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探偵達はベルーガの背の上で

#UDCアース

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#UDCアース


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●高級ワイン殺害……もとい、殺瓶事件
 男が割れて砕け散ったワインの瓶を抱えてヒステリックにわめく。
「クソ、クソ、クソが! 役立たずども! どうして俺が、こんな……!」
「ワイン瓶ひとつで喧しい。瓶が割れるか頭蓋が割れるかなど些細な違いにすぎん」
「イカれてる!」
 怯えて叫ぶ男のシャツは鮮やかな赤に染まっていた。
 男のぎらついた瞳の奥に滲む恐怖に、目の前の異形は顔色一つ変えることもない。
 波間に揺れる豪華客船は、静かだったはずの夜の海に絶叫を残して。
 そうして絹を裂くような悲痛な声のあと、白いくじらは唐突に静寂へ回帰する。

「さあさあ事件だ! 来て見て寄っといで!」
 ブラックタールの探索者である今回の事件を予知した人物、違法論・メグル(f04142)が猟兵達に呼び掛けている。
 わざとらしくメグルが芝居がかった仰々しい一例をしてみせた。
「お仕事だよ、猟兵諸君! おいしいごちそう、きらびやかなドレスに興味はない?」

●豪華客船
「今回は要人の護衛だよ。狙われてるのがただの富豪だったら良かったんだけどねえ、どうにもキナ臭い。邪神教団との繋がりが疑われる人なんだ。このパーティー自体が邪神教団の画策の可能性もある」
 メグルが示したのは、UDCアースでも有数の金持ちが一堂に会するパーティーだった。
 ドレスコード指定とあってか、訪れる人物は各国の政治家や資産家、果ては王族までと様々な有力者ばかりが大勢集まる。
 会場は夜の豪華客船。
 白イルカを模してデザインされ、繊細な意匠を施された船だ。
 長い時を掛けて造られた大型の豪華客船は、港から仰げばゆったりと美しい湾曲を描いているのが見られるだろう。
「問題の人物は、パーティー主催者の西園寺ユキオ。事業家だね。大手飲食店の経営を一任されてるみたい」
 齢三十を超えるか否か、実年齢はそこそこだろうに見た目は歳若い印象を持たせる青年だった。
 メグルから渡された写真には自信に満ち溢れた表情が写っている。
「理由は分かんないんだけどコイツがオブリビオン――UDCに狙われているのは確かだ。貴重な情報源をみすみす死なせてたまるかーって感じでシャクに触るけど守ってやんなきゃならない。狙われている理由について必ず何か知ってると思う」
「揺さぶりを掛けつつ、何故UDCに狙われなければならないのか素性と原因を探れば良いのか」
「そういうこと!」
 流れを汲んだ猟兵達にメグルが頷いた。
 しかし豪華客船を貸し切りこれだけの人数の要人を呼んでパーティーを催せる人物だ。近づくのは容易ではないだろう。
「当然だけど身辺警護が固いよ。何とか工夫して近づいてアプローチしてみて」
「工夫というと?」
 そうだなあ、とマガルが一度言葉を切る。
「パーティー参加者を装って話術で引き出したり、あるいは警備員そのものに扮して脅迫を仕掛けるっていうのはありだと思う」
「待った。ドレスコードの話がさっきあったはずだ」
 そのあたりは抜かりなく、とメグルがレインコートのポケットから通信機器を出して見せる。
 UDCアースにおける支援者のUDC組織が、潜入の手筈を整えているようだ。
 パーティーチケットの手配、警備服やドレス等の潜入に必要なものは望めば一式が揃うだろう。
「猟兵はその世界の住民に対して違和感を与えないけど、入用のものもあるでしょ。揃えられる限りで揃えてくれるって!」
「ええと、総額おいくらほどで……?」
 軽くならんだ幾多のゼロ、数桁は余裕で飛び超えるだろうドレスやスーツ、着物。
 猟兵達の勘はこの仕事中に十中八九何かしらの戦闘がおこるだろうことを警鐘を以て告げている。
 顔の引きつった猟兵達に特に気にした風でもなく、グリモア猟兵が平然と言ってのけた。
「汚しても破いても人類のためだよ。お咎めはないって」
 たぶんね、とやや不安な言葉尻を残してぱっちりウィンクを決めて見せたメグルに猟兵達は今度こそ天を仰ぐ。

 いっておいで、がんばってね、と柔らかい口調で。
 メグルは信じられないものを見る目をした猟兵達を、にっこりと笑顔で見送った。


山田
●マスター挨拶
 山田と申します。先日はシナリオ参加ありがとうございました。
 今回は潜入とナンチャッテ謎解きシナリオです。もちろん物理的解決も構いません。
 最終的には純戦となる三章ボス戦へともつれこむので力こそパワーです。バリツを嗜んでいきましょう。

●一章プレイングに関して
 ここでは「重要人物へどのようなアプローチを仕掛けるか」を記入して下さい。
 警備員に扮して近づくも良し、パーティーに招待された人間を装うも良しです。
 プレイングに書かれた内容で必要なものがあればご記載ください。
 また服を着替える場合は「何に着替えるか」を記載して頂けると幸いです。
 もちろん着替えなくとも猟兵は違和感なくパーティー会場に溶け込めます。
 アドリブOKの文言が入った場合は猟兵さんに似合いそうなものをUDC組織のメンバー、もとい山田が見繕います。
 たまにはエレガントなスタイルで依頼と洒落こんでみませんか?

●二章プレイングに関して
 一章のが成功すると、とある推理が必要なフェーズに移ります。
 現場解説や容疑者の開示のための描写として具体的な名前の出る猟兵が登場しない、空のリプレイが入ります。
 ここでは「解決方法」を記入してみてください。
 解決方法はフラグメントで提示されているPOW・SPD・WIZの例以外の別の方法でも全く構いません。
 二章はロジック解明や犯人解明が目的ではなく、名探偵や迷探偵になってもらい楽しんで頂くのが目的なので、名推理によって犯人を導き出すかそれとも迷推理であえて事件を迷宮入りにし、犯人のプライドを刺激して炙り出すかはお好みです。
 猟兵さん達のお好きな方をお選びください。

●三章プレイングに関して
 純然たる戦闘となります。基本は一律戦闘描写です。
 その場にいる関係のない一般人達は勝手に逃げる上、海上ボートにて備えているUDC組織が乗り込んできて避難誘導に当たるので特に心配しなくても大丈夫です。

●同行者に関して
 共に行動される方がいる場合は、お互いの呼び方を各位ご記載下さい。

●場所に関して
 白イルカの別名からベルーガと名付けられた豪華客船です。

●グリモア猟兵
 違法論・メグル(f04142)
 探偵の助手を名乗っている快活な青年です。
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第1章 冒険 『重要人物を守りきれ』

POW   :    肉体言語は万国共通の優れた言語です。おはなし(脅迫)しようよ。

SPD   :    話術等の技術で相手の心を揺さぶる。

WIZ   :    相手立ち居振る舞いや言葉尻から推理し、確信に迫る。

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フィン・クランケット
●SPD
ごちそう…!?(ぴく)
ドレス…!!??(ぴくぴく)
わーい、やりますやりま…こほん
いくら邪神関連の方でも、民間人の命の危機とあっては出ない訳には行きませんね!
私、がんばっちゃいます!

・ドレス
えへへ、この世界のドレスは初めてです〜
エレガントもいいけど、ちょっと可愛さも残したいなぁ
いいのありますかねぇ?(うきうきで着替える)

・接触
来賓者を装い、【コミュ力】を活かして
「西園寺さん。今日はお招きありがとうございます」と、お礼と名乗りを
自身も商売人と、社交辞令交えつつ同業であることを伝えます
船の外観褒めつつ、警備の物々しさに、何かあったんですかぁ?事件でもあったみたい等と、素知らぬ顔で聞きましょう


星群・ヒカル
うっわ壮絶な場違い感。このスカした雰囲気は細胞レベルで合わないぜッ……
見繕ってもらったタキシードはそりゃもうカッコいいけどさ。ふふふ、おれってばなんでも似合っちゃうな?(考えるうちに次第にドヤ顔になっていく)

●行動:SPD
今回おれは父親と一緒にこの船に来た、なんかの企業の御曹司という設定だ
「お兄さんが西園寺さん?こんな船借りれるなんてすごいなッ」(立食のサンドイッチを手に持ちながら)
「コミュ力」を駆使していく
「最近景気どう?」「座右の銘的なのってある?」「彼女いんの?」「忙しい?」「ライバルとかいる?」
頭使わない質問もガキと思って許してくれれば御の字
反応する言葉があれば「第六感」で悟りたいぜッ


ギド・スプートニク
シゥレカエレカと

ユキオと取り引きのある食品会社の重役を装う

私は社長役だ
本来であれば秘書を務め、敏腕社長を気取るシゥレカエレカの姿を見たかったのだが――仕方あるまい

警備員に止められそうになったらブラフで脅す
流石のユキオ殿も警備員の教育までは行き届かぬようだな、などといったように

接触後は挨拶を交わしつつカマかけ
羽振りの良さについて褒めつつ、
ライバルや妬む相手の話題から、
ユキオが何者かに狙われている可能性を仄めかす

自分も裏に内通する事をアピール
何かあれば相談に乗るとだけ伝え、その場を去る

敢えて多くを語らぬ方が、勝手に都合の良いよう想像を巡らせてくれるだろう


*アドリブ等は貴殿の裁量に委ねよう


キアン・ウロパラクト
アドリブOK

ドレスコードってのはよく分からないんだけど、
確かドレスだのスーツだの言うやつだろ?
詳しくないもんで適当に見繕ってくんな。

ところでパーティーってのは食い物とか飲み物があるのかね?
参加者として入っていけば、当然飲み食いできるよな?
なるべく自然を装いつつ、西園寺とかいう奴を探していくよ。
おっ、これうまいな!

アンタが主催か、パーティー楽しませてもらってるよ。
あー、敬語ってのはどうにも苦手なもんで話し方は見逃してくれ。
さて、普段なら肉が美味かったとか言うところなんだが
ワインが美味かったって言ってみようかね。
何かしら態度が変わるかもしれないし。


バラバ・バルディ
ほほう!船上パーティーとは優雅じゃな!穏やかな海の上、淑やかな音楽、美味なる食事、華々しく着飾った人々、楽しき談笑、空には星がきらきら~っと……行ったことはないが、そんな感じなんじゃろ?くぅーっ良いのう!任務でなければもっと良いんじゃがなあ!
【WIZ】
どうじゃ!この日のため、衣装を新調してきたのよ。メグル君から小遣いも貰ったしのう!それに折角の機会じゃ、楽しもうぞ!(※衣装おまかせ)
さて、早う片付けるためにも、まずはかの者と接触せねばな!

「これは素晴らしいパーティーじゃ!主催者はセンスがある。お主もそう思わんか?」

(『存在感』で引きつけ、『コミュ力』で警戒を解き、適度に煽てて話を引き出します)


村井・樹
UDCエージェントの仕事とはいえ、このような場にお招きいただけるのは光栄ですね
速やかに、『ホスト』にも御挨拶させていただきたいところです。
衣装は、いつもの礼服で良いでしょう

SPDで判定
『コミュ力、礼儀作法』で場の空気にそれとなく溶け込んで見せましょうか
パーティーの参加者として、『あくまで友好的な、少々噂好きな招待客』として、
同じく船に乗られている方から、『言いくるめ、誘惑』……なんだったら、『催眠術』も活用し、他の乗客についての噂や情報などを引き出させていただきます。

必要なお話が伺えましたら、『目立たない』で退散しましょう
何かを感付かれても面倒ですので。


※他猟兵との絡み、プレ外の言動大歓迎


花菱・真紀
アドリブ連携歓迎

【SPD】
使用技能:コミュ力、先制攻撃、情報収集、言いくるめ

こんなキッチリした服着るの久しぶりだな。ヘアピンは外すとして…ネクタイはこのままいくぜちょっと変わったところがあると話のきっかけになったりするかな。
まずは件の人物に関する【情報収集】ネットで大まかな情報を集めてあとはパーティ客に聞いて回る。その辺は【コミュ力】で対応。ある程度情報が集まったら西園寺ユキオにアタック。【先制攻撃】で会話を開始。【コミュ力】で集めた情報混ぜつつ会話。それでだめなら【言いくるめ】も使用。


八坂・操
【SPD】

豪華客船で密室殺人事件! しかも邪教絡みで後味も悪そう!
まるでミステリー映画だね☆ 良いねー、操ちゃんそういうの大好きだよ♪

そんな訳で、操ちゃんはSPか警備員に『変装』して参加しよ!
『忍び足』で『目立たない』ようユキオくんを監視して、一人になった所を突撃取材だ☆
「西園寺様、少しお話が」
「何やら貴方の事を嗅ぎ回っている輩がいるようです。警備の観点からしても、他のお客様のご迷惑になる要因は排除していた方が良いかと思われます」
「失礼ですが、何か心当たりは? 理由が分かれば、私達としても対処がしやすくなります」
『コミュ力』で上手い事『言いくるめ』られれば、情報ぐらいは出て来るんじゃないかな?


千桜・エリシャ
WIZ
今日の私はパーティーに招待されたご令嬢――という設定で参りましょう
折角だからドレスを着てみようかしら
似合いそうなものを見繕ってくださいまし?
ふふ。普段は和服が多いですから新鮮ですわ
――お仕事もちゃんとこなしますわよ?

劇的な出会いを演出して接触してみようかしら
人酔いしたふりをして、わざと主催の前で転んで支えていただきましょう
「きゃっ…ごめんなさい。助かりましたわ」
いかにも病弱な深窓の令嬢のように上目遣いでうるうる
そしてさり気なく胸を押し付けておきます
「今宵はご招待ありがとうございます
あの、お礼もしたいですし、よければゆっくりお話しませんか…?」
と、二人きりになって色々聞き出してみましょう


芥辺・有
[WIZ]
パーティーねえ。私にはずいぶん似つかわしくない場所だけど。
仕事のためなら何とやら、か。

パーティーの招待客を装う。
そこら辺の給仕からふたつ、酒のグラスを受け取って。
主催者の男の飲み物が切れた時を見計らって近づこう。片方のグラスを差し出すよ。
自分から話すのは得意じゃないからね……。酒を飲ませながら聞き役に徹しよう。酒で少しは口も軽くなってくれれば僥倖なんだけど。
相槌を打ちながら、第六感も駆使しつつ。
声のトーンや目線、仕草などをつぶさに観察しながら話を聞くよ。
少しでも怪しい、と思う動きがあればその時の話題をより深く尋ねてみよう。

アドリブOKです。


パレード・ペッパーポート
いち経営者として、この機に上流階級へコネクションを…
こんなパーティに来てる連中だ
叩けば全員埃が出るに決まってる
勿論、本命の仕事もちゃんとこなすつもりだけどな

【SPD】
まだ若造だが、会社を躍進させるチャンスを掴むきっかけが欲しい
あの話の噂を聞きつけて、一枚噛ませていただきたいと思いまして…
とでも言って探りを入れてみるか

乗ってくればラッキーだし、拒絶されたとしても
貴方を狙う連中に心当たりがあるでしょう?
私に協力してくださればやつらを退けてやりますよ、
と唆してみよう

権力者にへつらうのは反吐が出るが、
俺の得意分野でもある
伊達に長年、権力者の飼い犬やってたわけじゃねえんだぜ


シゥレカエレカ・スプートニク
夫、ギドと



わたしはギド――社長の秘書として、ギドの傍に控えるわね
もしかしたら此処のひとたちにはフェアリーは珍しいかしら?
ギドの肩に留まってるから、興味をひければいいんだけど…

邪神教団、って言ってたっけ
このユキオさんも何かを信じているのかしら
でも、狙われてるのよね…

お話はギドがしてくれるみたいだから、
わたしは彼のことを見てることにするわ
どんな表情をするか、何を飲むか、何を見るか
ひとは自然、大事なものを見てしまいがちだから
あとは意味深ぽく微笑っておくわ、愛人みたいに!きゃーっ

それにしてもギドったら、
こういう華々しい場所でも誰よりも格好いいんだから…

*アドリブはお任せするわ!大人っぽいドレスにしてね



●下準備
 どこもかしこも煌びやかな熱に照らされて、シャンデリアは船のゆるやかな傾きにあわせて光をあちこちへ返している。
 なごやかな談笑、あるいは人を褒めそやす声。それにまじる密やかな妬みや嫉み。
 国を取りまとめる者が集うこのパーティー会場では、華やかさに紛れて人の思惑が漂う。
 その中でも見目麗しい男女の一行が会場の隅で契機を窺っていた。

 半刻ほど前。
 アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ。
 通称UDC組織と呼ばれているUDCアースにおける猟兵支援組織の構成員たちに、猟兵達はあれでもないこれでもないと人形よろしく着せ替えられていた。
 今回の舞台は豪華客船、潜入するにもドレスコードが必要となる。
 船内に居る各国の要人は目も肥えており生半可な変装では浮いてしまうだろう。
 そんな会場になるべく自然に溶け込もうと画策した結果、身を呈して危険の潜む場所に乗り込んでくれる彼らには金額通りのドレスコードに沿ったフォーマルなスタイルを。
 構成員たちは下準備を入念に整え、船に乗り込む前に衣装ケースから数多の服を取り出した。
 ご安心を、プロが仕立てますので。
 衣服のたぐいに精通しているらしい普段は仕立て屋を営むエージェントが数名ほど名乗りを上げる。
 変装用やあるいはパーティー用の礼服をこちらでまかなうことにした数名の猟兵達は、彼らに手を引かれるまま試着室の向こうへと瞬く間に姿を消した。

●女性陣
「すっごい肌触り……!」
 ぱたぱた、ぴくぴくと長い耳が嬉しそうに立ったり伏せたりを繰り返す。
 フィン・クランケット(f00295)が手に取ったのは雪の結晶をモチーフにして繊細な刺繍を入れた、意匠を凝らしたドレスだった。
 薄水色のシルクで作られているせいか光沢のある布地はすべすべと手触りが心地よい。
 淡い色合いのパステルカラーが基調となるドレスはフィンの鮮やかな橙色の髪が良く映えている。
 ふんわりと膨らむシルエットはどこか童話の絵本から抜け出してきた姫君のようにさえ見えた。
 フィンのリクエストに叶う可憐と美しさ、その両方が彼女の存在感を後押しする。
 潜入任務であっても華やかさを忘れずに。これは任務のための立派な下準備なのだ。
「えへへ、なんだか照れちゃいますっ!」
 せっかくなので髪飾りもドレスに見合ったものにとUDC組織が用意したのはクリスタルで出来た雪の結晶の髪飾り。
 彼女の胸元できらきらと輝くネックレスも、ドレスに丁寧に入れられた刺繍も。
「貴方には雪が似合います。雪の女王は想像を絶する美しさといいますが、負けないくらいお綺麗ですわ」
 千桜・エリシャ(f02565)が花綻ぶように笑ってフィンを褒めた。
 言葉ばかりの世辞ではない心からの賛辞に、フィンがほんのりと頬を赤らめる。
 恥ずかしさをごまかす様にフィンはエリシャの服を見た。
 裾の引き締まった所謂マーメイドドレスと呼ばれる服飾だ。
 黒地に銀や紫を使って、色合いこそ控えめだがワンポイントで入れられた花に惑わされる蝶の模様がとても美しい。
 立っているだけでシルエットすら絵になってしまいそうな一着だ。エリシャが着ていることでなおさら人目を引きつける美女となっている。
「わあ、素敵なドレス! グリモアベースでお見掛けした時は和服をお召しでしたから……思い切ってドレスを?」
「ええ、折角だからドレスを着てみようかと思って。似合いそうなものを見繕って頂きましたの」
「とってもお綺麗ですよ!」
 フィンの言葉にエリシャがすらりと一歩踏み出た。
 引き締まった足元に、艶やかに伸びる小さな細い足。薄いレースのショールが彼女の華奢な肩を包み込む。
 文字通り人形のような美しさだ。
「光栄ですわ。ふふ、普段は和服が多いですから新鮮で……いかがかしら?」
「ええ、それは、もう……」
 不意に鏡越しに彼女と視線が合ったフィンは己の心臓がどくりと飛び跳ねる感覚に襲われた。
 薄桃色の中にいくつもの色が混ざり合う虹彩が心臓を鷲掴んで離してくれない。
 同性にも関わらず、この不自然なまでの胸の高鳴りはなんなのだろうか。
 瞳に魅入られたフィンに、エリシャはどこか怪しい微笑みで応えて見せるとすぐに視線を外した。
「おうおう、おまたせ!」
「あ、男性のみんなは先に行ったかな。良いドレスだね☆」
「ああ、キアンさん! それに操さん!」
 そんな二人の向こうから駆けてきたのはキアン・ウロパラクト(f01189)と八坂・操(f04936)。
 どうもUDC組織の中でもキアンの服は揉めに揉めたようで向こうの方で未だに構成員のエージェント達の言い争う声が聞こえた。
 せっかくこんなにプロポーションの良い彼女なら大胆に肩を出したドレスにすべきではないか。
 いやいや、それでは思い切りが足りない。彼女は美脚なのだから思い切ってミニドレスで足を出してやるべきだ。
 とんでもない、なにもわかっちゃいない。ここはあえて露出を抑えることで普段とは違った淑やかさを演出し、彼女のさらなる魅力を引き出して――。
 エージェント達の議論が白熱するのもどこ吹く風で、キアンが勝手気ままにくるくると回って見せる。
 赤い羽根をたっぷりとあしらった、南国に居る色鮮やかな鳥を思わせるドレスは胸元がV字に開かれている。
 丈を多めにとってあるのか動きやすそうだ。
 手前は淑やかに、どちらかといえば厳かなデザイン。だが背中は大胆に、肩甲骨の下あたりまで覗き見えている。
 美しい健康的な背中が開放的になっているデザインはなんとも彼女らしい。
 対して操の方はドレスではなく変装だ。
 常に纏う白い服は、今は黒一色の規律ある警備員の服装に変わっている。
 長い黒髪をひとつくくりにしたせいか、その姿は男性の警備員にも劣らない頼もしさを感じさせる風貌があった。
 だが一番のインパクトは服よりも、漆黒の髪から覗く海底から飲み込まれてしまいそうな暗い瞳。
「じゃーん、警備員。どうかな? ――お嬢様方、ここから先は関係者以外立ち入り禁止です……なんちゃって」
「おお……上手く変装できていると思います。口調も警備員らしいですね。潜入も滞りなく済みそうなくらい自然ですっ! 有事の時は宜しくお願いします」
 フィンが素直に感嘆したのを見て、操がすぐに砕けた口調に変わった。
「えへへ、ありがとう! まっかしといて☆ 操ちゃん、白いワンピースばかりだからこういうのって新鮮♪」
 キアンはといえば、ドレスはあまり着る機会がないのかゆらゆらと尻尾を不安げに揺らしている。
「アタシはドレスコードってのはよく分からないんだけど……これでいいんだよな? おかしくないよな?」
「ええ、良いと思いますわ。大変よくお似合いですわよ」
「なんていうか、すっごくセクシーですね!」
「そ、そうか? それならいいんだけど……」

 ところ変わって試着室。
「パーティーねえ。私にはずいぶん似つかわしくない場所だけど。仕事のためなら何とやら、か」
「あら、せっかくのパーティーだもの。おしゃれをしなきゃ勿体ないわ」
 ね、と微笑みかけるのはシゥレカエレカ・スプートニク(f04551)。彼女に微笑みかけられたのは気怠い顔を浮かべた芥辺・有(f00133)その人だ。
 シゥレカエレカの小さな容姿にぎゅっとつめこまれた愛らしさと、有の静かに伏せられた水面のように凪いでいる美しさはそれぞれに違ったベクトルで人を惹きつける何かがあった。
 シゥレカエレカが鈴の跳ねるような声で取り換えっこしてはいかが、と提案する。
 二人の服飾担当のUDC組織構成員が不思議そうに彼女を見た。
「というと?」
「そちらは少しゆったりとした可愛らしいドレス、わたしは逆に大人っぽく落ち着いた服装を。どうかしら?」
「それは良い考えかもしれませんね!」
 お好きなように、とあまり服に頓着しないのか一任して託す有とは対照的にシゥレカエレカがふふふと微笑む。
 構成員は気合をいれてそれぞれに似つかわしいドレスを探した。
 有にはドレープたっぷりのひらひらと柔らかさのある、淡いピンク色の花をあしらったものを。
 シゥレカエレカには星空を溶かし込んだような紺色が基調となっている、大人びた露出の少ないものを。
 常とはずいぶん印象が違って見える二人に、構成員は満足げに頷いてみせた。
「お二人ともがらりと印象が変わりましたね。どちらもとてもよくお似合いです」
「この色は慣れないな……私には少し、明るすぎるような……」
「あら、そんなことないわ。春が訪れたみたいで素敵よ!」
「どうも」
 ほんの少しばかりの笑いを浮かべる有に、シゥレカエレカがわたしはどうかしらと聞いてパタタ、と羽根を動かした。
 妖精が飛び立った時に舞う光の粒子がドレスに散って、満天の星々のように輝く。
「ああ、似合ってる……と、思う。大人っぽい。服には詳しくないから上手くは言えないけど……」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいわ。なんて言ってもあの人と一緒に並ぶんですもの、少しは似つかわしい服にしないとね」
 シゥレカエレカが愛嬌いっぱいに笑うのを見て、ああそういえばと有は同行者のうち一人に彼女の夫がいたことを思いだした。

●男性陣
「こんなキッチリした服着るの久しぶりだな。ヘアピンは外すとして……ネクタイはこのままにしとくか」
 ちょっと変わったところがあると話のきっかけになったりするかもしれないし、と花菱・真紀(f06119)が用意されたスーツに袖を通し前髪につけていたピンを外す。
 青色のスーツは皺のひとつもなく、上等な生地で作られていることが伺い知れた。
 ネクタイにはコミカルなフォントで文字がプリントされている。馬子にも衣裳。この日の為に彼は用意してきたのだろうか。
 明るい色を好んで身に着ける彼が今は落ち着いた色のスーツに身を包んでいるのを知人が見れば、その雰囲気の変わりように驚いたことだろう。
 髪形もワックスでセットされていて、鏡の向こうには人の好さそうな好青年が立っている。
 見慣れない己の姿をまじまじと真紀が見ていると、同じように姿見を覗き込みながら、隣でうわあとやや引いた声が聞こえた。
「壮絶な場違い感。このスカした雰囲気は細胞レベルで合わないぜッ……」
 星群・ヒカル(f01648)がぼやく。
「そうか?」
「そうだよ!」
「似合ってるけどなあ」
 ぴしりと糊の効いたタキシードに身を包み、鏡で見た己の姿にヒカルは違和感をぬぐいきれなかったようだ。
 齢十五歳の少年だが背格好がそれなりにあるヒカルとタキシードの組み合わせ。
 その姿はなかなか様になっているが、本人としては着慣れた改造制服とは違う硬い服の感触に、どうも馴染めないらしい。
「卑下することはないわ! 男前になっているぞ!」
「うおっ」
「おわっ」
 二人の後ろで豪快に笑うのはバラバ・バルディ(f12139)だった。いつも身に纏っているカラフルでポップな服は、今は黒色にグレーのストライプが入ったスーツに変わっている。
 むろんオーダーメイド、採寸の時にUDC組織の構成員が四苦八苦して肩の位置を探していた。
 シャーマンズゴースト用に仕立て上げられたスーツは違和感なく彼の身体にぴったりと収まっている。
「そ、そうかな……そうかなっ? ふふふ、おれってばなんでも似合っちゃうな?」
「そうじゃそうじゃ、自信を持て」
 バンバン、とバラバが背中を叩くのでヒカルの自信なさげに丸まっていた背もしゃっきりと背筋が伸びる。
 子供らしく年相応に励まされれば自信が湧いてきた彼にバラバは満足げに頷いた。
 真紀がグリモアベースで見たのとはずいぶん違うバラバの姿をしげしげと見る。
「そっちはよくスーツあったな」
「まあのう。この日のため、衣装を新調してきたのよ」
 ふふんと得意げにバラバがその場でくるりと回って見せた。
「メグル君から小遣いも貰ったしのう! それに折角の機会じゃ、楽しもうぞ!」
「そだな、パーティーはこれからだし!」
「ああ、気張って行くか!」
 磨き上げられた革靴は自然、白い豪華客船の方を向く。
 この船の上で何が起きるのかはまだ不明だが、想像するになかなか骨が折れそうだ。
 今一度三人は気合を入れてこれから起きる事件に思いを馳せた。

 パレード・ペッパーポート(f04678)がジャケットの襟をつかんでそっと正せば、ゆったりと首元で結ばれた髪がその動きに倣って揺れる。
 ゆるくリボンで結ばれた髪はアクセントになって船内の女性の視線を集めていた。
 甘い顔立ちの彼に女性の内何人かがひそひそと噂話をしているようだ。
 まあ、いったいどちらのご子息かしら。
 政界ではお見掛けしないけれど、素敵な御仁ね。俳優、芸能界の方?
 あの方に此方を見て頂けたわ、わたくしに気づいていただけたみたい。
 そんな言葉がパレードの耳に届く。
 うんざりした顔を露ほども浮かばせず、張り付けた仮面のように甘く微笑んでやれば女性の客人達はすぐに騒ぎ立てた。
「全く……」
「美麗というのも困りものですね。準備ができましたか?」
「ああ、十全に」
 仲間内に振り返れば先程の微笑みはもうどこにもない。
 今にも舌打ちしそうな、苦汁をなめた顔のパレードに礼服に身を包んだ人物が話しかける。村井・樹(f07125)は船内を見渡してもう一人の猟兵の姿を視界に収めると口角を上げて笑って見せた。
「そちらも問題はないでしょうか?」
「仔細ない。私達が潜入したのが一番乗りらしいな」
「そのようで。UDCエージェントの仕事とはいえ、このような場にお招きいただけるのは光栄ですね」
「全くだ」
 影のようなスーツを身に纏うギド・スプートニク(f00088)が樹の言葉に頷きを返す。
 シックな色合いのスーツにタイピンが照明のまたたきを反射して、ぴかりと視界に白が横切った。
 片眼鏡をそっとずらして白い手袋で眦を擦ると、樹はふむと顎に手をやって注意深く辺りを見回す。
 落ち着き払った男性三人は周りの客人のなかでもかなり見目麗しい部類に入っているせいか、しきりに若い女性がこちらに目をやっていた。
 一斉に入っては怪しまれると各位バラバラに船内に侵入した猟兵達は、合流あるいは配置場所へとつくために各々が方々へ散っていく。
 パレードは料理が行きかうテーブルの向こうにギドの妻――シゥレカエレカ、そして他の女性陣を見つけ、軽く肩を叩いた。
「到着だ、迎えを。ここからは分かれて行動だ」
「心得た」
 胸元で光る翡翠色の宝石を弄りながら樹も足早にその場を去っていく。
「作戦開始と行きましょう。アプローチは各々で」
 オブリビオンに目を付けられた得体の知れない男から情報を取り出すまで。
 猟兵達はほんの一瞬の隙にみなで目配せしあうと、軽く会釈をして散会する。
 示し合わせたようにその場を離れていく彼らの姿は、パーティー会場内で先ほど知り合って世間話をしていた他人にしか周りには見えなかっただろう。

●面識のない客人達
 真紀がそっと後ろ手でスマートフォンを叩く。日付と船名さえ入れてしまえばヒットする情報はすぐに浮上した。
 そもそもこのパーティーはくだんの人物主催であるが目的が定かではない。
 名目上はどうやら西園寺ユキオの担う大手ファミリーレストランの全国展開にあたり、各国から協力を仰いだ人物や関連企業への労いをこめて開かれたもののようだ――名目上は。
 しかしてその実態は裏に邪神教団が潜んでいる。
 さすがに教団等の情報をインターネット経由で追うことはできなかった。
 だが、ネットサーフィンで西園寺ユキオについて調べるうち、秘蔵のワイン好きだの酒コレクターだの趣味趣向に関するものに紛れてやや気になる文言があった。
 西園寺ユキオの秘書は優秀で、彼の仕事にまつわる書類管理などはすべて秘書が執り行っているという話が目に入る。
 週刊誌でインタビューに答える西園寺ユキオの抜粋だ、信憑性は高いと云える。
 おそらくこのパーティーの招待状を送っているのは西園寺ユキオ自身ではなく秘書がリストアップして送っているのだと真紀は感づいた。
 つまりここにいる要人の全員が全員、西園寺ユキオと面識があるわけではないようなのだ。
「ふーん……?」
 確かに彼の傍らを見れば秘書らしき男が隣についているのが見えた。
「調べるのはここまでが限界っぽいな。あとは人海戦術」
 パーティー客に話しかければ年若いこともあってか、はたまたアルコールがだいぶまわっているせいか要人からもある程度話を聞くことに成功する。
 やはり面識がある要人も多かったが、それと同じくらいビジネス関係で呼ばれただけの人物もこの場には多いようだ。
「ヒカル、バラバ。ある程度調べがついたから他の猟兵のみんなが終えたら俺達も接触を試みようぜ」
「ん、なんだよ構わねえけど……あ、全然食ってねーだろ!」
「むむっ、それはいけないぞ! たんと食べるんじゃ! 穏やかな海の上、淑やかな音楽、美味なる食事、華々しく着飾った人々、楽しき談笑、仕事と言えど楽しむ余裕がなくてはならぬ!」
 ほら、と二人に皿を突き出されて真紀は思わず苦笑した。
 湯気立つ肉に歯を立てて西園寺ユキオを注意深く見守る。ちょうど他の猟兵達が西園寺ユキオに話しかけるところのようだ。

●怪しい事業家
 人だかりは案外すぐに見つかった。
 それもそのはず、パーティーの主催者に取り入ろうと若いうちから事業家に目を付けている各国要人も多い。
 ここはパーティーの名を取ったビジネスのための場でもあるのだ。
 人だかりに接触しないよう樹がそっと割り入れば、警備員として西園寺ユキオのすぐそばを陣取っている操が目に入る。
 視線が交わった瞬間にパチンとウィンクをしてみせた彼女は、次の瞬間にはもう厳酷な警備員の顔つきに戻っていた。なかなか腰の入った演技だと感心しながら樹は目的の人物とさらに距離を詰める。
 シャンパンの入ったグラスを片手にどうやら他国の王族らしい男と話しているのはグリモアベースで確認した人物で間違いなさそうだ。
 速やかに、『ホスト』にも御挨拶させていただきたいところですね。
 そう音に出さずに唇の中だけで呟く。
 歩い程度近づいて場の空気にそれとなく溶け込んでいた樹に、西園寺ユキオは逆にあちらから話しかけてきた。
「パーティーはお楽しみいただけていますか?」
 気さくな口調、物腰も柔らか。
 だというのに顔から滲むのはやや警戒を纏った色だ。
「ええ、料理も会場も素晴らしい。普段お会いできない方とお話の出来る素敵な機会を作って頂いて感謝しております」
 腹の探り合い化かし合いはお手のもの。
 目を細めて笑う奥で、樹は頭休ませることなく考えを巡らせた。
 丁度猟兵ではないパーティー客も捌けたところだ。この間にいろいろと探りを入れておきたいのが本音。
 すぐ近場に居た有がそっとグラスを持って近づいている。
「どうぞ」
「ああ、これはいけない。ついつい話に夢中になってしまって喉が渇いてしまいました。潤してお話を続けましょうか」
 酒を飲ませながら聞き役に徹するつもりの有が上手く西園寺ユキオの口を緩ませている。
 続きを、と促す彼女に目だけで頷いて、樹はあたりさわりのない世間話からの切り崩しを試みた。
 二杯、三杯と酒が廻るうち西園寺ユキオの顔がだんだんと赤らんでいく。
 有の相槌と樹の話術が功を奏して饒舌になりだした、これは良い傾向だ。
 もう一つ二つ後押しがあれば――そう考えたところでフィン、キアンの美しく着飾った女性二人が滑り込むようにして西園寺ユキオを取り囲む。
 タイミングを見計らっていてくれたようだ。
 片手に料理皿を持って快活にキアンが笑う。
「アンタが主催か、パーティー楽しませてもらってるよ」
「それはありがたいことです。お楽しみ頂けたのなら何より」
「西園寺さん。今日はお招きありがとうございます」
 間髪入れずにフィンが畳みかける。
 招待への礼と名乗りを上げ、そして自身も商売人として同業であることを伝えた。
 西園寺ユキオは少し困った顔をしてグラスを口に運ぶ。
 唇を湿らせてから頭を掻いてこう言った。
「申し訳ありません、実はこのパーティーの招待状はすべて秘書に一任しておりまして……恥ずかしながら私も初めてお会いする方が多いのです。これを機にお見知りおきを」
 すう、と手が差し出されたのをフィンが握ったのを真紀やバラバ、ヒカルが遠くから眺めている。
 やはり、面識のない客が多い。猟兵が紛れ込めたのも主催側から認識していない客が一定数いるせいだろう。
「素晴らしい船ですね。白く湾曲したラインがとても美しかったです」
「お褒め頂き光栄です。これも事業の一環なんですよ。白イルカの名を冠した豪華客船はそれだけで話題性がありますからね」
「警備にもお力を入れていますね」
「なにせテロでも起きたら事ですから。皆様の安全を保障するために必要なこととお許しいただきたい」
 ……なんだか、口調が固くなったような。フィンの探りに反応があったようにも見えた。
 彼はそのままキアンにも同じように握手を求める。
「貴方も初めてお会いしますね」
「あー、ハジメマシテ。敬語ってのはどうにも苦手なもんで話し方は見逃してくれ」
「構いませんよ、喋りやすいようお話して頂ければ」
「料理も旨かったよ。料理だけじゃなく特にワインがよかった」
「そう、ですか」

 ほんの一瞬、ともすれば見逃してしまいそうなそれを猟兵は見逃さない。
 瞳に剣呑の色が走った。警戒、距離感、キアンに対する不信の目。

「どうかしたか?」
「いいえ、いいえ。ワインも最高級のものを用意させています。お口に合って良かった」
 寸瞬だ、もう先程の目はどこにもない。
 それでも目敏く西園寺ユキオの微妙な変化を感じ取ったキアンとフィンはそのまま挨拶をして輪から外れた。
 すれ違いざま、ユキオに向かって歩いて行く煌びやかなドレスに身を包んだエリシャにさりげのないバトンタッチをしてから。

●それぞれの策略
「離れたな……行く?」
「いいや、まだ様子を見たほうがよかろう。ほれ」
 ヒカルの言葉にバラバが西園寺ユキオを見る。樹が一歩下がって、有がその近くで空いたグラスを手に話を聞いている状態。
 キアンとフィンの去った後も立ち位置は変わらない。
 歓談する彼らに次に近づいたのはパレードとギド、そしてギドの肩にのるシゥレカエレカだった。
 人影に気づいた樹がごく自然と入れ替わるようにして西園寺ユキオから距離を取る。
「こんなに長話をすみません。別の御客人と積もる話もあるでしょう」
「ええ、それでは。お話ありがとうございました」
 かちりとグラスが鳴る音を聞いて残ったシャンパンを呷りながら樹は踵を返してパレード達に向き直る。
「他の方のおかげでかなり口が緩くなっています。好機かと」
「了解。あとは任せろ」
「幸運を祈ります」
 すれ違う一歩の間に即座に情報共有を終えて、何事もなかったかのように樹はパーティー会場に居る要人の人混みに紛れた。

「私が社長役か……本来であれば秘書を務め、敏腕社長を気取るシゥレカエレカの姿を見たかったのだが――仕方あるまい」
「ふふ、今回は宜しくお願いするわ。それにしてもギドったら、こういう華々しい場所でも誰よりも格好いいんだから……」
 耳元でこそばゆくシゥレカエレカが笑うのを片耳で拾い上げて、そっと目を伏せたまま口角だけをほんのりと上げてギドが微笑む。
 彼女の言う通り、すらりと長い脚を出して悠然とパーティー会場の赤い絨毯を歩む姿は堂に入った美しい所作だった。
「お褒めにあずかり光栄の極みだな。さて、望まれたからにはこなさねばなるまい」
 目を閉じて、一呼吸おいてから目を開ける。
 そこに居たのはダンピールの青年ではなく若い事業家に声を掛ける食品会社の重役だった。
「失礼する」
「この度はお招きいただきどうもありがとうございます」
「これはこれは、ようこそお越しくださいましたお二方。奥方もいらしてくださったのですね」
 シゥレカエレカが軽く会釈をして、ギドとパレードがまず挨拶を。
 手筈通りに会話を進めていく彼らの向こうでエリシャと操がこっそりと耳打ちをしあった。
 あの会話が終われば次に真紀、バラバ、ヒカルが来る。
 上手くいけば足止めを狙えそうだと二人は目論んでいた。
 会話が続く。そのうちにギドとパレードは言葉に揺さぶりを含ませた。シゥレカエレカは二人の話す言葉のどれに西園寺ユキオが反応を示したかつぶさに確認する。
 彼女の丸い瞳が品定めするように細まった。
 ギドは厳かな空気を保ったまま、対照的にパレードは柔和な顔立ちを崩さぬまま。
 二人とも訳知り顔で静かに、爆弾を落とす。確信への導火線にぱちぱちと火をつけた。
「物騒な時代になったものだな。警備員の配置がいやに多いのはお心当たりあってのことか」
「単刀直入に言いましょう、貴方を狙う連中に心当たりがあるでしょう? 私に協力してくださればやつらを退けてやりますよ」
 二人が言うや否や、瞬時に西園寺ユキオの顔色が変わった。
 フィンとキアンの揺さぶりよりも同様の色がより濃く顔に浮かんでいる。
 文字通りざっと血の気が引いていくのが手に取るようにわかった。
「……一体、何のことやらわかりかねます」
「隠す必要などないのでは。若い貴方が躍進するのにそれなりに人から睨まれることもあったでしょう」
 狙われている可能性について仄めかす彼らに、西園寺ユキオは注意深く一歩下がった。グラスはテーブルに置かれ、敵も味方もわからない猟兵達に明らかな警戒の色を出している。
 西園寺ユキオの泳ぎ始めた視線はギドの肩にとまって、腰かけるシゥレカエレカに意味深に笑われてしまえばこめかみに汗が伝った。
 揺さぶりとしての効果はもう十分に見込めただろう。
 深追いすることはせずに次の猟兵の手番を彼らは待った。

「これは素晴らしいパーティーじゃ! 主催者はセンスがある。お主もそう思わんか?」
 重たい空気を払拭するように底抜けに明るい声が響く。バラバとヒカルだ。そのやや後ろには真紀がいる。
 明らかに様子の変わった彼に機は熟したと三人が接触を試みたのだ。
 バラバの問いかけにヒカルは鷹揚にして頷く。
「ああ! 料理はうめえし話は面白いし連れてきてもらって良かったぜ!」
 お兄さんが西園寺さん? とヒカルが西園寺ユキオに一歩寄る。
 子供であるがゆえに西園寺ユキオはその一歩を遠ざけることができなかった。今下がっては不自然になるだろう。
「こんな船借りれるなんてすごいなッ」
「え、ええ。楽しんでもらえたかな?」
「そりゃもちろん!」
 軽食のオードブルとして出されているサンドウィッチ片手にヒカルが子供のそれを真似て矢継ぎ早に質問をしていく。
 最近の景気は、座右の銘は、彼女は、と聞くのに西園寺ユキオが丁寧に答える中で一つのワードにギクリと肩をこわばらせたのをその場に居る猟兵全員が見た。
 それは先程ギドとパレードが匂わせた、揺さぶりの言葉だ。
 シゥレカエレカがギド、と呟けばギドが小さく分かっていると彼女に告げた。西園寺ユキオが反応する言葉には法則性がある。
 ワイン。ライバル。警備員の多さに関する言及がまさしくそうだ。
「ライバルとかいる?」
「……心当たりはありませんね」
「えーっ、こういうのってライバル企業をぶっ倒していくって相場が決まってるだろ?」
「ふふ、それはアニメや漫画の中だけの話ですよ。実際同業他社とは持ちつ持たれつの協力関係であることが多いんです。この場にもお呼びしているくらいですから」
「ははは、これこれヒカル、西園寺さんが困っておるじゃろう。その辺にしておくんじゃ」
「ちぇっ、分かったぜ。お兄さん話してくれてありがとな!」
 バラバの言葉にヒカルが質問をやめればあからさまにホッとした顔をしてみせた。これは、明らかに怪しい。
 遠く、ちょうど下がったキアンとフィンがいるあたりに視線をさまよわせていた。
 あの方向は確か船の客室、西園寺ユキオの私室があるのではなかったか。
「すみません、用事を思い出しました。私室に……」
「忙しい?」
「お忙しそうですね?」
 ヒカルと真紀がそんな様子に同時に口を開いた。確実に彼は焦っている。焦って、この場から離れようとしている。
「確かめたいことがありまして、申し訳ありませんが少し席を外し――……」
「確かめたいことですか。一刻も部屋に戻りたそうですが。お部屋には何があるのですか?」
「私室ですか? 何もありません、少々仕事の用事が、」
「部屋に、邪神教団に狙われる理由のなにかがおありで?」
「……」
 真紀の言葉に西園寺ユキオがついに押し黙る。
 確信を持った真紀の問いかけにピシリとその場の空気が固まった。
 猟兵達があらゆる方向から問いかけた数々の揺さぶりの効果が一点に集中していく。
 柔らかな敬語の口調が外れて静かに西園寺ユキオが口を開いた。

「何を知っているのかは、知らないが。あれは絶対に渡さない。誰にも。お前達にもだ」

「化けの皮が剥がれたか」
「そのようだ。存外に早かったが」
「間違いなく事情を知ってるよな。これは」
 パレードが忌々し気に言ったのをギドとヒカルが肯定する。
 西園寺ユキオがそのまま何も言わずに踵を返して猛然と私室に向かって走り出した。
「あ、こら! 待たんか!」
「待った。先導は任せたほうが良い。彼らの姿が見えなくなってから追おう」
 任せるとは、誰に。
 西園寺ユキオの後を追おうとしたバラバと他の猟兵達に、それまでずっと聞き役を担って会話の円滑油となっていた有が待ったをかける。
「いるだろう、あと二人。まだ警戒心を持たれてない猟兵が」
「ああ! なるほどのう!」
 ぽん、と手をたたいてバラバがまっすぐに指をさす。
 バラバが指さした向こうを見遣れば、ドレスに身を包んだ令嬢と背の高い警備員がついに動き出したのが見えた。

●切り札の二人
 キアンとフィンがこちらに向かってくるのを見てエリシャに合図を送る。
「エリシャさん、仕掛けるみたいですね」
「お手並み拝見だな!」
 小声で二人が彼女にチャンスだと告げればエリシャは妖艶に微笑んでみせた。
 接触しかけたところでぶつかったように見せかけ、エリシャが座り込めば西園寺ユキオは動揺する。
「ああ、申し訳ない。先を急いでいて……お怪我はありませんか?」
「きゃっ……ごめんなさい。助かりましたわ」
 片手を取って立ち上がらせてもらった彼女はそのまま西園寺ユキオにもたれかかるようにして上目遣いで話しかけた。
 ひどく焦った様子の彼が行ってしまわないよう、操が近づけるまでの時間を稼ぎながらゆったりとした喋りでその場に引き留める。
「ああ、よく見たら……主催者の方にお手を煩わせてしまって申し訳ありませんわ」
「とんでもない。パーティーへようこそ。お怪我がなくて何よりです」
「見たところお急ぎなのでしょう? 今宵はご招待ありがとうございます。あの、お礼もしたいですし、よければ先にお部屋に行かれてからそちらでお話しませんか?」
「いえ、しかし……ああ、でも、」
 悩む素振りを見せたが後ろから猟兵が追ってきてはいないか心配なそぶりが見える。
 ここで断って時間を割くよりも彼女を連れて戻ったほうが早いと判断したのだろう。西園寺ユキオは頷いた。
 まだ猟兵の中で警戒心を持たれていない彼女だからこそ通る方法だ。
 揺さぶりをかける側と、あえて近づき警戒心を解く側と。それぞれの方法が良い方向へと転がりだしている。
「分かりました。私室は仕事関係の書類があるのでお連れすることはできませんが部屋の近くでしたら構いませんよ」
「西園寺様、少しお話が」
 絶好のタイミングで操が西園寺ユキオに話しかける。
 警備員の姿にさして疑問を持つでもなく、西園寺ユキオは騙されて彼女の言葉に簡単に耳を傾けた。
「何やら貴方の事を嗅ぎ回っている輩がいるようです」
「警備員の者か。ああ、さっきから嗅ぎまわっている連中がいる。さっき話していた奴らもそうだが……彼らが話しかける前から怪しい奴が何人か見えた」
 こくりと首を縦に振って操はさらに畳みかける。
「警備の観点からしても、他のお客様のご迷惑になる要因は排除していた方が良いかと思われます」
「そうだな。あれが奪われるのは何としても避けたい。あれを奪取しに来るとふざけた脅迫状を送ったのは、話していた連中じゃどうもなさそうだが……奴らは教団の存在に感づいている」
 口を滑らせたことに西園寺ユキオは気づいていないようだ。
 脅迫状というキーワードが出てきたことにエリシャと操はこくりと首を縦に振って彼に見えないように確認をしあった。
 そのまま操は話を合わせて歩幅を速めながら部屋へとついていく。
「失礼ですが、彼らに何か心当たりは? 理由が分かれば、私達としても対処がしやすくなります」
「わからない……だが何人疑わしい奴が居ようと知ったことか。部屋に入ることは出来ないだろう。どちらにせよ私室の鍵は私しか持ちえないのだから」
 あれを取り出すことは叶わない。警戒レベルを引き上げつつ警備を続行してくれと操に告げる。
 西園寺ユキオは懐から鍵を取り出して獰猛そうに笑った。
(鍵ですわね。それも随分と複雑な造りの。一目で複製不可能とわかりますわ)
(私室のかなぁー? 操ちゃんが察するに、重要なものがありそう☆)
 声には出さず二人が目だけで言葉を交し合う。
 
 丁度その時、二人の耳に届いたのはパリン、という乾いた音。
 パーティー会場を抜け私室に近づいたところで、エリシャと操の耳が何かが割れる音を拾った。

●急行せよ!
「やけに急いでたみたい、後ろも気にしていなかったようなので、今つければ気づかれないかもしれません!」
「だな、アタシ達もどさくさにまぎれて……ってああもう! このヒールとかいう踵の高い靴じゃ走れねえよ!」
 ぽいと脱ぎ捨てられた靴のかわりに、柔らかな赤い絨毯の上をキアンのうろこに包まれた裸足が踏みつける。
 フィンがそれを見てくすくすと笑うと、キアンに倣ってクリスタルのちりばめられたハイヒールをそっと脱ぎ捨てた。
 シンデレラのように脱ぎ捨てられたそれは、ふわりと羽が生えたように彼女の足を軽やかにしてみせる。
「えへへ、なら私も! ……どうやら後ろから他の猟兵さん達もいらっしゃってるみたいですね!」
「丁度良い、このまま乗り込むぞ!」
 たん、と勢いを付けてキアンが一歩前に出ればその後方からこちらにまっすぐ駆けてきたらしいヒカルが追い付いた。
「あら、早いですね!」
「銀翼号があればもっと早かったんだけど室内だからな! 有の言う通りだ、前の二人が先導してくれたおかげで追跡しやすい」
 ヒカルが先に西園寺ユキオを上手く連れ出したエリシャと操が消えた客室の方を見遣る。
「一体何をそんなに慌てて戻ったんだろうな?」
「決まってる、こういうのはお宝が隠してあるって昔から相場が決まってんだ!」
 キアンがヒカルの言葉に人差し指で得意げに鼻下をこすってみせた。

「ええい、老体に鞭打たせるとはなんたることか! こりゃあ報酬も弾んでもらわにゃ叶わぬのう!」
「やれやれ、優雅なパーティーが一転してしまったな。……シゥレカエレカ、落ちるなよ」
「ええ、ありがとうギド!」
 肩に乗るシゥレカエレカに最大限気を付けながらギドが、その後ろをバラバが走る。
 ヒカルはより客室方面に近いフィンとキアンに合流してもらっている。
 ギド、シゥレカエレカ、バラバ。
 そこから数歩挟んでパレード、有、合流した樹と、最後尾を真紀がつとめた。
 猟兵達は客室を目指してパーティー会場を抜け出そうと不自然にならない程度の速度で移動した。
 エリシャと操が揃って連れだってから、西園寺ユキオのすぐそばにいた秘書らしき人物はいつのまにか消えている。
「……居なくなったな」
「ああ、だがどうせ客室で鉢合わせるだろう。それより会場が騒がしいな」
 真紀が言った言葉にパレードがやや思案するようにしてから顔をあげた。
 走りながら会場の様子を一瞥したパレードが、極わずかな表情の差異から要人の様子がおかしいことに気づく。
「騒がしい?」
「いや、騒がしいというよりこれは……警備員達から注意を促されてるように見える」
「確かに。耳打ちしているようですね」
 樹がパレードの言葉に会場をそっと見遣って、同じように頷き返す。
 パレードの言葉と、樹がそっと気づかれぬように指で示した方向に真紀が目を凝らせば。
 なるほど確かに護衛の者から何がしかを聞かされた後に要人達は、ちらちらと出口の方を気にし始めていた。
 パレードの言う言葉は騒音ではなく、ざわざわとした不穏な空気の方を指していたのだ。
「UDC組織が動き始めたかもしれない。避難情報を流し始めたかな。パーティーから関係のない人物を捌けさせるにはこれ以上ないタイミングだ」
 有が私の勘だけれど、と付け足してドレスの裾をわずかに捲し上げる。
 部屋に何かがあるのであれば、それを狙う人物は避難することはないだろう。
 一方、関係のない人物達ならば避難誘導には従うはずだ。世界各国から集められた要人はテロに敏感でこの手の扇動には従いやすい傾向にあるだろうと有が呟く。
「なるほどのう。この場に残っている奴らが怪しくなると?」
「おそらくは。まあ、どちらにせよ彼らが向かった方向に行かないとその“怪しい奴ら”とも遭遇できないと思う。急ごう」
 有の言葉に全員が頷いて、そのまま猟兵達はきらびやかなパーティー会場……白イルカの腹の中からするりと抜け出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『(名/迷)探偵は俺だ!!』

POW   :    犯人の驚異的な身体能力に引き起こされたトリックと推理する

SPD   :    犯人の卓越された技術によって引き起こされたトリックと推理する

WIZ   :    複雑な専門知識や数式でトリックを証明する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●破裂コレクション
 その音が聞こえた瞬間、西園寺ユキオの動きがぴたりと止まった。
 先んじていたものは一足早く、その後方を追いかけていたものはややあってから。
 全員が西園寺ユキオの部屋の前に集合する。
 私室前で立ち止まった猟兵達が注意深く彼の様子を観察していると、ただ一言まさかと呟いて西園寺ユキオが部屋の施錠を解く。
 覗き見た部屋のなか。
 豪華客船らしく全体的に高級感のある調度品が置かれている何の変哲もない客室ではあったが、他の部屋とは決定的に異なる点があった。
 部屋の隅、西園寺ユキオの私物であろう木製のワインラックが持ち込まれており、年代物のワインが何本も所狭しとコレクションされている。
 ただ置いてあったワインラックのうち、下から三段目だけが派手に損壊しているのだ。
 破片は家具に突き刺さるほどに四方に散らばり、芳醇な葡萄とアルコールの潤沢な香りが部屋に充満している。
 床に零れ落ちたワインが真っ白い毛皮の絨毯に落ちない染みを生んでいた。
「ああ、ああ! なぜだ! クソが! 一体どうやった!」
 西園寺ユキオが部屋のなかに入って叫ぶ。
 膝をつき、憎々し気に顔を歪ませて。
 先程の若手事業家らしい落ち着いた口調は剥がれ落ちて、乱暴な言葉づかいへ変貌していた。
 猟兵の内でUDCアースの化け物――アンディファインド・クリーチャーと呼ばれる異形の神々を相手取った経験のある者は、そのワインからこぼれおちている液体が邪神召喚の成功率を高めるものだと気付けるだろう。祭具だ。
 どうしてそんなものを持っている、と非難めいた目を向ければ西園寺ユキオはがっくりと肩を落とし項垂れたままの姿勢で、ひたすらに終わりだ、終わりだと呟いた。
 虚ろな目で西園寺ユキオは訥々と語る。
「この祭具は私がある変わり者の好事家から高値で譲り受けたものだ。邪神などと眉唾物の話をしてはいたがそんなことはどうでもよくなるほど私はこのワインに惹かれた」
 だがワインを譲り受けたその日から西園寺ユキオの生活は一変する。
 常に誰かの視線を背後から感じるようになり、明らかに他人の影が生活のそこかしこにちらつくようになった。
 ――狙われている、そう感じるのに幾許もかからなかっただろう。
 自力の調べでどうやらこのワインが狂信者に狙われていること、中の液体が空気に触れ近場で呪文を唱えればいとも簡単に邪神を呼び出せてしまう祭具と呼ばれる類の危険物であることを突き止めた西園寺ユキオは、逆にワインを狙う不届きものを誘き出して始末しようという考えになった。
 このパーティーを開いた真の目的はそこにある。
 ところがどうやらその敵の方が一枚上手だったようだ。
 
 ワインは理由なく密室の中で、ひとりでに割れてしまった。
 西園寺ユキオが大切に保管していたそれはあっけなく簡単に割れてしまった。
 では、どうやって?

 西園寺ユキオが嘆きうずくまっていると廊下に何人かの人影が見えた。
「西園寺様、いかがなされましたか」
 その言葉に弾かれたように西園寺ユキオが顔を上げる。
 猟兵達は声を掛けた人物が西園寺ユキオの秘書であることに気づいた。
 胸倉をつかみ上げて至近距離で叫び散らす男に、秘書はかんばせを驚愕の色に染め上げた。
「お前……お前がやったんだな!? お前か!? それともお前か! いいや、この場に居る全員だろう!!」
「い、いったいなにを、おやめください!」
 猟兵達が暴れる西園寺ユキオを取り押さえる。廊下に現れた人物は秘書を含めて四名居た。

●放火犯は必ず現場に戻る
 スーツを身に纏う男性、コック服の年若い男、きらびやかなドレス姿の美しい女性、清掃員の服に身を包む老齢の女性。
 
 長野清隆。高級な生地で仕立て上げられたスーツを着ているのは先に述べられているとおりの秘書だ。会場内でもその姿を確認している。
 花谷京香。昼間に西園寺ユキオの部屋を清掃しているこの女性は、現在とくに西園寺ユキオの私室に用事は無く、ここから先のところにある別の客室の清掃へ向かう途中だったようだ。
 小林順子。西園寺ユキオの手掛ける大手飲食店のライバルとも呼ぶべき企業の女社長は、パーティー会場を離れた主催者と仕事の話をするため追ってきたのだと語っている。
 森野光彦。コック服の年若い男はこの先に居る部屋の客にお料理をお持ちした帰りだったのですが、と言いながら困った顔をして中が空っぽの銀のクロッシュを持って立ち尽くしていた。

 四名の登場人物に猟兵達が考え込んでいると、不意に先程の猟兵の内ひとりが言った言葉が脳裏をかすめた。
 
 部屋に何かがあるのであれば、それを狙う人物は避難することはないだろう。
 一方、関係のない人物達ならば避難誘導には従うはずだ。
 世界各国から集められた要人はテロに敏感でこの手の扇動には従いやすい傾向にある。
 
 おそらく今パーティー会場では、UDC組織による一般客の排除……避難誘導が始まっている頃合いだ。
 であるならば。この場に残っている奴らが怪しくなる。
 ワインが割れたタイミングの良すぎる状況下で西園寺ユキオの部屋の前にわざわざ来るなど目的はひとつなのだろう。
 居る。確実に一人。
 何らかの手段を用いて、西園寺ユキオの持っていた祭具を割った邪神教団に連なる誰かが、この中に。

●名探偵あるいは迷探偵
 さあ、謎解きをはじめ――ても良いが、無理に始める必要はない。
 猟兵達はただ『疑わしい人物の名前』を舌に乗せるだけでいい。
 今この場ではさしてロジックの解明に重要性はなく、どちらかといえば今だんまりを、あるいはとぼけて無関係者を装う彼らから反応を見られればそれでいいのだ。
 おそらく件の人物はこの部屋に対して何かしらのアクションを起こそうとしている。
 猟兵達や他の人物が立ち去るのを今か今かと待っているのだろう。
 そうしてしまえば、波間に揺れる豪華客船に西園寺ユキオの悲鳴が響き渡るに違いない。
 手段、目的は問わずだ。
 猟兵達が悩みつつざっと事情聴取をした結果、聞けた言葉から犯人像が浮かび上がってくる。

 秘書の長野清隆はこう証言した。
「いったい急にどうなされたのですか、西園寺様。近頃様子がおかしいとは思っていましたが……ああ、私は西園寺様の秘書を務めているものです。不審に感じた点、ですか……なんだかここのところやけに私を遠ざけていましたね。特にこの部屋にすら入ることを禁止されていまして。仕事に至っては電話やドア越しに行う始末です。無類のワイン好きである西園寺様ですが、お部屋の中にまでワインを持ちこんでいたとは存じ上げませんでした」

 清掃員の花谷京香はこう証言した。
「私はこの船の清掃員よ。実は昼間私がここに清掃に来た時に、ワインラックの下を掃除しようとしたらこの人部屋に居るって言いだしたのよ。清掃するからお部屋の外に出てくださいって言っても全然言うこと聞かなかったのよね。仕方なくその人が読書をする後ろで手短に掃除したのだけれど……清掃が終わるや否やすぐワインラックの……今割れてる箇所かしら? そこを入念に見てたの。失礼ねえ、盗んだりなんかしないわよ」

 競合他社の小林順子はこう証言した。
「わたくしこういう者です。西園寺様とは良きビジネスパートナーとして今後も日本の飲食店を支え……あら、名刺は結構? そう。……主催者がパーティー会場から消えるなんて、と気になって追ってきたのよ。西園寺様はここのところよくワインのご自慢をなされていて今日もパーティーの終わりには振舞ってくれると言っていたのよ。そうですか。割れてしまったのね。残念だわ。本当に残念だわ。それにしては嬉しそう? いいえいいえ、そんなことはありません」

 コックの森野光彦はこう証言した。
「あの、僕もう通ってもいいですか……? だめですか。うぅ困ったなあ。厨房に戻らないと怒られちゃう。僕はコックとしてこの船の厨房で働いています。お料理はお楽しみいただけました? それはなによりです。えっ不審な点……すみません、あまりその方と接点がなく……今回の主催者の方だとは分かるのですが何とも……。そうですね、不審な点とはちょっと違うかもしれませんが。実は誰かが冷凍庫からドライアイスを許可なくいくつか持ちだした形跡がありまして。料理長が怒ってたなあ」

 ふむ、と猟兵が口に手を当てて考える。
 本来ならばここで探偵らしく大仰な身振り手振りと共に推理を開示し、お決まりのセリフを吐いてしまいたいところだが生憎時間がない。
 先も言った通り、ここでの目的はロジック解明ではなく彼らから反応を見ることが目的だ。名推理によって犯人を導き出すかそれとも迷推理であえて事件を迷宮入りにし、犯人のプライドを刺激して炙り出すか。
 手段は猟兵にゆだねられている。
 猟兵達は犯人と思わしき人物に対して適当に人差し指を振り、探偵を気取ってこう宣ったのだ。
 ドラマや漫画、映画などでよく見かけるフレーズと一言一句違わずに。

「犯人はお前だ!」
花菱・真紀
オカルトは大好きだがミステリは得意じゃなくてな。俺の答えは迷推理になる予感しかしないんだが…とりあえず【オルタナティブ・ダブル】で有祈を呼んでみるか…あいつの方が冷静だし何かわかることがあるかもしれない…そうだなぁドライアイスが怪しいと思うんだよな…割れてるのが下から三段目。一本だけの破壊じゃない他の瓶にドライアイスをいれて密封すれば瓶は爆発ついでに一緒に入れてある目標も破壊。でドライアイスを持ち運びしやすいのは厨房に入れるコック。クロッシュに隠せば持ち運びしやすい?だーこれでいいのかはわからん!?とりあえず有祈、お前が自信満々に言ってやれ!その方が格好がつく「犯人は森野光彦だお前だ!」


キアン・ウロパラクト
この事件を解く前に一つ気がかりなことがあるぜ
こいつは重要な情報に違いない、そう

ドライアイスってなんだ…?

きっとこいつの正体が事件の鍵になるはずだ
まずアイスって言うからにはアイスだろ?
あとはドライのとこだ、ドライ、ドラ…ドラ焼き?
閃いたぜ!

ドライアイスってのは、焼菓子の間に餡入りのアイスを挟んだ
和洋せっちゅーとか言う菓子に違いない!
犯人はこれを邪神を呼び出すまでのおやつにしようとしたんだ
なんか美味そうだし!
てことで余ってたらアタシにも…。え、違う?

えー…、まじかぁ…。あぁ、犯人?
そいつじゃねーのって小林を指差しとくよ
なんかアイス食いたそうだし、アタシの勘がそう言ってる



●ミステリがしたかったのならお生憎様!
 どれもが間違いで、どれもが正解で、どれもが偽で、どれもが真実。
 それでは各自推理論を見ていこう。

「いい加減にしてくれ!」
 西園寺ユキオの叫び声、地団駄、わめくような身振り。
 子供のそれと等しい癇癪に猟兵達が思わず一歩引けば、西園寺ユキオは割れたワインの瓶を抱える。
「出ていけ! 出て行ってくれ!」
「そうはいかない、これから現場検証だ」
 ぴょいっと襟首をつかまれて、西園寺ユキオはワインを取られると廊下につまみ出されてしまった。
「さて、言ったはいいものの……オカルトは大好きだがミステリは得意じゃなくてな」
 真紀が西園寺ユキオを放りだして、主が居なくなった部屋を改めて見回す。
 ワインが割れている以外はどこもおかしくない部屋だ。
 多重人格者の固有能力で呼び出された真紀のもう一つの人格――有祈が同じように部屋を見回している。
 顎に手を当て同じポーズで悩む彼ら二人にキアンが声を掛けた。
「この事件を解く前に一つ気がかりなことがあるぜ」
「どうしたんだ? もったいぶらずに教えてくれよ」
「こいつは重要な情報に違いない、そう、」
 キアンが一度言葉を切る。
 ごくりとつばを飲み込んだ真紀が先を促せば、キアンは頭に引っ掛かる部分をそのまま彼に話した。

「ドライアイスってなんだ……?」

 ……。
 ………………。
「………………………………うん?」
 たっぷりの時間経過のあと、ようやっと絞り出せた真紀の言葉尻は半オクターヴほど跳ね上がった。無理もない。
 キアン・ウロパラクトその人は、ドライアイスという物体の意味をそもそも知らなかったのだ。
 頭をガシガシと引っ掻いた真紀が説明しようと口を開けばキアンはすぐさま持論を並べ始めた。
 有祈はそれを止めることも無く何が気になるのか割れたワインの破片をじっと見つめている。
「いいかドライアイスっていうのは――」
「まずアイスって言うからにはアイスだろ? あとはドライのとこだ、ドライ、ドラ……ドラ焼き?」
「ちがくて――」
「閃いたぜ! ドライアイスってのは、焼菓子の間に餡入りのアイスを挟んだ和洋せっちゅーとか言う菓子に違いない! 犯人はこれを邪神を呼び出すまでのおやつにしようとしたんだ。なんか美味そうだし! きっとこいつの正体が事件の鍵になるはずだ!」
「話を聞いて――」
 マシンガンのように飛び出す彼女の持論に真紀は目を白黒させるばかりだ。
 しかしドライアイスがこの事件の鍵になっているのはほぼ間違いない、真紀もその部分にだけは頷いてみせた。
「ええっと、話を戻すけど……そうだなぁ、ドライアイスが怪しいとは俺も思うんだよな……割れてるのが下から三段目」
 ちら、と目をやればワインラックの三段目だけがきれいに爆裂している。
 一段目でも二段目でもなく三段目のみだ。目標物だけを的確に狙ったのだろう、ラックはずたずたに壊れている。
「一本だけの破壊じゃない、他の瓶にドライアイスをいれて密封すれば瓶は爆発ついでに一緒に入れてある目標も破壊。で、ドライアイスを持ち運びしやすいのは厨房に入れるコック」
 さっきコックがドライアイスの話してたよな、と振り返れば森野光彦が困ったように眉根を寄せて真紀を見た。
「言いましたけど、いや僕がやったわけじゃないです!」
「おいキアン、あんたもなんか言ってやれ」
「アイスがあるならアタシも食いてえんだけど……ってことで余ってたらアタシにも……え、違う? 残ってねぇの?」
「アイスから離れて!」
 がっくりと肩を落とすキアンが完全に興味をなくしてしまったのか、つまらなそうにぴっと人差し指を小林順子に向かって指さした。
「えー……、まじかぁ……。あぁ、犯人? こいつじゃね?」
 なんかアイス食いたそうだし、アタシの勘がそう言ってる。
 キアンがおざなりに示した先、小林順子がおかしそうにクスクス笑った。
「あら、わたくしをお疑いなのかしら?」
「ん、違うのか? じゃあこっち!」
 キアンが指先をくいっと曲げる。狼狽えたのはもちろん容疑を被せられた森野光彦だ。
「ぼ、僕!?」
「アンタもアイス食いたそうだし!」
「言いがかり!?」
「ああ、俺も言いがかりだと思う! でも現状これしか情報がない中で、とりあえず犯人当てをしないといけないんだ!」
「なぜ!?」
「そういうことになってるからだよ!」
 もはややけくそに近いそれに森野光彦も雰囲気に流されている。
 とりあえずこの一幕を下ろさねばならぬと理解したのだろう、覚悟を持ってコック帽を脱ぎ捨てた。
 ついでに銀のクロッシュも捨てた。美味しそうな子牛の赤ワイン煮が落ちる。
「だーこれでいいのかはわからん!? とりあえず有祈、お前が自信満々に言ってやれ! その方が格好がつく!」
 呼ばれた有祈が億劫そうに顔をあげて、仕方なさげに主人格の真紀に従う。
 全く同じ容姿の二人が揃って一人を指さした。
 さあ、みなさんご一緒に。ご唱和ください。せーの。
「犯人は森野光彦、お前だ!」
「犯人は森野光彦、お前だ」
「違います!」
「だよな!? ああ良かった! そうだと思った!」
「分かっていただけて何よりです!」
 真紀と森野光彦が固い握手を交わしている。奇妙な友情が芽生えそうになっていた。
 真紀が盛り上がっている中で話しかけられなかったのか、仕方なくキアンへと有祈――真紀の別人格が話しかけてくる。
「なーんだ、アイスが余ってれば良かったのに。ん、どうした?」
「真紀の推理、一部は合ってる」
 ワインが爆発したのは密閉状態の容器の中にドライアイスを入れたからだと有祈が言った。
 そう、推理自体は合っているのだ。
 ドライアイスは要するに固体二酸化炭素のことを指す。
 気化すれば堆積が約七百二十倍になる二酸化炭素のかたまり。
 密閉状態にすれば何が起こるかはもうお察しの通り、爆発だ。硝子板やプラスチック板程度なら簡単に破壊してしまう威力のある危険なものへ早変わりをする。
 そして、完全に気化してしまえば目に見えなくなる。
 夏場はこのドライアイスを密封状態にしてラムネ瓶などにいれてしまい、子供が怪我を負う事故へとつながるケースも少なくない。
「だからドライアイスってのは和洋菓子のアイスなんだろ?」
「……」
 違うんだ、という言葉はキアンに終ぞ届くことは無く、真紀に重なるようにして別の人格は解け消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

村井・樹
生憎、この状況を一目見ただけで犯人を見つけられるほど、私めは目聡くありません
故に、私の言から、現状皆様の反応を見ましょう
我々の言動への便乗や、僅かな動揺でも、他の方が鋭く切り込む切り口にでもなれば良いのですが。

「ワインにせよ、これもまた器物損壊に当たることには違いありません、即ち立派な犯罪行為です。一刻も早く警察に連絡を」
「それに、船の方もこのままでは大変でしょう。一刻も早く、汚れてしまったものも回収して、然るべき所で精査するべきなのでは?」
「この場のワインも全て、破片も含めて証拠物品として回収しましょう、でないと真犯人が処分してしまわないとも限りません」

※プレ外の言動、他猟兵との絡み大歓迎


バラバ・バルディ
(推理劇をある程度楽しんでから)
「西園寺君はこの若さで大企業の経営を任されるほど、才も財も運も持ち合わせておるからのう。残念なことじゃが、彼を妬む者も多かろう。つまり今回のことは、その誰ぞが仕掛けた嫌がらせに違いないわ! なんじゃ、まさか本気で信じておるのか?くだらぬ邪神なんぞを信仰する輩が、西園寺君のワインを割ったと?……ぬぁっはっは!荒唐無稽な話じゃな。それよりも今は一刻も早くこの部屋を離れ、わしらも船を降りるべきではないかのう?ちと小耳に挟んだんじゃが、どうやらこの船はテロの標的となっている可能性があるらしいからのう」
(邪神を馬鹿にして信者を煽り、部屋から遠ざけようとして反応を窺います)


星群・ヒカル
ふふふ、超宇宙番長が超宇宙探偵っぷりを発揮する時が来たようだな!
暴いてみせるぜ、この密室トリックをなッ!
(トリックとか全然わかんねーけど、怪しそうな人は匂いでわかる。これが番長だッ。喋りながら、「第六感」を使うぞ!)

●行動:SPD
普通に考えれば、唯一部屋に入った掃除のおばちゃんが怪しいわけだが……
女社長の小林さん?随分とご機嫌な様子じゃん?

同業他社は持ちつ持たれつ。さっき西園寺さんが言ってたことだ。
秘書さんが貴女を招待客に選ぶことだって自然なことだし、西園寺さんだって違和感を持たない。
何かの目的を持って、違和感なく確実に会場に確実に入り込めるのは、前から仲良しの小林さんだけだよなぁ〜?


芥辺・有
……ああだこうだと頭を使うのは苦手なんだよね。
映画の中の探偵でもなし。華麗な推理なんぞ出来ないからね。
まあ、推理よか4人の反応を観察する方に重きを置こうかな。

適当に、そうだね。清掃員を犯人だと指名して様子を伺おう。
短時間とはいえ部屋に出入りしたとや、清掃員の姿なら大概どこに出入りしても怪しまれないだろう?などと適当につらつら喋りつつ話をだらだらと長引かせるようにしてみようか。
さっさと人払いしたいなら誰かがなにかしらの反応をしたりするかもしれない。
表情や言動に注目しとこう。



●怪しい動き
 真紀と森野光彦が意気投合している中、他の猟兵達が現場に入る。
「ふふふ、超宇宙番長が超宇宙探偵っぷりを発揮する時が来たようだな!」
 ヒカルが張り切る傍で、部屋の壁に背を預けて様子を観察しているのは樹と有だ。
「……ああだこうだと頭を使うのは苦手なんだよね。映画の中の探偵でもなし。華麗な推理なんぞ出来ないからね」
「おや、先の西園寺氏から相槌で会話を引き出す貴方の手腕。中々のように見えましたが。まるで探偵のようでしたよ。そんなに謙遜なさらなくとも」
「冗談。そちらさんこそ得意なんじゃないの」
「あはは、それこそ冗談ですよ。生憎、この状況を一目見ただけで犯人を見つけられるほど、私めは目聡くありません」
 あくまでも観察にとどめておくだけの有に、樹も倣って部屋を見る。
 ここで行うべきは容疑者四人のうちに変化があるかどうか見定めることだと判断した樹は有と共にヒカルの推理にひとまず場を任せることにした。

「暴いてみせるぜ、この密室トリックをなッ!」
 ま、トリックとか全然わかんねーけど、怪しそうな人は匂いでわかるし。
 胸中だけでそう呟いたヒカルは鋭い己の勘に頼って推理論を展開する。
「普通に考えれば、唯一部屋に入った掃除のおばちゃんが怪しいわけだが……女社長の小林さん? 随分とご機嫌な様子じゃん?」
 そう、同業他社は持ちつ持たれつ。
 先程西園寺との会話で言及されていたことだ。
 秘書が小林順子を招待客に選ぶことは自然なことで、西園寺も違和感を持たないだろう。
 だからこそ会場で彼女を見かけても他の招待客と同様の対応をしたのだから。
「何かの目的を持って、違和感なく確実に会場に確実に入り込めるのは、前から仲良しの小林さんだけだよなぁ〜?」
「賢い坊やね。確かにわたくし、彼とは交流がありましてよ。でもわたくしが部屋に入ってワインラックに細工を施すのはちょっと厳しいんじゃないかしら」
 ふふ、と小林順子が笑う。
 ワインラックが持ち込まれたのはもちろん西園寺ユキオがこの客船に来てからだ。
 必然、パーティー開始前には西園寺ユキオは部屋を施錠している。
 そのためヒカルの言う通り唯一部屋に入ることができたのは西園寺ユキオが部屋にワインラックを運んでからカウントすると清掃員の花谷京香だけになってしまう。
「ぐぅ、それはそうだけど」
「惜しかったわね、坊や」
「果たしてそうかな」
「え?」
 ヒカルが顔を上げれば有が壁に寄り掛かったまま、小林順子を見据えている。
「彼の言う通りやけに上機嫌そうだ。そんなに西園寺の言う宝物が壊れたことが嬉しかったのかな」
「何を……おっしゃいたいのかしら」
「別に。ただ持交流があるという割に仲が良さそうには見えなくてね」
 ふんわりと有の纏うドレスの裾がひらめいた。
 有が見ていたのは表情や言動だ。
 観察に徹していたからこそ見えた……彼女の急かすような雰囲気を有は感じ取っている。
 西園寺ユキオが彼女の商売敵であることは明白な事実だが、それにしたって喜び過ぎだ。
「どうにも立ち去りたいように見えるけれど」
「……チッ」
 隠そうともしない舌打ちに有は肩を竦めた。
 そのまま小声でヒカルに話しかけ、肩を叩く。
「ヒカル、勘は良かった。言及してくれなければ彼女の変化に気づけなかっただろう」
「……でも言う通り、推理は外れちゃったみたいだぞ?」
「ここで犯人が合っているかどうかは些細なことですよ」
 樹が言うことに有も頷く。
 合っていなくとも構わない、変異が見られればそれでいい。
 疑わしいのはこの場の四人全員なのだから。
「まあ、確かに私が疑っているのはもっと別の――そう、」
 清掃員の花谷京香が有の鋭い目に射貫かれてビクリと大袈裟に背を揺らした。
 樹がそんな彼女の様子を見て、芝居がかった所作で手を振って見せる。
「お待ちください。犯人捜しの前にまず撤退すべきかと。ワインにせよ、これもまた器物損壊に当たることには違いありません、即ち立派な犯罪行為です。一刻も早く警察に連絡を」
 破片を指さして回収を促せば、コックの森野光彦以外の三人が如実に慌てだしたのが見えた。
 有と樹がそれぞれ目配せをする。おかしい。
 森野光彦は抜きにしてもこの三人、先ほどから焦っているように見える。
「この場のワインも全て、破片も含めて証拠物品として回収しましょう、でないと真犯人が処分してしまわないとも限りません」
 ねえ、みなさん。
 振り返れば一気に部屋の空気が固くなるのが分かった。
「船の方もこのままでは大変でしょう。一刻も早く、汚れてしまったものも回収して、然るべき所で精査するべきなのでは?」
「あら、そんなことを言って貴方達がそれを持ち去ってしまうのではないですか?」
「それはそうだ。これは失礼致しました」
「それでしたら、秘書の私が……」
「いいえ、こうなれば誰もみな等しく怪しいのですから。持ち主である西園寺さんに割れた瓶を持って船外に出てもらうのが一番ですかね?」
 ああ言えばこう言う、口八丁手八丁。
 樹がワイン瓶に触れさせないよう牽制すれば小林順子も長野清隆も硬直する。
 西園寺ユキオはといえば、つまみだされた廊下の先でバラバから慰めの言葉を受けていた。

●シャーマンズゴーストの思案
「西園寺君はこの若さで大企業の経営を任されるほど、才も財も運も持ち合わせておるからのう。残念なことじゃが、お主を妬む者も多かろう」
 ぽん、とバラバの長い指が西園寺ユキオの肩を叩く。
 西園寺ユキオは胎児のように体を丸めてひたすらにワインが、ワインがと言うばかりだ。
「そんなに泣くでない。今回のことは、どこぞの誰かが仕掛けた嫌がらせに違いないわ!」
「このワインは邪神を呼び寄せる祭具なんだぞ!」
「はっ! なんじゃ、まさか本気で信じておるのか? くだらぬ邪神なんぞを信仰する輩が、西園寺君のワインを割ったと? ……ぬぁっはっは!」
 バラバが豪快に笑い飛ばして見せるのを西園寺ユキオはぽかんとした表情で見つめた。
 先に説明した通りこのワインは祭具だ。人を魅せつけてやまない不思議な魅力を自分も信じている。
 なのにこの目の前の男はそれが世迷い言と笑って見せたのだ。
「荒唐無稽な話じゃな」
「違う、確かに……」
「考えてもみると良い。ワイン瓶ごときで命を狙いに来るなどありえるはずもなかろうて。ここは現代日本じゃぞ」
 きっと疲れておったのじゃ、とバラバが話せば急激に力が抜けて西園寺ユキオへたりこんだ。
 本当に?
 そうなのだろうか。そうなのかもしれない。
 日々の仕事に疲れて曰くつきだとワインを掴まされ。
 人の視線がやけに気になったのは疲労のせいだったのかもしれない。
 優しい声色に流されかけている西園寺ユキオを立たせるため、バラバはさらに続ける。
「それよりも今は一刻も早くこの部屋を離れ、わしらも船を降りるべきではないかのう? ちと小耳に挟んだんじゃが、どうやらこの船はテロの標的となっている可能性があるらしいからのう」
「本当ですか? それはいけませんね」
「すぐに立ち去ったほうがいいよなっ?」
「ああ、その通りだ」
 口車にこれ幸いと樹やヒカル、有が乗ろうとする。
 証拠を持ったまま現場を離れようとした猟兵達に待ったをかけたのはやはり三人の容疑者だった。
「お待ちください。何も解決していないではありませんか」
「そうねえ、ワインは置いていってくださる? 現場はこのままにすべきだわ。証拠を動かしてしまっては立証が後々できなくなってしまうもの。ねぇ貴方もそう思わないこと?」
「こちとら疑われたままでそうやすやすと引き下がれるもんかね。納得するまで話を聞かせてもらわないとね」
 長野清隆も小林順子も花谷京香も、ワインをここから持ち出すことに首を縦に振ろうとしない。
 膠着状態にやれやれとバラバが溜息をついて、他の猟兵達を見回した。
「困った、困った。困ったのう。こちらの御三方、どうもわしらが言及してやらねば気が済まんらしい」
「困りましたねえ、先を急いでいるのですが」
「ふうん、じゃあ謎解きが得意な他のみんなに任せちまおうぜ」
「そいつはいい、妙案だ」
 樹が、ヒカルが、有が、それぞれ後続の猟兵達に謎解きを託す。
 そんなに真実がお望みなら突きつけてやればいいのだと、バラバがフンと鼻を鳴らしてみせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

八坂・操
【SPD】

ワイン一本で邪神が一柱! 何ともまぁ安い邪神サマもいたもんだね☆
高笑いの末、邪神の第一犠牲者になるのは誰かな?

操ちゃんは京香ちゃんだと思うなー。
昼間に部屋に来たんでしょ? その時に仕掛けを作れば、時間差で割る事も出来るよね♪
例えば……ドライアイスを入れたワインの瓶をワインラックの物と入れ替えるとかさ?
清掃員なら厨房を通ったとしても怪しまれないし、掃除道具に紛れた瓶はゴミにしか見えない。ユキオ君は件のワインにお熱とくれば、隣の銘柄までは目を通さないだろうさ。

ま、今の操ちゃんは警備員だからね☆ 皆の推理を黙々と眺めながら【虫の知らせ】で彼女の掃除用具を漁ってみよっか♪
「花谷様、これは?」


フィン・クランケット
むっふっふ~、謎は全て溶けました!
誤字じゃないです、氷属性的言い回しですよぅ
犯人はずばり、『花谷京香』さん、貴方ですね!?
お掃除係なら、マスターキーもありますし、それがなくてもゴミ回収等で厨房への侵入も怪しまれないはずっ
ドライアイスをこう、何やかんやイイ感じにセットすれば、温度差とかで何やかんやイイ感じに時間差でワインの瓶が割れちゃうみたいな

え?違う?

……
こほん!
ともあれ、犯人はこの中にいることには違いありません!
さぁ、皆さん!(ぐるっと他の猟兵さんたちを振り返り)
お願いします!!(いっちょやっちゃって下さい的な。用心棒を頼る下っ端みたいなムーブする)

(迷探偵役も大歓迎! お好きにどうぞ♪)


パレード・ペッパーポート
……なんかわくわくしてきた。
でも俺は探偵役ってガラじゃないんだよな。
花形は譲るよ。面白いモン見せてくれ。

【WIZ】
やっぱり気になるのはアレだな?
ドライアイス。

不審なのは、ワインは盗まれたんじゃなく瓶ごと割れてたってことだよなぁ。
持ってっちまったほうが、場所や時間が選べる分都合がいいと思うんだが。
つまり…犯人は荒っぽいやり方でも、ここでワインを開封するしかなかったってことか?

ボトルを盗むのは無理だった…発想を変えてみよう。
「増やす」んだったら?

破裂、か…そういや俺のガキの頃は、スチーム爆弾っていう蒸気で派手な音を出すオモチャが流行ったな。


千桜・エリシャ
WIZ
まあ!謎解きですのね!楽しそうですわ!

消えたドライアイス――というのが気になりますわね
そういえばドライアイスって密閉すると爆発すると聴いたことがあったような……?
ならば同じワインの瓶に詰めて、爆発させた可能性はないかしら?
それならワインラックに忍ばせても違和感ありませんし、割れても証拠隠滅できますものね

だからドライアイスのことを教えてくださった森野光彦さんは容疑者から除外できるかしら
自分に不利な証言をわざわざする必要ありませんもの
長野清隆さんと小林順子さんも部屋には入れなかったようですし……
そうすると消去法で犯人は花谷京香さんかしら
彼女しかこの部屋には入れなかったみたいですから



●お望みのままに
「頼まれちゃあ仕方ありません、不肖このフィン・クランケット! 謎解きにひと肌脱いでみせましょう!」
 猟兵の促しでフィンが一歩前に出る。
 薄水色のシルクがゆらりと揺れて、空気を吸ってふっくらと膨らんだ。
 そんな彼女の手を取って、抱き上げるようにエスコートするのは警備員の服に身を包む操。
「足元にお気を付けください、お嬢様。なにぶん破片が散らばっておりますので☆」
「ありがとうございます! 王子様みたい!」
「ふっふーん、そう? 照れちゃうね♪ にしてもワイン一本で邪神が一柱! 何ともまぁ安い邪神サマもいたもんだね☆」
 操が絨毯を軽く踏んで現場にすらりと足を落とせばかちゃかちゃと割れたワイン瓶の破片がぶつかりあう音がする。
 キアンに倣ってハイヒールを脱ぎ捨ててしまったが、彼女のように足元を守れる鱗を持たないフィンは、腰を抱かれるようにして地面に足をつけずに現場に入った。
「そんでもってフィンちゃん、この中の誰が犯人だと思う?」
「そうですねぇ、むむむ。犯人はずばり、花谷京香さん! 貴方ですね!?」
「おやぁ奇遇。操ちゃんも京香ちゃんだと思うなーって思ってたとこ☆」
 二人が揃って花谷京香を見れば、視線の集まった彼女が顔を歪めて首を横に振る。
 だが他の猟兵が指摘する通り、彼女しか部屋に入れるタイミングがあった者は居ない。
 正確に言えば西園寺ユキオによって部屋にワインラックが設置されたあと、なにか細工を仕掛けられる可能性のあった人物は彼女以外に居ないのだ。
 消去法でも実行犯のあぶり出しは可能である。
「さっきから違うって言ってるじゃない!」
「でも貴方以外ありえないんです! お掃除係なら、マスターキーもありますし、それがなくてもゴミ回収等で厨房への侵入も怪しまれないはずっ」
「昼間に部屋に来たんでしょ? その時に仕掛けを作れば、時間差で割る事も出来るよね♪」
 痛いところを突かれた花谷京香が押し黙った。
 だがややあってから得意げに顔を歪ませて、じゃあどうやったのか言って見なさいよと二人に詰め寄った。
 フィンがわたわたと説明するが花谷京香はそれでは引く様子を見せない。
「えっと、えっと、ドライアイスをこう、何やかんやイイ感じにセットすれば、温度差とかで何やかんやイイ感じに時間差でワインの瓶が割れちゃうみたいな」
「もっとちゃんと説明してくれる?」
 人を疑うってことはそれなりに理由があるんでしょうね、とキツい口調のままもう一歩詰め寄ろうとしたところで操が一歩引いた。
 ゆらゆらと楽しそうな口調から打って変わって、警備員だった時の硬い口調にすぐさま戻るのは演技の成せる技か、それとも。
「やだやだ、そんなに詰め寄らないでくれるかなぁ? ――こちら、我々の大事な姫君ゆえ。ご無礼を働かないで頂きたい」
 カツン、と絨毯から外れたところを操の足が蹴って、ダンスを真似てくるりと一周する。
 フィンのドレスにある白い雪の結晶が照明の下で泳いだ。
「お急ぎにならずとも、どうやったかは他の者が説明しますのでご安心を。さあ続きを、」
 促せば赤みがかった亜麻色の髪をゆるく結った男が続きの言葉を紡ぐ。
「やれやれ、俺は探偵役ってガラじゃないんだよな。花形は譲るが解説くらい担ってやってもいい」
 代わりに面白いモン見せてくれ、と続けてパレードが歩み出る。
 操が廊下にそっとフィンを降ろして、すぐにニコニコといつものように笑って見せた。
「ダンスはまた今度楽しみましょう、お嬢様」
「わわ……」
 回転しすぎたのかくるくると目を回すフィンの肩に手を置いてパレードの推理論に操は耳を傾ける。
「さあさあ、これから探偵達が活躍するからねー。見なきゃ損損☆」
「おっと、見逃すところでした! よろしくお願いします、パレードさん!」
 パレードは二人の声には振り返らずに片手をあげるのみで応えた。

●正解を引き当てた者達
「さて、解説といこう。やっぱり気になるのはアレだな? ドライアイス」
 冷凍庫から盗み出されたそれがどう利用されたか、やはりこの事件の焦点はそこに集中するだろう。
「不審なのは、ワインは盗まれたんじゃなく瓶ごと割れてたってことだよなぁ。持ってっちまったほうが、場所や時間が選べる分都合がいいと思うんだが」
 だが盗めない。盗むことができなかった。
 盗むことができないから、壊すしかなかった、とは言い換えられないだろうか。
「つまり……犯人は荒っぽいやり方でも、ここでワインを開封するしかなかったってことになる」
 この推理で重要なのは犯行を行ったであろう清掃時――西園寺ユキオは清掃中も部屋に居たという証言がキーだ。
 読書をしていたとはいえ、目は常にこちらに向いている。たとえ彼に背を向けるように細工を施したとしてもあれほど大事にしている瓶がなくなってしまえば気づくに決まっている。
 ボトルを盗むのは無理だった……であるならば。
「それなら発想を変えてみよう。『増やす』んだったらどうだ?」
「増やす……?」
 廊下から西園寺ユキオの声がする。
 パレードはニヒルに笑うと花谷京香に向き直った。
 スーツ姿で部屋を闊歩する姿は探偵そのものだ。
「西園寺ユキオが注視していたのはおそらく目的の祭具のボトルのみだった。当然だな、それが狙われていると分かっていて警戒しない持ち主は居ないだろう」
「じゃあ細工なんてできるわけないじゃない」
「急ぎなさんな。俺は言ったぞ」
 ――西園寺ユキオが注視していたのはおそらく目的の祭具のボトルのみだった。
 祭具ではないボトルであれば。
 花谷京香の顔が憎々しげに歪む。
「……!!」
「気づいたみたいだな。ワインラックに別のボトルを一本仕込むくらいなら短時間でも出来る」
 あとはみなの解説の通りだ。
 あらかじめドライアイスを仕込んだワイン瓶を目的のものの近くに沿えてやればいい。
「以上、解説終わり。何か質問は?」
「あるわよ! じゃあどうやって別の瓶が増えたか証明できるっていうの!?」
「しつこいな、それを言うのは簡単だがこれより先はロジック解説から外れた領域だ」
 花形は譲るって言っただろう、パレードはその言葉と共に後続への道をあけた。
 着飾った見目麗しい彼女が開けられた道に駒鳥のように降り立つ。
 お待ちかねの探偵の登場だとパレードは小さく笑って壁際に寄って見せた。ここから先は彼女の独壇場。 
 エリシャがそっとマーメイドドレスで隠された足を降ろして、静々と歩きながら蝶の模様を引っ張って見せた。
 黒と銀と紫に彩られた彼女が謎を紐解く。
「まあ! 私の出番が来ましたのね。これはこれは、楽しそうな謎解きですわ!」
 心底嬉しくてたまらないのだと嫋やかに笑って、彼女は謎を開示した。
「ドライアイスは密閉すると爆発すると、何処かで聞いたことがありまして。皆さんの仰った通りでしたのね。そしてパレードさんの言葉通り、それならワインラックに忍ばせても違和感ありませんし、割れても証拠隠滅できますものね」
 だから自分に不利な証言をするはずのない森野光彦さんは容疑者から除外できるかしら、と微笑めば森野光彦は胸に詰まっていた緊張の息をほっと吐きだした。
「では、花谷京香さんがボトルを増やしたかどうかの話をしますわね」
 彼女の言葉にすべての真理が隠されている。
 早く先を、と焦りから言うのをたっぷりと焦らしてから、そうして一見つながりのない言葉をエリシャは放った。
「そういえば私、パズルも得意ですの」
「……?」
 蝶翅几は難しかったのですけれど、と蠱惑的な微笑みを浮かべる彼女に意図を汲みかねた花谷京香が怪訝そうに眉をひそめる。
 割れた破片の一つを拾って、エリシャの指先が尖った先をつまみ上げる。
 白魚のような指先に今にも牙をむきそうなそれを危なげなく持って宣った。
「組み立ててみせますわ」
「なっ……!」
「そうすればご納得頂けますわね?」
 先ほど猟兵の内ひとり――多重人格者の彼が召喚した別人格が破片を眺めていたのをエリシャはしっかりと覚えていた。
 ボトルひとつぶん増えているはずのそれを。
 今この場で組み立てられずとも検察が来てしまえばもう終わりだ。ワインラックに無いはずの瓶はさすがに西園寺ユキオだって把握しているだろう。
 曲がりなりにも酒に執着しているコレクターだ。自分の宝物でないものはすぐに分かる。
「犯人は貴方ですわ。花谷京香さん」
 エリシャの言葉にがっくりと花谷京香が膝をついた。
「そうか、だから彼女は破片を回収するために……」
「だろうね☆ こんな物的証拠が残ってたら後々言及されちゃうし」
 フィンが呟いた言葉に操も頷く。
 続けて、それにさあ、と言葉を残して膝をついたままの花谷京香に近寄った。
 掃除用具の中にあるバケツ――やけに冷えたそれの中。
 丸い瓶底の形にくっきりと、真っ白に霜付いた痕を目ざとく見つけた。
「花谷様、これは?」
「こ、れは」
 言い逃れはもはや焼け石に水だ。この場合、水ではなくワインだったのかもしれない。

●真実を引き当てた者達
「さて、だがそれで真実の全貌を明らかに出来たわけじゃないんだよな」
「そうですわね」
 パレードの言葉にエリシャはにっこりと笑った。
 どういうことだ、と動揺する容疑者達に猟兵達は向き直った。
 容疑者を視界に収めたときに思った最初の言葉を、はじまりの言葉を。反芻する。

 ――ワインが割れたタイミングの良すぎる状況下で西園寺ユキオの部屋の前にわざわざ来るなど目的はひとつなのだろう。
 ――居る。確実に一人。

 一人? いいや、二人、三人、四人。
 この場にいる容疑者の数は四人だ。会場の方ではもうとっくに避難が済んでいるだろう。
 こんなところに四人も逃げ遅れ。UDC組織が彼らを船内に残したのは理由がある。
 思い返してみてほしい。
 森野光彦は情報源のために残された哀れな一般人なのかもしれないが、別の猟兵達が推理に時間を割かずに観察を続けたことで動揺を見せた人物がこの場に三人ほどいなかっただろうか。
 エリシャは言外にそう言っているのだ。
「花谷京香さんはあくまでも実行犯ってわけですね……」
「その通りですわ」
 ご自覚があるのですわよね、皆々様。
 首だけを傾けて。探偵がそう問うてみれば、見つめられた三人は標本に針で刺された蝶のように動くことができなくなる。
「謎解きはまだ終わっていないってことだね☆」
「ああ、ここからが見物だ」
 楽しそうに操が笑ったのに対して、パレードもまた口角を少しだけ上げて唇に三日月を浮かべて見せた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

古峨・小鉄
ぶにょ……仕方ないけん、それ風の坊ちゃま服を着とくじゃ
自慢の尻尾は出して欲しいじゃ
俺怪しくない。たまたま会場からトイレに行こうとして迷子になった風

人垣の隙間から、ユキオと皆の話は聞いたじゃ
【花谷京香】
「犯人はお前だ!
おお。この科白、内心ゾクゾクするじゃ
部屋に堂々と入れたのは、この人だけじゃもん

はて、次に何が起こるか警戒しとかんと
ユキオの警護は他の皆に任せ、周辺の要因を探る
部屋焼いちゃうん?ワインに引火するん?
火気類所持しとるなら、それを使用させる訳にはいかないじゃ
清掃用具にそれらしきモンないか見せて欲しいじゃ

話してええなら、ユキオに変わり者の好事家の話を聞きたいのう
じゃって、気になるんじゃもん


リーオ・ヘクスマキナ
モグモグ。ゴクン。……やー、事件に託つけて美味しい物食べられるってんだから、猟兵も得な時があるよねぇ。いやさ、戦いとか大変な時のほうが多いけど。
赤頭巾さんもコレ食べれればいいのに……。
え。俺の味覚通して味わってる? 器用だなぁ。

……えっ、事件? ワインが【祭具】?
まじかー。ごちそうタイム終わりなのかー……残念。外の景色も凄い綺麗で嬉しかったのに……。

で、誰が犯人か、だっけ?
秘書さんじゃないの? いや清掃員さんも怪しいっちゃ怪しいけど。本人が入念に見てたんでしょ?

ボトルは高温の状態にすることで割れるから、何かしらの方法で高温になる仕掛けを施せばアリバイを構築してその場に居ずとも割れるよねぇ。



●お食事は済ませましたか
 モグモグ。ゴクン。
 小さな咀嚼音と共に油の滴る鶏もも肉が薄い口へと吸いこまれた。
 ぱちぱちじゅわじゅわなんて小気味いい音を立てていた、焼き立てのそれをたいあげると一人の猟兵はナプキンで口元をぬぐってみせる。
「やー、事件に託つけて美味しい物食べられるってんだから、猟兵も得な時があるよねぇ。いやさ、戦いとか大変な時のほうが多いけど」
 むしゃむしゃぱくぱくと擬音でも聞こえてきそうなハイペースでリーオ・ヘクスマキナ(f04190)が食事を続けていれば、また目の前に赤いソースで味付けされた湯気立つ温野菜が運ばれてきた。
「へえ、これも美味しそうだな。シシリーソースだって。シシリーってなんだろうね。赤頭巾さんもコレ食べれればいいのに……」
 イタリア、シチリアのこと、と何処からともなく声が聞こえる。
 自分によく似た声だ。自分によく似ていない声だ。
 多重人格者の彼の中に宿る人格がそう教えて貰った気がして、リーオは分かっているのかいないのか曖昧な返事をしながら料理をぽいと口へ運んだ。
「ふーん。そうなんだ。え。俺の味覚通して味わってる? 器用だなぁ」
「こちらのエビとチーズのカナッペはいかがですか?」
 色とりどりの食事があちらこちらへ運ばれいていく。
 シックな給仕服に身を包んだギャルソン達が各国要人の口に合う料理を運んでは戻って、運んでは戻って。その繰り返しだ。
「ああ、それ一皿ください。俺が食べるから」
「こっちに欲しいじゃ! 美味しいじゃ!」
「あれ?」
「んん?」
 猟兵達の手が触れあった。今まさに料理に手を伸ばしていたのは古峨・小鉄(f12818)だ。
 真っ白くてふわふわ、やわらかなご自慢の尻尾が舌鼓と共に揺れている。
 一応フォーマルな衣服として金持ちの子息よろしく、フリルつきのシャツ、サスペンダーに蝶ネクタイとそれなりに見立てられた服を着ていた。
「ああ、これは申し訳ない。被っちゃったね。なにせこんなに美味しいものをタダ食らいできるのなんて滅多にないからさ」
「こちらこそ申し訳ないじゃ……どうぞどうぞ」
「いやこんな小さな子から食べ物巻き上げるほどがめつくないよ」
 さあお食べ、と勧めてやれば小鉄が嬉しそうに手のひらに乗せられたエビとクリームチーズの乗せられたクラッカーにかぶりついた。
「良い食べっぷりだなあ。ところでカナッペってなんだっけ」
 ねえ赤頭巾さん、と聞いても人格は答えてくれない。飽いてしまったのだろうか。
 腹心地もある程度ついたところで人の波がだんだんと捌けていくことに気づいた。
「やっこさん動き出したな」
 どうやら各国要人が船外へと連れ出されているようだ。白イルカの腹から人が消えていく。
「ごちそうタイム終わりなのかー……残念。外の景色も凄い綺麗で嬉しかったのに……。仕方ないな、移動するか」
「むむ、怪しい気配じゃ!」
「あれ?」
「んん?」
 またもや目の前の彼と行動が共になる。
 UDC組織が避難に乗り出したのを見た二人は目標の人物を追いかけようとして――はたと立ち止まった。
「ははぁ。もしかして猟兵かな。やっぱりそうじゃないかとは思ったよ」
「猟兵……? ああ、グリモアベースは別々のタイミングで出発したんじゃ?」
「そうみたい。俺、リーオ。リーオ・ヘクスマキナ。他の猟兵達はもう現場に移動したみたいだね」
 俺達も行こうか、と声を掛ければ小鉄も慌てて口元をぬぐい、リーオの後についていった。

●でも謎解きはここから
「事件概要、聞いたかい?」
「人垣の隙間から、ユキオと皆の話は聞いたじゃ」
「そうか。俺はグリモア猟兵から聞いた。で、誰が犯人か、だっけ?」
 歩く彼らの先で猟兵達の話す声が聞こえる。
 リーオと小鉄は同時に推理論を展開した。
「犯人は花谷京香じゃ!」
「秘書さんじゃないの?」
 ものの見事に食い違ってしまったそれに小鉄はぽてりと尻尾を落とす。
「意見が割れたじゃ……」
「俺達さっきまで息ぴったりだったんだけどね……清掃員さんも怪しいっちゃ怪しいけど。本人が入念に見てたんでしょ?」
「それはそうじゃが……こう、隙は誰だってあると思うじゃ!」
「確かになあ。というか全員怪しいよね。現場を見ないことにはなんともなあ」
 いつの間にか辿り着いたそこでは猟兵達がちょうど謎解きを終えたところだった。
 声高らかに猟兵達が示した答えにリーオと小鉄は顔を見合わせる。
「すごいや、当たってるよ。俺は外れちゃった」
「やったじゃー!」
 ほぼ勘じゃったけど! と飛び跳ねて喜ぶ小鉄にリーオは微笑んで他の猟兵達に軽く手を挙げて見せる。
「新しい戦力として派遣されてきたよ。これから何か一悶着ありそうだったし人が多いに越した事ないよね?」
「助けに来たじゃ!」
 これは助かる、とその場に居た猟兵達に出迎えられた二人は。
 まだ謎解きの全てが済んでいないことに気づいた。
「やっぱり。可笑しいと思ったんだよね。俺達がここに来るまで誰ともすれ違わなかったし」
「まだ四人も船内に居たんじゃ?」
 そう、謎解きはまだここからだ。
 二人が疑問に感じた通り、まだ謎のすべては終わっていない。
 残った四人の容疑者のうち、実行犯は判明した。
 ではこれから解き明かす謎はなんだろうか。

●備えあれば
「はて、次に何が起こるか警戒しとかんと」
「そうだね、ただ謎を解いて終わりとは思えない。懸念していた戦闘がまだ残ってる」
 何が起こるんだろうね、とリーオが言えば小鉄はふむ、と顎に手を当てた。
 姿も相俟ってこれでは小さな少年探偵だとリーオが笑う。
「似合ってるよ」
「へへへ」
 年相応に照れてしまうところはまだまだ子供か。
 二人はこれから謎が解かれた後に待ち受ける戦闘の予感に、小さく身構えて備えている。
「豪華客船、謎、夜……と来れば、最後は」
「最後は?」
 ばくはつ、という不穏な四文字が小鉄の口から発せられる。
 ひくっとリーオの喉が引きつった。確かに条件は満たしているが、いやしかし、そんな映画みたいなこと。
 そう頭を振って可能性を否定したが。
 悲しいかな、こういう時に猟兵の勘はとても良く当たるのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ギド・スプートニク
大体読めた

皆の指摘は概ね正しかろう
何故ならこの中には「犯人しかいない」のだから

実行役
清掃員
例えばドライアイスを使ってワインを破裂させれると仮定しよう
理屈など知らん
だが可能なのだろうよ
わざわざトリックとして「用意」されているのだから

推理補助役
コック
ここでわざわざ都合よくドライアイスの話をする必要があるか?
トリックを示唆する為のサクラであろう

犯行の舞台を整えられる人間
秘書
犯行を裏で糸引く人間として「分かりやすい」

最後に女社長
ワインに後ろめたさを持つ人間が
ワインの自慢などせぬわ
犯行と関わりのない一般人
黒幕として
召喚役として適切であろう

面白い余興ではあった
だがいい加減、尻尾を見せても良い頃ではないか?


シゥレカエレカ・スプートニク
夫、ギドと



密室で割られたワイン

秘書…ナガノさん、でしたかしら
わたしはあなたがあやしいと思うわ
……少なくとも、何かに関わっている、と

理由は2つ
1つは、乗船前からサイオンジさんは誰かの視線を常に感じていたこと
2つめは、あなたはこの部屋に立ち入りを許されていなかったこと

1つめはわかりやすいわよね
あなただったらじっと、ずっと、サイオンジさんの傍にいることができた
2つめは、あなたがワインをどうこう出来るタイミングは今しかなかったってこと
他の3人は密室で、なんてまどろこしいことをせずともタイミングはあったはずだわ
忍び込む方法なり、接触する手段なり

こんな推理はどうかしら、ギド!
ちょっとだけ名探偵ぽかった?



●容疑が掛かる、故に容疑者
「そろそろ行っても良いですかね……」
「行ってもいいが、この先に恐らく料理を届けるべき人は居ないぞ」
「えっ!?」
 森野光彦が驚くと同時に、船内がやけに静かな事に気づいた。
 この船はパーティーをしているのではなかったか、とぼんやり思うと同時に廊下の曲がり角でUDC組織のエージェントが手招きしているのが見えた。
「避難誘導中だ、早く行け」
「え、うぅ、でも避難って……皆さんは……?」
「わたし達はまだお話が残ってるもの!」
 シゥレカエレカが森野光彦に微笑めば、唯一この場で情報提供のためだけに残されていた一般人はおろおろしながら曲がり角の向こうに消えた。
「では我々も、」
「あら、彼は良いけれど……」
 あなた達はいけないわ。まだお話が残っているって言ったでしょう?
 ギドの肩に乗ったまま、シゥレカエレカは有無を言わさぬ口調で続ける。
 ギド・スプートニク、シゥレカエレカ・スプートニク、二人の視線の先に居る三人の容疑者。
 長野清隆、花谷京香、小林順子――特に花谷京香は犯行が暴かれた為かひどく焦った様子を見せている。
 実行犯はすでに開示された。
 だが猟兵達の指摘はそれでは終わらない。
 このパーティー自体が邪神教団の画策の可能性がある。ならば。
 実行犯は一人でも――計画犯が一人とは限らない。
「大体読めた。皆の指摘は概ね正しかろう。そう、何故ならこの中には犯人しかいないのだから」
 四人も容疑者が居る時点で導き出される答えは一つ。
 すなわち、容疑者で不審な動きを見せた誰もが邪神教団とかかわりのある人物だとギドは指摘した。
 繰り返すようだがこの船内に残っている猟兵以外の人物は彼らを除いてもう誰もいない。
 各国の要人も船を動かす乗組員も、みなこぞってUCD組織によって外に連れ出されているのだから。
「実行犯は花谷京香、これは疑いようもない事実だ」
「そうね。秘書……ナガノさん、でしたかしら。わたしはあなたがあやしいと思うわ……少なくとも、何かに関わっている」
 そうよね、とギドに問いかければすぐ隣の夫はひとつ頷きを返して見せた。
「この事件はそもそも邪神教団が仕組んだと考えるのが自然だろう、一般人が持つ邪神の祭具など奪っておくに越したことはないからな」
 実行犯のほかにも場を整えるための人物が必要だ。
 盤面で動く駒がたった一つとは限らない。
「犯行の舞台を整えられる人間。そしてこの場を仕組んだ黒幕。これだけ大がかりな舞台を整えるのに少なくとも三人ほど手駒が入用」
 そうだろう、とギドが睨みつければ小林順子がたじろいで一歩引いた。
「犯行の舞台を整えられる人間……はナガノさん、あなたかしら。招待客も、船の手配も、あなたに一任されていたのよね」
 誰を引き込むにも可能な立ち位置に立っていたのは誰か。
 シゥレカエレカの言葉に当てはまるのはただ一人だけ。
「サイオンジさんが乗船前から感じていた視線もあなただったのでしょう。秘書として四六時中サイオンジさんの傍にいることができた、あなたなら」
 常に西園寺ユキオの傍に居た長野清隆。
 ギドもまた小林順子の疑問点を音にして紡ぐ。
「そもそも西園寺ユキオは本当にワインについて話していたのか? 後ろめたさを持つ人間がワインの自慢などせぬわ」
 西園寺ユキオは他の猟兵達が話を聞いた時にワインについて言及すると警戒心を持って遠ざけていた。そんな人物が自らワインの話題を周りに、自らを狙う人物かもしれない人間に零しようはずもない。
「おまけに主催が一人になった途端のこのこと追いかけて。面白い余興ではあったが詰めが甘い」
「あなた達がワインをどうこう出来るタイミングは今しかなかったのよね。実行犯以外の二人は密室で、なんてまどろこしいことをせずともタイミングはあったはずだわ」
 だから今来たのでしょう、と指摘すれば二人は押し黙る。
 やがて小林順子があきらめたように笑いを零した。

●探偵達はベルーガの背の上で
「お見事ね、探偵」
「我々は探偵ではない。猟兵だ」
「えへへ、探偵ですって! ねえギド、ちょっとだけ名探偵ぽかった?」
「ああ、とてもよく似合っていた」
 いたずらっぽく笑う彼女にギドが肩に手を沿わせれば、シゥレカエレカは指先をそっと握る。
「……それで、どうする。謎がすべて開示された犯人など見苦しい事この上無いが。この期に及んで暴れるつもりか?」
「長野っ! 裏切ったな!」
 西園寺ユキオが吠えるが開き直っているのか、もはや演技は止めている。
「人聞きの悪い。私はもとより邪神教団に属する人間ですよ。西園寺様に諂っていたのは祭具が手に入ると踏んでいた為に過ぎません」
「そうねえ。長野。腹から背に移動しましょうか。ここは狭いわ」
「はい、小林様」
 まるで主人が変わってしまったかのように恭しく小林順子の手を取って。
 長野清隆は懐中時計を取り出した。
「そろそろじゃないかしら?」
「そろそろでございましょう、さあ貴方も支度を」
「騙しとおせると思ったんだけどねえ。ワインの近場で呪文が唱えられればちゃんと呼び出せたのに。不完全な召喚となったけれど仕方がないね」
 花谷京香も顔から焦りの色を消して、掃除用具を持って立ち上がる。
「ところで皆さん、イルカとくじら、どうやって分類されているかご存知ですか?」
「話の前後が見えない。何が言いたい」
「実は生物分類上の違いは無いんです。明確な線引きは無く、大きさで使い分けているのだとか」
 この船は白イルカの名を取っていますが、大きさから言えばくじらのようですね。
 脈絡のない話を繋げて、長野清隆が問いかける。
「何を……」
「ギド!」
 シゥレカエレカの言葉にギドが間一髪その場から飛びのいた。ついで甲高い発砲音が通り抜ける。
 長野清隆が取り出したのは拳銃だ。
 頬をかすめた弾丸に忌々し気に舌打ちをしたギドに長野清隆がほう、と感嘆から溜息をついた。
「お見事でございます。奥様に救われましたね」
「時間稼ぎだな。何が目的だ」
「そこまで見抜いていらっしゃいましたか。そろそろお目覚めの時間なのですよ」
 我々の崇拝する方のね、と長野清隆は言った。
 花谷京香は猟兵へ、長野清隆は拳銃で小突いて西園寺ユキオを立ち上がらせる。
「ひっ、な、なにを」
「喚くな。こうなってしまえば召喚式を成立させるまで。己の頭蓋が割れたくなければ立て」
 小林順子の口調が尊大なものに変わり始めていた。
 肌は褐色に染まり、髪は透き通るような白へ変貌している
「オブリビオンを身に降ろすつもりね!」
「ええ、その通りでございます。奥様は聡明でいらっしゃる。お似合いのご夫妻ですね」
「どこへ行くつもりだ」
「先程小林様が申し上げましたが?」
 花谷京香、長野清隆、変貌しつつある小林順子、そして彼らに連れられる西園寺ユキオの四名が猟兵達の前から止める間もなく姿を消した。

 ベルーガの背の上で、お待ちしておりますよ。
 そんな一言を残して。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『イネブ・ヘジの狂える王』

POW   :    アーマーンの大顎
自身の身体部位ひとつを【罪深き魂を喰らう鰐】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    カイトスの三魔槍
【メンカルの血槍】【ディフダの怨槍】【カファルジドマの戒槍】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    ネクロポリスの狂嵐
【腐食の呪詛を含んだ極彩色の旋風】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠神楽火・綺里枝です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ミステリーの豪華客船は爆発する運命にある
 突如轟音と共に豪華客船が激しく揺れた。
 火災報知器のけたたましい音が聞こえて、どこからともなく煙の臭いが鼻を衝く。
 船内から悲鳴は聞こえなかった。
 当然だ、避難すべき各国要人はみな既にUDC組織によって連れ出されている。
 
 揺れにふらついた猟兵達がなんとか体勢を立て直し、彼らを追って豪華客船のデッキに上がれば港が遠ざかっていることに気づいた。
 碇は上げられ、船が動き出している。
 ゴムボートの向こうに森野光彦を乗せたUDC組織のエージェントがこちらに手を振っているのがかろうじて見えた。なんとか脱出に成功したらしい。
 この船の上にはもう猟兵しか乗っていないのだろう。
 あちこちから炎が上がっている。黒焦げた煙の臭いが船内には充満し、もう白イルカの腹へは戻れそうになかった。
「西園寺氏は!?」
「いた、あそこだ! 甲板の……船首部!」
 気づいた猟兵数名が指を指せば、船の先端に縛り付けられた西園寺ユキオの姿が見えた。教団員であったはずの花谷京香と長野清隆の姿はどこにもない。
 ただ見えるのは、風貌ががらりと変わった小林順子――だった者が。
 この世の者とは思えない神々しさを放ちながら、猟兵達を出迎えていた。
花菱・真紀
アドリブ絡可
お、森野さん無事脱出したみたいだな。
どうよ俺の迷推理!迷うほどの推理になったろ?でもトリックはわかったから半分分かったみたいなもんだよな。それはない?…有祈に突っ込まれた。

まぁ、こっからが本領発揮だぜ。あとは邪神を倒すのみだ。【バトルキャラクターズ】召喚。数は三体くらいで行くか【援護射撃】で【時間稼ぎ】一体は【スナイパー】でより確実な援護を。ユーベルコード封じの技を使用するならバトルキャラクターズで受ける。他の猟兵のユーベルコードは封じさせない。


村井・樹
成る程、今回の件は、協力者が居た上での犯行だったわけですね
……丁度良い機会です、ここで私『紳士』の『協力者』も、紹介させていただきましょう

と、ここで俺、『不良』の人格に交代し戦闘開始

……さっさとあの西園寺、とかいうのを助けようにも、そうは向こうが卸さないだろうからな

俺が『存在感、誘惑、フェイント』を利用し敵を陽動
敵の攻撃は『盾受け、オーラ防御、カウンター』し、回避や防御をする

その間に『目立たない』で人形の偽メメを操作
敵が俺や他猟兵に気を取られている間に、『騙し討ち、暗殺』を仕掛けてやれ

「何時、『紳士』の奴が。『協力者』は一人しかいない、なんて行った?」

※プレ外の言動、他猟兵との絡み等大歓迎



●四人の猟兵
 UDC組織のエージェントが安全海域まで遠ざかる。顔は見えないが森野光彦もまた猟兵達に向かって手を振っているのが見えた。
「お、森野さん無事脱出したみたいだな。にしてもどうよ俺の迷推理! 迷うほどの推理になったろ? トリックはわかったから半分は正解みたいなもんだよな」
 独り言だがまるで誰かに語り掛ける様な口調で真紀が喋る。
 語り掛ける様な、と形容するのはやや間違いか、真紀は実際に己の中に居る別の人格に語り掛けているのだ。
 それはない、と辛らつに己と同じ声が返ってくる。真紀がちぇ、と口をすぼめてぼやいた。
「……有祈に突っ込まれた」

 ちりちりとぱちぱちと、爆ぜる音が船上に――戦場に。イルカの背が燃えている。
 ごうごうと鍛冶の炉から吹くような、熱された風を真後ろから受けながら猟兵達は一体のオブリビオンと対峙している。
「成る程、今回の件は、協力者が居た上での犯行だったわけですね」
 樹の髪は煌々と夜の海を照らす火を映して、茶色の髪を瞳のような赤みがかったものに変えていた。
「如何にも」
「……丁度良い機会です。ここで私、紳士の協力者も、紹介させていただきましょう」
 多重人格者の任意スイッチだ。
 指先一つで、頷き一つで、瞬き一つで、その体内に宿る別の人格を呼び出すことができる彼らの能力。
 樹は目の渇きからではなく意図した動作として一度深く目を閉じた。再び開ければそこに居るのは村井・樹であって村井・樹ではない、似て非なる者。
「さあ、しっかり戦ってくださいね。私」
「言われなくとも戦ってやる、俺」
 輪唱の様に追いかける二つの声が一つになる。明らかに様子の変わった目の前の人物にオブリビオン――イネブ・ヘジの狂える王は興味を持ったかのように片眉を上げて見せた。
「ほう、面白い。異なる人格を宿すものよ」
「王様のお気に召したかよ。だが俺はアンタと無駄話をする気は欠片も無いね」
 メメと呼ばれる絡繰人形が即座に口を開いて樹の肩から飛び移った。イネブ・ヘジの狂える王の肩口に噛みつくそれを片手で払いのけると間髪入れずに樹が攻撃を加える。
 だが真正面から立ち向かっても攻撃はすぐさま見切られてしまった。
「技巧は評価に値するが……我相手にたった一人で挑もうなどと愚の骨頂だな」
「あ? 何時、紳士の奴が。『協力者』は一人しか居ないなんて言ったよ」
 赤い瞳が怪しく光る。と同時にイネブ・ヘジの狂える王の脇から黒髪の青年が飛び出した。
「そうとも、あんたの言う通りたった一人で戦おうなんてこの場に居る誰も思っちゃいないさ」
 真紀がバトルキャラクターズを呼び出して戦闘を仕掛けた。
 一体は援護射撃で攻撃を、一体は他の猟兵が動きやすいよう時間稼ぎを、一体は――ここからは見えない。デッキの船長室へと登り攻撃の隙が生まれるのを待っているようだ。
「ああ、良い。良いぞ。お前もまた異なる人格を宿す者か。……ただの能無しでなくてよかった。我を楽しませよ」
「お生憎だけど楽しませる気は俺も無いな」
 二人の多重人格者がイネブ・ヘジの狂える王を相手取る。
 二人は、四人は、目の前のオブリビオンに臆することもなく果敢に攻撃を仕掛け合った。
 そのたびにイネブ・ヘジの狂える王は楽しそうに顔を歪ませるのだ。
「!」
「あぶねっ」
 イネブ・ヘジの狂える王の腕が鰐の顎へと変形する。噛みつかれそうになった真紀を樹が手で押して寸でのところで攻撃をかわした。
「気を付けろ!」
「お、おお……サンキュ。こっちの樹さん結構ワイルドな口調だな」
 紳士の様相から打って変わって荒っぽい口調に変わった彼に真紀が目を見開く。俺も似たようなものだけど、と自分の性格と比例して幾分冷静な別人格を思い返しながら真紀もまた樹に合わせて更に攻撃を繰り出した。
 イネブ・ヘジの狂える王はたった一人だ。今は二人と戦うことが楽しいのか他の猟兵に手を出すつもりはないらしい。
 今が好機と他の猟兵達が動き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

古峨・小鉄
ふにょー。で、ユキオは結局なんで狙われとるんじゃったっけ
祭具のワイン割れた。ユキオの頭蓋骨まで割る必要あるん?
ユキオの頭カチ割ったら何か出るん?
俺頭悪いけん、判んなくなっちゃったじゃ(頭ぐるぐる

ま、ええじゃ
消えた花谷と長野も気になるけぇど
いっぱい猟兵居るし、ユキオ保護は任せて
俺は敵を倒す事に集中しよ

単独で先陣きる程、俺強ぅないけん
二陣、三陣、皆の出方見ながらタイミング合わせてライオンで突撃
爪も牙も敵の肉に食い込ませたる
こっち集中されたら間を取り仕切り直し
無茶厳禁

白いくじらは何じゃろ
イルカが変身しちゃうん?
くじらは潮吹くじゃ!
頭頂部から背の部分は罠があったりしての
気にはしとこ。杞憂ならそれでええ


フィン・クランケット
登場は皆さんの後から
他の方々が敵の注意を引いてくれてる間に、こっそり後ろでUCを発動
自分を透明にして、一足先に船首部の西園寺さんの救出に向かいます
炎の音や揺らめき、戦いの剣戟で足音は紛れるのではないかとっ

慎重に、時間を掛けても静かに丁寧に
バレて西園寺さんが…なんてなったら大事ですもの
悪い人でも犠牲になんてできません
でも悪いことしたツケをちゃんと払ってもらいますよぉ?
こう見えても商人ですからっ
私、厳しいんですよぉ

うまく救出できたら、透明化を維持したまま西園寺さんを安全な場所へ
その後で皆さんに安心して攻撃しちゃってくださいって合図!
もしバレそうになったら、死角に回り込んでの攻撃に切替て誤魔化します


星群・ヒカル
てめー、社長さんに何する気だッ!
もう小林さんには声が届かないかもだが……
きっちりオトシマエはつけてもらうぜ!

(おれの『星の目』が妙に疼いている……?
さっきおれは小林さんが首謀者だという『結果』だけ見つけられた
事情や過程はさっぱりわからなかったわけだが……それと関係があるのか?)

おれは社長さんを救出することに専念する
「迷彩」「逃げ足」を利用し戦闘に紛れ、社長さんに近づくぞ

流石に助けたら気づかれたか
このユーベルコードを(初)使用し、敵の攻撃を潜り抜ける!
そうか、この目は『結果』だけが視えるのか、初めて知った……
まぁいい、細かいことは後回し!
社長さんは助けたぜ、あとは遠慮なく叩きのめすだけだなッ!



●星写す魔眼
「ふにょー。で、ユキオは結局なんで狙われとるんじゃったっけ。祭具のワイン割れた。ユキオの頭蓋骨まで割る必要あるん? ユキオの頭カチ割ったら何か出るん?」
「多分、栄養源だと思うんだよな」
「えいようげん? 俺頭悪いけん、判んなくなっちゃったじゃ」
 小鉄の頭の上でくるくると回る星と疑問符にヒカルが更に説明する。西園寺ユキオからワインを奪取することには失敗した。人質の意味合いとしてもどうも薄い。
 であるならば西園寺ユキオが今あの場にとらわれている理由は何なのだろうか。
「今戦ってる二人との戦闘の最中で腕を鰐の口に変えてたろ」
「ぶにょ……噛みつこうとしてたやつじゃった?」
「そう。多分、噛みつかれると生命力を奪われる。……ような気がする。だから猟兵から攻撃を受けて消耗したらそれの回復に使うんじゃないかと思うぜ」
 言いながら、ヒカルははたとなぜ自分がそんなことを知っているのか驚いた。
 まるで今見てきたように、口からすらすらと言葉が流れ出る。頭には情景が浮かぶ。
 自分はその光景を見たことがあるから説明できるような気さえするのだ。実際にはそんなものを見た覚えはないというのに、確かにヒカルはその事象を知っている。
「(おれの『星の目』が妙に疼いている……?)」
 先程ヒカルは小林順子が首謀者だという『結果』だけを見つけられた。
 事情や過程はさっぱりわからなかったが、勘の中には言いようのない確信めいたものがあったはずだ。なぜだろう、なぜ己は小林順子を怪しいと確信を持ったのか。ヒカルは思案する。
 思考の渦に沈みそうになったヒカルを引き上げたのはほかでもなく隣に居る小鉄の声だった。
「えーい! ラチがあかないじゃ! 消えた花谷と長野も気になるけぇど、そっちは任せてもええじゃ!?」
「あ、ああ。わかった! 西園寺さんの保護は任せろっ!」
 存分に暴れてこい、と幼い背を叩けば小鉄はすぐさま他の猟兵達が相手取っているイネブ・ヘジの狂える王へ小鉄が駆けていく。
「単独で先陣きる程、俺強ぅないけん、助太刀に来たじゃ!」
「威勢のいいことだな」
 黄金のライオンの背に飛び乗って、小鉄が光纏うオブリビオンに突撃する。暗闇の中で火を照り返して輝くライオンと、美しく神々しささえ放つ神を騙る――邪なるもの。
 二点の輝きがぶつかり合った
「爪も牙も敵の肉に食い込ませたる!」
「ではこちらも喰ろうてやろう」
 アーマーンの大顎を見せよう、とイネブ・ヘジの狂える王が呟く。
 互いに歯を突き立てあう黄金のライオンと鰐の顎はどちらともなく口を離した。
 船上に黄金色の激しい火花が散った。
 
「今が絶好のチャンスです……! こちらへ! 他の方々が敵の注意を引いてくれてる間に、こっそり後ろから行きましょう!」
「了解!」
 フィンが共に西園寺ユキオの救出に向かうユキオに耳打ちする。
 集中した彼女の声が、優しい色を唇に乗せてお願い事をする。
「妖精さん。妖精さん。ふしぎな薄布くださいな」
 フィンが呟きながらそっとヒカルの両手をにぎれば、ヒカルの身体の端々が徐々に透けだした。船上からふつりと二人の気配が掻き消える。やがて姿は完全になくなって、わずかな呼吸音だけがその場から感じ取れる二人の存在する証拠になった。
「すげえ、これ本当に消えてるのか?」
「はい、でも物音や体温は消せません――ただ音に関しては炎の音や揺らめき、戦いの剣戟で紛れるのではないかとっ」
 だからバッチリです! と笑いかけるフィンにヒカルも消えたままの顔で笑顔を返して見せた。
 イネブ・ヘジの狂える王の隣を、極力慎重に二人が駆け抜ける。
 気づいていない。王は猟兵との戦いに夢中になっている。
 輝く黄金のライオンが目くらましとなって二人を隠しているようだ。小鉄は二人のいる方向へ目がいかないように視線誘導を行っているらしい。
「彼のおかげで上手くいきそう……慎重に、時間を掛けても静かに丁寧に、です!」
「そうだな、まだ気づいてないみたいだ。音はやっぱり紛れてるっぽい」
「バレて西園寺さんが……なんてなったら大事ですもの。悪い人でも犠牲になんてできませんからねっ!」
 小声で行う会話の音すら気づかれそうな距離になり、自然と二人の会話が途切れた。
 フィンの手が、ヒカルの手が、あと少しで西園寺ユキオの縛られた縄に届く。
 だが寸前ヒカルの『目』が捉えた光景に。ヒカルは気配を消すことを止めて大声で叫んだ。
「伏せろ!!」
「きゃっ!」
 フィンの手を取ってヒカルが覆いかぶさる。
 ――二人を襲ったのは、腐食の呪詛を含んだ極彩色の旋風。あと少しのところで運悪く小鉄とライオンの二体を巻き込むつもりでイネブ・ヘジの狂える王は自身から全ての対象をとらえる攻撃を行ったのだ。
 すべては運の起こした不幸な事故。作戦自体は完璧であったはずのそれは――たったひとつ王の気まぐれにより瓦解する。
 当然接近していた二人にも風は襲う。
 ヒカルが庇ったおかげでフィンの身体に怪我は及ばなかったが、かわりにヒカルは呪詛を多量に含んだすさまじい風を背で受けることになった。
 UDC組織が用意した上等な服がそのまま焼け落ちて、背を耐えきれないほどの激痛が走る。
「ぐ、ぁ!」
「大丈夫ですかっ!?」
 フィンの透明化が剥がれてしまう。イネブ・ヘジの狂える王は突然現れた二人におや、と顔を上げた。
「ネズミが二匹紛れ込んだか」
「どこ見てるじゃ!」
 小鉄がフィンとヒカルを庇うようにして即座に攻撃を仕掛けた。
 本当にあと少しで西園寺ユキオを助けられたところだったのに、フィンは歯噛みしながらヒカルの身体を支えて撤退する。
「治療を、待っていてください!」
「平気だ、心配しないで。何ともないぜ!」
 タキシードを脱いで傷の具合を確かめる彼にフィンがすみませんと一言零す。
 ヒカルはその言葉に彼女のせいではないと首を横に振って穴の開いたタキシードを着直した。背は露呈しているが女性をかばってついた傷なら勲章だとあくまでフィンを気遣う口ぶりで笑いかける。
 フィンの緊張に固まった表情も幾分か和らいだ。
「きっと次にまた助けるチャンスが来るはず。おれ達は戦闘で頑張ろうぜ!」
「はい、そうですね! 気を取り直して! でも、どうして攻撃が来るのが分かったんです?」
「それは……」
 見えたからだ。攻撃に巻き込まれそうになる情景が瞳に映ったからだ。
 ヒカルはフィンの言葉にこたえるというよりも自分自身に言い聞かせるかのようにぽつりと呟いた。
「そうか、この目は『結果』だけが視えるのか、初めて知った……」
「ヒカルさん?」
「あ、ごめん。まぁいい、細かいことは後回し! 行こうぜ!」
「はい! 西園寺さんは必ず助けます! でも彼には悪いことしたツケをちゃんと払ってもらいますよぉ?」
 こう見えても商人ですからね、と意気込むフィンにヒカルも頷いた。
 助ける意思は確認しあった。チャンスが潰えたわけではない、あとは再びタイミングがあえば他の猟兵と。
 二人は他の猟兵達や先程二人をかばってくれた小鉄を助けるため、今だ戦いの続く甲板へと戻った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バラバ・バルディ
【WIZ】
ほほーっ随分と金ピカで派手になったもんじゃな!しかしこれほど目立つ装いであれば、見失う心配はなさそうで良いわ!

……はてはて、残り二人は何処ぞへ消えたのかのう?ううむ、西園寺君のことは気がかりじゃが……あやつらを放っておくのも後々面倒なことになりそうじゃな。ひとまず地縛鎖で居所を探り(『地形の利用』『情報収集』『追跡』『失せ物探し』『罠使い』)、怪しき行動をしておれば、即座に(『ダッシュ』『早業』)からくり人形で拘束しようぞ!

(攻撃を受けた場合は
『逃げ足』『オーラ防御』『激痛耐性』『呪詛耐性』で避けるか耐えます)



●阻む者達
「ほほーっ随分と金ピカで派手になったもんじゃな! しかしこれほど目立つ装いであれば、見失う心配はなさそうで良いわ!」
 きらきらと、ぴかぴかと、猟兵達の戦闘が激化したことで船の下方はもはや火の海だ。
 火やオブリビオンや猟兵達の騎乗する黄金のライオンが光源となって暗い海にきらめく灯を落としている。
 沈没するんじゃなかろうな、と一人呟いたバラバに足止めをかける者がいた。
 それは先程西園寺ユキオの私室から居なくなった際に船上で姿が確認できなかった二人。
「……はてはて、残り二人は何処ぞへ消えたのかと探しておったが。そちらさんから来てくれるとは思わなかったのう」
 花谷京香と長野清隆がバラバの行く手を阻む。
 バラバはちらりと後方を見遣って、猟兵達がイネブ・ヘジの狂える王をなんとか抑えようと奮闘している様子を視界の端にとらえる。
 まだ誰もこちらに気づく気配はない。
 猟兵に向き直ったバラバはのんびりとした口調で指を仕立てたスーツに沿わせる。
「ううむ、西園寺君のことは気がかりじゃが……皆がなんとかしてくれるじゃろう。こやつらを放っておくのも後々面倒なことになりそうじゃしなぁ」
「随分と悠長だねえ」
「まさか二人の邪神教団の人間を切り抜けられるとでもお思いなのですか?」
 かちり、と向けられた拳銃もどこ吹く風か、バラバは弧を描く長い睫毛を重ね合わせてほっほと笑った。
 怪訝な顔を隠そうともしない邪神教団の二人にバラバはただ笑いを返すだけだ。
 気づいていない。拳銃の優位性にとらわれて。二人いるにも拘わらず、警戒を怠っている。
「撃ちたければ撃つとよいぞ? 抵抗はせんわ」
「ふっ――バカめ」
 邪神教団の二人は完全に棒立ち状態のバラバの眉間にぴったりと照準を合わせて、引き金を引いた。
 ぱん、と乾いた発砲音のあと、バラバは。
 
 バラバは、倒れない。

「!?」
「かかったなあ、若人よ!」
 そう言うや否やバラバの眉間からぽんっと可愛らしい音をたててからくり人形が生まれた。
 それらは瞬時に動き出して二人を拘束する。
「なっ!?」
「この――……!!」
 すぐさま次の引き金が引かれたものの、見当違いの場所に弾痕を作ったそれが、ゴトンと音を立てて転がる。
 玩具でも持つようにそれを拾い上げてくるくる回しながら、バラバは静かに二人を見た。
 完全に拘束された二人はもがいているがどうしようもなくからくり人形に四肢の動きを封じられている。
「こんな奴一人に、くっ!」
「よく抜かすわ。あまり老人を……猟兵を。なめるでない」
 フン、と鼻を鳴らしてバラバは猟兵達に加勢するため船上の方へゆったりとした足取りで歩く。
 人知れず仕事をこなした彼を知っているのは、邪神教団の二人を除けば、からくり人形だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八坂・操
【SPD】

うーん、最後は巨大モンスターでパニックっていうのを期待してたんだけど、操ちゃん達が阻止しちゃったからアクション映画にシフトしちゃったね♪
じゃー最後まで付き合ってあげよっか☆ ……邪神程度で勝利を確信している、愚かな狂信者にな。

っと、操ちゃんびーくーる♪
強大な敵一人に猟兵が多数、乱戦は避けられないだろうね☆ 原因とはいえ、無知なユキオ君が巻き込まれるのは避けたい所さん!
【メリーさんの電話】で遊撃して貰いつつ、ユキオ君を助けよう!
「メリーちゃん、沈む船で派手なバカンスとかどう?」
『忍び足』で『目立たない』よう船首に近付いたら、ユキオ君を連れてさっさと『逃げ足』だ☆


芥辺・有
オブリビオンを自分に降ろすか、と呆れつつも油断はなく。
なるべく先端の方へは近付かせないように戦うか。

忍ばせておいた精霊銃を取り出して攻撃する。周囲を動き回るようにしながら、手数多めの攻撃を仕掛けよう。
その傍らで銃撃や他の猟兵の攻撃に紛れさせつつ、ひそかに右手袋に仕込んである鋼糸を繰って。
手なり足なり、動きを拘束できればいいんだけど。

多少の怪我であれば気にはしない。食らうとまずいと第六感が告げるような攻撃は集中して見切るよう、注意しておくけどね。

しかし、ドレスっていうのはどうにも動きにくいね……。わかってたことではあるんだけど。


千桜・エリシャ
推理ゲームも愉しかったですけれど、やっぱり私はこちらのほうが向いていますわ
虚空を掴むような仕草をすれば桜吹雪とともに顕現するは大太刀
墨染の刃を抜き放ったならば、戦闘準備は万端

嗚呼、よかった
あなたには首がありますわね
メインディッシュはこうでなくちゃ
――余興は終わり
その御首、いただきますわね

2回攻撃で斬撃の雨を降らせつつ敵の間合いへ
見切りで隙を見つけたならば、呪詛載せた刃で首を狙いましょう
旋風に巻き込まれそうになったら花時雨を開いてオーラ防御

んっ、でも着慣れないドレスで少し動きづらいかしら
折角用意していただいた衣装ですが、ごめんなさい
一思いに裾を裂き、動きやすいようにスリットを入れてしまいましょう


キアン・ウロパラクト
さて、食後のデザートが食えなかったのは残念だけど
ようはアイツを倒せば事件解決だろ?
やっとわかりやすくなったな!

なんか船がえらいことになってるけど、
アタシの手足は頑丈さ、揺れようが斜めろうがへっちゃらだぜ。
自慢のテーブルナイフを振り回して近接戦闘に持ち込むよ。
顎が出てくるならいっそのこと、
腕ごとナイフを突っ込んで内側から焼いてやる。

なるべくこっちにゃ燃えないようにするけど、
戦ってるうちにドレスの端っこくらいは持ってかれるかもな。
まぁあの雨合羽も大丈夫って言ってたし大丈夫だろ!


シゥレカエレカ・スプートニク
夫、ギドと



なんてこと…!
ヒトの肉体にあんな…どうして…

……ううん、駄目ね
ギド、ナガノさんとハナヤさんがいないわ
何処にも逃げ場なんてないはずなのに…
まず彼らはどうしてサイオンジさんを……、召喚式…?
…サイオンジさんを助けましょう、ギド!

ギドにしがみついたまま、
もしこの救出に邪魔が入った場合
エレメンタルファンタジアで聖属性の突風を呼んでコバヤシさん…を押しとどめるわ
呪わせなんてしないんだから!

――後は任せて、ギド!
落ちる船首の、しかも縄に狙いを定めるなんてちょーっと難しいけど…
ええ、絶対に外さないわ!
だってわたし、お似合いの奥様なんだものっ!
エレメンタルファンタジア、おいできらめきのかまいたち!


ギド・スプートニク
シゥレカエレカと
邪神を見るのは初めてだが、なるほどこういったものか

確かに姿が見えぬのは気になるな
なるほど
彼奴が生かされているのは儀式を完成させるための生贄というわけか

西園寺ユキオが死のうが生きようが、さしもの興味はないが
敵が強化されるのは厄介だな

地を蹴り、妻の生み出す風に乗り
目指すはユキオの繋がれた船首
周囲の警戒はすれど、心配はしていない
何せ心強い支援があるのだから

妖刀を一閃
船首をユキオごと斬り離す

海にでも沈めておけば、あとは職員どもが上手くやるだろうよ

こんな大掛かりな舞台まで用意をしておいて残念だったな
崇拝する神がこの程度とは聞いて呆れる
縋る神と共に冥府へと堕ちよ、小物めが


パレード・ペッパーポート
やれやれ、結局こうなっちまうんだな。
だがむしろ臨むところだぜ。

リボンを解いて、大切に懐へ仕舞う。
余計なものは目に入らない。視界が狭くなっていく。

俺は血糸を操り、戦場を制限する。
こっちの武器は数の利だ。囲むことができれば誰かの攻撃は必ず当たる。
仲間との連携を意識して、クロスファイア……
を、仕掛けるフリして敵をすり抜け。

追い詰められた敵が盾にとれないよう、西園寺をスマートに救出して二人して海へボチャンだ。
待ってたよ、金持ちに恩を売る機会をな。



●二つの意図
「なんてこと……! ヒトの肉体にあんな……どうして……」
「邪神を見るのは初めてだが、なるほどこういったものか」
 シゥレカエレカとギド、スプートニク夫妻が見るのは戦場で完全に人から外れた存在――オブリビオンと化した小林順子の姿。
 神々しさを放ち夜の海にその身を映す光景は、もう彼女を助けることが不可能だと彼らに告げている。
「……ううん、駄目ね。しっかりしなきゃ。ギド、ナガノさんとハナヤさんがいないわ。何処にも逃げ場なんてないはずなのに……」
「確かに姿が見えぬのは気になるな」
 シゥレカエレカの指摘通り長野清隆と花谷京香の姿がない。遠く甲板の反対側で一人のシャーマンズゴーストが対峙しているが、その気配を辿れる者はここに居なかった。
 彼は一人知れず仕事を終えるだろう。
「まず彼らはどうしてサイオンジさんを……召喚式……?」
 シゥレカエレカの零した言葉にギドはすぐさま彼女の言わんとすることを理解した。西園寺ユキオが拘束されている理由はおそらく二つある。
 一つは別の猟兵が示した可能性、回復の手段としての餌だ。近場に動けぬように縛っておけばイネブ・ヘジの狂える王はすぐさま彼に噛みついて、猟兵達から受けた傷を回復できるだろう。
 もう一つの理由は。邪神教団の冒涜的な召喚方法――多量の贄を基にして邪神を呼び出す方法。おそらくこのパーティーが開催された理由もここに起因するのではないだろうか。
 各国要人を多く呼び寄せて、あわよくば。その目論みは猟兵達によって砕かれてはいるものの、そういった意図があったことは想像に難くない。
「なるほど。彼奴が生かされているのは儀式を完成させるための生贄というわけか。生贄一人は心許ないが……無いよりはマシか」
「……サイオンジさんを助けましょう、ギド!」
「西園寺ユキオが死のうが生きようが、さしもの興味はないが。敵が強化されるのは厄介だな」
 優しい妻の言葉とは正反対の、人質自体に興味のなさそうな口ぶりでギドは言う。
 だが確かに言葉通り西園寺ユキオの命は直接邪神討滅に関わりあいがない。それでもあのままというわけにもいかないと訴えるシゥレカエレカの声に頷いて、ギドは救出に回ることにした。

●船の上で踊りましょう
「オブリビオンを自分に降ろすか……」
 有が呆れたように呟いて、小林順子の面影など最早どこにもなくなってしまった目の前の敵をぼんやりと見つめた。
「うーん、最後は巨大モンスターでパニックっていうのを期待してたんだけど……操ちゃん達が阻止しちゃったからアクション映画にシフトしちゃったね♪」
「パニック映画よろしく船上が邪神まみれになったらさすがに対処のしようがない」
「えー、でもでもっ☆ 舞台が燃える豪華客船なら期待しちゃうでしょ?」
 ねえねえ、と楽し気に話す操に有は首を横に振る。それでも彼女は楽しそうな声色を変えずに、黒髪を熱風に揺らしながらオブリビオンを眺めた。
「なるべく先端の方へは近付かせないように戦うか」
「そーだね♪ じゃー最後まで付き合ってあげよっか☆ ……邪神程度で勝利を確信している、愚かな狂信者にな」
 楽しそうな口調と打って変わって吐き捨てる様なそれに有は片眉を上げたが、すぐに前を向く。
 それは操の触れてはならない部分であり、踏み込む必要がないのならわざわざ聞き及ぶ必要もない。猟兵の中には時折、彼女のような好奇心だけで触れてはならない連中がいることを有は知っている。
 好奇心など犬に食わせろ。触らぬ神に祟りなし。有はそう考えて戦闘に集中することにした。
「っと、操ちゃんびーくーる♪ 強大な敵一人に猟兵が多数、乱戦は避けられないだろうね☆」
「現に今甲板は乱戦混戦状態だしね」
「んー、原因とはいえ、無知なユキオ君が巻き込まれるのは避けたい所さん!」
「でも先に向かった皆が失敗した。まずはあの風を何とかしないことには……」
「あら、では私とキアンさん、有さんで追いこんでしまいましょうか」
 二人の会話に混ざったのはエリシャだ。
 細い手を星空に翳せば、天空から舞う桜の花びら。樹木はどこにもないのに、まるでエリシャに呼ばれたようにひらひらと舞い落ちてくる。桜吹雪が去ればエリシャの手の中にはいつの間にか大太刀が収まっていた。
 鞘が外され墨染の刃がその刀身を現す。空すら切り落としてしまいそうな長い長い刃渡りをいとも簡単に構える彼女に、二人はへえ、と目を開いた。
「お、なんだよアタシの力が必要か?」
「ええ。一緒に踊ってくださいませんこと?」
「へっへー、喜んで! 食後のデザートが食えなかったのは残念だけどダンスもパーティーっぽいよな!」
 踊る、とは言葉の綾だったがキアンにとって戦闘は遊戯に等しく楽しいものだ。エリシャが手を差し伸べればキアンはエスコートを真似て彼女の手を取った。
 ぐらりとその時船体が傾いた。そろそろこの船の寿命も尽きてしまうのだろう。時間があまり残されてはいないようだ。
 よろけそうになったエリシャをキアンがしっかりと取った手で支える。
「なんか船がえらいことになってるけど、アタシの手足は頑丈さ、揺れようが斜めろうがへっちゃらだぜ」
「頼もしいですわ」
 キアンの瞳が獰猛に彩られてぎらりと輝く。エリシャの刃もまた、それに呼応するかのように光った。
「ようはアイツを倒せば事件解決だろ? やっとわかりやすくなったな!」
「じゃ、その手筈で。私とエリシャとキアン、三人で今の混戦してる戦場に乗り込んで一斉攻撃を仕掛ける」
「わーお、助かるぅ☆ じゃ、その隙に操ちゃんは他の子と協力してユキオ君を何とかするね!」
「纏まりましたわね。それでは」
 ドレスの三人、警備員の一人。みな等しく美しい女性だったが、血気盛んさや戦闘意欲は今この場に居る誰よりも高い。
 猟兵達による最後のダンスが始まった。

●ダンスはいかが、マドモアゼル
 ドレス裾から忍ばせておいた精霊銃を取り出して、有が構える。ドレープのあるゆるやかなドレスが熱風に巻き上げられて鼻のように広がった。
 だが彼女が構えるのは華やかなパーティーにふさわしいドレスとは対照的に、邪神を屠る力を持つもの。
 暗闇を収斂させたかのような黒色の精霊銃は、それでも有の手の中に収まっている光景がしっくりくる。使い慣れているからだろうか、だれの目に見ても自然に映った。
「これはこれは、喜ばしい事だ。次から次へと我を楽しませる者が現れる。二人の異なる人格を宿す者達も、威勢のいい者も、透き通る可憐な女も、先を見通す者も、」
 みな我を楽しませてくれるのだからたまらない。お前はどうやって我を楽しませてくれるのだろうか。
 そう問いかける邪神には答えず、有は鉛玉をくれてやった。
「お喋りがしたいのなら他を当たってくれ。私はそんなに得意じゃない」
「つれないことを言う」
 確実に当たっているはずの猟兵達の攻撃をものともせずイネブ・ヘジの狂える王はすぐさま攻撃を繰り出してくる。
 威嚇射撃も含めながら、有が怯まず撃ち込めばすぐさま横からキアンが飛び込んできた。
「しつこい奴は嫌われるぜ!」
「ほう、中々いい攻撃だ」
 赤い羽根が宙を舞う。船上を舞う。ドレスに縫い付けられた羽根がキアンの速度についてこれずにプチリと千切れて、イネブ・ヘジの狂える王へ強烈なキックを浴びせたとたんに取れてしまった。
 まるで鳥そのもののような速さと同等の攻撃、強烈に決まったそれにオブリビオンはわずかによろめいた。
「アタシとも踊ってくれるか?」
「いいだろう、好戦的な女と遊ぶもまた一興」
 イネブ・ヘジの狂える王は手を鰐の顎へと変異させる。
 だがキアンは特に気にした様子もなく攻撃の構えを解かない。ご自慢のテーブルナイフをくるりと回して、そのままイネブ・ヘジの狂える王へと繰り出していく。
「自ら攻撃を受けるとは」
「あーそれ、他の皆もそれで攻撃してたろ。おかげでもう見切ってんだ、同じ轍は踏んでやらねえ!」
「!?」
 猟兵達が事前に受けた攻撃をキアンはしっかりと見ている。他の者が受けていなければ察知できなかったろうそれを対処すべく、タイミングよく腕ごとナイフを突っ込んで内側を切り裂いた。
「グッ、小癪な真似を!」
「へーん、戦ってんのはアタシ達だけじゃないってやっと理解したかよ」
 ナイフが燃え上がる。オブリビオンの腕が燃える。
 今受けたアーマーンの大顎も、先ほどの腐食の呪詛を含んだ極彩色の旋風――ネクロポリスの狂嵐も。手前に混戦状態に持ち込んだ猟兵達が居なければ次の一手には繋がらない。
 すべての猟兵が今ここにいるからこそ、勝利を収めることが出来る。
「では、これならどうだ」
「うおっ!?」
 キアンが慌てて距離を取れば、三本の槍のうち一本が今しがたキアンの立っていた場所に突き刺さった。
 一本は彼女に差し迫るが、有が素早く一本に精霊銃を撃ち込んで軌道をずらす。
 残り一本を退けたのはエリシャだ。大太刀が槍をからめとって、キアンに向かっていたそれを明後日の方向へと弾き飛ばした。
「随分と手荒ですのね」
「あぶねー! 助かった! 三本全部刺さったら明らかにヤバそうだった!」
「ここで新手か、質が悪い」
 ニィ、とイネブ・ヘジの狂える王は顔を歪ませる。嬲り甲斐がありそうだと品定めするような視線に、失礼だぞと有が手を払いのけるように振った。
「私は良いけど二人をそんな目で見るな。気色が悪い」
「あら、有さんもですわ。可憐な乙女に不躾な視線はマナー違反ですのよ」
「二人ともぜんぜん動じてねえのな……」
 キアンが攻撃をしながらスゲー、と目を輝かせる。動じていなさで言えばキアンも同じくらい動揺らしい動揺も浮かべてはいなかったが。
 エリシャは微笑んで大太刀を振るった。有もそれに倣うようにして精霊銃を構える。
「嗚呼、よかった。あなたには首がありますわね」
 メインディッシュはこうでなくちゃ。
 エリシャが歌うような口ぶりでイネブ・ヘジの狂える王の褐色の首元を見た。金細工のあしらわれた装飾のむこう、大太刀に食わせるにふさわしい首を。
 ぞくり、とオブリビオンは今までに感じたことのないものが己が身に走るのを感じた。それが恐怖心――恐れから来るものだと知ることは、もうこの場で切り落とされてしまう王に。学習できる機会が訪れることは無かったけれど。
「――余興は終わり。その御首、いただきますわね」 
「は、よく言う」

●やや乱暴な救出劇
「うわあ! うわああああ!」
 猟兵達が勇敢に戦う最中で対照的に、ずっと情けない悲鳴を上げていたのは西園寺ユキオである。
 オブリビオンの首が落とされる少し前。
「ちょっとー、ユキオ君! そんなに叫んだらせっかく他のみんなが戦ってるのにバレちゃうじゃん☆」
 操が猟兵達によってだんだんと遠ざけられるイネブ・ヘジの狂える王を見ながら、抑えた声で訴えかける。
 切った張ったの大立ち回りを演じている猟兵達の斬撃と、轟々と音を立てて燃え盛り沈みゆく豪華客船の音のせいで操の声が西園寺ユキオに届く子は無かった。よしんば届いていたとしても彼は叫び続けていたのでここでの忠告の意味は無かったかもしれない。
 操は仕方なく警備員の服のポケットから電話を取りだして『友人』へと電話をかける。
「あっやっほーメリーちゃん、沈む船で派手なバカンスとかどう?」
 電話口の相手が自分の名前を囁いて、今どこそこに居るのとよく分からない不穏な位置情報の報告をしたあと。ひとりでに電話が切れる。
 操はそれに気にするでもなく電話をポケットにしまって西園寺ユキオに向かって駆け出した。
 いつの間にか船上に現れたもう一つの影――刃物を持った少女がほぼ同時にオブリビオンに向かって切りかかる。
「ごめーん沈みかけてるし燃えてて☆ 今度は安全な船でバカンスしようね♪ ……さーて、お二人さん。出番出番!」
「ええ! 行きましょうギド!」
「ああ。しっかり掴まっていてくれ」
 操の呼びかけでギドが走り出す。そのギドにしがみついたまま、シゥレカエレカがユーべルコードを展開する。
「いつあの風が来るか分かんないから気を付けてね☆」
「ああ、十全に。対策も練ってある。行けるな、シゥレカエレカ」
「もちろん。後は任せて!」
 先の二人の透明化ではなく、三人はオブリビオンに姿が見えている。王はそれを目ざとく見つけて、こちらに攻撃を放ってきた。
「ネズミがまた三匹。お前達も我を楽しませて――」
「ハイハイ、お喋りな敵さんには操ちゃんのお友達がお相手したげるからね♪」
 メンカルの血槍。ディフダの怨槍。カファルジドマの戒槍。あわせてカイトスの三魔槍と呼ばれるそれが次々に放たれる。だが操がメリーちゃんと称する刃物を持った少女が、それに気づいて槍を自らの身体ですべて押しとどめた。
 全て命中したそれは少女の姿を掻き消して、そのまま甲板に突き刺さる。ギドとシゥレカエレカ、そして操には凶刃が触れることはなかった。
「……よくもやったな、愚かな邪神が」
 操の言葉遣いが変わった。だが既に三人の目と鼻の先に西園寺ユキオは居る。このまま二人でいっても問題はないだろう。
「行っても構わないぞ」
「ホント? ありがと☆ ちょーっと操ちゃんあの王様に用事ができちゃった」
 またねー、と手を振って操がそのまま駆け出した。その途中はっとして一度足を止める。
「おっと来るよー、例の風!」
「頼む、シゥレカエレカ」
「ええ! エレメンタルファンタジア、おいできらめきのかまいたち!」
 聖属性の突風を呼んで風を跳ね返す。風の流れは交じり合い、つむじ風になって突風を戦場に巻き起こした。
 ネクロポリスの狂嵐は反発して霧散する。
 ギドはそのまま背後で起こった爆風を背に受けて速度を増す。あっという間に船主にたどり着くと、あっけにとられて悲鳴を止めている西園寺ユキオから視線を外さないまま。一振りの妖刀を取り出した。
「え、え?」
「あとは奴が上手くやるだろうよ」
 一人の猟兵の姿を思浮かべながらギドがばっさりとそのまま妖刀を振り下ろした。縄ではなく船主ごとだ。
「縄を切ってくれよ!」
「時間がない。まどろっこしい。あとは猟兵に助けてもらえ」
「そんな――」
 西園寺ユキオが死のうが生きようが、さしもの興味はない。これは冒頭の彼の言葉だ。
 哀れ、西園寺ユキオは船から文字通り切り捨てられる。
 西園寺ユキオはそのまま落下して、落下して、落下して。船主ごと海面に叩きつけられて――……。
「シゥレカエレカ」
 刹那。
「ええ……落ちる船首の、しかも縄に狙いを定めるなんてちょーっと難しいけど……絶対に外さないわ! だってわたし、貴方にお似合いの奥様なんだものっ!」
 シゥレカエレカがギドの呼びかけで再び風を巻き起こす。一点に絞られた風の刃は先程オブリビオンの攻撃を退けたのとは違い、縄を切り裂く鋭さを持って西園寺ユキオの拘束を解いた。
「きゃー乱暴☆ でもこれで助かったね!」
 イネブ・ヘジの狂える王に思うまま攻撃してきたのか操が戻ってきた。海面でもがく西園寺ユキオをのんきに眺め、悲鳴を上げる彼を見下ろしている。
「あー、もしかして泳げない感じかなっ☆」
「心配は無用だ。彼が居る。さて私達も加勢するぞ」
「ギド、彼って誰?」
 歩きながらシゥレカエレカの問いかけにそっと答えを隠し、ギドはイネブ・ヘジの狂える王に向き直った。
「彼は――彼だ。見ていれば分かる。……しかしこんな大掛かりな舞台まで用意をしておいて残念だったな。崇拝する神がこの程度とは聞いて呆れる」
 縋る神と共に冥府へと堕ちよ、小物めが。
 そう呟きを残して、三人はいまだ抵抗しているらしいオブリビオンへと歩みを進めた。

●王の首は晒される
 斬撃と共に切り込まれ、間合いが狭まる。王がのけぞり、キアンが叩き込み、有が補助に回り、エリシャがまた一歩踏み込んだ。
 途中で操も応援に入って、数発ほど攻撃を入れていた。
「これはメリーちゃんの分! これはユキオ君の分! そしてこれは操ちゃんの分だぁ!」
 訂正しよう、三発ほど攻撃を入れていた。
 体力は確実に削られている。あと少し、あと一歩だ。
 甲板から遠ざけるようにして戦う三人と他の猟兵達が西園寺ユキオからある程度イネブ・ヘジの狂える王を遠ざけたところで、ついにキアンのドレスが突風に切り裂かれてビリビリと音を立てて破れた。
 背中だけでなく足元がさらに大胆になる。
「ああーっ、しまった! やべぇ! ……まあ、しょうがないよな?」
「んっ、私も……着慣れないドレスで少し動きづらいかしら」
「そっちもか。ドレスってどうにも動きにくいね……。わかってたことではあるんだけど」
 エリシャも有も動き辛さを感じていたのか自らの恰好を見直す。キアンほどではないが細かな傷があちこちにつき、燃える火の粉や煙がところどころ煤けさせてしまっていた。
「折角用意していただいた衣装ですが、ごめんなさい」
「私も破るか」
 一思いに裾を裂き、動きやすいようにスリットを入れる。レース生地はオブリビオンの肉体よりもよほど柔らかく、彼女達に動きやすさと軽やかさをもたらした。
「まぁ、あの雨合羽も大丈夫って言ってたし大丈夫だろ!」
「雨合羽?」
 ああ、グリモア猟兵の彼と有が呟く。
 汚しても破いても人類のため。お咎めはない。そう出発前に言っていた言葉を思い返しながらエリシャと有は今一度オブリビオンに向き直った。
 エリシャがマーメイドドレスのままでは叶わなかった跳躍をして、一気に近づく。
「さあ、戦いを再開いたしましょう。と言っても、もう終わりになるのですが」
「――ッ!!」
 スピードについていくことはできない。
 もう刃が首に当たっているからだ。避けることは、できない。今まで攻撃を加えてきた猟兵達により蓄積ダメージが邪魔をする。
 それでも抵抗をしようとして、イネブ・ヘジの狂える王は自らの身体が思うように動かないことに気づいた。
 それは有がひそかに右手袋に仕込んでおいた鋼糸。最後の一撃を確実に加える為に隠し持っていた手段が有効に作用する。雁字搦めにされた身体では最早、抵抗など。
「くっ、王の身体を縛るか、不届き者め」
「不届きで結構。残念だったね」
「ええ、残念でしたわ」
 また私と踊ってくださいね。という言葉と共に。

 王の首は、ごとりと音を立てて落ちた。

●歌う鯨と悪徳なる救世主
 さて、UDCアースでは、こと日本と呼ばれる島国においては、諺というものが存在する。
 それはこの国に古来から言い伝えてきた、訓戒や風刺など道徳的な訓話とからめて内容とする寓話的な短い句のことを指している。諷喩、アレゴリーだ。
 そのなかの一つに今回の事案に沿うようなものがある。溺れる者は藁をもつかむという言葉だ。
 人は困窮して万策尽きたとき、全く頼りにならないものにまで必死にすがろうとするという喩えのこと。
 西園寺ユキオが掴んだものは果たして何だったのだろうか。
 彼が掴んだものは藁とは違い、役に立つことは間違いないだろう。だが彼にとっての救世主が根っからの善人かどうかには疑問を呈すことになる。
 だから此処では元の諺を少しばかり捩って、こう表現するのが相応しい。

 ――溺れる者は罠をもつかむ。

 王の首を無事猟兵達が打ち取る前、操達が西園寺ユキオを船上から眺める少し前。
 パレード・ペッパーポートその人が乱戦混戦状態になっている船の上で他の猟兵達を手伝っていた。
 血糸を操り、戦場を制限する。イネブ・ヘジの狂える王に付着して爆発し、そのまま彼の血液で紡がれた糸はするするとパレードと王を繋ぐ。
 だかこれは彼にとってのブラフだ。カモフラージュと言ってもいい。ようは偽装である。
 イネブ・ヘジの狂える王へ更なる攻撃を加えると見せかけて、パレードは髪を結うリボンを解いて、大切に懐へ仕舞った。
「やれやれ、結局こうなっちまうんだな。だがむしろ臨むところだぜ」
 猟兵の内ひとり、船主ごと西園寺ユキオを海へ落した張本人が顎をしゃくって海上を示した。合図に頷いたパレードは攻撃を仕掛けようと見せかけて、一気に駆け出して燃え盛る船から飛び降りる。
 ばちゃん、と水音が響き渡って。船から猟兵がひとり消えた。
「おぼ、溺れる! 私は泳げないんだ!」
「ほら掴まれ」
 ばちゃばちゃと波を掻いていた西園寺ユキオをスマートに手助けして、溺れかけていた男をパレードは救い上げた。
 頭上で爆発音が聞こえる。
 きゃあきゃあと、わあわあと、猟兵達の悲鳴が……一部楽しそうな猟兵達の悲鳴が響き渡る。
 そのまま船の先を見つめれば甲板から彼らが飛沫を上げて飛び込んできた。脱出成功、どうやら無事に王を倒し果せたようだ。
 いよいよ、船が沈む。白イルカの寿命が尽きる。
 丁度その時、歌うような声が海に響き渡った。
 きゅるる、と大きな声。実際に見るのも聞くのも初めての猟兵もいるだろうか。
 鯨だ。鯨がいる。
 ベルーガの背の上から飛び降りた猟兵達は、海面で飛び跳ねる――鯨の姿を見た。
 火に寄せられたか、好奇心旺盛な若いクジラがすぐ近くを泳いでいる。
「すげー、鯨だあ!」
「どうせなら白イルカが見たかったよね☆」
「白イルカの生息域は主に北極海とその周辺海域だ。この海域じゃ流石に無理だろう」
「だがあの男も生物分類上の違いは無いと言っていた。それにベルーガはシロクジラとも言うんだそうだ」
 同じようなものだろう、いや違うでしょ、と楽しそうに話す猟兵達の声を聴きながら。
 ベルーガはゆっくりとその姿を海に沈めていく。
 猟兵達によって無事にその身を助けられた男は、パレードの腕の中で溺れるベルーガの姿を見ていた。
 たった一つのワインで、関わってはならない者達から命を狙われたことをこれを機に反省して。慎ましやかに生きてくれれば良いが。
 遠くからUDC組織の船が近づいてくる。救助されることを今更ながら自覚したのか西園寺ユキオがずっと胸に詰まっていた息を深く吐いた。
「……ああ、助かった、助かったよ。ありがとう。私を助けてくれたのは貴方か」
「どういたしまして。……待ってたよ、金持ちに恩を売る機会をな」
「……え?」
「ああいや。失敬。何でもないんだ。聞き流してくれ」
 下心のわずかに滲んだ声は聞き間違いだったのだろうか、それとも。

 どうやら西園寺ユキオの受難はまだまだ続きそうだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月17日


挿絵イラスト