アルダワ魔王戦争8-E〜断望のアリア
かつて大魔王を封印したはじまりの領域――ファーストダンジョン。
濃闇色のヴェールに幾重にも覆われていた底の底、輝石の宮は静かに姿を現した。剥き出しの眩い原石が、天井も床も隙間なく敷き詰められて光を弾く。
その、中央。音もなく、ゆっくり、ゆっくりと華奢な羽根を震わせながら降り立つ無数の青い影があった。
――万能宝石、エリクシルの妖精。
蒼月長石を削り出して作られたかのような、滑らかな肌。無機質なまでに整った容貌には、感情らしい感情は見出せず。二つ三つ、階を重ねた建物よりもなお長大な身体を見上げれば、薔薇窓を砕いたかのような七彩の鱗粉が降り注ぐ。
それは、唇を動かさぬまま、空気を震わせぬまま、語りかけてくる。
『わたしたち』は『自動なる者』。
『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
されど、『わたしたち』は『宝石を歪める』ために『造られ』ました。
『有資格者』を見下ろす瞳には、温度がなく。
望みを受け取らんと、大きく広げて差し出される両腕の先に、慈悲もなく。
淡々と紡がれる言の葉に、人の子の幸福を祈る心はない。
『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
『それゆえ』に、『わたし』は『あなた』の『望み』を『歓迎』しましょう。
汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
妖精は待つ。『有資格者』の『望み』ただそれだけを。
――惑うことなかれ。希うことなかれ。
其が齎すものは、福音にあらず。
訪れるのは、終焉の鐘鳴り響く黙示録である。
●一切の望みを捨てよ
「アルダワの凄ェ深いとこに、滅茶苦茶ヤバそーなモン出たらしいぞ。放っとくと拙そうだから倒してきてくれ」
大雑把すぎる説明から入るのは、鳥と山羊が混じった容貌を持つキマイラ男、エン・ギフター(f06076)だった。
「エリクシルの妖精、って敵なんだけどな。なんでも望みを叶えてやるから言えっつって迫ってくるらしんだわ」
普通に叶えてくれるんなら有難えんだけどなあ、と嘆息を一つ交えて、予知の続きを周囲の猟兵へと伝えた。願いは理不尽な代償を支払わせる形で、歪んだ結果となって叶えられる。例えば俺が身長欲しいと願ったら、胴体だけ十メートルぐらい伸ばされんじゃね?と悪質具合を自身の頭頂部を軽く叩きながら挙げた。
「猟兵サンらなら、まあ心配するだけ無駄だとは思うがな。マジモンの望みは勿論だが、洒落でアホな事願ったりするような遊び心も今回ばっかりは置いていけよ。望みを口にするのは勿論だが、頭に思い描くだけでもアウトだ。――願った瞬間に、死ぬぞ」
実際の所は戦闘不能になるだけかもしれないが。被害者が出るのを案じた男は、大袈裟に猟兵を脅すように声を低めた。
あと、そこら辺対策しても、素でめっちゃ強ェ。
だから頑張ってくれ。と、もののついでにするには深刻すぎる付け足しが入る。
「羽根で吹っ飛ばそうとしてきたり」
持ち上げた片腕の親指を折り。
「何が何でも望みを言わせてやるビーム出してきたり」
人差し指を折り。
「アンタらの偽物つくって嗾けてきたりもするみたいでな」
中指も折って合計三つ。そうして折り曲げた指を、ぱっと広げてお見送りの仕草で緩く振った。グリモアが、門を開く為に淡く輝く。
「とにかく気合い入れてけ。アンタらが大事に抱えてる望みを、他人が簡単に叶えてくれるようなチャチなモンにしてやるなよ。……よろしく頼むわ」
白日
お目通し頂き有難うございます。白日(しらくさ)と申します。
アルダワ魔法学園より、一章構成の戦争シナリオをお送りいたします。
妖精さんが出てきてしまいましたね……!
●プレイングボーナス
このシナリオは「エリクシルの妖精に願いを伝えない」ことにより、プレイングボーナスが得られます。
願いを伝えてしまった場合、即座に戦闘不能となります。その上で『3月1日時点で、大魔王が生存』していた場合、このシナリオで願った願いを、エリクシルの妖精が叶えます。
しかし、『悪意をもって捻じ曲げた願いの叶え方』をする為、望んだ結果を得る事は出来ないでしょう。
プレイングで心情として願いに言及しただけでもアウトな、少々難しめのシナリオとなっておりますのでお気をつけ下さい。
●プレイング受付期間
シナリオが公開となりました時点より、プレイングを募集いたします。今回、断章は入りませんので待たずに送ってくださって大丈夫です。シナリオの成功(失敗)条件が達成された時点で受付終了とし、そこまでにお預かりしたプレイングから執筆させて頂きます。
全員描写のお約束はできませんが、可能な限り採用させて頂けるよう頑張ります。
このシナリオでは、基本的にお一人様ずつリプレイを執筆し、まとめての採用や連携描写をいたしません。グループでの参加をご希望の場合は、二名様まではお受けさせて頂きます。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『エリクシルの妖精』
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POW : 力翼
【魔力を纏った翼を震わせながらの】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【残っている他の妖精達】の協力があれば威力が倍増する。
SPD : 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう
対象への質問と共に、【虚空】から【新たなエリクシルの妖精】を召喚する。満足な答えを得るまで、新たなエリクシルの妖精は対象を【秘めたる真の欲望を暴く精神波】で攻撃する。
WIZ : ドッペルゲンガー
戦闘用の、自身と同じ強さの【交戦中の猟兵と同じ姿を持ち、同じ武器】と【同じユーベルコードを使う『鏡像存在』1体】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
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コノハ・ライゼ
アドリブ歓迎
願わない、って簡単なようですごく難儀よねぇ
……大丈夫、無くすのは得意だもの
深呼吸ひとつ、勝利も飢えも、感情の全てを切る
己自信がひとつの武器、武器は振るうモノ。動きは、思考はその手段
矛先は妖精、鏡像存在は障害、矛先への接触を優先
【彩雨】召喚、進路の障害を凍らせ地へ縫い付ける
同様の反撃予測し針を『見切り』避け、時に足場とし跳躍し『空中戦』
空中では「柘榴」と『オーラ防御』で弾き、躱しきれぬ分は『激痛耐性』で凌ぐ
『2回攻撃』で妖精へ向け『スナイパー』でより効果の高い場所狙い針を集中的に降らせ
『傷口をえぐり』『生命力吸収』で追い打ち
願わずとも、生命喰らえば得る充足感も
今はただ打つ手のひとつ
●捨て去るもの
遥かな高みから、青き妖精の問いは降る。
繰り返し、繰り返し、雨のように、雷のように。
――『わたし』は今一度、『有資格者』へ『問い』ます。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
エリクシルの妖精の身体によって作られる影法師は、対峙する者の全身をすっかり暗く翳らせても尚余りある大きさだった。いっそ感心するほどのその巨躯を見上げながら、コノハ・ライゼ(f03130)は薄く笑う。
「願わない、って簡単なようですごく難儀よねぇ」
一切の欲を失くすなど死者でもなければ不可能で。ましてや生きながらえたこの身など。
ひとりごちるコノハの視界にぽつりと、巨体から剥離する影が映った。
地へ落ちて立ち上がり、ゆらりと頭を上げたるは――小妖精ドッペルゲンガー。名も思い出せない『あの人』に見間違えそうな、己が似姿。
鏡像存在たるそれは、コノハが常にそうあるように綺麗に笑う。
『あるデショ、望みの一つや二つ。ねぇ?』
気安げに話しかけながら距離を縮めてくるドッペルゲンガーに、ほんの僅か、眉を寄せた。されども何も返すこともなく、コノハは大きく息を吸う。肺を軋む程に膨らませて、ゆっくりと吐き出す。そうして身体の隅々に巡らせる、酸素と、思考と。
(……大丈夫、無くすのは得意だもの)
斃すべきを定めた眼差しは鋭利。勝利を欲する心も、奥深くで疼く飢えも全て切り落とし、自身をひとつの武器と成す。
武器を揮う矛先は、妖精。鏡像存在は、ただの障害。矛先への接触を優先させるならば。
――靴底が床を擦る音と同時に、駆け出した。
鏡像が反応するより早く、その頭上に篠突く彩雨は降り注ぎ、地に凍て付く根を広げて敵の足ごと白く変える。加速する意識が妖精までの最短距離を叩き出し、攻撃に転じた鏡像の針を危なげなく回避した瞬間に最早、コノハの姿は地上にはない。
次々と放たれる水晶針を掻い潜り、雨色をそっくり映す一対のナイフで弾き落とし、それでも避けきれないものを受けて尚耐えながら、エリクシルの妖精へと肉薄して行く。
疾く、ただひたらすに疾く、刃と化したたったひとりが輝石を足場に跳び上がる。
『望み』に捕まらないように。
忘却の底に沈めた『かなしい』に追いつかれないように。
大きな輝石の塊で膝を大きく撓め、躍り出た妖精の顔は――鏡像との戦闘など見てもいなかったかのような、無感情の硝子玉が両の目に嵌り込んでいるだけに見えた。
滞空する僅かの時間に、針の進路をその滑らかな肌へと向ける。青が、万色を照り返して水晶針を飲み込み、凍りながら罅割れ。その亀裂を抉るよう、何度も何度も雨垂れを注ぎ込んでは、血液の如くに零れ出すいのちを喰らう。
願わずとも充足感を得る為に喰らう行為をも手段に変えて、七色狐は獲物の息の根を止めた。
――『わたし』は 『あなた』の 『望み』 を
ぼろぼろと崩落を始めながらも繰り返される妖精の声を、コノハは降下の浮遊感の中で聞き。
そして虚空へ、置き去りにした。
大成功
🔵🔵🔵
クイスリング・ブルーメ
『これは楽しい事態だね、ボクも張り切っちゃうぞ!』
『にしても、願いを言えなんて』
『こういう願いには対価が必要なもんだろ?ボクは知ってるぜ』
『だから言わない』
『ボクの願いはボクだけのもの。声が枯れても教えないよ』
『問いかけられれば靴の踵を鳴らして魔女を呼ぶ』
『やさしいボクの親友よ、共に踊っておくれ』
『彼女の加護なら妖精達の呪わしき思念は避けられるはずだ』
『蝶の姿で惑わせて、現れる妖精へと炎の属性攻撃』
『焔の魔女を封じたこのランプは、キミ達を熱く焦がしてくれるだろう』
『黄色く燃える薔薇の焔は、妬ましい程に平等だ』
『焦がして焦がれて、おしまいさ』
『そうさ。弱いボクでもこの終焉を打ち砕いてみせるよ』
●魔女と魔女
大きな大きな妖精のもとへと、小さな小さな妖精の姿をした魔女は、黄金の羽根を揺らして訪れる。
クイスリング・ブルーメ(f00388)の真紅の瞳には恐れの色などまるで窺えず、これから遊戯を愉しむかの素振りさえ見えるようだった。
『これは楽しい事態だね、ボクも張り切っちゃうぞ!』
意欲を声に変えて、くるりとクイスリングが空中で孤を描けば、被ったフードに縫い付けられたロップイヤーが柔らかく揺れた。
エリクシルの妖精の、小指の先ほどの大きさもないだろう体では、顔を拝みに行くだけでも長い旅路を強いられて。少しばかり骨が折れる道程の半ば、ううんと首を傾げて思案を廻らせる。
『にしても、願いを言えなんて』
胡散臭い。そう言いたげな抑揚が声に乗った。願いには必ず対価が必要な事なんて、お伽噺を読む子供だって知っている。それを無しに望むなら、碌でもない事が起こるに決まっている――だから、言わない!
決意も新たに辿り着いた高さは、長大な妖精のずっと上の方にある鼻の先。じ、と薔薇色の魔女を硝子の瞳に映していた蒼い妖精は、やがて静かに問いかける。
――『有資格者』よ。
――『わたし』は『あなた』の『望み』を『歓迎』しましょう。
声が響き渡ると同時、みしり、とすぐ傍の空間が軋んだ。
穴が空く、裂ける、大きく開いた亀裂から顔を出すのもまた、蒼。
まるで羽化をするかのごとく、もう一体のエリクシル妖精の頭が見え、丸めた背中を窮屈そうに押し出すのが見え――けれどもクイスリングは臆することもなく、とん、と柔らかく踵を鳴らし。
『ボクの願いはボクだけのもの。声が枯れても教えないよ』
言い放つ。一切の未練なく提示する拒絶は、幸福な終演を導く魔女の矜持。毅然とした言葉は、澄み渡って空間に染み込んだ。呼びかけに応えて白薔薇のランプは灯を燈し、魔女が静かに目を覚ます。
――『有資格者』よ。 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
望み以外の言葉を受け付けない機械の如く、無表情のまま繰り返される問い。それは、突如としてクイスリングに牙を剥いた。
わぁん、と異質な波が部屋を揺らし、辺りの輝石が細かく剥離して地上へと落ちる。
亀裂より生まれたものと、喚んだものと。妖精の二つの問いは重なり、ハウリングを伴いながら『望み』を拒んだ者の頭の中を掻き乱す――筈だった。
されど、姿なき優しい彼女の親友、焔の魔女の力はそれを許さない。
ランプから黄色い焔が花弁となってほろほろ零れ、赤薔薇の魔女を優しく包む。それは悪しきを祓う魔女の加護。親友からの、ダンスの誘い。伝わる熱を愛しむように微笑んで、クイスリングは小さな身体をほどき、爪先から黄金色に輝く無数の蝶へと姿を変える。群れは、焔のヴェールを纏いながら広がって、一面を覆い尽くす。次々と放たれる精神波は炎に触れた途端に力を失って拡散し、空気に還り、魔女達に寸毫の歪みも与えることはできなかった。
――『有資格者』よ。
――『有資格 者』 、、、よ。
(『そうさ。弱いボクでもこの終焉を打ち砕いてみせるよ』)
届かぬ問いを壊れたように繰り返す、二体の周りを黄金の蝶の群れが取り巻き、揺蕩いながら黄色い薔薇を惜しみなく贈る。妖精の流れる髪を、顔を、肌を蒼い羽根を飾った薔薇は容赦なく焼き焦がし。黄金蝶が羽を震わせる度に、盛る火勢は巨躯の隅々までを平等に撫ぜ続けた。
やがて二体の妖精は、煌々と黄色い炎を揺らす二つの薪となり。
魔女達は、ひとりとひとつに戻る。
終焉を迎えた終焉をその瞳に映しながら、輪舞の終わりを惜しむように、白い指先がランプを飾る花に触れた。
成功
🔵🔵🔴
シャルロット・リシュフォー
お願い事を叶える妖精さんです?です?
相対したら願いを聞かれるなら、見つからなければいいです?
(まるでクリスタリアンのような見た目ですけど…この妖精達、なにか邪悪に感じますっ)
【迷彩】【クリスタライズ】を駆使して姿を隠しますっ
相手の認識範囲から、僅かな時間でも消えてしまえば
その隙に一撃与えて逃げることができますぅ
後はそれを繰り返すだけですね
願い事は口に出さない……というか、相手の言葉に一切応えないのももちろんですけど
頭の中とか覗いてきそうなんですよね
なら、思考の表層だけでも願いを意識しないよう、歌を頭の中で流しながら戦いましょう
お願い的なものが歌詞に入っていない曲を選んで…ですっ
【アドリブ歓迎】
●かくれんぼ
「お願い事を叶える妖精さんです?です?」
こっそり。
水晶のような石塊の影から、エリクシルの妖精を遠目に窺うためにシャルロット・リシュフォー(f00609)はちょっとだけ顔を覗かせた。
蜂蜜みたいな瞳をぱしぱしと瞬かせて見上げる先には、十メートルは越えようかという巨大な妖精。好奇心は旺盛な方だと自負はしているけれど。けれどもこれは。
(まるでクリスタリアンのような見た目ですけど…この妖精達、なにか邪悪に感じますっ)
あんまり近寄りたくない部類の敵に見えてしまうのだ。下手をするとぷちっと踏み潰されそうだし。覗かせていた頭を引っ込めて、シャルロットは対策を思案する。要は、願い事を聞かれなきゃいいのだと。
「……相対したら願いを聞かれるなら、見つからなければいいです?」
音を立てないように静かに悩むこと暫し。弾き出した対策は名案のように思われる。
あんな大きいのと戦うなんて怖いけど、この美しい世界を守るためだから。すっくと立ち上がって携えていた銀の剣と銀の剣の柄を握ると、クリスタライズを発動させる。紫水晶の髪も、柔らかい橙の瞳も、両手で輝く金と銀も、全部がすうっと色を失って、辺りの風景に溶け込んだ。
(あとは、相手の言葉に一切応えないのももちろんですけど……頭の中とか覗いてきそうなんですよね)
足音を立てないように近付きながら、お願い事対策再び。新たに湧いた懸念には、得意分野で勝負することにした。歌を歌う事が得意なら、沢山あるレパートリーの中からお願い的な歌詞が入っていない歌をチョイスするのは呼吸と同じぐらい簡単で、明るくポップな選曲をして頭の中で再生を始める。
(これならいけそう、ですっ!)
余計な事を考える前にと、たっと駆け出したシャルロットはすぐにエリクシルの妖精の足元に辿り着く。
迷彩を解いて、両手に構えた剣を足首目掛けて、交差するように、一度ずつ切り付ける!
キン!と硬い音が響いたが、アストライアの金と銀なる護りによって付けられた傷は大きく、ぐらりと妖精の身体が傾いだ。
――汝の『望み』 を――
攻撃を受けた妖精は、シャルロットを見下ろして問いを投げかけようとする。けれど、すぐさま透明になるクリスタリアンの少女を見失って言葉は途切れた。回り込んで、逆の足へと再び斬り付け、また消える、華麗なるヒットアンドアウェイ。
妖精に認識されない場所まで逃げてから、再び接近して攻撃を重ねていく。壁から突き出た石塊へと飛び移って斬り降ろし、今度は低い位置に戻って斬り払い。少しずつ嵩む疲労に、息は上がってしまうけれど。どれだけ辛くても、シャルロットは戦うことを止めはしなかった。
挫けそうになる気持ちは、歌が鼓舞してくれる。
やがて迷宮に響き渡ったのは、妖精が斃れる地響きと、
「やりましたですーっ!!」
勝利をもぎ取ったシャルロットの、快哉の声だった。
大成功
🔵🔵🔵
ジノーヴィー・マルス
【POW】
うわ、デカッ。何あれ…。全く何でもありだな、ダンジョンって奴は。
…兎に角、願いを心に思い描くだけでもアウトなんだな。
まぁ、アレだな。
…お前に手助けしてもらう筋合いはねぇんだよ。
まずはその口を閉じてもらうか。
第666機鋼剛拳の指関節を鳴らす動作で【恐怖を与える】
これは俺がそうしたい訳じゃねぇぞ、問題なく動かせる様に、各部パーツを自動的に最適化してるだけだからな。
後は、敵の突撃に【第六感】でタイミングを合わせて「単純にブン殴ってみる」
これで上手く行けばカウンター気味に拳が入る。上手くいかなくたってせいぜいぶっ飛ばされるだけさ…。
●殴ったもん勝ち
咥えた煙草から一条、燻る紫煙の向こうの光景は目を疑いたくなるものだった。
アルダワ学園の地下迷宮で災魔と対峙した事は数あれど、あれだけ巨大な敵の姿は異様の一言に尽きる。
首を最大限に反らせてもまだ、目も合いやしない敵――エリクシルの妖精を見上げた姿勢で、咥え煙草をそのままに吐き出した溜息は白く煙った。
「うわ、デカッ。何あれ…。全く何でもありだな、ダンジョンって奴は」
気怠そうに呟く一言は、正しく心の内を表した率直なもの。引いた、と言い表すべきか。例えば失った記憶が余さず戻ったとしても、あんなサイズの敵とは戦った経験があるのかは怪しかった。
その"何でもあり"である所の妖精が、ゆっくりとジノーヴィー・マルス(f17484)へと視線を向ける。
――『わたしたち』は『自動なる者』
――『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
――『有資格者』よ、汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
無機質な声が、頭の奥に直接流し込まれる不快。煩げに頭を振りながら、ジノーヴィーは使い馴染んだ機械腕を関節に添わせる。
「兎に角、願いを心に思い描くだけでもアウトなんだな。……まぁ、アレだな」
一歩、また一歩。巨体に迷いなく歩み寄りながら、第666機鋼剛拳の指関節を重々しく鳴らす。
問題なく各々のパーツを動かすための最適化を促すキーアクションではあったが、対峙する妖精に威圧を与えるには十二分。
ジノーヴィーを『自動なる者』への脅威と見做し、故にプログラムじみた思考で妖精は彼への攻撃行為を選択する。大きく羽根を揮わせた巨躯がゆっくりと傾ぎ――瞬間、
――汝の 『望み』を 『言う』が 『よい』 で
最後通牒であるかのような言葉を投げつけながら、滑空し頭から突進をしてくる妖精の頭が、異様な速さで目前に迫る。それを真正面から捉え、燃え尽きてフィルターだけになった煙草と共に吐き捨てる台詞。
「…お前に手助けしてもらう筋合いはねぇんだよ」
どんなに受け入れがたいものでも、己の意思で向き合うと決めている。ジノーヴィーにとって妖精が差し出すものは、全く以って、大きなお世話と呼ぶに相応しいものだった。熨斗を付けて返すとばかり、強化人間の膂力に第666機鋼剛拳のパワーを乗せた拳を妖精の額に叩き込む!
びしり、と硬質な肌を持つ妖精の額に巨大な亀裂が蜘蛛の巣状に広がる。強烈なインパクトに吹っ飛ばされそうになる身体を、踏み止まるように前に倒す。勢いに押されて床を滑る靴底は大きく土煙を巻き上げた。
「ブッ潰れちまえ――ッ!!!」
同じ場所に、無理矢理もう一度機械に覆われた拳を捻じり入れると、頭部の大半が吹っ飛んで宙に散る。
今度こそ破壊された妖精の破片を浴びながら、ジノーヴィーはゆっくりと後退し。次第に全身を崩していくエリクシルの妖精を確認して天を仰ぐと、遅れてやってきた疲労に肩から脱力していった。
得難い経験、と言ってしまえば聞こえは良いけれど、流石にこんな荒唐無稽なものは。
「これは忘れようにも、忘れられそうにねーなあ……」
成功
🔵🔵🔴
ジン・エラー
願いを口にするだけならまだしも、頭に思い描いただけでアウトって相当チートだなァオイ!
ま、タネさえわかってりゃァ大したことはねェわな。そもそもオレには関係なさそうだ
要するに単純な力比べだろ?シンプルイズベストだ。いいねェ~~~!!
おうおうエリクシルの妖精サンよ、ちょいとオレと殴り合おうや。
お前妖精っつゥ~~か機械みてェだよな。オートマタ。
あァそう怒るなよ。別にバカにしてるワケじゃァ~~ねェンだ【高慢知己】キレてない?の割に色々とおざなりだぜ?【天意無法】
望みなンて大層なモンは持ってねェからよ、代わりと言っちゃァなンだが
【オレの救い】、見ていけよ。
●かがやけるもの
天地の境なく輝石の塊で覆われた迷宮、降り立ったエリクシルの妖精も磨き上げられた宝石の像の如く、光の粒子を纏い無機の美を振り撒いて憚らない。
きらきらしい空間のなか、ぽつりと落ちた影のようにジン・エラー(f08098)は天井近くの壁から突き出した輝石の塊の上に立ち、傲然とそこに在った。黒い肌は色濃く、流れ落ちる髪もまた深い色をして、闇の中であればその身は容易に溶け込むだろう容貌。
されど彼こそが、この場に於いてただ一つの光輝であった。
――『わたしたち』は『自動なる者』。
――『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
――『有資格者』よ、汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
ジンの存在に気付いた一体が、唇も動かさずに問いかける。願いを心より引き摺り出し、悪意で以って捩じ曲げた叶え方をする為のその言葉に、けれどもジンは答えない。
「願いを口にするだけならまだしも、頭に思い描いただけでアウトって相当チートだなァオイ!」
ゆるりと蒼く長い羽根を震わせて、ジン目掛けて飛来する巨大な妖精の姿を桃と金の瞳に映していながら、笑みを湛え続ける黒マスクの奥から零れる声は興がって憚らなかった。
対策など単純明快。救済者たる彼にとって、望みとは叶えて貰うものではなく叶えるもので、救いとは齎されるものではなく齎すものだ。全く無関係でいられるジンの余裕は崩れない。
「要するに単純な力比べだろ?シンプルイズベストだ。いいねェ~~~!!」
巨大な硝子球に似た妖精の目を間近に、一笑。五指を揃えた手の平を、己の方へと曲げて手招く挑発。鬼さんコチラ、まるで遊戯。
「おうおうエリクシルの妖精サンよ、ちょいとオレと殴り合おうや」
煽る声に応えたかのタイミングで、ぐんと妖精の青白い手が伸びる。当たれば骨が砕け肌が破れ、ただの肉塊に成り果てる――そう感じさせる重さと速度を乗せた掌底が、ジンが立っていた足場をぐしゃりと潰した。されど、幾ら待てども零れ落ちるは輝石の欠片ばかり、血は流れない。
「お前妖精っつゥ~~か機械みてェだよな。オートマタ」
揶揄の声はエリクシルの妖精の頭上より降りかかる。重撃を薄皮一枚の距離まで避けぬ不利を膂力に代える力を以って、埒外の跳躍を為した男がひらりと別の足場に降り立った。
ぎ、ぎ、と機械めいた首の巡らせ方をして再びジンを見出した妖精が羽を、身体を翻し、再度の突進を仕掛けてくる。
「あァそう怒るなよ。別にバカにしてるワケじゃァ~~ねェンだ」
手の平が叩き付けられた。二度目の回避に危なげはなく、輝石の足場を蹴った足が容易にジンの身体を空中へと躍らせる。見失った『有資格者』の姿を求めた妖精の前に姿を現した、その距離は――目と鼻の先。
「キレてない?の割に色々とおざなりだぜ?」
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
――汝の 『望み』 を
壊れたプレーヤーの様相で同じ言葉ばかりを繰り返す、この大きなお人形だって救いの対象だ。
ジン・エラーは傲慢で在り続けた。一切合財、何一つ漏らさず取り零さない衆生救済の為に。
救いとは望みに在らず、呼吸のように為されるものであり、必然であり、ただ貫くもの。
「望みなンて大層なモンは持ってねェからよ、代わりと言っちゃァなンだが【オレの救い】、見ていけよ」
左右からジンを捉えようと、眼前で両手を組むよう重ねる妖精の姿は、宛ら祈りのようにも見えただろう。指の隙間から漏れ零れる光は、暁に似て眩く、鋭く、輝石の宮を遍く照らしす。
聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな。
救済が始まる。その者の御名を――。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
…願いが無いといえば、嘘になります
騎士として救えなかったモノ、この手から零れ落ちた命、償い…
御伽噺で「願いを叶える」ことの恐ろしさを知っていたとしても
ですが勝利の為、アルダワの人々の為
それを捨てましょう
感情を凍結し、あれらと同じく「自動なる者」として
(戦闘開始前に)
UC起動
センサーの●情報収集による走査・索敵で地形及び複数の敵性体接近を●見切り、巨体の動きが制限される●地形の利用も駆使してスラスターでの●スライディング移動で攻撃回避
ワイヤーアンカーを地形、敵性体に射出し●ロープワークで巻き取り移動
敵性体の肩部に取り付き次第、●怪力による剣の●なぎ払いで首を刎ねるか、●シールドバッシュで頭部粉砕
●騎士道物語の一頁
あるところに、とても優しい騎士がいました。
人々を愛し、人々から愛された騎士は、人々の為に戦いました。
沢山の命を、心を守った騎士でしたが、そんな彼にも守れなかったものはありました。
助けを求めて伸ばされた手に届かなかった日、握り締めても指の間から砂のように零れて落ちた命。
彼は、力の及ばなかったことをずっと後悔し続けている、優しい騎士でした。
「…願いが無いといえば、嘘になります」
何でも願いを叶えてくれる妖精がいると知った時、優しい騎士は自分の事よりもまず真っ先に、幸せになれなかった人々を思い出しそうになりました。
けれども騎士は、願いの叶うお伽噺の帰結が、めでたしめでたしで終わらないことを知っていました。
しあわせを願うこの心が、刃となって無辜の人々に向かってしまうことを。だからこそ。
「――ユーベルコード、起動。ベルセルクトリガー、限定励起」
優しい騎士は、優しさを捨てることにしました。
心を氷の檻の中に閉じ込めて、ただの機械になる道を選びました。
悪い妖精に勝つ為に。そしてアルダワの人々のために。
――『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
――『制約』無しに『無限の願いを叶えるもの』。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
無機の問いを響かせる『自動なる者』の声に、ただ戦う為に在る『自動なる者』は、応えない。
自身の精神構造を戦闘を最優先とするモードへ移行したトリテレイア・ゼロナイン(f04141)の、バイザーの奥の双眼は、暖かな緑色から苛烈な赤へと変じた。
羽根を震わせて真っ直ぐ突進してくる巨大な妖精を確認し、己からも距離を縮める為に地を蹴った。強化された脚力は、踏み込みで輝石の床を砕いてきらきらと光る粒子を散らす。スピードを上げながら、トリテレイアは偽装騎士兜のセンサーを起動させて地形のスキャンを試みた。
読み込み――成功。接近個体――1体。足場となり得る地形情報――距離の近いものより表示。
次々と提示される情報の演算処理を行いながら、導き出された最短ルートを走破する。眼前に迫った妖精の足の間をスライディングで通り抜け、振り返られる前に石塊群を足場に飛び移り、妖精が機体を補足する事を阻む。
――『有資格者』よ。
射出したワイヤーが、エリクシルの妖精の首筋に澄んだ破砕音を響かせながら突き刺さった。同時、ワイヤーを巻き取る機構がトリテレイアの身体をぐん、と妖精の肩口まで機体を引き寄せる。 身体に止まった羽虫を潰すような所作で肩を払おうと伸びてくる巨大な手指を切り払い、身の丈と変わらぬ重厚な盾を、妖精の高さで真正面に構えた。
「"人"ではない。だからこそ出来ることがあります……それを教えて差し上げましょう、『自動なる者』よ」
肩を蹴る。加速する。腰溜めに据えた盾を自身の身体ごと叩き付けて――
どっ、と重い衝突音。盾の向こうでエリクシルの妖精の頭が傾ぎ、頬が、首が罅割れて崩落を始める。
――汝の のの『望み』を 『言う』 『言う』 ガ…
断末魔は、なかった。
ノイズがかった問いかけと、石のように砕ける妖精の身体が、ぱらぱらと白亜の騎士に降り積もって静かに終幕を知らせた。
大成功
🔵🔵🔵
リオネル・エコーズ
教えてもらった通り、願いは置いてきた
頭の中空っぽにしてただ歌った経験もあるし
…回数は覚えてないけど
深呼吸して頭の中をラフに、空っぽに
見たものをそのまま捉えて
それ以上も以下も考えずに翼を広げ、最適と感じたままに飛ぶ
俺と同じ姿
同じ武器
同じUC
でも君は俺じゃない
俺じゃないだけだから、何がどうとか、無いよ
撃たれた流星は
余計な事を排した頭と第六感を使って躱せる限り躱す
避けきれないものはオーラ防御や魔鍵で受け流すとかして対処
ダメージはただ痛いだけ
それだけだから、大丈夫
飛びながらもう一人の俺と妖精を捉えたらUCを
今は戦えない、大きな妖精
よく見えるなあなんて思いながら
妖精をメインに狙って、流星を降らすだけ
●極光
頭の中を空っぽにして歌わなくてはいけなかったんだ。
何度も何度も、求められるままに、求められた歌を。
心を乗せてはいけなかった、乗せられる筈がなかった。
リオネル・エコーズ(f04185)は、ゆっくりと己の方に振り返るエリクシルの妖精を視界に捉えながら、ゆっくりと息を吸って、吐いた。
そっと胸に手を宛がって、そこに何もないことを確かめる。かつての経験は活かされている。
心は、願いは全て置いて来た。虚に蓋をしてしまえば、あとはあるままに、成すべきを。
そこにだけ暁天が広がったかのような色の翼を、リオネルは大きく広げた。羽ばたき、空気を掴んで飛翔する。壁からも床からも方々突き出た輝石の塊を、泳ぐようにすり抜けて進んで行く。まだ妖精との距離はあるように見えるのに、十二分にはっきりと見えるそれの大きさは推して知るべしか。
(……ここからでもよく見えるなあ)
他人事のように敵への感慨を胸の内。双眸が映しているのは、迷宮の景色というだけの一枚の絵。
――『有資格者』よ。
エリクシルの妖精が、飛来する翼在るものを捉え、唇を開きもせずに問いかける。
――汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
同時、エリクシルの妖精の身体から、音もなく剥離して飛来するひとつの影があった。小妖精ドッペルゲンガー。それはずるりと崩れて、次の瞬間にはリオネルの容をそっくりそのまま投影した姿を作る。
リオネルを見遣るオールドオーキッドの瞳。
広げた翼は暁をの空を映して風を切り。
飛翔する度に揺れる長い髪は静かな深い海の色。
提げているナイフも魔鍵も同じで、思わず己の武器が在るかを触って確かめる。
すっと、鏡像が挙げた手を見て、敵が何を喚ぶのかはすぐに見当がついた。羽ばたく力を強めて、スピードを上げるリオネルの頭上から、眩く鮮烈な光が迫ってくる。
『さあご覧、宙(そら)の使者のお通りだ!』
鏡像のあげるた声に、無数の流星が虚空より現われ、光の洪水で輝石の迷宮を照らし、砕き、そしてリオネルの身体を同じ色に染め上げようとする。
「……ッ!」
難を逃れようとして旋回し、時に石の影で流星を防ぎ、魔鍵で受け止め、ただただ無心に回避に努めて接敵する意思だけを。――ざ、と防御を抜けて流星が腕を掠る痛みに息を噛んだ。
対峙する鏡像はリオネルの顔をじっと見詰めていた。其処此処で鳴り響く破砕音に紛れて、何か言っているのに声は聞こえない。けれど鏡像が動かした唇の動きは、厭に鮮明に見えて。
――『カ』『エ』『リ』『タ』『イ』――?
ドッペルゲンガーはリオネルを見て笑う。リオネルは、笑わない。
「君は俺じゃない。……俺じゃないだけだから、何がどうとか、無いよ」
妖精に近付く。この距離ならどちらも巻き込める。何も思わない。ダメージだって痛いだけだし。そう、痛いだけ。ただそれだけだから――。
「……大丈夫」
口にすることで確信に変える。望みを問い続けるあの蒼ごと、もう一人に流星を降らすだけ。
きらきらと尾を引きながら流星が歌う。
七彩を七彩が塗り潰していく。何もかもが星によってあるべき姿に還されて、その形を崩していく。
それはあの日の光によく似ていた。
記憶に焼きついた透明な色を眼裏で描くように、リオネルは目を閉じる。
大成功
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