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“明日”を裏切れ

#アポカリプスヘル


「内乱だよ、内乱! りべりおん!」
『騒がないでよ、ドリー。今回はむしろ籠城戦ね』
 双子と見紛うばかりのグリモア猟兵、ドリー・ビスク(デュエットソング・f18143)が君たちの前できゃいきゃいと話し合う。
 その背景にあるのは新しく発見された世界、アポカリプスヘルの情景だ。アスファルトが砕かれ、建築物が半壊している見るも無惨な市街地が鳥瞰図で映し出されている。
『イタカと呼ばれている拠点(ベース)がオブリビオンに包囲されたわ』
「攻城戦だね、包囲戦だね!」
『イタカ・ベースは前時代に建てられた小学校よ。バリケードと補強で堅牢な防御拠点にしていたようね。結構頑張ってたみたいで、何度かオブリビオンの襲撃をやり過ごしてきたみたい』
 ビスクがくるくると赤いリボンを巻いてみせると、鳥瞰図が白亜の校舎を拡大して映した。校舎の敷地外には、大量のゾンビたちが群がっている。
『でも困ったことに、人間に擬態したオブリビオンを侵入させてしまったみたいなのよね。命からがら逃げ延びた生存者を保護したと思ったらスパイだったなんて、ありきたりで退屈な話だけれど。起こってしまったものは仕方ないわ』
「スパイの女が潜入先のリーダーとラブロマンスなんて、楽しそうだよね!」
『当事者からしてみればたまったもんじゃないでしょうね。ともかく、イタカ・ベースのリーダー、通称“センセイ”にまんまと取り入った擬態オブリビオンは、門を開けてバリケードを崩すことでこの拠点を一飲みにしてしまおうと画策してるみたい』
 少女の格好をしたオブリビオンの名は、“エントツュッケントゼーラフ”。人間たちの魂の収集を目的とした、猛毒の死神だ。
『Entzückend Seraph(魅惑的な熾天使)――。死神が熾天使を冠するなんて、皮肉もいいところね。まあ、ハニートラップは成功してるから魅惑的ってところは合ってるんでしょうけど』
「人間も魅了したけど、ゾンビたちも魅了しちゃうみたいだね! 死体とか、ゾンビを操ったり戦わせるのが得意なんだって!」
 エントツュッケントゼーラフはゾンビを生み出したり、支援することが基本的な戦闘スタイルのようである。
 呪文を詠唱し始めたら毒霧が展開される合図だ。一時撤退で戦場を変えながら、猛毒によってこちらの動きを鈍らせて来るので注意したい。
『敵の包囲が一気に攻め込んで来る前に、まずはこの死神を始末するわ。一人で相手取るには厄介過ぎる相手よ。一撃見舞うのを繰り返して、消耗させることを意識して頂戴』
「ベースの生存者さんたちも、戦闘には直接関われずとも頼めば協力してくれると思うよ! でもでも、リーダーの“センセイ”は死神さんを倒す時は見せないようにね!」
 内部を擾乱するエントツュッケントゼーラフを倒すことができたならば、包囲しているゾンビどもを蹴散らし、包囲網の指揮官となっているオブリビオンを直撃する――というのが一連の作戦である。
「きっと厳しい戦いだね!」
『文字通り、生死を賭した戦いよ』
「けど、こういう事件を解決できれば!」
『きっとそれがこの世界の人類再建につながるでしょうね』

「『――それじゃあ行ってらっしゃい、猟兵さん』!」


三味なずな
 お世話になっております、三味なずなです。
 年末を前にして新しく世紀末世界、アポカリプスヘルが来ましたね。今回は純粋に戦闘を行うシナリオです。

 第一章:拠点内部で「エントツュッケントゼーラフ」を討伐します(ボス戦)
 第二章:拠点を包囲するゾンビたちを蹴散らします(集団敵)
 第三章:包囲網を指揮しているオブリビオンを倒して、作戦終了です


 なずなのマスターページにアドリブ度などの便利な記号がございます。よろしければご参考下さい。

 誰もが明日を生きるられるか不安を抱え、けれど必死に今を生きて人同士で支え合う拠点(ベース)。
 あなたはいかにして彼らを救うでしょうか?
 あなたのプレイングをお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『エントツュッケントゼーラフ』

POW   :    《傀儡ノ躯》亡者の群れよ。私に力を貸してください
自身の【寿命】または他者の【魂 】を代償に、【死んだ生命体】を「サルベージ」して【死者】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【死んだ生命体】が生前持っていた【戦闘技術】で戦う。
SPD   :    《癒シノ大鎌》亡者に再び祝福を。ネクロヒーリング
【大鎌】を上に掲げ、紫色の【回復のオーラ 】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。
WIZ   :    《毒霧ノ侵略》さぁ、あなたも命を捧げて下さい。
【準備動作】で呪術を詠唱。その後、【両掌 】から【広範囲放射】。視界を妨げ直感が鈍る【毒霧】を放ち、【一時撤退】する。生身の者は【猛毒】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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 イタカ・ベース。裏門と裏庭は校舎の陰になる位置にあった。
 かつては生徒や事務員が細々と手入れしていた場所だ。しかし今は見る影もなく荒廃し、腐臭混じりの刺激臭が辺りに漂っていた。
 余人であれば近寄りがたく、少しでも吸い込めば顔をしかめてしまうであろうその場に、女が一人立っている。エントツュッケントゼーラフ――大鎌を持った死神のオブリビオンだ。
「バリケードのある裏門……。ここですね」
 城壁のように高いバリケードを何重にも作られた堅牢な裏門を見上げ、死神は呟く。このバリケードを自分の魔法で崩せば、間もなくゾンビたちがこの拠点へとなだれ込むだろう。
「崩壊しかかったこの世界で、なお生にしがみついて足掻くなんてあまりにも哀れです……」
 詠唱の後に大鎌を一振り。死者の魂と毒がバリケードの一部を打ち崩す。これを繰り返し、充分な突破口をこじ開けられれば、生存者たちは完全に袋のネズミになるだろう。
 バリケードを崩そうと、死神は大鎌を構えて再び詠唱し始めた。
「“センセイ”、今この苦しい世界から解放して差し上げます」
黒川・闇慈


「人間もオブリビオンも、世界が滅んでなおしぶといものですねえ。クックック」

【行動】
wizで対抗です。
相手は一時撤退をくり返すようですので、姿を見せた一瞬に攻撃を叩き込む必要がありそうです。
相手の姿を確認したら高速詠唱、属性攻撃、全力魔法の技能を活用し失墜の一撃を使用します。このUCならこちらの動きが鈍っても、視界に捉えれば攻撃が可能でしょう。
毒霧はホワイトカーテンによる防御魔術を展開し、毒耐性の技能で耐えるようにしましょうか。

「残念ながら、今回滅びるのはあなたの側ということですねえ。クックック」



 毒の瘴気と腐敗臭の漂う裏庭。
 そこに立つのは死神エントツュッケントゼーラフのみ。――否。

          フォールン・スマイト
「――来たれ暗黒、失墜の一撃」

 不意に黒い魔力球が死神の頭上から落ちて来る。高密度の闇属性を帯びたそれは、咄嗟に回避しようと動いた死神の身体を掠めた。
「――ッ、誰ですか!?」
「いやはや。人間もオブリビオンも、世界が滅びてなおしぶといものですねえ。クックック……」
 死神が視線を向けた先。物陰から現れたのは、影を切り抜いたかのように黒ずくめの男、黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)だった。
 彼はおっと、と口元を抑えた。
「過去の残骸たるオブリビオンはともかくとして、この世界はまだあくまで“滅びに瀕している”段階だったでしょうか」
「あなたは他の生存者たちとは毛色がだいぶ違いますね。成程、猟兵の援軍ですか」
 死神は大鎌を構えて呟きながらも、周囲へ視線を走らせる。次の奇襲を警戒し始めたのだろう。
「滅びに瀕した時こそ、最も苦しみを受けるものです。その苦しみから解放して差し上げようというのに、どうして邪魔立てしようというのですか」
 死神の問いかけに、闇慈は肩を竦める。索敵のためか、あるいは外からのゾンビたちの侵入時間を稼ぐためだろう、と容易に予想できた。
「成程確かに。全滅の危機に直面するのはさぞかし苦しいでしょう」
 相手の言葉を肯んずるのは言葉だけ。憐れむような言葉を紡ぐ口に薄い笑みがにやりと浮かぶ。
「しかし、世界が滅びてしまうのは私としても都合が悪いのですよ」
「あなたとはまったく関係ない異界なのに、ですか?」
「まったく関係ない異界だからこそです。――私はまだ、この世界から新しく魔術に応用できる知見を何一つ得ていないので」
 闇慈は魔術師であり、魔術研究家でもある。幾多の世界にある数多の魔術を解析し、その知識を蓄積することこそが彼の望みだ。その知識が数多眠る異世界を滅ぼしてしまうのはいかにも惜しい。世界が一つ滅びることは、無数の知恵が失伝することに他ならないのだ。
「それがこの世界の人々の苦しむ時間を延ばすだけとも知らずに……。ならば、あなたはここで地に這っていなさい!」
 死神の口から呪術が唱えられ、両手から毒霧が放射される。生身の者が少しでも吸引すれば、たちまち麻痺状態に陥る猛毒。
 濃い紫霧が死神を、そして闇慈を覆い――しかし、彼は立っていた。
「この世界が滅びることがさも決まっているかのように言っていますが」
 ホワイトカーテン。魔力を封入した白いカードが魔術障壁を展開して闇慈を覆い、毒霧を防いだのだ。
 彼が十字架型の魔術杖を掲げると、死神との間に漂っていた濃霧を一陣の風が吹き飛ばす。風属性の魔術だ。
 濃霧の向こうで背を向けていた死神を視界に捉えるのと同時に、口は詠唱を紡ぐ。術式を組み上げる。
「天から落ちるは落命の一撃、空を覆う夜を地へ。来たれ暗黒――フォールン・スマイト」
 詠唱は素早く、魔力の循環は効率良く、追加詠唱は効果的に。
 一度は惜しくも敵の身体を掠めるのみであった魔術は、確かに撤退する敵の背へと直撃した。屋上へと逃げ込もうと跳躍していた死神の身体が、撃ち落とされて校庭へと墜ちる。
「残念ながら、今回滅びるのはあなたの方ですよ。クックック」

成功 🔵​🔵​🔴​

ドゥルール・ブラッドティアーズ

グロ描写NG
WIZ

苦しい世界から解放してあげる……か。
私も、世界や人類から存在を否定される貴女達を
救う為に戦っているの

『挽歌・二重水鏡』で
私と同じ強さと技能を持つアイリスとナルを召喚。
悲愴の剣で【衝撃波・乱れ撃ち】よ

ナル:ボク達も腕を悲愴の剣に変形させ
3人がかりの衝撃波で毒霧を吹き飛ばしつつ攻撃!
多少なら吸っても【毒耐性】で大丈夫

アイリス:視界を妨げられる心配も無いし
衝撃波に込めた【呪詛】に蝕まれた彼女は撤退も難しいはず。
闇の【属性攻撃・全力魔法】で逆に視界を奪い
【暗視・闇に紛れる】で接近し【怪力】で抱きしめましょう

センセイも彼女の死を見ずに済むわね。
【生命力吸収】のキスで苦痛なき最期を……



 ざあ、と音を立ててグラウンドに何かが落ちた
 死神、エントツュッケントゼーラフだ。撤退の間際に追い打ちを受け、彼女は開けたグラウンドへと撃ち落とされたのだ。
「いけませんね……」
 猟兵が来た以上、突破口をこじ開ける作戦は一度中止しなくてはならない。となれば、まずは高所から索敵しながら情報を整理するべきだろう。
 この拠点における高所と言えば、やはり校舎の屋上。
 跳躍できるかと見上げた先。太陽を背に、何者かが落ちて来た。
「っ、……っ!?」
 一撃、二撃。
 攻撃を受け止めた鎌の先にいたのは、黒のレオタードに身を包んだ瓜二つの金属生命体。
『うわっ、反応された!』
『奇襲失敗ね』
 腕を剣に変形させた二人が驚いたように目を見開く。その後ろへと、屋上から降り立つ少女がまた一人。
「間が悪かったようね、アイリス、ナル」
 黒のマントを揺らしながら現れたのは、ドゥルール・ブラッドティアーズ(狂愛の吸血姫・f10671)だ。彼女が手を挙げると、二人の金属生命体アイリスとナルが走り出して死神を中心とした三角形の包囲を作り上げる。
「……あなたも、私の邪魔をしに来たのですね。私はただ、この苦しい世界から人々の魂を解放してあげたいだけなのに」
「邪魔しに来ただなんてとんでもない。苦難から解放してあげようとするアナタの気持ち、私は共感するわ」
 微笑む吸血鬼の顔を、死神は疑わしげに見る。死神の表情はドゥルールの言葉が本心からの物だとどうしてか感覚的に理解できてしまう一方で、その視線は「ならばなぜこちらを攻撃するのですか」と問いかけているようでもあった。
 そんな彼女をよそに、ドゥルールは言葉を続ける。
「存在自体を否定されるのは、とても辛く苦しいことよ」
 疎まれ、蔑まれ、迫害される。ドゥルールの過去は凄惨なものだ。それゆえに彼女は猟兵たちに目の敵にされるオブリビオンたちを、過去の自分と重ね合わせて見ずにはいられなかった。そういう存在だというだけで、どうして害されなければならないのか。ドゥルールはオブリビオンたちへとある種の同情の念を抱いていた。
「――私は世界や人類から存在を否定されるアナタたちを救ってあげたいと思っているの」
 ねえ、だから。ドゥルールが短剣を持った手を、死神へと差し出す。

                  死  ん  で
「私とお友達になるために、今から『私の死霊になって』くれないかしら?」

「――ッ、死んでも嫌です!」
 詠唱は短く。死神の両手から毒霧が放射される。一瞬にして、グラウンドに毒霧が立ち込めて視界を塗り潰してしまう。
 吸い込めば人の身体を麻痺させてしまう猛毒。しかし、ここに立つのはおよそ人間ではない者たちだ。アイリスとナルは金属生命体ゆえの、そしてドゥルールは不死鳥の羽毛で編まれた服による耐性が、毒の効果を軽減する。
「ナル、アイリス」
 名を呼びながらドゥルールは短剣を振る。刃が虚空を掻いたかと思うと、そこから衝撃波が生まれた。三方向からそれぞれ放たれた衝撃波はグラウンドの紫霧を文字通り霧散させた上に、死神の身体に傷を負わせる。
「開けた場所での多人数相手は不利ですね……」
 形勢が悪いと見た死神は、負傷しながらも跳躍する。校舎を足場に跳んで向かう先は、屋上だ。
『うわ、あんなに動けるんだ』
『逃しちゃったね。良かったのかな』
「死神というだけあって、呪詛に耐性でもあったのかしら」
 本来ならば衝撃波に混じっていた呪詛が敵の身体を蝕む隙に、撤退を阻止する算段だったのだが。少しだけ残念そうにドゥルールが吐息して、すぐに切り替えるように「まあいいか」と呟く。
「何にせよ、これで“センセイ”も彼女の死を見ずに済むわね」
 人であれオブリビオンであれ、グラウンドは死が目につきやす過ぎる。
 せめて苦痛なき最期を迎えられるように。ドゥルールは屋上へと逃げて行った死神を、祈るように見上げるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベネラ・ピスキー
◎ま、手口としては王道であるな。取り入って、隙を見つけて内から崩す―――つまらん。
そこはそのセンセイとやら自身に崩壊の引き金を引かせるくらいはやらぬか。その方が見物だったろうに。…ま、どっちにしろ人の子を減らし過ぎるのは好かんな。美の神は見られてこそである故。
とりあえず、オレ様そんなに徒手空拳が強い訳でも魔法に優れている訳でも無いが……隙なら沢山作れるぞ。
ユーベルコードは金碧輝煌だ。
これで、存在感、時間稼ぎ、目潰し、パフォーマンスをブースト。
ゾンビの軍団と死神の注意を引き付け、まあ死神煽ったり挑発したりするか。
そんで逃げる。毒霧も対処出来んので逃げる。
御膳立てはしてやるから、誰ぞ闘え。


アルマ・キサラギ

正面突破が厳しいなら内部から突き崩す。基本と言えば基本よね
とはいえ、人の信頼に付け込んでそれを裏切る所業…気に食わないわね
人の心を弄んだツケ、ここできっちり払わせてやるわ

どうやら敵は持久戦が得意な様子
なら、早駆術でゾンビ達の合間を縫った高速移動や彼らを踏み台にした跳躍で射線を確保
動きを【見切り】、敵が大鎌を持つ両腕、そして両足に狙いを定めてピンホールショットで確実に撃ち抜いていくわ
回復の要と撤退の要、両方を潰して一気にケリをつける

センセイにはあたしから伝えとくわ
アンタはゾンビの群れに勇敢に立ち向かって死んだ…ってね
そういう訳で、気兼ねなく骸の海に帰りなさいな



 正面突破が難しいのであれば、取り入って隙を作り出し、内部から突き崩す。
 それが攻城戦の基本であり、王道であることに間違いはないだろう。
 だからこそ、金星の神ベネラ・ピスキー(落ちたる明星・f16484)はそれを「つまらん」と断じた。
 だからこそ、アルマ・キサラギ(Bride of Blade・f14569)はその裏切りを「許せない」と思った。
「小癪にもゾンビを自前で喚び出したか」
 屋上の扉を蹴り開け、ベネラが最初に見たものは数体のゾンビと、死神エントツュッケントゼーラフの姿だった。
「“センセイ”とやら自身に崩壊の原因を処断させた方が見ものだろうと思ったが。成程、これでは確かに人の子には荷が勝ち過ぎる」
「だからあたしたちがそのツケをきっちり代わりに支払わせるのよ」
 対魔拳銃の安全装置を外しながら、アルマが呟く。自由気ままに諸国漫遊を続ける中、各地で便利屋として路銀を稼ぐ彼女だが、それゆえに“信用”というものがいかに大切なものかをよく知っていた。そして、それが裏切られた時に相応の報いを受けることも。
「こんなところまで追って来ますか……!」
「オレ様は美の神だからな。美とはすなわち見られることによって存在するもの。ゆえにあまり人の子を減らされ過ぎるのも好かん」
「……そんな格好で美しさも何もあったものじゃないと思いますけど」
「誰がこんなフリフリ好き好んで着るものか! ええい死神とやらには神に対する畏敬の念も足らんと見える!」
 胡乱な表情をする死神へベネラが激昂する。事実、彼が女物の、しかもフリルがふんだんにあしらわれた服を着ているのは彼自身の趣味ではなく、往年に受けた呪詛によるものだった。
「到底生かしては帰せん……。が、オレ様は美の神ゆえ荒事には不向きだ。おい、お前。オレ様がやつらを惹き付ける。その間にアレを殺れるな?」
「まあ、やれないことはないかな」
 やり取りを聞いていて、苦笑していたアルマが視線を死神たちへと戻す。本来であれば榴弾でまとめて始末した方が楽だが、ここは拠点だ。破壊すれば屋上が崩れることは間違いない。
 ゆえに求められるものは過不足のない破壊力と、精密性だ。
「――求められたものを提供するわ。便利屋だからね」
「ならばよし。便利屋とやら、代金はこのオレ様の美をもって購おう」
 美神の踏み込む一歩は羽毛のように軽く。彼はスカートと髪を揺らしてステップを踏む。
「――往時の輝きを出すこと叶わぬが、それでも対価としては十二分だろう。さあ、金星の神、美の神を見るが良い!」
 神々しく光るベネラの輝きはまさしく“金碧輝煌”。神としての存在感がゾンビたちの目を惹き、輝きによって亡者どもの視界を白く染め上げる。
「それならこっちも仕事しなきゃね……っ!」
 大きくできた隙を、アルマが逃すはずがない。銃を手に、駆け出す彼女の姿がブレる。
 死神の前で壁のように立っていたゾンビたちの間を縫うように突破する彼女の速度は文字通り目にもとまらぬほどの神速。風を纏うて疾駆するその様は、さながら天狗のそれである。
 ゾンビの肩を足場に、跳躍したアルマは死神の頭上を跳ぶ。
「――捉えた」
 一刹那、四連射。
 アルマの着地と同時に、死神の両腕と両脚から血が噴き出した。
 ピンホールショット。跳躍の最中に一瞬だけ見出せた射線を使って狙撃する、彼女の神業とも言える技術だ。
「“センセイ”にはあたしから伝えとくわ。『アンタはゾンビの群れに勇敢に立ち向かって死んだ』……ってね」
 四肢を撃ち抜かれてアスファルトの上に膝を着く死神へと、アルマは銃口を向ける。
「そういうわけだから。気兼ねなく骸の海に帰りなさいな」
「……いいえ。まだです!」
 アルマが銃の引き金を引こうとしたその瞬間、死神が地に落とした鎌が怪しい紫の光を放った。
 射撃音。突然の光に驚きながらも発砲した銃弾は、果たして死神の致命傷とはならない箇所を穿った。死神の鎌から放たれた怪光とはすなわち肉体改造をもって回復させるオーラ。彼女は自分自身を無理矢理一時的に肉体改造することによって、一時撤退を決め込んだのだ。
「……逃げられちゃったか」
 怪光から視力を取り戻した時には、すでにこの屋上から死神の姿は消えていなくなっていた。
「だが、手傷を負わせることはできた。これを見よ」
 ため息をつくアルマへと、ベネラがアスファルトの上に残る血痕を指し示す。屋上のフェンスの外側へと向かって消えたその血痕は、間違いなく死神のものだろう。
「四肢を撃ち抜かれればそう遠くには逃げられまい。追跡も用意になったであろうな」
 そうね、とベネラの言葉へと頷きを返す。事実、アルマの負わせた手傷によって死神は相当な不利に追い込まれたのは間違いないだろう。
 けど、と彼女は口にする。拳銃の銃口を水平に向けながら。
「まずはここに残されたゾンビ退治からね。アンコールは受け付けてるかしら?」
「特に許そう。お前にはもう少しばかり仕事をして貰わねばならんゆえな」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

