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アルダワ魔王戦争1-D〜主君なき忠獣

#アルダワ魔法学園 #戦争 #アルダワ魔王戦争


●迷宮坑道
「お集まりの皆さんには、既に状況はご理解いただけているものと思います。アルダワ魔法学園、地下迷宮の最深部――そこへこれから皆さんをご案内します」

 戦争による人の往来激しいグリモアベースにて、萩乃谷・硯(心濯・f09734)は努めて穏やかに、猟兵達へ今日の『ファーストダンジョン』への転移を告げた。
 かつて大魔王を封印したという、はじまりの領域『ファーストダンジョン』。至るに容易でなかった今日までの猟兵達の戦いを先ずは労い、しかし硯はここからの戦いも決して楽ではないと語る。

「これまでの皆さんの努力によって、最終領域への道が遂に拓かれました。……ですが、終わりではありません。大魔王の元へと向かう、その為にこれから私が皆さんを転移させますのは、迷宮坑道です」

 そこはいわば、ファーストダンジョンの入口とも言えるだろう。転移して視界に拡がる光景はありふれた坑道そのものだが、その内部は複雑に入り組んでおり、障害もある。
 道は、果ての大魔王へ向け一方通行とはいかないようだ。

「封じられていた領域ですから、既に廃坑ですし少なくとも確認した範囲での採掘などは行われていません。つまり、坑道として整っていません。道は荒れて、埋められたのかオークやゴブリンの骨などが岩肌から飛び出していたりと人が歩くに良い環境とは言えませんし、――当然ながら災魔も出ます」

 硯の予知では、『ベスティア・ザッフィーロ』と呼ばれる獣が複数居るのを確認したという。帰らぬ主を探して彷徨う、使役されていた精霊獣のなれの果て――そんな哀しい解説を加えつつも、硯は憐れむ情は一切捨てて猟兵達へ向き合った。
 やがてにっこりと微笑んで、腕に抱える身の丈よりも長い大筆の先を頭上にすいと滑らせる。
 弧を描いたその中心に現れたのはグリモアだ。

「敵が何であろうと、道がいかに入り組んでいようとも、先に進むにはこの坑道の攻略が必須です。荒れていようとも猟兵の皆さんに何ら支障はないと思いますが――迷って時間を掛けることが、後に良く働くとは思えません。……ですから」

 戦闘は勿論だが、坑道の攻略。その必要性を強調して、硯は予知をこう締める。

「……迷わない様な対策を取って、災魔は倒して。どうか切り拓いてください。大魔王へ至る進路を」

 転移の光の中に、信じて待つと告げる声が、微笑みを含んで響き渡った。



 蔦(つた)がお送りします。
 宜しくお願い致します。

●はじめに
 このシナリオは『アルダワ魔王戦争』の【戦争シナリオ】です。
 1フラグメントで完結する形式の特殊なシナリオとなります。

●構成
『ベスティア・ザッフィーロ』との集団戦となります。
 オープニングの通り、戦場となります坑道は迷宮の様に入り組んだ構造です。多少場が荒れていても猟兵の戦闘に影響はありませんが、ファーストダンジョンを更に先に進むためには戦闘だけで十分とは言えません。
 自分のため、或いは後続の猟兵の皆さんのために、マッピングなど迷わないための工夫がプレイングにありますと、高い戦果をあげられるかもしれません。

●ご注意ください
 このシナリオは速度重視の運営となりますため、プレイングはシナリオの成否を確定する程度の少数採用となります。
 無い様に努めますが、未採用のままプレイングがお返しとなった場合も、送信可能な間はプレイングを受付しております。
 なお、プレイング受付開始はオープニング公開と同時となります。宜しくお願い致します。

 それでは、猟兵の皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 集団戦 『ベスティア・ザッフィーロ』

POW   :    《狂った番人》
自身の【主への忠誠心 】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    《獰猛な雷獣》
自身の【額の宝石 】が輝く間、【纏う雷】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    《怒れる氷精》
【視線 】を向けた対象に、【氷結攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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曾場八野・熊五郎
ほほう主なき忠獣。我輩的にポイント高いでーーえ?人を襲う?
害獣でごわすな、今日のディナーでごわ。

【spd】
迷いそうだから、とりあえずちょこちょこマーキングしていくでごわす。地図書くのは二本足に任せるでごわ。
我輩鼻が利くので、自分の匂いを『追跡』し同じ道は通らないようにするでごわす。
災魔の匂いも『追跡』して奇襲を防ぐでごわすよ。
壁になってるのに匂いが続いてたら【犬ドリる】で突き抜けてみるでごわす。

