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アルダワ魔王戦争1-E~命儚き、戀せよ諸君

#アルダワ魔法学園 #戦争 #アルダワ魔王戦争

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●恋する人形乙女
 魔王戦争が繰り広げられている迷宮の奥。
 其処には『心奪いのキノコ森』と呼ばれる区域がある。
 赤と青、白や黒の縞や水玉模様などの不思議な色や形をしたキノコが群生する一画。其処には現在、何者も通さんとして立ち塞がる災魔の姿があったの、だが――。

「はわああ、マスターだいしゅき❤」
 噴き出すキノコの胞子に当てられ、冥想のパンセと呼ばれる災魔は過去に想いを馳せていた。マスターと呼んでいるのは嘗ての創造主。ミレナリィドールとして自分を生み出した人形師のことなのだろう。
「僕を創ってくれたマスター💖 あのヒトを想うと切ないけどドキドキしちゃう💗」
 普段はそんなことを言う災魔ではないのだが、今は別。
 心奪いと云われるキノコの力は強く、恋心が全面に押し出されるようになっているらしい。瞳の奥にハートが宿るほどに恋の想いが強くなる。
「はぁ……大好き。また会いたいなぁ……💕」
 恋を想い、恋に浸る。そう、此処はそういった破茶滅茶な場所なのだ。

●惑わせの森へ
「……あやつめ、キノコなどに惑わされておるのか」
 迷宮に災魔が巣食っているのが見えたと告げ、溜め息をついたのはグリモア猟兵のひとりである鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)だ。
 敵として予知されたのは冥想のパンセという災魔であり、エチカの宿敵だ。
 しかし、そんなことなど気にしなくていいと語った少女は仲間達に願う。
「妖しい場所ではあるが、災魔を放っておくといずれ魔法学園の方にも被害が出てしまうでのう。すまんが行って倒して来て欲しいのじゃ!」
 頼むぞ、と告げたエチカは戦場となるキノコの森の詳しい状況を説明していいく。

「其処ではキノコの胞子に満ちておる。それが或る感情を増幅させるのじゃ」
 それは恋心。
 その人の心の内に宿る恋の感情が自然と表に出てきてしまう。
 それゆえに通常の戦いは難しくなるだろう。もちろん感情を押さえつけることも不可能ではないのだが、多大な精神力が必要となる。そのまま普通に戦っては勝ち目がないので敢えて感情を爆発させるのが良い。
「なあに、少し恥ずかしいかもしれぬが簡単じゃ。ひとりで『好きなのじゃ~!!』と虚空に叫ぶもよし、ふたりで『大好き♥』と恋心を伝え合うもよし。いま恋をしていない者は嘗ての恋心に想いを馳せてもいいかもしれぬのう」
 ひたすらに明るくなるか、しんみりとするかは人それぞれ。
 とにかく自分が抱く恋をおもいきり自覚して、想いの裡をぶつけてくればいい。
「頑張るのじゃぞ、皆」
 そうしてエチカは迷宮への転送陣を紡ぎ、森へ赴く者達を見送った。


犬塚ひなこ
 こちらは『アルダワ魔王戦争』のシナリオです。

 プレイング受付開始は🌸【2月8日 8:31~】🌸となります。
 それ以前に来たプレイングは採用できかねますのでご注意ください。
 また、こちらは早期完結を目指しております。そのため採用は少人数となります。早期にプレイング受付を締め切ることや、力及ばずプレイングをお返しすることもございますので、ご了承の上でご参加いただけると幸いです。

●概要
 心を惑わせるキノコが群生する一帯。
 此処に入った人は敵味方関係なく、『恋心』が増幅させられてしまいます。
 感情を押さえつける事も不可能ではありませんが、その為には多大な精神力が必要となる為、戦闘行動を行うのが難しくなり失敗判定になってしまいます。
 とにかく全力で恋心を語ってください。

●プレイングボーナス
『恋心の感情を爆発させる』

 幼い頃の初恋、今の片思いの感情、恋人さん同士の惚気、終わってしまった恋、恋を知らないけれど恋に恋する気持ちなど、恋に関係する思いをどーんと語ってください。
 そうするとキノコがどかーんとなってばーんと解決します。
 恋心に全力でしたら戦闘行動は一行程度で大丈夫です。むしろそれが良いです。難しいことは考えなくてもいいので恋に全力投球でどうぞ!
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第1章 ボス戦 『冥想のパンセ』

POW   :    断章の花
【開いた魔導書から散る花の幻影】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    観想の星
【敵意を込めた視線】を向けた対象に、【流星の如く突撃する魂】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    鏡鳴の魂
対象の攻撃を軽減する【魂の鏡を展開。魂は対象と同じ姿】に変身しつつ、【相手と同じユーベルコード】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鴛海・エチカです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

薬袋・桜夜
忘れたはずの想いが沸々と熱を上げ甦る
遠い日に告げる事なく握り潰された淡い戀
名前も顔も覚えていないあの人に――確かに戀をしていた

いや、違うな…
お前様が今でも愛しい、戀しいとさえ思う

不思議なものよな
あの時に言えていれば――
っは、今更タラレバを言うても仕方あるまいに

それでも…想わずに言わずに、いられないのだ

戀とはそうゆうものであろう?

己を両腕で抱き身を浮かせるとオーラの花弁で身を守る
「泪」の指先から縹色の淡い光の泡が零れ落ち
春風に運ばれ嘆く心の涙が突き刺す

好きだ、好きなのだ
愛しておったのだ
嗚呼、あの時…お前様に――連れ去って欲しかった
共に行きたかった…っ!

たった一つの悲痛な願い
「花筏」に乗せ流そう



●花筏
 ――戀。
 其れは未だ識らぬもの。
 知ってはいるが、忘れ去ってしまったものだった。いま、此の刻までは。
 
「……そうか」
 忘却の果てに消えたはずの想いが熱をあげ、桜夜の裡に蘇ってきた。
 迷宮にひしめく魔力のせいなのだろうか。魂の奥に眠っていた感情と僅かな記憶が、沸々と湧きあがってくる。
 あれは遠い、とても遠い日のこと。告げることなく握り潰された淡い想い。
 名前も、顔すら覚えていない彼の人に――嘗ての魂は戀をしていた。
「いや、違うな……我はお前様を……」
 していたのではない。
 しているのだ。今でも愛しい、戀しいとさえ思う心が残っていた。
 いま、共に日々を過ごす男からは薬の匂いがする。
 その香りにふと何かを思い出しそうになっていたのは、彼の人のことなのだろう。
 不思議なものよな、とそっと呟いた桜夜は自分の気持ちが不可思議に揺らめいていることを感じていた。
 胸に手を当て、考える。
 嗚呼、あの時に言えていれば――。
 その中で、っは、と自嘲めいた笑みが浮かぶ。今更、もしかしたらの可能性を考えても致し方ないことは理解していた。過ぎ去ってしまったことを、文字通りに過去と呼ぶ。それを消費することで自分達は未来に進んでいるというのに。
 けれども、彼のひとを想わずにはいられない。
「戀とはそうゆうものであろう?」
 誰とも無しに問いかけた桜夜は迷宮の天蓋を振り仰いだ。此処から遥か遠い場所で散った命と過去を思い、桜夜は己を両腕で掻き抱く。
 そして、ちいさな身体を浮かせると同時に花弁の防護で自分を守った。
 指先へ絡まる縹色。泪の彩が添えられた指先から淡い光の泡が零れ落ちてゆく。愛おしく切ない想いから溢れる涙の代わりの如く、光は揺蕩い揺れる。
 春風に運ばれ嘆く心の涙。
 それは嘗ての桜夜の想いを示すように周囲に広がっていった。
「好きだ、好きなのだ」
 愛していた。
 この身ではない己が、この身体ではなかった時の自分が。彼を愛し、骸の海から揺らめき浮かぶ存在になってまで、求めたひと。
「嗚呼、あの時……お前様に――連れ去って欲しかった。共に行きたかった……っ!」
 桜夜は思いの丈を言葉にする。
 されど、この言の葉はいずれ消える泡沫。誰にも聞かれぬことも知っている。
 たったひとつの悲痛な願い。
 掌をそっと掲げた桜夜は桜混じりの水塊を生み出し、空へと放り投げた。
 水と雫が散り、花が舞う。
 この花に乗せて流す想いは最早、何処にも届くことはないけれど――。
 それでも桜の人魚は、確かに戀をしていた。
 いまも、屹度。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
奥底から込み上げてくる
とても懐かしい、はじまりの温度
次いで訪れるのは胸を焦がし尽くす熱
あつくて、くるしくて
まるで獄炎が宿ったよう
なんていとおしい

――すき
嗚呼、溢れてとまらない
すき。すきなの
ナユの、戀したひと
ずうと探していた
ずうと探している

――ちがう
今はもう、ちがう
白雪が降り注ぐ場所で再会をした
あの聲を、温もりを、憶えている

あなたから甘受した“愛”
紫彩の瞳に浮かんだ金の円環
眸を瞑ればあなたがみえる
耳を澄ませば聲がきこえる
あなたの名を、喚んだならば
“眞白の望夢”
あなたは此処に舞い降りてくださる

あなたの彩を宿して薙ぎ払う
この胞子たちが消え去っても
何度だってあなたに捧ぐ

だいすきよ
ナユだけの『戀しひと』



●戀紅に結ぶ彩
 ひとつ、ふたつ、みっつ、歩を進める。
 そのたびに心の奥底から込み上げてくるのは甘やかな心地。
 とても懐かしい、はじまりの温度。
 七結は迷宮に揺らぐ魔力を感じ取りながら、胸元にそうと掌を添えた。
 次いで訪れるのは胸の奥を灼き尽くすかのような熱。
 それはとてもあつくて、くるしい。まるで燃え尽きぬ獄炎が宿ったように、心を焦がしていく熱さと感慨。
 嗚呼、なんていとおしい。
 指先を空に伸ばせば、想いが溢れてくる。
 ――すき。
 気持ちがとまらないのはこの迷宮に満たされた力の所為だと識っている。けれど、胸の裡に宿った想いは本当のもの。
 もとあった感情が昂るのだから、偽物であるはずがない。
「すき。すきなの。ナユの、戀したひと」
 言の葉に乗せ、懐うのはただひとり。たったひとりきりの、他ならぬ彼のひと。
 ずうと探していた。
 ずうと探している。
 思えば想うほどに切なく、愛しさが裡で揺らぐ。けれど、と七結は頭を緩く振った。
 探し続けて巡りを数えていたのは、少し前までのこと。
 ――ちがう。
 今はもう、ちがう。
 嘗て、和国で喪ったひと。石畳の向こう、朽ちた桜樹のもとで喰らったひと。
 果てた花の傍であかく別たれ、いつしか途切れ掛かっていた縁は、白雪が降り注ぐ場所でふたたび繋がって此処に在る。
 名前を呼んでくれた。
 あの聲を、温もりを、今も鮮明に憶えている。
「ナユは、今も戀しているわ」
 溢れても湧きいずる、この熱こそがその導べ。
 あなたから甘受した“愛”はいま、此処にひとつのかたちとして顕現している。胸に手を当てたまま双眸を細めた七結は、緩やかに瞼を閉じた。
 そうして瞳をひらけば、紫彩の瞳に浮かんだ金糸雀の円環が淡く煌めく。
 眸を瞑ればあなたの白がみえる。
 耳を澄ませば鈴鳴の聲がきこえる。
「――さま。ナユだけの、『かみさま』」
 “眞白の望夢”
 其の名を喚んだならば、あなたは此処に舞い降りてくださる。
 彼岸と此岸。白牙と白刃。
 ふたつの残華を手にした七結は彼のひとへの想いごと振り撒くように刃を振るった。回帰の双翼と揺蕩う夢幻の羽衣がやさしく揺らぎ、彩を宿す。
 薙ぎ払う一閃によって魔力が散らされ、胞子の影響が消し去られてゆく。
 然れど、想いだけは消えない。
 あなたが眦に鮮明な猩々緋を宿したように、この瞳に金糸雀の彩を秘めて、重ねて。
 何度だってあなたに捧ぐ。

 だいすきよ。
 ナユだけの『戀しひと』
 
 唯一、恋焦がれる神性。少女のかたちをした戀鬼は罪を抱く。
 此の戀心は甘い毒。
 けれども此れは――ただひとつの、祝愛の証。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

僕は櫻宵に戀してる

かつて誰も幸せにならない残酷な戀をしたと
君が誰に戀を捧げていても
僕に戀をくれなくても
それでもあいしてる
毎日毎時瞬く度に戀を重ねる
散っては咲く桜のように

怯えないで
大丈夫
怖くない
僕は死なない
櫻の戀が牙を剥いても
荒れ狂う愛が氾濫を起こしても
君の前からいなくならない
そばにいる

歌う「恋の歌」
君の躊躇いごと燃やすように歌い響かせる

柔く抱きしめ櫻龍を撫で口付けを
躊躇う理由も涙のわけもしっている
全部僕を想う愛故の
幸福だ

我儘で強慾な龍の戀…君の戀ごと愛するよ
僕も君が欲しいんだ
求めるのは同じ事
僕に戀を教えたように
今度は僕が君に戀を教えたい
一緒に咲かせよう
ずっと一緒に互いに戀して
生きるんだ


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

灼ける想い
渇望に慾が溢れる
私はもう戀などしない
リルへの想いは愛
戀ではいけない

全部茸のせい!

鬼姫にした戀
灼けて焦げて息が詰まり死に至るが如き戀
誰も幸せにならなかった戀物語
渇愛のまま喰らい私のものにした
甘い戀を渇望する
ダメ
怖いの
リルを殺してしまう
留めた愛が人魚が欲しいと狂う慾が氾濫する
すきと吹雪く戀心が抑えられない

哭華の桜を嵐となし
荒れ狂う様になぎ払い薄紅に塗り潰す

泣き縋れば人魚の優しい声に絆され
唇触れれば愛しく戀しく
噫ほしい
白い首筋に牙をたてようとしてやめる
甘い香りに眩暈がする

私はリルに戀してる

もっと戀を教えて
狂わせあなたで染めて
そすれば普通の恋ができる?
あなたを喰らうその前に
私を殺して



●瑠璃と櫻結
 溢れるのは慾。
 櫻宵の裡から湧きいずるのは渇望。
 灼ける、燒ける。胸の奥で燻っていく想い。
 迷宮に満ちる魔力は感情を増幅させる。此れは戀心。紛れもない、ひとつの胸懐。
 ――私はもう戀などしない。
 誓っていたはずの思いが櫻宵の中で大きく揺らぎそうになった。
 リルへの想いは愛なのだと言い聞かせる。決して、戀ではいけないのだと。
 全部、全部、茸のせい。
 迷宮の仕掛けに罪を御仕着せてしまいそうになるが、櫻宵とて理解している。
 零には何を掛けても零。しかし今の櫻宵は己の感情が揺さぶられ、増幅させられていると自覚している。
 それならば、この胸に宿る気持ちの在り処は――?

 不可思議な迷宮の中。
 リルは魔力に当てられても、自分の思いが然程変わっていないと気付いた。
 何故なら、この想いは常に抱き続けているもの。迷宮の罠がその心を増やしたとしても、なんにも怖いことはない。だって、いつだって恋い焦がれているから。あまりの愛おしさから、初めて自ら彼に傷を刻んだほどに――。
 リルは俯く櫻宵の傍に游ぎ寄り、そっとその顔を覗き込んだ。
 櫻宵はリルが隣に訪れたことに気付いていた。しかし、すぐに顔をあげることはできずにいる。いつもなら愛しの人魚に微笑みかけられるというのに。
 思い返すのは、鬼姫に懐いた戀。
 真に手に入らぬならば喰らってでも総て己のものにしたいと願った感情。燃え尽きることすら赦されず、灼けて焦げて。息が詰まり、死に至るが如き煉獄と呼ぶに相応しい、誰も幸せにならなかった戀物語。
 歪む愛のままに手にした結末は甘く麗しい。
 だから渇望する。
 あのときと同じ甘さを。あの瞬間に感じた昂揚と愛おしさを、今も。
「…………」
 そう、このままではリルを殺してしまう。
 櫻宵は押し黙り、感情を押し込めようとする。留めた愛が、人魚が欲しいと狂う慾が氾濫する前に、己に戀ではないと言い聞かせる。
 すき。
 好き、好きで好きで好きで堪らない。吹雪く戀心が、今は抑えられない。
 櫻宵は耐えている。
 その横顔を見つめるリルは穏やかに微笑む。
 大丈夫。そう語るような笑みだ。
 かつて、このひとが誰も幸せにならない残酷な戀をしたと知っている。だから恋をしてくれないのだと、代わりにただひたすらに愛してくれているのだと解っていた。
「ねぇ、櫻」
 リルは胸に宿る想いを言の葉に乗せる。
 櫻宵にしか聞こえない、聴かせない聲で、静かに語る。
 君が誰に戀を捧げていても、僕に戀をくれなくても、それでも。
「あいしてる」
 この気持ちは毎日、毎時、瞬く度に彩をくれる。散っては咲く桜のように、ずっと。
 しかし、僅かに顔をあげた櫻宵は首を振る。
「……ダメ、怖いの」
 怖いというのに焦がれる。焦れていることが怖い。その不安が、彼の眦や微かに震える腕から感じ取れた。
 怯えないで、と告げたリルは何も恐くはないのだと耳元で囁く。櫻宵は嘗ての戀のように死で総てを終わらせることが恐ろしいのだと感じているようだ。
 けれど、過去と同じなんかじゃない。同じであって堪るかとすらリルは思う。
「僕は死なないよ」
 たとえ櫻の戀が牙を剥いても、荒れ狂う愛が氾濫を起こしても。その慾ごと包み込んでしまいたいと伝え、リルはそっと腕を伸ばす。
「君の前からいなくならない」
 そばにいる。
 言の葉を真実だと伝えるべく、リルは櫻宵を抱き寄せた。
「……リル」
 自分の名を呼ぶ櫻龍を柔く抱きしめて撫でたリルは、口付けをひとつ落とす。泣き縋るようにリルの腕に抱かれた櫻宵は、揺るぎない戀を謡う聲に安らぎを覚えた。
 触れた唇の感触。それはただ愛しくて、戀しくて――。
 噫、ほしい。
 櫻宵は衝動の儘に、近付いた人魚の白い首筋に牙をたてようとした。だが、其処から香る甘い香りに眩暈がした気がして頭を振る。
 これでは、あの戀と同じ。
 躊躇う様子の櫻宵が抱く複雑な理由も、眦に浮かんだ涙のわけもリルは知っていた。
 それはすべて、自分を想うが故の愛。
 幸福だ。幸せで、幸せで、泡になって散ったりなどできやしない。
 リルが微笑めば櫻宵も涙を指先で拭う。共に想いあう心を重ねたからこそ、この気持ちの在り処がいまは確りと解っている。
 
 僕は、櫻宵に戀してる。
 私は、リルに戀してる。
 
 自覚してしまえばそれはもう何より簡単なことで、ふたりの間に笑みが咲く。
 櫻宵はリルを抱き締め返しながら先程の口付けのお返しを落とした。
 そして、希う。
「もっと戀を教えて」
 狂わせて、あなたで染めて。そうすれば普通の恋ができるかしら。
 あなたを喰らう、その前に――。
「僕も君が欲しいんだ」
 我儘で強慾な龍の戀に向け、君の戀ごと愛したいのだとリルは告げ返す。
 求めるのは同じこと。
 僕に戀を教えたように今度は僕が君に戀を教えて、一緒に咲かせ続けよう。
(ずっと、ずっと。互いに戀して、生きて、それから)
(私を殺して)
 リルと櫻宵。ふたりが互いに抱く思いは告げられることはなかった。それでも今は、この迷宮の惑いを抜けることから始めなければならない。
「行きましょう、リル」
「うん。櫻の傍に、いるよ」
 櫻宵が屠桜を掲げ、哭華の桜を嵐と成す。
 リルは恋焦がれる想いを歌に籠め、灼熱の炎を拡げる。躊躇いごと、迷いごと燃やし尽くすように響かせる歌と花の嵐。
 重なりあうふたつの想いと彩は辺りを薄紅に塗り潰していった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荻原・志桜
恋心を増幅?
爆発させる…??
な、なんて恐ろしいキノコ…

咄嗟に吸わないよう口元を抑えるが既に遅いような
だってまだ秘めておこうと思っていた
彼への想いが溢れそうになっている

…わかってるもん
ずっと一緒に居たいし甘えたいし、
他の誰かじゃなくて、わたしを好きでいてほしい
もしかしたらって期待することもあるけど
だけど彼は誰にだって優しいから

…あの人は悪くない
だが理不尽だと解っていてもギリッと歯を食いしばる
ちょっとぐらい、気付いてよ…!察してよ!
気付いててああなのかもしれないけど!
いつもいつもわたしで遊ぶくせにいいいいい!!!

完全なる八つ当たり
杖に魔力を込めて、いや魔力以外にも色々込めて
撃てる限りの炸裂弾を放つ



●桜の開花は
 胸が高鳴り、鼓動が早くなる。
 迷宮の不思議な茸の魔力は恋心を増幅させ、爆発させるという何とも怪しいもの。
(いけない、このままだと惑わされちゃう!)
 志桜は咄嗟に息を止め、胞子を吸わないように口元を押さえる。
 しかし時既に遅し。胸の奥が苦しくなったのは呼吸が続かなかったこともあるが、完全にこの迷宮の魔力に当てられてしまったからでもある。
「な、なんて恐ろしいキノコ……」
 ぷは、と息を吐いた志桜は思わず桜色と白の斑模様の巨大茸に凭れ掛かった。何処にいっても胞子の魔力が満ちているなら、どの場所にいようが今更だ。
「どうしよう……」
 鼓動はずっと早鐘を打っていた。
 まだ秘めておこうと思っていた彼への想いが溢れそうになっている。
 すると志桜の近くに冥想のパンセが現れ、くすくすと笑いながら話しかけてきた。
「君も僕と同じで恋する乙女だね!」
「そ、そんなこと……ううん。そう、かも」
「恋って不思議だよね。胸がきゅーんとして、焦るような気持ちになっちゃう!」
 相手が攻撃してくる気配はなく、恋の熱に浮かされている様子だ。志桜は災魔の語ることが分かる気がしてそっと頷く。
 志桜とパンセは茸の影に座り、想い人について語っていく。
「うん……。ずっと一緒に居たいし甘えたいし、他の誰かじゃなくて――」
 わたしを好きでいてほしい。
 もしかしたら、と期待することもある。けれど彼は誰にだって優しいから、分からなくなることだってあった。
「そっか、相手の気持ちが掴めないんだね」
「……あの人は悪くないよ」
 志桜は首をふるふると横に振る。しかし湧きあがる想いは抑えきれない。
 こう思うことが理不尽だと解っていても言わずにはいられない。そして、志桜は溢れそうになる思いの丈を声に出した。
「ちょっとぐらい、気付いてよ……! 察してよ!」
「そうだそうだ、察して! 僕のマスターも鈍かった!」
「気付いててああなのかもしれないけど! 好きっていってくれるけど曖昧! いつもいつもわたしで遊ぶくせにいいいいい!!!」
「あははは!」
 全力で思いの丈を言葉にする志桜に対し、恋話モードのパンセが楽しげに笑う。
 彼女も自分のマスターを想っているらしく、わかるよ、なんて相槌を打っていた。志桜が胸元を押さえて息を整えていると、不意にパンセが或る提案をする。
「じゃあ思いきって押し倒しちゃえ!」
「えっ、押し……!?」
 かなり大胆なことをいうパンセに驚いた志桜は我に返った。そうだ、相手は災魔だ。少しばかり一緒に恋話をしてしまったが、倒すべき敵であることは変わらない。
「大丈夫、君の可愛さならイチコロだよきっと」
「か、可愛い? でも無理。ダメだよ、そんなこと」
「案ずるより産むが易しだよ!」
 ついその先を想像してしまい、頬が真っ赤に染まっていくのが自分でもわかった。志桜は櫻の杖をぎゅっと握り、いけないと首を振る。そして――。
「とにかく、ダメなものはダメえええ!!!」
 振るわれたのは完全なる八つ当たり。
 杖に魔力とその他に色々とたくさんの感情と鬱憤を込めて、撃てる限りの炸裂弾を全力で放った志桜は周囲の茸ごと災魔を穿った。わあーっと悲鳴があがってパンセが遠くに飛ばされていったが、志桜はそれどころではない。
「まだ不思議な気持ち……」
 両手で頬を押さえた志桜はゆっくりと息を吐く。
 茸は見事に消し飛んだが、胸の高鳴りと想いは暫く収まってくれそうになかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
のわっ!予想以上に胞子がすごい…!
パンセ!?なんか変になってないか!?
うっ…なんか俺も変な気分に…

ほんとは恥ずかしくて言えないけど、すごくすごく好きなのだ
でも俺のこと子供扱いするし、もっと進展したいと思ってるし…
うーっ…!!好き…なんでこんなに好きなのだろう…
でも恋って理屈じゃないと思うのだ!そうだろう?
好きって気持ちはこう…突然来る衝撃みたいなものだ!

俺があの人の何が好きって
やっぱりとても優しいくて気遣いが上手なのに、大人の余裕があって俺のことちょっと意地悪してくるところだな…
意地悪されるの実は嫌いじゃない、好きって言うかむしろどんどんやってくれていいくらい!
わーっ!(UCでとりあえず叩く)



●好きの気持ち
 朦々と広がる胞子と魔力。
 水玉模様の茸を避け、迷宮の奥に進んでいたヴァーリャは思わず飛び退く。
「のわっ!」
「わあー!」
 その理由は上空から突然、冥想のパンセが降ってきたからだ。おそらく別の猟兵の攻撃を受けて飛ばされてきたのだろう。
 そして、彼女が茸の傍に落ちたことで胞子が更に舞いあがってしまう。
「うわ、予想以上に胞子がすごい……!」
「はわわわ、きゅんきゅんするよお❤」
「パンセ、なんか変になってないか!? うっ……なんか俺も妙な気分に……」
 眩むような感覚を覚えたヴァーリャはその場に蹲った。
 そのままぺたんと座り込み、胸を押さえたヴァーリャ。いつしか頭の中は彼のことでいっぱいになっていた。
 その隣にはいつのまにかパンセも座腰を下ろしており、はぁ、と溜息を零す。災魔の少女も胞子に当てられて恋する乙女モードになっているようだ。
「僕、好きな気持ちが抑えきれないよ……」
「ほんとなのだ。いつも恥ずかしくて言えないけど、すごくすごく好きなのだ」
「君の好きなひとはどんなひと?」
 一緒になって深い吐息を零したヴァーリャに対し、パンセが問いかける。いつしか二人は茸に背を預けて恋の話を重ねていった。
「すごく優しくて、たまに意地悪で……けど、いつも一緒に居たくて……」
「うんうん、分かるよ。傍に居たいよね」
「でも俺のこと子供扱いするし、もっと進展したいと思ってるし」
 赤く染まる頬に手を当てて話すヴァーリャにパンセは興味津々。ふふ、と笑った災魔の少女は更に問う。
「進展? もうキスはした?」
「それは……うーっ!!」
 目を瞑ってふるふると首を振ったヴァーリャは恥ずかしさに押し潰されそうになっていた。それでも裡から湧きあがる感情は心に不思議な熱を宿す。
「好き……なんでこんなに好きなのだろう」
「僕もわかんないや。マスターのこと、好きだけど……どうしてなのかな」
 ヴァーリャがぽつりと落とした言葉に頷き、パンセも遠くを見つめた。ヴァーリャはその横顔を見遣る。本来は敵同士だが今は恋する乙女として同じ立場。切なげな少女の隣、ヴァーリャはぐっと掌を握って立ち上がる。
「でも恋って理屈じゃないと思うのだ! そうだろう?」
「大好きなのは考えても変わらないもんね!」
 するとパンセもヴァーリャに倣って腰を上げた。うむ、と答えたヴァーリャは胸の高鳴りを感じながら、もう一度彼を想う。
「好きって気持ちはこう……突然来る衝撃みたいなものだ!」
 あの日、あのとき。
 これを恋だと自覚したときから世界は変わった。それは言葉通りの衝撃であり、恋をしていなかったときの自分が思い出せないほど。
 そう思うと更に気持ちが溢れてくる。
「俺があの人の何が好きって、気遣いが上手なのに、大人の余裕があって俺のことをちょっとからかってくるところだな」
 彼に意地悪をされることは実は嫌いではない。
 相手が彼だからこそ好きだ。思えば思うほどに抱く思いが募り、ヴァーリャは普段なら言わないことを口にしてしまう。
「あれは反則なのだ。けど、寧ろどんどんやってくれていいくらい!」
「ふふっ、彼がすごく好きで堪らないんだね。ところでキスはもう――」
「わーっ!」
 しかし、パンセが再びあの話題を出したことでヴァーリャの頭は恥ずかしさで真っ白になってしまう。答えられない。いくら気持ちが昂ぶっていても、それだけは。
 気付いたときにはヴァーリャは鋭い蹴撃をパンセに放っていた。照れ隠しだ。
「えっ!? あわわ、わあー!」
「あっ、パンセー!!」
 勢いに押された災魔は大きなキノコにぶつかってバウンドしてしまい、遠くに吹き飛ばされていった。ヴァーリャは手を伸ばしたが、結局はその姿を見送ることしかできなかった。
 ひとり残されたヴァーリャは彼を想う気持ちが以前よりもっと深くなっていることを感じながら、そっと願う。
 ――どうか、彼といつまでも一緒に居られるように、と。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
う、え、あ、あ
うわ何ですか、ここの胞子……最悪ではないですか
いや誰が好きとか教える訳ないでしょう、初対面の相手に

ハレルヤの愛は重いんです
早世するのに軽々しく告白なんてできませんよ
私以上に至高の男は未来永劫現れないのに、
うっかり告白したら私が死んだ後の人生をつまらなく感じさせてしまいます

このハレルヤより長生きするそこそこいい男なら大量にいますから、
私の目の届かない所で幸せになってくれたら、もうそれで良いです
いや目の前で幸せになってくれてもいいんですけど
本当に立派ですよね、私は

は?マスターよりハレルヤの方が明らかに素敵でしょうが
やはり所詮はオブリビオン。一生分かり合えませんね
全力で【串刺し】します



●君を遺していくことは
 身体が妙な熱を宿している。
 胸が高鳴り、奥底から何かが湧きあがってくるような感覚。
「う、え、あ、あ」
 晴夜は思わず素頓狂な声を出してしまい、すぐに口元を押さえる。何ですかこの気持ちは、と首を振った彼は周囲に漂う胞子を見遣った。
 十中八九、この魔力を含んだ茸の所為だ。間違いなくこれでしかない。
「うわここの胞子……最悪ではないですか」
「すごいよね、この森!」
 晴夜が肩を竦めていると、何処からか災魔が現れてくすくすと笑った。彼女が冥想のパンセなのだと察した晴夜は身構える。
 だが、相手も胞子にやられて恋心を増幅させられているようで襲っては来ない。
「君はどんなひとに恋をしているの?」
「いや誰が好きとか教える訳ないでしょう、初対面の相手に」
「初対面だから言えちゃうこともあるよ。知り合いに言う方が重くない?」
「確かにそうです、が……」
 軽くあしらった心算の晴夜だが、パンセは気にせずからかい気味に笑う。はっとした晴夜は相手にペースが乱されそうになっていることに気付き、このままではいけないと自分を律した。
「いえ、このハレルヤの愛はもとより重いんです」
「それはどうして?」
 きょとんとした表情で見つめてくる災魔から視線を逸らし、晴夜は咳払いをする。
 駄目だ、溢れてくる気持ちを抑えきれそうにない。思えばこの感情を抑制すればするほど、精神的苦痛が訪れるのだっただろうか。
 それゆえに言葉でだけでも語るしかないとして、晴夜は口をひらく。
「早世するのに軽々しく告白なんてできませんよ」
 晴夜は人狼だ。
 他と比べて寿命が短いとされる存在である。それだけではなくこの身は戦いの中にあることが多い。いつ命を奪われるか分からぬうえ、生き延びたとしても寿命が――命の灯がいつ消えるとも知れぬ身。
「どゆこと?」
「私以上に至高の男は未来永劫現れないのに、うっかり告白したら私が死んだ後の人生をつまらなく感じさせてしまいます」
 不思議そうに首を傾げるパンセの傍ら、晴夜は何度も頷いてみせる。その姿はまるで、そう語ることによって自分に言い聞かせているようだ。
「ふぅん、でもそれで良いのかな」
 災魔はどうにも腑に落ちない様子で告げる。
 それなら死んだ後も想ってもらえるということ。だから告白をしない理由にはなってないよ、とでも言いたげだ。
 しかしそれはパンセの意見であり、晴夜の思いとは全く別のもの。
「世の中にはこのハレルヤより長生きするそこそこいい男なら大量にいますからね。私の目の届かない所で幸せになってくれたら、もうそれで良いです」
「つまり身を引く恋だね!」
「いや目の前で幸せになってくれてもいいんですけど」
「うんうん、どうせなら見ていたいよね。でもきっとすごく辛いよ?」
「それでもいいんです。本当に立派ですよね、私は」
 パンセの指摘も尤もだが、晴夜はふふん、と胸を張ってみせることで誤魔化した。好きであることを認めているからこそ身を引く恋もある。それが己の本当の心と相反していようといまいと、未だ告げるつもりはない。
 しかし、魔力によって増幅された恋心に押し潰されてしまいそうだ。
 晴夜は自分の裡が想いでいっぱいになっていくことを感じながら、すべては茸の所為でしかないのだと断じる。
 そんな中、パンセが再びくすくすと笑った。
「ふふ。立派だね。でもでも、僕のマスターの方が素敵だから!」
「は?」
 語られたのは災魔の惚気。晴夜の耳がぴくりと動いて、不機嫌そうに伏せられた。
「ハレルヤの方が明らかに素敵でしょうが」
「え? マスターの方がかっこいいもん!」
「このハレルヤ、可愛い系だとは自覚しておりますが素敵さで負ける気はありません」
 何故か対立する晴夜とパンセ。
 途端に戦いの火蓋が切られ、災魔が流星の如き魔力を解き放った。
「こうなったら全面戦争だよ!」
「やはり所詮はオブリビオン。一生分かり合えませんね」
 晴夜はそれを見事に躱し、悪食の刃で以て相手を突き刺す。鋭い一閃を避けようと後退した災魔。だが、その後ろにあったのは弾力のある茸で――。
「わあー!?」
 哀れ、パンセはそのまま遠いところに飛ばされていった。まあいいでしょう、と敢えて追わずにおいた晴夜は刃を仕舞い込む。
「……本当に、重いですね」
 ふと呟いた言の葉は誰にも聞かれることなく迷宮の中に沈んだ。
 恋う欲求は強く、強く――。まだ暫し、この想いは消えてくれそうにない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
あの子は大切なひとだ
俺を救ってくれた
居場所を、あたたかさをくれた大切なひと

誰より傍に居たいと思っていたし
この手で守りたいと思っていた
…手合せでは、負けてばかりだったけど

けど今あなたは此処にいない
探しても探してもまだ隠れたまま
姿見せるのは幻の中だけ

朔様
朔様
──朔

逢いたいよ
あなたに話したい事が沢山あるんだ
教えたい事、会わせたい人達、沢山
強くもなったよ、また手合せをしよう
今度は絶対俺が勝つから

桜の便りが届くのならば
どうかあなたの元へ
──伝えたい事が、あるんだ

「──  、」

言いかけた言葉はぐっと呑み込む
胞子で増した感情から零れた言葉なんて情けないから
いつかまた、あなたと逢えた時まで桜の夢に隠しておこう



●桜に託す
 この領域に足を踏み入れたとき、想いが裡から溢れてきた。
 黒羽が思い浮かべたのは――あの子。
 とても、とても。今も大事に想っているひと。
(俺を救ってくれた。居場所を、あたたかさをくれた大切な、ひと)
 胸元に手を当て、黒羽は思い返す。
 この迷宮に満ちる茸の魔力の所為なのだろう。胸の奥を衝く、まるで恋煩いのような痛みが裡に巡っていた。
「朔、様」
 気付けば黒羽は自然とその名を呼んでいた。
 誰より傍に居たい。
 この手で守りたい。
 あの日、あの頃に抱いていた思いが蘇ってくる。今も奥底に眠っていた感情が押し出されているのだと気付いたが、黒羽にはどうすることも出来なかった。
 そういえば、手合せでは負けてばかりだった。当時は苦かった記憶すらも今は懐かしくて妙にいとおしい。
 きっと、己の想いは普段以上に増幅させられているのだろう。
 それでもこの気持ちは止められない。止めてはいけない。けれど――。
 今、あなたは此処にいない。
 探しても探してもまだ隠れたままで、姿を見せるのは幻の中だけ。
「朔様」
 次は先程よりもはっきりと、その名を口にする。
 逢いたいよ。
 あなたに話したいことがたくさんある。
 教えたいこと、会わせたい人達も、たくさん、たくさん。
 恋しいと懐うのは魔力の所為。逢いたくて堪らないと感じるのだって、心が惑わされているからだ。だが、この思いの根源は確かに自分の中にあるもの。
 強くもなったよ、また手合せをしよう。
 今度は絶対、俺が勝つから。
 心の中で語りかけた黒羽はあの子の姿を思い浮かべ、ふたたび口をひらく。
「――朔」
 確かな言の葉を紡いだ黒羽の声は静かだが、並々ならぬ思いが宿っていた。
 そして、黒羽は天蓋を見上げる。
 閉じられた迷宮の空であっても、思うのはただひとつ。たったひとりのこと。
 この夢が、桜の便りが届くのならば。
 どうか、あなたの元へ。伝えたい事が、あるんだ。だから。

「――  、」

 言いかけた言葉は音にせずに呑み込み、黒羽は口を噤む。
 胞子で増した感情から零れた言葉なんてきっと、届いたとしても情けないから。
 いつかまた、そのときまで。
 あなたと逢えるときまで、この桜の夢に隠しておこう。
 ひそかに誓いを抱いた黒羽は周囲に満ちる魔力へと変えた。その力は不可思議に揺らぐ茸達を巻き込みながら迸り――そして、辺りに桜の彩を宿す風が巡った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリヴァー・ジャック
連携・アドリブ歓迎。

膨れ上がる想い。
此処には居ない女が愛おしくて仕方ない。

傅こう。俺のお姫様。
真紅の瞳に俺だけを映してくれるなら何でも出来る。


これを恋と呼ばずして何と呼ぶ?


鱗のある半端な足には枷を嵌めよう。泳げない足は要らないだろう?
吸血出来ない牙は俺が埋めてやろう。血なら幾らでも。俺の与えるものだけで生きればいい。
漆黒の檻より漆黒の尻尾の中。優しい牢獄。お前も気に入ってくれるだろう?

刻印を刻んで二度と逃しはしない。澄んだ淫靡な天啓の声が叫ぶなら、さぞ心地良い。
嗚呼、嗚呼!愛してる!

お前が白百合に心を奪われるなら俺は黒百合で塗り潰そう。
【血の黒舞】
恋路の邪魔するヤツは狐に噛まれるぜ?なんてな。



●ただ、彼女の為に
 迷宮に満ちる恋心を増幅させる胞子の魔力。
 抗おうにも振り払うことは出来ず、オリヴァーの胸には深い思いが巡る。
 膨れあがっていく感情。
 想いは強く、誰にも負けたくないという考えが頭の中に広がっていく。
 今、この心の裡を伝えるべき相手は此処にはいない。しかし彼女のことが堪らなく愛おしくて仕方がなくなる。
 この感情の根源は確かに、常に心の中にある。
「俺のお姫様――」
 彼女を思ったオリヴァーはそっと思いを言葉にした。
 オリヴァーは彼女に傅きたいとすら思っている。彼女が姫ならば、己は其処に忠誠を誓う者。否、それ以上の思いを誓いたいとまで思ってしまう。
 この気持ちはきっと一時的に増幅させられているだけなのだろう。
 だが、それでも。
 真紅の瞳に自分だけを映してくれるなら何でも出来るとさえ思えた。
 これを恋と呼ばずして何と呼ぶのか。
「嗚呼……」
 彼女の姿を思い、オリヴァーはその隣に自分が立っている光景を想像する。
 こんな不可思議な茸の森ではない。
 彼女と自分に相応しい、深く昏い世界の舞台だ。

 鱗のある半端な足には枷を嵌めよう。
 そうだ、泳げない足などは要らないだろうから。
 吸血できない牙は自分が埋めてやろう。
 血なら幾らでも。己の与えるものだけで生きればいい。
 漆黒の檻より、漆黒の尻尾の中へ。
 それは優しい牢獄だ。お前もきっと、気に入ってくれるだろう。
 
 湧きいずる思いは彼女への、彼女のためだけに巡る感情のあらわれ。オリヴァーは強く拳を握り、溢れる思いを声にする。
「嗚呼、嗚呼! 愛してる!」
 刻印を刻んで、二度と逃しはしない。
 澄んだ淫靡な天啓の声が叫ぶならば、それが悲哀であってもさぞ心地良いだろう。
「お前が白百合に心を奪われるなら、俺は――黒百合で塗り潰そう」
 目を閉じ、扇を掲げたオリヴァー。
 その腕が振るわれた瞬間、黒百合の花弁が周囲に狂い咲き、魔法の茸を穿った。確かにこの魔力は愛おしさを溢れさせてくる。
 だが、自分の思いはこんなものに増やされなくとも、確かに此処に宿るもの。
「恋路の邪魔するヤツは狐に噛まれるぜ?」
 なんてな、と薄く笑ったオリヴァーの傍。それまで其処にあったはずの茸は崩れ落ち、瞬く間に跡形すらなくなっていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

戀鈴・イト
アドリブ◎

僕の愛し君
頭に浮かぶシアンの姿
心に満ちる狂おしい感情
胸をかきむしりたくなる激情

すき
すき
だいすき
シアン
僕の片割れ
華(僕)を華(僕)たらしめてくれる器
君が居てくれるから僕は生きていられる
持ち主のように
僕は君のお嫁さんになりたくて
夫婦になりたくて
でも、それは叶わない
僕は男で君も男

だけど好きなんだもの
これは恋
堕つる戀
硝子細工のような綺麗なもので形作られてはいない
僕を呼んでくれる君の声が好き
僕を受け止めてくれる君の優しさが好き
僕に触れてくれるあたたかい指先が好き
独り占めしたいの、シアン
僕に戀してよ

溢れる想いで戀刀を花弁に変え乱れ撃ち、光も共に
敵なんてどうでもいい
早く会いたい
シアンがこいしいよ



●いとしいとしといふこころ
 ――僕の、愛し君。
 愛しさと恋しさが溢れるほどに胸に満ちていく。
 こんなにも想いが募っていくのは、迷宮内に巡っている魔力の胞子のせいだとは理解していた。しかし、イトが抱く胸懐は紛れもなく、嘘偽りない本物だ。
 頭に浮かぶのは愛しいひと、シアンの姿。
 心に満ちる狂おしいほどの感情。
 それは同時に、胸をかきむしりたくなるほど激情でもある。
「……すき」
 溢れる思いを言葉にしてみれば更に気持ちが増えていった気がした。もとより数えられるような感情ではないからこそ、際限なく想いが巡っていく。
「すき、だいすき」
 シアン。
 己の片割れを思えば懐うほど、想いが重く重なっていった。
 華を華たらしめてくれる器。
 僕を、僕としていさせてくれる存在。
 硝子細工の花と器。それが自分達のかたちであり、未来永劫に変わらない関係。
 かつて自分達をつくった持ち主の夫婦は運命の赤い糸で結ばれていた。だから自分達もそう在りたいと願っている。
「シアン……君が居てくれるから、僕は生きていられる」
 自分が贈られたひと。
 持ち主のような綺麗で可愛いお嫁さんになりたいと思うのも、生まれた理由が其処にあるからだ。
 彼と彼女のような夫婦になりたい。
 でも、それは叶わないことも分かっている。世間から見れば普通じゃないなんて言われてしまうのだろう。
 けれど、だけど、それでも。
「好きなんだもの」
 他と違うからといって諦められるような思いなどではない。
 これは恋。
 堕つる戀。
 硝子細工のような綺麗なもので形作られてはいないと知っていても、止められない想いがこの裡に宿っている。
 僕を呼んでくれる君の声が好き。僕を受け止めてくれる君の優しさが好きで、僕に触れてくれるあたたかい指先が好きで、好きで――。
「独り占めしたいの、シアン」
 僕に戀してよ。
 零れてゆく思いはこんなところで言葉にするようなものではない。だから早く、一刻も早く此処から抜け出して彼のもとに向かいたかった。
 イトは溢れる想いを胸にいだき、硝子細工の刀を花弁へと変えた。指先は周囲の茸に向け、花と共に光を放つ。
 そうして、周囲の魔力が消し去られたことを確かめたイトは駆け出した。
 会いたい。
 シアンが何よりもこいしくて、いとおしいから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイクス・ライアー
深呼吸、
押さえつけるよりも、感情丸ごと声に乗せ
誰に聞かせるでもないがとくと聞け!

あーー、ああ、ああ、惚れてるとも!それの何が悪い!?(くそでかボイス)
太陽みたいに温くてわんころみたいに懐く奴が可愛くないわけがあるか!?ない!!!死ね!!
馬鹿みてぇな笑顔が、泣くみたいに笑う、そんなとこ見てほっとけるわけねェだろ!!
鋭いかと思ったら無神経で、ぶん殴りたくなる時もあるが!それでも隣にいたいんだよ!
アイツを幸せにしてやれるのは!私以外!!いない!!!!


何の罰ゲームで人前でこんなこと言わなきゃならんのだ!!!!死ねッッッッ!!!
(熱い、熱い!)

(もし遠くであいつの声が聞こえたら)
……声がでかいッ!


ダンド・スフィダンテ
「ええい!誰も聞いてくれるなよ!?」
「感情表現豊かでかわいい!笑顔もしゅんってした顔もかわいい!でも普段の澄ました顔も好き!全部まとめて顔が良い!ずるい!直ぐにキレるのはどうかと思うけど俺様は好きだぞ!」
まだ!?
「面倒見が良くて優しい!愚直な面も、自分に拘りがあるとこも、決めたら行動が早い上に中々人の話聞いてくれないとこも!欠点ではあると思うけど好きだ!」
頭が熔けるぞ!?
「戦う時の瞳がストイックに戦力を磨き続ける姿が丹念に研がれたナイフの様に美しくて好きだ!出来れば敵対したいくらい好きだが!!しかし言ったら絶対に怒られる!!」
殺して欲しいぐらいに好きだと、ギリギリ叫ばずに済んだ。あっっぶねぇぇ



●かたちあるもの
 迷宮内に朦々と満ちる胞子。
 息を止めても魔力的な効力が巡ると分かっているがゆえに抵抗はしない。
 そして、深呼吸をひとつ。
 ジェイクスは溢れそうになる思いを抑えるようなことは敢えてせず、すべて吐き出そうと決めていた。既に胸の裡も、頭の中も彼でいっぱいになっている。
 寧ろ、どうすれば押さえつけられるというのか。
 ならば感情を丸ごと声に乗せて放つのがいい。どうせ周囲に誰かがいても自分の思いに溺れそうになっているはずだ。主に自分のように。
 誰に聞かせるでもないが――とくと聞け、とジェイクスは声を張り上げる。
「あーー、ああ、ああ、惚れてるとも! それの何が悪い!?」
 自棄っぱちだ。
 それゆえのくそでかボイスだ。
 声は森に響いていくが、誰が聞いていようとも構わない。声の主が誰であるかなどわからないだろう。きっと、多分。
「太陽みたいに温くて、わんころみたいに懐く奴が可愛くないわけがあるか!? ない!!! 死ね!!」
 最後に不穏な言葉が飛び出したが、ジェイクスなりの照れ隠しだ。
 ずっと、自分達の関係がどんなものか探っていた。
 それが今ああして繋がった。呼び方はどんなものだっていい、その思いを確かめあってから思いが更に募っていく気がしていた。
「馬鹿みてぇな笑顔が、泣くみたいに笑う。そんなとこ見てほっとけるわけねェだろ!! 鋭いかと思ったら無神経で、ぶん殴りたくなる時もあるが!」
 ジェイクスは一度言葉を止め、呼吸を整える。
 一気に捲し立てたので喉がひりついていた。しかし、それ以上に言葉にしたい思いが次々と溢れ出てくる。声にしないわけにはいかない。
「それでも隣にいたいんだよ! アイツを幸せにしてやれるのは! 私以外!! いない!!! 断じて!!!!」
 ジェイクスは思いの丈を叫びきる。
 息を切らせた彼は大きく溜息を吐き、蹲った。
「……」
 勢いに任せて感情を爆発させたはいいが妙な後悔が巡っている。だが、一度勢いがついた思いは尽きることなく――。
「何の罰ゲームで人前でこんなこと言わなきゃならんのだ!! 死ねッッッ!!!」
 また不穏な言葉が飛び出す。
 しかしこれも彼なりの二度目の照れ隠しである。
 兎に角、熱い。熱くて堪らない。
 この胸を焦がす感情の正体は知っている。
 互いの思いを分かっている今だからこそ、もう止められなかった。

 同じ頃、ダンドもまた胞子の魔力に当てられていた。
 眩むような心地。
 湧き上がる感情の奥底に感じられたのが彼への思いだと分かれば、この気分も悪いものではないと思えた。
 だが、奥に進む度に思いが募って揺らいでいく。もう声にしなければ耐えきれないと感じたダンドはぐっと拳を握り、感情を爆発させることにした。
「ええい! 誰も聞いてくれるなよ!?」
 そんな前置きから紡がれていくのは、いつも以上に膨れあがった思い。
 息を吸い、そのままの勢いでダンドは叫ぶ。
「感情表現豊かでかわいい! 笑顔もしゅんってした顔もかわいい!」
 もう最高に可愛い。
 大人の魅力も持ち合わせているというのに、彼の人はとても可愛らしい。
 そんな思いがダンドの胸を満たしていく。
「でも普段の澄ました顔も好き! 全部まとめて顔が良い! ずるい!」
 だが、あの切れ長の眼差しもまた素晴らしく格好良いのだ。ダンドは彼のどちらの表情も好きで好きで堪らないと感じていた。
 それに、あの人はすぐに怒ってくる。思いを確かめあって関係に名前をつけたあの日だって、そう――。
「直ぐにキレるのはどうかと思うけど俺様は好きだぞ!」
 されどそれもまたいとおしい。
 感情を素直に表現してくれる相手が自分だと思うと余計に好きだと感じられる。
 はあ、と項垂れたダンド。
 肩で息をしながらも、まだまだ思いが募っていくのが分かった。
「まだ!?」
 魔力の胞子の力は衰えることを知らない。
 それならばもう自棄だと覚悟を決め、ダンドは思いっきり声をあげた。
「面倒見が良くて優しい! 愚直な面も、自分に拘りがあるとこも、決めたら行動が早い上に中々人の話聞いてくれないとこも! 欠点ではあると思うけど好きだ!」
 ああ、頭が熔けそうだ。
 それでもダンドは止めない。魔力のせいだと分かっていても止まらない。
「戦う時の瞳がストイックに戦力を磨き続ける姿が丹念に研がれたナイフの様に美しくて好きだ! 出来れば敵対したいくらい好きだが!!しかし、言ったら絶対に怒られるから言わない!!」
 ――殺して欲しいぐらいに好きだ。
 そんな思いはギリギリ、既のところで叫ばずに済んだ。
(あっっぶねぇぇ)
 ダンドはぜえぜえと息を吐き、胸に手を当てて俯いた。そのとき――。

「……声がでかいッ!!!!」

 離れた場所から聞き慣れた彼の声がして、ダンドはおかしそうに笑いはじめた。
 ああ、やっぱり好きだ、と。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グラナト・ラガルティハ
マクベス(f15930)と
恋心…な。
正直長く生きてはいるがまともに恋などしたことはなかったしマクベスが初恋と言うやつだろうとは思うのだが。
今の気持ちを恋心と言ってしまうのはどこか物足りぬ気はするが…恋をしていると言うのなら事実だしこの先もずっとマクベスに恋をしていたいものだな。
そうだな、私も愛しているよ愛しの青。
(愛おしそうにマクベスの髪を撫でて)
…こういうことでかまわないのだろうか?
上手くいったのならいいのだが。

災魔の方もかたをつけねばな…ではUC【業火の槍】だ。


マクベス・メインクーン
グラナトさん(f16720)と
恋心…?今更増幅されてもなぁ…
グラナトさんへの想いは
いつでもたくさん伝えてるしなっ

でもまぁ、本気で恋したのはグラナトさんが初めて…
だからオレの初恋だったし
これからも愛し続けるのはグラナトさんだけ
未来永劫、生まれ変わってもオレはグラナトさんに恋するよ
ずっと…愛してる、愛しい赤
(髪を撫でる手に自分の手を添えて自分の頬に)

うーん、いつも伝えてることだけど
こんな感じでいい良かった?
じゃあ、一気にぶっ飛ばそうぜっ!
小刀を持ち炎【属性攻撃】でUCを使用する



●炎のように燃える恋
「恋心……な」
 ふわふわとキノコの胞子が揺らぐ迷宮内。
 グラナトは不可思議な感覚をおぼえながら、己の気持ちが魔力によって増幅されていくことを察知していた。
 迷宮の力が作用して増えてゆくのは恋心。
 グラナトの隣を歩くマクベスも同様に違和を感じているらしいが、これまた不思議そうに首を傾げていた。
「恋心……? これ、今更増幅されてもなぁ」
「特に困ったことはないな」
「そうそう、グラナトさんへの想いはいつでもたくさん伝えてるしなっ」
 ね、とマクベスは彼の腕に自分の手を絡めた。
 頷いたグラナトも少年が寄りかかってくることを拒まず、その通りだと答える。
 グラナトは長くを生きてきた。だが、これまでまともに恋などしたことはなかったうえ、マクベス以外にこのような想いを抱いたこともない。
「これが初恋と言うやつだろうとは思うのだが……」
「ふふ、嬉しいな」
「そうだな。今の気持ちを恋心と言ってしまうのはどこか物足りぬ気はするが……恋をしていると言うのなら事実だ」
 そして、この先もずっとマクベスに恋をしていたい。
 グラナトが真っ直ぐな言葉を告げてくれたことで、マクベスの頬が淡く染まる。照れているのではなく、嬉しくて堪らないのだ。
「オレも本気で恋したのはグラナトさんが初めて……だからオレの初恋だった」
 互いに初めての恋をした。
 それがいま、こうして隣にいるという形で叶っている。
 妙な魔力は満ちているが、周囲に危険なものはない。いつしかふたりはキノコの傍に腰を下ろし、お互いをじっと見つめ合っていた。
「マクベス……」
「これからも愛し続けるのはグラナトさんだけだ」
 彼から名を呼ばれることはいつでもくすぐったくて、マクベスは双眸を細める。そして、甘えるようにグラナトに体重を預けた。
 自分と比べれば軽い身体が、全信頼を寄せて寄り添ってきてくれている。
 グラナトも微笑み、愛おしそうにマクベスの髪を撫でた。
「そうか、改めて知ると嬉しいものだ」
 その掌に頬を寄せたマクベスは更にぎゅっと彼にくっつく。恋の想いが募れば、愛おしさも更に重なっていく。
「未来永劫、生まれ変わってもオレはグラナトさんに恋するよ」
 そして、マクベスは髪を撫でてくれる手に自分の手を添えた。彼を見上げた少年は心からの想いを言葉へと変え、淡く笑む。
「ずっと……愛してる、愛しい赤」
「私も愛しているよ愛しの青」
 恋――否、愛を示す言葉を交わしあったふたり。
 視線が重なり、身体も更に深く重なっていく感覚が満ちる。暫し恋心に浸った彼らは手を握り合い、ゆっくりと立ち上がった。
「うーん、いつも伝えてることだけどこんな感じで良かった?」
「こういうことでかまわないのだろうか? 上手くいったのならいいのだが」
 首を傾げあったマクベスとグラナトは辺りを見渡し、胞子を振り撒くキノコを振り仰いだ。巨大ではあるが攻撃などはしてこない。
 ならば、後は邪魔にならぬよう排除していくだけだ。
「じゃあ、一気にぶっ飛ばそうぜっ!
「ああ。此方もかたをつけねばな……。では――」
 小刀を構えたマクベスが炎の力を紡げば、グラナトも業火の槍を顕現させてゆく。
 そして――ふたりが放った焔はキノコを貫き、跡形もなく燃やしていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネルウェザ・イェルドット
このキノコ持って帰るのは…ナシだよねぇ
いや別に好きと言って貰いたい訳でも
言って貰えない訳でもないのだけど
…先日言って貰ったのだけど

…私だって好きだよ好きなんだよ!
大切とか綺麗とかすぐ言ってくれるし
エスコートは完璧だし丁寧だし
…こんな私の手でも握ってくれるし

って私は何独り言を…!
…これは任務で仕事。切り替えないと
UC発動
車輪を模したバロックレギオンを召喚

こんな物で手足を轢かれ潰された事なんてあるかい?
…ま、無いよねぇ
何度も破壊されては魔力を注がれ再生を繰り返す地獄
その浮かれた頭に叩き込んでみようか

御守のアメシスト『桔梗の心』を握り深呼吸
大丈夫、大丈夫…
今は彼が認めてくれるし、守ってくれるのだから



●想いの守護石
「このキノコ持って帰るのは……ナシだよねぇ」
 恋心を増幅させる不思議なキノコを前にして、ネルウェザはちいさな溜息をつく。
 既に魔力に当てられている彼女が想うのは或る人のこと。
 普段からずっと想ってはいるのだが、いま此処に満ちる胞子の効力がネルウェザの胸をそのひとでいっぱいにしている。
 そして、考えているのはこの胞子をうまく外に持ち出せないかということ。
 これを利用すれば何かすごいことになる。そんな気がしたのだ。
 別に好きと言って貰いたい訳でも、言って貰えない訳でもない。それに――。
「……先日、言って貰ったのだけど」
 不満があるわけではない。
 故にキノコを持ち帰る話はちょっとした気の迷いと冗談だ。一応、半分くらいは。
 そして、ネルウェザはもう一度深い溜息をついた。
「私だって好きだよ好きなんだよ!」
 大切だとか綺麗だとか、嬉しい言葉をすぐに言ってくれる。
 エスコートも完璧で丁寧で、文句なんて何もあるはずがない。
「……こんな私の手でも握ってくれるし」
 あの日、手を取ってくれたことを思い出したネルウェザは暫しそっと自分の掌を見下ろす。きっと胞子の所為でもあるのだろう。気持ちが昂り、あのときの幸せな感覚を今もありありと思い出せるような気がした。
「って私は何独り言を……!」
 はっとしたネルウェザは顔をあげ、首を横に振る。
 恋心は抑え込み、今は別のことに集中しなければならないときだ。
「……これは任務で仕事。切り替えないと」
 自分に言い聞かせたネルウェザはユーベルコードを発動した。すると車輪の拷問器具を模したバロックレギオンが出現する。
 周囲に災魔の気配はない。
 ならば自分はただ迷惑な胞子を放つキノコを駆逐するだけだ。
 車輪が疾走り、キノコを抉る。
「こんな物で手足を轢かれ潰された事なんてあるかい? ……ま、無いよねぇ」
 キノコだし、と呟いたネルウェザは惑わされた鬱憤を晴らすようにバロックレギオンを解き放っていく。
 だが、ネルウェザは忘れていた。
 恋心の増幅に抗うには多大な精神力が必要であり、目を背けるほどに自身が疲弊するのだということを。キノコが散らされたとき、ネルウェザは膝をついていた。
 任務にだけ意識を向けるのは拙かった。
 しかし、しかと邪魔なものを取り除けたのは幸いだ。
 ネルウェザは御守のアメシスト――『桔梗の心』を握り、深呼吸をする。
「大丈夫、大丈夫……」
 息を吐き、ネルウェザは愛の守護石を見つめる。
 何も問題はない。今は彼が認めてくれるし、守ってくれているのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

スバル・ペンドリーノ
恋人の話!? あのねあのね、とっても可愛くて、でもすっごく優しいお姉さん! けど時々ちょーっぴり意地悪なの。こないだなんて、いつも血を吸ってる私へのお返しに、自分は飲むわけじゃないのにかぷかぷしてきてー、ゾクゾクしちゃって……あ、それとねそれとね、お姉さま。あ、3人で付き合ってるんだけどね、優しくて頼りになって……けど、とっっても可愛いのよ。この間なんて恋愛ドラマの真似して、顎クイっていうの? やってみせたら、真っ赤になって、期待するみたいに見てきてぇ。あ、普段はそこまでしないのよ? 姉妹だもの。キスするのが嫌なわけないしー、だからつい――そうそう、こんな感じで

・戦闘
今日はあんまり無敵じゃない



●愛しいふたり
 好き。好き、大好き。
 普段から溢れている感情が、今はいつも以上に大きくなっている。
 スバルは浮き立つような気持ちを抱きながら、不思議なキノコの森をゆく。
 はあ、とついた溜息は甘やかだ。
 何故なら、恋の想いは大好きで堪らない恋人達のことを強く思い返させてくれるからだ。この胞子はスバルにとっては危険なものではない。
 寧ろ、更に心を昂らせてくれる興味深くて面白いものだ。頬が緩んでいくのを堪えきれないスバル。
 そんな彼女のもとに、いつの間にか災魔の少女が近付いてきていた。
「恋する乙女サーチ! 発見! ねえねえ、君も誰かに恋をしているの?」
 冥想のパンセは攻撃などを行ってくる様子はなく、スバルに興味津々のようだ。
「恋人の話!?」
「聞かせて聞かせて!」
 スバルも敵意などは見せず、パンセの話に乗る。あっちのキノコの上が座りやすいよ、と告げた災魔に頷いたスバルはそちらについていった。
 そして、ピンクのキノコの上で少女達の恋バナタイムが始まってゆく。
「それで君の恋人は?」
「あのねあのね、とっても可愛くて、でもすっごく優しいお姉さん!」
「お姉さん? いいなあ、素敵!」
 スバルが嬉しそうに語る言葉をパンセはきらきらとした瞳で見つめている。
 褒められたことで誇らしそうに胸を張ったスバルは更に続ける。
「けど時々ちょーっぴり意地悪なの」
「悪い人なの?」
「ううん、全然! でもこないだなんて、いつも血を吸ってる私へのお返しに、自分は飲むわけじゃないのにかぷかぷしてきてー、ゾクゾクしちゃって……」
「わあ、大人の恋だ……」
 吸血事情にドキドキしている様子のパンセ。
 そのことを思い出して気持ちがふわふわしているスバル。
 二人の会話はまだまだ止まらない。
「あ、それとねそれとね、お姉さま。あ、三人で付き合ってるんだけどね」
「えっ、すごい! そういう恋もありなんだね」
「そうなの、それで二人とも優しいの。お姉さまは頼りになって……けど、とっっても可愛いのよ。この間なんて恋愛ドラマの真似して、顎クイっていうの?」
「あごくい……?」
「こうやってね、こう。それをやってみせたら、真っ赤になって、期待するみたいに見てきてぇ。あ、普段はそこまでしないのよ? 姉妹だもの」
「君、すごい生活をしてるんだね……」
「キスするのが嫌なわけないしー、だからつい――そうそう、こんな感じで」
 パンセが驚く中、スバルは姉を想う。
 すると其処でユーベルコードが発動し、姉の幻影がパンセとスバルの間に割り込むように出現した。
 ちょうど顎クイの実演をしていた最中だったからもう大変だ。
 ――大事な妹に手を出さないで。
「えっ、えええっ! 僕まだ何もしてな……わあーっ!?」
 幻影は災魔であるパンセを敵と見做したのか、一瞬でその身体をなんやかんやで吹き飛ばしてしまった。哀れ、パンセはきらーんと光って何処か遠くに消えていく。
「お姉さま……ふふ、心配しないでもいいのに」
 幻影でもやっぱり姉は姉だ。
 頬に両手を添えて照れるスバルはとても、とても幸せそうに微笑んだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

レフティ・リトルキャット
※詠唱省略やアドリブOK
またキノコの森…!(迷い猫)今度はどんな災難が…うにゃ?。
大好き?想う?…そりゃレフティだって、ただ悪戯のつもりだったのに。にゃんか押せ押せで戸惑い、物語によくある呪いを解く手段(キス)まで実行してきて……はじめてって、そんな。子猫の時とフェアリーの時は別カウントで考えてくれた方がお互い幸せなのに。どちらも一つとしてみてくれるのにゃ。(呪いのオーラ防御を纏い、悩む様にごろんごろんと転がり回避)
倒れ心配してくれた日もあったにゃあ……ねぇ好きになっていいと思う?期待の眼差しを向け図らずも【猫ラブへのいざない】条件発動)
帰還などで我に返れば壮絶に悶絶。記録抹消…!(にゃああ)



●子猫妖精の悶絶
「またキノコの森……!」
 迷い猫こと、レフティは胞子が満ちる迷宮に辿り着いていた。きょろきょろと辺りを見渡すレフティは警戒を強める。
「今度はどんな災難が待ち受けて……うにゃ?」
 すると、途端に不思議な感情がレフティの裡に生まれていった。
 好き。大好き。
 そんな思いがぐるぐると頭や胸の中に駆け巡っていく。
「想う気持ちが溢れるにゃ……」
 思い浮かぶのは少なからず好きだと感じている相手のこと。
 うにゃうにゃとその場に蹲ってしまったレフティは浮かんでくる思いを言葉にするしかなかった。胞子の所為なのだが、恋心がかなり増幅させられている。
「そりゃレフティだって、ただ悪戯のつもりだったのに」
 にゃう、と声が溢れた。
 押せ押せで戸惑った記憶。そして、物語によくある呪いを解く手段――キスまで実行してきた記憶は今も脳裏に焼き付いている。
 それがファーストキスだったというのだから大変だ。
「……はじめてって、そんな」
 子猫の時とフェアリーの時は別カウントで考えてくれた方がお互い幸せなのに、と考えているレフティだが、相手はそうではないらしい。
「にゃんか……不思議だにゃ。どちらも一つとしてみてくれるのにゃ」
 レフティは呪いのオーラ防御を纏い、悩む様にごろんごろんと転がった。そして、そういえば、と別の日のことを思い出す。
「倒れて心配してくれた日もあったにゃあ……」
 あのときはとても嬉しかった。心配をかけたことが申し訳ないという思いもなかったわけではないが、それ以上に募る思いの方が今は大きい。
「ねぇ、好きになっていいと思う?」
 レフティはふわふわと揺れるキノコに問いかけた。
 しかし、キノコはただ胞子を振り撒くだけ。そしてレフティは其処でようやくハッとして起き上がった。
「にゃああああ、こんなことしてる場合じゃないにゃ!」
 発動、猫ラブへのいざない。
 照れ隠しか、それとも本来の任務遂行のためか、あっという間に周囲のキノコが取り払われた。そして、レフティは再びごろんごろんと転がる。我に返ったことで急に恥ずかしさが襲ってきたらしい。
「記録抹消……! 抹消にゃああ!」
 そうして暫し、レフティは心奪いのキノコ森にて壮絶に悶絶していた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

花園・スピカ
以前はしんみりした感じでお別れしたのに…何やってるんですかパンセさん…(猫の呪い事件を思い出しつつ)

残念ながら私には『恋愛』という感情がまだ分かりません…
曰く心拍数が上がるとか、顔が紅潮するとか、時に暴走するとか…って、あぁ、あれですか…(パンセさんを見て遠い目)

(ふと抱き締めてた柴犬ぬいぐるみてんちゃんと目が合う。わんわん好きスイッチオン!)
あぁぁぁあ!何であの時犬の呪いじゃなかったんですかぁぁ!!
くるくる巻き尻尾!ピンと立った耳!
私も「わん」って言いたかったのに!わんわんわん~!!

(ぎゅうぎゅう抱き締められて苦しそうなてんちゃんからUC発動)

…はっ、私は何を…(戦闘終わって我に返り超赤面)



●わんわんわわん
「はぁ……マスターしゅき……」
 災魔――冥想のパンセの声を聞き、スピカは肩を落とす。
 恋に対する思いを増幅させられている彼女は今、以前にスピカが会ったことのあるパンセとは随分と雰囲気が違っていた。
「以前はしんみりした感じでお別れしたのに……」
 猫の呪い事件を思い出しつつ、スピカはパンセの近くへ歩み寄っていく。
 どうやら災魔は完全に恋する乙女モードになっているらしく、すぐに襲ってくる気配はない。その隣に立ったスピカは瞳をハートマークにしている彼女に声を掛けた。
「何やってるんですかパンセさん」
「なにって、想いを馳せてるんだよ」
 当たり前でしょ、というようにパンセはスピカを見遣る。
 そして相手は興味深そうに問いかけてきた。
「君は誰かに恋してる?」
 ねえねえ、と期待の眼差しでスピカを見つめるパンセ。だが、スピカは首をふるふると振って答える。
「残念ながら私には『恋愛』という感情がまだ分かりません」
「えー、つまんない!」
「ですが、ここに来ても何も感じないのです」
「それは損してるよ。せっかくキノコくんが気持ちを盛り上げてくれてるのに!」
「そういうものですか……?」
 不思議そうに首を傾げるスピカに対し、パンセは不満げだ。
 そして、スピカは恋とはどういうものかを考える。
 聞いた話では心拍数が上がるとか、顔が紅潮するとか、時に暴走するだとか。そこまで考えを巡らせたことでスピカは気付く。
「……って、あぁ、あれですか」
 パンセの様子を見て遠い目をしたスピカは肩を落とした。
 できればああはなりたくない、なんてことを思ってしまったのは秘密だ。しかし、どうしてかその瞬間にスピカの心境に変化が現れた。
 ふと抱き締めていた柴犬ぬいぐるみ、てんちゃんと目が合ったのだ。
 ――わんわん好きスイッチオン!
「あぁぁぁあ!」
「!?」
 突然、爆発するほどに暴走しはじめたスピカの声にパンセがびくっと驚く。
「何であの時犬の呪いじゃなかったんですかぁぁ!!」
「ええ!?」
「くるくる巻き尻尾! ピンと立った耳!」
「それが君の恋なの?」
「わかりません。わかりませんが……私も『わん』って言いたかったのに!」
 不明瞭だが恋の代わりに違う感情が爆発してしまったようだ。
 戸惑うパンセに構わず、スピカはぎゅうぎゅうとてんちゃんを抱き締める。その途端、てんちゃんからユーベルコードが発動した。
「わんわんわん~!!」
「わーっ!!??」
 何だかよくわからないがキノコが爆発した。不思議パワーだ。
 それによってパンセが弾かれ、遠くの方にどかーんと飛ばされていった。
「……はっ、私は何を……」
 ひとり取り残されたことでスピカは我に返る。
 そうして、自分がわんわんと泣いて――もとい鳴いていたことを思い出したスピカは暫しひっそりと赤面していたのだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
【華禱】
語れと言われて語れるものでもない気がするけど
夜彦はどうなんだ、ろ……?

あ、ハイ

この!物凄い!イケメンが!
そんな熱の籠った視線で俺を見ないでー!
惚れ直すだろ!
や、毎日ってレベルで惚れてるし惚れ直してるけど!

つーか、夜彦……
あんたはどーしてそんなカッコイイのに可愛いの

え?いやいや、36の世界?それ以上の世界?
全部ひっくるめた世界で一番カッコイイし可愛いぞ?
流石は俺の旦那で嫁!

へへ!夜彦に言われるの嬉しいンだよなぁ!
んんん!俺も、もっと色々聞きたい!
あんたってば口下手なのかそういうの言ってくれねぇからさ!
(浮かれ気味)

煩い!そこの災魔!(華焔刀で一撃)

※当人は惚気ているつもりは一切アリマセン


月舘・夜彦
【華禱】
恋心を語る等、人前でそのような事は
それよりも、いつになく倫太郎殿が輝いて見えます
これが例のキノコの力なのでしょうか

いえ、私も毎日倫太郎殿をお慕いし、共に過ごしております故
貴方もそのように思ってくださるのならば私も幸せです

誉め言葉、でしょうか……?
貴方も戦いや出掛けで私を先導してくださる御姿が凛々しく
時折、年相応に無邪気に笑う所は愛らしく感じております

どんな姿の私も私だと好いてくださり
嗚呼、色々な事を伝えるには言葉が足りません
もっと時間を掛けてお話したいのですが

……そこの災魔が気になるので斬り伏せてからにしましょう

繰り出すは、我が抜刀術
――御覚悟を

※感情が暴走して正気ではありません



●存分に思いを伝える日
 恋心。
 それは語れと言われて語れるものでもない気がする、と倫太郎は思う。
「恋か。夜彦はどうなんだ、ろ……?」
 隣の彼の様子が気になり、倫太郎はそっと視線を向けてみる。するといつにも増して頬を赤らめている夜彦の顔が見えた。
「恋心を語る等、人前でそのような事は……いえ、それよりもいつになく倫太郎殿が輝いて見えます」
 これが例のキノコの力なのでしょうか、と近くを見遣る夜彦。
 其処にはひときわ大きく、胞子を撒き散らすキノコがあった。その胞子を吸った夜彦はふわりとした表情を浮かべて倫太郎を見つめる。
「倫太郎殿……」
「あ、ハイ」
 彼の視線だけでドキドキしてしまう倫太郎もまた胞子に当てられていた。そのまま倫太郎は思いの丈を告げてゆく。
「この! 物凄い! イケメンが! そんな熱の籠った視線で俺を見ないでー!」
「とはいいましても……」
「惚れ直すだろ! や、毎日ってレベルで惚れてるし惚れ直してるけど!」
「いえ、私も毎日倫太郎殿をお慕いし、共に過ごしております故。貴方もそのように思ってくださるのならば私も幸せです」
 照れる倫太郎に対し、真摯にまっすぐ愛を語る夜彦。
 同じ胞子の影響を受けても正反対なのは不思議だが、本人の元の性格が強く影響しているのだろう。
「つーか、夜彦……あんたはどーしてそんなカッコイイのに可愛いの」
「誉め言葉、でしょうか……?」
「ああ。いやいや、三十六の世界? それ以上の世界? 全部ひっくるめた世界で一番カッコイイし可愛いぞ? 流石は俺の旦那で嫁!」
 思うままに言葉を並べる倫太郎の声を聞き、夜彦は柔らかな笑みを湛える。
 そして、夜彦もお返しの言葉を伝えていった。
「貴方も戦いや出掛けで私を先導してくださる御姿が凛々しく、時折、年相応に無邪気に笑う所は愛らしく感じております」
「へへ! 夜彦に言われるの嬉しいンだよなぁ!」
 倫太郎は嬉しげに双眸を緩め、夜彦の手を握った。それはこれまでもずっと行ってきた当たり前のことだが、今という状況の中では特別な意味にもなりそうだ。
 夜彦は手を握り返し、熱を帯びる彼の掌の感触を確かめる。
「どんな姿の私も私だと好いてくださり、想いは募るばかりです。嗚呼、色々な事を伝えるには言葉が足りません。もっと時間を掛けてお話したいのですが……」
「んんん! 俺も、もっと色々聞きたい! あんたってば口下手なのかそういうの言ってくれねぇからさ!」
 倫太郎はかなり浮かれ気味で、しっぽを振る犬のように夜彦にじゃれつく――というのは比喩だが、それくらいの勢いだった。
 しかし、其処に災魔が現れた。
「ここにも恋するひと発見! えっ、男同士!?」
「煩い! そこの災魔!」
「そこの災魔が気になるので斬り伏せてからにしましょう。――御覚悟を」
 災魔が現れるやいなや、倫太郎が華焔刀で一撃を叩き込み、夜彦が抜刀術で以て瞬時に斬撃を放った。
「うわっ、逃げろー!」
 災魔はすぐに逃走してしまったが、今の彼らに追う心算はない。
「……夜彦」
「はい、倫太郎殿」
 見つめあった二人はまだ胞子の熱に浮かされている。これで当人は惚気ているつもりは一切なく、感情が暴走して正気ではないというのだから大変だ。
 そうして暫し、二人だけの世界が繰り広げられてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【白】

ヒトだからこそ溢れるモノ
奇妙ながらも興味深い
が、こんな茸に心奪われるなんて――
ってお前はある意味平常通りだな!

俺だって今は炬燵が恋人だから!
身も心も優しくあっためてくれるし!
寂しくないし!
幸せだし!
大好きだし!
コレを恋と言わずして何という!
(先日愛を爆発させた相手もといぴよこに啄み抗議受け、愛と恋とはまた違うとか宣い)

くっ此処だけ何この空気!
俺だって本気出せばたぶんきっといつか!
清く正しい恋を!
うっ…(恋ってこんなにもツライノネ)
諸々込めて(ヤケジャナイヨ)UC

――本当は、きっと
――否、本当どうかしてる
(炬燵への心に嘘はない
その影にもう一つ揺れるモノは
根付かぬ侭、芽生えぬ侭で良い――)


千家・菊里
【白】
――嗚呼もう恋しくて恋しくて堪りません
俺の心を掴んでならない、御馳走達が

時に甘く時にしょっぽく時に苦い
一目見た瞬間に胸が高鳴ってしまう
――そんな風に心時めくのは御馳走の前だけ
そういう心を、人は恋と呼ぶのでしょう?
ならば俺のこれもきっと恋患いですたぶん
ははは浮気性の相手は大変ですねぇ
(普段はスルーなのに、もしやぴよこさんにも胞子の影響が?等と微笑ましく見守り)

空気?
方向が少し違うだけで想いの丈は負けてないから大丈夫です
目眩く御馳走達との幸せな一時を夢見つつ
身を焦がす程に燃える熱い想いを炎に変えてUC

(それで良いと思いますけどねぇ――どんな形であれ、君がヒトに近付く事を覚えるのなら、きっと)



●胸裡に沈む想い
 戀に、心。
 それはヒトだからこそ溢れるモノ。
 奇妙ながらも興味深い、と考える伊織の傍にキノコの胞子が揺らいでいた。
「こんな茸に心奪われるなんて……」
「――嗚呼もう恋しくて恋しくて堪りません」
 伊織の傍らには菊里が切なげな表情を浮かべている。恋の気持ちが増幅されたのだろうかと感じた伊織は彼をじっと見つめた。だが、次に菊里が紡いだ言葉は予想外の――いや、ある意味では予想の範疇のものだった。
「俺の心を掴んでならない、御馳走達が」
「ってお前はある意味平常通りだな!」
 思わず突っ込む伊織。
 その通りですよ、とさらりと答える菊里。
 心を奪うという森の中にいても彼らは本当に普段と変わらない。しかし菊里はそのまま自分の中にある思いを語っていく。
「時に甘く時にしょっぱく、時に苦い、一目見た瞬間に胸が高鳴ってしまう。そう、そんな風に心ときめくのは御馳走の前だけ」
「ご馳走、ねぇ」
 伊織は乾いた笑いで菊里を見遣る。すると彼は薄く笑ってみせた。
「そういう心を、人は恋と呼ぶのでしょう?」
「胸が高鳴るってのは聞くけどな」
「ならば俺のこれもきっと恋患いです、たぶん」
「多分? というかそれなら俺だって今は炬燵が恋人だから! 身も心も優しくあっためてくれるし! 寂しくないし!」
「炬燵ですか。それはそれはなかなかですね」
 対抗するように今いとおしい物の名を呼んだ伊織は何だか必死だ。菊里はそんな彼を見守り、静かに頷く。
「幸せだし! 大好きだし! コレを恋と言わずして何と……痛い!」
 だが、そのとき。
 伊織の言葉が途中で遮られた。何事かと思えば、先日愛を爆発させた相手――もといぴよこに啄み攻撃と抗議を受けているではないか。
「愛と恋とはまた違うんだ! いたたた!」
 弁明する伊織に対してぴよこは容赦がない。普段はスルーであるというのに、もしやぴよこにも胞子の影響が出ているのだろうか。
「ははは、浮気性の相手は大変ですねぇ」
 微笑ましげに笑った菊里はぴよこと伊織の織り成す光景を暫し見つめていた。
 そうして、やっと騒ぎが収まった頃。
「くっ……他は結構愛や恋的な嵐なのに、此処だけ何この空気!」
「空気?」
 きょとりとした菊里と違って、伊織はどうやら周りの様子を気にしていたようだ。どうしてもしっとりとした空気にならないのはいつものことだが、それゆえにこの状況が少し悔しくもあった。
「俺だって本気出せばたぶんきっといつか! 清く正しい恋を!」
「方向が少し違うだけで想いの丈は負けてないから大丈夫です」
 気を張る伊織に対し、菊里は余裕綽々だ。そして彼は目眩く御馳走達との幸せなひとときを夢見つつ、やりますよ、と伊織に声を掛けた。
「ひとまず茸を散らしましょう」
「うっ……わかった」
 恋ってこんなにもツライノネ、なんてことを零しつつ伊織も身構える。
 そして、彼らが放った暗器と狐火が周囲で胞子を撒き散らすキノコを穿った。やや自棄っぱちの一閃と、身を焦がす程に燃える熱い想いの炎。
 彼らの力によって胞子は薄まり、少しは周囲の妙な雰囲気も解消された。
 そんな中で伊織はわずかに俯く。
「――本当は、きっと」
 何かを言い掛けた伊織は、否、と頭を振る。本当にどうかしてると感じていた。
 炬燵への心に嘘はない。
 影にもう一つ揺れるモノは根付かぬ侭、芽生えぬ侭で良いのだと思えた。
 そのような伊織の様子を眺める菊里は何となく思いの裡を察していたが、敢えて声をかけることはしなかった。
(きっと、それで良いと思いますけどねぇ。戸惑わなくてもいいんです。どんな形であれ、君がヒトに近付く事を覚えるのなら――)
 告げぬ言葉は裡に秘められたまま、ひそやかに沈んでいった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・アルゲン
【星門】カガリと
恋心……カガリに対して最初に抱いたのは模擬戦の時だったか
私の剣すら弾き返し崩れることがなかった城門とその強さが格好良くて惚れたんだ
普段はゆっくりと落ち着いていて、その紫の瞳は時に子供のような純粋な輝きを秘めて物事を見る
それがたまらなく可愛らしくて愛おしいと思えるよ

さらりと流れる金の髪は綺麗でいつまでも触れていたいから、頭を撫でてしまいたい。いや、今撫でて愛でさせてくれ
カガリに愛でられるのも好きだよ
門のように広い胸に飛び込んで、優しく抱きしめるように閉じ込めて欲しい

……人前で気持ちを伝えるのは恥ずかしいな
敵に対して【流星一閃】で斬り伏せて終わらせよう
……帰ったら続きをするか?


出水宮・カガリ
【星門】ステラと

こい。こい。こい、とは。すき、でいいのかな。
おでんとは違う、ステラへのすき。
きらきら光る、眩い流星のような。棚引く尾を引いて、輝く白銀。
碧い瞳を覗けば、其処にも星が瞬いて。
鋭く切り裂く流星の剣を手に、戦場を駆ける凛々しい姿は、頼もしく。
うん。格好いいのだ。
それでいて、甘いものとか、まかろんとか。ぬいぐるみとかが、大好きなのだ。
うん、うん。温かくて、柔らかくて、可愛いのだ。

可愛いと、言われるのは。ちょっと不服だが。愛でられるのは、とても好きだ。カガリも愛でたい。
撫でたければ頭を差し出すが、カガリも頬ずりくらいしたい。
敵には悪いが、城門あたっく(シールドバッシュ)で攻撃はするぞ



●こいするということ
 恋する気持ちを思い返し、懐かしく想う。
 迷宮の最中、キノコから揺らぐ胞子の魔力はステラとカガリの裡に宿っている感情を更に深く、呼び起こしていく。
「恋心か……」
 ステラは胸に手を当て、浮かんだ思いに対して双眸を穏やかに細める。
 自分がカガリに対して最初に想いを抱いたのは、そうだ。あの模擬戦の時だったように思う。遠い日のことのようにも、まだそれほど時が経っていないようにも感じられるのは彼と過ごす日々が充実していたからだろう。
「本当に懐かしいな。私の剣すら弾き返し、崩れることがなかった城門。それから、その強さが格好良くて惚れたんだ」
 ステラが視線を向けると、カガリは静かに頷く。
 そんな彼もまた、魔力で増幅させられた自分の思いを向き合っていた。
「こい。こい。こい、とは。すき、でいいのかな」
 おでんとは違う。
 他でもないステラへの、すき。
 その気持ちはカガリからすれば、きらきら光る、眩い流星のようなもの。
 棚引く尾を引いて、輝く白銀。
 碧い瞳を覗けば、其処にも星が瞬いて――とても綺麗で、美しくて、大切なひと。
 カガリがじっと自分を見つめ返してくれていることに気が付き、ステラは口元をそっと緩め、笑ってみせる。
 彼は普段はゆっくりと落ち着いていて、何処か大人びても見える。しかしその紫の瞳は時に子供のような純粋な輝きを秘めており、物事を素直な目で見る。
 それがたまらなく可愛らしくて、愛おしい。
 ステラはカガリに手を伸ばす。
 触れたのは彼の金の波。さらりと流れる糸髪は綺麗で、いつまでも触れていたいと思えるほど。
「やっぱり頭を撫でてしまいたいな。いや、今撫でて愛でさせてくれ」
「うん、うん」
 思いを告げると同時に撫でてくれたステラの手を受け入れるカガリ。同様に双眸を細めたカガリは彼女への想いを改めて思い返す。
 鋭く切り裂く流星の剣を手に、戦場を駆ける凛々しい姿。
 ステラは頼もしくて格好良い。
 それでいて、甘いものとか可愛いもの――マカロンやぬいぐるみなどが大好きで、そんな彼女自身もまた可愛らしいと思える。
「ステラは、温かくて、柔らかくて、可愛いのだ」
「カガリも可愛いよ」
 すると彼女も同じ想いを返してくれた。本音を言えば可愛いと言われるのはカガリとしてはちょっとばかり不服だが、愛でられるのはとても好きだ。
「カガリも愛でたい」
「ああ、愛でられるのも好きだよ」
 それまで撫でられていたカガリは両腕を広げ、ステラをそっと抱き締める。そして、そのまま彼女に頬ずりをした。
 抱き締めるよりもそちらの方を優先するカガリはやはり、愛おしい。
 けれどもその腕の中は門のように広くて安心する
 どうか、優しく抱きしめるように閉じ込めて欲しい。そう願うステラは彼に身体を預け、触れあう頬の熱をたしかめた。
 だが、此処は迷宮の最中。
 ふたりは恋しい気持ちを僅かに抑え、周囲のキノコの群を見渡した。
「やろう、ステラ」
「そうだね、斬り伏せて終わらせよう」
 一度身体を離し、頷きあったカガリとステラはキノコを蹴散らすことを決める。
 城門あたっく。
 そして、天駆ける一筋の流星の如き斬撃。
 ふたつの力が重なり、キノコを穿ったことで胞子が徐々に薄くなっていく。未だ愛おしさが消えないのはきっと、この想いが元からあったものだからだ。
「これで、きのこ、きのこのこいも、終わり?」
 何だか名残惜しい気がして、カガリはステラに問う。すると彼女はそっとカガリに寄り添い、そうかもしれないがそうではないかもしれない、と答えた。
「……帰ったら続きをするか?」
 何の、とは言わない。
 けれどもステラの気持ちは十分に分かっている。
 そうしてカガリはいとおしいひとに笑みを向け、嬉しそうに頷いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユキ・パンザマスト
【大咆哮サイレンアニマルズ】

恋。
(自覚ない顔)
えー、詳しかないんで一般論すけど。
想えば幸せで暖かくなったり、
心臓高鳴り熱くなり、
火が、ともしびが点くような、
(次第に増幅、大声)
ただユキじゃ大人にゃなれんしあの子そういう考えなさそうだし、でも探してくれたし再会の場もくれて幸せそうに歌ってくれて、いつか、さいはてに、彼と、だーーーー!!(恥ずい)
ロクさんはどうなんすか!
らしくない事や儘ならなさで悩んだり!
でも傍に居たいとか
小さな事で嬉しくなるとかそういう、
あ、怒ってないすから!!

おっとぉ。
只事では……ない……?
(家庭かつ三角関係、
有りだが吃驚はする)

今デリケートな話し中!!
敵を逢魔ヶ報でなぎ払う!


ロク・ザイオン
【大咆哮サイレンアニマルズ】

恋。
(じっとユキを見る
ユキはこういうの詳しそうだ)
…幸せ。
心臓。
ともしび。

…???
(怒鳴られだして耳をぺたりと伏せる)
(なんで怒ってるんだ)

…考えると。ぎゅっとした心地になる。
じわっと暖かで、でも悲しくて泣きたく…
(だんだん声がざりざり大きくなる)
おれのものではないから
ととさまのものだから
でも。おれのものであればいいと、思ってしまう

あねごのこと。

…きのこは退いてて!!
(なんかいけない話をしてしまっている自覚は流石の森番にもあるのだ
ユキの反応が微妙な気もする
「惨喝」できのこを足止めし
八つ当たりのような【なぎ払い】)



●吼えよアニマルズ
 ――恋。それは何だろう。
 不思議なキノコが所狭しと並ぶ森の中、ロクはじっとユキを見つめる。
 恋と言われてもロクにはまだよくわからない。ふわふわと舞う胞子が妙な気持ちを宿していくことだけはわかっているが、自分よりもユキの方が詳しそうだと感じていた。
「……恋」
「……恋」
 ロクと言葉が重なり、はっとしたユキ。それは妙に自覚ない顔だったが、ロクが自分に説明を求めていることは理解できた。
「えー、詳しかないんで一般論すけど。例えば……」
 ユキは語る。
 その人を想えば幸せで暖かくなったり、心臓が高鳴ったり、胸が熱くなる。
「それから、火が、ともしびが点くような――」
「幸せ。心臓。ともしび」
 語るユキの言葉を繰り返し、ロクは不思議そうに首を傾げる。言葉の意味はもちろん分かっているが、どうにも曖昧に感じた。
 するとユキの声が次第に大きくなっていく。
 意識してのことではない。おそらく胞子によって感情が増幅させられたのだ。
「ただユキじゃ大人にゃなれんし、あの子そういう考えなさそうだし、でも探してくれたし! 再会の場もくれて幸せそうに歌ってくれて!! いつか、さいはてに、彼と、だーーーー!!!」
 ひといきで語ったユキは恥ずかしさも全開だ。
「……???」
 対するロクは急に怒鳴られたと感じたのか耳をぺたりと伏せる。
 なんで怒ってるんだ、と疑問が浮かんだがユキの言葉に怒気がほとんどないのだと気付いてひとまずは安堵した。
「ロクさんはどうなんすか! ほら、らしくない事や儘ならなさで悩んだり!」
 でも傍に居たいとか、ちいさなことで嬉しくなるだとか。
 そういう気持ちはないのかと問いかけたユキは、戸惑うロクが語り始めるのを待つ。
「あ、怒ってないすから!!」
「大丈夫、わかってる。うん……」
 ロクは頷き返し、自分の胸に手を当ててみた。
 確かに先程から妙な気持ちが裡に巡り、胸が高鳴っている気がする。キノコの所為だと分かってはいても、落ち着かない。
「ロクさん?」
「……考えると。ぎゅっとした心地になる。そうだ、ある……」
「なるほどなるほど」
 ロクにもそんな思いがあるのだと知り、ユキは続く言葉に耳を傾けた。
「じわっと暖かで、でも悲しくて泣きたく……」
 その声はだんだんと、気持ちと一緒にざりざりと大きくなっていく。先程の自分の感情が爆発した流れと同じだと察し、ユキはそっと問いかけてみる。
「それで、そのひとは……」
 こく、と静かに頷いたロクは思いのままを言葉にする。
「おれのものではないから、ととさまのものだから。でも。おれのものであればいいと、思ってしまう」
 ――あねごのこと。
 最後にぽつりと落とされた言葉は切なげな雰囲気に満ちていた。
「おっとぉ。只事では……ない……?」
 聞けば家庭の中でありつつ、しかも三角関係。
 無しではない。有り寄りの有りだが、流石にユキも吃驚はする。どんな気持ちなのかと更に問おうとすると、其処に災魔のパンセが現れた。
「ここにも恋する子達を発見!」
 ねえねえ、と語りかけてきたパンセはどうやら恋話が聞きたいようだ。しかし、それはもう最大に空気を読まない言動で――。
「きのこは退いてて!!」
「今デリケートな話し中!!」
 振り返ったロクとユキは災魔を全力で追い払う行動に出た。
 次の瞬間。
 耳障りなほどの咆哮と歪んだ警報音と衝撃波が災魔を真正面から穿った。いけない話をしてしまっている自覚は流石のロクにもあった。
 ユキが驚いた様子も感じていたうえに、災魔にまで聞かれるとは不覚だ。
 そして、ロクは半ば八つ当たりの如き薙ぎ払いの一閃でパンセを貫く。キノコじゃないのにー、という情けない声をあげた災魔は瞬く間に遠くに吹き飛ばされていった。
 そして、二人は互いに視線を交わす。
 今日この場所で語られたのは叫び出したいくらいの恋の話。
 続きはまた別のところで語られるかもしれないし、そっと胸の裡に仕舞われるかもしれない。それはきっと、この二人の気持ち次第。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
咲いていることに意味なんてなくて
わざわざ枯れる理由も特段になくて
ただせめて、誰からも何も奪わずにいられたら
それだけでいいと想ってたんだ
けれど、どうしてだろう、いつのまに
なにもかもが塗り変わってた

――その手にさわって、あったかいと想った
――きみの詞を姿を仕草をきれいだと想った
――届かぬことが“さみしい”と初めて知った

なんにも持たないはずの空っぽの花瓶は、
どうやらちゃんとひとだったらしい
きみに恋をしたのが始まり
産声を上げて、今、生まれたよ

きみがすきだ、すごくすごくすきなんだ
言えないまま氾濫する詞は世界を押し流す嵐
視界を薄紅に染め上げても止まらない
きみがすき、止めようもなく、――すき



●花の世界に希う
 ――請い、乞い、恋し戀。
 本当は、花が其処に咲いていることに意味なんてなかった。
 けれどもわざわざ枯れる理由も特段になくて、ただ咲いていただけだった。
「でも……」
 花世は俯き、胸の裡に巡る感情に意識を向ける。こんなことを懐うのは森の魔力の影響なのかもしれない。
 それでも、思いは止まらない。
 ただせめて、誰からも何も奪わずにいられたらそれだけでいいと想っていた。
 しかし、思いは変わった。
 どうしてだろう、いつのまにか、なにもかもが塗り変わっていた。

 ――その手にさわって、あったかいと想った。
 ――きみの詞を、姿を、仕草を、きれいだと想った。
 ――届かぬことが“さみしい”と初めて知った。
 
 嘗ての花世を喩えるならば、なんにも持たないはずの空っぽの花瓶。
 けれどそれは、どうやらちゃんとひとだったらしい。
 右目の代わりに宿る薄紅の八重牡丹に触れた花世は、その奥に根付いている想いに感慨を馳せ、そっと瞼を閉じた。
 始まりは、きみに恋をしたこと。
 すきで、すきで、切なくとも、だいすきだと想えるひとがいること。
「ねえ――だからきっと今、産声を上げて生まれたよ」
 花世は大切に想うひとを思い浮かべ、心からの感謝といとおしさを抱いた。
 きみがすきだ。
 すごくすごく、すきなんだ。
 まだ言えないまま氾濫する戀の詞は、世界を押し流す嵐にもなる。
 滲む思いは、ただ嬉しいだけじゃなくて。
 苦しさも、寂しさも、たくさんの違う思いだって連れてくるものだけれど。それでも、止まらない。視界を薄紅に染め上げても、悲しみの雨が頬を伝ったとしても。
 きみが、すき。
 止めようもなく、――すき。
 果てしない心の海へと流れ、散りゆくように薄紅は舞う。
 確かにこの裡に戀は息衝いている。けれどこの心を奪われたりなんて、しない。
 揺らぐ胞子を巻き込みながら、花は葬り散る。
 胸に宿る想いを唯一のものにするために、深く、深く――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・ゆず
なんだろう、この気持ち
知らない気持ち

むずむずして、あったかくて
きゅぅっと切なくて、わぁっと泣きたくなって
これが、聞いてた【恋心】でしょうか?

知らない事
本で読んだけど、共感も没入も出来なかった気持ち
全てを狂わせて、全てを包み込む
そんな気持ち
これが、恋

都々逸だったかな?
戀という字を分析すれば、糸し糸しと言う心
読んだときはわかりませんでしたが、今なら何となくわかる気がします

会いたい、ぎゅぅってしたい
独り占めしたい、わたしのものにしたい
………あの人を。

…いやいや、なに考えてるんだろう
惑わされるな
…でも、気付いたかも知れない、かな

腰後ろのホルスターから銃を抜いて撃とう
少しだけ、ありがとうございます



●いとしきみ
 なんだろう、この気持ち。
 揺らいでいた感情がひとつになるような、知らない気持ち。
 ゆずは迷宮の奥に進む度に、胸の奥がむずむずするような感覚をおぼえていた。
 くすぐったい。けれどもあったかい。
 それでいてきゅぅっと切なくて、わぁっと泣きたくなって――。
「これが……」
 ゆずは立ち止まり、これまでに読んできた物語を思い返す。
 青春群像劇だったり、ボーイミーツガールだったり、大人の男女が織り成す関係であったり、様々な形がある。
 きっとこれが、話に聞いていた恋心なのだろうか。
 けれども知らない。まだ、分かるなんて思えなかった感情。
 確かにたくさん本で読んではきたが、此れまでは共感も没入も出来なかった気持ちなのだ。登場人物達は皆、恋に落ちてから理不尽や不安に陥っていたように思う。
 全てを狂わせて、全てを包み込む。そんな気持ち。
「これが、恋……?」
 しかし今、ゆずの中にそれと似た感情が渦巻いている。
 胸に手を当てたゆずはふと思い返す。確か、都々逸だっただろうか。
 戀。
 その文字を分析すれば、糸し糸しと言う心だと表現できる。
 いとし、いとし。つまりは愛しい。
 あれを最初に読んだときは理解できぬまま知識として覚えていただけだったが、今なら何となくわかる。そんな気がした。
「――会いたい」
 ゆずは俯き、浮かんだ思いを声に出す。
 ぎゅぅっとしたい、してほしい。独り占めしたい、わたしのものにしたい。
「…………あの人に。あの人、を」
 自然に口をついて出た言葉にゆず自身が驚いてしまっていた。は、と短く息を吐いたゆずは口許を押さえる。
「いやいや、なに考えてるんだろう」
 これが胞子によって増幅された心だということは分かっていた。それゆえに本当の思いなどではないのだと、ゆずは自分に言い聞かせた。
 惑わされるな。
 これは心を奪う森の所為。
 腰の後ろに装着したホルスターから銃を抜いたゆずは周囲の中でも一段と巨大なキノコに狙いを定めた。あれさえ撃ち抜けば、きっとこの気持ちも収まるはず。
 刹那、銃声が響く。
 貫かれたキノコが崩れて消えていく中、ゆずはちいさく呟いた。
「……でも、気付いたかも知れない、かな」
 ほんの少しだけ感謝を覚える。
 誰にいうでもなく、ありがとうございます、と口にしたゆずはもう理解していた。
 あの気持ちの根源はちゃんと、自分の中にあるものだったということを――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
恋…か
恋とは何か実はよく、わからない
だが愛しいと気持ちはどんどん膨れ上がるんだ

ミヌレ…!
お前は何でこんなにも可愛いんだ。どんな姿も愛らしい。好きだ、大好きだ!
愛しい俺のタイヴァス、お前はいつも全力で俺の事想ってくれているのがわかるよ。俺も負けないくらいお前の事愛している。ははっ、元気が良いな…!
ロワの凛々しい姿には本当惚れ惚れしてしまうな。お前になら食われてしまっても良い位だ!
テュット…愛しいマイ・レディ。
いつも陰ながら助けてくれてサンキュ。本当はミヌレ以上に悪戯好きでお茶目な奴だということは判っているよ、可愛い奴だな。
皆…大好きだ…っ!


…やらかした


今回もパンセは元気そうだな。それでは…いくぞ



●溢れる愛を
 恋するという気持ち。
 この迷宮に生えているキノコはそれを増幅させるのだという。
 満ちる胞子と魔力が揺らぐ様を感じ取りながら、ユヴェンは頭を悩ませていた。彼が現在、爆発しそうなほどの恋心に囚われていない理由。
 それは――。
「恋とは何か……実はよく、わからないんだ」
 なあミヌレ、と隣にいる仔竜に語りかければ不思議そうな鳴き声が返ってくる。
 燃えるような恋。
 遠くから見守るだけの恋。
 誰にも負けたくないと想う恋。
 物語や誰かの話の中で聞くそれらは様々なものだ。しかし、ユヴェンにはまだ自分にとっての恋がどういったものか理解できていない。
 だが、とユヴェンは顔をあげる。
「恋とは違う、愛しいと気持ちはどんどん膨れ上がるんだ」
「きゅ?」
 ユヴェンの頬が淡く揺らめくように光る。それは肌の宝石が反射したからなのだが、ミヌレは其処にただならぬ気配を感じた。
 どうやらユヴェンの身体に、遅れて胞子の力が巡ったらしい。
「ミヌレ……!」
「!?」
 ユヴェンは唐突にミヌレを抱きあげる。
 びっくりしてしまったミヌレが何かを訴える前にユヴェンはその身を抱き締めた。
「お前は何でこんなにも可愛いんだ。どんな姿も愛らしい。好きだ、大好きだ!」
「きゅうぅ……」
 するとミヌレも胞子に当てられたのか、まんざらでもない仕草で尻尾をふわふわと揺らす。そして、ユヴェンは更に続ける。
「愛しい俺のタイヴァス、お前はいつも全力で俺の事を想ってくれているのがわかるよ。俺も負けないくらいお前の事を愛している」
 次に語るのは連れている鷲への愛。
 ばさばさと翼を羽ばたかせたタイヴァスもまた、なかなかに嬉しそうだ。
「ははっ、元気が良いな……!」
 そんな中で黄金の獅子がユヴェンに擦り寄ってきていた。
 ライオンであっても猫科。ロワは喉をゴロゴロと鳴らしている。
「ロワの凛々しい姿には本当惚れ惚れしてしまうな。ああ、お前になら食われてしまっても良いくらいだ! それからテュット……愛しいマイ・レディ」
 獅子の次はダークネスクロークだ。
「いつも陰ながら助けてくれてサンキュ。本当はミヌレ以上に悪戯好きでお茶目な奴だということは判っているよ、可愛い奴だな」
 片目を瞑り、イケメン的なウインクをして見せたユヴェン。
 彼の中は相棒達への愛しい気持ちでいっぱいだ。
「皆……大好きだ……っ!」
 ミヌレにタイヴァス、ロワにテュット。
 すべてを抱きしめる勢いで腕を広げたユヴェンは今、最高潮に輝いていて――。
 
 はっと気付いた時、ユヴェンは膝をついた。
「……やらかした」
 おそらく先程までは胞子が濃い場所にいたのだろう。愛を語った彼には少しの後悔と、とてつもない恥ずかしさが宿っていた。
 しかし、「わあー!?」という少女の叫び声が聞こえたことで気を取り直す。
 あれはもう聞き慣れた災魔の声だ。どうやら弾力のあるキノコでバウンドしてしまい、迷宮内を飛ばされてしまってる最中のようだ。
「今回もパンセは元気そうだな。それでは……いくぞ、ミヌレ」
 それから皆も。
 ユヴェンは身構え、声がする方へ駆け出した。
 災魔である彼女との勝負をつけるために――いつも通りで在れるよう、努めて。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
…恋って何だろう
言葉や様子は見て知っている
喜び幸せそうだったり
でも、悲しみ苦しむ者も居た
僕…
…私も
何かでそんな目に遭わせるのかもしれないのかな…怖いな

あの彼が思い浮かんでは赤くなって頭を横に振り

それに
「僕」が実はこんな私でも、受け入れて貰えるの…?
何か、駄目な気がする…!

傍に居たい
笑って居て
心が締め付けられる感じと我儘が湧く
私の知る「好き」とは違う
この気持ちの名前が分からない
簡単と聞いたのに
好きって言うのが、凄く恥ずかしい…どうして…?

此処の所為か、言わないのも苦しい…うぅ
…す、き…?

っ分かるのは
傍に居たくて、触れたいほど特別って事だけだよ…!

パンセ、幸せな想いの中なのかな…ごめんね
天飛泡沫を



●戸惑いと胸懐
 ――恋って何だろう。
 瑠碧は俯き、キノコの森の光景から目を逸らした。
 胞子の影響なのか、妙に胸が高鳴る。これが恋の気持ちなのだろうか。勿論、瑠碧とて恋という言葉や様子は読んだり見たりして知っている。
 恋は喜びと幸せの形だ。けれども中には悲しみや苦しみも存在している。
「僕……ううん、私も、」
 もし恋に落ちたなら、喜びの先に苦しみが待っているのかもしれない。
 胸に宿る不可思議な思いを怖いと感じながら、瑠碧は顔をあげた。そのとき、瑠碧の頭の中に彼の姿が浮かぶ。
「……!」
 慌てて首を横に振り、瑠碧は思いを振り払おうとする。
 だが、森に満ちる魔力が恋の感情を増幅させてしまっていた。思いを余所にやろうとしても森の効力がそうさせてくれない。瑠碧の頬が赤く染まっては、その度にぶんぶんと頭が振られる。
 瑠碧は気付く。
 想いが元から無いのならば増幅されることなどない。零に百を掛けても零のままだが、気持ちが一でもあれば百になる。だから、自分は彼に恋をしている。
「でも、やっぱり怖いな」
 瑠碧はぽつりと呟き、胸元をぎゅっと押さえた。
 恋は楽しいだけではないことだと知っている。それに――。
「……『僕』が実はこんな私でも、受け入れて貰えるの?」
 思わず浮かんだ疑問は不安に変わった。
 自分を偽っているわけではない。ただ嘗ての姉のようになりたいと思い、自分を律しているだけだ。それでもたまに『僕』は『私』に戻ってしまう。
 恋を自覚した今の自分のように。そう思うと駄目な気がしてしまう。
 それでも想いは止まらない。全部、キノコのせいだ。
 傍に居たい。
 そして、笑っていて欲しい。
 心が締め付けられるような感覚の中で、我儘な気持ちが湧いてきた。
 違う、こんなのは知っている『好き』とは違う。この気持ちの名前が分からない。
 簡単だと聞いていたのに、瑠碧にとっては難しくて堪らないことに感じられた。
「好きって言うのが、凄く恥ずかしい……どうして……?」
 魔力のせいか、言わないでいることすら苦しい。瑠碧は胸元に手を当てたまま、裡から溢れ出す思いを言の葉に乗せた。
「――す、き……? すき……うん、好き」
 言葉にすればするほど、どうしようもない気持ちが巡っていく。
 けれど、まだ全部が分かったわけではない。瑠碧が戸惑っていると、其処に冥想のパンセが現れた。
「好きって声が聞こえたよ。ふふ、君も誰かに恋してるんだね!」
「……っ、まだ何だか分からない。でも、分かるのは……傍に居たくて、触れたいほど特別って事だけだよ……!」
「ひゅーひゅー!」
「は、恥ずかしい……。もう駄目……!」
 からかいの言葉が聞こえた途端、瑠碧はとてつもなく恥ずかしくなって片手を掲げた。相手は災魔だ、倒さねばならないのだと自分に言い聞かせ――そして、浄化の水が鳥の形に代わり、ひといきに敵を穿った。
「パンセ、幸せな想いの中なのに……ごめんね」
 泡沫が弾けた途端に災魔を吹き飛ばされ、わあー! という声と共に遠くに消える。
 後は別の誰かが追撃を担ってくれるだろうと感じ、瑠碧は息を吐いた。
 恋の想いはもう暫く、胸の中から消えてくれそうにない。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エル・クーゴー
●POW



火器運用マニュアル及び僚機プログラム『マネギ』の他、全メモリー焼損

躯体番号L-95
エル・クーゴー
製造の企図も経緯も不明である当機は、アルダワ内部に於いてスリープ状態にある所をマスターに拾得されました

マスターに、副官として登用されました
当機に、タスクを設定して下さいました

>“戀”
当機には現在、語義のみの登録しか存在しませんが――

当機は
“私”は
マスター以外に管理者権限を認定する方針は皆無です


・サーチドローン『マネギ』をフォートから射出(吹き飛ばし)、敵の魔導書へ嗾ける
・魔導書の上にボテッと乗っからせ、重みで開き辛くさせる事で花幻影の散布量を絞る

・指摘弱点:本の開度へ干渉されるとコードに支障



●恋知らぬもの
 火器運用マニュアル。
 及び僚機プログラム『マネギ』の他、全メモリー焼損。
 システムメッセージめいた言葉を落としながら、エルはキノコの森をゆく。ドールですら惑わせる迷宮の魔力は今、エル自身をも蝕んでいた。
 しかしエルはいつもの無表情のまま、淡々と奥へ進んでいく。
 だが、それだけでは魔力によって苦痛がもたらされる。システムの確認をするが如く、エルは己の中にある情報を整理していった。
 ――躯体番号L-95、エル・クーゴー。
 まず確かめたのは自分のこと。
 アルダワの深部から発見されたということが唯一分かっている出自だ。
「製造の企図も経緯も不明である当機は、アルダワ内部に於いてスリープ状態にある所をマスターに拾得されました」
 そして、マスターに副官として登用された。
 何もなかった当機にタスクを設定してくださった。
 此処までは何も問題がない。これまでの経緯を再確認しただけだ。しかし、エルの中には不可思議な情報が浮かんでいた。
「――“戀”」
 この迷宮は恋心を増幅させる。
 現在、自分には語義のみの登録しか存在しないのだとエルは首を振る。
「当機は……“私”は、マスター以外に管理者権限を認定する方針は皆無です」
 つまり恋を知らない。
 何も問題はない。そう認識してしまえば蝕む力などないに等しい。
 だが、探索を続けても敵が現れる気配はない。おそらく災魔は恋を語り、叫ぶ者のところに向かって移動し続けている。エルがそのことを知る術はなかったが、恋を語らぬ彼女のところに戦闘機会は訪れなかった。
 ならば自分が何をすべきかと考え、導き出したのは――。
「胞子の根源を排除します」
 サーチドローン『マネギ』をフォートから射出したエルは周囲のキノコを一気に吹き飛ばした。途端にキノコが消えてなくなり、揺らいでいた胞子も収まる。
 だが、これは完全なる成功ではない。
 郷に入れば郷に従えというように、己なりの感情――或いは情報をしかと整理していれば、更なる成果が出たのかもしれない。
 しかしエルはその可能性に至らぬまま、迷宮の奥へと進んでいった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

桜屋敷・いろは
恋心。
それは、わたしが初めて知った感情。
感情の無い、使われるだけだったミレナリィドールが、初めて知った心と言うもの
マスターが亡くなった時に知った、それ

身を焼き、焦がし、身悶える感情
すきよ、あいしてるわ。
わたしはこれ以上の激情を知りません
初めてにして、至上の感情

この気持ちは、心は
だれにもあげない
わたしの、わたしだけのもの

叶わぬ恋だと知っている
許されない事だと思い知っている
でも、この心だけは誰にも邪魔をさせないわ
マスター、マスター
嗚呼、マスター!

告げる事の出来なかった事の葉
すき
あいしてるわ

この歌が風に乗って
あなたの元に届きますように
心を込めて、歌います



●歌と祈り
 恋心という感情。
 それは、いろはが初めて自覚した想いのかたちだ。
 嘗てのいろはには感情らしい感情は宿っていなかった。ただ使われるだけだったものが初めて知った心。それこそが恋と呼ぶに相応しいもの。
 だが、これは叶わぬ想いだ。
 何故なら、感情を抱いた相手であるマスターが亡くなった時に心を知ったから。
 周囲に揺らぐキノコの胞子。
 それは精神に作用して、少しずつではあるが確実に恋の心を増幅させている。
 身を焼き、焦がす。
 身悶えるほどの感情がいろはの裡に巡っていった。
 マスターを思えば想うほど、懐いが深くなっていくような感覚。
「すきよ、あいしてるわ」
 思わず口を衝いて言葉が零れ落ちていく。
 しかし、今のいろはにこの感情を止める術はない。抵抗しようとも無駄だと分かっている。この感情の根源は自分の中にあるのだから、無視はできない。
 身を駆け巡るのは激情。
 ――わたしはこれ以上の感情を知らない。
 初めてにして、至上の恋心。これを超える思いはきっともう現れない。
 そんな風に思えるほどの想いがある。
 しかし、いろははこの迷宮に満ちている魔力が好きになれそうにはなかった。この場所の名は心奪いの森。
「この気持ちは、心はだれにもあげない」
 わたしの、わたしだけのもの。
 だから奪われたりなんてしなければ、自ら手放すことも絶対にしない。
 亡くした人へのドールの恋。
 自身でも決して叶わぬ恋だと知っている。許されないことだと思い知っている。
 でも、といろはは顔をあげた。
「この心だけは誰にも邪魔をさせないわ」
 見据えるのは迷宮のキノコたち。其処からは絶え間なく胞子が撒き散らされ、魔力が揺らぎ続けている。
「マスター、マスター……」
 いとしいひとを繰り返し呼ぶいろは。
 彼の人を想いながら彼女は胸元に両手を添えた。ヒトのような心臓がない身体であっても、心は確かに此処にある。裡に宿り続ける感情がその証だ。
「嗚呼、マスター!」
 いろはは想いを言葉にし続ける。
 そして、告げることの出来なかった言の葉をもう一度、口にしていく。
「すき、あいしてるわ」
 幾度、何度言ったって足りない。
 いろはは周囲のキノコを散らす為、ユーベルコードを紡ぎはじめる。
 この歌が風に乗って、あなたの元に届きますように。
 心を込めて歌いあげる澄んだ聲は森に響き渡り、浄化の炎となって胞子の魔力を焼き焦がしていく。其れは祈りにも似て――。
 いろはの中にある感情の如く、深く巡っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
恋心を増幅させる…
あの人への想いが幻じゃないか確かめなくちゃ

3年前に消えたあの人はたぶんもう生きていないの
日に日に記憶が霞んでいっていたけれど、ああ…やっぱりこの気持ちは嘘じゃなかった
他の人にはそれは恋じゃなくて同情だって言われたわ
自らの持つ異能のために全ての血縁と縁を切って誰とも関わらないように生きてきたあの人を知ったから
でも、その孤独な魂に寄り添いたいと思ったの
ちょっと尊大で、でもその心は誰よりも傷つきやすくて
忘れない 名前を呼んでくれた声 触れてくれた熱
ああ、確かにあたしはあの人を愛していたの…!
それがわかれば充分よ ありがとう
星になって見守っていてね

…あなたにも安らぎをあげる(UC使用



●あなたに恋をした日々
 此処は恋心を増幅させる迷宮の森。
 エリシャは今、迷っていた。自分の中には恋という感情だったと信じたい想いがある。しかし、それが未だ確かなものであるかが掴みきれないでいた。
「あの人への想いが幻じゃないか確かめなくちゃ」
 そして、踏み入った迷宮。
 不可思議な見た目のキノコが所狭しと並んでいる森は妙な雰囲気に満ちていた。
 胞子が浮かび、魔力が揺らぐ。それはたとえ吸い込まずとも、此処に居る者の精神に作用してしまうのだろう。
 事実、エリシャの心は妙に昂ぶっている。
 想い人――多分、そうだと思っていた人は三年前に自分の前から消えた。
「あの人はたぶん、もう生きていない」
 確かめるように呟く。
 希望を忘れたわけではない。絶望に染まっているわけでもない。ただ、そうと判断する方が正しいのだと思えるからだ。
 あの人がいないまま、月日は過ぎ去っていった。
 日に日に記憶が霞んでいく。抱いていた想いも消えてしまうのではないかと思うと、胸がざわついてしまう。
 けれど、とエリシャは俯いていた顔をあげる。
 今この胸の中にある感情。
 それは以前に抱いていたものと同じ。否、迷宮に満ちる魔力のせいでそれ以上に膨れ上がっていた。
「ああ……やっぱりこの気持ちは嘘じゃなかった」
 この思いの根源は確かに有る。
 他の人には、それは恋ではなくただの同情だと言われた。
 自らの持つ異能のために全ての血縁と縁を切り、誰とも関わらないように生きてきたあの人を知ったからだ。
 その孤独な魂に寄り添いたいと思った。
 ちょっと尊大で、でもその心は誰よりも傷つきやすくて――。
 そんな人に、恋をしていた。
 同情なんかじゃない。間違いなく、唯一の想いを抱いていた。
「……忘れない」
 名前を呼んでくれた声。
 触れてくれた熱。そのときに感じた、あたたかな心を。
 感極まるような感情が溢れ出てくる。エリシャはあの人を想い、裡に満ちていく想いを声に出してゆく。
「ああ、確かにあたしはあの人を愛していたの……!」
 言葉にしてしまえば簡単なことだった。
 そして祈るように両手を重ねたエリシャは瞼を閉じる。次に目を開いたときにはもう、迷う気持ちは綺麗に消え去っていた。
「それがわかれば充分よ」
 ――ありがとう。星になって見守っていてね。
 遠き彼方の人を想い、己の気持ちを確かめたエリシャは右掌の聖痕から聖なる光を放つ。其処から広がる光はキノコの胞子を包み込み、そして――。
「この森にも、安らぎをあげる」
 星の煌めきを思わせるその光は、揺らいでいた胞子を鎮めていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬断・彩萌
あの人は全然私に靡いてくれないの。
それでも私は彼が好き。
彼の仕事にストイックなところ、
お茶らけているようで実は根がイイ奴なところ、
悪党なんて言いながら良い事ばかりしてる天邪鬼なところ、
全部全部、大好き。
靡かないところも……嫌いだけど好き。

あの人を狙ってる人はきっといっぱいいるんだわ。
ライバルは多いけど、頑張るしかない。
私はまだ友達のカテゴリだけど、
いつか隣に並んでるのが当たり前になりたい!
腕を組んで「私の恋人です!」って言いたい!
だから私は絶対絶対あきらめない、フられてふられて何十かいフられたって、
嫌いになられるまでは絶対に追いかけ続けるんだから!

あ、戦闘?光楼でばきゅーんよ、ばきゅーん。



●いつか、彼の隣に
 好きだという気持ちが溢れてくる。
 彩萌は自分の中で増幅させられていく想いを確かめ、そっと俯いた。
 思い浮かぶのは、あの人のこと。
 分かっていた。その姿しか思い浮かばないことくらいは、此処に来る前から。
「あの人、全然私に靡いてくれないのよね」
「ふーん、片思いってこと?」
 彩萌がぽつりと呟くと、いつの間にか隣に現れた災魔、冥想のパンセが首を傾げた。身構えようとした彩萌だが、相手に戦う意志がないと気付いてひとまず腕を下ろす。
 森のキノコの魔力によって恋心は募るばかり。
 ならば、相手が災魔であってもこの想いを吐露しておくのが良いだろう。
「そうね。それでも、私は彼が好き」
「へえ、覚悟の上なんだ!」
「彼の仕事にストイックなところ、お茶らけているようで実は根がイイ奴なところ、悪党なんて言いながら良い事ばかりしてる天邪鬼なところ……」
 彩萌の中で彼への感情が爆発しそうになる。
 くすくすと笑っている災魔は彩萌の話を聞き、うんうん、と何度も頷いていた。きっと災魔もまた自分の想い人のことを考えているのだろう。
 彩萌は息を吐き、彼の姿を改めて思い浮かべる。自然と頬が赤くなる。
「……全部全部、大好き」
「すべていとおしいなんて、すごいね」
「靡かないところも……嫌いだけど好き」
「あはは、嫌いなのも好きなんだ。でもでもよく分かるよ」
 彩萌とパンセは暫し恋について語りあった。一度好きになれば欠点だったり、通常なら良くないところだって素敵に思えてしまう。
 嫌いでも好き。相反する感情が混ざり合うのもまた恋というものだ。
「あの人を狙ってる人はきっといっぱいいるんだわ」
「えっ、前途多難なの?」
「そうね。ライバルは多いけど、頑張るしかないもの」
 自分はまだ友達のカテゴリでしかないと彩萌は自覚している。それでも諦められない、引き下がれないのが彩萌なりの恋だ。
 彩萌は強く掌を握り、決意を表明するが如く拳を天高く掲げる。
「いつか隣に並んでるのが当たり前になりたい!」
「うん!」
「腕を組んで『私の恋人です!』って言いたい!」
「がんばれ!」
 勢いに任せて語る彩萌の隣で、パンセはきらきらとした瞳を向けてエールを送っている。恋する乙女として親近感を覚えているらしい。
 彩萌も頷き、恋心のままに宣言した。
「だから私は絶対絶対あきらめない、振られて振られて何十回も振られたって、嫌いになられるまでは追いかけ続けるんだから!」
「その意気だよ。僕も応援しちゃう!」
「でも……」
 パンセからの声を受けた彩萌は不意に首を横に振る。どうしたの、と不思議そうな顔をした災魔へと振り向いた彼女は即座に己の力を紡ぎ、そして――。
「それはそれ、これはこれよ!」
 くらいなさい、と告げた彩萌は光楼の一閃で敵を貫く。
 ばきゅーん。
 迷宮に響く弾丸の音。彩萌が放った一撃は災魔を瞬く間に吹き飛ばし、戦いを終わらせるための一手となった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ◎
好きなとこをあげりゃきりがねぇ
優しいところ
料理がうまいところ
頼れるとことか
顔も好きだし
あの手の安心感が好きだ
意志が強いと言やぁ聞こえはいいが
実は俺以上に頑固なとことか…
時々、…すげぇかわいいやつだなとも思う

ずっと抱いてた親しみと愛情に
ソレが紛れ込んだのは何時なのか
アイツだけが欲しい
全部…全部、欲しい
気がついたらそこにあって
染み付いて離れないこの気持ち

でも、それでも
叶って欲しいなんざ思わない
アイツの幸せの為に
むしろ叶わなければいいとさえ―…
だからさ、お前と一緒に骸の海に連れてってくれよこの気持ち
【望みを叶える呪いの歌】を口に、剣一閃

――ああ、ソレ《恋心を殺すこと》が叶うならどんなに楽か



●この手で殺せぬもの
 裡に溢れる感慨。
 想えば想うほどに胸の中がきゅうっと締め付けられるような感覚。
 セリオスの中にあるその感情は不思議なキノコの魔力によって増幅させられ、際限なく膨れあがっている。
「好きなとこをあげりゃきりがねぇな」
 この恋心の在り処はしっかりと分かっている。それゆえに戸惑いはないが、いとおしさがばかりが胸の裡に募ってゆく。
 ふとセリオスが森のキノコを見上げたとき、其処に誰かが座っていた。
「ふふ、どうやら君も恋心を持ってそうだね!」
「災魔か? 邪魔するなら……」
「まだ戦う気はないよ。でも君の好きな人の話が聞きたいなあ」
 その正体は冥想のパンセだ。
 されど彼女は言葉通りに何もしてくる気配はない。セリオスは胞子のせいで燻りそうな感情を思い、仕方ねぇな、と息を吐く。
 そして、セリオスは想い人である彼のことを語っていった。
「まず優しいところだろ」
「うんうん!」
「それから料理がうまいところ。頼れるとことか、顔も好きだし……」
「イケメンなの? 美少女なの?」
 パンセの問いに対し、セリオスは格好良いのだと答える。そして、自分の手を見下ろしながら、彼の掌のぬくもりを思い返した。
「あの手の安心感が好きだ」
「その人はよく手を繋いでくれるのかな。いいなぁ」
 僕は手なんて繋いだことないから、とパンセは羨ましそうに呟く。
 そっか、と頷いたセリオス。その心の中は更に恋心でいっぱいになっていた。
「それとな、意志が強いと言やぁ聞こえはいいが、実は俺以上に頑固なとことか……時々、すげぇかわいいやつだなとも思う。けど――」
「けど?」
「いや、何でもない」
 言いかけた言葉を押し込めたセリオスは俯いた。
 ずっと抱いていた親しみと愛情。
 其処に、ソレが紛れ込んだのは何時なのか。
 アイツだけが欲しい。全部、全部、欲しい。何もかもを自分のモノにしたい。
 気がついたらそこにあって、染み付いて離れないこの気持ちは果たして恋と呼べるのだろうか。恋は綺麗なものではないが、それ以上に醜い何かに感じられる。
 でも、それでも。
「叶って欲しいなんざ思わないな。アイツの幸せの為に――」
 むしろ、叶わなければいいとさえ思う。
「……?」
 独り言ちたセリオスに対して首を傾げるパンセ。分からなくていい、と告げたセリオスはそっと首を振る。
「だからさ、お前と一緒に骸の海に連れてってくれよこの気持ち」
 紡がれたのは望みを叶える呪いの歌。
 根源の魔力を纏い剣で災魔を一閃すれば、ちいさな悲鳴があがった。
 ひどいよ、と泣きながら踵を返して逃げていくパンセを敢えてそのまま見送ったセリオスは後を他の仲間に託す。
 ああ、ソレを――《恋心を殺すこと》が叶うなら、どんなに楽だろうか。
 抱いた思いは言葉にはされず、胸の裡だけに秘められた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

朝日奈・祈里
恋心。恋慕の感情。
それは生を司る精霊、デメテルと契約した時に喰われた感情だ
無論、辞書や文献でどういったものかは知っているがな?

胸がぎゅうっと苦しくなる
頬に熱が集まる
切ないほど、心が惹かれる
心臓がぼくのものじゃないくらいに脈打つ

自分ではどうしようもなくて
誰かに縋りたい
たすけて、泣きそうだ

誰でも良いわけじゃない
特定のヒトに助けて欲しいんだ
触れたい、温もりが欲しい
どこか、満たされないココロ

嗚呼、成る程
これが、【恋心】
貴重な体験をさせて貰った
ありがとう
目を潤ませ、頬を紅潮させ
胸を押さえながら、ルーンソードを振るおう
経験出来ないと思ってた
こんなに苦しいものを持ち続けるヒトはすごいな
それ故に尊いよ

じゃあな



●知らぬ心を識るときは
 恋心。それは即ち、恋慕の感情。
 祈里が知っているのは、それが人の心を惑わせるものだということ。
 頬が熱くなり、鼓動が早くなる。
 その人のことしか考えられなくなり、合理的判断が下せなくなる。そういった描写や記述がされているのを書物や辞書、文献で知っている。
 そして――生を司る精霊、デメテルと契約した時に喰われた感情だということも。
 魔力が宿る胞子。
 それを撒き散らす色とりどりのキノコの影響は祈里にも現れている。
 先程、思い浮かべたことが自分にも起きているのだ。
 頬が赤く染まっている。ぎゅうっと苦しくなるほどに鼓動が早鐘を打っている。
 切ない。
 心が惹かれるのが、わかる。
「……心臓がぼくのものじゃないみたいだ」
 思わず呟いた祈里は胸を押さえる。掌に伝わる温度までもが誰か別の人のもののように思えたが、紛れもなく自身のものだ。
 けれど、自分ではどうしようもない思いだということがわかる。
「――誰か、」
 縋りたい。たすけて。
 泣きそうだと自覚しながらも、祈里は首を横に振る。
 伸ばした手を取って欲しいのはただひとり。誰でも良いわけじゃないと思う心こそが、恋心そのものなのだろう。
 特定のヒト、それも自分が焦がれる相手に助けて欲しい。
 それが叶わないならば、今よりも苦しい思いをするのだろう。まるでひとりきりで深く昏い海の底に沈められる。そんな不安が満ちるような――。
 其処は冷たい。
 だから触れたい、温もりが欲しい。どこか、満たされないココロが叫ぶ。
 蹲る祈里は呼吸を整える。
 苦しんでいるのではなく、この心の揺らぎを確かめているのだ。そして、ゆっくりと立ち上がった祈里は唇を噛み締めてから顔をあげた。
「嗚呼、成る程」
 ――これが、恋心。
 喰われてしまったもの。忘れてしまったものの片鱗。
 ならばこれはとても貴重な体験だ。
「……ありがとう」
 誰にでもなく告げた祈里はルーンソードを手にした。
 目を潤ませて、頬を紅潮させて、片手でもう一度胸元を押さえる。そして、両手で剣を握り直した祈里は、他の猟兵から逃げ出してきたらしき災魔を見据えた。
「こんな思いはもう経験出来ないと思ってた。ああ、こんなに苦しいものを持ち続けるヒトはすごいな」
 だが、それゆえに尊い。
 祈里は災魔に気付かれる前に地を蹴り、強化した己の力を振るいに駆けた。
「でも、ここが迷宮ならもう終わりにしよう」
「わ、君は!? 待って、僕は未だ――!」
「じゃあな」
 驚いた冥想のパンセが身構える暇すら与えず、祈里は刃を振り下ろした。
 その間、たった一瞬。
 多くの猟兵から攻撃を受けていた災魔は弱っていた。そうして、斬り伏せられた少女災魔はその場に膝をつき――其処で戦いに終止符が打たれた。
 
 
 やがて、災魔は骸の海に還る運命。
 自分が倒れたことを察した猟兵が集っていると悟り、冥想のパンセは薄く微笑う。
「君の想いも、そっちの君も、何処かから聞こえた誰かの恋の叫びも、僕はちゃんと聞いていたよ。みんな素敵で、みんな尊かった。とても素敵だったな……」
 そして、彼女は最期に言葉を遺す。
「恋する想いはきっと、悪いことじゃないよね……。だから、ね……」
 
 ――命儚き、戀せよ諸君。
 
 なんてね、と零した災魔は次の瞬間には跡形もなく消え去っていた。
 こうして迷宮の一角は攻略され、次なるフロアへの道がひらかれてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月13日


挿絵イラスト