●満ち足りた街、文化的な飢え
「よう、久し振り。良い年の瀬は送れたかい? それは何より。さて、今回も皆の力を貸してくれ」
グリモアベースで猟兵たちに必要な情報が記された書類を配り、正純はそのように話を開始していく。
今回の舞台はアポカリプスヘル。それも何やら、ただオブリビオンを倒すだけで良いという話でもないらしい。
「今回、皆には二つばかり作って欲しいものがある。一つ目は、アポカリプスヘル世界に点々と存在する拠点間を繋ぐための『道路』。二つ目は、その道の距離と方向を示すための『地図』だ。具体的な方法はこれから説明するぜ」
どうやら今回の依頼における主目的は、アポカリプスヘル世界の交通網の復活であるらしい。そのために、まずは拠点間の道路設立を――――、ということだろう。
そこに付随し、道路を作りながら同時に測量を行うことで拠点間の距離等を計測、地図を作成するというのが副目的であるようだ。
「ま、二つの街を繋ぐ道路だけを記すだけで地図ってのもねえけどな。だが、この世界に道路を作るって概念が生まれた以上、近い将来地図は必ず必要になる。オブリビオン・ストームで道路を壊されちまったとしても、地図があれば復旧は楽になるはずだ」
この作戦はある程度『道路が壊される』所まで織り込んでのものだ。何者かの手によって何度道路が破壊されようとも、その度に何度でも作り直し、道路という概念をこの世界に定着させるための作戦である、と考えても良いだろう。
「そこでまず皆にやって欲しいことは、出発地点である拠点――――名をシヴィルズタワーと言うんだが、そこから最も近い拠点までの荒野を切り拓いて欲しいんだ。だが、そんな大仕事を一人二人でってのも無理がある。そこで、だ」
そこまで言って、正純は皆に向き直る。猟兵たちの顔を見て、そして彼はもう一度口を開く。
「皆の工夫で、まずはシヴィルズタワーに住む人々の協力を取り付けて欲しい。この作戦を行うにあたっての一番大きな障害は、『塔に住む人々の士気の低さ』だ。調べてみたところ、この拠点の地下にある倉庫には大量の備蓄が存在する。だからこそ、この塔に住む人たちは危険を冒してまで他の街に交通網を繋げようとは思っていないのさ。……だが、手元の資料を見て欲しい」
正純が示した資料には、今回の作戦の出発地点であるシヴィルズタワーの詳細が記されていた。
60階建ての超高層ビルであり、崩壊する以前の文明では人々の緊急避難所としても使えるようにという設計思想の元で建てられた建造物であること。
地下には広大なシェルターと地下農園、そして大量の食料倉庫が広がっており、そこに住む人口こそ非常に多いものの、それを賄えるだけの環境ではあること。
――――そして、この塔には『それしかない』こと。
●創造性を旗に変え
「そう、そこだ。察しの良い皆なら、もう気付いていることだろう。この塔に住む人々の資産は、食糧以外に何もないんだ。身を護るための武器も無ければ、生活を助けてくれる家具や文化もない。日々を生きる糧になるような娯楽も無ければ、それらを形にするための資材だって困窮してる有様だ。彼らの生活は満ち足りているようで、その実は飢えている。――――だからこそ、皆の訴え次第で協力してくれる出目があると思わないか?」
更に続く資料には、シヴィルズタワーに住む住民の中からピックアップされたリストが挟まっていた。
歌が好きで、今でも深夜に口笛を吹くという者。子供が深夜に寒くて起きないよう、自分の上着を子供の毛布代わりにしている者。
仕事終わりの一杯の酒がとにかく好きだったという者。一日の終わりに子供に絵本を読んであげるのが一番の楽しみだったという者。
休日にお洒落な服を着て出かけるのが趣味だったという者。文明崩壊時に思い入れのあった銃を壊してしまったという者。リストはまだまだ続いている。
「俺が今回皆に提供して欲しいのは、シヴィルズタワーに足りない『娯楽』であり、『文化』であり、『熱意』だ。何でも良いわけじゃない。皆の持つ、自分だけの個人的な何かを活かして欲しいのさ。歌が上手い、楽器の演奏や語りが出来る、踊りが上手い、絵や文章、漫画が描ける、服や毛布を用意出来る、酒や銃に知識がある……。他にも、塔に住む人々を奮起させ、協力を取り付けられるような何かなら大歓迎だ。皆が持っている知識と特技を貸してくれ。塔に住む奴らも内心じゃ分かってるのさ。このまま塔に引きこもっているだけじゃじり貧だってことをな。彼らに必要なのは、走り出すためのほんのちょっとの勇気であり、活気なんだ」
つまり、話を纏めるとこうだ。
まず最初に、猟兵たちは道路建設のための人手不足を解消するため、様々な知識や特技を活かして塔に住む人々から協力を取り付けて欲しい、ということ。
自分の得意な何かをぶつけて発破をかけるも良し、彼らが求めているようなものを予測してみるのも良し。思い付かない場合は、彼らの外――――つまり、シヴィルズタワーではない他の拠点に、人々が求めている何かがあるかもしれない、といったようなことで説得をかけてみるのも良いかもしれない。分かりやすく作戦後に物資を与える約束をするのも、場合によっては良いだろう。やり方は自由だ。
「人が生きるには、文化と娯楽が必要だ。そして、欲しいものは待ってるだけじゃ手に入らねぇ。この世界じゃ特に、な。それを行動と言葉で示してやってくれ。みなの健闘を祈る」
ボンジュール太郎
お疲れ様です、ボンジュール太郎です。三章依頼をやるのすごい久しぶりですね。これ毎回のように言ってんな。
今回のテーマは『前進』です。荒野を切り開き、新しい街への道を作り出すには、皆さまの持つオブリビオンに対抗する力と、人々を奮い立たせる何かが必要になります。どうか、未開のの荒野を切り開き、まだ見ぬ新しい街へ繋がる道を作るため、皆さまの個性を惜しみなく発揮して頂ければ幸いです。
●構成
以下の構成でお送りします。
1章は冒険、『荒野を切り開け』。シヴィルズタワーからの道路を拓くために、そこに住む人々の協力を取り付けましょう。
彼らは執拗に行われ続けた暴徒の襲撃により、食料以外の全ての物資をほとんど奪われています。彼らの協力を得るためには、彼らの『士気を向上させるための何か』が効果的かもしれません。
2章は集団戦、『ダーティーギャング』。シヴィルズタワーの物資を狙って襲撃を繰り返していた暴徒たちです。道路を拓き、地図を作成する作業中を狙って襲撃してくることが予想されます。
3章はボス戦、『ジャックレイヴン』。ダーティーギャングを纏め上げている親玉です。少なくとも、それが出来るだけの知性と力を持っていることは確実でしょう。
●参加条件
特にありません。
●アドリブについて
アドリブや絡みを多く書くタイプであることを強く自覚しています。
アドリブ増し増しを希望の方はプレイングの文頭に「●」を、アドリブ無しを希望の方は「×」を書いていただければその通りに致します。
無記名の場合はアドリブ普通盛りくらいでお届けします。
●判定について
その時々に応じて工夫が見えたり、そう来たか! と感じた人のプレイングはサイコロを良きように回します。
●プレイング再提出について
私の執筆速度の問題で、皆様に再提出をお願いすることがままあるかと思います。
時間の関係で流れてしまっても、そのままの内容で頂ければ幸いでございます。
※プレイング募集は1/27(月) 08:31〜からとさせて頂きます。
その前に頂いたものは流してしまうと思いますので、その旨よろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『荒野を切り開け』
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POW : 道路を敷く為、荒れた地面の整地を行う
SPD : 鋭い調査や直感によって、周囲の危険を避ける
WIZ : 知恵や知識によって、最適な交通ルートを割り出す
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ある青年の日記より
この塔から先、遠い遠い先に『点』がある。目を凝らしても良くは見えず、手を伸ばしても決して届かぬ『点』がある。
昼は砂塵に覆われ、夜は暗闇に囚われ、ひび割れた大地によって隔絶されてはいるものの、確かにあれは『点』だった。
何故気の遠くなるような遠方からそれが分かるかというと、私が見ている『点』は常に明滅する光を発していたからだ。
いつしか私は、顔色の悪い大地と、灰色に覆われた空の間で点滅し続ける赤い光点は、人間が発するものだと気付いた。
『モールス信号』。顔も見たことのない曾祖父が密かに残した書物の山は、幼い私にとって友であり、教師でもあった。
私はすぐに大人達へ『光の点に何があるか確かめよう』と叫んだ。だが、私の声に耳を傾ける大人は一人もいなかった。
食料だけは山のようにあった。種類も量も困らない程に。だから、食料を狙う暴徒が塔に来ても抵抗なんてしなかった。
みんな、諦めてしまったのだろう。生きていくだけなら、文化も娯楽も武器も家具も要らない。活気なんて以ての外だ。
――――それでも私には、みんなが本当に諦めているようには――――この日々に満足しているようには思えなかった。
本当に全てを諦めているのなら、昔の歌を懐かしむような口笛が、深夜にどこかから聞こえるものか。
寒くて堅い床で眠らなくてはいけない事実を憂う啜り泣きが聞こえるものか。
残り少ない酒を、皆で分け合いながら惜しむようにしてちびりちびりと飲むものか。
幼い私が持っていた絵本を、見付けるや否やひったくるようにして奪ったりなどするものか。
元は奇麗な柄の入っていたのだろう服を着続けて、ぼろになっても取っておいたりなどするものか。
塔に入り込んできた暴徒が腰に付けていた銃を、多くの感情が混ざった瞳で見詰めたりなどするものか。
みんな、本当はこの塔から出たいのだ。みんなみんな、本当は他の街に行ってみたいはずだ。
本当は、大人たちもみんなこの塔を出て、あの光る『点』に何があるのか知りたいのだ。それが叶わないから、全てに仕方ないという顔をして生きているだけだ。
きっとみんな、『文化』や『娯楽』が生きるために必要なものであったことを忘れているだけだ。
私がそれに気付き始めてしばらく経った頃、街で一番の年寄りの爺様があることを教えてくれた。
「遠くにある何かを確認するには、見詰めるだけじゃダメだ。手を伸ばすだけじゃダメだ。自分の脚で歩いて、近付いてみないと分からないんだ」と。
だから私はきっかけを待っていた。歩き出すためのきっかけを。
果ての無い荒野を切り拓いて、この足で遠くの光にまで歩いていけるような、そんなきっかけを、だ。
私は、今日という日がその『きっかけ』になるだろうと確信している。停滞し、時が止まったシヴィルズタワーに風が吹いたからだ。私たちが持っていない何かを持ち、私たちの背中を押してくれるような、そんな押し風。
その風の名前は、猟兵という。
神羅・アマミ
なるほど…サムライエンパイアにも古来、洞窟に籠もってしまった太陽神を宴にて誘き出した言い伝えが残されておる。
住人の閉じた心も同じように開いてみせよとな?
まずはコード『操演』にてドローンのオクタビアス君を召喚、測量や斥候を兼ねてビル周辺を精査。
地形を把握した後、上階からのみわかるような巨大な地上絵をプログラムし、建物を囲むような形で砂漠に爪でもって刻んでやったらどうじゃろう。
テーマは花で行こう!
その演出でとりわけ童の心を掴み、一歩でも外に出せたなら成功と言っていいじゃろう。
今ある水と食料はいずれ尽き、設備の寿命も時間の問題じゃ。
子供の未来は紡いだ花道の先にしかないと大人も目を覚ますべきじゃよ!
ネグル・ギュネス
●
さて、希望を喪った人を立ち上がらせるには如何するか?
心に残った灯火を改めて点火してやる事である
人々に、資材にならぬ鉄屑や石、或いは土嚢や袋がないか伺って、材料の素を集めよう
其れをヴァリアブル・ウェポンのドリルや刃で加工し、仲間が調査したルート──即ち、地盤がしっかりした場所や、襲撃が来ても察知出来る場所に、道路の基礎を作ろう
敵が見易いと言うのは、迎撃し易いと言うこと
地盤がしっかりしていれば、何度でも立て直せる
…人と同じさ
強い諦めぬ心があれば、何度でも立て直せる
我々の力が無くても、ずっと道を人を守れるようにさ
さあ!我こそは共にと、未来を切り拓く者はいないか!
今なら女の子の目も惹きたい放題だぞ?
●最初の道
「おーい、どうだ?」
「ん~、ここもちょっ~~と微妙じゃな! ほ~~~んの気持ちだけ傾いとるわ」
「おっと、そうか。もしかしたらそうかもしれないなとは思っていたが……。……いや、もう少しだけ調査してみたい。頼めるか?」
「どうせ妾は塔の周りを全部調べとったし、別に構わんぞ。それに最初の道を気取るなら、マジで一番始めをこそこだわるべきだっつーのは妾も思うしの」
「そうか! 素直に助かるよ、ありがとう。……なあ、あの辺りとか、どうだ? 他と比べて目立つような地面のひび割れもないように思うし、あそこなら丁度レベル出せそうな気がする」
「ほぉ? ちょっち待っとれよー、今調べる……。お! ドンピシャ来た! ここを中心に一発バーンと作っちまうっつーことに決めちまうのはどうじゃ?!」
「よっし! こいつは幸先が良い、それじゃ作業に取り掛かるとしよう! っと、そうだ。テーマはどうする? 私はここに『基礎』を作るつもりだが」
「ふふーん、妾はもうとっくの昔にテーマは決まっとる! 『花』じゃ! テーマは花で行こう!」
「塔からまっすぐ伸びていく基礎と、塔を囲むようにして出来上がる花、か……。ああ、良いな。すごく良いんじゃないか?」
「応よ! 出発の門出を祝う『花道』は、妾たちがバチっと作ってやるぜー!」
精神の飢えを待つばかりの塔を背にして、荒れ果てた大地を睨みつける二人の猟兵がいた。
一人は神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)。そして、もう一人はネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)。
この二人は同じような目的を胸に秘め、シヴィルズタワーの眼前に大きく広がる荒れ地を相手に、今から二人だけで大仕事を始めようとしていた。
その経緯を十全に説明するためには、少しだけ時間軸を戻す必要がある。それは今より少し前のこと。ネグルが塔を走り回って、道路造りのために必要な材料の元を手に入れる少し前。アマミが自身のドローン、オクタビアス君を呼びだして、測量や斥候を兼ねたビル周辺を精査する少し前の事。
二人が転送されてすぐ、塔の内部で二人が出会った頃から、この話は始まる。
「さて、希望を喪った人を立ち上がらせるには如何するか? 心に残った灯火を改めて点火してやる事である――――と、私は思っているが。そちらは?」
「なるほど……。サムライエンパイアにも古来、洞窟に籠もってしまった太陽神を宴にて誘き出した言い伝えが残されておる。住人の閉じた心も、言い伝えと同じように開いてみせよとな? 大筋同意じゃのー。妾は測量後に『絵』を描くつもりじゃが?」
「私は地盤がしっかりした場所や、襲撃が来ても察知出来る場所に、道路の基礎を作るつもりでいる。いわば、『この旅の出発地点』――――だな。敵が見易いと言うのは、迎撃し易いと言うこと。地盤がしっかりしていれば――――」
「――――何度でも立て直せる、ってな寸法じゃな?」
「はは、御明察。理解が早くて助かるよ、まさにそういうことだ。道具のアテは?」
「無いのー。建物を囲むような形で、爪でもって地面を刻んでやったらどうじゃろうと考えてはいるんじゃが」
「成る程! それも面白いアイデアだな……。分かった、それじゃ材料は私の方で何とかしてみよう。元々探すつもりだったから一石二鳥だ。その代わり、頼みたいことがある」
「ははーん、賢いアマミちゃんはもう分かったんじゃが? 『材料』と『測量』のギブアンドテイクっつーことじゃろ? 乗った! 砂漠ならともかく、荒れ地に絵を描くんなら、確かに『色』があった方が良いからのー!」
「OK! それなら交渉成立だな。私はネグル。ネグル・ギュネスだ。よろしく頼むよ」
「妾は神羅・アマミ! ただのアマミちゃんで結構じゃ。したら、お互いにやることやって再集合するとしようかのう。妾は塔の正面以外を先に精査してくるわ」
「それなら、私は材料を手に入れるところからだな。集合場所は……、塔の正面入口で!」
方針を固めた二人の行動は、それから正に迅速であったと言って良い。
「ほー、結構塔の周辺は地盤も強いのー。ま、こんだけでかい塔が立ってるんなら納得ではあるな。アマミちゃん的にも好都合」
アマミはUC【操演】によって自身のドローンを召喚し、高所から塔の周辺を一気に精査していく。
高性能なCPUを乗せた蜘蛛型ドローンであるオクタビアス君の情報収集能力と、アマミ自身に備わった必要な情報のみを嗅ぎ取る野生の勘が合わされば、本来時間がかかるような作業も実にスムーズに行われていくではないか。
60階建てであるシヴィルズタワーが立つ地盤が元々強固であったことも幸いして、アマミは手早く塔周辺の地形を把握していく。どうやら、地盤の強度は塔から離れるにつれて弱まっていくらしい。それも離れれば離れるだけ、加速度的に。
「……水分が極端に少ないからか、塔から離れるにつれて地面がカラッカラのパッサパサになっとるわ。こりゃ最速で道を作って、他の街との繋がりを作っておいた方が良いのー。先は長くないと見た」
地形の把握と並行して、アマミは上階からのみ全体図が分かるような巨大な地上絵をプログラムしていく。これは、彼女なりの『演出』だ。
一つところに固まった人を移動させたい時、その方法は二つしかない。『内側から追いやって、ここから逃げたいと思わせる』か、『外側から誘って、自分から出ていきたいと思わせる』か。
そして、アマミは後者を選んだという話である。シヴィルズタワーの住民は敵ではなく、道路を作るための人員であり、仲間なのだから。サムライエンパイアの言い伝えの如くに、外側から誘えるような花を用意する――――というアマミの作戦は、実に良いアイデアだといえる。
さて、アマミが測量を進めていた頃。ネグルはシヴィルズタワーの倉庫番に直談判を行っていた。
『誰に尋ねれば材料の元が手に入るのか?』 『その人物はどこにいるのか?』 ネグルがここにたどり着くまでの疑問は、全て塔に住む人々に聞けばすぐに解決した。
だが、誰もネグルの顔は見ない。目を合わせてくれない。冷めているのだ。請われているから答えるだけ。そこに善意などはなく、要求を断った時に生じるリスクを回避したいからこその疑問に対する即答。
そして、倉庫番も他の人々と温度は同じであった。交渉はつつがなく進む――――。
「是非、お頼みする。資材にならぬ鉄屑や石で良いんだ。或いは土嚢や袋でも」
「…………好きにもってけ。ただ、一つだけ教えてくれよ」
「何だ?」
「何に使うんだよ? こんな価値のないゴミ屑を」
「……フッ。御仁、それは違うな。この世の全てのものに価値はあるのさ。私がそうだと感じれば、な。――――私は、これを材料の元にして、道路を作る。正確に言えば、しっかりした道路の基盤を」
ネグルが答えたその言葉に、冷えた様子の倉庫番の目が僅かに動いた。
『道路? 目の前の大馬鹿は、今確かにそう言ったのか?』 そのような響きが、倉庫番のため息の中に混じっていたのを、ネグルは確かに感じ取っていた。
「っ……。アンタ、マジで言ってんのか」
「大真面目さ」
「できっこねえ」
「やってみなくては分からんさ」
「道路を作ったってすぐ壊される!」
「ならばその度に立て直せばいい。何度でも。強い諦めぬ心があれば、何度でも立て直せる」
「……ッ、……! ……フン、良いさ……! これでやってみろよ、出来るもんなら……! この塔からちょっとでも離れてみろ、道路なんて絶対に作れねえ! ……俺達だって、ずっと前に試したんだ……! この辺は、重機も無しに道路を作れる土地じゃねえッ! ……くそッ!!」
「――――そうか。それは――――やり甲斐があるな」
倉庫番が投げるようにして寄越した材料を、もしくは最初から床に捨てられていた材料を、ネグルは全て拾っていく。小さな鉄くずから、尖った石まで、その全てをだ。
彼は、この問答の中であることを感じていた。彼らは熱を完全に失ったわけではない、ということを。『シヴィルズタワーの人々に眠る希望は、まだ死んではいない』ということを。
●花道を紡ぎ、未来を切り拓いて
そして、時は現時点に辿り着く。
二人の猟兵がそれぞれの用事を終えて合流し、出発地点を設定してからというもの、二人はただひたすらに力を尽くしていた。
ネグルが集めてきたくず鉄等を自身のUC、【ヴァリアブル・ウェポン】のドリルや刃で使えるような資材へと加工していけば、アマミは設計図に沿って塔の周囲に巨大な花の絵をオクタビアスの爪で描いていく。
それからの資材の使われ方は二通り。ネグルは道路の基盤となるべき基礎部分を作成するため、地盤の小さなヒビや穴に合材を流し込んでは叩いて固めていく。それも、全て彼一人、しかも手作業で、だ。
また、アマミも同様に爪で描いた溝の中にくず鉄と石を加工した黒めの合材を流し込んでは、その爪でひたすらに叩いて固めていく。ただ土を削り取るよりも、色の異なる材料を用いた方が、上から見た時に分かりやすくなると踏んでのこと。
長く、長く、単調な作業。何も変わらず、ひたすらに、どこまででも続くような作業であった。しかし、一つだけハッキリと変わっていくものがあった。塔に住む住民たちの意識が、ネグルとアマミが外で行う工事の音に惹かれ始めていたのだ。
――――最初に動いたのは、子供たち。そして、そんな子供たちを叱る大人であった。
「ねえねえっ、おねえちゃん! これなに?! なにかいてるの?!」
「馬鹿だなー、アル! これはお花ってんだぜ! 俺、むかーし写真で見たことあるから知ってる!」
「……クカカッ! そうよ! こりゃ花ってんじゃ! 奇麗じゃろ、デケーじゃろ!」
「うんっ! すごいよこれ! こんなの、ぼくはじめてみた!」
「ほー、そうかそうか。……でもな、アルとやら。妾の作る花は確かにすげー。それはマジじゃ。でも、もっとすごいもんだって、この塔の外にはあるんじゃよ」
「えーっ!? ほんと?!」
「嘘だよ、そんなこと! だって、俺の父ちゃんが言ってたもん! この塔の外には何もないって――――」
――――アマミの演出は、とりわけ子供たちの心を掴んでいた。絵。花。両方とも、シヴィルズタワーから失われた概念である。
彼女のアイデアは成功と言っていいだろう。まだ未完でありながらも、こうして上階の窓から外を見下ろした子供たちを惹きこみ、外への一歩を踏み出させたのだから。
「――――バッカ野郎ッ! アルッ! イワンッ! テメェら塔の外に出ちゃいけねェって、何度も言って聞かせたろうがァ! 道路建設なんて、上手くいきっこねえんだよ……!」
現れたのは、ネグルと交渉を行っていた倉庫番だ。話を聞くに、どうやら子供たちの親である様子。
子供は好奇心のままに動けるだろう。だが、大人はそうはいかない。好奇心だけでは動けない。今までここに住んできた横着が、生存を優先に考える理性が、彼らの脚を外に向かわせない。
――――だから、ここからは言葉が必要だ。行動だけではなく、彼らの心に染み入るような言葉が。
「まあ待て、そこの。……考えてみよ。今ある水と食料はいずれ尽き、設備の寿命も時間の問題じゃ。どうして躊躇う?」
「……上手く、いきっこねえからだ! 生きるだけなら、ここにいれば良い! それで俺たちは安全に老いて死ねる! 他に何を望むんだよ!?」
「確かに、お主らが生きている間はそうかもしれんな。食べ物も飲み物も足りて、塔も壊れぬ。……じゃが、子供たちは? 孫は? 次の世代まで、この塔が持つのかのう」
「……ッ! それはッ」
「分かっておるんじゃろ? 怖いだけなんじゃろ? 子供の未来は紡いだ花道の先にしかないと――――今こそ大人も目を覚ますべきじゃよ!」
「そ……それでも……! 今は良いさ! アンタたちが手伝ってくれるんだからな……! だが、その後は!? アンタたち猟兵がいなくなった後、俺達はどうすりゃいい!? 道を壊されたらどうりゃ良いんだよ?!」
「……道路ってのは、人と同じさ。言ったろ? 強い諦めぬ心があれば、――――しっかりした基礎を作っておきさえすれば、何度でも立て直せる。我々の力が無くても、ずっと道を、人を守れるようにさ。そんな基礎を作るため、『アンタらの力を借りたい』んだ」
「ギャハハーッ! オチを取られっちまったのう! でもま、そういうことじゃな」
「さあ! 我こそは共にと、未来を切り拓く者はいないか! 今なら女の子の目も惹きたい放題だぞ? それに、子供たちからの目もな! ……どうだい? お父さん。ここらでいっちょ、カッコいいパパになってみようぜ」
「く……っ、……! くそ……っ……! ああ……分かったよ! 分かったとも! クソッ! ああ仕方ねえ、しょうがねえ! ちょっと待っとけ! 皆を説得して来るからよ! アル! イワン! お前らも手伝え、知り合い全員に声かけるんだ!」
――――それからは、実に単純。
最初は二人の猟兵が働くだけの静かな塔の入り口に、だんだんと人が集まってきた。二人の行いと言葉が、シヴィルズタワーの人々の心を動かしたのである。彼らの行いは特に、子供を持つ親たちの心に響いたようだった。
「お前らァ!! 猟兵たちにばっかり働かせてんじゃねえぞォ!! ここは俺達の塔だ!! 俺達が道を切り拓かないで、俺達がガキどもを守らないで!! 一体、何をどうするってんだァァ!!」
「「「ウォォォォォォォ!!」」」
旅の大事な『花道』は、猟兵と住民の手によってどこまでも強固に作られていくのだった。作戦の幕が上がる。華やかに、熱を帯びて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラッカ・ラーク
●
長くひとところに住んで満足できる、ってのは、それはそれでスゲーと思うぜ。オレにゃできねーし。
でもさ、そろそろ飽きてンじゃねえか?
『ダンス』に興味は?歌ってみたコトは?オンガクは好きか?
地に足つけて踊ってみせて、それから空だってステージにして。アンタもほら来いよ!って『挑発』して。
ノッてくれるヤツがいたら一緒に、盛大に楽しそうに楽しく踊ってやろう!
なぁ、世界はこの塔だけじゃないんだぜ。勿体ねえよ。
上手く踊れなくたって、上手く歌えなくたって。楽器は弾けるかも、絵は描けるかもだろ!
楽しいコトは向こうからは来ちゃくれねえよ。そんな話をしてみよう。
生きたいように生きようぜ。手伝っちゃくれねえか?
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
●
熱中できるものがない…
そんなの心が死んでしまう
だから、俺の得意なことで救い上げられたら…
タワーに広々とした場所があるなら、そこの床をを凍らせて簡易的なスケートリンクを作り
踊りに興味がある人に向けて呼びかけ
人が集まったら
トゥーフリ・スネグラチカで、スケートリンクを楽しく滑って見せる
『ドラジェの精霊の踊り』のように コンビネーションジャンプ、ロッカーターン、スパイラル…
演技の最後は四回転ジャンプ!
今のはスケートっていうのだ
練習すれば、みんな必ず上手く滑れる
というわけで、俺と一緒に練習してみないか?
大丈夫!手取り足取り教えるぞ!
みんなの靴裏に氷のスケートブレードをつけて練習
うむ、いい筋してるのだ!
アノルルイ・ブラエニオン
●
『知らないものは欲しがれない』
だから自信は正直ないな
だが、それでも、私は迷わずこう言おう
「音楽は素晴らしいぞ」と!
これは真理だ、人であれば誰でも知っていることだ!
かれらはきっと忘れているだけだ!
全てを諦めたならそれも良い
だが諦めきれていないのは駄目だ、熱いか冷めているかどちらかにしろ!
私は熱いから熱い方を伝える
といっても別に特別な事はしないぞ!
いつものように
ただの【楽器演奏】【歌唱】を行うだけだ!
ウインドボイスに歌声を乗せ
角笛、キハーダ、リュート、竪琴、笛、メタルドラム、ギター、ヴァイオリン、ピアノ
私の持つ全ての楽器を使ってあらゆる世界の音楽を奏でる
力の限りに!
なぜなら私は吟遊詩人だから!
●希望へと送る四重奏
「どうやら始まったみたいだな。さて、オレたちはどうする? 塔の中を見て、回ってきて。それで、オレらはこの塔の人たちに何をしてやれると思う?」
「……さっき、塔の中を見て回って、分かったのだ。この塔に住む人たちは、熱中できるものがない。そんなの、心が死んでしまう……と、俺は思う。だから、俺の得意なことで救い上げられたらって思うんだ」
「――――良いね。オレ達の得意なことで、か。ノッたぜ、そのめちゃくちゃ最高のアイデアに! そっちのアンタは!? なにかあるんだろ、自信のある何かがよ!」
「『知らないものは欲しがれない』――――。だから自信は正直ないな。だが、それでも、私は迷わずこう言おう! 『音楽は素晴らしいぞ』と! これは真理だ、人であれば誰でも知っていることだ! かれらはきっと忘れているだけだ! ならば、私は彼らを熱中させて見せよう……。この私の音楽で!」
「おっと、コイツは参ったな、音楽まで揃っちまった! オレはラッカだ、ラッカ・ラーク(ニューロダイバー・f15266)! アンタらの名前は? これから何やるのか教えてくれよ、力を合わせてみようぜ、オレ達で!」
「俺はヴァーリャだ! ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)! 俺はスケートが得意だから、それを皆に披露したい! それから、皆で一緒にスケートをやりたい! この世界には、楽しいことは山ほどあるんだって――――ここの皆に教えてあげたいんだ!」
「私はアノルルイ。アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)という名の吟遊詩人だ。私はいつものようにただの楽器演奏と歌唱を行うだけ! 力の限りに! なぜなら私は吟遊詩人だから! この塔に住まう人々に音楽の素晴らしさが届くまで、私は音楽を奏でよう! 声が枯れても指が千切れても、だ!」
「ハハッ、良いね! 分かったぜヴァーリャ、アノルルイ! オレらでやってやろう! 最高にノッていこうぜ、盛大に、楽しそうに! オレたちでこの塔をステージに変えてやろう! オレはダンス、ヴァーリャはスケート、アノルルイはミュージック! 三人で思い切りやってやろうぜ! シヴィルズタワーを沸かせてやろうじゃん!」
「おうっ! ラッカ、俺こそよろしく頼むぞ! それじゃ、俺はまず会場を――――スケートリンクを作ってくる! 俺の氷を操る力があれば、それが出来る!」
「OK、それじゃオレは呼び込みだな! 任せな、この塔に住む全員を呼んできてやるからさ!」
「では、私は会場の準備が整うまで場を温めておくとしよう。リハーサルの如くに。……私の演奏は、いつだって全てが本番だがね!」
二人の猟兵が、塔の周辺での大仕事を始めた頃。彼らとはまた別の三人組が、シヴィルズタワーに旋風を巻き起こそうとしていた。
ヒバリの翼と足、ネコの耳と腕、トカゲの瞳としっぽのキマイラで、旅と昼寝と空を愛する自由人――――彼の名前は、ラッカ・ラーク。
生来の氷と冷気を操る力、スケートの技術を組み込んだ武術を用いる、薄氷の髪、菫の瞳、頭に乗せたゴーグルが特徴のダンピール――――彼女の名はヴァーリャ・スネシュコヴァ。
エルフの吟遊詩人にして射手。メイン楽器はリュートだが何でも弾ける、世界を股にかけて放浪生活を送り続ける男――――彼の名前は、アノルルイ・ブラエニオン。
三人はお互いのことを良く知らない。グリモアベースなどですれ違ったことや、同じ依頼の同じステージに立って、同じマイクを握ったことくらいはあるかもしれないが、ともかく、こうして直接しっかり言葉を交わすのは初めてのはずだ。
――――だが、それがどうした? 彼らには共通点がある。それも滅茶苦茶に大きくて、頼りになって、信じられる共通点が。
その共通点とは、『この塔に住む人々を自分の特技で勇気付けたい』というもの。三人が協力する理由などそれで十分だし、それ以外に必要なものなど何もない。
ラッカはダンスで。ヴァーリャはスケートで。アノルルイはミュージック。趣きこそ僅かに違えども、そんなことはちょっとした『アクセント』だ。つまり、何の問題にもならないってこと。
ヴァーリャはまずシヴィルズタワーから飛び出すと、塔から少しした場所にある円形の広場に奇麗な氷を生み出していく。ここは事情を知っている先ほどの二人が予め整地しておいてくれた場所だ。傾きも無ければヒビもない、スケートリンクには適切な場所である。
彼女が『会場設営』を終えた頃、呼び込みを終えたラッカが戻ってきた。内訳は女性や子供が多めである。道路造りの基礎作成のために、既に心を動かされた大人の男たちはそちらに向かっているためだろう。
アノルルイの演奏はラッカが連れてきた人々を見事に繋ぎ留め、ステージの開催の時まで上手く繋いでくれていた。空虚に広がるアポカリプスヘル世界の大空に、熱の籠った鉄笛の音色が響き渡っている。
ともあれ、これで場所も人も見事に揃った。あとは三人がこの素材を料理するだけ。
ラッカとヴァーリャ、アノルルイはアイコンタクトで合図を取りあうと、『その時』が来たのを知った。ステージ開幕の時が来たのだ。演者はいずれも芸達者、手練手管に長ける三つ揃え。
見えない幕が今上がり、空気は既に最高潮。絶えることのない音の雨が観客の耳を叩き、二つの舞が彼らの目に届く。
さあ、ご覧頂こう。これこそは、希望と歓喜、情熱と探究の一芝居。カウントは今まさに零となった。ワイルドハントの始まりだ!
「皆様、どうぞお立会い! 全てを諦めたならそれも良い! だが諦めきれていないのは駄目だ、熱いか冷めているかどちらかにしろ! 私は熱いから熱い方を伝える! といっても別に特別な事はしないぞ! ――――聴け! 私の歌を! 私の演奏を! そして思いだせ! 自分の胸の奥底で、眠ったままの情熱を!」
娯楽に飢えた人々の期待を一身に背負いながら、ステージの開幕を告げたのは、アノルルイの吹き鳴らす猟師の角笛による勇ましくも神々しいプレリュードであった。
先ほどの鉄笛の音色も当然一流のそれ。
しかし、それはあくまでも人々の心を柔らかに撫でて離さぬ優しいエチュード。アノルルイはどの曲でも本気だが――――『先ほどまでは、ただ会場を温めていただけ』であったのだ。この曲は激しい。人が胸の奥底に眠らせていた、音楽の情熱を呼び起こす程に。
「こ……この気持ち……わかんねえ……! か、母ちゃん! この音、なに!? 何か……迫力? っていうか、怖い? けど……! ずっと聞いていたくなる!」
「……ああ………これはね、坊や……。これは、『音楽』だよ――――。私たちが忘れて……それでも、忘れられなくて……。聞きたいと願い続けてやまなかった、生きた音楽だよ……」
「なんの! これはまだまだ前奏曲だ、涙はまだ取っておいてもらおうか!」
次にアノルルイが取り出したのは、キハーダと呼ばれるもの。ロバの下顎の骨をそのまま使った打楽器で、そのまま骨を叩いたり、歯の部分を棒でこすったりして音を出す、実に原始的な楽器である。
だが、だからこそそれが良い。単純かつ軽快、それでいてリバーブを感じながら音のツブを楽しむことができるこの楽器は、皆で歓喜を分け合い、身体を動かすには最適であった。アノルルイが奏でるキハーダのソロセッションに合わせ、一人の猟兵が姿を現す。
「――――よォ、お待たせ! なあ皆、『ダンス』に興味は? 歌ってみたコトは? オンガクは好きか? 長くひとところに住んで満足できる、ってのは、それはそれでスゲーと思うぜ。オレにゃできねーし。でもさ、そろそろ飽きてンじゃねえか? 地に足つけて踊ってみせて、それから空だってステージにして。試しに、オレと一緒にやってみちゃどうだい?! そこのアンタも、ほら来いよ!」
そんな風に、軽く塔の人々を『挑発』しながら空中を踊るように、滑るようにして現れたのはラッカであった。
彼はUC【スカイステッパー】を用いると、アノルルイが奏でる音のリズムに合わせて地面と空中を足場に、とにかく自由にダンスを披露してみせたのである。
右足のバックステップで派手に身体を引きつつ、上体を倒しながら右手で地面を捉えて滑らかに重心移動。そのまま右手だけで器用に倒立をして見せたかと思うと、ワイルドに左足で空中を横に蹴って身体をターン。そしてそのまま右手を思い切り地面に叩きつけて空に舞い上がると、翼と体幹で体のバランスを取り、連続で空中に浮きながらの連続サマーソルトという絶技を繰り出して見せる。
ラッカのダンスの腕前と、スカイステッパーによる機動性の増加。そして何よりも、彼の自由に対する意識があって初めて成り立つ、完全フリースタイルのアクションダンスだ。
アノルルイの魅せるノリやすいリズムラインと、ラッカのイカしたダンスに乗せられて、シヴィルズタワーの人々も自然とその身体を揺らし始めている。
「うぉーー!! すっげえぞー、猟兵のにいちゃーん!」
「なんか……不思議! この音を聞いて、あの人の踊りを見てると、私も体が動いちゃう! ふふっ! でも、全然嫌な気分じゃないわ! これは……そう、楽しいって感じ!」
「飛んで、跳んで……!? すげえ! なあなあ母ちゃん、おれもいつかあの兄ちゃんみたいにダンスできるかな?!」
「はっはっは、まだまだ行くぞ! 次の演目はディベルティメントだ!」
嬉遊曲――――ディベルティメント。アノルルイが次に選んだのは、詩人のリュートと堕天使の竪琴を器用に使い分けながら、一人で奏でる二重奏。
明るく軽妙で楽しい音色が響き渡ったその瞬間、ラッカは今までよりも高く空に跳び上がって――――代わりに、地上へもう一人の猟兵が現れた。三人組の最後の人物、ヴァーリャだ。
「――――皆! ……今、楽しいか!?」
「おーー!」
「どうしたどうした、声が小さいぞ、皆! ライブ中のコーレスは、いつだってもっと大きく声を張り上げるのだ! 楽しいなら、その分いっぱい声を出してくれー!」
「「「おおーーーーーー!!」」」
「そうか……そうか! 皆! 楽しいよな! 皆! 生きるって、こんなにも楽しいんだぞ! ――――見ててくれ!」
スケートリンクを、彼女は滑る。靴裏に氷のブレードを精製できる靴、トゥーフリ・スネグラチカを用いながらスケートリンクを広く使い、楽しそうに滑って見せる。
披露されるのは、ヴァーリャの身に染み付いたスケート技術。UCにまで昇華された技術は、まるで【ドラジェの精霊の踊り】のように。音楽に合わせて加速しながら、速度を乗せた奇麗なコンビネーションジャンプ。続いて見事なフォームから繰り出される、実に素早くも可憐なロッカーターン。そしてそのままスパイラルを行って反転、速度を維持しながら観客たちに手を振って――――最後は四回転ジャンプでフィニッシュ!
「はあ、はあ……! どうだ、皆!? 楽しんでくれただろうか! 今のはスケートっていうのだ! 練習すれば、みんな必ず上手く滑れる。というわけで、俺と一緒に練習してみないか?」
「えっ!? で、でも……あたし、お姉ちゃんみたいに上手くできるかわかんないし……」
「大丈夫! 誰だって最初はできなくて当たり前なんだ、俺が手取り足取り教えるぞ! 何度でも、皆が出来るようになるまで!」
「そうそう、ヴァーリャの言う通り! なにも世界はこの塔だけじゃないんだぜ。勿体ねえよ。上手く踊れなくたって、上手く歌えなくたって。楽器は弾けるかも、絵は描けるかもだろ!? どうだい坊や、オレの言ってること分かるかい?」
「ん~~……。ぼく、そんなこと……思ってもみなかった! ねえ、お母さん! ぼく、外に出たいよ! 塔の外に出てみたい! お兄ちゃんたちみたいな楽しい人がいる、外の世界を見てみたいんだ!」
「――――……。……ええ……。ええ、ええ、……。そうね……。私たちが、間違っていたのかも、知れないわね……。ええ、決めたわ。外に出ましょう……、私たちが、皆で。自分の脚で、外の世界に」
ヴァーリャとラッカの言葉に影響を受けた小さな子供が、そばに立つ母親に意見を述べる。
きっと、そんなことも――――この塔では初めての事だったのかもしれない。『子供が自分の希望を述べる』なんて小さなことが、今までこの塔には無かったのだ。だからきっと、母親だって、そんな子供の声を止められなかった。いや、止めたくなかったのかもしれない。
閉じた塔が、三人の猟兵の活躍によって開かれようとしていた。
「ははっ! そうそう、楽しいコトは向こうからは来ちゃくれねえよ。生きたいように生きようぜ。手伝っちゃくれねえか?」
「……ええ。ええ、もちろんです。こうなった以上、母親である私たちも全力で猟兵さんたちを支援いたしましょう。……まずは、今。何をすればいいですか?」
「そいつは簡単! オレたちと一緒に!」
「私の奏でる音楽に乗って!」
「俺たちと踊ってくれ!」
「――――あら! まあ、ふふ……。そんなことならお安い御用です! 良いでしょう、では一緒に! そして、このステージが終わったら、私たちもどうか一緒に塔の外へ連れていってくださいな」
「……? お母さん、どうして泣いてるの? 哀しいの……?」
「――――いいえ、違うのよ。違うの。これはね、嬉しいの! 嬉しくて流れる涙もあるのよ! 私も、……そんなこと、今の今まで忘れていたけれど!」
「ようし! それでは盛り上がってきたところで、クライマックスといこう! 誰か、曲のリクエストはあるかい?」
「あっ、ねえねえ! それならぼく、吟遊詩人さんに弾いて欲しい曲があるの!」
「良いとも! 観客からの願いに応えるのも、吟遊詩人の務めだから! それで? どんな曲をお求めかな?」
「この塔で聞いたことないのが良い! それも、いまのぼくたちにピッタリのやつ!」
「はっはっはっは! それや良い、丁度良いのを知っているぞ! なぜなら私は吟遊詩人だから! 次の演目はマーチ! ――――私たちの門出を祝う、『行進曲』だ!」
シヴィルズタワーの住民、その中でも子供を持つ母親たちや子供たちの協力を得て、アノルルイの演奏も大詰めだ。
彼は自前のマジックアイテム、ウインドボイスに歌声を乗せて、声高らかに歓喜を唄いあげていく。メタルドラムアームズ、魔性のギター・テロリズムスカル、呪われたヴァイオリン、邪神ピアノ・ズウィクススズハー。
アノルルイが持つ全ての楽器を使って、彼は観客のリクエストに応えながらあらゆる世界の音楽を奏でていく。
その音色に合わせ、ラッカは男子たちと共に空中を跳ねながら舞い、ヴァーリャは母親や女子と共に氷の上を滑っていく。勿論、二人とも塔の人々に手ほどきを行いながら、だ。
ヴァーリャの滑りは、彼女のためのものではない。シヴィルズタワーに住む人々のためのものだ。アノルルイの音楽も、ラッカのダンスも、みんな、みんなそうだ。だからこそ、こうまでも奇麗で、胸に刺さる。
大人であればあるほど、三人のステージは心に響いた。ダンス。音楽。スケート。娯楽。とうの昔に諦めてたはずの、凍り付いていた情熱が、シヴィルズタワーの大人たちの中で燃え始めていた。優しく締め付けるような、甘やかで香ばしく、燃え滾るように情熱的な炎。それは欲望だ。もっと、もっとと幸せを願う純粋な心だ。人が生きるための原動力だ。もっと楽しみたい。この塔の先にあるものを知りたい。今こそ、シヴィルズタワーの人々の胸に灯は燈った。
子供たちは底抜けに楽しそうに笑いながら、大人たちは静かに感動で顔を歪ませながら号泣し、しかして――――この瞬間、ステージの空気はまさに一つになっていた。
「――――さあ、フィニッシュだ! 二人とも、上手く決めると良い!」
「ヴァーリャ! 合わせるぜ、せーのっ!」
「おうっ! ――――っ、これでっ!」
アノルルイの締めに合わせて、ヴァーリャとラッカが決めポーズを同時に行う。
ヴァーリャは氷上で右手を真っすぐ前に向け、ラッカは空中で左手を真っすぐ前に向けて。二人が指を指す方向は、塔の外側で今も光り続ける赤い光。外に見える希望そのものだった。
猟兵たちの終演を受け、住民たちの視線も自然に外に向いていた。そして、足先も。誰かが自然に声を上げる。そして、その声は雄たけびによって迎え入れられた。三人の猟兵と、それから、住民たちの大きな一つの声によって。
「皆で行こう! 外の世界に!」
「「「「おおおおーーーーっ!!」」」」
今こそ、出発の時だ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オヴェリア・ゲランド
●
何と覇気の無い連中だ…しかしその瞳は未だ死んでおらぬ、数多の人間を見てきた私には分かる
彼らはまだ歩ける、彼らはまだ戦える、彼らはまだ抗える!
「我が名はオヴェリア、オヴェリア・ゲランド!栄光あるゲランド帝国を統べる剣帝なり!」
違う世界の国など知らぬだろうが、覇気を立ち昇らせ、剣を突き立てる音を響かせればこの闘気に当てられる勇者も出てこよう
「誰ぞ私と勝負せぬか、私に勝てればどんな願いごとも一つ叶えてやるぞ!
無論、戦いに剣は使わぬ…身一つでだ!」
そして開催する拳闘試合、触れ合い、殴り合えば血が滾るのは必定
そういう奴ばかりではないと理解しているが、そういう奴が1人でもいれば呼水となる
「さぁ、来い!」
フローラ・ソイレント
●
・行動
軽く診断、治療などをしながら健康相談に乗り
医術の必要性を訴え
外部の人間との交流で各種専門知識を補う必要性を説く
・セリフ
かつてとある法律では
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」
と謳われていたそうですよ
みなさんは衣食住のうち食と住に関しては整っているかもしれませんが
健康はどうですか?
医術の心得が有る人は居らっしゃいますか?
体の調子が悪い時に原因も解らず
ただひたすら良くなることを祈ってじっとしている
苦しみ不調を訴える人を前に見ていることしかできない
そんなつらい体験をしたことはありませんか?
私は皆さんが安心して暮らせる環境を作るために
他の基地との交流を進めたいんです
●この血の滾りを杖にして
「我が名はオヴェリア、オヴェリア・ゲランド(銀の剣帝・f25174)! 栄光あるゲランド帝国を統べる剣帝なり!」
「……なんだよ、何の騒ぎだ……?」
「またどうせ略奪かなにかだろ? ……好きにやらせとけよ、食いもんをやれば殺されることはねえ。怪我するのも死ぬのも馬鹿のやることさ……」
塔の外に花道が通り、塔の前で一つのステージが盛り上がりを見せていた頃。
シヴィルズタワーの中階に存在する大広間で、彼女はそう叫んでいた。31階から40階まで繋がる吹き抜けの中心で、彼女――――オヴェリアの声はやおら大きく響き渡る。
しかし、そんな彼女の声に大きく反応するものはいない。一人足りとも。皆、オヴェリアのことを遠巻きに見ているだけだ。シヴィルズタワーの中層に住む人々は、他の層に住む住民と比肩しても無関心が目立つ面があった。諦めが強い、と言い換えても良いかもしれない。
だが、それでも。オヴェリアは叫ぶのを止めはしない。ここに住む人々を一気に動かすことができれば、それは即ち大量の協力者を一手に得られるという事でもあるからだ。
「誰ぞ私と勝負せぬか、私に勝てればどんな願いごとも一つ叶えてやるぞ! 無論、私は戦いに剣は使わぬ……身一つでだ! 身一つで、ここにいる全員の勝負を受けてやろう! 欲しいものがあるならば立て! 叶えたい夢があるなら戦え! 抗うための牙を、もう一度奮い立たせて見せろッ!」
「……オ、オイ……、聞いたか? どんな願いも、だってよ……」
「あ、ああ……。で、でもよ? ……。俺達が、叶う訳……、ねえ、だろ……だってよ、あいつめちゃくちゃ強そうだぜ……?」
「そ、そりゃそうかもしれねえけどよ……! でも……! 俺は……! くそっ……!」
覇気をその身に立ち昇らせ、自身の代名詞である覇剣すらも地面に突き立てて。オヴェリアの提示した条件は、まさに破格そのものであった。こと、娯楽や文化に飢えたシヴィルズタワーにおいては、彼女が示した希望は眩しくさえある。
誰も彼もがにわかにざわつき、しかしてその願いを叶えるための道程の厳しさに黙し、尚それでも諦めきれぬといった視線でオヴェリアを見ていた。その時である。一人の屈強な男が、彼女の前に現れた。
「――――失礼。今、願い事は何でも、と申したか。全ての非礼を承知の上で、確認させて頂きたい由が一つばかりある」
「これは珍しい、礼儀を弁えた男よ。その礼儀に免じて聞こう。何か」
「私の願いは薬だ。……娘が、数日前から高熱を出している。肺炎かもしれない。治してやりたいのだ。持っているか」
「……今は手持ちがない。だが、すぐに用意しよう。私に勝てたならの話だが」
「……充分だ。推して参る」
「うむ。さぁ、来い!」
男はオヴェリアの言葉を聞くや否や、即座に上体を屈めて両の脚で尋常ならざる加速を敢行。両の腕は体の内に折りたたみ、彼女に接近すると同時に右の掌を捻りつつの掌底をオヴェリアの鳩尾に向けて繰り出す。
だが、それを易々と食らうオヴェリアではない。彼女は男の繰り出した右掌底を、自身の左手首を用いて下から弾き飛ばすと、男の開いた右脇に向け左足による上段蹴りを行う。――――しかし。
「ふゥ……ッ! 娘のために……負けられはせぬッ!」
「思ったよりやる! 武道か!」
オヴェリアの放った鋭い蹴りを、男は寸での所で内に構えた右手で受け止めて見せた。二人は一度間合いを取り、仕切り直す。だが、オヴェリアもまたさるもの。
彼女は今の一合にて男が左を攻めに、右を受けに用いていることを即座に看破すると、わざと男が攻めてくるように覇気で誘って見せる。――――来た。次に男が行うのは、フェイントを幾度も交えながら放つ速度の乗った孤拳。オヴェリアの顎を狙った、容赦のない一撃である。
だが、男がその技を出した時点で――――実際に勝負は決まっていたと言って良いだろう。焦ってオヴェリアの誘いに乗ってしまった時点で、男は既に彼女の術中の中。オヴェリアは男の拳を見切り、身体を僅かに左にずらして拳を避けながら前進。そのまま彼女は自らの掌を折りたたみ、一つの武器を作り上げる。その武器の名を、即ち『拳』と言う。
UC、【一撃必殺】。オヴェリアがカウンター気味に繰り出した拳の一撃は、攻撃を躱され体勢を崩した男の胸に深々と突き刺さった。
「貴様が胸中に抱える『迷い』――――。今! 私が、木っ端微塵に破壊したッ! そこまで娘のことを思うなら、何故貴様は今も救いのない塔の中にいるッ! 今こそ貴様は――――娘のために、率先して立ち上がらなければいけぬだろうにッ!」
「――――ッグ……!! ……私の……、負け、か……。ああ……、分かっていた……! 私は恐れていたのだ、塔の外に出ることに……! だが……だが! 救いの見えない塔の中で、娘をこのまま見殺しにするくらいなら……! オヴェリア殿、私も行こうッ、塔の外に! 私は危険の中の希望を掴みたいッ! 私の大事な、娘のためにッ! 私の家族を、もう見殺しにはしたくないッ!」
「その意気や良しッッ!! 聞けッ!! この場にいる、覇気の無い連中よッ!! 今の貴様らは死体だッ! いつまでも佇み、腐れていくのを待つばかりのな!」
男を下したオヴェリアが、再度その声を張り上げる。よく通る声が、シヴィルズタワーに住む人々の内腑を震わせる。
「――――しかしッ! 貴様らのその瞳は、未だ死んでおらぬ!! 数多の人間を見てきた私には分かる!! 貴様らはまだ歩ける、貴様らはまだ戦える、貴様らはまだ抗えるッ!! ――――だから、来い!! 貴様らが腐った死体でないことを、握った拳で、人の持ち得た原初の武器で! 私に証明して見せろッ!」
そして、度重なる拳闘試合が始まった。人々が秘めて凍らせていた熱量を、オヴェリアが見事に解き放ってみせたのだ。人々の燃えるような血の滾りを、彼女は見事によみがえらせた。
ある青年は母親のための毛布を望んで。ある男は妻のための新しい服を望んで、オヴェリアに挑んでいく。誰も彼もが飢えていて、そして、誰も彼もが燃えていた。
新しい旅の始まりと、それを祝うための拳闘に。
●根本的治療への道
オヴェリアが開催した拳闘試合――――というよりも、『拳闘大会』と呼ぶべきか。その会場のすぐそばで、大勢の人で賑わう一角があった。
拳闘によって軽傷を負った大量の人が、列を成して一つのテントに並んでいる。そしてその中には、先ほどオヴェリアと熱戦を繰り広げた男と、その男の怪我を診る一人の猟兵がいた。
ナース服を着こんだその人物の名は、フローラ・ソイレント(デッドマンズナース・f24473)。シヴィルズタワーの人々に、医術を以て語り掛けようとしている人物である。
「――――軽い打撲ですね。骨に異常は見受けられませんから、この湿布を貼って一日安静にしていて下さい。……はい、これで終わりです」
「……すまない。いや、ありがとう……と、言うべきなのだろうか。医者を見たのは久しぶりだ。それに、薬も。……実は、折り入って頼みがある」
「もう聞こえてましたよ。貴方の娘さんなら、先ほど話を聞いてすぐに診察してきました。――――風邪を放置していたことで、軽度の肺炎になりかけていましたね」
「ッ! やはり……! そ、それで……!」
「……もう、大丈夫です。解熱剤に抗生物質、その他必要な薬も投与済み。もう少し時間が経って敗血症になっていたら危ないところでしたけどね。体力も随分落ちているみたいでした。このまま、最低でも一週間は安静にさせてください」
「む……、娘は……助かる、のか……!?」
「『はい』。娘さんは助かります。私が必ず助けます」
オヴェリアが拳闘試合を行っていた際、男の口から一人の女児が体調を崩して倒れていることを知ったフローラは、先んじてその子のもとへ移動。そしてそのまま、優先的に彼女の診察と治療を済ませておいたのである。
過酷な生存環境であるアポカリプスヘルにおいて、子供という存在は珍しい。特に、シヴィルズタワーという閉じた環境においては更に、だ。トリアージの観点から言っても、『高熱で倒れた子供』と『拳闘で軽傷を負った大人』なら――――、前者を優先するのが道理でもあろう。
「――――ッッ……! そうか……! そう、か……! ありがとう……!! 本当に……あり、がとう……ッ!!」
「……かつて、とある法律では――――『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』と謳われていたそうです。この塔に住むみなさんは、衣食住のうち食と住に関しては整っているかもしれませんが……健康はどうですか? 医術の心得が有る人は居らっしゃいますか?」
「い、いや……いない。俺がまだ子供の頃は医者が一人だけいたが、その人物が老衰で亡くなってからは……誰にも、医術の心得はない。薬の備蓄も、大分昔に切れてしまった」
「――――では、次の問診に移ります。体の調子が悪い時に原因も解らず、ただひたすら良くなることを祈ってじっとしている。もしくは、苦しみ不調を訴える人を前に見ていることしかできない。……あなたは、この塔の中でそんなつらい体験をしたことはありませんか?」
「あ――――ッ、あるッ! 何度も……! 何度もだ! 私の母親は、俺が子供の頃に塔の流行り病で死んだ! 『移るから近付くな』と大人から言われ、私は弱っていく母に近付くことも出来なかった!」
「……それで?」
「流行り病に最初に罹った人が塔の上階で死んで……。私達は……、……感染を防ぐために、その人の亡骸を屋上から外へ投げ捨てた……。……その光景を見て、流行り病に罹りながらもまだ生きていた母たちは、自分から塔を出て……獣に喰われた。……私は……! それを、塔の中から黙って見ていることしかできなかった……!」
「……つらい思いをしましたね」
「……こんなことを、貴方たちに言うのは筋違いだというのは知っている……! だが……! 猟兵殿……! 頼む……! 救ってくれ……私たちを……!」
「――――『無論』です。『当然』です。私は、私たちは、そのためにここにいます。私は皆さんが安心して暮らせる環境を作るために、他の基地との交流を進めたいんです。……そのために、まず。協力していただきたいことがあります」
「ほ――――本当か! 私にできる事なら、何でも言ってくれ!」
「これから、この塔に住む人々の健康診断を行います。不調が感じている人がいれば、優先的にここへ呼んできてください。……それから、健康な方々は私たちの作戦に協力してください。この塔から道路を伸ばします。物資の面でも、知識の面でも、この塔には外部の人間との交流が絶対に不可欠ですから」
「ああ! ああ、分かった! 必ず皆にそう伝えよう! 必ず皆をここに連れてこよう! 病人も、怪我人も! 私が抱えてでも、必ずあなたの元に送り届けよう! この塔に住む人々は、病と怪我に苦しめられ続けてきた! 必ず皆、猟兵の力となってくれるはずだ!」
「重病人がいた場合は、私にそう伝えてくれれば結構ですよ。往診に行きますから。――――では、お大事に。次の方、どうぞ」
それから続くフローラの診断、治療、問診その他の医術は、実に素早く、それでいて的確であった。
彼女の持ち込んでいた大量の医薬品は多くの人々に適切に処方され、拳闘で傷付いた人々はもちろんのこと。シヴィルズタワーで病に倒れ、死を待つばかりの人々の命と心をすら、彼女の医術は救ってみせたのだ。
かくして、シヴィルズタワーから現状存在する『病』と『怪我』は駆逐された。だが、これは根本的治療ではない。これはあくまで『応急処置』だ。
フローラが去った後、この場所に住む人々を医術で救っていくには、明らかに人手が足りない。知識が足りない。医薬品も、物資も、施設も、何もかもが足りない。
――――だから、道を作るほかない。人が生きていく上で、医術は間違いなく必要だ。だからこそ、彼女は外部の人間との交流によって、物資や各種専門知識を補う必要性をシヴィルズタワーの人々に説く。何度でも、何度でも。それが根本的治療に繋がる、唯一無二の道であるからだ。
そして、それを理解した人々が道路建設に向けて動き始めた。『士気の低さ』という障害を乗り越えて、フローラの治療は今始まったばかり。シヴィルズタワーの治療を終わらせるには――――別の場所に繋がる道路が必要なのだから。
応急処置は終わった。次は、本格的な治療に移るとしよう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エダ・サルファー
●
情熱無しに生きるのは辛いもんだよね。
よし、いっちょ教会生まれとして情熱の種火に薪をくべようかね!
そんなわけでお酒だ!
うん、うちの教会じゃエールを醸造してるんだよ。
というわけで食料庫と地下農場にあるものでお酒を作る方法を教えるよ!
……実のところアルコール飲料を作るだけなら割と簡単なんだよ。
糖類と水と酵母があれば良いんだから。
でも、貴方達が好んで飲んでたようなお酒を作るとなると簡単じゃなくなるんだ。
だから、折角時間があるんだから、美味しいお酒を作るために色々考えてみないかい?
このタワーにあるものを使って知恵を絞るのも良い。
それで満足できなくなったら……外に素材を、道具を探しに行くのも有りかもね?
リア・ファル
●
WIZ
道というのは血管のようなものさ
道路が復興すれば、
きっとヒトは、世界は繋がり始め、活力を得るだろう
その手段の一つ。それはモチロン……流通、商売だよね!
隊商を組み、成功させるノウハウをプレゼン
(戦闘知識、鼓舞、拠点防御、運搬)
まずは猟兵を護衛に成功させ、
武装を得られれば、次に繋がると思うよ
プレゼンを聞いた聴衆達に
フロンティアスピリッツに訴える1曲を奏で披露しよう
遥かなる過去においてもヒトは旅をし、
歌や詩を語り、楽曲を踊り、世界を巡ったのさ
どこかの未来でも、希望を失わず星を探す旅を続けている
UC【琴線共鳴・ダグザの竪琴】!
三弦の金の竪琴よ、明日への活力を紡げ!
●情熱、欲望、原動力
シヴィルズタワーの地下。広く大きなそのスペースは、塔の人々から主に地下倉庫、あるいは食糧庫として用いられていた。
なにせ、この建物は元々前文明の避難場所兼シェルターとして運用されるはずだった建築物。地下に巨大な空間を用意し、そこに備蓄が大量に保存されていたことは、シヴィルズタワーの人々にとって幸福でもあり、不幸でもあったといえる。
さて。その地下倉庫だが、貯め込んだ食料や水が永久にある訳でもない。そして、消費した飲食物が元に戻る道理もない。だからこそ、塔の人々は備蓄を消費することで自然に出来上がった地下のスペースに、新しい役割を与えて運用していた。塔の地下に備え付けられていた太陽光発電機を利用した、地下農場である。
これから登場する二人の猟兵は、ここ――――地下で人々の心を動かそうとしていた。一人は地下倉庫で。一人は地下農場で。地の底にある恵まれた場所で、共通した一つの意思が花開こうとしていた。それは、『人々を奮起させてやる』という強い意思。
「成る程、成る程。情熱無しに生きるのは辛いもんだよね。……よし! ここはいっちょ、教会生まれとして情熱の種火に薪をくべようかね! ――――そんなわけでお酒だ!」
「道というのは血管のようなものさ。道路が復興すれば、きっとヒトは、世界は繋がり始め、活力を得るだろう。その手段の一つ。それはモチロン…………流通、商売だよね!」
地下農場で、お酒に関する知識を武器に人々を活気づけようとしているのは、エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)。
地下倉庫で、商売に関する知識を武器に人々を活気づけようとしているのは、リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)。
それぞれの個性と情熱を武器にした、二人の説得が始まる。既に呼び込みは終了している。あとは、塔の人々をどう説き伏せるかだ。
「お、おいおい……! アンタ……!! これ、まさかよォ……?!」
「マジ……か……? マジで、本物か……?」
「うん、そういうわけで――――うちの教会じゃ、エールを醸造してるんだよ」
「本物だ……ホンモンのエールだってよッ! しかも、瓶でこんなに……! こっ、これ、飲んでいいのかよ!?」
「おーっと、それを飲むのはこっちの話を聞いてからにしてもらおっかな。……というわけで! 私からは貴方達に、食料庫と地下農場にあるものでお酒を作る方法を教えるよ!」
「さ……酒を?! 俺達で、か……?」
地下農場周辺で、エダは多くの人々に向けて声を張り上げていた。彼女の狙いは、塔に来る前まで肉体労働や建築業務に携わっていた者たちである。彼らの力は、今回の作戦の成功には欠かせない。
人手はいくらでも欲しいが、それ以上に『ある程度の力と技術を持った人員』が欲しいのだ。その点、彼らなら力もあればノウハウもそれなりにある。もし彼らからの積極的協力を取り付けることができたなら、作戦成功に大きく前進することとなるだろうと踏んでのことだ。
そのための手段として、エダが選んだのが――――『アルコール』。古来より人の娯楽として尊ばれてきた、別名命の飲み物である。その求人効果は折り紙付きと言って良い。何の気なしに見渡せば、エダの話を誰も彼もが食い入るように聞いていた。さあ、後はどう話を転がすかだ。
「……実のところ、アルコール飲料を作るだけなら割と簡単なんだよ。糖類と水と酵母があれば良いんだから。試しに、私が持ってきたそのお酒、皆で飲んでみてよ」
「待ってましたッ! 頂きま――――あ、あァ?」
「おい寄越せッ! 俺も……んん?」
「……なんつーか……。美味いけど、物足りねえな。やたら辛くて酒臭ェ割に、味にいまいちハリがねェ。コクもないしな」
「そう! 『とりあえず』でお酒を造っても、そんな味にしかならないんだよね。貴方達が好んで飲んでたようなお酒を作るとなると、話は一気に簡単じゃなくなるんだ」
エダがあらかじめ用意していたのは、大麦麦芽と水、砂糖をブチ込んで煮溶かし、火を止めて適温になったころに自然培養させたイースト菌を投入。その後は様子を見て気を抜き、たまに混ぜて完成させただけのエールである。
このためだけにわざわざ用意した一品ではあるが、準備の甲斐あってか、人々の歓心をより強く買うことには成功したと見える。ここが勝負所だと言わんばかりに、エダは更に畳みかける。
「だから――――、折角時間があるんだからさ、美味しいお酒を作るために色々考えてみないかい? もちろん、このタワーにあるものを使って知恵を絞るのも良い。それで満足できなくなったら……外に。素材を、道具を、設備を、技術を、まだ見ぬ何かを。――――探しに行くのも、有りかもね?」
「……ははァ、成る程ね。アンタ……クク……。話が上手いじゃねえか」
「そんな話聞いたらよ、酒飲みは黙っていられねえなァ! 俺らはもっと美味い酒が飲みたいぜ!?」
「おうよ! 乗ったぜ、その話! 俺たち皆、猟兵さんらに付いてくぜ! 俺らの力と技術、遠慮なく道路造りに作ってくんな!」
「それじゃ、貴方達との取引成立を祝って! 少ないけど、さっきの瓶で乾杯といこう! 人数分のカップを出せー!」
「あいよ、ここに!」
「さっすが、飲めるとなれば話が早い! それじゃ、――――自由に向かって! 乾杯!」
「「「自由に向かって!!」」」
「――――で、その時の経験がこう繋がる訳だね。最初は猟兵に依頼しても良いんだ。護衛を付けて、一回でも商売を成功させれば――――そこで武器が揃う目もある」
「そうか、猟兵を雇うってのはつまり……。安全な環境を買うと同時に、次以降のノウハウを俺達の経験として積む――――ってのも目的な訳だな」
「そういうこと。最初の商売で武装を得られれば、確実に次に繋がると思うよ。不安が残るようなら、何度でも猟兵を護衛に雇っても良い。命に値段は付けられないからね」
「で、でもよォ……俺達、他の街じゃ何が欲しがられてて、相場がいくらかとか……そんなの全然分かんないぜ?」
「大丈夫! 拠点間を越えた大規模な商売なんて、この世界の誰も経験したことがないはず。経験の差は、今の市場に存在しないのさ。それに、この世界は物々交換がメインだ。なら、この塔には――――それこそ、金銀財宝に近い価値を持つものが、山のようにあるでしょ?」
「塔に山ほど……? まさか……、缶詰のこと、か……?」
「そういや確かに、略奪者の奴らも優先して奪っていくのは缶詰だぜ……?!」
「――――その通り。この世界において、最も優先されるのは生存のための食糧だ。それも、保存の利くものなら特に、ね。この塔に住む皆が欲する文化や娯楽と、塔の外に住む人々が欲する食糧は、きっと奇麗にトレードオフの価値関係にあるんだ」
リアが人々に語るのは、このアポカリプスヘル世界において、隊商を組んで成功させるノウハウだ。そう、彼女は自分の知識をプレゼンすることで、人々の自発的な理解を得ようとしているのである。
銃がないなら、銃を手に入れるための方策を。銃が手に入ったなら、荒れた土地を横断するための運搬技術を。略奪者から身を守る防衛策を。仲間を勇気付けて、一歩を踏み出す鼓舞の方法を。リアはその全てをシヴィルズタワーの人々に伝えることで、ある化学反応を待っていた。
「そうか……! そうか! だったら、……! 皆! もしかしてよォ……ここを出て、商売を始めるなら――――早い方が、良いんじゃねえか……?」
「何で……ッ、いや、分かった! そういうことか! 猟兵さんから聞いた話じゃよ、『道路を復活させる試み』ってのをやってんのは、ここが最初の場所なんだろ!?」
「つまり――――俺たちが早く動けば、その分……。商売を行う上で、他の街の奴らよりも経験をたくさん積める……ってことか……! それに、早く行ったなら行っただけ、塔のみんなに必要な物を買ってこれるようになる!」
「――――そういうことだね! 商売のコツは、商機を見付けたら誰よりも早く、情熱的に動くこと。……道路設立、手伝ってくれるかな?」
そうして行われた彼女の問いかけに、先ほどまで熱心に話を聞いていた男たちが勢いよく立ち上がる。化学変化が起こったのだ。自発的に得た気付きは、人から与えられるそれよりも実感を伴って人を動かす。
その顔は一様に明るく、希望に満ちていた。欲しいものがある顔だ。そして、それを手に入れるための方法を理解した顔だ。彼らは、商売の重要さに気付いたのだ。
「ああ、勿論! こっちからも頼むぜ、猟兵さん! 早く道路を開通させよう! そんで、俺は――――女房に、新しい鋏と髪留めをプレゼントしてやりてえ!」
「それじゃ、俺は子供たちに新しい絵本を!」
「俺は、お袋に新しい上着を買ってやりてえ。もう、お袋に寒い思いをさせたくねえ」
「――――商談成立! 毎度あり! それじゃ、商談成立を祝って! ボクから皆に、フロンティアスピリッツに訴える1曲をプレゼントしよう!」
そして、リアは静かにこう紡ぐ。『遥かなる過去においてもヒトは旅をし、歌や詩を語り、楽曲を踊り、世界を巡ったのさ。どこかの未来でも、希望を失わず星を探す旅を続けている』――――と。
「UC、【琴線共鳴・ダグザの竪琴】! 三弦の金の竪琴よ、明日への活力を紡げ!」
彼女の詠唱に呼び寄せられて、三弦の金の竪琴がその姿を現していく。聞こえてくるのは、強烈な『喜びの感情』を呼び起こす音色。
人々の胸で眠っていた『開拓精神』を情熱的に溶かすその音楽は、地下倉庫の中でどこまでも響く。その音を聞いて、地下農場にいた面々も集まってきた
「おっ! 良い音色じゃんか、私たちにも聞かせてよ!」
「うん、もちろん! そっちの説得も上手くいったみたいだね!」
「酒に音楽! 今日は堪らねえなァ! 野郎ども、これが――――『生きてる』ってことだぜ!」
「俺達は負けない! 欲しいものがあるんだ、こんなとこで立ち止まってられるか! 喜びを掴もう! 皆で、この塔の外に出るんだ!!」
エダとリア。この二人の猟兵が行った説得は、地下の広い空間の空気すら一つにして見せた。それは喜び。希望。願い。情熱。欲望。生きるための原動力。
酒のため。商売のため。理由は何だって構わないじゃないか。欲しいものがある。そして、それを手に行くために歩き出す。
それこそが、人が生きるということなのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月凪・ハルマ
閉じたコミュニティってのは厄介だよねぇ
さて、どう攻めるか
◆SPD
じゃ、俺は【メカニック】技能でシヴィルズタワーにある
壊れた道具や機械なんかを修理して回ろうかな
まず適当にそこらの機械を修理して、住人に実力をアピール
そこからコレを直して欲しいって話がないか聞いてみよう
あ、武器とか車両なんかもOKですよ
もっとも、修理には部品が必要な場合も多々ある訳で
シヴィルズタワー内を探して(【失せ物探し】)使えそうな物が
見つからない場合、余所に探しにいかないと、という旨は
伝えておく
ちょっとずるいけど、それから道路建設の計画を話そう
こことは別の拠点にあるかもしれない可能性もね
もちろん無理に協力しろ、とは言わないけど
マルコ・トリガー
フーン、この狭苦しい塔で寝て起きて食べて寝る。ただそれだけで人生を終えるのを良しとするのかい?
ボクならイヤだね
まずは銃に興味がありそうな人の前で
七つ道具で古い短銃を手入れしよう
自分で自分を掃除するって変な感じがするけどね
ああ、ボクはこう見えて銃のヤドリガミなんだ
なんなら【錬成カミヤドリ】で複製した銃を特別に触らせてあげるよ
銃は武器だけど、役割はそれだけじゃないよ。わかるだろ?
君たちにも思い入れのある銃の一つや二つあったろう?
良ければ教えてくれないか?
もし壊れた銃があるなら特別に修理してあげるよ
銃が無ければ塔を出られないなら新しく手配してあげてもいい
銃と共に新たな思い出を作ってみないかい?
●人に寄り添うものたち
「参ったな……。中階層までの住民はまだしも、上階に住む人たちはもっと排他的な雰囲気だ」
「ここから上に住んでる人の多くが、元『奪還者(ブリンガー)』だっけ? この塔に来るまで力を扱ってたなら、変化に慎重なのも分かるけどね」
「いや、まったく。閉じたコミュニティってのは厄介だよねぇ。さて、どう攻めるか……。それとも、どうする? 上の人たちの協力を得るのは諦めるって選択肢も、一応無いわけじゃない」
「フーン、この狭苦しい塔で寝て起きて食べて寝る。ただそれだけで人生を終えるのを良しとするのかい? ボクならイヤだね。だから行くよ。……別に、ただの暇つぶしだけどさ」
「そう言うんじゃないかと思ったし、その点については俺も同感かな。この人達の協力を得られれば、塔の人たちにとって大きな力になる。で、そっちはどうする? 俺はシヴィルズタワーにある、壊れた道具や機械なんかを修理して回るつもりだけど」
「……なんだ、似た考えか。ボクにはボクで考えがあるから、ここから先は別行動で。……銃についてはボクに任せてくれて良いから。専門――――って訳じゃないけど」
「あー、成る程、そういうこと。丁度人手が欲しかったんだ、助かるよ。それじゃお言葉に甘えるとしようかな。それじゃ、また後で」
「……別に、礼を言われるようなことはしてないけど? ……また、後で」
ここで一度、シヴィルズタワーの構造についての説明を挟ませて頂こう。
この塔は地上60階建て、かつ地下に広大な空間を擁する巨大な建築物である。前文明においては有事の際の避難場所でもあり、平時は内部に多種多様な店やテナントを擁する観光スポットでもあった。
そして前文明において、この塔の50階よりも上の空間は、レンタルオフィスや中階層までに入っている観光施設などの倉庫として用いられていたという経緯がある。
――――故に、彼ら二人が足を踏み入れた50階よりも上の階層はただでさえ視認性が悪い上に、現状においては住民たちの設置したバリケードなどで非常に入り組んで、人を探すには不向きな場所になっていた。
この階層より上に住んでいるのは、元『奪還者(ブリンガー)』が多いという。昔は彼らが塔の外に出ることもあったらしいが、銃や通信機器、車や重機などの装備が壊れてしまってからというもの、彼らはここに閉じこもってしまったのだとか。
手ごわい相手だ。しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。
月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)と、マルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)。
二人のヤドリガミは、彼らだからこそ気付く観点から人々を奮い立たせようとしていた。道具として、武器として、器物として、ヤドリガミとして。人々に寄り添うためにどうすれば良いかなど、彼らにとっては簡単に過ぎる。
「……よし、これで良いはず。試してみて下さい」
「あー、マイクテス、マイクテス……聞こえるか?」
「……っ、聞こえる! 聞こえるぜ! マジで直ってやがる!」
「フン……おい、小僧。機械の修理が出来るってのは、どうやら嘘じゃァねえようだな」
「ようやく信じてくれたようで嬉しいですよ。俺が使えるって証明にはなったんじゃないですか?」
「ざけんな。まだだ。次は照明機材を頼む」
「人使いが荒いなあ。武器とか、車両とか……あとは持ち運びの出来る、小型発電機なんかもOKですよ」
「……それは……まだだ。アレは俺達にとっても生命線だ、そう簡単によそ者には触らせたくねえ。……だから」
「だから?」
「俺達が、お前に心から任せたいって思えるよう、行動で示してくれ。……頼む。機械いじりが出来る奴なんざ、俺がこの塔に来てから初めて見たぜ」
「……そりゃまた、大仕事ですね。良いですよ、引き受けました。で、どこから手を付けます?」
先ほどまで何の音もしなかったシヴィルズタワーの上層が、にわかに騒がしくなっていた。時折聞こえてくるのは、金属同士が擦れる音。感心するような人の声。
ハルマが上層に住む人たちの要望を聞き、壊れてしまった通信機器や照明機材を片端から直している音であり、それを喜ぶ人々の声だ。
彼が壊れた何かを直すたび、塔に住む人々はハルマに信頼の念を持つようになっていく。そして、あるいは尊敬の念も。彼が直しているのは、単なる道具ではないからだ。人々が復活を望んで止まなかった、光り輝く文明であるからだ。
それでも、直らないものはやはりある。当然だ。修理には部品が必要な場合も多々ある訳で――――そうなれば、どこかから必要な部品を用意しなくてはいけないのは道理である。
「……これは、ちょっと難しいですね。冷却機構が完全に死んでしまってる。部品ごと交換しないと、修理は厳しそうです」
「そう、か……。この塔の空調が直せれば、もう少しここの暮らしが快適になるかと思ったんだけどよ。……夏や冬は、俺のガキが泣いてうるさいもんでな……」
ハルマがその手を真っ黒にして、それでも修理を試みて――――やはり難しいと結論付けたのは、塔の内部に幾つも存在する空調機器であった。
見たところ、どうやら壊れたのも随分前の事らしい。冷却機構の故障が原因ではあるが、他の部品も相当に経年劣化が激しい。オーバーホールの必要があるだろう。
「そうですね……。見た感じ、どの空調機器も劣化がひどい。使える部品を集めても、恐らく直せるのは一機がやっと……だと思います」
「……そうか、分かった。塔を探しても使えそうな物が見つからない場合、直すのは難しいんだろ? 説明は理解してるさ……悔しいけどな」
「――――もし、全てを直せる可能性がある……としたら?」
「……あァ? ……お前、本気で言ってんのか」
「本気です。――――余所に探しに行くんですよ。上階にいても、聞こえてきてはいるでしょう? 道路建設の計画について。こことは別の拠点に、修理に必要な部品があるかもしれない。外部との交流で、空調設備を直して他に回せるだけの部品の余裕も出てくるかもしれない。……もちろん、無理に協力しろ、とは言いませんけど」
「――――それは……俺達に、手を貸せって? より良い暮らしとやらのために、俺達の命を危険にさらせって……そう言うのかい」
「『はい』。無理強いはしませんよ。でも、あなたたちの持つ備品や通信機器、照明機材に車両、発電機があれば……きっと、この作戦は成功に近付く」
「……生きるだけなら、閉じこもってる方が利口だろうが」
「そうですね。でも、……本当に、それで良いんですか? 夏の暑さにも冬の寒さにも、苦しむことがなくなるかもしれないのに? あなたと――――それに、あなたの子供が」
「……クク……。上手いとこを突くねェ……。……ハハハハ、ハッハッハ! 良いだろう、俺の負けだ! ハルマ、お前の行動を信じてやる! お前ら猟兵の考えに乗ってやるよ! 次は重機! その次に車両だ! それから小型発電機も直せ! それらがあればよォ、外での作業効率化が図れる! 持っていける資材も増やせる! 夜も作業を進められるぜ! 道路なんざ、ささっと一気に作っちまうぞ!」
「――――了解。それじゃ、いきますか。手伝ってもらえるところはガンガン手伝ってもらいますからね。大仕事になる」
上階に住む頑なな人々の心を動かしたのは、ハルマの行動。
彼の行った行動から、シヴィルズタワーの上階に住む大人たちは『実利』を見出した。『実利』とは、つまり勝算である。『猟兵は信頼できる。そして、彼らの行動に乗れば、得がある』。ハルマのひたむきな行動は、人々にそう思わせたのだ。作戦は成功。得たものも、また、大きい。
さて。ハルマが機械修理で人々の協力を取り付けた頃、マルコは通路の端に座った一人の男の隣で、ある行動を続けていた。
男の年齢は50を過ぎた頃だろうか。顔のしわからは、今までの人生で受けて来た苦労の数を読み取れる。恐らく、彼は元『奪還者』なのだろう。
マルコは自分の装備――――あるいは『自分自身』とも言える古い短銃を、手持ちの七つ道具を用いて手入れを行っていた。もちろん、とある狙いがあってのことだ。彼は誘っているのである。
「……坊主。そこを退け」
「どうして? ボクの行動を、アンタみたいな爺さんに指図されるいわれはないね」
「……チッ……。目障りなんだよ。俺の前で銃なんざ出すんじゃねえ……!」
「……興味、あるんでしょ? 銃に、さ」
「――――ッ、うるせェッ!! ッ、テメェみたいな年端も行ってねえクソガキが……、俺に向かって『銃に興味があるんだろ』だァ?! ふざけんじゃねェ! 俺は、俺はなァ……!」
「大丈夫。――――『分かってる』よ。爺さん、もともと『奪還者』なんでしょ? それも、熟練の。獲物は銃だ。回転式拳銃かな」
「……な、なんでだ、テメェ……!?」
「それは簡単。爺さんの手指に出来たタコさ。長年銃を触ってなきゃ、そんな風にはならない。……人差し指の皮膚が厚くなるなんて、ずっと拳銃を握り続けてきた証拠だよ」
「……坊主、何もんだ」
そして、マルコの目論見は見事に当たった。彼はその出自故に、銃のことに関しては他の誰よりも詳しくある。
事前にこの通路を下見で歩いてみた時から、隣に座った男がその昔に銃を握っていたということは一目でわかった。だからこそ、彼はこうして隣で銃の手入れをわざと見せ付け、機を誘ったという訳だ。交渉においては、自分から声を掛けるより、相手の興味を惹いて自発的に話をさせる方が得策であることを、マルコは知っていたのである。
「ボクはマルコ。猟兵さ。それに、ただのクソガキでもない。ボクはこう見えて銃のヤドリガミなんだ。……だから、こんなことも出来る」
「坊主が、猟兵……ッ!? そ、それにこいつは……!?」
引き寄せた相手が身を乗り出して来たら、次に行うのはパフォーマンス。要求を伝えるのは、相手の興味を最大限に高めてからだ。
マルコは自らのUC、【錬成カミヤドリ】を発動すると、男の前に複製した銃をいくつも召喚する。彼が銃のヤドリガミであるからこそ、初めて成し得る芸当だ。
「ほ……本物、だ……。だ、だが……。俺は分かる、コイツは……本物でもあるが、複製――――だろ? 本物の、レプリカに近い……って感じか」
「……驚いたな。分かるの? どうして?」
「何となく、だな。……この銃たちにはよォ、『匂い』がねェ。思い入れもねェ。こうして目の前に現れて、実際に握ってみても……実感が薄いのさ。……だが、それでも分かるぜ。坊主が銃のヤドリガミ……? ってのは、本当だろうってことくらいはな」
それは、長年銃を握ってきた男の嗅覚が成せる業だろうか。
男が銃に対して持っていた愛着が、思い入れが。マルコという猟兵が言っていることを、本当であると認識させたのかもしれない。
「銃に対してそこまで言うんだ、爺さんにも思い入れのある銃の一つや二つあったんでしょ? 良ければ教えてくれない? その銃がどんなだったか、さ。もしも壊れた銃が今も手元にあるなら、特別に修理してあげるよ。銃が無ければ塔を出られないなら、ボクが新しく手配してあげてもいい。……ねえ。銃と共に、新たな思い出を作ってみないかい? ――――その代わり、ボクたちに協力してほしい」
「……。……済まなかったな、坊主。いや、マルコ。今までの非礼を詫びるぜ。……俺はお前を、銃を預けられる漢と見込んだ。折り入って、頼みがある」
「大丈夫。――――それも『分かってる』から。爺さんの上着の内ポケットに入ってる、『相棒』でしょ。壊れちゃったの?」
「っ……お見通し、か……。……そうだ。頼む、コイツを直してくれ……! 30年だ! 30年、俺はコイツと……『相棒』と一緒に生きてきた……! 頼む! コイツを、もう一度撃てるようにしてくれ! そうしてくれるなら、俺も道路設立に加わろう! 他の奴に声を掛けて、人を集めてきてもいい!」
「見せて。……ああ、この銃……。爺さん、すごく大事に使ってたんだね。フレーム全体が歪んでる。どこかの部品に負担が集中して壊れた訳じゃない。長く、丁寧に使い続けたからこその、経年劣化による動作不良だ。……大丈夫、これなら直るよ。そのための部品も全部持って来てある。任せて」
「そ……そうか……。そうか……! く……っ、ぐ……ッ! ありがとう……! 本当に……! ありがとう、マルコ……ッ! 俺の『相棒』を、よろしく頼む……!」
「――――銃は武器だけど、役割はそれだけじゃない。爺さんみたいに、銃を長く大事に使い続けて、『相棒』って呼んでくれる人がいるのは……ボクも、少し嬉しいかな」
ハルマとマルコ。二人のヤドリガミは、彼らだからこそ気付く観点から人々を奮い立たせようとして――――そして、彼らの作戦は実に上手くいった。
ハルマは、今回の作戦における車両や重機、発電機や通信機器などの道具と、それらの道具を扱える大量の人員を。
マルコは、今回の作戦において大いに力になってくれるだろう、銃を扱える元『奪還者』たちを。
二人の勝ち取った信頼は、そのまま協力者という結果となって現れた。二人の生んだ成果は、今後の作戦展開を大きく変えることになるだろう。実に見事な切り口であった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
白峰・歌音
まずはイマジネイト・リミットブレイク発動!変身した姿で箒の『相棒』にまたがって空から登場!服のカッコよさと登場のインパクトで目を引いて注目してもらってから…真っ正面から説得を試みるぜ。
食べるものだけは揃ってる、生きるだけなら今でも出来るんだと思う。でも……それじゃ生き続けても絶望を子供に伝え続けるだけにしかならないって思う。けれど、オレ達が物を持ってくるだけじゃ足りない。だから、お願いします!希望を伝えるために、笑顔で生きるため、協力してください!
そして、みんなで見ててほしい。ここを襲う絶望を膨らませる襲撃者という絶望を吹き飛ばす、オレ達のヒーローサーガを!
アドリブ・共闘OK
キララ・キララ
●
すごくこわい。
おっきい機械や大嵐や、らんぼうな人たちもこわいけど…
もっといやなことがある。
…どうしてだいすきだったことをやめちゃうの?
歌も服も本も絵も、なんでもそう!
みんなに忘れられたくないのに!
思い出してほしいから心のなかにのこってるのに!
お絵かきがすきだった…ううん。すきなひとはいる?
きららの道具をかしてあげる。スプレーで絵を描くの。
描いたことがなくたってきっと楽しい。
すきなところへ、すきなものを描きにいこうよ。
ほめられると、うれしいよ。
おこられたらごめんなさいって言えばいい。
きららね、「できないことなんかないんだ」って言いたくて絵を描いてるの。
だから、ここにきたの。
ヴィクティム・ウィンターミュート
●
ハロー、あー…プレッパーって呼ぶべきか?
まぁいい、ちょいと話を聞いてくれや
食って寝て、それで終い
何ともまぁ、張りのない人生だとは思わないかい?
アンタらはただの獣か?そうじゃあないだろう
眠らせてる創造性を目覚めさせてみろよ
アンタらの中にも技師くらいいるはずだ
技術は生活を豊かにする、そうだろ?
外に落ちてるスクラップでだって、色々作れる、治せるんだ
創造物が誰かの役に立つのは…いい気分だぜ?
そうだな、せっかくだし何か作ろうか
道路建設用資材の運搬に使う、ジップラインを建ててみようぜ?
勿論ただ滑り降りるだけじゃ味気ない
自動推進機構を作ってさ、どこからでも素早く移動できるにしよう
…な?楽しくなってきたろ?
●11:59
実に不思議な現象であった。ある瞬間のことである。三人の猟兵が、シヴィルズタワーの三か所でほとんど同時に人々の説得を始めたのである。
一人は、塔の中心、エントランスホールにて。一人は、塔の中枢、エレベーターホール前で。そしてもう一人は、塔の真正面、大門へと続く正面玄関前にて。
実に不思議な現象であった。まるで、時間の方が彼らが唱える言葉に合わせて動いているかのようだった。
ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)。
キララ・キララ(ワールド・エクスプレス・f14752)。
白峰・歌音(彷徨う渡り鳥のカノン・f23843)。
三人の猟兵が、動き始める。
●上層 エントランスホール
――――すごくこわい。すごく、すごく。おっきい機械や大嵐、らんぼうな人たちもこわいけど……。それよりも、もっといやなことがある。
――――とてもこわい。とても、とっても。かんがえるのも何だかこわいし、それを口にするのも、すごくどきどきしてたまらない。それに、これはきっとよくないどきどきだ。
……でも。それでも。この世界はいつだって、たくさんの「いいね!」に満ちているから。だから、きっと、これを伝えるのは――――。
「……っ、みんな! きららの話をきいて! 今だけでいいから! ……きいて、ください! おねがいします!」
その瞬間、キララは勝負に出た。自分の持ち得るこの考えが、正解なのかわからない。正しいものかわからない。それでも、それでも。
彼女はこの瞬間、自分にある全てをさらけ出して勝負に出るつもりであった。必要ならば、胃の腑までひっくり返して見せてやるというほどの決意をもって、彼女はここに立っていた。
キララが相手取るのは、シヴィルズタワーの住民。それも、上層に住む――――ガラの悪い住民たちだ。だが、それはキララにとって何の問題にもならない。
キララには伝えたいことがある。それを分かってもらうまで、彼女は誰が相手だろうと黙るつもりは一切なかった。これはキララのエゴだ。キララの熱意の暴走だ。だが、この場において必要なのはそれだ。それ程の温度が無ければ、凍った心は溶かせない。
「帰れよ、嬢ちゃん。……ここにいる奴らに協力なんざ求めたって無駄だぜ」
「……道路を作りてえんなら勝手にやればいい。俺達には関係ねえ」
「俺達はここで、その時が来るまで……ゆっくり死んでいくさ。クソダリィんだよ。道路だの、子供の代だの……」
「――――ちがうよッ!! きららが言いたいのは……ッ!! ……どうしてみんな、だいすきだったことをやめちゃうの? みんな、どうして……あきらめちゃうの?」
「は……、はァ? オイ、嬢ちゃん、何のことか――――」
「歌も服も本も絵も、なんでもそう!! みんなに忘れられたくないのに!! 思い出してほしいから、今も心のなかにのこってるのにッ!! どうして、心のなかの声を無視して……無理やりあきらめちゃうのッ!?」
どこまでも冷え切った様子のチンピラ達を相手にしても、キララはその小さな体で叫ぶのを止めない。だって、まだ伝わっていないから。彼らには、まだキララの声が届いていないから。
聞こえていないふりをするのなら、もっと大きな声で。もっと届くような言葉で。もっと、もっと、もっと、もっと。
「っっ――――、……うる、せェ……! ……うるッせェんだよ、この……ガキィッ!」
「おい馬鹿ッ、子供相手にそんな熱くなんなって……!」
「俺らが好きで諦めてる訳ねェだろォがッ!! ……ッ、どうすりゃいいんだよッ! そんな正論、やめてくれよォ! ――――『何もねェ』ンだよッッッ!! ここには、何もッッ!! 本も、服も、歌も、絵も、立ち上がるための活気も、何もかもだッ!! そんな真っ直ぐな目で俺を見んな!! そんな真っ直ぐな言葉を、俺たちに向けんな!!! 俺達だって、好きで腐ってる訳じゃ――――ねェんだよォッ!!!!」
「……」
キララの言葉に何か思うところがあったのだろう。一人のチンピラが、周囲の制止も振り切ってキララの前に躍り出る。
彼が振り上げた拳は、キララの顔面に真っ直ぐ向かって――――そして、彼女の顔に届くギリギリで止まった。エントランスホールを、一面の静寂が支配した。嗚咽が聞こえる。誰かが泣いているのだ。キララではない。彼女は、今も真っ直ぐにチンピラ達を見つめている。シヴィルズタワーの住民が、泣いているのだ。キララが彼らの心を溶かして、その雫がこぼれたのである。
「――――ねえ。お絵かきがすきだった……ううん。すきなひとはいる? もしいたらね、そしたらね、きららの道具をかしてあげる。スプレーで絵を描くの。描いたことがなくたってきっと楽しい。すきなところへ、すきなものを描きにいこうよ。ほめられると、うれしいよ。おこられたらごめんなさいって言えばいい。だから、……一緒に。きららと一緒に、絵を描こう?」
「……ガ――――……。嬢ちゃん。アンタ、名前は」
「きららはねえ、きららっていいます! きらちゃんって呼んでもいいよ」
「そうかい。キララ、……酷いこと言ってごめんな。キララのこと、殴ろうとして、ごめんな」
「いいよ。きららね、お兄さんのことおこってないよ。つらかったんだよね。かなしかったんだよね。くるしかったんだよね。……今は、どう? もう、つらくない?」
「…………キララ。俺たちに、カラースプレー貸してくれ。……お前、グラフィティアートやるのか?」
「えっ……うん! きららはねえ、お絵かきが好きだから!」
「ハッ、それを早く言えって。俺たちはやるぜ? 相当にな。昔はよ、シヴィルズタワー中に俺たちのアートを描いてやったんだぜ。……描いてやるよ。どこにでも、何でも。キララ、お前のメッセージを教えな。俺たちが全部手伝ってやる。外にも出る。道路も作る。そしたら看板も立ててよ、俺たちのマークを描いてやろうぜ」
「お兄さんたちもお絵かきが好きだったの?! やったぁー、それじゃ一緒にお絵かきしよう! ――――きららね、『できないことなんかないんだ』って言いたくて絵を描いてるの。だから、ここにきたの!」
「――――っ。……伝わってるよ、キララのメッセージ。ああ。伝わったさ……」
●中層 エレベーターホール前
『ンー、ンッンー……。ハロー、あー……プレッパーって呼ぶべきか? まぁいい、アンタら。ちょいと話を聞いてくれや。色んな奴の声を聞いて、それでもまだここにいるってことは、まだアンタらは外に出てく気がないってことだろ? 上等だぜ、やり甲斐しか感じねえよ』
ざわざわと、声にならない声が巻き起こる。ヴィクティムの声を耳にしたシヴィルズタワーの住民たちが、彼の言葉の真意を分かりかねて動揺しているのだ。
彼は予め手持ちの電脳デバイスを用いて、エレベーターホール前の全スピーカーをジャックしてある。ゴーグルで配電図を調べ、電力供給も自前で済ませている。
全ては、人々に自分の声を届かせるため。
『食って、寝て、それで終い――――。何ともまぁ、張りのない人生だとは思わないかい? アンタらはただの獣か? そうじゃあないだろう? 眠らせてる創造性を目覚めさせてみろよ』
「……また猟兵か……! ……クソ、いい加減にしろよ……! 出ていきたいさ、俺達だって……! でもよォ……無謀すぎるんだよッ! 出れるわけねえだろ! 失敗したらどうするんだよ!? 俺は元技師だ、だから分かる! この辺りの土地はクソだ! 道路なんざ、出来る訳がねえ! ……いや! この塔で作れるものなんざ、何もありゃしねえんだよォ!」
『おっと、助かるね。ようやくアンサーをくれたな、そろそろ反応が欲しいと思ってたんだ。礼を言うぜ、アンタ。……で。そういった疑問も、まあ出てくるとは思ってたぜ。だから、その疑問には――――行動と、結果で示すとしようかね』
ヴィクティムの言葉にようやく形を成した返答を行うのは、元技師を名乗る中年の男性。見ればそれなりの風格もあり、周りの住民からも慕われている様子。恐らくは本当に元技師なのだろう。
だが、何の準備も無しにコトを進める程、ヴィクティムという男は甘くない。彼は集まった人々にわざと見せるような大仰な動作で懐に手を突っ込むと、そこから人々を説得させるだけの材料を取り出してみせた。
最初にそれに気付いたのは、元技師の男。
「あッ――――! お前が使ってるそれ、まさか……この塔の中にあった、通信機器……か!? どうして、直って……!?」
『アンタらも技師なら分かるはずだ。技術は生活を豊かにする、そうだろ? 外に落ちてるスクラップでだって、色々作れる、色々直せるんだぜ。そんで、こいつを直したのは俺じゃない。技術を持った別の奴が、さっき直してくれたのさ。で、俺はそいつに話を通して借りといたって訳。――――歌音、キララ? そっちはどうだい』
『こっちの準備はOKだぜ、ヴィクティム兄! こっちももう始める!』
『きららもいつでもだいじょうぶ! もう、こっちは描き終わってるよ!』
『良いねえ、そいつは最高だ。……それじゃ皆、付いてきてもらおうか。アンタたちを説得するものが、この下にあるぜ』
そうして、ヴィクティムもまたエレベーターを用いて下に降りていく。彼の狙いは、塔の入り口にこそ建っている。二人の猟兵が、彼の到着を待っていた。
●下層 正面玄関前
その時は、なんだか実感が湧かなかった。……ううん。今思い返しても、かな。だってそうだろ? オレの説得で、この作戦に参加してくれる人数が決まるかもしれない――――とか、そんなことを聞かされたところで、オレがやることは変わらなかったし。
でも、……うん。あの時は、無我夢中だったかも。オレが今、思ってる全てをぶつけてやるんだって、そう思ってた。手伝ってくれる二人もいた。
だから、とにかく逃げずに。真っ直ぐに、引かずに、怖がらないで、自分の声を伝えようと思ったんだ。
「――――ッ! 皆ー! オレの話を、聞いてくれーーッ!」
「え、……うわァッ?!」
「す……すごい……! あの子、空を飛んで……!?」
【イマジネイト・リミットブレイク】を発動し、シヴィルズタワーの正面玄関前に集まった人々の上空から声を張り上げるのは、歌音であった。
彼女は予め変身した姿で、愉快な箒である『相棒』にまたがって空から登場してみせた。これも彼女の作戦のうち。服のカッコよさと登場のインパクトで目を引いて、まずは注目してもらってから、真っ正面から説得を試みるつもりの様子。
塔の中で閉じこもっていた人々にとって、こういったパフォーマンスは非常に効果的であった。この場にいる誰も彼もが、上空から現れた歌音へと注目していた。
「確かに、ここなら食べるものだけは揃ってる、生きるだけなら、今のままでも出来るんだと思う。でも……それじゃ生き続けても絶望を子供に伝え続けるだけにしかならないって、オレは思う」
静かだ。異様なまでに静かである。きっと、歌音が唱える言葉を聴いて、誰しもが多少なりとも共感を覚えているからであろう。シヴィルズタワーに閉じこもり、毎日をただ浪費していた人々の心には、大なり小なり罪悪感がある。
歌音の真正面からの説得は、真っ直ぐに人の心を撃ち抜いたのだ。パフォーマンスも聴いているのだろう。今やこの場にいる全員が、歌音が次に何を言うのかを待っていた。
「――――けれど、オレ達が物を持ってくるだけじゃ足りない。だから、お願いします! 希望を伝えるために、笑顔で生きるため、協力してください!」
「え……っ」
「あの子、猟兵なのに……。私たちに、頭を下げて……?!」
人を説き伏せるには、いくつものやり方がある。分かりやすい利益を示して見せる。脅す。情に訴えかける。――――だが、歌音が選んだのは、そのどれでもない方法であった。
歌音は、どこまでも真っ直ぐに。言葉と、そして行動によって、彼女のひたむきな『誠意』を見せたのだ。
「オレたちと一緒に戦って欲しいとは言わない! でも、この塔から伸びていく道路を作るのは――――オレたちだけじゃ、ダメなんだ! それは、ここに住む皆がやらないとダメなんだ! 地図を作ろう! 道を作ろう! 邪魔な障害は、オレたちが必ず退かしてみせるから!」
歌音の言葉には、無視出来ない何かがある。当たり前だ。ここまで真摯で、誠意の籠った言葉を耳にして、聞かない振りが出来る人間などはいない。しかも、その言葉は全て自分たちのために発せられているものなのだ。
彼女は――――歌音という猟兵は、こんなにもシヴィルズタワーに住む人々のことを思っていてくれている。この場にいる住民たちは、歌音という少女の言葉を徐々に身を乗り出して聴くようになっていた。
「もちろん、皆の得意なことは違うと思う! だから、皆は皆の得意なことで協力して欲しい! 車に乗れる人は、車を運転して欲しい! 少しでも勇気がある人は、周囲の見張りをやって欲しい! 力に自信がある人は、力仕事を! 料理が出来る人は、工事中の料理や配膳を! 皆の力が必要なんだ!……だから、お願いします!! そして、みんなで見ててほしい。ここを襲う、絶望を膨らませる襲撃者という絶望を吹き飛ばす、オレ達のヒーローサーガを! それで、それが終わったら――――みんなで一緒に笑おうぜ!」
「ど……どうする……? い、いこうぜ……!」
「どうするって……。でも、あの子があんなに言ってるんだし……。そう、だよな……!」
歌音の説得が、人々の心を揺り動かした。住民たちの心の扉は、既に開け放たれていたと言って良いだろう。
――――そこに、追い打ちをかけるようにして――――二人の猟兵が、エレベーターの中から姿を現した。
●足音と共に、『今』が
「ヴィクティム兄! それに、キララも!」
「――――よォ、歌音! 説得は上手くいったらしいな、あともうちょいってトコか? きっかけが欲しいなら、俺が見せてやるぜ!」
「むー! ヴィクティムずるい! さっき、きららたちもお手伝いしたじゃん!」
「ハッハ! おっと悪い、そうだったな! さーって、元技師のオッサン! それに、ここにお集まりの紳士淑女の皆さま! これからお見せいたしますのは、メチャクチャにクールでウィズなとっておき! アンタらの最後の悩みをぶっ飛ばす、切り札さ! ……さあ、ご覧あれ!」
エレベーターから降りてきたのは、ヴィクティムとキララ。それから、二人が連れてきたシヴィルズタワー上層、及び中層の住民たちだ。
歌音も含めた猟兵たち三人は、これからないが起こるのかを知っている様子。ヴィクティムに協力した――――という、キララが連れてきた上層の住民たちもか。
中層、及び下層に住んでいる人々は、一体何が見れるのかとワクワクを抑えきれていない様子。正面玄関前から繋がる、塔の外に向けての大門。ここを越えればいよいよ塔の外という場所に、ヴィクティムはゆっくり近づいていく。
――――そして、彼は外に繋がる扉を開けた。
「え……」
「う、……そ……」
「道路建設用資材の運搬に使う、ジップラインさ。勿論ただ滑り降りるだけじゃ味気ないよな? そこで……ほら、こんな風に自動推進機構を作ってさ、ジップラインが通ってる場所同士なら、どこからでも素早く移動できるようにしておいた。まだ、塔のちょっと先まで……俺の相棒が作ってくれた道のとこまでしか繋がってねえけどよ。……な? 楽しくなってきたろ? これが創造性って奴さ。人は何でもできるんだぜ。出来ないことなんざ、人間にはありゃしないのさ。それに――――創造物が誰かの役に立つのは……いい気分だぜ?」
そこに広がっていたのは、最初にシヴィルズタワーに辿り着いた二人の猟兵たちが作り上げていた、『道路の基盤』。そして、そのライン上に設置された、どこまでも続いていそうな『ジップライン』。時折建っているジップラインの支柱には、何やら車輪のようなグラフィティも描かれている。キララ発案のマークだろう。
道路開発に反対していた元技師も、そして今も悩んでいた住民たちも、これを見ては言葉もない。この世界に生まれた、『道路』という概念をその目で見てしまったのだ。納得する他にないではないか。
『できっこない』。そんな言葉は、もう何の効力も持っていない。『できないことなんかない』。そのことを、既に猟兵たちは証明して見せたから。
「さあ――――行こうぜ、お前ら! 楽しめよ、この旅を!」
「いこう、みんな! きららたちなら、なんだって出来る!」
「ああ! 行こうぜ、皆! オレたちが、道路を繋ぐんだ!」
三者三葉の言葉が、同時にシヴィルズタワーの人々の心を揺らし始める。時計の針は既にその役割を失っていた。今や時間を動かしているのは、礼儀良く進む針なんかじゃない。
シヴィルズタワーの『今』を動かしているのは、彼らの声だ。熱意と思い、希望と願いを込めて響かせる、彼らの声が。彼らの特技と長所、個性を活かした唯一無二の言葉と行動だけが、人々の心を動かそうとしていた。
怠惰な終末を指し示す針が、その時だけは進むのを止めて戻り始めたのだ。時計はもう、12時を指し示すことはない。緩慢と過ぎていく終末へのカウントダウンが止まり、人は足音と共に新たな時間を歩き出す。
外へ。
外へ向かって。
これから、まだ見ぬ何かを求めて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジン・エラー
オレァ『娯楽』になる特技も『文化』になり得る創作も『熱意』を持つ程のこだわりも持ってねェ~~~~ンだわ
あるとしたら?
決まってンだろ
『救い』だけだ。
ギビャハハハハ!!!
なァ~~~ンだお前らこォ~~ンなシケたところに引き籠もっちまって!!
ここにいりゃァ飯には困らねェ?そりゃァ結構結構サイッコーだな!これだけ居て飢えねェってのはイ~~~ィことだ!!
で?それでもまだ、足りてねェンだろ?
ほらそこのお前、さっきの歌で足鳴らしてたぜ
お前は指で床に絵を描いてたな?お前はもっと簡単、お目々がピッカピカだ
外は怖い?そりゃァそうだ。そうだろうとも
だがよォ~~く思い出せ
オレら(ヒカリ)も外から来たンだぜ?
矢来・夕立
●
オレは文化と娯楽を消費する側で、創ったことは一度もない。
そのへんはお手上げですから、助言をしましょう。
奪う側からのアドバイスです。
次に壊されるのはあなた方の尊厳だ。
…ココ、なんて言いましたっけ。シヴィルズタワー?
“人の塔”ってとこでしょうか。
“敗北主義者の墓標”です。現状では。
食べていけるから、生きていけるから、何もしない。
…「食べるものは十分だから、次は欲しいものを取りに行く」って考えにならないんですか?
誰かに何かを奪われたなら最低五十倍にして返してもらわないと割に合わないのに?
いえ。負け続ける人生が好きならそれでイイんですよ、別に。
死ぬその日に後悔しないか不思議ですが。
●光と影
――――かくしてシヴィルズタワーに住む人々は、そのほとんどが猟兵たちの行動によって心を動かされ、彼らに協力するに至った。
力のある大人の男は勿論、道路設営に役立つような技術や知識を持ち得る人物は、その全員が道路設営班に。また、手持ちの銃を直してもらった元『奪還者』たちは、護衛班として徴用されることとなった。
炊事を得意とするような人物は、遠征に付き合いながら車両の中で人々に配る糧秣の用意を。また、老人や女性は塔に残って子供たちの面倒を見ることになった。
こうしてほとんど全ての人員が、シヴィルズタワーから伸びる道路設営に、何らかの形でかかわることとなった。
――――そう。『ほとんど全て』、が。
正確に言えば、残り1%にも満たぬような数字だが、……シヴィルズタワーには、まだ踏ん切りを付けることができない人たちもいた。
彼らに共通点はない。住んでいる階層も違えば、体格や元の職業まで、何の共通点もない。
だが、彼らは一様に――――『怖れ』に支配されていた。強いて言うなら、それが共通点。多くの猟兵たちの声を聴いた。彼らの行動をその目で見た。だが、それでも『勇気が出なかった人々』。
この塔に残る最後の人々は、その後ろめたさからか――――誰にも見つからぬよう、塔の奥の奥。最上階の隅の部屋に、寄せ集まって生きていた。まるで、光から遠ざかる夜行生物のように。
しかし。しかし、それでも。人々がどこに隠れようと、人々がどこに逃げようと。
光は、どこにでも届くのだ。そして、影は染み入る場所を選びはしないのだ。
「……見付けた。何やってんですか、こんなとこで」
「ギビャハハハハ!!! なァ~~~ンだお前らこォ~~ンなシケたところに引き籠もっちまって!!」
「う……ッ、うわァァァ!! な……なんだ、アンタたち!? 何なんだよ……ッ!」
ジン・エラー(救いあり・f08098)。彼は、シヴィルズタワーを救うために現れた。
矢来・夕立(影・f14904)。彼は、シヴィルズタワーを墓場にしないために現れた。
彼らはそれぞれその手の中に、救いの言葉と言葉のナイフを持っていた。道路設営の最後の障害を粉砕するべく、彼らは言葉を紡ぐのだ。
「出ていってくれ……! ここからァ! 俺たちはもう放っておいてくれよォ!!」
「そ……そうよ……! 私たちは、出ていかない……。出ていきたくない……! こっ、ここにいればご飯は食えるでしょッ?! いや……嫌なの! 私たちは! 外になんて行きたくないッ!!」
「ここにいりゃァ飯には困らねェ? そりゃァ結構結構サイッコーだな!これだけ居て飢えねェってのはイ~~~ィことだ!! ――――で? それでもまだ、足りてねェンだろ?」
「食べていけるから、生きていけるから、何もしない。――――『食べるものは十分だから、次は欲しいものを取りに行く』って考えにならないんですか? 誰かに何かを奪われたなら最低五十倍にして返してもらわないと割に合わないのに?」
「――――ッ……! それはァ!! ……お前ら、強い奴らのセリフだろ……っ!」
「嫌、嫌……! 怖い……! 外に出るなんて危ないこと、わたっ、私は、絶対しないんだから……!」
怖れ。恐怖。人の感じる感情の中で、最も原初から存在するという感情がそれだ。誰しも、生物的な生存本能には逆らえない。それは理解できる。
――――だが、彼らは現況をこう認識しているのだろう。塔という住居があり、食糧にも今の所困らない。――――自分たちは、現状で追い詰められていないのだ、と。もしくは、それに気付きながらも気付いていないふりをしているのだ。
それに気付いた夕立が、不機嫌さを隠そうともせずに言い放つ。
「……チッ。今のアンタらは……鼠にも劣る。いや、虫にも。ああいう手合いの生き物だって、追い詰められれば牙を剥くものです。……今のアンタらは、見ていて吐き気がする。……何のために生きているんだよ」
「ブバギャハバハハバハハハ!! 言うねェ、お前!」
「道化は黙ッててもらえます? オレ今、機嫌悪いんで」
「おォ~~っとォ、コイツは失敬! だがよォ~~~……その言い方だけじゃ良くねえなァ! それは救いじゃァねェぜ。お前の一方的な気晴らしだろ? だが、ま……下準備には丁度良かったぜ。向いてるンじゃねェか、お前。救いによ」
「チッ……。だったら、アンタはこいつらに何か言ってやれるってんですか」
「当~~然! 良~~~~~く見てお手本にすると良いぜ。オレの『救い』をな」
猟兵たちの言葉を受け、最後に残った住民たちは委縮していた。既に彼らは罪悪感で心をいっぱいにしてしまっている。夕立の言い方に関わらず、どのような正論であっても彼らは傷付いてしまったことだろう。
彼らとて、立ち上がりたいのだ。その気持ちは確かにある。だが、それでも。それでも、怖い。だから、立ち上がれない。そして立ち上がれない自分に嫌気がさして、罪悪感で心を傷つけてしまう。堂々巡りだ。
彼らを救い出すには、何らかの強い光が必要なのだろう。それはきっと、強烈な熱意のようなもの。狂気じみた執念のようなものだ。そして、それに関しては適任者がいる。光の、救いのエキスパートが。
「オレァ、『娯楽』になる特技も、『文化』になり得る創作も、『熱意』を持つ程のこだわりも持ってねェ~~~~ンだわ。……あるとしたら? 決まってンだろ――――『救い』だけだ。ほら、そこのお前――――、」
「な……なんだよ、……! 俺になんか用かよ……!」
「――――お前は、さっきの歌で足鳴らしてたぜ。お前は――――」
「あ……あた、し……?」
「――――お前は、指で床に絵を描いてたな? んで、そこのお前ェは」
「ヒッ! ……な……なんだよッ!」
「お前はも~~~っと簡単、お目々がピッカピカだ。……外は怖い? そりゃァそうだ。そうだろうとも。だが、よォ~~く思い出せ。――――オレら(ヒカリ)も外から来たンだぜ?」
「……あ……」
【オレの救い】。全てを救うという傲慢・驕傲・不遜を聖者の輝きとして昇華させ、自身の体から放出することで自身を強化する、ジンのUC。彼はそれを発動し、自分の体に光を纏わせながら、一人一人に優しく、語りかけるようなペースで話しかけていく。
他の猟兵たちの行ってきたステージが。猟兵たちの残したグラフィティが。そして、熱意が。こだわりが。技術が。誠意が。その全ては何一つとして無駄ではなかったということを、最後に残った住民たちへ、ジンは静かに気付かせていく。
道路の基礎部の設営が、花の地上絵が。ダンスが、スケートが、ミュージックが。拳闘が、健康診断が。酒が、商売が。機械の整備が、銃の修理が。グラフィティが、ジップラインが、誠意の籠った説得が。
その全てが、シヴィルズタワーを出る勇気が出なかった人々へも、確かに影響を与えていたのだ。そのことを自覚した人々の顔を見渡して、ジンは最上階の窓を指さす。
その方向には、赤い光点(ヒカリ)があった。その光の反射を受けたかのように、人々の目に――――赤い光が燈った。情熱の灯火だ。
「……オレは、文化と娯楽を消費する側で、創ったことは一度もない。そのへんはお手上げですから、助言をしましょう。奪う側からのアドバイスです。次に壊されるのは――――あなた方の尊厳だ」
「俺たちの……尊、厳……」
「……ココ、なんて言いましたっけ。シヴィルズタワー? “人の塔”ってとこでしょうか。……“敗北主義者の墓標”です。現状の貴方たちにとっては」
「っ……! 墓標……?!」
「いえ。負け続ける人生が好きならそれでイイんですよ、別に。死ぬその日に後悔しないか不思議ですが。食べ物にも、飲み物にも困らない。それなのに、『光の点に何があるか確かめよう』、と――――そうならないアンタたちが、オレは不思議でしようがないですけどね」
「……ッッ……!! ……くそ……ッッ! くそッ! くそッ! クソォォォォォォァッ!! 俺も行く……ッ! 俺も行くぞッ! 俺はずっと前から思ってた! あの光が何なのか……それを、ずっと確かめたかったッ!! 俺が、一番最初に気になってたんだァッ!!」
ジンの言葉が呼び水となり、夕立の言葉が発破となった。怖れを理由に立ち止まって、しゃがみこんでいた住民たちが――――今、ようやく動き出そうとしていた。
「日記にも書いてた!! 子供の時から、何年も前から!! あの『点』は何なのか、俺が一番気になってたんだッ!! ……でも、いざって時になって……!! 俺は、負けた……。怖さに、恐怖に……!! 『きっかけ』があれば、なんて日記に書きながら、一番『仕方ない』って諦めてたのは俺なんだァッ!!」
堰を切るようにして流れ出した男の独白を、止める者は誰もいない。
ジンも、夕立も、他の住民たちも。号泣して、顔をくしゃくしゃにしながら叫ぶ青年の慟哭を止めなかった。何故なら、彼はもう自分の脚で立っていたからだ。
「――――だから! もう負けないッ! 行くぞッ! 俺は、俺たちは、アンタたち猟兵と運命を共にするッ! 『きっかけ』は今だッ! 失敗したら潔く死んでやる! 道路設営に成功しなきゃ――――どっちみち、俺たちは緩やかに滅びるだけなんだッ!」
「ギ~~~ッビャハハッハハハハババババハハハハハハハハ!!!!! 良いねェ~~! 救い甲斐があるじゃねェか!!」
「……自分で立てるなら、最初っからそうすれば良いんですよ。手間をかけさせてくれましたね」
二人の猟兵の言葉が、シヴィルズタワーに残る最後の迷いを打ち消した。彼らは、塔の全てを救ったのだ。さあ、これでもはや憂いは何もない。何一つとして、だ。
――――やや遅れながらも塔を出て歩き出したシヴィルズタワーの人々に、押し風が吹いていた。彼らの背中を押してくれるような、そんな押し風。
ありがたくもあるが、時に冷たく。激しく、そして粗削りで。時に身を包んだかと思えば、突き放すように吹き荒れる押し風。
その風の名前は、猟兵という。シヴィルズタワー、全ての住民からの協力を得て。一行は、赤い光点を目指して進み始めた。情熱の灯火に向かって、一直線に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ダーティーギャング』
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POW : お寝んねしな!
【鉄パイプや鎖】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 催涙スプレーの時間だぜぇ!
【催涙スプレー】から【目の痛くなる液体】を放ち、【目の痛み】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : おらおら、おとなしくしな!
【手錠】【スタンガン】【鎖】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●諦めた者たちの襲撃
「行くぜェ! 行くぜェ、テメェらァ!!」
どうして悪事に手を染めるようになったのかを、今でもよく覚えている。
あれは、俺がまだ子供の頃。親に捨てられた俺を育ててくれた義母さんが、死んでしまった時の事だった。
「いつも通りだァ! 数で囲んで奪い尽くすッ!」
その時から、全てが面倒に思えて仕方なかったからだ。
義母さんの荒れた手をよく覚えている。馬鹿みたいに干上がっていた大地を相手取って、俺のために一人で作物を育ててくれていた。
『芋がもっと出来たら、売って肉と醤油を交換してもらおう。そうすれば、芋だけの煮汁がもっと美味しくなるから』。笑いながらそう言って、あの人はまだ幼い俺のために、毎日毎日汗水たらして頑張ってくれていた。
近くの村の人たちとも上手くやっていたように思う。俺が育ったその土地は、多分この世界じゃ治安が良い方だったからかもしれない。少なくとも、俺の周りで野盗が出たなんて話は聞かなかったし。
「邪魔する奴は容赦なく殺れッ! 邪魔しない奴は捕まえて金にしろォ!」
でも、ある日のことだ。すごく静かな朝だった。いつもなら『おはよう』と義母さんが言ってくれるはずだったのに、その日は何も聞こえなかった。あの人は、いつも俺より先に起きて働いてくれていたから。
その理由は、義母さんを探して狭くてボロい小屋から出た瞬間、すぐに分かった。義母さんは外で静かに泣いていた。まだ寝ている俺を起こさないように、俺にいやな思いをさせないように。声を押し殺してすすり泣いていた。
義母さんの畑は、野盗に荒らされた後だった。耕した土は掘り返されていて、育てていた作物は大きいのから小さいのまで、葉っぱも残らずに奪われていた。義母さんは起き出してきた俺に気付くと、何度も何度もしゃがれた声で何かを言っていた。
『義母さんが馬鹿でごめんね』と言っていたように思う。何故だか俺は無性に悲しくなって、泣いてしまったことを覚えている。その夜は、二人とも何も食べずに夜を明かした。食べるものは、全部奪われてしまっていたから。
次の日の朝、義母さんは梁に首を吊って死んでいた。家族の机代わりだった小さい木箱の上に、遺言が記された木の板があった。書くものも無かったから、義母さんは多分自分の血で書いたんだと思う。
遺言には、『村長さんにこのお金を渡して、あなただけでも近くの村の一員になることを許してもらいなさい』『あなたを自分で拾ったくせに、最後まで育ててあげられなかった母さんを許してください』というようなことが書かれていた。俺は泣いた。一日泣いて、涙も出なくなった。腹が減った。喉が乾いてすごく痛かった。
俺は――――俺の母が残してくれた金を持って、近くの村に入った。村長の家はすぐ見つかった。俺は母の遺言の通りにしようと思って、村長の家に入ろうとした。でも、村長には先客がいるらしかったので、外で少し待つことにした。思わず耳をそばだてると、村長が誰かと話している声が、木の壁の隙間から僅かに聞こえてきた。とても小さな声だった。
村長は、野盗と取引をしていた。この村の畑を襲わない代わりに、俺たちのように村から少し離れた場所に住む人々の居場所を、村長は野盗たちに教えていたのだ。
その時に分かった。馬鹿だったのは母じゃない。この世界に生きていて、人の善意を信じているような、俺たち全員が馬鹿だったんだって。村長や野盗は、俺たちよりもすこし頭が良かった。この世界に存在する資源は限られていて、皆で分け合うなんてことは最初から不可能だったってことを分かってたんだ。
俺はすぐにヤツらの家に忍び込んで、村長と話していた野盗の首を後ろから刃物で刺した。そいつは首から血を流して死んで、俺の目の前でクソ野郎がクソ野郎の死体を見て命乞いをしてやがった。だから、俺はもう一人のクソ野郎も刃物で刺した。二人の首を手土産に、俺は野盗になった。
その野盗の頭はでかいカラスだった。納得だった。頭がカラスだから、この集団はクソで、そのくせに賢いんだと、そう思った。俺たちは村長が死んで混乱している最中の村を襲った。次に別の村も襲った。次に街を。それから、あの塔を見付けた。気持ちの悪い塔だった。食べ物には困ってないくせに、俺たちと同じで『諦めてた』。だから、食べ物を奪うだけで見逃してやっていた。
人から良く見えるような場所で、畑なんて耕せるわけがなかった。そんなことは、物事を『諦めきれない』理想主義者のやることだ。できっこないんだ。努力だって無駄なことなんだ。善意なんてもんは信用ならない。人を信じて良いことなんてない。だったら、最初から諦めて奪う側に回った方が利口ッてモンだろ。
――――それなのに。『そのはずなのに』。どうして、お前らがそんな道路なんて作ってやがるんだ? そんなもの、絶対完成なんてしないのに。そんなもの、悪意の前じゃ無駄なのに。見ただけで腹が立つ。どいつもこいつも頭の湧いた偽善者だ。諦めてたんじゃないのかよ。
そんな面倒なことをするくらいなら、俺は奪う側に回ってやる。奪われて死ぬのは俺じゃない。お前らだ。力もないのに、叶いもしない理想を語るお前らが死ね。俺に全てを奪われろ。俺たちは悪くない。目障りなお前たちが悪いだ。
「――――一つ残らず略奪だァ!! 全部、奪って奪って奪い尽くせェェェェ!!」
◆◆◆
◆設営、および人員状況
猟兵たちの活躍により、道路設営に協力してくれる人員が大幅に増加しました。現在、シヴィルズタワーの人々は『設営班』『防衛班』として二つの班に分けられています。
また、彼らの持ち合わせていた技術や、猟兵たちが復活させた装備や設備、重機や車両などを利用することで、『設営班』の作業効率は各段に上がっています。また、『防衛班』は周囲の見張りを行ってくれています。
現在の時刻は夕方。日が落ち始めてきた頃合いで、塔を出発してからそれなりの時間が経っています。周辺も暗くなってきましたが、発電機や照明機材、通信機器などが復旧したことにより、道路設営、及び地図作成のための測量は問題が起こらない限り夜間も行われる予定です。
◆現在の戦況
敵は『ダーティーギャング』。シヴィルズタワーの物資を狙って襲撃を繰り返していた現地の暴徒たちです。
道路を拓き、地図を作成する作業中を狙い、薄闇に乗じて遠くからバイクやバギーなどに乗って襲撃をかけてきたのを、『防衛班』である元『奪還者』が先んじて発見してくれました。
元は善人だった人物もいるでしょうし、元から救いようのない悪人だった人物もいるでしょう。ですが、今は全員がオブリビオン『ジャックレイヴン』の指揮の元、各地で略奪行為を繰り返している模様です。
敵の発見に伴い、現在既に『設営班』は作業を中断。車両や重機、大きな資材などを円のように並べることで簡易的なバリケードとして利用し、非戦闘者を中心に立てこもっています。
現在、『防衛班』はバリケードの内側で待機。銃器を持っている人物は銃撃で援護してくれる他、腕に自信のある人物はバリケードを乗り越えようとする敵を排除するために独自で動き、皆さんに協力してくれるでしょう。
◆猟兵の役割
今回の作戦には、シヴィルズタワーの人々の協力が必要不可欠です。彼らを守るため、『バリケード内への敵の侵入』を防いでください。
そのために、猟兵の皆さまにやっていただきたいことは、大きく分けて二つです。
一つ目は、『防衛班への参加』。敵の侵入を防ぐために最も重要な役割です。バリケードの付近で待機してもらい、近付いてきた敵を迎撃するのが主な役割となります。
配置場所はバリケード付近。内外は問わず、猟兵の皆さまに一任されています。バリケードの防衛や敵の妨害はもちろん、陣地作成や味方の士気向上、敵の戦意喪失などの行動も非常に効果的でしょう。
二つ目は、『遊撃』。シヴィルズタワーの人員が増え、『防衛班』が出来た事により、こちらから攻める余裕が生まれました。『防衛班』の人々、及びそちらに参加している猟兵の負担を減らすため、バリケードから離れた薄闇の中で戦っていただきます。
相手の数を減らしていくのが主目的のため、時間をかけずに敵を次々と無力化していく必要があります。時間的な余裕はほとんどありません。また、敵に囲まれる危険も高いでしょう。
◆戦場
平地、かつ荒れ地です。地面の高低差はありませんが、至る所に罅が走っています。また、シヴィルズタワーの方向には道路が設営されています。
バリケードに使用されているものは多種多様です。乗用車、小型トラック、ワゴン車などの車両を始めとして、進行方向脇に存在していた巨岩や、資材として持ち込んできた土嚢や鉄材など、多くのものが使われています。こちらに銃手がいる関係上、バリケードはこちらの射線が通るようにわざと隙間を作って構成されています。
また、バリケード内には照明機材を始めとした今回の設営工事のために持ち込んだ機材の全てが存在します。
バリケードの外側には、ジップラインの支柱が間隔を開けて設置されています。他にあるのは岩くらいのもので、背の高い植物などはありません。
猟兵全員と一部の人々には、修復された携行型通信機器が配布されています。そのため、連携を取ることは難しくないでしょう。
※プレイング募集は、02/02(日)の08:31~からとします※
※プレイング内に『防衛班』『遊撃』どちらを希望するか明記していただけると助かります※
※現在、個人的な事情により執筆がやや遅れています。大きくペース配分を崩すほどではありませんが、2日、ないし3日ほど余裕を頂きたく思います。
そのため、皆様のお気持ちが変わらなければ再送をお願いする形になるかと思います。大変申し訳ありませんが、何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。※
ネグル・ギュネス
【防衛班】
最後にメガホンで敵に問う
皆、悔い改め人々の為に生きて飯を食う気は、感謝される気は無いか?
無いならば、残念だ
総員、防衛準備
愛する人、守るべき場所の為、引鉄を引け!
起動、【強襲具現:冬寂の采配】
──力を貸せ、友よ
荒らす輩に冬寂を与えんが為
見方を戦う人に力を与えながら、率先して前に斬り込む
潰すのは敵の狙撃手、それに弾丸を撃ち込み、時にナイフを投げて手を潰す
近接敵は、近接が態と通り易い場所には落とし穴や泥穴を仕掛け、速度を落とさせ詰まらせた所に射撃を指示
岩場やバリケードを越えようとしたら、姿が丸見えだ、射て!
司令向きな頭じゃないが、守ることは得意なんだよ
さあ皆、勝鬨を上げろ!一気に押し返せ!
エダ・サルファー
●
世界によって事情も道理も違うもんだ。
だから外から善だ悪だと勝手な事を言うつもりはないよ。
……でも、彼らは前を向くことにしたんだ。
それを再び停滞させようってんなら、全力で防がせてもらう!
猟兵ってのはなぁ!未来のために戦うもんなんだよ!
防衛班を希望。
平地での防衛って結構大変だよね。
だからひとつ、試してみたいことがあるんだ。
バリケードを含む陣地全体の下に横倒しの分厚い壁をイメージ……
ドワーフ力(ちから)を拳に集中……
そして満身の力を込めて大地を殴り、イメージした壁を隆起させる!
これぞドワーフ式岩盤返し!
後は私が倒れなきゃ、陣地全体で高さの優位を取れるって寸法よ!
さあ!元に戻したきゃ私を倒すんだな!
リア・ファル
●
『防衛班』
住む星さえ無く
船団同士の争いも尽きない宇宙の片隅で
あらゆる理不尽に怒り、苦しみ、嘆き、
血反吐を吐きながら、それでも明日を掴んだ人々の
『こんな想いをするのは、自分たちだけでいい』
その想いが、このボクを創造した原点で
『理不尽と戦え、抗え、屈するな』
『今を生きる人々の明日の為に』
託された祈りが、聖句が、ボクの裡から聞こえるから
諦めたことを責めはしない
だがキミ達が、誰かの明日を奪うなら、
ボクは戦う
その為に生まれた戦艦だから
バリケードの範囲を示し、布告
「この境界を越えられればキミ達の『勝ち』だ、死守させてもらおう!」
UC【誘導収束・形勢逆転】!
(後はまるっとお任せ)
次は明日を目指しなよ
白峰・歌音
『防衛班』
今ここには、前に進むんだって希望の灯火が灯ってるんだ。この灯火はたやすく消せないし、オレ達が消させない!もうお前達には何も奪わせてやらないぜ!
「絶え間なく押し寄せる絶望の濁流!もうマギステック・カノンがその濁流を全部せき止めてやるぜ!」
【フリージングデッドラビリンス】!出口を防衛班の銃の射程内でつかず離れずの距離で設置、出てきた所を狙い撃ちに出来るように氷の迷宮という防衛所を作り上げるぜ。
そしてオレは迷宮内に突撃!敵の声とか機械の音で位置を判断、近づいて来たら壁を蹴って高く【ジャンプ】しての【空中戦】で翻弄、敵を【踏みつけ】たり氷結させる【属性攻撃】で倒していくぜ!
アドリブ連携OK
神羅・アマミ
妾とて力なくば物盗りに堕していたやもしれぬ。
間違いないわ!
野盗どもも次に生まれ変わる時は誰かの救い手になれるよう祈り、成仏してもらう他あるまい。
※防衛班参加
時刻は既に黄昏、敵は車両によって攻め込んでくる…とあらば、多少のリスクを冒してでも荒れ地より拓かれた道路を直進してくる算段が高かろう。
当然そこを利用し、轍に沿う形でUC『吊込』による動体検知トラップを設置じゃ!
今回設定するフラッシュボムは敵の戦意を奪うと同時に、閃光と音が他の防衛班にとっても位置特定の助けとなろう。
妾自身は最前線のバリケードに身を隠し待機。
敵が学習し悪路へ足を突っ込んだ折を見て通信機器で連携を取りつつ、奇襲を仕掛けていくぞ!
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
【防衛】
敵が来る前に…氷の壁を作ってバリケードに重ね強度を高め
それから足止め用に氷を張ってトラップを
…よし、来たな!
敵は恐らく氷のトラップに足を滑らせ、身動きが取れなくなるはず
ここは先陣切らせてもらうぞ!
放ってくる手錠やスタンガンは【ジャンプ】で避け
鎖は《冬ハツトメテ》の風と【属性攻撃】の組み合わせて吹雪を作り、吹き飛ばして敵にお返し
戦意を喪失せず悪意を剥き出しにする敵がいるなら
そのまま《冬ハツトメテ》を使い『白炎舞』を放つ!
どうして道路を壊そうとするのだ?
妬み…恨み…俺はそういうのに疎いからきっと気持ちはわからない
でも、それでいいのか?
それで何か変わるのか?
それが本当にしたいことなのか?
●希望の灯火
既に日は落ちかけていた。夕刻は深い闇を伴って、急速に道路という概念をこの世界に生み落とそうとする者たちの足元に迫っていた。
ここはアポカリプスヘル。文明と活気に包まれた世界であるならともかくとして、この世界には夜の闇を大きく照らすような夜の喧騒などありはしない。
あるのは、うっすらと燈った『希望の灯火』。心許なくもあり、しかし確かに燈ったそれだけだ。
車両などで構成されたバリケード内を、照明機器の光が照らしていた。『設営班』、『防衛班』を問わず、皆、一様に不安そうな顔をしている。当然だ。彼らの一体何割がこのような戦闘を体験してきたというのだろう。誰が一体こんな夕闇の中での防衛線を体験してきたというのだろう。
しかし、それでも。不安の中にあって、シヴィルズタワーの人々は諦めてはいなかった。
その証拠に、彼らは誰一人としてその瞳に涙を浮かべてはいない。歯の根の一つも鳴らしてはいない。怯えた顔などどこにもない。
彼らは猟兵たちに気付かされて、この世界で初めての『道路開拓』を選び取った人間たちだ。不安はあれど、怯えはない。怖れはあれど、竦みはしない。既に人々の心は猟兵たちと共にあった。
『――――もしもーし! こちらアマミちゃんじゃけど! こっちの準備はいつでも良いぞ、そっちはどうじゃ!』
『こちらバリケード内、ネグルだ。こちらの防衛準備はできている。万全とは程遠いが……それでも、やれることをやるしかないからな』
『こちら同じくバリケード内、リア。ネグルさんやシヴィルズタワーの皆と一緒に、第二防衛線の構築は完了したよ。エダさんにも手伝ってもらった』
『私自身は奴らが接近するまで暇があったしね。そこらへんはお互い様ってことで。事前準備ができるなら、先にやっといて損はないでしょ』
『ってことは……こっち側の防衛は全員準備完了ってことだよな? 歌音と俺も、もう配置に付いてるぞ! アイツらが接近して来た後の仕込みもバッチリだ!』
『おう! 第一防衛線は、オレとアマミ姉、ヴァーリャ姉に任せてくれ! その代わり、そっちの方はよろしく頼むな!』
『ハハ、私は司令向きな頭じゃないが……、守ることは得意なんだ。任せてくれ、歌音さん。第二防衛線、了解した。それじゃ、そちらも無理のないように。――――では、現時刻よりバリケード西側の防衛戦を開始する。全員、死ぬなよ』
歌音からの通信を受けて、ネグルが通信機の向こうで皆に発破をかけるのが聞こえた。それと同時に、照明機器の光が落ちていく。否、誰かが意図的に照明を切ったのだ。既にそれは作戦の中に織り込み済みである。
実に静かで、実に暗かった。完全に日が落ち切っていない夕闇とは言えど、人工の光が存在しない荒野では、少し先に何があるかも見えにくい。
静寂と暗闇の中で、猟兵とシヴィルズタワーの人々は無言でその時を待っていた。既に覚悟はできている。常人であれば僅かにでも身を置きたくないであろう全き闇と沈黙の中で、皆はひたすらに『それ』を待っていた。
ここで一度、戦況の詳細を説明させて頂く。
まず、猟兵たちとシヴィルズタワーの人々は辺り一面を荒野に囲まれ、バリケードを円上に設営することで暴徒たちからの襲撃に備えた――――というのは、既に伝えたように思う。
その上で、彼らは互いの作戦を勘案した上で防衛班に属する戦力を二分した。即ち、東側と西側の二つである。
そして、西側――――。
設営中の道路側から来るだろう暴徒の襲撃に備えるこちらの猟兵は、六名。
ネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)。
リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)。
エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)。
神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)。
ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)。
白峰・歌音(彷徨う渡り鳥のカノン・f23843)。
彼ら六名は、沈む夕日を正面に捉えて防衛策を練っていた。そして編み出されたのが、ここからさらに西側の人員を二つに分ける事。
人々のいるバリケードの先にて構え、敵の襲撃に対して真っ先に迎撃を行う第一防衛線に、アマミ、ヴァーリャ、歌音の三名。
人々のいるバリケードの中で構え、西側の最後の守りを担う第二防衛線に、ネグル、リア、エダの三名。
人員の不足はない。彼ら猟兵は、そのいずれもが一騎当千の強者たち。そんな彼らが、通信機器を利用しながら協力し合えば――――寡兵など、この場においては何も恐るるに足りない。
全ての準備は整っていた。全てだ。もはやこれ以上の準備は必要ない。後は待つだけ。無明無音の荒野の中心で、覚悟を胸に秘めて待つだけだ。
●戦闘開始
――――そして、その時が来た。まず最初に彼らの感覚器官が捉えたのは、遠く離れた場所から聞こえる『音』であった。暴徒たち――――『ダーティーギャング』たちが駆る車両が奏でる暴虐と略奪の音色が、彼らの到来を自ずから知らせていた。
接敵(エンゲージ)が近い。誰もがそれを確信していた。
「オイオイオイ……、アイツら俺らにビビって電気消してやがるぜ?」
「ギャハハハ!! マジかオイ、そりゃバカだろ! つーかアホだろ!? だって俺ら、電気が見えなくてもアイツらがどこにいるか分かるしィ?」
「そーだよなァ! だってよ、あいつらが作ってくれたこの道路をまっすぐ進めばよォ――――それでいつかはアイツらに追い付けるんだもんな!」
「マジ俺たちの略奪ロードまで組んでくれてありがとうって感じィ? アイツらから全部奪ったらよ、この道引き返して塔に残った奴らからも襲っちまおうぜ!?」
「……ハッ、しょうもねえ。あー、俺たちのためにありがとうだわマジで。そうと決まりゃよォ、さっさと済ませて――――ッッ?!」
――――その次に、彼らの感覚器官が捉えたのは、遠く離れた場所に見える『光』であった。暴徒たち――――『ダーティーギャング』たちが駆る車両のライトではない。何らかの閃光だ。破裂音のような音も聞こえる。
唐突に巻き起こった閃光と耳をつんざくような大きな音が、敵の足並みを狂わせていくのが遠くからでも良く分かる。彼らは互いの位置関係や、ともすれば自らの進行方向すらを見失っているようで、蛇行や唐突な進路変更による横転、ないしは衝突事故によって、敵は大きくそこで足止めを喰らう羽目になった。もちろん、――――それは偶発的な現象ではない。猟兵たちによる、策略だ。
「っ、ぎぃぃャァァァァァ!! おれ、おれの耳が……ッ!!」
「ッッッッッッ、オイ!? こりゃ一体なんだよ!? 何も見えねえぞ――――!」
「クソッ! 滑って……ダメだッ! オイ、退けよ馬鹿野郎ッ!」
「何だよ今の悲鳴はァ?! 何だよこりゃァ?! 何が起きてんだよォ!?」
「……妾とて、力なくば物盗りに堕していたやもしれぬ。それは間違いないわ! ……じゃがの! ――――『来たぞッ!! 戦闘開始じゃッ!!』」
『第二防衛線、了解したよ! 光と音も確認した! 手厚い歓迎の方、よろしくね!』
「よし、来たな! ここは俺が……いや! 俺たちが先陣切らせてもらうぞ! 行くぞ、アマミ! 歌音! 第二防衛線のみんなにかかる負担を、少しでも多く減らすんだ!」
「任せてくれ、みんなッ! 今ここには、前に進むんだって希望の灯火が灯ってるんだ。この灯火はたやすく消せないし、オレ達が消させない! もうお前達には何も奪わせてやらないぜ!! お前たちはここで止まってもらうぞ! 全員、オレの迷宮で! 冬の乙女が誘う 惑いの氷宮―――― 【フリージング・デッド・ラビリンス】!」
シヴィルズタワーの人々がバリケード内から見た光。それは、アマミが事前に設置しておいた動体検知トラップのもの。それこそはアマミのUC、【吊込】によって生み出されたフラッシュボム。
彼女は――――というよりも、第一防衛線を担う三名の猟兵は、『防衛班』の敵接近の報を聞いてから即座に行動を開始していたのだ。
アマミは現時刻が既に黄昏であることや、敵は車両によって攻め込んでくるという情報から、敵は多少のリスクを冒してでも荒れ地より拓かれた道路を直進してくる算段が高い――――と踏んで、シヴィルズタワーから現在地点まで続く、建設中の道路の轍に沿う形で動体検知トラップを設置しておいたのである。
彼女の設置したフラッシュボムは、強烈な閃光と音によって敵の戦意を奪うと同時に、発動自体が第二防衛線に構える防衛班にとっても、敵の位置を特定する助けとなっていた。
更に、敵が横転を繰り返していたのには訳がある。アマミの仕掛けたフラッシュボムのすぐ後方の道は、ヴァーリャがその魔力で凍らせていたのだ。
バリケード内の人々が照明機器を落としたのはこのためだ。フラッシュボムに気付かせないためと、凍った路面が光を反射させてしまうことを防ぐため。強烈な閃光は人の思考を奪い、怯えた人間はその身を縮こませる。『光によって竦み、無意識のうちにブレーキを踏まされた車両の群れが、密集した状態で凍った路面を走ればどうなるか』? 答えはすぐそこに提示されている通りだ。
既に敵の足止めは完了している。そこに追い打ちをかけるのが――――歌音のUC、【フリージングデッドラビリンス】。
彼女のその力は、戦場全体にかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない氷壁の迷路を作り出すもの。脚を止めた敵たちを包み込むように、歌音は超巨大な迷宮を展開していく。
そして全ての敵を飲み込んだ迷宮の出口へ、三人の猟兵は駆けこんでいく。ここから先は歓待の時間だ。迷宮内に散らばった三人の猟兵が、迷宮からの出口を探して進む敵をもてなす時間である。
●西側・第一防衛戦線
「……見付けたッ! 絶え間なく押し寄せる絶望の濁流! マギステック・カノンが、その濁流を全部せき止めてやるぜ!」
「ゴチャゴチャうるせェんだよ……ッ!」
「止められるもんなら止めてみやがれ……!」
氷の迷宮へいの一番に駆け込んだ歌音は、横転した車両のエンジン音や焦った敵の声を頼りに迷宮内を素早く移動。
愉快な箒『相棒』に跨って高速で移動し続ける彼女が相対したのは、迷宮内で立ち止まっている敵の集団であった。見れば、傍らには横転したバギーが二台。先ほどのトラップに引っ掛かったらしいことは一目瞭然である。
数は二人。彼らはそれぞれその手にスタンガンや鎖を誇示するように持っている。どうやら、それが獲物のようだ。しかし、歌音はそれを見せられて止まるような心根は持っていない。『相棒』から降りた彼女は、敵に向かって構える。格闘術の構えだ。相手が望む接近戦に、敢えてこちらから乗る形。
「オラァァ!」
「退けやァァァァ!」
迷宮内の最初の戦闘。先に動いたのは暴徒たちであった。迷宮とはいえど、車両を含めて敵を全員捉えることが叶うほどの巨大さだ。一本道とてそれなりの広さではある。
故に、彼らは歌音に向かって道の右側と左側から突撃を敢行。閉所での戦闘とはいえ、歌音を挟撃するのが狙いか。――――だが。
「そんな攻撃ッ!」
歌音は、そんな敵の行動を見てから動く事を選択した。狭い空間での戦闘は、距離の詰め合いが思うようには取れなくなっている。そのため、有利不利の天秤が一度傾けば、それを覆すのは至難の技であることを、彼女は良く知っていたのだ。
突き出されるような形で繰り出された右方向よりくるスタンガンの電撃を見切り、歌音は敢えて敵との距離を詰め、腕の懐に入って滑らかに躱していく。かと思えば、次の瞬間にはそのまま敵が伸ばした腕の付け根をカウンターの要領で氷結させていくではないか。
これで一人目は獲物ごと片腕の制御を失った。まだ動けはするだろうが、少なくともこれで撃破対象としての優先順位は落ちたといえる。脅威度も、だ。
「ぎゃァァッ!! ――――ッ、俺、俺の腕が……ッ!!」
「くそが、何やってやがるッ! 舐めんなァ!」
「甘いッ! それはこっちのセリフだぜッ!」
味方をやられて激昂した様子の敵が次に歌音に見舞うのは、鎖。敵は鎖のリーチを活かし、指先で振り回しながら鞭のような軌道で歌音への痛打を放とうとした。
「ッ!? 動きが……追えねェッ!?」
「遅いッ!」
だが、鎖の敵が鎖を構え、歌音に狙いを付けるよりも早く。彼女は大きく横方向に走って跳躍し、壁を足場にして再度跳躍。右足で壁を蹴って、高く高くジャンプした歌音は、そのまま勢いの乗った右足で敵の顎を横合いから蹴りつけながら、空中で上半身を捩じることで身体を縦に回転させ、左足にて回転を乗せた踵落としを敵の頭部に連続で見舞ってみせた。
敵の攻撃方法を見切り、自らの長所であるダッシュと跳躍を活かし、一瞬のうちに空中戦を展開。無防備な頭部へ二回行動を決め――――歌音は、見事に二人目の敵も沈黙させることに成功したのである。実に見事な手際だ。
「お前達を通すわけにはいかないんだ! 悪いけど、そこで寝ててもらうぜ!」
「ああァァクソッ! 次はどっちだよ?!」
「うるせえ! 俺たちに分かるわけねえだろ、そんなん……!!」
「とにかく、進むしかねえって! こう曲がり角が多いとよォ、バイクが生きてても役に立たねえし……!」
歌音が二人の敵を即座に沈黙させ、また別の敵を探すために移動を開始した頃。迷宮の別地点では、また別の敵集団が道に迷っていた。
どうやら、彼らはフラッシュボムと氷結した路面の影響をもろに受けた先頭集団ではなく、そのやや後方についていた集団であろう。彼ら自身に差したる怪我はなく、バイクにも傷はついていない。位置関係によりブレーキを踏むのが間にあった、というところか。
実に『狙い目』だ。集団で進んで気が緩んでいるためか、一つ角を曲がる際にもぎゃあぎゃあと口論を続けて周囲の警戒を怠っている。音を良く反響させる氷の迷宮内でのその行動は、自分の位置を猟兵たちに伝えているのと変わらない。
「――――今じゃッ! 盛者必衰、油断大敵! 己の力に自惚れて、迂闊な歩を進めたその一寸先こそが闇! 喰らえェェーーッ!」
「ギャッ――――ッ」
「な、え――――?!」
そんな彼らを、曲がり角での奇襲にて一気に黙らせていくのはアマミだ。彼女は優れた野生の勘にて彼らの位置を察知すると、そのまま曲がり角の先から踊り出で、呆気にとられたままの敵に向けて思い切り戦闘用の和傘を振り回していく。
彼女の並外れた怪力から繰り出された斜め方向のぶん回しは一人目の胴を砕き、返す刀で繰り出される打ち下ろしが二人目の膝を折ってみせるではないか。迷宮内の通路のような閉所戦闘において、太刀や大長物はむしろ邪魔になることが多いが、アマミは自らの獲物のリーチを完全に把握しているらしい。振り回した和傘を壁にぶつける――――などといった野暮は、彼女とは無関係である。
豪快。かつ繊細。アマミの異常なまでの握力、そして背筋から連なる上腕までの全ての筋繊維が、彼女の攻撃から無駄の一切を省き、完全なるコントロール下に置いているのだ。
「ギャッハハハ、これで二人っと! ……ほれほれどーした、かかってこんのか? 今なら先手は譲ってやるぞ」
「……ッ、クソがァ!! 死ねよ、クソ猟兵ッ!」
二人の敵を瞬く間に無力化してみせたアマミは、残った一人へそう声をかけていく。かたや和傘。かたや手錠を用いた徒手空拳。先に踏み込んだのは、残った暴徒。そして、それを待ったのは、アマミであった。
敵は踏み込みを行いながら、自身の手首に巻いた手錠を叩きつけるようにして攻撃を繰り出してみせる。そして、アマミは――――敵の行動を見て、その上で敵の繰り出した攻撃ごと、和傘の一撃によって全てを叩き伏せてみせた。
彼女の怪力があって初めて叶う技である。男は突き出した腕ごとその身を強かに打ちのめされ、最早立つこともかなうまい。
「いつもみたく、死ね――――とは言わんわ。生まれ変わって来るんじゃな。次に生まれ変わる時は、お前らも誰かの救い手になれるよう――――、しっかり成仏できるよう、妾も祈っといてやる」
「――――なあ。一つ、聞かせてくれ。どうして道路を壊そうとするのだ? 妬み……、恨み……。俺はそういうのに疎いから、きっと気持ちはわからないけど……。なあ、どうしてだ?」
「……はァ? 別に、理由なんざねえよ。ってか、そういうのウゼぇし。……邪魔なんだよ。クソウゼぇんだよ。それだけだろ」
ヴァーリャが相対していたのは、西側より来た敵集団の先頭に位置していた男。氷の迷宮を一人で進む彼の目が、諦めで暗く淀んでいることを、彼女は鋭敏に察知していた。
それでも、彼女は諦めずに声を掛け続ける。
「……っ、でも、お前たちはそれでいいのか? お前たちのやってるそれで、これから何か変わるのか? それが――――略奪が、暴力が、本当にお前たちのしたいことなのか?」
「べっつに。変わんねえよ。……今更、何かを変える気も、そんな機会もねえし。……俺たちがしたいことが何なのか? そんなん知らねえよ。でもな……お前みたいな偽善者を、一発ブン殴ってやれるってのは――――今、俺が心からやりたいことかもなァ!」
「――――そうか」
しかし、それでも。最早取り返しがつかなくなってしまった悪人というものは存在する。
『ダーティーギャング』に属している彼らは、一様に別々の環境で生まれ、別々の環境で育ってきたのだろう。このアポカリプスヘルという過酷な世界では、悪意に身を染めた方が生きやすくはあるだろうことも、ヴァーリャは良く良く分かっていた。
だが、それでも。それでもと手を伸ばさずにはいられないのだ。
「ムカ付くんだよ、お前みたいな……! 人を信じてますって顔したバカ野郎を見るのはァァ!! もう、うんざりなんだよォ!!」
「だとしてもッ! 俺は、ここでお前たちに負けるわけにはいかないんだッ! 何においてもッ!!」
敵はその手に持った鎖を回転させながらヴァーリャに投げつけ、もう片方の手に持ったスタンガンで追撃を行うべく接近を図る。しかし、接近戦を望むのは彼女もまた同じこと。そして接近戦で考えるべき点は、相手の隙をどう生み出すか、ということだ。
構えたヴァーリャは敵の飛び道具と突撃を見、まずは自らの持つ氷の魔力と装備品である九尾扇、『*冬ハツトメテ』を存分に生かすことで吹雪をその場に呼び起こしてみせる。風と氷。二つが合わさったその暴威は、敵の投げつけた鎖をすらその中に巻き込んで敵に向かっていく。
鎖を巻き込んだ吹雪の旋風は、迷宮の通路の中で大きく吹き荒れ――――そのまま、敵の身体を覆いつくしていく。スタンガンを構える敵の片腕に鎖が絡まり、更に両の手足を凍結の力が捉えていく。ヴァーリャは相手の力を利用することで、ただの一手で敵を無力化してみせたのだ。
「ッ、なんだと――――ッ!?」
「……俺は、お前を殺さないぞ。お前は悪意で戦ってるわけじゃないだろ? 諦めて、それで……一番簡単な、暴力って行動に手を出してるだけだ。俺はお前に負けない。お前を包んだ氷はすぐに溶ける。……氷が溶けて、それでもまだ俺たちを襲いたいなら、そうすれば良い。俺たちは何度でもお前の相手をするぞ」
「――――ッ!! 情け、……かよォ……!! ざけんなァ!! 俺を殺せよッッ!! ……無理だよッ!! この世界でテメェらみたいに生きるのなんざ、土台無理な話なんだってッ!!」
「……言ったろ。俺はお前を殺さない。諦める訳にはいかないんだ。お前たちには、何においても負けたくないからな」
「お、前……。本気で……。ッ!? オイッ! お前、後ろッ!」
氷で動きを止められた男を諭すように、ヴァーリャは静かにそう言葉を紡いでいく。――――だが、その瞬間。何かに気付いた男が、ヴァーリャの背後に『何か』があることを目線で示していた。
それは、敵に説得の言葉を投げ続ける彼女の背後から現れた、紛れもない悪意。背後からの奇襲。鎖を両手に持ってヴァーリャの首を締めようと動く敵であった。
「ギャハハハハ!! 馬鹿が馬鹿なりに役に立ってくれたぜェ~~~!! なァ~~に猟兵なんぞの言葉を聞いてんだよ??? ハイッ、これで若い女一人ゲットォ~~ッ!!」
「――――お前、みたいな奴が……ッッ! 喰らう訳無いだろッ! 氷は俺の力だッ! お前が後ろから俺が狙ってたことなんて、氷を介してお見通しだッ!」
そして、また――――この世界には、悪意を剥き出しにして人に暴力を加えることを心から楽しむ、どうしようもない悪人というものも存在する。
不意打ちを察知したヴァーリャは、敵を見ずに縦に回転しながら大きく跳ぶ。そしてそのまま上半身だけを倒すと、空中に浮きながら自身の後方から奇襲を仕掛けた敵を目視する。
そして、発動するは【白炎舞】。大切な人から送られた力を介し、今こそヴァーリャの装備は中空に舞う無数の白炎の花びらとなりて――――。悪意を持った敵だけを焦がしていく。
「ガッ、アアアァァァァアァァ!?」
二人の敵を戦闘不能に追い込んだヴァーリャは、そのまま迷宮内の探索を再開する。
全ての敵に対し、同じ対応など取れない。だから、時間と手間がいくらかかろうとも、言葉を、そして手を伸ばす。それが彼女の選んだ答えなのだろうから。
●西側・第二防衛戦線
「ハァッ、ハァッ! おい、アレ――――!」
「おうよ、出口だろあれ! オイ野郎共ォ! 出口が見えたぜェ!」
「よっしゃァ! これでようやく、略奪の、かい、し……」
第一防衛線は、実に上手くやっていた。そう言って良いだろう。
アマミ主導で仕掛けたトラップが敵の足を止め、動きを止めたところで歌音の力で敵を纏めて迷宮内に閉じ込める。そしてそこにヴァーリャも加えた三人で突撃し、内部にいる敵をアクティブに潰す。非常に理に適った作戦だ。
――――こうして、『一部の敵をわざと出口に向かわせ、そちらの処理を第二防衛線の猟兵に任せることで、効率的に敵を排除する』という点まで含めて。
やっとの思いで迷宮から抜け出した暴徒たちを、目映い光が包囲していた。先ほどまで消えていた照明機器は全て作動し、彼らの姿を闇の中でくっきりと映し出している。
そう、歌音は迷宮の出口を『防衛班の銃の射程内で、つかず離れずの位置』に設置し、出てきた所を第二防衛線の皆が狙い撃ちに出来るようにしていたのだ。彼女が作成したのは、ただの氷の迷宮ではない。これは紛れもない防衛所である。
「――――全員、そこで動くなッ!! 私はネグル・ギュネス! 最後にそちらに一つ問う! ……皆、悔い改め、人々の為に生き、それで飯を食う気は――――、人に感謝される気は、無いか?」
「……オイオイ……。あれ、マジで聞いてる訳じゃねえよな?」
「ある訳ねえだろ、俺たちがよォ……なァ?」
「そういうことだ! 悪いけどよォ、良い子ちゃんはそこで俺たちにブチ殺されるのを待ってろやァ!!」
「行くぞテメェらァ! ここを走ればアイツらなんざカモだぜ、あの塔に銃をまともに撃てる奴なんざいるわけねえだろッ!! ここまで来れた時点で、俺らの『勝ちは確定』してんだよッ!!」
「…………無い、か。無いならば、残念だ。――――総員、防衛準備ッ!! 愛する人、守るべき場所の為、――――自分の意思で、その引鉄を引け! 私たちは皆を守る! だが、敵を排除するのは皆がやるんだッ! 敵はすぐそこにいる! リアさん、号令を!!」
「さて、ネグルさんの言う通り。もはやボクらと君たちの距離はもう幾ばくかもない。ボクと君らを分けるのは、後たかだか数百メートルの荒れ地とバリケードだけ。この境界を越えられればキミ達の『勝ち』だ、だから――――ここだけは死守させてもらおう!」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃとよォォ!!」
強烈な光に照らされて、足を止めて。ネグルとリアからの最後通告がなされても、暴徒たちは耳を貸さない。それどころか、彼らはむしろ自分たちの勝ちを確信したかのように勢いを増して走り込んでくるではないか。
彼らがバリケードに到着するまで、後ほんの僅かしかない。そして、その瞬間に全ては整った。猟兵たちが描いた勝ちへの絵図に必要な要素は、この瞬間に全てが揃ったのだ。
発動するは幻想のチカラ。不可能を可能に塗り替える、猟兵だけが扱える奇跡。
「君たちが勝敗を意識した時点で、ボクの思考誘導は完了している。さあ、逆転劇の開幕だ! UC発動! 【誘導収束・形勢逆転】! エダさんッ! ネグルさんッ!!」
「ああ! ……バリケードを含む陣地全体の下に横倒しの分厚い壁をイメージ……! ドワーフ力(ちから)を拳に集中……! 満身の力を込めて大地を殴り、イメージした壁を隆起させるッ! 行くぞッ! これぞ、【ドワーフ式岩盤返し】だッ!!」
「任せてくれ! 幻想起動、【強襲具現:冬寂の采配】――──。力を貸せ、友よ。平穏を荒らす輩に冬寂を与えんが為……!」
『Access! ――code:ASSAULT,type Wintermute Commander!』
「な――――なンだよ、こりゃァッ?!」
三つの力が、戦場に走る。
【誘導収束・形勢逆転】。それは、勝利を確信した感情を与える事に成功した対象へ、作戦の成功を告げる味方から、とどめの一手を飛ばすリアの力。裏を返せば、彼女がこの力を発動した時点で――――その次に行われる味方の行動は、因果を無視して必ず止めの一手となる。
【ドワーフ式岩盤返し】。それは、自身の半径60m程の無機物を、ドワーフ力を込めた打撃で壁に変換して操作するエダの力。彼女が壁として隆起させるのは、どこか一部だけといったしみったれた話ではない。西側のバリケード内の全ての地盤を隆起させるのが、彼女の狙いだ。これで暴徒たちがバリケードを越えるためには、『バリケードに至るまで、必死に断崖を登らなくてはならなくなった』。
【強襲具現:冬寂の采配】。それは、ネグルが操縦するS R・ファントム及び周囲にいる味方全員の、機動力、攻撃力、知覚能力、反射、演算能力と、自身の耐久力、剣技、破壊力、自己回復能力を増強するネグルの力。……ないしは、ネグルの友の力。この力によって、周囲にいる味方の力は全て強化された。アマミも、歌音も、ヴァーリャも。リアも、エダも、ネグル自身も、――――そして、シヴィルズタワーの人々の力も。
「――――住む星さえ無く、船団同士の争いも尽きない宇宙の片隅で。あらゆる理不尽に怒り、苦しみ、嘆き、血反吐を吐きながら、それでも明日を掴んだ人々の――――『こんな想いをするのは、自分たちだけでいい』。その想いが、このボクを創造した原点で。『理不尽と戦え、抗え、屈するな』。『今を生きる人々の明日の為に』。託された祈りが、聖句が、ボクの裡から聞こえるから。……キミたちが諦めたことを責めはしない。だがキミ達が、誰かの明日を奪うなら、――――ボクは戦う。ボクは、その為に生まれた戦艦だから」
「世界によって、事情も道理も違うもんだ。だから、外からアンタたちのことを善だ悪だと勝手な事を言うつもりはないよ。……でも、彼らは。シヴィルズタワーの人々は、前を向くことにしたんだ。それを再び停滞させようってんなら、全力で防がせてもらう! ――――猟兵ってのはなぁ! 人が進む未来のために戦うもんなんだよッ! さあ! この壁を元に戻したきゃ、まずは私を倒すんだな!」
「そういうことだ! 彼らから何かを奪おうというなら、私たち全員が相手になってやるッ! 舐めるなよ、人間をッ! さあ皆、勝鬨を上げろ! 今こそ、奴らを一気に押し返せッ!!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」
三人の猟兵は、文字通りに戦場を塗り替えた。もはや暴徒たちは走るだけではバリケードにもたどり着けない。彼らの行く手に待ち受けるのは、『防衛班』に大幅な高所の有利を与える断崖絶壁と、ネグルたちの力によって能力を底上げされた人々の放つ射線。
そして何より――――。崖をとび降りて敵の目を惹き、かつ確実に敵の数を減らしていく三人の猟兵が、彼らの前に立ち塞がっている。
「クソ、クソ……!! 何なんだ、何なんだよテメェらァッ!!」
「ずいぶん簡単な質問じゃないか? ここにいるのは、猟兵と人間だ! それ以外にいないだろッ!」
格闘用ガントレットと修道靴を身に着けたエダが、飛び降りた勢いのままに足を竦ませた敵の顎を小さくジャンプしてからの右フックで砕いていく。衝撃で曲がった敵の膝を足場にして、追い打ちのサマーソルトキックをもう一度顎に喰らわせてやれば、これで一人目は完全に沈黙。
そんな彼女の猛攻に気付いた別の敵がエダに鎖を投げつけようとするが、焦って投げつけられた鎖などは彼女の障害にもならない。エダは回し受けにて上手く鎖の勢いを殺してみせると、そのまま空中で鎖を掴み、手首のしなりを活かして敵の足元に投げつけてやる。足に纏わりつく鎖でバランスを崩し、顔から地面に倒れ伏した敵の鳩尾に一発痛いのを加えて、これで二人目。エダの研ぎ澄まされた滑らかな動きは、家伝の格闘術があればこそだ。
「ハハ、それは全く同感だな! 『北西側、岩場を越えようとしている敵がいるぞ! 数二人! 姿が丸見えの今だ、撃て! 北東側、落とし穴に足を引っかけたやつがいる! 逃がすなよ、今がチャンスだ!』」
徒歩(かち)の長所を生かして機敏に移動しながら敵に接近戦を挑むエダの隣で、同様に率先して前に斬り込んでいくのはネグルだ。彼が優先して潰すのは、比較的遠くから援護のために鎖や手錠を投擲しているような敵たちだ。
ネグルは相棒である宇宙バイク、『S R・ファントム』に跨って高速で遠間の敵へ距離を詰めたかと思うと、『ペネトレイトブラスター』による制圧射撃で敵の投げる飛び道具を全て潰し、先んじてナイフを投げることで敵の手や腕を潰していく。同時に手が空いたタイミングで、エダやリアの死角から襲い掛かろうとする敵を牽制。
広範囲の敵の攻撃を潰し、自分にヘイトを集めながら同時に味方を活かし続ける。それが彼の戦い方なのだ。夕闇の暗さも、『カリキュレイト・アイ』の前には何ら影響にならない。通信機器を利用した指示出しもお手の物、といった顔だ。
「諦めじゃ前進には勝てないのさ。決してね。次は明日を目指しなよ」
ネグルが周りをサポートしながら敵の隙を誘発、もしくは隙を見せた敵を発見し、そこをシヴィルズタワーの人々で結成された『防衛班』の銃手が撃ち抜いていく。そんな彼と同様に、愛機である宇宙バイク、『イルダーナ』に跨りながら戦場を縦横無尽に駆け巡るのはリアだ。
彼女はバイクの機動力を活かして孤立した敵を上手く排除しながら、重力錨『グラヴィティ・アンカー』を要所要所に用いることで、固まった敵集団を一気に崩してみせる。そこら中にある岩場や、もしくは敵の装備にアンカーボルトを射出してすこし走ってやれば、戦場広域に広がって高速で移動するアンカーは圧倒的な範囲を支配する武器に早変わりする。
そしてリアが集団の足並みを崩し、隙間を作り出しさえすれば――――こうだ。
「そこだッ! まだまだまだまだァァァ!!」
リアが生み出した集団に開いた隙間へと駆けこむのは、エダ。彼女はその身体の小ささを活かして個人に張り付くと、少ない手数で敵を沈黙させていく。
「女性を背後から襲うのはいただけないな!」
そして、敵集団を崩すべく突撃を行ったエダのサポートを行うのが、ネグル。彼の目と腕、そして張り巡らされた『冬寂の采配』は、味方の動きを最大限に活性化させていく。
『防衛班の皆、ボクに合わせて! ――――集中砲火だッ!』
そして、崩れ切った敵の集団を一気に排除するのは、リアとシヴィルズタワーの人々だ。それぞれ機動力と組織力を活かした彼らの攻めは、敵に反撃の機会を許さない。
猟兵と人間。彼らは守るために戦い、戦って守り、そして――――。その時がきた。
「……――――東防衛班、制圧完了ッ! お疲れ、皆ッ!!」
かくして、六人の猟兵とシヴィルズタワーの人々は防衛戦に打ち勝った。もはや満足に動ける『ダーティーギャング』はほとんどおらず、まだ動けるような敵も散会したか、こちら側の降伏宣言に応じている。
『もしかすれば』、降伏宣言に応じた敵の中から何人かほどはこちらに協力してくれるような敵もいるかもしれない。猟兵たちの言葉と、人々の行動が、『悪意』を見事に打ち破ってみせたのである。
夜明けはまだ遠く、夕闇は気付けば夜闇に変わっていた。
それでも、猟兵たちが守り切った希望の灯火は――――人々の胸の中で、今も確かに燃え続けていた。
大成功
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ラッカ・ラーク
●遊撃
確かに奪った方が早いんだろうけどさ。
オレは嫌いだぜ。
数で来るなら数でやり返す。小鳥の手も借りてバリケードに到達される数を減らす『時間稼ぎ』。
オレも『空中戦』『2回攻撃』『踏みつけ』で全力で邪魔して『挑発』してやるよ。コッチに『おびき寄せ』られてくれりゃお仲間がやりやすくなるかもな。
多少のケガは覚悟の上。でもコードを封じられちゃ困るから、ソレはキッチリ『見切り』と『野生の勘』で躱してやって。
容赦とかそういうのはない。お前さんらのやり方への応えだ。
気に入らねえから奪うんだろう?
俺はそれが気に入らねえから蹴っ飛ばしに来たんだよ。
誰が何を選ぶも自由だろ。タワーの人らは踏み出す方を選んだのさ。
月凪・ハルマ
『遊撃』
◆SPD
まずは【魔導機兵連隊】で召喚したゴーレム達を
敵に向かわせる(今回は敵が多いので合体は無し)
敵を倒しきれなくても、進行速度を遅らせられれば良し
機械相手なら催涙スプレーも意味無いだろ
そしてそんなのが大群で侵攻してくれば敵の気もそっちに向く筈
そうなれば、俺の隠密能力を更に活かせるし
他の皆もやりやすくなるはずだ
自身は【迷彩】で姿を消し、【忍び足】で敵陣営に接近
そのまま【早業】で【目立たない】様に手裏剣の【投擲】と
魔導蒸気式旋棍の打撃で攻め立てる
敵の攻撃は【見切り】【残像】で躱していく
包囲されない様にも注意して動こう
生憎だけど、何一つ奪わせはしないよ
俺達はそのために此処に居るんだからな
矢来・夕立
■遊撃
ゴミ溜めの虫からビビりのうさぎさんには進化しましたね。
遊撃に回ります。
照明から離れているなら《闇に紛れる》のも容易い。
音も殺して、一人ずつ。確実に殺る。
【梔】、狙いは首。
近ければ刀。遠ければ手裏剣。堅ければ紙垂で締め落とす。
適切な武器で潰していきます。
夕闇かつバリケードの外なら安心してシゴトができますね。
殺しを直に見られるのは避けたいんです。
心証が悪くかもですから。
奪い合いの世界で起こる理不尽は、必定です。
いつだって正直者が馬鹿を見る。
だからって掠奪しかできないなら、生きてはいません。
何かを得たつもりになれる。
けど今後同じコトしかしないなら塔の連中と同じ。
それは、“息をしてるだけ”です。
ティオレンシア・シーディア
●
『遊撃』
あ―あーいるわいるわ、有象無象がわらわらと。
さぁて、それじゃ…○蹂躙してやりましょうか。
ミッドナイトレースに○騎乗して突撃。●轢殺で敵陣をズタズタにしてやるわぁ。この子、見た目はバイクっぽいけどUFOだもの。地面からほんの少し浮きでもすれば地形なんて関係ないでしょぉ?
荒らしまわったら上昇してグレネードの〇投擲による空爆に移行。むこうの武器は鎖とか鉄パイプだもの。対○空中戦の備えなんてないわよねぇ?
いいだけヘイトを集めて再度降下。ガンガンブチかますわよぉ。
意識をこっちに○釣るのも、立派な援護だもの。
…あたしを捉えたいんなら。
せめてアッチェレランドの黒龍くらいのテクは持って来なさいな?
ヴィクティム・ウィンターミュート
遊撃●
よくある話
そう、この世界じゃよくある話なのさ
奪われないように奪う側に回る奴が、溢れかえってる
本来俺も、そっち側にいるべき男さ
だが俺は、お前たちとは決定的に違う…教えてやるぜ、"弱者ども"
『奪う』ってのはどういうものか、教えてやる
『Flatline』───悉くを、奪い尽くせ
恨め、憎め、怒りを抱け
武器を取れ、振り回せ!
そして怯えろ、恐れを抱け
その全てを奪い、俺の物にしてやる
敵の群れに飛び込んで【ダッシュ】で撹乱し、【早業】と【部位破壊】で急所を素早く破壊する
どこまでも行ってもテメェらは弱者だぜ
『強い奴に従ってるだけ』なんだからな
俺達はな、運命って強者から──
『本物の人生』を奪いに行く
退けよ
●『運命』の敵対者
よくある話だ、と誰かが呟いた。
太陽も沈み切った夜の闇。荒野と悲鳴、暗闇と暴虐だけで構成された世界の中で、誰かが。
クソしみったれたクソみたいな昔話も、緩やかな滅びに気が付いた誰かが立ち上がるのも。
よくある話なんだよ。本当に。嫌な話だけど、俺たちの話が特別って訳じゃない。
誰もが人で込み合ってる真っ黒い海みたいな現実の中でもがいて、足掻いてる。人と水に溺れながらも海面ギリギリに顔を出して息継ぎをして、そんでまたもがきながら次の息の事を考えてる。
諦めたやつはそこから先にいち抜けして、――――海の底で息を吸うことを諦めて『ラクになる』か、もしくは――――。お前らみたいに、他の人を足蹴に楽に息を吸い続けるかしかない。
よくある話なんだよ。歓喜も、落伍も、堕落も、撤回も。再起も、停滞も、奮起も、落胆も、諦観も。本当によくある話だ。喜んで、落ち込んで、そのサイクルが嫌になったから諦めて。自分が諦めたからって、それを『そういう運命なんだ』、だと?
クソふざけんな。テメェらが進むのを諦めただけじゃねえか。それを『運命』なんざを言い訳にしやがって。俺たちがお前らに見せてやる。前に進むってのはどういうことなのかをな。
●漆黒の中の五連星
――――それは、またしても――――ほぼ同時の事であった。
シヴィルズタワーの人々が立てこもっているバリケードを中心に、それぞれ離れた真っ暗な荒野を舞台にして、唐突に悲鳴の多重奏が流れ始めたのである。
俄かに東側の防衛班の方が騒がしくなってきた。成る程、確かに道路を通って襲撃をかけようとする敵もいたのだろう。だが、道路を介さずに荒野を走る敵も山のようにいたのだ。
この悲鳴が知らしめているのは、『バリケードを包囲しようとした敵の末路』だ。真っ黒い闇の中には、五つの星がある。良くは見えないが、それらは絶えず動き回って輝きを生んでいる。
それは例えば愛機のライト。それは例えばゴーレムのコア。それは例えば鳥型バーチャルペットの眼。それは例えば影が振るう刀。それは例えば全てを奪うプログラムの瞬き。
遊撃を担う五人の猟兵たちは時に近付き、時に離れ、水際で防衛班の負担が増えるのを防いでいた。これは守るための戦いだ。そして、守るにもやり様はある。
これはただ、それだけのことだった。
●駆ける彗星
「あ―あーいるわいるわ、たかが『運命』相手に諦めた有象無象がわらわらと。さぁて、それじゃ……蹂躙してやりましょうか」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、彼女の愛機、『ミッドナイトレース』に跨って夜の荒野を駆けていた。
ヒーローカーであるそれは、以前彼女がヒーローズアースで奪取したバイク型UFO。低空飛行とはいえ飛行に変わりない以上、彼女の走行に路面状態は全く関係のないことであった。
ミッドナイトレースが闇を斬り、そしてライトが暗闇に紛れてバリケードへ接近を果たそうとする敵たちを捕らえた。宙に浮くタイヤは凹凸をものともせず進み、彼らとの距離を詰めていく。
踊り手は此岸と彼岸に立ち揃い、そしてここにはガンとライトがある。パーティの時間だ、クソッタレども。
「もう『一芸だけ』とは言わせないわぁ。……これでも、だいぶ特訓したんだから。――――【轢殺】(ガンパレード)の時間よ、お客様方」
「なんだ、コイツ――――!? 速ッ――――ギャアアァァッ!」
「クソッ、何がどうなってやがんだ……っ! すれ違いざまにバイクがぶっ飛ぶ衝撃とか……! かまいたちか何かかよ?! 通り魔の方が優しいぜッ、チクショォ!」
彼女――――ティオレンシアは、別に難しいことをしているわけではない。【轢殺】。その幻想は、『ミッドナイトレース』の速度と耐久性を向上させ、ティオレンシア自身の動体視力と運転・射撃能力を強化。流鏑馬の狙撃精度を増強する――――というものだ。
そう、彼女は決して何か変わった小手先を仕掛けているわけではない。ただ、『超高速で敵のバイクやバギーとすれ違うその瞬間に合わせ、片手で放つリボルバーの鉛玉を相手にブチ当ててやっている』だけだ。それだけ。ティオレンシアの能力と経験があれば、相手の痕跡が見えた瞬間に銃を抜き、流鏑馬を行うことなど容易い。例えそれが、一寸先すら見えない闇の中であろうと、だ。
「もっと行くわよぉ。防衛班の方が大変でしょうからねぇ」
既に愛機の機動力を活かし、敵集団に真正面からエンカウントしたティオレンシアにとって、狙うべき『的』など探さずともそこら中にいた。
右斜め後方にいる敵が構えた鉄パイプの光を、サイドミラー越しに確認して撃つ。ノールックで放たれた弾丸は振り上げられた敵の右肩に当たり、衝撃に耐えかねて敵はバイクから落ちていく。
「もっとよぉ」
彼女は左側の真横、そして左方向やや前方に構える二台のバギーがこちらに近付いてくるのを察知するや否や、急加速を行って敵の車二台を一直線上に置く。そしてティオレンシアが僅かに振り返りながら放った弾丸は、二つの頭蓋を貫通して夜闇に消えた。操縦者を失った二台のバギーが緩やかにコントロールを失っていく。
敵の駆るバギーやバイクよりも圧倒的に高速で走り、チキンレースさながらの衝突限界距離スレスレで対向車に迫り、そして異常な速度ですれ違う最中で、気付けば鉛玉をブチ当てられている。
暴徒たちにとって、これは悪夢の類であったろう。ここまでスピードとテクニックを兼ね揃えて走る奴など、この世界のどこにもいはしなかったのだから。
「――――もっと、もっと」
「いたッ……!! いたぞォ!! コイツだ、この女だァ!」
「あのライトを狙えッ! これ以上数を減らされて堪るかよッ!」
「あらぁ? そっちから集まってきてくれたなら『好都合』。――――ズタズタにしてやるわぁ」
「アァ? 何のことだよクソ女ァ! ズタズタになんのはテメェだよッッ!!」
地面の凹凸で自分の機体が浮き上がるたびに死を覚悟しながら、それでも必死の思いでティオレンシアに速度を合わせて放つ敵の攻撃。
それは鉄パイプや鎖による超高速かつ大威力の一撃だ。だが、哀しいかな――――そんな攻撃では、ティオレンシアの『速さ』には追いつけない。
「なッ……?!」
「ああ、良かった。あなたたちの武器は鎖とか鉄パイプだもの。こうして空高く浮いてしまえば届かないし――――あなたたちに対空中戦の備えなんて、ないわよねぇ?」
――――それは、紛れもなく蹂躙であった。ティオレンシアは大暴れしながら敵の注意を惹き付け、こちらの危険度を相手に分かりやすく示すことによって敵が集団行動を行うように仕向けたのだ。
それを確認した彼女は、ミッドナイトレースの高度を上昇。そのまま、グレネードの投擲による上空からの空爆に移行してみせた。
制空権の確保。それは、近代戦闘において最も重要視される要素の一つだ。空高く上った敵に届く手がない場合などは最悪そのものと言えるだろう。なにせ、『打つ手がないまま一方的に攻撃される』のだから。
「が、あ――――っ」
「痛ェ!! いて……痛ェよォ! 痛ェ……! アァ……!」
「クソがッ! ふざけんな、降りてこいクソがァァァ!!」
「あら、降りてきて欲しいの? それじゃ、その言葉に乗ってあげようかしらぁ。……でも」
彼女の行った空爆の効果は、まさに甚大といって良いだろう。一つ所に固まった敵陣は、上空から撒き散らされる暴力と爆発に呑み込まれて壊滅寸前だ。
だが、ティオレンシアは手を緩めない。彼女は生き残った人員に向けて、『わざと』自分の高度を降下させるところを見せつける。
ティオレンシアの行動は、『敵の意識を釣る』『敵を効率よく排除する』という点において完璧であった。常に上空にいて手が届かない存在ならまだしも、降下した所まで見せてやれば、もはや敵は彼女を追う以外の心理的な択を失うからだ。
あとは、彼女が敵に捕まらないように走り続けるだけ。だが――――そんなことは、彼女にとって簡単すぎた。
『速さを求めたあの敵』と『目の前にいる暴徒』では、速さに対する役者が違う。
「――――……あたしを捉えたいんなら。せめてアッチェレランドの黒龍くらいのテクは持って来なさいな?」
「上等だテメェ!! 逃げ続けられると思うんじゃねえぞッ!」
ティオレンシアは逃げる。敵軍は追う。そして空いた手で彼女はまた敵を撃ち落とす。敵が固まれば爆撃で一気に敵を減らし、やりすぎればまた降下して敵を釣る。
『速度』と『テクニック』がある限り、ティオレンシアの作戦は完璧であった。そして、彼女にはその両方が備わっていた。それだけのことだ。ただ、それだけのことだった。
●取り囲む星団
「……爆撃、かな? あっちも派手にやってるみたいだ。それなら、俺もしっかり仕事しないとね」
ティオレンシアの活躍が多くの敵の目を惹いてる間に、夜闇に乗じて接近を果たした男がいた。彼の名は、月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)。
彼はまず静寂に紛れて敵との距離を詰めて見せると、そこから作戦を開始する腹積もりであった様子。ティオレンシアの行動は、他の場所で遊撃を行おうとする猟兵たちの行動の助けになっていたということだ。
「さて――――皆、出番だ。今回は鶴翼陣でいく。敵の脚を止めて、そこから敵を包囲してやるんだ。……それじゃ、頼んだよ」
ハルマが発動させたのは、その身に備わる彼の力。ユーベルコード【魔導機兵連隊】。幻想を糧にして産み落とされた60体以上の戦闘用魔導機械式ゴーレムは、ハルマの指揮に従ってその陣形を変えていく。
今回採用されたのは、鶴翼の陣形。両翼を前方に張り出し、全体でVの形を取る陣形である。彼はこの陣形によってゴーレムたちを横に大きく広げて敵の足止めを図りつつ、更にその後の展開までを想定しているらしい。
「敵を倒しきれなくても、進行速度を遅らせられれば良し。破壊されないことを最優先で。数には数で、だ。減らされれば減らされる分、こちらの包囲を抜けられる可能性も高くなる。機械相手なら催涙スプレーも意味無いだろ? そしてそんなのが大群で侵攻してくれば、敵の気もそっちに向く筈。そうなれば、俺の隠密能力を更に活かせるし、他の皆もやりやすくなるはずだ」
そう、ハルマはあくまで戦闘用のゴーレムたちを真っ向から敵に当たらせる気は無く、敵の足止め兼囮として用いる気らしかった。その狙いは実に単純。彼はゴーレムだけに前線を任せるのではなく、自分自身もゴーレムが作った時間を活かして敵の奇襲を行うつもりだ。
合体することで純粋な戦闘能力を増していくゴーレムたちを合体のも、その作戦のため。今回はまず何よりも『防衛班』の負担を減らすことが第一だ。つまり、敵の足止めが何よりも肝要になってくる。そのためには、一つの大きな戦力よりも、多数の小回りの利く戦力を活かした方が有効である場合もある。そして、それはまさに今なのだ。
何事においても、勝利へのカギはコンセプトを絞ること。ハルマはそれをよく理解している。あくまで彼の本命は『自分自身』であり、ゴーレムによる敵の足止めは自らの火力と機動力を活かすための伏線であり、『防衛』という本命の狙いに対する保険でもあるのだ。
「――――さて。それじゃ行こうか、ゴーレムたち」
彼はゴーレムたちを無音のままに夜闇に放ち、そして自身も迷彩を着て姿を消しながら忍び足を利用して、バリケードに向かってくるだろう敵陣営にこちらから接近していく。
後は待つだけ。敵がゴーレムたちに気付いた瞬間が、万金を積んでも買えない勝負のカギになる。――――きた。
「オラオラァ! もっと飛ばせテメェらッ! 荒野だからってビビってんじゃねえぞォ!!」
「ハッハー! 先行した奴らに良い所を取られるのは勘弁ッすからねェーッ!」
「分かってるじゃねえかテメェら! それならもっと飛ばしてっ……? ア? ……オイ、先に何かあるぞ? 岩かなんかが並んでンのか……?」
「――――っと、それじゃ一端迂回して――――え?」
それが『人』なら、何も気にせず轢き飛ばしていただろう。それが『一体やそこらの人形』でも同様の事。
だが、光源のない黒い荒野を進む暴徒たちが、自身が駆るバイクのライトでゴーレムたちを見付け、それを岩だと誤認し、迂回するために速度を緩めてしまった時点で――――、既に大勢は決していたといって良いだろう。
それらに遭遇した時点で、彼らは即座に引き返すべきだったのだ。月すら凪いだ夜闇で蠢く、『陣形を組んだ岩の如き集団』と、その岩の隙間を縫って走り、暴徒の歩みを留める『忍者』に出会ってしまったのだから。
「求めていた反応で嬉しいね。歓迎するよ」
「ギャッ、ァッ」
「……ッ?! 敵?! ……いやッ! それどころじゃねェ!? 岩が、俺たちを囲むように動いて……?!」
足を止めた暴徒たちが気付けば、既にそこは無数のゴーレムたちの包囲の中。鶴翼の陣は、敵の拙攻を呑み込んで包囲することにこそ本領を発揮する。
敵が包囲から逃げ出すためにアクセルを踏み込んでも、最早それを許すほどの時の猶予が彼らにある訳でもなく。ゴーレムたちは組織だった動きによって暴徒たちの進路を塞ぎ、そしてハルマはその手に構える『魔導蒸気式旋棍』の打撃を、まずは隙だらけの敵の後頭部に向けて奇襲代わりに放つ。
まず一人を昏倒させたハルマは、敵を殴り付けた勢いはそのままに、姿勢を低く保ちながら素早く他の敵に駆け寄っていく。
「見付けた……ッ! オイ、お前らァ! やっぱり敵が――――っ、かっ……」
「悪いけど、ここじゃお喋りは厳禁なんだ」
敵の一人にわざと姿を晒したのは、自らを発見した敵が遺す、具体性のない断末魔が他の敵の混乱を誘発するだろうと踏んでの事。ハルマが敵の声を遮るために用いたのは、彼の装備する『忍者手裏剣』。今回は弾速を重視するために、棒手裏剣を縦投げにて用いている。
ハルマの投擲はまさに早業であり、彼が一度、二度と手首を僅かに動かすだけで周辺の闇の中から悲鳴が聞こえてくる。狙いは主に敵の喉と舌だ。呼吸と発声において重要な器官でもあるそこを狙い撃つことで敵間の情報共有を遅らせ、激痛を与えることで敵を怯ませていくのが目的である。
「オイッ、車降りろ! このままじゃ……ッ! 見付けたぞ、ガキィッ! 死ねやァ!」
「――――生憎だけど、アンタたちには何一つ奪わせはしないよ。俺の命も、皆の命も。俺達はそのために此処に居るんだからな」
偶発的に発生する遭遇戦に当たっては、ハルマはまず敵の攻撃を見ることから流れを組み立てていた。敵が使用するのは催涙スプレー。――――であれば、スプレー缶の噴出口さえ見切ってしまえばどうにでもなるからだ。
敵が繰り出す催涙スプレーの一撃を見切り、ハルマは残像が残るほどの速度による前進でそれを躱す。そうして懐に入り込めばこちらのものだ。手中にて回転させた旋棍を、アッパー気味に敵の無防備な顎にぶつけて一丁上り。
彼が動くたびに敵の数は減っていき、そして尚ゴーレムたちの数は圧倒的だ。そうなれば、ここは包囲の完了した殲滅戦へとその様相を変える。
ハルマとそのゴーレムたちの包囲の前に、敵は全ての択を奪われていた。抵抗も、逃走も、何もかもを、だ。
おっと、『死に物狂いで抗う』という選択肢だけは許されていたか。最も、――――『運命』に抗うことすら投げ出した彼らが、それを選ぶかどうかは疑問だが。
●空を舞う流星群
「……お? この音……ははぁ、オレと同じ考えの奴が向こうにもいるのか。良いね。『数で来るなら数でやり返す』。時間稼ぎがてらにバリケードに到達される数を減らすには、小鳥の手も借りたいからな」
「テメ……ッ!! 舐めんなッ、こっち向けやァ!! 何よそ見してんだ、マジでブッ殺すぞテメェ!!」
「悪いね、オレはこういうスタイルなんだよ。……この世界じゃ確かに、一から何かを作るよりも奪った方が早いんだろうけどさ。オレは嫌いだぜ。アンタらのそういうやり方。だから、手段は択ばねえ。アンタらは夜明けまでオレと踊っててもらうぜ?」
「誰が付き合うかよ、テメェなんぞにッ!」
スポットライトもなければ、イカしたミュージックもない。あるのは喧騒と暗闇の中で踏みまくる『ステップ・オブ・ワルツ』だけ。
ラッカ・ラーク(ニューロダイバー・f15266)が立ち、既にバイクやバギーから降りている敵の集団と踊り続けるこの場所はそういう所だった。ラッカたちがなぜこういう状況に陥っているのかは、僅かに時間軸を戻して説明するべきだろう。
彼が先ほど選択した作戦は単純明快。ハルマと同様に、敵を数で圧倒しながら自分に引き寄せるというものだ。
ただ一点だけ、ハルマとラッカで思考形態が違うとしたら、それは『能力』と『数』っていうトレードオフのどちらの重きを置くかという点。
ハルマが60体以上のゴーレムたちを率いて敵を包囲したように、ラッカも同様に数で暴徒に対抗し、かつ、彼らの意識を自分に惹き付けようとしていた。それを可能にしているのが、彼のユーベルコード【増やせば軍団!】。
ラッカが闇の荒野に生み出すのは、小型の戦闘用に調整した鳥型バーチャルペットのコピー。総勢225体もの大群のお出ましだ。程々の強さを持つが、一撃で消滅するという性質を持つ小鳥たちは、成る程一体の能力だけならゴーレムに劣るかもしれない。
だが、時に戦略は全てのものに価値を生み出す。ラッカは数分前に大量に生み出した小鳥たちを自在に動かし、ここら一帯の敵へ幾度にもわたって奇襲を仕掛けて見せたのである。闇に紛れながら弾丸のような速度で飛び回る小鳥の群れは、もはや一種の戦術兵器。
しかも敵が喰らったのは、運転を行いながらの無防備な状態で頭部に与えられた一撃である。敵がコントロールを失って横転したことを責められるものは誰もいないだろう。更に、敵の脚をそこに釘付けにしたのは――――先ほどラッカの言い放った挑発であった。
「が――――っ、クソがァ! 何だこりゃ、猟兵の仕業か……?! 石か何かをぶつけられたみてェにいてェ……!」
「――――残念、今のは小鳥の嘴さ。なあ、アンタら『ダーティーギャング』だろ? うわさは聞いてるぜ、塔に住んでたみんなからな。『アンタらにワンパン入れたのはオレさ』。オレを無視してバリケードに向かうってのも構わないが――――その時は、オレはまたアンタらを襲う。それは嫌だろ?」
「……ハッ……。わざわざ自己紹介のつもりかよ? お行儀の良いこって、クソが……! 上等だよ、テメェから先にブッ殺す!」
「やれるモンならやってみな!」
かくして、ラッカと『ダーティーギャング』の集団は、今もこうして荒野のど真ん中でダンスパーティを開催。そして、今も尚その真っ最中という訳だ。時間軸を戻そう。彼らが暗闇の中でワルツを踊り明かそうとしているその時から。
「オラよっと!」
「チ……! ちょこまか動きやがってッ!」
複数の敵に囲まれているにも関わらず、ラッカの戦いはまるでダンスのように軽やかでであった。一人目の敵が投げつけた手錠をステップで見事に躱し、二人目の敵による鎖の殴打はスウェーで滑らかに避けていく。
そしてそのまま、鎖の殴打を行った敵の伸びきった腕を自分の方へ引っ張りながら引き倒すと、ラッカは倒した敵の背中を足蹴にして大きく空へと跳びあがった。スカイ・ダンスの構えだ。
それからの流れは正に流麗。ラッカは跳び上がった勢いはそのままに空中で横に回転すると、一人目の敵の顎を思い切り尻尾で横殴りに蹴り飛ばして敵の意識を奪っていく。かと思えば、続けざまに左足の爪で倒れゆく敵の顔を引っ掻きつつ足場にすることで再度空中に躍り上がる。翼による空中制動も実に見事な二連撃だ。
ラッカは先ほど引き倒した男が何とか起き上がろうとするのを察知すると、自分の足元付近の空中へ小鳥を三匹呼び寄せ、それを階段のようにしながら素早く高速で空を舞い上がっていく。――――そして、起き上がろうとした敵の首元へ高所からの三回転急降下を伴った踏み付けを行ってみせた。これで二人。
「さァどうした、来なよ! オレが気に入らないんだろ?! オレを止めたきゃそうしてみなって!」
「クソが……! ムカ付くんだよ、クソ猟兵がァッ!」
ラッカが敵の上に着地してみせたのを見て、三人目の敵が彼に向けて走り寄りながら右腕を振り上げる。その手の中に携えられているのは、敵の虎の子と思しきスタンガン。
だが、それを見てもラッカは動かない。『多少のケガは覚悟の上』とでも考えているのだろうか。彼は敵の動きをただ見詰め、――――そして、スタンガンが自分の体に当たる直前で、小鳥を盾のように操作することで敵の攻撃をノーモーションで防いでみせたのだ。彼の研ぎ澄まされた野生の勘があって初めてできる見切りである。
「――――容赦とかそういうのはない。お前さんらのやり方への応えだ。アンタらは、気に入らねえから奪うんだろう? 俺はそれが気に入らねえから、蹴っ飛ばしに来たんだよ。誰が何を選ぶも自由だろ。アンタらは早々に諦めたのかもしれねえが、タワーの人らは『運命』の先へ踏み出す方を選んだのさ。それじゃーな」
「……クソ……ッ! ああ……俺らの、負けかよ……」
そして生まれた一瞬の隙に、ラッカは予測動作なしでのムーンサルトキックを捻じ込んでみせた。彼の足癖の悪さが敵の顎を確かに捉え、カウンター気味に蹴りを喰らった敵は昏倒するに至る。
辺りを見渡すが、立っているのは彼以外に誰もいない。ダンスステージに残っているのは、ラッカと空で舞い続ける小鳥たちだけ。踊り切ったのもラッカだけだ。
夜明けを待たずに、ダンスステージは閉幕に至る。見事なダンスを披露してくれた彼へ、皆様どうか惜しみのない拍手を。
●目映い暁星
「……この鳥の羽音……。……あぁ、そういう……」
矢来・夕立(影・f14904)は進行方向に鳥の羽音と人の声を確認すると、僅かに方向をずらしながら更に走る。『こちらには自分が行かずとも好い』とでも思ったのだろう。
さて。彼は忍びだ。夜に忍ぶ。闇に隠れる。泥と土埃を友として、静かにバリケードの真ん中にある光――――照明器具から離れていく。彼は影であるが故に、光より遠く離れた場所で闇に紛れ、音を殺し、自らの意識すらもを潜めていた。
『彼らはゴミ溜めの虫からビビりのうさぎさんには進化した』。だから、彼はこうやって仕事を請け負ってやった。それだけのことだ。
シヴィルズタワーの人々が今も尚緩やかに滅びる運命を良しとするだけの虫であれば、夕立は彼らの話も聞いてやりさえしなかっただろう。だが、もはや彼らは『運命』に抗う意思を持った人間だ。
虫の話は理解できないが、人間の話なら理解も出来る。依頼だって受けてやる。ただそれだけのことだ。『光から離れて遊撃』? 『闇に紛れて奇襲』? 『数を減らすためのだまし討ち』? そんなことは得意分野だ。建前はここに揃ってる。オーダーは承った。あとはそいつをこなすだけ。
「おい、そろそろ見えてきたぜ! ……オイオイオイ! 俺らが一番乗りじゃねェ?!」
「ギャッハハハ! オイオイうっそだろ、他の奴らはまだバリケード破ってねえの?! それじゃ俺らが一番、の、ぃぃあぃい」
「……あ? お前、どうし――――、あ、か、ぁぁ」
静かに走り、バイクに追い付いて後部座席に音もなく立つ。永海が生み出した斬魔の一、『雷花』を用いて背後より敵の喉笛を掻き斬る。喋りの最中で殺したのは、前方を走る敵にこちらに振り向いてもらうためだ。苦無状の式紙、『式紙・黒揺』を投擲。夜を切り裂いて進むそれは、もう一人の敵の喉元で黒い百合を花開かせた。
夕立は他の猟兵たちのように作戦など持っていなかった。音も殺して、一人ずつ。確実に殺る。それだけだ。狙いは首。近ければ刀。遠ければ手裏剣。堅ければ紙垂で締め落とす。
――――静かに近付いて、適切な武器で敵を殺していく。それだけだ。打ち合いなどはしない。気付かれなければそれが一番効率が良い。
夕闇――――とはいえ、もはや夜闇に近い暗闇の中で、彼はこう思っていた。『バリケードの外なら安心してシゴトができる』と。
シヴィルズタワーの人々に、殺しを直に見られるのは避けたいのだろう。彼らからの心証が悪くなるかもしれないから。だから、彼らに殺しという手段は見せたくない。道路設立と地図作製は、あくまで彼らの手によって進められていくものだ。そこに血は一滴たりとも必要ない。道路と血に関わりがないことに出来るなら、その方が良いに決まっている。
赤黒い闇に身を浸して夕立は思う。『奪い合いの世界で起こる理不尽は、必定だ』と。『いつだって正直者が馬鹿を見る』とも。『だからって掠奪しかできないなら、生きてはいない』とも思っていた。
ああ、確かにそれは『何かを得たつもりになれる』のだろう。けれどそれは、『今後同じコトしかしないなら塔の連中と同じ』なのだ。それは、“息をしてるだけ”なのだ。
生存はそれで叶うだろう。だが、人が生きるという事は息を吸うだけで成り立つわけではないことを、夕立も自分の胸のどこかで感じていたのやもしれぬ。
馬鹿正直は損をする。しかし、損をしながら生きていく中で試行錯誤を繰り返し、暴力と死に頼らない新たな道を生み出すことができるのも、きっと馬鹿正直だけなのではないだろうか。
同じことしかしないなら、息をしてるだけと変わらない。夕立は内心でその思いを反芻し、しかして今一度『それ』に頼る。矛盾であることは分かっている。それでも、詰まらない『運命』の輪廻の先へ人の道を進ませるために、彼はその手に使い慣れた『暴力』を握りしめる。
「あァ? オイ、何か前の奴らコケてね? バイク倒れてんべ」
「マジィ?! ハッハッハ、クソださ――――ァ――――」
「――――忍法、【梔】。撃死影(うつしかげ)――――紙手裏剣術、風魔の形」
実に無防備な首であることだ。前方のバイクに跨る敵から排除したのはやはり好都合であった。なにせ、何もせずともあちらからこちらへ寄ってきてくれるのだから。
幻想発現、【梔】。自分に気づいていない敵をだまし討ちで攻撃する際、ほぼ必ず狙った部位に命中するそのチカラは、夕立にとっての得意分野。
彼は未だこちらに気が付いていない敵の喉元へ一つ、二つと紙垂状の式紙の先に結びつけた棒型手裏剣を続けて投げていく。鋭く撃たれた影は死の如くにある。
『しなり投げ』。風魔の忍びが用いる投擲の一だ。本来は紐を利用する投法の一つで、腕の延長として紐などを用いることで遠心力を高め、威力を増す投げ方である。夕立風に呼ぶのであれば『影しなり』か。命中したかどうかは確認するまでもない。バイクが横転した音が命中の証だ。
「おい、おい?! ……ッ、オイ、お前らァ! 何か、よう、すッ!? な、なンだよ……!? どうして俺のスプレー、グ、ァ、ァア」
手裏剣術でまた一人を黙らせたかと思えば、夕立は蝙蝠の式紙を足場として二度使用することで無音のまま勢いよく跳び上がる。狙いはもう一人の敵の首だ。布石のために放った平手裏剣が、敵の懐に備えてあったスプレー缶を裂いて暴発を誘い、敵を焦らせて隙を作る。
夕立はその手に握った紙垂状の式紙を手中から伸ばすと、まるで蛇の如くにそれを操って、バイクに乗った敵の首を勢い良く捕まえて見せた。夕立の走行速度とバイクのスピードを衝撃に転換した縄は、いとも容易く人間の首を折ってみせる。
しかし、まだだ。まだバリケードに向かう暴徒は絶えない。だから往く。暴力から人を守るために、その手に暴力を携えて。夕立は月の見えない夜闇を走るのであった。
●トリックスター
「……随分静かだな。ってことは夕立が上手くやってんのか。さて――――」
ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)はそう呟く。彼の表情は読めない。何も。
先ほどシヴィルズタワーの人々と共に笑いあっていた彼は、その表情を変えて夜の荒野に佇んでいた。
「――――フー……。よくある話。そう、この世界じゃよくある話なのさ。奪われないように奪う側に回る奴が溢れかえってる。本来、俺もそっち側にいるべき男さ。だが、俺は――――お前たちとは決定的に違う。そのことを今から教えてやるぜ、"弱者ども"」
虚空の闇にシステムが走っていく。荒野の黒にコマンドが展開されていく。この世界の隙間に、プログラムが迸って行くのが分かる。
ヴィクティムは電脳の申し子だ。そして彼のコードは発動される場所を選ばない。冷たい風に乗った空気の流れが、ひび割れた地面を駆ける砂粒のひとつひとつが、ヴィクティム・ウィンターミュートという男の視線そのものが――――『Arsene』にとってはプログラムを載せるための環境そのもの。
幻想起動。強奪執行。ユーベルコード【Forbidden Code『Flatline』】が、アポカリプスヘルの荒野に鎌首をもたげて蠢きだした。
それはヴィクティムの全身を際限の無い『強奪』の意志で覆い、彼が敵から受けた殺意、敵意、害意、恐怖、憎悪、攻撃、妨害に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力をもたらすコード。
ヴィクティムは待っているのだ。『ダーティーギャング』たちが、彼のすぐ近くまで来ることを。バイクの音はもうすぐそこから聞こえている。ライトの光はもう視認できている。さあ、来い。来い。来い。バリケードに行く前に、一つデカめの乱痴気騒ぎといこうじゃないか。
「チッ、出遅れちまったか……? ア? おい、アレ見ろよ」
「ンだよ、こんな夜の荒野で何が見えるってんだ? ……ハ? マジ? 正気かよ? ……あいつ一人で俺らを止めようとしてるってワケ?」
「……チッ……ムカ付くなァ、オイ。しかも徒歩だと? 舐めやがって。アイツブッ殺そうぜ、男だし。ンでバギーの飾りにすんだ」
「それじゃさっそく、――――ムカつくアイツは確殺決定ってことで――――」
「――――来いよ、三流。『奪う』ってのはどういうものか――――、俺がお前らに教えてやる。『Flatline』。───悉くを、奪い尽くせ。来いよ、諦めちまった『弱者』ども。恨め、憎め、怒りを抱け。武器を取れ、振り回せ! そして怯えろ、恐れを抱け――――その全てを奪い、俺の物にしてやる。略奪ってのは何か、お前らに教育してやるよ」
「あのクソ猟兵をブッ殺せェェェ!!」
「「「「ウオオオオオオオオオオ!!」」」」
戦闘開始。バイクとバギーの機動力を活かしてヴィクティムを包囲しようとする敵に対し、ヴィクティムは敢えて敵の狙いに乗ることにしたらしい。
彼は車両よりも素早く移動しながら敵の群れに飛び込んでいくと、四足歩行のメリットである全方向への加速を活かしたダッシュで敵を撹乱していくではないか。包囲陣すら整っていない敵の集団の中心は――――ヴィクティムにとって、都合の良い狩場でしかない。
「――――っ、オイ! あの野郎、思ってるよりも早いぞ!?」
「舐めてんじゃねえ。初動からしてクソ遅ェんだよ、スクィッシーども」
彼は『ヴォイド・チャリオット』に仕込んだクロスボウにてボルトを連続で発射していくと、前方より右側に位置する敵の集団の先頭車のタイヤを潰すことで事故を誘発。
右側の敵群に足止めを食わせつつ、大きな打撃を与えていく。これであちら側の敵は脚が死んだ。
「ッ、どこ向いてんだボケがァァァ!」
「調子に乗んな。テメェなんざ見る価値もねえッてコトだよ」
ヴィクティムが右側の敵を向いたのを隙と見て、左側から敵のバイクが突撃を行う。だが、そんな行動くらい既に『Arsene』はお見通しだ。
ノールックのままに『ヴォイド・アヴァロン』に仕込んだ静音散弾銃を一度鳴らせば、Mr.勘違いが乗ったバイクは乗り手ごと原型を留めなくなってしまった。
「気取りやがってッ! ブッ殺す! ブッ殺してやらァァ!」
「ワオ、大したビッグマウスじゃねえか。生まれ変わったら宣教師になることをお勧めするぜ」
左から鎖による奇襲。ヴィクティムはそれを強化された反射神経で見切ってやると、走り込んできた敵の足首を手酷く踏み付けてやる。そいつがバランスを崩したら喉元に生体機械ナイフを突き刺して一丁上りの早業だ。
「アアアァァァァアアアアア!!」
「不意打ちを気取るんなら叫び声は我慢するんだな、ニュービー? 殺し合いは初めてかい?」
そこに駆け寄ってくるのは、先ほど崩してやった事故車両の山から抜け出してきただろう男。彼は気付かれないようにヴィクティムの後ろまで徒歩で回り込んできていたのだろう。
実に涙ぐましい努力だ。その手には手錠が握られている。ヴィクティムの四肢を一つでも封じることが勝利に繋がると信じているらしい。
しかし、彼の努力は届かない。地面の振動と彼の足音で予め不意打ちを察知していたヴィクティムは、彼の方を向きもせずに逆手に構えた生体機械ナイフの刀身を後ろに伸ばすことで心臓を射抜く。突き刺すためのエネルギーはあちら様が走って持って来てくれた。ありがたいことじゃないか。
「ヒ、ヒィッ……!」
「こ、っこい、こいつ……バケモンかよ……!?」
「は、あは、あはは……。かなうワケ、無えよ……。かなう、ワケ……」
「――――そんなんだから、どこまでも行ってもテメェらは弱者だぜ。どこまでいっても、『強い奴に従ってるだけ』なんだからな。俺達はな、『運命』って強者から――――『本物の人生』を奪いに行く。退けよ。俺達の邪魔すんな」
ヴィクティムは、『ダーティーギャング』を文字通り圧倒してみせた。彼は敵群の悉くを奪い、喰らってみせたのだ。尊厳を、存在意義を、全てをだ。
僅かに生き残っている敵もいるが、――――『あれら』はもはや敵でも何でもない。
あそこで腰を抜かしている奴らなど、もはや『敵』でも『障害』でもない。ただの腰抜けだ。運命に反抗する意思もない木偶人形だ。
彼らはきっと、このまま荒野で風化していくのだろう。『停滞』とはそういうものだ。『諦め』とはそういうものだ。自分より強いものに押しつぶされて諦めた、進む意思を無くした人間は――――もはやどこにも行く場所などない。
それを覆したいのならば、方法は一つ。ヴィクティムがやってきたように、自分よりも『強いもの』を目標にして、立ち向かっていくしかないのだ。
――――例えば、最初は『運命』などの強者を相手にするのが良いだろう。
シヴィルズタワーの人々が、猟兵に助けられてそうしたように。
『遊撃班』、作戦成功。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オヴェリア・ゲランド
●
『防衛班』
ここに限らず全ての世界は弱肉強食、命ある者は生きている限り闘争から逃れる事は出来ない
ならば私は戦い、征す!
運命も、敵も、国も、我が生の続く限り捻じ伏せて歩む、それが私の覇道だ
私は防衛班所属の1人の指揮官としてバリケードの前に立つ
我が指揮下には拳闘大会で打ち合った者達を集めた、強者揃いだ
「我らは退かぬ!我らは負けぬ!ただ敵を屠り尽くせ!
銀の剣帝いる限り、常に我が方が優勢である!」
敵が現れたら檄を飛ばして士気を高め、覇気を纏って私が先陣を斬る
「我に続け!我が剣閃は決して仲間を傷つけぬ!」
覇気の力で敵の攻撃を逸らし、防ぎ、剣で受け流し敵味方を区別する【皇技・百華剣嵐】にて敵を薙ぎ払う。
フローラ・ソイレント
『防衛班』
・行動
バリケードのそばで様子を見ながら侵入されそうなところをフォロー
UC使用して敵を手元に引き寄せて撃退する
・セリフ
ひとつ聞きます
私たちの事業に協力して道路の整備や護衛をする気はありませんか
(そんなことをして何になる的な返答に)
自分に胸を張って生きていけます
顔を上げて未来(さき)を見据えた人間は強いですよ
今からそれを証明してあげましょう
行くぞてめぇら!こっから先はガチだ!
・戦闘演出
(ギャングが市民に殴りかかるとその鎖があらぬ方向に引き寄せられる)
どこ見ていやがる、アンタらの相手はアタシがしてやるよ!
(ぐっと引き寄せるしぐさをすると磁力鎖で敵が手繰り寄せられる)
アノルルイ・ブラエニオン
●
防衛班
「何かをしようとすれば障害は必ずあるものさ!
だが恐れることはない!
恐怖なんてあやふやで実体のないもの、皆で蹴散らしてしまえ!」
・戦闘
猟兵、戦える人々を【鼓舞】するように角笛を吹き、UCを使用する
以後はバリケード内から弓で【援護射撃】
敵の接近を防ぐ
また味方の音楽・舞踊系UCに合わせてUCを使用する
内容に合わせて楽器も変える
・勝利後
敵がオブリビオンでない場合は勧誘する
「一度諦めたら、ずっと諦めてなければいけないのか? そんなことはない!
傷つけ合い、奪い合う日々から足を洗いたい者は共に来いッ!
ここには役割がある! 受け入れる余地がある!」
鳴宮・匡
●
狙うのは相手の持つ武装
それら全てを無力化
それで戦意が奪えないなら、腕や足を狙って止める
奪い続けて生きて、何も為せないまま奪われて死ぬ
そういう風に生きて悔いがないっていうならいい
でも、一度だけ訊いておくよ
――諦めたまま死にたいか?
大半はそんなのどうでもいいってバカか
善意に付け込もうって連中だろう
そういうやつは間違いなく殺すけど
僅かな視線の動き、目や口の渇き、吐息や心音
そこに迷いがあるやつは殺さない
言葉と違って、無意識の行動や生理的反応は嘘をつかない
ああ、まあ、らしくないよな
でも、諦めなくていいって教えてやるやつが
一人くらいいたっていいだろう
……俺がそうやって救われて、今ここに生きているみたいに
キララ・キララ
★防衛班
きらちゃん、もうこわくないよ。
こわい人と戦うのは、こわいけど…でもへいき!
バリケードの外へ出るよ。
でね、きらきらした塗料で絵を描きます!
グラフィティ友達のみんなに図案をかんがえてもらったの!
《存在感》ばっちりでしょ!
きらちゃん、自分がよわそうだって知ってる。
だから目立っておとりになるの。
……《逃げ足》が早ければ戦わなくたっていいものね!
捕まったりしませーん!
顔にスプレーでラクガキしてじゃましちゃおっと。
追いかけっこで気をそらすけど、危ない場所があったらUCでそこへ飛んで戦うよ。
……だいじょうぶ!
ほかの猟兵さんも、きららも、お魚さんも、タワーの人達も、みんな強いもの!
みんなでがんばろ!
マルコ・トリガー
●
防衛班
フーン、暴徒の襲撃か。ボクらからそう簡単に奪えると思わないでね
さてと、焚きつけた手前、塔の彼らが独り立ち出来るまで付き合ってあげるよ
銃を触るのは久しぶりでしょ?
勘が戻るのに多少時間がかかるんじゃない?
【援護射撃】で銃手のサポートをしようか
薄暗い時間だけど【暗視】で視界は良好、【闇に紛れる】チャンスでもある
照明機材でバイクやバギーの運転手を目眩しできるかな
タイヤなどを【部位破壊】して敵を転がそう
向こうから乗り物を持ってきてくれるんだから全部壊さず、後で修理して使えるようにしたいね
敵は武器を持つ手を狙おうか
「諦めて」オブリビオンに従ってる人間をこちら側に寝返らせられるといいんだけどね
●車輪の如く
既に日は落ち、夕闇は夜闇に切り替わっていた。バリケードの中と、それからその少しだけ先は、照明機器が生み出す人口の光によって照らされていたが、そこから少し離れた場所に目をやると――――まるでこの世はこの光が届く範囲しか残っていないかのように思えた。
真っ暗だった。世界は既に終わったと言いたげな、真っ黒いペンキだけで塗りつぶされた景色がそこにあった。視線を少し下にずらすと、急造のバリケードの合間からひび割れた大地が見えた。そこで思い返したのだ。
大地はどこまでも続いているのだと。この世は終わっていないのだと。例えこの先が闇に覆われて、道が無いように見えたとしても。例えこの先の闇から悪意が形を成して現れ出でようとも。
進もうとさえ思えば、私たちはどこまででも行けるのだ。あともう少し耐えるだけだ。夜が明けたら道作りを再開し、ジップラインを繋げ、地図を作ろう。進もうじゃないか。車輪の如く、転がるように、前へ。
●最も諦めから遠い場所で
バリケードの東側で、猟兵たちは戦っていた。いや、猟兵たちだけではない。『防衛班』に加わったシヴィルズタワーの人々も、必死に戦いを続けていた。
――――しかし、猟兵はともかくとして――――彼らの限界は、もはやすぐそこまで近付いていた。当然だ。自分の命をチップ代わりに用いた生きるか死ぬかの戦闘行為など、おおよそ全ての行いの中で最も人間の精神をすり減らすものである。
だが。だが、それでもまだ人々は倒れない。諦めない。
銃手は振り絞った気力を燃やしながら、銃のサイト越しにバリケードの外に広がる闇を霞んだ目で見つめ続けている。それでも絶対に気は失わない。自分の警戒が少しでも緩めば、そこからバリケードが瓦解すると盲信しているようだ。
既にバリケード付近で幾度かの迎撃を行った様子の格闘家は、もはや意地だけを杖にして立っている。至る所に傷を負っているのに、それでも構えを維持したまま闇を睨んでいる。
伝令や通信手などの顔色はもはや蒼白を通り越し、土気色にさえ見える。猟兵たちに一秒でも早く他の場所の連絡事項を伝えられるように気を張り続けているのだ、無理もない。
僅かな経験者を寄せ集めて作った医療班や給仕班も朝から働き通しだ。それなのに、泣き言一つ言わず懸命に働いている。戦闘に参加できない悔しさを、自分の職務を果たすことで晴らしているようにさえ見える。
そして、皆が猟兵を見ていた。諦めそうになった時に、期待と尊敬、信頼と熱意を讃えた瞳で、彼らを見るのだ。人々は猟兵たちを心の支えにしているのだ。猟兵たちの力になりたいと思っているのだ。
オヴェリア・ゲランド(銀の剣帝・f25174)。
フローラ・ソイレント(デッドマンズナース・f24473)。
マルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)。
鳴宮・匡(凪の海・f01612)。
キララ・キララ(ワールド・エクスプレス・f14752)。
アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)。
六名の猟兵は、今も東側のバリケードを死守するべくその力を行使していた。
オヴェリアとフローラはバリケードのほど近くにて構え、その身体自体を人々を守る壁としている。
マルコと匡はバリケードの中で銃を構え、シヴィルズタワーの人々と共に今も外の警戒を行っている。
キララとアノルルイは上記全ての猟兵のサポートに回っている形だ。中と外の両面から、防衛に当たっている全員を上手く支援している。
――――シヴィルズタワーの人々は諦めていない。彼らにとって、希望の灯火とは『猟兵』のことだ。彼らがいるから、人々は恐れず前に進める。バリケードの西側も東側も、人々の思いは変わらない。
――――だから、猟兵たちも諦めていない。否、人々が諦めていない以上、彼らが諦めるはずもなかった。
●東側・最前線
東防衛線の最前線には、『銀の剣帝』の呼び名を持つ覇王がいた。その人物は小国の姫に生まれながら己が武にて覇を唱え、周辺諸国を征服し大国『ゲランド帝国』を築いたという。
彼女の名前はオヴェリア。それがシヴィルズタワー、バリケード東防衛班の前線指揮官としてバリケードの前に立つ者の名だ。彼女の構える覇剣シグルドリーヴァーの輝きは、暗闇に切っ先を向けるその時を今か今かと待っているようで。まるでその先から現れる敵対者たちへ、明確な意思を示しているかのようだった。
オヴェリアの指揮下には、彼女が拳闘大会で打ち合った者が集まっている。より正確に言うならば、オヴェリアが『防衛班』に加わり、前線でシヴィルズタワーの人々の陣頭指揮を執ることを決めた時から、人々の方が彼女の元に集ってきたというべきだろう。
そこにはオヴェリアの拳闘相手にいの一番で名乗り出た、娘のために戦う男の姿もある。その他に集った人物たちもまた強者揃いだ。キララの説得で心を動かされた人物の一部も、腕っぷしの強さを買われてこちらに参加している。
――――そして、その時が来た。闇の奥底から、敵対者たちが徒党を組んで現れたのである。
「退けよバカどもォ! 殺されたくないんなら、黙って俺たちに全部差し出しなァ!」
「逆らう奴には痛い目見てもらうぜ? ……これが最後通告だァ! おとなしく全部差し出すか! それとも、俺たちに逆らって痛い目見るか!」
「さっさと決めやがれ、オラァ! 俺らのバイクがガマンしてるうちによォ!」
彼らは一様に、バイクやバギーに跨ったまま、拡声器を用いてこちらに声を投げかけてきている様子。彼らとて、楽に略奪が出来るならそれに越したことは無い――――ということだろうか。
対して、オヴェリアはその言葉に応えない。敵の言葉に応えたのは、彼女の隣に立つフローラであった。
「……では、その言葉に応える前に。こちらから先に、ひとつだけ聞きます。暴徒に身を窶しておいでの皆様、――――今からでも遅くありません。私たちの事業に協力して道路の整備や護衛をする気はありませんか? これが最後通告です」
「おいおいおいおい……。質問に質問で返すなよォ、萎えるぜクソボケがァ……質問するのはこっちなんだよ、俺らより弱いくせして吠えんな雑魚がァ!」
「大体そんなことして何になんだ?! アァ!? お前らが必死に道路作ったとこでよォ、誰かにぶっ壊されてしまいだろうが!」
「――――交渉決裂ですね。最後に、あなたの質問に答えてあげましょう。……少なくとも、自分に胸を張って生きていけますよ。それから、訂正が一つだけ。顔を上げて未来(さき)を見据えた人間は強いですよ。少なくとも、『諦め』という病に身を冒されたあなた達よりもね。今からそれを証明してあげましょう」
「フハハハハハ! 良い口上だ、フローラ! ここに限らず全ての世界は弱肉強食、命ある者は生きている限り闘争から逃れる事は出来ない……。ならば私は戦い、征す! 運命も、敵も、国も、我が生の続く限り捻じ伏せて歩む、それが私の覇道だ! 皆、既に連戦の疲れもあるだろう! 無理強いはせぬ! 続けるものだけ――――私たちに続けッ! そうすれば、明日の朝陽を拝ませてやるッ!」
「フ……。オヴェリア殿とフローラ殿にそうまで言われてしまっては、私たちもまだ倒れる訳に行くまい! みな、やるぞ! この戦いは私たちの戦いだッ! 塔に残してきた人々を思えッ! 決して困難に膝を屈するな! ――――勝つぞッ! 進むぞッッ!!」
「我らは退かぬ! 我らは負けぬ! ただ敵を屠り尽くせ! ――――このオヴェリアが! 銀の剣帝がいる限り、常に我が方が優勢であるッッ!!」
「――――行くぞてめぇら! こっから先はガチだッ!」
「「「ウオオオオオオオオオ!!」」」
そして、戦闘が始まった。『ダーティーギャング』たちは車両のエンジンを吹かして一気に速度を上げ、各々がバリケードに向かって突っ込んでくる。
対して立ち塞がるのはオヴェリアとフローラ。そして、彼女たちが率いるシヴィルズタワーの『防衛班』。人と人との生存闘争の火蓋は、すでに切って落とされた。
「我に続け! 我が剣閃は決して仲間を傷つけぬ!」
「応ッッ!」
「ゲランド帝国を統べる剣帝の一撃、――――今こそその身で受けてみよッ!」
「ハ、――――ァァ、!? な、んで……あそこから剣が届くんだよォ!?」
最前線にて檄を飛ばし皆の士気を高めながら、覇気を纏って先陣を斬るのはオヴェリアだ。彼女が用いる力の名は、【皇技・百華剣嵐】という。必殺の斬撃を幾重にも重ねて無数の衝撃波を放ち、指定した全ての対象を攻撃するその力は、決して味方を傷付けることなく悪意のみを斬り裂く幻想の剣技である。
オヴェリアが一度、二度とその剣を大きく薙いでいけば、敵が駆る車両の群れはものの見事に両断され、乗り手たちは空中で所在を失っていく。これで敵陣から機動力はほぼ失われた。後は泥臭い接近戦を挑むばかりだ。
「生ぬるいッ! お前たちの実力はそんなものかッ!」
「オイどうした……!? コイツを殺すんだよッ! そうすりゃ、あのボケたちも頭冷えておとなしくなるだろうがァ!」
「ンなこと言ったってよ……! くそ……! コイツ、強ェ……ッ!」
破壊された車両から抜け出してきた『ダーティーギャング』たちは、先程の檄を見るにオヴェリアが『防衛班』に属しているシヴィルズタワーの人々の指揮官であることを察知する。
そして、彼女を先に倒せば、人々の士気はガタ落ちするだろう――――という予想から、最初の狙いを彼女に定めたらしい。敵の作戦は概ね正しいと言える。ただ一つ失敗があるとすれば、それは――――オヴェリアの戦闘能力の高さを見誤ったことだ。
「クソ、クソ――――ッ! ヒ、ィ――――」
「――――遅いッ!」
その手に握った鉄パイプで正面からオヴェリアに挑んでいく『ダーティーギャング』は、哀れにも獲物を振り被った瞬間に彼我の戦闘力の違いを認識する羽目になった。
敵が右手に構える鉄パイプをオヴェリアの頭部目がけて振り下ろそうとしたその瞬間、敵は臆したのだ。オヴェリアの放つ覇気が、敵の手元を自然と狂わせた。そうなれば自然と腰は引け、肘は縮こまり、その攻撃は非常に弱弱しいものになる。
オヴェリアは敵の恐れを察すると、即座に踏み込んで二度の剣閃を敵に披露してみせた。一つは、ゆっくりと振り下ろされる鉄パイプを両断するための右斜めからの切り上げ。そしてもう一つは、返す刀で放つ敵胴体への逆袈裟である。胴を切り裂かれた敵が、二つ目の剣閃をその目で見れたかどうかは定かではない。
「馬鹿野郎、それなら数で取り囲むんだよ! それが俺たちの戦法だろうがァ!」
「ギャハハハハ!! 後ろががら空きなんだよ、ボケがァッ!」
「さっさと死ねッ、クソ猟兵ッ!!」
圧倒的な力を見せつける彼女に対して、次に敵が放つ一手は――――数による包囲であった。
鉄パイプや鎖を握りしめた敵が、二度の剣閃を放ったオヴェリアの隙に乗じて三方向から同時に襲い掛かる。しかし、彼女の表情は何も恐れていないようであった。まるで、何かを信じているかのように。
「狙いは褒めてやる。だが――――私は一人で戦っているわけではないぞ?」
「――――オヴェリア殿、失礼する!」
「――――だいじょうぶだよ、オヴェリア! いま、きらちゃんが助けにきたから!」
「――――どこ見ていやがる、アンタらの相手はアタシがしてやるよ!」
後ろから放たれた鉄パイプを止めたのは、オヴェリアの指揮下に入った格闘家だ。彼は敵の振り下ろしに素早いステップで割り込むと、相手の手首を受け止めることで上手く攻撃を留めて見せた。
右側からの攻撃を止めたのはキララである。彼女はオヴェリアの危機を遠くから察すると、UC【アクアリウム・ビッグバンド】を用いることで、戦闘能力を持つ観賞魚のグラフィティアートと共にオヴェリアの元へテレポートしてみせたのである。
敵の鉄パイプの振り下ろしは、空中を泳ぐ魚のグラフィティに軌道に割り込んでもらうことで止め、そしてキララは隙の出来た敵の顔にアートスプレーを噴射し、敵を大きく怯ませていく。
そして左側からの敵の攻撃である鎖のぶん回しを止めるのは、フローラだ。彼女は敵の攻撃に割り込むと同時に、UC【磁極流:陰陽縛鎖】を使用していく。その力は、磁気を帯びた攻撃が命中した対象を爆破し、更に互いを両極が引き合う磁力の鎖で繋ぐ幻想のチカラ。
フローラが敵の攻撃を直に受けとめた時点で、既に彼女と敵の間には磁力の鎖が生じている。そうなれば、強烈な磁気を放つフローラの磁力鎖に敵の攻撃が引き寄せられていくのは当然だ。鉄パイプや鎖の区別なく、フローラの鎖は敵の装備を一気に引き寄せ、何人かを無力化すると同時に隙を作っていく。
つまり、これはピンチではない。大きなチャンスだ。猟兵が、そして人々が互いを守り、そして攻めることで、敵の拙攻は次々に瓦解していく。
「コイツがアタシたちの力だ! 人の連携を甘く見るなよ、テメェらッ!」
「く、くそ……ッ! ちくしょう、がァ……ッ」
そしてそのまま、フローラは自分の構える武器を引っ張られることでバランスを崩した三人の敵に対し、連続で体術を見舞っていく。
最も近い敵には握りこんだ拳によるボディブローを鳩尾に喰らわせ、倒れ伏す敵には目もくれずに次の敵の顎へハイキックを繰り出して昏倒させる。そうしている間に最後の敵が体勢を立て直そうとするが、フローラはその前に素早いステップで敵の懐に入ったかと思うと、そのまま敵の開いた脇下に虎拳を繰り出し、これで三人撃破。
「皆、助かる! さぁ、このまま行くぞ! 敵を後悔させてやれッ!」
「フォローはアタシに任せな! 怪我をしたらすぐに下がんだよッ!」
「あぶなかったらきらちゃんを呼んでね! どこにでも行くよ! みんなを助けるために!」
オヴェリアがその身に宿す覇気で敵を怯ませると同時に切り込み、そしてフローラがそこに続く。敵が振るう攻撃はフローラの磁気の前に逸らされ、そこを狙うのはキララだ。
彼女が敵の隙を付いてスプレー缶で更に大きく敵を怯ませれば、そこにフローラの繰り出す格闘術が敵の急所に突き刺さる。敵の顎、鳩尾、脇の下、股下、心臓、鼻、耳、目。敵の全てが人体を知り尽くすフローラにとっては弱点であり、彼女の拳と蹴りが一つ放たれるたびに敵は嗚咽と共に荒野に沈んでいく。
しかして個別で集まればフローラにやられることを察知した敵がひと固まりになれば、キララの呼びだしたグラフィティの魚が敵の周囲で牽制と突撃を繰り返すことで注意を惹き、そこにオヴェリアの薙ぎ払いという範囲攻撃が突き刺さる。纏まればオヴェリアの剣でやられ、離れればフローラの格闘でやられる。
ならばと一点集中で戦術の核になる猟兵を倒そうと試みても、オヴェリアの放つ覇気とフローラの放つ磁気が敵の連携を阻んでいく。そうして足が止まれば、そこをキララの機敏な動きによるスプレー缶による妨害と魚たちの攪乱が待っている。
彼女たちを無視してバリケードを越えようとすれば、そこに立ち塞がるのはシヴィルズタワーの人々だ。覚悟が決まった格闘家やチンピラ達を倒すには、恐らく一手では足りないだろう。しかし、バリケードを突破するために二手目を繰り出そうとすれば、その前にやってくるのは猟兵たちの援護。
しかし、それでも。――――どうせこのままではじり貧だ。最後の博打を賭けるなら、猟兵よりも常人を相手にした方が楽ではないか? それに、見たところ相手も相当に弱っているし――――と、『ダーティーギャング』が焦り始めた頃。戦場に聞こえてくるのは、荒野に不釣り合いな音楽であった。バリケードの内側から聞こえてくる。
「――――皆、そろそろ疲れてきたころか!? いいや、まだまだいけるだろう! 何かをしようとすれば、障害は必ずあるものさ! だが、恐れることはない! 恐怖なんてあやふやで実体のないもの、皆で蹴散らしてしまえ! 私と、私の音楽が付いているぞッ! ここが踏ん張りどころだッ! この戦いは誰のための戦いか、今一度その胸に思いだせッ!」
「この音は……ありがたいッ! 不思議と身体の疲れが取れて……闘志が、湧いてくるようだ! アノルルイ殿、感謝を! みな、しゃんと立てッ! 娘の! 家族の! そして何より自分のために、立って戦えェッ!」
「ハッハッハ! 音楽に感謝はいらないさ! 存分に聞いてくれればそれで良い! ――――だって私は吟遊詩人なのだから!」
その音楽を奏でているのはアノルルイであった。ユーベルコード、【サウンド・オブ・パワー】。これは奇跡ではない。これは幻想ではない。純然たる音楽だ。アノルルイが奏で、信奉する力である。
歌声を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する彼の力は、猟兵、戦える人々を鼓舞するような響きを持って戦場全域に響いていく。東側だけではない。西側にも、そして遊撃に回った猟兵たちにも、彼の音楽は届いているはずだ。
アノルルイの調べは戦意昂揚のための音楽や歌であるが、彼はただどこまでも熱くてまっすぐな音楽を角笛に乗せて奏でているだけ。彼の音楽に共感し、自分の中に眠る力を再度奮い立たせているのは、紛れもなく人々の行いによるもの。
――――ああ、そのはずなのに。どうして、アノルルイの奏でる音楽はこうまで人の心を揺さぶるのか! ここにいる猟兵と人々の全てが、アノルルイの音楽によってその力を増していく。これが音楽だ。これが音だ。これが彼の戦い方だ。シヴィルズタワーの人々が求めて止まなかった全てが、危険と隣り合わせにここにある。あとは、その危険を排除するだけだ。
「きらちゃんねえ、アノルルイの音楽すきだよ! もっとやって! 楽しいやつがいいな! きらちゃんが遠くにいても、聞こえるようにね!」
「実際、音楽はストレス低減のために医療現場でも使用される場合もありますからね。私からも一曲リクエスト良いですか? この危機を乗り越えられるようなのを、是非」
「それでは、私からは勇壮な曲を頼む! ここにいる皆がさらに意気軒昂となるような曲だ!」
「では、塔を代表して私からも! 塔で聞いたことの無いような、真新しい音楽をお願い致します!」
「――――ああ、もちろん! 全てのリクエストに応えよう、私にはその準備がある! 楽器もある! 何でも引いてみせようじゃないか! だって私は、吟遊詩人なのだから!」
オヴェリアが攻め、フローラがそれをフォローし、キララが敵の隙を作って、そしてアノルルイが最前線に立つ全ての人員に音楽による鼓舞を送る。
稀に生じる危機に対しても、シヴィルズタワーの人々の人たちが何とか持ちこたえることで時間を作り、そこに猟兵たちが駆けこんで障害を追い払う。東側の最前線は、実に上手く機能しながら敵の猛攻を阻んでいたといって良いだろう。彼らの別々の活躍はまるで車輪の如くに噛み合って、そして一つの方向にエネルギーを伝えていた。即ち、『勝利』と『前進』に向けて。
●東側・後方
「伝令! 伝令ッ! 前線部隊、未だ死傷者、重傷者共に0! 軽傷者の数は多すぎて数えられません!」
「フーン、前線部隊も上手くやってるみたい、か。……まあ、塔に引きこもっていたキミたちを焚きつけた手前――――、キミらが独り立ち出来るまで、ボクも付き合ってあげるよ。最後までね。銃を触るのは久しぶりでしょ? それとも、そろそろ勘も戻ってきたころかな。どちらにせよ、防衛戦が辛いのはここからだ。でも――――暴徒の襲撃、か。ボクらからそう簡単に奪えると思わないでね。匡、キララ。そっちの準備は?」
「俺はいつでも。……辛いのはここから、か。……。で? どうするんだ、キララは。お前が言ってた作戦をやるなら、多分今しかないぜ。今は少しだけ落ち着いてるが、これ以上人数が増えたら前線もキツくなってくる。だから、こっちが大きく打って出るなら今しかない。こちら側が優勢な今しかないんだ。本当にやるって言うなら、止めはしないぜ」
「うん! ありがとね、匡。きららのこと、心配してくれたんでしょ? でもね、だいじょうぶ! きらちゃん、もうこわくないよ。こわい人と戦うのは、こわいけど……でもへいき! きららね、もう一回バリケードの外へ出るよ。だいじょうぶ。きらちゃんたちは、勝てるよ。だから、匡とマルコの力を、きらちゃんに貸してください!」
「――――まあ、ボクは良いけどね。元々、援護射撃で銃手のサポートをしようと思ってたし? ほら、防衛班の銃を持ってるみんなもさ、勘が戻るのに多少時間がかかるんじゃないかと思って。……だから、良いよ。ボクは、キララの立てた作戦に乗る」
「――――そうか。分かった。キララがそう決めたんだろ? なら、後はそれをどうやるかだな。俺もキララの作戦に乗る。っていうか、ダメだって言ってもやるだろ、お前。……ちゃんと勝算はあるんだろうな?」
「……だいじょうぶ! うん、勝てるよ! だって、ほかの猟兵さんも、匡も、マルコも、きららも、お魚さんも、タワーの人達も、みんな強いもの! みんなでがんばろ! きららたちは、――――みんなで勝つんだよ! 作戦はね、ごにょごにょ……」
東側バリケード防衛班の前線部隊が上手く防衛戦を続けている間に、それまでは前線部隊の援護兼周囲の警戒に当たっていた後方部隊で――――文字通り、とある一つの作戦が走り出そうとしていた。
既にキララはバリケードの内側にテレポートで戻ってきている。そして、この作戦はキララの持ち込みでもあった。この作戦の核は、『キララが前線の人員が足りていない場所で走り回り、敵の注意を惹き付ける』というもの。
端的に言えば、『キララを囮にする』作戦だ。彼女には味方の位置に瞬間移動できる力がある。危険だ。しかし、合理的でもある。既に互いの陣営で疲労が目立つ時間に差し掛かっていた。今はアノルルイの奏でてくれている音楽で皆持ち直し、敵を押し返してはいる。
だが、往々にして――――そのような状況で怖いのは、『揺り戻し』だ。深く敵の懐へ攻めいれば攻め入るほど、あるいは物事が上手くいけばいくほど、破滅の足音は思わぬところにまで迫っているもの。勝負で大事なのは流れだ。こちらが優勢である時程、敵が流れを掴み直すチャンスを与えてはならない。
だからこそ、今の勢いを活かして勝負を決めたいのだ。そして、そのためには策が必要なのである。今は抑えめになっている敵の攻勢を引きずり出して、そして叶うならば敵の壊滅まで状況を一気に進め、勝敗を決するための策が。
――――だからこそ、今回の作戦で囮に適しているのがキララだ。彼女は猟兵であり、そして子供だ。体格も小さく、非力でもある。『敵にとっては格好の的』なのだ。彼女を捕まえるか殺すかすれば、シヴィルズタワーの人々の士気を下げ、勢いを取り戻すことが叶うのだから。
しかし、キララはやる気だ。危険性も知った上で、止まらない気だ。彼女の本気が分かったからこそ、匡もマルコも強く止めはしなかった。どちらにせよ、状況は『やるかやられるか』でしかない。ならば、その主導権はこちらで握ってやろうじゃないか。やってやろうぜ。先の見えない防衛戦の醍醐味はここだ。今こそ流れを決めて勝利する時だ。
「チッ……! クソ猟兵どもが、調子に乗りやがって……! ここは一旦引いて、体勢を……。あ……? なんだ? 地面が、キラキラ光って……」
「――――ほらほら! 鬼さんこちら、手のなる方へっ!」
「っ……!? なんだ……!? オイ、てめぇら! ガキが何か地面に描いてやがるぞォッ!」
「あ――――あいつ、さっき前線で見たガキだ! 猟兵だぜ、アイツも!」
「……ヘッ、そりゃ良い、チャンスじゃねェか! アイツを捕まえて人質にでもすりゃ、アイツらに取引を迫れる……! ――――テメェら、あのガキを捕まえろやァ!! 車が生きてる奴は優先してあのガキを狙えェェェェ! 殺すなよッ! 生かして捕まえろッ!」
「きた……! ……でも、だいじょうぶ! きらちゃん、自分がよわそうだって知ってるもの! だからいっぱいがんばっていっぱい逃げるよ! 捕まったりしませーん!」
キララはまずオヴェリアやフローラがいた場所へユーベルコードを用いてテレポートすると、そのまま単身で彼女たちから離れ、敵陣深くへと一人きりで走り込んでいく。囮となるには、敵を誘い込む必要があるからだ。味方と共に同じ場所を走る訳にはいかない。
そこに付随して、キララは真っ暗闇の中でも良く目立つ、きらきらした光る塗料で地面に絵を描いていた。株式会社キマイラ画材の一つ、カラースプレーシリーズ『虹色』によるそれで描くのは、キララがグラフィティ友達のみんなと一緒になって図案を走らせたもの。
右上に向けてのアローヘッドと、左下に向けてのアローヘッド。二つの方向を指し示す矢印の先端は道だ。そして、双方向を指し示す道の中心に車輪のマーク。それが彼らの考えたグラフィティ、『シヴィルズの車輪』。
描いている最中なので全貌はまだまだ見えてこないが、光る塗料を使用して地面にグラフィティアートを描くキララの存在感は充分過ぎるほどにあった。一時撤退を選び、体勢を立て直そうとしていた『ダーティーギャング』のリーダーと思しき男でさえ、今やキララの背中を追って暗闇の荒野を走っている。車やバイクが生きているものは、例外なくそれに跨って、だ。
囮としては十分すぎる程の活躍といえる。であれば、後は射撃手の腕の見せ所だ。
「――――やってやる……! 俺だって、元『奪還者』だ……!」
「……大丈夫。その時が来たら、落ち着いてゆっくり引き金を絞れば良い。まだだよ……。照明機材の操作役が動いてからだ。ボクは向かって奥のバギーを狙うから、爺さんは手前のバイクを狙って。……――――今だ!」
「ッ!」
「――――ッ!?!? な、ンだよ!? 眩し――――ギャァッ!」
「……さすが。その道30年のベテランなだけあるね。さ、まだまだ来るよ。ボクもキララの援護射撃に入るけど、後は一人で大丈夫?」
「ハッ……! 俺はプレッシャーに強い男なんだよ、現役の時からな! 俺と、俺の『相棒』をナメんなよ、マルコ! お前よりも多く当ててやらァ!」
「フーン、言ったね? その勝負、銃のヤドリガミとしては負けられないな」
「マルコー! 銃のおっちゃーん! ありがとー!」
キララのすぐ後ろまで車両が迫ったその時、彼女を救ったのはマルコと彼が説得してみせた元『奪還者』の放った援護射撃であった。照明機材の操作役も、そこに一役買っている。
彼らはまず照明機材の明かりを一度落とし、その上でキララに迫る車両に向けて一気に点灯。闇の中にあっては強烈な光をいきなり敵に浴びせることで隙を作り、車両の進行方向を直線に絞ってみせた。
そして、マルコと、彼の行動によって自身を取り戻した銃手の放った二発の弾丸が、キララを包囲しようとした車両のタイヤを二台とも奇麗に撃ち抜き、敵の機動力を奪ってやったのである。
マルコは暗視で、そして元『奪還者』は長年の勘で元々狙いは付けられていたし、そこに光の目眩しまで奇麗に入ったとなれば――――。二人の銃手が狙いを外すことなどありえない。例えそれが短銃による遠距離スナイピングであろうとも、だ。銃は使い手の技量に応えてくれる『相棒』なのだから。
「向こうから乗り物を持ってきてくれるんだから全部壊さず、後で修理して使えるようにしたいね。さて……見たところ、もう車両もなさそうだ。ボクも敵が武器を持つ手を狙おうか。匡は?」
「それなら、キララの後方を頼む。俺がその他全域をカバーする」
「了解。早撃ちなら自信もあるし、それが適材適所かな」
「ああ、助かる」
「ハァ、ハァ、……! みんなー! きらちゃんはまだ走れるよッ! だから、無理しないで良いからねえッ!」
「……一番無理してるやつが何言ってんだ……ったく」
走って、描いて、跳んで。また走って、描いて、走って、走って。キララはその体力が続く限り走り、そして地面にグラフィティを描くつもりであるようだった。
テレポートは緊急時以外に使えない。それを使えば、今引き寄せている敵がまた散らばってしまうから。マルコや匡が一気に敵の戦力を削いでくれている今だからこそ、キララは休む気は全くなかった。
自分が走れば走るだけ敵を惹き付けることが可能であり、それを続けている間は敵の構える武器を銃手たちが減らしてくれる――――そう信じているからこそ、キララは迷いなく走るのだ。
「クソ――――ッ! 追い付いたぞ、ガキィ!」
「悪いね、そこだ」
「ッ?!」
暗闇の中で数にあかせ、無理やりにキララに近付く敵はマルコの銃弾がそれを阻む。
【クイックドロウ】。彼の放つ熱線の一撃は、目にも止まらぬ速度で闇を駆け、敵の構える手錠や鎖などのキララの動きを止めるための装備の悉くを破壊していくではないか。敵からすれば、まるで狐に化かされた思いだろう。
「なんでだ――――ッ! なんで、追い付けねえ……! ギャ、アアアァァッ!?」
「――――見えた」
「う、わァァッ!? なんで、俺のスプレー缶が――――!?」
そして、キララの背後や左右、進行方向の奥で彼女に追いすがろうとして走る敵の群れに対しては、匡が一気にそれらを排除していく。キララから比較的離れた敵の全てが、匡にとっての的なのだ。
『BR-646C [Resonance]』。匡の装備であるアサルトライフルを彼は驚異的な射撃精度によるタッピングで用いることで、マガジンチェンジの手間を極力排しながら敵の装備を寸分の狂いもなく撃ち抜いていく。
それを可能にしているのが、【六識の針】。匡のそれは奇跡でも幻想でもない。事実の帰結であり、人間の用いる感覚利用であり、ただの力だ。自らが有する感覚機能を限界以上に特化させた状態にその身を変異させることで、その特性を活かした様々な行動が可能となる、異能と呼ぶべきチカラ。
匡は自らの視覚と聴覚を最大限にまで引き上げ、かつ嗅覚と味覚を『切る』ことでその効果をさらに引き上げていた。故に――――。
遠く離れた暗闇を走る『ダーティーギャング』の腰元にぶら下げたスプレー缶を撃ち抜いて暴発させて敵の足を止めるのも、敵の持つ手錠のちょうど中間部のみを撃ち抜いて破壊するのも、鉄パイプの全く同じ個所に連続で銃弾を撃ち込むことで中心から鉄パイプを折ることも、敵がキララに向かって遠くから高速で投げつけた鎖を、偏差射撃で撃ち落とすことだって――――匡にとっては、造作もないことなのだ。
「ク、ソ、が……!! 舐めやがって、殺さねえつもりかよ……!! ふざけんなよクソがァァ!! アアアアアアァァァ!!」
「走らせないぜ」
「グ、ウァアァァァッ?!」
しかし、自分の構える武器が壊されたとしても敵意を喪わない人物というものはいるものだ。だから、匡はそういう人物の腕や足を狙って彼らの歩みを止めていく。出来るかぎり、キララから出来るだけ離れた暗闇の中で。
マルコがキララに近付く敵の装備やまだ生きている車両を高速で撃ち抜き、そして匡が戦場全域を強化された感覚でカバーしていく。
緊急時ないし近距離の敵は、熱線による早撃ちで。戦場に広く散らばった敵は、鉛玉による精密射撃で。二人の猟兵は、東側の戦場から敵の武器を――――言い換えれば、悪意を――――駆逐せしめんとしてその腕を動かし続ける。『防衛班』に属する元『奪還者』の人々も、彼らの狙いを言外に受け取っているからこそそれに倣う。
――――だが。危機は、思ってもみない所から訪れた。
「……はっ、……はっ……ぜ、……はっ……!」
キララの体力が、そろそろ限界に近付き始めていた。戦場中の大人相手に子供が逃げようと思えば、全力疾走になるのは必然。それを既に十数分休憩なしで行っているのだから、そうもなろう。
――――それでも、人は諦めない。猟兵たちの熱意が伝わったからこそ、シヴィルズタワーの人々だって全力で彼らに味方するのだ。
「――――ハッ、ハッ……! おい、キララッ! 間に合って良かったぜ、俺の肩に乗れッ! 急げ!」
「え……っ、グラフィティのお兄さん?! ――――ッ、どうしてきちゃったの?! こんなあぶない囮なんて、キララだけでいいのにッ!」
「――――ッ、馬鹿野郎ッッ!! お前が言ったんだろうが! 俺らはもうキララの、猟兵の仲間なんだぜ!? 俺の脚はキララの脚だ! 俺の肺はキララの肺だ! お前が走りたいってんなら、息が続かなくなるまで、足が千切れるまで俺が代わりに走ってやらァ! 指示してくれ! 俺はお前の言う通り走るぜ! これでもなァ……キララ程じゃないが、逃げ足には自信があるんだよッ!」
「お兄さん……! っ、分かった! お兄さんのあし、借りるね! もう少しでグラフィティも描き終わるから!」
スタミナが切れ始めたキララに駆け寄るのは、シヴィルズタワーでキララの説得を受けた男であった。彼女のグラフィティ仲間でもある彼は、キララの危機を察して彼女の窮地へと駆けこんできてくれたのである。
しかし、キララを肩車しようとする男を狙って敵も動く。一人だけだが、その手には複数の武器がまだ残っていた。
「馬鹿が――――、そんな好き勝手させるかよッ! テメェはただの人間だろうが! イキんなボケが、ァ…………ッ?!」
「フ――――。そんなただの人間の好き勝手をさせるのが、私だ! ――――だって私は、吟遊詩人なのだから!」
「……フン。良い所取られちゃったな。でもま、そういうことで。キミたちは通さないよ」
「言ったろ。走らせない、ってな。――――防衛完了」
そして、敵が構える装備を撃ち抜いていくのはアノルルイ、マルコ、匡の三人の猟兵。彼らが目を光らせている限り、キララを害しようとする敵はその狙いを果たせない。
アノルルイの放つ矢が敵の鎖を砕き、マルコの放つ熱線が敵のスプレー缶を暴発させていく。そして、匡が放った鉛玉は敵近くの地面にあった拳ほどの石を敵の側頭部目がけて弾き飛ばし、敵の意識を奪ってみせた。
気付けば、既にキララの周りに敵はおらず。また、前線においても動ける敵はいなかった。それは即ち、――――猟兵たちの、人々の勝利を示していた。
歓喜に震える彼らの頭上には星が瞬き、そして――――彼らの行く手には、キララたちが残した、『シヴィルズの車輪』のグラフィティが輝いていた。彼らの――――君たちの、勝ちだ。
●前進
――――西と東の防衛と、遊撃の全てを含めた戦闘が終了して。
バリケードの中は、猟兵たちとシヴィルズタワーの人々、――――そして、『ダーティーギャング』の生き残りが集まっていた。
敵――――というのも、既におかしいか。彼らは既に猟兵たちに対して降伏を宣言し、その手足を縛られている。数は決して多くない。数えられないような大群の中から、僅かに約15名ほど――――といったくらいか。
選択肢は二つだ。彼らを仲間として迎え入れるか。もしくは――――彼らを殺すか。その口火を切ったのは、匡であった。
「――――奪い続けて生きて、何も為せないまま奪われて死ぬ。そういう風に生きて悔いがないっていうならいい。でも、一度だけ訊いておくよ。――――諦めたまま死にたいか?」
「……っ…………!!」
最初の彼らの答えは、『沈黙』であった。黙っていては相手に何も伝えられないことを承知の上での、重くるしい沈黙。何が正解か、彼ら自身にも分かっていないのだろう。
そんな沈黙を破り、匡が投げた問いにおずおずと口を開くのは、『ダーティーギャング』のリーダーと思しき男であった。
「……っ、そんなもん、誰だってイヤに決まってるだろうが……!! でもな……ッ! 俺には、……! 俺たちには、分かんねえよ……ッ! 俺らはただ死にたくねえだけだッ! こうして野盗になったのも! お前らに降伏したのも! 死にたくないからなんだってッ! ……クソっ……! お前らの言ってることは『理想』だ……! 道路を繋いで地図を作るなんて、この世界で出来っこねえ……っ! 俺らみたいな弱い奴は、諦めて強い奴に従えば良いんだ! そういう『運命』なんだよッ!」
「……」
『嘘ではない』。彼の言葉を聞いた匡は、そう確信していく。分かっていたのだ。自分の問いに対すて答える奴の大半は、そんなのどうでもいいってバカか、善意に付け込もうって連中だろうということが。
そして、匡はそういうやつは間違いなく殺すつもりでいた。【六識の針】を使用した彼は、僅かな視線の動き、目や口の渇き、吐息や心音から、その真実を見分けることができるのだ。
――――そして、今口を開いた男には『迷い』があった。その他の『ダーティーギャング』たちも一様にそうだ。言葉と違って、無意識の行動や生理的反応は嘘をつかない。だから、匡は――――彼らを殺さず、生かすことに決めたのだ。
「……理想、ねえ。理想を出来ないことの代名詞のように使うのはやめなよ。――――要はさ、『諦めて』仕方なくオブリビオンに従ってるだけなんでしょ? だったらさ、そのオブリビオンをボクたちが倒せば――――遠慮なく、こっちに寝返れるよね」
「一度諦めたら、ずっと諦めてなければいけないのか? そんなことはない! 御託は要らないさ! 傷つけ合い、奪い合う日々から足を洗いたい者は共に来いッ! ここには役割がある! 受け入れる余地がある! 私に、キミたちを歓迎する曲を奏でさせてくれ!」
「なあ。いつから、『運命』って言葉は――――お前が勝手に語る言葉の補強材料になったんだ? 俺にはそんな流れ、この世のどこにも『見えない』けどな」
「――――でもよォ! ――――俺たちは、アイツら……あの人達に、今まで何度も略奪を……ッ! そんな俺らが、今更どんな面下げてッ……!!」
マルコと匡、アノルルイの三人が、それぞれの言葉を紡いでいく。彼らは最初からこのつもりでこの戦場に立っていたのだろう。
改心の目がある『ダーティーギャング』たちだけでも味方に引き入れ、スカウトしようとしていたからこそ、彼らは先ほどまで敵だった彼らにここまでの言葉を投げかけられるのだ。
こんなことを言うなんて『らしくないよな』と匡は思う。しかし、それと同時に『でも』とも思っていた。『諦めなくていいって教えてやるやつが、これくらいくらいいたっていいだろう』とも。匡がそうやって救われて、今ここに生きているみたいに、だ。
『諦めないこと』を知っているからこそ、匡は『ダーティーギャング』たちを説得する気になったのだろう。まったく奇妙な気分であった。しかし、嫌な気分ではなかった。それが――――何よりも奇妙で、どことなく可笑しかった。
三人の猟兵が『ダーティーギャング』たちに声を掛ける様子を見て、シヴィルズタワーの人々も彼らを許し始めた。気付いたのだ。
世界に絶望し野盗となって、オブリビオンに従っていた彼らと、塔の中でただ備蓄を食い荒らし、生きる活力もないまま滅びを待っていた自分たちの本質は――――ともに、『諦め』であるのだと。そして、もしもそうなら――――彼らも、またもう一度前へ歩き出せるはずだ、ということに。
「……俺たちは、アンタらのことを笑えないさ。ただ、ほんの少しだけ……気付くのが早かっただけだ。来いよ。アンタらが味方になってくれるなら心強いぜ!」
「私たちも、自分で気付いて立ち上がれた訳ではない。猟兵の皆のお陰で、私たちはここまで来れている。今、こうして前に進めているのだ。……あなた方も、そうなれるはずでは? それを気付かせてもらったのだろう? 私たちと同じく、猟兵に。では、何のことは無い。私たちは仲間じゃないか」
「――――ッ、っ……ッ……!! すま、すまねェ……。 すまねェ……! 俺たちが諦めてたばっかりに、、アンタらに……! アンタ、アンタらに……! っ……! 決めたよ……!! 俺たちも一緒に行く……っ! 行かせてくれッ! アンタたちと同じ道を――――前に進みてえッ!! 頼むッ!!」
――――そして、ここにまた一つの『車輪』が加わった。
決め手になったのは、きっとすべての猟兵の行動だ。
皆がここまで本気で熱意を込めて人々に接していたからこそ、人々にも猟兵たちの熱が伝播したのだ。もはやここに、前進する意思を持たない『人間』は誰もいない。
回る車輪が増えれば増える程、そのエネルギーは重なって大きなものになっていく。道路設立。地図作製。人々の思いは正に一つとなり、それに向かって前進あるのみ。
対『ダーティーギャング』防衛戦、ここに――――無事終了だ。実にお見事。
大成功
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第3章 ボス戦
『ジャックレイヴン』
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POW : トキシックフェザー
【両翼】から【血液で汚れた無数の羽根】を放ち、【血液に含まれる神経毒】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : オールモストデッド
【腐食、腐敗を促進させる毒ガス】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : デッドレイヴン
自身が【敵意】を感じると、レベル×1体の【屍鴉】が召喚される。屍鴉は敵意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠鈴・月華」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●腐れた声の明け烏
時は動き、人々が道路設営と地図の作成を再開してから。『ダーティーギャング』たちの襲撃が終わって、バリケードを解除し、多くの人々の怪我の状態を確認しつつ治療を行いながら――――ここでいう人々には、元『ダーティーギャング』だった彼らも入っている――――、それでも、シヴィルズタワーの人々は道路設営と地図の作成、ジップラインの設置などを止めはせず。それらの工事は、人員の交代と適切な休憩を十分に行いながら――――、夜を徹して行われ続けた。
結果から言えば、『ダーティーギャング』たちの襲撃で人々が受けた被害は奇跡的に少なかったといって良いだろう。特に死傷者が出なかったという点と、敵の乗ってきた車両を多く手に入れることが出来たというのが大きい。流石に両断された車などは修理も不可能だが、それでも相当数のバギーやバイクを修理することができた。
――――そして、大きな戦果はもう一つあった。元『ダーティーギャング』である人物たちからの情報によって、彼らの親玉であるオブリビオン、『ジャックレイヴン』が根城にしている場所の詳細を掴むことができたのだ。その根城は、人々が襲撃された場所から真っ直ぐ東の方向に進んだ、荒野の真ん中にある廃村。つまり、道路設営における進行方向に存在するということが分かったのである。
つまり、塔から最も近い『人の痕跡』に向かって進み、道路設営を完遂するためには、オブリビオンの根城が『最後の障害』として立ち塞がっている――――ということになる。
猟兵の誰かが人々に問う。進むか否かを、だ。当然、ここで引き返すという手もある。進めば道路をこの世界に初めて敷くことが可能になるが、その分危険も高くなるからだ。オブリビオンと主に戦うのは猟兵であっても、人々もそこまで近付く以上、危険なことには変わらない。
――――だが、既に人々の意見は一つであった。『危険が待ち構えていようとも、前に進みたい』。『設営班』である作業員や力自慢たちも、『防衛班』である格闘家やチンピラたち、そして元『奪還者』や元『ダーティーギャング』だった人々も。ここまできた彼らの思いは、一つであった。
だからこそ、人々は明かりの見えない夜の間も、人口の光と文明機器を頼りにして止まらず前に進み続けた。
疲れを取るために車両の中で仮眠を取ったものもいるだろう。周囲への警戒を怠らずにいたものもいるだろう。あるいは、道路設営と地図の作成、簡単な炊事の手伝いや人々の治療を行っていたものもいるかもしれない。
猟兵を含めた彼らの夜はそうして過ぎ、そして気付けば日の出が近かった。その時だ。にわかに明るくなって見通しが良くなってきた荒野の向こうに、オブリビオンの根城である廃村が見えてきたのは。
「……見えてきた。あそこだよ。あそこが、俺たちの根城にしてた所だ」
「この先からは、俺たちが先導する。それくらいのことはさせてくれ。……俺たちならよ、少しくらいは体も丈夫だしな」
「猟兵さんたちよォ……。気を付けてくれ。カシラは――――あのオブリビオンは頭が切れる。それに、性格もすげえ悪ィ。……多分、アンタらの気分を下げてくるようなことを言ってくるはずだ。……気に入らねえ奴は言葉でいたぶってやる気を削いでから、じわじわ殺すのが好みのやり方なんだよ……」
元『ダーティーギャング』の先導を受け、猟兵たちは廃村に移動を開始していく。彼らの中には、『防衛班』から選び抜かれた人々の姿もちらほらと見えた。また、腕に自信のある希望者は除いて、塔の皆には廃村の外で一時待機してくれている。戦えない人々が足を踏み入れるには危険過ぎるからだ。
そして彼らが廃村に辿り着き、村の中心部である大きな広場へと足を踏み入れたその時である。全くの無音のままに、大きな影が彼らの背後から奇襲をかけてきた。
放たれたのは【トキシックフェザー】。両翼から血液で汚れた無数の羽根を放ち、血液に含まれる神経毒により対象の動きを一時的に封じる敵の攻撃だ。
「――――お前ら、あぶねェッ! グ、ァ……!!」
「待ってたぜ……! 俺らがこういう時に恩返ししねェで、どうすんだッ!!」
しかし、敵の攻撃は一枚たりとて無防備な人々に当たる事はなかった。
無意識で不意打ちを警戒していたのだろう元『ダーティーギャング』の面々が、奇襲で放たれた敵の放つ大量の羽を鎖や鉄パイプで弾き、――――そして、足りない部分は彼らがその身を壁にすることで、敵の攻撃を無理やり止めてみせたのだ。
彼らの行動が、敵の奇襲から人々と猟兵を助けたのである。だが、敵の放った羽に染み込んだ神経毒は、元『ダーティーギャング』の身体をじわじわと蝕んでいく。今はまだ立って動くことも可能だろうが、早急な手当てが必要だ。
「ク、クカカカ……! 愚か、愚か、実に愚かだ……。私を裏切って、あろうことかそちらに付くとはなァ……? 『この世界に道路を敷く』? クク、ククカカカ……!! 愚かだ、実に愚かだァ! 裏切ったお前たちも、猟兵にそそのかされている塔の面々も、実に愚か極まるわァ!」
そして、敵がその身を現した。
『ジャックレイヴン』。腐食と腐敗、死と毒を司る大鴉。高い知性と俊敏な機動力を持つこの敵は、広場の中心で構える猟兵たちに向かって翼を広げながら言葉を紡ぐ。
「よく来てくれたなァ、猟兵諸君。噂は既に聞いているぞォ、見ていたぞォ? 君たちは――――『道路設営』だの『地図作製』だの、無駄なことを人にやらせるのが好きらしいなァ? ク、ク、クカカカ――――! 偽善が過ぎて笑えてくるなァ! 『作っても壊される道に何の意味がある』? 『今は良いだろうが、キミたちがいなくなった後のことを考えているのかァ』? 『人々を扇動して、先に繋がらない一時の満足を得た気分はどうだい』? クカ、ククカカカ――――! 無駄なンだよ! 無駄だ! 君たちが満足してこの世界から帰った後、残された人々が道路を維持するなんて面倒なこと、本当にすると思ってるのかァ?!」
「テ――――テメェ……!」
「猟兵さんたちと塔の人らを――――悪く言うんじゃねェ……ッ!!」
元『ダーティーギャング』たちの言葉には耳を貸さず、醜悪な敵はなおも続ける。どこにでも行ける翼を広げている癖、自分こそが正しいのだと言いたげな尊大な態度で、だ。
「君たちのやってることはねェ、そこらの野良猫に気まぐれで餌をあげるような偽善なんだよォ! 今だって、どォーせ塔から無理やりに人を連れてきて、何となくの工事をやらせているんだろォ!? 『人々が心から道路を作ろう、維持してみせよう』とでも思い続けない限り――――君たちの思いは完全に無駄! 自信を持って言えるのかァ?! シヴィルズタワーの人々は、自分たちが居なくなっても開拓を続けていくだろうってねェ!」
●Now is the time.
つまり――――、敵の言っていることはこういうことだ。
『塔の人々が、猟兵たちが作戦を終えて帰還した後も道路を維持するとは思えない。そして、そんな無駄な行動を人々に強要させている猟兵たちの行動は無意味だ』、と。
成程、確かに敵はすでにこちらの道路設営の動きをどこかから察知していたのだろう。敵の言葉は、だからこそ吐けるそれだ。
だが。だが、だが。敵は何も見ちゃいない。何も聞いちゃいないのだ。『見たような気になっている』だけ。『聞いたような気になっている』だけだ。
敵の言葉は、勝手にこっちの行動を遠くからなんとなくのぞき込んで、そして『恐らくこうだろうな』で決めつけているだけの言葉だ。
奴は『ダーティーギャングたちとの戦闘で、猟兵たちが何をやったのかを』見ていないのだ。『塔の中で猟兵たちが人々に何を語ったのか』を聞いていないのだ。そうじゃなかったら、あんな思い上がって一方的な言葉は吐けないはずだ。
塔に済む人々が何を思って立ち上がったのか。生き残った『ダーティーギャング』たちが、猟兵と人々に何を見たのか。猟兵がもたらした灯火の輝きの何たるかを、敵は何となくの決めつけで『知ったような気でいやがる』。
行動で思い知らせてやれ。言葉で言い返してやれ。思いを代弁してやれ。アイツを黙らせてやれ。猟兵の行動は、人々の行動は、何一つとして無意味ではないことを、あの性根が腐りきった鴉野郎にとことん証明してやれ。
世界の運命に対する反逆の意思を見せてみろ。車輪の如くに回転し、前進し続けるエネルギーを見せてみろ。人々の胸に根付いた、希望の灯火の片鱗を見せてみろ。
往け、猟兵。
滅びを覆し、過去を穿ち、前へと進む未来の申し子たちよ。
今こそ、過去から伸びる古い鎖を粉々に破壊してやる時だ。
――――戦闘、開始。
◆◆◆
◆設営、および人員状況
現在、道路設営は一時中断しています。腕利きや僅かな希望者を除いて、シヴィルズタワーの人々は廃村から離れた位置で待機。
『ダーティーギャング』たちから奪った車両などを用いて、地図作製のために周囲の情報を集めてくれている模様。
現在の時刻は朝方です。
◆現在の戦況
敵は『ジャックレイヴン』。現地の暴徒たちを率いていた親玉です。
既にこちらの動きを察知して待ち構えていた様子ですが、その実、猟兵たちや人々が何を行ってきたのかという詳細については知らない様子。塔の中で行われた人々への説得内容や、バリケード防衛戦での詳細などは確実に知らないといって良いでしょう。元『ダーティーギャング』の面々からは、頭が切れる点や性格の悪さを指摘されています。
また、『敵の士気を下げてじわじわとなぶり殺しにする』のを好む性質にあるため、『敵の主張に対する明確な反論』などを行うことができれば、敵の動揺を誘うことができるかもしれません。
猟兵たちの他に廃村の広場にまで入ってきているのは、『防衛班』の中でも腕利きの人物たちのみ。
元『ダーティーギャング』の面々もいますが、彼らの殆どは既に敵の毒を受けた関係上、大きく体を動かすような戦闘参加は厳しいでしょう。ですが、簡単な頼みであれば彼らも動いてくれるはずです。
◆猟兵の役割
『ジャックレイヴン』の撃破です。
熱意と工夫、技と力を全て駆使して当たりましょう。
ご武運を。全ての障害を乗り越え、勝利を目指してください。
◆戦場
住民のいない廃村です。村の中心には大きな広場が広がっていて、その正面には村長の邸宅と思しき大きな3階建ての建物があります。村で最も高い箇所は、恐らくその家の屋根上でしょう。
非常に雑多で入り組んだ村の構造をしています。広場から少しでも離れた場所は、曲がりくねった裏道や急な階段、無理やりに建てられた歪な2階建ての家などで構成されています。
広場には特に目立つようなものは置いてありませんが、シヴィルズタワーの人々はここに固まっているようです。彼らの援護を受けたければ、広場で戦うのが良いでしょう。敵の主な狙いは猟兵であるため、彼らの防衛はせずとも良いと思われます。
敵は空を自在に飛べるため、どこに勝機を見出すかという点が重要になります。どこに追い立て、もしくはどこに誘き寄せるかを意識すると良いかもしれません。
※プレイング募集は、02/12(水)の08:31~からとします※
ラッカ・ラーク
●
よお、腐れカラス野郎!喚いてないで踊ろうぜ!
『空中戦』ならコッチのモンだ。思いっきり『挑発』して小鳥達と一緒にお仲間が戦いやすい位置に『おびき寄せ』。攻撃は『野生の勘』で迎撃と『見切り』。
なァーに知ったような口叩いてやがんだ。アンタ目玉も腐ってんの?見てもわかんなかったのか?
タワーの人らもギャングの兄ちゃん達も、ありゃやる気もねえコト「やらされてる」って顔か?
よく見てみろよ。アイツらは自分の足で歩き出した。ちゃんと生きてんだ。
また立ち止まりたくなったって、きっと思い出してくれるさ。
隙ができたらお仲間のトコまで『踏みつけ』て叩き落としてやろっかな!
『だまし討ち』だ、タダの囮だとでも思ったか?
矢来・夕立
御託は結構。ですが一点。
誰が何を見てたって?
地図の下地ならもう出来てんですよ。
斥候担当ナメないでください。
「描きたい」って“意志のある人”に、このオレが基本を教えてやった。
これがあれば塔からここまでの道程を、完璧に辿れます。
既に成果が出てるんですよ。
証拠はこちらの紙片――では、ありません。
幸守。禍喰。お仕事ですよ。
あのクソ鴉を仕留めろ。
思考力があるのも考え物ですね。
言葉を知るから《だまし討ち》に引っ掛かる。
……ああ、地図?ウソですよ。
読めたもんじゃない。
アレを使って塔からココまで来られたら奇跡ですね。
まあ、…次の街までには多少マシになってるんじゃないですか?
ヘタの横好きでも、続けていくなら。
キララ・キララ
…ばか!いじわる!だいっきらい!わらわないでよ!
はじまる前から「むり」って言うほうがおかしいでしょ!
お兄さんたちはグラフィティを続けるよ。
心にあるものはなくならないもの。
道を作りたいって、先へ進みたいってきもちだっておんなじ。
なくなったりしない。
一回わすれものしちゃったあとは、もう落とさないの。
ぜったいに!
きららがスプレーで描いたものはね、本物みたいにうごくのね。
鳥ならとぶよ。水ならながれていく。
だからこれから描くものは、遠く高くまでとどくはず!
みんなじぶんが来たいからここまで来たの!
これからまだまだずーっと遠くまで行くの!
【レインボー・ディスコ】!
――この車輪と、いっしょに!
オヴェリア・ゲランド
●
「フン、ペラペラとよく囀る鳥だ…たかが烏風情が『国興し』を語るとは、笑止!」
王として民を背にする私は一歩も退かない、繰り出される羽を覇気の力【念動力・オーラ防御】で逸らし、防ぎ、覇剣の【薙ぎ払い】で叩き落し【武器受け】しながら、真っ向から反論だ。
「人は死ぬ、どれだけどう生きようとも!ゆえに、だからこそ、我らは証を刻む!生きた証を!
それはやがて後に続く人々を導く道となり、導かれた人々はやがて城を築く!
そして国が興る、今ではない未来、自分ではない誰かが建てる石碑!そこには確かに今を生きる我々の名が!血潮が!刻まれているだろう!」
繰り出すは距離すら超える【次元斬】、この一撃で鳥を地に貶す、墜とす!
エダ・サルファー
●
はっ!何も理解してないみたいだな!
私達は確かにきっかけになったのかも知れない。
でも彼らが立ち上がり、ここまで来たのは彼らの足と意志だ!
彼らは道の先に未来を見出したんだ!
彼らが開拓を続けていくと自信を持って言えるのかって?
当ったり前だろ!
未来を見据えた人々を、過去ごときが遮れると思うなよ!!
さて、飛び回る相手を迎え撃つなら、やっぱり入り組んだ場所かな?
射線が通ってなきゃ、カラスも近付かざるを得ないだろうし。
ちょうど歪な2階建ての家ってのがあるみたいだし、なんとかそっちへ誘き寄せたいね。
上手く建物近くに誘き寄せられたら聖拳突きでカラスの方へ建物を崩す!
動きが鈍ったら顔面にも聖拳突きをぶち込むよ!
神羅・アマミ
貴様らにとっては復興されると困るんじゃよな!略奪ができぬ世の中は生きにくいよの~!
だから「無理だ」「すぐに壊れる」と嘯く!
妾は三度の飯より煽りと邪魔が好きじゃからよ~…貴様の思い通りにならぬ平和って奴を何としても築きたくなってきたぜ~!
まずは索敵時、UC『特機』にてソードビットの一本を坑道のカナリアよろしく先行。
腐食を感知したらば風車状に束ねたビットの旋風にて毒ガスを押し返す!
数の暴力で囲い込みをかけるならやはり広場へ追い込むべきか。
空へ逃げられぬようビットは常に相手の上を取る立ち回りを意識し、ちくちくとつつくように牽制をかける!
意識を散漫にさせれば他の猟兵が討ち取るチャンスも生まれよう。
月凪・ハルマ
元ギャングの人達に頼みがある
少しの間、敵の意識を俺から逸らして欲しい
やり方は任せるけど、無理はしないで
◆SPD
まずは【迷彩】【忍び足】、周囲の遮蔽物等々、
利用できるものは全て利用して相手の意識から外れる
(【目立たない】)
相手の動きを観察(【情報収集】)して癖を【見切り】、
翼を狙って【潜刃・禍ッ牙】を放つ(【投擲】)
腐食ガスも飛ばれるのも、どっちも面倒だ
両方とも、封じさせてもらうよ
以降は仲間と連携しつつ、手裏剣と旋棍の打撃
(【早業】【2回攻撃】)で攻め、隙をみて天墜を叩き込む
敵の攻撃は【見切り】【残像】で回避
ただ奪う事しかしない輩に、人の在り方まで決められる謂れはない
……ここらで墜ちろ、腐れ鴉
アノルルイ・ブラエニオン
●
皆!奴が頼りにするものこそ、実体のない恐怖という奴だ!
だが根拠に乏しい盲言にすぎん
どうせあやふやな言葉を聞くなら私の物語を聞け!楽しいぞ!
これより語るは
死期に至って自ら火の中に飛び込み
その中より蘇る霊鳥の物語
その名はフェニックス!
(UCを使い、フェニックスを実体化させる)
その翼はわれらの道!
その輝きはわれらの絆!
その不死性はわれらの意志!
未知の場所に繋がり、絆を結び、次なる世代に受け継がせる!
これがわれらの魂の形だ
フェニックスはあのような薄汚い烏などに負けはしない
さあ!我らの行く手を阻む者を蹴散らして!先へ進もう!
(フェニックスは空中戦を挑みます
戦闘能力はMSの裁量で!)
フローラ・ソイレント
・行動
体の神経節に点穴用の鍼を打ち込んで置き
敵UCの中をまっすぐ突き進む
神経毒で麻痺した体は鍼に直接電流を流し込むことで
筋肉を動かしてコントロールすることで無視
敵が怯んだ隙にUCを叩き込む
(循環器系へのダメージはデッドマンの特性で平気、
心臓とか止まってるし)
・UC演出
(真の姿風に見た目が変化)
全身にみなぎる電磁覇気を一気に爆発させて飛び上がり
両手で敵の翼を掴んでから頭部に膝蹴りを叩き込む
「磁極流、帝釈天(ヴァジュラ)応用の参、三鈷虎王!」
・セリフ
……アンタはいずれ腹が減るんだから
喰っても無駄だって飯を食わないでいられるのか?
希望(ユメ)を求める人間の想いは
誰にも止めることなんてできねえんだよ!
ネグル・ギュネス
負け犬の戯言など、聴くに値せず
無駄は在らず、愚かに非ず
貴様は恐れているのだ
が変わったら、本当にやり遂げてしまったら、前を向いてしまったら
自分の安泰とした怠惰な世界が無くなるのがな
だがもう遅い
彼らは変わり、苦難と課題に頭を悩ませながらも、歩み始めた
──悪く言うな、か…フフ、本当に、変わった
案ずるな、私が守──いや、一緒に、ぶっ倒すぞ!これが最後の壁だ!
【強襲具現:冬寂の采配】起動、皆を、人々を含め強化!
武器があるなら焦らず撃て!投石でも良い!
ダメージは薄くとも阻害にはなる
階段、家を足場に三次元跳躍しながら敵に近づき、抜刀
黒刀、封印を解く
震えよ雷、咲けよ桜!
皆の門出を、貴様の血桜で彩ってやる!
リア・ファル
●
WIZ
過去から這い出て諦め悪く、
他人に「ムダだ諦めろ」などと宣う鳥頭
明日への理不尽を退けるのが、ボク役目だ
「シヴィルズタワーに住む人々の明日の為に……キミを倒す!」
静かに村長宅の屋根の上に降りたつ
(迷彩)
チャンスまで敵の動きを演算解析
(情報収集、時間稼ぎ、学習力)
追い込まれれば上空に逃げる時があるはず
ソコを狙う
「ヌァザ、次元干渉最大出力、虚数空間にアクセス!」
『ヌァザ』がボクの背後に次元回廊を開く
(戦闘知識、限界突破、全力魔法)
見えるのは我が艦の主砲だ
「この空は既にキミの支配圏に非ず!」
『セブンカラーズ』を構え、UC【未来を拓く光芒一閃】を撃つ!
(制圧射撃、一斉発射、範囲攻撃)
ジン・エラー
ヒィ~~~~ヒヒャハバハハハ!!!
愚かはどっちだよクソ烏!!コイツらがなァ~~ンでここまで来たかわっかンねェ~のかァ~~~!!??
あァ見た目通り脳ミソも烏並みかァ~~~哀れだなァ~~~~?
【光】をくれてやるよ。随分マシになるだろ?
しっかりその目に刻みな野郎共
オレらの次はお前らだ。
あァそう焦ンなよクソ烏。今構ってやるから【天意無法】
敵?まさか。
クソ烏はクソだが"敵"じゃァねェ
オレの救う対象だ。【独立赴輝】
蒼い空はそりゃァいいモンだろうが
埃と泥に塗れた大地も悪くはねェンだぜ
ティオレンシア・シーディア
●
まぁ実際、一度何もかも諦めてたわけだし。もう一度そうならない、なんて保証はないわねぇ。
…けれど。一度立ち上がってきたんだもの。もう一度同じことが起こらない…なんて言いきれないでしょぉ?前例ができちゃったんだもの。
…人間舐めんじゃないわよ、化物(フリークス)?
広場を舞台に●轢殺で機動戦かけるわぁ。
毒の羽はラグ(浄化)とエオロー(結界)で○毒耐性の○オーラ防御を展開して防御。〇目潰し・拘束・〇マヒ攻撃、攪乱メインに引っ掻き回すわよぉ。
あら、あたしにばかりかまってていいのぉ?…足元がお留守よぉ?
…順風満帆に何事もなく進んできた奴よりも。いっぺんヘシ折れて、腐った泥沼で溺れた奴のほうが怖いのよぉ?
マルコ・トリガー
●
フーン、それ、本当に「見てた」?
爺さんと相棒の話は?
「諦め」てた君の元手下は何て言ってた?
しかし、よく喋るね。よっぽど自分に自信が無いのかな
ボクは基本サポートの方が向いてるから、他の猟兵が上手く動けるように立ち回りたいね
塔の人からの援護は受けておきたいかな
彼らの今後の自信にも繋がるだろうから
だから広場からあまり離れないようにしたいな
広場周辺の建物は足場に使おう
なるべく太陽に背を向けて、敵の周りを【竜飛鳳舞】で跳びながら【おびき寄せ】たり、【フェイント】を織り交ぜながら攻撃と移動を繰り返す
敵が高く飛ぼうとしたら銃で牽制攻撃
一度前に進むと決めた人って結構強いと思うよ
無意味かどうか試してみるかい?
白峰・歌音
お前は大きな勘違いをしてるぜ……気まぐれでここに来たんじゃない。この世界を絶望から解放する、希望を運ぶ、そのために来た開拓者だって事をな!
「無くした記憶が叫んでる!希望を軽んじる哄笑に希望の灯火の輝きを見せつけろと!」
建物に飛び込んだり入り組んだ道を駆けまわって羽攻撃を躱し、氷結の【属性攻撃】を撃ちこむヒット&アウェイ。でもこれは怒りか侮りで思考を鈍らせる撒き餌。同時に羽を拾って刺さったように見せかけ、羽を抜いて投げ捨て、神経毒が回ってると思わせる。
これで直線的な道で、痺れて動けなくなった「ふり」で倒れ込み油断を誘う。なぶり殺しにしようと近づいて来た所で、UCの連撃コンボで吹っ飛ばしてやるぜ!
ヴィクティム・ウィンターミュート
●
敢えて言ってやろうか
つっっっまんねえな、お前
そうさ、言うとおりだよ
こいつらが、この先も道路を維持してくれる保障なんてない
保障なんて無いが、俺は期待してるんだ
命を消費する"だけ"の人生から、脱却したこいつらなら
"運命"から人生を奪い返しに行く、こいつらなら
期待してもいいと思った。だから保障はいらない
舐めてんじゃねーぞ、過去から何も進めないクソガラス
さぁ、始めようか野郎ども!
倒れてる奴も、傷ついた奴も、そうでない奴も
立ち上がれ!We are──『Truth Adept』
俺は指揮に専念する!『全員』戦え!
運命にブン投げるのは終わりだ
車輪はお前らの手の中にある!
回せ、廻せ!これからを切り開く車輪を!
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
●
…お前、無駄って言ったな?
皆の想いを、苦労を、決意を、無駄っていったな?
『血統覚醒』を発動
地面に氷を広げ、滑走し急接近
羽の攻撃は、避けれるものはバク転やジャンプで回避
避けきれないときは【範囲攻撃】の氷【属性攻撃】で凍らせる
好きなものは、好きなことはあるか?
ないだろう?それはお前が見下して全部無駄と切り捨ててるからだ
やりもしないのにあれは無駄、これは無駄と悪態ついてお山の大将を気取ってる
だから、今のお前は《空っぽ》だ
空っぽのお前の言葉は誰にも響かない
強化した脚力で高く【ジャンプ】して
敵が飛んだ瞬間の隙をついてスノードームを突き刺し
そこから冷気を直接注入してやる
だからお前こそが《無駄》なんだッ!
●嘲る鴉を引きずり落とせ
既に日は出で、廃村の全てを分け隔てなく照らしていた。
陽の光に合わせて空から戦況を見てみれば、現在の状況は――――猟兵が不利である、と言わざるを得ない。
何せ敵は手にした制空権を存分に活かし、上空から神経毒が染み込んだ羽のバラ撒きとガスの散布による猟兵への牽制を行い続けるだけで、『計らずとも』シヴィルズタワーの人々や『ダーティーギャング』たちへ多大な被害をもたらすことが可能だったからである。
「……っ!? ゲ……、ゲホッ! ガハッ! ど、毒ガスだっ……! あの野郎、クソ汚ェ真似を……!」
「っ、全員今すぐ口に当て布をしろ! もし新しく羽を喰らっちまったヤツは円陣の中心に来いッ! 今は凌ぐ時だッ! まだ元気な奴は外側で……! 攻撃を、受けてくれ!」
「ああ、分かってる! 諦めるなッ! 今すぐ動いて目立てば俺たちが格好の的になっちまう! 裏道への移動は猟兵さんたちの合図を待つんだッ! 勝つぞ! 俺たちは必ず勝つッ! 誰も死なせない! 誰もだ! 全員でこいつに勝つんだ!」
「クカカカッ、クカカカカカカカァ! 弱い弱い弱いなァ! 所詮君たち愚か者の覚悟だなんてモノは、私がこうして簡単に壊せるくらいの代物に過ぎないということがァ、これで分かっていただけたかァ? そうして広場の真ん中で固まっているだけではァ、ただ全滅を待つのみではないのかァ? それでは、そろそろ次に――――」
「――――待たせちまったな、皆! よお、腐れカラス野郎! 狙うんならこっちを狙ってきな、こっちはとっくの昔に準備運動も終わってんだ! とびっきりのアンサー喰らわしてやっから、ビビってないならこっちに来てみろよ! 喚いてないで踊ろうぜ!!」
「カッハッハッハァ! クカカッ! ようやく来たなァ、猟兵ッ! 私に勝つ算段は整ったのかァ!?」
猟兵たちへの牽制という名目で人々を苦しめている『ジャックレイヴン』の後ろから颯爽と現れたのは、ラッカ・ラーク(ニューロダイバー・f15266)。
彼は敵に対して挑発を行いながら、ユーベルコード【増やせば軍団!】で呼びだした、大量の戦闘用鳥型バーチャルペットコピーである小鳥たちを足場にして空中に――――『ジャックレイヴン』よりも上に踊り出てみせる。今回はヒバリの翼も当然フル活用だ。
ラッカは戦闘が始まってからすぐに動くと、唯一の三階建ての建造物である広場前の村長の元邸宅に登って機を窺っていたのだ。廃村で最も高い位置から敵の頭を狙って飛ぶことができる、この瞬間を。
敵の意識の外側から隙をついて、攻撃を繰り出すこの一瞬を、だ。ラッカは敵の上空から小鳥たちを大量に召喚、敵に向かって放ちながら自身も空中戦を挑むべく接近していく。――――だが。
「甘い甘い甘いぞォ! クク、カカカカッ! 空中戦をこの私に挑むとはなァ! この空は私のものなんだよォ! 【デッドレイヴン】ッ!」
「うおっ、ぐ……!!」
しかし、『ジャックレイヴン』はラッカの不意打ちを既に読んでいた。敵が人々の命を奪わず、時間をかけながら彼らを嬲っていたのは――――こうして、猟兵をおびき寄せるための策略でもあったのだ。
腐れ鴉は高らかに嗤いながら空中でラッカに向き直ったかと思うと、反撃のユーベルコードを繰り出していく。【デッドレイヴン】。それは、屍鴉を大量に呼び寄せることで、『ジャックレイヴン』が敵意を感じた対象を追跡し、攻撃する力。
その攻撃の前では、ラッカの繰り出した小鳥たちも、敵の攻撃に当たるや否や掻き消えていく。そして、ラッカは『ジャックレイヴン』の放った屍鴉による突進を、その身で受けてしまう。
敵の狙いはラッカの肚だ。屍鴉たちはラッカの臓物を食い荒らそうとして彼の腹部、トラベルパーカーのポケット部へと飛んでいき――――。まるでナイフのように突き刺さっていく。人々の目に、『ラッカが落ちていく姿』が映る。
「そ、そんな――――! 猟兵さんまで……!?」
「……動くぞ、皆……ッ!」
「クカカカカァァァ! どこへ往くと言うのかァ! 今更逃がすわけが無いだろォが、君たちをォ! 猟兵を誘き出すためにも、君たちにはこのまま生かさず殺さずでいてもらう!」
「く、……! くそォ……!」
『ジャックレイヴン』がラッカを突破した光景を見て、人々は俄かに焦り出していく。そして、彼らは村の広場から裏道へと走って動きだすことを選択したらしい。
だが、それをみすみす許す敵ではない。空を飛びまわりながら人々の行先に先んじて現れると、そのままユーベルコード【トキシックフェザー】を放って、裏道に入った人々を攻撃していく。
「――――いいや、逃がすんだ!! オレが、白峰・歌音(彷徨う渡り鳥のカノン・f23843)の名の下に! 皆、行け! 裏道の奥に入り込むんだ! あそこの入り組んだ道なら、コイツも入ってこられない!」
「カカカカッ! まんまと出てきてくれたなァ、猟兵ッ! 次はお前の臓物を喰らってやろう!」
人々を狙った羽の攻撃を氷結の属性攻撃弾を撃ちこむことで相殺し、人々を更に裏道の奥へと逃がすのは歌音である。
彼女はそのまま狭い裏道の中を駆け回って『ジャックレイヴン』を翻弄すると、連続で敵の放つ羽の攻撃を上手く躱していくではないか。時に壁を駆けあがり、時に地面の凹凸に身を滑らせ、歌音は人々を逃がす時間を作るために奮闘していく。
もちろん、合間合間に氷弾を敵の翼へと放つことも忘れてはいない。歌音のヒット&アウェイ戦法は、『ジャックレイヴン』を水際で押し留めている――――ように見えた。
「グガッ、カカァ?! おのれ、猟兵――――!」
「よし、怯んだなッ! 喰らえ、ここでもう一発――――!」
「――――かかったなァ! だから、それが甘いと言っているのが分からないのかァ!? クカカカカカカァァァ!」
二戦目の状況を大きく動かしたのは、またしても『ジャックレイヴン』であった。敵は歌音の氷弾をわざとその翼に受け、怯んだ振りをすることで歌音の追撃を誘いこみ、その隙をついて【トキシックフェザー】を発動。
両の翼からの無数の羽根を放つことで歌音の攻撃を弾き飛ばし、さらに大量の弾幕によって歌音を曲がり角の奥へと追いやったのである。
「くッ、……! ブラフなんて卑怯だぞッ……! ぐ、あ……!」
「ククカカカッ! 勝てば官軍という言葉を知らないようだなァ!? ンン~~~? オイオイオイ……! クカカッ、お前ェ! さっきの羽に、『当たった』なァ?! 随分神経毒が回っている様子じゃないかァ、フラ付いてどうしたァ?!」
一度曲がり角の奥へと退避することによって、『ジャックレイヴン』の放った羽の直撃を避けようとした歌音。だが、曲がり角の奥から再度敵の前に現れた彼女の手には、敵の羽が握られていた。
状況が全てを語っている。歌音の脚は既に震え、苦しげな息遣いからは彼女の負った痛みが伝わってくる。すでに歌音は神経毒に侵され、立っているのもやっとのはずだ。
それでも、彼女はまだ立とうとする。未だに避難が終わっていない人々を逃がすために、少しでも『ジャックレイヴン』を止めるために。傍から見ても『歌音の限界は明らか』だった。にも拘らず、彼女は気力を振り絞って立とうとしている。
「うるさい……っ! オレは、まだ……! オレ、は……!」
「無理するなァ、クカッ、カカカカカ! 私の毒に蝕まれたのではなァ! お前はもう終わりだァ、後で相手をしてやるぞォ!?」
「ヒ、ィ――――! 誰か、助けてくれ……!」
「そこまでだ、クソ鴉! 止まってもらうぜ……オラァァァ――――ッ!」
ラッカに続いて歌音の抵抗までを突破し、人々を直にその嘴で啄もうとする『ジャックレイヴン』を止めたのは――――フローラ・ソイレント(デッドマンズナース・f24473)。
彼女は裏路地に立っているアンバランスな二階建ての家の窓から現れると、上空から敵の頭蓋に向けて肘による一撃を喰らわせようとする。
「キャカカカクククカカァ! 私があの無力な愚かどもを狙うのは、貴様ら猟兵をおびき寄せているからだと何度やればわかるのだァ?! そうやって毎回毎回一人ずつ現れてくれるとは、各個撃破してくださいと言っているようなものではないかァ! お前も眠っているが良い!」
「――――っ、チィ……!」
だが、フローラの肘が『ジャックレイヴン』に届くことは無かった。低空飛行を行いながら地面を舐めるように飛ぶ敵は、フローラの攻撃が届く直前で飛行の軌道を即座に変更し、ギリギリのところで彼女の攻撃を避けたからである。
そしてそのまま、敵は即座にユーベルコードを再度発動。神経毒が塗られた大量の羽は、『確実にフローラに命中』していくではないか。神経を毒し、当たった人物の筋肉の動きを止めるこの力を受けてしまった以上、『フローラはもはや再起不能に陥ってしまった』――――と考えるべきであろう。
実際に敵はそう考えてフローラの隣を高速ですり抜け、もはや人々のすぐ後ろにまで近づこうとしている。最早人々は絶体絶命。移動し続けて辿り着いたのは、裏道の奥底にある行き止まり。『どこまでも迫り来る敵から、彼らが逃れる道はどこにも無いように見えた』。
「大丈夫、大丈夫だ……! 裏道の奥、行き止まりにまで入り込んじまえば――――!」
「――――オイオイオイ、まさか……『道幅が狭い行き止まりまで入れば、空を飛ぶ私は入ってこれない』とでも思ったのかァ? 救えぬバカしかいないのかァ、人間どもォ! 猟兵などと言う世界の部外者に乗せられて、命を懸けて出てきた結果がこのざまとはなァ! くだらないことだァ! 自分たちが死ぬまでの食糧はあったろうに、欲を出して外になんか出ようとするから命を落とすことになるんだァ! 『命を懸けるまでのことじゃなかったのになァ』、クカカカカカッ!!」」
「――――ヒィ~~~~ヒヒャハバハハハ!!! 愚かはどっちだよクソ烏!! かァかァかァかァうるさくて結構なことだがよォ、コイツらがなァ~~ンでここまで来たかわっかンねェ~のかァ~~~!!?? あァ見た目通り脳ミソも烏並みかァ~~~哀れだなァ~~~~? そろそろ種明かししてやるからよォ~~、チャームポイントのギョロギョロお目目パッチリ開いたら、オレらのやることよォ~~ッく見ていきなァ!」
走り続ける人々を追ってきた『ジャックレイヴン』が、最後の角を曲がって見たもの。それは怯えながら逃げ隠れる弱い人々ではなく、『行き止まりを背にして敵に向き直る人々』であった。彼らの傍らにはジン・エラー(救いあり・f08098)もいる。
――――人々は敵から逃げていたわけじゃない。人々は、猟兵たちと共に立てた作戦に則って、彼らの『道』に立ち塞がる障害を取り除くために走り続けていたのである。
「そう、大丈夫だ……! ここまで入り込んでしまえば――――! 『俺たち人間と猟兵さんたちで、お前を倒せる準備が整う』ッ!!」
「さァ、乗れよクソ鴉ッ! 俺たちはもう猟兵さんたちに賭けてんだッ! 猟兵さんたちがあんなに真剣に! 真面目に! 立派に! 俺たちを信じてここまでやってきてくれたんだ!」
「命なんざ懸けてんだよ、俺達人間も最初っからなァ!! だからもう逃げねえ! 死んでも諦めねえ! テメェが俺たちのの道を阻む『障害』になるンなら、俺たちはテメェに向き合って越えてやらァッ! 逃げんじゃねえぞ、クソ鴉ッ! エダさんッ、今ですッ!!」
ここはもう、どこにも繋がらない行き止まり。曲がりくねって細くなった裏道を幾つも幾つも通りすぎて行きつくところ。もはやここには分岐もなく、隠れるところもありはしない。行き止まりに辿り着いた敵が逃げる場所なんてものは最早ないのだ。『既におびき寄せは完了した』。その事に、ようやくここまで来て敵が気付く。猟兵たちの作戦が動き始める。
役者の全てが命を懸けている。逃げはない。進むのは前にだけ。そんな単純なことを『敵は見誤った』。さァ、あのニヤケ面を凍らせてやる時だ。うるせェ嘲笑を地面に転がしてやる時だ。今こそ作戦は第二段階へ。獲物の『おびき寄せ』から、『仕留め』に入る時だ。
「なにをッ……?! ――――まさかァ――――!? そんなッ! 不可能だァ! あのどうしようもない人間たちに、こんな――――! 命を懸けた作戦など――――!?」
「――――はっ! 何も理解してないみたいだな、鴉さんよ! 私達は確かにきっかけになったのかも知れない。そう、人々が立ち上がるきっかけだ。でも、それだけだ。彼らが立ち上がり、ここまで来たのは――――彼らの足と意志によるものだ! 彼らは道の先に未来を見出したんだ! 彼らが開拓を続けていくと自信を持って言えるのかって? 『当っっったり前』だろ! 未来を見据えた人々を――――、過去ごときが遮れると思うなよ!! やるぞ、ジンッ! そいつ逃がすなよォォ!! くらえ必殺! 聖拳突きぃっっっ!! オラオラオラオラァァァ!!」
人々の合図に応え、離れた場所から動き出すのはエダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)。放たれるのは【必殺聖拳突き】。単純で重い祈りを込めた拳の一撃を叩きつけるユーベルコードだが、エダの目論見は敵への打撃ではない。――――この力には、二次効果が存在する。この力を行使した場合、直撃地点の周辺地形は放たれる強大な力に耐えかねて破壊されるという効果が。
――――つまり、エダは周辺地形の破壊を意図して狙っているのだ。狙いは『ジャックレイヴン』の真横にある歪な2階建ての家たち。エダはここを思い切り叩きつけ、『建物をそのまま敵の頭上へと倒してみせた』。
しかも、倒れてくる家の数は一つや二つではない。『全部』だ。敵の周囲に存在する家々の全てが、敵に向かって倒れていく。エダは敵の動きを鈍らせるために、移動しながらユーベルコードを連続で用いることで家の倒壊の連鎖を打ち出して見せたのである。
ここは元々地盤も脆い土地。更に建物も歪んで無理やり建っている状態だ。そこに強烈な力によるベクトルをいくつも与えて見せればどうなるか? 複数方向からほぼ同時に倒壊していく建物を材料にして、エダは頭上から敵を覆いつくす『鳥籠』の作り上げたのである。
「ヒャ~~~ッハッハバハハバハハヒャヒャハハハ!! 当ォ~~然! 逃がすわけもねえし、逃がさねえよォ~~?! ――――しっかりと『光』をくれてやるよ。随分マシになるだろ? しっかりその目に刻みな野郎共。オレらの次はお前らだ。続けよ。オレらであのクソ鴉も『救ってやる』ンだよ」
「ッッ! ふざけるなァ、猟兵どもォ……! 私の速度があれば――――ッ」
「そう来ると思ってたぜ。今のテメェは、必ず『後ろを向いて逃げ出すだろう』ッてなァ」
「眩……ッ!! チィッ、目障りなんだよォォォ!! 退けェッ!」
「いィィ~~や退かねェ。大人しくオレらに救われな」
エダの作戦が動き出したのと同時に、『ジャックレイヴン』は猟兵たちと人々の狙いが誘い込みであったことを看破した。それと同時に、敵は即座に空中で速度を保ちながら180度転回。自分が通ってきた道を戻る様にして、唯一開いている逃げ道に向かって移動を開始する。
――――だが、そこには光があった。【オレの救い】。ジンのユーベルコードだ。全てを救うという傲慢・驕傲・不遜を聖者の輝きとして昇華させ、自身の体から放出することで自身を強化する彼のチカラ。
あるいは、ユーベルコードを用いて敵が倒壊する建物に立ち向かっていれば、この包囲は成り立っていなかったのかもしれない。しかし、敵は迫りくる障害から逃げることを選んだ。聖人は『ジャックレイヴン』を救うためにそれを読んだ。逃げの一手を打とうとした『ジャックレイヴン』がその目に見たのは、逃げ道を塞ぐ一人の聖人であったのだ。
人々が見事な演技で敵を欺き、猟兵たちが敵を誘導してみせた。エダの作戦が『ジャックレイヴン』から選択肢と判断力を奪い去り、ジンが空を駆けて離脱を図ろうとした敵の進路を先読みした。そして、皆の活躍により――――ジンは、見事に追い詰められた敵の『動きを止めた』のである。
【トキシックフェザー】を用いてジンを排除するべく敵が動いても、ジンは敵の逃げ道から全く動かない。まるで意に介さぬと言わんばかりに、だ。どこまでも傲慢。どこまでも不遜。ジンがその手を少し動かすだけで、敵の放つ羽は彼には届かない。
ジンの全身から放たれる光が、彼の動きの全てを強化しているからだ。最早彼が僅かにその手を動かして空気を混ぜるだけで、大気中に生まれた空気の渦はまるで盾に如くに敵の放つ羽を弾いていく。そして、羽が当たらなければ敵の攻撃は無意味だ。ジンは倒れない。何一つとして、彼が倒れる理由がない。
「ネグルゥ~~。今だァ、オレごとやれェ」
「――――ああ。敵ごとで良いんだな、ジン」
「ハヒャハァ! 敵? まさか。クソ鴉はクソだが"敵"じゃァねェ。オレの救う対象だ。そこだけ訂正しとくぜェ」
「フッ……。まったく、お前らしいと言うべきか。ああ、わかった! お前ごとやるぞ、覚悟しろよ!」
「私を無視するな……ァ! 私を憐れむなッ、貴様らァ! 私を差し置いて、無駄なことばかりペラペラとォ……! お前たち愚か者どもは私が殺すッ! 殺すゥ! 必ず殺すゥァァァ!」
「――――負け犬の戯言など、聴くに値せず。無駄は在らず、愚かに非ず。貴様は恐れているのだ。人々が変わったら、本当にやり遂げてしまったら、前を向いてしまったら――――自分の安泰とした怠惰な世界が、もはやどこにも無くなってしまう。それを、貴様は恐れているのだろう?」
「ッ、ッッ! 黙れェ! 黙れ黙れ黙れ黙れェェ!!」
ジンが敵の逃げを止め、空中にて押し留めてみせた。ならばと次に影から現れるのはネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)。彼は倒壊していく建物から僅かに離れた行き止まりの奥で、人々の隣に立ちながら言葉で敵の思いを切り拓いていく。
ネグルが敵の思いにここまで理解を示せるのは、既に彼は『それに近いもの』を見てきているからだ。説得する前のシヴィルズタワーの人々が、元『ダーティーギャング』の面々が。『ジャックレイヴン』を前にしてチラつくからだ。敵は昔の人々と同じなのだ。諦めてしまった妄執が腐れたものなのだ。
だから分かる。人々に寄り添って道を切り開いてきた猟兵たちには、そして猟兵たちの説得で立ち上がれた人々には、敵の本質が良く分かる。だからこそ、――――敵の動きを読み切れる。
「だがもう遅い。彼らは変わり、苦難と課題に頭を悩ませながらも、歩み始めた。――――『悪く言うな』、か……。フフ、本当に、変わった。塔の人々も、元『ダーティーギャング』の面々も。案ずるな、私が守――――いや、最早そうは言うまい! 皆! 一緒に、あいつをぶっ倒すぞ! これが最後の壁だ! 昔の自分とよく似た『過去』を、『障害』を! 自分の手で打倒せッ! ――――【強襲具現:冬寂の采配】起動! 皆を、人々を含め強化だッ!」
『Access! ――――code:ASSAULT,type Wintermute Commander!』
「武器があるなら焦らず撃て! 投石でも良い! ダメージは薄くとも阻害にはなる! 全ての行いに価値はあるんだ! やるぞッ!」
「「「「「うおおおおおおッ!!!!!!」」」」」」
ネグルが行ったのは、『ダーティーギャング』相手に張った防衛戦線の時と同じく人々の指揮。しかし、その本質は既に変じている。ネグルは――――というよりも、猟兵たちは、最早人々を引っ張っていくような存在ではない。
今の猟兵たちは、人々に寄り添うものだ。既に彼らが自分の足で歩き始めた以上、猟兵たちが前に出て彼らを引っ張る必要はすでに無い。だから、今のネグルの指揮は人々を動かすものではない。人々を鼓舞するためのものだ。猟兵と人々は『守り、守られる関係』から一歩進んだ。今の彼らは既に『同志』だ。隣に立って同じ志を掲げる者たちである。
ネグルが先導して放つ『ペネトレイトブラスター』の一撃に続くように、人々もその手に持った力を『ジャックレイヴン』に放っていく。
ある者はその手に握りこんだ年季の入った短銃を。ある者は使い慣れたライフルを。また、元『ダーティーギャング』の面々は、毒に身を蝕まれながらもその手に握った鎖や手錠を敵に向かって放っていく。愛用の飛び道具を持っていない人々の手に握られているのは、大量の石つぶて。『ジャックレイヴン』を誘導しながら、彼らが廃村を進む道中で集めてきたものだ。
精霊銃の閃きが、使い込まれた銃の唸りが。必死で投擲される手錠や鎖、石つぶての一撃が。空中での近接戦闘に縺れ込んだ『ジャックレイヴン』とジンに、雨あられの如く襲い掛かっていく。
「ギ、ギャァッ?! ガ、グガァァッ!!」
「ギャッハハハァ! ヒィ~~ヒャハハハハハァァァァ!! さァ~~~ア続けよテメェらァ! このクソ鴉に教えてやンだよ! 蒼い空はそりゃァいいモンだろうが――――埃と泥に塗れた大地も悪くはねェンだぜッてことをよォ~~!」
「――――全く。道化はいつになってもそのうるさい笑いを止めないんですね。……まあ、今回はクソ鴉の動きを止めたことに免じて赦してやりますけど」
「――――ここまでは作戦通り。そして、この後は俺たちの攻めが続くだけだ。ただ奪う事しかしない輩に、人の在り方まで決められる謂れはない……。ここらで一度地に墜ちろ、腐れ鴉。いい加減、人を見下げる立場から降りてこい」
ジンは『ジャックレイヴン』の胴体に抱き着くようにして敵の動きを止め、ネグルと人々の一斉攻撃の雨に敵諸共晒されていく。そして『ジャックレイヴン』多くの手傷をその身に受けていくのに対し、ジンは傷一つ受けていない。
逃げようとしたところに思わぬ一撃を喰らった敵と、覚悟を持って自分ごとの猛攻に対する受けを敢行したジン。両者の精神性が結果を分けたということだ。既に周囲の建物の倒壊は始まっている。全ての建物が暴威となって、推進力を失った『ジャックレイヴン』を取り囲む。
そんな敵へと一撃を加えるべく、倒壊していく建物の瓦礫を縫うようにして現れる二つの影があった。
月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)。矢来・夕立(影・f14904)。二人の忍びは今の今まで戦場からその姿を消し、今この時を待っていた。影たちは崩れゆく建物の壁を蹴り、瓦礫を伝い、落ちていく屋根の欠片の上を走って空を駆ける。
『光』が敵の目を眩まして動きを止めて見せたのなら、次は『影』が敵の足元を地面に縫い付ける番だ。
「貴様らッ――――?! 今まで、どこにィッ!?」
「『どこにでも』。俺たちはずっとお前を見てたんだ。そしてこの時を待っていた。塔の人たちや、元ギャングの人達にも協力してもらって」
その通り。二人の忍びは迷彩を駆使して戦場の至る所に潜んでいた。影に隠れて瓦礫に身を隠し、遮蔽物に潜みながら地面の凹凸に身体を寄せて。全ての猟兵の演技をサポートし、時折人々へと走る流れ弾を人知れず手裏剣で弾いていたのが彼らだ。
目にも見えず、音にも聞こえず。気配は感じず、香らず、何もない。忍び足は彼ら忍びの基本技能だ。暗闇に紛れるのも、迷彩にて目を騙すのも。目立たないことが彼らの本懐。利用できるものは全て利用して相手の意識から外れることこそ、彼らの戦い方なのだ。
「クッッ……――――がァァァッ! 私を騙す?! 私を欺く!? どうしようもない低能のクソゴミ溜め共がァァァ!! お前たち猟兵には何も出来ないッ! 何の意味もない! 道路も! 地図も! 貴様らでは何も完成しないんだァァ!!」
「『御託は結構』。ですが一点。誰が、何を見てたって? 道路の基礎部はもう一番最初に出来てる。……あそこで人と一緒に気を張ってる熱血担当が、一番最初に腕を振るったんで」
「――――ッ、だとしてもォ! それだけだ! それじゃこの先道路をどうやって維持していく!? 地図も出来ていないこの状況でェ、どうやって荒野に道路をォォ!」
「――――オレたちを舐めるなクソ鴉。地図の下地だってもう出来てんですよ。斥候担当ナメないでください。『描きたい』って“意志のある人”に、このオレが基本を教えてやった。これがあれば塔からここまでの道程を、完璧に辿れます。既に成果が出てるんですよ。意味がない? その言葉を返しますよ。お前の罵倒にこそ意味がない。証拠はこちらの紙片ですけど?」
空から落ちていく全ての建物の残骸を足場にして敵へと接近しながら、ハルマと夕立はその手に獲物を掲げていた。ハルマはトンファー型ガジェット『魔導蒸気式旋棍』を。夕立は匂に朱が混じる脇差『雷花』を。
忍びは足場を選ばず、敵に致命を与えるべく、ただ往くのみ。
「ア――――ガァァァァァァァ!!」
「【潜刃・禍ッ牙】。――――その動きは、さっき見た。腐食ガスも飛ばれるのも、どっちも面倒だ。ここで両方とも、封じさせてもらうよ」
「【紙技・冬幸守】。――――三つ数えろ。……さて、今見せたこの紙片ですが。これは地図ではありません。ウソですよ。お前の頭に血を登らせるための。そしてもう一つ。オレたちはお前に斬りかかる訳じゃない。これもウソです。幸守。禍喰。お仕事ですよ。あのクソ鴉を仕留めろ」
ハルマが振るうは、自分に気づいていない敵を対象のUCを封じる術式が施された手裏剣で攻撃する際、ほぼ必ず狙った部位に命中するチカラ。その名は【潜刃・禍ッ牙】。
夕立が用いるのは、三秒の目視により、視認している対象を、蝙蝠の式紙の群れで攻撃するチカラ。その名は【紙技・冬幸守】。
既に二人は敵の動きの全てを観察し、その細かな癖の全てを見切っている。だからこそ踏み出す。『ほぼ必ず』ではダメなのだ。欲しいのは『必ず』。ラッカと歌音、フローラがここまで敵を誘い込み、エダが囲んでジンが止め、ネグルと人々がようやく反撃の場を整えた。
であれば、99%では物足りぬ。確実な結果のみが欲しいのだ。100%を得るためには、悟られないように放つ影よりの不意打ちではなお足りない。ハルマが敵の翼を狙って放つUCの投擲は、当たるかどうかでその戦場の命運を左右するからだ。敵のUCを一時的にでも封じることが出来さえすれば、戦況は大きく猟兵有利に傾く。
そのために二人が放つ必殺の一撃。それは、二人が高速で敵に接近しながら放つ獲物の一撃さえもフェイントにした、忍び同士の合わせ技。ハルマの投げる手裏剣を、夕立がコウモリの集団で囲んで隠す、『隠し手裏剣』と呼ばれる戦法の一つである。
「甘い、と――――言ってるだろうがァ! そこまで念入りに蝙蝠で隠せば、本命はこの中心にありますよと言ってるようなものよォッ! 【オールモストデッド】ォォォ!!」
しかし、ハルマと夕立の放った合わせ技は――――敵の放つ毒ガスによって、その勢いを急速に殺されていく。
腐食と腐敗を司るそのガスに包まれただけで、夕立の蝙蝠たちは即座に溶け崩され、そして――――本命であるハルマの手裏剣さえも、跡形もなく消し去られてしまった。
「クアカカッ!! どうだッ! 私の力を侮るからだァ、この私に不意打ちなどとォ――――!」
「――――誰が、さっきのが本命だって言いました?」
「悪いね。アンタの性格が悪いってのは、もう元ギャングのみんなから聞いてたもんで。裏の裏を付かせてもらうよ」
「――――ッ!?」
さて、ここで一つ問いを出そう。『ジャックレイヴン』が二人の忍びが放った合わせ技を正面からユーベルコードを用いることで止めたその瞬間、二人はその様子をただ見ていただけだったか否か?
当然答えは『否』である。二人の忍びは合わせ技を放ったその瞬間から壁や瓦礫を足場にして移動を開始すると、敵が毒ガスを放って防御を行っているうちに敵の背後に回ってみせたのだ。空中に撒き散らされる毒ガスさえも隠れ蓑に、二つの影は空中に忍ぶ。
つまりは、先ほどの攻撃さえも『フェイント』ということ。敵の性格の悪さや強さを加味した上で、二人の忍びは二重に敵に罠を仕掛けてみせたのだ。無防備な『ジャックレイヴン』の背後から、本命である手裏剣が空を裂いて飛び掛かる。
「――――させるかァァァァッ!! クク、ククカカカッ! これでどうだァ! 凌いで見せたぞォ、猟兵どもォ! やはり貴様らの浅知恵など、こんなもの――――!」
しかし。しかし、『ジャックレイヴン』はそれでもその本命を喰らわない。敵は空中で即座に身を翻すと、長い嘴を用いることで猟兵の投げる手裏剣を弾いて見せた。
たった一枚。たった一枚の手裏剣が、敵の羽に突き刺さらずに落ちていく――――。
「……俺たちの狙い通りだ。ここまでは作戦通り。そして、これからも」
「……気付かないんですね。忍法、『影手裏剣』――――。これ、忍びとしては基礎の技なんですけど」
「~~~~ッ!? きさッ……貴様らァァァァァァ!」
――――『影手裏剣』。それは二枚の手裏剣をほぼ同時に投擲し、本命の手裏剣を先んじて投げる手裏剣の影に隠すことで敵の狙いを外し、確実に一枚の手裏剣を敵に命中させる忍びの投擲術のこと。
敵が辛うじて弾いたのは、ハルマの投げた本命の手裏剣を隠すようにして投げた夕立の手裏剣。ユーベルコードに依ることのない、ただの手裏剣一枚だ。
そして今、『ジャックレイヴン』の羽に――――ユーベルコードの発現を封じるハルマの手裏剣が深々と刺さっていく。攻勢への楔は既に穿たれた。反撃に転じることにしよう。
「思考力があるのも考え物ですね。言葉を知るからだまし討ちに引っ掛かる。……ああ、地図? あれもウソですよ。読めたもんじゃない。アレを使って塔からココまで来られたら奇跡ですね。まあ、……ここから次の街までには多少マシになってるんじゃないですか? ヘタの横好きでも、続けていくなら」
「ギャアアアアアアアアアアッ! 私に、攻撃――――!? 勝手な――――勝手なことをォォォ!! ふざけるなァ! ふざけるなよ、猟兵ッ!」
「ああそうよ勝手に決まってんだろうがテメェ! 笑わせんじゃねェぞ!」
「き、ッ……貴様ァ?! どうして、ここに――――!? 神経毒が、回って動けないはず――――!」
「オレがどこから現れようとオレの勝手だろうが! お前の放った神経毒なんざ効かねえんだよッ! 続くぜェェェッ!!」
夕立とハルマが力を合わせて敵のユーベルコードを封じて見せたその瞬間、更に地上から敵を打倒すために続くのは、先ほど『ジャックレイヴン』の神経毒を喰らったはずのフローラであった。
そう、彼女の身体には確かに今も神経毒が回っている。彼女の身体を今も動かしているのは、執念――――ではない。フローラは先んじて体の神経節に点穴用の鍼を打ち込んでおくことで、神経毒で麻痺した体であろうと、鍼に直接電流を流し込むことで動かす――――という荒業を用いているのだ。
フローラの身体では、今も神経を毒されたことによる耐えがたい激痛が暴れまわっている。だが、それが何だというのだろう。彼女は外付けの電気信号により筋肉を動かし、無理やり身体をコントロールすることで痛みを無視しながら敵へと迫っていく。
循環器系へのダメージだって、この際彼女には関係の無いこと。フローラはデッドマンだ。既に循環器機能は停止している。彼女の体にあるのは、耐えがたい痛みと――――痛みに負けぬ闘志だけ。そして、それだけあれば体は動く。動かせるのだ。
「外側から一方的に介入するだけのよそ者! 偽善者がァ! 意味の分からない――――ッ! 下法でェ!!」
「それじゃあテメェは何様なんだ!? 上からピイピイ物言い付けやがって何もしねえ腐れ鴉が! 頭が高ェんだよッ、いい加減落ちやがれェ!!」
「止まれェ! 止まらんかァァァ!! これ以上私に近付くなァァ!! どうしてそこまでして走れる!? 前に進める?! 意味が――――ッ、意味が分からないッ!!」
「アンタはいずれ腹が減るんだから、喰っても無駄だって飯を食わないでいられるのか? 希望(ユメ)を求める人間の想いは、――――誰にも止めることなんてできねえんだよ!」
ハルマと夕立の放った手裏剣によって羽に損傷を追い、ユーベルコードさえ封じられた『ジャックレイヴン』が空中で体勢を整えるのを、フローラは決して待ちはしない。彼女の歩みは止まらない。車輪の如くに勢いの付いた彼女の攻勢は、敵の罵倒にも制止にも止めることはできない。
――――バリバリと音が鳴っている。空気の中で何かが弾けている音だ。それは大気中に存在する水の粒子が、フローラの身に纏う雷によって即座に蒸発し、弾ける音。決して止まらぬ車輪の轟き。
彼女は空中に留まろうとする『ジャックレイヴン』の真下に入ると、全身にみなぎる練り上げられたオーラ、『電磁覇気』を一気に爆発させ、地面を蹴りながら雷のような速度で飛び上がる。
「――――【磁極流:帝釈天】(ヴァジュラ)! 応用の参、三鈷虎王ッ!」
「グァ…………ッッ!! グァァァァァァッ!?」
そしてフローラが放つのは、両手で『ジャックレイヴン』の翼を掴んでから叩きこむ、頭部への膝蹴り。ユーベルコード【磁極流:帝釈天】が発動している今、フローラは自身の活動限界時間を代償に、膨大な電磁気を籠めた一撃を放つことができるのだ。そして、彼女の攻撃はまだ止まらない。
既に敵のユーベルコードは封じられ、フローラは敵を空中で一度掴んでいる。――――ならば、このチャンスを一撃で終わらせるのは惜しいというもの。
「ハァァッ! チェィィィィィィァァァッ!!」
「ゲ――――! ガッ! グ、ガァッ?! ガァァァァァァァッ?!
フローラは膝を戻して態勢を整えると、敵と落下しながら胴体に向けての殴打を四度連続で行っていく。そして続くのは右足による敵の羽下に放つ回転蹴り。そのまま彼女は『ジャックレイヴン』の頭を掴んで足場にすると、空中で軽く跳び上がってからの回転踵落としを放ってみせた。
『ジャックレイヴン』の身体にフローラの放つ打撃が突き刺さるたびに、雷鳴の如くに甲高い破裂音が廃村に響く。景気の良いその響きを契機にして、さらに二人の猟兵が続々と続く。
「ゲ、……ハッ……!! ――――なッ?! 何故、貴様らまで――――!? 貴様ら二人は、私が確実に倒したはず――――!!」
「――――ハハッ! 奇麗に騙されてくれてありがとよ! 『踊らされてる』のは楽しかったかい?! さっきまでの俺たちは、お前をここまで誘い込むための囮! そんでこっからはだまし討ちだ、タダの囮で終わると思うなよッ!」
「――――お前は大きな勘違いをしてるぜ……。オレたちは気まぐれでここに来たんじゃない。この世界を絶望から解放する、希望を運ぶ、そのために来た開拓者だって事をな! オレたちが作戦も無しに、お前に挑むわけが無いだろ! これは塔のみんなだって織り込み済みの作戦だッ!」
フローラの踵落としを喰らって地上へと落ちていく『ジャックレイヴン』へ、更なる追撃を喰らわせるために現れたのはラッカと歌音の二人であった。彼ら二人の登場を見て、敵は更に平静を欠いていく。当然だ。彼ら二人は、『先ほど攻撃を喰らって倒れたはず』――――。そう思わせる事こそ、猟兵たちの目論見であった。
ラッカの攻撃は、先ほど敵の放った屍鴉たちに打ち負けた訳ではない。あの時、ラッカは意図的に自分が召喚した小鳥たちを衝撃の寸前で消し去り、あたかも『ジャックレイヴンが優勢である』という状況を作り出して攻撃を誘ったのだ。
そして自らに突き刺さっていく攻撃を寸前で止めたのは、予め『トラベルパーカー』の隠しポケットに仕込んだ小鳥たち。ラッカは小鳥を隠し盾として用いることで、敵の攻撃を喰らった演出さえ可能にして見せたのである。
彼は騙しと仕込みで敵をおびき寄せ、無傷のままにチャンスを伺っていた――――ということだ。
そして、演出によって敵をおびき寄せていたのは歌音も同じこと。彼女が建物を利用したり、的確なタイミングでヒット&アウェイ戦法を行っていたのは、あくまで敵の注意をこちらに惹くため。つまり、歌音は自分の行動を怒りか侮りで思考を鈍らせる撒き餌として用いたのだ。
そのまま敵の攻撃を誘った歌音は、角を曲がって身を隠しつつ、敵が外した羽を拾って自分の身に刺さったように見せかけた。後は刺さっているように見える羽を、敵に見えるような動作で抜いて投げ捨て、あたかも神経毒が回ってると思わせた。
即ち、『ジャックレイヴン』は最初から騙されていたのだ。ラッカのおびき寄せに、歌音の作戦に、フローラの捨て身に、人々の演技に。敵は猟兵たちを追い詰めたのではない。逆だ。猟兵と人々はその身を挺することで、順調に敵を追い詰めていたのである。
ラッカと歌音は素早く駆けて敵の元へと近づいていく。壁を蹴り、瓦礫を踏んで、時にラッカが生み出した小鳥たちを足場にして。真っ直ぐ、どこまでも真っ直ぐ駆けていく。
「オレたちのことも良く知らないで、なァーに知ったような口叩いてやがんだ。アンタ目玉も腐ってんの? 見てもわかんなかったのか? タワーの人らもギャングの兄ちゃん達もそうだ。ありゃやる気もねえコト『やらされてる』って顔か? よく見てみろよ。アイツらは自分の足で歩き出した。ちゃんと生きてんだ。また立ち止まりたくなったって、きっと思い出してくれるさ」
「お前の敗因は、傲慢さだ! お前が笑った陽だまりの心も、前に進むための魔法も、もう一度立ち上がるための奇跡だって――――この世界にはあるんだよ! 『無くした記憶が叫んでる! 希望を軽んじる哄笑に、希望の灯火の輝きを見せつけろと!』 ラッカ兄ィ、手伝ってくれ! オレたちで、あいつを落としてやろう!」
「馬鹿な……馬鹿なァ! お前たちが何を言おうとッ、塔の連中は必ずいつかお前たちの事を忘れるのにッ!? どうして――――そこまで真っ直ぐ人を信じられる?! どうして私に立ち向かえる?! 何故だァァ!?」
「お前には決して分かんないことさ。だって、分かろうとさえしないんだからな」
「ラッカさん、援護するんで。オレにお膳立てさせるからには、必ず一撃ぶち込んでください」
『ジャックレイヴン』へ接近するラッカと歌音を手助けするのはハルマと夕立。ハルマは距離を選ばず連続で手裏剣を放ちながら敵の動きをけん制し続け、時に隙が出来たら旋棍にて打撃を入れることでより大きな隙を作り出していく。敵の攻撃を見切りながらのカウンターは、敵の攻め手を奪うと同時に味方の攻め手も増やすのだ。
夕立は上手く自らの紙技を用いることで空中に幾つもの橋をかけていく。大量の蝙蝠たちが繋ぎ合わさって出来るのは、『ジャックレイヴン』へ至る空中の道。時にラッカの小鳥さえも組み込んで繋がるその道は、大きな機動力の助けとなって他の猟兵たちの攻めを苛烈なものにしていた。
「させるかァ! よくも私の力を封じてくれたなァ……! だが、戻ったぞッ! 貴様ら全員、毒で死ね――――ッ!」
しかし、その土壇場で『ジャックレイヴン』はその力を取り戻す。封じられていたユーベルコードを再度発動し、この間合いにいる全員を殺し尽くすつもりだろう。
「――――やらせるもんかよォ! 帝釈天ッ!」
「――――だから、そう焦ンなよクソ烏。今構ってやるからよォ~~!」
「ガ――――ァァッ!?」
だが、敵の攻撃を直前で止める猟兵が二人。フローラとジンだ。二人は空中で落ちていくところを夕立とハルマに助けられ、そしてもう一度攻めを行うべく再度の接近を果たしていたのである。
ジンの光が、フローラの雷が。敵の視界を覆いつくしながら僅かな隙を生んでいく。
「動きを止めた今が好機! アンタの顔面にも、正拳突きをブチ込ませてもらおうかッ!」
「さあ皆、やるぞ! あの鴉野郎に、重い一撃を喰らわせるッ!」
そこに走り込む二人は、エダとネグル。彼らは夕立の作成した蝙蝠の橋とラッカの小鳥たちを足場にして、離れたところから地形を無視して一直線に駆けこんでいたのである。
四人の猟兵がここまでの陣形を整え、そして四人の猟兵が敵に大きな一撃を加えるために走り込む。倒壊していく籠の中で、既に戦局はクライマックスを迎えようとしていた。
ラッカの蹴りが、エダの正拳が。歌音のラッシュが、ネグルの黒刀が。今――――『ジャックレイヴン』へと迫る!
「今度はさっきよりも強く抵抗してくれても構わないぜ? もうやられる振りはしてやらないし、――――空中戦ならコッチのモンだ!」
「はァァァ――――ッ!! 建物を一気に崩す私の拳、今度はその身で受けてみなッ! 【必殺聖拳突き】ッ!」
先に入ったのは、ラッカとエダであった。
空中をまるで踊るようにして回転を続け、瓦礫や小鳥、蝙蝠たちを足場にしながら。ラッカはスピンを繰り返して、自分の旋回速度をどこまでも早めていく。
回転、加速、回転、加速、回転、加速――――彼の狙いは、その身に強烈な遠心力を宿すこと。タイマンなら隙が大きすぎて出来ない大技だって、この状況ならば可能なのだ。他の猟兵たちが隙を作ってくれたチャンスに報いるべく、ラッカは翼と爪を最大限にまで活用しながらその身をスカイ・ダンスのリズムに乗せていく。
そして、自分の力を最大限発揮するために溜めを作っているのはエダ。彼女の格闘術を活かすための秘技は、既に彼女の右腕に宿っている。後はそれを解き放つのみ。腰を落として肩の力を抜き、関節部で力が遮られないようにエダは極限の脱力へその身を至らしめる。走っている足ですら、まるで自分のものではないように軽い。
脱力と練気。気合いと怪力を活かすための体は既に整った。あとはこの身から右腕を伸ばすのみ。何にも負けない武器は、既にエダの手にある。小指を折り曲げて祈りを編み、薬を折り曲げ気を練って。中指と人指しを曲げて構えたら、親指で四指を固めて武器とする。今こそ『聖職者の拳』は手を覆う甲となって、敵に突き刺さらんとして弾けんばかり。
「これで……キメだぜッ!」
「喰らいなァァァ――――!」
「ガッ、ク、カ、ガ――――ァ!!」
そして放たれる二つの打撃。かたや異常なまでの旋回と加速を経て繰り出される、超高速の踏み付け。高速で縦に回転しながら放たれるそれは、強烈な遠心力とラッカの爪とが相まって、『ジャックレイヴン』の羽を大きく切り裂いていく。
かたや異常なまでの練気と構えから繰り出される、そこまでも真っ直ぐで単純な重い一撃。祈りを込めた拳は、円の動きで敵に突き刺さる蹴りとは対照的に『ジャックレイヴン』の胴体に深々と突き刺さっていく。二人の攻撃は間違いなく敵への大打撃と呼んで良いだろう。
「百裂の連撃コンボ、決めてやるぜ! 【ハンドレッドコンボ・クラッシュ】ッ!!」
「黒刀、封印を解く! 震えよ雷、咲けよ桜! 皆の門出を、貴様の血桜で彩ってやる!」
さらに続くは、歌音とネグルの二人。歌音のユーベルコードは、初撃の拳が命中した対象に対し、高威力高命中の拳と蹴りの連撃を放つというチカラ。
初撃を外せば多大な隙が生まれてしまうため、常であれば乱発は出来ないその力だが――――、今この状況ならばこれ以上ないほどの良い手であろう。
歌音は蝙蝠たちの橋を自分の脚で駆け、自らの打撃に勢いを載せていく。彼女とは対照的に、階段や家を足場に三次元跳躍しながら敵に近づき、抜刀へ至るのはネグルだ。
ネグルの手に握られているのは、一度振るえば桜の花びらに似た形の破魔の雷光が放たれる黒刀、『咲雷』。絶好機に当たり、二人の猟兵は自分の全てを以て敵へと至る。
「おりゃァァァ――――ッ!」
「――――、一閃」
「ギャ、ア――――! グ、ガアアアアア――――ッ!!」
そして、攻撃が放たれていく。イマジネイトオーラ『紫紅八極』の光を纏った歌音の拳と蹴りは、確実に『ジャックレイヴン』の顔面や骨、胴体に連続で放たれてはダメージを与えていく。
歌音は右のフック、左のストレートで敵の嘴を揺さぶり、右足のミドルで敵の胴体を刺す。そのまま敵の両翼を捕まえてサマーソルトキックを喰らわせ、最後に空中での回転蹴りを敵の目玉に向けて放ってみせた。
そんな歌音の攻撃を繋ぎ、『ジャックレイヴン』にさらなる追撃を与えていくのは――――シヴィルズタワーの人々だ。
彼らは倒壊していく建物のすぐそばにいながら、それでも尚と敵への攻撃を続けている。猟兵たちが危険な場所にいる以上、自分たちだって――――と、そのように考えているのかもしれない。
そんな彼らの思いに報いるべく、ネグルは空中の敵へと三次元的な軌道を介しながら接近。居合のように腰元に構えた黒刀を、適切に締まった手の内から滑らせて一刀。研ぎ澄まされた横薙ぎを解き放つ。
歌音と人々が放った九十九の打撃の後に、ネグルの一刀が花を飾った。百の連撃は敵の身体へ多大な手傷を負わせることに成功し、そして――――。
『ジャックレイヴン』は、八人の猟兵の活躍によって地に堕ちたのである。
●地に墜ちた鴉を越えて
かくして、八人の猟兵は腐れた鴉を地に墜とした。それと同時に、歪んだ状態で無理やりに建てられていた廃村の建築物の殆どは、新しき風に吹かれて打倒されていく。
『ジャックレイヴン』にはもはや高空を飛ぶ余力がない。故に、今の敵が廃村の中で飛び回れるスペースは『広場』や『大通り』のみ。猟兵もそれを分かっている。そして、敵も猟兵がそれを理解していることを分かっている。
即ち、局面は既にクライマックス。正面からの決着でしか、この劇には幕を下ろせない。それをお互いが理解しているからこそ、敵は傷付いた翼で低空を舐めるようにして猟兵たちに高速で翻弄し、猟兵たちはそれを追う。
既に制空権のメリットはない。あるのは局所的、突発的な戦術のぶつかり合いだ。そして、そうなれば――――数で勝る猟兵たちにこそ分がある。
「さて――――敢えて言ってやろうか。つっっっまんねえな、お前。そうさ、言うとおりだよ。こいつらが、この先も道路を維持してくれる保障なんてない」
「ク、ククク……! それ見たことかァ……! 結局、なんだかんだ言っても私の言うことが正しいと、頭の中では気付いているのだろうがァ……!」
「結論を急ぐなよ、スクィッシー。……鴉相手なら、スフィガートって言った方が由緒正しいか? ま、どっちでも構わねえけどよ。……あ? 既に味方にかかってるこのコード……考えることは同じってか、相棒」
そう言いながら、アポカリプスヘルの大気中に自分の作り出した『コード』を作り出していくのはヴィクティム・ウィンターミュート(End of Winter・f01172)。
彼が放とうとしているのは、ユーベルコード【Extend Code『Truth Adept』】。非戦闘行為に没頭している間、自身の味方及び自身を能力向上複合プログラムが強化し、攻撃力とスピード、演算能力が向上、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要とするチカラ。
『無双の軍勢の裏には、神算鬼謀の策略家がいるのがお約束ってもんだろ?』と言いたげに笑う彼の魔法は、先ほどの戦闘でネグルからの強化を受けたシヴィルズタワーの人々の力を、そして他の猟兵たちの力を、更に高めるためのもの。
電子の海から編み出されるプログラムは、今こそ人々の意思と心身に宿り――――骸の海から生じた過去を押し流すべく迸っていく。人々の心を凍らせる『冬』は、もう終わらせるべきなのだ。『冬』には"終わり"が無くてはならない。そして、その終わりとは今だ。
「保障なんて無いが、俺は期待してるんだ。――――命を消費する"だけ"の人生から、脱却したこいつらなら。"運命"から人生を奪い返しに行く、こいつらなら。保証書なんぞは貰ってねえが、俺たちが居なくなった後も期待してもいいと思ったのさ。だから保障はいらない。必要ないからな。俺たちを舐めてんじゃねーぞ、過去から何も進めないクソガラス」
「ク、カ……? わ……私を――――ッ、私をッ、見下すンじゃァないぞッ!! 私の方が上なのにッ! 私の方が頭が良いのにッ! この……ッ! このクソ共ッ! 地面を這ってのたのたと歩き、ひび割れた地面相手に毎日毎日無駄なことしかしない、非生産的な虫けらがァァァ――――ッ!! その口、引き裂いてくれるわァ!!」
「あーァ。図星付かれて咄嗟に出てくる言葉が、『私の方が頭が良い』とはね。お粗末すぎてビックリするぜ。お前の言葉を聞いたアニメのウサギが、背景で踊ってくれてるよ」
「黙れェェェッ!!」
猟兵たちにはそれぞれ最も恃みにしている武器、あるいは技術というものがある。そして、ヴィクティムのそれは言うまでもなく『ハッキング』だ。ハッキングとは、改ざんし、書き換える事。時に本質そのものを塗り替えることもあるが、ヴィクティムほどの腕前を持つハッカーはそんな面倒なことはしない。
彼はその時々の目的に応じて、『素材の味を活かす』一流のウィザードだ。現に、『ジャックレイヴン』がプログラムを繰る自分に対して高速で飛来し、その爪による攻撃が行われていても――――ヴィクティムは、ユーベルコードの発現を止めたりしない。それが最適解だと知っているからだ。
「――――うるせェ!! お前に猟兵さんたちの言葉は『黙らせねェよ』、クソ鴉ッ!! 黙って聞いてりゃ俺たちのことをサボり魔かなんかみたいに言いやがって! 人を上から見下げてやがるテメェには、いつまでたっても分かりゃしねえよッ、俺たちのことも! 猟兵さんたちの言葉もなァァ!」
「サンキュー。良いタイミングだ。助かったぜ、『ダーティーギャング』。――――さぁ、始めようか野郎ども! 倒れてる奴も、傷ついた奴も、そうでない奴も立ち上がれ! We are──『Truth Adept』」
「へ――――ッ! まさか、アンタの攻撃を俺らが止められる日が来るとはな!」
「ガ……ァァァァァァァァ!? どうしてッ!? 貴様ッ!? 貴様などのような……ッ! アアアァァァ!! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァァ!! 私の攻撃を、貴様ごときがとめるなァァァ!!」
ヴィクティムのコードは、周囲の人々に力を与える。二流は一流へ。一流は超一流へ。それが彼のチカラであり、戦い方だ。『ジャックレイヴン』の爪による攻撃を直前で止めてみせたのは、ヴィクティムのユーベルコードによって強化され、立ち上がる力を得た『ダーティーギャング』であった。
プログラムによって強化された免疫力と自然治癒力は、神経毒(ウイルス)を喰らっていた彼らの身体をクリーンアップし――――そして、強化された反応速度と機動力が、ヴィクティムの寸前にまで迫った敵の爪を止めることを可能にしてみせたのだ。そして、彼らの――――人々の猛攻は、まだ止まらない。
「オラァァ! どこ向いてんだよ、俺たちは一人じゃねえッての! もう諦めて適当に生きるのは飽きたんだよッ!」
「踏ん張って前に進むのはダセェことじゃねェ! テメェみたいに勝手に無理だって諦めてよォ、俺たちや猟兵さんたちを一方的にけなしてくるような奴の方が一千万倍はダセェぜッ!!」
「ハッハァ! 分かってきたじゃねえか、良いねえ! 俺は指揮に専念する! 『全員』戦え! 攻撃は俺のプログラムが防いでやる! だから行けッ! 運命のせいにしてブン投げるのは終わりだ! 車輪はお前らの手の中にある! 回せ、廻せ! これからを切り開く車輪をッ! 進めェェッ!!」
元『ダーティーギャング』の面々が、ヴィクティムのプログラムによって強化された力を無限に振るっていく。
何の技術もなく、腕だけで振るわれていた鉄パイプの一撃は、プログラムによって強化された『腰が入り、手の内が締まった一撃』となって、『ジャックレイヴン』の哄笑の温床である嘴を叩き潰していく。
作戦も何もなく、勘だけで振るわれていた催涙スプレーは、『味方たちとの連携によって効果的なタイミングで放たれ』、『ジャックレイヴン』の穿ったものの見方をする目玉を焼いていく。
当然、ヴィクティムへと襲い掛かる攻撃を鎖や手錠を用いることで上手く止めるのも忘れてはいない。彼らは入れ代わり立ち代わりして前衛と後衛を適宜変じながら、一丸となって大きな障害へ立ち向かっているではないか。
「ッ~~!! ならば喰らえェッ! 例え神経毒を克服してもォッ、私の毒ガスは貴様らの身体を即座に溶かすッ! 私の――――ッ、私のやり方が間違っているはずがないッ! 劣っているのは貴様らの方だァァ! 免疫も何もあるかァッ、死ねェェェァァ!!」
ヴィクティムのプログラムによって『ジャックレイヴン』と互角以上に渡り合う『ダーティーギャング』たちに焦れたか、敵はその身に彼らの打撃を受けながらも身を震わせ、一気に状況を打開すべくチカラを発揮しようとしていた。
敵が神経毒に代わって繰り出そうとしているのは、腐食、腐敗を促進させる毒ガス――――【オールモストデッド】。神経毒を無効化する免疫や、通常の攻撃に対抗できる反応速度などに関わりなく、全身から噴霧される毒ガスを用いて一瞬で周囲の人々を滅ぼそうという訳だ。
「――――フーン。それじゃ、その毒ガスはボクらが止めようかな。……ねえ。一つ質問良い? さっきの口ぶりからすると、君はボクたちのことを全部見てたらしいけどさ――――。それ、本当に『見てた』? 皆、集中して。防衛線を張った時と同じだ。狙いを絞って――――撃て」
「ガ――――ッ!? ま、また新手が――――ァ!?」
「ハッハァ! 完璧なインターセプトじゃねえか、マルコ! OK、バトンタッチといこう! また後で落ち合おうや! 野郎共、一回引くぜ!」
だが、力を振り絞って放たれる『ジャックレイヴン』の反撃を寸前で止める猟兵が居た。より正確に言えば、シヴィルズタワーの人々と、それから通信機を用いて彼らを前線で率いる猟兵が。
彼の名はマルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)。そして彼が率いるのは、『防衛班』から引き抜かれてきた最精鋭の銃手たち。
『ジャックレイヴン』は、彼らの登場と同時に正体不明の衝撃を受けて毒ガスの噴霧を中断される。戦場に響くのは一発の銃声だけ。それなのに、『ジャックレイヴン』の全身には、幾つもの銃弾による手傷が見えた。
「爺さんと相棒の話は知ってる? 塔の人たちが欲しいものは? 『諦め』てた君の元手下は何て言ってた? ――――しかし、よく喋るね。よっぽど自分に自信が無いのかな」
「――――ッ!! だ――――ッ、黙れ黙れェェ!! 私は全てを知っているッ! お前たちのことなど全てッ! 私の方が――――ッ! 貴様らのやっていることは徒労に過ぎないッ! 無駄だ! 無意味だァ! だから私が貴様なんかの質問に答える義務もないのだァ!」
「滑稽だね。ひどく滑稽だ。自分の行いが間違っていることすら自覚できないのなら、前に進めないはずだよね。だから、一つだけ教えてあげるよ。間違いを認めて、怖くても一度前に進むと決めた人って――――結構強いと思うよ? 多分、今の君よりもね。ボクらの行動が無意味かどうか、試してみるかい?」
「うるさァァいッ! 貴様らが私の毒ガスをどう止めたのか知らんが――――! そこまで言うなら、もう一度やってみろォォォォ!! 【オールモストデッド】――――!!」
「――――それじゃ、遠慮なく。皆、さっきと同じに。ボクに合わせて。――――アイツが生き物の形である以上、必ず毒をまき散らすための毒腺と分泌孔があるはずだ。毒ガスの噴射寸前でそこを射抜く。狙いを定めて撃つのは、皆の得意分野でしょ?」
「おっしゃあ、任せなマルコ! 今の俺たちは調子が良いんだ! 俺らと、俺らの『相棒』に! 撃ち抜けない障害なんざねえんだよッ!」
「ハハッ、爺さんは元気だね。任せたよ」
マルコの挑発に乗って再度【オールモストデッド】の毒ガスを放とうとする『ジャックレイヴン』の動きを、マルコを含めて彼ら銃手は全て捉えていた。
羽に隠れた両翼の先に存在する毒腺を。開いた嘴の奥底、舌の下に存在する毒腺を。両足の先、爪の内側に隠れた毒腺を。腐れた肚の奥の毒袋を。全てだ。余すことなく全てである。ヴィクティムの強化プログラムと、マルコ率いる銃手部隊の経験が、敵の動きの全てを看破して――――そして、狙い通りの箇所を撃ち抜くことを可能にしたのだ。奇跡を可能にする力が人々に自信を付けさせ、経験からくる正当な実力を発揮させたのだ。
戦場に響くのは、たった一発の銃声だけ。『マルコの銃撃のタイミングに、戦場の至る所に隠れた無数の銃手たちがタイミングを合わせて発砲している』からだ。倒れた建物の屋上から。瓦礫に隠れた影から。崩れた窓枠の向こうから、地面に落ちた看板の裏側から。全ての銃が、マルコと共に敵を狙い――――そして、全く同時に全方位から敵の毒腺を貫いていた。敵はこう認識しているはずだ。『毒ガスを撒こうとすると、発動を止められて全身に激痛が走る』と。
しかし、それを理解しないものが一人だけいる。『ジャックレイヴン』だ。敵は信じられぬのだ。『マルコの銃撃に合わせ、塔の人々が自分の毒腺を撃つなどできるわけが無い』。彼はそう盲信しているからこそ、マルコが何をしているのか分からぬのだ。人の再起を信じず、人の可能性を信じないがために、敵はもはや猟兵たちの戦術さえも見えなくなってしまった。敵は半狂乱に陥りながら、マルコだけを排除するべく神経毒の羽による攻撃を敢行する。自分の目に映るもののみが正しいのだと盲信しながら。
「ギャ――――アァァァ?! な――――ッ!? なぜッ、なぜッ、なぜだァァ?! 分からな――――い、いや――――ア、アアァァァァ!! 貴様、貴様さえ倒せばァァ!!」
「残念だったね。ボクは基本サポートの方が向いてるから、他の猟兵が上手く動けるように立ち回るのが今回の役目なのさ。それに――――ここは広場だよ? そうやってボクばかり見ていて良いのかな」
神経毒が塗りたくられている羽の攻撃を、マルコはユーベルコード【竜飛鳳舞】を用いることで華麗に躱していく。彼は空中を蹴って足場にし、時に敵の頭上さえも跳び越えながら、敵が行う猛攻の間隙を縫って熱線を放つ。
至近距離で『ジャックレイヴン』の意識を惹きつけながら、時折反撃を行うマルコの銃撃に合わせ、シヴィルズタワーの人々も同時に全方位からの射撃を行う。マルコが広場周辺の崩れた建物や瓦礫を足場にしながら空中を舞い、羽を避けて踊りながら熱線を放射するのに合わせて放たれる人々の思いを込めた一斉射が、『ジャックレイヴン』は全身の至る所へ手傷を負わせていく。
前に進んでいくための意思は、それを理解しないものには見えもしない。敵が人々の前進を、人々の再起を嘲笑って見下して認めないからこそ、成長した人々の攻撃はここまで敵に刺さっていく。敵は警戒すらしていなかったろう。人々がここまでの力と熱意をもってオブリビオンに立ち向かうなど、今まで考えもしなかったはずだ。
「……ッ! ク、ククカ……! そうか、そうか……! 分かったぞ、貴様ら猟兵はァ、ここに何かの罠を仕掛けたのだな……?! 卑劣な戦術だァ! ク、ク、ク……! そうだァ! あんな腰抜けの人々がァ、ここまで貴様らに協力するわけが無いィィ! であれば一度立て直して――――ッ!!」
「……ああ。成る程ね、どこまでも認めないつもりか。良いよ、そっちがそのつもりなら――――。キミには、人々の姿を見せた方が効きそうだ。皆、もう隠れなくて良いよ。ボクがアイツの態勢を崩したら、一斉射撃だ」
「ああ! 任せろマルコッ! 俺たちとお前らで、アイツをブッ倒すッ!」
「な、カ、グァ――――!? カッ、関係ないわァァ! 貴様ら猟兵さえ殺せばッ、塔に隠れ住んでいた有象無象などォォ!!」
紙一重で全ての攻撃を躱し、人々と協力しながら的確に反撃を入れていくマルコに対し、ついに『ジャックレイヴン』は正気を失った結論を出す。彼にとっては『人々が命を懸けて猟兵に協力する』という行為など、そこまで認められないものなのだろう。
――――だからこそ、マルコは更に敵を追い詰めるために人々の姿を影から現して、敵に『理解できない正解』を見せつける。敵が被りを振ってその事実を拒否するように放つ指向性を持った毒ガスを、マルコは敵の至近距離から連続で空中を踏み付けながら空に舞い上がり、回避していく。
「何も殺せないよ。何も見ようとしない君にはね。……それじゃ、後はよろしく」
「――――ア――――ッ!?」
追い詰められた敵の最後の攻撃さえもを滑らかに躱し、マルコは太陽を背にして空へと駆けあがった。そんなマルコを凝視する敵が目にしたのは、マルコの背後に燦燦と輝く日の光。正気を失った敵の目玉を、全き光が眩ませていく。一斉射が刺さり、敵はまたしても手傷を負う。
『隙』だ。敵は上空へと退避したマルコを深追いしすぎた。狭まった視野で見る陽光は、敵の意識を一瞬奪うには十分すぎる光だ。
そこに続く猟兵たちが二人。一人は礎を。一人は怒りを携えて。
「――――フン、ペラペラとよく囀る鳥だ……たかが鴉風情が『国興し』を語るとは、笑止! 彼らの思いを断ずるには安い攻撃だな! さァ、覚悟しろ! 我が意思を、我らの意思を貴様に見せてやるぞッ、下郎ッ!」
「――――……お前、無駄って言ったな? 皆の想いを、苦労を、決意を、無駄っていったな? ……許さないぞ、お前ッ! 何も知らないくせにッ! 皆が何を考えて俺たちに協力してくれたのかも知らない癖にッ!」
周囲に広がる毒ガスを切り裂き、空間に活路を拓いて『ジャックレイヴン』へと肉薄していくのはオヴェリア・ゲランド(銀の剣帝・f25174)。彼女が構えるのは、王としての意思と、『覇剣シグルドリーヴァー』。
周囲に広がる毒ガスの粒子すらも凍らせて、真っ直ぐ『ジャックレイヴン』へと滑走していくのはヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)。彼女が構えるのは、抑圧や理不尽への怒りと、氷の精霊剣『スノードーム』。
二人の猟兵は、マルコが作り出した隙に乗じて敵の至近へと急速に接近していく。オヴェリアは鍛え抜かれた体幹から研ぎ澄まされた剣術歩法を用いることで、上体をズラさず厳かに『ジャックレイヴン』への距離を詰めていく。
対してヴァーリャは、目の前の地面にリアルタイムで氷を広げながら、その上を滑走し急接近していくではないか。どちらも自らの持つ技術をどこまでも信じ、それを武器にして敵へと挑む猛者である。
だからこそ、彼女たちは敵が許せぬのだろう。技術の習得とは、積み重ねてきた時間と挫折の数だ。挫折を嗤い、再起を貶め、人々の技術の発展さえも許容しない『ジャックレイヴン』は、彼女たちの怒りに触れたのである。人々の思いを軽んじ、人々の努力を嗤い、人々を見下す鴉へと、今二振りの刃が迫る。
「人は死ぬ、どれだけどう生きようとも! ゆえに、だからこそ、我らは証を刻む! 生きた証を! それはやがて後に続く人々を導く道となり、導かれた人々はやがて城を築く! そして国が興る、今ではない未来、自分ではない誰かが建てる石碑! そこには確かに今を生きる我々の名が! 血潮が! 刻まれているだろう! 何も無駄にはならないッ! なるものか! きっかけなどどうでも良いッ! 人々が歩みを止めない以上、――――何も無駄になどならないのだッ!」
「お前、好きなものは、好きなことはあるか? ないだろう? それはお前がみんなを見下して、全部無駄と切り捨ててるからだ! やりもしないのにあれは無駄、これは無駄と悪態ついて、お山の大将を気取ってる! だから、今のお前は《空っぽ》だ! 空っぽのお前の言葉は、誰にも響かない! 誰の胸にもだッ! 何も理解しようとしないお前の言葉は軽いんだッ! あんなに頑張って、命を懸けて俺たちに付いてきたあの人たちを――――馬鹿にするなッ!」
「ギャァァッ! キ――――! 好き放題にィィ、口うるさく言いおってェェッ!! それじゃァ無駄にしてやるわァ! ここで貴様ら全てを殺し尽くしてなァ! 猟兵と塔の人々で屍の山を築いて、その腸を貪ってやる! 目玉をくりぬいて喰ってやるゥゥッッ!」
「「やれるもんならやってみろッ!」」
マルコの生んだ僅かな隙を活かして、オヴェリアは敵の右翼を上段に構えた剣の袈裟斬りにて切り裂き、ヴァーリャは敵の左翼をスノーボードの一閃にて斬り払っていく。二人の攻撃は、何もその武器だけに限ったものではない。彼女たちの紡ぐ言葉そのものが、『ジャックレイヴン』の精神を大きく揺さぶる研ぎ澄まされたツルギだ。
二人の一撃は敵に大きなダメージを与えていくが、やはり敵もオブリビオン。傷を負った痛みは間違いなく蓄積されているはずなのに、それにも関わらず至近距離まで至った二人の猟兵を同時に、かつ確実に殺せるように敵も策を編む。
『ジャックレイヴン』は傷付いた両の翼を大きく広げ、オヴェリアとヴァーリャに向けて【トキシックフェザー】を放っていく。ヴィクティムのコードによって二人の免疫力も上がってはいるが、今回の敵の攻撃は猟兵たちの『眼球』や『首』、『脳』や『心臓』などの直接的に戦闘、ないしは生命活動に影響を与える部位に狙いを絞ってのものだ。
「――――喝ッ!! 舐めるなッ! 私は王として民を背負っているのだッ! 私がここから退くことは、一歩たりとも無いと思えッ!」
「――――そんな攻撃喰らうかッ! 塔の人たちに披露したスケートダンスの時の方が、今の万倍緊張したぞッ!!」
だが、それをむざむざと喰らうような二人ではない。オヴェリアは次々に繰り出される敵の羽を、その身に宿した覇気の力で逸らし、敵の在り様そのものを一喝するかの如くに防いでいく。オヴェリアの気に触れた羽たちは、まるで寄る辺を無くしたかのように力なく地に堕ちるのみだ。
ヴァーリャはそんな彼女と対照的に、至近距離から放たれた羽を連続バク転やジャンプで次々に回避していくではないか。敵の攻撃が猟兵の急所を狙っているという事は、裏を返せば攻撃は局所化し、範囲は狭くなったということでもある。それを看破したヴァーリャは、見事に踊るようにしながら敵の攻撃を円を描くような動きで滑らかに躱していく。
そして、異なるやり方で敵の攻撃に対処した二人は、同時に更なる追撃を『ジャックレイヴン』に喰らわすべくその力を解放していく。――――だが。どうやら、敵の狙いもそこにあったらしい。
「カ~~ッカッカッカカッカカカカァ!! 馬鹿めェ、前からくる直線的な攻撃にばかり意識を割きおってェ! 馬鹿がァ! やはり私の方が優れているわァ! 頭を垂れて塔の馬鹿どもに今からでも謝ったらどうだァ~?! 私の羽は、その軌道すら操れるッ! 自分の後ろを見てみるんだなァ――――ッ!」
そう言いながら、『ジャックレイヴン』は猟兵たちにまるで勝ち誇ったような笑いを向ける。
さて、ここで一度戦況を俯瞰して見てみれば、成程。どうやら、先程の至近距離から猟兵たちに放った羽の攻撃はブラフであったらしい。敵の本命は、羽をブーメランのように飛ばすことで、猟兵たちの背後を突くことであったのだ。
わざとブラフの羽攻撃で急所を狙ってみせたのも、オヴェリアとヴァーリャの意識をそちらに惹き付けるため。既に彼女たちの背後には、敵の放った羽が迫っている。狙いは彼女たちの頭蓋、ないしは首元か。この一撃で二人を殺すつもりなのであろう。
「――――ハッ! 『後ろを向け』だと? 私に言っているのか? このオヴェリアに? 笑わせるなッ、外道がッ! 貴様は私を、そして私たちを信じて付いてきてくれた人々さえも愚弄したッ! ヴァーリャ、合わせろッ! コイツに手痛い仕置きをくれてやるぞッ! この一撃で、お前の尊厳すらもを地に貶す、墜とすッ! 【次元斬】ッ!!」
「――――ああ、オヴェリア! 任せろッ! 俺はお前みたいなヤツが許せないッ! 何でもかんでも自分が一番か? ふざけるなッ!! ここまで来ても俺たちに勝てると思ってるその傲慢さが、お前自身の目を曇らせてるって分かれッ! 今のお前こそが《無駄》なんだッ! 皆の行いを悪く言ったことを謝らせてやるッ! 【血統覚醒】ッ!!」
だが、彼女たちは怯まない。彼女たちは『後ろを振り向かない』。オヴェリアは右から、ヴァーリャは左から。二人の猟兵は前だけを見て、目の前の障害を叩き伏せるべく全速力で走っていく。
今こそ解放に至るのは二つの奇跡。二種の魔法。あり得べからざる幻想の技。
【次元斬】。オヴェリアの手に握られたそのチカラは、空間や距離すら超えた次元を斬り裂く斬撃が命中した対象に対し、オヴェリアが肉薄しての再度の一閃を放つ剣技である。
そのチカラによって生み出された斬撃は、目の前にいる『ジャックレイヴン』の両翼を骨ごと伐り裂き、敵の飛行能力を断ってみせた。更に返す刀のもう一太刀で、オヴェリアは自身の進行方向上にある、ヴァーリャの背後に迫った敵の羽たちをすら全て薙ぎ払っていく。覇剣は敵の目論見を全て斬り裂き、そして後には次元を拓いた一閃の余韻のみが残っていた。
【血統覚醒】。ヴァーリャの菫の瞳が真っ赤に燃え滾るのは、彼女が自らの寿命を犠牲にしてヴァンパイアに覚醒し、自らの能力を飛躍的に向上せしめた証である。
彼女は平常時以上の魔力を両手に集めたかと思うと、全力の氷属性による範囲魔法を用いることで、敵の身体とオヴェリアの背後に迫った羽たちの全てを凍らせてみせた。そのまま氷で動きを止めた敵の隙を突くべく、ヴァーリャは強化した脚力で高くジャンプ。敵の頭上を取ったかと思うと、宙返りしながら敵の眼球へスノードームを突き刺し、そこから冷気を直接注入していくではないか。
「ハ――――グ、ァ、ァ、アアカカ、グ、アァァ――――ッ!! に――――逃げッ、逃げ、な、え――――ッ!?」
二人の猟兵が振るった力は、見事に敵から十分な飛翔能力と視力を奪ってみせた。これにはさすがに焦ったか、『ジャックレイヴン』は地面でのたうち回る振りをしながら少しずつ彼女たちから距離を離していく。
敵は『恐れている』のだ。自分には理解できない生き物がここにいるという事を。危険に立ち向かい、障害を乗り越え、人々の心を動かした猟兵という存在を、敵は未だに理解できていないのである。
――――そんな敵が次に目に入れたのは、自分よりも明らかに強い猟兵ではなく。未だに自分よりも弱いと思い込んでいる、シヴィルズタワーの人々や元『ダーティーギャング』の面々であった。
「ギャ――――ギャハッ! クキャキャキャケキャッ! よッ、良く分かったともォ! キ――――貴様ら猟兵はァ、どうしようもない気狂いだァ! それが証拠に聡明なる私の話が通じぬゥ! だから仕方がないなァ! 私が愚かな愚民の命を奪えばァ、少しくらいは猟兵たちも頭が冷えるだろォからなァァ!」
「おいッ! こっちに来たぞッ!」
「嘘だろアイツ……ッ! 猟兵さんたちへの嫌がらせのためなら、何でもやるってのか……!」
「クククキキクキカッ!! 気付いたンだよォォォ! 殺すのは猟兵じゃなくても良いという事にィィ! 貴様ら愚民を殺しさえすれば、その時点で猟兵どもの狙いもぶっ壊せるからのだからなァァァ――――!!」
ヴィクティムやマルコが率いていた彼らの元へ、『ジャックレイヴン』は瀕死とは思えぬ機敏さで飛んでいく。比喩ではない。オヴェリアやヴァーリャ、猟兵たちが既に何度も切り裂いたはずの敵の翼は、如何なる理論によってか復活している。眼球や嘴もそうだ。
過去の残滓であるオブリビオンが、『人々の未来に立ちはだかる』ことでその本懐を発揮するように。『ジャックレイヴン』は、いよいよなりふり構わずに人々の未来を汚すべく、死から復活した身体で行動を再開してみせた。敵はもう身体だけではなく、思考そのものまで腐り墜ちた。
「貴様らの体を食い破ってェ、道路の上に臓物をバラ撒いてやるゥゥ! 塔で待つ家族の血で、未完成の地図を私が完成させてやるゥゥ! ギャハッ、ギャァッキクキャキャキキャァァ!」
「クソ……っ! アイツ、イカれちまったのかよ……ッ!」
「銃を持ってる奴は逃げろッ! ここは俺たちが引き受ける……!」
「馬鹿やろっ、お前らが勝てる相手じゃねェ! 殺されるぞ――――!」
「――――うるせェッ! 俺らは馬鹿だから分かんねえけどよ……! 拾われた命、ここで使わねえでどうすんだッ! 馬鹿は馬鹿なりに体張ることしかできねンだよッ!」
「アンタらには学があるッ! アンタらなら、道路も地図も完成させられるッ! アンタらの命と猟兵さんたちの意地を守って死ねるんならそれで良いッ! ……俺たちを見捨てないでくれて……ッ、ありがとよッ!!」
「下らない茶番は終わったかァァァ?! だったら私に生きたまま心臓を喰われる用意をしておくんだなァ! 痛みも感じさせずに殺してやるよォォ!!」
敵が最初に狙うのは、銃手たちを守るように陣形を組んだ元『ダーティーギャング』の面々であった。恐怖を煽り、人々の足を竦ませながら、敵は高速で彼らに迫る。
卑怯なやり方だ。敵はわざと襲撃を大声で叫ぶことで恐怖を感じさせ、集団としての足を止めてみせたのだ。猟兵たちの手の届かない所で、一人一人確実に彼らを殺すために。――――だが、そんなことは許さない。ここにいる全員が、そんな悲劇は望んでいない。
「――――ハッハッハ! 内容の伴わないショッキングな話で人の目を惹き付けるようになっては、語り部としてはお終いだな! 皆! 奴が頼りにするものこそ『アレ』だ! 『実体のない恐怖』という奴だ! だが所詮は敵の戯言だ! 根拠に乏しい盲言にすぎん! どうせあやふやな言葉を聞くなら――――私の物語を聞け! そっちの方が楽しいぞ! 前を向け! 上を向くんだ! 人を見下して生きている奴の語る悲劇なんか、何一つだって耳にするなッ!」
「っ――――! アンタは――――!」
「そう! 私だ! アノルルイ・ブラエニオン(変なエルフの吟遊詩人・f05107)だッ! キミたちを救いに来たぞ、もう大丈夫だ! 皆に希望を語って聞かせよう、諦めにも絶望にも負けない、強く燃え盛る希望の灯火を讃える凱歌を奏でよう! ――――だって私は、吟遊詩人なのだから!」
「今更貴様に何が出来るゥッ――――! 奴らは何度も諦めてきたァ! どうせここで仲間の一人や二人を殺せば、我が身可愛さにまた諦めるに決まってるだろォがァァ! 吟遊詩人ンンン? 何より下らない存在だなァァ!」
「――――まぁ実際、一度皆は何もかも諦めてたわけだし。もう一度そうならない、なんて保証はないわねぇ。……けれど。皆、一度立ち上がってきたんだもの。もう一度同じことが起こらない……なんて、言いきれないでしょぉ? 前例ができちゃったんだもの。……人間舐めんじゃないわよ、化物(フリークス)?」
「ハッハッハ! そういうことだ! 信じろ、皆! 私たちは停滞にも過去にも諦めにも、何だって負けはしない! 胸に炎を灯せ! 諦めるな! 笑え! 進み続けるんだ、転がり続ける車輪の如くに!」
アノルルイを後部座席に乗せて崩れた家々の屋根上を走り、最短距離で『ジャックレイヴン』の軌道上に割り込むべくひた走るのはティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)。
彼女のバイクは僅かに空中に浮かぶバイク型UFO、『ミッドナイトレース』。故に、敵が人々に近付くためにどれだけ高速で空を飛ぼうとも、路面状況にかかわりのない彼女にとって敵への猛追は容易い。人々を襲う『ジャックレイヴン』が先か、それとも敵の卑劣な襲撃を防ごうとする猟兵たちが先かの形。つまり、こいつは『速さ勝負』だ。妨害等々何でもありの、ダーティーレース。
「これより語るは、死期に至って自ら火の中に飛び込み、その中より蘇る霊鳥の物語――――! そう、その名はフェニックス! その翼はわれらの道! その輝きはわれらの絆! その不死性はわれらの意志! 未知の場所に繋がり、絆を結び、次なる世代に受け継がせる! これがわれらの魂の形だッ!」
「私がこれから見せるのは、自信満々に猟兵に挑んだはいいものの、思い切りやられちゃったオブリビオンの末路よぉ。破れかぶれで自分よりも弱い人々の心を追って満足しようとしたのかしらぁ? それは残念。ここにいる人たちは殺させないし、ここにいる人たちの心は折れないわぁ。貴方が何をやってもね」
「ククキクカカカカッ! ほざけェェェェッ!! お前らが何をしようとももう遅いわァ! あいつ等は殺すッ! 殺すッ! 殺すゥッ!」
既に理性の殆どを失っている様子の『ジャックレイヴン』が猟兵の接近を察して放つのは、【トキシックフェザー】と【オールモストデッド】の合わせ技。
自分の後ろを猛スピードで追ってくるティオレンシアたちには毒ガスを壁のようにバラ撒くことで妨害し、自分の目の前にいる『ダーティーギャング』たちへは直接的な殺戮能力を重視した、自分の羽を何枚か束ねたものを射出していく。
「こういう機動戦なら負ける気しないんだけど、流石にこの状況じゃ迂回できないわねぇ。アノルルイさん、あれどうにかできるかしらぁ?」
「任せてくれ! フェニックスはあのような薄汚い烏などに負けはしない! さあ! 我らの行く手を阻む者を蹴散らして! 先へ進もう!」
目の前に広がる毒ガス地帯に対し、直接的な対抗策を用意するのはアノルルイ。彼は今も尚超スピードで広場を走り、『ジャックレイヴン』と人々の間に割り込もうとするティオレンシアのバイクの後ろで、見事に弾き語りを行っていく。アノルルイが奏でる旋律と彼自身の気持ちが乗った歌に呼び寄せられてか、毒ガスの中心から何かが生まれ出でようとしていた。
これこそ、アノルルイのユーベルコード【吟遊詩人は幻想を紡ぐ】。幻想そのもの友とし、障害を打ち破るためのアノルルイの用いる奇跡である。今回毒ガスの中心から高温を伴って呼びだされるのは、先ほど人々を励ます時に用いた物語の幻獣種――――フェニックスだ。
炎とは即ち浄化であり、炎とは即ち燃え続ける力である。人の文明であり知識を象徴する焔を身体に宿した幻の鳥は、毒ガスの中という苦境から生まれ落ちるとともにその羽根を広げ――――、周囲の毒ガスが混じった空気を全き光と熱とで浄化して、ティオレンシアの進む道を切り開いていくではないか。
「見たかね、これこそフェニックス! 再誕と永遠の象徴! 希望と文明の灯火を掲げてどこまでも飛んでいく鳥の名だ!」
「ありがとう、アノルルイさん! さぁ、障害物はなくなったわぁ。後は単純なスピード勝負――――しっかり掴まっててねぇ」
「諦めろォ! もう間に合うものかァァァ!!」
「――――やってみなきゃ分かんないでしょ」
障害物を奇麗に浄化したアノルルイの活躍を活かすべく、ティオレンシアはアクセルを更に踏み込んでフルスロットルの加速を行っていく。
既に『ジャックレイヴン』の羽は十数発射出されている。アノルルイとティオレンシアが手持ちの火器を全て用いても、全て弾き落とせるかはギリギリだ。
そして人の命がかかっている以上、ここで賭けは出来ぬのだ。纏まって放たれた敵の羽は、いとも容易く人の首や目を射抜くことができるだろう。だが、そうはさせない。打ち落とすのが間に合わないなら、別の方法で止めるだけだ。例えば――――超絶技巧とスピードで羽に追い付き、直接止める、とか。
【轢殺】。ティオレンシアの解放するユーベルコードの名だ。バイク型UFO『ミッドナイトレース』の速度と耐久性を向上させ、自身の動体視力や運転、射撃能力を強化するこの力で、ティオレンシアは敵の放った羽弾とのスピード勝負に挑む。
アクセル。まだだ。まだ足りない。全てのギアはトップに入っている。アクセル。まだだ。まだ足りない。角度は良い。アクセル。アクセル。アクセル。まだだ。加速は十分出ている。だが、それでも最高速に至るまでのもう一つが足りない。――――それならば、『もう一つ』は後部座席に座る彼に用意してもらえば良い。
「アノルルイさん!」
「何かね、バイクを走らせるお嬢さん!」
「フェニックスさんに羽ばたいて欲しいわぁ、今すぐ! 出来る!?」
「もちろん心得た! だって私は吟遊詩人だから! ――――ああ、いとしき我らが前身の権化よ! 今こそその翼で、我らの道に風を吹かせておくれ! 我らの背中を押すような、シヴィルズタワーにかつて吹いた追い風を!」
そして、『もう一つ』は産み落とされた。アノルルイの呼びかけに応え、ティオレンシアたちの背後に構えるフェニックスが、その翼を大きくはためかせ――――二人の猟兵の背中を押す、強烈な突風を作り出してくれたのである。
その風はどこまでも熱く、そして暖かく、勢いがあって、速く、前へと進む意思に溢れ――――、とても、とても強かった。加速。加速。加速。加速。――――それから、アクセル。急激なターンブレーキで戦場に響く高音。
「――――言ったでしょう? やってみなければ分からないって。さて、今度はこっちの番よぉ」
「待たせたな、皆! しかし、安心してくれて良いぞ! こうなった以上、最早君たちに被害が及ぶことは無い! 私たちと共に行こう! 援護を頼めるか!?」
ティオレンシアの駆る『ミッドナイトレース』は、かくしてフェニックスの羽ばたきにて生まれた追い風を背にして『ジャックレイヴン』を追い越し、敵の放った羽弾にすら追い付いていく。純粋な『スピード勝負』なら負けられないという自負が、ティオレンシアにはある。
彼女は凶弾が人々へ着弾する寸前でその羽弾の軌道上に踊り出たかと思うと、そのままバイクに刻まれたルーン文字による守りを発揮して、敵の羽を無効化していく。『水』という意味を持つラグと、『防御』を表すエオローの二つの文字が効果を成して生まれた、瞬間的に人々を守る浄化の結界によるものだ。
空中に張り巡らされた結界は、敵の羽から神経毒を奇麗に消し去り、勢いすら殺して殺傷力を奪っていく。敵の羽が人々に届くことは無い。二人の猟兵は、敵の破れかぶれな行動から見事に人々を救ってみせたのだ。
「……へへ……! ああ! もちろんだ、猟兵さんたち! これで命を救ってもらったのは二回目だな! 何でも言ってくれ、何でもやるぜェ!」
「――――ク、ククカ……。ク、……ガ、が……! 馬鹿な……ふざけるな、ふざけるな……! ふざけるなァァァ――――ッ! どうしてだ! どうして貴様らはそこまで私の邪魔ができるのだァ!? 私はこんなに頑張っているのにィ! 私は――――私はこんなに強くて偉いのにィ!! 嫌だァ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァァァ!! 私を恐れろォ! 私を敬えッ! 私を怖がれェェッ!!」
「あら、知らなかったのぉ? ……順風満帆に何事もなく進んできた奴よりも。いっぺんヘシ折れて、腐った泥沼で溺れた奴のほうが怖いのよぉ? あたし、今の貴方なんて何も怖くないわぁ。だって貴方――――、一回も本気で何かに挑戦したことも無ければ、挫折したことも無いでしょう?」
「――――アアアアアアあああああああッ! 殺す、殺すゥゥゥゥッ!」
「短絡的な言葉を使うなよ、積み上げてきた威厳が崩れてしまうぞ! さあ、みな! フェニックスに続けッ! 今こそ奴を狩る時だッ!」
敵の攻めを凌いだ猟兵たちが次に行うのは――――当然、反撃だ。防御に手間をかけさせられた分、猟兵たちには敵へ同等のものをお返しする義務と権利がある。さあ、攻守交代だ。
バイクから降りたアノルルイが人々を勇気付けながらフェニックスを『ジャックレイヴン』へと指し向ければ、ティオレンシアは『ミッドナイトレース』を先ほどよりもお構いなしにブッ飛ばして『ジャックレイヴン』の周囲を高速で旋回し、敵を攪乱していく。
防御から解き放たれたフェニックスは、勢い良く翼をはためかせながら敵の腐れた翼を自らの放つ焔で焼き尽くしていく。時折敵も反撃にと言わんばかりに毒ガスの散布を行うが、僅かな反逆は炎の翼に掻き抱かれて浄化されるのみ。そもそもフェニックスの司る炎と毒ガスでは、致命的に相性が悪いと言わざるを得ない。
毒ガスがダメならばと持ち前の速度でフェニックスを振り払おうとした敵を待ち受けるのは、同様に速度重視で空中を走り、敵を追い続けるティオレンシアの弾丸だ。彼女はピタリと敵をマークし続けては、反撃の隙すら許さずピンポイントで鉛の弾をブチ込んでいく。
敵が新たな羽弾を放とうとすれば、翼の付け根を撃ち抜いてはためきすらを止めていく。敵がフェニックスを爪で引っ掻こうとすれば、足を振り被った瞬間にその爪は鉛玉で粉々に撃ち砕かれていく。敵が恨みがましい視線を塔の人々に向けようとすれば、敵の目玉が至近に捉えるのは塔の人々の様子ではなく、ティオレンシアの放った銃弾が迫りくる光景だ。それでも時折放たれる羽弾は、優先して鉛玉が撃ち落としていく。
そうしてティオレンシアが空中からの銃撃で敵の目を潰し、動きを拘束しながら攪乱を繰り返せば、フェニックスの焔が敵を捉えてその翼を焦がしていく。アノルルイの放つ矢やシヴィルズタワーの人々の銃弾、『ダーティーギャング』たちの投げつける鎖なども同様に、順調に敵の体力を削っていく。戦況は既に猟兵有利。『ジャックレイヴン』は、またしても逃げるしか手がなくなった。
勝負に負けたことを自覚し、敵への嫌がらせに終始した『ジャックレイヴン』と、常に真っ直ぐ敵を『立ち塞がる障害』と見て攻略を挑んだ猟兵。どちらの戦術が上であったかは、結果が雄弁に語っていたということだろう。
「ヒィッ、クアァァッ、アアァァァァッ! わた、私、私はァァ! 逃げる、逃げるぞォォ……! こんなところで消える訳に行くかァァ! そんなことをすれば、貴様らに安息を与えることになるゥゥッ! それだけは嫌だァァ! 勝つのは私一人だけだァァ! 私の影に怯え続けろォォ、人間ンン!! 私はまた貴様らを殺すために現れるぞォ! 貴様らが死に絶え、貴様らの子供が安心して孫を孕んだ時になァ! その時を楽しみに待っていろォ、キクククキカカカカカァァァ!!」
毒ガスも、そして神経毒も、羽弾も。現状全ての攻撃策を潰されて、それでも敵は諦めない。猟兵たちへの嫌がらせとして『人々の虐殺』を選んだ敵だが、それすらも叶わないという事実を知って、またもやその狙いを変えたと見える。往生際の悪いことだ。
次に『ジャックレイヴン』が行ったのは、毒ガスの散布。しかし、先程までのように毒ガスにある程度の密度と指向性を持たせて発射するものではない。敵はこの戦場から逃げるために、色の濃い毒ガスを全方位に広く散布しながら煙幕のように用いることで、自分の身を隠しながら逃走する作戦に切り替えた様子。人々の意識の中に不安という形で残り続けることで、『遠い将来における人々の意思』を殺そうという魂胆か。
――――だが、安易な逃げは猟兵たちが許さない。あまりに下劣で遠大な作戦も、だ。猟兵たちは人々の前進を阻む全ての障害を取り除くためにここに来ているのだから。
「あら、あたしにばかりかまってていいのぉ? ……足元がお留守よぉ?」
「――――ギャッハッハッハッ! 貴様らにとっては人々に文明を復興されると困るんじゃよな、オブリビオン?! 簡単に略奪ができぬ世の中は生きにくいよの~! だから文明再興のための道路や地図開発計画も『無理だ』『すぐに壊れる』と嘯く! 妾は三度の飯より煽りと邪魔が好きじゃからよ~……貴様の思い通りにならぬ『恒久的な平和』って奴を、何としても築きたくなってきたぜ~!」
「更に援軍だとォッ?! だ――――だがァ! この毒ガスの煙幕に紛れて逃げる私の姿を視認することなど不可能――――!」
「これ以上妾を笑わせんな、この鴉ヤロー! お前のそんな雑な作戦なんぞ、妾には一千万年前からお見通しだっつーの! そう簡単に逃がすわけね~~~じゃろうが、このダボ! とくと見やれ、ガラクタより組み上げし妾の華麗なる剣舞! せめて一思いに骸の海の藻屑へと還してやろうぞ! テメェは死ねーッッ!!」
気付けば、ティオレンシアの駆るバイクの後部座席にはアノルルイではない別の猟兵が座っていた。いつの間にかは定かではないが、ティオレンシアは先ほどの攻防の中でもう一人、新しい猟兵をここに連れてきていたのである。
途中でバイクから地上に飛び降りて更に走り、その人物は敵の意識を縫うようにして更に接近。彼女の名は神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)。既に『仕込み』は完了している。彼女が敵の目の前に姿を現したのは、『逃げ道など存在しない』ということを敵に教えてやるためだ。
ユーベルコード、【特機】。柄尻のデジタル表示器に1と刻印された、苦無のような形状の戦闘用ソードビットを大量に召喚するアマミの力であるが、彼女はこの力を敵を攻撃するために召喚したわけではない。
アマミは既に複数のソードビットたちを坑道のカナリアよろしく街中に先行させていた。それはまるで現在の戦場である『広場』を囲う包囲網のように広がっては、『ジャックレイヴン』が逃げようとしていた『大通り』への道を完全に潰していたのである。
「囲い込み、だとォ――――?! だがァ! そのような力の一本や二本、毒ガスに紛れながら突破すればどうということも――――!」
「そんな考えしか出来ね~~からテメェは妾たちに負けるんじゃよォ! 妾がバラ撒いたこいつがただの包囲網だと思うなど片腹痛い! 煙幕代わりに毒ガス!? ハッ、そりゃ良かったの~~! そんなもん、全部押し返してくれるわァ!!」
アマミの敷いた包囲網に気付いても、『ジャックレイヴン』は全身から毒ガスを撒き散らしながら進むことで身を隠しながらの移動を敢行し、アマミのソードビットも無理やり押し通るつもりでいるらしい。
しかし、だ。そんなことはさせないし、そもそもアマミの作戦はただの囲い込みだけでは終わらない。彼女の敷いたソードビットの一つが『ジャックレイヴン』の接近による腐食を感知したその瞬間、アマミの作戦は発動した。
毒ガスを検知したソードビットたちは、即座にその陣形を風車状に変形させると、高速で回転しながら強烈な旋風を起こすことで毒ガスの煙幕を押し返していく。アマミのソードビットによる包囲網は『ジャックレイヴン』の移動を封じると同時に、毒ガスに対しての対抗策でもあったのだ。
「ッ!? 何だァ、この風……ッ!! これでは、煙幕がァァ!」
「見付けたァァ! 30番から前は包囲を継続! 30番から後のソードビットどもは妾に集えェ!」
アマミの用いるソードビットたちの旋風を伴う連携陣は、瞬く間に敵の撒いた毒ガスの煙幕を消し去りながら敵の退路に立ち塞がるように展開。
既に『ジャックレイヴン』は『広場』から出られない。頼みの綱であった毒ガスの煙幕に紛れての逃走も、煙幕そのものを散らされてしまっては全く効果を発揮しない。それに、敵の姿が見えた以上――――そこに追撃をかまさないアマミではない。
「5から12は右翼を攻撃せい! 22から30は旋風陣を継続! 1、4、15、16は半回転回避!」
「ク、ガ、キ……ッ、小癪なァァァァァァァァ!」
「おーよ、小癪で結構! お前みたいな奴に手段を選ぶわけねーじゃろうが、お互い様よのー!」
彼女は巧みなソードビットの操作を行い、数の暴力で敵の思考を狭めていく。敵が空へ逃げぬようビットは常に相手の上を取る立ち回りを意識し、ちくちくと突くように牽制をかけつづける。
毒ガスによる散布への対処も同時に行いつつ、時折放たれる敵の爪や嘴による直接的な攻撃は避けることで数の優位を常に保つ。そして毒ガスに夜煙幕を完全に晴らし、敵へと近付いたアマミは、その手にソードビットの集合体を握っていく。その形状はまるで槍だ。
その正体は、装着した武器に浮力や推進力を賦与する反重力ユニット搭載の戦闘用の和傘を中心として、ソードビットを高速で周回・散開させながらランスのように束ねたもの。アマミの主装備である和傘と、ユーベルコードの合わせ技という訳だ。
「やめろ……ッ、来るなァ! 私が貴様らに負けるなどありえないッ! あってはならないィィ! 止めろォォォォ!!」
「あ~~?! 何じゃッてェ?! 悪いが聞こえんの~~! お前がこっちを話を聞こうともしないのに、どうしてこっちがお前の話を聞いてやらなきゃいかんのか、妾にはさっぱり分からんでなァ~~! 心置きなく、ここで死ねーーッ!!」
そして、アマミは走り出す。半重力ユニットによる推進力を得て、彼女は真っ直ぐ目の前の障害に向けて駆けていく。放たれるのは真っ直ぐな突き。和傘を中心としてソードビットたちが作り出した、ランスによる重い一撃。
半数のソードビットたちによる牽制を同時に行ったことで、最早敵は隙だらけだ。苦無のような形状のソードビットたちはアマミの和傘を中心に集まり、一つの方向を向いてどこまでも進んでいく。どこまでも愚直で真っ直ぐなアマミの突きは、まるでここまで来た猟兵と人々の精神性を表しているかのよう。
広場の瓦礫を蹴りながら跳躍したアマミが繰り出すランスの突きは、『ジャックレイヴン』の胴体に深々と突き刺さっていく。更に、ソードビットたちは敵の体の中で旋回。敵の身体を内側からズタズタにしていくではないか。――――彼女の攻撃は、敵に大きなダメージを与えることに成功したのである。
「ギャ――――ッ!! ギャ、アア、アアアアアアアアアアアアアアア!! ……ッ、この、クソ共が……ァ! この私が譲歩してやったのにィィ! ……ックククカカァ……! 良いだろう、そっちがその気ならァ――――! もはや毒など役に立たんわァ! 貴様ら猟兵も、塔の奴らも、私に敵意を持つ全ての愚かどもを殺してやるゥ! 少しでも貴様らの嫌がらせをして、華々しく死んでやるわァァァァ!! ――――【デッドレイヴン】ッ!」
「おーおー、良い感じに頭に血が上っとるわ! そのまま意識を散漫にさせてくれて構わんぞ、さすれば妾以外の他の猟兵がお前を討ち取るチャンスも生まれよう!」
「――――過去から這い出て諦め悪く、他人に『ムダだ諦めろ』などと宣う鳥頭……。明日への理不尽を退けるのが、ボクの役目だ! 『シヴィルズタワーに住む人々の明日の為に……キミを倒す!』 キララちゃん、準備は良い? アイツを倒すためには、キミの力が必要だ! やろう、一緒に! 誰も死なせないために! 皆で、前に進むために!」
「――――……ばかっ!!! いじわるっ!!! だいっっっっきらい!!! なにも知らないくせに、わらわないでよ! どうして塔の人たちをそんなにわらえるのッ!? はじまる前から『むり』って言うほうがおかしいでしょッ!! ……うんっ! いいよ、リア! きららね、『できないことなんかないんだ』って言いたくて絵を描いてるの。――――だから、ここにきたのッ!」
アマミの攻撃が敵を追い詰め、そこに続くのはリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)とキララ・キララ(ワールド・エクスプレス・f14752)の二人組。彼女たちは静かに村長宅の屋根の上に降りたつと、『その時』を待つ。即ち、敵へトドメの一撃を喰らわせるチャンスをだ。
リアが敵の動きを演算解析していく傍らで、キララが構えたスプレーで何かのグラフィティを大きく大きく描いていく。既に敵は息も絶え絶えだが、だからこそ撃破の仕方は選ぶ必要がある。これは精神性の話だ。『ジャックレイヴン』が人々の前進に立ち塞がる『障害』である以上、敵への止めは真っ向からの攻略によるものでなければならない。
そのことをここにいる全員が理解しているからこそ、リアとキララの放つ一撃を援護するために他の猟兵たちも動いていく。
「ンッンー、良いねェ! こういう構図になったんなら、俺らも黙ってられねえよなァ! ――――『指揮』は任せな、十二分にやってやる! まだやれるか、『ダーティーギャング』ども!」
「ああ、勿論だ……! ここで引き下がれるほどおとなしい性格はしてないんでな! 何でもやるぜ、ヴィクティム! 指示をくれよ! 俺らは『ウィザード』の指揮に従うぜ!」
「フーン、成る程ね。それじゃ、ボクらは引き続き牽制をやろうかな。爺さんたち、まだいける? 歳なんだから無理しないでくれて良いんだよ?」
「おいおいマルコ、年寄り扱いするんじゃねェや! 猟兵たちも頑張ってんだ、俺らがここで出張らねえでどうすんだよ! ――――付き合うぜ、最後まで!」
この状況で包囲網を敷いていたのは、何もアマミだけではない。ヴィクティムとマルコ率いるシヴィルズタワーの人々や、『ダーティーギャング』たちもそうだ。
彼らは先ほどの『ジャックレイヴン』の襲撃を受けて敵から距離を保っていたのだが、アマミの活躍とソードビットによって包囲網が狭まり、敵の身動きが取れなくなったのを見計らって再度敵に接近してくれていたのである。
ヴィクティムの『指揮』によって連携の取れた動きを見せる『ダーティーギャング』たちは、『ジャックレイヴン』の放った屍鴉たちに立ち向かい、鉄パイプや鎖を上手く用いながら集団で敵の攻撃を減らしていく。
マルコの率いる銃撃隊もそうだ。空中を舞い踊るようにステップを踏みながらマルコが敵の攻撃を撃ち落とせば、彼の射撃に合わせて塔の人々も地上から弾幕を張り、リアとキララに襲い掛かろうとする敵の攻撃を遠距離から削ってくれている。
「――――地に墜ちたな、鴉! 心根の奥底まで腐れていたとは知らなかった! 感謝するぞ、これで何の憂いもなく私たちは貴様を越えていける!」
「――――最後の最後に選んだのが、『逃げ』と『他人への嫌がらせ』!? ふざけるな! お前の目論みは全て無駄だ……ッ! 俺たちは、お前になんて決して負けないッ! 誰も死なせるもんかァァ!!」
最後のあがきに空中で今も屍鴉を放ち続ける『ジャックレイヴン』へ、空中の空間を削り取りながら超高速で飛来する影があった。その影は、次元斬を連続で用いながら、空中に道なき道を斬り拓いて進むオヴェリアである。
『ジャックレイヴン』の放ち続ける屍鴉たちへ、大気中の水分を即座に凍らせながら空中に道を創造し、超高速で滑走してくる人物がいた。その人物は、得意の氷魔法によって道を創り出しながら進むヴァーリャである。
オヴェリアは敵の意識の外側から、一気に開いた次元断裂を通って至近にまで接近してみせると、そのまま居合いのように覇剣を腰元に構え――――敵の嘴を、一刀の元に斬り伏せる。
ヴァーリャは自らの氷魔法を惜しみなく用いて、空中を飛び回る敵の屍鴉たちを、空気ごと圧縮して凍らせていく。【血統覚醒】を行い、戦闘能力を増大させている今だからこそ出来る荒業だ。
「やれやれ、人々の行進曲はまだ序章に入ったころだというのに! しかしまあ、このあたりで第一楽章の締めに入るのも悪くないか!」
「ふふ、それも良いんじゃないかしらぁ。だって歌劇の第一幕は、皆が力を合わせて化け物を討伐するところで幕が下りるものでしょう? これから彼らがどうなるかは、第二幕でのお話ってことで、ねぇ?」
「そういうことよ、これ以上妾たちが口だしするのは無粋ってモンよな! 赤ん坊の世話をしてる訳でなし、もう塔の人々は自分の足で歩いていけるじゃろうて!」
アノルルイの使役するフェニックスが、アマミのソードビットたちと連携しながら敵の退路を断っていく。火の鳥が用いる熱と温度をソードビットが旋風に乗せて敵を焼き、敵が怯めばさらに追撃といわんばかりに空中に浮かぶソードビットたちが敵の翼を切り裂いていく。
空中を走るティオレンシアの放つ鉛玉は、『ジャックレイヴン』の屍鴉たちを纏めて排除しつつ、彼女は時折グレネードを投擲することで敵へ大きなダメージを与えていくではないか。
ここにいる全ての人物は、今まさに一丸となって『障害』を乗り越えるために動いていた。あとは止めを刺すだけだ。ほんの僅かな負け惜しみさえも許さない、とっておきの止めを。
敵の放つ屍鴉たちを押し留めながら、アマミはその間に自然とソードビットの包囲を一部分だけ緩めていく。逃げ道をわざと作り、敵の動きを制限するためだ。開いたのは『ジャックレイヴン』の上空。空中に張られた包囲網から逃げ出す、空への道。
「ッガ、……ァァァァァ! ムダ……! ムダ、ムダ、ムダだァ……! 貴様らのやることに意味などない……ィ! 価値などないィィ! 屍鴉ども、ヤツらの全てを破壊しろォォォォ!! こうなれば相打ちだァッ!!」
「――――そう来ると思ったよ。追い込まれれば上空に逃げる時があるはず、ってね。皆が作ってくれたチャンスだ! ソコを狙わせてもらう! 『ヌァザ、次元干渉最大出力、虚数空間にアクセス』ッ!」
「――――お兄さんたちはグラフィティを続けるよ。心にあるものはなくならないもの。道を作りたいって、先へ進みたいってきもちだっておんなじ。なくなったりしない。一回わすれものしちゃったあとは、もう落とさないの。ぜったいに! だから、ぜったいにむだじゃないッ!」
猟兵たちと人々が追い詰めた敵は、アマミがわざと作り出した上空への逃げ道を通ってリアとキララへ迫る。既にその身は限界だろうに、それでも彼が取る作戦はどこまでも卑劣で後ろ向き。最後に敵が繰り出した戦法は、自分の前方に屍鴉たちを大量に召喚しながらの体当たりだ。
『こうなれば自分諸共』とでも思っているのだろう。勝ちを諦めた敗者の考えだ。それでは猟兵たちに勝てる訳もない。敵の欲望はどこまでも後ろ向きだ。前を向いて歩く人々の、猟兵たちの力に及ぶはずがない!
「ヌァザ、次元回廊を! 既にこの空は既にキミの支配権に非ず! この世界の空は彼らのものだ、どこまでも進んでいく人々の! キミの狙いは僕たちを押し留めることだろうけど、それはもう無理なんだ! ――――人は自分の脚で歩き出したッ! 何が相手であろうとも、彼らの歩みを止めさせはしない! ターゲットスコープ電影召喚(コール)。照準誤差修正、0.3……ターゲット・ロック! 【未来を拓く光芒一閃】、発射ァッ!」
【未来を拓く光芒一閃】。リアの用いるユーベルコード。戦艦の主砲と連動させた銃のトリガーを向けた対象に、リアの真の姿――――機動戦艦ティル・ナ・ノーグの重力波動砲を発射することでダメージを与えるという力。
リアの多元干渉デバイス『ヌァザ』が、彼女の背後に次元回廊を拓いていく。拓かれるのは万物へと至る魔法の道。それは次元を、空間を、限界を越え――――。いいや、例え越えるものが何であろうとも、『遠く離れた二つの場所を繋ぎ合わせる』ための回廊だ。
彼女の攻撃は示した。必ず道は繋がるのだと。一体何が障害になるものか。道路建設を続けていく限り、二点間がどれだけ遠くとも、必ず道は繋がるのだ。リアの全力魔法は、彼女の在り様は、それを人々に教えてくれている。
『セブンカラーズ』をその手に握り、リアは遠く離れた世界に存在する、自らの艦の主砲をこの場に呼び示した。――――撃鉄が落ちる。放たれる主砲の一撃は、彼女たちの、人々の行く手を阻もうとする屍鴉たちを全て薙ぎ払っていく。多くの猟兵たちが協力してくれたからこそできた、大きな戦果。
「きららがスプレーで描いたものはね、本物みたいにうごくのね。鳥ならとぶよ。水ならながれていく。だからこれから描くものは、遠く高くまでとどくはず! ――――みんなじぶんが来たいからここまで来たの! これからまだまだずーっと遠くまで行くの! つらいことも、かなしいことものみこんで! どこまでも進んでいくって決めたから! 【レインボー・ディスコ】! ――――進むんだ! この車輪と、いっしょに!」
【レインボー・ディスコ】。キララの用いるユーベルコード。スプレーで描いたグラフィティアートが命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形に同一テーマのモチーフを描き、その上に立つ自身の戦闘力を高めるという奇跡。
キララが先ほどから描いていたのは、一つのシンボル。『車輪』だ。勢いが付けばどこまででも転がっていく車輪だ。一つだけでは脆弱だが、数が合わされば大きなものだって動かせる車輪だ。彼女はそれをこの戦場に描き、そして敵にぶつけようとしているのだ。
人々の進むべき先を。前進するという思いを。
ヴィクティムが示した『運命への挑戦』を。マルコが示した『協力と連携』を。
オヴェリアが示した『礎への意思』を。ヴァーリャが示した『理不尽への怒り』を。
アノルルイの示した『恐怖に抗う希望』を。ティオレンシアの示した『挫折からの再起』を。
アマミの示した『悪に屈さぬ熱意』を。リアの示した『道へと至る未来』を。
――――その全てを、キララは『車輪』というシンボルに込めて『過去』へと放つ。負けるものか。何が相手だろうと、人々はこれから先へ進むのだ。苦難も後悔も乗り越えて、彼らは進む。新たな街を目指し、新たな交流を得るために。
決して無駄なものか。全員が立派で、全員が必要だった。誰一人呆気ても、この作戦は成功に至らなかった。誰も死なせるものか。一人の命だって無駄だといわせるものか。道路が壊れたらまた直すさ。そのために地図を描いている。ジップラインだって通ってる。挫折が何度訪れようと、その度にまた立ち上がってやればいい。
この作戦には、この前進には、この成功には―――命を懸ける意義がある。だから、皆ここまで来てるんだ。
「――――ッ! 猟兵さんたちに続けェェェッ!! あいつを撃つんだ! ――――運命に負けて、諦めていた『過去』を穿つ! 他の誰でもない、俺たちの手でッ! 道路を繋げるぞ! 地図を描くぞッ!! 俺たちがやるんだ! 俺たちが、自分の手でッッ!!」
「グ――――ァァァァァァァァ――――! 私が、消える――――!? 馬鹿なァ……! バ、カ……な…………ァ……! あァァ……! うら、や、…………」
リアの放った主砲が『ジャックレイヴン』までの道を切り開いて。キララの放った車輪が、敵に向かって走っていく。
それを受けて、人々たちも敵に火力を集中させていく。銃や武器があればそれに頼り、無ければ石を拾ってそれを投げつける。
一つ一つは小さくとも、多くの車輪が合わさって、そこに勢いが生まれれば――――動かせないものは、きっとこの世のどこにもない。
『ジャックレイヴン』は、猟兵たちと人々の攻撃を受けて跡形もなく消え去っていく。
――――作戦は成功だ。君たちは、この世界初めての道路建設を成功させたのだ。きっとこれから、シヴィルズタワーの人々はその勢力を広げながら多くの文明と出会い、多くの障害を乗り越え、同志を増やして文明を取り戻すだろう。
全ては君たちのおかげだ。実に見事な手際であった。君たちの全ての行動に、精一杯の感謝を。
●シヴィルズの車輪
――――かつて、夢のような計画があった。
ひび割れた荒れ地に道路を造り、遠く離れた二点間を繋ぐ。最初は誰もがその計画の実現を信じなかった。
それも、一番最初に彼らが目指したのはただの光だったという。遠く、遠く、霞んだ空にうっすらと見える『モールス信号』。それを目指して、未踏の大地へ一から道路を作っていく人々の覚悟は、まるで如何ほどのものであったのだろう。何が彼らをそこまで駆り立てたのだろうか。
希望? 熱意? それとも飢え? 今では何もわからない。ともかくその計画は、その時代にいる誰もが夢に見ながらも、しかして実情を知れば誰もが溜息をついて諦める類のそれだった。
誰がこんなことを思い付くのだろうという計画への感嘆は、すぐに誰が実現にこぎ着けるのだという現実からの落胆に変わったはずだ。それ程までに、彼らの置かれた状況は劣悪であった。
理想だと笑う奴もいただろう。諦めろと罵倒を投げかける奴も居たはずだ。だが、しかし――――。彼らはやり遂げた。『理想』とは『叶わぬ夢』の代名詞でも、『諦めることの言い訳』でもないことを、彼ら――――私たちの親世代は証明してみせたのだ。
今でも道路の設営と地図の作成、ジップラインの設置は続いている。未踏の大地へ、まだ見ぬ世界へ、ここではないどこかへ繋がるために、道はどこまでも続いていく。
一番最初は、塔からこの街へ。この街も元々は廃村だったという。『シヴィルズタワー』という父たちの故郷から繋がった廃村を貿易の中継基地として利用するうちに、そこにコミュニティが生まれ、街となったそうだ。
進んでいく中で、ダンスやスケートという娯楽を人は覚えた。歌や演奏といった音楽を思いだした。絵を描く喜びをその手に掴んだ。人を思いやる陽だまりの心を、命を繋ぐ医術を、日々の楽しみになる酒造を、交流と発展を盛り上げる商売を、前へと進むための覇気を、障害へと立ち向かうための機械の扱いと銃の扱いを。
父から聞いた話では、そういったものは『猟兵』という方々が私たちに教えてくれたものだという。その他にも、猟兵と呼ばれる人々が私たちに進むための切っ掛けをくれたのだと。最初に作られたという地図の片隅には、彼らの名前と車輪を模したグラフィティが今も記されている。
いくら道路を破壊されてもその度にまた立て直す。歩いて、叩いて、踏み固めて。道路はそこにある。地図はここにある。人の営みは前進する。どこまでも、どこまでも前進する。一回りするごとにエネルギーを増して、加速を続ける車輪の如く。
人の歩みは止まらない。人の欲望という名の歩みは止まらない。探求と渇望こそが人の営みの原点であり、我らが手に入れた尊きものこそがそれだと。そのプロジェクトには名前があった。遥か未来にまで受け継がれてきたこのプロジェクトを、人々は敬意を込めてこう呼んだ。
その計画の名は、『シヴィルズの車輪』。
私たちが今でも誇りに思う計画の名前だ。
大成功
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