戦闘になったら喉笛に噛みついて【智慧ある獣の牙】で食いちぎってやるでごわす。何度も戦闘するならより柔らかいところを狙っていくでごわすよ。
うーん躾のなってない畜生は不味いでごわすな35点。『怪力・捕食』



「ほほう主なき忠獣。我輩的にポイント高いで――え? 人を襲う?」

 予知語の声に応えながら、転移光からとん、と土の地面に降りた曾場八野・熊五郎(ロードオブ首輪・f24420)は、立派なグリモア猟兵にして犬である。
 喋る。犬の壁を超えた犬である彼は、漆黒の円らな瞳で薄暗い坑道を見回すと、未だ見ぬ敵影が無いことを確認、人よろしくうんうん唸る。

「害獣でごわすな、今日のディナーでごわ」

 見つけ次第、食い千切る――強い眼差しは円ら故に、恐らく相手に伝わりにくい。しかし心は燃えていた。あまり高くないマズルを上向け、くんくんと鼻をひくつかせれば、直ぐにその鼻腔は自分と異なる獣の匂いを嗅ぎ取った。
 犬の嗅覚。地図を描く器用な手先は人に劣れど、嗅ぎ分ける鼻の性能は人を圧倒するものだ。

「こっちでごわすな」

 自分の匂いを避けて進めば元の道へ戻らず済み、災魔の匂いを辿れば確実に遭遇、奇襲を防ぐことも出来よう――獣の爪で壁にマーキングを施しながら進む熊五郎の歩みは、迷いなく進路を定めていく。
 そして――ふと。災魔の匂いを辿り曲がった先、続くものと思われていた道が突如行き止まりにぶち当たった。

「壁なのに、匂いが続いてるでごわすな。――突き抜けてみるでごわす!」

 決断すれば早かった。僅かに身を引き、力を集約させた四肢で力強く大地を蹴って回転突撃――壁を抉るは、ユーベルコード『犬ドリる』。
 荒れた坑道とは何も凹凸激しく歩きにくいだけのものではない。地盤が弱った所は崩れ、道中に穴が空いたり逆に道であった場所が塞がれている可能性もある――敵はこの先と感じ取った嗅覚を信じ突撃した熊五郎は、大穴を空けた先に広がる空間に、蒼く輝く小さな光を見出した。
 ベスティア・ザッフィーロ――直後バチリと額の蒼石に雷電纏い、戦闘態勢に入った紫躯の獣に、熊五郎は突撃から着地した脚で、そのまま前へと地を蹴った。

「見付けたでごわす、害獣!!」

 四足で疾走する、その速度はやはり獣。人語を解す智慧ある獣が、その牙で狙うは――体細き獲物の喉笛。

「食いちぎってやるでごわす!!」
「『ギッ!? ギャウゥゥウウッ!!』」
「――っ!?」

 牙でずぷりとベスティア・ザッフィーロの喉元へと喰らい付いた瞬間、電撃が熊五郎の体を襲った。
 紫躯の獣の纏う雷電が、九度に渡って熊五郎の全身を叩く。口内の鉄の味と鼻腔に届いた鉄の匂いで、狙い通り獲物を捕らえているとは解るも――体打たれる度にその視界は火花に奪われ、筋肉が痺れ次第に力を奪われる。
 しかし、それでも――肉食獣。犬たる熊五郎の獲物を捕らえたその牙は、決して力を緩めない。

「『ギャゥウウウウ……!』」

 やがて――紫躯の獣は次第に声を弱めると、纏う雷電も程なく沈黙、熊五郎に咥えられたまま脱力し動かなくなった。
 先ずは一体。……だが、先はまだまだ長そうだ

「うーん。躾のなってない畜生は不味いでごわすな。35点」

 ペッ、と咥えた体を吐き出すと、熊五郎は進むべく、ぶるぶると体を震わせ痺れ、残る痺れと鼻腔を覆う血の匂いを振り払った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
ほ、ほんとに入り組んでるな?これじゃ確かに迷うのだぞ…

【第六感】で空気や風の流れる方向を感じながら、その方向に向かって進んでいく
自分の氷の魔法で、壁を削るための短剣を作り
都度壁にカワウソのマークや矢印をつけて、道しるべにしていく
たとえ迷っても、これがあればきっと正しい道へ戻れるはず

敵が現れたら勿論応戦
このベスティアってやつは氷結攻撃を放って来るんだったな?
なら、ここはあえて攻撃を受けてやる!

【氷結耐性】でダメージを軽減させつつ、地面を凍らせ
氷の上を滑走して距離を詰め
氷の攻撃だと見せかけフェイント
そっちに気をとられている隙に
『白炎舞』を発動、《冬ハツトメテ》を白炎に変えてまとめて攻撃するぞ!


エンジ・カラカ
迷子の迷子の道。
迷うならアァ……そうだそうだ賢い君。
君を少しずつ置いて行けばイイ。

歩きながら賢い君の宝石を置いて行く。
毒の宝石。
食べようものならじわじわ侵食して行く。
だから獣が取ったらそいつが倒れる。

うんうん、そしたら倒れたヤツラを見て後から誰かが来るかもしれない
アァ……早速獣がきたきた。
主を探して彷徨う獣ダ。

会えない?どこにいるか分からない?
なら会わせてやろうそうしよう。
薬指の傷を噛み切って君を動かす。
アァ、コレは支援に徹するサ。
賢い君の毒でじわじわと行動を制限させるンだ。

倒したら主の元にも帰れるだろう?
だからその方がイイと思うンだよなァ。
賢い君もそう思うだろう?



「ほ、ほんとに入り組んでるな? これじゃ確かに迷うのだぞ……」

 きょろきょろと少しだけ心許ない様子で辺りを見回しながら、ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)は薄暗い坑道を進む。
 手には、魔力で練られた一振りの短剣があった。景色を透かす水晶の様な美しいその剣は、剣身が帯びる凝縮された冷気によって辺りの空気をキラキラと煌かせている。
 氷の剣――それで分岐路の度、来た道と進む道の岩壁にそれぞれカワウソのマークを彫り込んだ。これがあれば、仮に迷っても正しい道へ戻れるはず――そして進む道は第六感と、空気や風の流れで決める。
 それなりに距離を進めば、短剣から解き放たれた冷気が流れて来るのを肌に感じて、そちらも通った道に繋がっていると把握出来た。

「……え?」

 ――ふと。蛇行に従い曲がった道の先に、倒れている獣を見付けてヴァーリャはその足を止めた。
 ベスティア・ザッフィーロ。坑道に無数居ると聞いていた災魔。

「ベスティア? え、何で倒れてるの?」

 想定しない状況に戸惑いながらもヴァーリャは警戒を高めた。どの程度の知性がこの災魔にあるかは解らないが、死んだと擬態する可能性だってある――だがそれにしてはベスティア・ザッフィーロは、ぴんと伸ばした長い体をピクピクと痙攣させている。
 それはまるで、麻痺か、或いは毒にでも蝕まれている様な――。

「迷子の迷子の道。迷うならアァ……そうだそうだ賢い君。君を少しずつ置いて行けばイイ」

 詩でも諳んじるかの様な愉し気な男の声が、先の分岐路からヴァーリャの耳へと届いた。
 倒れた紫躯の獣に、近付いたのはエンジ・カラカ(六月・f06959)。絶えず顔には笑顔があるのに、その黄金の瞳にはどこか冷たく鋭い光を帯びて、動きは緩慢、しかし歩み寄る足元は音も立てず隙が無かった。
 男は、紫躯の獣に近付いて手を伸ばしたかと思えば、地に転がっていた赤く紅い小さな宝石を拾い上げ、うっとりと嬉しそうに見つめては笑みを深める。

「迷子の道に、歩きながら賢い君の宝石を置いて行く。毒の宝石。食べようものならじわじわ侵食して行く。だから獣が取ったらそいつが倒れる」

 聞かせる意図があったかは解らない。だが、その言葉がヴァーリャへこの光景の答えをくれた。
 ユーベルコード『賢い君(リユウノチ)』――平時は敵の拘束に用いる技を、エンジは目印に活用していた。
 ヴァーリャとは異なるルートを辿って来たのだろう、歩む道すがらぽとり、ぽとりと落としてきたそれは毒性を持つ石。
 食べ物か何かと勘違いしてしまったのか、恐らくそれを食べたために、ベスティア・ザッフィーロは中毒を起こしたのだ。……そして群れる獣は、仲間の死に敏感だ。

