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戀路 〜きみをむかえに〜

#サクラミラージュ


●きみをむかえに
 幻朧桜が止むことなく降る帝都の街。帽子を目深に被った青年が、立ち並ぶ商店へ入っては次々と品定めしている。
 色とりどりのハンケチーフ、甘いお菓子、凝った装飾の髪飾り。けれど、彼が望む色はひとつだけ。
「赤色、赤色なんだよな」
 首を傾げてうんうん唸る度に、その背に輝く後光がきらきらり。
 大切なひとへの贈り物に赤色を。艶やかな黒髪を飾るバレッタは? 白い膚に映える口紅はどうだろう?
 流行に疎い田舎者にはどれもが素敵に見えて、どれもが彼女に似合う気がする。
 かといって妥協する気はない――いっとう綺麗な彼女には、特別素敵な物を贈らなくては。
 ふと、背中に視線を感じてちらりと振り返れば。それまでひそひそ話をしていた女学生達が、きゃあと黄色い悲鳴をあげた。
「うわ」
 再び帽子を被り直し、そそくさと店を出る。ほんの数回テレビに出ただけで、こうも追われる身になるとは。
 彼女はいつもこんな大変な思いをしているのだろうか。自分なんかよりずっと見目麗しい、華々しい階級の人々からも、沢山の愛を囁かれただろう。にも関わらず、自分を選んでくれたことが照れくさくて誇らしい。
「……へへ」
 緩む頬を隠せても、背負う後光は薄紅色にきらきらり。
 流石帝都と言ったところか、見ていない店はこれでもかと残っている。逢えなかった日々を埋めるほどの愛を込めた贈り物を、いとしいあの子に渡したい。
 懐に忍ばせた、想い人からの恋文に触れてうんうんと頷き、決意を新たにする。
 幸い、汽車の時間にはまだ余裕がある。青年は再び街中を歩きだす。
 ――このままでは彼女に逢うことなく、そのいのちを散らしてしまうというのに。

●こいのはなさく
「皆さん、来てくれてありがとうございます。早速ですが、皆さんにはサクラミラージュへ行ってもらいます」
 グリモアベースで猟兵達を迎えた鎹・たから(雪氣硝・f01148)は、小さく頭を下げてからすぐさま説明に入った。
「一般人が影朧、オブリビオンに襲われてしまいます。彼の救出をお願いしたいのです」
 雑誌の切り抜きだろうか、羅刹の娘が手にしているのは、二人の若い男女の熱愛を報じるスクープ記事だった。
「狙われているのは蕗本・陣五(ふきもと・じんご)、若手の舞台俳優です。最近何度かテレビに出演する機会があり、いきなり大人気になったのだそうです」
 ストレートの短い茶髪に、黒い瞳。整った顔はしているが、正直言ってそれだけならば、さして目立つ見た目ではない。けれど、
「彼は人間の特殊変異体――ハイカラさんです。写真の通り、背中に後光を背負っており、感情に合わせて光り輝きます」
 後光を目印にすれば、彼を見つけるのは容易いということだろう。
「現在、陣五は帝都で買い物中です。汽車で帰ってくる恋人の女性の為に、贈り物を探しているのです。彼の傍で、影朧が陣五を襲撃するのを待ち伏せてください」
 近頃サクラミラージュでは、大切なひとへ赤色の贈り物をするのが流行しているのだという。敵の襲撃までは時間がある――彼の贈り物にアドバイスするもよし、誰かへの贈り物を探すのもいい。
「陣五は上がり症、恥ずかしがり屋です。突然ファンが増えたことで困っていることの方が多いらしく、帽子を被って人の目を気にしています。ですから、話しかける際は注意してください」
 まぁ、ハイカラさんの後光ですぐにわかってしまうのですが、とたからは続ける。
「陣五を狙う影朧ですが、初めは手下をけしかけてきます。理性も少なく、彼らを転生させることはできません。ですが、陣五を狙う影朧は、もしかしたら」
 説得するかどうかは皆さん次第だと、グリモア猟兵は言葉を紡いで。
 雪と色硝子煌めく双眸が、満開の桜の元に降り立つ猟兵達を視ていた。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。
 こちらは華房圓MSとの合わせシナリオです。
 華房圓MSのシナリオ『戀路 ~あなたのもとへ~』とは時系列が同じの為、同時参加は非推奨とさせて頂きます。ご了承ください。

●成功条件
 買い物を楽しみ、全てのオブリビオンを撃破し、蕗本・陣五を守る。
 ※ボス戦で説得するか否かは自由。

 プレイング第1章受付は3月11日(水)朝8時31分以降から。

 1章のみのご参加、どの章からのご参加もお気軽にどうぞ。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 日常 『くれなゐ浪漫』

POW   :    ひと目で気に入る贈り物を見つける

SPD   :    相手の好きそうな贈り物を見つける

WIZ   :    不思議と心惹かれる贈り物を見つける

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タリアルド・キャバルステッド
こんにちは。
ああ、驚かないでください。私はあなたの追っかけでも下世話な記者でもありませんから。
先程、あちらの店でお見かけして気になっていまして。
見たところ、女性への贈り物でお悩みのようですね……?

一つだけ余計なお節介を。
人目を気にしすぎて自分のことを疎かにしていませんか?
お相手の方も、あなたが自分のために御洒落をして会いに来てくれれば、より一層嬉しいはずですよ。

そうですね、例えば赤いネクタイやチーフ、スカーフ等、何でも良いので一つご自分用に買って身につけてみてはいかがでしょうか。
そしてあなたとお相手が二人で並んで歩く時を想像すれば、自ずと贈りたい物のイメージが浮かんでくるかもしれません。



 はらはらと舞う桜の下、からんからんとドアチャイムを鳴らし、青年は雑貨店を後にする。
「違ったんだよなぁ」
 ううんと首を捻り、陣五は大通りの端で立ち止まる。次に見る店はどうしようか、そもそも何を贈りたいのかもわからない。そんな彼の背後、凛とした少女の声が響く。
「こんにちは」
 びくりと大きく跳ねた肩、ぱちぱちと輝く後光は彼の驚きをよく表していて。慌てて会釈すれば帽子を被り直して足早に立ち去ろうとする姿に、タリアルド・キャバルステッドはそっと呼び止める。
「ああ、驚かないでください。私はあなたの追っかけでも、下世話な記者でもありませんから」
 そろりと陣五が振り向けば、豊かな灰の髪を靡かせ、スーツを着こなす男装の少女が微笑んでいた。見れば右の袖がないが、これもきっと帝都のモダニズムなのだろうと、田舎者の青年は考える。
「ええと……じゃあ、何か別の用ですか?」
「先程、あちらの店でお見かけして気になっていまして。見たところ、女性への贈り物でお悩みのようですね……?」
 すっとタリアルドが指差したのは、先程陣五が出てきたばかりの雑貨店。店は繁盛しているらしく、今もちょうど女性客が店内へと入っていくのが見えた。
「あ、あはは……恥ずかしいな。はい、まぁ……その、恋人に」
 青年の照れ笑いが後光に反映されたように、薄紅色がぽっとまたたく。ふむ、と少女は頷いて、人差し指を立てる。
「一つだけ余計なお節介を。人目を気にしすぎて、自分のことを疎かにしていませんか?」
「え?」
「お相手の方も、あなたが自分のために御洒落をして会いに来てくれれば、より一層嬉しいはずですよ」
 タリアルドが再び指差したのは、二人の隣に佇む洋装店のショーウインドウ。窓硝子に映る青年は、確かに彼女の言う通り、清潔感はあるものの洗練された服装ではない。自覚があるのか、陣五は小さくあっと声をあげる。
「そうですね、例えば赤いネクタイやチーフ、スカーフ等、何でも良いので一つご自分用に買って身につけてみてはいかがでしょうか」
 洋装店のウィンドウに並ぶ赤い品々を、おぉと感心したように眺める陣五にやわい視線を遣る。
「あなたとお相手が二人で並んで歩く時を想像すれば、自ずと贈りたい物のイメージが浮かんでくるかもしれません」
 衣服の乱れは心の乱れ――紳士服に宿る付喪神の、彼女らしいアドバイスに陣五は頭を下げ、そろりと洋装店へと入っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

縹・朔朗
贈り物……
生憎、私には物を贈る相手が居ないのですが、
今日は気が乗るので土産屋でも覗いてみましょうか。

店に入り商品を物色。
普段帝都に住まう故、土産屋に入る機会は無いのですが……どの商品も美しい。
帝都記念に購入したくなるのも頷けます。
最近のサクラミラージュでは赤い贈り物が流行りとの事。
學府でも赤い品を贈り合っている方々をよくお見かけします。
しかし、個人的に赤色は好まないのですが――。
椿模様のハンカチーフ…
思わず足を止めて手に取ってしまいました。
赤い色……普段の私であれば手に取らないはずですが、
不思議と心惹かれてしまう。

再び足を動かして向かう先は、
お勘定。



 洋装店から出てきた陣五の服装は、帽子を被って白シャツに着物を重ねた姿で、先程とさほど大きくは変わらない。ただし一つだけ違ったのは、赤いスカーフが控えめに飾られていたこと。
「おっと」
「これは失礼」
 ちょっぴり鼻歌まじりに土産物屋へと入っていけば、ちょうど縹・朔朗も店を覗いている最中だった。あおい双眸の端正な貌が笑みを乗せれば、陣五に気付かぬ女性客達の黄色い声は朔朗へと向いていた。真正面から彼の微笑を受けた陣五は顔と後光を赤らめ、そそくさと再び贈り物を物色し始める。
 そんな陣五の姿をちらりと見てから、朔朗はところ狭しと並ぶ品々へ目を落とす。生憎といって物を贈る相手は居ないものの、今日は気が乗ったのだ。
「さて」
 帝都に居を構えているだけに、土産物屋に赴く機会も少ない。主に桜を模した物が多く見えるだろうか――指輪や首飾り、華やかな装飾のブローチや金細工のバレッタ。子供の土産にちょうどいい、ぽってりとしたちりめん細工。豊富な種類でも雑多な印象を受けることはなく、どの商品も総じて美しい。
「帝都記念に購入したくなるのも頷けます」
 最近巷では赤い贈り物が流行していると聞いているし、彼の所属する學府でも、赤い品を贈り合う學徒兵達をよく見かけた。
「個人的に赤色は好まないのですが――」
 折角ならば、気になるあかを見つけてみようか。陣五や他の客の邪魔をせぬよう、そっと艶やかな黒髪を彩る淡瑠璃の八重桜が揺らして店内をぐるり巡れば。ふと、布小物を置く棚の前で立ち止まる。
「おや」
 それは白い絹のハンケチーフで、やわいあたたかな彩をした椿の刺繍が丁寧に規則的に施されたもの。一目見ただけで、それが職人の手によるものだと判る。
 普段であれば手にとらないその赤色は、何故か青年の心を強く惹きつけて――再び足が動けば、向かう先はお勘定。
「不思議な出会いがあるものですね」
 未だ買い物に悩む陣五や店の客達にも、そんな出会いがあるよう願って、桜の精は一足先に店を出る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルド・アジェンデ
無愛想そうであまり感情を表に出さないが、ふとした時に表情が緩んだりする

UCで人々に気付かれているか影朧に動きは無いか等周囲の様子を探りつつジンゴに接触

ああ、俺もちょっと贈り物を探していてな
さっきから見て回ってた店で何度か姿を見ていたから気になっていた、等適当なことを言って一緒に探し物をする体で護衛

赤か、赤色は情熱を表す色だ
愛を込めた贈り物には良い色だな
俺の故郷ではそういった贈り物に花が選ばれることが多かったよ
散って枯れてしまうのがあまり良くなさそうだって?
それならその花が枯れる前にまた花を贈るんだ
これからもずっと頻繁に会いたい、たとえ会えなくても俺の愛をずっと贈り続けるよ、という想いを込めてな



 昼下がりの帝都をゆく人々の往来の中で、影朧は今も陣五を狙っているだろう。そっと自身に従う追走者を放ったエドゥアルド・アジェンデは、青年から一定の距離を保ちながら彼の様子を窺っていた。
 陣五なりに人目につかないようにしていても、輝く後光がそれを台無しにしているのを自覚しているかはわからない。影朧は勿論のこと、彼の顔がうっかり人々に悟られないか気にしてやるのも、エドゥアルドという男の優しさだった。
 立ち並ぶ店の軒先で立ち止まっては、ショーウインドウや看板を覗く陣五に声をかける。
「すまない、少し構わないか」
「えっ」
「ちょっと、贈り物を探していてな。さっきから色々と見て回っているんだが……何度か見かけて、気になっていた」
「ああ、お兄さんも俺と同じなんですね」
 どこか迫力ある背の高い男に話しかけられ怖気づいたのか、一瞬青い光を放ったものの、自分と同じく買い物の漂流者だとわかって安心したらしく、陣五の後光は淡い橙に色づく。
「久しぶりに会える恋人への贈りものに、困っていて。いやあ、彼女はきっとなんでも喜んでくれるんですけど」
「それは一番悩ましいな。選択肢がありすぎる」
 へへ、と照れ隠しのようにゆるい笑いを零す陣五にそう返して、共に店を回ろうと誘えば、快く承諾した青年と二人で帝都の通りを歩く。
「お兄さん、最近の帝都の流行って知ってます? 赤色の贈り物をするのが流行ってるんですよ」
「赤か、赤色は情熱を表す色だ。愛を込めた贈り物には、良い色だな」
 そういえば、と男は話を続ける。
「俺の故郷ではそういった贈り物に、花が選ばれることが多かったよ」
「花、ですか」
 陣五は首を傾げて、ふと道路の反対側に佇む花屋を見つめる。そんな彼に、エドゥアルドは視線をやわくゆるめる。
「散って枯れてしまうのがあまり良くなさそう、か?」
 男の表情は読めないが、クールな外見からは意外なほど穏やかな声色が響く。
「それなら、その花が枯れる前にまた花を贈るんだ。これからもずっと頻繁に会いたい、たとえ会えなくても――俺の愛をずっと贈り続けるよ、という想いを込めてな」
 目を丸くした陣五がぽっと顔を赤らめれば、再び後光も薄紅にきらきらり。
「す、素敵だけど……俺が贈るとちょっと、恥ずかしくなりそうです」
「なに、普段とのギャップ、という奴だ。恋人も喜ぶんじゃないか?」
 試してみたらいいとエドゥアルドが返して、二人は花屋へと向かう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト
フム、誰かに贈り物する予定は今の所無い事だし
ヒーローとしては件の蕗本氏と自然に接触しておきたい所では有るね

では彼を…まぁ、尾行してだ(無論気づかれぬよう)
彼が何か店先の商品―女性ものだと都合がいい―を手に取ろうとした時に、偶然を装って同じ物に手を伸ばそう
「ああ、失礼。お先にどうぞ」
「贈り物かな?貴方のような美男子に赤色の贈り物を貰えるとは、お相手の方は幸せ者だね」
「贈り物は気持ちが一番大事とは言え、物にも拘りたいのは判るとも。高級感と物珍しさを兼ね備える品が良いと聞いたことが有るよ」
「今日、汽車でこちらへ来る?それは素晴らしい。汽車という所が特に!」
変な注目を浴び無い様、声は意識して抑え目に



 人混みひしめくとまでは言わないものの、幾人もの女性客が買い物を楽しむ化粧品店。幻朧桜の花や樹液から作られた口紅や頬紅、化粧水がずらりと展示された店内からは、淑女達の気を惹くあまい香りが漂っている。
 店内に入るのはためらいがあるのか、陣五は店の前で二の足を踏んでいる。ふと、目玉として店先に並べられた新商品のサンプルを手にとろうとして、白手袋をはめた手にぶつかった。
「ああ、失礼。お先にどうぞ」
「い、いえ、俺はちょっと見てただけなんで」
「ありがとう、紳士だね」
 ふふ、と白手袋の主――ジュリア・ホワイトは笑む。贈り物を届ける予定がない彼女は、ヒーローとしてそれまでずっと彼を尾行し、こうして接触する機会を窺っていた。首尾よくチャンスが巡ったところで、会話を続ける。
「もしかして贈り物かな? 貴方のような美男子に赤色の贈り物を貰えるとは、お相手の方は幸せ者だね」
「へへ……ありがとう、照れるなぁ。女の子なら化粧品もいいかなと思って来てみたけど、やっぱり店に入るのが恥ずかしくてね」
 少年のような見目のジュリアに気を許したのか、陣五は砕けた口調で返す。まっすぐな褒め言葉に慣れてはいないのか、顔は赤く後光も薄紅に輝いているけれど。ふんふんと興味深そうに青年に相槌を打って、少女はぱちりとウィンクを投げる。
「贈り物は気持ちが一番大事とは言え、物にも拘りたいのは判るとも。高級感と物珍しさを兼ね備える品が良いと聞いたことが有るよ」
「高級感と物珍しさ……」
「その点で言えば、この新商品は良さそうだね。幻朧桜を使ったコスメは帝都の定番だけど、そこに希少な薔薇をくわえたなんて、情熱的じゃないか」
 少女が指差したのは、唇にも目元にもつけていいという紅。淡い桜色から薔薇色のグラデーションが美しく、商品の入ったケースも水晶のように煌いている。
「なるほど、うん……彼女ならきっと似合うだろうなぁ」
「ねぇ、よければもう少し、その人のことを教えてくれないかい? 貴方がこんなに一生懸命贈り物を探しているんだ、とても素敵な人なんだろうね」
 ジュリアの言葉に、帽子から覗ける表情は満面の笑みで。わざわざ覗き見なくとも、ぴかぴかの後光で彼女への想いが見て取れた。
「今日、汽車でこちらへ来る?それは素晴らしい――汽車という所が特に!」
 周囲から目立たぬよう、声はあくまで控えめに。少女は暫し、彼の惚気話に付き合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

偃月寺・露雫
「人の恋路を邪魔しようとは、無粋な事しはるなぁ。荒事は不得手やけど見守るくらいならええかな。」
そう思いつつ蕗本・陣五を遠目に見守る。何かあれば駆けつけられる様に同じ店に入って自分も買い物を楽しむ。フラフラと店内を見ていて、不思議と惹き付けられた赤い硝子玉の飾りのかんざしを購入。
「ええ買い物出来たわぁ。」



 華やかな彩に満ちた装飾の店内は、職人の手でひとつひとつ丁寧に誂えたアクセサリーを揃えていた。ハートにかたどられた指輪や真珠を重ねたネックレス、宝石を桜に見立てたイヤリングなど、女性でなくとも心惹かれる数々の煌めき。
 ひとつひとつに見惚れては、うぅんと首を捻って次の煌めきの前に立つ。そんなことを繰り返している陣五を、少し離れた距離から見守る者が居た。
「(人の恋路を邪魔しようとは、無粋な事しはるなぁ)」
 隠した銀の眼差しで、偃月寺・露雫は陣五の姿をちらと見遣る。グリモア猟兵の説明やそれまでの行動を見ている限り、朴訥とした初心な青年であることがよくわかった。日常生活もまともに出来ぬことは多々あれど、見守るくらいなら、荒事が不得手な己にもできる。
 装飾達にも引け目を取らぬほどの輝きを持つ後光を持ちながら、その実あがり症の舞台役者の力に、少しでもなってやりたかった。
 とはいえ、ただ見守るだけもつまらない。折角の機会と、露雫も自分の買い物を楽しむ算段で居た。ふらふらと店内を巡る少女の秘められた瞳には、装飾の煌めきはどのように映っているだろう――ふと、小さなひかりに呼び止められたように足を止める。
「……あなた、かあいらしいなぁ」
 誰にも聴こえない程小さな声で、ひかりの主に話しかける。控えめな赤い硝子玉が揺らめいて、やわく清楚な印象を与える簪は、不思議と彼女の気を惹いた。
「うちを呼んだん?」
 答えが返ってくることはないけれど、それが答えと露雫はゆるく笑む。そっと会計を済ませ、青年を見守ることに集中する。
「ええ買い物出来たわぁ」
 陣五もそう思えるよう、少女は己の役目を果たす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月藤・紫衣
アドリブ等歓迎

赤色の贈り物
まるで温もりを伝える為のようですね

さて贈る相手はいないのですが
話題の一つとしていいでしょう
贈り物を探しているフリをして彼の傍まで行こうかと
無事に行けたのなら
誰かへの贈り物ですか?と声をかけましょう
若い方の初々しい恋路というのは
応援したくなるものですから

女性への贈り物であれば
髪飾りと耳飾り、首飾りの合わせや
指輪に合わせた爪紅と口紅の合わせも捨てがたいものですね
なんてアドバイスをしつつ、飾りであれば紅い珊瑚と小さな紅玉に真っ白な真珠の組み合わせをお勧めしておきましょう

ああ、そうだ
目くらましとはいえ私も何か買いましょうか
…とはいえ何がいいのやら
時間いっぱい迷ってみましょう



 アクセサリーショップで、その煌めきひとつひとつに心を奪われていた陣五。この装飾品を身につけた彼女を思い浮かべているのだろうか、背にした光輪はぽっと薄紅の彩を放っている。
 それまでの猟兵達と同じように、月藤・紫衣も彼を見守りながら昨今の帝都の流行に思いを馳せる。大切な人へ赤い贈り物を――それはまるで、
「温もりを伝える為のようですね」
 贈る相手は居ないものの、話題の一つとしては十分だろう。お目当ての贈り物を探す素振りで、ゆっくりと青年に近付く。ほんのりと漂う藤の香りに誘われるように、陣五の方から紫衣へ視線を向けた。
「あ……す、すみません。どうぞ」
「いいえ、お気になさらず。誰かへの贈り物ですか?」
 場所を譲ろうとした動作を静かな声で引き留めて、私もです、と。青年はつられるように照れ笑いを浮かべて頷き、帽子を被った頭を掻く。
「はい、その、久しぶりに会う恋人に……」
「素敵ですね。いえ、若い方の初々しい恋路というのは、応援したくなるものですから」
「へ!? あ、ありがとうございます」
 穏やかな物腰で言葉を紡ぐ美丈夫に応援したいと言われれば、誰でも嬉しくなってしまうもの。恥ずかしがり屋のあがり症には効果覿面かもしれない。わたわたと帽子を被り直した陣五に、それなら、と紫衣は話を続ける。
「女性への贈り物であれば、髪飾りと耳飾り、首飾りなどの合わせ。指輪に合わせた爪紅と口紅の合わせも捨てがたいものですね」
 すっと色白の指先が示した先には、桜を模した薄紅の耳飾りと揃いの首飾り。隣に咲いているのは牡丹にも似た指輪。
「ああ、さっき化粧品の店に行ったんですけど、新商品だっていう紅がありました」
「なら其方の店をもう一度見に行くのもいいでしょうし……そうですね。飾りでしたら、私はこれも素敵だと思いますよ」
 うんうん唸って悩む青年の視線を、ひとつの品へと導いていく。紅い珊瑚と小さな紅玉に、真っ白な真珠を組み合わせたバレッタは、海底に咲いた華のよう。
「うわぁ、乙姫様の簪みたいだ!」
 こどものような感想を洩らした陣五の素朴さに、感情の読めぬ男の表情が和らぐ。
「時間がまだあるのなら、お相手を想って目一杯迷ってくださいね。私もそのつもりですから」
 陣五は勢いよく帽子を取ろうとしてから、周囲を気にしてその手を止めた。ありがとうございます、と頭を下げて、再び一人で贈り物探しの旅に出る。
 さて、目くらましとは言いつつも、己も何か買おうか――とはいえ何がいいのやら。
「――時間いっぱい、迷ってみましょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛籠雄・九雀
SPD

他人の恋路などは、まあ…興味もないのであるが、サクラミラージュで買い物をする機会など早々ないであるしな。UDCアースとは違った趣の、曰くつきの本や装飾品はないであるかな?

陣五ちゃんの方も気にはしておくが、彼奴の性格を考えると、オレの言動は対処に向かんであるからな。助言などは他の者に任せるであるよ。どうせ影朧はまだ出て来ぬのであろう、オレは自分の買い物をする。

しかし、大切か。恋に限らずともよいのであるかな、それは。
…ふむ。

赤い石の髪紐を一つ買い、この肉体の髪に結ぶ。
それから、同じ赤色の石を一つ。
…これは誰の分なのであろうな。オレではない。
オレは、結局何を忘れておるのかなぁ。

アドリブ連携歓迎



 陣五が出ていった後の雑貨店には、仮面を被ったひょろりとした長身の男が商品をしげしげと眺めていた。
 葛籠雄・九雀にとって、他人の恋路など特に興味もない。けれど、レトロモダンなサクラミラージュの帝都で買い物をする機会は滅多にない。UDCアースとは違った趣の、曰くつきの本や装飾品を探してみるのも乙だろう。
 勿論これは仕事であって、陣五の動向も気にはしている。先ほども、何度も様々な商品を見てはくるくる後光の色を変えていた青年を見守っていた。とはいえ、自分の言動がアドバイスには向いていないことは自覚しているし、どうせ影朧はまだ出て来ない。
「助言などは他の者に任せるであるよ」
 これは自分の買い物を楽しむことに専念してしまっていいだろう。誰に許可を取るでもなく、仮面はそう決めて。
「しかし、大切か」
 昨今の帝都の流行は、大切な人へ赤色の贈り物を贈ることだとグリモア猟兵は言っていた。流行の情報はしっかりと掴んでいるのだろう、人もまばらになってきた店内にも、様々な『あか』を帯びた品々が目立つように並べられている。
「恋に限らずともよいのであるかな、それは」
 大切――それは恋人かもしれないし、友人かもしれないし、家族かもしれないし、あるいは。誰かにとっての大切という概念は、千差万別。
 ふむ、と場所のわからぬ唇から一言呟いて。二つの白い眼が捉えた髪紐を、色黒の肉体が手にとった。
「会計を頼む」
「ありがとうございます」
 物静かな店員と必要最低限の会話をし、淡々と勘定を済ませて手に入れた組紐飾りは、赤い石が編み込まれたシンプルなもの。すぐさま乱雑に纏められた長髪に括りつければ、夕焼けのように鮮やかな橙に鈍い彩を添える。
 からんからんとドアベルを鳴らして店を出た男の手には、購入した『あか』がもうひとつ。全く同じ彩の石は、髪紐のような加工はされていない。
「……これは誰の分なのであろうな」
 ヒーローマスク自身の物ではない。髪紐のように、きっとこれは、大切な誰かへ贈るはずの品だった。
「――オレは、結局何を忘れておるのかなぁ」
 曖昧な記憶を探ることもなく、九雀は桜の降る大通りで晴天を見上げる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
英(f22898)

あかを、大切な人に贈る
いのちの色彩を贈るなんて
ろまんちく、だ
君の赤い瞳に微笑んで

先輩…僕はいつも選んでもらってばかり
僕の待ち人はお洒落な龍なのさ
だからいざ自分から贈るとなると悩んでしまう
一緒に悩めるなら嬉しいな

君のたいせつな待ち人は
あえかな赫がよく似合うひとだね
真っ赤に咲いたアネモネのような
君が悩み選んだいっとうならば
彼女はきっと春に綻ぶ一華のように咲むだろう
赫い絲をふたつに分けて結ぶなんて素敵だね
英はとても洒落ている

なら僕は
絢爛の桜咲く龍に、手首を彩る赫の枷を贈るよ
ふたり、重ねる罪を縒りそって
結ぶ幸せを―「幸」の文字の如く2人の手首を捕う腕輪にかえて


迎えに行こうか
僕らの春を


榎本・英
リル(f10762)

そう言えばそんな話も聞いたことがある
しかし、贈り物はいつも困ってしまう
一体何をあげたらよいのやら

リル、君は贈り物に慣れている方かい?
私はこの通りさっぱりでね
君は私の先輩になる訳だが
嗚呼、君も。
それならば一緒に

君には繊細かつ壊れ難いものが似合いそうだ
君の大切な桜の龍もきっと揃いの物を喜ぶのではないのかな

嗚呼。なんと繊細な指輪
赤い糸で作られたそれは彼女の小指に似合いの代物だろう。
傷のついた小指を彩るあか
もう一つ、同じ物を
私の小指にはまるもの

洒落ているだなんて
君の選んだそれも随分と情熱的で素敵な物だ
君もその贈り物と同じくらい情熱的なのだろうね

嗚呼。そうだね
早く迎えに行こう



 それはハイカラさんの青年が入店するよりも前のこと、二人の猟兵がアクセサリーショップを訪れていた。
 職人による繊細な装飾の数々を、薄花桜の瞳がゆるく見つめる。あかを――いのちの色彩を贈るなんて。
「ろまんちく、だ」
 リル・ルリはそう呟いて、深い紅の瞳に微笑んだ。嗚呼、と榎本・英が返して、そう言えばそんな話も聞いたことがある、と帝都の文豪は思い出す。
 しかし贈り物という奴は悩ましいもので、いつも困ってしまう。一体彼女に何をあげたらよいのやら。
「リル、君は贈り物に慣れている方かい? 私はこの通りさっぱりでね、君は私の先輩になる訳だが」
 先輩、という言葉に人魚は笑みを残したまま、小さく首を横に振る。
「僕はいつも選んでもらってばかり。僕の待ち人は、お洒落な龍なのさ」
 いざ贈る側となった時にはこうして悩んでしまう。それも、桜花纏った華龍に贈る品なのだから。
 ならば一緒に悩もうと頷いて、互いの想い人を頭に浮かべ似合いの品を探し出す。椿の花咲く螺鈿の櫛に、止まり木に降りた蝶のイヤーカフ。何処か幻想的な品々は、見る者すべての視線を惹きつけていく。
「君には繊細かつ、壊れ難いものが似合いそうだ。君の大切な桜の龍も、きっと揃いの物を喜ぶのではないのかな」
 リルの横顔を見てひとつ思いついた文豪が印象を伝えると、そうだね、と人魚は素直に受け入れる。
「君のたいせつな待ち人は、あえかな赫がよく似合うひとだね。真っ赤に咲いた、アネモネのような」
 心臓のように、ぽうと咲いた牡丹一華の姿は、いつも英のこころの一番に。ふいに青年の瞳が捉えたのは、彼女によく似た『あか』だった。
 様々な彩をした赤い糸を丹念にひとつに織り上げて生まれた指輪は、彼女の小指に似合いの代物。傷ついた小指を彩るあかを浮かべて、嗚呼、と感嘆の声をもらす。
 赤い糸で繋がれる運命はただひとつ。己の小指にも結ぶために、英は指輪をふたつ手にとった。
 文豪の助言を胸に、枝垂れ桜の翼を脳裏に描けば、薄花桜にもひとつの赫が映る。それはまるで、ふたりで重ねる罪のような。
 白銀に赫を紡ぎ合わせて、一見硝子細工のようにも見える腕輪。絢爛の桜咲く龍の手首を彩る赫の枷は、繊細だけれど、きっと壊れることはない。
 重ねる罪を縒りそって、結ぶ幸せを――『幸』の文字の如く、二人の手首を捕う腕輪にかえよう。
「赫い絲をふたつに分けて結ぶなんて素敵だね。英はとても洒落ている」
「洒落ているだなんて。君の選んだそれも、随分と情熱的で素敵な物だ。君もその贈り物と同じくらい、情熱的なのだろうね」
 秘色の長い髪が揺れれば、背の高い赤茶のくせっ毛がふわりと動く。勘定を済ませて、行く先はいとしきみ。
「迎えに行こうか、僕らの春を」
「嗚呼。そうだね――早く迎えに行こう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鈴木・志乃
UC発動
【変装、演技、パフォーマンス】


陣五の通りかかるであろう小物屋さんに頭下げて働かせてもらう
猟兵って言った方がいいのかなこれ
ファン付いた役者って過敏になるもんです
興味のあるもん売った方がまだ声かけやすい
店主さんすみません全力で売りますからそこを何とか……

アド連歓迎
もし、そこの方。贈り物をお探しですか
えぇ、最近多いですからね。赤色の贈り物
此方に各種取り揃えておりますので、ごゆっくりどうぞ

難しいですよね、相手の好みや似合うかどうかも考えるとなると
流行もありますから、廃れるものでもいけない
……そうだ、腕時計なんていかがですか
いつでも付けていられるし、意味はね
「同じ時を歩んでいこう」、です



 静かで落ち着いた佇まいの小物屋の客層は、それまで見てきた店よりも幾分年齢が高い気もする。穏やかなレコードの流れる店内で、陣五はきょろきょろと赤色を探す。
「もし、そこの方」
 一瞬声をかけられびくりと跳ねる肩、ぱちぱちと輝く後光。しかしその相手が店員だとわかって、すぐさま青年は落ち着きを取り戻した。
「贈り物をお探しですか」
「あ……はい。あの、赤色の物を探してて」
「えぇ、最近多いですからね。赤色の贈り物」
 流行ってますよね、と店員は並べられた品々を陣五に見せ、色とりどりの『あか』を紹介していく。
「此方に各種取り揃えておりますので、ごゆっくりどうぞ」
 そう愛想を振りまいて、店員は他の客への対応へと移る。陣五は気付いていないものの、彼女の視線は逐一彼に向けられていた。
 鈴木・志乃はパフォーマーだ、ファンがついたばかりの役者は何かと過敏になるのをよく知っている。彼の興味を引く物を売っていれば、その方が話しかけやすい。全力で売るからそこをなんとか……と頭を下げれば、猟兵の力になれるならと店長は快諾。こうして店員を演じている。
 しかし、赤い小物を見てはいるものの、青年は一向に手にとる様子はない。買おうと決めるまでは、あまり商品には触れないようにしているのだろうか。
「難しいですよね、相手の好みや似合うかどうかも考えるとなると」
「そうなんです! それに彼女はきっとなんでも喜んでくれるし、なんでも似合っちゃうんですよ」
 タイミングを見て再び話しかけると、陣五はうんうんと頷く。本人も意識せず惚気てしまうあたり、こりゃ相当お熱い――なんて志乃は思っても口には出さない。愛する人が居るということは、とても素敵なことだから。
「流行もありますから、廃れるものでもいけない……そうだ、腕時計なんていかがですか」
「時計、ですか? 髪飾りやハンカチーフじゃなくて?」
 はたと思いついた風の女の提案に、陣五は不思議そうに首を傾げる。志乃はショーケースから腕時計を一本取り出して、トレーに載せた品を客に見せた。赤い細身の革ベルトは、愛しい彼女の白い手首によく映えそうだった。
「どんなお洋服にも合いますから、いつでも付けていられるし」
 意味はね、と志乃は続ける。
「――『同じ時を歩んでいこう』、です」
 歌うように言葉を乗せて、そっと微笑む。帽子の隙間から覗く黒い瞳がぱちぱち瞬きしたあと、ぱぁ、と後光がかがやいた。
「ああ、それは、すごく……素敵だなぁ」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『しろがらすさま』

POW   :    雑霊召喚・陽
レベル×5体の、小型の戦闘用【雑霊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
SPD   :    おみくじをひきなさい
レベル分の1秒で【おみくじ棒】を発射できる。
WIZ   :    ゆめをみましょう
【ふわふわの羽毛】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
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 青年は何処か軽やかな、浮足立つような足取りで駅への道を急ぐ。その手に持った紙袋が、贈り物がひとつにはとどまらなかったことを知らせている。
「都会って、いい人もたくさん居るんだなぁ」
 見知らぬ人々からの親切な助言を受け入れた青年は、鼻歌まじりに恋人へ想いを馳せる。薔薇は一本でよかっただろうか、紅と時計は気に入ってくれるだろうか、簪を身につけた彼女は間違いなく乙姫様のように違いない。

 カァ、カァ。

「ん?」

 おや、鴉の鳴き声だ。夕刻にはまだ早いのに――気が付けば、周囲には彼以外のヒトの気配がなかった。鴉の鳴き声と羽ばたきと、木々のざわめきだけが響いている。
 瞬きをした途端、陣五をぐるりと取り囲んでいたのは白い小鳥の群れだった。

 カァカ、カァ。

「ああ、鴉……いや、ほんとに鴉か?」

 首を傾げた青年がふわふわの群れに飛びかかられ、悲鳴をあげる時間はそう遅くはない。
 今こそ、猟兵達の登場が待たれる。
タリアルド・キャバルステッド
お似合いですよ、その赤いスカーフ。
贈り物も決まったようで良かったです。きっとお相手にも喜んで頂けるでしょう。

さて、綺麗な白い烏さん達。
赤に白が集まると中々鮮やかな光景ですが、この方は折角お洒落に目覚めた所なんです。邪魔は良くないですね。

UC「SILVER GHOST」で複製したスーツ達を大量に宙に放ち、盾としておみくじ棒等を受け止めながら、彼を安全な場所に避難させます。
安全な場所があれば、ですが。
無ければとにかく走りましょう。

怖くても転んだり贈り物を落とさないように気を付けてください。せっかく逃げても泥で汚れてしまえば心はオブリビオンに負けてしまいます。

ここが踏ん張りどころです!


