ア・ラッシュ・オブ・ブラッド・トゥ・ザ・ヘッド
走る靴音。パタパタと軽い、しかし必死の息遣いが混ざる全力疾走の調べが、坑道じみた通路を突き抜けていく。岩盤に散りばめられるように埋め込まれた色とりどりの宝石と、ランプ代わりとして燭台に置かれた炎型のルビーがかけっこをする二人を照らした。
追うのは、浅黒い肌をしたドレッドヘアーの少年。小柄で、刺々しいファッションを威嚇するハリネズミめいてまとっている。
追われる側は、半袖シャツに短パンを履いたスポーティな少女だ。翡翠色の髪をポニーテールにまとめ、マラソン選手じみたフォームで少年を引き離す。
滝のような汗を流して駆ける二人の首には、宝石で出来た首輪が嵌められていた。
「ま、待てよ……おい、待てよ!」
「嫌! こっち来ないで!」
徐々に失速していく少年に叫び、少女はさらに足を速める。遠ざかる少女の背を見た少年の顔に、明確な恐怖が浮かんだ。
「頼むよ……! 取らない、お前の宝石は、取らないからっ……! だから、置いてかないで
…………!」
少女はぎゅっと目をつぶって少年の訴えを黙殺した。
真っ暗になった視界に先の光景が蘇る。精神が限界に来てへたり込んだ自分に手を差し伸べる少年。だが、彼の手を取った瞬間、床に叩き伏せられズボンのポケットを探られた。少女が持つ、あるアイテムを求めて。
少年を本格的に振り切るべく両足に動かす。背後で少年が何事か喚いたが、何を言ったかまではわからなかった。加速して、加速して、加速して―――そこで少女の耳は、派手な衝突音と飢えた獣の叫び声を聞いた。
思わず足を止めて振り返ると、うつ伏せに倒れ伏した少年が凄まじい形相で這いずっていた。彼のすぐ真後ろには、円環状の口に牙を備えた六足歩行の巨大ワーム!
「い、嫌だぁぁぁぁぁ! 助けっ……!」
絶望の涙を流して手を伸ばす少年。ワームは穴のような口から緑色の粘液をボタボタと垂らし、少年へと歩み寄る。少女の思考は真っ白になった。
(……?
……、………)
他人の目を借りて世界を見ているような感覚。もはや自分が何を考えているのかもわからないまま、少女は逡巡を繰り返した。
そして永遠めいた数秒が過ぎ。少女は激しく震える足を―――逃げるのに使った。
目が回る。道が激しく歪み狂う。死にもの狂いで怪物を置き去る少女に、少年の断末魔が追いついた。
「ぁぁぁぁあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
水っぽい咀嚼音と破砕音、骨をしゃぶるような音がして、少女の胃が締め付けられた。腹の奥が沸騰し、曲がりくねった道を迷う間もなく駆け抜けていく。やがて、後ろから新しい音が聞こえた。
「ARRRRRGH!」
「GRRRRRRRRRR!」
背後から聞こえるうなり声と足音に、少女は恐慌寸前の顔で振り返った。腹と脳を滅茶苦茶に掻き回されたかのような混乱の中、ひとりでに立ち上がって走り出す。鼓膜にこびりつくのは、置き去りにした彼の断末魔。見えたのは坑道を我先にと進む二体のワーム。
「あ、あああああああああああ……!」
両手で耳を塞ぎ、涙の溜まった両目をいっぱいに見開いて駆け抜ける。遥か先まで続く通路がぐにゃりと歪んだ。耳に残る悲鳴が甲高い耳鳴りとなって、少女に斬り刻まれるような頭痛を与える。
「ああああああ! ああああああああああああ!」
訳も分からず絶叫しながら、少女は足を動かし続ける。彼女にはもう、後ろから鳴り響く獣の咆哮さえも聞こえなくなっていた。
そうして走る少女を映像として映し出す豪奢な額縁の前で、一人の青年が手を叩いて笑っていた。
「はははははは! 見たまえハニー! このアリスはそろそろ『出来上がる』! さっきの少年は残念だったな。キルスコアが3……イイ感じに目がイッてたんだが」
傍らに設えたテーブルからワイングラスを取り上げ、レッドブラックの液体を一口含む。淡い金髪をスーツの襟首まで伸ばし、ギリシャ彫刻めいて彫りの深い顔立ちをした青年は、膝に乗せた少女のビスクドールを愛でながら呟いた。
「今のところ、脱落者が六人に生存者が四か。まぁまぁいいペースで進んでいるな。……ふふ、待ち遠しいのかい? ハニー。だがもう少しだけ我慢してくれ。空腹は最高のスパイスだから」
人形の頬を撫でながら、青年は優しい微笑を浮かべて諭した。
彼がいるのは、いくつかの絵を並べた貴族の令嬢が住むような部屋だ。天蓋付きのベッドに、ドレッサー、クローゼット。全て、青年が人形のために用意した。彼が観賞している凄惨な光景も含めて、全て!
「なぁに、心配せずとも最後の一人はしっかり来るさ。先に死んだ連中も……ま、前菜程度にはなるだろう。だからゆっくりと待とう。君を退屈させなどしないよ……」
青年は、恋人にそうするように甘く囁く。
彼の名はブルーノ。貴石の狩人と呼ばれたオウガであり―――アリスたちを弄ぶ、デスゲームの主催者である!
「さあお前たち、Show must Go on! ハニーに最高のもてなしをしてくれたまえ! はははははははははははははははははははは!」
高笑いするブルーノの前で、額縁は逃げ惑うアリスたちの様子を中継し続ける。
人形は無表情で、その様子を黙視していた。
●
「……と、放っておくとこうなってしまうということでして……」
VTRを終えて画面に顔を映したシーカー・ワンダーは、首をすぼめつつ言った。
オウガが作り出した迷宮で、アリスがデスゲームを強要されるとの予知が入った。
ゲームの主催者は『『貴石の狩人』ブルーノ』。宝石魔術を得意とするオウガであり、様々なゲームを開催しているのだと言う。今回は、『首飛びバニー争奪戦』と題してアリス同士の殺し合いを誘発しているようだ。
まず、集められたアリスは十人。首にブルーノお手製の宝石首輪爆弾が嵌められ、一人につきひとつずつ『自分の首輪を爆破する』ウサギ型の宝石を渡されている。
アリスたちは、他の参加者からウサギ型の宝石を奪って爆殺。最後のひとりになるまでこれを繰り返す―――という、悪趣味極まったゲームである。
「で、最後の一人になれば生き残れるのかというとそんなわけはなく……ゲームに勝ったアリスはブルーノに食べられてしまうんですよねー……」
嫌そうな顔でがっくりと肩を落とすシーカー。
アリスたちはブルーノの迷宮内でオブリビオンが呼び出す怪物たちに追い回され、解放されるまで殺し合う定めとなっている。爆弾首輪はブルーノを倒さない限り解除できないので、まずはアリスたちを保護しながらブルーノ配下のオブリビオンを撃退。最後にブルーノを排除して欲しい。
「ただちょっと気を付けて欲しいのは、今回アリスの人数が多い上に、みんなてんでバラバラに逃げてることですね。全員助けるには人手が必要ですし、迷宮中を一人で回って救出は難しいと思います」
全員助けることも不可能ではないが、正攻法でやっていては恐らく間に合わない。何か工夫が必要となってくるだろう。
鹿崎シーカー
ドーモ、鹿崎シーカーです。なんか妙な定評がついた気がする。
●舞台設定
『『貴石の狩人』ブルーノ』が支配する国でデスゲームが行われています。
国はあちこちに宝石が埋め込まれた洞窟のような迷宮です。ここに10人のアリスが囚われている状態となります。ゲームのルールは以下の通り。
1、アリスは一人につきひとつ、『爆発する首輪』と『首輪を爆破する宝石』を所持。
2、参加者は他人の宝石を奪い、これを砕いて首輪を爆破する。
3、迷宮内には時間経過でオウガが放たれ、アリス殺害に動く。
4、最後に生き残った一人が勝利となる。
皆さんは『アリスを保護・護衛』しつつ、『オウガを殲滅』してください。
●第一章・集団戦『道先案内人』
ボス格のオウガに仕える存在。オウガの命令に応じ、アリスラビリンスの舞台を整えたり、アリスの精神を追い詰めようとしたりする。逃げるアリスに安全な道を案内するように振る舞い、オウガの元まで誘導することも。OPのワームとかコイツのせい。
●第二章・集団戦『こどくの国のアリス』
過去、オウガの犠牲になったアリスがこの姿を取る事があると言われている。真相は不明。彼女たちは集団で現れ幻影を見せる事で犠牲者を増やす。幻影は対象の「しあわせ」の形を色濃く反映させる。
●第三章・ボス戦『『貴石の狩人』ブルーノ』
いたるところに宝石が存在する不思議の国でデスゲームを開催しているオウガの一人。強大な魔法力を持つ自信家で、宝石を用いた独自の魔法を開発して攻撃してくる。連れている人形をなんらかの理由で溺愛している。
アドリブ・連携を私の裁量に任せるという方は、『一人称・二人称・三人称・名前の呼び方(例:苗字にさん付けする)』等を明記しておいてもらえると助かります。ただし、これは強制ではなく、これの有る無しで判定に補正かけるとかそういうことはありません。
(ユーベルコードの高まりを感じる……!)
第1章 集団戦
『道先案内人』
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POW : どうぞアリス、それを連れて一緒にお逃げください
戦闘用の、自身と同じ強さの【アリスを追い立てる獣たち】と【怪我をしているリス】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD : おやおや、オオカミに食べられたのでしょうか?
自身と自身の装備、【任意のアリスである】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ : そうそう、ここから先は道が険しくなっておりますよ
見えない【ように隠れた『道先案内人』による地形変化】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
👑11
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土斬・戎兵衛
『俺ちゃん・おたく・彼/彼女・名前+くん/ちゃん/さん』
俺ちゃんは宝石を持ち帰りに来たんだ
侍営業よりも仕事を早く終わらせるの優先で
道先案内人>アリス の優先度で捜索
救うよりも殺す方が得意なのが俺ちゃんだね
同業と情報を共有して効率良くいこう
UCで【視力】強化、【暗視】、【第六感】も使用
透明化するならば空気の流れや空間の歪み、足跡などを視て位置を特定する
地形変化が起こるなら変化の起き始めた方向を視て、そちらに向かう
力には大抵"起点"というモンがあるのさ……、そこに案内人がいたらモチのロンにバラバラにするよ
案内をありがとねん。おたくらは連れてきてくれたよ、俺ちゃんをお金ちゃんの臭いのする戦場にね
カイム・クローバー
一人称:俺 二人称:あんた 三人称:あいつ 名前:名前で呼び捨て
宝石を散りばめた洞窟でゲームね。胸糞悪いクソゲームの最中じゃなけりゃ、金目の宝石を数個ぐらい拝借したいトコだが。……此処じゃそんな気分にもなりゃしねぇ。
分かるならシーカーに頼んでアリスの情報が欲しい。名前と数点。何でも良い。『味方』。改めて認識する為に。UCを使ってアリスに接触。いきなり現れて助ける、じゃ怪しまれても仕方ねぇだろうけど。……正直、あのキョンシー染みた奴よりはマトモな見た目だろ?
キョンシーには二丁銃で【二回攻撃】と紫雷の【属性攻撃】。戦闘は避けてアリスを集める。宝石は預かりたいんだが、素直に渡してくれねぇか…?
宝石を無数に散りばめた洞窟を、真っ直ぐに駆け抜けていく。
居合い斬りめいた疾走スタイルで風を切りつつ、土斬・戎兵衛("刃筋"の十・f12308)は左右を流れる岩肌に目を釘付けにしていた。赤、青、緑。色とりどりの宝石が照明じみて闇を払い、道行きを示す。
「イイねぇ。大きさはまばらだが、どれもこれも純度が高い。ここにあるの全部売っぱらったら、それこそ孫の代まで遊べるんじゃないのかね。なあカイムくん……」
「気持ちはわかるが、後だ後」
戎兵衛の言葉を遮り、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は厳めしい表情でスマホ画面をスクロールした。戎兵衛があからさまに嫌そうな顔をし、子供めいて唇を尖らせる。
「……まだ最後まで言ってないじゃないか」
「最後まで言わなくたってわかるぜ。俺だって、こんな胸糞悪いクソゲームの最中じゃなけりゃ、金目の宝石を数個ぐらい拝借したいトコだが。……此処じゃそんな気分にもなりゃしねぇ」
そう言って、カイムは液晶画面を睨み続ける。映っているのは、十代の少年少女を被写体にした顔写真とそれぞれの名前、身体的特徴など。ラビリンスに飛び込む前に、グリモア猟兵によって渡されたアリスたちの情報であった。
(こうして突っ走って五分経ったが、アリスの誰にも会えてねえ。まぁ、ワープできるから問題ないといえばないんだが……さて、どいつから行ったもんかね)
口元に手を添えて考え込むカイム。アリスたちに仕掛けられたゲームは第一段階、オブリビオン『道先案内人』が介入している。事前に教えられた能力からして、アリスと一緒にいる可能性が非常に高いが―――。戎兵衛は黙り込むカイムに告げる。
「で、どうするんだいカイムくん。俺ちゃん、とっとと仕事終わらせて宝石取りたいんだけど?」
「侍から探鉱者に転職するか?」
「こんだけお宝埋まってたんじゃ、誰でもツルハシ持つと思うんだけどねえ」
カイムは横目で戎兵衛を見た。彼はこちらに後頭部をさらしているが、ただ単に宝石から目が離せないだけである。カイムは溜め息を吐くと、スマホをコートのポケットに込む。
「……闇雲に走っても仕方ねえか。跳ぶぞ戎兵衛」
「うん?」
ようやく目線をくれた戎兵衛の肩に手を置くカイム。何か察した戎兵衛は遠慮するように両手の平を挙げた。
「あ、いや、俺ちゃんはアリスより道先案内人探したいんだけど……」
「連中ならアリスの傍にいるだろ。案内人っていうぐらいだしな」
「…………あ、なるほど」
戎兵衛が得心して頷く。それを同意と見たカイムは、全身に薄っすらと紫電をまとった。黒いコートの腕を伝って、紫の稲光が戎兵衛にも伝播し包み込む!
「じゃあ跳ぶぜ……舌噛むなよ!」
カイムの瞳が稲妻を発し、視界がバチバチと火花を散らし始めた。ワープする宇宙船めいて加速・飛翔する感覚に包まれたカイムは―――ZGRAAAAAK! 轟雷と共に閃光を放ち、戎兵衛もろとも姿を消した。
一方その頃。迷宮内を駆けるアリスの一人は、息せき切って先行く人影を追いかけていた。網目模様の飴色ジャケットに黒と黄のストライプ柄ハイソックスを履き、濃いピンクの髪を短いツインテールにまとめた少女が、足を動かしながら声を投げる。
「はっ、はぁっ! ね、ねえ、この先で本当にいいの!?」
「はい」
黒子めいた衣装の先導者は事も無げに答えた。
長く垂れ下がった両袖に、顔を隠す東洋魔法陣めいた布。ベールを下ろした帽子を被っているために男女の性も判然とせぬ存在は、『道先案内人』―――デスゲーム・マスターのブルーノが配置したアシストオブリビオンである!
「ちゃんとついてきてください。この迷宮はとても広い。一度迷えば最後、あの怪物どもに見つかり食われてしまうでしょう。奴らは迷宮の外側から円を狭めるようにやってきます。逃げるには、迷宮の中央に行くしかないのです」
淡々とした説明に、パンクファッションのアリスは痰の絡んだ唾を飲み込む。
走り続けてどれだけ経ったか。ざらつく喉が呼気に擦られ、ヒリヒリする。息を呑むたび、首輪がきつく感じられた。うなじを這いずる感覚から逃れるように、アリスはさらに問いかける。
「っはぁ……もし、他の奴に……はぁっ、見つかったら……?」
「お逃げなさい。一目散に」
道先案内人は振り返らず言う。
「彼らは生き残るため、あなたの宝石を奪い取りに来るでしょう。そうなってしまえば、お終いです。私の仲間のように、首輪を爆破されて死んでしまいます」
「っ!」
背中に氷柱を入れられたかのような寒気がアリスを貫く。
開会式と称して行われたチュートリアルにて、集められたアリスたちはゲームマスターを名乗る青年からの説明を受けた。その際、首輪爆破の実例として、ゲームマスターは道先案内人を一人爆殺してのけたのだ。
そして今、アリスを先導する道先案内人は、ゲームマスターに対抗するレジスタンスと己を偽り彼女に接近。言葉巧みに怯える少女をマラソンめいて走らせている。当然、これもゲームマスターの策略である!
足音から少女の足が萎えかけているのを察した道先案内人は、振り返りながら優しく諭す。
「大丈夫です。我々はこの迷宮に長く潜伏し、マップを全て把握しています。生き残るための方法も。安心してついてらっしゃい」
少女は滝のような汗が流れる顔を青ざめさせて頷いた。それを確かめた道先案内人が前を向き直った、その時! 彼の行く先で紫電が弾ける! ZGRAAAAAK!
「むうっ!?」
急ブレーキをかけ、左腕を真横に伸ばしてアリスを制止! 立ち止まり、警戒めいてジリジリ後退する案内人を、アリスは不安げに見上げた。
「な、何……? どうしたの?」
案内人は応えない。素手に超自然の雷は消え、虚空にチリチリと細い電光が残るのみ。その中心に立つ二人の人影が、案内人に一歩踏み出した。
「お、いたいた。本当に跳べちゃうとはねえ」
「顔さえわかってりゃあ余裕なんでな。それに、もう一人いんのも想定内だ。さて……」
ジャキッと音を立てる二丁拳銃。銃口に地獄の番犬をあしらったそれを手中でスピンさせつつ、カイムは道先案内人を睨む!
「悪趣味な鬼ごっこはお開きだ。そいつを解放してもらえるかい」
直後、道先案内人は踵を返してアリスを素早く抱き上げ走る! それまで来た方向とは真逆の道へ! 抱え上げられたアリスは目を白黒させた。
「えっ、えっ
……!?」
「しっかり捕まっていてください! 彼らは危険です!」
二者が全力疾走で遠ざかる。戎兵衛は肩を竦めると、腰に帯びた刀をつかんだ。
「おやおや、しょっぱなから危険人物扱いとはね。ま、否定はしないけど、さ」
姿勢を低くした瞬間、戎兵衛は反射的にのけ反った! 彼の足元から突き上げるトゲめいた岩。顔面を丸ごと抉り取る軌道の一撃をかわされた道先案内人は、肩越しに舌打ちを零す。
「避けましたか……! ならばッ!」
左手一本でアリスを支え、案内人は右手の平を天井めがけて振り上げた。直後、猟兵二人の真上から前後にかけて天井が岩のトゲを無数に生やす! 一瞬戎兵衛に気を取られたカイムはトゲ天井を見上げて叫んだ!
「戎兵衛、走るぞ!」
「承知したッ!」
次の瞬間、ロケットスタートを決める二人の背後でトゲ天井の一部が落下! ワンブロックごとに落ちてくるトゲ天井を背後に二人は案内人を追いかける。
SQUASH! SQUASH! SQUASH! 落下音が追いすがる中、道先案内人はピタリと追随してくる二人を見返る。フリーにしていた右手を打ち下ろすと同時、床からカイムの眉間めがけて岩トゲが伸びた! すれ違う形で回避!
「うおっ!?」
こめかみスレスレを突き抜けた岩の刺突に声を漏らしたカイムは、そのままジグザグにダッシュ! 次々と突き上げてくる尖り岩をかわすも、道先案内人は徐々に距離を引き離していく! カイムは銃口を向け、引き金を引いた。BLAM!
「んむうっ!」
案内人が右手を振り下ろし、銃弾の行く手を岩のトゲを生やして遮った。CRASH! 粉砕する岩片に構わず、カイムは連続で銃撃! しかし道を塞ぐ形で複数生えた岩トゲの柵が弾丸をまとめてしのいで見せた。低姿勢で加速したカイムは両足に紫電をまとわせ、低空ジャンプキックを繰り出す!
CRAAASH! 岩トゲの壁を貫通したカイムは前転着地。片膝立ちで通路の先を見やるが、道先案内人の姿は無い。アリスもだ。目標ロスト! カイムは立ち上がりながら歯噛みした。さらに、ワームの体内めいて通路がうねり、歪み出す!
「クッソ、目くらましか!」
「あー待った待った。落ち着きなよ、カイム君」
追い付いた戎兵衛が、鞘を握った手で鯉口を切った。アンバーの瞳で通路の先を鋭く見据え、柄をつかんで身構える。
「力には、大抵起点というモンがあるのさ……なんでもそう。彼が迷宮歪めて逃げるってんなら……」
SQUASH! SQUASH! 背後からなおも迫る天井落下! 前方のうねる道は左右にわかれ、やがて通路の分かれ目が開いて三叉路に。だが戎兵衛は瞳を一切揺るがせないまま―――抜刀した! SLAAASH!
「必ず、歪曲の開始点がある」
直後、虚空が斜めに裂けて鮮血が噴き出した。二人の後方、カイムが蹴り砕いた岩柵の向こう側でだ!
「ぐ、グワーッ!? グワアアアアアアアッ!」
SPLAAASH! 出血とともに透明化が解け、道先案内人はよろめきながら片膝をついた。アリスを抱きかかえたままうずくまった案内人に、戎兵衛は振り返りながら言う。
「俺ちゃんの目を甘く見たねぇ。おたくの足跡はバッチリ見えていた。あの岩の目くらましを越えるまではね」
「お、おのれッ……!」
布面の奥で歯軋りしながら、己に強いて立ち上がる案内人。腕の中のアリスは縮こまったまま瞠目し、凍り付いている。再び走り出した彼の背中に銃口を向けたカイムは、銃口と両目に紫電を走らせた。
「逃がすか!」
GRRRRRRRRRRRRRRR! マシンガンじみた速度で撃ち出される銀の弾丸が、稲妻をまといながら案内人を撃ち殺さんとす! だが道先案内人の背後にシャッターめいて降りた岩壁が全弾ガード! 黒子衣装を血に染めながら、案内人は低くうめく。
「ハァーッ、ハァーッ……! 隠れてやり過ごすのは無理ですか……! ならばッ!」
案内人の跳躍後ろ回し蹴りが岩壁を打つ! 直後、岩壁の反対側から無数の岩がトゲめいて飛び出し、壁ごとカイムたちに突撃し始めた! 暴走特急じみた速度の串刺し攻撃! カイムはガンスピンリロードを決め、戎兵衛の肩に手を置いた。
「しょうがねえ。もうひとっとびと行くか!」
「手荒なワープだけど……そっちの方が早いか」
苦笑する戎兵衛の全身を紫電が包んだ。岩の壁は真っ直ぐ突っ込み、直撃まで残り5秒、4秒、3秒! カイムは両目を見開いた! SPAAARK! 二人からほとばしる電光に岩の壁が激突! しかし次の瞬間、道先案内人の10メートル前方に稲妻が噴き出し、カイムと戎兵衛が姿を現す!
「ええ、ええ。わかっていましたとも。そう来るだろうと! ハァッ……!」
道先案内人は右足を突き出して急制動をかけがなら、右手の平を二人にかざした。刹那、二人の左右岩壁が波打った。
「思っていましたとも―――ッ!」
岩壁から無数のトゲが出現し、二人を噛み殺さんと閉じる! だがカイムは一切動じないまま拳銃を道先案内人に向け―――BLAM! スミレ色の一閃が道先案内人の右膝に風穴を開けた。
「グワーッ!?」
道先案内人の姿勢がぐらりと揺らぎ、右手の平が斜め上にズレた。岩の牙が生えた壁がギリギリで停止すると共に飛び出す戎兵衛! 居合い斬りスタイルのまま道先案内人へ一気に肉迫し、姿が掻き消して彼の背後に刀を振り抜いた姿勢で再出現!
「案内をありがとねん。おたくらは連れてきてくれたよ。俺ちゃんを、お金ちゃんの臭いのする戦場にね」
SLASH! 一拍遅れた斬撃が道先案内人の首を吹き飛ばす! 左膝がくずおれた案内人の身体からアリスをさらったカイムは、素早く連続バク転で距離を取った。片腕でアリスを支え、もう片方の腕で天井に直撃した案内人の頭部を銃撃!
「一丁上がりだ」
再度の銃撃が案内人の胸を穿った。眉間から脳漿を零す頭部と、首の断面からシャンパンめいて血を吹いた胴体が同時に発光。そして、爆発四散した。
「ふう……」
カイムは一息つくと、拳銃を腰のホルスターに収める。そして、ポカンと口を開けたまま固まっているアリスを見下ろし、出来る限り柔和な笑みを浮かべて見せた。
「メアリ・ハーウェイ……で、合ってるよな? あんた、怪我は無いか? どこか痛んだりは?」
「え……」
少女は瞬きし、しばしカイムをじっと見つめた。目まぐるしい状況変化に置き去りにされて呆然とするアリスに、カイムは再度呼びかける。
「メアリ? どうかしたか?」
「えっ……え、あ、ああ……うん……」
要領を得ないながらも、メアリはこくこくと頷く。ようやく我に返った少女は、近づいてくる戎兵衛とカイムを交互に見て首を縮めた。
「ね、ねえ。アンタたち、誰。始まった時には居なかったよね? っていうか、今の……いや、それ以前に、どっから……」
「落ち着けよ。俺達は便利屋だ。あんたらを助けて来いって言われたんで、遠路はるばるここまで来たんだよ」
「助けるって……でも、あのブラックマンは? ま、まさか……」
少女の顔が血の気を失う。あからさまに怪しむ少女に、カイムは困った顔で頭を掻いた。
「ま、そう思うのも無理はないが……正直、あのキョンシー染みた奴よりはマトモな見た目だろ? で、本題だ。宝石は預かりたいんだが、素直に渡してくれねぇか……?」
「っ!」
直後、少女は顔を赤くし、カイムの下顎を殴り上げた!
「むぐあっ!?」
カイムの腕から転がり落ちた少女は、尻餅をついた姿勢で一気に二人から遠ざかる。明らかに警戒した面持ちで、メアリは喚いた。
「や、やるかッ! アンタたち、やっぱアイツの仲間だろ!」
「あーはははははは。そりゃそうだよねえ」
カラカラと笑う戎兵衛。一方のカイムは殴られた顎をさすりながら、肩を落とした。
「仲間じゃねえって。あんたらをこの胸糞悪いゲームから脱出させるために来たんだぜ、こっちは。助かった後で奪い合われても困るんだよ」
弁解するカイムを、しかしメアリはキッと睨みつける。その頑なな態度を見、戎兵衛は言う。
「カイムくん。時間かかるなら、この辺のお宝ちゃん掘っててもいいかい」
「手伝ってくれるとありがたいんだけどな……」
早速壁の宝石に目移りする戎兵衛とメアリを交互に見て、カイムは重い溜め息を吐いた。
大成功
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ビリー・ライジング
ミリィ(f05963)と共に行動
『俺・お前、呼び捨て・お前ら・苗字or名前で短い方を呼び捨て、ミリィも呼び捨て』
バラバラに逃げるアリスに対して、ミリィと二手に別れる様に行動。
更にUCを発動して、其々がアリスの保護・護衛に向かう。
敵がUCを発動する前に【先制攻撃】【捨て身の一撃】で発動を阻止。
怯えるアリスに対しては【優しさ】【勇気】【覚悟】で護衛を誓約。
敵には【高速詠唱】【属性攻撃】【全力魔法】を込めた炎の魔法攻撃と、
【鎧無視攻撃】【2回攻撃】の魔法剣で撃破する。
UCで創った分身体もプレイングと同様の行動。
得意な魔法の属性は其々違うが、敵の撃破よりアリスの護衛と保護を優先する。
「うっ、うわああああああ!」
坑道内に少年の悲鳴が轟いた。
声の主は、もっさりとした藍色の髪にフード付きパーカーを羽織ったギークの少年。腰を抜かし、背中を壁にぴたりとくっつけた彼の前には、昆虫の甲殻で全身を覆った恐竜めいた姿の怪物が三体! 緑色の唾液を垂らし、うなりながら近づいてくる!
「く、来るな……! 僕は食べても美味くないぞ……!」
青い顔で首を振る少年。怪物の喉元にはバスケットボール大の突起が膨らみ、内部ではトカゲのような縦長の瞳がギョロギョロと少年を見つめている。開いた大口から吹き出した息は腐敗臭がして、少年はくらりと意識を失いかけた。
(こ、こんなのってないぞ……! 僕が何をしたって言うんだ!)
内股になり、失禁を堪えながらアリスの一人である少年は嘆いた。元々インドア派で運動できない彼には不利な、鬼ごっこのデスゲーム。ネットでさえ見ない理不尽の果てに、怪物の餌になろうとしている!
「GRRRRR……」
「GARRRRRR……!」
唾液を垂らしながらジリジリと迫る怪物たち。喉元に着いた一つ目が少年を凝視し、鋭い牙の並ぶ口を開く。少年がぎゅっと両目を閉じた、その時である! 怪物たちの背に飛びかかる者あり!
青みがかったグレーのマントをはためかせて跳躍したビリー・ライジング(輝く黄金・f05930)は、中央の一体めがけて引き絞ったレイピアの刃を逆巻く炎で包み込む!
「炎よ燃えろ! 我が刀剣に魔法の力を!」
「GRッ!?」
振り向く中央の一体に、ビリーは流星めいた刺突を放った! 音も無く着地した彼の背後で、胴体に風穴を開けられた怪物は横倒しになる! ビリーは少年に背を向ける形で立ちはだかり、残る二体に燃え上がる刃を突きつけた。
「下がれ化け物。こいつはお前らのエサじゃない。来るならば…………斬るッ!」
レイピアをひと振りして宣告! 数歩下がる怪物たちとは逆に、恐る恐る目を開いた少年は、ビリーの後ろ姿を見てはっと息を呑んだ。
はためくマントに燃える剣、火の粉を照り返す金の髪。ギークの少年は一時恐れることも忘れて歓声を上げる。
「マ、マジックナイト……? すごい! 本物!?」
「ああ、本物だぜ」
ビリーは少年を肩越しに振り返り、勇ましい笑みで応えた。
「安心しろ。お前は必ず俺が守る。この、炎の剣に誓ってだ!」
先の恐怖も忘れ、少年は目を輝かせた。身構えるビリーは、しかし怪物たちを前に険しい表情を押し隠す。
(とりあえず一人は見つけた。あとは俺の分身とミリィがどうなってるかだが……)
ここに来る前、三人の分身を生み出したビリーは妹と別れ、手分けしてのアリス捜索を決めた。本体である自身はこうしてアリスを発見できたものの、他は一体どうなっているのか―――背後の少年が食われかけていたのを思えば、猶予は無い!
(だからまずは……こいつらを仕留めてミリィと合流! 話はそれからだ!)
「お前、そこから動いちゃ駄目だぞ。危ないからな」
少年はこくこくと頷き、体を縮める。同時に、二体の獣は天井を振り仰いで吠えた!
『ARRRRRRRRRRGH!』
「お食事を邪魔されてご立腹ってところだろうが……こっちはそれどころじゃないんだ。押し通らせてもらうッ!」
ビリーは横向きにした剣を突き出して刃を片手で撫で上げた。紅蓮の炎が黄金色に変色すると同時、一回転して横薙ぎ一閃! BOOOOOOM! 吹き出す金色の爆炎が二匹の怪物を一体目の亡骸もろとも吹き飛ばす!
「ARRRRRRRGH!?」
押しのけられた二体は炎に巻かれながらも着地し、首を打ち振って炎を弾く。そこへ素早く踏み込むビリーが炎に巻かれたレイピアを振り上げた!
「はァッ!」
V字斬撃が怪物二体の眼球を斬り裂いた。吹き出す粘ついた血が炎に焼かれて瞬間蒸発! 絶叫する怪物の声には構わず、ビリーは右の怪物に刺突を繰り出す! 眼球のあった場所を貫く一撃!
「燃えろッ!」
レイピアを伝って莫大な炎が流し込まれ、怪物が口から炎を吐き出す! BOOOOOOOOOOM! 喉を焼かれ、悲鳴も上げられぬまま横倒しになる怪物から剣を引き抜いたビリーは素早くバックステップ! 薙ぎ払われた尾を回避!
「GARRRRRRRRRRRRRRGH!」
視界を失った残り一匹が唾液をまき散らして咆哮。地団太を踏み、尻尾で激しく地を叩きながら大口を開く。蛇めいて二股にわかれた舌を左右に打ち振り、ビリーめがけて正確に突進し始めた!
「目を潰してもこっちの位置わかるのかよ……!」
ぼやきながら、ビリーは流麗にその場で回った。地面にレイピアで刻んだ円が炎を吹き出し、ビリーの足元に燃える魔法陣を描き出す! 足元で爆ぜた業火をまとい、徹底抗戦の構え! アリスを庇い、後には退けぬ!
「なら真っ向からやってやる! 来いッ!」
「AAAAAAAARRRRRRRRRRGH!」
怪物は大口を開き、生えそろった鋭い牙でビリーに噛みつく! 垂直回転ジャンプ回避したビリーは、真っ直ぐ掲げた剣に炎をまとわせ―――振り下ろした! CABOOOOOOOM! 爆轟を叩き落とされ地に伏せる巨体!
「もう一発だ」
レイピアを逆手に持ち替え、ビリーは切っ先を怪物の口吻に突き下ろした! 昆虫標本めいて口を地面にぬい留められ、後ろ脚をばたつかせて怪物がもがく。レイピアを押し込んで怪物の動きを封じ、ビリーは全身を包む炎を燃え上がらせた!
「焼き尽くせ……全てなる臨界点!」
BOOOOOM! 炎が黄金色に代わり、ビリーの髪を聖火めいて燃え立たせる! 左掌がレイピアの柄に押し当てられると同時、怪物は刃伝いに炎を流し込まれて体を風船じみた膨らませる。逃げ場を失くしたエネルギーが、怪物を爆散せしめた!
粉微塵に消し飛んだ怪物の死体を余所に、ビリーはレイピアは取り回して周囲を警戒。少年を襲っていた怪物三匹は滅び、次の敵が来る気配もない。ビリーは神経を尖らせながら、少年の方を振り返った。彼は正座めいた姿勢で前のめりになっていた。
(あっちは無事、みたいだな)
密かに胸を撫で下ろし、ビリーは少年へと近づいていく。瞳を輝かせていた少年は勢いのまま立ち上がり、ぴょんぴょんジャンプしながら手を叩く。
「ぶ、ブラボー! 凄い! やっつけちゃった!」
「ああ、ひとまずは安心だ。怪我は無いか?」
「大丈夫! ね、ねえ、今のどうやったんだ!? あのマジック、僕にも使える!?」
「その話は後だ」
ビリーは言うと、一瞬屈んで少年の腹を肩ですくい上げるように担ぎ上げた。
「うわっ!?」
「暴れるなよ、落っこちるぜ」
驚いた少年は釘を刺されて身を固める。彼はやがて、自分が追い詰められていた岩壁に背を向けたビリーに見返りながら訪ねた。
「あの、これからどうするの……?」
「とりあえず、ミリィ……ああ、俺の妹とひとまず合流する。首尾よく行ってれば、俺の分身も入れて四人は助かってるはずだからな」
「助けるって……」
言葉の意味を察した少年は、顔を青ざめさせて手足を激しくばたつかせ出した。泡を食ったビリーは思わずよろめく!
「ま、待ってくれ! 僕は無理だ! 他のやつと会ったら殺される!」
「うおっ! 暴れるなって! 落ちる落ちる!」
両足を踏ん張り、なんとか少年を支えるビリー。この隙に攻撃されないよう、周囲に素早く目を配ってから、少年に言い聞かせた。
「安心しろ。お前を誰にも殺させやしない。必ず俺が守ってやるから」
少年は暴れるのをやめて顔を上げ、不安げな眼差しをビリーに向ける。
「……本当?」
「ああ。信じられないか?」
問い返され、黙り込む少年。目に浮かぶのは、自分を庇って立つビリーの背中と逆巻く炎。ゲームの中で少年が操り、そして誰より焦がれた存在の言葉を―――彼は、信じることにした。
「……絶対、だからね?」
「大丈夫だ。絶対に守り抜く。俺の剣に誓って、な」
優しい声音で言うと、ビリーは素早く走り出した。坑道の奥に消えていく二人は、気晴らしに他愛の無い会話を始める。切り出したのは、少年だった。
「ねえ、さっきブンシンって言ってたけどさ。あんた、ニンジャなのか? ナイトじゃなくて?」
「ナイトでも、分身は出来るんだよ。俺と同じ炎魔法を使う分身、水の魔法を使う分身、風の魔法を使う分身の三人を呼び出せて……俺が信じる限り、無敵なんだ」
「へぇー……! 俺にも出来るかな?」
「もちろん、出来る。全部終わったら、少しやってみるか?」
「いいの!?」
「ああ……」
大成功
🔵🔵🔵
ミリィ・ライジング
ビリー(f05930)と共に行動
『私・あなた、~さん・皆さん・苗字or名前で短い方にさん付け、
ビリーは「お兄ちゃん」と呼ぶ』
バラバラに逃げるアリスに対して、ビリーと二手に別れる様に行動。
アリスを誘導する敵に対して、龍雅のリボルバー銃で【クイックドロウ】で先制攻撃。
怯えるアリスに対しては【礼儀作法】【優しさ】【慰め】で丁寧に対応。
逃げ回ってる時に傷ついているなら【医術】で治療。
アリスの【手をつなぐ】ことで離れないようにしたら、
隠れた敵をあぶり出す為に、私に【投擲】【高速詠唱】【破魔】。
龍雅には【援護射撃】【乱れ撃ち】【制圧射撃】を付与させて、
出てきた時には私と龍雅の【一斉発射】でトドメをさす。
ビリーのアリス保護より数分前。ミリィ・ライジング(煌めく白銀・f05963)は、袖の余ったフリースを着た少女の手を引いて逃走する道先案内人に猛追していた! 前傾姿勢で両手を後方に流し、風めいて走る彼女を道先案内人が振り返る!
「ヌゥッ……追ってきますか!」
「逃がさないわ! その子を離しなさいッ! 龍雅!」
銃の形にした右手を道先案内人に向けるミリィ! 次の瞬間、彼女の体を包んだ白銀色のオーラが幽体離脱めいて離れ、短刀とリボルバー銃を両手に持った和装の霊に変化した! 化身・坂木龍雅は拳銃を道先案内人に向け発砲!
BLAMBLAMBLAMBLAM! 銃声を背後に、前に向き直った道先案内人は目前に右手人差し指と中指を立てた。直後、彼が通った道が粘土めいてぐにゃりと歪み、岩の壁を噴出させる! 全弾防御する防壁に、ミリィは跳躍!
「逃がさないと……言ったでしょうッ!」
岩壁の上に着地し、再度ジャンプ! 龍雅は背後を振り向いて引き金を引いた。BLAM! 銃撃の反動を利用しての急降下飛び蹴りを繰り出すミリィ! 狙いすました一撃が道先案内人の後頭部を狙う! その場で屈み込む案内人!
「ふんッ!」
道先案内人の青白い拳が振り上げられ、硬い岩の床を叩く! 刹那、岩の床はカタパルトめいて跳ね上がり案内人をアリスもろとも後方に射出! 跳び蹴りを回避され、転がって着地するミリィの化身がアリスごと吹っ飛ぶ案内人に短刀を投げた!
風を切る刃が、とっさに掲げられた道先案内人の前腕部に命中! 低くうめく案内人めがけ、クラウチングスタートめいた体勢を取ったミリィはロケットスタート! 空中でのけ反り、アリスごと背中から打ち据えられた案内人に肉迫していく!
「取ったッ!」
「いいえ、まだです……ッ!」
アリスを離した手で短刀を抜き取った案内人は、それをミリィに投げ返した。回転しながら飛来する刃を、龍雅が銃撃! 甲高い音を立てて刃が跳ね上がったそこに道先案内人とアリスの姿は無い!
「透明化……! けれど、このまま逃がすわけには!」
奥歯を噛みしめたミリィは高速思考。持ち得る手段で、何の手を打つべきか! ミリィは左手を打ち振って数枚の護符を取り出し、一回転して周囲に投げた! 吐く銀色のオーラに燃える紙は周囲の岩肌にへばりつく!
「木剋土! 悪しき土気、砂塵となりて散りなさい!」
ミリィが拍手を打つと同時、符の貼りついた岩壁が一瞬で塵となって吹き荒れた。即席の砂嵐に目を凝らした龍雅は、即座にリボルバー銃をぶっ放す! BLAM! 砂塵の中で血飛沫が飛ぶ!
「グワーッ!?」
透明化していた道先案内人が姿を現し、もんどりうって転倒! ごろごろと転がる彼の後方では、同じくうつ伏せに倒れ伏した少女が両手を床につけて起き上がった。
「いったーい……」
だぼついた上着の襟で隠れた口がか細く呟く。なんとか上体を起こした彼女に、駆け寄ったミリィが素早く屈み込む。
「大丈夫ですか!? どこか、怪我は……」
言いながら、ミリィの視線は少女の膝に向けられた。両膝の皮が擦り剥け、砂と血で赤黒くなっている。ミリィは即座に状況判断。取り出した二枚の護符を少女の傷口に絆創膏めいて張りつけ、指先に灯した銀色のオーラを燃え移らせた。
「これでよし。放っておけばすぐ良くなります」
「かゆい……」
「掻いたり、剥がしたりしちゃ駄目ですよ。痒いのは傷が治ってる証拠ですから」
護符周りの皮膚をもどかしそうに掻く少女は、琥珀色の瞳でミリィを見上げる。ミリィは柔和な笑顔を浮かべ、少女に片手を差し出した。
「初めまして。私はミリィ・ライジング。あなたを助けに来ました」
「助けに……?」
差し伸べられた手をじっと見つめるアリスの少女。他方、地に伏した道先案内人は右のふくらはぎ部分を血で真っ赤に染めながらも立ち上がる!
「ヌウウウウウッ……! その娘から離れなさいッ!」
蒼白い両手で地を叩く道先案内人! 彼の周囲で岩が波打ち、尖った岩の矢を無数に放つ! 素早く少女を庇う位置に立ったミリィは手裏剣をマシンガンめいて連続投擲! 次々と岩の矢を破壊していく!
「龍雅っ!」
「オオオオオオ……!」
化身が声を上げ、拳銃の連射する! 岩の矢の隙間縫った鉛弾は、しかし道先案内人の目前にそびえた岩壁に阻まれた。
「はっ!」
THROW! 投げ放たれた手裏剣は回転しながら岩壁に突き刺さり、命中箇所から植物の根を亀裂めいて壁全体に張り巡らせる! 侵食された岩の障壁は安普請じみて崩壊! 五行相克の理により木気が土気を押しのけたのだ!
「ヌゥ……ならば!」
道先案内人は再度床を叩いて立ち上がった! 彼の右足側面の岩盤に波紋が生まれ、そこから長く生えた岩の槍を引き抜く。槍を回転させて背後に振りかぶった道先案内人は腰を落として身構える!
「先ほど、アリスたちを狙う不埒な輩が居るという情報が仲間伝手に入って来ました。貴女たちにアリスは渡しません!」
「こっちの、台詞よッ……!」
ミリィは少女の手を握る。直後、道先案内人は槍をアンダースローで投げつける! 飛来する一刺しを龍雅の銃撃が破壊し、ミリィは反撃の手裏剣投擲! 回転ジャンプで手裏剣を飛び越えた道先案内人は上下反転して天井に着地、拳を振り下ろす!
次の瞬間、ミリィ真上の天井から鍾乳石が垂れ下がるように岩の槍が出現! 反射的に頭上を仰ぐミリィに槍が放たれる!
「龍雅、防御ッ!」
ミリィの命を受けた龍雅は回収していた短刀を逆手に握り、斬撃で岩の槍を弾いた。刹那、ミリィの左肩に尖った岩の矢が命中! 思わずよろめいたミリィは視線を下げるが、道先案内人はいない! 透明化したのだ!
「先のようには行きませんよ、猟兵! ハイヤァァァァァァァッ!」
ミリィは少女の手を引き、とっさにバックステップ! 引っ張られた少女を受け止めると同時、背後の地面から岩の槍が心臓をめがける! 肩越しにこれをみたミリィはギリギリで身をひねって回避。背中を浅く切っ先が抉る!
「くっ……!」
前後反転して屈み込んだミリィは、即座に走り出す! ひとまず少女を安全な場所へ! だが彼女の目の前をシャッターめいて降りた岩の壁が塞ぎ、さらに壁面から飛び出した無数のトゲが少女もろともミリィを貫かんとする!
ミリィは少女を抱きかかえたまま左手首をスナップして護符を投擲! 銀色のオーラをまとった札は虚空で静止し、オーラはバリアめいて展開した。ZGRAAAAAK! バリアに突き立つ岩のトゲ!
「逃がしはしませんよ! アリスは返して頂きますッ!」
ミリィは反射的に後ろ回し蹴りを繰り出し、背後から迫る岩の矢を蹴り落とす! 退路はふさがれ、敵は見えない!
(だったら……!)
少女を下ろしたミリィは、握った手を離さないまま逆の手で複数の手裏剣を扇状に開く!
「龍雅! 一気に炙り出す!」
「オオッ……!」
龍雅が応えると同時、ミリィは手裏剣に白銀のオーラをまとわせて放射状に投擲! 透明化した道先案内人は内心でせせら笑い、前方回転跳躍して回避! 姿勢を解くと同時に逆手に握った岩槍を振りかぶり、ミリィの眉間に狙いを定めた。
(当てずっぽうの攻撃など! 貴女はここで始末しますッ! 他の猟兵ともども、ゲームマスターの手の者として信用を失墜させてあげましょう!)
槍を持った腕を限界まで引き絞る道先案内人! だが瞬間、龍雅はリボルバーの撃鉄に手の平を当て、素早く擦るようにして拳銃を乱射する! BRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR! 機関銃めいて乱れ飛ぶ銃弾の数々が案内人を穿つ!
「グ、グワーッ!?」
「そこよ龍雅ッ!」
虚空で上がる血飛沫と悲鳴を捉えたミリィが再度手裏剣を構え、連投! 連投! 連投! 龍雅のリボルバーもまた弾切れ知らずで発砲を続け、案内人をスイスチーズじみて穴だらけにしていく! ミリィは最後の一枚を取り出し、大きく振りかぶる!
「お兄ちゃんの真似じゃないけれどッ! 炎よ!」
ミリィの手中で白銀色の炎が手裏剣を包む! 限界まで腕を振り上げたミリィは、透明化が解け落下しかかる案内人の心臓めがけ、踏み込みながら手裏剣を投げた!
BOOOOOOOM! 銀炎の尾を引きながら飛んだ手裏剣は狙い違わず案内人の心臓を貫通! 風穴の空いた体に、龍雅は容赦なく叩き込んでいく! 空中で死のダンスを踊る案内人!
「グアッ、グアアアアアアアアアアアアアッ!」
断末魔の悲鳴上げる案内人に、BLAMN! 撃ち出された最後の一発が脳天を粉砕! 背中から地に落ちた案内人は橙色に発光し、爆発四散した。
大成功
🔵🔵🔵
マリアベラ・ロゼグイーダ
アドリブ・連携可『私・あなた・~さん+(同年代以下は呼び捨て)』
出会ったアリスは確実に助けるとしましょう
ごきげんよう、アリス。今日も狂った素敵な日ね
良かったら話に……いえ、その前に煩い奴らをどうにかしましょうか
追いかけてきた敵にはトリニティ・エンハンスで傘に魔力付与して攻撃。ワームだし炎が苦手かしら。よく味わいなさいな
敵を無力化したら次の敵が出る前に道先案内人に攻撃
周辺に敵の気配が無い様ならアリスを落ち着かせる
見て分かる通り私はアリスでもないしオウガでもないわ
むしろオウガは嫌いだから殴……倒しに行こうと思っていたの
あなたも協力してくださらない?
終わったら安全な場所へ送る約束もしましょう
トリテレイア・ゼロナイン
悪辣な催し物、アリス達の精神の負担は如何程か…早く救出しなければなりませんね
UCを放ち●情報収集、透明にされても音や振動、足跡の痕跡を手掛かりに発見に努めます
当たりをつけたら機械馬に●騎乗し急行
貴方達を全員救い、デスゲームを終わらせる為にここへ参りました
●礼儀作法と●優しさを感じさせる声音で騎士の様に振舞い、信頼を得て馬上に保護
パニック状態ならワイヤーアンカーを射出し●ロープワークで確保
落ち着くのを待ちます
保護したアリスが生き残る為に他のアリスを害す危険性にも気を配っておきましょう…
敵はセンサーによる熱源索敵で敵の位置を●見切り、●怪力によるランスで●串刺しや馬の●踏みつけで蹴散らしてゆきます
「待てッ……待てよ、このッ……!」
浅黒い肌をしたドレッドヘアーの少年が、全速力で翡翠色の髪をした少女を追い回す。少女発見から一分ほど経ち、その間全力で走り続けている。が、少女の足は速く一向に追い付けない。少年は奥歯噛みしめ、汗だくになりながら加速した。
(に、逃がすか……! 死にたくない! 死んでたまるか!)
鋲付きジャケットの右ポケットが、走るたびに上下する重みを伝えてくる。彼に嵌まった宝石の首輪と連動する起爆スイッチだ。なんとか奪われずにここまで来たが―――それだけでは生き残れぬ! 殺さねば殺されるのだ!
(絶対、絶対、捕まえるッ……!)
少年が歯を食いしばり、両足にさらなる力を注ぎ込んだ直後―――CRAAASH! 破砕音と共に坑道が激しく揺れた。音源は少年の背後! 思わず振り返った少年の目に、砂塵立ち込める通路奥の光景が飛び込む。
肩越しに振り向いた状態で足を止める少年。不気味な沈黙を破ったのは、渦巻く砂煙の中から響く重い足音。そして!
「ARRRRRRRGH!」
「MYAAAAAAAAARGH!」
砂埃の中から三体の巨大ワームが飛び出した! 鋭い牙の生えた円形の口から唾液を滴らせ、かぎ爪の生えた四本脚で地を叩く。少年の背中を怖気が這い上がり、少し先で立ち止まっていた少女が悲鳴を上げた。
「きゃああああああああああっ!」
少女の声で我に返った少年は、ワームたちに背中を向けて再度駆け出す! いち早くスタートしていた少女を追いかけ始めた。必死の形相に恐怖が混じる。その背後から迫るワームたち!
「MYAAAAAAAAARGH!」
「GARRRRRRRGH!」
激しく波打ちながら猛追する長虫三匹。しかしアリスを食い荒さんと追い回す怪物たちの後方から、追い上げをかけてくる者あり! 白銀の機械馬にまたがったトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、スリット状のアイシールドからマシンアイの光を放った。そして馬に二人乗りするマリアベラ・ロゼグイーダ(薔薇兎・f19500)に告げる。
「発見しました。マリアベラ様!」
「あの気色悪い害虫の奥ね?」
言いながら、マリアベラは機械馬の背中に起立。トリテレイアの左肩に手を置き、半身でバランスを取りながら目を光らせる。
「虫の方、ちょっとだけ任せていいかしら?」
「承知しました。マリアベラ様はアリスの保護を!」
「当然よ。……飛ばして、トリテレイアさん。アリスたちが、あの化け物に食われる前に」
「では参ります!」
トリテレイアが鬨の声を上げると共に、機械馬がいなないた。岩盤を打ち据える蹄の足音がペースアップ、ワームたちの尾に接近していく! トリテレイアはマリアベラに当たらぬよう背負っていた馬上槍を引き抜き、左手に盾を構えた。
「跳躍します! 3、2、1……!」
機械馬がジャンプ! 坑道の天井スレスレまで浮いたサイバー騎馬は放物線を描きながらワームたちの胴体を越え、頭上に到達。そのまま四本脚をそろえて落下し、三匹のうち中央でうねる一匹に、SQUAAASH!
「AAAAAARGH!?」
ストンプを食らったワームが唾液を吹き出す! 構わず突撃を続ける二体のワームを、機械馬の背からムーンサルト跳躍したマリアベラが追い越した。彼女は少年の前に着地し、彼の腹を担ぎ上げる。少年は驚き激しくバタつく。
「うわっ!? わっ!?」
「ごきげんよう、アリス。今日も狂った素敵な日ね。良かったら話を……いえ」
左肩に少年を担いだまま、マリアベラは右手下げた白い傘をくるりと回す。フェンシング選手めいて石突を突きつけた先には、迫りくるワーム二匹!
「その前に煩い奴らをどうにかしましょうか」
マリアベラが柄を握りしめた瞬間、傘が白い炎をまとった。距離を詰め、自分ごとアリスを捕食せんとするワームたちにマリアベラは鋭く一歩踏み込んだ! BOOOOOM! ワーム二体が同時にのけ反り、喉笛から白い爆炎を噴出!
『MYAAAAAAAAARGH!』
「ワームだし炎は苦手かしら。よく味わいなさいな」
冷淡に告げ、マリアベラはその場で一回転し傘を横薙ぎに振るう! 合わせて放たれた爆炎に飲み込まれたワームたちは薄気味悪い悲鳴と共に大きく頭部を振り上げた! 傘の神速刺突で穿たれた喉が鮮血めいて白炎を噴く!
『ARRRRRRRRRGH!』
よろめき、体をくねらせながら絶叫する長虫二匹。直後、その合間を縫った機械馬がマリアベラの頭上を飛び越す! 彼女の背後にトリテレイアが馬ごと着地した刹那、先を行く少女の悲鳴が坑道に響いた。
「マリアベラ様、こちらはお任せ致します! 私はあちらのアリスを!」
「ええ。こんな化け物の餌になんかしたら……承知しないわよ」
マリアベラが肩越しにくれた一瞥を最後に、トリテレイアは馬を全速力で走らせる! 右手に突撃槍を引き絞り、タワーシールドを備えた左腕を前方へ。行く先では、床を突き破ったワームに尻餅をつく翡翠髪の少女!
「いや……来ないで! 来ないでよぉぉぉっ!」
恐慌に陥り、激しく首を振る少女! 動けなくなった獲物にワームが牙を剥いたその時、トリテレイアの左腰から機械アームが展開された。新たな腕は拳をアリスに照準し、ワイヤーを射出! 少女の首根っこに鋼線接続!
「少々手荒になりますが……どうかお許しを!」
謝り、トリテレイアはワイヤー巻き取り機構を作動した。ワームが大口を開けてアリスに食らいつく刹那、ロープアクションめいてアリスを引っ張り寄せ救出! そのまま砲弾じみて飛来した少女を、トリテレイアは二本の左腕でキャッチした。覆い被さる大盾に視界を塞がれた少女は激しく暴れる。
「やっ、いやあああああっ!」
「気を確かに。どうか落ち着いて」
優しく語りかけ、トリテレイアはアリスを抱き寄せる。びくっと身を震わせた少女は、しかし暴れるのをやめてトリテレイアの横顔を見上げた。泣き腫らした彼女の目を、トリテレイアが真っ直ぐ見返す。
「貴女たちを全員救い、デスゲームを終わらせる為にここへ参りました。大丈夫。死なせはしません。必ずや……」
「MYAAAAAAAAARGH!」
憤怒の咆哮を上げ、ワームがトリテレイアめがけて突進! 噛みかかる怪物に向き直った機械騎士は、前傾姿勢で槍を構える!
「貴女たちを、元居た場所に帰します! 傷ひとつなくッ!」
宣言と共にトリテレイアのサイバー騎馬は加速する! 真正面から突っ込んで来るワームに対し、機械の馬はわずかに軌道を右に逸らした。騎馬の生えそろう口がアリスを庇う盾に衝突して斜めに跳ね返る。反ったワームの首筋めがけ、トリテレイアは上体をひねって槍を放った!
「せいッ!」
槍が深く突き刺さり、ワームの下半身が激しくのたうつ。トリテレイアはワームを穿ったままの槍を旗めいて振り回し、掲げた槍を振り下ろす! 槍の先端を外れたワームの頭部を投げ出すと共に、機械馬は真後ろに跳躍。空中前後反転を決めて着地!
一方のマリアベラは、ジグザグバックステップで交互に噛みかかるワーム二匹を回避する。牙が岩盤を砕き、破片が担がれた少年の頭上を貫通!
「ひぁっ!?」
「女の子みたいな声ださないの。舌噛むわよ」
クールに告げ、マリアベラは軽やかにジャンプしてワームの下段噛みつきを回避!
上下反転して天井に着地し、引き絞った傘の石突に白い炎をまとわせて墜落刺突を繰り出した! 縦一直線に突き下ろされた一撃がワームの巨体を深く射抜く!
「MYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAARGH!」
身を反らしたワームの片割れが頭部を地に打ちつけて抵抗! うねる体に降り立ったマリアベラは眉ひとつ動かさぬまま、傘をひねった。昆虫標本めいて刺されたワームの口から白の炎! BOOOOOM!
「ARRRRRRGH!」
体内に直接炎を叩き込まれたワームはビクビクと痙攣しながら足の爪で岩を引っかく。その時、マリアベラとドレッドヘアーの少年に大きな影が覆い被さった! 鎌首をもたげたワームの口を見上げた少年は、震えあがって激しくばたつく!
「う、上っ! 上ーッ!」
「GRRRRRRRRRRRR!」
真上から捕食を敢行するワーム! 頭を抱えた少年が絶叫すると共に、マリアベラは傘の柄を捩じって引き抜いた! SLASH! 白銀の一閃がワームに走り、頭部を真っ二つに引き裂く!
「GRR……ッ」
左右に分かれた長体がマリアベラと足蹴にされたワームをかすめて床に突っ込む。
そのまま串刺しにされた個体に覆い被さる形で倒れるのを確認し、マリアベラは細身の仕込み剣を傘に収めた。傘で貫いたもう一体は動かない。傘布部分が引き抜かれると同時、ガタガタと震えていた少年が恐る恐る目を開いた。
「あ……あれ
…………?」
顔を上げ、周囲を見渡す少年。そこは恐れていたワームの体内ではなかった。それどころか、捕食者たちはマリアベラの足元で死んでいる! 唖然とするアリスの少年を、マリアベラは軽く担ぎ直した。
「怪我とかない?」
「へっ?」
少年が素っ頓狂な声を上げる中、蹄を鳴らしてトリテレイアがマリアベラの下に合流。それをやや離れた壁に隠れて監視していた道先案内人の一人は、驚愕に動悸する心音を聞いた。
(馬鹿な……!)
透明化した彼が埋もれているのは、トリテレイアが打ち倒したワームの死骸すぐ近くの壁。地形変化の能力を使って壁の中に空洞を作り、そこに入ってアリスたちを監視しながら迷宮や捕食者を操作していたのだ。
(想定では、あの少女の足を食らわせ、殺し合いに発展させるはずだった……! 双方食い殺されてもそれで良し! そのはずだったが……!)
内心で呻く道先案内人。しかし彼の計略は失敗に終わり、命懸けの鬼ごっこをしていた二人は傷ひとつ無いまま保護された。
道先案内人は選択を迫られた。すぐに次の一手を打つか、一旦退くか。猟兵二人がかりに対し自分一人で出来ることは限られている。だが退いてブルーノに逃げられたと判断されれば―――道先案内人は身を震わせた。
(私は既に生命を超越した身、もはや死など怖くはない! だが、だが…………上位者の制裁は恐ろしい!)
案内人は壁の裏側に手を当てた。彼の隠れていた場所が自動ドアめいて開かれると同時、足音を殺して滑り出す。猟兵二人に背を向け、ワームの隣をそっと歩きながら思考を回した。
(ひとまず、同胞に救援を……! 数人がかりでトラップを張り巡らせれば、猟兵と言えども……)
刹那、案内人の胸から何かが突き出す! 動きを止めた案内人は、ゆっくりと視線を下げていき―――胸から生える、黒いトゲ状の物体を認めた。肩越しに振り返れば、背中側から白い傘が伸びている。マリアベラが持っていた傘だ! 案内人は吐血!
「がふッ……!」
案内人の輪郭が陽炎めいて揺らぎ、蒸発するように透明化が解除される。白日の下に姿をさらした道先案内人は、真っ直ぐ自分を見つめるマリアベラとトリテレイアの視線を見返す。当てずっぽうではない。狙ったのだ! 透明化した自分の胸を!
「ばッ……馬鹿、なッ……! 何故……!」
機械馬を降りていたトリテレイアが、槍の無い右手を掲げた。軽く曲げた彼の人差し指に腰掛ける小さな物体。四枚の薄い光翅を生やし、顔は鼻と口の無い鉛色の鉄仮面。機械仕掛けのフェアリーを左腕に抱えた少女に渡し、トリテレイアは言う。
「御伽噺の騎士に導き手の妖精はつきものです。これが私たちをここまで導いてくれていたのですよ。もっとも、壁の中に貴方がいることまでは想定していませんでしたが……出てきたとなれば、話は別です」
「のこのこ出て来てくれて助かったわ。これで少しは落ち着けるかしら」
マリアベルが言い、肩の少年を床に下ろした。道先案内人は両膝をつく。
「ご、ごふっ……!」
布面の裏を吐血で濡らし、彼はうつ伏せに倒れ伏した。その体が橙色に発光し、爆発四散! 爆風に吹き飛ばされ、回転しながら戻ってきた傘をキャッチしたマリアベラは、改めて少年を見下ろして言う。
「さて。見て分かる通り私たちはアリスでもないしオウガでもないわ。むしろオウガは嫌いだから殴……倒しに行こうと思っていたの。あなたも協力してくださらない?」
「きょ、協力って……でも……」
少年はトリテレイアの方を見た。彼の盾から顔をのぞかせた少女が、怯えて頭を引っ込める。トリテレイアは少女をあやすように腕を揺らしつつ、少年に視線を合わせた。
「他のアリスに手出しはさせません。当然、貴方も殺させません。私たちは貴方たちに殺し合いを強要していた者を倒し、全員をここから解放します。デスゲームは中止です。いいですね?」
光る目にじっと見据えられ、少年は首を縮めてこくこく頷く。威嚇的なファッションに反して気が小さい彼の背中を、マリアベラが軽く叩いた。
「わかったならいいわ。……行きましょう。長居は無用よ」
大成功
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第2章 集団戦
『こどくの国のアリス』
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POW : 【あなたの夢を教えて】
無敵の【対象が望む夢】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : 【わたしが叶えてあげる】
【強力な幻覚作用のあるごちそう】を給仕している間、戦場にいる強力な幻覚作用のあるごちそうを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : 【ねえ、どうして抗うの?】
自身が【不快や憤り】を感じると、レベル×1体の【バロックレギオン】が召喚される。バロックレギオンは不快や憤りを与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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●断章
少女部屋に、きつい歯軋りの音が響いた。音源は口元に片手を当てたブルーノ。顔を憎々しげに歪めた彼は、少女人形を抱いたまま唸るように呟く。
「嗅ぎつけて来たか、猟兵ども……! 俺の、俺のデスゲームを……ハニーに捧げる至高の料理を……!」
ブルーノは目を閉じ、逆の手で人形を撫でて気を落ち着かせる。手駒は残っており、保護されていないアリスも残っている。ゲームはまだ終わっていない!
目蓋を開いたブルーノは、ポケットから取り出した宝石をトランシーバーめいて構えて命令を繰り出した。
「バロックレギオンを放て。アリスを一人たりとも逃がすな!」
●お知らせ
第二章に以降します。『こどくの国のアリス』が迷宮内にバロックレギオンを解放しました。保護されていないアリスが二人残っています。バロックレギオンを倒しながら『こどくの国のアリス』を探し、これを撃破してください。
プレイングボーナスは、『残ったアリスの探索と保護』及び『こどくの国のアリスの探索』です。
途中参加は大歓迎です。
カイム・クローバー
一人称:俺 二人称:あんた 三人称:あいつ 名前:名前で呼び捨て
結局、メアリから宝石は受け取れなかった訳だが…しゃーねぇか。
別のアリスを救出に行くが、参加者同士の奪い合いだけは注意しとくぜ。
UCを使ってアリスの元に移動。主催者はなりふり構わなくなった。感情で動くレギオンの団体様が向かう先にアリスの存在、更にそれを遡って行けばこのペットの飼い主が居るって訳だ。
銃で【二回攻撃】、紫雷の【属性攻撃】交えて【範囲攻撃】でレギオンを消し飛ばす。アリスの救出優先だが、その後は飼い主をお仕置きしに行くぜ。
一応、伝えとく。お互いに宝石の奪い合いは止めとけ。普通の人間が誰かを殺せば……一生、後悔する事になるぜ?
荒い息を押し殺しながら駆けた少年アリスが、迷宮の曲がり角で背中を壁に貼り付けた。黒いTシャツの襟を口元に持ち上げ、頬を伝う汗をぬぐいながら深呼吸を繰り返す。じりじりと顔を曲がり角に近づけ、そっと奥の道を確かめる。
行先の通路は静まり返り、見る限りでは異常なし。来た道を振り返っても、外敵らしい影は無い。少年は長く深く息を吐き、ずるずるとその場に座り込んだ。
(と、とりあえず逃げ切れた……)
張り詰めた心拍が緩慢になり、思い出したように汗が吹き出す。時間制限のあるデスゲームの最中だが、体力もそろそろ限界に近い。気を急かして他の参加者を探し回ったのもあるが、途中で怪物に追い回されたせいでもある。
少年は休憩しながら、来た道の方をチラチラと伺った。T字路を曲がろうとした彼を待ち構える八つの赤い目。脳裏に焼き付いた光景に背を震わせながら、少年は疲れ始めた思考を回す。
(けど変だな……。化け物は会場の外側から来るって言ってなかったっけ。知らないうちに外側の方に行っちゃってたのかな……)
ゲーム開始時点で、少年は少々時間をかけて会場の外側と内側を確かめながら、迷わぬように工夫した。結果として大きくタイムロスしてしまったが―――その分、迷路の向きは把握できたはずだった。それがまさか、怪物にバッティングするとは。
(もっかい確かめた方がいいかな……でも時間が……早く誰か見つけないと……)
ごくりと唾を飲み込む喉の動きが、嵌められた宝石の首輪を感知する。全身の汗が冷え、肌から温度を吸い上げ始めた。
ゲーム開始からどれほど経ったか。時計も無く、日の傾きも見えない以上、時間を知るすべは無い。とにかく、うかうかしていれば怪物に捕食されてお終いだ。少年は息を吸って立ち上がった。シャツが貼りつき、異様に冷たい。
(とりあえず、時間だってあんまり無い……! 早く見つけて…………や、やらないと……!)
震える足にムチを入れ、怯えながら覚悟を決める。他の参加者を殺さねば、待つのは爆死か捕食死だ! 周囲に気を配りながら、少年が一歩踏み出した―――その時である!
「おい」
背後から肩を叩かれ、少年は絶叫しかけた。口から心臓が飛び出すほどの衝撃! 反射的に前後反転した彼は尻餅をつき、バタバタと後退しながら必死になって両手を動かす。
「だだだだだ誰だっ!? ま、ま、ま、ま、待っ、交渉! そう、交渉ッ! おおお俺の宝石より他を狙った方がだな!」
「落ち着け落ち着け。俺をよく見ろ」
「…………へ?」
恐慌しかけた少年は、ぴたりと手を止めて視線を上げる。いつの間にか立っていたのは、紺色のトレンチコートを着た褐色肌の青年だった。左肩に少女を米俵めいて担ぎ、右手にスマホ。液晶画面と少年を見比べ、青年は口を開く。
「俺は参加者じゃない。いいか、俺はあんたを助けに来た。確認するぞ。あんたはジョン・シルバーだ。そうだな?」
「え、え……? そうですけど……」
「よし」
紺色のコートを着た銀髪の青年はスマホをしまうと、右手を差し出した。
「カイム・クローバーだ。詳しい事情は省くが、この胸糞悪いゲームをぶち壊しに来た」
「……その、そっちのは? 肩の……」
「これか? お前と同じ参加者だ……おっと!」
カイムは肩を跳ね上げ、暴れんとしたメアリを担ぎ直す。出鼻をくじかれたメアリは手足をばたつかせた。
「離してよ!」
「駄目だって言っただろうが。大人しくしてろ。ジョン、お前もだぞ」
鋭く睨まれ、ジョンはギクリと凍りついた。刃物の如く研ぎ澄まされた視線に圧されてこくこく頷くジョンから、カイムの目は背中側に垂れたメアリに移る。
「さっき言ったこと、もう忘れたのか? あんたを連れていくのは、殺し合わせるためじゃねえ。全員保護するためだってな」
「けど……!」
「けどもだってもあるか。殺させないし、殺さない。俺はそう言って、あんたはわかったって言ったんだからな」
メアリは悔しげな顔で黙り込み、ぷいとそっぽを向いてしまう。カイムは呆れて溜め息を吐くと、ジョンに向き直った。
「そういうわけだ。俺の前では殺させない。ゲームの参加者を全員助けなきゃいけないんでな。あんたらだって、別に殺し合いがやりたいわけじゃないだろ」
ジョンは答えず、正座したまま所在なさげに視線を彷徨わせている。張り詰めた緊張に驚愕の余韻が混じり、うまく判断が出来ない。首を縮め、上目遣いで見上げてくるジョンに、カイムは屈んで目線を合わせる。
「それともうひとつ。一応、伝えとく。お互いに宝石の奪い合いは止めとけ。普通の人間が誰かを殺せば……一生、後悔する事になるぜ?」
「で、でも……」
「でももだってもあるか」
言葉を遮り、カイムは手の平を差し出した。ちらりとそちらを見るジョンに、真剣な眼差しで告げる。
「あんたの宝石、俺に預けちゃくれねえか。そうすりゃ、もう誰から襲われても殺される心配はねえ。化け物も主催者も俺たちがなんとかする。取引だ」
じっと見つめられ、ジョンはますます逡巡する。宝石を参加者に触れられた場合、宝石の持ち主は首輪を爆破されて死ぬ。それは黒づくめの布面男を使ったデモンストレーションで証明済みだ。では、それ以外なら?
ジョンはカイムの喉元に目を向けた。小さな銀の鍵を下げたチョーカー。宝石のみで作られた首輪ではない。肩の少女の首は見えない。突きつけられた選択に、ジョンの心臓は早鐘を打つ。
(宝石を渡したら死ぬけど、助けてくれるって言ってるし……それに担がれてる子も死んでないし……。ん―――
…………!)
内心で呻くジョン。カイムは微動だにせぬまま解答を待つ。緊張がピアノ線めいて張り詰める中、ジョンはぎゅっと両目をつぶった。眉間に汗がにじみ、滴り落ちる!
(どっちにしろ殺し合いなんてごめんだ! どうせそのうち殺されるなら……! ええいっ!)
ジョンは右手をズボンのポケットに突っ込み、引き抜いてカイムの手に打ちつけた。ゆっくり右腕を引いたあと、カイムの差し出された手の平の上には、ウサギめいた形の宝石。爆発は―――しない! ジョンは壁に後頭部をぶつけて大きく息を吐く。
「ハーッ……!」
「……ありがとな」
カイムは表情を和らげ、メアリを下ろす。肩を離れ、自分の足で立つ少女に手を差し出した。
「さてメアリ。次はあんたの番だ」
「はあっ!? なんでよ!」
メアリが頬を膨らませて叫んだ。カイムはジョンから受け取った宝石を掲げる。
「俺が持っても爆発しない。これで証明できたはずだぜ? それとも、他のアリスに襲われた時、お前は自分で守れるか? 俺が持ってた方がいくらか安全だと思うんだがな」
メアリは半眼で睨みつけるが、カイムの方は涼しい顔で佇んでいる。極度緊張の反動で疲れたジョンは、壁に背中を預けて二人をじっと見上げた。二人はジョンに横顔を向けたまま言い合いを続けている。ジョンは足を崩し、頬杖をついた。その時!
(んっ
……!?)
ジョンの目がその場で見開かれた。カイムとメアリの間、迷宮通路奥の闇から、夜空の赤い星めいた光が八つ点灯。ジョンの脳裏に先ほどの光景がフラッシュバックする! ジョンは思わず腰を浮かせて声を張った!
「あ、危ないッ!」
「ん?」
カイムが横目でジョンを見た直後、通路天井から白い物体が飛来する! 気配を察したカイムは腰のホルスターから拳銃を抜いて迎撃発砲! 銀の弾丸が白い砲弾と衝突して激しく放電! ZGRAAAK! メアリが中空の紫電を見上げて後ずさる。
「なっ、何
……!?」
「来たか」
怯えの表情を見せるメアリを庇うように立ち、カイムは二丁拳銃を構えた。彼が見上げる先、天井に上下逆さで張りついていた巨体が落下側転して着地!
それは、巨大なクモからサソリのハサミとカマキリの上体を生やした異形生命体! くちゃくちゃと咀嚼めいた音を立てるクモの上で、カマキリは両腕を開いて咆哮を放つ! カイムは素早く身を沈め、背後の二人に向かって叫んだ!
「あんたら、そこを動くなよ。下手に動かれたら最後、命の保証はできねえ。いいな!」
地を蹴って走り出すカイム! 対するクモが猛然とカイムに突っ込み、サソリハサミとカマキリブレードが左右に開いた。首と胴体を狙う蟲の斬撃を、カイムはスライディングで回避する! クモの右脇を抜けて前後反転、二丁拳銃を突き出す!
「爆弾に、化け物に、今度は虫か! 悪趣味なんだよ!」
BLAMN! 二つの銃口が紫電放ち、振り返るカマキリの右腕と左のサソリハサミを破壊! 引き千切られた腕に構わず180度ターンしたクモは口から糸玉を吐き出した。カイムは跳躍してかわし、上下反転して天井を蹴り急降下膝蹴り!
「SEEEEEEEEEEEE!」
金切声を上げたカマキリが左の鎌でカイムに首狩り斬撃を放つ! 身を反らしたカイムの顎先を刃がかすめると同時、カイムはクモの顔面に二丁拳銃をぶっ放した! 八つの眼球が噴き出す紫電に消し飛ばされる!
「GGGYYYYYEEEEEEEEEE!」
絶叫して後ろによろめくクモの眼前に後方回転から着地したカイムが、クモの下顎を鋭く蹴り上げる! クモの頭部が跳ね上がり、無防備な腹をさらした。カマキリの上半身が残った腕を振り回しながら後ろに傾き、後頭部を地に打ちつける!
「さて、チェックメイト……と行きたいところだが」
カイムは呟き、素早く背後を振り返った。迷路の奥から響く無数の羽音。アメジストめいたカイムの瞳は、闇から来たる砂嵐じみたものを暴き出す。蜂の尾針とゴキブリの羽を持つ一ツ目蝿の大群だ!
「ったく、次から次へと。だが好都合だ」
カイムは肩越しにカマキリが起き上がれないのを確認し、メアリとジョンが壁にへばりついて震えているのを視界に捉える。外傷は無し。だが放置も出来まい! カイムは押し寄せるキメラフライの集団に向き直った。
「とっととケリをつけるぜ、オルトロス。……吠えろッ!」
カッと開いたカイムの目じりから紫電が零れた刹那、GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR! 二丁拳銃が大量の弾丸をばら撒き、蝿の大群に真っ向から突っ込んでいく!
蝿たちは迷宮の床・天井・壁に沿う形でドーナツ状の通路を開いて銃弾を回避せんとする。だが弾丸は穴を通過しかけた瞬間―――ZGRAAAAAAAK! 紫の稲妻が通路内で荒れ狂い、蝿を片っ端から消し炭に変えていく! カイムは反転!
「そらよ」
ひっくり返ったクモの腹めがけ、連続で引き金を引いた。BLAMBLAMBLAMBLAM! 紫電を放つ弾丸が叩き込まれたメラ昆虫の体は一瞬膨らみ、爆散蒸発! 跡形も無く消し飛び、アリスの二人が首を縮める。
『っ!』
焦げ臭い匂いがジョンとメアリの鼻を突く。巨大キメラ昆虫が居た場所を駆け抜けたカイムは、二人に接近して声をかけた。
「振り回して悪いが、ちょっとついてきてくれるか」
突然の要請に、メアリが鼻をつまみながら応える。
「ついてくって……どこに」
「今の奴らが来たところに、だ」
カイムは至極真面目に告げ、ぎょっとする二人に先んじる形で続けた。
「主催者はなりふり構わなくなった。さっきみたいな化け物をとにかくけしかけて、あんたらを殺す腹積もりだ。……だが、化け物の出所には、化け物をけしかけた奴がいる。そいつを仕留めなくちゃいけないが、同時にあんたらも置いていけない」
二丁拳銃を腰のホルスターに差し込むと、カイムはへたり込んだままのジョンに手を差し伸べた。急いで移動せねばならない。もし二人を置きざれば、遠からず怪物の餌―――最悪、他のアリスと殺し合いをしてしまう! カイムの頬を汗が伝う。
「ついてきてくれるか? あんたらは俺が必ず守る。約束する」
沈黙。二人のアリスは互いに顔を見合わせた。
デスゲーム、爆弾に、怪物。死ぬ要因はいくらでもある。その中を、一人で生きていけるだろうか。数秒逡巡したのち、やがてジョンはカイムの手をつかんで立ち上がった。メアリもまた不承不承ながら頷いて見せる。
「……ちゃんと守ってよね」
「守るさ。あんたらも、殺し合いはするなよ?」
わずかに表情を緩めたカイムは踵を返した。蝿たちが来た通路に敵影は無く、ただ黒い灰が薄っすら堆積するのみ。カイムは二人のアリスを連れて、そこの場所を駆け抜けた。キメラ昆虫をけしかけた者を辿り、撃ち倒すべく!
大成功
🔵🔵🔵
高砂・オリフィス
SPD判定*アドリブ歓迎
オーケーオーケー! 要は人探しをすればいいんだねっ
できることをやってみようかなっ
いっせーのせ!
ユーベルコード《やがて来たる過去》を使用して、大声で呼んでみよう!
ぼくはこないだ資料で見たソナーってのを試してみようと思うんだ
ね? ほら反響して……いや聞き分けられないよムリムリ
しかも大声だけだしてたら普通に敵が来そうな予感! ヤババッ!
ダッシュとスライディング、格闘技のカポエラで切り抜けつつ、反応を頼りに普通に足で探しまーすっ!
「ARRRRRRRRRRGH!」
コック帽を被った黒くずんぐりした怪物が、ギロチン刃めいた果物ナイフを振り上げる! 黄色い光点じみた目を輝かせ、横一直線に開いた口から牙をのぞかせ―――突進から斬りかかった! 行く先には軽いステップを踏む高砂・オリフィス(南の園のなんのその・f24667)!
「よーし……いっくぞぉっ!」
オリフィスは両拳を打ちつけ、怪物めがけて疾走していく! 振り下ろされる白い刃をサイドステップ回避! 怪物の右サイドに回り込み、丸太めいて太い膝裏に回し蹴りを叩き込んだ! 片膝を着く怪物!
「ARRRRRGH……!」
「まだまだっ!」
逆回転したオリフィスは両手を地に着き、怪物の顔面を蹴りつけた! 大きく片膝立ちでのけ反った怪物は、腕を振り回して姿勢制御を試みる。だが怪物の目前に戻ったオリフィスが跳躍右後ろ回し蹴りで横面を撃ち抜く!
「ARRRRRRGH!」
右肩を大きく引くような体勢となる怪物! 片足立ちで着地したオリフィスは両腕をボクサースタイルめいて引き絞り、持ち上げた左足で怪物の下顎を蹴り上げる! 「せいッ!」
SMASH! 怪物の頭部が斜めに吹き飛び、天井にぶつかって地面に落下。一拍遅れて巨体が仰向けに倒れ込んだ。ノックアウトを決めたオリフィスは足を肩幅に開いて残心。大きく息を吸い込み、大口を開けて声を張る!
「あ―――――――――――――――――――――っ!」
全力の声が通路の奥に木霊する。オリフィスは目を閉じ耳を澄ませ、そのまま彫像めいて動きを止めた。
周囲は水を打ったように静まり返り、響くのは怪物の死体が炭酸飲料めいて泡立ちながら融解する音のみ。オリフィスはしばし両耳に手を添えていたが―――やがて、低くうなり始めた。
「うーん……無理っ!」
両拳を突き上げ、背中を伸ばすオリフィス。
彼女は何をしようとしていたのか? 少し遅れてデスゲーム会場に乗り込んだ彼女は、ゲームに巻き込まれたアリスを探して迷宮を駆けまわっていた。そして、最中にバロックレギオンと遭遇。これをカポエイラで打ち倒した。―――のだが。
「おっかしーなぁー。前見た資料だと、こんな感じで迷路は攻略できるはずだったんだけど……」
オリフィスはぶつぶつ呟きながら、伸ばした両腕を右に左に倒して体を伸ばす。
先の咆哮で試みたのは、ソナー探知。音の反響で周囲の地形を把握するというものだが、オリフィスには不可能であった。オリフィスは大きく溜め息を吐き、右爪先で地面を叩く。
「ま、仕方ないか。大人しく普通に足で…………うんっ?」
オリフィスの両眉が持ち上がった。左耳に手を添え、再度通路の奥へ聴覚集中。微かに何かの音が鼓膜を叩く。
じっと耳をそばだてたオリフィスは、響いてくる音に思考を巡らす。甲高い、笛めいた音が徐々に近づいてきているようだ。
(あれ? もしかしてぼくのソナー、きいてきたのかな? ……それにしては、なんか変な…………危ない感じがするような
…………)
オリフィスが怪訝な顔をした直後、風を切る音とともに彼女の鼻先を真鍮色の何かがかすめる! ぎょっと目を見開くオリフィス。次の瞬間、彼女はその場で反射的にブリッジを決めた。腹筋の上を貫通する真鍮色の巨大フォーク!
「いっ!?」
オリフィスは驚きながらも両足を振り上げてフォークを蹴り上げ、曲げた両腕をバネにして連続バク転! 身構えた彼女の両目は、自分が居た場所に立つ巨体を見上げた。
ホイップクリームを長く曲げ伸ばしたような形の二本角、ナイフの如き牙の生えそろった口に、宝石じみたキャンディを嵌めこんだ目。筋肉質な黒い体に巨大なフォークを槍めいて持ったそれは、お菓子で造形されたスイーツ・デーモン!
オリフィスは自分の片頬が引きつるのを感じた。いつの間にか接近し、刺突を繰り出す脅威の速度! 加えて先に目前を飛翔した物体―――牽制に投げられた小さなフォークの形が、オリフィスの網膜にワンテンポ遅れて蘇る。
「やばば……なんか強そうなの呼んじゃった……」
「GRRRRRR……」
デーモンはうなると、左足をジリジリと前に出し―――VANISH! 突如として姿を掻き消す! オリフィスは素早く屈んでバク宙! 彼女が居た場所を巨大フォークが薙ぎ払った。
「GRAAAAAAAAARGH!」
空中のオリフィスを狙って刺突を繰り出すデーモン! オリフィスは上下反転状態から身をひねって蹴りを繰り出し、フォーク刺突をギリギリで逸らす。着地からロケットダッシュ&スライディングでデーモンの股下を抜け、回転ジャンプ!
「あっっっっっぶないっ! 串刺しなんて……」
宙空で回転を止めたオリフィスは左脇の下からデーモンを見返る。刺突の空振りによりスタンした巨体。オリフィスは左膝を胸元まで引き絞って反撃準備!
「ごめんだよっ!」
超高速の左バックキックがデーモンの背中を直撃! デーモンをのけ反らせたまま、オリフィスはさらに片足に力を込め、力を込め―――蹴り飛ばす! SMAAASH!
「GRRRRRR!」
砲弾めいて蹴り飛ばされたデーモンは、しかし両踵を床に突き立ててブレーキをかけた。身をひねって前後反転し、左手を横薙ぎに打ち振る! 射出された数本の小フォークが、空中で左足と左肘を曲げて防御体勢を取るオリフィスに次々命中!
「いたたたたたっ! ちょっ、フォークは人に向かって投げるものじゃっ……!」
オリフィスの左半身に突き立つ小フォーク群! デーモンはさらに右手の巨大フォークを逆手に持って振りかぶり投擲! 辛うじて着地したオリフィスは蹴り上げで弾く。天井に突き刺さるフォークの柄をつかむ悪魔の手。既にワン・インチ距離!
「早っ! ていうか近っ!」
「ARRRRRRRGH!」
天井を抉ってフォークを振り下ろす! オリフィスはデーモンの懐に飛び込み、腹に全力の前蹴りを打ち込んだ! 体をくの字に折るデーモン! これはカポエイラに伝わる蹴り技、ベンサォン!
「でぇぇぇりゃあああああああああっ!」
オリフィスがデーモンを蹴り飛ばした! 悪魔の口から赤いジェル状液体が吹き出し、金の髪にぶっかかる。
「GuuuuuurrrrrRRRRRR!」
両の爪先を立てて制動をかけたデーモンが顔を上げた時、オリフィスはダッシュで逃走を開始していた。走りながら、髪についた赤い一滴を指ですくって舐めてみる。口に広がるさっぱりした酸味とまろやかな甘味。
「……なにこれ、いちごジャム? まぁいいや!」
オリフィスは足を速めながら肩越しに背後を振り返る。凄まじい速度で猛追してくるスイーツ・デーモン! 前を向き直ったオリフィスは前傾姿勢でさらに加速!
(とりあえず、なんとかあれを撒かないと……! お菓子の悪魔に食べられるアリスなんて嫌だし!)
ジグザグダッシュで背後から飛ぶ無数の小フォークを回避しながら、十字路を右にカーブ! 一瞬遅れてスイーツ・デーモンも同様にターンを決めて追いすがる。地獄めいた鬼ごっこが始まった。
大成功
🔵🔵🔵
ビリー・ライジング
ミリィ(f05963)と共に行動
『俺・お前、呼び捨て・お前ら・苗字か名前の短い方を呼び捨て、ミリィも呼び捨て』
目的:こどくの国のアリスの探索と撃破
UCを発動して、本体はミリィと同行。
分身は其々が別れて、こどくの国のアリスの探索。
バロックレギオンは【属性攻撃】を込めた【2回攻撃】の【なぎ払い】で一掃する。
こどくの国のアリスのUCには【勇気】と【覚悟】を持って、【高速詠唱】の【全力魔法】。
だが、ミリィがアリスを安全に保護するまでは【武器受け】による防御や、【見切り】による回避行動をとる。
防御や回避も間に合わないと判断した時は【捨て身の一撃】の【カウンター】で反撃する。
ミリィ・ライジング
ビリー(f05930)と共に行動
『私・あなた、~さん・皆さん・苗字か名前の短い方にさん付け、ビリーは「お兄ちゃん」と呼ぶ』
目的:残ったアリスの探索と保護
UCを発動して、ビリーと同行。
バロックレギオンは手裏剣や護符の【投擲】。
【属性攻撃】【高速詠唱】も合わせて、各個撃破する。
ビリーが敵の撃破に専念している間に、残ったアリスの保護へ向かう。
アリス達を見つけたら【手をつなぎ】、その場を全速力で離脱。
安全な場所まで保護したら【医術】での治療や、【慰め】て落ち着かせる。
冷静になったら開会式の際に何処に集められたか、GMはどんな青年だったかを【情報収集】で聞き出す。
巨大な蟻めいた頭部が砲弾めいて飛ぶ! ハサミの如き噛みつきにキャップ帽のツバを裂かれた少女は、思わず尻餅をついた。頭上を飛び越えた頭部は彼女の真後ろに転がり、ガチガチと牙を打ち鳴らし続ける。
帽子の後頭部に空いた穴からポニーテールを出し、革製のキュロットスカートとデニム生地のベストを着た少女は、絶望的な面持ちで周囲を見回した。
360度、全方位を取り囲むのは一抱えほどもあるガムボールを三つ連ねて作った蟻の大群! 落書きめいたぐるぐる目をペイントされた頭部から突き出す三日月型の牙が二本、ぶつかり合って金属質な音を立てる。牙の奥にはギロチンのような口!
少女は、血の気の引いた顔で後ずさりすることも出来ず震えあがった。突如、岩盤を食い破って現れたファンシーな昆虫の群れが、水飴のようにねばつく唾液を垂らしながらジリジリと包囲網を狭めてくるのだ!
「な、何よ……! あたし、食べても美味しくないよ!?」
真っ青になって首を振る少女。後ろに下げた手が、先ほど飛来した蟻の頭部にタッチした。CRANCH! 勢いよく牙が閉じ、少女は振り向きながら手を引っ込めた! 頭だけになっていながら、蟻は少女に求めて牙をガチガチと鳴らした。
「ひっ……!」
思わず蟻の頭を払いのける少女。だがすぐそこまで迫った五体満足の個体たちが頭を引いて尾を震わせる。頭部射出の予備動作! 少女は泣きそうな顔で目を閉じた。
(もうダメ……! お母さん……!)
『GiGiGiGiGiGi……!』
軋むような蟻たちの声が重なり合う。少女が身を硬くし、俯くと同時に蟻たちは頭部を一斉に射出! 大口を開いたガム・アントが噛みつく寸前、少女の周囲に紅蓮の竜巻が吹き荒れた!
『GYYYYYYYYYYYEEEEEEEEEEEE!』
BOOOOOM! 火の粉を飛ばして荒れ狂う炎の竜巻が蟻の頭部をまとめて焼却! 凄まじい熱気に顔を叩かれた少女はビクリと肩を震わせ、恐る恐る顔を上げた。自分を守るように渦巻く炎。周囲一面染める赤一色を、少女は困惑して見回す。
「えっ? えっ!? 何!?」
程なくして火炎が解け、景色が戻る。首を失った蟻の体が、風船ガムめいて新たな頭部を膨らませていく中、少女の視界左側からビリーが飛び込む! 少女を庇う形で立ちはだかったビリーは、右手のレイピアを左腕側に振りかぶった! 燃える刀身!
「退けッ!」
一閃! CABOOOOOOM! 放たれた爆炎が直線状のガム蟻をまとめて飲み込み、風船めいて膨らむ頭部を爆裂させる。残った体も数秒で炭化! ビリーはレイピアを一回転させ、左側にも一閃!
BOOOOOM! 鉄砲水じみた炎が、頭部を鮮やかな水色の甲殻で覆い始めた蟻たちを飲み込み瞬時に焼殺! ビリーは素早く少女を一瞥し、消し炭となった蟻の死骸が転がる方向に叫ぶ!
「ミリィ! 退路は出来た! 連れていけ!」
「任せてお兄ちゃんっ!」
熾火を燃やして蟻たちを飛び越え、ミリィが突入! 少女の手をつかみ、素早く引っ張って立たせる。少女はよろめきながら目を白黒させた。
「ちょっ、えっ!? 誰!?」
「話は後! 舌噛むわよ!」
言うが早いか、ミリィは少女の手を引いてその場を離脱! ビリーが殺戮した蟻たちの死骸を蹴りながら来た道を戻る彼女の行く先を、天井を食い破って落下してきた蟻が塞ぎにかかる。ミリィは繋いでいない方の手をガッツポーズめいて構えた!
「退いてッ!」
青黒い炎に包まれた腕を横薙ぎに振るった。火炎弾めいて放たれた数発の護符付き手裏剣が頭を縮めた蟻たちの眉間に連続命中! トマトじみて爆ぜ砕く! ミリィは前傾姿勢を取り、少女に叫ぶ!
「急ぐよ! ちょっとだけ頑張って!」
「うぇっ!?」
少女の手を引いたまま加速し、蟻たちの間を突き抜けるミリィ! 残った体が次の頭を膨らませる前に振り返り、さらに手裏剣を数枚投げて残った胴体も粉砕! 置き土産を残して立ち去る妹を見送ったビリーは、残る蟻たちの行く手を塞いだ。
「おっと、お前らの相手は俺だ。ここから先は通さないぜ?」
レイピアの切っ先を蟻たちに向けながら、ビリーはこめかみに汗を伝わせた。ガムボールで出来たこの蟻たちは、十中八九バロックレギオン。弱いが、天井や岩壁に空いた穴から無尽蔵に湧いてくる。ビリーの目前は、既に蟻で埋め尽くされていた!
(ミリィ……!)
ビリーは内心で妹を呼ぶ。今しがた救出した少女も含め、ミリィが守るべきアリスは既に六人! ミリィ自身は平気だろうが、アリスたちは? どこからともなく現れるバロックレギオンを相手に、守りきれるか?
(早いところ片付けて、こどくの国のアリスを探し出して倒す! 止まってる暇はねえ!)
レイピアを握り、ビリーは腰を落として身構えた。ギチギチと軋むような声を上げていた蟻たちが一斉に咆哮! 同時にビリーのレイピアが炎をまとう!
(出所は分身たちが探してる! 見つかるまで持ちこたえてくれよ、ミリィ!)
祈るように唱え、ビリーは燃える足を踏み出した!
●
一方その頃。ビリーに背後を預けたミリィは、全速力で少女の手を引いて疾駆していた。キャップ帽の少女はもつれそうになる足を必死に動かして追随。息を切らしながら問いかける。
「あっ、あのっ! どこ行くの!?」
「もうちょっと先! 転ばないように気を付けて!」
少女をわずかに見返ったミリィが言い、突き当りの角を鋭く曲がって立ち止まる。ようやく足を止めた少女は、膝に手を当てて肩で息する。汗だくになりながら顔を上げると、そこには宝石の首輪を嵌められた少年少女が五人、まとまっていた。
「ちょっ
……!?」
思わずのけ反りかける少女をぐっとつかみ、ミリィはアリスたちに近寄っていく。五人のうち、大きなフリースを着込んだ少女が無言でミリィを見上げた。
「お待たせ。大丈夫だった?」
フリースの少女がこくこくと頷く。その視線が、及び腰でミリィから手を引き離そうとするキャップ帽の少女に向けられた。必死で抵抗する少女を振り返り、ミリィは苦笑いしながら言う。
「大丈夫。誰もあなたの宝石を取ったりしないから」
「い、いや、そんなわけ……!」
ぶんぶんと握られた手を振り回しながら少女が首を振った。ミリィは少女を引き寄せ、顔を思い切り抱きしめる。驚いて両手を振り回す少女の頭を撫でながら、優しい声音で諭し始めた。
「よしよし、怖かったわね。もう大丈夫。殺し合う必要はもうないから……安心して……」
「むぐっ
……!?」
口元から右頬にかけてをミリィの胸に押し当てる形になった少女は、困惑気味にミリィを見上げた。子守歌めいた声と一緒に聞こえる、ゆったりした心音。絶え間ない逃走と緊張によって拍動していた少女の心臓がペースを下げる。
やがて、少女の腕が暴れるのをやめる。手を下げたキャップ帽の少女が落ち着いたのを確認したミリィは微笑し、ふと肩越しに背後を振り向く。すぐそばまで来ていたフリースの少女が、ベージュの肩掛けを引っ張っていた。物欲しそうな眼差し。
ふっと相好を崩したミリィはキャップ帽の少女を離すと、フリースの少女を抱き上げた。あやすように揺すってやりつつ、脱力して膝を着くキャップ帽の少女に問う。
「落ち着いた?」
キャップ帽の少女は、毒気の抜けた上目遣いでミリィを見上げた。ミリィに甘える少女は至って大人しく、他の参加者たちも奪い合う様子は無い。ただ、疲れて座り込んでいるのみ。少女は改めてミリィを仰ぐと、不安げに聞き返した。
「……とらないの? ほんとに?」
「うん。信じてくれる?」
フリースの背中をさすりながら、ミリィが肯定。キャップ帽の少女は視線を少し彷徨わせ、力なく頷いた。
「よかった」
ミリィは穏やかに言うと、フリースの少女を床に下ろした。物足りなそうな表情をするアリスの髪を撫でてやり、座り込んだ他の子供たちを振り返る。
「ちょっと聞いてくれる? このゲームに参加する時、皆さんが何処に集められたか教えて欲しいのだけど」
アリスたちが顔を上げ、ミリィに目をやる。キャップ帽の少女は、その場に膝を着いたまま首を傾げた。
「参加する前……? 開会式のこと?」
「そう。何処にいたのか、このゲームのことを誰が説明したのか……出来るだけ、詳しくお願い」
アリスたちは互いに顔を見合わせた。難しい表情で首をひねったり、頬杖をついたりしながら、口々に呟く。
「何処って言われても……よくわかんねえよ。気づいたら、なんか女の子みたいな広い部屋に居てさ」
「人形持ったお兄さんに色々言われたよね……」
「そうそう。イケメンで、なんか女の子の人形持ってた」
女の子みたいな広い場所。ミリィは腕を組んで問いを重ねる。
「その場所、迷路の何処にあるかはわかる?」
「さあ……色々言われたあと、びかーって光って、気づいたらバラバラになってたから……」
「そうなんだ……」
返事しながら、ミリィは小さく唸った。今の参加者たちを全員元の世界に返しても、元凶を潰さぬ限り同じことが繰り返される。オブリビオンである以上、何度も復活するのは常だが―――それでも、放置するよりはマシだ。
(でも、その犯人がどこに居るのかわからないんじゃ……)
思い悩みながら、アリスたちを一人ずつ見回すミリィ。ゲームを降りてくれたのはいいが、オウガがむざむざアリスを見逃すはずはあるまい。今でこそバロックレギオンの気配はないが、迷路内で安全地帯は無いと思うべきだろう。
(誰かと合流して守ってもらえたらいいんだけど……)
ミリィは来た道を振り返る。全速力で離れたせいか、兄の声はおろか、戦闘音すら届いてこない。煙が立ち込めるように、胸に不安が現れる。
(お兄ちゃん、遅いな。苦戦してるのかな……)
考えかけ、ミリィは首を振った。
(ううん、お兄ちゃんならきっと大丈夫。今はとにかく、他の人と合流しなくちゃ)
気を取り直し、アリスたちに向き直る。毅然とした面持ちで、彼女たちを勇気づけるように!
「皆さん、疲れてると思うけど、もう少しだけ我慢して。私の仲間たちを探して、安全な場所まで連れて行ってもらうから。大丈夫。必ず助けるからね」
アリスたちを励ましながら、ミリィはわずかに表情を曇らせる。追ってこない兄が心配だった。
●
ビリーの刺突と共に炎の槍が吹き出した! BOOOOOM! 紅蓮のドリルめいて通路を撃ち抜く炎熱が過ぎた瞬間、天井の岩盤を砕いて現れたガムボールアント四匹が頭部を飛ばす! これを高速斬撃で斬り捨て、その場で剣を振り上げる!
「燃えろ!」
蟻たち真下の地面から、CABOOOOOOM! 噴き上げた炎の柱が天井を蟻ごと撃ち抜く! 袖で顎から滴る汗をぬぐったビリーは、火柱を突き破って飛来した蟻の頭部を屈み回避! そのまま一回転し、頭上を抜けた頭を斜めに斬り上げた!
「はぁ……何匹いるんだよ……」
立ち上がりながらぼやくビリー。火柱が消えた通路の壁や床、天井を砕いて這い出してくるのは新たなバロックレギオンの蟻たち。まとめて炭に変えていくのはいいが、とにかく大量に現れ出てくる! 対して、ビリーの体力と魔力は有限!
(ミリィは安全圏まで行けたか? 俺の分身はどうなってるのか……。とにかく、こいつらに追わせないのが最優先だけど……!)
ビリーはレイピアを構え直し、踏み出した足に力を込める。その時、彼の足裏が沈み込み、足元の床に亀裂が入った! とっさに飛び退く間もなく足場が崩壊! CRAAASH!
「うおあああああああああああああああっ!?」
足場を失ったビリーは即座にマントをひるがえし、空中で体勢を立て直す! 奈落めいて開いた縦穴の底には―――ビリーを見上げてひしめく大量のガムボールアント! 岩盤を掘り進み、落とし穴を作り出したのだ!
「クソッ、食われてたまるかッ!」
ビリーの髪とマントが金色に燃えると共に、空中を見上げた蟻たちが一斉に頭部を発射した! ビリーは金の炎に包まれたマントを大きく振るい、直撃する頭部をまとめて薙ぎ払う! そしてレイピアを引き絞り、マシンガンめいて刺突を乱射!
「燃えろおおおおおおおおおッ!」
BBBBBBBBBBBBBBBBBBBOOOOOM! 雨の如く奈落の底に降り注ぐ炎の矢! 縦穴の底に詰まった蟻たちはたちまち爆炎に包まれて炎上し、丸い体を黒一色に染め上げていく。一斉焼却!
「よし、これなら……!」
両足を地に向け、着地の衝撃に備えるビリー。だが垂直に落下する彼の真横で、縦穴の壁に新たな穴が開けられた。そちらに目を向けたビリーめがけて、青白いオーラをまとったこどくの国のアリスがフォークを引き絞りミサイルめいて突っ込む!
「何っ
……!?」
驚愕しながらもビリーは瞬時の判断でレイピアを突き出した。アリスの肩が浅く抉られ、反撃のフォークがビリーの腹に撃ち込まれる! 体をくの字に曲げ、ビリーは苦悶!
「ぐぁっ……!」
直後、フォークを手放したこどくの国のアリスは縦回転からかかと落とし! ビリーの脳天に直撃し、叩き落とす! 落下速度を増したビリーは首を振って飛びかけた意識を引き戻し、地面にマントを振り下ろした!
「炎よ!」
BOMB! マントが火を噴き床を叩く。わずかに浮き上がったビリーは水平になった体を横回転させて片足をつき、バックジャンプ! 10メートルほど離れた彼の対面にこどくの国のアリスが降り立ち、侮蔑的な視線を向けた。
「不作法ね。落ちたら砕けて、王様の力を使ったって戻せないのが世の常なのに」
「悪いが、俺は卵じゃないんでね」
ビリーは半身でレイピアを突きつけた。舞台は既に相手のホームグラウンド! まずはタイミングを測る!
「お前こそ、アリスというよりハートの女王がお似合いじゃないか? アリスを追い回させるとかさ」
「女王……いいかもしれないわね」
こどくの国のアリスが両手を振った。ナイフとフォークを握りしめ、半歩踏み出す。
「私たちはこどくのアリス。こどくだから食い合うの。アリスはひとりで充分だから」
「そうかよ。お前らの事情は知らねえけど、他人を巻き添えにするのは如何なもんかね」
「他人じゃないわ。だって、あの子たちもアリスだから。でも、あなたたちはアリスじゃない。だから、邪魔なの」
「へえ? 俺たちが邪魔なら、どうする?」
奈落の空気が張り詰める。こどくの国のアリスが持つナイフとフォークの先端に青白いオーラが燃え上がると同時、彼女の足回りを砕いてガムボールアントの群れが迫り出した。蟻がビリーを威嚇するように牙を鳴らす中、アリスは静かに宣告!
「邪魔だから、殺すの」
「やってみろ!」
ビリーが突進! 一拍遅れてガムボールアンツが連射してくるが、ビリーは高速剣技で斬り捨てながらアリスへ距離を詰めていく!
(コイツがさっきから出る蟻の元締めか! それならこの場で倒して追撃を断つ!)
決意を固めたビリーは急加速してこどくの国のアリスへ迫る! 無言で佇んでいたアリスは、突如足元の蟻一匹を蹴り上げ、一回転して蹴り飛ばす! 飛来する蟻の体を真横にステップして避けるビリー! その目前にアリスが踏み込んでいた!
「まずは目」
「ぬおっ!」
とっさに身を反らすビリーの眼球すぐそばをナイフ斬り上げが通過! アリスは逆手に持ったフォークをビリーの胸板に振り下ろすが、彼はその場で横回転! 羽織ったマントでフォークを弾き、素早く後退! その時、地面を破った蟻が彼のアキレス腱に噛みつき後退を強制的に中断させる!
「離せッ!」
ビリーはレイピアで蟻の首を断ち、足を蹴り上げる勢いで食らいついた頭部を射出! アリスが投げたナイフがガムボールアントの頭部に突き立ち停止せしめる。アリスは空いた片手の指を鳴らした。ビリーの周囲に新手が出現!
『GiGiGiGiGiGiGiGi!』
「クソッ、いくらでも出て来やがって……!」
振り上げた足に炎を灯したビリーは、そのまま地面をストンピング! BOOOOOM! 放射状に吹き出した炎で蟻をまとめて焼き払い、そのまま大きく両膝を曲げて跳ぶ。引き絞ったレイピアの刀身に炎を収束させ、アリスめがけて撃ち出す!
「はッ!」
BOOOOOM! 光線じみた炎を、しかしアリスは顔を傾けるだけで回避する。彼女の後方地面に炎の一刺しが命中して爆発! 頬に出来た細長い火傷に触れ、アリスは呟いた。
「炎。……シェイプシフター? それとも本物? ……さっきは、フォークが刺さってた」
謎めいた文言を口にしたアリスは、ビリーを見上げた。彼の黒い学生服の腹には血の染みが広がっている。先の一撃でついたものだ。それを不思議そうに見つめ、アリスは溜め息を吐く。
「どっちでもいいわね。あなたが邪魔なことには変わりないもの」
放物線を描いたビリーが着地し、足裏から火を噴いてダッシュ! 一気に距離を詰めてくる! アリスは軽やかなステップを踏み、踊るように一回転してフォークを投げた。前傾姿勢のまま体を傾けてフォークをかわすビリー。反撃の疾走刺突!
「ぜあッ!」
炎逆巻く切っ先を、アリスは新たに呼び出したフォークで受け止め肩越しに受け流す! 逆の手に握ったナイフがビリーの喉笛に突き出された瞬間、ビリーは素手でこれを防御! 手の甲から刃が突き出すも、構わずアリスの手を握り込む!
「捕まえたぜ……!」
至近距離でアリスを見つめるビリーの肩から、青みがかったグレーのマントがスルリと外れた。主を離れたクロスは二人の周囲を旋回しながら燃え上がる! アリスは真っ直ぐなビリーを見つめ、呟いた。
「……自分も焼くつもりなの? やっぱりあなたはシェイプシフター……?」
「俺が偽物じゃないかってことか?」
無表情に問いかけるアリスと視線を交わしたビリーは、不敵な笑みを見せつける。
「いいや、俺は本物だぜ。別の俺から逃げて来たのか、それとも別の俺が戦っているのを見たのかは知らねえけどさ」
ビリーのルビーめいた瞳が赤々と輝き、マントは二人と閉じ込めた炎の円環へと変わる!
「ともかく、上で妹を待たせてるんだ。一気に決めさせてもらうぜ!」
円の外側から湧き出したガムボールアントたちが跳躍し、ビリーに噛みかかった瞬間、円環は二人を中心に一気に収縮! 小型の太陽めいて大爆発!
KRA-TOOOOOOOOOM! ドーム状に膨れ上がった炎が、飛んで火にいるバロックレギオンを飲み込み、奈落の底を眩い光で染め上げる。ビリーが落ちた縦穴の入り口を取り囲んでいた蟻たちが突然苦しみ始め、泥のように溶け消えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マリアベラ・ロゼグイーダ
思い通りに行かなくてオウガが歯噛みしている気がするわね。気がするだけだけど気分が良いわ
●探索
アリス探索メイン
他の猟兵たちの話も聞いて探していない場所を重点的に調べるわ。足跡があるなら追跡。あと分からなくなったら第六感に従うものよ
アリスを見つけたら一緒に行動するよう提案しましょう
警戒しているようなら、怪我をしていたら応急処置を施して敵意が無いことを示すわ
もしくは敵を倒して味方と思ってもらおうかしら
●敵
敵は確実に倒していくけれど、保護したアリスもいる事だし無理はしない
基本ヒットアンドウェイ。傷を付けれたらそこを重点的に攻めていくわ
数が多いなら属性攻撃と範囲攻撃を合わせて攻撃して一気に片付けるわよ
トリテレイア・ゼロナイン
フェアリーランドの類のUC内に保護したアリスを確保出来れば最上でしょうが…
誰も使わなければ手元で保護したほうが良さそうですね
UCを考慮しなければ●騎乗した機械馬の機動力は上位
私は敵の殲滅よりアリスの保護を優先して動きましょう
一人か二人は機械馬に乗せ手元で保護、ワイヤーアンカーでの●ロープワークでしっかりと固定し落馬を防止
舌を噛まない為にも口を開かないことをお勧めします
UCを放ち引き続き●情報収集
此方に向かってくるバロックレギオンとは別の方向に向かうレギオン…その足音や移動の際の振動をセンサーで●見切りアリスの下へ急行
レギオンをレーザーで●目潰しして突撃
蹴散らしつつアリスを●かばい保護します
蹄が迷宮の床を激しく叩き、薄暗い通路を白銀の図体が風めいて抜ける。機械馬の手綱を握ったトリテレイアの前後には、先ほど救助したアリス二人がワイヤーで固定されている。
きゅっと口を引き結び、舌を噛まないように努める少年少女を横目に、機械馬と並走するマリアベラはトリテレイアを見上げて尋ねた。
「ねえ、本当にこっちで合ってる?」
「恐らくではありますが……」
歯切れ悪く答える機械騎士。彼の目には薄緑色に染まった通路と、点々と広がり震える小さな円がいくつか表示されている。斥候として放ったマシン・フェアリーたちが捉えた音を視覚化したものを注意深く見極めつつ、光点めいた目を点滅させる。
「先ほど、大きな崩落音と爆発音を捕捉しました。現在、スティールフェアリーズが向かっている途中なので未確認ではあるものの、恐らく戦闘によるものかと」
「お仲間とオブリビオンなら、近くに他のアリスが居る可能性は高い。そういうことね?」
「はい」
トリテレイアは頷いた。視界には今だ微細な振動円が並んでおり、水切石の波紋めいて横に動いたり、拡大縮小を繰り返したりしている。どれかがアリスを狙う軍勢であり、またどれかが猟兵及びアリスのものだ。分析し、急行せねばならぬ!
一方のマリアベラは、トリテレイアのサイバー馬に揺られる二人のアリスをじっと見ていた。緊張して身を固くしているものの、おおむね大人しく暴れる気配は無い。
(ようやく落ち着いてきたかしら? 可愛いアリス。少しは信用されてると嬉しいのだけど)
密かに表情を和らげるマリアベラ。直後、トリテレイアがハッと顔を跳ね上げた!
「マリアベラ様ッ! 一時の方向に大きな反応! 近づいてきますッ!」
「前?」
マリアベラが進行方向に向き直った直後、やや離れた地点で横壁が爆砕! 宝石の破片が混じり、きらきらと輝く粉塵の中から、重い足音を立ててショートケーキめいたカラーリングの象が姿を現した!
「PAOOOOORGH!」
高々と上げる長い鼻。両の耳は大型タルト、象牙は琥珀色の飴細工。ホワイトチョコソースを頭から被ったような上部と、両足はケーキスポンジめいて鮮やかな黄。地団太じみて両足を踏み鳴らした象は、ピンと突き出した鼻を一気に引っ込めた!
「あら可愛い。さっきの虫とは違うわね」
「バロックレギオンでしょうか。いずれにせよ攻めてきます。お二人とも、落馬されぬよう!」
相乗りするアリスたちに告げ、トリテレイアは突撃槍を構えて前傾姿勢! 瞬間、加速したマリアベラは一息にサイバー騎馬を追い抜かし、真っ直ぐスイーツ・エレファントに接近していく! 身を震わせていた象が鼻を一気に伸ばした!
GLOOOOOP! 蒸気まとう粘液が噴出! マグマめいて熱された水飴が先行したマリアベラを強襲した。マリアベラは右手の白い傘を突き出し開く。傘布部分に乳白色の渦がバリアじみて展開! 水飴を巻き込み受け止める!
「危ないじゃない。アリスが火傷したらどうしてくれるのかしら?」
剣呑に呟いたマリアベラの左手が、傘の柄根元部分に触れた。黒手袋に包まれた手を前にスライドし傘布部分射出! 高速回転した傘は水飴を無効化しながら象めがけて飛んでいく!
「PAAAAARGH!」
水飴を放ち切った象は鼻を振り上げ、飛来する傘を叩き落とす! 刹那、マリアベラは象の顔に向かって跳躍! 一回転し、傘に仕込まれていた細身の剣を横薙ぎに繰り出す! SLASH!
「PUAAAAARGH!?」
鼻を根元から斬り落とされた象が後ろによろめいた。血の代わりに吹き出す高熱水飴に構わず、マリアベラは左手を象にかざす。手の平に白い炎が燃え上がり、BOOOOOM! 撃ち出された爆炎が象の上半分を飲み込んだ!
「さようなら。無害なおやつになって出直してきなさい」
着地したマリアベラが地に横たわる象の鼻を跳ね退け、傘布部分を回収。高熱にさらされた象は、水鉄砲を当てられた砂の城めいて崩れ去る。直後、残った残骸の真上を突き抜け巨大なフクロウがマリアベラを襲撃! マリアベラは即座にバク宙!
「お願いするわ、トリテレイアさん」
「了解しました」
宙を舞うマリアベラの真下を駆け抜けたトリテレイアが、目からビーム! 翡翠色の光線がフクロウの両目を横一文字に斬り裂いた。傷口から吹き出すカスタードクリーム! このフクロウもお菓子で出来ているのだ!
「ユーベルコードの産物とは言え、食糧を無為にするのは気が引けますが」
大きくのけ反り、足をばたつかせながら羽ばたくフクロウに、トリテレイアは突撃槍を突きつける!
「モノがモノですので、処分させて頂きます! ハイッ!」
乗り手の掛け声に応えた馬が大きくいなないて加速! 瞬く間にフクロウへ迫ると同時、トリテレイアは槍でモンブランの胸を突き刺し、天井に巨体を叩きつけ粉砕! 降り注ぐクリームの雨を置き去りにし、馬上で槍をひと振りした。
「ひとまずクリアですね。お二人とも、大丈夫ですか?」
トリテレイアに問われ、二人のアリスがこくこくと頷く。一匹ずつ取りついたマシン・フェアリーも『外傷無し』のメッセージをトリテレイアの視界端に送信。内心で胸を撫で下ろした、その時である! 機械馬の踏みつけた地面からトラバサミ!
CRANCH! 左前脚関節部に鋼の牙が食い込み、機械馬が苦悶しながら激しく暴れる。凄まじい揺れに、二人のアリスはそれぞれトリテレイアにしがみついた。関節部から上がる火花!
「トラップ……!」
「動かないで」
クリームの雨を左手の傘でしのいだマリアベラが瞬時に駆け寄る。右手に構えた仕込み剣でトラバサミを斬り捨てる構え! しかし、彼女の右ふくらはぎに飛来したケーキナイフが突き刺さった!
「っ!」
マリアベラは体勢を崩し転倒するも前転して片膝立ちになった。次の瞬間、トリテレイアの背中にしがみついていた少年が、巻かれていたワイヤーを切られて馬の背から跳ね飛ばされる! 反射的に飛び出しかけたマリアベラの耳元で声!
「だめよ」
甘く囁かれると共に、マリアベラの首に刃があてがわれる。一方、トリテレイアは投げ出された少年に腰部から展開した機械の副腕を伸ばすが、手首と肘関節部分に青白いオーラを燃やしたフォークが突き立った!
「マリアベラ様、カバーを……ッ!」
とっさにマリアベラを振り返ったトリテレイアが凍りつく。彼女の行動を封じているのは、こどくの国のアリス! さらに別個体が少年の落下点に滑り込んで受け止めた。少年を捕らえたオブリビオンは、トリテレイアに冷たい一瞥を投げかける!
「動いたらだめ。この子も、向こうのお姉さんも殺してしまうわ」
「くっ……!」
手を伸ばしかけた姿勢で、トリテレイアは手元の少女を守るように腕を回した。二人のこどくの国のアリスは、それぞれ少年とマリアベラの首にナイフを当てたまま交互に呟く。
「なんてことをしてくれたのかしら。ゲームマスターが怒っているわ」
「アリスを勝手に連れ出すなんて、無粋・不作法もいいところ。部外者は退場しろと怒っているわ」
マリアベラがほんの少し顔を動かし、背後を取ったアリスを見やる。無表情ながら、吊り上がったライムグリーンの瞳が不敵に輝く。
「怒っている、ね。それを聞けてよかったわ。思い通りに行かなくてオウガが歯噛みするさまが目に浮かぶもの」
「まあ、わるいひと」
マリアベラを抑えるアリスが、甘ったるい声で囁く。ナイフを持つ手がわずかに力み、刃が喉笛に食い込んだ。
「知らないの? 王様に逆らった人は死刑なの」
「残るアリスは一人だけ。そういうふうに決められてるの。だから、あなたたちも殺さなくちゃ」
仮面じみた無表情で、二人のこどくの国のアリスのナイフはマリアベラと少年の皮膚に埋まり始めた。トリテレイアは選択を迫られた! 人質が取られている以上迂闊に動けぬ! だが救出せねば二人とも死ぬ! しかし機械馬の足は囚われている!
(一瞬! ほんの一瞬、隙を作ることさえ出来れば! どうにかして、動く隙を!)
騎士兜のスリット奥で激しく明滅するマシンアイ! 思考のオーバークロックと共に時間が鈍化した直後、マリアベラの喉元で突如としてナイフが白く発火し融解!
「!?」
異変を察知して後退するこどくの国のアリスに、解放されたマリアベラは振り向きざまの剣閃を繰り出した! SLASH! 赤紫色の服を裂いて腹の肉が引き裂かれて血霧を放つ。もう片方の意識が逸れた隙に、トリテレイアは片腕を伸ばす!
「格納銃器展開!」
トリテレイアの前腕部肘付近から真鍮色の金属塊が飛び出し、銃身を伸ばしてBLAMBLAMBLAM! 発砲と共にアリスのナイフを持つ腕とその肩口が被弾して血を噴き出す! トリテレイア腰部のサブアームがワイヤー射出!
「だめっ……!」
こどくの国のアリスが声を上げるのも虚しく、ワイヤーは少年の胸倉を捕らえて引っ張り寄せた。少年をサブアームで抱きとめ、トリテレイアが機械馬の足に噛みつくトラバサミの接合部分を銃撃破壊! 自由になった機械馬は前足を掲げていななく!
「確保しました! マリアベラ様!」
「行って。こっちは私が始末をつける」
こどくの国のアリスと対峙しながら、マリアベラが肩口に告げる。それを聞いた二人のオウガアリスは口の端を歪めた。少年アリスを確保していた方が地を蹴ってトリテレイアの前に回り込む!
「逃げられないわ」
「みんな、ここで死ぬ定めなの」
二人のこどくの国のアリスは同時に両手を振り上げ、足元の床に叩きつけた! それぞれの目前、地面に広がる蜘蛛の巣状の亀裂が隆起し、爆裂! マリアベラ側にバッファロー、トリテレイア側にコウモリ群が出現。二人のアリスは同時に命ず!
『殺して!』
「BMOWWWWWWWWWWW!」
『KiKiKiKiKiKiKi!』
バッファローとコウモリ群による挟撃! スポンジケーキめいたアフロ状の頭部から突き出す二本角を睨んだマリアベラは、地を蹴って真っ向から走り出した! 小ジャンプして曲げた両足をバッファローの頭部に向け、着地!
「トリテレイアさん、前言撤回! こっち任せるわよ!」
「……! 了解しました!」
即座に機械馬が反転し、バッファローめがけて疾駆する! それを追うコウモリたちを見上げ、マリアベラは強靭な脚力でドロップキック! リコイルショックめいて僅かに後退するバッファローから銃弾じみて飛翔した。
トリテレイアとすれ違いざま、マリアベラは馬上に抱かれたアリスたちを見やる。不安そうな顔で見てくる二人に、普段は見せない微笑みを返す。そして虚空を突き抜けコウモリの群れへ! 地面スレスレまで下がったマリアベラの剣が白炎をまとう!
「悪いけど、あの子たちの血はすすらせないわよ。まとめて焼き払ってあげる」
宣告と共に斬り上げ、CABOOOOOOOOM! 噴き上がった純白の爆炎がコウモリの群れをまとめて飲み込み焼き払う! 重なる甲高い絶叫を背後に、トリテレイアは銃器を備えた腕をバッファローに突きつけた!
「こういう戦い方は、正直あまり好きではないのですが……事情が事情です! お覚悟を!」
BLAMBLAM! 二連続で放たれた鉛弾がバッファローの前脚をくじき、土下座めいて地に鼻先を押しつけさせる! 間髪入れず機械馬に命令通信! 逞しく蹄を打ち鳴らした鋼の騎馬は天井スレスレまで跳躍し、バッファローに落下する!
SQUAAASH! 踏み潰されたバッファローからホイップクリームとブルベリージャムが飛散! 残骸を蹴飛ばした機械馬は疾走を再開し、今度はこどくの国のアリスを潰しにかかった。アリスは不快げに眉根を寄せる。
「抗うのね……忌々しいわ」
アリスは大きくバックジャンプしムーンサルト回転! 投擲されるナイフやフォークがトリテレイアに抱えられたアリスを狙う! トリテレイアは銃とは逆の腕に備えた盾で前面を庇って投擲物をガードした。盾越しに天井を見るが―――いない!
「下っ!」
トリテレイアの命令通信に従ってジャンプするサイバー騎馬の真下を、こどくの国のアリスが低姿勢ダッシュで駆け抜ける! そのまま前後反転、右手と開いた両足で制動をかけてトリテレイアを狙って斜めに跳んだ! 右腕に絡まるグミの蛇!
「騎士様は、お呼びじゃないのよ」
鋭く突き出されたアリスの腕から伸びる蛇が、トリテレイアの首に絡みつく! 思い切り後ろに引かれたトリテレイアはのけ反りながらも、落馬せぬよう足と上体に力を込めて姿勢維持! 直後、彼の両ふくらはぎが左右に開いた!
「脚部ブースター……点火ッ!」
ZGWOOOOOOSH! 噴射されたジェットファイアがこどくの国のアリスを襲う! こどくの国のアリスは左腕に青白いオーラをまとわせ、顔を庇った。上下に盾めいて広がったオーラが弾け、巨大なサソリの盾を生み出す! 炎を防御!
「ロシナンテ、体勢制御! 二人とも、口を閉じて私にしっかりつかまってくださいッ……!」
「あつ、いっ……!」
BOOOOOOOOM! ジェット噴射を挟んで引き合う二人。トリテレイアは保護したアリスをしっかり抱きしめ、決して離さない構え! こどくの国のアリスも盾を掲げながら蛇を引き、決してトリテレイアを逃がさぬ!
拮抗の中、こどくの国のアリスはグミ・スネークの巻きついた腕を大きく背後へと引き寄せる! トリテレイアの身体が後ろに傾き、体勢を崩しかけた―――その時である!
「そこまでよ」
こどくの国のアリスの背中に衝撃! 丸くなったアイスブルーの目が視線を下げると、胸から斜めに細身の刃が突き出している。忍び寄ったマリアベラがこどくの国のアリスに心臓を射抜いたのだ! 根元まで剣を押し込んだマリアベラは冷たく囁く!
「立場が逆になったわね、可哀想なアリス」
「あ……」
マリアベラは剣を引き抜いた勢いで逆回転し、アリスの首を跳ね飛ばした! 音も無く降り立つ時計ウサギの背後で、こどくの国のアリスはシャンパンめいて鮮血を吹き出して爆発四散! グミのヘビが千切れ、トリテレイアが解放された。
「うっ!」
ブースターが勢い余って機械馬を浮かせ、天井にトリテレイアの頭がつきかける。兜がギリギリの所で天井を掠めたところでサイバー騎馬が落下! 着地の衝撃でよろめきかける馬を重心制御で取りなしたトリテレイアを、マリアベラが呼ぶ。
「二人は無事?」
「ええ、なんとか……」
「良かった。だったら、二人を連れて早く行って。来るわよ」
フェンシングめいた構えを取るマリアベラ。直後、そのワン・インチ距離にもう片方の孤独の国のアリスが踏み込む! 両手十指にナイフを挟んだ彼女に、マリアベラは片足を引いて剣を水平に引き絞った。始まる超高速斬撃の応酬!
SLLLLLLLLLLLLLLLLLLL! 激しく乱れ飛ぶ刃の銀! マリアベラはこどくの国のアリスが繰り出す右手のナイフに剣の腹を添え、受け流して回転斬りを繰り出す! 素早く屈んだアリスの金髪を仕込み剣が裁断!
「んっ!」
アリスのサマーソルトキックが跳ね上がったマリアベラの顎先を掠める! 反撃に放たれた眉間狙いの刺突を左手指に挟んだナイフで絡めとるアリス。次の瞬間、マリアベラは白い風をまとって地を蹴った! 一気にアリスを押し込んでいく!
「つっ……!」
「踊りましょう、哀れなアリス。私が死ぬまで付き合ってあげる」
こどくの国のアリスは憎々しげにマリアベラの目を睨みつけ、両足を踏ん張った。靴裏が激しく擦れて白煙を上げ、無理矢理ブレーキをかけんとす! トリテレイアがどんどん離れる! デスゲームの参加者とともに!
「逃がさない、逃げられない……! 生き残れるのは一人だけ、それがこどくの国の法だから……!」
「……そう」
剣の柄を両手で握り、マリアベラは一瞬目を伏せる。だが即座に顔を上げ、アリスに足払いをかけた!
「きゃっ!」
「それならなおさら、あの子たちに近づかせるわけにはいかないわね」
マリアベラの右膝から下が白い竜巻に包まれた! 足が地を離れ、斜めに傾くアリスのあばらを蹴り上げる! 骨の砕ける感触が足に伝わり、マリアベラは顔をしかめた。蹴り足を振り下ろして踏み込み、アリスの鳩尾に白風の掌底!
ZOOOOM! 重い衝撃が波紋めいてアリスの全身に伝播し、彼女の口から血を吐かせる。アリスは浮き上がった手を振り下ろし、四本のナイフをマリアベラの肩と首の付け根に叩き込んだ! 噴出する血に構わず、マリアベラはアリスを見据える。
「まだ……戦うつもり?」
「殺さないといけないの……殺さないと……私たちは……!」
アイスブルーの瞳が揺れる。マリアベラは目を閉じ、ナイフを振り下ろしたアリスの肩をつかんで床に叩き伏せた! アリスの肺から空気が絞り出される! その喉笛に剣の切っ先を触れさせ、穏やかに告げた。
「あなたを助けられれば違ったのかもしれないけれど……生憎、そうもいかないようね。迷えるアリスだったのかもしれないけれど、あなたはオウガ。私には、せめて苦しまないようにするしかできないの。……悪く思わないでちょうだいね」
目を見開くアリスの胸を、マリアベラの刃が穿つ。力の抜けた十指からナイフが転がる金属音が、洞窟の中に虚しく響いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
土斬・戎兵衛
『俺ちゃん・おたく・彼/彼女・名前+くん/ちゃん/さん』
望む夢:大儲け
小物共がミミズみたいに湧いてきたね
基本方針は案内人探しと同じ、レギオンの現れる方向に起点があると予測して『こどくの国のアリス』を捜索
レギオンはあまねく断ち斬るUCでさっさっか【早業】撃破していく
幻影使いか、斬れないモノは苦手だよ
溢れるお金ちゃんは俺ちゃんの『しあわせ』
だけど、リアリティに欠けるね
俺ちゃんあんまり頭が良くないから、損することも多いのよ
今日は損しても、明日は得するかもしれないって"起伏"が幸福の指標を形作ってくれるんさ
垂れ流される『しあわせ』なんて夜見る夢と同じと【見切り】は容易い
さあ、儲けるためにおたくを斬るよ
迷宮外周の一角は、宝石の埋まった坑道とはまた打って変わった様相を呈していた。
どこまでも広がる広大な金! 砂漠の砂めいて敷き詰められた金銀財宝の大地に変化しているのだ! 太陽じみた眩い煌めきは、万人を欲望の沼に突き落とす魔性の光。だがそこは現在、ただ一人が舞い踊るキリングフィールドでもあった!
金貨の中からアナコンダが飛び出し、鎌首をもたげる。その眼光を、戎兵衛は振り返りながら見上げて腰に帯びた刀を引き抜く!
「ハッ!」
銀閃を走らせた戎兵衛は噛みつきに来るアナコンダに背を向けた。直後、SLASLASLASH! 三連続の斬撃がアナコンダを輪切り殺! 足首までを飲みこむ金貨を跳ね散らす彼の背後、アナコンダの死体は地に落ちたケーキめいて飛散した。
戎兵衛は刀をひと振りして刃についたベリーソースを払う。彼の周囲には既に大小さまざまなケーキ・スネークの残骸が転がっている。目もくらむ財宝の輝きをものともせず、オレンジ色の瞳が辺りを見回した。
「確かに、小物共がミミズみたいに湧いてきたねとは言ったけどさぁ……何も長いやつばっかり出してくることはないんじゃない? いい加減に出ておいでよ。居るのはわかってんだからさ」
刀の峰で肩を叩いて呼びかける。しばし待つが、応答なし。戎兵衛がやれやれと苦笑しながら肩を竦めた。
「出て来いとは言ったけど、別に真後ろじゃなくてもいいんだよ? なんでこう、君は色々ズレてるのかな」
軽い調子で呟きながら振り返ると、やや離れた場所に佇む一人の少女。両拳を握りしめたこどくの国のアリスが、蛇蝎を睨むが如き表情で戎兵衛を見据えていた。薄青色の瞳には子供じみた純粋な怒りが燃えている。
「……どうして」
「どうしてこのオタカラに飛びつかないのか、って?」
アリスの言葉を横取りし、戎兵衛は悠然とした面持ちを崩さないまま刀の峰を手の平に当てた。足元の金銀財宝とはまるで違う、鈍く剣呑な光を放つ刃を撫で上げる。
「うん。溢れるお金ちゃんは俺ちゃんの『しあわせ』だ。間違っちゃいない。……だけど、リアリティに欠けるね」
こどくの国のアリスが怪訝そうに眉をひそめる。戎兵衛は明後日の方を見やり、独り言めいて呟いた。
「俺ちゃん、あんまり頭が良くないから、損することも多いのよ。けどさ、今日は損しても、明日は得するかもしれないって『起伏』が幸福の指標を形作ってくれるんさ。垂れ流される『しあわせ』なんて、夜見る夢とおんなじよ」
「……夜見る夢?」
「そ。まぁつまるところさ……」
戎兵衛の目がアリスに向いた。直後、突風じみた殺気に打ち据えられアリスは目を見開いて半歩後ずさる! 金銀財宝の幻影がメッキを剥がされるように輝きを失っていく。世界は戎兵衛を残してグレーに、やがて黒く染め上げられた!
「目がサエちゃえば同じってこと。おたくもそろそろ、悪い夢から覚める時期じゃない?」
真っ暗になったアリスの視界が突如開ける。財貨の光が消え失せ、辺りを包むのは夜の闇。赤い満月が浮かび、ススキが揺らぐ平原に戎兵衛が立つ! 月を背にした彼は軽く肩をそびやかす。
「おっと……これじゃあ、別の悪夢が始まったみたいになっちゃうのかな、もしかして?」
おどけたように告げた瞬間、アリスは右手人差し指の先に青白いオーラを灯した! 生み出されるクリームを口に含み、両手を振って十指にフォークを構える! こちらに突きつけた切っ先を引き絞る戎兵衛に、高速ダッシュで一気に接近!
「ほう?」
楽しげに呟いた戎兵衛のゼロ・インチ距離! 構えられた刃とすれ違う形で踏み込み、喉元めがけてアッパーカットの要領でフォーク握る手を突き上げる! 戎兵衛は摺り足めいた足運びで下がりこれを回避。空振りした腕を断ちに行く!
「ふっ!」
「……ッ!」
まなじりを裂かんばかりに目を見開いたアリスの姿が掻き消え、戎兵衛の背後に再出現! 斬撃の勢いのまま前後反転した戎兵衛の斬撃を屈み回避する! 腹めがけて繰り出されるブロウを、戎兵衛は振り下ろした刀の柄尻で叩き落とした!
「危ない危ない、っと!」
アリスが放つサマーソルトキックを上体を逸らしてかわす。両手で刀を握った戎兵衛は宙返りして着地したアリスの肩口に斬撃を打ち込んだ! バックジャンプで逃れるアリスに戎兵衛はピタリと追随!
「そうそう、頑張ってかわしなよ。でなきゃ、バッサリ斬られちゃうからさ」
軽く言いながらの斜め斬り下ろし、横斬り、首狩り斬撃! 全てすんでのところで避けたアリスは戎兵衛の右目めがけて左手のフォークを投げた! 傾けた顔の真横を抜けた投擲物に一切構わず、戎兵衛はアリスの両足をまとめて切断にかかる!
「っ!」
小ジャンプで刃を避けたアリスは追撃を許さぬ空中回し蹴りを繰り出した! 側頭部狙いの攻撃を戎兵衛の裏拳が弾き返す。アリスは反動を利用して逆回し蹴り! 反対の側頭部を狙うも戎兵衛は刀持つ手首でガード! アリスは右目めがけてフォークを投げるも戎兵衛は頭を下げて回避した。
「危ないなぁ。目は勘弁だ。お金ちゃんを勘定できなくなるからさ」
防御に回した手の中で刃が回転し、アリスの膝を斬り落とす! 空中で姿勢を崩したアリスの前で、戎兵衛は身を起こして刀を正中線に構えた。とっさに両腕で防御態勢を取るアリスを捕らえた視界が、何重もの白刃の軌跡を未来予知めいて捉える!
「ま、ざっとこんなもんかな……っと!」
SLLLLLLLLLLLLLLLLLASH! 超高速の連続斬撃がアリスを塗り潰した刹那、戎兵衛は彼女に背中を向けて刀を収めた。赤い月に照らされたアリスの陰は細切れになって落下。殺伐の平原の闇に溶けて消えた。
大成功
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第3章 ボス戦
『『貴石の狩人』ブルーノ』
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POW : 術式『魔導粒子法』
【ルビーを発振媒質とした拡散レーザー】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 術式『頑火輝石』
【黒曜石の長刀と金剛石のバックラーを構える】事で【魔法抵抗の高い石鎧に身を固めた姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 術式『三つ巴の矩形鱗』
【ロードナイトが生み出す炎の魔力】【サファイアが生み出す水の魔力】【エメラルドが生み出す風の魔力】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
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●お知らせ
・現在戦争中なので、プレイング受付を一旦停止いたします。戦争終了後、再度募集をかけますのでそれまでお待ちください。
●お知らせ
・戦争も終わりそうなので、プレイングの受付を再開します。
・ボス戦なので来た分を一気に仕上げる予定です。
・プレイング受付の締め切りは2月21日の8:00までとします。
・ここからの参加も大歓迎です。
ビリー・ライジング
ミリィ(f05963)と共に行動
『俺・お前、呼び捨て・お前達・苗字か名前で短い方を呼び捨て、ミリィも呼び捨て』
あの大爆発で死んだと思ってたか? 悪いが俺は不死身なんでな。
くだらないデスゲームはここまでだ。come to an end(終幕)と行こうか!
【先制攻撃】として【高速詠唱】で【限界突破】のUCを発動。
相手の攻撃はレイピアの【武器受け】による防御や、【見切り】で回避。
【フェイント】の刺突攻撃で相手の背後に回った後、
【2回攻撃】で相手の黒曜石の長刀に【武器落とし】を叩き込む!
ミリィ・ライジング
ビリー(f05930)と共に行動
『私・あなた、~さん・皆さん・苗字か名前の短い方にさん付け、ビリーは「お兄ちゃん」と呼ぶ』
まだ戻ってこないお兄ちゃんが心配だけど……アリスの皆さんを無事に元の世界へ帰す。これだけは何としてでも遂行する!
【高速詠唱】でUCを発動して、炎の【属性攻撃】と【破魔】を込めた護符や手裏剣で【投擲】攻撃。
ビリーが戦闘に加わったら【忍び足】で【目立たない】ように【闇に紛れて】ビリーとの戦闘中の隙を突く。
【暗視】と【聞き耳】で相手の隙をうかがい、相手が怯んだ一瞬に急速接近して、至近距離から手裏剣で【暗殺】攻撃で喉元を斬り裂く。
土斬・戎兵衛
あっ、アリスの保護は終わった感じ?
救出は同業に頑張ってもらっちゃったし、せめて"殺し"はちゃんとやろうか
鎧も盾もなんのその
斬るべき角度を【見切り】、金剛石とて断ち切ってやるさ
魔力抵抗? 自力でできるのは刀を振り回すくらいの俺ちゃんには、関係のない話だよ
レーザーは磨き抜かれた硬貨を【早業】で大量に放てば軌道を逸らせないかな?
属性の魔力は……斬れない流体はちょっち苦手
首枷を盾にしつつ、同業の守りにでもあやからせてもらおう
自力ではできないと言ったけど、おたくは良い術式を見せてくれた
そして、仕事を半サボりして掘った媒介向きの宝石も
鎧を剥いだら、UCで宝石の魔力を剣に込めて、たまには魔法斬撃と洒落込もう
トリテレイア・ゼロナイン
悪辣な催し物はこれで最後にして頂きましょう
アリス達への暴虐、骸の海への送還で償っていただく
アリス達の保護の為、遠隔●操縦する機械馬を傍に侍らせた上でUCを防御重視で戦場に展開
猟兵とオウガのみの決闘場を作り出すことでアリス達を●かばいます
レーザーは光学センサーによる●情報収集からルビーのカッティングを計測そこから発射角度を●見切り●盾受け●武器受けで防御
儀礼剣の対光線兵器反射コーティングで撃ち返し仲間をかばえれば最上ですね
特定対象への執着を持つケースのオブリビオンならば…
人形へワイヤーアンカーを射出
奪うよう見せかけ本命は格納銃器での●スナイパー射撃の●武器落とし
致命的な隙を作れるでしょうか…?
マリアベラ・ロゼグイーダ
ごきげんよう、お招きいただいてないけど楽しませてもらったわ
パーティも佳境、先にいたいたお菓子も美味しかったけど、でもそうね……そろそろメインディッシュをいただきたいわ
●戦闘
相手の攻撃厄介ね。あちらの攻撃は見切りと第六感、空中浮遊、武器受けを使って回避
とはいえやられっぱなしではいられないわ。相手が攻撃するタイミングで軽く攻撃して行動妨害をするわ
大きな隙を見せたら全力魔法、衝撃波を乗せたUC『導くもの』で攻撃よ
さようなら、素敵なパーティも最後はアリスの癇癪で終わるものよ
終わったらアリスたちをウサギ穴を使って別の世界に送っていきましょう、約束したものね
カイム・クローバー
一人称:俺 二人称:あんた 三人称:あいつ 名前:名前で呼び捨て
俺が担当していた二人は少し離れて隠れて貰うぜ。これで洞窟に脅威はねぇだろう。必ず、此処から無事に返してやる。信じて待ってろ…な?
いよいよこのクソゲームの黒幕のご登場って訳だ。へぇ、クソゲームの考案者の割には整った顔立ちしてんな。(連れている人形を見て)そっちは?娘か何かか?
魔剣を顕現。【二回攻撃】を使用しつつ、紫雷の【属性攻撃】を刀身に宿して【範囲攻撃】。
あんなモン構えるくらいだから、防御力には自信ありってトコか。
砕くよりは、貫く方が容易いだろう。【串刺し】を併用しつつ、UC。
教えてやるぜ。金剛石を貫く技ってやつをよ。
「ARRRRRRRRRRRRRRRRGHッ!」
激昂の勢いで立ち上がったブルーノは、真横に設えられたテーブルを蹴り倒した。さらに振りかぶった右前腕部に赤い輝きを灯し、パンチに合わせてビームを発射! 迷宮内を映す額縁を爆発粉砕!
額縁の破片や火種が転がり、カーペットを焦がすのも構わず、激しく髪を掻き毟りながら怒りのままに吠えるブルーノ! 怒り冷めやらぬ!
「猟兵ッ……俺の世界に土足で踏み入る犬どもが! なんの権利があって! ハニーの蜜月を台無しにッ! ふざけるな! 道理もわきまえない畜生どもめが! ARRRRRRRRRRRRRGH!」
頭を掻きむしりながらのけ反ったブルーノは、両腕を振り下ろしてクールダウン。額から幾筋かの血を流し、荒い息を吐きながら視線を左にやると、椅子にちょこんと座ったビスクドールが彼を見ていた。
「……ああ、そうだな。見苦しいところを見せた。すまない、ハニー」
ブルーノはスーツの懐からハンカチを取り出し、額の血をぬぐい取る。手で髪型を軽く整え、ジャケットの裾を伸ばして正すと、彼はビスクドールを抱きあげた。
「だが許せないだろう? ハニー。君の御馳走をひっくり返し、横から台無しにしたあいつらを。彼らは苦しみ、より深みのある味に仕上げなければならない。……行こう。あの野良犬どもを一人残らず狩り殺して、ゲームを仕切り直す……!」
目に憤怒の炎を湛え、ブルーノが部屋から歩き出した。目指すは迷宮。己の力で生み出した、死と殺伐のステージだ!
●
一方その頃、とある迷宮の区画。一か所に集めたアリスたちの数を手早く数え、マリアベラは頷いた。
「全員いるわね」
「ああ。数え間違っちゃいなさそうだ」
マリアベラの隣で頷くカイム。二人の前には、ブルーノのデスゲームに参加させられていた少年少女がおり、その後方ではトリテレイアとミリィが並んでアリスたちを見守っている。
アリスたちは互いに牽制し合っているが、助けてもらった手前表立って争うつもりはないようだ。マリアベラが不安げに見上げてくる少女を抱き寄せ、頭をなでてやっていると、背後から軽い声が聞こえて来た。
「あっ、アリスの保護は終わった感じ?」
カイムとマリアベラが振り向くと、通路の奥から戎兵衛が草履を鳴らして歩いて来ていた。手にはスイカ大に膨らんだ風呂敷。マリアベラは戎兵衛の荷物から視線を上げると、半眼を作って言う。
「ええ、見ての通り。それで、あなたは何をして来たのかしら? ずいぶん大荷物のようだけれど」
「ははははは。まぁまぁ、そうツンケンしないで欲しいね。俺ちゃんだって、別にサボッて遊んでたわけじゃないんだ。それなりにオブリビオン斬り殺したりしたんだよ? ……それとは別に、お宝ちゃんは頂いたけどね」
飄々と告げる戎兵衛に、マリアベラは半ば呆れたように溜め息を吐く。
「いや、ホントなんだって。おたくらに救助任した分、首級は上げて来たつもりさ。俺ちゃん、仕事はちゃんとするんだ」
「はいはい。嘘じゃないと信じるわよ」
ややぞんざいな態度で告げられ、戎兵衛は困ったような笑顔で後ろ頭を掻いた。その様子を見ていたカイムは苦笑しながら肩をすくめる。
「戎兵衛。それは当然、山分けなんだよな?」
「えぇー
……。……まぁいいけどさ。いろいろ押しつけちゃったしね」
不承不承了解する戎兵衛。一方、トリテレイアはそわそわと辺りに視線を向けるミリィに目を向けた。どこか不安げな表情。
「ミリィ様、如何なさいましたか」
「お兄ちゃんが戻ってこなくて……さっき、この子たちを保護する時にオブリビオンを引きつけてくれたんだけど……」
「なるほど、それは心配でございますね」
答えながら、トリテレイアは顎下に手を当てた。迷宮にはびこるオブリビオンは駆逐しきったものの、元凶がまだ残っている。アリスたちを置いていくのは危険であり、猟兵は一人でも多い方が良い。やがて、トリテレイアは手を下ろした。
「では、私が捜索用のドローンを展開しておきます。ひとまずこちらはアリスたちの送還を優先致しましょう。身を挺してアリスたちを庇ったビリー様のためにも、急いで彼女たちを元の世界に戻してあげねば」
「うん……」
やや暗い面持ちで頷くミリィ。アリスたちを挟んで彼女の対面では、戎兵衛が大風呂敷を置いて問う。
「で、これからどうするんだい。元締めのオウガもその子たちもほっとけないよね?」
「とりあえず、こいつらを返すのが先決だろうよ。このままここに座らせといても仕方ねぇ。一応、ザコは狩り尽したから危険は無いと思うが…………マリアベラ、あんたはどう思う?」
「同感」
カイムに水を向けられ、マリアベラは即答した。
「こんなとこに放置したってどうしようもないわ。グリモア猟兵に連絡しましょう。主催者にお仕置きするのはその後でいい」
「よし。……トリテレイア、ミリィ、あんたたちは……」
カイムがトリテレイアとミリィの方を見やった、その時である! GYAAAM! 甲高い音を聞いた戎兵衛が前後反転居合いを繰り出し飛来した赤い光線を斬り払った! 琥珀色の目を細めた彼は、剣呑な声音で呟く。
「あちゃー……もう来ちゃったかー」
戎兵衛の背後で、マリアベラが抱きついていた少女を優しく離す。カイムは肩越しにアリスたちを一瞥。先ほど救出した二人に、口角を上げて頷いて見せた。
「必ず、此処から無事に返してやる。信じて待ってろ……な?」
二人が首を縮めながらも頷き返したのを確認すると、カイムはマリアベラと共に進み出た。さらにトリテレイアとミリィがアリスたちを守るように庇い立つ。身構えた五人の前方、薄暗い洞窟に靴音を響かせながら、ブルーノが姿を現した!
「招かれざる客が、好き勝手に不作法してるな?」
茶髪の少女人形と手を繋ぎ、逆の手をスラックスのポケットに突っ込んで歩み寄るブルーノ。猟兵たちから10メートルほど離れた位置で立ち止まった彼は、殺意にギラつく瞳で五人を睨んだ。マリアベラとカイムはその目を真っ直ぐに見返す!
「ごきげんよう、お招きいただいてないけど楽しませてもらったわ」
「おっと、いよいよこのクソゲームの黒幕のご登場って訳だ。へぇ、クソゲームの考案者の割には整った顔立ちしてんな?」
ブルーノが侮蔑的な笑いを返し、スラックスから抜いた手で前髪をかき上げる。わずかに顎を上げ、手の平の影から怒りに燃える視線を投げた。
「不作法な上に、口の利き方もなってないと来た。やれやれ、どれだけの美貌を着飾ろうが犬は犬……おっと、一人は兎だったかな?」
投げキスめいた手の動きで前髪を払うブルーノ。気障めいたムーブには目もくれず、トリテレイアは背負っていた馬上槍とタワーシールドを腕に構える!
「悪辣な催し物はこれで最後にして頂きましょう。アリス達への暴虐、骸の海への送還で償っていただく」
「ふん。こちらのゲームを台無しにした口で暴虐と言うか。……あまり調子に乗るなよ? 下郎ども」
顔を憎悪に歪めたブルーノは、軽く掲げた指を鳴らす。直後、迷宮横壁に埋まった宝石たちが一斉に眩い輝きを放った! 身構える猟兵たちを挟む岩壁は、彼らとブルーノのちょうど間から左右に広がり空間を円形に拡張していく!
天井もまた上に凹みながら押し上げられ、通路は数秒で広大なドーム状に変化した。戎兵衛は生成されたコロシアムの岩壁を見渡しながら、鼻を鳴らして笑った。
「舞台作りはお手の物ってわけだね。ここの宝石ちゃん、結構便利じゃん」
「俺が手ずから作った魔石だ。本来貴様が手垢をつけていいものではないのだよ、木偶人形。そして……」
ブルーノが少女人形を抱き上げると同時、彼の身体が白黒二色の光を放つ! 猟兵たちの視界を一瞬奪った閃光はすぐに消えると、そこには黒曜石の長剣とダイヤモンドの円盾を携えた宝石鎧の騎士が立っていた!
全身鎧をまとったブルーノは盾を突き出して剣を引き、身を沈めて臨戦態勢!
「喜ぶといい。ここは世界で最も美しい墓穴だ。ここで死ぬ貴様らのために、この世で最も煌びやかな死に化粧をくれてやろう!」
次の瞬間、両足を輝かせたブルーノが飛び出した! カイムと戎兵衛が迎撃に走る後ろで、マリアベラはトリテレイアに肩を貸して大ジャンプ! 全身に青白い瘴気をまとったミリィは弧を描くような軌道で走りながら両手に手裏剣を持つ!
「はっ!」
ミリィが走りながら手裏剣を連投! 白い炎を燃やして殺到する投擲物を、ブルーノは回転跳躍して回避! 直後、空中のトリテレイアは左腕を覆う大盾の下部から生やした鋼のパイルを空間外周めがけて乱射した! 訝るブルーノ!
「なんだ……? どこを狙っている」
「おっと、余所見は厳禁だぜ」
呟いたカイムが両腰の二丁拳銃をクイックドロウで撃ち放つ! BLAMBLABLAMBLAM! 飛来する白銀の弾丸を、ブルーノは円盾を掲げながら疾走して弾く! 横合いから彼の足首を狙うミリィの手裏剣!
「ぬるい!」
ブルーノが加速して手裏剣の軌道から逃れる! 次の瞬間、空間を防護柵めいて囲ったトリテレイアの金属杭の頂点から30センチ下に切れ込みが入り、せり上がった。露出した黒い内部機関が青白い電光を放つ!
「バリアジェネレーター起動! 皆様、お気をつけて!」
天井付近から響くトリテレイアの警鐘! 同時に金属杭は放電し、戦場を覆い隠すドーム状のバリアを作り出す! さらに金属杭から撃ち出された電流がブルーノの全方位から襲いかかった! ブルーノは剣を振りかぶって腰をひねる!
「翡翠に染まる颶風あれ!」
ブルーノの全方位回転斬撃に合わせ、緑の風が吹き荒れる! 360度の電磁波をまとめて吹き飛ばした彼は、低姿勢ダッシュで突っ込んで来る戎兵衛を迎撃! 黒剣を振り上げ脳天をかち割りに行く!
「まずは貴様か、木偶人形! 狼藉の報いを受けるが良い!」
「お断りだね!」
双方ワン・インチ距離! 戎兵衛が刀に手を駆けた瞬間、二人の姿がワープめいてすれ違う! 一拍遅れて斬り飛ばされる黒曜石の剣! ブルーノは半ばで分かたれた己の剣を醒めた目で見下ろした。
「剣を……」
「魔力抵抗? 自力でできるのが刀を振り回すくらいの俺ちゃんには、関係のない話だよ。次は首をもらう!」
戎兵衛の前後反転斬撃をブルーノは屈んで回避! 後ろ脚で戎兵衛の下顎を蹴り上げて前転した彼に、跳躍したカイムが急降下する! 振り上げた両手に灯る黒銀色の炎が斜め後方に伸びて爆裂。黒い大剣が現れる!
「おらよッ!」
刀身に紫電をまとわせた落下斬撃を、ブルーノは金剛石の盾でガード! 飛び離れたカイムは大剣を振りかぶる! ブルーノの背後から戎兵衛が離れたのを確認し、横薙ぎフルスイング!
「消し飛びな!」
ZGRAAAAAAAK! 斬撃と共に放たれる津波じみた紫電! ブルーノは再生した黒曜石の剣を振り上げ、紅蓮の炎を宿して斬り下ろす! SLAAASH! モーゼめいて紫電波を両断し、疾走しながら大盾を構えるブルーノ!
「我が紅玉に輝きよ……」
金剛石の盾が真紅に輝く! 大剣を振り切ってスタンしたカイムの目を、灼けつくような光が塗り潰した! その間に垂直落下したトリテレイアが突撃槍を背にしまい、腰からロングソードを引き抜く!
「カイム様! その場から動かぬよう!」
「在れッ!」
赤く輝く盾から放たれるレーザーがトリテレイアに襲いかかる! トリテレイアは剣の腹を光線に向け、右下から斜めに斬り上げた! ZGYUUUUUUUUM! 刀身に命中した光線はトリテレイアの左斜め後方に飛翔! バリアに激突!
ZGAAAAAAAM! 派手な爆発音に構わず、トリテレイアは大盾を構えてブルーノのシールドバッシュを防御する! CRASH! 数センチ後ろに下がった機械騎士はショルダータックルの要領でシールドバッシュ反撃!
「チッ!」
弾き飛ばされたブルーノはバク宙を決め着地! その後方上空から白い傘をビリヤードめいて引き絞ったマリアベラが急襲をかける! 石突を包む白い炎!
「パーティも佳境、先にいたいたお菓子も美味しかったけど、でもそうね……そろそろメインディッシュをいただきたいわ」
黄緑色の瞳を剣呑に光らせ、刺突を仕掛ける! 肩越しにこれを見たブルーノは前後反転ダッシュでマリアベラの真下を突破。その左くるぶしからふくらはぎにかけてミリィの手裏剣が突き刺さった! ブルーノがたまらず体勢を崩す!
「土斬さん!」
「はいはいっと!」
ミリィの声に合わせて突っ込む戎兵衛! とっさに掲げられた盾を一閃の下に斬り捨てた彼の眉間に、ブルーノは黒曜剣を突き出した! バックスウェーでギリギリ避けた戎兵衛の目前で、剣の切っ先が爆炎を噴く! BOOOOOOM!
「おわああああああッ!」
頭部を火だるまにされた戎兵衛がひっくり返ってのたうち回る! 彼の脇腹を蹴り転がしたブルーノは直角ターンを決めてミリィに迫った! ミリィはマシンガンめいた手裏剣の連射で迎撃するが、再生した金剛石の盾に阻まれ当たらぬ!
「やあああああっ!」
「穿て、紅玉!」
ダイヤモンドバックラーが再度赤い光を放ち、横殴りの雨じみてビームを乱射! 飛来する手裏剣を片っ端から貫通破壊し、防御態勢を取る彼女の全身を次々と穿つ! ミリィは蒼白い瘴気を前面に集中させるが防ぎきれない!
「うぐっ……!」
「君は手足を削いで椅子にネジで止めてくれる! 茶会の対面も出来てハニーも喜ぶだろう!」
体中から血飛沫を飛ばしながら尻餅を突くミリィ! 突撃しながら黒曜石の剣を振りかぶるブルーノの側面に、走ったマリアベラが飛び蹴りを打つ! 白い竜巻をドリルめいてまとった彼女は、射線をスライドさせた光線乱射を弾きながら肉迫!
「止まりなさい」
「ふん」
横合いからのキックをブルーノは盾を振って逸らした。錐揉み回転したマリアベラはブルーノが繰り出す横薙ぎ一閃を垂直にした傘でガード! 追撃のサマーソルトキックを繰り出す爪先を片足で踏み付け、そのまま後方にジャンプした!
「ごめんなさい、カバーお願い!」
「ああ!」
マリアベラの要請を受けたカイムが紫電をまといながらブルーノに急速接近! 下段に構えた大剣の切っ先が地面をかすめ、すみれ色に輝く軌跡を引っ張る。ブルーノは黒曜石の剣を逆手に構えて振り上げた!
「蒼玉が如き大海よ!」
黒剣の切っ先がブルーノの足元に突き立てた直後、彼の目前に巨大な津波が吹き上がった! カイムは舌打ちしながら大剣を斬り上げる! 刀身から伸びた紫雷の刃が津波を両断! その隙間から飛んだ翡翠のカマイタチがカイムの胴を裂いた!
「ぐあッ!」
黒いジャケットの裂け目から血を噴き出すカイム! 一方でブルーノは尻餅を突いたミリィに踏み込み、心臓めがけて黒剣を引き絞る! 宝石鎧の隙間から覗くブルーノの瞳。ミリィがぎゅっと目をつぶり、剣の切っ先が撃ち出された刹那!
「ミリィ―――っ!」
ZGYAAAAAM! バリアの一部を突き破り黄金色の爆炎が戦場に飛び込んだ! 炎はミリィの前に割り込みブルーノの剣を弾く! 恐る恐る目蓋を開いたミリィは目を見開いた。兄のビリーが彼女を庇う形で立ちふさがっていたのだ!
「お兄ちゃん!?」
「待たせたな、ミリィ!」
煤だらけになったビリーはレイピアを構え、飛び下がるブルーノに突撃! 逆巻く白炎に包まれた細い刀身で繰り出すラッシュを、ブルーノは風をまとった連続斬撃で受けて立つ! 銃撃戦めいた金属音! 兜の奥でブルーノの表情が歪む!
「貴様……!」
「あの大爆発で死んだと思ってたか? 悪いが俺は不死身なんでな」
ブルーノがレイピア刺突を円盾で跳ね返し、右足にまとわせた炎を蹴り上げる! レイピアで炎弾を斬り捨てたビリーはブルーノをワン・インチ距離で睨みつけた!
「くだらないデスゲームはここまでだ。come to an end……終幕と行こうか!」
「あまり粋がるなよ、小兵……! お前の頭に魔石を埋め込み、妹の前で俺の尖兵として使い潰してやる」
「やってみろッ!」
ビリーの赤い瞳を白炎が縁どる! マシンガンじみた速度で放たれる白く燃え盛るレイピアの連撃を、プロペラめいて高速回転させた黒曜石の剣で次々と弾くブルーノ! 後ろに引かれた金剛石の円盾が赤く瞬いた、その時である!
「させません!」
猛然と突進したトリテレイアのシールドバッシュが金剛石の円盾に直撃! CRAAASH! 真横からの重衝撃に体勢を崩すブルーノの盾が天井を向き、明後日の方向にビームを放った。ビリーは兜の覗き穴めがけて刺突!
「ぬうッ!?」
とっさに剣持つ腕を掲げて防御体勢を取るブルーノ! しかしそれはフェイントである! 背後に回ったビリーはブルーノの肩越しに刺突を放って黒曜石の長剣を弾き出す!
「後ろかッ!」
ブルーノの反転蹴り屈んで回避したビリーは再度ブルーノの背を取った。燃えるレイピアを引き絞る!
「離れろゼロナイン! 一気に燃やすぜ!」
トリテレイアが素早く下がった瞬間、ビリーはレイピア刺突から白炎の爆炎を放射した! CABOOOOOOOM! コロッセオの端から端まで届く炎が、半ばから爆ぜ飛んだ! 炎から脱したブルーノは肩から白い煙を上げる!
「クッ……!」
立ち直ったブルーノの真横にカイム! 紫電をまとった大剣刺突に円盾を掲げてガードを試みるブルーノ! 刹那、カイムの目がギラリと光った!
「そんなモン構えるくらいだから、防御力には自信ありってトコか。……教えてやるぜ。金剛石を貫く技ってやつをよ」
CRAAASH! 破砕音にブルーノが目を見開いた。カイムの大剣が金剛石の円盾ごと腕を貫き、鎧のあばら部分に先端を突き刺している! 宝石鎧の胸に亀裂!
「俺の……鎧を……!」
驚愕したブルーノはしかしまなじりを鋭く細める! 盾が紅玉色に発光すると共にカイムは大剣を離してバックジャンプ! 同時に赤い花弁めいて多方向に放たれる真紅の光線! ZQQQQQQQQUUUUUUM!
「っと!」
とっさに両腕で胸と頭を庇うカイムの身体に光線が次々と突き刺さった! 彼がそのまま指を鳴らすと、大剣は黒銀色の炎に包まれて大爆発! CABOOOOOOOOM!
「ぐわああああああああッ!」
爆心地からブルーノの悲鳴! 着地しよろめいたカイムは、全身に血を流しつつも腕越しに爆心地を見やる。黒銀色の火種がチリチリと焼かれる地面に、片腕と鎧の半身を失ったブルーノが立つ。鎧の砕けた部分、半ば露出した胸元に少女人形!
「……そっちは? 娘か何かか?」
「チッ!」
舌打ちをしたブルーノが剣を持つ腕で人形を支え、鎧の半身を輝かせて再生を図る! そこへ突っ込むのは戎兵衛!
「隙アリ……と思っていいのかな!?」
「ッ!」
素早くジグザグバックダッシュするブルーノに追いすがり、戎兵衛は連続斬撃を仕掛ける! ブルーノは隻腕を人形の支えに使い迎撃できない! ブルーノは右足に翡翠の風をまとわせる!
「離れろッ!」
蹴り上げで暴風を放ち、BLOWWWWWWWWW! 戎兵衛の姿を覆い隠した翡翠色の風が一刀の下に斬り捨てられる! 風を斬って現れた戎兵衛は、片手に乗せた宝石を刀の刃に打ちつけた! 宝石が水に沈むように刀身へ同化!
「自力ではできないと言ったけど、おたくは良い術式を見せてくれた。そして、仕事を半サボりして掘った媒介向きの宝石もある」
直後、戎兵衛の刀が紅蓮に染まる! ブルーノは人形を支える腕の手の甲を紅玉に変化させるが、戎兵衛は空いた手を裏腰に回して板状の首枷を叩きつける! そして燃える刀で枷ごとブルーノの腕を一閃し切断!
「グワーッ!」
腕の切断面から噴き出す鮮血! 落ちる腕から零れる少女人形に、屈んだ戎兵衛の頭上を突破したワイヤーフックが飛びかかる! ブルーノはとっさに右膝を上げてこれを防御! ワイヤーの主、トリテレイアは右前腕部から銃身を展開!
「かかりましたね」
トリテレイアは腰の副腕から伸びたワイヤーを引いて銃撃を繰り出す! 前のめりになったブルーノの喉元を包む装甲を銃弾が粉砕! 刹那、彼の真ん前に飛び込んだビリーがレイピアを突き出した!
「ぜいッ!」
BOOOOOOOOM! ジェット噴射めいて噴き出した白炎がブルーノを押し飛ばす! 胸を貫く衝撃に視線を落とした彼が見たのは、粉々に砕ける少女人形の破片!
「ハニーッ……!」
叫びかけたブルーノの喉に刃が突き立つ! 背後に回ったミリィはブルーノの喉笛に突き刺した手裏剣を真横に引いて首を裂く! ブルーノは鮮血をほとばしらせて声も無くのけ反った!
「がっ……がぼっ、ゴボボッ……!」
口と喉から血泡を吹きながら膝を突くブルーノ! その視線が砕けて足元に散らばる人形の破片を見下ろした瞬間、その前に仕込み剣を振り上げたマリアベラがインターラプト! 切っ先から天井まで吹き上がる白光の大竜巻!
「さようなら、素敵なパーティも最後はアリスの癇癪で終わるものよ」
目を見開いたブルーノの視界が純白に塗り潰される! マリアベラが振り下ろした白光の嵐に叩き潰された彼は爆発四散! ダイヤモンドダストめいて煌めく粉塵を撒き散らした。
大成功
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