5
バレンタイン大作戦!

#アリスラビリンス


「新しい不思議の国が見つかったんだよー!」
 話し始める宇塚・ノトル(時計ウサギの戦巫女・f22195)の耳はものすごく勢いよく揺れている。楽しみだとか、羨ましいだとか。そんな明るい感情が目いっぱい耳からあふれているようにみえた。
 ノトルの隣には妙に武骨な段ボール箱が置いてある。
「あっこれ? ふっふっふー。気になる? そうだよねー、ちょっとだけなんだよ?」
 中にはいくつかのレシピ本や可愛らしい紙やらリボンやらが入っていた。どう見ても、バレンタイン関係だと分かる代物だ。
「これはねー、この後の案内で使うかもしれない資料と小道具だよ! 主夫君にも準備を手伝ってもらっちゃったんだよ!」
 後で説明するから待っててね? とにかく耳がピーンとたっている。ものすごく得意げだ。どう考えても、これらを揃えた人物の手柄なのだけれど。
「まずは、不思議の国の説明から始めるねー?」

「今回見つかった国は、まだ住民達も移住してないんだけど、とにかくチョコレート関係が充実している場所なのはわかっているんだよ!」
 バレンタイン前にすっごくタイミングがいいよね?
「それでね、その国の甘い香りに誘われた、スイーツ妖精さん達がお引越しすることになったんだ。オウガが来ても大丈夫なように色々な準備はしなきゃいけないし、その協力を皆に頼むわけなんだけど……やっぱりほら、バレンタイン前だからねー?」
 たくさん、チョコレートのお菓子を作って、バレンタインの国、もしくはチョコレートの国らしさを強化したい、というのがスイーツ妖精達の意向らしい。
「だからね、向こうに行ったらとにかく、チョコレートのお菓子とか、バレンタインに定番のお菓子をいっぱい作ってほしいんだって!」
 作ったお菓子は持ち帰ってもいい、という話にもなっているらしい。
 材料費も何もかもが抑えられるいい機会なのでは? 一部の猟兵達がそんな事を考えていたりする。
「途中の休憩は、味見も兼ねてお茶会もしてくれるって言ってたから、じっくり過ごせるんじゃないかなー?」

「……それでね、これはお約束になっちゃうんだけどね?」
 新しい国が出来上がると、どこからか聞きつけたオウガがやって来てしまうという定番のアレである。
「そのオウガはお菓子に関係する力を持っているらしいから……それまでに作ったスイーツも、きっと皆の力になってくれるはずだよ!」
 結局どうすればいいかと言うと。
「お菓子を作って、ラッピングをしてスイーツ達の防御力をあげて、やってきたオウガをやっつける!」
 なお、スイーツレシピやラッピングに不安がある猟兵には、そう言った技術に定評のあるとあるグリモア猟兵のお勧めレシピサポートがあるらしい。
「主夫君が、初心者向けのレシピとか、簡単に見栄えのする包装紙とか、リボンとか? こうやって用意しておいてくれたから。向こうに行くとき一緒に持っていってね?」
 だから絶対、美味しくて綺麗なチョコレートが完成するはずだ。
「スイーツ妖精さん達も、目新しいレシピがあったら嬉しいって言ってたし、そのついでだけど。良かったらそう言う相談もできるってことなんだよ!」
 というわけで、段ボールの中身についても説明は終わりだ。
「とにかく、バレンタインの準備と並行してやっていけばね、皆なら大丈夫だと思うんだよ? よろしくお願いするんだよ!」


シヲリ
 シヲリです。
 8本目になります。

 第2章は日常編が続きます。
 休憩タイムと称してティータイムになります。
 第1章で作ったスイーツの味見をしたり、ラッピングをします。
 ラッピング道具は召喚時に持ち込んでいる扱いです。
 この新しい国の戦力にもなるし、皆さんのチョコレートがよりプレゼントらしくなります。

 第3章はボス戦です。
 スイーツ関連能力を持ったオウガを退治しましょう。
 皆さんの作ったチョコレートを狙ってるのも同じです。
 この国と一緒に守ったチョコには特別に感情がこもるのではないでしょうか?

 ●チョコレートについて
 あくまでも「バレンタインのチョコレートを準備する過程を楽しむ」お話です。
 実際のアイテムが配布されるようなことはありませんのでご注意ください。

 ●第1章「バレンタインの国?」
 スイーツや、特にチョコレート関係の材料が豊富な国です。
 なぜかキッチンとテーブルセットはあります。
 これから住民になる愉快な仲間達が望む通り、スイーツ溢れる国にしてあげましょう。

 ●愉快な仲間達
 ふわふわ飛べる、スイーツ妖精達。
 大体30センチくらいの身長で、カカオの着ぐるみだったリ、苺のかぶりものだったリ、それこそケーキそのものの形をしていたり。
 スイーツだとか、その材料だとかに関係した姿をしています。
 おしゃべりはしませんが、さりげなく手伝ってくれたりお茶を淹れたりしてくれます。
 完成したスイーツ達の時間を止める能力があります。
 ラッピングした部分も、ちょっとだけ硬化させることができます。
 食べる時まで腐らない、渡す時まで崩れない、とっても便利な能力ですね。

 ●受付期間などについて
 マスター自己紹介ページの【告知欄】にて、随時お知らせをするようにしています。
 ご参加いただける際は、一度お目通し頂けると円滑になりますし、シヲリとしましてもとても助かります。

 心と想いを目いっぱい籠めたチョコレートの為のプレイングをお待ちしています。
27




第1章 日常 『チョコレートパーティ!!』

POW   :    山盛りチョコをどんどん頂く

SPD   :    色々な種類のチョコを味わう

WIZ   :    チョコレートフォンデュを楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
響・夜姫
連携・アドリブ・苦戦OK

チョコが食べられると聞いて。
……違う?食べ放題?なるほど。
「本気を出す時が。来たようだー」

ちゃんとチョコスイーツも作る。
トリュフとかクッキーとかチョコフォンデュとか。
直接鍋に入れて焦がしたりはしない。湯せんする。
恋愛的な意味で贈る相手は居ないので、凝ったものには手を出さず親愛の友チョコを作る。
でもつまみぐいもする。
「むふー。しあわせ」
妖精さんも、どぞー。

時期的に、そういうトークがあれば「……そこ、詳しく」とダイレクトに混ざりに行く。
恋愛はまだよくわからないけど。興味はある。

バディペットのペンギンはなんかすごい凝ったチョコケーキ作ってた。クオリティで負けた。うぐー。



「チョコが食べられると聞いて」
 意気揚々と新しい不思議の国に召喚された響・夜姫(真冬の月の夢・f11389)のバディペット宇宙ペンギンの手、いや羽には、しっかりといくつかのレシピ本が抱えられている。
「!」
「……違う?」
 必死に首を振るペンギンの主張は無事に夜姫に届いたらしい。ほっと安堵の吐息を零したペンギンはとても器用だ。そもそもレシピ本を抱えることができる時点でかなり能力値が高いと思われる。
「食べ放題、なるほど」
「!?」
 宇宙ペンギンの顔色が悪くなる。
「本気を出す時が。来たようだー」
「!?!?」
 既にキッチンスペースへと歩き出している夜姫の後ろを、大慌て、かつ必死で追いかけていく宇宙ペンギンの背中は哀愁に満ちていたとか、いなかったとか。

 移動中にサバーニャを利用してそこかしこに溢れている食材を集めた夜姫。その量はやはり多く、宇宙ペンギンが先ほどからずっと暗雲を背負っているような気配である。
「……?」
 時折振り返ってみる夜姫だが、どうして宇宙ペンギンが見るからに気落ちした様子なのかわからない。
「ちゃんと作る」
「……?」
「食べ放題だけど、作らないと食べられない」
「!!」
 言葉通り作りはじめる夜姫の様子に喜色満面の宇宙ペンギン。表情の変化を見せるまでの器用さはやはりバディペットの領域を超えているのではないだろうか。しかし夜姫の表情筋が仕事しない分を補っていると考えれば、とてもちょうどいい組み合わせなのかもしれない……?

 本番のチョコレートは少しだけ後から。まずは使い道の多いクッキーを作っていくことにする。
 粉をふるうのも丁寧に。夜姫がちらりと横を見ていたら、ものすごくリズミカルに、かつ素早く粉をふるっている宇宙ペンギンの姿が目に入った。
「……負けない」
 なんとなく競争心が擽られる状況に、夜姫は改めて気合を入れる。スイーツ妖精さん達は周囲でクッキー型をもってくるくる飛び回っている。どうやら応援団のつもりらしい。
「ハートはいらない、かな」
 特別恋愛的な意味で気になる相手がいるわけではないので、避けておいた方が無難だろう。別にハートマークが嫌いという訳ではないけれど。
「花びら、悪くない」
 粉をふるいながら、スイーツ妖精さん達のお勧めしてくるクッキー型コンベンションの審査を続ける夜姫。表面に凹凸をつけることで薔薇の形をうまく再現できる型は即決採用。十字架は抜き出しにくそうだ、と控えめに示されたものの進んで採用し、持ってきてくれた妖精さんをサバーニャに乗せてあやす。宇宙ペンギンを見たからか海の生き物らしいシルエットの型も数種類あったので、カニ型を採用しておくけれどペンギンには見せないように注意しておいた。後は定番の星型、花、猫……あまり多くても大変かな、と思った所で止めておく。
「これだけあれば、足りる?」
 ジンジャーマンクッキーの姿をした妖精さんに尋ねれば、元気よく頭が上下に揺れた。妖精さんだからか、身体は柔らかいらしい。
 なおこの間に、宇宙ペンギンはバターや砂糖等、他の材料を全て計量してくれていたことをお知らせしておく。一気に調理が楽になった!

 クッキー生地をやすませる間にチョコレートに取り掛かる。勿論、チョコレートは刻んで溶けやすいようにしてから湯せんにかける。
「!?……♪」
「なに? ……焦がしたりするわけがない」
 やればできるじゃないか、とばかりにぽんぽんしてくる宇宙ペンギンに頷く夜姫。自分が美味しく食べるための努力は間違えない女子なのだ。美味しいも満腹も幸せの証なのである。実際粉ふるいだって大きな事故は起こしていない。
 生クリームと共に温めていた分はしっかり混ぜて、バットに流して冷蔵庫へ。成型は後だ。

 妖精さん達にも手伝ってもらった型抜きクッキーを順番に焼いていく。形の崩れてしまったクッキーは味見と称したつまみぐい。
「……むふー」
 焼きたての、ソフトクッキーと呼べるほどの歯触りから楽しい。サクッでもカリッでもなく口のなかでほろりと崩れるクッキーは甘味が強く感じられるしバターの香ばしさと一緒に口に広がっていく。
「しあわせ……」
 スイーツ妖精さん達にもおすそ分け。皆でそっくりの笑顔でもぐもぐ……もぐ……♪
 後で食べる分、親愛の友チョコとして渡す分、勿論この新しい国の一部になる分でもあるから、クッキーはまだまだ焼きあがってくる。崩れたもの全てをつまみ食い、なんてちょっと多すぎるくらいだ。
「これは、この後また使う」
 そう言って再びチョコレートを湯せんで溶かし始める夜姫。綺麗に洗ったクッキー型と、シリコンのケーキ型がすぐ傍に用意されているようだった。

 最後に焼き上がったクッキーの粗熱を取ろうと並べていたら、全く記憶にないハート型のクッキーがいくつか。
「……?」
 なぜだろう、と首を傾げる夜姫に、慌てた様子の妖精さん達。どうやら一部有志がバレンタインに乗じて告白するとかしないとか。こっそり作ってこっそり隠すつもりだったようで。
「……そこ、詳しく」
 まさかの妖精さんラブストーリー発見の瞬間である。怒られるかもと不安がっていた妖精さん達はほっとして、見逃してくれるお礼にと一生懸命説明をしようとしてくれた。
 直接おしゃべりは出来ないが、顔を赤くしたり、照れていたりとなんだか空気感は伝わってくる。そんな妖精さん達の様子を見ながら、クッキーが程よく冷めるまで夜姫は彼女(?)達の話を楽しんだのだった。

 ──響・夜姫、親愛の友チョコレート──
 型抜きクッキー。プレーン、ココアの二種類。薔薇、十字架、蟹の形にはチョコレートペンで線を書き足していたりする。星、花、猫の形は半分にチョコレートをかけてみたりとアレンジも。
 トリュフ。丁寧に丸められたほろにがトリュフ。カカオ成分多めなので甘いものが苦手な人も食べられるかも。ココアパウダーと粉糖の外、抹茶をまぶしたものもある。
 クランチチョコ。形の崩れたクッキーをあえて割って、溶かしたチョコと一緒に型に入れて固めた無駄のないレシピから誕生。炒ったクルミも入っていて香ばしさも楽しめる。
 チョコレートフォンデュ。シンプルゆえに飽きが来ない逸品。この国の広場予定地に噴水として設置される模様。
 チョコケーキ。正しくは宇宙ペンギンが制作したデコレーションケーキ。スポンジにココアを混ぜて、3枚に切り分けたスポンジにチョコクリームを挟み、ホールをチョコレートコーティングした上でチョコクリームでデコレーション、トッピングは薔薇の形に成型したチョコレートと拘りが詰まっている。

「……クオリティで負けた……」
「♪」
 飼い主であるはずの夜姫の目の前で、ドヤ顔をしている宇宙ペンギンの姿があったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノイシュ・ユコスティア
去年は団員からバレンタインのチョコをもらった。
今年は僕からプレゼントしようと思う。
…ん?周りに男はいない?
まあ…いいか。

スイーツは作ることも食べることも好き。
レシピ本に目を通す。
「なるほど、他の世界にはこんなお菓子もあるんだ~。」
マカロンを作ってみよう。
どんな味になるのか想像しながら作るのは楽しい。
カラフルなものにすれば、みんなのテンションもあがるに違いないね。

時間が許す限り、いろいろなスイーツを作ってみる。
後々の戦いに役立つものを作れたりしないだろうか?
剣の形に削ったチョコ、ブーメランになりそうなクッキーなど…

愉快な仲間たちが喜んでくれるといいな。



 渡されたレシピ本を丁寧に捲って、どれがいいかと首を傾げる。今、ノイシュ・ユコスティア(風の旅人・f12684)が見ているのはパンケーキの頁だった。
「でも、これは日持ちがしなさそうだよね」
 この国に在る分には何の問題もないだろうけれど。いくらスイーツ妖精達が保存の能力をもっていて、それを持ち帰り分にも使ってくれるとしてもだ。やっぱり出来立てを、作りたてを食べてもらう方がいいようなスイーツは避けた方がいいかな、と考えてしまう。とはいえせっかくだからとメモ用紙を一枚付箋代わりに挟んでおく。
 今探しているのは持ち帰り用のレシピだけれど、これはこれでこの国の為に作ってもいいかな、と思うので。
「去年貰ったことも考えると……」
 やっぱりチョコレートがいいだろうか、と一度目次に戻ってみる。この本はなぜか、チョコレートを使ったスイーツが特集だとばかりに近いページに掲載されているらしい。
 ぺらり。
「今年は、僕からプレゼントしたほうがいいと思うしね……」
 くれた団員の好みはどんなものだったかな、と首を傾げて、レシピその物の行程よりも添えられた絵や写真を眺めていく。
「多分、見た目が可愛いとかの方がいいような、気がする?」
 特別自信があるわけではないけれど、せっかく作るのだから気に入ってもらえるものがいいと思う。
「……ん?」
 可愛らしい出来上がりのスイーツがご所望、という呟きはスイーツ妖精さん達にも聞こえていたらしい。是非自分と同じスイーツをとばかりに、アピールしてくる妖精さん達がふわふわと、ノイシュの周りに集まってくる。
「君の仲間は作ったことがあるから、後で一緒に作ろうか?」
 お菓子で一杯にする、という妖精さん達の希望も忘れていないノイシュは、少しずつ呼び寄せたり、グループに分かれて貰ったりして話しかけていく。人見知りが発動していないのは、ひとえにスイーツ妖精さん達がヒトっぽい形をしていないからだ。
「僕の作ったことがあるレシピでもいいし、おすすめのレシピがあったら一緒に探してくれるかな」
 一人で探すだけだと時間もかかってしまうしね、と微笑めば張り切る妖精さん達。
「君達は見慣れないけど……?」
 首を傾げるノイシュには、これだとばかりに開かれたレシピ本の頁を示す妖精さん達。こちらはアピールの為に準備万端整えていたらしい。
「なるほど、他の世界にはこんなお菓子もあるんだ~」
 示された頁に、ホットケーキの時と同じようにメモ用紙を挟んでいく。目新しいレシピは是非試してみたいと思うのだ。何故ならノイシュはスイーツを作るだけじゃなくて、食べることも好きなのだから。でなければこの国の仕事に召喚されてなどいないわけで。
「……ん?」
 集まって来た妖精さん達の相手をしているうちに、一つ気付いたことがある。
「……周りに男は居ない……?」
 男の子っぽい妖精さん達はいるけれど。
「まあ……いいか」
 それより、スイーツレシピの発掘の方が重要なのだ。

 アーモンドプードルと粉砂糖はしっかりとふるって、使ってみたい食材に合わせて食紅の粉も混ぜておく。勿論計量も慎重に。
 お菓子作りは目分量より、レシピ通りに作ることが一番美味しい結果への近道だとノイシュは理解しているからだ。フィリング用の食材も既に並べてはあるけれど、生地を乾燥させる時間も沢山あるとのことなので、時間を無駄にしないようそちらの計量は後回しだ。
「ころころ、転がっていきそうな外見だったよね」
 今作ろうとしているのは色とりどりなマカロンである。卵白とグラニュー糖でメレンゲを泡立てながら、どんな味になるのか想像を膨らませていく。
 食紅と書いてあったけれど、食材そのものを細かく砕いて混ぜ込んであるものばかりだったのだ。流石に素材だけでは着色能力が弱いと、100%素材そのもの、なんてものは殆どなかったのだけれど。
「抹茶だっけ? あれだけは、食紅が入ってないみたいだったよね」
 緑色の粉末を思い出して少しだけ、首を傾げるノイシュ。勿論身体は傾かないし、手もぶれなくメレンゲの角を立てる為に動き続けているので大丈夫だ。
「お茶、っていうと紅い……茶色をイメージするけどな」
 実際、茶色の食紅、として紅茶葉を砕いたものをまぜたものだって見つけて確保してあるくらいだ。
「色の違いだけじゃなくて、味も、色々変わっていそうで楽しみだね」
 勿論どこか渋い色合いばかりだけでなく、女の子が好みそうな、可愛らしい色が揃うように選んであるので大丈夫だ。
 赤ならチェリー、ピンクは苺、ももはもっと淡い桜のような色だった。
 黄色はパイナップル、クリーム色にレモンピールが混ざっているらしいし、橙もオレンジピール、白に近い薄い黄色はバナナだと書いてあった。
 紫はブルーベリー、紺はプルーン、灰色は胡麻で、黒は深入りの珈琲豆だとか。
 紅茶の茶色だけでなく、勿論ココア入りの焦げ茶だって並べた。
 あえてプレーンな色を付けないものも作ってみるつもりだし、脱脂粉乳とやらで真っ白いものも挑戦してみようと思っている。
 ミントと書かれた緑はどこか青みを帯びていて、メロンの黄緑も淡く優しい色だ。
「中に挟むものと同じ食材で、味を統一してもいいけど……あえて違うものを挟んでも、面白そうだよね」
 珈琲色に、ミルククリームを挟めばそれだけでカフェオレマカロンになる筈だ。
「後は食紅を混ぜるとか……苺とレモンでオレンジ色とか?」
 絵の具のように組み合わせも出来るだろうし、そうでなくても同系色でフルーツミックスなら色も間違いない筈だ。知っている食材の味を思い出して、ひとつひとつ組み合わせようとする。考え始めるときりがなくて、いつまでも考えていられそうだ。
「……え、もうこれでおわり?」
 気付けば大量に、なおかつ色とりどりのメレンゲ生地が完成していたのである。

「後は乾燥させて、焼いて、冷まして挟んで……」
 待ち時間も合間に多い。ノイシュは慣れたレシピでスイーツを量産していく。
 特にこだわったのはそれぞれのスイーツの造形だ。
 丁寧にテンパリングしたチョコレートを大きな型に流し込んで固めたものを、丁寧に削りだして武器の形にするのである。置物としても見栄えがするし、咄嗟に戦いに使えるかもしれないということで、これから先の国の防衛に役立ててもらう心づもりだ。
「僕がつくったのを真似して、皆も作れたりする?」
 スイーツ妖精さん達も、小さな体を懸命に動かしながらチョコレートの成型に取り組んでいる。どうやら妖精さん達が使う武器は、自分達で作り出せるようになりそうだ。
「流石に小さいと細工が難しいからなあ……あ、凄いねその形」
 投擲武器になりそうな鋭い刃を削りだした妖精さんに、拍手を向ける。皆さらにやる気になってチョコレートのナイフが増えていく。
 ~♪
「クッキーも焼けたかな?」
 オーブンの音に駆けよれば、フィナンシェとクッキーのいいとこどりをしたようあレシピを使った大型クッキーが取り出された。月に似た形で焼き上げられているそれをあたたかいうちに手を加え、ブーメランに相応しい角度をつけていくのだった。

 ──ノイシュ・ユコスティア、返礼の感謝チョコレート──
 マカロン。生地とフィリングどちらも種類を揃えたおかげで、味も色も多様な組み合わせがそろっている。香りと味で、何を使ったかあてっこして楽しむことも可能。
 パンケーキ。そのふわふわ具合は極上の甘さをもたらしてくれる筈。妖精さん達の寝床として大絶賛され、同じサイズが何枚も重ねられている。
 武器チョコレート。芸術性も高いけれど、食べれば口当たりも抜群。カカオやミルクの量を変えて甘さに違いのあるものも。
 ブーメランクッキー。これひとつでお腹いっぱいになりそうな大型サイズ。重心の調整を兼ねてチョコレートで模様が描かれている。

「思った以上に作れちゃったね」
 何をどれだけ持ち帰るか、選ぶだけで時間もかかってしまいそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『スコーンとジャムとクロテッドクリーム』

POW   :    焼きたてスコーンにクロテッドクリームを添えて

SPD   :    旬の食材をサンドウィッチにして

WIZ   :    紅茶はミルク? それともジャム?

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

 こぽこぽとカップに注がれる音に合わせて、ふわりと芳しい香りが広がっていく。
 ティーポットの形をした妖精さんも、カカオ豆のかぶりものをした妖精さんも、それぞれが淹れるのを得意とする飲み物を準備してくれているのだ。
 小さなホイッパーを手に持った妖精さんが、小さなデキャンタからミルクを注ごうと待機しているし、その向こうでは、角砂糖を投げ入れようと意気込んでいる妖精さんが、ケーキ型の妖精さんに気が早いからととめられているようだ。
 この新しい不思議の国は、まだまだ完成とは言えないけれど。
 最初の頃に比べたら、チョコレートらしさも、バレンタインらしさも増えてきている。
 チョコレートフォンデュの噴水の近くに、テーブルセットを持ち込んで。
 愉快な仲間、スイーツ妖精さん達は、ホットケーキのソファーの上に仲良く座って。
 完成したばかりのスイーツを、淹れたての暖かい飲み物と一緒に、さあ、召し上がれ?

 キラキラな紙、透けるような柔らかい紙、模様が綺麗な紙、袋になっているのもあるよ。
 ビニールタイプの透ける袋は、お菓子を魅せるのにいいかもね。
 細くて色とりどりなリボン、くるくる巻ける紐、シールの種類もたぁくさん!
 好きな香りを含ませる、小さな飾りも準備済み!
 持ち帰るためのスイーツを、可愛くラッピングするのはいかが?
 この国のスイーツも、可愛く飾ってくれたら、もっともっと嬉しいな!
 ……もし、もしね?
 今のスイーツで物足りなければ、新しいスイーツをつくってくれても、いいんだよ?
ノイシュ・ユコスティア
さっき作ったお菓子を試食してみよう。

飲み物はさっぱりしたものがいいかな。
ティーカップに紅茶を注いでもらう。
砂糖なしのミルクティーにしよう。

いつも戦ってばかりで、戦いのことばかり考えている毎日。
たまにはこんな休息も必要なんだね。

噴水のチョコレートフォンデュが気になる。
イチゴ、リンゴ、マシュマロ、タピオカ等に浸けてみよう。
酸味より甘ったるいものが好き。柑橘系は苦手。

ラッピングに初挑戦。
センスがあるとは言えないんだ…、どんなものがいいか教えてほしいな。
妖精たちにアイデアを出してもらって、彼女がバラが好きだと思い出して…
バラの香り、バラの小物を透明な袋に付けてラッピングする。
…ふぅ、一苦労だな。



 妖精さん達が、ふわふわ様子を伺っている。
「淹れてくれるんだ? じゃあ、さっぱりしたものがいいかな」
 ノイシュ・ユコスティア(風の旅人・f12684)の言葉に笑顔が返り、急げ急げとティーセットの方へと向かっていく。
「慌てて火傷しないでね」
 念のためにそんな言葉を向けてみたけれど、逆に速度が上がったような?
「……そういう妖精なら、怪我にもならないのかな」
 もしかしたら、そういうこともあるのかもしれない。
「カップくらいは自分で」
 思いなおして立ち上がるころには、もうお湯で温められたカップとソーサーが運ばれてきていた。人サイズのティーカートをたくさんの妖精さん達が押してきたのだ。
「いつのまに」
 ティーセットは勿論、ノイシュがつくったスイーツをケーキスタンドに丁寧に盛り付けてくれたらしい。これからこの国で暮らすことになる妖精さん達の、今出来る最大限のおもてなしなのだとか。

 下から順番に眺めてみる。全体的にずっしりとしたチョコレート武器の中でも食べやすそうなものがいくつか、クッキーで作られた土台に立て掛けて並んでいる。
 ブーメランクッキーを作りきれない量だから、と余った生地で試しに焼いたものだけれど、うまく活用できて何よりだと思う。
「……君達の分は、足りている?」
 妖精さんサイズなので、手に取る前に聞いておく。皆で懸命に作っていたのは覚えているけれど、一度に何度も作れないのはノイシュも良くわかっている。実際、随分と武器作りに時間をかけたのだ。ある程度近い形になるよう型から調整するなんて、時短の工夫もしたけれど……刃物として使えるようにチョコレートを研ぐ、なんて作業をそりゃあなんどもくりかえしたのだから。
 慣れていない妖精さん達にその方法を手ほどきしたりもしたけれど……
「なるほど、これは君達だけで作ったやつなんだ」
 どうやら出来栄えの評価をして欲しい、ということでもあるらしい。レシピと手ほどきをしてくれたノイシュが合格を出せば、これから自衛武器を妖精さん達でも作れる自信が付くということだ。
 淹れたての紅茶の隣に置かれたミルクをゆっくりと注ぎ足してから、妖精さんサイズの剣を一つ手に取った。これひとつだけなら確かに置物に見える、手のひらサイズのロングソード。
「うん、しっかり確かめさせてもらうね」
 戦いに備えた武器の話の筈だけれど……口の中に広がる確かな甘さに、やはり非日常なのだと感じてしまう。
 毎日、気付くと戦いの事ばかりを考えている気がする。故郷を出てからずっと、復讐の為というほどではないにしても……同じ悲しみを繰り返さないように、力をつけるべきだと戦いに身を投じていた自覚があるから。
 目の前のテーブルだけでなく、周囲の景色にも食べ物、いやスイーツが溢れている穏やかな時間というのは、なんだかとても貴重な気がする。
「たまには……こんな休息も必要なんだね」
 ミルクティーの暖かさが体中に広がるのと同時に、スイーツの甘味も広がって、無自覚だったノイシュの疲労を、この国が労ってくれている……そんな気がした。

 ティースタンドの二段目に並ぶ果物やマシュマロ、光を反射するキラキラの黒い粒はタピオカのようだ。
 チョコレートの武器を食べる間、ずっと気になっていた噴水に足を向ける。
「皆も食べる? 溺れないようにね」
 周囲を跳ぶ妖精さん達に教えながら、チョコレートフォンデュの噴水に、フォークに刺した具材を近づける。
「あっ」
 ふわっふわマシュマロボディの妖精さんが噴水に落ちた!?
 固まらせないために常に流れ続けている噴水だ、場所が悪いとそのまま巻き込まれ……全身コーティングされたチョコレートマシュマロの妖精さんになっていた。
「防御力があがったかな?」
 よりおいしそうな、この国の住民らしくなったねと微笑めば、食材系妖精さん達が競うように噴水に飛び込んでいくのだった。

 一番上の段に積まれて宝石箱みたいになっていたマカロン。自分でも確かめたその味を思い出しながら、色とりどりの包装紙を眺める。
「どんなものがいいかな」
 センスには自信がないと妖精さん達に頼りなさげな視線を向ければ、我先にとおすすめを持ち寄ってきてくれた。
 厳選した数色を並べて入れられる箱。透明な蓋だから中身もしっかり見えるのがポイントらしい。
 袋に可愛いワンポイントの模様が入ったもの。この模様もいくつか種類があるし、リボンやシールとあわせれば何通りにも飾れる。
 紫色のリボンをすすめる妖精さんは、どうやらノイシュの目の色に近いものを選んだらしい。
 女の子に贈るのだと話を聞いた妖精さんはハートや花など、可愛らしいシールの山を抱えて来た。
「……彼女は、薔薇が好きだって言っていたかも」
 それを見て呟いたノイシュの言葉に、また別の妖精さん達が小物を持って来るのだった。

 ──ノイシュ・ユコスティア、薔薇色マカロン──
 持ち帰り用で選んだのは、いくつもの種類を揃えたマカロン。
 食べる時に手を汚さないように、まずはひとつひとつを丁寧に個包装。どんな色のものか分かるように、もちろん透明なフィルムのようなものを使っている。
 留めるシールは、味を連想させるようなモチーフを探し出してある。味を予想して遊ぶ楽しみと迷ったけれど、せっかくだから、それぞれの味の違いをしっかり意識してもらいたいなと思ったのだ。
 全種類一個ずつでも随分と数がある。それをこれまた透明な袋に詰めていく。特に花の色にあるような可愛らしい色のものを外側に、茶色のような少し彩度が低いものは袋の中央で少し隠すように。広げると円柱状になるその透明な袋を選んだことにも意味がある。安定して置くこともできるけれど、逆さにしてて渡せば花束のようにも見える、なんて妖精さんが身振りで大絶賛していたのだ。
 薔薇の香りのアロマスプレーを、赤いリボンのベルベットにワンプッシュ。袋の口を絞ってリボンを巻いて、仕上げに結ぶときに小薔薇のヘアピンを二つ留めて……完成!

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイ・キャスケット(サポート)
アルダワ魔法学園の生徒であり謎解きや冒険となると首を突っ込まずには居られない

性格は明るくポジティブ
性善説的な考え方が強く非オビリビオン相手であれば甘すぎる慈悲を与えることも
楽しければ悪ノリする部分もあり、またその場のノリに流されやすいことも


一人称はボク
二人称はキミ
三人称は年上は~さん、年下は~くん、~ちゃん

戦闘では『ブランクソード』と高速詠唱を軸にした七色の属性攻撃で敵を翻弄するオールレンジラウンダー
得意な戦法は挑発やフェイントを多用したイヤガラセからの主導権奪取
状況に応じ回復も使い分ける万能型だが、体力は並程度を魔力ブーストで補う

明確な弱点は水中、水上行動を極端に嫌うことである


響・夜姫
連携・アドリブ・その他諸々OK。

「さて。食べ放題の、時間」
※食べ方は綺麗とか優雅な雰囲気。でもなぜか減るのが早い。不思議。
華麗に色々な種類をお行儀よく。
「んん。美味しい。よくできた」
皆とも食べさせあいをしたり。
飲み物を貰ったら、「ありがとありがと」と撫でてあげたり。
「チョコフォンデュの噴水……直でいける?」
行ける気がする。

一通り食べたらラッピング。
透明な袋に入れて、口をきゅっとリボンで結ぶ、可愛いやつ。
妖精さんもリボンを巻いてラッピング。
「妖精さん。これは持ち帰る用。お持ち帰り、するよ?」
……後で、この国用に。薔薇を象った大きいチョコも作ろ。

ぺんぎんは……大量にリボン結んでる。器用。



「さて」
 気合十分な響・夜姫(真冬の月の夢・f11389)が妖精さん達へと視線を向ければ、心得た! とばかりに数名の妖精さん達が頷いている。
 ティーカートにはスイーツのお供に欠かせない飲み物がいつでも飲めるようにスタンバイされている。飲み頃の状態で時間を止めてあるので、常に一番おいしい状態だとか。お茶会の必須メニューだから、とどうやら飲み物もスイーツ換算で能力の対象になるらしい。
 そう言えばチョコレートフォンデュもずっと流しっぱなしだが劣化しないと、妖精さん達が胸を張っていたことを思い出す。この国限定になるだろうけれど、とっても便利な能力なのは間違いなかった。
「食べ放題の……」
「あれっ?」
 早速紅茶の注がれたカップを持ち上げたところで、それまでなかった筈の声が聞こえる。
「あっ、お邪魔しちゃったかな?」
 慌てた声のレイ・キャスケット(一家に一台便利なレイちゃん・f09183)は今まさに召喚されたて、この不思議の国に来たばかり。夜姫のカップとスイーツの並ぶテーブルに気付いて、離れるべきと判断したのだけれど。
「ん、問題ない」
 一度カップを置いた夜姫はちらりと宇宙ペンギンに視線を向ける。気の利く妖精さんは紅茶にもう一度時間を止める魔法をかけて、すちゃっと敬礼のようなポーズを決めた宇宙ペンギンはレイの方に向かっている。
「え、えっ?」
 にこにこ笑顔でおもてなし態勢の妖精さん達に囲まれたレイは強く拒否が出来ない。
 その隙に椅子がもう一つ運び込まれ、宇宙ペンギンにエスコートされて。あれよあれよという間にレイもお茶会の参加者になっていた。
「美味しい……」
 ほぅ、と一口飲んだ感想を零したところで我に返るレイ。
「……あれ?」
「食べ放題の、時間。だからいっぱいあるし、気にしない」
 足りなかったらまた作ればいい、と伝える夜姫に、なるほどとレイも肩の力を抜いた。

 お茶会は和やかに進んでいる。お茶は丁度いいタイミングで出てくるし、一度頼んだミルクや砂糖の量を妖精さん達は間違えない。
「このまま幾らでも過ごしていられるー」
 夜姫に勧められたトリュフが口の中で溶けていく。じんわりと広がる甘さに疲れがとれる気がするのはどうしてだろう。
 戦争のこともあるけれど、それはこの国、この世界の事ではなくて。出身地の慌ただしさに色々と構えてしまった心がきっとどうしても急いてしまっているだけなのだろう。
 こうしてゆっくり過ごす時間がとても貴重に感じてしまう。こうしては居られないと思う反面、どこかで休まなければ、心を落ち着かせなければいけないことも理解はしていた。
 だから、勢い任せで席につかせてもらったことに感謝していたりもする。
(それに愉快な仲間達も、本当……善意のかたまり?)
 まだなにもしていない自分もこんな風に歓迎してくれるなんて、と少しだけ卑屈な考えが脳裏をよぎる。新しい国づくりの途中ではあるわけで、やることがない、というわけではないのだけれど。
(なにができるかなー……なんだっけ、お菓子作るんだっけ?)
 ぼんやりと周囲を見渡せば、確かにまだ物足りないようにも思える。確かにスイーツの溢れる街だけれど、まだまだ、作ろうと思えば試せるものは多そうで。
(うん、もう少しお茶を楽しんでから……)
 歓迎のお礼も兼ねてお菓子を作ることは確定だ。レシピ本も後で見せて貰おうと、クッキーを求めて、レイの手がテーブルの上に伸びた。
 スカッ!
「……?」
 手に摘めるものが無くて、不思議に思ったレイはカップからテーブルへと視線を移す。
「ボクのクッキー?」
「よくできたから、おすそわけ」
 丁度、クッキーの最後の一枚を夜姫が妖精さん達に食べさせているところだった。
 クッキーのやり取りをしていた当事者以外の妖精さん達がテーブルの周囲でアワアワしている。一部始終を見ていたし、時々夜姫に頭撫でて貰ったりしていたので、なんだか罪悪感を感じている顔だ。
 くいくいっ。
 物足りない、と思っているレイの服の裾が軽く引かれている。見下ろせば宇宙ペンギンで、クッキー入りのチョコクランチを差し出してきていた。多分、かわりにどうぞ、ということだろう。ちなみにそのクランチチョコも最後の一個だ。
 随分と大量にあったスイーツはほぼ全てなくなろうとしている。
(いつのまに?)
 クランチチョコを頬張りながら考えるレイは記憶を探るがわからない。なにせ見ていなかったのだ。優雅な雰囲気でスイーツを食べ進める夜姫は、実際はものすごいスピードで食べ進めていたことを。
 多分、考えに耽っていたからだと思われる。

「直でいける?」
 スイーツ作りにキッチンへと向かっていったレイを見送って、夜姫は噴水の横に立った。フォンデュに必須のお菓子やフォーク、お皿なんかの乗ったティーカートは宇宙ペンギンが押してくれているので身軽なものである。
 とりあえず定番のフルーツから順にチョコにくぐらせていくことにしよう。
 噴水という扱いにはなっているが、その形はチョコレートファウンテンと呼ばれる3段構えのそれである。噴水サイズだし、屋根も完備で東屋風だし、なにより噴水の縁部分は凸凹で、王冠に似た形の囲いで覆われている。
 高い場所はテーブル代わり、低い場所は腰かけたり足場にしたりと、手軽にフォンデュを楽しめるようにという配慮の結果である。よく見ると、高い部分の表面にはいくつか、丸い窪みまであった。
「カップ置き場、なるほど」
 妖精さんに示されるままにティーカップを置いてみる。確かに倒してフォンデュ内に混ざるなんて事故はよくない。
 既に宇宙ペンギンがチョコレートコーティングを始めていることに気付いて、夜姫も早速バナナをフォークに刺すのだった。

「とりあえずは、食べさせてもらったものと同じものとか?」
 律儀に妖精さん達に確認しながらレシピをなぞっていくレイである。腕前には自信がある方だ。レシピだってあるのだから失敗するはずもない。
 トリュフに、クッキーに、クランチチョコ……定番のメニューを一通り。
 合間の時間に考えるのは、まだこの場に無いスイーツで、さっと作れるものはないだろうか……ということなのだけれど。
「そういえば疲れないのかなーキミ達って?」
 おもてなしのお礼になるか分からないけど、と言いながら綿毛がレイの周囲をふわりふわり、舞い始める。淡い光もやさしいもので、妖精さん達が綿毛にぶら下がるふりをしたり、集めて花束のようにしようとして……触れた傍から消えていくのを面白がりはじめた。
 綺麗なものが消えてしまうのは残念だけれど、同時に妖精さん達はより活発になっていく。逆に疲労を感じているレイに気付いて、更におもてなしをしようと準備を始めてしまったようだけれど。
「ありがとー」
 渡されたミルクティはお茶会の時とは違って、優しい甘さが溶け込んでいるらしい。蜜蜂のような姿の妖精さんがアピールしているから、きっと甘さの由来は蜂蜜なのだろう。
「……」
 じっとみていたら、照れてしまったらしく顔も真っ赤になっている。そのままじーっと、妖精さん達ひとりひとりを眺めていくレイ。
 蜜蜂なら蜂蜜、ティーポットはそのまま紅茶、レモンの輪切りみたいな子もいたし、そもそもバレンタインのチョコレートを重視しているならそれも外せない……
 ふわふわの食感で、でもそんなに手間じゃなくて。味も色々作れるし、何より簡単に大きく膨らむなら……シフォンケーキなんてどうだろう?
「うん、もうひとふんばりしちゃおっかな?」
 手伝ってくれる? と尋ねるレイに、妖精さん達がくるくると踊りながら周囲を回っていた。

「妖精さん。これは持ち帰る用。お持ち帰り、するよ?」
 お茶会の分でもなく、この国の一部になる分でもなく。持ち帰り用に選んでおいたスイーツ達を丁寧に袋に詰めていく夜姫。
 クッキーは二種類の味がバランスよく入るように気にかけてみる。チョコレートでアレンジを加えておいた分は時々「あたり」気分で出てくるくらいの頻度にしておくのがポイントだ。ただ型抜きをしただけ、少し線を足しただけのクッキーは圧倒的に多いのだ。
 トリュフはカラフルなアルミカップに入れてから、小さな袋にまずは一個ずついれていく。あとで、三種類を一個ずつ別の少し大きい袋に詰めるのだ。粉がまぶしてあるから、せっかくの味が混ざらないようにという配慮である。
 クランチチョコは念のため、平面の部分にカラフルなワックスペーパーをあててから。円よりも少し大きいくらいの四角に切って、その上に乗せてからなら袋にもぺったりつかないし、何より模様があるから可愛さも増える。
 宇宙ペンギンの作ったチョコケーキは流石にこの国においていくことにした。とはいえしっかり複数作っていたので、一個はしっかりとお茶会の間に食べ切ったのだけれど!
「……?」
 一通りを袋に入れ終わったところで、その宇宙ペンギンの方を振り返る。
 夜姫が詰めたスイーツを種類ごとに分かりやすいように並べつつ、どのリボンが似合うだろうか、と真剣に検討している。せわしなく首を動かしているのがその証拠だ。
 しばらくして納得のいく組み合わせをみつけたのか、器用にリボンを結び始めた。あの凹凸の少ない手でどうやってその器用さが出せるのか、宇宙ペンギンゆえに神秘が多すぎて奥が深い。
 もちろん夜姫も近いものから順にリボンを結んでいく。選ぶ手間が既に省略されているが、気にしないで黙々、もくもくと……数が多いので時間がかかるかも……?
「……うん、かわいいかわいい」
 透けるほど薄く柔らかい手触り、可愛らしい小花柄の紙を妖精さんサイズに切り分けて、リボンと一緒に巻いてあげる夜姫。
 リボン結びは宇宙ペンギンがさっさと終わらせてしまったのだ。予想以上にあっけなかった。そして未使用のラッピング素材を物欲しそうにしていた妖精さんに気付いたのだ。なにせ告白しようと計画しているメンバーのひとりだったので。
 そのまま簡易ファッションショーに発展させながら、そう言えば、と夜姫は思い出す。一番気に入りの薔薇のモチーフで、チョコレートを作っていなかったことを。
(この後、作る)
 目指すは大きな薔薇のオブジェ。まだまだ忙しくて、でも楽しい時間は続きそうだ。

 ──響・夜姫、リボンの花畑セット──
 プレーンとココアのクッキー、三色トリュフ、クランチチョコの三種類のスイーツが詰め合わせになった、どこかお得感のあるセット。其々のスイーツごとに小分けになっており、種類ごとに違うリボンが使われているからその彩りも目を楽しませてもくれる。
 一番大きい袋の中には色々な形のクッキーが入っていて、どれ一つとして同じものは入っていない。宇宙ペンギンが興奮してしまうほど丁寧に作られたカニさんクッキーは夜姫としても随一の仕上がりだ。それが入っていたら、幸運に恵まれることがある……かも?

 ──レイ・キャスケットのブロックシフォン──
 何種類ものフレーバーで焼き上げられたシフォンケーキの大きさはさまざま。そのまま積み上げるだけでも簡易の壁になる上に、必要な食材や手間がメレンゲを作る部分以外は容易だ、ということで妖精さん達が大絶賛。手の空いたものから順に大量生産体制になったらしい。
 特に多くつくられたのはココアを混ぜ込んだ生地で、焼きあがったあとにチョコレートコーティングを行ったタイプ。妖精さん達の能力で硬度が増すので緊急時の防衛にも使えるかもしれない、と期待されているとかいないとか。
 レイ自身はラッピングに目もくれず色々な味の開発に没頭していたのだが、感謝した妖精さん達が、一番できのいいチョコレートシフォンを丁寧にラッピングしたものをお土産用として用意していたとのこと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

数宮・多喜
【アドリブ改変大歓迎】

葎ちゃん(f01013)と参加するよ!
チョコは美味しいけど、苦いのはちょっと苦手なんでね。
甘々にトッピングして楽しみたいよ。
そこで用意したのはこれ、マシュマロ!
これを軽く焙ってスモアにして、
チョコファウンテンからとろーりとチョコを掛け。
あまあまチョコフォンデュの完成!
はい、葎ちゃんどうぞーっと!
ハッピーバレンタイン!

他の愉快な仲間の皆にも振る舞っちゃうよ!
これだけあまあまなら、紅茶にもピッタリだろうしね!


硲・葎
【WIZ】多喜(f03004)と。スモアのチョコフォンデュ!? わ、これはとっても贅沢な甘さだね!私はどんなのにしようかな?バイクさん、ちょっとだけ甘いの苦手だし、トリュフチョコにオレンジソースを仕込んだ控えめな甘さのチョコに!多喜のスモアも美味しそう! いっぱい食べたいから、頑張って大食いしちゃおうかな?それと、少しだけ別にラッピングしておこっと。それと、多喜にはオレンジじゃない分を! 「はい、多喜!ハッピーバレンタイン!」



「途中の状態でも、時間を止めてもらえるかい?」
 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)の問いかけに、一斉に頷くスイーツ妖精さん達。多喜の手にはこの国にある何種類ものマシュマロが既に取り揃えられている。
 この国は見つけられた当初からシンプルなお菓子と材料は様々に揃っているのだ。ちょっと手がかかるとか、複雑な工程が必要な物は新しく作ったり、レシピを彼ら妖精さん達に教えておかないと増えないだけだ。
 そんな国に移住した愉快な仲間達であるスイーツ妖精さん達は、猟兵達が持ち込んだレシピに狂喜乱舞したのである。彼等の体格でも作れるスイーツに限られるけれど、猟兵達の手伝いをしていない他の妖精さん達は、今もレシピにあるスイーツを作り続けていたりするのだ。
 そんなわけで、これから多喜が作ろうとしている品に必要なマシュマロも、クラッカーもかなりの量があるのだ。特にマシュマロの色、つまり味付けで種類が豊富だ。何せすでにマカロンやシフォンケーキで種類を増やす、という前例を他の猟兵がやっているので妖精さん達にもより強い向上心が生まれている結果だ。
 すべて淡い色だけれど、種類の多いマシュマロの山はそれだけでも可愛らしいけれど、ここから更に手を加えるのが多喜の目的だ。
 オーブンのトレイにクラッカーをしきつめて、マシュマロを一つずつ乗せていく。
 温めたオーブンで数分、様子を見ながら焼くだけで甘い匂いが広がる。それだけでも美味しいと思うのだけれど。
「大急ぎで挟んでしまわないとね!」
 妖精さん達の手も借りて一斉にクラッカーを乗せて軽く一押し。その状態で時間を止めて貰うのだ。
 香ばしさと暖かさをそのままに、とろりと溶けかけ独特のやわらかさもそのままに、いくらでも食べられるように、用意したマシュマロとクラッカーがなくなるまでいくつもいくつも焼いていく。1回焼くのに数分だから、とにかくすぐに数が稼げるのもいいところだ。
「え、この状態で味見?」
 妖精さん達の一部がそわそわしているところに尋ねれば、今の味が気になる、と切実な訴えが主に瞳から伝わってくる。
「確かにこのままでも美味しいと思うけど……仕上げの一手間があった方がもっと……だよぉ?」
 もったいぶらせるように言ってみれば、他の妖精さん達の喉もごくりとなったような?
 味見と称して目減りする、なんて事態は避けられたようである。

「バイクさん、ちょっとだけ甘いの苦手だしな……」
 愛機の好みを考えながらチョコを溶かしている硲・葎(流星の旋律・f01013)の手はゆっくりとしているが、それだけ丁寧に作っているということだろう。
 先に、中に仕込むためのソースを何種類か作って、小さなトレイに流し込んで。冷凍庫で冷やし固めているのだけれど、さてどれくらいの時間をかければちょうどいい温度になってくれるだろうか?
 これが一番だろう、と選んだオレンジソースは、マーマレードジャムを真似て皮も少し入れているのでほんのり苦味があるのがポイントだ。
 ジャムを使えば他にも同じようにできるのではないかと気付いたので、苺に林檎、ブルーベリーといった定番のジャムもいくつか用意してある。
 ちょうど見かけた生キャラメルのレシピも使って、プレーンと、インスタントコーヒーを混ぜたもの、抹茶を混ぜたもの……と、気付くと種類が増えている。
 結果として、溶かして準備しなければいけないチョコレートの量も増えているが、きっとなんとかなるだろう。
 やる気いっぱいの妖精さん達も手伝うタイミングはまだだろうか、とそこかしこをふわふわ飛んでいるわけなので。
「もう一つ湯煎始めるし。そっちを任せてもいいかな?」
 妖精さん達の視線に耐えきれなくなった葎は、早々に仕事を割り振ることにしたようだ。
 はじめのトレイで冷やしはじめていたチョコレートが丁度いい塩梅なので、冷凍庫からソースのトレイも出してくる。
 ソースやジャム、キャラメルは半口分くらいに切り分けて、チョコレートは一口サイズに切り分ける。
 後はお団子作りと同じだ。チョコレートに凍らせたソースを埋めたら、チョコの表面をならして丸く整える。
「何を入れたか分からなくなっちゃうから、名前を付けたトレイに間違えないようにおいてね?」
 ソースやジャムが入ったものは、粉をまぶさずにもう一度冷やし固めるだけだけれど。冷やす前にオレンジピール、りんごチップに苺とブルーベリーの干した物を一つずつトッピングすることで区別をつける。
 プレーンキャラメルは粉砂糖、珈琲キャラメルはココア、抹茶キャラメルは同じく抹茶をまぶす予定だ。

 お茶会はテーブルセットではなく、噴水と銘打たれたチョコレートファウンテンの縁で。
「お待ちかねの最後の仕上げだよ!」
 多喜が大きめのスプーンで救い上げたチョコレートをスモアにとろーりとかけていく。お皿の上に行儀よく積まれたスモアの甘い香りに、更にチョコレートの濃厚な香りが重なっていく様子はそれだけでちょっとしたエンターテインメントだ。マシュマロの彩りにも種類があるのでタワーオブジェクトとしての完成度も高まっている。
「あまあまチョコフォンデュの完成!」
「スモアのチョコフォンデュ!?」
 目を輝かせて眺めていた葎の前に、多喜から完成したばかりの皿が差し出された。
「はい、葎ちゃんどうぞー!」
 ハッピーバレンタイン!
「ありがとう! って、先に言われちゃった?」
 なら自分も、と葎が差し出す皿には5種類のトリュフがこちらも山になるよう積まれている。苦いのがちょっと苦手というのは勿論知っているので、オレンジ、コーヒー、抹茶を使ったものは別の皿に、むしろバイクさん用としてよけてある。
「はい、多喜!」
 ハッピーバレンタイン!
 お互いに笑顔で皿を交換して、まずは贈られたチョコをと食べ始める。
 勿論お供は暖かい紅茶で、妖精さん達が邪魔にならないタイミングを計って置いてくれているのだ。
「すごいね、マシュマロの種類もあるし、いっぱい食べられちゃう」
 妖精さん達の能力のおかげでマシュマロは焼き立て、チョコレートもほんのりあたたかいまま。歯触りもずっとやさしいままで口の中でふわっと溶けていくようだ。クラッカーはシンプルだから甘さの邪魔もしないし。
「挟まないタイプも作ってあるんだよ」
 トリュフを食べる手を止めて多喜が言えば、見計らっていたのか妖精さん達が別のお皿を持ってきた。
 細長いクッキーを櫛代わりにしてマシュマロ数個連ねたものをそのまま焼いたのだ。どう見てもお団子だけれど、クッキーごと食べられるのだから違いは歴然である。
「これはこのままくぐらせて……ほら!」
 二人でそれぞれ別の一本をもってフォンデュに勤しみ……ぱくり!
「わ、これはとっても贅沢な甘さだね……!」
「甘々なトッピングを、更に強化した感じだよねぇ」
 すぐに溶けて消えてしまうほどふわふわな食感なのもあってクラッカーサンドタイプとはまた違った一品になっている。
「って遅くなったけど、律ちゃんのもすごいよ、食感急に変わるからびっくりした!」
 うまく丸める為に凍らせたジャムやキャラメルは、トリュフとして完成する頃には本来の柔らかさに戻っていたというわけだ。
「サプライズ出来たなら何よりだよ!」
 大成功! と笑い返した葎が、まだ多喜が手を付けていないひとつを指さした。なんのトッピングもされていないシンプルな見た目だけれど、他と違って形が整えられている。
「でも、それだけは見たままで何も入ってないから、噛むなら気をつけてね?」
「そんな勿体ないことしないって、口の中で転がして食べるのが美味しいんだよ」
 それに、と多喜がどこか勿体ぶって言葉を止めた。
「「愛機は大事にする」」
 視線だけでタイミングを合わせて、二人の声が重なった。
 他のトリュフと違って、タイヤの型に流し込んで作ったトリュフ。それはやっぱりお互いの愛機を思い出すものだから。スターライダーな二人にしてみたら当然のことなのだ。

 ──数宮・多喜のスモアハウス──
 色とりどりのマシュマロを使ったスモアの中でも、クラッカーに挟んだサンドタイプは様々な建造物の素材として使われることになった。ちょっとずつ形の違うものを積んではチョコレートでくっつけて、チョコレートをかけたら次のサンドを積んで……カラフルでチョコレート色で、とっても甘い香りのする壁がそこかしこで組み上がっていく。これこそチョコレートの国、バレンタインの国、とばかりの街並みになる筈だ。
 クッキー連結タイプは街灯だとか、道の整備、つまり街並みの区画整理に利用されるらしい。何かあったら地面から引っこ抜いて防衛用の槍にもなる、という話だけれど、確かに妖精さん達にとってみれば丁度いいサイズなのかもしれない。

 ──硲・葎のトリュフ詰め合わせ──
 クロカンブッシュの真似事、とばかりに積み上げて時間を止めればタワーオブジェの完成になる。何やら砲台みたいなものを作っている妖精さん達が居たのでたずねたところ、砲弾にもなるとかならないとか。確かに着弾後にソースが広がれば目つぶしになるかもしれない。葎自身は作っていないけれど、レモンソースなら酸味がいい刺激になったりする……かも?
 多喜とともに食べた分とは別で、バイクさんの為に包んだのは甘さ控えめ三種類。其々個別に袋に詰めて、橙、茶、緑とそれぞれの中身に近い色のビニタイで留めてある。
 さらにさらに、それらとはまた別に……トリュフ全8種類を一個ずつ、カップに入れてから、2×4のマス目タイプの箱に丁寧に詰めておく。蓋の上から包装紙も巻いて、リボンもかけたので……少し豪華に見えるようになった、かも?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ばぐったアリスおかしでおかしなばくだんま』

POW   :    スイーツワールド
無敵の【意のままに世界を改変するお菓子な爆弾】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    スイーツボマー
いま戦っている対象に有効な【意のままに世界を改変するお菓子な爆弾】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    スイーツラビリンス
戦場全体に、【意のままに世界を改変するお菓子な爆弾】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

 その声は、急にどこからか聞こえてきた。
「おかしおかしおかしいおかし!」
 どすん、どすん、どすっぷどすどすどんどんどーん♪
 リズミカルな騒音が続いていて。
「おかしいっぱいばくだんいっぱい!」
 わぁー、と歓声のような声に、猟兵達も警戒しながら様子を伺う。
「ここならアリスばくはいっぱい!」
 ふんふんどすどすどすっぷふんふーん♪
 鼻歌と喜びの気配に猟兵達が見上げる先では、振動の原因……スキップしながらやってくる巨大な……アリス?
 アリスっぽい服装で、少女で……アリスっぽい何か。
「おかしいおかしでばくはいっぱいアリスのすてきはばくはのすてき!」
 何故って見るからに人間ではない多きさなのだ、身長は10mくらいあるかないかといったところ。
 身体が大きいからこそ彼女の声は大きく、なぜか彼女の言葉にははっきりとした区切りがなかった。
 ようく耳を澄ませて聞き取って、後から意味のある言葉に変換して、なんとか言いたいことがわかるような、わからない様な……?
「さっそくすてきおかしばくは! どかどかどっかんぜんぶばくはであまあまじかん!」
 猟兵達を気にも留めず、大きな少女はむむんと人差し指を振る。
 するとこれまでになかったお菓子が、スイーツが、この不思議の国に増えて……
「だーいばーくはー!!!」
 いっせいに、どっかーん!!!
「あまあまいっぱいおかしまみれさーいこー!」
 別の場所を指させば、今度は建物のようなものが地面から……お菓子の家らしきものが生えてくる。
「ちいさいけどあまいならせいかーいもっとたくさんばくはおかしおかしおかしおかし!」
 きょろきょろ周囲を見回している少女は、アリスに似ているけれどオウガなのだろう。自分をアリスと呼んでいるけれど、その行動を見るにオウガなのだろう。
 愉快な仲間達である妖精さん達はアリスを歓迎するけれど、オウガならば怖がって逃げたり、戦って国を守ろうとするわけなので。
 ほら、周囲を見てみれば。
 チョコの武器を構えたり、シフォンの盾を並べたり、チョコの弾を装填したりと……少しでも国を守る力になろうと、戦いの準備がはじまっている!
「あたらしーおかしみーつけたー!」
 どうやら、アリスでオウガな爆弾魔は、猟兵達の作ったスイーツに、妖精さん達の使っているスイーツに、ついに気付いてしまったらしい。
「おいしいおかしじょうぶなおかしこわせばもっともっともーっとあまあまひろがる!」
 どすどすどすっぷどすっぷどすどすー!
「つよいおかしばくはもおーきいもっともっともーっとひろーくあまあま!」
 きらっきらに輝かせている目だって随分と大きい。妖精さんが身体を丸めたら同じくらいかもしれない。
 ひょいぱくっと食べられてしまいそうな大きさでもあるが、幸いにもオウガはスイーツに興味津々だ。
「みせてみせておかしいおかしすてきなおかしたくさんちょうだいばくはおかし!」
 どう見ても爆破に利用されるのは明白なので、出来るだけ早く倒さなくてはならないようだ。
ノイシュ・ユコスティア
食べ物を粗末にするのは良くない!本当に。

妖精たちを説得し、戦いが終わるまでどこかに隠れていてもらう。
「1人の犠牲も出したくないんだ。信じて…。」

ユーベルコードで流花を召喚し、その背に飛び乗る。
ロングボウを構え、矢を番える。
ここからは敵と距離を取りながら空中戦で行く。

「この子には何を言っても通用しないだろうな…。」
攻撃しつつ、こちらに気を惹いて、周囲にお菓子がない(または少ない)場所に誘導できないか試す。
敵の両手・両足にマヒ攻撃の矢を射ちこんだ後は、胴体の心臓部を狙い攻撃する。

お菓子の爆弾は、避けるか射ち落とす。
迷路はイライラせずにマッピングしながら流花と協力し、手早く突破する。



 我に返ったのはノイシュ・ユコスティア(風の旅人・f12684)が最初だった。
「食べ物を粗末にするのは良くない!」
 その一心が全てを突き動かしている。
「本当に……食べ物がないって時に後悔しても遅いんだから……」
 ひどく切実な顔で妖精さん達に説得しようと、戦いの準備を進めている彼らの前に立った。
「武器になりそうだってのはわかる、わかるけど」
 確かにノイシュも武器になりそうなチョコレートを提案したし、妖精さん達の出来栄えを評価したりもした。研いだり構えを見たりして戦いに備える彼らを応援したりもした。
 けれどそれはもっと同格のオウガだったり、身体の小さな相手を想定したものであって、あんなに大きな、見るからに圧倒的な力量差のある相手と戦わせるためなんかではないのである。
 彼らが今あるスイーツ武器達で戦ったらどうなるか? それこそあのオウガの体格に見合う武器ならともかく、彼等の体格で運用できるようなものにはならないだろう。
「って、そうじゃなくて」
 思考に嵌っている場合ではなかった。とにかく妖精さん達を避難させることが先決だ。
「1人の犠牲も出したくないんだ」
 故郷のようになってほしくないし、短い期間とはいえ共に過ごした彼等が誰一人として欠けるなんてことを許したくない。
「……本当に、信じて……」
 暫くは戸惑うようにノイシュの周りを浮いていた妖精さん達だが、繰り返される言葉に、ついにわかったと頷いた。
 ノイシュが言っていたもう一つの理由、食べ物を粗末にしないためにも、展開していたスイーツ武装を片付け始める。
「よかった……」
 短く、安堵の息を零す。
「慌てずに下がってね。ちゃんと、君達が逃げる時間も稼ぐから」

「おいで、流花!」
 騎乗できるほどの大きなハヤブサの背に飛び乗って構えるのはロングボウだ。
 少しでも長く気を引く為には大きさも威力も必要だ。
 ノイシュの願うままに飛翔する流花の背でじっくりと矢を番える。
 焦っては意味がない、外しては意味がない。確実に、けれど安全に、出来るだけこの国の被害を少なく。
 考慮すべきことは多いけれど、どうにもならないと分かることがひとつある。
「この子には何を言っても通用しないだろうな……」
 大きさはともかく、その姿形はそれなりに成長した少女のそれだ。
 けれど体格に見合った大きな声で叫び過ごす様子は完全に幼児。
 難しい言葉を知っているようで、ただ使ってみたいお年頃、というだけのいたずら盛りの大きな子供。
 まずは攻撃してみない事にはわからないと一矢放つノイシュ。的は大きく、外す方が難しい。何より死角からなのだから避けられるはずもない。
「!」
 びくり、と震えたオウガの様子にダメージが足りないのかと息を飲むノイシュ。勿論流花に頼んで次の場所へと移動する。まずはオウガにノイシュ自身を認識させなければならない。
「いーたーいーーー!!!」
 遅れて届く叫び声に、効果があったことに安堵する。どすどすと足踏みで痛みに耐えようとする様子をみながら、まだ刺さったままの矢を狙ってもう一矢放つ。うまくいけばさらに押し込んでダメージを増やせるはずだ。
「おまえかー!」
 しかしオウガもノイシュに気付いたらしい。オウガサイズのマシュマロがノイシュめがけて飛んでくる。それは都合よく矢に刺さって……
 どっかん!
 突き刺さった矢を切欠に宙で爆発した。ノイシュから見れば抱き枕かと思えるほど大きなマシュマロは、甘い欠片と煙を撒き散らして消えていく。
「流花、此処から離れていくよ!」
 爆発に巻き込める範囲がノイシュの予想以上に広いことが知れた。だからノイシュは更に十分な距離を取る為に方針を変える。
 捕まるか捕まらないか、といった近距離で躱しながら、苛立たせながらという方法はかなり危険が伴う。とにかく、せっかく作り上げたお菓子の街、その中心地点から少しでも離れるべきだ。
 まだ発展途上であることは幸いなのだろう。建物は作っているが、実際はまだそこに妖精さん達は暮らしていない。何故なら住民たる彼等は皆、ひとまずの完成祝いでお茶会に勤しんでいたのだから。
 壊れたらまた作ればいい、と言えるだけまだましなのだろう。皆で作り上げた思い出はあるけれど、まだそれだけ、とも言えるから。
「痛いのが嫌なら、捕まえにおいで!」
 試しにオウガに向けて叫んでおく。話は通じないだろうけれど、わかりやすい言葉なら。その確認も兼ねている。
「いったなかくごばくはどっかんだいばくは!」
 どうやら、上手に煽れたらしい。
 力の強い相手を怒らせると更にその力が増す可能性はあるけれど……
「次は、弱らせられるか試さないとだね」
 矢じりに塗るのは麻痺などの状態異常を起こす薬品だ。日々の糧を得るための狩りでは使わないけれど、食べることもできない害獣を減らすために使われるそれは、果たしてオウガに聞くだろうか。
 気持ち多めに塗りつけた矢を、すぐに使えるように準備する。しっかりとオウガの手足を狙うが、タイミングも重要だった。
(もう少しで、倒れても大丈夫な場所に届くから……)
 次の爆弾が飛んでくるのが先か、それともオウガがノイシュの望む場所まで移動するのが先か。流花に飛び回ってもらいながら、その時を待った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライネット・ネビュラゾート
「これぐらいの迷路、ドールにはきっと問題ないですの」

【WIZ】
迷路を高速演算で解析して一気に突破を試みますの。
速さと慎重さのどちらも必要になりそうですがやりとげますわ。
突破できたらプログラムド・ジェノサイドを顔面にでも叩き込むです。

倒せた後は演算能力の使い過ぎでお目目くるくるになってます、つかれたぁ…

クランケヴァッフェは銃器系。
アドリブOK。



「おかしすくないたりないすてきどこ? おかしおかしおかし!!!」
 周囲にお菓子の建物が減ってきていることに気付いてしまったオウガが、地団太を踏もうとして、けれどできないことにいらついて駄々をこね始めた。急に周囲の景色が変わったことに驚いているようなので、どうも移動中のことはあまり覚えていないらしい。両手足の麻痺に気を取られてそれどころではないのかもしれない。
(……あれでも行動制限されている状態だということですの?)
 立っていられなくなったからと、地面に無造作に転がるオウガはもう完全に物をねだる幼児のそれである。オウガの死角から様子を伺っているライネット・ネビュラゾート(ピュアリィドール・f03693)だが、暴れん坊状態のオウガに近寄るタイミングが見出せないまま時間が経とうとしていた。
 大きな子供が、その大きさだけで巨大な打撃武器になり得る四肢が、麻痺しているというのにそれなりの速度で振り回されているのである。それでもはじめよりゆっくりだというのだから驚きだ。狙って動かしているわけでもないのでその意図を読みにくい。どこに動くかを知るのはほぼ運でしかない状態で、むやみに近寄るなんてことはしない。
 じっと手足の動きを見つめ、少しでもパターンが読めないかと挑戦は続けている。学び試すことは無駄にはならないはずなのだ。
(移動しなくなったのですから、あとは当てるだけですわ)
 明確になっているのはその点だ。出来れば急所となる場所に攻撃を当てたいと、少しずつオウガの頭の方へと近づいていくことにする。
 なにせオウガが暴れても壊れるものが周囲にあまりない。それは折角作り上げている新しい国の被害が少なくなる利点ではあったけれど、こうしてオウガと対峙する猟兵にしてみれば視界を遮るものがないので諸刃の刃のようなものだった。
 暴れているうちは周囲の様子にも気付かないだろう、という運にかけているような状態でもある。
 少しずつ、少しずつ。時に後ろに下がり、時に身を伏せて。オウガ自身の手足の影に隠れるようにして。ライネットはオウガの視力を奪おうと進んでいく。

「うごけないーつまんないーばくはおかしなにもなーいー!」
 唐突に、オウガがぴたりとその動きを止めた。
「こわせないはじけないあまくないー! だいばくはばくはーつづけてばくはー」
 それまでと違い叫ぶだけではなく、やり場のない怒りをしまおうとするわけでなく、何かを考えているような間が訪れる。
(賭け時でしょうか)
 気付かれたら危険とわかっていても、そう思った事実こそが大切という考え方もある。叫ぶのも暴れるのも止めて唸るような声を上げているオウガに向かって、ライネットが駆け出そうとしたその時。
「ばくだんたくさんーよべばもっとばくはー♪」
 それまでと打って変わって楽しそうな声が上がった。
「うごけないよべばいいーばくだんうごくだいばくはー♪」
 爆弾を近くに寄せればいいのだと、どうやら極シンプルな気付きを得たオウガが、満面の笑顔を浮かべる、その表情が妙に晴れやかで。
「おかしめいろーばくだんばくはばくは! たべてばくはかじるばくはとんでばくはーあまいおいしいばくだんふらす!」
 その言葉通りに。オウガを中心に、何もなかった筈の空から様々なスイーツが降り注いでいる。そのスイーツ達は種類も形も、大きささえも様々で、けれど皆甘いにおいを放っている。しかしオウガの言葉を信じるならば、それらは全て爆弾だという話だ。それらが不揃いなレンガを積み上げるように不規則に積み上がり、隙間をシロップやジャム、チョコレートソースなどの液体甘味で塗り固められその防御力を増して。巨大な迷路となってしまったのだ。きっとゴールはオウガの居場所に繋がっている。
「……これぐらいの迷路、ドールにはきっと問題ないですの」
 進むべき道を瞬く間に邪魔されたライネットは、気付けば迷路の入口に立たされていた。

 降ってくるスイーツを見上げることは忘れていなかった。その降ってくる様子で、それを反転させて今居る場所と照らし合わせれば、迷路の順路、ゴールであるオウガの場所に向かう事はそう難しい事ではなかった。演算はつつがなく進み、ライネットは一度も間違えることなく迷路の最短距離を駆け抜ける。
 速さと慎重さのどちらも必要と思ったからこその行動だったが、オウガはその斜め上をいったのだ。だったら自分もそれを返すまで。
「やりとげますわ、もう迷ったりなんていたしません」
 ゴールにはオウガが居るだろう。きっとまだ寝転んでいるだろう。その我が儘放題の顔面に力いっぱいかます攻撃を思えば、自然と足が速くなるというものだ。
 移動の面でも急ぎ、最短の順路を導くための演算も可能な限り最大効率で行って……それらを同時にこなし続けている今は、あとで訪れるだろう反動のことは考えないでおこう。
「そのまま待っているといいですわ……♪」
 クランケヴァッフェを装填数の多い、連射可能な形状へと変えていく。
 出口はもうすぐだ。オウガの声が弱まっているような気配を感じながらも、容赦なんてするつもりはなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

華上・ユーディ(サポート)
『お疲れ様でした♪』
 キマイラのマジックナイト×ブレイズキャリバー、20歳の女です。
 普段の口調は「たまに語尾にもっちぃ。(わたしぃ、あなた、~さん、や、やろ、やろか?)」、覚醒時は「赤の冥土長(我、~君、~嬢、です、ます、でしょう、でしょうか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


音駆螺・鬱詐偽(サポート)
世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん
ただいま参上。
・・・って、どうしてこんな恥ずかしいセリフを言わないといけないのよ。
うう、これも番組の為なのね。



自身の命綱である番組の為、多少の苦難や困難は仕方なく行います。
むしろ持ち前の不運によりおいしい場面を呼び込んでくれるかと思います。
ただし、ネガティブとはいえアイドルですのでマイナスイメージとなる仕事はすべて却下でお願いします。
ユーベルコードや技能はご自由に使わせてください。
どうぞ、当番組のネガティブアイドルをお役立てください。
                      プロデューサーより



 オウガの元に辿り着く為には、目の前に完成したばかりの爆発お菓子迷路を攻略しなければならない。
 先に別の猟兵が突入した様子を見ながら、音駆螺・鬱詐偽(帰ってきたネガティブアイドル・f25431)は見るからに肩を落としている。
「……これは脱出動画を撮れということ……?」
 お菓子だらけでカラフルだ。見るからに甘い香りに溢れている背景が続くのだからアイドルっぽさは過剰なくらいに演出できているだろう。
「でも、爆発……今時爆発なんて古典的すぎない?」
 この仕事とってきたプロデューサーには帰ったら文句を言わなくては、と思う鬱詐偽である。
「せっかく可愛いスイーツなのに、こんな積み方あんまりやわぁ!」
 離れたところから聞こえてくる声は華上・ユーディ(キマイラの養護教諭(メイド長)・f02310)のもの。そちらを見れば、ぷるぷると拳を握り憤りが隠しきれなくなっているようで。
「しかも爆発するとか、片付ける側の事を何も考えていないのやろか」
 これは掃除のし甲斐がありそうやな、と真剣そうな瞳で迷路を、きっとその向こうに居るオウガをきっと睨みつけている。
「……あっ」
 鬱詐偽の視線に気づいたユーディが振り返る。目が合った。
「……どうも?」
「これから突入するならご一緒しましょうか?」
「私、番組をとることになるけど、大丈夫」
 口調の変化にはあえて突っ込まない鬱詐偽。ユーディも自分からそこに触れずに、けれど自然を装った会話が続いていく。
「こういうタイトルで……この状況だし、いつも以上に体当たり番組になると思うけど」
 抑えた服装をしているが、見栄えのする外見をもつユーディを見ながら、鬱詐偽は自分の進退の為に何が必要かを考えていたりする。
「……ゲスト出演、いける?」
「故郷を思い出して、久しぶりに映るのもいいかもしれませんね」
 着替えの用意はないのでそのままになってしまうけれども。

「世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん。ただいま参上」
 鬱詐偽のタイトルコールが、いつもと違ってどこか柔らかい響きをもっている。はっきりと音にはなっていないけれど、ユーディがひっそりと放ち続けている癒しの音波の恩恵だ。
 この先迷路内で困難に立ち向かう自分達の為にと予め展開し続けることにしたのだ。だから、いつもより鬱詐偽のネガティブ度が軽減されているように映るのだ。
 なおこの音波は番組の撮影、配信を通して見ている者達皆に影響を及ぼしていたりするので、これは巡り巡って鬱詐偽の強化支援にもなるという、ものすごく効率化されて状況にぴったりな完璧な流れであったりする。
「これも番組の為、命綱のため……」
 なんて、本番中なのに堂々とそんなメタ発言をしてしまう鬱詐偽は気付いていないのだけれども。この調子ならやはり美味しい画もあっさりととれてしまいそうである。
「今日はゲストと一緒に、この大きな大きなお菓子の迷路を攻略していくよ……だよね?」
 話をふられたので、撮影用ドローンに向けて微笑みを向けるユーディ。
「そうですね、爆発トラップが多いそうなので、怪我しないように気をつけましょうね」
 少しくらいならすぐに癒すことができるけれど、意気込みとしてはこんなものだろうと返すユーディは知らない。鬱詐偽が持ち前の不運で幾度もスイーツ爆弾の餌食になることを。

 鬱詐偽が僅かな凸凹にひっかかって転び、スイーツ爆弾トラップにひっかかる。勿論その都度怪我をするが、ユーディの音波がすぐに癒すので大きな怪我にならず、むしろ徐々に回復していく。
 しかし爆発したスイーツは徐々に二人の服を汚していく。顔についたものを拭って味見もできてしまった。どうやら爆破後は爆弾ではなく普通のスイーツになっているらしい。まさかの新発見である。
「……甘い。これは……チョコレート?」
「爆発前に食べたかったですね」
 時折混ざるスイーツ限定食レポは味くらいしかコメントすることができない。その都度、動画の下部分に「実際の外見は動画を巻き戻し、一時停止してご確認ください」とテロップが流れるのがお約束になっていく。
「さっきの色は何の材料だったのでしょう?」
「んー……と、ヒントは?」
「折角のクイズなのですから、自分で考えてみなければいけません」
「このゲスト、容赦ない……」
 食べるだけでは面白くないと、何故かクイズ形式まではいるエンターテインメントっぷり。勿論ヒントもテロップで「実際の外見を動画巻き戻しと一時停止で確認してください」と入るのである。
「ああ、でもそろそろ出口が近いようですよ?」
 風を感じます、と告げるユーディに鬱詐偽がどこかほっとした顔になる。
「番組はそろそろおしまい、また鬱詐偽さんに会いたいときは、チャンネル登録、よろしくー」
 さっくり終わらせた動画の評判は上々。なお録画データを利用してマッピングが行われ、後続の猟兵達が迷路に迷わないように活用したとのこと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

響・夜姫
連携・アドリブ・その他諸々OK。

でかーい。説明、不要ー。
「お前にあげるものは。チョコじゃなく、弾幕。ふぁいやー」
【誘導弾/2回攻撃/範囲攻撃/一斉発射】な嵐の砲火。
敵の爆弾は召喚の都度狙って撃ち抜き爆破、ついでに本体もズドンする。
むしろ攻撃して誘爆させるのもアリかもしれない。

……せっかくだし。一緒に戦うなら、妖精の皆にも複製サバーニャを貸そう。チョコレート砲弾とか、撃てそうだし。
「好きに使っていい。でも、無理はしないで。いのちをだいじに」
万が一の時には【オーラ防御/武器受け】で盾にもなる。
「国は、皆で守ってこそ」
皆で力を合わせて。
全力ふぁいやー。

ぺんぎんさん。妖精さんの護衛とフォロー、任せた。


数宮・多喜
【アドリブ改変大歓迎】

デケェっ!?
葎ちゃん(f01013)、あれもアリス……なのかねぇ?
別物だよなアレ!?
もしも単純にバグってるなら、デバッグすれば何とか治るかな!?
いやこの場合どう直るか分からないけども、
やってみるかー!
ヒトの何かを治すなら注射もアリだよな!
【弱点特攻作成】で支離滅裂な思考からパターンを読んで、
それを治せそうなワクチン入りの特大注射器を作る!
あとはこいつをぶっ挿せばいいけれど……
なあ、アタシを目いっぱい飛ばす事ってできるかな?
出来るなら、何とかお願いするよ!
うまく『ジャンプ』できたなら、
そーれ、お注射ですよーっと!


硲・葎
多喜(f03004)と。 うわ、でか。何これ……。 とりあえず、こう大きいと動きづらいよね……。とりあえず、第六感と見切りとカウンターで爆弾をひたすら避けながら、UC発動。「そっちがお菓子爆弾出すなら私もロリポップ爆弾どっかーん!!」その爆発でフェイントしてやる。多喜の注射器が用意できたら、気合いを入れて、吹き飛ばしとロープワークで、思いっきりぶん投げる!「いっけえええええええええええ !」もちろん、多喜をかばうのも忘れずに。着地点に間に合うようにダッシュとスライディングで駆けつけるよ!



 情報を元に迷路を抜けた猟兵達、その先に待っていたのは。
「おか……し……!」
 起き上がるのも大変、とばかりにごろごろしているオウガによる爆発ショーだった!
 その周囲には猟兵達の見覚えのないスイーツがたくさん積み上げられている。
「でかーい」
 最初に声を出したのは響・夜姫(真冬の月の夢・f11389)で、改めて間近で見るオウガの大きさに驚いている筈である。どちらかと言えば積まれているスイーツの大きさの方に目が輝いているようにも見えるのは、やはり猟兵になってから増えた食いしん坊属性のせいだろうか。
 とにかく呆れた大きさである。オウガの周囲に積まれているスイーツは全て見た目だけなら美味しそうなのがいけない。
 それが爆弾だろうことはこれまでの話から分かっているのだけれど。
(……美味しいって)
 動画を見ていた身としては、味わってみたいという気持ちもあるのである。ものによっては夜姫より大きいスイーツなんて、全身使って丸かぶりしたいくらいなのである。
 くい。
「……ぺんぎんさん」
 飼い主のアブナイ思考を読んだのか、ベストタイミングで夜姫の気を惹いて、ゆっくり首を振ってみせる宇宙ペンギン。しゃべっているはずがないのに、その身振りはまちがいなく「やれやれ」の動きである。肩はないのに肩をすくめて見せてくる。やっぱり器用だ。
「わかった。爆破させてから、食べる」
「!?」
 そうじゃない、と言いたくてもきっと聞いてもらえないのだけれど。宇宙ペンギンは慌てながらサバーニャを起動させはじめる夜姫の後を追った。

「デケェっ!?」
「うわ、でか。何これ……」
 地震かと思うほどの地響きは確かに覚えていたけれど、間近で見るとその圧が凄い。誘導による移動が順調に済んでいてよかったと本気で思う数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)と硲・葎(流星の旋律・f01013)である。
「なあ、葎ちゃん」
 驚きから回復、というよりも我に返った多喜が隣の葎に迷いながら声をかける。
「あれもアリス……なのかねぇ?」
 確かに名乗りはアリスだったし、確かにエプロンドレスだし、全身でアリスだと思いきりアピールをしているのだけれど。
 規格外な部分がちらほらあって、総合した結果で感想が「大きい」になったからこその、先ほどの声がでてしまったわけなのだけれど。
「別物だよなアレ!?」
 どれだけ眺めてみても。アリスだけれどアリスではないという、常識を問われる微妙な存在なのである。
「とりあえず、こう大きいと動きづらいよね……」
 狭いところを通れないとか、食べるものがたくさん必要そうだとか、そもそも服の調達から面倒そうだとか。なんだか現実逃避をしたくなってくるサイズ感なのだ。
 葎の呆れた声はどこか悟りを開いたかのように気の抜けたものになった。
 けれど、多喜はすでに次を考えていたようでそこに気付いてはいない。
「んー……もしも単純にバグってるなら、デバッグすれば何とか治るかな!?」
 もしあのオウガの元がアリスなら、という仮定によるものなのだけれど。多喜のその疑問はオウガを治したいという救済精神というよりも興味本意の探求心に近く、考えていたら少しだけ、楽しくなってきてしまったのだ。
 バグによって巨大化しているなら、元の大きさに戻すことで倒しやすさが上がる筈だ。
 バグによって爆破魔になったなら、元の性質に戻すことで攻撃性が下がるかもしれない。
 バグによって成人化しているなら、元の年齢に戻すことで頑丈さがなくなるかもしれない。
 バグによって幼児化しているなら、元の精神に戻すことで……これは、外れてほしい推測だ。
「この場合、どう直るか分からないけども」
 可能性を挙げていくたびに試したい欲が膨れてしまっていたりする。ひとつだけかもしれないし、複数重なっているかもしれないし、全部かもしれない。
 けれどデバッグしたとして、戦況が不利になることはない、という事実が多喜の背中を押している。
 オウガは先ほどから立ち上がる様子を見せていない。四肢の麻痺はまだ効いているらしいし、顔に攻撃を受けたおかげで視界も不明瞭になっているのだ。今もそれらの影響は残っているからこそごろごろしているわけで。実はさっきからスイーツ爆弾の応酬は行われているのだが、夜姫のサバーニャが広範囲に展開しながら対応しているおかげでこうして話したり、考える余裕があったりするのである。

「……ばくはー!」
 オウガの口調が更に舌足らずになっている。時間経過で体中に回るタイプの麻痺毒だったのだろう。
「おかしーあたらない……!」
 まともに見えていないはずなのに、不機嫌に、けれど力の抜けた四肢をどうにか振り回すことで不満を示そうとしているオウガである。オウガそのものは随分と弱体化しているのだが、スイーツ爆弾を生み出す能力そのものは衰えていないようで。
 見えないからこそ狙えず、ならば数で勝負とばかりに。オウガの意思を反映したスイーツ爆弾は適当に、豪快に、オウガの周囲へと投げつけられているわけである。
「説明、不要ー」
 敵にわざわざ教える必要はないと応えつつ、夜姫は飛んでくるスイーツを迎撃し続ける。
「確かにバレンタイン、前」
 チョコレートの準備をしたり、食べ放題をしてみたり。スイーツ充でしっかり新しいこの不思議の国を楽しんだから。防衛までしっかり終わらせて、気分よくバレンタイン当日を迎えたい。
「だから、お前にあげるものは」
 オウガが夜姫の声を聞いているかはわからない。飛んでくるスイーツ爆弾がどこかに着弾する前に、サバーニャ達がそれぞれに射撃をくわえて空中で爆破させていっているのだ。その爆発音でどこに居ても騒音が響いているような状態なのだから。
「チョコじゃなく、弾幕。ふぁいやー」
 周辺はどこもかしこも爆発だらけ。空中だから、作り上げたものを壊しているわけではないからこの不思議の国そのものに被害は殆どないと言っていい。
「……これはこれで」
 カップケーキの上に乗っていたクリームの欠片が爆風に乗って飛んできた。手を伸ばしてキャッチした夜姫はそのままぱくりと口に含む。思いのほか繊細な甘さが広がっていく。
「大味じゃない、悪くない」
 爆破後なら食べても大丈夫、という確認は動画のおかげで済んでいたから、ある意味食べ放題な現状を歓迎していたりする。
 倒れたままのオウガ本体に攻撃することも、もう少し戦闘だけに意識を向ければ可能なのだけれど。
「あむ」
 もうしばらく飛んで来たスイーツの欠片を堪能しよう。

「うん、やってみるかー!」
 多喜は思いつきを試してみることに決めたらしい。
「葎ちゃん、頼んでもいいかい?」
 オウガのバグを治すにしても情報が足りない。テレパスだけならこのままでも試みることはできるけれど。できるだけオウガの深層心理を読み取ってしまいたいのだ。
 そのためにはオウガの精神的防御を取り払う必要がある。
「勿論、爆弾を生み出すことしか考えられないようにしておくね!」
 葎が頷く。簡単に言えば、戦いだけに気を向けさせようというわけだ。
「でもこのまま立ち止まってるだけじゃ危ないよ?」
 多喜を置いていくわけにはいかないと、葎は多喜の手を取ってオウガへと向かっていく。攻撃するだけなら距離は開けていた方がいいのだけれど。
 戦うべき相手が増えた、とオウガに認識させるためにはもう少し近付かなければならない。
 勿論、スイーツ爆弾が飛んでくる時には自分だけでなくしっかり多喜を庇う準備だって整える。
 進みながら。葎の周りには鮮やかな赤い色をしたロリポップが生み出されていく。ストロベリーの赤、ラズベリーの赤、クランベリーの赤……ベリー系の赤はどれも、こうしてキャンディにすると鮮やかだ。少しずつ色合いが違う、けれどどれも赤。
 オウガのスイーツ爆弾の射程に入った。避ける為の神経も研ぎ澄ませていく。戦いは、互いに互いを認識していなければ戦いとは言わない。一方的な攻撃はただの襲撃だ。
「そっちがお菓子爆弾出すなら!」
「……?」
 気を向けなければいけない、戦わなければいけない相手が増えたんだぞ、とオウガに示すために葎は声を張り上げる。
「私もロリポップ爆弾つかっちゃうんだからね!」
「……ろりぽっぷ……おかし!」
 最初こそ胡乱に見える目で興味なさそうにしていたオウガだけれど、葎の周囲に浮かぶキャンディに気付いて体を起こそうとして……やはり起き上がれない。
「ばくはなかまなかまばくはおかしおかしおかし……!」
 仲間認定で歓迎の態度を見せられている。
「あそぼあそぼばくはおかしみせっこ!」
 何度か起き上がろうとして、けれど起き上がれない状況に表情をゆがめるオウガ。予想以上の食いつきに驚きはするけれど、狙い通り、いやそれ以上の成果なのだから続ければいいだけだ。
 多喜がうまく情報を手に入れられるように祈りつつ、葎はロリポップたちをオウガに向けて放ちだす。
「みせっこでも遊びでもないけどね! それだけ欲しいならプレゼントだよ! どっかーん!!!」

 オウガとはいえアリスの形をしている、つまり、ヒトに分類されるのだ。
(ヒトの何かを治すなら、薬とか、絆創膏……あ、注射もアリだよな!)
 この先必要なヒントを探るために、防御が弱くなったはずのオウガの精神にいくつかの候補を、想像力を駆使しながら思念に変えて送り込んでいく。
 薬は錠剤や粉薬だと反応が鈍かった。むしろ楽しそうな気配さえ見えていた。もしかするとお菓子や製菓材料と勘違いしていた可能性がある。
 絆創膏は駄目元だが、やはり何の変化も感じられなかった。
 苦手そうなものをこうして挙げて示していきながら、オウガの思念に揺らぎが生まれないか、それを待っているのだ。
 そして注射器は、その先端である針から少しだけ薬液が染み出してくる様子まで鮮明に思い浮かべていく。今は大人の身でとうに克服している多喜だけれど、小さい頃は痛みが嫌で怖がってばかりいたような。誰かにそう教えられたから思い込んでいるだけかもしれないし、本当にその時のことを覚えているだけかもしれないし、真相はわからないけれど。
(我ながら細かいところまで作り込んで……おぉっ!?)
 アリスの思念がはっきりと動揺からくる揺らぎを見せている。
「……へえ」
 針が一本で終わらないタイプだとか、薬液が多くて太く見せるタイプだとか。いくつもの注射器を思い浮かべてみたら、オウガの反応も顕著になって来た。
 それまでは、実際に話す言葉同様に支離滅裂な思考ばかりしか拾い上げられなかったのだけれど。
 明確に、恐怖の感情が見出せたのだから。これは間違いないのだろう。
「これに弱いってことは、確かに精神はアリスなのかもねえ」
 お子様な行動なのも頷ける。ならバグはどんなところにあるのだろうか。治るなら、どんなアリスに戻るのだろうか?
「って、早く伝えなくちゃだよねぇ」
 出来たばかりの注射器はオウガサイズなので、多喜が両腕で抱えても余りそうな、柱とでも呼べそうな巨大さだ。知り得たものと推測を元に作り上げられたワクチンがぎっしりと詰まっている。
「あとはこいつをぶっ挿せばいいけれど……」
 今なおオウガと爆弾合戦を繰り広げ続けて居る、爆破会場へと視線を向けた。

 元がオウガサイズのスイーツである。爆破で欠片になってしまっても、夜姫にしてみれば通常サイズであったり一口サイズであったりと、なんだかんだでとても食べやすい状況だったのだ。
「……避難したんじゃ?」
 そろそろお腹も満たされたかな、と思ったところでまた服の裾を引かれて振り返る。サバーニャの操作パターンも把握できているので、目を逸らすくらいは大丈夫だ。むしろ、そうでなきゃ食べ放題なんてやっていない。
 スイーツ妖精さん達が十名ほど。宇宙ペンギンの引率によって夜姫の後方に並んでいる。
「ぐっじょぶ、ぺんぎんさん」
 自分達の国だから戦いたいのだと、一念発起してしまった一部の妖精さん達がこっそり迷路攻略についてきていたらしい。その志は悪いことではないし、覚悟の上でなら、と思う夜姫である。
「……せっかくだし。貸してあげる」
 既にここに来てしまっているのだ。その勇気を称えて、試しにとサバーニャの操作権限を一機分貸してみることにする。
「好きに使っていい。でも、無理はしないで。いのちをだいじに」
 実際にはここまで大きな規模の戦いを今後の彼らが担うことはないだろうけれど。そんなこと起こさせやしないと考えているけれど。
 戦いの経験そのものはあって悪いものではないと、そう思うのだ。
(やらないと、わからないままだし)
 何より本人達にやる気があって。今なら、自分達はサポートしてあげられるのだから。
(でも、終わったらちゃんと、もう一度言わなきゃ)
 無茶はしないことを、だ。折角の国が、可愛らしくて美味しそうな街が。すぐに消える何てことを避けたいのは夜姫だけの考えではない。関わった皆が同じことを考えている筈だから。
「国は、皆で守ってこそ」
 タイミングを見て、総攻撃にも参加させようと思う。
「それまではぺんぎんさん、任せた」
 彼等妖精さん達の護衛とフォロー、そして操作のコツも。どちらもしゃべれないからこそスムーズに意思疎通ができているらしいので。

「なあ、アタシを目いっぱい飛ばす事ってできるかな?」
 その言葉だけなら何を言っているのかと思うだろうけれど。多喜の抱える注射器を見れば納得しかない。
 注射器は刺すだけでは駄目なのだ。刺した後、押し込んで薬液を注ぎ込まなければ駄目なのだ。
「吹き飛ばしとロープワークで、いける……かな?」
 簡単に注射器から離れないように注射器にロープを巻き付けて、多喜が捕まりやすいように取っ手をつける。
「捕まって……一直線で行くからね!」
「いつでもいいよ!」
 大きく息を吸って気合を込める葎。多喜の全幅の信頼には答えたいと強く想う。
「いっけええええええええええええええええええ!!!」
 とにかく高く、出来るだけ爆発の応酬が行われているよりも高く。オウガに向けて多喜と注射器を吹き飛ばした!
(飛んだ! でも見守るだけじゃダメ!)
 叫び過ぎて声が続かず、急ぎ呼吸を整えながらもロリポップの残りを操り投げていく葎。多喜の飛ぶ場所が、その進路がスイーツ爆弾で邪魔されないように、そもそも多喜が爆破されないように、先回りしてその進路を開けなければならないのだ。
 勿論葎自身も駆け出している。
 作戦が終わったあとの多喜を受けとめるための準備だって、必要なのだ。

 ただオウガだけを見据えて空中を突き進んでいく多喜は、爆発による風圧で時折向きが変わったりしながらも飛んでいる。
 それでも浮かべた笑みは揺るがない。オウガは巨大なのだから、多少のずれは問題ないのだ。ワクチンを体内に取り込ませれば十分な筈なので。
「……よっ!」
 注射器の針が刺さることで、オウガの上にと着地する。
「いだぁぁぁぁぁぁああああああ!?」
 刺さるその瞬間に響き渡る絶叫。麻痺による鈍さを越えるほどの痛みがオウガを襲ったらしい。
「ちゅーしゃきらいいたいいたいいたいこわいいたいきらい」
 ぐすぐすと大粒の涙を流しはじめるオウガの精神は幼児である。
 大抵の子供は注射が嫌いなのである。つまりワクチンを使うことは勿論だけれど、多喜はオウガを怯えさせることに成功したのだ。
 精神的なものかもしれないが、オウガがスイーツ爆弾を新たに生み出すこともやめて、注射器を外そうとその動きが鈍い手を多喜のいる方に伸ばそうとしている。
 軽くその場で跳ねて、回避を兼ねて準備運動。数歩下がって、助走をつけて。多喜がその場でジャンプする。
「そーれ、お注射ですよーっと!」
 押し子の上に立って、容赦なく薬液を押し込んでいく。
「いたいいたたたただだあああああああっ!!!」
 オウガは悲鳴を上げるばかり。スイーツ爆弾はもう完全になりを潜めていた。
 駆けてくる葎を振り返り、近くに来ているサバーニャの一機に手を振った多喜はオウガの上からもう一度、今度は自分の技能だけで跳ね上がる。
「多喜!」
「大丈夫だよ葎ちゃん……って!」
 答える合間にも速度を上げて、着地点に強引に見えるほどの速さで辿り着く葎。彼女が腕を広げて受け止めてくれた。

 状態異常を最大限に利用され、戦闘への意欲も削られて。
 バグの治療も施されたオウガは、ヒトである猟兵達より少し大柄な程度の大きさにまで縮んでいた。
 包囲もそれまで以上に容易となり、何より総攻撃が可能になったのだ。
 弓が、銃が、十字架が、針が、爆弾が。
 全ての攻撃を一度に受けたオウガが倒れた時、オウガの生み出したスイーツは全て、爆弾ではなくなっていたのだった。

 オウガが生み出した大きなスイーツはそのままオブジェに。
 迷路はそのままアトラクションに。
 此処で起きた戦いを忘れず、無理をしないための戒めにと、スイーツ妖精さん達によって時間を止められ残されることになった。
 このバレンタインのチョコレート溢れる不思議な国が、これから先も幸せに暮らしていけることを、猟兵達は願うばかりである。
 元の世界に返ろうと、猟兵達がグリモアベースへと戻っていく。
 奇しくも今日はバレンタイン当日だ。自分達で作って持ち帰るものとは更に別、スイーツ妖精さん達にお礼のチョコレートを手土産にと渡された猟兵達は、どんなバレンタインを過ごすのだろうか?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月14日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アリスラビリンス


30




種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠二色・ありすです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト