アルダワ魔王戦争2-B〜食うか食わせるか
「おーおー、調子良く進ンでンじゃねェか。息切れしねェよォに行くぜ」
かつて大魔王が封印されたアルダワ魔法学園の地下に広がる大迷宮、その最深最奥最初の迷宮『ファーストダンジョン』への進攻の為の作戦も、早々に次の階層へと差し掛かり。大儀そうにゆったりと、グリモア猟兵の我妻・惇が腰を下ろしながら。
「乗ッてる時こそ慎重に、ッてなァ。そォいう時ほど足滑らせて真ッ逆さまに落ッこちるもンだ」
嫌なことを言う。それこそ肩の力を抜かせるための、冗談のつもりらしいのだが…。
「…ッてェのがな。今度ンところが『振り子の道』ッてヤツでな」
地底湖の上、蒸気を動力として揺れる橋が架かった場所である。もちろん歩くには不安定で、気を抜けば簡単に落下してしまう。そしてさらに悪いことには。
「落ちるとそのまま、ガブリとやられる」
真下の湖にはこれまた蒸気で動く巨大怪魚が棲み、猟兵と災魔とを問わず、届くものなら食らいつき、引きずり込もうとしてくるのだ。なおこの捕食者は、足場の影響を受けぬように飛んで行こうとしても、確実に飛び上がり噛み付いてくる。非常に煩わしくはあるが、この機構を作った偏執的な何者かの戯れに、付き合ってやるしかないようである。
「ンで、橋の上にも当然のよォに敵がいてなァ」
相手はミミックスパイダー、その背に宝箱を背負ったような大蜘蛛の災魔である。冒険者の目を欺き襲う為に擬態能力に優れているのだが、今回は道の阻害を目的としているためか、捕食者らしい恐ろしげな姿を見せびらかすように立ちはだかっている。不安定な足場にあっても低い重心と多数の脚で危なげなく道を塞いでいるようだ。
「落とせばコイツらもきちンと食われるらしいンでな。巧く立ち回りゃ馬鹿正直に倒すこともねェ。とにかく油断大敵だな、どォにか踏ン張ッて、よろしく頼まァ」
怪魚の脅威を想起させるためか、ゆっくりと腰を上げたグリモア猟兵は歯を剥いてカチカチと鳴らして見せた。
相良飛蔓
お世話になっております、相良飛蔓です。今回もお読みいただきありがとうございます。
1フラグメント完結の戦争シナリオとなっております。不安定な足場で戦う工夫をしたり、敵を足場から落とす工夫をしたりすると有利に運びやすいかもしれません。プレイングボーナスです。
そういうわけで、よろしくお願いします。
第1章 集団戦
『ミミックスパイダー』
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POW : 擬態
全身を【周囲の壁や床に擬態した姿】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 飛び掛り
【岩のように硬質な牙と脚】による素早い一撃を放つ。また、【擬態を解き、宝箱や岩石化した肌を剥がす】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 第二の口
【宝箱に擬態した第二の口】から【粘着性の高い糸】を放ち、【周囲の地形ごと体を縛り付けること】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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塩崎・曲人
この橋作った奴は底抜けのアホか特殊なサディストか、どっちかに違いねぇぜ
「つうか振れ幅デカくね?バカじゃね?」
ところでこれ、橋の手前から射撃して蜘蛛共を叩き落とした後渡るってのは……
うん、どうせダメなんだよな。そんな気はしてた
さて仕事すっか
敵さんは本物の蜘蛛よろしく飛びかかってくると
じゃあホイ、オレは動かず構えて飛びかかってくる奴ら相手に【咎力封じ】だ
待ち構えてる分こっちは安定するし、こっちに向かって飛びかかってくるならある程度起動も予測できるわな
UC封じられて、そのまま下で魚の餌になりな
「じゃあな、来世ではもっとマシな職場に配属されるよう祈ってるぜ」
【アドリブ歓迎】
「この橋作った奴は底抜けのアホか特殊なサディストか、どっちかに違いねぇぜ」
橋の手前から、押し詰められたように集まりながら道を阻むミミックスパイダーたちを眺めながら、塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)が嘆息する。敵の数も、動く橋も、頭を悩ますには充分な光景である。悪態のひとつも吐きたくなるというものだろう。
「つうか振れ幅デカくね?バカじゃね?」
橋とは、より低い位置を通る道路や水面などを跨ぐ形で高い場所に設けられた道である。即ち、道であることが橋の条件であるとするならば、目の前にある物は――橋を名乗るも烏滸がましいほどに、その底面を傾斜させていた。
バカ相手に馬鹿正直に付き合ってやる必要もないだろう。曲人はひとつの思い付きを実行に移してみる。手頃な石を拾い上げ、その場で軽く拾い上げ…ナイスヒット。フルスイングで射出された石は、群れの端に位置した蜘蛛に綺麗にヒットし、完全に油断していたそれを足場から叩き落とすことに成功した。それはそのまま落下して、水面までを待てなかった巨大魚より出迎えを受け、姿を消した。その間に、上では。
「うん、どうせダメなんだよな。そんな気はしてた」
駄目で元々とは言え、改めて突き付けられると落胆するものである。落とした分の蜘蛛の替わりがどこからともなく現れて、密集する群れに加わってきた。結局のところ、これを突破するしかないらしい。
「さて仕事すっか」
うんざり諦めの時間を切り上げて、少し歩いて進んだところで、一頭の蜘蛛が飛び出した。容易く退がって逃げられぬまで、待って襲ってくるらしい。それに追随するように、続いたものが続々と。対する曲人は慌てもせずに、姿勢を低く迎え撃つ。ただしその方法は、カウンターで鉄パイプをぶち当てるとか、そういった手法ではない。
「ホイ」
買った缶ジュースでも軽く投げ渡すかのように、それぞれに軽快にユーベルコードを投げつける。空中で無防備に、それを受けた蜘蛛たちは、自慢の脚を縮こまらせて、もがく事すら許されなくなった。使用されたのは、咎力封じ。功を奏したのは、拘束ロープ。
その爪牙は獲物まで届くことなく。ご丁寧に背中の宝箱の第二の口まできちんと縛って厳封されている。岩石のように硬質化した甲に両側から生えた多くの脚、それがロープできっちりと縛られ、最期を待つばかり。その姿は、商品として店頭に並び食べられるのを待つだけの――カニに似ていた。
ともあれ一通り猛攻が止むと、猟兵は獲物で小突いたり足で蹴ったりして、梱包された蜘蛛を橋から追い落とし、下の掃除屋に引き渡していった。
「じゃあな、来世ではもっとマシな職場に配属されるよう祈ってるぜ」
成功
🔵🔵🔴
杼糸・絡新婦
おおっと、こりゃ気をつけなあかんなあ、
さて、どうしたもんかと思うたら、
ええ足場があるやないの。
錬成・カミヤドリで鋼糸・絡新婦を召喚、
敵に巻きつけて攻撃する、
それと共に、捕獲できた【敵を盾にする】
他に、足場として利用、
ほれしっかり踏ん張りや。
敵の攻撃は【見切り】で回避するか【カウンター】を狙う。
バランスを治す際も、敵に糸を絡めつけ、
杭代わりにして立て直す、ついでに相手をおとせたらもうけもん。
「おおっと、こりゃ気をつけなあかんなあ」
風切る音を鳴らしながら目の前を行き来する橋に、杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)はほんの少し目を丸くした。驚いた様子を見せるが、その目の奥は僅かに笑っている。さてどうしたもんかと取り付く島を探してみれば…
「ええ足場があるやないの」
今度はすぐさまそれと分かるように、にんまりと笑った。玩具か獲物を見つけたように…あるいは、どちらも。
猟兵は、自らの本体である鋼糸・絡新婦を無数に複製、召喚した。それらは何物の手も借りず、ひとりでに先へ先へと伸ばされ、立ちはだかる蜘蛛たちに絡みつく。跳びかかる敵には絡め取った一頭をあてがい盾としたり、力を込めて投げつけてやったり…と、敵の近きも遠きも関わらず、この場全てを制御して、やりたい放題の思うさま、という具合である。彼の糸の届く範囲においては、全てが望み通りに操られ――災魔たちは、その巣に迷い込んだ、獲物に過ぎないようで。
捕食者たる糸の主は、楽しげに笑い腰掛ける。その下にあるは一頭のミミックスパイダー。背中の箱を糸で封じられ、それに寄っては足場とされた。その脚は自らの背に届かず、追い落とす手段も持ち合わせず。下手に身体を返しでもしたら、それこそ水面に真っ逆さま。
「ほれしっかり踏ん張りや」
頭上に居ながら足元を見る、憎き猟兵に顎を鳴らして抗議をするが、そんな災魔の不平の吐露に、絡新婦はやはり笑って見せつつ、その手は忙しく糸を操り、他の攻撃を見切り、流す。飛び掛かる爪牙を引っかけては、それを滑らせ淵へと誘い、脚に絡めては節より引き切り。片やピアノでも弾くような運指でもって優雅に美しく、一方ではそれに御された凄惨な光景が繰り広げられていた。足場とされた蜘蛛さえいなければ同じ戦場とは見えない程に、それは異質なものであった。
打開を狙ったミミックスパイダーたちが、矢庭にそれへ飛び掛かった。不揃いな攻撃はすべてへの適切な反応を困難なものとし、いくらか鋼糸の網を潜り抜けるものが現れる。手駒とされた仲間の身すらもはや厭わず、そこへも爪を突き立てて、諸共敵を殺しにかかる。さすがに堪らず猟兵が跳んで避ければ、そこへも蜘蛛が殺到し。
巧みに糸を操って、続く攻撃を躱しに躱して多くの蜘蛛を淵へと落とす。そうした彼も橋から離れ、橋より下へ――
「おお、こわいこわい」
追った蜘蛛たちだけが次々と湖面に落ちていく。絡新婦自身は上へと糸を絡めつけ、落ちずに我が身を確保して。足元の水から飛び上がり、空を噛んで落ちていく巨大魚を見送りながら、また笑った。
成功
🔵🔵🔴
芦谷・いろは
凄く揺れちゃってますね
下の湖には食欲旺盛な巨大怪魚さんも居るみたいですし
これは落ちない様にしなければですね~
早速落ちない様にあやつり人形の襲さんと《手をつなぐ》していきますね
そうしたら、ミミックと接敵している仲間の所へ
【古ぼけた童謡】を使用してテレポート!
ミミックを《なぎ払い》していきます、攻撃されたら襲さんで《武器受け》しつつって感じですかね
湖に落ちちゃえ~♪ですよ
自身が落ちそうになったり、仲間が落ちそうになったら 仲間やあやつり人形と《手をつなぐ》
そして、【古ぼけた童謡】を発動。橋の上にいる仲間の所へテレポートです
又は《ロープワーク》技能を使って橋に操作糸を巻き付け落下しない様にしますね
「凄く揺れちゃってますね」
突然に橋上に現れた芦谷・いろは(傀儡使い・f04958)は、あやつり人形の襲さんと手をつなぎ、ゆらゆらと危うくバランスを取ってから、ひとまずの安定にほっとひとつ、息を吐いた。
「これは落ちない様にしなければですね~」
するすると糸を戻して登ってくる猟兵の手を取り引き上げ、にこっと笑って見せてから、蜘蛛の脚を巧みに受け止める相棒の方へ向き直る。十指に結んだ十糸で操る、伝家のヤバめの繰り人形。片手を人とつないだままに、五指でもっても防いでのけて、その上両手で扱ったなら、その実力や――などと疑問を呈するまでもなく、本領発揮の襲さん、受けた蜘蛛脚を掴んで持ち上げ、振り回しては敵にぶつけて薙ぎ払う。
「湖に落ちちゃえ~♪」
暗がりにありて目に鮮やかに、踊り暴れる淡蘇芳、落ちる間際の牡丹の如くに褪せたる色の蜘蛛どもを、取っては投げて切っては落とし、湖の主の糧とする。こちらの舞うは先とも違い、鮮やかなるの動き回る、優雅さよりも闊達さ。襲の動くも相俟って、楽しげに遊ぶ娘のようでもある。もちろん娘ではあるが、遊びではない。
そうして立ち回る一瞬の隙に、一頭の蜘蛛が飛び掛かり、いろはの身体を橋の外へと押し落とす。短く悲鳴を上げながら、糸で繋がる相棒を呼び寄せその手をつないでやって、寸での所で繋ぎ留める。どうにか魚の餌食とならずに安堵の息を漏らしはするものの。
そんな危機的な敵の姿を、災魔の群れが見逃す筈もない。橋の下に手を伸ばし、背中に隙を貼り付けた人形を、どうして見逃しておけようか。後ろの正面取ってしまえば、首を掻くのは造作もなかろう。そんな好機に我先にと、幾頭ものそれが飛び掛かり。
「危なかったですね~」
飛び掛かり、肩透かしを喰らったミミックスパイダーたちは、止まるに止まれず滑って落ちて、押し合い圧し合いそのまま淵へ、まとめて怪魚に身を捧げた。無防備に落とされたはずの敵の姿は、その餌の中には含まれず。
突然背後に声を聞いた一人の猟兵がそちらを向けば、あやつり人形の襲さんと、それと手をつないで胸をなでおろすいろはの姿があった。最初に橋の上へと現れた時と同様に、ユーベルコード・古ぼけた童謡の行使によって、共々に仲間の背後にテレポートしたのである。少し驚いた表情の青年の視線に気付くと、先の仲間へと同じように、またにっこりと笑って見せた。
大成功
🔵🔵🔵
夜羽々矢・琉漣
多脚での安定性はそっちだけのモンじゃないよ?
UCを発動して、召喚した大型戦闘ロボットに搭乗。脚部の先端が尖ってるたタイプの機体で、先端部を橋に食い込ませることで安定を図る。
武装は爆発威力の高いバズーカと、衝撃力の大きい肩部キャノン砲。爆発と単純な威力とで相手を吹っ飛ばすことに重きを置いた構成だね。
無敵になったとしても根っこ生やしてる訳じゃないんだから、流石に物理法則までは無視できないでしょ。
真っ向から勝負を仕掛けようなんて端から思ってないよ。橋から弾き出せれば、後は勝手に片付けてくれるんだからさ。
夜羽々矢・琉漣(コードキャスター・f21260)の戦線への参入は、揺れを伴うものだった。当然橋は揺れているのだが、それだけでは…否、それどころではない。彼のユーベルコードは、自身の手足となるを召喚するものである。そしてそれにて呼ばれたものは、糸で操る人形のようなものではない。
「多脚での安定性はそっちだけのモンじゃないよ?」
スピーカーを通したやや無機質な声で、災魔たちを挑発するように呼び掛ける。その脚が橋の上に差し掛かると、それは振り子の揺れを不規則に乱し、その足元には穴を穿つ。琉漣が言うように、その四脚は重量ゆえの安定性を誇り、大きな体躯で傲然と、蜘蛛の群れを見下ろしていた。現れたのは、重火器を満載した、大型戦闘ロボットである。それの中にあり、それと視界を共有する猟兵は、同じくその敵を見下ろしている。
些か予想外の質量に攻めあぐねる蜘蛛たちに先立って、琉漣の駆る機体が仕掛けた。肩部のキャノン砲の口を傾け、眼下に並み居るそれらに向けて撃ち放つ。見た目どおりに威力は高いが敵もさるもの、その甲殻は破れない。無傷とまではいかないが、微かに焦げ跡のつく程度、致命傷には程遠く。
琉漣はしかし、特別気にしてはいないようだ。隙を作らず攻撃を続け、橋が大きく傾いたところに、災魔の群れの足元目掛け、追い撃つようにバズーカを。衝撃に押されてよろめいて、爆風によって吹き飛ばされて、橋より剥がされそのまま滑って転げ落ち。これではまずいと飛び掛かるものには、晒した腹に一発、二発。射撃の的もさながらに、やはり飛ばされ真っ逆さまに。
「無敵になったとしても根っこ生やしてる訳じゃないんだから、流石に物理法則までは無視できないでしょ」
指摘の通り、橋の底面に同化しながら衝撃をやり過ごす蜘蛛たちであったが、浮き上がってはどうしようもなく、脚を空しくばたつかせながら、暗い水面に落ちていく。
「真っ向から勝負を仕掛けようなんて端から思ってないよ。橋から弾き出せれば、後は勝手に片付けてくれるんだからさ」
ルールを上手に利用する、もしくはルールの穴を突く。いかにもゲーム的で、いかにも彼の得意分野的。手元の操作で砲を操り、迅速に軽快に災魔の群れを底へと送り込んでいく琉漣。そうとは知らずに後を託された巨大怪魚は、遥か上方の猟兵の期待した通り、無敵でありつつ手も足も出ない蜘蛛たちを、その口の中に迎えていった。
成功
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シリン・カービン
【SPD】
「色々な仕掛けを考え付くものですね…」
振り子間の移動には【シルフィード・ダンス】を併用。
足元の悪さをカバーして効率良く渡って行きます。
必要があれば、他の猟兵の助けにも回りましょう。
蜘蛛がどんなにしっかり足場にしがみついていても、
脚が地から離れる時はあります。
それは、獲物に飛び掛かる瞬間。
蜘蛛と距離があるうちは狙撃で脚を撃って
振り子から落としてやりましょう。
近づかれたら振り子から落ちない様に注意しつつ後退。
焦れた蜘蛛が飛び掛かってきたら、空中を蹴って躱します。
すれ違いざまにお尻を蹴り飛ばして振り子から落とし、
後は怪魚にお任せで。
…渓流の魚は、落ちてくる蟲を飛び上がって食べていましたね。
ドロレス・コスタクルタ
SPD対抗
「こちらに一方的に不利というわけでもないのですね……」
仕掛けを作った者の真意は測れないが足場は最悪。敵は多数。時間をかけるほど不利になる。短期決戦一択。UCを発動し揺れる橋を一気に駆け抜ける!
素早く飛び掛かってくる蜘蛛に対しては、増大した反応速度と【見切り・戦闘情報】を利用し、蜘蛛の動きの癖を読んで先読みしながらギリギリまで引き付けて躱す。その際には【フェイント】による誘いの隙と【地形の利用・情報収集】で橋の揺れも計算に入れる。
「己からジャンプして足場のない空中に身を置くとは。愚かですわ」
回避後には攻撃が空振りに終わった蜘蛛を押して、飛び掛かりの勢いも利用し橋から落とす。
「色々な仕掛けを考え付くものですね…」
どこか呆れた様子のシリン・カービン(緑の狩り人・f04146)。その発想のベクトルに対し、理解に苦しんでいるようにも見える。解析や進行を拒むことこそ、こういった仕掛けの真価と言えようが…程という物がなかろうか?
「こちらに一方的に不利というわけでもないのですね……」
対してドロレス・コスタクルタ(ルビーレッド・f12180)は、一足早くに仕掛けの製作者を思考の端に追いやって、現状の把握に取り掛かっていた。敵は減らないし足場は悪いしで、もたつけば囲まれ容易く窮地へ追い込まれよう。時間を掛ければ掛けるほど状況は悪く不利になるであろう今、確かに素早い判断は肝要である。そしてドロレスは短期決戦を最善手と定め、機を見るや一気に駆け出した。
「戦闘用自閉モード起動。拡張大脳皮質オンライン。念動力による躯体保護開始。コード入力『電光石火』!」
サイボーグの少女は自らのシステムを切り替え、取得する情報を意図的に制限する。敵、地形、運動、視線、最小限の必要な情報を最大限に獲得し、思考の無駄を削ぎ落し、集中し――そうして爆発的に向上した演算能力に、裡にある動力炉より生み出される膨大なエネルギーでもって強化した身体能力を追随させ、同期させていく。
自らに飛び掛かる蜘蛛の速さは、外から見ればきっと恐るべきものなのだろう。しかし今のドロレスにとってはそれほど早いものでもない。揺れる橋という地形から、敵の着地点もいくらかは予想できる。それであれば、軌道を読むことなど赤子の手を捻るような、造作もないことである。驚異的な反応速度で、彼女にとっては僅かな危なげもなく、引き付け、紙一重でそれを躱す。ついでに避けられよろめくそれを、体を当てては叩き出す。立て続けなる攻撃も、するりするりと事も無く、障害のないが如くに駆け進む。
捌き切れない数が塞げば、さすがに進む足も止まる。一刻たりとも時間が惜しく、足の止まるは焦りを生むが。
「そこです」
銃口から放たれた精霊の力が災魔の脚に的中し、その立ち塞ぐを挫いてのける。隙を逃さず行くドロレスの、速さを蜘蛛は見送るばかり、追って追えぬと断じたならば、憎きシリンへ向き直り。見られた側は涼しい顔で、間合いを逃れ僅かに退る。
振り子が大きく傾く折に、取り付く脚を狙い折り、釘や画鋲を引き抜くように、張り付く蜘蛛を転げさす。寄って詰めれば同じく下がり、躊躇いおれば撃ち抜いて。付かず離れず有利な距離を維持し続ける猟兵に、埒のあかぬと思い切り、迫る魔弾を飛んで躱すと、蜘蛛がシリンへ牙を剥く。不意の動きに咄嗟に応じて、距離を取らんと飛びのけば、それを勝機と思いなし、続く災魔も勢い付いて。
宙にあっては避けるに難く、飛んだ蜘蛛らもご馳走と見たことだろう。さしづめ、飛んで火に入る夏の虫とかや。
「風に舞い、空に踊れ」
果たして、それはいずれのことであろう。精霊の力を借りて空を蹴り、近付く牙を颯と躱し、それを足蹴にもうひと跳び、助力を受けて勢い付いた蜘蛛は淵へと落ちていく。こちらも踏んだ反動でもって、踏み落としつつ先へ先へ。低くはドロレスに押し出され、高くばシリンに蹴り落されて。
「…渓流の魚は、落ちてくる蟲を飛び上がって食べていましたね」
早くも橋の終端へ、猟兵たちが辿り着く。懐かしい光景を想起したシリンが呟きつつ、なおも襲う敵を躱して落として見送って。
「己からジャンプして足場のない空中に身を置くとは。愚かですわ」
こちらも往なして叩いて落とし、今度はドロレスが呆れたように。ともあれ、抜けたからには長く居座る理由もない。猟兵たちは残りの駆除もそこそこに、追うを許さず駆け去って行った。
成功
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