アルダワ魔王戦争1-E〜怒り爆発!戦意暴発!!
「集まってくれてありがとう。すこし……いや、かなりの緊急事態だよ」
緊張感を湛えた瞳でぐるり猟兵達を見渡しながら、フロッシュ・フェローチェス(疾咬の神速者・f04767)は開口一番そう告げた。
「今回、アルダワ魔法学園で封印されていた、とある存在が復活したらしい」
魔法学園の、地下迷宮のそのまた最深部――そこには【ファーストダンジョン】と呼ばれる、かつて大魔王を封印したはじまりの領域が存在する。
そしてアルダワ魔法学院建設の目的は、そもこの封印をより強固にするためのモノだったらしい。
――だがしかし。
「知識を蓄え力を得た魔王が、とうとうその封印を破ってしまったらしい。――つまり、大規模な戦が巻き起こり始めているんだ」
大魔王が従える軍勢はそれこそ限り無いといっても過言ではなく、その物量を何とかするためには魔王自身を倒さねばならない。
されど厄介な事にファーストダンジョンは常闇の領域【ダークゾーン】に覆われており、戦闘どころか散策さえ難しい始末。
「だから――まずはこの闇を晴らすために、比較的見通しやすい場所から攻略していこうと思う」
今回攻略していく場所は1-Eエリア、通称『心奪いのキノコ森』。
この森のキノコには特定の感情を増幅させてしまう効果があり、抑え込もうとするとかなりの精神的負荷がかかるのだとか。
大丈夫なのか? と疑問を大体猟兵達へ、フロッシュは一つ光明を告げた。
「今回見つけた場所で増幅してしまう感情は『怒り』なんだ。……そして今回の目的は敵の討伐――要は烈火の如く爆発させてしまえばいい」
敵も敵で足掻いては来るだろうし、攻撃が単調になってしまいかねないデメリットもある。
それでも精神を削りに削って不完全なまま戦うよりはグッと勝率が上がるだろう。
だからぜひ拒まずにぶっ飛ばしていってほしいと告げ――フロッシュは〆の言葉に入った。
「今度こそ完全に打倒してやろう……アルダワに平穏をもたらすんだ。武運を祈るよ」
さあ【アルダワ魔王戦争】の開幕だ――!
青空
始まりましたねアルダワの戦争が! どうも青空です。
今回はOPでフロッシュが語った通り「感情が増幅する森」での戦いになります。
抑え込むと消耗が激しくなり、戦闘どころじゃなくなっちゃうので、ぜひ激怒の感情と共にボスをぶっ叩いちゃってください。
それでは健闘を祈ります……皆さん頑張ってください!
第1章 ボス戦
『ミミックロボット』
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POW : トレジャーロボット
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【貨幣もしくは宝石】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD : ゴーレムフォース
レベル×1体の、【額】に1と刻印された戦闘用【小型ゴーレム】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : フルスチームグラップル
【フルパワーでの掴みかかり】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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美国・翠華
【アドリブOK】
怒りのままに戦う…私が心のなかに抱えている怒り…
きっとこんな体にしたあのときの人間に対しての怒りを爆発させれば…
それで怒りをぶつけて戦うわ。
捨て身の攻撃を仕掛けに行き、全力で仕掛ける。
「ヤクタタズガ!」
そのうちUDCの私への怒りが爆発してユーベルコードが発動する…
私の痛みを増大させ、激しく私を嬲りながら攻撃をするように要求する
正直、我慢できないほど痛い…悲鳴が出るくらいだけど
それでも自分が強化されるから、UDCの怒りもあってうまく機能するかも・・
――【心奪いのキノコ森】――
その名の通りありとあらゆるキノコが群生し、なんとも摩訶不思議な光景を作り出しているフロア。
通常ならば無視して通ればよいだけの自然物。
されどここはアルダワ魔法学園地下に位置する迷宮だ。当然普通では断じてない。このキノコの胞子には『感情』を増幅させる効果があるのだ。
あるいは歓喜。あるいは悲哀。
あるいは……。
「……激怒。怒り、だったわね」
事前に伝えられたその効果を今一度呟き、マフラーを巻いた黒髪の少女――美国・翠華(生かされる屍・f15133)が警戒しながら小走りを続ける。
トゲの並んだナイフ片手に進む最中、翠華は腹の内から湧き上がる感情を確かに感じていた。
人によって怒りを感じる事柄は違う。爆発までのカウントダウンも、それが始るスイッチも当然違うだろう。
だからこそ翠華は自信にとって一番怒りに通づる要素を。
「あの時の……『こんな体』にされた時を、思い出せば……」
始まりとなった切っ掛けの、なぶられた屈辱と理不尽を練り合わせ、腹の内でグラつく感情へ注ぎ込んだ。
頬を張られた驚愕が、蹴りつけられた痛撃が、後の顛末と恐怖が……その全てが薪となる。
――鋭く、小さく、尖る瞳が、怒りの赤へ染まり行く。
――やがて真紅が宿ったころ……。
『ゴオオオォォ!!』
その標的が壁を豪快に突き破りつついよいよ現れた。
今回の討伐対象であり、道をふさぐ巨大なオブリビオン【ミミックロボット】だ。
荒ぶり突撃を敢行し続けるその様は、機械であってもこの場の“心奪いの力”からは逃れられぬことを意味しているよう。
『ギイィィアアアァァ!!』
もう待機も様子見も何もなく、目の間に現れた一人の猟兵目掛け、湧き上がる怒りと敵意のまま突進してくる。
「ふざけ……ないでっ!」
翠華もまた、過去と今がない混ぜになった感情を抑えることなく捨て身の一撃で迎え撃つ。
――あなた達なんかが居たからだ――
重ねた影ごと両断せんと……圧は更に膨れ上がる。
加減など頭に無い。彼女が出せる全力を持って、その手のナイフを叩きつけた。
「まだ、まだぁ!!」
力任せに振るわれたナイフは、似合わぬ重苦しい音が響き渡らせる。
辺りを一瞬眩く照らす、多量の火花をまき散らす。
「はああぁぁあっ!」
『オオオォォォ!!』
傷が増え、泥が飛び、鉄片が舞う。
互いにダメージ負おうとも……それでも両者は止まらない、止まる筈が無いのだ。
鬼気迫る突進合戦は幾度となく干戈を交え、衝撃を三度迸らせた。
……だがしかし。
「う、くぅ……っ」
敵は曲がりなりにもボスクラスのオブリビオン。地力でいえば向こうの方がまだまだ上。
無茶な突撃を続けていても、先に“ガタ”が来るなど自明の理だった。
それでもまだだと顔を上げ、翠華はナイフを構え、再び突撃を実行しようと――。
「『コ ノ』」
――した、刹那。
「『ヤ ク タ タ ズ ガ !』」
彼女に宿るUDC。
猛毒の血液、締め上げるマフラー、破壊を楽しむ刻印。それら加虐者達がとうとう怒りを表面化させてきた。
その瞬間、翠華の身体へと……捨て身合戦でも感じることの無かった、撃ちから牙が生えるが如き激痛が流れ込みむしばんでくる。
「あっアアアアアアアア!!!」
もはや戦闘どころではない、たまらず悲鳴が喉から飛び出てしまい、必然的にミミックロボットへと大きな隙をさらした。
怒りのままに進撃する巨大機械は、悲鳴などで怯むことなくその手を伸ばし【フルスチームグラップル】を発動させた……!
