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針千本じゃ、ねむれない

#アルダワ魔法学園 #蒸気幽霊

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#アルダワ魔法学園
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#蒸気幽霊


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●うそつきと、うそつき
 気にくわない。
 気にくわない。
 わたしよりずっと小さいその身体。
 可愛いままの。子供のままの。声も、顔も、全部が嫌い。

「げっ」
「……なによ」
 はち合わせてしまった瞬間、わたしたちは黙り込む真似をした。
「……どうしてこっち来たの」
「間違えたの! 別にあんたに会いに来たわけじゃないもん!」
「……約束破ったやつの顔なんて、わたし見たくもないんだけど」
「まーだそんなこと言ってるの!?」
 帰るから、と背中を向けて、あの子はあかんべえの真似をする。
「ばーか! わからずや! 死んじゃえ!」
 かき消えていくその姿に、わたしはぽつりと呟く真似をした。
「……もう、死んでるじゃない」

 気にくわない。
 ――死ぬときは、二人いっしょだって言ったのに。

●グリモアベース
「アルダワ魔法学園、『旧校舎』に向かってほしい」
 グリモア猟兵、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)の告げたその場所について、知る者も、知らない者もいるだろうか。
 魔法学園における『旧校舎』とは、単なる老朽化した古い建物という意味ではない――かつての大魔王との戦いの末に、それを封じたファーストダンジョン。その上に建造された最初の学園。迷宮の深層にて新たに発見された、全ての礎である。
「昔は魔法の宝石庫として利用されてた一角を、『眠りネズミ』っていう災魔の群れが占拠してる。……基本的には寝てるだけで無害な子たちなんだけど、放置するわけにはいかないからね」
 そしてグリモアベースが映し出すのは、いつもの蒸気機械群ではなく――星空だ。
「災魔の力と、大量の宝石が相互作用でもしたのかな――壁も、床も、天井も、まるで星空を映したみたいな……妙な空間に変質しちゃってるみたいだ。星が、よく見ると魔力を持つ宝石でできててね。マジックアイテムを作るのに使えるらしいから、少し拝借していくといい」
 悪戯っぽく笑ってみせて。
「ちゃんと活用するつもりなら、『先輩』たちも怒らないだろ。――そう、旧校舎には『出る』んだよ」

 旧校舎には幽霊がつきもの。
 ……とはいっても、彼らは敵対的な存在ではない。かつて大魔王と戦って、それこそ学生ほどの年齢で命を落としたかつての英雄たち、『蒸気幽霊』。
 実体が無いので戦うことはできず、旧校舎の蒸気魔法機械群から離れることすら叶わない存在ではあるが――災魔退治や、妙な星空の世界について、助言を得ることはできるだろう。

「仲良くしておくに越したことはない、……んだけど、今回はちょっとだけ事情があって」
 夏報は、両手に一枚ずつのポラロイド写真を出してみせる。右に、左に、それぞれ異なる少女の姿。
「この近辺には二人の『先輩』が居るんだけど、……生前いろいろあったらしくて、お互いのことを避けてるみたいなんだ」
 もちろん、姿こそ若いとはいえ、戦争を戦い抜いた戦士の霊である。どちらの蒸気幽霊と接触しても、最大限の協力を得ることはできるだろう。しかし片方と仲良くすれば、もう片方には避けられる。――実質、ふたつのチームに分かれての探索になるということだ。
「小さい子供の姿の娘が『チョーカ』、少しお姉さんっぽい姿の娘が『ツリエ』という名前だそうだ。各自気の合いそうなほうを選んで、話しかけてくれれば大丈夫」

 グリモアの光が猟兵たちを包む、その一瞬。
「まあ、君らの言いたいことは大体わかるけど。……『先輩』たちとそれぞれ良好な関係を築いて、オブリビオンを掃討する。あくまでそれが最優先だよ?」
 と、口では言っておく――そんな、小さなウインクが見えただろうか。


八月一日正午
 おひさしぶりです。ほずみしょーごです!
 今回は旧校舎のたのしい肝試し(?)をお届けします。
 各章、状況説明のための無人リプレイから始まります。その投稿がプレイング募集開始の告知をかねています。そのほか詳しいところはMSページをご覧くださると助かります。

●1章
 日常です。星空のように散らばる宝石を少々拝借して、思い思いのアイテムを作っていただきます。
 自前の技術を活かしていただいてもいいですし、経験がない方でも、希望を伝えれば『蒸気幽霊』がやり方を教えてくれるでしょう。

 ふたりの蒸気幽霊のうち、どちらか片方と仲良くなれます。チームでのご参加の場合、原則1チームにつきひとりです。
 チョーカ:十歳くらい。「!」が多い。おてんば。ピンク。
 ツリエ:十五歳くらい。「……」が多い。ものしずか。みずいろ。
 大体こんな感じです。交流の内容によって、次章以降にプレイングボーナスが発生します。難易度などに変化はないので、気が合いそうなほうの娘でどうぞ。
 プレイングに「★」マークを明記していただくと、どちらの娘と接触するかをMSおまかせにできます。蒸気幽霊について明記がないプレイングは、単体の日常描写になります。

●2章
 冒険フラグメントです。いわゆる心情系・回想系の描写になると思います。
 基本的に、継続参加の方は1章で選んだのと同じ娘と一緒に行動していただきます。
 この章からの参加の方は、上記と同じようにどちらかの娘さんをお選び下さい。

●3章
 集団戦、『眠りネズミ』との戦闘です。彼らの巣はひとつなので、全員集合での乱戦になります。
 物語の結末はみなさま次第。ご参加おまちしております!
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第1章 日常 『魔法アイテムを作ろう!』

POW   :    力一杯、気合いで作る

SPD   :    技能を使うなどして手早く作る

WIZ   :    魔法や頭を使って作る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●いじわると、いじわる
 ――誰かが、来る。

 この『旧校舎』が地上の人々に発見されたことなら、蒸気幽霊同士のウワサで聞いていた。
 なんでも、この世界の学生じゃなくて、異世界の存在――『猟兵』たちが扉を開けたんだとか。どんな人たちかはわからないけど、一応、こっちが先輩だ。ちゃんと、失礼がないように出迎えないと。
 宝石の使い方、眠りネズミたちの巣への行き方、頑張って伝えなきゃ。

 地の底の夢の奥から、わたしの意識を呼び醒ます。
 蒸気を集めて、生者の目にもしっかり見える姿を作る――『猟兵』には大人のひともいっぱいいるらしいから、もっと先輩らしい姿になれればいいんだけど。わたしたちは、結局、『死んだとき』の年恰好にしかなれない。それでも、あの子よりはずいぶん長く生きてしまった。
 ……あの子か。
 そっちの方へ向かった人たちは、放っておいてもいいだろう。

 仲良くなるのも。
 教えるのも。
 ――どうせ、あの子のほうが上手いんだから。

●宝石庫
 猟兵たちが転送されたのは、奇妙な星空だった。

 なるほど、星空のように見える。どの世界のどの季節の天球儀とも一致せず、見慣れた星座を見つけることすらできないけれど――歩けど歩けど光の配置に変化がなく、何千光年も離れた星が輝いているように見えるのだ。なのに、手を伸ばせばその星を掴むことが出来る。……掴んでみれば、それは石だ。
 壁も、天井も、あると思えばあるし、ないと思えばない。床があるはずの足元にすら星が満ちている。どうも空間全体が歪んでいるらしい。

 ――ここは元々、『旧校舎』の宝石庫。
 とは言っても、贅沢な宝飾品を飾りたてる場所ではない。魔力を持った宝石を、原石のまま、あるいは軽いカットだけ施して備蓄しておくだけの場所だ。言わば宝石魔術の理科準備室であり、有事の際には弾薬庫になる。
 そんな味気ないはずの施設が、災魔の力で夢のような景色に変じているのは皮肉なものかもしれないが。

 君たちはその夢を楽しんでもいいし、本来の宝石庫として素材を集めても構わない。
 ――まるごとさらえていくような無粋な真似さえしなければ、『先輩』たちが手伝ってくれるだろう。
カイム・クローバー
へぇ。こりゃ、洒落てるな。アルダワ学園ってのは幻想的っつーか、神秘的っつーか。こんな空間の歪みなら大歓迎なんだが。

ツリエ先輩と。
実は俺は幽霊ってのが苦手でね。突然現れて顔だけ近付けるのとかは止めてくれよ?格好悪い悲鳴上げたくねぇからな。
とはいえ、蒸気の扱いは不得手だ。手を叩いて呼んだら出て来るのかね?ツリエ先輩、ツリエ先輩、お越し下さいよっと…。
俺が作るのはオルゴール。ある相手に渡すモンだ。UCを使う。一から指導頼むぜ?ツリエ先輩♪

オルゴールは誰でも持てるように。霊的な干渉が受けられるようにしたい。曲は星を眺める時に聞けるような心静かになる曲が良い。オススメは何かあるか?とびっきりのを頼むぜ?



●なまえをよんだら
「へぇ――」
 星のひとつに指を伸ばして、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は興味深げに嘆息した。一面の夜空のなかにいるように見えるのに、触れようとすれば触れられる。手のひらにころりと落ちるのは、磨かれる前の原石だった。
「こりゃ、洒落てるな」
 アルダワ魔法学園というのは、幻想的というか、神秘的というか。無理に言葉にするよりは、黙って誰かと眺めていたいような美しさだ。
 今回の災魔もほとんど無害な種族のようだし、こんな空間の歪みなら大歓迎――とは言っても、いつまでものんびりしているわけにもいかないか。まずは『先輩』に挨拶して、ただの宝石泥棒ではないことを証明しておかないと、だ。

 ぐるりと周囲を見渡してみる。触れようとさえ思わなければ、星空はただの絵に描いたような背景だ。
「話しかけるっつってもな。どこにいらっしゃるんだか……」
 実のところ、カイムは『幽霊』という奴が少し苦手だった。UDCの邪神連中に恐れることなく立ち向かう男でも、だ。
 斬れないから、撃てないからという話でもない――魔剣や銀の弾丸は通じるだろう――もしかすると、武器を使って話が終わるような『悪』ではないからかもしれない。物語の中の彼らは、大抵は死にきれないほどの過去があって、悲しみを訴えてくるものだ。
 彼女たちも、同じだろうか。
 ポラロイド写真で見せられた少女の姿を思い浮かべた。――さみしそうな顔をしていた方の少女を、だ。
「ツリエ先輩――」
 呼びかけてみる。肝試しみたいに突然現れて、顔だけ近付けるなんていうのは止めてほしい。出会い頭に悲鳴をあげる羽目になっては格好がつかない。
 魔法ならともかく、蒸気の扱いは不得手だ。そもそも蒸気ってなんだ。湯を沸かすときの勢いで機械が動くのはぎりぎり分かる。蒸気幽霊って一体なんだ。考えてみても答えはないので、手を叩いてもう一度。
「ツリエ先輩、ツリエ先輩、お越し下さいよっと……」
「……ひああ……!?」
 なにやら格好悪い悲鳴が聴こえた。
 声のほうへと振り向くと、透けるような……というか実際に透けている水色の髪の少女が、怯えたような目でこちらを見ていた。話に聞いていた通り、学生ほどの年頃だ。
「……な、名前」
「名前?」
「……呼ばれると思わなかった」
 ああ、と思い至って、カイムは少女へと向き直る。目線の高さは――あからさまに合わせないほうがいいだろう。子ども扱いと取られかねない。
「驚かせちまったなら申し訳ない。うちにはグリモアって奴があって、これから起こる事件や会う人のことが大体わかるっていうか……確かに名乗るのが先だった。俺はカイム・クローバー。先輩は?」
 あくまで相手を先輩として、しかし、気さくな親しみやすさも織り交ぜて。カイムの話術の心得に、少女は徐々に緊張を解いていく。
「……そう。わたしがツリエで合ってるわ。ツリエ・レゾンよ。……よろしくね」

「ここの宝石を少しもらって、オルゴールを作りたい」
「……オルゴールを?」
「ある相手に渡すモンだ」
 自作のオルゴールを作るキットは、UDCから持ち込んできた。これを魔力を持った宝石で装飾し、プレゼント用に仕立てたい。……カイムが希望を伝えると、ツリエは真剣な顔で考え込む。
「……鎮静、安心の加護なら、アメジストがいいわね」
 彼女の指差す星をつまむと、それは紫色の宝石に姿を変えた。小粒ながらカットが施されていて、そのまま飾りに使えそうだ。
「それもあるが、誰でも持てるように……そうだな、ツリエ先輩でも持てるようなマジックアイテムにしたい」
「……霊的な干渉が受けられるように?」
「流石だな。一から指導頼むぜ? ツリエ先輩♪」
 彼女は静かに頷くと、しばらく空中に何かの図形を描くような真似をする。……計算中、ということらしい。急かすことなく眺めておく。
「……わたしほど存在が希薄だと、手で持てるかは難しい、わ。……スイッチの部分に宝石を仕込めば、点けたり消したりはできる」
「なるほどな。もっと他の霊なら手で持てるようにもなるか?」
「……スイッチから線を伸ばして全体に魔法陣を描けば、干渉が拡がって、強い霊なら持てるはず」
「よし、……えーっと、順番に頼むな?」
 若干矢継ぎ早だった説明をひとつひとつ反復しながら、カイムはオルゴールを組み立てる。スイッチの部分に小さな石を嵌め、指示通りに図形を描いていく。

「お、出来た」
 最後の線を繋いだ瞬間、オルゴール全体が淡い紫の光を放つ。これでいかにもなマジックアイテムの完成――に思えるが、オルゴールに最も重要な要素がまだ残っていた。
「これ、曲を好きに作れるんだよな」
 カイムが手に取るのは、なめらかな厚紙のパンチカードだ。五線譜通りに穴を開ければ鳴らすメロディーを決められる。
 星を眺める時に聴けるような、心静かになる曲が良いだろう。……『先輩』であれば、自分の知らない音楽を知っているかもしれない。
「オススメは何かあるか? とびっきりのを頼むぜ?」
 カイムの問いに、ツリエは真顔で歌を口ずさむ。
「……『かの大魔王の首を堕として、その血で大地を染め上げよ』♪」
「いや、そういうんじゃないヤツな?」
「……ふふ、冗談よ。……ちゃんとアルダワの子守唄を教えてあげる」
 そう言って微笑む彼女は、最初に見たあの写真より、ずっと楽しげに見えたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

宮入・マイ


連携・アドリブ歓迎っス。

ふむふむ…つまりこのポラロイド写真は心霊写真ってことっスかね?
マイちゃんも…マイちゃんも心霊写真撮りたいっス!

そうと決まれば早速突入っス!
蒸気幽霊ちゃんやーい!
出てきておくれっスよ~!

矢継ぎ早にお話して許可をもらったらこのポラロイドカメラで一緒に写真撮るっス!
ピースサインの心霊写真なんてなかなかないっスよ…これはレアっス!

…マジックアイテム?
すっかり忘れてたっス…
それならそれなら~このカメラの~フィルムをパワーアップさせて不思議なものが撮れるようにしてほしいっス!
あ、カメラ本体の改造は駄目っスよ!
サンタさんから貰った宝物っスからね!

きゃっきゃ。



●とうめいなうちゅう
「ふむふむ……」
 グリモアベースでの説明を、宮入・マイ(奇妙なり宮入マイ・f20801)は珍しく真面目に聞いていた。
 遠い昔に起こった大魔王と人々の戦い。次々と命を落としていった学生ほどの年頃の戦士たち。そんな彼らの魂を留める、旧校舎の蒸気幽霊。仲違いをしたまま死に別れた、ふたりの少女。
 それらの要素を総合して、マイは彼女なりの結論を出した。
「つまりこのポラロイド写真は心霊写真ってことっスかね?」
 いやまあ多分その通りだけれども。
「マイちゃんも……マイちゃんも心霊写真撮りたいっス!」
 まわりの雰囲気なぞどこ吹く風。彼女にとっての『最優先』は、オブリビオンの討伐ですらなく――その場その場の面白そうな気配であった。

 そうと決まれば早速突入。
「アルダワの奥地に旧校舎の蒸気幽霊を見た! っス……いやまだ見てないっス!」
 ロマンチックな星空には目もくれず、マイは被写体を求めて歩き出す。その手には、愛用の真っ赤なカメラがひとつ。……参考資料にポラロイド写真をもらおうとしたら凄い勢いで拒否されたので、いちから自分で探すしかない。
「蒸気幽霊ちゃんやーい!」
 右を見て、左を見る。――マイの身体は実のところ、人間のそれとは根本的に『つくり』が違う。しかし、視覚にあたる機能は、しっかり瞳にあたる部分に存在させているのだ。
「出てきておくれっスよ~!」
 ……だからこそ、背後に迫る小さな影に気付かない。
「うらめしやーっ!」
「ひゃん!」
 不意打ちに驚いて振り向くと、してやったりと言わんばかりの無邪気な笑顔がそこにある。
 マイとよく似た桃色の髪の、少女というより子供に近い姿の蒸気幽霊だ。小さな体を大きく見せるようにして、彼女は胸を張るポーズをとった。
「まいったかー! こう見えて、あたしのほうがずーっと先輩なんだからね!」
「蒸気幽霊ちゃん先輩!」
「そうよ!」
「ははーっ」
 大魔王とか戦争とかはよく知らないが、登場早々に鮮やかな出オチを決めるとはなかなかだ。面白についても先輩とお見受けしたので、素直に敬意を示すマイなのであった。

 星空の下で両手を拡げて、蒸気幽霊はくるりと回る。
「宝石を取りに来たの? 眠りネズミを退治に来たの? どっちもどーんと先輩に任せて!」
「マイちゃん、とにかく心霊写真を撮りたいっス!」
「し、しんれいしゃしん?」
「ガクブルのやつっス!」
 ……矢継ぎ早の勢いに最初は戸惑っていた少女も、マイが大事に抱えている小さな機械を見て、なにやら得心したようだ。
「えーっと、つまりそのちっちゃいやつが未来の写真機なの?」
「これで蒸気幽霊ちゃん先輩を撮ったら、正真正銘の心霊写真っスよ」
「なんとなくわかった! こう?」
「そう、そう、やっぱり肩に手を置くのが定番っスね」
 少女は案外ノリよく身を寄せて、言われた通りにマイの肩に手を乗せる――真似をする。外殻は、触れられている感覚を伝えては来ない。
 マイが指を二本立てれば、彼女も同じようにした。

「撮れてるっス……!」
「すごーい! すぐ見られるんだ!」
 蒸気幽霊全般が写真に映るものなのか、それともこの赤いカメラが、メカサンタさんからもらった特別製だからなのか――その場で現像された写真には、しっかりとふたりの顔が映っている。
 ピースサインの心霊写真なんてなかなかない……というか、絵面としてはどう見ても単なる女友達同士の自撮りである。しかしマイにとっては、これもレアな逸品に違いなかった。
「――で、マジックアイテムは作らないの?」
「ま、まじっくあいてむ……?」
 そういえばそんな話があった。正直すっかり忘れていた。
「あ、それならそれなら~、このカメラの~、フィルム? とかパワーアップさせて、不思議なものが撮れるようにしてほしいっス!」
「んー。宝石を埋め込んで?」
「そういうのは駄目っス! 宝物っスからね!」
「うーん。だったら、そうね。こっちのほう!」
 何かアテがあるのだろうか、少女はマイを手招きすると、――星の少ないように見える、暗闇のほうを指差した。

「かの大魔王の首を堕としてー♪ その血で大地を染め上げよー♪」
 目的地へ向かうまでの間、少女は楽しげに歌を口ずさんでいた。あんまりにも楽しそうなので、きっと楽しい歌なのだろう、とマイも思う。
「かの大魔王の首を堕としてー♪」
「その血で大地を染めあげよー♪」
 数周もすれば覚えてしまって、ふたりで歌い合いながら進む。元々性格に近いところがあるのだろうか、すっかり意気投合という雰囲気だ。表情筋を持たないマイの代わりのように、少女はきゃっきゃと笑っている。
「かの大魔王の臓腑を抜いてー♪ っと、……見つけた! ここよ」
 彼女が示す夜空の闇に――少し、空間の歪んだ場所がある。マイが首を傾げて手を伸ばすと、そこにあったのは、限りなく透明な水晶玉だった。
 手のひらの上に、ひとまわり小さな星空が浮かぶ。
「これをね、レンズとかに加工して!」
「……や、これ、このままの方が面白くないっスか?」
 マイは存外真剣な顔で、小さな球体を覗き込む。水晶の星空が、マイの瞳を模した部分に映り込んだ。これを街に持っていけば街が、海に持っていけば海が、森に持っていけば森が、小さくなって映るのだろう。
 ――とても、不思議な写真が撮れる気がした。
「だったら傷が付かないように魔力をこめてー、どっか持ってきやすいようにカンタンな金具をつけましょ!」
「なるほど! ありがとうっス、蒸気幽霊ちゃん先輩!」
「もーその呼び方! ……ていうか、そうだ、大事なこと言うの忘れてた」
 年齢も、身長も、自分の倍ほどもあるマイを見上げて、少女は屈託なく微笑む。
「あたしはチョーカ! チョーカ・レザルタ。よろしくね!」

成功 🔵​🔵​🔴​

風見・ケイ
WIZ


はは、凄いですね。プラネタリウムなんてものじゃない。
星になったみたい。
……星空を眺めていると、懐かしいような寂しいような、不思議な気持ちになるのは、なぜなんだろう。

さて、先輩方のどちらにお会いできるかは運命に身を委ねて。
せっかくですから、星をひとつ頂いて、何か作りましょうか。
ま、プレゼントする相手もいないですし、ピアスを増やすか、あるいは新しいチョーカーでも……いや。
うん。襟につけられるような、ブローチがいいな。
夜の始まりを告げる一番星みたいに、紺色の襟に映えるブローチを。

とはいっても、魔法とやらにも疎ければ、美術の成績もあまり良い方ではなく。
色々と、先輩にご指導いただければ幸いです。


リドリー・ジーン
これは…とても素敵な場所ね。
お話は聞いていたけれど、実際目にするとこれはもう想像以上だわ。

お越し下さるならば【ツリエ先輩】
ふふ、宝石の加工をしたいのだけど、チャーム…身を護るお守りなんて作れるかしら?
この宝石を使ったらきっと良い、素敵な物が出来そうね。
ね、色はどれが素敵だと思う?

ゆるゆるとお話をしながら、……もう片方の先輩の話が聞けそうならば聞いてみたいわ。
直接きりこんでしまったら避けられるかもしれないけど、生前の話が聞けるならばそこから少しだけ、確信が突ければ。
避けてるのはどうして? 嫌いなの?
本音としては…もし何か事情があるなら、お手伝いしたいのよ。
素敵なお守りのお礼にね。



●そのてがえらぶのは
 見渡す限り、上から下まで――爪先から続くその影まで。全てが、星に満ちていた。
「これは……とても素敵な場所ね」
 リドリー・ジーン(不変の影・f22332)は、ゆったりと、しかし迷いなく星に手を伸ばす。
 選び取ったのは、まずは深い紅色だった。綺麗だけれど、すぐにこれひとつと決めてしまうのはもったいない。青、緑、さまざまな色を、心の赴くままに拾い集めていく。
「お話は聞いていたけれど、実際目にするとこれはもう想像以上だわ」
 少女の面影色濃いリドリーが、夢見るように辺りを見渡す……その横に、少し遅れてもう一人、女が転送されてくる。
「――はは、」
 第一声で、小さく笑って。
「凄いですね。プラネタリウムなんてものじゃない」
 風見・ケイ(消えゆく星・f14457)もまた、怜悧な面立ちを少しばかり少女に戻して、まずは星空に見入るのだった。座席もなければ、そもそも地面もありやしない。地球から見上げているのではなく、自分がぽつりと宇宙のどこかに浮かんでいるような景色。
 星になったみたい――なんて感想は、さすがに子供っぽすぎるか。
 見た目は星空のようでも、実際には宝石がばらばらに浮かんでいるだけなのだとグリモアベースで話に聞いた。言われてみればその通りで、馴染みのある星座はひとつも見つからない。
 ……それなのに。
 こうして眺めていると、懐かしいような寂しいような、不思議な気持ちになるのは、なぜなんだろうか。

「……あなたたちも、宝石を取りに?」
 向こうも猟兵たちの存在を意識しているのだろう――こちらから呼びかけるまでもなく、虚空が揺らいで少女の形を成す。『ツリエ』と呼ばれていた、やや年長に見える姿の蒸気幽霊だ。
「初めまして、先輩。今到着したばかりで。この通りまだ右も左も」
「ふふ、私も今来たところ。もらっていくだけではなくて、できれば宝石の加工をしたいのだけど」
「……そう」
 ほんの短く返事をして、ツリエは腕を組む真似をする。素っ気ない態度にも思えるが、おそらく、真剣に考えこんでいるのだろう。
「……何を作りたい?」
「チャーム……身を護るお守りなんて作れるかしら?」
 そう言って、両手のひらに集めた宝石を広げて見せる。リドリーの直感が選んだ宝石は、そのほとんどがカット済の大粒だった。石の魔力や性質については先輩の意見を伺うとして――どれを使っても、きっと良い、素敵な物に仕上がることは間違いないだろう。
「ね、色はどれが素敵だと思う?」
「……この中で、厄除けの類にするなら、そうね……」
 触れることのできない蒸気幽霊の細い指が、ひとつの宝石を示す。
 少し、変わり種の石だった。透き通るような輝きのものが多い中で、不透明な絵の具を塗りこめたような水色の球体だ。あえて星にたとえるならば、それこそ地球のように見える。
「……ターコイズはどう? 持ち主に危険が迫ると、身代わりになって壊れてくれる……と言われているわ」
「えっ、壊れてしまうの?」
「……そのぶん、お守りとしては強力よ」
 せっかくこれから作るのに、いつか壊れてしまうと言われると寂しいような。他のもっと丈夫な石で、とお願いしようかとも思った。……けれど、その青い石をまじまじと見つめてみると、なんとも捨てがたいような気持ちになる。
 誰かが傍で見守ってくれているような、そんな優しさを、石の言い伝えに感じた気がして。
「決めた。この石にするわ」
「……青、あなたに似合うと思う」
 そんなやり取りを聞きながら、ケイの方といえば――まだ星々を眺めながら、迷い箸ならぬ迷い指の真っ最中であった。沈思黙考しているように見えて、その実決めかねているだけである。
 せっかくだから、星をひとつ頂いて何かを作ろう。そう思ってはいるのだが。リドリーとは対照的に、彼女は最初のひとつを選ぶのに時間がかかるたちなのだ。
「ま、プレゼントする相手もいないですし」
 苦笑と言い訳めいた言葉で、ちょっと自分の中のハードルを下げてみる。自分も、周囲の友人たちも、考えてみれば宝石の魔法で戦うような手合いではない。自分用に普段使いのアクセサリーを見繕うぐらいの心算でいいのだ。ピアスを増やすか。あるいは新しいチョーカーの装飾にするか。
 赤か、青か、紫か。いつもの三色を思い浮かべて、あらためて目当ての石を探してみる。
「……いや」
 やっぱり、違うな。そんな気持ちで星に右手を伸ばすのは。
 ――どうせなら、一番星がいいに決まってる。
 欲張って、夜空の中でもひときわ明るい星を掴む。……手袋の上で、それは宝石へと姿を変えた。淡い黄色に、見たこともない五等分の珍しいカットが施されている。それこそ絵本で見たような、夜の始まりを告げる一番星みたいだ。
「うん、これは、――ブローチがいいな」
 一目でぴんときた。あの紺色の襟に、きっとよく映えるだろう、と。

「……あなたたち、金具の付け方はわかる?」
「いえ。魔法とやらにも疎ければ、美術の成績もあまり良い方ではなく……」
「そもそもここ、金具はあるの? ツリエ先輩は詳しい?」
「……簡単なものなら、すぐ用意できるわ」
「でしたら、色々と、ご指導いただければ幸いです」
「……この辺り。探してみて」
 ツリエが教える通り――星というにはぼんやりとした、星雲に似ている光の辺りを探ってみる。すると、多種多様な金具がじゃらじゃらと落ちてきた。チャーム用の鎖や、ブローチ用の台座もしっかり見受けられる。
「……合う金具さえ見つければ、はめ込むだけで固定できる」
「思ったより簡単なのね」
「……戦争のときは、すぐ使えなきゃいけないから。石と金具が規格統一されてるの」
 星空の景色には似合わない、少々世知辛い話だった。……しかし、それこそがこの『宝石庫』の本来の姿である。蒸気幽霊たちが生前戦った、大魔王との戦争における弾薬庫。
「ツリエ先輩は、ここで戦っていたの?」
 あくまでゆるりとした口調で、リドリーは話を振ってみる。
「……ええ。わたしたち、宝石魔法が専門だったから」
 複数形ということは――『もう片方の先輩』も同じだということだろう。今度はリドリーが迷う番だった。そこに直接切り込んでしまったら、避けられてしまうかもしれない、と。
「チョーカ先輩、でしたよね」
 そして、今度はケイが、確信を突く判断をする。
「……ええ」
「避けてるのはどうして? ……嫌いなの?」
 聞いているケイも、口に出したリドリー自身も、それが尋ねるまでもない質問だと分かっていた。――『わたしたち』という言葉を零した時の彼女は、とても柔らかく微笑んでいるように見えたから。
「……嫌いよ」
 そんな訳が、ないのに。
「本音としては、……もし何か事情があるなら、お手伝いしたいのよ」
 ――素敵なお守りを選んでくれた、その不器用な優しさに対するお礼にね。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

多々良・円
【WIZ】
おお……凄いな!
どこを見てもきらきらしておるぞ!
この世界も不可思議で面白いものがいっぱいじゃな。

わしは傘飾りを作るのじゃ。
石を何かで連ねて、傘の先にぶら下げるよう物を。
いろんな色で、たまにはかぶいてみる。なんてな。

歳も近いようじゃし(とはいっても、顕現した頃からこの姿なうえ、正確には百は離れているが)チョーカという娘に教えを乞うとするかのう。
元気な娘じゃな……村の童たちを思い出すのう。

よし、まずは挨拶と握手じゃ。
たとえ触れられなくとも、することが大切なんじゃ。
それに、わしはいわゆる妖(あやかし)で、神の力も受け継いでおるからのう。
もしや手をつなぐことができるかもしれぬぞ。


境・花世
宝石の星空はゆめみたいにきれいで
ひとりではなんだか勿体ないね
だから、薄紅のちいさな先輩を見つけたら
ぴょいと近づいて笑いかけよう

きみも、ひとり?

許されるならつかず離れぬ隣に座って、
ただきららかな偽の星を見ていよう
うん? 宝石はね、いらないんだ
欲しいものはぜんぶの世界にひとつきり

……すきなひとの、わらった顔

はにかんだように咲き綻んで、
わたしたちと似た色の宝石をつつく
蒸気に融けた心だけで此岸に在るきみにも
欲しいものは、まだ、あるのかな

花の奥の、今はもう失くした眸で
ふうわりと笑んだまま淡い娘の影を見つめる
永い長い時経てもあどけない面差しを
撫でてあげることはできないけれど
話を聞けたらいいなと、想うんだ



●ちいさなせかい
 ――宝石の星空は、ゆめみたいにきれい。
 眠りネズミという子たちがみている、本物のゆめなのかもしれない。そして、わたしたちは、これから彼らのゆめを醒ましにいく。そう――これは、もうすぐ消えてしまう星空だ。
 うつろう景色は、ひとりではなんだか勿体ない。
 どんな世界も、ひとりぼっちじゃ、思い出と呼ぶには物足りない。
 けれど、ひとつところに留まるのなんてそれこそ性に合わないから――遠い昔のちいさな先輩は、自分にはうってつけの話相手のように思えて。
「きみも、ひとり?」
 境・花世(はなひとや・f11024)は、雲を掴むような少女の姿に、ぴょいと近づいて笑いかける。
「そうかも? でも、今日は賑やかね!」
 おんなじ薄紅色の彼女は、星の瞬くような笑顔で振り向いた。

 同じ頃。
「おお……凄いな!」
 多々良・円(くるくる、くるり・f09214)もまた、片方の瞳を輝かせていた。雨もないのに傘を差せば、満天の光が、虹を映した雨粒のようにも見える。
 落ちてきそうな、星空だ。
「どこを見てもきらきらしておるぞ!」
 ヤドリガミとして姿を得てから十余年。彼はまだ、新しい景色に対する旨の高鳴りを忘れていない。猟兵となっていくつかの世界を巡ったけれど、どこも不可思議で面白いものがいっぱいだ。……そうしてはしゃいでいる姿は、無邪気な子供そのものである。
 此処にいる『幽霊』の彼女と、そう年の頃は変わらない。
 とは言っても、円は顕現した頃から童子の姿であるし、正確には傘として、器物としての百年を過ごしている。向こうは向こうで、命を落としてからいくらかの時間を、子供のままで彷徨っているそうではあるが。
 似ているようで、違うのだろう。
 ――生まれる前の百年と、死んだ後の百年は。

 星を拾いながら進めば、その姿はすぐに見つかった。
「ね! 他の世界って、たとえばどんなところがあるの?」
「そうだね、沢山見てきたけれど、何処だってとてもきれいだよ」
 探し人は、先客と話し込んでいる様子である。わずかに色合いの異なる紅がふたつ並んで座っているのは、それこそ姉妹のようだと円は思う。……片方の、川に牡丹を浮かべたような静けさに比べれば、チョーカという娘の弾むような声は、なんというか。
「元気な娘じゃな……」
 ……村の童を思い出す。しかして此処では、彼女が『先輩』というやつだ。
「なあに?」
「ああ、少々良いかの? ここの石で、傘飾りを作りたいのじゃが」
「傘飾り?」
 首を傾げるチョーカの前で、円は己の本体たる傘をくるりと回してみせる。軒に吊るした風鈴がさやさやと鳴るのを見て、彼女は意を得たりと頷いた。
「んーと、そこに吊るすのね! チャームみたいな感じ?」
「ちゃあむというのはわからんが。何かで連ねて、回すと揺れるようにしたいのう」
「じゃ、鎖でつなぐのがいいかな! 待ってね、石に穴を開けるやつが……、宝石庫こんなになっちゃったけど、どっかには落ちてるはず」
 チョーカが立ち上がって辺りを見回すと、――当然のように、隣の花世も同じように立ち上がる。許されるなら、つかず離れず隣を歩こう、と。
「そういえば、あなたは?」
「うん?」
「なにか作りに来たんじゃないの?」
 首を振る。空っぽの眼窩で花弁が揺れる。
「宝石はね、いらないんだ」
 ただきららかな偽の星を見て、幻みたいに通り過ぎていく世界の思い出話をする。その時間だけで十分なのだと花世は笑う。
「欲しいものは、ぜんぶの世界にひとつきり」
 宵越しに持てるものなど然程なく、人生は只ながい旅路だ。そのなかで――やっと名前を見つけた感情は。
「……すきなひとの、わらった顔」
「そっか」
 ちいさな先輩の顔は、俯いてよく見えなかった。
「宝石、取りたくなったら取っておいてね! 災魔の巣に向かう途中で星を動かしちゃいけないの。だから、今のうちだよ」

 今のうち、と言われた円は、足りない色を集めては鎖でつないでいく。
 宝石なんていらない花世は、はにかんだように咲き綻んで、時折薄紅色の宝石を選んでつつく。
「――きみにも、」
 蒸気に融けた心だけで、此岸に在るきみにも。
「欲しいものは、まだ、あるのかな」
 しばらく俯いていたチョーカは、その問いにそっと顔を上げる。
「あたしはね、世界が欲しかった」
「それは凄い」
「大きく出たのう」
 ふたりの合いの手に安心したように、はっきりとした笑顔で、少女は星空を見上げる。
「あたしたち、世界のために死ぬまで戦ったの! ちゃんと戦争に勝ったから、今日も世界がここにある。――だから、それ以外なんにもいらないわ」

 それは、少女の体が背負うにはあまりにも大きな願いで。
 ――少女が心に秘めておくには、あまりにも小さな願いのように思えた。

「だからあたしも、宝石はもういらない! あした世界を守ってくれる、あなたたちのものよ」
 八重牡丹の奥の、今はもうない眸なら――その明るい表情の裏に、かすかな死の影が視えるのだろうか。
 ただ花世はふうわりと笑んだまま、揺れる少女の淡い影を見つめてみる。永い長い時間が経てども、あどけないままの面差しに、指で触れることはできないけれど。
 話を聞けたらいいなと、想う。
 そしてやっぱり、叶わなくても、撫でてあげたいと想うんだ。

「よし、できたぞ!」
 そんな優しい沈黙を、円の愛らしい快哉が破る。くるくる、くるりと傘を回せば、連なった石がそれぞれの光を放つ。
「いろんな色で、たまにはかぶいてみる。……なんてな」
 円の作った傘飾りは――自由気ままに色を散らしたようでいて、どことなく落ち着いて纏まっている。少し古い錦を思わせる配色だった。それもまた、人柄が出ているところだろうか。
「わー! きれい! 傘に飾りなんて初めて見たわ!」
「助言のおかげじゃて。……と、そうじゃ、忘れてはならん」
 傘を一度畳んで、円はその右手をチョーカへと差し出す。
「これからも世話になるからの。まずは挨拶と握手じゃ」
「え? ほら、触れないよ? あたし幽霊だもん」
「たとえ触れられなくとも、することが大切なんじゃ」
 それに――ヤドリガミは、いわゆる妖の類だ。元が奉納物である円は、戦巫女として神の力も受け継いでいる。
 ……『魔法』や『蒸気』の道理には詳しくないけれど。ともすれば、触れることができるかもしれない。
「えっと、じゃ、よろしくね! ごめん、名前なんだったっけ」
「円じゃ。多々良・円」

 軽く握る真似をした五指に、――小さく柔らかい感触を、確かに感じたような気がして。
 それはやっぱり、村の童とよく似ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月藤・紫衣
おや、こんなところがこの学園にあったとは…
ふふ、素敵な夜空ですね

せっかくですから宝石を少々頂いて行きましょう
魔法で加工してちょっとしたアイテムに変えてしまうのもいいでしょうし
…天に煌めく星を宝石に
なんて、素晴らしいですから

暖かな紅玉、流れる藍玉、揺れる翠玉…甘い蜜のような琥珀
この4つの宝石は外せません…加工しやすい原石を
ああ、夜空にひっそり輝く黒曜石も花のような紫水晶も
ふふ、少々欲張りでしょうか?

そういえば、つりえさん、でしたか?
先輩とされる少女に眠りネズミさんの所へ行くルートやここについて聞けるでしょうか
…もう一人の先輩への思いもわかるといいのですが
仲違いしたままというのは寂しいですからね…



●みつからないこたえ
「おや、こんなところがこの学園にあったとは……」
 歪んだ、されど美しい彩りの空間に――月藤・紫衣(悠々自適な花旅人・f03940)は、たおやかに目を細めてみせる。
「ふふ、素敵な夜空ですね」
 この魔法学園を訪れるのも、これで何度目になるだろうか。地の底へと潜っていくばかりの迷宮でありながら、毎回毎回、随分と異なる景色を見せてくれる。それでこそ、旅のしがいがあるというものだ。
 そして素敵な旅先には、素敵な土産がつきもので。
「せっかくですから、宝石を少々頂いて行きましょう」
 ひとつひとつ星を摘んでは、じっくりと見定めていく。……力ある石の扱いならば、多少の心得はある紫衣であった。それこそ魔法で加工して、珠飾りだとか、簪だとか、ちょっとしたアイテムに変えてしまうのもいいだろう。
 けれど、それより。天に煌めく星に望めば触れられて、遠く見えた輝きが宝石へ姿を変える――その光景自体が、魔法のように素晴らしい。

 暖かな灯火の紅玉、流れる水の藍玉、風に揺れる葉の翠玉、甘い蜜を湛えた、琥珀。
「この四つの宝石は外せません……」
 既に『少々』では済まされない量になって来ているけれど、それはそれ。
 完成品に近いものより、のちのち自分で加工しやすいような原石を選んで集めていく。一番星よりは輝きの劣るそれらを、目を皿のようにして探していると。
「ああ、これも宝石なんですね」
 何もないように見える夜空の一角に、ひっそりと黒曜石が輝いているのも見つかる。つい夢中になって星雲をさらえば、深い藤色の水晶まで。これも――。
「……あなた。いくつ持っていくつもりなの」
「おや」
 後ろから声を掛けてきたのは、やや呆れ顔の少女の姿。話に聞いていた『蒸気幽霊』のうち、年上の姿をした方だ。名前は、確か……。
「つりえさん、でしたね。ふふ、少々欲張りでしょうか?」
「……役に立ててくれるなら、文句を言うようなことはしないわ。ただ」
 ツリエは困ったように眉尻を下げて。
「……災魔の巣へ行くのに、星を目印にするから。その時に動かされると困るの。……欲しい分は、今のうちに取っておいて」
「なるほど。……でもこれは、散らばっただけの宝石でしょう?」
 夜空の星座を目印に進むという話なら紫衣にも分かる。しかしこの星空は、言ってしまえば偽物のはず。
「これが、目印になるのですか?」
「……眠りネズミの夢と、宝石の魔力が呼応してる。それをあなたたちの意識と繋げて……集合的無意識の領域に……」
 何やら小難しい単語を出しかけて、ツリエは黙り込んでしまう。……先輩とされるだけの知識はあるが、どうにも説明が下手な手合いのようだ。
「……こういう説明は、あの子のほうが上手かったわ」
「もう一人の先輩、ですか」
 ちょうど、想いを聞けたらいいと考えていたところだ。彼女の側から吐き出してくれるなら、こちらは静かに耳を傾けようか。
「仲違いしたままなんですよね」
「……あの子が、約束を破るから」
「それだけ、ですか?」
 どんなに親しい仲であっても、手違いや行き違いはあるだろうに。ほんの一つの約束を果たせなかったというだけで、永い時間を、魂だけの姿になっても――意地を張りあっているなんて。
「寂しくは、ないですか」
「……だって、あの子。約束を破ったこと、悪いとも思ってないんだもの」
「ああ、」
 それは確かに、堪えるかもしれない。
「約束が守れなくとも、謝ってはほしいですよね」
「……ええ、そう、そうよ。謝ってくれなくちゃ」
 自分の言葉を再確認する少女の頷きは、どうしてか、――妙に歯切れが悪かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

オブシダン・ソード


良いねぇ、僕はきらきらしたものが大好きなんだよ
星も宝石も、両方ね
ぐるっと遠景を眺めるみたいにしてから、それぞれの星に目を

先輩殿、ちょっと助けてくれるかな

こう…魔術を中に封じ込めた、爆弾みたいなやつを作りたいんだけど
炎系に適性がありそうなのってどんなの?
やっぱ赤くて大きな奴かなぁ

目当ての宝石をいくつか見繕ったら、小さい石で練習
小規模な花火をみたいなのを試して
…こんな感じ?
いやいや、遊んでるわけじゃないよ、ほんと

コツを掴んだら本番だ
炎の嵐を一箇所に収束させてあげる

僕の本体は剣なんだけど
自分で剣を振るのはあまり得意じゃなくてね
こういう一発芸が欲しかったのさ

そうだ、君の方はどうだったんだい先輩殿



●はぜるこころ
「良いねぇ、僕はきらきらしたものが大好きなんだよ」
 両手を拡げる。
 その青年の眼差しはフードに隠れて見えないが、口元には満面の笑みがある。
「星も宝石も、両方ね」
 まずはぐるりと遠景を眺めて、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)はそれぞれの星に目をやった。普通の夜空にはありえない、赤、青、黄色に緑色。……『黒』である彼からすれば、どれも鮮やかすぎるほどの輝きである。
 見て愉しむのも悪くはないが、彼には、『彼ら』の気持ちがなんとなく伝わってくるように思えた。
 この宝石たちは、本物の星の光も届かぬ地の底で――ずっと、使われることを待っていた道具なのだ。愛でられるより、活かされたがっているだろう。

 と、いうわけで。
「先輩殿、ちょっと助けてくれるかな」
「……わたしね?」
 彼が声を掛けた相手は、物静かそうな水色の少女――ツリエだ。年上のほうが詳しいだろう、なんて考えは特にない。単に近場にいたからだ。
 グリモアベースで聞いての通り、彼女たち『蒸気幽霊』は、偉大な戦士であり、その霊魂である。子供の姿をしていても、だ。そもそも猟兵稼業の行く先では、見た目で判断できる相手のほうが少ない。
「こう……魔術を中に封じ込めた、爆弾みたいなやつを作りたいんだけど」
「……使い捨てで、投擲するということ?」
「そうそう。炎系に適性がありそうなのってどんなの? やっぱ赤くて大きな奴かなぁ」
「……確かに、赤いのは基本的に炎属性だけど」
「たとえばこれとか――」
「まっ……待って、待って、……説明するから」
 質問と同時並行で勝手に星を拾い出すオブシダンに、ツリエはたじろいで右往左往する。……若干頼りない姿ではあるが、それでも、彼女は先輩である。

「……小さくて未精製の……さざれ石を集めて。炎を大きくしたいなら、量を増やしたほうがいい。その方が安定する」
「うーん、そっかぁ。大粒のがドーンといく方が見栄えしそうだけどな」
「……あんまり大きいのは、使い捨てに向いてない」
「残念」
 先輩の有難いアドバイスに従いつつ、目当ての宝石をいくつか見繕う。――ひとくちに赤と言っても、深い臙脂色のものから、橙がかったものまで様々だ。小粒の中に変化があるのは、それはそれで面白い。
「じゃ、さっそく練習だ」
「……えっ」
 間の抜けた声が聞こえたがまあ気にしない。
 小さい石をひとつ選んで、自分自身の魔力を篭める。宙へ放り上げるのと同時に、亀裂が走ってぴしりと割れる。粗いままの表面に光が乱反射するその瞬間、原石はひときわ輝いて――ちいさな花火のように、爆ぜた。
「……こんな感じ?」
「ちょ、ちょっ。……ちょっと!」
 蒸気幽霊も、声を荒らげることはできるらしい。
「……ここで爆発させると思わなかった」
「あ、まずかった?」
「……火遊びするなら最初に言って……」
 肩を落とす先輩に向かって、オブシダンはへらりと笑う。
「いやいや、遊んでるわけじゃないよ」
「……ほんと?」
「ほんと」

 ――火遊び、もとい、コツを掴むための練習をいくつか重ねて。
 次が一応の本番だ。未精製の原石のなかでも比較的大きなものをいくつか集めて、それぞれに魔力を篭めておく。その場では爆発しないように、慎重に。
「これを投げて――」
 引き金になるほんの少しの魔力を加えれば、上空で炎の嵐が巻き起こる。
 一度拡がった炎はしだいに一箇所に収束し、流れ星のように尾をひいて夜空の彼方へ消えて行った。ウィザード・ミサイルの要領である。
「どう?」
「……実用できる、と思う」
「よし、じゃ、いくつか作っておこう」
 真の『本番』は、この爆弾を戦いの場で活かすときだ。

「僕の本体は剣なんだけど、自分で剣を振るのはあまり得意じゃなくてね」
 誰かに握ってもらうことこそが、オブシダン・ソードの喜びである。……だとしても、一人のときに全く魅せ場がないのはいただけない、と思わなくもなくて。
「こういう一発芸が欲しかったのさ」
「……芸ってあなた。ほんとに真面目に戦ってくれる?」
「もちろん、戦いは真剣だ」
 言い切ってみせるオブシダンの眼差しの色は――彼女には見えなかっただろうけど。
「そうだ、君の方はどうだったんだい? 先輩殿」
「……真面目に戦ってたわよ」
 深い溜息の真似をして。
「……この宝石たちを使って。……災魔たちとも、大魔王とも」
「勇ましいねえ」
「……勇ましかった」
 まるで、他人事のような言葉だった。
 声を荒らげたのが響いているのか、オブシダンに振り回された勢いか。蒸気幽霊は――その少女は、どことなく饒舌になっていて。
「……なんにもしない大人たちの代わりに、わたしたち、戦って死んだのよ」

 それは、『先輩』としては失言以外のなにものでもなくて。
 ――彼女が永い間、ずっと押し殺してきた本音であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リュカ・エンキアンサス
章お兄さん(f03255)と

え。だって、死ぬときは一人だろう?
一緒に死ぬとか意味が分からない
というかメリットがわからない
お兄さんは、わかる?

似てる…似てるかなあ
仲良し……
……(ものすごく悩んでいる
まあ、仲が悪い関係では、ないと思う
…はず

ものすごく悩みながらお兄さんと一緒に行く
本当だ、すごいね。
星にしては色鮮やかだけれど、こういう景色は嫌いじゃない
手に取れば面白げに手に取って
ああ。もちろん交渉事はお兄さんに任せた
俺は…そうだな。これで弾丸は作れるかな
お兄さんがああいったから、なんとなく
手先はね、旅のことと武器のことに関してだけは器用なんだ
お兄さんは?上手にでき…
お兄さん……
(悲しいものを見る目


鵜飼・章
★リュカさんf02586と

『死ぬ時は二人一緒』だって
リュカさんが絶対言わない台詞ランキング第一位だよ…
でもあの子達すこし僕らに似てる
仲良くなさそうできっとすごく仲良しなんだ

ここは星空か弾薬庫か
どちらにしろきみのための空みたいだね
手を伸ばせば、ほら
僕にも星の弾丸が掴めた

リュカさんの【コミュ力】には期待してないから僕が先輩に声をかける
チョーカさんなら明るく
ツリエさんなら優しく
先輩さん、僕魔法の昆虫針を作りたいんだ
できるかな?

あまり巧くは作れないだろうけど
ほら挑戦が大事だし
あれ、リュカさんは手先器用だっけ…
裏切り者…

一緒に死のう、って
多分この場合は『勝手に死ぬなよ』って意味だ
やっぱり僕ら似てるかもね



●やくそくのいみ
 グリモアが、予知を告げる。
 その囁きは、ときに未だ見ぬ誰かの心を言葉にしてみせる。

「――『死ぬ時は二人一緒』だって」
 おんなじ言葉を聞いたでしょう、と言うように、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は隣の友人に微笑みかけた。おんなじように解釈するとは限らないから、ひとはこうして確認をする。
「リュカさんが絶対言わない台詞ランキング第一位だよ……」
「え、だって、死ぬときは一人だろう? 一緒に死ぬとか意味が分からない」
 対する答えは直截だった。あまりに単刀直入で、しかし不思議と棘はなかった。
「というかメリットが分からない」
 そうしたいと思うような状況も、そうすることで得られる何かも、ただ純粋に思いつかない。――それでも、自分が生きてきた場所とは違う世界があると知ったから。リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は『わからない』を否定せず、立ち止まるように考えるのだ。
「お兄さんは、わかる?」
「どうだろうね」
 それはきっと、『わかる』の定義によるけれど。
「でもあの子達、すこし僕らに似てる」
「……俺と、章お兄さんに? 似てる……、似てるかなあ」
「うん、仲良くなさそうで、きっとすごく仲良しなんだ」
「仲良し……」
 こうしてよく顔を合わせるし、色々な場所を一緒に旅したりもする。普通に話しているだけで喧嘩と間違われることもあるけれど、お互いそんなつもりはない。それを、仲良しと呼ぶのだろうか。
「まあ、仲が悪い関係では、ないと思う」
 ……はず。
 だけど仲が良いからといって、一緒に死ぬのかと言われればそれは全く話が違う。双方認めての通り――リュカは絶対にそんな台詞は口にしない。
 ならば、試しに逆を想像してみることにする。つまり、章お兄さんが『一緒に死のう』と言ってくる光景を。
「…………」
 忘れることにする。

 やっぱり違う。何と何がどう似てるんだ――うんうんと悩むリュカと、自分が命題を投げたことさえ忘れていそうな顔の章を、転移の光が等しく包む。

「ここは星空か弾薬庫か――」
 迷宮の一番奥には、魔法という夢、戦争という現実が織り成す不思議な空間があった。どこまでも続くような藍色に、淡い色彩が散りばめられている。
「どちらにしろ、きみのための空みたいだね」
 語り掛けながら、星のひとつに手を伸ばす。……章の指先に触れたのは、その爪とよく似た光沢の、ちいさな黒い宝石だった。
「ほら、僕にも星の弾丸が掴めた」
「本当だ、すごいね」
 後を追うようにして、リュカもまた星へと触れた。届かないぐらい遠く見えたのに、文字通り手に取って眺めることができる。
 星だとしても、弾丸だとしても、少々色鮮やかにすぎるようにも思えるけれど――こういう景色は、嫌いじゃなかった。
 手のひらの上の青色と、満天の星空を、面白げに見比べる。

「あ、先輩だ」
 ……蒸気幽霊の姿を先に見つけたのは章のほうだった。桃色の髪の、十歳ほどの女の子だ。確か、明るくて、おてんばで、――『死ぬ時は二人一緒』の約束を破ったほうのチョーカさんだ。
 論理的に推測してみれば、こちらの彼女でまだ良かったような気がする。約束にこだわっているほうの先輩に、さっきみたいなやりとりを聞かれたら……たぶん、目も当てられないことになるのだろうし。
 何にせよリュカさんのコミュ力には期待できないな、と判断して、挨拶と交渉は章の担当だ。つとめて明るく話しかける。
「先輩さん」
「なあに?」
「僕、魔法の昆虫針を作りたいんだ」
「こんちゅうばり」
「できるかな?」
「な、なんに使うの? 魔法の昆虫針」
「昆虫とかそれ以外を、標本っぽくするのに使うかな……」
「んーっと、針に宝石つけたらいいんじゃないかな!」
 微妙に雑なアドバイスが返ってきたが、有難く拝聴しておくとする。
「俺は……そうだな。これで弾丸は作れるかな」
 そんな会話の間に入るように、リュカも自分の希望を伝えてみる。
 ……火薬と一緒に宝石を詰めた、魔法の弾丸が欲しい。最初からそう考えていたわけじゃないけれど、章の口にした『星の弾丸』という言葉が、なんとなく、心に引っかかっていたから。
「弾丸に宝石ね! それならわかるわ。大粒のやつを使うなら、よっぽどの強敵相手じゃないともったいないけど――そうだ!」
 楽しそうに話す途中で、チョーカはふとその顔を輝かせる。とっておきのアイデアを思い付いた、というように。
 リュカに向かって、星のような笑顔で。
「せっかくなら、大魔王の脳天に撃ち込んでよ!」
「……それは、」
 数秒、言葉を選ぶ。
「覚えておく。……約束はできないけど」
「そうだね。戦争じゃ、何があるかわからないから」
 ――約束なんて、守れるとは限らない。

 先輩のアドバイスを一通り聞いて、ふたりはマジックアイテムの制作にいそしむことにした。
 章はとりあえず言われた通り、針に宝石を貼りつけてみている。それ以上でも以下でもない。あまり巧くは作れないだろうけど、ほら、挑戦が大事だし。
 一方、リュカのほうは黙々と『星の弾丸』を組み立てている。空洞にちょうどいい宝石を入れて、液体火薬を適量注ぐ。洗練された、慣れた手つきだ。
「あれ、リュカさんは手先器用だっけ……」
「手先はね、旅のことと、武器のことに関してだけは器用なんだ」
「裏切り者……」
「お兄さんは? 上手にでき……」
 ……昆虫針にがたがた並んだ黒い石は、星というよりブラックホールを思わせる。
「お兄さん……」
 悲しいものを見てしまったので、リュカはほんの少し息を吐いて、――話題を切り替えることにした。
「なんだか、」
 あの女の子のあまりに澄んだ笑顔を見ると。言葉を聞くと。
「……俺の思ってた『一緒に死ぬ』と、違うような気がする」
「そう」
 答える章は、手元に視線を落としたまま。
「一緒に死のう、って、多分、この場合は『勝手に死ぬなよ』って意味だ」
 ……それならきみも口にしそうな台詞だし、いかにも僕が守らなそうな約束だ。
「やっぱり僕ら、似てるかもね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

深鳥・そと


すごいー!キラキラ!きれい!!
よーし!ストラップ作るぞー!(ふんす

作り方はわかんないから聞くとして
どんなのにしようかなー
スマホ割れちゃったら嫌だし頑丈にしてくれるのがいいよね
えへへー、わたしも頑丈になるかな?
見た目は絶対かわいくする!
何色にしようかな~デザインどうしようかな~

そうだ、お揃い!次会うときに渡そう!
だったら夕焼け色だよね
疲れとってくれるのとか願い叶えてくれるのとか
楽しいことたくさん起きるのとか……悩む~~!

4つもあるしそろそろ作り始めないとヤバいかな?
決まってないところは作りながら考えよう
がんばるぞー!

家族みたいな仲間を思い浮かべわくわくしながら
手が空いてそうな幽霊に声をかける



●きずつかないで
 それが星空だろうと、宝石だろうと。本物だって偽物だって関係ない。
「すごいー! キラキラ! きれい!!」
 深鳥・そと(わたし界の王様・f03279)の感想はシンプルだった。ちいさな身体いっぱいに両手を拡げて、くるくる回ってカラフルな光を受け止める。
 世界には素敵なものがたくさんあるけれど、今日の景色は――なにより『取り放題』というところがたまらない。手を伸ばせば自分のものになるだなんて最高。いつだって、欲しいものは欲しいんだから。
 さあ、何を作って持って帰ろうか。キラキラにするならやっぱり定番はスマホだけど、あれはもうデコり尽くしてしまったから――ううん、もう一押し、飾る方法がひとつある。
「よーし! ストラップ作るぞー!」
 ふんす、と、可愛らしい鼻息をひとつ。本日の目標を定めたそとは、まずは素材を探しに出かけるのだった。

 作り方は考えたってわからない。あとで『先輩』たちに聞けばいいとして。
「どんなのにしようかなー」
 デコレーションの基本は、最初にテーマと主役を決めること。宝石の色や大きさは後から色々試してみるとして、今回はマジックアイテムを作るのだ。スマホに魔法をかけるとしたら、どんな魔法がいいだろう?
 ロックを解除。
 なめらかな画面を指でなぞって、わくわくしながら考えてみる。
「スマホ割れちゃったら嫌だし、頑丈にしてくれるのがいいよね」
 冒険にも、戦いにも、安心して持っていけるようにしたい。いろんなものを写真に撮って、すぐにみんなに見せてあげたい。
 それでもちろん、見た目は絶対かわいくするのだ。
「何色にしようかな~、デザインどうしようかな~」
 そとの瞳に、夜空のなかでも一番明るい、スマホ画面の光が流れていく。――いつもの仲間たちのアカウントが並んだ、SNSの画面だった。
「そうだ、お揃い!」
 名案だ。この世のどんな可愛さも、仲良しの誰かと同じ、という嬉しさには敵わない。
「次会う時に渡そう! だったら夕焼け色だよね」
 思い立ったらすぐ行動。みんなを繋ぐSNSの名前と同じ、きれいな橙色の星を拾って集めていく。どの石を使えばスマホが頑丈になるかはわからないけれど、たくさん集めればたぶん大丈夫。それに、いろんな効果のストラップを作って、好きなものを選べるようにしても面白いかも。
「疲れとってくれるのとか、願い叶えてくれるのとか、楽しいことたくさん起きるのとか……悩む~~!」
 そとの両手とポケットは、あっという間にいっぱいになった。

 自分のぶんと、友達のぶん。
「四つもあるし、そろそろ作り始めないとヤバいかな?」
 まだまだ決まっていないところだらけだけど、そこは作りながら考えよう。
「がんばるぞー!」
 家族みたいな仲間たちの喜ぶ顔を思い浮かべて、蒸気幽霊の『先輩』を探す。作り方を教えてくれるならどっちだっていいけど、手が空いてそうなほうに声をかけよう、と、あたりを見渡すと。
「……手伝い、必要?」
 そとより少しお姉さんの、水色の幽霊がそこにいた。
 手が空いているというよりも――ずっと近くで、そとのことを見守っていたようで。
「先輩さん! わたし、魔法のスマホを作るんだ!」
「……通信機ね? 割れないように、したいのよね」
「そうそう! この石で大丈夫?」
「……これと、これ。防御の加護があるわ」
 集めた橙色の石の中から、大粒のものをいくつか選んでもらう。これだけ大きい宝石なら、穴を開けるより、マクラメ風に編みこむのが可愛いかもしれない。――夢を膨らませながら、そとは夕焼け色の宝石を透かし見る。
「えへへー、わたしも頑丈になるかな?」
「……あなたみたいな小さい子が戦うんだもの。怪我しないように、とびきりの防御の石を選びましょ」
「えー? わたし、これでも強いよ! 大魔王だってやっつけちゃうよ」
「……そうね、そうだったわね」
 先輩は優しい顔で、だけど、ちょっとさみしそうに頷いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

イリーツァ・ウーツェ

魔力を帯びた石か
一つ取って食べてみる
牙も腑も頑丈だ、石も鋼も食える
腹で溶かせば、魔力濃度も判ぜよう

ああ、貴方が幽霊
魂だけで生きている人間ですか
此方の、濃度の高い石で
魔力電池に為る、装飾品を作成したい
御力添えを願います
何分、然う云ったセンス等は持たぬ物で
言って下されば、精密に組みます
手加減等は得意です

渡す相手、ですか?
王族の女性(杖中の姫)です
腐れ縁(瀕死にして武器に封じた縁)でして
仕事を(武器として)手伝ってくれるので
礼(=報酬)代りに



●しんだひなどり
 ――其れが、星空のようだと人は云う。
 目で視た光が、色の並びが、どうにも類似しているのだと。しかしてイリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)が認識するのは、あくまで地の底の現実だった。
「魔力を帯びた石か」
 天の星ではない。これに宿っているのは地脈の力だ。その位は視るだけで判ぜよう。
 それ以上を識ろうとするならば――無骨な指を伸ばして触れる。肌で足らねば、そのまま口に放り込む。本物の星ならいざ知らず――地上の物質ならば石も鋼も食える。宝石は、悍き竜の牙で易く砕けた。
 腑に落とし、腹で溶かせば、魔力濃度も推し量ることができる。――濃く、密だ。これだけの力ある鉱石を地から掘り起こし、ひとところに集めたのなら――こうも空間が歪むのも、至極当然の結果だろう。
 これは歪みだ。
 星空ではない。

「――た、食べたの!? 今!?」
 高い、囀るような声がした。
 見やれば、薄紅色の気配をまとった揺れる影がイリーツァを見ている。元から円い瞳をさらに円くして、口元を小さな手で押さえて。
「宝石を食べるひとは初めて見たわ!」
「ああ、貴方が幽霊――魂だけで生きている人間ですか」
 依頼へと出発する前に説明は受けている。雛のような姿であっても、人間が祀る戦士の霊だ。作法に則り、失礼のないよう接するべきだと聞かされている。
「イリーツァ・ウーツェと申します。まずはお名前をお伺いしたい」
「チョーカ・レザルタよ」
「レザルタ殿。此方の、濃度の高い石で。魔力電池に為る、装飾品を作成したい」
「チョーカでいいんだけど。えっ、じゃあなんで食べたの?」
「力を判ずるためにですが」
「食べたらもう使えないじゃない!」
「――其れは確かに」
 真面目な顔で頷いて。
「御心配なく、糧には為りますので」
「大丈夫かなこの人!」
「是非。――御力添えを願います」
 噛み合うような合わないような会話をしつつ、イリーツァは静かに一礼をした。

 まずは、素材となる宝石の候補を集めることとする。いくつか食べて特徴を掴めば、そこから濃度の高い石を選んでいくのは容易だった。それでも先輩殿は横で『食べちゃだめだからね!』と繰り返し訴えていたが。
 イリーツァにとって真に問題となるのは、これを『装飾』に仕立てる段階である。色、形、その意味合いについては、竜の本能ではなく人間の理性を頼みにするほかない。
「何分、然う云ったセンス等は持たぬ物で。――言って下されば、精密に組みます」
「ほんとに? 食べない?」
「手加減等は得意です」
「大丈夫かなあ」
 首を傾げつつも、チョーカは真剣な顔で石を見定める。……彼女の側も、どうにも決め手がないような顔をして。
「正直どれも強い石だし、自分用なら適当につけちゃっていいと思うんだけど。――もしかして、誰かに渡すの?」
「…………」
 自らの武器に備え付け、魔力を注ぐためのものではあるが――、考えようによっては、そうも云えるか。何せ、この竜宮の海杖の中には『姫』が居る。
「はい。王族の女性です」
「やっぱり!」
 殺すのではなく瀕死に留め、魂を杖に封じたのだ。その力を引き出す術理は、猟兵という仕事に欠かせないものとなっている。つまり。
「腐れ縁でして。仕事を手伝ってくれるので」
「そっ、そういう!?」
 血で代償を支払うのが常ではあるが、其れを宝石で代えようと考えたのは――人間の価値観で言えば『贈り物』に相当するだろうか。するかもしれない。
「礼代りに、と思いまして」
「そっか!」
 彼女はなぜか狼狽えだした。並べられた宝石を、先までとは何処か違う輝きの瞳で見比べて。
「ど、どーしよ、あたしそーゆーの詳しくないんだ、子供だったし!? んーっと、んーっと、多分ピンクだと思う! それならピンクよ!」
「成程」
 理屈と過程は全く伝わって来なかったが、言われた通りの桃色の水晶を選び取る。
「やっぱり指輪かな!」
「ああ、それは良いですね」
 杖に直接装飾を施すより、杖を扱う右手の指に宝石を置くのは良い案に思えた。いざという時、他の用途に使うこともできよう。
「指輪用の金具、見つけてくるね!」
 やけに声を弾ませて、辺りを探り始める小さな背中を見て――イリーツァは今一度思考した。グリモア猟兵の言葉を疑うわけではないが、自分の眼で、視えた通りの判断をする必要を感じた。

 これは、戦士の英霊か。
 それともやはり、雛なのか。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『星巡りの夜道』

POW   :    星明かりの導きに誘われて、まっすぐに歩む。

SPD   :    星の瞬きを見落とさぬように、前を見据えて歩む。

WIZ   :    星の位置を確かめて、行く先を定めて歩む。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●おもいでと、おもいで
 ――その夜、わたしは熱を出して寝込んでいた。
 災魔の毒にでもやられたのか、それとも疲れが限界だったのか。体じゅうが熱かったから、夏だったんだか冬だったんだかもよく覚えてない。そんなこともわかんなくなるくらい、毎日毎日、ずっとずっと戦っていた。
 このまま死ねたら、戦って殺されるより痛くはないのかもしれない。
 だけど、だめだ。死ぬ時は二人一緒なんだ。ぐちゃぐちゃの心のなかで、その約束をひたすらに自分に言い聞かせていると――ふと、冷たい風を感じて。
「……チョーカ?」
「あ、起こしちゃった」
「……どこ、いくの」
「ちょっとだけ見回り! すぐ戻るわ。ツリエは寝てなさいね!」
 テントの幕をひょいと上げて、あの子は軽い足取りで夜の外へと消えていく。ちいさく、歌が聴こえた。いつも口ずさんでいるお気に入りの歌だ。
『かの大魔王の首を堕としてー♪』
 その血で大地を染め上げよ。

 それが最後だ。
 鼻歌混じりに嘘をついて、約束を破りに出て行って――。

「……あの子は、帰ってこなかった」
 ツリエの遠い記憶の幻を、彼女と行動を共にしている全員が『見た』。そして夜空に、テントを模した星座がひとつ浮かび上がる。
「……わたしと同じようにやって。なにか記憶を思い浮かべて、この星空を見上げるの。……『星座』が見つかれば、今みたいに、記憶と星座が繋がる」
 自分自身の意識と、この歪んだ空間を、こうして魔術的に繋ぐことで――災魔たちの眠る場所への道が開かれるのだという。
「……なんでもいいわ。遠い昔の辛いことでも、最近あった楽しいことでも。だけど、……今みたいに、まわりのみんなに見えてしまうから。それだけ気を付けてね」

 逆に言えば。
 ――ツリエは、自らの意思で、先の記憶を猟兵たちに見せたのだ。

「……わかってる。戦争、だったんだもの。約束だって、ほんとはわたしが無理を言っただけ。……いつだって、チョーカのほうが正しかった」
 だけど、そうと認めてしまったら。
 それを謝ってしまったら。
「……あの子が死んだのも、正しかったのかな」

●星巡りの夜道
 同じ記憶を、行動を共にする猟兵たちに見せて。
 記憶と星座の魔法について、だいたい似たような説明をして。

「真夜中の急襲でさあ。ほんとのこと言ったら、ツリエのやつ、絶対外に出てきちゃったんだもん!」
 チョーカは、あっけらかんと振り向いた。
「あの熱じゃどーせ何もできないし! ――死ぬのが一人から二人になっただけよ」
 つまり簡単な算数の問題なのだと、幼い少女のすがたをした何かは星のようにわらう。あんなに根に持ってるなんて、変なやつよねえ、なんて毒を織り交ぜて。
「さ、気をひきしめていきましょ! あなたたちも、算数できないと戦争に負けるわよ!」
境・花世
自分が戦うのが合理的だったから、
犠牲を最小限に世界をすくってくれたの
先輩、そんなのかっこよすぎるよ

浮かぶ情景は宇宙をゆく船の上、
ほんとうの星咲くうつくしい夜のこと
一緒に見上げた天を、いちばんにしてほしかった
けれど願いに返された答えはわたしのためでしかなく
やさしくてきれいで――星よりも遠いひと

いつもそうやって誰かのために捧げてしまう、
清廉なたましいをいとおしく想うよ
先輩の決断はきっときっと正しかったんだ
たくさんの誰かを生かしたんだ

……だけど、わたしはわるいいきものだから

誰かより自分よりきみが大事なんだって、
自分勝手な怒りをどうしたって消せやしない
ごめんね、とささやく声は、遠いたったひとりのために



●すぎたるは
 自分が戦うのが合理的だったから。
 簡単な算数の問題の、それだけが答えだったから。
 誰より小さいそのからだ、ひとつ限りを犠牲にして――きみは世界をすくってくれたの。
「先輩、」
 夜空に、色とりどりの星をあつめて、えらんで。
「そんなのかっこよすぎるよ」
 境・花世(はなひとや・f11024)の笑みは、ほんの少し苦かった。

 浮かぶ情景は、ここではない世界で過ごした夏だ。
 小さな光を散りばめた暗い海を、この夢によく似た宇宙をゆく船の上。宝石ではないほんとうの星に、花火が添い咲くうつくしい夜のこと。
 ――いっしょが、いい。
 いつだってそうと願えば叶えてくれて、きみは隣で微笑っている。あの夜だってそうしてくれた。それだけで満ち足りていられたら、わたしは所謂かわいい女だったのかもしれないな。
 けれど。
 きみから返される答えはいつもわたしのためのものでしかない。そうするのが善い、というだけで傍に居てくれるように思えてしまう。もしも算数の問題が変わって、離れるのが善いことになったら、きみはそうしてしまうのだろうか。だとしたらそれは、倖せと呼ぶにはあんまりに儚い不安だった。
 やさしくて、きれいで、――星よりも遠いひと。
 だけどわたしは、やさしいも、ただしいも抜きで、きみから何かを望んでほしかった。わがままでも、よくばりでも、一緒に見上げた天を、いちばんにしてほしかった。

「きれいね!」
 ちいさな先輩はその澄んだ瞳に星を映して、夢見るように指を組む。
「そうだね」
 幻が描き出したのは、ときおり花火の咲く星空と、その下で幸せそうに笑い合うわたしたちの姿だけ。……この胸に沈めた澱までは、伝わりや、しない。
 約束をしてあげるのが善いと思ったから約束をして、破るのが善いと思ったから破ってみせた。戦うのが善くて、死ぬのが善かった。そんなきみの見る景色のほうが、きっと濁りなくうつくしいんだろう。
 いつもそうやって誰かのために捧げてしまう――世界にはそういうひとが多すぎる。その清廉なたましいを、いとおしく思うのはほんとだよ。
 先輩の決断は、きっときっと正しかったんだ。
 もう一人の先輩だけじゃなくて、彼女がそのあと生きて救った、たくさんの誰かをも生かしたんだ。

 ……だけど、わたしはわるいいきものだから。
 誰かより自分よりきみが大事なんだって、きみにきみを大事にしてほしいんだって――自分勝手な怒りを、どうしたって消せやしない。消えないけれど、伝わらない。宙ぶらりんで笑っておく。
「ごめんね」
 きみにそう謝りたいのは、わたしじゃない誰かのはずだから。ささやく声は、――遠いたったひとりのために。
 夜空に輝く星座は、片翼の鳥のかたちをしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

イリーツァ・ウーツェ
同行:チョーカ・レザルタ(継続)

記憶か
何れを見せても、構いはしない
だが、殺害記録は止めておこう
行動は戦士だが、情操は雛の様子だ

(深く澄み渡った海中。)
(巨大な蒼鱗の東洋龍が、目の前で揺蕩う。)
(荘厳な威風。穏やかな赤の双眸。)
(“青”の龍。竜の師、其の片割れ。)
『規律こそが、力に道理を与えます。』
『律しなさい、“  ”。生きる限り』
『そうすれば――貴方は、存在を許される』
(歌声に似る、蒼龍の言葉。)
(――繰り返された教訓。)

規律は絶対、約定は絶対
“彼女”は、私に然う教えた
死と言うが、肉体を失うだけの事
永い不仲を招くよりは、良い気もするが
其れは、私だけの思考
私は、彼女に意見しない
何も



●いのちよりおもく
 ――記憶か。
 何れを見せても、構いはしない。イリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)の重ねた全ての歳月は、その身、その鱗に刻まれているものと彼は心得ている。人の姿を取ったとしてもその本質は変わらない。常に隠さず歩いているものを、多少見えやすい形にするだけのこと。
 しかしこの『蒸気幽霊』の同行者がいる以上、殺害に類する記録は止めておいたほうが良いだろう。幻で見せた行動も、魂のみの姿で語る信条も、勇敢な戦士そのものだが――情操は雛の様子だ。
 それを歪だと断じはしない。
 この『学園』と称する世界は、『そういうもの』を生み出す摂理で動いているのだ。イリーツァはそう理解する。
 独白を声には乗せず。
 竜の眼は、七つの星の連なりを視た。

 それは、星空に幽かな光を満たしたような、深く澄み渡った海中の青。
 水面は遥か頭上で揺れている。波と呼べる程の流れは此処にはない。ただ、水行の持つ神秘すべてを映し込んだような蒼鱗が――巨大な東洋龍が、目の前で揺蕩っていた。
『規律こそが、力に道理を与えます』
 声には荘厳な威風があり、此方を見つめる赤の双眸は――しかし親めいて穏やかだ。血にも炎にも類さない、喩えるならば珊瑚の赤。
『律しなさい、“  ”。生きる限り』
 ――今とは異なる名が呼ばれる。
 竜としての己が、かつての師である者達と過ごした頃の幻だった。其の片割れ、『青』の龍より授けられた、これは忘れえぬ教えの記憶。
『そうすれば――貴方は、存在を許される』
 では、許されなければ如何なるか。
 皆まで云って聞かせはしない。ただ歌声に似て、蒼龍は言葉を告げて法とする。――己の裡で、外で、繰り返された教訓だ。

「約束をしたのでしょう。彼女と」
「それは、だって」
 深い海の幻を、雛の心は上手く噛み砕けない様子だった。戸惑うように視線を迷わせ、上目遣いに此方を見上げる。
「あの子、どーしてもって言うし。約束するって言わなきゃ泣き止まなかったし!」
「――そうですか」
 規律は絶対、約定は絶対。“彼女”は、私に然う教えた。如何な経緯が在ろうとも、放った言葉を違えてはならぬ、と。
 ……その重みを知らぬこの魂は、やはり雛だとイリーツァは思う。
 死と言うが、所詮肉体を失うだけの事。一つの命も二つの命も、永い不仲を招くことに比べれば羽根のように軽い気もするが――其れは、自分だけの思考だろう。

 ――故に、私は、彼女に意見しない。
 雛はいつか羽搏いて、己の重さを識るものだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮入・マイ
かの大魔王の首を堕としてー♪

…なになに星座を見つけるっスか、それならマイちゃん前にやったことがあるっス!
ピンクに輝く星を見つけてマイちゃん座をここにも…

(船が見える、星の海へと漕ぎ出す小さな宇宙船の星座が。沢山の人が笑って、マイもはしゃいで、遊んで、戦って。ただそれだけの記憶)

…マイちゃん、昔は別の旅団にいたんっスよね。
色んな人がいて、みんなで遊んだり依頼に行ったり。
(手を伸ばしても)
なーんで降りちゃったんっスかなー。
(空を切るだけ)
ま、今が楽しくないってわけじゃないっスけどね!
お友達もできたっスし。

…その血で大地を染め上げよー♪
いい歌っスねこれ!
マイちゃん気に入っちゃったっス!

きゃっきゃ。



●ころがるいし
「かの大魔王の首を堕としてー♪」
 それは抜けるように明るいメロディで、宮入・マイ(奇妙なり宮入マイ・f20801)の声と心に不思議と馴染んだ。彼女の身体が奏でる歌は、蟲という蟲を総動員した一糸乱れぬ大合唱。ささやかに、偽物の夜空に消えていく。
「ほら、ほら、あなたも星座を探すのよ!」
「……なになに星座を見つけるっスか」
 蒸気幽霊ちゃん先輩……こと、チョーカの一言で我に返る。難しそうな説明は半分も聞いていなかったけど、星座探しなら前にもやったことがある。同じ要領でちょちょいのちょいだ。
「ピンクの星を見つけてマイちゃん座をここにも……」
 総大将の星がひとつ、夜空にぽつりと浮いていた。
 ぼんやりとした星雲に包まれた、ひとりぼっちの星だった。滲んだように輪郭が崩れて、他のどの星とも似ていない。
 記憶と繋がる――そう意識するより先に、マイは星雲を囲む四つの星が結ばれるのを見た。台形をひっくり返したような形が、何かに似ている。
 あれは、船だ。

 海水は苦手だけど、もっと広くてずっと深いあの海のことは好きだった。
 忘れたようで忘れていない。星の海へと漕ぎ出す、小さな宇宙船のこと。

 ……小さいったって、それはあくまで他の巨大宇宙戦艦と比べての話。沢山の人が乗っていて、いくつもの遊び場があって。どんな生き物も分け隔てなく笑っていて、マイもその中ではしゃいでいる。
 思いつきを持ち寄って、昼も夜もないくらいに遊んで。
 待ち合わせをして、打ち合わせもして、色んな場所に戦いに行く。
 ただそれだけの、狂騒の記憶だ。

 手を伸ばしても。
「――なーんで降りちゃったんっスかな」
 空を切るだけ。

「これが、あなたの思い出?」
「そ、楽しかった思い出っスよ」
 昔、今とは別の旅団にいたときの記憶だ。あんなに楽しかったのに、面白ければそれでいいって思っていたのに、――今だってそう思っているのに。
「でも、降りちゃったっス」
「何か、やなことあったの?」
 マイは珍しく黙り込んで、ゆっくり首を横に振る。ただ雪玉を転がすように『楽しい』が膨らんで、膨らんで、ある日なんとなく、立ち止まってしまった。
「ただ、そんな時があるっスよ」
「ふうん」
「ま、今が楽しくないってわけじゃないっスけどね!」
 路地裏で話し込んだり、のんびりと店番をしたり。新しいお友達だっていっぱいできた。いつかまた立ち止まる日が来たって、思い出はまた、マイちゃん座にすればいい。

「その血で大地を染め上げよー♪」
 途中だった歌を、最後まで終えて。
「いい歌っスねこれ!」
「でしょう? 正義の歌よ!」
「マイちゃん気に入っちゃったっス!」
 正義ってなんなのかは、正直よくわからないけれど。
 たのしいと、ただしいは、どこか似ている。楽しいだけじゃ疲れてしまうときもあるように、正しいだけじゃ疲れてしまうときもある。
 先輩たちも、きっと同じで――。

成功 🔵​🔵​🔴​

リュカ・エンキアンサス
章お兄さん(f03255)と

正しい死とか間違ってる死とかあるんだろうか
俺には、理解できないけれど
本人がそれでいいと思うならいいんじゃない
俺はね、余計なお節介はしないんだ
匙加減を間違うと、自分が刺される羽目になるからね

で、えーっと、記憶だっけ
残念ながら俺にも見せられる記憶なんてない
ああ……
これは、夏の頃の大人げない章お兄さん
これは、春の頃のしょうもない章お兄さん
これは、カブトムシを見て変態の顔をしている章お兄さん
お見せできるレベルの失敗なら、いくつか在庫があるよ
お兄さんが覚えてなくても、俺が覚えてるから大丈夫
(悪気は全くない

再放送?いいけど
お兄さんってやっぱり変わってるな
これでも友達なんだよな


鵜飼・章
リュカさんと

もし同じ状況ならきっと僕も
リュカさんに嘘をついて勝手に死ぬ
でも嫌々だ
楽しくない事で死ぬとつまらないよ

チョーカさんは物分かりがよすぎる
『わからないひと』を知れるといいけど…僕はやらかす側だし
お見せできるレベルの失敗は全て忘れる…
面白動画位しか見せられないよ

クライングジェネシスをカブトムシがボコボコにするシーンとか
これ異世界の大魔王だよ
未来あるきみがこんなものの為に死ぬのは…変だよね

さてリュカさんの記憶は…

えっ?
何この珍プレー好プレー集
ああ…沢山遊んだね
でも僕はいつも真剣に人間してるし
カブトムシかっこいいでしょ
僕の記憶再放送してよ

これが『わからないひと』だよ…
でも友達なんだよなあ
溜息




「――正しい死とか、間違ってる死とかあるんだろうか」
 リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)の知る戦場は、いつだって死に満ちていた。それを見ている自分自身が生きていることだけが確かだった。生と死で、これ以上なくはっきりと世界はふたつに割れていた。その片方を取り沙汰して、わざわざもう半分にしようだなんて思わない。
 ……俺には、理解できないけれど。
 誰もが同じような人間ではないことなら判る。自分なら絶対に進まない道を、望んで進む人たちがいることも。
 ――ひとりで死ぬことを選んだ時、幻の中の彼女は笑っていた。
「本人がそれでいいと思うならいいんじゃない」
「そうなってしまうね」
 どこかで聞いたような響きの言葉に、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は首肯する。無難な答えと、鋭い真実は、実のところ紙一重だ。だから時々読み間違えてしまうけど――彼の思考がどちらなのかはよく知っている。
「俺はね、余計なお節介はしないんだ」
 そもそもここに来た目的は、魔法の宝石を集めて、オブリビオンを倒すこと。それだけの依頼だと説明も受けた。行間なんて、飛ばしてもいい。
「匙加減を間違うと、自分が刺される羽目になるからね」
「参考にしよう……」
「何の」
「刺されない参考」
 軽口のようなものを叩きながら、章は無難な答えを探す。
 ――もし同じ状況なら、きっと僕も、リュカさんに嘘をついて勝手に死ぬ。
 たぶんその死は正しくなくて、でも間違いにもならなくて、淡々と僕のいない明日が来るだけだ。
 そんなのはきっと楽しくない。つまり、嫌々仕方なく、だ。……少なくとも、彼女みたいに歌なんて歌う気分にはなれないだろう。音楽の神様は僕が嫌いみたいだし。
「まあ、楽しくない事で死ぬとつまらないよ」
 楽しく死ねるあてがある訳でもないけれど。やっぱり、これじゃ――『本人』が『それでいい』とは思えてないや。

「で、えーっと、記憶だっけ」
「そ!」
「うわ」
 チョーカがいきなり覗き込んできたので、リュカは一歩を後ずさる。対話はできれば章お兄さんに任せておきたいところ。
「なんの話か知らないけど、ちゃちゃっと星座をつなげちゃって! 見られていい記憶ならなんでもいいし、」
 幻と、同じ笑顔で。
「もう死んでるあたしに見られたって、気にすることないわ!」

 ――このひとは物分かりがよすぎる、と章は思う。
 彼女の生まれた時代のせいか、大魔王との戦争のせいか。そう考えるのは簡単だけど――どんな世界に生まれても、彼女は死ねと言われたら死んでしまう人間にしかならない気もした。生きていた頃から、幽霊みたいにぽっかり浮いていたんじゃないか。
 ……『わからないひと』を知れるといいけど、僕だって彼女と同じ、約束を破る側の人間だ。
「お見せできるレベルの失敗は全てすべて忘れるし……。面白動画位しか見せられないよ」
「残念ながら、俺にも見せられる記憶なんてない」
「じゃあ仕方ない、僕からだ」
 でたらめに星を繋げたからか、でたらめな記憶が流れ出す。

「あ、クライングジェネシスだ」
 思えばあれも戦争だったか。大して格好よくもない巨体が、まるで中身のないことを喚いて、観光地で迷惑行為を働いているワンシーンである。
「これ異世界の大魔王だよ」
「泣いてるけど!?」
「今からこれをカブトムシでボコボコにします」
「カブトムシで!?」
 これは一応ウケを取れているんだろうか。虚無の表情になりつつも、とりあえず説得を試みる。
「未来あるきみがこんなものの為に死ぬのは……変だよね」
「いや何もかも変だけど! で、でも、大魔王なんだから戦わなくちゃ!」
「駄目か」
 せめて星座がカブトムシの形になってくれることを期待したけれど。……出来上がった謎の図形がいったい何の比喩なのか、章自身にもわからなかった。あえて言うなら、あれだ。メトロノームに似ていなくもない。ほんとうにひどい。
「さてリュカさんの記憶は……」
 この最新の失敗もさっさと忘れてしまおう。ほんのそのくらいの気持ちで、章はリュカへと視線をやった。
 ……仕方ないものを見る、いつもの目で、彼はこちらを見上げていて。
「ああ……」
 言葉も返事もそこそこに、リュカは星へと手を伸ばす。

「これは、夏の頃の大人げない章お兄さん」
 夜空に描き出されたのは、取り留めもない記憶だった。
「えっ?」
「これは、春の頃のしょうもない章お兄さん」
 ほとんど忘れかけてしまって、いつかは色を失くしてしまう、なんでもない日々の光景だった。
「何この珍プレー好プレー集」
「これは、カブトムシを見て変態の顔をしている章お兄さん」
「悪気の全くない顔で言うよね……」
「お見せできるレベルの失敗なら、いくつか在庫があるよ。――お兄さんが覚えてなくても」
 たとえ、約束を破っても。
「俺が覚えてるから、大丈夫」
「――ふふ」
 なんだか、とても上手に笑えた。
「ああ……沢山遊んだね」
「章お兄さんが遊んでないのを見たことない」
「でも僕はいつも真剣に人間してるし、――カブトムシかっこいいでしょ」
 夜空に新しく浮かんだ星座は、ちゃんとカブトムシの形をしていた。

「ねえ、僕の記憶再放送してよ」
「いいけど。お兄さんってやっぱり変わってるな」
 わからないひとても、変な子でも、友達なんだよなあ――なんて、ふたりは一緒に溜息を吐く。
「チョーカさんも、思い出してみて」
「思い出すって、」
「きみが約束を破ったのを、ずっと覚えていてくれる人のこと」
 違うままでも一緒に居られた思い出が、きみたちにだってある筈だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

多々良・円
星と星を結ぶことで何かが見えてくるということじゃな。
わしには何が見えるかのう。

そうじゃな……この姿を得てから、何故か思い出せるようになった、朧げな夢。
器物の頃の、昔話じゃ。

この神社では、鈴を鳴らす代わりにわしをくるくると回し音を奏で、神様に祈る。
神様は天候を司っておられるから、村人がそれを祈る事が多かったが、たまに遠方からの客人や旅人なんかも訪れたのじゃ。

……文字通り手も足も出なかったわしは、多くの者たちを見送ってきた。
お転婆の楓も、流浪の剣士も、我が父上も。
皆の手の温もりも祈りも忘れはしない。
……チョーカのことも、確かに感じたぞ。

……心あるのなら、言葉あるのなら、それを紡いでみてはどうじゃ。



●いまはむかし
 星を頼りに歩くのは、いかにも旅という心地がするけれど。
「――気の向くままに選んだ星で良いのじゃろうか」
「そうじゃなきゃダメ! 星、っていうか宝石の魔力を、自分の心と繋げるの」
 多々良・円(くるくる、くるり・f09214)の素朴な問いに、チョーカは改めて説明をする。両手をひろげて、この不可思議な空間全体を指し示す。
「眠りネズミはね、夢の中にいるの。寝てるって意味じゃなくて、ほんとの夢の中! あの子たちと同じところに行くには、無意識のレベルで星空と繋がる必要があるわ」
「ふむ。――星と星を結ぶことで何かが見えてくるということじゃな」
 ところどころ知らない言葉はあるものの、円の理解は早く、的確だ。儀式祭事の類については、それこそ肌で道理がわかる。
「さて、わしには何が見えるかのう」
 記憶はなんでもよいとは言うが――どうせなら、心の奥深く。彼女が見せた散り際の覚悟に見合うくらいのものがいい。
「そうじゃな……」
 童子としての姿を得てから、何故か思い出せるようになった、朧げな夢。器物の頃の――。
「――昔話じゃ」

 映し出される幻は、夏の淡い青空だ。
 村の風景は長閑だけれど、少々、土が渇いている。村人がひとり鳥居をくぐり、空っぽの手水舎で指を清める仕草だけして、氏神の前に進み出る。
 この神社には変わった習わしがあった。鈴を鳴らす代わりに朱色の傘をくるくると回し、軒の飾りで音を奏でて神を呼ぶ。そのために下町の職人が仕立て、奉納した一張が――かつての、円の姿である。
 ……雨を。
 そう望まれることが多かった。此処の神様は天候を司っておられるから、その地に根差す村人たちが自然と足を運ぶことになる。
 ――しかし、時折、遠方からの客人や旅人なんかが訪れるときもあって。
 古来より、外より来るものには不思議な力があるという。そういうときは村人が頼んで、彼らに祈ってもらうのが常だった。

「……懐かしいのう」
 こうしてあらためて眺めてみると、なんとも不思議な気分である。――あの時の円は目も耳もなく、文字通り手も足も出なかった。けれど、この光景は、確かに自分が視たものだ。
 お転婆の楓に、壊れるくらいに振り回されて、大人たちが大慌てしていたこと。
 いかにも無骨な流浪の剣士が、案外おっかなびっくり丁寧に触れてくれたこと。
 ……ことあるごとに、繕ってくれた『父上』のこと。
 彼らそれぞれの行く末を、すべて知ることは叶わない。心があれば、それを想うこともできただろう。言葉があれば、誰かに問うこともできただろう。
 百年余り、ただ、静かに、多くの者たちを見送ってきた。その記憶だけがここにある。
「皆の手の温もりも、祈りも、忘れはしない」
 そうして、蒸気に揺れる少女に、円は迷いなく手を伸べる。
「……チョーカのことも、確かに感じたぞ」
「触れないってば、あたし」
「かもしれんの」

 けれどまだ、伝えることができるのだから――。

「……心あるのなら、言葉あるのなら、それを紡いでみてはどうじゃ」
 昔話にしてしまうには、早かろうて。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
俺の記憶は猟兵になるより前だ。俺は友人をその手で殺した。あいつが俺の左胸を刺し貫くより、俺のダガーが心臓を抉る方が早かった。望んで殺した訳じゃない。ハメられた。だが、俺は死にたくなかったんだ。

…胸糞悪いモン見せてすまねぇな。俺はもう謝る事も礼を言う事も出来ねぇが、ツリエ先輩はまだ手遅れじゃないだろ?
で、だ。(いつもの雰囲気に戻して)俺が思うに…ツリエ先輩。石頭だって言われねぇか?頑固とか、頭が固い、とか。後、真面目過ぎるぜ
けどよ…俺は死んだのが正しい、なんて思わないぜ?正しい訳ないさ。子供を犠牲に得た勝利?んなモン、糞食らえだ!
見てな、先輩。今度は俺達、猟兵が大魔王とやらをぶちのめすからよ?



●そのてのひらに
 それはカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が猟兵でもなければ、便利屋Black Jackでも無かった頃。……ずっと前の、昏い記憶だ。
 ――ぱたりぱたりと、血が落ちる。
 刃の先から滴る雫が、鼓動の名残で吹き出す熱が、てんでばらばらのリズムを奏でていた。やがて片方は音を無くして、手指にこびりつく感触だけが残される。
 足下に転がっているものは、ただの物言わぬ死体だ。
 友人だと思っていた。思っていた以上は、カイムの中でそれが真実だった。偽りだったと割り切る術すら、既に、永遠に失われていた。
 ハメられたのだ、とは思う。友人だった筈のものに。……いや、もっと大きな何者かに、だ。
 望んで殺した訳じゃない。あいつが俺の左胸を刺し貫くより、俺のダガーがその内側を抉る方が早かっただけ――結果なんて、考えている暇もなかった。頭の中にひらめいた、一瞬の理由だけが全てだった。
 ……死にたく、なかったんだ。
 あの溝の底みたいな場所から、そういえば星空は見えていたっけか。今となっては思い出せない。夢幻が映し出すのは、あの時じっと見つめていた――汚れた手のひらだけだった。

 浮かんだ星座は、大層な魔剣でも、頼れる二丁の銃でもない。何の変哲もない一振りのダガーの形をしていた。その先端に、目の醒めるような紅い星。
「……胸糞悪いモン見せてすまねぇな」
 声色を落とすカイムの傍らで、ツリエは小さく首を振る。
「……わたしの記憶だって、いいものじゃなかった。……人のことは言えないわ」
「いいや、違うね。全然違う」
 彼女たちも、同じようにすれ違ったのだろう。交わすべき言葉も交わさずに、黙って別の道へ行こうとした。だけどその手は汚れていないし、互いを想い合って真っ直ぐに進もうとしたはずで。
 UDCじゃ『かみさま』なんて言葉はロクな流れで聞かないが――あそこよりちょっとは優しいこの世界に、もしもそいつが居るんなら。きっと、ちゃんと見ていてくれたんじゃないか。
「俺はもう謝る事も礼を言う事も出来ねぇが、ツリエ先輩はまだ手遅れじゃないだろ?」
 蒸気ってやつが一体全体何なのか、相変わらずさっぱりではあるけれど。
 彷徨う彼女たちの魂に、チャンスを与えてくれていることだけは確かだろう。

「で、だ」
 すっかりいつもの雰囲気に戻して、辛気くささを払うように、軽く手を打ち合わせる。
「俺が思うに……ツリエ先輩、石頭だって言われねぇか?」
「……え……」
「頑固とか、頭が固い、とか」
 似たような言葉を並べると、彼女は戸惑うように視線を迷わせて、うつむいて。
「……わからずやって言われたわ」
「同じ意味だな。後、真面目すぎるぜ」
 戦争に勝つ。死ぬのは二人より一人がいい――そりゃ、もう一人の先輩の言うことは正しいんだろう。でも、だからって、そいつのやることなすこと全てが正しい訳じゃないし、同じになれずに悩むのが、間違っている訳じゃない。
「……俺は、死んだのが正しい、なんて思わないぜ?」
 なんというか、白黒はっきりつけすぎだ。
「正しい訳ないさ。子供を犠牲に得た勝利? ……んなモン、糞食らえだ!」
「……ちょっ、ちょっと」
 そうやって慌てて左右を見渡したって――あんたを叱るやつなんて、何処にも居やしない。
「見てな、先輩。今度は俺達、猟兵が、大魔王とやらをぶちのめすからよ?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

オブシダン・ソード
戦利品の赤い宝石を手の内で転がして
…そうだね、それじゃあ、星空を見上げた記憶を

僕が僕、ええと、ヤドリガミになった時、土の中に居たんだよね
元の持ち主はそこそこ腕のいい剣士で、死んだ彼と一緒に埋まってたんだ
暗闇の中で、身動きもできないからじっとしていたんだけど、不意に空が開けて

…まぁ、実際は盗掘者だかに掘り起こされたんだけど
とにかく、その時初めて自分の目で星空を見た
いやあ、本当にきれいだったな

以来星空を見るたび、僕は生まれた喜びと、前の主とのお別れを思い出す
…星が好きなのもわかってくれた?

さて、星座は繋がってくれたかな

ねえツリエ先輩
お別れした誰かと語らえるのは、やっぱり恵まれた事だと僕は思うよ



●ひかりあれ
 ころころと、さらさらと。
 本日の戦利品――大小の赤い宝石が、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)の手の内で転がった。
 爆発は、もちろんしない。……心配性の先輩も、この段に冗談で済まないことはやらないと判ってくれてはいるようで。
「……あなたも、星座を作ってみて」
 眉尻を下げて、小首を傾げる。彼女に見せる情景に、どんな記憶を選ぼうか。
「……そうだね、それじゃあ、星空を見上げた記憶を」
 星を探した夜なんて、それこそ星の数ほどあるけれど。……今でも一番まばゆく思える、あの日の夜のことにしよう。

 ――目に留まったのは、星空に埋もれてしまいそうな黒い石。
 黒曜石の星だった。
 そこから広がる幻も、一面の黒で幕を開ける。

「僕が僕――、ええと、ヤドリガミになった時、土の中に居たんだよね」
「……ヤドリガミ?」
「こういう身体になる前は、ただ一振りの剣だったのさ」
 はじまりは、夜ですらない暗闇の中。
 名も無き黒曜石の剣《オブシダン・ソード》の元の持ち主は、腕はまあそこそこ良くて、――死んでも『相棒』を離さないような剣士だった。土の底まで、彼を連れて行ってくれた。
 敵に向かって振るわれなくとも、主に寄り添うという役割を果たし続けていたゆえか。百年目の日に心が宿った。道具としての朧げな記憶を繰り返す、あるようなないような胎児の夢が。
 生じた身体は身動きひとつ取れなかったけれど。核となる器物が在る以上、土の中でも朽ちることなく――主の身体が朽ちたぶんの空洞に、背中を丸めてじっとしていたっけか。
 幻ですら、何にも見えない。
「……真っ暗ね」
「そう。でも――もうすぐかな」

 ある時、不意に空が開けて。
 ――そこに光があったのだ。

「……まぁ、実際は盗掘者だかに掘り起こされたんだけど」
 客観的に考えてみると、あんまりロマンチックな出来事ではない。他人に話して聞かせる時はどうしてもそれがオチになってしまう。真っ暗闇も、星空も、見てくれはこの『星巡りの夜道』とあまり変わらないかもしれない。
 けれど、とにかく。その時初めて自分の目で観た星空は。
「いやあ、本当にきれいだったな」
 どんな色の宝石よりも、どんな味の飴玉よりも、ずっと。

「以来星空を見るたび、僕は生まれた喜びと、前の主とのお別れを思い出す」
 お別れ、という言葉に、ツリエ先輩はかすかにその姿を震わせた。
「……星が好きなのもわかってくれた?」
「……ええ」
 星座は繋がってくれたかと、あらためて夜空を眺めると――剣を携えた戦士の姿がそこにある。
「ねえ、ツリエ先輩」
 僕には身体があるけれど、誰かと繋ぐ手はあるけれど、二度と会えない人はいる。
 だけど、身体もなく揺蕩う君たちは――。
「お別れした誰かと語らえるのは、やっぱり恵まれた事だと僕は思うよ」

成功 🔵​🔵​🔴​

風見・ケイ
17歳になってすぐ。
わたしが何をしても施設の人は優しかった――おまえが悪いと言ってほしかった。
だから居心地が悪くて。
夜に抜け出し滑り台に寝そべって星空を眺めていると、星色をなびかせる女が現れた。
警察手帳にはちょっとビビった。

曰く、わたしが通う高校の出身で。
曰く、わたしが暮らす施設の出身で。
『つまり、私は風見さんの先輩ということです』
堅物そうな黒眼鏡を外して笑った顔が、頭上の星よりも煌めいて見えた。
――もっとこの星を見たいと、そう思ったんだ。……あまり見せてはくれなかったけど。

終わりはどれもお見せできるようなものではないので、始まりを思い出してみます。
ツリエ先輩たちはどんな始まりだったのかな。



●はじめましてをきみに
 それは、十七歳になってすぐの頃。
 春の終わりというよりは、夏の始まりと呼びたい季節の記憶。

 公園の滑り台に寝そべって、少女時代の風見・ケイ(消えゆく星・f14457)は――あの日のわたしは、黙って星空を眺めていた。たぶん、星を見ていたわけじゃなかった。それ以外の全部を見ないようにしていたかっただけで。
 わたしが何をしても、……何を言っても、壊しても、どんなにルールを破っても、施設の人たちは優しかった。放り込まれた、なんて表現も使えないくらい、あの場所はぬるくて柔らかかった。
 それがまるで、湿気のこもった寝床みたいで。どうにも居心地が悪くって。セーラー服を寝間着に着替えることすらせずに、真夜中にそのまま窓から抜け出したのだ。
 ……『あの子はまだ、自分が世界で一番不幸だと思ってるんですよ』。
 廊下でたまたま聞いてしまった、誰かの言葉を思い出していた。半分は図星だったけど、わたしだって、そんなもので一番になりたいわけじゃなかった。いっそ『お前が悪い』って、言ってくれたらそれでいいのに――。

「懐かしいな、その制服」
 そんな夜に星色をなびかせて、あのひとは私の前に現れたんだ。

 見るからに堅物そうな女が、かろやかな足取りで階段を登って、寝そべるわたしの顔を覗き込む。……同時に示された警察手帳には、正直ちょっとビビったけれど。
 曰く、わたしが通う高校の出身で。
 曰く、わたしが暮らす施設の出身で。
 ……その両方から漏れ聞こえてくる噂が、どうしても気になってしまったのだ、と。
「つまり、私は風見さんの先輩ということです」
 黒眼鏡を外して笑った顔が、頭上のどんな星よりも煌めいて見えた。
 今、こうして思い返してみれば――その時、彼女は本当にわたしを気にしてくれていたのか、それとも誰かに頼まれて探しに来ていただけなのか。そこのところは分からない。その時だって、分からなかった。
 疑って、拗ねてみせることだってできただろう。だけどわたしは、自惚れることを選んでしまった。
 ――もっとこの星を見たいと、ただ、そう思ったんだ。

「……あまり、見せてはくれなかったけど」
 苦笑いとともに浮かんだ星座は、先輩がなかなか外してくれなかった、あの眼鏡と同じかたちをしている。
 終わりの記憶は、夢では見慣れているけど――どれも人にお見せできるようなものじゃあない。だから、始まりを思い出してみた。少し照れくさいけれど、このほうが幸せな気持ちで星を見られる。
「ツリエ先輩」
 あなたも思い出してみて。
「ふたりは、どんな始まりだったんですか?」
「……そう、ね」
 蒸気の少女もまた、ほんの少し目元を綻ばせて、もうひとつの星座を探す。

「……わたしの家は、宝石魔術の名門で。……あの子は、才能があるって言って、どこかからうちに連れてこられたの」
 映し出された幻は、大邸宅の一部といった風情の書斎だった。
 大量の本に埋もれながら、痩せた少女が読書をしている。貪るように文字列を睨みつけている。桃色の髪はぼさぼさで、その瞳には光がない。
 それと同じくらいの年頃の少女が、書架の隙間から顔を出す。身なりのよい、水色の髪の少女が。
「何の用? お嬢様」
「……勉強ばっかりで、疲れない?」
「疲れない!」
 にべもない返答に一度はうつむいて、かぶりをふって、でもちょっとだけ勇気を出して。
「……あのね、わたし、」
 あなたと友達になりたいの。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リドリー・ジーン
私の記憶…祖母との会話かしら
お酒に強そうなイメージがあるって沢山頂いたけど、自分は飲めないから…リドリーにあげるって、幼い頃に沢山のワインを頂いたのよね
「私に似てるからあんたも飲めないかもね」
‥なんて、外れてしまったわよ。大好きで物知りな私のお祖母様。

ツリエさんは…今も苦しんでいるのね。
私達に見せてくれたこの記憶が、貴方の一番に思い浮かぶ記憶だったのでしょう
大好きだったのね、だから彼女が一人で死んだ事が、死なせた事に…自分自身も許せないのね。
私は…大好きな人には何も伝える事は出来なくなったわ
でも貴方達は違うでしょう。ねぇ一度、向き合ってみてはどう?
…一人は寂しくて辛いものだもの。



●そのゆめをみたわけ
「私の記憶……」
 リドリー・ジーン(不変の影・f22332)が真っ先に思い出したのは、祖母との何気ない会話であった。
 穏やかな日々のほんの一幕にすぎないけれど、なんだか妙におかしくて、折に触れて語り草にしてしまう――あの日のこと。
 伸ばしたのは、左手だ。指輪の輝く薬指が、彼女だけの星座をなぞる。

 ――ブルーベルお祖母様。
 さっぱりと明るく、はっきりと鋭く、それでいて優しいひとだった。そんな彼女の人柄は周りの誰もに知れていた。けれど、ひとつだけ、どうにも誤解を受けがちな点があって。
「これは……?」
「ワイン、また頂いちゃってね」
 幼いリドリーの両手にはとても抱えきれない、棚が必要になるくらい沢山のワインが、部屋にずらりと並んでいた。
 気風のよいお祖母様のこと、当然お酒にも強いだろう――なんてイメージがあるようで、面と向かって贈られたり、いつの間にか届いていたり。季節ごとお祝いごとに増えていく。
 無下に断るわけにもいかないけれど、飲めないものはやっぱり飲めない。そこは体質の問題だからと、困ったように彼女は笑う。
「だから、リドリーにあげるよ」
 大人になったら開けてごらん。……そんな悪戯っぽい言葉に、小さな溜息を添えて。
「私に似てるから、あんたも飲めないかもね」

「……なんて、外れてしまったわよ」
 浮かんだ星座は案の定、ワインの瓶の形をしていて――リドリーは何とも言えない顔をする。まるで酒豪の星のもとに生まれた女だと言われているような気分だし、実際、そう言われたら否定はできない。
 物知りだった彼女にも、この未来までは読めなかったかな。
「大好きな、お祖母様」
 そして。
「ツリエさんも、同じでしょう?」
 ――蒸気幽霊の先輩たちの記憶を見た。他の猟兵さんたちの記憶も見せてもらった。辛いものも優しいものもあるけれど、やっぱり、みんな、大好きな人の幻を見ている。
 言葉足らずのお別れが、貴方の一番に思い浮かぶ記憶だったのなら。
 迷宮の底で、蒸気のからだで、今も苦しんでいるのなら。
「――大好きだったのね」
 リドリーの言葉に黙って俯いたまま、……彼女はもう、嫌いだなんて嘘を吐いたりはしなかった。

「……でも、許せない」
 ぽつり、ぽつりと、ツリエはほんとうの言葉を零す。
「それは、彼女が一人で死んだ事が?」
「……あの子を、チョーカを死なせた、全部が許せない」
 その『全部』には何より先に、自分自身を含むのだろうとリドリーは思う。それをただ静かに受け止めて、ほんの少しだけ自分の話を。
「私は、……大好きな人には、何も伝えることは出来なくなったわ」
 大人になった私を見たら。いくつもの世界を旅して、地酒という地酒を空ける自分の姿を知ったら――お祖母はどう思うだろう。呆れて、笑ってくれるだろうか。
 想ってみても返事はない。
 でも、貴方達は違うでしょう。
「ねぇ一度、向き合ってみてはどう?」
 嘘も、世界も、自分のことも、なにひとつ許せなくったって――それでも、一人は寂しくて辛いものだもの。

大成功 🔵​🔵​🔵​

深鳥・そと
それはムカつく!
わたしがチョーカちゃんだったら
ゆっくり休んでてねとか
説明や説得面倒ーとかで同じことしちゃうかもだけど
でもムカつくーー!

思い出すのは今よりもっと幼い頃
自分だけが目覚めた夜
外を眺めていたら思い立った
そうだ!探検しよう!

『たんけんしてきます』ってメモ置いて
楽しくお出かけして帰ったらすっごく心配されてて
『好きなことしていいけど
 こっちも勝手に心配するし怪我したら勝手に超怒るからね!』って

気持ちはどうしようもないよね!

正しい正しくないはわかんないけど
二人とも幽霊だから
死んじゃったら終わりとか何も伝えられないとかないし
たくさんお話して決めたらいいんじゃないかな?

あ、あれがわたしの星座だね!



●かんたんなこと
 あの子が正しいって知っている。
 わたしが間違ってるって知っている。
 ――永い間凍りついていた心が、猟兵たちの言葉で徐々に融けていく。次第に俯いて、考え込んでしまうツリエの前で。
「えーっでも、それはムカつく!」
 深鳥・そと(わたし界の王様・f03279)の感想は、拍子抜けするほどシンプルだった。

「だって、一緒だーって約束したくせに勝手に行っちゃったんでしょ! そんなのズルじゃん、ひどいよ」
「……そ、それは、その」
 そとの言っていること自体は、ツリエが最初に思っていたことそのままだ。そのまますぎるくらいだったから、気圧されて、たじろいで。
 真っ直ぐな桃色の瞳に、――幽霊はおずおずと尋ねてみる。
「……じゃあ、あなたなら。……あなたがチョーカだったら、どうしたと思う?」
「えっ、うーん」
 そとは、子供だ。年はたぶん、幻で観たピンク色の子と同じくらいだけど。キマイラフューチャー育ちの感覚じゃわからないことも沢山あって。それでも、精一杯考えてみる。
 もし、戦っても、勝てないかもしれなかったら。
 大事なお友達が、死んじゃうかもしれなかったら。
「ゆっくり休んでてねとか、言っちゃうかも、……説明や説得面倒ー! とかで、同じことしちゃうかもだけど」
 それが、正しいってことなのかもしれないけれど。
「でもムカつく――!」
 理屈抜きのそとの叫びに応えるように、夜空一面が輝いた。

 ――今よりもっと幼い頃。
 そとは、お父さんとお母さんの居ない子だった。気が付いた時にはそのへんに居た。おでこの小さな角からすると、エンパイアで生まれた鬼が流れ着いたんだろう、……なんて周りの人は言う。
 子供一人でもコンコンコンと生きられるあの世界では、それはあんまり変なことじゃなかった。自然と『そういう子』同士で集まって、一緒に過ごすことになる。
 みんなで遊んで、みんなで疲れて、みんなで眠る毎日。
 だけどあの夜――そとは、ちょっとだけ遊び足りなかったのかもしれない。真夜中に一人だけ目が覚めて。いやな感じは特になくって。夜の空ってあんまり見たことないな、ぐらいの気持ちで、外を眺めているうちに。
「そうだ! 探検しよう!」
 思い立ったら、飛び出していた。

 ――とっても楽しいお出かけだった。夜の道は暗くって、そのぶん街はキラキラで。
 だけど、それより強く思い出すのは、帰ってきたときのこと。
 残してきた『たんけんしてきます』のメモを囲んで、みんなすっごく心配していた。泣いてる子までいたし、その子が一番に怒り出した。
「好きなことしていいけど! こっちも勝手に心配するし、怪我したら勝手に超怒るからね!」
 あんなに怒られたのは、初めてだったな。

「気持ちはどうしようもないよね!」
 正しいとか、正しくないとか、やっぱりそとにはわからなかった。
「チョーカちゃんは戦いたかったから戦ったんだし、ツリエちゃんは怒りたかったら怒ればいいよ!」
「……そう、かもね」
 ツリエは、ふっと柔らかく笑った。
「……わたし、さっきあなたを見てたでしょ」
「見てた見てた」
「……チョーカがあなたみたいな子だったらな、って、思ってたの」
「むー、わたしはわたしだよ!」
 そうよね、と相槌をうって、柔らかかった笑顔は丸めたようにくしゃくしゃになる。蒸気は水である筈なのに、蒸気幽霊の瞳から涙は零れない。
「……ごめんね」
「だから、それもチョーカちゃんに言わなきゃ!」
 二人とも幽霊になれたんなら、死んじゃったら終わりとか、何も伝えられないとか、そんな悲しいお話なんてしなくていい。ほんとの気持ちをいっぱい話して決めたらいい。
 わたしがわたしであるように。
 あなたがあなたであるように。
 あの子もあの子のはずじゃない?

「あ、あれがわたしの星座だね!」
 ――その『わたしの星座』は文字通り、夜空いっぱいに描かれた、そと自身の笑顔だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『眠りネズミ』

POW   :    おやすみなさい、よいゆめを
全身を【ねむねむふわふわおやすみモード】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    みんないっしょに、ねむりましょ
【ふわふわのしっぽ】から【ふんわりとつつみこむもふもふのいちげき】を放ち、【今すぐこの場で眠りたい気持ち】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    きらきらひかる、こうもりさん
対象のユーベルコードに対し【吐息からキラキラ光る小さなコウモリたち】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●あなたと、わたし
 星座が導く道の先は、すべてのひとの意識が繋がる夢の底。
「げっ」
「……なによ」
 当然顔を合わせてしまって、少女と少女は互いを睨む。いつまでも子供のままのその姿。ちょっとだけ大人になったその姿。
「わ、わざとじゃないし! ここの災魔を退治しなくちゃいけないんだから――」
「……チョーカは、」
 ツリエはそっと両手をひろげて、自分たちの後ろに並んだ猟兵たちを示してみせる。
「……この人たちも、あなたみたいに、一人で死ねばいいと思う?」
「は!?」
 文句を言われるとは思っていたけれど、想定以上に酷い言葉が飛んできた。チョーカは思わず作った拳をぶんぶん振るが、蒸気のからだは何も殴れない。
「そんなわけないでしょ!?」
「……そうよね」
 強張った肩から力を抜いて。
「……だったらいいの」
 仕方なさそうに、笑って。
「……ごめんね、チョーカ。あなたは正しすぎるから、わたしがちゃんと傍にいなくちゃダメだった」
「何それ? 全然意味わかんない」
 対するチョーカは眉をひそめて、むくれた頬で溜息を吐く。
「ま、でも――考えてみたら、最初っから、あんたの言ってることってぜーんぶ意味わかんなかったわ!」
 ひらりと回って、背中を向けて、ばつの悪そうな顔を見せないように。
「わたしも、その、悪かったかな。意味もわかんないくせに、約束なんてしちゃダメだったんだよね」

●集合的無意識
 目に見える扉があったわけではない。
 宝石が描く色とりどりの星空――その風景は変わらないまま、君たちは世界が揺れるのを見た。寝る前のような、起きた後のような、心地いいまどろみの感触が数秒続く。
 そうして視界が晴れれば、ポットを抱えた眠りネズミの群れが、ぷかぷかと夜空を埋め尽くしていた。

『きゅ!』
 猟兵たちの訪れに、彼らは一斉に目を醒まして――。
『きゅ~……』
 二度寝に入った。

 見ての通り、単体ではほとんど無害な災魔なのである。迷宮に挑む学生たちに眠気を振りまき、遅刻と欠席を誘発するぐらいが関の山。
 だからといって放置するわけにもいかないし、今回は大量発生した場所も少々よくなかった。夢の魔力が大量の宝石と呼応して空間を捻じ曲げ――この『集合的無意識』の領域に繋げてしまっている。
 時折揺れては消える幻は、知らない誰かがいつかどこかで見ている夢なのだ。

 そんな不思議な光景も、眠りネズミを狩り尽くしてしまえば幕引きとなる。そうすれば今日の依頼は完了だ。
 ちなみに彼らの毛皮は寝具に、ポットの中の『夜糖蜜』は眠り薬の材料に、その他の部位も安眠グッズに余すところなく使えるらしい。興味があれば、持って帰ってみてはいかがだろうか。
イリーツァ・ウーツェ
雛等が泣止んだ様子
良かった事だ
雛は笑っているべきだ
青が然う言って居た

鼠駆除か、丁度良い
蟲等の餌に為って貰おう
肉と脂、血と腑は喰って良い
毛皮と骨、水薬は残せ

食餌は雛に見せるな
影の中に引き込んで喰え
声も届かせるな
雛の情操に悪い

一匹位、捕まえるか
姫に呉れてやろう
彼れは踊食いを好む
指輪と合わせれば、上等の報酬だろう



●すだちまえ
 夢、意識の底に浮かぶ鼠を、小さな『蒸気幽霊』達は怪訝そうに眺めている。
「……なんか、わたしたちの時代の災魔と違う気がする」
「ほんとよ! こんなんじゃ後輩の気が緩んじゃう!」

 ――雛等が泣止み、囀り合う様子を、イリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)は無言で視ていた。
 魂のみの姿では涙が流れないとは言うが、あんなものは肉袋を圧せば出てくる液の一つに過ぎない。泣いているかは、声で判ずることが出来よう。
 良かった事だ、と結論付ける。
 雛は笑っているべきだ。巣の外が如何に厳しくとも、発つまでは穏やかな時を過ごすべきだ。――“青”が、然う言って居た。
『きゅう……』
『ぐう……』
「…………」
 此奴らの巣は、潰さねばならないが。

 鼠駆除なら丁度良い。適度に喰いでがあるだろうし、魂喰蟲の餌に為って貰おう。
 肉と脂、血と腑は喰って良い。毛皮と骨、水薬は残せ――事細かに口で説明せずとも、意識でそう命ずれば、影の中の蟲等がざわめいて了解の意を示す。
「往け」
 その一言で、影が動いた。
 此処は元より陽の届くことなき地の底で、宝石の星の光は全て紛い物。百禍繚乱・蝗蜈蚣、その影は闇を自在に這い、『眠りネズミ』を次々と中へ引き込んでいく。
 内側で行われる食餌は音もなく、外側には鳴き声ひとつ届かない。淡々と命を狩り、糧と素材が別けられていく。
 ――雛に見せるべきではない。情操に悪い。
 先の会話を思い起こすに、無抵抗な小動物の駆除には慣れていない様だ。
 いずれ必要となる知識ではあるが、雛が真っ先に学ぶ殺しには相応しくない。……『害なすもの』から生き残るための戦いですら、未だ呑み込めていない魂には。

 さて、有用だと聞いたので毛皮や霊薬を残してみたが、イリーツァ自身は睡眠に特に不都合は抱えていない。この先も戦いは続くのだろうし、雇い主達への『手土産』にでもするのが良いか。
 ――手土産か。
 鼠を一匹、無造作に掴む。
『きゅ?』
 尻尾から逆さに提げられた獣は細い眼を開き、何事かと周囲を見渡して。
『きゅー、……きゅー』
 何も為されぬと判断すると、即座に再び眠りに入った。生きていく心算があるのか疑問に思える行動だが、考えてみれば所詮骸の海の泥か。
 ともあれ、是は殺さずに捕まえておく。帰った後に杖中の姫に呉れてやろう。
 ――彼れは踊食いを好む。
 桃水晶で拵えた指輪と合わせれば、暫くは補給無しでも戦えるほどの魔力が満ちる。上等の『報酬』になるだろう、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

境・花世
救わなくちゃいけない世界だとか、
善悪とかプライドとか、そういうもの全部
ぬくぬくの寝床の中で剥がしたら
最後に残るのはなんなんだろうね

ねえチョーカ、今、偉大なる先輩の代わりに、
わたしが世界を救ってみせるから
きみはそれを解いておいでよ

笑ってひらり翻す扇から、はらはらと花が散る
星にぶつかって消えたってもう一度
春風にくるむようにねずみたちを川の流れへと
あの、静かな海へと送ってあげよう

零れ落ちるポットを無意識にひとつ掴むのは、
眠りの短い誰かさんを思い浮かべたから
熱いお茶に垂らしたら甘いと笑ってくれるかな
きみがどんなに遠くても、たとえ叶わなくても

だいすきだから一緒にいたい
――それだけの、単純な計算式だ


風見・ケイ
ツリエ先輩とチョーカ先輩。もう、大丈夫かな。
色々と気になるふたりですが、ここはそっとしておきましょう。
お仕事の時間……だけど、なんだかそんな気分じゃない。

ひさしぶりに幸せな気持ちで星を見れたし
(真の姿になって、襟にブローチをつけてみる)
こんなに素敵な一番星を貰ったから
――今日のわたしは、魔法使い

【きみが星こそ】
寄り添う二つ星の明日を。

ただの星空じゃない。魔法の星空に願うんだ。
ちょっと不思議で、ちょっと曖昧で、ちょっと欲張りで。
それくらいの願いが、ちょうどいいはずさ。

なーんて、オカルトだかSFだかよくわからない星屑と、魔法が混ざったら、どうなるかな。
ネズミさんに帰ってもらうくらいできたらいいな。



●ねがいごとひとつ
 救わなくちゃいけない世界だとか、戦わなくちゃいけない運命だとか。
 善悪とか、プライドとか。猟兵だとか、災魔だとか、はるかな骸の海だとか。
「そういうもの全部、ぬくぬくの寝床の中で剥がしたら――」
 ぷうぷうと眠るネズミを一匹、境・花世(はなひとや・f11024)は優しく撫でた。
「最後に残るのはなんなんだろうね」
 そんな、ゆめみたいな話の手触りがした。

「ちょっと! そんな見た目でも災魔なんだから、可愛がっちゃダメ!」
 先輩がすかさず叱りにいらっしゃったので、手を引っ込めて、誤魔化すようにひらひらとやる。
「ふふ、これは毛布の性能を確かめているんだ」
「ほんとー?」
「ほんと」
 半信半疑でむくれてみせる小さな先輩は、第一印象で思ったよりもずっと真面目なひとだ。世界も運命もまとめて背負いこむくせに、白と黒とはきっちり直線で分けたがる。
 でも、そんなきみだからこそ。
「ねえチョーカ、」
 名前で呼んで。
「今、偉大なる先輩の代わりに、わたしが世界を救ってみせるから――」
 きみはそれを解いておいでよ。
 毛布を作っても、掛けてあげることはできないけれど。あたたかい蒸気の見せる夢がもう少し続くなら、ひとりじゃ解けない算数があるのを確かめておいで。
「見てて」
 撫でられなくたっていいから、柔らかそうな髪のあたりに手をかざした。

 ひらりと歩む花世の背を見送って、チョーカは声を落として片割れに視線をやる。
「なんかみーんな触りたがるなあ。幽霊だって言ってるのに!」
「……あなた、素直に受け取っておきなさいよ、……好意でしょ」
「ええー」
 そんな軽口を叩き合うふたりを見て、風見・ケイ(消えゆく星・f14457)はそっと胸を撫で下ろした。
「ツリエ先輩とチョーカ先輩、もう、大丈夫かな」
 交わされている言葉は一見刺々しくて、でもきっと、それが彼女たちのいつも通りなのだ。そっとしておくのが一番だろう。色々と気にしてしまう性分はぐっとこらえて、――世話焼きすぎるって、たまに言われるし。
 あの『はじまり』の幻で見た孤独な少女が、死ぬときも、幽霊になった今も、あんな無邪気に笑っている。それが誰のお陰なのかは、推理するまでもない真実だ。

「さて、お仕事の時間……、だけど」
 今日の依頼の本筋、大量発生した『眠りネズミ』の掃除を済ませなければならないのだが。
 猫探しならともかく、ネズミの駆除はさすがに業種が違う。螢に頼むほどの強敵でもないし、荊に頼んだら大惨事にしてしまいそうだし、そもそも、そういう問題じゃなくて。
「――なんだかそんな気分じゃない」
 こんなに、星が綺麗なんだから。

「ひさしぶりに幸せな気持ちで星を見れたし――」
 正確には偽物の星だけど、それがよかった。本当に見たい本物の星は遠いあの日の夜空の下だ。宝石だったら、なんだか新しい日の気持ちになれる。
 そんなことを考えながら、揺れる集合的無意識の世界を一歩進んだら。
 あの日のセーラー服の少女が、はにかんだように微笑んでいた。
 紺色の襟に、ブローチを付けてみる。淡い黄色の宝石を、落ち着いたアンティーク・ゴールドの台座にあしらった一品は、思った通り紺色の厚手の生地によく映えた。
「こんなに素敵な一番星を貰ったから」
 警察だとか、探偵だとか、そんな大人の仕事じゃなくて。
「――今日のわたしは、魔法使い」

 寄り添う二つ星の、明日への希望を願う。

 幽霊の明日なんて、考えてみれば荒唐無稽かもしれない。蒸気幽霊の先輩たちは、永遠に旧校舎で後輩を見守るんだろうか。いつか生まれ変わったり、楽園に行けたりするんだろうか。考えてみれば、そんなこともわからないけど。
 ただの星空じゃない、なんてったって魔法の星空に願うんだ。ちょっと不思議で、ちょっと曖昧で、ちょっと欲張りで――。
「それくらいの願いが、ちょうどいいはずさ」
 なーんて、と茶化した苦笑いで、組んでいた指を解いた。わたしの世界のオカルトだかSFだかよくわからない星屑と、この世界の蒸気の魔法が混ざったら、どんな結果になるだろう。
 ネズミさんに帰ってもらうくらいはできるかな、と、あたりの様子を見回してみると。

 ――薄紅の花びらが、天の川のように流れていく。

 花世が笑って翻す扇から、そのつめたい指先から、はらはらと花が散る。
 そのいくらかは宝石の星に、ねずみたちのきらきらの吐息にぶつかって消えるけれど、それでも、何度でも、川に浮かんだちいさな舟を漕ぐように。
 夜糖蜜のポットに乗って眠ったまま、春風のあたたかさにくるまれて、彼らは夜空の向こうへと――あの、静かな海へと送られていく。
「おやすみよ」
 幸せな夢を見ながらおかえりよ。

 花の川から零れ落ちるポットを、花世は無意識にひとつ掴む。見たところ、どこにでもある硝子みたいだ。まあるい器に、あのひとを思わせる深い藍色が揺れている。
 ――宝石なんていらないけれど。
 眠りの浅い誰かさんの、わらった顔を思い浮かべた。これを熱いお茶に垂らしたら甘いと笑ってくれるかな。もうひとしずく、なんて望んでくれるかな。
 触れられなくても手を伸ばすのとおんなじだ。
 きみがどんなに遠くても、たとえ叶わなくても、こころもからだも満たされなくても、だいすきだから一緒にいたい。
 ――それだけの、単純な計算式だ。
 明日には、きみにも解けているといいな。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

多々良・円
……チョーカたちはまた手を繋げたようじゃな。
次はわしががんばる番じゃな。

なんと!これだけ猟兵が集っても眠り続けるとは。
こやつらを見ておると先刻の微睡みもありどうにも眠気が……とと。(欠伸をこらえ)
元はほぼ無害な、災魔といったか。
とはいえこの場を放っておくわけにはいくまい。

そう見えるだけとはいえ、これだけ美しい夜空じゃ。
雨を呼ぶのは違うじゃろう。
新たな装いの傘。わし自らくるくる、くるり。
魔力と白群の神風の妖力を合わせて精霊風を呼ぶ。
眠るのを阻害せず、起きるのを阻害する。
蝙蝠も風でかき消し……鼠には猫じゃ。
きりまる、任せたぞ。(猫のまま自由に)

おぬし、咥えておるのは尻尾か?
ちゃっかりしておるのう。



●あめのちはれ
「……星空、キレイよね」
「でもあたし、整理整頓されてるほうがキレイだと思うわ!」
「……そういうとこよ……?」

 語らう少女たちを見守る多々良・円(くるくる、くるり・f09214)の片眼には、おだやかな光がある。その幼気な容貌には少し似合わない、天から注ぐような光だ。
「……チョーカたちは、また手を繋げたようじゃな」
 触れられずとも、隣に在ることができるなら。もう二度と離れずに居られるのなら。……見送ることしかできずにいた、かつての器物とは違うだろうて。
 後続に教えを授けるのも良いが、まずは互いを大事にすることだ――なんて、偉そうに告げたりする訳でもなく。
「さ、次はわしががんばる番じゃな」
 くるりと踵を返した円は、すっかり童子の顔に戻っていた。

 ……と、気合いを入れて挑んでみたはいいものの。
「なんと! これだけ猟兵が集っても眠り続けるとは……」
 一斉に二度寝に入った『眠りネズミ』たちは、円がつついても起きようとしない。なんなら他の猟兵たちから攻撃を受けて倒されているのにそれでもあんまり起きて来ない。猟兵稼業が全部こうならどんなに世は泰平か。
 命すら、未来すら憂えることなくすやすやと眠る小さな獣の姿を見ていると、先程の微睡む感覚が波のように甦って――。
「ふあ、……とと」
 口から出かけた欠伸を噛み殺す。
「元はほぼ無害な、災魔といったか」
 物の怪の類にも時折こういう輩がいるが、そちらだって放っておけば厄介事を起こすもの。この世界の『災魔』も同じだろう。少々可哀想ではあるが、この場を放っておくわけにはいくまい。

 新たな装いとなった傘を開く。ぱん、と皮が張って、石の重みを持った飾りが枝垂れて揺れる。朱、紺、とんで橙、色とりどりの光が花咲いて。
「風よ――」
 円自らくるくる、くるりと円を描き、呼び寄せるのは白群の神風だ。
 ――そう見えるだけとはいえ、これだけ美しい夜空じゃ。
 ここに雨を呼ぶのは違うだろう。雨ならば、もう十分に降ったのだから。凶風だとか、災厄だとか、そういう言葉も今夜ばかりは大袈裟だ。

 場に満ちる宝石の魔力と、円の優しい妖力が合わさった精霊風《ショウロウカゼ》は、うたたねを誘う春の昼下がりのようにあたたかい。
 ネズミたちは目を醒ます気にもなれず、深い、深い眠りの中で動きを止める。吐息からきらきら零れる蝙蝠も、風と互いを打ち消し合うのみで。
 ……動きは阻害できているが、『倒す』にはもう一押しだ。
「古今東西、鼠獲りと言えば――」
 すらりと二振りの刀を抜いて。
「おぬしに決まっておるな。きりまる、任せたぞ」
 お行き、と言うようにそっと放ると、それは二股の尾に、一匹の猫又に転じた。

 お供の『きりまる』にネズミたちを任せて、円はこの不可思議の景色をとことん楽しむこととした。
 これがもうすぐ味気ない蔵に戻ってしまうと思うと少々惜しい。けれど、元に戻って良かったものも確かにある。
 万事、そういうものであろう。
「む、……おぬし、咥えておるのは尻尾か?」
 猫又がちゃっかり戦利品を持ち帰ってきたので、座った膝に敷いてやる。ぬくぬく丸くなる黒い毛並みを撫でながら、円はもう一度、晴れた星空を見上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オブシダン・ソード
先輩方は仲直りできたみたいだねぇ
喧嘩してるよりその方がきっと良いよ

この見てるだけで眠気誘う子達は…
枕にしたら気持ちよさそうだね
今の内に蜜とかちょっともらっていこう
寝つきは良い方だけど、疲れてる時とかに良さそうだね

でも何か、寝てるだけなのに攻撃の通り悪くない??
アドバイスとかないの先輩方

せっかくだからさっきの宝石の試し撃ちをさせてもらおうか
こう、ツリエ先輩の助言通り、なくなってもあんまり痛くないさざれ石とか、欠片なんかを敵に懐にポイ
驚いて目覚めたところを狩っていこう

大きな宝石は温存
…ああ、一発芸って言うと響きが悪かったかな
切り札だよ、切り札
できれば、これで魔王なんかに一泡吹かせてあげたいね



●よあけ
 集めた赤いさざれ石を、一度手のひらにあける。
 しゃらしゃらと弄んでいると、小さな女の子が興味深げに覗き込んできた。――この場所で合流することになった、もう片方の『先輩』だ。オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)は軽く居住まいを正してみせて、気楽な感じで会釈をする。
「チョーカ先輩だっけ。宝石、気になる?」
「そんな小さな石でいいのかなって」
「沢山集めて色を混ぜれば安定するって、ツリエ先輩に教わってね」
「へーえ」
 そんな彼女の少し後ろにぴったりついて、当のツリエ先輩もこくこくと無言で頷いている。……この様子を見ると、しっかり仲直りができたみたいだ。
 喧嘩してるより、その方がきっと良い。せっかく、こうしてまた会えたんだから。

 そうしてオブシダンもまた、今日の本題――『眠りネズミ』の駆除に挑むこととなるのだが。
「しかし、この見てるだけで眠気誘う子達は……」
 ポットを抱えて眠ったまま、ぷかぷかと浮いている小動物の姿は、……なんというか、戦闘という言葉のイメージとは程遠かった。
 枕にしたら気持ちよさそうだ、なんて呑気な発想が浮かぶ。この寝入り様じゃ、実際に枕にしても起きてこないかもしれない。
 ……オブリビオンの類でさえなかったら、一家に一匹連れ帰ってもいいくらいだけど。残念ながら、持って行けるのは素材のみ。
「今の内に、蜜とかちょっともらっていこう」
 ネズミとポットを引きはがしては、『夜糖蜜』を拝借していく。
 ……眠り薬とはいっても、オブシダン本人の寝つきは良い方なのだけど。飲み物にちょっと混ぜるくらいなら、疲れている時とかに良さそうだ。
 ぽてりと落ちたネズミのほうは、ちょっと可哀想ではあるけど、黒曜石の剣でひと思いに――。
「あれ?」
 ……と、意気込んだはいいものの。鋭いはずの切っ先がぽよんと跳ね返されてしまう。これはちょっと自信を無くす。
「何か、寝てるだけなのに攻撃の通り悪くない?」
「……寝てる間、眠りネズミは無敵だから」
「えぇ……、アドバイスとかないの先輩方」
 オブシダンの問いに、蒸気幽霊のふたりは顔を見合わせる。

「眠りネズミ狩りなら、いっぱい集めてから一気に叩き起こすのが簡単だって読んだことあるわ!」
「……石の比率を調整すれば、音と光だけ大きくできるかも」

 そんな助言を元にして、無抵抗のまま眠りこけているネズミたちを山と積んでいく。
「……せっかくだから、さっきの宝石の試し撃ちをさせてもらおうか」
 重ね重ねいただいた助言の通りに。無くなってもあんまり痛くないさざれ石、割れた欠片なんかを配合して、――敵の懐、というか山の中心にポイと投げてやる。
 ――だぁん、と響く轟音と、夜空が夜空でなくなるほどの眩い光。
『きゅ……!』
 流石に驚いた眠りネズミが、一斉に目覚めて右へ左へ逃げ惑う。……大きな宝石を使っていないので、派手さの割に威力は無い。しかし、これはこれで応用が利く。
 ともあれ無敵状態さえ解けてしまえば、トドメは剣で一匹一匹仕留めていけばよいだろう。
「やっぱりいいね、こういう一発芸は」
「……だから、あなたねえ」
「ああ、……響きが悪かったかな。切り札だよ、切り札」
 その表現ならお小言もないだろう、とばかりに口笛をひとつ。フードの下に隠れた目で、ウインクなんかもしたかもしれない。
「できれば、これで魔王なんかに一泡吹かせてあげたいね」

 そうしたら、今度こそ。
 ――疑り深い先輩に、『本気』の武勇伝を聞かせてあげよう。

成功 🔵​🔵​🔴​

リュカ・エンキアンサス
章お兄さん(f03255)と
さて、眠りネズミだって
とりあえず俺は皮をはぐ。あったかい毛布は旅行には必須なんだ
そして売れるものは解体して残らず売るから、お兄さんがとっておいてほしいものがあったら早めにいっておいてね

…殺伐としてるかな?
まあ、うん。いつものことだね
それより捌くなら銃弾よりもナイフのほうがよかった?

生憎と戦場で眠る趣味はないんだ
お兄さんの隣で寝たら、何されるかわかんないし
…いや、冗談…かな。冗談だよ、うん
昼寝したいなら危なくないように見守っていてあげるから、どうぞ?
お休み、お兄さん。いい夢を

そして俺は敵を容赦なく殺す
主にうるさくないようにナイフは使わない
稼ぐときは稼ぐんだ


鵜飼・章
リュカさんと

うわあ…僕みたいな眠りネズミ
ちゃんと起きるのって難しい
さっきの記憶みたく
僕がいつも真剣に寝ぼけていたとしても
たぶん仕方ないんだ…僕は僕だもの

安眠グッズ取り放題だね
僕もUC【万有引力】でさくさく倒す
えっ…売るの?なぜ?
確かに毛布何十枚もあっても使わないか…
先輩達にお勧め安眠アイテムを聞いてみる
これだから僕の部屋は片付かない

でもそのうち僕飽きて眠くなるなこれ…
リュカさんはいつも通り殺伐してる
もう慣れたよ
友達だもの
銃殺の方がまだ人道的じゃない?
きみが隣で殺伐してても僕は寝るんだ

別に何もしないよ
寝返りを打った拍子に蹴るくらいだよ
それじゃ、お言葉に甘えて

有難うね
先輩たちも
お先におやすみなさい



●ちがうゆめ
「さて、眠りネズミだって」
 話題を提示した傍から、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はその一匹にアサルトライフルの銃口を向ける。手早く、確実に、銃弾一発で頚椎を砕く。
 目を閉じたままぱたりと動かなくなるその姿は、春眠暁を覚えず、といった様子に見えなくもない。
「うわあ……僕みたいな眠りネズミ」
「撃たれても起きないの?」
「撃たれたら起きられないよ……」
 当然じゃないか、と返しながら、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)はもふもふの尻尾を摘み上げてみた。死んでいるので、逆さに吊っても起きてこない。ちゃんと起きるのって難しい。
 早寝早起きと掃除が苦手な身としては、眠気の中でのネズミ駆除、もしかして鬼門なのではないか。そんな発想がふと頭をよぎったけれど、だからと言って何かを変える訳でもなかった。
 さっき見せてもらった記憶みたいに、真剣に寝ぼけている日ばかりでも。ある日刺されて死んだことにすら気付かなくても。たぶん、それは仕方ないんだ。だって、僕は僕でしかない。君たちが君たちでしかないように――と。
 そう話しかけてみたところで、ネズミたちから返事はないのだろう。寝てるし。

「とりあえず俺は皮をはぐ。あったかい毛布は旅行には必須なんだ」
「じゃ、倒す方をやろうかな。安眠グッズ取り放題だね」
 飾り付けたばかりの魔法の昆虫針を取り出して、くるりと回してネズミに合わせたサイズに変える。後はいつもの要領で、気取られない程の早さで急所に撃ち込んでいくだけだ。
「売れるものは解体して残らず売るから」
「えっ、……売るの? なぜ……」
 しかし確かに、毛布が何十枚もあっても普通は使いきれないかと思い直す章であった。彼の場合、お金にしても結局使いきれないのだが。
「お兄さんがとっておいてほしいものがあったら、早めにいっておいてね」
 珍しいものなら確保しておきたいな――と思ったところに、丁度よく、二人の蒸気幽霊の姿を見かけた。何ごとか言い合いながら並んでいる様子は、やっぱりどこか、自分たちに似ている。
「先輩達。お勧め安眠アイテムってあるかな?」
 せっかくだから、あまり話せなかった水色の子の側に合わせて、つとめて優しい声色で。
「……え。えっと、……定番は夜糖蜜だと思うわよ。運びにくいから、貴重品だし……」
「尻尾もいいかな! あおむけで寝るときに、目の上に乗せるといいわ」
 なるほどね、という相槌の分だけ、部屋を散らかすお土産候補が増えていく。

 ――そうやって、戦闘描写の字数も削減されて数分後。
「敵のユーベルコードを喰らってしまったな……」
「飽きただけじゃないの」
 そこには、すっかり眠気に屈してごろごろと伸びている章の姿があった。
 隣の成人男性の体たらくとは対照的に、リュカは黙々と眠りネズミの梱包作業を進めていく。胴の部分を平たく伸ばして、頭と尻尾が互い違いになるようにすれば詰め込みやすい。この場で皮を剥いでもいいけど、肉も売れるかもしれないし――。
「リュカさんはいつも通り殺伐してる」
「……殺伐としてるかな?」
「もう慣れたよ。友達だもの」
「まあ、うん。いつものことだね。それより、捌くなら銃弾よりもナイフのほうがよかった?」
「銃殺の方がまだ人道的じゃない?」
 淡々と軽口を叩きながら、章はちゃっかり夜糖蜜の味見を始めている。……完全にこのまま眠るつもりらしい。
「……生憎と。戦場で眠る趣味はないんだ」
 咎めるでもなく、自分はそうしないとだけ告げて、リュカは毛皮を積み上げていく。
「お兄さんの隣お兄さんの隣で寝たら、何されるかわかんないし」
「こらこら。別に何もしないよ」
「……いや、冗談……かな」

 ――どうだろう。
 自分から出た言葉が『冗談』なのか『本気』なのか、リュカ自身にも咄嗟に判断がつかなかった。章お兄さんを信頼できる友達だと思っているのも、この人が次の瞬間何をするかわからないと思っているのも、どちらも本当なのだから。
 仮に約束をしようと言えば、きっと頷いてくれるんだろうし。そうしていつか、あっさりとその約束を破るんだろう。
 ……そんな話をしたところで、彼は寂しそうに笑うか、途中で寝てしまうだけだということも判っている。

「冗談だよ、うん」
「そうそう。寝返りを打った拍子に蹴るくらいだよ」
「それはやめて。……昼寝したいなら、危なくないように見守っていてあげるから、どうぞ?」
「――それじゃ、お言葉に甘えて」
 獲りたてのネズミの尻尾を目の上に乗せて、章の口元が笑った。
「有難うね。先輩たちも、お先に……」
 むにゃむにゃと消えていく語尾を拾って、リュカは小さくそれに答える。
「――お休み、お兄さん」
 ひとつ確かに、願えることがあるとするなら。
 どうか、あなたにとっていい夢を。

 餓えたくないとか、凍えたくないとか、そんなことは欠片も感じていなさそうな章の寝姿を隣に置いて、リュカは毛皮をまとめる作業に戻る、――と。
『きゅ?』
 一匹、寝ていただけの個体が紛れ込んでいた。
「…………」
 容赦なくライフルを突き付けて、一発。
 ナイフを使うとうるさいし、毛皮が汚れる。これで商品が一個追加だ。何はともあれ、稼ぐときは稼がないと。
 ――答えの出ない問題も、まだしていない約束も、明日、生きていればの話なんだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

深鳥・そと
これで仲直り……なのかな?
合わないなら話さない離れるってかしこい方法だけど
二人はそうじゃないもんね! 良かったー!

あっ、そうだ(小走りに眠っている眠りネズミに近づき『夜糖蜜』を貰い
これ二人にあげる!
また喧嘩しちゃったときは一度寝て落ち着いてからお話したらいいと思う!
……お供えみたいかな?
ん~~細かいことはいいよね!
今日すっごく楽しかったよ!

ネズミさんも綺麗な場所ありがとう
人の夢を勝手に見ちゃうのはプライバシーの侵害?……だから
もったいないけど倒すね?
おやすみなさい

痛くないように【マヒ攻撃】を放ってからのUC発動(キラキラときらきら



●いのりのかたち
 大好きなみんなに向かって、『おみやげ楽しみにしててね!』なんてメッセージを同時送信。渡す時に驚いてほしいから、画像はあえて見せないでおく。
 スマートフォンから一旦視線を外して、深鳥・そと(わたし界の王様・f03279)は蒸気幽霊たちの様子をうかがった。
「これで仲直り……なのかな?」
 ぼんやりと、SNSの画面をたどる。
 広い広い世界には、気の合う仲間たちばっかりじゃない。喧嘩になってイライラしちゃうくらいなら、話さないで離れるのだってかしこい方法だ。……戦争には詳しくなくたって、そういうことを、そとは人一倍知っている。
 あの二人は、どうだろう。並んで何か言い合っているツリエちゃんとチョーカちゃんは、まるでお姉さんと妹みたいで。だけどしばらく見ていると、逆のようにも思えてきて。
 そんなデコボコだからこそ、パズルみたいに『合ってる』んじゃないか、という気がした。
「良かったー!」
 これでめでたしめでたし! ……いや、オブリビオン退治はまだまだ全然進んでないけど。

「――あっ、そうだ」
 小走りに『眠りネズミ』の群れに駆け寄って、熟睡中の一匹からポットをひとつ貰う。ちょうだい、って声をかけたから多分大丈夫。
 たぷたぷ揺れる『夜糖蜜』は、飲めばぐっすり眠れて素敵な夢が見られるらしい。だけど、毎日いっぱい遊んで、こてんと寝てしまうそとにとってはあんまり必要のないモノだから――。
「これ、二人にあげる!」
 差し出すと、先輩たちは目をまるくして、それぞれの角度で首を傾げた。
「……あげる、っていうと……」
「また喧嘩しちゃったときは、一度寝て落ち着いてからお話したらいいと思う!」
「ええ、でもあたしたち、物には触れないんだってば」
「ううーん、そうだけど!」
 もう一押し、ずいっとやると、ツリエ先輩が可笑しそうに笑みをこぼした。
「……ありがとう。この夜空が晴れたら、宝石庫のよく見える場所に置いておいてね」
「りょーかい!」
 だけど、その光景を想像すると、なんだかお墓のお供えものみたいだ。……食べ物なら幽霊の二人に届くかなって思ったのは、そういう発想があったからだったりして――。
 まあ、細かいことはいいや。
「今日、すっごく楽しかったよ!」
 ありがとうの気持ちだけ、ちゃんと伝わればそれでいいんだ。

 ――気付けば眠りネズミさんたちの数も減ってきて、この星空も終わりが近い。
「ネズミさんも、綺麗な場所ありがとう」
 宝石の星空も、色んな人の夢が見れたのも、考えてみればこの子たちのおかげだ。だけど、これ以上他の人の夢を見ちゃったら、たぶんプライバシーの侵害とかそういう奴になってしまう。もったいないけど、倒すしかない。
「……おやすみなさい」

 今夜の『きらきらポイズン』は、痛くないように麻痺の毒だ。
 きらきらにキラキラを重ねてあざやかな花びらが散る。まとう光《エフェクト》は、ゆらゆらと揺れる蝋燭の火のかたち。
 お供えものじゃないけれど、ちいさな手をぴったり合わせて、そとは夜糖蜜の藍色に祈った。
 ――みんな、みんな、今夜は良い夢が見られますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮入・マイ
連携・アドリブ歓迎っス!

今回はちゃーんとまじめに聞いてたっスよ!
あのネズミをやっつければいいんっスよね!
そーゆーの得意っス!

…寝てるっスね、しかも寝てる時攻撃きかんっぽいっスね。
んー…ふわふわで…毛皮は寝具…!
『サナダちゃん』!
とりあえず片っ端からネズミを集めるっス!

ふっふっふ…これだけいれば簡易お布団が出来るっス!
香ばしくていい匂い…それにこの手触り…あ、倒さないとだったっス。
…【友情の混合】。
マイちゃん一派!
お布団が動き出したらやっつけるっスよ!
マイちゃんの寝相に嫌気がさしてそのうち起きると思うっスから!
じゃーおやすみっス!

きゃっきゃ。
きゃっきゃ…zzz


カイム・クローバー
何だ、全然言えるじゃねぇか。夏報が見せてくれた写真より今のツリエ先輩の方がよっぽど良い表情してるぜ。こいつはささやかながら俺からの贈り物だ。

作りたてのオルゴールを開いて鳴らすぜ。アルダワの子守歌をBGMに先輩方の友情の支援、及びネズミ捕りのスタートだ。
…正直、無防備な相手をぶちのめす趣味は俺には無いんだが。この領域は少々大事な場所らしい。悪いが掃除させて貰うぜ。
二丁銃の【二回攻撃】と【クイックドロウ】、【範囲攻撃】を組み合わせてUC。オルゴールの選曲的にぐっすり深い眠りに付いて貰えると思うぜ。

『かの大魔王の首を堕として、その血で大地を染め上げよ』か。物騒な歌だ。…だが、内容は実に俺向きだ



●こもりうた
「今回はちゃーんとまじめに聞いてたっスよ!」
 無表情でガッツポーズを決めるのは、毎度お気楽極楽でおなじみの宮入・マイ(奇妙なり宮入マイ・f20801)である。
「あのネズミをやっつければいいんっスよね!」
 グリモアベースで請ける依頼といえば、紆余曲折あれど最終的にはオブリビオンを倒すもの。その辺りの認識は意外とさっぱりしっかりしているマイであった。ただちょっと、話の途中で心霊写真のほうがつい気になってしまっただけで。
「そーゆーの得意っス!」
 さっき思い出したとか、そんなことは断じて。

 えいえいおーと空中にジャブをかまして気合は十分。まずは『眠りネズミ』の一匹に軽くチョップを入れてみるものの。
「……寝てるっスね」
 しかも、新素材さながらの低反発な感触ばかりが返ってくる。これはこれで面白いけども、寝ている時は攻撃が効かないと考えたほうが良さそうだ。
「んー……」
 ふわふわで、毛皮は寝具になるとかなんとか。手持ちの情報の面白そうなところを拾って集めて、マイは悪巧み……もとい作戦を考える。攻撃が効かないということは、――攻撃以外なら何をしてもいいということだ。
「――『サナダちゃん』!」
 マイの五指から、その指先から直接、彼女に巣食う寄生蟲の一派が放たれる。
 それは、しなやかなロープ状の長虫だった。彼らはマイの――彼女の『核』である一匹の蟲の命じるままに、互いをゆるく結び合って丈夫な網となり、『眠りネズミ』の群れへと覆いかぶさっていく。
 あとは、地引網漁の要領だ。

「ふっふっふ……」
 大漁御礼、片っ端から集めたネズミたちの群れをひと塊に整えたら、簡易お布団の完成である。二メートル超のモデル体型(本人談)のマイも納得のクイーンサイズだ。
「のりこめーっス!」
 全力でダイブしてみても、一匹たりと起きてこない。撫でまわしたり頬ずりしたりするたびに、マイの身体がずぶずぶと埋もれていく。
「香ばしくていい匂い……それにこの手触り……あ、倒さないとだった……、っス」
 すでにマイの側がねむねむふわふわおやすみモードであるが、一応本来の目的は忘れていない。……小さく何事か呟いてから、彼女は心地よい眠りの中へと落ちていく。無脊椎動物は、はたして夢を見るだろうか。
 ――ぼやける意識に、子守唄が聴こえた。

「……寝てるわね」
「寝てるな……」
 一方。仮にも猟兵がねむたみに完全敗北している現場を目撃してしまい、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)はツリエと顔を見合わせていた。
「……寝かせておいてあげましょ」
 そう言って笑う彼女の顔からは、すっかり険が取れている。この優しげな笑顔こそが本来のものなのだろう。最初に見た時より、――グリモアベースで見た写真より、よっぽど良い表情をしている。
 蒸気だろうと、幽霊だろうと、言いたいことが言えたなら、あとは自ずと明るい未来がある筈だから。
「だな。――こいつはささやかながら、俺からの贈り物だ」

 作りたてのオルゴールを開くと、紫の淡い光がふわりと走る。
 流れるメロディは、アルダワに伝わる子守唄だ。ツリエの記憶を元に再現したため、主旋律だけで伴奏のない簡素なものだが――しかしそれが、静かな夜の微睡みのなかで聴くのに丁度良い仕上がりになっている。
「……久しぶりに、聴いたな」
「先輩方の友情と、あと一応そこで寝てる奴にな、……っと?」
 話し込んでいると、マイの寝ていた簡易ベッドがぐしゃりと崩れた。
『きゅー!』
『きゅきゅーっ!』
 ……彼女のあんまりにも自由な寝相に嫌気のさした『眠りネズミ』たちが、一斉に脱走を開始したのである。テコでも起きない獣たちをも散らす実力、ただものではない。
「うにゃっ……」
 ともあれ、これで無敵状態は解除された。謎の姿勢でベッドから排出されたマイを後ろへやって、カイムは愛用の二丁銃『オルトロス』を引き抜く。
「ええっと。――さて、お次はネズミ捕りのスタートだ」

 正直、無防備な相手をぶちのめす趣味などカイムにはない。……しかし、この『集合的無意識』とかいう領域は少々重要な場所らしかった。名前はなんだか小難しいが、人の思い出の集まる場所だ。大切なものに決まっている。
「悪いが、掃除させて貰うぜ」
 特製の銃弾は、彼らには威力過剰だが――苦しませずに倒してやる分の費用だと思えばいい。選曲的にも、ぐっすり深い眠りについて貰えるはずだ。
 銃撃の狂詩曲《ガンズ・ラプソディ》は、子守唄を邪魔しないようささやかに――ネズミの群れを薙ぎ払う。

『ぽきゅっ!』
『ぽきゅっ!』
『ぽきゅっ!』

 何やら珍妙な効果音が流れたので、再び顔を見合わせる二名。
「……なんか、これは……悲鳴なのか?」
「……いえ……さすがにこんな変な生命体じゃないはず……」
 二人は知る由もないが、これはマイが寝ている間にネズミの体内に忍び込んだ寄生虫がもたらす、『友情の混合《フレンド・ブレンド》』のテキトーな効果である。
「かの大魔王の首を堕としてー……っス……、きゃっきゃ……」
 当人は寝ているだけのように見えて、しっかり共闘になっているのだ。一応。
「……チョーカの仕業ね、後輩に変な歌を教えて……」
「ま、いいんじゃねえか?」
 ――かの大魔王の首を堕として、その地で大地を染め上げよ。
 確かに子供が歌うには物騒な歌だが、内容は実に俺向きだ、とカイムは思う。
「俺は両方気に入ったぜ? もう片方の先輩が好きな歌だろ」
「……そうね」
 彼女の記憶からすれば、この歌には複雑な思いがあるのかもしれないが。
「人ってのはそれぞれ違うし、好きな歌も違うもんだよな」
 ――それでも互いを認め合える日が、もうじき来ると願いたいね。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リドリー・ジーン
あら可愛い! 思わず言葉に出てしまうわ、アルダワって可愛い災魔も多いのよ…。寝ている所ごめんなさいね
UCを使って影から手を伸ばして敵を固定して仲間の援護、
【援護射撃】で追撃するわ…でも、全滅させてしまうその前に

それじゃあツリエ先輩…本当に素敵な装飾品をありがとう
チョーカ先輩とは…お話したの?
なんて、少し変わった雰囲気から何となく気にかけて言葉をかけてみるわ
ほら、長くお話してなかったんでしょう
伝えにくいなら、一緒に星空を見上げてみてはどうかしら?

ふふ、私は記憶の中のお祖母様に会えて、嬉しかったわ。
…もう、ここは無くなってしまうのね
終わりはやっぱり、寂しい事ね



●さよなら、またあした
「あら可愛い!」
 いかにモフモフとは言えど相手は一応オブリビオン。……いけないことだとわかっていても、思わず言葉に出てしまう。
「アルダワって、可愛い災魔も多いのよ……」
 リドリー・ジーン(不変の影・f22332)は、旅人である。色々な世界を訪れて、困りごとを解決したりもするけれど――通り過ぎる前によく見なくっちゃ『旅』の意味がない。
 倒すべき敵の姿だって、ひとつひとつしっかり憶えている。あとはもちろん、各地の美味しい地酒の味も。
「寝ている所、ごめんなさいね」
 愛らしい『眠りネズミ』をそうっと撫でて。
「素敵な夢は、見られたかしら」
 指が離れたその瞬間。リドリーの足元から――夜空よりも深い影が『手』を伸ばした。枝が分かれるように、いくつも拡がって。彼女自身の感傷を尊重するように、優しくネズミたちを絡めとっていく。

 他の猟兵が銃や剣を手にしているなら、攻撃を当てやすいよう動きを封じて。
 逆に動きを封じている人がいれば、ロングボウで最後の一押しを。
 ……そうしていれば、眠りネズミたちは随分と数を減らしてしまった。それが、今日の本来の仕事なのだけれど。

「これで、最後ね」
 幸せな夢を見たまま眠る一匹を、骸の海に送るその前に。
「ツリエ先輩、聞こえる?」
「……どうしたの?」
「今日は、……本当に素敵な装飾品をありがとう」
 宝石の星空が消えてしまう前に、偶然という魔法が解けてしまう前に、もう一度この景色の下でお礼を言っておきたかった。
 丸い石をシンプルにワイヤーで編みこんだチャームを、愛おしむように手のひらに乗せる。……ターコイズは、元々割れやすい石なのだという。どんなに大事にしても、きっといつかは砕けてしまう。
 旅につきものの、お別れに似ている。
「チョーカ先輩とは、……お話したの?」
「……いちおう、ね」
「良かった」
 少し雰囲気が変わったから、何となく気にはなっていた。積もりに積もった荷物をやっと下ろすことができたのだろう、と思う。……けれど、空いてしまった隙間を埋めるのには、もう少し時間はかかるだろうから。
「ほら、長くお話してなかったんでしょう」
 その大事な時間を、あんまり自分が頂いてはいけないだろう。
「伝えにくいなら、一緒に星空を見上げてみてはどうかしら?」
 最後の一匹を倒したら、この不思議な世界は消えてしまうから――待っていてあげよう、というリドリーの想いに、ツリエはゆるりと首を振る。
「……大丈夫。星空も綺麗だったけど。……わたしたちは、あなたたちの明日を一緒に見ることにする」
「そう。じゃあ、夢は終わりね。――ふふ、私は記憶の中のお祖母様に会えて、嬉しかったわ」
「……あなたのお祖母様も、きっと見ていてくださるから」
 ありがとう、と返した言葉が、何に対してのものなのか分からないくらいに素敵な夜だった。
 影の手が、そんな世界に幕を引く。

 ――そうして。
 ちょっと前と同じ、微睡むような感覚があって。

 猟兵たちが目にしたのは、本来の『宝石庫』の風景だった。
 古ぼけた真鍮の構造物に囲まれた部屋の中、ガラスケースの中に整然と宝石が並べられていて。いくらかは割れて、床に落ちていたりする。たったそれだけの、かつての『旧校舎』の一角がそこにあった。
 これも一応、宝石が取り放題ではあるけれど。
 夜空で星に手を伸ばしたときに比べて、なんだか欲しくならないな――なんて思ったのは、果たしてリドリーだけだろうか。

 終わりはやっぱり、寂しいもの。
 だけど、トゲだらけで痛くって、眠れない夜があったって、それもいつかはちゃんと終わるのだ。
 あなたにも、だれかにも、きっと違う明日がやって来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月16日


挿絵イラスト