狭筵・桜人

やぁお嬢さん。
そんなところで何してるんです?

その門を壊されたら敵がうじゃうじゃ入り込んでしまうんですよねえ。
止めません?大勢の敵に囲まれるのって怖いでしょう。
例えば、今のあなたみたいに。

お喋りをして後手に回ると見せ掛けて。
【呪詛耐性】、【毒耐性】。
詠唱開始から一時撤退されるまでの間に
UC発動――【呪詛】を重ねて視線を向けます。

いざ遅れて身体が動かなくなっても
これくらいの動作は可能ですから
一発お見舞いしてやりましょう。
“センセイ”に見られてもバレませんしね!ンッフフ。

深追いはせずあとは仲間に任せて負傷者に手を貸しますよ。
拠点の人たちには事情をボカします。
知らない方が幸せなことってあるでしょう。


ヴィクティム・ウィンターミュート


やれやれ、こりゃまたヘビーな状況で困っちまうな
オーダーは了解した…拠点防衛は好きだぜ、まぁ任せておけよ
つっても俺はささやかな手札しか持たないんでね…あまり華は期待しないでくれよ?

呪術の発動にはよォ、詠唱が必要なんだろ?
そんじゃあ『その詠唱が消えちまったらどうなるんだろうな?』
【早業】でプログラムを高速展開、【先制攻撃】だ
当たらなくていい、地形さえ塗りつぶしちまえばそれだけで終わる

絶対の無音──この場は凍える静寂が支配した
お前の立てる音は消える、当然…その口から紡がれる詠唱も消えてしまう
呪術の毒霧を放てなきゃ撤退も出来ねえよな?
接敵、ショットガンとナイフで近距離連続攻撃を仕掛け、仕留めにいく


アルトリウス・セレスタイト

獅子身中の虫、か

敵へは顕理輝光で対処
常時身に纏う故、準備不要
攻撃へは『絶理』『刻真』で異なる時間に自身を起き影響を回避
攻撃分含め必要な魔力は『超克』で“外”より汲み上げ、行う行動は全行程を『刻真』で無限加速し即座に終える

魔眼・封絶で拘束
目標は『天光』で確実に把握し捕捉
原理は逃さぬ
行動と能力発露を封じる魔眼故、捕らえればユーベルコードも霧散する
何をしていようと消え失せるだろう。撤退などさせん

『解放』を通じて全力の魔力を注ぎ拘束力を最大化
拘束中は魔力を溜めた瞳の内部に『再帰』で魔眼の力を循環させて保持
拘束を脱したら即座に再拘束し逃さない

あとは『討滅』の死の原理を打撃で撃ち込み叩く



「やぁ、お嬢さん」
 校舎から裏庭へ出た狭筵・桜人(不実の標・f15055)は、裏門の前にいた少女へと微笑みかける。
「そんなところで何してるんです?」
「………………」
 少女は答えを返さない。困ったように眉尻を下げながら、桜人は「当ててみましょうか」と口にする。
「逃げ回ろうと思ったけど、思ったよりも猟兵たちが強かったから、せめて本来の役目である突破口の確保だけはしておこう――。多分そんな感じですよね、えーと……エントツュッケントゼーラフさん?」
 舌に馴染みの無い名前をつっかえながら呼ぶと、少女――死神エントツュッケントゼーラフの殺気が強まった。
「……止めに来たのですか? あなたも」
 死神から刺すようなプレッシャーを受けながら、しかし桜人は意に介した様子もない。彼は「そりゃあもちろん」と頷きを返す。
「その門が壊されたら、敵がうじゃうじゃ入り込んでしまうんですよねえ。やめません? 大勢の敵に囲まれるのって怖いでしょう」
 おどけた様子で、すっと片手を挙げてみせる。あまりにも自然な動作に、一瞬それが何かの合図であることに死神は気付かなかった。

「――例えば、今のあなたみたいに」

 出て来たのは二人の男。身体の一部をサイバネ化した電脳魔術師、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)と淡い光を帯びた異能者、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)だ。
「悪いんだが、見ての通りそこはバリケードで塞がってるんだ。ここから先は――」
「――行き止まりだ」
 右手にヴィクティム、左手にアルトリウス。そして正面には桜人。
 ゾンビたちに拠点が囲まれていながら、こうしてその拠点の内側で猟兵3人に包囲されているのはなんとも皮肉な光景だった。
「いやぁ、最初はハッタリのつもりだったんですけど、ちょうど折よく人を捕まえられたものなので。持つべきものは戦友ですねえ。ンッフフ」
「その割にはメンツの殺意が高いけどな。……ま、ヘビーなシチュエーションだと思ってたところだ。作戦の成功率が高まるのは願ったり叶ったりだな」
 肩を竦めるヴィクティムへ「えー、単なる偶然ですよお」などとしらばっくれる桜人は変わらず緊張した様子を見せない。
 いずれにせよ、と呟きながらアルトリウスがその身に帯びる淡い光を増幅させる。
「獅子身中の虫を確実に葬るには都合が良い」
「あんま力入れ過ぎんなよ。組んだ意味がなくなっちまうからな」
 ヴィクティムの忠告に「心得ている」とアルトリウスは素っ気なく返す。疎ましいと思っているわけではなく、単に彼はそういう反応しかできない性質なのだ。
 実際のところ、アルトリウスの異能は強力かつ多彩だ。だが、その一方でいまいち加減というものに長けていない。仮に彼が一人で死神を相手取ったとして、圧倒はできないもののいい勝負ができるだろうが、今回の戦場は拠点の近く。異能の余波で壊れると困るものが多すぎた。
「……確かに、猟兵三人相手は私も分が悪いです」
 死神は両手を広げる。毒霧を放ち、撤退する準備動作。
「ですから、ここは一旦逃げさせて貰い――」
 ます、とは続かなかった。
 攻撃を受けたわけではない。舌を動かし、喉を震わせて――しかし、音が出なかったのだ。
「呪術の発動にはよォ、詠唱が必要なんだろ?」
 不便だよなぁ。ヴィクティムは死神を見据える。魔法、魔術、呪術など――これらの多くは、発動に際して何かしらの前準備が必要だ。印と呼ばれる所作や、魔法陣、生贄、触媒となる魔術具。最もポピュラーなのは、詠唱だろう。
「そんじゃあその詠唱が消えちまったら――どうなるんだろうな?」
 正解は『術の不成立』だ。準備段階で頓挫した術は発動しない。それは毒霧を噴き出す死神の呪術とて例外ではない。
 冬寂。それが死神の詠唱を封じたプログラムの名前だ。ヴィクティムは逃げられる直前にこのプログラムを高速展開し、無音の空間を作り出したのだ。
「――――ッ!」
 死神が口をぱくぱくと開くが、声は出ない。それでようやく呪術が封じられたことを悟ったのか、彼女は大鎌を手に取った。
「させませんよ」
 桜人が微笑むと、彼に見つめられていた死神の表情が途端に苦しげなものへと変わる。
 魔法の類――いや、正確には異能が近いか。彼の体内には危険なUDCが宿っている。今のはその力を借りたいわゆる“邪視”――視線を向けた相手を精神汚染させるものだ。
「毒霧を撒き散らす他に、ゾンビを自前で呼べるんでしたっけ。これからたくさん来るんですから、勝手に増やされたら困っちゃいますよ」
「ゆえに束縛する」
 手を伸ばし、翳して、握る。淡い光を放つ輪が、死神の四肢を縛めた。
 魔眼・封絶。行動の自由と能力の行使を絶って封じる、強力な拘束。いかに強力な死神とて、能力を行使できなければこの縛めより脱することは不可能だろう。
「チェックメイトです」
 それでは、後はよろしくお願いしますね。
 桜人の言葉の直後、ヴィクティムの散弾銃の銃声が、アルトリウスの異能の発動した音が響いた。
「これで終わりか」
 黒い塵と化した死神を見下ろしながらアルトリウスが呟くと、いいや、とヴィクティムが裏門へと目を向ける。
「ここからが本番だ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ゾンビの群れ』

POW   :    ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
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「……ありがとう。ゾンビたちに侵入されず、こうして拠点がまだ無事なのは君たちの奮闘のおかげだ」
 中年の男、“センセイ”が君たちの前で礼を口にする。だが一難を乗り越えて、なおその表情に陰りがあるのは、ゾンビどもが拠点を取り囲んでいるからだろう。
「報告は、色々と聞いているよ。君たちにも色々と気を遣わせてしまってすまないね」
 申し訳無さそうに眉尻を下げながら、“センセイ”はちらりと教室の方を見る。まだ幼いと言っていいぐらいの――それこそ、今は拠点となってしまっている小学校に通っていてもおかしくはない年頃の子供たちが、そこにはいた。
「彼女もこの子たちの世話を買って出てくれて……この子たちもよく懐いていたんだけどね」
 おっと、と彼は思い直すように首を横に振る。
「すまないね。今は、まず目の前の難事からだ」
 そう言って彼が視線を移す先は、廊下の窓だ。その先、バリケードの向こう側でゾンビたちが大量に群れているのが見えた。
「見ての通り、この拠点は戦える者がそう多くなくてね。防備が厚いおかげで、籠城することはできるだろうが……篭もり続けていたら、物資の補給ができず飢え死にだ」
 加えて、籠城は多大な精神的な負荷を強いられる。大の大人でも参ってしまうようなそれを、幼い子どもたちが耐えきれる道理は無い。
「厚かましいとは思うのだけど、君たちにあのゾンビの相手をお願いできないだろうか?」
 生存者たちが拠点から援護を行い、猟兵たちはゾンビの討伐を行う。危険ではあるが、これの他に彼らに活路は無かった。
 君たちは直接的にゾンビを漸減しに攻撃に向かっても良いし、援護を行う子供たちの指揮を担っても良いし、怪我を負った者の治療を行っても良いだろう。
「僕たちの明日は君たちにかかってる。……どうか、よろしく頼むよ」
 そう言って、“センセイ”は深々と君たちへと頭を下げた。

―――――――――――――――――――――――

○まとめ
 第一章の奮闘によって、裏門を突破されずに済みました。
 ですがこのままでは拠点から外に出られず、拠点内の子供たちは飢え死にしてしまいます。
 よって、猟兵は生存者たちに援護して貰いながら拠点を包囲するゾンビたちを倒しに行きます。拠点の外なので、ある程度派手にやっても大丈夫です。
 ゾンビを直接叩きに行く以外の行動を取っても大丈夫です。

例)
・援護を行う子供たちの指揮を担う
・負傷者の治療を行う

 この章でゾンビを大量に倒して数を減らすことができれば、第三章でゾンビの群れを率いるオブリビオンを見つけることができるでしょう。
黒川・闇慈


「色々と醜悪なオブリビオンと戦ってきましたが、ここまでストレートなゾンビは初めてかもしれませんねえ。クックック」

【行動】
wizで対抗です。
相手は随分な数の様子。ここは広域を攻撃できるUCを使用して数を減らしましょうか。
高速詠唱、全力魔法、範囲攻撃の技能を活用しUCを使用します。
攻撃対象はゾンビに指定しておきましょう。これならばゾンビ本体はもちろんですが、相手がUCで呼び出す小型のゾンビにも攻撃が可能でしょう。
まとめて切り刻んで差し上げましょうか。

「液体金属の刃ですからねえ……どれだけ切り刻んでも刃毀れや血糊の影響はございませんのであしからず。クックック」



 ゾンビの腐臭は筆舌に尽くしがたいほどに不快だ。
 香るだけで眉根をしかめて鼻を覆い、まともに嗅げば嘔吐してしまう程に強烈な臭気。単体で不快だというのに、これが群れるとなると正しくそこはこの世の地獄へと変じるだろう。
 そんな臭気の中で、しかし薄笑いさえ浮かべながら立つ男が一人いた。黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)だ。
「色々と醜悪なオブリビオンと戦って来ましたが、ここまでストレートなゾンビは初めてかもしれませんねえ。クックック」
 オブリビオンも過去の亡霊、ある意味ゾンビのようなものですが、と付け加えながら口元の笑みを深める。オブリビオンは過去の姿で現れるというが、さてゾンビはその過去でもゾンビだったのだろうか――。
 などという益体もない思考はゾンビどもの唸るような雄叫びによって掻き消された。
「おっと、危ないですねえ。クックック」
 魔力障壁によって敵の接近を拒むと、飛び掛かって障壁にぶち当たったゾンビはそのままずるずると地べたに落ちた。
「さて、どの魔術を使ったものでしょうか……」
 頭の中で思い浮かべるのは無数の魔術式。その中から最近研究中のものや、改善してテスト待ちの術式が浮かんでは消えていく。
 ああ、と彼が声を上げたのは何を使うか定まったからだ。薄ら笑いを浮かべながら、心なしか機嫌良さそうに魔術杖である黒十字を掲げる。紡ぐ魔術式は、最近になってまた効果範囲の延長に成功したものだ。

「咲き誇れ致死の花。血風に踊れ銀の花――」

 どろり。黒の魔術杖が溶ける。
 きらり。溶け出した液体が光る。
 それは液体でありながら、固体であるはずの銀のように輝いていた。

                シルヴァリー・デシメーション
「――全てを刻む滅びの宴をここに。 銀嶺に舞え 斬翔の花弁 」

 一瞬の閃きの直後。辺りは輝きに満ちた。
 それはまるで夜空をひっくり返して星々を地に落としたかのような風景だった。
 きらきらと煌めく空間の中、ゾンビたちが地に手を着く――否、地に手を“落とす”。
「液体金属の刃の切れ味はいかがでしょう? どれだけ切り刻んでも折れず、曲がらず、刃毀れもしない。血糊の影響もありませんので悪しからずご了承を……。クックック」
 八つ裂きと表現するのも生温い。瞬く間に、闇慈の周囲は汚れた血と腐った肉の海と化した。ある種幻想的な光景に、むわりと不快な臭気が広がる。
 そんなことも意に介さぬような様子で、闇慈はぐるりと辺りを見回して、効果範囲を目視する。
「……やはり効果範囲は使用魔力よりも、術者の魔力の絶対量に応じて広がるのでしょうか。となれば、この法則性は他の術式にも応用できそうですが……。これは興味深いですねえ、クックック」
 大量殺戮の感慨もなく、ただ使った術式の効率化を考える。
 彼は研究者であって戦士ではない。彼にとって、ここは戦場ではなく実験場に等しかった。
 踵を返そうとして何かを踏んだ。足元を見ると、そこには小さな肉塊があった。
 小柄なゾンビが気付かぬうちにすぐ後ろにまで迫っていたのだ。
 闇慈はそれを見て一つ頷き、散布図に改良の余地があることを心に留めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

夷洞・みさき

子供達に死人とはいえ、酷い光景は見せたくはないかな。


【WIZ】
押し出す様に裏門とゾンビの間に牢獄塔街を出現させる。
出口は裏門につながっている
内部は咎人(オブリビオン)であれば出にくく、脱出するまで刑罰を受ける。
知性を無くした咎人が迷路から出るのは難しいと考える。
多層の塔であり、地を這っている場合は上層にたどり着けない。

塔内にはかつてここに勤めていた咎人殺し達が巡回している。
来る咎人は拒まないが、去る咎人は禊(見削ぎ)終えるまで逃さない。

塔が骸の海に還る際は内部に取り込んだ咎人ごと消える。

こんな世界でも明日の為に生きているなら、死人がそれの邪魔をすることは、咎以外の何物でもないからね。



 小学校は丘の上、閑静な住宅地の傍に建っている。
 どうということはないその住宅街の中でただ一つ、異分子があった。
 塔だ。
 多層の塔。黒ずんだ灰色のそれは、丘の上から街全体を睥睨するかのように聳え立っていた。
 塔の近くで耳を澄ませば、中から悲鳴と呻き声が聞こえて来る。それはおよそ人の出す音では無い。聞いた者に怪物や魑魅魍魎を想起させる叫びだった。
 そしてその想像はそう間違ったものではない。なぜなら、この塔にいるのは――否、“収監”されているのは咎人たるオブリビオン、ゾンビたちなのだから。
 これなるは牢獄塔。オブリビオンに咎ありとして塔に閉じ込め、絶え間ない責め苦を与えるこの世の地獄。
「――死人とはいえ」
 塔の中に響く血の滴る音、阿鼻叫喚の叫び声の中。かつん、かつんと石畳の上を歩く女がいた。夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)だ。
「子供たちに酷い光景は見せたくはない、かな」
 おっと、と彼女が避けると、そこを処刑人が通っていく。ずるずると引きずられていくゾンビは、まるで陸に打ち上げられた魚のように抵抗していた。処刑人が牢屋の中へ放り込み、処刑器具でもってゾンビの首を断ち切る。悲鳴が一つ消えて、黒い塵と化した。
 かつん、かつん。みさきは塔の下へと下っていく。
 およそ地に這う類のゾンビはこの塔を登りきれまいし、登っている途中で処刑人が見つけるだろう。よしんばそれらすべてを潜り抜けたとて――
「自分で処理してしまえば、何も問題ない」
 暗がりから飛び掛かって来たゾンビへと鞭を振るう。怯んだところへすかさず蹴りを入れると、後ろへよろめいて足を踏み外し、塔の下へと落下して行った。
 ある程度下へ下ると、踊り場から最下層を覗き見てみる。迷路状になった最下層は、ゾンビたちでは脱走できまい。だが、それでも偶然というものはあるものだ。
 ゆえに、それは自分の手で処断しなくてはならない。
 呼びかければ、どこからともなく大きな車輪が彼女の元へ現れる。
「こんな滅びかけた世界にあっても、明日のために人々が生きているというのなら。死人がその営みを妨げることは、罪咎だ」

成功 🔵​🔵​🔴​

アルトリウス・セレスタイト

見える限り殲滅してさっさと誘き出すか

敵へは顕理輝光で対処
常時身に纏う故、準備不要
攻撃へは『絶理』『刻真』で異なる時間に自身を起き影響を回避
攻撃分含め必要な魔力は『超克』で“外”より汲み上げ、行う行動は全行程を『刻真』で無限加速し即座に終える

破天で掃討
高速詠唱を『再帰』で無限循環
「瞬く間もなく」生成する天を覆わんばかりの数の魔弾に『解放』を通じ全力で魔力を注ぐ

まずはバリケード付近を一掃
後に水平と斜め上方の二方向から敵勢へ斉射開始
周囲への被害を鑑み爆発はさせず
状況は逐一『天光』で把握し拠点に近づく個体があれば都度始末

前線で戦う味方があれば当てない程度に誘導
物量と密度速度で敵勢を圧殺する



 戦場が変わるのは、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)にとっては朗報だった。
 いまだ住宅街の形を留めているものの、そこはほとんどゴーストタウン。廃墟廃屋の類ばかりだ。
 つまり、それはある程度壊してしまっても問題ないということだ。
「顕理輝光」
 常に身に纏う異能の光が増幅される。使う異能はいつもとそう大きくは変わらない。無尽蔵ともいえる膨大なリソースの確保と、その円滑な利用。そして、敵の攻撃の遮断だ。
 準備は一瞬。手を掲げると、そこから無数の魔弾が生成される。
「――行き止まりだ」
 破天。死の原理を支配した異能。
 その魔弾が弾幕となって展開され、一斉に射出された。
 バリケード付近にたむろしていたゾンビたちを一掃する――かのように思われた魔弾は、しかし死の原理を利用した性質が災いしたのかだろう。いくら対象の属性を無視する性質が付与されているとはいえ、骸の海より存在の根源から死んでいるゾンビに対していささか相性が悪かったようだ。予想していたよりも殺傷性が高くない。
「ならば循環させるのみ」
 詠唱と発現。因果をまるで輪のように繋げて循環させることで、その効果を何度もリピートさせる。
 効果は刹那よりも短い時間で発揮される。密度と勢いを増した魔弾の弾幕がゾンビの肉を穿ち、蜂の巣へと変えてしまう。物量による圧殺だ。
「殲滅はできた、か」
 今度こそ本物の死体となったゾンビたちを見渡して、アルトリウスは呟く。たとえ相性が悪くとも、こうしてゾンビたちを殲滅するのは彼にとって容易いことだ。たとえ地べたを這って奇襲してくるようなゾンビがいたとしても、過剰ともいえるほどの弾幕の前では単なる死体とさして変わりはない。
 ただひとつ、問題点があるとすれば――
「……だが、バリケードが崩れてしまったな」
 破天の効力を高めすぎたのだろう、流れ弾でバリケードの一部が崩れてしまっていた。手心を加えてなお彼の火力は高すぎたのだ。
 射角をもう少し調整するか、遠方に惹きつけて殲滅するべきだったか。思考を巡らせながら、彼は再び原理の光を増幅させる。
「問題ない」
 バリケードが使い物にならなくなったならば、バリケード自体が不要になればいい。
 つまり、敵の首魁を叩く時間までにこの辺りの敵を殲滅してしまえば良いのだ。
 その程度のこと、彼からしてみれば手加減することよりも余程簡単なことだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

アルマ・キサラギ

生きる為には年端もいかない子供達も戦わなきゃならない…か
やれやれ、ホント世知辛い世界だこと
あたしは前線に出るわ
一対多数ならやり慣れてるし…あんまり子供に手を汚させたくないしね

そんじゃ、派手に行くわよ!
挨拶代わりにレッドラムの榴弾をぶっ放して、【範囲攻撃】で群れの一角に風穴を開けるわ
続けて、オルトロスの二丁拳銃を構えて早駆術を活かしてその一角に突っ込む
迎撃しながらラグナデバイスで【情報収集】をして敵集団の動きを見切り、
なるべく拠点から離れる方向へ【おびき寄せ】るわ
充分な数を引きつけたら、早駆術を併用した大ジャンプ
上空から重榴散弾を叩き込んで、まとめて一気に殲滅よ!



 ゾンビの群れを前にした時、多くの人々は絶望する。その場で何もできずに喰われて終わるか、さもなくば逃げるのが普通だ。中には数少ないながらも立ち向かう者もいるだろう。
 だが、いずれの場合であっても、この世界においてゾンビの群れとの遭遇はすなわち死を意味する。生還できた幸運な者など、さてどれほどいるものだろうか。
 アルマ・キサラギ(Bride of Blade・f14569)は3つ目、つまり“立ち向かう”者だった。
「生きる為には年端もいかない子供達も戦わなきゃならない……か」
 彼女は大型の銃を手にゾンビどもを睥睨する。脳裏に浮かぶのは拠点にいた子供たちの顔だ。
「やれやれ、ホント世知辛い世界だこと」
 この世界にはあまりにも余裕がなさすぎる。
 崩壊しかかった世界。明日降りかかるかもしれない死の足音に怯えながら日々を過ごす人々。守ってくれる存在もおらず、自分を守れるのは自分だけ。
 だから、言ってしまったのだ。不安そうにこちらを見上げる子供たちに向けて、「おねーさんに任せなさいっ!」なんて。
「ま、一対多数ならやり慣れてるし……。あんまり子供に手を汚させたくないしね!」
 ならば精々派手にやるだけだ。
 構えたのは大型の銃――ヤドリガミたる彼女の本体でもある、榴弾銃“レッドラム”。大口径の銃口から、大きな榴弾が放たれる。
 爆発。群れの一角が文字通り吹き飛ぶ。
「はいどーも、調子はいかがかしら――ってね!」
 だが、それはあくまで挨拶代わりの一撃に過ぎない。
 無理やりこじ開けたそこへ、間髪いれずにアルマは飛び込む。次にその両手に握りしめられたのは、姉妹銃オルトロスの“アインス”と“ツヴァイ”。
 漆黒と純白にそれぞれ彩られた対称的な銃を、アルマは連射する。アインスは戦車の装甲をも穿つ強装弾でもって、射線上にいるゾンビをまとめて貫き、ツヴァイは充填された魔力を弾丸にして無数の弾丸を放ち続ける。
 情報解析を行うサングラスがアラートを吐いた。周囲の敵が一斉にこちらに注意を向けたことを警告しているのだ。
「――――きたっ」
 突破ルートがサングラスに表示される。群れの中で最も層が薄い箇所へとアインスの強装弾を放って穿ち、ツヴァイの魔力弾の連射によって道が拓かれる。道ができたら、あとは駆けるだけだ。
「さあ、こっちに来なさい!」
 拠点から離れるように疾走しながら、大声を出して敵の注意を更に引く。それなりの数を惹きつけられたのか、アラートの勢いが早くなった。それに急かされるようにアルマは走り――空き地へとゾンビどもをおびき出す。
「こんなもんで良いでしょ」
 立ち止まり、ゾンビたちの群れへと振り返って再び武器を換える。両手に握っていた姉妹銃から、我が本体たる榴弾銃へ。
 水平に撃ってちまちま削るなんてせこい真似はしない。そう、やるならば――
「派手に!」
 ぐっと踏み込んだ勢いを利用して、アルマは上へと跳躍する。常人の限界を超えて、電柱よりも高く跳んだ彼女はまさしく天狗のようで――
「――カマしてやるわ!」
 跳躍したアルマの榴弾銃が、ゾンビの群れを捉えた。
 一つの発砲音。数多の爆発。
 重榴散弾だ。放たれた一つの弾から子弾が分散し、着撃と同時に大爆発を引き起こす。この爆発の海に飲まれれば、いかにゾンビとて無事では済まない。四肢が吹き飛び、黒い塵へと還っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

狭筵・桜人
わあ怖い。
私は拠点に残って子供たちのお守りでもしましょうか。
お姉ちゃんですか?
家族が迎えに来て一緒に別の拠点に移りましたよ、なあんて。

武器はあります?使い方は?
手段と目的を取り違えてはいけません。
敵を倒すために戦うのではなくて
生き残るために戦うんです。

こちらはエレクトロレギオンを遠隔操作。
機械兵による【援護射撃】で出向いた仲間を手伝います。
これだけ敵の数がいれば雑撃ちしても多少は減らせるでしょう。
仲間に当てないように気を付けまーす。

やっぱ一番の応援は声援ですねえ。
あそこで戦ってるつよーい人たちに
みんなで頑張れって声を届ければ
もっともっと頑張ってくれるかもしれませんよ?



 ゾンビの禍々しい呻き声や、獣のような咆哮は聞く者の恐怖を駆り立てて身を竦ませる。大の大人でさえそうなのだから、子供であれば言うまでもないことだろう。
「わあ怖い」
 咆え猛るゾンビの群れを前にして、狭筵・桜人(不実の標・f15055)は口笛を吹く。バリケードからゾンビたちを見渡す彼は、まるで観光に来たかのような気楽さだった。
 子供の一人が桜人を見上げて、口を開く。
「……お兄ちゃん、全然怖そうにないね」
「えー、そんなことありませんよ? 怖い怖い超怖い。これでも私繊細なところがありまして、ホラーって苦手なんですよねえ」
 へらへらと笑いながら口から滑り落とす言葉は、果たしてどこまでが本当でどこからが嘘なのか。訝しげな少年をまあまあとあしらっていると、ゾンビたちが咆哮した。後ろの方で女の子が小さく悲鳴を上げる。
「もうやだぁ……。助けてよぉ、お姉ちゃん……」
「残念ですけど、お姉ちゃんは家族が迎えに来てしまいましてね。一緒に別の拠点に移ってしまったんですよ」
 よしよし、とぐずる少女の頭を撫でながら、桜人は子供たち用のカバーストーリーを口にする。
「でも、そう遠くはない場所らしいですよ。この敵さんたちをやっつけられれば、また会えるかもしれません」
 なあんて、ね。気休めにもならないような慰めの言葉に、自分で自分に舌を出す。仮にもう一度彼女が“現れた”としても、それはオブリビオンだ。そんな再会、あって欲しくはないとこの子たち以外の誰しもが望むだろう。
 ぱん、ぱん。手を叩いて子供たちの注意を惹く。
「さて、それでは迎撃戦です。武器はあります? 使い方は?」
「あ、あるよ。銃とか、バットとか……」
「使い方、ちゃんと教えて貰ったよ!」
 素晴らしい。桜人は笑顔で頷いた。
 それから手短に、わかりやすく。それぞれに武器を持たせて作戦を伝え、役割を割り振っていく。
「――最後に。これが一番大切なことですが、決して手段と目的を取り違えてはいけません」
 子供たちを見渡すが、いまいちよくわかっていなさそうな顔で首を傾げられた。少し難しかったでしょうか、と苦笑しながら、桜人は言葉を変える。
「今回は敵をやっつけるための戦いではありません。生き残るための戦いです。なので、まず生き残ることを第一に考えて下さいね」
 はーい、と応える姿はいかにも子供らしい。思い思いの武器を手に、それぞれ決まった役割の場所へと向かう。
「では、始めましょうか」
 ぽん、と手を叩くと、バリケードの隙間から小さな何かが大量に外へと出て行く。小型の戦闘用機械兵器。桜人がエレクトロレギオンによって喚び出したものだ。
「私たちがやるべきはまず援護射撃。機械たちが手伝ってくれるので、鴨打ちにしてやりましょう!」
 撃て。リーダー格の少年の号令と共に、少年少女たちの手によって発砲音が重なった。機械たちの誘導と火力支援、バリケードを守る拠点防御が群がるゾンビたちを次々に撃ち倒して行く。
「石を投げればゾンビに当たる……。雑に撃っても当たって多少は減らせるんですから、ホント嫌になるぐらい良い射的場ですねえ」
 などとバリケードの内側から前線を眺めていると、そこで戦う猟兵から「今弾丸掠めたぞ!?」と怒声が飛んで来た。雑に撃ちすぎましたか、と少し苦笑しながら「反省してまーす、次は気を付けまーす」と棒読みを返す。
「さあさ、前線で戦ってるつよーい人たちに、みんなで『がんばれー』って声を届けてあげましょうね。そしたら、もっともっと頑張ってくれるかもしれませんよ?」
 怒声が更に重なって来ることは予想できたことだから、ここは子供を利用する。子供たちの健気な応援の声が、ゾンビたちの叫び声を超えて猟兵たちの耳に届いた。
 ふふ、と口元に笑みを浮かべる。煽ったのは自分だし、応援されているのが自分でもないのに。どうしてか、子供たちの声援というものは聞いているだけで元気になってくる。
「やっぱり一番の応援は、声援ですねえ」

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート


やれやれ…問題だらけで参っちまう
そういう世界だってのは知ってるが、面倒だな…
まぁいいさ、そういう舞台だってんなら、上手くやるだけだよ
ジューヴどもは怪我しない程度に援護しときな
俺?俺はな───踊って来るヨ

セット、『VenomDancer』
サイバネ【ハッキング】を開始、出力オーバーロード
堂々と、ゾンビの群れの前に姿を晒す
俺を食いたいか?ん?いいぞ、来なよ
どうぞ道化師にお付き合いくださいってな

味方の攻撃でもいいし…そうだな、ジューヴどもに爆弾でも投げさせるか?
集めたところに投げ込んでダメージを与えるのもアリか
どうせ鈍足になり続けるんだし、避けられる心配もない
あぁ?背後?『ぶっちぎれば終わりだよ』



 戦闘人員不足。火力不足。食糧不足。防衛装置もなければ防備だって甘い場所を挙げていけばキリがない。恐らく、人員の精神的負担も相当だろう。
「やれやれ……問題だらけで参っちまう」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of arsene・f01172)は周辺のデータを眺めながら頭を掻く。ナイナイ尽くしの拠点だ。少しでも拠点攻略に知恵の回る敵を相手取ったら、到底守り切れはすまい。
「そういう世界だってのは知ってるが、面倒だな……」
 とはいえ、こういった場所において“不足”という言葉は、人間に頭が付いているように当たり前の“付き物”だ。そういう舞台ならば、配られた手札の内でうまくやるだけだ。
「ジューヴ(お子様)どもは怪我しない程度に援護しときな」
 何人か割り当てられた子どもたちに配置と優先するべき目標を伝えて、彼は立ち上がる。少年の一人が拳銃を抱えながら彼を見上げた。
「お兄さんは?」
「俺か?」
 一瞬、慣れない呼ばれ方をして面食らう。故郷では大体子どもが大人を呼ぶ時は「旦那」だとか「兄ちゃん」だとか、ここまでお上品ではなかった。同じ“終わりかけ”でも、根っこが違えば言葉遣いも違うらしい。
「俺は、そうだな。――踊って来るヨ」



 不足の話をするならば、ヴィクティムという男は比較的身体能力――特に耐久面は月並みより少し上程度だ。脳の回転、脚と指の速度には自信があっても、強靭な肉体を備えた前衛とは比較にもならない。サイバネ化した義肢は確かに硬いが精密機械の塊で、改造して補強してあるとは言ってもそう強い衝撃に耐えられるように設計されていない。強いて言うなら故障しても交換できるのが強みだろうか。それは生身からサイバネに換える意味でも同じことが言えるだろうが。
 とにかく、ヴィクティムの身体能力は前衛の真似事をするにはあまりにも脆すぎた。
「今回は飛び道具が使われない分、多少は楽だな」
 バリケードの外。ゾンビどもを前にして、彼はコンソールからプログラムを選択する。右腕のサイバーデッキ“ヴォイド・チャリオット”から射出されたそれが、彼の全身を覆う。
 前衛のように振る舞うには耐久力が足りない。
 ならば単純に“敵の攻撃が当たらなければ良い”。
「よう、ゾンビども! 俺を食いたいか? ん?」
 堂々とゾンビたちの前に姿を晒して、ヴィクティムは歓迎するように、あるいは挑発するように両腕を広げる。周囲のゾンビたちの注意が一斉にこちらへ向いた。
 殺到するゾンビたち。それを見て、彼はニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべる。
 身に纏ったプログラムの効果は“ホット・エルジィ・デコイ”――つまり、囮役になってヘイトを集めるもの。そして――
「良いぜ、来なよ。どうぞ道化師にお付き合い下さいってな!」
 広げた両腕からパルスが放射される。
 ――そして、敵の速度を鈍化させる神経毒パルスの射出だ。
「今だ、ジューヴども!」
 ヴィクティムの合図の直後、銃声が鳴った。バリケードの子どもたちによる援護射撃だ。いくら子どもの射撃とはいえ、動きの鈍ったゾンビが群れを成していれば適当に撃っても当たる。鴨打ち以下の楽な仕事だろう。
 処理しきれずにバリケードに接近して来た敵の群れへと、放物線を描いて火炎瓶や手榴弾が投げつけられる。炎上、爆裂。纏めて敵が吹き飛ぶ様は見ているだけでも痛快なものだ。
 ヴィクティムは子どもを戦わせることに躊躇はなかった。むしろ戦わせた方が良いとすら思っていた。ただ敵の群れを対処するなら、強酸で溶かすなり同士討ちさせるなりすれば良い。だが、そうはしなかった。
 こういった限界に近い“壊れかけ”の環境では戦えない者ほど足手まといになる。戦いの経験がない者ほど死にやすい。彼は幼い頃からどん底の環境で育って来たがゆえに、それを知っていた。
 だから彼は戦場で舞う。子どもたちが生き残って、少しでも笑って生活できるようにするために。
 道化師が舞うのは、いつだって子どもたちの笑顔のためなのだから。
「ジューヴの世話をするのもオトナの役目ってな」

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『夢魔リリス』

POW   :    エナジードレイン
【盗み攻撃/大食い/騎乗/奉仕/誘惑】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【性癖と習性と味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD   :    夢魔の楽淫
【あの子を快楽漬けにしてエナジーを貪りたい】という願いを【自分のSNSを利用する人々】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
WIZ   :    夢魔の籠絡
自身が操縦する【夢魔のテクニック】の【誘惑/おびき寄せ/大食い/盗み攻撃/奉仕】と【騎乗/大食い/盗み攻撃/奉仕/継戦能力】を増強する。
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「遅いなぁ」
 ゆらり。悪魔の尻尾を揺らしてオブリビオンは呟く。
 彼女はリリス。アポカリプスヘルの世界で生存者の精気を求めてさまよう夢魔だ。
 死神を言葉巧みに言いくるめ、人間たちの拠点に潜り込ませたのがついこの間。後はゾンビたちに拠点を包囲させて、内側から開かせたところを制圧する――というのがざっくばらんな今回の計画だったのだが。
「もしかすると、死んじゃった?」
 拠点で交戦している様子が遠目から見てもわかった。包囲しているゾンビたちの数も減っている。内側を任せた死神は倒されてしまったのだろう。
「面倒だなぁ」
 しかし死神が人間如きに倒されるとも思えない。となるとあの拠点の援軍は十中八九猟兵だろう。自分が直接相手をしなくてはならないのは面倒くさい。それでも、負ける気はまるで無かったが。
「でも、まあ。人間の精気よりも猟兵の方が活きが良いかもだし」
 まずは猟兵を片付けて、それから拠点だ。中身の人間どもを、ゾンビの餌にするなり、精気を搾り尽くすなり、飼い殺すなり、自由にできる。
「じゃあ、頑張ろうか」

――――――
――――
――

「ゾンビの退治、本当にありがたく思う。おかげで今回の首謀者がわかった。オブリビオン、夢魔リリスだ」
 小学校を拠点にしたイタカ・ベース。その指導者“センセイ”が子どもたちのいない空き教室に集めた猟兵たちを見回す。
「拠点を内側から崩して精気を収奪する強敵だという噂だ……。人間を奴隷化したり、食い物にすることで大量の精気を得て、非常に強力だと聞いたことがある」
 “センセイ”は思い出し思い出し、伝え聞いた夢魔リリスの特徴を伝え始めた。

 エナジードレイン。魔術によってエネルギー化した精気を急速に奪い取り、意識の混濁につけこんで正気を失わせる。奪い取った精気エネルギーを喰らうことで自分を強化したり、あるいは手下であるゾンビたちに分け与えて凶暴化させてくる。習性や味を覚えられた者は奪われやすくなるので注意が必要だ。

 夢魔の楽淫。感覚受容器に干渉し、快楽によって無力化するある種の魔術的アプローチ。荒廃したこの世界の中でなお普及しているインターネット上のSNSで自分のフォロワーへと呼びかけ、賛同されることをトリガーにして発動している。

 夢魔の籠絡。収奪し、蓄積した精気エネルギーを使って自分ないしは手下を強化する。エナジードレインのように意識の混濁は起きないが、純粋な戦闘力が増強されるため、搦め手ばかりだと油断してはならない。

「――敵は荒野にいるようだ。取り巻きのゾンビたちによる足止めや攻撃も予想されるから、注意して欲しい」
 言い終えて、“センセイ”は疲れたように吐息する。
「……この世界では、みんな『きっと明日には死ぬんだ』と思って生きているんだ」
 オブリビオンに襲われて。脆い建物が倒壊して。物資不足で飢えた果てに。生存者たちは一人、また一人とその数を減らしていく。
「誰一人として、長く生きられるとは思っていない。……こんな世界じゃ長生きできるなんて、信じられない」
 オブリビオンが出現する数年前では当たり前だったものが喪われ、人々は生きる希望を見失ってしまった。
「だけど、僕は“明日も生きられる”と信じたいんだ。僕も、子どもたちも、明日を笑って生きられると」
 それは、彼が以前は当たり前のように享受できていた日常。
「かつての日常を取り戻すために。――死んでしまうと信じられている“明日”を、一緒に裏切ってくれ」
黒川・闇慈
「この滅びつつある世界に夢魔とは……さてさて、似合っているのかいないのか。クックック」

【行動】
wizで対抗です。
相手は戦闘能力を強化して挑んでくるようです。こういう相手にわざわざ相手の土俵で戦って差し上げる必要はないでしょう。
高速詠唱、呪詛の技能を活用し呪力高励起体に高速変身し、飛行して空から攻めましょう。
あまり遠距離攻撃に長けているようにも見えませんので、一定の距離を保ちつつ、全力魔法の技能を活かして怨念火砲から呪力砲撃を発射し、チクチクと攻め立ていきましょうか。

「夢魔というならば、大人しく夢の中にいるべきでしたねえ。クックック」





 ゾンビの群れを超えた先。広がる荒野の向こう。
 黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)は彼方に見える夢魔を確認すると、いつものように薄ら笑いを浮かべる。
「この滅びつつある世界に夢魔とは……」
 夢魔。闇慈にとってもそれなりに馴染み深い存在だ。悪魔の一種とも扱われ、人間の夢に侵入してはそのエネルギーを奪い取る。そのエネルギーの収集形態が魔力の運用方法の一つとして一時は研究の的にされたものだが。
「はてさて、似合っているのかいないのか。クックック」
 この殺伐としたアポカリプスヘルの世界において夢魔という存在は一見していかにも場違いなようにも見える。現実から逃げ出したいと願う人々の夢からエネルギーを奪うという意味では、確かに合理的なのだろうが。
 思考中断。夢魔がゾンビたちをけしかけてきたのを認めた闇慈は、黒い十字架型の魔術杖を構える。
「この期に及んでのゾンビ退治は遠慮させて頂きましょうか」
 被検体が多いことは悪いことではないが、そればかりにかまけるのもよろしくない。なにせ、この世界が滅んで困るのは自分なのだ。まだ見ぬ知見を失いたくなければ、猟兵としての仕事もこなさなければならない。
「我が内より湧き出るは漆黒の凶呪。漆黒を統べるは我が魂。ここに呪をもって力となさん」
 むっと立ち昇るのは黒い霧のような呪力。怨念の呪詛が混じったそれを、闇慈が魔術杖を振るって己の身へと収めていく。
 黒で統一された衣装が闇より暗くなる。揺らめく陽炎はその身に纏ってなお有り余る呪力が漏出したものに他ならない。
「――カース・ブースト」
 呪力高励起体へと至った闇慈は呪力に指向性性を与える。即ち、飛翔である。ジェットエンジンに似た性質を利用し、圧縮した呪力を魔力と混合させることによって放射することによって推力を得たのだ。
 時速にして300km弱の速度。弾丸のように空を翔ける彼が夢魔と接敵するのには10秒もかからない。

      リロード   ファイア
「怨念火砲、装填。――砲火」

 十字架型の魔術杖を夢魔へ向けると、杖に充填した呪力塊を砲弾にして射出する。直撃したそれは地表で炸裂して周囲の取り巻きゾンビにまで効力を及ぼした。
「エンパイア・ウォーの時は光線でしたが、やはり榴弾のようにした方がエネルギー辺りの殺傷効率が高いですねえ」
 上空から効力のほどを観察していると、ゾンビが下から飛んで来た。いや、身体能力を強化した夢魔に投げ飛ばされたのだ。
 おっと、と声を上げながら呪力放射の圧を高めて横に躱す。
 遠距離攻撃の手段がないと高を括っていたが、まさか投げ飛ばして来るとは思わなかった。だが、対空攻撃としては貧弱と言う他ない。お返しとばかりに呪力弾を夢魔へと打ち込む。
「夢魔というならば、大人しく夢の中にいるべきでしたねえ。クックック」

大成功 🔵​🔵​🔵​

レオンハルト・ヴァイスレーベ(サポート)
 人間のパラディン×王子様、17歳の男です。
 普段の口調は「男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)」、リラックス中は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「なんと惨い……」
 レオンハルト・ヴァイスレーベ(白の従騎士・f23015)は戦場に到着すると、呻いた。
 アポカリプスヘルの世界は荒廃しているとかねてより聞いていた。だが、建築様式は違えども壊滅した町並みはまるで蛮族の略奪跡のようで、到底人が住んでいる場所とは思えない。町から出て荒野へと歩を進めれば、荒れ切った町の行く末を暗示するかのような寒々しい荒野が広がっていた。
「オブリビオンめ……」
 荒野に広がるオブリビオン――ゾンビたちを睨めつける。
 オブリビオンの大群。廃墟と化した町。それらを今はもう滅びてしまった生まれ故郷に彼が重ねて見てしまったとして、一体誰が責められようか。
 剣を抜き放ち、レオンハルトは雄叫びと共に駆け出した。
 いまだ主君を戴かず、叙任もされず、騎士ならぬ身。誰がために振るわれる剣なのか判然とはしないが、きっとこの世界に生きる民草のためになると信じて彼は敵陣へと切り込んでいく。
「遅い、鈍いッ!」
 こちらを迎え撃たんとするゾンビどもの攻撃をあるいは躱し、あるいは斬り捨て、彼は大群の奥深くへと駆けて行く。その先に見えるのはゾンビどもを取り巻きにした敵の大将、夢魔だ。
「男」
「……ッ」
 夢魔の表情が華やいだのが遠目からでもわかった。だが、それは可憐な花を見た姫君のそれではなく、獲物を前にした獣の如き笑みだとレオンハルトは直感していた。
 女性へ刃を向けてはならぬという教えはオブリビオンには通用しない。一瞬生まれた躊躇を押し殺し、彼は更にスピードを上げて肉薄した。
 夢魔が片手をこちらへ向ける。魔術によって、こちらの感覚を掻き乱して無力化しようとしている――レオンハルトの脳裏に、無様にも夢魔の目の前で倒れる自分の姿が映る。
 10秒後に迎えるであろう未来。魔術への耐性や対抗手段を持たぬ彼には、回避しがたい難局。
 それを彼は、加速と共に踏み潰す。
「覚悟しろ、夢魔――ッ!」
 魔術の発動よりも速く。彼は踏み込みと共に剣を振った。
 赤い血の代わりに、黒い塵のようなものが辺りに舞う。
「婦女の似姿をしていたとて、このレオンハルトが容赦するとは思わないことだ!」

成功 🔵​🔵​🔴​

狭筵・桜人
ここ学校なんですよ。あなた、ちょっと場違いじゃあないです?
私も大人ではないですけどあの子たちからすれば
保護者の立ち位置ってワケでして。
教育的によろしくないのでお引き取り願いまーす。

といっても前に出るつもりはありませんけど。
――『名もなき異形』。
攻撃回数を重視して夢魔へと差し向けます。
化け物は美味しくないうえに
正気もナニもあったもんじゃないですからねえ。
いやいやとってもお似合いですよ!

私は拳銃で後方から取り巻きのゾンビ共へ【援護射撃】。
他の猟兵の邪魔にならないよう雑魚を掃除します。
こういう地味な仕事の積み重ねが大事なんですねえ。
にしても子供たちが持ってた銃の方が性能良いような……?
アレッ……?


アルマ・キサラギ

あー、なるほど
指揮官がああいう手合いだからハニートラップ…なんか納得したわ
いや、してる場合じゃないわ

魔術が得意って話だし、ラグナデバイスの【情報収集】で魔力の流れを検知して多重結界でそれを防ぎ、
バレットアーツでゾンビを薙ぎ倒しながら夢魔へ銃撃を撃ち込んでいくわ
夜伽の相手をするつもりはないけど、ダンスくらいなら付き合ってやろうじゃない

早駆術での撹乱に、誘導手榴弾での牽制
爆炎での【目潰し】も交えて相手のペースを乱して、確実にダメージを蓄積させていく
動きが鈍ったらレッドラムで一気に畳み掛けるわ
夜の住人が、明日の朝日を拝もうとしてる人達の邪魔をしてんじゃないわよ


ベネラ・ピスキー

自分が尊いものであると。自分こそがこの世界にて真に力あるものであると。
そう考える阿呆が破滅するのは―ハッハッハ、いつ見ても健康に良い見物だな。
ユーベルコードは前回同様金碧輝煌。これで、存在感、時間稼ぎ、目潰し、パフォーマンスをブースト。
要するにまた囮役だが……とにかく夢魔とやらの注意をこちらに惹きつける。オレ様の方が美しいしな。まあオレ様は誘惑なんぞせんでも視線が集まる。美の神だしな!!
よって誰ぞ、夢魔の注意をオレ様が引く合間に攻撃せよ。
多少攻撃はもらうだろうが、必要経費だ。
真の姿は………オレ様とオブリビオン以外の誰にも姿を見られないという前提で無ければ使わん。あれは、他人に見せたくは無い。



「あー、なるほど」
 と、いうのがゾンビを指揮する夢魔を見た時のアルマ・キサラギ(Bride of Blade・f14569)の感想だった。
 拠点を内側から崩すハニートラップ。いかにも生真面目そうなあの死神がよくそんな真似を、と薄々思ってはいたが。指揮官がこの手合ならば納得できる。
「何がなるほどなのだ、一体」
「あの内側から崩す作戦、考えたのが夢魔なら納得だなーって……いや、今はいいや」
 怪訝そうな顔をするベネラ・ピスキー(落ちたる明星・f16484)へと手を軽く振って中断する。今はそれどころではない。なにせ、夢魔の他にゾンビたちも取り巻きにいるのだから。
「いやあ、さっき蹴散らしていたのと同じ雑魚とはいえ、ボスと揃ってお出しされると気分的に厄介度が上がりますねえ」
 いまいち緊張感に欠ける様子のまま、狭筵・桜人(不実の標・f15055)は拳銃を弄ぶ。
「やっぱりボスから倒さないと取り巻きって復活しちゃうんでしょうか?」
「でしょうね。復活させずとも、荒野にいるゾンビどもの数は多い。あまり時間をかけていると音に反応して集まって来ちゃうかも」
 周囲を一瞥したアルマが呟く。やっぱりそう思いますか、と桜人は肩を竦めた。あの夢魔を叩こうとするならば、取り巻きのゾンビを突破するなり陽動するなりの対処が迫られる。
「ならばここはオレ様の出番だな」
 ベネラが前に出る。オレンジ色のフリフリ衣装が陽光に輝いた。
「囮になってやる。ゾンビどころか夢魔の注意も引いてやろう」
 そう言いながら敵陣へと躍り出る彼からは、金星の神に相応しいほどの神威を放たれていた。
 強烈な光を放ちながら現れたベネラを、果たしてゾンビたちは放ってはおかなかった。戦場の上を駆けるベネラを目で追って、あるいはその輝きに手を伸ばそうと緩慢な動きで歩み寄ろうとする。
「鴨打ちですね」
 注意が逸れたゾンビたちを拳銃で撃ち抜くのは桜人だ。
 ベネラの威光によって、あるいは桜人の援護射撃によってこじ開けられた隙。そこへとアルマがひた走る。
「硝煙弾雨も何のその、戦場でだって踊ってやるわ!」
 アルマが両手に持った姉妹銃が火を吹いて、道を塞ぐゾンビどもを薙ぎ倒す。次々に敵を狙い撃つ姿はまさしく踊っているかのようだ。
 拓かれた道の先にいるのは、夢魔の姿。彼女の周囲が陽炎のように揺らめいているのは、その身体能力を強化するために使われた精気エネルギーの横溢だろう。
「あそこ、学校なんですよ」
 強力な夢魔へ向けて、桜人が言い放つ。彼の足元にはいつの間にやらこの世のものとは思えないような異形が座っていた。UDCだ。
「あなた、ちょっと場違いじゃあないですか? 私もまだ大人ってわけでもありませんけど、あの子たちからしてみれば、まあ保護者って立ち位置なワケでして」
 そういうわけなので。呟きながら、彼が手をぽんと叩くと、それを合図にした異形が矢のように夢魔へと疾走した。
「そういうワケなので、教育的によろしくないのでお引き取り願いまーす」
 異形の腕が、爪が、夢魔へと襲いかかる。肉食獣の狩りと言うには執拗に、憎い敵を相手にするには玩弄するかのように、何度も何度も打ち付ける。
 だが、UDCの豪腕をもってしても夢魔を倒し切るには至らない。夢魔はその精力エネルギーで受けたダメージを回復させて、異形の攻撃を防ぎ切ってから痛烈な反撃を見舞った。
「あそこは私の狩場。あそこから出てきたなら、あなたたちも私の獲物よ」
「悪いけど、夜伽の相手をするつもりはないわ。でも、ダンスくらいなら付き合ってやろうじゃない」
 夢魔が異形を退けた直後、いくつかの手榴弾が落ちて来た。多重爆発。荒野の砂塵が爆風によって巻き上げられて、一時的に両者の視界が塞がる。
 そこへ、アルマは己の本体たる大型擲弾銃の銃口を向けた。
「――夜の住人が、明日の朝日を拝もうとしてる人達の邪魔をしてんじゃないわよ!」
 手榴弾の時とは比べものにならない程の爆発が、荒野を穿った。
 もうもうと立ち昇る煙を見て、ベネラがニヤリと笑う。
「ハッハッハ! 自分こそが尊く、力ある者と信じる阿呆が破滅する様は面白い。見ているだけで健康に良いな!」
「いいえ、まだね。――来るわ!」
 アルマが油断なく警告した直後、荒野に広がる魔力の流れが変容した。彼女がサングラス越しに見たそれは、夢魔がいまだに健在であることを如実に示していて。自然、左手が勾玉の首飾りへと伸びた。
 光と共に多重結界が起動して、アルマを覆い隠す。咄嗟に桜人は異形を、ベネラはゾンビどもを肉壁にした。
 爆発的な精力エネルギーが荒野を走った。およそ何の備えもない人間が浴びれば、一瞬で頭の中を無茶苦茶に掻き乱されてその場に倒れ伏してしまうような、暴力的なまでのエネルギーの波動だ。
「……お腹、減っちゃったじゃない」
 どこか茫洋としていた夢魔の瞳が、飢餓で輝く。それもそうだろう、あれほどの精力エネルギーを浪費すれば、いくら豊富にエネルギーを蓄えていたとて枯渇する。
「ダメージも与えている、相手のリソースも削れてる。……けど、致命打には至ってないわね」
「夢魔ってあんなに強いものでしたっけ。どんだけエネルギー吸い取って蓄えてたんでしょう」
「四の五の言っている暇はないぞ。今ので充分に敵のリソースを削れたならば、そのまま枯れ果てさせてやれ」
 苦い顔なれど、赤い瞳にいまだ戦意を灯したアルマはレッドラムへと次弾を装填し。
 おどけたような表情をしながら、桜人は隙あらば敵を攻撃する異形を差し向け。
 思い切り顔に面倒だと書いたベネラは再び敵たちの注意を逸らすために舞い踊る。
 猟兵たちは、明日を信じる者たちのために戦い続ける、ここは終末の世界――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート

オイオイ、随分と俗物的な奴だ
快楽漬けでエナジードレインだ?
ドラッグキメすぎたジャンキーを思い出しちまうね
さて……どうぞ、お好きにドレインしてくれ

あぁー───キタキタ、最高にイイ気分だ…
なんてな?
いやはや相手が悪かったな
悪いね、俺ぁ『頭ン中も弄ってるのさ』
自分のニューロンを【ハッキング】して、快楽を感じないようにすることなんざ造作もない

さて問題です。それじゃお前に流れてる"それ"は何でしょうか?
正解は───『虚無』だよ。混ぜておいたのさ
お前の『過去』を増幅させ、力を与えてくれるぜ──"破裂するまでな"
おまけに知覚封印だ
何も聴こえず、見えず、感じず、味わえない
真の暗闇の中で、力に溺れて自壊しろ



「オイオイ、快楽漬けでエナジードレインだ? 随分と俗物的なヤツだな」
 最初に思い出したのは、ストリートのクソ女のことだった。
 違法ドラッグ中毒のイカれメイジ。クスリとカネのためなら親さえ売るようなジャンキー。
 ヤツの噂をまだ知らなかった頃、一度騙されかけたのを思い出すと今でも苦々しい顔になれる。
 目の前の夢魔をどこかそいつに重ねて見てしまうのは、あの飢えたようにギラギラと輝く瞳が似ているからだろうか。
「ああ、オイシそう……。ねえ、あなたから吸わせて頂戴。枯れるまで吸い尽くしてあげるから」
 荒野の上で。飢え渇いた夢魔はまるでヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)の言葉など聞いてはいなかった。彼女にとって、今目の前にいるのは人でも敵でもなく、己の飢えを潤してくれる獲物なのだろう。
 それをまるで意に介さないように――あるいは諦めてしまったかのように、ヴィクティムは降参するように両手を挙げる。
「いいぜ、来なよ。お好きにドレインしてくれ」
 あからさまに無防備なヴィクティムを、余人が見ればあの夢魔に魅了されてしまったものだと思っただろうか。
 飢餓で渇いた夢魔はその本能に従った。彼の頭脳を快楽で掻き回して精力を搾り尽くそうと魔術を行使した。
「ああ――。キタキタ、最高にイイ気分だ……」
 顔を伏せ、ヴィクティムの口の端が吊り上がる。それは快楽によるものではなく、飢えた獣がまんまと罠にかかったのを見届けた罠師の笑みだ。
 夢魔の表情が焦りに染まる。さっきまで獲物だったものが、敵へと変貌して自分を罠にかけていたことにようやく気付いたのだ。
「――なあんてな。頭ン中までイジってる俺相手じゃ、お前だってどうしようもねえだろ」
 大脳へ電脳デバイスをインプラントしたハッカーであれば、VTAから発せられる快楽信号をカットすることなど造作もないこと。
「さて、問題です。お前のエナジードレインは快楽で掻き回したアタマからエネルギーを搾り出すのが基本だが、快楽で隙を作り出せていない俺の頭からお前が吸い出した“それ”は何でしょう?」
 そして、己の領域へと踏み入った者に痛烈な歓迎をすることも、ハッカーであれば当然のことだった。

       Void
「正解は――『虚無』だ」

 漆黒の虚無。それを吸収してしまった夢魔の身体が、黒く染まる。身体中を駆け巡る虚無がオブリビオンの有する『過去』を増幅し、精力エネルギーよりも高効率で迅速に身体を強化し続けていく。
「なかなかキクだろ、その虚無も。何も聴こえず、何も見えず――何も感じず、何も味わえない」
 どさりと、夢魔の身体が地に伏した。虚無によって五感が封じられた彼女は、身体の制御ができないまま前後不覚に陥ってしまったのだ。
「――――――」
 夢魔の口がぱくぱくと動く。それは己の内が満たされて、もうこれ以上は入らないと訴えるかのようで。
「――真の暗闇の中で、力に溺れて自壊しろ」
 虚無に満たされてなお虚無によって過去を増幅させられ続けたオブリビオンは、その身体を破裂させた。
 黒い塵が荒野に舞う。その様はまるで黒い雪のようで、この終わった世界にはお似合いだった。
 総大将たる夢魔を失い、エネルギーの供給の途絶えたゾンビたちが倒れ伏していく。
「ああ、まったく――」
 倒れたゾンビたちを踏み越えながら、ヴィクティムは崩れた町へと報告しに戻っていく。
 倒壊した建築物が、どこか故郷のストリートに重ねて見えてしまって。彼は舌打ちをした。
「――本当に、クソッタレな世界だぜ」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月11日
宿敵 『エントツュッケントゼーラフ』 を撃破!


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 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アポカリプスヘル


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はイヴ・クロノサージュです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アリス・セカンドカラーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト