──!?」
 直前で後退、大きく身体を捻って身を投げ出すも、右腕の巻き起こした風圧だけで小柄な肉体は枯葉のように吹き飛んだ。
「テラさん──!?」
 後方で聴こえた少年の叫びと時を同じくして、吹き飛んだ身体を叩き潰さんと巨大な左手が迫る。そして──
「そこまでです。」
 唐突に放たれた光の矢が、魔王の左掌を貫いた。

●第一幕 -3-
 
 這いずり回る無数の巨大な脊柱が、波濤の如く押し寄せる。その僅かな隙間を縫って、魔王へと疾走る三つの影があった。
「まさか開幕早々、分断されるとは思ってもみなかったぜ……!」
 脳天を打ち砕かんと振り下ろされた一撃を軽々と避け、カイム・クローバーが蒼いコートを翻す。絶望と異端の世界にいた頃の身の熟しは、UDCの便利屋となった今でもしっかりと彼の中に根付いていた。
「そう悪い事ばかりでもないですよ。他のひとたちがどんな振り分け方をされたか知りませんけど、割と良心的なパーティの組み方じゃないですか?」
 金沙の髪が戦場に靡く。正面から迫りくる脊柱を、片っ端からピンクガンメタ色の鬼金棒『そーちゃん』で殴り逸らし、清川・シャルは一直線に地を駆けていた。
「──あぁ、全くだ。まさかこうして二人と肩を並べて戦えるとは思っていなかった。よろしく頼むぞ、二人とも……!」
 己が分身たる深紅のフォースセイバー『灼星剣』を携え、シン・コーエンもまた戦場を往く。最早一心同体と言っても過言ではないカイムとシャルの連携を、シンは良く知っていた。
戦場を共にする味方にあって、これほど心強い二人もいない。
「ハハッ、こちらこそよろしくだ、シン! あの慢心した大魔王サマの横っ面に、一撃かましてやろうぜ!」
「その前にあの厄介なオーラをどうにかするのが先ですけどね!」
「違いない──!」
 無数の脊柱を掻い潜り、三人が顔を見合せたのも束の間。蒸気を切り裂く鋭い音と共に、巨大な影が三人の頭上めがけて降ってきた。
「──『潰れるが良い』『贄共』……!」
 衝撃が、戦場を荒れ狂う。吹き散らかされた蒸気が渦を成し、粉塵が濛々と視界を閉ざす。
 魔王の左腕であった。隕石も斯くやと言う大質量の拳は、直撃した地点に巨大な亀裂を生みクレーターすら作り出すに至っている。しかして右腕の一振りで粉塵を掻き消せば、振り下ろした拳の下に骸はない。真紅の眼窩が燃え上がる。
「……『逃げ足は速い』か。まるで『鼠』のようだ……」
「──窮鼠猫を噛むってことわざ、知りません?」
 頭部を左に傾ける。蒸気と粉塵に紛れ、羅刹の少女は気付けば眼前にまで迫っていた。金棒による薙ぎ払いが、全力を以てその頭蓋に叩きつけられる──が。
「……『貴様らの攻撃は我が肉体には届かぬ』……」
「…………っ!」
 仰け反る素振りすら見せず、魔王が無造作に右腕を振るう。再び巻き起こる蒸気と粉塵の嵐。咄嗟に『そーちゃん』で防御しつつも吹き飛ばされたシャルの身体を、しかして空中で抱き留める影があった。カイムだ。
「……怪我ねぇか、シャル。」
「……うん、ありがとうカイム。やっぱあのオーラは面倒ですね……。」
「──『其処か』──!」
「なっ──!?」
 粉塵を吹き散らし、魔王の左拳が空中で身動きをとれない二人へ迫る。直撃すれば五体四散は免れぬ大質量の一撃。
「──二人とも、暫し身を預けろ!」
 瞬間、自由落下していた二人が、唐突に後方へ引き寄せられるように水平に飛ぶ。フック気味に放たれた魔王の一撃は空を切り、風圧による破壊を壁に残すだけに留まった。
「……無事か、二人とも。」
「助かりましたよ、シンさん……!」
「今のはヒヤッとしたぜ、マジで……!」
 冷や汗をかく二人の前で、シンもまた深い息と共に額を拭う。卓越した念動力の使い手であるシンだからこそ、出来た芸当であった。
「魔王第五形態……分かってはいたが、侮れん……!」
「……作戦、練りますか。」
「同感だ。つっても奴さん、お行儀よく待っててくれそうにはねぇな……手短に行こうぜ!」
 先と同じく、無数の脊柱が放たれる。三人は小さく顔を見合わせると、再び構えをとって走り始めた。

●第一幕 -4-

「──『平伏せ』『贄共』。」

「…………っ!?」
 その言葉を理解すると同時、倍加した重力が全身に叩きつけるような感覚が、ソラスティベル・グラスランを襲った。
「クッ……分断された上に、動きまで封じられる……とは……!」
 猛烈な重力のなか首をゆっくりと回してみれば、隣のトリテレイア・ゼロナインもまた、装備を構えたまま動くことが出来ずに堪えている姿が目に入る。
 人影が少ない。先程の言霊で、突入時の仲間たちとは離れ離れになってしまっているようであった。
「うぅぅ……伏せは……慣れているでごわす、が……!」
 地面に張り付いたままペタン、となっているのは、曾場八野・熊五郎だろう。あと、この場に残されているのは──
「言霊が力となるか……デキる魔王だなァ……!」
 唇を歪めて眼前の魔王を睨みつける、杜鬼・クロウのみであった。
「でもよォ……テメェ、一体誰に向かって頭下げろつってんだ……?」
 ザクリ、と大剣が大地に突き立つ音。そして──
「──魔王だろうがなァ、あまり舐めた真似すっと潰すぞ、オイ……!」
 大気を震わす低い怒号。バチリと何かが弾け飛ぶような音と共に、四人の身体が唐突に軽くなる。眼前の魔王が、遥か頭上でゆっくりと首を傾いだ。
「……ほぅ、『我が言葉』を『撥ね退ける』か。『不遜な人間』も『居たものよ』……。」
「ハッ、悪ィが俺は人間じゃねーんだよ。テメェの言葉の絡繰りは理解してるぜ? あぁ、そうだ。願いは時に呪いや枷にもなりえる……テメェは神鏡(おれ)にどう言葉を紡ぐ? 果たして正しく裁定出来るかねェ、大魔王サマ……!」
 歯を剥き出しにして切っ先を突き付けるクロウに、モルトゥス・ドミヌスは真紅の眼窩を歪にゆがめた。
「……『それ』が『汝の望み』なら──『叶えよう』。」
 ぞわりと、その場に集った四人の肌が泡立つ。
「──『鉄屑の』『雨が』『降り注ぐ』……。」
 カツン、と。どこかで硬質の物体が地面にぶつかる、音がした。
「……イヤな予感がするでごわす。」
「き、奇遇ですね熊五郎さん……わたしも──アイタ!?」
 ソラスティベルの即頭部に当たって転がったのは、錆びた小さなボルトであった。慌てて黒翼の盾『モナーク』を頭上に展開する。
「これは……」
 同じく大型シールドを掲げたトリテレイアに、目元をヒクつかせたクロウが答えを返す。
「あァ、あン野郎、早速舐め腐りやがる……!」
 クロウが魔剣『玄夜叉』を掲げたその直後。大小様々な鉄屑の雨が、凄まじい勢いで降り注ぎ始めた。
「わっ、わわわ……ちょっと! いま降ってきた歯車、わたしの頭くらいの大きさでしたよ!?」
「こ、こんなの直撃したら洒落にならないでごわす!」
「皆様、私の傍へ……!」
「クソッ……!」
 トリテレイアの掲げる大盾の下、降り注ぐ鉄屑の雨をただ凌ぐ。次第に降ってくる鉄屑は大きさを増し、ちょっとした隕石レベルの広域殲滅攻撃と化していた。

「──『大地が』『徐々に』『液状化する』……」

「うそでしょ……!?」
「勘弁してくれでごんすー!」
「これは……まずい……!」
 低く、呟くようなその言霊に、盾の下で全員が顔色を変える。案の定急激に緩くなり始めた足下が、徐々に沈んでいく感覚に襲われた。
「……野郎、遊んでやがる……!」
 降り注いでは大地へと沈んでゆく鉄屑の中、クロウは静かに歯噛みする。即効性のある言霊ではなく、遅効性の現象ばかりを選ぶその余裕に、何より腹が立って仕方がなかった。
(ちィ……とはいえ、このままだとジリ貧でこっちが不利だ。どうする……!)
「うぅぅ……あまり使いたくないのでごわすが……」
 耳をペタンと下ろし、悩まし気(に見える)表情をしていた熊五郎が、決意を固めた様にスクッ、と四足で立ち上がる。
「熊五郎さん……?」
「お前さんがた。少しの間、耳を塞いでいてほしいのでごわす。」
 ソラスティベルを筆頭に首を傾げた三人は、訳も分からぬまま耳に両手を当てる。
「いくでごわすよ──!」

『────ッ!!』

 それは、正しく魔滅の一声であった。
 その小さな身体のどこから、ソレだけの音量が飛び出したのか──ビリビリと空気の震える音と共に鉄屑の雨が止み、踝まで呑み込んでいた大地の液状化が停止する。
「けほっ……早、く……けほっ、距離を……!」
 身体を震わせて咳き込む熊五郎を抱いて、ソラスティベルが竜翼を広げる。同時にトリテレイアが脚部スラスターを起動し、クロウの蹴りつけた大地が爆ぜる。

「……『逃げの一手』か。まぁ『それも良かろう』。『どのみち』『汝ら』に『未来はない』……。」

 蒸気のむこうに消えていった猟兵たちへと眼窩を向けて、第五の魔王は慢心するように両腕を広げた。

●第一幕 -5-

 光に射貫かれた己が左掌を見つめて、魔王は真紅の眼窩を“彼女”へと向けた。
「……『貴様』……!」
「流石に味方が潰されるのを眺めているほど、マイペースではありませんので。」
 藍色の髪を翻し、術式を展開したアンネリーゼが右手を向けて息を吐く。
「……しかし厄介極まりない。確かに射貫いた筈でしたが──」
 光の矢が直撃したはずの左手は、しかし傷の痕跡すら残ってはいなかった。どころかアンネリーゼの放った矢の輝きが、そのまま掌の上に残留し渦を巻いているのが見て取れる。
「……私のユーベルコードを、喰らいましたか。」
「……『左様』。そして『この我』に『矢を向けた罪』、『しかと贖ってもらうぞ』──『己の力にて滅びるがいい』……!」
 矢の形に再構築された掌の輝きが、まったく同じ速度・威力でアンネリーゼへと放たれる。飛来する輝きは狙いを違うことなく、アンネリーゼの胸元を穿ち抜き──そのまま傷ひとつ残すことなく、光と共に弾けて消えた。
「……『貴様』『何をした』……?」
「なにもしてはいませんよ。そもそもこのユーベルコードは“オブリビオン相手にしか効果がありません”。それだけです。」
 表情一つ変えることなくそう言い放ち、アンネリーゼは再び展開した術式から光の矢──Time's Arrowを解き放つ。オブリビオンの時を進める力を持つこのユーベルコードは、例え何度打ち返されようと現在を生きる猟兵には何の効果もない。
「──あなたの時間を進めます。劣化し果てなさい、魔王よ。」
「……『おのれ』……!」
 次々と急所を狙って放たれる光の矢を、魔王は巨大な掌で喰らい続ける。ユーベルコードを無効化する魔王の掌もまた、ある種完全な防御機構であった。しかし──
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
 強大な膂力を防御に回したその隙をついて、蒸気を切り裂きテラが迫る。
「……『無意味だと』『言うておろうに』……!!」
 魔王の咆哮が響き渡る。依然として裁定者のオーラに弾かれ続ける斬撃を、それでも少女は刻み続けていた。
「くそっ……通れ、通れえええええええええ!!」
「……『羽虫めが』……!!」
 光の矢を両腕で防ぐ魔王の足元から、無数の骨格が奔る。その攻撃をいなし、躱し、じりじりと後退しながらも、テラは狂ったように双刃を振るい続ける。
「なんで、なんで効かないんだよ……!!」
 悲壮感すら漂うテラの叫び。その声を、最前線から少しばかり離れた場所で耳にしたリューインは──違和感を感じていた。
「……どうしてそんな、無謀な特攻を……?」
 少年は思考を巡らせる。確かに自分の知っているテラ・ウィンディアという少女は、強気な態度を崩さない突撃思考の持ち主ではあった。しかしそれと同時に、戦況を見極め戦い方を工夫する天性の資質も持ち合わせていたはずだ。“戦いの中で成長する才覚”それこそが彼女の持つ芯の強さ。であれば目の前で彼女が行っている突貫は、紛れもなく彼女らしい行動ではない。もしくは──
(──合わせてくれよな、リューイン。)
 走り出す前の、彼女の言葉を思い出す。前線に目を向ければ、少女は“後退しながら”未だ二刀を振るい続けていた。まるで、“斬撃を空間そのものに刻み込むかのように”。刃を振り翳すその一瞬、ふり返ったテラの瞳が、叫ぶ言葉とは裏腹に力強く笑ったように見えた。
「そうか──!」
 まるで魔王を特定のポイントに誘い出すような、彼女の言葉と立ち回り。それを理解した瞬間、少年もまた前線に向けて走り出していた。
「くそっ、くそくそくそくそぉ──!!」
「……『無駄に足掻く』のも『其処までだ』『取るに足らない贄』よ。『未来を喰らう』には『余りに脆弱』。『汝は』『此処で』『死ね』……!」
 脊柱の如き無数の骨格が鎌首をもたげる。最早逃げ場すら覆い叩き潰す質量の暴力。しかしてその攻撃は──
「あの~」
 完璧ともいえるタイミングで、横合いから水を差され停止した。真紅の眼窩が怪訝そうに足下を見下ろす。誰であろう、リューインであった。
「……盛り上がっている所たいへんに申し訳ないのですが、僕達は世界を食らいたいとは思っていません。確かに色々消費してはいますが、程々にしたいと──」
 轟音。
 鎌首をもたげていた骨格の一本が、リューインの真横スレスレに叩きつけられ大地を抉っていた。
「……『戯言』は『必用とせぬ』。」
 響き渡る声に、少年は息を呑む。眼前の巨影は間違いなく、このアルダワ最強最悪の大魔王であるがゆえに。
「……『存在するだけで世界を削る』それは『我』も『汝ら』も『同じこと』。『並び立つことは出来ぬ』。であれば──」

「だったら僕がお前を倒す。」

「────何?」
 気圧されることなく、少年は瞳を頭上へ向ける。その姿に少女は、ふと──小さく笑みを浮かべた。

●第一幕 -6-
 
「ハッ、どうした大魔王サマ! そんな大振りじゃあ、蟲一匹潰せないぜ?」
「……『ほざけ』『虫ケラ風情が』……!」
 幾度となく叩きつけられる、魔王の拳と脊柱の群れ。掠りでもすれば最後、一発で身体を抉り削られ死に至る大質量の豪雨の中を、カイムは未だ武器も持たずに走り回っていた。
「そうまでして世界を喰い潰したいのかよ、お前は?」
「……『我』に『そうあれ』と『願った』のは、『他でもない汝らであろう』……!」
「──なに?」
 立ち止まったカイムへと、無数の脊柱が降り注ぐ。その隙間を掻い潜り跳ねまわる蒼い影へと、魔王の右拳が唸りを上げた。
「……『矢張り』『何も理解していないか』、『愚かな贄共』よ……!」
 大地が爆散する。放射状に放たれた衝撃波と降り注ぐ瓦礫に全身を撃たれ、カイムは苦鳴を噛み殺し後退した。
「……俺たちが、お前を魔王にしたって、そう言うのかよ……?」
「……『どこの世界であろうと同じことだ』。『どの神話体系においても同じことだ』。『善』と『悪』は『二分されねばならない』。『どちらか片方だけでは成り立たぬ』……」
 響き渡る魔王の言葉に、カイムは暫し目を閉じて唇を歪めた。これがモルトゥス・ドミヌスの紡ぐ“歪んだ真実”ではなく、正真正銘の事実だとするならば──
「……それでも、負けてやるわけにはいかねぇな。」
「……クク。」
 紫紺の瞳を見開いて、青年は“魔王”と呼ばれた存在を睨みつける。その視線を遥か頭上で受け止めて、魔王は酷く愉快そうに/切なそうに──嗤った。
「……なれば『我』を『完膚なきまでに滅ぼし尽くして見せよ』『人間』。それこそが、『我』と『汝ら』を『繋ぐ』『唯一にして絶対の法也』……!」
「あぁ、受けて立ってやるよ。」
 巨大な両の拳が、天を衝くように振りかぶられる。
「──俺たち全員で、な……!」
 瞬間、指向性スピーカーによる大音量の衝撃波が、モルトゥス・ドミヌスの体内へと直接叩き込まれた。神経衰弱性の催眠音波すらMIXされたその一撃は、一時的にだが鼓膜や脳髄と言った器官をもたない大魔王の認識機能すら掻き乱して見せる。振りかぶった両腕をダラリと垂らした魔王の足下、幾分か手傷を負ったカイムの隣へと、シャルが召喚型スピーカー群『Amanecer』を引き連れて舞い降りた。
「……カイム、あいつに向かって、幻想喰ゐを使ったの。怒りとか憎しみとか、色んな味がしたけど……一番強かったのはね」
 諦観の味だった、と。呟くようにそう言って、少女は魔王の巨躯を見上げる。全身を覆う裁定者のオーラが、不安定に揺らぎ始めていた。
「もうすぐでシンさんの準備が整うよ。きっと上手くいくと思う。でも──」
「──いいんだ。」
「……でも」
「いいんだ。もしコイツの言ってるコトが本当なら、コレは他でもない俺たちヒトが清算すべきツケなんだろうよ。」
「……無理してない?」
「……正直わかんねぇ。でもな、シャル。そういうの全部抜きにしても、お前がこの世界のことを大好きだって俺は知ってる。だったら理由は十分だろ。違うか?」
「馬鹿。」
「知ってるっての。だから──」
 頼むぜ? と。呟いた一言に秘められた意味と、その答えを、互いの第六感はしっかりと感じ取っていた。
 頭を振って再び動き始めた魔王を前にして、金と銀が並び立つ。
「……そんじゃ、便利屋Black Jack 、いっちょかますぜ……!」
「骨まで痺れるビートとリリック、聴かせてあげます……!」

●第一幕 -7-

「……この辺はちょうど炉心の真裏だ。地形的にも見つかりづれーハズだぜ。」
 鋭く視線を周囲に巡らせて、クロウが漸く足を止める。その傍らに舞い降りたソラスティベルの膝の上で、熊五郎は何度も咳き込んでいた。
「だ、大丈夫ですか、熊五郎さん……!」
「けほっ……少し、喉を酷使しただけでごんす……けほっ……十分も経てば治るでごんすよ」
 咳き込むたび、跳ねる飛沫が赤い。明らかに無理をしている様子であった。脚部から排熱音を響かせて、トリテレイアが跪く。
「私は盾を掲げていたせいで、マイクを片方塞げませんでしたが──あれは“酷使”というのも生ぬるい。どれだけの負担が喉にかかったのか──」
「だから大したこと……けほっ、ないでごわす……けほっ、けほっ……!」
「いまは余り喋ってはいけませんって! あぁもう、何か飲物でも持ってきてれば……!」
「……おィ、口開けな。」
 いつの間に裂いたのか。身に着けていた帯の一端を『玄夜叉』の刀身に、もう一方の端を熊五郎の口にしゃぶらせて、クロウは刀身に刻まれたルーンを励起する。呼び出すのは水の精霊。間も無く刀身から湧き出した清浄な水が帯を伝い、熊五郎の口へと流れ込んだ。
「……ったく、無茶しやがって。ちっこいンだから、少しは加減して吠えろってンだ。」
「ちょっ、クロウさん、そんな言い方は──」
「──ありがとよ、熊五郎。お前のお陰で皆、助かった。」
 熊五郎の傍にそっと腰を下ろして、クロウは愚直に頭を下げる。小さく笑って頷き返した熊五郎の顔と、クロウの顔を交互に見比べて──ソラスティベルもまた、どこか呆れたように笑った。
「……素直じゃないんですから。で、どうします? このままじっと隠れている、ってわけにはいきませんけど……」
「早急に作戦を立てましょう。分断された仲間がどうなっているか分かりませんが──あまり猶予はない。まずは戦線の構築ですが──」
「……あの言霊の範囲攻撃がある限り、どうしても行動が後手に回ってしまいますよね……同じ範囲攻撃で相殺しましょうか?」
「いィや、そいつは悪手ってもンだぜソラスティベル。ありゃ殆ど永続的な“地形効果”だ。マトモに遣り合ってたンじゃ確実に磨り潰される。」
「それに関しては──報告があります。戦闘中、データを随時取っていたのですが……モルトゥス・ドミヌスの使用していた言霊はすべてクロウ様、貴方を対象として放たれたものです。」
「……あン? そりゃ何だトリテレイア、つまり──」
「はい。正確には貴方を座標の中心として発動していると言う事です。恐らくは最初の売り言葉に買い言葉が、何らかのパスを繋いでしまったものと思われます。」
「ハッ、ソイツは好都合! 要するに俺が前線から離れて囮になりゃァ、少なくとも最前線に支障はねーってコトか。」
「で、でもそれって……!」
 危険すぎませんか、という少女の言葉を遮って、男は静かに片目を瞑る。
「……自分で蒔いた種だ、ケジメくらいつけさせてくれや。それに俺ァ、勇者ってガラじゃねーしよ。魔王退治ってなァ、お前みたいな勇者と騎士サマ、ついでにお供のワンコの方がよっぽどそれらしい。だろ?」
「……任せて、いいんですね?」
「おぅ、大船に乗った気でいな! 後悔はさせねーよ。」
「……では、クロウさんは後方で囮役を。私は前線での白兵戦が適任ですので、そのまま前に出ますが……ソラスティベル様、貴方は?」
「もちろん、わたしも前に出て戦います! あの全身を覆ってる、裁定者のオーラが厄介そうですけど……そこは気合で何とかしますっ!」
「気合でどうにかなる相手か、正直微妙だがなァ……まぁ、ひとつ付け込めるトコロがあるとすりゃ、アイツはとんでもねェ慢心野郎って部分だろーよ。アイツ、その気になりゃァもっと直接的な言霊も使えたろうに、完全に遊ンでやがった……クソが、舐めやがって……!」
 腹の虫の居所が悪いのを思い出したのか、顰め面で地面を殴りつけた苦労をトリテレイアが嗜める。
「……まぁ、そのツケは然るべき形で大魔王に支払わせるとしましょう。あとは戦闘中に弱点を見極めて、各自タイミングを合わせて総攻撃を──」
「我輩賢いから知ってる。あーいうのはピカピカしてるのが弱点でごわす。」
 ようやく調子が戻ってきたらしい。ソラスティベルの膝から身を起こした熊五郎が、うんうんとしたり顔で頷いていた。
「つまり、十中八九あの腹の石が弱点でごわすよ。さいていしゃのおーらとやらがなければ、吾輩の犬ドリるで完膚なきまでに砕き散らすのでごわすが……」
「……えぇ、理論は兎も角、あの宝玉が弱点だというのには私も同感です。どうにかしてあのオーラを揺らがせることが出来れば──」
「あとは誰か一人でもいいから抉じ開けて、剣だの牙だのドリるだのを突き立てる……ハッ、シンプルで良いじゃねーか!」
 四人が顔を見合わせる。それぞれが己の全身全霊を賭けると、言葉を介さずに伝わった。
「それじゃあ──いきますよ、みなさん!」
 ソラスティベルが翼を広げる。
 反撃、開始……!

●第一幕 -8-

「──僕たちが、貴方を倒します。」

 屹立する魔王を前に、リューイン・ランサードは宣戦布告を叩きつける。
「貴方の敷く悪法を、誰でもない僕たちが破って見せると、そう言ってるんだ。」
「──『吼えるだけなら』『犬にも』『出来よう』。であれば『我が言霊』を、『我が絶対無敵の肉体』を、『如何にして』『破ると言う』のか、『贄』よ……!」
「なんなら、すぐに教えてやろうか、大魔王。」
「……『何』?」
 先の様子とは打って変わって、テラが自身気に笑みを浮かべる。いつの間にか、アンネリーゼによる光の矢の応酬も止まっていた。
「……テラさん。」
「わかってるって。“最初の一撃”は譲ってやるよ。」
「……『何を』『企んでいる』かは『知らぬが』『何度攻めようと』『同じ事』。『貴様らの攻撃は我が肉体には届かぬ』……!」
 莫大なオーラが巨躯を覆う。これまで幾多の攻撃を阻んできた裁定者の絶対防御。その威容を前にして、リューインが蒼き輝きをその手に宿した。『流水剣』──リューイン・ランサードの有する、伸縮自在のフォースセイバーである。
「えぇ、ですから──」
 瞬間、清冽なる蒼き刀身が、輝きを増して巨大化する。それはあらゆる不浄を押し流す、瀑布が如き霊力の奔流であった。
「この一撃は“魂”を切り裂く一撃です。貴方の護りは肉体しか護れない。故にこのユーベルコードは貴方に届く……!」
 魔王の眼光が、始めて揺らいだ。
「──それが貴方の『真実』です、モルトゥス・ドミヌス。」
 静かな言葉と共に、巨大な刃が下段から振り抜かれる。ソウルスラッシュ──その名の通り魂を切り裂く、リューインの奥の手。

「ぬ、ぅ…………!?」

 魔王の巨躯が停止する。それは裁定者のオーラを、魔王の肉体を透過し、不可視且つ存在位相の不安定な“魂”を、確かに斬り裂いたようであった。肉体を覆っていた裁定者のオーラが、酷く不安定にビリビリと揺らぎを見せる。
「……『おのれ』……『貴様』……!『何をした』……!」
 心の臓に当たる部分を巨大な右腕で抑え、魔王は呻くように咆哮する。
「……さすがに一撃では決まりませんでしたか。」
「……いいや、お前の一撃は完っ璧に切り捨てたよ。アイツの、自信って奴をな……!」
 リューインの隣でテラが笑う。炎を宿したその身体は、傷は少なかれど豪気に満ち溢れていた。リューインの知っている、彼女本来の姿であった。
「──そんじゃ、ダメ押しだ大魔王。これは我が悔恨……我が無念……そしておれが知る恐るべき刃だ……とくと味わえ……!」
 炎纏う二刀が、高らかに打ち鳴らされた、その瞬間。

 空間が、爆ぜた。

「ぐ、ぉ……ぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!?」
 それは、執念の一撃であった。これまでテラが魔王へと放ち続けていた、二刀による高速連続斬撃。少しずつ彼女が位置を変え場所を変え、空間に刻みつけてきた無数の剣閃が、その後をなぞるように裁定者のオーラを超え、魔王の巨躯を座標ごと縦横無尽に斬り刻んでゆく。
「な……『馬鹿、な』……!」
 不安定に揺らぎ続けて居た裁定者のオーラが、小刻みに震えて隙を見せる。その酷く不安定な亀裂に向けて奔る、一条の光。ぽつり、静かに言葉が落ちる。
「……チェックメイトですよ、大魔王。」
「き、『貴様』ァァァァァアアアアアアア!!」
 アンネリーゼであった。魔王が竜出による防御を忘れ、急所を曝け出すその瞬間を、ただただ彼女は沈黙と共に待ち続けていたのだ。
 過去を進める光の矢が、魔王の心臓たる宝玉を直撃した──その瞬間。

 罅割れズレた筈の空間が、さらに砕け散る音がした。

●第一幕 -9-

 形の良い額を、滝のように汗が流れてゆく。
 眼を閉じて研ぎ澄ませた全身の神経が、刻一刻と変わって逝く前線の有様を克明に伝えてくる。
 敢えて武装せず、身軽になって敵を撹乱し続けるカイムと、裁定者のオーラを透過して内部からダメージを与えるシャル。その連携の凄まじさに内心舌を巻きながら、シン・コーエンは己が内に秘めたサイキックパワーを極限まで練り上げていた。
(あと少し……どうか耐えてくれ、二人とも……!)
 眉間の少し上あたり、俗に“第三の眼”と呼ばれるあたりに全神経を集中し、不可視の力場を展開、サイキックパワーの収集と増幅を繰り返す。今やシンの周囲には蒸気と粉塵が渦を巻き、無数の瓦礫がカタカタと音を立てて震えていた。
(モルトゥス・ドミヌスのオーラが、大きく乱れ始めている……あとはこの作戦が成功すれば……!)
 ぼぅ、と熱く茹るような脳髄の回転速度を無理やり上げて、力場の収集率を上昇させる。充填完了まで残り98%、99%──。

「──いける。」

 眼を、開く。遥か前線、地形ごと蹂躙する大魔王の巨影と、その合間を飛び回る二人の姿が、今のシンには克明に見えた。トン、と爪先が大地を叩く──と。
 急激に加速した肉体と反応速度に、誰でもないシン自身が目を見張った。極限までコンセントレートしたサイキックエナジーは、凄まじい推進力となって青年の身体を前線まで一直線に送り届ける。襲い来る無数の脊柱を軒並み衝撃波だけで撥ね退けて、シン・コーエンは最前線へと到達を果たした。
「……すまない、待たせた。」
「おぅ、気にすんな。主役は遅れてくるモンらしいぜ?」
「会場、温めておきましたよ。」
 カイムもシャルも、振り返りはしなかった。ただ魔王の巨躯を前にしたその背中が、何より雄弁に準備完了だと語っている。
「──あぁ、感謝する。二人とも……!」
「……ほぅ、『贄が一人』『何処ぞへ』『雲隠れしたと思っていたが』……『自分から潰されに来た』か、『愚かな』『ヒトの仔よ』。」
「その様でよくもまぁ、そんな口を叩けるものだな、大魔王。自慢のオーラが今にも消し飛びそうだぞ?」
「……クク、『虫ケラ』が『一匹増えた』ところで『我』の『勝利は揺るがない』。『目障り』な『羽虫共々』『消え失せるが──!?」
 轟く魔王の咆哮を前にして、シンは静かに右腕を翳す。それは第五の魔王をして、言葉を止める程の威圧感が籠っていた。
「……あぁ、確かにお前と比べて、ヒトという存在は不完全で弱くてバラバラだ。しかし一人一人違うからこそ、出会い、ぶつかり、和す事で、自分達の願いをも上回る結果を引き寄せることが出来る。それは他でもない、お前自身が知っている事だろう、モルトゥス・ドミヌス」
「────。」
 掲げた右腕に、莫大なサイキックエネルギーが集ってゆく。渦を巻く膨大な量の蒸気を前に、魔王は小さく、しかし確実に──その身を仰け反らせた。
「今一度、その結果/奇跡を見せてやろう。魔王であれと願われたモノよ……!」
 ギチリ、と。空間の軋む音がした。シャルの音波によって不安定になっていた裁定者のオーラを、無理やり引き裂き抉じ開けるようにして、不可視の力場が魔王の肉体へと集ってゆく。
「なっ──『辞め、よ』『貴様』『まさ、か』……!!」
 中核で脈動していた真紅の宝玉が、酷く歪な音を立てて軋む。
「……どの形態の魔王も、全てがこの『願いを叶える宝玉』を核として顕現していた。俺の念動力では、貴様の身体から引き剥がすのが精一杯だが──」
「……『辞めろ』『止せ』……っ!!」

 ギチギチ、ミチミチ──バキリ、と。耳を覆いたくなるような音と共に、宝玉がモルトゥス・ドミヌスの肉体から剥離する……!

「すまないが貰っていくぞ。これはもう、お前の肉体ではないから無敵では無い……!」
「お──『おのれぇぇぇええええええええええええええ』!!」
 関を切ったように崩壊を始めた巨躯を無理やりに稼働させて、魔王はボロボロと崩れ逝く両腕を宝玉へと伸ばす──が。
「──そうは問屋が卸しません。シャルの遊び場、返してくださいな……!」
 ボルトの解放音。一瞬の間すら置くことなく、伸ばされた右腕へとシャルの武装による遠距離大火力攻撃が次々と叩き込まれる。為す術もなく崩れて逝く右手。しかし左腕は止まらない。
「……往生際が悪いぜ、大魔王。」
「……『黙、れ』……!『寄越、セ』『そノ、チカ、ラ』ヲ……!!」
 カイムが静かに目を閉じたのは一瞬。次に見開いたその瞳には、強い覚悟の炎が浮かんでいた。
「……悪ぃな。強大な『だけ』のお前じゃ、俺の力は使いこなせないぜ?」
「────」
 巨椀が迫る。強烈な呪詛と魔力を帯びたその左手を前に、内臓器官が悲鳴を上げていた。口の端から鮮血が零れ出す。それでも──引くことは、ない。
「……俺の力はな、人である事を信念とし、猟兵である事を誇りに想い、そしてその力を背負う覚悟そのものだ。俺たちは喰らうために戦うんじゃない。理解できないか?」
 カイムの右腕が燃え上がる。この世ならざる黒銀の焔を宿し顕現した神殺しの魔剣は、黄昏を呼ぶように圧政者へと奔った。

「──次会うまでに理由を考えときな。俺からの宿題だ。」
「オ──オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
 
 黒銀が閃く。魔王が咆える。魔剣の一太刀は巨大なるその腕を斬り飛ばし、転じた二閃目は宙に浮いていた願いの結晶を貫き穿ち──完膚なきまでに破砕して見せた。

「──次、か。嗚呼、それは──」
 楽しみだ、と。現実を捻じ曲げぬ言葉でそう呟いて、魔王は消滅する。

 瞬間──罅割れズレた筈の空間が、さらに砕け散る音がした。


●第一幕 -10-

「……ほぅ、『永久に』『隠れ続けておけば良いものを』……『破れかぶれの特攻』か、それとも『決死の命乞い』か……『どちらを選んだ』?『贄共』よ」
 嘲る様に、魔王モルトゥス・ドミヌスは真紅の眼窩を明滅させる。両腕をダラリと下げたその姿は、目の前の四人を脅威とすら認識していない証左か。
「……生憎とそのどちらでもありません、第五の魔王よ。わたしは──否、我々は、貴方の示す『真実』を否定します! そのために、此処へ戻ってきたのですから……!」
 黒翼の盾『モナーク』と蒼空色の巨大斧『サンダラー』を携え、勇者ソラスティベル・グラスランは眼前の魔王に啖呵を切る。巨大な右手を顎元に添え、第五の魔王は品定めをするかのように首を傾いだ。
「……『我が敷く法』に『刃向かう』とは『片腹痛い』。『途上で』『背中を見せる』『臆病者』を『叩き潰すのに』、『本気』の『五分』も『必要はない』わ……!」
「──その言葉、必ずや覆して見せましょう。アルダワに息づく人々の為、打ち砕かれる訳には参りません。第五形態……『裁定者』、騎士として討たせて頂きます……!」
 次いで前に出た白亜の騎士を前に、魔王は悠然と肩を揺らす。嗤っている様であった。
「……クク、『勇者』ときて次は『騎士』か……して、あの『小生意気な古鏡』と『忌々しい犬畜生』は『どこへ行った』……?」
「悪かったなァ、骨董品でよォ……!」
 遥か後方、『玄夜叉』を担いだクロウが、敵意も顕わに魔王の巨躯を睨みつける。魔王の眼窩が、愉悦に弧を描いた。

「……では『続き』を『始めよう』──『無限の』『魔性が』『涌き出づる』──」
 
 その言霊が、戦闘再開の狼煙となった。
「はあああああああああああああああ!!」
 脆弱な生身を貫き押し潰さんと迫る無数の脊柱を、盾で逸らし、戦斧で打ち上げ、ソラスティベルは雄叫びと共に戦場を駆け抜ける。相対するは魔王、即ち勇者たる者の宿敵。心中で燃え盛る熱に背中を押されるがまま、北の勇者は翼を広げた。
「覚悟しなさい、第五の魔王!」
「クク……『小娘一人』に『一体何を』『覚悟すればよいのか』……。」
 大振りの右腕が、薙ぎ払う様にして無造作に奔る。付随して巻き起こる強烈な風。飛行するものにとって致命的なまでの乱気流を伴い、巨椀の一撃が少女に迫る──と。
「──酷いテレフォンパンチですね。ゴーレムの方がまだマシな拳を打ってきますよ……っ!」
 一体どれだけの空中戦を熟せばあの気流を読み切れるのか。振り切られた右腕の内側へと螺旋状に回り込んだソラスティベルが、魔王の眼前に迫る。狙うは頸、あらゆる生物が急所とする、“絶体絶命”の死の繋ぎ目。しかし──
「……『愚かなり』『現生の勇者』。『貴様らの攻撃は我が肉体には届かぬ』……!」
 戦場一体に鳴り響く程の衝撃音。本来なら魔王の頸を切断して然るべきだった戦斧の一撃は、しかし立ち昇る裁定者のオーラによって阻まれ停止する。インパクトの反動による刹那の痺れ。その隙を見逃さず、魔王の左腕が空を奔った。
「────っ!!」
 直撃。
 最早防御も回避も間に合わず、少女の身体は慣性のまま、反対側の壁へと減り込み叩きつけられる。
「ソラスティベル様──ぐっ!?」
 地上で無数の脊柱の相手をしていたトリテレイアもまた、味方のピンチに気が逸れた瞬間を突かれ、怒涛の如き脊柱の連続攻撃を全方面から浴びていた。スペースシップワールドの過酷な宇宙環境にすら耐えられる白亜の鎧装が、徐々に削り砕かれ、破損してゆく。
「……畜生め、なんつー数だ……!」
 一方戦場後方。モルトゥス・ドミヌスの言霊によって湧き出した無数の“質量を持った影”が戦場を埋め尽くしてゆく中で、クロウは終わることのない戦いを強いられていた。
「クソッ、鬱陶しいったらねェな……燃え尽きやがれ羽虫ども!!」
 業火を宿した剣先を大地に突き立てると同時、亀裂の入った大地から無数の火柱が上がる。溶岩じみた大地はグラグラと煮え滾り、影たちは為す術もなく呑み込まれ焼き尽くされてゆく──が。
「オィオィ、マジでいい加減にしやがれってンだ……!」
 ジワリ、と。空間に溶けだすように“質量を持った影”たちが、また新たに姿を現す。先の倍近い数の影を前に、さしものクロウも額に汗を浮かべざるを得ないようであった。

「……クク、『さして面白みもない』。『我が敷く真実を前に』、『汝ら』の『力』なぞ『赤子』にも『劣る』……『諦めよ』『愚かなる贄』……」

 再び突貫してきた竜族の娘を指先で弾き飛ばし、魔王は愉悦を眼窩に燈して嗤う。
 足元の騎士は最早鉄屑一歩手前だ。このまま脊柱で削り続ければ、動かなくなるのも時間の問題だろう。
 後方で影共の相手をしている古鏡も風前の灯火だ。いまに呑み込まれて、欠片もなく消え果てるのがオチだろう。
 あの忌々しい犬畜生は姿が見えないが、先の一声で体力を使い果たしたか。どのみち見つけ次第、指一本で殺せる。
 再び突貫してきた竜族の娘を指先で弾き飛ばし、眼窩の真紅を歪めて嗤う。
 所詮はこの程度か。数の利を活かせなければ、脆弱なヒトなどこの有様だ。
 再び突貫してきた竜族の娘を指先で弾き飛ばし、魔王は暫しの思索に耽る。
 やはり、どう考えても世界を喰らうに相応しいのは己だ。何を弱気になっていたのか。
 再び突貫してきた竜族の娘を指先で弾き飛ばす。
 再び──

「……『貴様』。『何故』『未だ立っていられる』……?」
 
 我に返ったように、魔王は眼下の少女を見下ろして呟いた。少女は見るからにボロボロで、およそ動くことすらままならないように見える。だというのに。だと、いうのに──少女は蒼い戦斧を振り翳し、諦めることなくこの身に通らぬ斬撃を振るい続けていた。
「……っ、『小癪』!『諦めて』『死の泥濘に身を委ねよ』……!」
 指先で、弾き飛ばす。しかしボールのように転がった彼女はムクリと起き上がると、依然として此方に向かって歩を進めてくる。
「……『貴様』……!」
「……どうしました、大魔王よ。」
 血塗れの唇が言葉を紡ぐ。現実を塗り替える力など持ち合わせていない筈のその言葉に、魔王モルトゥス・ドミヌスは、得体の知れない恐怖を感じていた。
「──わたしはまだ『立っています』よ!!」
 弾き飛ばされても一歩。殴り飛ばされようとまた一歩。竜族の少女──否、勇者は、着実に距離を詰めてくる。
「な……『何だ』『貴様は』……っ!『貴様は』、『一体』──!!」
「──怖いですか、大魔王。」
「……っ、『何を』──」
 とうの昔に鉄屑になり果てている筈の人形が、足元で静かに問う。轟、と眼窩の炎が燃え盛った。
 怖い? この大魔王第五形態モルトゥス・ドミヌスが──?
「……『有り得ぬ』。」
 ギシリと、無数の脊柱が鎌首をもたげる。
「……『有り得ぬ』『有り得ぬ』『有り得ぬ』『有り得ぬ』『有り得ぬ』『有り得ぬ』『有り得ぬ』『有り得ぬ』『有り得ぬ』……!! この『我』が『汝ら』『贄』に、『また』『恐怖を感じる』ことなど……!!」
 殺意に満ちた脊柱群が、人形めがけて殺到する。
「……『有り得ぬわ』──!?」
 ぐるりと、視界が回転する。“有り得ない現象が起きていた”。
「──では、自覚を持つべきです。貴方はすでに、彼女に、我々に、心の部分で負けている。でなければ“地に倒れ伏したその姿”、攻撃が肉体に届かぬと宣うのは裁定者として如何な物でしょうか?」
「────っ!!」
 無数の鉄屑を、踏みしめる音が聞こえる。嗚呼、来る。来る。来てしまう。あの『理解できない存在(ニンゲン)』が、目の前にやって来る……!
「──面を上げなさい、裁定者。それが出来ぬのなら、その力を返上する時です。」
「な──『何を言う』『愚かな贄』……! 『我』こそが『裁定者』! 『我』こそが『大魔王第五形態』! 『我』こそが──!」
「そう、ですか。では──」
「────っ」
 眼前に立つボロボロの少女に、二の句を告げなくなった。嗚呼、そうだ。これだ。この“眼”だ。何度叩き潰そうと、幾度払いのけようと、絶望に染まることなく先を見続けるこの“眼”こそが──!

「──わたし一人倒せない、貴方の『裁定』はその程度なのですかッ!! 大魔王第五形態、モルトゥス・ドミヌス!!」
「オ──オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 ビシリ、と亀裂の入る音がした。勇者の一喝を受け、地に伏せた大魔王が咆哮を上げる。己が力に疑念を持った今、その身を守っていた加護は罅割れた玻璃の如く脆い。
「──テメェは舐めすぎたんだよ、ヒトって生きもンの、想いの強さと根性を。」
 真紅の眼窩が驚きに染まる。そこに立っていたのは、ボロボロになりながらも不敵な笑みを浮かべた、あの小生意気な古鏡であった。
「履き違えンじゃねェぞ。願いも呪いも根は同じだが、元になったモンで強さなんざ幾らでも変わる。俺もまた人でないモノから生まれた身だがよ──教えてやる。テメェと俺の違いは、人との絆。想いの強さ。力なんて小っせェ物差しじゃ、決して測れないホンモノの強さだ……!」

 オーラが解けてゆく。薄れてゆく。砕けてゆく。で、あればなんだ。己は魔王だ。そうあれと定められたものだ。認めてなるものか。理解してなるものか。己は、我は、我は──!!

「……『巨大蒸気反応炉が』……」
 最後の『真実』を吐く。眼前の『ヒト』たちが、サッと顔色を変えた。
「ソラスティベル、トリテレイアァ!!」
「はい!」
「任務を続行します!」
 脈打つ宝玉めがけて、勇者と騎士が突貫する。
「……『暴走し』……」
 ──だが無意味だ。
 汝らは此処で終わる。他の魔王すらも巻き込んで、アルダワごと全てを終わらせよう。
 嗚呼、そうだ。これで、やっと──
「……『爆発──」
 
「────ッ!!」

 再び打ち鳴らされた魔滅の一声に、集っていた『真実』が霧散する。
 燃え盛る眼窩を向けた先、口の端から血を垂らす小型犬が、凄まじい勢いで宝玉めがけて突貫するのが見えた。

「……ハ、ハ……」

「いい加減、砕け散りなさい──!!」
「これで、最後です……!!」
 勇者と騎士の渾身の一撃が、ついにして裁定者のオーラを砕いて見せた。こげ茶色の毛玉が、急速に回転する。
「やっちまえ、熊五郎ッ!!」
「手加減は無用です!!」
「いっけえええええええええええ」

「────ッ!!」
「────っ!!」

 二つの咆哮が激突する。一瞬のような永遠。無限の様な刹那を経て──願いを汲み取り続けたその石は、跡形もなく、砕けて散った。

 瞬間──罅割れズレた筈の空間が、さらに砕け散る音がした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


     
●エピローグ

 ──ビシリ、と。致命的な終わりの音を、己の中に聴いた。

 この手で歪めた世界が、塗り潰したはずの現実が、砕けて散って是正される。本来の形を取り戻す。
 気付けば己は斃れ伏していて。分断したはずの生命体の埒外たちは、居並ぶように眼前に立っていた。
 今回も届かなかった。
 倒し、倒され、幾度となく過去から舞い戻り、姿を変え、時を変え、場所を変え、次元すら超えて尚──届かない。

 何故だ、とはもう、思わなかった。

 結局のところ、この能力はまやかしで。過程を無視して手にした結果は、酷く脆くて虚しい。
 漸く理解ったのだ。『かくあれ』と願われ生きる者と、『そうあろうと』願い生きる者の差を。
 眼窩に薄っすらと、紅い燐光が灯る。

 ──友と己を信じて刃を振るい続けた少女がいた。
 ──畏れを捨て真直ぐに啖呵を切った少年がいた。
 ──千歳一隅の好機を信じて矢を放った女がいた。
 ──持てる力全てを仲間の為に注いだ青年がいた。
 ──片割れを支えながら戦場を駆ける少女がいた。
 ──死闘の果てに次の“宿題”をくれた男がいた。
 ──諦めることなく立ち上がり続けた勇者がいた。
 ──己が役目をただ実直に勤め上げた騎士がいた。
 ──信念と矜持を胸に戦い続ける古き宿神がいた。
 ──小さな身体で戦場に吠えた知恵ある獣がいた。
 
 誰一人として、そう願われて戦場に立っていたわけではない。それぞれが違う道を歩み、各々の信念の下に死力を尽くして戦っていた。数の利を奪われ、個体としては比べ物にならない程の力の差を突き付けられながらも、こうして彼らは生きて目の前に立っている。これが、偽ること無き真実だ。
 ……『死に物狂いの大魔王』が聴いて笑わせる。土台、まるで思いも覚悟も足りていなかったのだ。布陣も十全に整えず、能力に胡坐をかき、ヒトの願いの本質を見誤っていた我ら“魔王如き”に、彼らを滅ぼせる理屈など最初からありはしない。

 ──結果を目指して走り続けるその在り様こそ、真に汝らがヒトたる所以であったか。

 嗚呼。漸く、漸く願いが叶った。あの敗北以来、どれだけ胸の宝玉に願っても叶う事のなかった、『ヒトを知りたい』というこの願いが。
 裁定はここに決した。最早心臓たる宝玉は砕け、過去たるこの身は骸の海へと還る。で、あれば──『大魔王』として、『裁定者』として、最後の務めを果たそう。それが『かくあれ』と願われた己の、それしか残っていない自分の、『信念』にして『矜持』だ。

「……『征け』。『始原』にして『最終の我』にも『突き付けるがいい』、『汝らの願い』を。『未来を願う、その本質』を。」

 罅割れた声で、告げる。これが最後の裁定だ。世界を歪めぬ、真の言葉で言い渡そう。

「──汝らの勝ちだ、猟兵(イェーガー)。」

最終結果:成功

完成日:2020年02月18日


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト