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墓守に、弔いの花は無く

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 ――円匙を振るう。昨日も今日も、これからも。
 ――墓石にきざむ。父に母、そして妹の名も。
 ――白花を添える。かき集めた、僅かばかりの花を。

 村よりも広くなった墓地を眺め、乾ききった手を擦る。昼も夜もなく円匙を振るい続けたせいか、掌の深い罅割れからはもはや血も滲まない。たった今立て終えた墓石の横に腰掛け、少年――アレンが、虚ろな目で村を見やる。今日の仕事は終わった。それに墓地の簡素な見張り小屋では、雪もちらつく曇天は凌ぐに辛い。けど。
 ――“空っぽ”ばかりの村にいるより、ここのほうがいくらかましだ。
 もう何日も村へは戻っていない。戻ったところで、ままごとの様な営みに心が抉れるだけだから。

 村が領主に蹂躙され、しかしふとした気紛れで見逃されて数年。突如領主の座を埋めたのは、救済を謳う美しい天使だった。寝たきりの老婆を、怪我で動けぬ男を、病気の妹を。苦しむ民をみな救うといって、毎夜誰かを連れ去った。けれど翌朝帰ってきたのは、姿だけはよく似た、しかし何もかもが“空っぽ”の何かだった。やがて異変に気が付き、館に乗り込んだ男衆も、逃げ出した隣の一家も、翌朝には“空っぽ”になって帰ってきた。そんな日々が繰り返され、徐々に摩耗する村の中で、それでもアレンは諦めきれなかった。館に忍び込み、何とか解決の糸口はないかと必死で探った。だがそれも庭に堆く積まれた山から、首のない父の死体を見つけてついに心が折れた。何日も悪夢に苛まれ、けれど結局何もせずにはいられず、せめてもの慰めに庭の死体を埋め出した。ああ、でも、もう。

 忍び込んだ時、一度だけ領主に見つかった。“空っぽ”にされる、そう思ったときに口から出たのは、最後に救うのは俺にしてほしい、という言葉だった。死にたくなかった、勿論それもある。だが敵わないことも、逃げられないことも分かっていた。だから、せめて。――皆を、埋めてあげたかった。こんな目にあった後、ゴミのように積まれ、朽ちていくなんてあんまりだ。だからせめて、その死を弔いたかったのだ。結局領主の返事は無かったが、村人が目減りする中、未だ呼ばれていないのは約した故か。だが。

 ――遠からず、村は“空っぽ”だらけになる。
 その時せめて、皆を土へと返せるならば。――俺の墓石は、無くていい。

●偽りの希望
 グリモアベースに、人影が見える。ゆらりゆらりと身をふらつかせながら、ガラクタの寄せ集めを支えに立つ男――荒久根・ギギ(スクラップマーダー・f02735)が、歩み寄る猟兵たちに視線を投げかける。
「…ああ、アンタらが依頼を受けてくれンの。」
 言葉と共に軽く会釈すれば、柔らかそうな兎の垂れ耳が肩口から滑り落ちる。恐らくはキマイラなのだろう。よく見れば体のあちこちに、獣の特徴が混ざっているのがわかる。
「今回の行先はダークセイヴァー。オブリビオンに或る村が蹂躙されてるから、倒してほしい。」
 呼び付けた本人にしてはやる気も覇気も感じられない様相だが、説明はまじめなものだった。そして先の予知を猟兵たちに聞かせ、討伐の目途を語る。
「領主の館自体は簡単に侵入できる。なンせ入り口に鍵もしてねぇからな。が、その先の大広間に、先兵として敵が複数待ち構えてる。…それが。」
 ほんの一瞬、言葉が途切れる。それを取り繕うように溜息を零してから、話をつづけた。
「ここにいるのは、残影――蹂躙された村人たちの魂だ。」
 殺され、捨てられた数多が溶け合い、最早自分が誰だったかも思い出せない。ただこびり付いた怨嗟に突き動かされる、そんな憐れな集合体。
「…怨み辛みを煮込ンだ言葉で、こっちを攻撃してくる。けど、もうコイツらは救えねぇ。だから、やりにくいだろうけど、どうにか倒してくれ。」
 更に奥には、その歪な魂を生み出した元凶が居座っているはずだ。連戦は避けられない。
「元凶の情報は余り掴めなかった。だけど村の状況から察するに、恐らく『村人を殺し、その偽物を作り出しては村に戻す』、ってコトをやってるらしい。…なンでそんなことしてるのかは、分かんねぇケド。」
 胸糞わりィ、とギギが吐き捨てる。村人からすれば酷い悪夢だろう。愛した人は二度と帰らず、形ばかりは良く似た偽者で溢れかえる村は、想像するに恐ろしい。
「俺は門番だから同行は出来ない、だから代わりに…オブリビオンを、ぶっ壊してきてくれ。」
 淡く輝きだしたグリモアを掲げ、ギギが静かに門を開く。その刹那に小さく――頼む、と。声が聞こえた気がした。


吾妻くるる
 こんにちは、もしくは初めまして。吾妻くるると申します。
 第2作はダークセイヴァーでの依頼をお届けいたします。

 今回は各々方の心情をメインに書かせて頂く予定です。
 1章の成功条件は、集団で襲い来る敵の撃破。
 敵は、殺された村人の無念の魂です。救済という言葉に騙され、虐げられ、怨嗟を吐く敵を相手に、どうぞ思いの丈をぶつけてください。

 2章は元凶たる偽りの救済者との戦闘。そして平穏になったあとは、残った僅かな村人たち、そして墓守の彼と、どうか時間を共にしてください。
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第1章 集団戦 『残影』

POW   :    怨恨の炎
レベル×1個の【復讐に燃える炎の魂】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
SPD   :    同化への意思
【憐憫】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【異形の肉塊】から、高命中力の【絡みつく傷だらけの手】を飛ばす。
WIZ   :    潰えた希望の果て
【悲観に満ちた絶叫】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 送られた猟兵たちが、館の門をくぐる。本来なら賊の侵入を防ぐための堅牢な柵も、大扉の鍵も、ただ其処に在るだけでまるで機能していない。あまりに容易く踏み込める在り様は、かえって不気味さを助長させる。出迎えた豪奢な造りの階段も、奥に見える大広間も、遠目から手入れが行き届いてないのがわかる。部屋角には埃が固まり、蜘蛛の巣が張り、床には――血溜まりの跡が色濃い。その先へと踏み越えて進めば、広間の暗がりが、ゆらり、と蠢いた。

「カエリタイ、帰りタイよォォォォ!!」
「いたいいたいいたいいたいいいいいい何で、ドウ、して…?」
「ヤメテ…もう酷イこと、しないデ!!何にモ、悪いことしてないジャない!!」

――象られた絶望が、緩やかに歩み寄ってくる。
宝座・四季
ギギっつったか、あのグリモア猟兵。なんとも愛想の悪いヤツだったな。
ま、こんな予知を見ちまったらああもなるか。根っこは悪い奴じゃなさそうだしな。

さて、頼まれちまったことだし、しっかり『壊して』くるとしますかね。


屋敷には正面から堂々と突入。
集まってくる敵を迎撃する形で戦闘を行なう。

戦いにおいては感情は凍らせろ。頭は常に冷静に。
哀れな犠牲者を楽にしてやる。何、これまで何度もやってきたことだ。
……いつまでたっても慣れやしないけどな。

【護法装填】で銃に【破魔】の力を籠め、【2回攻撃】の連射で犠牲者を打ち抜いていく。

そう、彼らは犠牲者だ。『敵』じゃあない。
敵は、この奥にいるヤツだけだ。



 怨嗟の声が蔓延する広間を前に、宝座・四季(なんとなく団長・f04244)はふと後ろを振り返った。ああ、俺たちを送り出したあの門番の名前は何と言ったか。ずいぶん愛想が悪かったが、それもこの様子を予知していれば仕方ないのかもしれない。説明を怠らなかったあたり、根は悪い奴では無いのだろう。最後に零した、あの言葉も。
「…ああ、頼まれちまったからな。しっかり『壊して』くるとしますかね。」
託されたものを、届ける為に。静かな笑みを浮かべ、四季は前を向いた。

 隠れず、潜まず、ただ真っ直ぐに広間へ踏み込む。その気配に、てんでに散らばっていた残影たちが、ひとり、ふたりと集まってくる。呪いじみた声は徐々に拠られ、束られ、それでも時折拾える言葉は、ひたすらに理不尽への憤怒であり、不運への悲嘆だった。――駄目だ、耳を貸すな。戦いにおいては感情は凍らせろ。頭は常に冷静に。スイッチを切り替えるように、先程までの笑みを消し、銃を構えて迎撃の態勢を整える。――その瞬間、残影の怨嗟が絶叫へと転じた。
「マタ!またボクたチを殺すのか!!」
「首ヲ落として!腕を千切っテ!ハラワタを裂いて!!まだ足りナイの!?」
「イヤダ!イヤダ!まタ殺さレるくらいナら――!!」
ギィギィと、口腔から溢れ出る悲嘆は、魔力を帯びて周囲へ迸る。床を抉り、カーテンを裂き迫る奔流に、四季は臆さずピタリと照準を合わせた。

「――急急如律令。役目を果たせ、護法。」

構えた銃に、仏法の守護を示す印が神々しく浮かび上がる。同時に放たれた銃弾は、その身を裂かんとした魔力を吹き飛ばし、更には未だ絶叫する残影をも正確に打ち抜いた。
「ァ…、…?」
潰えた声に疑問を抱く間もなく、ひとりが霧散する。仲間を消された嘆きか、残された影が新たに叫ぼうとした途端、連射された弾がその開いた口に飲み込まれる。そしてまたひとり、またひとりと敵が消えて行く。…いや、違う。敵はこの奥にいるただ一人だけだ。彼らは、――
「…犠牲者、なんだよな。」
眉間に弾を受け、集まった最後の残影が塵と消える。その刹那、残影の目が僅かに緩んだように映った。果たして、彼の言葉が届いたのかどうかは――もう、誰にもわからない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニコラス・エスクード
嗚呼、お前らもまた残骸か。
逝きそびれの嘆きの群れか。
伝えねば成らぬ事があるのだろう。
全てを受け止めてやろう。
復讐者の盾たる我が身にて。

魂の群れには正面より。
同胞たる鎧と共に、その怨恨の炎を受け止めてみせよう。
身を焦がす熱さよりも、
此れ程の思いを宿す程の怨嗟に、
心が焼かれる心地が勝る。

すでに言葉は通じぬであろう。
だがその怨恨を。積怨を。憤怒を。愁嘆を。
然とこの身にて受け取った。
故にこの刃にて彼奴へと届けよう。
『ブラッド・ガイスト』を発動させた得物にて、
その嘆きを喰らい尽くしてやろう。

お前らの復讐は必ず果たしてみせよう。
必ずや、大いなる報復を。



 嘆きが、降り積もる。天には逝けず、恨みは消えず、ただ彷徨うしかない影たちの、裂くような嘆きが。――嗚呼、お前らもまた残骸か、と。ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)は独り言ちる。どこか重ねて見たような言葉は、己に向けてだろうか。兜で窺い知れない相貌は、奥底の赤だけが鈍く光る。万と跨いだ戦場で、似た叫びを幾度も聴いた身だからこそ。残影たちの慟哭の渦中へ迷いなく突き進む。
その嘆き、全てを受け止めてやろう――我が身は、復讐者の盾なれば。

 新たな猟兵の姿に、影たちがゆらゆらと集まりだす。
「お前モ、味わえ。苦シめ、苦しめ、苦しみ抜ケ!!」
「キライ!キライ!死んじゃえ、シンジャエ!!」
 怨嗟とともに呼び寄せられるのは幾つもの炎。だがニコラスはその熱を前に、身動ぎせず立ち塞がる。纏う黒鉄を同胞と呼ぶのは、その身が盾より生まれた故か。ならば共にその怨恨を受け止めてみせようと、残影の放つ炎を――残らず浴びた。鉄が、体が、じりじりと焦げる。熱した空気を吸えば喉が痛み、舞う火の粉が鎧の内で燻る。だがそんな身を焦がす熱さよりも、此れ程の怨みを吐かずにはいられない魂を思えば、心が焼かれる痛みが勝る。彷徨う影たちに、最早こちらの言葉が届くことはないだろう。ならば、せめてこの身に刻んだ炎の熱さを。その内に宿した怨恨を、積怨を、憤怒を、愁嘆を。
「――全て、貰っていこう。」
そう告げた瞬間、炎の赤が血の赤へと塗り替わる。構えた刃が、煌々と零れる血を啜り上げ、禍々しい異形へと変貌を遂げる。それは残影たちを飲み込み、未だ止まぬ嘆きを喰らい尽す牙。そして、捕食せんと開かれた顎門が、残影へと迫り――上がる悲鳴ごと、飲み干した。

呻きの絶えた一瞬に、燻る赤は果てへ向けられる。未だ見ぬ敵を、見据える様に。
お前らの復讐は果たしてみせよう。――必ずや、大いなる報復を。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャルロット・ルイゾン
ジオレット様(f01665)と同行

嗚呼、なんて嘆かわしい。
こんな曖昧な死など、とても救済とは呼べませんわ。
けれど、ご安心ください。
あなた様方はわたくしが美しく幸福に葬ることで救って差し上げます。

攻撃はよく見て見切りを狙いますわね。
隙があれば攻撃はカウンター
あるいは、ミレナリオ・リフレクションでの相殺を狙います。
相手が既に攻撃を受けている箇所は傷口を抉り2回攻撃で生命力吸収を。

ジオレット様お気をつけて……!

わたくしは処刑人。
わたくしの前に命は全て等しく自由なものですわ。
その死が嘆かわしいものだったとしても、わたくしが果ての幸福へと導いてさしあげます。
ですから、もう、よろしいのですよ。

アドリブ歓迎


ジオレット・プラナス
同行:シャルロット・ルイゾン(f02543)

空っぽの中身が、こんなに、か。

ナイフを構え…
シーブズ・ギャンビッドで…溶け合ってる部分を断とうとしてみるよ。

「ノイズフィルタが、欲しいわね…!」
本来自分は、誰かのために歌い、癒すのが…存在意義だったドールだから。
道具のように扱われ、要らなくなったら廃棄され、まるで昔の自分のようで…

「っ…!」
シャルロットの声で、余計な思考に気をとられ過ぎたのに気づいて回避行動に移るよ。

攻撃を受けそうなら、トーガ部分の服を破棄してでも強引に加速。
攻撃から距離を取ろうと試みる。
可能なら攻撃パターンなんかも「観て」学習してきたいところだけど…

・アドリブ歓迎です。



 ――ああ、嘆かわしい。死を迎えてなお、彼らは終われずに彷徨っている。シャルロット・ルイゾン(断頭台の白き薔薇・f02543)の満たされた月の如き瞳が、憐憫を湛えて伏せられる。偽りの体だけが返され、内なるものはもはや自己を失い苦悶するだけ。――それが、こんなにも。並ぶジオレット・プラナス(月夜の鎮魂歌・f01665)も、何処か憂えた視線を投げかける。――けれど。
「ご安心ください。わたくしが、救って差し上げます。」
集まりつつある残影を前に、シャルロットは凛と言い切る。尊厳在るまま逝くのは、幸福を以て彼の地に旅立つのは、誰もに等しい権利だと。そして――それはあなた達にも、同じくあるべきだと。ギロチンの娘は未だ迷う魂にそう、優しい約束を告げた。

 洋館にあって並び立つ2人は、まるで飾られていたビスクドールが動き出したかの様だ。触れれば砕けそうな儚さも、然し残影たちは解す様子も無く、ただただ悲鳴を迸らせる。
「つかレた、疲れタ、ああああああああああアアアアアア!!!」
「なんデお前ラは生きている、俺は、俺ハ死んだのニ!苦しンダのに!!」
無差別に乱雑に、それゆえ触れるすべてを砕かんと、魔力の奔流が襲い掛かる。だがシャルロットは怯まずその流れを見据え、軽やかなステップで避けていく。全てを避けれず、僅かに手傷は追ったが――お陰で一度は“見た”。ならば。残影の再びの絶叫とタイミングを同じくして、シャルロットの組み上げたミレナリオ・リフレクションが放たれる。そのぶつかり合う力はほぼ互角。削ぎ合い、巻き込み合い、威力の弱まった隙を見て、今度はジオレットがその身を躍らせた。構えたナイフを振り下ろし、迷いなく魂に突き立てる。刺さる刃の痛みに悶え、なお憎しみに満ちた瞳で、残影がジオレットを睨みつける。――ああ、その目。かつては誰かのために歌い、癒すことこそが、自らの存在意義だった。けれどいつしか道具のように扱われ、ついには不要と廃棄された、昔の自分を重ねてしまう。その、過去を脳裏に巡らせた一瞬。――ナイフを握る手が僅かに緩んだ。
「…!ジオレット様お気をつけて…!」
シャルロットの声に、慌てて意識を引き戻す。だが刺されてなおそこに居た影が、霞と消える一瞬に、ありったけの悲嘆を叫んだ。
「…ア、ッ…!!」
正面から攻撃を浴び、苦痛を覗かせるジオレット。思わず膝をつき、ナイフを取り落とす。そこへ畳みかけるように、新たに影が擦り寄った。逃がさないとでもいうつもりなのか、トーガの裾を掴み、口を開いた瞬間。
「もう、その攻撃は学んだわ…!!」
逆手に握り直したナイフで、素早く握られた裾を断ち切る。そして勢いを殺さず身を捻り、正に魔力が口腔へと昇る刹那に――その首へと、刃を滑らせた。

苦悶の間もなく、疾く首の落ちる様は――どこか、断頭台の処刑に似ていた。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

リグ・アシュリーズ
ここが私の生まれた世界。
――よく、知ってるよ。

黒風鎧装を纏って高々と跳躍、がっちり剣で斬り結ぶ。
怨嗟の声だとかそーいうのには、耳を傾けず。
非情に?ううん。真剣に聞き入っちゃ、心を飲まれるって知ってるから。

私が生きのびられたのは、割り切り上手だったから。
でも、許しちゃならないのが何かぐらい、わきまえてる。

大勢の味方に被害が及ばないよう、前線に陣取って戦うよ。
炎に飲まれてもぐっと奥歯を噛み締めて耐える。
味方とは積極的に声を掛け合い、敵への言葉は少なく、短く。

空っぽ、なんかじゃないよね。
そこに『いた』んだよね。皆。

トドメが叶ったなら、袈裟懸けに切り裂いた後で頭と思しき所をポンとなでる。
仇、とるから。


リヴィア・ハルフェニア
――――ああ、なんて残酷なんだろう。
命を魂を弄ばれ、自分の事がさえ分からずに死してなを解放されない人達。
大切な存在を奪われ、もはや悪夢なんて言葉で言っていいのか躊躇う、そんなものを見せ続けられた村人達。
こんなの、許せるはずないじゃない。


後ろの方から油断せず集中し、残影の攻撃を避けましょうか。(学習力)

貴方達を敵なんて思わないわ。お願い、ここで解放されて。
紡ぎましょう、貴方達への鎮魂歌を!(歌唱、優しさ、範囲攻撃、誘惑、全力魔法)

どうかあと後少しだけ待っていて下さい。
元凶を倒す事しかできないけれど、せめて私達が〝悪夢〟から起こすから。



――ああ、なんて残酷なんだろう。命を弄ばれ、死してなお解放されない魂たち。大切な存在を奪われ、悪夢より悪夢らしい醜悪を、まざまざと見せられ続けた村人。――こんなもの、許せるはずがない。リヴィア・ハルフェニア(歌紡ぎ、精霊と心通わす人形姫・f09686)が、静かに憤りを見せる。だがその様子を前に、リグ・アシュリーズ(人狼の黒騎士・f10093)の瞳は、僅かに憐憫を滲ませながらも凪いでいた。悲劇、惨状、理不尽――そう、よく知ってるよ。だってここは、私の生まれた世界なのだから。

 黒騎士は前線へと立ち、歌姫はその背で歌を捧ぐ。構えた陣形を皮切りに、黒い風が徐々に渦巻き始める。荒々しいそれはやがてリグの元へと呼び寄せられ、その身を覆っていく。直後、凡そ唯人では敵わない、高々とした跳躍を見せて、手にした剣を振り下ろす。天井にも迫る高さからの斬撃は重く、疾く、狙われた残影は叫ぶ間もなくひとり消えうせた。次いで、視線を向けた影が、消えた仲間の分まで怨嗟を吐く。
「強けれバ、何をしてモイいのか!?ボクは、生きタかったダケなのニ!」
「ねェ、教えて、私、なんテ名前だっタ…?どんなカオ、だった…?」
だが、どれ程声を重ねても、リグの耳にそれは届かない。取り合わず、傾けず、ただ剣を振るい続ける。傍から見ればいっそ非情とも取れる姿も、聞けば心を飲まれると知っているからこそ。同情を傾けるより今すべきは、憐れな影たちの一掃だ。その先の、元凶へと手を届かすために。――どれほど割り切っていたって、許しちゃならないのが何かぐらい、わきまえてる。

 黒騎士の背を守りながら、リヴィアは放たれる攻撃を油断なく見つめる。特性を読み解ければ、避けることも可能となるはず。その絶え間なく続く怨嗟を前には、彼らを敵と認識することができなかった。いや、出来るはずもない。――彼らはただ、解放されるべき魂なのだから。
「――紡ぎましょう、貴方達への鎮魂歌を!」
高らかに、澄んだ歌声が響き渡る。慈愛に満ちた旋律は、炎を受けてなお立つリグを癒し、更には残影たちへもその手を差し伸べてゆく。溶け合わさり、分かち難く成り果てた魂が消えゆく一瞬、柔らかく瞳を閉じる。その動きに恐らく、意味はないのだろう。だが、歌に包まれ瞼を下す様は、どこか――安らかな眠りを思わせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

クロト・ラトキエ
男は黙って正面突破☆
…なんて冗句はさて置き。

「さぞお辛い事でしょう。さぞお苦しい事でしょう。
体を、心を、行き場を、未来を、喪って」
――などと。言ってみせるは易いこと。

トリニティ・エンハンスで攻撃力強化し。
SPD>POWと活かし、2回攻撃と範囲攻撃も用いて振るう鋼糸の、
領域に在る者をすべからく切断せんとする男の手は、
口の端に乗せた言の葉に欠片も見合うもので無く。
受ける傷にこそ僅かに眉根を寄せても、
絶えぬ微笑みは只、僅かに慈しみに似るだけ。

寄せる心など無い。
ただ…
「興味はありますけどね。こんな真似を仕出かした『領主』殿には」

故に此処は、押し通る。
それが、戦場傭兵として生きてきた男の――


スヴェン・フリュクレフ
…酷く軋んだ音がする。雑音に濡れた音。
なるほど。これが、怨嗟。…憶えておこう。

祈りは容易く足蹴にされ、そこいらじゅうに転がっている。
何処にも行けず、空の容れ物をよすがとする残滓…もの悲しいな。
けれど彼らの眠る場所は少年によって用意されている。
故に、この行いは葬いではなく【掃除】という言葉が似つかわしい。

機能として、痛みを与えるのは得手だがとどめを刺すことは不得手といえる。
しかし首を落とせば関係あるまい。…断頭台は便利なものだ。扱いは難しいが。
粛々と受け入れる必要はない。
踠き、足掻き、生に執着していた理由を欠片でも思い出すといい。
それが自身への弔いになり得るだろう。



――男は黙って正面突破…なぁんてね。
光の射さない広間に、どこか軽薄な音が浮く。踏み込んできたクロト・ラトキエ(戦場傭兵・f00472)が冗長ですよ、と微笑みながら付け足した。
「さぞお辛い事でしょう。さぞお苦しい事でしょう。体を、心を、行き場を、未来を、喪って。」
今度は打って変わって真意は知れないまでも、同情に満ちた言葉を紡ぐ。その声に呼ばれるように、影がひとり、ふたり、壊れた言葉で怨みを吐く。その酷く軋んだ音こそ――なるほど。これが怨嗟か。憶えておこう。スヴェン・フリュクレフ(伽藍・f02900)は、己が内に芽生えた、憂鬱とはまた非なる感情の名を刻んだ。何処にも行けず彷徨う姿は、見ていて痛々しい。だが、猟兵たちは知っている。先の予知で教えられた、かの少年の行いを。
――だからこれは、“掃除”だ。蟠る悲嘆を一掃し、無へと帰す為の行い。
彼らの眠る場所は、既にあるのだから。

 傭兵としての心得か。相対してから戦闘への切り替えは瞬時のものだった。クロトは呼び寄せた三元素の内、炎を手繰り寄せて鋼糸を振るう。元より鋭利な武器がその威力を増し、緻密に張り巡らされる。そして逃れようとする影を、何の躊躇いもなく縛りあげ、切りつける。その有様は先の言の葉に、欠片も見合うものでは無い。
受ける傷に僅か眉根を寄せても、微笑みは只、僅かに慈しみに似るだけで絶えることもない。領主に興味は抱いても、寄せる心は無い。ここはただ、押し通る。――そのように、生きてきたのだから。

 2度振るわれる斬撃の隙間を、ひとりが辛くもすり抜ける。だが、進んだ先には、憂いた瞳の処刑人が待ち構える。彼の足から来る性質だろうか、痛みを与えるのは得手だが、止めを刺すことは不得手とも言える。――だがそれも、首を落とせば関係のないこと。華奢な腕に不釣り合いな断頭台を抱え、逃げた魂を晒し台へとつなぎとめる。迫る命運に、それでも足掻く影の姿に、スヴェンが静かにうなづいた。粛々と受け入れる必要はない。踠き、足掻き、生に執着していた理由を欠片でも思い出すこと。――それが、自身への弔いになり得るだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

飛砂・煉月
無念なら痛いほど知ってる。
騙されることも、虐げられる事もな。
過去を辿れば解る想いは幾らでもあっけど。

……でも、だから言えるんだよなー。
救済ってのは、
祈るもんじゃない。
誰かに何とかして貰うもんじゃない。
自分で掴み取ってこそだって。

出来なかったアンタ等を責める気はねぇよ。
代わりに無念も、怨嗟も、オレが全部受け止めてやるだけだ。
哀れみでも、同情でもない。
救えないなら仕方ない。
唯、その想いオレが覚えておきたいだけ。
ほら、幾らでもぶつけて来な?

――行こうぜ、相棒。
傍らのドラゴンを竜騎士の槍に変えて、
ドラゴニック・エンドでの攻撃を中心に。

オレはアンタ達から絶対に眼背けない。
それがオレに出来る唯一の弔いだ。



 残された影は、ずいぶんと数を減らした。それでもなお怨嗟の声は止まず、聞くものの耳を苛む。その悲嘆の渦中で、飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)はどこか懐古の色をのせて目を細める。――無念なら痛いほど知ってる。騙されることも、虐げられる事も。過去を辿れば解る想いはいくらでもある。しかし、だからこそいえるのだ。
救いは――自らでつかみ取ってこそだと。
齎される救済に甘んじ、誰かの手を待つものではないのだと。
だから…さぁ、行こうぜ、相棒。そう傍らのドラゴンに呼びかければ、その純白の身が一振りの槍へと転じた。そして襲い来る魂を穂先が裂くたび、残影は悲鳴を上げる。なぜ、どうして、酷い――。けれどそれに耳を塞ぐことなく、煉月はそのすべてを聞いた。たとえ、自ら救いを掴むことが出来なかったとしても、それを責める気はない。寧ろ得られなかった先行きの代わりに、無念も、怨嗟も。唯自らが、その想いを覚えておきたいだけだとしても。その悲しい叫びを、怨念の姿を、全て受け止めてみせる。

オレはアンタ達から絶対に眼背けない。
それが――オレに出来る唯一の弔いだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴェル・ラルフ
無念の思いは、聞くことしかできないけれど。
それでも、その思いに耳を傾けて、君たちの無念を知るべき相手に叩きつけてくるから。
だから、せめて、その苦しみをもう終わりにしよう。

[ブレイズフレイム]ですべてを焼き尽くす。
僕に魂を救うような高等な真似はできないけれど。

ああ、恨みつらみに心を満たされたままなんて苦しいよね。
だから、吐き出したいんだよね。
君たちの思いを焼き払いながら、僕はこの思いを敵に伝えよう。
僕が復讐の肩代わりをするよ。



 凝っていた魂たちが、消えて行く。最後に残されたひとりの叫びは、未だ深い怨嗟を宿しながら、どこかさみしげにも聞こえる。ヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)は静かにその声へ耳を傾けながら、彼らの無念の大きさを思う。聞くことしかできないけれど、その思いを叩きつけるべき相手は知っている。
――だから、せめて、その苦しみをもう終わりにしよう。
そして無為な軛から解き放たんと、その手に煉獄の熱を呼び寄せた。

 炎が、せめぎ合う。互いに放たれた炎が、広間の中央で渦を巻く。恨みの炎は荒れ狂い、地獄の炎は猛り舞う。広間の空気は一気に熱を帯び、その温度を跳ね上げる。拮抗した炎同士はしかし、受け入れんとした意志の差か。徐々にヴェルの放った炎が怨嗟の飲み込み、残影をも燃やし尽くした。身を焼かれ、まだ蟠る辛さを吐く様が見えたが、その声はもう聞こえない。けれど、もう猟兵たちには十分に届いたはずだ。彼らの怨みが、苦しみが、悲しみが。ならば、この先に進むよりほかはない。

――さぁ、偽りの救済者に、この手を伸ばそうか。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『救済の代行者・プレアグレイス』

POW   :    黒死天使
【漆黒の翼】に覚醒して【黒死天使】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    鏡像の魔剣・反射
対象のユーベルコードを防御すると、それを【魔剣の刃に映しとり】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    鏡像の魔剣・投影
【魔剣の刃に姿が映った対象の偽物】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリーヴァルディ・カーライルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 戦い終えた広間を通り抜けた、更に奥。庭を見渡せるガラス張りのリビングに、ひとり立つ少女の姿が見えた。濡れた様な黒髪に、散りばめられた薔薇の馨しく。背を彩る純白の羽はさながら天使のように美しい。そしてそのどこか憂えた瞳を、歩み寄る猟兵たちへと向けて――花のように、微笑んで見せた。

「いらっしゃい、憐れな人間たち。
 待っていたわ、救うべき者たち。
 生きる苦悩を終わりにし、肉の檻から解き放ち
 ――すべて、天へと導きましょう。」

あまい、あまい、少女の声で。滑らかに白い指を伸ばし。
彼女は、死を宣告する。
ひとを救う――それ以外には何の頓着も、執着も、関心もない。
もしかすれば先の残影も、ただ行き場を無くして広間に凝っていただけで、先兵として配置したつもりすらないのかもしれない。
彼女にとって人は拒むものでも、陥れるものでもない。ただ、救うだけ。しかし、その救いもただただ殺し、偽りを与え、そして導くべき魂すらも現世を彷徨わせるばかり。何一つ、そう、ただの一つも救われなどしていない。
悪戯に悲劇を生むだけの存在。
――それこそがオブリビオン。そして、救済の代行者・プレアグレイス。

偽りの救済者の手は、猟兵たちへ差し伸べられた。
飛砂・煉月
※近くに誰かいたら連携したい

へぇ、アンタが救済者。
空っぽにするだけの天使に救済なんてねーだろ。
大切なヤツの偽物に意味ねぇのも解らないんだからな。

此処までに受け止めた無念はオレが代わりにぶつけてやるさ。
ーーハク!
相棒の名前を呼び槍へ変化させて。
ダッシュからの先制攻撃を仕掛け、竜牙葬送での一撃を。
串刺しに出来るなら勢いは殺さず、そのまま穿つ。
加減は知らない、する気もねーよ。

村に戻ったらやりてーコトあるんだ。
伝えたいコトも、あるんだ。
だから終わりにしよーぜ、偽りの天使サマ?

終わりが近いなら捨て身でも構わない。
偽りの救済は今日で終幕。
此処はアンタの墓場だよ、墓石はねーけど。
天使らしく空にでも還んなよ。


ニコラス・エスクード
――神の名のもとに
などとでも口遊みそうな見目だな。
救済等と漏らす様も、
救いが救いに成らぬ事も。
まさしく神の僕たるソレだ。

我が身こそが盾なれば、眼前へ踏み込むに否はない。
【怪力】による力任せと、構えた盾による【盾受け】で、
如何な攻撃が来ようと弾き飛ばし距離を詰める。
其の刃が此方に向くのは好都合、
他への被害を防ぐのもまた盾の務めだ。

距離を詰める勢いの侭、
この身にて受け止めた全ての痛みを乗せ、
【捨て身の一撃】にて『報復の刃』を放ち反撃を。

報われぬ魂達の悲痛を受け取るが良い。
この身にて受け止めた、その嘆きを。
この刃にて貰い受けた、その復讐を。
貴様の身にて、篤と知れ。

彼らの魂の、救済の一撃を。


リヴィア・ハルフェニア
『どこが救済なんだ。導いても救ってもいないくせに。お前のやっている事は、ただ悲劇を繰り返し悪夢という名の地獄を作っているだけだ!』
―――絶対に倒す。悪夢から起こし解放すると誓ったのだから。


集中して全力で行くわよ。【全力魔法、二回攻撃】
敵の攻撃は【学習】しながら回避か反撃し、ユーベルコードはこっちも【ミレナリオ・リフレクション】で相殺よ。
偽者には【範囲攻撃、属性:光、属性:氷】で迎え撃つわ。

仲間が傷ついたら、【シンフォニック・キュア】で回復ね。【歌唱、鼓舞】
この強い想いを乗せ、激しくも勇壮な旋律を歌いましょう。

≪アドリブ、絡み大歓迎≫



 プレアグレイスが差し伸べる手に、辿り着いた猟兵たちの向ける目は鋭い。既に彼女の起こした悲劇を、理不尽な怒りに震える魂たちを、知っているせいだろう。その中でひとり――飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)が歩み出て、出された手を大きく振り払う。
それは、拒絶。もう二度と言葉にできない影たちの、無念を伝える一手。
――空虚を与える天使など、偽物に意味はないと解さない救済など、いらない!!

「――ハク!」

 相棒の名を呼び、白き槍へと変化させる。プレアグレイスも、拒まれ僅かに驚いた顔を払拭し、純白の羽を黒く染め上げる。本来の、死を告げる天使の姿へと変わる。
 黒と白。
 互いに反する色を携え、剣と槍が激突する。打ち合い、剣戟が散る中、僅かに早い槍の速度が切っ先に腹をとらえる。

「ほら、相棒。奏でてやんなよ!」

 その一瞬、竜の咆哮が響いた。劈くのは、死天使に送るには皮肉な葬送曲。強かに打ち据えられ、数歩下がるプレアグレイスに、漸く僅かに人間らしい苦悶が浮かぶ。

「憐れな魂、肉の体に閉じ込められし者たち。
 我が慈愛、我が救済を受け取るべき者たち。
 足掻かず、与える全てを唯受け入れなさい。」
「――甘い!」

 滔々と、歌いながら放たれる黒剣の追撃。だがニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)がそれを許さない。
――我が身こそが盾なれば、眼前へ踏み込むに否はない。
救済者の振るう剣の前へと身を滑り込ませ、火花を散らす。その細身では凡そ考えられない重い斬撃を、ニコラスが盾受けの技術に膂力を乗せて留め切る。更には如何な攻撃も弾き飛ばさんと、足に力を籠めプレアグレイスを押し返す。数舜拮抗したバランスは、命を削る代価の所為か、黒い天使が僅かに息切れを見せた隙に、その身を大きく下がらせた。その瞬間を、ニコラスは逃さない。
この身にて受け止めた、その嘆きを。
この刃にて貰い受けた、その復讐を。
距離を詰める勢いの侭、身に受け止めた全ての痛みを乗せる。捨て身の構えで放たれるのは、報復の刃。

「――さぁ、報いを受けろ!」

まだ体勢の整わないプレアグレイスの身に、渾身の一撃を見舞った。

「――ぁ、…っ…!」

 初めて、虚ろな救済を謳う以外の言葉が、天使の口からこぼれる。空を舞い、かろうじで受け身を取って着地する天使の顔は、確かな苦痛が浮かんでいた。明確な敵意が滲みだし、立ち上がるその刹那。握りしめた剣の、鏡のように磨かれた刀身に、先まで向かい合っていたニコラスを映す。
――鏡像の魔剣・投影。刀身で対象を写し取り、その偽物を生む剣。
 村人に強いた悪逆を思わす技を以て、ニコラスの偽物を引きずり出す。見た目ばかりは似て、しかし見ればすぐ紛い物だと分かる、歪なモノ。その偽物たちが数歩歩いた途端、

「――絶対に倒す。悪夢から解放すると、誓ったのだから!」

 煌めく光と氷の礫が降り注いだ。後方から油断なく戦況を見張り、先を読んだリヴィア・ハルフェニア(歌紡ぎ、精霊と心通わす人形姫・f09686)が、魔力を編んで歪む鎧に攻撃を浴びせていく。その新たな攻め手に視線を向け、プレアグレイスが剣の角度を僅かに変えた。しかし新たに滑り出る歪な鎧にも、リヴィアは全力の魔力を乗せた歌で相殺していく。悉くを消し飛ばし、取りこぼした1体も駆け寄った煉月が槍を振るって穿ち断つ。更に腕を僅かに掠った煉月も、攻撃の疲労で立てずにいるニコラスも、重ねた歌が優しく癒していく。
立ち上がる2人を背に、リヴィアがプレアグレイスへと向き直る。

「なぜ抗うのでしょう、悲しき者たち。
 なぜ拒むのでしょう、愛しい人たち。
 私の救済は何もかも、貴方達の為ですのに。」
「どこが救済なんだ。導いても救ってもいないくせに。
 お前のやっている事は、ただ悲劇を繰り返し悪夢という名の
 地獄を作っているだけだ!」

リヴィアが叫ぶ。だが痛みや反撃には柳眉を潜めても、黒い天使にその言の葉が届く様は見えない。

「救いを、現世の軛から解き放たれよ。
 救いを、幽世の呼び声を聞き給えよ。
 救いを、――憐れな猟兵達に救済を。」

ひたすらに空っぽの救済を叫ぶ、その声をかき消すように。
勇壮な旋律が、黒鉄の鎧盾が、純白の竜槍が迫り。

――黒い天使が、人の根差す地に、差し伸べていた手をついた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
「ってーか、生きるのってそんなにキツイもんですかね?」
そりゃ飯が無きゃ飢えるし、傷付けば痛いし、楽ばっかじゃ無いですけど…
『あんなモノ』にされるより、マシってもんですよ。

ま、押し問答みたいですし?
オブリビオンってのは、そういうの通じないものなんでしょうし。
なら此処は尚の事、僕論、圧し通させて頂きましょうか。

フック付きワイヤーに纏わすは水の魔力。
トリニティ・エンハンスで状態異常力を強化し、SPDを活かして、
手足を、或いは翼を絡め、動きを阻害し味方の攻勢に繋ぎたく。
…反射? 猿真似? まぁどうぞ。
けど技の借用程度で、経験を、知識を、
止められると思っているなら、お門違いですからね♪


スヴェン・フリュクレフ
その様でなお救済を謳うか、代行者。
キミこそ救いを乞うているようだが、さて。

【断頭台と執行人】を当てるため場を整えたい。
『黒い脚』を【哀歌】で使用。周囲に展開し相手方の動きに備えよう。
脚は外殻だけになるが【恐怖を与える・傷口をえぐる】ことで動きを鈍らせられれば上々だと言える。
隙を見て【哀歌】の花弁を拷問具・晒し台に戻し、そのまま固定する。
固定できたならギロチンも同様に花弁から戻して設置する。
泣き言も、罵倒も、一通り聞いてやろう。その上で首を落とす。
だが、まだ救済をというなら少々腹立たしい。
私は作り手の珠玉の作品。憐れまれる謂れはない。
…ままごとは終いだ。

《アドリブは歓迎です》


ヴェル・ラルフ
キミのように、天使のような姿で甘美な救済を歌っていても…心が本当に彼らに向いていなければ、ヒトのためにならない。
ーーキミは理解できないかも知れないけれど、そう知れて、僕は良かった。
…ダンピールの僕は、とても純真な存在とは言えないからね。

僕は、心からキミに伝えたいことがあるよ。彼らの、無念を。

【真の姿】になる
ヴァンパイアの姿に酷似し、肌はより白く、鋭い歯は武器に

【POWで応戦】
手をついた敵に[覚悟]を決め[ダッシュ][早業]で距離をつめ、【陽炎空転脚】で顎、または体幹を狙う

キミは、救ったと思っていた人たちの声を聞いた?
僕が伝えるね。
キミを、許さない。


フラウロス・ハウレス
ふん、この世界にこんなおぞましいものが居ったとはな。
なんだ、死が救済だとでも言いたいのか?
ふん、虫唾が走る。どんな絶望の内にあろうとも、そこに希望があれば人は輝くのだ。
死に希望などない。故に貴様の救済など愚者の戯言に過ぎんっ!!
その偽りの救済とやら、この運命の反逆者、フラウロスが粉砕してやろう!!

あまり使いたくはないが、【血統覚醒】で自らを成熟した吸血鬼の姿に変えよう。
上がった身体能力を生かし、高速に踏み込み【ブラッディ・インパクト】でその可憐な顔をぶん殴ってやる!
「はん、痛いか?良かったな、痛いのは生ある証だぞ!故に貴様の救済に則り、貴様も『救済』してやろうではないか!!」



 猟兵たちの連携によるダメージが深いのか、立ち上がったプレアグレイスが一瞬ふらりとゆらぐ。

「救済を拒む意味を、私は理解できません。
 鏡像を嫌う理由を、私は許容できません。
 なぜ、なぜ…そうも生き続けようとするのでしょう。」
「ってーか、生きるのってそんなにキツイもんですかね?」

 問いかける声に、飄々とクロト・ラトキエ(戦場傭兵・f00472)が答えた。
生きている限り、食事がなければ飢え、傷付けば痛みが走る。ことオブリビオンに支配されたダークセイヴァーでは、生を全うするのは楽ではない。それでも。

「『あんなモノ』にされるより、マシってもんですよ。」

 その言葉を、心底理解できないかのように、プレアグレイスがことりと首をかしげる。オブリビオンは過去の怪物。その有り様を変えることはないのだろう。それも承知とクロトはワイヤーを引き寄せる。通じないなら唯、自らを圧し通すだけ。

「その様でなお救済を謳うか、代行者。」

 スヴェン・フリュクレフ(伽藍・f02900)も、自らの断頭台に手をかける。幾度となく攻撃を食らい、翼は煤け、ドレスは破けたその姿。ただの少女であれば憐れな様子だが、最早プレアグレイスに対してその感慨はない。同じく見つめるヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)も、その瞳に同情の色はない。天使のような姿で甘美な救済を歌っていても、心が本当に彼らに向いていなければ、ヒトのためにならない。それを十分に思い知ったから。そう知れて、良かったとも思うから。

「【断頭台と執行人】を当てるため場を整えたい。…頼めるだろうか。」
「了解、今回はお安くしておきますよ♪」
「わかった、任せてくれ。」

 スヴェンの要請に、クロトが軽口交じりに、ヴェルは真摯に答えた。そして、並び立つフラウロス・ハウレス(リベリオンブラッド・f08151)は、答えるよりも早く駆け出していた。

「ふん、この世界にこんなおぞましいものが居ったとはな…
 その偽りの救済とやら、この運命の反逆者、フラウロスが粉砕してやろう!!」

 叫ぶや否や、誰よりも小柄だった彼女の体躯が唐突に変貌した。肌は白く抜け、覗く犬歯の鋭さはまさに――吸血鬼。その類まれな身体能力を生かし、走る勢いのまま血風を纏った真紅の拳を容赦なく振りかぶり、天使の顔へと突き出す。突然の攻撃に、僅かに反応が遅れたプレアグレイスも黒剣で応戦するが、突進の勢いを丸ごと乗せた威力は殺しきれず、フラウロスの狙い通りその顔に鉄拳を受けた。華奢な頬骨は砕け、口の端から血を流し、天使が苦悶の声を上げる。

「どうして…なぜ…
 あなたたちは私に、苦しみを与えるのでしょうか?
 私の救済を、受け入れようとしないのでしょうか?」
「はん、痛いか?良かったな、痛いのは生ある証だぞ!
 故に貴様の救済に則り、貴様も『救済』してやろうではないか!!」

 拳を握りしめ、高らかに宣言するフラウロス。言葉に反応してか、蹲っていたプレアグレイスが起き上がり、反撃の剣を構える。だが今度はその体をクロトが仕込んでいたロープが締め上げた。水の魔力で状態異常の底上げをされたそれは、腕を、翼を、足を絡めとり、動きを徐々に、確実に鈍らせていく。

「…っ、離して…こんなことは…やめっ…!」
「ようやく救いを乞うたか。だが……ままごとは、終いだ。」

 捕らえられた瞬間、スヴェンの周囲をひらひらと舞っていた花びらが、プレアグレイスへと寄り集まって形を成していく。ひとつは手首を、ひとつは足首を。腰を、肘を、そして首を晒すように、頭を。全てを固定しながら、最後に現れた台が肢体を完全に捕縛する。――断頭台。慈悲ある処刑道具に、天使を括りつける。
 それでもなお抗うように、プレアグレイスは握りしめていた剣より鏡像を呼び起こし、先に自らをとらえたワイヤーを再現して見せる。

「所詮は猿真似、技の借用程度で、経験を、知識を
 止められると思っているなら、お門違いですからね♪」

 クロトの言葉通り、苦し紛れに放たれたワイヤーに威力はなく、フラウロスの凄まじい跳躍によってその全てを引きちぎられ、そしてヴェルの早業にて剣を蹴り飛ばされた。
 最早抵抗のすべはない。最後の花びらが銀色へと転じ、晒されたプレアグレイスの白い首を捉えた。スヴェンが上から下へ、するりと指をひと振りする。その途端、
 ギロチンの刃が滑り落ち――プレアグレイスの首を、断ち切った。

 ごとん、
 やけに重たい音が、猟兵たちの耳朶に響く。

 ――だが。

 首を落とされ、断頭台は花びらへと戻った。するとプレアグレイスの体が、がたがたと震えながら動き出す。取り落とした剣を構え、ずるりと前進する。
――それは執念のなせる業か、それともオブリビオンたる怪物の性か。
 もはや天使は似ても似つかない、悍ましい姿を前に、ヴェルが歩み寄る。ひとつ、ふたつ、踏み出すごとにその身を変えながら。肌は白く、犬歯は武器の鋭さを覗かせる――吸血鬼の、姿に。それはこの戦いを終わらせる、覚悟の証。

「…心からキミに伝えたいことがあるんだ。彼らの、無念を。」

それがもし届いていたなら。きっと、こんな惨劇は起こらなかったのだろう。
だから、今ここで伝えよう。

「――キミを、許さない。」

音に迫る速さで放たれた蹴りは、プレアグレイスの細い肢体を折り、地へと堕とす。

「どう…、して…。」

断たれた首が、最後にぽつりと零す。
最後まで何一つ理解できないまま、偽りの救済者が静かに――塵と消えうせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『誰が為に鐘は鳴る』

POW   :    周囲のひとたちを励ます

SPD   :    何の為の鐘か村人に尋ねる

WIZ   :    静かに祈りを捧げる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 偽りの救済者は倒された。誰もいなくなった館を後にし、猟兵たちは村へと向かう。ものの数分で辿り着いた村は、酷く寒々しくて静かだった。プレアグレイスが消えたのと同時に、恐らく“空っぽ”たちも朽ちたのだろう。見える人影は少なく、その誰もが俯き、または――涙していた。
 村のだれもが、“空っぽ”が偽物であることには気づいていた。そして、自らの死が、免れられないことも。だから残された日々の手慰みに、“空っぽ”相手に日常を送るうち、ただただ諦めと逃避だけが募っていった。それが今日、唐突に終わった。圧制者は死に、“空っぽ”は霞と消え、村人の命数は伸びた。だがその代わり、今まで全てを手放す代わりに目を背けていた、生々しい傷と向き合わねばならなくなった。――愛する人を、失った痛み。そしてその痛みを抱えて、この先を生きねばならない現実。未だ飲み込むには大きすぎる傷を前に、村人たちはただ、涙を零す。

 村から少し離れた墓地には、少年――アレンがいた。村の様子から、事態は察したのだろう。円匙を投げ捨て、増えすぎた墓を前に、複雑な表情を浮かべていた。怒り、憎しみ――そして、悲しみ。遠からず来るであろう自らの死を前に、封をしていた感情が一気に沸き上がり、うまく処理できずにいるのだろう。ただ村人のように泣くことはなく、怒りに叫ぶこともなく、静かに墓場を見遣る。
 ふと、アレンが懐からくすんだ金色の鐘鈴を取り出した。手に収まるサイズの小さなそれは、手作りだろうか。少し歪ながら、持ち手の良く馴れた皮が、古くも磨き抜かれた真鍮の輝きが、大事に使われたことを窺わせる。未だに感情の整理はつかず、明日を思えば心細い。だけど、きっとここに新しい墓が増えるのは、しばらく後になる。それを――ここで眠る魂たちに、伝えようと。

――カラン、カラン。

小さな弔いの鐘が、墓地に鳴り響いた。
飛砂・煉月
ハクを肩に村を歩いて
上手い言葉は持ってないから、少し話しよっか
一匹の狼の話

物心つく頃に覚えた景色は牢獄
続く日々は理不尽な暴言と暴力
狼は何度も思った
何で、生きてんだろって
けどただ死ぬのは嫌で
狼は死ぬ気で牢を抜け出した
そして知るんだ
救い待つものじゃない
自分で掴むものだって

要は自分で決めなきゃ後悔するってのと
あと生きてればいつか、良い事あるよって話
今は喪失が辛くて痛いだろ
泣いていい
怒っていい
オレ、全部聞くから

墓でアレンを見つけたら、複雑?って隣に並んで
でも此処に眠る想いを守るの生きてなきゃ出来ないから
守って欲しいとか、勝手な言い分

なぁ、色々オレに聞かせてくんない?
とりとめの無い気持ちとか
鐘の意味とか


ヴェル・ラルフ
【WIZ】
大切な人をなくすやり場のない怒りを、悲しみを、僕は知ってる。
そして、その悲しみは時間がどれだけたっても、消えはしないことも。

だから、村人のみんなのために出来ることは、ただ祈るだけ。
お墓に花を贈りながら、一人一人に、祈ろう。
黄色い薔薇には「平和」の花言葉があるから…
どうかもう、苦しまないように。

君たちの思いを受け止めて、僕は、オブリビオンを倒し続けるよ。



 静かな村の中を、猟兵たちが歩いていく。時折村人が視線を向けるが、それ以上の反応はない。よそ者の対応を考えあぐねている、というよりは、置かれた状況の整理だけで手一杯なのだろう。
 白い竜を肩に飛砂・煉月(渇望の黒狼・f00719)が歩き続けていたら、程なくして少し開けた場所に、数人で固まっている子供たちが見えた。まだ人の死を理解するには幼いせいだろうか、大人たちに比べて悲壮感は薄い。ただ周りの様子にどうすればいいかわからず、困った末に身を寄せ合っているようだった。手持無沙汰だったのも手伝って、煉月の姿を見れば好奇心のままにわらわらと集まり、お兄ちゃん誰?どこからきたの?と、とりとめのない質問が浴びせられる。一通り宥めて落ち着かせると、やはり大人ほどではないとはいえ、どこか物憂げな様子はぬぐえない。ならば、と。煉月が地面にどっかと座り込み、子供たちに話しかけた。
「少し話しよっか。一匹の狼の話。」

物心つく頃に覚えた牢獄の景色。続く日々は理不尽な暴言と暴力。
狼は何度も思った――何で、生きてんだろって。
けどただ死ぬのは嫌で、狼は死ぬ気で牢を抜け出した。
そして知るんだ。救い待つものじゃない。
――自分で掴むものだって。

「でも今は喪失が辛いだろ。泣いていい、怒っていい。
 オレ、全部聞くから。」
 そう話を終えると、静かに聞いていた子供たちが俯きだした。それぞれに何か言いたげにする中、そばにいた少女が、ぽつりぽつりと話しだす。

「あのね、さっき、“空っぽ”のお母さんが消えちゃったの。」
「…うん。」
「それでお父さんがね、もう二度と会えないんだよって。
 そのときね、おむねがなんだか痛い気がしたの。
 もしかして、これが“つらい”とか、“かなしい”…なのかな。」
「…そう、だと思うな。」
「そっか、私、かなしかったんだ。」

そうつぶやいた途端、少女の目からぽろぽろと涙がこぼれた。そっと頭を撫でてやれば、泣き声は一層大きくなり、やがて聞いていた子供たちもそろって泣き出した。幼いが故に、吐き出し方を知らなかった思いが、ゆっくりと地面に吸い込まれていく。
――カラン、カラン。
遠くから、小さく鐘の音が聞こえる。ああ、あとで少年にも聞きに行きたいんだ。
とりとめの無い気持ちを、鳴らすその鐘の意味を。


 村の様子を見終え、ヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)は墓場へと足を向ける。その胸には、黄色い薔薇の花束を抱えて。やがて見えた朽ちかけの柵の内に、小さな鐘を手にした、赤毛の少年――アレンの姿が見えた。ヴェルに気づくと振り返って、少し驚いたように目を見開いた。

「…よその、人?もしかして、アイツを討ってくれたヤツ、なのか。」
「僕一人の力ではないけど、ね。さっき、皆で倒してきたよ。」
「そっか…うん。なら、ありがとう、って言うべきなのかな。」

 そばかすの浮いた鼻頭を擦り、どこか他人事のように緩々と言葉を零す。村人の誰よりも死を身近に見て、寄り添ってきたせいだろうか。唐突にその死へ向かうだけの日々が終わったことに、一番実感が持てないのは、彼なのかもしれない。

「墓を、見舞ってもいいかな。」
「…ん、きっと皆喜ぶ、とおもう。
 村の連中、“空っぽ”の相手ばっかして、誰も来なかったから。
 でも、また…、…来て、くれるといいんだけど。」
「…そうだね、きっと来てくれる。」
 
アレンの翳る瞳を前に、それでも絶対、とは言えなかった。
大切な人をなくすやり場のない怒りを、悲しみを、知ってるから。
そして、その悲しみは時間がどれだけたっても
――消えはしないことも。

 墓の数だけ悲しみは多く、根深く、村人たちを苛み続けるだろう。それだけ、かの救済者を偽るものが残した爪痕は深い。それを癒すのは生き残った人同士の絆と、長い長い歳月だ。だから今、村人のみんなのために出来ることは、ただ祈るだけ。並ぶ墓の一つ一つに、平和の意味を持つ花を贈りながら、ヴェルは静かに祈りを捧げていく。たとえ時間がかかったとしても、いつかこの墓全てに、黄色い薔薇以外の花が添えられる日が来ることを願って。

――どうかもう、苦しまないように。
君たちの思いを受け止めて、僕は、オブリビオンを倒し続けるよ。

墓へ捧げる祈りに、そう、誓いを籠めて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リヴィア・ハルフェニア
祈るかわりに私は歌を捧げましょう。

解放された魂達がどうか安らか眠れるよう。
残された人々が絶望にとらわれないよう。
悲しくても、辛くても未来への希望を見失わないように――願いを込めて。

皆に聞こえて欲しいから、響き渡らせるために全力で歌うわ。
【全力魔法,合唱,優しさ,鼓舞,(応用して)範囲攻撃】

お墓には花を手向けたいから探してみよう。
もし地の精霊が居たら、尋ねてみるわ。

帰る前に、他にも私の出来る事はやっていきたい。

≪アドリブ大歓迎≫


クロト・ラトキエ
“いたみを抱えて、この先を生きる”――
正しくその通りなのでしょう。
悲しみ、嘆き、泣いて。
そうしてやがて、選ばなければならない。
蹲り続けるのか。或いは立ち上がり、歩み出すのか……
命を、如何使うのかを。

明るい未来など語れない。
ましてや慰めの言葉など。
……そもそも僕、こういうのって苦手ですしね?
(彼らのそれは、己の中には無いもの、識りはしないこと故に)

空っぽ、なんて言われないといいななんて思いつつ、
「花でも、探して参りましょうか」
声を掛ける。
大人の声音、浮かべる表情は、ただ安堵させる為だけのものだとしても。
僕に出来ることで、せめて寄り添いましょう。
――餞を。
時間はもう、限られてなどいないのだから。


スヴェン・フリュクレフ
・WIZ
どうにも、掛ける言葉が見つからない。
……難儀なものだ。
元凶の排除は果たされたが、胸を張って誇れることではない。
感謝されるようなことでも…ないように思えてならない。
残された彼らにとっては、…些か遅かったことだろう。

人に習い、悼むとしよう。
鐘の音を遮らないよう鎮魂を願い、歌う。
願わくば、疲れ果てた生者にしばしの憩いを。
荒涼とした心にいつか穏やかな風が吹くことを祈って。

心情を推し量るのは無粋なことのように感じるのだが、
少年は……思い切り泣いてしまえばいいと、思う。
弔う手が足りないというなら手伝おう。
だから、もう抑えることはしなくてもいい。


ニコラス・エスクード
想いがあるから夢に浮かぶ。
在りし日の空想に浸る事など、
幾度繰り返しただろうか。
主達と共に過ごした日々は、遥か遠く。
しかし確かに残っている。

酷な世界だ。酷く。酷く。
夢を見て生きるのもまた仕方がなかろう。
だが夢からは覚めねばならん。
現を生きなければ。
生がある限りは。

想いを噛み締められるのは、
生きている者にしか出来ない。
だが想うことが出来るのだ。
想い、悲しみ、涙を零すのが、
何よりの手向けだろう。

励ましの言葉など浮かびはしない。
だがその想いに寄り添う事が出来る。
人を想い悲しむ事が出来る人間は強い。
必ず立ち上がり、生きることが出来るだろう。

ただ、今だけはな。



――歌が、聞こえる。
解放された魂達がどうか安らか眠れるよう。
残された人々が絶望にとらわれないよう。
悲しくても、辛くても未来への希望を見失わないように。
リヴィア・ハルフェニア(歌紡ぎ、精霊と心通わす人形姫・f09686)が、願いを込めて声を震わせる。村にも届くよう紡がれる歌は、風に乗り、力強くもやわらかく響いていく。クロト・ラトキエ(戦場傭兵・f00472)がその歌に耳を傾けながら、墓地へと歩み寄る。アレンがその姿を見て、ふと浮かんだ疑問をぶつける。

「アンタたちは、流れの傭兵なの?」
「僕はまぁ、そうですね。ですが皆が皆、そうではないので。
 …ですから“猟兵”、と。そう呼んでくれれば。」 
「猟兵…、かぁ。初めて聞いたや。
 アイツを倒せる人間なんて、いると思わなかった。」
「僕らは、それが目的ですから。」

それだけつぶやき、ふつりと会話が途切れる。悲しみを抱えた少年を前に、まだ乾ききらない悲劇の傷跡を前に、明るい未来など語れない。ましてや、慰めの言葉など。そもそもこういうのは苦手だ、とクロトは改めて認識する。彼らのそれは、己の中には無いもの、識りはしないこと故に。
だから、せめて。

「花でも、探して参りましょうか。」
「私もご一緒するわ。地の精霊が居たら、尋ねられるから。」

歌い終えたリヴィアが申し出る。そうして墓地を離れる刹那に、アレンへと浮かべる表情は、ただ安堵させる為だけのものだとしても。

出来ることで、せめて寄り添いましょう。
――餞を。
時間はもう、限られてなどいないのだから。


どうにも、掛ける言葉が見つからない。
スヴェン・フリュクレフ(伽藍・f02900)が、少年を前に声を詰まらせる。その代わりに鎮魂を願い、鐘の音に添うように歌う。願わくば、疲れ果てた生者にしばしの憩いを。荒涼とした心にいつか穏やかな風が吹くことを祈って。しかし。
――難儀なものだ。
元凶の排除は果たされたが、胸を張って誇れることではない。感謝されるようなことでも、ないように思えてならない。残された彼らにとっては、些か遅かったことだろうから。今更詮無いことだが、それでも、もっと早くに間に合えば。墓地を埋める墓の数を数えれば、どうしてもそう思ってしまう。
 ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)も、広がる光景を前に思いを巡らせる。
――想いがあるから夢に浮かぶ。
在りし日の空想に浸る事など、幾度繰り返しただろうか。
主達と共に過ごした日々は、遥か遠く。しかし確かに残っている。
思えばこのダークセイヴァーは、酷な世界だ。酷く。酷く。“空っぽ”を前に夢を見て生きるのも、また仕方がないのかもしれない。そう、思わせるほどに。けれど夢は夢である限り、いつか覚めなくてはならない。現を生きなければ。その生が、命が、ある限りは。
 歌い終えたスヴェンが、アレンの強張った顔に、そっと声をかける。心情を推し量るのは、無粋なことのように感じる。けれど彼はまだ、何かを我慢しているように、耐えているように、見えるから。
 
「キミは……思い切り泣いてしまえばいいと、思う。」
「泣く…?」
「弔う手が足りないというなら、手伝おう。
 だから、もう抑えることはしなくてもいい。」
「泣く、なんて…もうずいぶんしてない、や。
 父さんがよく、兄なんだから泣くなって、言ってたっけ。
 …でも、父さんも母さんも、妹も。もう、居ないんだよな。
 だったらもう――、いいのかな。」

そう零すアレンを横に、ニコラスの言葉はない。だが僅かに吹く風を遮るように、そして静かに傍に立つその姿は、寄り添うことはできると。そう示すかのようだった。

――想いを噛み締められるのは、生きている者にしか出来ない。
だが想うことが出来るのだ。
想い、悲しみ、涙を零すのが、何よりの手向けだろう。

音にならない想いの内が、それでも知らず、アレンの目からこぼれるかのように。
僅かに覗く陽が翳るまで、掻き毟る様な泣き声が、墓地を満たしていった。



「――なぁ、あんたらは…猟兵、ってやつは。
 アイツみたいなのを倒せるんだよな。」

泣き疲れ、声は掠れて上手く出ず、体は萎えて動くに辛い。
それでも涙をぬぐい、アレンが猟兵たちへ、ぎこちなく笑って見せる。
中身は伴わず、形作るのが精いっぱいの笑顔だが、それでも。

「なら、いつかこの世界を変えてよ。
 もう俺らの村みたいなのが、出ないように。」

その願いが叶う日まで、この残酷な世界を、俺たちは。
――生きて、いくから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月25日
宿敵 『救済の代行者・プレアグレイス』 を撃破!


挿絵イラスト