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今年もアルラウネ収穫の季節がやってまいりました

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●明けてびっくり

「こんなことがあるもんだなあ……」

 夜明けすぐ。眼前にひろがる光景を見て、老齢の農夫がぽつりとつぶやく。隣にいた息子も農具を放りなげ、耕地のまえにあぐらをかいた。

 ここはアックス&ウィザーズ、村外れの小さな農園。営む親子は休耕のあいまに、数苗のアルラウネを育種していた。女王に贈る花を育むように、慎重に、繊細に。根や花が持つ薬効のため、取りあつかいに注意すれば高価で買い取ってもらえるのだ。とはいえ元が危険なモンスターであることに変わりはなく、アルラウネの人工生育はギルド認可の管理農園でのみ、厳密な生産管理のもとで営まれていた。

 だがいま柵の向こう一面を覆っているのは、異常繁殖したアルラウネの群れ。群れ。群れ……。いまは子守唄に揺れる赤子のように目を閉じている。だが彼女たちが一斉に目覚めたとき、この小さな農園を何が襲うか。

「たった一晩でこんなに多く、こんなに大きく? ありえねえ……。絶対、なんかがおかしくなってんだ」男は足元の壌土をすくうと、パラパラと指の隙間から振り落とした。「犬も足りねえ、ホシカもねえ。このまま行けば耕地を越え、農道を覆い、街にまで種苗が広がって行っちまう」
 男の近くで微睡むアルラウネが、頭の葉についた夜露を払うようにぶるぶると身震いした。男は慌てて口元を抑え、物音を立てないように固まる。

「どうすりゃいいんだ……」

●レッツ収穫

「『困りごとあらば猟兵あり!』」

 腕を組み、胸を突き出して君たちを迎えるブラックタールの少女。新米グリモア猟兵のシンク(考えるインク・f05557)だ。

「人助けに日々のよろこびを感じる善良な魂をお持ちのかたがた! それがこんなにも集まってくれるなんて、わたし感激だわ!」ミュージカルの一幕を諳んじるように、シンクは黒炭色の両手を広げて君たちに歓待の思いを伝える。空回りぎみな口調や大げさな身振りの端々からは、いかにも新米らしい緊張と熱意の揺蕩が見てとれた。

「――というわけであなたたちには、異常繁殖したアルラウネの収穫を手伝ってもらいたいの。で、その原因まで明らかにできたらベストね!」
 シンクは身を乗り出して、アルラウネの特徴をまとめたスケッチ、それと周辺地域の簡易図が示された資料を君たちに示す。スケッチには下半身が根茎状の、体長20cmほどの少女図が描かれている。

「アルラウネ、マンドラゴラ、マンドレイク、恋なすび。呼び名は数あれど、……それらに共通する伝承はあらためて言うまでもないわよね?」
 シンクは指示棒でスケッチの口元をくるくるとなぞる。
「みんな自分なりの対処法があるだろうから、準備も各々にお任せするわ。ただこのアルラウネの特徴として、根ごと引き抜くと意識を失って、ただの植物に戻るみたい。めちゃくちゃ抵抗するだろうけどね」
 そう言って根菜を引っこ抜くジェスチャーをすると、騒がしく両手で揺らしてみせた。

「アルラウネを先に無力化してから安全に引っこ抜くか、何らかの手練でアルラウネの攻撃をいなしながら引っこ抜くことで結果的に無力化するか」点検するように猟兵ひとりひとりの顔や装備を順番に見つめると、シンクは頬に手を当てて笑みを作る。「どれを選ぶかはあなたたちの能力しだいってところね」

 ブリーフィング終了間際、オホン、と咳払いをはさんでシンクは告げる。
「わかってると思うけど、アルラウネの殲滅が目的じゃない、ってことはちゃんと覚えておいてね」
 眉間に力を込め、君たちにズイと顔を近づけて迫る。
「畑に火をつけて一網打尽だー! とか絶対厳禁だからね! 絶対やっちゃだめよ!」

 茶目っ気のある猟兵には『フリ』に聞こえるかもしれないが、彼女の瞳は真剣だ。農地の行きすぎた破壊や焦土化は、現地で慎ましやかに暮らす農民たちにとって悪夢以外のなにものでもないだろう。グリモアを開きながらシンクは微笑む。猟兵の力は強大だけど、大事なのはいつだって困ってる人に寄り添うあなたの気持ちよ!
 鼓舞の祈りを込め、シンクは君たちひとりひとりの背中を叩いて送り出す。

「準備はできた? それじゃ、行ってらっしゃい!」


墨緒
 はじめまして、墨緒と申します。
 第一章では抵抗するアルラウネの収穫を農夫に替わって行います。
 第二章にて異常繁殖の原因と対峙したのち、第三章で日常系のちょっとしたお祭りへと着地する予定です。
 今回ちょっと文章が固めですが、カオスなロールや勢いのあるプレイングも大歓迎です。
 皆さまのキャラクターや物語をきちんと読み込んだうえで、リプレイを返していきたいと思ってます。
 それでは、よろしくおねがいします!
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第1章 集団戦 『アルラウネ』

POW   :    ルナティック・クライ
【聞く者を狂わせるおぞましい叫び声 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    スクリーミング・レギオン
レベル×5体の、小型の戦闘用【マンドレイク(アルラウネの幼生) 】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ   :    リパルシブ・シャウト
対象のユーベルコードに対し【それを吹き飛ばす程の大音声 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

星羅・羽織
アドリブ、ほかの人との絡み大歓迎!
自由に動かしていただいて構いません!

なるほど、これは、確かに異常発生。
でも、うまくやれば、取り放題で大儲け、がっぽがっぽ(指をお金のマークにしてがっぽがっぽ)
それに、アルラウネ……マンドラゴラは、良い材料になる。それも目当てで来た。
多すぎるなら、取った分が、欲しい。貰える?

引っこ抜く方法。 
本体を傷つけすぎると価値がなくなる。
だから、こんなプランでいく。
『錬成カミヤドリ』で、私の本体(ローブ)を、生成。
長い紐付きの袋型に、変形させて、アルラウネに被せる。
そして、きつく紐で締め上げたら、一気に引っ張りだす。

私はとても丈夫。
声も吸収するから聞こえない。
完璧(どや)



 夜明け前の魔法使い。星と月のウィザード。ふしぎヤドリガミはおりん。
 羽織は、その二つ名と同じくらいたくさんの武器を持っている。そのうち一つが、研究者としての知識だ。
 養殖のアルラウネを収穫するうえで重要なことは何か。
『商品価値を守るため無傷で捕らえる』こと。『音波を無効化する』こと。
 過去を追うヤドリガミの研究者として、学究に長い日々を費やした彼女だからこそ思い浮かぶ策があった。

「アルラウネは、昼行性。だから明るくなるまえに動くのが、正解」
 曙光の薄明かりのなか、羽織は微睡に揺れるアルラウネたちの前に立つ。農夫父子にはギルドから派遣された魔術師と名乗ったものの、ふたりは目の前のちっぽけな少女をどれだけ頼りにしていいものか、不安そうな視線を羽織に向けている。
「あと、明るいと私が眠くなるし(ぼそ)」
「えっ?」
 露骨に不安顔を強めた農夫たちを置いて、羽織はマイペースに工作を始める。

「まず、これを」
 己の分身となるローブを生成し、
「こうして」
 紐をくくりつけて巾着状にととのえ、
「こう」
 念力操作を加えながら、すばやくアルラウネに向けて投擲。
『…………!? ァ黴×‥岌▼※!』
「そしてこう」
 その身体を縛り上げ、勢いよく引き抜く!
『―――――~~~!?!?』
 すぽーん!
 お見事! アルラウネの一本釣りだ。
 わずかな抵抗の隙も与えない羽織のあざやかな手際に、不安顔だった父子も一転して驚嘆の声をあげる。
「なんと……! ローブで包んで抜根することで、拘束と遮音が同時に行えとる。こりゃ盲点、一石三鳥のアイディアじゃ!」
「ローブの内側が星空になってるのもニクイぜ……! ニワトリが目隠しされたら大人しくなるみたいに、昼行性のアルラウネを星空で覆うことで疑似的な活休状態に導いているんだ! 見ろよオヤジ、収穫されているアルラウネの顔を!」
「な、なんて穏やかな顔しとるんじゃあ……!」
 しまいにはバトル漫画によくいる解説役みたいなノリを出しはじめた二人。
 だが実際、これはローブのヤドリガミである羽織にしかできない妙手だ。
 羽織にはアルラウネに対する正確な知識があり、適切な収穫法を編みだせる知性があり、それを実現させる能力がある。
 こうなれば農園はもはや羽織にとっての狩場――文字どおりの『金脈』でしかない。

「えい」
 すぽーん!
「やあ」
 すぽぽーん!
「とう」
 すぽぽぽぽーん!
「………………」
「この子、毎年来てくれねぇかな……」

「――台車、貸してくれてありがとう(ほくほく)。それと、アルラウネ……こんなに、もらっていいの?」
 曙光が山陵を照らしはじめたころ。羽織の引く荷車には、山盛りのアルラウネが積まれていた。さすがに地平線を覆うまで広がったアルラウネすべての収穫までは至らなかったものの、彼女ひとりで区画の四分の一ほどを整理してしまった。
「ええよ、ぜんぶ持って行ってくれ。どうせ今年は売り切れんぐらいにあるしのぉ。魔術師先生に使ってもらえるなら、わしらも本望じゃ」
「いやマジですげえよ……こんな小せえのに、ほんと大したもんだぜ」
 ふだんは表情少なげな羽織の顔も、見事な働きぶりを称えられてくすぐったそうに綻ぶ。朝焼けの光のなか、少女は農夫親子に向かって振り返ると、照れ隠しのようにひとことつぶやいた。
「どや」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハルピュイア・フォスター
「絶対やっちゃだめよ!」とか言うとお約束で必ず誰かするんだよね?
念のため誰かのため農家さんのために周辺(仲間)を警戒
わたしはしないよ…怒られたくないから…。

迷彩や目立たないを使用して出来る限り接近。気付かれなければそのまま収穫
殲滅の方がわたしは得意だけど今回は手加減しないと…今日も頑張る

攻撃に当たらない様にダッシュで動き回りながら攻撃
隙があるならLost memoryで能力封じを試みる(無差別攻撃する事・一撃で消滅する事・初見は相殺出来ない事)
数が多いし次々どしどし抜く為、情に流されないさっさと引っこ抜き終わらせる。

そういえば収穫したのはどこに置けば良いのかな?



 つづいて農園を訪れたのはダンピールの少女ハルピュアだ。目的のアルラウネ以上に、周囲の猟兵仲間にきょろきょろと目を向けている。フォロー体質の彼女らしく、グリモア猟兵の諌言に『解釈違い』を起こした猟兵がいないか警戒している(ありがとう)。
「えっと、みんな大丈夫、だよね……?」
 ざっと見渡すが、片手に火炎放射器、片手に火炎瓶を構えた世紀末モヒカン猟兵があらわれる様子は今のところないみたいだ。ひとまず安心。ありがとうハルピュア。

「よし……じゃあ、やらなくちゃ」
 能力による迷彩を自らに施し、柵を越えて耕地内へとすばやく侵入する。まだ寝ぼけ眼のアルラウネたちに気づかれる気配はなく、目当ての一匹へと簡単に近づくことができた。
「ちょっとかわいそうな気もするけど……」
 同情の念を振りはらい、アルラウネの頂芽をふわりとつかむ。そして一息に引き抜く。なんの抵抗もなく、手の中のアルラウネはあっけないほど簡単に昏倒していた。
 ふぅ、と短く息を吐く――ハルピュイアの全身に悪寒が走った。

 一本ならば収穫はこのように手早く静かに済んだことだろう。だが農園に根を張るアルラウネは『群れ』なのだ。耕地の一帯を覆うほどに群生している。
 いかに存在を希薄化したとしても、とつぜん隣の仲間が引き抜かれ、何かに掴み上げられるように宙に浮かんだとなれば――異常はたちまち群れ全体が察知することになる。
『『『!!!』』』
 瞬間、周囲のアルラウネの瞳が警戒色の真紅に光る。燎原の火のごとく苗から苗へと伝わる赤が、まだ朝露を孕む常緑の耕地に不穏な色を灯してゆく。
 飛び退く間もなく、絶唱が農園の静謐を打ち破った。

『『――――ァ×拵∮※▼酲<∬嗚ァァァアアァァ!!』』

 内耳を貫き、蝸牛をシェイクする破壊槌のような合唱。音波による無差別攻撃であるがゆえに、一度放たれれば迷彩も意をなさない。ハルピュイアにとっては音に対する予防手段を用意していなかったことも災いした。震動を受けて身体中の水分が、血液が波打つような不気味な衝撃を味わう。
「ぐぅっ……避け、なきゃ」
 冷静に次手を思考するハルピュイア。だがアルラウネの攻撃は音波によるもの、すなわち『音速』だ。猟兵とはいえ物理的な回避は難しい。
『『『『『――――ギ<ュ繧ィg遯Φ∴梛?√呼ァァァアアアアアア!!』』』』』
 ――何より、ハルピュイアは迷彩を用いて敵地の内側へと自ら飛びこんでしまった。数が多すぎる!
「っ……」
 超震動に内耳が切り裂かれ、耳道から血がつうと一筋流れて顎を伝う。脳を圧する淀みの中で、痛みの針が耳の内側から脳までを一串で貫く。
 その鋭敏な痛みが、一筋の光のようにハルピュイアの記憶を喚起した。

 ――アルダワ魔法学園。地下迷宮を満たす埃の臭い。『鉛の卵』。
「お、姉ちゃ……」
 脳裡を閃いたのは、あの地で『お姉ちゃん』の幻想と対峙したときの記憶。
「まだ、」自らのユーベルコードによって、自らの意思で、彼女を散滅させなければならなかったあの瞬間のことを。
「まだ、だ……」
 ――あの恐怖に比べれば、あの痛みに比べれば、これくらい!

 飛びかけた意識を翻し、見開くハルピュイアの赤い瞳には炎が宿る。
 真紅の視線が標的を精査すべく耕地内を横断した。彼女と視線が交錯したアルラウネたちは、一瞬その身をこわばらせ、本能的な恐怖からか絶叫を途絶えさせた。
 その隙を見逃すことなく、ダンピールの少女は異能の門を開く。
 恐怖の幻想によって標的の能力を支配するユーベルコード、『Lost Memory』。
「『あなたの前に立ちはだかるのは誰?』」

 束の間、無音の閑寂が真空のように農園の底に張りつめた。
 アルラウネが最期に見たものは焔か、狩人か。
 あるいはハルピュイア自身の姿かもしれない。

「――あの。収穫したやつはどこに置けばいいのかな?」
 のどかな少女の問いかけの声が、静寂の薄膜を破った。ぱたぱたと泥を払いながら、山盛りのアルラウネを抱えて農夫父子の元に戻ってくる。
「……あ、ああ。とりあえずその台車に積んでてくれれば……」
 父子もまた失った声をようやく取り戻したみたいだった。応答はぎこちなく、視界はまだ先ほどの戦いの残像を残したままのようだ。
「まさかアルラウネの群れにひとりで飛び込んで、真正面からやりあって戻ってくるなんて……」
 もくもくと台車に収穫物を積みこむハルピュイアの背中に、二人は心配げな声を投げかける。「お嬢ちゃん、あんたマジで大丈夫なのか?」
「うん? 平気だよ。ちょっと耳がキーンってするけど」
 農夫にふりかえるが、その足取りはふらふらとおぼつかない。「あれ? なんかまっすぐ歩け、ない……わっと」
 わずかな段差に足をひっかけて転がり、ハルピュイアは雑草の絨毯へ仰向けに倒れる。
 見上げた視界いっぱいに広がる朝焼けの空は、いつもより近く大きく見えた。

 昇りたての陽光は雲に乱反射し、鮮やかな青と赤の光彩をハルピュイアの瞳へと運ぶ。
 少女は眼帯を撫でた。記憶を愛おしむように。穏やかな風が農園を吹き抜け、戦いの痛みを慰撫した。
「お姉ちゃん、わたし、がんばってるよ」
 この空は、お姉ちゃんのいる場所につながっているのかな?
 ――いつかまた、会えるといいな……。

成功 🔵​🔵​🔴​

バッカンボー・パディストロー
流石異世界、アルラウネの栽培とハ恐れ入りまシタ!珍しい植物ノ収穫に携われるチャンス、勉強の為ニ参加させて頂きマース!……ワタシの畑でも栽培出来ますカネー?

まずは農夫の方々ニ「絶対やってはいけないこと」をお聞きしまショーカ。ワタシはアルラウネに関しては素人、先達の話を伺うべきですネ。おそらくUDCアースに伝わる伝説ト似た収穫方法だと予想しますガ、あくまで予想ですカラ。

収穫ハ『フック付きワイヤー投げ縄』を持って、【巨大藁人形召喚】をなるべくワタシから離れた場所に使用、藁人形の巨大な投げ縄デ引っこ抜こうト考えていマス。可能なら『守護案山子』にも収穫を手伝ってもらいまショウ。

アドリブ・絡み歓迎デース!


エドゥアルト・ルーデル
■UC
誰だお前!!

■戦闘
アルラウネchangKawaii!!!
これはウ=ス異…じゃなかった収穫が捗るでござるよ

要は拙者以外の奴に行かせれば安全に回収できるって事でござる
アルラウネ達に見えない様に回収要員の【影の追跡者を召喚】…知らない人だこれ!誰なの!怖いよぉ!
拙者が正面からアルラウネの攻撃がギリギリ届かない場所から目立つように牽制、
注意を引きつけている間にこの…知らない人をこっそり集団の後ろに周らせるでござるよ。
後はもう知らない人が集団の最後尾から順々にアルラウネを引っこ抜いてステルスキル、楽してズルして頂きですぞ!!

アドリブOKですぞ



 農園の草土を踏みしめ、ひとりの男がアックス&ウィザーズの地に立った。
 灰色の髭を撫でながら、青草の香を胸いっぱいに吸い込む。我が家のように嗅ぎなれた草葉と土の匂いだ。
 男は片手で相棒のピッチフォークを担ぎ、片手で麦稈帽のつばを上げて雲間の朝陽を見つめた。
 男の名はバッカンボー。
 戦場を駆ける傭兵農夫である。

「ーーそれじゃあ今から収穫に入りますガ、収穫に際しての注意事項はなにがありますカ?」
 その佇まいと知識ゆえに、バッカンボーが父子からの信頼を勝ちとるのも早かった。
「そうさなあ、やっぱ傷つけたりってのはなるべくやめてほしいなあ。売り物じゃしの」
 息子も頷く。「鮮魚とか家畜をシメる時と一緒でさ、なるべく負荷を与えずにスパッと間引いてやった方が味っつーか薬効が保つんだよ」
「了解デス」収穫は手際が命。バッカンボーもよく知る教えだ。「普段ハどんな風に収穫を?」
「あれが眠ってるうちに縄でくくって、離れたトコからうちの犬コロに引っこ抜かせてる。けどさすがにここまでの数になっちまうとまぁ無理だよな」父親も腕を組んでうなる。「一匹引っこ抜いたら、絶叫が連鎖してって次々に目ぇ醒ますじゃろうしなあ」
「ンー、ナルホド。あの類の取りあつかいは、どこの世も同じなんですネー」と髭を撫でるバッカンボー。
「あとうちのアルラウネは『土グルメ』での、特に魚肥や清廉な水を好むんじゃ」老齢の農夫が思い出したようにつぶやく。
「ああ。美味い土や水をたらふく吸わせて満腹にすると、熟睡して目を覚ましにくくなるんだ」
「オゥ、その肥料は今手元にないんデスか?」
「いやまさかこの季節にこれだけの量になるとは思わなくてのぉ」
「堆肥のたぐいはまったく残ってねぇんだよ」
「そうでしたカ……」
「残念でござるなあ」
「いや誰だお前」
 知らないおじさんが普通に会話に入ってきた! こわ!

「失敬、拙者はエドゥアルトと申す者」
 警戒する一団に向け、黒髭の男は襟をととのえて一礼とともに名乗りはじめた。「決して怪しい者ではござらぬ。かわいいモン娘が好きなだけの……ン、オホン。失礼! 困っている市民殿の力になりたくて馳せ参じた、ギルドからの使者にござる」
 クセが強すぎる新手の黒髭おじさんを前にして、露骨に不審がる農夫父子。バッカンボーを『陽』の髭おじさんとするなら、エドゥアルトには『陰』の髭おじさんというタグが付く。
 明らかにあやしい髭おじ(陰)だったが、その軽薄な言動に反して、彼の佇まいや装備は戦いに向けて洗練されていることにバッカンボーは気づいた。刻まれた戦歴の年輪に敬意を払い、脱帽して右手を差し出す。
「どうぞよろしくお願いしマス、エドゥアルトさん」
「おぉ、こちらこそよろしくお願いするでござるよ、バッカンボー殿」力強い握手を交わす髭男たち。「いかんせん拙者、草を引っこ抜くなんて作業は初めてでござる!」
「オゥ、そうなんデスか?」
「草を生やすほうは大得意なんですけどなwwwwコポォwwww」
「…………」
「草wwwww」
「HAHAHAHAHA、Nice Joke!」
 一瞬の間のあと、エドゥアルトの肩を軽快に叩いて笑うバッカンボー。
 髭おじ同士、なにかしら通じあうものがあったのだろうか……?
 二人のやりとりに困惑顔を深める農園父子だったが、ともかく彼らは意外といいコンビになれそうだ。

「それじゃ、まあ」
「やるとしマスか」
 肩を鳴らし、二人はともに戦いの場へと歩きだす。柵を隔てて対峙する標的の群れに向け、ユーベルコードの鍵を用いて召喚の門を開く。
「『カモン、バッカンドール!』」
「『召喚、影の追跡者』!」
 バッカンボーの背後に巨大な藁人形が立ち上がり、エドゥアルトのかたわらには影の――「いや誰だお前!」――知らない人が現れた。

 ともかく、二人のオペレーションは堅実だった。
 音波が直撃しないよう十分な距離を取ったうで、本体と別働の召喚物に収穫を任せる。
 バッカンボーは投げ縄を投擲させ、エドゥアルトは自らを囮にすることで、安全圏から確実に引き抜いていく。
「なるべく傷つけず素早く抜くように、あのよく知らない人に伝えてくだサーイ!」
「……だ、そうでござるよ知らない人!」
『デュクシ! デュクシ!』
 ――かくして特段の抵抗もなく、二人は最後の一区画に残っていたアルラウネをすべて収穫することに成功した!

「やったでござるな!」
 台車に山積みになったアルラウネを背に、肩を叩きあう二人の髭おじ。
「パーフェクトでしたね、エドゥアルトサン」
「オウフw エディでいいでござるよw」
 髭面のおじさんしかいない絵面にも関わらず、吹き抜ける風は爽やかだ。
「ハッハッハ! オーケイ、エディ」バッカンボーは目を細め、たったいま役目を終えたばかりの耕地を見据えた。「よければ、掘り返された後の農地の後片付けを手伝ってくれまセンか? 農夫として、残渣をこのままにしておくのは心が痛むんデス」
 エドゥアルトは髭を掻き、それから特に何も言うことなく銃のかわりに鍬を担いだ。それが彼の返事だった。
 二人は互いの髭についた泥についてひとしきり笑いあったあと、農地に向かって歩きだす。泥土につづく二人の足跡の中から、春の訪れを予感させる新緑の芽が小さく顔を出した。

――――――

 抜根された壌土の中に、陽光を弾いてきらめくものがあった。
「……待ってくだサイ、これは……」
 破片のようななにかが地面から半分だけ姿を晒している。朝陽を反射し、様々な光彩のまだら模様がプリズムのように表面を滑った。
鍬を止め、二人はその奇妙な埋没品を拾い上げる。

 目の前にかざすと、ちょうど頭が全部隠れるくらいの大きさだった。向こう側が透けて見えるほど薄くて軽い。だが決して手折ることができないほどに硬い。しなやかな強さを持っていた。
 そして明確に感じとれる活力の残滓があった。手に持っているだけで、血が温まり、疲労がほぐれていくような感覚。
 二人の猟兵は顔を見合わせる。
「不可思議な素材デス。薄い貝殻のようにも、骨質の層のようにも見えマスが……まさか、」
「これは、」

 これは竜の鱗だ。

 二人が気づいたのと同時、はるか上空から雷鳴のような咆哮が大地を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『息吹の竜『グラスアボラス』』

POW   :    フラワリングブレス
【吐き出された息吹 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【咲き乱れるフラワーカッター】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ガーデン・オブ・ゲンティアナ
自身の装備武器を無数の【竜胆 】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    フラワーフィールド
【吐き出された息吹 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を花畑で埋め】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ナイツ・ディンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 草木を震わせるような雷声とともに、熱を帯びた息吹が農園に吹きつける。巨木さえも身じろぎをして、無数の葉が枝ごとちぎりとられて地平線へと消えていく。
 農園を巨大な影が覆った。太陽を背に、雲の切れ間から巨竜が姿を現す。陽光を透かしたその翼は、教会のステンドグラスのように荘厳な七色のきらめきを地上まで運んだ。
 同時に、猟兵たちは農園を襲う異変に気づく。

 竜の息吹を浴びた木々が、草花が、猛スピードで伸長している!
 慎ましやかに咲く野花さえも、堤防が決壊するようにつぎつぎと開花と落花を繰り返し、果樹木は天空に向かって無限にその枝を伸ばしつづけている。巨木の根は地表を断ち割り、苦しみにのたうつように農園中を打ちすえた。

「あ、ああああ! わしらの樹が、作物が……わしらの農園が……!」
 足場が歪み、際限なく育つ根や枝に貫かれ、農園のいたるところから建物が壊れゆく音がたちはじめた。
 早くなんとかしなけばならない――だが、元凶たる竜は『上空』にいる!
 弓矢が届くかどうかという高さを保ち、竜は緩やかな旋回飛行をつづけたままだ。

 一方で、台車に積まれたアルラウネの山に視線を向けた猟兵たちは、別の異常に気づく。
 収穫されて単なる植物に戻ったはずのアルラウネたちが、息吹の直撃を受けて目を見開いている。
 だが身じろぎひとつすることなく、その瞳はみな陶然と虚空を見つめている。
 それらのアルラウネの頂芽から――ゆっくりと真紅の花が開きつつあった。
 その花がなにを意味するかは分からない。だがエドゥアルトら歴戦の猟兵たちは、それがどこか『導火線』を想起させることに気づいた。

 ――君たちは、この事態に対処しなくてはならない!
(一人ですべての問題に立ち向かう必要はない)
星羅・羽織
アドリブ、他の人との絡み大歓迎!
好き放題に動かしてください!

異常発生からの、異常事態。
少し、不謹慎だけど、すごく興味深い。
魔術師としては、知識欲がそそられる。
でも、せっかく採った、アルラウネが、ダメになるのも、勿体無い。
もったいない精神は、長生きの秘訣。多分。

私の、知識から、これから起こることが、割り出せるなら、皆に伝える。
そして、対処しながら、原因排除。
わからなくても、パワーが力。速攻で竜を、倒せば解決。賢い。

竜を、撃ち落とすなら、エレメンタル・ファンタジアで、雷を当てる。
うまく、いかなかったら、暴風や、雹を降らせたり、工夫する。

他に、役立てる事があれば、言って。何でも手伝う。


バッカンボー・パディストロー
クッ、あの息吹ガ厄介ですネ……。アノ高度の取り方、戦い慣れた個体ト見まシタ!

ミーはまず、農夫の方にこのアルラウネの状態を見た事・聞いた事ガあるか質問しマス!対処法ガ分かるのナラ、皆さんニ伝えて下サイ!

ソレと平行して【汎用型戦場兵装召喚】を攻撃力重視で使用、対オブリビオン用ミサイル中心に武装しマス!収穫したアルラウネに照準が向かないよう注意し、空中に居る竜にミサイルをロックオン、発射しマス!

空中に陣取られてハ息吹で一方的にやられてしまいマス!まずハ空から引きずり下ろす事を優先しまショウ!例え途中で迎撃されてモ、爆風で息吹を吹き散らしてやりマース!

引き続きアドリブ・共闘・絡み歓迎デース!



 地鳴りと破壊音の恐慌の中、星羅羽織の思考はどこまでも静かだった。

 アルラウネに芽吹く真紅の花。自分も見たことがない花器官形成。
 ただあの竜の息吹が一種の過剰成長を引き起こしていることは分かる。それがアルラウネの抵抗反射を抑制し、超限制止を誘発しているのかもしれない。
 未知の事象にぶつかろうとも、既知の研究を点綴すれば推論はいくらでも立てられた。今までも、これからも。星々をつなげば星座になるように、羽織の記憶のきらめきは、いま猟兵たちが選ぶべき道筋を確かに照らしてくれていた。

「――みんな、聞いて。あの息吹を浴びた、アルラウネは、たぶん一種の、カタレプシー状態」静かに、だがたしかな説得力を込めて、羽織は周囲の猟兵へと語りかける。「すごく簡単にいえば、いずれ暴発する、不発弾」
 花樹草木が荒れくるう騒音の中でも、鈴のような少女の声は猟兵たちへと静かに浸透していった。
「爆弾といっても、放たれるのは、音波。最大級の、音波の爆弾。それが、次々に連鎖していく」真紅の花群を視界に映しながら、少女はその先の未来を見据えた。「処理か、隔離か、鎮静か。対応が、必要」

 必要な情報を伝えおわると、羽織は跳ねるように駆け出した。
 牧草地を滑りながら、農園全体の光景に思考の目を走らせる。
 伸長する梢、地を裂く根、咲き乱れる鮮色の花々、いくつもの材料が頭の中へと流れこむ。
(アミラーゼ活性、不飽和のまま。エチレンシグナル伝達系自体に、作用してるかも。なら、PINタンパク質の極性方向も、変わってる……? でも光屈性は、維持されてる)

 自覚する。自分の知的好奇心が揺動している。私は心のどこかでこの状況を楽しんでる。
 それは研究者としての業のようなもので、自分では止めることができない類のものだった。
 一方で、それを不謹慎だと戒めるもうひとりの自分もいた。それは研究者ではない、猟兵としての星羅羽織かもしれない。
 視界の端に崩折れる父子の姿が映る。
 自らの人生を預けた場所が踏みこわされ、目の前で音を立てて崩れゆく。その光景に直面する無辜のひとびとのことを羽織は想った。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 気づけば農夫父子の前へとバッカンボーは走っていた。
 黒爪の鍬を構え、竜から庇うように対峙する。
「彼女はああ言ってまシタが」視線を竜から外すことなく、アルラウネを指してバッカンボーは訊ねる。「このアルラウネの対処法を、なにかご存知ではありまセンか?」
 地鳴りの恐慌の中で、農夫は必死に叫び返す。「悪いが、なにも……なにもわからん! こんな状態、今まで一度だって見たことがない!」父の肩を支える息子も同意する。「落ち着かせる時は土か水ってさっき言ったが、ンなもん用意する暇はねぇしよ!」

 逡巡する。
 ひょっとしたら、あの花だけをむしりとることができれば――アルラウネは元の植物に戻るかもしれない。だけど、その作業を一匹一匹実行するような時間の余裕はない。
 彼女の言うとおり、あの山がぜんぶ不発弾のようなものだとしたら、台車ごと一まとめに『処理』してしまうのが一番いい。
 だがバッカンボーの農夫としての誇りが、魂が、罪なき大地の実りをみずからの手で砕き棄ててしまうことを拒んでいた。それはきっと、この父子も望むことではないと彼は信じた。
 なにかあるはずだ。すべてを救う方法がきっとどこかに。

 ふと頭上を覆う影がわずかに動き、バッカンボーの思考は現実に引き戻される。
 竜の鼓翼にほんのわずかな揺らぎを感じる。空気に不穏な匂いが混じった。
 息吹が来る。
 それも先ほどとは比べ物にならないほど強く、大きな、破滅の息吹が。

「今、ワタシがすべきコトは――」
 これ以上、この場所を、この大地を傷つけさせないこと。
 この農園も、その上に立つ人たちも、誰一人として傷つけさせないこと。

 力強く大地を蹴り、バッカンボーは走りだした。 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 頭上に強烈な威圧感を感じる。私を見ている。油断なく私を観察している。
 羽織は今、竜の直下に立っていた。そこが彼女の目標地点だった。ちっぽけな我が身を暴威の影の中心へと据えて、少女は竜と対峙する。
 杖を構えて、浅く息を吐く。と同時に竜も肺を膨らませ、雲を飲み干すがごとく息を吸う。

 瞳を閉じて、羽織は己の内側にある呪文書を開く。
「これ以上、」
 好奇心と、義務。
 研究者としての自分と、猟兵としての自分。
 分かちがたいその二つを、魔力によって一つの螺旋に織り上げる。
 上空から裂帛の息吹が叩きつけられるのと同時。
「君の好きには、させない」
 羽織はその螺旋を、息吹に向けて解き放った。

――――GGGGGUURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!

 咆哮、そして風のうなり声とともに、業風のごときブレスが竜から放たれる。気圧が変わるほどの裂風が耳鳴りを呼び、雲の進路を逆流させる。だが息吹の猛風が農園への地に届くことはなかった。
 羽織が放った魔力の螺旋が、旋風となって農園の空全体を覆う。天候を操作するユーベルコード――少女の魔法は暴風の障壁となり、大気の盾となって、ブレスの直撃から農園を守っていた。

 風と風が激突する戦端で、羽織は杖の魔力を空へと注ぐ。
「っ、……!」
 魂の火を吹き消すような凄風に抗い、織り上げた呪文の基底を支えつづける。髪が振り乱れ、羽織の本体であるローブとともに獣のようにはためく。足元の草花は土ごと次々に巻き上がり、風の裂け目へと消えていく。
 風の突端がかすって、杖の先端の一部を飲みこんだ。少女の小さな掌の中で、杖は激流に巻きこまれたオールのように暴れだし、羽織の身体を打擲した。こわばる四肢に鈍い痛みが広がっていく。
 いずれ決壊する防波堤。その上に羽織はひとりで立っていた。それでも決して離さぬように、羽織は両手で杖を抱えて握りしめる。
 我慢くらべなら、負けない。瞳を閉じ、羽織は唇を噛みしめた。
 ぜったいに、支えてみせる。

「――大丈夫!」
 力強い鼓舞とともに、誰かの腕が羽織の背後から伸びて、震える杖を取りおさえた。岩のように無骨で大きい、自然と戦う者の腕。
「ワタシも支えマス!」
 頑健な農夫の両腕が、杖の振揺をぴたりとおさめた。風の結界の内側は、嵐の目に入ったかのごとく凪の静寂に包まれる。杖を支える仲間の力強さを背中に感じながら、羽織は呪文の掉尾を織りあげた。

 嵐が止み、最後の風のひとひらが、微風となってほどけていく。
 すべての雲が巻き上げられ、空はどこまでも高く青く見えた。
 遮るもののなくなった陽光が、息吹に打ち勝った二人の瞳へと射しこんだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「やりましたネ、お嬢サン」
 消耗する羽織の肩をバッカンボーが優しく支えた。小さな魔術師の勇気ある行動に、敬意を込めてウインクする。「ここはワタシに任せテ、少し休んでいて下サイ」

 見上げる空の先には、息吹を吐き尽くして羽ばたきを弱める竜の姿があった。
 討つべき敵の姿を見据えながら、バッカンボーは一歩前へと進む。
「今度はワタシの番ですネ」
 己の獲物たる黒爪の鍬の柄を地面に突き立てて、バッカンボーは己の魂に眠る切り札をコールする。
 大地から光の蔦が湧出し、彼の手の中へと伸びゆく。それらが複雑な模様を編み上げるようにして、無骨な兵器の姿を形作った。
 『対オブリビオン用歩兵携行式多目的ミサイル』――鉄と火薬のワイルドカードを握りしめ、バッカンボーは銃口を空へと向ける。
「あの竜を落としマス!」
 照星越しに標的を見据え、バッカンボーは引鉄を引いた。

 轟音と衝撃を周囲に撒き散らしながら、擲弾が激発する。
 白煙の尾を引いて、翼を持った弾頭は空を裂くように標的へと猛襲した。
 だがバッカンボーが予見したとおり、この竜は間違いなく歴戦の古強者だった。
 古竜が回頭し、大地ではなく広がりつづける梢に向かって収束的な息吹を放つ。瞬間、ブレスを受けた樹々から無数の巨大な蔦葛が伸長し、囚人を縫いとめる鎖のように弾頭へと絡みつく。
 蔦葛の生長は留まることを知らず、ミサイルの表面を緑の縛鎖で覆い尽くした。大蛇が獲物を絞め殺すようにゆっくりと、煙を吐く擲弾から推進力が失われていく。
 羽ばたく竜の目前で、ミサイルは完全に静止した。

「まさカ――」
 その光景にバッカンボーは息を呑む。
 ロープによる捕縛。つい先ほどアルラウネに対し、自分が召喚した藁人形にとらせた行動だった。「すべて見ていテ、学習したとデモ?」
 弾尾のブースターは白煙を吐きつづける。だが今や推進する力と押し留める力は完全に均衡し、弾頭は縛鎖の中で行き場なく振揺するしかない。その間にも蔦葛は生長しつづけ、巻き鬚はミサイルの内側まで侵食してゆく。

 あと一手。
 あの弾頭を空に浮かぶ古竜へと届かせるあと一手。
 ほんのわずかな距離を埋めるその一手が、どうしても足りなかった。
 標的を睨みつけ、バッカンボーは次なるジョーカーに手を伸ばす――

「大丈夫」
 その背中をぽん、と叩く小さな掌の感触があった。
「私は、受けた恩を、ちゃんと返すタイプ」
 ステップを踏むように軽やかに一歩、羽織はバッカンボーの横へと並ぶ。
 片手で拳銃の形をつくると、羽織は飛行する標的へと照準を合わせた。
 空想の引鉄を引く。

「はおりんビーム」

 雷霆が大気を駆け抜けた。
 虚空から生み出される魔術の雷が、捕縛されたミサイルの弾頭へと突き立った。
 その稲妻は文字どおり、着弾を待つミサイルの『雷管』となった。
 もっとも粗暴かつ破壊的な方法で、黒鉄の揺り籠に眠る火薬を一つ残らず炸裂させた。

 マグマのような粘性の炎が閃き、一拍遅れて雷鳴とともに爆発音が鳴り響いた。その場に居合わせたすべての猟兵たちが、飛来する熱風と轟音を浴びてたたらを踏んだ。爆炎は竜同士の獰猛な共食いのように、その高熱と紅蓮の顎で花竜の全身を喰らい尽くした。
 蒼穹に竜の咆哮が反響したかと思うと、焼けただれた古竜が爆炎から離脱する。
 不時着する滑空機にも似て、竜はよろよろと高度を落としてゆく。黒煙の飛行機雲をたなびかせながら突き進むその進路には、すこしだけ背の低い樹群があった。

「急いで回り込みまショウ! 追撃するなら今しかありまセン!」
「――待って」
 追撃に逸るバッカンボーの裾を引き、羽織は指差す。枝先に立つ小さな人影。
「あの子、なにか、やる気みたい」

 竜が突っ込む梢の先に、一人の猟兵が待ち受けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルピュイア・フォスター
【SPD】
気持ちよく寝てたら空から何か降って来た
高い所にいるからまずは落とそっと

何が起こるか分からないけど、アルラウネを使ってみようかな?
まずは一番高い巨木の頂点に火種とアルラウネを点火し易い様に運んで並べて固定
そうだ…木の下にもしもわたしが落ちた時の為にクッション代わりの草花を集めておこう

準備が出来たら殺気と恐怖を与えるで威嚇して巨木まで誘導
誘導時はダッシュと残像で回避に専念
木に登り近くに来たら点火

点火が少し大変だからどこかにいる世紀末モヒカン猟兵を呼べば良かった…。
点火したら退避ぁ今回も耳栓…忘れた…。

隙が出来て届く範囲ならばLast memoryと鎧無視攻撃で翼を攻撃して地面に落としたい



「よっと」
 爆雷の音がちょうどいい目覚ましになった。伸び上がる梢の上に立ち、ハルピュイアはいつもより近くにある青空に目を向ける。
「手間が省けたね」
 目蔭を差して眺める先には、高度を落としながらこちらへと迫りくる有翼の巨塊。爆発に体表を焼かれ、煤の尾を引きながら滑空する竜の姿を視界に捉えた。

 少女は背嚢をごそごそと漁って、ついさっき拾いあげたばかりの玩具を取り出す。
 それは息吹を浴びて、頭頂に真紅の花を宿したアルラウネ――魔術師の女の子いわく『いずれ暴発する不発弾』だ。その眠れる爆弾が、ハルピュイアの背嚢いっぱいに詰めこまれていた。
「でもあの子が言う感じだと、爆弾は爆弾でも単純に火をつけたらボカーンと爆発するって感じじゃないみたい」子猫を撫でるみたいな気安さで、少女はそれを掌の上でぐにぐにと弄ぶ。「うーん、どうしよう」
 導火線付きの不発弾を四個、手慰みにジャグリングしながら、ハルピュイアは空を見上げる。
 花竜は飛行速度を落とすことなく、彼女のいる梢に向かって迫りつつあった。巨大な質量に押しのけられた空気は枝と枝の間に逃げこみ、微熱を持ったそよ風となって彼女の髪を揺らした。
「あっ」投げ損なったアルラウネが彼女の頭にぶつかって跳ね、木立の足元に吸い込まれていった。それを一顧だにすることなく、ハルピュイアは竜を見つめて指を弾いた。「いいこと思いついたかも」

 * * *

 跳ねるように梢から梢を渡りながら、ハルピュイアは樹群のなかでもひときわ高い巨木の枝を見定めて跳びのった。
「こっちにおいで。わたしとあそぼう?」
 口元に両手を添えて、飼い犬と戯れるみたいに竜へと気安く呼びかける。
 樹上の少女と滑空する竜はいまや同高度にあった。苦々しい爆炎の余熱を吐きだしながら、竜はハルピュイアの立つ大樹へと突っ込んでくる。

「いい子だね」
 食物連鎖の上座を統べる、頂点捕食者の巨大な顎が少女の目のまえに迫った。
 その口はハルピュイアが立つ大樹ごと彼女を丸呑みにできそうなぐらいに大きく、その瞳は自らの翼を焼き落とされた怒りに燃えていた。煮えたぎる怒りを竜の瞳の中に認めた瞬間、ハルピュイアは梢を跳ね板のように蹴りこみ、巨竜に向かって飛びこんだ。
 空中で、少女と竜の視線がかち合った。
「さあ、撃ってきなよ。あの息吹を」
 挑発するように、ハルピュイアは竜めがけて殺気を放つ。
 竜の瞳孔が細く鋭く引き絞られて、自分の顎へ飛びこんでくる弱く小さな生き物へと焦点を結んだ。

――――GRRRRRRAAAAA!!

 次の瞬間、明確な殺意を持って照準された、収束的な息吹が竜の口から放たれた。先ほどまでとは違う単弾速射のような短く鋭い圧気の弾丸。旋転する風の銃弾が少女の身体に直撃し、全身の骨をへし折ってその死骸を背後の幹へと叩きつけた。

「残念。それ残像だよ」
 その声は竜の頭頂部から聞こえた。ハルピュイアは竜の角をこつこつと叩いて居場所を明かす。少女はすでに、一拍早く竜の頭上へと飛び移っていた。残像。それが妖剣士の彼女が持つ能力の一端だった。
 そして竜は、自分の弾丸が射抜いたものの正体を知る。
 それはハルピュイアではなく、彼女のマフラーで梢に巻きつけられた――花咲くアルラウネの赤い弾帯。
「音波の衝撃で爆発が連鎖するなら、ブレスの風圧でも同じことだよね?」
 風弾の直撃を受けて破砕したアルラウネの残骸たち。その頭頂の花が、燃え殻のように漆黒に染まってみるみるうちに萎れていく。「自分を吹っ飛ばす爆弾に、自分で点火してくれてありがとう」
 竜の角を蹴り、ハルピュイアは樹上の地雷原から離脱する。竜とすれ違うように中空へと飛び込んだ。

「あ」落下しながらハルピュイアは落ち度に気づいて口を開ける。「耳栓忘れてた」

 着火。
 臨界点を超え大気が破裂した。己の体というリミッターを外された絶叫が、アルラウネの魂の内側から解き放たれて爆発した。抑圧されていたエネルギーは不可視の波となって、振動が伝播するすべてのものを無慈悲に破砕した。そしてその振動波は隣で眠る爆弾を容赦なく叩き起こす獰猛な起爆装置にもなった。音波の爆弾はつぎつぎに誘爆し、自らの手で叩き潰すものが消えてなくなるまで、大気中に全力の衝撃と轟音をぶち込んだ。

 直撃をうけた竜にはうめき声一つ上げる余裕もなかった。音波の刃は竜の目や耳を切り裂き、その鱗を炸裂装甲のように順番に吹き飛ばした。剥離した鱗は砕かれたガラス片にも似て、鋭い光を閃かせながら大地へと流れ落ちていく。

 衝撃は同時になんの自衛手段を持たなかったハルピュイアを襲った。
 内耳と外耳から空振の衝撃が同時に殺到し、彼女の薄い鼓膜を吹き飛ばして対消滅した。その歪みは少女の脳も叩いて揺らし、一瞬だけあらゆる機能と身体のつながりを消しとばした。意識の手綱が離れてゆく。落下の重力のかわりに、ハルピュイアは深い海の中に潜っていくような感覚に沈んだ。視界が暗転する。

「あ……」
 夜の海にも似た暗闇の中で、竜の絶叫が反響した。そのすぐそばで、少女たちの悲鳴のような、断末魔の合唱のような叫びが聞こえた。だが鼓膜を失ったハルピュイアにとって、それは間違いなく錯聴であるはずだった。幻想の叫声がこだまする漆黒の残響室の中でハルピュイアは、
『――――――』
 自分の名を呼ぶ誰かの声を聴いた気がした。
 暖かく、心地よい、自分を包みこむような懐かしい誰かの声を。

 * * *

 葦と落ち葉のクッションの上で目が覚めた。
「いたたたた。うーん、着地失敗しちゃった」
 ぶるぶると首を振り、頭の上に乗っかった草花を払う。そのとき自分の身に起きた異常に気づいた。「あれ、耳が聴こえないや」
 いったいどれぐらいの間、私は意識を失っていたんだろう?
「でもまあ、結果オーライ……だよね」自分の作戦がもたらした破壊の痕跡を、少女は色の異なる二つの瞳で見上げた。爆撃によって竜は大きく傷つき、木立をなぎ倒して地に伏せている。この身を賭けたのに見合うだけの戦果は上げられたというわけだ。
 違和感を慣らすように耳を数回指で弾くと、泥を払ってハルピュイアは立ち上がった。

 ――なんだったんだろう、あの声。
 懐古の気配が少女の記憶に優しく触れて、そっと彼女の魂を引いた。心中に芽生えた感傷を振り払うように、ハルピュイアはふうっと息を吐く。
 そしてふたたび彼女は戦場へと走りだした。

成功 🔵​🔵​🔴​

張・小龍
「遅れてしまったのですが賑やかなことになってるようです」
「あのでっかいトカゲを無力化してしまえばいいのかな?」

竜の弱点と言えば角ですよね
ボクもここにダメージ受けるのはとても辛いので思いっきりぶん殴って行きます
同時にドラゴニック・チェインによって再度飛び立てないようにボクと竜を繋いでしまいますよ

オーラの鎖を引き合うことになったら怪力全開で飛べないように綱引き開始です
他の猟兵さんにガンガン攻撃してもらうようにしましょう

引き合いに勝てない場合は鎖を昇って、竜の背中に取り付いて、振り落とされないように頑張りながら蹴る殴るで落としてしまいましょう
落下したら受け身は忘れずに


エドゥアルト・ルーデル
■UC
SPD

■戦闘
デケェ!
あれ程のサイズでは表面を爆破してもダメだ!中からやるしかねぇでござる!
まずは挑発代わりに銃撃ですぞ!羽根を狙え羽根を!

ドラゴンが降りてきたらアルラウネを2つ小脇に抱えて突撃
攻撃は【経験と直感】で回避しつつ【地形の利用】してジャンプでも【空中戦】でも良いからドラゴンまで近づいて
アルラウネをドラゴンのお口にタッチダウンだ!!
着火役は誰かに任せて離脱したいが誰も居なかった時は自爆覚悟で至近距離から手持ちのヌカランチャーで着火ですぞ

アドリブOKでござる


ハルピュイア・フォスター
アドリブや絡みはOK
さてと空から地上に落とせたけど…ここからが危険で大変だね…。

基本わたしはダメージが少し残っているのでみんなの支援>攻撃
また巨竜を戦闘に集中出来ない様に行動
迷彩や目立たないのオンオフ、仲間を攻撃しようとしたら背後からの殺気や恐怖を与えるなどを使用して注意を逸らす

攻撃する際は足や鱗が薄い場所に鎧無視攻撃と暗殺の技術を披露
時にはLost memoryも使用して能力封じ(初撃を外すと次も当たらない・指定半径からの離脱したら当たらない・その上に立たないと効果なし)など

そういえば何でこの農場に巨竜が来たんだろうね?もしかしてアルラウネが好物なのかな?


ルイス・アケーディア
アドリブ・連携歓迎

収穫するだけの任務なら、俺の出番は無さそうだと思っていたのだが。
まあ、そう楽させてはくれないということか。悲しいな。

……随分、無茶な作戦を考えたものだ。
だが、地面に落ちてくれたなら都合が良い。

注意逸らしを兼ねてマシンガンで攻撃。
竜の意識が逸れたら、あるいは味方が攻撃しているのであればその隙に、
【物を隠す】で翼に罠のトリガーを仕掛ける。
作動条件は、竜が飛ぼうと翼をはためかせた時。
【出口のない処刑部屋】を発動させる。

厄介なのは、息吹だな。射出したワイヤーで口の辺りを縛り付けられたら良し。
農地を荒らさないほうが良いのなら、火力は他の奴らに任せよう。



 爆発と破壊音が断続的に響く戦場を、泰然自若と少年が歩く。
 溜め息みたいな風が吹き、まだ幼さの残る少年の頬を撫でる。揺れる髪の中に、少年の容貌に似つかわない黒威の角が一対並び立っていた。ドラゴニアンであることを示す彼の角に、陽光が反射してオニキス色のきらめきを走らせる。

「竜との果たし合いは、ボクの宿願なんですが――」
 とんとんと爪先で赤土を蹴り、両手の指を絡ませて伸びをする。これから起こる戦いに向けて、張は自分の身体感覚を走査した。
「あなたはそんなに竜っぽくないですね」首を傾げる。視線の先には同じくらい傾いた木立があり、その上に横たわる巨大な背中が見える。泥土を蹴って張は近づく。一歩、また一歩。
 「うーん、翼がボロボロだからでしょうか? それとも顔、でしょうか? 竜というよりなんだかでっかいトカゲみたいです」
 無自覚に辛辣なつぶやき。だが彼の眼は対峙する相手に油断してはいない。
 たしかに花竜は翼を炎に焼かれ、鱗を爆風に吹き飛ばされ、右側の目と耳の機能を爆発の残響の中に取り落としたままだ。
 だけど竜が殺意を持って我々と対峙するとき、その傷はなんの障害にもなりはしない。
 手負いの獣は恐ろしい。感覚器をひとつ失えば、別の感覚器が研ぎ澄まされて穴を埋める。きっといま、目のまえの竜はボクの匂いを風の流れとともに掴んでいるだろう。ボクの血に色濃く流れる同族の気配を敏感に感じとっているだろう。
 張はこれまで数多くの竜と相対し、それらに力で打ち勝ってきた。その中で血を流したこともある。だからよく知っている。手負いの獣は恐ろしい――それが竜ならなおさらだ。

 地響きのような唸り声とともに竜が回頭する。血と怒りに染まった隻眼が張の姿を捉えた。
 張はこの状況に油断も慢心もしていなければ、恐怖も怯えもしていない。
 拳を突き出し、足を開いて半身で構える。竜を相手にやることはいつだって同じだ。
「いざ、尋常に」
 『力で挑み』――

「勝負!」 
 ――『力で勝つ』。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「あのドラゴニアン……正気か? 俺には無策としか思えんが」
 人造の眼球のなかで、機械の水晶体が収縮して丘下の光景にピントを合わせる。
 眼下で繰りひろげられる竜と猟兵の決闘を脳裡に映しながら、ルイスはマガジンを小銃に叩き入れた。
「だが注意を引きつけてくれるのはありがたい。俺は翼を狩りにいこう」現状に最適化されたプランが数条、ルイスの電脳を走り抜ける。「同時に奴の息吹も封じるべきだな」
 ワイヤーの射出機構を起動して、射出角度と速度を調整する。すばやくコマンドを叩くルイスの手を、横合いから伸びる腕が掴んで止めた。
 隣に男が立っていた。小銃を担いだ黒髭の猟兵。思案顔でルイスを見上げるのは、戦場傭兵のエドゥアルト・ルーデルだ。
 この男、いつの間にここまで接近していた? ルイスは心中で密かに驚くが、その動揺が機械の顔貌に現れることはない。意図を尋ねるルイスの視線に男が応じる。
「竜に口輪をつけるのは、ちょっと待ってほしいでござる」
「……なにか考えがあるみたいだな」
「確実とは言えないでござるが」黒髭が首肯し、手を離した。「皆の協力があれば、あるいは」

「――作戦は理解した。乗ろう。無茶苦茶だとしか言いようがないが、そういうことなら俺にもプランはある」その時、ルイスの語尾を踏み散らすように竜の鬨声が響いた。咆哮は風に乗り、丘の上に立つ二人の皮膚を震わせる。「だがあの息吹への対策が必要なことに変わりはないぞ。どうするつもりだ?」
「それについては……」
「あっ、ごめんね」
 異質な少女の声が二人の会話を遮った。羽のように軽い声が丘の上に舞いこむ。
 男たちは弾かれるように、声の主に向けて同時に銃を向ける。金髪の少女が、二人の照準の中にひょこっと顔を出した。首を傾けて、耳に入った水を追いだすみたいに側頭部を小突きながら二人へ近づいてくる。
「あなたたちが何言ってたか、実は今ほとんど聴こえてなかったんだけど――」色の異なる少女の瞳が、二人の銃兵を見つめた。「たぶんそれ、わたしの仕事だよね」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 息吹を浴びて花が散り、風がそれらを宙へと運ぶ。
 色彩過剰の花吹雪が視界を埋め尽くす。張は拳を固めた。
 宙を舞う花弁のひとつひとつが、白刃に似た冷たい光を閃かせている。視界を覆うこれらすべてが抜き身の刃――張の髪が逆立つ。
「……っ!」
 竜の羽撃が風を生み、七彩の凶刃を張へと撃ち放った。

 意識して反応する余裕はない。身体を翻し、殺到する刃を本能のままに躱す。これまでの戦いの中で研磨され、無意識下に落としこんだ体捌き。紙一重でかすめる花弁が張の身体に幾筋も血の線を引く。だが張は冷静に風の空隙を捉え、花弁の網をすり抜けて一歩、前に跳んだ。
 人が持つ俊敏さと、竜が持つ力強さ。ドラゴニアンはその両方を併せ持つ種族だ。そして張はその両方の力を余すところなく戦いの中で引き出すことができた。
 竜の懐へと飛び込み、己の膂力に踏み込みの加速を乗せて、
「哈ッ!!」
 乾坤一擲の掌打を打ち込む!

 四足をついていた巨竜の身体がわずかに浮く。スローモーションのように愚鈍な動き。この隙を逃すまいと張は追撃の拳を構える、その瞬間に竜は身体をぐるりと反転させ、張に向けて尾を振り落とした。
「ッ!」
 後方へ跳ぶ。とっさに交差させた両腕の上に、自分の身体を押し潰すほどの巨躯の一撃が叩き込まれた。
 鞭打に遠心加速度が乗り、受けた腕ごと張は弾かれて吹き飛ぶ。黒土の上に深く長い衝撃の轍が引かれ、張はその終点からさらに遠くへと投げ出される。
「つっ……! なかなか頭を使った戦い方をするんですね」
 痛みに痺れる腕を振る。「けど――おかげで、捕えられました」
 その手首に、鎖状のオーラが繋がれている。その先端は竜の尾に絡みつき、囚人鉄球のようにその機動を縛めている。
 自らの血に宿る竜の力をオーラとして引き出す――それが張の能力の一片だった。オーラは濃縮された陽炎のように揺らめき、容易に断ち切れないことを竜へと悟らせた。
 張は自らの舞台の内へと竜を招き入れた。己の身を賭け、逃げ場のないリングの上へ。
 拳を構えて鎖を力強く引く。ぴんと伸び切った鎖は竜に巻き付いた手綱のようだった。張は鎖で結ばれた対戦相手に微笑む。
「では、力比べといきますか?」

 竜が激憤に燃え上がり、直立して空へと叫声を放つ。
 肺の中の空気をすべて吐き出すような怒りの咆哮が終わると、失われた力を充填するように大気を吸いこみはじめた。
 竜の体内へと集約されていく風のうなりを感じて、張は二の足を踏む。
「えっ! それはちょっと困る……!」
 慌てる少年の耳に、遠雷に似た銃声が風切り音に乗って届いた。
 竜の翼に短機関銃の弾丸が突き刺さる。棘のような痛みを受けて、竜は数拍の吐息をこぼす。
 張が振り返ると、放銃しながらこちらへと駆ける兵士の姿があった。
「よく頑張りましたな、竜人殿!」機銃による威嚇をつづけながらエドゥアルトが叫ぶ。
「ありがとうございます。でも、あの息吹を止めないと!」
「大丈夫でござる!」歯を剥き出して男は笑う。「すでに彼女が動いていますぞ」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 梢をしならせ、竜に向かって少女は跳ぶ。羽のように軽やかに、竜の口内へ向かう風の軌道に乗る。
 迷彩を殺気へと反転させて、ナイフのように前方の標的へと突き立てる。
 背後から迫る殺意の匂いを感じとり、巨竜が回首する。吸気は進行させたまま。だがこの匂いは、と竜は思った。どこかで嗅いだことのある匂いだ。

 梢の影を抜け、少女の顔が白日に明かされる。瞬間、竜の瞳孔が針のように窄まるのを見て、
「『Lost Memory』――あなたの恐怖を、思い出させてあげる」
 ハルピュイアは笑った。

 竜の精神世界の淀みへと、少女のユーベルコードが滑り込む。まだ生々しい精神の傷痕に指を入れ、沈んだ記憶の澱を掻きまわす。竜の全身が幻肢痛のような感覚に犯される。
『さっきも、君はそうやって息吹を撃とうとしたんだっけ――でも、君は騙されて、間違えて、罠にはめられて、それで……どうなったんだっけ?』
 顔のない少女が竜の眼前に浮かんで笑う。竜は少女を切り裂き、噛み殺し、叩き潰すのだが、瞬きすると少女は蘇って竜の目のまえにいる。繰り返される笑い声は竜の魂の皮膜を一枚一枚剥がしていく。その苦痛に耐えかね、竜は少女へ息吹を放とうとして、
『どうなったんだっけ?』
 それが少女ではなく人のかたちをした赤い花の群れであることに気づく。その真紅を認めたとたん、脳髄を切り裂くアルラウネの絶叫が逆流した。
『あの時は、すっごくすっごく痛かったよね。苦しかったよね』
 痛みの記憶と脳を砕く音がフラッシュバックして精神を埋め尽くす。竜の視界が真紅に染まった。
『こわくて、もう撃てないよね?』

 精神世界で竜と交錯し、現実世界のハルピュイアが着地する。「お見事」とエドゥアルトが口笛を吹いた。振り仰ぐと、吸気を止めて恐怖にひきつる竜の姿が見えた。風の流れが元に戻る。恐慌に押しつぶされた竜は、魂の月蝕をやり過ごすべく翼を広げて両足に力を込めた。

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「空に逃げるつもりですね……! そうはさせませんよ!」
 張は自らの手首と竜の尾に結ぶ鎖を引く。これから始まるだろう竜との綱引きに備えて腰を落とした。その時、
「頃合いだな――起動しろ、『出口のない処刑部屋』」
 竜の翼の根元から、無数のワイヤーが蜘蛛糸のように放散した。食虫植物が獲物を捕らえて口を閉じるがごとく、鋼線同士が噛み合って比翼を閉じ込める。先端に突いた鉤針が地面に突き立ち、竜の全身を大地へと縫いとめた。
「陽動が効いた。礼を言う」
 竜の後方から人工的な男の声が響く。陽光を背負い、機械仕掛けの銃兵が竜の背上に姿を現した。「だが、そう長くは持ちそうにないな」
 竜が下敷きにした大地から、無数の蔦が這い出てきている。蕾はつぎつぎと花開き、蛍火のような光を大気へと放出した。燐光を浴びて、竜の傷がみるみるうちにふさがっていく。
「再生までするのか。エドゥアルト、お前の予想が的中してしまったな」
 翼の破れ目がふさがり、竜の両目に光が戻る。脱皮して新たに生まれ変わったかのように、その四肢に力が回帰しているのが分かった。鋼線のワイヤーが、竜の身じろぎだけでぷつりと断ち切られてたわんでいく。
 生命の蔦はもはやルイスの立つ竜の背まで届きつつあった。蔦の根元へ銃を掃射しながら、ルイスは眼下の猟兵へと伝える。
「後はお前の仕事だ、エドゥアルト」

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「感謝するでござるよ、皆」
 ベルトポーチを開き、エドゥアルトは獲物を取りだす。鮮花を宿したアルラウネが二つ、陽光の下に姿を見せた。それらをすばやく両手に抱えると、エドゥアルトは大地を蹴って走りだした。竜に向かって一直線に突き進む。
「な、」張が慌ててその背中を追う。「なに考えてるんですか!? まさか――」
「外からの攻撃だけで奴を倒すことは不可能でござろう!」
 だが真紅の花を視界に認めた途端、竜は苛烈な拒絶反応を示すかのごとく咆哮した。今までと違う重く低い叫び声が農園の底に広がると、見えない息吹が大地を駆け抜けたかのように、一瞬にして千紫万紅が大地を覆い尽くした。咲き乱れる極彩色の刃が、竜を縛りつけていた最後のワイヤーを両断する。
 拘束から解き放たれた竜は四肢に力を込め、猟兵たちと距離をとるべく大地を蹴って後方へと跳んだ。
「うわわわわっ!?」
「これは……!」
 鎖で結ばれた張は竜に引っ張られて宙を舞い、ルイスは竜の背から振り落とされて花園の中に着地する。
 竜にとって後退の蹴り足は、同時に敵を迎撃する風の発生源でもあった。爛漫の花弁をすくい上げた烈風は、刃の花嵐となって三人へと吹きつける。
「止まるな、エドゥアルト! 走れ! 花は俺が撃ち落とす!」
 ルイスの叫びが、疾駆するエドゥアルトの背中を押し立てた。

 走るエドゥアルトには時間がひどくゆっくりと感じられた。彼の視界を埋める刃の群れが、後方からの銃撃を受けて次々に四散していく。その様子がコマ送りのように見えた。エドゥアルトが地面の花を踏み抜くたび、花弁がトラバサミのように突き立って彼の足を貫く。足甲から自分の血が噴出し、その飛沫が自分の顔にかかる。その光景さえも逐次的に映った。時間のページをめくるたびに鋭い痛みが上書きされていく。だが彼が速度を緩めることはなかった。呼吸さえ忘れて、戦場傭兵は刃の戦線を走り抜ける。ひょっとしたらこれは、とエドゥアルトは思った。走馬灯のようなものなのかもしれない。

 花刃の決死圏を越え、エドゥアルトの眼前に竜の顎が迫る。その頭上で、彼の到着を信じていたかのように張が待ち構えていた。
「竜人殿、今だッ! 思いっきりブン殴るでござるッ!」
「――――~~~~っ! 絶対……無茶しないでくださいよ!」
 両脚を血に染めてなお走りつづける彼の姿を見て、張は拳を強く握り固めた。この拳を打ち込むべき場所、竜の弱点なら自分が一番よく知っていた。精神集中の呼吸を廻し、足を開いて拳を引き、
「おりゃああああッッ!」
 花竜の角めがけて全力の正拳突きを叩き込む。
 全身全霊の一撃を受け、鉱石のごとき剛角が粉々に砕け散る。四散する欠片はビスマス結晶にも似た複雑な光彩の軌跡を描き、風の中に消えていく。
 激痛が巨竜の全身を駆け抜けた。思考がまるごと真紅に染まり、全神経を痛覚反射の炎が焼いた。肺が、脳が、血液が、全身が酸素を求めて竜の口を開かせる。その姿は無声の絶叫にも似ていた。
 そしてエドゥアルトにとって、それは待ち望んだ開門の瞬間だった。
「――タッチダウンだ!」
 地面を強く蹴りつけ、彼は死の暗き内側へ、竜の顎の中へと跳び込んだ。

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 開口はほんの一瞬だった。エドゥアルトが口腔内へ転がり込むのとほぼ同時、門が閉じられて唯一の光が潰える。閉じ込められた暗闇の中で、脈打つ肉の感覚だけが五感に伝わる。激しい異物感がエドゥアルトの全身にのしかかった。
 荒い息をゆっくりと数回吐いて、エドゥアルトは自分の拍動を落ち着かせる。そして自分に言い聞かせた。
 誰かがやらなきゃいけないことなら、それをやるのが俺の役目だろ。
 点火のための銃を強く握りしめ、
「――後は、任せたぜ」
 目を見開き、左手に抱えた爆弾に、右手で銃口を、押し当てる。
 祈るように引き金を引く――その手首を、背後から伸びる少女の手がつかんだ。
「だめだよ、おじさん」迷彩が断ち切られたみたいに、とつぜん暗闇の中に色の違う二つの瞳が浮かび上がる。「似たようなことわたしもやったけど、けっこう痛かったんだから。誰かが傷つくのはもう十分」
 緊張感のない少女の声色に、エドゥアルトは開いた口が塞がらない。
「な……なんでハルピュイア殿がここにいるでござるか!? 早く離れるでござ――」
「え? ごめん今わたし耳が聴こえないから。なに言ったって無駄だよ。でもまあ、おじさんが道を作ってくれたおかげでわたしも着いてこられたの。――ねぇ、もう巻き取っていいよ!」音量調整も今はうまくできないらしく、耳鳴りを伴うほどの少女の大声が暗闇の槽の中に何度も反響して、「あ、間違えた。こっちを引っ張るんだった」
 ハルピュイアの腰にはワイヤーが何重にも巻きつけられていた。鋼線の先は口腔外へと伸びている。少女はワイヤーを短く数回弾き、後方で待つ仲間へ合図を送った。そしてエドゥアルトの背中に手を回して抱きしめる。
「じゃ、爆弾置いて戻ろっか」
「え、ちょ……!?」

 合図を受けて、外で待つルイスがワイヤーのスイッチを叩く。と同時に竜の歯が内側から銃撃を受けて吹き飛び、脱出のための隙間を作った。鋼線はウインチにすばやく巻き取られ、その牽引力によって二人を太陽の下へ引きずり出し、そのままルイスの元へと運びあげた。
「作戦成功だな、エドゥアルト」
 ルイスに呼びかけられるが返事はしない。膝をついたまま、恨めしそうな視線でルイスを見上げる。
「全部、ルイス殿の仕込みでござるな……?」
「俺にもプランがあると言っただろう。その内容を聞かなかったお前が悪い」
 にべもなく答える機械兵士。エドゥアルトは渋々立ち上がり、
「でも口の中に爆弾を置き去りにして、一体どうやって起爆させるつもりでござるか? もし吐き出されたら何も――」
「大丈夫だ」ルイスは竜の頭頂に立つひとりの猟兵へと視線を送った。
「起爆なら彼がやってくれる」

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「ありがとうございます。エドゥアルトさん、ハルピュイアさん、ルイスさん」
 自分を見上げる仲間たちに、張は掌を合わせて返礼する。
「そして、あなたも」
 合掌は最後に足元へと向けられた。自分と竜とを繋いでいた鎖を外し、少年は竜へと拝礼の言葉を捧げる。
「お手合わせ頂き、どうもありがとうございました。この戦いは生涯ボクの記憶に残りつづけるでしょう。だから、あなたはあなたのいるべき場所へ――あるべき過去へとお戻りください」
 掌を離す。短く息を吐き、少年は己の肚に決意だけを残した。
 竜の額を蹴り上げ、張は蒼空を背にして跳んだ。
「どりゃああああああああ――――――ッ!!」
 竜の鼻先目掛けて、重力を乗せた全力の踵落としを打ち下ろす。
 激突の衝撃は竜の顎を強制的に咬合させ、口内の爆弾を噛み砕かせた。

 起爆。
 竜の体内に閉じ込められた音波の刃は、静謐に包まれて進行した。口腔内で炸裂した衝撃波は出口を求めて竜の奥深くへと潜行し、その進路上にあったすべてものを道連れにして弾けた。暗殺者のごとき無音の爆発だった。
 数拍の沈黙のあと、眠るように竜が倒れる。
 
 伸長していた樹木がゆっくりと静まり、草花が穏やかな色彩を取り戻していく。
 歪んだ大地が少しずつ沈降し、やがて地鳴りが止まった。
 束の間、農園が静寂を取り戻す――それは戦いの終わりを告げる閑静だった。 

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 丘の上から戦いの痕跡を見下ろす一団に混じり、誰に訊ねるわけでもなくハルピュイアがつぶやいた。「それにしても、なんで竜はこの農園にやって来たんだろう」
 頬に手を当てて首を傾げる。「アルラウネが食べたかったのかな?」
「オブリビオンの行動原理に意味なんてないだろう。こいつらは嵐や地震と同じだ。災害に理由を求めるのは無駄だと思うが」ルイスはひどく現実主義的な機械兵士らしかった。張は苦笑し、肯定とも否定とも言えない曖昧な相槌をうった。

「――ひょっとしたら、誰かを探していたのかもしれないでござるな」斜面に座るエドゥアルトが思いだしたようにつぶやき、懐に収めていた鱗をとりだす。バッカンボーと整地していたとき、壌土の中で見つかった鱗だ。「どこかで分かたれた自らの半身のような存在。きょうだいか、つがいか、あるいは友か。そういう大切な誰かの欠片を」
 陽光にかざすと、鱗は七色のやわらかい光彩を放った。その暖かな光は、彼らが打倒した竜の鱗とは別の輝きに思えた。
 朝靄のような沈黙が猟兵たちの間を漂う。ハルピュイアは唇の中で密かにつぶやく。それって、まるでわたしみたい。
 答えは誰にもわからない。忘れられることを忘れた過去と、正しく決別するために猟兵たちは存在する。彼らにわかるのは、また一つ過去をあるべき場所へと還したということだけだ。

 花竜が横たわる激戦の跡地には、亡骸を通じて肥沃の根が広がるみたいに、もう新たな緑が芽吹き始めていた。季節が巡れば枯れ枝もまた蕾をつけるように、農園の傷もゆるやかに癒えていくのだろう。
 蒼天からささやかな贈り物のような風が吹いて、若葉の匂いを猟兵たちに届けた。
 春はもうすぐそこまで近づいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『アックスウィザード商店開店』

POW   :    肉体を誇示した大道芸や声の呼びかけを駆使し、聴衆を集める

SPD   :    集まった聴衆達を会計の早さで次々とさばき回転率を上げる

WIZ   :    聴衆達にいかにこの商品が魅力的か話術を試みる

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●農園復興チャリティをしよう!

「ありがとうなぁ。あんたたちのおかげで、わしらも農園も救われたよ」
「アルラウネは……結局、全部吹っ飛んでダメになっちまったけどさ」息子は自分が引く荷車を振り返る。積載量の半分ほどを、かき集められた収穫物が埋めていた。「でも、無事だった作物がこんだけ見つかったのは、不幸中の幸いと思わねえとな」
 猟兵たちに向かって、父子は深々と頭を下げる。「本当に……本当に、ありがとう」

「農園はすっかり痛んじまってしばらくなんにも作れねぇけどさ、まあ竜に襲われたらどこだってこんなもんだし、ゆっくりやっていくよ」
「とりあえず、今から麓の販売所にこいつを持って行って、当面のお金はなんとか集めることにするわい」
 二人は荷車を押して、販売所に向かって歩いていく。小さくなっていく父子の背中を見送っていると、猟兵の誰かがぽつりとつぶやきを漏らした。
 ――わたしたちにできることって、もう何もないのかな?
 黙考のあと、別の誰かが応答する。
 ――彼らの販売所についていって、売り子を手伝うってのはどうだ? 能力を使えば耳目を集められる。あとはまあ、適当な売り物を用意してチャリティバザーみたいなものを開いてもいい。売り上げがでたらそれを全部農園に寄付して、復興の足がかりにしてもらおう。
 反対する者は誰もいなかった。各々の頭の中で客引きのアイディアの青写真が描かれる。
 猟兵たちはうなずきあい、それぞれの準備のために散らばった。

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-各々の手技や能力やアピール要素を用いて、販売所にお客さんをいっぱい集めましょう!
-能力を使って売り物を加工するなり自分で売り物を用意するなりして、それを販売することもできます。
-その場合、売るものは有形(物品)でも無形(パフォーマンス)でも自由です。
-すごい売りあげを出した猟兵には、父子から農園スタンプがもらえるぞ!(特に使いみちはありません)

-まじめでもカオスでも初参加でもなんでもOKです。
 激闘のあとのちょっとした日常のお祭りを、ぜひ楽しんでいってください。
バッカンボー・パディストロー
とりあえず、農夫のお二人ガ無事で良かったデス!ワタシも販売所デお手伝いさせていただきますガ、その前ニちょっとだけ、農園の方に向かいマス。

確かニ、この状態だとしばらくハ農作業は難しいでショウ。ですのデ、ちょっとしたお祈りをさせて頂きマス。『ツチノコ』サン、力を貸して頂けますカ?

ワタシは、この農園ガ元の実りを取り戻せるよう祈りを捧げながラ、【神通力解放】を使用。帽子の中の『ツチノコ』サンを畑に置き、土地の生命力を回復させていきマス。

その後ハ販売所に向かい、売り子の手伝いを行いマス!ワタシは、ワタシの案山子達と一緒に大道芸でも行いましょうカ!【POW】

「良き実りガ、どうかこの地に訪れますようニ」


星羅・羽織
アドリブ、他の人との絡み大歓迎!
好きに動かしていただいてOKです!

元凶を、倒せて、良かった。
私の知識、役にたった?
私は、少し、疲れたけど……問題ない。

でも、農園は、めちゃくちゃ。
せっかく、採った、アルラウネも、ダメになった。
私の、力不足。守り切れなくて、ごめん。

どれくらい、助けになるか、わからないけど。私も手伝う。
魔術で、作ったものを、売ってみる。

小瓶に、私の宇宙<魔力>を、少しいれて、栓をする。
瓶の中の、小さな宇宙。それぞれ、違う星が、きらきらしてる。
栓を、開けなかったら、いつまでも楽しめる。
いくつも作って、並べておく。

実験の、副産物の、お菓子もどう?
味や色が、くるくる変わる、楽しいお菓子。



 販売所の軒先に置いた棚台のうえに、羽織はひとつひとつ売り物を並べる。実験中に生まれたお菓子たち。空いた蜂蜜瓶に詰めこんで、ゆっくり手のうえで回してみる。菓子の色が賑やかに移り変わり、万華鏡のように色めくさまが瓶の底からよく見えた。
 それから、香水入れほどの小さな硝子瓶をとりだして並べる。中身は空っぽで、空気以外なにも入っていない。とりあえず今はまだ。
 陳列の出来栄えを確認して、羽織は満足げにふーっと息を吐く。その袖を小さな手が引いた。
「……」
 はじめての来客は小さな兄妹だった。背の低い羽織より、さらにふたまわりぐらい小さい。販売所につとめる誰かの子どもらしく、新人の売り子を興味津々に見つめている。羽織はポケットを探った。
「……よかったら、食べる?」
 空き瓶に入り切らなかった余りの飴菓子を兄妹たちの掌のひらに乗せると、ひまわりが弾けるように二人は笑った。
「ねえ、おねえちゃん。それなに? なにを売ってるの?」
 口の中で飴を転がしながら、ふたりは不思議そうに机上の売り物を見つめる。
「空き瓶?」
「ううん」
 羽織は微笑み、空の小瓶を手にとって少女の前にしゃがみこむ。
 女の子の手のなかに瓶を置き、その掌を包み込むようにしてやわらかく握らせる。
「これは、星の器。この中に、今から、君たちだけの、星空を、つかまえる」
 いぶかしむ少女のまえで羽織は瞳を閉じ、自分の心の内側に広がる星の運河を見つめた。
 波打つ光に手をかざし、小さな星の子どもたちをこの世界へとすくい上げる。
 掌の中に、まだあどけないきらめきの欠片があった。それは彼女以外の誰にも掴むことのできない揺籃の星々で、羽織は息を吹きこむようにそれらへ呪文をささやき、優しく小瓶の中へと注ぎ込んだ。
 兄妹はきらめきに目を見開く。
 掌のひらの上に、透明硝子を一枚隔てて、小さな銀河が閉じ込められていた。 
「わぁぁ……!」
「すごい――」
 星の光は、兄妹の瞳の中にも爛々と光輝を灯した。いつまでも星々を見入る妹に対し、兄は心配そうな表情を羽織に向けた。
「でも……ぼくたちお金、持ってない……」
「大丈夫。お金は、いらない。はじめての、お客さんに、私からの、プレゼント」
「い、いいの?」
「ありがとう!」
 二人の顔にまたとびきりの笑顔の花が咲いた。羽織と星の瓶を交互に見つめ、じゃれあうように笑いあう。ふと妹が、そのやりとりを見つめる羽織の表情に目をとめた。
「おねえちゃんも、なんだかうれしそう。なにかいいことあったの?」
 羽織はすこし考えるように首を傾けた。それから優しく微笑んで、記憶の手を引くように自らの胸に手を当てた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 あの時、羽織はひとり、農園の地に刻まれた激戦の跡を見つめていた。

 根元から傾いた木立。荒くえぐられた土壌。生命力を過剰に注がれ消魂した畑たち。灰の匂いのする風が吹き込んで、少女の髪を弾く。羽織はうしろ髪が隠れるくらいローブを引き上げた。別に寒いわけじゃない。ただ心のどこかが茫漠としていた。自らの魂の座に自らの殻をうずめて遠くを見つめる。この気持ちはなんだろう?
 大地の傷痕を眺めていると、いつの間にか隣に猟兵が立っていた。この戦場で知り合ったばかりの顔。だけど彼には、本当に大事な時に助けてもらった。
 麦わら帽子のバッカンボー。自分より頭一つと少し高いので、羽織はいつも見上げる格好になる。
 背中をぽん、と叩かれて、荒草の上で軽くたたらを踏む。見返すと、無言のまま親指で背後を指された。

 振り返ると、そこには農夫父子が立っていた。息子は父親を支えるように横に並び、父親は帽子を脱いで胸の前に抱いている。父子は羽織を見つめて眩しそうに目を細めた。
「ありがとうなぁ、羽織さん。あんたはあの竜から農園を守るために、たったひとりで息吹の前に飛び込んでいった」彼の両手に力が入り、抱える帽子の皺が深くなる。「わしらの農園の危機だというのに、わしらはあの時、ただ震えとるだけじゃった」その声は今また、あの時とは違う理由で震えていた。「一番最初に動いてくれたのは、他でもないあんたじゃった……」
 羽織に向かって深々と頭を下げる。
「ほんとうに、ありがとう」
 二人は顔を上げると、羽織の隣に立つバッカンボーにも向きなおる。「そしてバッカンボーさん、あんたにも」
「わしらには分かっとった。あんたがわしらだけじゃなく、この農園を、それどころか作物まで必死に守ろうとしてたこと。同じ農夫として、あんたはわしらの思いを必死に汲み上げてくれた。わしらにはそれが本当に、ほんとうに嬉しかった」
 遮るものが失われた農園の盆地に、乾いた風が花弁を撒いていった。田畑を覆う鮮やかな落花たちは、砕かれた大地に捧げられた献花のようだった。
「だから……わしらにはもう、それだけで……」農夫の父親は言葉に詰まらせた。それ以上先の言葉を続けることはできず、かわりに祈るように叩頭した。

 頭を下げるふたりを見て、羽織は胸がぎゅうっと締めつけられるようだった。
「……私、は」
 守りきれなかった。
 農園の大地か、アルラウネ。
 どちらかだけでも救うことは、本当にできなかったのか。
 胸を叩くこの気持ちはなんだろう――悔恨なのか、無力感なのか。
 自分の力不足を痛感した。もっと知識があれば。もっと魔力があれば。
「もっと、なにか。できた、はずなのに」
 守り、きれなくて、ごめん。そう口を開きかけた羽織の頭を、帽子の感触がすとんと包みこんだ。
 ざくざくした藁の手触り。バッカンボーの麦わら帽だ。荒い網目から細断された陽光が瞳に射しこむ。帽子のつば先から、羽織はきょとんとバッカンボーを見上げる。
「羽織サン、そんな顔しないで下サイ」
 彼は歯を見せて微笑みかえす。
「アナタがいたから息吹が大地を襲うことはなかッタし、あなたがいなければ竜を大地へと堕とすこともできなかっタ。――全部、アナタがいたおかげデス」
 彼を見上げる羽織の瞼に陽光がきらめき、瞳に小さな光を灯す。
「それに、皆さん知ってるでしょウ?」
 バッカンボーは羽織と父子に向かってウインクする。
「大地はネ、いつまでも傷つけられたままでいるホド、弱くも優しくもありまセンよ」

 彼の灰色の髪の中から、小さなペットが顔をだす。胴が膨れた金色の蛇――ツチノコだ。舌をちらつかせながら人懐こそうにチィチィとさえずり、羽織たちを見回す。バッカンボーは荒田の中央にそれを優しく降ろした。
 目を閉じて、バッカンボーは心の中に肥沃の大地を描く。新緑が繁茂して壌土を彩り、色めく花たちが恋人のように果実へ寄りそう。農夫の献身に大地が豊穣の実りを返す。その魂の大地から、バッカンボーは現実世界へ数本の蔦を引き出した。
 農園の壌土に光の蔦が咲く。蔦は互いの巻鬚を噛みあって地面にゆるやかな渦を巻く。複雑な模様を描く緑の円は、やがて発光する魔法陣を形作った。ツチノコは農夫にうなずき、陣の中心へと跳びのる。

「良き実りガ、どうかこの地に訪れますようニ――『神通力解放(カヤノヒメ)』」

 魔法陣が花開き、蛍火の種を蒔く。その上に立つツチノコの体を緑の燐光が包みこみ、内側に宿る豊穣の力を大地へと播種した。オーロラのような緑光の帯が農園の壌土を駆けぬける。極光はときおり古の豊穣の女神のような幻像を閃かせ、農夫たちに微笑むと、やがて地平線の彼方に消えていった。
 農夫の祈りに大地はすぐさま返報した。傷を縫い合わせるように根と根が噛みあい、地面と地面をつなぎあわせていく。ずれた地層が揺動し、元の安定を取り戻す。倒れた木々がすこしずつ立ち上がり、踏み荒らされた畑に滋養の種を運んだ。
 激戦の痛みにこわばる大地が、ゆっくりと解きほぐされていく。
「なんということじゃ……これは……」父子は息を呑み、大地が魂を急速に取りもどしていくさまを、呆然と眺めていた。「バッカンボーさん、あんたは……」
「オヤジ、こいつを見ろよ!」
 息子が畑に膝を立て、黒土を数度掻く。壌土の中に、アルラウネの若芽が顔をのぞかせていた。まだ人の姿をとるまえの、どんぐりのようなかたちの苗木だ。揺りかごの中の赤子のように穏やかに眠るその姿は、みずみずしい生命の弾力に満ちていた。
「う……う、ぅ」
 父子は壌土に膝をつき、ひしと抱きあった。涙がふたりの頬を流れ、黒土へと降りおちていった。
 羽織は麦わら帽を脱ぎ、顔の前に押しあてる。隣に立つバッカンボーの声はどこまでも穏やかで、蕾のようにちいさく羽織の心に寄りそって咲いた。
「大地に失敗ということばはありまセン。それは人だって同じ。寄りそう人がいるかぎり、何度だって蘇ル。――羽織サン、本当によく頑張りまシタネ」

 潤む瞳を麦わら帽の中に隠して、羽織は小さくうなずいた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 気づけば店先には人波ができはじめていた。
 そのほとんどが羽織の売り物目当てらしく、ねだる子どものために菓子の万華瓶を手にとる親子連れや、旅のお守りに星のボトルを持ちかえる旅人たちが並ぶ。一人で店を切り盛りする羽織の横顔は、忙しくもどこか楽しそうだ。
「すごい人気デスね。さすがデス、羽織サン。ワタシも負けてられまセンね」
 バッカンボーも自分の持ち場へと歩きだした。販売所の正面に案山子を立てて、陽気な声で歌うように叫ぶ。
「では、こっちも始めるとしまショウカ。イーニィ、ミーニィ、マイニィ。準備はいいですカ!」
 拍手を数回打ち鳴らす。すると三体の案山子たちが、糸の切られた人形のように動きだした。一本足で跳ねまわり、喜劇のようなステップを踏みはじめる。互いを追いかけあったり、器用に背中を飛び越えたり、つまづきそうになったところを踏ん張ったり、でも誰かの手袋が当たってやっぱり転んでしまったり。笑い声にひかれた子どもたちは親の手をひっぱり、見物に駆けつけた。
「見てあれ!」「おぉ?」「なにこれすごい!」「今日はいろいろやってるのねえ」
 明るい顔の旅客たちが、つぎつぎと観覧の円に加わっていく。

 観客の顔を見回して、バッカンボーは拍手のリズムを変える。軽やかな打拍に合わせ、案山子たちは向きあって踊り出す。プロムというよりカントリーダンスだ。そのなかにバッカンボーも混ざって踊る。踵を慣らし、帽子を遊ばせ、ときに案山子の手を取ってスタンダードの真似事をしてみたりする。見物人から笑い声があがり、口笛や拍手で煽りたてる声もどんどん強くなる。バッカンボーは観客を見渡し、全員に手招きして呼びかける。
「さあ、皆さんも踊りまショウ!」
 気前のいい旅客たちが待ってましたとばかりに飛び込んだ。一人また一人、その中には本職の踊り子たちもいて、バッカンボーの周りをくるくる舞ったり、案山子をパートナーに本物のタンゴを演じてみせたりした。親に背中を押されながら、子どもたちも舞踏円におずおず加わる。そうしてステップの渦はすこしずつ大きくなっていった。販売所そのものが、踊躍の熱に包まれていく。
 頃合いとみてバッカンボーが売り場へと視線を向けると、遠巻きにその渦を眺める羽織と目が合った。歯を見せて笑い、人波を掻いてバッカンボーが手を伸ばす。
「羽織サンも!」
 一瞬戸惑ったように彼女は目を開く。
「わたし、お昼は、あんまり、動きたく、ないんだけど」
 とためらう素振りをわざと見せて、
「……今日は、とくべつ」
 いたずらっぽく微笑んでみせる。ぴょん、と棚机を飛び越えて、羽織は差し出されたバッカンボーの手をとった。

 律動の渦の中央へと運ばれながら、羽織は踊る。手を取るパートナーに導かれて回り、時にその誘導をわざと蹴って惑わせる。
 羽織がその身を翻すたびに、彼女の身体から星の粒が溢れて宙空に瞬いた。髪が跳ね、爪先が伸び、指先が弾かれるたびに、星屑は羽織の動勢を描くように宙に散らばった。羽織のステップの軌跡に、大小の星々の群れが天の川のようにたなびく。
「おねえちゃん、きれい……」
 星を振りまきながら、羽織は踊る。
 はじめはぎこちなく、だけど少しずつ、軽やかに、優雅に。
 誰かと手をとり、離れて腕を組み、また別の旅人とステップを重ねる。
 めちゃくちゃなダンス――けれど愛おしい時間。

 父子も集会所から顔を出して、広場の熱狂を眺めてぼやく。
「羽織さんたち、ほんとすげえよなぁ。もう人集めどころの騒ぎじゃねえぜこりゃ」
「……」
「つーかオヤジ、めちゃくちゃ踊りたくなってんじゃねーか」
「……悪いか?」
「俺もだよ。行こう!」

 観客たちはどんどん膨らんでいく。立ち見だった人々も、そのうち踊りに加わる駆け足の渦の中に流れていく。
 口笛が鳴り、手拍子が煽る。即興の楽団がどこからかフライパンや盾を持ってきて、即席の打楽器を打ち鳴らしはじめる。すると旅人の輪のなかから笛の音や竪琴の音も混じだす。急ごしらえの演奏は、やがて巨大なうねりとなって販売所を包みこんでいく。

「もうステップ、覚えた。見て、完璧(どや)」「アハハ! さすがですネ。では次はクイックをやってみますカ?」「今の私は、無敵。どんとこい(しゅびびびび)」「……」「おまえ、羽織さんと踊らんでええのか?」「おいやめろ馬鹿オヤジ!」「おほしさま、きれー!」「ちくしょ、なんか他に叩けるもんねぇかな?」「お前らも早く来い来い!」「ほら、あたしの手をとって!」

 豊穣の大地に笑顔の花が咲き、祈りを込めて星々が踊る。
 この農園の地に、たくさんの出会いがあった。星たちはたがいに手を取りあって、大地の上で新たな星図を描いていく。

 星の光はいま、大地の上で一際まばゆく、生き生きと瞬いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルピュイア・フォスター
アドリブや絡みはOK

わたしは自武器7個を使ってのジャグリングをして人を集めよう

一通り人が集まり始めたらわたしも何か調理をしようかな
ハルピュイアの簡単クッキング
今日用意するモノは
・木炭
・火
・串
・一番大事な食材……わたしが木の上から落とした為無事だった奇跡のアルラウネ!
以上、味付けなし

手順は簡単、食材に串を刺して焼いたらアルラウネの姿焼きが完成
アルラウネから叫び声?…わたし耳が聴こえてないから…。
素材本来の味
きっと美味しい!
おそらく美味しい!
たぶん美味しい!

えっ危険?爆発する?技能を使ってないのに恐怖を与えてる?一旦撤収します。
では改めて普通の串焼きにします
でも作るのは農作物の姿焼き(味付けなし)



「向こうはなんだか盛り上がってるなぁ。私も負けてられない」
 店裏に荷物を運び終えて、ハルピュイアは額を拭う。ここは販売所の横に即席で仕立てた簡素な出店、彼女一人に任された城だ。看板には『なんでも丸焼き はるぴゅい屋』と掲げてある。
 ちょうど店先を旅客が通りかかり、ハルピュイアは軽快に呼びかける。
「そこのあなた。きみだよきみ。見るからに重たそうな斧をかついで、ちょっとお疲れじゃないかな?」
 みずからの獲物、複雑な色彩を描く七つの刃を器用にジャグリングしてみせながら、
「ここらで一休みしてはどう? 今ならわたしがすぺしゃるな料理をお届けするよ」
 手から手へ、軽やかに跳ねる刃は宙空にあざやかな虹の軌跡を描く。見物人が物見客を呼び、少女のまえにはみるみるうちに黒山の人集りができた。
「なんか面白そうなことやってんな」「すごいわねぇ」「きれいな色してんなあ」「君それ本当にジャグリングとかに使っていいやつ?」

「(いいかんじに人が集まってきたね)よし、ここでいよいよ今日の目玉を出そうかな」
 懐からハルピュイアが取りだしたものはなんと……
「じゃん。アルラウネだよ」
 なんと!? 苗木じゃない本物のアルラウネだ!
 しかも動いたり叫んだりしない、根を抜かれて処理済みのアルラウネだ。収穫されたアルラウネはすべて爆発したはずなのに、彼女は一体どこで入手したのか……?
「実はわたしが梢の上で遊んでた時、木立の中に落としちゃったやつが一個だけ残ってたんだ。それを思い出して探してみたの。そしたら赤い花もその時に取れちゃったみたいで、爆発の危険もないから持ってきたんだ」
 読者の疑問にもすかさず答えてくれるハルピュイア(フォロー体質)。だがこの唯一残ったアルラウネ、彼女はいったいどう活かすというのか……?
「じゃあ、さっそくこの子を料理するね」
「え?」「いまなんて言った?」「ちょ」「まさか……」
 ざわつくギャラリーを横目にハルピュイアが台下から取り出したのは炭、火、そして串。
 すぐそばの空き場にかんたんな地火炉をつくり、炭火を熾すと……
「えいっ」
 アルラウネに串を差し!
「ぽいっ」
 なんと!
 アルラウネを!
 焼き始めた!

 なんの!
 工夫もなく!
 丸焼き!

 騒然とする観客一同。抜根されてるのでアルラウネが悲鳴をあげることはなかったが、火がアルラウネを炙っていくにつれ、表皮から謎の紫色の煙がもくもくと吹き出しはじめる。みるからにヤバそうな煙は、たちまち群衆のあいだに流れこみ……。

「なんじゃこりゃあ!」「く、くさい!」「いやこれぜったい身体によくないやつ!」「おげぇ――――――ッ」「目にしみるゥゥゥ!」

 一瞬で販売所はちょっとした地獄絵図だ!
 口元を抑えたり頭を抱えたりしながらお客さんたちの絶叫が響く。ちょっとちょっと、そんな必死に叫んじゃって、君たちの方がアルラウネみたい(笑)的な表情で群衆を微笑ましく見守るハルピュイア。立ち込める煙の中心にいるのに、彼女はなぜ余裕なのだろうか……?
 もし今ハルピュイアが自身のユーベルコード『Lost Memory』を使ったとしたら、彼らの目のまえには釜をぐつぐつ煮込んでイーッヒッヒと高笑いする魔女みたいなハルピュイアの姿が浮かび上がるに違いない……。

「火を止めろォ!」「なにかんがえてんだこの子!」「まるで食い物になる気配がないんだが!」「煙でハイになってんじゃねえか?」

 お客さんからめちゃくちゃな非難が飛ぶが、いまのハルピュイアは耳が遠くなっているのでお前らの声なんか完全シャットダウン、心にまったくノーダメージだ。
 ここまで計算していたのだとしたら、ほんとうに恐ろしいやつだ……ハルピュイア……!

「えーっと、なんか変な煙が出てきたから、これは一旦持ち帰らせていただいて……(奥に引っ込む)……じゃあ、あらためて普通に料理を作っていくね」
「最初からそうしろ!」「なんだったんだ今の寸劇!」「俺らの粘膜をただ痛めつけただけじゃねぇか!」「可愛いからってなにやっても許されると思うなよ!」「俺は許すが?」

 色とりどりの非難が矢のように飛んでくる。遠巻きに様子を見守っていた農夫父子もこれには呆然。
「なんだったんじゃ今のは……」
「ああ……」(普通に生のアルラウネを薬の素材として売った方が良かったのでは……いや、よそう……おれの勝手な思い込みでみんなを混乱させたくない……結果として人を集めることには成功しているわけだしな……)
 さておき、店先に戻ってきた少女の両手に抱えられていたのは、余った農園の生野菜だ。
 ハルピュイアはそれを串にぶっ刺し、さきほどの熾火にかざして焼き始めた。
「ゴクリ……」「こ、これは……」「一見ふつうの野菜の丸焼きに見えるが」「お嬢ちゃん、こいつは一体」
「食べてみたらわかるよ」
「なんて自信満々な顔だ……」「あの大事故のあとになんでこんなキリッとした顔ができるのか」「ただの丸焼きにしか見えんが……」「なにか深い工夫があるのかもしれんぞ」「食ってみるか……」

 パクリ。

 ……。
 …………。
 ………………。
 こ、これは……!

「ふつうだ!」「ふつうに野菜をただ焼いただけの味!」「だれでもつくれるやつだ!」「さてはこいつ、料理ヘタだな!」

 やっぱりだめでした! 非難の声ふたたび! 「あれ〜〜〜〜?」と頬に手を当てるハルピュイア。
 なんということでしょう。戦場ではあんなにかっこよかったハルピュイアも、台所に立ったら途端にぽんこつ少女のぽん子になってしまった。ハルピュイアはすごい暗殺の技術を持っているけど、料理とか家事とかの生活力はぜんぜんなかったのか……。

 でも大丈夫。見る人によってはそこもチャームポイントになりうる……いわゆる『ギャップ萌え』というやつだ。
 その証拠に、店先にはハルピュイア目当てで並んでそうな男性客がちらほら見える。妙に髪の毛とか襟とかをととのえてそわそわしているのでとっても分かりやすい。この調子なら用意したぶんの野菜は全部売り切ってしまえそうだ。

「うーむ。あれを狙ってやっとるなら、大したタマじゃ」
「いや……あの子は全部天然だと思うぜオヤジ……」
 腕を組んで唸る父子の様子を見ても、当のハルピュイアは首を傾げて目をぱちくりさせるだけだ。
「? よく分からないけど」少女は無垢な瞳で賑わう人々の列を見わたす。「みんな楽しそうで良かった」

 文句を言いながらもどこか幸せそうな行列は、もうちょっとだけ続きそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

張・小龍
「大道芸の心得はないのですが…こういうのでどうでしょうか?」

竜虎相搏を使用した火吹き芸と、身体能力とダッシュ、ジャンプ、空中戦の技能を利用して軽業風な演武を披露していきます

今回の一件で倒れてしまった木を手頃な薪のサイズに竜化した爪でカット
竜虎相搏で火を噴いて、たいまつのように燃える薪を何本か作ります
実際は本当に火が噴けるだけなのですが、火吹き芸っぽく見えるんじゃないでしょうか?

燃える薪を5本ほど作ったら同時に空中に投げ放ち、それを追うように走って跳んで
そして空中で回転しながら連続蹴りを放って薪を蹴り砕きましょう

空に火の粉が舞うことになりますが、着地と共に掌をパンッと鳴らして火を消し去ります


ルイス・アケーディア
あれだけ派手に壊されて、それでももう前に進み始めているのか。
自然も、自然と共に生きる人間も、強いのだな。
覚えておこう。

俺たちにしか出来ない仕事は終わったんだろうが、乗りかかった船だ、仕方ない。
とはいえ俺には、売り子をする交渉力やパフォーマンスで人を楽しませる愛想はない。

日中は他の猟兵の出し物を回ったりもしながら仕込みを進める。
本番は日が暮れ始めてから。

打ち上げ花火で客足を集める。
『燦爛たる宝物庫の管理者』、
こういった使い方をするのは初めてだが、花火の成分だって要は金属だ。
装置がなくとも何とかなるだろう。
可能なら他にも花火を持ち込んで、遊んでもらうのもいいかもしれないな。

アドリブ・絡み歓迎



 木立の中をひとり、目当ての倒木を探して張は歩く。
 中ごろで幹の根元から折損した老木を見つけた。竜爪で寸断し、手頃な薪へと生まれ変わらせる。

「よっと」
 薪をいくつか拾いあげ、ウォーミングアップがてら品玉をはじめる。右から左、肩から背中へと薪木を回し、腰を通して踵で蹴りあげ頭の上へ。薪と戯れるように張は套路を練った。
 頭に乗せた薪木を化勁の要領で真横に弾くと――
「やっ!」
 落下する薪が地面に触れるすれすれで、足払いの動きで運動エネルギーを刈りとる。回転の勢いを殺すことなく地面を叩いて立ち上がり、伸ばしきった足をすばやく下ろす。つま先に乗ったままだった薪木が、ようやく重力に気づいたみたいに地面に落ちて転がった。
「――ふうぅ」
 浅く息を吐き、両手を崩して練武を終える。予行演習の感触は上々だ。戦いの疲労は残っていたが、演舞を阻害するほどの重みはない。これなら販売所で行う本番でも、悪くない動きを見せられそうだ。
 薪を束ねる張のもとに、木々の隙間から金属が重なりあう硬質の拍音がすべりこんだ。

「器用だな」それは機械の掌が鳴らす称賛の拍手だった。
「演舞というやつか。無手の世界は奥が深い」
 梢を払い、機械の大男が姿を見せる。草道を伸して歩みよる男の身長は、張の二倍ほどもあった。太陽を背にした男の影に、見上げる少年の全身はすっぽりと覆われる。
「あ、どうも」ぺこりと頭を下げる。「ってルイスさんじゃないですか!? 思わず二度見しちゃいましたよ。何してるんですかこんなところで?」
「この手の余興に疎くてな。勉強がてら他の猟兵の出し物を見てまわっていた。ここに来たのはたまたまだが」
 機械の瞳の黒点が収束した。電脳の中で映像をリプレイしているみたいに。彼の瞳はここではないどこかに一瞬だけ焦点を結んだ。
「お前の演舞はすごいな。力半分といったところだろうが、それでも俺は目を奪われた」
「それは……ありがとうございます。なんか照れますね」
 飾り気のない機械の声色で、直接的すぎる称賛を受けて張は面食らう。
 彼の態度はいつも画然としていて、そのことばの一つ一つが嘘偽りなく本心から放たれていることがよくわかった。それだけに正面から受けとると、気持ちのごまかしが効かなくって取りあつかいに困ってしまう。
 頬を掻いて困ったように笑い、言及の矛先をルイスに返した。
「でも『勉強がてら』ってことは、ルイスさんもなにか実演で人を集めることを考えてるってことですよね?」
「ああ……」語尾を決めかねるような響き。
「俺にできるかどうかは分からんが、一応な。考えていることはある。
 だが迷っているのも確かだ。俺のような戦場上がりの機械兵に、人の心を果たしてどれだけ理解できているのか」
 ふむ、と張は腕を組む。たしかに目のまえの無骨な機械兵士は、こういったお祭りごとに進んで興じるタイプには見えない。だが他人との相関をここまで俯瞰的に見ているとは思っていなかった。
「俺の外見は周囲に威圧感を与えるだろうしな。逆に集客を邪魔してしまわないかと考えてしまう。愛想の一つでも覚えていたら良かったんだが」
 張はルイスのことを、迷いなど持たない完全無欠の機械兵士だと思っていた。どこまでも合理的で、ある意味では冷徹な思考を完遂する鋼鉄の存在だと思っていた。
 それがいま、少年のまえで春蕾のようなためらいを見せている。機械の心と人の心のはざまを揺れ動く振り子みたいに。
 彼も自分と同じように、自由を――自分の外側にある何かを求める旅の途中にいるのかもしれない。そう張は思った。

「もし、お前がよければ――」組んでいた腕をルイスは解いた。吐息のような間があった。「俺に協力してくれないか?」
 機械が発する声であるにもかかわらず、張はそこにためらいと決意の揺らめきを感じとった。張にとって、それはこれ以上なく人間らしい響きだった。
 張は微笑む。最初から答えは決まっていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 夕陽が山間へと沈みつつある薄暮の刻。
 販売所横の空き場を借りて、張は道行く人々へと軽妙な口上を投げかける。

「旅の方も行商さんも、良ければひとときお目を拝借。今から皆さんに、ちょっとした芸技をお見せしますよ! 席代はいりません、お代はお気に召したらで結構!」
 年端もいかない少年の闊達な呼び声に、数人が物珍しげに足を止める。見慣れぬ風体の香具師を見定めようとする人々が、張のまわりをゆるやかに取り囲む。
 人垣は期待と疑念が半々というようなざわめきに満ちていた。

「えへへ。どうもありがとうございます。期待に応えられるようにがんばります。それで皆さん、もしボクたちのパフォーマンスに満足いただけたなら、そこの販売所でぜひお野菜を買っていってくださいね」
 『ボクたちの』、という言い方に観客の何人かが引っかかったらしく眉根を寄せる。
 だが張はかまうことなく足元の薪束を拾いあげ、薪を一切れずつ取りだすと、枕木を立てるように地面に五つ、等間隔に並べていく。
 群衆に向かって一礼すると、張は深く息を吸いこんだ。そして薪の列めがけ、
「ふッ!」
 鋭く吐息を吹きつける。針のような息に乗って蒼炎が閃いた。空中を走る火線は直線上に並ぶ薪の芯をつぎつぎ貫き、青色の火を灯す松明へと変えた。斜陽がつくる長い影のなかに、五つの蒼炎が幽玄と揺らめく。

「なんだこりゃあ……!」「青い炎なんてはじめて見た!」「ほんとに火を吹いてるみたい」「一体どういう仕掛け?」「とんでもねぇなオイ!」
 戸惑いと感嘆がないまぜになった声が客席から漏れる。掴みは上々といったところだ。彼らの好奇心の種火を絶やさぬよう、張は松明を拾いあげて手早く本命の演舞へ移る。
「では、参ります――」
 両手に抱えた五つの松明。そのすべてを同時に上空に向かって放り投げる。観客たちも一様に、宙に散らばる蒼炎の残像を目で追いかけた。
 弾かれるように張は走った。販売所の壁を蹴り、三角跳びの要領で鋭角に跳躍する。
 弓弦のように身体のひねりを引き絞る。重力に競り負けて松明が落下する、それらと交錯する瞬間に上半身を翻し、松火に向けて回し蹴りを叩き込む。最小限の動作で最速の連打。
 切れ目のない一連なりの打撃音が広場に響き、炬火がかき消える。観客には五つの松明が同時に消灯するように見えただろう。
 斜陽を背にして張が着地する。その頭上で、一拍遅れて火の粉が弾け、青色の流星となって降り注ぐ。
 張は目を閉じたまま、頭上の空気に向かって掌打を打ちつけた。空気中を伝わる打拍の振動が火の粉を払い、流星をかき消した。
 息を呑む一瞬の間のあと、観客達から万雷の拍手が湧きあがる。
「マジか坊主!」「なんだ今の!」「早すぎて火の粉しか見えなかった!」「とんでもねぇなオイ!」「もっかい見せてくれ!」
「えへへ、どうもどうも。でもまだこれからが本番ですよ」

 かたわらの道具入れをひっくりかえして、張は砲丸のような球体を三つ取りだして掲げる。
 ナッツのような色合いに、雁皮紙の外殻に包まれたそれは――
「じゃん。みなさん、花火って知ってますかね?」
 へその緒のような導火線が頂点から伸びる、まさしく花火の五号玉だ。
 だが見物客たちの反応は鈍い。興味と困惑が混交する視線を小さな香具師に向けるのみだ。
「うーん。やっぱりみなさん知りませんか……じゃあ、きっと今から凄いものを見られますよ」
 張は花火玉に向けて、ふうっと蝋燭を吹き消すような淡く細やかな息を吐く。
 青色の火花が導火線の先端に灯った。ジジジ、という微かな燃焼音とともに導火線が燃え落ちはじめる。
「それじゃあ行きますよ……それッ!」
 一個、二個、三個。火のついた花火玉を、張は上空に向かって蹴り上げた。斜光にきらめく球影の行くすえを追って、観客たちは一斉に空を見上げる。
 張だけがその中でひとり、販売所の屋根上を振り仰ぎ、その上に立つ人影を見つめていた。
「ルイスさん、あとは任せました」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 視線を受けとり、ルイスは少年へとうなずき返す。
 販売所の屋根の上で、機械兵士はその時を待ち構えていた。
 蹴り上げられた花火玉がルイスの目のまえを通り抜ける――その瞬間、ルイスは玉に手をかざし、
「『燦爛たる宝物庫の管理者』」
 この世界にユーベルコードの楔を打ち込む。

 ルイスの視界内でのみ、磁力が稲妻の姿で可視化される。空へ向かう五号玉はさながら帯電する彗星のようだった。雷光の先端を一条掴みとり、花火玉のなかで眠る金属たちへと繋ぐ。神経通電にも似た触感が指先を走り、気づけば自分の電脳が視界内の金属物質すべてと接続されているような感覚に没入する。
 稲光のひとつを手に取った。手綱を絞る動きで思いきり引き込むと、その突端に繋がれていた花火玉が空に牽引されるみたいに加速していく。
 花火玉はやがて上昇限界点に到達し、加速度と重力の境界線上で一瞬動きを止めた。それと同時にルイスの意識が五号玉の内側へと潜りこむ。
 皮膜の中に包まれて眠る銅やリチウム、マグナリウムの粒たちを探りあて、ルイスの精神は彼らと繋がる。
 自分の掌に焦点を結ぶと、糸のような光の根が握られていることに気づいた。クラッカーの紐を引っ張るように、それらの根を勢いよく引き抜く。
 殻を破るみたいに花火が弾けた。

「わぁぁぁ……!」
 空を見上げる子どもたちから嘆息が漏れる。炸裂の音に震えながらも、その瞳は七彩のきらめきに囚われていた。舞い散る火花の行き先を、消えるその瞬間まで追いかける。
「すっげぇや……」
 どうやらこの販売所に集うほとんどすべての人たちが、花火を初めて見たらしい。夕闇を彩る大輪の開花に、息することも忘れて見入る。
「あぁ……」「綺麗な色……」「なんっつう魔法だこりゃあ……!」

 花火の歴史とは、火薬の分枝にたまたま咲いた異花にすぎない。
 銃砲すら十分に波及していないこの世界の、さらに片田舎の人々にとってみれば、花火はまさしく色めく光の魔法として映るだろう。

 眼下で広がる感動の吐息が屋根上まで伝わった気がして、ルイスは満足げに頷いた。
 花火の種なら尽きぬほどある。
 薄暮の空に向けて、ルイスは魔法の花を咲かせつづけた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「――大成功、ですね」
「ああ」
 販売所の屋根上に腰をおろし、二人は並んで薄明を照らす花火を見上げる。

「それにしても、これだけの花火玉をよくこんなにすぐ集めてこられましたね」
「……たまたま、ツテがあったんでな」ルイスは目を細めた。消えゆく花火の残像の中に、誰かの顔を思い浮かべているみたいに。「事情を伝えたら、俺の“勤め先”が用意してくれた。この手の仕事には妙に張りきる奴らでな。尋常じゃない量を持たされた」
 その口調にはどこか楽しげな含みがあった。微笑ましさを感じて張の頬も緩む。
「へえ。いい人たちなんですね」
「……ああ」
 彩色の火花が夕空にほどけて、一拍遅れて砲雷の音が鳴る。
 花火たちの雷声の隙間に、心地よい黄昏色の沈黙がすべりこんだ。
 遠くを見つめていたルイスは、思い出したみたいに傍らに手をかざし、新たな一尺玉を手元へ引き寄せた。

「不思議なものだ。村に放てばただの兵器だが、空に放てば花火になる。中身は同じ火薬だというのに」
 ルイスは掌の上で回転する花火玉を天球儀のように眺めて言った。「人に向ければ殺せる炎を、今は皆で見上げて笑っている」
 磁力の手綱を引き、掌の中の火薬玉を空へと打ち出す。一発、もう一発。黄泉へ帰る船を見送るみたいに、その行き先をいつまでも視線で追う。
「それってつまり――」
 張は立ち上がった。振り返ってルイスを見つめる。
「もし戦争がこの世からなくなったとしても、兵器は誰かの役に立てるってことですよね」
 両手を広げ、屋根の上から眼下の人々の存在を示す。
「こんな風に人々を笑顔にできる」
 花火の雷音にかき消されることなく、幸せそうな人々の笑い声が屋根の上まで届いた。
「……」
 ルイスは口を開きかけ、だが言葉を発することはせず、静かに張の顔を見返した。
 頭上で花火が弾けて、二人の輪郭をプリズムのような反射光で照らした。

「……あ、あれ? ボクなにか変なこと言いましたか?」
「いや――」機械仕掛けの相貌が、柔らかな微笑をかたちづくる。
「そうかも、しれないな」
 ともすればそれは、人間以上に人間らしい繊細な感情の表れかもしれなかった。

「人々の笑顔のために、か」
 花火玉を夕空にかざしてルイスはつぶやく。
 張は頷き、その導火線にふうっと吐息の炎を吹きつける。

 晩景の空に、二人は最後の花火を打ち上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
生きてりゃまたやり直せますぞ!またKawaiiアルラウネチャンをイッパイ作ってくだされ!

それにしても売り物っつってもなァ…
流石にヌカ・コーラ・クアンタムはA&W世界にはヤバイしレーションは単純にクソ不味いし…
マーマイトしか持ってねぇ!まあ塩味効いてるから調味料にはいいか…

【医術】の知識でマーマイトは健康に良いことをアッピルしますぞ
またさっきの知らない人を出し…別の知らない人だ!【俺】!?だから誰だよ!?

しかも会場が盛り上がるほど【俺達が追加】されてるッ!?怖いよぉ!
仕方ねぇこの俺達…俺達?をサクラ代わりにして大盛況っぽく演出するしかねぇでござる!

アドリブ歓迎、成功失敗はお任せしますぞ!



 アックス&ウィザーズの夕暮れに、花火が打ち上がる半日まえのこと。
 農園を経つ父子は、この先の仕事について思いを馳せながら荷車を引いていた。

 ――バッカンボーさんたちのおかげで大地に活力が戻った……ああ、何度思い出しても信じられん。
 ――ああ、ありゃ本当に奇跡みたいな時間だった……だけどわかってるか、オヤジ。崩れた建物を片して、区画をきちんと整えるには……。
 ――そうじゃな、やっぱりどうしたって人手がいる。こればっかりは地に足つけて地道につづけんとな。ワシもさすがに農園を始めたときみたいに一日中荷運びはできん。
 ――売り子ついでに、この辺に人足のあてがないか訊いてみるか。
 ――そうじゃな、それがいいじゃろう……。

 そんな二人の何気ないやりとりを、木立の裏で耳にする黒髭が一人。
 その正体は、通りすがりのモン娘好き……否。
 数多の戦場を駆け抜けた、歴戦の猟兵。
 エドゥアルト・ルーデルその人である。


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┃       番外編
┃ ~ 黒ひげハートフルショッピング ~
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「うぐぐゥッ……!」
 黒髭をたくわえた口元を両掌で覆い、男は驚嘆の表情をつくる。
「一体なんでござるかこれはッ!?」
 販売所脇に急造された屋台の前。エドゥアルトは手に持った小瓶を空高くかかげる。そこには優勝者がトロフィーを誇示するかのような若干の演技臭さがあった。

「この小瓶! うまい……とはお世辞にも言えないでござるが、独特の塩気と臭いがクセになるッ! 止めたくても止められない、やめたいでももっと舐めたいッ!」
 なぜか小瓶を高く持ち上げたまま、エドゥアルトの声はどんどん勢いを増していく。
「まるで初恋ときめく春の味ッ! いや、俺は何を言ってるんでござろうか? とにかく不思議なネイチャー風味でござるこれはッ!」
 声は広場中に響きわたった。通行人もなんだなんだと足を止め、屋台の周りに集まりはじめる。

 ギャラリーたちに見守られる中、エドゥアルトはハッと驚きの表情を見せる。ていうか、実際に口に出して言った。
「――ハッ! これは……この味は……酵母? いや……ビールの酒粕……か?」
 髭の周りに集中線が走る。
「それを凝縮処理することで、このような蜜状に加工しているのでござるな! だとしたらとんでもねぇことですぞ!」髭の周りを稲妻が閃き、カメラが髭に寄る!

「ビール酵母は栄養素の宝庫! ビタミンB、ミネラル、食物繊維、必須アミノ酸が大量に含まれているッ!
 特に必須アミノ酸は体内で精製できないにもかかわらず、健康維持のために重要な役割を果たす栄養素ッ! タンパク質という宮殿を支える支柱にござるッ!

 ビタミンB群もまた同様! 取り込んだ種々の栄養素をエネルギーへと変換する、いわば力の方舟ッ!
 それらの重要な活力の担い手たちが、この中に全部凝縮されているなんて……驚き・桃の木・ハロルドの木でござる!

 おそらくこの蜜ひとくち分の栄養を麦穂で摂取しようと思ったら、大樽ひとつぶんは必要となるに違いないッ!」

 打ち合わせしてたみたいな長セリフをペラペラと喋りだすエドゥアルト。
 いったい誰に向かって話しているんだ……旅客たちはいぶかしむが、男が語る奇跡のごとき食物に興味を惹かれているのもまた事実。
 屋台を囲む人だかりはつぎつぎと厚みを増していく。

 エドゥアルトはざわめく観客たちにササッと視線を走らせ、頃合いを見たかのように屋台へと詰め寄った。
「店主、どこだ! 出てくるでござる! 箱だ、箱を持ってこい! この瓶の中身、箱ごとダースで買いますぞ!」
 平台の天板から身を乗りだすエドゥアルト。
 すると、屋台の奥から店の主人と思しき人影が姿をあらわす――!

「呼んだか? 店主は俺でござるが」
 なんと!
 それはエドゥアルトとまったく同じ顔の黒髭の男だった!

「えっ!? 俺がもう一人!?」
 妙に芝居くさく目を見開くエドゥアルト。本人以上にざわめくギャラリーたち。
「一体どういうことでござるか……!?」
「フフッ、まだわからないでござるか?
 もう一口、コイツを食べてみるでござるよ」
「そんな……まさか!」
 ペロ……。
 エドゥアルト(一号)が蜜を舐めたとたん、屋台の平台の下から男がもうひとり飛びだしてくる。
「やれやれ、止まらないでござるな」
 新たに出現した男もやはり、エドゥアルトとまったく同じ顔だ。
 息を呑むエドゥアルト(一号)。どよめく観客たち。
 俺たちは一体何を見せられているのだろう……
「これってつまり……」
「ああ。この蜜、一口食べるだけで分身が生まれちまうんでござる」
「あまりにも栄養価がありすぎるもんでね」
「そんなことが……」
「起こりえるのさ」
「そう」

「「「俺たちの仲間、マーメイトならね」」」
   ―― My mate, Marmite ――

 ………………。

 一瞬にして水を打ったような静寂に包まれる販売所。
 エドゥアルト(たち)は小瓶を掲げたポーズのままカメラ目線で止まっている。監督のカットの声がかかるのを待っているのか……? それとも販促ポスターの撮影か?
 謎が謎を呼ぶが、これはいくらなんでも……

「あ、あやしい……」「あやしすぎる……」「三つ子の旅芸人か?」「くそっ、まんまと乗せられたぜ」
「だが……」「ああ、あの小瓶から漏れ出る独特の香り」「妙に気になるのもまた事実……」
「フフ……ならば物は試し。お一つ買ってみてはいかがですかな?」
 エドゥアルト三号が急に首を動かして観客たちに呼びかける。
 見え見えの挑発。だがギャラリーのひとりが受けて立つかのように、人垣から一歩前に出た。
「ならば……俺が買ってやる」
 ザン! と屋台の前に仁王立ちするスキンヘッドの男。このあたりの商人の元締めらしく妙に威圧感がある。モブなのに顔が濃い。代金をジャッと掴み、エドゥアルトの顔の前に差し出す。
「俺らに妙なものを掴ませようったってそうはいかんぞ」
「毎度あり~~。
 ――答えなら、舐めてみればすぐわかることでござる」

「いくぞ」
 商人仲間たちが固唾を飲んで見守るなか、顔濃い男がマーマイトを口にする。
 ペロリ。

「……! こ、これは……ッ……!

 まずい!
 ふつうにまずい!」

「あっ」「やっぱり?」
「っぐぇ――――ッ! なんだこのしょっぱさ! 臭み! とてもじゃないがこのままでは食べらねえッ! ボェェェッペッペッ、蜜っていうかほとんど薬品じゃねえかこれは!」
「最初からそう言ってるでござる」(一号)
「騙したな!」
「最初からうまいなんて一言も言ってないでござる」(二号)
「ちくしょー!」
 期待を裏切られた濃い男は小瓶を地面に叩きつけんと手をあげる。
 だが黒髭は片唇だけを上げて笑い、男に語りかけた。
「気づかないござるか?」
「え?」
「貴殿の全身に、溢れんばかりのパワーがみなぎっているのを」
「……えっ? こ、これは……!?」
 濃い男の体表から、生命エネルギーのオーラがほとばしっている……!

「な、なんだ……!? 全身に感じるこのパワーは……!? 溜まってた疲労がぜんぶ嘘みたいに吹っ飛んじまいやがった……!
 身体が軽い! 背中に羽根が生えたみたいだッ! 今なら小舟だって片手で運べる気がする!」
「それが――マーマイトでござる」
 嘘……だろ……どよめきがギャラリーに広がる。

 そこから先は、まさに雪崩を打つようだった。

「ちくしょう、俺にもくれ!」「私もよ!」「く、くっせえ!」
「だが癖になる臭さだ! この味もッ!」「もう一口……!」
「止めたいのに舐めたいッ!」「ああ、全身にパワーがみなぎるッ!」
「くそっ、これが……!」「この味が……」

「「「「「俺たちの仲間、マーマイト」」」」」
    ―― My mate, Marmite ――

「毎度あり~でござる」
 旅客たちの間を飛ぶように売れていく蜜の小瓶。
 黄金色の蜜の波が、みるみるうちに群衆の海へと流れ込んでいく。
 気づけば販売所の周りは、オーラをみなぎらせたマーマイターたちで溢れかえっていた。

 屋台の異様な盛り上がりに気づき、農夫父子たちが販売所から顔を出す。
「え、エドゥアルトさん……この騒ぎは一体……!?」
 当惑する父子に向けて、エドゥアルトは穏やかに語りかける。
「農園復興に力役が必要なら、彼らに頼むといいでござる。一人で十人分のはたらきをしてくれますぞ」
「な……」
「雇金には、これを使うといいでござる」
 そう言ってエドゥアルトは、売り上げをすべて収めた小袋を農夫の掌に乗せる。
「え、エドゥアルトさん……どうして……!」
「どうしてワシらのために、こんな……」
「お礼なんていらないでござる。拙者の願いは、ただ一つ」
 男は振り返り、沈みゆく夕日に目を細めた。

「また、あの可愛いアルラウネちゃんをイッパイ作ってくだされ」
「あ……ぁあ……! エドゥアルトさん、あんたという人は……!」

 夕日に向けて去っていく背中に、父子はいつまでも頭を垂れる。
 黒髭は振り返ることなく、ただ天へと突き上げた親指を二人に示す。

 彼の正体は、数多の戦場を駆け抜けた歴戦の猟兵……否。
 通りすがりの、モン娘好き。
 エドゥアルト・ルーデルその人であった――

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┃      番外編
┃  黒ひげハートフルショッピング ~ 完 ~
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大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月31日


挿絵イラスト