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花影温泉殺人事件

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●紅橋と連続殺人
 緋桐橋、姫射干橋、曼珠沙華橋。紅手鞠橋に、紫雲英橋。
 洋館風の旅寓を中心にして賑わう、ちいさな温泉郷――『花影温泉』。
 其処には五本の紅い橋が掛かっていた。
 それぞれに、むすばれ橋、あこがれ橋、よりそい橋、みそめ橋、やすらぎ橋という異名を持つ橋は恋や縁のご利益があるという逸話がある。

 緋桐橋は『むすばれ』の名の通り、結ばれたい人を。
 姫射干橋は『あこがれ』。男女問わず憧れを抱く人を。
 曼珠沙華橋は『よりそい』。これからも共に歩みたい人を。
 紅手鞠橋は『みそめ』。会って間もない人と。
 紫雲英橋では『やすらぎ』。友愛を抱く人と。

 そんな相手を誘ったり、思いながら橋を渡れば縁が深まると云われている。
 花影温泉は渓谷の奥にあり、黒い大橋を通って行かなければ辿り着けない。辺鄙な場所ではあるが、幻朧桜が美しく咲く郷は数々の旅行客が訪れる場所だ。
 橋の近くにはそれぞれの名を冠する湯もあり、温泉街は行き交う人々で賑わう。
 露店風呂に水着で入る混浴風呂。
 大通りの傍らには足湯もあり、何処からでもはらはらと散る桜が観られるという。
 通りはペナントや木刀などを売る土産物屋や、温泉饅頭や温泉卵を売る店もある。ちいさな郷ではあるが、中央に位置する洋館旅寓をぐるりと囲むような川には屋形船も浮かんでおり、其処で宴会をひらくことも出来る。
 夜には温泉街全体に仄かな明かりを灯す雪洞が光りはじめ、橙色の火が美しく揺れる。
 縁を結ぶという紅い橋に落ちるのは桜の花影。
 しかし、そんな平和な温泉街で悲劇が起きる。外界と郷を繋ぐ大橋が落とされ、旅寓に泊まっていた者達が次々と不可解な死を遂げる――。
 そう、殺人事件が起こったのだ!

●いざ、温泉郷へ
「というわけで、お主たちには死んでもらうのじゃ」
 開口一番、不吉なことを告げたのはグリモア猟兵のひとり、鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)だ。
 何でも温泉街に影朧が現れ、連続殺人を起こす未来が視えたという。
 その日、温泉郷の洋館旅寓に行く予定だった人々にはもう「行くな」と言って未来の事件自体は阻止している。だが、件の影朧も倒したい。
 影朧は『随遊院茫子』という猟奇推理作家志望だった少女だ。
 彼女はアイデアに詰まると猟奇殺人を犯して小説のネタにするという癖を持っているらしい。そこで先程の台詞というわけだ。
「お主らには観光客を装って温泉街に向かってほしいのじゃ。しかし下手に探ろうものなら影朧は出て来ぬ。まずは怪しまれぬよう温泉街を満喫してくると良いぞ」
 最初は縁結びの橋や温泉、商店街を楽しむ。
 すると影朧は恰好の殺人相手を逃さぬように例の大橋を落としてしまうだろう。
 そうすればいわゆるクローズドサークルの出来上がり。
 猟兵ならその気になれば脱出できるが、今回は影朧を誘き出すために怯える人々のふりをしなければならない。
 そして、次は花影温泉の旅寓に泊まる。旅館内には様々な死のトリックが仕掛けられており、わざとそれを受ければ影朧は死を確かめに姿を現す。
 そうなれば後は此方のもの。
「此方が生きていると知れば、茫子は更に殺しにかかってくるじゃろう。それが相手を倒す好機になるゆえ抜かるでないぞ」
 茫子は惨たらしい猟奇殺人を犯した自分の霊を召喚してくる。
 それを各自ですべて倒せば本体も弱ってゆく。それからトドメを刺せば今回の事件は完全に解決することになる。
「死んだふりをして敵を誘き寄せ、倒す。どうじゃ、簡単じゃろう?」
 戦いに関しては心配していない。
 そう告げたエチカは猟兵達に温泉郷への潜入を願った。
 花影が落ちる桜の郷。
 其処で巡りゆく殺人事件の行方は――きっと、向かった者次第。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『サクラミラージュ』
 温泉郷で楽しんだ後、殺人事件に巻き込まれながら影朧を倒すことが目的となります。
 こちらはつじマスター、絲上ゆいこマスターとのふんわり合わせシナリオです。テーマを合わせているだけで現場やシチュエーションは別々なので、同時参加も可能です。様々な温泉で起きる殺人事件をお楽しみください!

●第一章
 日常『桜舞う温泉街でのひととき』
 ある渓谷の奥、五つの赤い橋がある『花影温泉』という場所です。
 皆様はそこに招待された観光客として振る舞って貰います。敵を探りすぎると相手が警戒してしまうので普通に温泉街をお楽しみください。
 緋桐(ひぎり)、姫射干(ひめしゃが)、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)、紅手鞠(べにてまり)、紫雲英(げんげ)。様々ないわれがある紅い橋は、旅館を囲むように流れる円状の水路にそれぞれ架かっています。
 その他、温泉街で出来そうなことならば大体可能ですのでご自由に!

 一章のみのご参加も歓迎致します。
 敵や殺人事件にプレイングで一切触れていなければ、現場がクローズドサークルになる前に帰ったという扱いになります。どなた様も遠慮なくお越しください。

●第二章
 冒険『クローズドサークルへようこそ』
 陸の孤島となった温泉郷。
 洋館風の旅館内や周辺に仕掛けられた猟奇殺人の罠にわざとかかってください。
 どんなトリックや殺され方があるかは二章開始時に追加します。挙げたもの以外に良い死に方があればそちらを選んでくださっても大丈夫です。
 皆様の見事な死に様をみせてください!
 ダイイングメッセージを残したり、名探偵役を演じたり、無意味にシャワーを浴びたりひとりきりになったりなどなどミステリっぽい行動をするのも良い感じです。

●第三章
 ボス戦『七光ラズ・随遊院茫子』
 ずいゆういん・とおこ。猟奇推理作家を夢見ていた少女。
 二章での死に様を確認するために皆様の前に自分の亡霊を向かわせます。そこで戦闘になるので倒せば本体が弱ります。出現した全ての亡霊を撃退すると撃破できます。
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第1章 日常 『桜舞う温泉街でのひととき』

POW   :    飲食店や、お土産屋がある通りを散策する。

SPD   :    湯畑を見たり、屋形船に乗る。

WIZ   :    温泉に入ったり、手湯や足湯を楽しむ。

イラスト:菱伊

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ニノマエ・アラタ
ノゾミ(f19439)と

…ああもう面倒くさい。
一番近い橋でいいだろ?
(緋桐橋をつかつかと歩いてゆく)。
早く温泉郷に行かないと円環が閉じられるんだろうが。
あのな。
ノゾミの「殺す」は、殺す殺す詐欺な。
なんつーか、本気が感じられなくなってきてる。
……じゃあさァ。
(すいっと顔を近づけて真顔で)

俺がおまえを殺す。
(指を立てて静かに、とジェスチャー)

……橋の逸話に惑わされてるようじゃ、先が思いやられる。
何を信じるか、真実とするかは自分しだいだ。
敵を意識しすぎないよう、
橋を渡ったら足湯につかってのんびりするつもりだ。
まあ、今は敵よりもノゾミの視線のほうが痛いな。
チクチク刺さる。
……無視するけどよ。


青霧・ノゾミ
ニノマエ(f17341)と

橋にいろんな逸話があるって聞いちゃうと、
どの橋を渡るか迷うな。
ニノマエと、なら……えーと……。
(憧れなんて絶対嫌だし、共に歩むは少し気恥ずかしい…し、
友愛あたりが無難…かな…)

……!
ちょっと! 待ってよ!
緋桐橋は……ち、違うでしょそれ!
ニノマエ、殺すよ!
いつか必ずおまえを殺すって常々言ってるけど、
今がいいの?……って、

……驚いて息が止まりかけた。

そして。
つい追いかけて橋を渡りきってしまった
自分に対してショックを受けた。
……くそ。
僕が阿呆みたいじゃないか!
ニノマエに殺されるぐらいなら、もっと素敵な死にっぷりを
見せるっつーんだよ。
覚えてろよ。
おまえより足湯を楽しんでやる。



●結ばれるものは
 桜舞う麗らかな温泉郷にて。
 風を受けて散る桜花がひらひらと空に翔けていく最中。青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)は水路を通る橋を眺めていた。
「橋にいろんな逸話があるって聞いちゃうと、どの橋を渡るか迷うな」
 ニノマエとなら――。
 隣を歩いている青年、ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)に視線を向けたノゾミは少しばかり考え込む。
 憧れなんて絶対に嫌だ。共に歩むと宣言するのも気恥ずかしい。
(友愛あたりが無難……かな……)
 未だはっきりと何処に行くか決められないノゾミ。そんな彼に呆れたような視線を返し、ニノマエは一人で歩き出す。
「ああもう面倒くさい」
「ちょっと! 待ってよ!」
「一番近い橋でいいだろ?」
 ノゾミが制止するのも聞かず、ニノマエはつかつかと緋桐橋の方に進んだ。それは別名、むすばれ橋とも呼ばれているところだ。
「緋桐橋は……ち、違うでしょそれ!」
「早く行かないと不都合だろうが」
 慌てるノゾミに対し、ニノマエは悩む必要などないといった様子だ。其処は結ばれたい人を思って渡る橋だというのに彼は頓着していないらしい。
 止まらぬ彼の背を追ったノゾミは告げる。
「ニノマエ、殺すよ!」
「…………」
「いつか必ずおまえを殺すって常々言ってるけど、今がいいの?」
 するとニノマエが立ち止まって振り返った。その瞬間、蒼の双眸と黒の瞳が交差する。そして、ニノマエが口をひらいた。
「あのな」
「何?」
「ノゾミの『殺す』は、殺す殺す詐欺な。なんつーか……」
 本気が感じられなくなってきてる。
 そのように答えたニノマエの眼光の鋭さに対しノゾミは思わず息を呑む。そして彼はすい、と顔をノゾミに近付けて真顔で告げ返した。
「……じゃあさァ。俺がおまえを殺す」
「――!」
 指を立てて静かに、と伝えたニノマエはそのままじっとノゾミを見据える。
 暫しの沈黙。
 少しして、はっとしたノゾミは自分達が橋を渡りきってしまっていたことに漸く気が付いた。そのことにショックを受けた表情を浮かべる彼に、ニノマエは肩を竦める。
「橋の逸話に惑わされてるようじゃ、先が思いやられる」
「……くそ」
 上手く言い竦められてしまったようでノゾミは悪態をついた。そんな彼にニノマエは更に告げてゆく。
「何を信じるか、真実とするかは自分次第だ」
「なんだか僕が阿呆みたいじゃないか! ニノマエに殺されるぐらいなら、もっと素敵な死にっぷりを見せるっつーんだよ」
「それと、敵を意識しすぎるな。聞かれているかもしれない」
 言葉で噛み付こうとするノゾミを軽くいなしたニノマエは踵を返す。その足取りには迷いがなく、どうやらこの先にある足湯の方に向かっているようだ。
「……覚えてろよ」
 ノゾミは渋々とその後についていき、ぽつりと零す。
 おまえより足湯を楽しんでやる。そう強く言葉にしたノゾミの視線はいつも以上にちくちくと刺さるかのようだ。
 何処かに潜んでいるかもしれない敵よりも、今はその方が痛い。しかしその心地すら無視をしたニノマエは構わず進んでいく。
 そして――。
 暫く後、微妙な距離を取りながらも二人が足湯を楽しむ姿が見られたという。
 されど偽りの死が訪れる時は近い。
 ならば自分と彼はどのように殺されるのか。複雑な思いがノゾミの裡に巡っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メディツ・フロレンティア
*アドリブ歓迎
「ふむ、風光明媚とはこういうものなんだろうね…」
アポカリプスヘルでは絶対に見られない景色に純粋に感動しつつ旅館に向かって歩を進める。今回私は『外地から湯治の効能を調査するためにやってきた医者』という体でやってきている。足湯を含めた温泉をサンプルとして収集し、洋館旅寓に1泊してから帰路に着く予定…という設定だ。それ故、橋が落ちる時間までは大分自由がきくだろう。さっさとサンプルを集めて、惨劇開始までは純粋に楽しませてもらおうじゃないか。
「ふふ、湯治の効能を確かめるというのなら、実際に入浴しないとね。…美肌効果はデッドマンにも効くのかね…?」



●医者と温泉
 桜花に湯煙、薄紅と緋色。
 温泉郷を彩る景色を眺めて通りを歩く。
「ふむ、風光明媚とはこういうものなんだろうね……」
 メディツ・フロレンティア(ライヘ・マーダー・f24435)は周囲に広がる様相を見渡し、純粋な感動を覚えていた。
 故郷と呼べる世界ではもう絶対に見られない景色。
 それは感嘆の思いを抱くには充分なものだ。メディツは興味深そうに温泉街の賑わいと幻朧桜が咲く心地を確かめた。
 メディツが抱えているのはドクターバッグだ。
 それを見て分かる通り、今回のメディツは外地から湯治の効能を調査するためにやってきた医者という体でやってきている。
 足湯を含めた温泉をサンプルとして収集する。そして旅館に一泊してから帰路に着く、という予定を立てている設定だ。
 こうして自由にぶらつき、温泉や街の雰囲気を楽しめば敵はまんまと油断するだろう。設定に忠実な振る舞いをしながらメディツは足湯がある方角に目を向ける。
「さっさとサンプルを集めておくか」
 それはつまり湯を巡っていくということ。惨劇開始までは純粋に楽しませてもらおうじゃないか、なんて言葉は口にせずに胸に秘める。
 橋が落とされるという時間まではきっと様々な自由がきく。
 メディツは近くにある湯から入ってみようと決め、先ずは緋桐橋と呼ばれるところの近くにある温泉へと歩を進めた。
「ふふ、湯治の効能を確かめるというのなら、実際に入浴しないとね」
 見れば美肌効果もあるという湯。
 入浴の準備を行いながら、メディツはふとした疑問を零す。
「果たして、私にも効くのかね……?」
 そう、死したこの身体であっても――。
 なんてね、とちいさく呟いたメディツは湯煙が揺らいでいる方へと向かった。
 それから暫く、温泉郷でのゆったりとした時間が過ぎてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
実際の殺人からアイディアを取るか…はた迷惑な作家だな
これ以上被害が増える前に何としても防がなくてはなるまい
まぁそれはそれとして、温泉もいいものだ
中々こういう機会でもないと楽しめないものだし…まぁ役得だな
任務ついでに、骨休めもさせてもらおうか

なるほど…それぞれの橋は花の名前からとっているわけか
なら私は曼殊沙華と紫雲英だな
旅団の皆と今年も縁を深めることが出来ればこれに勝る幸せはないだろう
美しい風景と欄干を楽しみながら橋を渡ろう

その後は温泉だな
露天風呂から覗く渓谷の見事な景観を楽しみつつ温泉に浸かる
ついでに徳利とぐい飲みを置いた桶を浮かべて花見酒をするのも良いな
まぁ、任務中だから中身は緑茶だがな



●任務と湯煙
 実際の殺人からアイディアを頂戴する。
 それはノンフィクション作家としてならば許されるのかもしれない。だが、その殺人を自ら手引するとなれば、ただのはた迷惑な者でしかない。
「これ以上被害が増える前に何としても防がなくてはなるまい」
 キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は此度の事件を起こす者を思い、桜が舞う温泉郷の路を進んでいく。
 通りは賑やかで、湯煙はのどかな心地を感じさせてくれる。
「まぁそれはそれとして――」
 温泉もいいものだと感じたキリカは、今はこの機会を楽しもうと決めた。温泉などなかなかこういった場でもないと赴かない。
「……役得だな。任務ついでに、骨休めもさせてもらおうか」
 黒紫の双眸を緩やかに細めたキリカはまず、様々な名や謂れがある橋を見に向かった。印象的な紅の橋はどれも雰囲気がある。
 なるほど、と橋の名を確かめていったキリカはそれぞれが花の名から取られているのだと気が付いた。
「なるほど……なら私が渡るべきは曼殊沙華と紫雲英だな」
 挙げた橋の別名はよりそい橋とやすらぎ橋。
 胸に満ちるのは皆と今年も縁を深めることが出来れば、という思い。きっとこれに勝る幸せはないだろうと思えることこそが僥倖の証だ。
 キリカは美しい風景と欄干をゆるりと眺め、それぞれの橋を渡っていく。
 そして、その散策が終われば温泉だ。
 露天風呂へと入ったキリカは其処から見える渓谷の景観を楽しみ、湯に浸かる。
 傍には徳利とぐい呑みを置いた桶。
「花見酒、といきたいが今は緑茶にしておいて良かったな」
 楽しんでいるとはいえど今は任務中。
 ふふ、と笑むキリカはぐい呑みを傾け、はらはらと散る桜の風景を見つめた。
 そうして、穏やかなひとときが流れてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
ニンゲンを殺して、話の種にする
死を。唯の終りにしない事は、良い
だが、オブリビオンは殺す

……満喫。楽しむ?
難しいな、感情や情緒は解らない
街を、散策すれば良いだろうか
道や建物の、形状を記憶する
景色を楽しんでいる、に見える様

共に歩く物等……ああ、そうか
貴様が居たな、杖中の姫
海底では、到底見られぬ景色だ
私の代りに、満喫するが良い



●縁と死と結びの橋
 死を迎えた者は其処で終わり。
 もう何も作り出すことはなく、前にも進めなくなる存在に成り果てる。
 イリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)はヒトの死について思い、此度の影朧が成そうとしている所業を考える。
 ニンゲンを殺して、話の種にする。
 死を。唯の終りにしない事は、良い。だが――。
 オブリビオンは殺す。
 それがイリーツァが抱く目的だ。しかし今こうして温泉郷にいる彼はどのようにして過ごすかを考えていた。
 まだオブリビオンは現れない。
 下手に探そうものならば警戒され、事件自体が起こらなくなってしまうのも理解している。それゆえに時間がぽっかりと空いてしまったような感覚をおぼえていた。
 満喫。楽しむとは。
 難しい。イリーツァにとって感情や情緒は理解できぬものだ。
 街を散策すれば良いのだろうか、と考えたイリーツァは湯煙の景色を眺めた。情緒あふれると云われる風景もイリーツァにとってはただの街並み。
 しかし、彼は道や建物の形状を記憶していった。
 黙っていれば景色を楽しんでいる――そう見えるように歩く。見れば前方に縁結びの謂れがあるという橋が見えてきた。
 曼珠沙華橋。
 別称ではよりそい橋と呼ばれるその前に佇み、イリーツァはふと気が付く。
(共に歩く物等……ああ、そうか)
 貴様が居たな、と見下ろしたのは竜宮の海杖。杖中の姫に語りかけるようにして、深海の力を宿す鋼杖に触れる。
 楽しめと言われたことを真に実行することは難しいが、これくらいは出来る。
「海底では、到底見られぬ景色だ。私の代りに、満喫するが良い」
 イリーツァは鋼杖に声を掛け、橋の上を往く。
 本当にこれで縁が深まるのか。疑問めいた思いが浮かんだが、たまにはこんな風に謂れに則ってみても罰は当たらないだろう。
 そして、イリーツァは湯煙が揺らぐ温泉郷を暫し散策してゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

六道・橘
私は私の謎を解く為に―
前世の私には「双子の兄」がいたらしい
妄想かもしれないけれど「双子の兄」を念頭に暫くは謎解きに溺れるわ

そんなわけで
「誰か」とくるのが似合いの橋のたもと真相(深層)探索
『むすばれ』『みそめ』はなしね
『あこがれ』裏返って『妬ましい』になりそうと足早に離れ
『やすらぎ』憧憬で胸が詰まりそう…

『よりそい』は考える前に渡り出す
中央で幻朧桜を眺めていたら赤い側に瞳から涙が一筋
泣いている理由がわからず頬がただぬるいだけ
涙零さぬ地獄の瞳で明瞭な桜を眺め左耳に咲く花に指を触れる
「双子の兄」かは甚だ不明瞭
けど心に食込むかの人は
血に塗れ逢った過去を共有する彼は
世界のどこかに転生しているのかしら…?



●片割れの影は未だ遠く
 温泉と殺人事件といえばミステリー。
 六道・橘(■害者・f22796)は謎解きの舞台によくある光景と状況を思いながら、花影の名を冠する温泉郷の街並みを歩いてゆく。
 ――私は私の謎を解く為に。
 自分の過去、それも前世と呼ばれる時を思いながら橘は歩を進める。
 どうやら前世には双子の兄がいたらしい。
 転生した命。
 橘は自分がどうやらそうであると理解している。
 兄がいたこと。それはもしかすれば妄想かもしれない。けれど今はその兄を念頭に、暫くは謎解きに溺れよう。きっとそんな風に過ごすひとときだって悪くない。
 そんなわけで、橘は五つの橋について考えていく。
 誰かとくるのが似合いの橋のたもと。真相を――深層を探索するのが今の楽しみだ。
 まず『むすばれ』の緋桐橋、『みそめ』の紅手鞠橋は、なし。
 そして『あこがれ』の姫射干橋は感情が裏返って妬ましいというものになりそうとだと感じて、その三つからは足早に離れる橘。
 そうして辿り着いた『やすらぎ』の紫雲英橋。
 悪くはないように思えたが、どうしてか憧憬で胸が詰まりそうになった。
 そうなると後はひとつだけ。
 曼珠沙華橋――『よりそい』の橋に差し掛かった橘は考える前に渡り出していた。
 緩やかな弧を描く紅い橋。
 その中央で、はらはらと散る幻朧桜の花弁を眺める。そのとき不意に、何の前触れもなく橘の瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
 どうしてだろう。
 自分でも泣いている理由がわからず、涙の雫は頬を濡らしていく。自覚できる感慨はなく、ただぬるいだけ。
 そして、橘は涙を零さぬ地獄の瞳の方で明瞭な桜を眺めた。
 そっと左耳に咲く花に指で触れてみたが双子の兄かは甚だ不明瞭。
 けれど、心に食い込むように奥底に揺らぐかの人の影は――血に塗れ逢った過去を共有する彼の存在は確かなものに思えてならない。
「この世界のどこかに転生しているのかしら……?」
 だったら、また。
 この橋に纏わる謂れのように寄り添えたなら、いったい自分はどうするのだろう。
 紫の眸は堕ちる花を映し込む。
 そうして暫し、橘は桜の花片と湯けむりが揺らぐ景色を見つめていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
正純(f01867)と

うむっ!回れるだけ行くぞー!正純!

気の向くまま食べ歩き
温泉饅頭と温泉卵にもびっくり

正純と並んで足湯に浸かりつつアイスも堪能
おお!こういうのも風情なのだな?
1年猟兵やってきて、風情がなんとなくわかってきた気がするな!

正純、橋に行く前に、みんなにお土産買いたいぞ!
ええーと…饅頭美味しかったから買いだし…この焼菓子も買いだな…
あれもこれもと欲張れば、前が見えないほどお土産の箱が積み上がり
か、買いすぎた…ま、正純、手分けして持ってくれないか?

お!目的地到着だな!
橋に身を乗り出して水の流れを眺め
うむ、確かになんだか安らげる
もちろん!俺からもよろしくなのだ
友情の証にハイターッチ!


納・正純
ヴァーリャ(f01757)と

年始に温泉街散策とはね、猟兵活動万歳だな?
折角だし色々見て回っていこうぜ、ヴァーリャ。

彼女とは前々からの良き遊び友達の関係
温泉街のグルメや足湯を楽しみ、お土産を買ってから紫雲英橋とやらに向かってみよう

「初めての体験だが、足湯に浸かりながらの温泉グルメってのは良いもんだな? 何というか風情ってのを感じるぜ……」
「そうだな……。アイスも風情だ……たぶんな」
「おや、手分けで良いのかい? それならお安い御用ってヤツだ、任せな」
「ははあ、あの紅い橋がやすらぎ橋って奴か。何となくご利益を感じるような気もする」
「おうよ、今年もよろしくな、ヴァーリャ。ハイタッチ!」



●友愛の橋
 澄んだ冬の空気。その最中に薄紅の桜が舞う。
 風に運ばれていく花弁に誘われるように歩を進め、駆け出す。
 目の前に広がるのは桜と紅に彩られた風情と趣きが感じられる街並みだ。
「おおっ、正純! こっちの景色もすごいのだ!」
 ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)は共に温泉郷に訪れた友人の名を呼び、早く早くと両手を振る。
「急ぎ過ぎなくとも温泉は逃げねェよ」
 その後に続いた納・正純(Insight・f01867)は示された景色を眺め、これは確かに、と頷きを返した。
 年始に温泉街散策。しかもサアビスチケットがあるので何だって選び放題。猟兵活動万歳だな、と薄く笑った正純は自分を待ってくれていたヴァーリャの横に並び立つ。
「折角だし色々見て回っていこうぜ、ヴァーリャ」
「うむっ! 回れるだけ行くぞー!」
 再び走り出したヴァーリャの背を追った正純は、転ぶなよ、と声を掛けた。
 温泉饅頭と温泉卵。
 網で炙った焼き立て煎餅に、年始の祝いに用意されていたお餅。
 あっちが美味そうだ、こっちは良い食感だとはしゃぐ友人は実に楽しげだ。正純も共に温泉街グルメを楽しみつつ、其々の味に舌鼓を打つ。
「おっと、向こうに足湯があるってよ」
「行ってみるか! わ、アイスクリンも売ってるのだ! 正純、どうする?」
「じゃ、それを買ってくか」
 正純が示した先には湯煙が揺らぐ足湯とアイスの露店があった。どうするかと聞いていても、ヴァーリャが既に購入する気満々でいることに気付いた正純は笑った。
 そして暫し後。
「はぁ……あたたかくて気持ちいいな。これが風情っていうやつなんだな」
「そうだな……。アイスも風情だ……たぶんな」
 正純と並んで足湯に浸かるヴァーリャはアイスの冷たさと湯の熱さを堪能していた。既にアイスクリンをすっかり平らげていた彼女の隣、正純はスプーンを手の中でくるくると軽く回した。
 思えばこういったことは初めての体験。
 足湯に浸かりながらの温泉グルメを楽しむ。こんなに穏やかな時間はきっと、尊いと呼ばれるひとときなのだろう。
「桜花に湯、甘味。何というか情緒ってのを感じるぜ……」
「おお! こういうのも情緒なのだな?」
 楽しそうにぱしゃぱしゃと足で湯を揺らすヴァーリャ。雫が掛かるだろ、と掌で湯を受け止める正純。どちらも快い表情を浮かべていた。
 二人は自分達なりに大いに足湯を楽しみ、次は温泉郷の散策へと向かう。
 最初に食べた名物はどれも美味しかった。
 それゆえにヴァーリャは見処である紅橋に行く前にお土産を見たいと願った。
「正純、こっちだ。お土産がいっぱいあるぞ!」
「ははっ、凄いな。何を買うんだ?」
「ええーと……饅頭美味しかったから買いだし、この焼菓子も買いだな」
 店先で土産物を選ぶヴァーリャとそれを見守る正純。食べ物を中心に選んでいく彼女に対し、正純は変な顔がついたふんわりした雰囲気の妙な物体を手に取り、何となく弄っていた。正直これが何かであるのかはわからない。だが、こういった謎の物も土産物として大切な存在だ。多分。
 そうして暫し後、ヴァーリャはたくさんのお土産を両手に抱えていた。
「か、買いすぎた……ま、正純、手分けして持ってくれないか?」
 前が見えないほどの荷物を持つ少女はふらふらしている。正純はふっと双眸を細め、土産袋に手を伸ばした。
「おや、手分けで良いのかい? それならお安い御用ってヤツだ、任せな」
「助かるのだ!」
 そんなやり取りを交わした二人は次の目的地を目指していく。
 辿り着いたのは緋色の橋。
 紫雲英橋。やすらぎを齎す橋としての謂れがある場所だ。
「ははあ、あの紅い橋が例の所か」
「お! 目的地到着だな!」
 橋の上から身を乗り出したヴァーリャは水の流れを眺める。正純も欄干に凭れ掛かって同じ景色を見つめた。水路を巡る水、其処に浮かぶ桜の花弁は美しく思える。
「やすらぎ橋ねェ。何となくご利益を感じるような気もするな」
「うむ、確かになんだか安らげる」
 穏やかで心地の好い風が二人の間に吹き抜けていく。和やかな雰囲気が満ちる中、正純は隣のヴァーリャへと片手をあげてみせる。
「今年もよろしくな、ヴァーリャ」
「もちろん! 俺からもよろしくなのだ」
 其処から交わされるのは友情の証であるハイタッチ。
 軽快に合わさる手と手。小気味好い音が響く中で、二人分の笑みが重なった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわぁ、アヒルさん、温泉ですよ。
楽しみですね。

ところで、アヒルさん、何を見ているんですか?
ふぇ、教えてくださいよ。
アヒルさん。

この時、アヒルさんの見ていたモノを追及していたら、私はこれから起こる惨劇で生き残ることができたのかもしれません。

ふえぇ、今のは何なんですか。
それにアヒルさんの見ていたモノって何なんですか?
いかにも後で語られるような感じですけど、アヒルさんは語る気がないですよね。
こっそり教えてくださいよー。
アヒルさーん。



●惨劇の予感
 桜の薄い紅と緋色の橋。
 櫻の幻想と呼ぶに相応しい景色の中でフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は立ち昇っていく湯煙を見上げた。
「ふわぁ、アヒルさん、温泉ですよ」
 楽しみですね、と双眸を細めたフリルはとてもわくわくしている。
 辺りを見渡しながら楽しそうに歩みを進めるフリルは相棒ガジェットのアヒルさんと一緒に温泉街を回っていた。
 温泉饅頭が蒸されている店先。気軽に寄れる足湯。
 行き交う人達も楽しげでフリルまで気分が良くなってくる。しかし、フリルには先程からずっと気になっていることがあった。
「ところで、アヒルさん。何を見ているんですか?」
 アヒルさんは常に何かをじっと眺めているようだ。されど問いかけてもアヒルさんが答えることはない。
「ふぇ、教えてくださいよ……」
 警戒すべきものや怖いものでもあるのだろうか。そう思うとフリルはおどおどと怯えるしかなくなってしまう。
 それにもし怖い何かであれば、この楽しい気持ちが何処かに消えてしまう。
 フリルはそれ以上聞くことなく普通に温泉街を楽しむことにした。
 だが――この時、アヒルさんの見ていたモノを追及していたら、彼女はこれから起こる惨劇で生き残ることができたのかもしれない――。
 そんなナレーションが入った気がした。勿論アヒルさんが入れたのだが。
「ふえぇ、今のは何なんですか」
 びくっとしたフリルは辺りをきょろきょろと見回す。視線を感じたような、そんな気がしたからだ。
「それにアヒルさんの見ていたモノって何なんですか?」
 いかにも後で語られるような感じですけど、きっと語る気はないのだろう。
 そしてアヒルさんはフリルを先導していくかのように、まだ行っていない温泉街の先に向かっていく。
「こっそり教えてくださいよー。アヒルさーん」
 その後を追いながら、フリルはやっぱり涙目になっているのだった。
 彼女達が辿る惨劇。それはまだ、未知数だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】

手を繋いで曼珠沙華橋を渡ります
よりそい、か
照れますね
はい!一緒です

橋を渡ったあとは普通の温泉へ
…まぁ女同士だし
以前温泉テーマパークでも一緒に入浴したし
緊張はしてない…かな
変にジロジロ見て不審がられるといけないので普通に…
アヤネさん
相変わらずスタイルいいな
正月太りとは無縁だ…ってそうじゃなくて!(慌てて目を逸らし)

暖かいお湯が気持ちいい
丁度いい温度ですね
あれ?顔が赤いですよ?
てか、深くお湯に浸かり過ぎです
すぐのぼせちゃいますよ!?
のぼせる前にこれでも飲んで涼みましょう
(盆に乗った徳利と猪口を見せ)
中身はサイダーです
旅番組で見て一度真似したくて
用意しちゃいました
お酌しますよ!
ささ、どうぞ


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
日本の温泉街というのは風情があっていいネ
ご利益があるというなら
曼珠沙華橋を選ぶよ
ソヨゴの手を取って
これからはずっと共に歩みたい
そんな願いを込めて

露天風呂なんて初めて
女湯でいいよ
と言ってしまってから気づく

すごく恥ずかしい?

一緒にお風呂に入るのは初めてじゃない
以前ならソヨゴを見ても平静を装えたけど
今は逆にソヨゴからも見られていると思うと
意識してしまう
顔が紅潮する

うわー
ソヨゴこっち見ないで
と心の中で叫んでも口には出せない
視線をそらしてお湯に沈もう

え?それお酒じゃないの?
日本の風習なの?
相変わらず用意がいいネ
と苦笑
おかげで緊張は解れた

うんいただきます
と杯を受け取り
乾杯

寛ぐのも
たまには良いよネ?



●揺れる想いと花の影
 手を繋いで寄り添って紅の橋を渡る。
 曼珠沙華の名を持つ、よりそい橋の上。城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)とアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)は幻朧桜に囲まれた美しい温泉郷を眺めていた。
「日本の温泉街というのは風情があっていいネ」
「よりそい、か」
 冬青は橋に籠められた意味とご利益を思い、照れますね、と呟く。
 そんな彼女の言葉を聞き、アヤネはそっと微笑んだ。曼珠沙華橋を選んだのは自分たちの思いが此処に相応しいと思ったから。
「これからはずっと共に歩みたい、って思い……叶うかな?」
「はい、きっと! 気持ちは一緒ですから」
 願いを込めて握る手。
 感じるその熱はとても心地よく思える。そして、アヤネたちは橋の近くにあるという温泉に向かっていった。
 思えば以前に温泉のテーマパークに行ったこともある。
 女同士であるし、緊張はしていない――と冬青は考えた。しかし変に意識して不審がられてもいけないので普通にするように努める。
「露天風呂なんて初めて」
 女湯でいいよ、と言ってしまってからアヤネは気付く。
 ――すごく、恥ずかしい?
 確かに一緒にお風呂に入るのは初めてではない。以前なら冬青を見ても平静を装えたけれど、今は逆に冬青からも見られている。そう思うとどうしても意識してしまう。
 対する冬青はそっと彼女を見つめていた。
(アヤネさん、相変わらずスタイルいいな……正月太りとは無縁だ……ってそうじゃなくて! 恥ずかしそうだしあんまりジロジロ見ちゃ駄目かも!)
 見ればアヤネの顔も紅潮している。
 慌てて目を逸らした冬青は、先に行っていると告げて露天風呂に向かった。

 そして、少し後。
 冬青とアヤネは桜が舞う温泉でゆったりとした時間を過ごしていた。
 花弁が揺れる水面。お湯が気持ちいいと話す冬青は何だかアヤネの様子がおかしいことに気が付いた。
「丁度いい温度ですね。……あれ? 顔が赤いですよ?」
(うわー、ソヨゴこっち見ないで)
 どうやらアヤネは先ほど意識をしてしまってからずっと恥ずかしがっているらしい。心の中で叫んでも届かず、冬青はアヤネに近付いてくる。思いは口には出せず、アヤネは視線を逸してぶくぶくとお湯に沈んだ。
「てか、深くお湯に浸かり過ぎです。すぐのぼせちゃいますよ!?」
「……じゃあ、ちょっとだけあがるね」
 顔までお湯に浸かってしまっていたアヤネは肩口まで湯から身体を出した。それなら、と冬青はあるものを取り出してくる。
「のぼせる前にこれでも飲んで涼みましょう」
 それは盆に乗った徳利と猪口。アヤネはその見た目に少し驚いてしまう。
「え? それお酒じゃないの?」
「中身はサイダーです。旅番組で見て一度真似したくて用意しちゃいました」
「日本の風習なの? 相変わらず用意がいいネ」
 思わず苦笑してしまうが、冬青のおかげで妙な緊張は解れた。
「お酌しますよ! ささ、どうぞ」
「うん、いただきます」
 アヤネは冬青から渡された杯を受け取り、しゅわしゅわと弾けるサイダーの泡を眺める。そして、二人は乾杯を交わす。
 快い音が響き、少女たちの間に穏やかな微笑みが咲く。
 花見サイダーも悪くはない。アヤネは心地良さを覚え、桜を見上げた。
「寛ぐのも、たまには良いよネ?」
「はい! めいっぱい寛いでいきましょう!」
 冬青も朗らかな笑みを浮かべ、ひらひらと美しく舞う花弁に目を向ける。
 こうして一緒に過ごす時間が愛おしい。
 二人は和やかな気持ちを抱きながら、花景色の中で寄り添っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

火神・五劫
【五星】

「ああ、腹ごしらえといこうか」

甘味処へ向かう最中
寒くは無いか、とマリスを気に掛ける
彼女が身体を冷やしてはいかんからな
必要ならば俺の襟巻を貸そう

「そうだな、まさに極楽だ」

頷いて頬張った卵は美味の一言
良い湯に絶景、土地の味
つい、仕事であると忘れそうになる

「…構わんよ」

正月――初詣の際は、常とは違う様子の彼女に驚いた
理由は分からんし、無理に聴き出すつもりもない
それでも、何時かの己の言葉は曲げん

「風除けくらいにはなってやると、言ったろう?」

む、俺にとって?
なかなか言葉に現すのが難しいな

「今こうしている最中も、俺は幸せだと思うが」

幻朧桜を見上げれば
はらりと落つる薄紅色
…時は、巡り続けているんだな


マリス・ステラ
【五星】

「まずは温泉卵と温泉饅頭でしょう」

湯上り美人となって五劫と待ち合わせ
甘酒があると嬉しいですねと言って甘味処へ

「それにしても温泉は素晴らしい。癒されます」

休暇なら良かったのですがと微笑みながら卵を賞味
その美味に瞠目して頷く
話題を変えると、

「……先日は迷惑をかけました。ごめんなさい」

お正月ではしたたかに酔って醜態を晒しました
最近はふと気付けば寂寥と孤独に囚われている
理由はわかっているけれど、どうすれば良いのかわからなくて

「五劫にとって幸せとはどういうことだと思いますか?」

お饅頭と甘酒に舌鼓を打つ
これも幸せの形でしょうか
視線を幻朧桜に向けて

「散らずとも桜は美しい」

五劫の暖かさに感謝します



●幸福の意味
 湯浴みの後は温泉街巡り。
 マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)は湯上りの髪をさらりとなびかせ、湯屋の外で待ち合わせた火神・五劫(送り火・f14941)を誘う。
「まずは温泉卵と温泉饅頭でしょう」
「ああ、腹ごしらえといこうか」
 頷いた五劫は賑わう商店街に目を向け、静かに双眸を緩めた。
 あちらこちらから行き交う人々の楽しげな声が聞こえる。先ほど入ってきた温泉にも明るい賑わいがあった。
 きっとこれは湯で身体が温まったゆえに感じる心地なのだろう。
「それにしても温泉は素晴らしい。癒されます」
「まさに極楽だ。ところで、寒くはないか?」
「湯上りですから心配はありません」
「だが、湯冷めをすると良くない」
 温泉卵を売る露店へと行く最中、五劫は彼女が身体を冷やしてはいけないと感じた。自分の襟巻きを渡してくれた彼の優しさに微笑み、マリスはその好意を受け取る。
 紅い橋、その傍に美しく咲き誇る桜。
 歩く街並みは心地良い。
 そうして、購入した温泉卵を味わうマリスははっとして瞠目する。美味だと話した彼女に倣い、五劫も一口で温泉卵を頬張った。
「良い湯に絶景、土地の味。つい、仕事であると忘れそうになるな」
「これが本当の休暇なら良かったのですが……」
 そう語りながら、二人は近くに見えた甘味処を目指していく。甘酒があると嬉しいですね、と話したマリスはふと俯いた。
 お酒から連想され、思い返すのは正月のこと。どうかしたのかと五劫が視線を向けると彼女は申し訳無さそうに口をひらく。
「……先日は迷惑をかけました。ごめんなさい」
 したたかに酔って醜態を晒したこと。最近は気付けば寂寥と孤独に囚われており、ああいったことになってしまう。
 理由はわかっている。けれど、どうすれば良いのかわからなくて――。
「……構わんよ」
 五劫は首を横に振る。あの日は常とは違う様子の彼女に驚いたが、その理由を無理に問うことはしない。それでも、何時かの己の言葉は曲げないと決めていた。
「風除けくらいにはなってやると、言ったろう?」
「ありがとうございます……」
 そんな言葉を掛けてくれる彼につい甘えてしまう。甘味茶屋の椅子に腰を下ろしたマリスは感謝の気持ちを覚え、五劫に問いかけてみる。
「五劫にとって幸せとはどういうことだと思いますか?」
「む、俺にとって? なかなか言葉に現すのが難しいな」
 五劫は甘酒と温泉饅頭を頼みながら、少し考えてみた。答えを待っているらしいマリスに視線を向けた彼は湯呑に茶を注いでやる。
 花の景色。
 同志と過ごすひととき。其処に感じていることこそ、幸せだと思えた。
「そうだな……今こうしている最中も、俺は幸せだと思うが」
「今このとき、ですか?」
「ああ、穏やかな時間だ。それが束の間だとしてもな」
 五劫の言葉にマリスは眸を細める。
 そうして二人のもとに運ばれてきた温泉饅頭と甘酒。それに舌鼓を打ったマリスは、何となく彼の言いたいことを理解した。
「これも幸せの形でしょうか」
 視線を幻朧桜に向けたマリスは五劫のあたたかさに礼を告げ、桜を振り仰ぐ。
 ――散らずとも桜は美しい。
 五劫も桜を見上げ、はらりと落つる薄紅色に目を止めた。
「……時は、巡り続けているんだな」
 静かに落とした言の葉は何処に向けられた思いなのか。それを問いかけることはせず、マリスは今の心地を楽しむことにした。
 本当の幸せはまだ少し遠い。
 けれど――此処にある幸福もきっと、嘘などではないはずなのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウレリア・ウィスタリア
紫雲英橋
この橋を一緒に渡りたい人
それが今の私にはいる
ただ生きていただけのボクがやっと見つけた
私が前に進むための希望

彼を思うだけで……

うん、彼はちょっとナマイキですからね
もうちょっとやわらかくなってくれると良いのですけど
弟なのか兄なのか未だに曖昧ですし

私の本当の家族
双子の片割れ
文句を言いたいこともあるけれど
共にあるだけで心が安らぐ人

ここはとても綺麗な場所ですね
次は私だけではなく彼、ルフトゥも誘ってみましょう

橋を渡り歌を奏でましょう
彼に届けと、みんなに伝われと
私の中にある親愛を奏でましょう

……でも、こんな素敵な場所でこのあと事件が起きる
そう予知されているのですよね
ボク自身、どう動くか早く決めないと



●きみに安寧の歌を
 紫雲英橋。
 やすらぎの異名を持つ橋の前で、アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)は桜が舞う景色を見つめていた。
 安らげる日々を思いながらこの橋を一緒に渡りたい人。
 それが、今の自分にはいる。
 ただ生きていただけの『ボク』がやっと見つけた、『私』が前に進むための希望。
 彼を思うだけで――。
 不意に過った考えに続き、アウレリアは首を横に振る。裡に浮かんだのは微笑ましいような、少し困った感慨。
「うん、彼はちょっとナマイキですからね」
 口許に指先を添え、アウレリアは静かに口端を緩めた。弟なのか兄なのか未だに曖昧だが、彼を思うと心があたたかくなる。
「もうちょっとやわらかくなってくれると良いのですけど」
 そんな言葉を零したアウレリアは橋の方に歩みを進めていった。
 彼は本当の家族。
 双子の片割れ。
 文句を言いたいこともあるけれど、共にあるだけで心が安らぐ人。だから一緒に、と思う気持ちは確かなものだ。
 風に舞った桜の花がアウレリアの傍を翔けてゆく。
 花弁を目で追うと、やわらかな湯けむりが立ち昇っていく光景が見えた。
 ここはとても綺麗な場所だ。
「次は私だけではなく彼、ルフトゥも誘ってみましょう」
 淡く微笑んだアウレリアは紫雲英橋を渡る。弧を描くだ橋、その中央で立ち止まる。紅い欄干に軽く身体を預けて景色を堪能した後、彼女は花唇をひらいた。
 奏でるのは歌。
 ――彼に届け。みんなに伝われ。
 親愛の心が巡るこの橋の上で、自分の中にある感情を謳いあげよう。響く聲は穏やかで、やさしく花影の郷にゆっくりと廻っていった。
(……でも、こんな素敵な場所でこのあと事件が起きる)
 この平穏が乱されるのならば、己の力を揮うときが来るということだ。僅かで幽かではあるが、事件の気配が漂い始めていることを感じる。
「ボク自身、どう動くか早く決めないと」
 果たしてこの先、どのようなことが起きるのか。
 想像を巡らせたアウレリアは幻朧桜を眺め、静かな決意を抱いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

永倉・祝
鈴白くん(f24103)と。
殺人事件を装う…二人でなら幅も広がりそうですね。
おっと今はまず『温泉郷』を楽しみましょうか。
縁が深まる橋ですか。
鈴白くんとの縁が深まるのは僕としても好ましいですし。
さて、どの橋を渡りましょう?

『紫雲英橋』は友愛
『曼珠沙華橋』これからも共に
このあたりですかね?

え?『緋桐橋』ですか?構いませんが…鈴白くんは僕と結ばれたいと?
(しばらく困惑したあとくすりと笑って)
ふふ、鈴白くんは変わってますね。
僕なんかと結ばれたいなんて…構いませんよ渡りましょうか。
僕も君となら…いいえなんでもありません。


鈴白・秋人
永倉さん(f22940)と

まぁ!
わたくしをまた連れ出して下さるの?

今日は温泉街巡りですのね?

(立ち昇る湯煙を楽しげに見てから)

…後でわたくし達も、お湯を頂きに参りましょう?

約束…でしてよ?

(小冊子を見つめ、それぞれの橋の意味を確認し)

ここは『緋桐橋』一択ですわね。

さぁ、参りましょう?

あら…
永倉さんはわたくしとは嫌でしたの…?

わたくしは手っきりそう思っておりましたのに。

それとも意地悪なさっているのかしら?

(変人扱いに)
まぁ!
貴女こそ。

だって、わたくしに何かと良くして下さるんですもの。

心惹かれるに決まっています。

わたくしは強欲ですから、好んだ方の全てを等しく欲しくなってしまうの。

いけない事かしら?



●緋桐の縁
 この温泉郷で起こるのは凄惨な殺人事件。
 今は未だ穏やかな温泉街の景色を眺め、永倉・祝(多重人格者の文豪・f22940)ははしゃぐ鈴白・秋人(とうの経ったオトコの娘・f24103)に視線を向ける。
「今日は温泉街巡りですのね!」
「殺人事件を装う……二人でなら幅も広がりそうですね。おっと、今はまず温泉郷を楽しみましょうか」
「後でわたくし達も、お湯を頂きに参りましょう? 約束……でしてよ?」
 祝の言葉に秋人は頷き、立ち昇る湯煙を楽しげに見つめた。
 混浴の露天風呂もあると聞けば期待も高まるというもの。されど、ひとまず今はこの温泉街を見て回る方が先だ。
 ふたりはこの場所の名物だという五つの橋に興味を向けていた。
「縁が深まる橋ですか」
「たくさんの謂れがあるのですね。素敵ですわ」
 祝にとって秋人と縁が紡げるのならば好ましいことだ。秋人も感嘆の溜息をついて浪漫のある橋を思う。
「さて、どの橋を渡りましょう?」
 紫雲英橋は友愛。曼珠沙華橋は、これからも共にという思いが深まるという。
 このあたりでしょうか、と祝は秋人に問おうとする。しかし秋人はそのふたつとは逆方向に歩いていっていた。
「ここは緋桐橋一択ですわね」
「え?」
「さぁ、参りましょう?」
「緋桐橋、ですか? ……鈴白くんは僕と結ばれたいと?」
 迷いなく自分を誘う秋人の言葉にきょとんとした祝はしばし困惑した。けれどもすぐにくすりと笑う。
 その様子に秋人は首を傾げた。
「あら、永倉さんはわたくしとは嫌でしたの? わたくしはてっきりそう思っておりましたのに。それとも意地悪なさっているのかしら?」
「ふふ、鈴白くんは変わってますね」
 秋人は首を振り、もちろん構わないのだと答えた。
 僕なんかと結ばれたいなんて――そんな思いが浮かんだが、秋人が望んでくれているのならば断る理由などひとつもない。
 半ば変人扱いされたのだと気が付いた秋人は軽く頬を膨らませた。
「まぁ! けれど、貴女こそ変わっていますわ」
 何故なら祝は自分に何かと良くしてくれる。頬を引っ叩いても、行き違いがあったとしても、祝はちゃんと秋人に言葉と思いを向けてくれる。
 それゆえに心惹かれるに決まっている。
 ふふっと笑った秋人は祝に抱くこの想いを大切にしたいと思っていた。
 それに――。
「わたくしは強欲ですから、好んだ方の全てを等しく欲しくなってしまうの。いけない事かしら?」
 不敵に、されど美しく強かに告げた秋人は本気の眸をしていた。
 そんな秋人に好ましさを覚えているのは祝も同じ。望み望まれ、二人は此処に立っている。それはとても喜ばしいことだ。
「では、行きましょうか」
「ええ! 結ばれる縁を存分に想いましょう」
 意気揚々と楽しげに紅の橋へ歩を進める秋人の隣に、祝も並び立つ。弧を描く緋桐橋の中央からは幻朧桜が風に揺れる様が綺麗に見えた。
 祝は二人で共に見る景色を胸に焼き付けるように、幾度か眸を瞬く。
「僕も君となら……」
「あら。永倉さん、何か言いました?」
 景色に夢中になっていた秋人は隣の祝に振り返り、問いかけた。元より独り言めいた言葉だったので祝は穏やかな視線を向け返しながら答える。
「いいえ、なんでもありません」
 互いの想いは別々だろうけれど、きっと根本は似ているはず。
 それでも今はこの言葉の続きを紡ぐことは止めておこう。そう決めた。この温泉郷を楽しみ満喫する。
 それこそが、ふたりの縁を更に深めることに繋がるのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻華

一華の手をとり桜舞う温泉街を散策
誘七の新年会お疲れ様
小言三昧で失礼な連中よ
こんな小さい子をいじめるなんて
(家にいない私のせいなんだけれど

食べて飲んで温泉でスッキリするわよ
桜温泉饅頭に桜温泉玉子に
どんどん食べて大きくなって
反抗する姿も愛しい

…私の幸せはこの子が実家にいるから成り立っている

兄貴

呼ばれる度に嬉しさと切なさと罪悪感が蠢く
(本当は父と呼ばれたいなんて
願ってはいけない
一華の母を喰い殺した私にそんな資格ない

…ごめんね
ん?次は何食べる?
なんて誤魔化して
噫、情けない

あら、橋?競走する?
なんて素直じゃない「弟」を撫で

例えフリでも死んだあなたなんて見たくないと思うわ
…そうね
一華は私が守るもの


誘七・一華
🌺櫻華

見上げる先には満開な笑顔の兄貴
かっこいい
ずるい

新年の親族会は毎度ながら最悪だ
俺は
純血の龍の一族の中にあって龍じゃないから
母様の子ではない
それだけで周りの目が痛くて重くて苦しい
けれど突然兄貴が帰ってきて
空気が変わって
思い知る
―求められてるのは誘七櫻宵だって

仕方ないだろ!煩い!チビじゃねえし
素直になれなくて温泉饅頭を口に詰め込む
温泉玉子もラムネも饅頭も美味い
初めての温泉街は楽しい
温泉も楽しみだ
木刀も買って貰って実は嬉しい

兄貴だけがこうして俺に接してくれる
たまにしか帰ってこない癖に

どうした?
腹一杯だ
…あれ。橋渡りたい
…姫射干橋
競走?負けないからな!
撫でるな!

死んだフリだろ
そう簡単に死なねぇよ



●憧れは近くて遠く
 桜が舞う温泉郷でふたり、手を繋いで歩く。
 誘七・一華(牡丹一華・f13339)は自分の手を引いてくれる誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)を見上げる。その視線に気が付いた櫻宵はどうしたのかと彼を見下ろした。
 かっこいい。
 そして、ずるい。桜のように満開な笑顔は綺麗だ。
「誘七の新年会お疲れ様」
「……最悪だった」
 この時期にある新年の親族会は毎度ながら息苦しい。其処で語られるのは主に家のこと。家名に傷をつけぬようにと釘を刺され、様々な小言を言われるのが常だ。
 特に、と一華は自らの存在を思う。
 自分は純血の龍の一族の中にあって龍ではない。
 母様の子ではない。それだけで周りの目が痛くて重くて苦しかった。
 けれど突然、兄貴――櫻宵が帰ってきて空気が変わって思い知る。求められているの自分ではなく、誘七櫻宵だということが。
 一華が複雑な思いを抱く中、櫻宵はよしよしと慰める。
「あんなの小言三昧で失礼な連中よ」
 こんな小さい子をいじめるなんて。そのように親族達を思った櫻宵だが、一華が苦労している理由が自分にあるとも分かっている。
(家にいない私のせいなんだけれど……)
 自分の幸せはこの子が実家にいるから成り立っている。
 愛しい人魚と自由に世界を巡ることが出来るのも、彼の犠牲があるからこそ。しかしそれを此処で敢えて言葉に出さない櫻宵は強かだ。
「……兄貴? どうした?」
 櫻宵が一瞬だけ考え込んだように思えたゆえに、一華は不思議そうな顔をする。
 兄貴。
 そう呼ばれる度に嬉しさと切なさと、罪悪感が蠢く。
 本当は父と呼ばれたいなんて願ってはいけない。一華の母を喰い殺した自分にそんな資格はないのだと分かっていた。
「いいえ、何でもないのよ。……ごめんね。それよりも今は食べて飲んで温泉でスッキリするわよ」
 示した先には賑わう商店街。
 其処には桜温泉饅頭や温泉玉子に、桜煎餅だってある。
「一華はまだ小さいもの。どんどん食べて大きくなるのよ」
「仕方ないだろ! 煩い! 別にチビじゃねえし!」
 櫻宵の何気ない言葉にも思わず反抗してしまう一華。その姿も愛しく思え、櫻宵の口許に更なる笑みが宿る。
 一華自身も素直になれず、櫻宵に買って貰った温泉饅頭を口に詰め込む。
 温泉玉子にラムネ、饅頭も何もかもが美味しい。それはきっとこういった場所に初めて来たという理由と、隣に櫻宵がいるからでもある。
 後から一緒に行くことに決めた温泉も楽しみだし、露天で売っていた木刀を買って貰えたことだってとても嬉しい。
(やさしくて、穏やかで……兄貴だけがこうして俺に接してくれる)
 ――たまにしか帰ってこない癖に。
 そんな思いを抱いた一華は俯く。彼の思いを何となく察せるがゆえに櫻宵もつい何でも買ってやりたくなる。それが本当に向き合わなければならぬことの裏返しだとしても、二人は今を楽しもうとしていた。
「ん? 次は何食べる?」
 そう誤魔化してしまう自分が情けない。櫻宵は未だ言葉にできぬ思いを胸中に仕舞い込む。対する一華はふるふると首を横に振って、向かう先を指で示した。
「腹一杯だ。でも……あれ。橋渡りたい」
 姫射干橋。
 あこがれ橋という異名を持つ橋を見つめる一華に微笑みを返し、櫻宵は理解する。噫、この子はそういった感情を抱いてくれているのだと。
「あら、橋? 競走する?」
 冗談めかしながら櫻宵は素直ではない『弟』を撫でる。
「競走? って撫でるな!」
「ふふ、いいじゃない。さあさあ、勝負の始まりよ」
「それじゃいくぞ。負けないからな!」
 そういって駆け出す二人。
 結局は本気を出した櫻宵の勝ち。息を切らして木刀を支えにしている一華は悔しがったが、これもまた勝負だと分かっていたので文句は言わなかった。
 紅い橋に辿り着いた彼らは欄干に寄り掛かり、暫し幻朧桜の景色を眺める。
 思うのはこれから起こる殺人事件のこと。
「私ね、例えフリでも死んだあなたなんて見たくないと思うわ」
 何処か寂しげに語った櫻宵に一華は小首を傾げた。何てことない、と告げるように胸を張る少年は軽く笑む。
「死んだフリだろ。そう簡単に死なねぇよ」
「……そうね。一華は私が守るもの」
 しかし、櫻宵はただ神妙に頷くだけ。その理由がよく解らぬまま一華はひらひらと舞う桜の花を振り仰いだ。
 兄貴みたいに綺麗だ。そんなことを思いながら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナイ・デス
ソラ(f05892)と
武装はソラのバックパックの中へぽーい。浴衣姿

ソラ、私達は今回、事件起きれば怯える、ただの観光客、というの、忘れないように、ですよ?
ん。罠にかかる役は、私です
ソラがかかりはしないよう、気は緩めない、です……!
と。では、観光客として。温泉街、楽しみましょう
美味しいアイスは、あるか、にゃー♪

渡る橋は「曼珠沙華橋」
これからも、一緒に冒険、できますように、です
……にゃ?ソラ、もう一度渡ったら、引き返す道、ですよ……?
忘れ物しました?ぎゅー?と。抱き着かれて、よくわからないまま抱きしめ返して
よたよた、ゆらゆら、一緒になって


ソラスティベル・グラスラン
ナイくん(f05727)と

むふ、むふふふー!役得です!
事件が起きるとはいえ、こーんな素敵な温泉宿に来られるなんて!

勇者としての旅や冒険でも滅多ない行楽に浮かれ顔
浴衣姿でくるくる回り、心は今にも走り出してしまいそう!

おとと、事件のことは秘密なのでしたっ。
うっかり気を緩めたり口を滑らせてはダメですよ、ナイくん!

温泉街に立ち上る湯気!はやく温泉に入りたいですっ
旅館を出て曼珠沙華の名を持つ橋を渡り切り、ふと橋の謂れを思い出す
……ナイくん、もう一度この橋を渡りませんか?
うふふ!いいからいいから!ほーらナイくん、ぎゅー!

歩きづらくてもナイくんに抱き着いて
よたよた、ゆらゆら、それでも笑顔で『よりそって』



●寄り添う想い
 渓谷の奥、黒い大橋を通った向こう側。
 花影温泉と呼ばれる郷に着いた少女達は今、街の景色を眺めていた。
「むふ、むふふふー! 役得です!」
 桜と湯煙が織り成す幻想的な雰囲気の郷でソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は嬉しげに頬を緩める。
 穏やかな空気が満ちる桜の街。
 事件が起きるとはいえ、こんな素敵な温泉街に来られるなんて。
 勇者としての旅や冒険でも滅多ない行楽。浮かれ顔でくるくるまわるソラスティベルの心は今にも走り出してしまいそうだ。
 そんな風に喜ぶ彼女の傍でナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)はそっと、小声で注意を告げる。
「ソラ、私達は今回、事件が起きれば怯える、ただの観光客、というの、忘れないように、ですよ?」
「おとと、事件のことは秘密なのでしたっ」
 はっとしたソラスティベルは口許を押さえる。ナイはこくりと頷いて、声を潜めたままひそひそと語っていく。
「ん。罠にかかる役は、私です」
「うっかり気を緩めたり口を滑らせてはダメですよ、ナイくん!」
「ソラがかかりはしないよう、気は緩めない、です……!」
 そういって気を引き締める二人。
 けれども今日はナイの武装も旅館に置いてきたソラスティベルのバックパックの中。二人はこの地の雰囲気にぴったり合う浴衣姿で街に訪れていた。
 此処からはもう完全なる観光客として過ごす時間だ。
「美味しいアイスは、あるか、にゃー♪」
「温泉街に立ち上る湯気! はやく温泉に入りたいですっ」
 気は緩めないが口調は大いに緩め、ナイとソラスティベルは共に歩き出す。
 人々で賑わう温泉郷。
 温泉饅頭を売る露店に、様々な人が浸かる足湯。
 穏やかな水路に浮かぶ桜の花弁。
 景色や雰囲気を楽しむ二人が通ったのは、この郷にある五つの橋のうちのひとつ。
 曼珠沙華橋。
 紅く塗られた印象的な橋に似合いの花の名を冠するところだ。
 よりそい橋とも呼ばれているこの橋の謂れをふと思い出したソラスティベルは、自然に口元が緩むことを感じていた。
「ふふふー」
「これからも、一緒に冒険、できますように、です」
 ソラスティベルの嬉しそうな声を聞き、ナイも謂れを思い返してゆく。
 そうして、橋を渡り終わったとき。
 ナイの浴衣の袖を軽く引っ張ったソラスティベルは、待ってくださいと伝えた。
「ソラ?」
「ナイくん、もう一度この橋を渡りませんか?」
「……にゃ?」
 彼女からの提案にナイは不思議そうな声をあげた。どうして今しがた通ったばかりのところを戻るのか、すぐに理由が思いつかなかったからだ。
「もう一度渡ったら、引き返す道、ですよ……?」
「うふふ! いいからいいから!」
「忘れ物しました?」
「ほーらナイくん、ぎゅー!」
 ナイの様子に更に笑みを深めたソラスティベルはその腕にぎゅっと抱き着く。きょとんとしたナイだったが、よくわからないまま抱きしめ返してみる。
 ソラスティベルはそのままくるりと振り返り、もと来た道を辿っていった。
「行きましょう!」
 よたよた、ゆらゆら。少しくらい歩き辛くたって構わない。
 だって、この橋はよりそい橋。
 笑顔で寄り添っていけば、きっと――これからもずっと共に歩めるはず。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラピタ・カンパネルラ
狩人(カロンf19359)と

無茶。うん、したかも。
湯も、食べ物も、花もあるなんて贅沢だ。どこまで見えるかな。楽しみ。

花弁が髪に付いてくるのを感じる。
風に舞う涙みたいに咲く、春の花なんだね。さぞ寂しがりの花だろう。沢山付いてくるといいよ、僕にも、勿論カロンにも。
ね、僕とさくらの花束になってよカロン。
そのままやすらぎ橋を渡ろうよ。
彼岸花は、あの世の花なんだろ
まだ向こう側に渡るには早いもの

ーー僕、足湯、が気になってて
是非……是非浸かりたくて……
あと、温泉卵は、
お湯に産み落とされる卵なのかな
そう、お湯の卵なら、お湯に感謝しないと。
気になるものが多くてはしたないかな
一緒に識ってくれると信じていいかい
そわ


大紋・狩人
ラピタと(f19451)
(人のことは言えないが)
きみ、無茶してるだろ? やっぱり。
満喫も仕事。湯と美味しいもの、花を楽しもう。

寒い季節なのに、春の園だ。
ラピタはどの橋を?
曼珠沙華も紫雲英もあってほしいが……
あれが桜?
佳い夢みたいに香って、樹からひら落ちるのは灰や火の粉のよう。
(花弁を二人の髪から取ろうとして)
涙か。なら名案だ。花束二つ、紫雲英に添えよう。
さびしがりも泣き止むさ。
あの世……うん、まだ。ここに。
きみも、あまり怪我しないように。

いいね、僕もくたくたの足を湯で温めたい。
(真剣)僕らの世界のキャベツ畑のように、
温泉が産む可能性もあるものな。
はしたなくないよ。
知りたい未知を、一緒に挑もう。



●花の涙
 長閑で平穏、そして華やかな世界。
 風を受けて揺れる幻朧桜は純粋に美しいと思えた。桜花が舞う景色を目にしながらふと覚えたのは静かな感慨。
「きみ、無茶してるだろ? やっぱり」
 人々が行き交う温泉郷の一角、大紋・狩人(遺灰かぶり・f19359)は並んで歩くラピタ・カンパネルラ(ランプ・f19451)に呼び掛けた。
 人のことは言えないが、という言葉は押し込め、狩人はラピタをそっと見下ろす。
「無茶。うん、したかも」
 ラピタは軽く彼を振り仰ぎ、素直に頷いた。
 それならばと狩人は先を示す。身体に、もしかすれば心にも無茶をさせているならこの場所は良い休息場所になるはずだ。
「満喫も仕事。湯と美味しいもの、花を楽しもう」
「湯も、食べ物も、花もあるなんて贅沢だ。どこまで見えるかな」
 楽しみ、と口にしたラピタは賑やかな通りを避けて歩き出した狩人の後についていく。人々が多く行き交う通りも良いが、ゆっくりとこの郷を楽しむのならば少しばかり外れた場所も悪くはない。
 二人が歩いていくのは桜並木の路。
 やや遠回りではあるが、この街の名所でもある紅橋へと続く道筋だ。
「あれが桜? 寒い季節なのに、春の園だ」
 狩人は冷たい風の中に咲く花の彩を眺める。佳い夢みたいに香って、樹からひら落ちるのは灰や火の粉のようだと思えた。
 そうして歩いていると、ひらりと舞った花弁が髪に付いてくる。
「風に舞う涙みたいに咲く、春の花なんだね」
 ラピタはひとひらの花を手に取り、さぞ寂しがりの花だろうと感じる。
 沢山付いてくるといいよ。
 僕にも――勿論、カロンにも。
 そっと花に呼び掛けたラピタは桜を纏う狩人と共にみちゆきを辿る。狩人も花弁を手に取りながら、二人で歩く心地を確かめた。
 その最中、狩人は彼女に問う。
「ラピタはどの橋を?」
 曼珠沙華に紫雲英、どちらも良い意味合いだと話す彼にラピタは眼差しを向ける。桜と狩人。ふたつの彩が入り交じる雰囲気は何だか快い。
「ね、僕とさくらの花束になってよカロン。そのままやすらぎ橋を渡ろうよ」
 曼珠沙華もいいけれど、彼岸花はあの世の花。
 まだ向こう側に渡るには早いから、と話したラピタは紫雲英がある方向を示した。
「名案だ。花束二つ、紫雲英に添えよう」
 狩人は頷く。
 それならきっと涙のように花弁を散らす、寂しがりの花も泣き止む。
 あの世に導かれるのは今ではない。
 ――だから、まだ。ここに。
 きみもあまり怪我しないようにと静かに願い、狩人はラピタと共に橋を渡った。
 やすらぎ。その思いがここから巡っていくように、と思いながら――。
 それから二人は橋の上から見えた足湯に向かってゆく。実は、と語りだしたラピタは此処に来たときからずっとあの湯が気になっていたのだという。
「是非……是非浸かりたくて……足湯に行ってもいい?」
「いいね、僕もくたくたの足を湯で温めたい」
 思えば二人で随分と歩き回った気がする。狩人は行こうと告げてラピタをいざなう。其処に、或るのぼりが見えた。
 温泉卵有リマス。そう記された旗を見たラピタはふと呟く。
「……温泉卵は、お湯に産み落とされる卵なのかな」
「僕らの世界のキャベツ畑のように、温泉が産む可能性もあるものな」
 対する狩人は真剣に答えた。
 此処に突っ込む者はいない。彼らなりに大真面目だ。
「そう、お湯が産む卵なら、そのお湯に感謝しないと。けれど……気になるものが多くてはしたないかな」
 軽く俯いたラピタに狩人は首を横に振る。
「はしたなくないよ」
「じゃあ、一緒に識ってくれると信じていいかい」
「知りたい未知を、一緒に挑もう」
 そわりとしたラピタが顔をあげると、狩人は瞳をやわらかに細めて頷いた。
 そして、それから暫し後。
 湯に向かった二人が温泉卵の真実を知ることになるのは、また少し別の話。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セロ・アルコイリス
藍ちゃんくん(f01052)と!

ふたりで温泉街ぶらり旅なんて楽しみです
藍ちゃんくんに合わせて浴衣で…あ、おれは男もので
ぴすぴす(だぶるぴーす)は挨拶みたいなモン
へへ、ぴすぴす!

藍ちゃんくん藍ちゃんくん、橋!
橋渡りましょ、姫射干橋
藍ちゃんくんはおれの自慢の弟分で居てくれてますけど
おれにとっちゃいつまで経ってもアコガレの存在です
色んな世界の衣装や文化に対して敬意を払うトコ
口にするかどうかは雰囲気に任せますけどね!

そのあとは折角だし足湯ですかね
浴衣脱いじまうの勿体ねーし
あー、こう、びびびびっ、ってあったまりますね
藍ちゃんくんの歌はしばらく聴いて
慣れたら無意識になぞっちまうかも


紫・藍
セロのおにーさん(f06061)と温泉旅行!
浴衣はコンテストで着たお気に入りのを!
大はしゃぎなおにーさんにもちろんついてくのでっす!
あややや、おにーさんから熱い視線を感じ照れてしまうもぴすぴすは忘れないのです!

普段からおにーさんにすげえと言ってもらってるのですが!
とっかえひっかえしていた一人称がすっかり藍ちゃんくんで定まった程におにーさんの影響はおっきいのですよー?
おにーさんの弟分な藍ちゃんくんがとっても大好きな藍ちゃんくんなのでっす!

足湯ですかー!
浴衣のまま楽しめるのは素敵なのでっす!
びびびびっ、とはまさしく!
うきうきぽかぽかで思わず鼻歌を歌っちゃうのです!
おにーさんとデュエットかもです!



●重なる歌
 ふたりで紡ぐ、温泉街のぶらり旅。
 渓谷を越えた向こう側に広がる湯けむりと幻朧桜の郷。其処はあたたかな穏やかさと賑やかさが共存する場所だ。
 セロ・アルコイリス(花盗人・f06061)と紫・藍(覇戒へと至れ、愚か姫・f01052)はこの街の雰囲気に相応しい浴衣に身を包み、旅館近くの商店街を歩く。
「藍ちゃんくん、あれを見てください」
 落ち着いた紺色の着流しを纏うセロが指差したのは店先で蒸されている温泉饅頭。ふわふわと湯気が立つ風景は見ているだけでも楽しい。
「あっちも面白そうです!」
 わあ、と声をあげた藍が着るのは深紫に桜柄の浴衣。金魚めいた帯を留めた姿は印象的だ。そんな藍が示すのはたくさんのお土産が並ぶ店だ。
 木刀に提灯、ペナント。
 お腹を押すと変な声をあげる謎の生き物のぬいぐるみ。
「確かに面白いですね。これ、何の動物かわからねーですけど」
「おにーさん、じゃーん!」
 どうやら彼なりにはしゃいでいる様子のセロの傍ら、藍は木刀を構えてみる。よく似合うと感じたセロからの視線を感じ、藍は思わず照れてしまった。
 しかし藍はすぐに笑みを浮かべ、木刀を腰に挿してピースサインを作る。
「ぴすぴす!」
「へへ、ぴすぴす!」
 挨拶のような賑わしい仕草を交わし、二人は次の場所へと歩を進めていった。
 この温泉郷には五つの橋がある。
 その謂れは様々であり、訪れたものは皆それぞれに好きな橋に向かうという。セロは前方に見えてきた水路と橋を見つめ、藍を呼ぶ。
「藍ちゃんくん藍ちゃんくん、橋!」
「ほんとです。あれは確か、姫射干橋ですかー?」
「さっそく渡りましょ」
 目の前に架かる橋の異名は、あこがれ橋。
 その名の通り、憧れを抱く人と渡ると縁が深まるというもの。藍の言葉に頷いたセロは彼を先導するように手招きをした。
 藍は快い気持ちを覚え、もちろん、と答えて其処に続く。
 普段からセロとは好い時間を過ごして貰っていた。とっかえひっかえしていた一人称がすっかり藍ちゃんくんで定まった程に彼の影響は大きい。
 おにーさんの弟分な藍ちゃんくん。
 その関係と現状がとても大好きだ。そう感じている藍と同じく、セロもまた彼のことを自慢の弟分だと思っていた。
 弟分ではあれど、藍はセロにとっていつまで経ってもアコガレの存在。
 様々な世界の衣装や文化に対して敬意を払うところ。
 すごいと率直に告げてくれるところ。
 それぞれに抱く感情は言葉にせずとも互いに纏う雰囲気でわかった。一緒にいることが心地好いと思えることが尊い。
 橋を渡る最中、二人は紅い欄干に軽く身を預ける。
 凭れ掛かりながらふと見つけたのは近くから立ち昇る湯けむりだ。足湯があるのだと知ったセロは、これから行きたい場所を指差した。
「折角だし次は足湯ですかね。浴衣脱いじまうの勿体ねーし」
「足湯ですかー! 浴衣のまま楽しめるのは素敵なのでっす!」
 藍もそれがいいと同意を示し、彼らは橋を渡った先を目指していく。揺らぐ湯気に混じって桜の花がはらはらと舞っていた。
 下駄を脱ぎ、腰を下ろして湯に足先を浸す。そうすれば確かな熱が肌に伝わってきた。
「あー、こう、びびびびっ、ってあったまりますね」
「びびびびっ、とはまさしく!」
 並んで座る二人は手軽に味わえる極楽気分を堪能する。
 うきうき。ぽかぽか。
 気分が良くなった藍は思わず鼻歌を歌いはじめる。この温泉郷によく合う穏やかながらも楽しげな歌を暫し聞き、セロはそっと双眸を緩めた。
 いつしか彼も藍に合わせ、無意識に歌っていく。
 重なる声。ゆったりと交差する視線。
 そうして暫し、平穏なデュエットのひとときが巡っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷室・雪
こういった場所でのすごし方というのはよく分からないのだが、これも一つの勉強と考えよう

親しくしたいという人がいないわけではないので、橋のご利益が気にはなるところではあるが……
私と縁が深まっても迷惑ではないかという気持ちと、一人だと気恥ずかしさがあるので、遠くから様子を伺って引き返すのが精一杯だな

あとは温泉なのだが、人前で入浴に抵抗があるので遠慮しておくか
過去に一度、体質と合わなかったのか酷く具合が悪くなった経験もあるので、いざというときのためにもな
とはいえ、せっかくの温泉なのだから景色とともに足湯ぐらいは堪能しておこう
すぐ赤くなるのを失念して、湯に浸かった部分が真っ赤になって後悔するのだが



●穏やかな時間
 温泉街で過ごすひととき。
 聞くところによれば暫くは此処でゆっくり過ごしていいらしい。氷室・雪(静寂の氷刃・f05740)は旅館に荷物を置いてから、旅館着――藤色の浴衣に着替えていた。
 その浴衣は街を散策するに相応しく、風情のある格好だ。
 しかし、雪には自由な時間の使い方がいまいち分からない。
「満喫する、といってもな……」
 任務に赴く前に告げられた言葉を思い、雪は考え込む。
 周囲には楽しげに笑いあう人々が見えた。こういった場所でどのように過ごすか。それもまたひとつの勉強なのだろう。
 そう考えた雪はひとまず周辺を散策してみることにした。
 先ず踏み入ったのは商店街。
 店先で蒸される温泉饅頭に店頭に設置された網で焼かれている煎餅。
 そして、風に舞う幻朧桜の花弁。
 瞳に映る光景は賑やかであり、穏やかでもある。平穏そのものである景色は見ていて心地好いものだ。
 様々な店を見て回った雪は、次に五つの橋を巡ってみようと考えた。
 雪にも親しくしたいと思う人がいないわけではない。寧ろいる。そうなると橋のご利益が気にはなるところ。
 ――私と縁が深まっても迷惑ではないだろうか。
 そんな思いが浮かび、思わず雪は思わず俯く。その人を思うことすら申し訳なく思ってしまうのは生来の性質かもしれない。それに、一人で橋を渡るのも年頃の女子としては気恥ずかしいもの。
 橋には様々な人が通っていく。ああして誰かと一緒に来られることは幸せなのかもしれないと考え、雪は遠くから様子を窺うだけに留めた。
 幽かな名残惜しさを感じながら、雪はそっと引き返していく。今はそれが精一杯。けれども雪はこの平穏が心地好いものだと思い、歩を進めていく。
 其処に見えてきたのは温泉。
 大いに楽しむのならば其処に行くべきだが、人前で入浴することは更に恥ずかしい。
 いざというときのためにも、と踵を返そうとしたが雪はふと思い立つ。
「とはいえ、せっかくの温泉なのだから足湯ぐらいなら――」
 それくらいを堪能するならば大丈夫だろう。
 そう考えて下駄を脱ぎ、皆が足を浸す湯に入った雪。しかし、その名の通りに雪めいた白肌が湯で赤くなるのを失念してしまっていた。
 真っ赤になった爪先を擦り、少しだけ後悔する雪。
 そんなひっそりとした可愛らしい姿が見られるのは、もう少し後のことだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
恋や縁のご利益か…
まあ、それはともかく良い景色だな。
それに、どれも綺麗な名の橋だ。

ミヌレ(竜)と連れ景色を楽しみつつ、のんびり紫雲英橋を渡る。

折角温泉街に来たんだ、温泉饅頭や温泉卵も食してみたい。
この地の特産品などもあれば、お土産に何か探してみようか。

足湯にも浸かってみたいが…ミヌレは熱い湯は好きではないので、俺の膝の上で我慢してもらおうか。
しかし、湯の中(水中)だと俺の肌が(オパールなので)ギラつくため、あまり人気がない時に、だな。

のんびり観光気分で楽しめたら、と思う。



●揺らめく花影
 桜舞う景色の最中、ちらほらと紅い橋が見えた。
 洋館風に作られた旅館の周囲をぐるりと囲むように作られた水路に、等間隔で架けられている橋はどれも見事なものだ。
 欄干の端の装飾には櫻の花が掘られており、緩く弧を描く形も美しい。
 温泉郷に訪れたユヴェン・ポシェット(Boulder・f01669)は様々な謂れがある橋をミヌレと共に見て回ることにした。
「恋や縁のご利益か……」
 ユヴェンにも少しばかり縁を思うことがある。
 しかし、それはそれとして桜と紅が入り交じるこの景色はとても良いと感じた。
「どれも綺麗な名の橋だ。花の名前なんだな」
 緋桐、姫射干、曼珠沙華に紅手鞠、紫雲英。それぞれの花の名前を思い、ユヴェンはミヌレに視線を向ける。
 ぱたぱたと羽を羽ばたかせたミヌレはどうやら、商店街が気になっているようだ。
「ああ、いい香りがするな。行くか」
 ユヴェンはそのままの流れでミヌレと一緒にのんびりと紫雲英橋を渡り、温泉饅頭や温泉卵を売る店が並ぶ一角に向かう。
 この地の特産品などもあればお土産にしてみるのも良い。
 店先で蒸され、湯気を立てている温泉饅頭をひとつ購入したユヴェンはそれを半分に割り、ミヌレに分けてやる。
 ふわふわとした食感が気に入ったのか、ミヌレは嬉しそうに鳴いた。
「見ろ、ミヌレ。あっちは桜煎餅らしいな」
 ユヴェンはあれが名物かもしれないと考えて先に進んでいく。
 過ぎていくのは賑わしく穏やかな時間。
 紫雲英橋の近くに足湯を見つけたユヴェンはミヌレを誘い、興味の赴くままに足先を浸してみる。
「これは気持ち良いな」
 湯の心地良さは知っているが、此処は桜が水面に浮いているのが美しい。
 顔を上げれば風に舞っている桜花が見られるので良い気分になってくる。ミヌレは熱い湯が好きではないので、ユヴェンの膝の上にちょこんと座っている。
 湯気があたたかいからか、ミヌレはいつしか寝息を立てていた。
 澄んだ空気に花の湯。
 立ち昇る湯気は快い揺らぎを宿しており、ユヴェンもそっと目を閉じる。
 過ぎゆく時間はのんびりと。
 ゆらり、揺らめいた水面に浮かぶ花の彩は平穏を映していた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
クロバ(f10471)と

ひまわり咲く浴衣はみんなに選んでもらったもの
クロバが選んでくれたひまわりの帯飾りもばっちり

ほんとうだ、おんせんはいってないのにあったかいね

クロバはあついお湯はにがてって言ってた
ぬるいおんせんもあるかな?と考えながら

おんせんたまごっ
たべるっ
おまんじゅう、しろいのとくろいのがあるよ
なかみがちがうのかな?
どっちもくださーい
あったかいおまんじゅうはじめて
おいしいねっ
目に留まる食べ物の名前全部読み上げながら

しゅわしゅわ、はじめて?
きゅってなったクロバを覗き込んで笑い
橋を渡っていく
クロバとわたるなら紫雲英橋だって思った理由は花言葉

やさしく笑み浮かべるクロバにうれしくなって手を引いた


華折・黒羽
オズさん/f01136

温泉の湯煙のおかげでどこもあたたかいですね
浴衣にしてきて正解でした

夏に選んでもらった浴衣
黒地に縹染め、白桜の柄咲くそれは
夏だけ着るには勿体なく、せっかくだからと

オズさん、温泉たまごありました
あっちには饅頭も…いくつ食べます?
俺は沢山食べたい…

カランコロン
楽しげに下駄鳴らしながらやはり目に入るのは食べ物ばかり
己の食い意地は理解している
でも彼の前では気を遣う必要も隠す必要もないと
既に知っているからありのまま

渡るは紫雲英橋
教えてもらった花言葉思い浮かべ
片手持つ『サイダー』飲めば慣れぬ刺激にきゅっと眉根が寄る
そんなひとときに笑い合いながら

ああ、確かにあなたといると
『心が和らぐ』



●幸福の花
 湯けむりが揺らめく温泉街。
 並ぶのは向日葵が咲く市松柄と、黒地縹染めの白桜が咲く浴衣。
 オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)と華折・黒羽(掬折・f10471)はそれぞれの浴衣に身を包み、大いに温泉郷を満喫する気持ちを抱いていた。
「温泉の湯煙のおかげでどこもあたたかいですね」
「ほんとうだ、おんせんはいってないのにあったかいね」
 ふわりと微笑み、二人は辺りを見渡す。
 今日は黒羽が選んでくれた向日葵の帯飾りもあり、いつも以上に心が浮き立っているような気がした。黒羽も夏に選んでもらった浴衣がまた着られて嬉しいと感じており、そわそわとした感覚をおぼえている。
 カランコロンと楽しげに下駄鳴らしながら、共に進むみちゆきは楽しい。
 思えば、黒羽は熱い湯が苦手だといっていた。
 オズは周囲をきょろきょろと見回し、ぬるいおんせんもあるかな? と探してみる。きっと苦手なのは彼の四肢が猫めいているからだろう。そう考えると微笑ましく思え、オズはぱたぱたと駆けていく。
 街を思うままにゆるりと往く中、二人は賑わう商店街に差し掛かる。
「オズさん」
「どうしたの、クロバ」
 名前を呼ばれて振り返るオズが見たのは、店先に立っているのぼりを示す黒羽。
 やはり目に入るのは食べ物ばかり。その見た目にも興味をそそられるのだから、それもきっと致し方ない。
「温泉たまごがありました」
「おんせんたまごっ、たべるっ!」
「あっちには饅頭も……いくつ食べます?」
「えーとね、一個ずつ! おいしかったらまた食べよっ」
 ぱっと表情を輝かせたオズは此処から食べ歩きツアーが始まっていくのだと感じた。黒羽が「俺は沢山食べたい……」と呟いたことにも気が付き、くすりと笑む。
 ふわふわと立ち昇る湯気。
 蒸し器でふかされている温泉饅頭からは良い香りがした。
「おまんじゅう、しろいのとくろいのがあるよ。なかみがちがうのかな?」
 どっちもくださーい、とオズが手を上げると、すぐにふかふかのあたたかな饅頭が二人の手に渡された。
「胡麻とミルクだそうですね」
 黒羽は店の人にサアビスチケットを渡しながら、温泉卵も一緒に受け取る。
 己の食い意地は理解している。そして、彼もまたそれを許してくれていた。オズの前では気を遣う必要も隠す必要もないと分かっているゆえ、黒羽は遠慮などしない。
 ありのままを見せられる相手。
 そんな彼と過ごせることが嬉しくて、黒羽はまず胡麻饅頭を頬張った。
 対するオズはミルク饅頭。
「……おいしい」
「わあ、おいしいねっ」
 それぞれの味を確かめ、次は半分に割った互いの饅頭を交換こ。続けて賞味した温泉卵も独特の風味がして実に美味だった。
 オズは黒羽の腕を引き、あっちにもたくさんあるよ、と店々を指差す。
「桜餡パン、焼き立ておせんべいっ、もちもち羽二重団子っ」
「全部食べたい……」
 彼が目に留まる食べ物の名前を全部読みあげるものだから、黒羽の気持ちは揺れ動く。そんな中でオズが駆け出していき、飲み物が必要だと言ってサイダーを持ってきた。
 その間に黒羽はオズが言っていたものを買い込む。
 そうして食べ歩きを楽しみながら、二人が進んでいったのは――紫雲英橋。
 紫雲英の花。
 それはつまり蓮華草のこと。その花言葉は『あなたと一緒なら苦痛が和らぐ』『心が和らぐ』『私の幸福』など。
 本に載っていたのだと教えてくれたオズに頷き、黒羽も二人で渡るならばこの橋が良いと考えていた。
 穏やかな気分を感じつつ、黒羽は片手に持っていたサイダーを口にする。
 その瞬間。彼の眉根が、きゅっと寄った。
「……!」
「しゅわしゅわ、はじめて?」
「少し、驚きました」
 黒羽を覗き込んで笑ったオズは楽しげだ。そんなひとときに微笑みあい、黒羽は桜が舞う温泉郷の景色を見渡した。
 オズもやさしく笑みを浮かべてくれる彼と居る時間に心地良さを覚え、その手を引いた。いこうっ、といって進むのはまだ行ったことのない橋の向こう側。
 その先には何が待っているのか。考えるだけでわくわくが巡る。
 向日葵に白桜。そして、紫雲英。
 花が並ぶ様に双眸を細めた黒羽はオズの横顔を見つめ、やわらかく笑む。
 ――ああ、確かにあなたといると心が和らぐ。
 今、此処に宿る感情は掛け替えのないもの。そのことを改めて、湯けむりと花影が揺らぐこの地が教えてくれた気がした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷雫森・レイン
【竜雨】
空気に櫂を差す様に翅を動かして飛ぶ
ほんのりと鼻に届く温泉の香りは源泉からか自分からか
「…ねぇサモン、それ」
普段の顔馴染みなら扱き使うのに躊躇はしないわ
でも、貴方は敬愛の相手よ
「はぁ…どうあっても、というわけね」

そして目的の、私の服にも描かれた花の名を冠する橋
答える為息を吸い込みかけて、その前に示されるまま彼の腕に腰掛ける
「尊敬と憧れは、似ていると思うの」
姫射干
私の好きな花
貴方が導いてくれた依頼
あの日私を認めてくれた貴方の瞳は私と、姫射干と、同じ色で
だから呼んだ、けれど
「この橋の意味を知って尚一緒に渡りたいというのは大凡押し付けだわ」
「故に温泉と食べ物は帳尻合わせなのだけど」
足りるかしら


サモン・ザクラ
【竜雨】
空舞う小さき友を伴い
風情の路行く手には土産物屋の袋二つ

まだ気にしているのか、レイン?
友の小ささ、その力を侮るでもなく
男の俺が女に荷は持たせられまい
笑う路先、紅い橋を視界に捉え

色こそ紅くも『姫射干』か
あこがれ橋との呼名もそうだが、どういった由来であろうな

さてレイン
そろそろ俺を誘った理由を聞かせて貰えるか?

欄干に浅く腰掛け
あの日の様に差し出す左腕を右手の煙管でトンと叩く
意味する所は知っていよう
応じた友に緩く笑み

はは、成る程
道理でお前の袋には食べ物が多い
良かろう、馳走になるとしようか

レインの饅頭一つを二つに割り分け合い
共に橋渡った先で渡すとしよう
もう一つ提げた袋の中に潜む、今日の誘いへの感謝



●姫射干に憧れを
 水面に桜花の影が揺らめく。
 空に風と共に舞う桜。その最中――空気に櫂を差すように翅を羽ばたかせ、氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は先を往く。
 ほんのりと馨る湯の香。
 それは温泉郷に満ちる香りなのか、それとも先程に温泉に入ってきた自分からか。どちらでも心地好いものだと感じながらレインは後ろを振り返る。
「……ねぇサモン、それ」
 彼女に名を呼ばれ、サモン・ザクラ(常磐・f06057)は桜を見ていた視線を戻した。
 空舞うレインは自分の持つ土産物屋の袋が気に掛かっているようだ。
「まだ気にしているのか、レイン?」
 彼が持っている袋はふたつ。自分の分とレインの分だ。そうよ、と頷いたレインはサモンの傍らに飛んでいく。
 普段の顔馴染みなら扱き使うのに躊躇はしない。しかしレインにとってサモンは敬愛する相手。そんな彼に荷物持ちなどさせたくはないと思っていた。
 しかし、サモンは頭を振る。
 風情が満ちる路。
 此処は礼節に則って行動するのが良い、と彼は視線で語る。決して友の小ささを侮っているわけではない。つまりは、そう――。
「男の俺が女に荷は持たせられまい」
「はぁ……どうあっても、というわけね」
 そういって笑うサモンに対し、レインは軽く溜息をついた。そうして進む路の先、二人は紅い橋が視界に入ったことに気が付く。
 彼処が二人の目的の地。
 レインの服にも描かれた花の名を冠する橋だ。
 行きましょう、と告げたレインは先んじて橋に向かっていく。サモンは静かに頷き、その背を追っていった。
 色は紅くとも、其処に名付けられた花の名は姫射干。
 それはレインの好きな花。そして、彼が導いてくれたみちゆきにあった花。
「あこがれ橋との呼名もそうだが、どういった由来であろうな」
「さあ、そこまでは分からないけれど――」
 温泉郷に架かる五つの橋にはそれぞれの謂れがある。由来まで知ることは出来なかったが、其処に宿る意味合いはどれも良きものだ。
 サモンは欄干に浅く腰掛け、徐ろに左腕をレインに差し出した。そして、右手に持った煙管で自分の腕を軽く叩いたサモンは問う。
「さて、レイン。そろそろ俺を誘った理由を聞かせて貰えるか?」
「……ええ」
 その言葉に答える為に息を吸い込みかけ、レインは示されるがままに彼の腕にそっと腰掛けた。それはまるであの日のよう。
 きっと彼も分かってそうしてくれているのだろう。
 レインは緩く笑んだサモンを軽く見上げてから、紅の橋から見える幻朧桜に眼差しを映す。其処では、はらはらと桜花が散っていた。
 水路に落ちて揺らめきながら浮かぶひとひらはいつか、美しい花筏となるのだろう。サモンも倣ってレインが見遣る方向を見つめ、答えを待つ。
 そしてレインは静かに口をひらいた。
「尊敬と憧れは、似ていると思うの」
 あの日、私を認めてくれた貴方の瞳。それは私と――姫射干と、同じ色。
 だから呼んだのだと語るレインは、けれど、と続けた。
「この橋の意味を知って尚一緒に渡りたいというのは大凡押し付けだわ」
 貴方に憧れている。
 率直にそう告げるようなものだと話すレインは、サモンが持つ袋に目を向けた。付き合ってもらっているのは自分の我儘。それゆえに先程、こうしてたくさんの土産物を選んでいたのだ。
「故に温泉と食べ物は帳尻合わせなのだけど」
 再びサモンを見上げたレインは、これで分かったかと問う。
 するとサモンは快く笑み、レインの座り心地を悪くさせぬように気をつけながら土産物袋を掲げた。
「はは、成る程。道理でお前の袋には食べ物が多かったのか。良かろう」
「足りるかしら」
「ああ、馳走になるとしようか」
 サモンは彼女が選んだ温泉饅頭を取り出し、そのひとつをふたつに割った。
 共に、と示すように差し出した饅頭を受け取ったレインは「ありがとう」と様々な感謝を籠めた言葉を落とす。
 そうして、二人は暫し橋の上で甘味を楽しんだ。
 透き通った薄青の翅が揺れる様を見て、サモンは思いを巡らせる。これがレインからの礼ならば、自分は共に橋渡った先で渡すとしよう。
 もうひとつ提げた袋の中に潜む、今日の誘いへの感謝の気持ちを――。
「どうかした?」
「いいや、饅頭が美味いと思ってな」
「そう、それなら良かったけれど」
 レインが首を傾げると、サモンは穏やかに微笑んだ。そんな彼の角にひらりと桜花が落ちてきた。気付かず笑う彼を見上げたまま、レインは双眸を僅かに細めた。
 そして、二人のひとときは緩やかに過ぎてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

あ~はいはい
ちゃんと気を付けるから
今は思いっきり楽しもうぜ

アレスと二人温泉へ
…なぁ、それ……痛かったか?
そっと手を伸ばして
触れる直前で躊躇って
…そうか。悪いな
お前にだってねえよそんなもん
つって、ききゃしねえんだろうけど
お前が生きててよかった

んー呪跡(これ)は…抉れば消えるかも?
あって困るもんでもねぇけど

アレスの意図に乗っかって笑み浮かべ
のぼせたら運んでくれんだろ?
でもそれだと土産屋とか行けねえな


アレス!あれ!
温泉まんじゅうを見てキラキラと
いくつ買うかが問題だな
ちょっとくらいいじゃねぇか
けどまぁ…しょうがねえなぁ
アレスと半分ならまあいいか
曼珠沙華橋へ足を運んで
橋の上で食べようぜ


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

事件が起きればゆっくり入れないだろうし
先に温泉に入ろうか
だが、気を緩めては…こら、流すな

それ?…ああ、この胴体の大きな傷か
セリオスを掠った吸血鬼に返り討ちされた時の傷
痛みと溢れる血は…覚えている
…君は悪くないよ
これは僕の行動の結果
寧ろ、謝るのは…すぐに助けに行けなかった僕の方だ

君の腰のそれも…消えないのか
…抉るのはやめてくれよ

静かになった彼の頬に触れ、むにぃとつまむ
今は楽しむんだろ?のぼせてしまうよ
任せて。…のぼせる前に出ようか

君の甘味好きは知ってるけど
夕飯が入らなくなるよ
買った温泉饅頭を半分差し出す
はい、半分こ
今はこれ位で。ね?

それを手に曼珠沙華橋へ行こうか
ふたりで、一緒に



●刻まれた傷とふたりの想い
 未だ事件の気配のない、穏やかな温泉街。
 アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)とセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)が訪れたのは、郷に点在する温泉のうちのひとつ。
 事件が起きればゆっくりと湯を楽しむことも出来ないだろう。ゆえに先に温泉に入ろうと提案したアレクシスにセリオスも同意した形だ。
「今は楽しむが、気を緩めては――」
「あ~はいはい。ちゃんと気を付けるから今は思いっきり楽しもうぜ」
「……こら、話を流すな」
 脱衣所でも至極真面目なアレクシスの言葉を遮るように、セリオスはひらひらと手を振った。遠慮がないのも二人の在り方。はあ、と溜息をついたアレクシスは露天風呂に向かっていったセリオスの後を追った。
 湯けむりが揺らぐ温泉内。
 ゆったりとあたたかな心地を愉しむ中、ふとセリオスが気になったのはアレクシスの胴体についた大きな傷。
「……なぁ、それ……痛かったか?」
「それ? ああ、今はもう大丈夫だ」
 その傷は以前にセリオスと共に戦った吸血鬼に返り討ちされた時のものだ。
 腕の骨が軋み、衝撃が浸透して血管を爆ぜさせた。あのときの痛みと溢れる血は今も深く記憶に残っている。
 セリオスはアレクシスにそっと手を伸ばし、触れる直前で手を下ろした。
 躊躇った様子のセリオスは申し訳無さそうに俯く。
「……そうか。悪いな」
「君は悪くないよ。これは僕の行動の結果だから」
 寧ろ、謝るのはすぐに助けに行けなかった自分だと。そう語るアレクシスに対してセリオスは首を横に振る。
「お前にだって責任なんてねえよ。……つって、ききゃしねえんだろうけど」
 ――お前が生きててよかった。
 耳元で心底安堵したように囁き、セリオスは彼の肩に寄り掛かる。湯に浸かりながら触れ合う心地の中に、複雑な心境が交じった。
 そして、アレクシスもまたセリオスの呪跡に目を向けてしまう。
「君の腰のそれも消えないのか」
「これは抉れば消えるかも? あって困るもんでもねぇけど」
「……抉るのはやめてくれよ」
 悲しげに告げるとセリオスは口許まで湯に沈み込み、そのまま黙り込む。そんな彼の顔に触れたアレクシスは、むにっと両頬をつまんだ。自然と口許が緩められる形になり、セリオスは笑った。
「ふは、何すんだよ」
「今は楽しむんだろ? のぼせてしまうよ」
「のぼせたら運んでくれんだろ?」
「任せて。でも……」
 軽いやり取りを交わす中、アレクシスは言い淀む。その意味を理解したセリオスは身体を起こし、のぼせると後の楽しみがなくなるな、と笑った。
「それだと土産屋とか行けねえな」
「じゃあ、のぼせる前に出ようか」
 アレクシスは手を差し伸べ、セリオスも掌を重ねる。
 そうして湯から上がった二人は賑わう温泉街に向かうために着替えはじめた。
 
 揃いの浴衣に身を包み、並んで歩くのは商店街。
「アレス! あれ!」
 温泉饅頭を売っている店を見つけたセリオスはきらきらと瞳を輝かせる。食べるか否かではなく、既にいくつ買うかと考えている彼は微笑ましい。だが、それを上手く止めるのもアレクシスの役目だ。
「君の甘味好きは知ってるけど、夕飯が入らなくなるよ」
 だから、とアレクシスは温泉饅頭をひとつだけ購入した。ちょっとくらい良いじゃねぇかと零すセリオスだが、差し出された半分の饅頭に手を伸ばす。
「はい、半分こ今はこれくらいで。ね?」
「ちぇー。しょうがねえなぁ。アレスと半分ならまあいいか」
 自分なりに納得したセリオスはまだふかふかであたたかい饅頭を大切に持ち、行く先に見えた紅い橋を指差した。
「あの橋の上で食べようぜ。曼珠沙華橋だっけ」
「そうだね。ふたりで、一緒に」
 頷きを返したアレクシスはセリオスにいざなわれ、歩を進めていった。
 曼珠沙華橋の別名は、よりそい橋。
 これからも寄り添って共に歩みたい人。そう思える彼と並んで歩く橋の上はとても心地好く、佳い眺めに思えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

いい温泉郷だな
ヒメ、どの橋渡る?
俺はどの橋でもいいぜ
なんて。ヒメが悩むのをわかって意地悪をしつつ

長年の付き合い…色々、あったなと思い返す
こいつも色々思い出してんな、とちらりと見つつ首振る姿に変な事考えてたなと思う
憧れも友愛も、違う
結ばれも、俺達は主従としてあるしなァ…

よりそい橋にするか
俺の隣…いや、前を歩いてもらう為に
それが俺にとってのよりそうだ
ヒメ、よりそい橋にしようぜ

これからも共に歩めるだろうか
こいつ俺より先に、死にそうだしなァ
そうさせねェけど
でもこの俺の気持ちをこいつがわかってないのもわかってる
だから俺が死なせないと心の内に

はしゃぐ姿に、もう渡ってるだろと笑いかけて


姫城・京杜
與儀(f16671)と

紅い橋か、紅は俺には身近な色だからな
渡りたい橋?えっと…

確かに俺達付き合い長いもんな、神だし!
…與儀を守護するきっかけの過去思い出せば、珍しく俯き黙っちまう
でもすぐ首振り気を取り直す
俺は與儀の守護者だからな!
でも友愛や憧れは何か違うな…
結ばれ…俺は、與儀の足引っ張るくらいなら
與儀が俺を必要ないって言うなら…喜んで姿消すからな
…言えねェけど、だからこれも違う

渡るなら、よりそい橋だな
與儀が俺を必要としなくなるまで、できるだけ長く共に在れたらって
俺の我儘だけど…思うから

與儀守れるなら俺が死ぬくらいなんてことねェけど
でもその後、誰が與儀守るんだってなるもんな

早く渡ろうぜ、與儀!



●寄り添う主従
「――いい温泉郷だな」
 穏やかな景色を眺め、英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)は傍らに立つ姫城・京杜(紅い焔神・f17071)を見上げる。
 ヒメ、と呼ばれた京杜は其処から見える様々な紅い橋を瞳に映していた。
「居心地が良さそうだ」
「どの橋渡る? 俺はどの橋でもいいぜ」
 なんて、彼が悩むのをわかりながらも與儀は悪戯っぽく片目を眇める。
「渡りたい橋? えっと……」
 予想通り、京杜は考え込む。真剣な様子の彼を見守る與儀はその間、二人で紡いできた長年の付き合いを思い返していた。
「色々、あったな」
「確かに俺達、付き合い長いもんな!」
 京杜がぱっと表情を輝かせたことで與儀は思う。こいつも色々思い出してんな、と。しかし、京杜は不意に俯いてしまった。
 與儀を守護する切欠である過去を思い出すと、何とも言えない気持ちが巡る。
 でも、とすぐに首を横に振って気を取り直した京杜。そんな彼をちらりと見た與儀は何となく心境を悟った。されど言及することはなく、與儀もまた橋について考える。
 憧れも友愛も、違う。
 結ばれ、となると自分達はもう主従として在る。そうなると少しばかり悩んでしまう。
 京杜もまた似た思いを抱き、與儀が選ばなかったものを除外していた。
 與儀の守護者として相応しい感情。
 それを突き詰めていくと、口には出せない思いが浮かぶ。
(俺は……與儀の足引っ張るくらいなら、與儀が俺を必要ないって言うなら――)
 きっと、喜んで姿を消す。
 だからきっと結ばれ橋も自分達に合うものではない。
 その心の裡までは読めはしないが、與儀は京杜の横顔を眺めていた。はらりと散る桜が彼の傍を通り抜けていく。
 これからも共に歩めるだろうか。
(こいつ俺より先に、死にそうだしなァ。そうさせねェけど)
 桜のように儚い。
 そんな風に思えてならないのだ。だが、自分の気持ちを京杜がまったくわかっていないことだって理解している。
 ――だから、俺が死なせない。
 心の中で静かに誓った與儀は京杜を呼び、よし決めた、と口にする。
「よりそい橋にするか」
「そうだな、渡るならよりそい橋だな」
 どうやら同じことを考えていたらしく、京杜からも快い頷きが返ってきた。
 自分の隣、否、前を歩いてもらう為に。
 それが己にとっての寄り添うことだとして、與儀は歩みはじめる。
「決まりだな。ヒメ、よりそい橋にしようぜ」
「それじゃ行くか」
 京杜も歩を進め、自然と彼の前を歩く。それは歩幅の違いからなのだが、はからずして與儀の願い通りの構図になっていた。
 京杜も胸中の思いを反芻する。
 與儀が自分を必要としなくなるまで、できるだけ長く共に在れたら――。
 それは我儘だと感じているが、今は心からそう思う。
(與儀を守れるなら俺が死ぬくらいなんてことねェけど……でもその後、誰が與儀守るんだってなるもんな)
 それゆえにまだ簡単に死ぬ気なんてない。
 秘めたままの言の葉を胸に抱き、京杜は徐ろに駆け出した。
「早く渡ろうぜ、與儀!」
「もう渡ってるだろ」
 與儀は彼が大いにはしゃいでいるのだと気付き、口端を緩めて笑う。はやく、と振り向く京杜と追う與儀の視線が重なった。
 笑みが咲けば、思いまでもが一緒に重ねられているかのようだ。
 そうして、二人は幻朧桜と穏やか湯煙が彩る世界を共に進み、歩き――寄り添いたいと願う思いをそれぞれに懐いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
パウル(f04694)と
揃いの浴衣に袖を通し
……まぎれもなくデートじゃん?

パウルこそ最高にイケてるぜ、と言葉を返す
同僚への配慮もばっちりな彼に流石だなと感心しつつ
――でも、今日は俺だけのもの

選び取った橋が一緒だったのが嬉しくて頬が緩んじまう
指を絡めれば自分より少し冷たい彼の肌が心地よくて
もっと距離を詰めたくなる

ヒトより体温の高い俺を気遣ってくれるのが嬉しくて
ホントは全然平気なのに
「ちょっとだけフラつくかも」なんて甘えてみたり
ひんやりぷるぷるを枕に休むのは確かに心地よさそうだし……部屋?
そうねー温泉デートだもんねーお泊りは定番よねー
……マジか
さっさと仕事してのんびり楽しもうぜ
握る手に力が籠る


パウル・ブラフマン
ジャスパー(f20695)と初・温泉デート!

浴衣に半纏姿で
曼珠沙華橋を渡りながら談笑を。
和装のジャスパーも超イケメンだね!似合う~☆
手にはエイリアンツアーズ(会社)の皆へのお土産の
花影温泉名物・温泉まんじゅう!

足湯の温もりが
まだじんわりと爪先に残ってる。
うぅん…頬が火照るのはそのせいかな。
ね、ジャスパー。手…繋いでもいい?
拒まれなければ
桜に攫われる前に指先同士を絡めたい。

ジャスパーは湯あたりしてない?
彼の体質を案じ、触手をうねうね。
もしのぼせちゃってたら
部屋でオレが看病するよ!
膝(触手)枕する?
温泉プリンと同じくらいひんやりぷるぷるだよ☆

強く握り返された手が嬉しくて
自然と頬が綻んじゃいそーだ。



●繋ぎ絡める縁と掌
 浴衣に半纏。
 揃いの落ち着いた装いに袖を通し、温泉街をゆく。
 よりそい橋の異名を持つ曼珠沙華橋の上を共に進むのは、ジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)とパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)の二人だ。
「これ……まぎれもなくデートじゃん?」
「うんうん! 和装のジャスパーも超イケメンだね! 似合う~☆」
 ふ、と笑みを深めた彼にパウルが明るい笑みを返す。そんなパウルの両手に下げられているのはお土産が入った紙袋。
 エイリアンツアーズの皆に贈る温泉饅頭を購入したパウルは上機嫌だ。
「パウルこそ最高にイケてるぜ」
 ジャスパーは同僚への配慮もばっちりな彼に流石だと感心しつつ、双眸を細めた。
 片方の荷物を持ってやるよ、と告げたジャスパーはパウルの傍に寄り添う。近付いた距離。荷物を受け渡すことで自然と空く片手。
「――でも、今日は俺だけのものだからな」
「ふふ、そうだね」
 耳元で自分にだけ伝えられた言葉を聞き、パウルは嬉しげに笑む。
 ふとパウルはじんわりとした熱を感じた。お土産を選ぶ前に入ってきた足湯のせいなのか、頬が火照っている。
「パウル? どうかしたか」
「ね、ジャスパー。手……繋いでもいい?」
 空いた手をそっと伸ばせば、微かに触れ合う指と指。ジャスパーはその願いを拒むことなく指先を絡めた。
 今こうして、曼珠沙華橋を共に渡っていること。
 選び取った橋が一緒であり、気持ちが似通っていたことは嬉しかった。つい緩む頬は裡に生まれた歓びの証。
 絡めた指先から伝わってくるのは自分より少し冷たい彼の肌の心地。
 もっと距離を詰めたくなり、ジャスパーはこの橋の謂れ通りにパウルに寄り添った。
 パウルもまた、桜に攫われる前に――と彼の手を握る。
 そして、パウルはそっと問う。
「ジャスパーは湯あたりしてない?」
 きっと彼はヒトより体温の高い自分を気遣ってくれている。それもまた尊いように思えて、ジャスパーは答えた。
「ちょっとだけフラつくかも」
 そんな風に告げるのは単に甘えたかったからだ。本当は全然平気であるのは今だけは秘密。パウルは彼の体質を案じ、触手をうねうねと動かした。
「のぼせちゃってたら部屋でオレが看病するよ!」
「それは有り難ェな」
「膝枕する? 温泉プリンと同じくらいひんやりぷるぷるだよ☆」
 静かにジャスパーが笑うと、パウルは膝――即ち触手枕を勧めてくる。その冷たい心地を堪能するのも良さそうだと感じたジャスパーは不意に気が付いた。
「……部屋? マジか」
 思わず口にしてすぐに思い至る。
 そうだ、温泉郷のデートであるならばお泊りは定番。しかも猟兵にはサアビスチケットという心強い味方もある。
 その事実に改めて気付けば、これからの仕事にも気合いが入るというもの。
「あれ、ジャスパー。具合が悪いんじゃなかったの?」
「一瞬で治った。さっさと仕事してのんびり楽しもうぜ」
 握った手にもしっかりと力を込め、ジャスパーはパウルに妙に熱の籠もった視線を向けた。その眼差しに心まで射抜かれてしまったような気持ちを覚え、パウルはへらりと口許を緩めてみせる。
 強く握り返された手。その熱がとても大切に思える。
 そうして、よりそい橋を渡りきった二人は視線を交わしあった。この謂れの通りにこれからも縁が深まるように。
 それを叶えていくのは自分達自身なのだと感じて、彼らは宿へと向かってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

筧・清史郎
伊織(f03578)と

まずは温泉郷を楽しもう
商店街で饅頭等の甘味巡りを
足湯にも浸かろうか
伊織、縁結びの神には参らず大丈夫か?
そういえば送ってくれた写真を見たが、随分と伊織の寝室が賑やかになっていたな
ちんあなご抱枕にはにわぷりんせす、これで夜も寂しくないな(微笑み

五本の紅い橋、か
相変わらず相手が俺で悪いが
さぁ伊織、どの橋を渡ろうか?(くすり笑み
俺とで本当にいいのか、橋を選ぶ際は後悔しないようにな(友の返しに笑み

冗談はさておき
此処は、紫雲英――やすらぎ橋はどうだろうか
友情誓った桜の花弁降る中、友愛の橋を渡るのもまた良いのではないか

この世界の桜もまた美しいな、伊織
友と過ごすひとときを存分に満喫しよう


呉羽・伊織
清史郎f00502と

ああ、今一時は英気を養おう
勿論腹拵えも!
(甘味を手に笑いつつ足湯で休み)
いや~、ホラ、今は両手に甘味で幸せだし?
ウン、布団でも両手にちんあなご&はにわ姫(聖夜に貰った抱枕達)だし?
色々恵まれ過ぎたから今は十分かなって!(遠い目)

そうそう、それに――此方こそ毎度申し訳なくも!
何より有難い縁に恵まれてるしな!
え、緋桐って言ったらどーすんの(笑って冗談返し)
はは、上等だ――笑いのネタとしては!

改めて紫雲英に賛成で!
ああ、今日もまた桜の下――その御利益を分かち合える事、本当光栄に思う
(貰った髪飾りも付けてきてるし、有難みで一杯だと笑い)

うん――見事な光景だな、清史郎
共に拝めて幸いだ



●友愛と櫻
 桜の色と緋色の橋。
 長閑な景色に宿る色合いはとても印象的かつ穏やかだ。
 筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は平穏が満ちた温泉郷を歩き、呉羽・伊織(翳・f03578)と共に花と湯けむりが揺らぐ光景に居心地の好さを感じていた。
「まずは温泉郷を楽しもうか」
「ああ、今一時は英気を養おう。勿論腹拵えも!」
 そういって二人が向かったのは商店街。
 落ち着いた様相の店構えの前に露店が並ぶ様は賑々しく、温泉饅頭や大福などの甘味がたくさん並んでいた。
 ミルク饅頭に胡麻団子。みたらし小餅に桜印の砂糖煎餅。
 当然のように甘味巡りを行う彼らは餡の甘さや、粗目砂糖の食感に舌鼓を打つ。そして、先程に蒸しあがったばかりの温泉饅頭を片手に足湯に向かった。
 人々が湯を楽しむ片隅に二人も腰を下ろす。
 ふっと息を吐くと、湯けむりが揺らいでいった。
 暫しゆったりとした時間が流れていくことを感じながら、清史郎はふと問う。
「伊織、縁結びの神には参らず大丈夫か?」
 質問はいつもの縁関係のこと。う、とちいさく呻いた伊織は平気だと告げ返す。
「いや~、ホラ、今は両手に甘味で幸せだし?」
 その答えに、そうか、と頷く清史郎はふと思い出した。
「そういえば送ってくれた写真を見たが、随分と伊織の寝室が賑やかになっていたな」
「ウン、布団でも両手にちんあなごとはにわ姫だし?」
「これで夜も寂しくないな」
 聖夜に貰った抱き枕達の名を告げれば、清史郎は温泉饅頭を頬張ってから微笑む。しかし彼が優しい笑みを浮かべれば浮かべるほど、伊織の心に冷たい風が吹く。
「色々恵まれ過ぎたから今は十分かなって!」
 強がりながら遠い目をした彼は、少しばかり八つ当たり的に足元の湯を蹴る。ぱしゃ、と小さな音を立てて弾けた湯が落ち、桜が揺れる水面に波紋を作った。
 そして、足湯を堪能した彼らは次に橋のもとを目指す。
 
「五本の紅い橋、か」
 緋桐、姫射干。曼珠沙華に紅手鞠、紫雲英。
 それぞれに別の花の呼び名が付けられた橋に纏わる謂れを思う。清史郎は相変わらず相手が俺で悪いが、と前置きした後に伊織に問いかけた。
「さぁ伊織、どの橋を渡ろうか?」
「此方こそ毎度申し訳なくも思うが、何より有難い縁に恵まれてるしな! というよりも、清史郎――」
 そう答えた伊織は不敵に双眸を緩め、言葉を続ける。
「俺が緋桐って言ったらどーすんの?」
「構わないが……俺とで本当にいいのか、橋を選ぶ際は後悔しないようにな」
 対する清史郎は友の冗談めいた返しに笑みを深めた。
「はは、上等だ。笑いのネタとしては!」
 伊織もからからと声を上げて笑い、二人の間に明るく快い雰囲気が満ちてゆく。そうして、彼らが選んだ橋は――。
「此処は、やすらぎ橋でどうだろうか」
「そうだな、紫雲英に賛成で!」
 どうやら最初から二人の心は決まっていたらしい。
 清史郎と伊織は目的の橋に向かい、脇に幻朧桜が咲いている水路に目を向けた。冬の風を受けて散る桜花が水面に落ちて揺れる。
 友情を誓った桜の花弁が降る中。
 友愛の橋を渡るのもまた善きことのように思えた。
「ああ、今日もまた桜の下――その御利益を分かち合える事、光栄に思うぜ」
「この世界の桜もまた美しいな、伊織」
「うん――見事な光景だな、清史郎」
 清史郎と視線を交わす伊織。
 その髪には深緋桜の飾りが揺れている。有難みでいっぱいで、感謝しかないと語ってくれる伊織に清史郎は変わらぬ微笑みを向けた。
 友と過ごすひととき。
 共にこの景色を眺められること。同じ楽しみを分かちあえること。今はそのことを存分に満喫しようと決め、二人は紫雲英橋の上で暫しの時を過ごした。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

重松・八雲
【花守】
(うきうきと街巡り)
さて、温泉といえば饅頭と卵は欠かせまい!
あとあれじゃ、あひるちゃんも買うて行かねばの(浮かべる気満々)
ようし、おさかにゃも桶も奮発しよう!(大変猫によわい)
ではいざちょこにゃん歓迎会兼湯治会に――紅手鞠の湯へ!
なぁに、溺れんよう抱っこするでの!
大船に乗った気持ちでおると良いぞ!

(そんなこんなであひるちゃん&ちょこにゃん桶にでれでれ和みつつ、露天満喫し)
あぁ~良い湯だの~
これは儂の腰痛もばっちり癒えそうじゃ
ほれちょこにゃんももっと近う寄ると良い
良いではにゃいか~(桶をあひるちゃんで囲みつつ)

あぁそうじゃ、後で瓶牛乳も買わねばの!
湯上がりに乾杯してぐいっと行こう!


鈴丸・ちょこ
【花守】
おう、此処は随分平和だな
(この後に待ち受ける展開はさておき――等と水差す真似は控え、物珍しげに商店街眺め)
ふむ、これだけ水が良いとくれば――なぁ、旨そうな魚はないか?
あの寝心地良さげな桶と手拭いもほしい(完全に寝床用と認識)
さてこれで後は休息を――何?歓迎?
俺は自分で毛繕いするし、湯もむさ苦しい気遣いも無用だ
おい話を聞け、泥船の間違いだろ

(結局解せぬ顔ながらも、先程の桶に丸く納まり――桶ごと湯にぷかぷかと)
…今更水に怖じ気付く歳でもタマでも無し
別に平気――だが寄るな水滴を飛ばすニャッ(あひるちゃんぺしぺしして抗議しつつ)

くっ、何て手荒い歓迎だ
だが牛乳は付き合ってやろう(満更でもない顔)


鳳来・澪
【花守】
湯巡りして良し、食べ歩いて良し――そして勿論景観も最高
ふふ、ほんまええ風情の温泉郷やね
(後の事は兎も角――と、はしゃぐ爺っちゃんを見て笑い)
うちもお饅頭ほしいな!
ちょこちゃんには、あのお魚柄の可愛い手拭い買ったげるね!
(使い道に関するツッコミを思わず忘れる程度に猫によわい2)
うん、じゃあお土産も沢山買えたとこで――歓迎会!
ふふ、遠慮はいらんよちょこちゃん
泥船やったとしても掬い上げるから!(乾燥とブラッシングは任せてね!の意)

(自分は浴衣で足だけ浸かりつつ、あひるとちょこちゃんの絵面にほんわか)
ほんま不惑のおす…とは思えん可愛さやねぇ(よしよし宥め)

あ、湯上がりはうち果実牛乳がええな!



●猫桶とあひるちゃん
 うきうき、わくわく。
 そのような言葉が似合う、賑やかな温泉街の最中。
 重松・八雲(児爺・f14006)と鳳来・澪(鳳蝶・f10175)、そして鈴丸・ちょこ(不惑・f24585)は連れ立って街を巡っていた。
 湯巡りして良し、食べ歩いて良し――そして勿論、景観も最高。
「ふふ、ほんまええ風情の温泉郷やね」
「おう、此処は随分平和だな」
 澪が桜舞う景色を眺めてふわりと微笑めば、ちょこも尻尾をぴんと立てる。
 その絹の如き黒毛が陽の光を浴びてやわらかに艶めいた。八雲はふたりの様子を楽しげに眺め、賑々しく人が行き交う商店街を示す。其処には様々な土産物店や、通りに並ぶ露店が見えた。
「さて、温泉といえば饅頭と卵は欠かせまい!」
「うちもお饅頭ほしいな!」
「ああ、甘い匂いがするな」
 八雲が露店を指差すと、澪もミルク饅頭と胡麻団子を売る店に目を向ける。後の事は兎も角、とはしゃぐ八雲を見て笑う彼女もまた楽しそうだ。
 同じく、ちょこもこの温泉郷に訪れる先の展開を思ったが、敢えて水を差すことはしない。物珍しそうに商店街を見ているちょこに気付き、八雲と澪は笑みを交わす。
「あとあれじゃ、あひるちゃんも買うて行かねばの」
 八雲は湯にあひるを浮かべる気満々。
 澪はちょこが見ていた土産物を見て、何でも好きなものを買うからと伝えた。するとちょこは好機と見たのか、愛らしい仕草でぴょこんと飛んで土産物屋の前にゆく。
「なぁ、旨そうな魚はないか?」
 これだけ水が良いのだから、と渓谷や水路を示したちょこは、ついでに「あの寝心地良さげな桶と手拭いもほしい」とお風呂セットを所望した。
 入浴用ではなく完全に寝床用としてだ。
 だが、ちょこの愛らしさは抜群だ。八雲も澪もたいへんに猫に弱い性質。用途が何であれ、駄目だという選択肢などなかった。
「ようし、おさかにゃも桶も奮発しよう!」
「うちは、あのお魚柄の可愛い手拭い買ったげるね!」
「ふむ、助かる」
 八雲が胸を張り、澪が手拭いを手に取る姿を見たちょこはすっかり上機嫌。そしててきぱきと準備を整えた澪と八雲は、これから行く先を告げる。
「うんうん、じゃあお土産も沢山買えたとこで、歓迎会!」
「ではいざちょこにゃん歓迎会兼湯治会に――紅手鞠の湯へ!」
「――何? 歓迎?」
 きょとんとして首を傾げたちょこ(とても可愛い)は自分で毛繕いもするし、湯もむさ苦しい気遣いも無用だと話す。
 だが、八雲はその遠慮こそ無用なのだと返した。
「なぁに、溺れんよう抱っこするでの! 大船に乗った気持ちでおると良いぞ!」
「おい話を聞け、泥船の間違いだろ」
「ふふ、遠慮はいらんよちょこちゃん。泥船やったとしても掬い上げるから!」
 乾燥とブラッシングは任せてね、という意味合いの澪の言葉が続いたことでちょこは観念した。楽しむことが目的であるし、もう既に桶も買って貰った。
「仕方ないな。その歓待、受けてやるか」
 意気揚々と温泉に歩いていく二人の後を追い、ちょこも其方に向かっていく。
 
 そうして、暫し後。
 ぷかぷかと湯に浮かぶあひると桶。八雲はそれを眺めでれでれと和んでいた。
「あぁ~良い湯だの~」
 これは儂の腰痛もばっちり癒えそうじゃ、と八雲が心からの言葉を落とす中、澪は浴衣姿のままで足先だけを湯に浸している。ちょこはというと、解せぬ顔ながらも先程の桶に丸く納まっていた。
 時折、ちょいちょいとあひるを前足でつつく。そんなちょこが可愛くてならず、澪の頬も綻んでいた。
「ほんま不惑のおす……とは思えん可愛さやねぇ」
「ほれちょこにゃんももっと近う寄ると良い」
 八雲が手招きをすると掌が水を弾く。今更水に怖じ気付く歳でもタマでもないちょこだが、思わず飛んだ雫にびくっと反応してしまった。
「寄るな触るな水滴を飛ばすニャッ……くっ、何て手荒い歓迎だ」
「ふふ、よしよし」
 あひるちゃんをべしんと叩いて抗議するちょこを宥める澪。その光景を見つめて更に和む八雲。露天風呂で流れていく時間は実に好いものだった。
 やがて身体も温まった頃。
 八雲はふと思い立ち、猫桶に手を伸ばしながら二人に提案する。
「あぁそうじゃ、後で瓶牛乳も買わねばの!」
 湯上がりに乾杯してぐいっと行こう、と彼が誘うとちょこと澪が顔を上げた。
「それならうち、果実牛乳がええな!」
「牛乳か。それなら付き合ってやろう」
 微笑む澪、満更でもない様子のちょこ。八雲はこの上ない穏やかさを感じながら、過ぎゆくひとときを噛みしめる。
 それからもう暫く歓待の時間は続き――其処に心地好い思い出が刻まれていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
💎🐰

ひゃー!温泉だよ、兎乃くん!
ボクの何時もいるとことはまた違ってわくわくなんだ!

よーし!食べ尽くすぞ!
温泉といえば温泉饅頭だよ
あと温泉たまごでしょー、温泉湯豆腐もいい
温泉もちに、温泉パンさ!苺饅頭?!あったら教えておくれ!
ふふふー、いざ!食べ歩きへ
量が多くとも分け合えば、美味しさ2倍の笑顔は4倍!
あれやこれやと食べて笑って駆けるんだ!
お年玉も、使われることを喜んでるみたい
ボクだって負けないんだから!

うさぁ……お腹いっぱい
やすらぎ橋!ね、せーので渡ってみよう
向こう側へ行ったら絵を描きたいな!

友愛の橋と満開の桜と一緒に、ボクのお友達のキミをさ!
…まさかこれが最期の肖像画になったりしないよね?


兎乃・零時
💎🐰
アドリブ歓迎

最初はフレズローゼと食べ歩きだ!

温泉街特有の食い物に詳しい訳じゃねぇけど…
色々ありそうだし片っ端から食って行きてぇよな!

あ、フレズローゼは確か果物とか野菜好きって言ってたよな?
そーゆう系の食べ物もやっぱ温泉街にあるかな?
苺饅頭とかはありそうな気がする!

ふっふーん!
俺様だってお金はしっかり準備したんだ、沢山買えるとも!
競争なら負けねぇぜ!

沢山食べまくってやるぜ!

そして噂の橋は紫雲英橋…やすらぎ橋に行く事に
友愛って友情って事だろうしな!ならこの橋だろ!
しっかし桜もすげぇ綺麗だな…!

え、マジで!?描いてくれるのか!?
フレズローゼの提案に思わず眼や髪が輝くほどに嬉しそうにするだろう



●少女と少年の食べ歩きフラグツアー
 ふわふわと揺れる湯けむり。
 そして、ひらひらと風に舞う桜の花。
 フレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)は純粋に綺麗だと思える景色に感嘆の声をあげ、共に此処に訪れた兎乃・零時(そして少年は断崖を駆けあがる・f00283)を呼ぶ。
「ひゃー! 温泉だよ、兎乃くん!」
 フレズローゼがいつも過ごしている場所とは少し似ているようで違う風景。
 わくわくした気持ちを抱く彼女の瞳は無邪気に輝いている。零時も期待を胸に抱き、温泉郷の商店街を指差した。
「すげーな、温泉! まず最初は食べ歩きだ!」
「ふふふー、いざ食べ歩き! よーし、食べ尽くすぞ!」
 おー、と片腕をあげて応えたフレズローゼは意気揚々と跳ねるように駆けていく。
「温泉街特有の食い物に詳しい訳じゃねぇけど、ここなら色々ありそうだし片っ端から食って行きてぇよな!」
 零時は甘い香りが漂う店先を見渡し、何があるのかと探していった。
 するとフレズローゼが軽く胸を張ってみせる。
「こういう温泉といえばお饅頭だよ。あと温泉たまごでしょー、温泉湯豆腐もいいし、温泉もちに温泉パンさ!」
「何だそれ! 全部に温泉って名前がついてるのか?」
 突っ込み不在の二人の間で交わされるやり取りは賑々しく楽しげだ。
 しかしフレズローゼの言う通り、温泉饅頭や温泉卵はよく見かけた。街中を歩いていく零時はふと、フレズローゼは確か果物や野菜が好きだと言っていたことを思い出す。彼女の好きなものがないかと零時はきょろきょろと辺りを見渡した。
「そうだ、苺饅頭とかはありそうな気がする!」
「苺饅頭?! あったら教えておくれ!」
 そして二人は様々な店や露店を巡っていく。
 ミルク味の温泉饅頭にくるくる巻かれた蒸しパン。あんず飴やみたらし団子もあれば、胡麻餅まで色々なものあった。
 それをひとつずつ分け合っていけば、たくさんの美味しいを感じられる。
 つまり美味しさは二倍、笑顔は四倍。
「ねえ、兎乃くん! 次は何を食べる? お年玉足りる?」
「ふっふーん! 俺様だってお金はしっかり準備したんだ、沢山買えるとも!」
「やった!」
 元気よく答える零時は得意げだ。
 まるでお年玉も使われることを喜んでるみたいだとフレズローゼが微笑むと、零時も明るく笑った。
「競争なら負けねぇぜ! 沢山食べまくってやるぜ!」
「ボクだって負けないんだから!」
 重なるのは満面の笑みとちょっとした対抗心。
 そして――あれやこれやと食べて笑って、駆けた二人は橋の傍にいた。
 色んな味のお饅頭も食べたし、お目当ての苺が使われた大福も手に入れることが出来た。そっと腹部に手を当てたフレズローゼは満足気だ。
「うさぁ……お腹いっぱい」
「本当だな! あれ、ここって紫雲英橋なのか?」
 零時が橋の名に気付き、フレズローゼも偶然に辿り着いた場所にぱちぱちと瞳を瞬く。
「わあ、これがやすらぎ橋! ね、せーので渡ってみようよ」
「友愛って友情って事だろうしな! ならこの橋を渡るしかないな」
 二人は頷き、美しい紅色に彩られた橋へと踏み出した。
 弧を描く欄干。巡る水路。
 ぐるりと街を囲むように咲く幻朧桜の花々。友愛の橋と満開の桜、そして隣の彼を見遣ったフレズローゼは思い立つ。
「向こう側へ行ったら絵を描きたいな!」
「しっかし桜もすげぇ綺麗だな……って、絵を?」
「うん! この景色と一緒に、ボクのお友達のキミをさ!」
「え、マジで!? 描いてくれるのか!?」
「もっちろん!」
 だって今がとっても楽しいから。フレズローゼがそう語ると、零時は嬉しさでいっぱいの表情を浮かべた。思わず眼や髪が輝くほどの彼に様子に和やかな気持ちを覚え、フレズローゼは橋を進んでいく。
 しかし、そんな中でふとした思いが過った。
「……まさかこれが最期の肖像画になったりしないよね?」
「え?」
 この先、起こるとされているのは殺人事件。
 フレズローゼが立ててしまった妙なフラグに慄いた零時は思わず後退る。そうして、彼らがこの後にどんな事件に巻き込まれるのか。
 それは未だ、誰も知らない――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雅楽代・真珠
【エレル】
温泉街を浴衣姿で漫ろ歩き
勿論如月も

仕事だったの?
如月の腕の中で饅頭を頬張る
ついでに「大人気」と書かれた
変わった形の根付…剣のきぃほるだぁも買おう
ヨシュカとお揃いだね
ふたつ揃うととても強そう
エンジもどう?

鼻のいい狼は甘いものを食べるといい
甘い匂いが近くにあれば硫黄の匂いも少しは気にならなくならない?
漉餡も粒餡も好き
温泉饅頭は温かいものが好き
これ美味しいよ
どれも少し味が違う気がするね
僕は塩より醤油派

からりと鳴る如月の下駄の音が鳴って橋の上だと気付く
雪洞の灯りに照らされる宿と橋と川
そしてお前たち
悪くないって思ったのに…
なぁにロカジ
いやらしい笑いだね
…何で手を合わせてるの
まさか土左衛門が?


ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレル】

楽しむ事が事件解決に繋がるなんて、何て素晴らしい…!
はあい、お仕事、お仕事了解です

浴衣に羽織に(くるくる)(ご機嫌)
オンセン…色々な所から湯気がでています!街中がもくもくでおもしろい
雅楽代さま、何を…スゴイカッコイイ剣のキーホルダー!ドラゴンに宝石もついて…!
わたしも買って来ます!
木刀も有りました(購入)

このお饅頭たちは謎の模様が付いてます。オンセンのマーク。だからオンセン饅頭?
あつ、はふい。おいしい!このアンコは白色ですね。ロカジさまのは何色ですか?
卵は塩がお勧め?わ、黄身がとろけてます

これが紫雲英橋。エンジさまお祈りですか?(真似して拝む)
この橋のいわれ?ああ、成る程、と微笑んで


エンジ・カラカ
【エレル】

オンセン、オンセン。
独特な臭いがするなァ……狼の鼻はとーってもイイ。
だから鼻を抑えて歩こう歩こう。

アァ……ロカジンはすごいなァ。
物がたーっくさん買える。買える。
コレは置物が欲しい。置物。
ロカジンの店に飾る飾る。
シンジュとヨシュカはお揃い?
剣かー。コレも買う買う。赤いヤツ。
かーっこイイ。

オンセンって何が美味いンだろうネェ。ネー。
オンセンマンジュウ。
普通のマンジュウと何が違う?

オンセンタマゴ。
塩で食べると美味い?
さっき誰かが言ってた。
狼の耳はとーってもイイ。
遠くの話も聞き逃さないのサ。

橋、橋。
いわれ。橋。
何だかすごい橋なンだろうなァ……。
両手を合わせておこう。


ロカジ・ミナイ
【エレル】

いいかい皆
楽しむことが事件解決に繋がるんだってさ
楽しめば楽しむほどね!
だからこれは仕事だよ!

浴衣に羽織、
徳利片手に温泉饅頭だの温泉玉子だのを食みながら
やれこっちの饅頭は皮が美味いだの
あっちの玉子は塩加減が絶品だの
ん?僕のは小豆色
観光地ではいい事しか言わなくなるからいいのよ
…物騒なもの買うね君ら
…おやおやまた置物が増えるのかい?
温泉って言ったらペナントよ!すげぇ派手な刺繍の三角のやつ(購入)

きっと誘われるような足取りだったと思う
紫雲英橋に立って、不意にその景色に気がついて、ニシシと笑う
何でかって?そりゃあ、「いわれ」ってのを思い出したからよ
嫁探しとはいかなそうだけどね
僕も拝んどこ🙏



●桜花の買い物巡り
 ひらり、はらりと舞う桜の花。
 それぞれを彩る浴衣を身に纏い、一行は温泉街をゆく。
「いいかい皆」
 先頭を歩いていたロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)は仲間達の方に振り返り、そのまま後ろ向きで歩きながら告げていく。
「楽しむことが事件解決に繋がるんだってさ。そう、楽しめば楽しむほどね!」
 だから、これは仕事だよ。
 両手を広げて語った彼の手には蒸したての温泉饅頭と徳利が握られている。勿論、既に齧ってあるうえに徳利も空になりつつあった。
「これは仕事だったの?」
 絡繰人形である如月の腕の中、首を傾げた雅楽代・真珠(水中花・f12752)は尾鰭を緩やかに動かした。ふわふわとした饅頭の味は実に良い。
 上品に少しずつ食む真珠の傍ら、ヨシュカ・グナイゼナウ(一つ星・f10678)は片手をあげ、明るく答えた。
「はあい、お仕事、お仕事了解です」
 彼もまた浴衣に帯を締め、羽織を揺らして楽しげにくるくると回っている。
 楽しむことが事件解決に繋がるなんて素晴らしい。
 ご機嫌な様子のヨシュカの少し後ろでは、エンジ・カラカ(六月・f06959)が軽く鼻を押さえていた。
「オンセン、オンセン。独特な臭いがするなァ……」
 狼の鼻はとても良い。それゆえに何にでも敏感になってしまうのは彼の性。
 大丈夫かい、とロカジが問えばエンジは平気だと頷く。
 進む先は商店街。
 土産物屋や飲食店などの露店が並ぶ賑やかな通りだ。ヨシュカは立ち昇る湯気が温泉だけではなく、蒸し器や焼き網などからあがっていることに気が付く。
 湯煙に入り交じる白いもくもくは興味深くて面白い。
 だが、ヨシュカはそれ以上に気になるものを見つけてしまった。如月に抱かれた真珠が何やら土産屋で根付――キーホルダーを手にしていたのだ。
「変わった形だね。竜と十字の剣……?」
「雅楽代さま、何を……」
 真珠の手元を覗き込んだヨシュカはそのとき、胸を打たれるような衝撃を抱いた。
「すぱいだぁどらごんいんふぇるのくろすだいやそーど、らしいよ」
「スゴイカッコイイ剣のキーホルダー! ドラゴンに宝石もついて……!!」
 それは少年心をくすぐるデザインのキーホルダーだ。正直を言えば真珠もヨシュカも商品名の意味はわからなかったが、とにかく格好良い。しかも大人気らしいと聞けば黙ってはいられない。
「わたしも買って来ます!」
「いいね、ヨシュカとお揃いだね」
「木刀も有りました!」
 即決でスパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードのキーホールダーと、おまけに木刀を購入したヨシュカは満足気だ。
「……物騒なもの買うね君ら」
 その様子を見守っていたロカジは二本目の徳利をあけていた。だが彼らが良いと思っているのだから止めはしない。それが大人の余裕だ。
 するとエンジも興味を持ったらしく、ヨシュカ達を眺める。
「シンジュとヨシュカはお揃い?」
「エンジもどう?」
「剣かー。コレも買う買う。赤いヤツ。かーっこイイ」
 真珠が問うと、エンジはルビーめいた赤い石がついている剣を選んだ。手の平の中で揺れる土産は何だか面白い。
 そして、ロカジはヨシュカ達に温泉の醍醐味を示す。
「ほら、温泉って言ったらペナントよ!」
 ロカジが颯爽と取り出したるは三角の紅い布地に、龍と櫻がこれでもかと豪華に刺繍されたものだ。しかも花影という文字も刻まれている。
 ヨシュカが、わあっと声をあげ、真珠もしげしげとペナントを眺めた。そんな中でエンジはコレは置物が欲しい、と埴輪のようなものを示す。
「ロカジンの店に飾る飾る」
「それをうちに? おやおやまた置物が増えるのかい?」
 エンジはロカジの身長ほどもある埴輪の置物が気に入ったらしい。されど流石にロカジもこれについては看過できなかった。
 それから何とかエンジを説得して、小サイズの置物を購入することで落ち着かせたのはまた少し別のお話。
 
 そして、一行はふたたび食べ歩きに向かう。
 温泉饅頭に温泉玉子、焼きたての煎餅に焦げ目がついた小餅。
「どうかな、甘い匂いが近くにあれば硫黄の匂いも少しは気にならなくならない?」
 真珠は鼻のいいエンジに砂糖掛けの餅や甘い饅頭を示してやり、皐月に持ってこさせる。平気、と答えて温泉饅頭を受け取ったエンジはふと疑問を浮かべた。
「オンセンマンジュウ。普通のマンジュウと何が違う?」
 そういえば、とヨシュカもじっとふかふかの饅頭を見下ろしてみる。見れば、その天辺には湯けむり型の焼印が刻まれている。
「このお饅頭は謎の模様が付いてます。オンセンのマーク。だからオンセン饅頭?」
「流石、鋭いね」
 そうそう、と頷くロカジは、やれこっちの饅頭は皮が美味いだとかあっちの玉子は塩加減が絶品だったなどと大いに語っていった。
 それから話題と興味は饅頭の中身について移っていく。
「あつ、はふい。おいしい!」
 ふたつめの饅頭を頬張ったヨシュカは、齧った後から見えた餡が白いことに気付いた。ロカジさまのは何色ですか、と問われると彼は半分に割った饅頭を見せてやる。
「ん? 僕のは小豆色」
「コレは黄色」
「白餡に粒餡、黄身餡かな。僕はみるく餡。どれも美味しいね」
 エンジと真珠も温泉饅頭を見せあい、それぞれに違った味を楽しんでいた。ロカジがレビューした温泉卵も気になるとして、一行は更に買い食いに向かう。
「タマゴ、塩で食べると美味い?」
「卵は塩がお勧めですか? わ、黄身がとろけてます」
「僕は塩より醤油派」
「いいねえ、僕も次は醤油で食べてみようかな」
 そんなやり取りをしながら時には笑いあい、他愛ない会話を交わして歩いていく四人。きっとそれは無意識に誘われるような足取りだった。
 気付けば、からりと鳴る下駄。
 紅い橋の上に差し掛かったのだと気付いた真珠は顔をあげた。
 其処は紫雲英橋。
 ロカジも不意にその景色が変わったことを知り、ニシシと笑う。真珠は彼を見遣り、どうかしたのかと声を掛けた。
「なぁにロカジ。いやらしい笑いだね」
「そりゃあ、『いわれ』ってのを思い出したからよ」
 紫雲英橋の別名は、やすらぎ橋。友愛を抱く人と共に渡れば縁が深まるという話が伝わっている場所だ。
「これが紫雲英橋なのですね。ああ、成る程」
「橋、橋。いわれ。橋。何だかすごい橋なンだろうなァ……」
 ヨシュカとエンジも橋の上から眺める幻朧桜と水路の景色に目を向け、そっと立ち止まった。其処で何となくエンジが両手を合わせる。
 お祈りですか、と幾度か瞳を瞬いたヨシュカはエンジに倣って拝んでみる。
 僕も拝んどこう、とロカジも手を重ねた。
 嫁探しとはいかなそうだが、いま深めたいのはこの縁だ。皆が急に手を合わせはじめたものだから真珠は思わず水路を覗き込む。
「……何で手を合わせてるの。まさか土左衛門が?」
「え、こわ」
 真珠がふと零した言葉にロカジは辺りを見渡し、ヨシュカはふるふると首を振る。
「まさかそんな、まだ早い気がします」
「ドザエモン? ソレ、何処。何処?」
 殺人事件を前にしたそういった冗談めいたやりとりもまた、今は心地好い。
 雪洞の灯りに照らされる花影の宿と橋。
 其処で巡っていく時間は楽しく、賑わしく――ゆっくりと過ぎていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・八重
【比華】

とっても素敵な温泉の街ね
そうね、温泉の効果は薬にもなるし美しくなる効果もあるのよ
更に美しくなるなゆちゃん素敵ね

美しい紅い橋渡りましょう
彼女の手を取り迷う事なく
曼珠沙華橋を渡っていく
ふふっ、何時迄で何処までも一緒よ。
そこが天空でも地の果てでも

そうね、私も一緒に
ピンヒールを脱ぎ彼女の横でゆっくりと爪先をいれる
あら、温かくて気持ち良いわね
温泉は癒しの効果もあると聞いたわ
いつかなゆちゃんとゆっくり入れる時が来ると良いわね

ここで殺人事件が起こるなんて
とても素敵ねぇ
ふふっ今度はどういう風になゆちゃんと遊ぼうかしら
えぇ、私も見届けるわ。
なゆちゃんの美しい姿を今度こそ一緒にね


蘭・七結
【比華】

温泉街、はじめて訪れたわ
不思議な処ね、あねさま
温泉…様々な効力を持つ出で水ね
まるで魔術や薬草のよう
なんだか気になってしまうわ

いつつのあかい橋のまじない
選ぶのは曼珠沙華の橋
これからもあなたと共に
あねさまとならば何処までも
たとえ、果てであろうとも
願いを胸に歩みましょう

不思議な温水につま先を浸す
じわりと滲む温もりに微笑が溢れ
あねさま、とても温かいわ
熱い湯船は得意ではないのだけれど
この温度ならば
心地良さを感じることが出来るわ
あねさまも、ご一緒にどうかしら

また死を味わうことが出来るのね
以前は失敗をしてしまったけれど
今回は、どうやって遊びましょう
あなたの最期を看取ることか出来るわ
愉しみね、あねさま



●紅に滲む想い
 初めて訪れる温泉街の景色は美しく穏やかだ。
「不思議な処ね、あねさま」
「とっても素敵な温泉の街ね」
 蘭・八重(緋毒薔薇ノ魔女・f02896)と共に温泉郷の居心地を確かめ、歩く蘭・七結(戀紅・f00421)はゆるりと周囲を見渡す。
 立ち昇る湯煙はとても不思議だ。
「温泉……様々な効力を持つ出で水ね」
 まるでそれは魔術や薬草のよう。それゆえになんだか気になってしまうのだと七結が話せば、八重は淡く笑む。
「そうね、温泉の効果は薬にもなるし美しくなる効果もあるのよ」
 更に美しくなるなゆちゃんはきっと素敵。
 そう告げてから笑みと視線を交わし、並んで歩くふたりは心地良さげに進んでゆく。
 そして、彼女達はこの郷にある五つのあかい橋について思いを巡らせる。
 様々な花の名と謂れがある橋。
 その中でふたりが選んだのは曼珠沙華――よりそい橋と呼ばれる場所。
 八重は七結の手を取り、迷う事なくその上を渡っていく。紅に染まる欄干の装飾は美しく、刻まれた櫻の印が印象的だ。
 七結もまた、八重の手をしっかりと握り返す。
 ――これからもあなたと共に。
 抱いた思いは同じ。
「あねさまとならば何処までもいけるわ」
「ふふっ、何時迄で何処までも一緒よ」
 そこが天空でも地の果てでも。たとえ、想像すら及ばぬ遥か彼方だとしても。
 七結と八重は想いを重ね、願いを胸に抱きながら歩みを進めていった。きっと橋が無くともふたりの縁は深まり続ける。それでもこうして過ごすこともまた、愛おしい日々のひとつになっていくはず。
 
 それから八重達が向かったのは橋の近くにある足湯だ。
 八重はピンヒールを脱ぎ、七結も爪先をゆっくりと揺らぐ湯に浸してみる。不思議な温水は最初こそ熱かったが、次第に心地良さを感じさせてくれた。
「あら、温かくて気持ち良いわね」
「ええ。あねさま、とても温かいわ」
 じわりと滲む温もり。
 二人で一緒にいることもあり、気持ちよさに思わず微笑みが溢れる。熱い湯船は得意ではないのだけれど、この温度ならば大丈夫。
 七結がふわりとした心地を覚える中、八重も足先で湯を揺らしてみた。
「温泉はとても良い癒しの効果もあると聞いたわ。いつかなゆちゃんとゆっくり入れる時が来ると良いわね」
「そうね、何もない日にふたりで――」
 ふふ、と笑いあった八重と七結は暫し湯のあたたかさを堪能していく。
 幻朧桜が風に散る風景は風情があった。
 しかし、かの花弁はどうしてか散っていく命の欠片のようにも思える。そのように感じたのも、此処で惨劇が巡ると知っているからだろうか。
 八重は空に舞った花を目で追い、くすくすと口許を緩めて笑った。
「ここで殺人事件が起こるなんて、とても素敵ねぇ」
「また死を味わうことが出来るのね」
 七結も彼女と同じく、死の未来を厭っていない。ただ何てこともない事柄であるようにふたりは語っていく。
「ふふっ、今度はどういう風になゆちゃんと遊ぼうかしら」
「以前は失敗をしてしまったけれど。今回は、どうやって遊びましょう」
 ねえ、と考えを巡らせる八重と七結の間には何処か妖しげな雰囲気が満ちている。戯れと偽りであっても、あなたの最期を看取ることか出来る。
 それはとても甘美で麗しいことのように思えた。
「愉しみね、あねさま」
「えぇ、私も見届けるわ。なゆちゃんの美しい姿を今度こそ、一緒にね」
 七結と八重。ふたりの視線が交差する。
 その思いすら赤く、紅く、あかく――緩められた花唇に、更に深い笑みが宿った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
【迷宮】

温泉街を堪能した証のお土産を抱えて、
桜散る湯へと疲れた足を浸そう

ふふ、お土産争奪戦、楽しかったね

特に最後の一箱争いの緊迫感!
綾の見事な囮っぷりにすかさず切り込むユルグの連携
思わずわたしも目から熱気が溢れてしまって……
そう、みんなで掴んだ完全勝利だよ

くすくすといらえたなら温い湯も揺れて、
人魚の尾鰭が優美に水面を彩る
その波紋のきらめきや花の淡さ、じゃれあう笑い声
なにもかも全部をお土産に持って帰ろう

……これ、死亡ふらぐじゃないよね?

死ぬ前にお饅頭だけは食べておこうと
神妙な顔でお土産をそっと開封する
ふかふかのできたてをみんなに分けながら、
どうしてだろう、今、ふらぐが乱立した気がしてならないんだ


リル・ルリ
【迷宮】

お饅頭も温泉玉子もおいしかったぁ
お年玉で膨らんだお魚(お財布)のお腹はぺったんこ
僕のお腹はいっぱい

至福の吐息は春色で
舞い散る桜も倖色

お湯に浸かり瞬く間に飛び出した子ペンギンを頭にのせ
ほっこり皆をみて微笑む

お饅頭を巡ってあんな戦いが繰り広げられるなんて
僕は見てることしかできなくて…
綾が何だかキラキラして見えたし
ユルグははやかった
すごい
花世もいい笑顔で
嗚呼たのしかったな

尾鰭でお湯と桜と揺らし
案じる聲に柔く微笑む
身体がポカポカで心地いい
大丈夫
ふふ
茹で人魚になったら齧ってみる?
食むのは先約があるのだけれど
その位なら
なんて

僕も食べる!
まさか最期の晩餐が、温泉饅頭だなんて
あの時の僕は思いもしなくて


ユルグ・オルド
【迷宮】
見たし食ったし歩いたし
財布と引き換え重くなった荷を脇に
満ちた心地で先に浸かった桜を追い
一息つけば存外冷えてたことを思い出す

笑った拍子に揺れる盃にも花弁が一枚
飛び出たペンギンにほっこりしつつ
んふふ、そうそう、綾のマダムキラーに助けられたわ
ラストを譲らせる花世の圧……眼差しも強かったネ
これでもうこの戦いに悔いはない
大仰に頷けば心地良さに融けそう

微睡むように落ちた視線の先に揺れる、
リルも湯加減大丈夫?
なンて尋ねる間の呟きにいやいや茹でンのは
漏れ聞こえる話題は笑うところかなんて笑う

俺もこれを食わずには帰れない
出来立ての温泉饅頭を頬張りつつ空を仰げば
こんな最高の日にふらぐなんて立つワケないさ――


都槻・綾
【迷宮】

蒸かしたての饅頭はほこほこ
とろり揺れる温泉卵は出汁醤油の香しさ
添える冷酒は舞い散る花弁を舟とし浮かべ

――やぁ、至福

浸かる足湯にご満悦
争奪戦と聞けばさやさや肩を揺らし

同時に饅頭を取ろうとしたマダムの手を
箱と間違えて握っただけです
見つめ合った隙に
確保してくださったユルグさんのお陰ですねぇ

なんて
澄まし顔で嘯き
悪戯な笑みを浮かべる

リルさんの尾鰭は
水面を飾る花弁と游ぶかのように揺らめき
ゆったりと眠気も誘う

茹で魚になってしまったら食……

危うい思考になりかけたのは
一瞬寝惚けたからと空腹の所為に違いない

私にもください、と
かよさんへ手を差し出す
出来立ての極上を味わえるなんて
もう死んでもいいかもしれません



●揺らぐ櫻と落つる花影
 桜散る湯。
 素足や尾鰭を湯に浸し、思い返すのはこれまでのこと。
 賑わう人々。立ち並ぶ露店や土産物店。そして、其処で繰り広げられた壮大な戦いの歴史――もとい、過ごした時間。
「やぁ、至福」
 都槻・綾(夜宵の森・f01786)は浸かる心地にご満悦。
 見て、食べて、歩いて。
 財布と引き換え重くなった荷。温泉街を堪能した証のお土産を脇に置き、一行が楽しんでいるのは足湯だ。
「冷えていたのも随分と温まったか」
 ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は満ちた心地で、水面に浮かぶ桜を見遣る。頷いた境・花世(*葬・f11024)は口許を緩め、爪先で湯をぱしゃりと揺らした。
「ふふ、お土産争奪戦、楽しかったね」
「うん……お饅頭を巡ってあんな戦いが繰り広げられるなんて」
 花世が笑むと、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)も彼女を少し真似て尾鰭をふわりと揺らがせる。
 リルはただそれを仔ペンギンのヨルと一緒に見ていることしかできなかった。リルが思いを巡らせていると、花世がくすくすと笑う。
 あれは、そう――。
「特に最後の一箱争いの緊迫感!」
 とある店先に置かれていた限定饅頭の箱。
 綾が伸ばした手が同じ土産を狙っていたマダムの手と重なって握られ、危うく唐突なロマンスが始まりそうになった。
 しかしその間にユルグがさっと箱を手に取り、話題沸騰の饅頭は一行の手に。
 されど綾はなかなかマダムに離してもらえず、その光景を花世がにこにこと、リルがはらはらと見ていた――というのが先程の出来事だ。
「んふふ、そうそう、綾のマダムキラーに助けられたわ」
 ユルグがおかしげに口許を緩めれば、綾もさやさやと肩を揺らした。綾の見事な囮っぷりにすかさず切り込むユルグの連携。思わず自分も目から熱気が溢れてしまって、ということを花世が楽しげに語る。
「あれは、みんなで掴んだ完全勝利だよ」
「ヨルも勝ち誇ってたよね。やったー! って」
「ああ、これでもうこの戦いに悔いはない」
 リルは皆が楽しそうだったから、きっとあれで良かったのだと頷いた。ユルグも大仰に頷き、心地良さそうに瞳を細める。
 それに今、こうして足湯に浸かりながら楽しむものは勝利の味のように思える。
「あの戦いがあったからこそ、今があるのでしょうね」
 綾は澄まし顔で悪戯な笑みを浮かべ、揺らぐ水面と湯の供に視線を巡らせた。
 蒸かしたてのお饅頭から立ち昇る湯気。
 とろり揺れる温泉卵は出汁醤油の香しさが決め手。
 そして、其処に添える冷酒には舞い散る花弁が舟のように浮かんでいる。杯を傾け、花酒を軽く煽った綾は上機嫌。
 リルもぴるぴると鰭を揺らし、今しがた食べ終わったお饅頭の味にほわりと笑む。
「このお饅頭も、温泉玉子もおいしかったぁ」
 お年玉で膨らんでいたお魚のお財布。そのお腹はぺったんこだけれど、リルのお腹は幸せな心地でいっぱい。
 リルがあまりにも穏やかに語るものだから、花世と綾もつられて破顔する。
 温い湯に広がる波紋。
 其処に人魚の尾鰭が優美に水面を彩る。水面を飾る花弁と游ぶかのように揺らめく心地。そのきらめきや花の淡さ、じゃれあう笑い声を聞いていると、ゆったりとした眠気に誘われそうにもなる。
 綾が微睡む中、花世はなにもかも全部をお土産に持って帰ろうと心に決めた。
 その最中でユルグも静かに笑う。すると揺れる盃に花弁がひとひら落ちてきて、とても好い風情を感じさせてくれた。
 そして、そのとき。
「きゅ!」
「わ、ヨル?」
 それまでリルの膝の上に乗っていたはずのヨルがぴょこんと飛んだ。どうやら興味本位で足先を湯につけ、その熱さに驚いたようだ。
 顔を見合わせた四人は最初こそ驚いていたが、すぐにおかしそうに笑いあった。
「リルも湯加減大丈夫?」
「大丈夫。身体がポカポカで心地いいよ」
 ユルグからの問いかけにリルは穏やかに答え、ほっこりと吐息を零す。
 至福のひとときは春色。舞い散る桜も倖色。
 其処で不意に茹でられてしまった人魚を連想してしまった綾は思わず呟いた。
「茹で魚になってしまったら食……」
 だが、はたとして口許を押さえる。危うい思考になりかけたのは一瞬だけ寝惚けたからと空腹の所為に違いない。
 するとリルは冗談めかして問いかけた。
「齧ってみる? 食むのは先約があるのだけれど……」
 そのくらいなら、なんて言えるのも此処で過ごす皆に親愛を懐いているから。
「いやいや茹でンのは――」
 笑うべきか否か、ユルグは思わず真面目に語りそうになったが、本人魚が気にしていないのだから良いことにした。
 そんな中で、はっとした花世は或ることに思い至った。
「……これ、死亡ふらぐじゃないよね?」
「ふらぐ?」
 きょとりとしたリルの横で、花世は新たな温泉饅頭を取り出した。死ぬ前にお饅頭だけは食べておこう。神妙な顔で箱を開封した花世は真剣だ。
「俺もこれを食わずには帰れない」
「僕も食べる!」
 ユルグとリルは花世に期待の眼差しを向ける。受け取った出来立ての温泉饅頭を頬張りつつ空を仰げば、快い気分が更に巡った。
 そして、微睡みから抜けた綾もまた花世に手を差し出す。
「私にもください。出来立ての極上を味わえるなんて……そうですね、もう死んでもいいかもしれません」
 冗談交じりの綾の言葉に、花世はぽつりと呟き返す。
「どうしてだろう、今、ふらぐが乱立した気がしてならないんだ」
「こんな最高の日にふらぐなんて立つワケないさ」
 ユルグはそう言いながらも確実に妙な旗が立った気配を感じていた。そしてリルも静かに俯き、これから巡る事件の気配を思う。
 まさか最期の晩餐が、温泉饅頭だなんて――あの時の僕は思いもしなくて。
 そんなナレーションが入りそうな雰囲気だ。
 けれども、皆の間に満ちるのはこのうえない幸せの心地。
 穏やかで楽しげな彼らの姿を、人魚の膝の上にいたペンギンがきゅっきゅと嬉しそうに鳴きながら見守っていた。
 
 果たして彼らの辿る運命や如何に。
 次回――花影温泉殺人事件、第二幕。『温泉饅頭は死の香り』。乞うご期待!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『クローズドサークルへようこそ』

POW   :    全員が一ヶ所に集まっていれば何も起きないはずだ。

SPD   :    自分以外は信用できない。部屋に籠り外部からの助けを待つ。

WIZ   :    これまでの事件から犯人を推理し、惨劇を止めてやる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●殺人予告と五つの橋
 平穏に過ぎてゆく温泉郷での時間。
 今夜は旅寓に一泊し、次の日も温泉や街を楽しむ――そんな日の夜に事件は起こる。
「大変です! 渓谷の大橋が落とされてしまいました!」
 旅寓の女将が血相を変えてやってきた。
 どうやら予知されていた通りにこの温泉郷は影朧の手によってクローズドサークル、つまりは陸の孤島となってしまったようだ。
 猟兵達は怯えたふりをしながらも、手筈通りだと感じていた。
 今宵、此処に宿泊しているのは猟兵のみ。昼間にいた観光客がすべて帰った後に橋が落とされた為、この郷にいるのは従業員と猟兵だけとなる。
 そして――不安な夜が明けた朝。
 宿泊客たる猟兵達に女将から告げられたのは、奇妙な手紙が届いていたということ。
 その内容はこうなっている。
 
.........................................
『惨劇の詩』
 
 五つの橋に纏わる物語。それは本来、死で飾られるもの。
 命が惜しければ橋に近付くことなかれ。好奇心は猫を殺す。

 緋桐橋では『むすばれ』て。
 桜の大樹に縄掛けて、ゆらゆら揺らめく首吊り死体。
 哀れ、哀れや。大切な者とは決して結ばれぬ。
 
 姫射干橋では『あこがれ』て。
 憧れはいつか憎しみに。焦れ焦がれて炎に焼かれる。
 燃えろ、燃えろや。思いは決して通じない。
 
 曼珠沙華橋では『よりそい』て。
 共に歩けば何れ殺し合う。寄れば寄るほど絡まる糸。
 切られ、斬られや。血の惨劇は此処にあり。
 
 紅手鞠橋では『みそめ』て。
 視線を感じて振り向けば、さくりさくりと突き刺す刃。
 見られ、視られや。縁になる前に儚く潰えるもの。
 
 紫雲英橋では『やすらぎ』て。
 友への愛など所詮は偽り。冷たい疑念で凍りつく。
 静か、静かに。水に沈みて眠れば、それこそが安らぎの場。

 いざや、いざ――死の惨劇と禍殃を謳おう。
 
.........................................

 どうやらこれは殺害予告めいたものらしい。
 所謂、『見立て殺人』が起こるということなのだろう。
 緋桐橋は首吊り。姫射干橋は焼死。曼珠沙華橋では殺し合い。紅手鞠橋は刺殺。紫雲英橋では水死。
 橋に向かえばそういった事柄が起こるのだと予想できる。
 命が惜しければ近付くなとは書かれているが、それはただの煽りでしかない。こう書いていれば物語の登場人物達は必ず調べに向かう。ミステリーとはそういった仕組みで出来ているのだから。
 また、手紙の詩の宛名は宿泊客あてだ。
 宿の女将や従業員などに危害は加えられないと思われるゆえ、旅館でじっとして貰っていればいい。下手に声をかけたり避難を促そうものなら、仲間と見做されて殺されてしまうかもしれないので触れない方がいいだろう。
 
 これは確実な罠だ。
 しかし、影朧を誘き寄せるために敢えて其処に向かわなければならない。
 黙って橋に立っていれば詩の通りの方法で殺され――無論、猟兵ならば死には至らず死んだふりで済むのだが――死に導かれる。
 ただ橋で待っているのも良いし、敢えて自分達で死を演出してみるのも良い。
 特に曼珠沙華橋や紅手鞠橋では、二人以上の人間がいれば愛憎入り交じる殺人劇を演じることも出来るだろう。
 また、片方が何らかで死んで片方がその死を嘆くという構図も良い。
 橋には行かず、旅館でその他の死に方を選んでみるのも良い。細かいことは気にせずとも構わない。影朧の目的はただ、死を視て記録することだけなのだから。

 ――さあ、君たちはどんな死を迎える?
 
イリーツァ・ウーツェ
首吊り、焼死、殺し合い、刺殺、水死
此の中では、紫雲英橋の水死が最適か
橋まで行き、欄干を調べる様な素振をして
何か見えた風に身を乗り出す

背中を押されるか、欄干が“偶然”崩れるかすれば
川の中へ、真っ逆さまだ
私は水に浮かないから、溺死を装うには丁度良い
人間では無いから、窒息も低温も無害だが
水底で転がっていれば、上からは見えまい
浮かび上がらなければ、死んだと思われよう

懐かしいな
A&Wで湖に沈んだ事を思出す
冷切った水底は、心地が良い
犯人が来るまで、意識を水に溶かし
微睡むとしよう



●一番目の死
 首吊りに焼死、殺し合いに刺殺、そして水死。
 旅館に届けられたという奇妙な殺人予告めいた手紙を思い返し、イリーツァは其々の橋について考えを巡らせていた。
 其処に向かえば何らかの死が齎される。イリーツァは少しばかり思い悩むような様子をみせてから、歩きはじめた。
「此の中では、紫雲英橋が最適か」
 向かう先はやすらぎ橋。
 奇妙な予告を訝しむ客のふりをしながら、イリーツァは橋の上まで歩を進めた。
「ふむ、此処から誰かが落ちるかもしれないな。殺人など起こさせはしない」
 わざとらしく言葉にするのも、敢えて事件を起こさせる為。
 緋色の欄干を調べる素振りを行いながらイリーツァは周囲の様子を探る。先程から何かの気配があるのだが、気付かぬふりをしている。
「ん?」
 そして、イリーツァは水路に目を向けた。何か見えた。そんな風に装って身を乗り出すのも盛大な誘引だ。
 すると――背後から何かが近付いてくる。
 されど振り向かぬまま、イリーツァは水底に目を凝らし続けた。
 一瞬後。どん、と強く背中を押された。
「――、……!」
 声なき声をあげながら、イリーツァは真っ逆さまに水路の中に落ちていく。
 浮かぶ泡。沈む身体。冬の最中、冷たい水は死を招く。
 そう、通常なら。
 イリーツァは水に身を任せながら、そのまま沈み続ける。もがく演技を行う彼の身体はやがて水底へ到達する。暫し足掻く仕草を見せた後、俯せる形でイリーツァは動かなくなった。
 浮かび上がらなければ、きっと死んだと思われるだろう。
 これが詩に書かれていた水底での安らぎだろうか。
(――懐かしいな)
 死の演技を続ける最中、イリーツァはふといつかのことを思い出す。湖に沈んだあの日。冷え切った水底は心地が良かった。
 ああ、このまま――影朧が訪れるまで、意識を水に溶かして微睡むとしよう。
 イリーツァは瞼を閉じ、『そのとき』をじっと待った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
アドリブ歓迎

来たか…
一回死んで来いとは聞いたが、見立て殺人とはな
なかなか良い趣味をしている…悪い意味でだが

では向こうの目論見通り、あえて見立て殺人で行ってみるか
紅手鞠橋にて全身を滅多刺しにされて絶命している姿を演出だ
とはいえ本当に刺されるわけにもいかんだろう
UCを発動
腹部や胸部など体のあちこちの一部を毒霧に変える
毒の種類は非常に弱い毒性にしておこう、近寄ってもせいぜい鼻がムズムズするだけだ
穴のように開けた毒霧の部分にナイフをいくつか刺せば惨殺死体の完成だ
事前に購入しておいた血糊も塗って、さらに凄惨な現場を演出しておく

やれやれ…せっかくの浴衣が血まみれか…
作戦が終わったらまた温泉に入りなおそうか



●血塗れの浴衣
「――来たか」
 件の奇妙な手紙を読み、キリカは肩を竦める。
 確かに一度、死んで来いとは聞いていた。しかしそれが見立て殺人だと知ったあと、キリカはおかしな感情を覚えていた。実に手の混んだ遣り口だ、と。
「なかなか良い趣味をしている……」
 無論、悪い意味で。
 キリカは立ち上がり、向こうの目論見通りに誘いに乗ることにした。あえて見立て殺人のひとつに身を委ねてみようと決めたのだ。
 
 そして、キリカは紅手鞠橋に訪れていた。
 死の手筈は万端。殺しに来るという影朧を待たずして、キリカは既に橋の上に死体となって倒れていた。
 彼女は血塗れで全身を滅多刺しにされ、絶命している姿となっていた。
 とはいえ、本当に刺されているわけにもいかず――。
 ユーベルコードを発動させていたキリカの身体は今、毒霧と化している。
 腹部や胸部、体のあちこち。その一部が霧になっている。
 穴のように開けた毒霧の部分にはナイフをいくつも刺さっているため、惨殺死体として完璧な様相だ。
 それゆえに、彼女はこうして自分を亡骸のように見せかけられている。
 毒の種類は非常に弱いものにしていた。近寄ってもせいぜい鼻がくすぐられる程度の威力に留めているゆえ、不審がられる要素もない。
 更に彼女を際立たせているのは事前に購入しておいた血糊。その紅の色が緋色の橋を染めあげ、凄惨な現場が演出されている。
 こうしていれば、間もなく自分の死を確かめにきた影朧の亡霊と対面できる。
 それまではこの死体ごっこを続けよう。
 そう考えるキリカには、ほんの少しだけ残念な思いがあった。
(やれやれ……せっかくの浴衣が血まみれか……)
 旅館の客として振る舞うべく、着ていた浴衣は血糊でべとべとだ。毒霧化しているとはいえど、肌に張り付く血はお世辞にも心地好いといえるものではない。
(仕方ない、作戦が終わったらまた温泉に入りなおそうか……)
 それまでは我慢するしかない。
 キリカは眼を閉じ、暫しの時を過ごす。そうして、やがて――彼女の傍に何かの気配が近付き、不穏な雰囲気が満ちはじめた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

メディツ・フロレンティア
*アドリブ歓迎
「ふむ、橋が落ちたとな。…なに、夜が明ければ外の人間も異変に気付くだろう。それまで注意していればいい…」
と、無関心を装いつつも緋桐橋の文を読んで心が落ち着かなくなっている。人目を盗んでこっそり緋桐橋にむかうよ。
…私は昔首吊り自殺を装い患者を殺害したことがある。この手紙は私への復讐の為、決定的な証拠を掴んだという宣告ではないかと思い緋桐橋に向かったのだ。そこで私は犯人思惑通り一人になり、ものの見事に絞殺され見立て殺人の死体の一人となり果てた…。
「ゆ、赦してくれ…私は、私は…!」

まあ、一から十まで全部設定なんだがね。私の死因をもう一度体験するはめになるのには何かしらの因果を感じるが。



●首吊りデッドライン
「ふむ、橋が落ちたとな」
 女将の報せと手紙を受け、メディツは平静を保っていた。
 正確には、そういった客の役割を担っている、と表した方が相応しい。
「なに、夜が明ければ外の人間も異変に気付くだろう。それまで注意していればいい」
 どうせ手紙も悪戯だ。
 そんな風に無関心を装いながらも、メディツの心は逸っていた。
 宿で大人しくしていればいいと女将達に告げながらも、彼女の頭は或ることでいっぱいだった。そう、緋桐橋の文を読んで胸中が妙に落ち着かなくなっているのだ。
 やがてメディツは人目を盗んでこっそりと緋桐橋に向かう。
 
 ゆらゆら揺らめく首吊り死体。
 哀れ、哀れや。大切な者とは決して結ばれぬ。
 そんな文言を思い返したメディツは橋の傍に咲く幻朧桜を見上げていた。
「……私は、」
 思い返すのは過去の出来事。
 メディツは昔、首吊り自殺を装って患者を殺害したことがある。
 ああ、きっとこの手紙は自分への復讐の為。決定的な証拠を掴んだという、そういった宣告ではなかろうか。
 そう思ったからこそメディツは緋桐橋に向かったのだ。
「ゆ、赦してくれ……私は、私は……!」
 嘆くように頭を抱えるメディツは懺悔する。
 これまでのことを言葉にすれば罪悪感が募り、押し潰されそうになった。
 きっと犯人の思惑通りなのだろう。一人きりになったメディツが俯いている中、背後に何者かの影が現れる。
 されどメディツは気付かない。罪に心を支配され、気付くことが出来ない。
 そして――。
 ものの見事に謎の影に絞殺されたメディツは見立て殺人の死体の一人と成り果て、桜の下に吊るされてしまった。

(まあ、一から十まで全部が設定なんだがね)
 目を閉じ、桜が舞っていく気配を感じ取っているメディツはじっと考える。
 これで後は影朧が自分の死体を再確認しにくるのを待つだけだ。そんな中でメディツは、それにしても、と胸中で独り言ちる。
(私の死因をもう一度体験するはめになるのには何かしらの因果を感じるな)
 死体が風に揺れる。
 もう一度、あの日のように。十の頃に選んだ自死を疑似的に追体験するかの如く、ゆらり、ゆらりと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

永倉・祝
鈴白くん(f24103)と。
クローズドサークルなんてサスペンスの定番過ぎてドキドキしちゃいますね。
うん、とは言え死ぬのは僕一人でいいでしょう。
猟兵が丈夫とは言っても痛みはありますし。
それならそれは僕一人が味わえばいい。
君になら殺されても構いませんよ。

ふふ、僕を殺すのは僕の全部が欲しいからですか?
そうですか、君は強欲だと言っていましたものね。
その意志が変わらないのなら僕も受け入れましょう。
(最後に秋人の顔を見てくすりと笑って)

(さてうまく死ねましたかね…このまま眠ってしまえばより完璧でしょうか?)


鈴白・秋人
永倉さん(f22940)と

【永倉さんを刺すのは少々心が痛みますわね…。でも。貴女の全てが欲しいのはわたくしの正直な心。切欠さえあれば躊躇せず刺す事が出来ますのに…】

(部屋へ移動中)

…永倉さん…?
貴女…
わたくし以外の方にも随分と優しいんですのね…。

わたくしは貴女にとっての特別なのではなくって?

【何ですの…本当に嫌な心持ち…】

(部屋に入るなり激昴)

わたくしの…
わたくしの心を弄んでいらしたの!?

わたくしは冗談で貴女と共に居るのではありませんわ!

貴女の身も!
心も!
その命さえわたくしのものなのに!

(本気で刺す)

【何ですの…この喪失感と全て手にした悦びは…。何故…涙が溢れるの…?】

(名女優ばりの、演技?)



●あなたのすべて
 クローズドサークルといえばサスペンスの定番。
 胸が高鳴る感覚をおぼえながら、祝は宿の部屋で過ごしていた。秋人は宿の露天風呂に入ってきたいということで今の部屋にはいない。
 彼が無事に戻ってくることを願いながら、祝はそっと呟いた。
「……うん、とは言え死ぬのは僕一人でいいでしょう」
 きっとこれから、愛憎劇が始まる。
 猟兵が丈夫とはいっても痛みがないわけではない。それなら、そんな痛みは自分一人が味わえばいい。
 彼になら殺されても構わない。祝はそんな思いを抱く。
 秋人が間もなく訪れる気配を感じ取りながら、椅子に腰掛けた祝は静かに目を閉じた。
 
 同じ頃、廊下にて。
 秋人は懐に短剣を忍ばせ、部屋に向かっていた。
「永倉さん……」
 これから死を齎し、影朧を招く。その過程で彼女を刺すのは少々心が痛む。
 けれど、と首を振った秋人はナイフの柄を握り締めた。
「でも……貴女の全てが欲しいのはわたくしの正直な心。切欠さえあれば躊躇せず刺す事が出来ますのに……」
 そして、秋人は祝が待つ部屋の扉をひらいた。
「おかえりなさい、鈴白くん」
「……永倉さん――」
「どうかしましたか?」
 俯いた秋人に視線を向け、祝は首を傾げる。すると秋人はゆっくりと顔を上げた。
「貴女……わたくし以外の方にも随分と優しいんですのね。ねえ、わたくしは貴女にとっての特別なのではなくって?」
 その言葉は演技だ。
 しかし、そう告げていく秋人の心には複雑な思いが巡っていた。
(何ですの……本当に嫌な心持ち……)
 祝が誰かに優しい言葉を掛けていることを想像する。嫌だ。胸が痛い。そんなことをして欲しくない。自分だけにその言葉を、声を、気持ちを向けて欲しい。
 対する祝は歯切れの悪い言葉を返す。
「そう、ですね……」
「わたくしの……わたくしの心を弄んでいらしたの!? わたくしは冗談で貴女と共に居るのではありませんわ!」
 すると秋人は激昂した。詰め寄るように彼女の傍に歩んでいく秋人の瞳は暗い色を宿している。祝はその眼差しをまっすぐに受け止め、覚悟を抱いた。
 その言葉が演技ではなく本物ならば、心を尽くして返答しただろう。
 だが、今は自分が殺されるときだ。
 敢えて何も言わず、祝はじっと秋人を見つめていた。秋人は短剣を取り出し、その切っ先を祝に差し向ける。
「貴女の身も! 心も! その命さえわたくしのものなのに!」
 わたくしのものにならないなら、殺す。
 この手で死を与えればきっと、この想いは永遠になる。
 そう信じて――秋人は本気で祝の腹に刃を突き立てた。さくり、とまるで果物でも切るかのように刃が沈む。
「ふふ……僕を殺すのは、僕の全部が欲しいからですか? そう……ですか、君は強欲だと言っていましたものね……」
 その意志が変わらないのなら僕も、と告げた祝は抵抗することなく刃を受け入れた。
 そうして、最後に秋人の顔を見てくすりと笑う。
 その目は閉じられ、刃が突き刺さった腹部から血が溢れ出した。
「ああ……ああ、貴女は――貴女がいけないの……」
 秋人は自分の声が震えていることを感じながら、祝に縋り付くように身体を重ねた。
 湧き上がるのは喪失感。
 そして、全てを手にした悦び。
(……。何故……涙が溢れるの……?)
 頬を伝う涙が演技なのか、それとも本気なのか。秋人にはもうよくわからなくなっていた。そんな彼の様子を感じ取りながら、祝は死んだふりを続ける。
(さてうまく死ねましたかね……このまま眠ってしまえばより完璧でしょうか?)
 閉じたままの瞼を動かさぬよう、祝は意識を手放す。

 仮初で偽りの愛憎殺人劇。
 其処から生まれた感情は、きっと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリス・ステラ
【五星】

五劫と紫雲英橋で待ち合わせる約束をした私は再び温泉に

夜の静寂に響くのは流れる湯の音だけ
白磁を思わせる白い肌は熱を帯びて桜のよう
美しいプロポーションは湯煙でハッキリとは見えないが、それ故に何処か扇情的に
豊かな胸元、くびれた腰からのライン、スラリと伸びた脚
PTAからクレームが来るようなアングルの中、私は思考を巡らせる
このまま自体が進むなら私は──

場面は橋へ移る
正確にはその下の川で私は死んでいる
フリではなく完全な水死体
祈りのポーズのまま川の中をゆらゆらと浮かぶ
月明かりに見えたのは広がった私の金の髪
先ほどまで桜色に輝いていた肌の面影は最早ない

ヤドリガミなので仮初めの躰は時期(次章)に再生します


火神・五劫
【五星】

マリスと紫雲英橋で待ち合わせ

約束の時間通りに辿り着くが
月明り照らす紅い橋の周囲に
彼女の姿は影も形も無く

殺られるならば俺が、と
そう考えていたが――ああ、遅かったか

川へ飛び込み、マリスを腕に抱いて岸へ
一応は確かめるが…やはり駄目か
息も、脈も、温もりすらも残っていない

マリスの種族のことも
ひいては、この肉体は仮初の物だとも理解している
それでも嘆かずにいられない
きっと苦しかったろう、怖かったろう

ぽたり
彼女の頬に雫が落つる
雨でも降って来たか
俺の身体に残る川の水だろうか、それとも…

マリスを温めるように抱きしめたまま蹲り
【堅牢地神】を発動し機を待つ
さあ、影朧よ。来るがいい
奪われる痛み、とくと教えてやる



●水に沈む
 湯煙が揺らぐ温泉にて。
 マリスはこの後に交わした紫雲英橋での待ち合わせの約束を思い返しながら、湯に浸かっていた。上気する頬。熱を帯びた身体。
 だが、桜が浮かぶ水面を見つめる瞳には憂いが満ちている。
 夜の静寂に響くのは流れる湯の音のみ。その中で徐ろに立ち上がったマリスの肌を伝って、雫が落ちる。
 その白磁を思わせる白い肌は熱を帯びて桜のよう。
 流れるような美しい肢体が湯煙の中で影になって映る。豊かな胸元、くびれた腰からのライン、スラリと伸びた脚。
 それはよく見えないが故に何処か扇情的な印象を感じさせるシルエットだ。
 そして、マリスは憂いを帯びたまま思考を巡らせる。
(このまま事態が進むなら私は――)

 そして、舞台は紫雲英橋へ。
 五劫は待ち合わせの時間通りに橋に向かい、マリスを待っていた。
 だが、周囲を見渡してみても彼女は何処にもいない。辺りではただ桜の花がはらはらと舞っているだけだ。
 紅い橋の上。彼女の姿は影も形も無く、五劫は首を傾げた。
 もし殺られるならば俺が。
 そう考えていたのだが――ああ、遅かった。そう思い至ったのは橋の上ではなく、その下にマリスの姿を見つけたからだ。
 桜が花筏となって揺らぐ水面。冷たい水路の最中に彼女はいた。
 正確には、ゆらゆらと浮かんでいた。
 仰向けで祈るように両手を組み、眸を閉じたマリスは死んでいた。
 広がった金の髪は月の光のよう。先ほどまで桜色に輝いていた肌の面影は最早なく、亡骸となったことを示す生気のない青白さが見えた。
「マリス!」
 五劫は咄嗟に川へ飛び込み、マリスを腕に抱いた。冬の水の冷たさは身に染みたが、彼女を岸へと運んだ五劫はその名を呼ぶ。
 そして一応は生存を確かめてみる。だが――。
「……やはり駄目か」
 息も、脈も、温もりすらも残っていない。一目見たときに感じた、死んでいるという直感は間違いではなかった。
 五劫とてマリスの身体が仮初のものだということは知っている。しかしそれでも、死を目の当たりにするとなると嘆きの感情が浮かんできた。
 きっと苦しかったろう、怖かったろう。
 未だ祈りのポーズを取り続けるマリスはどれほどの苦しみを味わったのか。
 ぽたり、と彼女の頬に雫が落ちた。
 雨でも降って来たか。
 五劫の身体に残る川の水だろうか、それとも。
 冷たくなったマリスを温めるように抱きしめたまま蹲り、五劫は深く俯いた。そして、言葉にはしない思いを胸中に抱く。
 ――さあ、影朧よ。
 来るがいい。奪われる痛み、とくと教えてやる。
 緋色の橋の上で、復讐の心が巡る。
 喪失感はすべてを取り戻すための力となり、そして――この殺人事件を止める、確かな意思へと変わってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

青霧・ノゾミ
ニノマエ(f17341)と

(成程、と。ひとつ芝居をうとうと思って考えた。
なので、変な照れはなく。コホンと咳払いして)

緋桐橋の桜の大樹のもとへ。
僕らが結ばれるのは……いつだろう。

さてニノマエ。
何を信じるかは自分しだいと言ったね?
では僕のことは。
(笑んで、じっと見つめ。氷刃を抜き放ち急所を外して一突き)
……嬉しいよ、信じてもらえて。

『咲桜』

舞い散る桜吹雪。
このUCを使えること、ニノマエは知らないはず。
きみの『散桜』によく似ているでしょう?
対みたいに。
……さあ眠って。僕の腕の中で。
しばらくニノマエの寝顔を眺めたあと、
僕も毒を煽って死のう。
このまま桜の根元で二人で、ずっと。
「  」
桜吹雪に囁きは消え。


ニノマエ・アラタ
ノゾミ(f19439)と

(手紙は読んだ。が、後の展開はノゾミまかせで知らない)

共に戦ってきた戦友であり、相棒である。
今更何を。
言いかけて黙る。
それ以上は考えないように、桜の花に眼をやる。

企みの笑みには無言の相槌を。

「……!」

本当に刺されるとは思ってなかった。
急所は外している。
耐えることはできるが、痛みが無いわけじゃない。

桜が舞い散る。
しかし触れる花びらが先程とは違う。
優しく癒すような……俺の『散桜』とは真逆の。
こんなUC使えたのか。
力が抜けてくる。
崩れ落ちる身体をノゾミに預け、眼を閉じる。
こういう結びをノゾミは望んでいるのだろうか。
……俺は抗うこともせず、眠りに落ちてゆく。
それしか、できずに。



●届かぬ言の葉
 奇妙な手紙を読み、二人は決意を固めていた。
 ノゾミは成程と頷き、ひとつ芝居を打とうと考えた。それゆえに変な照れはなく、コホンと咳払いをしてニノマエに告げる。
「緋桐橋、あの桜の大樹のもとへ」
 ――僕らが結ばれるのは、いつだろう。
 意味深な言葉を告げた彼の声を聞き、ニノマエは共に橋へ向かうことを決めた。
 ニノマエに彼の思惑は分からない。それでも何か案があるのだろうと感じたニノマエはノゾミの後に続いてゆく。
 
 紅い、紅い、緋桐橋の上。
 彼は共に戦ってきた戦友であり、相棒である。ニノマエは目の前に向かい合う形で立っているノゾミを見つめていた。
「さてニノマエ。何を信じるかは自分しだいと言ったね?」
「……ああ」
 ノゾミからの問いかけにニノマエが首を縦に振る。するとノゾミは更に問う。
「では僕のことは」
「今更何を、」
 其処まで言いかけてから、ニノマエは黙り込んだ。敢えてそれ以上は考えないようにした彼は橋の傍に咲く桜の花に眼をやる。
 ノゾミはその視線が花に向いたことに気付き、ちいさく笑む。ニノマエをじっと見つめた彼は氷刃を抜き放つ。そして――。
「……嬉しいよ、信じてもらえて」
「……!」
 急所を外して一突き。鈍くて熱い感覚が走り、ニノマエは声なき声をあげた。
 信じるとは言った。
 だが、本当に刺されるとは思ってなかった。急所は外されており耐えることはできるが、痛みが無いわけではない。
 そして、ノゾミは己が秘めていた力をニノマエに向けて放つ。
 ――咲桜。
 舞い散る桜吹雪。微睡みに誘われる感覚。
 この力を使えることはニノマエは知らないはずだ。その予想通り、ニノマエは驚きの表情を浮かべながらノゾミに凭れ掛かるように倒れ込んだ。
(優しく癒すような……俺の『散桜』とは真逆の……)
「きみの『散桜』によく似ているでしょう?」
 対みたいに、と口許を緩めたノゾミは彼の身体を受け止める。
 力が抜けてゆく。既にニノマエの意識は遠退きかけており、まるで死を迎えるかのような感覚が巡っていた。
 ニノマエは崩れ落ちる身体を彼に預け、眸を閉じる。
「…………」
「……さあ眠って。僕の腕の中で」
 意識を手放す直前、そんな声が聞こえた。こういった結びをノゾミは望んでいるのだろうか。ニノマエは抗うこともせず深い眠りに落ちてゆく。
 そうすることしか、できずに。
 そして暫く、ノゾミはニノマエの穏やかな寝顔を眺めていた。膝をついて彼の身体を抱きかかえ、その頬を撫でたノゾミは双眸を細める。
「僕も、この毒で死ぬよ。これで一緒に居られるね」
 このまま桜の根元で二人で、ずっと。
 
『     』

 ノゾミは眠るニノマエの耳元で何かを囁く。
 吹き抜けた風と桜吹雪に紛れ、その言葉は誰にも聞かれることなく消えていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六道・橘
アドリブ◎
「ふ、ふ、ふ…あっははは!」
全くもって仰る通りね
強い情念は碌でもない結末を招くわ
だからって、何モノも抱かず過ごすなんて透明なこと、通常の人間には叶わないのよ“兄さん”

むすばれ:恋愛以上に通じ合いたい―あなたの想いは気取ってた
あこがれ:なんでもできるあなたを恨む醜い『天』
みそめ:産まれた刹那は仲良し双子
やすらぎ:…私が壊した

『よりそい』の中央、鞘から抜いた刀を差し出す芝居
私の心は「やめて」と悲鳴をあげている
同じが怖い私はあなたの『 』を斬ってくれたら信じるなんて酷い事を嘯いた

―何故、笑顔で自分に不可逆の傷を刻めるの?

誰か私を罰して
誰かあの人を助けて
誰か、誰か
“俺達”を助けて

死に様お任せ



●堕ちる花
「――ふ、ふ、ふ……あっははは!」
 奇妙な殺人予告めいた手紙を読み、橘は笑っていた。
 可笑しい。実に可笑しかった。思わずそんな風に声をあげたのは、記されたことに納得してしまったからだ。五つの橋とそれぞれの感情。表向きは良い意味であっても、裏を返せばすべてが死を招く要因に成り得る。
「全くもって仰る通りね」
 橘は改めて手紙の詩に目を通す。きっと死と詩をかけているのだろう。
 そう、強い情念は碌でもない結末を招く。けれども人は感情を抱かずにはいられない。誰かが誰かを思う。それは当たり前のこと。
「だからって、何モノも抱かず過ごすなんて透明なこと、通常の人間には叶わないのよ。ねえ、“兄さん”」
 橘はくすくすと微笑み、五つの感情を思う。
 むすばれ。恋愛以上に通じ合いたい、あなたの想いは気取っていた。
 あこがれ。なんでもできる、あなたを恨む醜い『天』。
 みそめ。産まれた刹那は仲良し双子。
 やすらぎ。それは、私が壊したもの。
 そんなことを考えて思いを巡らせながら、橘の足は自然によりそい橋――即ち曼珠沙華橋に向いていた。その橋の中央にて、橘は鞘から刀を抜き放つ。
 目の前には誰も居ない。
 それでも刃を差し出すような芝居をする橘の瞳は真剣だった。
 ――やめて。
 己の心が悲鳴をあげているのが分かった。
 同じが怖い。
 私はあなたの『   』を斬ってくれたら信じる。なんて、酷い事を嘯いた。
 ――何故、笑顔で自分に不可逆の傷を刻めるの?
 差し向けられる刃は誰かからのもの。そして、誰かへのもの。橘自身にしか解らぬ感情のまま、彼女は刃を突き立てる。
 同じ顔に。同じ存在として生まれたものに。今はそう、自分に。

 誰か私を罰して。
 誰かあの人を助けて。
 誰か、誰か。
 “俺達”を、助けて。
 
 届かぬ言葉は血と共に零れ落ち、そして――紅い、紅い、彼岸花のような彩を抱く橋の上。胸に刃を突き立てられた亡骸がひとつ、崩れ落ちた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

氷室・雪
重度の猫好きなので慣用句だと分かっていても猫という言葉には反応してしまう

探偵役よりは被害者役のほうが性に合っているかな
上手く芝居が出来るかだが、不慣れなりに精一杯やろう

私は脱出する方法を探しに行ってみよう
昔使われていた橋が存在したり、渓谷が狭くなって渡れそうな場所があるかも知れないと残してな
無論、本気ではなくて死にそうな行動をとるのが目的だ

渓谷に落ちて死んだことにしよう
事故か他殺か
谷底で本人確認が出来ないので本当に死んでいるのか
というのは推理ものではありがちか

問題は旅館とも橋とも違う場所というところだが

渓谷への接近がダメな場合や他の人と死因が被った場合は旅館に残り流れに身を任せることにする



●渓谷の落下死
 好奇心は猫を殺す。
 奇妙な手紙の内容を思い返し、雪は俯いた。
「猫が……」
 可哀想。そんなことを考えてしまって、はっとした雪は首を振る。
 今回は猫は関係ない。実を言えば雪は重度の猫好き。それゆえに慣用句だと分かっていても猫という言葉にはつい反応してしまった。
 気を取り直した雪は、こういったクローズドサークルには探偵が付きものだと考える。しかし、自分は被害者役のほうが性に合っている気がした。
 上手く芝居が出来るか。温泉での過ごし方に引き続き、これも勉強だと感じた雪は不慣れなりに精一杯を尽くそうと誓った。
「こうなると落とされた橋に向かってみるべきか」
 一先ずは脱出する方法を探しに行くのが定番だ。
 例えばそう、昔に使われていた橋が存在したり、渓谷が狭くなって渡れそうな場所があるかもしれない。
「私は渓谷の入口を調べに行こう。女将たちは宿で待っていて欲しい」
 そのように、犯人――この場合で言う影朧――に分かりやすいように旅館の者達に告げた雪は、件の黒い橋へと出発した。
 無論、本気ではない。真っ先に死にそうな行動を取るのが目的だ。
 そして五つの紅い橋を横目に、雪は落とされた大橋に向かった。

 暫し後。
 せせらぎの音が響く渓谷の底にて、少女の転落死体が見つかった。
 岩で頭を打ったのか血が広がっている。上半身は岩の上だが、下半身は冷たい川の水に晒されており、肌は青白く生気がない。
 事故か、他殺か。
 大橋の上から覗き見ることしか出来ず、谷底で本人確認が出来ないので本当に死んでいるのかわからぬ状態。
 推理物の話では往々にして起こり得る、この状況は文句なしに最高だ。
(冷たいな、これは……)
 雪は死体のふりをしながら耐えていた。
 猟兵としての自分の身体は一般人と比べて丈夫ではある。岩場に広がっている血も偽物であり、外傷などひとつもなかった。だが――。
(寒い……)
 温泉で溺死した方がまだ楽だったか。いや、それはそれで足湯に浸かったときのように肌が真っ赤になって別の意味で苦しくなる。
 死ぬのは辛い。
 当たり前のことを実感しながら、雪は懸命に死体の役を務めた。その際に考えるのは猫のこと。かわいい猫と戯れる想像をしながら何とか乗り切るつもりだ。
 そして、暫しの時間が経った後。
 谷底の彼女の傍へと何者かの影が迫ってきていた――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふえぇ、殺人予告ですよ。
あ、アヒルさん、アヒルさんがいません。
まさか、昼間に見ていたものが真犯人に繋がる手掛かりだったからそれを確認しに行ったんですね。
待っててください、すぐ行きますから。
このまま私も昼間にいた橋に行ったら二人とも死んでしまうんですよね。
だって、ここは曼珠沙華橋。
(ふえぇ、なんでアヒルさんが先に死んでいるんですか?
予告と違いますよ。)
あ、アヒルさん、まだ意識があったんですね。よかっ・・・(ばたり)。
ここからだとアヒルさんが見ていたものがよく見えますね。
アヒルさん、本当は紅手鞠橋に向かったんですね。
そして、これが真犯人さんの使った時間短縮トリックなんです・・・ね。



●トリックは此処に
「ふえぇ、殺人予告ですよ」
 奇妙な惨劇の詩を読み、フリルは怯えていた。
 良い謂れでしかないと思っていた五つの橋に、たくさんの死に方が記されている。怖いですねアヒルさん、とガジェットに呼びかけようとしたフリルはふと、傍に誰も居ないことに気が付く。
「あ、アヒルさん、アヒルさんがいません」
 何処に行ったのだろう。
 まさか、昼間に見ていたものが真犯人に繋がる手掛かりだったのでそれを確認しに行ったのかもしれない。そう考えたフリルは立ち上がり、ぐっと掌を握る。
「待っててください、すぐ行きますから」
 このまま自分も昼間にいた橋に行けば、二人とも死んでしまう。
 何故ならあの場所は曼珠沙華橋。
 だが、橋に向かったフリルは其処であるものを見つけてしまった。
「アヒルさん……!?」
(ふえぇ、なんでアヒルさんが先に死んでいるんですか? 予告と違いますよ)
 本気で驚いたフリルは倒れて転がっているアヒルさんへと駆け寄った。
 死んでいると思ってしまったのだが、その身体は僅かに動いている。ほっとしたフリルは手を伸ばしてアヒルさんに触れた。
「あ、アヒルさん、まだ意識があったんですね。よかっ……」
 されどその声は途中で途切れる。
 何故なら背後から謎の一閃によってフリルの背が斬られたからだ。
 ばたり、と倒れる少女。痛みで薄れゆく意識の中、フリルは欄干の隙間から見えるものに気付く。
(ここからだとアヒルさんが見ていたものがよく見えますね……)
 ああ、アヒルさんは本当は紅手鞠橋に向かっていたのだ。
 そして、これはなんやかんやで真犯人が巧妙に使った時間短縮トリックのなせる業に違いない。多分、おそらく。
 そしてフリルは死んだふりをして目を閉じる。
 きっとこの後すぐに真犯人である影朧が自分達の前に現れる。
 アヒルさんと共に、そんな予感を覚えながら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
正純(f01867)と

こちらは殺される役に徹する
何気なく橋を調べるように見せかけ、正純の銃口が背中に向くよう後ろを向いて
これから撃たれるとも思わずに、吞気にしている娘らしく

正純?どうしたのだ?
早く早く!こことか怪しいんじゃないか?

もちろん記憶消去弾のことは把握済み
撃たれた衝撃で橋から落ちたように見せるため、前につんのめった状態で川へと真っ逆さま
水の中に落っこちる寸前で全身を氷の膜で覆い、氷を筒状に伸ばして川底に固定
これでひとまずは沈むことも流されることもないはず

……でも流石にこのまましばらく待たなくちゃならないのも辛いのだぞ……。
しばらく川底から、正純がこの後どうなるか見てみることにしようっと


納・正純
ヴァーリャ(f01757)と

ヴァーリャを川に落す役として参加
橋の調査中にヴァーリャを背中から撃って川に突き落とす演技を行い、影朧を誘き出そう

・トリック
こちらが撃つ弾丸は、実弾と見せかけた記憶消去弾 これなら傷も残らない
事前に話す『惨劇の詩』の内容のみをヴァーリャから奪い、川底に沈んでもらおう
彼女の冷気を操る力があれば、川底にいながら無事でいられるはずだ

「急ぎ過ぎるなよ、ヴァーリャ。落ちたら危ないぜ?」
「……なあ、知ってるか? 『惨劇の詩』によればよ、この橋じゃ水死に見せかけた殺人が起こるらしい」
「つまらなくていけねえな、誰かを背後から撃ち殺すのはよ。次引き金を引く時は、正面からが良いもんだ」



●水底に安らぎなどなく
「正純、早く早く!」
 薄氷の髪を揺らし、少女が橋へと駆けていく。
 正体不明の謎の手紙を受け取った後、ヴァーリャ達は橋の調査を買って出ていた。近付くな、と言われて素直に近付かないままでは何も始まらない。
 好奇心は猫を殺すとも記されていたが、ただじっとしているのは性に合わない。
 そのような雰囲気を醸し出しながら、二人は紫雲英橋の上に立つ。
「急ぎ過ぎるなよ、ヴァーリャ。落ちたら危ないぜ?」
「大丈夫なのだ!」
 正純が呼びかけると、ヴァーリャが振り返って笑顔を見せた。俺達二人なら平気だという、正純への信頼が宿った微笑みだ。
「うーむ、こことか怪しいんじゃないか。この欄干が崩れるのか……?」
 小首を傾げ、ヴァーリャは橋に触れてみる。
 彼女は今、正純に背を向けていた。その間に彼は銃を手に取る。此方よりも橋に意識を向けている少女の背に銃口を差し向け、正純は口許を緩めた。
「……なあ、覚えてるか? 『惨劇の詩』によればよ、この橋じゃ水死に見せかけた殺人が起こるらしいよな」
「ああ、ちゃんと覚えて……正純? どうしたのだ?」
 彼が神妙な口振りになったことに気が付き、ヴァーリャは不思議そうな声をあげた。
 だが、その瞬間。
「動くなよ」
「……!」
 低く告げられた言葉。背に当たる硬い銃の感触。
 正純が銃爪に手を掛けている雰囲気を感じ取りながら、ヴァーリャは言葉通りに動かずにいた。どうして、とヴァーリャが震える声で問うと、正純は薄く笑む。
「この騒ぎに乗じて殺れば、罪はあちらさんに擦り付けられるだろ?」
「そんな……何故、俺を!?」
「さあな。強いて言えば、一度殺してみたかったってところか」
 誰かを、と付け加えた正純の眸は笑っていなかった。そして、銃爪が引かれる。
 銃声が鳴り、少女の短い悲鳴が辺りに響く。
 その勢いのままに突き飛ばされたヴァーリャが水に落ちる音が続いた。誰かを殺したかっただけ。ただそんな理由で、哀れな少女は冷たい水の中。
 水底に沈む。
 待ち受けているのは静かな死。ああ、これこそが安らぎ――。
 
 というわけで、これが二人による殺人劇の流れだ。
 種明かしをすれば、正純の銃は記憶消去銃。水路へと真っ逆さまに落ちたヴァーリャは水中に触れる直前に全身を氷の膜で覆い、氷を筒状に伸ばして川底に固定することで沈んでいる。
 受けた弾丸は実弾と見せかけた記憶消去弾であるゆえに外傷はない。
 彼女の冷気を操る力があれば川底にいながら無事でいられるはずだと信じた正純は、敢えて容赦なく撃ったのだ。
 これで後は影朧が出てくるのを待つだけ。
 上手くいったと感じたヴァーリャは水に沈みながらほっとした。
(……でも流石にこのまましばらく待たなくちゃならないのも辛いのだぞ)
 死んでいるという名目上、動くことも出来ない。暫く川底か正純がこの後どうなるか見ていることを決め、ヴァーリャは静かに待機していた。
 橋の上から水路を軽く見下ろし、正純は銃を仕舞い込む。
 それから口にしたのは殺しを終えた後の台詞。
「つまらなくていけねえな、誰かを背後から撃ち殺すのはよ。次に引き金を引く時は、正面からが良いもんだ」
 しかし、そのとき。不意に彼の背後から少女めいた声が響いた。
「では貴方も後ろから襲われてみてはどう?」
「!?」
 強く押される衝撃。そして、自分の身体が落ちていく感覚。
 ああ、影朧だ。
 そう感じたときにはもう正純は水路に転落していた。それまで気配はなかったうえに、下手に抵抗してしまうと事が起こらなくなる。
 それゆえに何をされるか気が付いていても、正純はされるがままだった。
(ああっ、正純! すまない、間に合わなかったのだ……)
(寒!! 冷てえ!!!)
 ヴァーリャは彼にも氷膜を施そうとしたのだが、動こうとしたときには遅かった。耐えてくれ、とヴァーリャが願う中で正純は暫し足掻く。
 やがて彼は冷たさを諦めるようにゆっくりと身体から力を抜いた。
 そう、まるで死に至ったかの如く。
 何はともあれ、これで二人共が水死したことになる。その際に水上の気配を探ったが、既に影朧――おそらく、敵の亡霊であるものは消えていた。
 だが、もう暫くすれば影朧は此方の死を改めて確かめに訪れるのだろう。
 きっと、すべての殺人劇が終わった頃に。
(我慢なのだ、正純!)
(……クソッ、どうせなら温泉に落ちたかったな)
 そんな思いを抱きながら、二人は『そのとき』を水底にて待ち続けた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラピタ・カンパネルラ
【仄か】
随分寂しい話をする手紙
その手紙に、友との水中散歩という色を付け足せるなら、きっと、良い事だ
そうだね、散歩に往こうか。
おぼろな視界で笑む。

ーーカロン
震えてる。

カロン。痛いのも与えるのも、僕、平気なんだ。
けど、寒くて息が出来なくて、何も受け取ってもらえないのは。すごく。とても、怖いと、分かるんだ
……助けておくれ。

黒炎が暖かくて安心する。これなら平気だと信じれる。
水の中から見えるもの、沢山かたらおう、カロン。
ひとりでは寂しい水の底も、ちょっとした秘密基地にしてしまおう
白灰鳩、白灰鳩、僕らの水の中への旅を、心地よいものにしておくれ。

目に魔力を通して見上ぐ
水底から見える桜吹雪
あれが僕らの天の川!


大紋・狩人
【仄か】
……所詮、だの、偽り、だの。
随分な文言じゃあないか。

ラピタ。
紫雲英橋から花の涙に手招かれて、
水底へ散歩に行かないか?

落とされるのを待つのも癪だろ。
(震えの露見、ばつの悪い強がり)
……参った。格好悪いな。
なんだ、それ。僕は平気じゃあないよ、ラピタ。
必要な時もあろう。
けどそれで、削られるのが当たり前になったら心配だ。
守らせて。守り合おう、二人で。

秘密基地なら居心地良く、暖かくなるよう黒炎の熱を。
水中でお喋りし易いよう、二人で入れる澄んだ薄膜。
【灰白鳩】で造りだすから願ってみて。
そしたら、きみのさいわいに委ねよう。

朝日に輝く花弁と、夜の名残の街灯り。
水底から見上げて、
二人で、星めぐりの旅を!



●水底の花星廻り
 絶望に満ちた、何とも随分な文言だ。
 死の詩を綴る寂しい手紙を読んだ狩人とラピタはそんな感想を抱いていた。
「……所詮、だの、偽り、だの」
「悲しいね」
 狩人が手紙を机に置くと、ラピタは俯く。すると狩人が、ラピタ、とその名を呼んだ。顔を上げると彼が此方に向けて手を差し出していた。
「紫雲英橋から花の涙に手招かれて、水底へ散歩に行かないか?」
「……そうだね、散歩に往こうか」
 この手紙に友との水中散歩という色を付け足せるなら、きっと良い事だ。静かに笑みを浮かべたラピタは狩人に頷く。
 そして、二人は紫雲英橋に向かった。
 
 ――カロン。
 ラピタに名を呼ばれ、狩人がはたとする。
 紫雲英橋の上、向かい合う形で二人は立っていた。
「震えてる」
「……参った。格好悪いな」
 彼らは今、自分達で死を迎える心算で此処に居た。それも殺人を行いに来るという影朧の亡霊に殺されるのは癪だったからだ。
 それでも、いざ此処に来ると決心が揺らいでしまった。震えが露見してしまってばつが悪いが、精一杯の強がりで狩人は誤魔化す。
 するとラピタはそっと笑みを湛えた。その表情は何処か儚い。
「カロン。痛いのも与えるのも、僕、平気なんだ」
「なんだ、それ。僕は平気じゃあないよ、ラピタ」
 痛みが必要な時もあるだろう。
 けれども、削られるのが当たり前になっていくのは心配だ。そう答えた狩人はラピタを見つめ返した。
「そう、かな。けど、寒くて息が出来なくて、何も受け取ってもらえないのは。すごく。とても、怖いと、分かるんだ。……助けておくれ」
 狩人は頷きを返す。
 助けて、と告げられたのから応えるしかない。否、応えたいと思った。
 守らせて。
 守り合おう、二人で。
 そう告げ返した狩人は黒炎の熱を宿す。その焔はあたたかく、ラピタは安堵を覚えた。
 これなら平気だと信じられる。
「水の中から見えるもの、沢山かたらおう、カロン」
 ひとりでは寂しい水の底も、ちょっとした秘密基地にしてしまおう。そんな風にラピタが語れば、狩人は二人で入れる澄んだ薄膜を巡らせる。
「灰白鳩で造りだすから願ってみて。そしたら、きみのさいわいに委ねよう」
「うん。白灰鳩、白灰鳩、僕らの水の中への旅を、心地よいものにしておくれ」
 そうして、二人は共に水に沈んだ。

 深い、深い、水の底。
 ラピタは目に魔力を通し、水面を見上いでみた。
 水底から見えるのは桜吹雪。朝陽に輝く花弁と、夜の名残の街灯り。水底から眺める景色は美しく、狩人は沈みながらも水中散歩めいた心地を感じていた。
 ――あれが僕らの天の川!
 ――二人で、星めぐりの旅を!
 間もなく、死を確かめに影朧がやってくるだろう。けれどもそれまで此処は二人だけの場所。振り仰ぐ水空は淡く、心地よく揺らいでいた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナイ・デス
ソラ(f05892)と
※良い感じに殺してください(死なない

共に歩けば……殺し合う、ですか。私達は、殺し合うなんて、しませんよね?ソラ
……はい。証明、しましょう!

年若いコンビは、殺害予告で書かれたような「殺し合い」なんてしないと
その証明にと、橋へ向かう
そして、罠にかかる
殺し合う罠……どちらかが命を落とせば助かる系希望
醜い争いに発展し、果てにどちらも命を落とすことを期待された罠
けれど

ソラ。私は、ソラが生き残ることを、望みます

【覚悟、激痛耐性】私が犠牲に
致命傷を負って、けれどヤドリガミ。本体無事なので、死ぬことはない
傍目にわからないよう、体内の光で意識を繋ぎながら、死んだふりして

敵を、誘います。


ソラスティベル・グラスラン
ナイくん(f05727)と
※アドリブ大歓迎、罠の内容等はお任せします

…気合いの入った予告詩には賛辞を贈ります、ですが悪趣味ですっ
わたしたちが証明しましょう、切っても切れぬ絆というものを!

この悪意の首謀者を問い詰める為、意気揚々と出向かうものの…
わたしの油断故に罠にかかり、命の取捨選択を迫られる
いいえ、まだです!勇者として、誰かを犠牲になど!

何か手段が、二人して助かる方法がある
そう考え、迫る死を前に時間をかけすぎてしまった

そしてわたしは救われてしまった
わたしの迷いが、ナイくんに死を選ばせてしまった
勇者ならばわたしがその身を投げうつべきだったのに

絶望に沈み相棒の彼を想う
わたしは、勇者失格です―――



●君の進む路を護るために
 共に歩けば、殺し合う。寄れば寄るほど絡まる糸。
 奇妙な手紙の詩を思い返したナイは首を横に振る。ソラスティベルも気合いの入った殺人予告に賛辞を送れど、その惨事に賛同など出来ないと思っていた。
「私達は、殺し合うなんて、しませんよね?」
 ねえソラ。そんな風にナイから掛けられた言葉に頷き、ソラスティベルは手紙を悪趣味だと断じた。
「わたしたちが証明しましょう、切っても切れぬ絆というものを!」
「……はい。証明、しましょう!」
 そうして、希望と信頼に満ち溢れた年若い二人組は敢えて橋に向かう。
 殺害予告で書かれたような、無惨な殺し合いなどしないのだと示すために――。
 
 だが、其処にはどちらかが死なねばならぬ罠があった。
「ナイくん、あそこに何かが!」
「ソラ……危ない!」
 曼珠沙華橋の上に仕掛けられていたのは踏むと発動する眠りの煙罠だった。
 咄嗟にナイがソラスティベルを庇う。しかし不可思議な力を宿す煙は二人を包み込み、束の間の眠りに誘った。
 そして彼女達が目を覚ましたとき、互いの腕に何かが巻き付いていること気が付く。それは腕時計めいた形の時限爆弾のようだ。おそらく影朧の能力によって特別に作られたものだろう。
 何故そうなったのか細かいことは良い。二人は今、窮地に陥っていた。
「どちらかかが死ねば、片方の爆発が止まるということでしょうか……?」
「はい、そのよう、です」
 ソラスティベル達は自然とそのことを理解していた。悪意の首謀者を問い詰める為、意気揚々と向かったというのにこんな罠に掛かってしまっている。
「そんな……」
「首謀者は、私達を殺し合わせようと、しているようですね……」
 ソラスティベルは俯き、ナイは冷静に状況を判断する。その間にも時限爆弾のリミットを示す秒針が動き続けていた。
「いいえ、まだです! 勇者として、誰かを犠牲になど!」
 何か手段が、二人して助かる方法がある。そのように考えたソラスティベルは何か方法があると希望を持つ。
 しかし、どうやらリストバンドは外そうとするとすぐに爆発してしまうようだ。
 これは醜い争いに発展し、果てにどちらも命を落とすことを期待された罠。されどナイとソラスティベルは互いを殺そうとなどしない。それだけは確かなことだ。
 だが――二人は、迫る死を前に時間をかけすぎてしまった。
 ナイは刻限を悟り、静かに微笑む。
「ソラ。私は、ソラが生き残ることを、望みます」
「ナイくん……?」
 そう告げられた直後、ナイが自分の胸に黒刃を突き立てた。待ってください、とソラスティベルが手を伸ばすも、全てが遅い。
 崩れ落ちたナイは絶命する。かなりの激痛が襲ったであろうに、その表情には穏やかさが宿っていた。それと同時にソラスティベルの時限爆弾が止まる。そして、ナイが死したことによって彼の爆弾も機能を停止したようだ。
「駄目……駄目です……ナイくん――」
 崩れ落ちた彼の身体を抱きとめ、ソラスティベルは頭を振った。
 ――わたしの迷いが、ナイくんに死を選ばせてしまった。勇者ならばわたしがその身を投げうつべきだったのに。
 勿論、ヤドリガミであるナイは本体が無事であれば身体がどうなっても大丈夫だ。
 それでもソラスティベルは理解してしまう。
 もしこれが演技やフリでなくても、本当にこういった状況に陥ったら彼は同じような選択をするだろう、と。
 ソラスティベルの表情が絶望に沈む。
「わたしは、勇者失格です」
 相棒の彼を想い、呟いた言の葉は冷たい風に乗って消えていった。
 
 やがて、二人のもとには死を確かめに影朧の亡霊が訪れるだろう。
 そのときまでは彼の身体を強く抱き締めていよう。それが自分が出来るせめてものことだとして、ソラスティベルは唇を噛み締めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紫・藍
姫射干橋にやってきたおにーさん(f06061)と藍ちゃんくん!
ですがそこで藍ちゃんくんは気付くのでっす!
おにーさんがおにーさんである限り藍ちゃんくんは弟のまま……
藍ちゃんくんも“セロの”“おにーさん”になりたいのでっす!
忘れられがちですがダンピールですのでー
目を光らせ、腕で貫き、仕上げの吸血なのでっす!

大丈夫ですよ、おにーさん
1歳分くらい血を吸って藍ちゃんくんの弟に生まれ変わらせるだけですの……あや?

最後はらしからぬ呆然とした様であっけなく黒焦げなのです!

勿論アート変装早着替えな特殊メイク&特撮やパフォおびき寄せを駆使したノリノリ演技ですよー?
弟なおにーさんには心くすぐられるのは本心ですが!


セロ・アルコイリス
藍ちゃんくん(f01052)と!
目指せ、オブリビオンドン引き主演男優賞!

姫射干橋へ行きましょう
おれ達の好奇心を止められるわけがねーんです
どんな事件が起こるんでしょうね、
え、……藍ちゃん、くん?
不意打ちになす術なく
絶命──したふうに見せて

藍ちゃんくんの牙が迫るときに突き刺さった腕を掴み、
瀕死の様相で
にぃ、と笑う
ざんねん、おれは機械人形ですよ?
血なんか、流れてねーんですよ
──爆ぜろ!(って血代わりの赤い液体が爆発したみたいに見せる『属性攻撃』『衝撃波』)

藍ちゃんくんが黒焦げになったら安心したみたいに崩れ落ちて
やっぱり笑う
はは。
これでやっと……アコガレの藍ちゃんくんをぜーんぶ、盗めました、ね



●憧れて、盗んで
 目指せ、オブリビオンドン引き主演男優賞!
 そんなこんなで姫射干橋にやってきたのはセロおにーさんと藍ちゃんくんの二人。
 もとい、セロと藍だ。
 あこがれ橋の異名を持つ場所で起こるのは火に纏わる事件。憧れや焦れる思い。そういったものが死を呼び起こすのだという。
「近付くなと言われても、おれ達の好奇心を止められるわけがねーんです」
 果たしてどんな事件が起こるのか。セロが橋の上を進み、辺りを見渡す中で藍は少しばかり考え込んでいた。
 憧れは確かにある。
 セロに対して抱く思いは心地良いものだ。
「おにーさんがおにーさんである限り藍ちゃんくんは弟のまま……」
「何か言いましたか、藍ちゃんくん?」
 ちいさく呟いた彼の声を聞き、セロが振り返る。すると藍は腕をセロに伸ばし、するりと抱き着いた――ように見えた。
「藍ちゃんくんも“セロの”“おにーさん”になりたいのでっす!」
「え、……藍ちゃん、くん?」
 その抱擁と宣言に不意を突かれ、セロは唖然とする。
 忘れられがちではあるが藍はダンピール。きらりと目を光らせた彼は近付くと同時にセロの胸を貫いていた。がくりと崩れ落ちたセロの身体を抱き留め、藍は薄く笑む。
 其処から始まるのは仕上げの吸血。
「大丈夫ですよ、おにーさん。一歳分くらい血を吸って藍ちゃんくんの弟に生まれ変わらせるだけですの……あや?」
 そう言いながら、藍は倒れたと思ったセロが動いたことに気付いた。
 藍の牙が迫っている。
 その中でセロは胸に突き刺さった腕を掴んだ。瀕死の様相で――それでも、にぃ、と笑ったセロは藍の瞳を覗き込む。
「ざんねん、おれは機械人形ですよ? 血なんか、流れてねーんですよ」
 だから今の関係はずっと変わらない。
 そしてセロは、よくやってくれやがりましたね、と笑みを深める。
「セロ……おにー、さん……」
「――爆ぜろ!」
 藍が驚愕めいた表情を浮かべる中、セロは至近距離から衝撃波を解き放った。その瞬間、血を思わせる赤い液体が四散する。
 焦れ、焦がれて。
 ふと件の死の詩の一文が脳裏に浮かんだ。
 呆然とした様子の藍はあっけなく黒焦げとなり、その場に倒れ込む。しかしその腕はセロを貫いたまま。
 藍の様子を見つめたセロは安心したかのような表情を浮かべ、やっぱり笑う。
「これでやっと……アコガレの藍ちゃんくんをぜーんぶ、盗めました、ね」
 はは、と乾いた声が落とされる。
 血塗れになり、焼け焦げた二人は縺れるように地に伏し、やがて動かなくなった。
 
 ――という流れが、二人が辿った死の結末だ。
 崩れ落ちた藍の姿は勿論、アートと変装、早着替えや特殊メイク諸々を駆使したものである。仲間割れに見せかけたのも演技でしかない。
(後はこのまま待つだけですかね)
(弟なおにーさんには心くすぐられるのは本心ですが、出来ないなら出来ないでしょーがないのでっす!)
 倒れている二人はそれぞれに思いを巡らせ、そのときを待つ。
 こうしていればきっとすぐに影朧が死を確かめに来るだろう。果たして件の影朧は自分達の死を見て何を思うのか。
 仮にも主演男優賞を狙うセロ達だ。そのことはほんの少しだけ楽しみでもある。
 そうして、暫しの時間は流れ――二人のもとに影が現れた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
💎🐰

紫雲英橋を静かに歩く

夜の桜は綺麗
妖しくて吸い込まれそう
ボクが―わたしが一番好きなのは薔薇

ねぇ、兎乃くん
ボク達、友達だよね?

振り向きみやる宝石の君
わたしね、絵を描いてるの
友達の絵を沢山描いていつかおうちに帰ってパパとママにみせるのよ
描かなきゃ帰れない
なのに

絵の具が足りないの

ねぇ、零時
わたし達、友達よね?

君を絵の具にさせてよ
そしたら素晴らしい作品ができるのよ!


爆ぜた絵の具と君の魔法と
爆風に煽られ橋下に落ちる
冷たい水の中、ああ――物語のアリスならきっと、助けが来るのだろうと
でもわたしはハートの女王
誰も助けなんてこないんだ

水より孤独のが冷たいな
静かに瞳を閉じるその前に
瞬く綺麗な青を見た気がした


兎乃・零時
💎🐰
アドリブ歓迎

紫雲英橋を歩く

夜桜も凄く綺麗だ

そりゃ当然!
友達同士だとも!

そりゃ絵を見せる時が楽しみだな!

絵の具が足りない…?
そりゃ大変だ…!

ん…?(あれ、零時…?
…え、俺様を絵の具って…あぁ、俺に協力できることなら…うぉ!?

爆ぜる絵の具に
咄嗟に魔力で身を包むよう防ぐが威力は殺せず



水中へ落ちる

海なら何故か呼吸出来た
だが此処は海では無い
故に変化は髪と眼…宝石部位が淡く光るのみ

咄嗟の魔力の膜で身動きも上手く取れない
死んだふりの手間は省けた

それよりだ
フレズローゼはどうなった
せめてそれの確認を……!

何処かに居る彼女を肺の空気が残る間に眼で探す
そして見つけた安堵の一瞬
空気が口から洩れ
兎乃は止まった



●友達だからこそ
 夜桜が舞い散る紫雲英橋の上。
 昨日も歩いた場所を静かに進み、フレズローゼは空を仰ぐ。
 夜空に映える薄紅の桜は綺麗で好き。あの人を思い出すから。妖しくて吸い込まれそうだと感じながらもフレズローゼは思う。
 けれども、ボクが――わたしが一番好きなのは薔薇。
 零時はそんな彼女の少し後ろで、同じように桜の景色を眺めていた。
「うん、夜桜も凄く綺麗だな」
 零時が感心している最中、フレズローゼはそっと振り返る。そして、問いかけた。
「ねぇ、兎乃くん。ボク達、友達だよね?」
「そりゃ当然! 友達同士だとも!」
 すると零時は当たり前だというように大きく頷く。
 見遣った宝石の君は夜の燈籠の光を受けて淡く煌めいていた。相変わらず綺麗だと感じたフレズローゼはぽつり、ぽつりと語っていく。
「わたしね、絵を描いてるの」
 友達の絵を沢山描いて、いつかおうちに帰ってパパとママにみせるの。
 描かなきゃ帰れない。それなのに、絵の具が足りないの。
 零時は語られる話を聞き、両親に絵を見せるときが楽しみだろうと答えた。しかし、続く言葉を聞いて首を傾げる。
「絵の具が足りない……? そりゃ大変だ!」
 本当に心配してくれているらしき零時に向け、フレズローゼは淡く笑む。しかしその瞳は何処か空虚だ。
 そして、もう一度問いかけた。
「ねぇ、零時。わたし達、友達よね?」
「ん?」
(あれ、零時……?)
 いつの間にか彼女からの呼び名と彼女自身の一人称が変わっていることに気付く。零時が問い返す暇も与えず、フレズローゼは語っていった。
「君を絵の具にさせてよ。そしたら素晴らしい作品ができるのよ!」
「……え。俺様を絵の具にって……あぁ、俺に協力できることなら――」
 その瞬間、フレズローゼが宙に描いた絵の具が爆ぜる。
「うぉ!?」
 咄嗟に魔力で身を包むよう防ぐ零時だが、威力を殺しきれずに吹き飛ばされた。零時の魔法はフレズローゼの身を穿ち、彼女もまた橋の下に真っ逆さま。
 まるでそれは兎の穴に落ちるかのよう。
 でも、その先は冷たい冷たい水の中。ああ、物語のアリスならきっとこんなときには助けが来るのだろう。
(けれど、わたしはハートの女王。誰も助けなんてこないんだ)
 そうして、フレズローゼは落下の衝撃を覚悟する。
 落ちた水音はふたつ分。
 零時が先に落ち、続けてフレズローゼが水に沈む。零時は息が出来ないことに気付き、じたばたともがく。
 海でならば何故か呼吸が出来た。だが、此処はただの水路。それゆえに髪と眼と宝石部位が淡く光り、水中で煌めく。
(苦しい……! でも、それよりだ。フレズローゼはどうなった。フレズローゼ!)
 零時は手を伸ばした。
 自分よりも、彼女の無事を知りたかった。肺の空気が残る間に彼女を眼で探し、やっと姿を見つける。水底に沈んでいく彼女を追い、零時はその腕を引く。
 一瞬の安堵。
 しかし最後の空気が口から零れ落ち、零時の動きは其処で止まった。
 ああ、水より孤独の方が冷たい。
 そう感じながら水に身を任せていたフレズローゼは静かに瞳を閉じようとした。されど、その前に瞬く綺麗な青を見た気がして。
 不意に腕を引かれた。
 零時が最後に力を振り絞って手を伸ばしてくれたのだと気付いたとき、フレズローゼの胸にあたたかなものが宿った。
(無慈悲で我儘な女王でも、助けて貰えるのかな。でも、そんなこと――)
 揺らぐ意識の中、フレズローゼは気を失った零時を引き寄せる。
 沈む、沈む。水底へ。
 
 そして――そんな二人の死を見届けに来たのか、橋の上には影朧が現れていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
【エレル】

アァ……ロカジンは分かってないなァ。
小さくてかーわいい。
そうだそうだロカジンは分かってない。
コノ置物はイイだろう?
ヨシュカとシンジュにも同意を求める。

聞かないロカジンにカッとなった。
分からないヤツには分からせる。
うんうん、そうしよう。
スパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソード
最強の剣でロカジンを刺そうそうしよう。

目立たないで気配を消してさっと奪う。
脳天目掛けて振りかぶっ――おわっ?!
ドボーン

落ちる寸前に賢い君を如月にくくりつけておこう
賢い君は賢いからなァ……。


ロカジ・ミナイ
【エレル】

ヒーック

なんて泥酔ぶってね
エンジくんよぉ、さっきの埴輪はちょいといただけないんじゃないのぉ?
とか言ってウザ絡みを始める
巨大サイズは免れたものの、だってコレ、コレだってお前、なぁ?
ダメダメ、やっぱり飾らなーい!川にぽいぽいしちゃお!
…お!?
グワッ!スパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードとは卑怯な!
サムエン伝統の真剣白刃取りで応戦

その時、視界にヒラヒラ踊る派手な影
ああ!僕のペナントがぁぁぁ!
待ってくれ!…からの、ドボーン

こうして僕は見事な土左衛門になるんだ
みんな焦ってオヨヨと涙しちゃうかもね…
…おいおい、後追いだなんてコッチが涙出ちゃいそうだよ!
真珠の泡の中が水没しちゃう!


雅楽代・真珠
【エレル】
水死できない身だけれど僕は存外演技派なんだ

橋を拝んでいたと思ったら言い争い出す二人
埴輪より信楽焼の狸の方がいいよ
埴輪如きで争って大人気ないよ
ヨシュカを見習って

強い剣同士の戦いは行方が解らない
二人の間に入っては鱗に傷が付きそうだから
僕はロカジのぺなんとを振って応援する
…あ
ぺなんとがふわり風に攫われる
僕が非力なばかりに…

勢いよく水が跳ねる音
橋の向こうを覗こうとしたら更に水音が増えた
―と思ったら
如月の腕という安全圏にいるはずの僕の視界が傾ぐ
冷たい水底に落ちていく視界の端に揺らぐのは赤い絲

と言った感じで土左衛門
ああそうだ
お前たちが本当に溺れてしまわないように
乙女宝から泡を分けておいてあげるね


ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレル】

喧嘩するお二人を見ておろおろそわそわとして(演技)
止めましょうよ…折角のおまんじゅうも美味しくなくなっちゃいます
ロカジさまも呑みすぎですよ…
シガラキ?タヌキ?わたしは頭が揺れる赤い牛が良いです

そんなことを言っていると小さい埴輪がぽーんと飛んで
エンジさまがスパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードを…!
いけません!スパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードは正義の証、勇者の心!
その様な事に使っては!
止めようとしてエンジさまにドーンと体当たり
バランスを崩して同じくドボン

くっ…このスパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードだけは…!
と落ちる前に橋上に投げて



●水没の乱
 穏やかなはずの橋の上。
 其処には現在、とてもとても不穏な空気が満ちていた。
「エンジくんよぉ、あの埴輪はちょいといただけないんじゃないのぉ?」
「アァ……ロカジンは分かってないなァ。小さくてかーわいい」
 泥酔しきったロカジ。
 妙に喧嘩腰の言葉を受けて立つエンジ。
 そんな二人を困ったようにおろおろと交互に見遣るヨシュカと、ふるふると首を振る真珠。四人の間に流れる空気は張り詰めている。
 その話題は、店に飾ることになった呪われた埴輪の置物のことだ。
「止めましょうよ……折角のおまんじゅうも美味しくなくなっちゃいます」
「そうだそうだ止めろ。ロカジンは分かってない。コノ置物はイイだろう?」
「埴輪より信楽焼の狸の方がいいよ」
 エンジがヨシュカ達にも同意を求めるると、真珠は新たな爆弾を投下した。埴輪如きで争って大人気ないよ、と如月の腕の中で饅頭を食べる真珠。するとヨシュカが更にまた別の物が良いと言い始める。
「シガラキ? タヌキ? わたしは頭が揺れる赤い牛が良いです」
 赤べこだ。
 対するロカジはけらけらと笑い、エンジが持つ埴輪を指差した。
「だってコレ、コレだってお前、なぁ? こんなのがかわいい?」
「断然、信楽焼だね」
「ロカジさまも呑みすぎですよ……。それはそれとして牛が一押しです」
 そんなロカジに加えて何故か譲らない二人。
 埴輪が一番だと主張するエンジは次第にムカムカとした気持ちを募らせていた。反論できない? 可愛くないって負けを認めちゃう? ねえねえ、とウザ絡みを始めるロカジに対し、エンジは殺意を抱きはじめていた。
 そして、エンジが行動を起こす決定打になったのは――。
「ダメダメ、やっぱり飾らなーい! 川にぽいぽいしちゃお!」
 手からひょいと奪われる埴輪。
 それが水路に投げ込まれてしまった、次の瞬間。
「分からないヤツには分からせる。うんうん、そうしよう」
 エンジが取り出したるはスパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソード。最強の剣で彼を刺すべく、エンジは剣を振り被った。
「……お!?」
「覚悟、覚悟」
「グワッ! スパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードとは卑怯な!」
 振るわれた剣(刃渡り五センチ)を故郷伝統の真剣白刃取りで受け止めたロカジは、それまでとは違う真剣な眼差しを向け返す。
 交錯する視線。
 ばちばちと弾けていく戦いの火花。
「エンジさまがスパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードを……!」
「二人とも、頑張れ負けるな」
 驚愕するヨシュカが戦いをはらはらと見つめる中、真珠はまだ行方が解らぬ真剣勝負を見守っていた。二人の間に入っては鱗に傷が付きそうだ。それゆえに真珠はロカジが購入していた、熱血漢道と刺繍された豪華ペナントを振って応援にまわった。
 そんな中、ヨシュカは争うエンジを止めに向かう。
「いけません! スパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードは正義の証、勇者の心! その様な事に使っては!」
 エンジに向かって駆けたヨシュカは懸命だ。
 どーん、とちいさな身体が衝突した勢いによってエンジが均衡を崩す。
「――おわっ?!」
 ドボーン。
 そんな音を立てて、まずエンジが水路に落ちた。
 ロカジはそれみたことかと勝ち誇り、これが報いだと胸を張る。だが、そのとき。
「……あ」
 真珠が声をあげたかと思うと、振られていた布がふわりと風に攫われた。
 ひらひらと踊る派手な影。それが自分の熱血漢道ペナントだと気が付いたロカジは咄嗟にそれへと手を伸ばした。
「ああ! 僕のペナントがぁぁぁ! 待ってくれ!」
 ドボーン。
 二度目の着水音が辺りに響く。ロカジは水に沈む最中、みんな焦ってオヨヨと涙しちゃうかもね、なんてことを考えながらこの世に別れを告げた。
「僕が非力なばかりに……」
「ああっ、エンジさま。ロカジさままで……」
 よよよ、と真珠がわざとらしく嘆く最中、体当たりによって倒れていたヨシュカがよたよたと立ち上がった。その手にはエンジが落としたスパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードが握られている。
 そんな、と水路を見下ろそうとしたヨシュカ。
 されど彼もまた、ふらふらとバランスを崩してしまった。あっ、と声が上がったかと思うとその身体が傾ぐ。
「くっ……このスパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードだけは……!」
 ドボーン。
 三度目の落下音と同時に、投げられたスパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソード(そろそろ略したい)が橋の上に落ちる音が響いた。
 取り残された真珠は無言だった。
 勢いよく水が跳ねる音。橋の向こうを覗こうとしたら更に水音が増えたことで、一気に犠牲者が三人になったのだと気が付く。
 如月の腕の中。
 其処は安全圏のはずだった。しかし不意に真珠の視界が傾いだ。
 とぷん。
 小さな水音が響く。そうして冷たい水底に落ちていく視界の端に揺らいでいたのは赤い絲。そして、踏みつけられたらしいバナナの皮。
 そう、如月が滑ったのだ。
 おそらくエンジが置き土産として残していった賢い君が放った赤い絲に貫かれまいとして、避けたその先のバナナで――。
 哀れ、人魚は水の中。
 争いや諍いの中にいるよりも、冷たい水の中の方が安らげる。そんなことを思いながら、最後の犠牲者となった人魚は泡に包まれて沈みゆく。
 
 そんなわけで四人は全滅した。
 こうして彼らは見事な土左衛門フラグを回収した彼らは水死の結末を迎える。
 というのもすべてが演技。
 真珠はこんな程度で溺れはしないし、落ちる際に巡らせた泡で他の三人が包まれている為に窒息する心配もない。
 第一の犠牲者たるエンジは何処か満足げであり、第二の犠牲者であるロカジとしては皆が後追いで入水したかのような感覚でいた。
(おいおい、後追いだなんてコッチが涙出ちゃいそうだよ!)
 真珠の泡の中が水没しちゃう、なんて冗談めかした思いを抱きながらロカジはそっと皆に合図を送る。
 何故そうしたかというと、橋の上に妙な気配が現れたことに気が付いたからだ。
(了解。上に、影朧――)
(……スパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードは無事でしょうか)
 水死体のふりをしながら頷くエンジ。
 たった一本で取り残された土産剣の心配をするヨシュカ。そして、びいどろの貝から泡を巡らせてゆく真珠。
 四人は此処から始まる戦いへの思いを強め、そのときを待つ。
 そして、橋の上。
「哀れですわね。こんな武器を持つから、醜い争いが起きるというのに――」
 現れた影朧はそっと(略)ドラゴン(中略)ソードを拾いあげ、くすくすと可笑しそうに笑っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

姫城・京杜
與儀(f16671)と

よりそい橋は、共に歩けば何れ殺し合う、だって…
與儀殺すどころか、與儀に少しでも傷がつくのでさえ無理なのによ…
だからこの俺が守ってるってのに
でも、向かわないと影朧出てこないんだよな…

與儀の声には即座に反応してふるふる首を大きく横に
…無理
俺が殺されるのは全然構わねェけど
與儀死ぬとかフリでも無理だ
もう…置いていかれるのは、絶対イヤだ

一緒…?
いや、一緒でも無理!
主従だからこそ無理だっての!
死ぬなら俺だけが…って、ちょ、嫌だってばよ!?(じたばた
落ちるなら俺だけ落ちるからァ!
フリでも、無理なもんは無理だって…わわ!だぁっ!?
(傍からみたら小競り合って橋から二人落下…に見えなくもない


英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

ああ゛?
死なせないと思っている俺に、殺し合えと
ヒメを殺せって?
…なんて言ったらいいかわかんねェな(いらつく、と表情歪め)

乗ってやるのは遊ばれているようで腹が立つ――と、思うが
向かわないのも癪

ヒメ、俺と殺し――まァ、無理だよなァ
わかってる、しない、しねェよ
けど、どーすっかなァ…

(俺が死ぬのがアウトなんだよなァ…置いて、いかれるのが)
仕方ねェ……一緒ならいいだろ
一緒なら死んだってなにしたってかわらねェよ

橋から落ちて死んでみるか
これ心中になんのかな

ほらやるぞ、ヒメ
おい、暴れんな
だから、フリだっつってるだろ
ネクタイ引っ張って、一緒に落ちるのもまァ、楽しい
ほんっとうに、仕方ねェなァ



●沈む思いはその胸に
 よりそい橋は、共に歩けば何れ殺し合う。
 それが殺人予告めいた奇妙な手紙に記されていた文言だ。
 肩を落とした京杜は酷く悩んでいた。見立て殺人の詩を思えば思うほどに、彼の胸中はざわついてしまう。
 彼らが今いるのは橋の上。昨日も通った曼珠沙華橋だ。
「與儀を殺すどころか、與儀に少しでも傷がつくのでさえ無理なのによ……」
 だからこの俺が守ってるってのに。
 けれども、向かわなければ影朧が出てこない。力なく呟いた京杜に対し、與儀は眉間に皺を寄せていた。
「ああ゛?」
「與儀?」
「死なせないと思っている俺に、殺し合えと。ヒメを殺せって?」
 與儀の名を呼んだ京杜に対し、彼は苛立ちを隠さぬままでいた。なんと言えば良いのかよくわからないまま、ただ拳を握りしめる。
 乗ってやるのは遊ばれているようで腹が立つ――そう思うが、向かわないのも癪だ。
「……無理」
 與儀の声に即座に反応した京杜はふるふると首を大きく横に振った。
 自分が殺されるのは全然構わないが、與儀が死ぬだなんてフリでも無理だ。嫌だ。
 ――もう置いていかれるのは、絶対に。
 俯く京杜の様子を見遣り、與儀は溜め息をつく。
「ヒメ、俺と殺し――まァ、無理だよなァ。わかってる、しない、しねェよ。けど、どーすっかなァ……」
 暫し考え込んだ與儀は思う。
 京杜にとっては自分が死ぬのがアウトなのだろう。置いていかれることが駄目ならば、と考えを巡らせた彼はひとつの提案を投げかける。
「仕方ねェ……一緒ならいいだろ」
「一緒? いや、一緒でも無理!」
「それなら死んだってなにしたってかわらねェよ」
「主従だからこそ無理だっての!」
 京杜は懸命に抵抗した。
 しかし、與儀はそれをまるっと無視している。
「橋から落ちて死んでみるか。これ心中になんのかな。ほらやるぞ、ヒメ」
「死ぬなら俺だけが……って、ちょ、嫌だってばよ!?」
 じたばたと暴れる京杜に対して肩を竦め、與儀はその手を強く引いた。
「おい、暴れんな」
「落ちるなら俺だけ落ちるからァ!」
「騒ぐな、バレる。だから、フリだっつってるだろ」
「無理なもんは無理だって……わわ! だぁっ!?」
 そして、ぐい、と引かれるネクタイ。バランスを崩した京杜は與儀と共に橋の下に落下していく。それは傍からみれば小競り合い、二人共が落ちてしまったという状況に見えなくもなかった。
 嫌だ、絶対に嫌だ、と水中でも首を振る京杜。そんな彼を押さえた與儀。
 水に沈んでいく最中、與儀は薄く口許を緩める。
(――ほんっとうに、仕方ねェなァ)
 そして二人は水底へ。
 間もなく死を確かめに訪れるであろう影朧を捉えるべく、静かにそのときを待った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

アレスを殺したくはねえが
アレスが誰かに殺されるのも…ムカつく
ああ、それなら俺を殺すように仕向けりゃいいな
考えがあるっつって曼珠沙華橋へ誘って
わかりやすいように真正面からガブりといく
血を吸い上げれば口を満たす甘い味
これから殺されるんだから
少しくらいいい思いしてもいいだろ
アレスの抵抗に少し抗って
そんじゃこっから…ってところで抵抗がやんだ
代わりに首へと押し付けてくる優しい手
耳元で聞こえる声にゾクリとして肩が跳ねる

――ああ、お前は
どうしてそう

他意はねえんだろう
わかっちゃいても心の内がぐちゃぐちゃだ
血が…さっきより甘い
せめてアレスが痛くねえように
【二藍のくちづけ】でアレスに熱を注ぎ込む


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

セリオスが殺されるのを見たくない
けど、僕の手でセリオスを殺したくもない
解決策が見えないまま彼に誘われ曼珠沙華橋へ行き――噛みつかれた
何、を…!?
思わず抵抗しようとするけど、彼の様子を見て察する
考えって…そういう事か
僕が抵抗し、そのまま君を…

首筋を抉るような痛みと、血が抜かれていく感覚
遠慮のない…甘えさえ感じる吸血に脳が混乱しそうになる
君には何度も吸血されたけど、まだ慣れそうにないな
…ああ、でも
君が、僕の血を望むなら…

抵抗を止め、彼の後頭部に片手を回し、僕の首元に押さえつけるように
ぐっと力を込める
――全部あげるよ。セリオス
彼の耳元でそう囁き、微笑む

(大丈夫、僕は…死なないから)



●君のすべてを
 受け取ったのは殺し合えと言わんばかりの手紙。
 セリオスは綴られた文面を改めて読み、どうしたものかと頭を掻く。
(アレスを殺したくはねえが、アレスが誰かに殺されるのも……ムカつく)
 どうにもならない考えを抱えたセリオスは溜め息を吐いた。そして、或ることを思い付いてぽんと両手を打つ。
 そうだ、それならば自分を殺すように仕向けりゃいい。そのように思えた。
「アレス、考えがあるんだ。曼珠沙華橋に行こうぜ」
「あ、ああ。何か解決策が浮かんだんだな」
 アレクシスとて、セリオスが殺される場面など見たくはなかった。けれども自分の手で彼を殺したくもない。それゆえに歯切れの悪い返事になってしまったが、誘われるがままにセリオスについていくことにした。

 そして、曼珠沙華橋の上。
「なぁ、アレス」
「……セリオス?」
 向かい合い、視線を交わす二人。周囲には何故だか不穏な雰囲気が満ちており、アレクシスは名を呼ばれたことで訝しむ。
 セリオスは薄く笑み、アレクシスに手を伸ばした。
 そのまま抱き寄せたかと思うと、口許を首筋に寄せた。どうしたのかとアレクシスが問う暇も与えずにセリオスは行動に出る。
「何、を……!?」
 噛みつかれた。正しくは血を吸われている。
 はっとしたアレクシスだが、抵抗はすぐにやめた。対するセリオスは血を吸いあげ、口を満たす甘い味を確かめる。
 これから殺されるんだから、少しくらい良い思いしてもいいだろ。
 そう語るような上目遣いでアレクシスを見遣る。
(考えって……そういう事か。僕が抵抗して、そのまま君を……)
 アレクシスは察していた。
 首筋を抉るような痛みと、血が抜かれていく感覚。遠慮のない、甘えさえ感じる吸血に脳が混乱しそうになる。
 彼には何度も吸血されたが、まだ慣れそうにない。
 アレクシスは抵抗を止めている。代わりに首へと押し付けてくる優しい手の感触があった。セリオスの後頭部に片手を回し、僕の首元に押さえつけるようにしてぐっと力を込めるアレクシスは口をひらく。
「……ああ、でも。君が、僕の血を望むなら……」
 耳元で囁かれる声。
 思わずぞくりとしたセリオスの肩が跳ねる。そして、アレクシスは自分が彼に抱く思いを更なる言の葉に変えた。
「――全部あげるよ。セリオス」
「お前は、どうしてそう……」
 きっとその言葉にも行動にも他意はないのだろう。
 わかっていても心の内がぐちゃぐちゃに掻き回されるような、甘い痺れを宿されるかのような感覚がセリオスの裡に巡る。
 何だか血が先程より甘い気がした。
 それから、せめてアレクシスが痛くないように、傷口に口付ける。彼に熱を注ぎ込む最中にセリオスは眼を閉じた。
 アレクシスは彼の行為すべてを受け入れる心持ちで微笑む。
(大丈夫、僕は……死なないから)
 甘い血の味。
 背徳と慈愛が交錯する心地。
 よりそい橋の上、二人の影は重なったまま――周囲には美しい桜吹雪が舞っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
パウル(f04694)と
宿の部屋で二人きり
瓶に入った「薬」をグラスに注ぐ
苦しまずに逝けるって評判さ
「寿命」の違うもの同士
ここでひとつになるのも悪くねえ
……だろ?

注いだ薬を半分飲んでパウルに渡す
俺は悪魔だ
好きな奴のモンは何でも奪いたくなっちまうのさ
愛情も
身体も
命さえも

(本当にそう思ってる?)
いいぜ、今までで一番甘いキスをあげる
(天国になんて連れて行けねえよ)

(ほんとにこんな最期があればいいのに)

やがて「誰か」が二人を発見するだろう
机には液体の入った瓶とグラス
くっつけた二組の布団に横たわるふたつの遺体
手を繋いだ二人は髪や衣服の乱れもなく
眠るように息を引き取っている
近づけた顔は幸せそうに微笑んでいる


パウル・ブラフマン
引き続きジャスパー(f20695)と!

【優しさ】や【コミュ力】を活かし
他の猟兵さん演じる
怯える宿泊客や探偵さんにも協力的に接するよ☆

戻った部屋でジャスパーとふたりきり。
注がれる毒薬の水音が心地良い。
キミの言葉が堪らなく嬉しくて
幸せ一杯の笑みが零れる。
その言葉を、ずっと待ってたんだ♪

差し出されたグラスを払い除け
強請るのはキミの咥内を満たすソレ。
アハッ☆やっぱりキミは天使だよ、ジャスパー。
…天国に連れていってくれるんでしょう?

二組の布団の真ん中に寄り添って
元より青白い肌のオレ達は
仲睦まじく眠っているように見えるのかな?
くたりと触手も力なく
いとしいキミの背に寄り添わせておこう。

※アドリブ&絡み歓迎!



●甘やかな毒
 静けさが満ちた洋館宿の部屋で二人きり。
 ベッドに腰掛けたジャスパーはサイドテーブルに置いた瓶を手に取る。
 その瓶は毒。
 グラスに注がれる液体の水音は妙に心地よく、隣に座っているパウルはそっと目を閉じた。毒に満ちたグラスを揺らし、ジャスパーはパウルに語りかける。
「苦しまずに逝けるって評判さ」
「……うん」
 瞼をひらいたパウルはジャスパーの手の中のグラスを見つめた。
「寿命の違うもの同士、ここでひとつになるのも悪くねえ。……だろ?」
「嬉しいよ。その言葉を、ずっと待ってたんだ♪」
 パウルは幸せに満ちた笑みを浮かべ、彼に擦り寄るように身体と触手を寄せた。ああ、と頷いたジャスパーはそっと告げてゆく。
「好きな奴のモンは何でも奪いたくなっちまうのさ」
 愛情も。
 身体も。
 そして、命さえも。
 その言葉が堪らなく嬉しくて、幸せで、ぞくぞくするような感覚が走る。パウルはジャスパーが注いだ薬のグラスが傾けられる様を眺め、恍惚の笑みを口許に宿した。
 対するジャスパーは、本当にそう思ってる? と自問自答している。けれどもそれを口に出すことはなく、パウルから向けられる視線を受け止めた。
 そして、グラスを差し出す。
 しかしパウルはグラスを触手で払い除けた。そっちじゃない、と示して強請るのはジャスパーの咥内を満たすソレ。
 彼の意図を理解したジャスパーは静かに頷く。
「いいぜ、今までで一番甘いキスをあげる」
「アハッ☆ やっぱりキミは天使だよ、ジャスパー」
 近付く唇。
 触れ合う熱。重なる吐息と毒。
 巡る毒の感覚に片目を眇めたパウルは、甘い声でそっと問いかける。
「……天国に連れていってくれるんでしょう?」
 対するジャスパーは黙ったまま、もう一度だけ頷いてみせることで答えた。
(俺は悪魔だ。天国になんて連れて行けねえよ)
 思いは裡に仕舞い込んだまま。縋るように身体を預けてくるパウルを抱き留め、ジャスパーは彼と共にベッドに倒れ込んだ。
 ――ほんとにこんな最期があればいいのに。
 目を閉じて思うのは本心か、それともこの空気に当てられたが故の思いなのか。
 答えを持つ者は、今は何処にも居ない。
 
 やがて、倒れ込んだ二人の姿を誰かが発見するだろう。
 机には液体の入った瓶とグラス。ベッドに横たわるふたつの遺体。
 ただ仲睦まじく眠っているだけにも見える彼らはしかと手をつないでいた。髪や衣服の乱れもなく、ただ幸せそうに。
 今は偽りでも、それはいつか何処かで巡るかもしれない終わりのかたち。
 愛する君へ。
 いとしいキミに。
 寄り添う心と身体は、譬え死を迎えたとて――確かに、此処に共にある。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城島・冬青
【橙翠】
アドリブ◎

演技とはいえ殺しあいとか
アヤネさん無理じゃないかなぁ
…私も正直したくない
でもやらないと
演技だし深く考えなくていいですよ?
サクッと刺す真似をして倒れ込みましょう

小柄の女王蜂を抜く
うっかり彼女を傷つけたりしない様に構え…

え?ちょ…?!
なんとなくそうなるんじゃないかと
予想していたけど
この匂いは…嘘?!
彼女が崩れ落ちる前に抱きとめ
名を呼ぶ

死なないで…!

しかし
手に触れる鮮血が今しがた溢れ出た割にあまり温かくないこと
なによりも匂いで彼女の身体から流れ出たものでないことに気付く

うぅ
一瞬騙されたけど
ダンピールは誤魔化せませんよ

…いけない
演技をしなきゃ…
本当に…狡い
狡いですよ、もう(涙を流し)


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
アドリブ◎

二人並んで曼珠沙華橋に向かう

予定なら斬り合いになるわけネ
ソヨゴは演技だからと言うけれど
気が乗らない
ソヨゴに刃を向けるだけで嫌

僕は俯いて無言のまま
橋に着く
少し離れて向かい合う
用意しておいたナイフを抜く
でもそこまで
ごめんネ、ソヨゴ
やっぱり僕にはできない
弱く笑う

ソヨゴは死なないで
と言い残して
自分の首筋に刃を突き立て

飛び散る血液
倒れる僕

ここまで演技
仕込みナイフに血液パックまで使ったけど
それでもソヨゴに気づかれた?

大人しく目を瞑って死んだフリをしておこう
抱き抱えられてるのも悪くない
僕のために泣いてくれるのは素直にうれしかったり

そうしておいて辺りの気配を伺う
敵は近くに来ているだろうか?



●血の匂い
 二人で並び、曼珠沙華橋に向かう。
 見立て殺人の予告状を思い返すと胸の奥がざわついた。
 冬青は隣を歩くアヤネをちらりと見遣り、演技とはいえ殺し合いは無理ではないかと思っていた。何故なら、そんなこと今まで一度も考えたことがないのだから。
「予定なら斬り合いになるわけネ」
「私は正直、殺し合いなんてしたくないよ」
 でもやらないと、と気を取り直した冬青はぐっと意気込む。
「演技だし深く考えなくていいですよ? サクッと刺す真似をして倒れ込みましょう」
「…………」
 冬青は演技だから、と言うけれどアヤネはずっと気が乗らないままだ。彼女に刃を向けるだけで嫌だというのに、それを我慢して倒れさせるだなんて考えるだけで難しい。
 俯き、無言でいるアヤネは思考を巡らせた。
 そうして暫し、そのまま二人は橋の上に辿り着く。
 少し離れて向かい合った彼女達は呼吸を整え、互いを見つめた。
 冬青は花髑髏の鞘から小柄の女王蜂を抜く。万が一にでもうっかり彼女を傷つけたりしないように構え、タイミングを計った。
 同じようにアヤネも用意しておいたナイフを抜く。
 しかし、ただそこまで。アヤネは冬青をじっと見つめながら弱々しく微笑んだ。
「ごめんネ、ソヨゴ。やっぱり僕にはできない」
「え? ちょ……?!」
「――ソヨゴは死なないで」
 驚く冬青にそれだけを言い残し、アヤネは自分の首筋に刃を突き立てた。
 飛び散る血液。
 倒れゆくアヤネ。
 何となく、本当に何となくはそうなるんじゃないかと予想はしていた。けれど――辺りに広がった血の匂いは本物だ。
「この匂いは……嘘?! アヤネ……アヤネさん!」
 冬青は彼女が崩れ落ちる前に抱きとめ、その名を呼ぶ。ふわりとあたたかな感触を覚えながら、アヤネは冬青の腕の中で目を閉じた。
 実はここまでが演技。
 仕込みナイフに血液パックまで使ったが、それでも彼女に気付かれただろうか。
「死なないで……!」
 叫ぶ冬青はアヤネを抱きながらも気が付いていた。
 手に触れる鮮血が今しがた溢れ出た割にあまり温かくないこと。何よりも匂いで彼女の身体から流れ出たものでないことが分かる。
(うぅ、一瞬騙されたけど。ダンピールは誤魔化せませんよ。……いけない、演技をしなきゃ……)
 苦しくて悔しい気持ちを覚えながら、冬青は気を引き締める。
 アヤネは冬青が気付いてくれていると信じ、大人しく目を瞑って死んだふりを続行していった。こうして抱き抱えられてるのも悪くない。それに――。
「本当に……狡い。狡いですよ、もう」
 そう告げた冬青の頬には涙が伝っていた。胸中の安堵と、大切な人を失った悲しみの演技が入り混じった涙だ。
(僕のために泣いてくれるのは素直にうれしい……)
 アヤネは冬青のぬくもりを感じつつ、静かに周囲の気配を探る。
 きっと間もなく影朧が此処に訪れるはずだ。
 自分が死んだ所為とはいえど冬青を泣かせたこと。そのことを後悔させてやるのも悪くないと思いながら、アヤネはそのときを待つ。
 冬青も静かに涙を拭いながら、影朧の亡霊が曼珠沙華橋に来る気配を探っていた。
 そして――橋の近くに影が現れる。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
さて。どうするか。

(暫し考え)
… 紅手鞠橋へ向かうとするか。
理由は、何が待ち受けているか少々気になったからだ。

ミヌレは隠れていろ、お前まで無理に付き合わなくても良いからな…。
槍竜を自身の上着の内側へ呼び込む。

さて。死ににいくか。



●まさかの刺殺
 ――視線を感じて振り向けば、さくりさくりと突き刺す刃。
 ――見られ、視られや。縁になる前に儚く潰えるもの。
 
 紅手鞠橋が前方に見え始め、ユヴェンは肩を竦める。思い返していたのは死の惨劇が記されていた奇妙な手紙の詩。
「ミヌレは隠れていろ。お前まで無理に付き合わなくても良いからな……」
 ユヴェンは槍竜を自身の上着の内側へ呼び込み、橋へ歩を進めた。
 みそめ橋の異名を持つ場所。
 其処で何が待ち受けているのか、少々の好奇心がユヴェンの中にある。ミヌレが懐に収まったことを確かめた彼はゆっくりと歩を進めた。
「……?」
 不意に、誰かからの視線を感じる。
 あたりを見渡してみようとしたが、それこそが殺人を行う影朧の亡霊のものなのだろう。敢えて気付かぬふりをしながらもユヴェンは歩く。
 そして、立ち止まった彼は紅の欄干に手を伸ばした。
 まとわりつくような視線。
 それは無視しようとしても出来ず、絡みつくかのようだ。やがて耐えかねたユヴェンが振り返った、次の瞬間。
「貴方の大切なものを奪ってさしあげますわ」
 少女の声が耳に届いたかと思うと、黒い影が蠢いた。それが影朧の亡霊だと気付いたときにはもう、ユヴェンの胸元にナイフが突き立てられていた。
「何っ!?」
「きゅう!」
 だが、その刃を受けたのはミヌレだ。
 ユヴェンとて胸元に潜んでいる槍竜を庇っていた。だが、ミヌレは敢えて主人を庇い返す形で刃をその身で受け止め――とさり、と地面に落ちた。
「ミヌレ!」
「ふふ……ご愁傷様」
 ユヴェンがミヌレに腕を伸ばす中、影朧は空気に溶け消えるようにいなくなってしまう。おそらくそれは亡霊であるからだろう。
 敵を追うよりもミヌレを優先したユヴェンはその身体を抱きあげる。だが、ふと気付いてしまった
 ――しんだふりだよ。
 そんな風に告げるが如く、ミヌレがぱちぱちと両目を瞬いていたのだ。はっとしたユヴェンは今こそ演技をするときだと察して俯き、嘆きの声をあげていく。
「ああ、ミヌレ……こんなことになるとは――」
 こうしていれば後程、影朧は自分達が迎えた死の結末を確かめに来るだろう。もう少し死んだ演技を頼む、とミヌレに視線で伝えたユヴェンは暫し、相棒の死の悲しみに暮れる青年として此処に留まることを決めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
クロバ(f10471)と

紫雲英橋へ
やっぱりこれをやらなくちゃ
ここが現場だね
ってねっ

はんにんは、わたしたちを閉じこめたかったみたいだね
と落とされた橋を見て

ふむ、ばくはされたわけでもないようだ
いったいどうやって気づかれずに橋を落としたのか
クロバはわかるかな?

本で読んだ探偵っぽく
とくいげに

なるほどと相槌
どんな行動がよろこばれるのだろうね
どれどれ、と橋のたもとを覗き込んで

わあっ
ばしゃーん
わたしは人形だもの
冷たい水も息できないのもへいき
あわてたふりをしながら
クロバはだいじょうぶかなって様子を見るよ
あれ、でもたんていはじたばたしないのかな?

ありがとうと口パク
あぶなかったらUCできっといいものでてくるはずっ


華折・黒羽
オズさん/f01136

探偵のような言葉発する彼に
眸は楽しげな彩を宿す

静かに事運びたかったから爆破ではなく切り落とした…?
犯人は見つからないように橋を落とし手紙を送ってきた
此方の行動を観察しようとしているのでは…

前情報として既に知り得ている事をそれっぽく
探偵の助手の真似事
人差し指をぴっとあげ

犯人は現場に戻る、と言いますし

揺れる尾は遊ぶよう
しかし落ちゆくオズさん見れば慌て駆け手伸ばし

オズさん…!

真っ逆さま
落ちる!と不意に取った行動
桜の夢と属性攻撃の応用
周囲の空気を結晶に閉じ込め二人の身体包む様幾片も

水上へ引っ張られる感覚は
きっとオズさんが生み出した魔法の何かだろうと

…濡れ切る前に、上がりたいな



●花影みすてりい
 ディアストーカーにコーク帽。
 別名、シャーロックハットとワトソン帽と呼ばれる帽子――何故か旅館に置いてあったものを被り、オズと黒羽は渓谷と温泉郷を繋いでいた大橋へと向かっていた。
「やっぱりこれをやらなくちゃ。『ここが現場だね!』ってねっ」
 オズが楽しげに、探偵めいた言葉を発するものだから黒羽の眸にも和らぐ彩が宿る。やがて彼らは件の大橋に辿り着き、状況を整理していった。
「ふむ、ばくはされたわけでもないようだ」
「静かに事を運びたかったから爆破ではなく切り落とした……?」
「はんにんは、わたしたちを閉じこめたかったみたいだね」
 落とされた橋を見て其々に思うのはそんな推理。犯人は見つからないように橋を落として手紙を送ってきた。
 つまり、此方の行動を観察しようとしているのだろう。
「いったいどうやって気づかれずに橋を落としたのか。クロバはわかるかな?」
「それは――」
 本で読んだ探偵のように装い、オズが問う。
 彼が妙に得意げな様子にまた和みそうになりつつ、黒羽は前情報として既に知り得ていることをそれっぽく語った。
 それは探偵の助手の真似事だ。人差し指をぴっとあげた黒羽は告げる。
「犯人は現場に戻る、と言いますし別の橋に向かってみるのも良いかもしれません」
「なるほど」
 渋い大人のように相槌を打ったオズは、どんな行動がよろこばれるのだろうね、と続けて紫雲英橋へと戻ることにした。
 その後についていく黒羽の尾はまるで遊ぶように揺れている。
 そうして二人は落とされてしまった黒の大橋から、紅色が鮮やかな橋へ到着した。

 紅い橋の上は昨日と変わらないように見える。
 だが、此処で起こるとされているのは冷たい疑念から起こるという水死事件。
「どれどれ……?」
 オズは徐ろに橋のたもとを覗き込んでみる。
 黒羽は反対側を見ていたので一瞬だけオズから視線が外れていた。そして次の瞬間、突然オズの背後に黒い亡霊が現れ、その背を押した。
「――さあ、やすらぎをあげましょう」
 少女めいた声が聞こえたかと思うと、オズの悲鳴が響いた。
「わあっ」
「オズさん……!」
 黒羽は慌てて駆け、手を伸ばす。妙な黒い影が揺らいでいたことには気付いていたが今はそれよりも落ちゆくオズだ。
 オズも瞬時に腕を伸ばし返したが、黒羽だけの力では落下を完全には止められず――哀れ、手を繋いだ二人は真っ逆さま。
 落ちる!
 そう思った瞬間、黒羽は無意識に自分の力を使っていた。周囲の空気を結晶に閉じ込めれば二人の身体を包むように幾片もの力が巡る。
 そして、彼らは共に水の中に落ちてしまった。
 水面に浮かぶのは二人分の探偵帽子。彼らの身は水底に沈んでいく。
(わたしはだいじょうぶだよ)
 そんな中でオズは手を取り合った黒羽に視線を送る。
 わたしは人形だから。
 冷たい水も息できないのもへいき。それにたんていはじたばたしないはず。
 でも、と考えたのは黒羽の事。猫めいた彼のことだから温泉も、それに冷たい水だって我慢するのは辛いだろう。えいっとガジェットを召喚したオズは彼を救うための何かが出てきて欲しいと願う。
 すると、大きな泡を作り出す機械が出現した。
 ぷかりと浮いた泡に包まれた二人の身体は沈むのを止め、ふわふわと浮いていく。
 助けようとしてくれて、ありがとう。
 オズは水中で微笑み、このまま上に出ようと示す。黒羽も自分達がガジェットの泡の力で押し上げられていく感覚に身を委ね、こくりと頷いた。
(……濡れ切る前に、上がりたいな)
 既にオズを押した亡霊の影は消えている。
 だが、きっと影朧は後で自分達の死を確認しに再び訪れるだろう。
 そのときまでに戦う準備を整えておこうと決め、二人の探偵は水上を目指していった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【比華】

あねさまのお願いならば
何時だって何だって
ナユは叶えたいわ
往きましょうあねさま
彼のあかい橋の、そのひとつへと

あかい橋を渡り終えた先
あなたに腕を引かれたなら
視界いっぱいにあねさまが映る

雪華の如き繊指が喉元へと沈んでゆく
途切れる呼吸、霞掛かってゆく意識
嗚呼、あねさま
望むのならば差し上げるわ
共に堕ちましょう
天上の世でも
黄泉の世でも
何処の場所であろうとも
あなたとならば構わない

最期を迎えるその瞬間
あなたの頬へ身体へと指先這わせ
生命力吸収の能にてあなたを屠る

こと紡げずともあなたには伝わるでしょう
嗚呼、とても。とてもよ
ナユのあねさま
あねさまの彩で満たされてゆく

崩れるあなたを抱きとめて
そうと瞳を伏せる


蘭・八重
【比華】

ねぇ、なゆちゃん。お願いがあるのいいいかしら?
またあの橋、曼珠沙華橋を渡りたいわ
あの風景をもう一度貴女と眺めたいの

彼女の手を取り橋へと

ねぇ、一緒に逝きましょう
ゆっくり手を彼女の細く白い首へと
貴女を誰にも渡さないわ
締める手が強くする度に震える

嗚呼、何て美しいのでしょう
死に逝く紅華は散らず死さえも咲き誇る

彼女の指が頬に触れ奪われて逝く
ふふっ、私の命は美味しいかしら?
あぁ、この子の身体に私が流れる
これ程狂わしい想いはない
ずっとずっと何処までも一緒よ
天上でも黄泉の国でも
私のなゆちゃん
そっと身体を抱き締めて



●甘美なる弔
「ねぇ、なゆちゃん。お願いがあるの」
 ――いいかしら?
 甘やかな声で八重が問いかければ七結がゆるりと頷きを返す。何を願われるかは予想がついている。それゆえに七結は微笑む。
「あねさまのお願いなら、何時だって何だって、ナユは叶えたいわ」
「またあの橋、曼珠沙華橋を渡りたいわ」
 あの風景をもう一度貴女と眺めたい。想像通りの言の葉が聞こえたことで七結は首を縦に振った。
「往きましょうあねさま」
「ええ、いきましょう」
 彼のあかい橋の、そのひとつへと。
 八重は七結の手を取り、揺らぐ景色を瞳に映す。紅い、あかい橋の上。其処に望む結末が待っているのだと期待を寄せながら、そっと。

 二人で共に歩めば、満ち足りた心地が巡る。
 八重は周囲に舞う桜の花を眺め、七結と一緒に橋を渡りきった。そして八重は繋いでいた掌を握る手に力を込める。
「ねぇ、」
「……あねさま?」
 不意に手を引かれ、七結は彼女を呼ぶ。すると八重は淡く笑んだ。
「一緒に逝きましょう」
 その言葉と同時に視界いっぱいに八重が映る。
 橋に訪れる前に告げられた意味とは違う――いきましょう、という言葉。
 八重はゆっくりと手を七結の細く白い首へと伸ばし、微笑みを深めてゆく。雪華の如き繊指が七結の喉元へと沈んでいった。
「貴女を誰にも渡さないわ」
 八重は常と変わらぬ表情を浮かべながら七結の喉を締める。
 その力を強くする度に震える身体と声。途切れる呼吸、霞掛かってゆく意識。けれども七結もまた、同様に微笑んでいた。
 ――嗚呼、あねさま。
 望むのならば差し上げるわ。
 微かにひらいた唇から零れ落ちるのは途切れ途切れの呼吸音だけだったが、八重には七結が何を言いたいか理解できていた。
 共に堕ちましょう。
 天上の世でも、黄泉の世でも。
 何処の場所であろうとも、あなたとならば構わない。そう語る笑みは花の如し。
「嗚呼、何て美しいのでしょう」
 死に逝く紅華は散らず、死さえも咲き誇るのだと思えた。
 そして、七結は最期の力を振り絞って指先を八重の頬に伸ばす。彼女の指が頬に触れたとき、八重は自らの命が奪われていくことを感じた。
「あね、さま……」
「ふふっ、私の命は美味しいかしら?」
 あぁ、この子の身体に私が流れていく。これほど狂わしい想いはないのだと懐い、八重は意識を手放してゆく。
 ずっとずっと何処までも一緒よ。天上でも黄泉の国でも。
「私の、なゆ……ちゃん……」
 先に逝ったのは八重の方。最期の言の葉は愛しい妹を呼ぶ聲。
 ことを紡げずとも彼女には何もかも伝わった。とても、とても、美味な命の心地。
 ナユのあねさま。
 微かに花唇が動き、そんな音が零れ落ちた。
 この上ない彩で満たされていくことを感じて、七結は崩れる八重を抱きとめる。そうと瞳を伏せる七結もまた、己の意識が薄れてゆくことを感じていた。
 
 此れは、在り得たかもしれない終わりのひとつ。
 紅い橋の上、ふたつの花は死して尚も彩を宿して凛と誇る。永遠に咲き続ける愛しい想いを抱きながら、ずっと、ずうと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
清史郎f00502と一芝居

気掛かりはあれど、傍には友
こんなに心強い事はない
よし、協力して調査でもしよーか
館内を手分けして回った後、紫雲英橋でまた落ち合おう
一番危険な所には、必ず2人で

――そう約束しておいてオレは橋に現れず
怖じ気付いた挙句に友を犯人と疑い裏切った様に

芝居とはいえ、嗚呼、誓いに背くってのは酷く心苦しい――身は無事でも胸が張り裂けるってのはこういう――
なんて思考巡らせつつ
それでも心殺して頃合いを待ち
結局恐る恐る橋へ

…!
御免、御免な…!
俺もいっそ沈んでしまえば楽になれるだろうか
目にした巾着に錯乱したフリし水底へ

身より心が冷えてならない
全部終わればまた温かい湯にでも、きっと共にと、心内で


筧・清史郎
伊織/f03578と

ああ、協力し合えば、どの様な事件も解決できるだろう
手分けし調査後、先程共に渡った紫雲英橋で、だな
伊織と約束交わし、館内巡った後、ひとり紫雲英橋へ

待てども友は現れず
何かあったのかとその身を案じつつも
ふと疑惑を口に…まさか嵌められたのでは、と
いや、そんな事は、と口にしつつ思い返す手紙の内容
――水の中に何かあるのか?
一応目印にと友から貰った小鳥巾着を橋に引っ掛け、水の中へと歩めば
…!
急に深くなった川底へ沈んでしまう

…見立て殺人か、随分と凝った設定を用意してくれたものだ
では折角だ、此方も応えよう
俺も伊織も、芝居を打つのは得意だ
それにしても温泉ではなく、冷たい水底に沈む事になるとはな



●友と共に
 見立て殺人の手紙に奇妙な死の予告。
 この地に降り掛かっている災難を思えば気掛かりな気持ちが浮かぶ。
 されど、傍には友がいる。
 伊織はこんなに心強い事はないのだとして、清史郎に呼びかけた。
「よし、協力して調査でもしよーか」
「ああ、二人ならばどの様な事件も解決できるだろう」
 清史郎も伊織は視線を交わし、或る約束をした。互いに別々に館内を手分けして回った後、紫雲英橋でまた落ち合おうという内容の約束だ。
 そう、一番危険な所には必ず二人で。
 共に苦難を乗り越えようと決め、二手に分かれた彼らは未だ知らない。その先に明るい未来など決して待っていないということに――。
 という設定でスタートを切った死の幕劇。
 それらしい行動を行っていった伊織と清史郎は、それぞれに橋に向かうことにした。

 だが、物事は表に出た筋書き通りには進まない。
「伊織……?」
 清史郎は友の名を呼び、紫雲英橋の周辺を見渡した。
 待てども友は現れず、何かあったのかとその身を案じてしまう。
 傍から見れば伊織は怖じ気付いた挙句に清史郎を犯人だと疑い、裏切って訪れなかったように思える。そして清史郎は彼を思い、ふとした疑惑を口にした。
「……まさか嵌められたのでは。いや、そんな事は……」
 自分の中に生まれた感情に戸惑いを覚えて口許に手を当てる清史郎。しかし、と首を振った彼の脳裏に手紙の内容が浮かんだ。
 ――水に沈みて眠れば、それこそが安らぎの場。
「水の中に何かあるのか?」
 思い立った清史郎は橋の下に目を向けた。そして伊織への目印として友から貰った小鳥巾着を橋に引っ掛ける。
 橋の上からでは何も見えないと感じた清史郎は水の中へと歩んでいく。
 だが、暫し歩いたその先。
「……!」
 急に深くなった川底に足を滑らせ、清史郎はそのまま沈んでしまう。疑念に駆られ、それでも友を信じたかった。ああ、彼を待っていれば――そんなこと思いながら、清史郎は深い水底に落ちてゆく。
 
 一方、伊織は少し遅れて橋に到着した。
 芝居とはいえ、誓いに背くというのは酷く心苦しかった。何故なら伊織は清史郎がああして死ぬのを待っていたのだから。
 たとえ身は無事でも、胸が張り裂けるってのはこういう――なんて思考を巡らせた伊織は恐る恐る橋の下を覗き込む。
 其処には目を閉じ、水底に沈む清史郎の姿が見えた。
「御免、御免な……!」
 やはり心が苦しかった。敢えて彼の死を望む形で遅れて訪れたのだが、やはり耐えきれるものではない。
 そして、視界に巾着が入ったことで伊織の心は酷く掻き乱された。
「俺もいっそ沈んでしまえば楽になれるだろうか……」
 ふらふらとした足取りで伊織は水辺に近付く。静かながらも錯乱したように装う伊織は沈む清史郎に手を伸ばした。
 届かない。だから、この手が届くまで近くへ。
 そうして伊織もまた水底に沈んでいく。一度でも友に疑念を抱いてしまったのだから、自分もこうなることが望ましいに違いない。
 なんてな、と伊織は心の中で舌を出した。此処までが見事な芝居である。
 清史郎も伊織も芝居を打つのは得意であった。だが、たとえそういったフリであっても身より心が冷えてならなかった。
 それにしても温泉ではなく、冷たい水底に沈む事になるとは何とも妙な状況だ。
 全部終わればまた温かい湯にでも、きっと共に。
 そんなことをそれぞれに考えつつ、二人は冷たい水の底で待つ。
 影朧が自分達の死を確かめに、此処に訪れるそのときを――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

重松・八雲
【花守】
おお…如何にもな手紙を頂いてしもうたの
しかし力を合わせば、魔の手も払い除けられよう!
この予告、受けて立とう
そして必ず皆で仲良く帰ろうぞ!
(素か演技か分からぬ調子で旗になりかねぬ台詞を連ね)
ではいざ手掛かりと尻尾を掴みに!

(意気揚々と紅手鞠橋に)
三人おればそう易々と殺せはしまい
そしてちょこにゃんは必ず儂らが護るでの…っ!?
(振り返った瞬間に剥かれた爪牙に目を見張り)
なっ…何故じゃ…ちょこにゃん…
御猫様に息の根を止められるならば本望ではあるが…そんな…
(牙爪のダメージより寧ろ本気で精神的ショック死しそうな顔で)

しかし命は絶たれても縁だけは…
儂らはもう一蓮托生じゃぞ…ちょこにゃん…(ぱたり)


鳳来・澪
【花守】(此処からは皆演技)
随分なご趣味の殺人予告やね…
うん、でも折角の歓迎会を惨劇になんてさせる訳にはいかんよね
一緒に切り抜けてみせよ、皆頼りにしてるからね!

(勇気振り絞るようにして紅手鞠橋へ近づき)
よし、じゃあ何処から犯人が来てもええように、皆で背中を守り合いつつ調査しよか
うちもちょこにゃんには指一本触れさせんよう頑張るからね!
――え?(笑顔で振り返った直後に青ざめ)
ちょこ…にゃん…?
確かにじっちゃんはちょっと病的な猫可愛がりするとこもあるけど…こんなことって…

あっ、ちょこにゃん、そのお魚は…!
(更に倒れたちょこにゃんも抱え泣き崩れ)
(待ってこれもう色んな意味でどんな顔したらええの…?)


鈴丸・ちょこ
【花守】(終始演技)
ったく難儀な事だな
永眠なんざ御免被る
とっとと解決して気分良く微睡むとしようぜ
んじゃ此処は手っ取り早く橋に行ってやるか
何、危ない橋を渡るのにゃ慣れてるさ

(すたすたと何食わぬ顔顔で皆の後を歩き)
一体どっから高みの見物してやがるんだろうな
さて、鬼が出るか蛇が出るか
――化猫が出るか
(冗談めかした口調から一変、急に爪牙剥いて八雲に襲いかり)
悪ぃな爺さん、俺は孤高の一匹猫
猫可愛がりされるなんざ御免なんだよ
縁は此処で切らせて貰うぜ

あぁでも昨日貰った魚だけは有難く頂いてやるよ
じゃあな、あばよ――(徐に魚を一齧り――した直後、骨が喉に刺さり)
…っく
こんな道連れがあってたまるか…!
(ぐったり)



●犯人はお魚
 五つの橋の謂れと死の予告。
 奇妙な手紙を眺め、八雲達は驚きと困惑、そして呆れの感情を抱いていた。
「おお……如何にもな手紙を頂いてしもうたの」
「随分なご趣味の殺人予告やね」
「ったく難儀な事だな。永眠なんざ御免被る」
 八雲に続き、澪とちょこもそれぞれの思いを言葉にする。だが、彼らに怯えや怖気付いたような気配はない。
 八雲は拳を握り、この予告を受けて立とうと決めた。
「しかし力を合わせば、魔の手も払い除けられよう!」
「うん、折角の歓迎会を惨劇になんてさせる訳にはいかんよね」
 澪はちょこを見遣り、こくこくと頷く。対するちょこは歓迎会なんぞどうでもいいが、という雰囲気を出しつつも同意を示した。
「それしかないな。とっとと解決して気分良く微睡むとしようぜ」
「そして必ず皆で仲良く帰ろうぞ!」
「一緒に切り抜けてみせよ、皆頼りにしてるからね!」
 八雲は素か演技か分からぬ調子でフラグになりかねない言葉を連ねる。澪も八雲に倣って拳を振り上げ、調査へと乗り出した。
「んじゃ此処は手っ取り早く橋に行ってやるか。何、危ない橋を渡るのにゃ慣れてるさ」
 ちょこは二人の妙なやる気にやれやれと肩を落としながらも、尾をぴんと立てた。
 そして、八雲も目的地を目指す。
「ではいざ手掛かりと尻尾を掴みに!」
 だが、彼は未だ知らなかった。
 その尻尾という言葉が、最大のフラグになっていたということを――。
 
 そうして、一行が訪れたのは紅手鞠橋。
 意気揚々と辺りを見渡す八雲には絶対に死なないという強い意志があった。
「三人おればそう易々と殺せはしまい」
 そう、ただそれだけの根拠なのだが今の彼にとっては心強い状況だ。澪も勇気を振り絞るようにして紅手鞠橋の真ん中に進む。
「よし、じゃあ何処から犯人が来てもええように皆で背中を守り合いつつ調査しよか」
 澪が気を引き締める中、ちょこは何食わぬ顔で二人の後ろにいた。
 もし殺されるとしたら影朧の亡霊にだろう。だが、そんなことはさせない。ちょこは周囲を眺めながら静かに呟いた。
「一体どっから高みの見物してやがるんだろうな」
 さて、鬼が出るか蛇が出るか。
 それとも――化猫が出るか。
 尻尾を揺らしたちょこが口にした不穏な言葉は風に掻き消された。彼が双眸を鋭く細める中で八雲と澪は警戒を強めている。
「ちょこにゃんは必ず儂らが護るで、の……っ!?」
「うちもちょこにゃんには指一本触れさせんよう頑張るから――え?」
 八雲が不意にちょこの方に振り返った瞬間、悲鳴めいた声があがった。澪も決意を声にしていたが、驚いて其方に目を向ける。
 その瞳に映ったのは、急に八雲に襲いかかるちょこの姿だった。
 剥かれた爪と牙。
 笑顔で振り返った直後に青ざめる澪。そのときにはもう八雲は地に伏していた。
「なっ、何故じゃ……ちょこにゃん……」
「ちょこ……にゃん……?」
 驚愕する二人を尻目にちょこは血塗れの爪を舐めながら告げる。
「悪ぃな爺さん、俺は孤高の一匹猫なんだ」
 猫可愛がりされるなんざ御免なんだよ、と話したちょこは欄干の上にひょいと飛び乗った。倒れた八雲は震える腕を伸ばす。
「御猫様に息の根を止められるならば本望ではあるが……そんな……」
「確かにじっちゃんはちょっと病的な猫可愛がりするとこもあるけど……」
 こんなことって、と俯く澪はショックでへたり込んでしまった。八雲も受けた痛みよりもちょこが凶行に走ったことが本気で精神的に衝撃であり、今にも死にそうな顔をしていた。そんな彼らをちょこは不敵に見つめる。
「縁は此処で切らせて貰うぜ」
 クールにそう告げたちょこは踵を返そうとした。
「待って、ちょこにゃん!」
「あぁでも昨日貰った魚だけは有難く頂いてやるよ」
 澪が呼び止めると、軽く振り返ったちょこは魚の存在を思い出した。はっとした澪は駄目だと首を横に振る。
「あっ、ちょこにゃん、そのお魚は……!」
「じゃあな、あばよ――……っく」
 制止も聞かずに徐に魚を一齧りしたちょこ。しかしその直後、骨が喉に刺さった。しまった、と呻いたちょこは崩れ落ちる。
「そんな、こんな道連れがあってたまるか――」
 ぱたりと倒れる彼に向け、最期の力を振り絞った八雲が声をかける。
「命は絶たれても縁だけは……儂らはもう一蓮托生じゃぞ……ちょこにゃん……」
 そして、同時に八雲も力尽きた。
 遺された澪はただ二人を見下ろすことしか出来ないでいる。倒れたちょこを抱きかかえ、八雲の傍で泣き崩れる澪。
(待って、これもう色んな意味でどんな顔したらええの……?)
 演技だと分かっていても腕の中でぐったりするちょこと、本当にショック死したかのような八雲の傍らで澪は暫し呆然とする。
 だが、きっともうすぐ此処に死を確認しに影朧が訪れるだろう。それまではこの状況に浸っていなければならない。
 目の前に広がるのは悲しい、とても哀しい惨劇。
 どうか、本当にこんなことが起こらないように――澪はそっと願い、瞳を閉じた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
【迷宮】――曼殊沙華橋

紅い橋の彩を映す刃物を手に、
すこし哀しげに立っている
どうしてだろうね、あんなに楽しかったのに

最後のお饅頭を手に入れるために
今、きみを殺さないといけないんだ

相対するユルグへ切なく囁いた刹那、
宙を切って振り下ろす殺意
刃が実はぷにぷにだなんておくびにも出さずに
悲愴感を醸し出して争ってみせよう

もういちど……食べたかっ……

ぷにっと返り討ちにされて倒れ込めば、
うつくしい人魚の唄が聴こえてくる
惨劇の舞台を浄めるような澄んだ響きを、
真面目に死体Aを務めながら堪能して

ところでこれ、オチは大丈夫?

薄目を開ければ黒い影こと綾が見事に幕を、
あっ……引けてない……
こら、死体BとC、笑っちゃだめだよ


リル・ルリ
【迷宮】

緊張感に包まれた曼殊沙華橋
ピリリ、尾鰭が震える

最後の一個のお饅頭が、僕達に最期を齎すだなんて
和やかな昼の、暖かな空気に皆の笑顔が遥か遠く感じてしまう

そんな、花世とユルグが……!
立ち込める殺意にヨルと震えることしかできない
殺し合うふたりを辛そうに見つめ――2人倒れた隙に、お饅頭を抱き込む
僕だってこれは渡せない!
…お土産にするんだから!
きっと、喜んで――あいた!
ピコンと何かがぶつかって、吹き飛ぶお饅頭
この世の終わりみたいな顔をして
儚くうつせみ歌い泡になる―
お願いだから踏まないでよね

背後の黒幕にひそり願い―え?
そこでしぬの?!
笑いを堪えるのが大変だよ

きゅーー!
悲痛なヨルの鳴き声だけが響いてる


都槻・綾
【迷宮】曼殊沙華

出来立て饅頭に
美味しそう…と綻んだあの時から
悲劇は始まっていたのか

私達は
甘い魔の手に支配されてしまった

――嗚呼
争いはやめてください

甘味を奪い合う男女へ
痛ましげに首を振るも
欄干の箱は私の視線を惹き付けて離さず

視界から奪い去ろうとする人魚へ
ぴこハンマーを振り下ろしたのは、
どんな悪魔――?

茫然と自身の手を見下ろす
確かに握られた得物、それと饅頭と言う罪

私もまた狂ってしまったのだ――、
…っ?!

天を仰いで
枯れた涙ごと飲み込むよう戦利品の饅頭を貪れば
喉に詰まらせ
ばたりと倒れ
思い返す、そんな惨劇のひと時

最期に走馬灯を見るとは
誠のことだったのですねぇ…

ヨルさんの儚い声は
きっと愚か者達への弔いの歌


ユルグ・オルド
【迷宮】曼殊沙華橋

箱の最後に残った一つは
触れてはいけないものだったんだ
赤い欄干に饅頭を預けて

対峙するのは和気藹々としていた花世
そればっかりは聞いてやれねェなァ
勿体ぶって刺せば引っ込むナイフを取り出し殺意の応酬
どうしてこんなことに、なんて眉顰め死体Aを眺めたなら
追い掛けるように相打ちでばったり

ついでに打った膝にぷるぷるしつつ死体Bに成り果てる
倒れる時は気をつけろよと念じながらも増える死体
降り注ぐ歌声にちょっと癒されたっていうか器用てか

黒幕が最後一つを手にし、事件は幕を下ろ――
お前も死ぬのかよ
ツッコミに起き上がらなかっただけ堪えた
悲愴なヨルの泣き声の裏で
ちょっと笑っちゃうのは仕方ねェじゃん?



●こうして誰もいなくなった
 此処は曼殊沙華橋。
 穏やかだったはずの紅い橋の上には鋭く張り詰めた空気が満ちていた。
 出来立て饅頭に美味しそうだと綻んだあの時から、悲劇は始まっていたのだろう。
「私達は、甘い魔の手に支配されてしまった」
「最後の一個のお饅頭が、僕達に最期を齎すだなんて……」
 綾が嘆く最中、リルは尾鰭を震わせた。この二人、今はナレーション役だ。
 和やかな昼の、暖かな空気の中に咲いた皆の笑顔。それが遥か遠くのことに感じてしまう。その理由は――。
 花世は今、ユルグに刃を差し向けていた。
 紅い橋の彩を映す刃物を手にして、哀しげに立つ彼女はユルグを見つめている。
「どうしてだろうね、あんなに楽しかったのに」
 花世の髪を冷たい風が撫でていった。
 紅い欄干には饅頭の箱が置かれている。其処に残っているのはたったひとつ。
 それはきっと、触れてはいけないものだった。ユルグが胸中で独り言ちる中、花世は掲げた刃物に彼の姿を映す。
「最後のお饅頭を手に入れるために――今、きみを殺さないといけないんだ」
「そればっかりは聞いてやれねェなァ」
 これまで和気藹々としていたはずの花世の眸は冷え切っていた。ユルグがそう答えた刹那、切なげに瞼を瞬いた彼女が明確な殺意を持って刃を振り下ろした。
 対するユルグもまた、ナイフで以て応戦した。
 それは殺意の応酬。
 実は刃がぷにぷにであったり、引っ込む刃であることなどおくびにも出さずに。二人の一閃が重なり合う。
「――嗚呼、争いはやめてください」
「そんな、花世とユルグが……!」
 綾が悲しみに暮れた声を零し、リルもヨルと共に震えることしかできない。
 甘味を奪い合う男女へ痛ましげに首を振るも、欄干の上に置かれたままの箱は綾の視線を惹き付けて離さないでいた。
 そして、一瞬後。
 ユルグの振るった刃が花世を貫き、その身が崩れ落ちる。
「もういちど……食べたかっ……」
 最期の言葉を残した花世。だが、彼女とてただ倒れたわけではない。ユルグは眉を顰め、自分の腹に突き刺さった刃を見下ろす。
「あ……ああ、どうしてこんなことに」
 苦しげに呻いたユルグは相打ちとなってその場に倒れ込んだ。
 リルはぎゅっとヨルを抱き締め、死体AとBと成り果てた二人の姿を見せないように目隠しをした。だが、リルは二人が倒れた隙に欄干の饅頭に手を伸ばす。
「僕だってこれは渡せない! ……お土産にするんだから! きっと、櫻だって喜んで――あいた! いたいっ!」
 これでお饅頭は僕のもの。
 そう勝ち誇ったリルの背後から忍び寄る影。彼の悲鳴が響いた理由は綾がぴこぴこハンマーでぴこん、ぺこんとその頭を二度も殴りぬいたからだ。
 その衝撃で手から零れ落ちる饅頭。
「……!」
 この世の終わりのような顔をしたリルは倒れ込む、自然と唇から零れ落ちたのは、儚きうつせみを歌う微かな聲。
 そして、がくりと崩れ落ちたリルはそのまま死体Cとなる。
 死体Aはうつくしい人魚の唄を聞いていた。舞台を浄めるような澄んだ響きをじっくりと聴けるのは最初に死んだ者の役得。対する死体Bは笑いを堪え、倒れる時は気をつけろよと念じていた。
 綾は自分がしてしまったことが信じられず、茫然と自身の手を見下ろした。確かに握られた得物。それと饅頭を手にしてしまった罪。
「私もまた狂ってしまったのだ――」
 ふるふると震える綾。
 それを見守る死体ABC。
(ところでこれ、オチは大丈夫?)
(ああ。黒幕が最後一つを手にし、事件は幕を下ろすはずだ)
(お饅頭、いいなあ……)
 死体達は綾が綺麗に終幕を飾ってくれると信じて待っていた。
 そして――。
 綾は徐ろに天を仰ぎ、枯れた涙ごと飲み込むよう戦利品の饅頭を貪る。これが勝者の味、なんて思う暇もなく饅頭が喉に詰まった。
「……っ?!」
(あっ……綺麗な幕が引けてない……)
(お前も死ぬのかよ)
(え? そこでしぬの?!)
 突っ込みたい衝動を押さえながら死体達は彼の動向を見守る。そして綾は倒れ、楽しかった時を思い返す。
「最期に走馬灯を見るとは、誠のことだったのですねぇ……」
 う、というくぐもった声と共に綾もまた死体Dに成り果ててしまった。
(こら、死体BとC、笑っちゃだめだよ)
(仕方ねェじゃん?)
(もう駄目、尾鰭がぷるぷるしちゃう……)
 死体AがBとCに告げる中、ひとり――もとい一匹だけ取り残されたものがいた。
 ヨルだ。
 一体何が起こったのか。リルが持っていたお饅頭は何処に消えたのか。ヨルが食べるはずだったあのお饅頭は?
 死体Dを踏みつけながら、きょろきょろと辺りを探したヨルは叫ぶ。
「きゅーー!」
(訳:どこにもおまんじゅうがなーーい!!)
 たったひとり、遺されたヨルの悲痛な声が曼殊沙華橋の上に響き渡った。
 
 ――『温泉饅頭は死の香り』、完。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻華

気が進まないわ
芝居でも一華に何かあったらと考えると
幼い笑顔に救われるも不安は消えないわ
この橋ね
あたし、炎はあまり好かぬのだけど
一華の言葉に世界が凍る
母親が恋しいに決まってるわよね
あんな家にずっと独りなんだもの

初めて戀した
あの世界一美しく気高い鬼の女の事

…知らないなんて嘘はつけない
…素敵な人よ、なんて誤魔化せない
…あなたを身篭ったのは誘七の家名が欲しかったからなんて事実いえない
…勘当された私に愛想尽かし去ろうとしたから殺したなんて、

言葉は桜吹雪に散らされて

一華あのね

いっそ早く私を燃やして
思った刹那
一華!
炎から庇うよ抱きしめオーラ防御の桜花で包み倒れ伏す
暫く我慢して



随分おおきくなったのね


誘七・一華
🌺櫻華

兄貴は意外と心配性だな
フリだろ?
上手くやってやる!
昼間と同じ姫射干橋
夜の橋は不気味で何処か怖い
兄貴の桜は綺麗で落ち着くのに
この桜は不安にさせる

…なぁ兄貴
兄貴は、俺の…
本当の母様のこと知ってるのか?
家の人は何も教えてくれない
俺も羅刹ってことしか知らない
兄貴は会ったことあるのか?
…どんな人なんだろう
かあさまは、俺の事…
いらなかったのかな

憧れだ
焦がれても叶わないのは知ってるけどな

なんて柄でもないな
兄貴?
桜吹雪で顔がみえない
…え?

うわー!?燃えるー!
兄っ…
炎から庇われるみたいに抱き締められる
照れくさい
一瞬見えた顔は泣きそうで

今は守られてやるよ
熱さを感じぬ炎と桜の中で
不思議な心地良さに瞳を閉じる



●兄と弟、父と息子
「……どうにも気が進まないわ」
 届けられた奇妙な手紙を思い返し、櫻宵は俯いていた。
 たとえ芝居であっても一華に何かあったら。そう考えると気分が沈んでしまう。
「兄貴は意外と心配性だな。フリだろ?」
 何ともないと笑う一華は無邪気だ。自分達なら平気だと信じる、そんな幼い笑顔に少し救われた気がした。それでもやはり不安は消えない。
「そうね、行ってみなきゃ始まらないわ」
「上手くやってやるから大丈夫!」
 意を決した櫻宵が顔をあげると、一華は大きく頷いた。
 そして、二人は昨日の昼間に通った場所――姫射干橋へと向かうことにした。

 本当は同じはずであるのに、手紙を読んだ後の橋は不気味で何処か怖い。
 幻朧桜は変わらず橋の袂で咲き誇っていた。
(兄貴の桜は綺麗で落ち着くのに、何でだろ。この桜は不安にさせる美しさだ)
 一華がぞくりとした感覚をおぼえる中、櫻宵は橋の欄干にそっと触れてみる。此処では確か、炎が関係した殺人が行われるのだったか。
 ――憧れはいつか憎しみに。焦れ焦がれて炎に焼かれる。
 ――燃えろ、燃えろや。思いは決して通じない。
 あの一文は何故だか、自分達の未来を暗喩しているようにも思えた。一華からの憧れの感情が憎しみに変わる。そうなる要因があることは櫻宵にもよく分かっていた。
 櫻宵は炎をあまり好いていない。ひとまずはどうしようかしら、と櫻宵が一華に振り返ろうとしたそのとき、彼が声を掛けてきた。
「……なぁ兄貴」
「何かしら?」
「兄貴は、俺の……本当の母様のこと知ってるのか?」
 問いかけが紡がれた瞬間、櫻宵は世界が凍ったような感覚に陥る。
 そうだ、この子だって母親が恋しいに決まっている。あんな家にずっと独りでいるのだし、今だって無理に連れ出されただけだ。
 櫻宵は橋の袂に咲く桜を眺めてから、そっと目を閉じる。
「…………」
「家の人は何も教えてくれないんだ。俺も羅刹ってことしか知らないし……兄貴は、母様と会ったことあるのか?」
「――ええ」
「……そっか。どんな人なんだろう」
 思いを巡らせた彼に対し、櫻宵はただ頷くことしか出来なかった。
 一華の母親。彼女は櫻宵が初めて戀した、世界一美しく気高い鬼の女。
 知らないなど嘘はつけない。素敵な人よ、と誤魔化すこともできない。
 彼女があなたを身篭ったのは誘七の家名が欲しかったから、なんて事実はどんな嘘を並べるよりも残酷なことだ。そして、勘当された櫻宵に愛想を尽かした彼女が去ろうとしたから殺して喰らった――などいうことも言えるはずがなかった。
 櫻宵がどう答えようかと考え込む最中、一華は不意にぽつりと呟く。
「かあさまは、俺の事……いらなかったのかな」
 母の存在は憧れだ。
 焦がれても叶わない。その答えが誰かから貰えるはずもないと聡明な少年は分かっていた。櫻宵は震えそうになる身体を押さえ、弟の――息子の名を呼ぶ。
「一華、あのね」
 胸が締め付けられるような思いを抱いた櫻宵は、いっそ早く私を燃やして、と告げそうになった。だが、その言葉は桜吹雪に散らされる。
 刹那、櫻宵がはっとして地を蹴った。
「一華!」
「兄貴? わ……!?」
 突如として迫ったのは炎。おそらくそれは影朧が解き放った死の罠だ。
 逸早くそれを察した櫻宵は焔から庇うように一華を抱き締め、自分達を桜花で包みながら倒れ伏す。影朧から見れば、二人が炎に焼かれて死んだように見えるだろう。
 暫く我慢して。
 耳元で囁かれた声に頷き、一華は眼を閉じる。その際に一瞬だけ見えた櫻宵の顔はどうしてか泣きそうだったように思えた。
 そんな中で櫻宵は息子が生まれたばかりの頃を思い出していた。
(噫、随分おおきくなったのね)
 ――こんなに、こんなにも。
 愛おしさと罪悪感めいた感情の狭間で櫻宵は一華を抱き締め続ける。何も知らぬ一華は櫻宵の思いに気が付けぬままだが、不思議な安堵を覚えていた。
(照れくさいけど、今は守られてやるよ)
 熱さを感じぬ炎と桜の中、一華は兄に身を委ねる。
 どうしてだろう。妙に懐かしさを感じた。まるで両親に抱かれているかのような――けれども、一華自身には決して言葉に出来ない思いが裡に巡っていた。
 
 
●殺戮の戯を
 はらり、はらりと桜花が舞い散る。
 それは数多の死を飾るように。嘆きの涙のように、花は風を受けて空に舞う。
 旅館内や黒の大橋。
 緋桐橋、姫射干橋、曼珠沙華橋。紅手鞠橋に、紫雲英橋。
 それぞれの場所で起こった殺人と悲劇を思い、影朧――随遊院茫子は薄く笑む。
「これで総てが整いましたわ」
 嘗ての父と同じ猟奇推理作家を夢見た少女は、殺戮劇を確かめに向かう。
 その死を須らく記録して、父のような素晴らしい作品を世に送り出すために――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『七光ラズ・随遊院茫子』

POW   :    「…と、死体は何れかの部位が欠損していますのよ」
【猟奇殺人の小話 】を披露した指定の全対象に【自分も是非このように殺されたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
SPD   :    「ふふふ、斬殺殴殺扼殺刺殺なんでもござれですわ」
【惨たらしい猟奇殺人を犯したわたくし 】の霊を召喚する。これは【華麗なる見立て殺人で使われた凶器】や【咄嗟の思いつきで凶器にしたその場にある物】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    「わたくし以外が綴った小説なんぞ燃えておしまい」
【万年筆にて綴られる禍々しき文言 】が命中した対象を燃やす。放たれた【原稿用紙と彼岸の花を火種に燃え盛る怨恨の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。

イラスト:稲咲

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠稿・綴子です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●原稿用紙と小説家
 此処に集った者達の殆どが何らかの死を遂げた。
 絞殺、刺殺、水死、焼死、殺し合いに心中エトセトラ。クローズドサークルの中で起こった殺人劇はそれはもう見事なものだ。
 中には死に至らなかった者もいるが、遺された者としての役割を全うしている。
 
 この事件の首謀者である影朧――随遊院茫子は満足気だった。
「陸の孤島に様々な死因。わたくしがモデルにするに相応しい舞台と死ですわ」
 ふふふ、と笑った茫子は宙に万年筆のペン先を滑らせる。
 すると印矩がまるで滲んだ血のように踊った。彼女の周囲には何枚もの原稿用紙が舞っており、死を記録して文章にする準備は万端だ。
 しかし茫子はふと首を傾げる。
「わたくしの亡霊が殺した数よりも死体が多いような……?」
 されど疑問はすぐに振り払われた。死体が少ないのならばともかく、多いのならばネタが更に増える。それゆえに気にしないでいいだろう、と。
 そして、茫子は己の力を具現化させていく。
「――さあ、わたくしの霊達。殺人劇の顛末を確かめに向かいなさい」

 やがてそれぞれの死に場所に、茫子が放った何体もの『惨たらしい猟奇殺人を犯したわたくし』の霊――即ち、ユーベルコードで作られた存在が向かっていく。
 君達は死の演技を止め、訪れた霊と対峙することになる。
 対象が未だ死していないと知った茫子の霊はもう一度君達を殺そうとする。今度は確実に、本当の死を与えるべく、一切の容赦はしないだろう。
 さあ、立ち向かえ猟兵達よ。
 花影温泉殺人事件の物語は君達自身が紡ぎ、結末を描くことになるのだから――!
 
キリカ・リクサール
アドリブ歓迎

犯人は現場に戻ってくる…推理小説の定石だな
では、この後犯人が辿る結末もそれに相応しいものにしようか

敵が小話を始めたらUCを発動
髪に隠れた両耳をそれぞれ呂律が怪しくなる麻痺毒と中枢神経を刺激し興奮させる神経毒のガスに変え、周囲に漂わせて密かに吸入させる
酩酊状態と言う奴だ
泥酔すればまともに話す事も出来ないし、正常な思考も怪しくなるな

おお…なんという素晴らしい話だ
是非私もそんな風に殺されてみたいっ!

とは言え全部聞く義理もない
話の途中で敵に抱き着くように接近
敵が凶器を振りかざしたら今度は全身を強力な腐蝕毒へと変えて内部から破壊する

愚かな犯人は最後に死ぬ…
これこそ推理小説に相応しい幕引きだな



●致死の毒
 死体を演じているキリカの元に影が現れる。
 茫子の亡霊はその死を確かめるために訪れたのだろう。警戒せずに近付いてくる彼女の気配を察し、キリカは立ち上がった。
「犯人は現場に戻ってくる……推理小説の定石だな」
「死体が起き上がった……? いえ、死んでいなかったのかしら」
「その通り。では、この後犯人が辿る結末もそれに相応しいものにしようか」
 互いの視線が交錯し、辺りに緊迫した空気が満ちる。
「騙しましたのね」
 万年筆をくるりと回し、茫子の霊はキリカを睨め付けた。敢えてその眼差しを受け止めるだけに留めたキリカは相手の出方を窺う。
 すると敵はくすくすと笑み、猟奇殺人の小話を始めた。
「――哀れ、その肢体は滅多刺し。彼女は本当に死体になってしまいましたの」
 茫子の亡霊は語る。
 その片鱗を聞いただけでキリカの裡に妙な衝動が沸き起こる。
「おお……なんという素晴らしい話だ。是非私もそんな風に殺されてみたいっ!」
 そんな風に告げるキリカに対し、茫子の亡霊は薄く笑んだ。
 だが、そう易々と死ぬはずなどない。
 キリカは相手を油断させると同時に髪に隠れた両耳をそれぞれに毒霧へと変異させてゆく。それは呂律が怪しくなる麻痺毒と、中枢神経を刺激して興奮させる神経毒のガスへと変わるものだ。此方が小話に惑わされていると思わせ、相手の周囲に漂わせて密かに吸入させる狙いである。
「それだけではありまひぇ……ありゃ? にゃんで口が回らにゃ……あ、あ――」
 茫子の霊は更に話を続けようとしたが、不意に首を傾げた。
「どうだ、酩酊状態と言うやつだ」
「あにゃた、また謀っ、たの、ね……」
 茫子の霊はふらつきながらもキリカに手を伸ばそうとする。だが、泥酔すればまともに話すことも出来なければ、正常な思考や行動だって怪しくなるものだ。
 キリカは即座に敵の背後に回り込み、その手に捕まらぬように腕を回した。
 そして、敢えて自分から抱き着く。
 同時に己の身を強力な腐蝕毒へと変え、キリカは相手を内部から破壊していった。
「――!」
 倒れ伏し、消えゆく亡霊の断末魔は声にすらならなかった。
「愚かな犯人は最後に死ぬ……」
 これこそ推理小説に相応しい幕引きだと思いながら、キリカは実体に戻ってゆく。これで茫子の本体にも幾らかダメージは与えられただろう。
 キリカは自分の役目は果たしたとして、殺人事件の幕引きも近いと感じていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

メディツ・フロレンティア
*アドリブ歓迎
判定:POW
陸の孤島で行われた見立て殺人…ミステリのモデルとしてはこれ以上ないだろう。だが、神の視点を気取っているのはいただけないね。君は黒幕という役割を持っているのだから…。

猟奇殺人の小話か…。アポカリプスヘルで医者をやってる私ですら見たことないような奇怪な死に方には若干の興味が湧くが、『代謝をする死体』である私をどうやって殺す気かね。此処は一つ、死体にしかできない戦い方を教授してあげよう。片腕を犠牲にしてUCを発動し、影朧の撃破を狙うよ。

「私は医者(ワトソン)ポジションだからね。犯人を宣告するのは他の猟兵に任せるとしよう」



●死体と小説家未満
 陸の孤島で行われた見立て殺人。
 それはミステリのモデルとしてはこれ以上ない絶好の機だ。首吊り死体となったメディツの身体は風に揺られている。
 其処に現れたのは死を確かめに来た茫子の霊。
「まあ、首吊りだなんて……ふふふ」
「……だが、神の視点を気取っているのはいただけないね」
 茫子の亡霊がくすくすと笑っていると、不意にメディツが瞼をあけて口をひらいた。
「!?」
 驚いた様子の霊が後退る中、彼女のちいさな身体が縄から解放される。
「だって、君は黒幕という役割を持っているのだから」
「死んだふりをして謀りましたわね」
 敵意を向けた亡霊はメディツを真に亡き者とするべく、猟奇殺人の小話を始めた。
「――嗚呼、無惨。少女は二度と解けぬ縄に囚われてしまいますの」
 茫子の亡霊は語ってゆく。
 だが、その話が紡がれ終わる前にメディツは首を振った。
「ふむ……」
 彼女が医者をやっている自分ですら見たことないような奇怪な死に方を披露してくれるのならば興味が湧いたが、語られたのはありふれた絞殺。
 溜め息をついたメディツは肩を竦める。
「さて、『代謝をする死体』である私をどうやって殺す気かね」
「あら、あなたは元から死体ですのね。それなら、繋ぎ合わせることもできないほどにバラバラに斬り刻むのは如何?」
「成程、それは流石に死ぬかもしれないね。だが――」
 メディツと敵の視線が交差する。
 次の瞬間、メディツは片腕を代償にして電流を巻き起こした。
「見ていてご覧よ。此処は一つ、死体にしかできない戦い方を教授してあげよう」
「なっ……これは……!」
 途端に周囲に膨大な電流が満ち、茫子の亡霊を貫く。痺れる一閃を受けた霊はその場にへたり込み、それ以上の言葉を残すことなく消えていった。
 おそらく分霊であるがゆえに一体ずつの力はとても弱いのだろう。メディツは消えゆく霊を見送り、腕の無くなった肩口をもう片方の手でさする。
「私は医者――つまりはワトソンめいたポジションだからね。犯人を宣告するのは他の猟兵に任せるとしよう」
 そして、後は他の者に託せばいいとして信頼の言葉を落とした。
 ひとまずは代償とした片腕の治療だ。
 そんなことを考えるメディツは隠しておいた医者鞄を取り出し、煙草を咥えた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

イリーツァ・ウーツェ
死者擬きの、賑やかだった事だ
観光地だからか?
待っていれば、此処に来るのか
ならば水底で待つ

私は俯せで倒れている
水伝いに近付く音を聞き、
尾で絡め捕り、口を利く前に殴る
ニンゲンは、水中で話せない
だが、奴はオブリビオン
万が一を考え、先んじて殺す
頭を殴り砕けば、口は利けなくなるだろう

私は本を読まないが、
犠牲を出さねば書けないのなら
其れは無才に等しかろう
筆毎折れろ



●水中の攻防
 死者擬きのなんと賑やかなることか。
 観光地だからだろうか。否、それはあまり関係がない気もする。イリーツァは水底に沈みながらぼんやりと考え、件の影朧を待っていた。
 俯せで倒れているイリーツァは本当に死んでいるように見えた。
 其処に近付いてきたのは死を覗きにきた茫子の亡霊だ。
「まあ、見事な土左衛門ですこと」
 可笑しそうに笑う声と、水伝いに近付く音。それを聞き、タイミングをはかったイリーツァはそのときを狙う。
 そして――。
「きゃ!」
 茫子の亡霊が水面まで近付いた刹那、イリーツァは尾で亡霊を絡め取った。そのまま先手を取った彼は拳を握り、相手が口を利く前に殴り抜く。
「喰らえ」
「――!?」
 その一撃は巨岩も粉塵と化す暴威。穿たれた亡霊は水中に引き摺り込まれ、不覚を取ったのだと悟る。
 ニンゲンは水中で話せない。故にイリーツァは水中を戦場とした。
 だが、相手はオブリビオンだ。なんと彼女は痛みを堪えるような仕草をしながら猟奇殺人の小話を始めたではないか。
「ええ、腹に石を詰められて水に沈んだ者は二度と起き上がれませ――きゃあ!」
 だが、イリーツァは聞く耳など持たない。
 相手の能力によって僅かに心が乱されそうになったが、そういった気持ちになる前に敵を倒してしまえばいい。
 攻撃は最大の防御という理論だ。
 そして、頭を殴り砕けば口は利けなくなる。単純な戦術ではあるが今回においては功を奏したようだ。何故なら相手は分霊体。一体ずつならば脅威ではないのだ。
 水に沈み、動かなくなった亡霊を見遣ったイリーツァは水辺からあがる。身体は冷えきっていたが、これで敵を倒せたのだと実感できた。
「私は本を読まないが、犠牲を出さねば書けないのなら其れは無才に等しかろう」
 筆毎折れろ。
 消えゆく亡霊を一瞥した後、イリーツァは静かに目を閉じた。
 間もなくこの騒動も終わる。そう感じながら――。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

フリル・インレアン
この見立て殺人は実は成立していません。
アヒルさんが殺害された事件であなたの想定外のことが起こりました。
アヒルさんを殺害したと思い込んだあなたは別の見立て殺人を行う為、その場を離れました。
ですが、アヒルさんはその時まだ死んでなく。
ここまで泳いできたんです。
そして、ここで私と会ったんです。
同じ赤い橋で暗い夜ですから、勘違いしてしまったんでしょうね。
橋で横たわるアヒルさんを見て、私をアヒルさんと同じ方法で殺害してしまった。

ここは曼珠沙華橋、私達は背中を斬られて死んでいるのではなく、お互いの胸を刺し合って死んでいなければいけなかったんです。

あなたの勘違いによる見立て未遂殺人でその姿を維持できますか?



●空虚な推理
「――この見立て殺人は実は成立していません」
 そんな語り口から入ったフリルの台詞。彼女は今、目の前に現れた影朧の亡霊に向け、推理を披露していた。
 フリルが死んだふりをしていたのだとか、何でいきなり推理を始めたのだとか、そういう細かいことはどうだっていい。そんな雰囲気を醸し出しながら、茫子の霊はじっとフリルの話を聞いていた。
「アヒルさんが殺害された事件であなたの想定外のことが起こりました」
「……ええ、続けて?」
 万年筆を手元でくるくると回した茫子に頷き、フリルは話を続ける。
「アヒルさんを殺害したと思い込んだあなたは別の見立て殺人を行う為、その場を離れました。ですが、アヒルさんはその時まだ死んでいなくて、ここまで泳いできたんです」
「そうだったかしら」
 ふぅん、と零した茫子はフリルとガジェットのアヒルさんを交互に見遣った。
「そして、ここで私と会ったんです」
 同じ赤い橋で暗い夜であるから、茫子はきっと勘違いしてしまったのだろうとフリルは語っていく。
「橋で横たわるアヒルさんを見て、私をアヒルさんと同じ方法で殺害してしまった」
「……」
 対する相手は無言だ。
「けれどここは曼珠沙華橋、私達は背中を斬られて死んでいるのではなく、お互いの胸を刺し合って死んでいなければいけなかったんです」
「……?」
「あなたの勘違いによる見立て未遂殺人でその姿を維持できますか?」
 言葉に詰まった様子の茫子に向け、フリルはびしりと指先を突きつけた。
 だが――。
「できますのよ」
「ふえぇっ」
 さらりと返され、別になんてことはないと告げられてしまった。どうやら別にそういう仕組みの幽霊ではないらしい。
「それでは、次は本当に殺しましょうか。この凶器でね」
「ふえぇえええ!?」
 茫子の亡霊はくすりと笑み、出刃包丁を取り出してフリルに向けた。まったく戦うことを考えていなかった彼女はただ逃げることしか出来ない。
 素早い逃げ足で街中を駆けて亡霊を掻い潜りながら、フリルは思う。
 戦いの場ではちゃんと戦う準備をしよう、と――。
 

苦戦 🔵​🔴​🔴​

マリス・ステラ
【五星】

「──感情に身を任せるあなたは美しい」

星の転がるような声音
水死から復活します

「しかし、身を焦がすのはやり過ぎですよ、五劫」

五劫に【不思議な星】
負傷を癒すと、

「主よ、憐れみたまえ」

『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯り全身に輝きを纏う

五劫を『かばう』
攻撃を六禁で『武器受け』して捌く
余波に『オーラ防御』の輝きが星屑のように散る

「水剋火、あなたの火を制しましょう」

文言による火を水の『属性攻撃』で相殺
水龍が延焼を鎮火する
マリスとは海を意味する言葉
造作もないことです

「主よ、主よ……」

その御名は尊く
憐れみに限りなく
世の罪を赦す愛に満ちている
聚楽第の白い翼がぎこちなく広がり輝きを束ねる

「光あれ」


火神・五劫
【五星】

近付く何者かの気配
確かめるべくもない…影朧だ
マリスを抱きしめ俯いたまま
奴の小話に耳を傾ける

影朧が一しきり語り終えたら
マリスの頬を軽く撫で
そっと地に寝かせ立ち上がる
…ああ、冷たいな

敵を目視、のち【鳳火連天】
即座に地を蹴り距離を詰め
その首を掴み持ち上げる

どうした、もっと語ってもいいんだぞ?
例えば…お前はどう殺されたい?

このまま絞め殺されるのが良いか?
焼死が好みなら、地獄の炎を点けてやるぞ?
いや、マリスは水死だったな
川に突っ込んでやるとしよう
…彼女の苦しみを身を持って味わえ!

敵が抵抗し傷を負わされても
首を絞める手は離さない
自棄に等しい激情のまま、止まれない
――星の転がるような声音が届くまでは



●かの亡霊に死を
 死体となったマリスと、彼女を抱く五劫。
 二人の元に現れたのはその死を確かめに来た影朧の亡霊だ。
「――感情に身を任せるあなたは美しい」
 マリスは敵が訪れたことを悟り、星の転がるような声音を紡いだ。途端に彼女は水死から復活し、元の生きているマリスに戻った。
 五劫も敵を目視し、復活したマリスの隣に立つ。そんな二人を見つめる影朧は万年筆を片手に首を傾げていた。
「あら? 片方は死んでいたはずでは……?」
「どうした、驚いたか?」
 影朧に対し、五劫は淡々と問いかける。む、と悔しげに唇を引き結んだ影朧はそれならばそれでいいと云うように身構えた。
 そして、彼女は殺人の常套手段である小話を披露し始めた。
 その間にマリスが全身から星の輝きを放ち、五劫の身を癒やしてゆく。
「身を焦がすのはやり過ぎですよ、五劫」
「――ちょっと! 聞いていますの?」
 マリスが自分の話をちっとも聞いてないと気付き、茫子の霊は此方を睨みつけた。対する五劫は彼女を一瞥する。
「もっと語ってもいいんだぞ? 例えば……お前はどう殺されたい?」
「――!」
 問いかけると同時に彼は鳳火連天の力を発動させていった。即座に地を蹴り、距離を詰め五劫は相手の首を掴んで持ち上げる。鳳凰を象ったオーラが増強させた力によっていとも簡単に振り回されてしまう影朧。
 これでは小話すら語れず、万年筆を握り締めた茫子は強硬手段に出た。
「わたくし以外が綴った殺人劇など消えておしまい」
 原稿用紙と彼岸の花を火種に燃え盛る怨恨の炎が戦場に舞い、二人を穿とうと迫ってくる。しかしマリスは慌てることなく両手を重ね、祈りを捧げた。
「主よ、憐れみたまえ」
 祈ると同時に星辰の片目に光が灯り、全身に輝きが満ちる。マリスは五劫を庇い、攻撃を六禁で受け止めながら捌く。
 焔の余波が来ることを感じたマリスは輝きを増し、オーラ防御の力を星屑のように散らせていった。
 五劫は一度は逃れた影朧を追い、再び首を掴む。
「このまま絞め殺されるのが良いか? 焼死が好みなら、地獄の炎を点けてやるぞ? いや、マリスは水死だったな。川に突っ込んでやるとしよう」
「や、止め……お止めなさい!」
 抵抗する影朧だが、今の五劫を止められるわけがない。
「……彼女の苦しみを身を以て味わえ!」
 ざん、という鋭く風を切る音と共に影朧の身体が振り回され、その身体が水に沈められた。更にマリスが其処へ魔力を紡いでいく。
「水剋火、あなたの火を制しましょう」
 文言による火はまだ宙を彷徨っている。しかしマリスはそれを水の属性攻撃で相殺してすべて撃ち落とした。
 そして、水龍が延焼を鎮火する。そう、マリスとは海を意味する言葉。
 その間も五劫は影朧の首を締め続ける。
 敵が抵抗してペン先を彼の腕に突き立てたが、どのような傷を負わされても首を絞める手は離されなかった。
 自棄に等しい激情のまま、五劫は影朧を痛めつける。
 だが、その動きは不意にぴたりと止まった。星の転がるようなマリスの声音が彼の耳に届いたからだ。
「主よ、主よ……」
 その御名は尊く、憐れみに限りなく。
 世の罪を赦す愛に満ちている。祈る彼女の聚楽第の白い翼がぎこちなく広がり輝きを束ねる。そして、マリスは影朧に向けて目映い光を放つ。
「光あれ」
 その声と共に亡霊は瞬く間に貫かれ――彼女達の戦いに終わりが告げられた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
クロバ(f10471)と

わあっ、クロバいっぱいぬれてるっ
水もすきじゃなかったんだよね
慌ててハンカチを差し出そうとしたところで気配

クロバ
助手のヒントを聞かなくたってわかる
犯人が現場にもどってきたね
クロバの言うとおりだ

物語にするならこういうのはどう?
クロバとわたしの温泉食べ歩き探偵っ
ガジェットショータイム
大きな煙管
噴出する煙は甘く
駆け寄り武器受けで攻撃を受け止めながら
鈍器として振り下ろす

しゅざいならいつだっておっけーなのにね
饅頭蒸かす湯気の香りさせる煙管を振り回して、煙に巻く
クロバっ
視線で呼びかければ応えてくれる
わたしの助手はゆうしゅうだものっ

ふふ、そうだねっ
おわったらまた、おまんじゅう食べようね


華折・黒羽
オズさん/f01136

濡れるとこう、なるので…

零した姿は水を含んでぺたり項垂れる耳に尾に四肢
いつもより細りとした見映えに様変わり
風呂上がりの猫の様

オズさんにかからぬよう
気持ちの分だけ頭を振って水滴払い
呼ぶ声に視線を上げれば犯人と目が合う
…来ましたね

屠を構えれば向かってくる霊をなぎ払いで牽制
食べ歩き…題目に心揺らがせ乍ら
煙管の煙からはなんともそそるにおい
こちらまで気を持っていかれないように
呼び出したのは黒番の影

感覚共有で霊の居場所を見失わぬ様
合図があれば真っ直ぐに
丁度良く水気含んだ右腕を属性攻撃で凍らせ
氷の拳骨で殴り飛ばす

取材より…今はもう一度饅頭が食べたい、です
漂う残り香に腹の虫がぐうと鳴いた



●饅頭ショウタイム
 水を含んでぺたりと項垂れる耳。
 尾や四肢からも水滴が滴り、地面に雫が絶え間なく落ちていく。
「わあっ、クロバいっぱいぬれてるっ」
「濡れるとこう、なるので……」
 その姿はいつもよりほっそりとしていてまるで風呂上がりの猫のよう。オズが慌てて差し出してくれたハンカチを受け取りながら、黒羽は頭を振って水滴を払った。勿論、オズに水が掛からぬよう控えめに。
「たしかクロバ、水もすきじゃなかったんだよね」
「はい、どうにも……」
 黒羽がオズの言葉に答えようとした時、その声が遮られる。
「――クロバ」
「……来ましたね」
 呼ぶ声に視線をあげれば、此方に近付いてくる影が見えた。その正体が影朧だと分かっているからこそ、遮られたとて気にはしない。
「助手のヒントをきかなくたってわかるよ。犯人が現場にもどってきたね」
「定説通りの展開ですね」
 黒羽はオズの声に頷きを返し、影朧に向けて屠を構えた。彼らの死を確認しに訪れた亡霊は不思議そうに首を傾げる。
「わたくしの小説のモデルがいらっしゃらない……?」
「ほんものの死をお話になんてさせないよ」
「あら、死体が生き返っていますのね。ならばまた殺すだけですわ」
 状況を理解した影朧は万年筆を宙に走らせ、原稿用紙と彼岸の花を火種にすることで怨念の焔を散らしはじめた。
 向かってくる焔を刃でなぎ払い、敵を牽制した黒羽はオズに視線で合図を送る。今です、と告げられた言葉に視線を返したオズは片手を掲げた。
「物語にするならこういうのはどう? クロバとわたしの温泉食べ歩き探偵っ」
 繰り出されるのはガジェットショータイム。
 其処に現れた武器は大きな煙管。
 噴出する煙は甘く、なんともそそるにおいが黒羽の鼻先をくすぐる。食べ歩きという言葉と煙から温泉饅頭を連想した黒羽はつい揺らぎそうになった。
 しかし、オズがガジェットを振り上げて駆けたことで、黒羽もその後に続く。
 対する影朧は鋭いナイフを凶器として応戦した。
 その刃を受け止めたオズは、煙管でナイフを弾き落とす。其処へ黒羽が屠の影で作り出した、烏の番を召喚していく。
 オズは煙管を鈍器の如く振り下ろし、影朧の亡霊を穿った。
 二対一では不利だと感じたのか、霊は身を翻して逃げようとする。しかし黒番の影は素早くその後を追い、主たる黒羽に逃げる先を教えた。
「クロバっ」
「はい、オズさん」
 視線と声でオズが呼びかければ、黒羽は頷きと駆ける足で以て応える。黒羽が先へ、オズが敵の後方へ回り込むことで即座に逃走は阻止された。
 呼びかければ応えてくれる。そんな彼の姿をみたオズは上機嫌だ。
「わたしの助手はゆうしゅうだねっ」
「ふふふ、まるでホウムズとワトソンのようね。故に不覚を取りましたが――!」
 亡霊はふたたび怨恨の炎を撒き散らすことで二人を穿とうとする。
 だが、オズがすぐさま煙管を振る。饅頭を蒸かす香りを漂わせるそれは、もくもくとした湯気で以て焔を包み込んで煙に巻いた。
 その間に黒羽が亡霊を捉え、丁度良く水気を含んだ右腕を自ら凍らせる。
 硬い凶器となった氷の拳骨。
「行きます。容赦はしません。……出来ません」
 そして、黒羽は拳で敵をおもいきり殴り飛ばした。あーれー、と吹き飛んでいった亡霊は空の彼方できらりーんと光った。多分、おそらくあれで倒したのだろう。
 その光を見送ったオズは勝利を喜ぶ。
「でも、ざんねんっ。しゅざいならいつだっておっけーだったのにね」
「そうですね。取材より……今はもう一度饅頭が食べたい、です」
 もくもくといい匂いを漂わせる煙管を一瞥した黒羽は尻尾をゆらゆらと左右に振った。ぐう、と鳴いた彼の腹の虫が切実さを演出している。
「ふふ、そうだねっ」
「温まりたいので、蒸したての饅頭がいいですね……」
「ぜんぶおわったらまた、おまんじゅう食べようね」
 濡れたままのうえに空腹ではきっと帰ることだって出来ない。オズはハンカチで黒羽の毛並みを拭いてやりながら、約束、と笑いかけた。
 間もなく、この温泉郷で起こった殺人事件も完璧に解決するはずだ。
 楽しい時間が訪れるのもきっと、もうすぐ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紫・藍
推理しますにー
見立て通りの藍ちゃんくんよりも、何故か胸を貫かれてるおにーさん(f06061)の方に茫子は興味惹かれるのではないでっしょかー!?
その隙きを騙し打つぜい!

「藍ちゃんくんでっすよおおおおおおおおー!」

不意打ちなのにでっすか?
いえいえこの美声こそ藍ちゃんくんの武器!
びっくり仰天亡霊が振り返れば早着替えで魔女なギタリストな藍ちゃんくんが!

敵UCには小話を台無しにする効果音やお歌、演奏によるBGMで対抗なのでっす!
小話を上回る大音量かつ思わず楽しくなる音楽で藍ちゃんくんとおにーさんの心を小話より強く震わせるのでっす!

亡霊撃破後は茫子にアンコールなのでっす!
帰りの浴衣選びは喜んでなのでっす!


セロ・アルコイリス
きっと藍ちゃんくん(f01052)が動いてくれるから
おれは信じて死んだフリ
藍ちゃんくんの声にちょいとおれ自身もびっくりしたのはナイショ
でもやっぱ安心すんなあこの声すると
亡霊サンが藍ちゃんに向かえばおれも起きて背面取れりゃ重畳

『自分も是非このように殺されたい』……?
いえいえ、やっぱおれはアコガレの藍ちゃんくんと一緒に生きてーですよ!
って藍ちゃんくんの歌聞けばとっとと立ち直ります
あんたにゃ憧れねーですが
灼かれ焦げる感覚、知ってみんのも悪くねーでしょ、作家サン

ねえところで浴衣血糊で汚れちまったんで、藍ちゃんくん帰りにまた選んでくれます?
なんて無駄口叩きながら

亡霊サン倒した後に茫子が見付かりゃ攻撃を



●ピースサインは勝利の証
 貫かれ、血が爆ぜ、哀れ二人は共倒れ。
 それはどれほど苦しかっただろう。どれほど痛かろうか。二人のもとに現れた影朧の霊は手にしている万年筆で、彼らの死に様を記録していた。
「ふふふ。実に凄惨な光景ですわね」
 くすくすと笑む影朧の声を聞きながら、藍は彼なりに状況を整理していた。
 まだ二人は死の演技中。
 茫子の分体である霊はこの状況が偽りであることに気が付いてはいない。見立て通りに死んだだけの藍よりも、何故か胸を貫かれているセロの方に茫子は興味を持っているのではないだろうか。
(やっぱり、不可解な死の方が惹かれるのではないでっしょかー)
 その隙を騙し打つしかない。
 藍はタイミングを計り、セロに近付いていく影朧の動きを気配で確かめていく。
 セロも同じく死者のフリを続けていた。
 敢えて何もしないのは藍が動いてくれると信じているからだ。そして――影朧の手がセロに伸ばされた瞬間。
「藍ちゃんくんでっすよおおおおおおおおー!」
「きゃあ!?」
(――藍ちゃんくん? でもやっぱ安心すんなあ、この声すると)
 不意打ちの大声、もとい美声が影朧の耳を劈いた。その際にセロも思わずびっくりしてしまったのはちょっとした秘密。
 立ち上がると同時に早着替えを行った藍。突然のことに驚いて距離を取った影朧の前で、藍は魔女でギタリストな姿に変わった。
「貴方、死んでいたのではなくて?」
「今まで気付かれてなかったんですにー。藍ちゃんくんたちの演技が完璧だったってことなのでっす。嬉しいでっす!」
 ぴすぴす、とお決まりのポーズをとった藍は影朧の後ろに目を向ける。
 はっとした茫子の霊が振り返ったときにはもう遅かった。敵が藍に気を取られているうちにセロが背後に回り込んでいたのだ。
「残念、おれも生きてんですよね」
 腰の後ろのホルダーからダガーを抜き放っていたセロは背面から斬撃を繰り出す。陽光の力を宿した魔法の刃が敵の身を斬り裂き、狂気を揺らがせた。
 くぅ、という悔しげな声をあげた影朧。
 彼女は衝動を堪えるような様子を見せながら、反撃に入っていく。
「お話をしましょう。死にたくなるような小話を――」
「そうはさせないのでっす! 藍ちゃんくんリタアアああああん! 封印はここに解かれた! なのでっす!」
 だが、藍がその声を遮る形で騒いで歌いはじめる。
 死体になっていた時間があるのでその力は存分に増幅されていた。藍は大いに語って歌い、演奏まで始める中でセロは薄く笑む。
 それでこそ藍ちゃんくんだ。
 そう感じたセロの耳には影朧の小話も聞こえていたが、この状況ならばそれは心を揺り動かすようなものにはならない。
「う、煩い……どうして死にたくなりませんの?」
「そりゃちょっとは思いましたけどね。やっぱおれはアコガレの藍ちゃんくんと一緒に生きてーですよ!」
 ユーベルコードである小話ゆえに多少は効いた。だが、セロは首を横に振ることで影朧に主張してみせる。
「おにーさん、今なのでっす!」
 藍からの呼びかけが、その声が、背中を強く押してくれる気がした。ふたたびダガーを構えたセロは亡霊に向けて刃を横薙ぎに払う。
「あんたにゃ憧れねーですが、灼かれ焦げる感覚、知ってみんのも悪くねーでしょ」
 ねえ、作家サン。
 セロがそう呼びかけた刹那、すべての狂気を奪われた亡霊が掻き消えた。
 
 これで自分達の役目は終わった。
 ダガーを鞘に仕舞ったセロの傍に藍が駆け寄り、ぴすぴすとポーズを決める。セロも合わせてサインを作り、二人は笑みを交わしあった。
「ねえ、ところで藍ちゃんくん」
「なんでっすか、おにーさん」
「浴衣が血糊で汚れちまったんで、帰りにまた選んでくれます?」
 藍は既に着替えているが、セロはまだ血糊だらけの浴衣姿。藍は快く頷いて口端を楽しげに緩めた。
「もっちろん、喜んでなのでっす!」
 そんな願いなら幾らでも。今度だって良いものを選ぶのだと心に決めた藍。彼の眸は既に楽しい未来を見つめているようだ。
 こうして分体の霊が猟兵に消されていけば、いずれ本体も倒れるだろう。
 もうすぐ訪れる完全勝利。
 そのときを思いながら、二人は後に巡る楽しい時間へと思いを馳せていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
【氷撃】

ぷっはあ…!ほんとに待ったんだぞ!
そうそう!勝手に殺されて終わり、なんて死んでもごめんだからな!

まずは川の水を広い範囲で凍らせて、敵を迎え撃つ為の足場に
敵のUCが自分に向かうように氷の上を滑って気を引かせ
自分に向かってくるUCを正純が無効化したならば、その隙を突いて『風神の溜息』で動きを一時的に封じてやる!

敵が動けなくなった瞬間に、正純と共に一斉攻撃!
剣と蹴りで全力を叩き込む!

他人の結末を勝手に決めるだなんて、小説家の風上にも置けないやつなのだ!
卑怯だと思うなよ、お前だって後ろから正純のこと殺そうとしたんだからな!おあいこだ!
うむっ!正純、合図をくれ!
『川に沈むのはお前一人だ!』


納・正純
【氷撃】

待ったぜ。お前に会いたくて工夫を凝らしたんだ。
隣に立つ友の名誉のために、お前にはここで消えてもらおうか?

①ヴァーリャに川を凍らせてもらい、足場を広く確保する
②散会しつつ敵のUCに対しUC発動、敵のUCを無効化して隙を作る
③その隙にヴァーリャのUCで敵の行動を一時封じる
④すぐさま二人で接近、手持ちの武器で一斉攻撃を行い離脱

何故生きてるか? 俺達はそれぞれの人生って名前の即興劇を演じる一流役者だぜ? 結末を決めるのはお前じゃないんだよ
おっと、怨恨は見苦しいな。丁度良い、俺がその炎を消してやる
良かった。これで――――お前のことを真正面から撃てる。ヴァーリャ、合わせろ
『川に沈むのはお前一人だ』



●幻想氷撃
 死した二人は水の中。
 殺し、殺され、友愛は冷たく凍りつく。沈んだ思いはもう二度と――。
「……こんな結末にするのも良いかしら」
 万年筆を握った霊が手帳にペン先を走らせていく。ヴァーリャと正純の死を確かめに来た影朧の亡霊は水路を覗き込んだ。
 しかし、その瞬間。
「待ってたぜ」
「ぷっはあ……! ほんとに待ったんだぞ!」
「――!?」
 死んだと思っていたはずの二人が途端に起きあがり、水から上がってきたではないか。それだけではなく、影朧が驚いて後退った隙を利用したヴァーリャが水面を瞬く間に氷の足場へと変えてしまった。
「こっちはお前に会いたくて工夫を凝らしたんだ」
「そうそう! 勝手に殺されて終わり、なんて死んでもごめんだからな!」
 スケートリンクめいた様相になった氷上に立ち、二人は影朧を見据えた。はっとした随遊院茫子の霊はわなわなと震え、万年筆を握る手に力を込める。
「謀りましたわね」
「突き落としただけ死んだと思ってたならめでたいな。友の名誉のためにも、お前にはここで消えてもらおうか?」
 正純が影朧に水中に落とされたことを思い返す最中。相手は原稿用紙と彼岸の花を火種にした、燃え盛る怨恨の炎を解き放った。
 来る、と察したヴァーリャは即座に足元を蹴りあげる。同時に正純も駆け出し、二人は散開してゆく。舞う焔は分裂しながらそれぞれに彼らを追跡していった。
「いいえ、普通でしたらあれで死ぬはず……!」
「俺達はそれぞれの人生って名前の即興劇を演じる一流役者だぜ?」
 あれくらいは演技できて当たり前だろ。そう告げるように片目を閉じながら、ライフルを構えた正純は焔に照準を合わせる。
 そして、それらが軌道上に並んだ刹那。
 響く銃声。
 貫かれる焔の軌跡。撃ち落とされた炎が威力を削がれて氷上に落ちていった。ヴァーリャは自分に向かってきた炎を彼が撃ち落としてくれたのだと察し、次の手に出る。
 ふう、と吹きかけるのは絶対零度の吐息。見る間に風に乗って茫子の霊へと届いた氷の力は相手の身を凍りつかせてゆく。
「他人の結末を勝手に決めるだなんて、小説家の風上にも置けないやつなのだ!」
 人は皆、いまを生きている。
 物語の中ならば作者の筆ひとつで自由自在だが、この世界に生きる人々は自分で過程を選び取ることを許されている。
 ひとりひとりの人生の結びは他者が勝手に捻じ曲げていいものではない。
「そうだ、結末を決めるのはお前じゃないんだよ」
 ヴァーリャの言葉に頷きを返した正純は、敵が動きを止められた瞬間をしかと捉えた。ヴァーリャが先んじて亡霊に近付き、氷剣で一閃を放つ。
 鋭い斬撃が標的を斬り裂けば、正純が追撃の弾丸を其処に叩き込んだ。
「きゃあ……!」
 抵抗することも出来ずに亡霊は悲鳴をあげる。刃を振るい終わった勢いに乗せて身を翻し、蹴撃へと繋げたヴァーリャは更に敵を穿った。
「卑怯だと思うなよ、お前だって後ろから正純のこと殺そうとしたんだからな! これでおあいこだ!」
 一切の容赦がない一撃が影朧を揺らがせた刹那、ヴァーリャは正純に視線を送る。最後を齎すための合図を欲しているのだと気付いた彼は、任せろ、と答えた。
 しかし、何とか持ち直した影朧が禍々しき文言を解き放つ。
「わたくし以外が綴る結末など、燃えて――」
「おっと、怨恨は見苦しいな。丁度良い、俺達がその炎を消してやる」
 銃口を差し向けた正純は薄く口許を緩める。その笑みが消えたと思ったときには次の言葉が紡がれていた。
 これでお前のことを真正面から撃てる。
「ヴァーリャ、合わせろ」
「分かった! 全力でいくのだ!」
 二人が狙うのは氷が薄くなっているところへ敵を追い詰めること。ヴァーリャが氷上を滑るように駆け、正純は銃弾を次々と撃ち込むことで敵の退路を塞ぐ。
 誘導されているとも知らぬまま影朧が銃弾を避けて後退した、次の瞬間。
『川に沈むのはお前一人だ!』
 二人の声が重なる。
 後に響いたのはその身を穿つ銃声。頭上から叩き込まれる蹴撃が風を切る音。それから、氷が割れて水が散る落下音。
 哀れ、殺人影朧は水の中。沈んだ身体は二度と浮かび上がらず――。
 正純とヴァーリャは勝利を確かめあい、互いに笑みを浮かべながら片手を掲げる。
「俺達の勝ちだな」
「うむ、やったのだ!」
 重なる手と手。
 友情の証であるハイタッチがふたたび、二人の間で交わされた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

大紋・狩人
【仄か】
(死の気配に、囁く)
来たね、ラピタ。
散歩の続きはまた後で。

【灰塗れ】の姿。
友から離れた場所に流されたよう、移動。
敵をラピタから遠ざけ、此方におびき寄せる演技。
来たら怪力の推力で、水面外へ蹴り出そう。

川石が足場。
灼灰で攻撃にカウンターを。
水飛沫で文言や炎を掻き消せるか、地形の利用。
誰も傷つけないならどんな歓びも構わない。
だがお前はそうしなかった、
憧れや安らぎを利用し、嗤う事をした!
(なあ、お前にも傍に誰かいたら、違ったか。
敵の隙を生み、友の標となれ!
猛り吼え、玻璃の踵を鳴らせ!)

蒼炎が再び水底へ。
心ざわめくも、見えた手を引き上げる。
……ラピタ、よかった。
おかえり。
手を確りつないで、岸へ。


ラピタ・カンパネルラ
【仄か】
ーーカロンが。灰被りとして飛び立つ力強い音を、聴く。
視界のおぼろな僕は、共闘では、共に飛び出すよりも
魔力のリソースを目に割かず、息を潜め待つ方が合う。

カロンの声が
脚音が
話し声が
見えぬ視界に全てを教える標になる。

ーーそこに、いてくれて、ありがとう。

水になど負けないほど熱い炎と、激しい水蒸気を推進力に。人喰い鬼の炎纏って、水中より上がる。茫子を水へ引き摺り込もう。
狂気耐性、殺されたいだなんて思える頭があるなら、とうに何もかも諦めてる。

僕らの行った水底は、寒くなかったよ。
美しい景色だった。
案内しよう。一緒に見よう、君の、最期に。

水底で、彼女を焼き殺した手を伸ばす。
上へ。
カロン。
……ただいま。



●揺れる蒼
「――来たね、ラピタ」
 穏やかな水底の散策の最中、狩人は死の気配を感じて囁く。
 散歩の続きはまた後で。
 そう告げた狩人は水中で身を翻した。その姿は御襤褸のドレス姿へと代わり、ラピタの傍から流されていくように移動していく。
 おそらく敵は自分の姿を追う。彼がそのように予想した通り、水上に現れた影朧の注意が狩人に向いていた。
 そのことを確かめた狩人は機を計らい、水底を強く蹴りあげる。
 水飛沫をあげながら飛び立つ狩人。
 ラピタは水中から彼が灰被りとして飛び立つ力強い音を聴いた。
 視界は朧げ。共に飛び出すよりも息を潜めて待つ方が合うと感じているゆえ、ラピタは未だ底に揺蕩うまま。
 そして、死体だと思っていたものが飛び上がったことに驚いた影朧は慄いていた。
「なっ……死んでいたのではありませんの?」
「そう思っていたのなら幸せだな」
 対する狩人は皮肉を返し、川辺に着地した。灼灰の力を解き放った彼の声を水底で聴きながら、ラピタは目を閉じる。
 その脚音が、話し声が、見えぬ視界に全てを教える標になってくれる。
 ――そこに、いてくれて、ありがとう。
 言葉にしない思いではあるが、確かな感謝を覚えたラピタは自分が出る幕を待つ。
 その間に狩人は水を蹴りあげることで影朧が放ってきた怨恨の炎を掻き消そうと試みた。だが、それはユーベルコードの力。ただの水では消せぬのだと察した狩人は焔を受け止めながら、次の手に出るべきだと感じる。
「焼け死んでおしまいなさい」
「誰も傷つけないならどんな歓びも構わない。だが、お前はそうしなかった」
「あら、死は物語を飾るものでしてよ」
「未だそのように笑うのか。お前は憧れや安らぎを利用し、嗤う事をした!」
「だから赦さないとでも仰るのかしら」
 声をかけるのはラピタがこの間に動いてくれると信じているからだ。影朧を言葉で引きつけながら、狩人は胸中で独り言ちる。
(なあ、お前にも傍に誰かいたら、違ったか)
 されど、それを問いかけることはしない。この言葉が敵の隙を生み、友の標となることを願う狩人は双眸を鋭く細めた。
(さあ――猛り吼え、玻璃の踵を鳴らせ!)
 そして、狩人が再び水を蹴った刹那。
 水になど負けないほど熱い炎と、激しい水蒸気を推進力にしてラピタが水面から飛び立つ。人喰い鬼の炎を纏い、腕を茫子の霊に伸ばした。
「きゃ……!」
 不意打ちに対処できず、水へ引き摺り込まれた影朧は悲鳴をあげる。
 水に沈んだ自分達のように君も水底へ。
 僕らの行った水底は、寒くなかったよ。
 美しい景色だった。案内しよう。一緒に見よう、君の、最期に――。
 ラピタが亡霊を抑え込むと、やがてその身体は力をなくしていった。そうして亡霊は薄れて消え、戦いは静かな終わりを迎える。
 蒼炎が再び水底へ沈む様を見守っていた狩人の心はざわめいていた。
 だが、水面にあがってきた手がラピタのものだけだと気付いて腕を伸ばす。ラピタも水底で亡霊を焼き殺した手を伸ばし返した。
「……ラピタ、よかった。おかえり」
 狩人はその手を確りとつなぎ、岸へと腰を下ろす。
「カロン。……ただいま」
 役目を全うした二人の間にそれ以上の言葉は要らない。
 水に触れた身体は少しだけ冷えていた。けれど、心はちっとも寒くはなかったから。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

永倉・祝
坊や(f24103)と。
(別人格:呪)(昏睡したため別人格登場)

ッ、死なないっても痛ぇもんは痛ぇんだよ。
ちったぁ加減しやがれ。

あ?あぁ、アンタは俺に会うのは初めてか。俺は呪。祝のもう一人の人格。
俺も祝の一部ってやつだぜ?坊や。

…まずは影朧のほうはなんとかしねぇとな。
俺も文豪の端くれだが酷いもんだな。
小説は小説の中で完結しておけ。
見たもんしか書けねぇなんて三流もいいところだ。

【指定UC】アンタ…まともに小説なんか書けるのかい?【精神攻撃】
はいはい、アンタの答えなんてどうでもいい。
さぁ、それは俺の求めるこたえじゃねぇぞ?
つまり…攻撃は終わらないってことさ。


鈴白・秋人
永倉さん…?(f22940)と

(何とかちゃん生きている事に安堵し、思い切り抱き締めながら)

よかった…本当に…

ですが…いつもの永倉さんとは雰囲気が…?

あら!まぁ!
貴女も永倉さんなら、わたくしのものも同然ですわね!
2人の心…嬉しいですわ。

でも、わたくし「坊や」ではありません…!
「秋人」という名前がありますの。
以後お見知りおきを。

そうですわ…!影朧…
芝居とはいえ、わたくしに永倉さんの体を傷付けさせた事…

そして、わたくしの「自由な心」を縛り付けた事…
絶対に許しておけませんわ!

【指定UC】
アスモデウスよ…
わたくしのこの怒り…「心の一部」を触媒に。
貴方の獄炎…この銃に込めて、最大火力で一掃致しますわよ…!



●二人分の心
 常人ならば致死であった傷も、猟兵ならば耐えられる。
 意識を失った、もとい眠りに落ちた祝の身体を抱きしめ、秋人は複雑な気持ちを抱き続けていた。しかしその中には安堵めいた思いもある。
 彼女が死んでいないことに対してか。
 それとも、ひとときだけでも確かに自分だけのものに出来た安心感か。
 その感情に名前を付けられぬままでいる最中、祝がゆっくりと瞼をひらいた。
「……ッ、死なないっても痛ぇもんは痛ぇんだよ」
「目を覚ましてくださいましたのね。よかった……本当に……」
「まぁな。しかし、ちったぁ加減しやがれ」
「永倉さん……?」
 改めてほっとした秋人だが、その様子が普段と違うことに首を傾げる。すると祝――今は呪という名を抱くもうひとつの人格がふたたび口をひらいた。
「あ? あぁ、アンタは俺に会うのは初めてか」
「俺……?」
「そうだ、俺は呪。もうひとりの祝ってとこか。俺も祝の一部ってやつだぜ? 坊や」
「あら! まぁ! 貴女も永倉さんなら、わたくしのものも同然ですわね!」
 少しばかりきょとんとしていた秋人だが、すぐに呪の存在を受け入れて微笑む。人格が違うことよりも、二人の彼女がいるということが純粋に嬉しかった。
 そういうことなら、と納得した秋人はふと首を横に振る。
「でも、わたくしは坊やではありません……! 秋人、という名前がありますの」
 以後お見知りおきを。
 そんな風に自己紹介をする秋人を一瞥した呪は起きあがる。身体に痛みはあるが動けないほどではないと判断したようだ。
「そうか。……まずは影朧のほうはなんとかしねぇとな」
「そうですわ! 影朧……」
 呪に寄り添って支えながら、秋人は頷く。
 芝居とはいえ自分に祝の身体を傷付けさせたこと。そして、己の『自由な心』を縛り付けたこと。それを考えると敵意が沸きあがってきた。
「絶対に許しておけませんわ!」
「――誰を赦せないと仰っているのかしら。三下芝居のお二人様?」
 そのとき、二人が居た部屋に亡霊が現れる。
 おそらく彼らの殺人劇を確かめにきたのだが、どちらも死んでいないので立腹しているようだ。随遊院茫子の亡霊はいつの間にか現場にあったナイフを拾いあげており、此方を殺そうと狙っているようだ。
 呪は身構え、何が三下だと反論する。
「こっちは結構な本気だったぜ。……にしても、俺も一応は文豪の端くれだがアンタは酷いもんだな」
 小説は小説の中で完結しておけばいいものを、見たものしか書けないとて三流もいいところだ。呪がそう毒突けば、茫子の霊は刃を呪に差し向けた。
「おとなしく死になさいな」
「そうはさせませんわ……!」
 だが、咄嗟に動いた秋人が呪の前に踏み出す。それと同時に怒りと敵意を向け返した秋人は悪魔の力を顕現させていった。
「アスモデウスよ……わたくしのこの怒り…『心の一部』を触媒にしなさい」
「なぁ、アンタ。まともに小説なんか書けるのかい?」
 呪は質問と共に情念の獣を召喚し、敵に嗾けてゆく。秋人の撃ち放った弾丸が相手の持つナイフを落とした。
「失礼ですわね。わたくしだって父のような小説家になれるはずですわ」
 対する霊は憤る。
 奪われたナイフの代わりに禍々しき文言が綴られた怨恨の炎が解き放たれる。しかし呪は慌てることなく身を翻した。
「はいはい、アンタの答えなんてどうでもいい。さぁ、それは俺の求める答えじゃねぇぞ? つまり、攻撃は終わらないってことさ。」
「貴方の獄炎……この銃に込めて、最大火力で一掃致しますわよ……!」
 そして、秋人がトドメの一撃を放つ。
 貫かれた影朧の霊は瞬く間に倒れ伏し、断末魔すら遺さずに消え去った。これで戦いに勝ったのだとして秋人がほっとすると、呪が部屋の椅子に座り込む。
「少し疲れたな。……寝る」
「まぁ、永倉さん。今の貴女とはお別れですの?」
「そうかもな。まぁ、また逢うこともあるだろ」
 呼びかけた秋人に対し、呪からそんな言葉が返ってきた。そっと頷いた秋人は目を閉じる相手を見守り、双眸を細める。
 きっと間もなくすれば祝が目覚めるのだろう。
 そうしたら何を話そうか。そう考えながら、秋人は眠る彼女の頬を撫でた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ドゥルジー
【邪蛸】

毒のせいか少し頭がクラクラするな
パウルは平気か?
ならいいけど

…ハ、
てっきり可愛くおねだりしたいだけかと思いきや
あの状況でそこまで考えてたのかよ?
やっぱサイコーだな、あんたは
惚れ直すわ

どのみちあんたも俺もあの程度じゃ死ねねェだろ?
それを幸と見るか不幸と見るかは
ま、今はよしておこうか

ナイフ片手に肉薄
敵の凶器を避けきれず、或いはパウルを【かばう】事により負傷…と見せ掛け
【ユーフォリアの毒】で猛毒と化した血液を浴びせる

俺らの「しあわせ」にゃ遠く及ばねェが
ちっとばかしお裾分けさ
何だかんだ楽しかったからな

パウルの言葉に同調するように
生きる事よりも、共に在ることを選んだ
愚かな二人組も書いてくれよ


パウル・ブラフマン
【邪蛸】

標的が到着次第ムクっと起床!
うんっ、久々にぐっすり眠れたよ。
ジャスパーが傍に居てくれたお陰だね♪

なんで生きてるかって?
グラス半分が致死量の毒を
更に二人で分け合ったから、死には至らないんだな☆
そもそもガチで心中するつもりなら
お土産とか買わないよね♪

種明かしもそこそこに
ジャスパーの言には、常と違う淡い笑みで返そう。

交戦時は展開したKrakeで【援護射撃】を。
ジャスパーが自分のせいで負傷した瞬間
ブチリと理性が弾け飛んで―UC発動、怨恨を奪い獲ろう。

焔を纏う彼女に血霧の雨が降り注ぐ。
志半ばで悔しかったんだね。
転生したら書いてよ、花影温泉殺人事件…絶対バズるし!

そしたら一緒に読もう、ジャスパー。



●その毒は深く
 旅寓の一室に影が忍び寄る。
 その気配が影朧だと気が付いたパウルは扉がひらかれると同時にムクっと起床した。彼に合わせてジャスパーが身体を起こせば、影朧の霊が怪訝な顔をする。
「貴方達、まさか――死んでいない……?」
 そんな影朧を横目にジャスパーは額を押さえた。
 毒のせいか、まだ少しばかり頭が眩むような感覚が残っている。
「パウルは平気か?」
「うんっ、久々にぐっすり眠れたよ。ジャスパーが傍に居てくれたお陰だね♪」
「そうか、ならいい」
 互いに無事を確かめあう二人は視線を交わし、互いに向けて笑みを浮かべた。パウルは絡めたままだった触手を解き、ジャスパーを見つめる。
 すると影朧が溜め息を吐く。
「嗚呼、なんということかしら……」
 此方を呆れたように見遣り、これでは書く価値がないとでもいいたげな影朧。そんな彼女に対してパウルは状況を説明していく。
「なんで生きてるかって?」
 それはね、とパウルは楽しげに片目を細めた。
「グラス半分が致死量の毒を更に二人で分け合ったから、死には至らないんだな☆ そもそもガチで心中するつもりならお土産とか買わないよね♪」
「……ハ、てっきり可愛くおねだりしたいだけかと思いきや、あの状況でそこまで考えてたのかよ? やっぱサイコーだな、あんたは」
 温泉街でのことを思い返したジャスパーは口端をあげ、喉を鳴らして笑う。
 惚れ直すわ、と付け加えればパウルが更に明るい表情を浮かべた。そして、ジャスパーはパウルの頬に掌を添える。
「どのみちあんたも俺もあの程度じゃ死ねねェだろ? それを幸と見るか不幸と見るかは――ま、今はよしておこうか」
 ジャスパーの言葉に、うん、と頷いたパウルは立ち上がった。
 常と違う淡い笑みには様々な感情が宿っている。
 対する影朧は二人の言葉を心底興味がなさそうに聞いており、もう終わったのかしら、と問いかけてきた。
「貴方達は殺す価値もありませんわね。どうぞお幸せに」
 影朧の霊は本体に戻ることを決めたのか、背を向けて部屋を後にしようとする。
 だが、それを逃すような二人ではない。
 ジャスパーはナイフを片手にその背を追った。振り下ろされる刃に気が付いた影朧が身を翻すが、其処にパウルが放った援護射撃の一閃が放たれる。
 その一撃が霊体を穿つ。
 すると影朧もやっとやる気を出し、その手に凶器を生み出した。
「そんなに死にたいなら死になさい」
 敵はパウルがより邪魔だと判断したのか、ジャスパーの横をすり抜けていく。だが、ジャスパーが彼を傷つけさせることを許すはずがない。
 パウルを庇って刃を受けたジャスパーから血が散る。その血液を浴びた影朧は血塗れのままでクスクスと笑った。
「ジャスパー!」
 その瞬間、パウルの理性がブチリと弾け飛んだ。
 彼のユーベルコードが途端に発動し、敵が放とうとした怨恨が奪われる。
「大丈夫だ、パウル……」
 刺された箇所を手で押さえたジャスパーは薄く笑む。何故なら、あの血もまたジャスパー自身の策なのだから。
「なに、この血は……」
 影朧は多幸感を齎す猛毒の塊となった血の影響でふらついている。しかしパウルはその攻撃を止めることはなかった。
「それでもジャスパーが傷付けられるなんて――!」
「う、うう……」
 不可思議な感覚に苦しむ影朧に対してジャスパーは語りかけていく。最早、彼女は彼らの猛攻から逃れられないだろう。
「俺らの『しあわせ』にゃ遠く及ばねェが、ちっとばかしお裾分けさ。何だかんだ楽しかったからな」
 焔を纏う影朧に血霧の雨が降り注ぐ。
 そして、漸く落ち着いてきたパウルは彼女へと願った。
「志半ばで悔しかったんだね。転生したら書いてよ、花影温泉殺人事件」
 絶対バズるし、と告げるパウル。するとジャスパーもパウルの言葉に同調するように相手に伝えてゆく。
「そうさ。生きる事よりも、共に在ることを選んだ愚かな二人組も書いてくれよ」
「そしたら一緒に読もう、ジャスパー」
 二人がおかしげに笑いあう最中、影朧は首を振る。
「誰が、書くものですか……」
 そうして、その場に伏した影朧の亡霊は跡形もなく消えていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

姫城・京杜
與儀(f16671)と

ううう、いくらフリでも與儀死なせるとか
俺、守護者失格じゃねェか…(激凹
心中とか絶対無理すぎる
死ぬのは俺だけでいいからァ!(涙目

でも…與儀生きててよかったっ(蹴られつつ嬉し気
だから、與儀護る為に俺もまだ死ねねェ
てか、早く片付けて温泉入る!

猟奇殺人の小話?
俺、ぶっちゃけ推理ものって興味ねェんだよな
でも推理ものの最後って館とか燃えるイメージあるから
同じ様に俺の炎で燃やしてやる
それに悪ぃんだけど…俺を殺していいのは、主の與儀だけだ

…え、死に様決めてある!?
主の声に驚愕しつつ
敵の攻撃は天来の焔で防ぎ、身を挺し與儀を護り庇う事最優先に
いや、俺が絶対に與儀のこと死なせたりしないからっ!


英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

死んでるふりももう終わりでいいみたいだ
ああ、クソ、びしょ濡れだ
早く終わらせて温泉行こうぜ

まァ、やってみて思ったのは
心中なんて、俺は絶対しねェ
面白いかとおもったがフリでもめんどくせェな
ほんとフリなのにお前はよォ…
だから……あー、もうほんと。しっかりしろよ、俺の守護者(背中軽く蹴りつつ)

殺されてやるつもりはない
水を操り弾丸代わりに攻撃を
燃やす傍から、俺は貫き潰す

こんな風に殺されたい?
あー、そんな風にはあんま、思わねェんだよなぁ
死に様はもう決めてある
(こんなんヒメの前で言ったら拗らせるよなァ)
…まぁ、動揺するよな

つーより、殺されたいって思わねェんだよ
おい、だから俺は殺さねェよ



●主従の生と死
 近付いてくる気配。
 戦いの予感を覚えながら、與儀は京杜を伴って立ち上がる。
「死んでるふりももう終わりでいいみたいだ」
 ああ、クソ。びしょ濡れだ。
 そんな風に溜め息をついた彼に対し、京杜は大いに嘆いていた。
「ううう、いくらフリでも與儀を死なせるとか……俺、守護者失格じゃねェか」
 頭を抱える京杜はそれはもう物凄い凹みようだ。
「早く終わらせて温泉行こうぜ」
「心中とか絶対無理すぎる。死ぬのは俺だけでいいからァ!」
 涙目の京杜の気持ちは沈んでいる。與儀でなければ何と声を掛けていいのか分からないほどだ。しかし彼の傍にいるのはその與儀本人だ。
「まァ、やってみて思ったのは心中なんて、俺は絶対しねェってことだ。面白いかとおもったがフリでもめんどくせェな」
「與儀……與儀ぃ……」
 話を聞いているのか、と京杜に向けて與儀が肩を竦める。
「ほんとフリなのにお前はよォ」
「でも……與儀が生きててよかったっ」
「だから……あー、もうほんと。しっかりしろよ、俺の守護者」
 與儀が軽く京杜の背中を蹴ったが、彼はそんなことをされても嬉しげだ。そして、項垂れていた身体を起こした京杜はぐっと拳を握る。
「與儀を護る為に俺もまだ死ねねェ。てか、早く片付けて温泉入る!」
「何だ、ちゃんと聞いてたのか。それじゃ、やるぞ」
 與儀は京杜の言葉に苦笑を浮かべ、自分達の死を確かめに訪れた影朧を見据える。彼女は二人を見遣り、どうして死んでいないのかと首を傾げた。
「あら、死に損ないかしら?」
 それなら殺してあげなくては、と影朧は口をひらく。其処から紡がれていくのは聞けば死にたくなるという惑わせの小話。
「付き従う主に刃を向け、従者が死を導く……なんて如何かしら?」
「なんだと?」
「そんな話、聞かねェし効かねェよ」
 対する二人は彼女の話を一蹴した。殺されてやる心算はないし、殺す心算もない。視線でそう宣言した與儀は水を操り、それを弾丸代わりにして解き放っていく。
 着弾と同時に貫くような衝撃が敵を襲った。
「く、ぅ……」
 水の弾丸をまともに受けた影朧は苦しむ。更に京杜が紅葉を思わせる数多の焔を紡いでいった。京杜が燃やす傍から與儀が貫き潰す。その連携は見事なものだ。
「今更何を語られても、そんな風にはあんま、思わねェんだよなぁ」
「俺もぶっちゃけ推理ものって興味ねェんだよな」
「それに死に様はもう決めてある」
「悪ぃんだけど……俺を殺していいのは、主の與儀だけだし、言われたからそうしますってのも癪なんだよな。って、え? 死に様を決めてある!?」
 與儀がきっぱりと言い切ったことで京杜が動揺をみせる。しかし與儀は首を振り、今は言ってやらない、と軽く流した。
(あんなこと、ヒメの前で言ったら拗らせるからなァ)
「……気になる。気になるけど、今は倒す方が先決だもんな!」
 京杜は何とか気持ちを立て直し、與儀と共に敵を屠ることを決意する。対する敵も怨恨の炎を放つことで二人を殺そうと狙ってきた。
 だが、主に迫った炎は天来の焔によって防がれる。
「今だ、與儀! 俺が絶対に與儀のこと死なせたりしないからっ!」
 身を挺して自分を庇ってくれる彼はまさに守護者だ。京杜に頷き、與儀は最後の一撃になるであろう一閃を紡いでゆく。
「つーより、殺されたいって思わねェんだよ。だから――」
 これで終いだ。
 そう告げた與儀の水打が敵を真正面から穿った刹那。
 その言葉通り、影朧が無理矢理に紡ごうとした殺人事件の幕劇は降ろされた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニノマエ・アラタ
ノゾミ(f19439)と

……そうかァ。
その猟奇殺人鬼は強ェのか?
俺より強ェか?
ぜひ殺りあってみてェもんだ!
(強く心を揺すぶらされ、跳ね起きる)
はッ、俺の死に場所はもとより此処よ。
戦いと血と暴虐のただ中。
すべてを踏み越え、その中で死に逝く。
だから今ここでは死ねねェな!

ただ、な。
アンタの、このペンに宿る情熱についてだが。
殺さなければ名作が書けない、ってのは思い込みだ。
とらわれさえしなければ、殺人事件の他にも色々書けたろうに。
アンタは世に出るかもしれない名作を書く機会を
永久に失ったってことだ。

自分を縛り付けているのは、自分。

原稿用紙を白紙に戻すべく、
一閃。

…今回は俺づかいが荒すぎだ。貸しにしとくな。


青霧・ノゾミ
ニノマエ(f17341)と

一応、敵さんの小話は聞く。
でもこの劇を美しき恋バナにしたり、飾るのはやめて。
それ役者の心情と違ってますからー!
そんなつもりは無ぁいい!(照れてきて我慢ならず)

「凍れ!」

語る敵の話を遮り死角をとるように、
空から氷の矢を降らせる。

氷刃でカウンターとりながら跳ね起きたら。
氷の矢を敵正面に向かってバンバン飛ばし、
炎を打ち消そうとしながら前進。
氷刃で「彼岸の花」を斬り飛ばし、炎の威力を削ぐよ。
僕らの結ばれはやっぱコンビネーションオチってとこか。
あ、戦闘時に限るってことで!
視線すら合わせる必要は無い。
起こさなくても戦闘狂は目を覚ます。
ニノマエは僕に使い倒されたらいいんだ!(フン)



●結ばれるもの
 自分達に近付いてくる気配を察し、ニノマエは目を覚ます。
 ノゾミも顔をあげ、猟奇殺人を演ずる亡霊へと意識を向けた。
「来たよ、ニノマエ」
「……そうかァ」
 敵がそのような存在だと思うと強く心を揺さぶられ、ニノマエは跳ね起きた。ノゾミは彼の目が戦いを前にして爛々としているような気配を感じ、そっと頷く。
 そして、死を確かめに来た影朧の霊が彼らの前に現れた。
「まあ、死んでいませんわ。何ということかしら」
「お前が猟奇殺人鬼か。俺より強ェか? もしそうなら殺りあってみてェもんだ!」
「……血気盛んなのは結構ですわね」
 戦いに滾るニノマエを一瞥した影朧は溜め息をつく。
 そして、死んでないのならば殺すしかないとして己の力を振るい始めた。それは自分も是非このように殺されたいという感情を与える小話だ。
 ノゾミはその話に耳を傾ける。
 すると次第に死にたくなってきた。主に自分がしたことを思い返してだが――。
「この劇を美しき恋バナにしたり、飾るのはやめて。それ役者の心情と違ってますからー! そんなつもりは無ぁいい!」
 照れてしまって我慢ならず、ノゾミは語られる小話を掻き消すように力を紡ぐ。
「――凍れ!」
 語る敵の話を遮ったノゾミは氷の矢を降らせた。だが、その動きは敵に悟られてしまう。されどそのフォローはニノマエが行ってゆく。
「はッ、俺の死に場所はもとより此処よ」
 戦いと血と暴虐のただ中。すべてを踏み越え、その中で死に逝く。それがニノマエの矜持であり、信条だ。
「だから今ここでは死ねねェな!」
 ニノマエは全ての業を断ち彼岸へ導く力を籠めた妖刀、輪廻宿業を掲げた。
 そして敵を一閃する。
 それは因のみを斬り裂き、影朧の存在を揺らがせていく。ノゾミは彼に合わせて更なる氷嵐を巻き起こしていった。
「ただ、な。アンタの、そのペンに宿る情熱についてだが。殺さなければ名作が書けない、ってのは思い込みだ」
「そうだね、殺さなくたって書けるものはある」
 ニノマエの言葉に頷いたノゾミも敵を見据える。ああ、と答えたニノマエは更に自分の思いを彼女へと語っていった。
「とらわれさえしなければ、殺人事件の他にも色々書けたろうに。アンタは世に出るかもしれない名作を書く機会を永久に失ったってことだ」
「……黙って聞いていれば好き勝手を」
 対する影朧は彼らの言葉を一蹴した。書けないからこそこうしているというのに、分かった口を利かれたと感じたらしい。
 そして、影朧は万年筆にて綴られる禍々しき文言を解き放つ。原稿用紙と彼岸の花を火種にして燃え盛る怨恨の炎は二人を包み込もうと迫った。
 ノゾミは氷刃で炎を弾き、氷の矢を敵の正面に向かって飛ばす。炎を打ち消した彼は更に氷刃で以て彼岸の花を斬り伏せた。
 其処へニノマエが妖刀を振るい、影朧を追い詰めていく。
「自分を縛り付けているのは、自分だ」
 原稿用紙を白紙に戻すべく、ニノマエは一閃する。
 ノゾミは彼が図らずも自分の補助を行ってくれていると感じ、ちいさく笑んだ。
「やっぱり、僕らの『結ばれ』の意味はコンビネーションオチってとこか。あ、戦闘時に限るってことで!」
「……今回は俺づかいが荒すぎだ」
 二人はもう視線すら合わせずとも息のあった動きができる。起こさなくても戦闘狂は目を覚ますのだと感じると、何だか不思議な気持ちが胸に宿った。
「ニノマエは僕に使い倒されたらいいんだ!」
「貸しにしとくな」
「仕方ないなあ。じゃあ行くよ!」
 そんな遣り取りを交わした二人は一気に勝負を付けに掛かる。
 そして――妖刀と氷刃が左右から同時に振り下ろされた、刹那。影朧の亡霊は斬り裂かれ、その存在は瞬く間に消えていった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

氷室・雪
場所が場所であるし、無関係な事故死と判断される可能性はあったので一安心だな
寒い思いをしたのが無駄にならなくてよかった
いや、これからが本番ともいえるので油断は禁物か
ミステリーの犯人は報いを受けるのが基本なので覚悟してもらおう

濡れた体では思うように動けないかもしれないが、刹那永劫剣を使って戦おう
足場も悪く、体も冷えているので動きが鈍いか
ひと気のない場所を選んだので徐々に身を軽くして加速をしていくことはできるな
更なる加速をせねばならないあたりで己の未熟さを痛感してしまうがな

影朧の生まれを考えると同情はするが、やっていることを見過ごすわけにもいくまい
せめて私の一太刀が救いの助けとなればいいのだが



●疾き刃
 刹那の一閃が風を切る。
 残雪の刃と鋭利なナイフが重なり、甲高い音が鳴った。流れる水の音に混じって絶え間なく響いているのは雪と影朧が斬りあい、鍔迫合う音だ。
「あら、なかなかやりますのね」
「それはこちらの台詞でもある。ただの小説家とは思えない刃捌きだ」
「ええ、いまのわたくしは惨たらしい猟奇殺人を犯したという設定ですもの」
 ふふふ、と笑った影朧。
 雪は弾かれた刃を切り返し、もう一閃を敵に浴びせかける。しかし身を翻した相手は雪の一撃をすり抜けてしまった。
「く……」
「貴女、身体が震えていましてよ」
 だが、決して雪が実力不足ではないのだと影朧は見抜いていた。
 足元は河原。浅いとはいえど水が流れている状況。そして、先程まで死体のふりをしていた雪の身体は冷えきっている。
 普段よりも動きが鈍いと自分でも分かっている雪は唇を噛み締めた。
 肌に張り付く服が機動力を奪っている気もする。呼吸を整え、雪は覚悟を決めた。
「それなら、これでどうだ」
 はらりとスカートが落とされ、川辺に落ちる。影朧がはっとしたときにはもう雪は彼女の眼前に迫り、刀を振り下ろしていた。
 その一撃は亡霊を鋭く穿つ。
 手応えがあったと感じた雪だが、相手も負傷しながらナイフを振り下ろしてきた。
 迫る刃を刀で受け止めた彼女は後方に下がる。スカートを脱ぐことで身軽になったのはいいが、未だ上半身に張り付く上着が動きを阻んでいた。
「……仕方ないか」
 雪は影朧が更に動き出す前に、と更に服を脱ぐ。風に乗ったセーラー服が宙に舞う中で影朧はくすくすと笑った。
「破廉恥ですわね。そこまでして勝てなかったらどうするおつもり?」
「心配は無用だ。何故なら……」
 雪にもう迷いはない。周囲には影朧だけ。下着だけになったこの姿を見る者は相手しか居ない。羞恥がないとは言えないが、屠ってしまえば見たものは誰も居なくなる。
「何故なら?」
「ここでお前は私に倒されるからだ」
「……!?」
 宣言と共に地を蹴った雪は刀を大きく振り上げた。しかしその動きはそれまでと全く違う、まさに刹那を斬り刻むような疾さだった。
 影朧の生まれを考えると同情はする。
 だが、やっていることを見過ごすわけにもいかない。雪はすべてを終わらせるべく、水飛沫を弾かせながら駆け――影朧を一閃する。
 そんな、と呟いた敵は刃に反応することすら出来ず、その場に伏した。
 断末魔も遺さず消えていった影朧の亡霊を見送った雪は刀を収める。しかし、くしゅん、というくしゃみが続いて響いた。
 影朧は倒した。ならば早く服を着なければ。
 雪は震えそうになるのを堪え、川辺に落ちていたセーラー服を拾いに行った。
「しまった……」
 しかし、スカートの方は結構な下流まで流されてしまったらしく――どうやら、彼女の受難はもう少しだけ続くようだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
突然襲われる事よりも、ミヌレが刺されに動いた事の方が驚いたが…(抱いたミヌレを見て)楽しんでるよな?

来たか。
悪いがあのようなナイフでは、殺すどころかミヌレの体に傷をつける事自体難しいだろう。
だが…ミヌレを狙ったという事が気に食わないな。覚悟を、して貰おうか。

殺す事ができるのであれば、今からでもどうぞ。やってみるが良い。
因みに刺殺に関していうなら、俺達は刺されるよりも刺す方が得意だ。
槍となったミヌレを振るい、敵を突き刺す。
刺すっていうのはこうするんだ。
何が来てもミヌレの槍で振り払おう。
雑な演出など必要ない。
覚悟をしろ、と言った筈だ。
敵に【串刺し】攻撃を行いUCドラゴニック・エンドで仕上げを行う。



●貫く覚悟を
「ミヌレ……」
 大切な相棒竜を抱いて俯くユヴェン。
 その姿は傍から見れば悲しみのずんどこ、もとい、どん底に落とされたように見えるだろう。しかし実際、ユヴェンの表情にそんな感情はない。
(……楽しんでるよな?)
 腕の中のミヌレは死んだふりを続行している。
 突然に影朧の霊に襲われたことよりもミヌレが率先して刺されに動いたことの方が驚いた。しかしミヌレが楽しそうなのでこれもまた良い。
 そして、ユヴェンは背後からふたたび近付いてきた気配を感じ取った。おそらく影朧が死を確かめに来たのだろうが、もう不覚は取るまい。そう決めたユヴェンはミヌレを撫で、その身を竜槍へと返事させた。
「……来たか」
「あら、亡骸を槍にしたのかしら」
 振り向いたユヴェンに対し、影朧の霊はくすりと笑む。どうやらまだミヌレが本当に死んでいると思っているらしい。
 ユヴェンは槍の切先を敵に差し向けながら首を横に振る。
「死んでなどいない。この槍がこうしてあることが証拠だ。悪いがあのようなナイフでは、殺すどころかミヌレの体に傷をつけること自体難しいだろう」
「そう……謀ったのですわね」
 鋭い眼差しを向けたユヴェンに対し、影朧は万年筆を悔しげに握り締める。
 こうして見事に敵を騙すことが出来た。だが、偽りとはいえどミヌレを殺されたという事実はユヴェンに闘志を宿していた。
「だが……ミヌレを狙ったという事が気に食わないな。覚悟を、して貰おうか」
「ふん、死んでいないのなら此方から殺すだけですの」
「殺す事ができるのであれば、今からでもどうぞ。やってみるが良い」
 互いの視線が交錯した瞬間。
 地を蹴ったユヴェンの槍撃が茫子の身を貫いた。だが、痛みを堪えるような仕草をした敵は何とか身を翻して其処から逃れる。
 そして、死を齎すという猟奇殺人の小話を語り始めた。
「そうですわね、貴方は竜に喰い殺されるというのは如何? 砕けて、喰らわれて、跡形もなくなるの」
「くだらない。そんなものより刺殺の方が現実的だな」
 先程のように、と告げ返したユヴェンは更に一歩を踏み込む。刺殺に関していうならば、自分達は刺されるよりも刺す方が得意だ。
 ミヌレの竜槍を振るったユヴェンは容赦などせず、敵を真正面から突き刺す。
「きゃ!」
「刺すっていうのはこうするんだ」
 抉るようにして槍先で貫き、刃を払えば影朧の身体が揺らいだ。敵も怨恨の炎を飛ばしてきたが最早、雑な演出など必要ない。槍で炎を打ち払ったユヴェンは亡霊との距離を一気に詰めた。
「そんな、わたくしの炎が……」
「覚悟をしろ、と言った筈だ」
 慄く影朧。そして、静かながらも冷たい言の葉が落とされた刹那。
 ユヴェンの竜槍は影朧を貫き穿ち、その身を散らせた。戦いが終わると同時に竜に戻ったミヌレが橋の上に降り立ち、勝ち誇ったような鳴き声をあげる。
「やったな、ミヌレ」
 ユヴェンは薄く笑み、自分達の役目は果たしたのだと確かめる。
 後は本体が倒れるのを待つのみ。そして、槍竜と青年は視線を交わしあった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふえぇえええ!?
アヒルさん、どういうことですか?
華麗に推理すれば、無事に解決するんじゃなかったんですか?
ふぇ、推理に逆上した犯人さんを華麗に無力化させる必要があるって、全然冷静っぽいですよ。

えっと、私も何か武器になるような物をガジェットショータイムで用意しましょう。

これは確かに武器ですが勝ち目はないですよ。
ピコピコハンマーじゃ、
って、ふぇ、すごい威力です。
やっぱりガジェットだからですか?
あれ、茫子さん、どうかしましたか?
ガジェットだから何でもありってダメなんですか?



●リベンジショータイム
「――ふえぇえええ!?」
 亡霊に追いかけられ、温泉街を駆けていくフリル。
 そのすぐ傍にはガジェットのアヒルさんが付いてきており、大変そうだといった様子でフリルを見守っている。
「アヒルさん、どういうことですか?」
 問いかけつつも逃げる。
「華麗に推理すれば、無事に解決するんじゃなかったんですか?」
 角を曲がって転けそうになりながら、更に逃げる。
 フリルは突きつけた推理が間違っていた――というよりも、相手を怯ませるほど的確なものではなかったことに反省していた。
「ふぇ、推理に逆上した犯人さんを華麗に無力化させる必要があるって……全然冷静っぽいですよ、アヒルさん」
 後ろを振り返れば、自分を殺そうとして追いかけてくる影朧の姿がすぐ近くまで迫っていた。それに加え、駆けていくフリルの向かう先は袋小路だ。
「ふえぇええ」
 泣きそうになったフリルはいよいよ覚悟を決めなければいけないときだと察した。
 立ち止まり、くるりと振り返って影朧を見据えるフリル。
「あら、観念しましたの?」
 影朧は凶器のナイフを手にしており、フリルを殺す気満々だ。ならばこちらも武器には武器で対抗しなければならない。
「えっと、私も何か武器になるような物を……」
 ――ガジェットショータイム。
 フリルが手を掲げると、其処にピコピコハンマー型のガジェットが召喚された。
 ええっ、と驚くフリルに対して影朧はくすくすと笑う。
「そんなものでわたくしに対抗できると思って?」
「これは確かに武器ですが勝ち目はないですよ。って、ふぇ……」
「きゃ……!」
「ふぇえ、すごい威力です。やっぱりガジェットだからですか?」
 近付いてくる影朧に対してフリルはがむしゃらにハンマーを振る。すると蒸気で噴出力を増したハンマーの一閃が影朧を打ち倒した。
「あれ、茫子さん、どうかしましたか?」
 偶然か、必然か。クリティカルヒットしたピコピコハンマーにやられた影朧の霊は瞬く間にすぅっと消えていってしまった。
「やりましたね、アヒルさん」
 ほっとした彼女の傍にいるアヒルさんはいつも通り変わらぬ様子。
 こうしてフリルは何とか勝利を収め、この危機を乗り切ったのだった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

城島・冬青
【橙翠】

(涙を拭き側の愛刀を構える)…来ましたね
アヤネさん、戦闘準備です
でも終わったら…ちょっと言いたいことがありますからね!

UC廃園の鬼を発動し茫子に斬りかかる
向こうが仕掛ける前にこちらからダッシュで速攻!
大丈夫、アヤネさんの援護もあるから競り負けることはない!…はず
指示には従う

【猟奇殺人の小話 】には心を揺れ動かされないよう気合で耐える
面白いお話ですね
猟奇的な怖い話は大好きです
でも残念ながらそういった歪んだ願望はありませんので

あと忘れずに
戦闘後か合間に
アヤネさんにさっきの演技について問い詰めないと
もう!騙すなんて酷いじゃないですかー!私、私…アヤネさんが本当に…本当に…っ…(涙がジワジワ)


アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
やりたくもない殺人劇を演じさせた敵には報いを受けてもらおうか
ソヨゴちょっと怒ってる?
謝るのは敵を倒してから
今は集中する

PhantomPainを構える
UCをソヨゴの周囲に展開
彼女を護りつつ援護射撃を行う
ソヨゴには触れさせない
こちらに飛んでくる文字列はUCで相殺する
燃える文字なんて洒落ているけど
僕はノーサンキューだ
まとめて返すよ

ソヨゴ!10秒堪えて!

ソヨゴに気を取られている隙に
SilverBulletに持ち替える
無骨な代物ですまないネ
でもお前みたいな奴にはこいつは良く効く

スコープを覗き込み
動きの鈍った相手にとどめの一発を
引鉄を引く
アーメン

戦闘後
ソヨゴの涙を見て
思わず抱きしめ
ごめんネ、ソヨゴ



●君を想うがゆえに
 零れ落ちる涙は止まらなかった。
 しかし、此方に近付く気配がある。その存在を察し、頬を伝う雫を拭った冬青は愛刀である花髑髏を手にして立ち上がった。
「……来ましたね。アヤネさん、戦闘準備です」
 彼女に支えられて身体を起こしたアヤネは頷く。自分達の死を確かめにきた影朧を見据えたアヤネもまた、アサルトライフルを構える。
「あらあら、死者が生き返ったのかしら。それとも嘘だった――?」
 影朧は二人を見遣り、騙したのかと憤った。
 対するアヤネは首を振り、そんなことも見抜けなかったのかと一蹴する。
「やりたくもない殺人劇を演じさせた敵には報いを受けてもらおうか。あれ……ソヨゴ、ちょっと怒ってる?」
「当たり前です! 終わったら、ちょっと言いたいことがありますからね!」
「わかった。じゃあ、まずは敵を倒してから」
 今は集中しようと告げたアヤネに頷き、冬青は敵を睨みつけた。
 元はといえば、あんな事態になったのも影朧が殺人劇を起こそうとしたからだ。そう思うと怒りは敵に向く。
 冬青は花髑髏の封印を解き、漆黒の吸血刃として顕現させた。
「こういうのは先手必勝です!」
 敵が攻撃動作に移る前に地を蹴った冬青は一気に距離を詰める。その刃が振り上げられると同時にアヤネがエレクトロレギオンを召喚した。
 対抗しようとした影朧に向け、機械兵が突撃していく。さすがの影朧もすべてを捌き切ることは出来ずに冬青への注意が逸れた。
 その瞬間、冬青が敵の身体を一閃する。鋭く重い一撃は相手の身体を斬り裂き、その血を啜るかのように刃が鈍く光った。
 くぅ、と敵から苦しげな声があがる。
 しかし原稿用紙と彼岸の花を火種に燃え盛る怨恨の炎が解き放たれる。
「ソヨゴ!」
 気をつけて、と呼びかけるアヤネに頷きを返した冬青は身を翻す。ぎりぎりの所で焔が彼女の身を掠め、宙に明々と軌跡が燃え上がった。
「大丈夫です!」
 冬青は攻撃を避けたことを報告したが、既にアヤネは次の行動に入っている。
 よくもソヨゴを、と口にした彼女は銃口を敵に差し向けた。
「ソヨゴには触れさせない」
「まあ、大した想いですこと。ですが、この話を聞いて死にたくなりなさいな」
 すると影朧は薄く笑み、殺されたいという感情を与える話を始めた。
 ――と、死体は何れかの部位が欠損していますのよ。
 惑わせるような言葉が耳に届いたが、アヤネも冬青も堪えた。魔力の籠もった声は僅かに心を揺らがせた。だが、効かない。
「面白いお話ですね。猟奇的な怖い話は大好きです。でも、残念ながらそういった歪んだ願望はありませんので!」
 冬青が言い放つと、わなわなと震えた影朧は更なる怨恨の炎を巻き起こした。
「ならばこの炎で死を迎えれば良いのですわ」
「燃える文字なんて洒落ているけど僕はノーサンキューだ。まとめて返すよ」
 その動きを察したアヤネはレギオン達を其方に向かわせる。文字列から成る炎を相殺しながら、彼女は冬青に願う。
「――ソヨゴ! 十秒堪えて!」
「はい、アヤネさん!」
 答えた冬青は機械兵の間を擦り抜け、花髑髏の刃を思いきり薙いだ。それによって影朧の身体が揺らぎ、大きな隙ができる。
 アヤネは即座に大型ライフルに持ち替え、スコープを覗き込んだ。
「無骨な代物ですまないネ。でもお前みたいな奴にはこいつは良く効く」
 そして、照準を合わせたアヤネは冬青の一閃によって動きの鈍った相手にとどめの一発を叩き込むべく、銃爪を引いた。
 ――アーメン。
 その言葉が落とされた時、撃ち貫かれた影朧の霊は跡形もなく消え去っていた。
 
 これで分体のひとつは倒した。
 自分達の役目は果たせたのだとして、冬青は愛刀を下ろす。そして、はっとした彼女はアヤネに先程の演技について聞こうと思った。
「もう! アヤネさんってば!」
「……ソヨゴ」
 怒っている様子の冬青だが、その瞳には次第に涙が滲んできている。
「あんな風に騙すなんて酷いじゃないですかー! 私、私……アヤネさんが本当に……本当に……っ……」
 それ以上は上手く言えず、冬青はぽろぽろと涙を零した。
 その雫が地面に落ちる様を見たアヤネは思わず冬青に手を伸ばし、抱き締める。
「ごめんネ、ソヨゴ」
「……謝ってくれたから、今回は許します。けれど――」
 次にやったら許さないかもしれません。
 アヤネにだけ聞こえる声で囁いた冬青は、暫く傍から離れないで欲しいというように腕を彼女の背に回した。
 頷いたアヤネはそっと冬青の背に触れる。
 しかし、もし本当にどちらかが死ななければいけない状況が訪れたら――?
 その答えを出すのは、今は止めておいた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレズローゼ・クォレクロニカ
💎🐰

冷たい水にのまれて
けれど消えないのはわたしが人魚ではないから
泡沫に歌う白の人魚なら
きっと……なんて

ケホケホ!!
ううんん……ハッ!生きてる!
兎乃くんが助けてくれたの?
……ばかだなぁ……キミを砕こうとしたのに

……ううん?ボク何も覚えてないのさ
落ちた時忘れちゃったんだ
気にしない気にしない!
それよりこいつを倒さなきゃ

ふぅん、駄作だね!
そんな結末、破壊してくれる!
ダメだよ殺させない
ボクだってパパとママのところに帰るんだから!
描くは炎
亡霊も悲惨な結末も破壊工作(焼き尽くす)のさ
黄金色の昼下がりでぬい止める
執筆途中にお茶は如何かい?
今だよ!

ねぇ、兎乃くん
ボク達、友達だよね!

友情パワーで乗り切るのさ!


兎乃・零時
💎🐰
アドリブ歓迎

(水から出てきてめっちゃ咳き込む

あ、フレズローゼ体大丈夫か?
さっきなんか様子が変わった上に水中に…え、覚えてない!?

あれ…?
ん~…まぁいっか!
今は…こ、こいつの相手だ…!



おま、え…!
UCで「殺されたい感情」を与えられても全力抗い

与えられた感情を塗り潰すように
叫ぶ!

うるせぇ!
俺様はいづれ全世界最強の魔術師になる男!
てめぇの決めた結末なんか知るもんか!
俺様の…俺の友達も!
俺も!
絶対死なねぇ!死なせねぇ!

【覚悟】を決め
地を【踏みつけ・ダッシュ・ジャンプ】!

これが!
俺の!
俺達の!

彼女の援護も信じて

【カウンター・零距離射撃・捨て身の一撃】な光【属性攻撃・全力魔法】の魔力放射!

全力だ!



●友情の色彩
 冷たい水にのまれて、沈む。
 けれどもこの身体は消えない。それは、わたしが人魚ではないから。
 泡沫に歌う白の人魚ならきっと御伽噺のように美しく散るのに。
 ああ、きっとわたしは――。
 
 視界が暗転し、不意に意識が引き戻される。
「……ケホケホ!!」
「フレズローゼ!」
 咳き込む声にはっとして、零時は少女の名を呼んだ。沈む彼女の身体を引き上げて何とか岸辺まで辿り着いた零時はほっとしていた。
「ううんん……ハッ! 生きてる! 兎乃くんが助けてくれたの?」
「ん、多分……必死だったから、わから……ケホっ、うわ、苦し――」
 零時の身体が自分も溺れかけていたことをやっと思い出したのか、彼は時間差で死ぬほど咳き込みながらもこくこくと頷いた。フレズローゼはそんな風になってまで自分を助けてくれた彼に向け、何処か哀しげな笑みを零す。
「……ばかだなぁ……キミを砕こうとしたのに」
「何か言ったか? それより体は大丈夫か? 様子が変わった上に水中に……」
「ううん? ボク何も覚えてないのさ」
「え、覚えてない!?」
 驚く零時に対してフレズローゼは軽く舌を出し、落ちた時に忘れちゃったんだと嘯く。あれ、と首を傾げる零時は不思議そうだ。
 しかし、その間に死を確認しに訪れた影朧が二人の近くに迫っていた。
「気にしない気にしない! それよりこいつを倒さなきゃ」
「ん~……まぁいっか! 俺様達をこんな目に合わせた借り、返させてもらうぜ!」
 少女と少年は影朧を見据える。
 其処に現れた茫子の霊はくすくすと笑っていた。
「死に損ないですのね。では、わたくしが死にたくさせてあげますわ」
 構えた影朧は口をひらき、猟奇殺人の小話を始める。
 ――かの少年は少女に水中で首を絞められてしまいます。声がでない中で必死に語りかけても少女はその手を緩めません。そして、少女もまた少年と一緒に深く、深くへと沈んでいくのです。
 影朧が語るそれはまるで魔法のように揺らぐ声で、自分もこのように殺されたいという感情を沸き起こしていく。
「おま、え……!」
 零時はまともにその話を聞いてしまい、必死に妙な衝動に耐えた。
 だが、フレズローゼには全く効いていない。先程ああして助けてもらった以上、そんなことはしないと決意できたからだ。
「ふぅん、駄作だね! そんな結末、破壊してくれる!」
「……そう、だな。影朧、小話がなんだ! うるせぇ! 俺様はいずれ全世界最強の魔術師になる男なんだ!」
「そう、ダメだよ。兎乃くんは殺させない!」
 零時が与えられた感情を振り払うように叫べば、フレズローゼがその背を支えるかの如く宣言する。
 そして、虹薔薇の絵筆を振るったフレズローゼは炎を描いた。
「それにボクだって、ちゃんと生きてパパとママのところに帰るんだから!」
「いいえ、貴方達には此処で死んでいただくの」
 だが、フレズローゼに対抗するように影朧も万年筆で文言を綴る。
 文字の焔と描いた炎。
 ふたつの軌跡が戦場を朱と赤に染めあげた。拮抗する炎。だが、次第にフレズローゼの描いた色が禍々しい焔を塗りつぶしていった。
 亡霊も悲惨な結末も、ただこの彩で焼き尽くして縫い止める。
「執筆途中にお茶は如何かい?」
 ふふ、と微笑んだフレズローゼは傍らの零時へと「今だよ!」と呼びかけた。
「てめぇの決めた結末なんか知るもんか! 俺様の……俺の友達も! 俺も! 絶対死なねぇ! 死なせねぇ!」
 零時が身構え、影朧を穿つために魔力を紡ぎ始める。その奔流が渦巻いていく中でフレズローゼは明るく笑った。
「ああ、そうさ。ねぇ、兎乃くん。ボク達、友達だよね!」
「もちろんだ! これが! 俺の! 俺達の――」
 頷いた零時の周囲に光が満ちる。其処へ更なる炎を描いたフレズローゼはタイミングを合わせ、一気に力を解き放とうと決めた。
「なんですの、この生気に満ちた彩と声は……こんな、こんなもの……!」
 避けきれない。
 諦観を抱いた影朧が眩い光に思わず目を閉じた瞬間。
「友情パワーだ!」
「全力だ!」
 少女と少年の声が重なり、光と炎が標的を真正面から貫いた。炎が揺らぎ、光が影を消し去るかのように迸る。
 そして――光が収まったとき、其処にはもう影朧の姿はなかった。
「終わった、かな?」
「俺様達の完璧な勝利だ。な、フレズローゼ!」
「うん、兎乃くん!」
 彼らは辺りを見渡した後、名前を呼びあった。自然に重なる視線と笑顔。
 其処に宿るのは哀しい死などからは程遠い、明るい色彩と生に満ちた笑みだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻華

炎と共に桜が吹雪く一時

一華
8歳の誕生日おめでとう
微笑み招霊木矢を渡す
大事に持ってて
あなたの母様の宝物よ
…生まれてきてくれてありがとう

大丈夫!一華は「兄」が守るわ
優しく撫でる

下らぬ
私は殺されるより殺したい
あなたも殺されてみなさい
いつだって
私を焼くのは戀の炎
求めて喰らうのは紅き愛の雫

刀に存在喰らう呪と破魔桜を纏わせてなぎ払い
呪殺弾で紙ごと穿つ
オーラ防御の桜は一華へ
庇い躱さず衝撃波でカウンター

背後からの光矢に瞬くも振り向けず

彼女は弓の名手
苦界にあれど凛として強く気高い
世界一美しい鬼姫よ
礼の代わりに放つ絶華
あなたの慾を喰らって桜と散らす

温泉でも何でも歓迎よ
今だけじゃなくてずっと甘えて欲しいわ


誘七・一華
🌺櫻華

桜吹雪いて炎散らせばちらつく悪霊

どうしよう
戦えない
戦い方がわからない
家にいろと
家名を継ぐだけ
それだけの

え?
言葉に瞳見開く
誕生日?
祝われたことない
かあさま、の?
渡された矢を握りしめ
潤む瞳を瞑る
優しい抱擁と桜の香

すごいな
紅い剣戟に舞う血桜
剣舞のように斬りこんで放つ術は邪を喰らう
桜龍の姿に見蕩れる
やっぱり兄貴は憧れ
でも俺だって守りたい

握り締めた矢から美しい黒髪の鬼が浮かぶ
柘榴の瞳が俺を見て
放つ光矢が邪霊を貫く

兄貴の顔は見えない
語られる言葉が嬉しい
胸が熱くて一杯で
多分
今変な顔してる

がんばれ、兄貴!
精一杯の応援
祓ってしまえ!

終わったらまた温泉入ろうぜ
今この時だけは甘えてもいいかな
ずっとは考えとく



●祝福の矢
 燃え盛る炎を掻き消すように桜が芽吹き、辺りを紅に染めあげていった。
 一華を強く抱き締めた櫻宵は顔を上げ、自分達の前に現れた影朧の亡霊を見据える。その視線を追うように敵を見上げた一華は嗤う影朧を前にして、僅かに慄いた。
「あら、死んでいないのかしら」
 敵からの冷たい視線を受け、一華は困惑する。
 ――どうしよう。
 俺は戦えない。戦い方が、わからない。
 ただ家にいろと命じられていた。家名を継ぐだけ。それだけのものだから。
 震えそうになる。
 だが、その耳元で櫻宵が優しく囁いた。一華、と。
「八歳の誕生日おめでとう」
「え? 兄貴……?」
 この場にそぐわない祝いの言葉に少年は瞳を見開いた。
 櫻宵は微笑み、破魔護りの矢を一華の手に握らせる。今日、この日に彼を屋敷から連れ出したのもこれを贈るためでもあった。影朧との戦いの最中に渡すことになるとは思わなかったが、どうかこの招霊木矢が少年の心を支えるものになって欲しい。願う気持ちを込め、櫻宵は一華の手を握った。
「大事に持ってて。あなたの母様の宝物よ」
「かあさま、の?」
 優しい抱擁と桜の香。渡された矢を握り締めた一華の瞳が涙で滲む。そして、櫻宵は心からの想いを息子に告げる。
「ええ……生まれてきてくれてありがとう」
 ただひとり、たったひとりの貴方へ。
 本当のことは伝えることが出来ないけれど、愛おしさだけは伝えたかった。
「これが母様の……。兄貴、ありがとう……」
 俯く一華は涙を拭い、顔を上げる。母の形見が傍にあるというのならば怖気付いてなどいられない。そう思ったのだろう。
 櫻宵は兄貴と呼ばれたことに一瞬だけ瞳を伏せる。しかし、そっと少年を抱く腕を解いた彼はもう、兄として振る舞ういつもの櫻宵に戻っていた。
「大丈夫! 一華は『兄』が守るわ」
 最後に少年の頭を優しく撫で、櫻宵は屠桜を鞘から抜く。紅い刀身が桜を映して鈍く煌めく中、影朧は双眸を鋭く細めた。
「今生の別れのようで見物でしたわ。さあ、どちらから死にたいの?」
「――下らぬ」
 敵からの問いかけを一蹴した櫻宵は踏み込み、ひといきに跳躍する。
 振るう刃は一瞬で幾重もの剣閃を描き、影朧の身を切り裂いていった。だが、相手も身を翻して幾閃かを交わす。更に相手は心を揺らがせる猟奇殺人の小話を語り始めた。
 ――と、死体は何れかの部位が欠損していますのよ。
「一華、耳を塞いで!」
「わかった!」
 櫻宵が咄嗟に呼びかけたことで一華が話を聞くことはなかった。そして、櫻宵自身もその話に動じることなどない。
「私は殺されるより殺したいの。あなたも殺されてみなさい」
「わたくしはもう二度と死ぬつもりはありませんわ」
「そう……一度は死したのね」
 ならば何度も屠ってやるのみだと告げ、櫻宵は呪と破魔桜を纏わせた刃を振るう。
 いつだって己を焼くのは戀の炎。求めて喰らうのは紅き愛の雫。それゆえにただ殺される未来など斬り伏せるだけ。
「わたくし以外が与える死など認めませんわ」
 対する影朧は万年筆で呪いの文言を記す。それは彼岸の花めいた炎となり、櫻宵と一華に迫ってくる。しかし櫻宵は衝撃波でそれらを瞬く間にいなしてしまった。
「……すごいな」
 彼の姿を見つめていた一華は思わず感嘆の言葉を落とす。
 紅い剣戟に舞う血桜。
 まるで剣舞のように斬り込んで放つ術は邪を喰らう桜龍。その姿に見蕩れ、溜め息を零した一華は憧れの気持ちを強めた。
「でも、俺だって……」
 ――守りたい。
 そう願って破魔の矢を握り締める一華。すると矢が淡い光を放ち、其処から美しい黒髪の鬼姫の姿が浮かびあがった。
 柘榴を思わせる瞳が一華を映したかと思うと、彼女は穏やかに微笑む。
 言葉が出なかった。
 彼女が、彼女こそが――。
 滲む視界。鬼姫の顔も兄の姿も見えなくなりそうだった。その間に一華を護るように佇んだ彼女は弓を引き絞る。
 そして、放つ光矢が櫻宵と対峙する邪霊の腕を貫いた。
「……噫、貴女なのね」
 櫻宵は背後から放たれた光矢に瞬いたが、敢えて振り向かなかった。
「彼女は弓の名手。苦界にあれど凛として強く気高い、世界一美しい鬼姫よ」
 だから、すべてを託せる。そのように一華に告げた櫻宵が援護の礼代わりに解き放つのは絶華の一閃。
 あなたの慾を喰らって桜と散らす。
 それが自分達の息子を護るために出来ることだから。
 一華には振り向かなかった兄の顔は見えなかった。けれども語られる言葉が嬉しい。
(母様は俺の事を要らないなんて思ってなかった)
 だって、こうして守ってくれている。
 そう思うと胸が熱くなった。一華は拳を握り、精一杯の声を紡ぐ。
「がんばれ、兄貴! 祓ってしまえ!」
 母様と一緒に。
 そう願う言葉が櫻宵の耳に届いた刹那、不可視の剣戟が影朧を貫いた。
 力を失い、消えゆく亡霊。
 それを見送りながら、櫻宵と一華は戦いが終わったのだと感じていた。いつの間にか鬼姫の姿は消えていたが、招霊木矢はしかと一華の手に握られている。
 退魔の鈴が凛と鳴る中、一華は淡く微笑んだ。
「全部が終わったらまた温泉入ろうぜ」
「ええ、温泉でも何でも歓迎よ」
「……あのさ、兄貴。今だけは甘えてもいいかな」
 言い辛そうに告げられた言葉に櫻宵は視線を返し、そんなことなら、と笑う。
「今だけじゃなくてずっと甘えて欲しいわ」
「ずっとはちょっと……考えとく」
 兄と弟。本当は父と息子。歪な関係の二人のこれからは、未だ視えない。
 それでも今は。
 今このときだけは――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
【迷宮】

食べ物の怨みは恐ろしいと言うけれど(綾の上に乗るヨルを抱きあやす)

ふふ
事件は見事に迷宮入り
けれど
明けない夜はないように
迷宮にも出口があるもの

じゃあ仕上げだね
君のために歌おうか
罪をおかしたその先に
辿り着くのは罰の果て
残酷な物語を歌うと云うならば
―命を賭して演(殉)じてみせよ

歌う聲には鼓舞のせて綾の青と花世の赤と、ユルグの金…美しい花々がより強く華麗に舞えるよう
蠱惑蕩かし歌う
罪も意識も捕らえて離さぬ「魅惑の歌」

こんな時の軽口さえも心地よい
鳥影に微笑み、疾く翔ける花と金彩の背により強く歌いかけて
水泡のオーラ防御で守るよ

さぁ閉幕の時間だよ
丸くて美味しいお饅頭のような
まぁるく解決しようじゃないか


都槻・綾
【迷宮】

いけない
本当に饅頭で息絶える処でした

きりりと妖と対峙しつつも
軽く咳き込んでいるのはご愛嬌

油断は決してしないけれど
(色々な意味で)生死を共にした皆への軽口は信頼の証

第六感で敵挙動を読み
死角を補う声掛け
薄紗を広げた如き柔らなオーラで自他共に防御

薙いだ刃の衝撃波で斥候霊を散らしたなら
愈々お出ましの真犯人へ
高速詠唱で謡い放つ鳥葬

起、リルさんの麗しき歌声に
身の自由も心も奪われた敵へ薄く笑んで
承、彼方の海までの澪を標そう

私は行く先の粗筋を示しただけ
オチを語るのは――

ね、と
後続のかよさん、ユルグさんへ片目を瞑って託す転、結

絢爛な華と
鮮烈な一閃が
物語の幕を引いてくださるでしょう

此れにて一件落着、ですね


ユルグ・オルド
【迷宮】
真犯人てか食い意地張っただけなンじゃ
や、迷宮入りってことにしとこ

変わり身早くね、
軽口交じりに気を取り直し
さァ総仕上げといこう

護りを得たなら口笛と短い礼
響きだすリルの歌声合図に亡霊へ向き直る
次は平和にのんびりと歌を聴きたいとこだわ
――饅頭と一緒に
飛び立つ鳥の影を導に駆け出して

綾も無茶いうよネ
紡がれる筋書きに添ってもっと速く、疾く
殺されたいなんて願う間もない
花世に並走するなら片側は任せた
作家業は遠慮したい、返し突っ切る最短距離
見事な奇襲から形勢の転じる間にその目前へ
このオチは読めてた?
串刺しの作家へ熄を送ろう

結びの口上が聴こえたなら、これにてお仕舞
随分綺麗に収まったと振り抜いて


境・花世
【迷宮】

斯くして事件は迷宮入りだねと
真顔で綾の背をとんとんしつつ

けれども物語はまだあと少し

やがて始まる人魚の唄は最終章を鮮烈に彩り、
荘厳な鳥の羽撃きはクライマックスのよう
これじゃあ下手な続きは綴れないね?

責任重大だなあとかろやかに笑い、
隣往くユルグに確かに頷いて見せたなら
駆ける速度をぐんと速めよう
攻撃を躱しつつ真っ直ぐに敵のもとへ肉薄

と、見せかけて敵背面の猟兵の傍へテレポート
思わぬ位置から奇襲をかける「転」!

振り翳す殺戮刃物は今度こそ鋭く尖って
作家を過たず刺し貫くだろう
とどめには足りない? 充分だ、だって
「結」はちゃんと彼が用意してくれる

リルの詞に耳を傾けながら静かに瞑目
温泉饅頭よ、永遠に――



●温泉饅頭殺人事件
 斯くして事件は見事に迷宮入り。
 饅頭に魅せられた四人はすべて死を迎え、遺されたのはペンギンだけ。
「ふふ、可哀想」
 きゅー、と鳴く声に誘われた影朧が橋の上に現れる。倒れた死体A~D達を見下ろした影朧はヨルに手を伸ばそうとした。
 だが、その掌を突付いたヨルがささっとリルの元にジャンプした。
「食べ物の怨みは恐ろしいと言うけれど――」
「貴方、死んでないというの!?」
 不意に紡がれたリルの声を聞き、はっとした影朧が顔を上げる。リルはヨルを抱いてあやしながら、そうだよ、と微笑んだ。
「ふふ。けれど明けない夜はないように、迷宮にも出口があるもの」
「いけませんね、本当に饅頭で息絶える処でした」
 すると綾も立ち上がり、続けてユルグと花世が身体を起こす。
 綾はきりりと妖と対峙しているが、本気で饅頭を詰め込んだので喉の調子がどうにも悪い様子。軽く咳き込む彼の背を真顔でとんとんと擦り、花世は敵を見遣る。
「斯くして事件は迷宮入り。真犯人のお出ましだね」
「真犯人てか食い意地張っただけなンじゃ……や、まぁ迷宮入りってことにしとこ」
「けれども物語はまだあと少し続くんだ」
 倒れ疲れていたユルグが軽く伸びをする傍ら、花世は身構えた。対する影朧は誰も死んでいなかったことを知り、万年筆を握る手を震わせる。
「わたくしが騙されたということですのね……」
「そういうことになりますね」
 綾は頷いてみせ、ユルグも間違いないと語った。すると影朧はそれならば全員を自分が殺すだけだとして此方を睨みつける。
「燃えておしまい!」
「それなら、こっちも――さァ総仕上げといこう」
 敵が放った焔が迸る。
 彼岸の花を火種に燃え盛る怨恨の炎を見据え、ユルグは地を蹴った。同時にリルと花世もそれぞれに頷きあい、影朧への一手を紡ぎに向かう。
「じゃあ仕上げだね。君のために、歌おうか」
 罪をおかしたその先に辿り着くのは罰の果て。
 残酷な物語を歌うと云うならば――命を賭して演じて、殉じてみせよ。
 リルの歌声が響きはじめる中、綾が動く。
 皆の死角を補うように駆けた彼は薄紗を広げたかの如き柔らな防御陣でオーラで皆を護る力を紡いでいった。
 ひゅう、と響かせた口笛で短い礼を告げたユルグは歌を合図にして機を計る。
 そして綾は薙いだ刃の衝撃波で以て炎を散らし、鳥葬を謡い放った。疾てなる羽搏きの影を標にして駆け出したユルグはふっと息を吐く。
 響き続ける歌は快い。
 だからこそ思うこともあった。
「次は平和にのんびりと歌を聴きたいとこだわ。――饅頭と一緒に」
 なんてな、と口端を緩めたユルグは一気に敵へと肉薄した。既に相手に衝突した鳥影は影朧の身を穿っている。
 それに気を取られている間に叩き込む斬撃は鋭く、敵の身を抉った。
 更に其処へ花世の追撃が入る。
 人魚の唄が飾るのは鮮烈に彩られる殺人劇の――否、死をも凌ぐ物語の最終章。
 綾が放つ荘厳な鳥の羽撃き。ユルグが打ち込む一閃はまるで、クライマックスに導くような調べになる。
「これじゃあ下手な続きは綴れないね?」
「く……それでも、わたくしは――」
 花世が片目を閉じて告げれば、影朧は痛みに震えながらも凶器を取り出す。振るう刃はユルグに向けられたが、その一閃は見切られていた。
「と、これが猟奇殺人の刃?」
 ユルグは身を翻し、次の一手のために備える。分体であるがゆえか、既に影朧はかなり疲弊し始めている。
 無為に戦いを長引かせることもないとして、綾は皆に目配せを送った。
 こくりと頷いたリルは歌声を響かせる。
 その聲には鼓舞をのせ、綾の青と花世の赤、そしてユルグの金へと更なる彩を与えていくように巡らせる。
「――美しい花々がより強く華麗に舞えるように」
 蠱惑を蕩かして歌いあげるのは、影朧の罪も意識も捕らえて離さぬ魅惑の音色。
 それは物語の流れ。
 起承転結で示す、始まりの音。
「これは……なんですの、体が動かない……?」
 歌に囚われて身動きが取れぬ敵を見遣り、綾は再び鳥影を解き放った。
 麗しき歌声に身の自由も心も奪われた敵。其処に薄く笑んでみせた綾の瞳には容赦のない色が宿っている。
 そして、承。
「――彼方の海までの澪を標そう」
 綾は静かな言の葉を紡ぎ、鳥に穿たれていく影朧を捉える。さすがは綾、とリルが零すと彼は首を横に振る。
「私は行く先の粗筋を示しただけ、オチを語るのは――ね」
「ふふ、そうだね」
 何だかこんな時の軽口さえも心地よい。
 リルは微笑み、歌を再開していく。彼は其処から疾く翔ける花と金彩の背により強く歌いかけるように、水泡の力を拡げていった。
「綾も無茶いうよネ」
 ユルグは苦笑めいていながらも快さを孕む表情を浮かべつつ、影朧の死角に回り込む形で駆ける。
 次なるは転。その役目を担うのは花世だ。
「責任重大だなあ」
 かろやかに笑った花世は隣を往くユルグに頷いて見せ、駆ける速度をぐんと速めた。何とか腕を上げた影朧が怨恨の炎を放ったが、それを見切れぬ花世ではない。
 炎を躱しつつ真っ直ぐに敵のもとへ。
 肉薄すると見せかけ、背面に移動したユルグの傍へと転移する花世。
「どうかな、驚いた?」
 それは思わぬ位置から奇襲をかける転の一閃。
 振り翳した殺戮刃は鋭く、影朧の身を穿った。刺し貫く痛みに喘ぐ敵は未だ力を残しているようだ。しかし、花世にとってはそれで充分だ。
 何故なら――次こそが、結。
 ユルグは紡がれる筋書きに添い、終わりを与える役を担っている。
 殺されたいなんて願う間などあるわけがない。物語の展開が転がれば、あとはもう終幕に向かって進むだけ。
「なァ、このオチは読めてた?」
 作家擬きに語りかけたユルグが解き放つのは熄の斬撃。
 ――王手。
 そんな言葉が落とされた、次の瞬間。
「さぁ閉幕の時間だよ。丸くて美味しいお饅頭のように、この事件をまぁるく解決しようじゃないか」
 リルが歌の合間に言の葉を紡ぎ、歌い上げてきた曲の最後の歌詞を音にする。
 そして、歌は終曲を迎えた。
 それと同時にユルグによって貫かれた影朧が倒れ伏し、戦う力を失った。
 起は蠱惑の歌。
 承は羽撃く影。
 転は絢爛な華。
 結は鮮烈な閃。
 物語を導き、幕を引いたのは四つの力。(それからヨルのひっそりとした応援!)
「此れにて一件落着、ですね」
「これにてお仕舞。随分綺麗に収まったな」
 綾が口にした結びの口上を聞き、ユルグは満足気に頷く。花世とリルも笑みを交わし、自分達の倒すべきものは屠ったのだと確かめあった。
 そうして、花世は静かに瞑目する。
 舞台で云うならばエンドロールのひととき。その最中に落とされた言葉は――。
 
 ――温泉饅頭よ、永遠に。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
【比華】

片頬にやわい温もりを覚えた
この声は――嗚呼、あねさま
意識を浮上させる
あなたが、呼んでいるのだもの
“おはよう”、あねさま

失敗は二度目、かしら
共に逝くことを赦してはくれないよう
幸福な死の道を歩むことが出来たわ
黒鍵刃を喚んだなら亡霊を薙ぎ払い

まあ。容赦がないのね、あねさま
ナユたちの物語は、わたしたちだけのもの
盗作する悪い子には、お仕置きが必要かしら
そうね
とっておきの毒は、如何かしら
“いましめの惨毒”
指弾けば降り頻る白華の如き毒片
あねさまは、毒耐性があるものね

あなたも、あかく染まるといいわ
猟奇殺人を謳うのならば、ね
屠られる体験も、よいスパイスとなるでしょう

あねさまとのお茶は、何時だって愉しいわ


蘭・八重
【比華】

なゆちゃんの死に顔美しい
でも…起きてと頬にキスをする

【紅薔薇荊棘】で亡霊達を絡めて攻撃
あらあら、また失敗ね
幸せな時間は短いのね

敵の彼女の前で
駄作ねと原稿用紙をビリビリと破る
ふふっだってこの死に方を考えたのは貴女ではないもの
それに…貴女の手はとても綺麗
本当の猟奇殺人を知りたいなら亡霊じゃなく自らの手でしなくては駄目よ?
誰かを殺した人じゃないと美しい文章なんて出来やしない
ねぇ、なゆちゃん

白華の毒、なゆちゃんの毒は心地良い
動けなくなった彼女に
そっと【紅薔薇のキス】をする
ふふっこれで殺された人の気持ちがわかるでしょう?
きっと素敵な小説になるわ

なゆちゃん小説を読みながらお茶でもしましょうか?



●毒華
 美しい死に顔を見つめれば、自然に口許が緩む。
 出来るならこの顔をいつまでも見つめていたい。八重は裡に宿る思いを振り払い、そっと彼女の名前を呼んだ。
「なゆちゃん」
 起きて、と七結の頬に口付けを落とした八重はその瞼がひらくのを待つ。
 片頬に感じるやわい温もり。
 この声は――と緩々と覚醒しはじめた七結は、あねさま、と囁く。浮上する意識の中でもう一度、自分を呼ぶ聲が聞こえた。
 あなたが、呼んでいるのだもの。起きなきゃ。
「……“おはよう”、あねさま」
「おはよう、なゆちゃん」
 まるで普段通りの挨拶のように言葉を交わす二人。その傍には死を確かめにきた影朧の亡霊が訪れていた。
 七結は敵を認識しながらもそっと息を吐き、八重を見つめる。
「失敗は二度目、かしら」
 未だ共に逝くことを赦してはくれないよう。けれども、ひとときだけでも幸福な死の道を歩むことが出来た。
「あらあら、また失敗ね。幸せな時間は短いのね」
 八重も一度だけ瞼を閉じ、二人はゆっくりと立ち上がる。そして、影朧に目を向けた彼女達は其々の力を顕現させていった。
「本当に死を望んでいるのなら、わたくしが殺してさしあげますわ」
 影朧の霊は妖しく笑み、七結と八重に向けて万年筆のペン先を差し向ける。されど七結は怯む様子など一切見せずに傍らに黒鍵刃を喚ばう。
 八重も白薔薇の棘鞭を撓らせ、亡霊を絡めて取るように振るった。
 対する影朧は原稿用紙を火種にして炎を放とうとしている。だが、そうなる前に八重の薔薇鞭が用紙を引き裂いた。
「駄作ね」
「まあ。容赦がないのね、あねさま」
「ふふっ、だってこの死に方を考えたのは貴女ではないもの」
 薄く笑む七結に対し、八重は首を振る。すると影朧はさらなる原稿用紙と彼岸の花を種として猛攻を放とうとしてきた。
「わたくし以外が綴った死の結末など燃え尽きておしまい」
 迸る焔が八重を穿とうと迫る。
 だが、七結が奪罪の鍵杖が炎を打ち消すが如く宙を斬り裂いた。
「いいえ。ナユたちの物語は、わたしたちだけのもの。盗作する悪い子には、お仕置きが必要かしら」
「ええ。それに……貴女の手はとても綺麗」
 七結が双眸を細める最中、八重は万年筆を握る影朧の手を見つめる。
 その手は未だ誰も殺してはいない。
 少なくとも、この温泉郷の中では死したものなど誰もいないのだ。本当の猟奇殺人を知りたいならば、亡霊ではなく自らの手で行わなければならない。事実は小説より奇なりでしょう、と八重が語りかけると影朧は悔しげに呻いた。
「だからこの殺人の舞台を作ったというのに――」
「残念ね。誰かを殺した人じゃないと美しい文章なんて出来やしないわ」
 ねぇ、なゆちゃん。
 八重が穏やかに呼びかけると、七結はこくりと首を縦に振る。物語を死で飾りたいと願う気持ちは七結にも理解できる。
 死は永遠。
 けれども戀もしていない相手に。愛してもいない相手に殺されるなど、否。
「だったら、そうね。お仕置きはとっておきの毒で、如何かしら」
 そして、七結が紡ぐのはいましめの惨毒。
 指を弾けば白華の如き毒片が影朧の頭上にば降り頻っていく。その白き毒は八重のもとにも届いたが、彼女には効かない。むしろ心地好いほどだ。
「嗚呼、素敵ね」
「あねさま、後はお願いね」
 淡く笑む七結は後ろに下がり、後を姉に託す。毒に縛られた影朧はペン先すら動かすことも出来ず、ただ歩み寄ってくる八重を見つめることしか出来ない。
「なに、を……」
 震える声で問いかける影朧へと答えたのは七結だ。
「あなたも、あかく染まるといいわ。猟奇殺人を謳うのならば、ね」
 屠られる体験もよいスパイスとなる。彼女がそう語ると、八重が影朧に微笑みを向ける。そして、そっと紅薔薇のキスを落とした。
「あ、ああ……」
「ふふっこれで殺された人の気持ちがわかるでしょう?」
 きっと、素敵な小説になるわ。
 そんな言の葉が紡がれた刹那。薔薇色の毒は影朧を蝕み、その身を滅ぼした。跡形もなく消えていく影を見送った八重は七結を呼ぶ。
「さあ、なゆちゃん。帰りましょう。小説を読みながらお茶でもしましょうか?」
「ええ。あねさまとのお茶は、何時だって愉しいわ」
 そうして二人は並んで歩き出す。
 まるで此処に逍遥でもしに訪れただけであるかのように。
 先程まで漂わせていた死の香りなど、最初から何処にも無かったかの如く――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナイ・デス
ソラ(f05892)と一緒

……現れた、ですね。なら

『未だわたしは此処にいる』
ソラの腕の中、光に包まれ新しい体と入れ替わり

演技は、おわり。倒しましょう、ソラ。……ソラ?

小話。こんな風に殺されてみたくはありませんか?と、言われても
様々な殺され方を経験しての慣れ【激痛耐性】
どう殺されても再生する【継戦能力】
私は死なない、死ねないという悟り。だから、止まらず救い続ける【覚悟】あり
特に思う事ない、です
光を放っての【生命力吸収範囲攻撃兼目潰し】疲労で動き鈍らせ、ソラが両断

……そう、ですか
では、こういう作戦は、できるだけ避ける、ですね
……大丈夫。私は、死なない、ですよ。ソラ

必要になっても、しないとは言わない


ソラスティベル・グラスラン
ナイくん(f05727)と
アドリブ歓迎

心の中では分かっています、ナイくんは死んでいない
けれど一度殺されました、だから

貴方は仇です!この報い、余さず受けてもらいます…!

己への【鼓舞】の喝で、敵の語る小話を遮り、
殺されたくなる願望を【気合】で押し込め、立ち向かう【勇気】で塗りつぶす
ナイくんの復活を隠し、怒りに呑まれたフリをして敵の視線を惹きつける
もう一度語る隙は与えません!大斧の一撃で、その悪意を断つ!

戦闘後、ナイくんを強く抱きしめます
死なないとしても、必要だったとしても、目の前で彼が冷たくなるのが恐ろしかった
もう、こんなことしないでください
こんなことする必要がないくらい、わたし強くなりますから…



●もう二度と
 瞳から零れ落ちる雫は止め処なく頬を伝っていく。
 わかっている。
 ちゃんとわかっているというのに涙が止まらない。それはいつか訪れるかもしれない未来だと思ってしまったからか。それとも――。
(ナイくんは死んでいない。けれど、一度は殺されました)
 ソラスティベルは胸の奥で渦巻く複雑な気持ちを抱え、ナイの身体を抱き締めた。その近くには此方の死を確かめにきたらしい影朧の気配がある。
(……現れた、ですね。なら)
 するとナイの身体が淡い光に包まれていく。
 ――未だわたしは此処にいる。
 死したことで仮初の体が新たに入れ替わり、生を得たナイとして復活した。
 だが、ソラスティベルはナイにそのまま倒れていて欲しいと耳打ちする。それは傍から見ればまるで死者に別れを告げる仕草のようだった。
(演技は、おわり。倒しましょう、ソラ。……ソラ?)
 不思議がっていながらもナイが言われた通りにする中、ソラスティベルは立ち上がる。視線を影朧に差し向けた彼女は涙を拭い、強く宣言した。
「貴方は仇です! この報い、余さず受けてもらいます……!」
「まあ、勇ましいこと。ですが、貴方もすぐにその方の元に送ってあげますわ」
 くすくすと笑った影朧は双眸を細める。
 そして、ソラスティベルを死に導くために猟奇殺人の小話をはじめていく。
 たとえば滅多刺しにされる死に様。
 もしくは心臓を一突きにされる苦しみ。
 更には、身体をすべてバラバラにされる痛み。
 影朧の声を聞いたソラスティベルは頭を抱えるような仕草で蹲ってしまう。
「うぅ……そんな、死に方――!」
 だが、これもすべてて演技だ。ナイくんの復活を隠し、怒りと絶望に呑まれたふりをして敵の視線を惹きつける。それこそがソラスティベルの作戦だ。
 されど魔力を伴う言葉に彼女が全く揺らがなかったわけではない。
 確かに死を考える瞬間はあった。されど今はそれ以上に心を占める思いがある。ソラスティベルは自分に喝を入れ、果敢に耐えた。
 殺されたくなる願望を気合いで押し込め、立ち向かうと心に決めた勇気で以て精神汚染を塗り潰す。
 同様に倒れたふりをしているナイも小話を聞いていた。
 だが、彼には効いていない。何故ならナイは死に慣れて言える。様々な殺され方を経験しているナイはその総てを知っていた。それに、どう殺されても再生するのだ。
 私は死なない、死ねない。
 だからこそ止まらずに救い続ける覚悟がある。
 そんな二人に対し、影朧は次々と小話を語ってゆく。だが――。
「ナイくん、今です!」
「はい、ソラ」
「何ですの? 片方は死んでいたのでは……!?」
 油断した影朧の隙を突き、体勢を整えたソラスティベルが呼びかける。その声に反応したナイが即座に身を起こし、眩い光を解き放った。
 目眩ましにもなった閃光は生命力を奪う力だ。
 敵が動けなくなった瞬間を狙い、ソラスティベルは蒼空色の斧を振り上げた。
「もう一度語る隙は与えません! その悪意を断たせて貰います!」
 そう、勇者として。
 ナイと共に未来を切り拓く者として――。
 眩しいほどの光に導かれるように刃を振り下ろしたソラスティベル。その一閃は影朧の亡霊を真正面から貫き、戦う力を奪い取る。
 光が収束したとき、既に影朧は消え去っていた。安堵を覚えたソラスティベルは斧を下ろし、これで役目は果たしたのだと察する。
 そして、ソラスティベルはすぐにナイの元へ駆け寄った。
「ナイくん!」
「……ソラ?」
 先程、腕に抱かれていたときよりも強く抱き締められる。どうしたのかとナイが問いかけると、ソラスティベルは首を振った。その瞳には再び涙が滲んでいる。
「もう、こんなことしないでください」
 死なないとしても、必要だったとしても。目の前でナイが冷たくなっていくのが恐ろしかった。だから胸が苦しくて、痛い。
 ソラスティベルが告げた言葉に暫し考え、ナイはそっと頷く。
「……そう、ですか。では、こういう作戦は、できるだけ避ける、ですね」
「できるだけ、じゃありません。こんなことする必要がないくらい、わたし強くなりますから。だから――!」
「……大丈夫。私は、死なない、ですよ。ソラ」
 彼女を安心させるように、ナイはその背に腕を回す。
 けれど彼は、必要になってもしないとは言わなかった。ソラスティベルはそのままナイに縋るように腕に力を込め、あたたかな体温を確かめる。
 もう二度とこのぬくもりを離したくない。
 そう強く思いながら。
 そんな二人の傍を、幻朧桜の花弁がひらりと舞い落ちていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

アレス、ちゃんと動けるか?
吸いすぎた気もするアレスを無茶させないように前に出る
【青星の盟約】歌で身体強化して
真っ直ぐ駆けて2回攻撃

ああ、 うるせぇな
敵の小話を遮って
睨み付け
誰が殺されてやるかって
そう…思っていたはずなのに
じわじわと侵食していく思考
そんな風に殺されるのも悪くないかなんて
らしくもない考えが頭を過る
ああ…でも、
どうせ殺されるなら
斬られるならお前に
ふらっとアレスの前に飛び込んだ

刃の冷たさも傷のアツさもいつまでたっても訪れない
代わりに感じるのはアレスの声と体温と鼓動
ああ、そうだ俺は

この顔を曇らせたくない
その気持ちで、取り戻した正気で剣に炎の魔力を送り
思いっきり斬りつける


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

結構血を飲まれたからか、貧血が…(全部あげると言ったのは僕だから、何も言わないが)
…大丈夫、漸く真犯人が現れたんだ
だから、初めは光の衝撃波で彼の援護を

…けど、彼の様子がおかしい
セリオス、戦いに集中するんだ!
【絶望の福音】で敵を、未来を視ようとすると
…彼が僕の前に出る未来に目を見開く
何で、僕の前に
このままでは、僕は君を斬って――
――っさせるかぁぁ!!
その通りに出てきたセリオスを左手で引き寄せ
右手の剣を逆手に持ち変える
結末を…運命を変えさせてもらう!
【絶望の福音】の予測を続ける
逆手で持った剣で攻撃を受け流し
カウンターで突き刺そう

その間もセリオスは離さない
血を失ってても…絶対に守る



●君に誓う
 近付く気配は影朧のもの。
 セリオスとアレクシスは戦いが始まる予感を覚え、周囲への警戒を強めた。
「アレス、ちゃんと動けるか?」
「……大丈夫」
 身体を支えてくれるセリオスに頷き、アレクシスは平静を保てるように努める。本音を言えば血を飲まれすぎて貧血気味だ。
 セリオスとて自ら血を飲んだ身。それは十分に分かっている。
 だからこそ平気だというアレクシスには無茶をさせられない。それなら良い、と答えながらも前に出たセリオスは彼を護る心算でいた。
 アレクシスも強がりがばれていると知っている。だが、全部あげると言ったのは自分でもある。それゆえに弱音など口にしなかった。
「まあ、なんてこと。殺し合っていたのではなくて?」
「漸く真犯人のおでましだね」
「らしいな。俺達が死んでなくて残念だったか?」
 アレクシスが身構える一歩前で、セリオスは不敵に笑いながら青星の盟約の力を解放していく。そして、敵が動く前に地を蹴った。
 真っ直ぐに駆ける彼の背を瞳に映し、アレクシスも攻勢に入る。
 セリオスが敵を穿とうとする中、放つのは光の衝撃波。満足に動けぬ自分が出来ることは彼の援護。アレクシスは気を引き締め、思わずふらつきそうになりながらも確りと足元を踏み締めた。
 だが、くすりと笑った影朧が口をひらく。
「死なないのなら、死にたくしてさしあげますわ」
 そんな語り口から始まったのは猟奇殺人の小話。それは聞いたものに自分も是非このように殺されたいという感情を与えるものだ。
 ――と、死体は何れかの部位が欠損していますのよ。
 聞かされたのは腕や足を切り落とされて死ぬ殺人劇の話。だが、セリオスはその話を一蹴するように相手の声を遮った。
「ああ、うるせぇな」
 睨み付け、誰が殺されてやるかと毒突く――はずだった。
 そう、思っていたはずなのに。
「セリオス?」
 彼の様子がおかしいと逸早く気付いたアレクシスがその名を呼ぶ。だが、セリオスの思考に重なるように影朧の小話が紡がれていった
 じわじわと侵食していく思考。
(ああ、そんな風に殺されるのも悪くないか……)
 自分らしくもない考えが頭を過っているが、今のセリオスにはそう考える力は残されていない。
「セリオス、戦いに集中するんだ!」
 強く呼びかけたアレクシスは絶望の福音の力で敵と未来を視ようとする。だが、其処に見えたのは自分の元に飛び込んでくるセリオスの姿だった。
(どうせ殺されるなら、斬られるならお前に)
 ふらりと此方に近づいてくるセリオス。
 目を見開いたアレクシスは首を振り、来るなと叫びそうになる。だが、混乱した頭が状況を正しく理解させてくれない。
「何で、僕の前に。駄目だ。このままでは、僕は君を斬って――」
「……アレス」
「――っさせるかぁぁ!!」
 そのとき、セリオスが名前を呼んだ。
 はっとしたアレクシスは右手の剣を逆手に持ち変え、セリオスを左手で引き寄せた。結末を、運命を変える。そう決意した彼の行動は死の未来を退ける。
「……アレス?」
 正気に戻ったセリオスは自分がアレクシスに抱かれているのだと気付く。刃の冷たさも傷の熱さもいつまでたっても訪れなかった。ただ、先程まで抱いていた死の衝動が無くなっている。
 代わりに感じるのはアレクシスの声と体温と鼓動。そして、眼差し。
「ああ、そうだ俺は――」
 この顔を曇らせたくない。ただそれだけだ。
 悪ぃ、と告げて体勢を立て直したセリオスは剣に炎の魔力を送ってゆく。
 セリオス、と名を呼び返したアレクシスの表情は安堵に満ちていた。血を失っても絶対に護ると誓ったからこそ、彼らは勝機を得ている。
「やろうか、セリオス」
「ああ、行くぜアレス!」
 互いに呼びかけあった二人は影朧へと立ち向かっていった。
 炎を纏う刃。そして眩い光の衝撃が、同時に解き放たれたその瞬間――影朧は断末魔すら遺さぬまま倒れ、跡形もなく消えていった。
「良かった……」
「逆に心配かけちまったな。っと、アレス!」
 視えた未来が現実のものにならずとも済んだことでほっとするアレクシス。だが、緊張の糸が切れたのか彼はふらりと倒れ込みそうになる。
 その身体を支えたセリオスは、ふっと笑った。
 今はこのまま身を預けてくれればいい。身を挺して自分を救ってくれた彼に静かな笑みを向け、セリオスはその身体を優しく抱き締めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
清史郎f00502と

例え虚構でも裏切りなんざもう御免だ
此処からは真実を示すのみ

敵が死に満足する等で隙見せた瞬間、清史郎と打って出る
息は自ずと合うと信じ、早業の騙し討ちで先制攻撃――水飛沫に紛れ※水属性変眩放ち挨拶がてら目潰しを

物語にどんでん返しはつきものだろ
胸糞悪い茶番にゃ終止符打って、平和な逸話を――友人との在るべき物語を此処に再び

敵攻撃は身や得物に呪詛耐性宿しつつ※ぶつけ相殺
余裕ありゃ数本痺れ齎す毒属性混ぜ茫子も狙う
と見せ掛けフェイントで欺き(直撃すりゃ儲け)、清史郎の攻撃が通るよう援護

この先は俺達で紡ぐ
またこの橋に、友愛の縁のもとに、やすらぎ満ちる時を――桜と紫雲英の加護が絶えぬ日々を!


筧・清史郎
伊織(f03578)と

友と一芝居打つのも愉快かと思ったが
そろそろ水底も飽きた
死体遊びはもう終わりだ

敵が俺達の死を確認する隙を見計らい【水龍桜雨】の水矢を見舞ってやろう
敢えて揃えずとも、伊織との呼吸は合うだろうしな
伊織の挨拶に、俺も蒼桜綴抜き続こうか

敵が禍々しき文言の炎を綴るのならば
俺はそれを打ち消す水龍の矢と蒼桜の刃で友との物語を綴ろう
敵を共に討ち滅ぼす、妖退治のな
勿論、退治後は温泉を友と楽しむという平穏な締めでな
伊織の攻撃で生じた敵の隙をつき、斬り込もう

紫雲英の名を冠する橋に似合うのは、猟奇殺人などではない
心和らぐという、その花が咲かせる意味の如き
そして舞う桜に誓った――友愛というやすらぎだ



●やすらぎ橋にて
 これが譬え虚構であり、束の間の演技だとしても。
(――もう裏切りなんざ御免だ)
(ああ、そろそろ水底も飽きたな)
 伊織は此方に近付いてくる禍々しい気配を感じ取り、清史郎と視線を交わしあう。友と一芝居打つのも愉快ではないかと思っていたが、死体遊びはもう此処で終わり。
 此処からは真実を示すのみ。
 伊織は揺蕩うふりをしながら、清史郎と共に橋の上を見上げる。
 其処には二人の死を確認しに訪れた影朧の分体である、亡霊めいた少女が訪れていた。まだ相手は此方が死んでいると思っている。
 ならば不意打ちを狙うだけだとして、二人は機を計っていく。
「ふふ。ふふふっ、なんて無様なのかしら」
 可笑しげに笑う影朧。
 その双眸が満足げに細められた、次の瞬間。
 伊織が勢いよく水面から飛び出しながら橋の欄干まで駆け上った。同時に清史郎も岸辺へと移動し、即座に詠唱を紡ぐ。
 ――舞い降れ、桜雨。
 その声と共に影朧の頭上から水矢が降り注いだ。水飛沫をあげながら接敵した伊織は暗器を解き放ち、敵の身を穿つ。
 彼らの同時攻撃を受けた影朧は思わず後退る。
 その隙に清史郎も橋の上へと跳躍し、桜花弁を纏う水龍の力を重ねていった。蒼桜綴を抜いた清史郎。彼と敵を挟み込むように布陣した伊織。
「なっ……何ですの!?」
「驚いたか?物語にどんでん返しはつきものだろ」
 戸惑う影朧に伊織が薄い笑みを向けると、相手はわなわなと震え出した。
「謀りましたわね」
 彼らが死を偽って自分を誘き寄せたのだと察した彼女は静かな怒りを見せる。
 ――わたくし以外が綴った小説なんぞ燃えておしまい。
 そんな言葉と同時に万年筆で綴られる禍々しき文言が周囲に浮かび上がった。伊織と清史郎の両方を穿とうと放たれた焔は激しく燃える。
 原稿用紙と彼岸の花を火種にして轟々と燃え盛る怨恨の炎。それらは水死したはずの彼らの最期を焼死という結末に変えようと狙い、迸っていく。
 だが、当たると拙いと分かる焔を甘んじて受けるような二人ではない。
「ふむ、炎と来たか」
 清史郎は敵が禍々しき文言を綴るのならば、此方も物語で対抗しようと決めた。伊織、と友の名を呼んだ彼は炎は自分に任せて欲しいと示す。
 そして、清史郎はそれを打ち消す水龍の矢を解き放ちながら、蒼桜の刃を振りあげた。水の流れと剣閃で綴るのは友との物語。
 それは即ち、敵を共に討ち滅ぼす妖退治譚だ。
 伊織は邪魔な炎を打ち祓ってくれる彼に感謝を抱き、自らは影朧に向かう。
「胸糞悪い茶番にゃ終止符打って、平和な逸話を――ってな」
 仲違いをするような寸劇はもう要らない。
 友人との在るべき物語を此処にふたたび集わせるべく、伊織は痺れを齎す毒を暗器に仕込んでいった。
 敵に命中した一閃がその身を痺れさせる。
 だが、放たれる怨恨の焔は更に燃え上がっていく。されど伊織達は決して慌てたりなどしない。冷静に軌道を読み、身を翻すか一閃で以て炎をいなす。
「どうして、何故当たりませんの……?」
「それはだな、負けられぬからだ」
「そりゃな。こっちは生きて帰るって目的もあるし?」
「ああ、退治後は温泉を友と楽しむという平穏な締めを綴らねばならないからな」
「そうそう!」
 影朧が零した疑問に対し、二人はそれぞれの言葉を返した。
 そして伊織は攻撃すると見せかけ得てフェイントで欺き、清史郎に目配せを送る。その視線を受けた彼は伊織の攻撃で生じた敵の隙を突き、一気に斬り込みに向かった。
「紫雲英の名を冠する橋に似合うのは、猟奇殺人などではない」
「この先は俺達で紡ぐ」
 凛と宣言しながら清史郎は刃を差し向ける。
 毒で満足に動けぬ影朧に向け、伊織も更なる一撃を放った。
 此の橋には死など似合わない。それこそが彼らが共通して抱く思いだ。伊織は言葉を続け、今だ、と清史郎を呼ぶ。
「またこの橋に、友愛の縁のもとに、やすらぎ満ちる時を!」
「心和らぐという、その花が咲かせる意味の如き平穏を」
 桜と紫雲英の加護が絶えぬ日々を。
 刹那、清史郎の振るった刃が影朧を真正面から貫き、その身を切り裂いた。影朧は断末魔も残さずに消え去り、辺りに静寂が満ちる。
 二人はこの場での戦いが終わったと察し、静かに頷きあった。
 舞う桜に誓った友愛。
 そう呼べるやすらぎが確かに此処にある。そう感じながら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
【エレル】
如月さまにぽーんと投げられて、くるりと猫の様に着地

影朧さん的に我々のコントの様な殺人劇で良かったのかな?という疑問はさて置き
貴女が拾った(中略)ドラゴン(中略)、絶対返していただきます!かーえーせー

お気持ちは分かりますが頑張りましょう、エンジさま
ロカジさまはお優しいお方…きっと埴輪(等身大)を許して下さいますよ

雅楽代さま…そ、それは?神の力が宿りし神話級(中略)ドラゴン(中略)…!!

(中略)ドラゴン(中略)同士の戦い…!わたしはそのサポートに
【七哲】のうち六っつはブラフ。本命はそう、貴女の足元に気づかれない様投げたバナナの皮
気をつけて下さいね、非常に良く滑りますから


ロカジ・ミナイ
【エレル】

ヒョイと欄干に降り立ち
おやおや、黒幕はずいぶんと可愛らしい物書きさんだったんだねぇ

ああ、なんだいエンジくんはそんなに埴輪にご執心なのかい?
仕方ないなぁ…かーっこよくきまったら店に置いてもいいよ
出来れば雌でグラマーな埴輪にしておくれ

真珠から受け取った神話級中略剣を構え……構
10センチじゃん
いいや、真の剣士は綿棒でも戦えると聞く
神話級の剣技を魅せてやろうじゃないか
掛かってこいよ5センチ

おっと!ヨシュカのバナナで滑ったらいけない
気を付けないとね!
うっかりスッテンコロリンしちゃったら
浴衣の中が見えちまうもの!

今夜もみんなイケてたね
では、エレル製薬はこれにて閉店


エンジ・カラカ
【エレル】

アァ……アイツが黒幕カ。
コレは水が苦手なンだ。
埴輪の為頑張るケド。
やる気が出ないなァ……。

全身に滴る雫をこれでもかと振り払っておこう
じゃないと力が出ない。

やる気が出ないー。
ロカジンが等身大の埴輪をオーケーしてくれたらなァ……。

買った小さい埴輪を影朧に投げつけよう
そしたらコノ埴輪を武器にして戦わないかなァ……。
アーアー、埴輪ー。等身大の埴輪ー。

ア。スパソ!!!!伝説のスパソ!!!
シンジュすごいすごーい。
でも埴輪の方が強いのサ。

バナナー
ヨシュカ……?バナナ……?
埴輪ー

スパソにバナナに埴輪
コレなら影朧もびっくりダ。絶対に勝てる。


雅楽代・真珠
【エレル】
如月、僕以外を橋の上に投げて
土左衛門ごっこをしていては戦えないからね

そんな、まさか…
蜘蛛竜獄炎十字金剛剣(すぱいだぁどらごんいんふぇるのくろすだいやそぉど)が質にとられるだなんて…
埴輪の良いところを見せればロカジも埴輪を認めざるを得ないだろうから
頑張るのだよ、エンジ

伝説の竜剣に勝つ為には僕も力を貸さねばならないようだ
『玉手箱』を開いて取り寄せるのは―
竜神の加護を受けた神話級の剣
蜘蛛竜神獄炎十字金剛剣(すぱいだぁごっどどらごんいんふぇるのくろすだいやそぉど)(刃渡り10せんち)
この剣はロカジに託すよ
さあ、やっておしまい

後は温泉饅頭片手に観戦
あの甘蕉の皮は強い
何せ如月を転ばせたのだから



●エレル製薬奮闘記
 橋に禍々しい気配が現れた直後。
 そんな中で水辺から跳ねる影がひとつ。ぽーん、と放り投げられたように宙でくるりと回転したのはヨシュカだ。
 そして、そのまま宛ら猫のように橋の上に着地する。
 その後を追うように宙をふわり、ふわりと優雅に泳いできたのは真珠。
 更にぽんぽーんと飛んだふたつの影が欄干に向けてひょいと降り立ち、最後にしなやかな影が橋の上に現れた。それは絡繰人形の如月によって水上に投げられたロカジとエンジ。そして、一番後に橋に乗ったのが密やかな功労者である如月だ。
 真珠は如月の腕の中に収まり、これで全員だと確かめた。
「よくやったね、如月」
 土左衛門ごっこをしていては戦えないからね、と従者を褒めた真珠は橋の中央を見遣る。其処には仲間の誰でもない者――即ち、影朧が現れていた。
「貴方達、死んだのではなくて?」
 驚く影朧。
 対するロカジはからからと笑った。
「おやおや、黒幕はずいぶんと可愛らしい物書きさんだったんだねぇ」
 ロカジは少女めいた姿をした影朧に揶揄い交じりの言葉を向ける。エンジも敵を一瞥し、自分の身体をこれでもかと震わせながら水滴を飛ばした。
「アァ……アイツが黒幕カ。コレは水が苦手なンだ。埴輪の為に頑張るケド」
 ちょっと止めてよ冷たい、なんてロカジの声を無視したエンジ。そんな彼の言葉を聞きつけ、ロカジは軽く首を傾げた。
「ああ、なんだいエンジくんはそんなに埴輪にご執心なのかい?」
「やる気が出ないー。ロカジンが等身大の埴輪をオーケーしてくれたらなァ」
「お気持ちは分かりますが頑張りましょう、エンジさま。ロカジさまはお優しいお方……きっと埴輪を許して下さいますよ」
「そうだね。埴輪の良いところを見せればロカジも埴輪を認めざるを得ないだろうから、頑張るのだよ、エンジ」
 其処にさっと助け舟に入ったヨシュカ。真珠も静かに頷き、ロカジへと視線を送る。彼らなりの埴輪をおいてあげようキャンペーンだ。
「仕方ないなぁ……かーっこよくきまったら店に置いてもいいよ」
 出来れば雌でグラマーな埴輪にしておくれ、という注文がロカジによって付けられつつも皆の間での埴輪論争にはひとまずの決着がついた。
 そんな中でひとり置いてけぼりの影朧。
「先程から埴輪だのドラゴンだの何を騒いでいましたの?」
 問いかける少女の手にはスパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソードが握られている。はっとした様子を見せた真珠はまさにいま気付きましたといった様子で影朧の手元を見つめた。
「そんな、あれはまさか……」
「ア。スパソ!!!! 伝説のスパソ!!!」
「貴女が拾っていたのですね。伝説の(略)を……!」
 続けてエンジが剣を指差し、盛大に略したヨシュカも視線を向ける。真珠は如月に凭れ掛かりながら、哀しげな声色で嘆く。
「蜘蛛竜獄炎十字金剛剣が質にとられるだなんて……」
「絶対返していただきます! かーえーせー」
「え? ええ?」
 玩具だと思っていたものが主軸になっている展開に影朧は付いてこれていない。敵が戸惑っている間に、真珠は玉手箱の力を発動させてゆく。
 神妙な、神様のような雰囲気を醸し出す彼は両手で玉手箱を包み込む。
「伝説の竜剣に勝つ為には僕も力を貸さねばならないようだ」
 そして箱を開いて取り寄せるのは――。
 竜神の加護を受けた神話級の剣。
 これこそ、敵の剣に対抗できる†蜘蛛竜神獄炎十字金剛剣†(スパイダードラゴンインフェルノクロスダイヤソード)だ。
 しかも刃渡り十センチ。影朧が持つ物の二倍。
「雅楽代さま……そ、それは? 神の力が宿りし神話級(略)……!!」
「シンジュすごいすごーい。でも埴輪の方が強いのサ」
 驚きを隠せないヨシュカ。この際にも埴輪アピールを欠かさないエンジ。そんな二人の声を受け、真珠は神々しい雰囲気を纏ったままロカジに手を差し伸べた。
「この剣はロカジに託すよ。さあ、やっておしまい」
「これは――」
 剣を受け取ったロカジは刃を敵に向けて構えようとしてから、真顔で突っ込む。
「十センチじゃん」
「こちらは五センチだというのに……!」
 だが、何故か影朧が声を震わせている。何せ二倍だ。悔しいに違いない。
 気を取り直したロカジは剣を握った。すると相手も刃を構える。
「いいや、真の剣士は綿棒でも戦えると聞く。神話級の剣技を魅せてやろうじゃないか」
「綿棒は流石に無理無理のかたつむりですのよ」
 スッと真顔になる影朧。
 だが、次にロカジが言い放つ言葉によって再び心を掻き乱されてしまうことになる。
「掛かってこいよ五センチ」
「なんですって……。きゃ、あいたっ!」
 わなわなと震える影朧だったが、不意に何かが頭にぶつかって声を上げてしまう。その正体はエンジが投げたちいさい埴輪だ。
 真剣勝負の中に混じった埴輪の存在にヨシュカは胸の高鳴りを覚えた。
「(略)同士の戦いと埴輪の三つ巴……!」
 そして、ヨシュカは自分にも出来ることがないかと考え、戦場に七哲の暗器をばらまいていく。これで戦いは更にスリリングになる。だが、そのうち六つはブラフ。本命は、そう――影朧の足元に気づかれないように投げたバナナの皮。
 もう何が何だか、滅茶苦茶だ。
「いざ、勝負!」
「望むところですわ」
 じりじりと距離を詰めるロカジと影朧。
 それを欠伸をしながら観戦する真珠は正直を言うと飽きてきているらしい。その欠伸が移ったらしいエンジもふあぁ、と大口をあけた。
 だが、戦いの最中であるロカジの瞳はとても真剣だ。
 そして、唯一真面目に戦いを見つめていたヨシュカから声があがる。
「ロカジさま、今です! どうか……この世界に光を!」
 その声に頷きで以て答えたロカジはひといきに駆け出した。伝説の剣を振り上げた彼はきっと刺し違えるつもりで影朧に向かっている。
 さあ、行けロカジ。戦えロカジ。
 君の勇気と希望がこの戦いに決着をつけると信じて――! 第一部・完!
 
 ということで始まった第二部。
 伏線回収も決着もすっとばして、四人は橋の上でのんびりと過ごしていた。その手には食べ歩きの際に買っていた土産用の温泉饅頭が握られている。
「イヤー、まさかバナナと埴輪がなァ」
「埴輪があんなに活躍するなんて、驚きでしたね……」
 もぐもぐと饅頭を頬張るエンジとヨシュカ。
 そして、その隣には真珠と如月。更にはロカジが欄干に凭れ掛かりながら、幻朧桜の花が散る様を眺めていた。
「ロカジも良い転びっぷりだったね。すってんころりん戦法は見事だったよ」
「浴衣でポロリは何とか抑えられたからギリギリの戦いだったよ」
「あの甘蕉の皮は強いね。何せ如月を転ばせたのだから」
 語り合う真珠とロカジは先程まで巡っていた伝説の戦いを思い出していた。
 二振りの剣。
 埴輪とバナナ。
 すべてが調和した結果、なんやかんやで色々すごかったらしい。影朧も剣戟の合間に飛んできた埴輪を避けようとした際にバナナで滑って打ち所が悪くて死んだ。
「恐るべしバナナ、ですね……!」
「これでグラマー埴輪、店に飾れる? 飾れる?」
「飾れるよ。あのぺなんとと一緒にね」
 ヨシュカがバナナも標準暗器のひとつとして迎え入れる検討をする中、エンジと真珠が店先のインテリアについて語っていく。
 何だか混沌具合が凄いが、判定上でヨシュカが脅威の成功率二百パーセント以上という数値を叩き出したのでこれはもう大成功で良いと判断されたのである。即ち、皆で一点に向けて突き抜ければ強い。そういうことだ。
 ロカジはこれが自分達らしさだと感じながら、そろそろ行こうか、と皆を誘う。
「今夜もみんなイケてたね」
「はい! (略)ソードも回収しましたからね」
「アァ、イケてたイケてた」
「帰ろうか如月。今回は僕まで働きすぎた気もするよ」
 ロカジの呼びかけにそれぞれが自由に答え、一行は宿に向かって歩き出す。

 それでは、それでは。此度のエレル製薬はこれにて閉店。
 またのお越しを!
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳳来・澪
【花守】
敵が来たらふらりと力無く立ち上がり
然り気無くちょこにゃんを自分の影に隠しつつ
まさか…あんたが全部仕組んだの…?
二人がこうなるようにって…!
許さへんから!
と錯乱し、あえて大振りな凪ぎ払い攻撃を
――仕掛け敵の視界遮り、うちは囮に
同時にUC・オーラ防御・火炎呪詛耐性で守り強化

そう、あんたの望む惨劇なんか許さへんから
――本命の一手は任せたよ、2人とも
ふふ、それじゃ今度こそ一緒に切り抜けよか!

敵攻撃には破魔と水属性重ねた範囲攻撃ぶつけ緩和
じっちゃんやちょこゃんが守り担うてくれる時は、2回攻撃で衝撃波重ね万年筆や手元狙い武器落としを

さぁ、事件に終止符を
そしてその先に、また皆で楽しい物語を紡いでこう


鈴丸・ちょこ
【花守】
澪の影に倒れたまま、第六感や野生の勘で、敵が油断や隙見せる時を探る

応、許さねぇとも――これ以上の茶番も、我が戦友への手出しもな!

機が来りゃ影から早業で一気に駆け
覇気纏う牙、と見せかけ爪で騙し討ちの2回攻撃
今回は本気だぜ

いや八雲はちと黙れ!
――ハッ、それは兎も角、猟奇殺“人”?
生憎と俺は猫だ、アウトローだ
死場はてめぇで選ぶと決めてんだよ
胸糞悪い筋書なんざに誰が乗るか
敵攻撃にはそう反抗

後は防御代わりに早業や残像で敵の目を翻弄しつつ、筆や手に覇気爪牙で武器落としへ
仲間の攻撃刺さる瞬間あれば一撃必殺で追撃

殺人鬼にみそめられるなぞそれこそ御免
此処に絶つはてめぇの目論見
儚く潰えな

…魚は貰ってやる!


重松・八雲
【花守】
倒れたまま出番待機
野生の勘で敵の隙か仲間の危機を察せば即行動

UCにオーラ防御と各耐性重ね攻守強化しつつ、一気に高速飛翔で敵を押して一撃
同時に仲間庇う形も意識し乱入

よし、三人並べば今度こそ怖いものなしじゃな!
皆で攻守代わる代わるに、互いの隙を補い連携

小話…?
すまぬ、小難しい話はよくわからぬ!(本気で解せぬ顔)
儂はちょこにゃんにやられるならば本望じゃが!(再)

文言や炎飛ぶ気配あらば破魔宿す武器で吹き飛ばし
防御任せられる時は再び高速で敵に迫り、怪力で武器叩きつけ筆落としや体勢崩しを図る

さぁ黒幕には退場願い、大団円と致そうか!
あ、ちょこにゃんには改めてお魚あげるでの!
あと血糊洗ってやるでの!



●この後、お魚の宴を開催した
 訪れた敵の前。
 澪はふらりと力無く立ち上がり、影朧を見つめる。
 その際にさりげなくちょこを自分の影に隠した澪は敵に胡乱な目を向けた。
「まさか……あんたが全部仕組んだの……? 二人がこうなるようにって……!」
「ふふふ。勝手に自滅しただけですわ」
 くすりと嘲笑った影朧は倒れ伏している八雲を一瞥する。ちょこが視界にないことは気になったようだが、ちいさいのでそれ以上は気に留められなかったようだ。
 その間にちょこは澪の影に倒れたまま敵の様子を窺う。そして、澪はキッと影朧を睨みつけながら強く宣言する。
「許さへんから!」
 更に大振りな凪ぎ払い攻撃で以て敵の注意を引いた。
「応、許さねぇとも――これ以上の茶番も、我が戦友への手出しもな!」
「儂も許さぬ!」
 それと同時にちょこが素早く駆けて影朧を爪で穿つ。八雲も澪を守るように立ち上がり、堅固たる根性を表す守護のオーラを展開していく。
「なっ……死んでいませんでしたの!?」
 澪の一撃は躱せたものの、影朧はちょこの一閃をまともに受けてしまう。
 そして、三人に謀られたのだと察した敵は静かな怒りを抱く。しかし八雲が一気に高速飛翔を行いながら、その身体を押す。
 思わず相手がよろめいたところへ澪が薙刀を振るい、その動きを牽制した。
「ちょこにゃん!」
「ああ。今回は本気だぜ」
 澪が火炎と呪詛耐性によって守り強化していく最中。ちょこは、覇気を纏う牙で――と見せかけ爪を振るう騙し討ちの一閃を叩き込む。
 対する影朧は痛みを堪え、原稿用紙と彼岸の花を火種に燃え盛る怨恨の炎を放った。八雲は防御の力でそれを受け止めながら、ちょこと澪への攻撃を防ぐ。
「よし、三人並べば今度こそ怖いものなしじゃな!」
「小癪ですわね」
 八雲の底抜けに明るい笑顔が気に障ったらしく、敵は猟奇殺人の小話を披露していく。それは自分もこのように殺されたいという感情を与える魔力を宿している。
 ――と、死体は何れかの部位が欠損していますのよ。
 されど八雲は首を傾げた。
「すまぬ、小難しい話はよくわからぬ!」
 本気で解せぬ顔をしている八雲は死にたいなどという思いはひとかけらも持っていない。だが、代わりに答えたのは実に彼らしい一言だ。
「儂はちょこにゃんにやられるならば本望じゃが!」
「いや八雲はちと黙れ!」
 つい突っ込んでしまったちょこは頭を振る。じっちゃんらしい、とちいさく笑む澪もまた、敵の声に耳を傾けないことで死への思いを回避した。
 そして、ちょこはくだらないとばかりに敵の言葉を一蹴する。
「――ハッ、それは兎も角、猟奇殺“人”? 生憎と俺は猫だ、アウトローだ。死場はてめぇで選ぶと決めてんだよ」
 胸糞悪い筋書なんざに誰が乗るか、と語ったちょこは跳躍した。
 戦いは三対一。
 しかも連携が整っている相手となれば影朧は苦戦せざるを得ない。澪はもうすぐ戦いが終わると察し、真剣な眼差しを影朧に向けた。
「そう、あんたの望む惨劇なんか許さへんから。後の一手は任せたよ、二人とも」
 八雲とちょこに呼びかけた澪は今度こそ一緒に窮地を切り抜けられると感じていた。彼女が破魔と水の属性を重ねた力を炎にぶつけて緩和する中、ちょこは素早く立ち回って敵を翻弄していく。
「流石じゃな、ちょこにゃん」
「褒められなくてもやるときゃやるんだよ」
 八雲からの称賛を軽く受け流し、ちょこは敵の万年筆を狙って飛びかかった。
「きゃ……!」
 途端に叩き落されるペン。
 その隙を突いた八雲がひといきに肉薄し、その怪力で以て影朧の体勢を揺らがせる。ちょこは素早く身を翻し、澪達を呼んだ。
「殺人鬼にみそめられるなぞ、それこそ御免だ。此処に絶つはてめぇの目論見」
 ――儚く潰えな。
 その言葉と共に澪も身構え、薙刀を大きく振るい上げた。
 さぁ、事件に終止符を。そして、その先でまた皆で楽しい物語を紡いでこう。
「そうじゃのう。黒幕には退場願い、大団円と致そうか! あ、ちょこにゃんには改めてお魚あげるでの! あと血糊洗ってや――」
「じっちゃん、いいから真剣に敵見て!」
「いいから合わせて行くぞ! ……あと魚は貰ってやる!」
 そんな彼等らしいやりとりを交わしながら、三人はひといきに敵へを駆けた。
 そして、一瞬後。三人が放った一撃ずつにそれぞれ貫かれた影朧は崩れ落ち、その姿は瞬く間に薄れて消えていった。
「これで一件落着やね」
「皆が無事でよかったの」
 武器を下ろした澪が微笑むと、八雲も深く頷く。そんな中でちょこはふいと視線を逸したが、其処にあるのはまんざらでもないという雰囲気だった。
 こうして一行は役目を果たした。
 きっと後は別の猟兵がこの事件に完全に幕を下ろしてくれるだろう。
 そう感じつつ三人はまず血糊を落とすために水場に向かっていく。しかし、其処でもきっと二人の猫好きが最大限に発揮されるはずで――どうやらまだまだ、ちょこ達の波乱のひとときは終わりそうにないようだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六道・橘
※負傷描写歓迎

橋まで逃げてきたら背後より喉元を掻き斬りましょう
当たり外れ気にせずそのまま七連、九つ目は自らの手首斬る
相手の攻撃は喰らおうが逃げず躙り寄り恐怖を与える

ねぇ、この橋の設定とても素敵だわ
あなたがお考えになったの?其れとも何かの模倣かしら?
前者と答えたら斬りつける
…まぁ嘘を吐くならもっとお上手になさいな
あなたからは独創性の欠片も感じない
皆が思い思いに死んだところを書き記してもそれは胸躍る虚構ではなく単なる記録
そう心の傷口をえぐり再び八回斬りましょう
心という部位をどうしようもないぐらい破壊して蹂躙しつくしてあげるわ

あなたは謎なんて著せない
わたしと同じ出来損ないよと九回目は自分の首筋を刻む



●推理作家は騙れない
 緋色が鮮やかな或る橋の上。
 此度の黒幕である影朧、随遊院茫子は逃げていた。
 どうして、何処に行っても誰も死んでいないの。わたくしの殺人劇の筋書きは完璧だったはずなのに。なぜ、どうして――。
 彼女は自らが様々な場所に飛ばした霊体のひとつなどではない。
 悉く霊体が撃破されていることを悟り、この場から逃れようとしている本体だ。
 息を切らせて走る。
 走って走って、誰もいない紅い橋の上まで辿り着いた。
 此処なら誰もいないだろうと安堵する茫子は立ち止まる。だが、次の瞬間。
 
「――ねぇ」
 誰かの声が耳に届いたと感じた時には既に、茫子の喉が背後から掻き斬られていた。
 かは、という声と共に噴き出す血。
 思わずその刃から逃れようと身を低くして転がった茫子が見たのは、殺戮刃を握った橘の姿だった。
 彼女はそのまま止まることなく、這い蹲る茫子へとふたたび刃を振り下ろす。
「ひ……!」
 悲鳴をあげた茫子は横に身を逸らすことで何とか二撃目を避けた。だが、橘は一撃ずつの当たり外れなど気に留めない。
 三撃目、四撃――そして七、八。九つを数える中で自らの手首を斬り、橘は双眸を鋭く細めた。滴る血。見る間に紅い橋が違う赤で塗り潰されていく。
 どちらの血液であるかもわからぬ程に混ざり合う色。
 躙り寄る橘は茫子から視線を逸らさず、先程の言葉の続きを紡いでいった。
「この橋の設定、とても素敵だわ」
 相手からの反応は無かったが、橘は矢継ぎ早に問を投げかけていく。
「あなたがお考えになったの? 其れとも何かの模倣かしら?」
「わ、わたくしが考え、」
「嘘」
 震える声で答えた茫子が最後まで言葉を言い終わらぬうちに、橘は更に彼女の身を斬り裂いていった。
 倒れる影朧。その肉を抉る感触に口端を緩め、橘は茫子の手を地面に縫い付けるかのように刃を突き立てる。万年筆が手から転がり落ち、絶叫が辺りに響き渡った。
「まぁ嘘を吐くならもっとお上手になさいな」
 あなたからは独創性の欠片も感じないのだと断じ、橘は茫子に跨る。
「皆が思い思いに死んだところを書き記しても、それは胸躍る虚構ではなく単なる記録。物語とは呼べないのよ」
「あの橋の話は父の、わたくしの……目指す猟奇推理作家の――」
「そう」
 茫子が真実を語ろうとしたとき、橘は心底興味がないといった様子で一瞥した。
 身体だけではなく心の傷口を抉るように。冷たい視線を投げかけた彼女はふたたび、八度の斬撃を茫子に浴びせかけた。
 次はすべての斬撃が相手の肉を裂き、魂まで削り取る。
 心という癒せぬ部位をどうしようもないぐらい破壊して、蹂躙しつくして、そして殺す。影朧という存在を屠り、この場から消滅させる為に。
 相手が事切れかけていることを確かめた橘は一度だけ瞼を閉じた。
 そして、橘は消えゆく影朧へ最期の言葉を送る。
「あなたは謎なんて著せない」
 ――わたしと同じ、出来損ないよ。
 そのように囁いた橘は九度目の斬撃を自分の首筋に刻み、くすくすと嘲笑った。
 迸る血。赤に染まる橋。
 宵の空は昏く、風に舞った桜の花が橋にちいさな影を落とす。
 そうして、影朧が起こそうとした殺人事件には血色の幕が下ろされた。
 
●花影の終幕
 殺人劇は未然に防がれ、温泉郷には平穏が訪れる。
 予知で殺されるはずだった人々はそもそも温泉街には訪れておらず、見立て殺人の手紙を受け取った猟兵達もすべて戦いに勝利した。
 落とされてしまった唯一の外界との連絡手段である大橋も、いずれ応急処置が成されて渡れるようになるだろう。
 猟兵達はそれまでそれぞれににのんびりと温泉街を楽しむことが出来る。
 幻朧桜は変わらず美しく咲いていた。
 ひらひらと舞う桜の花弁が落とす影にはもう何も昏いものはない。
 被害者はひとりもいないが、この事件は後々にこう呼ばれることになるのだろう。
 
 ――花影温泉殺人事件、と。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月29日
宿敵 『七光ラズ・随遊院茫子』 を撃破!


挿絵イラスト