少女に安息の眠りを
●少女の語り
きっかけは出会いでした。
私たちを虐げるだけの世界に絶望していた私は、その時初めて、希望というものを知りました。
「助けてあげる。だから、待ってて」
小さな私の頭を撫でて、彼女は支配者たるオブリビオンに挑み、……敗れました。
オブリビオンは怒りくるっていました。
敗れこそはしたものの、彼女はオブリビオンを倒すあと一歩のところまで追いつめていたのです。
怒りくるったオブリビオンは、ますます残虐に私たちを虐げました。
人間が、次々に殺されていきました。
「これは、不遜にも我を害そうした輩の罪を汝らの血で贖う儀式である」
断崖絶壁に立つ薔薇園、その中央に設けられた十字架の祭壇に四肢を張りつけられ杭打たれて、されど死ぬことも許されず、彼女はオブリビオンに囚われていました。
ですが彼女の心は死んでいませんでした。
それどころか、オブリビオンが隙を見せればたとえ四肢がもがれようともその首元に喰らいつき討ちはたさんと、闘志を燃やしていたのです。
……そして本当に、土壇場で戒めを引きちぎり、彼女はオブリビオンに深手を負わせました。
共に半死半生、されど意志の力は圧倒的に彼女が強く。
倒せるはずでした。
私たちは救われるはずでした。
彼女の行いは、報われるはずでした。
でも。
……でも。
彼女の手は、他でもない人間の手に邪魔されて、届きませんでした。
「止めろ! もう俺たちを巻き込むな!」
「服従していれば、一秒でも長く生きられるかもしれないんだ!」
「死にたきゃ一人で勝手に死ね!」
何という、醜さでしょう。
何という、愚かさでしょう。
何という、身勝手さでしょう。
自分たちが救われる機会を失わせたばかりか、あの人の願いや想いを踏みにじり、心無い言葉を浴びせなじったのです。
オブリビオンはとても喜びました。
「これはよい! 褒美にお前たちを殺すのは最後にしてやろう」
「ありがとうございます!」
「お慈悲に感謝いたします!」
「私たちはご主人様の下僕です!」
いっそ気持ち悪いほど愛想良く媚びへつらう人間たちが、私には同じ人間だと思えませんでした。
「ならば命を下そう。そのゴミを始末しろ」
すでに抵抗することもできないほど弱った彼女を、人間たちは寄ってたかって鍬などの粗末な農具で殴りました。
「止めて……止めて!」
ようやく、私は声を出せました。
でも私は無力で、何の力もない子どもでした。
そんな私を見て、彼女は泣きながら謝りました。
「ごめんね。私に力が無くて、あなたを助けられなかった」
それが、あの人の遺言でした。
一際鈍く響いた殴打音と、何かが潰れる音。
飛び散る液体。
気がつけば、オブリビオンが私の目の前に立っていました。
「貴様だけが参加しなかった。よって貴様が次の生贄だ」
オブリビオンの言葉は、私には聞こえていませんでした。
私の頭は強い怒りに染まっていました。
神様。彼女はどうして死ななければいけなかったんですか?
どうして、彼女は助けようとした人たちに、あんな仕打ちを受けなければならなかたのですか?
無我夢中で飛びかかった私でしたが、当然の如く敵うはずもありません。
しかしその時、オブリビオンの背後で彼女が立ち上がりました。
「馬鹿な──! この土壇場で、オブリビオンとして蘇っただと!」
「ア──! アアアアアアアアアアアアアア!」
それはもう、意味のある言葉ではありませんでした。
オブリビオンに襲いかかった彼女は、いとも簡単にその首を捩じきり、殺しました。
それは新たな支配者の誕生でもありました。
こうして一人のオブリビオンが死に、一人のオブリビオンが生まれました。
でも、オブリビオンとなった彼女は違いました。
生きている私を見て、心底安心したように微笑んだのです。
「逃げて。私はもう、正義の味方じゃいられない」
彼女を殺した人間たちは報復を恐れ真っ先に逃げました。
逃走を促す彼女の言葉に背を押され、私も逃げました。
最後にふり向いた私が見たのは、ひとりぼっちになってしまった、彼女の姿でした。
あれから──私が彼女に救われた日から、今日で十年が経ちます。
逃げだして、彼女を救いたい一心で猟兵になりましたが、私にはこうしてあなたたちをあの世界に送る程度のことしかできません。
お願いです。あの人を殺してあげてください。
今もあの薔薇園の中、ひとりぼっちで苦しみ続けるあの人に安息を与えてください。
どうか、──どうか。
●グリモアベース
ミフィリト・リウィズ(オラトリオのスピリットヒーロー・f23836)は猟兵たちを前に説明する。
「今回はダークセイヴァーに赴き、とある地域で支配者として君臨しているオブリビオンを討伐していただきます」
厳粛な表情でミフィリトが語ったのは、他人のためにオブリビオンに挑んだ一人の聖女とでもいうべき者と、彼女に助けられた少女の話。
「オブリビオンは、当時と同じ場所に潜伏しています。断崖絶壁に囲まれた薔薇園に、彼女はいます。過去の残滓と化して悪夢のなかでさまよう彼女を、あなたたちの手で終わらせてあげてください。……それがたとえ、いっときの安息でしかなかったとしても、彼女にとっては救いとなるでしょうから」
祈りを捧げ、ミフィリトは猟兵たちを送りだした。
その少女が自分だとは、最後まで告げないままに。
きりん
●概要
三章までは戦闘なし。
一章で断崖絶壁を登り、二章で薔薇園のどこかにいるオブリビオンを見つけだし、三章で撃破してください。
もしミフィリトに何らかのアクションをかけたい人がいる場合は、かけても構いません。ただしメインは探索と戦闘なので、おまけ程度に留めてください。
また、タイミング的にミフィリトと絡めるのは一章開始時点か三章ボス撃破後の帰還前となります。
時系列の混乱を避けるために、絡みたい方は必ず一章か三章で共同プレイングを希望してください。プレイングから共同プレイングの希望が分からない場合は、単独描写となり絡みをお約束できない場合がございます。
絡み希望が一人だけだった場合のみ、単独でも採用となります。
●達成条件
一章:薔薇園への到着。
二章:オブリビオンの発見。
三章:オブリビオンの撃破。
●ステージ状況と説明
薔薇園は断崖絶壁の上にあります。
登りきることができれば、遠目にその姿を目にすることができるでしょう。
薔薇園までの障害は断崖絶壁のみで、他には何もありません。
断崖絶壁はごつごつした表面なので、足場になる箇所はたくさんあります。
実際に登れるかどうかは試してみないと分かりませんが、絶対に登れないということはありません。
登りきった時点でゴールとなり、薔薇園へと突入します。
薔薇園は迷路のようになっています。
どこかに討伐対象のオブリビオンがいるので、探してください。
園内の薔薇は猟兵たちが近くを通ると棘の蔦を伸ばしてくることがありますが、それはオブリビオンが近くにいる目印でもあります。
近くにいればいるほど、薔薇の動きが活発になります。
オブリビオンを見つけるまでは、道中誰とも出会いません。
第1章 冒険
『荒天のロッククライミング』
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POW : 動作ひとつひとつにマッスルな躍動感を込めて登る。
SPD : 黒い悪魔のようにカサカサと素早く登る。
WIZ : にんげんだもの、準備をしっかりとして万全の態勢で登る。
👑11
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シホ・エーデルワイス
コミュ力と読心術でミフィリトさんの意図を察知
何か言伝や渡したい物はありますか?
強風が吹かない様に天候操作の祈り
空中浮遊しつつ
後続の仲間が登り易い様目印も兼ねて
壁にハーケンを打ち込みザイルを付けながら進む
第六感と聞き耳で落石等にも注意
危険な箇所はチョークで目印
【奏手】はザイルの強度を確認しつつ登攀
ルノ:人々の為に命を賭けて戦い
失敗して
守った人達の手で殺められた…まるでシホね
依頼『選ばれなかった未来、遠く霞んだ過去』で分かった私の末路の事ね
そうね…彼女との違いは蘇った先の在り方ぐらい…
なぜ主は私を猟兵にしたのかな?
ルノ:…世界も万能ではない…
必要な犠牲なのかもね
なら
私ができる事を彼女にしてあげたい
鈴木・志乃
ミフィリトさん。その少女とコンタクト取れないんですかね。
……伝言があるなら伝えたいと思ってたんですが。
私、人の気持ちとか残留思念で戦う猟兵なので。手紙とかあるとすごく助かるんだけどなァ。
(首が痛くなるほどの断崖絶壁を見上げ、目を細める。UC発動。軽く岩や土の質を調べ、第六感と共に登れそうなポイントを見切り、光の鎖を引っ掻けて一歩ずつ着実にクライミングに挑む。【情報収集、学習力、ロープワーク】
岩盤の崩落、どうしようもない障害物に関しては念動力で除外。体にオーラ防御を纏い風を防ぐ。脆い箇所は高速詠唱で補強。眉間に皺を寄せながら、汗を拭う余裕もなく上だけを見つめて登り切る。)
転移を完了させたミフィリトは、一行に告げた。
「私はここであなた方の帰りをお待ちしています。最後に、なにか質問がありましたらおっしゃってください」
グリモア猟兵としての職分を果たすミフィリトの演技は完璧だ。
しかし、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は違和感に気づく。
「無理していませんか?」
「……一応もう敵地ですので、緊張はしていますよ」
確かに、ミフィリトの表情は強張っている。
言葉どおり、緊張のためだろうか。
(……なんだか、違うような気がします)
それだけではないような気がした。
これから討伐に赴くオブリビオンの誕生を語るミフィリトの語りは、第三者が語るにしては詳細すぎた。
まるで、見てきたことのように。
「なにか、言伝や渡したいものはありますか?」
「……なんのこと、でしょうか?」
首を傾げてほほえむミフィリトの両手に一瞬力が入ったのを、シホは見逃さなかった。
鈴木・志乃(ブラック・f12101)もミフィリトに尋ねる。
「そのオブリビオンになった少女と、コンタクトは取れないんですかね。……伝言があるなら伝えたいと思ってたんですが。私、人の気持ちとか残留思念で戦う猟兵なので。手紙とかあるとすごく助かるんだけどなァ」
少し考え込んだミフィリトは、悩むようなそぶりを見せる。
「確かに、一理ありますね。彼女の心を揺さぶることができれば、戦いを有利に進められることができるかもしれません。……では、少女が助けた者が書いたというフリで、手紙を偽造するとしましょう。……今から書きますので、少々待ってくださいますか?」
偽造と言っているものの、少女が命を賭けて助けた者こそがミフィリトである。
オブリビオンとなった彼女に少しでも人としての心が残っているならば、有効な一手となるかもしれない。
「では、これをお願いします」
ミフィリトは書きあげた手紙を志乃に手渡した。
強風が吹いていないタイミングを読んだシホは、ふわふわと浮遊しつつ、ハーケンを打ちこみザイルをつけながら上がっていく。
そんなシホに続いて、ザイルの強度確認を兼ね、機械人形であるルノが崖を登っていた。
「人々のために命を賭けて戦い、失敗して守った人たちの手で殺められた……まるでシホね」
「そうね……彼女との違いは蘇った先の在り方ぐらい……なぜ主は私を猟兵にしたのかな?」
「……世界も万能ではない……必要な犠牲なのかもね」
なら、せめて自分にできることをしてあげたい。
シホはそう願った。
さらにそんなルノの下から、見事な登攀動作で志乃が追いかける。
見あげれば首が痛くなるであろうこと間違いなしの断崖絶壁だが、志乃にとっては己の庭を歩くことに等しい。
オーラを身体にまとい、光の鎖をザイル代わりに、シホが打ちこんだハーケンを活用させてもらいどんどん登っていった。
ときおり崖が一部崩れるアクシデントもあったものの、志乃が念動力で、自分たちに当たらないよう吹きとばした。
二人もきちんと反応していたが、結果的にシホやルノも守る形になる。
崩れた箇所にシホがチョークで印をつけた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
技術的に問題なくとも運動量はかなりのもので、礼を告げてきたシホに答える志乃の眉間の皺は深く、そこへ汗が伝って流れおちていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
祝聖嬢・ティファーナ
WIZで判定を
※アドリブ歓迎
『フェアリーランド』の坪の中から風/光の精霊・聖霊・月霊・天使を呼んで周囲を警戒しながら障害物や危険に対して『月世界の英霊』で空間飛翔さながら避けて、周りの猟兵にも声援や『シンフォニック・メディカルヒール』で疲労などを癒します♪
精霊・聖霊・月霊・天使・猟兵に“七色こんぺいとう”を「お疲れさま♪もう少し頑張ろうね☆ミ」と励ましながら体力を『祝聖嬢なる光輝精』で体力を治し回復して行きます☆ミ
「世界の空気や雰囲気に呑まれない様にボクの頑張りも応援してね♪」と精霊・聖霊・天使に声を掛けます☆ミ
他の猟兵に求められた可能な範囲の協力には積極的に協力・援助します♪
風雷堂・顕吉
アドリブ連携歓迎
断崖の下から上を見上げて呟く。
「飛べない高さではないな」
そしてユーベルコード「蝙蝠変身」で吸血蝙蝠の群れに変身し、断崖絶壁の上まで飛んでいく。
絶壁の上に辿り着いたら、上から蔦やロープなど、飛べない者の助けになるものを準備しておこうか。
祝聖嬢・ティファーナ(フェアリーの聖者×精霊術士【聖霊術士】・f02580)が取りだした小さな壺から、精霊、聖霊、月霊、天使が次々に出てきた。
「それじゃあお願いね。皆を応援するんだよ?」
頷いた超常存在たちは、一斉に空中へ舞いあがると断崖絶壁を見上げていた風雷堂・顕吉(ヴァンパイアハンター・f03119)のもとへ行き、声援を送った。
「……ふ」
それに笑みを浮かべた顕吉は、黒い外套を翻し、身体を隠す。
黒い外套の下でなにかがもこもこと膨れあがり、中から一斉に無数の吸血蝙蝠が溢れでてくる。
外套自体も何匹かの吸血蝙蝠に変身し、群れとなった。
吸血蝙蝠の群れは、崖に刺さったままのハーケンとザイルの在処をティファーナに示すかのように、しばらく周囲を飛びまわる。
「先に進んでいる者たちが用意したようだ。使うといい。俺は先に行く」
顕吉の声が響き、吸血蝙蝠の群れは上昇を始める。
群れが小さくなっていく。
断崖絶壁は険しく、文字どおりそびえ立っていた。
最初に登っていった者たちの姿どころか、吸血蝙蝠たちに変身した顕吉の姿すらもう見えず、頂上にあるものも崖に阻まれて目視できない。
「まあ、なにがあるかは最初に話で聞いてるから、分かってはいるけど……」
登るティファーナの顔から汗がしたたり落ちていく。
疲労の原因は崖登りだけではない。
転移してきたときからずっと感じている、重苦しい雰囲気の影響もあるだろう。
薔薇園にいるという、オブリビオンの重圧だろうか。
そんなティファーナのところへ、吸血蝙蝠が一匹戻ってきた。
最初に声援を受けたせいか、蝠一匹一匹の飛行は力強い。それはこの個体も例外ではないようだ。
歌声はずっと響いている。
「言い忘れていた。声援、感謝する」
どこからともなく、顕吉の声が響いてきてこだまする。
再び上昇していく吸血蝙蝠を見上げつつ、ティファーナは精霊、聖霊、天使たちを呼びよせた。
「ねえ、ボクも応援してよ♪」
心得たとばかりに、美しい歌声による声援が送られ、ティファーナの疲労を癒していった。
それなりの時間が経った。
顕吉はかなりの時間飛んでいるが、未だ頂上には着かない。
そんなとき、崖の一部が崩れた。
飛んでいる顕吉は簡単に避けられたものの、下にはまだティファーナがいる。
「……いかん」
精霊、聖霊、月霊、天使たちからも警告が飛ぶ。
助けようと顕吉が降下しようとしたところで、光に包まれて輝く英霊が、素早くティファーナを抱えあげ顕吉のもとへテレポートした。
「ほう……やるな」
顕吉の口元に笑みが浮かぶ。
崖に両手両足をかけてつかまると、心を落ちつかせる意味もこめて、ティファーナは七色こんぺいとうを取りだして口に運ぶ。
「糖分補給は疲労回復にいいっていうしね? キミも食べる?」
誘えば吸血蝙蝠が一匹近寄ってきた。
「いただこう。……甘いな」
受けとった七色こんぺいとうを、顕吉は口の中で噛みくだいた。
ティファーナは七色こんぺいとうを精霊、聖霊、月霊、天使たちにも与え、労った。
「ご苦労さま。この調子で頑張ってね♪」
期待に応えるかのように、断崖絶壁に美しい歌声が響いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ザガン・アッシム
【アドリブ及び連携歓迎】
(ふむ…)ミフィリト…とか言ったか
そのオブリビオン…いや、『彼女』が大事そうにしている品はあるか?
もし可能であれば…そいつは持ち帰った方がいいか?
討伐証明……いや、『二人の少女の絆の証』としてな。
自身の重量も考慮して慎重に【地形を利用】して【クライミング】する
道中、遠い位置に手掛かり・足場がある場合はUC【フレキシブル・アーム】を使ったり、手首に内蔵してある鋼糸での【ロープワーク】で登攀する
崩落・落石は左腕を盾にして回避。トラブル発生時は咄嗟に鋼糸を射出して断崖の岩盤に打ち込む
戦友(他の猟兵)が設置した登攀補助具は使わない
…俺の重量で使ったら確実にぶっ壊れるだろうからな
故無・屍
……フン、金にならねェ仕事だな。
お前がそいつとどんな因縁があるのかなんざ聞く気はねェし興味もねェ。
だが……、本当に、俺らが殺していいんだな?
それなら、せいぜい待ってろ。末期の声を聞いて来るくらいはしてやる。
…その中に、何かに繋がる言葉が含まれる可能性もあるだろうよ。
ッチ、これを登れってか、面倒臭ェ。
UCを用いて身体能力を強化、怪力、第六感を用いて
足場として使いやすい突起を選び登攀する。
後続の猟兵にも伝達しサポートを。
落石などの被害を受けそうな味方が近くに居るようなら「かばう」
正義感だのなんだの、大層な理由なんざ無ェ。
ーーただ、あいつの話が気に入らねェから終わらせる。 それだけだ。
断崖絶壁を見上げた故無・屍(強化人間の黒騎士・f29031)は、その高さに辟易していた。
「ッチ、これを登れってか、面倒臭ェ」
指を鳴らして高速戦闘モードに変身した屍は、爆発的に増大した身体能力を如何なく発揮し、まるで地面を走っているかのように断崖絶壁を駆けあがっていく。
変身直後から、屍は自分からなにかがごっそりと継続的に抜けていく感覚を覚えていた。
これは、変身の代償だ。
「さっさと頂上に着きたいもんだ……!」
しばらく走ると、走る屍にとっては悪路、登攀するならば手がかりだらけの箇所にさしかかる。
走りやすい箇所ばかりとはいかないが、これは裏を返せば登攀するほうが早いということでもあった。
強化された怪力を惜しみなく使用し、どの手がかりを選ぶべきかを直感的に決め、手と足を動かしていった。
一方で、ザガン・アッシム(万能左腕の人機兵・f04212)はでっぱりに手をかけ、屍より高い場所でするすると崖を登っていた。
自分の重量を考慮して、すでに用意されているザイルは使っていない。
「俺が使ったら壊れそうだからな……」
足がかりになりそうな箇所が遠い場所まで来た。
「こいつを使うか」
肉体構造を一時的にフレキシブル・べロウズ・リムに変えたザガンは、でっぱりに手をかけたまま下へと降りていく。
下に降りるごとに、ザガンの腕がゴムのように伸びていった。
足はロックがわりだ。
「これくらいでいいな。……よし、いくぜ!」
崖から足を離した瞬間、ザガンの身体は勢いよく上へ向けて撃ちだされていった。
「そこだ!」
次のでっぱりを見逃さず、腕を伸ばしてつかむとフックショットのように移動して張りつく。
そのタイミングで、上から崩れた岩盤が降ってくる。
ザガンはとっさに左腕を盾にして受けとめる。
だが岩盤とザガン自身の重みに耐えかねたか、足場にしていたでっぱりも崩れ、踏んばりが利かなくなった。
岩盤を受けとめた姿勢のままもろとも落下するザガンは、このまま地上に激突すれば下敷きになるだろう。
腕部収納式アンカー・ワイヤーを岩壁に射出し、鋼糸が打ちこまれたのを確認すると、岩盤を蹴って振り子のように勢いよく脱出しようとする。
だが下に落ちる力が強く、脱出するための力が足りない。
「手伝ってやる!」
ザガンの危機に飛びこんできた屍が、半ば体当たりするような形でザガンを押しだし、二人分の力で岩盤の下から脱出させる。
「まずい……!」
岩壁に張りつき事なきを得たザガンだが、かわりに屍が岩盤に囚われた。
腕を伸ばして勢いよく降下し、岩盤が落ちてくるタイミングを計ると、水平になる瞬間を狙って腕を鞭のようにしならせて伸ばし、屍へ向けて打ちだした。
「俺の手を取れ!」
「これぞ助けあい精神ってやつかァ!?」
屍が手をつかんだのを確認すると、ザガンは全力で手を縮ませ、引きもどしていく。
繋いだ手と手が外れそうになるのを、屍も怪力を発揮して握りしめ堪えつづける。
そのまま岩盤の下から脱出しザガンの傍にまで運ばれた屍が、壁に張りつくことに成功する。
「お前さん、なかなかやるじゃないか」
「これくらい、朝飯前だぜ」
ザガンと屍が手を打ちあわせ、二ッとお互い笑みを浮かべる。
二人の下で、地面に激突した岩盤が轟音と共に砕けちり、激しく土砂を舞わせていた。
そこから先は大したアクシデントもなく、頂上に到着する。
すでに全員揃っている。
薔薇園が、遠くに見えていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 冒険
『血の薔薇園』
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POW : 大胆に行動
SPD : 慎重に行動
WIZ : アイテムや特技を活用
👑11
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故無・屍
…断崖絶壁の次は迷路か、次から次にと面倒な場所だぜ。
だが、迷路にわざわざ付き合ってやる理由もねェな。
無粋な侵入者を迎撃に向こうから来てくれんなら御の字だ。
追跡、第六感、野生の勘を以てオブリビオンのいる方向に当たりをつけて、
UC「暗黒剣」、地形破壊にて迷路の壁を破壊しつつ直進する。
棘を飛ばしてくる薔薇についても第六感、野生の勘、武器受けにて対応。
早業にて行動は迅速に。
基本的には迷路を破壊することによる不測の事態に備え単独行動、
他の猟兵が近くに居るようであれば、いつでも「かばう」ことのできるよう身構えておく。
…この先にここのオブリビオンがいるってか。
――ッチ、10年なんざ遅すぎんだよ、くそったれ。
薔薇園の中では、色とりどりの美しい花が咲きほこっていた。
定番の赤から黄色や白、さらには黒や青の薔薇まで多種多様だ。
……だが、この薔薇園は十年間人が訪れていないことを忘れてはいけない。
その事実を鑑みれば、美しく咲いていることこそがすでに異常だった。
「ああ、これは確かに、オブリビオンがいてもおかしくねェな」
妖しく咲いている薔薇の数々を眺めながら、故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)はひとりごちる。
屍は単独行動をしていた。
綺麗に整えられた薔薇園は、まるで迷路のような様相を呈している。
中はどこもかしこも薔薇ばかり。
似たような景色が続いていて、気を抜けば現在地を見失いそうになる。
「次から次へと面倒な場所だぜ。だが、つき合ってやる義理もねェ」
抜きはなたれたレグルスに、漆黒のオーラが集い白い刀身を染めあげる。
茨の壁に斬りつけると斬断音が響き、屍は複数の茨を同時に断つ手応えを感じた。
「ルール無用の大暴れってね。向こうから来てくれるよう仕向けるまでだ」
そうやって薔薇園を迷路化させている茨の壁を斬りこわし、強引に道を作る屍の働きによって、屍が通った道には広い空間ができていった。
「……ん?」
斬ろうとした茨の壁からよくない予感を感じた屍は、とっさにアビス・チェルナムの柄に手をかけた。
同時に、レグルスを茨の壁に振るおうとした隙をついて、棘の蔦が伸びてくる。
「おっと」
引きぬいたアビス・チェルナムで斬りはらった屍は、ため息をつく。
「……やれやれ。油断も隙もありゃしねェな」
以後、襲いくる蔦を斬りすてながら進んだ。
成功
🔵🔵🔴
祝聖嬢・ティファーナ
WIZで判定を
*アドリブ歓迎
「妖気…気を付けないと…」
『グレムリン・ブラウニー・ルーナ』で小妖精を呼んで「周りを警戒してね♪」と伝えて『フェアリーランド』の壺の中から精霊・聖霊・月霊を呼んで『クリスタライズ』で姿を隠しつつ警戒を解かずに『月世界の英霊』も使いながら猟兵や妖精・精霊の元を移動しながら目視して精霊・聖霊・妖精が何かに気付いたら気を付けて近付きます☆彡
呼ばれる毎に“七色こんぺいとう”を配って敵や何かのUCには『月霊覚醒』で封印/弱体化をして精霊・聖霊・月霊・妖精と猟兵と連携を取りながら傷付いた者には『祝聖嬢なる光輝精』で怪我を治し『シンフォニック・メディカルヒール』で癒します☆彡
アオイ・カーマイン(サポート)
サイボーグの16歳の女性です。
普段の口調は女性的(ぼく、あなた、~さん、だね、だよ、~かい?)
真剣な時は 冷静(僕、相手の名前、だね、だよ、~かい?)です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず、寿命の消費も必要と判断すれば積極的に使用します。
基本他の猟兵の補助を優先します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
オビリビオンのものと思われる気配が、薔薇園全体に広く薄く漂っているのを、祝聖嬢・ティファーナ(フェアリーの聖者×精霊術士【聖霊術士】・f02580)ははっきりと感じとっていた。
「どこから攻撃されるか分からないから、気をつけないと……」
ティファーナは、小さな壺から精霊、聖霊、月霊、星霊を呼びだし、放つ。
いっせいに茨の壁に取りつくと、蔦を引っこぬいて双眼鏡や望遠鏡に変化させ、それらを使って周囲の警戒を始めたご褒美としてそれぞれ一つずつ七色こんぺいとうを与える。
「それじゃあ、頼んだよ?」
さらに壺から光り輝く英霊を呼びだし、自分を含め二人の身体を水晶のごとく透明に変化させた。
薔薇園を広範囲に監視して、味方になにかあれば英霊の力を借り、テレポートで駆けつける作戦なのだ。
アオイ・カーマイン(心身、未だ未完のサイボーグ・f26716)の姿を、双眼鏡で周囲を見ていた精霊が見つけた。
ちょうど通路の曲がり角で茨の壁に背を向け、背後から放たれた棘の蔦を、事も無げに手でつかみとっている。
捕まってなおもうねうねと蠢く棘の蔦を、アオイはしげしげと眺めた。
「勝手に動く植物か……。奇妙だね」
慌てて飛んできていた精霊が、ほっとした様子で笑顔を浮かべた。
そんな精霊に、アオイは気づく。
「……あなたはもしかして、他の猟兵さんのお仲間かな? もしかして、助けようとしてくれていたのかい? ありがとうね」
ほほえむアオイに、精霊の顔も笑顔でぱぁっと輝いた。
頭を撫でられて、嬉しそうにはにかんでいる。
以後アオイを気にするように決めたらしく、そのあとをついていった。
しばらくすると、アオイは再び棘の蔦の不意討ちを受けた。
今度は複数方向から同時にだ。
だがアオイには精霊がついている。
連絡を受けて瞬間移動してきたティファーナが、襲いくる棘の蔦たちの前に立ちふさがった。
「おいたは駄目だよ。大人しくしててね!」
いくつもの光がティファーナの周囲に浮かび、それらは満月、半月、三日月、神月の形をそれぞれ取ると、連続で棘の蔦を迎撃する。
鞭のようにしなりあらぬ角度から襲いくる蔦にティファーナはしっかり反応し、発射した月たちを合わせた。
棘の蔦が月たちを打ちはらい、破壊する。
だが、あふれた光が棘の蔦の動きを封じた。
「今のうちだよ!」
自らの身体の内から治癒の光を発するティファーナは、癒しの歌を奏でた。
棘の蔦は激しく暴れ、くびきから逃れようとする。
そこへ、ロケットのように飛んできた誰かの右腕が絡みつき、さらに戒めを強化する。
「させないよ」
精霊に案内されてやってきていたアオイが、右肩から丸々腕一本を消失させ、隻腕の姿で佇んでいた。
「腕! 腕が! 大丈夫なの!?」
「ああこれ? 機械化されたサイボーグの腕だから問題ないよ」
慌てて治療しようと駆けよってくるティファーナへ、アオイは笑って右肩の結合部分を見せた。
「あ、どうせだからこれ、使ってみる?」
「え……ええ~!? わ、分かった! やってみるよ!」
みるみるうちに身体の一部を変形させ、作りだしたクロスボウをティファーナへ手渡す。
「あなたの精霊にも、あなた自身にも助けてもらったから、そのお返しだよ。それじゃ、行こうか。索敵や支援は任せて」
風のように走りだしたアオイを、クロスボウを手にティファーナが慌てて追いかけるも、再び棘の蔦が邪魔をする。
しかしあっさりと、クロスボウの一撃によって粉砕された。
「これ、すごいね!」
「役立ったようでなによりだよ」
威力を見て目を丸くするティファーナに、アオイは笑いかけた。
成功
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風雷堂・顕吉
アドリブ連携歓迎
ユーベルコード「蝙蝠変身」、技能【視力】【偵察】を使用。
吸血蝙蝠の群れになり、空から薔薇園の様子を俯瞰して観察する。
薔薇が活発に活動しているエリアを探し、そこに近づいて様子を見る。
空からでは分からないなら、薔薇園の中央にあるという、十字架の祭壇のもとに向かう。
この祭壇付近にいなければ、ここを探索の拠点とすべく安全確認をしよう。
聞いた話では、オブリビオン以外は皆、逃走したという。
十年前のことではあるが、オブリビオン以外は敢えて近づくものもいないだろうから、話を裏付けする何か、あるいは補足する何かが見つかるかも知れないしな。
他の猟兵が先に戦闘に入った場合、そちらに駆けつける。
ザガン・アッシム
【アドリブ及び連携歓迎】
迷宮…ねぇ…
侵入者を近づけさせない為か、或いは『自分を外に出さない様にする為』か、果してどっちの意図やら…
薔薇園では蔦が邪魔してくるまでは右手法を用いて正攻法で進む
火炎放射器は今回使わない。
下手に燃やして別の蔦も一斉に活性化したら大事だからな。敵さんの居場所が本格的に分からなくなっちまうかもしれねぇし
道中、絡んできた蔦は殺戮刃物で切り落とす。数が多くなるか、右手に絡み付かれたらUCで刈り取る
(蔦の棘は【激痛耐性】で耐える。なお、左腕に絡んできたらUCで諸共刈り取る)
刈り取った壁は暫く観察して再生するかどうかを確認し、再生しない様であれば薄くなった茨の壁を強行突破する
ザガン・アッシム(万能左腕の人機兵・f04212)の遥か頭上で、漆黒のマントが宙を舞ったかと思うと、無数の吸血蝙蝠たちに変化した。
風雷堂・顕吉(ヴァンパイアハンター・f03119)が化けているのだ。
「ふははははは……」
どこからともなく響く顕吉の声と共に、吸血蝙蝠たちが一斉に降下を開始する。
「さて、俺も行くとするか」
地上のザガンも走りだし、両者は薔薇園に突入した。
吸血蝙蝠たちは広範囲に散らばり、薔薇園中を飛びまわっている。
外周の茨の壁はただの迷路の壁として吸血蝙蝠たちを通しているが、中央に近づくにつれ、次々に蠢きだす。
伸ばされた蔦を、吸血蝙蝠たちは一斉に空中へ退避して避ける。
その様子を眺めつつ、ザガンは堅実に薔薇園を進む。
吸血蝙蝠が降りてきて、道案内をするかのようにザガンを先導した。
「ありがとよ」
「礼には及ばん。味方として当然だ。……そろそろそちらでも壁が動きだすぞ。武器を抜いておけ」
蝙蝠を通じて聞こえてくる顕吉の声に頷き、ザガンはレフトアーム・ベーシックの各種銃火器の、セーフティロックを外した。
「……チッ」
聞こえた顕吉の舌打ちにザガンが振りむけば、中央に強行偵察を兼ね突入した吸血蝙蝠たちの一派が、たちまち棘の蔦に捕まり茨の壁の中へ引きずりこまれている。
棘だらけの茨でできた壁だ。
囚われた吸血蝙蝠たちは無事では済むまい。
赤い薔薇の花が、鮮血を浴びたかのようになお紅く染めあげられていく。
「オブリビオンの抵抗ってわけか。俺たちを近づけさせたくないのか、はたまた自分を外に出さないようにしているのが、暴走しているのか……。後者だったら、まだ救いがあるのかねぇ」
「……さぁな。どちらにしろ、俺たちのやることは変わらん。」
残っていた吸血蝙蝠たちが集まり、顕吉は元の姿に戻る。
黒マントを風になびかせながら、蠢く茨の壁を観察した。
「……血を吸っているようだな。吸血種ならば、ダンピールたる俺の得意な相手だが……」
棘の蔦を伸ばしてくるとはいえ、薔薇園の薔薇たちは基本はその場から動かない木偶の坊だ。
戦いを避けることは、不可能ではないだろう。
「こりゃ、警備の厳重さを見るに、中央がビンゴか」
「十字架の祭壇があるらしいな。状況的にも、オブリビオンの居場所はそこが濃厚のようだが……む」
中央に近づくにつれ薔薇たちの抵抗が激しくなっていることを鑑みると、全員で挑まねば危険そうだ。
なにかを見つけたのか、顕吉は再び無数の吸血蝙蝠に変身し、薔薇園へと降りていく。
「火は……まずいよな、さすがに」
茨の壁が大炎上することを危惧したザガンが、腰に差している殺戮刃物を引きぬき、蔦を斬りはらいながらあとを追う。
「中央部に味方が辿りついているようだぞ。だが、茨に襲われている」
「そりゃ大変だ」
通すまいとする蔦の激しい抵抗で、顕吉の吸血蝙蝠がまたいくらか数を減らし、ザガンも回転刃物を仕込んだ左腕の使用を余儀なくされる。
回転刃物で棘の蔦がまとめて切断された。
「……この薔薇園自体は、オブリビオンじゃねーな。再生もしないみたいだ」
「あくまで自然物を操作したトラップというわけか。枯れていないところを見ると、なにかしら手は加えられているようだが」
茨の壁を相手に奮闘していた味方の前に、顕吉とザガンが辿りつき、加勢して安全を確保した。
成功
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シホ・エーデルワイス
何て寂しい所…
こんな所で独り…
私も猟兵になった頃は記憶が無くて寂しかった
上空から薔薇園の構造を<情報収集>
『聖瞳』の望遠機能で討伐対象の位置を特定
常時『聖笄』で透明になり道に迷わない様
垣根の上ぐらいの高さを空中浮遊しつつ
地上を進む仲間が迷わないよう
エーデルワイスの花弁を要所で目印に落としながら進む
透明状態を過信せず常に<第六感と聞き耳>で警戒し
延びて来た蔦は聖剣で切る
【奏手】は地上ルートの安全確認
ルノ:ねえ、シホはどうしてこの依頼を受けたの?
救える生者はいないよ?
…生者ではないけど救いたいと思ったから
それに…彼女は私が知りたい事を知っているそんな気がするの
ルノ:なるほど…
シホも救われると良いね
助けられたのは、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)だった。
空を飛んで薔薇園を俯瞰していたシホは、コンタクトレンズの高度演算デバイスを起動し、オブリビオンと化した少女の姿を真っ先に探した。
そして、見つけたのだ。
気配と臭いも消して透明になり、ここまで来た。
最後の最後で薔薇たちに気取られてしまい、『聖剣』パッシモンを抜くことになったが。
祭壇に踏みこめば、オブリビオンと化した少女と戦闘になる。
エーデルワイスの花弁を落としながら来たので、じきに他の者たちも合流できるだろう。
少し歩けば、祭壇に辿りつける。
遠くには、十字架が小さく見えた。
距離のせいでそう見えるものの、近づけばその大きさが露になるだろう。
人が入れぬ場所で美しく咲きほこる薔薇園は、オブリビオンとなった少女の孤独を現しているようにシホには思えていたが、祭壇を前に考えを改めざるを得ない。
十年もの月日が流れた事実を示すかのように、半ば崩れかけ、廃墟となった祭壇のほうが、よほど。
(なんで寂しい場所なの……こんなところで、十年も一人だったなんて……)
少女の孤独を思うと、シホはかつて抱いた自らの孤独を想起させられる。
ルノが現れ、シホに語りかける。
「ねえ、どうしてこの依頼を受けたの? 救える生者はいないよ?」
「……生者ではないけど救いたいと思ったから。それに……彼女は私が知りたいことを知っている。そんな気がするの」
「なるほど……。シホも救われるといいね」
シホを、ルノは目を閉じ愛しむように抱きしめた。
祭壇に踏みこむ。
少女は十字架の前に跪き、祈りを捧げていた。
心身深い聖人のように。
あるいは、神に懺悔する罪人のように。
オブリビオンでありながら、清浄な空気すら感じさせる雰囲気だった。
だが、少女がオブリビオンであり、討伐すべき存在であることは、疑いようがない。
侵入者の血を啜る薔薇園の存在は、オブリビオンとなった少女の抗うことのできない側面を現しているのかもしれないのだから。
成功
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第3章 ボス戦
『未来へ希望を託した少女『マリア』』
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POW : あの時から、私は死なない、死ねない……
【かつて流し込まれた吸血鬼の血による不死】に覚醒して【UCを反射する不死体】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : まずは少し話そうよ?
【敵のUCの発動】から【一秒前にUCを封じる掌底】を放ち、【使おうとしたUCの不発】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : さよなら、もうこっちに来ちゃダメだよ?
【眠れば元いた世界に強制送還する光】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
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故無・屍
……これがこいつの末路って奴か。
――気に入らねェ。
本当に不死だってんなら、いくら強く殴った所で意味はねェ。
なら、その不死そのものを断ち切るしかねェな。
馬鹿正直に剣を振ったところで返される。
――狙うなら、こいつが「一度死んだ」瞬間だ。
怪力、2回攻撃、体制を崩すなどの戦闘技能を駆使して戦闘を展開。
消耗の激しい味方が狙われるなら「かばう」
マリアが一度倒れたら再生する前にUCを発動。
反射されるより速く、白木の杭を打つかの如く
心臓に白刃を突き立てる。
…多分だがな、手前ェが10年前に助けたってガキは今生きてる。
言いたいことがあんなら言ってみろ。
……仕事は終わりだ。
最期の言葉は伝えたい奴が伝えとくんだな。
ザガン・アッシム
【アドリブ及び連携歓迎】
…漸く会えたな嬢ちゃん。
俺も言いたい事はあるが…まずはこいつ等(他の猟兵)の話を聞いてくれ、何やら渡したい物もあるみたいだしな。
他の猟兵とのやり取りが終わるまでは手出しはしない。不意討ちには即座に【かばう】で対応する
…さて嬢ちゃん、こっちからも質問だ
お前さん…『戦う気がない』だろ
あの薔薇園の迷路だってその気になればもっと凶悪に出来た筈だ
それがあの程度という事は…いや、これ以上はやめておくか
俺達は猟兵、お前さんはオブリビオン。そしてこれは依頼、ただそれだけの話だ
UCでα(攻撃力強化)と合体した後に心臓部をTHE・GUNで【浄化】の力を乗せた【スナイパー】で【2回攻撃】する
祝聖嬢・ティファーナ
WIZで判定を
*アドリブ関係
『フェアリーランド』の壺の中から風/光の精霊と聖霊と月霊を呼んで“七色金平糖”を配って『クリスタライズ』で姿を隠して『エレメンタル・ピクシィーズ』で属性精霊と『神罰の聖矢』で聖攻撃を仕掛けます♪
状況に合わせて『月世界の英霊』で空間飛翔して避けながら『月霊覚醒』で敵のUCを封印/弱体化させて『聖精月天飛翔』でWIZ/SPDを強化します☆彡
『叡智富める精霊』+『神聖天罰刺突』で苛烈な猛攻を仕掛けます!
猟兵の飢餓人には『祝聖嬢なる光輝精』で怪我を治し『シンフォニック・メディカルヒール』で状態異常を癒します♪
「天の“箱庭”で苦しみも決して無い新たな運命の扉へ旅立ってね☆彡」
風雷堂・顕吉
アドリブ連携歓迎
ユーベルコード「話し合いの時間」を使用する。
ヴァンパイアを殺す短剣なら持っている。
心臓を突けば死ねるだろう。
効果のほどはヴァンパイアハンターの俺が保証する。
必要ならこの短剣をくれてやってもいい。
我々がここにいる理由は、以前、お前に救われた者の働きによるものだ。
十年前のあの場で、お前の唯一の味方だったのだろう。
そして、おそらくは今でもお前の味方だ。
「今もあの薔薇園の中、ひとりぼっちで苦しみ続けるあの人に安息を与えてください」
それが、彼女の依頼だ。
良ければ、何か返事をしてやってくれ。
シホ・エーデルワイス
貴女は今迄
何を願い
祈りを捧げていましたか?
…私も…何度も祈りを捧げました…
でも
神も世界も個人の願いを聞いてはくれない
願いが叶っても
それは偶々都合良く利用されただけ
結局
自分で助けるしかないと思いました
光は遮光属性の<オーラ防御を張りつつ
思いを届ける勇気と覚悟>で耐える
(志乃さんが不参加なら)
ミフィリトさんの手紙を道中で預かった事にして届けたい
貴女が希望を託した人からの想いです
貴女が助けた彼女は
猟兵になり戦っていますよ
【終癒】で痛くせず優しく魂を吸収
帰還する迄の間だけでも留めたい
良ければ私の中に留まってくれませんか?
貴女に逢わせたい人がいます
ミフィリトさんに何か伝えたい事があれば体を貸して伝えます
人の気配を感じとったか、祈りを捧げていたオブリビオンの少女は、ゆっくりと立ちあがった。
「まさかこんな辺鄙な場所にヒトが来るとはね……いや、猟兵なら不思議なことでもないか」
ふり向いた彼女の端正な容貌のなかでも、一際めだつものといえば、朱く輝く瞳だろう。
かつて蒼だった瞳は、ヴァンパイアとなったことで変化している。
「私はマリア。かつてここを支配していたヴァンパイアに挑んだ者の成れの果て」
自嘲するマリアの口元には、たしかに人間のものとするには長すぎる八重歯が覗いている。
それはもはや、牙と形容したほうが相応しい。
痛ましそうに、顔を伏せたマリアの瞳が閉じられる。
「誰も来ないと思っていたからこそ留まったのに。運がないね、キミたちも、私も。……ごめんね。もう、吸血衝動が抑えられそうにないんだ」
閉じていた目を開いたマリアが顔を上げたとき、その瞳にはヴァンパイアとしての本能しか浮かんでいなかった。
故無・屍(ロスト・エクウェス・f29031)はマリアを見つめる。
「……気にいらねぇ」
マリアはオブリビオンだ。
討伐のためにやってきた以上、オブリビオンとなった理由が同情に足るものだったところで、彼女を見逃そうなどとは今更思わない。
ただ、巨悪に挑んだ聖女とでもいうべき者の末路がこんなものだということに、形容できない苛立ちを感じていた。
「アア──アアアアアアアア!」
待ちに待った獲物の到来を歓喜するかのように叫ぶマリアの身体から、鮮血を思わせる紅のオーラが噴出した。
そのまま襲いかかってきたマリアに、反射的にレグルスを引きぬいて応じた。
振るわれるは、爪撃の嵐。
正確に各所の動脈を狙って振るわれるそれを、素早く見切って打ちおとす。
「ようやく会えたってのに……話しあいにすらならねぇか!」
屍を庇おうと割りこむのはサポートメカ三体と合体して己を強化したザガン・アッシム(万能左腕の人機兵・f04212)だ。
ザガン自身を始め、皆言いたいこと、渡したいものの数々があったはずだが、マリアの状態はそれを許さない。
振るわれた爪が、ザガンの左腕と激突し、火花を散らす。
反撃とばかりに屍がその胸を狙って剣先を突きだせば、避けもせずにマリアは受けた。
串刺しになった身体が力を失い、ぶらんと揺れる。
一見倒したかに見えた。
「……あは」
かすかな吐息と共に、突如その両腕がレグルスをつかむ。
ヴァンパイアとなって強化されたものだろう、凄まじい腕力がレグルスを通じて屍に伝わってきた。
呆気にとられた様子でザガンが呻く。
「マジかよ……致命傷だったろ今の」
「不死なのは伊達じゃねぇってことだな」
レグルスを奪われる前に前蹴りでマリアを吹きとばすと同時に、屍はその勢いを利用して引きぬき、一振りして血を払う。
「あのときから、私は死なない。死ねないの、なにをしても……」
大きく後退して立ちつくすマリアから、嘆くような呟きがこぼれる。
だが続くのは、くすくすという笑い声。そして哄笑。
「もうまともな精神状態でもねぇ……最初のは、本当に瀬戸際だったってことか」
正気と思えないマリアの状況に、ザガンはうめく。
左腕に内臓された兵装の一つであるサブマシンガンを乱射して火力支援を行うザガンを、マリアの視線が貫く。
「……あはははははは!」
「こっちに来るんじゃねぇ!」
とっさに右腕の大型パイルバンカーで受けとめ左腕の火炎放射器で反撃しようとすれば、マリアはパイルバンカーにつかまって鉄棒のようにその下をくぐり抜け、ザガンの懐に潜りこむ。
ザガンの脳内でけたたましく警鐘が鳴らされた。
「うおおおおおおおおお!?」
半ば反射で火炎放射をぶっ放すザガンがマリアを焼却するも、ザガン自身も反撃で爪で腹を貫かれそうになる。
だがその爪は、振るわれたレグルスの閃きによってあらぬ方向に曲げられた。
割って入った屍が妨害したのだ。
「すまん、助かったぜ!」
「礼には及ばねぇ。これで貸し借りはなしだ」
攻撃が失敗するや否や即離脱するマリアを、ザガンと屍は油断なく見すえた。
「う……うう……」
急に、マリアが苦しみ悶えはじめる。
「だめ……帰って……私が抑えているうちに、早く……もう来ないで」
マリアの身体から漏れていた紅の光が勢いを弱め、かわりに清浄なる光が放たれる。
その光は優しく猟兵たちを包みこみ、眠りの世界へ誘わんとした。
そして、重くなっていく瞼で狭まる視界のなか、周囲の風景に重なるように、グロリアスベースの風景が浮かびあがっていく。
強制送還されようとしているのだ。
「お願い……話を聞いてください!」
シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)が思いと覚悟を胸に、オーラをまとって眠気と転移に抗う。
姿を隠して逃れた祝聖嬢・ティファーナ(フェアリーの聖者×精霊術士【聖霊術士】・f02580)が、手にした壺から風や光の精霊、聖霊、月霊を呼びだした。
「させないよ! 皆の目を覚まして!」
笑顔の霊たちが、それぞれの口に七色こんぺいとうを無理やりねじこんでいく。
驚いて全員の眠気が吹きとんだ。
さらに満月、半月、三日月、新月を模した光がマリアに撃ちこまれ、皆の強制転移を封じた。
「帰ってって言ってるのに……うあああああああああ!?」
再び頭を押さえたかと思うと、髪をふり乱してマリアがティファーナへと突っこんでいく。
光り輝く英霊の腕をつかんで共にテレポートしたティファーナは、屍とザガンのもとへ現れマリアとの交戦の際に負った傷を癒した。
「ありがてぇ」
「助かるぜ」
ティファーナを見失ったマリアが、狂乱してあたり構わず爪を振るい暴れている。
「どういたしまして♪ ……このまま暴走されても困るね……ボクが引きつけるよ!」
二人にほほえんで天使に変身したティファーナがマリアの周囲を横切れば、反応したマリアがティファーナを追いまわし始める。
「逃がさないんだから……!」
揺れる精神状態を表しているのか、マリアの言動は支離滅裂だ。
ティファーナがマリアに指先を向けると、精霊、聖霊、月霊が一斉に魔法の矢を発射した。
空中から降りそそぐ魔法の矢の数々は、逃げるマリアを追尾して囲み、全方位から着弾する。
発生した煙のなかから、マリアが飛びだしてくる。
「──光あれ」
厳かに告げたティファーナの言葉が、天へと立ちのぼる光の柱を生んだ。
「きゃああああああああ!?」
聖なる光に焼かれ、マリアが苦しみ悶える。
「今だよ!」
鋭くティファーナが声を発した。
「このときを待っていた!」
すかさず風雷堂・顕吉(ヴァンパイアハンター・f03119)が、オブリビオンとしての影響を封じることでマリアの狂乱を沈めて落ちつかせ、話しあいができる状況に持ちこんだ。
マリアの狂乱が収まっていく。
「……あ? 私は……」
「そう長くはないが、これでしばらくは大丈夫だ」
理性をとり戻せたことを、信じられないとでもいうように目を見開きながら己の両手を見つめるマリアへ、顕吉は告げた。
状況を理解したマリアから、聖女との呼び名に相応しい、慈愛に満ちた眼差しが顕吉へ、そして他の全員へ注がれる。
「ありがとう。正直、自分ではどうしようもなかったんだ。それで、私を殺しに来てくれた……ということで、合っているのよね?」
そんなことを、どこか困ったように、されどどこか安堵した様子で、マリアが尋ねるのだった。
どうやってマリアを殺すかということについて、まず一番に話しあう。
屍が試したように、普通に殺そうとしただけでは、マリアの不死性でまず殺しきることができない。
「ヴァンパイアを殺す短剣がある。これでなら吸血鬼とて死ねるだろう」
顕吉が鞘からヴァンパイアキラーを引きぬき、皆に見せる。
「それ、は──」
まるで焦がれるように、マリアが手を伸ばした。
「待て。話が終わっていない」
ヴァンパイアキラーを顕吉が鞘に納めれば、吸血鬼殺しの気配が薄れていく。
「まずは、何故我々が来たのかを言おう。殺しにきたのは確かにそうだ。だが、そもそも依頼主は、お前もよく知っている者だ。覚えているだろう。かつてお前が命を賭して助けた少女のことを」
「──そう、あの子が……。まだ、覚えていてくれていたのね」
かんばせを、涙が伝う。
マリアはミフィリトのことを覚えていた。
片時も、忘れたことなどなかった。
オブリビオンとなった自分を自らこの薔薇園に閉じこめているあいだ、ずっと関心を寄せていたのは、彼女が幸せに暮らしていけているかどうかだったのだから。
それだけが心残りだった。
自分のことなんか忘れて、幸せに暮らしていることが、マリアの希望だった。
そうであって欲しかった。当然だ。生きのびて、幸せになってほしかったのだ。断じて、心の傷を負わせたかったわけではない。
けれども、あの状況で忘れて生きてほしいというのが虫でのよい話であることも、理解していた。
置かれた立場が逆だったなら、マリアも絶対に忘れないに違いないのだから。
そして、顕吉はマリアの想いも大方見当をつけていた。
「名をミフィリトといったか。彼女の願いで俺たちはここにいる。『今もあの薔薇園で、ひとりぼっちのまま苦しんでいるあの人に安息を与えてください』、それが彼女の願いであり、依頼だ。……よければ、なにか返事をしてやるといい」
「……その前に、これを」
シホがマリアに差しだしたのは、とある猟兵から預かったミフィリトの手紙だった。
偽造とミフィリトはうそぶいていたが、シホにはミフィリトが本人のようにしか思えなかったのだ。
手紙を読んだマリアは、空を見上げて一言だけ呟く。
「……ああ」
その一言にどれだけの感情がこめられていたのか。
少なくとも十年間の重みはあるだろう。
己の境遇とマリアの境遇を重ね合わせて深くマリアに心を入れこんでいるシホは、彼女のことを知りたくて、マリアへと言葉を重ねる。
「貴女は今まで、なにを願い祈りを捧げていましたか? ……私も……何度も祈りを捧げました……でも、神も世界も個人の願いを聞いてはくれない。願いが叶っても、それはたまたま都合良く利用されただけ。結局、自分で助けるしかないと思いました」
「あの子の幸せを願っていたわ。私には、それしか願えなかった。神様は意地悪だから、個人の願いは、なかなか聞いてくれないわよね。ええ、分かるわ」
迷える少女に、マリアはふんわりとほほえんだ。
それはまさしく、聖女と呼ぶにふさわしい慈愛に満ちたものだった。
「でも、たまに気まぐれに聞いてくれることもある。私のもとへ、あなたたちが来たように。……もしかすると、願う人数によるのかもね。私は終わりを望んでいた。あの子は私が救われることを願っていた。そして世界のために、オブリビオンは多くの人々から消滅することを祈られている。だからこそ、私は今回終われることができる。……オブリビオンになって、少しそう思うの」
「それじゃ、結局貴女にとって本当の救いには……!」
「いいのよ。それもまた、私の罪なのだから。──それに、また今の私とは別の私が現れても、あなたたち猟兵が来てくれるのでしょう?」
マリアの視線は、シホから離れて他の面々に向けられる。
まずは屍とザガンだ。
「……安心しな。何度迷いでようがきっちりと殺してやるからよ」
「お前さん、衝動に全力で抗ってたろ。温いんだよ、ここに来るまでの妨害も、なんだかんだ、暴走しているときも。……いや、今更か。猟兵が任務でオブリビオンを滅した。それだけの話だ」
「ありがとう。それで構わないわ。ううん、そうあるべきなのよ」
ほほえんで答えのすべてを隠したマリアに、言いかけた言葉を、ザガンは飲みこんだ。
「もう、苦しむことはないんだよ。またオブリビオンとしてこっちに出てきちゃうこともあるかもしれないけれど、それまではゆっくり休んでね」
ティファーナが手向けの言葉を送る。
「……そろそろ時間だ」
顕吉の言葉が、終わりの合図となった。
無抵抗であることを示すかのように、マリアが両手を広げる。
「本当にありがとう。あなたたちの行く末に、幸福があらんことを」
そこで、再びヴァンパイアとしての本能がマリアの意識を奪おうとする。
だが全力で抗ったマリアが身体の動きを封じこめ、来たる刃を受けいれた。
顕吉のヴァンパイアキラーが、静かにマリアの胸へ突きたてられた。
さらに屍がレグルスで突きさす。
白木の杭を打ちつけるがごとく。
ザガンが左腕で浄化の力を乗せた弾丸を二発撃ちこんだ。
霊たちを従えティファーナが光を放つ槍を投げはなち、神聖なる輝きでマリアに潜む邪を浄化していく。
マリアの瞳から、緩やかに紅の色が消えて生来の蒼が戻っていく。
ただしそれは、オブリビオンとしての一時的な死……即ち消滅を意味していた。
手足の先から静かに消えつつあるマリアの身体へ、シホは触れる。
温かな光が二人を包みこみ、マリアの魂を、シホは一時的に受けいれた。
さあ、行こう。最後の別れを果たさなければならない。
ミフィリトは、別れたときと同じ場所で、猟兵たちの帰りを待っていた。
「お疲れさまです。……オブリビオンは倒せましたか?」
「ああ」
「薔薇園のヴァンパイアはたしかに殺したぜ。依頼達成だな」
言葉少なに頷く屍に、ザガンがつけ加える。
一瞬だけ、ミフィリトの表情が強張った。
しかし彼女もいっぱしのグリモア猟兵。表情の取りつくろいは慣れている。
「それはよかったです。お手柄ですね。……なんでしょうか?」
「ううん、なにも~?」
なにやら言いたげな視線を向けていたティファーナは、にっこり笑ってしらばっくれた。
「皆さん、ありがとうございます。これで大きな脅威がまた一つ、除かれました」
「ヴァンパイアハンターとしての職分を果たしただけだ。礼の必要はない」
素っ気なく告げた顕吉が、さりげなくシホの背を押した。
「私、最後くらい救いがあってもいいと思うんです」
鉄壁だったミフィリトのほほえみは、シホの身体から浮かびあがった半透明のマリアの姿に、ついに崩れた。
『……ありがとう。あなたのお陰で私は救われたよ。これからは、あなたが幸せになってね』
留められなくなったマリアの魂が消えていく。
無表情になったミフィリトの眦からあふれた涙が、頬を伝っていく。
「自分を責めなくていいんですよ。もう、自分を許していいんです。救われるべきなのは、あなたも同じなんですから」
俯き震えるその肩に、シホはほほえんでそっと手を置いた。
大成功
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