アックス&ウィザーズの小さな街――ルヴァイユ。
大通りに連なる店にはどこも様々な形の星のランプがずらりと並べられ、誰かが手に取ってくれるその瞬間を今か今かと待ち受けていた。
裏通りに足を踏み入れれば、誰かを待つランプが怪しく輝いていることだろう。
今宵、この街に訪れた者には。等しく星のランプが一つ与えられる。
そのランプこそ、星を灯す祭り――『星灯祭』に参加するために必要なアイテムだ。
星形のランプは形は様々だが、どれも『星』とわかるもの。
魔力の火を入れれば、持つ者の魔力や想いでそれぞれが違う色を灯し、行く道を照らしてくれる。
それを誰かのランプと触れ合わせることで、不思議と色が変化するのだ。
かつてこの街を旅立ち、後に英雄と呼ばれるようになった一人の若者。
彼が自らの想いと願いをランプの光に託して人々に分かち合い、街の人々を勇気づけたという。
そこから、『星灯祭』は始まった。
――今宵は新月。
人々は地上に数多の星を灯してかつての英雄を讃え、偲び、想いを馳せる。
通行く誰かと、隣りにいるあなたと、想いと色を分かち合いながらのんびりと街を散策する――ささやかだけれどどこかあたたかな、星灯祭とはそういう祝祭だ。
●星彩のカンタータ
「でもね、そのルヴァイユの街の近くに、オブリビオンが群れをなして棲んでいることがわかったの。……このまま放っておいたら、そのオブリビオンたちが街に攻め入るとも限らないでしょう」
だからその前にこちらから乗り込んで、オブリビオンを倒して欲しい。そう、キトリ・フローエ(星導・f02354)は猟兵達に告げる。
方法は至ってシンプルだ。猟兵達が森に入れば、侵入を察したオブリビオン達は間違いなく迎撃に現れるだろう。あとは、配下であるオブリビオンの群れと、その群れを率いているオブリビオンを、全て倒すだけだ。
最初に現れるのは、病をばらまく妖精と呼ばれる、オブリビオンと化したフェアリーの群れであるという。甘い毒の芳香に心を惑わされ、見えるはずのない幻覚を見てしまうことがあるかもしれないが、個々の強さは然程ではないとキトリは続けた。
「皆なら決して苦戦するような相手じゃないと思うけれど、くれぐれも油断はしないようにね」
フェアリー達を退けたなら、その奥に控えているのはリザ・トレゾアなる薔薇の槍と髑髏の杖を持つ魔法使いの女だ。彼女もまた、オブリビオンだ。膨大な魔力を持ち、それゆえに深淵に至ってしまったというリザに、説得などは無論通じない。こちらも油断することなく戦いに望んで欲しいと告げて一連の説明を終えたキトリは、途端に声を弾ませて。
「無事に戦いが終わったら、星灯祭を楽しんで! 星のランプを触れ合わせるとね、光の色が変わるんですって。まるで、想いを分かち合っているみたいで、とっても素敵だと思うの!」
だから、そのためにも、無事に戦いを終えてきて欲しい。
そう願うように告げ、キトリは猟兵達を送り出すのだった。
小鳥遊彩羽
ご覧くださいましてありがとうございます、小鳥遊彩羽です。
今回は『アックス&ウィザーズ』でのシナリオをお届け致します。
●シナリオの流れと補足など
第1章:『病をばらまく妖精』(集団戦)
第2章:『リザ・トレゾア』(ボス戦)
第3章:『星灯祭の夜に』(日常)
となっております。
1章では毒を受けると、何らかの幻覚を見ることがあります。
それは忘れたい、あるいは忘れていた過去であったり、失われた誰かの姿であったりと様々です。
そういった描写をご希望の場合はプレイングにご記載下さい。
もちろん、普通に戦って倒していただいても全く問題はありません。
2章はほぼ純戦です。なるべく頑張りますが、採用は少なめになる可能性があります。
3章は通常通り、余裕を持って受付期間を設ける予定です。
(※3章のみのご参加も大歓迎ですので、気になる方がおられましたらご一考下さい)
●3章について
皆様には星形のランプが一人ひとつずつ与えられます。アイテム発行はありません。
ランプに灯る光の色は魔力の属性などによりそれぞれ違います(お好みの色をどうぞ)が、それを誰かのランプと触れ合わせると、絵の具のように混ざり合ったり、全く別の色になったり等、不思議と色が変わります。
なお、ファンタジーですので、あまり変な色にはなりません。
通行くひととランプで挨拶を交わしながら、賑わう祭りのひとときをご自由にお過ごし下さい。
また、この章のみ、お声がけがありましたらキトリもご一緒させていただきます。
ご一緒される方がいらっしゃる場合は【お相手の名前(ニックネーム可)とID】もしくは【グループ名】をご記載下さい。
シナリオの進行状況及びプレイングの受付期間などは、随時マスターページにてご案内させて頂きますので、ご確認頂ければ幸いです。
以上となります。どうぞ宜しくお願い致します。
第1章 集団戦
『病をばらまく妖精』
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POW : あなたをむしばむ毒
【毒液】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : あなたをこわす香
【甘い毒の芳香】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : わたしたちをいやす薬
【鱗粉】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
👑11
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まだ日が出ているというのに、鬱蒼と茂る木々があたたかな光を遮っていた。
オブリビオンを討伐すべく、ルヴァイユの街の郊外に広がる森へと足を踏み入れた猟兵達は、すぐに異様な空気が満ちているのを感じ取ることになる。
「――ねえ、誰か来たわ」
「来たわね、わたしたちを捕まえに来たのかしら。それとも、薬を盗みに来たのかしら」
くすくすと、どこからともなく届くのは、漣のような笑い声。
それは愛らしい囀りにも似て――どこか昏く、冷たい響きを帯びていた。
すると、猟兵達の周囲に幾つもの光がぽつぽつと浮かび上がり――『それ』は姿を現した。
――それは、このアックス&ウィザーズでは珍しい存在ではない小さな生き物、フェアリー。
けれど、その気配は紛れもなく過去のもの。
死して尚残った怨嗟の念が形をなし、オブリビオンとして蘇ったフェアリー達は、両手で抱えた小瓶をそっと撫でながらくすくすと嗤っていた。
「あなたたち、わたしたちの薬を奪いに来たのね? ……でも、あげないわ」
「ちょうどいいじゃない、こっちのお薬、試してみましょう?」
「わたしたちのつくった毒、耐えられるかしら?」
そう言うと、妖精達は一斉に瓶の蓋を開ける。
忽ちの内に広がってゆく甘い芳香。だが、それは甘美なものでは決してなく。
その小瓶には、ひとを惑わし、蝕む毒が満ちていた――。
シル・ウィンディア
お祭りを安心して開催できるようにがんばろーっ!
毒に、幻…
わたし、その辺苦手なんだけど、でも、禍になるならここで叩かないとね
【オーラ防御】で全身を覆って【属性攻撃】の風でオーラ内を新鮮な空気で充満させるよ
敵の攻撃は【第六感】を信じて、敵の動きを【見切り】で対処
見えないものは、自分の勘を信じて…
機動は【空中戦】で飛び回って【残像】を生み出して
ジグザグの【フェイント】機動で翻弄するよ
攻撃は、腰部の精霊電磁砲で遠距離の射撃戦を中心に攻撃だけど…
相手が対処して来たら…
【高速詠唱】と【全力魔法】でのUCを行使
…さぁ、初披露行きますかっ!!
瞬間移動の斬撃後は光刃剣と精霊剣で近接戦
動き回ること忘れずにだね
パラケルスス・アンパルフェ
毒の妖精…ですか。確かに彼女達が町へと向かえば大変なことになるでしょうし、わたくしはそれを断じて許しません。毒で苦しむ人々は…見たくありませんので。
まずは数が多いので「咎人の為の十字架」を使ってある程度の集団ごと蹴散らします。
それから味方が毒に侵された場合、「簡易医療器具」を用いて応急処置をいたします。戦いに集中していると対応が遅れてしまうかもしれませんが…。
散らばってしまった妖精達はメスで少しずつ倒すしかありません。わたくしは体質と服装のおかげで毒には耐性がありますが、長時間晒され続けるとわたくしも仲間も危険です。なるべく早く突破できるよう、共に頑張りましょう。(プレイングの変更等OKです)
――『星灯祭』
星の光と想いを交わす、あたたかな祝祭。
その祝祭の準備が着々と進められていたその時、すぐ傍の森にオブリビオンが潜伏していることがわかった。
このままお祭りが始まってしまったら。
賑やかな光に刺激を受けたオブリビオンがやってこないとも限らない。
だから、そのまえに憂いを断つために、猟兵達はここまでやってきたのだ。
「お祭りを安心して開催できるようにがんばろーっ!」
「ええ、参りましょう。毒で苦しむ人々は……見たくありませんので」
そう、元気よく声を上げ拳を掲げるのは、青い髪と同じ色の、まだ幼さが残る瞳を輝かせる少女シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)。
その声に、ペストマスクにより顔を隠している黒ずくめの男――パラケルスス・アンパルフェ(悪人を裁く聖なる殺人者・f15032)が静かに頷いてみせる。
森の奥へ進むことを拒むように――あるいはただ、侵入者たる猟兵達を排除するためだけに現れた妖精達は、くすくすと悪戯っぽく笑いながら各々が持つ小瓶の蓋を開けていた。
「毒に、幻……」
「しかし、毒の妖精……ですか」
「わたし、その辺苦手なんだけど、でも、禍になるならここで叩かないとね」
パラケルススがぽつりと零すのに、シルもまた一瞬だけ表情を険しくするが――すぐに常の明るさで彩って、愛用の光刃剣を手に飛び出した。
シルはまず、毒への対策として守りのオーラで全身を覆った。のオーラに風の精霊が編み上げる衣を織り交ぜて、自身の周囲に新鮮な空気を循環させる。
ふわりと青い髪を靡かせ、残像を纏いながら縦横無尽に空を翔けるシル。その鮮やかな風捌きに、妖精達は瞬く間に翻弄されていた。
「どうするの!? 毒があいつらに届いてないわ!」
「つかまえられないなら、全部、ぜんぶ毒で覆ってしまえばいい!」
妖精達は無差別に毒を撒き散らし、二人を纏めて毒に侵そうとしてきたが、シルが纏う風は毒を吹き飛ばし、一方のパラケルススはというと――。
「わたくしは体質と服装のおかげで、毒には耐性があるのですよ」
ヤドリガミとして生まれ持った性質か、毒霧の中にあってもパラケルススは平然としていた。
「貴女達が街へ向かえば大変なことになるでしょう。わたくしは、それを断じて許しません」
ジグザグの機動と残像で妖精達の油断を誘いながら、シルが腰に装着した折り畳み式のレールキャノン――精霊電磁砲から放たれる魔力砲弾で妖精達を撃ち落としてゆく中、パラケルススもまた咎人の為の十字架――いかにも重量がありそうな見た目のメイスを軽々と振り回し、妖精達の集団を蹴散らしてゆく。
「まあ、なんて野蛮なひと達なの!」
きゃあきゃあとかしましく鳴く妖精達が、さらなる毒を二人に向けて放とうとした、次の瞬間。
「……さぁ、初披露行きますかっ!!」
第六感で敵の動きを見切りつつ、風のオーラで毒を祓いながら集団の一つに迫ったシルが、声高らかに力ある言葉を紡ぎ上げた。
「光の精霊よ、我が身に宿りて、全てを斬り裂けっ!」
光の精霊の力を纏ったシルはまさしく光速で妖精達へと迫り、魔力によって編み上げられた光の剣で次々に妖精達を斬り伏せていく。
「嫌だわ、嫌……あなたたちもわたしたちの薬が目当てなのね!?」
「薬? そんなもの――だって、あなた達はオブリビオン。このままでは禍になっちゃうんだから!」
だから、そうなる前に倒すことしか――骸の海に還すことしか出来ないのだと。そう告げた所で通じるとも思えないけれど。
その後もシルは光刃剣と精霊剣――二振りの剣で妖精達を相手取り。
華やかな光の乱舞に感心したような息を零すパラケルススもまた、散開した妖精達を一体ずつメスで確実に仕留めていた。
「もし毒に侵されるようなことがあれば、すぐに応急処置を致しますので。お申し付け下さいね」
「うん、ありがとう! まだ敵はいっぱいいるから、頑張ろうね!」
そう、太陽のように晴れやかな笑みを覗かせるシルに、パラケルススは深く頷いてみせる。
二人が見つめる先には、まだ多くの妖精達の群れが飛んでいる。
「ええ、皆様が長時間この場に留まることがないよう……なるべく早く突破できるよう、共に頑張りましょう」
大成功
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エンティ・シェア
妖精か…小さくて沢山なら、獣に頼むかね
餌時で狼のチビをありったけ喚んで
悪いけどこいつらの餌になってくれや
満ちる香りには、懐かしさすら感じる
俺は、この香りを知ってる、気がする
浮かぶ、サーカス団の仲間や恋人
団長が、そう、団長が…フェアリーを、連れてきて…
――買って、きて
あぁ…あんたらの仲間だったのか
あいつを…俺の、恋人を、死なせたのは
は…別に恨んでねーよ
あれは、妖精を無理やり捕まえて売り払った奴らが悪い
買った団長も、自業自得だろ
けどまぁ…あんたらには今まさに被害被ってるからな
容赦しねーよ。大人しく
食われちまいな
…そうか、ここか
この世界のどっかに、あいつの墓が、あるのか
はは。思い出せたよ。ようやくな
「妖精か……」
吐き捨てるようにぽつりと。エンティ・シェア(欠片・f00526)は乱暴に前髪を掻き上げ、両の瞳で敵の姿を捉える。
「まあ、野蛮そうなひと!」
きゃあきゃあと騒ぐ妖精達を若干鬱陶しそうに見遣りながら、エンティは胸中で既に取るべき手を編み上げていた。
(「……小さくて沢山なら、獣に頼むかね」)
そうしてエンティが喚び出したのは、無数と呼んでも差し支えのない、およそ六十を超える狼の仔。
肉球に1と刻印されている以外は普通の仔狼とくればその見た目は愛らしいものだが、喚び出された彼らにとっては餌時――“ごはんのじかん”だ。
「悪いけど、こいつらの餌になってくれや。――全力で、喰らってこい」
まだ存分に幼さの残る甲高い声が響くと同時、仔狼達が勢い良く散開する。
「狼をけしかけるなんて、やっぱり野蛮だわ!」
オブリビオンと成り果ててもなお美しい翅を震わせて、逃げ回る妖精達。
中にはすぐに喰い千切られ、あるいは丸呑みにされた者もいただろう。
だが、妖精の群れはまだ十分にその数を残しており、一矢報いるべく抱える小瓶の蓋を開いて――。
「わたしたちの毒、受けて頂戴!」
途端に溢れた甘い毒の芳香がエンティを包み込むように襲う。
エンティは咄嗟に口を抑えるも、毒が触れた肌や髪から沁み込んでいくような感覚に、思わずその場に膝をついた。
――満ちる香りに感じる懐かしさ。
蓋をした記憶の底に崩れたまま放り出されていた“いつか”が、じわりと浮かび上がってくるようで。
「……俺は、この香りを知ってる、気がする」
確かめるように口にしたエンティの目の前で、誰かの像が形をなしてゆく。
それこそが、妖精の毒が魅せる幻。
エンティの目の前に現れたのは、かつて自身が身を置いていたサーカス団の仲間達や、恋人。
そして、――団長。
「あぁ、団長が、そう……団長がフェアリーを、連れてきて……いや、――“買って”きて」
「へえ? わたしたちを捕まえて売り捌くなんて、あなたたちの十八番でしょ?」
毒の香りと共に蘇る記憶を、エンティは確かめるようになぞる。
「あぁ……あんたらの仲間だったのか。あいつを……俺の、恋人を、死なせたのは」
「この毒に覚えがあるのなら、そうかもしれないわね。でも、そのフェアリーごと、わたしたちを恨んでいるっていうの?」
「は……別に恨んでねーよ。あれは、妖精を無理やり捕まえて売り払った奴らが悪い。買った団長も、自業自得だろ」
己を見つめる妖精達の瞳――毒の色にも似たそれに己の心を見透かされているような気分になりながらも、エンティは素っ気なく吐き捨ててから、にやりと笑みを浮かべて。
「けどまぁ……あんたらには今まさに被害被ってるからな。容赦しねーよ。大人しく食われちまいな」
「……きゃあっ!」
危険を察し羽ばたいた妖精が、無邪気に吠える狼に喰われてゆく。
獲物を追って駆け回る仔狼達を遠くに見やりながら、エンティは小さく息をついた。
過去と現在。交わった一つの毒。
「……そうか、ここか」
辿っていた糸が、繋がった先。
「この世界のどっかに、“あいつ”の墓が、あるのか。……はは。思い出せたよ。ようやくな」
いつしか、綻ぶ笑みを覗かせた恋人の幻は消えていたけれど。
エンティの心はどこか憑き物がひとつ落ちたような、それでいて研ぎ澄まされた刃のような――そんな、曖昧な彩りに満ちていた。
大成功
🔵🔵🔵
荻原・志桜
🎲🌸
えっと、盗みに来たわけじゃないんだけど、
話しが通じそうにないかと溜息ひとつ
杖を構え彼の呼びかけに頷く
甘い毒の芳香に眉を顰める
幻覚、揺らぎ現れるものは憧れ夢見ることを馬鹿にされる過去の記憶
それは忘れられないぐらい幼い自分は傷付いた
なれるわけがない、夢物語だと嘲笑う声
思わず唇を噛みしめる。だけど笑わず認めてくれた人がいるの
だから幻なんかで俯くなんてしない…!
彼から零れた初めて聞く名前に首を傾げる
けれど尋ねるのはいまじゃない
問われれば微笑んで大丈夫だよと返す
惑ったりはしない
魔法の力で風を生み出しUCと組み合わせ
毒の芳香も妖精たちも吹き飛ばそう
わたしたちが負ける要素なんてひとつもないんだから!
ディイ・ディー
🎲🌸
その毒、お前らにしか扱えねえの?
少し欲しい気もするが奪うのは趣味じゃない
行くぜ、と志桜に呼びかけ地を蹴る
――シロガネ、クガネ!
式神を呼び、破滅の邪式で妖刀に蒼炎を纏わせる
毒が滲もうとも怯みはしない
志桜になら格好悪い所は見せてもいいが出来る限り強くありたい
あれ、何だこれ
お前は……エーリカ?
(視えたのは宿敵。嘗て呪術の教えを乞うた魔女の姿)
いや、違う
俺様は本物相手じゃなきゃ惑わねえ
志桜は大丈夫か。俺は一応、平気
幻ごと妖精を斬ってやるしかないな
そっちが病を撒くなら俺様は呪の力を与えてやろう
悪いがクガネの刃は止まらないんだ
それに俺と志桜の力はその毒ほど甘くないぜ
これで勝負は俺らの勝ち、ってな!
「その毒、お前らにしか扱えねえの?」
ディイ・ディー(Six Sides・f21861)が悪戯に射抜くような眼差しを向けながら、妖精達が抱く小瓶をちらり。
「そうよ、この毒は全てわたしたちにしか扱えない。……万能薬になるはずだったものよ。誰にもあげない。――わたさないわ」
「えっと、盗みに来たわけじゃないんだけど……話しは、通じそうにないか……」
荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)は溜め息一つ。どうやら妖精達は目の前に現れた猟兵達を『薬を盗みに来た生き物』と認識しているようで、それは志桜も決して例外ではなかった。
「万能薬、か……少し欲しい気もするが奪うのは俺様の趣味じゃないんでな。――行くぜ」
素っ気なく落とされたディイの声。
続く呼びかけに志桜が杖を構えて頷いた時には、既にディイは地を蹴っていた。
「――シロガネ、クガネ!」
ディイは高らかに式神を呼び、妖刀のクガネにシロガネの蒼炎を纏わせると、そのまま妖精達の群れの只中へ飛び込んでいく。
「ディイくんっ!」
滲む毒が身体を蝕もうとも怯みはせず、ディイは蒼炎纏う妖刀で一体ずつ確実に、時に複数体を巻き込んで、過去の残滓たる妖精達を在るべき場所へと還していく。
志桜の声が、彼女の存在がなければ。
もっと我武者羅に戦っていたかもしれないと、ディイは胸中で独りごちる。
今なら――志桜になら格好悪い所は見せてもいいと思えるようにはなったが、やはり志桜の前では出来る限り強くありたいとも思う。
ほんの少しだけ複雑な、男心だ。
「……あれ、何だこれ」
その時、不意に歪んだ視界にディイは動きを止めて目を凝らす。
すると、先程浴びた毒のせいか、ディイの目の前には一人の女が姿を現していた。
「ディイくん、大丈夫!?」
すぐ近くにいるはずの志桜の声が、やけに遠く聴こえるのを感じながらも、ディイの瞳は目の前の女に吸い込まれるように釘付けになっていた。
「お前は……エーリカ?」
それは青い髪に燈色の瞳を持つ魔女。
ディイが嘗て呪術の教えを乞うた魔女。
魔女はディイが知る笑みを向けてくるけれど――。
「いや、違う。俺様は本物相手じゃなきゃ惑わねえ」
ディイは、目の前にいる彼女が本物ではないことを知っていた。
ゆえに何の躊躇いもなく、すぐにその幻を妖刀で斬り捨てた。
(「……“エーリカ”?」)
ディイの口から零れた初めて聞く名前に、志桜はそっと首を傾げる。
けれど、同時に。
その名を持つ誰かのことを尋ねるのは、“今ではない”と理解していた。
「うっ……」
そして、志桜はすぐに、甘く漂う毒の芳香に眉を顰める。
桜色のリボンが結ばれた木の杖をぎゅっと握り締めるけれど、混濁する意識の波はそう簡単には静まりそうになかった。
志桜の目の前に現れたのは――過去だ。
――魔女になりたいだなんて、気持ち悪いやつだな。
――なれるわけないだろ。大体、こいつに魔法の才能なんてあるのか?
――夢なんて見てないで、ほら、こっちで遊びましょう。
魔女に憧れ、夢見たかつての自分に降りかかる、心無い言葉達。
大人からも、同年代の子供からも、馬鹿にされた過去の記憶。
なれるわけがない、夢物語だと嘲笑う声。
忘れることなどない、――否、忘れられないほどに、深い傷として幼い志桜の心に刻み込まれた記憶の断片だった。
早鐘を打つ心臓に、志桜は思わず唇を噛み締める。
けれど、目を逸らすことはしなかった。
あの時は皆に笑われたけど、今の志桜には笑わずに認めてくれた人がいる。
「だから、幻なんかで俯くなんてしない……!」
「――志桜、大丈夫か」
不意に耳朶を打ったディイの声に、志桜ははっと瞬いてからゆっくりと微笑んだ。
「大丈夫だよ。ディイくんは?」
「俺も一応、平気。だが、幻ごと妖精を斬ってやるしかないな」
「わたしたちの毒が効かないなんて、そんなつよいひとたちは嫌いよ」
二人の目の前にはくすくすと笑う妖精達。
だが、志桜はもう、惑ったりはしない。
(「――アナタが、傍に居てくれるから」)
視線を交わし、頷き合う。
「嫌いで結構。そっちが病を撒くなら俺様は呪の力を与えてやろう。――悪いが、クガネの刃は止まらないんだ」
先に飛び出したのはディイ。
鐡の刃を振るうその背を押すように、志桜が魔法で風を喚ぶ。
「それに、俺と志桜の力はその毒ほど甘くないぜ」
「毒の芳香も妖精たちも、わたしの風で吹き飛ばしてあげる!」
そう、自分達が負ける要素などひとつもない。
「きゃあっ!」
響く悲鳴は妖精のもの。
志桜が招いた風の嵐に吹き飛ばされた妖精達を、ディイの呪炎を纏う蒼き刃が見えざる毒ごと斬り捨てる。
「――これで勝負は俺らの勝ち、ってな!」
一つ、二つと、硝子のように砕けて消えてゆく妖精達。
二人を襲っていた妖精達は、やがて一人残らず消え失せた。
「やったね、ディイくん!」
「ああ、志桜のおかげだぜ」
再び視線を交えれば、どちらからともなく綻ぶ笑み。
けれども二人はすぐに表情を心ごと切り替えて、まだ見ぬ災厄の源が潜む森の奥を見据えるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
氷雫森・レイン
(毒で見えるものは物心つく前暮らしていた本当の故郷と両親の記憶。但し元々脳に残るのはごく僅か)
「ごきげんよう、同族。滅ぼしにきてあげたわ」
以前(シナリオID:6529)と同じ…種の誇りを失ってまで蘇った者に寄せる情などないの
見切る術は持っているし抱えられた薬瓶から振り撒かれる分は躱した気でいたけれど宙に漂っていた分を吸い込んでしまったみたい
意識が遠のきかかって、一瞬見えたのは私と同じ色の翅を持つ2人の影
「…待って、」
1人は私と同じ形、もう1人は蝶の形の…
体に当たる風圧が変わった感覚で地に墜ちる寸前意識が戻った
「…毒には、少しばかり耐性を得たの」
正直気になる光景だったけど
考えるのは滅ぼしてからよ
「ごきげんよう、同族。滅ぼしにきてあげたわ」
透き通る氷花の翅を揺らしながら、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は静かに宣告する。
「……まあ、言ってくれるじゃない」
「そう簡単にやられるとは思わないことね、同族さん」
小瓶を抱く妖精達は、くすくすと笑いながらレインを見つめてくる。
レインが骸の海に堕とされてしまった同族と相対するのは、初めてではなかった。
前に出遭ったのは、心も身体も壊されてしまった哀れな妖精達。
そして今、目の前にいる妖精達とて本質は同じだろう。
何の未練も残さずに死んだのなら、きっと、悪しき存在として蘇ることはないだろうから。
けれど、そこに在るのは死して尚残る怨嗟の念。
世界を滅びに導く“過去”――オブリビオンだ。
「……種の誇りを失ってまで蘇った者に、寄せる情などないの」
レインが導くのは轟雷と巨大な雹。
雹は砕けながら鋭利さを増して刃の礫となり、妖精達を撃ち落としてゆく。
毒を見切る術は持っている。
だから、妖精達が薬瓶から振り撒く毒も躱したつもりでいた――けれど。
(「……ッ!?」)
不意に鼻腔を擽った慣れぬ甘い香りに気づいた時にはもう遅かった。
宙を漂う毒を吸い込んでしまったレインは、目の前に浮かび上がった光景に目を瞠る。
――それは、どこか懐かしさすら感じさせる風景だった。
朦朧とする意識の中でレインが一瞬とらえたのは、翅を持つ二つの影。
一人はレインと瓜二つの、そしてもう一人は、蝶の形の――。
ふたりの翅はいずれも、レインの背を彩る翅と同じ色を宿していた。
顔はわからない。声も聴こえない。
記憶として認識するには遠すぎて、その殆どは形として残ることなく、すぐに砂礫のようにさらさらと零れ落ちてしまったけれど。
「……待って、」
ただ二人の持つ翅だけが鮮烈な印象としてレインの心に焼き付いた。
縋るように伸ばそうとした手は動かぬまま。
身体に当たる風の感覚の変化に、レインは地に墜ちる寸前で意識を取り戻し、そして――。
「……毒には、少しばかり耐性を得たの」
「きゃああっ!」
迸った雷光と雹の刃が、妖精達の群れを毒を封じた小瓶ごと貫いた。
「何だったのかしら、今のは……」
目を凝らしても、見えるのは鬱蒼と茂る森の風景と、まだ残る妖精達の姿だけ。
あれは己の内に眠る記憶が見せた幻だったのか、それとも――。
(「正直、気になる光景だったけど――」)
全ては、過去の残滓となった彼女達を在るべき場所へと還してから。
レインは緩くかぶりを振って意識を切り替えると、残る妖精達へ氷雨を解き放った。
大成功
🔵🔵🔵
ティーシャ・アノーヴン
風花(f13801)さんと共に。
フェアリー退治・・・ですか。
いえ、勿論、私たちエルフにも、悪い人はいます。
オブリビオンであろうとなかろうと、良し悪しございます。
・・・それでも少し戦い難いことは否めませんが。
あ、風花さんはいいフェアリーですよ。
ちょっとお酒とお金の大好きな、優しくて楽しいフェアリーです。
毒を受けたくはありませんわね。
距離を見切って、遠くから攻撃しましょう。
最近、私はどうも精神的に弱いことが自覚出来ましたので。
あまり醜態を晒すわけには参りません。
囲まれないように、高速詠唱を多用して、狙うより避ける方を重視します。
それでも毒を受けた場合・・・。
きっと、死んだ幼馴染がまた、私を・・・。
七霞・風花
ティーシャ(f02332)と
おや、お仲間さんですか
気にしてくれるのは嬉しいですけど、遠慮は不要ですよティーシャさん
こういう子たちがいると、困るので、ね
……お酒とお金は好きですがそんな主張しなくったって
毒は、受けて差し上げません
この体躯ですので回避は特に問題なく、だからこそなれば
――ティーシャさんが毒を受けてしまった際のフォローがいりますね
フェアリーを倒す動きではなく、ティーシャを守る動きを
守護と、阻害と、回避と
彼女が、過去と向き合い打ち勝つ時間を作るために
しかし甘ったるい香りだこと
度が過ぎるソレはじわりじわりと身体を蝕むようで
早いところ倒さないと、分が悪いか
――ティーシャさん、いけますか?
目の前に浮かぶ幾つもの影。
「まあ、あなたは同族ね?」
小さな影の一つがくすりと笑う。
「おや、お仲間さんですか」
七霞・風花(小さきモノ・f13801)は目の前に現れた妖精達を一瞥しながら、ぽつりと落とす。
森へ立ち入った猟兵達の行く手を阻むように現れたのは、小瓶を抱く妖精達の群れ。
それは倒すべき敵――オブリビオンに他ならなかった。
「フェアリー退治……ですか」
行く手を阻む小さな影の群れは、風花にとって同族である、フェアリーのオブリビオン。
とは言えさして気にしている素振りのない風花とは対照的に、彼女にいつものように肩を貸すティーシャ・アノーヴン(シルバーティアラ・f02332)は、複雑そうな表情で悪しき妖精達を見つめていた。
勿論、ティーシャの同族であるエルフにも、善き者も悪しき者も居る。
中にはオブリビオンとなって、骸の海よりやってくる者も居ないわけではない。
それはフェアリーであっても同じだろう。
そうとわかっていても、ティーシャにしてみれば、少しばかり戦いづらいことは否めないのだが。
「……ティーシャさん?」
風花がふと呼ぶ声に、ティーシャははっと我に返りながらも微笑んでみせた。
「あ、風花さんはいいフェアリーですよ。ちょっとお酒とお金の大好きな、優しくて楽しいフェアリーです」
ティーシャの言葉に、風花はぱちりと目を瞬かせてから、小さく息をついた。
「……お酒とお金は好きですが、そんな主張しなくったって。それに……」
きっと心優しいティーシャのことだから、己のことを気にかけてくれているのだろう。そんな空気に触れるのはこれまでに何度もあったけれど、風花にとってはまだ少しばかり擽ったくもあって、淡い雪色の翅が小刻みに揺れる。
「気にしてくれるのは嬉しいですけど、遠慮は不要ですよティーシャさん。……こういう子たちがいると、困るので、ね」
「ええ、では……頑張りましょうね、風花さん」
風花がふわりとティーシャの肩から舞い上がる。
ティーシャは慎重に妖精達と距離を取りながら、風花をちらりと見やった。
――妖精達が用いる毒は、身体だけでなく心にも作用するものだという。
言うまでもなく、毒は受けないに越したことはない。
ゆえに、何よりも囲まれないように戦うことが重要だった。
いくつもの戦いを経る内に、ティーシャは己の心が弱いことを自覚するようになった。それは決して乗り越えられぬものではないけれど、平静でいられるものでもなくて。
(「……あまり醜態を晒すわけには参りませんし」)
ティーシャは心の中でかぶりを振ると、妖精の一人を真っ直ぐに指差した。
「――裁きの光よ!」
凛と響く声に応え天から迸った光が、瞬く間に妖精を撃ち落とす。
素早く何度も詠唱を繰り返し、狙うよりも避ける方を重視しながら、妖精の群れを相手取るティーシャ。
一方の風花も、ティーシャの様子を窺いつつ、空中を翔け回っていた。
「もう! 虫みたいにすばしっこいんだから」
「その言葉、そっくりお返ししますよ」
小瓶から放たれる毒は、風花にしてみれば躱すのはそう難しいことではなかった。
――だからこそなれば。
風花が狙いを定めたのは、ティーシャを狙う妖精。
桜を模した弓を引き、彼女が放つ光が落とせなかった個体を、確実に落とす。
ティーシャを守り、妖精達の動きを阻む。
それでも、妖精達の数の多さを考えれば、完全に防ぎ切ることは難しいだろうと思っていた。
己は大丈夫だとしても、ティーシャは。
(「……ああ、やはり」)
そして案の定、ティーシャの動きが不意に止まるのが見えた。
「……っ!」
甘い香りに口元を押さえ、ティーシャが目を瞠る。
吸い込んだ毒がティーシャに見せる幻。
それはもうどこにもいない、死んでしまった幼馴染の姿。
あの日から時が止まったままの、幼く無垢な眼差しが、ティーシャの心を苛む。
まるで自分と同じ目に遭えばいいとばかりに、毒に塗れた手を伸ばしてくる――。
ティーシャが何を見ているのか、風花には見えない。
だが、彼女が過去と向き合い、打ち勝つ時間を作ることは出来るはず。
だからこそ、ティーシャを守ることを第一に考え、風花は六花の魔法を解き放つ。
「ティーシャさん――」
名を呼べば、揺らぐ紫の瞳が風花の姿を映す。
「ええ、ええ、……わかっています。わかって、いるんです」
それは毒が見せる幻に過ぎないと。己を責める心が、目に見える形となって現れただけだと。
己に言い聞かせるように呟きながら、ティーシャは杖を握り締める。
漂う甘ったるい香りに僅かに眉を顰めながら、風花は妖精達へと向き直った。
度が過ぎるそれはじわりと身体を蝕むようで、時間が掛かれば掛かるほど、こちらの分が悪くなるばかりだろう。
「――ティーシャさん、いけますか?」
ゆえに風花はただ一言問いかける。
「ええ、大丈夫です。……行きましょう、風花さん」
祈りを込めて、想いを籠めて。
過去の残滓たる妖精達を還すべく、二人はそれぞれの光を解き放つ――。
大成功
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第2章 ボス戦
『リザ・トレゾア』
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POW : マーベリック・ローズ
自身の装備武器を無数の【様々な毒を持つ薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : ファントム・バタフライ
【背に大きな蝶翅を持つ姿】に変身し、武器「【スピリットローズ】」の威力増強と、【死を呼ぶ嵐風】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ : ファクターコア
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
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全ての妖精達を骸の海へ還した後。
猟兵達は、森の奥から更なる悪しき気配がこちらへ向かってきているのを感じた。
やがて猟兵達の目の前に、一人の女が現れる。
その姿は魔法使い――あるいは、魔女と呼べるだろうか。
ただ佇んでいるだけで、その身に秘められている魔力の膨大さを感じられるよう。
豊満なスタイルを惜しげもなく晒しながら、魔女は――リザ・トレゾアは値踏みするように猟兵達を見やる。
「ふうん、……あの子達、結局何の役にも立たなかったのね」
あの子達、とは、猟兵達が先程倒した妖精のことだろう。配下として率いていたはずのオブリビオンだというのにリザはそれ以上何かを言うこともなく、深い青の瞳は興味深げに猟兵達を眺めやっていた。
「貴方達、この私を呼び出しておきながら何もせずに変えるなんてこと、しないでしょう? まあ、私も逃がすつもりはないけれど」
薔薇槍と髑髏杖――二つの得物を手に、リザは妖艶な笑みを浮かべて告げる。
「……丁度いいわ、退屈していたところなの。――貴方達の力、見せてもらうわ」
シル・ウィンディア
もちろん、災いになるなら…
ここで止めさせてもらうからっ!!
魔女…
魔法使いとは思うけど、槍もあるなら、近接も対応できるよね…
それなら、やることはっ!!
【空中戦】で飛んでジグザグ機動の【フェイント】と牽制の腰部の精霊電磁砲を撃ちつつ撹乱しながら接敵してから
光刃剣と精霊剣の二刀流で攻撃っ!
深追いせずにヒット&アウェイで行くね
敵UCは広範囲…
【第六感】で素振りを感じたら、敵の行動を【見切り】最適な距離を取って
【オーラ防御】でダメージ軽減っ!
致命個所は【盾受け】で重点的にカバー
耐えきったら…
【高速詠唱】と【全力魔法】のエレメンタル・ファランクスっ!
これが、わたしの全力だよっ!
「もちろん、災いになるなら……ここで止めさせてもらうからっ!!」
凛と声を上げ、シル・ウィンディアは魔女と対峙する。
骸の海より現れし存在――リザ・トレゾア。
その身に秘められた膨大で禍々しい魔力を、シルは肌で感じ取っていた。
細い手に握られているのは、髑髏の杖と薔薇の槍。ただ魔法を撃つだけならば遠距離を得意としているのだろうが、得物を槍として用いることも出来るのならば、話は違ってくる。
(「魔女……魔法使いとは思うけど、槍もあるなら、近接も対応できるよね……、――それなら、やることはっ!!」)
光刃剣『エレメンティア』と精霊剣『六源和導』――愛用の二振りを手に、シルは力強く地を蹴った。
その背に視えざる風の翼を広げたかのように鋭い軌道を描いて空中を旋回しながら、腰部に据えた精霊電磁砲『エレメンタル・レールキャノン』を瞬時に展開させる。
「あら、面白そうね……きゃっ!」
シルの武装はおそらくどれも見たことのない物だったのだろう。リザは興味津々といった風に目を細め、シルを迎え撃つべく薔薇に彩られた槍を翻したが――。
レールキャノンから放たれた魔力の砲弾は、リザ本人ではなくその足元に。
衝撃に思わず後退したリザへ、間髪をいれずに迫る影。
「この……っ!」
「残念、こっちが本命だよっ!」
魔力砲弾は単なるフェイント。双剣による本命の一撃が、リザの身体に深く刻まれる。
だが、シルはその一撃の後、素早くリザから距離を取った。
相手は一人とはいえ、配下を率いる力を持つオブリビオン。よって深追いはせずに、ヒットアンドアウェイで着実に攻撃を重ねてゆく戦法を意識してシルは立ち回っていた。
――すると、リザが髑髏の杖を高く掲げ、声を上げた。
「随分とすばしっこい小鳥だこと。でも、これならどうかしら!」
リザの杖の先から迸った巨大な氷の雷が、シルを撃ち落とさんと迫る。
けれど、リザが攻撃に移るよりも早くその兆しを直感で感じ取っていたシルは、既に十分な距離を取った上で掲げた光盾にオーラの守りを重ね、放たれた氷雷を受け止めた。
「くうっ……負けないよ!」
気を抜くと意識を奪われてしまいそうな、凍てつく痛みがシルを襲う。
まともに受けていたら一溜まりもなかっただろう。
深手を負わずに済んだのは――リザの動きを読み守りに徹したからこそ。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ……」
暴走するほどの魔力の本流をやり過ごしたシルは、すかさず反撃に打って出る。
「――我が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれっ!!」
淀みなく紡ぎ上げた詠唱に宿る力。
次の瞬間、一斉に放たれた無数の魔力砲撃が、リザへと収束していく。
「これが、わたしの全力だよっ!」
「な……っ!?」
エレメンタル・ファランクス――地水火風それぞれの彩りがリザを呑み込みながら、鮮やかに空を染め上げた。
大成功
🔵🔵🔵
ティーシャ・アノーヴン
風花(f13801)さんと共に。
あれだけの群を率いていたのにも関わらず、一人で来られました。
相当な自信がおありなのでしょうね。
ともあれ、手練が相手でも臆するわけには参りません。
私も戦い方を見直したり、鍛え直したりしていたのですから。
風花さんには内緒でしたけれど。
その成果が、少しでも出ればよいのですが。
大鰐霊様を呼び出し、挟み込むように位置します。
私と大鰐霊様、風花さんの位置を気取られぬように。
私自身も勢いを殺さないように。
相手の行動を見切り、適切な距離と位置を保ちながら。
しかし時に魔力(オーラ)で防御をしつつ、大胆に飛び込みましょう。
狙いは大鰐霊様と風花さんの一撃・・・いえ、二撃ですわね。
七霞・風花
ティーシャ(f02332)と
フェアリーにはウィッチ
お決まりといえばお決まりの組み合わせでご登場ですか
先んじて倒したフェアリーに同情はない
後悔もなく、自分としては当然の事をしたと思っている
でも、思う
「――それを侮辱するのは。自らの部下を蔑むのは」
同じ種族として、ほんの少し怒りを覚えたっていいだろうと
心の内で、心を燃やす
しかしそんな心をわかっているのか、たまたまか
……ティーシャさんと鰐さんが、私をカバーするように動きますね
その様子を見て、気持ちを落ち着ける
逸るだけでは倒せず、一撃をもらう可能性も出てしまう
だから、ここは
「合わせます。タイミングは、いつでもどうぞ?」
目の前の敵を、たた討とう
「……もう、小鳥のくせに乱暴なんだから」
四色の彩りの光に呑み込まれた魔女――リザ・トレゾアが、程なくして煙の中から姿を見せる。
少し煤けた髪を手櫛で梳かして払う様はまだ十分な余力を残しているように見えるが、先の攻撃が彼女に確かな痛手を刻んだのは間違いなかった。
「あれだけの群れを率いていたのにも関わらず、一人で来られるなんて……相当な自信がおありなのでしょうね」
まだ十分に余力を残している様子のリザを見つめながら、ティーシャ・アノーヴンは少しばかり意外そうに菫の瞳を瞬かせて。
「……フェアリーにはウィッチ。お決まりといえばお決まりの組み合わせでご登場ですか」
一方の七霞・風花は、特に感慨もなくぽつりと零す。
だが、その心の内で静かに燃えるのは。
――先んじて倒した骸の海のフェアリー達に、同情を抱いているわけではない。
結果的に命を奪ったことに変わりはないが、言い換えれば、骸の海に還しただけ。
それは、猟兵でもある自分としては当然のこと。
しかし、風花は思うのだ。
「……風花さん?」
「――それを侮辱するのは。自らの部下を蔑むのは」
彼女達と同じ種族として、フェアリーとして。
ほんの少しくらいは怒りを覚えたっていいだろうと、風花は胸の内で静かに心を燃やしていた。
そんな風花の様子に、ティーシャは微笑んで――そうして、魔女へ毅然と向き直る。
「ええ、……風花さんと同じフェアリーである彼女達を、駒のように……いいえ、駒ですらないような扱いをしたあの魔女を、私も許すことは出来ませんわ」
相手は骸の海から配下を率いて現れたオブリビオン。
それなりの手練だが、臆するわけには行かない。
(「私も戦い方を見直したり、鍛え直したりしていたのですから。……風花さんには内緒でしたけれど」)
その成果が少しでも出せれば良いと思いながら、ティーシャはいつものように敬愛する大鰐の霊へ祈りを捧げる。
「――お出でなさい、獰猛にして気高き大鰐霊」
ティーシャの声に応えて現れた古代の大鰐の霊が、ティーシャと視線を交わすや否や素早く地を駆け、咆哮と共に魔女へ鋭く大きな牙を剥いた。
「まあ、面白い術を使うのね」
リザは薔薇槍の穂先で大牙をいなしながらも、大鰐に興味を示したよう。うっとりと笑いながら大鰐に髑髏の杖を向け、紅蓮の炎を躍らせる。
その隙に、ティーシャは大鰐霊と己自身とで、魔女を挟み込むように位置していた。
――“あの時”見出した己の欠点を思い返しつつ、同じ失敗をしないよう心掛けて。
互いの狙いを悟られぬよう、そして空中を翔ぶ風花の位置を気取られぬように、ティーシャ自身は絶えず動き回りながら、魔女の意識を引き付けることに専念する。
「おや……?」
中空へ舞い上がり、桜を模した弓に風雪宿した矢を番えて魔女の隙を窺っていた風花は、何よりもまずティーシャと大鰐霊の――どこか洗練されているようにも見える動きに瞬いた。
(「……ティーシャさんと鰐さん、もしかしなくとも私をカバーするように動いてますね?」)
知らない間に修行の旅にでも出ていたのか、ティーシャの動きに迷いはなく。そんなティーシャを見て、大鰐霊も思うままに振る舞えているようだ。
ティーシャと大鰐の姿に、自然と、風花は波立つ心が凪いでゆくのを感じていた。
逸るだけではあの魔女に打ち勝つことは出来ないだろう。それどころか、手痛い反撃を貰う可能性も十分にある。
気持ちを、心を落ち着けて、風花はただ一撃に備え研ぎ澄ました全神経を集中させながら、大きく翅を震わせた。
地上ではティーシャが変わらず冷静に適切な距離と位置を保ちながら、襲い来る魔力の奔流を凌ぐべくこちらも守りの力を展開させている。
「合わせます。タイミングは、いつでもどうぞ?」
「わかりました、風花さん、――今です!」
そう声を上げた直後、大胆に飛び込み魔女へと身の丈ほどもある樫の杖――その先端に輝くルビーをさながら槌のように振るい叩き込むティーシャ。
リザはティーシャの見た目から、まるで予想していなかったのだろう。硬質化したルビーによる打撃をまともに喰らい、大きくよろめく。
「ちょっと、あなた随分と……!」
そう、リザが声を荒らげた刹那。
「……っ!」
上空より飛来する小さな影に、目を瞠った時には既に遅かった。
(「――私は。目の前の敵を、討つだけ」)
風花が弓を引き、吹雪のような矢の雨を降らせると同時。
ティーシャの大鰐霊がリザの背後から迫り、その鋭い大牙で喰らいついた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エンティ・シェア
…あいつら、付くやつ間違えただろ
何ならうちの団長のがマシだな
少なくとも大事にして貰えたはずなんだよなぁ
ついさっき餌にして食い散らかした俺が言うのも何だけど…同情するわ
まぁ、いい
退屈しのぎがしたいなら『演奏会』でもしてってやろうかね
キレイな花にはなんとやらってやつかね
面倒だが、毒も痛みも、耐えて突っ切る
高みの見物なんざさせるかよ
間合いを詰めれたなら獣奏器で攻撃
武器での攻撃がメインって体で振り回そうか
軽く体勢でも崩せりゃ上等。出来ずとも、手が届くとこまで行けりゃいい
本命は奏舞。さぁ、あんたも楽器の内だ
別にいい声でないてくれなんていわねーさ
とっ捕まえて張っ倒してやる
それで、十分立派な打楽器だろ
吹雪の矢と大鰐の牙を受けて崩れ落ちるも、よろよろと立ち上がる魔女――リザ・トレゾア。
「……あいつら、付くやつ間違えただろ」
その姿を仏頂面で見つめながら、エンティ・シェアは溜め息一つ、やれ、と肩を竦めながら吐き捨てた。
エンティが気にかけていたのは目の前に佇む魔女ではなく、先程相見えた妖精達。
己の領域を守るための駒として丁度良いと、妖精達は気紛れに拾われ、捨て置かれていたのだろう。
否、この魔女にとってあの妖精達は元より駒ですらなかったかもしれないが――。
(「何ならうちの団長のがマシだな。少なくとも大事にして貰えたはずなんだよなぁ……」)
愛らしく綻ぶ花のようなドレスを着せて、きらびやかなとりどりの宝石で飾って。
その心の矛先がどのような歪んだ形をしていたとしても、先程の彼女達よりは余程想われていたはずだ。
「ついさっき餌にして食い散らかした俺が言うのも何だけど……あいつらには同情するわ」
「私を滅ぼしに来たくせに、面白いことを言うのね。あの子達に同情だなんて」
エンティの言葉にリザは意外そうに目を瞬かせ、くすくすと笑う。
「……まぁ、いい。退屈しのぎがしたいなら、“演奏会”でもしてってやろうかね」
「あら、楽しみね。――どんな音を聴かせてくれるのかしら!」
すると、リザの手に握られていた薔薇槍と髑髏杖が、忽ちの内に無数の――毒々しく鮮やかな薔薇の花弁へと姿を変えた。
濃密な芳香が孕む毒に気づかぬエンティではなかった。
しかも、リザが扱う毒は、妖精達が持っていたそれよりもさらに穢らわしく忌々しいものだ。
「――キレイな花にはなんとやらってやつかね」
面倒ではあったが躱すよりは早いと、エンティはそのまま襲い来る花弁に真正面から突っ込んでいく。
「まあ、随分と情熱的じゃない!」
無数の花弁が肌を裂く痛みと、毒が染み込んでくる感覚が同時にエンティを襲う。
だが、エンティは構わずに舞う花の嵐を突っ切り、リザへと一息に迫った。
「高みの見物なんざさせるかよ……!」
――りん、と、響いた軽やかな鈴の音。
それは、エンティが振るう身の丈ほどの獣奏器が奏でたもの。
リザが振るう槍とぶつかり、鋭さを増した鈴音はまるで閃いた刃のよう。
肩口を掠めた穂先にもおそらく毒が塗り込められているだろう。
だが、それよりもほんの一瞬――手こそ届かぬもののリザがわずかに体勢を崩したその瞬間を、エンティは逃さなかった。
「さぁ、あんたも楽器の内だ。――鳴り響け!」
獣奏器を手放しリザの懐へ飛び込んだエンティは、そのままリザへ掴みかかると――。
「別にいい声でないてくれなんて言わねーさ」
「……ッ!」
超高速かつ大威力の一撃たる拳を、魔女の鳩尾へと叩き込んだ。
「これで、十分立派な打楽器だろ」
「か、はっ……」
たとえ骸の海から現れたオブリビオンでも、やはり人の形をしていれば急所は同じだろうか。
骨が砕けそうな手応えにそんな取り留めのない思考を泳がせるエンティの目の前で、魔女は再び力なく崩れ落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
荻原・志桜
🎲🌸
気配に身を引き締めれば現れた姿に唖然
……!! でぃ、でぃいくん見ちゃダメ!!
見ないと戦えないけど…!分かってるけど!
うう、なんで魔女の人って露出多いの
おかしいよ――へ? わ、わたしは着ません!!
ふるふる頭を振って切り替える
…同じ魔女だからって負ける気なんてない!
お望みであれば全力で。わたしたちの力を見せてあげる!
ディイくんいこ!
それじゃあ、わたしの魔法もご覧あれ…なんてね
退屈凌ぎとか思ってたら痛い目に合うんだから
杖に魔力を溜めて足元には桜の魔法陣
ひとつふたつと彼方此方に陣を展開し増やしていき
――穿て、天鎖!
魔法陣から連なる白銀の鎖を敵に向けて穿つ
例え空高く飛翔しても地に落としてあげる
ディイ・ディー
🎲🌸
やっと首魁のお出ましか
どうした志桜
平気だ、見慣れてるし何とも思わねえよ
エーリカだって……俺の知ってる魔女もあんな感じだった
あの方が魔力の流れが感じられるんだってさ
志桜もああいう格好してみるか?
と、からかいながらも頷き
そうだな、退屈なら俺達が刺激的な時間をやろう
賽の式――ヒドリ、イカル!
名を呼び召喚するのは白鴉と黒猫の霊体
炎型に転じさせた霊撃を刀に乗せて放ち、リザに肉薄する
槍や杖で弾かれようが魔力が襲い掛かろうが鐐の炎が防いでくれる
後から来る痛みの代償はでかいが、気にするのは今じゃない
俺の霊力と志桜の魔力、なかなかだろ?
白と黒、俺様達の蒼と桜が織り成す彩
しっかり瞳に映して憶えておきやがれ
抉るような拳の一撃に膝をついたリザ・トレゾアであったが、杖を支えに辛うじて立ち上がる。
だが、その動きに余裕らしきものはもはや欠片ほども感じられなかった。
とは言え、目の前に在るのは魔女と呼ばれる者に違いなく。深い傷を負ってもなお変わらぬ忌々しく悍ましい気配にぐっと身も心も表情も引き締めていた荻原・志桜は、こちらを向いたリザの姿に唖然とした。
豊満な身体、それを惜しげもなく晒すも同然の格好をしている魔女――。
「やっと首魁のお出ましか。随分と痛い目見てるようだが……と、どうした志桜」
隣に立つディイ・ディーは、志桜とは対照的にまるで動じる素振りはなかったけれど。
「……!! でぃ、でぃいくん見ちゃダメ!!」
しっかり見ないと戦えないとわかっていても、志桜はどうしても直視できずにぎこちなく目を逸らす。
「あら、こっちの小鳥ちゃんは随分と可愛げがあるじゃない。ふふ、恥ずかしいの?」
砂埃を払いつつ二人を見やるリザは、志桜の反応に気を良くしたのか、わざとらしく姿勢を変えて見せつけてくるよう。
「なんだ、志桜。俺様を心配してくれてるのか? 平気だ、ああいうのは見慣れてるし何とも思わねえよ」
「み、見慣れて……? うう、なんで魔女の人って露出多いの……」
ふるふると震える志桜の姿は、ディイの目には何だか幼い雛鳥のようにも見えて。何となく安心させるように、いつものように笑いかけつつ――それから、ディイはふと、何かを思い出したようにぽつぽつと言葉を綴った。
「エーリカだって……俺の知ってる魔女もあんな感じだった。あの方が魔力の流れが感じられるんだってさ」
――エーリカ。
先程もディイの口から聞いた名を、志桜は胸中でなぞる。
それはそれとして、だから見慣れていると言われても、志桜の中では困惑が膨らむばかりだ。
「ま、魔力が感じられるって言ってもおかしいよ……」
いつになく狼狽える志桜の姿はディイの目にも可愛らしく映り。ディイは思わず笑みこぼしながらつい首を傾げて。
「志桜もああいう格好してみるか?」
「――へ? わ、わたしは着ません!!」
ふるふる頭を振って雑念的なあれそれを払い、そうして、志桜はようやくリザをしっかりとその翠の瞳に映し、毅然と告げた。
「……同じ魔女だからって負ける気なんてない! お望みであれば全力で。わたしたちの力を見せてあげる!」
「そうだな、退屈なら俺達が刺激的な時間をやろう」
からかいつつも志桜の言葉にはしっかりと頷き返し、ディイは志桜の隣に並び立つ。
「ディイくん、いこ!」
「ああ、志桜――ヒドリ、イカル!」
ディイが喚ぶ声に応えて現れたのは、耳飾りとカードに姿を潜めていた白鴉のヒドリと黒猫のイカル――その霊体だ。
愛らしく、あるいは勇ましく鳴いたヒドリとイカルは、それぞれの体を炎へと姿を変えて、ディイが携える抜身の刀から躍り出た。
「面白いわね、あなた達の力、魅せて頂戴!」
繰り出される薔薇槍の穂先を掻い潜り、襲い来る氷の魔力の奔流を鐐の炎でやり過ごしながら、ディイはリザへと肉薄する。
無論、単身斬り込んだディイはさすがに無傷とは行かないが、それも承知の上。
疼くような痛みがじわりと広がってゆくのを感じるけれど、気にするのは今ではないとディイは構わず更に深く踏み込んだ。
「――それじゃあ、わたしの魔法もご覧あれ……なんてね。退屈凌ぎとか思ってたら痛い目に合うんだから」
ディイがリザを引き付けている間に、志桜はふわり、桜のリボンが揺れる杖に魔力を溜めて、足元に桜の魔法陣を描き出していた。
ひとつふたつと彼方此方に陣を展開し、志桜は地面に桜を咲かせてゆく。
一足早く春が来たかの如く、リザを囲む輪のように地面に綻んだたくさんの桜。
やがて十分な数の花を咲かせたと感じた志桜は、リザをしっかりと見つめ、高らかに告げた。
「顕現せよ天の楔、――穿て、天鎖!」
刹那、桜の魔法陣から一斉に伸びた白銀の鎖が、一斉にリザへと迫った。
「なっ……!」
「逃さないよ。地に落としてあげる!」
すかさずリザは背に大きな蝶翅を生やし逃れようと羽ばたいたが、それよりも天の鎖がリザを絡め取るほうが早かった。
中途半端に浮いた身体が、そのまま地面に引きずり降ろされる。
鎖に巻かれ地面に縫い留められたリザが、唇を噛み締めながら二人を見上げる。
「俺の霊力と志桜の魔力、なかなかだろ?」
その姿を悠然と見下ろしながら、ディイは歯を見せて笑った。
「――白と黒、俺様達の蒼と桜が織り成す彩。……しっかり瞳に映して憶えておきやがれ」
「ディイくんっ!」
「ああ、……これで、終わりだ」
志桜の声に応え、ディイは魔女の身体に鐡の刃を突き立てる。
「あ、――ああああっ……!」
刃を通してディイの蒼い炎が魔女へと流れ込み、その身を跡形もなく燃やし尽くすのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『星灯祭の夜に』
|
POW : 飲んで食べて祭りを楽しむ
SPD : 満天の夜空を見上げてみる
WIZ : 誰かと語らい夜を過ごす
|
森に潜む脅威を退けた猟兵達がルヴァイユの街へ戻る頃には、すっかり日も暮れていた。
戦い終えた彼らを出迎えるのは、街を彩るたくさんの“星”。
「やあ、旅人さん。良い時に来た。さあ、君達も早く、自分だけの星を見つけておいで」
通りがかった老人が、顔を皺くちゃにしながら笑って真っ直ぐに伸びる大通りを示す。
見ればあちらこちらに、無数の星――の形をしたランプが連なっていて。
自らの美しさを競い合うように、きらきらと目映い輝きを放っていた。
星灯祭を楽しむには、まずこれらのランプをひとつ、手に入れる必要がある。
様々な職人の手で作り上げられた、形も大きさも様々な、世界にひとつだけのランプの数々。
大通りだけでなく、裏通りにもたくさんのランプ屋が軒を連ねており、探せば必ず望む一品に出逢えるはずだ。
ランプの中にはこの辺りで採れるという水晶が据えられ、それが、持ち主の力を宿して様々な色に輝くのだという。
無事にランプを手に入れたなら、いよいよ星灯祭に繰り出すこととなる。
通行く誰かとすれ違ったなら、挨拶代わりにランプを触れ合わせるのも良いだろう。
するとランプに灯る光が不思議とその色彩を変えて、それこそがこの街の伝承として息づく、英雄の青年からの祝福なのだと街の人々が教えてくれるはずだ。
賑わう大通りの市場にはランプだけでなく、様々な雑貨などを取り扱う出店も揃っている。
そうして散策を楽しみつつ、あつあつの串焼きやソーセージ、粉砂糖をまぶしたチュロスや香草入りのスープで小腹を満たすことも出来るだろう。ホットミルクに蜂蜜やブランデーを注いだ一杯で、心ごと体を温めるのもよい。
ふと空を見上げれば、そこには地上の光に負けぬほどの満天の星が散りばめられていて。目を凝らせば、無数の星の間を流れ落ちる星を見つけられるかもしれない。
大通りを出て高台に登れば、そこから街に灯る色とりどりの地上の星を一望出来る。
地上に輝く星達は、誰かが光を交わす度にその色を変えて、二度と見られない美しい彩を描き出す。
街中の喧騒から離れたこの場所で誰かと静かに語らいながら、穏やかなひとときを過ごすのも良いだろう。
通行く人と、あるいは傍らの誰かと光を交わし、そうして互いの幸運と道行きを祈る、ささやかな星灯祭の夜。
さて、どんな風に過ごそうか。
エンティ・シェア
星のランプは深く考えず直感で選ぶ
灯る色も、誰かに会うまでは見なくていい
交わす瞬間に見つけた色は、白
…色々染めるのに、丁度いいキャンパスだこと
色とりどりに、華やかにしてやるかね
「キトリ嬢」だっけ
あいつが一回だけ呼んでたな
あんたの色も分けてくれ
ついでに、一つ礼を言わせてくれ
あんたが寄越してくれたこの仕事のおかげで、思い出せたことがあるんだ
まだ少しずつって感じだけど…随分気持ちが軽い
ありがとな
後は、適当に散策してくかね
祭りは楽しんでこそ、だろ
混ざりたいなら、後で変わってやらんこともないぞ
…せっかくの郷帰りだろうって?
はは、それもそうだ。ならなおのこと変わってけ
俺のいた世界を、あんたも楽しんでけ
辺りに満ちる密やかなざわめきは、今のエンティ・シェアにとっては心地よいものだった。
魔物の驚異が傍らに在ったことを知らぬまま、思い思いのランプを手に星灯祭に興じる人々。
それは、確かにエンティが、そして同胞達が守り抜いた未来の証。
「……さて」
まだ光の灯っていない様々な星のランプの中から、エンティは深く考えずに直感で一つ選び取る。
携えて歩いていればすぐにほのかな光の気配を感じたが、まだその色を確かめる必要はないと、敢えて見やることはしないまま。
すると、すぐに幼い妹の手を引いて駆けて来た少年と目が合った。
「良い旅をなんだぜ、旅人の兄ちゃん!」
少年がぐっと黄色く輝くランプを掲げるその後ろで、少女はもじもじとしながらも、意を決したように空色の光が灯るお揃いのランプを差し出してくる。
なるほどこういう祭りなのだと何とはなしに思いながら、エンティも己のランプを二人へと。
「あんたらの明日もその先も、良いことがあるようにな」
交わす瞬間にエンティが見たのは、まだ何色にも染まっていない無垢な白。
それが幼い二人の色と混ざり合い、新芽のような柔らかな黄緑色に染まってゆく。
ランプを交わし、幼い兄妹と別れたエンティは、改めて手元のランプに目を落とした。
「……色々染めるのに、丁度いいキャンパスだこと」
己のはじまりが白だというのは少し意外だったが、不思議と面映い心地さえするのをエンティは感じていた。
その白は今、芽吹いたばかりの小さな命の色を灯している。元の白もほのかに残っているのか、二つの色が緩やかに移り変わっているようにも見えた。
「色とりどりに、華やかにしてやるかね……っと、」
その時、ふとエンティの視界を、小さな影が横切った。
「……お」
「……あら!」
目が合うのと声が上がるのは、互いにほぼ同時だっただろうか。
「エンティ、お疲れさま!」
一直線に飛んできたキトリ・フローエ(星導・f02354)がにっこりと笑うのにエンティは小さく頷くと、
「ああ、――キトリ嬢、だっけ」
今は表に出ていない“彼”が一度呼んでいたその名を、思い起こすようになぞる。
「ええ、キトリよ。良ければあなたも憶えておいて」
「気が向いたらな。それはそうと、あんたの色も分けてくれ」
そう言ってランプを差し出すエンティに、キトリは勿論よと大きく頷き、自身の菫色に光るランプを近づけて。
菫色の光はエンティのそれと触れ合い、深みのある翠の色を映す。
一方、エンティのランプには星が瞬きそうな紺青が加わった。
「絵の具を混ぜたみたいにはならないんだな」
「そうみたい。でも、どんな色でも祝福なんですって」
行く先のさいわいを祈る、それぞれの色。
「……そうだ、ついでに、一つ礼を言わせてくれ」
「お礼?」
「ああ、あんたが寄越してくれたこの仕事のおかげで、思い出せたことがあるんだ。まだ少しずつって感じだけど……随分気持ちが軽い」
――ありがとな。そう、笑みと共に告げれば、どういたしまして! と笑顔で返る声。
手を振り笑顔で別れた小さな妖精の姿は、瞬く間に見えなくなって。
そうしてエンティは再び、ゆるりと歩き出す。
「祭りは楽しんでこそ、だろ。混ざりたいなら、後で変わってやらんこともないぞ」
そう、誰とはなしに呟いたエンティは、少しの間を挟んでから大きく目を瞬かせ、吐き出す息に微かな笑みを交えた。
「……せっかくの郷帰りだろうって? はは、それもそうだ。ならなおのこと変わってけ」
遠慮がちな彼を、エンティは無理矢理引っ張り出そうとする。
その最中に見上げた満天の星は、例えるならばいっそ、泣きたくなるほどに眩しくて。
だって、この世界は――。
「俺のいた世界を、あんたも楽しんでけ」
大成功
🔵🔵🔵
ベイメリア・ミハイロフ
【幽兵さま(f20301)】と
星灯祭を楽しみます
星の形のランプを手にし
中を覗き込めば、水晶がほんのり黄色がかったオレンジ色に輝いて
不思議でございますね、人によって違うお色が灯るとは
幽兵さま幽兵さま!出店でございますよ
様々なお店に心躍りつつ
蜂蜜入りのホットミルクで、英雄に乾杯を
ふと見上げれば、満天の星が
わたくしのランプと同じお色のお星様もございますでしょうか
そうそう、お尋ねしたい事が
幽兵さまのお名前は、本当はどのようなお名前なのでございますか?
お話を伺って
まあ、では、秘密にいたしますね
そういえば、幽兵さまと
まだランプを交わしておりませんでしたね
果たして、何色になりますでしょうか
(お色はお任せで)
花屋敷・幽兵
ベイメリア(f01781)と
星灯祭を楽しむぞ
星の形のランプか…おしゃれだな。吊り下げ出来る奴がいいな。
人によって違う色…?嫌な予感がするな。まさか黒ではあるまい
出店か。色々あるな。そんなに焦らなくても店は逃げないぞ?
蜂蜜にホットミルク…俺、ブランデーのにしようかな(甘そうだ)
星空なぞついぞ見上げることも無かったが…たまにはいいな。
色んな星があるが、これと同じのはなさそうだな(持っているランプを見て)
俺の名前か?ふむ…ずっとこれで隠れ里も過ごしていたし、最早区別もつかないな。という訳で俺はこれからも花屋敷幽兵だ。秘密だぞ。
ランプの光を交わすのか?興味があるな、やってみようか。
多くの人々で賑わう通りにはいくつもの光が溢れていて、まるで地上に星が降ってきたよう。
その降ってきたような星の一つを手に、ベイメリア・ミハイロフ(紅い羊・f01781)は楽しげな笑みを綻ばせながらくるりと振り返った。
「幽兵さま幽兵さま! 出店でございますよ」
ベイメリアの弾む声に、彼女の少し後ろを歩んでいた花屋敷・幽兵(粗忽なダークヒーロー・f20301)はゆるりと視線を巡らせる。
「出店か。色々あるな。そんなに焦らなくても店は逃げないぞ?」
「ふふ、折角ですから乾杯しませんか? わたくしはこちらの、蜂蜜入りのホットミルクで」
「乾杯か……そうだな。蜂蜜にホットミルク……俺、ブランデーのにしようかな」
にこにこと上機嫌な様子で蜂蜜入りのホットミルクを受け取るベイメリアを横目に、甘そうだなんて思いながらも、幽兵もまたブランデー入りのホットミルクを受け取って。
「それでは、英雄に乾杯を」
「――ああ、乾杯」
「……それにしても不思議でございますね、人によって違うお色が灯るとは」
ベンチに腰を下ろしてホットミルクを飲みながら、ベイメリアは傍らに置いたランプを改めて見やる。
可愛らしい星の形のランプを覗き込めば、中の水晶はほんのり黄色がかった橙色の光を放っていて。
「そうだな、黒でなかったのは幸いだったが……」
重々しく頷き、幽兵もまた己の手で選んだランプに目をやった。
幽兵のランプは手で持つだけでなく、吊り下げられる形のものだ。
そして、その光の色はダークヒーローである幽兵が危惧していた黒ではなく、深い青。
ともすれば夜の海のようなその青が、ほのかな光を纏えば確かに星のようにも見えるから、何とも不思議なものだと幽兵は思う。
――すると、不意にベイメリアが空を指差して幽兵へと振り向いた。
「幽兵さま、ご覧ください。お星様がとても綺麗ですよ」
澄んだ翠色の瞳を輝かせながら満天の星を見上げるベイメリアにつられるように、幽兵もまた視線を空へと。
夜色の天上に余すことなく散りばめられた無数の輝きは、幽兵には馴染みのない光景だった。
「ほら、わたくしのランプと同じお色のお星様もございますよ」
ベイメリアが示す先には確かに、彼女の携えるランプと同じ、木漏れ日のような柔らかな光が瞬いて。
(「星空なぞついぞ見上げることも無かったが……たまにはいいな」)
何となしにそんな思考を巡らせながら、幽兵はベイメリアの星からさらに無数の星を辿ってゆく。
「色んな星があるが、これと同じのはなさそうだな」
「あら、あんなにもたくさんのお星様があるんですもの。きっと、幽兵さまのランプと同じお色のお星様も見つかりますよ」
己のランプを見てぽつりと呟く幽兵に、ベイメリアは楽しげな笑みを浮かべたまま答えてから、ふと首を傾げた。
「そうそう、お尋ねしたい事が。……幽兵さまのお名前は、本当はどのようなお名前なのでございますか?」
「俺の名前か? ふむ……」
問われ、幽兵は暫し考え込む。傍らのランプをちらりと見やり、手元のホットミルクのカップに視線を落として、それから、期待の眼差しを向けるベイメリアへと視線を戻す。
「ずっとこれで隠れ里も過ごしていたし、最早区別もつかないな。――という訳で、俺はこれからも花屋敷幽兵だ。秘密だぞ」
紡がれた答えにベイメリアはぱちりと瞳を瞬かせてから、柔らかく微笑んだ。
「まあ、では、秘密にいたしますね」
そうして通りへと目をやれば、あちらこちらでランプの光を交わす人々の姿が見える。
「そういえば、幽兵さまとまだランプを交わしておりませんでしたね。……いかがでしょう、交わしてみませんか?」
楽しげに紡いでランプを掲げるベイメリアに、幽兵も思い出したように頷くと、己のランプを手に取った。
「ランプの光を交わすのか? 興味があるな、やってみようか」
「果たして、何色になりますでしょうか。楽しみですね」
盃を交わすようにランプを触れ合わせると、ベイメリアのランプの光は明るい空色へとゆるやかに移ろい、そして幽兵のランプの光は淡い薄紫へと変わった。
「これは……まるで、これから明けてゆく空のようですね」
「なるほど、夜明けか」
星達が再び息を潜める頃――世界には新たな夜明けが訪れ、そして、新しい一日が始まる。
幽兵のランプの光が夜明けであるならば、ベイメリアのそれは昼間の晴れた空の色だ。
そんな、巡りゆく日々の空を映したような二つのランプの光にふわりと笑みを綻ばせるベイメリアに、幽兵もまた己のランプを見やり、そして再び満天の星を見上げるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
パラケルスス・アンパルフェ
わたくしは…アンティーク調のランプを頂きましょう。多くの人の様々な「想い」が詰まった物が良いですね。ツクモガミであるわたくしにとって、そういった物は不思議と心地がよいのです。おや、不思議な色の光ですね。赤色の中に少し黄色が混ざっています…。
共にオブビリオンを退けた猟兵達の無事を祝いつつ、祭りを楽しみましょうか。薬草、香草や果実酒など薬に使えそうな物や骨董品などを買って、何か出し物があればそれも見て行きたいですね。
平和な街並み…。この風景を守る事が出来て良かったです。猟兵冥利に尽きます。祭りに参加している人達も楽しそうで、次もまた頑張ろうと思えますね。(アドリブや絡み等OKです)
顔を覆うマスク越しに見る世界は、かつて見たことのないような優しい光に満ちていた。
パラケルスス・アンパルフェは通りを行く人々を静かに見やり、それから、一面を彩る様々なランプへと視線を移した。
「こちらのランプを頂けますか」
「おや、旅人さん、お目が高いね」
微笑む老店主の前でパラケルススが手に取ったのは、アンティーク調の古びたランプだった。懐かしさを感じる造形や、様々な人々の手を渡ってきただろうことをひと目見ただけで感じさせる持ち手の部分は手によく馴染む。
だが、同時に永い時を経る中でしっかりと手入りがされていたのだろう。
それは、現在においても他の真新しいランプと何ら遜色のない、ただ一つの煌めきを抱くことが出来る星のランプに違いなかった。
多くの人々の、様々な“想い”が詰まった一品は、付喪神――銀のロッドのヤドリガミであるパラケルススにとって、不思議と心地よさを与えてくれる物だ。
「ありがとうございます、店主様。こちらのランプ、大切にさせていただきますね」
「ああ、あんたになら儂も、安心してそいつを預けられる。ありがとうな」
一つの出会いと別れを経て、パラケルススは早速星灯祭へと繰り出していく。
「……おや、不思議な色の光ですね」
ふと手元のランプに視線を落とせば、そこには、赤色の中に少し黄色が混ざっているような、それでいてオレンジとは喚び難い――赤と黄色の二色が混在していた。
それもすぐに行き交う人々の光によって色を変えてゆくのだろうけれど、始まりのその色は、パラケルススにとってはなぜだかひどく印象に残るものだった。
共にオブビリオンを退けた猟兵達の無事を祝いつつ、パラケルススは大通りをのんびりと歩いていく。
薬草や香草、それから果実酒。
パラケルススはそうした、薬の材料となりそうな品々をしっかりと手に入れ、それから目を引かれた骨董品などもお土産に。
そうして街中を歩いていけば、広場に円を描くように並べられたランプ――それによって作られたステージの上で、吟遊詩人が歌っていた。
パラケルススは暫し、紡がれる歌声に聴き入る。
どうやら、この星灯祭の起源となった英雄にまつわる歌のようであった。
英雄がどこへ行き、そしてどうなったのかは誰も知らない。
だが、彼が与えてくれた光が、今も人々の心に灯されている――。
平和な、街並みだった。
「……この風景を守る事が出来て良かったです。猟兵冥利に尽きるというものですね」
詩人の歌が終わったちょうどその頃、ぽつりと独りごち、パラケルススは再び歩みを再開する。
行き交う人々もみな笑顔で、たくさんの光が溢れるひとときの祝祭を、思い思いに楽しんでいて。
彼らが魔物の脅威に脅かされることなくありふれた日常を送れることの、何と素晴らしいことか。
(「……次もまた、頑張らなくてはなりませんね」)
確かな決意をひとつ、小さく頷いたパラケルススは、やがて静かに、他にも土産になりそうな物がないかを探しに雑踏に紛れていった。
大成功
🔵🔵🔵
薬師神・悟郎
翠々(f15969)
翠々と揃いの星を手にして街を歩く
俺と同じ瞳の色をした灯りを最初に触れ合わせるのは勿論、翠々だ
深いみどり色の灯りは美しい彼女にぴったりだと思う
ホットミルクで体を暖め、旨い料理で腹を満たし
一通り出店を巡れば、高台に行ってみようと提案
地上に輝く星を眺めて二人で静かに過ごし、此処に来るまでのことを楽しげに語らう
まさか翠々から行動を起こされると思わなかったし、彼女の一言には驚かされた
俺は今、情けない真っ赤な顔を晒しているんじゃないだろうか
翠々の言葉に上手く返せないほど動揺している
だが翠々の肩を抱き寄せて、これが星の灯りが見せる幻じゃないと確信したい
愛しくて、どうにかなってしまいそうだ
周・翠々
悟郎様(f19225)
らんぷは深いみどり色
悟郎様の灯は優しい色ですね
わあ…不思議
わたくしのと合わさるとこんな色になるのですね
高台からみる景色は特別
きらきら輝く星々とらんぷの灯に瞳がが煌めいて
今日の思い出をたくさんおしゃべり
肩を寄せられ、悟郎様をみる
フードから覗くお顔はいつもと違い、可愛らしい
愛おしいとさえ思う
自然に出た想いに驚き
胸に手を当て小さく苦笑い
…もう誤魔化せない
悟郎様?
拒否されなければ顔を隠すフードを外して
軽く引き寄せ
耳元に唇を寄せる
一呼吸
わたくし、悟郎様をお慕い申し上げます
遠回しですが今はこれで精一杯
悟郎様はどんな顔をされる?
わたくしの身体が暑いのはさっき飲んだホットミルクのせいです
ふたり、揃いの星を手に、薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)と周・翠々(泪石の祈り・f15969)は連れ立って街を歩く。
悟郎の星は彼の瞳と同じ金色を灯し、そして翠々のランプもまた、彼女が持つ名と纏う色彩を思わせる深いみどりの色に輝いていた。
「悟郎様の灯は、優しい色ですね」
「翠々の光も、美しいあなたにぴったりだと思う」
「また、そんな……すぐにそう、美しいだなんて」
「……? 翠々が美しいことに変わりはない」
当然のこととばかりに告げる悟郎に、そういうことではないのだと伝えようとしても、うまく言葉にならなくて。
代わりに、翠々は頬が熱を帯びてゆくのを感じながらも、そっと己が持つ星を差し出した。
携えたその光を最初に触れ合わせる相手は、勿論、言うまでもなく。
優しく重ねればまるで互いの心が移ったかのように、二人のランプは一度互いの色を映して輝くと――緩やかにオパールのような白、それも見る角度によって色が変わるような、幻想的な色へと変わった。
「わあ……不思議。わたくしのと合わさるとこんな色になるのですね」
優しい光にどこか心が安らいでゆくのを感じながら、翠々は感嘆の息をつく。
「……同じ色、でしょうか?」
「ああ、どうやら同じようだ。星も光も、揃いというわけだな」
お揃い――何だかその響きが擽ったくて、翠々ははにかむように微笑む。
ホットミルクで体を暖め、旨い料理で小腹を満たし、ランプの光にも負けず劣らずの様々な品が並ぶ出店を一通り巡った後に、悟郎は翠々へひとつ提案を。
「翠々、折角ここまで来たんだ、高台に行ってみよう」
「ええ、参りましょう」
一つ二つと石段を上がって辿り着いた先の丘の上。
目に飛び込んでくるのは、天上の星と地上の星――その、両方。
「わあ……っ」
きらきら輝く数多の星々とランプの灯――それらが織り成す特別な景色に、翠々は瞳を煌めかせながら、傍らの悟郎を振り返る。
そうして、ここに来るまでのことや今日の想い出を、ゆるりと語り合う。
それはいつだって特別な、ふたりだけの時間。
――すると。
不意に悟郎の肩が触れた感覚に、翠々は二人の距離の自然な近さを知った。
そっと覗き込むように見つめれば、フードから覗く顔はいつもと違って可愛らしく思えて。
――愛おしいとさえ、思う。
「……っ」
自然と胸の内から溢れ出たその想いに、翠々は驚き目を瞬かせた。
「……翠々、どうした?」
そして、悟郎が不思議そうに首を傾げるのに、翠々は胸に手を当てて小さく眉を下げ、ほんの少しばかり苦く笑い返す。
きっと、本当はもっと、ずっと前から気づいていた。
己へと向けられた悟郎の眼差しも、名を紡いでくれるその声も、“愛おしい”。
その時、翠々はもう何もかも誤魔化せないのだと知った。
「……悟郎様、失礼します」
翠々はそっと手を伸ばし、悟郎が普段から顔を隠すために被っているフードを外す。
拒む素振りがなかったことに内心安堵しつつ、満天の星の下で改めて見る彼の顔はやはり美しい――なんて思いながら、翠々は背伸びをしつつも悟郎を軽く引き寄せ、その耳元に唇を寄せた。
呼吸を一つ、胸の内からあふれる想いを、翠々は己の声と言葉に変える。
「――わたくし、悟郎様をお慕い申し上げます」
「…………えっ」
悟郎は一瞬、間の抜けた声を落とした。
だが、翠々から告げられた言の葉の意味を理解した途端、慌てたように口元を抑え、ぎこちなく目を逸らす。
まさか、彼女からこういった行動に出てくるとは思ってもいなかった。
ゆえに、悟郎が抱いた驚きは、彼が想定していた以上のもので。
(「俺は今、どんな顔をしている……? 情けない真っ赤な顔を晒しているんじゃないだろうか」)
瞬く間に頬が熱を帯びていくのは感じていたが、それ以上のことは悟郎自身にもわからずに。
「俺は、……その、……――翠々、」
上手く言葉を紡ぐことすら出来ないほどに動揺しているのを自覚した悟郎は、言葉を紡ぐ代わりに翠々の肩を抱き寄せた。
彼女が確かに此処に居ることを、そして、これが星の灯が見せる幻ではないことを――確かめたくて、信じたくて。
(「……ああ、」
――愛しくて、どうにかなってしまいそうだった。
そして、翠々もまた。
遠回しながらも精一杯の想いを伝えた直後から、身体が暑いと訴えてきていたのだが。
それは、さっき飲んだホットミルクのせいにして。
今は肩に回された腕の確かな力とぬくもりに、その心地良さに身を委ねながら、翠々は更に鼓動が高鳴ってゆくのを感じていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティーシャ・アノーヴン
風花(f13801)さんを肩に乗せて。
まあまあ、沢山のランプ。目移りしてしまいますわね。
どうしましょう。少し歩いて探しましょうか。
私はこの涙滴型の銀色のフレームが素敵なランプにしましょう。
これをくださいな。
風花さんも決まるまで歩きましょう。
気になったものがあれば仰ってくださいな。足を止めますので。
ランプを手に入れたら、先ずは風花さんのランプと光を交わしましょう。
その後、道行く人とも光を交わしましょう。
ふふ、こういった触れ合いも楽しいものです。
丘に行く前に、何か飲み物でもいただきましょうか。
私はお酒にしますけれども・・・風花さんは?
丘に着いたら、最後にまた、風花さんのランプとご挨拶しましょう。
七霞・風花
ティーシャ(f02332)と
これだけ並ぶと壮観ですね……きらきらしていて宝石みたいです
ふと目に留まったランプへ、ふわりと飛んで近づいて
私でもなんとか抱えられそうな、小さく精巧なまんまるなランプ
これに、しようかなぁ
大事に抱え、行き交う人々と光を交換し合って
そうして街に彩りを添えていく
みんな笑顔で、楽しそうだけど……私もそうだったりするのかしら
あ、ええと……お酒と、チュロス食べたいです
今はさすがにお肉というより、甘いお菓子の気分、ですね
丘からの景色はとてもきれいで
空にも大地にも星が瞬いているかのように、きらきらで
小さなランプを掲げて、そっとティーシャさんのランプと挨拶を交わします
「まあまあ、沢山のランプ。目移りしてしまいますわね。どうしましょう。少し歩いて探しましょうか」
ティーシャ・アノーヴンの軽やかに弾む声を聴きながら、彼女の肩の上に座る七霞・風花もどこかそわそわと雪色の翅を揺らしていた。
右を見ても、左を見ても、ふわりと浮かぶほのかな光。
「これだけ並ぶと壮観ですね……きらきらしていて、宝石みたいです。ええ、探しましょう」
値打ちのありそうなものにすぐ結びつけてしまうのは、言わば風花にとっては性分のようなものだけれど。
事実、視界いっぱいに広がる無数の輝きは、そのまま宝石と称しても差し支えのないものだった。
あちらこちらで交わされているランプの光は、色を変えるたびに新しい蕾が綻ぶよう。
たくさんの光の花が咲く世界をゆっくりと辿りながら、二人はランプを見て回る。
「……あ」
その時、ティーシャが小さく声を上げて立ち止まった。
「ティーシャさん、いいのが見つかりましたか?」
そっと首を傾げる風花にティーシャは頷いて、銀色のフレームが特徴的な、涙の雫のような形のランプを手に取った。
「はい、私はこちらの素敵なランプにしようと思います。これをくださいな」
すると、早速ランプの中の水晶がルビーを思わせるような赤い色を灯して輝いた。
「こんな風に光るのですね。風花さんも、気になったものがあれば仰ってくださいな。足を止めますので」
そうして、ティーシャは風花を肩に乗せたまま再び歩き出す。
風花もあちらこちらへと目を向けながらランプを探していたが、不意にぱちりと瞬いた。
「……あれは」
「風花さん、見つかりましたか?」
ティーシャの声にこくりと頷き、風花はふと目に留まったランプの元へふわりと飛んでいく。
風花が見つけたのは、フェアリーである彼女にもなんとか抱えられるくらいの、細部まで精巧な作りのまんまるなランプだ。普通のランプの傍に控えめに並べられていたそれらは、風花だからこそ気づけたものだと言っても過言ではないだろう。
聞けばフェアリー用に、丈夫ながらも軽い素材で作られているのだという。
「……これに、しようかなぁ」
じっと覗き込み、それからぽつりと呟いた風花に、そっと様子を見守っていたティーシャはにっこりと微笑んで。
「風花さんらしくて、とても素敵なランプだと私も思いますよ」
ティーシャの声にも背を押され、風花はこれと決めたランプを両手で抱え上げる。
「重くはありませんか?」
「ええ、大丈夫です。……おや」
風花の腕の中で、ランプがふわりと薄紫の色を放ち始めた。
「無事にランプも手に入ったことですし、早速ご挨拶をしませんと」
ティーシャはランプを掲げ、風花のそれにそっと触れさせる。
すると、ティーシャのルビーのような赤が深みのある青紫に、そして、風花の淡い藤色の光は、芽吹きの春を思わせるような黄緑色に変化した。
ふたつの色から生まれた、新しいふたつの色。
「綺麗ですね、風花さん」
「……はい、とっても」
それから、二人は道行く人々とも光を交わし、新たな色を繋いで――街に彩りを添えてゆく。
「ふふ、こういった触れ合いも楽しいものです。ね、風花さん?」
掛かる声にふと見やると、とても嬉しそうに微笑むティーシャの姿が風花の瞳に映る。
思えば、光を交換し合った街の人々も、みな一様に笑っていた。
光と共に、あふれる笑顔の数々。
(「みんな笑顔で、楽しそうだけど……私もそうだったりするのかしら」)
風花は何とはなしにティーシャを見やる。
目が合えば、ティーシャの笑みが深くなったように見えて。
それにつられて、風花も己自身の頬がかすかに緩む気配を感じていた。
「丘に行く前に、何か飲み物でもいただきましょうか。私はお酒にしますけれども……風花さんは?」
「あ、ええと……お酒と、チュロスが食べたいです。今はさすがにお肉というより、甘いお菓子の気分、ですね」
チュロスを傍らに果実酒の盃も交わし、一息ついてから、ランプを手に丘の上へ。
地上に灯るたくさんの光の彩と、天上に灯る無数の煌めきは、まるで空にも大地にも星が瞬いているかのようにきらきらしていて、思わず溜め息がこぼれるほど。
「風花さん、もう一度ランプとご挨拶しましょう」
「ええ、そうですね。最後にもう一度、ご挨拶を」
二人は暫しその光景に見入ってから、もう一度ランプを交わし合う。
――まるで、今日という日の想い出をランプ達も分かち合っているかのように。
ふたつのランプは、同じ色を灯して優しく輝いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
氷雫森・レイン
【聖雨】
(光色は青)
「流石に此処では余計な心配は無用ね」
フェアリー用のランプがちゃんとあってほっとする
祭りの趣旨は解っているけどがっつくのは品が無いし光を交えるのは目が合って会釈できた人と
そういえば以前食べたチュロスは美味しかったわね…
「っ…ごめんなさい、考え事をしていて」
ええと、猟兵…かしら
多分人形遣い
「悪いことをしたわ」
淑女にあるまじき、ね
名乗って、お詫びに何かご馳走しましょう
「何がいい?これから星を見るなら何か温かい物はあった方がいいと思うわ」
何だかんだ色々話す内、私の暮らす旅館のお客がお友達と知って吃驚
世界って存外狭いわね
「…それは私の台詞よ」
出会いは失礼したけれど
どうか貴女達に幸あれ
瀬名・カデル
【聖雨】
アーシェと一緒に星灯祭に参加するんだよ!
貰ったランプはとっても綺麗で、魔力と想いでいろんな色になるんだって!
ボクのはいったいどんな色になるかな…?
えへへ、とっても楽しみ!
灯りがついたら、街をあちこち見渡して…空の星もとっても綺麗だなぁって見上げていたら、誰かにぶつかっちゃった!
ごめんなさいって相手を見たら…とぉっても可愛いフェアリーさん!
蒼くて、透明で、とっても綺麗な子。
お名前、レインっていうんだね!
ボクもボクとアーシェの自己紹介して、それから一緒にお星様見に行くことになったよ!
レインはボクのお友達のお友達だったんだね!
じゃあボクともお友達になってくれる?
友情の証に光の交換をしようよ!
「……流石に此処では余計な心配は無用ね」
氷雫森・レインはほんの少しばかり安堵を交えた息をつき、手にしたランプを軽く揺らす。
青い光を放つそのランプは、勿論フェアリー用に作られた――普通の人間にはとても小さなランプだ。
この世界だからということもあるけれど、当たり前のように自分達の種族が使える物があることにほっとする。
星灯祭の趣旨は解っていた。
だからと言って、手当たり次第にがっつくのもそれはそれで品がない。
ゆえに、レインは目が合って会釈できた人とだけ光を交わすと決めて、人混みで賑わう通りへ透き通る翅を震わせて飛んでいく。
(「そういえば、以前食べたチュロスは美味しかったわね……」)
あの日も、こんな風に星が綺麗で、沢山の人々で賑わう夜だった。
「……っ!」
――なんて考え事をしながら飛んでいたレインの視界を、不意に影が覆う。
眼前に現れたひとの姿に気づいた時には、避ける間もなく一直線に飛び込んでいた。
――そして、ほぼ時を同じくして。
「アーシェ、楽しみだね! このとっても綺麗なランプはね、魔力と想いでいろんな色になるんだって!」
腕の中の人形の少女ににっこりと笑いかけ、瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)はたくさんの人々で賑わう大通りを歩いていた。
「ボクのはいったいどんな色になるかな……? えへへ、とっても楽しみ!」
もう片方の手に携えた星のランプをアーシェにも見えるように掲げていたら、ふわり、ほのかに灯った光はアーシェの瞳の色を思わせる深い青。
「アーシェの瞳みたいに綺麗な青だね。アーシェ、ほら、街も空もとっても綺麗だよ!」
辺りに満ちるたくさんの光は、誰かがランプを交わす度にその色を変えてゆく。
見上げれば、天上の空にもたくさんの星。
「綺麗だなぁ……」
――なんてぼんやり見上げていたら、何かちいさなものが飛んでくる気配。
「えっ? わ、うわわっ!」
避ける間もなく、カデルはそのちいさな何かを真正面から受け止めていた。
「ごめんなさいっ! ……あれ?」
ぶつかったと思ったのに、その感覚はカデルが思っていた以上に軽くて。
ちょうど、アーシェと自分で受け止めた形になるだろうか。軽く頭を振ってふわり、カデルから離れた小さな“そのひと”を一目見るなり、カデルはわあっと歓声を上げる。
蒼くて、透明で、とっても綺麗な子。
自分達よりもうんと小さなその種族のことを、カデルもよく知っていた。
「とぉっても可愛いフェアリーさん! 大丈夫? 怪我はない?」
「……ごめんなさい、考え事をしていて。ええと……あなたも猟兵……かしら」
一方のレインも、カデルの姿と彼女が抱く人形に注目していた。
人形を大事そうに抱いているところを見ると、おそらくは人形遣いだろうとレインは見当をつける。
「悪いことをしたわ。淑女にあるまじき、ね。私はレイン。氷雫森レインというの」
「お名前、レインっていうんだね! ボクはカデル。瀬名カデルだよ。この子はアーシェ」
互いに自己紹介を終え、それから、レインは改めて切り出した。
「ぶつかってしまったお詫びに何かご馳走するわ。何がいい? これから星を見るなら何か温かい物はあった方がいいと思うわ」
「ちゃんと前を見てなかったのはボクも同じだし、ボクもご馳走するよ! そしたら、こうやってここで会えたのも何かの縁っていうし、一緒にお星様を見ようよ!」
そんな風に色々と話す内に、互いの口から良く知る名前や単語が出てくることに気づくまでに、然程時間はかからなかった。
「……もしかして」
「レインはボクのお友達のお友達だったんだね!」
カデルの友達の友達がレイン。それは、レインからすれば、彼女が暮らす旅館に客として訪れている友人の友人がカデルということになる。
「世界って、存外狭いわね」
しみじみと呟くレインに、カデルは嬉しそうににこにこと笑って。
「じゃあボクともお友達になってくれる?」
「……それは私の台詞よ」
始まりこそ礼儀に欠けていたけれど、これからに繋がる瞬間ならば。
「それなら早速、友情の証に光の交換をしようよ!」
無論、レインもそのつもりだった。
カデルはアーシェと一緒にランプを持って、レインのランプへ近づける。
触れ合えば、ふわりと瞬いた二つの青が緩やかに混ざり合い、淡い桜色へと緩やかに変じてゆく。
それは、もう綻び始めている花の色。
始まりを告げる、季節の彩。
良く知るその色を見つめ、レインは願うように告げた。
「――どうか、貴女達に幸あれ」
大成功
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荻原・志桜
🎲🌸
わぁ!ディイくん、ディイくん!
ランプたくさん!どれにしようと手に取り見比べて
選んだのは両掌より少し大きめの金平糖みたいなランプ
灯るのはふんわり桜色でわたしの彩!
そういえばランプ同士を触れたら光の色が変わるんだよね
やってみようよと自分のランプを近付ける
わ、きれい…。すごい
ふたつが合わさって生まれた新しい色彩
きらきら輝くそれを暫し見つめ
ふと浮かぶ出来心に彼へ笑みを向ける
…ねぇディイくん、星が綺麗ですね
満天の星々も手元で輝くふたつの星も綺麗だから
憧れや焦がれる想いの意味も込めて
と思ってたのに返答に思わず口籠る
からかわれて縮まる距離は心臓に悪い
だけど寄り添う星のように、この想いもどうか傍に――
ディイ・ディー
🎲🌸
本当に星の灯みたいだ、すげーな
志桜はいつも楽しそうで良いよな、こっちまで楽しくなるぜ
選ぶ様を眺め、自分が手に取ったのは
丸いフォルムで星型の台座が付いたランプ
灯の彩は淡い蒼
それじゃ行こうぜ、と誘って向かう高台
賑わいが遠くなる感覚は少し厳かな気がして悪くない
不思議なランプだよな。どんな風に変わるんだろ
志桜の灯と触れ合わせれば変わる色彩
色付いた彩に暫し瞬き、自分達の灯を見比べる
何も言葉が出なかったのは
星空と灯に照らされた志桜の顔に見惚れたから
ん?
……ああ、綺麗だ
だからさ、もっと近くで見せてくれないか
その意味を解っているから
からかいながらも距離を縮める
触れ合ったのはきっと、灯だけじゃなくて――
「わぁ! ディイくん、ディイくん! ランプたくさん!」
「本当に星の灯みたいだ、すげーな」
翡翠の瞳をきらきら輝かせ、ランプを見て回る荻原・志桜の後ろを歩きながら、ディイ・ディーもまた感嘆の息と共に街を彩るたくさんの星を見回して。
「志桜はいつも楽しそうで良いよな、こっちまで楽しくなるぜ」
「ふふ、そうかなあ?」
嬉しそうに頬を緩めながら、どれにしようとランプをひとつずつ手に取り見比べる志桜。
志桜がランプを選ぶ様を眺めやりつつ、ディイもまた並ぶ星に手を伸ばす。
「ディイくん、わたし、このランプにする!」
やがて志桜がこれと決めたのは、両の掌より少し大きめの、金平糖みたいな形のランプだった。
ふんわり灯る桜色は、志桜の色であり特別な彩だ。
「ああ、志桜らしくて良いんじゃないか? 俺はこれにしようと思う」
一方、にやりと口の端を釣り上げたディイが手にしたのは、星型の台座が付いた、丸いフォルムのランプ。
「ディイくんのランプもディイくんらしくて、わたしも良いと思います!」
にっこり笑う志桜から貰った太鼓判。
すると、ディイのランプに、彼の右腕に宿る炎に良く似た淡い蒼の色彩が灯った。
「それじゃ行こうぜ」
「うん、楽しみだね!」
志桜を誘い、ディイは高台へと足を向ける。
通りを行く人々はみな笑顔で挨拶代わりにランプの光を交わし合っており、その度に様々な色がふわりと咲きこぼれていた。
いくつもの光が綻び揺れる様をどこかそわそわと見つめる志桜の姿は、やはりディイにはどことなく愛らしいものに映る。
歩いていく内に、最初は辺りを埋め尽くすほどに溢れていた光も、そして人々の賑やかな声も次第に遠ざかって。
世界が静寂に塗り替えられてゆく感覚は、少し厳かな気がして悪くない――何とはなしにそう思いながら、ディイは志桜の歩調に合わせ、高台へ続く階段をゆっくりと上ってゆく。
「わぁっ……!」
やがて辿り着いた丘の上、視界いっぱいに広がる無数の“星”に、志桜は思わず声を上げた。
満天の星と、地上を染める星の彩。
その星のひとつが、互いの手の中にある。
「ランプ同士を触れたら光の色が変わるんだよね。やってみようよ」
「不思議なランプだよな。どんな風に変わるんだろ」
まだ誰とも交わされていないふたりのランプは、最初に灯した色のまま。
花咲くような笑顔でランプを差し出す志桜に、ディイも笑みを返してランプを近づける。
触れ合わせれば、密やかに繊細な音が響いて。
ふたつの色彩が混ざり合い――淡い青紫色へと変化した。
「わ、きれい……すごい」
きらきら輝くお揃いの色。
それを見つめる志桜を何気なく見やり――ディイは思わず息を呑んだ。
「……、――」
星空とやわらかな灯に照らされた少女の顔に見惚れて何も言うことが出来ず、同じ色を灯したふたつの灯を見比べるディイ。
「……ねぇ、ディイくん」
そんな彼の胸の裡を知らぬまま、志桜はふわりと笑みを綻ばせる。
ふと浮かんだ、出来心。
「――星が、綺麗ですね」
満天の星々も、手元で輝くふたつの星も、どちらも綺麗だから。
だから、純粋な憧れや焦がれる想いの意味も込めて、志桜はそう告げたのだけれど。
「ん? ……ああ、綺麗だ。――だからさ、もっと近くで見せてくれないか」
「……っ!」
ディイの返答に思いがけず口籠ったその隙に、ふたりの距離が縮まっていた。
いつもより近い場所に彼がいる。
そこからもう少しだけ近づけば、直に触れ合えるほど。
(「し、心臓に悪い……っ」)
頬が瞬く間に熱を帯びてゆくのがわかる。
こんな顔でも、彼は、いつものように笑ってくれるだろうか。
――志桜が籠めた想いの意味を解っているからこそ、ディイはからかいながらも距離を縮めた。
ディイはいつものように――否、いつもよりも優しい眼差しで志桜を見やり、それから共に天上の空を見上げる。
きらきらと輝く空。
散りばめられた無数の瞬きはどんなに手を伸ばしても届かないけれど。
傍らに在るただひとつの星は、願えば触れ合うことも叶うのだ。
今宵触れ合ったのはきっと、灯だけではなく――。
言葉はなく、ただ静かにふたり、寄り添って星を見る。
傍に居られるだけで、こんなにも胸がいっぱいになって。
それだけで、ただ幸せだと志桜は思う。
(「……ディイくん」)
声に乗せる代わりに、志桜は心の中で彼の名を紡いだ。
それでもきっと、彼には届いている気がするから。
寄り添い輝く星のように、この想いも、どうか傍に――。
大成功
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