縹・朔朗
アドリブ・連携歓迎

先ずは敵の行動を観察。瞬時に分析します。

理性に欠けていて攻撃が単純ですね。
白い鴉は黒い鴉と違って脳が小さいのですかな?
退魔刀を使った【なぎ払い】や【2回攻撃】で攻撃
高く飛んでいて攻撃が当たらない者には【衝撃波】を。


悪いですが、1人の青年の戀路を邪魔させる訳には参りませぬので。



 ころんとしたフォルムのましろが一斉に羽ばたいて、陣五めがけて一斉に何かを射出した。呆気に取られて身動きできなかった青年は、突然腕をぐいと掴まれ身体を引き寄せられる。
「失礼、手荒な真似をしてしまって」
「は、は? へ?」
「多少強引な手を取らせて頂きました。なにせ急を要しましたから」
 陣五の眼前には、土産物屋ですれ違った美しい貌の桜の精。縹・朔朗はたおやかな微笑を浮かべ、陣五の衣服についた汚れを軽くはらう。
 状況のわからぬ青年の視線を、先程まで彼の居た地面へと導く。見れば無数のみくじ棒が突き刺さっており、これが自分を蜂の巣にしていたのかと思うと、陣五はひぇ、と情けない声をあげずにはいられなかった。
「ご無事でなによりです。お似合いですよ、その赤いスカーフ」
 陣五と朔朗の前に立ったタリアルド・キャバルステッドは、豊かな灰の髪をふわり靡かせ、青年へと振り返る。
「あっ洋装のっ」
「贈り物も決まったようで良かったです。きっとお相手にも喜んで頂けるでしょう」
 さて、と右袖の無いスーツに身を包んだ少女は、學徒兵に目配せを送る。朔朗が軽く頷き、淡瑠璃の桜がほんのり揺れた。
 綺麗な白い烏の群れが、後光を背負って赤を纏った陣五に集まる光景は中々に鮮やか。けれど紳士服のヤドリガミには、この状況をそのまま無視することなどできない。
「この方は折角お洒落に目覚めた所なんです、邪魔は良くないですね」
「ええ、鳥類には戀のひとつも理解できないでしょうが」
 どこか見下したような――あるいは本当に下等と見なしているのか、朔朗の挑発めいた言葉に反応するように、白の群れはカァカァと激しく鳴き喚く。
 再び羽ばたきを始めたのを察して、タリアルドが素肌を曝した右腕で宙を扇ぐ。
「防御はお任せを!」
 ぶわり、紺の色彩が一瞬にして晴天を覆う。少女が着用する物と瓜二つのスーツが、無数に宙を泳いでいるのだ。右袖がきちんと有ることだけが唯一違うそれらが、小さな翼から撃ち出されたみくじ棒を確実に受け止め、威力を殺し地面に叩き落す。
 幽玄を揺蕩う人々の群れにも見える紳士服達は、陣五を中心として渦を作りだす。紺色の壁に攻撃を妨げられた鴉達の様子を見つめる者が居る。
 ヤドリガミが全ての防御を引き受けるなら、敵を骸の海に還す役目は桜の精が。陣五を助けた時から鴉達の行動を観察し、逐一瞬時に分析していた朔朗のあおい双眸が細くなる。
「理性に欠けていて攻撃が単純ですね。白い鴉は黒い鴉と違って脳が小さいのですかな?」
 猫ならば可愛いものを、害鳥は彼らの餌でしかない。スーツの群れを縫うように雪桜が駆け、氷の名を持つ刀で小鳥達を躊躇いなく斬り払う。
「――悪いですが、一人の青年の戀路を邪魔させる訳には参りませぬので」
 宙舞うモノに刃届かぬというならば、ざんとひと振り空気をひと薙ぎ。目に見えぬ衝撃波が放射状に空を征けば、鴉がぼとぼと地に墜ちる。
「も、もしかしてユーベルコヲド使い!? じゃああれ、か、影朧!?」
「ご名答、超弩級戦力とも言われますがね」
「怖くても、転んだり贈り物を落とさないように気を付けてください。せっかく逃げても、泥で汚れてしまえば心はオブリビオンに負けてしまいます」
 後光をぱちぱちと点滅させて混乱を隠さない陣五に、朔朗は視線を送ることなく退魔刀を振るい続け、さらりと返す。なおもスーツを操り陣五の逃げ道を守りながら、タリアルドは彼を急き立てた。
「ここが踏ん張りどころです、さぁ――走って!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月藤・紫衣
恋というのは浮き足だってしまうもの
…しかし、ちょっと浮わつきすぎたようですね

せっかくの逢瀬のための贈り物が駄目にならないように
なるべく手早く片付けましょうか……あのもふもふとした姿には、大変心引かれるのですが…

【歌唱】による【高速詠唱】で展開した【散花風棘】に【破魔】を乗せて攻撃
…彼の近くにいる子たちは【怪力】任せに掴んで投げ飛ばし
羽はこちらに来る前に風【属性攻撃】魔法で【なぎ払い】退けましょう

ああ、大丈夫ですか?
怪我はありませんか?
素敵な贈り物も大切ですが…貴方本人もきっとお相手には大切なものでしょうし
どちらかが欠けてしまえば、きっとお相手も悲しみますからね


葛籠雄・九雀
SPD

何か…丸々としておるであるな。
鴉というものはもう少し…こう…?
まあ、影朧であるし、通常とは違うのも当然であるか。

さて、買い物をした分は働こうぞ。権利には義務が伴うであるからな。
戦う動機は何もないのであるが、戦わない理由もない。

【誘導弾、2回攻撃】+ウルティカ・ディオイカで複数体を狙いながら、おみくじ棒は【ジャンプ、逃げ足、見切り、カウンター】で避けるであるぞ。ついでに、フック付きワイヤーにて【武器落とし】し、おみくじを【投擲】にて投げ返す。羽にでも刺されば重畳であるな。

ああ、一応、陣五ちゃんに当たらぬよう【かばう、おびき寄せ】にてこちらへ注意を引き寄せられるように立ち回るとするであるぞ。



 助けてくれたユーベルコヲド使い達によれば、突如現れた白い鴉の群れは自分の命を狙っているらしい。息を切らして走りながら、陣五は素直な感想を口にした。
「俺、鴉に恨まれるようなこと……あ」
 実家に居た頃は、確かに自分が畑で鴉避けを担当していた。もしやその罰が――そんな考えが頭をよぎった時、彼の前に白い群れが立ち塞がる。
 ひぇ、と声をあげると同時、数羽がふわりと羽ばたく。ふわふわとやわらかな羽毛が舞い散れば、うつらうつらと青年の意識がなめらかに落ちていく。
「昼寝の時間ではないぞ、陣五ちゃん。まぁこのまま贈り物も渡せず殺されてもよいのなら、眠るのも選択のひとつであるが」
 飄々とした男の呼びかけではっと我に返れば、彼とは別のやわらかな歌声が耳に届く。次に陣五の視界に映ったのは、無数の白の前で歌を紡ぐ麗人の姿。散る花の儚さと、それでも吹くことをやめぬ風のつめたさを詞にして、破魔の音色が長く鋭利な棘を喚ぶ。びゅっと放たれた疾風の棘が、羽毛もろとも鴉達を貫く。
「ああ、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」
 恋というのは浮き足だってしまうもの――しかし、彼はちょっと浮わつきすぎた様子。店で彼にアドバイスを送った時から、月藤・紫衣はのぼせた陣五を心配していた。見たところ怪我はないようで、再びヘッドセットマイクで風棘の歌を鴉達へ届ける。
 正直あのもふもふとした姿には、大変心を惹かれている紫衣。彼とまた別に、葛籠雄・九雀ははてと首を捻って、自分のよく知る鴉の姿を思い浮かべていた。
「何か……丸々としておるであるな。鴉というものはもう少し……こう……?」
 シュッとした細身の体型とは似ても似つかないが、相手は影朧ことオブリビオン。恐らく通常とは違うのも当然だろう。ふむ、と納得して、細い針を取り出す。
「さて、買い物をした分は働こうぞ。権利には義務が伴うであるからな」
 戦う動機は何もない、そして戦わない理由もない。陣五の恋路に興味はないが、彼が死んでしまっては此方の義務も果たせない。
 ないない尽くしのヒーローマスクは、暗い色の膚の指先で針を宙に放る。一本の針は五十八本となり、九雀の思考通りに空中に留まる。直後、白の群れへと針が奔って次々と鴉達が地面へ縫い留められていく。逃げ惑う小鳥の群れにさして思い入れもない九雀の心を映したように、針は淡々とその背を追う。
 負けじと羽ばたいた鴉がみくじ棒を発射すれば、ワイヤーでみくじ棒を引き寄せ鴉めがけて投擲。
「狙いを定めるのが苦手のようであるな」
 仮面は陣五に双方の攻撃が当たらぬよう、針による誘導と言動で鴉達の注意を一心に惹く。それでも数は此方が上と、鴉達は九雀の位置とは別方向から陣五への突撃を試みる。
「させません――せっかくの逢瀬ですよ」
 羅刹の腕力が鴉をむんずと掴む。薄緑の衣がひらりと躍って、ふわふわの小鳥を勢いよく遥か彼方へ投げ飛ばした。その見た目からは意外な動きに、鴉達も陣五も驚きの声をあげる。
 猟兵の無力化と仲間の回復を狙っているのか、数羽が羽毛を舞わせた。紫衣が焦ることなく魔力を宿した刀剣を振るって、巻き起こった突風が羽毛を吹き散らす。
「素敵な贈り物も大切ですが……貴方本人もきっとお相手には大切なものでしょうし、どちらかが欠けてしまえば、きっとお相手も悲しみますからね」
 藤色の双眸が優しく青年を見つめて、黒曜の角が彼の後光を反射する。
「此処はオレ達に任せておくがよい」
 こういう時は確かそう言っておくといいと、テレビか何かで見た気がして。行け、とひらひら九雀は左手で態度を示す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月崎・灰音(サポート)
『私を怖がらないで…』
心優しい女の子で争いごとは苦手かも。だけど、こんな私で何か出来たらと思えたなら、武器を手に闘うだけの力はあると思う。/制御が難しいから出来たら使いたくないと、心が揺れている。

 普段の口調は「儚げ(私、あなた、~さん、ね、よ、なの、かしら?)」
機嫌が悪いと「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わないが冷静に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


ジュリア・ホワイト
ああ、これはいけないな
随分と直截な襲撃だ
だけど、この程度の安直さでヒーローを出し抜けるとは思わない事だよ
「慌てなくても良いよ。ボクが対処するから」

「カラスは大きな音で追い払うに限る、なんてね」
【安全第一!線の内側にお下がり下さい!】を使い、しろがらすさまと雑霊をまとめて攻撃
宣告するルールは『地に足を付けないのは禁止!』
飛べばダメージ、飛ばねば戦い方が制限される
特に雑霊はわずかでもダメージが入ればすぐ消えるしね
これで彼の安全を確保しつつ敵を排除出来る
しろがらすさまが耐えるようなら、取り回しの良い精霊銃で物理的に排除しよう
「おや、警笛の音で逃げないとは頭の良いカラスだ。ーーなら、銃声はどうかな?」



 走る陣五の背を、なおも白い鴉の群れは追いかける。舞台のために普段から体力づくりを欠かさずに居たのが幸いしたか、息切れしながらも青年の体力はまだ残っている。
「影朧に追われた時のために頑張ってたわけじゃないんだけどなぁ!」
 ちかちかと輝く後光を目印に空を駆ける白の群れは次なる一手を繰り出す。鴉がカァとひと鳴きした途端、青年の前に現れたのはふよふよと浮かぶ半透明の物体。
「ひぇ! お、お、お化けぇ!」
 幼い子供向けの絵本に描かれているようなデフォルメされたそれに悲鳴をあげる陣五の言葉を、軽やかな声が引き継ぐ。
「ああ、これはいけないな、随分と直截な襲撃だ――だけど、この程度の安直さでヒーローを出し抜けるとは思わない事だよ」
 雑霊達と青年の間にするりと割り込んだジュリア・ホワイトは、ウィンクすらしてみせる。
「慌てなくても良いよ。ボクが対処するから」
「き、君もユーベルコヲド使いだったのか……!?」
 次から次へと現れる心強い助っ人は、さっき出会ったいい人達ばかり。困惑する陣五に頷いて、ジュリアは彼の背中を守るもう一人の少女へと声をかける。
「そっちは頼んだよ、お嬢さん」
 月崎・灰音はこくりと頷いて、殺戮刃物を持つ手をきゅっと握り直す。丸くふわふわした見た目でも、相手はオブリビオン。戦うことは恐ろしい――けれど。
「あなたは、ここに居て」
 小さな声で呼びかけると、青年は素直に頷く。戦いの準備は万端と見て、ジュリアは手にしたホイッスルを鳴らす。
 ピーッと甲高い音が戦場に響き渡ると、鴉の群れは混乱したのか慌てふためく。
「カラスは大きな音で追い払うに限る、なんてね。君達に宣告するルールは、『地に足を付けないのは禁止!』」
 瞬間、宙を浮いていた雑霊達が全て風船が割れるようにパチンと音を立てて消し飛んだ。空で羽ばたいていた鴉達も次々に衝撃を食らい、文句を言いたげにカァと鳴く。
 渋々地面へ降りていくものの、陣五達へ迫る足取りはとても遅い。とてとて歩く姿はどこか愛らしく、二足歩行で近付こうとする鴉達にジュリアはおや、と一言。
「警笛の音で逃げないとは頭の良いカラスだ――なら、銃声はどうかな?」
 大型拳銃をくるりと回し、ステップを踏んで少女は引き金を引く。精霊を宿した一撃で、小鳥達を撃ち落とす。
 ジュリアの活躍に続いて、灰音は静かに目を閉じ一度だけ深呼吸。次に藍の瞳が瞬くと、宝石に似た色彩で美しく輝いた。
 少女は音もなく小鳥達へとまっすぐに駆ける。突撃に気付いた鴉達がみくじ棒を射出するも、彼女の踊るような動きに速さがついていかない。ルールに縛られ地面に降りた小鳥は格好の標的――血を求める刃の鋭さが増し、九度の斬撃が敵を屠る。
 宙を舞う白い羽毛の中で靡く瞳と同じ色の髪は、海の彩にも、夜の煌めきにも見えた。少女は無言で鴉達を裂いていく。
 一方的に攻撃を受けることに辛抱切らした数羽が飛び上がると、すぐに衝撃波が届く。
「お客様、ルールはお守り下さい!」
 乗車規則を守らぬ者には銃撃を。陣五が逃げるための道をつくって、ジュリアは彼に声をかけた。
「汽車の時間にはまだ間に合うよね、さぁ行って! 恋人が君を待ってるんだから!」
「あっありがとう!」
 頭を下げて、買い物袋を抱えて走っていく青年に手を振って、さて、と背中合わせの灰音に呼びかける。
「ねぇキミ、そのユーベルコードは殺人鬼のものじゃないかい?」
 ぴくり、と藍色が反応すると、優しく言葉を続ける。
「よし。じゃあ一度だけ、ボクを切って」
「……でも」
 誰にも迷惑は掛けたくない、だから例え寿命が縮まろうと、味方を攻撃するつもりはなかったのに。
「ボクはヒーロー、女の子が命を削るのを黙って見てられないんだよ」
 にこりと笑ったヒーローに、プリンセスは小さな声でごめんなさいと、ありがとうを。ジュリアの服の袖に小さな切り傷がついてから、二人は再び白鴉を駆逐する。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

榎本・英
【春冬】

嗚呼。カァと確かに聞こえるね。
聞こえるのだが、あれは少々やりにくい。
鴉には見えない小鳥だ。
嗚呼。迎えに行かなければならないからね

しかし、やりにくい
リル、君の歌は不思議な気分になるね。
足取りも軽くなるようだよ。
私も君に続かなければ。

さて、鳥達に問お――っ?!
鋭い痛みが頭に、おみくじ棒?
どうやら悪戯が好きな鳥らしい。
知っているかいリル
鳥は焼き鳥にすると美味しいのだよ。
今度、君の大切な人にご馳走してみるといい。
そうだね、無事に帰ったら
たっぷりとタレを絡めた焼き鳥を与えてみようか

さて問おう
「君を食べても良いかい?」

君に拒否権などないのだよ。
嗚呼。おみくじの棒を粗末にしてはいけないよ。


リル・ルリ
【春冬】

ふふ、素敵なあかが手に入ったね
あとは僕らの春に結ぶだけ
ん?かぁ
英、今なんか言ったかい?
違う?
鴉だ!可愛いね
僕は可愛いのがすきなんだ
…戦いにくいけど僕は櫻を迎えにいくんだから!

歌うのは「魅惑の歌」
鴉だって縫い止めておとしてあげる
そうだよ
僕はうたなんだ

がんばれ、英!
鼓舞をのせて歌うよ
ふわふわな羽毛に少し眠くなるけれど
居眠りはしないんだ
眠るなら春の腕でと決めている
むかえにいくんだ

やきとり
わぁ、そうなんだ
英は詳しいね
僕の春はお肉が大好きなんだ
お土産にしよう!
君の春も喜ぶのではないかな?
あーん、と食べさせてあげるといいよ

ふふ
とてもおいしそうな質問だ
タレの前に歌で絡めよう
御籤棒は皆拾っておくからね



 帝都の街並みをゆるりとゆく人魚と文豪は、互いにぴったりの贈り物に出会えて満足げ。リル・ルリは笑みを零しながら、榎本・英に話しかけた。
「ふふ、素敵なあかが手に入ったね。あとは僕らの春に結ぶだけ」
「カァ」
「そうだね――ん? かぁ?」
 きょとんと隣の青年の顔を見る、彼はこんなに拍子抜けする返事をする人だったろうか。
「英、今なんか言ったかい?」
「いいや、私は何も」
 文豪が首を横に振ると、正面からこちらへと全力疾走する者が居る。
「どいてぇえ!!」
「おや」
 言われた通りに彼の通る道を作ってやると、ちかちかとした煌きを残して、青年が二人の間を突っ切っていく。それを見送れば、先程よりも大音量で鳴き声が響き渡る。
「鴉だ!可愛いね」
 カァと鳴くのだから、あれは鴉に違いない。随分丸くて白いけれど。そして今通った青年は、グリモア猟兵の言う陣五ではなかったか。
「じゃあ、あの鴉達が影朧なんだね」
「嗚呼。カァと確かに聞こえるね――聞こえるのだが、あれは少々やりにくい」
 英は小さく溜息をつく。鴉には見えない小鳥をいたぶるのは、どうにも気が進まない。それは可愛いものがすきなリルも同じ意見で、緩い眉を八の字に下げる。しかし鴉達の方はやる気のようで、二人を陣五との間に割って入った邪魔者と判断したらしい。
「……戦いにくいけど、僕は櫻を迎えにいくんだから!」
 きゅ、と眉を上げて決意した人魚に、文豪は嗚呼、と応じる。
「私達は、春を迎えに行かなければならないからね」
 英の言葉を合図に、リルの形のよい唇がすぅと息を吸う。次に吐いた息と共に、澄んだ音がうたとなって奏でられる。どこまでも透明な、水底すら視えるような奇跡の歌声が、白い群れの魂を奪う。
 ――そうだよ、僕はうたなんだ。
 リルの魅惑のうたに、小鳥達は心ごと取り込まれてしまったよう。ぽう、と頬を赤く染めて、地面に舞い降り留まっている。鴉の姿にやりにくいと零していた英も、リルの歌に笑みを浮かべる。
「君の歌は不思議な気分になるね、足取りも軽くなるようだよ」
 私も君に続かなければ、と、情念の獣を喚びだすために文豪は手にした文庫本の頁をめくった時だった。
「さて、鳥達に問お――っ?!」
 ざくり、英の頭に鋭い痛みが走る。顔を僅かに歪ませ刺さった何かを引き抜けば、それはリルの声から逃げきった一羽の放ったみくじ棒。
「どうやら悪戯が好きな鳥らしい」
「大丈夫?」
 心配そうに友人の怪我を気遣うリルに、嗚呼、と返して。
「知っているかいリル――鳥は焼き鳥にすると美味しいのだよ」
「やきとり」
 その一言を聴いた鴉が、カァ!? と慌てた様子で鳴きだすのも気にせず、人魚は興味津々で文豪の話を聞きたがる。
「今度、君の大切な人にご馳走してみるといい」
「英は詳しいね、僕の春はお肉が大好きなんだ。お土産にしよう! 君の春も喜ぶのではないかな? あーん、と食べさせてあげるといいよ」
 はたしてそれは一体どの肉のことを言っているのか、まさかそんな。小鳥達の間にあからさまな動揺が広がる。
「そうだね、無事に帰ったら、たっぷりとタレを絡めた焼き鳥を与えてみようか」
 これで質問は決まったと、文豪は鴉に問う。
「さて問おう――『君を食べても良いかい?』」
 そんなのはまっぴらごめんとばかりに、鴉達はカァカァ鳴き喚いて逃げ惑う。けれど、情念の獣がその答えに満足する訳はなく、地面から生える無数の触手が次々に哀れな獲物を掴んで喰らう。
「君達に拒否権などないのだよ」
 このまま喰われてなるものかとばかりに、白い羽毛を舞わせる鴉達。けれどリルの歌声が、自身と英に居眠りを許さない――眠るなら春の腕で、と決めているのだから。
 人魚の鼓舞に勢いづくように、情念の獣は鴉の群れを地に引き摺り下ろす。みくじ棒が勿体無いとぼやいた英に、あとで回収しておこう、とリルが提案した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鈴木・志乃
人の戀路を邪魔する奴は
車に轢かれて倒れてしまえ


……なーんつって。UC発動。
事前に武器改造しておいた陸水空兼用のヒーローカーをとばして、陣五に近づいて来た敵を吹っ飛ばすよ。何してくれてんの将来有望な役者に。
ごめんねー陣五さん、騒がしくして。うん、私も使い手です。
ついでに言うと役者です。危ないって聞いたから来ちゃった。

高速詠唱で陣五にオーラ防御と風の加護を纏わせる。
ちょっとは早く走れるようになると思うよ。
大丈夫安心して。陣五さん守る為だけにここに何人来てると思ってんの。

引き続き車で蹂躙。破魔を乗せた全力魔法で一切合切なぎ払い攻撃。
ほらせっかくのオシャレが汚れないうちに行った、行った!
応援してるよ!


エドゥアルド・アジェンデ
アドリブ連携歓迎

ジンゴとは先ほど会話もして顔も覚えてもらえただろう
今は緊急だ、挨拶は手短に
ああ、花を買ったのか…ちゃんと渡せよ?

包囲されていないか等の敵の動きや味方の猟兵の動きをUCで把握した上で、ジンゴと一緒に敵味方の攻撃に巻き込まれない安全な場所に姿を隠す
いや、俺もあの敵の力にはどうしたらいいか悩んでな
戦うだけが猟兵ではないだろ
いざとなれば知性ある外套、ダークネスクロークに体を操ってもらうことも想定した上で盾にもなろう



 どこまで逃げればあの影朧達は諦めてくれるのか、そんな願いもむなしく陣五の体力は限界に近かった。
 カァカァと背後から迫る鳴き声は確実に近付いている。ああ、でも、この贈り物達は――絶対にあの子に渡さなきゃ。
「うぁ」
 うっかり躓いた青年は、地面に映った無数の小鳥の影にぞっとする。あの子に会えないなんて、嫌だ。ぎゅっと目を瞑って紙袋を抱きかかえた時、聞き慣れぬ大きな駆動音が耳に届く。
「人の戀路を邪魔する奴は、車に轢かれて倒れてしまえ」
 女の声と共に現れたそれは、白い群れを巻き込んで突っ込む。カァ!? と鳴き声をあげていのちと羽毛を散らした鴉を、派手に改造されたヒーローカーの運転席から鈴木・志乃が見下ろす。
「何してくれてんの将来有望な役者に」
 助手席に乗っていたエドゥアルド・アジェンデは素早く車から飛び降りて、志乃へ礼を言う。
「相乗り、助かった」
「どういたしまして。ごめんねー陣五さん、騒がしくして」
「無事だな。今は緊急だ、挨拶は手短に」
 異国の顔立ちをした青年は、花を買うように勧めてくれた。見慣れぬ乗り物に乗っているのは、時計を売ってくれた店員だった。
「え、あ……あの、二人とも」
「うん、私達も使い手です。ついでに言うと私は役者です」
 危ないって聞いたから来ちゃった、と女は笑って、つっと小さく言の葉を紡ぐ。陣五の背の輝きよりも淡いひかりと僅かな空気の渦が、青年の身体を包みこむ。守護と風のまじないを陣五に掛けて、これでよし、と頷いた。
「ちょっとは早く走れるようになると思うよ」
「あの、俺、なんで」
「今は緊急って言ったでしょ。安心して、陣五さん守る為だけにここに何人来てると思ってんの」
 志乃は陣五へ笑んで、仲間に彼を託す。エドゥアルドが無言で頷くと、影からするりと追走者がいくつも抜け出る。瞬時に戦場へ散ったのを確かめ、エドゥアルドは陣五の腕を掴み物陰へと走る。
「よっし、ガンガン飛ばすよ! 悪く思わないでよね小鳥ちゃん達!」
 ギアを最大に、ブレーキなんて知ったことか。白い鴉以外に当たらなければいいだけのこと。破魔のまじないを車体全部にのせて、鴉の一切合切を薙ぎ払う。
 荒々しい運転を物陰から覗き見て、陣五はまた小さく間抜けな声を出す。彼ほどではないが、エドゥアルドも志乃の蹂躙に舌を巻く。
 と、追走者からの鴉達の位置情報が五感を通して青年に知らされる。
「こっちだ」
 短く言いきり、タイミングを見計らっては並木の影へ、電話ボックスの裏、家々を通る小道、次々に潜む場所を変えて、陣五と共に戦場から離れていく。
「あなたも、他の人達みたいに戦ったりするんですか……?」
 恐る恐る問うた陣五に、エドゥアルドは首を横に振る。
「いや、俺もあの敵の力にはどうしたらいいか悩んでな」
 ユーベルコードは千差万別、よって、青年が手にした力も他の猟兵達とは違う。
「誰かを助ける手段は様々ある――お前の為に俺が今できるのは、これだ」
 戦うだけが猟兵ではない。骸の海の脅威から一般人を守ることも、猟兵の役目とエドゥアルドは理解していた。
 ふと、陣五の紙袋から赤い薔薇が見える。ああ、買ったのかと言いかけて、青年の背後でちらついた羽毛を咄嗟にはらった。知性ある外套が瞬時に主の身体を操り、陣五と鴉達を引き離す。強烈な眠気に襲われたエドゥアルドに気付いて、志乃が車を奔らせる。
「お兄さん!」
「平気だ、俺に構わず行け」
 狼狽える陣五に応じて、追走者の情報から見つけ出した逃走経路をまっすぐに指差した。エドゥアルドの指差した方角に群がる鴉を、志乃の運転が全て追っ払う。
「ほら、せっかくのオシャレが汚れないうちに行った行った! 応援してるよ!」
「ちゃんと渡せよ?」
 猟兵達に頷いて、ハイカラさんは走る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『像華『面映』』

POW   :    アナタの望むままに
全身を【相手の逢いたいと願うものの姿】で覆い、自身が敵から受けた【欲望】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    アイしてあげるから
自身が【慈しみや憐み】を感じると、レベル×1体の【肉体を侵食する綿胞子】が召喚される。肉体を侵食する綿胞子は慈しみや憐みを与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    目蓋を閉じて、身を委ねて
【ハナミズキの花弁】【甘い芳香】【影の枝の揺籠】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
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 やっと駅の屋根が見えてきたところで、陣五は後ろを振り返る。様々な助っ人のおかげで、影朧を撒けたらしい。自分が彼らに狙われた理由はわからないが、これでやっと、あの子を迎えられる。
「は、はぁ……よかったぁ」
 息を大きく吐いて、呼吸を整える。身だしなみをチェックしようとした時、ふいに甘い香りが漂った。

「陣五さん」

 何度も耳にした、忘れる筈の無い――けれどまだ、此処には居ない人の声。薄紅の花弁に混じって、青い花弁がひらひらと舞う。

「星唯花……? 君、まだ汽車の中じゃ」

 ふんわり波打つ艶やかな黒髪、桃に色づく愛らしい唇、夕陽の彩を纏った魅力的な瞳。見間違うわけはない、彼女は俺の大切な――。
 思わず彼女へ歩み寄ろうとした青年の耳に、幾人ものせわしない足音が響く。影朧は陣五の愛する者の姿で呟いた。

「だって、あなたに愛してもらうには、あの人になればいいのでしょう?」

 彼の恋人を想う一途さが、とてもきれいでいとしくて、うらやましくて。
 ずっと見ていた私が、報われないのがくやしくて。

 ――きっとこうすれば、あなたは私を見てくれるでしょう?
タリアルド・キャバルステッド
蕗本さん、このオブリビオンに心当たりは?
あなたが対話を望むのなら時間は稼ぎます。
長くは無理でしょうが、悔いのないようにしてください。
大丈夫、あなたは少し前のあなたと違って堂々としています。
恋人のためにここまで自分と贈り物を守りながら走りきったことを誇ってください。

UC「COOL EFFECT」を放って敵の攻撃と動きを止めます。
胞子や枝ならば凍らせれば機能を停止させることができるかと。
他の猟兵が到着するまでは守ることに専念します。



 いの一番に駆けつけた紳士服の少女は、陣五の進路を遮った。変化を解かない敵を前に、タリアルド・キャバルステッドは背後の青年に声を掛ける。
「蕗本さん、このオブリビオン――影朧に心当たりは?」
「影朧……!?」
 陣五は大切なあの子の姿をもう一度自分の目で確かめる。彼女は俺の大切な――けれど、拭いきれぬ違和感。その視線に恋人は眉をしかめて、ふわりと青い花弁が吹き荒れる。
 途端、青いハナミズキの木を背にした黒い膚の女が現れた。
「星唯花、じゃない……全然、知らない人です」
「どうして、邪魔をするの――彼女じゃないと、あの人じゃないと彼は愛してくれないのに」
 悲痛な表情を浮かべて、影朧はタリアルドに抗議の言葉を向けるも、少女は怯むことなく陣五に言葉を投げかける。
「影朧は荒ぶる魂と肉体を鎮めた後、桜の精の癒やしを受ければ転生することが出来る」
 ご存知ですよね、と、振り返れば、青年は紙袋を抱きかかえたまま唇を噛みしめ女を見ている。
「あなたが対話を望むのなら時間は稼ぎます。長くは無理でしょうが、悔いのないようにしてください」
 どうするかは彼の自由であり、強制するつもりはない。けれどそれまでの彼の行動を見ていれば、返ってくる答えは明白だった。
「……俺に、できることがあるなら! 少しだけ、お願いします!」
「承知しました。決して前には出ず、私の後ろに居てください」
 陣五はこくりと頷いて、ええとだとかあのだとか、迷いながらも女へと話しかける。
「俺のこと、見ててくれたんですね」
「――そう。そうよ、ねぇ、あなた。私はずっと、見ていたの。でも、あなた、気付いてくれなくて」
 ぽつぽつと自分の想いを零す女の姿に、青年の心が痛む。背負う後光は穏やかな緑を放っていて、女は彼の眼差しに憐憫を感じたのだろう。
「そんな、そんな目で見ないで、見るくらいなら――」
 アイシテ、と声にならない感情が白い綿胞子として浮き出る。ぽ、ぽ、と宙に出現したそれらは綿埃のようで、吹き荒れる風に乗って陣五へと飛ぶ。
 すぐさまヤドリガミは膚を曝した右腕を突きだし、掌を胞子に向けて翳す。冴えた空気が風を冷やし、ぱき、と透明な結晶が胞子を包む。陣五に当たるよりも先に地面に落ちていく胞子と共に、女の背にある枝が凍りついていく。
「ひっ」
「大丈夫、あなたは少し前のあなたと違って堂々としています! 恋人のためにここまで自分と贈り物を守りながら走りきったことを誇ってください」
 怖気づく青年を守りながら、タリアルドは冷気を操り続ける。はらはらと涙を溢す蒼い花の女は、彼女の瞳にどう映っているのか。
「誰かを想う気持ちは、オブリビオンとて同じでしょう」
 だいすきな主と再び逢えることを、少女は夢見ている。心優しい青年に惹かれた女を、タリアルドは責めはしなかった。
「俺は……あ、あなたの気持ちに、応えられない。でも、ありがとう。その気持ちは、とても嬉しいよ。今まで気付いてあげられなくて、ごめん」
「……ッ!」
 顔を歪めた女から、綿胞子が白波のように溢れだす。
 せめて、仲間達が駆けつけるまでは。掌を決して降ろすことなく、少女は陣五を守る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

縹・朔朗
青い花…
影朧相手に言うのもですが、親近感が湧いてしまいます。
私の青桜と何か関係が…?

いえ、それよりも陣五さんです。
私は桜の精ですから、影朧を転生させることが出来ます。
――癒して差し上げましょう。

陣五さん、これを。
ハンカチです。(前々章にて購入したハンカチを渡す)
影朧が花弁を放ったら、鼻を塞いで香りを嗅がないように。

…影朧さん。
貴方はもう充分陣五さんからの愛を得たはずです。
想いが破れてしまったのは哀しいことですが、今陣五さんは貴方と向き合い、見つめ、礼を申し上げました。
貴方のために。
眠りなさい。貴方は沢山の愛を受けました。
ですから次はもっと沢山の愛を受けましょう。
――転生なさい。


葛籠雄・九雀
SPD

…姿を模したとて、『そのもの』でなければ意味などないであろうになぁ。
ましてや、己の欠落を、他人のもので埋めようとしたとて。
影朧である以上、『本当に愛していた』のは、別に陣五ちゃんではないのであろう?

渇きを癒したいならば、酒も珈琲も塩水も、役には立たぬぞ。
それとも、その程度なのであるか。影朧ちゃんの『それ』は。

正直オレに出来ることなど、たかが知れておるのであるがな。
【投擲、精神攻撃】+ダチュラにて、何ぞ影朧ちゃんに影響がないか試してみるであるよ。
幻でも、もし『そのもの』とまみえることが出来たなら…それは、幸いなのやもしれぬしな。
出るか知らぬが、胞子は【逃げ足、見切り】で避けられたらよいな。



「……姿を模したとて、『そのもの』でなければ意味などないであろうになぁ」
 感傷のない、からんとした口調で仮面は正直な感想を述べる。ましてや、己の欠落を、他人のもので埋めようとしたとて。
「影朧である以上、『本当に愛していた』のは、別に陣五ちゃんではないのであろう?」
 葛籠雄・九雀が遠慮なく投げかければ、女は目を見開いて唇を震わせる。それがひどく傷ついたように見えたのは、気のせいだったろうか。仮面にとっては、どうでもいいことだけれど。
 ふわりと舞い散る青い花弁が、縹・朔朗は己のあおい八重桜に似ているように思えた。何か関係があるのだろうか、と一瞬過ぎった疑問を後回しにする。陣五へ近付くと、椿の刺繍が施されたハンケチーフを手渡す。
「影朧が花弁を放ったら、鼻を塞いで香りを嗅がないように」
「……あの」
 渡されたハンケチーフを握った青年の視線は朔朗の桜の枝と影朧を交互に見ていた。彼の考えていることは、その表情と後光でわかる。學徒兵は美しい貌で微笑んだ。
「ええ。私は桜の精ですから、影朧を転生させることが出来ます――癒して差し上げましょう」
「嫌よ、嫌、私はあなたに、あなたに見てほしくて」
 猟兵達を無視し、涙を流して陣五を呼ぶ女に、朔朗はあくまで淡々と、冷静に言葉をかける。
「……影朧さん。貴方はもう充分、陣五さんからの愛を得たはずです。想いが破れてしまったのは哀しいことですが、今陣五さんは貴方と向き合い、見つめ、礼を申し上げました」
「嫌、嫌よ、そんなの、愛してくれなきゃ、嫌なの……ッ!」
 これ以上を彼に求めるのは間違っている。彼女自身がそう理解できなくては、転生も叶わない。泣き崩れた女の身体から、青いハナミズキの花嵐が吹き荒れる。
 九雀がひょろりとした長身を躍らせ、素早く花嵐を避ける。陣五がハンケチーフで鼻を覆ったのを確かめて、朔朗は艶やかな黒髪を揺らす。
 青い八重桜の花嵐が吹けば、あおとあおの花が狂い咲いたように舞う。雪桜の双眸が瞬いた瞬間、ほぼ互角だった花弁同士の激突は、一方的な桜吹雪に見舞われた。
「う、ぅ、いやぁ……」
 雪のようにつめたく春のようにあたたかな、抗いがたい眠気に襲われながらも、影朧は桜吹雪を拒む。その目に映した陣五の眼差しと、やわい緑の後光に涙を溢す。
「すき、すきよ。愛してる、ねぇ、だから、アイシテ、アイシテ……」
 再び、ぽ、と出現したちいさな綿埃を、桜吹雪の只中から現れた、まっすぐな針が地面へと縫い留める。鋭い針にびく、と身体を震わせた女に、仮面はもう一度、無遠慮に投げかける。
「渇きを癒したいならば、酒も珈琲も塩水も、役には立たぬぞ」
 それとも、と続けて。白いふたつの目が、女を試すように視た。
「その程度なのであるか――影朧ちゃんの『それ』は」
 細く鋭いまっすぐな針が、女の胸を貫く。悲鳴をあげた女が正面を見た時、その視線は猟兵どころか陣五すら追っていなかった。
「……あ、ああ、あああ。あなた、あなた、待っていたの、ねぇ、私、待ってたの」
 誰も居ない筈の空間へと手を伸ばすその様を、九雀は視界に入れ続けることはできない。代償とした正気が、またひとつ消え失せる。それが悲しいことだとは思わなかったが、朦朧とする意識の中で膝だけはつかぬようにと、肉体の歯を食いしばる。
 幻でも、もし『そのもの』とまみえることが出来たなら。
「……それは、幸いなのやもしれぬしな」
「どうして何も言ってくれないの、ねぇ。愛してるって、言って、ねぇ」
 あぁ、彼女は。夢を見せてもらっているのだ、と、朔朗は思った。それが論理的ではなくとも、影朧は感情的なものこそ受け入れる場合だってある。
「影朧さん――貴方のために、眠りなさい」
「いや……」
「貴方は沢山の愛を受けました。ですから次はもっと沢山の愛を受けましょう」
「いやぁ……」
「――転生なさい」
 桜が散る。ハナミズキが散る。女の声が、陣五にはただ痛々しかった。
「愛してるって、言ってよ……ッ!」
 ごうごうと、ハナミズキの嵐が吹く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
【春冬】

え?青の――あれ?
なんで櫻宵がいるの?
待っていられなかったのかな
咲き誇る桜も、寂しげに揺れる君

嗚呼、英
君の目にも君の待人が映っている?
おかしいんだ、僕もそう
うつくしい桜龍がここに
けれど、からの笑顔なんだよ
あのひと――龍は
あたたかな春だというのに

僕の櫻を、いっとうの花をけがさないでくれないか?
あの龍のかわりなど、存在しないのだから
熱が欲しいなら燃やしてあげる
ふふ
英の物語がはじまるね
あいを歌おう
君の物語に歌を添えよう
燃えるような
「恋の歌」

ねぇそれは
愛ではなくて
執着ではないの
君は君でしかないのにな

嗚呼、いこう

戀よりあつく、愛よりあかく
咲き誇る薄紅が僕を待つ
君のあかも、春の指先をまっているよ


榎本・英
【春冬】

青い花弁……?
目の前には牡丹一華の君。
あまやかでおさない香りのしない君

嗚呼。リル、ここに彼女はいない筈なのに
私の目には彼女が見えるよ。
君には何が見えているのかな。
やはりあの子?それとも大切な龍かな?

しかし、おかしい。
私の愛する君にはぬくもりが宿った。
今の君はただの器。

先を急いでいるのだよ。
ぬくもりの無い君に愛の手と歌を。
私の著書に眠る獣たちも愛を求めている
それにリルの歌声も素晴らしいだろう

独り善がりの愛からは何も生まれやしない
ましてや誰かになろうなど美しくない
君の心にこの指のぬくもりと、歌声を。

さあ、リル
私たちの持つ大切なあかを手渡すために
このぬくもりを届ける為に
共に行こうではないか



 雨のように、青い花弁が散る。
 白孔雀の尾羽に花が触れて、あれ、と人魚は不思議そうにまばたきをした。花嵐の向こう側から現れた枝垂桜は、いつだってリル・ルリの隣に寄り添う花霞の龍。
「なんで櫻宵がいるの?」
 自然と口から零れた疑問に、龍が答えることはない。待っていられなかったのかな、と小首を傾げてみても、しなやかに咲き誇る淡い桜は、寂しげに風に揺れているだけ。
 赤茶の頭に降りた青を気にすることもなく、榎本・英のレンズ越しの視線はリルと同じところへ向いている。彼の眼前に佇むのは、牡丹一華の君。
 あまやかでおさない、香りのしない華の少女は、ただの人との戀の絲を小指に結わえていたが――今この場に居る彼女は、どうだろう。嗚呼、と文豪は吐息をもらす。
「リル、ここに彼女はいない筈なのに。私の目には彼女が見えるよ。君には何が見えているのかな」
 やはりあの子? それとも? と、視線をそらすことなく問いかければ、嗚呼、と隣の人魚が言葉を返す。
「英、君の目にも君の待人が映っている? おかしいんだ、僕もそう」
 それはそれはうつくしい、リルだけの桜の龍がここに居る。
「けれど、からの笑顔なんだよ」
 あのひと――龍は、あたたかな春だというのに。薄花桜はようやっと英を見て、小さく首を横に振った。レンズの奥の赤色が同意するように頷いて、再び牡丹一華を見遣る。
「嗚呼、やはりおかしいね。私の愛する華にはぬくもりが宿った――今の君はただの器」
 明確に『それ』を『君』と呼んだのは、『華』でも『龍』でもないと二人が見破ったから。それでも二人の『春』に成ろうと、つぅ、と女は涙を流して笑う。
 その仕草が、己の龍を辱められたように思えて。穏やかな龍のゆるやかな表情がほんの僅かに険しくなる。
「僕の櫻を、いっとうの花をけがさないでくれないか?」
 あの龍のかわりなど、存在しないのだから。灼けるほどにあまい熱が、喉をくゆらせる。
「先を急いでいるのだよ」
 ぬくもりの無い君に、愛の手と歌を。著書に眠る情欲の獣たちが、呻いて愛を求めている。
 はらりと捲れた文庫本の頁を辿るしろい指先を真似るように、ぞるりと蠢いたばけものの指先が女めがけて地面を這う。牡丹一華によく似た細い足首を易々と捕まえて、べしゃりと地面へ転がした。
「いやぁ……ッ」
 もはやその姿は二人の知るモノではない。正体を現した黒い膚の女に聴かせるために、リルの唇が動く。文豪の物語に、人魚は歌を添える。熱い熱い――恋の歌。
「熱が欲しいなら燃やしてあげる」
 恋に焦がれた人魚姫の泡も乾いてしまう熱情が、灼熱の焔と化して女を襲う。膚を舐める火の海で、ばけものの指が首を縊る。
「あ、がっ」
 はくはくと息をして藻掻く影朧は、両の目から涙を溢して泣いた。
「どうして、どうして……ッ」
「……ねぇそれは、愛ではなくて、執着ではないの」
 君は君でしかないのにな、と、どこか寂しそうに、リルは呼びかける。愛と執着は、違うものではないの。けれど戀と執着は、もしかしたら。
「独り善がりの愛からは何も生まれやしない。ましてや誰かになろうなど、美しくない」
 淡々と語る男が人でなしだとしたら、縊られ焼かれて嗚咽をあげる女は何者か。けれど骸の海よりも、あたたかい誰かの元へ逝けるとしたら。
「さあ、リル。私たちの持つ大切なあかを手渡す為に。このぬくもりを届ける為に」
 面影を追うあおよりも、春の指先を待つあかを迎えに。共に行こうと英が呼んで、嗚呼、とリルが微笑む。
 ――戀よりあつく、愛よりあかく咲き誇る薄紅が僕を待つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

偃月寺・露雫
「今回はあくまで護衛やからなぁ。蕗本はんには指一本触れさせへんえ。」
自分が攻撃するべきでは無いと判断し、護衛に専念する。護衛対象の前に立ち、人形を構える。それで対応が難しければ扇による【マヒ攻撃】で足止めをする。


鈴木・志乃
ダメだ、それ以上想いを曇らせちゃいけない。
辛いだけで終わらせないで。
恋をして幸せだった時の気持ちを、思い出して。

オーラ防御展開し芳香と影の枝をシャットアウト。
高速詠唱で花弁をなぎ払いながらUC発動。
叶わない恋をする苦しみは知ってる。諦めるのが難しいのも。
でもそれ以上に貴方は、沢山の喜びを彼からもらったんじゃないかな。辛いのは、それだけ恋焦がれていたせいなんだから……。

そのUCがぶち当たった後なら、少しは気分も変わっている、はず。
大好きな彼に見せる顔がそれでいいの?
彼にかける言葉は本当にそれでいいの?
嫉妬に、悲しみに、負けないで。
貴方は、本当は、もっと別の気持ちを伝えたかったんじゃないかな。


月藤・紫衣
叶うならば、愛しいと思った相手に愛して欲しい
それは誰にでも起こり得ることで…叶うことはいっそ、青い薔薇のようなものなのでしょうね
……少し、貴女のその気持ちがわからなくもありません
けれども見逃すことも出来ないのです

ああ、陣五くん
恋破れたモノというのは、時折その現実を認められないのです
…決して我々よりも前に出ないように
そして慎重に、あの子に言葉を尽くしてあげてください
伝わっていないように感じても、きっとそれが何より手向けになる

さぁ…未練を絶ち切りましょう
【歌唱】による詠唱で【狂華乱舞】に【祈り・破魔】をのせて
彼女の【慰め】になるように

貴女の次の生が、愛し愛される奇跡に満ちたものとなりますように…



「ダメだ」
 思わず出た言葉の続きを、鈴木・志乃は止めない。
「それ以上想いを曇らせちゃいけない。恋をして幸せだった時の気持ちを、思い出して」
 辛いだけで終わらせてしまえば、痛みだけが遺る。転生さえも望めなくなる。陣五の言葉も彼女の想いも、全てが無意味になることが志乃には耐えられなかった。
「……少し、貴女のその気持ちがわからなくもありません」
 愛に焦がれた藤紫の目には、随分と脆くなった女の姿が在る。彼女の感情は、己のどこかで覚えのある感情だった。
 叶うならば、愛しいと思った相手に愛して欲しい。それは誰にでも起こり得ることで、想いが叶うことはいっそ、青い薔薇のような奇跡のハッピーエンド。
「けれども、見逃すことも出来ないのです」
 哀れな影朧に声を掛けようとして、ぐ、と紙袋を抱きしめた青年を、月藤・紫衣が制止する。
「恋破れたモノというのは、時折その現実を認められないのです……決して我々よりも前に出ないように」
「安心し、蕗本はんには指一本触れさせへんえ」
 紫衣に応じて、偃月寺・露雫が陣五の前で絡繰を手繰りながら護衛を買って出た。この身が戦えずとも、守ることは出来る。隠した銀の双眸は、味方と黒い女のやりとりをしかと視ている。
「……慎重に、あの子に言葉を尽くしてあげてください。伝わっていないように感じても、きっとそれが何より手向けになる」
「陣五さん、私からもお願い。彼女を助けるために、もう少しだけ手を貸して」
 猟兵達の言葉に、青年は改めて決意したように頷く。その会話を聞いていたのかいないのか、女の表情は暗いまま。
「皆、皆、私を可哀想だなんて思うのね」
 ほろほろと零す涙が、女の頬を乾かすことはない。
「ならもう、邪魔をしないで……私は、愛してほしいの……ッ!」
 陣五だけではなく幾人かの慈しみが、綿胞子を絨毯にするには十分な数だったのだろう。同じ願いを繰り返した女の背から、白波と化した綿埃が襲いかかる。
「言うたやろ――させへんよ」
 青年の前に立ったまま、ふぅ、と息を吐いた小さな身体がゆっくりとしなだれる。真昼だというのに、月のひかりを帯びた少女は神様めいて、操り人形のように踊る。
 綿埃の海が絡繰の中へとみるみるうちに収束していくと、はい、と一言笑んだ露雫の合図で、絡繰はこぽりと全ての白を地面へ流し落とす。
 悔しそうに顔を歪めた影朧の周囲を、ハナミズキが吹きすさぶ。青の花弁が猟兵達の視界を覆えば、甘い芳香も彼らの元に届く。影の枝が地を這いながらあっという間に伸びて、陣五へ迫る。
「あなた、ねぇ、一緒に」
「それじゃあダメだってば! 貴方の想いが荒んじゃう!」
 呼びかける志乃が放ったひかりが、瞬時に花の香りを遮断する。自在に動くひかりの鎖が枝をへし折り、花弁をぶわりと薙ぎ払う。唇に乗せたまじないと共に、聖者の手には真っ白な手紙の封筒。宛名のないそれが無数のひかりの小鳩に変わって、女へとまっすぐに飛び発つ。
 その眩しさに思わず顔をそむけた影朧に、志乃は何度でも呼びかける。
「叶わない恋をする苦しみは知ってる。諦めるのが難しいのも。でもそれ以上に貴方は、沢山の喜びを彼からもらったんじゃないかな」
 辛いのは、それだけ恋焦がれていたせいなんだから――女の胸を震わせたのは、彼を想う戀心と、愛しさ、喜び。
「大好きな彼に見せる顔がそれでいいの? 彼にかける言葉は本当にそれでいいの?」
「……可哀想になぁ、でも、堪忍え。蕗本はんは、あんたにあげらへんのよ」
 日常を奪われ続けた少女に、恋をした記憶があるかは彼女しか知らぬこと。けれどこの影朧が寂しい存在であることは、誰の目にも明らかで。露雫は、女に向けて話すようにそっと陣五を促す。
 穏やかな緑の光を保ったまま、青年は口を開く。
「……愛してくれて、ありがとう。ごめん。でも俺は、今、あなたが消える最後まで、あなたを見てるよ」
「あ、ああ、うぅ……」
「貴方は、本当は、もっと別の気持ちを伝えたかったんじゃないかな」
 これ以上、嫉妬にも悲しみにも負けてほしくはなかった。幸せな終わりを迎えてほしいと、聖者は思う――例え彼女が、オブリビオンでも。
 女の心を裂いている想いが、やわいものへと変わってきているのを羅刹は感じる。大きな一撃を与えるなら、今。
「さぁ……未練を絶ち切りましょう」
 朗々と、滔々と紡がれる唄は狂い咲いた華の宴の歌曲。花弁舞う戦場を舞台にして、いくつもの祈りと破魔のまじないが女の慰めになるようにと羅刹は歌う。
「貴女の次の生が、愛し愛される奇跡に満ちたものとなりますように……」
 夥しいほどの藤の花が舞って、うつくしい刃を生んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドゥアルド・アジェンデ
アドリブ連携歓迎

単純な疑問なんだが、誰かの代わりに愛される、で満足できるのか?
恋人を想う一途さも好きだっていうなら尚更な

UCで味方を強化
敵のUCで攻撃力が落ちるならまた上げればいいんだろ?
俺のUCが封じられないようにダークネスクロークで物理的な物ははねのけて、俺の攻撃力が下がる分には今回は構わないだろう

ラテン系の曲を低い落ち着いた声で紡ぐ

陽が照りつけるように恋が身を焦がす
その愛しい唇に口付ければ渇きは癒えるのか
美しいドレスと噎せ返るような甘い香水で身を包んで腕の中に男を閉じ込めたって
あいつはプレゼントの宛先を変えないやつさ


ジュリア・ホワイト
フム、護りは十全
陣五氏も事情を把握して影朧と話をしたと
「荒ぶる恋心も、これで何がしかの落ち着きどころを見つけられると信じよう。なら後は、影朧転生のノウハウに従って荒ぶる身体の方を鎮めるのみさ」

――と、遠くから嘯いて
【裁きの一撃は天より来る】を発動
片膝立ちの姿勢で狙いを定め、面映を狙い撃ちにするよ
当然、味方や陣五氏に当てる様なヘマはしないさ
狙うは胸の中心、心臓……ハート
「キミが心を撃ち抜ぬかれるのは、これで二度目になるかな?今度はハートに火を付ける前に、頭を冷やすことをおすすめするとも!」

「ああ、汽笛の音だ。――汽車が来たんだ」



 黒い膚の女は、その場に伏していた身体をゆっくりと起こしていく。少女のようなすすり泣きで、怪物じみた影の枝を揺らして。
「私、あなたには愛してもらえないのね。ずっと、ずっと」
 なおも陣五を見つめて痛みを零す女に、エドゥアルド・アジェンデは静かに呼びかける。
「誰かの代わりに愛される、で満足できるのか? 恋人を想う一途さも好きだっていうなら尚更な」
 単純な疑問だった。その程度の情熱ならば、此処まで彼を傷つけることも、悲痛な叫びをぶつけることもなかったのではないか。
「そう、ね。そうね。でも、私、これしか知らないの。これしか、こうしないと愛してもらえないの」
 骸の海から浮かんできた凝り固まった思考が、少しずつほどけていくのを男は感じていた。そしてもう一人、陣五とは別に彼女を視ている者の存在に気付いていたから。
「陣五」
 青年に呼びかけ女の最期に送ってやる言葉を促すと、陣五は前に出ずとも、たどたどしくとも舞台で鍛えた声を張る。
 同時に、エドゥアルドはリズムを刻んで歌を口ずさむ。低く落ち着いた声に情熱を秘めたラテンのメロディーが、最後の呼びかけを彩る。

 ♪ 陽が照りつけるように恋が身を焦がす
「忘れないよ、あなたのこと」
 その愛しい唇に口付ければ渇きは癒えるのか ♪
「愛してくれた人のことを、おれはちゃんと覚えているから」
 ♪ 美しいドレスと噎せ返るような甘い香水で身を包んで腕の中に男を閉じ込めたって
「あなたが生まれ変わって、あなた自身を愛してくれる人に愛されてほしい」 
 あいつはプレゼントの宛先を変えないやつさ―― ♪
「必ず、そんな人に出会えるよ」

「……素敵な歌ね」
 ぽつりと呟いた女の言葉が、その距離から聞こえたかはわからない。けれど表情が和らいでいるのを、少女は遠くからしっかりと確かめた。
「いい歌だ。それに、いい台詞だ――本心から来る言葉だからこそ、胸を打つ」
 ジュリア・ホワイトはフム、と頷く。十全な護りのなか、青年は事情を把握し影朧と話をした。
「荒ぶる恋心も、これで何がしかの落ち着きどころを見つけられると信じよう。なら後は、影朧転生のノウハウに従って荒ぶる身体の方を鎮めるのみさ」
 歌うたいの男が披露した恋の歌が、ヒーローの力を十二分に引き上げていく。片膝立ちで姿勢を整え、“THINKER”と刻まれたグリップを握り、精霊の宿る大型拳銃の狙いを定める。
 味方や陣五に当てるようなヘマはしない。圧縮蒸気が吹き上がって、オレンジの瞳が捉えるターゲットまでの距離を実質ゼロにする。
 狙うは胸の中心、心臓――女の戀熱と闇が煌々と集まっていたハート。
「キミが心を撃ち抜ぬかれるのは、これで二度目になるかな?今度はハートに火を付ける前に、頭を冷やすことをおすすめするとも!」
 引き金を引く瞬間、女のあおい眼差しとジュリアの視線がぶつかった。けれど女は迎撃の仕草を見せることもなく、両手を降ろした。
 がら空きの胸元を貫く弾丸が、女の背負うハナミズキごとぶち抜く。どさりと倒れた黒い身体と青い花弁が、やわいひかりの粒子として融けていく。
「……影朧さん」
 駆け寄ろうとした陣五に、女は首を横に振って制止する。立ち止まった青年の後光が、ひかった。
「あなたの、名前は」
「――面映。でも、いいの……私のこと、忘れていいの」
 黙り込んだ青年に、女が最期の言葉を続けた。
「あなたの愛する人を、彼女のまま――愛して」
 穏やかに微笑む女がひかりに融けていくなか、遠くから汽笛の音が響く。一仕事終えた汽車のヤドリガミが合流して、音の鳴る方角を見上げる。
「ああ、汽笛の音だ――汽車が来たんだ」


 贈り物を抱えて、青年は駅の前に立つ。振り返って、猟兵達へと頭を下げた。
 髪と服装を整えている後ろ姿は、淡い薄紅の後光がきらきらり。

 ――きみをむかえに来たよ。
 変わらぬ想いと、逢えなかった日々を埋めるほどの愛を込めた贈り物を持って。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月03日


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#サクラミラージュ


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠四辻・鏡です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト