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アルダワ魔王戦争9-E〜そこにあるものは〜

#アルダワ魔法学園 #戦争 #アルダワ魔王戦争


●グリモアベース
「アルダワ魔王戦争が始まっとるのは、皆知っての通りよ。お陰でダンジョンアタックは順調じゃなが、一応概要の資料は作っといた。まあ、休憩用に幾らか菓子や茶も用意しとるけー、のんびり見といて」
 海神・鎮(ヤドリガミ・f01026)はそう言うと、人数分の茶を煎れ、菓子のある場所を指し示した。
 資料には戦争開始の概要が無機質に書かれている。
 猟兵は、地下迷宮アルダワの最深部、「ファーストダンジョン」へと到達した。かつて大魔王を封印したはじまりの領域、アルダワ魔法学園も、すべての迷宮も、この大魔王の封印を強固にするために造られた。
 ファーストダンジョンは、大魔王の放つ「ダークゾーン」に覆われているが、ダンジョンの踏破を重ねる事で、この闇は晴れる。
 大魔王を倒さない限り、災魔は無尽蔵に増殖する為、猟兵はこれを踏破し、大魔王を討伐しなければならない、と。
「大魔王の目的はアルダワを喰らう事じゃけー、皆に頑張って貰わんといけん理由はこれじゃな。儂が案内するエリアは此処よ」
 共有されたマッピングデータの座標には9-Eの文字。ダークゾーンが晴れた事で顕になったエリアには、巨大な鏡が描かれている。
「よう有る話よ。自分が映りゃあ、出て来るのは何者でもねえ、自分よな。趣味が悪ぃ」。ただ、未来の自分を映し出せれる訳じゃねーけー、ほんの少し、過去の自分の前を歩くだけで、乗り越えれるじゃろうなあ。相対して、糧にするのも良えじゃろ」
 自身を映し、生み出す呪いの鏡、アルダワ魔法学園の遺失技術によるアーティファクト。考え方を変えれば、良い修行だと、鎮は告げた。
「……うん、結構危険じゃけー、不安にならんで欲しいだけなんよ。無えとは思うけど、何かあったらすぐに待避させるけー、安心してな」
 そう言って、安心させる様に穏やかに微笑み、宜しく頼むと頭を下げると、鎮は猟兵を送る準備をし始めた。

●深淵を覗く鏡
 大きな鏡。鏡は何も語らない。鏡は何も喋らない。私はそうある様に、果たすだけ。
 だから、あなたを見つめます。
 だから、あなたを映します。
 そうして、あなたを作るのです。
 喋れる貴方が羨ましい。考える自由が妬ましい。心を持つことを許された事が、恨めしい。欲しい、欲しいと願っても、届かない。
 誰かと繋がれる自由を羨んで、私に心が無い事を知り、ただ、ひとの心を覗いて、映すだけ。だから、あなたが欲しいのです。だから、あなたを造るのです。
 取って、代わって、瓜二つ。
 そうして世界を覗くのです。
 そうして、私はひととなるのです。

 猟兵を映し込んだ鏡の思念、人になりたいと言う純粋な願い、他人になりたいという変身願望、それらが呪いとして、現し身の蒸気人形が、じわりと世界に染み出した。



●挨拶
 紫と申します。
 戦争シナリオ【9-Eの深淵を覗く鏡】となります。

●シナリオについて
・ギミックと目的
 鏡から【自分と全く同じ能力を持つ蒸気人形】が現れ、攻撃して来ます。【自身に打ち勝つ方法】を考え、撃破してください。

●その他
・記載が無い場合、個別リプレイとなります。
(同行を希望される場合は、お手数ですが、グループやお相手の記載をお願い致します)

・PSWから、自身のキャラクターが取りそうな行動を選んで見て下さい。
 最下部にも記載されていますが、念の為、此方にも記載しておきます。

 POW:人形などには負けない気合と熱意を高める事で、蒸気人形に打ち勝つ

 SPD:技量や速度を極限まで高める事で、蒸気人形が模倣しきれない攻撃を放ち、蒸気人形に打ち勝つ

 WIZ:客観的に自分自身を見る事で、自分自身の弱点を把握。その弱点を利用して、蒸気人形に打ち勝つ

●最後に
 なるべく一所懸命にシナリオ運営したいと思っております。
 宜しくお願い致します。
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第1章 冒険 『鏡写しの蒸気人形』

POW   :    人形などには負けない気合と熱意を高める事で、蒸気人形に打ち勝つ

SPD   :    技量や速度を極限まで高める事で、蒸気人形が模倣しきれない攻撃を放ち、蒸気人形に打ち勝つ

WIZ   :    客観的に自分自身を見る事で、自分自身の弱点を把握。その弱点を利用して、蒸気人形に打ち勝つ

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ハルピュイア・フォスター
絡みやアドリブ可
武器の零刀(未完)をナイフに変貌

わたしの暗殺…いつも通り絶望を与えるだけ…
【暗殺108】の基本は気付かれない事【迷彩10】【目立たない10】【忍び足10】【闇に紛れる10】…そして対象を見失わない事…

基本、月虹の瞬きを【念動力10】で【投擲10】して場所が把握されない様に遠距離攻撃でダメージを与え出て来るまで集中して我慢…我慢
先に対象がユーベルコードを使用したらわたしも【Last memory】で応戦
知ってる?このユーベルコード…凄く疲れるし…見失っても死角からしか来ない…よ
防御は【武器受け10】と【残像10】で回避

この鏡…持って帰ったら怒られる?


アンネリーゼ・ディンドルフ

SPD
「私を完全に模倣する蒸気人形を生み出す呪いの鏡ですか」
古代蒸気文明の遺失技術……実に興味深い

「でも、私にはこの手の案件に対して丁度いい秘策があるんです」
アンネリーゼはユーベルコード「タイムズ・アロー」で蒸気人形の狙撃を試みる

「この呪いの鏡は、持ち帰ることは出来るのでしょうか?」
呪いの鏡についていろいろ調べてみたい
「もしダメならば、ついでに破壊してしまいましょう」


大豪傑・麗刃
わたしの戦い方はつまり、ギャグで敵を精神的にゆさぶり、喜怒哀楽恐の感情で敵の平常心が崩れた所を攻撃する。
それは今回も変わらない。たとえ相手がわたしの模倣であったとしても。心ない相手であっても気合の入ったギャグ(それ以前にユベコなら)なら通じるはず通じて欲しい!

ってことはPOWなのかねえ。SPDと言えるかもしれないけど。判断任せた!!

ともあれ刀二刀流を構える。
そしておもむろに

やあ、わたし(言いつつ何かを差し出す)

やあ。

たわし!!

さあ見せてくれ!
心がないきみであっても、きみはわたしだ!できるだろう!
きみの最高のギャグを!

さあ!!

そしてギャグ勝負(実際はギャグで精神をゆさぶり一撃入れる隙を伺う勝負)


黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
SPD
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

鏡から出てくる自分の分身か。割とよくあるトラップだな。実際アルダワの別の場所で、まぁゆがめられた姿だったがあったし。
…前の戦争ん時も鏡じゃなったが分身出たっけな。

映しとるのか。でもそれだけじゃどう頑張っても成り代われない。
成り代われるというなら、俺だって俺でなく主にとっくになれるただろう。でもそうはいかない。できなかった。主自身の記憶の一部を持ってても。
それは俺が俺である証。
毎日行ったり来たりしながら悩んで迷って都度答えを出して。
立ち止まって動けなくなりそうになっても、願いの為に進むと決めたから。
だから映っただけの存在に負けるわけがない。


勘解由小路・津雲

鏡、ですか。なるほど、これは、私は特に恨まれそうですねぇ。こほん。(口調を変えて)ま、同族の始末をつけに、ちょいと出かけるとするかね。

【作戦】(WIZを想定)
ちょうどよいタイミングだった。最近、自分の火力不足を補うために、別世界の戦車をひろってきたところでな。まだ武装していないので、学園の方で蒸気で動く武器をいくつか借りてくるとしよう。接合が上手く行くか微妙な気もするが、なに、もともと式神を憑依させて無理やり動かしているのだ、なんとかなるだろう。

自分のコピーが出てくれば、主砲発射だ、行け、後鬼! 「ギギギ……」
これで負けるようなら、強化した甲斐がないぜ。


ルパート・ブラックスミス
【POW】
己が映るのだから、現れるのも寸分違わず己、か。

戯言だ。

UC【青炎より再誕せし神殺しの魔剣】展開。
自分と同じく魔剣を構える蒸気人形に問う。

鏡像よ、我らが握るこれは何だ?

この剣は何もかも喪った『俺』に届いた唯一の過去。
オブリビオンとして顕れ尚、狂いて尚、黒騎士であることを離さなかったもう一人の自分から託された『誇り』を、塗れた罪過諸共背負う【覚悟】が、この剣をかつて在りし無敵の神殺しの魔剣足らしめるのだ。

我が姿映せば、其は我也だと?
戯言だ!
貴様に何が解る、何が感じ取れる!姿一つだけで盗れる程、ひとの過去とは軽くはない!

一刀両断、斬り伏せる!
【アドリブ歓迎】


落浜・語

前回は過去の自分で、今回は写し身かよ。
まぁ、なんにしろ負けるつもりはないけどな。

とは言え、過去じゃなくて今の俺自身なんだよな。
舞うのはブローディアの花弁。燃やしきれなくても構わない。花弁を目隠しに接近して、奏剣で攻撃を。
素のままじゃ、そこまでお互いダメージにはならないだろう。
あえて右手の奏剣をかち上げられて手放し、写し身の攻撃を左腕の深相円環で受ける。そのまま、形は違うが【手を繋ぐ】要領で手首をつかむ。
何の為に円環二つあると思う?
円環を引き抜いて握ったまま切りつける。
円環が持ち主傷つけないからできる芸当だけどな。
悪いけど、お前と違って俺には色々と負けられない理由があるんだ。


忍冬・氷鷺
【◎】
己と向き合うとはよくいったものだが
実際に目にすると、中々不思議なものだな

―鏡より生まれし影なる者よ
お前が真に、願い望み欲するというのなら
その力を以て自ら奪い手にし見せるがいい
此方も全力で応えよう
揺るがぬ、覚悟を以て

携えた大苦無を早業にて投擲
避けられても気には留めず
続け様に氷刃裂破を見舞う

人形からの一手はあえて避けず
黒爪での武器受けや激痛耐性を利用し、臆する事なく絶えず対峙し続けよう

お前の目に俺が映ろうと
俺の目に映るのは俺ではない
姿形は似せ繕えたとて
この裡に宿る"心"だけは、真似る事など出来はしないのだから

それでも尚、願い求むのならば
最後まで付き合おう
どちらかの命尽き果てるその時迄


宇冠・由
※個別希望

お母様とはぐれてしまいました……あら、この鏡には「私の真の姿」が映るんですのね
仮面としてではない、本来であっただろう姿形

私は私。仮面としても、ドラゴニアンとしても。どちらも私に変わりはありませんわ
ごきげんよう私、けれどもその姿をお母様にあまり見せたくありませんの。ですから鏡の中にお帰りください

仮面を割って真の姿に
火力も速度も同じなら、違うのは経験の差
沢山の方とお手合わせして、沢山の勝ち負けを味わいました
自分の癖、弱点、逆に強みとなるところ
意外と、私は純粋な火力勝負に弱いんです。特に瞬間火力
全力で一閃攻撃

私はまだまだ強くなります
いえ、強くならないといけませんの
お母様を守りたいですから


宇冠・龍
※個別希望

由とはぐれてしまったわ……あの子、怪我とかしてないといいけれど
負けん気でいつも明るく振舞ってくれている娘
いつも私はあの子に頼りきり

この鏡は……不思議な感じですね

私の弱さは自分なりに思い知っているつもりです
私自身の強さはそこまででもなく、一人では戦闘もままならないことが多いこと
そして過去に囚われ……夫とあの子の死を未だに受け入れられないこと

【轅門二竜】で夫の霊を召喚
鏡の私と夫を連携で倒します
狙いは媒介道具

この旅路の果てがどのような結末になるのかなんて分かりません
けれど私は、あの人と生きていくと、生きていきたいと里を飛び出た
誰かの未来を明るく変えるために、私は過去を見続けるつもりです


シーザー・ゴールドマン
【SPD】◎
本当に面白い迷宮だね。
さて、今回は私自身か。
ふむ、残念ながら私に弱点はないね。まあ、力量で上回れば問題あるまい。
敵は私だが、少し前の私だ。負ける要因はないね。

剣術、体術、魔法、ありとあらゆる戦闘方法で楽しむように自身を模した蒸気人形と戦います。
初めは互角、それから時間が経つにつれ、戦いの中で経験値を積み、学習して最終的には圧倒します。


ロベリア・エカルラート
へぇ…私をモデルにしてるだけあって美人だね?
主役は私一人で十分だよ。偽物には退場してもらおうかな!

●行動
WIZ

●戦闘
剣を抜いて接近戦だ
実力が同じなら切合いは互角かな
その間に挑発を続けるよ
「それだけ強いのに、結局は鏡から離れられないんでしょ?」
「自分と同じ顔に言うのもあれだけど、人生つまらなそうだよねぇ?」

敵からの妬みや怒りはユーベルコードでそれを私の力に変えよう

「ふふっ、そうやってキレイなものがあればすぐに嫉妬して、壊そうとして……」
「駄目な所まで私そっくりで嫌になるね。そうやって悪意を振りまくから『私』がこんなに強くなるのに」

悪意を吸って成長した茨で、一気に飲み込んで上げる
これで終幕だ



薙●天牢雪獄のフッケバイン
 金の足音を固く封じ、靡く黄金色の長髪だけをそのままに、ハルピュイア・フォスター(天獄の凶鳥・f01741)は、色違いの左右の瞳で、鏡から染み出した人形を視る。
 双方、語らずの無表情。気配を消せば、薄暗い広間に残るのは、凪がれた刃の風切り音。
 ひゅるりと、大切な人から貰ったストールが一瞬でナイフに変貌させ、互いが喉元に突きつける。致死性の高い一撃、終わる筈の僅かな暇、不揃いの瞳が色を黙して、全く同同じタイミングでのバックステップ、肺と足目掛けて、羽根型のナイフ3本一対が、同じ軌道を描き、乾いた音を立て、地に落ちる。
 目論見通りと言えば聞こえは良いが、再現度に、ハルピュイアが心中で舌を巻く。
(我慢……我慢……)
 闇に紛れ、遠距離から羽根型ナイフの白銀と金属音が薄暗い暗中を満たしていく。今は、目標を見失わなず、気付かれない様、動くべきだ。
(応用は、もう少し……先)
 落ちたナイフが十を越え、頃合いと力を通す。全方位で跳ね回る二十余りの自在軌道の暗器の本質は、相手を仕留める為の軌道では無く、相手の行動を制限する、一種の物理的な結界という点だろう。頸動脈、足の腱、腕、指、瞳、耳、ありとあらゆる人体急所を死角から、或いは視線から外れた瞬間の正面から、無数の羽根が殺意の暴風として荒れ狂う。その只中で、迷い無く地を踏み、拍子を音無く刻む、不揃いの色合いが、無機質にその時を待つ。一つ、二つ、三つ、相手が自身であれば、この千日手に、そろそろ焦れて来る頃だ。乗り越えるべきは、只その一点、研ぎ澄すます自らへの一手とは、つまり。
(絶望を与える、絶好の機を逃さない……事)
 自身と死線を幾度も潜りながら、凶鳥は此処までは概ね予想通りに事が運んでいると、考える。その時はもうすぐだろうと、頭に過った所で、僅かに、気配が揺らぐ。同時に、自身も、景色に身体を沈み込ませ、完全に気配を絶つ。
 初手の再現、但し、完全に気配を絶ち、世界に溶け込む無音殺傷。音を置き去りにして振るわれた刃が、交差する。本物の首を刎ね、動作を止める。
「知ってる? この技……凄く疲れるし……見失っても死角からしか来ない……よ」
 力を通した残像を本物と見間違えた人形が、背後からの斬閃で首を断ち切られれた。
「だから……これでお終い……持って帰ったら怒られる?」
 そもそも、自身の背丈を遙かに越える巨大な鏡を持ち帰る方法を考えてみる。暫くして、面倒だと思考を放り出した。持って帰れそうなのは、鏡が抱いだ、歪んだ夢くらいだ。

●音光
「私を完全に模倣する、蒸気人形を生み出す呪いの鏡ですか」
 古代蒸気文明の遺失技術は、実に興味深いと、アンネリーゼ・ディンドルフ(オブリビオン料理研究所の団長・f15093)の桃色の瞳が、探究心の赴くまま、巨大な鏡を覗き込む。天蓋石のイヤリングが、小さな音を奏でると、じわりと自身の影が現世に染み出した。
「貴方は私、なのですね」
 答えが返ってくる筈も無く、片手片足の欠損まで再現した人形が、石突きにマイクの付いた金槍を薙ぐ。絡繰仕掛けの義足で飛び退きながら、弓型のハープに魔力を装填、弦を奏でる様に引き絞り、奏でた音の数だけ、光矢が人形を追尾するように放たれる。それが、追尾すると分かった人形は、その場で金槍の石突きに備え付けられた拡声器に、唸るような歌声を叩き付け、相殺しようとした。
「少し甘いのでは有りませんか……? 成程、見えました」
 無詠唱での術式干渉、光の性質を貫通から爆発へ。おまけに、と言った感じで、歌声に込められた魔力をクラック。その場で展開される魔術式のフラッシュ・グレネード。人形の視界を灼光が焼き、聴覚を爆音が刺し殺す。
 飛び退いたアンネリーゼの両足が地に着く僅かな音を逃す。
「この手の案件に対しては、丁度いい秘策があるんです」
 毒林檎を食べた眠り姫。
 呪いに掛かった眠り姫。
 紡ぎ解いて、歯車を回しましょう。
 硝子の棺を置き去って。
 茨の城を去り置いて。
 止まった秒針を回しましょう
「さあ、あなたの時間を進めます」
 弓のハープの演奏と共に、歌い紡がれる詠唱術式、呼応するように展開された魔法陣、高められた魔力が光の矢として、収束する。
[Time's Arrow」
 呪言の収束。引き絞られた光矢が、視界を焼かれて悶える人形を貫いた。現在の為に消費された過去、捨てられた淀み、溜まった膿、凍結し、廃棄された質量、染み出したそれに未来を与えれば、必然、存在定義そのものが崩れ出す。
 自壊の毒に耐える様に、体内刻印を起動させ、人とは思えない表情で、存在を喰らおうと、人形が食らいつこうと飛び跳ねる。
「貴方が模す事が出来るのは、私の能力まで、そういうことですね?」
 直線的な軌道で喉元に歯を立てようとした人形の腹部に、金槍が穴を開けた。血を吐き、活動を止めた人形を、食べようかどうか迷い、流石に自分を食らうのは気分が良くないと、くぅくぅと空腹を訴える胃袋をどうにか、我慢した。
「この呪いの鏡は、持ち帰ることは出来るのでしょうか?」
「何か……方法、有る?」
「ダメならば、ついでに破壊してしまいましょう」
 大きさの時点で思考を放棄したハルピュイアが話しかける。彼女と比べ、幾つか術式さえ施せば運搬、転移も可能だろうと思考し、アンネリーゼは、鏡の調査を開始する。

●シリアス・フルスイング
「わたしの戦い方はつまり、精神的にゆさぶり、喜怒哀楽恐の感情で平常心が崩れた所を攻撃する。それは今回も変わらない。たとえ……」
 大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)は刀二刀流を構え、染み出た自身と対峙する。
「その相手がわたしの模倣であったとしても。心ない相手であっても!」
 彼が挑むのは達人の極地、即ち己との終わりなき千日手、隙を見せた方の負けとなる。これは技術と体力、双方が必要となると言って良いのだが、勝敗を分けるのは一瞬の煌めきに他ならない。
 染み出た自身に向かって、二刀を構えたまま、麗刃は静かに歩み寄り、そして、おもむろに片手を挙げた。
「やあ、わたし」
 すかさず渡されたのは、ダーツセットだ。
「やあ。たわし!!」
(さあ見せてくれ!! 心がないきみであっても、きみはわたしだ。出来るだろう!)
 君の最高のギャグを、と期待する麗刃の眼差しには熱い期待が込められている。鏡によって映し出された麗刃は、急なネタ振りに一瞬戸惑ったが、その眼差しを真摯に受け止めた。受けて立つと。
「やあ、そういえば、隣の家に塀が出来たってねー」
 伺う様な視線、急なネタ振りを躱し、オーソドックスなネタ振りを仕掛けていく。
「HEEEEEY!」
「ウェエエエイ! カムホォォォム!!」
 すかさず麗刃が拳をかざし、突然のハイテンションでの合いの手。更にラグ無く返される落とし。わかり合ったかの様に拳で互いを称え、互いに隙を見せるのは先だと次のネタを油断なく探り合う。ふと麗刃がダーツを取り上げた。
「ダーツを使って家事をてつダーツ」
「ダーツがにだーつ」
 終わりなき一発ギャグの応酬、ネタでネタを殴り合う熾烈な応酬。それでいて、隙を見せれば突っ込みによる退場が確定している。一瞬も油断は出来ない。ネタへの適応度を上げる為に頭の回転数を上げ、更にネタを絞り出す。
「煮立ったらたわしを入れて」
「車を入れて」
「日本地図を忘れていますよ」
「行き先は」
「ホッケを食べれる北海道でエアホッケー」
「島ホッケー」
「しばれるねえ」
「縛れますねえ」
 戦いは八寒地獄の様相を呈していく。この戦場では最早、この2人以外、誰も言葉を発する事が出来ない。正気と笑気の区別が、冷気を発止始めたこの空間では、最早付かない。2人の闘争は2人の中で加速し、互いにその機を伺い、言の葉の刃が、神の降りる時を待つ。
「地獄は至極上等、きみは優等、わたしは有頭!」
「地獄に遅刻それが過酷、きみが黄身に、わたしはそうしたわ……はっ!?」
「急に女になるんかーい!」
 果たして、決め手は偽物の落ち度。応酬の内に暗黙で定められたルールの逸脱。つまり、使い切ったネタの再利用。決め手はわたしとたわしだった。
 隙を見せた偽物に、絶好の突っ込みの機会、構えられていた二刀が、偽物を切り裂いた。

●ナイフ
「鏡から出てくる自分の分身か。割とよくあるトラップだな。実際アルダワの別の場所で、まぁ、歪められた姿だったが、あったし……前の戦争ん時も、鏡じゃなったが、分身出たっけな」
 黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は経緯を思い出して独りごちる。本体である黒鵺と胡曰く、良く有る罠である、自身を映し出す存在に対峙する。
 鏡が、な憎悪混じりに、金切り声の様な悲鳴を上げ、黒鵺を写す。写した大振りの黒刃が世界に染み出し、出来た影から、霊体がずるりと這い出て色付いた。
「映しとる……いや、写し獲るのか。鍛冶師泣かせだ」
 間合いを制し、写しが胡を水平に薙ぐ。動作の正確性も速度も、瑞樹のそれと同等だが、写した胡の刀身を、黒刃が危うげ無く噛み合わせる。力も同等で有るならば、逆説的に押し負ける事もない。胡を封じた状態で、これでは仕切り直すか、無理にナイフを振るうかの二択だろう。
「でもそれだけじゃ、どう頑張っても、成り代われない」
 力が拮抗しているとして、技量が拮抗しているとして、記憶が残り、喪失していた筈の世界の記憶が、茨の王冠の様に頭を苛んだとしても、それでも黒鵺というナイフは、主にはなれないだろう。人に愛された物が化け出て、まず考える事は、主思う、故に我有り。人と他人が異なる者であると、者と物が異なるのだと行き着き、自我を確立するという過程。想念と、観察と、愛情によって、境界が曖昧なまま、それを行えば、自身とは主か、そうなれるのかと問い続けるのは必然だろう。
(それだけで良いなら、俺だって俺で無く、とっくに主になれただろう)
 胡を写しに突き立てようと構えれば、分が悪いと飛び退き、胡を納刀、4本の飛刀を引っ掴み、一強銅で投擲したのを、全く同じ動作で瑞樹が迎撃する。機を伺う様な静寂。「「記憶を持っていても、そうはいかない。出来なかった。そう作られて、夢を見るのは勝手だが、勧められるもんじゃない。止めとけ」
 瑞樹の場合、同一性の剥離は、苦悩から始まっている。どうあっても、持ち主にはなれないと、何度自問自答して、答えを出せば良いのか。毎夜毎晩、繰り返して来た、そのどうしようもない苦悩が、故に我ありと、自我を少しずつ確立させる。
(……他に、私に何が出来ると言うのですか)
「さあな。そう言うのは、同族に聞くと良い」
 静寂を破るように、ゆらりと瑞樹の姿が薄闇に溶ける。たとえ、この両足が立ち止まって動けなくなっても、一つだけ、決めたことが有る。
「写しただけの存在に、くれてやるわけにはいかない」
 願いの為に進む。心のない形にはない気迫と決意を込めた一刀が、僅かに先んじて、写しの銅を斬り裂いた。

●白虎鏡
「鏡、ですか。なるほど、これは、私は特に恨まれそうですねぇ」
 口調を変えようと一つ咳払いをして、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は、瑞樹が側に居る事に気付いた。
 
「なりかけのまま見過ぎたんだろう、あれは。津雲はその辺、どうなんだ?」
「……秘密って事にしておくぜ。ま、同族の始末を付けに、ちょいと出かけて来るとするかね。丁度良いタイミングだった」
 津雲は、9-Eに送られる前に、学園都市に立ち寄り、幾つか技術屋の戸を叩いた。蒸気機関と魔導を基礎としたアルダワとは異なる技術体系に、純粋な機械技術のみで実現された二足歩行戦車を持ち込めば、大半の技術屋の反応は自明の理。一目見た段階で、手に余ると、首を振った。情報が欲しいと食い下がると、何人かの技術屋が、口を揃えて、物好きな隠居老人の事を話した。居住区を割り出し、その老人を訪ねると、二足歩行戦車に興味を持ったらしく、仕事を承諾してくれた。多少の無茶を承知で、蒸気式の砲を幾つか取り付けた。
 戦車を弄る老人が、制御、駆動系が死んでいる事に気づき、疑問を津雲に投げかける。
 制御、駆動は、使い魔の様な物で無理矢理だと伝えると、全体制御系には魔道系と相性の良い物を、かなり無理矢理だが、正常に動作する程度に誂えた。主砲は迷っていた様だが、魔道の心得が有る事から、属性魔法を撃ち出す魔道砲を取り付けた。砲弾も火薬も搭載しない、増幅機構のみで構成された主砲は、津雲の力に大きく依存する様だ。副砲は対照的に質量弾。即席属性付与に対応している様だ。古くなっていた装甲も取り替え、レストアと言うには疑問符が浮かぶ仕上がりだ。老人は良い物を見れたと、満足そうに目を細めた。
「その使い魔に知能が有るかどうかは知らんがねえ。宿す物によっては、結構な自律制御が出来る様、調整しておいた。具体的に言うと、会話が成立する程度まではねえ。最適化には及ばないが、儂で無理なら、別の世界を当たった方が良いだろうさ」
(感謝するぜ、ご老人。あんたはきっと長生きするよ)
 鏡は暫し黙して、津雲を映し出す。表裏によって映し出される物が異なる金属鏡。果たして鏡は、恐らく初めて、疑問に思う。この同族には、有る筈の物が無い。霊体として顕現している肉体に宿る迄は分かったが、それでは写しどころか、粗悪な贋作。取って代わる事など、不可能だ。
「屏風の虎を逃した様な、呆けた顔をしているな。ああ、俺が写せねえのか。そりゃあ、そうだろう。で、どうするんだ、お前さん。鏡としての本分を果たせねえなら、この先、ずうっと、疑問を持ち続けるしか無い訳だ。困ったなあ、何に縋るんだ?」
 戯けた様に語る津雲に、鏡は何も答えない。歯軋りをする様に、千里鏡のみを写し出す。不完全に、黒を纏っただけの祭祀服、紅の眼光が、それに理性が無い只の影だということを、証明する。
「見ていられないぜ。役目に縋ってるから、そうやって何もかもが歪んじまう。俺達みたいなのは特にな。頼むぜ、後鬼」
 己は此処に居ると言うのに、提げた鏡に話し掛ける癖は、治りそうもない。自嘲し、顕現する黒影の後鬼を目で捉え、表のみで己を映したのであれば、どの程度までが再現されるのかを伺う。
 老人が込めた想念を読み取る事が出来なかったのか、津雲の思考を読み取れなかったのか、顕現した後鬼には、砲の類が取り付けられていなかった。津雲は主砲に霊力を込めながら、副砲による威嚇射撃を式神に命じる。フル・オートで吐き出される小型弾頭が、写された影二つを砲火が網目の如く囲い込み、滑らかになった制御系が、重量差を物ともせず、黒い歩行戦車の機動性を上回る。高速機動とは行かないが、この場では十分だった。
「充填完了。事前に出来ればもっと良いか。バックパックは重量過多か? まあ良い。主砲、発射だ」
副砲で身動きの取れなくなった影二つに、増幅機構内で収斂された特大の霊撃砲が、容赦無く襲いかかる。凶悪な水気の奔流、表を映した影の結界を容易く破り、掻き消した。
「結構、痛い目に遭っている筈だな。俺が行く迄に、良く考えときな。お前さん、結局何がしたいんだ? ついでだ。知った気配がするから言っとくが、次来る奴は、お前さんの手には負えねえよ。いや……俺も少し、離れておくか」

●黒騎士の鎧
「己が映るのだから、現れるのも寸分違わず己、か」
 ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は染み出た己を一瞥し、暗い兜の下で燻る蒼炎を、一層強く吹き上がらせた。
「戯言だ」
 切って捨てる様な一言は激情の顕れだ。外殻を纏い、技量を乗せれば己等と言う主張は、議論にすら値しない。
「我が血はもはや栄光なく。されど、罪科の剣は今一度この手に」
 唯一送り届けられた過去を握り込み、想像する。オブリビオンと化しても誇りを失わなかった黒騎士の剣、呪力を失いつつも尚、彼を、或いはもう一人の自分を、騎士として戒める呪いの柄。力有る言葉と共に形作られる刀身が、不吉に光る。ただ、無言でそれを展開した投影に、静かに剣を構えた。
「鏡像よ、我らが握るこれは何だ?」
 鏡像は答えない。だが、気迫に気圧される様に、その場から動くこともない。
「この剣は何もかも喪った『俺』に届いた唯一の過去。オブリビオンとして顕れ尚、狂いて尚、黒騎士で有ることを離さなかった、もう1人の自分から託された『誇り』を、塗れた罪過諸共背負う覚悟が、この剣をかつて在りし無敵の神殺しの魔剣足らしめるのだ」
 互いを刃圏を捉えながら、然し鏡像は仕掛ける機会を先程から何度となく逸していく。罪過など、人が勝手に思う事だろう、物が背負う必要など一切無く、それが何の強さに繋がるというのか。
「踏み込まないのか、鏡像……我が姿映せば其は我也だと……戯言だ」
 ただほんの一撮み、彼の事情を鑑みるだけで良かった。鏡は、それほど、深い心を持ち合わせていない。沸々と湧き上がる炎の如き激情にただ、意味不明の困惑の渦に喘ぐのみだ。
「貴様に何が解る! 何が感じ取れる!」
 何か一つでも解けていれば、とっくに魔剣がこの伽藍に迫っている。軽々しく映し取れる重みであるならば、神殺しになど、至れよう筈もない。騎士とは誇りの囚人で、覚悟の断頭台に立つ者であり、それが神殺しの魔剣の呪い。溶けた鉛の重みに足を取られ、焼かれ沈み行く、地獄の帳。持つことを決めた時点で、ルパートの道は決している。
「姿一つだけで盗れる程、ひとの過去とは軽くはない!」
 その重石は、意思持つ静物にとって、厄介なこと極まりない。ルパートが己を己として認識する一因は、在り方だろう。騎士道という過去から届いた僅かな残り香。縁としてそう、在ろうとした黒騎士。では、もう一人と共に在り続けた魔剣は、何だろうか。呪力が失われて尚、柄は健在だった。
(……俺は重いんだ。あまり使うな、兄弟)
 或いは幻聴の類だろうか。定かではない小さな囁き。
 中段に構え、気迫に呑まれたまま。動かぬ鏡像を、一刀のもとに斬り伏せる。気炎を吐き切ったルパートが、暫く宙を眺め、刀身を失った柄を見やった。
「……俺がそうなったのだ。そうであっても、おかしくはないだろう」

●高座扇子
「前回は過去の自分で、今回は写し身かよ。まぁ、何にしろ負けるつもりはないけどな」
 落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)はループタイに軽く触れ、締め直し、染み出た影と相対する。
「とは言え、これ、今の俺自身なんだよなあ」
 軽妙な口調は噺家だからだろうか、悲壮感など全く無いように見えるが、心の内が掴めない。霊体の巧妙な擬態に、鏡は思わず写し違えたのかと、誤解した。
 ナイフも、鏡も、鎧も、目の前の扇子も、自身と同じ物では無いのだろうか。どうして、こんなにも写しにくい。理解に苦しむ。鏡は鏡、物は物。他の在りようなど、何も無い。何も。どうして、自由に考える事が出来るのに、どれもこれも、こんなに苦いのだろう。これでは、与えられた役目も呪いも、霞んでしまう様な代物では無いか。
「うん……? 何か悩んでんのか? あー、津雲さんに話聞いとけば良かったかなあ? 何でか、向こうでのんびりしてるしな」
 肩の力を抜いたまま、ループタイに込められた力を解放する。
「何人も、呪いも超えられぬ壁となりて我を護り、理に背く骸を、還す力となれ」
 青と緑の花弁が、語の周囲に舞い踊る。鏡像も同様に花弁を纏わせる。触れれば燃える花弁が互いを牽制し合い、互いを対消滅させながら、残る花弁が写し身の目を覆う。予定通り、笛柄の短剣を構え、懐に潜り込む。右手に握られたそれを、敢えて隙だらけに振り下ろせば、相手がそれをかち上げ、続けて奏剣が閃いた。
 振り抜かれた一閃が、袖に隠された小型チャクラムに阻まれる。弾いて距離を取ろうとした、鏡像の手首を語が掴む。
「所でな、何の為に円環が二つ有ると思う?」
 空いた右腕で円環を引き抜き、殴るように首を斬り付ける。治癒と愛情の力が宿った円刃は、けして語本人を傷付けない。加えて、梨の花の呪いは、盗難を退ける。これを模倣することは、鏡には不可能だった。持ち物はどれも、彼の無事を願う物ばかりだ。
「まあ、易々と負けられない理由が有るんだ。色々と」
 残っていたブローディアの花弁が、語を守るように、はらはらと宙空を舞う。

●白鷺
「己と向き合うとは良く言ったものだが、実際に目にすると、中々不思議なものだな」
 鏡から染み出した己を銀瞳で見つめ、忍冬・氷鷺(春喰・f09328)は、雪花の紋が刻まれた大苦無を構えた。
「鏡より生まれし影なる者よ、お前が真に願い、望み、欲すると言うのなら、その力を以て、自ら奪い、手にして見せるがいい」
 揺るがぬ覚悟を以て、全力で応えよう。
 宣言と共に、静寂が終わりを告げる。構えた苦無を偽物に投擲し、結果など解りきっているかのように、視線を揺らさず、印を結ぶ。
「……切り裂け」
 大気中の水分を糧に、無数の氷刃が、逃げ場無く影を包囲する。一瞬の迷いから、相殺するように同様の技を繰り出し、寸分違わず相殺し、肉薄する。己と同じ速度で繰り出された冬凍の黒爪を、同じ物で受け止める。筋繊維が衝撃に軋み、散らされる雪華の氷毒が互いの得物に霜を降らす。何方とも無く弾き合い、宙に浮く身体を狙い澄まして同様の軌道で苦無が弾かれ、地に足が付くのを見越し、互いに氷刃を着地点に展開する。体バランスを保ち、切っ先に危うげ無く、片足で立つ。
「お前の目に、俺が映ろうと、俺の目に映るのは俺ではない。姿形は似せ繕えたとて
この裡に宿る"心"だけは、真似る事など出来はしないのだから」
 様相は千日手、冷たく燃ゆる雪焔の気炎が耐える事はない。それが、自身の生命の始まりだった。凍てついてしまった白に齎された小さな灯火、己を動かす燃料は、それだけで良い。薄氷を蹴り、既に覚悟を決した肉体が躍り出る。
「問おう、影よ。お前を突き動かす裡は、何だ?」
 此処に来るまでに、幾度も猟兵を模した筈だ。何故、心が無いと言いながら、取って代わろうとする。何故、無機質に映すだけで終始しないのか。放られた苦無を黒爪で弾き、そのまま首を刈り取る軌道、視線を上に振らせながら、僅かに展開させた氷刃を足の甲を貫かんと操作する。意図に気付いた分身が、足を入れ替えながら、腹部を突き上げる前蹴り。すかさず側面に回り込み、足を掴む。
「未だ、解らないのだな。一先ずは、その影の命が果てる迄、付き合おう」
 氷毒が掴んだ足を侵食する。やがて、全身を氷毒が凍てつかせると、鏡の分身がぱきんと罅割れて、崩れ去る。

●焔竜
「お母様とはぐれてしまいました……あら、この鏡には、私の真の姿が映るんですのね」
 ダンジョンを親子で攻略していた宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)は途中で分断されたらしく、一人で鏡と対峙する。そこに映ったのは、動物のヒーローマスクを被った自身では無く、本来の、竜人としての姿だった。
「私は私。仮面としても、ドラゴニアンとしても。どちらも私に変わりはありませんわ」
 鏡が映したドラゴニアンとしての自分が、鏡から染み出して来るのに合わせ、優雅にスカートを摘み、一礼する。
「ごきげんよう、私。けれども、その姿をお母様にあまり見せたくありませんの」
 動物マスクに、中央から亀裂が入る。地獄焔で形成された身体が飛散し、拡大する。鏡に映った自身と同等に、ドラゴニアンの身体を形作る。
「どうか、鏡の中にお帰り下さい」
 心無く自身の姿を映すのであれば、差が出るのは何処だろうか。記憶、気迫、想念、経験、幾らか候補は存在する。そう、例えば、猟兵同士の、苛烈と言っても良い、手合わせ等は、鏡が知る由もない。
 繰り出された拳を真っ向から殴り返し、銅目掛けて薙がれる尻尾を踏み潰す。飛散する焔に気を残すこと無く、反動を利用して片足で喉先を蹴り上げ、由は思考する。地獄の焔は終幕を簡単には許さない。弱味は、こうした継続火力では無く。
(沢山の方とお手合わせして、沢山の勝ち負けを味わいました。自分の癖と弱点に、逆に強味となる所)
「私は知っていらっしゃる?」
 尚も殴り合いを続けながら、由は鏡に問いかける。自身の弱味とは、一瞬で猛る焔を掻き消す程の、瞬間火力に他ならない。轟炎を、空いた腕に纏わせ、灼焔と変じ、鏡の作り出した自身に叩き付ける。炎を蒸発させる灼焔が、防ごうとした腕ごと灼き尽くし、ちりちりと周囲に熱を残す。
「……私はまだまだ強くなります。いえ、強くならないといけませんの」
 嘗て、自身を拾ってくれた、あの人を守りたい。割れたマスクを再び被ると、ひとりでに修繕された。

●陽射し
「由とはぐれてしまったわ……あの子、怪我とかしてないといいけれど」
 宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)は、はぐれてしまった娘を心配した。
(負けん気で、いつも明るく振る舞ってくれている娘、いつも私はあの子へ頼り切り)
 憂鬱に、視界に入った巨大な鏡に触れる。
「この鏡は……不思議な感じですね」
(貴方は、何故そうなったのですか)
「あら……ふふ、私達は、止めておきなさい。でも、そうね。知りたいなら、映してみると良いわ。そうすれば、きっと少しだけ、見せてあげれるから」
 媒体道具、即ち鏡を壊す方向で考えていたが、どうやら、それは止めておいた方が良さそうだ。新たな生命の微かな息吹を、彼女が絶てる筈も無い。それに見せるのは、より良き未来だ。龍の言葉に従うように、人形が染み出して来る。
「私はまだ、過去に囚われ、夫とあの子の死を、受け入れられないのです。貴方はきっと、まだ、心が解らないのね」
 風を纏った青白い槍を媒介に、魔力を注ぐ。
「落涙万象脇差す者、森羅常勝根差す者、心事心髄その威を示せ」
 過去の、弱さの体現だった。白銀を纏うドラゴニアンは物を語らず、夢を語らず、彼女の命令に傅くのみ。
「貴方は……どう思うのかしら?」
 柔和な笑みで、死んだ筈の夫の霊を使役する婦人を、何処か壊れていると感じた。或いは、それは恐怖だろう。どうして笑っていられるのかと、問いたくなった。
 人形が全く同じ動作で、白銀のドラゴニアンを召喚する。察知した時点で、龍は後方から自在軌道の魔力矢を生成し、偽物の夫目掛けて撃ち出した、身体を貫くと見せかけ、目前で破裂させ、周囲を死霊の暗黒で覆う。一瞬の動揺。予め決めていた通りに、風槍が銅を薙ぐ。辛くも風槍での防御が間に合ったのか、偽物との押し合いになった所で、支援の手を伸ばそうとした龍に、佇んでいる偽物が、龍玉に力を込め、影の矢を射出した。
「私自身はそれほど、強くは有りません。苦し紛れは止めましょう」
 龍自身も龍玉に力を込め、影矢を吸収するように、自身の周囲を黒紫の帳で覆う。視界が閉じた状態に、媒体としての風槍を持って、龍を貫かんと迫る、が、その行動自体が握手だった。
「あなた、目の前に」
 夫の霊が、一瞬僅かに力を抜き、風槍を影に投擲する。身体を貫かれ、僅かに血を吐き、人形は倒れ伏した。召喚主が居なくなれば、自然と死霊は消滅する。それは、龍の戦闘能力の低さと合わさって、致命的な弱味だ。
「情けないことに、一人では、この様に、戦闘もままならないのです」
(悲しかったのですか。歩みを止めても、良いのでしょう?)
「……この旅路の果てがどのような結末になるのかなんて分かりません。けれど私は、この人と生きていくと、生きていきたいと里を飛び出ました。誰かの未来を明るく変えるために、私は過去を見続けるつもりです」
 その誰かには、貴方も含まれていると、鏡に微笑みかけた。

●都合の良い修練
「本当に面白い迷宮だね。さて、今回は私自身か」
 シーザー・ゴールドマン(赤公爵・f00256)は何の疑いも無く、鏡に自身を映り込ませる。少し映りを気にしているかのように、背広を軽く弄る。
「心の無い私というのは、果たして、何処まで出来るものなのかな。楽しみだ」
 自身を鑑みた時に、弱点など一つも無く、さりとて、負ける要因は何一つ無い。この男に限ってはそう言い切ってしまうだろう。映した時より、少しばかり技を鋭利にするだけの、いわば、懐かしい作業だ。
 染み出した影が、光剣を握り、構えを取る。合わせるように、シーザーも二刀を構えた。音を置き去りにした上段、噛み合わせ、打ち払う下段、円月を描き、空いたもう一刀が互いの肺を抉らんと迫る。身体を反らして最小限で躱し、間合いを開け、背後を取り合う為に、歩みが円を描く。おもむろに、影が手を翳し、赤のオドを瞬時に練り上げ、放出する。シーザーが呼応するように光剣を巨大化させ、肉体ごと斬り裂こうと振り下ろすが、サイドステップで難なく逃れ、高速飛行で距離を詰め、オドで強化された拳で殴りかかった。それを牽制するように足を上げ、拳がぴたりと止まった所で、肝臓を打ち据える拳打。それに対し、怯むこと無く頭を刈り落とす回し蹴り。それを、空いた手で受け止める。
「……ふむ。流石私だ。こうも戦える相手はそうは居ない。良い修練だね。私を映しきった君にも、報酬は必要だろう」 
 互いに纏ったオドの圧を高め、反発が始まったところで、仕切り直し。すかさず、自在軌道の鎌鼬の様な赤の衝撃波が、互いを食い千切らんと拮抗する。軌道を変える余裕は無く、対消滅による残光を掻い潜り、再び光剣が軌道を描く。そうして何合も斬り合い、鍔迫り合い、魔王紋が、シーザーの歓喜に呼応するように輝いた。
(とは言え、そろそろ終わりかな)
 一連の流れを焼き直すように剣術から体術、魔法戦闘を一巡、少し前の自身の未熟を顧みて、幾つかの、本当に僅かにあった修正点を実行する。拮抗していた剣術の打ち合いが、人形に一筋の浅い傷を作り、体術で有れば、僅かに先んじて相手の身体を打ち据える。魔法であれば、オドを練り上げる速度で僅かに勝り、得心したシーザーが、それを足掛かりに、更に技術を磨き上げ、完全に人形であった時の自身を追い越し、圧倒した。証拠に、無残にも光剣が人形の首を落とし、心臓に突き立っている。
「随分と楽しませて貰ったよ。深淵と言うには、少々物足りないけどね。ああそうそう、君には、悪くない未来が待っているよ」

●茨の棺
 騎士礼装を模したミニスカート、紫色のブーツが、踊るように踵を鳴らす。紅色の腰まで有る長髪はサイドで、くるりと纏め、踵が鳴るたびに快活に揺れる。そうして、鏡の前にロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・f00692)は踏み出した。写し取り、染み出す人形の出来映えに、ロベリアは感心した様な声を上げる。
「へぇ…私をモデルにしてるだけあって美人だね? でも、主役は私一人で十分だよ。偽物には退場してもらおうかな!」
 黒と白、対となる片刃を構え、飛び込む。黒が首を薙ぐ軌道、白はあらゆる保険に残し、ほぼ予想通り、首を狙った一刀が防がれ、白で距離を離そうと、急所に突き出せば、正に鏡合わせ。同じ場所目掛けて剣が突き出された。弾く手間が省けたと、互いに損耗を避けようと、飛び退く。拮抗しているならば、一度刃が噛み合えば、それを外す拍子が掴めない。機動力を削がない刺し合いが、何合も何合も不毛に続く。
「ふふ、それだけ強いのに、結局は鏡から離れられないんでしょ?」
 ぴくりと、人形の指が跳ねる。それはどういう意味だろうか。
「自分と同じ顔に言うのもあれだけど、人生つまらなそうだよねぇ?」
 つまらないと言うのか。私の役目は。物として生まれ、役目を果たす事がそんなにも、罪なのだろうか。いや、私はそう言ってしまう貴方が、妬ましくてしょうがない。
 繊細な刺突が荒々しく、すぐに合理性を捨てた斬撃に、解りやすい軌道と成り果てた、自身の技量を持った別の存在に、ロベリアは、悪戯好きの子供の様に、唇を釣り上げた。
「ふふっ、そうやってキレイなものがあればすぐに嫉妬して、壊そうとして……」
 大振りになった一撃を、影の茨が絡め取る。
「駄目な所まで私そっくりで嫌になるね。そうやって悪意を振りまくから『私』がこんなに、強くなるのに」
 沈んだ影の茨が悪意を吸って巨大化する。人形の四肢に巻き付き、縛り上げ、やがて、全身を飲み込んだ。穴だらけになった自身の似姿を、見たいとは思わなかった。
「これにて終幕。それでは、また会う日まで」

●終幕
 猟兵達を見た鏡は、一人黙していた。全て寸分違わず模した筈だった。足りなかった物は、鏡に理解できないたった一つの要素だけだった。道具がそれを持ち合わせる筈は無く、製造目的を果たす事が、鏡にとって、唯一の存在意義だった。多くを視て、多くが鏡の前で息絶えた。役目を果たせて居るのだと歓喜した。何処か、虚しさが残った。鏡は鏡、ここから出ることは叶わない。息絶えるそれらは、多くの事を知っていた。技術、武芸だけでも星の数、付随する知識を少し覗けば、色々な景色と色鮮やかな想念が、鏡に憧れを齎した。
「結局は、鏡から離れられないんでしょ?」
 だから取って代わりたい。世界を視たい。私には理解できなかった、あの色鮮やかな想念を。次第に鏡のそれは黒く染まり、純粋な願いは歪な願望へ。役目で覆い隠し、歪んでしまったそれは、猟兵の心中を覗き、浴びせられ、純粋な願いを、思い出した。
(私は、成り代わずとも、ただ、世界が見たかったのです……)
「そうか、元々俺が入ってたんだ。仮宿としても、相性は良いだろうさ。戻ったら、術式でお前さんの魂を、後鬼の中に放り込む。それでも良いな?」
 二足歩行戦車を差して、津雲が鏡に語りかける。控えめに頷いた気配を了承と受け取り、津雲は、同族を自身の金属鏡に写し入れた。
 鏡を持ち帰る為の術式を、即席で編み出したアンネリーゼは、早速、それを異空間に仕舞い込んだ。羨ましそうに見るハルピュイアに、偶に貸し出せるよう、何か施したかもしれない。
 麗刃はすぐにダンジョンの通路に消えて行き、瑞樹と氷鷺も同様だ。ルパートは魔剣の柄について、暫く考え、語は何となく、金属鏡に移った魂を気にする様に覗き込む。由と龍は少し先の通路で合流し、何事も無かったかのように、親子の歓談を繰り広げる。
 シーザーはいつの間にか消え、ロベリアは賑やかな舞台裏も劇の一幕と、誰かに向かって、優雅に一礼をする。
 猟兵達が日常に戻るのは、そう遠くないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月16日


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#アルダワ魔法学園
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト