死にたがりアリスはオウガになりたい
「……全部、思い出した」
アリスラビリンスにて、命からがらオウガの魔手から逃れ続けてきたアリス……20代後半の日本人女性は、元の世界へ戻れる『自分の扉』を見付けた瞬間、元の世界での記憶を全て取り戻した。
「私は、チサ……。この向こうは……嫌……!」
幼い時から行われ続けてきた両親の虐待、小中学校での凄惨なイジメと引き篭もり、自殺未遂と隔離病棟の入退院の繰り返し、多額の借金による生活苦でやむなく働き出したキャバクラで目の当たりにした男たちの醜い欲望とストーカー被害、それから、それから……。
「帰りたくない……死にたい……もう何処にも行きたくない……!」
生きている事自体が苦しくて恥ずかしい。
あの日も隔離病棟のベッドの上で安楽死を願ったら、アリスラビリンスに迷い込んだ。
チサは振り返る。
すぐそこに迫るは、異形の真紅のドラゴン。
ああ、食べられるのか。最初は嫌だったけど、今はもうどうだっていい。
むしろ死ねるのならこれ以上の幸せはない。
……私なんて食べても美味しくないだろうけど。
だが、ドラゴンはチサを見下ろすと、静かに告げた。
「喰らうのは止めた。汝の瞳の奥に闇が見えた。汝は素質がある」
ドラゴンは鼻先をチサへ擦り寄せながら告げた。
「汝、我と共に生きてゆく事を望むか?」
「……へ?」
チサの周囲には、いつの間にか同じ顔の偽アリスたちが見詰めていた。
ドラゴン……ジャバウォックはチサに問い掛ける。
「問おう。汝、ヒトの生を捨て、オウガとなって我らと共にアリスを喰い殺さぬか?」
その問いに、誘いに、彼女は思わず手を差し伸べてしまう。
「まさに絶望の国のアリス……。一筋縄では行かなそうな事件だね……」
蛇塚・レモン(白き蛇神オロチヒメの黄金に輝く愛娘・f05152)は、集まってくれた猟兵たちへ依頼内容を説明してゆく。
「今回はアリスラビリンスの事件なんだけど、みんなには絶望したアリスを立ち直らせてもらいたんだよね……」
アリスが、絶望している??
レモンは頷く。
「うん、元の世界へ帰る『自分の扉』を前にして、失われたアリスの記憶が全部蘇ったんだよね。でも、その記憶が……不幸の連続ばかりで……」
予知で垣間見たのか、相当つらい内容だったのか、レモンは瞳を閉じて首を横に振る。
「でね? 見兼ねたオウガが情が湧いたみたいで、アリスをオウガに改造すべく、扉がある世界を『絶望の国』にしちゃったんだよっ!」
なるほど、だから『絶望の国のアリス』……。
「みんなには、まず世界を絶望化させたオウガを撃破してもらって、巨大な鳥籠と変貌した絶望の国でアリスのチサさんを奮い立たせてほしいんだよっ! チサさんを引き留めようとするオウガたちの邪魔が入るだろうから、充分に気をつけてねっ!?」
アリスのチサを説得をしながらの戦闘……。しかも、チサの闇はかなり根が深そうだ。生半可な説得では、善意の押しつけと捉えられて拒絶されるだろう。
「難しい任務だけど……みんななら、やり遂げてくれると、あたいは信じてるよっ!」
レモンがそう告げると、アリスラビリンス……鳥籠めいた『絶望の国』へ転送してゆくのだった。
七転 十五起
なぎてんはねおきです。
ダークなアリスラビリンスの新シナリオフレームです。
絶望したアリスの心象風景が具現化した鳥籠の世界での狂騒、お楽しみ下さい。
『補足』
第一章では、アリス(チサ)は人間ひとりがすっぽり入る鳥籠の中に引き篭もったまま、巨大な鳥籠(絶望の国)の中心にそびえる監獄塔のてっぺんで漂っています。まずは、この世界を作り変えたオウガを撃破しましょう。
第二章・第三章でチサの説得を試みましょう。ここでチサが心を取り戻せるかが成否の鍵です。本シナリオの目的は『アリス(チサ)を絶望から救う』事ですので、扉をくぐる・くぐらないかは本シナリオでは問いません。
それでは、皆様のプレイングで絶望から救ってあげてくださいませ。
ご参加をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『魔炎竜ジャバウォック』
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POW : Manxome
【混沌の呪詛】を籠めた【咆哮】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【正気】のみを攻撃する。
SPD : slithy
【全身から無意識に噴出し続ける混沌の炎】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を焼き尽くして】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ : mimsy
レベル×1体の、【掌】に1と刻印された戦闘用【複製ジャバウォック】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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ベイカー・ベイカー
チサとやらの気持ちはアリス仲間として分からんでもないが、オウガの仲間入りだけは許せねえよ。アリスとしてはな。
オウガが『情』?人食いの化物の風上にもおけねえヘタレめ。据え膳の餌を食わないオウガとか去勢された犬以下だぜ。みたいに【挑発】しながら気づかれないようにオウガにUCの火種を【先制攻撃】で放つ。
相手のUCは正気を削る咆哮らしいが俺はお前らオウガ共に散々な目に合わされた後に自分の記憶を全部焼いたりしたから元々あんまり正気じゃないぜ。(※【狂気耐性】)
そして火種さえ当たればこの【全力魔法】による炎【属性攻撃】は長命種の記憶だろうが焼き尽くす。お前もアリスみたいに自分を探して永遠に彷徨い続けな。
薄暗く、すえた臭いがその世界は蔓延していた。
地平線には等間隔で天へそびえ立つ巨大な金属柱。それが天の頂きで一点に集中して、この世界全体を覆い尽くしていた。
まるで巨大な鳥籠である。鳥籠の中に、世界の全てが収められているのだ。
そして、その中心には、これまたうず高くそびえる監獄塔。それこそがチサの絶望の象徴なのだろう。その証拠に、監獄塔の最頂点には……人間ひとりがすっぽり収まる鳥籠の中で引き篭もっているチサ本人が漂っているではないか。
絶望の国……此処は元の世界に絶望したアリスであるチサの心象世界と表現しても過言ではない。
この世界で、チサは絶望に沈みながらオウガへ改造されてゆくのだ。
「チサとやらの気持ちはアリス仲間として分からんでもないが、オウガの仲間入りだけは許せねえよ。アリスとしてはな」
ベイカー・ベイカー(忘却のススメ・f23474)はアリス適合者である。
彼自身もアリスラビリンスを経験した身として、チサのオウガ化を止めるべく監獄塔へ走る。
「俺の記憶は、俺自身の願い……地獄の炎で燃やしちまった。だが、オウガになるくらいなら、嫌な記憶なんて焼き尽くしたほうがマシだって、今なら胸を張って言えるぜ?」
「そうか、汝は記憶を焼く者か」
「ッ!?」
ベイカーの頭上から声が降ってきたかと思えば、彼自身を押し潰さんとオウガ『魔炎竜ジャバウォック』 が急降下してくる!
「随分とデカい的だな、狙い放題だぜ」
ベイカーがジャバウォックへ手をかざすと、オブリビオンを骸の海に葬送するための武器――喪失の炎を砲弾めいて連続射出した!
「オウガが『情』? 人食いの化物の風上にもおけねえヘタレめ。据え膳の餌を食わないオウガとか去勢された犬以下だぜ」
熱と光が幾重にも軌道を描き、魔炎竜へ殺到してゆく!
「ぬぅ!?」
しかし、ジャバウォックは錐揉み回転しながら炎弾を緊急回避!
そのままベイカーの目の前へ降り立った。
「……強襲を防がれたか。だが、我のユーベルコードをまともに受ければ、いかなる百戦錬磨の勇者であろうが一撃で戦闘不能に陥ることは必死である!」
ジャバウォックの言葉に、ベイカーは呆れたように鼻で笑う。
「何言ってるんだ? 一撃で戦闘不能に陥るのはそっちの方だぜ」
ベイカーはジャバウォックを指差すと、高らかに死刑宣告を行った。
「“アリスは神々と怪物たちに復讐することにしました。(ノロワレロ・チニオチヨ)”……とっておきだ。俺は神様も怪物も仲間外れにはしないぜ」
次の瞬間、ジャバウォックの翼が炎に包まれたではないか!
「ぐぬぅッ!?」
翼を素早く羽ばたき炎を振り払うも、時既に遅し。
隠密性の高い忘却と喪失の炎が赤炎竜の背中を焼き焦がしてゆく!
初撃の炎弾は、このユーベルコードの伏線だったのだ。
「その炎は、一瞬で百年から千年分の記憶を焼き尽くす。長命種の記憶だろうが関係ねえ。お前もアリスみたいに自分を探して永遠に彷徨い続けな」
「ぐおおぅ……! さりとて我は悠久の時を生き抜いた存在……! たかが千年分の記憶とこの身が焼かれようが、チサの元には向かわせぬ……!」
ジャバウォックは自身が噴き出す炎で忘却と喪失の炎へ対抗、自身の存在焼失に拮抗している!
「今は倒れるわけにはゆかぬッ!」
なんと、身を焦がす炎を完全に自身の炎で相殺してしまった!
「うがあああぁァァァァーッ!」
そのまま裂帛の気合とともに、混沌の呪詛を籠めた咆哮をジャバウォックは放った!
まともに喰らえば、肉体ではなく精神に傷を負い、正気を失い戦闘不能に陥ってしまう!
だが、ベイカーは平然とその場に佇んでいた。
ジャバウォックは信じられないと言わんばかりに目を見開いた。
「何故だ……? 我の咆哮を真正面から受け止めて、何故平然としていられる?」
「へえ、これ、食らうと正気を失うんだな。けど、俺、もともと正気じゃないぜ? 俺は自分がお前らオウガ共に散々な目に合わされた事は“知っている”し、そのおかげで自分の記憶を焼いたくらいだぜ。その行動に正気度があるわけないだろ」
自身のメモ帳をめくりながら、記憶を失う前の出来事の記録にベイカーは目を通しならが赤炎竜へ告げる。
「てか、俺の炎を相殺されたのも驚きだよな? ユーベルコードは完璧に入ったはずだぜ」
「勝負は時の運、ということだ。今回は我に分があったということであろう」
ジャバウォックは手負いのまま空へ浮かび上がると、首尾を翻して後退してゆく。
ベイカーは空を飛ぶ相手を追走するも追い付けず、事後は別の猟兵たちへ委ねることにした。
成功
🔵🔵🔴
オルヒディ・アーデルハイド
ボクは知っている
オブリビオンになって永遠に迷い続けるアリスがいる事を
オウガになっても幸せになるわけじゃない
アリスラビリンスは絶望の国なんかじゃない
無限の可能性を秘めた未来ある世界
未来をどうきりひらくかはアリス次第
今日も明るい未来に導くため
愛と勇気と希望を抱きしめて
エーデルシュタインヘルツが輝き
ユーベルコード『華麗なる姫騎士』を使って
星空のドレスを身に纏った姿に変身して
ボクはプリンセスナイトとして戦う
希望の白銀の槍(ホフヌングランツェ)を抱きしめて
飛翔能力で魔炎竜ジャバウォックへ一直線に向かっていく
アリスを護るべく、監獄塔へ向かう魔炎竜ジャバウォック。
其の行く手をオウガブラッドのオルヒディ・アーデルハイド(アリス適合者のプリンセスナイト・f19667)が阻んだ。
「チサのところへは行かせないよ」
「……童よ、邪魔立てするならば許さぬ……!」
両者が向き合い、臨戦態勢へ移行。
若干6歳のオルヒディにとって、目の前のジャバウォックはそびえ立つ燃える巨壁に等しい。
だとしても、彼……見た目は可愛らしいお姫様姿のオルヒディは、魂の宝石『エーデルシュタインヘルツ』を握り締めながら、目の前のオウガへ告げた。
「ボクは知っている。オブリビオンになって永遠に迷い続けるアリスがいる事を」
「……なんだと?」
訝しがるジャバウォック。
構わずオルヒディは言葉を継いだ。
「元の世界が苦しいことだらけだったからって、この世界でオウガになっても幸せになるわけじゃない」
「否。チサは人間を恨み、世界を呪う漆黒の闇を抱えている。我がチサの闇を絶望の世界として体現させ、チサもそれを受け入れた。故に、我こそがチサの理解者となるのだ」
「魔炎竜ジャバウォック、それは違うよ。アリスラビリンスは絶望の国なんかじゃない。無限の可能性を秘めた未来ある世界だ。そして、その未来をどう切り拓くかはアリスのチサ次第だ」
「チサはその未来を捨てたのだ!」
オルヒディの主張を否定すべく、ジャバウォックはユーベルコードを発動させる。
自身の複製を100体召喚させ、オルヒディの周囲をずらりと取り囲んでしまった!
「小さき者よ、そのまま我の複製に蹂躙されるがいい」
「そうはさせないよ。チサが未来を捨てたって? そっちが捨てさせただけだよね? ボクは今日も明るい未来に導くため、愛と勇気と希望を抱きしめる!」
エーデルシュタインヘルツが強い輝きを放つと、オルヒディは変身を遂げる!
ロリータドレス風の拘束服は光の粒子となって、輝くオルヒディの身体の周りに渦巻くと、足元から徐々に光の粒子が星空のドレスとなって具現化してゆく。
これは……いわゆる変身バンク!
ジャバウォックも其の一部始終に終始釘付けで攻撃をためらってしまうほどの神々しさを放っていた!
これこそ、オルヒディのユーベルコード『華麗なる姫騎士(スプレンディッドリッター)』!
その腕の中で、想像力で無限の進化を遂げる白銀の槍『ホフヌングランツェ』を抱えながら決めポーズ!
「プリンセスナイト、ただいま参上だよ。フワリン、お願いね」
複製に足止めをさせて逃げるジャバウォックを追うべく、オルヒディは浮遊する白い生物ことフワリンの背に跨り、白銀の槍を抱えたまま高速飛行を開始する。
『此処から先には向かわせぬ!』
複製たちが合体して強化を図り、本体を追い掛けるオルヒディの眼の前にそびえ立つ。
だが、オルヒディは構わずそのまま、光の粒子を彗星めいて後引きながら一直線に突貫!
「前を退かないなら、そのまま突撃だよ」
『ぐぬぅ!?』
胴体にポッカリ大穴が空いた複製たちは、闇の中へ溶けるように消失していった。
そして遂にジャバウォック本体を槍が捉える。
「逃さないからね? えいっ!!」
「ぐわぁあぁーッ!?」
威力が増強されたホフヌングランツェがジャバウォックの腹を深く刺し貫くと、どす黒い血と炎を噴き上げながら悲痛な叫びを上げながら天高く急上昇!
「なんて強さだろうか! だが、まだ我は斃れるわけにはゆかぬのだ
……!!」
「わっ
……!?」
体が持っていかれないように、フワリンにしがみついたオルヒディは真上を見上げる。
急上昇することで無理矢理に槍の穂先を自身の体から引き抜き、そのままジャバウォックは逃走してしまう。
だが、先程の一撃はかなりの痛打になり得たはずだ。
この勝負は、オルヒディの勝利と言えよう。
成功
🔵🔵🔴
エンティ・シェア
オウガになどされてしまったら、彼女の絶望は永遠に終わらない
それは、彼女の望むところではないだろう
さて、そこをどいてもらおうか
私はチサ嬢に会いに行く
……いや、そんな建前はいらないね
チサ嬢を死なせてあげに行くよ
だって、それが彼女の望みだろう?
などと言って微笑んでおこう
歪んだ正義を、君は見過ごせるかい
君が逃げれば私は彼女を殺しに行くよ
仲間を作る機会を逃してしまうねぇ?
それを拒むなら、逃げずにおきたまえよ
呪詛への耐性で、彼の技も喧しいだけの咆哮にしてしまいたいね
まぁ、多少正気が削られたところで、やることは変わらない
踏み込む時には「僕」と代わっておこう
鋒で血を得て、色隠しだ
断頭台の刃を贈っておあげよ
魔炎竜は気が付けば、赤毛の猟兵に付き纏われていた。
影もなく、音もなく、それはジャバウォックを止めるためにやってきた。
エンティ・シェア(欠片・f00526)……多重人格者のビーストマスターにして咎人殺し。空翔ける魔炎竜を空中に浮遊する長くて大きな蓮の葉『夢現』でピッタリと追尾するエンティ。
埒が明かないと判断したジャバウォックは、自らが監獄塔への道を塞ぐ障害として、赤毛の猟兵の眼の前に立ち塞がった。
それを満足気に様子を見守るエンティが、ようやく口を開いた。
「オウガになどされてしまったら、彼女の絶望は永遠に終わらない。それは、彼女の望むところではないだろう」
「何を言うか。チサの苦しみは我々でなければ理解できぬ」
「人喰いどもに人間の苦悩を理解できるのかい? それこそ何を言ってるのやら」
エンティはジャバウォックの言葉を一蹴すると、確固たる意思を籠めて敵へ言い放った。
「さて、そこをどいてもらおうか。私はチサ嬢に会いに行く。……いや、そんな建前はいらないね」
監獄塔の頂点に漂うチサが入った鳥籠を指差しながら、エンティはニヤリと微笑んだ。
「チサ嬢を死なせてあげに行くよ。だって、それが彼女の望みだろう?」
「汝……正気か? 猟兵がアリスを殺すなどとは前代未聞なりや?」
ジャバウォックが焦燥する様子に、エンティはしめしめと内心ほくそ笑む。
「前代未聞というならば、オウガがアリスを仲間に引き入れること自体も当てはまるわけだけどね。さぁ、歪んだ正義を、君は見過ごせるかい?」
明確な殺意を監獄塔へ放つエンティに、ジャバウォックは低く唸り声を上げて睨み付ける。
「おっと、君が逃げれば私は彼女を殺しに行くよ。仲間を作る機会を逃してしまうねぇ? それを拒むなら、逃げずにおきたまえよ」
「……無論、我は逃げぬ」
行く手を阻むと決めたジャバウォックが息を吸い込んだ。
正気を蝕む魔炎竜の咆哮がエンティへ襲いかかる……!
だが、その前にエンティは刀身に“Confessio”と刻まれたナイフ『鋒』で己を自傷、黒い熊のストラップ人形へと血を滴り浴びせた。すると、その身体の中からメギメギと音を立てて拷問具……ユーベルコード『色隠し』で封印状態を解かれたギロチン台が出現したではないか!
更に、いやなことをわすれられる『Sweet』を一口だけ、ぺろりと彼は舐め取った後にすかさず人格を入れ替えた。
そして『僕』……敵をころすための人格は、勢いよく放たれた混沌の呪詛を籠めた咆哮を意に介さずに、そのまま空中を飛び跳ねるようにジャバウォックへ肉薄してゆく!
「ただ、やまかしいだけ、ですね……」
ほんの少しの白い粉末の摂取のおかげで、正気度を削られようが行動に支障をきたすことがなくなった『僕』は、断頭台を敵の首へはめようと操作する。
しかし、ジャバウォックは咄嗟に身を捩り、断頭台は首ではなく右前脚にはめられた。
これに『僕』は落胆の声を漏らした。
「首を、はねるつもりでした。でも、からだのけっそんはあるいみ、死ぬよりもくるしいでしょう」
「やめ……!」
ジャバウォックが抵抗をしようとした次の瞬間、右手を振り上げ、そして勢いよく振り下ろした。
「刑罰、執行です」
その言葉の数瞬後、ジャバウォックの右前脚は炎と鮮血を撒き散らしながら、だらしなく地面へ転がったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ミケ・ナーハ(サポート)
アドリブ歓迎
常に可愛くセクシーです♪
スタイル抜群で
くノ一装束やビキニ等
露出度が高いです♪
動くと豊満な胸がぷるんと揺れます♪
「私のドキドキ分かりますか?」
特技は【誘惑】
『ミケ流誘惑術』『セクシーチャーム』
調査から戦闘まで色々♪
むにゅっと自慢の胸を押しつけ
抱きつき甘えたり♪
「やあっ♪」
武器は、サイクロンシューズを履いた美脚での蹴り【グラップル】
胸の谷間から出す手裏剣
「これでどうですか♪」
誘惑不可なら『超忍者覚醒』
大きなぬいぐるみの様な
虎型ガジェット『スア』が
風属性の暴風や雷属性の雷撃等を
口から吐く【属性攻撃】
「だーめ♪」
敵の攻撃を【見切り】華麗に回避
【念動力】で物を動かしたり
自分を宙に浮かせたりも
アネモエ・アワゾー(サポート)
愉快な仲間の戦場傭兵×シーフ、52歳の男です。
普段の口調は「男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)」、嘘をつく時は「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
右前脚を失ったジャバウォックの前に、白と黒の猫耳と尻尾を持つキマイラのくのいちが躍り出てきた。
「あの監獄塔へは近付かせません♪」
ミケ・ナーハ(にゃんにゃんくノ一・f08989)は露出度の高いくノ一装束に身を包み、零れ落ちそうなほどの豊満な胸元を前に突き出しながらはにかんでみせた。
「ドラゴンさん、あっちのアリスよりも私のほうが可愛いでしょ? 私とイイコトしませんか♪」
「……ヌゥ?」
ジャバウォックの全身から噴き出す混沌の炎が、足元の地面ごと周囲を焼き尽くす。
その極悪な熱量を前にした者は本来ならば近付くことすら敵わないはずなのだが、ミケは平然と近寄ってくるのだ。
「ほら、もっと近くで見て? はぁん♪」
自身の着衣をギリギリまではだけさせ、混沌の熱量により汗ばんだ肌がじっとりと衣服の生地に染み込み、余計に体のラインを浮き彫りにして扇情的な雰囲気を醸し出していた。
ジャバウォックは決してミケに誘惑されたわけではない。
だが、不思議と眼が吸い寄せられてしまう。凝視してしまう。
「何故だ? その身を焼かれても、なお我に己の四肢を見せ付けんとする?」
問い掛けられたミケは、うっとりと上気だった表情で答えた。
「だって、私は可愛いでしょ♪ もっと見せてもいいんですよ?」
ぷるんっとたわわに実った両乳房が左右に揺れる。
事実、ミケの誘惑術はユーベルコードによって一時的に強化されているのだ。
相手が人外でも、無意識にミケの魅力の釘付けになってしまっていた。
だからこそ、他のことが意識の外になり、気がつくのが遅れてしまう!
ジャバウォックが当惑しながらも前に進み出た、次の瞬間であった。
突然、ジャバウォックの目の前の地面が陥没し、そのまま首までずっぼりと沈んでしまったのだ!
「よし、嬢ちゃんが惹き付けてくれてたおかげで、落とし穴を掘ることが出来たぜ!」
こっそりサポートとして駆け付けていたアネモエ・アワゾー(愉快な仲間の戦場傭兵・f21021)が喝采の声を上げた。
ミケの誘惑で完全にお留守になっていた足元を、アネモエはユーベルコード『もっと愉快な仲間達』で呼び出した10人の陽気な小人達とともに掘削していたのだ。
「炎で糞熱い中、懸命に足元を掘り進んで正解だったな。どうだ? 思いの外、深い穴でびっくりしただろう?」
「ぐぬぬ、我が動けぬならば、複製存在で汝を蹂躙するまで!」
ジャバウォックは自身の複製を召喚すると、一斉にアネモエへ殺到させようと突撃させる。
アネモエは猟兵になりたててで、今回のサポートが猟兵としての初仕事。つまり真正面から攻撃を向けられたら太刀打ちできない!
「……と、思うだろ? んな事は俺が一番良く分かってるんだよな、これが」
アネモエが後退してゆく。
それを逃さんと複製品が追い掛けてゆくと、またしても次々に地面が陥没して複製品が尽く足を取られてしまっていた。
「小人たちが助言してくれたんだぜ。戦闘力はないが、こういう搦め手ができるってわけだな」
上手く策にハマってくれたジャバウォックを鼻で笑いながら、アネモエはミケに大声で告げた。
「嬢ちゃん! デカいの一発、決めちまえ!」
「了解です♪」
ミケは熱波に負けず、尚もジャバウォックへ急接近!
穴に身体の下半分がハマったおかげで、ミケの目の前にはジャバウォックの顔面が真正面に向いているのだ。
「やあっ♪」
可愛い仕草とは裏腹に、サイクロンシューズを履いた美脚での痛烈なハイキックがジャバウォックの顔面に直撃!
もんどり打ったジャバウォックは痛撃を受け、複製品たちはまとめて消失してしまった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
夷洞・みさき
咎人が咎人を作る、ね。
現世の生に対して咎を犯すことを唆すのなら防疫しないといけないね。
オブリビオンに堕とすなら、いっそ同族殺しを唆してはどうだい?
【SPD】
焼魚になる趣味は無く。暑いのも苦手。
戦域を海水で満たす。
海で消火。例え蒸発しても呪詛交じりの水蒸気で満たす。
呼吸をすれば水蒸気は空気に混じる
熱を下げれば海水が体を骸の海にへと禊落とす
己には慣れ親しんだ水気ではあるが。
君は今まで現世の人をどれだけ殺したのかな。
その咎の重さだけ海水【呪詛】は君を浸食する。
海水から出られない様に【恐怖を与え】錨【ロープワーク】【傷口をえぐり】拘束【車輪】で【踏みつける】
同族殺しは結構真面目に提案しているんだよ?
穴からどうにか這い出たジャバウォックは、半魚人めいたキマイラの女猟兵こと夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)の姿を見て息を呑んだ。
今までの猟兵とは存在の異質さが際立っており、さしもの魔炎竜も恐怖を感じ取ってしまったのだ。
「我が、恐怖する、だと……?」
「別に戸惑うことはない。生きているなら、むしろ自然なことだよ、そうだと思わないかい?」
夷洞はまるで詩を詠み上げるが如く、言葉を口にしてみせた。
不思議とその一語一語がジャバウォックの恐怖心をより煽ってゆくのだった。
震えだす魔炎竜を前に、夷洞は蕩々と語り始める。
「さて、咎人が咎人を作る、ね。現世の生に対して咎を犯すことを唆すのなら防疫しないといけないね。ああ、これは提案なのだけど、彼女をオブリビオンに堕とすなら、いっそ同族殺しを唆してはどうだい?」
「……汝の言葉が理解できぬ。我は同胞を増やすことが目的なり。同族への反抗の手段に非ず」
ジャバウォックは本気で目の前の猟兵の異質さに、ただただ怖気付いてしまう。
「同族殺し……それではオウガブラッドとして猟兵に加担する存在のごときなり。それを許すなど、言語道断!」
恐怖を憤怒で払い除けたジャバウォックは、自身の複製品を大量に召喚してゆく!
各個体から発せられる熱量に、魚人型キマイラの夷洞の表情が曇る。
「参ったね、このままでは焼き魚になってしまいそうだ。暑い、もとい熱いのは苦手だからね」
そういう夷洞は自身の足元へ意識を集中させると、ユーベルコード『浸食領海・潮騒は鳴り響く(シンショクリョウカイ・ワタツミ)』を発動させた!
「彼方より響け、此方へと至れ、光差さぬ水底に揺蕩う幽かな呪いよ。我は祭祀と成りて、その咎を禊落とそう」
詠唱が唱えられると、その足元から大量の海水がジャバウォックと夷洞をあっという間に飲み込んだ!
「ゴボッ!?」
急激に競り上がる海面から逃れられず、ジャバウォックはそのまま水没!
ジャバウォックだけに留まらず、鳥籠の世界は今や、ユーベルコード製の海に一部が浸かってしまった。
その中で、ジャバウォックは海底火山めいて海水を蒸発させながら白い煙を纏いつつ遊泳していた。
(まずい! 早く海面から飛び立たねば!)
酸素供給を断たれた上に、周りの海水が燃え盛る炎の勢いをほぼ遮断してしまう。
これでは複製品も力を振るうことが出来ず、次々と沈没してしまうのだ。
「己には慣れ親しんだ水気ではあるが。なるほど、火蜥蜴にとっては、こうも適応出来ないものか」
最初はジャバウォックの炎と呼吸に混じった水蒸気を利用してやろうという考えだった。
だが、複製で熱量が増え、それに比例して蒸発する水分量も増えたことにより、このような大規模な海面上昇を実現させてしまったのだった。
これは夷洞にとっても、良い意味で思わぬ誤算であった。
海中でもがき苦しむジャバウォックに、彼女は審問する。
「君は今まで現世の人をどれだけ殺したのかな。その咎の重さだけ海水……呪詛は君を浸食する」
「ゴボボ
……!?」
呪詛という名の水圧がジャバウォックを徐々に押し潰してゆく。
完全に身じろぎひとつ取れなくなってしまった相手に、夷洞は念を入れてとどめを刺す。
「さぁ、更に深く沈むといい。熱を下げれば海水が体を骸の海にへと禊落とすだろう」
ジャバウォックの身体に錨を乱暴に突き刺して身動きを封じると、その身体は不思議と地面をすり抜けて更に“沈没”してゆくのだ。
恐らく、この真下を骸の海と繋げたのだろう、ジャバウォックの存在が徐々に希薄になってゆく。
「チ、サ……チサ……」
最期の力を振り絞り、ジャバウォックは己が見出したアリスの名を呼ぶ。
それを、夷洞が操る七咎潰しの大車輪が阻んだ。
「そんなにアリスが愛おしいのかい? 同族殺しは結構、真面目に提案しているんだよ? なんなら、まだ考え直す猶予はあるが」
「チ、サ……我が……愛し、の、アリ、スは……我、が守……る……!」
ジャバウォックは首を縦に振らなかった。
夷洞は海水の中で肩を竦めると、大車輪を高速回転させた。
「君がアリスに友愛を見出すのは勝手だが、それはどう足掻いても破滅への道だ。潔く沈め、魔炎竜」
渦巻く大車輪がジャバウォックの全身を何度も往復し、完膚なきまでに轢殺してしまえば、海水はみるみるうちに引いてゆき、残るのは赤珊瑚めいた魔炎竜の鱗が数枚のみ残されていた。
大成功
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第2章 冒険
『籠の鳥の「アリス」』
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POW : 塔を守る疑似生物と戦い、正面突破
SPD : 塔や独房の鍵となるパズルを解き、扉を開く
WIZ : 牢番や拷問吏を騙す、情に訴えるなどして塔に入り込む
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この世界を創造したオウガを撃破した猟兵たち。
これで監獄塔までの道程を邪魔するものは居なくなった。
君たちは監獄塔の頂上で、鳥籠の中に引き篭もるアリス――チサの姿を見上げる。
あの場所へ向かうには、監獄塔を警備しているオウガの牢番や拷問吏を相手取って強行突破するか、どうにかやり過ごして塔を駆け上る他ないだろう。
と、ここで、猟兵たちの心のなかに、チサの言葉が直接届き始めたではないか。
『人間なんて信用できない』
『私は価値のない存在だ』
『生きていることが申し訳なくて死んでしまいたい』
『それでも生きなきゃいけないなら、化け物になって復讐してやりたい』
『でも、もうここから一歩もでたくない……』
それはチサの感情が念話になって猟兵たちに届いた言葉の数々。
恐らく、これらに対して呼びかければ、チサの方から招き入れてくれることもあり得るかもしれない。
君たちはチサの想いを受け止め、それに言葉を帰してもいいし、監獄塔を登って直に想いをぶつけてもいい。
何にせよ、ここでチサの自我が蘇らねば、彼女はオウガになってしまう。
どうにかオウガ化を食い止める為にも、君たちはチサの心と向き合う必要がある。
ただし注意せよ。
ありきたりな善意の押し付けは、きっと絶望したチサには届かないだろう。
深い絶望を晴らすに値する、君たちの言動を指し示してほしい。
ミーヤ・ロロルド(サポート)
『ご飯をくれる人には、悪い人はいないのにゃ!』
楽しいお祭りやイベント、面白そうな所に野生の勘発動させてくるのにゃ!
UCは、ショータイムの方が使うのが多いのにゃ。でもおやつのUCも使ってみたいのにゃ。
戦いの時は得意のSPDで、ジャンプや早業で、相手を翻弄させる戦い方が好きなのにゃよ。
口調だけど、基本は文末に「にゃ」が多いのにゃ。たまににゃよとか、にゃんねとかを使うのにゃ。
食べるの大好きにゃ! 食べるシナリオなら、大食い使って、沢山食べたいのにゃ♪ でも、極端に辛すぎたり、見るからに虫とかゲテモノは……泣いちゃうのにゃ。
皆と楽しく参加できると嬉しいのにゃ☆
※アドリブ、絡み大歓迎♪ エッチはNGで。
マルコ・ガブリエル(サポート)
『初めまして、わたくしはマルコと申します』
『皆様を苦しめるのであれば、わたくしも情けは捨てましょう!』
『まあ、なんて美味しそう……! 宜しければ、一緒にいかがですか?』
笑顔が魅力的で朗らかな女の子です。実は故郷を滅ぼされて天涯孤独の身ですが、そうした悲壮感を仲間に感じさせることはなく、いつも明るく振る舞っています。
誰に対しても優しく、敵にさえ「できれば戦わず、穏便に事件を解決したい」と考えるような優しい性格ですが、無辜の人々を苦しめる悪い奴には心を鬼にして全力で攻撃をお見舞いします。
美味しいもの、特に焼肉をみんなで食べるのが大好きで、無事に事件解決した後はよく他の猟兵をご飯に誘おうとします。
魔炎竜ジャバウォックは討ち滅された。
この知らせを受け、救援に駆け付けたミーヤ・ロロルド(にゃんにゃん元気っ娘・f13185)とマルコ・ガブリエル(焼肉天使・f09505)は、何故かお菓子と食材を抱えながらアリスであるチサが待つ監獄塔に押し入っていた。
「マルコさんは出会い頭にBBQでミーヤをもてなしてくれたから良いオラトリオなのにゃー! ご飯をくれる人には、悪い人はいないのにゃ!」
「初対面でお腹を空かせていたミーヤさんと打ち解けるためにも、わたくしのわいわい焼肉セットが役立って何よりでしたわ」
2人は合流直後、自己紹介を済ませる段階でお腹がペコペコであった。
腹が減っては戦が出来ぬ、ということで、マルコはほんの少し前まで、携帯している焼肉セットとマイ焼肉のタレ(甘口)を用いて、プチBBQをミーヤとともに堪能していたのだ。
絶望の国で肉を焼いて食べた腹ペコ猟兵ガールは元気百倍!
監獄塔の真下で、彼女らは最頂点で浮かぶチサへ向けて力を振り絞って叫んだ!
「嫌な事なんて、美味しい物を食べて忘れてしまうといいんだにゃ!」
「そうですよ、チサさん! この絶望の世界でオウガになってしまったら、甘いお菓子も豪華なお料理も二度と味わえませんわ!」
奇遇にも、腹ペコ猟兵ガールズは『食』に強いこだわりを持っており、チサへの説得も食事の話題で押し進めるつもりだ。
ミーヤは季節柄ゆえかサンタガールのコスチュームに身を纏い、白くて大きなプレゼント袋の中には大量の甘くて美味しいお菓子がギッシリ詰め込まれている。
一方、マルコは霜降り牛肉、しかも最高ランクA5のUDCアース日本が誇る最高級サーロインステーキ肉のパックを振りかざしていた。
「オウガはアリスの人肉を食べるそうですが、そんなことはいけません! お肉はやっぱり牛肉が一番ですわ! 調理法はシンプルに鉄板で焼いて、味付けは塩コショウのみ! 待っててくさいませ、今からそちらへ向かって、わたくしがチサさんの目の前で特上のステーキを焼いて差し上げますわ!」
2人の言葉が頭上に浮かぶチサに届いたのか、彼女たちの頭の中にチサの思念が流れ込んでくる。
『美味しいご飯……お菓子……どうせ死ぬなら、食べてからでも遅くないかな……』
しめた、とミーヤとマルコは顔を見合わせてハイタッチ。
早速、監獄塔内部へ侵入しようと試みる。
だが、塔内部へ侵入するための門は牢番や拷問吏の偽アリスが守っており、おいそれと素直にチサへの面会を許してくれそうにない。
ならば、とサンタミーヤはマルコにクッキーやチョコレートを手渡してにっこり微笑んだ。
「門番はミーヤに任せるにゃ! マルコさんはそのお菓子を食べながら、あの門を破壊してほしいのにゃ!」
「かしこまりましたわ! まあ、なんて美味しそう……!」
クリスマス用に装飾されたお菓子はどれもキラキラ輝く包装で彩られて宝石のようだ。
その包みを解いてマルコは口の中へ放り込めば、極上の幸福感が口内から全身へ染み渡って広がってゆく。
「んんん~♪ ミーヤさん、このチョコレート、お高いメーカーのあれでは?」
「流石だにゃ、マルコさん! クリスマス用に奮発してみたのにゃ☆」
ミーヤも高級チョコレートを頬張り、その甘美さを堪能してうっとり。
……猫っぽいミーヤだが、種族は人狼なのでチョコレートを食べても多分セーフ!
と、その時、不思議なことが起こった……。
ミーヤとマルコ以外の偽アリスの動きが途端に鈍くなったのだ。
これは……紛れもなく、ユーベルコードの効果!
「ミーヤのおいしいおやつの時間にゃー♪ いっぱいいっぱいあるのにゃ! どれ食べるのにゃ?」
偽アリスが警戒してミーヤの差し出すおやつを拒否した瞬間、敵の行動速度が5分の1に低下したのだ。
マルコはミーヤからの給仕を楽しんでいるので、この効果の対象にならず、普段通りに身動きが可能!
「今ですわ! ジャッジメント・クルセイド!」
マルコが監獄塔の門を指差すと、天からの光が門に直撃!
稲光めいて眼前が白黒に瞬けば、鋼鉄の重い門が粉々に弾けて飛び散った!
「このまま強行突破にゃー!」
「おやつと焼き肉の時間ですわー!」
腹ペコ猟兵ガールズはこのまま監獄塔を強行踏破してゆき、邪魔する者の動きを鈍らせて天の光で撃ち抜いてゆく。
そして本当にチサのいる最上階まで辿り着くと、チサの目の前でお菓子と焼き肉を振る舞い始めたではないか。
「バームクーヘンやドラヤキもあるにゃ! チサも遠慮せずに食べていいにゃ?」
「チサ様、聞こえますか? このA5ランクの牛肉の脂が焼ける良い音が! オウガになってしまっては、二度とこのような体験できません! さぁ、その鳥籠から出てきて下さいませ!」
2人の呼びかけに応え、チサの入った鳥籠が降下してきた。
そして、チサは鳥籠の隙間から手を伸ばし、2人の差し出すお菓子と焼き肉の取り皿を受け取ると、若干当惑しながらも口を開いた。
「……まさか、本当に飯テロされるなんて……。流石にお腹空くわ……」
鳥籠の中でチサは与えられた食べ物を口にすると、生気のなかった顔が次第に血色が良くなってゆく。
「美味しい……すごく、美味しい……」
涙をポロポロ零し始めるチサ。
だが、それでも鳥籠の中から出てくる気配はなかった。
「チサさん、考え直してほしいのにゃ……」
「人は憎しみに囚われていても、必ずお腹は空くのです。さぁ、鳥籠の外へ……」
それでも、チサは首を横に振った。
「……ごめんなさい。もう少し、考えさせて。……ご飯、ありがとう」
チサは再び鳥籠ごと飛翔してしまった。
だが、その顔付きはだいぶ明るくなり、先程までの負の感情が薄らいでいる。
ミーヤとマルコは引き際を弁え、あとは他の猟兵たちに事を一任すべく撤退してゆくのだった。
成功
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ジャスパー・ドゥルジー
「野良ジャバウォック」を拝んでみたかったが遅れたか
しゃーない、一肌脱ぐぜ
腕にナイフ奔らせ流れた血で【イーコールの匣】
巨大な斧で敵を蹴散らしながら塔を登る
この世界で化け物になったところで
あんたを苦しめた人間に復讐なんざ出来ねえぜ
「オウガ」は世界を越えられない
ぶつけようのない憎しみを抱えたまま
猟兵に無残に殺される事になる
あの竜の息がかかった存在だ
俺は必ず見つけ出すぜ
考えつく限りの苦痛を与えて殺してやる
こう考えろ
この世界に来た時にあんたの嫌いなチサは死んだ
生まれ変わったあんたは帰らなくたっていいし
帰って別の人間として生きたっていい
階段を登り切りチサと対面する
それでも駄々を捏ねるなら、今ここで死ぬか?
夷洞・みさき
オブリビオンが同情するような人物らしいけど、どんな人なのかな。
【POW】
【UC船】にて宙を征く。塔の外壁に砲撃を当て経路を作る。
そこにいた現世の人を殺めたオブリビオンもいたら、ついでに船の船倉に押し込めて行く。
対チサ:
オウガに成る事自体は止めない。
オブリビオン混じりな猟兵だっている世の中であるため。
復讐自体も止めない。ただし、オブリビオンに成ってから殺害など過剰な復讐をする場合は自身の義務として禊潰す事を告げる。
つまり、眼には眼、歯には歯を。死にたくなる程の絶望なら、死にたくなる程の絶望を対象だけにね。
人を殺して良いのは現世の人だけだからね。勿論、現世でその清算はされるだろうけどね。
その者の身体に生える翼やら尾は、先程のジャバウォックと似ていた。
それもその筈、ジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)は、魔炎竜ジャバウォックを宿したオウガブラッドである。
「あー、『野良ジャバウォック』を拝んでみたかったが、もうくたばったのかよ。一足遅かったか。しゃーない、気持ち切り替えて、ここからはアリスのために一肌脱ぐぜ」
ピアスだらけの顔がくしゃくしゃに狂喜して破顔する。
「待ってろよ、チサ。今すぐ――逢いにゆくぜ」
ジャスパーは笑顔でナイフを逆手に握ると、いきなり空いた反対側の腕に深々と突き立て、そのまま真下に肉を引き裂いたではないか!
滴り落ちる鮮血は、足元に赤い水溜りを生み出し、それはどんどん大きな円となって広がっていった。
だがしかし、おお! 見よ!
血溜まりは次第に禍々しい形状の巨斧へとひとりでに形状を変え、ジャスパーの凶器となって、その手に添えられたのだ。
これぞジャスパーのユーベルコード『イーコールの匣(アルス・マグナ)』である!
「この程度なら造作もねえよ。さーてと……行くか」
ジャスパーは斧の刃を研ぐように引きずりながら、監獄塔へ猛ダッシュを開始!
刃が地面と擦れ、激しい火花を撒き散らす!
「よお、邪魔するぜ」
破壊された塔の門に飛び込むと、巨斧をかち上げるように振り上げた。
ジャスパーの目の前には、偽アリスの牢番が唖然としたまま立ち尽くしていた。
「んで、あんたは俺の“通行”の邪魔だ。死ね」
暴風めいた狂気の一撃に牢番の身体が上下に刎ね飛ばされた。
ジャスパーは敵襲を気取ったオウガたちを、そのまま叩き斬りながら最上階へと駆け上がってゆく。
監獄塔の外壁に、朽ちたガレオン船が飛空し、宙を征く。
夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)がユーベルコード『骸海游濫船・”涸れた波”号(ガイカイユウランセン・カレタナミゴウ)』で召喚した船である。
「オブリビオンが同情するような人物らしいけど、どんな人なのかな」
ジャバウォックを仕留めた夷洞は、その最期の言葉を聞いてからチサへの興味が湧いていた。
そして、塔を素直に登る道理もなく、飛翔する朽ちたガレオン船でそのまま最上階へと直行していた。
だが、監獄塔から唐突に銃声が聞こえてきた。
オウガの牢番が猟銃を担いで、朽ちたガレオン船を狙って撃ってきたのだ。
幸い、銃弾は射程外で届かなかったので威嚇射撃のつもりなのだろう。
「なるほど、此方を狙撃してくるわけだ。この監獄塔はアリスの心の象徴。誰も近付けさせたくないのなら、攻撃も頷けるね」
だが、と夷洞は静かに口角を釣り上げた。
「此方もただ指をくわえて何もしないなんてはずがない」
朽ちたガレオン船に備わった砲身が、一斉に狙撃手へ向けられた。
「――放て」
そして、夷洞の号令ひとつで全ての砲口が火を噴いた!
無慈悲に打ち砕かれる監獄塔の上層部!
夷洞は船を爆撃箇所まで横付けすると、半死半生のオウガの牢番たちを骸が混じった現世に存在しない金属の鎖で船に勾留して乗り込ませた。
「君たちは骸の海へ送ってあげよう。しばらく船倉でおとなしくしているといいよ」
そのままチサの待つ塔の頂上へ浮上しようとした、その時だった。
「おい、またこいつは派手にぶっ飛ばしやがったな? よっと!」
爆撃に巻き込まれかけたジャスパーが、朽ちたガレオン船へといきなり飛び乗ってきたのだ。
夷洞は無言でジャスパーを上から下まで見詰めると、首を傾げた。
「……無賃乗船かい?」
「いやカネとんのかよ?」
秒でツッコミを入れるジャスパーに、夷洞はクスクスと含み笑い。
「冗談さ。いや、悪かったね。塔の中に猟兵がいるとは思わなかった。あれでは階段はもう使えないだろう。一緒に上まで行くとしようか」
「ああ、頼むぜ? さっさと鳥籠のお姫様へお目通し願おうか」
巨斧を担いだジャスパーが、船主の夷洞が見上げた先に、鳥籠の中で引き篭もりながら揺蕩うチサがいた。
船の甲板で猟兵2名は遂にチサと対面を果たした。
虚ろな目で異形の猟兵をじっ……と眺めるチサは言葉を発しようとしない。
未だ鳥籠の中から出てこようとしないチサへ、まずはジャスパーから言葉を投げかけてみた。
「この世界で化け物になったところで、あんたを苦しめた人間に復讐なんざ出来ねえぜ。『オウガ』は世界を越えられない。ここ、アリスラビリンスとあんたがいたと思うUDCアース。アリスのあんたは一方通行とはいえ世界と世界を渡り歩けるけどな、それが『オウガ』に……オブリビオンになっちまうとできなくなるんだぜ」
「どうして?」
チサの口から純粋な疑問の言葉がこぼれた。
それにジャスパーは即答した。
「そういう世界の仕組みだから、じゃねえの? つまり、このまま『オウガ』になったところで復讐は果たせねえし、ぶつけようのない憎しみを抱えたまま、あんたは猟兵に無残に殺される事になる」
「なに、それ……? 話が違うわ……」
チサの表情に、初めて動揺が現れた。
夷洞もこれに同調するように首肯してみせた。
「オウガに成る事自体は止めない。オブリビオン混じりな猟兵だっている世の中であるため。……隣の彼のように、ね?」
夷洞は、先程までやり合っていた魔炎竜とよく似た角や翼や尾を持つジャスパーをちらりと横目で一瞥してチサへ示唆する。
「復讐自体も止めない。ただし、オブリビオンに成ってからの、殺害など過剰な復讐をする場合、僕は自身の義務として、チサ君を禊潰さなくてはならない」
「待って……? なんで、無関係のあなたたちに殺されなきゃならないの
……!?」
チサの動揺が大きくなる。
ジャスパーはこの機を逃さず、畳み掛けにゆく。
「そうだな、あんたがオウガになったら……あの竜の息がかかった存在だ、俺は必ず見つけ出すぜ? そして、考えつく限りの苦痛を与えてあんたを殺してやる」
「つまり、眼には眼、歯には歯を。死にたくなる程の絶望なら、死にたくなる程の絶望を対象だけにね? チサ君の望むことは、つまりそういうことだね」
「そんな……!」
愕然とするチサ。
「人を殺して良いのは現世の人だけだからね。勿論、現世でその清算はされるだろうけどね?」
夷洞の言葉に、チサは混乱している。
「ジャバウォックは、そんなこと、一言も教えてくれなかった……」
オブリビオンの知識や、この世界の構造など、一般人であった彼女は知る由もない。
チサは目の前の憎悪によって――たとえ、あの魔炎竜ジャバウォックが彼女へ本当に友愛を向けていたとしても――都合よく真実を伏せられたまま、引き篭もっていたことになる。
「私……これから、どうすれば……」
鳥籠の中で頭を抱えるチサ。
ジャスパーは鳥籠の金網をむんずと掴むと、その隙間に自身の顔と角を押し付けながらチサへ告げた。
「こう考えろ。この世界に来た時に、あんたの嫌いなチサは既に死んだ。今いるチサは生まれ変わった。だからあんたはこのまま帰らなくたっていいし、扉をくぐって元の世界で別の人間として生きたっていい」
「そんなこと……出来るの?」
「ああ、出来るぜ? 要は考え方次第だからな」
ジャスパーのクシャクシャな笑顔を、チサは沈痛な面持ちで見詰めていた。
「答えは出たかな、チサ君?」
夷洞の問いに、チサは肯定も否定もしない。
チサは突き付けられた世界の真実と、身の振り方に混乱しているようだ。
「ああ、じれったいぜ!」
ジャスパーは鳥籠から離れると、いきなり巨斧を振り上げてみせた。
「それでも駄々を捏ねるなら、今ここで死ぬか?」
「……確かに、私は死にたいと願ったけど……」
チサは苦虫を潰したような顔で、声を絞り出した。
「こんな結末だけは、望んなんかいなかった……」
「んじゃ、生きるのかよ?」
「……そうね、少なくとも、今、死ぬべきじゃないわ」
「なんだよ、ハッキリしねえなあ?」
困惑するジャスパー。彼とチサとのやり取りを見守る夷洞。
2人の言葉によってアリスの絶望は薄らいだが、尚も頑なに鳥籠から出てこようとせずに膠着状態に陥ろうとしていた。
成功
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ベイカー・ベイカー
強く生きろみたいなことは言えねえよ。俺だって記憶を消した逃避の先で生きてるからな。
ただオウガを1匹増やすのがアリスとして嫌なんでお前を説得に来た、ぐらいの感じなんだよ俺は。オウガになったらなったで殺せばいいだけだし。ただ、俺は優しい人間のつもりだからな。殺しは最終手段だ。(と言いながらチサに見せつけるように擬似生物を炎【属性攻撃】で焼きながら塔を進む。オウガになるならこうするぞと見せつけるように)
そんなに嫌なことばっかりだって言うんならお前の記憶全部消してやる。俺みたいにな。見ろよ人生の大半を忘れた俺の顔を。楽そうだろ?
ってな感じで俺的には【優しさ】のつもりで【言いくるめ】るように説得する。
エンティ・シェア
会う前に空室の住人でぬいぐるみを呼んでおこう
女性には可愛らしい物を添えたいんだ
やぁ、チサ嬢
君の願いを叶えに来たよ
率直に言うなら殺しに来たわけだ
そのつもりで、あの竜殿には通してもらったよ
それで、改めて聞くけれど、どうしても死にたいかい?
君は、記憶のない状態だったとは言え、この世界で与えられた幾つもの困難や絶望に抗ってきただろう
死にたくないと、思っていたのだろう
考え直せとは言わない
初志貫徹も素晴らしい事だ
君は、ちゃんと、自分で考えて決められるのだろう
だからよく考えて決めて欲しい
決めたらなら、教えておくれ
私は君がどんな選択をしても、手を貸すよ
決めかねるなら、決まるまで沢山お喋りしよう
おいでよ、チサ嬢
ベイカー・ベイカー(忘却のススメ・f23474)は、エンティ・シェア(欠片・f00526)がユーベルコード『空室の住人』で呼び出した黒熊のぬいぐるみと白兎のぬいぐるみの力を借りて、崩壊した階段を乗り越えて最上階へ到達した。
「ぬいぐるみに身体を放り投げられる日が来るなんてな……」
苦笑するベイカーは2体のぬいぐるみが自立するさまを眺めていた。
戦闘用人形として稼働するそれらのぬいぐるみは、エンティの多重人格をそれぞれ象徴する代物である。
「なに、私としては、女性には可愛らしい物を添えたいんだ」
唄うように、そう口ずさむエンティとともに、ベイカーは監獄塔の最上階の扉を開けた。
様々な猟兵からのアプローチにより、チサの表情は暗く沈んだ絶望ではなく、恐れと困惑に満ちたものへと変化していた。
そこへエンティが黒熊と白兎を小躍りさせながらチサへ語り掛け始めた。
「やぁ、チサ嬢。君の願いを叶えに来たよ。率直に言うなら、君を殺しに来たわけだ。そのつもりで、あの竜殿には通してもらったよ」
浮世離れした立ち振舞いは、まるで歌劇のワンシーンのように鮮烈かつ威風堂々としていた。
「……やっぱり、私を殺すのね」
チサは鳥籠の中で身構える。
目の前の猟兵という存在を、チサは『自分の生命を奪う存在』として認識し始めていた。
だが、これにエンティは首を横に降った。
「それで、改めて聞くけれど、チサ嬢、どうしても死にたいかい? 君は、記憶のない状態だったとは言え、この国へ辿り着くまでの間、この世界で与えられた幾つもの困難や絶望に抗ってきただろう。……死にたくないと、思っていたのだろう?」
放たれた言霊が、弾丸となってチサの胸を撃ち抜いた。
その衝撃と苦痛に耐えるように、チサは鳥籠の中でうずくまる。
「……それは、今まで記憶がなかったから。元の世界へ変えることができれば、こんな怖い思いをせず済むって、そう思ってたから……!」
「生きたいと、願ったのだろう?」
「願ったわよ。でも、元の世界へ帰ったところで、苦しみから逃れられない。私は……気付いてしまったから」
「だから、死にたいのか? でも猟兵に殺されるのは遠慮する、と」
話を聞いていたベイカーが口を挟んだ。
ベイカーは肩をすくませると、チサをなだめるように告げた。
「強く生きろみたいなことは言えねえよ。俺だって記憶を消した逃避の先で生きてるからな。ただオウガを1匹増やすのがアリスとして嫌なんでお前を説得に来た、ぐらいの感じなんだよ俺は。オウガになったらなったで殺せばいいだけだし」
「私が化け物になったら、そんなにみんな殺したいの!? 猟兵って随分と野蛮なのね!?」
次第に怒りが噴出するチサを、ベイカーは苦笑いしながらどうどうと落ち着かせる。
「言っただろ? オウガを増やすのが嫌なだけだって。それに、まだお前は『人間(アリス)』だ。ここから鬼になるか、ヒトであり続けるかはお前自身の選択だ。ただ、俺は優しい人間のつもりだからな。殺しは最終手段だ」
ベイカーはおもむろに、道中で捕獲していたオウガの手下である疑似生物を目の前に放り出すと、喪失の炎によって瞬時に焼却してみせた。遠回しなチサへの警告である。
「ここは、お前の扉がある世界なんだろ? 時間はいくらでもあるんだ、結論が出るまで、俺達が付き合うぜ」
「そうとも、チサ嬢。別に考え直せとは言わない。初志貫徹も素晴らしい事だ、君は、ちゃんと、自分で考えて決められるのだろう。だからよく考えて決めて欲しい。決めたらなら、教えておくれ。私は君がどんな選択をしても、手を貸すよ。決めかねるなら、決まるまで此処で沢山お喋りしよう」
エンティは長期戦の構えを見せると、チサもささくれだった感情の矛先を収め、対話の意識を示し始めた。
「……じゃあ、話、聞いてくれる?」
チサは、ここまで経歴や出来事を、延々と話し始めた。
生まれて物心がついた頃に両親が離婚、父親に引き取られるも暴力を振るわれ、再婚相手の義理の母にもネグレクトを受け、義務教育中はイジメを受けて居場所がどこにもなかった事。高校へ進学するも、授業料が支払えずに1年半で中退、親の作った借金をやむなく返済するためアルバイトを転々とする内に、アングラな業種……未成年風俗や水商売に身を置くようになった事。そこで知り合った男性と浮名をいくつか流すが、どれも暴力を振るわれたりカネを無心されたりストーカーされたりと男運がまったく無かった事。自殺をしようとしたが失敗して入院したら、いつの間にかこの世界へ迷い込み、記憶を失ったまま長い間彷徨っていた事など。
それは、長い長い、苦痛と絶望の物語であった。
エンティはそれを口角を釣り上げながら微笑んで耳を澄まし、ベイカーは度し難いと言わんばかりに顔をしかめていた。
「……話したら、すこし楽になったかも。こんな事を話せる相手、いままでいなかったし」
「なぁ、チサ。提案があるんだが」
ベイカーが手のひらに林檎1個分の大きさの炎弾を生成してみせた。
「こいつは忘却の炎。身体ではなく、記憶だけを焼く事ができる」
チサはベイカーの言わんとしていることを瞬時に理解し、顔を上げた。
ベイカーは小さく頷いた後、言葉を継いだ。
「そんなに嫌なことばっかりだって言うんならお前の記憶全部焼き消してやる。俺みたいにな。見ろよ人生の大半を忘れた俺の顔を。楽そうだろ?」
「そうね……完全に忘れられれば、あなたみたいに私も笑えるのかな……?」
「ああ、笑えるさ。俺が“過去のお前”を殺してやる。だから、お前は今を、未来を見ていればいい」
ベイカーは手を差し伸べる。
それにチサは、手を伸ばして取り合った。
エンティはぬいぐるみたちをけしかけ、鳥籠の編みをこじ開けさせる。
「さぁ、チサ嬢。こちらへおいで」
「……うん。私、オウガにはならない。ヒトのままでいられるのなら、喜んで記憶を焼き捨てる……!」
チサが遂に鳥籠の中から飛び出した次の瞬間、彼女の目の前が一瞬で炎に包まれる。
だが、それをチサは甘んじて受け止めると、包まれるように全身への延焼を許すのだった。
「辛い記憶は燃やしてやるぜ。『アリスは忘れることを選んでしまいました』ってな?」
――ワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロ。
ベイカーの忘却の炎が、チサを優しく包み込んでゆくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『『偽アリス』アリーチェ』
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POW : ミルクセーキはいかが?
【怪しげな薬瓶】が命中した対象に対し、高威力高命中の【腐った卵と牛乳で作ったミルクセーキ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 甘いおねだり
レベル×1tまでの対象の【胸ぐら】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
WIZ : お茶を楽しみましょ?
【頑丈なティーポット】から【強酸性の煮え滾る熱湯】を放ち、【水膨れするような火傷】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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自身の鳥籠から脱出し、監獄塔を後にしたチサ。
猟兵たちは絶望から脱したチサへ、今後のことについて話し合うべく、チサ自身の扉の前まで向かうことにした。
だが、その行く手をジャバウォックの子どもたち……偽アリスのアリーチェたちが阻む。
「ジャバウォック様を殺した憎き猟兵たち! 私達の妹になることを拒んだ裏切り者のチサ! この世界から脱出なんてさせない! デスゲームに最後まで付き合ってもらうわ!」
リーダー格のアリーチェの号令に応え、至るところから姿を現して襲い掛かってくる偽アリスたち!
猟兵たちはチサを守りながら、扉の前まで彼女を護送しなければならない。
だが既に偽アリスたちは眼前に迫っている!
まずはこの集団の『先制攻撃』からチサを守らなければ!!
エコリアチ・ヤエ(サポート)
場面にあったUCを使用し、目標達成のため行動を行う。
公序良俗違反などは目的のためなら簡単に違反する。
殺人などでも必要と感じれば行うだろう。
普段は気さくな感じだが、多重人格の戦闘用人格は冷静冷徹。
お祭り騒ぎや簡単な戦闘などは主人格で、生死をかけた真剣な戦闘の場合は戦闘人格へ切り替えて行動する。
戦闘や行動は前衛に出ていくより後衛からの攻撃や補助を好む。
日常や冒険も積極的に行動。
料理したり食べたりが好き。馬鹿騒ぎも中心になるような性格ではないがその場に混じり空気感を楽しむ。
戦場傭兵や死霊術師としての知識を用いて仕事を遂行する。
どのような場面でも自由にプレイング使用してください。
ハルピュイア・フォスター(サポート)
絶望を与えるのがわたしの仕事…。
無表情で口調は事実を淡々と告げます
【暗殺】が得意
また【迷彩】【目立たない】【闇に紛れる】【地形の利用】など使用して隠密にまた撹乱しながら行動
Lost memory…敵のユーベルコードの矛盾や弱点を指摘しUC封じ込む
回避は【残像】で、怪我は厭わず積極的に行動
武器;首にマフラーの様に巻いてある武器『零刀(未完)』は基本は両手ナイフだが鞭や大鎌など距離や状況に合わせて形を変貌させ使用
他猟兵に迷惑をかける行為はしませんが、御飯やデザートは別問題…奪います。
公序良俗に反する行動は無し
後はおまかせでよろしくおねがいします
「「さぁ! チサを、私達の妹を返して!!」」
迫りくる偽アリスの集団、絶望から目覚めたアリスことチサを守るべく、2名の猟兵が救援に駆け付けた。
「チサはお前らの妹になんかさせないさ」
褐色肌に刻まれた体中の入れ墨が目を引くエコリアチ・ヤエ(悪魔の呼び声・f00287)が、すぐさまユーベルコードを発動して敵集団の強襲に対抗する。
「死霊どもよ力を貸せ」
呼び出された59体の死霊たちは、四方八方から投げ込まれる怪しげな薬瓶を受け止め、その中から溢れる腐った卵と牛乳で作ったミルクセーキを霊体に浴びてしまう。
「ひどい臭いだな……だが、死霊どもが盾になったおかげで、俺とチサは無事だ」
「だとしても、お菓子を粗末にするなんて……」
救援に駆け付けたもうひとりの猟兵、ハルピュイア・フォスター(天獄の凶鳥・f01741)が静かに怒りを発露していた。彼女は自他認めるお菓子好き。故に、故意に傷んだ食材で作ったお菓子をユーベルコードにする所業は、グルメなハルピュイアにとっては冒涜以外の何物でもなかった。
「許せない……」
無表情ながらも、彼女の背後に死神めいた怒気と殺意が立ち上る!
「絶望を与えるのがわたしの仕事……あなたたちに、絶望してもらうよ」
ハルピュイアは死霊の中に紛れて身を潜めながら、投げ込まれる頑丈なティーポットから溢れる強酸性の煮え滾る熱湯を回避しつつ、偽アリスをすれ違いざまに切り刻んでいった!
「きゃあっ!?」
「嘘っ!? 武器が見えなかったわ!?」
偽アリスたちは、ただすれ違うだけで斬り裂かれる姉妹たちの姿に、そしてそれを実現させるハルピュイアに恐れ慄きはじめる。
それもそのはず。ハルピュイアは徒手空拳、武器を手に持っていない。
「武器が、武器の形をしていると思わないでね」
彼女が首に巻くストールの色が雪白に変わった次の瞬間、すれ違いざまに偽アリスの胴体を断ち切ってしまったではないか!
これこそがハルピュイアのメイン武装であり、亡くなった姉から譲り受けた宝刀、その名も『零刀(未完)』なのだ。
「お湯は、そっちへ帰すよ」
ハルピュイアはストールを二振りのナイフへ変化させると、トリプルアクセルめいて高速回転、ティーポットを偽アリスたちへ蹴り返すと、すぐに身体を弾けさせて敵へ飛びかかった!
災害めいた暴力が偽アリスたちをたちまちみじん切りにしてゆく!
「やはり前衛がいると動きやすいな」
エコリアチは元より術者であり、後衛からの召喚術に長けているため、前に出たがらない。
ハルピュイアの高速戦闘に引き付けられた偽アリスたちを、死霊たちに挟撃させて次第に数を減らしてゆく。
だが、闇雲に減らしていてもチサへの扉までの道が拓けない。
故に、エコリアチは死霊の数体に時限爆弾を持たせた。
「さぁ、俺たちの前から退いてくれ。退かないのなら、ズドンだな」
そのままオウガの集団の中へ死霊たちを突っ込ませてゆく。
すると呪詛のエネルギーで満たされた時限爆弾が次々と誘爆!
偽アリスの集団は無残にも木っ端微塵、爆発四散!
爆圧でオウガたちが吹き飛んだ道を、エコリアチが指差してチサへ叫んだ。
「早く行け! ここは俺たちが押さえる。元の世界へ帰るんだろう?」
「もう、あなたは……絶望していない。ここに留まるのは、相応しくない」
血路を阻まんと雪崩込んでくる偽アリスたちを、エコリアチとハルピュイアが押し返してゆく隙間を縫って、チサは遠くに見える自身の世界への扉を目指してゆくのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
夷洞・みさき
忘却もまた救い、なのかな。
どちらにしろ現世に帰るのなら助けるのも僕達の仕事だね。
【WIZ】
【チサの護衛】
【真の姿】になり、速度のある同胞魚&同胞金魚がチサの逃亡補助、胴体部と残りは敵の足止め。自身の顔は護る
元々手足の無い躰。詠唱さえできれば十分。
反撃として敵を【UC街】に閉じ込める。
骸の海に沈んだこの街はかつての矜持のまま現世の人には何もしない。
過去に現世の人を殺してなければそれ以外の罪の重さで複雑さ・時間・罰が増える。
殺していれば内部の咎人殺しに相応の禊を与えられる。
無傷で出てきた敵がいれば、驚きつつも止める事を薦める。
今は、だけどね。
僕達が言っても説得力は無いけれど、現世にいる方が良いよ。
ベイカー・ベイカー
先制攻撃には【早業】の【カウンター】で炎【属性攻撃】を【範囲攻撃】として展開し炎の盾として【盾受け】する。もちろんチサも守れるような広さで炎を展開して、防ぎきったら反撃するぜ。
最後の最後でなんだお前ら……いや、なんか喋ってる内容的にお前らも元人間だったりするのかもしれないけど、直前に人間であることを選んだチサを見た後だし、奪う側に回ったお前らのことなんて心底どうでもいいわ。
結局俺はジャバウォックには負けたようなもんだったしな…八つ当たりさせてもらうぜ。お前らにはチサにやったように記憶だけ燃やすなんて優しいことはしねえ。【全力魔法】で灰すら残さず焼き尽くしてやる。
……幸運を祈るぜ、チサ。
エンティ・シェア
代わりなさい。殺すのなら、僕の仕事です
先制攻撃、ですか
耐えられないものでもないでしょう。甘んじて受けます
貴方は邪魔です。下がっていなさい
意地を見せて前へ残るのなら耐えなさい
庇ってなんてあげませんよ
僕は、貴方が死んだって構わないんですから
血で拷問具を顕現し、色隠しでさっさと処刑形態に
纏めて焼き払いましょうか
それとも一人ひとり首をはねたほうが早いでしょうか
何でも良いです。殺せるなら
貴方の門出だ。血の道を作ってあげますよ
踏みしめて、進みなさい
それができるのなら、貴方は何にも負けませんよ
恐れずに進みなさい。前を向きなさい
決めたのなら、貫きなさい
貴方に戦う気があるのなら、援護くらいは、してあげますよ
忘却の炎に包まれるアリス――チサの姿を見た夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は、合点がいったと言わんばかりにニンマリと口角を釣り上げた。
「忘却もまた救い、なのかな。どちらにしろ、チサが現世に帰るのなら助けるのも僕達の仕事だね」
「そういうことだ。んじゃ、先発の救援組が血路を開いてくれたんだ、俺達もチサを援護しにゆこうぜ」
チサの記憶を焼却した張本人であるベイカー・ベイカー(忘却のススメ・f23474)は、意気揚々と血路の中を駆け出してチサへと追い付く。
その後ろを夷洞がトビウオのように跳躍しながら追走し、更にその後ろを火の玉のような勢いで爆走するエンティ・シェア(欠片・f00526)の姿があった。
「……代わりなさい。殺すのなら、僕の仕事です」
そう呟いたエンティの視線の先には、我先にと襲い掛かってくる偽アリスたちの姿が。
一斉に飛来する薬瓶、そしてその中身の腐乱したミルクセーキの弾幕を、エンティは更に加速してチサの前へと躍り出すと、なんの防御もせずに全身に浴びていってしまったではないか!
「先制攻撃、ですか。耐えられないものでもないでしょう。この程度、甘んじて受けます」
「私を、庇って
……!?」
チサはエンティの行動に思わず足を止めようとするが、それをエンティが許さない。
「勘違いしないでくださいね。庇ってなんてあげませんよ。“僕”は、貴方が死んだって構わないんですから」
どうやら、エンティの人格は先程までの“私”ではなく殺す役目を担う“僕”が主導権を握っているようだ。
「此処で足を止めるくらいなら貴方は邪魔です。下がっていなさい。意地を見せて前へ残るのなら耐えなさい」
「耐えるって、何を……?」
「まだ、わかりませんか?」
苛立つ“僕”が落胆したように肺から息を吐き出す。
ただひとつ、それだけで、彼は他者への感情を彼方へ置き去ってしまった。
「もう、どうでもいいんです。おわりにしましょう」
黒熊人形に己の血を分け与えると、それはメギメギと音を立てて質量を膨張させてゆき、様々な拷問具へと変貌を遂げてゆく!
ユーベルコード『色隠し』……“僕”が他者への感情を代償に、拷問具を処刑形態へと強化して殺傷力を増したことによって、偽アリスたちは文字通り地獄を見ることになる。
「まとめて焼き払いましょうか。それともひとり残らず首を刎ねたほうが早いでしょうか」
「ああ、焼き払うのは俺がやるから、そっちは首を刎ねてくれると役割が被らずに済むんだが」
横から口を挟むベイカーの要望に“僕”はくすくすと声を詰まらせながら笑う。
「そうですか、わかりました。まぁ何でも良いです。僕は殺せるなら」
拷問具は巨大なスライサーめいた刃物へと変形し、偽アリスたちを捉えては即座にギロチン斬首刑に処して首塚を築き上げてゆく。
その傍らでは、ベイカーが喪失の炎を最大火力で燃え滾らせながら偽アリスたちを世界から『蒸発』させていた。
「汚ったねぇモン投げてくんなよクソがッ!」
投げ込まれる腐乱ミルクセーキの入った薬瓶がチサへ直撃する前に炎の盾で瞬時に焼却し、反撃で地獄の炎を偽アリスたちへ投げ込むベイカー。
炎が着弾すると、あまりの高熱で偽アリスたちの肉はおろか骨さえもあっという間に固体から液体、そして気体へと状態変化してゆき、悲鳴を上げるまもなくこの世界から文字通り蒸発してしまっていた。
「最後の最後でなんだお前ら……いや、なんか喋ってる内容的にお前らも元人間だったりするのかもしれないけど、直前に人間であることを選んだチサを見た後だし、奪う側に回ったお前らのことなんて心底どうでもいいわ。つーか邪魔だから消えてなくなれ!」
ジュッとまた一塊の偽アリスが音を立てて消えてなくなるも、まだまだ徒党を組んで襲ってくる偽アリスの群れに、とうとうベイカーの沸点は超えてしまった。
「俺だってなあ……たまには怒るんだぜ……! 結局、俺はジャバウォックには負けたようなもんだったしな……! 八つ当たりさせてもらうぜ」
ユーベルコード『アリスは八つ当たりすることにしました。(モエロモエロモエロモエロモエロモエロモエロモエロ)』で、更に喪失の炎の火力を増幅させるベイカー!
「お前らにはチサにやったように記憶だけ燃やすなんて優しいことはしねえ。全てを燃やし尽くして骸の海に葬送する無敵の炎で、灰すら残さず焼き尽くしてやる!」
その手に象るのは、巨大な地獄の炎の鉄塊の如き巨大剣。滅多に使用しないこの形状だが、ブチ切れたベイカーは偽アリスたちを焼き斬るべく形取り、その恐るべき広範囲の斬撃でまとめて偽アリスの群れを駆逐していった。
そんな光景を、チサの護衛に徹している夷洞が他人事のように呟く。
「いやはや、猟兵を怒らせると恐ろしいね? チサ、君も一歩間違えばああなっていたかも」
「ええ……きっと、そうだったのよね」
昔の嫌な記憶を全て焼却してもらったチサにとって、何故、自分がオウガになろうと思いこむまで絶望していたのか、今となっては自分の言動が理解しがたいものに感じていた。
「ところで、猟兵ってそんな姿にもなれるのね」
チサの問い掛けは夷洞へのものだ。
何故ならば、夷洞の姿は先程までの半魚人ではなく、完全な魚となって宙を泳いでいたからだ。
車輪の周りにかつての同胞である魚類を従え、車輪の中に彼女の胴体と頭部が収められている、そんな奇怪な姿こそが夷洞の真の姿なのだ。
「真の姿は猟兵それぞれだよ。おっと、危ない」
投げ込まれる強酸性の熱湯を、同胞の魚の一体が身代わりとなって受け止め、苦しみながら茹だってしまう。
続けざまに投げ込まれるティーポットに、夷洞は同胞の魚たちに命令を下した。
「速度のある同胞と金魚の同胞はチサの護衛を継続、胴体部を含めた残りは偽アリスの足止めに専念してくれ。チサ、悪いが僕の顔を抱えてくれないかい?」
「え、ええ!? バラバラで大丈夫なの!?」
「平気さ、元々手足の無い躰。詠唱さえできれば充分。それにチサを含めて、自分の顔くらいは護れるからね」
そう告げた夷洞はユーベルコードの詠唱に専念する。
「郷愁よ、あの塔を再び。窓から見えたあの高き塔を。潮騒よ、あの薫りを再び。潮風に混ざる咎の薫りを。麗しき故郷よ、忘却より光を灯せ……!」
すると、チサの周囲の地形がみるみるうちに変化をしてゆき、総てを飲み込んでゆく!
「さぁ……『忘却懐葬・血錆薫る牢獄塔の街』よ。骸の海に沈んだ監獄街、今こそ罪人を飲み込め」
夷洞が敵を撃破するのではなく、足止めを優先していたのはこのためである。
偽アリスたちはまとめてユーベルコード製の街の中へ閉じ込められてしまった。
「……つーか、俺たちまで飲み込む必要性あったのかよ」
ベイカーの意見に首だけの夷洞は即答した。
「オウガの群れがそれだけ大規模だったということさ。それに、この街はかつての矜持のまま現世の人には何もしない。ただ、過去に現世の人を殺してなければそれ以外の罪の重さで複雑さ・時間・罰が増える」
「つまり、どういうことですか?」
怪訝な“僕”に夷洞は肢体を集合させつつ、自身のユーベルコードを解説した。
「現世の人を殺していれば、街の内部に存在する咎人殺し……つまり、処刑人に相応の禊を与えられる。最悪の場合、死刑は免れないかな」
「それって“僕”はどうなるのでしょうか?」
殺す存在の“僕”は露骨に嫌そうな顔をする。
だが夷洞はくすくすと笑いながら、とある方向を指差した。
「大丈夫さ、ここは僕のユーベルコードの中だ。どんなに複雑化しても、出口は僕にだけ分かるし、処刑人と鉢合わせすることもない。ほら、こっちだ。たとえ無傷で出てきた敵がいれば、そうだね、驚きつつもチサを妹にするなんて止める事を薦めよう。……今は、だけどね」
「なんか、不安になってきたぜ?」
ベイカーと“僕”は足元がぐらつく錯覚に見舞われながらも、夷洞の誘導で全員が脱出することが出来た。
監獄街を脱したその先には、少数ながらも未だ健在の偽アリスたちが待ち構えていた。
と、ここで“僕”が拷問具をけしかけ、高らかに宣言した。
「貴方の門出だ。血の道を作ってあげますよ」
パチンと指を鳴らせば、一斉に四方八方から偽アリスの首が飛び、血飛沫が紅の花弁が如く吹き荒れる。
「女王陛下の凱旋です。頭が高いですよ。ひれ伏せ、俗物ども。断末魔のシュプレヒコール、血飛沫のシャワー、骨肉のヴァージンロード。さぁ、チサ、踏みしめて、進みなさい」
チサの眼前数百m先に、ポツンと扉が立っていた。
そこまで徐々に伸びてゆく血と肉の栄光の道。
その上を、チサは己の脚で一歩ずつ踏みしめ、真っ赤な血飛沫を浴びながら前へ進んでゆく。
「そうです。それができるのなら、貴方は何にも負けませんよ。恐れずに進みなさい。前を向きなさい。決めたのなら、貫きなさい。貴方に戦う気があるのなら、援護くらいは、してあげますよ」
「そうだぜ、チサ!」
ベイカーももうひと踏ん張りと張り切り、怒りの炎で道を塞ぐ邪魔者を焼き消していった。
「嫌なことなんて忘れちまえ! 楽しことだけを覚えていれば良いんだぜ!」
「僕達が言っても説得力は無いけれど、現世にいる方が良いよ」
夷洞も同胞たちと協力して偽アリスたちを押し止める。
その中を、チサが、走った。
自分の扉へ向け、血肉の道をひた走る。
遂に、チサはドアノブを握り、最後に猟兵たちを振り返った。
「……幸運を祈るぜ、チサ!」
最後の偽アリスを蒸発させたベイカーが笑顔で見送る。
だが、チサは首を横に振った。
「ねぇ、そのチサって名前も焼き消してくれる?」
「は? お前、自分の名前も忘れるのかよ?」
驚くベイカーに、チサは笑顔で答えた。
「だって、もうチサはこの世界で死んだ。だから、今日から私は『サチ』よ」
「なるほど、不幸のチサが死んで、生まれたのが幸福のサチ……」
これには“僕”も目からウロコと言いたげに唖然としていた。
「ほら、ベイカー君。最後の仕事だよ」
夷洞がとんっとベイカーの背中を小突く。
「うっせぇな! ……んじゃ、元気でな。……サチ」
ボフッとアリスの眼の前で小さな爆発が起きた。
今度こそ望み通り、彼女は全ての記憶を焼き捨て、新しい人生を歩むべく、扉を開けて元の世界へ帰っていった。
「……で、結局、エンティって殺す殺す言ってたくせに、案外ツンデレだったじゃねえか?」
「なんのことかわかりませんね。ほら帰りますよ」
「ははは、2人共、元気だね? 僕はとりあえず、この血まみれの身体を洗い流したいのだけども」
残された猟兵3人組は、絶望の世界が崩壊してゆくさまを見届けながら、グリモアの光に導かれて脱出を果たすのであった。
またひとり、救われたアリスの未来を願いながら。
大成功
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