●その魂を蝕むもの
其れは何の為だったか。其れは誰の物だったか。我を内から蝕むこの激情は。
昼なお薄暗い石畳の街並みは住まう者も居なくなって久しく、苔むした異形の木々が石造りの家屋だった物を押し崩すように生えている。いまだに廃墟と見えるのは、木々の合間にかろうじて残るひび割れた石畳の道、そしてまばらに並ぶ外灯が残っているからか。
狂おしいまでの憤怒が渦巻く。既に思考は千々に切れ、魂すらも磨り潰されているというのに。
ぼう、と外灯が灯る。その灯の色彩はこの世にある如何な炎とも違っていた。瞳に映す異彩の炎の如く、渦巻く激情が揺らめきうねる。己さえも激情のうねりに呑み込まれ、情動のままに放った弾丸が炎を撃ち抜いた。猛る激情に溺れた自我が、炎の消失と共に浮かびあがる。
幾度、繰り返した。激情に溺れては浮かぶたび、何かが欠けてゆく。空いた隙間は新たな激情が塞いで埋めて。
もはや、自分の望みすら激情の果てに埋もれていた。
●グリモアベースにて
「皆さん、ダークセイヴァーで『狂えるオブリビオン』の存在を予知しました。」
聖典のグリモアを閉じ、アルトリンデ・エーデルシュタインが呼びかける。
『狂えるオブリビオン』、それはかつてのヴァンパイアが『異端の神々』の土地を制圧せんと攻め込んだ際に『異端の神々』に憑依されたオブリビオンの事だ。倒せども倒せども新たなオブリビオンに憑依し、その肉体と魂を奪う異端の神々にヴァンパイアは制圧を断念したという。それ故に『狂えるオブリビオン』の居る一帯にはヴァンパイアの支配は及んでおらず、『狂えるオブリビオン』を倒して一帯を解放できればヴァンパイアの支配のない居住地を作る事も可能だろう。
「場所は以前に予知した荒野の近く、異形の木々の森の外れになります。かつてのヴァンパイアの侵攻の際に作られた小さな集落跡があり、今は廃墟となったこの付近に『狂えるオブリビオン』は居るようです。」
いまだ『異端の神々』に憑依され続けている『狂えるオブリビオン』はその力も勿論、『異端の神々』のもたらす狂気に侵されている。この狂気は辺り一帯にも影響を与えており、踏み入れた者もまた狂気に蝕まれてゆく。
「普通ならば狂気の影響を抑えるべきなのですが……『狂えるオブリビオン』は元はヴァンパイアのようでその力はかなりの物です。ですので、狂気を活性化させて理性的な判断力を奪ってから撃破する、という流れになります。」
かつて『異端の神々』が居たその土地では、異様な炎が燃えていたという。故にその土地で掲げる炎は異端の神々を奉じる為の物だった。その名残が朽ちぬ外灯となって今も廃墟のあちこちに残っている。
「ただ火を焚くよりも、かつての儀式の名残である外灯に火を灯すのが効果的です。」
『狂えるオブリビオン』は外灯がある程度つくと現れるが、その前に強まる狂気と外灯の炎にあたりのオブリビオンも集まってくる。
「どうやら異形の木々の森に居たオブリビオンらしいのですが……一帯の安全を確保するためにもこのオブリビオンの群れも退治してください。」
当然、狂気をより活性化させるという事はその場にいる猟兵たちもより強く影響を受けるという事になる。その狂気というのが、敵意や害意、哀れみや憎悪といった負の感情が精神を蝕み、理性的な抑えが効きにくくなる、というものだ。
「具体的には、その地に長く居ればいるほど、神に近づけば近づくほど、むしゃくしゃします。」
はじめはただイラつく程度だろう。だが徐々に強まるにつれ、まるで怒り狂うかの如く狂気に蝕まれた者は激情のままに猛るのだという。異端の神々の狂気が元凶ゆえにただ精神力で抑えこむだけよりも何かしらの対策は講じた方が良い。
「何かしらリラックス効果のある物を持って行くとか、楽しい思い出話をするとか、皆さんがイライラした時に気を落ち着かせる事をするのもいいと思います。」
戦闘の最中も苛立つ心を落ち着かせるのに役立てても良いだろう。僅かな心のささくれも強敵との戦いにおいては隙となり得るのだから。
「相手は神が憑きし『狂えるオブリビオン』。意志の疎通すらできない相手ですが、ダークセイヴァーに暮らす人々の安住の地を作る為に。皆さんの力をお貸しください。」
そう言葉を括り、アルトリンデは猟兵たちを転送するのだった。
こげとら
しばらくぶりです、こげとらです。
『異端の神々』が憑依する『狂えるオブリビオン』を倒す辺境殺神戦2本目になります。前回のシナリオは舞台となる土地が近いというだけなので知らなくても特に問題はありません。
舞台となるのは半ば森に浸食された石造りの廃墟となります。元は村のような集落だったようですが、既に家屋は崩れており石畳と瓦礫とあちこちにある外灯ぐらいしか残っていません。
第1章では辺りを満たす狂気を強める為に外灯に火を灯していく事になります。一つ灯すたびに狂気が強まりますので、苛立つ心を宥める対策はした方が良いでしょう。何かしらの対策を講じていただけるとプレイングボーナスとして反映しようと思います。
第2章では外灯の灯に集まってくるオブリビオンの群れとの集団戦、その後の第3章で『狂えるオブリビオン』との戦闘となります。どちらも狂気に侵されており意思の疎通は出来ません。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!
第1章 冒険
『灯りの影に潜むもの』
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POW : 自分が代わりに外灯に火を入れてみる。
SPD : すぐに助けられる位置に身を隠し、探る。
WIZ : 日の高いうちに手がかりはないか探る。
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エルファス・アグリア
▼王子の出陣
狂気を以って脅威を制す、言うは易しだがかなりの精神力と神聖なる加護が必要だな…。
果たして私に務まるか…いや…志願した以上は果たさねばなるまい、腐っても私は王族なのだから…。
▼王子の理性
従者たるエリナと共に進もう、彼女とは互いに神聖魔法で加護の術をかけ合い、狂気への予防を行う。
「く…心が騒つく…エリナ!」
炎を灯し、狂気に苛まれそうになったらエリナを抱き寄せて唇を重ね、軽く身体に触れて気持ちをリラックスさせる。
「狂気など…私の欲望でねじ伏せてみせる…伊達にロクデナシはやっていないのだよ…!」
負の心を助平心で相殺するという荒技でこの難局を乗り切ってみせようぞ!
▼アドリブ歓迎NG無し
薄暗い廃墟の石畳に足音が響く。風に騒めく異形の木々の合間にも存外大きく響いた己の靴音に、エルファス・アグリアは眉をひそめた。
「狂気を以って脅威を制す、言うは易しだがかなりの精神力と神聖なる加護が必要だな……。」
普段よりも幾ばくか強く踏み出していたらしい足を止め、エルファスは改めて周囲を見渡す。瓦礫の合間を割れた石畳の道の名残がくねり、先に見えるのが件の外灯か。先ほどから微かに脳裏に響く声が、余計にエルファスの心を逆撫でているようだった。
「果たして私に務まるか……いや……志願した以上は果たさねばなるまい、腐っても私は王族なのだから……。」
エルファスの視線が、傍らに付き従う従者エリナの姿に止まる。一人ではない、共に歩むエリナが居る。微笑みかけ、先へと向き直ったエルファスの表情は落ち着いていた。ここへ来る前に狂気への対策の一つとしてエルファスとエリナはお互いに神聖魔法で加護の術をかけ合っていたが、外灯へと近付く前にもう一度互いにかけ直す。じくじくと心に沁み込んでいた狂気が、少し薄れた気がした。
「さあ行こうか、エリナ。」
エルファスとエリナが進んだ道の先に、その外灯はあった。何の変哲もない、ダークセイヴァーではごく普通の1mほどの高さの外灯は、しかし周囲が廃墟と化してなお変わらぬ姿で残り続けていた。意を決し、エルファスは灯した火種を外灯へと入れる。一際大きく火が広がった後、ぼう、と炎が辺りを照らした。その燈火と共に得も言われぬ感情がエルファスの中から燃え上がってくる。
壊せ、殺せ、すべて滅ぼせ! 苦痛も恐怖も憎悪もくべて、すべて焼き尽くせ……!
脳裏を焦がすような感情のうねりに呑み込まれまいと、もがくようにエルファスは手を延ばした。
「く……心が騒つく……エリナ!」
エルファスの手に触れた温もりが激情の中で見失いそうになる己を留める。そのまま抱き寄せたエリナにエルファスは唇を重ねた。【王子の威光(オウジノイコウ)】でお互いに温もりを確かめるように抱き合う事しばし、心を落ち着かせたエルファスは唇を離した。腕の中のエリナも狂気に侵されてはいない。
「狂気など……私の欲望でねじ伏せてみせる……伊達にロクデナシはやっていないのだよ……!」
誰かを想うという事、その想う相手が傍に居る事。それはエルファスにとって“己を見失わない”為の有効な手立てだった。
負の心を助平心で相殺するという荒技でこの難局を乗り切ってみせようぞ!
一つ目の外灯が灯され周囲の狂気が濃さを増す中にあって、エルファスの心は激情に沈む事はなかった。
成功
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シン・ドレッドノート
アドリブ連携OK
【SPD】
外灯に火をともしつつ、周囲の地形を見渡して狙撃ポイントなどをチェック、この後の戦闘の準備もしておきましょう。
灯すごとに狂気に捕らわれる、ですか…
イラつく心を落ち着かせるため、一つ灯すごとに、左手の薬指の指輪を見て、結婚したばかりの妻の顔を思い出すとしましょう。
ポーカーフェイスを忘れるな、と言うのが仕事をする際のモットーですが、今回は逆にニヤけてしまうかもしれません…まぁ、それもいいでしょう。
イラついている人がいるようでしたら、料理スキルを駆使して作ってきたお弁当のサンドイッチ(ハーブチキン:香りは通常の1.5倍)を差し入れ。
美味しい物を食べると、心が安らぎますからね♪
廃墟にあるのは瓦礫ばかりではない。まばらに見えるのは捻じれた幹の異形の木も異様な雰囲気の一因であろう。それら異形の木々と散らばる瓦礫を見渡し、シン・ドレッドノートは外灯の一つへと向かっていた。
「灯すごとに狂気に捕らわれる、ですか……」
今でもシンの頭の中に微かに聞こえる声が心をざわつかせようとする。心の奥から昏いモノが這い出そうとする感覚に、シンは左手の薬指にある指輪を見た。その、まだ新しい結婚指輪に妻の顔を思い浮かべる。心に渦巻いていた昏い感情が温かな想いに包まれて消えてゆく。苛立つ心を宥め、シンは周囲の観察をしながら外灯へと足を運んだ。
「狙撃するなら、あのあたりも良さそうですね。」
戦うならばどこから狙撃しやすいか、敵はどう動くのか。敵の情報は無いが、それでも事前に地形を知っていれば即応も出来よう。この後起こるであろう戦闘に備えながら、シンは辿り着いた外灯へと火を灯す。
叛逆だ、闘争だ、戦争だ! すべて燃やし尽くすのに理由など要るものか!
異彩の炎が燃え上がり、シンの頭の内に聞こえた声が大きく響く。こみ上げてくる情動にシンは左の薬指の指輪を見つめて堪える。指輪を透かして最愛の妻の顔が浮かんだ。
「ポーカーフェイスを忘れるな、と言うのが仕事をする際のモットーですが。」
荒ぶる情動が温かな記憶で宥められてゆく。周囲の強まる狂気に反してシンの心は鎮まっていった。結婚したばかりの妻を想えば、謂れのない激情に流される事など、ない。逆に今回はニヤけてしまうかもしれないと呟くシンの口の端は笑みに綻んでいた。
「……まぁ、それもいいでしょう。」
この温かな想いがあれば、まだ外灯を灯して回っても良いだろう。他の猟兵も灯しているだろうが、多く灯すにこした事はないはずだ。他の猟兵と言えば、イラついている者は居ないだろうか。もし助力が必要そうな者が居たら、持ってきた差し入れを渡そうか。
「美味しい物を食べると、心が安らぎますからね♪」
シンが料理の腕を振るったお弁当のサンドイッチの包みからは、ハーブチキンの香りが漂っていた。
成功
🔵🔵🔴
クリュウ・リヴィエ
ヴァンパイアも異端の神々も平らげて、居住地を作れたら痛快だね。
まあ、それがいつまでもヴァンパイアに察知されずに済むかは判らないけど。
ともあれ、黒剣と黒炎の鎧を纏う者としては、異端の神だけでも十分な獲物だね。
イライラ対策には、いつもつまみにしてるナッツ類でも持っていこうかな。
ガムにしようかとも思ったけど、腹に溜まらないと余計にイライラしそうだし。
勿論、【狂気耐性】はしっかり使おう。
火がついてない外灯を見つけては灯りを灯しつつ、イライラし始めたらナッツをぽりぽり食べよう。
咀嚼していた物を飲み込み、クリュウ・リヴィエはナッツを一つ口へと放り込んだ。
「ヴァンパイアも異端の神々も平らげて、居住地を作れたら痛快だね。」
この絶望の世界でヴァンパイアの支配が及ばない居住地を作れたら。それは支配者であるヴァンパイアが、かつて倒す事を断念した異端の神々を排した事に他ならない。
「まあ、それがいつまでもヴァンパイアに察知されずに済むかは判らないけど。」
次のナッツを噛み、クリュウが嘯く。人が通って移住できる土地など、ヴァンパイアとて来る事ができよう。安住の地を作ろうが見つかればまた支配される可能性が高い。そう思ってなお、クリュウは此処へと来た。
「ともあれ、黒剣と黒炎の鎧を纏う者としては、異端の神だけでも十分な獲物だね。」
狂えるオブリビオンに憑依している異端の神がどれほどの物か。クリュウが纏う狂気への耐性もじわりじわりと浸食してくるような狂気を撒く相手を誘い出す為、クリュウは外灯を一つ、灯した。
気取っていようがヒトの性根など獣と同じだ! 哀れみ憎しみ、他人を虐げずにはいられない獣だ!
強まる狂気と共に頭に声が響き、燃え上がるような激情が膨れる。クリュウがナッツを口に放り込み、噛んでは飲み込んでと繰り返して気を落ち着ける。噛み砕き、腹の満たされる感覚で情動をやり過ごし、大きなうねりが過ぎれば後は狂気耐性で事足りた。噛んで苛立ちを紛らわす為、ガムでも持ってこようかとも思っていたクリュウだったが、いつもつまみにしているナッツ類で間違いなかったと感じていた。
(腹に溜まらないと余計にイライラしそうだし。)
満たされる感覚は、やはり苛立ちにはよく効く。そういえばさっき別の猟兵から貰った差し入れも美味かったな、などと思い出しながらクリュウはナッツをぽりぽり食べながら外灯を灯していった。
成功
🔵🔵🔴
アウレリア・ウィスタリア
歌を歌おう
ボクは歌いながら火を灯そう
【勇壮ノ歌姫】を奏でて狂気を祓いながら外灯に火を入れていきます
そして共に火を灯す仲間にも歌を届けましょう
僅かでもボクの歌が仲間の狂気を薄めることができるように
ボクは怒ることができるのでしょうか?
ただ怯え恐れ、怖いものを忘れ去ってきただけの私が……
あぁ、でも……
敵を前にすれば復讐者として暗い感情を向けることはできるでしょう
この土地を、集落を荒らしたモノを滅ぼすために
人々に安住の地を作るために
あぁ、ボクの歌が仲間だけではなく
ボク自身にも響き渡りますように
ボクが、私が狂気に飲まれませんように
アドリブ歓迎
昏い廃墟にぽつりぽつりと明かりが灯ってゆく。その明かりが一つ増えるにつれて異端の神より醸される狂気も強まっていった。慟哭、憐憫、憎悪、渇望、故も知れぬ感情をくべる狂気に沈む廃墟、だがどこからか聞く者の心に狂気に抗する力を与える歌声が聞こえてくる。
歌を歌おう。
ボクは歌いながら火を灯そう。
アウレリア・ウィスタリアの歌うは【勇壮ノ歌姫(ヒロイックディーヴァ)】の旋律。狂気を祓う歌を奏で、アウレリアは外灯に火を灯した。常世の物とは思えぬ色彩の炎が揺れる。心にくべられる感情は如何な物か。狂えるオブリビオンは激情に猛ると聞く。だが。
ボクは怒ることができるのでしょうか?
ただ怯え恐れ、怖いものを忘れ去ってきただけの私が……
アウレリアの紡ぐ歌が狂気よりくべられる激情を冷ましてゆく。平常へと戻る心に浮かぶは疑問か。もし激情に身をゆだねたのなら、自分も怒り狂うのだろうか。激情となる熱は、まだ自分に残っているだろうか。
あぁ、でも……
敵を前にすれば復讐者として暗い感情を向けることはできるでしょう。
狂気がくべる感情は、果たしてどこへと落ちてゆくのか。アウレリアの心の裡、暗いそこへと積もる狂気は、どのような感情を溢れさせるのだろうか。アウレリア自身の歌声が、心の暗がりに優しく響く。
この土地を、集落を荒らしたモノを滅ぼすために。
人々に安住の地を作るために。
狂気に呑まれぬよう、その想いは暗闇に灯る光のように。ともすれば囚われそうになる暗い感情を照らし、祓う。歌声に力を、想いを籠めてアウレリアは次の外灯に炎を灯し。
―――虐げられたのなら、それを是とするすべてを憎むのは当然だろう?
頭の奥に、そう声が響いた。ごう、と燃える炎が揺らめく僅かな間にその声は消え、残滓が脳裏にチラついた。
あぁ、ボクの歌が仲間だけではなく
ボク自身にも響き渡りますように
あの声は狂気がくべたものだ。他人の声なのだ。だが、ならば何故。
ボクが、私が狂気に飲まれませんように
勇気をかき集め、歌を歌う。その歌声は心から紡ぎ出され、聞く者の心から狂気を遠ざけた。アウレリアの心からも狂気が祓われ、遠ざかる。思い起こしたかつてと共に。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…ん。楽しい想い出ね。ふふ。
最近だと晴久から聖夜の贈り物を貰った事だけど……こほん。
…あまり思い出すのは駄目。危険だわ。
闘いの最中に集中が途切れてしまうもの。
これは、最後の手段にしましょう。
事前に自我の存在感を増幅する“調律の呪詛”を付与
狂気耐性を強化するオーラで防御して、
“怒りを和らげる光を”と祈りを捧げUCを発動
精神攻撃耐性の光で周囲を照らす宝石の指輪を召喚する
…吸血鬼に支配されたこの世界の人々の安寧の為に。
そして何より、今も狂気に囚われた貴方自身の為に。
…この地を解放するわ。
後は空中戦を行う“血の翼”を広げ、
第六感が危険を感じるまで周囲を警戒しつつ、
一つずつ外灯に火を灯していくわ
廃墟のあちこちで外灯に火が灯り、光が闇を掃うと同じくして狂気もまた満ちていた。だが、何処からか聞こえる歌声が狂気の誘いを和らげている。廃墟に足を踏み入れたリーヴァルディ・カーライルにも、和らいでいるとはいえ人を激情に狂わすには十分な狂気が心を満たさんとしていた。
「……ん。楽しい想い出ね。ふふ。」
だが、押し付けられる感情よりもリーヴァルディの心を満たしている事があった。
「最近だと晴久から聖夜の贈り物を貰った事だけど……こほん。」
想い出せば胸に広がる感情に口元が緩む。この想い出の前では如何な狂気であれ霞もうというものだが、リーヴァルディは咳払い一つ、気持ちを切り替えた。
「……あまり思い出すのは駄目。危険だわ。
闘いの最中に集中が途切れてしまうもの。
これは、最後の手段にしましょう。」
ある意味で異端の神の狂気などよりもリーヴァルディを虜にするであろうその想い出をそっと胸の奥に仕舞い、呪術“調律の呪詛”で増強された自我の存在感を確かめる。リーヴァルディが纏うオーラが狂気を減衰しているのに加えて、自我が蝕まれぬほどに強固であるならば狂気に囚われる危険性は減ろう。
「怒りを和らげる光を。」
祈りを捧げ、リーヴァルディが【変成の輝き(アレクサンドラ)】で宝石の指輪を召喚する。その輝きは精神への攻撃を和らげる光で周囲を照らした。
「……吸血鬼に支配されたこの世界の人々の安寧の為に。
そして何より、今も狂気に囚われた貴方自身の為に。
……この地を解放するわ。」
幾重にも重ねた狂気への備えが心に激情がくべられるのを阻む。来るべき者への思いを胸に、リーヴァルディは血の翼を広げて空へと舞った。残る外灯を灯せばこの地に満ちる狂気は最高潮となろう。そうなれば激情に狂うオブリビオンも策略を巡らせる事無く姿を現すはず。警戒しながら飛ぶリーヴァルディが、最後の外灯に炎を灯した。
戦い、殺すのに意味も目的も必要ない! 蹂躙を、殺戮を、破滅を、世界が燃え尽きるさまを見せてくれ!!
炎と共に膨れ上がった狂気が言の葉を乗せリーヴァルディを掠めゆく。狂気がこうしたのか、こうだから狂気を呼んだのか。その声が過ぎ、外灯に異彩の灯が灯った時。ざわり、と第六感に感じた気配に空へと舞い上がったリーヴァルディが見下ろした時には。地面を、石畳の残骸を突き抜け、廃墟のあちこちから次々と異形の姿が現れ始めていた。
成功
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第2章 集団戦
『骸の海のクックソニア』
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POW : 噛みつき
【口】を向けた対象に、【噛みつき】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : 捕食体勢
自身の肉体を【より柔軟】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ : 影化
【輪郭のぼやけた影】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑11
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最初は、異形の木々がその根を上げたように見えた。だが木の根元から立ち上がったモノはベリベリと音を立てて己が身を木から剥がす。今までは森の木々からその命を啜っていた異形のキノコは強烈な狂気に突き動かされるように廃墟のあちこちからその姿を現した。
――――ッ!!
喰らうべき栄養源が居る事を知り、上げた叫びに呼応するようにさらに多くのキノコが地を割り石を砕いて現れる。
廃墟に群生していたその異形の植物の名は『骸の海のクックソニア』。感情無き植物すら狂気に浸り、激情を荒ぶらせて怒り狂うように見えた。
シン・ドレッドノート
アドリブ連携OK
【SPD】
キノコの大群ですか。煮ても焼いても食べられなさそうな、見るからに毒キノコな相手ですし、さっさと退治して本命に備えるとしましょう。
「こんなところで、怪我してられませんし」
銃を両手に持ったら、左手の指輪にキスをして戦闘開始です。
「ターゲット・マルチロック…目標を乱れ撃つ!」
【乱舞する弾丸の嵐】を発動、周囲に展開した銃から一斉射撃、キノコを乱れ撃ちます。
移動しながら攻撃して、敵の攻撃の射程に入らないよう注意しつつ、避けきれない攻撃に対しては閃光の魔盾で受け流し、カウンターの零距離射撃を撃ち込みます。
手数は多いですし、接近戦を行う味方の猟兵には後方から援護射撃をしましょう。
エルファス・アグリア
▼王子の対応
チッ…化物植物どもめ…私に歯向かうつもりか!
エリナ、応戦せよ!ここを突破する!
▼王子と愛人
UC【王子の声援】により従者エリナを強化、共に戦い連携する事で互いが狂気に飲まれるのを防ぐ心算だ。
「前へ出ろ、私が援護する」
『イエス、ユア・ハイネス!』
私が後方より目にも留まらぬ【早業】で剣を振るい【衝撃波】を【クイックドロウ】して援護、エリナは前に出て神聖魔法を付与したメイスで敵を【薙ぎ払い】2人で敵を蹴散らす。
「私もエリナも、伊達に教会から聖騎士の称号を貰っている訳ではない!」
狂気に飲まれそうな時はすぐに互いに駆け寄り、キスを交わして気を落ち着けて対処だ。
▼アドリブ歓迎NG無し
石の廃墟ではそれまでとは打って変わり、狂気に怒り狂う『骸の海のクックソニア』の叫びがいたる所から上がっていた。地面を、石畳の残骸を突き破るように現れたクックソニアの姿にシン・ドレッドノートは銃を両手に構えた。
「キノコの大群ですか。煮ても焼いても食べられなさそうな、見るからに毒キノコな相手ですし、さっさと退治して本命に備えるとしましょう。」
クックソニアの群れもシンの姿を捉えたか、裂け目の如く口を開いて喰らい付かんと殺到し始める。まるで激情の塊が群れ成して呑み込まんとしてくるかのような感覚。ふつり、と心に滲み込んだ何かを拭うかのようにシンは左手の指輪にキスをする。燃えようとした心の熱が温かく解けてゆく。
「こんなところで、怪我してられませんし。」
心の裡に支える者が居る限り、独りの戦いではない。シンはクックソニアの群れへと銃口を向けた。その銃口の先、見ればクックソニアの群れは他へも突き進んでいる。その先には従者であるエリナを従えたエルファス・アグリアの姿があった。
「チッ……化物植物どもめ……私に歯向かうつもりか!」
エルファスの聖騎士然とした佇まいをも意に介さず、クックソニアが猛然と迫る。生中な防衛陣形など激情のままに打ち崩す勢いのクックソニアの群れを前にして、エルファスは臆せず声を発した。
「エリナ、応戦せよ! ここを突破する!」
エルファスの言葉にエリナが手にした長柄のメイスを構える。突進してくる群れに呑まれればただではすむまいが、ならばその前に流れを崩せばいいだけの事。出鼻さえ挫ければ後は乱戦となっても遅れはとるまい。と、二人の眼前に迫ったクックソニアが数体、横殴りの弾丸に吹き飛ばされた。
「ターゲット・マルチロック……目標を乱れ撃つ!」
シンが【乱舞する弾丸の嵐(ハンドレット・ガンズ)】で複製した銃の一斉射で自分に迫るクックソニアを退け、エルファスとエリナへと向かっていた一団の足並みを崩した。次の群れが来る前にシンは瓦礫の影へと移動する。エルファスはクックソニアの足並みが乱れた好機を逃さずエリナを攻勢へと向けた。
「前へ出ろ、私が援護する。」
『イエス、ユア・ハイネス!』
エルファスの【王子の声援(プリンスエール)】を受け、エリナが横薙ぎにメイスを振う。その一撃は仲間の骸を乗り越えてきたクックソニアを纏めてなぎ払った。メイスを再び振う隙を突いて喰らい付かんと飛び掛かってきたクックソニアを後方からエルファスが放った衝撃波が打ち倒す。
「私もエリナも、伊達に教会から聖騎士の称号を貰っている訳ではない!」
さらにエルファスは目にも止まらぬ早業で剣を振り、衝撃波を飛ばしてクックソニアを倒してゆく。前には神聖魔法を付与したメイスを縦横に振るうエリナ。アの布陣ならばそうそう遅れはとるまいとシンは二人が囲まれないよう周囲のクックソニアに銃撃を放っていった。
「数は多いですが、激情にかられた相手。動きは読みやすいですね。」
シンは近付くクックソニアを撃ち倒し、エルファスたちが包囲されないようその後方からくる集団を複数の銃で撃ち抜いた。クックソニアたちの行動は真っ直ぐにこちらへ向かい、殴ったり噛みついたりしている。
「気は抜けませんが、不意を打たれなければ……」
シンの足元の土が僅かに盛り上がる。微かな異変に視線を落としたシンに、地中から起き上がったクックソニアがその腕を伸ばした。打ち付けられる一撃が光のフィールドに阻まれる。閃光の魔盾<アトラント>で不意打ちを防いだシンにクックソニアが飛び込んできた。だが、シンの操る銃口がクックソニアの次撃より早くカウンターの零距離射撃を叩き込む。吹き飛んだクックソニアから次の標的へと構え直すシン。先ほどの攻防の影響か感情が昂るシンの目に、銃を構えた左手に光る指輪が映る。息をつき感情を落ち着かせ、シンは引き金を引いた。心に寄り添う温もりを胸に。
一方で群がるクックソニアとの戦闘を続けているエリナもまた感情が昂っていた。技の冴えは変わらず、だが僅か強まる力にその兆候を見たエルファスは矢継ぎ早に衝撃波を放ちエリナに駆け寄る。
「エリナ!」
エリナもまたその声に敵を大きくなぎ払って距離を開け、愛する主人へと駆け寄った。戦いで昂る感情が激情への呼び水となり心を蝕む。お互いに忍び寄る狂気の影を掃う為、エルファスとエリナはキスを交わして心を落ち着ける。この愛がある限り、狂気になど心を奪われはしない。その想いを胸に、エルファスとエリナはクックソニアの群れへと向かった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クリュウ・リヴィエ
おお、間違いなくキノコだね。
流石、狂気も神様が絡むものになると、菌類にも怒りを抱かせるのか。
…ところで旨いのかな、キノコ。
トリニティ・エンハンスの効果は攻撃力強化にまわす。
敵の数は多いけど、幸いこっちは猟兵しかいないんだし、寄ってくる端から倒せばいいよね。
「カミ砕き」を蛇腹剣に変形させて、どんどん薙ぎ払っていこう。
人間の本性が獣と同じっていうのは別に否定しないけど、キノコも怒らせる神様の前ではなんでも一緒だよね。
寧ろナンセンスじゃないだろうか。
ま、キノコも狂気も神様も、このナッツ同様糧にするだけだよね。(ぽりぽり)
リーヴァルディ・カーライル
…ん。この神の狂気は理性の無い植物すら狂わせるのね。
長期戦になると不利。ならば一気に片付けるまで。
“調律の呪詛”と“血の翼”、宝石を維持(存在感、狂気耐性、精神攻撃、空中戦)して、
今までの戦闘知識から敵の殺気を暗視して見切り、
右腕に限界突破した吸血鬼の血の力を溜めUCを発動
…動き出す前に、最速で仕留める。
巻き込まれないように注意して。
これ、加減が効かないから…。
完全に吸血鬼化して暴走する怪力の右腕を気合いで制御し、
生命力を吸収する大鎌を残像が生じる超高速で何度も振るい、
斬撃属性攻撃のオーラで防御ごと周囲をなぎ払う先制攻撃を放つ
…お前達の命運は今日、ここで絶ち切れる。
消えなさい、この世界から…。
アウレリア・ウィスタリア
狂気にのまれた植物のバケモノ
数が厄介ですね
それならこちらも数を用意しましょう
【血の傀儡兵団】を召還
ボクは立ち止まって血人形を敵へ差し向けましょう
動くものに反応するのでしょう?
血人形は一撃で弾ける
そして血に帰る
飛び散る血が目眩ましにもなるでしょう
数で押しつつ、ボクは魔銃で敵を貫きましょう
目眩ましの血霧を貫いて敵を撃ち抜く
激昂する、周囲を見渡すことのできない敵ならそれを利用するまでです
バカみたい
こんな子供騙しみたいな戦法で戦うなんて
ボクが血を流すなんて
馬鹿馬鹿しい……
ボクがイライラしてる?
……落ち着け、イライラなんてしてない
ボクは敵を見失わない
見失うわけにはいかないのだから
アドリブ歓迎
廃墟を埋め尽くさんばかりのクックソニアが向かってくるのを目に、クリュウ・リヴィエは感心したような声をあげた。
「おお、間違いなくキノコだね。
流石、狂気も神様が絡むものになると、菌類にも怒りを抱かせるのか。」
まさに激情のままに猛るというに相応しい『骸の海のクックソニア』の大群。その情動をもたらす狂気の元凶たる異端の神は、さぞ歯ごたえがあるのではないか。クリュウは手にした大鉈の如き黒剣『カミ砕き』を持つ腕を上げ、クックソニアの群れへと向けた。
「……ところで旨いのかな、キノコ。」
クリュウの立つ瓦礫の山から少し離れた場所に、クックソニアを見下ろすリーヴァルディ・カーライルの姿があった。宝石の指輪が狂気を退ける光で周囲を照らす中、血の翼を広げて空から状況を見る。
「……ん。この神の狂気は理性の無い植物すら狂わせるのね。」
一体一体はそれ程の強さはないようだが、激情のまま突き進む勢いと次々に現れる数の多さは侮れない。自らにかけた調律の呪詛による自我の強化も合わせ、戦いの最中であったとしても狂気に呑まれる事はそうそうあるまい。となればあの大群をどう片付けるか、だが。
「長期戦になると不利。ならば一気に片付けるまで。」
他の猟兵が対処している群れに、別の集団が合流すれば戦いが長引きかねない。リーヴァルディは黒き大鎌を握る腕に力を溜めながら、まだ猟兵を認識していないクックソニアの密集地へと急降下した。その空から降りる光を目にアウレリア・ウィスタリアは自分が向かうべき相手を決める。
「狂気にのまれた植物のバケモノ。数が厄介ですね。」
複数の猟兵が来ているが、それでも数の差は圧倒的だった。だが、その差を埋める手段をアウレリアは持っている。
「それならこちらも数を用意しましょう。」
一歩、踏み出す。アウレリアの足音にクックソニアが一斉に目を向けた。一滴、赤い雫が落ちる。地に落ちた血がアウレリアの姿を模り立ち上がる。その血の雫が、さらに一滴、二滴と滴って。瞬く間に【血の傀儡兵団(ブラッドマリオネット)】により数多の血人形がその身を起こした。近くのクックソニアの相手をするには十分な数の血人形をアウレリアは敵へと差し向ける。一斉に駆け出す血人形にクックソニアの姿が滲む。輪郭のぼやけた影と化したクックソニアが今までにない速度でその腕を繰り出し、血人形を打ち砕いた。たちまち舞う血の霧の中、別の血人形へと殴りかかろうとしたクックソニアの身体を銃弾が貫く。
「血人形は一撃で弾ける。
そして血に帰る。」
アウレリアの手にした魔銃が再び血霧に視界を閉ざされたクックソニアを撃ち抜いた。【影化】したクックソニアは苛立ちを叩きつけるかのように視界に動き回る血人形を追い、叩き潰すが、それとてアウレリアの狙い通り。舞う血霧を貫いて放たれる銃撃がクックソニアの数を確実に減らしてゆく。
「激昂する、周囲を見渡すことのできない敵ならそれを利用するまでです。」
その戦場の反対側で、クリュウもまた降下する光を目にしていた。あちらに降りた猟兵が居るならば、こちら側から平らげていくべきか。
「敵の数は多いけど、幸いこっちは猟兵しかいないんだし、寄ってくる端から倒せばいいよね。」
クリュウの身体を魔力が巡る。【トリニティ・エンハンス】で自身の攻撃力を強め、クリュウは集まってきたクックソニアを見下ろした。ばらり、と黒剣の刃が解ける。クリュウは蛇腹剣へと変えた『カミ砕き』を飛び込みざまに振い、喰らい付かんとしていたクックソニアを纏めてなぎ払った。
「人間の本性が獣と同じっていうのは別に否定しないけど、キノコも怒らせる神様の前ではなんでも一緒だよね。」
クリュウが返す刃でさらにクックソニアを討ち倒す。しなる蛇腹剣の風切る音の中、クリュウが口へ放り込んだナッツを噛み砕く音が混じった。
「寧ろナンセンスじゃないだろうか。」
その激情は何故に。その向かう先は何処に。その本質は、既に無いのかもしれない。次のナッツを口に放り、クリュウは身体を回し、『カミ砕き』の刃を舞わす。
「ま、キノコも狂気も神様も、このナッツ同様糧にするだけだよね。」
踏み込み、振り抜き、クックソニアの群れを平らげながらクリュウはより多くクックソニアが居る方へと進んでいった。
同じ頃、他の猟兵から離れた場所へと降りたリーヴァルディは、クックソニアを射程に捕えると同時に右腕に限界を超えて溜めた吸血鬼の血の力を解き放った。
「……動き出す前に、最速で仕留める。」
リーヴァルディは【限定解放・血の閃刃(リミテッド・ブラッドレイ)】により右腕のみを完全に吸血鬼と化し、一息で数度、大鎌を振う。残像すら残す超高速で振られた刃はリーヴァルディの足が地に着く頃には周囲のクックソニアを一掃していた。斬った刃から流れ込む生命力にさらに血を求めて動こうとする右腕を気合で御し、リーヴァルディはこちらへ向いたクックソニアの群れへと構える。
「……お前達の命運は今日、ここで絶ち切れる。」
リーヴァルディを狙いクックソニアの腕が、身体が伸びて一斉に襲い掛かった。それらを一閃の下に斬り伏せ、振り抜いた刃から放たれるオーラが斬撃となってさらに多くのクックソニアを切り裂く。
「消えなさい、この世界から……」
敵の動きは読めている。暗がりの先だろうと見通せる目と合わせ、クックソニアの攻撃を見切りながらリーヴァルディは残る大群の只中へと斬り込んだ。
同様にクックソニアの群れを押し返していたアウレリアは、血人形に翻弄されて苛立つように見えるクックソニアを撃ち抜いていった。アウレリアから滴る血が更なる血人形を作る。一度、型に嵌ればあまりに上手く運んでいた。
バカみたい
こんな子供騙しみたいな戦法で戦うなんて
ボクが血を流すなんて
馬鹿馬鹿しい……
一発、魔銃を撃つたびに。一滴、血を落とすたびに。アウレリアの心が軋んでゆく。その音が頭の中にあまりにも大きく響いてくるのだから、ああ、なんでこんなこと……知らず奥歯を強く噛んでいたアウレリアの意識を、刃が風を切る音が呼び戻す。気づけばだいぶ進んでいる。向こうから見えるのは別の猟兵か。
「ボクがイライラしてる?
……落ち着け、イライラなんてしてない。」
気が付けば、銃を握る手が強張っていた。呼気を落ち着かせ、自分の心から知らず沁み込んでいた激情のくすぶりを拭う。
「ボクは敵を見失わない。
見失うわけにはいかないのだから。」
別の方向からもクックソニアを薙ぎ払う斬撃の音が聞こえる。倒すべきものをしっかりと見据え、アウレリアは血人形たちで残るクックソニアを翻弄する。血霧に惑うクックソニアをクリュウの『カミ殺し』が裂いた。次を屠ろうとしたクリュウの目に振われる黒き大鎌が飛び込んだ。その大鎌を振う右腕をリーヴァルディは気合で留め、別方向からクックソニアを倒してきたクリュウとアウレリアへと視線を向けた。
「巻き込まれないように注意して。これ、加減が効かないから……」
今にも暴れそうなリーヴァルディの右腕を一瞥し、クリュウは問題ないとばかりにクックソニアへと蛇腹剣を振う。その様子にリーヴァルディも再び大鎌を閃かせた。アウレリアの血人形が押し止め、目くらましをするクックソニアへとリーヴァルディの刃が縦横無尽に閃き、その斬撃の中をクリュウの蛇腹剣が奔る。その二人の間隙を貫いてアウレリアの魔銃が放たれた。三人の攻勢の前に残るクックソニアも瞬く間にその数を減らし。
「これで、最後。」
ついに猟兵たちはクックソニアをすべて、倒しきる事ができたのだった。
大成功
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第3章 ボス戦
『『戦争卿』ブラッド・ウォーデン』
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POW : 開戦祝え銃砲連打の凱旋歌
【異形の狙撃砲から放つ血色の砲弾の大量乱射】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を敵対者を自動攻撃する射撃兵器群に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : “血塗れ傀儡”聖堂騎士団
自身の【領地内の人間・動植物全ての生命力と精神力】を代償に、【百年前の戦死者を素材とした千人の重装騎士】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【生命力吸収能力を付与された斧槍と散弾銃】で戦う。
WIZ : 己を見よ、汝の名は『獣』なり
【戦意、敵意、害意、殺意、哀れみ、憎悪】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【対象本人と寸分違わぬ分身と武装】から、高命中力の【対象本人の最も殺傷力が高いユーベルコード】を飛ばす。
👑11
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クックソニアの猛るような叫びが途絶え、再び静寂が廃墟を包む。だが、狂気は、くべられようとする激情の強さはいや増していた。其れは即ち、狂気撒く異端の神が、その依代たる狂えるオブリビオンが近づいているという事。
そして、ソレは現れた。
「すべて……すべてすべてすべて! あぁ、すべて壊してやる!!」
既にどこまでが自分の意志か、どれが狂気が蝕んだ心かすらも定かではなく。激情の果てにかつての自分の望みも失くし、内にくべられ続けた狂気でその魂すら燃やし尽くした狂えるオブリビオンが血走った眼を猟兵たちへと向ける。
かつては数多の軍勢を率い、ただ戦争を広げた『戦争卿』ブラッド・ウォーデンの成れの果て。只一人になってなお軍に匹敵する戦争卿は廃墟に着くや、猟兵たちへ向け激情のままに進攻を開始した。
シン・ドレッドノート
アドリブ連携OK
【SPD】
燃えるような激情、その狂気を。
「――凍らせます」
【精霊たちの輪舞】を発動、精霊石の銃に宿る氷狼の力を解き放ち、氷の属性攻撃を行います。
「終わらせましょう、死してなお続くその戦いを。」
4本のソードビットを周囲の地面に突き刺し、自分を頂点とした五芒星を形成。
破魔の祈りを込めて精霊銃から極大の吹雪を放射、戦争卿を巻き込むようにして敵軍勢を凍らせ、白き冷気の中で浄化していきます。
敵の攻撃は閃光の魔盾で防ぎつつ、ライフルビットで自動迎撃。
味方にもフェイントや援護射撃で支援します。
戦争卿を真紅銃の照準に捉えたら、一発必中の光弾で狙撃。
「永劫の闇へと還れ、狂いし魂よ!」
エルファス・アグリア
▼王子と戦争卿
ふん、戦好きの凶戦士め…私とは相容れぬ。
なぜ好き好んで武器をとり血塗れになるのか…穏やかな宮殿で美しい者たちを愛でる方がよほど楽しいだろう、本当に度し難い!
▼王子の全力
「エリナ、下がっていろ。
そして私の背中を見つめ一日千秋の思いで帰りを待つのだ」
従者を下がらせ、その眼差しで狂気に打ち克ちUC【王子の本気】を防御力重視で発動。
「剣を執れ戦争卿、今の私に呪いや射撃といった小細工は効かん」
小賢しい攻撃を【衝撃波】で斬り払い【武器受け】しながら目にも留まらぬ【早業】で距離を詰め、得意の神速斬撃【早斬り(クイックドロウ)】を重ねて追い詰め、戦争卿を【薙ぎ払う】
▼アドリブ歓迎
クリュウ・リヴィエ
さて、いよいよメインディッシュだね。
僕としてはあれを食いに来たようなもの。
ヴァンパイアでも異端の神々でもいいさ。
血統覚醒で力を底上げして、敵に突進しよう。
敵は砲弾で迎え撃ってきそうだけど、小細工は苦手でね。
真正面から打ち破って接近、剣状態の『カミ砕き』を叩きつけるよ。
寧ろ【存在感】や【殺気】で、攻撃を引き付けるつもりで。
味方も動きやすくなるといいな。
【吸血】【捕食】【生命力吸収】で回復しつつ、【鎧砕き】の【捨て身の一撃】で少しでも削り取る。
さて、どんな味か楽しみだね。
ナッツよりは美味しいかな?
殴り合いだって楽しいとも。
だから決してイライラなんてしてないよ。
アウレリア・ウィスタリア
ボクの戦闘能力は高くない
それはよくわかってる
だからボクは工夫することでそれを補ってきた
今回も……
【空想音盤:希望】を発動
魔を払う光で狂気を抑えましょう
魔的な力であるこの狂気なら、多少の効果はあるでしょう
速さを活かして敵の周囲を飛び回り
魔銃で呪殺の弾丸を撃ち込みます
ボク自身が弱くてもこの銃であれば神さえ撃ち抜いてみせましょう
イライラしないといったら嘘になる
敵意を持っている、それも真実です
だから、これは敵の術中に嵌まったのでしょう
でもボクの弱点はボクがよく知ってる
ボクの攻撃は急所に当たらない限り致命傷には成り得ない
致命傷さえ避ければ良い
そして致命傷を受ける前に敵を倒せば良い
それだけです
アドリブ歓迎
リーヴァルディ・カーライル
…ん。どうやら話が通じる相手では無さそうね。
…ならば、もはや言葉は不要。
武と力をもって、お前を討ち果たす。
精神攻撃を防ぐ宝石を維持して過去の戦闘知識から“矢避けの呪詛”を付与
全身を銃属性攻撃を弾くオーラで防御しつつ、
圧縮した魔力を溜めてUCを発動
…この一瞬に全てをかける。
狂気に曇った眼で捉えきれると思うな。
怪力の踏み込みから限界突破した“血の翼”の推進力を加え、
残像が生じる高速で空中戦を行い弾丸のように突撃
第六感が捉えた殺気から敵の先制攻撃を暗視して見切り、
生命力を吸収する大鎌を連続でなぎ払い、
傷口を抉る2回攻撃のカウンターを試みるわ
…その呪わしき命運を断つ。消えなさい。永遠に…。
外灯に揺れる異彩の炎が、激情を照らす。その光に落ちた己の影を踏み抜くように『戦争卿』ブラッド・ウォーデンは猟兵へと突き進んだ。既に理性なく、ただ激情のままに敵を倒さんとするようなその形相にエルファス・アグリアは嘆息する。
「ふん、戦好きの凶戦士め……私とは相容れぬ。
なぜ好き好んで武器をとり血塗れになるのか……」
目に映る全てを猛る怒りのままに燃やし尽くさんとするブラッド・ウォーデン。対するエルファスにはその願望は到底、共感できるものではない。何故ならば。
「穏やかな宮殿で美しい者たちを愛でる方がよほど楽しいだろう、本当に度し難い!」
エルファスにとって、それは狂気をも上回るほどの意味を持つもの。『戦争卿』とは決定的に違う一点。エルファスの言葉にも変わらずに突き進むブラッドに、リーヴァルディ・カーライルは戦うより他ない相手だと改めて思う。
「……ん。どうやら話が通じる相手では無さそうね。」
無為に吐露する想いはない。語らうならば戦争狂いよりも相応しい相手とだろうから。
「……ならば、もはや言葉は不要。
武と力をもって、お前を討ち果たす。」
今、かけるべきは言の葉ではなく過去刻む刃。黒き大鎌を構えるリーヴァルディの指にある宝石の指輪の光が周囲を優しく照らす。その傍らでクリュウ・リヴィエは目にした『戦争卿』の姿の奥に『異端の神』の狂気を見る。
「さて、いよいよメインディッシュだね。」
ナッツを摘まむ手を止め、黒剣『カミ砕き』を蛇腹剣から剣の姿へと戻す。
「僕としてはあれを食いに来たようなもの。
ヴァンパイアでも異端の神々でもいいさ。」
如何な相手であれ、諸共にカミ砕くまで。真正面から突き進むブラッドにクリュウもまた迎え撃つべく血の力を解放した。【血統覚醒】によりその瞳が真紅に染まる。小細工などなく、真っ向から突進するクリュウにブラッドが腕をかざした。現れたるは異形の狙撃砲。轟音が高らかに開戦を告げようとしたその時、一片の光が風に舞う。
「ボクの戦闘能力は高くない。
それはよくわかってる。」
アウレリア・ウィスタリアの姿は花嫁姿の天騎士へと変わっていた。【空想音盤:希望(イマジナリーレコード・ウィッシュ)】の力を受け、その背にある翼と共に舞うは破魔の光。その光をもってしてもヴァンパイアには届かないのではないか。そう思うからこそ。
「だからボクは工夫することでそれを補ってきた。
今回も……」
ブラッドの瞳に周囲を舞うアウレリアの光が映る。それは僅かに狂気を祓い、故に揺らいだ意識で放たれた血色の弾丸はクリュウの剣に弾かれた。アウレリアもブラッドへと破魔の魔銃『ヴィスカム-sigel-』を向ける。標的を定めたアウレリアと顔を向けたブラッドの視線が交錯した。ブラッドの微かに狂気の薄れた瞳は語る。
――お前もまた同じなのだ、と。
銃口が揺れる。心に燻るのは何か。アウレリアが得も知れぬ情動のまま魔銃を撃とうとした矢先、冴え冴えとした氷弾が狂える情動を裂くようにブラッドへと放たれた。精霊石の銃を構え、シン・ドレッドノートが撃ったその弾丸は地面から湧くように出でた重装の騎士に阻まれた。周囲の異形の木々が枯れてゆく。今の命を喰らい、過去の骸が組み上がる。現れた千の重装騎士たちも、この地に在っては激情に焦がれているように見えた。シンが【精霊たちの輪舞(エレメンタル・ロンド)】により精霊石から解き放つは氷狼の力。燃えるような激情、その狂気を。
「――凍らせます。」
地に突き立てた4本のソードビット、そしてシンが頂点となる五芒星が形成される。地に刻んだ星を巡る魔力を注ぎ、破魔の祈り込めて向けるは精霊石の銃。射線を塞ぐように陣を組む重装騎士の向こうに狂気蝕むヴァンパイアを睨み、シンは引き金を引いた。
「終わらせましょう、死してなお続くその戦いを。」
轟然と放射される極大の冷気が重装騎士に打ち掛かり、砕いてゆく。その光景を前に一歩踏み出したエルファスは従者であるエリナを下がらせた。
「エリナ、下がっていろ。
そして私の背中を見つめ一日千秋の思いで帰りを待つのだ。」
これよりは王子たる自分の戦い。想いを乗せエリナの見守る中、【王子の本気(オウジノホンキ)】はエルファスに幾重にも結界や千里眼、術式を重ねてその能力を強化する。だが剣を武器とするエルファスを近づけまいとブラッドが狙撃砲から血の弾丸を連射した。地を削り、周囲の瓦礫を砕き散らして横殴りの豪雨の如き弾丸をエルファスは最小の動きで躱し、結界で弾く。
「剣を執れ戦争卿、今の私に呪いや射撃といった小細工は効かん。」
なおも狙撃砲を撃ち放つブラッドにエルファスは弾丸を剣を振り、衝撃波で斬り払いながら近づいてゆく。重装騎士に阻まれていたクリュウとリーヴァルディもまた、シンの冷気放射により拓かれた道を駆ける。迫る三人の猟兵に、ブラッドの表情がより深い怒りに歪んだ。射撃が来る、そう感じたクリュウが一足前に出て、見せつけるように殺気を放ちながら『カミ砕き』を振り上げる。
「さて、どんな味か楽しみだね。」
まるで食事を前にしたかのようなクリュウの一言が、ブラッドの精神を逆撫でする。イヤに存在感を放つその言葉にブラッドは苛立たし気に狙撃砲を向けた。
「ナッツよりは美味しいかな?」
こちらに気を引くように言葉を重ねるクリュウに血の弾丸が襲い掛かる。腕を掠め、腹を貫く弾丸の雨が不意に止んだ。否、止んだのではない。
「……ここまで近づければ、踏み込める。」
クリュウの背後から追い越した光、その持ち手たるリーヴァルディが自身に付与している “矢避けの呪詛”で弾いたのだ。残る距離を詰めながら魔力を圧縮してゆくリーヴァルディ。だが、周囲には血の弾丸を浴びた地面から次々と射撃兵器群が現れている。ブラッドはまるで陣地を構築するかのように射撃をし、その合間から更なる重装騎士を呼び出していた。その軍勢の上から、間隙を縫うようにブラッドに弾丸が放たれる。アウレリアが止まる事無く飛び回り、見つけた隙から呪殺の弾丸を撃っているのだ。
「ボク自身が弱くてもこの銃であれば神さえ撃ち抜いてみせましょう。」
一つ、また一つと着実に弾丸を当てるアウレリアにブラッドが苛立たし気に目を向ける。だが、何度も撃っているにもかかわらず負傷をものともしないブラッドにアウレリア自身も苛立ちを感じ始めていた。
イライラしないといったら嘘になる。
敵意を持っている、それも真実です。
だから、これは敵の術中に嵌まったのでしょう。
自分の弱さは自分がよく知っている。それを自分が抱えたまま戦うのは狂気に蝕まれるのだという事も。ブラッドの上に揺らめくは花嫁姿の天騎士。アウレリアの足を転写された天騎士の弾丸が貫く。
「でもボクの弱点はボクがよく知ってる。
ボクの攻撃は急所に当たらない限り致命傷には成り得ない。」
痛みを堪え、少しでも回避できるように飛び回りながらブラッドを撃つ。くべられる激情が、アウレリアの心にある何かと共に燃えてゆく。だが、それでも。
「致命傷さえ避ければ良い。
そして致命傷を受ける前に敵を倒せば良い。
それだけです。」
僅か数合の間であれ、ブラッドの注意は十分に引けた。ブラッドは、あるいはその間に詰められる距離ではないと思っていたのかもしれない。だがその程度の距離は彼、エルファスにはないも同じであったのだろう。
「よそ見はいかんな、戦争卿。」
まさに早業とも言うべき身のこなしから流れるように一閃。返す刃が再び閃き、神速斬撃たる早斬りの連斬がブラッドを追い詰める。ブラッドが銃身で弾き、後退る先で待ち構えていたのは、神すら砕かんとする刃。
「殴り合いだって楽しいとも。」
噛みあう剣と銃。周囲の兵器群からの射撃を受けながらも、クリュウはブラッドを斬り飛ばす。剣で裂いた血を吸い、捕食し、生命力を啜ってその身を癒すクリュウの顔はその言葉が本心だと語っている。神速のエルファスの剣、そして鎧すら砕くクリュウの捨て身の攻勢が徐々にブラッドを削り取ってゆく。二人を引き離そうにも、アウレリアが傷を受けてもなおブラッドへと射撃を続ける為に難しかった。
「ハ……ハハハッ!! 壊れろ、ぜんぶコワレロヨォ!!」
もはやまともな戦い方すら狂気の彼方へ忘れ去ったかのように、狙撃砲がその数を増して狙いも出鱈目に撃ち始める。既にいたる所が射撃兵器群へと変じた廃墟の中、その異変に最初に気が付いたのは距離を置いて重装騎士を撃っていたシンだった。
「……重装騎士の力が増していますね。」
こちらに向かってくる騎士たちをライフルビットで撃ち倒し、敵の攻撃を閃光の魔盾で防いでいたシン。それ故に騎士の様子が変わった事にいち早く気が付いていた。重装騎士は領地内の生命力・精神力を代償にその力を増す。だが、既にこの地にはロクな生き物は残っていない。
「まさか――」
ブラッドの精神がより深い狂気に蝕まれてゆく。ブラッド自身の精神力、そして異界の神の狂気を糧に重装騎士はその力を増していた。生前ならばしなかったであろう自己を削る行為すら躊躇わぬほどに、ブラッドを蝕む狂気、くべられる激情は燃え上がっていた。ブラッドへ向かう最後の一人もあと少しで届く。今、騎士どもに邪魔される訳にはいかない。シンの持つ精霊石から膨大な魔力が開放され、銃口から撃ち放された。再び放たれる極大の吹雪がブラッドを凍てつかせ、その周囲の重装騎士の動きを止める。耐え切れず壊れる騎士を白き冷気が吹き飛ばして浄化し、シンが見据えるは『戦争卿』の姿。
「永劫の闇へと還れ、狂いし魂よ!」
『真紅銃<スカーレット・ブラスター>』の照準が捉えた標的へと、一発必中の光弾が奔る。ブラッドを光弾の狙撃が貫き、エルファスとクリュウの斬撃が裂いた。狙撃砲による射撃も重装騎士の妨害もなくなったその僅かな間に、力を溜め切ったリーヴァルディが突き進む。
「……この一瞬に全てをかける。」
ダン、と石畳が踏み砕かれ、同時に血の翼が限界を超えてリーヴァルディを押し飛ばす。【吸血鬼狩りの業・絶影の型(カーライル)】がもたらすは全魔力を圧縮し、全面開放する決戦形態。限界を越えれるのはおよそ1分。それを過ぎればリーヴァルディ自身がもたない。だからこそ、ブラッドの動きが止められたこの瞬間を逃す事は出来ない。すべての推力を束ね、残像を残す速度で弾丸の如く吶喊するリーヴァルディ。
「狂気に曇った眼で捉えきれると思うな。」
ブラッドの振おうとした銃口を大鎌で撥ね上げ、そのまま振り下ろす。深く切り裂かれた傷口から血を流しながらも睨むブラッドの殺気から動きを読んでリーヴァルディの大鎌が連続でなぎ払った。傷口を抉られながらも狂気がくべる激情のままにリーヴァルディを撃とうとしたその時。ブラッドの眼に、一片の光が映った。それは空を舞うアウレリアが零した光。
――お前もまた同じなのだ、と言うのならば。その光はブラッドにあったのか。激情が薄れてゆく。周囲には、狂気を退ける宝石の輝きが満ちていた。異界の神がくべる力は注がれない。ぐらり、と身体を支える力が抜ける。エルファスの剣が脚を斬り飛ばし、クリュウの剣がブラッドを斬り上げた。なおも身を護ろうとするブラッドの腕をシンの狙撃が、アウレリアの光弾が撃ち貫く。そして。
「……その呪わしき命運を断つ。消えなさい。永遠に……」
リーヴァルディの黒き大鎌が『戦争卿』の身体を断ち斬った。くべられるままに激情を滾らせ、憤怒を抱えていた狂えるオブリビオンはその身から抜けてゆく激情に何を想うのか。喘ぐように口が動き、ブラッド・ウォーデンは骸の海へと還った。そして異端の神もまた、楔となるオブリビオンを失いこの世界から消えてゆく。
「あぁ……ボクはまだ、狂気に飲み込まれてはいない。」
アウレリアの内にくすぶっていた自分ではない何かは、もう見えなくなっている。辺りには既に狂気はなく、ただ変わらず残る外灯が昏き廃墟を照らしていた。
大成功
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