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命の尊さを知る君へ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●ある従者の言葉
 私達の主人は異端な存在だ。
 血を啜ることで渇きを満たし、私達を蹂躙することで己が強者であることを示す。
 肉を断つ瞬間が好きだ。骨を砕く感触が好きだ。他者の死を与える手応えにのみ幸福を感じ、笑みを浮かべる。そんなお方だ。
 今まさに眼前で無惨に死に絶えた何かも、明日には屋敷の外に放り出されて永劫彷徨い続ける。死した後さえ私達は蹂躙される。
 そうだ、私達はこのお方から離れることはできない。
「ああもっと……もっと、死が見たい」
 満たされないあのお方は今宵もまた、何かを殺すのでしょう。

●妖精は導く
『やあやあ!はじめまして!急な話だけどキミ達、今暇かい?』
 暇でなくとも話は聞いてほしいなー、と身の丈ほどある水晶玉の上で足を揺らすのはひとりの妖精。苺色の目を細める彼女、クイスリング・ブルーメ(エデンの蛇・f00388)はこの度グリモア猟兵になったばかりの新参者だ。
 猟兵達が立ち止まるのを確認すれば長いうさぎ耳のフードの下、愛くるしい笑顔を浮かべ踵を鳴らす。すると、椅子代わりにしていた水晶玉にゆらり、異界の景色が映し出された。陰鬱とした空模様に、見ただけで分かる重苦しい空気。
『そう、今回の舞台はダークセイヴァー。恐ろしき領主に支配されるとある村でのお話さ』
  吸血鬼に統治されたその村は、既に住人の大半を吸血鬼の気紛れで連れ去られ、殺されている。疲弊しきった住人達は抵抗することもできないまま、領主に搾取されるのを待つ日々だ。
『そこで、キミ達の登場だ!領主の屋敷に突入して、吸血鬼を退治してきてほしいんだ!』
 問題の領主の屋敷は村の中、村全体を見渡せる丘の上にある。村と屋敷を隔てる門も容易く開けられるので侵入に関しては問題ない。
 の、だが。
『問題は屋敷の警備……って言えばいいのかな?門の先には庭から屋敷の中まで亡者のバーゲンセールが始まっててさぁ、敷地内に入れば即!戦闘開始になるはずなんだ』
 なので準備は万全に整えてから突撃するように。と注意をして、妖精は水晶玉から離れた。猟兵達の目の前にふわりと浮き上がる水晶玉に手を伸ばせば、濃紫の宝石のはまった一本の鍵を取り出す。
 鍵を水晶玉へと突き刺し、捻れば、異界への扉は音もなく開かれた。
『説明はこれで終わり。……うんうん、行く気満々だね!ならば導こう。キミ達が紡ぐ終演が、良き終焉でありますように!』


日照
 はじめまして!日照と申します!
 この度は目に留めていただきありがとうございます!

●依頼の流れ
 第一作目となる今回は吸血鬼退治となります。

 第一章、第二章は純粋に戦闘を。
 第三章では日常、村人達とのアフターストーリーをお楽しみいただく予定となっております。
 特に罠などもないので、真っ直ぐ行って敵を倒してください。
 かっこよく、かわいく、皆様らしく行動してくださいますと当方テンションが上がります。がんばって書きます。
 また、執筆速度にムラがありますので、失効してしまうことも多々あるかと思います。その場合はお気軽に再送してくださいませ。

●あわせプレイングについて
 大歓迎です。
 ご検討の場合は迷子防止のため、お手数ではございますが【グループ名】か(お相手様のID)を明記くださいますようお願い申し上げます。

 では、良き猟兵ライフを。
 皆様のプレイング、お待ちしております!
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第1章 集団戦 『篝火を持つ亡者』

POW   :    篝火からの炎
【篝火から放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤々と燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    篝火の影
【篝火が造る影に触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    新たなる亡者
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自分と同じ姿の篝火を持つ亡者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ある従者の話
 領主様の部屋には多くの剥製が飾られています。
 この村の周辺で見かける生き物は大体狩ったそうで、部屋には寝具以外殆どが剥製と、剥製を収めた硝子の棺で埋め尽くされていました。祖父の剥製づくりを隣で見て育った私にとって、この部屋は宝箱のようでした。
 村の外でよく見る魔獣も、この部屋の中では脅威でもなんでもない、ただ飾られているだけ。しかもどの剥製もまるで生きているようなのに、生き物ではないと一目で分かる虚無の美がそこにあったのです。祖父の剥製とはまた違う、領主様の手掛けた作品たちを私は時間も忘れて見つめていました。
「お前は恐ろしいと感じないのか?」
 領主様は顔色一つ変えずに私へと問いかけます。この部屋の剥製のことを言っているのならば、私は何も恐ろしいとは感じません。素直に自分の思ったことを伝えたのですが、わたしの言葉に疑問が残ったのか、僅かな間を置いて領主様は違う問いを投げかけられました。
「お前は、死を恐れぬというのか」
 そんなはずがありません。死ぬ事が恐ろしくないものがどこにおりましょう。
 私の答えが納得のいかないものだったのでしょう、領主様は私の首へと手を掛けられました。
雷陣・通
父ちゃんが言っていた、死してもなお囚われている人がいるって。
空手はその時に鎖を断ち切るためにあるって

「だから、俺はアンタ達を倒すよ。人間として」

【POW判定】
先制攻撃で機先を制し、残像とスライディングで相手と正面からやりあわずに、二回攻撃で正拳や上段回し蹴りを叩きこんで着実に潰す
相手の攻撃に関しては残像やスライディング、それでもだめなら激痛耐性でダメージを最小限にしてカウンターで手刀を振るって腕を叩き切る!
「もうアンタ達は自由だ、俺はそのために来た」
振るった手刀で亡者として囚われた彼らを死者として解放出来るだろうか?
でも、やってみないと分からない!

(アドリブ、連携等OKです)



●扉は開かれた
 重々しい扉を開くと、閑散とした村とはまた異なる静寂がそこに在った。同時に鼻腔を突き刺す腐臭。常人ならばまず呻くであろうほどに強烈な死の匂い。それが幾重にも、幾重にも起き上がり、篝火を手に揺れている。
 亡者達だ。
 領主の戯れで殺された誰か、或いは領主の興味で狩られた獣たち。それらが死したその後もこの屋敷から出られぬまま新たな同胞を、生を求めて延々彷徨っている。
 断ち切らねばならない。
 いの一番に敷地内へと飛び込んだのは雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)の小柄な身体。少年の雷のような突入に反応したのだろうか、亡者の一人が彼へと照準を定めた。差し向けられた篝火から、ごう、と炎が放たれ、通の髪よりもさらに鮮やかな赤が少年の身体を包む。
 ――が、そこに通の姿はない。
 残像と相対する亡者の横を履き潰したスニーカーが土を削る。回り込んだ通は勢いを殺さぬままに跳躍、振りぬいた上段回し蹴りが亡者の肩を薙ぎ飛ばす。
「もうアンタ達は自由だ、俺はそのために来た」
 着地と共に低く腰を落とし型を整え、揺らめく亡者へ繰り出すのは正拳突き。父の教えを胸に振るう少年の空手は鋭く重く、疾い。呼吸ひとつの間に二度、正確に叩き込まれる拳は亡者の腐った肉を、脆くなった骨を砕き削っていく。倒せると、少年は確信した。
 しかし拳を振るいながら少年は自問する。亡者として囚われた彼らを死者として解放出来るのか。振るう拳が、彼らを縛る鎖を断ち切れるのか。痛覚のない彼らは己の状態など省みることなく通へと向かってくる。炎が、向けられる。
――でも、やってみないと分からない!
 亡者が炎を振るう。しかしもうそこに少年はいない。握り締めた右の拳に渾身の力を籠め、通は意思を貫く。
「だから、俺はアンタ達を倒すよ。人間として!」
 斬。振り抜かれた手刀が亡者を折り、篝火を落とす。崩れ落ちた身体は再び動き出すことなく、少年は確かに一つ、救われざる者をこの地より解き放った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリア・ホルガストロム
ヴァンパイアに支配されたこの世界に生まれた私は
この天使の翼ゆえに何不自由なく自由を奪われて生きてきました。
でも最近思うようになりました。
この翼はこの世界をヴァンパイアの軛から解き放てという
私に与えられた使命の証でないかと。

WIZ
亡者に対して【全力魔法】を込めた鈴蘭の嵐で攻撃
※その際シンフォニックデバイスを鈴蘭の花に変化させ、
吐息を吹きかけて攻撃する


シュシュ・シュエット
住人さんたちをイタズラに苦しめるなんて、とってもざんこくです……っ!
皆さんの笑顔のため*勇気を出してがんばりましょうっ。

ばばーっと一息に行きたいですけど、バーゲンセールさんはすっごくこわいので警戒します。*野生の勘ですっ。
孤立しないよう、他の猟兵の皆さんと歩調を合わせて前進しましょう。
【縁の下の力持ち】のネズミさんたちの噛みつきで注意をそらし、他の猟兵さんの突撃の*援護射撃を行いますっ。

屋敷は丘の上にあるのなら道中は少なからず登り坂……傾斜があるのでしょうかっ。
可能なら*地形を利用して亡者さんの足へ*すないぱー……優先的に噛みついてもらい、
姿勢を崩しごろごろと転ばせたりして、活路を開きますっ。


寧宮・澪
ううん、なんかこー……厄介な領主、ですねー……。
そして、貴方達も、災難ですねー……どうぞ、綿津見へ、帰れますようにー……。

WIZ、で、いきますー……。
Call:ElectroLegion、で、レギオン、呼びますよー……。
たくさん、で、押しつぶしますー……。
【戦闘知識】で、薄いとこから突破して、囲ってみたり、とか。
【時間稼ぎ】、して、他の方が倒しやすい状況に持ち込む、とかー。

向こうからの攻撃は、【オーラ防御】で軽減したり、【見切り】で避けたり、して、被害減らしましょかー……。

(連携、アドリブ 歓迎ですよー)



●嵐舞
 通が次の亡者へ攻撃を仕掛けるその後ろをマリア・ホルガストロム(解き放たれたオラトリオ・f02174)は駆けて行く。走り抜ける先には長く手入れがされていないのであろう花壇に水の枯れた噴水、葉が落ち切った大樹。
 かつては美しかったのであろう庭に残されたのは弔われることすらなく投げ捨てられた死体、死体、死体の数々。そして、そこから虚ろに蘇る、亡者達。
 統治と言えば聞こえはいいが実質行われていることと言えば搾取に殺戮。ヴァンパイアによって村は、人は、ただ食い荒らされるのみ。マリアは外を知らずに育ったかつての己を、一族の為してしまったことを脳裏に浮かべた。
 が、すぐに掻き消す。猟兵となった今の彼女にあるのは深く穿たれた使命感。この世界をヴァンパイアの支配から、軛から解き放てという衝動にも近い感情。自分
の意思で生きると決めたその背には、美しく広げられた翼。

「これが、私に与えられた使命の証なのでしょう」

 そのためにもまずは彼らの解放を。眼前には三人、否三体。亡者たちは一様に炎を掲げて生けるものへと手を伸ばす。
 拡声器に魔力が満ちた。籠められたマリアの全力が蒸気式の機械を柔らかな葉に、茎に作り替え、鈴なりの花を瞬く間に咲かせる。
 そこへ注がれる天使の吐息。吹き散らされた花が彼女を中心に渦巻けば、亡者達へと花弁が衝突する。純潔――白く揺れる花はその意を持って亡者達の腐った四肢を清らに灼いてゆく。
 が、亡者達は倒れない。
 痛みは命を奪われたときに置いてきた、彼らは最早生前の苦痛を二度と味わうことはない。それが故に、彼らは生者へ羨望と渇望を持って迫りゆく。
気付けば最初の三体から数が増えていた。一体、また一体。打ち捨てられていた死体が蛆すらも焼いて立ち上がる。全力を放ったその後だ、流石にこの数を相手取るのは分が悪い。マリアが後退を視野に入れたその時だった。

「お仕事ですよー……れぎおーん……」
「ネズミさん!お願いしますっ!」

背後から押し寄せてきたのはねずみと琥珀金の機械兵器の群れ。シュシュ・シュエット(ガラスの靴・f02357)と寧宮・澪(澪標・f04690)による援護だ。群れなすねずみは亡者達の脚を齧り歩行の阻害を、機械兵器達は特攻突撃により破壊されながらも亡者達を確実に仕留めていく。

「助かりました、感謝します」
「いえいえっ!それよりひとりでこの数は危険ですよ!わたしたちもお手伝いしますっ!」
「ひとりでやるよりー……三人でやった方がよさそうだしねー……」

 集う乙女三人。対して亡者は未だ数を増やしながら彼女たちへと迫り寄る。
 シュシュは溢れる亡者達に怯えながらも、勇気をもって杖を握った。門をくぐってからずっと鼻につく臭いも、当たり前のように転がる屍も、すごくこわい。だが、

(住人さんたちをイタズラに苦しめるなんて!)

 残酷な領主の行いは、幼い彼女にさえわかる非道であった。人々の翳った心に再び幸福を、笑顔を訪れさせるため、優しい彼女は恐ろしくとも立ち向かう。硝子の靴より転じた少女の金色の髪が、フルールビジューのヘッドドレスが温い風に撫でられ靡く。

「わたしが活路を開きますっ!おねえさんたち、どうか!」
「ええ、私もまた全力で向かいましょう!」

 シュシュが杖を一振りすれば、ねずみたちは亡者の足元を埋め尽くしていく。足、一転を集中して貪婪に歯を立てるねずみたちの事など、亡者は気にも留めない。
 気にも留めないが、肉体はそうはいかない。削られていく肉や腱は着実に亡者達を文字通り足止めしていた。マリアも翼を大きく広げ、嵐をさらに強く巻き起こさんと亡者達へ向け羽搏かせる。青と紫、二人の視線が強く亡者達を見据えた。
 一方澪はというと、気の抜けるような言動とは対照的に、黙々と援護を続けていた。亡者の動きを見ているうちに、死せるもの達は澪の機械兵器達よりも命ある自分達を優先的に狙っていると気付き、過去の戦闘経験に符合させながらそれを利用する。
 マリアの攻撃範囲へ収まるように機械兵器で包囲させ、シュシュのねずみたちが狙いやすいように行動範囲を誘導させる。影のような娘はぼんやりと、眠たげな呂色の目で戦場を把握していった。
 倒れた亡者が他の亡者に蘇らされるよりも早く、ねずみ達で、鈴蘭の嵐で、レギオン達で削っていく。三人の乙女達によって庭の亡者達は一体、また一体。篝火を消していく。そうして気づけば最後の一体、最早肉が削げきって骨身となった腕を生へとしがみつかんと伸ばした。
 打ち払ったのは澪だった。

「貴方達も、災難ですねー……どうぞ、綿津見へ、帰れますようにー……」

 間延びした祈りが、仮初の生と汚泥の死へ終わりを飾った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ラスベルト・ロスローリエン
まことに古く、されどまことの死を迎えぬ者達……
『定命の理を歪めその尊厳を汚す輩を捨て置く訳にはいかない』

【WIZ】
“翠緑の追想”を振り翳し【高速詠唱】で《神秘の焔》を高らかに詠唱。
亡者の灯した不浄の篝火を【属性魔法】【全力魔法】で宙に巻き上げ白き浄炎の嵐へと変転させる。
古木の杖を振るい燃え盛る白炎を縦横に操り、絡め取るように亡者達を包み焼き尽くす。

非業に死したる後もその肉体を操られ魂を嬲られ、無念を抱いたまま現世に縛られるとはさぞ辛いだろう。
この白炎が君達に苦しみを与える事はない。
『創生の焔に包まれ輪廻の理に身を委ねるが良い……どうか心安らかに』

さあ、憐れなる悪夢の虜囚に夜明けを告げに行こう。



●炎舞
ラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)が屋敷の扉を開いた時、薄暗い正面ホールには既に幾人もの亡者が倒れ伏していた。恐らく、先行した何者かが彼らを屠ったのだろう。扉から差し込む外界の光だけを頼りに、ローブの裾を浮かせて足を踏み込む。
 屋敷の主人の命令なのか、或いは他の何者かが死体を外まで運んでいるのか。屋敷内にいたのであろう亡者の数は庭に比べれば随分と少ない。

(まことに古く、されどまことの死を迎えぬ者達……)

 亡者へと変わる前の亡骸達を、庭を駆けるその最中ラスベルトは目にしていた。腹に夥しい量の刺し傷のある者、四肢が捻じ曲がり苦悶の表情を浮かべたままの者、首から上が千切れてなくなっていた者、他にも。短い時間で確認した限りでも目を背けたくなるようなものばかり。
――定命の理を歪めその尊厳を汚す輩を捨て置く訳にはいかないな。
 まだ見ぬ吸血鬼へ戦意を燃やしホールの奥、薄ら明るい廊下へ続く開いたままの扉を目指して進もうとした。
 その時だった、庭から一体の亡者が入り込む。ラスベルトを追って来たのだろう、速度はなくとも決して逃すことなく歩を進め、邸内の腐臭をより濃密に満たしていく。
 途端、倒されていた屍達に灯が点る。薄暗かったホールにぽつり、ぽつりと灯りが増えれば、それらが全て亡者と変り果てた誰か何かと知り、帽子の下で緑玉が煙る。扉を背に、翠緑の追想を握り直した。
 まじないは常人では聴き取れぬ速度で紡がれ、古木の杖に填め込まれた水晶の原石に白く仄かな光を纏う。振り翳せば、亡者達の掲げた篝火が変質しホールを真白に照らし出した。
 不浄の炎を白き浄炎へ。ラスベルトの神秘の焔は杖を振るえばその通りに亡者達を襲い燃やし、嵐の如く渦巻いてゆく。

「創生の焔に包まれ輪廻の理に身を委ねるが良い……」

 どうか、安らかに。
 その無念。生に囚われ、死に囚われ、どちらにも行けなくなった彼らへと、ラスベルトは渾身の魔力を叩き込む。炎が膨れ、弾け、亡者達を飲み込んでいく。
 痛みなど感じなかっただろう、そういう風に変わってしまっていた。されどどこかで、忘れたはずの何かが満たされたのか、亡者達は歩みを止めてその場で燃えて欠け落ちた。
 見届けて、男は扉の先の闇を見る。

「さあ、憐れなる悪夢の虜囚に夜明けを告げに行こう」

成功 🔵​🔵​🔴​

アルジェロ・ブルート
おー、始まってんなぁ。
つかまじ多いな、一々全員相手してらんねーわ。
吸血鬼が死なせた数のコレクション、取り上げてやんのも吝かじゃねぇケド。

そうか、お前ら。逃げそびれたのか。

いっくら【激痛耐性】があるつったって全部喰らってやる気はねーし、【逃げ足】使って避けるとするわ。
ずーっとおんなじ場所でやってたら集まってくっからさぁ、【ダッシュ】移動しつつ減らしていきたいわけね。
だから、ま、
【悪食双子の遊戯会】
腹が減ったと喚く頃だしな。
無邪気にけたけた笑う、遊びたがりの食いたがり。
お前ら遊ぶのは良いが俺に当たっと仕舞なんだからよ、ちゃんと兄さんも守ってくれよ?

ああ、吸血鬼の嫌がる顔が早く見てぇなぁ。



●輪舞
「おー、始まってんなぁ」

 ラスベルトの戦いを廊下の先で聞いたのは、先に屋敷内への侵入に成功していたアルジェロ・ブルート( ・f10217)だった。
 そう、ラスベルトが最初に見た亡者達はアルジェロによって――正確に言うならば彼当人ではなく、彼の呼びだしたそれらに倒されていたのだが、どうやら後始末が悪かったようだ。
 しかし今更戻る事などできない。というのも、余計な戦闘やダメージを回避すべく亡者達を掻い潜って逃げ回っていたところ、戻る道を亡者によって塞がれてしまっていた。
 そのうえ進む予定の道の先にも揺らめいて見える歪の炎。一々相手にしていられないとも言えなくなってしまった。ばつが悪そうに眉間に皺を作ると、大きく息を吐く。

「ま、いいか。また腹が減ったと喚く頃合いだ」

――よそ見は禁止、浮気は厳禁。遊んでくれよ、こいつらと。
 謳うような男の声に何処からともなく影が伸びる。影は幼く、歪な笑い声をあげて亡者達へ駆けてゆく。

 遊ぶ?遊んで?遊ぼう!

亡者達に恐怖という感覚が残っていたのならば、その場で足を止めていたことだろう。そして逃げ出していたことだろう。二つの影がダンピールの少年少女を形作っていることも含め、自分達を殺した人の形の怪物を想起していたことだろう。
 けれど彼らは死人、あるのは空虚な生のまがい物のみだ。遊び盛りの双子を前に何一つ感じることもなく、ただ歩を進め、炎を掲げる。
 接敵。
 腕が飛ぶ、脚が飛ぶ、篝火がどこかへ放り投げられ、子供たちの愉しげな声が廊下に響く。双子の弟妹は手当たり次第に遊びまわり食べ尽くし、玩具を振り回すかのように亡者達を壊しつくす。その暴虐は幼稚でありながらも精錬されたダンスのようでもある、一種異様な光景でもあった。
 倒れた死体がまた蘇れども、子供達は止まらない。アルジェロはそんな兄妹達の様子を見つめ、時折放り投げられたあれこれを避けながら、この先で待ち受けているものを思い浮かべる。
 吸血鬼。この世界で生まれ育った者にとって、そうでなくとも忌むべき存在。

(吸血鬼が死なせた数のコレクション、取り上げてやんのも吝かじゃねぇケド)

 進む先、先程より接近してきている炎の数を数え、アルジェロは双子の無邪気な――無垢ゆえに残酷な笑い声の横で、よく似た表情を浮かべていた。

「ああ、吸血鬼の嫌がる顔が早く見てぇなぁ」

成功 🔵​🔵​🔴​

三岐・未夜
【団地】
わー、亡者がいっぱい……。
とりあえず、ずぶ濡れにしちゃって篝火を消してみようか。
もう一度着火するにしたって、ずぶ濡れだと着きが悪いでしょ。勿論、狙撃の一番の目的は、その手から篝火の杖自体を弾き飛ばすことなんだけど。

【破魔】【祈り】で亡者の浄化を図りつつ、【属性攻撃】【範囲攻撃】【誘導弾】で広く駆逐して行こう。
誰か危なさそうなら【誘惑】【催眠術】【おびき寄せ】【時間稼ぎ】で敵の狙いを逸らして、【援護射撃】で手助けするよ。
僕、あんまり前衛向きじゃないからさ。
前に出てくれるみんながちょっとでも安全に戦えるようにしなきゃ。


夢飼・太郎
☆団地
☆アドリブ大好きです

☆スタンス
彼等の出自は察してるが敵は敵なので平常心で戦う
幻聴は健在

☆戦闘
前線に出る
まずは中に飛び込みグラウンドクラッシャーで敵を散らす
「うるせぇ……うるせぇ……うるせぇから吹っ飛びやがれ!」
以降
敵を盾にして攻撃を受ける
アックスで篝火を持つ腕ごと切断
など戦場を搔きまわす

後方の三岐が狙撃しやすいよう
余裕があれば敵に組み付いたりする
「未夜。やれ」


夷洞・みさき
可能な限り【団地】の人達と合流して行動

生きている限り咎は増える物だけど、死んでも苦しむのは割に合わないし、
君達がそこまで咎を重ねたとは思えないんだよね。

でも、死んだ君達を救えないから、安らかに眠ると良いよ。

【WIZ】
咎人専用の車輪使用は控えめで、八寸釘での急所狙いと、冷気での活動停止を狙うよ。
動けなくなったら海水に沈めて浮かんでこれなくしておけば再生は止められるかな。

予知で見えた吸血鬼よりもあの従者さんお方が僕はなんとなく怖いかな。
彼、怖がってないよね。
主従揃って何かずれてるよね
気のせいかもしれないけれど


拷問好きみたいだけど僕はあくまでお仕事だし、趣味じゃないよ。(皆がいる手前)
アレンジお任せ


笹鳴・硝子
【団地】

夜な夜な連れ去って殺した結果がこれなら、すっぱりあの世に送ってやった方が本人の為でしょう
もっとも既に魂は去ってしまっているのかもしれませんけど、残った自分の身体があんな使い方されてるとか、自分だったら嫌ですからね、片付けましょうね

援護はみゃー(三岐・未夜)にお任せして、たまには前に出ましょうか
隕鉄製の小刀を手にサモニング・ガイストで、古代蝦夷の戦士を召喚
「救ってやれ、磐具公」
【カウンター】【2回攻撃】【武器落とし】使えるものは何でも使う

たろさん(夢飼・太郎)が亡者に組み付いたのに、みゃーが忙しかったら、精霊銃で亡者を撃ちますね
「あ、つい反射で撃ってしまいました」
てへぺろー★(真顔)



●制舞
「うるせぇ……」

 消えない声がある。自分を罵る声だ、自分を蔑む声だ、己の自己満足と充足のために平然と他人を陥れる、己の存在が優位であることを周囲に定義する、その為だけに吐き出される視覚化不能の刃だ。そいつが延々耳から脳を切り刻みにやって来る。

「うるせぇ……」

 馬鹿だの阿保だの愚図だの鈍間だの、妙に回りくどい言い方も、どいつもこいつも鬱陶しい、鬱陶しい、鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい!!!

「うるせぇから吹っ飛びやがれええぇぇ!!」

 絶叫。亡者のひとりがまた、夢飼・太郎(扉やかく言うな・f00906)の斧により叩き切られる。突入したかと思えばあちこちから起き上がり増えていく亡者達のど真ん中、太郎は幻聴に苛まれながらも武器を振るい続けていた。
 この死人達が元はどういう存在だったのか、分かってはいてもこれ以外してやれることもない。極めて平常通り、太郎はまたひとりの腕を切り落とした。

「おー、たろさんすごいねぇ」
「うん、たろ、張り切ってる」

 その後方、三岐・未夜(かさぶた・f00134)と笹鳴・硝子(帰り花・f01239)は太郎の怒涛の戦闘を援護しつつも呑気に見つめていた。勝手知ったる団地のご近所さん、雑談しながらであろうが鯉に餌をやりながらであろうが戦闘へ対する集中は切れることはない。共に戦場を駆ける回数が多いふたりならばなおの事。
 見れば先程から大立ち回りをしてもらっている割には群れる亡者の数が先程から減っていない。倒れてもまた亡者達は次の死体を同胞へと変えているのだ。これではいくら援護しようと火力不足。

「よしっ、たろさんにまかせっきりもアレだし、たまには前に出て頑張りますか。みゃー、援護は任せたよ」
「硝子、気を付けてね」

 まるで近所に散歩に行くかのような気楽さで、硝子は一度伸びをして小さく手を振りながら太郎の暴れる最前線へ。隕鉄製の小刀を構え、呼び起こすは古代蝦夷の戦士。

「救ってやれ、磐具公」

 そこにあるのは先程までの硝子に非ず。鉄の神を頂く戦士を従えた、夜空も呑む黒橡の戦天使。亡者の放つ炎をすんでのところで躱して、カウンター。戦士が繰り出す攻撃に合わせて追撃、さらにおまけのもう一撃。

(既に魂は去ってしまっているのかもしれませんけど)

残った自分の身体があんな使い方されたのなら、それを思うと振るう武器にも力が籠る。そう、これは言うなれば大掃除。跡形もなくさっぱりと片づけてあげることこそ、硝子が彼らへ差し出せるやさしさだった。
 情勢はやや有利に。しかし力が弱くともとにかく数が多い。他の面々も相手しているのであろうが、それ以上の亡骸が此処にある。篝火を優先的に狙撃しては見ているが、湿気らせるだけでは亡者の炎は弱まる気配もない。
 前衛二人が戦いやすいようにとつぶさに観察し、浄化の矢を打ち続けていた未夜は怪訝そうに状況を整理しようとしていた。壊すだけでも、濡らすだけでも行けない。前衛向きではない自分にできることをと思考を巡らせる。

「もっと広く、たくさん水を撒いた方が良い……?」
「水がご入用かな?」

 手は休めずに考え込む未夜を、血色の悪そうな女が笑みを浮かべて隣から覗き込む。尻尾の先から耳の先までぶわりと毛を逆立てて驚く未夜の前にいたのは、やはり団地の顔馴染み。夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)が磯臭さと冷気を纏い、笑っていた。驚きこそしたものの、相手がみさきと気づけば未夜も尾を撫でおろし、困ったように前線の二人へと視線を送る。
 ほーうほうほう、大雑把に状況を把握すれば取り出したのは八寸釘。見知った顔の前で愛用の大車輪を使うのは些か気が引けた、彼女の第二の武器。手にした鈍色を亡者達に向けて投擲、何体かの手足や胴を穿ち、何体かの足元を削り取る。しかしそれで終わりではない。

「彼方より響け、此方へと至れ、光差さぬ水底に揺蕩う幽かな呪いよ」

 咎が増えるは生者の特権、死すればそれから解放される。だが、彼らは死したその後も苦しみ、己の意思を介さぬままに更なる咎を重ねている。割に合わないな、脳裏で呟きみさきは詠唱を続けた。
――死んだ君達を救えないから、代わりに安らかな眠りを。

「我は祭祀と成りて、その咎を禊落とそう」

 じわり、雑草だらけの庭が波立った。澱んだ海水が八寸釘の穿たれた場所から湧き出れば、自ずと亡者達の足取りが重くなる。亡者達を縛る呪いよりも深いみさきの呪詛が、潮騒が、炎を食らい弱らせる。
 好機!勢いの弱まった炎を適当に引っ掴んだ敵の身体で防ぐと、太郎は叫ぶ。

「未夜ぁ!やれ!」
「うん、たろ」

 短い返事。長く伸ばした前髪の奥、鶏冠石の眸が群れる亡者を捉えた。周囲に表れるのは狐火ではなく水の恩恵を受けた破魔矢の群れ。みさきの拡げた禍き海、その端から端に届くほどの祈りの矢が未夜の動作ひとつで放たれる。広範囲を埋め尽くす未夜の破魔矢は悉くを打ち貫き、雹雷の如く打ち据えた。
 が、撃ち漏らしか何れかの亡者が最期にそれを願ったのか――太郎の背後に亡者がひとり立ちあがり、赤い炎が差し向けられ、

「! たろ、あぶな」

 未夜の声が、破魔矢が届くより早く亡者を撃ち抜いたのは硝子の銃。

「あ、つい反射で」

 てへぺろ☆
 最後は、摘まみ食いした子供のような笑顔が締まりなく止めを刺した。

 幾度とない戦いを経て、こうしてようやく亡者達は地へ還る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●扉は壊された
「とこでさ、予知を聞いてどう思った?」
「どうって?」
 亡者の鎮圧から間もなく、屋敷の廊下を駆けながらみさきは顔馴染み達に問いかける。
 亡者達へ対しての思いは各自にある。しかし、みさきにはそれ以外にもどうにも引っ掛かる部分があった。
――妖精の語る、従者の話。

「ほら……突入前の。吸血鬼よりもあの従者さんの方が僕はなんとなく怖いかな。彼、怖がってないよね。主従揃って何かずれてるというかさ」
「んー」
「そんなのどうでもいいだろ。それよりほら」

 他の仲間たちも既にそこに集まっていた。廊下の先、他の扉と比べて一回りほど大きい扉。この先に間違いなく、いる。
 走り抜ける勢いをそのままに、太郎は荒々しく大広間の扉を蹴破った。
アルジェロ・ブルート
んあ、従者ぁ?……あーそーいや
その従者だけの事なのか、それとも村全体なのかねぇ
まいーやどーでも
なんにしたって、ヴァンパイアを殺さねぇ理由にゃなんねェよ

戦闘は【Sangue】でいいな ああ、楽には殺してやらねぇ
お前が手応えを喜ぶのなら喰らってやる気も更々ねぇ

肉を断って骨を砕いた、人間に抵抗できる力なんてねぇの知ってるだろーに
だから、良いよな?
【逆時計の置き香炉】
あんま良い記憶ではねーんだけどよ
身体はぐらりと傾いだか?
甘い香りには気づいたか?
お前もまだまだトべんだろォ!

死が見てェって?見せてやろうか
きれいにきれいに磨いた武器には、きっとお前の死に顔も映るだろうよ



●孤影
 猟兵達の突入に、最奥の椅子に座っていた男は微睡みから浮き上がる。色の抜け落ちた睫毛が重たげな目蓋を持ち上げれば、深緋色の眸で扉の先の来客を見据えた。

「……村の者達ではなさそうだな。何者だ」

 無感情に吐き出す声は耳に絡むような甘さと無機質さで脳を刺す。何気ない一言であるのに、有無を言わせず聞き入らせる何かがある。息を飲み、攻撃を仕掛けることすら忘れて男が――吸血鬼にしてこの地を統べる領主たる男が立ち上がるのを猟兵達はじっと見ていた。吸血鬼がゆっくりと傍らに置いた剣を手に取り、透明な殺気を放つまで。
 最初に動いたのはアルジェロ・ブルート( ・f10217)だ。彼の揺ぎ無き殺意が、吸血鬼に対する憎悪が他よりも早く肉体の動かし方を、血潮の巡りを思い出させた。錫色の髪の下、冬の湖の冷たさで吸血鬼を射抜けば漂わせるのは白の煙。

「俺が何だって?なんだっていいだろ。お前にゃ関係ねぇ」

 拷問具【Sangue】を構え接近。血の名を冠する拷問具に、吸血鬼の血を。吸血鬼が攻撃を仕掛けるよりも早く懐に潜り込めば腹に一撃を叩きもうとする。が、複製された剣が両者の合間に割って刺さった。甘い香りが煙に混じって薫る。

「肉を断って骨を砕いた、人間に抵抗できる力なんてねぇの知ってるだろーに」
「必要なのは抵抗ではない。生から死、その不可逆の変化。私には其れが心地好い」

 突き刺さったそれを引き抜き、揮う。吸血鬼の剣を紙一重で躱した灰髪の男は体勢を整え、次の手を。と思考する間に差し込まれた吸血鬼の腕が、鞘による殴打がアルジェロの側頭部に叩き込まれる。望む感触があったのだろう、吸血鬼の血色の薄い口元が錯覚程度の綻びを見せる。
 脳を揺さぶる鈍痛を受けながらも踏みとどまったアルジェロは、嫌悪感と口内に溜まった唾液交じりの血を吐き捨てた。そうかよ、と口を拭えば拷問具に余りを撫でつける。

「死が見てェって?見せてやろうか。きれいにきれいに磨いた武器には、きっとお前の死に顔も映るだろうよ」
「そうか。期待だけしておこう」

 剣が更に複製される。吸血鬼は目眩ましにもならない甘く薫る白煙の中を悠然に進み、アルジェロに追撃を仕掛ける。……そのはずだった。
 さらり、頬を撫でる感触に吸血鬼の意識が刹那、奪われる。
 吸血鬼が振り返れどそこに誰もいない。ただ、自身の部屋に続く廊下への扉だけがある。なんだ、今の感触は。困惑は首を伝い再び触れられたそれへ視線を向けたことで明らかとなった。
 手。誰のものかも分からぬ手が、何処からともなく伸び吸血鬼に触れている。
――ひひ。
 歪な嗤笑が漏れた。
 同時に、複製した剣達が一斉に消失する。片足に力が篭らず、身体が傾いて膝をつく。己の身に何が起きたか、理解に遅れた吸血鬼の頭をアルジェロが蹴り飛ばした。爪先に感じる清々しさ、しかしそこに眼前の敵と同じ感覚があると察して一度は見せた破顔を曇らせる。
 それでも、零れる。すべて綺麗に喰らってくれやがったと。
 逆時計の置き香炉、三段階の罠により相手を封じるアルジェロのユーベルコードは接近前から着々と仕込まれ続けていた。それが何かに気付くことなく、吸血鬼はその真っただ中へと踏み込んでいったのだ。これを、これを嗤わずにいられるものか!

「お前もまだまだトべんだろォ!ほらァ!楽にゃあ死なせてやんねェよぉ!」

 吸血鬼へ嘲りを籠めた笑みを向けた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

寧宮・澪
ヴァンパイアって、ほんと……好き勝手放題、なの。

【謳函】、使用。
ヴァンパイア、倒しますよって、想いを込めた【歌唱】、【祈り】、【鼓舞】。
全部、ひっくるめてー…デバイスの謳函から歌声、流しましょー……。
飛んでくる誓約書や、刀剣はー……歌で、牽制したり、【オーラ防御】や【見切り】で、しのぎましょか……。

他者の死で、満たされない?
そうでしょねー……貴方を、満たすのは……貴方自身か、貴方が……大切な物の、死、なんじゃ、ないでしょかー……。
推測ですがー…。
でもそうなら。

他者を、巻き込まないで。迷惑、なの。

(アドリブ、連携、お任せをー。好きですよー)


ラスベルト・ロスローリエン
『さあ、死に魅入られし牙の主――いまぞ因果は巡り応報の時だ』

【WIZ】
“翠緑の追想”に宿した明星の輝きで大広間を照らし【高速詠唱】で《晨明一条》を発動。
闇払う星の光を束ね【全力魔法】で血の暴君を穿つ。
如何なる夜にも朝が訪れるが如く明けの明星は君を決して逃さないよ。
飛び交う剣や忍び寄る影の蝙蝠は良く観察して【見切り】星光の一閃で打ち払う。
“界境の銀糸”を空間に張り巡らせ【地形の利用】で察知に役立てたいね。

嗚呼、領主殿には問いを投げ掛けてみたいな。
『君は無数の死の果てに何を望む?』
永き時の果て倦み疲れ死を乞う同胞もいるけれど……
僕にとって生とは灰色の空の切れ間から覗く光のように眩きものであるが故。



●死地
 たったひと振りになった剣を杖に、吸血鬼が立ち上がる。痛みに対して多少の耐性があるものの、眩む視界にアルジェロが後方へ退避するのと入れ替わり、寧宮・澪(澪標・f04690)とラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)が一歩、前へ。
 前衛向きではない二人ではあるが、彼らにもひとつずつ、吸血鬼に対して思うところがあった。それを問うため、床を何度も踏み締めて足の感覚を確かめる吸血鬼へと向かってゆく。
 先に口を開いたのはラスベルトだ。

「領主殿、ひとつ問うても?」
「好きにしろ」
「君は無数の死の果てに何を望む?」

 問いの終わり、手にした翠緑の追想が星の瞬きを宿す。返答より先に攻撃に動かれたときに備えながらも答を待った。
 ラスベルトにとって、生とは光だ。長きを生きて死を焦がれる同胞達を見て尚も眩く、曇天から差し込む天使の梯子にも似て美しいもの。故に吸血鬼が望むものの意味が知りたかった。命を求めるものの答えは――

「更なる死を」

 剣を構え、吸血鬼が見据える。過去より受肉した怪物にとって、死こそが光であった。今この瞬間にも捨てられ続けている膨大な時間より這い出した集積物は、その光を求め続けている。

「私を潤すものは、血と死のみだ」
「そうかい」

 対話は途切れる。これ以上、語り合う事などないと言わんばかりにラスベルトは高速詠唱。灯りの少なかった室内に月灯りにも劣らぬ星の如き光明が生まれ、瞬間、吸血鬼の目を灼いた。視覚の一時的な消失に構えがぶれれば、晨明一条――闇を払う明星が一筋尾を引きながら吸血鬼を撃ち抜く。
 剣の柄に添えていた片腕が穿たれ垂れる。ラスベルトが全力を籠めて放った一撃だ、本来なら肘から先が千切れ飛んでもおかしくはなかったのだろうが、身体の僅かなぶれがそれを回避していた。

「さあ、死に魅入られし牙の主――いまぞ因果は巡り応報の時だ」

 視力が戻る。けれどこのままでは戦闘に支障が出る。吸血鬼は強烈な光により生み出された己の影より密やかに蝙蝠を分け落す。飛び立つ蝙蝠達は他の影へと溶けるように潜み、死角を埋めるように猟兵達を囲んでいく。

「ヴァンパイアって、ほんと……好き勝手放題、なの」

 呟く澪は謳匣を撫で、組み込まれた歌を起動する。血を、命を欲しい儘に奪う暴君を倒せと謳う鼓舞の祈りは、ラスベルトだけでなく後方に控え体勢を整える猟兵達にも届く。吸血鬼に対する感情は完全に一致。全員に、倒すための力が滔々と付与されていく。恩恵が得られないのはこの場でただ一人、対象たる吸血鬼のみだ。
 除外された一人へ向けて、他者の死により満たされるという男へ澪は気怠く指摘する。

「これはー……私の推測ですがー…」
「……」
「貴方を、満たすのは……貴方自身か、貴方が……大切な物の、死、なんじゃ、ないでしょかー……」

吸血鬼の眉が小さく跳ねる。
己を満たすもの、それへ対する意見へ向ける感情が残っていたのだろう。共有した視覚のうち最も彼女へ近い影を一片、剣を振るう代わりに差し向ける。剥がれ落ちた一匹の蝙蝠が滑空して澪へと小さな牙を向けた。

「ならば、私はとうに満たされているはずだ。しかし、実際はどうだ。幾度滅ぼせども、滅ぼされども、私は満たされぬ」
「知りませんよ、そんなこと」

 バヂィィィッ!
集約されたオーラが蝙蝠を弾けば痺れるような痛みが吸血鬼に返ってくる。据えた呂色に強める語調、澪は視線と言葉へと怒りを注ぐ。

「他者を、巻き込まないで。迷惑、なの」

 吸血鬼の生気のない顔に、命の色が見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シュシュ・シュエット
いよいよ吸血鬼さんとの対決ですね……っ!
わたしたちの侵入にも気づいておいででしょうし、扉を開けて予想外のことに惑わされぬよう*覚悟していきましょうっ。

わたしは他の猟兵さんが攻撃をしかける瞬間や、吸血鬼さんの攻撃を受けそうな瞬間に、タイミングを見計らい【時は物語る】を使用。
吸血鬼さんの動きを一時的に封じ、他の猟兵さんたちが攻防の主導権を握れるよう、文字通り*時間を稼ぎながらサポートしていきますっ。

吸血鬼さんは……住人さんたちの、沢山の時間を奪われてきたと思いますっ。
泣いたり、笑ったり、お墓を作ったり、お花を植えたり、立ち直っていく時間もです……!
だから、今度は住人の皆さんへ返していただきますっ。


雷陣・通
父ちゃんが言っていた
人は死ぬ、だからこそ一生懸命生きないと行けないと
アンタはそれを冒涜した、だから止める

【POW判定】
先制攻撃と残像と駆使して二回攻撃で徹底的な格闘戦
飛び込んでの正拳から顎をかち上げる掌底
正中線への正拳連打
敵の攻撃を見切りとスライディングで回避して
間合いを出来れば刀を抜く
「俺達は生き物の命を糧にして生きているんだ!」
「死は楽しむものじゃない!」

格闘戦で徹底的に正面に攻撃したのは意識をそちらに向かせるフェイント
本命は横薙ぎの斬撃
ユーベルコード「雷刃」使用して叩きこむ


玉・楓
玉楓がこの戦場に乱入する事、どうかお許しくださいまし。
そう緩やかに拱手礼。

けれど、死見たさに殺すという、御前様。
この玉楓、御前様に聞いてみたい事があったのです。
血と死を望む、御前様。
御前様の殺す理由、この玉楓に教えてくださいまし。

御前様が何と返そうと玉楓は微笑み続けるでしょう。
肯定も否定も、する理由などありましょうや。
玉楓に、殺す理由はもうないのですから。

だから玉楓は御前様を殺しましょう。

吸血鬼の皆様はやはり手並み鮮やかにございまするね。
見切り避けるは叶いましょうか。
ユーベルコード。
玉楓と同じ、翡翠の簪。
刀剣や蝙蝠の迎撃に大半。
残りは奇襲に使います故、隙が出来れば猟兵様。
取ってくださいまし。



●摂理
『人は死ぬ、だからこそ一生懸命生きないと行けないと』
 父の言葉を思い出す。今、ここで立ってるだけでいいのか?こんなことで父ちゃんに追いつけるのか?そんなわけねぇ!
気合を入れ直した雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)が澪の横から飛び出した。正面から突っ込んでいくと寸前でブレーキ、残像交じりのフェイクを入れて横からの攻撃。
と見せかけて真正面!懐に小柄な体が潜り込んで吸血鬼の腹へまず一撃、身を捩じられて狙いより若干それたものの命中。そのまま軽くしゃがんでからの顎への掌底。まともな打撃を先刻ぶりに喰らい揺さぶられた脳が視界を眩ませる。一時的にでも己の眼が役に立たぬと悟れば視界を切り替え、影に潜ませた蝙蝠から少年の次の動きを確認する。
 低く構えた少年の次なる狙いは正中線。
 子供ながらに侮れぬ、頭上から己の姿を見下ろしながら吸血鬼は宝飾剣を振るい、通の間合いを狂わせる。バックステップ、切っ先に触れることなく回避する。

「俺達は生き物の命を糧にして生きているんだ!死は楽しむものじゃない!」
「理解できるが、同意しかねるな。私にとって死は糧だ。食事を愉しむことの何が悪い」
「違う!あんたは村の人たちを、命を冒涜したんだ!!だから、止める!!」

 抜き放つサムライブレイド、名をウルトラサンダーボルト雷神丸。小学生らしい感性により名付けられた刃を上段に構え、真っ直ぐ。

「いっけえええぇぇぇ!必っ殺!ライトニングエーッジ!!」

 踏み出した足に、握る手に、叫ぶ腹に力を籠めて吸血鬼へと振り下ろす。相手が拳しか使ってこないからと油断していたか、反応が遅れた。咄嗟に差し出した片腕は先程ラスベルトによって撃ち抜かれ動きにくくなっていたものの、利き腕を失うよりはマシだと判断したようだ。地形さえ破壊される攻撃を受けきれるはずもなく、ぼとり。
 通の視線が刀の振り下ろされた先を、落ちた腕を追う。
 その僅かな時間で吸血鬼は次を仕掛けた。たった一枚の紙きれが蝙蝠により通の頭上に落とされ、通の髪を撫でる。視界に過る紙に記されているのは今、眼前で敵の腕から滴るそれと同じ赤。

「――『声を出してはならない』」
「……!!」

 宣言と共に施行された契約が通の言葉を止めた。
契約違反には相応の罰が与えられる。咄嗟に口を押さえてそれを回避したが、コンマ数秒の隙に吸血鬼は通の喉元へと剣を向けた。何処からともなく鐘が鳴る。
――鐘?否、そんな時間ではない。そもそもこの大広間にはそういうものはない。
 ならば、この音は。

「吸血鬼さんは……住人さんたちの、沢山の時間を奪われてきたと思いますっ」

 覚悟を持って飛び込んだ。その覚悟が凍てついた。
 されど今仲間たちの戦いを前に、シュシュ・シュエット(ガラスの靴・f02357)の小さな勇気が熱を持ち奥底の恐怖を融かしていく。
 鐘を鳴らすは彼女の踵、彼女自身。
 御伽噺では魔法が解けるその時間に、彼女は魔法をかける。十二時を告げる鐘の音は完全にとはいかずとも吸血鬼の動きを鈍らせ、通が退避するだけの時間を確かに稼いだ。声を出せない通が体勢を整えながらシュシュへ感謝の気持ちを乗せた眼差しを向ける。
 少年へ微笑み返したシュシュは眉根を寄せて、吸血鬼へ一対の青を向ける。床を踏み締めると靴に着けたベルがしゃらんと鳴った。

「泣いたり、笑ったり、お墓を作ったり、お花を植えたり、立ち直っていく時間もです……だから、今度は住人の皆さんへ返していただきますっ!」
「どうやって」

 少女の懸命な訴えを、無感情に切り返す。
 鈍った動きで再び拳での戦いに持ち込もうとした通を躱し、吸血鬼は視覚の一部を天井から剥がした。鐘の音が十二度、鳴り終わって身体に自由が戻れば影の一片を通の眼前へと落とす。突然の落下物へ反応したところへ叩き込むのは、切り払いではなく突き。少年の空手の動きにも似た直線的な攻撃は鋭く、通の脇腹を掠めた。

「お前達がどう動こうと、捨て去られた時は返らない」

 翻り、急降下したもう一片は速度を増させたままシュシュの頬を掠め飛び、頬へ一筋の赤を滲ませる。少女が頬の傷に気付いたその後ろで旋回し、今度はより鋭利となる速度で少女の首を狙う。
 が、平面の翼は届くことなく、影を翡翠の煌きが縫い留める。吸血鬼が痛みに顔を顰める中、シュシュの横を抜けてひとりの佳人が狭い歩幅で前に出る。

「玉楓がこの戦場に乱入する事、どうかお許しくださいまし」

 和やかに拱手礼をする娘、玉・楓(琅琅・f01034)は笑みを向ける。それは少年へでも少女へでも、青年へでも敵対者へでも変わらない。
 軽くとも負傷したふたりへ向けて、吸血鬼との対話を柔らかに願い出れば、通もシュシュも玉楓の背後へと下がる。それを攻撃することもなく吸血鬼は様子をうかがっていた。

「さて。死見たさに殺すという、御前様。この玉楓、御前様に聞いてみたい事があったのです」

 玉楓はふわり、微笑みを崩さず、声色一つ変えず問いを投げる。

「血と死を望む、御前様。御前様の殺す理由、この玉楓に教えてくださいまし」
「理由はとっくに語った。満たすためだ」
「そうでございましたか」

 問い掛けに対する返答に、決めつけた解を返さなかった。他人の価値観へ成否を決めつけるなど、ましてや何かを殺す理由すらもうない娘は吸血鬼へと簪を向ける。理由などない、故に娘は傍から聞いただけではちぐはぐな解を差し出した。ばらり、簪が零れ落ち娘の周囲に吊り下がる。

「だから玉楓は御前様を殺しましょう」
「やれるものなら」

 一方、吸血鬼は失った片腕に代わり、ひとつを取り戻していた。アルジェロの放った薫りが、煙が、戦闘による破壊や衝撃で薄れている。いつの間にやら頬を撫でる手も消えていた。
 ずらりと増やされた剣は吸血鬼の周囲に隊列を組む。対する玉楓の簪もまた同様に。
 簪と、剣。
 明らかに戦力は偏って見えた。しかしひとたび念じれば双方長所と短所を生かし合い殺し合い。力こそあれども軌道の読みやすい剣と、小回りが利くものの殺傷力の欠ける簪、戦いは拮抗していた。
これだけではまだ決定打にはならない。自分へと飛んできた一振りを鋭く袂を翻して弾き落とした玉楓は、五本の複製を袖口に仕込み刃の雨を掻い潜る。確実な距離まで接近すれば投擲、操作。一本が剣に弾かれる。一本が吸血鬼の爪先を抉る。残りが吸血鬼の脚を縫い留める。狙い通り。

「何方様か」

躱し損ねた剣の柄が後頭部を強打した。玉楓は笑みを崩すこともなく、口の端から一筋の紅を零す。

「取ってくださいまし」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

笹鳴・硝子
【団地】
尊さ、って何なんでしょうね
剥製の良さが虚無の美ってやつだっていうなら、リアルな人形でも良いのでは?って思うのですけど
まあでも、どっちにしてもこの領主とも、例の従者の人とも話が噛み合わない予感しかしないですけど

【WIZ】
隕鉄製の蕨手刀子(小刀)『流』を鈴蘭の花びらに変える
範囲半径19Mもあれば、大広間でもそこそこカバーできるでしょう
「見つけづらい敵だろうが、間合いに入れば充分」
【おびき寄せ】や、【2回攻撃】【スナイパー】等使い精霊銃の射撃で領主の気と攻撃を引き付ける
「まあ決定打にはならないでしょうけど」
みゃー(三岐・未夜)たろさん(夢飼・太郎)みさきちゃん(夷洞・みさき)、あとは頼みます


三岐・未夜
【団地】
……気持ち悪。剥製って要するに死体じゃん……?僕には剥製の良さとかわかりそうにないな。
あの主従が何考えてるかなんてわかんないし、知りたいとも思わないよ。

……みんな、燃えちゃえ。
寂しい黄昏色の炎の矢を呼び出し、【操縦】【誘導弾】【範囲攻撃】【援護射撃】【誘惑】【催眠術】【おびき寄せ】【時間稼ぎ】をありったけ乗せる。
だって、嫌だよ。
団地のみんなが、こんなのに目を付けられるのは、嫌。
炎には目一杯の【破魔】を。
魔は祓われるべきだ。

……従者がちょっと怖いから。
警戒は怠らないようにしておくよ。何かあったら【第六感】が働くはず。


夷洞・みさき
可能であれば【団地】と合流
危険な状態の人へ同胞を盾に回す

死を見たいと言ったのは君だけなのかな
どちらにしろオブリビオンの君は自分自身の死でも見ると良いよ。

骸の海から這い出た君を僕達がそこに引き摺り落としてあげるよ。勿論、この世の咎を削り落とした後でね。

WIZ
さぁ、皆、お仕事だ。彼が深く海に沈める様に、念入りに咎を落としてあげよう。

五感を共有する蝙蝠、ね。なら蝙蝠達にも苦しい思いをしてもらおうかな。
探す必要の無い広い範囲での呪詛と冷気を使用
見つけ次第、同胞達による七つ裂きか、車輪で押しつぶす
届くなら本体も狙う

従者の人は何処にいるのかな?
もしかするとどこかで、この場に広がる死でも見物しているのかな。



●虫
 少し時間を遡り、あとからやって来た玉楓が彼らに会釈をして通り過ぎていく頃。
 夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)には疑問があった。妖精の予知では確かにいたはずの従者の存在。それが、どこにも、いない。
 既に死んでいるのかもしれない。ここに至るまでに倒した亡者のどれかかもしれない。だがもしかしたら、今もこの場所をどこかから覗いているのかもしれない。その疑問は見知った彼らにも伝染していた。
 みさきから少し離れた場所、何処からともなく感じる視線に違和感を覚えながら三岐・未夜(かさぶた・f00134)は周囲を警戒する。突入する前に聞いた言葉が、最初は気にも留めていなかった言葉が、今耳から離れてくれない。
 ぎゅっと拳を握る未夜の姿に何を感じたか、笹鳴・硝子(帰り花・f01239)がいつも通りの声色で話しかける。

「みゃーも気になる?みさきちゃんの言ってた従者の話」
「……うん、引っ掛かってる」

 剥製に囲まれた部屋の中で語り合っていたという領主と従者。語り口から想像する光景は人間の化け物の対話というには異質で、異様だった。剥製を好むというのも気味が悪いと、未夜は明らかな嫌悪感を前髪で隠した目元に浮かべる。今部屋中から感じる視線の一つがそうかもしれない、などと考えてしまうほどに。
 リアルな人形でも良いのでは?と硝子は思うも、そこは当人しか理解しえない良さがあるのだろう。趣味とはそう言うものだ。さっくりと切り捨てれば戦場を見つめる。簪と剣の応酬にも、もうそろそろ動きがありそうだ。

「まあでも、どっちにしてもこの領主とも、例の従者の人とも話が噛み合わない予感しかしないですけど」
「そうだね。あの主従が何考えてるかなんてわかんないし、知りたいとも思わないよ」

 猟兵とオブリビオン。元より分かり合えるはずのない者同士。
 玉楓が吸血鬼の動きを縫い留め、口の端から垂れる血も拭わず止めを譲る声を聴いて、気を取り直してご近所さんたちは戦闘へと参加する。
 先に動いたのは此度も硝子。亡者達との戦いで勇猛さを見せた戦士の御霊は休めさせ、隕鉄の小刀の、鈍い色をした刃を糸の如く解けて分かれて青くしなやかな茎に変わる。先端から零れる花はちりりと揺れて舞い散って、茎さえ花へと変え果てて、大広間へ香りと白を満たしていく。
 蝙蝠達が剥がれ落ち、剣が行く先を見失った。足を留められ動けないままの吸血鬼の、己以外の攻撃手段が悉く潰される。痛み、蝙蝠達からフィードバックされてくる痛みだけが蓄積されて、冷静さを蝕んでいく。
 身動きの取れない領主の場所など、花弁で視界が埋め尽くされようとも分かる。硝子は照準を定めて、素早く二発。もう片方の脚をその名の通り穿つ精霊銃による射撃で吸血鬼を完全に止めてしまえば、

「みゃー、みさきちゃん」
「うん」
「ああ」

 自分の役割はここまでだ。硝子は残りを託す。
 こん、こん、こん。未夜の周りに今再び、無数の矢が生み出される。破魔の力を宿す炎の鏃は四方八方に向けられ、埋め尽くされた花弁に夕暮れを映し出す。
 その部屋にあったという剥製がどんなものなのか見たくもないけど、もし。もしも自分の周りにいる誰かがそうなってしまうのだとしたら。瞬間、想像する。

「団地のみんなが、こんなのに目を付けられるのは、嫌」

 みんな、燃えちゃえ。
 未夜の炎が大広間を埋める花弁へと放たれる。黄昏にくべられた花達は辛うじて残っていた影の蝙蝠達をも焼き焦がし、剣を熔かす。戦場だというのにその光景の、なんと美しいことか。部屋中を埋め尽くす花が黄色く、朱く、すべてを否定するかのように燃え落ちてゆく。茜色の空の下、家路についたことのある者ならばきっと、戦いの最中に本来持ち込まない感覚を思い出しただろう。
 それは、吸血鬼には知りえない感情だった。視界は完全に灼かれた。身体はうまく動かない。光が。彼にとっての光が迫る。

 その光を割って、最後に吸血鬼の前へと歩み出たのはみさきだった。最早抵抗すらできぬほど痛めつけられた吸血鬼の前にみさきが座り込むと、澱んだ深緋色を覗き込み、胸の奥に引っ掛かる疑問をぶつけた。

「従者の人は何処にいるのかな?」
「……あれらがどうした」
「いやぁ、もしかするとどこかで、この場に広がる死でも見物しているのかな、って」

わざとらしく広間を見回す。
 思えば奇妙な部屋だ。家具の類はこの領主が座っていた椅子ひとつのみ。元々は何かが飾られていた痕跡はあるが、それら全てが外されている。壁紙や床も戦闘によりひどく荒れてしまい、今となっては随分と殺風景な部屋になった。
 蝙蝠達はもういない。視線を感じることもない。だが、疑わしい。
 吸血鬼が喉の奥で血を泡立たせながら声を絞り出す。

「お前たちが、知る、必要もあるまい」
「ふぅん、そう」

 さも興味なさげに切り捨てて次の問い。

「死を見たいと言ったのは誰なのかな」
「なぜ問う」
「気になったから」
「私以外、いるはず、ない」
「ふぅん、そう」

 じゃ、もういいか。と転がしたのは身の丈ほどある拷問車輪。燃え上がる黄昏に見入る周囲を余所に、彼女の足元に充満する冷気が消炭となった花の滓を凍り始めている。吸血鬼の耳には聞こえていた。自分たちとよく似た何かの、よく似た欲望。澱みながらも何よりも無垢なその願い。その恨み。
 みさきは見下す。十二分に痛めつけられてはいるだろうが、それでもまだこの男の咎は削ぎ切れていないだろう。海の底にも似た眼差しは吸血鬼に最後の情を注いでいた。
 生きていればこそ増える咎、もうこれはこの先重ねることもなくなる。

「骸の海から這い出た君を僕達がそこに引き摺り落としてあげるよ」

――深く海に沈める様に、念入りに咎を落としてあげよう。
まずは車輪で轢いた。生き物らしい潰れた声が車輪の下から漏れた。そのままあとは同胞たちに任せた。濡れて膨れて、食い荒らされたそれらが満身創痍の吸血鬼を呪う。焼け爛れた片腕が、両脚が捥がれた。壊れた鎧の合間に潜り込んだ何かが胸を貫いた。血管を引き千切りながら心の臓がずるりと引き抜かれた。口の中に満ちた血が呪いと共に凍り付き、最早なにひとつ答える事ができなくなっていた。もう生など点っていない等しいというのに、それでも彼女の同胞たちは貪り羨むのだ。
郷愁を呼ぶ黄昏色の炎の中で、羨望を叫ぶ怨嗟の海に浸され、見えなくなったはずの目で猟兵達に男は光を見た。その光の名を、呼べないままに崩れてゆく。
 黒く澱み、身体が朽ち果てる。海の底へと過去が還されていく。
 最後。
 細波の間に消え果る寸前、それが何かを呼んでいたような、気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『人々の笑顔の為に』

POW   :    食料の運搬、建物の修理など力仕事をする

SPD   :    村々を巡って困っている人を探す

WIZ   :    明るい歌や踊りで元気づける

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●疑念
 死に取りつかれたのは果たして。狂っているのは何処の誰なのか。
●終演
『はーい!みんなおつかれー!!』
『いやいやいや、お見事!よく無事に帰って来てくれたね!』
『吸血鬼は倒されて、村に平和は戻って来た』
『これでハッピーエンドだね!』

 猟兵達の無事を確認し、妖精はくるくると全員の周りを飛んでいく。ぽわぽわと蜂蜜のような甘い香りを漂わせながら、確かに全員の顔を見て、飛んで。

『なーんて、ね』

 と、声色を落した。

『まさか、このまま終わり。はいさようならなんてこと、キミたちするわけないよね』
『やることはまだまだ残ってるよ。そう、ここからが本番さ』

 妖精が語るに、領主となった吸血鬼を退治したところで村が救われたとは限らない。多くの亡者の徘徊していたあの屋敷だって、次の領主を迎えるために整えなくてはならない。
 そのうえ、領主によって殺された多くは働き盛りの男性達。女子供や老人たちだけではどうにもならない仕事もあるはずだ。  
 村の人達も疲弊しきっている。彼らを励ましたり、勇気づけてあげることだって必要にはなるだろう。そう、やることはまだまだあるのだ。

『さー、きりきり働こうねー。戦うだけがお仕事じゃあないんだよー』
『……え?従者はどうしたかって?』
『ああ、雇われてた人達ならさっき二階から出て来てたよ』
『領主の屋敷に連れてこられた後、どうやら死体の後始末とかを任されてた人達みたいだね』

 気になることがあるのなら、聞いてみるのもいいかもね。
 妖精はにこにこと猟兵達を村へと送り出した。
夷洞・みさき
狂っていたのは誰だったのかな。
死に憑かれて踊っていたのは、あの領主なのか、僕なのか。
君はどう思う?

無い物を探して、結局、真相は海の底へ。
ただ、虐げられた村の人達だけが残ってこれから、平和になる。
それで良いんだろうね。

【SPD】
僕のユーベルコードはこんな時はあまり役に立たないし、この身一つで頑張ろう。
道具の整備なら得意だし、壊れた物とかあったら直してあげるよ。
それこそ、家具から剥製までね。


本来の用途と異なる使い方をされている工具を本来の用途で使用しつつ。

余裕があれば【団地】方や知り合いの方の作業の手伝いをする

アレンジ等々お任せします



あ、そうそう。死は見れたかい?



●彼の言葉
 あれは人ではなかったのだろう。
 歪な感性は万人に理解されず、故に私達は理解し合えた。

●冀うもの
「やあ、手伝うよ」

 再び領主の屋敷へ足を運んだ夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は、大広間にテーブルクロスを広げ、そこへ一人皿を運んでは並べていた女性に声掛ける。年の頃は四十代前半、恰幅のいい女性だ。

「ええと、確か」
「猟兵さ。君達の領主を殺したものって言えばいいかな」
「ああ、貴方達が……」

 表情こそ暗いままだが女性はみさきに感謝を述べた。その言葉は丁寧ながらどこか虚ろで、みさきにはまるでこの展開を望んでいなかったようにも聞こえた。今はまだ問うべきではない、と穏やかに微笑んで彼女の事を聞けば、彼女は屋敷で働いていた従者の一人であるという。領主の死後、二階の一室に避難していた彼らは家族との再会の後、何人かは屋敷の手入れのために戻って来ていた。

「で、君は何をしようとしてたのかな?」
「私は厨房の掃除と食器の確認をするつもりだったのですが、どうにも食器の数が多くて……運び出すのを手伝ってくれる人を探していたところです」

 彼女の屋敷での仕事は料理人、従者たちの食事を用意することだったという。領主は人間と同じ食事をとらなくてもいいと言っていたのだが、働いていた人間はそうともいかず雇われたのだと話した。
 奇妙な話だ。彼女の話を聞く限り、あの吸血鬼は屋敷にいた人間達をただ雇っていただけのようだった。あれだけの亡者を生みださせるほどに生き物を殺していたというのに、雇われたという彼女達にはその暴威を振るわなかったのだと。
 違和感に、みさきは思考する。みさきにも解いておきたい疑問があった。核となる男は自らの手で水底に沈めてしまったわけではあるが、まだ掬い上げる方法はある。
 これから平和になるはずの村に、答えはある。

「道具の整備なら得意だし、壊れた物とかあったら直してあげるよ。――それこそ」

 家具から剥製までね。
 みさきが笑えば女性は目を見開く。視線が何故それをと訴えていた。剥製も、と声が漏れたのを彼女が聞き逃すことはなかった。

「剥製に、何か気になる事でも?」
「……いえ。お心遣いは有り難いのですが、屋敷にあるものは我々で処分いたしますので」

 急に余所余所しくなった女性に、みさきは手応えを感じていた。やはり、ある。綻び始めた布地に無理やり指を差し込むように強引に追及する。

「隠しておきたいものでもあるのかい?」
「そういうわけでは」
「なら案内してくれたっていいじゃないか」
「いえ、あれは」
「あれ?」
「あっ、いえ、その」
「あれって、もしかして何か見せられないような剥製でもあるのかい?」
「そ、そういうわけでは!」
「なら、教えてよ」

 みさきの微笑みに押されたか、恐怖を感じていたのだろうか。視線を逸らす女性は狼狽えながらぽつりぽつりと手掛かりを落していく。真実にはまだ届かずとも、至る道に確かな灯火を立てていく感覚にみさきは震える。
 あと一歩。最初の違和感を切り裂くためにと口を開こうとした。

「……お願いします。あれは、我々の手で葬らねばならないのです」

 意外にも、女性は真実を答えるのではなく、みさきに懇願してきた。呆気にとられつつも追及は止めず、けれど今までよりはほんのわずかに優しげな語調で女性へ問うた。
 なぜ、そこまで。
 無理強いをするような先程までの言葉とは異なる問い掛けに、女性は懺悔するかのように胸の前で手を組み、みさきの目を見た。

「……我々は、赦されないことをしてしまったのです」
「へえ、領主様に加担して、人殺しをしたとか?」
「……違いますが、似たようなものです」

 眉尻を下げ、女性が笑う。

「あの部屋の剥製は、私達では手に余るもの。貴女にとってもそうでしょう」

――特に、あれは。
 疲労の消えない表情で、しかしその目に宿る意思は固く。みさきにこれ以上を問わせまいと女は見据える。
 領主の肩を持つわけでもなく、猟兵達を受け入れるでもなく、当事者達だけでどうしても葬りたい闇がある。これ以上、彼女の意思は揺らがないだろう。
 両手を軽く挙げて、みさきは追及を止めた。

「そこまでいうならしょうがない。諦めるよ」

 自ら咎を禊ぎたいと乞うものへ、咎人殺しはこれ以上を求めなかった。
 結局みさきが彼らに許された事はというと、亡者達との戦闘で荒れた庭の整備と、使える食器を持ち出して並べる作業のみ。それでも、屋敷に戻って来た従者たちだけでは時間のかかる作業だった。
 従者たちが使っていた皿、食器、調理道具の数々は村にあるものと比べても高級な品であると一目で分かる。これらをどうするのか、みさきが丁寧に磨きながら女性へ問えば「売るんです」とだけ返された。男手の減った村からすれば、これらもまた貴重な収入源となるのだろう。
 整理が終わり、厨房の掃除は手が足りていると教えられたみさきは、次の誰かの手助けでもしようかと立ち上がる。まだ庭も荒れているだろう。部屋を出ようとして、

「あ、そうそう。最後に一つだけ」

 くるりと向き直り女性へ最後の問いを。

「死は見れたかい?」
「……ああ」

 嫌というほど。
 仄暗い感情を隠すことなく女性は深く息を吐く。その言葉の真意をみさきは問わなかった。
 狂っていたのは、誰だったのか。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

寧宮・澪
はぁい……無事に、終わりましたねー……。
村、ですかー……いきましょか

【謳函】、使用。
生きるのは辛くても楽しいから。
今を生きることを、どうぞ大事に。
さあ、花を草をつんで。
冠にして、飾ろう。
そして、眠って、明日を待つんだ。

そんな感じの、明るい歌をですねー……流しましょ、かー……。

ううん、そういえば。
怯えない、従業員さんがいたん、でしたっけ。

その人はー……命が尊い、からこそ。
死が怖いのではなく、死も尊い、んでしょうかー……?
まあ、その人、の感じ方、ですねー……。

ふぁ、とあくびひとつ。
ゆっくり 寝れたらいいですねー。
眠りは、死の一つ、ですしー……。


シュシュ・シュエット
お屋敷の異変に気づき、少なからず村人さんたちもお外へ出てこられると思いますっ。
わたしは村内を見回り、折を見て『勇気の出る英雄譚』を【シンフォニック・キュア】として*歌唱。
村人さんたちを*鼓舞……元気づけてあげたいですっ。

もし可能なら、そのあとは*コミュ力を活かし、村の皆さんを問診しましょう。
……森の動物さんたちから教わった*医術がお役に立てばいいのですが、お体を崩された方の*救助活動に励みたいですっ。
多かれ少なかれ、衰弱されている方もいらっしゃると思いますし、*お料理や*お掃除を動けない方の代わりにお引き受けできれば……っ。

これから皆さんで村を立て直す、そのお力添えができるといいのですが……。



●彼の言葉
 死とは平等だ。
 絶えずこの世界に蔓延る無情の病であり、万物に共通する救いである。

●明日に芽吹くもの
 花屋の少女は大きなため息とともに空を見上げる。領主が倒され、兄が屋敷から帰って来た。生きて帰って来てくれたことがうれしくて抱き着いて泣きついた。近所のおばさんも、森の木こりのおじさんも帰って来た。それはとても嬉しいことだった。
――でも、兄は嬉しそうな顔をしてくれなかった。寂しそうで、悲しそうで、笑ってくれたけどちっとも嬉しそうじゃなかった。
 少女の胸の奥にちくりと針が刺さる。みんなみんなちっとも楽しそうじゃない。こんな時に、あのひとがいてくれたら。
 そんな時だ、音が聞こえてきた。
 村の広場からだろうか、少女は花に水を遣るのを止めて音の正体を探りに行く。

 街道沿いの入り口から真っ直ぐ進み、村のほぼ中央にある広場にいたのは寧宮・澪(澪標・f04690)とシュシュ・シュエット(ガラスの靴・f02357)の二人だ。シュシュが歌い踊るリズムに合わせて、傍らに座る澪が手を打ってメロディー作り出す。明るく、眩しく、心が弾むような旋律。歌う乙女の笑顔に、奏でる箱を持つ乙女の脱力させる合いの手。少女だけでなく他の村人たちも歌につられてひとり、ふたりと広場に集まってきていた。
 少女にはその歌が何のための歌なのかわからなかった。少女にとって歌とは、ぐずる子供をあやすためのものであってそれ以外の理由で歌うものを知らなかった。
 ……いや、知っているけれど、意味を知らないものが一つあった。いつか、少女の憧れたあのひとが歌っていた歌があった。
 村人たちはいつの間にか、乙女たちの歌に合わせて手を打ち始めていた。たとえ歌の意味を理解せずとも、旋律は、リズムは、知識がなくとも理解できる。それに別にわからなくてもいいのだ。歌っているシュシュの表情が、曲に合わせて揺れる澪の身体が、それを村人たちに「楽しい気持ちにするもの」だとわからせた。

「ご清聴ー……ありがとうございましたー……」
「ありがとうございましたっ!」

 拍手喝采。鈍色の空の下、疲れ切った人々に活力が灯る。娯楽らしい娯楽の少なくなった彼らにとって、異邦の乙女たちが奏でたものは久方ぶりの刺激となったようだ。湧き上がるアンコールの声、喜びながらもどこかでくすぐったさを感じたシュシュがほんのりと頬を染めて困れば、澪が助け舟を出す。

「さあー……せっかくですからもう一曲―……今度は私が歌いますねー……」

 言って、謳函を取り出す。膝の上に乗せてまじないを与えれば、緩やかに。波に揺られるようなメロディーが溢れ出した。それは詩こそ違えども、村人たちの知る歌によく似た心地よさを乗せて流れていく。

――生きるのは辛くても 楽しいから
――今を生きることを どうぞ大事に
――さあ花を 草をつんで 冠にして 飾ろう
――そして 眠って 明日を待つんだ

 澪の歌に、隣にいたシュシュも自然と身体が揺れていた。春の木陰で微睡む時の、午睡の心地よさにも似た歌は陽気さに呑まれた村人へ平穏を思い出させる。領主が変わる前の穏やかな時間、隣近所で力を合わせて助け合っていた日々。これから彼ら、彼女らが取り戻さなければならないものを。
 歌い終わった澪へ、人々の惜しみない拍手が送られる。彼らに刻まれた傷跡は深くとも、乙女達の歌により少なからずの希望が、明日を生きるための勇気が宿されていた。人々の表情にシュシュは満面の笑顔で、表情に変化の乏しい澪も僅かに綻ぶ口元を隠さずに返す。
 さて、次は各家を回りながら手伝いを。そう考えていたふたりの元へ花屋の少女が駆け寄った。淡い緑の眼にじんわりと涙を浮かべて、鼻の頭を赤らめた少女にシュシュが目を見開いて大慌て。

「あ、あの、旅の人!」
「あわわわわ、だだだだいじょうぶですかっ!?どこか痛いところでも!?お熱があるのでしょうかっ!!」
「あれ……あっ、大丈夫です!お二人の歌を聴いてたらたのしくて、なつかしくて、涙が出てきちゃったみたいで……」

 涙を指で拭い、本当に平気ですよと歯を見せて笑った少女に安堵すれば嬉しさからうまく言語化できない感情を懸命に伝えてようとしてくれる少女と語り合う。年頃の少女は村にも何人かいるが、最近は領主の元へいつ連れていかれるか怖くてお互いの顔も見に行けなかったのだという。

「兄も無事に帰って来てくれて、きっとこれから村も元通りになるんです。わたしもがんばらなくっちゃ」
「あ、お兄さん……お屋敷から戻ってきた従業員さん、なんですねー……」
「え?ええ、そうです。……兄も、他の皆さんもここには来てないようですが」

 少女の表情が翳る。さっきの歌を聴いたら兄さんも元気になるかな、などと呟いて思い浮かべたのはひとりの娘の姿だ。彼女は帰ってこなかった。領主の元へと連れていかれて帰ってこなかった人はたくさんいたけれど、少女にとって兄の次に無事でいて欲しかったひとでもあった。故に、零れる。

「……きっと、お姉ちゃんがいないから」
「おねえさんー……?」

 はっと顔を上げた少女と、澪の目が合う。真っ黒で、自分の姿も映してしまう不思議な目に吸い込まれそうになったのを、首を振って持ち直す。そしてこの人たちにならと、少女はつい口走ったひとの事を話し始めた。
 村にいる若い娘の何人かのうち、領主の元へと連れていかれたのは三人。そのうちの一人で今もまだ亡骸ひとつ見つかっていないのが、この少女の遊び相手もしてくれた『おねえさん』なのだそうだ。
 少女には教えなかったが、亡者となった亡骸達はすべて骸の海へと還っていった。万が一、あの場所にいた亡者達のいずれかにその『おねえさん』がいたのだとしたら、亡骸は消滅してしまった事だろう。そこに触れないまま会話を続けていると随分とその女性についての情報が聞きだせた。

「……あっ、ちょっとあなたに似てるかも?」
「わ、わたしですかっ!!」
「そうなんです、金色の髪に、青い目の。……あっ、お姉さんのはね、すみれの色に近かったかなぁ。それになんだろうな、言葉使いも似てるなぁ。お姉ちゃんがちっちゃくなっちゃったみたい」

 容姿が近いこともあるのか、花屋の少女がシュシュへ向ける視線は憧憬と敬慕を籠められている。懐かしむように、きらめくように。その視線はシュシュに心が灯された日の事を思い出させるほどには暖かで、まぶしいものだった。恥ずかしさやら照れくささやらがまぜこぜになったヤドリガミの乙女は自らの頬に手を当てる。
 年の近そうな微笑ましい少女たちの様子を見ながら、澪は思案する。例えば、死に取り憑かれたという誰かがこの子の兄だとして、そのおねえさんとやらが関わっていたならば。
 まあどっちでもいいか、と欠伸。澪にとって大事なのは穏やかな眠りにくるまれることなのだ。それでも気に掛ける仲間たちもいた。情報はあるだけもらっておいた方が良いだろうと、照れ合い合戦になり始めていた二人にやんわりと割り込んだ。

「んー……念のため、そのお姉さんのお名前、教えてもらっていいですかー……?」
「えっ?ええ!もちろん!ヘレネおねえちゃんよ。村のね、二番目に大きい牧場のおねえさん!」

 お屋敷に最初に連れていかれた娘だったのだと、少女は教えてくれた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雷陣・通
「ん? 力仕事? じゃあ、俺がやるよ。みんなは他の事してて」

主に力仕事を手伝う方向で。
手刀で材木を叩き切ったり、修繕資材を用意したり廃材を片付けたりするぜ。

俺はまだ難しいことは分からないけれど……彼は死ぬことに惹かれちゃったのかな?
従者さんに聞いてみるけど
もし、そうだと言われたら
「でも、俺達は生きているんだぜ、命を糧にして。だとしたらその分も生きないと行けないし、他の命のための土壌も作らないと行けないと思うんだ」
「難しいこと、まだ分かんないけど。死を望むのってそういう事から後ろを向く行為じゃないのかな?」
答えは分からないけれど、今は生きる人のためにやることやろう
「それ、手伝うよ、兄ちゃん!」
 



●彼の言葉
 きっと、あれは人から外れてしまっていたのだ。
 皆があれを畏怖していたのは、あれが既に我々に近い存在だったからだ。

●焦がれるもの
 雷陣・通(ライトニングキッド・f03680)がやって来たのは村で二番目に大きいと言われていた牧場跡地。元々住んでいた牧場主とその娘が死んでしまってから手入れされないままになっていたのだろう、荒れた畑と小屋だけが残されていた。
ここにいたのはかつて従者の一人として屋敷にいた青年だ。畑で地道に雑草を抜いていた彼に、通は懐っこい笑顔で話しかけた。

「兄ちゃん!なあ、何してんの?」
「ん?君は……ああ、もしかして例の」

 突然のことに一瞬眉間に皺を寄せたが、事前に妖精が何人かには声を掛けていたのだろう。相手が領主を倒したつわもののひとりと分かれば皺もすぐに取れた。しゃがみ込んでいた青年は背筋を伸ばし、少年の目線に自分の視線を合わせるような高さを保つ。

「見ての通りだよ。雑草を摘んで、畑を整えてるんだ。結構大変な仕事なんだよ」
「へー、雑草摘むのは……うん、苦手だな!力仕事とかない?俺、やるよ!」
「そうか……それじゃあ、畑を耕すか……ああそうだ、薪を割ってもらえるかな?ほらあそこにあるだろう?」

 少年の清々しい回答に、青年は周囲を見回してからちょうどいいものを見つける。民家の横に沿うように建てられた小屋の中には山積みの木材。運びやすいように切り分けられてはいるものの、まだ暖炉へくべるには大きすぎる。幼い日の手伝いを思い出しながら、青年は少年へ出来るかい?と問いかける。

「へへっ、こういうの大得意だぜ!任せとけよ!」

 ぐっと力こぶを作って見せた空手少年。意気揚々と小屋の前に行くと立てかけてあった斧を手に取ってみた。ずしりと重いが振り回せないことはない。試しに一つ、木材を割ってみる。切り株の上に置いたそれに斧の先端を突き刺して、思いっきり。小気味のいい音と共に木材が割れた。意外といけるがどうにも時間がかかりそうな気がする。
 少年は閃いた。斧を元の場所に立て掛け直すと、先ほどのように木材を置いて、腰を落とす。テレビでよくやる瓦割りと似たようなものだ。何かの漫画でやっていたようなことだ。置かれた木材へ意識を集中させると、一閃。
 手刀は木材を綺麗に真っ二つ。これには遠目に気にかけていた青年も思わず二度見して、調子が出てきた通が順調に楽しげに薪を割っていくのをしばらく見ていた。

 仕事がひと段落すると、畑のすぐそばに腰かけて間食を取ることにした。青年は通にパンと牛乳を分けて、領主の屋敷を出る前に残っていた食糧を少しだけ持たされたのだと困ったように笑った。青年がパンを牛乳に浸してから食べれば、通も青年を真似て少しだけ浸してから口へ運んでみる。味気ないパンが幾分か美味しく感じた。
 薪を割りながら観察していた限り、この青年が「死に取り憑かれた誰か」とは思えなかったのだろう。不意に、口の中のパンがなくなったタイミングで青年に問いかけた。

「兄ちゃんさ」
「なんだい?」
「領主に――死っていうのに惹かれちゃったのか?」

 青年の動きが止まる。
 思うところがあったのだろうか、パンを持つ手が膝に下ろされ、不健康そうな顔立ちにより暗い翳が落ちる。通はその様子をただじっと、青年が話し出すまでは黙ってようとパンを食べるのさえ止めて見つめていた。
 間をおいて、青年は通の問いへ答えた。

「……惹かれた、か。そうだな、死というものにはそれほどは。でも」

 でも、と。青年は本音を零す。

「領主様の、あの強さには心惹かれてしまった。……君にも覚えはないかな。とても強くて、敵なんて到底いそうにもないような人が目の前で、思うがままに力を振るうんだ。楽しそうに、そうある事が当たり前だと言うように。おれには、そういう力もなかったからな。だから恐ろしくもあったけれど少しだけ、少しだけ憧れもしたよ」

 青年は己の感情を隠さなかった。人間を容易く殺してしまう男への恐怖がなかったわけではないのだ。いつ振るう刃が自分に向けられるかわからない、家族へ向けられるかわからない。そんな状況であっても時々脳を過る強者への畏怖が、憧れが、淘汰される運命にあった青年を蝕んでいた。どす黒い世界に、仄暗い感情が灯っただけのことだ。
 通はすべてを理解できなかった。だがひとつだけ、強いものに憧れるという一点だけは理解してしまった。覚えはないかと問われて、真っ先に父の姿を浮かべた。本当に強いものへの憧れは誰の心にも芽吹くものだ。その方向性が生きてきた世界故に違っていた。
 納得したようなできないような奇妙な感覚が顔に表れていたのだろう。少年へと、今度は青年が問いを返した。

「でも、どうしてそんなことを?」
「んー、ちょっとさ。従者の人に、死に取り憑かれた人がいるって聞いて」

 パンに齧り付く。ぱさついた口の中を牛乳で潤して、通は続ける。

「でも、でもさ。俺達は生きているんだ。命を糧にして、毎日食べて。だとしたらその分も生きないと行けないし、他の命のための土壌も作らないと行けないと思うんだ。命って、そうして積み重ねていくもんなんだよ」

 残ったパンを丸ごと放り込み、咀嚼して呑み込む。喉につっかえそうになったのを青年が追加で分けてくれた牛乳で流し込めば、真っ先に酸素の確保を行った。締まんねぇなぁなどと愚痴って、拗ねた顔。
 通の子供らしい行動に、生きることへの希望を見せる言葉に青年は眩しそうに目を細めた。彼もまた、自分にない強さを持つひとであった。だからなのだろうか、青年は眼前の少年に憧れの一つを重ねた。

「そう、だな。その通りだ。……君は彼女のようなことを言うね」
「彼女?」
「ああ。この牧場の娘さんでね。ヘレネという美しい人がいたんだ」

 青年の言葉もまなざしも今までで一番温かかった。真意を読み取れずともその「美しい人」が青年にとって如何なる存在なのかを通も悟れたのだが、青年の言葉が過去形なのだと気付けば疑うべき相手を口にする。

「……その人、領主に殺されたとか?」
「いや、逆だ。領主様は、ヘレネを殺せなかったんだ。殺すより先に、ヘレネは殺されてしまった」
「誰に?」
「おれ達さ」

 青年の優しい声に、奥底の見えぬ闇が粘り付いた。

「ヘレネは、我々が殺してしまったんだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​


●妖精の聴いた話
 その娘、名をヘレネと言いました。
 ヘレネはこの村で二番目に大きな牧場の跡取り娘で、美しい金の髪の、青い目の娘でした。人懐っこい笑顔の娘で、特に村の子供たちはヘレネの事を慕っている子が多いのを覚えています。

――この村唯一の屠殺者でもありました。

老いて動物を殺すことが難しくなった父や隣人に代わり、自分たちの育てた牛や豚や鶏を殺して、肉を捌くのが彼女の仕事だったのです。
 自分たちが生きていくためとはいえ、動物を。それも手塩にかけて育てたものたちを殺すことなど、うら若い娘に頼むようなことではないとわかっています。しかし彼女は笑顔でこの仕事を担いました。毎日毎日、動物を育て必要なだけ殺し、肉を捌いてそれを売る。不満ひとつも言わずその仕事をこなしていました。
 誰もが嫌がる仕事を進んで行う、真っ直ぐな娘でした。同時にその素直さが不気味と恐れられ、誰もが陰では避けていた娘でもありました。彼女の血の匂いを知らないのは、子供たちだけだったのです。
 だから、この村にあの恐ろしい化け物がやって来たとき、一番に贄として差し出されたのは彼女でした。領主を殺して挿げ変った暴君の元へ、彼女と領主に指定された三人の男を送り出したのです。
 分かっています。彼女にどれだけ残酷な運命を強いたのかを。
 しかし、意外にも彼女は領主の屋敷から帰って来たのです。伝達役になったのだという彼女は我々にこう言いました。

『領主様は、これからひと月にひとり村人を屋敷に寄越すようにと言っています。率直に言って、殺されるでしょう。私は領主様の行いを見てまいりました』
『お隣のコンラートさんは首の骨を折られた後に、頭を潰されました。ヨーゼフおじさんは肩からお腹の下まで剣で万遍無く刺されていました。牧師様は神へ祈るその手を切り落とされ体中の骨を砕かれて、息絶えるまで放置されました。領主様は、人の死を望んでいます』
『しかし心優しい方でもあります。今日は皆殺したが、次からはひとりずつでいいと仰っています。これを破れば皆殺すとも。だからどうか、皆さん守ってください。毎月話し合いをしてひとり、領主様へ差し出してください。男でも女でも、老人でも若者でも、子供でもいいそうです。守ってください』

 ヘレネの言葉に皆恐ろしさを抱きました。勿論、領主の残虐さにも我々は恐れましたが、それを世間話でもするかのように淡々と語るヘレネ自身が恐ろしかったのです。その時こそ、我々は領主様に従うことを約束しました。逆らう事など考えたくなかったのです。

 やがて、おれが捧げられる番がやってきました。
 おれはどのように殺されるのだろうかと怯えながらヘレネに連れられ、屋敷へ入りました。領主様の前に差し出され、素直に首を差し出しました。
 しかし領主様はおれを殺さなかった。おれの態度を見て殺す気が失せたと剣を収められ、代わりに庭の手入れとヘレネの手伝いをしろと命じられたのです。おれはひどく驚きました。まさか生かされるなんて。
 おれの他にも数人、生かしてもらえた者たちはいました。なんでも領主様の殺戮狂は他の動物でも十分に満たせるものであることが分かり、ヘレネは領主様へ近隣の獣たちや魔獣たちを教え、それらを殺させることで我々への脅威を減らしていたのです。ヘレネは領主様のよき理解者であり、未知でもあったのでしょう。
 我々は月にひとり、確かに屋敷に連れてこられました。たまに、それでも殺された者はいましたが、ほとんどは屋敷で働くことを許されました。どうにも領主様はヘレネの事をいたく気に入ったようで、よく狩りにも共に連れて行っていました。二人で楽しそうに獣の皮を剥ぎ、肉を捌いて、傷の少ないものは剥製にして。
 最初は恐ろしかった我々は、少しずつヘレネや領主様が恐ろしくなくなっていました。中には剥製づくりの手伝いをするものも増え、屋敷での生活は日に日に充実感に満ちていきました。
 ああ、でも、今から一年ほど前のことです。おれは妹をこの屋敷に呼ぼうとしたのです。何れ花屋を継ぎたいと言っていたものですから、領主様に庭をあの子にいじらせてほしいとお願いしたのです。領主様は好きにせよと仰ってくれました。だからおれは妹を迎えに行こうとしたのです。が、仕事もなかったからとヘレネが代わりに村へ迎えに行ってくれたのです。おれはヘレネならば、と送り出しました。

 しかし。
 ヘレネは村から帰ってきませんでした。村から新たにやって来る人もいなかった。
 数日経っても帰ってこなかったものだから、心配になった従者一同を代表しておれが村に見に行くことになったのです。もしかしたら、老いた父の身に何かがあったのかもしれない。帰るに帰れなくなり、仕方なく村に残っているのかもしれない。そう、ヘレネに限って領主様を裏切るはずがないと我々は無意識のうちに信じていたのです。
 ヘレネは確かに、領主様を裏切ってはいませんでした。
 ヘレネは我々が化け物と恐れたものではなく、怯えた村人たちにより殺されたのです。

 綺麗な亡骸でした。後頭部が割れてはいたけれど他には目立った傷もなく、蛆に凌辱されることもなく、美しいままでした。
 彼女が悪いのだと、誰かが言っていました。領主様が悪いのだと言っていました。おれはそんな言葉の飛び交う中を彼女の亡骸だけ抱えて屋敷へ戻りました。おれがヘレネを連れ帰る事に暴力で妨害しようとしたものもいましたが、おれはそれらを何とか切り抜けてヘレネを屋敷へ連れ帰りました。妹には、会わないままでした。
 ヘレネの死は領主様にとって、大きなものだったのでしょう。
 亡骸を見て、一度だけ名を呼んで、それから我々を集めてこう言いました。

『村の者共は、私との契約を破った。捧げるべき人間を捧げなかった。しかし私に長く仕えたこれを弔わねばならない。これを弔ったその後にあの村の者たちを殺しに行こう。お前たちは、最後に殺そう』

 あの時から、領主様は我々を滅ぼすための存在へと戻られました。人間を虐げる者としての自尊心が、我々への契約となっていただけだったのかもしれません。今思えばあれは、領主様なりの慈悲のようにも感じます。
 ヘレネの弔いを終えて、領主様は獣ではなく人を殺すようになりました。従者として働く我々だけは殺さずにいてくれた理由は知りません。それを聞けば殺されてしまうような気がして、主人へ問うことを意図的に禁じていましたから。
 領主様は結局のところ、我々との約束を守っていたのです。我々が恐れたがゆえに契約を破り、それを罰するために我々を脅かしていただけだったのです。
 ……おかしいとお思いでしょう。あの方は人ではなかったけれど、死に囚われていたけれど、我々にとってのあの方は人間とそう変わらない何かだったのです。

 ……ああ、そういえば。
 ヘレネなのですが、領主様は剥製になさったそうです。それが弔いだと。
 おれはあの剥製を前に問うたことがあったのです。なぜ、剥製にしたのかと。土へと還すこともできたでしょう。それなのに何故。領主様のお言葉は今もおれの胸に残っています。

『あれは、私の唯一だった』

 ヘレネの剥製を見つめる領主様の、人間じみた感傷を映す横顔をおれは忘れられません。

『あれだけ、私が殺すことを躊躇った。あれだけは、私が殺さねばならなかった。人の形に生まれながら、人あらざる目で命を見つめていたあれは、誰にも理解されなかったのだろう。だから私が殺さねばならなかったのだ』
『それに、馬鹿げた話だがな。あれにお前はどう殺されたいかと聞いた時、あれは「剥製にして欲しい」と言ったのだ。この部屋にある他の動物たちと同じように、臓腑を抜いて綿を詰め、皮を薬で整え傷を縫合し、目玉の代わりに石でもはめて飾ってほしいと。そして更なる我儘が許されるのなら、祖母の形見のドレスを着たいと』

 だからそうしたのだと、領主様は仰いました。

 こんな話を、最後まで聞いてくれてありがとうございます。つまらない話だったでしょう。暗く澱んだ話だったでしょう。けれど、おれはどうにも、ヘレネと領主様が救われたように思えてしまうのです。あなた方が、我々が、あの二人を殺したことですくわれたのだと。
 我々は、生まれ変わる事などは出来ません。あの二人のように殺されることで救われるなどということもありません。けれどきっといずれ、このことを乗り越えてやり直してみせましょう。

――ああ、新しい屠殺者にはおれがなる予定です。
 おれならば命の軽さを、重さを、他の者よりも理解できているでしょうから。
夢飼・太郎
☆団地
☆POW
随分とスムーズな復興活動だな
意外に強か……いや
もしかして慣れてんのか?

とりあえず力仕事に回る
せっかく腕っ節のある人間がいるのだから
筋肉痛は無視だ無視
UCを発動して頭数も増やす
「未夜は無理すんなよ。屋敷なら人も少ないんじゃねぇか?」

次の領主ってのも気になる
領民への扱いもそうだが……
ソイツは人間なのか?
同じような敵じゃないよな?

アドリブ大歓迎です


三岐・未夜
【団地】
……ひとふえた……。や、当たり前なんだけど。
んー……そうだね、たろの言う通りちょっと屋敷の方行ってこようかな。気になることもあるし。

行こ、儚火。
おかしなものがあったら教えてね。人よりずっと嗅覚も勘も鋭いから、警戒は続けて貰おう。それと、【第六感】も働かせて、違和感がないか見て回る。……なんかね。終わってるのに、もやもやするんだよね。
新しい領主が来たっていうけど、その前にあの屋敷の中を一度くまなく見て回るべきだったかなぁ……。
ていうかさ、剥製とか、……領主と従者だけじゃ、作れなくない?剥製技術とか、そんな簡単なもん……?
うーん。……頭使うの苦手……。


笹鳴・硝子
【団地】

次の領主の為に城を整えるって、その『領主』って人なんですか?
嫌ですよ、私、吸血鬼の為のベッドにシーツかけるのなんて

【WIZ】
その辺、皆さんどう思ってるんでしょうね
村の人達を元気づけるために、祭りの歌とか教えてもらって歌ってみましょうか
楽しい方が、村の立て直しの作業も進むでしょうし
色々口も軽くなるでしょうしね
ペンデュラムを使って【失せ物探し】しても良いですね
【歌唱、言いくるめ、催眠術、言いくるめ】あたり使って、村の今までとこれからについて、聞いてみたいと思います

まあ、聞いたところで、この世界の在り様をひっくり返すこともできないんですけれど
みゃーやたろさんの集めた情報も聞いてみたいです



●庭師の言葉
 果たして、狂っていたのは誰だったのか。
 今となっては我々にそれを比べる事もできず、己が正義を過信するのみ。
 なんだ、結局は彼女が言った通りじゃないか。
 命とは――つみかさねるものだったんだ。

●罪重ねるもの
「あ、みさきちゃーん」
「やあ」
「なんだよ、ここにいたのかよ」

 屋敷の庭。掃き掃除をするみさきを見つけて笹鳴・硝子(帰り花・f01239)が大きく手を振った。先の戦闘では身動きの取れなかった夢飼・太郎(扉やかく言うな・f00906)も、筋肉痛で若干辛いが手伝いに参加しに来ている。
 どうやらこの庭の掃除さえ終えれば猟兵達の仕事は終わり、あとは妖精の元へ帰ってきさえすればいいのだという。

「随分とスムーズな復興活動だな。意外に強か……いや、もしかして慣れてんのか?」
「あー、この世界ってずっとこんな感じなんでしたっけ?」

 やだなぁ、と呟いて硝子は空を見る。織り成す雲の層が厚すぎて今が昼なのか夜なのかも曖昧な、深く暗い空。この空の下で、化け物に支配されて、苦しめられ続けている彼らはどんな思いで生きているのだろうか。それを知ったところで、根本的な解決にはならない。

「今はやれることから始めましょうか。……ってあれ?みゃー?みゃーどこ?」

 やる気をじんわり漲らせていく中、同行者の一人の姿がないことに気付く。きょろりきょろりと見回せば、入口の方から慎重に庭へと歩いてくる巨大な影。
 他人の目が気になるのか周囲を気にしながら三岐・未夜(かさぶた・f00134)は顔馴染みトリオと合流する。儚火と呼ぶ巨躯の黒狐に乗ったまま、忙しなくあちらこちらへ視線を飛ばしていた。巨躯の狐はそんな未夜の怯えた様子を露知らず、されど主と同様の警戒を周囲に飛ばしていた。毛先だけが白い、ふんわりとした尾が揺れている。

「ん?どうした未夜」
「あ、ううん。……ちょっとね」

 手伝いともなれば黒狐に乗ったままではいられないだろうと、未夜は太郎の前にそろりそろりと降りた。人見知りの未夜からすれば、村からこの屋敷までの間に向けられた人々からの視線も不気味だったのだろう。普段の倍くらいは慎重になった少年は不安に尾を揺らしていた。
 それ以外にも、気になるところはある。奇妙な従者の話に、剥製。
 この世界の技術がどの程度のものなのかは知らずとも、死体を加工して生前同様の形を整え維持する作業が、領主ひとりで行えるとも思えない。

「ああそうそう。例の剥製だけど、どうにも余所者には触らせたくないようだよ。丁重にお断りされちゃった」
「マジかよ、怪しさビンビンじゃねぇか」
「なんなんでしょう。次の領主もまた吸血鬼とか……?」

 吸血鬼のためにベッドのシーツを整えるなんて、などと気持ち怪訝そうな顔をする硝子。これにはみさきも笑って答える。

「それはないみたい。話を聞いた限りだと、隣の領地を統治している人間一家から代理が派遣されるんだとか」
「そっかー。それなら頑張れます。あ、景気づけに一曲いきますか?」
「カレーの歌はなしな」
「えー、あれ一番元気出るのにー」

 十八番を封じられ、仕方なく来る道中で偶然会ったシュシュに教えてもらった英雄譚の一節を口遊ぶ。どことなく弾むリズム、自然と身体が動き出すようなメロディー。聴いているとみるみる力が沸いてくる。
 あの表情筋の硬さからどうやってあの歌声が出て来てるのか、元気に歌いながら箒で庭を掃き始めた硝子に倣い、太郎も影の追跡者を喚び出して庭掃除モードに切り替わる。力を込めた片腕に、動かせなくはないのだが微妙に嫌な感じの痛みが走った。帰ったら湿布でも貼っておかねばならない。

「よぉっし、じゃあ俺ぁ未夜と一緒に……あ?」

 情報整理の合間に、黒狐と少年は姿を消していた。

●第六感の示した先
 奥へ、奥へ。
 己の感覚に従うがまま、未夜は屋敷の廊下を進んでいく。中が怪しいと教えてくれた黒狐は窮屈そうだったからと一度還してしまったが、違和感のある方へと人目を気にしながら進んでいく。こうして改めて見てみれば、内装自体はダークセイヴァー富裕層にとっては普通のものなのだろうか。RPGで見るような「如何にもな洋館」という雰囲気が未夜から恐怖心を取り除いていた。
ふと、一つの部屋の前で立ち止まる。

「……この部屋?」

 他の部屋の扉と、何一つ変わらぬ装飾。けれど何かがあると自分へ囁く声がある。恐る恐る、扉に手を当てる。鍵は掛かっていなかった。ゆっくりと押してみれば思っていたよりもあっさりと、そして何事もなく扉は開く。
 中に入るのは怖かったからと扉の隙間から中の様子を見てみると――

「ああ」

 これは。これが。
 声が漏れ出すような光景であった。決して恐ろしいものなどなかった。あったのはそう、家具と剥製。その二種類だけがある、それ以外は何もない部屋だ。
 そこは領主の部屋だった。話に聞いていたような悍ましさも、たかが死体の加工品というような嫌悪感もない。一番手前に見える瑠璃色の小鳥など、微動だにしないという点さえ除けば今にも囀りそうな、生きているかのような愛らしさだ。
 その部屋の片隅、硝子ケースの中にひとつの異質が座している。明らかに人の形をした、けれど人形ではない何か。金色の髪を整えた、薄青のドレスを着た少女のかたち。それが、こちらへ微笑みを向けている。
 
 ひとを呼んで来よう。そう扉を閉めて元来た道を戻ろうとしたところで――見つかった。彼には知る由もないが、先程みさきに懇願していた料理人の女が未夜を見て目を見開いている。彼からすれば、苦手な大人の表情だった。

「ああどうか!見なかったことにしてください!」

 必死の形相で迫られて、思わず逃げ出した。こわい、こわい、こわい。走って逃げて、未夜は振り返ることなく屋敷を出ていった。


●積み重ねる者達
「おう、どこ行ってたんだよ。もう掃除終ったぞ」
「おかえりみゃー、たろさんすごい面白かったんだよ。突然大木が倒れて来てさー」

 落ち葉と枯木の山の前で、太郎と硝子が未夜を迎えた。硝子の激励と人手を増やしたおかげか、庭掃除は随分と早く終わったようだ。このまま焼き芋焼けそうだな、などと呑気な話が出てくるくらいには穏やかで、いつも通りの光景に未夜は安堵した。帰ってこれた。
 分かりにくいもののなんとなく付き合いの長さで察した硝子が、青ざめた未夜へと優しく声を掛ける。

「……みゃー?大丈夫?」
「……ん、気にしないで。それより、終わったんなら早く帰ろう。帰りたい」
「? なに、ホームシック?」

 料理人の女は追ってきていない。あの部屋の事に触れなければきっと、これ以上自分たちに付きまとう事もないだろう。微かな恐怖の残滓を背中に感じながら、硝子の袖を掴んだ。

「そうだね、後の事はやってくれるんだろうし、僕達も帰ろうか」
「うんうん、働いたらお腹すいちゃったしね。帰ったらご飯食べに行こう」
「おっ、いいじゃん。何処行くよ?ラーメン屋?」

 和やかな会話の中でひとり、震えを抑えようと狐の少年は目を伏せた。此処から先は帰り道、決して、後ろを振り返ってはいけない帰り道。そう言い聞かせながら、結局歌い出してしまった硝子の十八番を聴きながら、屋敷を後にした。

●終幕
『斯くして、村には平和が戻り、胸に各々の想いを抱えて猟兵達は帰路につく』
『めでたしめでたし、だね!』

『……え?この物語はハッピーエンドではなかったのかって?』
『ああ、悪者を倒して、村を助けて。それじゃあダメだろ?』
『そう、決して幸福な終焉(ハッピーエンド)だけでは人は救われない』
『時に残酷な真実に踏み込んででも、本当に救わねばならないものがあるんだ』
『君達はこれから、いくつもの世界を渡りながら考えていかねばならない』
『本当に、救う事ができたのかを』
 
『……ああ、そういえばだけど』
『彼女の剥製、君達がいなくなった後に忽然と姿を消したんだって』
『あの屋敷にいた従者の皆さんも驚いてたよ。誰の仕業かって』
『もしかしたら』
『美しきヘレネの剥製は、主人を迎えに行ったのかもしれないね』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月21日


挿絵イラスト