ヘイお待ちィ!!スープ一丁!!!
歩む皆の頭の奥に、嘆きが響いている。
…おなかすいたよう。
…おなかがすいたよう。
ひとりまたひとり、減ってしまう。
忘れ難い、胸に焼き付いた光景。
自然と言葉が口をつく。
…大丈夫だよ…大丈夫…。
決意の響き。皆の意思はひとつだった。
これでもうすぐ…もうすぐだからね…。
足音が減る。
それでもささやきは止まらない。
待っててねえ、もうすぐだからね、ひもじくてごめんねえ…。
やがて声も消える。
林檎が、転がっていた。
●おいお前ピザ食わねえか!?
「いやピザじゃなくてもいいんだけど」
イージー・ブロークンハート(硝子剣士・f24563)は椅子に浅く座り、林檎を片手で軽く上へ投げては取りながら語る。
「腹減ったやつが旨そうに飯食うのはほっとするよな」
一回、二回。リズムよく遊びながら下町生まれは笑う。「今回はそういう話だ」
「アポカリプスヘルにおいて食料は常に問題だ」
林檎が宙に踊る。
「飢えに飢えれば誰しも考えるよな?」
ひときわ高く投げあげられる。
「『ああ、何処かから食べ物が現れないかな』」
林檎が宙で舞い、落下する。
「オレたち世界を渡る猟兵なら、そんな様を見りゃこうだ」
ぱしん。
「『ああ、あるところから分けてやれたらなあ』」
猟兵の手の中の林檎。
「残念ながら不可能だ」
禁忌の果実。
「いや、出来るんだが一定量超えりゃどうしたって揺り戻しがくる…とんでもない数のオブリビオンを呼び寄せる」
そうなれば周囲の被害は多少なりとも免れまい。
イージーは膝の上に林檎を置いてナイフを取り出した。「…メシ届けても食い手がいなくなっちゃな」
ナイフを人差し指とともにたててる。
「ところがだ」にやっと笑った。
「見つけちゃったんだな〜〜〜被害の出ないとこ〜〜!!」
剣士は輝んばかりの自慢顔で「これで支援ができるってわけだぜ〜〜〜」ナイフをくるくる回し「あてっ」よりによって弾ませ自身の頬をかすめ切った。
「…、」やがてぷっくり膨れた血。ため息をついてイージーはナイフを恨めしげに見つめた。いや自業自得だ。
「…ただ場所が問題でな」
指先で血を拭い、話を続ける。
「ありふれた荒野のど真ん中なんだが…だからこそまず間違いなくモヒカンどもに見つかるんだな」
ナイフに血がついていないか確認をし、「そも山と荷物を持ってりゃどうしたって目立つしよ。しょうがねえって」
しまう。
「かと言ってモヒカン撃退に下手にぶっ放しゃ大事なおまんまがダメになる。盗られるなんざ持ってのほかだぜ?」
再度、林檎を手に取った。
「というわけで現地に着いたらまず全力でぶっ飛ばして走れ、振り切って逃げろ」
軽く林檎を掲げ示す。
「振り切ったら異世界の物品の持ち込み量過重のせいでオブリビオン・ストームが発生する。
あいつらは物資には目もくれない…オレらのお得意分野、殲滅戦だ」
林檎に息を吹きかけてみがく。
「あいつらはいずれその地に現れるものだったから、自然発生の前に手も打てても一石二鳥!ってな」
そこで言いにくそうに手を止めた。
林檎をみつめてこぼす。
「…むしろ前に討つ機会があってほんとによかったと思う。
あいつらのことは、現地のやつが知らないまんまの方がいいんだ」
頼む。駆逐してやってくれ。
懇願は、真摯だ。
「それが終わったら物資を各拠点に届けて炊き出し!」
何かを振り払うようにイージーはにっこりと微笑んだ。
「飢えたみなさんがごまんとお待ちだ。せっかく届けたのに腹減った勢いのまんま、すげえ食われちゃっちゃ目も当てられんからな、そこらへんの管理も兼ねてな!」
あなたの得意料理はなんだろう?
あなたの故郷の味は?
そもそも、あなたはそも料理ができるだろうか?
できなくても、大丈夫。向こうの味をすこうしいただくのもいいかもしれない。
「みんなと食うあったかいメシって美味いじゃん?」
生きるには他者の血があればいいくせに喜んで人と変わらぬ飯を食うグールドライバーは、そう笑ってきみたちを送り出す。
「じゃ、是非よろしく」
いのと
はじめまして、あるいはこんにちは。
いのとと申します。
好きな家庭料理はひじきの煮物です。
タイトルと出だしの差で風邪引きそうですね。
受付期間はマスターページをご覧下さい。
一章では好きな食料を好きなだけ担いでモヒカン相手にテンション高くヒャッハーとレースし、(ネタ度高め)(持ってくものを追記いただくと盛り込みます。)
二章でちょっとほろ苦く戦闘をし (ちょっとシリアス)
三章で飯をつくって食う会になります。(ほっこり)
猟兵のあなたは食べ物について考えたことはありますか?
こだわりは?
あったかい家庭料理をいただくというのは贅沢ですよね。
それでは荷物を持ちまして、ごはんをつくりにいきましょう。
誰かを生かすために。
おいおめえピザ食わねえか!!!!
ご参加、お待ちしております。
第1章 冒険
『Dead Hell Race』
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POW : 妨害上等!!返り討ちにしながら走る
SPD : 直線やカーブで技術を見せながら差をつける
WIZ : コースを把握し、戦略を練って時に妨害しながら走る
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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■モヒカンにはモヒカンを■
ドゥルンドゥルンドゥルンドゥルン…
「よお来たな猟兵!待ってたぜェ
!!!!!」
君たちをモヒカンたちが出迎えた。
派手なバイク意味不明のトゲがついたトラック、オープンカー。どいつもこいつもライトをギラギラ鳴らし煙を噴いている。
見た目からしてアウトだった。
「待て待つんだヤングマン!!!オールドメンナイスガイズ!!!キュートガールビュゥティフルレディ!俺は味方だ
!!!!」
サングラスを外した瞳が意外とキュートである。あっちの病弱に白いくせに立派に太ったな巨漢が歯を光らせて親指を立てる。上腕二頭筋にハートの中に可愛らしい猫の刺青をしていた。猫派らしい。
「目には目を!歯には歯を!モヒカンにはモヒカンを!!」
ちょっとよくわからない。
「つまり俺たちはアポカリプスヘルをヘル(プ)するスウィートでキュゥウトなピーポーオブザグラス!(一般人)よ!」
もうよくわからない。
「さあ乗せな、そのブリリアントでインポゥタントなデリィシャス・グット・メシアンシングスを!飯だけに!
そして乗りな!そのライフをライトにかけてメシ届けようというメシアンども!飯だけに!!」
ちょっとよくわからないが味方だということはわかった。ギャグがしつこいのもわかった。
つまりこれに乗って(載せて)駆け抜けるというそういうことらしい。
君たちが乗る頃、ウゥウウウウウェエエエエエエエエェイイというもうどこから突っ込んだらいいのかわからないサイレンを高鳴らしモヒカンがおかわりで現れた。
「ウェエエエイウェイウェイウェイウェイヒャッハーーーーー!!!!そのメシよこしなメシアンども!!メシだけに!!!」
流行ってるのだろうか、その洒落。
「飛ばすぜ飛ばすぜ飛ばすぜ飛ばすぜ
!!!!」
何はともあれレースである。
荷を守りつつ振り切らねば飯はない!
もちろん君たちはこのピーポーオブザグラス(民草)モヒカンよりいい乗り物を持っているのなら使うべきである。モヒカンは喜んで盾になってくれるだろう。命の心配はしなくて良い。このピーポーオブザグラスモヒカン、雑草だけに丈夫である。
『激しいレースが予想されますね』
解説ついてきた。
『ミナ・サマの素晴らしいご活躍の解説はわたくし善良なモヒカン“刈り上げは右斜八十度に左車線を入れてこそ正義”略してカリタニ・サーンがお送りします』
ねえこれ食料がかかったわりとシリアスなレースじゃないの?
流石物資痩せ細るアポカリプス・ヘル!
ツッコミすら不足しているのである!!!
かくして始まるメシ・レース。
検討を祈る。
「あっぼくらこう見えて非力なんで護衛のほどよろしくお願いします」
カイム・クローバー
いや、良い。先に言ってくれ。二人乗りだと出力が落ちるだろ?こいつもあるしよ。(隣の四次元トランクをポンポン叩く)バイクは心配しなくても向こうから来てくれてる。
先頭のモヒカンを一発ぶん殴ってバイク強奪。…トゲだらけの如何にもなセンスだが──ま、俺が乗れば何とかなるだろ。
【運転】と【操縦】と【騎乗】で味方のモヒカン軍団を追いかけるぜ。UDCじゃヘルメット着用が基本だが、こっちじゃそんなモン必要ない。
警察に追われる事も無い。…代わりに妙なのに追われてはいるが。
バイクに乗りつつ、片手で銃撃。殺すつもりはない。追えなくすれば良いだけだろ?例えばタイヤを撃ち抜いたりとかな。
よぉ、モヒカン。アンタ名前は?
■冷奴(クール・ガイ)湯豆腐(ホット・ガイ)高野豆腐(ハードマン)■
「いや、良い」
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は片手を上げて断った。
「ゥワッツ?」
サングラスにカイムを映し迫ってくるモヒカンに笑って首を振る。
「二人乗りだと出力が落ちるだろ?」
「…ま、ザッツ・スペース通りだが…」
おそらくその通りだという意味だろうがとりあえずカイムは突っ込まない。突っ込んではいけない。
「こいつもあるしな」
ネタへのガンスルーを決めたまま軽く叩くのは持ってきたトランクだ。いつもの武器以外で彼の荷物らしい荷物といえばこれぐらいである。「フンム…」モヒカンは唸り
「ミィのバイクがワン・クールガイとトランク程度でアレらにキャッチされるとドゥーユーシンク?」煽ってくる。
…このトランク、実は4次元であるが、やや古めいた外見からでは想像もつかないだろう。
「思っちゃいねえよ」カイムは笑いながら首をすくめて一歩下がる。
「こういう仕事を買って出るくらいだ、あんたのマシンを疑ってるわけじゃない」
モヒカンがわざわざ煽りながらサングラスで太陽光を反射してカイムに当ててくるので非常に眩しかった。「ンーフン??」「あんたならわかるはずだぜ?」
ぱっと両手を広げて見せる。「ひたすらの荒野にこの快晴」モヒカンはそこで気付く。
「トバさねえ理由がねえ」
カイムの瞳が少年のようにきらきらと輝いていたのを。
「バイクなら心配しなくても向こうから来てくれてる」
…そしてカイムは一人、一般モヒカンのバイクの群れに別れを告げて荒野に立っていた。
『おおーっとどういうことでしょうカイム選手』
さっそく解説が入る。
選手ってなんだ。突っ込んではいけない。
『な・ん・とッ乗っていません!レースなのに乗ってません!!スタート直後のインポゥタントでギリギリッシュなこのタイムに余裕のTO★HO(徒歩)ッ!!!バイクに勝る快脚ダッシュを見せてくれると言うのでしょうか!』
しません。
『これは期待が高まります!!』
「しねえ」
流石に言わないと走れコールでも始まりそうだったので釘を刺す。『Oh……』「残念そうな声出すな」猟兵に何期待してやがる。
先ゆくグッド・モヒカンどもを見送り振り返れば無数のデス・バイク。思い思いのデコレーションに過激過剰な改造が施されたそれらが地平線を霞むほどの砂埃を巻き上げながら一直線に向かってくる。エンジンの熱とギラつくパーツでなかなかに迫力があった。
「ウェイ↑ウェイ↑ウェイ↑ウェイ↑ウェーーーイ↑↑↑」
…言語がウェイでなければ。
ウェイウェイ吠えながら突っ込んでくるのだが音程が段々上がって裏声じみている。耳に悪い。
「ウェイ!ウェイウェイ↑ウェイウェ〜〜〜イ?」
(訳:「あれは獲物ですか?」)
段々ウェイ語が聞き取れてくる気がしてしまう。
「ウェイ!」
(訳:「ウェイ」)
待って今返事になってない奴がいた。
…ツッコミどころは無限にあれどやはり全力で総スルー。突っ込んではいけないアポカリプスヘル24時である。
ひい、ふう、みい。カイムはこちらへ向かって突撃してくるバイクを何機か指差す。はたから見れば指さし確認だが、その指は明かに迷いを含んでいた。
「…どうもどいつもこいつもトゲだらけでいかにもな…」
段々カイムの表情が渋面になる。「…モヒカンにセンスを求めんのも酷か」
やがてひとりごちて諦め、大きくため息をつき「っと」剣を抜いた。
「ウゥウウウウウウウウウウウェエエエエエエエエエイイイイイヤッハー!」
鎖を巻きつけたパイプを振り回しながらバッド・ウェイ・モヒカンが突っ込んできていた。
「ウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイ
!!!!」
一番槍を気取っているのだろう。多分いつもより多いウェイで本日の奇襲はお送りされている。
カイムは非常に長〜〜くため息をつき
「悪ぃ、ウェイ以外で頼む」
剣の腹でぶん殴った。
バン
!!!!!!「ゴハンッ!!!」哀れ悲鳴を上げて吹き飛ぶモヒカンに転倒するバイク!『ヒットーーーーーーーー!!!』そして何故か入る野球のカウントッ!!
カイムは倒れたウェイに大股で近づき「ウェイ!?」とどめを刺されると思ったウェイは身構えーーー
「借りるぜ」
カイムはウェイをスルーしてバッド・ウェイ・モヒカンのバイクに跨りエンジンをふかした。
そ う 。
強 奪 で あ る 。
「ウェイ!?」ウェイの困惑など、どこ吹く風。カイムはバイクで走り出し「あ、やっぱバイク乗ると日差しキツいな」バイクを一度ターンさせて戻り「こいつも借りるぜ」モヒカンからサングラスまでも頂戴する。「アーーーーーーッ!!
容 赦 が な い 。
「アイデンティティーーー
!!!!」
バイクとサングラスを奪われたモヒカンの悲鳴。いやお前のアイデンティティは他にもあるだろ。名前がアイデンティティを語ってるだろう。
『盗んだバイクで走り出すーーーーーーーーーーーーーッッ
!!!!!』
解説のシャウトへカイムは自慢げに笑って答えた。
「どうよ」
『どうよとはYouがどうよーーーーーーーーーーーー
!?!?!?』
なかなかにアポカリプスヘルなバイクにトランクを積みサングラスをかけてコートをはためかす図はレースをエンジョイしているといって差し支えない程度には楽しそうである。否。
「ご機嫌いかがってか?」
カイムは笑いながら更にアクセルを踏む。
岩一つスピードのまま突っ込んで乗り上げてジャンプ!「ヒュー!!」歓声をあげる。
アクセルはベタ踏みのまま。燃料をかっ喰らって廻るエンジンの振動音はたくましく、浴びる風は心地よい。
「うざいヘルメット無しでぶっ飛ばせる上に面倒臭え速度制限もお巡りも無し」飛越せぬ岩は車体を傾けてまでの急カーブでかわし「このボケ倒しヘルにまで」『アポカリプスヘルです!』「来た甲斐があったぜ!」
あんなにも離れたグッド・モヒカン軍団へあれよあれよと迫る。
『もしかしてこの男、バイクに乗りたかったーーーーーーーーーー
!?!?』
「いやいや…」解説の指摘へ悪ガキの笑みのままカイムはサングラスを下へずらす。「ちゃんと依頼で来た便利屋だぜ?」視線を一度だけ動かす。ミラー。後方確認。
「ちゃんと仕事もするさ!」
そのまま振り返ることなく、後方へ銃をぶっ放す!
破裂音、そして焼けつきそうなブレーキ音がいくつも重なる。
続いて右手でハンドルを握ったまま今度は大きく後ろを振り向き左腕伸ばしーー銃を倒したまま横一直線に連射する。
「ビンゴ」
何がどうなったか。
最初の一発で追っ手たるバッド・ウェイモヒカンのバイクのタイヤを打ち抜き、そいつがスピードを緩めたせいでスピードを落とさざるを得なくなった後続車のタイヤを続けざまに撃ち抜いたのである。
『敵方に死者、無し!』
カイムはサングラスを上げ前を向く。
これで相当な時間稼ぎにはなる。
意気揚々とバイクを走らせるカイムに解説の賞賛が贈られる。
『冷奴(クール・ガイ)と見せかけてなんという湯豆腐(ホット・ガイ)でしょう!いえ、その肌の色に敬意を評して高野豆腐(ハードマン)というべきなのかもしれません!!』
「いやその名は辞退させてくれ」
ルビが良くても字がアウトであった。
「よぉモヒカン」
カイムはそいつとバイクを並行に走らせる明るく声をかけた。あの最後尾からずいぶんと先頭近くまで来たものである。
「お前、名前は?」
相手はピープルオブザグラスモヒカン(民草)モヒカンのうち、カイムに乗れと言ったモヒカンである。
もちろんこれは様々であるとはいえ名前の通りピープルオブザグラス(一般人)“モヒカン”の集団なので何名かのモヒカンが振り返ったのだがそれはご愛嬌。割とよくあることなので誰も突っ込まず会話は続く。
「Oh、冷奴(クールガイ)」「カイムだ」
へっ。モヒカンは笑う。自嘲と皮肉めいて。
「俺ァかあちゃ…ディアレスト・マミーから貰った名前は、アポカリプスヘル・ヘル(プ)・モヒカン・ハイウェイに入った時にペイしちまっててね、そんなご立派な名前はねェのよ」
単語がちょいちょい引っかかるが内容が結構真剣な話題である。「…そうか」カイムは静かに相槌をうった。「だがあえて名乗るんならそうさな…」モヒカンは天を仰ぐ。バイク運転中なので前を見てほしい。
「アイオブザインテリジェントアンドキューティ、略してインスパイア・ジョンだ」
「全っ然略称に引っかかってないんだが?」
さすがにツッコミを入れた。
「ミーが勝手に名乗ってる名だ、ジョンで呼んでくれ」「…おう」最初からジョンと名乗ればいいのでは?疑問は脇に置いておこう。
「いやしかし恐れ入ったぜ、一人で残るといったワンスアポンアタイムはどうしようかと思ったが」モヒカン・ジョンは歯を見せて笑う。
「流石だぜ、荒野豆腐(ハードマン)」
「いやだからその名は辞退させてもらうっつってんだろ」
高野の字を荒野に変えてもそれは許されない。
彼は本日何度目かの大きなため息をつき、名乗る。「カイムだ」
其はブラック・ジャックのスート。
「カイム・クローバー」
成功
🔵🔵🔴
シエラ・バディス
チリソース、コンビーフにコーン缶……
それに各種野菜の入った缶詰に小麦粉、それから飲み水!
これくらいあればスープにしてもパンにしても作れるかな。
さぁ棺桶に全部詰め込んで運ぶよー!(『怪力+運搬』)
近づいてくるモヒカンはスコップで叩いて追い払うか、棺桶のシールドアタックで吹き飛ばすね。
距離が開いたらスコップとかじゃあどうしようもないなぁ…
あんまり使いたくはなかったけど操り糸を『操縦』して、『怪力』任せに乗り物を『部位破壊』。
乗り物が使えなくなったら流石に追えないよね?
※アドリブ・連携等歓迎です。
■ハートより重きキャニングあろうや?■
「なん、だと」
モヒカンに 衝撃 走る。
「え?どうしたの?大丈夫?」
バイクのサイドカーに乗ったシエラ・バディス(死して彷徨う人形・f15798)はモヒカンを見返す。
(ちなみに補足であるがシエラを乗せて走るバイクのピープルオブザグラス“民草”モヒカンは25cmほどの一本のトサカをのばしその上5cm部分のみを三つ編みした男である。シエラが名前を聞いたら自分はモヒカンの長さとおさげについての素晴らしい関係についての持論を強く持つモヒカン、略してヨッちゃんだと言われた。ヨッちゃんの由来はどこだろう。髪を縒っているというあたりだろうか。
なんかもう色々あるがとりあえずシエラは深く考えずヨッちゃんと呼ぶことにした。略す前より人名っぽいし。)
「なんだかゆっくりだね」
バイクはトロトロ走行。バッド・モヒカンの群れを振り返りつつシエラが声をかけるもヨッちゃんからの返事はない。
モヒカン・ヨッちゃんの瞳は計器を見ていた。
「機械トラブル?」シエラも身をのりだし計器を覗き込んでみるが改造が酷くてわからない。すべての計器の針にアヒルちゃんが乗っている。何か一つだけ針が思いっきり右にふれてメモリを飛び出しているな、というぐらいだ。大人しく座る。
「スゥィ〜〜〜〜〜ト・グゥウウッッッド・レイディ・シエラ、ユーの荷物は…」
「うん、この棺桶」
シエラは同じサイドカーに乗せた棺桶を軽く抱きしめるように示して微笑む。
屈強な男性ひとりも易々と入りそうな2mほどのそれ。
「フゥウウウウウウイ…!」モヒカン・ヨッちゃんの頬を脂汗が流れた。
その針が飛び出している計器の項目の名は“重量”。
「チリソース、コンビーフにコーン缶、それに各種野菜の入った缶詰に小麦粉、それからの飲み水」
シエラはそれを“軽々“と持ち上げて、“軽々”とやさしくかるく揺らした。
ちょっとすごいやばいすいぶんのしっかりはいったきんぞくがほんとまじしっかりつまったおとがする。
「…キャニング(缶詰)…!」モヒカン・ヨッちゃんの口からこぼれる戦慄。
シエラは棺桶をなるべく優しくサイドカーに置く。これは大事な食糧なのだ。ドゥン。置いた衝撃でヨッちゃんのケツが一瞬ちょっと浮いた。
「これぐらいあればスープにしてもパンにしても作れるかなって」
できるかぎりのことをできるだけやろうと、めいいっぱい詰め込んだ、心遣い。
「なん、だと…」
モヒカンに 衝撃 走る。(※本日二度目)
モヒカン・ヨッちゃんは自身のトサカと同じ形のサングラスを外して眼を覆った。「わっちょっとトロトロとはいえ運転中!運転中!前見て!」「グスッ」「泣いてるの?なんで?」シエラは困惑する。いったいどうしたのだろうか。
ウェイ↑ウェイ↓ウェイ↑ウェイ↓とサイレンを鳴らすバット・モヒカンどもは本当にすぐそこだ。
「とうとい」
「えっ?」モヒカン・ヨッちゃんを心配して席を立ったところで何か聞こえたのでシエラは今一度身を乗り出す。
「まじむり、とうとい」
バイクのエンジンが火を噴いた。「わあっ!?」
「ホワァッツ・ア・ディイイインジャラァアアアアス・クゥウウウウル・クァスケッッッット!!エェエエエエエエンド!!スゥ⭐︎パァ★パワホゥ⭐︎ゴッテス★ギャァアアアアアル
!!!!!!」
高野に響くシャウト。
巻き起こる土煙。
「ちょっとぉおおおおおおおおお!?急にスピードださないでえええええええ
!!!!」「フォオオオオオオオオウ
!!!!!」
そしてシエラの悲鳴。
思わずひっくり返り棺桶に軽く背を打つ。
『どーも解説です。なんというすばらしい棺桶でしょう、なんと☆いう★すばらしい☆お方でしょう、マジサイコー、と言っております』
「そーれーはーどーうーもーーーーー!!!」
とりあえず突然入った解説さんとヨッちゃんに礼を言う。ノーヘル・ノー防具。空気抵抗がすごい。しっかり置いた棺桶がしっかり背もたれがわりになってくれる。
『シエラ選手のバイクがここで飛ばすーーーーーーーーーッ!!猛・進!』
歯を食い縛りながらどうにか身を起こして棺桶を確認する。大丈夫。今の衝撃程度じゃびくともしない。
「ヒャッハーーーー!!!」
しかし多勢に無勢、そしてスタートの遅れはやはり致命的だ。
「ウェエエエエエエイ今更マジになったってビー・レイトだぜえええええええええ
!!!!!」
荷を狙ってのことだろう。シエラ側に一台のバイクが追いつく。
予想はしていた。さあ、出番だ!
座席の背もたれに片足を乗せシエラが握るはスコップ。
「ヘイヘイユー!!?ヘイヘイヘイヘイ塀屏
!?!?」
歯を剥き出してバイクの後部座席のモヒカンが先を尖らせた鉄パイプを振り回す。「も何言ってるか全然わかんない!」
振り下ろされたパイプをスコップで弾く。『さすがに私もちょっと』「地元民もわからないんだ!?」解説さんにも不可能はあるらしい。
サイドカーでしがみついたり運転に集中しなくていい分シエラは集中して動ける。
そこに分があった。
「フライパンッッッッッッ
!!!!」
まずパイプを持ったバット・モヒカンを叩き落とし「スコップです!!!」次に「ピザパドルッッッッッッッッ
!!!」「スコップですッ
!!!!」運転手を叩き落とす。
運転手ごと前転して再起不能になるバイクにほっとしたところで、次。今度はヨッちゃん側にバイクが一騎、バイクとバイクとバイクを縦に三つ繋げてサイドカーもそれぞれ。団体様が今度はこっちに来るためのフック付き梯子持ちでやってきた。
いけない。
ヨッちゃんの後ろへ梯子が、かけられた。
「ウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェエエエエエエエイット!!!ウェイト・ウェイト・ウェイトスリムァアアアアホァアアアアアアス!!」
「なんて!?」
いやほんとちょっと分からない。
『待ってください、それをぼくらにわたして軽くなっていきませんか、と言っています』
解説さんが補足してくれる。あっちがわからなくてこっちはわかるのはなんなんだろう。
どういう進化を遂げているんだろう、ここのモヒカン語。
「ウォンチュー!!!」
あっそれはわかる。
らちが明かない。ならばとシエラはスコップを足元へ置く。ローブの裾を少しだけ結び、踏まないように丈を上げる。
「ちょっと揺れるかもしれないけど、頑張って!」
気遣いは、忘れない。
「イッツアクレイジィイイイイイイイイイドゥラアアアアアアイブ
!!!!!」
親指を立てるモヒカン・ヨッちゃん。「片手運転しないで!?」『ぼくがんばると申しております』「お願い!」「イェエアアアアアアア
!!!!」
「そんなに欲しいんなら」
シエラは棺桶に手をかけた。
そのまま担ぎ、
跳ぶ。
バイクが一瞬、重量から自由になる。
ホップ。一歩で運転席の後ろに到達して踏み込み
ステップ。梯子の上で振りかぶり
「あげるよっ」
アタック。振り下ろす!!
『決まったァーーーーーー!!!』
鳴らされるゴング。
これはレースではないのか。いつのまにプロレスになったのか。
『シエラ選手のヘヴィエスト棺桶による内容缶詰による実質鉄の文字通りの鉄★槌ーーーーーー!!』
モヒカンもバイクもまとめて吹き飛ぶ。「よいせ」棺桶を担ぎ後退して梯子を外す。
『御覧くださいあの車体への凹み!!
缶詰には様々なサイズがありますが大人数を考慮した一号缶(直径約15cmx高さ約17cm:缶詰の種類により個体差あり)ともなると容器含め1個2.5〜3キロは下らない代物です!詰めるとなれば小さな缶詰3〜400gもそれなりにあることでしょう!
いったいいくつの缶詰が込められているのでしょうッ!未知数ッ!お前の棺桶何キロだーーーーー
!!!!?!?』
「か、缶詰だけじゃないもん…」
活躍は良いが大振りの一撃はやはり目立つ。
追手はとたんに距離を調整し隙間を開けてくる。
このバット・モヒカンどもかしこい。
非常にかしこい。
「もうっ、しょうがないな」ふたたびキャニングアンドその他がキャニングされている棺桶をそっとサイドカーに置き、その上に立つ。「あんまり使いたくはなかったけど…!」
ヒュンッ。
それまでの大振りとは違う音が空を疾る。
「乗り物が使えなくなったらさすがに追えないよね?」
その十指から伸びるのは操り糸だ。「うん、とこ」まるで自分の指の延長のように操り、伸ばす。
精神を集中し
「しょっ!!」
捕まえた。
後続バイクのフロントホーク!
糸が激しい軋みを上げ、シエラの指へ食い込む。指に血が滲む。その暗い色の肌に汗が明るく光る。
荒海でカツオ一本釣りならぬ荒野のバイク一本釣り。バット・モヒカンバイクはあえて速度を落とし負荷をかける。
…“それ”は不可能かに思われた。だが、
「せいやああああああああああ!!!」
サイボーグの怪力の前にッ!
不可能などッ!
ないッッ!!!
ガキイ!
冗談みたいな光景である。
部位破壊…バイクのハンドルから前輪までを、糸で引きちぎった。
「もう、追ってこないでねーーーーー!!」
シエラは棺桶の上でめいいっぱい叫ぶ。
無論、バットモヒカンにできるはずもない!
成功
🔵🔵🔴
御園・桜花
「ごめんなさい、暫く眠っていただけます?」
敵モヒカンにUC「桜の癒やし」
運転できないよう眠らせ、運転スキルも使い自前のケータリング用キャンピングカーで逃走
必要なら中の荷が跳び跳ねないギリギリの危険走行も
積載量ギリギリまで軍用レーションのような美味しい長期保存食とポリタンク入りの水積み込む
元々の食料保管庫にはじゃが芋とソーセージ詰め込み1回だけは数十人分のポトフが振る舞えるよう準備
「何人お待ちか分かりませんでしたし…温かくてお肉が入って食べやすくて…と考えたら、コンソメ味のポトフで具材の数を減らして量を増やすのが1番かな、と思いましたの」
「美味しい料理を作るためにも…通り抜けさせていただきます」
■出張☆麗し華のパーラーメヰド・オーバードラヰブ■
『
嗚呼美しき、乙女の夢が荒野を疾る。
其の車はバヰクの群れの中で非常に目立っていた。
まず外見からして異様であつた。
アポカリプス・ヘルに於いてバン・ボデヰの角とは
ー少なくとも善悪関係なく此度思い思いの車を走らせ覇を競っているやうな彼等アウバンギヤルドなるアウトロ、モヒカン刈りと呼ばれる荒野の荒くれ者どもの間ではー
角張ったのが良いとされる筈であるが、この車の角は丸ければ、バン・ボデヰの側面にあるウヰングサヰドパネル
(親愛なるサクラ・ミラァジュの諸君へ念の為説明するならば荷物を出し入れする為、バン・ボデヰの側面がすべて名前の通り鳥が翼のごとく開閉するようにできている仕組みと部品を指す)
も随分と小さく出来ている。あれでは人が一人か二人、顔を出せれば良い程度であろう。
流行りものに敏なる感覚(センス)をお持ちの諸君・あるいは仕事や勉学の息抜きで街に繰り出し珈琲の一杯など嗜んだご経験のある何名かはもしかするとここで一体なんの車か想像がつき、思わずにやりと笑うやも知れないが、分からぬ諸君の為に今暫しご閉口願いたし。何故なら此処はアポカリプス・ヘル。
モヒカン刈りどもは追いながら首を傾げているのである。はて。
いつたいあれは如何様なる用途の車であろうか?
まことに好しとされる飾りたち…スパイクー珍妙なトゲーや鉄骸骨(スカル)であるとかぶちぶちに並べて太陽を反射するスタツヅすらもない。
だが外見に首を傾げる以上にモヒカン刈りどもは慄いていた筈である。
特筆すべきはその運転。
誰も彼も舌をうっっっっっっでふいぶらっしば!!!!
…ッッッッッッッどうやら真っ先に舌をクラッシュしましたのは私だったようです!さすがにこの解説のカリタニ・サーンを持ってしてもサクラミラージュ仕様の解説は舌が三枚にちぎれ骨がクラッシュしますね
!!!!』
「あら」
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)はくすりと微笑む。「大丈夫ですか?」冗談なのは解説の語調でわかっている。『大ッッッッッ丈ッッッッッ夫です
!!!!』
「それは何よりです」
嗚呼、美しき乙女の夢が荒野を疾る。
可愛らしいデザインは特注品。
ケータリング用キャンピングカー。
どこであろうと華のパーラーへ変える玉手箱。
パーラーメイド・オン・ドライビングパーラー、
満を持してアポカリプスヘル・メシ・レースに参戦である!!
ただし夢らしい可愛さはそこまで。
なぜならここはアポカリプスヘル。
たとい相手がまな板の上の鯛であろうとも油断すれば俺が鯛でお前が俎板で隣の家のあさみちゃんが出刃包丁を握って俺らに向かってドンしている可能性がアリアリのアリなのである!!!隣の家のあさみちゃんが誰かはわからない!!!
「タピオカァ
!!!!!」
早速モヒカンが登場である。
「ヒャッハァ!!フルグランドデスサイズフルリーフアンダバサーチャイラテクリームチョコチップチョコソースミックスダブルひとつゥ
!!!」「俺はキャラメルソースを追加だぜええええええ
!!!!」「あのすいません、日本茶ひとつ」
右からバイクが3台!
「プリティショートアイスカフェモカノンカフェにショッパーおまかせアレンジ追加してメイドさんの愛ひとつ添えてください
!!!」「パンケーキを三段でクリームとパールチョコスプレートッピングお誕生日仕様で花火つけてもらおうかァアアアア!!!」
「タンタンミソコイメバターコーンアブラニンニクヤサイマシマシィイイイ!!!」
左からオープンカー2台とバイク1台!
ケータリング用とは言えどうしてもレースを想像してはおらず他に比べてスピードが出ないキャンピングカーだ。
集団で捉えてしまおうという魂胆なのだろう。
「申し訳ございませんがただいまご注文いただきました商品本日お取り扱いはございません」
だがしかしかような圧迫注文に桜花はNoと言えるパーラーメイドであった。
ご注文の捌き方からして違う。
「日本茶の方は後日ご縁ありましたら他のお客様のご迷惑とならない前提でいらしてくださいまし」
ハンドルを思い切り右にーーーー振り切れ!
「そして最後のお客様それはラーメンです」無論ツッコミも忘れない!
実にできるパーラーメイドさんであった。
「ならあるもん出せやウラァアアアアア
!!!!」「タピオカタピオカタピオカタピオカ」「タピオカは諦めろ!!!」
振り切ったはずのモヒカンがすぐに追い迫る。
桜花はちらとメーターを見る。スピードが出せないわけではない。
しかしここが限界だ。
『なんというーーなんという悪辣!!!あのバッドカフェモヒカン、略してカフェモカンども解ってやっているようです!』
解説の言葉に眉を潜める。やはり。
乙女の夢、ドライビングパーラーのその中は可愛らしさには縁遠いがしかし軍用レーションなど長期に耐え味も保証のできる食料とポリタンクに満杯の水とがそれぞれ入るだけ入っている。
更に備え付けの冷蔵庫は中の仕切りを取り外しジャガイモとソーセージ、ニンジンなどがこれでもかと詰まっている。
いかに冷蔵庫とはいえ何かの衝撃が走ればーーどんぐりころころでは済まない。ないとは思うがそのせいでポリタンクに穴など開いてせっかくの水を失っては目も当てられない。
そう、最新の注意を払って無茶をしているのだ。
下手な運転をすればどうなるか。
「残念ですが本日終日まで御予約でいっぱいです」
「ヘイヘイヘイヘイ舐めんじゃねえぞカフェの営業は通常10:00〜18:00(※店舗により異なりますので事前確認をお勧めします)だろうがよォーーー!!!」
「左様でございますが申し上げております通り御予約以外のお客様はお受けできませんっ!」
振り切ろうとするもやはりエンジンが違う。難しい。思わずアクセルを踏めばタイヤが石を乗り上げたせいで一度大きく車が揺れる。
『出張パーラーメイド桜花選手、カフェモカンとの距離が詰まっています!!』
何人待っているのか。話では見当もつかなかった。何人でも待っているのだろう。モヒカンだってこんなにいるぐらいだ。
『これはあれでしょうか大変に胸が痛みますが脱落者が出てしまうのでしょうか!!パーラーメイドはカフェモカンのご注文を受けるしかないのかーーーーーーッ!!』
出来ることなど限られている。
せめて一回だけでも。美味しい料理は人の力になる。桜花はようく知っていた。暖かい料理の幸福を。
そして食べやすくて、お肉が入っていて、おいしくて…と考えればコンソメ味のポトフなら、少ない具材でもたくさん出来る。
たくさんの人に届ける事ができるのだ。
あったお役目を忘れてしまった今、桜花には『すべき』と思ったことをするしかないのだ。
ニタニタとカフェモカンが笑う。
「知らねえなァ
俺たちは「タピオカタピオカタピオカタピオカタピオカァ」うるせえ!!俺たちは「タピオカタピオカタピオカ」うるせえ!!タピオカは諦めろっつってるだろうがァ!!!
俺たちはてめえの分のおまんまが手に入りゃいいのよ」
『良きお客様のための良き給仕の良き心意気にに取り入り我を通そうとするッ!!これぞクレーマー
!!!!!クレーマーの所業であります!!』
「致し方ありません」
ジャガイモ一個とて失うわけには行かない。
先ほどの味とかバランスとか一切無視しためちゃくちゃな注文になんとなくバッドモヒカンどもの味覚への心配を覚えつつ。
桜花は手を出すことにした。
「美味しい料理を作るためにも…通り抜けさせていただきます」
吹き上がり、舞い上がり、あふれる。
その花の名を、一体このアポカリプス・ヘルで何人が言えようか?
もしかしたらとっくに失われているか、はたまたそも存在すらしないのかもしれない。
桜花の存在意義と同じに。
『さ』マイクが、解説が息を呑んだ音を大きく伝えた。
『桜だァーーーーーーーッッッッッッ!!!』
ああ、いた。
「ごめんなさい」
たとえ敵とて、心は痛む。
「暫く眠っていただけます?」
故に、桜の癒し。
春の安らぎなどこの荒野に訪れたのはいったいいつが最後だったろう。
次から次へとカフェモカンどもが沈んでいく。どんなマシンも運転手が眠ればどうしようもない。
『お見事!あわやからの逆★転★劇ーーーーーーーッ!!パーラーメイド大疾走ーーーー!!』
喜びのシャウトを聴きながら、桜花は振り返らない。
嗚呼、乙女の夢が荒野を行く。
美しい春の予感をたなびかせながら。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァシリッサ・フロレスク
夏報ちゃん(f15753)、ケイちゃん(f14457)と。
保存食、ったら干し肉だね。いつだって肉喰ってりゃミンナシアワセだろ?
後は酒がありゃ世は事も無し、さ。
肉と酒を満載した愛車ハティで、夏報とケイの車両をカバー。
ハッ!
ンな走りじゃカメにも捲られちまうよ?
イキるモヒカン共を挑発しておびき寄せ、地形を利用してフェイント&ジャンプ、限界突破のターボでブッちぎってやンよ。
チッ、クレバスか……お?ケイちゃん、ノッてきたねェ♪
一緒に“星間飛行”と洒落込むかい?
いざという時ゃノインテーター&スコルぶっ放し援護射撃だ。
人生(レース)にだって一寸はスパイスが必要だろ?
¡Hasta la vista,Baby!
風見・ケイ
【GN3】
リサさん(f09894)
夏報さん(f15753)
米や乾麺と調味料――防災保存食。まあちょっと、前職のツテで。
さて、螢は二輪メインだし、荊はこわいと言いつつ躊躇なくモヒカンを轢きそう。
私が運転するしかないや。
車はインスピレーションで、夜色で可愛い四角目のこの子にしましょうか。
……よし、貴女は今から『インターステラー』だ。
ふたりともテンション高いな……。
私なんて緊急走行もしたことなかったのに、こんなデスでロードなレースで、しかも夏報さんを乗せているから緊張と心配で。
ああもう、そりゃあ運転手狙ってきますよね。
拳銃で反撃。当たらない……けど問題なし。よろしくリサさん。
私は塩でも撒いておこう
臥待・夏報
【GN3】
マスター(f09894)、風見くん(f14457)と
この環境に持ち込む食糧、難しいな。えーっと……
まずは肉や魚のオイル煮の缶詰。オイルは燃料としても使えるからね。
乾燥した気候で日持ちする野菜に、ドライフルーツ。
そして各種スパイスを袋で持っていこう。
特にスパイスは重要だ。
歴史上、悪くなったものを誤魔化し誤魔化し食べるのに使われてきたものだからね。
この世界には必要だろう。それにいざとなれば――
目潰しに使える(わるいモヒカンにターメリックを撒く)
え、食べ物がもったいない?
ターメリックで場を清めるのは正式な作法だよ、夏報さんインド映画で見たよ。
だよねえカリタニ・サーン!
よーし汚物は消毒だー!
■「“女の子って何でできてるの”?」「肉、酒、それからスパイスをたっぷり♪」「ちょっと違うフレーズだったと思うなぁ…」■
「アーーーーーーーーーーッハハハハハハハハハァ!!!」
高々響く哄笑を引きながら一台のバイクが爆走する。
「ヒーハー」
続く夜色に四角目の可愛らしいワゴンの助手席も「いえーいどけどけ〜〜」まったりなりにハイテンション。
「ふたりともテンション高…」
そして既に限界寸前の運転手。
「ホラホラ、どきなモヒ野郎ども、アタシがアタシの可愛いハティでアタシの可愛い可愛いフレンズのケイちゃん夏報ちゃんとメシ・ランデブーしてるんだよ邪魔すんなァ!!」
愛機を駆るヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)には完全に火がついていた。
バイクには運転への負荷など投げ捨てたような物量がずんむと積まれている。ともすれば簡単に転倒しかねないバランスのままモヒカンの間を縫うようにぶっ飛ばし、走り回る。
目的はワゴンのサポートだ。
「ッハ!ンな走りじゃカメにも捲られちまうよ?」
バッド肉ヤクザモヒカンをものすごい勢いで煽り、派手に身動きが取れないワゴンから引き剥がす。
「あァ、もしかして頭のご立派なそれはお耳かい、ManeLabbits(カメにも抜かれたウサちゃん)?」
…果たしてこれが本当にサポートする人間の表情(かお)だろうか。
いや、笑顔が下手なところがあるのがヴァシリッサである。表情で判断してはいけない。
「UUUUUUUUUUUUSSSSSSSSSSSSSSSSAAAAAAAAAAAAAAA
!!!!」
「誰がウサギじゃオンドレワレェゴルァその耳ぶった切って!アニィの墓の前に並べたらァ
!!!」「アニィまだ生きてます!」
笑顔がどうであるかという問題はさておき、その陽動はとても効いていた。
「バッドモヒカンだなんて名前ばっかしでノロ過ぎて欠伸が出ちゃうねェ」「うるせぇこちとらバッド肉ヤクザモヒカンじゃオンドレゴルァ
!!!」「盛りすぎじゃない?そんなご大層なモン?」
引き付けたバッド肉ヤクザモヒカンどもをチキンレースもかくやという位置で鮮やかにターンを決めて岩だらけのデスロードへぶち込み尽くクラッシュさせているその顔が!どんなに!!楽しそうでも!!
サポートに!!!徹しているのである
!!!!!!
サポートとはなんなのかとか考えてはいけない!!!!
「いえーい」
ひょいと助手席の窓を開け顔を出したのは臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)だ。「マスターかーっこいー」窓から手を伸ばし「さいこー」声をかければ通りすがったヴァシリッサも手を伸ばす。「ありがと♪」ハイタッチ。
後ろからどんなに火矢が飛んできても夏報は動揺のひとつも見せず、むしろリアル・世紀末・メシ・デス・レースに思いきりノリノリであった。
外見にそぐわず肝の太いことかぎりなしである。
いや、おそらくいつもの仲間たちがいることの自信と安心から、なのかもしれないが、取り合えずその表情から窺うことはできない。
ちなみに当人曰く“とっておきの武器を用意してきたよ”とのことであるがそちらには言及されていない。
乞うご期待。
「ちょっと夏報さん危ないって」
運転しながら風見・ケイ(消えゆく星・f14457)が指摘する。「ここ普通の道路じゃないんだから」「はいはーい」夏報のまったく悪びれない返事。
普段なら苦笑する余裕があるのだが今日はなく、ケイの表情は硬い。
顔色はどことなく白く、肩に力が入っている。
「私なんて緊急走行もしたことなかったのに…」
ケイは愚痴っぽくぼやく。「こんなデスでロードなレースで、しかも夏報さんを乗せているからもう緊張と心配で心配で…」
「ん」敵影を探っていた夏報が顔を上げる。「風見くん変わる?」自分と、という意味ではない。ケイは苦笑して首を振る。
「螢は二輪メインだし、荊はこわいと言いつつ躊躇なくモヒカンを轢いちゃうと思う」「ああ〜」「ま、私が運転するしかないでしょ」首をすくめる。
責任感をひしと感じているとはいえケイ自身何度も視線をくぐり抜けた身であり、緊張こそすれ、慄きは一切ない。
いずれ(本人は嫌がるだろうが)このデスレースに慣れ爆走をキメることは想像に難くなかった。
「大丈夫だってェ、ケイちゃん走れてる走れてる」
「リサさんのカバーのおかげです」
…そして最終的に窓からソルトを投げ・崖からダイビン・ドライビンをキメるのだが、それは追々。
「よーし、大丈夫だよ風見くん、深呼吸深呼吸」「すー…はー…」
そして夏報も無力に見えては今回のこのチームにおいて和やかしのムードメーカであったし、ケイに所々心配をかけるとはいえ、このハードなデス・ロードにおいて重要な支柱であると言ってよかった。
『チーム・GN3ーーGuN ‘N Noobs!』
快活に解説が飛んでくる。
『華々しい女性による鮮やかに暴力的な快進撃!!素晴らしいアプカリプス適正でらっしゃいますね!!いいですねいいですねお三方!いかがですかアポカリプス永住
!!!!』
「パス」「夏報さんも」「右に同じですね」『ツレナイッッッッッッッ
!!!!!』
冗談なのか本気なのかズズビゾッと鼻水をすする音を立てる解説。
『こういうところまで実に魅力的です!こんなNoobs(新参者)がいてたまるかァーーーーッ!!』
…そう言えばあの解説どこにいるんだろう。
みんな思うがきっと待ってるのはツッコミ待ちのボケだ。
『このチームの最も驚くべきは“撃破数”の多さです!』
…解説を聞き流しながらバイクとワゴンは同じ道を征く。
「リサさん、ほんっとバランスやばそうだけど、何持ってきたの?」
ブレーキだけは踏まないようにしながらケイが問う。
「肉」返事はすっぱり。「肉?」「あァ、勿論干し肉だよ?流石に保存食持ってかないとね」
「肉でそんななるか?」夏報の疑問。
「あと酒」これまたすっぱり。「どーりで重たそうな訳だ…」ケイのため息。ヴァシリッサがケラケラ笑う。
『撃破と言えば皆様何を思い浮かべるでしょうか?銃の雨あられ(Rush)?
ハンドグレネードやダイナマイトで花火(burn)?はたまた相手か自分が死ぬまで体当たり(Demolition)?』
「いつだって肉喰ってりゃミンナシアワセだろ?後は酒がありゃ世は事も無し、さ」
「なるほどな〜」夏報がうんうん首を縦に振る。「夏報さんすっかり失念してた。確かに肉とお酒は世界平和だね」「でしょ?」心の底から自慢げに笑いヴァシリッサは親指を立てる。「焼き肉ならなおのこと」「いいねェ」「あー、いいですね。焼肉。行きたいな〜」
ここだけ聞けばやや肉寄りの全き女子トークであるがしかしモヒカンに追われるアポカリプスヘルだということを忘れてはいけない。
『NO!恐ろしいことに先述の手段以外で、彼女らは後続が迫ることを許さないのです!』
「ケイちゃん、右だよ」
会話をぶった斬ってヴァシリッサから指示が飛ぶ。
「ええ」ケイがハンドルを「よい、せっ!」切って急カーブ。
「おおっと」夏帆が頭を下げたところでー
『彼女らのやり方の衝撃を僭越ながら私が彼女らに倣って言うならこうかもしれません!
It’s“GN3”ーGreat Nightmare Nimble Nob !!!(すんげえ悪夢みてえに速え技巧で頭吹っ飛ぶわ)!!』
ー後ろから追ってきた肉モヒカンのバイクが“彼女たちが避けた岩”にぶち当たって吹っ飛ぶ。「ナイス、ケイちゃん♪」「ありがとうございます」
『ななんと彼女ら、障害物の直前でカーブするなどの技術だけで後続車両を落としているのです!
撃墜数とは!!彼女らについてこれなかったモヒカンの数!』
「…ン?そういえば肉じゃないってことは夏報ちゃん何持ってきたの?」「ん?えっとー」
ヴァシリッサの振りに夏報はするりとシートベルトを外して運転席と助手席の間から後部座席へ抜ける。「夏報さん!!」ケイが悲鳴のように慌てるが、ハンドルを握っているのでどうともできない。
『さもついてこれねえてめえらの技術不足と言わんばかりの鬼ルートッ!!!!
こいつはブラッドオブモヒカンが騒ぐと言っても過言ではありませんッ!!!』
『さーーーーあ!!あの美しい夜と三つの星に追いつかんとするモヒカンは本日現れるのでしょうかーーーーーッッ!!!』
「ウェーーーーイ
!!!」「ヘーーーーーーイ!!」
「お付き合いを前提にお肉を焼いてもらおうかーーーーーーーー
!!!!」
解説のコールに答えるかのように右舷の崖から野生のバッド・ヤクザ肉モヒカンが飛び出してくる。もう設定を盛り込みすぎて肉なのかバッドなのかモヒカンなのかヤクザなのかよくわからないが多分全て同じだろう。
「…私達が狙われるのってもしかしてあの解説さんのせいもあるんじゃありません?」
半眼になって思わず解説を探すケイ。
ちなみに解説がとんでもねえところにいるのに気づいてSCF(スペース・キャット・フェイス)になるのは今回とは別の話。
「なあ風見くん今すごい変なシャウトしてるモヒカンいたよね?」
まったく違うことに気を取られている夏報。
併走しながらそんな二人を穏やかに見つめるヴァシリッサ。
ブオン!ひときわ強くエンジンをふかした。
「さーてパーティのおかわりだ、派手に行くよ」
「了解です」「いえっさー」
ヴァシリッサが追手へ単身突っ込んでいく。
先、バッド・肉モヒカンどものうち、ひときわ長いスパイクのついたバイクに乗っていたモヒカンが後ろのオープンカー肉モヒカンへ叫ぶ。
「カシラァ!!!」
なるほど、あれか。狙いを定める。
声を受けてオープンカー肉モヒカンが立ち上がり、こう言った。
「なんですかボンジリィ!!!」
おっこれは思ってたカシラと違うな???
「まァいいや」性分であっけらかんと言いぬく。
「み〜ンなまとめてデスロードへご案内ー、ってねェ」
…こればっかりは間違いなく笑顔下手のせいではない、本心の獰猛な、悪〜い笑みだった。
そしてケイが運転する『インターステラー』。
こちらは荷物を満載しているが運転は落ち着いており、安定的に攻略を進めているといってよかった。
「へーえ、風見くんが持ってきたのはお米とか乾麺とか…おお、調味料」
そんなわけで車内の夏報はいつもどおり自由である。
今など自分が持ってきた食料を説明するつもりがすっかり荷物の検分になっていた。
「なるほど、やっぱり調味料は必須だよねー…えーとこれは?」パッキングされたものを掲げる。
「防災保存食」ケイのシンプルな回答。「揺れます」「あいあいさ」
後ろからブン投げられてきた火矢をこれでもかいうジグザグ走行でかわしながらだ。
「おいタン!!おいいい当たらねえぞォ!!!」
バッドヤクザ肉モヒカンが吠えている。「うるせえスナギモォ!!次だァ!!」
「そんなもん当たってたまりますか」
車内で小さく言い返す。
「なあ風見くん今タンとかスナギモって聞こえたよね」「お腹空きますね」
…たとえ今日気分で選んだ車とはいえ、名前もつければ愛着もわく。夜色と四角目がかわいいこの子は、悪路も荷物も文句も言わず着実にスピードを出してくれていた。いざという時は『しょうがない』だが、ケイはこの子もなるべく傷つけたくはなかった。
「しかし防災保存食か、すごいな〜」「どうも。まあ前職のツテで、っと」
こんどは左へカーブ!
だが、ケイの運転はまだどこかぎこちない。
インターステラーだけでは徐々に追いすがられてくる。
少なくとも、左ーー運転手側を固められ始めていた。
「ウェイウェイ!!!オラァどうだゴラァ追いついたぞうらァ!」
「あの、左右瞳の色が違う素敵ですねどうですかこの後肉1枚
!!!!!!」
「オラオラ通行料置いていかんかいオンドレここを誰のシマと思うとんじゃゴルァ!!」
ケイの側に寄ってきてぎゃあぎゃあと
モヒカンの片手にはチェーンソー、釘バッド、そして銃!
「ああもう、そりゃそうですよね、運転手を狙いますよね」
ケイはぼやく。
でもいくらバッド・ヤクザ・肉モヒカンとかもうすでに設定がぐちゃぐちゃなのになんでそこにナンパモヒカンとか足すんだろう。疲れてるんだろうか。
バッド・ヤクザ肉モヒカンじゃなかったのか。もう少し統一感が欲しい。
と思ったらみんな額に『ヒレ』『スネ』『ラム』とか書いてあった。
ケイは思わず目を逸らす。
「そんなところで肉として統一感を出さないで欲しいですね」
しかもなんでひとりだけ部位じゃなくて種類なんだ。
やはりここはアポカリプス・ヘルでなくボケ倒し・ヘルでは?
ハンドルを握りながら銃を出す。
そのまま顔色一つ変えず、発砲。
無論、当たりもしない。
だが、その表情は一切変わらずーーーー
「ウェーーーーイーーーーーーハハハハどうしたどうした直視できねえか俺らの顔がそんなにイケメンかァ
!!!」「あっもしかして手加減してくださったんですかァ
!!!!」「オンドレそんな鉄砲玉でワシが殺れる思とんのかなめ腐るのもエエ加減にせェよ!!」
「所詮あの赤髪バイクがいないかぎりーーーーーー」
ドウン!背後で大きなクラッシュ音。けれどケイも夏報も動じない。
ーーケイの唇がなめらかに咲む(えむ)。
「問題ないんですよ、当たらなくても」
そろそろだと、わかっていた。
「呼♡ん♡だァ?」
ヴァシリッサとハティが、自身が引き付けていたバッド肉ヤクザモヒカンをクラッシュさせた爆風で、誰より高いハイ・ジャンプを決め、インターステラーをも飛び越して
ーー着地!
「よろしく、リサさん」
ケイへの返事は一つ、立てた親指。
「あああああああ来やがったァアアアア赤い悪魔が来やがったァアアアアーーーー!!」「畜生ここであったが百秒(1分と30秒)目ェーーーー
!!!」「浄火の血胤だよ♡」「(自称)じゃねえか鬼ィイイイイイイイ
!!!!」「夏報さんがおしえてあげよう。悪魔といえば赤じゃなくて白い悪魔なんだよモヒカンくん」「あっそうなんですかすみませんご丁寧にィ!!!」
阿鼻叫喚。
ヴァシリッサから逃げようとモヒカンが速度を落とす。その様蟻の子のごとし。
自然とバイクはインターステラーよりも後ろにずれていく。
「よーし、ここがいいタイミングだな。夏報さんも応戦しよう」
夏報が張り切り、ふたたび荷物に手をかける。「応戦?」「そう」
「いいかい風見くん、夏報さんが何を持ってきたかというとね」
荷物をごそごそやりながら夏報はそれらを取り出す。「乾燥した土地でも持つ野菜とドライフルーツと」こちらはしまい
「各種スパイスだ」
袋を取り出す。「スパイス?」
「スパイスは大事だよ、歴史上悪くなったものをごまかしごまかし食べるのに使ってきたからね」
そして夏報はおもむろに窓をあけ「それに」
「目潰しにもつかえる」
ぶん投げた。
「ターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーメリーーーーーーーーーーーーーーック
!!!!!!!」
哀れ、バッドヤクザ肉モヒカンの一名・ラムが悲鳴をあげながら思わず顔面を両手で押さえて脱落する。
「ひゃっはー汚物は消毒だー!」
両腕をかかげてガッツポーズ。
台詞が世紀末である。
「夏報さん!?」ケイにむかってVサインを決める。「いえい夏報さん大ヒットー」
『伏兵★炸裂!!!!その名は食材ーーーーーーーーーーーーッ
!!!!』
解説が飛んでくる。
『いったい誰が想像したでしょう!まさか自分が追う獲物をもらって悲鳴を上げるなど!!!』
「とっておきって」「これだよ?」「いやそれ食材…」
ちっちっち。夏報は芝居めいた仕草で指を振る。
映画を見れば絶対いつかやってみたかったやつだ。
「ターメリックで場を清めるのは正式な作法だよ、夏報さんインド映画で見たよ」
次の袋をつかみーーーふたたび窓から、ぶん投げる!
「だよねえ、カリタニ・サーン!」
ヒット!
袋がはじけてふたたびスパイスが空中に広がり、後続車が悲鳴を上げる。「目が、目がァアアアア
!!!!!」
『Yea!』
呼べば答える解説のカリタニ・サーン
『わりと失われていますがそういう文化もあったとこのアポカリプス・ヘルにも残っています!
しかしここで炸裂!これは地味に痛い!!!』
速度を下げて群れた瞬間の範囲攻撃である。効かないわけがない。
「よーし、今まで散々あれこれ投げられたんだ、お返ししよう」
袖をまくり腕をまくり、夏報はスパイスを投げ始める。
本格的にハジけはじめた夏報を横目にケイは何度も瞬きをした。
「風見くん、今なら投げたら当たるよ」
朗らかな笑み。
つられて思わずケイからも笑い声が出る。
「よーし」
インターステラーのアクセルを踏む。さらに強く。「問題なし」さらに速く!
「夏報さん、塩とって」「はいはーい」
言われた通り運転しながら適当に投げる。お清めだお清めだ!
投げれば当たる。
そいつがひどく面白い!
夏帆がほんとうに楽しそうな声で叫ぶ。
「さあ、下味をつけられたい肉はどいつだー!」
ヴァシリッサももう、おかしくてたまらない。
みんなでこんなにはっちゃけるなんて、そうそうできることではない。
どうだい、こいつはためになるだろうーーーーモヒカンを笑ってやる。
「人生(レース)にだって一寸はスパイスが必要だろ?」
ヴァン!ヴァン!
ハティとインターステラーより前の車から大きなクラクションが鳴った。
ヴァシリッサは異変に気付き、笑いを引っ込めた。先行車が次々と消えるのだ。人を陸地へ吐き出しながら。「チッ」舌打ち。
さすがにこいつは読めない。
「クレバスか」
地面がそこで、一度途切れ。
深い闇が口を開けている。
「ケイちゃん」「はい!」
緊張もなにもかも抜けたさっぱりしたケイの顔といったら!
「お、ノッてきたねェ♪」
言いようもなく、嬉しくなる。
「それじゃ、思いっきりアクセル踏んで。限界いっぱい」「え?」
「Come with me, if you want to live!」
有名な映画の、一番ではないけれど有名な台詞を叫んで、ヴァシリッサがとばし。
ケイはそれに迷わずついていく。
夏報は?なにもうたがっちゃいない。
「Inter Stellar,(星間飛行)と洒落込もう」
ダイビン・ドライビン。
一歩間違えば死へのドライブ。
ライク・インター・ステラー(さながら星間飛行)。
宙に、放り出される。
追ってきたモヒカンどもが気付いて慌てて車から飛び降りているのがよく見えた。
ああ。ふと夏報は思い出す。
努めて思い出さないようにしているからこそ、努めて思い出さないようにしている以外のことが、ひらめくこともある。
インターステラー。
ケイにその意図があったかわからないけれど、同じタイトルの映画があったのだ。
ちょうど舞台は(ここまでじゃないけれど)世紀末で、
多くのものが枯れて人類は生き延びるか死ぬかの瀬戸際で。
たしか、ポスターにキャッチコピーがこうあった。
“必ず戻ってくる”
そうして家族を残して遠い宇宙に旅立ってしまうのだ。
家族や子孫に渡せる地を求めて。
……。
ーー…あいつらのことは、現地のやつが知らないまんまの方がいいんだ…ーー
「はは」出る笑い。「まさかね」そういうことにしておこう。
夏帆が振り返れば、リアウィンドの向こう。
ヴァシリッサがモヒカンが乗り捨てた車のタンク目掛けてスコルとノインテータをぶっ放そうとしているところだった。
「ね、マスター」
GuN’NNoobsのマスターが外す訳もなく。
次々巻き起こる爆発、爆風、炎、煙。
バイクとワゴンは簡単に宙を飛ぶ。
すべてはクレバス断絶を飛び越える(インター・ステラ)、一瞬のきらめき。
振動、着陸。
「風見くん」「はい?」「たのしいね」「ええ」
「スパイスたっぷりって感じです」
なんともまあスパイス(驚き)に満ちたレース(人生)だ!
インターステラーを先にいかせ、ヴァシリッサは振り返る。
「Hasta la vista,Baby」
地獄で会おうぜ、ベイビー。
投げキッス。
かくして星間飛行は成功し、一行は目的地へと突き抜ける!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
守った方がいいのか守らなくてもいいのかどっちなのか。
いやなんでもない。
守りつつ速やかに飛べば何も問題あるまい。
食糧の方は君任せだ。備えはいいか?
では、敵を千切るぞロク。
飛ばすから気をつけるといい。
(Call:Hawk.
戦闘機を召喚し「空中戦」「ダッシュ」で速やかに飛行。善良なるモヒカンたちに襲いくる敵たちは「援護射撃」のレーザーで吹き飛ばしておこう。)
お前達に足りないものは情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ、そしてなによりも――――速さがたりない。
ところでロク、詰めてきた食料はどのようなものだった?
――ニワトリ。
危ないからしまっておきなさい。
――カレーだな。
(ザザッ)
ロク・ザイオン
★ジャックと
ぴぽ…ぐら…?
草か。
(森番、途端に親身になる)
おれは草を守る。
草は。生えて、増えるといい。
いつか森になる。
…相棒は、速いの得意だから。連れてきた。
おれは食べ物運ぶから。
ジャックは、すごく速くなるといい。
(己に「擁瑕」を刻み影の中にぎゅうぎゅうに食材を詰めてのエントリー、身軽なものである
ジャックの呼び出した戦闘機に相乗りする
【地形を利用】し道を見定めるのは得意だ。思いっきり悪路を選んでやろう)
……持ってきたもの?
たまねぎと。
にんじんと。
じゃがいもと。
ニワトリ。
(コケコケ言っている)
ニワトリ。
牛は。
ちょっと入らなかったから……
■ Q:ニワトリは武器にはいりますか? A:ニワトリの意思によります ■
ーCall:Hawk
ヴン。電子音とともに、“それ”が現れる。
呼すれば応。子機(オブジェクト)は本機(オブジェクト)を裏切らない。
『戦闘支援機“Hawk”召喚完了ーー搭乗願います』
響くアナウンス。
ざ。「ではロク、ミッションと行こう」さざなむのはノイズ音(声)。
ざ。「ん」そそ立つのは鑢の声(音)。
かくして。
雲一つないはずの蒼天に一影あり。
陽が陰れば誰もが見上げるだろう。アポカリプスヘルにおいて天候の変化は命に関わる。
誰もが見、そして誰もが眼をむくだろう。
『あー…』唖然とした解説の声が参加者に響き渡る。『なんと…いう…ことでしょう…』
その多くはおそらく、解説者と同じ顔であっただろう。
『えー、久々です…全てのワードをロストし…解説に困るなど…』
計器が操縦者と同乗者を照らしている。
今このひととき、彼ら2人だけが冷静だったかもしれない。
『この私が見下ろされることなど…何年ぶりでしょう…デスマッチ・ヒューメン・カイト・デス・レースですら、私は見下ろす位置におりました…』
だからお前はどこにいるんだ解説のカリタニ・サーン。
あとそのちょっと気になる名前のレースはなんなんだ。凧か、凧なのか。
『…皆様、ご覧いただけているでしょうか?』
声は無論、其を駆る操縦者と同乗者にも届いている。
マイクが拾うからだ。
『我々は恐らく想像すべきだったのでしょう…ありうる話だと…
しかし…一体誰が…ここまでやれと言った…いえ、
いいえ、否定は全ての発明の敵でありましょう…逆に考えましょう…
…我々は今想像の限界を超えた発想を見ているのかもしれません…』
でなければ届かなかっただろう。
操縦者と同乗者は、全てを見下ろしている。
『“もちろん君たちはこのピーポーオブザグラス(民草)モヒカンより
いい乗り物を持っているのなら使うべきである”
ーーー…そう』
いかなる鳥と言えど其より高くはゆけまい。
いかなる獣と言えど其より速くはゆけまい。
『何に乗っても、良いのです』
其より高きは本日、太陽のみ!
「“刮目するがいい”」
操縦者・ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)は呟く。
“マイクを使って”・“そうでなくては届かない”から。
電子の声でも滲む誇りは致し方なしーー下界からの羨望の眼差しはかくもつよい。
「“そして来れると言うなら来るがいい”」
子機を誇るは本機と相棒の特権。
同乗者・ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)の渾身のFace ★Of ⭐︎ DO★YA。
其の名は"Hawk"(ホーク)ーーー
『それでは皆様ッ!!!!ありったけの声でお願いいたします
!!!!!!』
解説が喉張り裂けんばかりの大絶叫で呼(コール)する。
『少年少女ッ!大人も子供もおにーさんもおねえさんもおじいちゃんおばあちゃんも!
まあここにいるほとんどはむさ苦しいモヒカン野郎ばかりですが!!いいかてめえら!!!』
嗚呼、風にそよぐモヒカンが見える。
正面から見下ろせば厳つくむさ苦しくなんかちょっとやだなーってかんじでトゲトゲしい(※物理的に)男どもも、見下ろせばずいぶん可愛らしいものだ。
『みんなの
!!!!!ぼくらの
!!!!!!憧れッッ
!!!!』
掲げる拳が見える。
『せーのッ
!!!!!』
この時ばかりはこの同じ空間にいる彼らの心はひとつであった。
皆張り裂けんばかりのりの声で応(レスポンス)する。
ーー鷹を冠する戦闘支援機ーーーー即ち!
『戦 ★ 闘 ★ 機 だァアアアアァアアアアアアアアアッッ
!!!!!!!!!!!!!!!!』
わあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い
!!!!!!!!!!!!!!
やったあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
!!!!!!!
……。
…なにがやったーなのかなんでやったーなのかとか問うてはいけない。
かっこいいものを見たらはしゃぐ。心のままに振る舞う。
これは人生をエンジョイする大前提である。
「…相棒を、連れてきて、良かった」
ロクは大きく、非常〜〜〜〜〜に大きく頷いた。
彼女の顔は今、太陽にもまけないぐらいぺかぺかに輝いて頬が紅潮していた。どことなく鼻も膨らんでいる。…真の姿であったら耳もしっぽもぴーんと立って毛などつやつやであっただろう。
どこからどう見てもFace of DOYA of DOYAAA!!!である。
誰だって褒められれば嬉しい。大歓声で讃えられればそれはそれは嬉しい。
相棒が褒められれば我が事以上に嬉しい。
ジャックだって、さっきわあーいって言われた時、低空飛行でスレスレを飛びながら一回転した。ロクはわかっている。意味のないことである。みんなに見せたかっただけである。
それでいい。それがいい。
それからみんなもっとおれの相棒のすごいところを見るがいい。
…であるからしてロクはちからい〜〜〜〜〜〜〜ッッッぱいうなずいて力説する。
「ジャック、すごく速くなるといい」
「“無論だ”」
返答は素っ気ないがロクはその向こうを知っているので、本当にふかぶかとうなずく。
なんというか開始数分で非常に満足度が高い。ここは空気がおやつなのだろうか。
窓から見下ろせばレースを再開したモヒカンが見える。
風にそよぐモヒカン。
「ぴぽぐら…そだつがいい…」
日向に生茂る草によく似ている。
ひじょうによい。
ロクの眼は未だかつてなく、個人へ向けるのではない、幅広い存在に対する慈愛に満ちていた。
聖母のごとしである。見上げる人間がその表情を捉えていたら後光とか指していたにちがいない。もっともロクはハイカラさんでなければ見上げている人もおらずさらにジャックからもその顔は見えなかったのでその慈愛を誰もしらない。しかもそれ多分相手を半分ぐらい人間だと思ってない。
「“おそらく90%以上は成人男性だ。育つという意味では満たしている”」
ジャックは指摘する。なんというかロクの中で非常に妙な誤解が生まれている気がしてならなかった。流石は相棒である。
うむ。ロクは普段の声をだす相槌ではなく、頷く。すでにそだっている。それはいい。
「生えた草は、ふえる」
……増えていいのだろうか。
一瞬ジャックに疑問がよぎる。「“…そうか”」とりあえず相槌は打つ。
「いつか森になる」
……まあ人間である以上頭髪は増えるしご縁が有ればモヒカンもふえる。
「“……、…”」
いいか。
本当にそれでいいのかとか増えるのかとか#モヒカンの森 とは など疑問は尽きないが。
いいか。いい。キリがない。ジャックは振り切ることにする。なぜなら今回はただのアポカリプス・ヘルではない。バースト・ボケ倒し・ヘルである。出だしからモヒカンにはモヒカンをとか言っててアウトだった。
一度のツッコミはすなわち二度目のツッコミを誘い待っているのはツッコミ地獄である。
レースとはまっっっっっっっったく関係ない戦いがここにあり、それはレースよりも厳しいものであった。
「“そうだな”」
全力のスキル・スルーを発動しジャックは眼下を確認する。
再開したレースではあちこちで火が上がり始めている。クラッシュするバイクも多い。
敵味方入混じり。ある組は悪路にはまり、ある組はバイク同士でぶつかり合いーー非常に血生臭い。
彼らと共に自分たちが目指すのはオブリビオン・ストームが起きても問題ないその地。
すなわち。
これは ピープル・オブ・ザ・グラス・モヒカン による・ロード・オブ・ザ・メシ である。
なにを言っているのかよくわからないがそうなのだ。
そもピープルオブザグラスモヒカンとはなんなのかー…ジャックに今さっき振り切ったはずのボケへのツッコミが蘇る。別にわざわざカタカナでいう必要はまったくないし一般(民草)モヒカンとは…ー喜んで盾になり命の心配はしなくていい、と言いつつ、弱いので守ってください、とはーーーー
「“…、……守った方がいいのか守らなくてもいいのか、どっちなのか…”」
ノイズまじりであろうとも、混ざった苦悩がも深ければ滲むものもある。
ーTo be, or not to be(ツッコむべきか、ツッコまざるべきか、それが問題だ)ーー…。
「“…守りつつ速やかに飛べば何も問題あるまい”」
ジャガーノート・ジャックは善良であった。
かくして操縦管は大きく切られ、高度を落とし、システム・チェンジ。
「“では敵を千切るぞ、ロク”」「応」
“ジャガーノート・ジャック”は思考をとぎすませ。
「“飛ばすから気をつけるといいーー食糧の方は君任せだ。備えは万全いいか?”」
相棒へ呼(コール)する。「応」速やかに返るレスポンス。
身一つに見えるが、ロクはその影にたっぷりと食糧を詰め込んできていた。
故に、万全。
そして鷹(Hawk)が飛ぶ。
遠目に小さく見える翼は、近くで見れば恐ろしいほど大きい。
空中戦など、いったいどんなモヒカンの備えが役に立つだろう。
ハリネズミのようにスパイクをはやしていたら?カメのようにスタッズで身を覆っていたら?なんかもうとりあえずガラクタでロボットでも作って乗っていたら?
いずれも無力だ。
善なるピープルオブザグラス(やがて森になる)モヒカンを守るべくそそがれる光(ビーム)は天災に等しい。
余裕綽綽ーーーかに見えた。
(※ちなみに今回カニを持ってきている方はいらっしゃいません)
だがしかし。道具とは、機械とは人類の進化がもたらしたものである。
脅威に対して備えるべく人は道具を磨いたのである。さながら本機が子機を作るかのように。
ここにひとつのモヒカン★進化が成った。
「すぇええええええええええええええええのッッッ
!!!!!!」
「そおい
!!!!!!!!!!!!!!」
「“ ーーーは?”」
ジャガーノート・ジャックを誰も責めることはできまい。
自由に空を飛んでいる鳥の、目の前に、突然、人が、現れたら、誰だってそうなる。
そう。
バッド・草モヒカンはここに、
バッド・空モヒカンとなったのである
!!!!!
ちなみにこの場合のバッドはこうもりではなく、悪いという意味である。あしからずッ!
「“なん…!?”」
バァン!モヒカン着陸。「ジャック!」ロクの鋭い声が飛ぶ。
慌てて回転をする。一回、二回?もう二回ぐらいか?本来そこまでしなくてよいはずだが同様が勝った。無理やりにでもバッド・空モヒカンを振り落とす。「ッ!!」とっさのことでロクの影の中から、食糧がぽろぽろと飛び出す。バウンドするいくつかの玉ネギ、ジャガイモ、にんじん。
そしてニワトリ。
ニワトリ!?
『人類の進化ァーーーーーーーーーーーッッッ
!!!!!』
解説のカリタニ・サーンが叫ぶ声をマイクが拾う。先程よりも低域を飛んでいるせいで割れるほど大きく聞こえた。
見れば先頭をゆく集団の、一番先頭を走っている一際大きいデコ・トラックから高々と、それこそ戦闘機の次ぐらい高い位置にまでのばし掲げられた棒の先に括り付けられた男がいる。
口元に鎧のようなマスクをしているがおそらくそれにマイクが仕込んである。
お前そんなとこにおったんかい
!!!!!
あとそこから全部みえるんかい!!!!
しかも裸眼ッッ!!!
……。
…カリタニ・サーンのことはさておき、彼は朗々と解説をする。『なんということでしょう本日何度目のなんということでしょう
!!!!』
『バッド・モヒカンどもはついに空へと進出ですーーーー見えますでしょうかあの棒が
!!!!』
それはお前がくくりつけられている棒か、カリタニ・サーン。
ではなく。ジャガーノート・ジャックはレーダーをチェックする。
あった。たしかにあった。
なんというか鉄屑という鉄屑をかき集めて速攻で作ったのだろう、その長い長い棒は、再現なく巨大であるがスプーンに似ており、いくつものモンスター・トラックをむりくり繋げて走らせた台に乗っていてーースプーンのすくいの部分に人がのっていてーーー
つまりは、
これで
ひと
を
『飛行機に対抗しようと編み出したのでしょう!!
なんという悪知恵!なんという暇人!閃いたのは変態か狂人かーーーーーーーッ
!!!!』
A★HO★KA★ッ
!!!!!!!
『アポカリプス・ヘルのイカロスです!』イカロスに謝れ。
それを人類の進化と言っていいのか。
はずかしくないのか人類(ヒューマン)。
「ジャック」
ひときわ鋭く、鑢の声がする。
度重なるボケとよくわからないパワーオブザモヒカンの前に本当にちょっとどうしようかと悩んだ心に光がさす。
「速く、なるといい」
ロクのーーー相棒を、ジャックを信じる眼だった。
「“ロク”」
ロクは、
ロクはさっきの衝撃で飛び出してしまったニワトリの首を握りながら力説する。
「ただ「クェーーーーーッコココココ(※特別意訳:姐さん出番ですね!!アッシの出番ですね
!!!)」速く「コケーッコッコッコッコッコッコッコ!!!(※特別意訳:さあやっちゃってください!!スパッとお願いしやす姐さん!!それともあれですか!!アッシのクチバシの出番ですか!!)」
「“…ロク”」
ジャックの声に力強くうなずく。こういう時に助けられずしてなにが相棒か。
「“ニワトリ”」言われてロクのニワトリの首を持つ手に力が入る。
「…牛は」
ロクは表情を少し陰えらせた。締めどころがよくちょうどニワトリが気絶する。「入らなかった、から…」
「“…危ないからしまっておきなさい。ニワトリ”」「ん」しまう。
牛でなくて本当によかった。「“カレーだな”」ついでに本日のメニューも決定した。
「ジャック」ロクの瞳はすばやく地面を見定める。
長く長い棒。あれが使えなければいいのだ。
「ただ、速く」
であれば、手の打ち用などいくらでもある。
相手は地面を走るけものだと思えば、動くべき位置はいくらでも読める。
「なればいい」
そして、こちらが相手より速く動けることさえ、できるのならば。
たとえば空を飛ぶ鳥を狙う時、ひとはどうするだろうか。
撃ち落とせる位置を狙うことだろう。
故に鳥は飛ぶ。ひとの手の届かないところを。
しかし訳あってーたとえばそれは誰かを守るために、であるとかー低い位置を飛ばねばならない鳥は、そのひとの手にどう対応すればよいだろうか?
簡単である。
射てる位置に、立たせなければよい。
バッド・空モヒカンは瓦解する。
イカロスのように太陽に灼かれて落ちることすら敵わない。
ロクが進路の指示をする。
空に障害物はない。
だが、陸にはある。高低差、巨大な岩、クレバスまでも!
選ばれるとびっきりの悪路。
いくら道具を持っていても、立つことができないのだ。
…その悪路チョイスはなんというか、相棒の活躍を思いっきり邪魔したという私怨もちょっぴり入っていた。そう、影の中のジャカイモの数ぐらい。
そして、追いつけない。
鷹が飛ぶーーーー本当に高く、美しく、そして速く。
「“言ってやろう”」
本当に心の底から言ってやる。
ジャガーノート・ジャックはノイズまじりの声で冷静に、しっかり叩きつけてやる。
荒野でスピードといえば、なぞるべき漢の台詞があるのだ。
ざざ。荒れた音が入り時々霞むはずのこえが凛と通る。
「“お前達に足りないものは情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さーーー”」
ひとつのスイッチを押す。
これでとどめだ。
「“――――速さがたりない”」
巨大人間打ち上げ機のみが、打ち砕かれた。
かくして鷹は改めて、空を謳歌する!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
セラ・ネヴィーリオ
【くれいろ】
WIZ(考えるな、感じろ)
へぇーい!わっつあーっぷ、ぶろ?
くれいろデリバリーがご飯のお届けに来たよー
肩に載せた†漆黒の讃美歌†(レトロなラジカセ)もご機嫌な重低音さ!
「よっこいしょ」
重いからそろそろ降ろすね
食べ物は何か胃に優しそうな感じにして
一際ごつごつしたトラックにRide on!
「へいへーい!僕らがメシアン速達便さ!かっ飛ばしちゃってブラザー!」
善良モヒさんに運転任せ、ヒャッハーモヒさんに《おびき寄せ》の挑発うぇーい?!
ひゃほー寄ってきた!《カウンター》で【死出の導】!競争なら負けないよーユキさん!
まあ体力削って運転できなくなればいいかな。シエスタ!(挨拶)
(アドリブ大歓迎)
ユキ・パンザマスト
【くれいろ】
(重低音)(登場)
ひゅーーうゴキゲンな連中が揃いも揃って!!
まっかせなさい、メシアン速達便が胃袋からブッ生き返しちゃる!
セラそれ重くね?アッハイ。
うんまいご飯大事っすよね!食べるこた生きる事!
やっぱ重いんじゃねーですか!?(ツッコミ)
セラが消化アシストなら、ユキは肉をば!
おっとモヒ群、追い上げを見せる~!
(荷台から肉チラ)(胃袋誘惑カモン)
よっ、ブラザーのかっちょいいドラテク見てみたい!!
ふふふ、レースには甲羅やバナナの妨害がつきもの!
手分けして妨害ですよ! あ、どっちが多くやれるか勝負しません?
情報収集+【バトルキャラクターズ】の椿樹や根で進路を塞ぎ、敵の車を絡めとる!
ガッチャ!
■GATCHA!いらっしゃいませ♡KU★RE★I★RO★デリバリートラック!(投網)■
一台のトラックが、メシ・レースのある群れの中でTOPに踊り出た。
「へいへ〜い、ぶらざー、いっつないすたいみーん」
(※訳:「HEY 兄弟、今がその時さ」)
少年と思しき声が、そのトラックの運転手へ届く。
運転手は片眉をあげた。
スピーカーの中身をそのまま再現したような緻密なモヒカンを持つ巨漢である。
「オゥ…イッツタイミン?」
(※訳:「おや…今ですか?」)
「いぇあ〜〜〜」
(※訳:「いぇあ〜〜〜」)
ー…ここにひとつのOLD LOW(古き法)がある。
目には目を、歯には歯を、モヒカンにはモヒカンを。
……。
ちょっと違ったかもしれない。ー
だが運転手はバックミラーを見、すこし眉をひそめた。
「ンン〜〜〜〜バッド、ワンモアモアタイムAGE・POYO?」
(※訳「大丈夫ですか、私は少々心配です。時期を見るべきでは?」)
どこか心配そうに首を振る。
「ノンノンっすYO、いっつじゃすとたいみんぐ、ふぉわるっく、っす」
(※訳「ノンノンっすよ、今こそ見せるその時、っす」)
今度は少女の声が運転手へ届く。
「まじり〜?」
(※訳「本気ですか?」)
「「いえあ〜〜〜〜」」
(※訳「「いぇあ〜〜〜」」)
こんどはハモる声ひとつ。
ー…そしてここにもう一つの慣用句がある。
郷にINしたら郷にGOせよ。
……。
……もうちょっとちがったかもしれない。ーー
フフッ。モヒカンは笑う。やれやれとかぶりを振る。
「おけーいべいべー…」
(※訳:「わかりました、カワイコちゃんたち…」
…ところで、ねえ?
今更だけどこれわざわざ訳す意味あった?なくてもわりと通じたんじゃない?
残念ながらここにツッコミはいない。
これより先は(わりとこれまでもそうだった気がするが)ボケたまま・HELL。
ーまあでもたしかたぶんだいたい合ってるはずである。
であるからして、ここにひとつの法が成る。ー
モヒカンは勢い良くスイッチを押す。
「おけい、ぐっどらっくべいびー」
(※訳「がんばってください、応援しています」)
ーーアポカリプス・ヘルに入るにはッ!!!!ーー
「「いえあ〜〜〜〜〜〜!!!」
(※訳「いぇあ〜〜〜〜〜〜
!!!」)
ーーモヒカンからッッッ
!!!!!!ーー
バァン
!!!!!
トラックのバンの後ろ扉をバン(OPEN)しッ、現れるのは二つの影。
飾りが金か銀かの色の違いしかないお揃いのグラ・サン!!!
黒をベースに違いは男女のデザインの差ぐらいのお揃いのロック・パンク・メタル・キュートおべべ(衣装
)!!!!!
「へぇーい!わっつあーっぷ、ぶろ?」
ラジカセ†漆黒の讃美歌†(※急いでお取り寄せしたため非常にアンティーク)を右肩に担ぎ左手で目元にVサインを決めるはセラ・ネヴィーリオッ(トーチ・f02012)!
「聞こえるかいご機嫌な†漆黒の讃美歌†の重低音っ!きょうの僕らは一味違う、“ぜ”っ!」
「ひゅ〜〜!!!ゴキゲンな連中がそろいもそろっていやがるっすね〜〜〜!!」
左手を腰に当て右手で目元に同じくVサインを決めるのはユキ・パンザマストッ(暮れ泥む・f02035)
「へいへーい!僕らがメシアン速達便さ!かっ飛ばしちゃってブラザー!さあついてこれるかなバッドモッヒー、このテンションに!」
トラックのウイングが開いていく。
左右だけではない。天井までも。
「ふっふん!メシアン速達便が一般ピープルさんを胃袋からブッ生き返しちゃる!」
正面から見るとちょうど凸の字。開ききったウイングはそのままスピーカー。
そして回転するミラーボール。ばらまかれる七色の光。
「おまたせっ!」「したっすよ!!」
ついでにユキによって放たれる椿の花のホロがどんなラメより爆炎より舞い踊って散る。
トーチ(灯り)とかくれなずむとか言ってる場合じゃねえ、暗闇とか夕暮れとかぶっとばしてとびっきりのネオンサインーー…
そう!!!
このふたり
!!!!!
バッド(B)パーリー(P)ピーポー(P)ウェイ(W)モヒカン(M)をお相手にするために!!!!
わざわざ!!!!
お揃いの衣装とグラサンまで買ってきた
!!!!!!
それぶっちゃけお揃いが着たかっただけではとか訊いてはいけない。考えるまではいい。察するまでもいい。だがしかしどっちから言ったとか誰が準備したとか訊こうとした無神経なお前は照れ隠しのために死を覚悟しろッ!!!
ともかく!!!!
「くれいろデリバリー!!」
どこにお出しても!!!!
「ご飯のお届けにっ!!」
眩しい!!!!
「「見ッ参
!!!!!」」
パーリーピーポであった!!!!
だがモヒカンではない
!!!!!!!!!!
モヒカンではないのである
!!!!!!!!!!
『ここでピープルオブザグラス音響モヒカンことおんちゃんのスーパーミュージックデコトラよりニューフェイス登場!くれいろ★デリバリーです!!!パーリーさんも非パーリーさんも皆様拍手〜〜〜〜〜〜〜
!!!!!』
すかさず解説が飛んでくる。本当にこういうところを見逃さない男である。
「へいブローーーーーーーー!!!メシが欲しいかーーーーーーー
!!!!」
返ってくる返事はもちろんウェーイ!である。ウェーイ!!!!
…こういうところを逃さないセラである。
彼はウェイどもに優しく頷いて続ける。
「おかゆたべたいかーーーーーーーーーー
!!!!」
チ ョ イ ス が 優 し い 。
しかしBPPWM(バットパーリーピーポーウェイモヒカン)の皆さんは他モヒカンさん以上にドゥントスィンクク・フィィイイル(考えるな、感じろ)の民であった。
返ってくる返事はもちろんウェーイ!である。ウェーイ
!!!!(※2回目)
もしかしたら本当に胃腸が悪い方がいらっしゃったのかもしれない。考えないでおこう。本日はスーパーボケ倒しヘル。突っ込んだものから体力を奪われるのである。
セラがそうくればユキも乗る。
「お肉食べたいかーーーーーーーーーーーーーーー
!!!!!」
ま さ に 本 能 。
お分かりの通り何度でも言うがBPPWM(バットパーリーピーポーウェイモヒカン)の皆さんは他モヒカンさん以上にドゥントスィンクク・フィイイイイイイイイル
!!!!(考えるな、感じろ)の民である。
返ってくる返事はもちろんウェーイ!である。ウェーイ
!!!!(※3度目)
…しかしおかゆより若干声が強い気がする。人間(ヒューメン)さすが道具を持ってまず動物とったらいんじゃね?と思って肉食を始めた生き物である。本当に貪欲であった。いやしかしここで肉かおかゆかなどと争うのは不毛極まりない。もしかしたらおかゆ欲しい人より元気なだけかもしれない。
O・KA・YU!O・NI・KU!
O・KA・YU!O・NI・KU!
溢れるお粥、お肉コール。
…思えばレース始まっていままでバッド・モヒカンども…
バイクを強奪されたり(※バッドウェイモヒカン:1名)、タイヤをパンクさせられたり(※バッドウェイモヒカン:ぼちぼち名)
棺桶で殴られたり(※バッド梯子モヒカン:5名以上)、注文を拒否られたり(※バッドカフェモヒカン:5名以上)
バイクで煽られた上にクラッシュされたり崖から車捨てダイブする羽目になったり(※バッド肉ヤクザモヒカン:めっちゃ多い)
戦闘機によって上空からビームされたり(※バッド草モヒカン&バッド空モヒカン:マジで多い)
…と、散々な目に合うバッド・モヒカンが続出していたのである。
ところで本当に今更であるがバッドモヒカンってなんだろうか。なんなんだろうかこの幅広さは。
ともかく。
よってPPWM(バットパーリーピーポーウェイモヒカン)の皆さんはここで現れた“お世辞にも屈強とは言えない”、“可愛らしい”くれいろ・デリバリーに完全に油断していた。
乗っているのは爆音トラックで恐ろしい武器も見当たらない。しかも持ってきた食糧がフルオープンで見える位置(セラとユキの後ろなのだが)に無防備にも程があるほっぽり具合である。
完全にPPWM(バットパーリーピーポーウェイモヒカン)の皆さんは油断召されていると断言してよかった。
「いっひっひっひ」
ユキが密かに悪ぅく笑う。まったくもって2人で計画した通りだった。
このトラックの運転手、ピープルオブザグラス音響モヒカン:略しておんちゃん
(いままでのモヒカンに比べてネーミングがバッドモヒカン並みにシンプルでこれには何か裏があるんだろうかと疑わずにはいられないが別に深い意味はない。シンプルなやつもいる、それだけである)
がご機嫌なゲームミュージックを流してくれているので、その悪い笑いは隣以外には届かない。
「セラそれ重くね?」
悪巧みの子供の足取りでユキはセラに声をかける。
「あ、うん重い」「アッハイ」「もういいかな、あ、よっこいしょ」
セラはさらりとラジカセ†漆黒の讃美歌†(※本当に本当に急いでお取り寄せしたために鳴るかどうか確認できなかった)置いた。「突然ひっぱりだしてごめんね、いままでありがとね」モノ相手でも礼はちゃんと言う。元墓守の性分だった。
「大丈夫だったら後で直してもらおうね。…あ、ちがうか、壊れてるかどうか調べてから、かな」「っすね」
ふたりの計画はこうである。
非力に見えるなら、思いっきりそれに乗ってやろう。
題して能ある鷹でゲット作戦。
たましいと肉体を持つひとこそ、相手取るには得意なふたりであるからこそ、の作戦であった。
「ユキさんはもう準備万端?」
いつものまっしろな、それでいていたずらっぽい笑みでー今日は服が黒いわけだがそれでも元の白さは変わらないーセラは微笑む。
「もっちろん」親指を立てる。「準備運動もバッチリっす」
爆音のなかで、しかも振り返ればモヒカン世紀末だが。
今だけは音響のおんちゃんにも聞こえるマイクを切って、ふたりっきりの会話。
「あ、ねえ、競争しましょ」「どっちが多く妨害できるか?」
ひそひそ笑う、この楽しさ。
想う人近いこの照れ臭さ。「そう」「うん、いいよ」「よっしゃ、がんばるっす」「僕もっ」
2人並んでぐっと拳を握る。想う人とて容赦はしない。
というか
「えへへ〜〜勝ったら何かお願いひとつ、きいてくださいね」
…まあ、そういうことである。
「あ、ユキさん勝つ気でいる!」「もちろんっスよ〜〜」「いやいや今回は僕が有利だよ〜〜」
一応。ここは死地である。下手をすれば下手では済まないダメージを受けるデス・メシ・レースのはずである。
それでも計画は楽しかったし、あれこれ詰めるのも楽しかった。
やはり掛け替えのない、ありふれて楽しい日のいちにちが、ここにある。
「「では!」」
かちり。
マイクのスイッチを入れる。
「ブッラザーの・カッチョいい・ドラテック・みってみったい!」ユキが拍子をととってはやしたて「あっそれそれそれ〜」セラが合いの手を入れる。返事はゲラゲラという笑い声だ。
おんちゃんには、合図するから、と言ってあったのだが…まさかこういう合図だとは思いもしなかったようである。
「OK,Cuty Cupple,Please Enjoy My Driving for you」
えっ。ちょっとまって冒頭のいい加減な英語どこいった。
などというツッコミは意味を為さない。
いぇあ!とふたりの返事が響くだけだ。
「れでぃ〜〜〜〜〜〜〜〜は、いない!」セラが切り出す。
「へーーーーいじぇんとるめーーーーーーんず!!!」ユキが継ぐ。
もちろん答えはウェーーーーーーイ!!!
「おかゆがーーーーーー
!!!!」「おにくがーーーーーーーーー
!!!!」
…阿吽と言うには、ちょっとテンポのズレがあるかもしれない。
「「欲しければっ
!!!」」
けれどもまったく構わないだろう。
そんな些細な違いに気付いてくれるのは、彼と彼女を本当に想うひとたちであり、彼と彼女自身である。
「かかっておいでよぶらざー!」
「鬼さんこっちら、てっのなる ほうへっ!」
お互いが生きているかぎり、そこにいる限り、なんだったら別に何度でも合わせるための調整をすればいいのだ。
そして愚かなりPPWM(バットパーリーピーポーウェイモヒカン)の皆さん。
本当に完全に相手を舐めていた。
なぜなら相手はアポカリプスヘルに入るにはモヒカンしていそうでしていない、いわば郷にはいらばGOしていそうでしていないだがしかしパーリーピーポっぽいふたりだったのである。
故に出すスピード。
後ろから凸型に見えるトラックに凸する愚直さ。
よってセラの翼は広がって。
歌われる死出の導き。
そう。
なに故わざわざおんちゃんのトラックにインしたかと言われればこれである。スピーカーで声は幾重にも響き倍ドン。リング・ザ・ベルをベル“ズ”に変える大反響。耳栓なんか誰も持っちゃいないが故のどストレート耳インをせざるを得ない。
つまり。モロに食らって生命力を削られ爆睡。
崩れ落ちる運転手、そこにーーー
「うふふ、レースゲームならバナナや甲羅の妨害はつきものなんすよ、モッヒーさん!」
ーーーさらに咲き誇る、椿の樹。
突然塞がる進路、はじけて飛び出す椿の根。
「ガッチャ!」
その様子、さながら投網!
「まとめてェ、ゲット〜〜〜〜〜〜〜!!!」
ユキの誇らしいガッツポーズ。
「ふっふーん、これがほんとの一網打尽ってやつっすよ!」
どう考えても自分の勝利を疑っていなかった。
「あれ、でもさユキさん」「はい?」
「もしかしてこれ、数えられなくない?」
「…あっ」
さて。
どう言った形式で決着をつけたのかは…本人たちのみぞ知る、
ところにしておいた方が良いだろう。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
セプリオギナ・ユーラス
さて、
飢えた者に絶対必要なものを揃えよう。まずは清潔な水。それから柔らかい粥やらなんやらの元か。いやその前にマルチ栄養剤か。それとも消化薬…薬はいくらあっても足りないだろうな。ゼリーにでも混ぜ込むとしよう。空腹に急な刺激は毒だしな。メインの食料は他の奴らに任せる。
で、だ、次に当面の障害となるモヒカンについてだが…これは俺というより、
(姿を変化させ)◆
わたくしの出番でございますね。雑務ならお任せ下さいませ。
変幻自在の指先でアクセルとハンドルをキープしつつ、バウンドなボディでそこらの岩を引き寄せましたらば超鋭角カーブも華麗に捌き切って見せましょうとも。
・アドリブその他歓迎
■アポカリプス賽子紀行 with 爺◆
メシレースもいよいよという中、至極不機嫌そうな男がバイクに座っていた。
ハンドルを握り、黙々とバイクをいじっている。
カチッ。カチッ。
街角の暗闇を掬ってきて載せたような黒い瞳。
漆黒の髪は長く、排ガスが強く臭う乾いた風に無造作に揺れる。
表情は不機嫌そのものである。
カチッ、カチッ。
乾いた音が2回ワンセットで何度も響く。
この男は一体何者であろうか?
道ゆくバイクに飛び蹴りし搭乗者を叩き落として聞けば、ほとんどの者が同じ回答をしただろう。
ひときわ強い風に煽られてはためく白衣。
バイクの後ろへ厳重に積まれた荷物。“割れ物”や“貴重品注意”のシールがべたべたと張られたトランク。
『彼はきっと、医者に違いない』
カチッ、カチッ。
「…少し、考えたいと思っていたがーーしかし」
彼の鋭い眼光はきつく、ほとんど睨んでいるといって差し支えないだろう。
いや、普段がどうであるかはさておき、今回は本当に睨んでいた。
カチッ、カチッ。
もう何度も聞いた二回ワンセット。
「バイクはやはり、俺の領分ではない、な」
呟きながら、もう一度。
カチッ。
ーーー…バイクは応えない。
男の名はセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)。
先程からずっと、バイクを起動させようと格闘していたーーーー…
カチッ。
ーーー…そしてもう一つ。先程からずっと同じ乾いた音が続いていた。
そう。二回ワンセットだが、それぞれ同じ男が鳴らしていたのではない。
別の男が近くにいて、鳴らしていたのである。
『彼はきっと、医者に違いない』
そう判断して、ここにバッド・モヒカンがいた。
「ヒェッヒェッヒェッ」
そいつはバッド・オール(同期が)DETH・モヒカン
御年:92歳(※諸説・変動あり)。
セプリオギナの持っているのが水と医療品と踏んで強奪を狙う、バッド・老モヒカンジジイである。
ちなみに頭髪はだいぶ減っておりモヒカンは一応あるが少ない髪の毛を束ねたために髪の毛一本がスッと天に向かって伸びているだけのように見える。
彼もまた、バイクを起動させようとセプリオギナの隣で格闘していた。
先程から、ずっとーーーー…。
カチッ。カチッ。
だが、セプリオギナと違い、バッド・オール(同期が)DETH・モヒカンの方は笑っていた。
「そいつァ、ええ知らせじゃウェイ…」
ー…語尾にウェイ、つけちゃうんだーーー…。
カチッ、ーーーーブオン!!
バッド・オール(同期が)DETH・モヒカンのバイクのエンジンが、かかった。
御年95歳(※諸説・変動あり)とはいえ、バッド・オール(同期が)DETH・モヒカンも仮にもバッド・モヒカンである。引退せずに走り続けていた狂人であった。
(もうそろそろバッド・オール(同期が)DETHモヒカンという名称が長くて大変なので老モヒカン、略して老モヒで進行させていただく。あしからず)
バイク(の起動)に関しては、セプリオギナより老モヒの方が一枚上手だったようだった。
唸るエンジン、震えるバイクのボディ、ついでに体をうまくキープできずエンジン振動と一緒に震える老モヒ。
「さささささあああああ、おおおおおいおいおいおいお若いのののののの…
(バイクの起動に関しては)ワワワワ、ワワ、ワシシシの、のののの勝ちちちち、じゃゃややややウェエエエイ」
ジジイ!!セリフ!!ジジイセリフいえてない!
いやいえてるんだがブレっブレで聞き取りづらい!!
「ひひひひひ、ひか、ひ、ひかれ、牽かれと、とととととぅなけ、けけければ
わわ、わわわ、わた、わたして、わたして、貰おうかウェエエエエエ、エイ」
ジジイ!!!ジジイ無理すんな!!!!
震える声が一周回って世紀末ラップじみてもはや新しい。
セプリオギナは老モヒをじっ、と見つめ、かぶりを振った。
「そうはいかない」
おーっとセプリオギナ、老モヒの振動に対してガンスルーである。
物資痩せ細るアポカリプス・ヘル。
現れた猟兵の属性がツッコミでないかぎり。
ツッコミはどこにも(少なくともここには)いないのである!
「この箱の中には、飢えた者に絶対に必要なものが入っている」
眼鏡を掛け直し、先程からいじっていたエンジン・キーから手を離す。
だけでなく。
「清潔な水、マルチ栄養剤、消化薬…空腹に急な刺激は毒になる可能性が高いため、栄養剤を取る際のゼリー。それに薬」
ハンドルからも手を離し、だらりと両手を下げてしまう。
武器のようなものはぱっと見て持っているようには思われない。
「…いくらあっても足りない筈だ」
「ウェイ。そうとも…いくらあっても足りんさ」
(※余計な情報が多くなってしまうため老モヒの振動ラップはカットしてお送りしております。お好きな文字を3〜5倍の濃度に調節してご想像いただけますと幸いです。)
「だろうな」
はたからみれば、降参のようなポーズ。
「故に、お前たちにやる分の資材はない」
だが、その黒い瞳の意思は少しも揺らいではいない。
「ウェイ、ウェイ、ウェイ」老モヒは笑う。
えっ、ウェイって笑い声にも使用するの。
「ならば若者、きさまはここで人々のために人知れず死ぬがいい」
カチッ。老モヒがライトをつける。
そう、この老人。セプリオギナに老人の余裕で付き合っていると見せて、ライトどこだっけなーと思い出していただけなのである。
セプリオギナは首を左右にゆっくりと振りながら、こう続けた。
「まったく…仕方ない」
「あの猟兵から聞いた予知の件…もう少しこのまま考えていたかったのだが」
それは誰に聞かせるでもない、独り言だった。「オブリビオン、過去、現れるもの、嵐、食料、食料を運ぶ俺たち…」ひたすら呟く。
「何を寝ぼけたことをぶつぶつと…若造よ、そんなことよりお祈りはいいのかね」
忘れかけていても乗れば思い出す。老モヒはもはや心も技能も若モヒに戻ろうとしていた。
(※ちなみにセリフの震えはまだあるので心の耳でお好きなところの文字を8〜9倍の好きな数だけ増やした台詞をご想像ください。ちなみに増やさないという選択肢はございません。ジジイが震えているからです。
セプリオギナは、こう続けた。
「やはりこういった障害、雑務は」
瞬間。
老モヒは驚愕のあまり口から入れ歯が飛び出した。
「ファフィィイイイイイイイッ(何ィイイイイイッ)!!」
セプリオギナが、文字通り、溶けた。
衣服も顔も腕も体も眼鏡さえも一緒くたに、ずるり。
「わたくしの出番でございますね」
代わりに再構成された、其れ。
そいつは言葉を発するが、その形に一切の発声器官は見て取れなかった。
つやつやと黒く、人ほどの大きさのあるそれ。
正六面体。
◆
これぞ、ブラック・タール。
「雑務ならお任せ下さいませ」
先程の医者とはうって変わった朗らかな声。
「ハロー(ご機嫌よう)、ミスター・オールド」
礼儀正しく老モヒに挨拶をしーーーそのバウンド・ボディを伸ばす。
カチッ!ブオン!鮮やかにエンジンを入れる。
「アンド(そして)」
正六面体はまたひとつボディを伸ばして
「グッドバイ(さようなら!)」
アクセルをブッ込む!
そしてあのスロー・バトルなど幻だったように、ぽつんと残された老モヒは。
落ちていた入れ歯を拾って嵌め。
黄色い歯を剥き出しにして笑いーーーー。
『さーて諸々差し迫りまして私カリタニ・サーン。ここで最後のご案内をお伝えいたします!』
今日も朗らか元気な解説の声が明るく響く。
『今まで様々な場面展開をお送りしておりましたが、
ただ今の推し!注目すべきは最後尾より追い上げに追い上げるセプリオギナ選手の走行であります!』
誰だってびっくりするだろう。
正六面体がバイクを運転し、次々とモヒカンどもを後ろから抜いていくのである。
『何と彼はブラック・タール!我々ヒューマンのように体という枠を解き放った選手によるーーーーああッと!?』解説の声に驚愕が走る。
最後尾から巻き上げる、一台のバイクがあった。
セプリオギナはもちろん“察知”していた。
『待て待て待て待て待て待て!!!!お待ち下さい!まさかッ!!あれは!!!』
「いやはや」狼狽する解説とは逆に、セプリオギナは朗らかだ。
「先程お別れを申しましたのに」
顔があったのなら、笑みのひとつもあったのかもしれない。
だかしかし正六面体。投げられた賽子その真は誰も知らない。
もしかすると、本人も。
『あれはッ!!まさかレジェンド!!!老いて尚風となる!!!伝説のバッド・モヒカン
!!!!』
そんなに偉人なんかい
!!!!!!!
「ウェエエエエエエイィイイイイイイイイイイイイイイハハハハハァアアアアアアアアア
!!!!」
シャウトしながらやってくる老モヒ!!
『あの悪魔の名はーーーーーバッド・モヒカン・DETH
!!!!!!!!!
ちなみに今のデスは敬語のデスではなく英語のDETHです
!!!!!!』
ッその名前でいいのか偉人ーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
「ふはは若者よ!!良い!!良いぞ!!!その心意気や実によし!このワシの血を滾らせるぅウェエエエエエエイ
!!!!!!」
(※バイクと走行の振動につきお好きな文字を10〜30倍ほどに増加した台詞のご想像をお願いいたします。エあたりがおすすめです。)
「おやおや」賽子(セプリオギナ)はくるくると回る。
「そこまでご指名頂いたのならばお付き合いせねばなりますまい」
伸ばしたバウンド・ボディで一際強くハンドルとアクセルをキープする。
「そうこなくては、そうこなくてはなァ!!!そろそろ人間(ヒューメン)は飽きておったところよ!!!!うはははは!!」
(※バイクの走行と振動と血圧の上昇につきお好きな文字を20〜40倍程に増加した台詞のご想像をお願いいたします)
「では、ノンストップで参りましょう」
展開されるチキンさながらの高速レース。
ある瞬間に披露されたのは、バウンド・ボディを伸ばし岩を掴んだことによるセプリオギナによる25度近い鮮やかな急ターン。そしてついていく老モヒ。
またある瞬間に披露されたのは、セプリオギナが岩へと伸ばしたバウンド・ボディに飛び乗り号外し、追い抜いて立ち塞がる老モヒ。
その技に対抗し続けるにはセプリオギナでなくてはおそらく不可能であっただろう。
しかし双方譲らずご確認、かに思われた。
「バッド・モヒカン・DETH殿」
セプリオギナの声は、きっとその時本当に優しかった。
「なんじゃあ賽子め!!!ウェイウェイウェーーーイ!!」
(※バイクの走行と振動と血圧の上昇につき、
お好きな文字を200〜400倍程に増加した台詞のご想像をお願いいたします)
「今までありがとうございました」
あの白衣の男を見れば、だれだって思うだろう。彼は医者に違いない。
賽子に変わり口調が変われば、だれだって思うだろう。彼は多重人格に違いない。
だが。
セプリオギナは、多重人格ではない。
持つは統一された自我。
よってこの賽子のセプリオギナも気づいていた。
「もう、お時間でございます」
老人の爆走は、その速度を上げる代わりに命を縮めるのだと。
『ああーーーーーーーー!?』
固唾を飲んで見守り、時に囃し時に賞賛し時に嘆いた解説が、驚きの声を上げる。
老人はバイクの上に崩れ落ちた。あわや転倒。
出していたスピードがスピードであるがゆえに、老人の末路をだれもが想像した。
だが。
そこにもバウンド・ボディは伸ばされた。
しっかりと、しかし丁寧に、老人とバイクを捕まえる。
「バッド・モヒカン・DETH殿」バイクを停め、賽子はそっとその男の前に移動し
再び、黒髪の医者としてその前に現れる。
「老衰だ」
眼鏡の奥の目をすがめ、ゴールのありかを告げてやる。
「貴様は無茶をしすぎたのだ」
バッド・モヒカン・DETH。
…御年、98歳(※諸説あり)。
「どうしてそこまで命をかけた。モヒカンの誇りか」
思わず問うたのは、医者としての本能だった。
「なんと、なんと…」老人は答えない。
嗚呼。その場に立ち会ったものは確かに見届けた。
伝説の終わりを。
「……」
老人の呟きに、誰かの名前を聞き取ったのはセプリオギナただ1人だった。
「…かわいいお前、せめて出て行ったお前を、もう一度…」
その、懇願を聞き取ったのも。
レースは続行する。
「そうそう」
ほぼ壊しかけたアクセルとハンドルをこのまま走りきれるよう調整しながら、賽子のセプリオギナは声をかけた。誰にか?
「解説のカリタニ・サーン様」『はいはい!いかがいたしましたか!』
「レースを魅せた者としていくつか質問する権利をいただいてもよろしいでしょうか?」
『無論勿論ザッツ・オールライト!』「ぶしつけでしたら申し訳ございません」
『いえいえ!我々、此度の案件については本当に感謝していますので!大丈夫でございます!メシ運びしメシアン様!』
では。セプリオギナは賽を降る。数字まで当てる必要はない。
奇数か偶数かーーーそういったアタリだけでよい。
「今まで、食料を求めて拠点を出て行かれた方はいらっしゃいますか?」
一瞬の、間があった。
『…無論』
『ある種我々ピープルオブザグラスモヒカンすらそういう者たちである節すらございます』
「戻ってこられた方は?」『いない訳ではございません、が、そうですね』
『…誓ったような食料を持って戻ってきた者は、居ません』
嗚呼。次第に視界はひらけ。
真っ平な平地が広がるーーー目的地はすぐそこだ。
『仕方のないことではありましょう。むしろ食い扶持を減らすためにそういって出たものもいたはずです。飢えの恐ろしさは、魂に刻まれます。戻れなかったのだろうと思います』
荒野にはモヒカンや猟兵たちによって荒々しく刻まれた轍がある。
風が吹き天候が変わり、時間が経って、それはいつか消えてしまうだろう。
『見つけたとしても、戻れなかったのではと想像しています。
探しに行った者も人間です。動けば腹も空き、体力も消耗します。
その時。手元にたとえば必死に得た食料があったらーーー食べてしまうでしょう。
あるいは、それでも食べれずに這うように進んだりする者もいたでしょう。
いずれにせよ』
解説はそれ以上語らない。
天候は徐々に陰っていた。どこからともなく雲があらわれ、空を覆いはじめている。
嵐が、近づいていた。
「左様でございますか」
くるくる。意味もなくセプリオギナは回転した。
オブリビオンとは過去だ。それらはとっくのとうにすべて振られ、出目がでた賽子だ。
であるならば。
せめてこれより向かう戦いで、最善の出目をだすしかないのだ。
この回転はその、前哨戦だった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『明日を目指した人々』
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POW : きっと実るよ。ここには俺たちが眠るのだから。
自身の【全ての生命力】を代償に、【収穫可能になるまで自衛する植物】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【外敵のエネルギーを吸収する触手】で戦う。
SPD : 未来の為に逃げろ。そして何処かで芽吹くんだ。
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【安全地帯で成長を始める自走植物】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ : これが実れば、食べ物で争う事は無くなるんだ。
【飢えに苦しむ人々を助けたい】という願いを【この世界の未来を憂う人々】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
👑11
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◆あゆみのわだち◆
速く!更に速く!
きみたちは先を急ぐ。空は暗く陰り重く垂れ込める黒雲。
荒い風が巻き込んだ小石で君たちを叩く。
なんとかポイントに到着した頃、淀みを含んだ風が、きみたちを中心に竜巻を形成する。
吹き荒れる黒い暴風。
オブリビオン・ストーム。
猟兵たちの持ち込んだ食料。
そして誰かに届けようという意思がそこにある“現在”によって。
過去(オブリビオン)が現れる。
“ごめんね”
まず嵐より聞こえたのは、かすれた女の声だった。
“ごめんね、ごめんね、ひもじかったね”
ああ、過去(オブリビオン)が形を形成する。
二本の足。背はそれほど高くなく。痩せこけた顔に汚れきってつぎはぎの衣類。
アポカリプス・ヘルの住人の貌をしている。
“ごめんね、ごめんね、さみしい思いをさせたよね
背はどれだけのびたかな風邪ひいたりしなかった嵐の日もあったでしょう眠れない日もあったでしょう暑い日や寒い日はどうしたの?あれからどんなことで笑った?たくさん泣かせちゃったねつらいつらいひがつづいたよねごめんねごめんね”
“残していってほんとうにごめんね”
女だけではない。男もいる。若いも老いも背の高いものも低いものも屈強なものも痩せ細ったものもいる。先程の追手の数など比ではない。
皆、一様に目に強い光を宿して前へ前へと歩こうとする。
オブリビオンはいつだって、過去からやってくる。
“飢えに飢えりゃ誰だって考える”
“ああ、どこからか食べ物が現れないかな”
きっと、アポカリプス・ヘルではよくある話だろう。
その腕には、今もいできたかと思うばかりの瑞々しい果実が抱えられている。
この荒れた大地で、そこだけ違う世界からコピー・ペーストでもしてきたような異質さを放っている。
嗚呼、きみたちのだれかを乗せたバイクの運転手が。
あるいは先行して走っていた男が。
ただの一般人、ただの民草のうちのだれかが、もらす。
「かあさん」
“もう大丈夫”
いとしいひと、とオブリビオンたちは声を出す。
子を呼び母を呼び父を呼び兄を呼び祖父を呼び祖母を呼びーーー
愛を持って相を呼ぶ。
“今行く、今行くよ、お待たせ”
まず歩く数名のその顔が醜く歪んで崩れる。
ばきばきと音を立てて内側から木を生やし数名が混ざり合いながら根を張って。
大地すべての栄養をもぎ取りながら大樹へと変じ実を成らせて落とし、ふたたび人になって進行する。
それが次々と、起こりながら進行していく。
さながら森の嵐。
“今、行くからね”
嵐に乗って、あるいは徒歩で、彼らは進む。
きっとアポカリプスではよくある話だろう。
だれかの笑顔が見たかったのだ。
暖かいごはんをたべさせてやりたかったのだ。
できれば、おなかいっぱい。
食料を求めて歩む皆(オブリビオン)の頭の奥に響くのは嘆きだ。
…おなかすいたよう…おなかがすいたよう。
ひとりまたひとり、家族や親類や仲間が減ってしまう光景は彼らの脳裏へ鮮烈に焼き付いていたことだろう。
苦難の道に仲間は1人また1人と減ったに違いない。
最後の1人か、はたまた誰か。
家族への想いが、いとしい人への想いから、きっと種でも飲んだのだ。
この肉だって、きっと栄養になる。
その愛の行先が、これだ。
すべての命を吸い上げながら育つ木になり、
そして実を生らしまた人となって行軍する。
そしてそれらは過去であるから。
目はもう過去しか見えないから。
きっと、もう会ったって彼らには誰かもわからない。
わからないまま栄養に変えて、生い茂り、生らし、滅し、滅びるのだ。
“だれ。”
過去がきみたちに気付く。
彼らはきみたちの抱える荷物なんか見えちゃいない。
彼らは自身を善良な人間だと、まだ、思っている。
そうしてオブリビオンとしての本能で、君たちが敵だと知っている。
“邪魔を、しないで”
さあ猟兵。武器をとれ。
駆逐してやれ。
どんなに会わせてやりたくても、会えばだれも生き残らない。
悲しい虚無がうずまくだけだ。
そして。
たとえこの嵐の中に、きみたちの大事なだれかのそっくりさんを見つけても、躊躇ってはいけない。
どんなにその人が愛しいだれかーもしかしたらそれはきみのそっくりさんなのかもしれないーのために足を動かしていても。
心痛くとも倒さねばならない。
明日を生きるためには、別れを告げることだって、たしかに必要なのだ。
■マスターからのお願い■
こんにちは、シリアスです。
受付期間はお手数ですがマスターページをご覧ください。
こちら殲滅戦になります。
もしもあなたに(生死問わず)大事な誰かがいるのなら
あなたはその方(と同じ顔のだれか)をこのオブリビオンたちの中に見るかもしれません。そういった展開をご希望の方はプレイングにご明記ください。
戦えるか、戦えなかったかも含めて。(これはダイスの判定に影響を及ぼしません)
もちろん、だれの顔も浮かばずでもかまいません。
これは弔いの戦いです。
だれも浮かばない自分に虚無をかんじながら戦うのも素敵です。
さあ。
あなたは、どうしますか?
ご参加、お待ちしております。
シャルロット・アルバート
オブビリオン・ストームが発生したと聞いたからやって来たけど……
あれはイチカ!?(故人。シャルロットこと新垣瑞希を守るため犠牲になった)
彼には彼が夢見た未来を見て貰いたいたかったけど、彼は僕の世界の人間。
『イチカは死んだ!オブビリオンに殺されたんだ!オブビリオンは僕からイチカの死まで奪うのか!』って割り切りたいところだけど……
それでも彼が見てくれているかもしれないなら。
彼が夢見た宇宙を切り開く力……
それを体現する能力が僕にはある。
【鎧を纏いし戦乙女】……せめてイチカが夢見た力で君を討たせて貰うよ。
寿命を削る分は彼らの食物から【生命力吸収】で逆にエネルギーを吸い取らせて貰うつもりだけどね。
■you're dreaming, I'm alive here .■
男がひとり、急いでいる。
何度も転んだらしく衣類には派手に汚れがついている。なにより血だ。血で汚れている。男は負傷していた。裂けた衣類の隙間から手当てが見えるがガーゼや包帯を使ったものではなくちぎった衣類などの間に合わせだ。歩くたびぼたぼたと血がこぼれて床に跡を残す。
男は逃げていた。
“新垣瑞希”はかつて、ひとつのいのちを捧げられた。
男の歩みはお世辞にも早いとは言えない。
息は上がり切って苦げに喘ぎ、崩れ落ちそうになりながら前へ前へと急ぐ。
…歩みが遅いのは怪我のせいだけではない。
彼は自分以外のいのちひとつ、抱えていた。
カレーが美味くて。囮とはいえダンスなんかもして。真っ直ぐさが妻を思い出させた。子供のこともあったからかもしれない。自分が欲しい未来を語らった。
あまりにも鮮やかな日々。
弟子。
死ぬつもりなんか微塵もないが、その前にかけるべき可能性があった。
死が迫ってきている。扉を開く。細い体を入れる。扉を閉めて、ロック。
ためらう理由などひとつもなかった。
守ってやる。
迷惑だと言われるだろうか?怒るだろうか?泣くのかもしれない。想像がつくような、つかないような。
だけれどそれとは全く関係なく、ひとつ、想像がつくことがあった。
鎧を纏った、輝ける戦乙女。
画面に表示が出る。叩くように押す。
脱出装置、起動。
ゆけ。
疾った光は間違いなく希望だ。
男にはそれが、なによりまばゆい閃光に見えた。
…こうして、“シャルロット・アルバート”(閃光の戦乙女(ライトニング・ヴァルキュリア)・f16836)がひとつのいのちと引き換えに誕生した。
そして。
捧げられたいのちひとつ。
その名はーー…。
「…イチカ」
瑞希はその名を口にする。
意図してではない。こぼれたものだった。
オブリビオン・ストームときいて転送された先、アポカリプス・ヘル。
眼下では嵐が吹き荒れていた。
黒い風、オブリビオン。
過去より来たる災いは此度、誰かの為にただ進み、そして帰らんとする誰かのかたちをしていた。
「…イチカ・アルバート…」
今度は丁寧にその名を口にする。
パワードスーツの製作者。瑞希の師。ヒーロー。夢を見る男。
新垣瑞希を命がけで助けた男。
シャルロット・アルバートを誕生させた男。
全くよく似た“彼”がそこにいた。
嵐の中、ひとり歩んでいた。
喉がひりつく。指の先が冷たい。鼓動は不規則に早まり一向に収まらない。
無論“彼”とイチカがイコールではない。装いが違う。たたずまいが違う。雰囲気が違う。
他人だと言っていい。
だが考えずにはおれない。
“もしかしたら”。
オブリビオンとは過去だ。
過去。
遥か彼方にあって現在と繋がるもの。
“もしかしたら”。
もしかするともしかしたら、オブリビオンが過去からイチカを汲み上げて形取り混ぜたのかもしれない。
なぜなら此度の嵐は“現在”から呼び寄せられた“過去”。
瑞希(救われたいのち)を種にイチカ(奪われたいのち)が現れることは、あり得ない話ではなかった。
彼は瑞希(シャルロット)の方など見てもいない。前へ、ただ前へ。抱えた荷物を何処かへ運ぼうと必死に進んでいる。ぼたぼたと溢れる血。
あの日を、彷彿とさせる。
瑞希は声をかけたかった。今すぐ駆け寄って引っ張って行きたかった。見せたいものがたくさんある。聞かせてくれた未来。イチカが夢見たものが現実になったと見せたら、イチカはどんな反応をしただろうか?またカツカレーを振る舞おう。
いつかの昔は僕がイチカの夢をたくさん聞いたから、今度は僕の経験した戦いの話を聞いて欲しいな。
シャルロットは分かっている。
違う。
彼はイチカじゃない。
「イチカは死んだ…!」
めいいっぱいに吐き出す。
「オブビリオンに殺されたんだ!」
感傷を切り離そうとする。
服も文化も全く違う。見せたいのは話したいのは会いたいのはここの彼ではない。
自分にとっての彼は、自分の世界にいたイチカただひとりなのだ。
だから違う。彼はイチカじゃない。
けれどもーー…。
眼下の歩む彼からこぼれた血から木が芽吹いて他のものとグチャグチャに混ざり合いながら全てを吸い上げていく。
紛れもない、オブリビオンの異形だ。
心が掻き毟られる。
「オブビリオンは僕からイチカの死まで奪うのか!」
違うと分かっていても、我慢がならない。
「パワードスーツ、変形」瑞希は命じる。
演算装置が起動し、シャルロットの髪が揺れる。
パワードスーツは変形する。空を駆け、素早く敵を討つ形態へ。
より美しく、より速く、より強い力を持つ姿へ。
シャルロットが求めた余りに過ぎた力は代償を求めてくる。
問題ない。生命力なら沢山あった。歩く過去が腕に抱えるその果実。彼らが求めて願ったもの。起動したチェンジャーがそれらを正しくエネルギー、光に変えてシャルロットの元へ集める。
自分の生命力を犠牲にするわけにはいかなかった。
見せなくてはいけないから。
見ているかもしれないから。
抱えたものが奪われ、嵐たるオブリビオン(過去)たちが一様に顔を上げ、シャルロットを見つめる。
“彼”もまだ奪われていないとはいえ異常に気づき顔を上げ、シャルロットを見た。
鎧纏いし戦乙女を。
ああ、ほんとうにそっくり。
シャルロットは口端を歪める。
「僕は、君を討つよ」
瑞希は呟く。
「『見せてあげるわ』」
“シャルロット”は囁く。
ほんとうに、ほんとうにイチカへ見せたかった。
イチカが夢見た宇宙を切り開く力。
その体現たる自分を。
ブレードを構える。
「『“閃光の戦乙女(ライトニング・ヴァルキュリア)”の名に恥じない姿を』」
見せなくてはならなかった。
イチカが見てくれているかもしれないと、思ってしまったから。
イチカが命を落として救った自分が、
命を落とさずに誰かを救っているところを。
男は急いでいた。
何度も転び傷つき足掻きもがき、幾多の苦難の末にとうとう得たものを抱えて前を目指していた。早く。一刻も早く。
男は、逃げていた。
後方で悲鳴が上がる。敵だ。本能が囁く。先程からやかましい。
戦乙女だ。
縁起がいいな、と男は思った。自分の傷は浅くない。死は免れない。死に際に戦乙女(ヴァルキュリア)とは。まさかそんなものを見るとは思っていなかった。勇なる魂の運び手。ずいぶん豪華だ。
こちらがせっかく得たものを光に変えて得ながら自由に宙を駆け、そいつは仲間を次々と落としていく。敵だ。男へ本能は囁いている。敵だ。わかっている。
戦乙女に少しばかり待って欲しかった。待ってくれと言いたかった。腕に抱えたこれを奪わないで欲しい。どうしても運ばなくてはならない。
死ぬつもりはないが、腕の中のものを届けて、かけるべき可能性があるのだ。
味方が次々と落とされて悔しいはずなのになぜだろう。天晴という気持ちしかない。
敵なのに両手を上げて喜びたいほど嬉しい。
やがて男の手の中のそれもまた奪われる。
光と崩れて戦乙女へと注がれる。
ああ。男は気付く。
奪われたのではない。
受け継がれたのだ。
戦乙女が駆ける。
あまりに速く、ターボのライトが細く線を引いているように見える。
男が、戦乙女(少年)と眼が合った。
真正面。自分の番か。男は悟る。
あまりに一瞬のことで言葉を交わす暇もない。
あまりに一瞬のことで起こった奇跡を誰も知らない。
いつか昔、イチカという男がスイッチを押して送り出し引かれた光の線と
たった今、シャルロットという戦女神が男に向かって疾った光の線。
過去が未来へ託して守り走らせた希望と、見てくれているかもしれないと未来(現在)が過去へ馳せた想いが、ひとつ、現れる過去という点によって奇妙な縁を持って、つながったことを。
誰も知らない。
来い。
光の尾を引いて“変わらぬ”真っ直ぐさでやってくる。
みずき、
シャルロット。
男にはそれが、なによりまばゆい閃光に見えた。
成功
🔵🔵🔴
シエラ・バディス
…誰であろうと皆さんは過去に去った人たちなのです。
先へ進む人たちの為にここで止めます!
接近してスコップを手に立ち塞がって敵を穿ち、叩き伏せ、切ります。(部位破壊+怪力)
…何かおかしい、誰かの影がちらつく。
今だって相手が纏まった瞬間何故か下がって、誰に対して声をかけようとしたのか?
少し距離が開いた所に居る相手が中々倒されなくてもどかしい…けど何故もどかしい?
視界の端に映る糸と斧がひどく胸をざわつかせる。
背格好が似た相手を咄嗟にスコップで切り飛ばした時、長く白い髪の全体的に白っぽい少女の陰が重なる。
何処と見ていない虚ろな視線が、酷く不快で、悲しくて、それらを忘れる為にただただ『怪力』任せに暴れた。
御園・桜花
「どんなに優しい願いも、度を過ぎれば全てを蝕む毒になる。想像したよりも、こんなに哀しいとは思いませんでした」
他の猟兵を巻き込まないよう離れて敵の群れに飛び込みUC「アルラウネの悲鳴」使用
自分から半径67m以内のものに無差別に攻撃
敵の進軍が止まるまで叫び続ける
「貴方達の想いが愛しい誰かを傷付けることがないように…貴方達を此処で止めましょう」
敵からの攻撃は見切りや第六感で躱す
避けられない攻撃は盾受け
その際カウンター可能ならカウンターからのシールドバッシュを合わせる
攻撃に属性攻撃や破魔が乗せられるならそれもあわせる
戦闘終了後、慰めのスキルを乗せた鎮魂歌を
「想いを解いて…何時か貴方達も転生を」
■埋まった棺桶は覗けねど、絶叫もやがては歌と変わりて■
森の嵐を一台のケータリング用・キャンピングカーが走る。
丁寧な運転は変わらず、速やかに先を目指していた。
シエラ・バディス(死して彷徨う人形・f15798)はその屋根にひとり、傍に棺桶を置いて座り込んでいた。
暴風ではためく髪やローブを邪魔にならないよう手で押さえながら、見据えるは前でなく後方。
そこでは戦いが始まっている。閃光がいくつもいくつも線を引いている。
時々、戦いの余波で折れた木の枝や幹の一部と思われる木片が飛んでくるのを棺桶で一撃二撃と打ち落とす。木片は棺桶の殴打によりばらばらに粉砕されて、屑しか出ない。
これがシエラが『彼女』に買って出た役割のひとつだ。キャンピングカーの護衛。
もう一つはというと…。
やがて少女は立ち上がり、声を張り上げた。
「ヨッちゃんさんたちのバイク軍、完全に引き離しましたーーー射程外です!」
ある目的のための見張り、である。
「了解です」
柔らかい中に凛とした決意を秘めて返すのは運転手、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。
「ありがとうございます」礼を述べ、目を細める。
「前方もそろそろです」
彼女が見ているのは前方。この嵐に置いて先行するオブリビオンの群れだ。
ーごめんねー
声がする。
ずっとずっと、響いている。
想いの叫びに窓ガラスがびりびりと振動する。無数のエンジンによる振動とはまったく違う。
ーいままでほんとうにごめんね、待たせたよね、もう、もう大丈夫だよ、なあんにも心配はいらないよ、大丈夫、大丈夫だからねーー…
無数の声が無数の懇願を歌っている。大樹に変じ吸い上げて食らった大地の命の数だけより大きい実をならせ、こぼし、人と変わってその実を抱えて前にゆく。
彼らは食べさせてやりたかったのだろう。待たせた分。そうしたかった分。
ーようやく、ようやくだよー
その心は猟兵たちどこが違うだろう?
ーいま、いまいくよー
むしろ慕うものや思うものがいる分強烈に違いない。
「どんなに優しい願いも、度を過ぎれば全てを蝕む毒になる」
ハンドルを握りながら、桜花は窓の外へ目をやる。
大樹に構成されては変じまた崩れる彼らの姿は無数の指のようだ。
負傷し疲労し大地に転がって尚前を進もうと爪が剥がれてもあがいた指。
いくつもの手が、未来を求めて伸ばされる。
想いが世界を喰らって進んでいく。
…桜花は目を伏せた。
「想像したよりも、こんなに哀しいとは思いませんでした」
ただ強い想いを抱えて死んでしまっただけのひとたち。
間違いのないやさしい想いを抱えたひとたち。死後を掘り起こされて前進させられるひとたち。
進んでいるのに止まってしまってもう先へ行けない、とどかない過去。
「…誰であろうと皆さんは過去に去った人たちなのです」
シエラは棺桶を重しにキャンピングカーの屋根からぶらさがって桜花に声をかける。
「わたしたちは、先に行かないと」瞳には決意があった。「桜花さん、乗せていただいて、ありがとうございました」
「いえ」桜花はかぶりを振る。「ここより先なら大丈夫だと思います」シエラは丁寧に見張りの結果を報告する。桜花がやろうとしていることの後押しだ。
「私はこのあたりで」つづけて別れを口にする。
キャンピングカーに乗せてもらったときの相談の通り、ふたりはひとりとひとりに。
「先へ進むひとたちのために、止めます」
できることをするための、戦いへ向かうことになっていた。「ええ」
懸命なシエラがどことなく心配になり、桜花は付け加えた。
「御武運を、シエラさん」
「桜花さんも!」
桜花を見送って、シエラは振り返る。
そこには、嵐がいる。
ーとめないでー
嵐が叫んでいる。わたしたちをとめないで。
ーわたしたちはただ、あのこにあのひとに、いきていてほしいだけー
どうして邪魔をするの。命を奪って育とうとする枝をいくつもへし折る。
何人もが捻り集まって繰り出され、シエラを叩き潰そうと繰り出される幹をスコップで切り落とし、再生も叶わぬよう棺桶で叩き潰す。植物に変じようとするひとたちの腹をぶちぬく。
「届かないんですよ」呟く。
彼らの目はシエラを見ているようで見ていない。
彼らの耳はシエラの言葉を聞いているようで聞いていない。
ーあいたいよー
「会えないんです」呟く。何度でも言う。
無駄かもしれないが、万が一の奇跡で誰かに届くかもしれないという淡い願いがあった。
死して尚起き上がり立ち上がって彷徨う自分のように。
何人も何人も切り落とし、貫き、叩き潰す。
男もいた、女もいた、誰かの母親とおぼしき女も父親とおぼしき男もちいさな子供も痩せ細った老人も背の高い若い男も、猫背の若い女も
髪の長いー
不意にシエラの足が、引く。
剛速の枝が突っ込んできて、首を大きくかすめた。「っ!」血をしぶく。
“また”だ。シエラは確信する。
誰かがちらつく。似ているのだ。そっくりだ。確信があるのに誰だかわからない再び幹が降ってくる。棺桶で庇おうとしてーーその巨大な幹の向こう、人の群れのなかに、嗚呼、目をとめてしまいーー殴りとばされた。棺桶を地面に突き立て、吹っ飛ぶことは辛うじて伏せぎながら考える。斧。糸。何かが脳裏にきらきらと光っている。もどかしい。わかるのにわからない。だれ。だれなんですか、あなたは。
問いたくても問えない。答えは返ってこない。
顔をあげればまた人の群れだ。
止める、止めると決めた。先へゆくひとのために止める。
だから、スコップを振り上げて切り裂いて、棺桶を振り回してたたきつぶす。容赦などしない。相手は過去だ。もうどこにもいけない人だ。会ってもどうしようもなく交われない相手だ。もたらすべきは徹底的な破壊。ピリオド。死だ。
その死の中に、シエラはいつのまにか誰かを探している。思い出せもしないのに。あのひとはtぎがう、このひともちがうーーその隙をついて誰かがシエラの脇をかけぬけようとして、咄嗟に切り捨てる。
背丈の似た少女だった。舞った髪が、眩しい。
ーまっしろで、きれいー
倒れる彼女にフラッシュバックを起こす。そう、白いのだ。全体的に白っぽい。
だれが?
わからない。
切り捨てられながらこちらを映す瞳は何処とも見ていない。見てほしい。こっちを見てほしい。気づいてほしい。
不快だ。シエラはその感覚をそう決める。理由がわからないのに心臓を引っ掻かれるように悲しい。
「あ」あいたいよ「うあ」あえないんです「うあああ」
いきてほしいの「うあああああーー」しんだんです、
「ああああああ!!」
あなたは。
わたしは。
「うああああああああああああああああああああああああああああ
!!!!」
シエラの口が、いつのまにか開いていた。
言葉を結ばない音を。思い出せないもどかしさを。狂いそうな哀切を。
叫びながら。
シエラ・バディスは死して尚現実まかせに彷徨うように、怪力まかせの破壊を尽くす。
桜花はキャンピング・カーでひた走る。バックミラーを見る。
シエラはとっくに見えない。向こうの群れは、彼らにまかせてよいだろう。
ここが荒野で良かった。桜花は思う。自分がやろうとしていることは、室内や山林など遮蔽物があるところでは思わぬ人々を巻き込み大惨事を引き起こしてしまう。
桜花のキャンピングカーが嵐を抜ける。
正確に言えば、嵐が進行しようとするその目と鼻の先へ着く。
彼らはどこに行こうとしているのか?愛しい誰かのところだろう。
「ごめんなさい」キャンピングカーから降りて、嵐に、魂たちに語りかける。
亡骸や遺品のひとつでも、持って帰れたらいいのに。しかし一切を持って帰ってはいけない。彼らの亡骸は植物となって舞い、逃げてしまうから。
かつてこの大地を歩んで倒れた、その無念に桜花は思いをはせる。
会わせてやりたい。想いは限りない。美味しいものを食べて、顔を綻ばせる顔を見たいだろう。
けれどそれは叶えてはいけない。
故に。
「貴方達の想いが愛しい誰かを傷付けることがないように…貴方達を此処で止めましょう」
桜花は大きく呼吸をする。
…ドゥダイーム、アウラルネ、マンドラゴラ。
地面から引き剥がされた瞬間、彼らはなぜ悲鳴を上げるのか?
語られるのは危険や対処法ばかりでその理由に触れられている記録はほとんど無い。
桜花も彼らに直接聞いたわけではないから“この理由”は彼女の想像だ。
今ばかりは“この理由”が目の前の彼らにぴったりな気がした。弔いの意味を持って。
両腕をかるく広げる。無数の魂を、救い上げられた過去を、無念を、抱きとめてやりたかった。
ドゥダイーム、アウラルネ、マンドラゴラ…彼らが地面から引き剥がされて悲鳴を上げるのは。
“生から引き剥がされる嘆き故だ”。
桜花より放たれる、命を打ち砕く“マンドラゴラの絶叫”。
なにもかもの命が吹き飛ぶ。音は無差別だ。耳するだけで命を奪う。故に離れる必要があった。
前進しようとするものたちを吹き飛ばす。
ーあいたいよ、あいたいよ、きみのかおがみたいよ、わらってほしいよー
嵐は止まれない。前進して倒れた過去は前進し続けるしかない。
故に嘆きを、もろに浴びる。
ーなかないでほしいよ、げんきでいてほしいよ、いのちのしんぱいなんかしないで、いきて、おおきくなってー
過去の願いが吹き飛んでいく。誰もが誰かに願う思いが、死という嘆きになぎ倒されていく。
前方でなにが起こっているのか気づいたものたちが抗う。生きようと、先に進もうと木と変わり枝を伸ばす、指を伸ばす、這ってすすんだあのときのように、一歩でもと前進しようと、桜花へと攻撃を伸ばす。細かく鋭い枝は避け、重い幹は桜色の手袋から盾を展開し、それを弾く。
いのちかぎりの衝撃は重いが、耐える。耐えなくてはならなかった。
傷ついてはならなかった。誰かを傷つけた事実なんか背負わせたくはなかった。
嵐が死んでいく。いのちが終わっていく。
死より先に進めなかった日のように。
嵐が叫んでいる。
ーしあわせに、なってー
辛く辛い、愛しく(かなしく)哀しい(かなしい)光景だった。
ゆかせません。
あなたたちのためにも。あなたたちのあいするだれかのためにも。
桜花は叫ぶ。力の限りに。命の限りに。無念の限りに。救ってやりたい想いの限りに。
その絶叫は。
まちがいなく、失われた命への嘆き。
残されたものがあげる、恋しの声。
とむらいの叫びだった。
やがて。
嵐がとぎれる。
うごくものは桜花のほかにはいない。
桜花はもう一度、大きく口をひらく。
叫びに叫んで、喉に痛みを覚える。
送ったからこそ、捧げねばならない祈りがあった。
肺まで大きく息を吸いーーーー
ー歌が。
シエラはようやく、止まった。
あたりに人影はない。自分にできる範囲を破壊し尽くしたのだ。
だれもなんにも残っちゃいない。
歌が、聞こえた。シエラはくびをかしげる。
桜花からは防ぎようのない絶叫の攻撃をする。巻き込まれるといけないから。
そう聞いていたのに。
棺桶を傍に置き、スコップを片手に立ち尽くす。足の感覚がなかった。
終わった。歩かなきゃ、行かなきゃと思うのにどうしてか一歩が出ない。
斧、糸、白、長い髪、少女強い光を直視したときの激しく残るくせになにもわからない眩しさが焼き付いて、動けなかった。
朽ちた木片の山のむこうから桜色したケータリングキャンピングカーが現れた。
砂と土で汚れているが、その色は一切褪せていない。
死を司る棺桶の真逆。生きる乙女の夢。宝石箱。
「シーエーラーさーん!」
歌をきり、運転手から大声で呼びかけ桜花は手を振る。
ひとりぼっちのシエラが見えた。残骸の、死体の中で取り残されたように見えた。
桜花はシエラに合流しようとは言っていなかった。合流より自分が戻ったほうがずっと早いから。
ああ、よかった。桜花は確信する。
たとえ自分の意思で手を下した虐殺であっても…ひとり生き延びる孤独は、さみしいですもの。
シエラは呆然として動けない。目の前でキャンピングカーが止まる。
扉が開いて、フリルがかわいいまっしろなエプロンをつけた春の報せのひとが降りてくる。
彼女の枝から花びらが落ちる。ひらひら、うつくしい。
「まあ」桜花は思わず口元に手をあてた。「大変!」シエラのありさまといったら!
派手に立ち回ったのでローブの裾は破け手足は泥だらけの傷だらけ。脇腹には杭のように太い木片がささったまま。髪は暴風と砂でぼさぼさだ。
無理矢理入れられた棺桶から命からがら這い出してきたみたいだ。
「桜花さ、ん…?」
シエラの表情など魂がほとんど抜けて擦り切れきっているではないか!
「ご無事で何よりです」激闘だったのだろう。致命傷ではないが負傷は細かく激しい。
「お怪我の手当てしませんとね」
「いえ、私…」シエラは言い募るが、桜花はそっちのけであれこれ考える。タオルやガーゼ、包帯を出さないといけない。それから「ううんと、お貸しできる服、わたくしの替えなんですけれど…ちょっと裾が長いかもしれませんわね…」
シエラはただ彼女を見る。
死して再生した身ですからきっと手当てはいりません。お洋服も大丈夫です。お気遣いありがとうございます。お車の荷物は大丈夫でしたか。どうして戻ってきてくれたのですか。
言うべき言葉はたくさんあった。半開きの口の中が乾いて、動かしづらい。
戻ってきてる場合じゃありませんよ、わたしたちは
「行きましょう」
そう、それです。シエラは頷いた。行きましょう。わたしたちは、いかないと。
「乗ってください」
……シエラは口を開く。言葉を探す。
お車汚れちゃいます、言い訳をたくさん浮かべる。
「うた」
けれど出たのは、まったくちがう言葉だった。「え?」
「叫ぶんだっていってたのに、歌が…」賢明にシエラは言葉を話す。「ああ」桜花はうなずいた。
「鎮魂歌です」
慣れているはずの『歌を聴かれていたこと』になんとなく桜花は少し恥じらい照れ笑う。「ご存知かとは思いますが…サクラミラージュでは影朧…オブリビオンも転生できることがあるんです」
あくまでサクラミラージュの話だ。
それをアポカリプス・ヘルで唱えるのはちがうのかもしれない。
けれども。
「想いを解いて…何時か貴方達も転生を、と」
願うくらい、いいだろうと、桜花は思ったのだ。
嗚呼。
春の、匂いがする。
「おうかさん…」シエラはつぶやく。なにかが込み上がって、せりあがって、どうしようもない。「はい」桜花は肯く。返事がある。シエラにはひどく貴重なものに思われた。「桜花さん…!」「ええ、なんでしょう」目の前にいて、相手を見ていて、会話ができて。
「死んでも、生まれ、変わるとかっ、そういうのって、あって、いいんでしょうか?」
「もちろんですとも」
「行って、いいんでしょうか」
「ええ」
桜花は手をのばして、シエラの手を掴んだ。窓から見えた手には、してやれなかったことを。
「勿論です」
桜花はそこで言葉を探す。たしか別れる前のシエラとの会話で、そう、その通りだと思った言葉があったのだーー思いあたって、ひとりうなずく。
そのことばをなぞる。
「先に進まねばならないでしょう、私たちは」
嗚呼、乙女の夢が荒野を行く。
棺桶(業)ひとつ担いで。
きのうをうしろに、あしたをめざして、きょうをゆく。
「あの」助手席に座ったシエラがおずおず口をひらく。「はい」返事がある。
「鎮魂歌、歌っていただけませんか?」
窓の外は荒野。いくつもの命や希望を打ち砕いて粉々にして、ばらまいた地。
掘り起こせば、骨のひとつも出てくるだろう。
木片たちがどんどん遠ざかっていく。
「…もし曲を覚えたら、ハミングでもいいので、一緒にうたってくださいね?」
過去への想いを、胸にして。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
……なんか賑やかだったようですね?
(モヒカンさん達眺めつつ)
まずは存在感がっつり消し目立たず気付かれずに
範囲内の敵をすべて躰から伸ばした影で絡めて
あ、仲間は勿論捕えませんよ共食いは嫌です
その儘こう――ば く ん 、とね
残った敵や植物は属性攻撃で焼きます
救えないなら情けは要らないでしょう
悔やむ必要だって
……なんで掌に爪が食い込むんだ
あぁ、見てしまった
怪奇人間になっても抱きしめてくれた両親と
怪奇人間として生きる覚悟をくれた桜の精の医師
"あてら"、と呼ばれた気がした
――まだ存命だ
サクラミラージュに帰れば会える
頭では、理解しているのにな
……ちゃんと生きていけてるよ
心配しないで
だから、弔いを続けよう
■泥梨(ないり)の影とて 鋲々と人と生きるなら■
駆逐したほうがよい地獄ーーオブリビオン・ストームの話を聞き、若い男が荒れた地を踏んだ。
彼の名はスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)。
まっしろな顔以外の肌は黒い包帯で顔以外の肌をぐるぐる巻きな上に衣類はあちこち皺がより、だらしのない印象を受ける。
ぱっと現れたことも併せて、彼は誰かの影を切り取ってひっぱり、貼り付けてきたようだった。
「ははあ」髪をぼさぼさにしたままの頭をがりがりとかき、自らを取り巻く嵐を見つめる。
人々の声、声、声。
「こいつはなかなかの地ーーー」獄、と言いかけて彼は見る。
モヒカン。
モヒカンと世紀末バイク。
一台じゃない。かなり多い。トラックやオープンカーもある。
しかもどういうわけか明らかにこの嵐のせいではない負傷や損傷を負っていた。
「……なんか、賑やかだったようですね?」
あきらかにちょっとなんか目の前の地獄と釣り合わないハイテンション・ギャグの香りに思わず声をかけてしまった。
片足といえどようこそハイテンションの世界へ。スキアファール、油断大敵である。
「おう…ユーもメシ守りしメシアン様だな?シャドウ・メン?」
刈り上げと衣類が七色のラメに染めたモヒカンが答えてくれる。ちなみにバイクも七色でファーがついていた。「ええ、まあ…」すごい、目の前の嵐との落差がほんとうにすごい。スキアファールは半歩引きながら答える。メシ守りしメシアンってそれ洒落だろうか。
「大変なことが起きる、と伺いましてね」
うん。モヒカンは素直にゆっくり頷いてくれる。
…迫る嵐はお世辞にも天候のそれとはまったく色が異なる。
逃げればどうなるという種別のものではない。あきらかな命の危機だ。
それなのにこのモヒカンどもは呆然どころか平和が訪れたとばかり、穏やかな態度で嵐を見つめていた。
「メシアン様、大丈夫かい?」
「はい?」まさかモヒカンに気遣われるとは思わずスキアファールは瞬く。
「フェイス・カラーがホワイティだぜ」
……。
「…生まれつきですよ」顔色が悪いと言っているということにして適当に返事をする。
ボケには突っ込む性分だがあまりにボケが1tトラックで突っ込んできてツッコミどころがわからない。とりあえず普通に会話するしかない。「ボディーもガリガリでヒョロヒョロだ」「ああ、ええ、まあ、体質なもので」「ベアーもダークだぜ」「ベアーは熊ですね」「長いんだよなサークルオブザアンダーアイ」「わかってやってるんですか」びっくりだよ。
「メシアン様よう」
嵐のほうへ顔をやりながら、彼は静かにつぶやく。
「帰ってもいいぜ」
「は?」
さすがに驚いた。駆けつけて断られたのは、初めてだ。
「死にますよ」「死ぬなあ」「死にたいと?」「死にたくはねえよ」
でもさあ、とモヒカンはいう。
大樹と成り進む嵐からは、轟々と声がしている。
ーいいこ、いいこ、だいじなこー
謳うのは献身だ。紛れもない愛だ。
「危機だってきいてわざわざ来てくれた優しいあんたに…あんなもの殺させて背負わせちゃ、なんつーか申し訳ねえよ」
くつ、と。
スキアファールの喉から嗤いが漏れた。くつくつ、くつ。
「メシアン様?」モヒカンが声をかけてる。「メシアンじゃあありませんね」「ほっほー」
「私はね、人間じゃないんですよ」ぱっと両手を広げて見せる。
「怪奇です」
片手を胸に当てて道化る。
「怪奇だかなんだか、オレにァあんたが優しいやつに見えるね」「スキアファールと言いまして」宙にスペルをかいてみる「skia-fear(“恐怖の影”)?」とんでもないことにモヒカンはこう続けた。「自称なら優しいやつだな」「どうしてです?」バイクに座って嵐をみあげたままモヒカンは笑う。「オレたちだってそうだからな。マミーからもらった名前をペイして好き勝手気ままにドライビンするんだ。怖くてかっけえ名前を名乗る」「名付けられた名かもしれませんよ?」
「自称でも他称でもそいつを担ぎ続けるてンだろ、てめえの意思で」
……。
「自分はこええやつだーって主張してるようにしか聞こえんねェ」
「ノーコメントです」
……。
スキアファールにとって、言葉は信用ならない。
だからこの応酬も信頼ならない。
世界の違う隣人として心配されたことも、優しいやつだという評価も。
「オレはよう、好き勝手してよう、だから死なせてよう、いま、こんな目にあってんだよ、きっと、よう」
……。
…かつて。スキアファールにもそういうことがあった。
「死んでほしくなんか、なかったなァ…」
人間だと思って、怪奇であることを忘れて、好き勝手して、たくさんの人を狂わせて死なせた。このモヒカンの想像していることの何十倍も悼ましい事件だ。
気付く。
似た者だから気付いてしまう。モヒカンと似てるなんて遺憾極まりないけれど気付いてしまう。
生きていたい願望とは別にある、根底に渦巻く悔いと、自己嫌悪と、在り方への願望を。
スキアファールが罪を犯して怪奇人間であることを望んだように、
この男も自分の行動を罪として好き勝手した男としてこのままここにいようとしているのだ。
「オレのいのちいっこ、弔いになるかなあ、なんて。さァ…」
……。
「そうですか」
スキアファールは。
モヒカンが嵐ばかり見ているのをいいことに、自身の包帯をほどき始めた。
嵐はだれのこともみていない。ただ前進することだけを考えている。
だから影は影らしくーーー極限まで存在を薄める。
なびく黒を、だれも見ない。
だから怪奇はいくらでも広げることができた。
人間の姿を解く、人間のふりをやめる。
にんげんのかわ(カバー)を剥いで、ひろがる。
ーいままでよく、ようくここまで、いきてきたねー
嵐(過去)がとうとう人間へ追いついた。
ビルほどもありそうな巨木が現れ、細かい無数の枝となって、命めがけて降り注ぐ。
だれもかれも、逃げない。
ーくやまなくていい、なげかなくていい、がんばったねー
彼らにではない、だれかへの声を囁きながら木はすべてを喰らおうとして。
動かない。
黒い影が絡まってーーー動けないのだ。
そのまま、ばくん。
一瞬のこと。
怪奇たる口を見せないままの捕食という離れ業に気付いているのはきっと本人の他にあらずーーー
「…やっぱり、優しいやつじゃねえか」
ースキアファールはめずらしく舌打ちした。
うるせえ。
救えないやつのどこが優しいんだ。
「共食いは嫌なだけです」そらっとぼける。
「まじめな奴だなァ」真摯に帰ってくる。
こいつ、口を見せて狂わせてやろうか。
「いいから行け、モヒカン」
よぎったけれど、やらなかった。
ーもうしんぱいないよ、もうなかなくていいよー
食う、食う、食う。
スキアファールは食い続ける。
死体を残せばとたんに芽吹き再び蘇る厄介な手合いだ。
求められるのは真に駆逐。
情けはいらない。そんなものですこしでも残せば足を掬われる。
ーよく、よく、がんばったねー
食いながら火を放ち、びょうびょうとたる虚無を浸す。
残るのは影ばかりにすべく、ただ、ただひたすら。
救えぬものに情けはいらない。
なにかが胸を灼く。不意に気付く。掌に爪が食い込んでいる。
情けなんかいらない。自分は怪奇なる人間だ。
だから滅ぼす敵思いがどんなに純粋で、その声がどんなに美しくて、その姿がーーー
ーあてらー
嗚呼、それがいる。
左右は見てしまう。
ーだいじょうぶ、わたしたちはぜったいにみかただよー
ぼろぼろになって、それでも微笑む顔は両親によく似て。
その腕の暖かさを、左右はようく知っている。
こちらに手を差し出すのは桜の精の医師にうり二つだ。
その指の真摯さを、左右は忘れもしない。
ーその姿が、どんなにかけがえのないものであっても。
跡形もなく滅ぼすことを悔やむ必要なんかないのに。
まだ存命中なのに、いったい何を見ているのやら。自分を笑う。
頭では理解しているのにーー幻視するのは、失うことの恐れゆえか。
自分のほうが早く死ぬ可能性が十二分にあるのに。
ーだいじょうぶ、だいじょうぶだからねー
声はどこまでも透き通って優しい。
大丈夫ではない。なにも大丈夫なんかではない。
怪奇であっても人間だ。その胸が痛む。
だれかを思う母親を、誰かを思う父親を、だれかのために進む誰かを、
救えないことがひどく重い。
ふいに。
歌狂いの耳が歌を拾った。
同じ戦場、違う場所で、だれかが歌っている。
鎮魂歌。
ああ、そうだ。思い至る。
サクラミラージュにはその奇跡がある。
アポカリプス・ヘルにそれを祈るのは不躾だろうか。
でも、あったっていいんじゃないだろうか?
ーいいこ、いいこ、ずっとがんばってきて、ずっとがんばっているのよね。
くるしかったでしょう、かなしかったでしょう。ごめんね、たたかわせて、もう大丈夫、やすんでいいんだよ、いま、いま、いま、かえるからねーー
「ああ」
帰れば会えるのに。
「大丈夫だよ」
ひどく、恋しい。
「ちゃんと生きていけてるよ」
しんぱい、しないで。
いただきます、と口を開く。
弔いをこめてびょうびょうと、影は大樹を喰らっていく。
成功
🔵🔵🔴
セプリオギナ・ユーラス
──過去が、呼んでいる。
嵐の向こうに声を聞く。
医師という仕事柄、人より多く他人に接する。
より多く他者と出会い、また多く救おうとしたヒトの死を迎える。
──嗚呼、過去が木霊する
救えなかった者たちの、 呼び
二度と帰らぬ者たちの、 声 が
「黙れ、死体ども」
軽く舌打ちをして、白衣を翻す。
死者は死者だ。『帰らぬ人』という言葉そのもの。
過去は、彼らは、決して帰ってきてはならない。
──故に、
俺がもう一度殺そう。
これからを生きる者のために。彼らが生かそうとした者たちの為に。
見覚えのあるものないもの、片端から斬り捨てる。
…最期を看取ることもまた、俺の仕事だから。
「もう眠れ。…終わるがいい、“ ”」
お前も。
カイム・クローバー
…あの中に母親は?ジョンに向かって聞いとくぜ。
最高にハイな気分だったってのによ。胸糞悪いモン、見せやがるぜ。
バイクから降りてサングラスをジョンに渡す。借り物だからな。預かっておいてくれ。…直ぐに取りに来るぜ
魔剣を手に【二回攻撃】をしつつ、黒銀の炎の【属性攻撃】を刀身に纏わせ、【範囲攻撃】でUCを振るう。
この世界じゃ、飢えて死ぬなんざ日常だろう。…同情はしねぇぜ。だが、アンタらはこのクソッタレな世界の被害者だ。『過去』のアンタらに俺がしてやれるのは精々、派手な葬式ぐらいのモンさ。
けどよ。約束するぜ。持ってきた食料は必ずこの世界の誰かに届ける。
この依頼、便利屋Black Jackが請けるぜ。
■死は止なりや?■
男二人、その音は聴こえなかったふりをした。
その代わりカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)はサングラスを外してこう問うた。
すこし後ろ。この場にいる三人目の男。このアポカリプス・ヘルの住民へ。
嵐の、当事者へ。
「…あの中に母親は?」
ややあって、回答はこうだった。
「いねえよ」
虚勢とわかる震えに歪なの明るさを添えて。「いねえよ、心配すんな」
「さっきの突風でサングラスがやられちまって…破片、がよう、め、目に、悪い、よく、よく…見えねんだ」
…しようと思えば、その言葉を否定する手立てはたくさんあった。
いつまでも小さく鳴る水音。言葉と言葉の間に挟まる嗚咽。振り返ればきっと明らかだろう。「いてえ、いてえなあ…」話しかけた男はわざとらしく何度も言う。
けれどカイムは嗚咽も水音もきいていないことにしたのだ。「そうかい」
ーごめんね、ごめんねー
過去の嵐が再生する言葉の多くは、謝罪だ。
置いて行って、寂しい想いをさせて、ひとりにさせて、不安にさせて。
恨みも呪いも厭いもなくーーむしろ、そこから喜びに溢れる。
「最高にハイな気分だったってのによ」
カイムは嵐を見ながらぼやく。
無数の人々が、歪に歪んで巨木に変わり実になり、それでも愛を語りながら前進する。
ーこれでようやく、会えるー
生して叶わず、そして死して蘇っても永遠に叶わないかった喜び。
叶えてはならない喜び。
「胸糞悪いモン、見せやがるぜ」
叶えてやりたい喜び。
長い長い嘆息が聞こえた。「…ああ、知ってる顔がいっぱいある。若いのも年取ったのも、男も女も、子供…ああ、あいつは…会ったことないがおんちゃんに目元がそっくりだ」目の前の嵐たちの語る喜びに比例した、深い深い嘆きの言葉。
「ああ…もう、ひでえよ、どうして、どうして今更、こんな…畜生…悪い、便利屋、よぉ」
カイムは。
そこから先、男が紡ぐ言葉を知っている。
グリモアベース。硝子剣士の口から予知で聴いていた言葉。
そう。バイクに乗りたかったわけじゃない。飯を届けてやる。それもまあ、ないわけじゃない。
けれど、一番はそれだ。
便利屋Black Jackは“その言葉”を聞いたから来たのだ。
「“頼む、駆逐してやってくれ”」
未来(いま)からの一条の依頼。
「ああ」
力強く言い切る。
この時にこうして引き受けてやるためにカイムは来たのだ。
「請負った」
かくして依頼は、成立した!
そしてこの場に立ち会い、水音を効かなかったふりをしたもうひとりの男にとって。
この嵐は『胸糞悪いモン』どころではなかった。
無数の顔。無数の手。
どいつもこいつも不健康が透ける痩躯に不善としか言いようのない顔色。
男はセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)。医者だ。
命は平等ではない。
どいつもこいつも優先して救うべきだった人間の顔をしている。
そう。“だった”だーーーセプリオギナにとって胸糞悪いどころではない。
どいつもこいつも生者にして過去から救い上げられたもはや救えぬ死人である。
それが行列を為して、植物に変じて死にながら再び生きる。
もはや医療への冒涜と言っても過言ではない光景だった。
ひとを、なんだと。
「行けるか、医者先生」バイクを降りながらカイムはセプリオギナへ声をかける。
「行くさ、便利屋」医療ノコギリ抜きながらセプリオギナは答える。
カイムは外したサングラスをあのただの一般人にぽいと投げ渡して「預かっといてくれ、借り物なんだ。サングラス壊れたんだろ?かけててもいいぜ」預け「すぐ戻る」
セプリオギナは一瞥もせずに「ついでに俺のバイクの荷物も見ておけ、超貴重品だ。破損したら貴様も同じ目に合うと思え」容赦のない圧力で言い放つ。
男2人、ゆっくりと嵐へ向かう。
「…俺は請負った身だが」
歩きながらカイムはふと気になって隣の男に話を振った。
「あんたはそうじゃないよな」
この医者が何を想像してこの事件に関わることに決めたのか、カイムは知らない。
ただ、無数の一般人と医者というのは非常に相性が悪いように思われた。
「抜かせ」カイムの心配を他所にセプリオギナは毒して嗤う。「貴様は医者というものを知らんようだな」
「患者を“最期まで”看取るのも俺の仕事だ」
眼鏡の向こうの眼に、冷静さとはかけ離れた熱をたぎらせて、セプリオギナはそう言い放った。
「そいつは失礼」「全くだ」
「怪我をしたら見せろ、特別染みる薬を処方してやる」カイムはおどけた態度で渋面で舌を出す。
「ご勘弁願いたいな、医者先生は根にもつタイプか?」「根に持って医者がやっていられるか。受けた分はキッチリと返したいだけだ」冗談にセプリオギナは眉を動かしもしない。
「どうも俺は怪我するわけにいかなくなったな?」カイムは隣を見る。「当然だ」
「医者の前で命を投げ捨てるような真似をしたら殺してやる」
セプリオギナのまじりっけのない本気にカイムは思わず笑ってしまう。
「なら安心しな。俺の腕は確かだぜ?」
カイムは剣を抜いた。
黒い炎が、一瞬、剣に揺らめく。
「どうだかな」セプリオギナは鼻を鳴らす。「おいおい、医者だって自分の腕を信じるだろ?」
「馬鹿を言え。俺達は自分の腕を信じているのじゃあない。自分の領分と力量を正確に把握しているだけだ。そして患者の言い分をベースに、見たものを信用する」
セプリオギナはそこまで言って足をとめ、隣のカイムとそこで目を合わせた。
「叩く大口に見合う働きができるんだろうな?便利屋」
どこまでも醒めた目に、無表情。
カイムはセプリオギナとは対照的に、剛毅に笑んだ。
「当然」
ー嗚呼ー
嵐がより一層強く声を上げる。
ーどこ、どこにいるのー
恋しい誰かを求めて一体となり…索敵のためだろう。
今までよりも一層の巨木を形成し、枝を伸ばす。
「バイクを置いてきて正解だったな、垂直に走るマネしなきゃならねえところだった」
吸い上げる命を求めて伸ばされる枝を掻い潜り飛びわたり切りながらカイムは移動していく。
「馬鹿は休み休み言え、便利屋!」
セプリオギナは一喝してカイムかから目を離す。
ノコギリを大きく振りかぶり、迫る枝へ振り下ろす。
討ち漏らしは許されない。残っていればいくらでも再構成し、人となり、増える。
一切の容赦無く、一切の慈悲なく、鮮烈に苛烈に。
ノコギリの刃を突き立てて、力を込めて思い切り引きーー切る!
木を挽くときの手応えは、骨を断つときのそれに似ている。
肉と血と脂がない分やりやすいが、あれほど柔くもない!
い、あ、と木が悲鳴をあげる。
正確には。
セプリオギナがノコギリをふるって切り裂いている部分の人間が、苦悶の声を上げる。
ーいたい、いたい、いたいー
医者なら何度も聞いた声だ。医者なら何度も耳をすます声だ。
常々人間を観察して定める眼は、木々の節に、幹に、人間の顔を、手を、指を、脚を、正確に見分けて読み取る。
カイムの予想は正しい。
人間の群れたるこの敵はセプリオギナにとって良くも悪くも相性が良すぎる。
ーだれか、だれか、だれかー
嗚呼、声がする。
過去が声を上げている。無数の声がセプリオギナ自身の過去と結びつく。
他人より多くの人を見る目は、すべてにいくらでも見知った顔を見る。
他人より多くの人をきく耳は、すべてにいくらでも見知った声を聴く。
ーせんせえー
嗚呼、嵐のむこうから、過去が呼んでいる。
ひとつの葉が揺れたとき触れている葉が触れて全ての葉が揺れて大きく鳴るように。
文字通り、木霊する。
ーせんせえ、せんせえ、せんせえ、たすけて、たすけて、いたいよ、くるしいよー
嗚呼、死だ。
ーねえせんせえ、せんせえ、どこですか、どこですか、みてください、きいてくださいー
嗚呼。すくえなかったこえがする。
にどとかえらぬこえがする。わんわんと響く。
ーこれでようやくようやくです。たすけることができるんです、しなせなくてすむんですー
何が医者だ。
俺はただの、殺人鬼だ。
正六面体の中にぶちこまれて、ごろごろと回転させられているような心持ちがする。
どいつもこいつもお
で た す け た か れ
り う と す く っ が
か お と た っ た す
ば く す を か ほ く
え こ た っ か な え
「黙れ、死体ども」
鋸を叩きつける。鏖殺を振り撒く。
黒い瞳を爛々と黒く地獄色に輝かせ、セプリオギナは振りかぶっては振り下ろす。
死体を死体へ解体する。
「があがあと喧しい」振りかぶって振り下ろすたびに白衣が翻る。
とびちった木片が植物に転じようとしたのを鋸で捉えて次の枝ごと引き裂く。
「貴様らは死者だ、生者の貌をするな」
いのちがこぼれていくあの毎瞬。そんなことができたらどんなによかったか。
「いいか、死者は、死者だ」
鉄分不足で変形した男の顔面をぱっくり割って。肉と皮だけの老婆の細い脚を切り落とし。
「死者はどこでだって『帰らぬ人』と呼ばれるのだ」
栄養失調の子供の胴を肋骨の下から断ち。
「いいか、過去よ、過ぎたものよ」
医者は殺人鬼として殺しつくす。息が上がってくる。
「過去は、貴様らは、決して帰ってきてはならない」
それができたらどんなにいいか。それができなかった辛さがどんなに深いか。
あって、会話をして、食事をして、眠って、明日が来る。
どんなにそうさせてやりたいか。
どんなに家族も自分もそれを望んでいるか。
セプリオギナは怒っていた。心底怒って、怒り狂っていた。
死んでしまったという過去に。彼らのその先はないのだということに。
殺し尽くすこと。
それしか弔いの方法が、ないのだということに。
一瞬だけ、セプリオギナの手が緩んだ。
これだ、と思った。垂れためもとがそっくりだった。
「眠れ」
がりがりに痩せてはいるが、あの老人から苛烈さをとって、柔らかさを付け足したような。
嗚呼。暗い怒りが渦巻く。再会を祈ることしかできない。
強く、やさしい一撃が、振舞われる。
「…終わるがいい、“ ”」
お前も。
そう。あいつにいった通り。
見覚えのあるものものないものも、なにもかもをずたずたに引き裂いて。
そのまま黒い瞳の中に燃え上がった怒り悔いのまま、呪いの勢いで、自分の首を引き裂こうとした。
「“医者の前で命を投げ捨てるような真似をしたら殺してやる”っつーのを、
有言実行というか、なにも自分で再現しようとするこたないんじゃないか、セプリオギナ先生」
銃弾が一発。
「ッ」セプリオギナは鋸で叩き落とす。間違いなく脳天を狙っていた一撃だった。
叩き落とした勢いで手が痺れて鋸を取り落とし
「殺す気か、カイム・クローバーッ!」鋸で自分を切ろうとしていた余波をそのまま青いコートの便利屋へ向ける。拳で殴りかかる。「いやそれはあんただろ?」青いコートの便利屋は避けながらひょうひょうと言う。
「貴様何をしていた」まだ肩で息をしつつ、先ほどの深い黒から冷静さを引き戻しながら、セプリオギナはカイムへ詰め寄る。
「あんたと一緒だ、先生」「用件は簡潔かつ明確に言え!」
「葬式の準備さ」
どどん、と。
巨木の幹が2人の脇へ倒れてきた。
「あんたがこっちで切ってたから俺はあっちで大盤振る舞い」
木は黒い炎で燃え上がっていた。
燃え上がりながら、木がのたうつ。…木だが、どことなく人間の脂の混ざった匂いがする。
この巨木は、行く人もの人間の寄合わせの木だ。
巨大ではあるが、その分いくつもの幹に分かれた長い木でしかない。
こちらで切り、あちらで切り、位置さえ見極めれば、木のまま切り倒すことも可能、と…そういう論理で動いていたらしい。便利屋はいたずらっぽくそう告げた。「まさか豆腐の話した後にジャックと豆の木するとは思わなかったがね」冗談もつけくわえて。
「葬式、か」セプリオギナがこぼす。
「それぐらいだろ、俺たちにできるのは」カイムは答える。
「事前に相談しろ」「あいにく時間がなくてね」「後で資材が潤沢にあるところで消毒液ぶっかけてやる」「銃弾かましたからか?おいおい勘弁してくれよ、外したろ」「俺が自分でな」「そこまで計算ずくで撃ったぜ?」「ノー・カウントだ」
切り倒した木はそのまま進行を防ぐ壁となる。
しかも火までついていれば容易いことではない。
「まだ行けるか、便利屋」セプリオギナが再び鋸をかまえ。
「ちょうど準備運動が終わったところだぜ。医者先生」カイムは剣を鳴らす。
その前にふたり、猟兵が立っているともなれば。
炎を背景に、ああ、刃が震われる。
ーいかせてくださいー
無数の声が、懇願を込めて吠える。
「許可しない」セプリオギナは言い捨ててノコギリで脚を落としにかかる。
脚を折られれば移動しようとする彼らは植物の形態を取らねばならない。
人間が歪み、木と化したところを
「だとさ!」カイムが素早くきり捨てていく。
一撃、二撃。剣撃に纏う黒と銀の炎に次々覆われて燃え上がる。
ーどうして、どうしてー
「貴様らが死んでいるからだ」セプリオギナが説く。
ーわたしは、私たちはー
「もう一度殺そう。なんどでも殺してやる」
セプリオギナのそこにあるのは、怒りに任せた生ではなかった。
これからを生きる者のために。彼らが生かそうとした者たちの為に。
歪んだ病巣たる生をとりのぞき、そして最期を看取る。
彼の仕事。
激しく矛盾した、しかし間違いなく、医の行為だった。
「俺は先生ほどやさしくない。あんたらに同情しねえぜ」
カイムの剣は鋭い。大振りな刃は逃走を許さず、回避しようとしたものも含めて炎に包み焼く。
飢えて死ぬなんてこの世界では日常茶飯事だろう。蘇ったことをあるいはこうして攻撃されることを、かわいそうだといってはあんまりだ。
突っ込んできた枝をそのまま前へ走り込みながら斬ることで真っ二つに裂き、そこから炎が燃え上がる。黒にぎんがちらちらと瞬いて、そう、ちょっとばかり派手な葬式のようだ。
「楽しんでいけよ。生者から死者へ、最後の贈り物だ」
巨人の一歩とも身がまう巨大な一搥をセプリオギナとカイムはかわし、振り下ろされた後の爆発、どんな散弾銃よりタチの悪い拡散攻撃をカイムは焼き払い、セプリオギナはメスやナイフなどの刃物を投げて切り落とす。分たれたことででた芽は再び炎で焼き尽くされる。
どの命も平等に、そして取りこぼさぬ戦いだった。
ーごめんねー
嘆きが聞こえる。
ーごめんねー
謝罪が聞こえる。
オブリビオンとして掘り起こされた哀れな命。
黒と銀の炎にまとわりつかれて焼き払われる過去たちは、色鮮やかな写真が朽ちていくのによく似ている。
灰が舞い上がるところも、合わせて。
ーごめんね、ほんとうに、ごめんねー
おそらくそれは、彼らの末期の言葉と同じだろう。
ー会いたかったなあ、おなかいっぱいたべさせてあげたかった、ほっとして、あんしんしてねむれるようにー
嗚呼。炎に焼かれて、過去が過去へ返っていく。
未来に行くことなく、過去の通りに死んでいく。
やがて場に動く者は、真なる生者のほかにはいなくなっていた。
炎に焼かれて、残骸も残らず。
煙だけが存在を語りながら昇って行く。高く、高く。
かけらも残さず、煙になっていけ。
カイムは見送る。
そうすればきっと、こんな嵐になるなんて真似しなくてもどこでも見えるだろう。
時には風に乗ればいい。
そうすれば息子に付き合ってやることだってできるはずだ。
……。
「風は徒歩に入んのかな」茶化す。あのふざけたレースが随分前に思える。「なんだ?」首を傾げた医者にカイムはかるく笑ってみせる。「なに、ちょっとしたジョークだ」「貴様はそればかりだな」
「楽しく生きるのがモットーでね」
そう、それが一番だ。
たとえ途中で崩れ落ちるとしても、彼らは精一杯そのために手をつくしたのだろう。
今を生きる者と、同じに。
炎に焼かれ過去は過去へ帰って行く。
蘇った想いも存在もなにもかも風に乗って吹き消えて行く。
「約束するぜ」
カイムは煙を見上げていた。真摯な声だった。
彼らはこのクソッタレな世界の『被害者』だ。
どの命も最後は自分の苦しみを訴えずに消えていった。
誰も悪くなんかなかった。
どうしようもない、オブリビオンとして現されてしまっただけで。
「持ってきた食料は必ずこの世界の誰かに届ける」
嵐の中で散々聞いた、強い願い。
なに、気にするな。ちょうどひとつ依頼を達成したところで…そこでさらに、ってなことはよく有るんだ。
誰にともなく、教えてやり。
「その依頼、便利屋Black Jackが請けるぜ」
いつものように、引き受けた。
そうか。
請け負う。セプリオギナはそれを耳に妙に納得を覚えた。
背負うでなく、抱えるでなく。そういうやり方も、あるか。
セプリオギナはほんのすこしだけ、唇を解く。
…まさか自身もすでに老人からそれこそ請負い、依頼を果たしたとはつゆ知らず。
浮かんだかすかな笑みを、煙だけがながめていた。
男ふたり、いっとき、のぼる煙を見つめていた。
炎に焼かれる木の爆ぜる音は万雷の拍手によく似ていて。
静寂もあいまり、ひとつ派手な式の終わりを思わせる。
雲が、切れようとしていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
風見・ケイ
……確かにこれは、ここで終わらせた方が良い。
しかし拳銃では埒が……なっ、リサさん!?
考えろ、やるべきこと、できることを。
悩んだ時はそこからだ。
――夏報さん。私が行ってくるよ
それと……私の血、あげるね
己の心臓を撃つ。
さ、リサ、さん、踊り、ましょう
出血は好都合。速度と合わせて餓狼を誘導する。
敵の、彼女の、私の血が撒かれ――加速する世界の最中“ごめんね、つらかったね”そう私に手を伸ばす女。
一呼吸。その額を撃つ。
……『大事だった人』じゃん。
色に溺れ神に狂い娘も世界も捨てた女が
そんな母親みたいな事、言うわけないよ……。
――リサさんを連れ外へ抜け出し、夏報さんに視線を送る。
ああ……くらくらする。
臥待・夏報
【GN3】
誰も見つからないのは、餓死って状況に実感がないからか。
誰も大事じゃないからか。
好きな人たちなら一杯いるんだけどなあ。
マスターの痛みを理解する素養もなければ、
風見くんの無茶を止める権利もない。
せめて二人の血を借りて、この砂嵐を終わらせる。
敵だけになった地面にミステリーサークルを描いて、
悪趣味を悪趣味で塗りつぶし、三発きっかり呪詛の炎で焼き払う。
仲間外れは、夏報さんだな。
ああ、あの人。
仕事で初めて殺した人だ。そりゃ『大事な人』だよな。
見ても、話しても、どこにでもいる普通のおばちゃんにしか思えなかった。
あの人は、なんで教団の幹部なんかやってたのかな。
また聞けないまま、また殺すしかないんだ。
ヴァシリッサ・フロレスク
夏報、ケイと。
渇いて、餓えて、窶れて。
……ァあ。辛かろうに。
逝ってまで、苦しむとはね。
ひと思いに片付け――
『――おねぇちゃ……ん……』
……!
……エ……ミル……?
忘れた事など。あるものか。
たった独りの。
弟を。
身を寄せ睡った、冽たい獄を。
冥い夜を。
一欠けのパンも、やれ無かった。
あの歔きを。
この腕で、かばう事も出来なかった。
救えなかった。
あの日を。
弔う事も叶わなかった。
その無力を。
亡き骸を。打棄て逃(い)きた。
罪(おのれ)を。
ァあ。
然(そう)だ。
生きるンだ。
アタシは。
オマエの分も。
『お前達』の分も。
せめて。
アタシが。
全部。
喰らっテやル。
二人とも
悪ィね
あンまりお行儀良く出来そうに、
無イ、よ。
UC発動。
■忘れじの赤(Blaze,Blood,Be left )■
嵐がうずまいている。
「…うわあ」
臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は口から気の抜けた感嘆を漏らした。
砂と煙と、その向こうから響く、声と、人と。
車とバイクはまずいと少し離れた位置にモヒカン軍団と共に置いてきたが大正解だ。
巻き込まれればせっかくの食料も愛機もポケットの中につっこんだ銀紙みたいになっていただろう。
「すごいな、あれ。人間なんだか樹なんだか…」
「どちらでも有るのでしょうね」
風見・ケイ(消えゆく昨日・f14457)も渋面だ。「えぐいな…」
「ァあ。…辛かろうに。逝ってまで、苦しむとはね」
ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は目を細めた慈悲の目でそれらを見つめている。「可哀想に」
攻撃すればにんげんが解けて樹となって攻撃をし、素早く討てばその対象を植物に変えて逃げようとする。誰かを救いたいと思えば同調し、なにもかもむさぼって大樹を作ろうとする。
この地に生きる誰かの顔で、誰かの声で、誰かの姿でーー行進していくのだ。
“あいたいなあ、あいたいよう“
純粋な想いを叫びながら。
「…これは確かに、ここで終わらせたほうが良い」
ケイは自身の装備を確認する。
求められるのは全き駆逐だ。人1人、命ひとつ取りこぼせば蘇る。
しかし。
「これは拳銃じゃラチが開かないな…」
こんなものが待っているんだったら跡形もなく吹き飛ばせる重火器でも借りてくるのだった。
リサさんだったら喜んでやばいものを借りてきて楽しくぶっ放したに違いない。とケイは予想する。見たいような見たくないような。
ないものをねだってもしょうがない。
「リサさん、夏帆さん、作戦を練りーー」
言いながらケイは嵐からリサと夏帆の方を見てーー凍りつく。「風見くん?」嵐を見ていた夏帆がふりかえり、ケイと同じくヴァシリッサの表情を見て、首を傾げた。
「…マスター?」
声は届いちゃいなかった。
嵐の中に、その群れの中に。
ひとりの影を見ていたから。
…ほかのふたりと違い、ヴァシリッサにとって飢餓は非常に身近だ。
その根は過去。忘れえぬ迫害の経験。
ヴァシリッサに浄火の血胤を自称せしめる、経験だ。
生きていることは、悪いことだろうか?種族が違うことが、そんなに悪かっただろうか?
くだらない政略のための其れだったと知ってどんなにいきどおったろう。
そしてどんなに、悔いたろう。
幾多の暗い夜を身を寄せ合ったのだ。冷たい石床に転がり互いの体温を寄るべに。
あのこがどんどん弱って、あのこがどんどんやつれていって。
ひとかけのパンもやれなかった。暗く湿ったなかの欷歔。
“ ――おねぇちゃ……ん……”
聞き取る。聞き取ってしまう。その声を最後に聞いたのはもうずいぶんと昔なのに。
ちいさい手。無垢な笑顔。照れると鼻の頭から耳まで横一線、真っ赤になるのだ。
「……エ……ミル……」
たった独りの弟。
振るわれる暴虐から守ってやることもできなかった。
悲鳴がどんどん大きくなって、そして窄んで、最後は息になって消えるのだ。
“ごめん、ごめんね”
お前に謝るような非があるものか。非があるのはアタシだ。弔うこともできなかった。
つめたくなって、うつろになって、ひらいたままの目を閉じてやることもできず。
“くるしませて、ごめんね”
苦しませたのもアタシだ。
ちいさいからだ。痩せ細っていたから、きっととても軽くて。たやすく背負えただろうに。
それすら出来ず、打ち棄てたまま、逃げた(いきた)のだ。
血が、鳴る。心臓が脈打つ。
「リサさん!違います、あれは、あなたの弟さんじゃない!」ケイが叫んでいる。
「ァあ。然(そう)だよ」答える。
そうだ。あれは弟じゃない。彼は苦しんで死んだのだ。打ち棄てられたのだ。
“でも、大丈夫だよ”
なにが大丈夫なものか。
“これでもう、大丈夫ーーーいっしょにいられる”
罪(おのれ)に、おまえと生きる資格などあるものか。
そんな資格はあの日おまえといっしょにおいてきてしまったのだ。
そんな未来はこなかったのだ。
“いきて”
「ああ」うなずく。
ヴァシリッサはあの日生きたのだ。弟をひとり、見殺しにして。
それは、そう。食ったといっても過言ではないだろう。
「生きるンだ」
どうしようもなかった過去への怒りと、自分も含めたすべてへの憎しみと後悔と。
悼み。
すべてに、火がつく。
炎(Blaze)になる。
「アタシは」灰の瞳が金にぐるりと転じ始める。「オマエの分も」昼中の白月が夜月へ変わる。
「『お前達』の分も」せめて、とヴァシリッサは思う。
「アタシが」理性が剥がれ落ちていく。自我が粉々に砕けていく「全部」
せめて、血肉に。そうしなければならない、と本能が囁く。
こんどは胃袋へ入れてやろう。死体を持って帰ると、災いになってしまうから。
そうして連れ帰ってやろう。連れていってやろう。
だれもかれも。
「喰らっテやル」
その愛しみごと。
最後の理性がケイと夏帆を視界にとらえる。
「二人とも」驚愕の顔に、罪悪感が湧く。
「悪ィね」
まゆを下げて、ちょっぴり恥ずかしそうに、困ったように。
裏通りのシューティングレンジのマスターの顔で
「あンまりお行儀良く出来そうに」断って。
「無イ」
嗚呼。
ーーーMeine Damen und Herren(ご列席の紳士淑女の皆様)
本日ご覧いただきますのは悲しい愚かなけもの。
家族のだれもを守ることができず、血族の誰かも彼もを浄化と語って打ち滅ぼした飢えた狼。
まちがいなく、血胤(血族)といって差し支えございませんでしょう。
「よ」
そっ首揃えてごらんください。
殲の兇宴(カルネージ・カーニヴァル)。
「ああ、クソッ!」ケイは思わず毒づく。
ヴァシリッサは弾かれたように飛び出してしまった。速い!「リサさん!リサさん!!」ケイは必死に呼びかける。聞いちゃいない。生きるために死の駆逐へ行ってしまった。飛び込んで殺戮を振りまきながら、自らもどんどん負傷してしまう。多勢に無勢?それはまだいい。相手は樹に代わりに血を得られない。あれはまずい。わが身を顧みないままでは死なせてしまう。
嵐は少しずつ前進している。ヴァシリッサは突撃してしまい既に渦中だがここも遅かれ早かれ争いの場になる。
「やばやばのやば、って感じだね」「ええ…!」
ケイは前髪をかきあげ額に手を当てたまま思案する。どこだ、解決策はどうすればいい!
ぽん、と背中を叩かれた。
「風見くん、呼吸、呼吸」
夏帆がいつもの調子で言う。「はい…?」思わず虚にとられてまじまじ見つめてしまう。
「さっきのレースといっしょいっしょ」「いや流石に…」あれとこれを同列に並べるのは失礼があるのではなかろうか。思わず浮かぶツッコミに「深呼吸、深呼吸」夏帆が優しく重ねる。
…変わらない、日常の延長。
思わず肩から、力が抜けた。険が抜ける。
「…ええ、はい」そうだ。まだ、火蓋が切られただけの話だ。
考えろ、と自身に問う。やるべきこと、できることを。悩んだ時はそこからだ。
やるべきこと。リサさんを止める。あの嵐をうちはらう。
できること。できることーーー。
……。
「ーー夏帆さん」
ケイは微笑む。
「私が行ってくるよ」「風見くん」
夏帆が少しまゆを寄せる。困り顔。
なかなか見ない顔で、ケイはちょっと笑ってしまう。
「私がリサさんを引きつける」「うん」夏帆はうなずく。
ケイは拳銃を抜く。
銃弾一発で、この状況を打開できる手筈があった。
「それと…」
夏帆はケイを見ている。律儀だ、真面目だ、と夏帆はケイのことをそういうけれど。
夏帆も十分真面目だとケイは思っている。
こんなところーケイは拳銃を構えるー見るべきじゃないと思うのにー突きつけるのは胸ー
見届けて、くれる。
「…私の血、あげるね」
「うん、ありがとう」
発砲。
嗚呼。
心臓がーー星が息吹(Blaze)を上げる。
ケイの閉じたまぶたが開けば、夕暮れの赤と朝の空が混ざった、まばゆい紫。
「いってらっしゃい」
夏帆の言葉を聞きながらーーー加速する。血を振りまきながら夜の瞳でケイは走り、降り立つ。
「さ、リサさ、ん」
ぼごぼごと血を吐きながらケイは微笑む。
たった独りの狼に。嵐で惑い吠える彼女に。
真っ赤な血。いったいだれが生者であるのかを、示し。
「踊り、ましょう」
追うべき彗星となる。
嵐がかき乱される。巨大な渦は右に左に駆け抜けられて、円たることもできない。
計算ずくだ。それでいい。ケイはすすむべき道筋を選んで進んでいる。
嵐であり、ひとならば、再び同じような形をとって進もうとするだろう。
その形を結ぶとき、自分たちは脱出し、“夏帆の射程範囲内”にくるように動いていた。
血を求めて狂うヴァシリッサの銃撃を躱しながら、移動し、移動し。
何人もの人や樹を盾にしながら、互い、涙のように血を流し、あかりとなって導く。
打ち倒すべき災害、その内の独りのそばにケイは着地した。
他の人々と同じように、そいつも叫んでいた。
見過ごしたろう、ききのがしたろう。普通なら。他と同じように。
けれどそのかおは、ケイにとって。
“ああ”
ーーは。
“ごめんね”
息が止まる。
“つらかったね”
やさしいかおをしている。
両腕を伸ばしている。
“いいこだね”
このまま。ヴァシリッサを引きつけて離れるほうが優先事項だった。
ほら、攻撃が腿をかすめる。あんなもの直撃されたら足が吹き飛ぶ。危機はこちらではない。
そのはずなのに、とまらない。
“おまたせ”
その額へ拳銃を突きつけ、撃った。
「……『大事だった人』、じゃん」
嗤う。自分を笑う。なんて嵐だ。ふざけるな。
関係ないと思っていた。自分には絶対縁がない。
愛だなんて、思われるだなんて。
いまさら、いまさら。
額を撃ち抜いた女の、信じられないものを見る顔。
そうだ、だいじだった。彼女が世界の全てだった。
たった今聞いたいくつかの言葉が、耳の奥で血流と共に流れている。
「色に溺れて」“ごめんね”「神に狂って」“つらかったね”「娘も」“いいこだね” 「世界も」“おまたせ”
血を吐く。
「捨てたでしょ」
“よく、がんばったね”
「そんな母親みたいな事、言うわけないよ……」
あなたがそんな、ありふれた女だったら。
風見・ケイは風見 彗のまま。螢も荊もおらず。
そもそもここにもいなかったかもしれない。
そのことばが聞きたかったその手をそうやって伸ばしてほしかった抱きしめてほしかった、
あのひのこどもも、もう過去のものなのだ。
どこにも、いない。
所詮は過去だ。UDCアースとアポカリプス・ヘルは違う。割り切れていいはずだ。
いいはずなのにーーそういう可能性のあったことを示唆がこんなにも腹立たしくて、つらい。
嗚呼、頭がくらくらする。
それこそ荒れ狂う大嵐にぶちこまれたか、宇宙に身ひとつで放り出されて振り回されたかのようだ。出血のせいだ。心臓をぶちぬいたせいだ。理由を結びつけて意地ひとつで精神の糸を保つ。
暗闇にどうしても明かりがほしくて、ケイは視線をやる。
「夏帆さん」
目が合う。
この嵐のなかで、代わりなく。
「頼みますーー焼いて、ください」
昨日は消えゆくべきなのだ。
過去らしく。
ケイの言葉はきっと聞こえていないだろう。
それでも、彼女は微笑んでやさしく手を振った。
あたりは嘆き(Blood)でいっぱいだ。
ひとり残り、夏帆は嵐たちの無数の顔を見る。
夏帆には見知った顔などどこにもいない。
「好きな人ならいっぱいいるのになあ」唇を尖らせる。
「餓死って状況に実感がないからか」首を右へかしげて
「誰も大事じゃないからか」こんどは左へかしげる。
見てしまったらどうなるんだろう。
胸の中へ真っ赤に染まった火かき棒でも突っ込まれた気分になるんだろうか。
無数の声も、愛を込めた呼び声も。どうにもどうにも、届かない。
なんとなく、物寂しい。
ヴァシリッサの痛みを理解できない、ケイの無茶を止めもできない。
悲しむのは嫌だし、痛いのも嫌なのだがーーどうしても、そこどまり。
目の前の過去たちと同じで、どうしても、その先の一歩が進まない。
夏帆は地面にぶちまけられた赤の上に立ってみる。
靴が真っ赤に染まるだけで、錆臭さを感じるだけで。
せめてと思ったが、まったく何も伝わらない。
「そりゃそーか」感情や感覚を持つのは、血じゃなくて本人たちだ。
真っ赤にそまった靴先で夏報はゆっくり絵を描く。
「これは、理解の代わりになるかな」
円、弧、点、直線。
マスターの叫び。悪ィねだなんて、いう必要ないのに。
「これは、止める代わりになるかなあ」
意図を持って描く。
使っていいよ、と風見くんは言ったけれど。ありがたく使うけれど。
彗くんが、無茶してつらいのは、螢くんや荊くんだけじゃないんだけどなあ。
風が叫んでいる。想いと願いを叫んでいる。
まったく理解できない。
夏帆が理解できるのはー
「なるといいなあ」
ーひとり残る側(Be left)の気持ちだけだ。
完成したミステリーサークル。
捧げられた血。描かれた悪趣味を、さらなる悪趣味で塗り替えよう。
過去が変わらないのなら、未来が書き換えるしかないのだ。
爆発のように、炎が巻き上がる。嵐をまるごと飲み込むような炎。
夏帆はそれを、ただ淡々と見つめる。
黄昏に例えるにはあまりに激しい。
炎の中、やかれる人々の中に、老婆をみる。
「なーるほど」自分のことすら他人事の口調で、夏帆はそれを見つめる。「『大事な人』って、そいう解釈もアリか」
見ても、話しても、どこにでもいるふつうのおばちゃん。
なんの話をしたっけ、近くのスーパーの割引きとか、今ちょっとミニバラを育ててみてるとか、息子が反抗期でとか、ポケットにティッシュ入れたまんま洗濯しちゃった時の対応とか。
仕事で初めて殺した人、だ。
「どっちが悪者なんだろうな」
待ち受けるのは地獄でも、嵐が言ってることはわからなくもない。
こういう比べて方は失礼にあたるのかもしれないのだろうけれど、たとえばマスターがお腹すいたっていってたらチョコをやるぐらいの寛大さが、夏帆にだってある。
仲間が嘆くのを嘆きっぱなしにして、仲間の挺身をうけて。
それでこんな、こんなものを、こんなふうに焼くだなんて。
誰も応えない。「あの人は、なんで教団の幹部なんかやってたんだと思う?」誰もこたえない。
「また聞けないまま」
誰か。
「また殺すしかないんだな」
応えて欲しい。
誰も、応えない。
すべてが焼ける。焼き払われる。
「“そして夏帆さんが残る”」
ミステリーをもじったタイトルを口にしてみるがまったく面白くない。「うーん、やっぱり誰もいなくならないと文章的には美しくないよなあ」マスターだったらどういじるだろう。そんなことよりもっとキレッキレな映画でも教えてくれるかな。風見くんは真面目だから、律儀に付き合ってくれるかもしれない。スマホで原文なんか検索しちゃったりして。
……。
2人ともここにはいない。
誰もかれもいなくなり。
けっきょく、じぶんひとり、取り残された夏休みのなか。
「ちえっ」
夏帆は笑いながら、子供っぽく小石を蹴るふりをする。
ついさっきまでバカ笑いして、レース、してたのになあ。
緩く後ろでを組んで暴虐を見届ける。
「仲間外れは、夏報さんだな」
妙に、口惜しかった。
・
煙が、のぼっている。
煙は一切の濁りがなく、しろくながくのぼっていく。
もしも葬儀場から煙が見えたらああだったのかな。
ケイはぼんやりと思う。いや、今の葬儀場は諸々の都合から煙は見えないんだっけ。
インターステラーに寄り掛かり、真っ赤に染まったままぼんやりそんなことを考えていた。
嵐はその形をだいぶ歪めて減らし、減りつつあった。
そしてーーーどん!
また大きく、群れが減る。
これで二撃目。夏報のコードが、諸々焼き払う振動がここまで響いてくる。
「…ケイちゃん」
声がかかったのでケイは少しだけ顔を動かしてヴァシリッサの方を見る。「謝罪は理性ふっとぶときに聴きましたからね」「そんなしみったれたこと言わないってェ…」「はい。でしたら、なんでしょう」
奪い尽くし滅ぼし尽くし焼き尽くし、吼え尽くした金狼(ヴァシリッサ)は、大地に大の字で転がりながら同じく煙を見上げていた。
あれも誰かを焼く煙なのだろう。とヴァシリッサは思う。
人を焼く火を思えば胸の奥の記憶がまだ生々しく匂うが、どうしてだろう。
やかれているのは木々なのか、煙はどことなく白い。どちらかと言えばケイや夏帆と一緒にUDCの事件を調査したときに見た、仏壇の線香を思わせる。
見ていられなくて、起き上がった。
「タバコ、ある?」
ケイはのろのろとポケットを順繰りにたたく。ズボンのポケット、ジャケットのポケット。胸ポケット…どこにあったんだったか、と思った時に、胸の内ポケットにあるのを見つけた。諸々の騒動でくちゃくちゃになっているし、先ほどの血もちょっと浴びている。
「もらっていい?」「ええ。代わりといってはなんですが…」ケイはじぶんの唇を軽く人差し指で叩いた。
「私にも一本、とっていただけます?」
「もっちろン」
ヴァシリッサが起き上がって歩き、一本抜き取り抜き取って「ハイ」「すみません」咥えさせ、火をつけてくれる。
煙を見て、ちょうど欲しくなっていたところだった。
しばし、紫煙がのぼる。
「ケイちゃん」「はい」「夏帆ちゃん、あっち?」「ええ」
「“星間飛行”、もっかい、付き合ってくンない?」
ヴァシリッサの変わらぬ言い草に、ケイの顔に思わず苦笑が浮かぶ。
「さすがにちょっと運転できませんよ」
胸を押さえれば、まだ溢れる血はまだまだ止まらない。
「そりゃ見て分かるよ。インターステラー、借りていい?」
「こんどは月まで?」
ううん。ヴァシリッサはかぶりをふる。
豪快でさっぱりして時々雑な人なのに、とケイはその仕草に思う。
どおん。
…3回目。
「ちょっとそこの夏休みまで(to Be left girl)」
そういう仕草は妙にこどもっぽくて純粋でかわいい人なんだよな、と。
・
きっちり3回目の呪詛が終わる。
過去は慣らされて、残るは影も形もない。
炎のせいで大地は黒々としている。ありったけの絵具を注いだキャンバスみたいに。
さて、ここから。夏帆は腕を組んで考える。「まいったな」ひとりごちる。7う
荒野のど真ん中にひとり残る可能性はまったく考えちゃいなかった。車に戻ればいいやと思ったが、この乱戦と乱闘で、はて、どっちにいったものか。
こいつはあれかな、お先に帰還させてもらってログアウトがアンパイかな。
いやいやUCでちょっとひとっ飛び。それもいいけれど、どうにも気が思い。
改めてある深い溝(クレバス)を、思い知らされたようで。
遊び終わった花火を持って、どうしようかというあの日に似てーー
ヴァン!ヴァン。
クラクション。
そいつは後方からやってきて、夏帆のそばでとまる。
夜色のワゴン。四角目が可愛い。
“インターステラー”。
「ヘイ、可愛いお嬢ちゃん♡」
窓が開いて乗っている赤髪の女が茶目っ気たっぷりにウィンクしてきた。
「乗ってかない?」
後部座席の窓も下へとスライドして開き、黒髪の女が降りた窓に顎を乗せて、ウインクする。
マスターと、風見くん。
ぼろぼろなのに、まるでいつもと変わらない。
「…おやおや」
夏帆は、笑う。「この夏帆さんを誘うなんてなかなか勇気のあるモヒカンくんだなあ」
なんだか胸が苦しくて、笑いが歪になってしまう。「こんなにモテるなんて思わなかったね、こいつはアポヘル永住を本気で考えてもいいかもしれない」「本気ですか?」「いやあ、考えるだけならタダだよ」うそぶく。
「そんなことより乗ってきなよォ♪お肉があるよォ〜お酒もあるよォ〜」「マスター怪しさ満点だよ」「オイル缶とドライフルーツもありますね」「そいつは夏帆さんが持ってきた食料だね」「すみません、私の荷物だと、米と麺で…どうも誘い文句に色気が」「まじめだなあ、風見くんは」
なんだか、あれだ、これはあれだ。
夏帆は思う。
夏休み明けの新学期みたいだ。
かったるく疲れた体を引きずって友達とふざけながら日常へ帰ろうとするあの感覚。
「アブダクトのちキャトられたりしない?」夏帆のブラック・ジョークにぶっとケイが吹き出す。「UFOに見えますか?」ケイはそのままむせる。「おっと、どうも重症患者が乗ってるようだ」さすがの夏帆も少しは慌てる。手当はどれだけできたのだろうか?
「こいつは優しい優しい夏帆さんの赤十字精神が疼いちゃうな、乗ろう、ぜひ乗ろう」
後部座席の反対に回ろうとしたら、ケイがそのまま扉を開けて
「座席に血はこぼしてないんで」
重症なのにケイが腕を差し伸べてくれる。
後部座席のぎゅうぎゅうの荷物はすでに、しっかりもうひとり座れるよう寄せてあって。
ああ、居場所がある。
「律儀だなあ風見くんは」
手を取る。
乗り込む。「血は?」「もうだいぶ」「良かった。風見くん、よっかかっていいよ。肩貸してあげる」「ああ。いいですか?窓だとどうにも首が痛くて」
エンジンを大きくふかし。
インターステラーは走り出す。
三人にやることはいっぱいあった。ヴァシリッサのハティも拾わないといけないし。
夏帆は肩をケイに貸していて後ろを振り返れないなりに少しだけ瞳を動かして、バックミラーを覗いた。
描かれたミステリーサークルは呪詛の衝撃と砂嵐と荒野自体の性質でもうすでに乱れていた。
消えるのも時間の問題だろう。あの夏の砂浜の呪文みたいに。
「“そして誰もいなくなった”」夏帆はつぶやく。「ん?」ケイが夏帆の声の、どこかはずんだ調子に気づいて応える。
「なんです、夏帆さん」「ううん」夏帆はひとり笑っている。ケイとしてはなんとなく気になったが、夏帆言いそうにない。そのままにしておくことにする。
ねェ。ヴァシリッサが言う。
「どこまで行きたい?」
「月まで」
ケイは夏帆の体温と、匂いをかんじながら、閉じた目を薄く開ける。
窓のそとが見えた。雲は途切れ、少しずつ明るい日差しが差し込んでいる。
雲間から差し込むあの光。
天使の梯子。
今なら乗れるんじゃないかとちょっと思い。
そのまま月も悪くないとよぎって。
さすがにロマンチストすぎると、普通の、今日の感覚で笑った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロク・ザイオン
★レグルス
(密に実り過ぎた森は昏く)
(歪な生と死を繰り返す)
(美しく幼い、小さなあねごが枯れてゆく)
(梢をこちらに差し伸べながら)
(その手を取ることが出来ていれば)
(今からでも)
(けれど)
……おれは森番だと、仰ったのは、あなただ
だからキミたちの望みを
森を
あるべき形に、正そう
おれは森番だから。
(威勢よい声の、恐れ知らぬ鶏
その身をおれにくれるのなら
どうか、彼らと共に行ってあげて
「焚骼」
悲しくやさしい祈りで病んだ森は、ほどけて灰に
キミたちが望んだ、この地の糧になれ)
鳥よ
優しいものたちに時を告げろ
恵みの明日が、ここに来たんだ
……ジャックは。
いい夢見た、って顔。してる。
ジャガーノート・ジャック
★レグルス
(命の嵐とも言うべき景色。)
(そして、其の中に君の姿も、"僕"は確かに見た。)
(ザザッ)
――ハル。
(僕に明日を譲った君の。身を挺して僕を救ってしまった君の顔が――――)
(伸びる手が或る日を思い出させる。顔はあの日の君の侭だった。)
("次に逢った時、もう一度勝負しよう。強くなれよ、ジャック"/未来の為に逃げろ。そして何処かで芽吹くんだ")
――何処で逢う君も、君らしいな。
(それは"僕"が見ただけの、都合のいいまやかしなのかもしれないが。)
「剣狼」、起動。
(相棒が朝の眩き光を齎すなら、それに倣おう。)
――"極閃"。
(明き光よ、朝日の如くあれ。明日を目指した者よ、せめて終わりな光の中で。)
■獅子の心臓、かくも眩き■
芽吹いて咲き、実って朽ちる。生まれて生きて、死んで生まれる。
歪に繰り返される生死。越えてゆく命の数だけ肥えていく森。
いくつもの嵐がいくつもの猟兵により打ち砕かれて、焼かれて、引き裂かれて、防がれて。
今や散り散りの雲へ変わっている。
覆っていた雲はいくつもいくつも途切れ、いくつもの光がこぼれ降りていた。
嵐は収束ーーするかに思われた。
“いやだ。いやだ”
風に嘆きが混ざりはじめる。
否。嵐は最後のひと足掻きをしようとしていた。
何人もの仲間が死んで、倒れたなかそれでも残ったものが進んだように。
“しにたくない、まだ、しにたくないよ”
引き裂かれたそれぞれの嵐は、だれが指図したでもなく、各々の意思で多きく渦を描き始める。
大きな円を、舞いはじめる。
悲鳴のように切望が駆け抜ける。
砂をかきあげ、剛風が踊り狂う。
とびきりの乱気流。
「“…そうだろうな”」
ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)はもらす。
冷静な彼にはめずらしく、ひどく、感情的な一言だった。
最後の、大嵐。
戦闘支援機:Hawkによる飛行も援護射撃も、ここが潮時だ。
「“ロク”」隣の相棒へ声をかける。「“時間だ”」
「応」ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)は肯く。
「おれも、ちょうどいいと、思う」
「“では、第二ミッションの最終ラウンドにはいろう”」
2人はシートベルトを外す。
空中にもかかわらず、コクピットの窓が開いていく。
風が吹き込む。
「“では”」
立ち上がり。
「“生きて会おう”」
飛び降りる。
2人とも、何も無計画で飛び降りたのではない。
命、栄養を求めて嵐が枝葉を伸ばしてくる。
ロクは山刀を抜く。枝葉をいくつもいくつも切り落としながら落ちる。
切られた枝から次々に新たな植物が芽吹く。芽吹きたての木々はやわらかい。そいつらをいくつもいくつもクッションがわりにぶつかり、破壊しながら落下速度を落としていく。
やがて、耳もちぎれそうだった風の音が、穏やかに変わる。
“おねがいーーーおねがい”
ひとのこえが、聞き取れる程度に。
“わらって、わらってほしい”
森が、ああ、森が、願っている。
枝葉を伸ばし、生茂る。
その森の木々にちょこんと座る。
愛おしい、御姿。
こちらを、見る。
手を伸ばす。
あねごがやさしく、おれへとてをのばしなさる。
“おねがいーーおねがい”
森が叫んでいる。
“ともに”
いま。
いま、あの指を掴んだら。いま、あの御手にある果物を頂いたら。
“もういちど、いっしょにいたい”
ロクも森になれるだろう。
ひとのなりをすて、けものであることもやめられる。
“あなたとわらいたい、さんぽがしたい”
あらしのひとつになって、あねごといっしょに、まざって、木になって、枝を伸ばして、葉を茂らせて花を咲かせて実を生らしてこぼし生き物に分け与えながら枯れて嵐になって風になって
また芽生え、生きることができるだろう。
“いきたい”
うつくしい森の中に、ほんとうに一体になれる。
ずうっといっしょに、いられる。
“こえがほしい”
あのときできなかったことが、ほんとうはあのときのぞんでいたことが。
いまなら、間に合う。
“はなしたい、たくさんたくさん、きかせたいはなしがある”
それだけではない。
あのときできなかったことが、いまならたくさんできる。
あのときりかいできなかったあねごのこころに、すこしでもいまならよりそえる。
もらった分には届かないかもしれないけれど、それ以上のたくさんの、ことばを捧げることができるだろう。
どんなおかおをされるだろうか。
“いきて”
いまなら。いまなら。
いまだからこそ。
“わたしと、いきて”
鑢の声なんか気にしなくていい。好きなだけととさまを称える歌を追える。
過去の海は永遠だ。そこから進むことがない。
そこに浮かんで揺蕩って、いつまでもいつまでも、いっしょにいられるだろう。
ああ、思い出す。
あねごが語ってくださった昔話のお話は、いつもこういう風に終わるのだ。
『めでたし めでたし』
きっとそれは、そういうことをいうのだろう。
“しあわせに”
首元で、鎖がなる。
錆びた鉄の箱。まだのこるかすかな匂いが、鼻をくすぐる。
“しあわせになろう”
あねご。
そう。
そうできたら、どんなに、すてきだろう。
ロクは笑う。苦く苦く。苦しいのに口が笑んでしまう。
それはできない。それは、ロクの望みだ。
あのときあねごを置いていってしまって、ここまで来てしまったからこそ知り得た希望だ。
ここまで来てしまったからこそ知り得た希望であるがゆえに、
その希望は現れた過去に請うのでなく、自らで果たすべき願望だった。
それに、目の前にある森が、目の前にある願望が。
まったく正しいのに根底が間違った、あるべき形ではないのだとわかるほどには。
過去の囁きにたやすく道を違えることができぬほどには。
ロクはもう、人だった。
両腕を伸ばす。のばしながら落ちる。
あねご。
声ならぬ声でいとしきを呼ぶ。
両手でそっと頬をつつみたかった。おどろくほどやわらかいのだろう。ぬくもりはどうだろう。
過去が枯れ果てていく。
あねごはロクに、授けてくれたのだ。
森番。ひとのそばにあるもの。森より人を守るもの。森から人を連れ出すもの。
だから、と、ロクは決意する。
おれは森番だから。
キミたちの望みをーーー森を。
ひとにして樹たるきみたちを。
あるべき形に、正そう。
切なさに胸を焼かれながら、ロクは影からゆっくりと鶏を出す。
甲高く鳴く、命。威勢の良い声に、こんどは切なさではない苦笑を浮かべる。
まあ力強い命だ。クチバシの側を撫でてやる。嬉しそうにする、鶏。
けものとけものだ。ことばなどいらなかった。
そも。食料をとどけてやる、というはなしだったのだ。
鶏はすでに自分の命の行き先なんか知っていた。
とっくのとうにロクにあずけてくれていた。
ー鳥よ、鳥よー
ロクは定義する。
…ロクは知らない。
己のしていることが、かつてあねごにされたそれと似たようなことをしているのだと。
そしてもうひとつ森と生贄ーーかつて歪んだ世界のなかで行われていた風習と似たようなことをしているのだと。
しかも、それを
ー優しいものたちに時を告げろー
森番ーー愛おしいものに定義された『人の側に立つ』、という
にんげんのがわで生きるものとしての定義の上で“ただしく”行なっているのだと。
過去に首下げず巨大な現象に跪かず。
ひとつの歪みを正す一歩を踏み出していたのだと。
ロクは、しらない。
ー恵みの明日が、ここあるとー
ロクの定義によってささげられたいのちひとつ。
燃え上がる。
種を残せば再び愛しみが吹き荒れる。
滅ぼし尽くせば虚無のみがのこる。
そのどちらでもない解答が森へ提示されていた。
灰になれ。
灰だって、大地を潤す。次の芽の下地になる。
眩く、炎が上がる。骼を焚く。
病んだ森を、ただしく切り開く。
弔いと正しの聖火(聖歌)。
キミたちの死は。
無駄なんかじゃなかった。
まばゆい輝きが、ジャガーノート・ジャックのアイセンサーを独占する。
どうもロクのほうがうまく、早く落ちているらしい。
やはり森において『森番』は違うな、と1人うなずく。なんとなく負けたような気がして悔しさ半分。優秀さが誇らしい気分が半分。
ジャックの元にも次から次へ枝葉が伸びてくる。
“いきて”
森が囁いている。
“いきてほしい”
「“ッ”」
その強烈な囁きに、ジャックは、その向こうの“彼”はおもわず奥歯を強く噛む。
これをーーーこれを、斬らねばならないのか!
“いきたい”
食いしばりながら刃を振るう。哀色が、きらめく。
死んだりなんか、してほしくなかったーーー代われるなら、今だって代わりたい!
“いきて、あなたにあって、あなたをいかして”
無数の顔が現れては囁く。
僕だってーーー僕だって!
腹の底を掴まれてねじ切られるような衝動を感じながら、ジャックはブレードを振るう。
空から降りたいのちのあらしのなかはくらい。
ロクの放った火が多くの顔を生者のように見せる。
いくつもの葉が降ってくる。いくつもの枝が伸びてくる。
生者を求めて、いのちをもとめて、差し出す手。
つかみたい。つかんでやりたい。
自分が死んで、かわりに。
思わず伸ばした手を、ぶっ叩かれた。
「ーー」
ああ、見える。見てしまう。
フェイスマスクのアイサーチを暗視へ切り替える。あまりにいのちに溢れて、オール・グリーンだ。逆に見づらい。レッド・ライトを切る。直視モードに切り替える。
下手をすると“こちらがわ”が他人にバレてしまう可能性があったが、それどころではなかった。
目視する。まちがいない。
「“ーーハル”」
僕に明日を譲った君。身を挺して僕を救ってしまった君の顔。
だいじな、ともだち。
写真や画像や記憶で見るのとは、まったく違う、生の存在。
ああ。伸びる手がある日を思い出させる。あの日の君のままだ。かわらない。
死んだのだからあたりまえなのに、そいつがどうにも胸を炙る。
彼が、笑っている。
"次に逢った時、もう一度勝負しよう。強くなれよ、ジャック”
“未来の為に逃げろ。そして何処かで芽吹くんだ"
葉擦れに、森が仲間に叫ぶ言葉に、たしかに彼の言葉を聞く。
なんて都合のいいまやかしだ。否定して笑うことは容易い。
けれどもジャックは、“僕”は、それが、できない。
したくない。
森が叫ぶ。
ジャックが斬ったいくつもの樹が、枝が、木片が、人々が。
無数の綿毛に変わって吹き上がり、逃れようとする。
おかしい話だった。すでに森には、ロクによって炎がかがやいている。
綿毛では逃げきれない。炎に自ら飛び込むようなものだ。
もっと選ぶべき植物があっていいはずだ。
そこに、誰かの意図を感じるのは、贅沢だろうか。
「“ーーいいのか!このままだと僕の不戦勝だぞ!”」
そこで、ロールプレイのなにもかもを投げ捨てて誰かをもとめて叫んだジャックは、愚かだろうか。
“だって、反則がすぎるだろ。数の差がこんなにもあっちゃ”
そこで
“つぎは”
呼(コール)に対する応(レスポンス)を得たと。
“一対一の、正面からだ”
わらいごえとことばを、きいたとかんじたジャックを。
過去から未来の手を得た彼のその一瞬を。
気のせいだと、笑う権利は誰にもないだろう。
「“ーーーー”」
ジャックは落ちながら、哀色の刃の、威力を上げる。
其は"極閃"。
相棒にならおう。それがいい。
哀色の刃だなんて、明日を求るものに贈ってはいけない。
明日を贈ろうとしたものに返してはいけない。
明き光よ、朝日の如くあれ。ジャックは惜しみなく光を強める。
明日を目指した者に終わりをもたらすなら、せめて。
明日を願ってくれた者へ最後に見せるものが選べるのならば、せめてーー
光の大刀でもってそのまま、一刀両断。
落下と重力の誘うままに、振り下ろし、断ち続ける。
着地したロクは、それを見上げて思う。
ああ、そう。朝日が森に差し込むときはあんな感じなのだ。
東のほうから差し込んできて、光の木が生えたみたいに見えてーー…。
ーおのれの手で、朝を、切り開く光景を見せよう。
森が果ててゆく。
朝日でまっしろに、洗われるみたいに。
嗚呼。あたりいっぺん、炎につつまれて星が落ちてきたようなまばゆさだ。
否。
星がおちてきたのだ。
「“ポイント、到着”」
「ん」
星の名はレグルス。
「“無事で何よりだ、ロク”」「ん」
ばけものの子であり、母と同じくばけものと恐れられた獅子が討たれー
「“これは印象だが”」「ん?」「“何か降ろしたのか?”」「…ん?」「“すまない、うまく言語化できないのだが。なんとなく”」
ロクはすこしくすぐったさを覚えて、耳をかく。「かも、しれない」
ー宙に召し上げられー
「ジャックは」ロクは笑う。「いい夢みた、って顔」よっぽどいいことがあったのだと、悟る。「してる」言いながら、ロクは自分の目元を叩く。「目の、表示」
「“…む”」ジャックはおもわず自身の顔にふれ、嗚呼、気付く。
慌ててフェイスマスクの表示をいつものレッドへ切り替えた。
「ん」
「“うん”」
ー今や勇気あるものの象徴として語られる星座の、心臓の名である。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユキ・パンザマスト
【くれいろ】
(黒髪の女に“ゆき”と呼ばれたが)
はて、何方様?
昔は取り零し、かえれずの者でして。
けど似ている、輪郭に鼻耳。
(ただ道を忘れたか、
異形の娘を怖れて敷居を跨がせぬか。
記憶無き推測。真実わからぬ八百年。
きっと夕飯は待っていた)
かえりたかったんですかねえ。
けど今は、団地という塒が。
(傍らへ視線。
ああ、送り人の顔だ)
……セラ。
歌/弔いませんか。
ええ、曖昧で
ありやなしやゆえ。
進行防ぐマヒ攻撃となぎ払いの【逢魔ヶ報】!
行く先迷わせぬ爆音サイレン!
(餞の椿、口遊む春歌、
幻影と民草の森への、弔いを)
(笑う)
はい、今は生きる人に。
……魂って
湯気や煙なら食べれるんでしたっけ?
肉焼いてお粥煮ましょっか!
セラ・ネヴィーリオ
【くれいろ】
年代性別入り混じる過去の人々は
故郷で喪った老若男女の霊魂たちの写しにも見え
「――みんな、」
手を伸ばしかけ
けれど彼らの方へ行けば、ユキさんを置いてっちゃうから
そんな別れはいやだもの
「…きみたちは、愛していたんだね」
そのかなしさが誰かの笑顔を奪うなら
「なら、どうか穢れないで」
霊魂の標として、導こう
彼女を呼ぶ声
もしかしてとユキさんをちらと見つつ
…ん、そっか。分かった
「もっちろん!爆音でいこう!」
名を呼んだ人、名も無き誰かに届けサイレン!
暮の放送が鳴り響いたら続こうか 《祈り/歌唱/全力魔法》の【春添歌】!
未練は吹き飛ばそう
さあさ、骸の海(おうち)に還る時間だよ
夕餉の煙を思えば、心も躍り
■おうちへかえろう ごはんにしましょう■
長くはげしい嵐が終わろうとしている。
一台のド派手なトラックから、かれはそれを見ている。
何度も歌い、叫ぶように歌い、歌い続けていた。
大きな光や、たくさんの煙によって嵐が散っていったので、小休止。
音響デコ・トラックの荷台に座って、ぷらぷら足を揺らしていた。
ゆっくりきれた雲からはもうすぐ、空が見えそうだ。
まだ、風はある。
しかしそれも最初の暴風に比べれば随分優しい。
風が彼のーセラ・ネヴィーリオ(トーチ・f02012)の白髪を揺らす。
彼は霊魂の標であるから、風にとけ、薄まった過去の声を、ようくようく、聞いていた。
“ああ”
泣いている。
“あなたはまだ、そこでまっていて、くれていますか”
だれかが、だれもが、泣いている。
“あれからどれだけ、たちましたか”
弔いの炎に、生命の輪へ取り込もうという口に、鎮魂歌に。
過去が、おのれがなんたるかに気付こうとしている。
“あなたはどれだけ、おおきくなりましたか”
だれかを思う喜びが。
だれかに会えるという希望が。
“わたしは、わたしたちは”
そんなものは。
ひとつも叶わないという現実にぶつかって、歪んでいく。
“かえれない”“あいたい”“かえりたい”“いっしょにいたい”“えがおがみたい”
…愛し(かなし)が哀し(かなし)と変わっていく。
「愛して、いたんだね」セラはぽつりと返した。
理解は、共鳴。
いくつもの風が集まる。いくつもの声が渦巻く。
耳をすましながら、まっていた。
彼女を。
「ん」
ユキ・パンザマスト(暮れ泥む・f02035)は振り返る。
音響デコ・トラックの助手席にセラとユキ、ふたりの個人的な荷物を預けていた。
彼と自分のとペットボトルを二つ。右手と左手にそれぞれ持って、ちょっとスキップでもどろうとしていた。
黒い髪の女が立っている。
ききまちがいでなければ、今。
“ゆき”
ああ、ほら。呼ばれた。じいっと見つめる。
もしかすると、もう少し早ければ見えたのかもしれない。
現れた過去はすべては愛しより哀しに変わるところで。
よってこの女(過去)も、存在が由来でおぼろだった。
背はユキよりすこうし高い。はて。ユキは首をこてんと倒す。
「何方様?」
頭の中をぐるぐると。引っ掻き回しても思い出せない。
“どこにいるの”
ああ、音程が胸に引っかかる。地方独特の癖が、何となしユキの頭を奥をちくりと刺す。
「はいはい、ここに居りますよ」
呼ばれたら応えなければいけない気がして、ユキは『つい』応えてしまう。
“どこにいるの。かえっておいで”
……。
……嗚呼。こんなことが、あるだろうか。
半歩だけ前へ進む。
「残念ながら」かぶりを振る。「昔は取り零しました」
今までの戦いで散々分かっている。
届かない。
“かえってきて、どこにいるの”
それでも応えてしまう。応えてやってしまう。
「もはやユキは、かえれずの者でして」
“ゆき”
ああ輪郭に目鼻立ち。ゆらぎの向こうに重ねるはおのれの容姿。
“かえってきて”
うーん、でも、胸のあたりがちょっと違うかな、などと、ユキはわざと茶化す。
切実なひびきを、受け取らないように努力して。
「かえりたかったんですけどねえ」
しかしそれでも、受け取って返してしまう。
本当にそう思っていたかをさておき、届かないのに説いてしまう。
「けど今は、団地という塒がございまして」“ゆき”「いいところですよ、皆々自分の部屋を持っておりまして」“どこにいるの”「それぞれ生活し、好きな時に相手のお部屋を訪ねるんです」“ゆき”「冬などはだれかの部屋にぎゅうぎゅうになって鍋などするんです。あれは好いですよ〜」
“かえってきて”「そのまま団子で寝たりなどすると非常に温いのです」
“ゆき”
「まー心配性ですねえ。大丈夫ですよ〜、そうご心労めされず」
“さみしくはないの”
ーーー。
「まさか!」
そう。そうだとも。
ユキはきびすを返す。「もしもし“御母様”」あれ。いま自分はなんといった?
「もしお出来になるならいらしてください」まあこういうくらいの人は普通そう呼ばれるものね。
右と左が入れ替わったような気分のまま歩き出す。
「ユキの幸せ、ご覧に入れます故」
なんとなく弾んだ心持ちの小走り。
いったい自分は、どっちだったろう。
ただ道を忘れたか。それとも異形の娘を怖れて敷居を跨がせぬか。
いったい自分は、どっちでかえれなかったのだろう。
いったい自分は、どっちだったろう。
かえりたかったか、かえりたくなかったか。
記憶がないが故に、憶測しかない。
けれど多分、と思う。
お夕飯はあっただろう。
いとしのこえは、あったのだろう。
だって、ご飯粒のついた前掛けなどしてらっしゃるのだもの。
・
”さみしいよ”“かなしいよ”“あいたいよ”“いっしょにいたいよ”“いっしょにいてほしいよ”
老若男女の大合唱は、どんどんふえていく。
故郷で喪った霊魂たちの大合唱にも思えて、いますぐ応えてやりたかった。
「ごめんね、今いっちゃうと、ユキさんを置いてっちゃうでしょう」
そう言いながら足を揺らす。
実をいえば、セラにはどことなく不安が忍び寄っていた。
いのちがいかに失われるかを、彼はようく知っている。
そしてこの嵐。失われたいのちの願いにめずらしく落ち着かなかった。
お揃いの衣装。スタッズをいたずらに引っ張る。
もしも、もしも。このままユキが、帰ってこなかったら。
ありえないのに、ありえないと思えない。
久しぶりに味わう、喪失への恐怖。
「そんなお別れは、いやだもの」
それどころか、お別れそのものがいやだもの、とは、胸の内。
「セーーーーーラーーーーっ!」
呼ばれて顔を上げる。
小走りにかけてくる、ユキ。
ああーーーーよかった。安堵する。
別れても、出会える。些細なことが、いまはすこし嬉しかった。
「おかえり」
ん。セラは目を止める。ユキの後ろの女性。輪郭、目鼻立ち。
それからちょっとの癖っ毛。
目を細める。…そういうことも、あるだろう。
あ。ご挨拶したほうがいいのだろうか。とぼけたことを、考えた。
え、でもなんて言おうか。
ユキはユキで、その言葉にすこしだけ足を止める。
出会えること、おかえりがあること。
それを味わって、それから。
セラの周りに渦巻くものたちをユキははっきりと見て取る。
「…セラ」
いってしまうんだろうか、そのまま。
いてくれないのだろうか、このまま。
ユキの胸に、浮かんだ疑問を
「あ、ユキさんお水ちょうだい」
セラは微笑みひとつで解決する。「…あ、ハイ」よいせ、とトラックの荷台へ上がり「どうぞ」手渡し。「ありがとう」
「うしろのって」「ああ、ええ」
…そういえば自分はうっかりしあわせを見せるとかいって連れてきてしまったことに気づいて少々焦る。
「ありやなしや、です」「…ん、そっか、わかった」
“あいたい”“あいたい”“いきたい”“いきていたい”
叫びはいよいよ単純となっていく。
「みんな、愛してたんだね」「…そっすね」
「でも、このままだと、大事な人の笑顔を、台なしにしちゃうんだね」「ええ」
“しあわせに”
「セラ」
「なあに」
“しあわせに、いきて”
「歌い弔い、しませんか」
まっすぐ見つめる。
「死者を、過去を弔って、生者を、今を教えてあげましょう」
言葉は強く、優しい。
「帰る時間なんだって」
ああ、ユキの瞳にはいま、セラが映っていて。
明るい茶に、セラの赤い瞳がうつって。
なにより早い、あかるく美しい、ゆうやけ色。
「生者にも?」その目を覗く。
「死者にも!」力強い言葉がかえってくる。
やさしい、かわいいユキ。
セラは笑って。
「もっちろん!」
いつものハイテンションで親指を立てた。
「爆音でいこう!」満面の笑みで。「爆音て」思わず笑う。
ああでも、その方がいいかもしれない。ユキは思う。
そんなにたくさんのひとにとどけたことなんてなかったから。
でも、セラとならそれができる気がした。
「おんちゃ〜〜〜〜〜ん!」
セラが呼びかける。
「トラックもっかいお願いします〜〜〜〜!!」
ユキが飛び跳ねる。
運転席からのばされた片腕に、立てた親指がすべてを物語っていた。
「そういえば」「なあに、ユキさん」「魂って、ご飯、湯気なら食べれますかねえ」「食べれるよ」「マジすか」「きもちだけでも、うれしいんだよ」
まずは開幕、セラご指定の爆音パンザマスト。
まるでここが、ただの夕暮れの公園かと錯覚させるような、ゆうやけ、こやけ。
続けて、全力の祈りを込めた歌が、歌われる。
ユキとセラ、パートを入れ替わり立ち代わり、交互に。
時折本人たちしかわからぬ遊びを入れながら、ただ歌う。
大事に扱われてきたスピーカーが、その声を幾倍にもする。
煙のぼった天にも灰伏した大地にも遠くまで走っただれかにも近くにいるだれかにも。
とどくようにと。
此度だけは、死者にも生者にも分け隔てない。
春添えた、サイレン・オン。
還るその時を謳う、しるべの曲。
荒れた大地にとんとなかった、やさしい春の合唱。
辛く辛い、厳しい時期を乗り越えたあとの、芽吹きといのちの再生を謳うもの。
耐えた分の春を寿ぐ曲。
生者も死者も、未練をふきとばそう。
かえろう。
みんな、かえろう。
だいじょうぶ。
セラが高く歌うーー後悔を抱えるものに、悼みを抱えるものにあたえる赦し。
ねがったかたちじゃないかもしれない。
おもったかたちとちがっているかもしれない。
ユキのパートに入れ替わるーー彷徨うものに、ひとりぼっちに、柔らかく方向を示す。
でも。
それでも。
ユキが吠えるーーーみんな、かえれるよ。
ーユキは歌いながら指を伸ばす。セラの手の甲に触れる。ー
セラが示すーーーみんな、おうちへかえろう。
骸の海・灯の家。
おうちはもう、いっしょじゃないかもしれない。
でも、離れたってあなたを想っている。
ーセラの手が揺れる。ユキの指に指が触れる。ー
まってるよ、いつだって。
ー指が合わさって、そっとー
そんなにりっぱじゃないけど。
できるかぎりの、ごはんをつくって。
ーむすばれるー
ゆうげのけむりを、しるべにのばし。
ー力はまだ弱いー
まってるから。
ーそれでも、たしかにー
かえって、おいで。
あなたを、あいしている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『さあ何を作ろうか』
|
POW : 得意料理を振舞う
SPD : 想い出の料理を作る
WIZ : 自分の好きな食べ物をご馳走する
|
■あすにつなぐもの■
モヒカンから情報を得て、きみたちは各拠点へと到着する。
拠点の人々はまちがってもモヒカンではなく、ほんとうに普通の人たちだ。
きみたちの到着を歓迎し、届けてくれた食料へ丁寧に感謝を述べるだろう。
拠点の住民たちはだれも彼も強く飢えており、早速ではあるが食事が必要だろう。
食品管理のために(そして余計な争いを抑えるために)
いちど食事にしたほうが良さそうだ。
さあ猟兵。
手を洗い調理器具を取れ。あとできればエプロンをつけろ。
調理器具を取れないきみはフォークかスプーンか箸を取れ。
手掴みのものを食べたいきみは爪の中まで丹念に手を洗え。
…ただし。
届けたとはいえ、食い専のきみはおてつだいのひとつもすることをお勧めする。
食事にしよう。おいしいものを食べよう。
あすを、いきるために。
■マスターからのお願い■
受付期間はお手数ですがマスターページをご覧ください。
このシーンでできること。
・ごはんをつくる。
・ごはんをたべる。
・現地のひとになにかを教える(教わる)
などです。
おだやかな日常のシーンになります。
シナリオタイトルのように
「ヘイお待ちィ!!スープ一丁!!!」などとシャウトする必要はありませんし、
つくる・たべる料理もふんわりでも大丈夫ですし、
逆に指定して頂いても構いません。
現地の人と喋りながら適当に…というのも大丈夫です。
基本ほっこり(※二度目)の会話ばかりになるかと思います。
ギャグにもハイテンションにもシリアスにもなる可能性がありますので
そちらだけご留意ください。
いままでの荷をおろし、ゆっくりしていってください。
あしたをいきる、活力にするために。
ウィーリィ・チゥシャン
(POW)
遅くなっちまったけど炊き出しの手伝いに来たぜ!
(干し肉やベーコンといった長期保存の効く食材と小麦粉持参)
さっそくみんな作ってるな。
んじゃ、俺も始めるか。
俺の料理は干し肉で出汁を取り、牛脂で旨味を足して具にベーコンを使ったスープ。
で、それとは別に道中で寝かせたパン生地でパンを焼き始める。
よし、完成!
スープとパンは別々に食べてもいいし、スープに浸しても旨いんだぜ。
他にもスープやポトフ作ってる人もいるみたいだから色んな味を試してみてもいいんじゃないか?
拠点の住民で希望者がいればレシピを教える。
限られた食材でも色々な料理を作れるように。
料理は魔法!
元気も、笑顔も、作り出す!
■一杯の魔法に■
嵐去った空は青く、雲ひとつない。
そこはかつて高速道路とサービスエリアだった場所だ。ひっくり返され度重なる風雨に晒されて汚れ果てている。誰もがどこへでも行けた輝かしさを忍ばすだけの骸。
いや。
道路の残骸がちらばり、割れた窓も多いが、目を凝らせば建物や転がった道路の影や暗闇にいくつものテントが見て取れる。
輝かしさはなくとも、今は生き延びた命を抱するかけがえない拠点(ベース)のひとつだ。
高速道路の上、高きに登ればあたりが見渡せる。
時折吹く風は乾い…ているのだが、今日は少しばかり様子が違った。少しばかり湿気が強い。
「よ、っせい!」
赤いバンダナが風にはためき、着地。
やや幼い顔立ちに似合わず背には大きな鍋とたくさんの荷。ホルスターには納められた包丁。
どこからどう見ても料理人であった。
「遅くなっちまったけど炊き出しの手伝いに来たぜ!」
朗らかに宣言し、底抜けに明るい笑みで周囲の警戒を解く。
ウィーリィ・チゥシャン(鉄鍋のウィーリィ・f04298)ーそれが彼の名だ。
ウィーリィはあちこちから昇る湯気や煙に目を細めて鼻をひくつかせる。「さっそくみんな作ってるな」にやりとする。
いつもより少しだけ湿り気を帯びた風にかぎ取ったのは、料理の香り!
いくら滅び迫るアポカリプス・ヘルとて台所はある、が、炊き出しに使えるようなものは…と困惑する住民に首を振る。「うんにゃ、大丈夫」
対処法なら心得ている。こういう環境こそ、彼の始まりだったのだ。
ガラクタを寄せ集めてもらい即席の竈門を2つ作る。そこにもう使えない廃材やらなんやらを詰めて、三昧真火刀を一振り!
火が点る。
長く垂れたバンダナをいま一度結び直し、ゆったりした袖をまくる。
「んじゃ、俺も始めるか」
勢い良く置かれた大鍋が銅羅にも負けぬ良い音で鳴った。
荷を解けば中身でまず目を引くのは肉だ。しっかり燻されたベーコンに「まず」ウィーリィはそれを手に取る。「こいつで出汁をとっちゃう」からからの木の枝にも錯覚する干し肉だ。軽く切り沸騰した鍋に入れる。
「それだけで食わないの」
ガラクタのあまりを片付けていた少年が半目でそれを見つめる。年はウィーリィよりやや幼いか。機械油で汚れた顔にすさんだ目。
「こっちのがスープの具にもなるし旨味も味わいやすくなる」鍋の水分量と放り込んだ干し肉のバランスを確認しながらウィーリィは明るく説明する。
「一人で食ったほうがいいじゃん」「一人ならね」
…黙り込んでしまった少年にすこしだけ目を止めて「んで、お次はっと」ウィーリィは作業を再開する。料理は時間との戦いだ。
ウィーリィに頼まれてもうひとつの竈門の火を見ていた男がウィーリの取り出した瓶に目を細めた。「おっ、贅沢だねえ」「へへ」返事として歯を見せて笑む。やろうとしていることを察してもらえるのは嬉しい。
先ほどの少年がこちらにも興味を示した、が、瓶に入っているのはほんのり赤みのある白。「石鹸の瓶詰めか?」
ウィーリィは干し肉を切りながら面白がる。
「牛脂!」
干し肉がふやけてきたスープに牛脂を入れる。
「溶かしてばっかりだな」少年が牛脂を入れるウィーリィの手を睨む。
「旨味を足してるんだよ」「旨味ぃ?」
少年の物言いは先ほどからどこか刺々しい。皿を探す大人の一人がひとり、じろりと少年を睨んだが、ウィーリィは軽く首を振る。いいんだ。その態度はウィーリィだってわからなくもない。
すさんでしまえばそうもなる。
「ほっとんど具のないスープなんて所詮あっためた水じゃねーか」
溜まった嘆きや苦しみが、どうしたって目を吊り上げさせて体をいからせるのだ。
「はいそこで味見」おたまで掬って小皿に軽く。「いらない」そっぽをむく少年に迫る。「いいからいいから」
ぐう。少年の腹が鳴った。
「ね?ちょっと繋ぎだと思って」
ウィーリィの明るさは、そういうところがある。
「ちっ」舌打ちして少年が皿を奪う
スープを舐めた少年の、驚きの顔といったら!
「へっへっへ、そしてベーコンだぜ」
赤みと油の美しい縞模様!ざくざくの角切りにして放り込む。「こっちのベーコンは干し肉とはまた違う塩で味付けてあって出てくる旨味がちがうんだぜ〜」包丁がまな板を叩く。ベーコンが鍋に入る。火が鍋を温めていて、鍋はスープを歌う。料理の歌。
「ん」少年がウィーリィにつっかかるのを心配していた大人の一人が同じように鍋を覗き込み、それから牛脂と干し肉を交互に見つめた。「もしかして」ウィーリィは肯いた「そそ、赤身は干して脂はこっちってね」もうひとつの窯のほうも定期的に覗きながら会話する。「ああーなるほどね」
少年?すっかり鍋ばかり覗いている。
そうこう会話していれば、スープの他にもうひとつのかおりが漂う。
窯からそれを引き上げる。「よしよし」
道中発酵させていたタネをいくつも丸めて入れておいた、パンだ。
「よし、完成!」
肉の旨味たっぷりのベーコン・スープに窯焼きの丸いパン。
焼き立てのパンを割れば湯気がたちのぼる。「あまい匂いがする」少年の目が輝いているのを、ウィーリィは見逃さない。「バターだな」「うん」素直なうなずきに笑ってしまう。
「スープとパンは別々に食べてもいいし、スープに浸しても旨いんだぜ」
ウィーリィに言われて少年はおずおずとパンにかじりつく。しっかり発酵させたのはもちろん、ありあわせとはいえ窯で焼かれたパンだ。
「あったけ」険のぬけた顔の呟き。「うん」「やわっこくて、うまい」「だろ?」
次はいわれていた通りパンをスープに浸し、柔らかくしたものを頬張る。
「…うんまい」
ウィーリィの顔に笑みがのぼってくる。
ああ、よかった。
「他にもスープやポトフ作ってる人もいるみたいだから色んな味を試してみてもいいんじゃないか?」
食べ物を。
食べ物を選べる贅沢なんて、幾分ぶりだろう。
ましてやそれを味わう、ともなれば。
「っ行ってくる!」
駆け出す少年をウィーリィは見送る。「おう」
「いってらっしゃい!美味いやつあったら教えてくれよ!」
「おう!」
こちらも振り返らずの返事の、なんと暖かいこと。
ウィーリィの忘れぬあの日、振る舞われていたスープのことを思い出す。
生活は轢き潰されて動けず。
なにもかも疲れ果てて死んでくようだった人々の命を繋いだ一杯のスープ。
熱と味と想いが、口を満たして喉を滑って胃袋から全身を回り指先までも温めた。
生きていこうと前進させた杯。
「料理は魔法」
呟き自身もスープを一口。
うん、よく出汁も出てるし旨味も加わってて、うまい。
向こうでは歓声が上がっている。あの少年が数人と笑っている。
きっと、おいしいスープでもあったのだろう。
「元気も、笑顔も作り出す、ってね」
少年が戻ってきて作り方をウィーリーにねだるのはそれから数分後の話。
大成功
🔵🔵🔵
シエラ・バディス
うーん…手足の細かい傷は塞がってますし、首の傷も目立たない位です。
お腹は…痕が残ってますけど…まぁローブを捲る事は無いのです。
……とにかく、今はご飯なのです。
鍋を借りて水を注いで火にかけつつ、調味料を加えて大本の味を作ります。
沸騰したら適当な缶詰めを鍋に入れて温まったら完成です!
小麦粉は練って伸ばして焼いて、即席のナンにしてしまうのです。
ふと目についた豆缶に、少しのコンビーフとチリソースを混ぜて火の側に置いて温めて、かき混ぜる。
『私達ってこーゆう事する必要は無いけどさ、生きていたって事を忘れない為に続けるんだよね』
味を感じないチリビーンズと共に、何時かの古い記憶が白い影と共に吹き抜けていった。
■空き缶のメメント・モリ■
鎖を解いて、棺桶の蓋を開ける。
人々から嘆息がもれる。水、たくさんの缶詰、小麦粉。
ずらりとならべてひいふうみい。
「数がやべえ」シエラが持ってきた缶詰のリストと内容を確認している男が思わず笑ってしまう。
「あらあら、あら…!」頬はこけているが活発そうな妙齢の女性が目を白黒させる。「重かったでしょうに」
「大丈夫なのです」
ぐっと両の手を拳に握り、シエラ・バディス(死して彷徨う人形・f15798)は名言する。
「でも手も足も傷がいっぱいよ、…大変だったのねえ」しみじみと言われてしまう。「いえいえ!」思わず慌てる。手足の細かい傷は塞がったし、首の傷も目立たないぐらいだ。
…気になるのは腹の傷跡だが、ローブを捲ることはない。
「ごめんね、本当にありがとうね」
「いえいえ、大丈夫なのです」
そう。大丈夫なのだ、サイボーグだから。
「だいじょうぶなのです、ほんとうに」
死して尚蘇って彷徨うものだから。
「本当に?」女が顔をのぞいてくる。「ごめんね、私もあんたぐらいの娘がいるからさ」「娘」「うん、姉妹なの」お姉ちゃんは死んじゃったけどね、と苦く笑う。
「お腹いたかったりしない?」
気遣われてなんとなく居心地が悪く、シエラは大きい声を出す。
「大丈夫です、とにかく、今はごはんなのです!」
ふるまいますよ!と袖をまくって。
自分もうっかり、腕にのこった細かい傷跡を直視してしまった。
借りた鍋にもってきた水をたっぷり注いで火にかける。
そこに塩や胡椒などのスパイスを加えて大本の味を作る。
…記憶はないけれどそういうことは覚えている。
鍋が沸騰するまでしばらく時間がかかるので、小麦粉に水を加えて両手で思いっきり練る。
脳のどこかがくすぐられている。
一体誰からきいたのだっけ。一体“あのとき”は誰が言い出したのだっけ。
いったいこれがどうなるんです?何度も自分は聞いた気がする。誰かが答えたのだ、これはね。
「手伝うよ」
シエラの隣に地元の娘が加わる。
「でも」言い募るシエラに「やらせて」ふとい三つ編みを垂らした彼女は瞳に強い光をやどして言い張る。「さっきお母さんがあんたの心配めちゃくちゃしたでしょ、だからなんか、悪くて」ああ、さっきの人の娘なのか、とシエラは手を止める。
おねえちゃんをなくした、いもうと。
「持ってきてもらって食うばっかりなんて馬鹿。あたしたちもやんなきゃウソだわ」
「ふわあ…」勢いに押されて間のぬけた声がシエラの口から漏れる。
「では、お願いします」
「ありがと」
力強い笑み。これとはまた違うけれど、こんなふうに笑う子を知っている気がする。
「練るんだよね?」「ええ」
小麦粉に水を加えてようく練ったら伸ばす。
「ナン、だよね?」「そうなのです」広げる。
「スープつけて食べられるもんね」「知ってるのです?」
シエラは隣を見る。白くはない。赤茶の髪に緑の目、そばかす。ぜんぜん違う。
「本だけでね」彼女は肯く。「作り方を知るのも作るのも今日が初めて」
ほんとうはヨーグルトなんかを入れて練って発酵させるとよいのだ。シエラは話し、彼女は何度も肯く。シエラは昔そうやって肯く側だった気がする。なるほど、そうするのですね。そう。そんな会話をした。ほんとはバターもあるといいの。焼く時にかるく表面に塗っておくと焼ける時に軽くあがってかりかりになるんだって。かりかり。
そうこうしてくると鍋が湧いてくる。
持ってきた缶詰をいくつか開けて、開く。
あれだけのレースや戦闘を超えた缶詰は中身が飛び散ることもなく簡単に空いた。
コンビーフ、トマト、野菜に豆の水煮缶。
次々入れてまとめて煮込む。
時々鍋をかき混ぜながら、少女はシエラへ自分の話をしてくれた。
自分のこと、家族のこと、ここの生活のこと、オブリビオン・ストームのこと、友達のこと、それから、亡くなった姉のことーー…。
「いいおねーちゃんだったんだ」
びずっ、とおさげの彼女は鼻をすする。「ごめんね」
「いえ…」かぶりをふる。
大事な人がいなくなる。どんな気持ちだろうか。シエラは想像してみる。
あの嵐もうたっていた。誰かへの思いをうたっていた。
「ちょっとぽよよんでさ、でもしっかりするときはしててさ」
こうなる前の自分は、どうだったのだろう?
こうなる前の自分を知っている人がいるとして、その人はどんな思いを抱えているだろう?
「しょーがないよ、こんな世界だもん、どうしようもない。思い出すと悲しいよ」
そばかすの乗った鼻を真っ赤にしながら彼女は言う。
「それでも思い出すのです?」「うん」
「でも思い出さないと居なくなっちゃうみたいでさ」
鍋に涙をこぼさないように注意しながら、彼女はシエラにそう言う。
「つらいし思い出すたびいろんなこと忘れてることに、苦しいんだけどさ」
……。
シエラも思い出せない。
白。長い髪、糸、斧。
思い出せない苦しみが、胸の奥でまだぐらぐらと、とろ火にかけられたみたいに煮えている。
いいのだろうか、それで。
思い出せなくても、それでも、いいのだろうか。
「聞いてくれてありがと」
目の前の彼女は涙を拭って、笑う。
「さ、もういいんじゃない?」
声はシエラが思うよりずっと明るくーふと脳裏によぎる。
「はい、みんなに声をかけましょう」
そうやって、こえているのかもしれない。
…具沢山のスープは意外と早く空になってしまった。
ひっきりなしに伸ばされる手にあますことなくなるべく平等に、と気をつけて配膳するのは初めての経験で、緊張しっぱなしのまま…人がきれる頃にはくたくたになっていた。
大きく伸びをして棺桶の蓋が開きっぱなしだったことに気づく。
まじまじ見ても、誰もいない、なにもないーーからっぽの棺桶。
誰もいないことが、妙に不思議だった。
そっと、閉める。
鍋をのぞけばほんの少しだけ具がこげついている。借り物なので洗って返さねばと思い、鍋を火から退けたところでかこん。
見れば封の空いた缶詰が倒れている。
勿体無いことに、すこしだけまだ豆と水が残っていた。
途中足りなくなりかけて慌てて付け足したから、その時に入れそびれたのだろう。
シエラは生体サイボーグだ。
“その”必要はなかったはずだった。
けれども手が不思議と、自然と、動いて。
使用済みのコンビーフ缶を手に取らせた。ていねいに残りをすくって、豆缶に入れる。手は彷徨う。なにかをたぐるように動いて、チリソース。
これも少々豆缶に加えてそのまま火のそばに、温める。
瓦礫に座って、火と、豆缶を見つめる。
まっていたのだ。とおいいつかに。こうやって。
『私達ってさー』
となりか向かいに、誰かが座っている気がする。
豆缶をとる。あたたかい。かきまぜる。
やがて頃合いを見てスプーンでひとすくい。
『私達って、こーゆう事する必要は無いけどさ』
白い影が笑っている。
口に運ぶ。
『生きていたって事を忘れない為に続けるんだよね』
味は、しない。
けれど、そう。
白い影が。
かけらだけれど、かけがえのない、いつかの古い記憶とともに、駆け抜けていった。
大成功
🔵🔵🔵
イヴォール・ノトス
空腹ってのは嫌だよな。何の気力も湧かねェもん
普段は食べるのが専門だけど、作ってやるよ。旨いやつ
ビーンズ缶、コーン缶、トマト缶
玉ねぎ、にんじん、ジャガイモは小間切れ
ベーコンあるか?贅沢か?ならソーセージでもハムでも何でもいい
野菜くずもあるやつ全部寸胴にぶち込んで、塩胡椒
そしてこれは最強、うま味調味料~
煮込んで完成、トマトスープ
寸胴ガンガン鳴らして腹ペコ集まれィ
スープはいいぞ。野菜もたんぱく質も効率よく取れる
パンをグズグズに浸して食ってもいいし、米があるならリゾットにもなる
マカロニ入れても旨いな
はぁ?チーズ入れる?それ最ッ高だな!
兎に角だ。さァ、食えよ!温かい内に!
振る舞う内にアタシも腹減ったァ…
■死の縁、旨いということ■
あのときの手料理がなければ。
イヴォール・ノトス(暴食・f25687)は何度だって振り返る。
自分はあのとき彼女に料理を振る舞われていなければ、自分は『旨い』という感覚を理解していなかったんじゃないだろうか?
だからグリモアベースでその話を聞いた時にイヴォールは一歩前に出たのだ。
軽くてお喋りな硝子剣士の誘い。
普段は食う側の彼女もその話は耐えられなかった。
飢餓。
空腹で身動きの取れない身体的な辛さはもちろん。
なにもかも悲しくて悲しくてしょうがなくなるのだ。
なにもしたくなくなる。前に進むことも、生きることも。
「つーわけで行くわ、アタシ」イヴォールは言う。「あいあい、頼むわ。助かる」硝子剣士はお気楽に見送る。
「おう任せろ」
暴食の名にふさわしい猛々しい笑みを浮かべて
「作ってやるよ、旨いやつ」
暴食と真逆の誓いを掲げ、転送されたのだった。
・
「つーわけでだ」
イヴォールは腕を組んで吠える。
「アタシもあんたらのいうところのメシアン様なわけだ。理解したか?」
「ウス!」
彼女の目の前に並ぶのはモヒカンである。
硝子剣士が転送の調整にしくじったのか、まさかのモヒカンど真ん中に落とされたのだった。
メシを作りにきたのにまさかの『何奴!であえーであえー』でモヒカンどもを調理するところから始まるとはイヴォールも思っていなかった。
持つべきは筋肉と暴力である。人生を裏切らない。
たたきのめしぶちのめし話を聞けばこれは拠点を護衛する方のモヒカンだそうで(どうもそうではないモヒカンもいるらしい)メシ守りメシ運びしメシアンとか言われたのでとりあえず話は通ってるらしいと理解する。微妙なシャレには突っ込まないでおいた。
料理ができるのかと聞けば、作ってもらう側ですなどとぬかす!
イヴォールだって作る側だがぬけぬけとぬかされると流石に腹が立った。
腐れ縁のあの子の影響かもしれない。
「というわけでいいか野郎ども!簡単で旨いメシだアタシも作るから心に刻め!」
「ウス!」
物資の持ち込みでギリギリの量としてイヴォールが持ち込んできた缶詰を並べる。
ビーンズ缶、コーン缶、トマト缶。缶詰である。
遠巻きに見る拠点の住民にウィンクしてやる。「まってな」
「アタシがこいつらを鍋の一つは作れる野郎に叩き直してやる」「はい…!」
住民としてはなんというかよくわからないのだが頼もしさが半端ない。
「寸胴鍋!」イヴォールが指を鳴らせば「ウス!」ガコンガコンと簡易で組まれた木の上に鍋が置かれる。
「次根菜部隊ッ!」玉ねぎ「オス!」人参「メス!」ジャガイモ「イェス!」
「カットアンドインだ!やれ」
「アイアイサー!」
…後の住民は語る。
あんなにも一致団結して誰かの命令に動くモヒカンを初めて見た、と…。
「ベーコンあるかー?」まさかモヒカンから全幅の信頼を寄せられているとはつゆしらぬままイヴォールは声をかけ、首を左右に振られた。
「んあ」そうか。頭をかく。ここは食糧難に喘ぐアポカリプス・ヘルである。
「贅沢か…ならソーセージでもハムでも、なんでもいい」
かろうじて引っ張ってこれたのは干し肉の残りだ。
「あん?むしろいいだろ、旨いぜ」
それも切って鍋に入れる。
「他は?」「あの」おずおずと住民が近寄ってくる「野菜くずぐらいしか…」出された籠の野菜に、にやりと笑う。
「いいじゃん」「いいんですか?」
…アポカリプス・ヘルとはオブリビオンによって滅ぼされた世界である。
大地は痩せ細り荒れて、人々は豊かだった時を嘆きながらも生きるしかない。
野菜ひとつ作ろうとしたって苦難は多く、できた野菜は想像とは遥かに異なる。
欲しい量と質にはとうに足りぬ。それをイヴォールはからから笑って是としたのである。
「あったりまえじゃん!あんたらが一生懸命作ったやつだろ?」
それがどんなに彼らにとって嬉しいことだったか。
それもまたつゆ知らず、イヴォールは暴食らしく豪快に、貪欲に振る舞う。
「んーで難しいのはいらない、塩と胡椒だ」
段々と具が詰まってきたスープへにこにこしながら、彼女はモヒカンを指揮する。
「そしていいか野郎ども!」
イヴォールはとどめとばかり
「こいつをよく見て覚えろ!」
自身の荷物からそれを取り出し輝かんばかりに見せつける。
「これはどんな不器用さんにも降り注ぐ最強の味方、このアポカリプスヘルならさがしゃショッピング・モールなんかでもごまんと見つかるだろう」
心からの自慢顔。
「うま味調味料だっ!!」
うおおおお!なぜかモヒカンのテンションがマックスである。
しかしイヴォールは群がろうとしたモヒカンの頭を引っ叩く。「馬ァ鹿パッケージ覚えてどうすんだよ、ンなもん国と世界で違うだろうが!裏面だ裏面、成分表示があるだろうが!」
…食べ物に関することに関しては非常に律儀である。
モヒカンへ旨味調味料についての調教をする。
そんな間に鍋は煮え、トマトの甘い、しかしそれだけではない香りがあたりいっぱいに満ちる。
「完・成ッ」
蓋をあければ湯気と共に広がる、真っ赤なスープ。
「トマトスープだッ!」
くず野菜や小さな野菜は溶け込んでうまみの一部となっている。
そのままではやや酸っぱい筈のトマトは塩やうまみ調味料で角がとれ、豪快なやりかたとは想像もつかないまろやかさになっている。
「ほーれお待たせだ、腹ペコども集まれェい」
イヴォールはガンガンと鍋を叩く。モヒカンもそれに倣って鍋を叩くので大変な騒ぎである。
なんとか皿や代わりになるカップを引っ張り出して、拠点の住民がそろそろと集まりだす。
「スープはいいぞ。野菜もたんぱく質も効率よく取れる」
うんうんと唸りながら一杯「米があんならぶっ込みな、リゾットになる。少ねえ米でもふやけてお得だ」また一杯「パンまだ残ってるか?カラッカラでもいい。グズグズに浸して食え、腹にたまるしスープ一滴も残さねえでも済むぞ」
行き渡るようにと「ああ、もしマカロニ見つけたんならそれ入れるのもいいよな」振る舞っていく。「あっ、チーズかお前!!」イヴォールは思わずそいつの肩を掴む「ひえっ」彼女の背はそう高くはないとはいえしっかりと筋肉のついた戦士である。詰め寄られれば怖い。「な、なんでしょうか」「最ッ高だぞそいつは!!!」
暖かいものを受け取る人々の顔、顔、顔…。
イヴォールの表情がゆっくりと緩んでいく。
「おらモヒカン」
イヴォールは一足先に鍋が空になったモヒカンへ告げる。
「お前らも減ってんだろ、食えよ」「ッ、いいんですか姉御ォ!」
「いいに決まってんだろうがアタシが何のために来たかきいてねえのかお前はッ!」
「メシ作りしメシアン様です!」胸に手を当ててシャウトするモヒカンに、しかし珍しくイヴォールはうなずくのをためらった。
「姉御?いかがしやして?」「いや」
「アタシもこうしてもらったからな、なんか、そこまで言われるアレじゃねえんだよ」
「兎に角だ」大きく咳払いをひとつ。
「さァ、食えよ!温かい内に!」
始まるのは楽しげな晩餐だ。
うまそうに食うやつを見るのは、それだけでなんとなし嬉しいものがある。
あの子もそんな気分だったのだろうか。
思ったところで
「腹減ったァ…」
…腹の虫。
ぶは、と吹き出したのは若い男で、老婆が「まあ!」と慌てて席を立つ。
「ほらあなたも座って座って、ご自分の分はあって?」「あー…」ふるまい切って鍋は空。
「やっちまった」
暴食からぬ、ミスである。「姉御!でしたらあっしのをお少し!」「マカロニいかがですか!」
「オレのは米ですが!」「あの、チーズ…」
…聞いた話では飢餓の地だという話だった。
それなのに「人気者ね」「いつの間にかな」
誰かしらから少しずつ。
よそわれた皿が、目の前にある。
「一緒に食べましょう」
「そうするゥ…」ありがたく座る。
我ながら良い出来だったし、それになによりチーズが旨そうだ。
そうそう。
これだよ、と並ぶ顔にイヴォールは思う。
味もそうだが、旨いってのは、さ。
帰ったらあの子に今日のこの話をしてやろう。
アタシがあんたにもらったように、アタシが誰かに振る舞った話を。
「…モヒカンに料理叩き込んだなんて信じるかな」
一人笑って、チーズの熱さに悲鳴をあげたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
料理はまぁ人並みに
ひとり暮らし長いし
作らないと金銭的にも生命的にも死ぬ
でも凝ったのは作れないしスープでいいですか
味?
多分普通です
誰かに振舞うなんて滅多にしない
ひとりでいることが多いし
人が沢山いる場所はちょっと落ち着かない
……心的外傷のせいで触られると未だに躰が強張る
でも、まぁ
一緒に食べようと誘われたら断りませんけど
モヒカンさん達も一緒にどうです?
本来は肉も骨も無い躰だし多分内臓も影に溶けてる
だから食べる意味なんて本当は無いのかも
でもなぜか空腹感も満腹感も感じる
自分の口で物を食べられる喜びを
誰かと一緒に食べる幸せを知ってる
さっきの捕食は何も得るモノが無いのでノーカンです
不思議ですね、"人間"って
■“ありふれた”食事に。■
料理はできますか?と聞かれたら、人並みに、と答えます。
一人暮らしが長いので、と付け加えます。
ええそうです、作らないと死ぬから作る、その程度の腕です。凝ったのなんか作れません。
味はどうでしょう?と聞かれたら。
普通です、と答えます。
普通ですよ、ええ普通です。
しかし。
普通とはなんですか、と聞かれたら。
こいつは回答に困ってしまう。
人間まるっと全員囲って平均とって普通?
同じ世界の同年代まるっとくくって平均をとるか?
…影みたいなものなのかもしれない。普通なんて。
しかしスキアファールはどうしてかそう言ってしまうのだ。
“普通です”。“人並みです”。
怪奇人間だというのにどうしてもどうしてもーーー…。
「とはいえこの状況は普通じゃないのはわかるんだよな…」
スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)はおもわず呟く。
汚れて皺のよったブッチャー・エプロンなどをつけて彼はスープを作らされていた。
そう。
オブリビオン・ストームからモヒカンどもを、食料を、救ったにもかかわらず。
スープを。
スープを作らされているのである!
「いや…なんかもうちょい話聞いてから乗るべきでしたかね今回の事件…」
あのいびつな嵐をなんとか駆逐して疲れて休んで、他の猟兵に挨拶したら帰ろうかなぐらいのつもりだったのが、ど う し て こ う な っ た 。
さすがはメシ守りしメシアン様だぜとモヒカンどもに言われてそれはどうもとかなんとか話して…ところでメシアンってなんですかと聴いたらそのままバイクに乗せられて。
今拠点で鍋などかき回している。
あれ、これは拉致では?
なんだかんだお人好しのスキアファールは状況に流されるまま、ぶったぎった根菜をぶちこんでぶったぎった鶏肉もぶっこんだ鶏ガラのスープなど作っていた。
どこからどう見ても料理に凝らない人間の“普通”のスープだ。
猫背に黒衣、赤いフード付きロングパーカーにブッチャーエプロン、衛生問題に配慮して黒いマスクをつけた彼が鍋で煮込みをするさまは絵としてはなかなかにホラーじみているが『普通』を自称するだけあってスープは問題なくやわらかい金色に輝き、周囲の目は期待に輝いていた。
…なんとなく居心地の悪いものがある。
べつにモヒカンに囲まれているわけではない。
いやモヒカンに囲まれていた方がまだ落ち着いたからかもしれない。
「いやあありがとうねえ、お兄ちゃん」好々爺に話かけられ「ああ、はい」
「お皿もってきたよーー!」元気な子供が脇を通り抜け「ああ、どうも…」
「あの、ちょっと贅沢して、お米炊きました」大人しそうな女性におずおずと声をかけられる「ハイ、助かります…」
誰かに振る舞うなんてこと、滅多にしない。
日常はほとんどひとりでいるから、こんなにも話しかけられることもなければ、期待の眼差しもしようとしている作業の補佐や先んじた気遣いをもらうこともない。
そもそもこんなに人が沢山いるところが落ち着かない。
…そりゃあスキアファールが住んでいる場所はアポカリプス・ヘルよりも人間たちが息をしている世界だ。住んでいる部屋からちょっとばかり足を伸ばせばもっと沢山の人が歩いている街にも出ることができるが…街というのは人が集合しているようでその実他人同士で繋がらない個々であることが多い。
「うおおッ!」後ろから大声がする。
がしっと肩を組まれて体が強張る。
こんなー
「いいじゃねェか!!シャドウ・メン!!」
見ればあの七色モヒカンだ。ばしばしと背中を叩いてくる。
ーこんなにも人々同士が近いことなどないのだ。
苦手だ。料理を振る舞うなんて。苦手だ。こんなに人が多いところなんて。
突然のスキンシップも苦手だ。心的外傷を刺激される。
苦手、苦手、苦手ばかりだ。
それでも、嫌だと身を引いてしまわないのは何故だろう。
「あのすいません近いです」
とりあえずモヒカンへは脇腹へパンチを入れた。「ヘァッ」あっわりといい感じに入った。
「あと暑苦しいんで離れてください」本人の預かり知らぬ部分の話だが嵐のときの会話のせいですっかりこいつには容赦がなくなっている。
スキアファールはゆっくり七色モヒカンの腕を外す。大丈夫。何も起きやしない。
それよりも、と過去に由来する恐怖をべつのもので逸らす。
こいつの七色のラメやファーがスープに落ちないようにだけ気をつけて。
「いいツッコミだ…」
七色モヒカンはパンチの影響で若干前のめりに体勢を崩しながら右手でサムズアップする。
そのまま一歩二歩、後退り。
「おおーい皆ァ」七色モヒカンはスキアファールと鍋に背を向け去りながら、この拠点の皆へと呼びかける。
「じゃ、後は頼んだぜ、シャドウ・メン」
「あなた食べないんです?」「俺たちは荒野を行くモヒカンだぜ?」
……。
「一緒にどうです?」
苦手だ。人に振る舞うなんて。苦手だ。こんな人の多いところなんて。
苦手だ。こんなに人との距離が近いなんて。
あんまり苦手だから、きっとこんな酔狂を口にしたのだ。
スキアファールは“そういうこと”にする。
七色モヒカンはちょっと不意を突かれたようだった。
「この拠点まで乗せていただいたんで」
拉致だけど、そういうことにしてやった。
食器のぶつかる音がする。
燃料節約のために。日の明るいうちに食事にしてしまおうと準備が進む。
時々。
自分は食事はいらないのでは?とスキアファールは思う。
肉も骨も内臓もありったけ“人間”の部分は影に溶けている筈だ。
食事を取る必要も意味もわからない。
皿にスープが注がれる。
お世辞にも綺麗とはいえない乱切りの野菜。肉は多いとはいえない。
一人暮らしで食事なんか作らなくてもいいのかもしれない。
いらないならしない方がお得だ。家計を一番に圧迫するのは食費である。
モヒカンと一般人が並んでいる光景は有り体にいってちょっと映像的におかしい。
何も知らない人が見たら3度見必須の頭のおかしい光景だ。
多分自身はその中で特に浮いているだろう、と結論づける。
しかし腹は空く。あれはなぜだろう?
食えば満たされる。あれはなぜだろう?
先ほどの捕食ではない。あれは得るものがなにもない。
「それではッ」七色モヒカンが音頭を取る。
「メシアン様に感謝ァ!」
「ウェーーーーーーイ!!!」
「ええー…」さすがにその音頭はないわというツッコミはかき消された。
自分の口で物を食べられることへ喜びを感じ
スプーンを握り、ゆっくりと運んで口に入れる。
材料が違うからだろうか、いつものスープと味が違う気がする。
スキアファールはこっそりとスープを食べる人々の顔を見る。
見知った顔は一つもない。
だれもかれもがはじめましてで一生さようならの、ゆきずりの人々だ。
それでも喋り、笑い、スープを味わう顔を見つめて、その感覚を味わう。
こうして誰かと一緒に食べる幸せを知っている。
あの七色モヒカンが笑いながらジャンケンでわざと(そう、わざとだ。スキアファールだってそれぐらいを見抜く観察眼は持ち合わせている)隣の子供に負けて具を分けてやるのもきちんと見て取る。
そして嵐が全てたち消えた後泣いていたのは一生の秘密にしてやろうと決めた。
「不思議ですね、“人間”って」
忍び笑う。
鼻歌のひとつも出そうな、妙に愉快な気分だった。
「あんたもだろォ」
すかさず入った一言に、スキアファールはニヤリと意地悪く唇を歪めて七色モヒカンへ笑ってやる。
実はこいつ瞳が黒だと同じスープを囲んで初めて気づいた。
「誰がとかじゃない、人の話をしたんですよ、今は」
モヒカンが爆笑する。「おうそらそーか、失礼したな!」「ええ」
怪奇人間。怪奇で人。
怪奇であることは決して忘れまい。
しかし
「“人”の話はちゃんときいてくださいよ」
自分も怪奇“人間”だと、あらためて言ってもいいのだと。
鍋一杯とまでは言わない、一杯のスープぐらいのささやかな祝福がその食卓で囁いていた。
大成功
🔵🔵🔵
臥待・夏報
【GN3】
さーて、うすうすお察しだろうけども
夏報さんはカレーを作るよ!
ヒネモノの玉ねぎを薄くスライス、塩をして水分を抜く。
で、缶詰のオイルで炒めていこう。飴色にしたいとこだけど、燃料にも限りがあるから、さっとね。
バターとクミンで粘りを出して、ターメリックとコリアンダーを順に加える。子供もいるみたいだから、辛味はあえて付けない。
あとは缶詰のトマト煮と、水と、……マスター赤ワイン持ってる?
さんきゅー、液体で伸ばして煮込んでいく。あとは具材を火の通りにくい順に加えて……
……勿論、カレールーもちゃんと持ってきたんだけどね。
いちからの作り方が失われている訳だろ。
魚は釣り方から教えるべし、っていうやつだ。
風見・ケイ
【GN3】
手当ても着替えも済ませて。料理をするくらいは問題ありません
鍋でご飯を炊くなんて調理実習以来だ。
あ、リサさん鍋を火にかけるの手伝って。
私では重くて……(荊になれば持てるけどいちいち変わってられない)
夏報さんに食材を分けてもらって半分はレーズンバターライスに。
缶詰のパンも開ける。
炊けるまで火加減を見ながら食器等の準備。
砂埃を落とさないと。
もう、飲むのはあとに……
(寄ってきた子どもの前にしゃがんで目線を合わせて)やぁ。
いい匂いだよね。もう少し待ってて……ね、見てて。
(懐に忍ばせている菓子を手品みたいに取り出して見せる。[物を隠す]のを逆再生。同じ要領といえる)
どうぞ……友だちと一緒にね。
ヴァシリッサ・フロレスク
【GN3】
あー、腹減ったねェ。
お、二人とも料理するンかい?
カレーか、イイねェ……え?一寸は手伝え?
なンだい、アタシゃとっとと一杯飲るつもりだったってのに……ま、しゃーナイねェ?
火起こしとか、力仕事なら任せな、なぁに、マダマダ血はあるし、身体は動くサ。
へぇ、夏報ちゃんってば意外とデキるコなんだね?意外と。
山程あるし、干し肉も叩いて柔くしたらイイ具材になるンじゃないかい?
赤ワイン?勿論あるサ。夏報ちゃん達も一杯飲るかい?
ふと、集まる子供たちの中に、居る筈の無い面影を、探している自分がいて。
……さ、食った食った!ぼーっとしてっとアタシがぜーんぶ喰っちまうぞ?
アンタ達にゃ、あしたがあるンだから、サ!
■人生はあれこれ入れて煮込んだカレーのように■
「アーーーーーッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
馬鹿笑いがあたりに響いた。
声の主はヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)である。「ちょっと、まって…腹…腹の…傷に響く…ヒヒヒ…」ハティに寄り掛かり突っ伏しながら腹を抱えて笑い転げている。
「いやあご好評いただけてなによりだね」
うんうんとうなずくのは臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)だ。
「いや〜予知を聴いたときにこりゃ必要だよね!と思ったらいてもたってもいられなくてさ」
自分がもってきたものにもたらされた結果に心底の満足が見て取れる。
「いや、まあ、そうですね…」
若干とりのこされつつうなずくのは風見・ケイ(星屑の夢・f14457)だ。「思い至って然るべき…」言いながら首を傾げてしまう。「然るべき…ですかね?」
三者三様、治療や着替えを済ませてている。ハティとインターステラーを平行に留めて、ヴァシリッサは前述の通りハティに寄りかかり、インターステラーのドアを開けてケイは運転席側に、夏報は後部座席に軽く腰掛けての相談だった。
巻かれた包帯や貼られたガーゼは戦闘の激しさを物語るが、まったくもっていつもの通りといって差し支えなかった。
「ヒー…ちょっと…サイコー…夏報ちゃんサイコー…」突っ伏したままヴァシリッサは両手をあげてハイタッチを求める「いえーい★」夏報は駆け寄って可愛らしいハイタッチを交わし「はい風見くんも」なぜか夏報はそのままケイへも両手を差し出し「いえーい…」ハイタッチ。
「ではあらためて解説しよう!」
夏報はインターステラーを降りて両足を肩幅ほどに開いた仁王立ちに腕を組み、ロボットアニメなみの力強い解説声を出す。「イエーイ」ヴァシリッサが笑いながら右手を拳にして上げる。
「今回の最後の目的は炊き出し」
…ヴァシリッサとケイがワゴンで迎えに行った後から彼女は非常にハイテンションである。なにがそんなにも彼女を生き生きさせるのか。わかっているのは夏報本人だけで十分な話だ。
「炊き出しといえば料理。料理といえば重視されるのは衛生問題」組んだ腕を外して左手を腰に右手は人差し指をたてて自身の頬の側に。「というわけで」
「エプロンだ!!」
1:ど定番(?)エプロン
(胴の部分がハートでフリルがゆたかなアレである。ちなみに白である)
2:レトロかわいい♡かっぽうぎ
(なんとに作業用帽子に手甲までついてくる。おや、調理用ではない?おかしいなあ)
3:エプロンコンベヤチェーン
(ベルトコンベアの一種。とても重いので20センチ幅のものをほんの数十センチだけ持ってきた)
「3種各1枚ずつ!さーあそれじゃあ心は決まったね?」
「3番ッ!」ケイが耐えられなかった。ヴァシリッサが再びあたりに響くどころではない大声で笑い始める。「3番まってください!」ケイは左手の指を三本立てて抗議する。
「一番二番もイロモノとしてアレですがちょっと三番度を外れてっ、げほっ」むせるケイに夏報はやさしい顔でケイの背中を撫でる。「風見くん、はしゃいじゃうのはわかるけど」はしゃいでるのは夏報である。「大声出すなんて無理しちゃだめだよ」「いや原因…」
「いや〜アポカリプスがヘルしてるものも用意しないといけないと思って」
可愛らしい夏報ウィンクが飛んでくる。「衣類ですらないんですがそれは」「エプロンだよ」「エプロンですが」ベルトコンベアだ。
ケイのその反応を待っていた夏報としては一番の非常に誇らしげな顔をしながら箱をもう一つ取り出すしかない。「仕方がないなあ」
「夏報さんのとっておきを出そう」
自身の持ってきた箱を開けてそれを出す。「あっ、よかった。やっぱりあるんですね」ケイは安堵する。
「きょうりゅうの着ぐるみ」色は緑。昔幼児番組でメインを張っていた背中にイボのあるあいつである。
「エプロン出してください」
「ヒー…無理…アタシ見る側じゃダメ?」眼鏡を外し自身のまなじりの水を拭いながらヴァシリッサは笑いの間から尋ねる。「きっと似合うよォ、二人とも♪」
「やったね風見くん、マスターは放棄するって。二人でジャンケンで決めちゃおうよ」
「そうしましょう、私コンベアがいいです」「まさか気付いた?」「コンベア着れませんもんね」「そうだよ。ふふ…気づいてしまったか、このレトリックに…」「あーあーあー!待って待ってヤダヤダ待ってアタシもやるやる!仲間外れにしないでェ!」
……。
さて。
だれがどのエプロンになったのかは、気になるなら何かの折に彼女らに聞いてみると良いだろう。答えてくれるかは別として。
雌雄が決し悲喜交交を堪能した後、夏報はきちんと三人分の『普通の』エプロンを出したので、そちらに逃げられるかもしれない。
「だって」
夏報は唇をとんがらせ、ヒネモノの玉ねぎを薄くスライスして「夏報さんの持ってきた内容じゃカレーを作るのなんかお察しじゃないか」塩をふる。「会話が3言で終わっちゃう」借りた大きな鍋をあらためて軽く拭いて最後の埃をおとし
「だったらこうネタのひとつも入れようかなと思ってさ」オイル缶から油を垂らす。
「まさか『エプロンだ』でベルトコンベア出てくるとは思いませんでした」ケイは苦笑しながら洗い終わった米から水をきる。
「いや〜笑わせてもらったよォ♪」ヴァシリッサはまだ笑いの余韻をひきながら自身の荷物から肉を出し、小さい瓶の何本かを渡すのではない別の方へと分ける。
「世紀末だからチェーンメイルなエプロンと思って、チェーン エプロンで検索したら出てきたんだよ」だいぶ落ち着いてきたが夏帆もまだいつもよりテンションが高い。やや饒舌に語った。「出てくるんですね…」でてきました。
鍋でご飯炊くなんて調理実習以来だ。
はじめちょろちょろなかぱっぱ。頭の中で何度か繰り返しながら鍋を持とうとして、うん、重い。断念。
…数人分とは訳が違うのだ、米も多ければ水も多い。荊に代わってもらおうか。ちょっと考えによぎるが却下。いちいち手間であるし…
「リサさん鍋を火にかけるの手伝って」
「ン」料理に使う肉と支援する肉を分けていたヴァシリッサは「いいよォ」快く答えてケイの方へやってくる。「大丈夫ですか?」念のためケイはヴァシリッサに尋ねる。先ほどのなりふり構わない戦闘の負荷は少なくないだろう。「モッチロン」ヴァシリッサの返事は明るいも。
「マダマダ血はあるし体は動くサ。力仕事ならまかせな」茶目っ気たっぷりのウィンク。
「はい」ケイはくすぐったくて笑ってしまう。
「ありがとうございます」
…いちいち手間であるし、炊き出しという環境において不謹慎かもしれないが、
「夏報さん、レーズンもらっていい?」ケイはタマネギを炒める夏報に声をかける。「い〜よ〜」
こうしてわいわいとやりながら調理するのがキャンプのようで楽しくて。
ケイとしては、珍しく、誰かに代わるのがすこしばかり惜しかった。
ようし、結構持ってきたし缶詰のパンも開けちゃおう。
火加減に注意しながら、ケイは缶切りを持った。
「ケイちゃんはもちろん予想してたけど…夏報ちゃんてば意外とデキるコなんだね、意外と」
先ほど分けた瓶から一本。キャップに手をかけながらヴァシリッサは手際よく料理をする夏報やケイに目を細める。「ルー、使わないんでしょ?」「うん」「本格派ですね」
夏報の鍋にはバターとクミンが加わって、匂いにつられて大人も子供も集まりはじめていた。
「いやいや」夏報の料理を何人かが覗き込んでいる。
「そーいうんじゃないんだ。一応持ってきたんだけどさ」
「ん?そうそう、タマネギはほんとは飴色がいいんだよ、でも燃料の問題があるからね」ときどき入る質問に答えながら、夏報はヴァシリッサやケイへ振り返って照れ臭そうに笑う。
その姿が、ケイとヴァシリッサにはやたらとうれしく映る。
「いちからの作り方が失われてるわけだろ」
いつもどこか取り残された彼女がこうして、人々に頼られて人々のまんなかで生きているのが。
夏報だって、くすぐったい。
彼女は自分のことを、そんなにいい人間じゃないと思っている。
ヴァシリッサみたいに情深くない。ケイみたいに優しさのふるまい手はもってない。
だからそんな自分がこんなところにいて、人々に頼られているのが不思議でならない。
いつか殺したような誰かに、生きる話をしているのが不思議でたまらない。
こんなの優しさの真似っこだ。取り残された誰かが言っている。
でもさ。真似っこでもさ
「魚は釣り方から教えるべし、っていうやつだ」
悪くないよ、やっぱり。
打算かもしれないけれど、くすぐったいけど、そう。
いっしょにいて、いいんじゃないかと思えるから。
「カレーか、いいねェ」
ヴァシリッサには野外での食事は経験がある。戦の前の、火を囲み、息を潜めたものだ。
今目の前にしている、この光景はどうだ。
湯気と、人と、笑いと。
ああ。
「あー、腹減ったねェ…」
叶うならクーラーボックスでキンキンに冷えた炭酸なんか持ってきて、
「リサさん」
酒瓶のキャップをひねる手に手が乗せられた。「ン、なンだい?」ケイが半目のままキャップをもつヴァシリッサの手をはずそうとし「飲むのはあとにしてください」ついでに瓶を取り上げようとする。「…ダメ?」「ダメです」「えぇ〜…ダメったらダメったらダメ?」ヴァシリッサはちょっと粘ってみる。「うるんだ瞳を演出してもだめです」するりと取り上げられてしまった。「チェ〜〜」頬を膨らませてヴァシリッサは両手を頭の後ろで組む。
子供さながらのむくれっつらにケイはくつくつ笑い、軽くヴァシリッサの背を叩いた。
「一緒にやりましょう、楽しいですよ」
……。
「ま、しゃーナイねえ」
ヴァシリッサは相好をくずす。崩れてしまう。
一緒にやりましょう。
そうとも。
今日はなんだか、レースにはじまってずっと一緒だった。
「ッシャ、じゃ、干し肉叩こっか」
ヴァシリッサは寄っかかっていたハティから腰を上げる。
アポカリプス・ヘル。滅びた地。荒れた大地。息をしない都市?
料理の灯。付き合ってくれる友人。
こんなにも楽しそうな日が目の前にある。
ずいぶん遠くまできたものだ。
「夏報ちゃん」「はいはーい」振り返らないけれど片手を上げて返事を返す。「肉まだ間に合う?干し肉柔らかくしてカレーにいれたらい〜い具合になるよ」「おお〜マスターナイスひらめき」
「ふっふん、料理はちょっと心得があるんでねェ」ヴァシリッサはきらりと眼鏡を光らせる。
ケイのいう通り今は酒瓶は脇に置く。
今すぐ飲みたいけれど、ご褒美にしたほうがよっぽどおいしい気がした。
ターメリック、コリアンダー。叩いた干し肉。
「ほんとは辛味をつけるんだけど、今日は子供がいるからナシ」夏報が解説している。
トマト缶にそれから水。「マスター、赤ワイン持ってる?」「勿論あるサ、何?飲む?一杯飲るかい?」「リーサーさーん」皿を拭きながら仁王立ちするケイ「んもう、わかってるってェ…冗談だよォ」しょげたヴァシリッサの声に、思わずケイと夏報が漏らすひそかな笑い声。「さんきゅー」
日がゆっくりかしいでいく。
「液体で伸ばして煮込んでいく。あとは具材を火の通りにくい順に加えて……」
夏報の言葉や人々の相槌を音楽のように味わいながら、ケイは炊き上がった米にレーズンを混ぜていく。
ゆっくりきょうも、きのうになろうとしている。
あしたが、こようとしている。
「疲れた…」大人数分のカレーに入れる干し肉を叩きに叩いたヴァシリッサが真っ白にハティへ崩れ落ちる。「お疲れ様です」「もう飲んでいい?」「あとちょっとですよ」「ふァ〜い…」
皿を拭きながらヴァシリッサをなだめていると「ん」手が伸ばされた。
「やぁ」
三人の子供が立っている。
まじめそうなひとりが首を縦にふり「こんにちは」ちょっとつり目のひとりがすこし大きい声を出す。大人しそうな最後のひとりは、二人の影に隠れてこっちを見つめている。
……。
「いい匂いだよね」
出来る限りの柔らかさで、ケイは子供たちへ微笑む。
「…うん」まじめそうな子供が返事をする。うん。ケイも併せてうなずく。
「いいこにまつから、おてつだい、する」
まじめな子供が手を伸ばしてくる。
切なさにもにた感情がこみ上げながら、ケイは子供たちに顔を寄せる。
「大丈夫だよ」子供はすこし戸惑いがちに身を引く。
「みんな十分いいこで、ちゃんとみんなの分あるよ」
「ほんと?」「ほんと」
ぐう、と子供の腹の音がする。「お腹すいたね」ケイの声に二人に隠れたひとりがうなずく。
「ね?おなかすいたのにしっかり待てて、充分いいこだよ」つり目の子供がすこし鼻息荒く、嬉しそうにうなずく。
ふと思い立つ。
唇の前に指を立てて
「ね、見てて」
ウィンク。
…正確に言えばそれは手品ではない。“物を隠す”の逆再生だ。
でも
今は手品みたいなものだ。
現れた菓子に目を輝かせる子供たちに
「どうぞ」
ケイはそのまま差し出す。
「友達と一緒にね」
ぱっと三人がそれぞれ駆け出す。
その先には他にも子供がいて、親らしき影はいない。
「子供がいっぱいだね」ぽつり、とヴァシリッサが呟いた。「ええ」
子供たちが振り返る。目が合う。まじめな子供が頭を下げて、つり目の子供が大きくて、おとなしい子供がちいさく、手を振ってくる。
「大丈夫かねェ」どこか遠い昔の少女みたいな声でヴァシリッサはもらす。
ケイはそちらをみずに子供に手をふりかえす。
「大丈夫ですよ」
いないけれど、楽しそうに見えたし、
「ちゃんと生きていけますよ」
楽しく生きれると、ケイは知っている。
カレーにレーズンバターライス、あるいはパン。
望むものには酒。
「はいはい貰いそびれてる子はいないか〜い?」
ケイは米、夏報はカレーをそれぞれよそっているので、確認するのはどうしてもヴァシリッサの役目になる。
もらっていない者がいないか探しながら、探している自分に気付く。
わかっている。探したっていないのは。それでも心のどこかが探す。やせほそって、ちいさい。
いない。どこにもいない。大きく息をつく。
「おねえちゃんは?」みればさっきの三人組の子供である。まじめそうな子供が首を傾げる。「ン?」一瞬意味がわからず首を傾げる。「おねえちゃんは、いいの?」つりめの子供がぐいと前に出てくる。「ずっとさけ〜めし〜っていってたじゃん」指摘されて苦笑する。「あ、うん」子供は意外と見ているものである。「おなかなってるよ」「こらっレディになんてこと言う口はどれだー」きゃー!おとなしい子供がつり目の子供の後ろに隠れる。「はい」まじめそうな子供が差し出すのは、先程ケイが与えていたお菓子だ。とっておいたらしい。なんのために?
「あげる」「え?」
「おなかすくの、つらいもんね」
子供が微笑んでいる。
…ヴァシリッサは、ひとつのことに、思い当たる。
あの嵐は、愛しいひとに向かう嵐だった。誰かの笑顔が見たい嵐だったのだ。
誰かをお腹いっぱいにしたい嵐だった。
無力な自分は、想われていたのだ。
食べて、生きてほしいと。
「ありがと」
笑ってしまう。
「ダイジョーブ、アタシもおねーちゃんたちと分けてこれから食うよ」
そうだ。
過去は過去で、探してもいなくて、どうしようもなくて。
しかし過去があって、ヴァシリッサはヴァシリッサとして、いま、ここにいる。
「ほら!食った食った!ぼーっとしてっとアタシがぜーんぶ喰っちまうぞ?」
両手をあげてぐわーと襲いかかるふりをすれば、子供は笑いながら皿を抱えて逃げていく。
走る音が、なにかの祝いの鐘のようだ。「ちゃんと残さず食いなよ!」
「アンタ達にゃ、あしたがあるンだから、サ!」
そう、生きていくといい。生きていけばいい。
そのために自分たちはきたのだ。
きびすをかえし、みやればケイと夏報がいる。
ヴァシリッサはすこし小走りに彼女たちに向かう。酒をあけよう。乾杯をしよう。
泣きたいのか笑いたいのかわからない。
きのうのさきに、きょうがあったのだ。
「ね〜ェ〜」ヴァシリッサは近寄りながらふたりに声をかける
あのつめたい夜に、どうしようもない罪に、
「ケイちゃん」ひとりぼっちのさきに「夏報ちゃーん」取り残されたさきに、
それでもきょうがあったのだ。
「も〜大丈夫だと思うよォ、アタシらもメシにしようよォ」「おっ、おかえりマスター」「お疲れ様です。ライスでいいですか」「ライスがいいーー!夏報ちゃんとケイちゃんの手料理はじめてもらえるんだよォ」「ああー、たしかに…」「お手柔らかに頼むよ、マスター」「なに言ってんの、肉と酒で並べて夜はこともなし、だよォ」「ああそうだ。お酒、開けましょう」「ひゃっほー、メシレースも爆走したし祝杯ってやつだね」「ああ〜〜いいねェ」
きょうがきのうになっていく。
もしもあしたのあしおとが聞けるとしたら、こんな音なのかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャガーノート・ジャック
★レグルス
(――――ザザッ)
――危ないから銃口は触れないように。
いや、誤発射はしないが。
(アスレチックの遊具になったかのように子供達に集られてる。どうしてこうなった。……ただ、嫌な気分ではない。)
(適当に熱線銃や電脳空間から出した戦闘機etc(セーフティは掛けとく)で遊ばせながら、自分は森番を手伝う。)
――ああ、お菓子があるそうだ。
料理している間大人しく食べてるといい。
――ロク。
影の中にまだ何かいるらしいぞ。
鶏。そして卵か。
――カレーの具……よりは、そうだな。肉は十二分に貰ったのだからな。(ザザッ)
(この地の友と朝を告げるものとして、一緒に暮らせばいいだろう。)
ロク・ザイオン
★レグルス
(代償は肉無しカレーという事実、と思いきや
どうやらたんまりお肉を持っている友達がいた
何の肉がどれだけ入っててもカレーはおいしい
森番、うきうきカレーを作っている
こどもがカッコいい相棒にわらわらしていたら
危ないから、イージーに貰ったお菓子をわけて大人しくしててもらおう
火や刃物が扱えるなら、手伝ってくれるのも構わない)
(カレーは、友達に教えてもらった
はじめてできた料理だから
ともに作るのも、食べるのも
ひとの、とても楽しい行いなのだ)
……ん。
(影の中に密航者あり
雌鶏一羽と、)
たまご。
……たまごだ!
(雌鶏と卵は明日を生きるキミたちへ手渡そう
優しい森たちが、そうしたかったように)
■little Howling■
森番は大変なものを焼いてしまいました。
カレーに使うはずだった肉(鶏)です。
「危ない、ところ、だった…」
ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)は心底の想いを吐き出した。
あやうく本日のメニューが急遽カレーから根菜の温野菜になるところだった。
根菜の温野菜も悪くはないが塩とバターで美味しく味わえる野菜には限界がある。マヨネーズもない。動物を狩れる土地ではないのもすっかり失念していた。
非常に難しいミッションだったと言っていい。
しかしそれも過去の話である。
「“助けられたな”」
ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)も素直に肯く。
最悪の最悪隣でレシピを検索してジャックが指示出ししながらはじめてのメニューをはじめての調理などというルートを回避できて本当によかった。
「ん」ロクはうなずきながら肉を切る。
持つべきは本当に友だ。
冗談抜きで膝から崩れ落ちかけていた二人の側に通りがかったのは友人であった。
「このメシアン様にお任せあれっすよ!」という力強いサムズアップ&スマイルの彼女が本当に救世主(メシア)に見えた。代わりと言ってはなんだが余分に持ってきた野菜を融通した。今頃すこし離れたところではバーベキューで肉と共にかぼちゃや椎茸などが焼かれているはずである。肉だけのバーベキューでは胸焼けしてしまう。
二人の側には戦闘機が停められている。ライトを弱めにつけて暮れてきた陽の明かり代わりに、さらにエンジンからいくつか線を引っ張って、ジャックが展開した仮作業台で調理をしていた。
ふたりの周りにあつまるのは誰も彼も子供である。
戦闘機を目の前にした子供たちの張り切りようはすごいものである。あっちにのぼりこっちにのぼり、戦闘機のコクピットは交代。人気になればやはりジャックとしても嬉しい。セーフティ・ロックをかけた光線銃でヒーローごっこなどはじまっている様は微笑ましい。「“銃口には触らないように”」「りょうかいであります!ジャックたいちょう!」見様見真似の敬礼など返してくるさまはかわいい子分ができたようで嬉しくすらある。
しかし、戦闘機や光線銃よりも人気なものがあった。
「ねこねこ!」「にゃーん!」
「“待て、足から登ろうとするな”」
ジャック自身である。
「“…どうしてこうなった”」
180cmでこだわりのフル・メイルの鉄人である。(もちろん真は異なるのだが、しかし子供にはそう見える)あとしっぽもある。
それが戦闘機から降りてきたら人気にならない方が難しいのだが、むべなるかな、意外と本人にはわからないものである。
ロクとしては再び、FACE・OF・DOYAを決めざるを得ない。さすが子供。わかっている。
本日何度目かもわからない相棒をつれてきてよかったを味わう。夕方まで満足度が非常に高い。やはりこのアポカリプス・ヘルは空気がおやつなのかもしれない。
…とはいえジャックはそれどころではない。
悪い気がしないのは否定できない。ヒーロー。なりたかったそれだ。
ジャックにまとわりつく子供が両手をあげて頭の脇に耳をつくり「にゃーん!」いや、追いかけ回す方はまだいい。
「ねこねこ!」「にゃーん!」どしん!「“ヌッ!”」
登ろうと体当たりを受けるのである。
今など右足と左腕と背中にそれぞれ1にゃーん(子供ひとり)がまとわりついていた。下手なことをして傷つけてもいけないので動作は自然と慎重になる。
そこへ追い討ちのように子供、子供が、ああ、足に、足に!「にゃーん!」「にゃーん!」
さて乱暴なことをしてはいけない。どうしようかと相棒を見ると
ロクは頷いて荷物からそれを取り出した。
「“ああ”」ジャックはほっとしてロクの方を子供へ示す「“お菓子があるそうだ”」
それから少し考えて、ジャックの向こう側の彼はこういう。
「“料理している間、おとなしく食べていられるお友達はいるかな?”」
ヒーローショーで見たいつだって優しくて丁寧なヒーローをなぞる。
お菓子と聞けば速い。
わーっとロクへ子供が群がる。
件の硝子剣士からいつだかたまたまもらったお菓子だが、こういうことに役立つとは予想外である。
「手伝う、なら」ロクがとどめの一言を出した。どんな時でも相棒である。「もういっこ、ある…!」
かくして調理台はお手伝いでいっぱいになった。
野菜と肉が鍋の中で炒められている。
ロクとしては嬉しくて楽しくてしょうがない。
カレーは友達に教えてもらって、はじめてできた料理だ。
それをこんな小さい命たちと、相棒とわいわいやりながら作る機会があるだなんて思いもしなかった。
「ねこねこ」「にゃーん」子供が口ずさみながら、自分で持てるだけの水を運ぶ。
「“猫ではない”」とりあえずジャックとしては状況が落ち着いたので情報の訂正にかかる。
「にゃー…んでは、ない!」子供が唖然とジャックを見上げた。
「“にゃーんではない”」繰り返す。「にゃーんではない…!」「ないのか……!」
驚愕とちょっと置かれた距離にちょっと罪悪感と寂しさを抱くが、ここが命運の分かれ目だ。
せっかくヒーローとして見てくれるのだから、きちんと覚えてもらいたい。
「“猫ではない”」言い含める。
言い含めながら、ロクの指示どおり鍋へ水を入れる。
そう、楽しいものだ。野外で調理などいつぶりだろう。
「なにものだ!」
人が貸した光線銃を構えて尋問されるので、大人しくハンズ・アップ。
「“本機はジャガーノート・ジャックだ”」
「じゃがー」ロクの裾をつかんでいる子供がそれを掲げる。「“それは芋だ”」子供は頷いてロクに芋を渡す。ロクはそのジャガイモの皮も丁寧に剥く。火が通るように小さく切って鍋に入れてやる。
「じゃがー…」子供の額にしわが寄っている。
「“豹だ”」解説をする。「ひょう…!」これは納得がいったらしい。
「“そうだ”」うなずく。
「“しなやかでうつくしく、鋭い牙を持ち、そしてなにより速い生き物だ”」
子供の眼がふたたびきらきらと輝いてジャックを見ている。「おれの、あいぼうだ」さりげなくロクが主張する。
「ひょうってどう鳴くの」
「“ん…!?”」
ジャガーノート・ジャック、予想外の質問である。
バーチャル体のいいところはその向こうのプレイヤーの動揺がまったくつたわらないことで、まあつまりジャックは慌てて検索から音声データを引っ張りだし、再生する。
…これがもう、すさまじい効果があった。
慌てたせいでちょっと大きい音で再生したのもよかったのかもしれない。
「かっけーーーーーーー
!!!!」
音声データの再生が、ジャックが本当に吼えたように聞こえたらしい。
「すげーー!!」「しゅげー!!」「かっけー!!」
「にーちゃん!」子供の一人がロクへ振り返る。「聴いた!?聴いた!?がおーって!!」
ロクはふかぶかとうなずく。そうだろうそうだろう。頷けば尻尾のようにおさげが揺れる。「がおー!」「もう一回!もう一回!」子供がジャックにねだっている。
さすがにロクはあれが再生した音声だとわかっている。
なので子供にもう一回とねだられて戸惑うジャックに代わり。
「“ーーーーー”」
自分が小さく、豹のように吼えてみせた。
子供のきらきらの瞳が、今度はロクにも向いた。
「かっけーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「んっ」予想していなかった反応に、相手は子供といえロクもびっくりしてしまう。
鑢の声だ。眉をひそめられ嫌われることこそあれ
「すげー!」「もういっかい!」「もういっかい!」
まさかこんな、憧れで見られることなど。
一緒に作業していた子供たちにとり囲まれてしまい、ロクはおもわず調理台を背に両手をつく。
「どうやるの!」
「どう」どうってこれは、生まれつきで。
「もういっかい」いや、そんな、だって。
「“こら”」
ジャックが子供をたしなめる。
「“火の側で暴れてはいけない。習っただろう”」
子供はそれぞれ飛び上がる。「“カレーをよそうお皿を持ってきなさい”」そこへ指示をだし「“ちゃんとカレーを入れても大丈夫か、よく拭くこと”」追加を添えて。
「“さあ、誰が一番かな?”」
とどめの後押しをする。誰が一番と聞かれれば競いたくなるのは子供の性で
「あいあいさーーーっ!」わーっと一気に散る。
「たすか、った」ロクはゆっくり息を吐く。ロクの裾を掴んでいる子供はまだそこにいて、ロクの背中をよしよししようとして、とどかないので腰あたりをさすっている。
「“なに、大したことではない”」
マスクの向こうに微笑みをなんとなく見て、ロクも微笑む。
「…ヒーロー、だって」
ロクは笑いながらジャックの脇腹を軽くひじでつつく。「“ああ”」
「“かっこいい、だって”」くくく、と向こうの忍び笑いを聞く。「ん」
そんなことを言われる日が、くるだなんて思いもしなかった。
ロクのかかとにそれがぶつかったのはその時である。
「ん?」
どうも驚いて、影が緩んだようで、しかしはて、だいたいのものは出したはずーーー
「“どうかした「クェーーーーーーーーーーーッッッココココ!」
ニワトリ”」
まさかの本日二度目の鶏である。
「“ロク”」いやこれがいるなら肉をもらう必要はなかったのでは、と思いジャックは相棒を見るが、ロクは信じられないものを見る顔でニワトリと見つめあっている。
「“密っ…航…?”」
これをそう言っていいのかわからないが、この状況を説明するにはそれがぴったりだった。
ロクの首がこくんと縦に振られる。
そういえばあの鶏たちは雄だったなとロクは思いながら鶏を撫でてやる。
「そうか…」ついてきたのか、と思いながら大事に抱きかかえようとすれば、もうひとつ、指先がつつく。
白くて、丸い。
「たまご」「“たまごだな”」「たまごだ!」
ジャックとロクは顔を見合わせる。
カレーはもうできていた。
ああ、それに、雌鳥の心臓はとことこなってあたたかい。
「とりさん」ロクの裾を掴んでいる子供が呟く。
「“そうだ”」ジャックが応える。
ロクは微笑んで、その子供に鶏を渡してやる。
雄は勇ましいモヒカンだったけれど、雌は性根が優しいらしい。
おとなしく、子供の腕に抱かれる。
「あげるよ」
たまごといっしょに渡す。
「いいの」「いいよ」
いつかだれかが、そうしたかったように命を渡す。
朝を渡す。
「あったかい」
子供はそう、微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユキ・パンザマスト
【くれいろ】
\くれいろデリバリー参上!/
\皆のおなかに幸せお届け!/
(エフェクト豪華乱舞)
もーぺっこぺこですよ!
えっと、切ると焼くのはいけます!
セラは?
(先程思い出し、笑む)
そっか、お母さんのお手伝いを。
大事な隠し味!ええ、頑張りましょう!
(印刷済レシピ渡し、黒猫エプロン)
お粥にスープ、優しいチョイスすよね!
友達にいい肉を幾許か融通しつつ、
ユキは焼くと切るで足りるバーベキューを!
(昇る煙と匂い。
傍らの、彼方の、皆さん、
もうすぐ出来ますからね)
配膳の会話には軽い相槌、
聞こえた願いが叶うよう
黎鳴音のハミングうっすらと。
いいですね、コンサート!
明るいナンバー
皆で歌いましょっか!
では──
いただきます!
セラ・ネヴィーリオ
【くれいろ】WIZ
お待たせ!くれいろデリバリーでーす!
ポーズ決めたらアイキャッチが一鳴り
お腹空いたよね!
ユキさんは料理得意?…あっ
なるほど
僕?僕はね、うん。お家の手伝いレベルです!
大丈夫、料理はハート!だよ!頑張ろうねっ
料理経験少ないけど
お粥と野菜スープ作ろうかな
胃に優しく味も優しく
(お肉のやり取り見つつ、メカかっこいー!と密かに憧れ)
(立ち昇る煙を見送る)
(空に返すは笑顔。心配しないで、と)
料理を配りながら皆さんとお喋りを
昔はよかったと言う人や
これからこうしたいって話に頷き
きっとそうなるよ、とは言えないけど
彼らの願いを見守っていくね
ご飯が終わったら歌を歌わない?
辛い時の、心の支えになる歌を!
■ガッチャ★おまたせくれいろデリバリー!■
一台のデコ・トラックが人々の歓声と拍手と共に迎えられる。
早大なゲームミュージックと共にトラックのサイドと天井が開いて変形していく。
「ヘイガイズ!胃袋はご機嫌に重低音を響かせているんじゃないかい?」
スモッグと共に少年の声が響く。
「生きることは食べること!」
続いて少女の声がたからか叫ぶ。
いやこれスモッグじゃない、湯気だ。
開かれるトラックに乗せられたのはUDCアースの取材もかくやという番組調理台。
そしてその向こう側におそろいのサングラスをカチューシャのようにかけた“あの”二人が立っているッ!
「ほんとのほんとにおまたせ!」
白鳩エプロンの少年・セラ・ネヴィーリオ(トーチ・f02012)
「みんなのお腹に幸せお届けっ!」
黒猫エプロンの少女・ユキ・パンザマスト(夕景に伴す・f02035)
「みんなの期待に応えて!」「ほんとのほんとにやってきた!」
ハイテンションな決めポーズにフロアは大歓声でいっぱいだ。
今回はデスロード走行中でないためトラックの運転手のモヒカンフレンズが両サイドに控えてロケットランチャーも構えー
「「くれいろ・デリバリー!!」」
ー発砲ッ!
「「参上ッ!!」」
輝くラメにゴールデンリボン、七色ホロの中。
メシアン、降臨であるッ!!
・
「はいみんなあがってあがって〜」
登りやすいように即席タラップが下される。「お腹すいたよね!お疲れさま〜」
セラはにこにこ笑いながら拠点の住民たちを誘う。
「ごめんね、今日振舞うご飯キット以外にももってきたんだけど、重くて」
「らいらーい、申し訳ないっすが運搬をお願いしたいっすよ」
バーベキュー・グリルの火の具合をたしかめながらユキも呼びかける。
もちろん自分たちのために持ってきてもらった食料だ。
相談しながらではあるが少しずつ運搬が始まる。
「よっこいせ」白い三角巾を締めながらセラは張り切る。
「それじゃあ料理しよっか」「っスね!」ユキも同じく黒い三角巾をつける。
「お腹すいたもんね」「っスね!ぺこぺこですよ」
予め分けておいた今日の分を引っ張り出す。
「ユキさんは得意料理…」言いながら隣を見ればユキがほんの少しはにかんでいる。ああ。よぎるのは先程の光景だ。“ゆき”「なるほど」ちょっと察しが足りなかったかな、とセラは自らを省みる。
「そーいうセラは?」
ユキはなんてことのないように話を続ける。
そう、一抹の寂しさがないとは言わないけれど、なんてことない話だ。
「僕?」
まさかくると思っていなかったセラは「うん」顔いっぱいで笑む。「ハイ」
「おうちのお手伝いレベルです
!!!!」
なんとも素晴らしいドヤサムズアップによる宣言であった。
「ユキも切ると焼くのはいけます
!!!!!」
ユキのすばらしいドヤサムズアップ宣言返しッ!
ユキが膝から崩れ落ちた。
「ユキたち…っ…大丈夫っスかね…!」今更ながらものすごい不安がやってくる。
ぶっちゃけさっき行きあった友人に泣きついたほうがいいんじゃなかろうか。
いや予知の話を聞いた際炊き出しは確かにひっかかった。ひっかかったのだが「えっ焼肉でよくね?」というすぐハートをブロークンして膝から崩れ落ちる男のノリと一言に流されてしまっておりなんというか本当に本当に今更ながら人のご飯をつくるというのは大変なことではなかろうか。ほんとうの本当に余談だがあの男ユキへ適当に吹っかけたくせに料理スキルを持っている。本日のマン・オブ・ザ・殴られても文句言えないである。
「まあ大丈夫大丈夫」
セラが明るく笑いながらユキの背中を叩いた。
「料理はハート!だよ!」
ごはんつぶのついた前掛けがユキの脳裏をよぎる。
「…そっスね」少し恥ずかしくなって照れ笑いをしながらユキは膝を払う。
「大事な隠し味!」「そうそう、気持ちが大事なんだって」
「ええ、ええ」ユキは何度もうなずく「頑張りましょ」
・
幸い、先程肉を失ってピンチだったカレーに肉を提供したのと引き換えに得た野菜があった。
じゃがいも、にんじん、キャベツ、たまねぎ、かぼちゃ、ピーマンなどなど。
みずみずしい青果。
…そういえばあの戦闘機かっこよかったなあ、とセラは思う。デコトラも音楽届けやすくていいし、なんかそういうのないかな。こう、うぃーん、がしゃーん…がきーん…。
「セラはやっぱり予定通りお粥とスープっスか?」
ユキに話しかけられてセラははっとする。「うん」今脳をかけていったやばいひらめきを振り落とす。
拠点には健康な若者ばかりではない。むしろ健康な者は少ないほうで、老いた者や弱った者もそれなりにいるのだ。性分として彼の視線はついそういった者に行ってしまう。
「胃に優しく味も優しく」「うんうん、セラらしいっスね」ユキは何度も頷きながら
「オッケー、じゃこれ」セラへ印刷したレシピを渡す。
「ありがとうユキさん〜〜」セラは目を輝かせて再度熟読する。予知を引き受ける時に調べてはいたが、やはりというかなんというか、レースと嵐でみんな吹っ飛んでしまった。
「ふふん任せてくださいよ」
「ユキさんはバーベキュー?」
「っスね!」どう調べても切ると焼くで足りる料理がそれしかない。
まあ、みんなで焼肉したときの、あの楽しい感覚があるのもあるのだけれど。
セラは自身の料理に取り掛かる。
キャベツに玉ねぎ、にんじん、じゃがいも。かるく水で洗い、皮を剥いて少し小さく切る。
理想はスープにとけてしまうことだが、まあそこまでは拘らない。
口ずさみながら野菜を鍋に入れ、ことことと煮る。
土鍋にお米と水、
そういえば、と思う。墓守として生きていた頃、食事はどうしたんだったか。
食べることは生きること。
言われてみればその通りなのに、死者に心を寄せていたせいもあるけれど、と自らを想う。
あんまりこだわりがなかった気がする。
今はどうか?セラは自らに問う。
生きたい理由がいっぱいある。おいしいものをたべたい理由もいっぱいある。
その根っこは一人に由来するけれど。
隣からいい臭いがしてきた。
セラがこっそり隣をみればユキがもう、笑ってしまいそうなぐらい集中している。
ユキはユキで炎と肉と野菜と戦っていた。
ベストな焼き加減を逃すまいと鼻と耳と眼で全集中だ。
時々うちわで炭に火をやって炎を回すのも忘れない。炭の中で火が赤々と燃えている。
肉から脂が垂れてじゅう!脂のこげるこうばしいにおいと煙をあげていく。
火がなんとか程よくまとまって、ずいぶんと焼きやすくなったころ。
ユキはようやく顔をあげて、セラとおんなじことに気づいた。
「セラ」「なあに、ユキさん」
「煙って、意外と結構、昇りますねえ」
「うん」
どちらともなく、煙のゆくさきを見送る。
どちらがどうとは言わないけれど、想うことは一つだった。
“さあ、もうすぐできますよ”
“だいじょうぶ”
“ちゃんといきていますよ”
いや、セラの方はもう少しだけ、個人に寄っていた。
“心配しないで”
名も知らぬ女性。ありやなしやと隣のユキは言ったけれど。
セラはちゃあんとうけとっていた。
やわらかな湯気に乗って、こうばしい香りが運ばれる。
ひとりまたひとり、手を止めて集まってくる。
夕餉の時刻になろうとしていた。
配膳すれば多くの人と触れ合う。
誰かがいう。昔は良かった。誰かがいう。あれを改善すればきっと。
誰かがする。死んでしまった誰かの話を。
誰かがする。生まれたこどもの話を。
ユキとセラは彼らと同じように食事を取りながら、そのひとつひとつに頷く。
過去と、未来と、喪失と、希望と、それから、それからーーー。
そうして何度も口にする。
“いきて”
そうなるといい。
“しあわせに”
きっとだいじょうぶ。
“しあわせに、いきて”
たぶんなんとかなる。
“わらって”
うまくいくよ。
それが『彼ら』の、願いだったのだ。
ユキの唇が自然と黎鳴音を紡ぐ。スプリント。短距離走。
やさしいハミング。
きっとすぐそこだと、歌うぐらいは許される、ちいさな祈り。
夕暮れに、ひどく明るくまざっていく。
その音を真先に拾ったのはセラの耳で、
その音の祈りを誰より理解しているもセラで、
それをただ、静かで終わらせるなんてもったいないとー
「ねえ、ユキさん、食事が終わったら歌わない?」
ー彼はあかりを灯す。
「歌ですか」「そう」
どこかで酒が空いたらしい。空気はなんだか宴会のように浮ついていた。
ユキはセラをまじまじと見つめる。
「辛いときに支えになるような歌」
ああ、きょうはずいぶん歌う日だ。
失われた過去に帰り道を。苦しみに喘ぐ今に帰る時間を。
そして今。
生きる今に明日を。
「いいですね、コンサート」
「単純なやつにしよう」「ええ、それがいいです」
そうだ、それがいい。
生者と死者。たとえ会話はできなくても。
「みんなで、歌いましょう」
声は、響くのだ。
「それじゃ、いいですかーみなさんっ!」
デコトラの上にもう一段、急遽設けられたステージでセラがいう。
「せーの」
いただきます!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
(貴方達がしたかったことをして、貴方達が見たかった笑顔を見る。少しは…貴方達の想いを解くことが、出来たでしょうか?)
UC「ノームの召喚」使用
じゃが芋とソーセージのゴロゴロ入ったコンソメ味のポトフをケータリングカーの厨房で作成
出来上がったら大きな寸胴鍋ごと外に運び出し、ノームにも手伝って貰いながら配布
その後そのBCのリーダーに食料保管場所を聞き、ノームに手伝って貰って殆どの水やレーション運び込む
その後可能ならレースのMCの所へ
「貴方は…あのモヒカンの方々とも付き合いがあるのでしょう?残りのこれを届ける繋ぎを取って貰えませんか」
「彼らにも届けたい方が居たからです。勿論戦闘の抑止は受け持ちますから」
■桜前線は大地を下る■
ぱっと見ると、ダンボールなどの荷物が勝手に歩いているように見える。
「ふわあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
!!!!」
子供から上がるのは大歓声だ。
大きな箱に隠れてみえないだけで、運び手はきちんといる。
小さな土小人。ノームである。
「かわいいかわいい!えらい〜〜〜〜〜!!」「 “ !” 」子供の歓声に返事をするものがいたり、いちいちカッコつけたりするものがいるのだから子供は夢中である。
「つよい〜〜〜〜〜!」
「ほらほら、ポトフが冷めてしまいますよ」
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は微笑みながら子供たちへ声をかけた。「は〜〜い!」ポトフにかぶりつきながら、しかし目線はノームをおっている。
「すごいのね…」同じようにポトフを食べながら、その拠点の女は桜花に言う。
「正直ここは力ない奴も多いから、ほんとに助かるわ」
いえ、と桜花は爽やかにかぶりを振る。
「たまの機会です、ゆっくり食事をとってください」
ノームはせっせとはたらく。
あるノームはキャンピングカーから出された寸胴鍋のそばに何個もダンボールを積んでポトフをよそい、
あるノームはよそわれたポトフを人々にとどけ。
あるノームは指示された倉庫へ水やレーションを運び
またあるノームは空になった皿を回収して…
たとえばこれを拠点の人々に力をかりてやろうと思ったなら、一日仕事だったに違いない。
しかしノームなら話は違う。
ぱたぱたと片付いて行く。
「えへへ、おいしい」
ごろごろに切った野菜をほおばって、ほおばった少年が嬉しそうに笑う。
「よかったです」桜花はそれに、ほんの少し目を細める。
いくつもの笑顔が並んでいる。
それをしっかり、胸へ収める。
「…お姉さん、急いでる?」
女に指摘されて、桜花は口を抑える。あら!
「ばれていましたか」
「まあ、なんか、急いでるなーとは思うよ」
スプーンを加えてゆらゆらと揺らす。
「意地悪くて申し訳ないけど、車の荷物も全部を下ろしたってわけじゃないでしょ」
「ええ、まあ」
ちら、と女は桜花を一瞥する。
「なんか行くとこがあんの?」「ええ、まあ…」
「どこ?」「その、それがちょっと、わからなくて」「はあ!?」女は身を乗り出す。
「わからないってどゆこと?方向?場所?他の拠点なら聞けばわかるでしょ?」詰め寄られて桜花は思わず目をそらす。「その」
「あるモヒカンさんをさがしておりまして…」
「…はあ?」
日が暮れれば荒野の冷え込みは恐ろしい。
山を思わす巨岩の影に、そいつらはいた。
スパイクやスタッズが鈍く輝く、バイクやモンスタートラックが並んでいる。
モヒカン。ならずものどもの群れだ。
今明かりがついているのは数台。
今夜はここで野宿しようという算段なのだろう。
何名かが輝きはじめた星を仰いでいた。
ただでさえ改造で歪な車が、影でさらに歪んでみえた。
そんな中、桜花は物怖じもせずその群れのなかにキャンピング・カーで突っ込んでいった。
…襲ってくる様子はない。
いちかばちかの賭けだったが、まずこれはうまくいったようだ。
第一の賭け、クリア。
あの拠点の女に聞いた情報によると間違いないはずである。
いくらモンスター・トラックとはいえ、あの嵐の後ではそう移動できないはずであるのも折り込み済みだ。
超えるべき賭けは4つ。
1・その群れにたどり着くこと。
2・みとがめられないこと。
3・彼がそれを知っているかどうか。
やがて、その車を見つける。
あんなに追っかけた車を見間違うはずがない。
「ごめんくださいませ」
車をおり、桜花は声を上げ
「レースのMCさん、いらっしゃいますか!」
そいつを呼んだ。
『はぁ〜〜〜〜い!!』
モンスター・トラックにつけられた長い棒が倒れてきて
「ご機嫌うるわしく、ミス・パーラーメイド、桜花選手」
これから火刑にでも処されそうな棒に括られた男が現れた。
「どうも間近でお目にかかるのは始めまして。カリタニ・サーンです!」
風雨にさらされまくったらしく顔はあの木々の顔に負けず劣らず深い傷が刻まれている。
「ご機嫌よう」「ええ、ご機嫌よう」丁寧に挨拶をかわし。
「お願いがございます」
桜花は一歩前へ出る。
「はいはいなんでしょう」
「あなたはあのモヒカンの方々ともお付き合いがあるのでしょう?」
「ございますね」「良かった」三つ目の賭け、成功。桜花はほっと息をつく。
桜花はキャンピング・カーの後部扉をひらき、残りの食料を示す。
さあ、最後の賭け。
ここからが正念場だ。
「残りのこれを届ける繋ぎを取って貰えませんか」
「Hunm」男は唸る。「あのモヒカンとおっしゃいますと」
ああ、と彼はそこでかぶりを振る。
両手が自由なら掌を立てて静止のポーズをとるような調子だった。
「すみません此度のレース、過去最大のモヒカン稼働率だったものですから」あっ多かったんだというツッコミは脇に置く。「音響トラックのおんちゃんでしょうか、モヒカンと三つ編みにこだわりの強いヨッちゃんでしょうかはたまたーーー」
「“共に走ってくださった方”です」
さすがの男もその言葉に息を飲んだ。
4つ目の賭け・他の者の居場所を教えてもらえるかどうか。
無理じゃないかな、と教えてくれた女はいった。
そのトラックならたしかに、一部のモヒカンどもとあっちの方向に行ったよ?たぶんちょっとした大きい岩のあるとことがあるから、そこで車をやすめるんじゃないかな。でもさあ。
でもさあ、ここのモヒカンなんて要するに無法者なんだよ。普通はみんなで協力して走ったりしないの。あんたの話は信じるけどさ、他のやつらと接触したいから繋ぎをとってなんて、
無理じゃないかな。
「何故?」
問われて桜花は小首をかしげる。「と、申しますと」
「今回の事件、グラス・マンからあなた方への依頼としては“拠点”への食料支援です。」
…グラス・マンとは予知で依頼してきた剣士のことだろう。
何故このMCがそれを知っているのかはさておき、たしかにそうではある。
黙る桜花にMCはちょっと片眉を下げた。
「物理的にも視線も態度も上からの物言いで実に失敬」
しかし一瞬のことで、彼は桜花をまっすぐ見据える。「ですがあえて言いましょう」
「あなたの依頼に、我々は含まれていない」
桜花は、微笑んだ。
「だって聞いてしまいました」
はて。こんどはMCが首をかしげる番だった。
そして
「“かあさん”」
こんどは、MCが黙る番だった。
桜花は笑みをひっこめ、真剣な眼差しで男に迫る。
「何人もの方があの嵐に足を留めてらっしゃいました」
「“彼ら”にも届けたい“方”が“居たからです”」
長く。
長い、ため息が男の口から出る。
「あれは、オブリビオン・ストームです」
「ええ」桜花はうなずく。
「そして、あなた方が大事な、あなたがたの大事な誰かだったはずです」
場はしんと静まり返っていた。
どのトラックもバイクも車からも、こちらの様子を伺っていることが見て取れる。
それはそういう沈黙だった。
「長い走行になりますよ?」「承知の上です」「危険もあるやも」「戦闘の抑止は引き受けます」
暗くて良かった、と桜花は思う。
「お優しい方」
震える声がする。
両手を縛られていてその人は顔を隠すことができない。明るければ、直視してしまっただろう。
いくつもいくつも顔を滑り落ちる涙も、ぐちゃぐちゃの鼻水も。地面に落ちた水滴の跡も、言い逃れできないほど見てしまったにちがいない。
でも。
暗いから、見えていないふりをしてあげられる。
「ええ…ええ、すみません、なんといえばいいんでしょう」
MCの男はそこで少し笑った。「言葉が切れるなど、本当に解説として出直さねばいけませんね」
「ありがとうございます、お優しい方」
その一言が合図だった。
いくつものライトがつけられる。
エンジンに火が入り、震え始める。
予期せぬまばゆいライトに、桜花は一瞬、目を細めてしまう。
「あのひとたちを討ってくれたのがあなたで、ほんとうに良かった」
光の中に声をきく。「我々と彼らを代表して、僭越ながら、お礼を」
声が遠ざかる。おそらくまた空へ釣り上げられていくのだろう。
『それでは』
ああ、レースで散々聞いた声が荒野に響く。
『メシ・デス・レース、延長戦の開幕をお伝えします。選手はたった一人』
「選手なんて、そんな」苦笑する。「レースは終わりましたでしょう」
『まあ気分というやつでございますね!』明るい、そう、明るい声が飛んでくる。
『さあ、レディ!どうぞお車へお乗りください。レディを深夜に一人立たせるなんて、
それこそ、それこそ我々母親にケツを血が出るほど叩かれても文句が言えません!』
まあ。文言がちょっと良くないのではとか言いたいことはあったが、黙って車へ乗り込むことにする。
スープは暖かいうちがおいしいように。
善は、急げだ。
『サクラミラージュよりいらして下さったお優しく美しいパーラメイド、御園・桜花様へ
一同、大きな拍手をお願いいたします!』
クラクションと拍手が捧げられる。
桜花はハンドルを握りながら窓の外を見る。
伏した体はなく、足掻いて走る指もない。
しかしたしかに、それがいたことを、その真摯の叫びを、桜花は知っている。
貴方達がしたかったことをして。
貴方達が見たかった笑顔を見ました。
いかがでしょう。
風に問う。
「少しは…貴方達の想いを解くことが、出来たでしょうか?」
嗚呼。
春の予感が、荒野を行く。
終わった冬の願いを受けて、せめてもの花を届けに。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
借り物のサングラスとバイクで道を逆走。
四次元トランクは拠点とジョンに預けて来た。客を連れて来るから調理して待っててくれ、と言い含めて。
探してるのは──モヒカン軍団だ。借りた物は返さなきゃな。
そう遠くない場所で見付かるだろ。見付けたら気安く、よぉ、と声を掛けて。
腹減ってねぇか?飯でも一緒にどうだ?とUC交えて。
みんなと食うあったかいメシは美味い、なんて言ってるお人好しの知り合いが居てね。
試してみないか?美味いかどうか。
安心しろ。お前らの分くらいはあるさ。
あのオブリビオンの中にはこいつらの家族も居たかもしれねぇ。
ああ、約束は守るさ。届けるぜ。
なんてったって…俺はメシアン様だからな?(冗談っぽく)
■便利屋の仕事:Case:X(モヒカンを添えて)■
日はほとんど暮れなずみ、真っ赤に染まって沈みゆく。
いくつもの煙や湯気が立ち上り、拠点の人々はゆっくりと腹を満たし始めているようだった。
「いいかジョン、頼んだぜ!」
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)はそう告げてバイクのエンジンを入れた。
「ホッワァアアアアイ!!?」
渡したトランクを抱えてジョンが根性でダッシュしてくるが所詮バイクと人である。「やっぱバイクに勝る開脚ダッシュなんか無理だわな」一人ごちてくつくつ笑い、少しだけ振り返って吠える。
「千客が万来するからよ、せいぜいめっちゃうまく量つくっといてくれや!」
4次元トランクの中身は食材である。
一応何が作れるのか方向性が決まるようなものを詰めたし、どんなものが作れるのかメモをつけて入れたが(こうしないと現場が絶対に混乱すると紳士が根強くアドバイスしたのであのときは則って用意したが、たしかにそうしてよかったとは思う)はて、あとはうまくやってくれと願うばかりである。他の猟兵もいる。なんとかなるだろう。
“借りた”バイクにサングラスで、男はひとり、昼間駆け抜けた道を逆走する。
あんなにも混乱を極めて時間のかかった道のりが、一人逆走すればなんとも速い。
煙の登った空の下、灰伏す大地の上を走り、木片のかけらが砂になるのを見届けて、撒き散らされた血が乾いて風に消えるのを見ながらーーーさらに飛ばす。
探し物は一つ。
予想通り、そう遠くないところで見つかる。
ぎらつくライトにいくつもの車。クラッシュしたバイクを山と積んだモンスター・トラック。
いくつものバイクとサイドカーをなぜか三つぐらい繋いだアホみたいなバイクや桜の花やターメリックなどでびたびたに染まったバイクもある。あとパンクしたバイクもだがクラッシュしたバイクがすごい。すごい数ある。
ぼろぼろに叩き折られたあれは、あれはなんだ、巨大なスプーンでも作ってたのか。なんで?
「とんでもねえレースだったな…」思わずぼやく。
探し物とは何を隠そう。
バッド・モヒカンだ。
レースの時ほどの速度はないが、それでも爆走する彼らに向かってカイムは走って行きーーー
カイムは再び群れの少し前で一人、停まる。
バイクのエンジンを切って、降りる。
「よぉ」
かける声は旧知へのように気安く。
サングラスを外して浮かべる笑みは明るく。
レースのはじまりとおなじく。
バイクを降りて颯爽と、立つ。
そしてレースのはじまりと異なり。
バッド・モヒカンの群れが、停まる。
「ウェイ!?」「ウェーーーーーーイ!!!」
モンスタートラックの男が助手席から身を出して叫ぶ。
「まあまあそう慌てるなよ」肩をすくめて笑う。「あと言語をウェイ以外で頼む」
コインを弾いて表か裏か。
そういう気軽さで彼もまた、賭けに出ていた。
奇しくも少し先で“グッド・モヒカンを全員探し当てる”賭けに出ていた桜の精と進行方向は真逆だったのだが、それは知り得ぬ別の話。
「今さら何の用だテメェ!」
「できんのかよ」
最初からそれでお願いしたかった。
「いやあ、いいバイクとサングラスを“借り”たんでね」カイムはシートを叩く。
「返しにきたぜ。どいつだったかな?」サングラスをゆらゆらと揺らす。「出てきてくれると助かるんだが」
バッド・モヒカンどもは顔をみあわせ、ややっあって、二つに割れる。
「ウェイ…」
別のモヒカンが運転するバイクに引っ張られる三輪車を漕ぐモヒカンが現れた。
たしかに右目に走る傷に見覚えがあってたしかにこいつだと思い…いや三輪車て…いや2ケツとかで乗ればいいじゃねえか…。なんで三輪車のせた…。
カイムの胸を静かに激しくツッコミがよぎるがしかし本日はボケ倒し・ヘル。
「ああ、あんただ、あんた」
朗らかに会話を続ける。
ツッコミを置いておかないと話が進まない。あと凄い疲れる。
バッド・モヒカンどもが注視するなか、哀れな三輪車・モヒカンは立ち上がり、ゆっくりとカイムの真正面に立つ。
「何のつもりだ」
おまえも普通に話せるんかい。
視線で人が殺せるなら殺せていただろう。
「いいマシンだったぜ、返すよ」
そういう視線を受け流しながら、カイムは余裕綽綽で立ち続ける。
剣にも銃にも、手をかけず。
三輪車・モヒカンは舌打ちしながらカイムの手からサングラスを奪いーーその脇を通りすぎてバイクに乗る。
カチ、カチッーーーブォン!
二度のチャレンジでエンジンはかかる。
カイムが乗ってきたのだからそれは当然なのだが、元・三輪車・モヒカンはそれが何より嬉しかったらしい。
「WAAAAAAAAAAAAAAAYEAAAAAAAA
!!!!!」
喜びのシャウトが空気を鳴らし、バッド・モヒカンどもがそれに呼応してシャウトする。「うるっせ」カイムは苦笑しながらそれを聞いている。
ブオン!元・三輪車モヒカンはUターンし、再びカイムの前に、今度はバイクで止まる。
彼我の距離は近い。
本気をだせばいつでもてめえを跳ね飛ばせる。
暗なる脅しだ。
「いやあ、いいマシンだ。デザインはもうちょっと変えたいところだったがね」
カイムは飄々言ってのける。
「それで?」元・三輪車モヒカンがカイムに迫った。「それでって?」カイムはへらり笑いながら肩をすくめる。
「それだけじゃねえんだろう、用件は?」
両手をポケットに突っ込んだまま、カイムは歩き出す。
一歩、二歩、三歩ーーゆるやかに、元・三輪車モヒカンの脇をすぎて群れの前と三輪車モヒカンの間に。
「腹減ってねえか?」
その気になればいつでも轢き殺せと言わんばかりの位置に。
「減ってるに決まってるだろうがてめえ!なめてんのかウェイ!」
なぜか運転手がいるバイクのサイドカーに梯子を立ててその梯子の上に乗っているモヒカンが吠える。「だよな」カイムは肯く。
「そうでもなきゃ狙わねえもんな」
「たりめえだてめえすりつぶしてデスヘルプチョコチップバニラフラペチーノにぶち込んでやろうか!」「タピオカァ!」「アブラマシマシィ!」すごい気になる呪文にはツッコミを入れずに何度も肯く。「そうだよな、腹減ってるよな」
「じゃあよ」
カイムはぱっと両腕を広げて、こう言う。
「飯でも一緒にどうだ?」
一瞬の間があった。
「おんどれアニィワシァもう我慢できねえ!このなめ腐った男コンクリ詰にしてシャンダバ海に沈めてやりましょうぜ!!」「UUUUUUUUUUUUSSSSSSSSSSSOOOOOOODAAAAAAA
!!!!!!」
轟々の非難もカイムは笑って聞き流し、自分の胸に片手を当てる。
「いやあ正気じゃない?俺もそう思うね」
少し道化た仕草で一歩。「けどよ」
「みんなと食うあったかいメシは美味い、なーんて言ってるお人好しの知り合いが居てね」
さらに一歩。
この程度の非難など、どういったことはない。
「試してみないか?美味いかどうか」
あの嵐の悲願に比べたら、そよかぜ以下だ。
あの願いに命をかけて、あいつらは全員裏だった。
あの願いたちを請負ったが故に。
カイムもコインを弾く。
食事ひとつに、命を賭ける。
表か、裏かーーー
「安心しろ。お前らの分くらいはあるさ」
請負人たる彼がこの時の賭けと、幾多に行われた賭けと少しばかり違う点をあげるならば。
「てめえ、自分が何言ってるかわかってるか?」
弾いたコインの名はユーベル・コード“話術の心得”。
冴えた声は背後から。「俺たちの疾走や負傷は無意味だと声掛けに来てんだぜ」元・三輪車モヒカン。
「いやあ、十分あったから、来たそんだけだよ」
話術でちょっとばかり人間に有利だったことか。
「ーーいいだろう」
静かな一言が吐き出された。
カイムは笑う。
コインを弾いて表か裏か。
「負傷してる奴も多い。メシが食えることはこの上なくありがたい」
「乗った」
表!
「案内しろ」「案内するほどの複雑さはねえよ」「荒野を舐めるな、荒野豆腐(ハードマン)」「悪ぃ、それはやめてくれ」
どうして知ってるんだと思ったがそういえば解説がシャウトしていた。
「荒野をなめるな、カイム・クローバー」改めてモヒカンが言い直す。
「…おやおや、フルネームで売れてんのか」「ほかに呼んで欲しい名が?」
「普段動いてるとこじゃ便利屋Black Jackで通ってるよ」
「そうか。便利屋」モヒカンはうなずき「乗るか?」三輪車「いや乗らねえよ、普通に誰かのサイドカー乗せてくれや」
かくして再び、カイムは拠点めがけて駆け抜ける。
日は落ち、夜がきている。
風は冷たいが、星は美しい。
サイドカーに行儀悪く足を伸ばして座り、天を仰ぐ。
…あのオブリビオンの中にはこいつらの家族も居たかもしれない。
良い方のモヒカンは誰かが面倒を見るだろう。だったら自分は自分にできることをする。
あとは拠点で無事に飯ができているといいが。
それから負傷者。これはまあ、医者先生がなんとかしてくれるだろう。
いろいろと思うカイムの耳が夜風にあの声を聞いた気がする。
ーーどうか。
「ああ、約束は守るさ。届けるぜ」
囁く。誰にともなく。誰かがそこにいるかもしれないからこそ。
「なんてったって…俺は」便利屋だからな、と言いかけて。
彼はそこで少し笑った。
今日はこの冗談でもいいだろう。
「メシアン様だからな?」
拠点が見える。
どうも宴会騒ぎになっているようだ。
おそらくあの戦闘機かもしれないし、派手なデコトラか、グッド・モヒカンどもか。
まあどれでもいいや、なんとかなるだろう。
頭の後ろで腕をくんで、拠点を見つめる。
ひとびとの、いのちのあかりが、こうこうとしていた。
おう、見えるかい?
返事は、ない。
大成功
🔵🔵🔵
セプリオギナ・ユーラス
料理はあまり好きではない。ナイフを握る、肉を刻む。…別のことを連想する。
故に。
簡易的に診療所を開設した。
酒を持ち込んだ者もいた。体調を崩す者が出るかもしれない。
◆正六面体は忙しなく、カートに自身と物資を載せて行き来する。
「皆さまどうぞ落ち着いて。慌てると嚥下に失敗なさいますよ」
衛生と栄養状態を確認しながら、其々の患者に合った食料品や栄養剤を分配した。
一段落したところで休息をとる。診察室の椅子にもたれ、自分用のカロリーバーを囓る。…これは飢餓状態の人間に渡せるものではないが、他の猟兵になら分けてもいいかもしれない。硝子剣のや、便利屋のにも。ま、奴らは今頃もっとまともな食事をしているだろうが。
■いのちをむすぶもの■
日が暮れれば寒さに震えて明日を祈る夜がくる。
あしたもいきていけますように。あしたこそなにかいいことがありますように。
あしたこそかえってきますように。あしたこそ、あしたこそ。
あるいは。
このまま目が覚めませんように。
いつもはそうして眠るこの拠点だがーー今はいくつも火が点って騒がしい。
いつかのサービス・エリアの輝きにはとんと劣るが、しかし間違いなく命と人生の灯だった。
「まあ、ほんと、お祭りみたいな騒ぎですねえ」
拠点の一角に急遽こしらえられた診療所からも、その光景はよく見えた。
何人もの患者が、窓の外に見える騒ぎを嬉しそうに瞳に映す。
「左様でございますねえ」
◆正六面体のセプリオギナ・ユーラス(賽は投げられた・f25430)は患者たちの間を忙しなく移動する。
「さ、マダム、こちらを」「あらあら、すみませんねえ」
自身と物資をカートに乗せての大疾走である。健康状態を確認し、可能な限りの適切かつ最善な処方をする。「ぜりー!」「はい、ゼリーでございます。お薬、飲めますね?」「のむ!」
正六面体てんてこまいであるが、そこは回転こそが賽子の本懐。
「さあさ皆様落ち着いて」爆走する正六面体を面白がりはしゃぐこどもをカートの下の段に乗せてセプリオギナは処方を続ける。「慌てると嚥下に失敗なさいますよ」「せんせーもう少しはやくー!」「スピード違反で捕まるといけませんので、ここまででございますよ」「はーい!」
すべてが落ち着くころには料理の湯気も減り、日は完全に暮れていた。
セプリオギナは正六面体から医者の男へーーどっかりと崩れるように診察し室の椅子へ座る。
診療所を開いてからかなり上位に食い込む大盛況だった。
割れたガラス窓の向こうにまだはしゃぐ人々が見える。
「…酒を持ち込んだ者もいたな」思い出してぼやきながら荷物から自分用のカロリーバーを出す。高栄養が過ぎるので飢餓状態の患者には処方できない。あくまでも自分用だ。「羽目を外して体調など崩さなければいいが」酔っ払いを見るのは命に関わるため急ぐが正直面倒も多い。
普段は一口に折るそれを今日は包装の剥がしも適当に、疲労のままかじりつく。
依頼は達成したぞ、と硝子剣士へひとりごちる。
疲弊した人々へ栄養になるものを渡し管理がてら栄養補給をする。
料理こそしていなくとも、これだって同じだ。
だから、これでゆるせ。どこにも宛てない言い訳をしながら咀嚼する。
料理はあまり好きではなかった。
ナイフを握る。肉を切る。
…どうしても別のことを連想してしまう。
だからこれでゆるせ。
命をつなぐためにきたくせにどこか後ろめたさを感じる生真面目なブラック・タールはそう誤魔化す。
疲労からかあまり味を感じない。ぱさつきが口の水分を奪うので、持ってきたペットボトルの水を飲む。そうだな、このバーと同種のものを他の猟兵に分けるのも良いかもしれない。便利屋か、硝子剣士か。それなら料理の代わりになるだろうか。
まあ、ふたりともこれよりいいものを食べているだろう。
明かりがまばゆい。ふざける人々が炎やあかりのせいで黒く潰れて影に見える。
過去の声はまだ、する。
せんせい、せんせいーーああ、請け負った、請け負ったとも。
大丈夫だ。
医者はそういうものなのだ。あるものを未来へ、生へ。あるものは過去へ、死をみとどけ。
だからそうそう、両手をあげて生の中にいくなどとても、とてもーーー…。
「ずぇんぜえェッ!」
モヒカンが乱暴に突入してきた。
「ねえちゃんまだ起きてますか!おかゆもらってきました」熱々のお碗を抱えている。「奥だ。お粥というチョイスは褒めるが無理させんように注意しろ」「イエッサー!」「廊下は歩け」釘を刺す。
「せんせーごはん?」子供がドアから顔を出した。「そうだ、先生の分だ」肯く。「せんせい今ごはん!?」「ああ」「はい!!これチリドイツ!」缶を抱えた子供が嬉しそうな顔でやってくる「ドイツではない、ビーンズだ」「おかあさんとあかちゃんのお礼にわけてあげるね」「自分で食べなさい」「たべた!」「よろしい」「だからせんせいも!」「待て、先生は今、自分のご飯を食べている」子供はしかし缶を下げる気配がない。
「後で貰う」ここで受け取ったら負ける。
セプリオギナは察してしっかりと「ぶえー…」
あっ。
普段なら泣かれようがなんだろうが我を貫くが、今日だけはダメだった。
請け負った嵐の声が張り付いているのだ。
「…ああ、わかったわかった」
わらってほしい。いきてほしい。「貰う、貰う。一口でいい」
「あい」子供はとたんに笑顔になって走って出ていく「廊下は歩け」「はーい!」
「せんせーごはんまだだってーー!」
……なんとなく嫌な予感がした。
子供がひとり声を上げると「せんせいスープまだ?」ああそうだ、ほら「カレーまだ?」次から次へと子供が雪崩れ込んでくる。「いい、待て、それはおまえらの」ぐいぐいと小さい碗にもられた料理を押し付けられる。
「せんせいご飯まだだってーーー!!」「待て!!!」
…正六面体の時に散々かまってやったのがおそらく敗因である。
「先生ごはんまだなんですって!?」「やだすみません父を見ていただいたのにこちらパンです!」「ライスです!」「ポトフまだ残りがありますよ」二回も大声を出せば情報は行き渡る。子供の次は大人だ。「ええいどいつもこいつも」舌打ちする。「叫ぶ際の唾液が宙に飛び何かしがの感染源になることを考えたことがあるのか?きさまらの脳は限りなくスポンジか?」疲労のあまりツッコミがおかしいことに気づいていない。
せんせえ、せんせえ。
手が伸ばされる。嬉しそうに報告される。
どんなに辛辣に応えても次から次へきりがない。
「せんせーッ!」今度は若者が雪崩れ込んでくる。「すごいヤッバイ大宴会ですよ先生!」ようやく容赦しなくていい年代がきたので思わずメスを投げた。
「リピート・アフタ・ミー」
次は脳天に刺すという殺意を込めて若者どもを睨む。
「診療所内ではお静かに」「「「お静かに
」」」」「よろしい。用件は?」「あっそのバーにこのカレーをつけると味の深みが」「出てたまるか。それが用件か?」
「いえモヒカンが」
「モヒカン」思わず今度はセプリオギナがリピートしてしまう。なんて?
「褐色銀髪青いコートのがバッド・モヒカンどもを」
セプリオギナは頭を抱える。「便利屋ァ…!」「いや、あいつ人に料理作らせて行ったと思ったら戻ってきて」「やはり特別キツい薬をやらねばならんようだな…!」
「揉め事にはなってないんですけど」
「…」馬鹿な、といいかけて取り下げる。やりかねない。あの男なら。
「ならどうした」
「その」若者は少しためらう。
「負傷者が結構いて」
ため息をつき、立ち上がる。
「分かった、すぐ行く」
患者か。
「連れてこなくて?」「いい。数が多いなら俺が出たほうが早い。せっかくおちつけた診療所を荒らされてもかなわん」
医療トランクを探し…窓の外が見える。
普段なら燃料の消耗を恐れて黒々沈むだろう拠点は、今日は戦闘機のライトがいくつも点けられて明るい。
宙を舞うのはあかりのように飛び回る椿のホロ。
大小様々ひっくり返されて、かろやかに鳴るのはひっくり返した缶詰だ。
誰かがふざけて踊り出す。輪になる。
腹を満たした子供が楽しそうに走り回ってバイクや車に登っている。西洋の妖精を模しているのだろうか?じゃがいもに顔を書いている子供がいる。なぜか一部のグッド・モヒカンが丁寧に統率されて皿や鍋をあらっている。
歌っている。声をあげて。
歌っている。命の限り。
あしたをねがう歌を、歌っている。
明日になれば再び見るのは滅びた都市だ。息をせぬ大地だ。
あらゆる過去に打ち倒されて、すっからかん。
だれもがそれを知っている。だれもがそれをわかっている。
それでも歌う。
明日を歌う。
明日はきっと、いいことがある。
空から見れば、明るさで。
地にいても、歌や響く足音で。
風であっても、料理の香りで。
きっとだれがどこにいても、ここがいちばんにわかるだろう。
みんな笑っている。
頼んでもいないのにセプリオギナへ持ち寄られたいくつもの皿が、外からのあかりでとりどり光っている。
料理はまだ暖かい。
ポトフ。テールスープ。パン。トマトスープ。シンプルな野菜のスープ。バーベキューと思しき野菜の盛り合わせにお粥。チリビーンズ。即席ナン。レーズンバターライスの本格派カレーに、野菜がごろごろ転がるキャンプのようなカレー。
「カレーが多いな」苦笑する。「当然といえば、当然か」開封されたままだったバーを丁寧に包装紙を戻して包む。
スプーンを伸ばしてそれら料理を一口、二口。
「美味い」
いきている。
失った命と共に。
だれも、かれも。
自分も。
「御馳走様」
セプリオギナは一人ごちて、診察室を後にした。
きのうにねがわれ、きょうをいき、あすをめざすものたちのために。
ーー「ヘイお待ちィ!!スープ一丁
!!!」(A cap of soup for Life)(完)
大成功
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