『ギ、イッ!?』
その手が豪快に傷つけられるまで、彼は全く気が付けなかった。怒りの所為で気が付かなかった。
「ああぁぁァアアアアァァ!!」
これが彼女のユーベルコード――【名状しがたき加虐者たちの処刑蹂躙(デッドリオンエクスキューション)】だということに。
「ウア、アアァッ!!」
彼女の体を傷つけて、周辺飛び交う闇の刃が、振るわれる刺のナイフとともにミミックロボットを抉り食らう。
怒りと痛みの相乗効果で底上げされた腕力は……鋼鉄の体へ深々とそのアギトを切り込ませ、強引に貫き引き裂いていく。
『ギ、ギ、ギ!』
対抗しようにも一度怒りから覚めてしまったロボットはただ翻弄されるのみ。
やがて大傷が十に届いたころ、混乱のままに腕を地へと叩き付け――胞子をばら撒いて漸くロボットは脱出。
姿をこの場から消していた。
「あ……待、て……!」
未だに続く怒りで足を動かし、敵を追おうとする翠華。
――そこで無情にも限界の49秒が過ぎ、とうとう昏倒して倒れ込んでしまった。
しかし確かに傷はつけた。
ここからが始まりだ……!
成功
🔵🔵🔴
ナギ・ヌドゥー
いつもは抑え込んでいる負の感情が溢れ出て止められそうにない
ここではコイツを全て開放していいと?
ならば遠慮はせん
憤怒の感情……死の衝動……限界を越え狂い咲け
このサイコパームは精神力を光線として撃ち出す武器
感情を増幅させるこの地ならコイツの威力も増強されるだろう!
己の怒りを練り上げた【呪殺弾】で敵の攻撃射程外から削っていく
奴が小型ゴーレムを召喚するならこちらもUC「幻魔妖身」発動
幻影と共に撃つ【誘導弾・制圧射撃】の弾幕でゴーレム共を全て撃ち落としてくれよう
クソの様な戦争
ゴミの如き災魔
どいつもこいつも地獄へ道連れだ
はるか遠くの爆音が止み、キノコの森へ不気味な静寂が訪れた。
……その音の正体を知ってか知らずか。
心惑わし心を奪う、悍ましくも美しきこの森林で、一人の青年が立ち止まる。
「――――」
身に纏う黒衣とは対照的な、銀の目と白き髪の青年――ナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)は最初の素早い歩みもどこへやら。
今や緩やかになっていた歩調を完全に止め、ただ呆然と立ち尽くしていた。
道に迷ったのか。
光景に見とれたのか。
それとも不都合があったのか。
……それは否、断じて否、それら全てのどれでもない。
「これは……」
彼の中に募るのは一つの大きな衝動だ。
胞子の力で強引に湧き上がり、煮えたぎるその怒りを起爆剤として膨れ上がり。
際限を知らず、後から後から吹き出ようとする。
――その衝動の名は【殺意】――。
己も知らぬ改造の果て、得てしまった殺戮の衝動……今まで抑えていたそれが、心奪いのキノコ森へ踏み入ったことで揺さぶられているのだ。
「解放して……いいと?」
しかし。
本来であれば隠しておくべき激情ではあるが、今に限るなら話は別だ。
一時的なもので済ませるなら、そして身を任せた方が良いのなら、もはや答えは一つだろう。
『ギ、ゴ……ゴ!!』
そう決めたナギの意思にあたかも呼応したかの如く、ミミックロボットが落下してくる。
闘争の最中に傷を癒して、再び湧いた怒りの燃えながら、標的めがけて突っ走ってきた。
「ならば遠慮はせん……」
対する彼はゆっくりと、掲げた掌を眼前へ向け。
「憤怒の感情……死の衝動……」
その身の内へと埋め込まれた『サイコパーム』へ力を注ぎ。
「限界を越え――狂い咲け!!」
練り上げられた怒りと共に、駆動の音にも負けぬ砲音があがる――呪殺の弾が放たれた。
その内蔵銃は精神力を力へと変える仕組みを持ち……怒り滾る今ならば、その性質はうってつけ。
烈火よろしくな感情に呼応し、いっそう力を増すのだから。
「散れえぇぇっ!!」
『ゴオオォォオアァァ!!』
背部より放たれる魔法弾との撃ち合い。
出力がほぼ互角、後は弾幕の厚さが勝負のカギを握るだろう。
だがそれすらも並び、食い下がり、怒りのまま二種の弾丸が所狭しと飛び交った。
殺戮の衝動を塗り潰すほどの怒りを湛えるナギの圧に、ミミックロボットも鉄の圧力で真っ向から押し返してくる。
「これならどうだ……どうだあっ!?」
まだ続く互角の勝負の中で。
怒りのままに、無意識に、ナギがとった行動は距離をとる事だった。
だがおじけづいた訳では決してない。
煩わしいと吹っ切れた、その激情が無意識に最適解を取らせているのだ。
『ゴゴ、ガ……!』
離れられたせいかミミックは既に防戦一方、射程圏外から削りに削られ射角も取れず、たたら踏んでは飛ぶばかり。
――そんな無様に甘んじる程オブリビオンは甘くなかった。
地面に魔法陣が現れたかと思うと、瞬く間に援軍が召喚されてくる。
ユーベルコード【ゴーレムフォース】。己のサイズを縮めた様な小型のミミックロボ達が、一斉にそこから飛び出て来たのだ。
更に『心奪いのキノコ森』の力で次から次へと怒りを宿し、爆発させては雄たけびを上げる。
そのまま凪へと飛びかかり……!
「クソの様な戦争、ゴミの如き災魔――」
笑みや泣きなど既に消えた、紅蓮の情を迸らせたナギがそれを見やり……カウンターでユーベルコードを発動させた。
「どいつも、こいつも!」
「地獄へ道連れだっ!!」
己と同等の実力を持つ幻影の召喚、それが彼の【幻魔妖身(グレイトフルイリュージョン)】。
百数十m半径以上は離れられないという欠点こそ持つものの、事この場面においてはネックになどなりはしない。
「撃ち落してくれる!!」
怒声に続いてサイコパームより放たれるは、先までとは比べ物にならない弾、弾、弾丸の嵐。
加えて誘導弾の性質を持つそれで、二方向から制圧射撃をされるのだからたまらない。
抗う事すら出来ぬまま……ゴーレム軍団はあっと言う間に消え去っていた。
「っ!?」
そして――それは、本体も同じ。
あまりに激しく撃ちすぎた所為か、眼前が上手く把握できず、結果逃してしまったのだろう。
されど逆にいうのなら、遁走せねばならない程のダメージを与えたということに等しい。
「――――」
未だ晴れぬ怒りを抱え、ナギはその事実のみを確認すると……戦意冷めやらぬとばかりに再び駆け出していく。
……再び出会い弾丸を撃ち込むために。
成功
🔵🔵🔴
ツェツィーリエ・アーデルハイト
私の本性は、増悪…、怒りなどという生易しいものではありませんよ
……嗚呼、嗚呼、悍ましい!嘆かわしい!
飢えて餓えて満ちることも知らなかったのですか!
知恵を得てなお、それを捨ててまた飽き足りず喰らうことを目指すのですか!
悲劇ですわ喜劇ですわ茶番ですわ!その存在の一切合切が三文芝居!
そんな物語、焼いて捨ててしまいなさい!
そんなものの為に、子供たちが餓えるのです振るえるのです怯えるのです眠れないのです!
あの子の泣く声が聞こえる…私は永遠にそこに行けないのに!
滅ぼしてやる、お前もお前もお前も!
お前は狼煙だ、苦痛と絶望に身を捩れ、私の炉心が焼き尽くすッ
木々を破壊してはキノコを踏み潰し、草木を飛ばしては泥を散らす……けたたましいまでの激しさで駆動するミミックロボットは今――再び怒りに燃えていた。
くべられる燃料は痛めつけられた理不尽か、はたまた猟兵という敵対者への純粋な戦意かは分からない。
元よりそんな理由はどうでもいいと、ただ怒る事だけが重要だと、焔にも似た気迫をまとってひたすら『心奪いのキノコ森』を突き進んでいく。
……と。
「見つけましたよ?」
――いつの間にそこへ現れたのか。
黄金の瞳を彼へとむけた、灰髪の女が佇んでいた。
『ゴ……! ゴ、ゴ、ギィオォォォ……!』
内から湧き上がる怒りの影響なのだろう、ブリキような緩慢な動きでミミックロボットは体ごと振り返る。
そして、構えることなくほぼ同時に走り出す。
潰して壊し砕いてやると、戦意と怒気を鋼におびさせ叩きつけんと迫り来た。
恐ろしいまでの激情を前に、しかし彼女は――ツェツィーリエ・アーデルハイト(皆殺しの聖女・f21413)は一歩たりとも退きはしない。
「ふふふ……」
そればかりか笑みを浮かべていた。……いや、これは本当に笑みなのだろうか?
表情こそ確かに笑んでいる。
だが内包するものは『喜』ではなく、煮え滾る純粋な『怒』にも思える、激しくも冷たい憎悪の感情。
生易しい物では決してないと、漏れ出る力がそう伝えてくるのだ。
『ガガガガガ!!』
怖ろし気なツェツィーリエを目してもなお構うものかとミミックロボットは腕を振りかぶり、勢いのままに振り下ろす……!
「……嗚呼、嗚呼、悍ましい――嘆かわしい!!」
必殺をもたらす鉄槌は、しかしそれに倍する怒号に反した、柔の技で反らされた。
僅かに飛び散り消えていく火の粉が、ブレイズキャリバーの技能を使ったと知らしめている。
次撃をくりだすミミックに対し……正しく炎の様な怒りを噴き上げた、ツェツィーリエの嘆きは止まらない。
「飢えて、餓えて、満ちることも――知らなかったのですか!」
炎の道ができたかと思えば、鉄の爪は見当違いの床が裂かれた。
ローラーによる踏み潰しを敢行しても、携えた装備をぶつけることで避けられた。
「知恵を得てなお、それを捨ててまた飽き足りず喰らうことを目指すのですか!?」
出せども出せども収まらぬ、怒り一色に染まった叫び。
しかしその対象は……目の前のミミックロボットにあらず。
「悲劇ですわ喜劇ですわ茶番ですわ!」
この戦を、アルダワ魔王戦争を引き起こした、元凶にこそ注がれていた。
「その存在の一切合切が三文芝居っ……そんな物語! 焼いて捨ててしまいなさい!!」
もはや間接的に使うどころか自身すらも焼き焦がさんばかりに、煌々と燃え盛り熱をまく炎。
『ギイイガアアアァァァ!!』
目の前にいる己をなおも無視して叫び続けるツェツィーリエへと、ミミックロボットは激情のままに幾度となく、はてもなく攻め立てた。
無視をするなと告げるように。
冷たい怒声を吐くように。
「そんなものの為に……そんな、ものの為に……っ!」
鋼鉄の罵声を一身に受けた彼女は……それでも、彼へと目を向けずに暴れ続ける。
その所作は狂気へ傾き、もはや喉を掻きむしらんばかり。
「子供たちが餓えるのです震えるのです怯えるのです眠れないのです!!」
撃ち放たれる魔法の弾丸を、情念の炎で爆ぜては叩き落とし。
闇の念をも着火剤へと変えていく。
果たして――件の魔王にすらその怒りが向いているのかも不明瞭。
「あの子の泣く声が聞こえる……私は! 永遠に! そこに行けないのに!」
『ガガガガガガガアァッ!!』
そして我慢の限界を迎えたミミックロボットの手が、【フルスチームグラップル】により彼女を捉え締め上げようとした……まさにその時だった。
「――――滅ぼしてやる」
金色の憎悪を湛える瞳が、そこに秘められた漆黒の敵意が、完全にミミックの方へとむけられたのは。
悍ましき迫力と変わらぬ畏怖は、命令を忠実にこなし敵をただ倒すばかりな筈の、ミミックロボットの動きを完全に止めた。
紛うことなく純然たる恐怖の感情が故に。
そして一度敵意に捉えられた、ロボットからツェツィーリエが目を反らすことなど決してなく……。
「お前もお前もお前もぉ!」
漸く後方へ動こうとした時には、もう遅かった。
彼女の本性がミミックロボットへと牙を剥いたのだ。
ベールで隠そうと覆いつくそうとも、なお隠し切れないツェツィーリエの本性。それは燃え猛る怨嗟の炎。
「お前は狼煙だ」
それらを体現したユーベルコード【黒死病(ブラック・デス)】は、体に刻まれた魔女の炉より零れては広がり、憎悪抱いた対象へ迫る黒闇の大火。
逃がさない。
決して逃がさない。
お前の逃がしてたまるものか……と落ちた端から次々、ミミックロボに黒炎が飛びかかっていく。
「苦痛と絶望に身を捩れ、私の炉心が焼き尽くすッ――!!」
『ギイイイィィィイ!!』
炎にはあり得ぬ特異な破壊跡をこれでもかと刻み、炎だからこそミミックロボットの体全てを這いまわる。
遂には熱量に耐えきれなくなったか、特大の爆発が敵を包み込み周囲のことごとくをなぎ払う。
「これ、で……?」
煙が晴れた後には――なんとあの一瞬で対抗策を見出していたらしく、轍を残してみミックロボットは去っていた。
――許さない――
捉えた物を逃がすものかと走り出すツェツィーリエ。
その表情は鬼気迫り、しばらく経つまで止められないだろう。
されど収まらぬ怒りに反して、ミミックロボットには確かな……大きな傷を刻んだのだった。
成功
🔵🔵🔴
レナ・ヴァレンタイン
どうせまともな精神状態の戦いが出来ないのだ
ならば精々派手に暴れてやろうではないか
今回は可能なら単騎でいこう、誤射の危険性に構ってられんのでな
まず開幕におびき寄せの意味を込めて銃声一発
敵が見えればユーベルコード発動
拳銃、ライフル、ガトリング、アームドフォート、アサルトウェポン
黒剣のナイフにフォースセイバー、フック付きのワイヤーなんてのもある
さあ、全てその身で受けてもらうぞ
怒りの最中であっても敵の動きくらいは追える
周辺すべて自分以外敵なら「動くもの」には全て牙を剥け
障害は切り刻み、圧し潰し、粉砕する、ただそれだけの嵐となれ
これが私の内に溢れ滾る憎悪と怒り
ちっぽけだと嗤わば嗤え、代価は貴様の命だがね
進撃、次いで進撃、更なる進撃を繰り返し……ミミックロボットは一直線に、怒りのままに走っていた。
その身に刻まれた数多の傷は、癒されることなく深いまま。
しかし激情がもたらす力のせいか動きにさして影響は見られない。
いわば一種のドーピング状態。
どれだけ弾かれ砕かれようともボスはボス、一筋縄ではいかないのだとその身をもって知らしめてくる。
トドメ刺すまであと少しなのも確か、だがそう簡単にはいかないだろう。
ならばこちらも怒りを持って対応するまで。
追撃を撃ち込みどうにか攻め込むことが出来れば――。
「見つけたぞ」
『!!』
と……その横っ面へと、銃声と共に何かが撃ち込まれた。
ミミックロボットが振り向いてみれば、進行方向よりずれた位置に立たずむ、赤ネクタイの猟兵が一人。
真紅と黄金の瞳を向けて、内から怒りを燃え上がらせつつ、反するように静かに構える。
ミレナリィドールの女性、レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は――解放の時を今か今かと待っていた。
『オオオォォオオオ!』
そして彼女を捉えたミミックロボットもまた、怒りのはけ口を逃すかとばかりに破壊をもたらし迫りくる。
「どうせ、まともな精神状態の戦いが出来ないのだ」
もはやその表情に笑みなど欠片も見られなくとも、確かに感じる敵意だけを言葉に宿し淡々と、あくまでレナはか細く呟く。
だがそれもやはり僅かな間だけで。
「ならば精々……派手に、暴れてやろうではないか!!」
激して爆ぜた叫びを伴い――怒りの宴が幕を開けた。
宣言通りというべきだろう。
彼女は初手から一切の遠慮なくユーベルコートを発動させる。
次いでなる金属音に目線を傾けてみれば宙へと浮かぶ拳銃、ライフル。
ガトリングガンにアームドフォート。
アサルトウェポン、黒剣のナイフ、フォースセイバーにフック付きのワイヤー。
出るわ出るわ武装の数々……鉄器の軍が現れていた。
「さぁようこそ、我が荒野の世界へ! ああ……盛大に出迎えてやるともっ!!」
己の武装を複製し年度売り気で操る技――その名も【軍隊個人・総員集結(ジャック・レギオン・フルバレルオープン)】。
飛び出た武器のその総数は、驚くなかれ62個。
一種につき五本は用意されただろう銃火器が、刃物が、特異な武具が……すべてミミックロボットの方を向いていた。
『オオオォォォオオォオ!!』
本来ならば足がすくむだろうその光景に、怒りに支配された状態のミミックロボットは怯まない。
武装まとめて踏み潰してやるべくレナへと巨躯を走らせる。
その対応が彼女にとって、行幸だと知る事も無く。
「さあ……さあっ! 全てその身で、受けてもらうぞ!」
閃く銃口に飛び散る火花。
手にした圧倒的な武力をこれでもかと注ぎ込んで、ミミックロボットを滅多打ちにしていく。
それは正しく怒りの具現。駆動音すらかき消すほどの鉄の雨が降り注いだ。
『オ、オォ、オォォォオ!!』
「まだまだまだぁ!!」
徐々にこちらへ手を伸ばし、鋼の幕をかき分けるロボに、負けじと銃火を叩きつけるレナ。
――だからこそ気が付かないのだろう――
打ちのめされているからこそ、一瞬怒りから解放されたミミックロボットが……ユーベルコード【ゴーレムフォース】を発動させていたことに。
弾幕を張り続けては刃を飛ばす彼女の、視界の端から小型ロボ達が迫りくる。
背後をとれば勝利だ……。
本体とは正反対な隠密の構えをとったまま、レナの元へと疾走する。
ゴーレム達は確信した、勝ちの目が出たのだと。
――確信したからこそ気が付かなかった。
「見えて、いるぞ!」
周囲に味方が一人もいない孤立無援なこの状況で、彼女が自分から一つの枷を外していたことを。
「敵、敵、敵だ! 全てが敵だあっ!」
動くものすべてに牙を剥けと……そう、言い聞かせていたことを。
「敵は消えろおぉっっ!!」
障害全てを圧し潰せ。
切り刻み、破片へ変えろ。
あまねく物を粉砕せよ。
ただそれだけの、嵐となれ――!
『ガガガ、ガガガガガガガ!!』
合体などする暇もなく、小型ゴーレム達は瞬く間に吹き飛ばされていく。
策を成すことが敵わなかったミミックロボットの身体が、鉄器の軍に負けひび割れていく。
「これが私の内に溢れ滾る憎悪と、怒り! ちっぽけだと嗤わば嗤え!」
叩きつけるよう上がった怒声。
レナの抱く感情そのままありったけ撃ち込み、トドメとばかりに一点掃射。
ひびは広がり、端から砕け。
「……代価は貴様の命だがね」
『ガ――』
――ド派手な轟音を上げながら、ミミックロボットは爆散した。……崩壊した後には兵器など残らず。ただ、黄金の輝きが散らばるだけ。
勝ったのだと、そう認識したレナの怒りが僅かに落ち着く。
「っ! 今の音は!」
だがしかし。
この広い迷宮の中で、別のロボットが起動したのか……遠くから微かに聞きなれた音が彼女の耳に届いてきた。
――ならば逃すわけにはいかない――
その身に未だ暴威を抱き、猟兵達は再び走り出す。
大成功
🔵🔵🔵
トール・テスカコアトル
「……ふふ、こわい」
どうもトールです
暗い森こわいです
目の前にはでっかいロボットがいます……もうね、どうしろと?
「なんか、むかっぱらたってきたぞ」
なんだよ、こんな暗い森でロボットって怖いでしょ空気読んでよ
大魔王さんも寝ててよなんで起きてるんだよおバカなの?
……なんでトールはこんなに臆病者なんだろう?
やるしかないのに、いつだってウジウジウジウジ……腹が立つな【勇気】を出しなよ
「分かってるよ」
ニギ=アラが輝いて、ブレイブ・リングが出現する
「トールだって……トールだって……」
なけなしの勇気を力に変えろ!
ドラゴンになりきるんだトール!
「怒ったぞ!ガオー!!」
ぶん殴る
的は大きい
キレたトールは強いぞガオー!
――心奪いのキノコ森――
先の激突地点からみて少々離れたこの場所で、またもや一人の猟兵がオブリビオンと激突寸前。
当たり前ながらその敵は既に燃え上がるような怒りをたたえている。
『オオオォォォ!!』
猟兵達の予想通り新たなミミックロボットが……傷無き鋼の宝箱が、歪な雄たけびを上げている。
対し、それを見上げているのは、小さなドラゴニアンの少女だった。
「ふ、ふ、ふふふ……」
不気味に肩を震わせながら、湧き上がる感情を堪えているのか、つっかえながらも笑みを漏らす。
光遮る暗き森の中、その少女は面を上げて――。
「ふふふふふ……こわい」
――ごく普通の感想を吐き出していた。
しかしながら無理もない。彼女、トール・テスカコアトル(ブレイブトール・f13707)はそもそも気質的に臆病なのだ。
いくら怒りを膨れさせても、元が元ならその上昇率は微々たるもの。
それ故か、目の前の敵とは比べるまでもない圧倒的な温度差があった。
心優しきものにさえ烈火の槌を握らせる森にありながら、トールの胸にある焔の情は依然として燃え上がらない。
『アアアァァァァ!』
(も、もうねこれ、どうしろと?)
眼前で暴れるドデカいロボット。
怪しく暗いキノコ森をその身で照らす金キラロボット。
空気も読まずに突撃してきた、その理不尽度は計り知れない。
それを見ながらトールはただただ……吐露できぬ言葉を巡らせるほかない。
『ギギギギギギ!!』
(……なんだよ、こんな暗い森でロボットって怖いでしょ空気読んでよ)
否――巡らせるほかなかった筈だ。
されども、しかし。
(大魔王さんも寝ててよ……なんで起きてるんだよ、おバカなの?)
アルダワ魔王戦争を引き起こした元凶と、そして今ここで相手しなければならない敵の存在から始まり。
トールの体を固まらせていたその怯えと震えは徐々に、グラリと湧き上がる敵意へ変わり。
(……なんでトールはこんなに臆病者なんだろう?)
遂には自分の不甲斐なさと、力の無さにも向かっていく。
一度湧いたらもう止まらない。
心奪いのキノコ森は、彼女が抱いた小さな気持ちを、巨大な怒りへと変貌させる。
(やるしかないのに、いつだってウジウジウジウジ
……!!)
やがて、控えめな表情などとっくに消え失せ、瞳も眉も吊り上がっていた。
抑えられない怒りはやがて全身へと伝播していく。
そして。
“怒れ”“滾れ”との言葉の中に、確かに響く『勇気』の二文字を認識した時――。
「分かってるよ」
苛立ちを含んだ声音でトールが呟けば、強い感情に呼応して手に握った『ニギ=アラ』が輝く。
続けて手足に現れた『ブレイブリング』を視界に収め……漸くミミックロボットを真正面から睨み据えた。
『ギギギギギギイイ!!』
「トールだって……トールだって……!」
小細工なしに振り下ろされた剛腕を、飛びしさってトールは避ける。
そのまま、思い切り息を吸いこんだ。
「なけなしの勇気を怒り(ちから)に変えろっ!!」
次いで放たれたその声はさながら竜の方向が如く。
ドラゴンへなりきろうと踏ん張った彼女の力に怒りが注がれた結果、ただのごっこでは収まらない超パワーを宿すに至ったのだろう。
更にトールは元々の性格こそ臆病であってもポテンシャルそのものを並べたならば、決して低くなどない。
「ぜぇっ!!」
追うように振り上げられた鋼の巨腕を、蹴り上げ一発で受け流した。
『ゴゴゴゴゴゴ!』
「ウガオォォォー!!」
叩き下ろして振り上げる豪快な2連撃すら拳と脚で見事なまでに弾いてみせる。
『オオオオオアアァァ!!』
「ガォォアアアァァァー!」
ぶん回される腕に対しても、パワーにはパワーで対抗と問答無用で打ち上げる。
豪快極まる大立ち回り。
だがくいつかれ続けるミミックロボットの内に宿る怒りも増していき……ここで大きな一手を打ってきた。
『ゴ、ゴ、ゴ――ゴオオォォオ!』
槌や草木に覆われず露出している周りの床や壁の破片。
それらを取り込み巨大化し、二倍以上の大きさにまで膨れ上がったのだ。
恐らくユーベルコード【トレジャーロボット】だろう。
単純明快な効果はしかし、この場では脅威以外の何物でもない――はずだった。
「ガアアアァァァァー!!」
巨大化した反面鈍くなったその隙をついて懐へ飛んだ彼女は、思い切り腕を振りかぶってお返しとばかりに技を発動。
「ゼエエェェェエエェ!!」
その力もまた単純明快、ユーベルコード【グラウンドクラッシャー】によるひたすら重い破壊の一撃。
『オオオォォオオオォオ……!』
衝突で激しく揺るがせて、標的をかなたへ吹き飛ばしていく。
この威力にはさすがのミミックロボットも耐え切れなかったようだ。
が――飛んだ勢いを逆利用してそのまま逃げて行ってしまう。
「ガオー!!」
待てとばかりに追いかけるトール。
その姿が見えずとも、収まるまで追い続けるのだろう。
一度燃えれば止まらない――その怒りのままに。
大成功
🔵🔵🔵
メグレス・ラットマリッジ
【SPD】【OK】
うごっ、うぎぎぎぎ……
装甲が硬い、傷つけられた箇所が痛い……普段は気にしない、思い通りにならないという当然の事がとても不愉快です
この程度で怒っている事実が怒りを増長させる――この感情は殺さねば!
青筋を立てたスマイルに女子力は宿らない、猟兵の皆さんと笑って話す為にベコベコのスクラップを仕上げてやりますよ
巨体にまとわりつくように動き、相手の隙に合わせて脆そうな箇所に一撃を入れていきます
沸点を超えた際には何も考えずにフルスイング、あとは野となれ山となれ
UC対策は大きな数字には回避を主体に、焦れて数で押してくるようならUCでの一掃を狙います
――迷宮を守護する巨大な機械がまたも怒りで打ち負けてから、いったいどれだけだっただろう。
今や追跡と逃走の終わらぬ繰り返しは……心奪いの効果がもたらす“怒り”によって補強され、スタミナ勝負すら突き抜けた未知の戦いへと変わっている。
しかし追って追われるだけですむほど、怒りの力は甘くない。
現にまたもや聞こえるその戦闘音が流し切れぬ敵意の発露だと、否応なく告げているのだから。
「せいっ!」
『ゴゴ、ゴ!』
土煙まかれたその中心。
そこでは草地を踏み走る音と、機械がわだちを刻む音が重なって聞こえる。
どうやらここで戦っているらしい。
「ふん!」
『ギィィ!!』
今その最前線で勇を振るっているのはウェーブした白髪を持つ女性だ。
その手には杖と斧が握られ、打ち込める時を見極めるように回り込みつつ動き続けている。
『ガガッ!』
ある攻撃には雷を帯びたその杖を用い軌道をずらして避けてみせ。
『ゴ、ギガ!』
またある攻撃には黒の斧を振るい、衝撃に耐えながら斜めに弾く。
攻め手の切れ目を逃さぬように女性は死角へするりとまわり――視線を下げて口を開いた。
その口から迸るのは――。
「うぎ、うぎぎ……」
――耐えられぬ痛みへの言葉ならぬ言葉。
どうにも、衝撃が響いたらしい。
動き自体は手慣れたものでとても軽やかだったのだが、予想以上に装甲が硬かったのだろう。
普段なら気にしないその痺れすら今では気になる複雑な心境でメグレス・ラットマリッジ(襤褸帽子・f07070)は再度駆け出す。
『グオオオォォォォォオ!!』
「こ、のおっ!」
倒れ込むようなこの一撃は流石にいなすことが出来ない。
どうにか転がり立ち上がり様に一撃入れる……が、やはり相手の方が硬いか表情がこわばった。
『ギギギギギギギ!!』
「うごっ」
しかも硬直した隙を突かれて振るわれた腕がかすり、体格差からものの見事に吹き飛ばされる。
思い通りにならない……その感情が彼女の内の怒りを燃やす薪を作り出す。
『ゴオオオオオゴオオオォ!』
またもや飛んでくる鉄の剛腕を横っ飛びで回避した彼女の顔に浮かぶのは、青筋だ。
「こんなこと……!」
更に、普段なら別のどうとでもなる筈のことにすら自身が腹だっているという、その事実にすら“怒り”が湧きあがって、激怒に繋がり止まらない激情。
最早『この怒りを殺さねば』と不利な状況を作り出す一手すら浮かんでしまう。
それすら燃え上がる力となり、次なる怒りを呼び込んでいる。
「うぎぎぎぎぎぎっ……!」
抗い笑おう、笑もうとしても全てが【怒】へと変換され、刻まれた青筋が増えるばかり。
今浮かべられた鋭い瞳と、引きつった口角で作られた笑みに、女子力など欠片も見られない。
そして、とうとう――。
「ええもういいですやってやります、ベコベコのスクラップを仕上げてやりますよ
っ!!」
湧き上がってきた感情へ迎合……本気の本気でブチギれた。
青筋たてたスマイルに女子力などは宿らない。
そんな状態を呼び寄せる、この場所に鎮座するオブリビオンは――許さないと。
『ゴゴゴゴゴ!!』
対し、元より怒り続けているミミックロボットは彼女の心情に頓着しない。
変わらぬ苛烈さを保ったまま鉄爪で思い切り薙いできた。
しかしメグレスもまた吹っ切れた状態……アドバンテージは既に無い。
まとわりつくような動きはそのままに、より加速して切り付け、たたきつけ始めていた。
「ふぅん!!」
『ギ――ギギギガガガガ!!』
三度あがる硬質的な大音響。
それをもたらした一撃は……何をしようが無駄だとばかりに、装甲で受け止めていた筈のミミックの体を大きく揺らす。
どうやら抱いた怒りが今の今まで薄かったことが功を奏し、メグレスは策通りに脆そうな個所を狙って打ち込み続けられていたらしい。
「まだまだっ!」
――このまま思い切りぶち込めばそれだけですむ――
それは正しいのだろう。
だが、ここでミミックが札を切ってきた。
『ゴ、ゴ、ゴ!!』
魔法陣から次々現れる小型ゴーレムの軍勢に、自身の周囲を取り囲ませてメグレスの動きをけん制した。
ユーベルコード【ゴーレムフォース】の力によってこの場が一気に多勢に無勢の様相となる。
取れる作戦はシンプルイズベスト。取り囲んで、一気に討ち取る……!
「ゴートゥーヘル!!」
されどメグレスの反撃はその上を行った。
ユーベルコード【地縫雷撃(テリブル)】により放たれた地を這う電撃で、小型ゴーレム達が打ち上げられていく。
あれよあれよという間に爆破された後に残るは、先と同じ状況だけ。
……この後にやる事はただ一つ……。
「せぇいああぁぁぁっ!!」
『ギ―――ッ!!』
杖と斧の全身全霊フルスイングだ。
予想外の衝撃に砕かれた体でミミックゴーレムは転がっていき、破片をまき散らし叫びをあげる。
これで大打撃は与えられたと思った……のもつかの間。
「あ!!」
形勢的フリを察知したのか大袈裟な轍を残しまたも逃げて行ってしまう。
追いかけようと走り出すメグレスだったが、そこでギリギリ別の情が働いたのか動きが止まった。
しばらく行くか行かないかのせめぎ合いを続けたのちに『いいや、やっぱりぶっ飛ばす』と結局向こうへ走り出す。
その顔に再びちゃんと笑みを浮かべるために――。
成功
🔵🔵🔴
フェルト・ユメノアール
大魔王を放っておけば沢山の人が傷付けられる……
ううん、世界が滅ぼされちゃうかもしれない
そんな事、ボクが絶対させないよ!
ボクの本分は『笑顔』なんだけど今だけは『怒り』で戦うよ!
まずは『トリックスター』をゴーレムに『投擲』
ミミックロボットに近づくのに邪魔になりそうな奴を狙い
頭部や脚部を狙って動きを止めて包囲を突破する
そして、ミミックに近づいたらUCを発動
混沌を纏いし勝利の化身よ!数多の想いを胸に、煌めく舞台へ駆け上がれ!
カモン!【SPクラウンジョーカー】!
さらに!クラウンジョーカーの効果発動!
アルダワの人たちの怒りをくらえ!
レイジングチャージ!
ボクはキミたちを……人の笑顔を奪う奴を絶対に許さない!
『ゴオオオ、ゴゴゴゴ!!』
未だに尽きぬ怒りを注ぐ敵対象を求めに求めて、あちらこちらを破壊しながら遠間に暴れるミミックロボット。
「…………」
激怒の発露なる暴威の力を――険しい目で見つめる、道化師が一人。
桃色に染まった長い髪。
ハートとスペードのメイク。
そして“いつもは”笑顔がトレードマークの、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)だ。
「あれが今回の敵……元凶の、手先……」
ぽつり、そう呟く声には、震えるほどの怒りの情が乗っている。
「大魔王を放っておけば沢山の人が傷付けられる……」
一度そう口にした言葉を、しかしそうではないとばかりに、自身で首を振り否定する。
「……ううん、世界が滅ぼされちゃうかもしれない」
――オブリビオン・フォーミュラである以上、そして何かしらの意図をもっていよいよ広がったこの戦場……逃せば、世界を壊しにかかるのは必定だろう。
それは多くの人々へ、元気と笑顔を届ける彼女に宿る義憤を何よりも書き立てる許されざる行いだ。
「そんな事、ボクが絶対させないよ!」
だからこそ彼女は『笑顔』のために、今この場だけは本文を捨て去った『怒り』のままに駆け出していく。
同時に気が付いたオブリビオンもまたフェルトへ向けて突進を開始――激突までもう間もなく。
投擲ナイフ・『トリックスター』を構えた彼女が早いか。
鉄爪を振り上げた敵が早いか。
果たして……。
『ギ、ギガアアァァ!!』
……ミミックロボットの方だった。
怒りの情をを積み上げてこそいれども、これまで散々煮え湯を飲まされてきたせいもあるのだろう。
なんと初手からユーベルコード【ゴーレムフォース】により多数の小型ゴーレムを召喚してきたではないか。
同時に振り上げたその両腕を、力の限り地へ振り下ろして辺り一帯を隆起させていく。
「さあ、ショータイムだ!!」
だがフェムトが怯むことはない。
怒りが与えた鋼の度胸が、彼女の後退を許さない。
「今は、今だけは怒りのままっ!!」
常時より乱暴な投擲方法。されど体に染みつき馴染んだ動きを何とか正確になぞってくれる。
弾丸よろしく飛来するナイフは、包囲しつつある小型ゴーレムの頭部を貫き後ろへころがし――また足を穿って転倒させる。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!』
忘れるなと言わんばかりにミミックロボットが腕を伸ばして来れば。
「そんなもの当たるかぁっ!!」
バック転からの更なる投擲で小型ゴーレムを刺し貫いていく。
……また何という偶然か。
彼女から湧き上がる激怒の力は、奇しくも標的であるミミックロボットを仕留めたいというその思いをより膨れ上がらせていた。
「邪魔、邪魔!邪魔ぁ!!」
ほとんど無意識で狙っているのだろう。包囲のかなめや接近の障害になるゴーレムに、尽く突き刺さっていく。
その一本が鋭く唸り、ゴーレムの眉間を貫いた時――敵大将への道が見えた。
――この時を待っていたのだと、フェムトは思いっ切り前傾姿勢をとる。
「そこだぁーっ!!」
全霊の跳躍で懐に飛び込んだ彼女は待ってましたとばかりにお返しのユーベルコードを発動させた。
向こうが召喚で来たのなら、こちら蛾もまた得意とする召喚技で落としてやろう。
ソリッドディスクにカードが入る。セットすると同時に力が吹き出す。
“……さあ来るが良い……”
「混沌を纏いし勝利の化身よ! 数多の想いを胸に、煌めく舞台へ駆け上がれ!」
ユーベルコード【<ユニットカード>SPクラウンジョーカー(スマイルパペット・クラウンジョーカー)】発動。
フェルトの呼びかけに答え、背後より現れる、黒衣を羽織った道化師。
彼の手に握られるは大道芸の道具にあらず――敵を刈取る大鎌だ。
「更に! クラウンジョーカーの効果発動! レイジング、チャージッ!!」
これだけでは終わらない。
彼女のその一言に呼応して、黒衣の道化師・クラウンジョーカーがまとう気迫がとめどなく強く、重くなっていく。
これこそがこのユーベルコードの真骨頂。
虐げられた者達の怒りを受けて、クラウンジョーカーは戦闘力を増していくのだ。
そして今この場に充満するのは……純粋な怒りそれ一つ。
「ボクはキミたちを……人の笑顔を奪う奴を絶対に許さない!」
注ぎ込まれた烈火の情は大鎌を輝きすら焔色の染め上げて行き――。
「アルダワの人たちの怒りをくらえぇーっ!!」
刹那、一閃。
斬られたと気が付く頃にはもう大傷が刻まれ吹き飛んでいく後。
ミミックゴーレムはその斬撃に――反応すら、できなかった。
……だがそこで時間切れらしく。
最後の力で地面を砕き、ミミックゴーレムは逃げ出していた。
その目に怒りの炎を燃やす一人の道化師少女を置いて。
大成功
🔵🔵🔵
バルディート・ラーガ
怒ってるかと聞かれりゃア、おうともよオ。
実質の追放こそされっちまったとは言え、アルダワの地は
曲がりなりにもあっしの故郷であり、学園は母校でもございやす。
潰される瀬戸際とありゃア、不良と言えど黙っちゃいらンねエさね。
……ヒヒヒ。どでけエロボの御仁じゃアございやせンか。
しかも金ピカと来てやがる。金。
かつてのあっしが名誉を捨てても欲しかったモノでございやす。
沸々と怒りが沸き立つのは胞子のせい……や、元々の性根ですかね。
財宝つーのは、使いでも無エ奴が貯め込ンで良いモンじゃアねエのよ。
寄越して下さいな。あっしならばもう少し上手く使えやす。
例えばこうして……奪った金塊の重みでドタマあ殴り付ける、ですとか!
――怒れ――
――もっと怒れ――
――怒りを燃やせ――
心奪いのキノコ森が作り出す、怒り増幅の異様な空間。それに囚われ止まることも出来ないミミックロボットは……しかして構わずまだ走り出す。
猟兵を倒さねば。
猟兵を潰さねば。
こんこんと湧き出る焔の如き感情は、抑えても抑えても溢れてくる。
激怒の情は消えることなくミミックロボットへ力を注ぐ。
ただ単純な理屈の上で、猟兵を砕かねばならぬその敵意を持って、衝動のままに暴れ出した。
怒っているのかと聞くまでもない、その暴威に近寄る物は――。
「ヒヒヒ、こりゃあまたぁ……」
――たった一人だが存在した。
さながら蛇のような風貌を持つ彼ではあるが、その外見と違い種族はキマイラではない。
外観がそう思えるだけで、バルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)はドラゴニアン。
そしてアルダワを故郷とする猟兵なのだ。
「怒り。怒り、ねぇ……?」
絡みつき、黙くらかし、どこまでも胡散臭い彼に怒りなどあるのだろうか?
その答えを本人に問うたなら、間違いなくこう返って来るだろう。
“おうともよ”――と。
「実質の追放こそされっちまったとは言え、アルダワの地は……曲がりなりにもあっしの故郷。学園とて母校にごぜえやすから……」
だから、だからこそ許せない。
例え己がどんな目にあい、どんな罰を受け、今の自分があるのだとしても。
変えられぬ望郷の念から生まれし怒りそのものは抑えられない。
それも潰される瀬戸際とくれば――自分が不良だとしても、黙っていられるはずがないだろう。
「やってやりますかねェ
……!!」
これ以上の様子見は必要ない。
内心で燃え上がる烈火とは裏腹な、掴み所の無さを思わせる緩やかな歩法で、バルディートはミミックロボットへと接近した。
『ゴ、オ、ゴオオオオオオオオオ!!』
ミミックロボットは吼え、猛る、
その身全てを焔と化したかのように、戦意を落とさず増させていく。
あと数メートルという所で気が付かれたバルディートは、改めて一つ呟いていた。
「なんともまァ……どでけエ、ロボの御仁じゃアございやせンか」
そうして振り下ろされる鋼鉄の腕を、難なく回避し睨みつける。
「しかも金ピカと来てやがる。金ピカ……金……」
決して激しく燃え上がらず。
ただし冷たく固まりはしない。
『ゴオオオ!! ゴオオアアア!!!』
振り下ろし、回避して。
振り上げられ、またも避け。
突き出されては、するりと抜けて。
その身に矛盾した熱さと冷たさを含み、バルディートは掠れたような声のまま、言葉をいくつも紡ぎ続ける。
「それは、かつてのあっしが名誉を捨てても欲しかったモノでございやす……!」
その黄金への羨望は、金銭欲かはたまた名誉か。
いずれにせよはかれぬ己の内を、彼は止めずに吐き出し続ける。
……降り注ぐその連撃すらも、尻尾を使い岩をからめとり、引っ張りやすやす回避しながらに。
『ゴ、ゴ、ゴ! ギギギギギギギギィ!!』
魔力の弾丸すら降り注ぎ始め、辺りの様相は一気に変貌していく。
鋼の肉弾戦などどこへやら。
もはや兵器の独壇場で――それでも彼は間を縫い、動き続けていた。
「……………」
余裕など欠片もない筈なのに、余裕を保って動けるのは何故か。
沸々と湧き上がる怒りに対して胞子の所為だと押し付けられず、自らが持つ元々の性根が由来だと……そう俯瞰してしまっているが故か。
そんな自分だからこそ、目の前で暴れるミミックロボットに、幾つもの怒りを抱かされて――。
――それが最後のスイッチとなった。
「ヒ、ヒヒ、ヒヒヒヒヒ……!」
決して表で激さない。その身の内で、爆ぜ続ける。
やはりどこか不気味なままに、しかし確かな熱を持ち燃え盛っている。
それは偽りなく学園の為。
そして黄金をその身に抱える敵の姿を見たがために……!
『ゴ、ギ、ゴ……ガアアアァァァ!!』
そんな僅かながらに動きを止めたバルディートへと、ミミックロボットもまた確かに感じる怒りを持って――最高の技を叩きつけてきた。
辺りの無機物を自分に取り込み、見る間にどんどん巨大化していく――ユーベルコード【トレジャーロボット】の力によって。
小細工を一切無視し破壊する単純な力の一撃の為に。
……巻き込んだ床や壁の中に、もしくはキノコの森の中に、どうやら財宝が混ざっていたのだろう。
ミミックロボットから感じるパワーは今までの比ではなくなっていた。
「――財宝つーのは、使いでも無エ奴が貯め込ンで良いモンじゃアねエのよ」
それを見てなおバルディートの目に、映るのはきらびやかなお宝それだけ。
怒りまとう焔は消さず、飄々とした空気も淀ませず、ただ真っすぐに手を突き出して……。
「寄越して下さいな。あっしならばもう少し、上手く使えやすから」
その輝きを所望した。
『ゴオオオオオオオオオオオオオ!!』
“そうか、ならばくれてやる”
恰もそう叫んだかのように一番金品がまとわりついた右腕を大きく振りかぶり、のしかかるように叩き下ろすミミックロボット。
巨大だからこそ馬鹿正直に、追い回し相手をすることなどない。
なればこそ、体躯に見合った豪快で逃げられぬ攻撃をすればいい。
とうとう……バルディ―トの内包する怒りと気配を吹き飛ばさんばかりりに、その巨体が駆動した――!
「例えばこうして――」
――その判断こそが早計だったと、分かったのはユーベルコード【大盗賊の業前(シーヴス・テクニクス)】を受けた後で。
今の今まで避け続けていたのは、『トドメへの一手』を確実になす傷を探していたからで。
即ち時すでに遅く……。
「奪った金塊の重みでドタマあ殴り付ける、ですとかぁ!!」
『ゴオオォォ!』
……強奪されたその宝達が、ひび割れへと上から叩きつけられた。
攻撃力をとことん重視したバルディートの渾身の一撃に、最早傷だらけのミミックロボットが耐えられる筈もない。
『ガ―――』
衝撃で、ほんの一瞬止まった――その硬直を合図としたかの様に、全身へ広がるひび割れの傷。
砕けて壊れ崩れて行って、爆ぜ飛び辺りを突風で揺らす。
その突風が収まったころには……すでにミミックロボットの姿なくただパーツの一つが転がっているのみ。
今度こそ、完全に、オブリビオンを討滅したのだ。
「収穫あり……っとぉ。そんじゃ、帰るとしやすかねエ」
そしてその手に僅かばかりの金を握ったバルディ―トも去り、辺りに静寂が訪れる。
この場で繰り広げられた怒りの宴が、一時の激情だと知らしめるかのように。
……まるで、幻だったかのように――。
大成功
🔵🔵🔵