「うんうん、そしたら倒れたヤツラを見て後から誰かが来るかもしれない」

 エンジとヴァーリャ、気配に気付いたのはほぼ同時のことだった。互いに来た道とは異なる先の分岐路から――タタタと軽やかな音を立て、駆けて来る紫躯の獣は三頭。

「アァ……早速獣がきたきた。主を探して彷徨う獣ダ」

 ゆるりと愉しそうな調子は変わらず。エンジはぶちりと薬指の傷を噛み切った。
 溢れて肌を伝う血が――その手に極細の糸が握られていることを視覚的に知らしめる。
 糸が赤いのか、血が伝う故赤いのか、それはエンジにしか解らない。糸はいつの間にだっただろうか、痙攣する紫躯の獣に巻き付いて、エンジの腕の一振りで体を細切れに切り刻んだ。

「――ギャゥウアアアアア!!!」
「ギシャァアアアアッ!!!」

 群れ動物なのかは解らないが、仲間への仕打ちに激昂したのか――威嚇の声上げ、ベスティア・ザッフィーロの速度が上がった。うち一体の額に輝く蒼石からは雷電が迸り、残る二体は額の蒼石に負けぬ美しい蒼瞳に鋭い魔力の光を帯びる。

「このベスティアってやつは氷結攻撃を放って来るんだったな? なら、ここは――」

 そこで動いたのは、ヴァーリャ。冷気を放出していた手に握る氷剣を地へ突き刺すと、そこを起点に荒れた道上に美しい氷の線が前へと走った。
 細い線から這う様に次第に拡がる、それは美しい氷の道だ。直後飛び出したヴァーリャの足元からは強い冷気が噴き出して、その身は足を動かさずとも、駆けるより速く前へと進む。
 滑走――足元に噴き出す冷気は、魔力で生み出したブレードだ。

「――あえて攻撃を受けてやる!」

 淡い、優しい菫の瞳が、宣言に相応しい強い決意を帯びて魔力の視線を受け止めた。二体のベスティア・ザッフィーロが解き放った力は対象の凍結――しかし氷結魔法はヴァーリャの領分。
 吹雪の様に吹き付ける、質の異なる冷気がビリリと肌を蝕むけれど、ヴァーリャは滑走しながらそれに耐え、やがて冷気の領域を抜けた。

「氷魔法では引けを取らない!」

 瞬間、滑走路から跳躍し、再び生み出した冷気纏う剣で斬り裂こうと振り被って――。

「……なんてな!!」

 しかし、その一連の動きがフェイク。短剣から、滑走、耐性――全てで氷結魔法を見せつけながら、斬り付けようと下ろした刃を躱された瞬間、手元の剣は白き花弁へ姿を変えた。
 否。始めから剣ではない。冷気こそ纏えども、いつの間にかその手に握るは閉じた扇『*冬ハツトメテ』。ぱちんとそれを開いた瞬間、空間に拡がったこの攻勢は防げまい――。
 ユーベルコード『白炎舞(ホノオノマモリ)』。

「まとめて送る! これで寂しくはないだろう?」

 ふわりと、二体の獣が白き炎に包まれた。次第に消えゆくその傍らで――遺された一体から激しい雷電が迸り、辺り一帯に火花を散らす。

「ギャウウァァアアアアアアア!!!」

 それは怒りとも、哀しみとも感じるどこか悲痛な咆哮だった。バチバチと激しく壁や地面を叩く雷電は感情を表すかの様に苛烈で、ヴァーリャは咄嗟に一度後方へ退く。
 だが、後方から伸びた糸が、獣の体を絡め取った。

「会えない? どこにいるか分からない? なら会わせてやろうそうしよう。――なァ賢い君」

 エンジだ。ひゅる、と前へと振った腕と繋がった糸を伝い、電撃がエンジの体へ届くけれど。
 全身を絶えず痛みが襲おうとも、エンジは笑みを崩さない。

「倒したら主の元にも帰れるだろう? だからその方がイイと思うンだよなァ。賢い君もそう思うだろう?」

 この獣は帰らぬ主を探して彷徨う、使役されていた精霊獣のなれの果てだという――その歩みを糸で縛り、エンジは道の終わりを告げた。

「迷子は終わり。おやすみ、おやすみ。良い夢を。――さようなら」

 ニィイとエンジが笑みを深めた時――再び前へと滑走したヴァーリャの白炎が、その命を包み込む。
 柔らかく、温かなその炎に送られて、迷子の獣は、坑道の中に消えていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

音海・心結
*アドリブ・絡み歓迎

通った道に木の枝や石で印を
周りをよく見て【情報収集】をしてゆくのです
【学習力】も生かして、頭の中で迷路を描くのですよーっ!
ふんふん

……見つけたのです、ベスティア・ザッフィーロ
貴方たちに会うために来たのです
もし、出会いが違っていたら
みゆはこの子たちの主になれたのでしょうか
亡き主を失ってもなお、信じ続けている彼らに胸がチクリ

せめてみゆの手で
まずは【歌唱】でほんわか子守唄を歌うのです
貴方たちの幸せな――主といた頃の記憶を呼び覚ましたい
UC『Storm of cherry tree』発動

夢見心地のまま最後を
だいじょうぶ
怖いことなんてないのですよ
きっと、主が迎えに来てくれるのです



(「ふんふん、この道の感じだと右に行くと、たぶんさっきの分かれ道に出てしまうのです」)

 頭の中に、坑道の地図を描きながら。音海・心結(ゆるりふわふわ・f04636)の歩む道は、時折足元に印を刻みながら順調に奥へ進んでいく。
 一見一人で歩ませるのは心配に思われそうな、庇護欲を唆られる愛らしい少女である。しかし、艶めく蜂蜜の様な金の瞳は周囲をくまなく観察し、それを元に脳裏に組み立てる地図は正確で的確だった。
 『ファーストダンジョン』――その攻略を進めることが目下の猟兵達の目的だ。その意味では心結の道行は、順調であると言える。
 しかし、心結が今日此処にいるのは、それだけが目的ではない。
 角を曲がって、道の先に少し広い空間が見えた。そこで――視界に捉えた二つの影に、少女の瞳が少し寂し気に悲し気に揺らめく。
 立ち止まった動きに遅れて、ミルクティーの様な優しい色の長い髪が、重力に従い背線に沿ってふわりと降りた。

「……見つけたのです、ベスティア・ザッフィーロ」

 深い紫の体躯に、額に持つ蒼石と両の瞳がまるで三つ目の様などこか愛らしい姿の獣――そこに、坑道に居ると聞いたオブリビオンの姿があった。
 心結の気配にまだ気付いていないのか、その動きは忙しなく左右を巡り、何かを探している様だ。
 ……彼らが何を求めるか、知ったから心結は此処に居る。

(「もし、出会いが違っていたら、みゆはこの子たちの主になれたのでしょうか」)

 『帰らぬ主を探して彷徨う、使役されていた精霊獣のなれの果て』。返らぬとは、即ち亡くしたのだろうかと。そうだとすれば――失ってもなお信じ続けている彼らを思って、心結の胸はチクリと痛む。
 心結は、彼らに会うために来たのだ。

(「せめてみゆの手で」)

 その忠心に報いたかった。例え彼らがオブリビオンでも――そんな優しい気持ちで祈る様に手を組み目を閉じた心結の小さな唇から溢れ出したのは、ほんわりと温かな子守歌。
 
(「貴方たちの幸せな――主といた頃の記憶を呼び覚ましたい」)

 優しい旋律が大気を揺らせば、空間の先、紫躯の獣が気付いて此方を振り返る。だが、心結は彼らの主ではないのだ――気付いた瞬間、警戒からかその宝石の様な青石の瞳が魔力を帯びて輝き出した。
 ……だが、それも僅かな時間のことだった。

「……だいじょうぶ。怖いことなんてないのですよ――……」

 歌を閉じて、心結が大きな蜂蜜色の瞳を開いて優しく緩めた瞬間、彼女の周囲に櫻の花弁が舞い上がった。
 ユーベルコード『Storm of cherry tree』――攻撃の技でありながら、その光景が悲しい程に美しいのは、心結の優しい想いが力の根底にあったからだ。
 主を求めた迷子の心が、せめて、夢見心地のまま最後を迎えられる様にと――ザザザ、と無数の淡き温み色の花弁が紫躯の獣へ到れば、その包み込む優しさに、獣達の瞳から魔力光が消える。
 やがて魔力を失った花弁が消えれば、そこに獣の姿は無かった。

「きっと、主が迎えに来てくれるのです」

 それは、確証もない、ただの願いでしかないけれど。
 そう在って欲しいと願って、再び胸元で手を組んだ心結は祈る様に瞳を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
……ほんとうにダンジョン探索なのね。
すこしだけ好奇心が先に立つのも仕方が無いことなのよ。

とはいえ、遊びに来たわけではないもの。
ちゃんと探索しながら進むわ。
入り組む道に入るときは、入口に目印を付けてから、
アンカーを地面に刺して鋼糸を引いてゆきましょう。
アタリなら鋼糸を回収して次の道へ。
ハズレなら来た道を戻って通路を塞げば良いかしら。
他の猟兵が残した手がかりも見逃さないように。
協力できることはしていくわ。

なによりも、敵の気配を見逃さないように。
元より、探索よりも斬り込む方が得意なのよ。
発見したら即先行して奇襲を防ぎましょう。

おまえたちの境遇がどうあれ、行く手を阻むなら敵よ。
忠義を立てて散りなさい。



「……誰かの目印ね、これは」

 壁に刻まれた真新しいカワウソらしき掘り傷を撫で、花剣・耀子(Tempest・f12822)は眼鏡の奥、静の蒼瞳をすうと細めた。
 ファーストダンジョンに関わる情報が流布し始めてから、まだそう長い時間は経ってはいない。内部がこれだけ入り組んでいては、人手をそれなりに割いたとしてもまだ全容把握にはいたるまい――ならば、この傷を刻んだ猟兵も探索途中である筈だ。
 これは道の正解を示すものではきっとない。『此方に進んでみます』――そんな意思表示ではないかと、耀子はそう解釈していた。

(「……ほんとうにダンジョン探索なのね。すこしだけ好奇心が先に立つのも仕方が無いことなのよ」)

 進路の選択肢を減らす、今はその段階なのだと。思えば、未知を探る感覚には胸に童心の頃の様な高揚感が湧き上がる。
 しかしそれでも、耀子の瞳は平時の冷静を保ったままだ。情動は表に顔を出さず、少女は淡々と手に握る『機械剣《クサナギ》』の機構の一部を解放する。

「遊びに来たわけではないもの。ちゃんと探索しながら進むわ」
 
 もう一度、壁面のカワウソらしき掘り傷を撫でると、耀子は印のない道へと向いた。
 解放した機構は『試作機《ヤエガキ》』――道の入口で地に突き刺したアンカーに、射出した鋼糸を括りつける。
 道が当たりならば、アンカーを起点に引いて歩いた鋼糸を回収して進めば良い。外れならば鋼糸を辿って戻り、改めて別の道を選ぶだけだ。

(「なによりも――敵の気配を見逃さないように」)

 ふと。警戒に蒼瞳細めた瞬間、見えた分岐路のいずれかから何かの足音を察知した。
 二足の人のそれではない。襲歩――四足の獣が最速を出す走法と、理解すれば耀子は即座に鋼糸の機構を本体から切り離す。
 対象は進路右手の通路より。音から察するに――数は三。

「……元より、探索よりも斬り込む方が得意なのよ」

 呟きを終えるが先か。敵影確かめるより速く、耀子の身が通路前方へ躍り出た。
 『《八雲》(リミットリリース)』――命平らげる愛剣の刃が、主の魔力と命を受け、全機能の制限を解く。
 火花を立てて駆動する刃、チェーンソー剣。

「出し惜しみはしないわよ!」

 視界に収めた瞬間が終わりだ。耀子に気付いてベスティア・ザッフィーロ達が額の蒼石に魔力を集束させるより速く、右へ一閃振り抜かれた耀子の刃が手前二体の胴と首を斬り離した。
 鮮血が勢いよく中空へ噴き出す中、残る一体の額の石から敵意の雷電が迸る。
 仕留め損ねたわけではない――その証拠に、右一閃した駆動剣は、既に反転を開始していた。

「――ギャゥウウウウ!?」

 スパン! 小気味いい音を立て紫躯の獣を斬り裂きながら、駆動剣が先の斬線を逆に辿った。今度は悲鳴こそ許したけれど、残る一体の胴部は分かたれ、雷電はぱちりと名残を残して消える。

「おまえたちの境遇がどうあれ、行く手を阻むなら敵よ。……忠義を立てて散りなさい」

 どさりと地へ落ちたそれは、帰らぬ主を探して彷徨う忠義の獣であるという。だが、屍を一瞥しただけだ。後は振り返ることも手を合わせることもなく、耀子は再び歩き出す。
 今は目的果たすため――出逢う災魔、その命を愛剣で薙ぎ平らげながら、耀子の姿は奥を目指して、坑道の暗闇へ消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫
アドリブ歓迎

随分と迷子になりそうな坑道だね
愛しの櫻に寄り添えばちっとも怖くはない
離れぬよう握られたその手に、愛を感じて
絶対に君を守ろうと覚悟を決める

水泡のオーラ防御を漂わせて、櫻宵が引っかかったり転んだりしないように守るからね
君が障害物を除去してくれるなら、僕は
時々立ち止まっては地図を描いていく

おや、これが成れの果て
……悲しいけれど
僕の櫻は傷つけさせないよ
…僕の櫻に見初められるなど許さない
坑道の中に響かせるは「魅惑の歌」
よく響くなら好都合
蕩けておしまい
その間に、綺麗なさくらになれるから
櫻、気をつけて
剣舞のように斬り込む君を鼓舞して支えて守る

嗚呼、先へ行こう
どんな暗闇でも君と一緒ならば!


誘名・櫻宵
🌸櫻沫
アドリブ歓迎

リル、はぐれない様に着いてきて
人魚の冷たい手を握り、浮かべるは「呪華」の黒蝶
周囲の状態や道を探ってもらうわ
迷えば厄介だものね
第六感を働かせながら進みましょ
リルの尾鰭が引っかかったら大変よ
邪魔な障害物は、衝撃波で砕いたり怪力(乙女だけど)で持ち上げたりしてなんとかしてくわ

坑道の中だから歌がよく響くのかしら?
いつにも増して綺麗だわ
歌う人魚に微笑んで
目前の敵を見初めましょ
斬撃に生命力吸収の呪詛のせなぎ払い斬り裂いて
歌に絡め取られた災を斬り祓い
衝撃波と共に放つ呪殺弾で穿ちおとして血桜咲かす
見切り躱してカウンターの
成れの果てでも終の瞬間は美しく咲かせてあげるわ!

さぁ、道をあけて頂戴な



「リル、はぐれない様に着いてきて」

 魔力帯びて仄かに灯る黒蝶達に先んじての探索を命じながら。誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は柔く笑むと、そっと白き手を取った。
 その穏やかな視線の向こう、繋いだ手の先にはリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)がいる。触れる瞬間は壊れものでも扱うかのよう、しっとりと優しいのに、離れぬ様にと握る手は力強く温くて――冷たき人魚の手を持つリルには、その温もりが伝わるほどに心地よい。

「……随分と迷子になりそうな坑道だね。でも、こうして櫻宵が一緒なら僕はちっとも怖くない」

 温もりと共に伝わって来る、櫻宵からの深い愛情。未知の先に何があろうと絶対に君を守ろうと――リルはぎゅっと手を握り返すと、月光纏って光るような美しき面ににっこりと笑みを浮かべた。

「ふふ、あたしもよ。迷えば厄介だものね、進路の状態や道をちゃんと探りながら進みましょ。……リルのきれいな尾鰭が引っかかったら大変よ!」

 口元へ人差し指を立て、少しの茶目っ気が覗くウィンク交じりの櫻宵の笑みには、言外に『障害物はあたしがなんとかするわ』とリルへの気遣いが窺える。きっと衝撃波で砕いたり、怪力(乙女だけど)で持ち上げたりするのだろう――ありがとう、と感謝で応じるリルもまた、櫻宵のために何が出来るかを考えていた。
 地図くらいは当然描くつもりだけれど、櫻宵を守る為には――。

「君が障害物を除去してくれるなら、僕は――」
「あら? ……ふふ、ありがとう。便利だし、綺麗だわ」

 ぱちん。リルが指を鳴らした瞬間、ふわふわと櫻宵の周囲へ幾つかの水泡が浮かび上がった。
 リルのオーラが包む泡幕。淡く虹色が浮かぶそれは、櫻宵が何かに引っかかったり、転んだりしないようにと常に櫻宵について進む。
 そんなリルからの愛情に、櫻宵の花よりもっと華やかな桜色の瞳が嬉しそうに細められて――。

「………!」

 穏やかな空気から一転、櫻宵の纏う空気はピリッと肌打つ鋭さを帯び、表情からは笑みが消えた。斥候に放った黒蝶から、望ましくない報告が届いたためだ。
 それは即ち敵の影。災魔『ベスティア・ザッフィーロ』――数は三。

「予知に聞いた災魔だね?」
「ええ。リルは後ろに下がっていて。あたしが前に出るわ」

 ぐい、とリルを背に庇い、告げながら櫻宵がすらり、と血紅の刀身を鞘から抜いた。『屠桜』――まるで既に命屠った後の様に赤く紅い桜の太刀は、リルを守ると誓う櫻宵の瞳に映って淡色を紅く染める。
 その決意と愛を受け取って、……でもリルとて、守られるだけではいられない。

「ありがとう。……でも櫻宵、先ずは君よりも先に――」

 『前へ出て、君を救ける』と――そう聞こえて、え、と櫻宵が振り向いた。しかし瞬間櫻宵の前へと飛び出したのは、祈る様に胸を押さえ、瑠璃の双眸を白き睫毛の下へと仕舞うリルではない。
 『「魅惑の歌」(シレーナ・ベルカント)』――何もかもを惹き付けてやまない、リルが紡ぐ透徹の歌声。

(「帰らぬ主君を求める忠獣。成れの果てが災魔とは、……悲しいけれど」)

 道の奥、曲がり角から姿を見せた三体の紫躯の獣。リルとてその在り様に、憐れみを、悲しみを覚えないわけではない。なればこそ今日の歌声は、恍惚と陶酔齎す音色に切なさを帯びて響いた。
 それでも、譲れない誓いがある。――『僕の櫻は傷つけさせない』と。

「蕩けておしまい。そうすればその間に、綺麗なさくらになれるから――」

 誓いは強く、しかし、忠獣憐れむ心は優しく歌に溶けて響き渡る――そんなリルの今日の変化に、旋律に乗せる心の内に、気付かない櫻宵ではない。

「坑道の中だから歌がよく響くのかしら? ……いつにも増して綺麗だわ」

 優しき心で歌う人魚にいっそう愛し気に微笑むと、櫻宵はとろりと惚けて立ち止まったベスティア・ザッフィーロ達目掛け、とんと軽やかに大地を蹴った。

「さあ、目前の敵を見初めましょ」

 薄暗闇に鈍く光る紅き刀身を横へと薙げば、摩擦も感じぬ軽やかさで先ず一体の獣から鮮血が跳ねる。
 刃を返す瞬間に、すいと刀身目掛け飛来したのは呪詛纏う黒蝶だ。触れた箇所から赤き刃はじわりと黒き呪痕を帯びて、斬り付けた二体目の生命力を奪い去る。
 剣舞の様なその攻めは――正に、敵すら見初める美しさ。しかし。

「……僕の櫻に見初められるなど許さない」

 切なく響く歌声にその時、僅かに胸焦がす熱情が顔を覗かせた。魅了の縛は更に強まり、最後の紫躯の獣の体がふらりと左右へ不安定に揺れた。
 この一刀で決まる――様子からそう判断した櫻宵は、一太刀振るって真紅の刃の穢れを払うと、顔横へと太刀を構えて、淡色の魔力を注ぎ込んだ。

「――成れの果てでも終の瞬間は美しく咲かせてあげるわ!」

 告げて、一閃――真っ直ぐ真横へ引き結ばれた斬線から衝撃波が空を駆ける。
 伴い駆けた呪殺弾が獣の体を穿った時。咲いた血桜の足元へ獣はどさりと崩れ落ちると、空へと手を彷徨わせ、やがて動かなくなった。

「――……リル、怪我はない?」

 ぱちん、と太刀を鞘へ納め、櫻宵は再び微笑みリルへと振り向いた。
 戻って来た穏やかさには安堵した様子で、しかしリルは慌てた様子で櫻宵へ駆け寄って来る。手を伸ばして――その様子に僅かに首を傾げた櫻宵は、両手でその手を受け止めると、『怪我はないわよ?』とリルの冷たい手を包む様に握り返した。

「リル? どうしたの?」
「……繋いでいて、櫻。君は主とは違うけれど――大切なひとだから」

 思いがけぬその言葉に、櫻宵は息を呑んだ。
 主を求めて彷徨う忠獣――その最期は、主を求めて空に手を伸ばしている様にリルの瞳には見えたのだ。彼らが逸れたのか、喪ったのか、それは定かではないけれど――重ねてしまった。櫻宵ともし、万が一にも此処で離れてしまったらと。
 相手が大切であればあるほど、迷宮の様なこの領域での漂浪はどれほど辛く、また永い時であることだろう。

「……離さないわ。大丈夫よ。リルがいれば無敵だもの」

 こつり、と互いの額を合わせて櫻宵は微笑んだ。
 見つめる櫻宵の瞳も、握る手も触れる額も温かい。胸にまでじわりと熱が伝わる様――触れた場所以上に心まで深く繋がれた気がして、リルは急速に満たされていく心のままに、美しい面に笑顔を零した。
 ――ああ、大丈夫。この手を離す選択肢など、僕達にはないのだから。

「さあ、一緒に行きましょう、リル」
「嗚呼、先へ行こう。……どんな暗闇でも君と一緒ならば!」

 繋いだ手を、繋いだ心を離さずに。二人寄り添って先へ進もう。
 ファーストダンジョン――大魔王へ到る道は、まだまだ奥へと続いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月04日


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト