13
アースクライシス2019⑭〜怨嗟招来

#ヒーローズアース #戦争 #アースクライシス2019 #オブリビオン・フォーミュラ #クライング・ジェネシス



「もう聞いているであろうが、クライング・ジェネシスの居場所が判明したらしい」
 グリモアベースの一角に立ち、竜尾を揺らしたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が、神妙な顔で瞬いた。
「細かい話は抜きにしよう。此度の任地はケルン大聖堂――駅に面した広場である」
 翳された手の先に揺らぐのは、壮麗で繊細なゴシック様式の建築物だ。
 この世界遺産を占拠したクライング・ジェネシスは、猟兵たちが到着したのちにそこに現れる。ケルン中央駅に繋がる広大な広場にて戦闘を行い、猟兵たちを圧倒するところを人々へ見せつけて、この世界に対して抱く鬱憤を晴らそうというのが魂胆とみえる。
 己にとって有利なフィールドではなく、敢えて地上世界において有名な建造物を選んだ理由は一つ。
「まァ、つまり、何というか――早い話が自己顕示欲の塊という奴でな」
 派手な場所で派手に戦う。人々の注目を集め、自己顕示欲を満たしたうえで、猟兵たちを華々しく撃破する。恐怖を植え付けようだとかいう打算も多少はあるのだろうが、そういう思いは強い自己顕示に比べればさしたるものでもなさそうだと、ニルズヘッグは若干眉根を寄せた。
「言っていることを聞くと頭は悪そうだが、当人がご丁寧に語ってくれた来歴を聞くに、ただの馬鹿ではないのであろう」
 聞けば元はただの無能力者だったという。口八丁とハッタリのみを武器として数多のヒーローを屠り、その能力の全てを得んとして来て――その副作用で死んだらしい。ならばそれを成せるだけのものは備わっていたということだ。
 その力の根源が強大な恨みにあったとすれば、だからこそ恐ろしいともいえる。負の感情を起点とするエネルギーに果てはない。クライング・ジェネシスとしての意識がそこにあり続ける限り、彼は幾度でも這い上がって来るだろう。
 まして今、それがフォーミュラなる存在になったというのなら。
「骸の海発射装置とかいうのも勿論、クライング・ジェネシスそのものが強大な力を持っているのも確かだ。十全を期してくれ」
 胸部にてチャージされている発射装置は、まだ完全な状態ではない。それでも過去を現在に解き放つ力は充分に作用するだろう。不完全な現状ですら、単体で警戒に値する代物だ。
 肉体は無数のヒーローの継ぎ合わせで出来ている。その見目が決して快いものではないとは当人も分かっているのだろう、堅牢な鎧で全身を覆い隠している。とはいえその力を振るうに支障がある様子はなさそうだ。
「我々の戦局は互角、ここで押し切れば勝利は目前だ――健闘を祈るよ」
 そう笑った男の手の中で、蛇のグリモアは禍々しい光を放った。


しばざめ
 しばざめです。こういうボスは大好きです。

 今回のシナリオでは、「敵のユーベルコードへの対処法を編みだす」などして頂ければプレイングボーナスを差し上げやすくなっております。

 プレイングは送れる限り受け付けています。目安は『11/27(水)』いっぱいごろです。
 今回は「12/1までに書けるだけ」の採用を予定しています。なるべく全採用で頑張っていきます。

 それでは、お目に留まりましたらよろしくお願いいたします。
186




第1章 ボス戦 『クライング・ジェネシス』

POW   :    俺が最強のオブリビオン・フォーミュラだ!
全身を【胸からオブリビオンを繰り出し続ける状態】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    貴様らの過去は貴様らを許さねェ!
【骸の海発射装置を用いた『過去』の具現化】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【相手と同じ姿と能力の幻影】で攻撃する。
WIZ   :    チャージ中でも少しは使えるんだぜェ!
【骸の海発射装置から放つ『過去』】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を丸ごと『漆黒の虚無』に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​
鎧坂・灯理
Hello,Faxxin'Guy. Have a BAD END!

――ブッ殺す

起動、【月華竜変化】
燃えろ私の心、どこまでも燃えろ
三千世界を焼き尽くすほどに
湧き出る「デブリ」共など蒸発させろ

性根の腐りきったクソ野郎
私はテメェみてぇな汚物に一番効く言葉を知ってるぞ

――「かわいそうにね」

ハハハハハハ!!どうしたァ?顔が真っ赤だぞ!猿のケツみたいじゃないか!ハハハ、お似合いだアハハハハ!!

――挑発に乗ったが最後だよ、クズ
無敵は解除されてる
さあ、竜の暴力をご覧じろ

沈め
骸の海の、底の底まで




 不死鳥は止まらない。
 伴侶の敵を悉く叩き潰さねばならない。この不毛でどうしようもない自称巨悪をへし折り、伴侶の守るこの世界を守らねばならない。
 故に。
 戦局に苛立ち続け、ようやく首魁の眼前に辿り着いた鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)の第一声は決まっていた。
「Hello, Faxxin'Guy. Have a BAD END!」
 流暢な発音で繰り出されたのは、ドスの利いた悪役の笑声だ。丸腰をこそ一番の武装とする灯理の前にあって、クライング・ジェネシスの堂々たる立ち姿は小動もしない。その胸に空いた大穴が、ずろりと淀んだ空気を孕んだ。
「ギャーッハッハッハッ! クズが丸腰でよく吼えやがる! こりゃムカつく野郎だな。貴様みたいなのが一番腹立つんだよ!」
「奇遇だな。私もだ」
 ――揺るがぬのは灯理とて同じこと。
 眼前に現れる無数の過去が、彼女の敵が、彼女の愛する者の敵が、脆弱な人間の命を圧し潰さんと波濤のように迫り来る。そのおぞましい光景を前に、彼女が逃げ出すことなどない。
 盛る怒りがある。その火を掻き消さんとする恐怖の冷や水がある。それら全てを鎧坂・灯理を形作る武器とする、意志がある。
 だからこそ、彼女は低く、吼えるのだ。
「――ブッ殺す」
 解き放つは誓い。竜と並び立ち共に歩む『ひと』の意志。変ずるは月下の銀竜、喚び醒ますは心の焔――。
 遥か人を越え、人外の狂気とまで高まった愛と意志のみを杖にして、王の咆哮が過去の残滓の全てを焼き払う。どこまでも燃えろ。心の焔に果てはない。三千世界までをも燃やし尽くしても止まらない。燃料はこの、無尽蔵に湧き上がる、意志と、感情だ。
 羽毛に炎を纏う翼をはためかせ、過去の群れの全てを灰燼に帰しながら、竜たる灯理が最強を名乗る愚かな獣へ肉薄する。
 最強は、更なる力で叩き伏せねばならぬ。想像力のない獣は、無限の想像力で現実を捻じ曲げる灯理に敵いはしない。
 竜の鱗は硬い。堅牢な守りであるから、傷付かない。竜の爪は暴威だ。圧倒的な攻撃手段であるから、ただの単純な一撃ですら全ての防備を打ち破る――その念動力(おもいこみ)が、灯理の考えうる最強の『竜』を、ここに体現するのだ。
「私はその顔を知ってるぞ、クライング・ジェネシス」
 悪党の顔だ。哄笑だ。醜くて薄気味悪くて下卑て自己中心的でくだらない欲望まみれで薄汚くて見ているだけで反吐が出るほど怖くて怖くてたまらない――。
 ――見飽きるくらいに叩き伏せて来た、屑の顔だ。
「テメェみてぇな汚物に一番効く言葉も知ってる」
 恐怖を噛み潰すのは得意技だ。燃え滓になった過去どもなどと比べ物にならない、立ち竦むほどの震えを押し殺す。
 それこそが灯理なのだ。それこそが彼女の誇りなのだ。どうしようもなく人間らしい感情を、意志と愛で叩き伏せるからこその――鎧坂なのだ。
 最接近した耳元に、囁くように低い声を落としてやる。
「――『かわいそうにね』」
 憐憫だった。嘲笑だった。同意で否定で歓迎で拒絶で――鎧坂・灯理の持ちうる、最上級の侮辱だった。
 紫水晶は。
 鎧の向こうに、確かに歪む表情を『視た』。
「ハハハハハハ!! どうしたァ? 顔が真っ赤だぞ! 猿のケツみたいじゃないか! ハハハ、お似合いだ!!」
 哄笑は、眼前の悪党のそれを返すように響く。クライング・ジェネシスの腕が動く。それは彼が挑発に乗った証で――『無敵』を辞めた合図だ。
 振り上げられるのは異形の拳。それより速く動くのは暴虐の爪。今や心底から銀竜と化した灯理は、幻想種(ドラゴン)の誇りを――『家族』の誇りを傷つけることを、誰より己に許さない。
「沈め」
 ――骸の海の、底の底まで。
 叩き付けられた爪が、鎧を深く抉った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
――こんにちは、私。
一年前の私ってこんなによわそうだった?
実際弱かっただろうけど
はは、なにその目。ムカツク

【雷王竜の小手調べ】で殺す
――何もかも怖いでしょ
何もかも殺してしまいそうだから
自分が何かもわからないで、自分の中身も知らないで
誰の気持ちが本当かもわからないで
やみくもに戦う日々だった
愛も知らない、孤独ばかりを知っていく私は――そうそう、攻撃が大袈裟だ
怒る?いいよ
――私も全力で怒る

大好きな人ができるよ
世界で初めて、食べたくないと思える人間がつがいになる
幸せになろうと生きることになる
――それが地獄の始まりだったとしても
私は、もう「そう」生きると決めた

こんにちは、三下根性野郎。
――絶えて死ね。




 伸びた癖のある髪。八の字を描く眉。相手を窺う銀月。
「――こんにちは、私」
 穏やかに問いかけるヘンリエッタ・モリアーティ(Uroboros・f07026)――今はハティと呼ばれる女に対し、一年前で止まったままの『ヘンリエッタ』が眼差しを向けている。
 ――骸の海とは過去の集積だ。故にクライング・ジェネシスが呼び出すのも、幻影とはいえ骸の海へと流れついた過去の己そのものなのだろう。
「一年前の私ってこんなによわそうだった?」
 実際に弱かったのだろうけれど。
 首を傾げるハティの声は、ヘンリエッタにどう響いたか。あまりに色々なことがありすぎて、一年前のことすら朧に揺らいでいるのだ。そう割り切れるのもハティの方だけではあるのだが。
 ヘンリエッタの瞳が、相対する未来の己を見た。怯えて揺れる銀月の中に、確かな怒りが垣間見える。
「はは、なにその目。ムカツク」
 ――ヘンリエッタが『分かりすぎて』怯えたその力を、ハティも未だに抱えている。だから、相対する己が何を考えているかなど、記憶が朧でも分かってしまう。それに、今は知っているのだ。
「怒る? いいよ」
 受け入れるように広げた腕に一刀を構えた。漆黒の刀身に魔力を宿して、竜を取り戻した女が、何者にもなれないままの自分へ向けて吼える。
「――私も全力で怒る」
 動いたのは同時。踏み込みが早かったのは竜。だがその一撃を反射的に見切ったのは王になれぬ犯罪者だ。振り上げられた拳と、決死の色を剥き出しにする銀色の瞳に、竜は嗤った。
 ――怖がっている。
 思い出した。何もかもが怖かったのだ。全てを壊してしまいそうで、殺してしまいそうだった。
 忘れていたのだ。竜だったことも。己が『身代わり』などではなかったことも。
 だから、中に渦巻く感情が誰のものかも分からなかった。本当のヘンリエッタ・モリアーティが『誰』のことなのかも知らなかった。自分が分からないから、他人も分からなかった――『分かってしまう』のに。
 愛に触れることのないいのちは、歩めば歩むほど孤独の檻を堅牢にする。恐怖も怒りも制御できないままで、闇雲に振り回す力は大ぶりな動作を取る。
 その――一撃を。
 受け止めるようにして――。
「大好きな人ができるよ」
 ――それはきっと、『ハティ』の知り得た『優しい』声の真似事だった。
「世界で初めて、食べたくないと思える人間がつがいになる」
 自分(だれか)の愛した人を殺した。
 人間を食べずにはおれなかった。そういう風に育った生き物だから。無警戒に歩く餌の群れの中で、ずっと生きて来た。
「幸せになろうと生きることになる」
 自分を許せなかった。生まれてきてしまったことに謝り続けた。何より怒っていたのは、己のいのちに対してだった。
 見開かれたヘンリエッタの銀月が揺れる。
 ――唇が言葉を紡ぐ。
「地獄の始まりね」
「ええ。でも、たとえそうだったとしても」
 体勢を立て直す。至近に揺らめく、少し幼い己の顔。
「私は、もう『そう』生きると決めた」
 細い体を蹴る。
 ――尊敬する剣豪が、それは距離と時間を稼ぐ術だと言った。
 引き離した体は丁度剣の間合いだ。引き裂いた幻影に瞑目するのは一瞬。すぐに魔力を流し込めば、永遠竜の刻印が己が身に力を宿らせる。
「こんにちは、三下根性野郎」
 音速の壁さえも超えんとする踏み込みを前に、怪力を以て成される一閃が届くより先に、その声が首魁へ届いたかどうか。
「――絶えて死ね」
 迷いない黒刃が、過去を絶って未来を繋ぐ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

佐伯・晶
いよいよ元凶のお出ましか
世界を救う為にも負けられないね

自分の攻撃と知ってれば対策できるね
ガトリングの攻撃は神気で弾の時間を停めて防御
僕なりのオーラ防御だよ
技能的にも防御>射撃攻撃だし
覚悟してれば停めれると思うな
状態異常も使い魔やワイヤーの時を停めて防ぐよ

邪神の涙を使われた場合は氷結耐性もあるし
そもそも自分ごと攻撃するものだから何とかなるかな
体が凍って死なず、魔力で凍ったまま体を動かせる
神様の体だからできる芸当だけどね

範囲内敵味方無差別だからご愁傷様
相手の能力を確認する前に先制するのも問題だね
味方を巻き込まないよう転送順は気を付けるよ

攻撃を凌げたら邪神の涙と射撃で攻撃
凍って動きが鈍った隙をつくよ


フェルト・ユメノアール
キミは可哀想な人だね
それだけの力があればヒーローになって、誰かを守って、感謝される
そんな未来もあったかもしれないのに……

視覚を使うUCなら、その視覚を封じ込める!
後方にステップ回避をしながら『トリックスターを複数投擲』
その中に『ワンダースモーク』を混ぜる事で周囲に煙幕を張り、視覚を奪う
姿が見えていない状態ならコピー能力を使う事はできない!

ボクはUCを発動!
逆巻く水の魔術師よ!その魔力を以て、世界に新たな理を示せ!
現れろ!【SPマーメイジ】!
マーメイジの効果で耳をコウモリのモノに変え、反響定位で相手の動きを把握
そのまま体を低くし、煙に紛れて一気に接近
鎧の隙間、関節部にトリックスターを突き立てる




 不利な戦局を覆し続けた。戦い続けて、カタストロフまで数えるほどしか残されていない時間を背に、ここまで来た。
 それが何のためであったかと言われれば――。
 この戦場に立つ二人の少女は、きっと口を揃えて言うだろう。
 世界を救うためだ――と。
「いよいよ元凶のお出ましか。世界を救う為にも負けられないね」
「うん。ボクたちで勝とう」
 背負うものは同じ。先立って他の猟兵が与えた斬撃から、ついた膝を持ち上げるクライング・ジェネシスを視界に捉え、碧眼を眇める佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)に、浅く頷くのはフェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)だ。
 視線を交わし、先に前に躍り出るのは晶である。ひらりと踊る金色の髪を目にしたか、眼前の敵は彼女を睨み遣る。
「次から次へとムカつく野郎どもだ――貴様の過去に負けちまえよ!」
 染み出でる影がずろりと形を成す。己と同じ形をしたそれを前に、晶もまた己の武装を構える。
 邪神の力を得、この肉体となって久しい。眼前の『過去』がいつを指すのかは分からないが、少なくとも『この身』である以上、同じだけの力を持っていると考えた方が良いだろう。
 その内心を肯定するように、持ち上げられたガトリングが晶を捉える。銃口より発射される無数の弾丸が、己を穿たんとするのに手を翳し――。
 ――止まる。
 凍り付いたように、弾丸は中空に静止した。指先の一つに触れることすら叶わず、停止したそれらが地に落ちて転がった。
 晶の持つ防御の力は、射撃の力を上回る。そのことは彼女自身が一番良く知っていた。だからこそ、身に飼う邪神の権能――時間停止の力を、防御に転じて見せたのだ。
 ならばとばかり、相対した『晶』が放つのは尋常ならざる冷気だ。その体そのものを凍らせながら、周囲の温度を一気に奪う力。
 けれど。
 ――それも、知っている。
 この体は人のものとは違う。人間にはできない無茶だよなぁ――と、どこか他人事のように思いながら、晶は全てを凍り付かせる絶対零度の中を動き出した。
 体が凍ったとて死なない。今の彼女は最早人間ではないからだ。その冷気に体の自由を奪われたところで、魔力を伝わせれば動くことも出来る。ただの人間だった頃、偶然に得てしまった力ではあるが――便利なのだか不便なのだか未だに分からないとばかりに、碧玉の瞳が眇められて、刹那。
 魔力に任せて動かした指先が、得物へ辿り着く。
 取り出したマシンガンの弾が、過去の己を穿った。その幻影が崩れ落ちると同時に、周囲の温度がにわかに生の気配を取り戻す。ひとつ呼吸を挟んだ彼女は、銃口を首魁に向けるままに叫んだ。
「――今だよ!」
 刹那――。
 次撃を放たんとしていたクライング・ジェネシスの眼前に、派手なナイフが飛来する。回避のために僅かに体勢を崩した彼が、そこに隠された意図を解するより早く。
 ――色彩を散らす派手な煙幕が、その視界を奪った。
「チィッ!」
 舌打ちの音を聞くより早く煙幕の中に身を躍らせたのは、先から構えていたフェルトだ。視認出来なければ、骸の海より過去を呼び出すことは出来ない――その目論見は成功したようで、禍々しい気配がそれ以上動くことはなかった。
 だから。
 腕部のディスクより引き抜いたのは、魔法を纏うカードの一枚。勝利を示す道しるべ、フェルトの持つエンターテイナーとしての力だ。
「逆巻く水の魔術師よ! その魔力を以て、世界に新たな理を示せ! ――現れろ!」
 高らかな宣誓と共に、カードがゆらめく光を纏う。それは確かな逆転の一手。どんな実力差の前にも笑ってみせる、道化師の『エンターテインメント』だ。
「スマイルパペット・マーメイジ!」
 フェルト自身を包んだ光が、彼女の耳に変容をもたらす。現れたのは蝙蝠のかたち。クライング・ジェネシスが煙幕を払わんとするのも、中心より逃れんと足取りを迷うのも、その耳が全て捉えているから――。
「キミは可哀想な人だね」
 その声がクライング・ジェネシスの耳に届いたときには、既に刃は鎧の隙間に突き立っている。
「それだけの力があればヒーローになって、誰かを守って、感謝される。そんな未来もあったかもしれないのに……」
「ふざけるんじゃねえ!」
 フェルトの語る『あったかもしれない』未来に、吼えるのは持たざる者だ。何もかもを奪うことでしか、生きる先を見つけられなかった男――。
 エンターテイナーとして生きるひたむきな光の声を、その汚泥はただ、拒絶した。
「世界のゴミどもを守るだァ? 挙句に可哀想だァ? そんなモン、クソ喰らえだ!」
 その――返答に、フェルトは。
「――だからキミは」
 一瞬だけ目を伏せた。
 ――ワンダースモークによる煙幕は、味方の視界をも同時に奪う。故にこそ、フェルトは待つ必要があったのだ。
 氷の領域が彼女の体をも侵食するより先に、道化師は素早く地を蹴った。その動きに気付いたクライング・ジェネシスが動き出すよりも。
 邪神の涙が届く方が――僅かに早い。
「僕たちに負けるんだ」
 自らの体をも凍らせて、晶の放つ冷気が、クライング・ジェネシスをも侵したのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニコ・ベルクシュタイン
過去は、過去へと
お前の来歴も、信念も、思惑も、其の一切合切を骸の海へと還す
其れだけが俺が引き受けた使命にて

俺にも「過去」と呼べるだけの歴史が出来たか
其れは悔悟に塗れ、救いに照らされ
俺に赤い銃口を向けるのだな

知っているのだろう、此の身体を幾ら穿とうが無駄だと
故に「本体」の隠し場所である後ろ手を的確に狙うのだろう
させぬよ、攻撃開始と同時に「ダッシュ」からの「スライディング」で
己を狙う弾丸の回避を図ると同時に
「地形の利用」で本体を建物の物陰に投げて隠す
重厚なる造りの聖堂よ、どうか「俺」を護り給え

さあ、此れで俺が先にお前を斃さねば後が無くなった
【疾走する炎の精霊】の「一斉発射」で巨体を満遍無く狙おう




 規則正しく時を刻む秒針は、誰かの時間を過去にしたとて、己の過去を持ちはしない。
 モノに刻まれた歴史は、即ちモノを扱う人間の来歴だ。だからこそ、ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)が無機物のままで針を止めれば、そこに『昔』などという代物は生まれないはずだった。
「俺にも『過去』と呼べるだけの歴史が出来たか」
 呟く声に感慨が乗るのは、目の前にあるのが寸分たがわず己を模した幻影であったからだ。
 眼鏡の奥の赤い瞳が宿す色を、彼はよく知っている。己が辿ってきた来歴の産物だ。その集積だというのなら、手にした赤い銃口と目が訴えることも解せるというものだ。
 ――ニコの最後の持ち主は。
 ――迷宮の奥深く、ただのモノに過ぎなかった懐中時計に縋って、死んだ。
 終わらぬ悔悟に苛まれ、許しを請うことさえ出来ず。それでも差し伸べられた暖かな手に照らされて、大切な場所を見つけてしまった。
 なればこそ。その銃口が火を噴き穿たんとするのは、この身ではないだろう。
 後ろ手に隠したのは、ニコの血肉を保つための本体――『彼』自身たる懐中時計。それを引きずり出すために撃ち出される砲火の痛みを噛み潰すことを心に決める覚悟とし、足が動くうちにと強く地を踏んだ。
 全力で馳せて身を屈める。銃口が狙うのは恐らく腕だ。その予想を裏切ることなく、相対する『ニコ』の撃ち出す炎の弾丸が体を穿つ。腕を的確に撃ち抜かれる激痛にも、握る力は決して緩めない。命そのものを銃弾が掠める気配が背筋を伝っても、その足は決して止めない。
 時計は――誰にでも平等にある時間を刻み、それらを過去へと流し去っていくものだから。
 目の前の己すらも――押しやってきた過去であるのだから。
 時を司る宿神として、今ここに自我を持つ時計卿――ニコラウス・ベルクシュタインが、過去を前に屈することなどない。
 痛苦に歯を食い縛り、吐息を漏らしたニコが、過去の幻影へ囁くように告げる。
「――『お前』には出来まい」
 手を。
 ――離す。
 堅牢な大聖堂の裏手側へ放られたそれを、見開かれた赤い瞳が呆然と追うのを見た。ヤドリガミにとって最も大切な――命が跳ねる軽い音と、己の体の芯が揺らぐような心地がした。
 ――重厚なる造りの聖堂よ、どうか「俺」を護り給え、と。
 祈りに応じる神の声は聞こえぬとしても。
 それは、ニコが打てる『己にさえ予想しえない一手』だった。
 相対した己が我に返るより先、その呼気が己を取り戻すよりも早く、撃ち抜かれた手には炎を纏う銃がある。骸の海に呼び起こされた虚ろの炎銃ではなく、ここにてニコと契約した精霊が放つ弾丸は、眼前の幻影が持つより遥かに破壊力を増して――。
 己を撃ち抜いた先にある首魁の姿を、赤い瞳は確かに捉えた。
「お前の事等、如何でも構わぬのだ。お前にとっての俺が、屑と称する有象無象と変わらぬように」
 向けた銃口に纏うのは、ただのモノだった頃にはない焔の力。届かなかった手が、その無力が、戻らぬ秒針が、どれだけ彼を苛もうとも。
 得たものは。
 得た――心は。
 決して、『無ければ良かった』などと、嘆けるような冷たいものではなかったから。
「お前の来歴も、信念も、思惑も、其の一切合切を骸の海へと還す。其れだけが俺が引き受けた使命にて」
 ――過去は、過去へと還さねばならないのだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

鷲生・嵯泉
傭兵(f01612)同道
愚かも此処に極まれり、か
過去の己と対峙して怯むとでも思ったか
まあ……戦う相手として面倒なのは確かではあるがな

傭兵の戦い方は既に幾度か目にしている
其れ等の記憶と戦闘知識で先読み躱す
成る程、流石だ。確実性に富んだ良い遣り口だな

剣を以って遠距離も熟す辺り、我ながら手癖の悪い……
だが「お前」は私に敵わない

私を何だと思っている
過去を、其の時間を越えて今に至り、此処に立っている
既に乗り越えて来たものなんぞに後れを取って堪るか
護るものの数も重みも違う、私は「先を生きる者」だ

――任された
掻き集めた下らん虚栄心と顕示欲ごと、素っ首叩き斬ってくれよう
如何な手段を講じ様とも逃がしはせん
潰えろ


鳴宮・匡
◆鷲生(f05845)と


向き合うのは
何も持たず、何も視ず
自分を殺し続けていた頃の自分

一撃で殺しにくるだろう
頭、心臓――狙いは限られる
軌道を見切るのは簡単だ
ああ、死角があれば必ずそっちから狙うのも癖かな
左からくるぜ、鷲生

鷲生の剣筋も、同道した時に視せてもらった
接近を避け牽制の射撃を織り交ぜて凌ぐ

前を向いて、乗り越えると約束した
守ると決めたものがある

今の俺が強いなんて言えなくても
何もかも拒んでた弱い自分に負けちゃ
あいつに顔向けができないんだよ

“人”なら、殺し方はよく知ってる
幻影を射抜いて道を開くから

頼むぜ、鷲生
その腐った野郎を斬り捨ててやれ

……いや、やれとは言ったけど無茶しすぎだろそれは
立てる?




 ――愚かも此処に極まれり、か。
 内心で独りごちる鷲生・嵯泉(烈志・f05845)の前にあるのは、己と同道者の幻影が一つずつ。
「戦う相手として面倒なのは確かではあるがな」
「まあな。やりやすいところもあるけど」
 声に応じた鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、既に銃を構えている。それは眼前の己も同じだった。
 『視て』いるはずだ。そうすることで生き延びてきた。けれどその、一つの波紋も落とさぬ凪いだ瞳に、何かが『視えて』いるようには思えなかった。
 ――どうでも良いのだろう。相手が誰であろうが。例え、自分であったとしても。
 生きるために殺すのか。殺すために生きているのか。拍動の絶える瞬間を、その断末魔を、悔悟を罵倒を絶望を。何もかもを記憶していて、何にも心動かせぬ、一筋の風さえ揺らがぬ凪の海。
 それをよく知っているから、匡は己の海に確かな感情を揺らめかせて、声を発した。
「一撃で殺しにくるだろう。軌道を見切るのは簡単だ」
 それは、戦場にある己の『弱点』だ。静謐な死のみを運ぶ傭兵――歩む道にあるものの全てを絶やす者の動き。常人であれば決してついて来られない、圧倒的な知覚と判断能力のもたらす境地。だからこそ畏怖された死神であったけれど、埒外の猟兵で――己の力を知っている者が相手ならば話は別だ。
「ああ、死角があれば必ずそっちから狙うのも癖かな――左からくるぜ、鷲生」
 言うや飛来する風切音。眼帯に覆われた嵯泉の瞳はそれを捉えてはいない。交えて来た刃の数と、踏み越えて来た戦火の数と、匡と共に戦った際の記憶が、幻影の銃撃を一刀に斬り伏せる。
 一瞥もくれぬまま剣を構え、嵯泉の表情がふと笑みめいて揺らいだ。
「成る程、流石だ。確実性に富んだ良い遣り口だな」
「そうやって生きて来たからな。それに」
 ――呼吸。
 同時に飛来する剣――否、蛇腹にしなる刃の一が、膂力に任せて標的を穿たんと閃く。同時に後方に飛び退けば、生物のように後を追うそれの軌道を、銃弾が逸らして地へと叩き付けた。
「それはそっちも同じだと思うぜ」
 成した匡の声音は揺らがない。鼻を鳴らした嵯泉の視線もまた、ただ眼前の『己』に注がれている。
「我ながら手癖の悪い……」
 自嘲というよりは嘆息である。『独りで成せる』力を追求すればこそ、同じ形を成したものを相手取るとなれば厄介だ。
 眼前の男の背に何が在る。護る為の剣で在れと言いながら、その手を誰に伸ばせるというのだ。砕けた幸福の灰残のみを胸に抱いて、とうとうそれと同じものになった己など。
「私を何だと思っている」
 過去などとうに踏み越えた。ただの独りで戦う時間はいつの間にか過ぎ去って、拒んで来たはずの賑やかさに囲まれていた。護るべきものがある。護らねばならぬものがある。眼前の己がそう言うより、ずっと近くに――一つ声を漏らせば、応答が戻るほどの距離に。
 鷲生・嵯泉という男は。
 ――死に損なったのではない。
 ――生きているのだ。
「護るものの数も重みも違う、私は『先を生きる者』だ」
 なればこそ、幻影の己へ渡す引導を、『他者に預ける』ことすら出来る。
 飛来する弾丸が、嵯泉を狙う刃を叩き伏せて一合。匡を狙い、横合いから差し込まれる正確無比な発砲に刃を合わせ二合。
 その隙に向かうのが、万禍の銃弾だ。
「前を向いて、乗り越えると約束した。守ると決めたものがある」
 ――この手は汚れていると、匡は知っている。
 目の前の己が、凪の海と呼ばれた鳴宮・匡が。過去を現在に押し留めるまま、水底の楽園にしようとしていた己が。孤独こそが強さだと、この手に何も掴まぬことが強さだと思っていた――自分が。
 想いもしなかったほど、時間が流れるのは早かった。
 過去は――留めようとしたとて、過去になってしまうのだ。痛みすらも褪せて、いつか胸を締め付けるだけの懐かしさに変わる。
 今は。
 ――それを、悪いことだと思えないから。
「今の俺が強いなんて言えなくても、何もかも拒んでた弱い自分に負けちゃ――あいつに顔向けができないんだよ」
 過去が千を篇んだとて、万の未来を破ることなど出来はしない。
 消え去る幻影を前に、視線を交わした男たちが勝つために――必要な条件はごく僅か。
 ――『意志があり』『視えている』。
 それだけだ。
「頼むぜ、鷲生。その腐った野郎を斬り捨ててやれ」
「ああ――任された」
 幻影が斃れ、拓けた一つの道を前に、剣鬼は構えた刃に全てを集める。
 ――必要なのは懸崖撒手。骸を狩るための刹那の剣。
 今この一瞬のみは、死んでも止めるまいとした拍動を止めたとて構わない。この意志が、この腕が、この足が動くのならば――。
 鷲生・嵯泉の全てを、この一撃にくれてやる。
「潰えろ」
 解き放たれた一撃は不可視。風切音に気付くよりも先に、クライング・ジェネシスの胴に深く傷が入ると同時、嵯泉の体が崩れ落ちた。
 ――僅か瞑目したのは匡である。
 武器を降ろしたのも、視線を切ったのも、その一撃が深く刺さったのを『視て』いたからだ。どこか呆れたような声を上げたのも。
「……いや、やれとは言ったけど無茶しすぎだろそれは」
 言いながら、手を差し伸べなかったのは。
 膝をついて紅蓮の瞳に色濃い疲弊を映し、それでも彼が一人立ち上がることを知っていたからで。
「立てる?」
 それでもそう問うたのは。
 ――もう、『どうでも良いもの』なんか、ひとつもなかったからだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧島・クロト


挨拶代わりに、正面から受けてやる。
【全力魔法】【属性攻撃】【オーラ防御】を
攻撃を【見切り】した上で【高速詠唱】して、氷壁で弾き落とす。

【高速詠唱】から【指定UC】。
避ける? 態々お前に有利にしねぇよ。
【見切り】して【属性攻撃】【オーラ防御】の氷壁で受け。
その度に――俺が、『アルカイド』の力が、強化される。

【属性攻撃】【マヒ攻撃】【生命力吸収】を共通して載せながら、
遠距離なら【呪殺弾】も載せた氷の魔弾、
懐を取れたら――【怪力】【2回攻撃】で氷の牙のラッシュだ。
その鎧、『噛み砕いて』やるよ。

「気づかねぇのか、『わざと』当たってんだよ」
「まさかぁ、『わざと』外すとかいう、みみっちい真似すんのか?」




 胸に空いた悪趣味な大穴から、吐き出されるのは過去の弾丸だ。
 これが世界に満ちると思えば反吐が出る――そう思えばこそ、霧島・クロト(機巧魔術の凍滅機人・f02330)は嗤ってみせる。
 バイザー越しの瞳が、常より鋭利な殺意の色を孕んだのを、この戦場にて知る者はないだろう。こちらを視認するや放たれたクライング・ジェネシスの一撃を叩き落とすため、眇められた瞳が氷の帳を編み始める。
 ――冷気が凝縮される方が、着弾より僅かに速い。派手に割れた氷の破片が頬を掠めるが、過去の一打は凌いだ。
「今度の猟兵サマが何を使うかと思えば、氷かよ! そんなもん、このオレに殺されちまったカワイソーなヒーロー様に腐るほどいたぜ!」
「へぇ? そうか」
 ならば。
「――同じかどうか、試してみなァ」
 地を蹴る。
 放たれる過去の一撃は、直線的で単純な軌道を描く。その速さと威力こそ侮れないが、クロトにとっては躱せぬ一撃ではない。
 ――だが。
 彼の足は止まらない。逸れることもない。胸の大穴より吐き出される過去の、その途方もなく重苦しい停滞を前に、彼が生み出すのは盾代わりの氷壁のみだ。
「ギャーッハッハッハッ! 馬鹿だな、貴様! 氷なんぞでそうそう防ぎきれると思うんじゃねぇぞ!」
 その愚直とも取れるような疾走を前に、クライング・ジェネシスは嘲るように哄笑した。耳障りな声を前に、氷は砕け、生み出され、再び過去を阻む盾となる。
 そうして――クロトは。
 バイザー越しの赤い瞳に、貪狼の色を乗せて。
 ――唸るように問う。
「気づかねぇのか」
 クロトの外装が変わっていることに。
 放たれた過去が氷盾にぶつかるたび、彼の体が力を纏っていることに。
 構えた凍滅の顎より解き放った弾丸が、過去とぶつかり衝撃波となって消える。己の力と同等にすら引き上げられた魔力に怯んだか、僅かクライング・ジェネシスが瞠目するのが見えた。
「『わざと』当たってんだよ」
「貴様――」
 それは七天の捕らえるもの。氷戒の帳を纏い、貪なる狼の牙にて覆い、生み出される――『氷龍』。
 与えられた攻撃は、全て彼の――彼が従える仔氷龍の魂、『アルカイド』の力に変わる。極限まで高められていく氷の牙が届くまで、残すところは三丈ばかり。
「まさかぁ、『わざと』外すとかいう、みみっちい真似すんのか?」
 それは。
 確かな挑発であり、眼前の過去が掲げる『最強』の名を汚す嘲笑であり――。
 クライング・ジェネシスと呼ばれる自己顕示欲の塊に、ひどく刺さる声だった。
「――ギャーッハッハッハッ! あり得ねェ。このオレが? わざと外す? あり得ねえなァクズが!」
「威勢が良いなぁ、オイ」
 撃ち込まれる弾丸に、盾が悲鳴を上げる。二丈。
「叩き潰す! このオレは、最強だ!」
「良いぜぇ、やってみろよ」
 過去の質量に停滞を促され、眼前に掲げた氷が砕ける。一丈。
「俺はその上から――『噛み砕く』」
 ――研ぎ澄まされた牙が、鎧を叩き割る。
 龍の牙が堅牢な守りを打ち砕いて一撃。露出した継ぎ接ぎの皮膚を食い破って二撃。回る麻痺毒と奪われる生命力に、クライング・ジェネシスの悲鳴は咆哮のように響く。
「不要な過去は凍結してポイだァ」
 ――おーけー?
 問う声には、同意も否定も返っては来なかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ウィルヘルム・スマラクトヴァルト
「骸の海発射装置」のチャージを完了させるわけには行きません。
何としても、クライング・ジェネシスを倒しましょう。

先制攻撃は「第六感」で予知して攻撃を「見切り」、
「残像」を囮にして回避します。
もしそれで回避出来ない場合は、緑の大盾による「盾受け」、
緑の斧槍による「武器受け」、「オーラ防御」を駆使して
ダメージを抑えつつ「気合い」で耐えます。

先制攻撃をしのいだら「クリスタライズ」発動。
『漆黒の虚無』に同化するように透明になって
クライング・ジェネシスを攪乱してから
「怪力」で緑の斧槍による攻撃。
まず「ランスチャージ」を敢行して「串刺し」を狙い、
すかさず「2回攻撃」で緑の斧槍を「なぎ払い」追撃します。




 緑に身を包むウィルヘルム・スマラクトヴァルト(緑の騎士・f15865)は、逃げ惑う人波の中にあってなお異質な存在である。武装の一切はおろか、翠玉で出来たその体さえも、注ぐ陽光を浴びて煌めきを放つ。
 ――故に。
「ギャーッハッハッハッ! また妙ちくりんな野郎が出て来るじゃねェか!」
 全身に傷を負ってなお、高らかに哄笑するクライング・ジェネシスの目が、彼を捉えたのも必然だった。
 同時、胸に空いた大穴が淀んだ空気を纏う。ずろりと撃ち出される過去の凝縮は、ウィルヘルムの翠の瞳がそれを捉えるより先に彼の元へと到達する。
 しかしその音は、悍ましい気配は――刹那に身を躱す彼のもとに、発射された瞬間には届いていたのだ。
 だからこそ。
 その身を掠めはしても、直撃は免れた。残像のあった場所を穿って、左手に構えた緑の盾に弾かれて、右手の斧槍に軌道をずらされて――弾丸そのものは、確かに地に大穴を開けるに留まったのだ。
 ウィルヘルムの体に残る痛みは、停滞の力だ。溢れ出した過去の砲弾が纏う、未来を奪う力が、掠めた翠玉を僅かに濁らせる。
「く――」
「どうだ? このオレの強さが分かるかよォ、クズ! 過去に勝てると思うんじゃねェぜ!」
 ――顰めた眉に、悪党の顔が映る。
 この程度が何だというのだ。過去だというのなら、今ここに在り、繋がり行く現在に勝てる道理などない。骸の海発射装置で、この世界を過去に溢れさせるわけには行かないと――その気合いが、ウィルヘルムをここに繋ぎ止めたのだ。
 燃やす闘志は騎士としての使命感。いっそ強迫観念めいた荒ぶる騎士道精神が、その身を奮い立たせる杖となる。
「何としても、貴様を倒す!」
 高らかなる宣誓は、天の神にすら届かんばかり。而してその身は、教会の広場の一部を覆う、漆黒の虚無へと躍る。
「ギャーッハッハッハッ! トチ狂ったか――?」
 どろり。
 目を見開いたクライング・ジェネシスに、その身は融けるように映っただろうか。
 ――クリスタライズによる透明化でも、息遣いと足音は殺せない。だが漆黒の渦の上に立つクライング・ジェネシスにとって、それは有利には働かなかった。
 大半の情報を視覚に依存しているのは、元が人間であるのならばどんな強者でも変わらない。騎士の足音、己の周囲に響くそれが『どちらから』聞こえるのかは分かっても――『姿を捉えること』が不可能であれば、掻き消えたウィルヘルムの動向を推測することすら出来ないのだ。
「貴様、どこに行きやがった――!」
「ここだ」
 声が。
 するより先に――。
 クライング・ジェネシスは、己に突き立った斧槍を見た。
 速度と体重の全てにありったけの膂力を乗せて、踏み込んだのだ。砕かれた鎧の隙間を精確に穿ち、深々と身を抉るそれに、過去の集積の絶叫が響く。
 ――だが、ウィルヘルムの手番は終わってはいない。
 もんどりうって身をよじるほど、傷口は広がっていく。斧槍の武器は食い込んだ穂先だけではないのだ。
「私は――」
 突き立てた得物に力を。横薙ぎに払う斧の刃が、継ぎ接ぎの醜い肉体より、奪われたヒーローの一部を断ち切った。
「世界も人々も護るのだ。緑の騎士の名にかけて」

苦戦 🔵​🔴​🔴​

杜鬼・クロウ
【送り火】○

舞台が大聖堂、ねェ
神の御許でよーく見てもらえ
テメェの最強(かこ)が俺達の最強(いま)に無惨にも敗北する様をなァ!(挑発・威厳

上等、正純こそぬかるなよ(愛用の得物同士当てて不敵な笑み
過去は現在(おれ)には絶対追いつけねェ
絶対だ

正純を下がらせ俺が前衛で注意惹く
彼の”目”が確実に捉える迄
その為の時間は俺が作ってヤんよ

敵の過去の圧に黒外套が靡く
先制は【聖獣の呼応】で相殺
虚無が消えると同時に一気に接近
頑丈な鎧の継ぎ目狙い部位破壊
間髪入れず屈み、低姿勢で敵の足元狙い斬る
玄夜叉で業火の紅禍宿し正純と同時に二連撃

お前の弾ならば抉じ開けられンだろ
勝利への一本道
作れよ
俺達を阻む柵は何もねェ
暴れ回るぜ!


納・正純
【送り火】○

過去がお相手と来たか! ハッハ、そいつは些か拍子抜けだな
お手並み拝見だぜ、クロウ
その羽で、過去を燃やし尽くして頂けるかな?

①敵のUC発動後にクロウにUCを発動してもらい、初弾を防いでもらう
②その後敵の第二射の際にこちらもUC発動し、足場の効果諸共瞬時に敵の攻撃を消し去って隙を作る
③その隙に二人で手持ちの武器による一斉攻撃後離脱

今回の作戦の要は、敵の攻勢をどう掻い潜って隙を作るかだ
敵のUCを一気に全て消すなんて芸当には、『動かぬ証拠』が必要でな
だが――――そいつはクロウが用意してくれたよ

「嘘にハッタリ、奇跡に魔法。幻想は全て立ち消えたぜ?」
「合わせるぜ、クロウ。好きに暴れな」




「舞台が大聖堂、ねェ。お誂え向きじゃねェか」
「しかし過去がお相手と来たか! ハッハ、そいつは些か拍子抜けだな」
 此度の戦の首魁を前に立ち、二人の男に緊張の色はない。
 片や身の丈にも届こう黒剣の柄を。片や古いライフル型の空気銃を。軽く打ち合わせれば、鳴るのは小気味良い金属音だ。
「お手並み拝見だぜ、クロウ。その羽で、過去を燃やし尽くして頂けるかな?」
「上等、正純こそぬかるなよ」
 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)と呼ばれたのは鬼の社の御鏡。納・正純(Insight・f01867)と呼ばれたのは世界を駆ける業突く張り。交わした視線は揺るぎなく、同時に敵へと向けられた。
「ギャーッハッハッハッ! 次はどういう手で来てくれンだよ、クズども。今に全部、このオレの中に収めてやるからよォ!」
「はッ、そのザマで随分口が減らねェな。だが」
 前に出るのはクロウである。
 歪な自信に満ちるクライング・ジェネシスの唇と裏腹、鬼が描くのは確かな自負だ。夕赤と青浅葱、ふたつの眼差しが真っ直ぐに過去を射抜く。
「過去は現在(おれ)には絶対追いつけねェ。絶対だ」
 ――纏うは神威。その鏡(め)に映すは世界の敵。宿神の威圧が、持たざる簒奪者の前に立つ。
「神の御許でよーく見てもらえ。テメェの最強(かこ)が俺達の最強(いま)に無惨にも敗北する様をなァ!」
「よく吼えやがるな、雑魚がよォ!」
 胸の虚空へ凝縮され行く過去を見る。クロウが動くより、撃ち出される方が僅かに速い。ごうと音を立てて迫り来るうねりを前に、しかし鬼は両の眼をじっと開いている。
 その――唇が。
 厳かに紡ぐ詠唱がある。
「朱の鳥の加護を受けし我が命ず」
 杜より集いしは霊力。固く鎖された霊廟をこじ開けて、今ここに聖獣が形を成す。
「遠つ神恵み給え――我が敵を切り裂かん」
 過去の弾丸と。
 現れた朱い翼と。
 ぶつかり合う瞬間の圧に、靡く黒外套を過去の残滓が掠めていく。果たして勝るのは魔を破る聖獣の翼だ。
「ハッハ! 良いねェ。手筈通り頼むぜ」
「任せろ。時間は俺が作ってヤんよ」
 言うが早いか走り出した巨躯が、剣の術式を起動する。精霊の力を纏ったその刃が、肉薄したクライング・ジェネシスの鎧に迷いなく差し込まれた。
 ――狙うは一つ。鎧の継ぎ目のみ。
 肉を断ち骨を裂く感触。悲鳴を聞くことすらなく、剣を引き抜けば追うようにして血が溢れる。
 赤に頬を染めるまま、クロウの腕は再び振り上げられる。横薙ぎに狙う先は足だ。それを阻もうとして、ぐらつく首魁が距離を取る。
「こンの――!」
 ――撃ち出されんとする砲弾に、しかしクロウの瞳は瞬きさえもしない。
 信じている。
 もう――全ては終わっているのだ。
「お前の弾ならば抉じ開けられンだろ。勝利への一本道」
 作れよ、と――笑う風雲児の声は届かずとも、魔弾の射手の構えるサイトは、既に好機を捉えた。
 ――納・正純という男にとって、『過去』とは悪ではない。
 それはかけがえのない『知識』の宝庫。それぞれの辿るオリジナルの物語が、彼の手帳に無限のページを書き記す。知識欲に生かされ知識欲に生きる業突く張りは、知識の集積場を無碍にはしない。だから今、目の前に『生きた』クライング・ジェネシスという男がいたならば、正純は強く興味を抱いただろう。その来歴に、嘘に、ハッタリに、危険を顧みずに触れようとすらしたかもしれない。
 だが、欲張りであるが故に。
 ――納・正純という男にとって、『停滞』とは唾棄すべき悪である。
 構えた銃口は揺るがない。無限の知識を生み続ける『時間』を、過去に押し留めることを許さない。そのために必要な論証は、既にクロウの剣が用意した。
 装填数は三。
「たった三つだ」
 幻想を撃ち抜く式に代入するものは三つだけ。確かな腕前。幻想を射抜ける武器。幻想行使の動かぬ証拠。
「三つあれば、お前の夢を砕いてやれる」
 ――では、式の等号を成り立たせよう。
 撃ち出される銃弾は三。幻を砕き、過去を消し去る魔弾の一。骸の海と銃弾が爆ぜ、そこにはただ凪のみが残る。
「嘘にハッタリ、奇跡に魔法。幻想は全て立ち消えたぜ?」
 論証、成立。
 後は叩き込むのみ。 
「合わせるぜ、クロウ。好きに暴れな」
「言われなくても。俺達を阻む柵は何もねェ。暴れ回るぜ!」
 宣言と同時、クロウが大上段に振りかぶった剣に宿すのは焔の力。凝縮し燃え盛り温度を上げて、吹き出せば業火の紅禍と変わる。
 言葉通り、合わせるようにサイトを覗いた正純が、トリガーにかけた人差し指へと力を籠める。
「畜生、畜生、貴様らァ! 最強のこのオレ相手に――面白ェモン使うじゃねェかよォ!」
「――クライング・ジェネシスよォ、知ってるかい?」
 いたく楽しげに目を眇めたのは強欲で。
 言葉を継ぐのは鏡鬼だ。
「最強ってのはなァ。名乗った時点で、敗けてンだよ!」
 掃射。斬撃。砕けた鎧と、怒号。
 それら全てを踏みしめて――男たちは踵を返した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジェラルディーノ・マゼラーティ

元は無能力者だったって?
武器は口八丁にハッタリのみで
今やオブリビオン・フォーミュラだって?
――はっは、全く
これだから猟兵は辞められない

それに骸の海発射装置って何だい
笑い死にさせる気かい?
そんな子供の考えたみたいな
バカげたモノ(愛すべき可能性)が通るってんなら――
人間讃歌のお約束が
通用しないわけがないだろう?ねえ?
え?もう埒外?そんなことはないさ
信じる者は救われる

仮に弾丸防がれたらあちゃー、と
でも本命は纏わせてたモノ
不可能を殺す力
そういえば最強発言もフラグだねェ
彼にとっては負ける式で
此方には勝利の方程式――formulaってワケだ

ちょちょいっと
味方にも幸運のお呪いを
援護でもメインでも臨機応変に




 ――聞けば元は無能力者だったという。
 何の変哲もない、世界に選ばれたどころか何の能力も持ち合わせなかった男が、口八丁とハッタリのみを武器にして、幾多の能力者を屠ったという。
 それが、とうとう世界を滅ぼす一味の首魁まで上り詰めたのだと――。
 目の前で苛立つクライング・ジェネシスその人が語ったのだ。
「――はっは、全く。これだから猟兵は辞められない」
 聖堂に似合いの出で立ちで、地を踏みしめるのはジェラルディーノ・マゼラーティ(穿つ黒・f21988)。漆黒の装束で高らかに笑いながら、彼は眼前の首魁を見遣った。
 その胸に開いた大穴が骸の海発射装置か。そう認識した途端、笑いは更に止まらなくなってしまう。
 だって――そうだろう。
 直球が過ぎるネーミングも、悪趣味な子供の玩具のような見目も。あまりにふざけている。
 ――これが世界の破滅だというのだから。
 ――世界は何と愛しいのか。
「貴様、何を笑っていやがる?」
「いやあ、世界広しと言えど、こんなものを見られる機会は少ないだろうと思ってね」
 くつくつと。からからと。喉を鳴らせば、上機嫌は更に深まっていく。ジェラルディーノの表情と裏腹、その怒りを深めていくのはクライング・ジェネシスだ。
「クソジジイがよォ! このオレを馬鹿にしやがって!」
 吼える。
 同時に身の毛がよだつような気配を纏った胸の大穴が、無尽蔵の過去を現在に逆流させる。無数の過去の残滓が這い出して、ジェラルディーノの眼前へと迫るのだ。
 よくよく考えなくとも、時が遡ることなどない。けれど『ない』と断じてしまえば、そこで可能性はゼロだ。そも、猟兵とは巻き戻された秒針を元に戻す仕事なのだから、その荒唐無稽な可能性すらも、世界は背負っているのである。
「そんな子供の考えたみたいな、バカげたモノ(愛すべき可能性)が通るってんなら――」
 銀糸が揺れる。鷹の目が笑う。取り出したのは愛銃だ。『アダム』と『イヴ』の創世神話は、人の背負った愚かさのはじまりだった。
 けれど――ならばこそ。
「人間讃歌のお約束が、通用しないわけがないだろう? ねえ?」
 問いかけと共にトリガを引けば、一対の男女が火を噴いた。ごうと弾丸が空を切って、無数のオブリビオンたちの合間を通り抜け、ぶつかったのは無敵の体。
 からんと弾かれた銃弾に、あちゃー、と殊更抜けた声を上げて、手にした銃身の一つを額に当ててみせる。その仕草に哄笑するのは、過去の集積を統御する首魁だ。
「ギャーッハッハッハッ! 馬鹿じゃねェのか! このオレに、最強のオブリビオン・フォーミュラに! こんな銃弾が通るわけ――」
 ――そこで、ようやく気付いたろうか。
 その身に宿る力が弱まっていること。どろどろと溶け出した無数の過去はおろか、最早その身の無敵ひとつさえ維持出来ないこと。
 これは人間賛歌のお約束。最後に勝つのはいつだって、愛すべき可能性に満ち溢れた生き物だ。可能性の一つたりとて残されていない、過去の残滓が敵うべくもない。
 確かにジェラルディーノは埒外だけれど、そんなことは関係ないのだ。
 だって――信じるものは救われる。
 ――God Bless You.
「ああ、君に神はいないんだっけ。最強だものねェ」
 そういえば最強発言もフラグだな――などと。
 笑うジェラルディーノの弾丸が意志で以て貫いたのは、クライング・ジェネシスが持つ『勝利への運命力』。即ちそれは、絶対勝利の無敵と最強を、その概念ごと射抜いたと同義。
「君にとっては負ける式で、此方には勝利の方程式――formulaってワケだ」
 ぱちんと指を鳴らしてみせれば、意志はそれだけで場に広がる。曰く、愛すべき可能性(りょうへい)たちに――勝利を。
「貴様、貴様、貴様――何をしたァッ!」
「なあに、ちょっとした幸運のお呪いだよ」
 何もかもをかなぐり捨てて叫ぶふざけた玩具に、ジェラルディーノは最後まで笑ってみせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

薄荷・千夜子
リア(f04685)さんと

いよいよここまで来ました
必ずやカタストロフ止めてみせましょう

リアさんの後ろに下がり【早業】で『花奏絵巻』から【オーラ防御】【破魔】を纏わせた花嵐を巻き起こして少しでもダメージを軽減するように
そして、リアさんの作ってくださった隙に『操花術具:神楽鈴蘭』を掲げてUC発動
ストレリチアは「輝かしい未来」、ガーベラは「希望」
リアさんの想いを繋いで私が咲かせる鈴蘭の花は「再び幸せが訪れる」
この世界を貴方の好きなようにはさせません!
【破魔】とこの世界に生きる方々への【祈り】を込めて漆黒の虚無ごと百花繚乱の花弁で包んで差し上げます


リア・ファル
◆千夜子さん(f17474)と

WIZ

多少の負傷は覚悟の上で全力で受け止めるまで

相手の攻撃を演算解析し、
過去を過去、その電子情報へと分解し、できる限り軽減

「ヌァザ、多元干渉最大出力!」
イルダーナのエネルギーも回す
(情報収集、時間稼ぎ、武器受け、全力魔法)

過去は現在や未来の道行きを塞ぐ為のモノじゃない
さりとて過去全てが否定されるモノでも無い

思い出、遺産、伝承、絆……
託されたモノが現在(いま)のボクたちの力となる事を知るが良い!

UC【光神の権能・百芸反撃】を使い、
周辺の虚無や、受け止めた過去から
ストレリチアやガーベラの花を咲かせる!
そして、この力を千夜子さんへ届ける!

孤独の悪党よ、骸の海に沈め




 ――長かった、と思う。
 時間に換算すれば一ヶ月だ。その間に幾多の戦場を駆けた。数多の敵を討って来た。
 そうしてとうとう――少女たちの眼前に立つのは、このアースクライシスの首謀者となったのだ。
「必ずや、カタストロフ、止めてみせましょう」
「うん。絶対、勝って帰ろう」
 視線を交わし、一歩下がるのは薄荷・千夜子(鷹匠・f17474)。その前に立つのはリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)。
 二つの小柄な影を見遣って、疲弊の滲んだクライング・ジェネシスは嗤った。最早その唇を持ち上げることすら大儀そうに見えるが、生み出される力は健在だ。
「ギャハハハ! 今度はガキかよ。良いぜェ、貴様らの力、奪ってこのオレのモンにしてやる――!」
 胸部の虚空が音を立てる。全身に走る悍ましいまでの威圧――彼女らが敵と為す『過去』の力。現在を、未来を、時間軸より侵食せんとする濁流が、弾丸となって凝縮される。
 リアと千夜子が全身で身構えるのは同じで、動き出すのもほぼ同時。けれどその根幹を成すものは全く別物だ。片や宙域を駆ける技術の力、片やその身に継いできた呪術の力――。
「ヌァザ、多元干渉最大出力! 事象を電子情報へ還し、ボクの力とする!」
「援護します、リアさん、耐えてください――!」
 任せて――と。
 少女の形をした中央制御ユニットの花唇が、紡ぐより早く。
 到達した過去の波が二人を呑まんと牙を剥く。
 刹那、全てのエネルギーを演算解析と干渉へ回したリアの力が、過去の弾丸とぶつかった。過去とは情報の集積体――即ち電子情報だ。悍ましいほどの質量を持って飛来するそれを、細かく、削ぐように、無数の電子へ分解していく。
 けれど一人では足りない。歯を食い縛り、圧倒的な質量に髪をはためかせ、それでも前を睨むリアの足が、じりじりと圧力に負けようとする。
 ――だからこそ、千夜子がいる。
 ごうと二人を包み込むのは花嵐。魔を破る力を以て苛烈に過去を砕き、祝福の光でリアを護る花々が、千夜子の開いた絵巻より舞い上がる。
 電子と花の嵐に巻かれ、逆巻く質量が消えうせる。ようやく詰めていた息を吐き出したリアは、けれど既にもう一つの手を打った。
 見据える瞳に疲弊はある。それでも闘志は衰えない。それは並び立った千夜子とて同じこと。
 彼女たちは知っている。
 過去は――それだけでは悪たり得ない。
 今ここに至るまでの全てをこそ、『過去』と呼ぶのだから。積み重ねられてきたもの、折り重なってきたもの。リアの心にある故郷と、今思い浮かぶ仲間の顔。千夜子の重ねて来た研鑽と、共に歩んできた人々の数。そうして今、ここで背を預ける縁。その全てを唾棄すべき悪だと切り捨てるなら、世界はきっと、発展などしないだろう。
 だから、それを知る彼女たちが斬るべき『過去』はひとつだけ。
 未来の道行きを塞ぎ、現在を侵食する――オブリビオンだ。
「思い出、遺産、伝承、絆……託されたモノが現在(いま)のボクたちの力となる事を知るが良い!」
 逆巻くのはクライング・ジェネシスが発した過去の力。けれど今、その制御はリアの手に在る。
 ――光神の権能・百芸反撃。
 それは相手のユーベルコードを借り受けるのみに留まらない。集積した情報を統合、変容――演算能力の粋を尽くした、『進化』さえも可能にする。
 漆黒の虚空より、にわかに咲き誇る花々がある。甘やかな香りを振りまいて、虚無に埋もれんとした大聖堂を彩るそれは、威容すら孕む神の権能。ひらりと舞い落ちる無数の花弁に、クライング・ジェネシスが呆然と目を見開いたのを見た。
「千夜子さん!」
「はい!」
 リアの咲かせた花々に、重ねるのは千夜子の力だ。その身に流れる血の力、朱藤の持ち得た退魔の術――彼女が最も得意とする、花の呪術。
 神楽鈴が鳴る。清澄なる音を響かせて、神域に更なる神威を宿らせる。今ここばかりは、この聖堂にて祈りを受け止める神も、その領域と力を異国の神楽鈴へと貸すらしい。同時に吹き荒れる鈴蘭の渦は、虚空を埋めるストレリチアとガーベラを乗せ、破魔を宿して更に威力を増していく。
「この世界を貴方の好きなようにはさせません!」
「クソ、クソッ、クソがァッ――!」
 ストレリチアの花言葉は『輝かしい未来』。ガーベラのそれは『希望』。そこに重ねる鈴蘭は。
 ――『再び幸せが訪れる』。
「この世界は、幸せでなくちゃいけないんです!」
 たとえどんなに壊されようと。どんな暴虐に晒されようと。未来は、希望は、幸福は、必ず再び訪れる。
 世界に暮らす人々の祈りが、今ここに、百花繚乱の嵐を生むのだ。
「孤独の悪党よ、骸の海に沈め」
 花に埋もれ、祈りに埋もれ――。
 終ぞ孤独に潰える者へ、リアはただ、静かに瞑目した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

未不二・蛟羽

借り物だけじゃ、本当じゃない
そんなのに負けたら…ヒーローになんてなれないっすよね!

昔の俺は…覚えてないし、知らないけれど、きっと空っぽで
許すとか、許さないとか、難しいことよくわかんないけど
今の俺は一杯、きらきらに囲まれてるっすから
だから、大丈夫
さむいだけの俺へ
今の俺は、難しいこといっぱいだけど、すっごくきらきらで、あったかいっすよ
だから、ゆるさなくても、負けてあげないっす
空っぽの幻影に向けて笑顔を向け、爪と牙を【No.40≒chiot】で受け止め笹鉄のワイヤーで絡め捕り

その隙に接近し、尻尾を獅子へ変化させ、つぎはぎの部分を狙って喰らいつき
アンタが捕ったものなんて、一口で喰って、おわりっす!




 ――これは、何だろう。
 未不二・蛟羽(花散らで・f04322)には、知らないことが多い。過去の己もその一つで――故に、目の前にいるものが『己』だとは、実感出来ていなかった。
 唸り声を上げるのは『三二二』。その金色の眼に藍色の瞳をかち合わせて、蛟羽はぱちりと瞬いた。
 ああ。
 ――空っぽだ。
 今の蛟羽に満ちるきらきらも、あったかさも、何もない。金色の瞳の奥にはただ未発達な何かが渦巻いていて、それはとても『さむい』と思った。
「ギャハハハハ! 貴様らが幾ら喚いたところで、貴様らの過去は貴様らを許さねェ!」
 クライング・ジェネシスの哄笑が遠く響く。それよりも、蛟羽の意識は眼前の己にあった。
 ――許すとか、許さないとか。
 彼にはよく分からない。過去には許されなくてはいけないのか。それとも、許されないのが正しいのか。どうして許してくれないのか、どうして許されてはいけないのか。クライング・ジェネシスがそう確信に満ちて吼える理由すら、思い当たらない。
 けれど。
 飛び掛かってくる影を、反射的に躱す。食らいつこうとした牙は首筋を狙っていて、獣じみた動きをしていたように思えた。
 その牙が――何かを欲していた気がしたのだ。
 だから、蛟羽は。
「大丈夫」
 そう言って笑うのだ。
「今の俺は、難しいこといっぱいだけど、すっごくきらきらで、あったかいっすよ」
 さむいだけの時間は終わった。彼は今、そのことを覚えてすらいない。ただ、時折よぎる胸の痛みを『さむい』と表現するすべを覚えて、分からない感情への苦しみを一つずつ解かれて――。
 帰る場所がある。待っていてくれる人がいる。誰かが笑う。誰かが声を上げる。
 その、現在を。
 いつかこの未来に辿り着く過去に、くれてやるわけにはいかない――と。
 そう思った。
「だから、ゆるさなくても、負けてあげないっす」
 牙を剥く空っぽに、迸るのは影の仔犬。同じく飢えた獣の爪がかち合って、音を立てるように火花を散らす。
 両手の空いた蛟羽が、迷いなく零すのは己の血。生み出された血色のワイヤーが、仔犬と唸り合う『三二二』を絡め取る。
「借り物だけじゃ、本当じゃない」
 跳躍。
 肉薄するのは過去の己ではない。さむい場所に置き去りにされた、幻影などでは決してない。
 眼前にあるクライング・ジェネシスに向けて、少年は屈託なく宣誓した。
「そんなのに負けたら……ヒーローになんてなれないっすよね!」
「ヒーローだァ? ふざけるなよクソガキが!」
 振りかざされた異形の拳に背を向けて、蛟羽の瞳は金色を孕む。それは彼の本当の姿で――けれど、獣の色よりずっと濃い、『人間』の感情を湛えている。
 過去など知らない。それでも大丈夫だと思える。日々は楽しくて、きらきらと輝いていて、それを護るヒーローのようになれるのだ。
 だって今――蛟羽は世界を壊す悪党を、己の力で斃さんとするのだから。
 威嚇めいた唸り声と同時、その尾に宿る蛇が、威嚇をするように口を開けば。
「アンタが捕ったものなんて、一口で喰って、おわりっす!」
 ひび割れた鎧の隙間に、獅子の牙が突き立った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャスパー・ドゥルジー
【エイリアンツアーズ】
Glanzの後部座席に乗っけて貰って参上!

▼対策
UCでの防御が間に合うなら
腕を斬り流した血で【イーコールの匣】
巨大な盾を作り出してGlanzごと護る

駄目ならパウル達を巻き込まねえように飛び降り
致命傷は往なし【激痛耐性】で耐える

▼反撃
UCで滴る血を巨大な鎌に変え反撃
過去の具現化だァ?
俺は過去を放り棄てた「アリス」
混ぜっ返すだなんて行儀が悪い
せせら笑った直後
怒りを露わに叫ぶ

死を以て償え、こンの(※放送禁止用語)!!

幻影が俺と同じイカレ野郎なら
半端な負傷は無意味
一撃で首を刈り落としてやる

転がる首を尻目にクソ野郎に肉薄
次は、てめェが、ああなる番だ
鎧の隙間縫うように鎌を操る


ジャック・スペード
【エイリアンツアーズ】

OdileでGlanzと並走し参上

バイクが幻影相手に立ち回る間
俺は車を運転しジェネシスの元へ

過去の己へ召喚したテーザー銃から電気弾を乱れ撃つ
機械仕掛けの躰には効果覿面だろう
動き鈍った所でアクセル全開
過去を轢き潰し敵本体へ突進を
折角の新車だがお前に呉れてやる

勿論、自爆する心算は無い
俺は途中で目立たぬよう外へ転がり
車で気を引く隙を突き敵へ接近を

お前は過去の亡霊で、俺はヒトに成れぬ異形
ならば化物同士、仲良く殺し合おうじゃないか
その自己顕示欲も少しは満たされるだろう?

勇気を胸に大破覚悟で、捨身の零距離射撃
損傷を激痛耐性で堪えながら
マヒの弾丸撃ち込み、仲間へ一手を繋げよう


ヨシュカ・グナイゼナウ
【エイリアンツアーズ】

Glanzに同乗して颯爽と!
ジャスパーさまが初撃を防いだあと機を見て離脱
相手が過去の自分というなら好都合。一番理解出来ている相手
知ってます?わたしあの頃より10㎝も大きくなったのですよ
つまり今この時も成長してるということです!勝敗は僅かなリーチの差
届かなかった【開闢】を【見切り】その首を【部位破壊】

『ハロー、ジェネシス。あたしの能力返してくれよ』
【情報収集】で詳細を得ていた、貴方の一部となったヒーローに【変装】音声も調節し
【存在感】でヘイトをこちらへ向く様に【誘き寄せ】【覚悟】は完了
ジャックさま達の攻撃が通る隙が出来るよう、本日は「サイドキック」になって


パウル・ブラフマン
【エイリアンツアーズ】〇
Odileと並走して登場☆
イェア!レペゼン☆エイツアヒーローズ♪

▼先制対策
FaustでGlanzを覆い【迷彩】モードを発動。
視認されづらくした上で
【地形の利用】を念頭に死角を疾走。
コッチの射程圏内に標的を収めるよ☆

▼反撃
UC発動―遊ぼうぜGlanz、皆!
日夜鍛え上げた【運転】テクを駆使して
同乗してるクルーを適所に連れていくね。

アハッ☆お生憎様!
瓜二つのツラ潰すのは慣れてんだわ。
FMXの要領で【ジャンプ】してエアトリック。
前輪でオレの幻影の顎を砕きに行く。

過去のオレを【踏みつけ】発射台代わりに。
ジェネシスの心臓辺りを狙って
Krakeの四砲を【一斉発射】、貫通させてやんよ!




 戦場へと変貌して尚、厳粛に建つ礼拝堂に、不釣り合いなエンジン音が突っ込んで来る。
 Odileと名付けられた愛車の剣紋も華々しく、馳せるのは心持つ漆黒の機械仕掛け――ジャック・スペード(J♠️・f16475)。
 並走する白銀のバイクGlanzの主は、触手覗かせ笑うかつての予知装置――パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)。
 バイクに同乗するうち、背が低いのは刀の主を探す自立式機械人形――ヨシュカ・グナイゼナウ(一つ星・f10678)
 もう一人、気合いも充分に後部座席で笑みを閃かせるのが、焔宿す竜を飼う悪魔――ジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)。
 過去よりの侵略を許さぬ異世界の来訪者が、フルスロットルのノーブレーキで広場へ姿を現す。
「イェア! レペゼン☆エイツアヒーローズ♪」
「パウルさま! もっとスピード出たりするんですか!」
「いや流石に限界だろォこれ!」
「Odileは未だ行けるが」
「じゃあ、あいつ! 轢き倒したらレースしよ☆」
 あいつ――パウルの指した先に立つのは、既に数多の損傷を負ったクライング・ジェネシスだ。継ぎ接ぎの体が覗く鎧から、未だとめどなく赤を流しながら、それでも男は吼えるのだ。
「随分賑やかだなァ、ええ!? ナメてるんじゃねェ!」
 ずろりと現れるのは過去の残滓だ。揺らぐ影が形を成せば、相対する四人の虚ろな幻影が姿を結ぶ。
 それらが武器を構えるより早く、二台の愛機は左右へ散開する。離れていくドライバー同士が一度視線を噛み合わせれば、準備はそれで充分だ。
 パウルの指貫きグローブがGlanzのハンドルを握り直せば、展開するは黒き盾。即席の迷彩が周囲の光を奪い、けれど風を切る三人には見えている――襲い来る暗器の群れ、焼き尽くさんと覆う獄炎、無数の音波が。
 それはバイクを覆う帳を、ただの盾一枚とするほどの威力。そして同時に、盾一枚では心許ないほどの――。
 故に――彼が同乗するのだ。
「じゃ、ヨロシク♪ ジャスパーくん!」
「任せろ。造作もねえよ」
 パウルの呼びかけに応じたジャスパーが、迷いなく腕に走らせるのはカッターだ。驟雨の如く風になびいた紅い体液が、即座に凝縮して質量を増していく。
 ――不老不死者の霊液が成すのは二枚目の盾。その精巧なる鎧が漆黒を覆い、あらゆる過去の群れより疾走を守る聖光となる。
 全てを弾き返す黒白の盾を纏い、それ自体が意志を持つかの如くに動くバイクより、転がり出るのは白銀の髪を持つ隻眼の人形だ。相対するは同じく――否、随分と虚ろな顔をした『ヨシュカ・グナイゼナウ』。
 己のやり口は何より己がよく知っている。差し込まれる刃を躱し、返す剣が金属音を立てる。成程、手札を知っているのは相手とて同じということか。
 蜜色の瞳を僅か眇めて、ヨシュカの手にて翻るのは短刀。銘を開闢。
「知ってます?」
 人形といえど成長する。積んで来た日々がもたらしたのは、柔らかくなった表情と、縁だけではないのだ。
 昨日よりも今日。今日よりも明日。ヨシュカはこの瞬間にすら、瞬きの間を過去に置き去り、前に進んでいる。なればその手が過去を捉えるのは自明の理――。
「わたし、あの頃より10㎝も大きくなったのですよ」
 ――刃渡りからすれば『ただの十センチ』の差。得物が違えば確実に捉えられたであろう首に、しかし『ヨシュカ』の刃は届かない。
 背が伸びた。腕も、歩幅も、その分だけ大きくなった。故に僅か――ほんの数センチ、ヨシュカは過去の己より、リーチを得ていたのだ。
 首元に突き立てた刃が、過去の人形の動きを止める。零れ落ちた刃ごと揺らいで消えるそれを踏み越えるようにして、ヨシュカが迷いなく足を進める横を、轟音を立てたバイクが突っ切っていく。
 疾走するパウルの目の前にいるのもまた己だ。寸分違わず同じ顔、だがその瞳に光はない。まるで過去の、揺らぐ記憶にある己を彷彿とさせるようで――ああ、過去の自分だったな、と思い直す。
 それがいつなのかは分からない。
 だが――その程度で、彼は動じたりなどしない。
「アハッ☆ お生憎様!」
 いつもと同じ声、いつもと同じ口調。ただ、浮かべる笑みのみがひどく獰猛に。
 ――その瞳が、ぎらりと光る。
「瓜二つのツラ潰すのは慣れてんだわ」
 迷いなく――。
 握り込んだアクセルが音を立てる。眼前に立つ『パウル』に向けて真っ直ぐに進路を取って、持ち上がった前輪が顎を粉砕する嫌な音が響く。
 それを聞きながら――嗤うのはジャスパーだ。
 未だ滴る血より、招来するのは死神の鎌。鬼と呼ばれ悪魔と叫ばれ、とうとう本物の悪魔とまでなった男を前に、過去もまた同じ刃を手に取った。
「過去の具現化だァ?」
 ――そんなものに何の意味があるというのだ。
「俺は過去を放り棄てた『アリス』。混ぜっ返すだなんて、行儀が悪いぜ」
 ジャスパー・ドゥルジーに過去はない。過去がなければ未来もない。享楽主義者の顔で笑い、悪魔とまで称されるこの男に、現在以外は――存在しない。
 なればこそ、せせら笑う顔もすぐに歪むのだ。
「死を以て償え、こンの――!!」
 渾身の叫びは聞くに堪えない罵詈雑言。振り上げられる鎌は同時、けれど狙いは僅かに違う。
 現在のジャスパーは知っている。この目の前の『ジャスパー・ドゥルジー』が如何なる存在か。半端な負傷はむしろこちらを追い込むだろう。ならば。
 ――ずるりと落ちる幻影の首。倒れ伏して消えるそれを一顧だにせず、苛立ちを露わに男は駆け出した。
 Glanzよりやや遅れ、駆けていくOdileの漆黒が、その目に映る。
 過去の己を前にして、ジャックの腕に淀みはない。虚空より現れるテーザー銃を手に構え、冷徹に覗いたスコープの先に己の姿がある。
 トリガを引く指に躊躇はない。幾度も撃ち出される銃弾は雷撃の力を纏い、機械仕掛けの体を精確に射貫いていく。
 ――己の弱点など、己が最もよく知っている。
 動きが鈍れば、如何な経験を持つ機械兵とて攻撃を避けられはしない。そのまま踏み込んだアクセル、ブレーキは無しだ。
「ンなもん喰らうか――!」
 限界を破る車は、最早巨大な銃弾も同じ。なればこそ、その軌道は直線の他を描けない。
 ごうと音を立てて風を切る機体をせせら笑ったクライング・ジェネシスが、単純な軌道を避けんとする刹那。
「『ハロー、ジェネシス。あたしの能力返してくれよ』」
 高らかに笑う、その声は。
「――ギャハハハッ! 何かと思えばブラッド・レディじゃねェか! 負け犬の分際で、このオレと同じ過去から這い上がって来たってかァ?」
 かつて彼が屠った女。その体躯そのものだ。
 勿論――過去より這い出たオブリビオンがいるはずもない。僅か一瞬、その刹那を引き出すために講じられた、ヨシュカの変装の一手だ。
 今の彼はサイドキック。今より現れ過去を海に還すヒーローの、見せ場を作るための大事な役割。
「思ったより簡単に乗ってくれましたね」
 首を傾げて少年の声を発する彼に、クライング・ジェネシスの視線が完全に向いた、その横腹を――。
「折角の新車だがお前に呉れてやる」
 羽ばたく黒鳥が叩き伏せる。
 直前に転がり出たジャックに損傷はない。眼前で派手に爆発する新車――Odileの雄姿を見届けて、歩み寄る巨躯が駆動音を立てる。
「お前は過去の亡霊で、俺はヒトに成れぬ異形。ならば化物同士、仲良く殺し合おうじゃないか」
 幾ら彼が手練れとはいえ、眼前にいるのは無能力者からオブリビオンの頂点へまで至ったものだ。機械仕掛けの体に得た心は、正の感情だけを都合よく抱いてはくれない。
 目の前にして――この命が潰えることを、感じ取らぬわけはない。
 だが。
 なればこそ。
 振り上げられた拳、それが体を打つ一瞬にのみ生まれる隙を、逃さぬわけには行かないと。
「――その自己顕示欲も少しは満たされるだろう?」
「ギャーッハッハッハッ! ふざけるんじゃねェぞ、玩具如きが!」
 打ち下ろされれば激痛が走る。パーツが幾つ吹き飛んだのだかも分からない。だが、明滅しノイズの走る視覚野は、しかしまだ動くのだから。
 ――それで良い。
「貴様らを殺し尽くして、この世界を壊し尽くして! それで初めて、オレは満たされるってんだよォ!」
「そうか。ならば」
 銃口より撃ち出されるのは至近の射撃。決して外すことない距離からしかと撃ち込まれた雷撃弾が、クライング・ジェネシスの自由を奪って足をその場へ縫い付ける。
 そこへ。
 ――振り上げられた死神の鎌が、血の驟雨を降らせて影を成す。
「次は、てめェが、ああなる番だ」
 低く告げられる一撃を、更に飛び越えるようにして。
 過去の己を踏み台とした、パウルの笑みがぎらりと光るのだ。
「吹っ飛べ!」
 掃射――同時、一閃。
 悲鳴さえも上げられぬ致命の一打が、今ここにて過去を裂いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霧島・ニュイ
【華座敷】

過去ね…憶えてないんだよね
勿論憶えているトラウマもあるよ?
でも少し前にちくちくされまくった後だから、今更…ね

その攻撃で忘れた過去を思い出せたら…なんてもう望まない

幻影やオブリビオンは、動きを注視し見切り、カウンターで返す
クロトさんのはひたすら速く避けるしかないかな
見切りきれない場合は、銃で受け、受け流す

ほら、こっちだよー
スナイパーを使い命中率を上げ、銃で一斉発射、本体を叩く!

これは囮で罠。注意を惹きつけ
盾?どんと来なよ
兄さんとクロトさんを信用しているから
あなた達ならやってくれるから

UC
大きなUCの一撃を見ると、全身を脱力させ無効化し兄が敵に近づけてくれた人形のリサから排出反撃
任せたよ


クロト・ラトキエ
【華座敷】

簒奪者たり得た者が、元を無能力など語るとは…
喧嘩売ってます?
あぁ、売られてるんでした

視野は広く
首魁の挙動、視線に標的、胸部と攻撃前兆
速度、射程…
視る全てを見切り抜き

躱せるなら回避
防げるなら短剣で流し
範囲は鋼糸でカバー
後手ならカウンター
他武器で2回攻撃、フェイントも図る

…俺ならそうだろう?
飽きる程知ったやり口
だが

彼らの強さも知るが故に

『俺(かこ)』なら、己以外の己など“認めない”
…だが『僕(いま)』の相手はお前じゃ無い

肉薄するは首魁
傷など致命傷だけ避けられれば良い
ニュイが、千之助が、作った機
逃しはしない
狙うは発射装置(そこ)
――拾式

知らぬだろう芸当
見せてやりますよ
“信じる”ってヤツをね


佐那・千之助
【華座敷】

胸元から此方へ来るは自明
飛来するものを第六感で避け
焔のオーラ防御で攪乱、盾に変形した黒剣で防ぎ
炎の反撃は何時何処へでも

ニュイの幻影のUC反射防止に
拷問具の棘鎖絡ませる
ニュイは此度の要石
彼が手傷負わぬよう庇う位置で

クロトが自身の幻影を打ち捨てると入れ替わり
刺し貫き生命力吸収
紛う事なき強さ、還る前に貰う
大きな塊、受ける器に足らずとも
濁る声絞り堪え
凶刃は更にニュイの幻影へ

溜めた力放つは大将首
の足元を一面火の海に
留まるなら熔け落ちよ
飛び退るなら強化解除

厄介な技と狙われるなら
本物のニュイの身体を盾に
――迷わぬ、弟のUC、絶対成る
絡繰り糸弾き弟の人形を敵の間近へ
彼らの同時攻撃
防ぐ術は移植済みか?




 ――己が過去と対峙するということ。
 そう言われたとて、霧島・ニュイ(霧雲・f12029)には実感がない。過去というものが記憶の中にないのだ。
 なればこそ、目の前にある己の姿に思うことも少ない。愛した――愛したはずの相手を、血に塗れて臥すその姿を、己のものにしようとしたこと。首筋に歯を立てて、その全てを啜り――今ここにある人形を彼女の名で呼んで――。
 過去よりの一撃で思い出せるようなものならば、とっくに思い出してるだろう。だから喰らえば霧が晴れるなどとは思わないのだ。
「でも少し前にちくちくされまくった後だから、今更……ね」
 独りごちる声に、兄貴分は敢えて目を伏せるのみに留まった。
 佐那・千之助(火輪・f00454)が見据える先にもまた、猛然とこちらに向かう彼自身の姿がある。それは知っていて、そしてその横を馳せる冷然とした眼差しが、並び立つ男と同じであることも。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の視野は限りなく広い。首魁の僅かな挙動を感じ取り、そしてまた、同時に過去の残滓をも見据えている。彼が生きるために培ってきた技術の全ては、戦場にあって即ち『殺す』ためのものでもあったのだ。
 ニュイを守るように立ちはだかる二人の男が同時に動く。
 飛来する暗器は無数。舞い散るのは勿忘草の花弁。迸る焔が地を焼いて奔る。
 その全てを。
「――足りぬよ」
 千之助の目は見切っている。
 或いは纏う焔が。或いはその巧みな体捌きが。或いは盾へと変じた黒剣が。暗器を、焔を、花弁を――叩き落とし、躱し、焼き尽くす。
 生まれた焔の海は、しかし纏うオーラに過ぎない。千之助が敵と定めた者のみを焼き滅ぼすそれを足許に、クロトの体が悠然と舞う。
 生きるということは、死なぬということだ。
 故にクロトは知っている。致命となり得る一撃の軌道を、或いはこの身を包まんとする焔の迸る先を、体を裂かんと舞う花弁を避けるための一打を。『殺すため』の術を知らねば、生き延びることなど出来はしないのだから。
 懐より取り出した刃が閃けば、眼前に飛来したナイフが落ちる。張り巡らせた鋼糸が花弁を裂く。焔の熱は跳躍で超える。
 そうして二人の露払いが済めば、ニュイの元に届くのはごく僅かだ。暗器を見躱し、弾丸を吐き出したマスケット銃を投げ捨てて、残る花弁の刃には機関銃をくれてやる。
 三体の幻影より次打が撃ち出されるより先――凌ぐニュイを庇うが如く、兄の背が凛と立つ。闘志を燃やすその手が迷いなく手繰り寄せたのは、咎人を罰さんがための棘鎖。
 向かう先は弟分――その過去だ。共に過ごす時間があって、共に戦う時間もあった。それが故に、千之助はニュイの手札をよく知っている。
 ――此度の要石はニュイだ。その切り札を幻影に使わせることなど出来はしない。限界に近い負傷を抱えてなお、遥か強大な力を振るうオブリビオン・フォーミュラを前にして、あらゆる作戦は綱渡りだ。
 なればこそ――その綱を、切らせるわけには行かない。
 ニュイの幻影を捕縛すれば、そこに隙が生まれる。それを逃さないとばかりにナイフを構えた『クロト』へ、向かうのは現在を生きる傭兵の影。
 即座に接近を悟った刃が、咄嗟に『未来』の己へ向けて一撃を放つ。崩れた体幹から繰り出される軌道を即座に見切り、クロトのナイフはいとも容易く過去を叩き落とした。
 次いで交わる剣戟。長剣による真正面からの一打はフェイントだ。死角に忍ばせたもう一本を振り上げるのは同時。鏡映しに落ちる刃が軽い音を立てた。
 ――ああ。
「……俺ならそうだろう?」
「お前は違うのか」
 飽きるほど知ったやり口だ。眇めた瞳にぎらつく獣の色は、今ばかりは人の面をも凌駕する。
 己以外の己など認めはしない。なればこそ、眼前の己はこんなにも殺気立っているのだ。このまま進み、全てを殺し、己は生きて帰る。そうして――生きていくつもりなのだろうが。
「ああ、違う」
 嗤って。
「……『僕(いま)』の相手はお前じゃ無い」
 長剣を――。
 押し込みながら飛び退けば、全霊をかけていた体が容易くバランスを崩す。その頭を柄で殴ったのは、ただの鬱憤晴らしかもしれなかったが。
 クロトの体はしなやかに馳せる。目を見開いた過去の己を――置き去りにして。
「知らぬだろう芸当、見せてやりますよ。――“信じる”ってヤツをね」
 その刹那、幻影の胸から生える剣が一つ。
「私なぞ見えておらぬか。大層な自信だのう」
 それが隙じゃがな――ついと持ち上げられた、とうに己を斬り捨てた後の千之助の唇は、しかし僅かに痛苦に歪んだ。
 ――その生命力を。その力を。骸の海にただ還すより先に己がものとする。だがクロトの持つそれは、或いは生命への執着は、千之助を以てしてもあまりに大きい。
 引き抜いた刃に力が満ちる。噛み殺した声と歪む瞳のままに、己が縛った弟分の幻影へと刃を振り下ろした。
 その力を――。
 即座に転化する。迸る地獄の焔の群れが、クライング・ジェネシスの足許より立ち昇る。体を包む業火に身を焼かれれば――。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなよォ!」
 ――瀕死とばかりに追い詰められた獣が、咆哮した。
「なぜ過去に屈しねェ!? 貴様らが何だってんだ! 世界のクズの癖に、なぜ!」
「なんでって言われても――」
 覚えていないものに、屈するわけにはいかなくて。
 今を生きるために、死ぬわけにはいかなくて。
 世界に灯を届けるために、この先に行かねばならなくて。
 がむしゃらに振り上げられた異形の拳の行く先は、飛来する弾丸が定めた。
「ほら、こっちだよー」
 持ちうる銃での一斉掃射。ニュイの放った無数の弾丸が、クライング・ジェネシスの鎧の隙間へ撃ち込まれたのだ。
 怒る子供は、その痛みを与えた相手のみを狭い視野に定めたらしい。猛然と迫るそれを前に、三人の視線が交錯すること一瞬。
 ――千之助の足取りに迷いはなく。
 愛する弟分を、己が前へと送り出す。
 叩き付けた拳に確かな手応えを感じて、クライング・ジェネシスが嗤う。高らかな哄笑の前で、ニュイの体は完全に力を失っていた。
「ギャーッハッハッハッ! 仲間を売るたァ、見上げた根性だぜ! こっちの仲間にでもなったらどうだ!」
「そうかな」
 確信を持って、千之助の指先が糸を繰る。首魁の眼前へ弾き出されたのは、ニュイが携える人形だ。
 鎧の向こう、異形となった男が目を見開いた――刹那。
「簒奪者たり得た者が、元を無能力など語るとは……喧嘩売ってます? あぁ、売られてるんでした」
 後方より現れるのは暗器使い。緊密に張り巡らされた糸に、力を得ただけの駄々をこねる子供が気付こうはずもない。
「彼らの同時攻撃。防ぐ術は移植済みか?」
 静かに問う千之助の横で、何事もなかったかのように立ち上がったニュイが笑い。
 クロトの指先が鋼の糸に命を下せば。
 斬撃が。焔が。己が振るった質量を増幅した人形が。
 ――轟音と共に、過去を絶つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

加里生・煙
鬱憤を晴らす?ずいぶんとちぃさいじゃねぇか。
誰かに認められたかったのか?そう、"可愛そう"に。
いとおしくて、クソ喰らえで、誰かに肯定されなきゃ強くなれない。
――俺に似ていて大嫌いだ。

◼️
アイツはどうにも強いらしい。俺だけの力じゃきっと敵わないだろう。だから、その時を待つ。
戦場に満ちる狂気が、感情が、力を。アジュアが喰らって満ち足りるのを待つ。 
あんたは過去の具現化が出来るようだが、ほんの少し前、ただの一般人"だった"俺に。この戦いの狂気が扱えきれると思っているのかぃ。
呑まれて狂うか?獣になるか?
―俺はどちらにだってならない。
―――だって、"正しいのだから。"
狂うのなら、キチンと"狂いきれよ。"




「ずいぶんとちぃさいじゃねぇか」
 静かな侮蔑の言葉が、その底に狂気を揺らめかせていたことに、クライング・ジェネシスは気付いただろうか。
 業火の波が失せたのちも、首魁はなお立っていた。体中が焼け焦げている。継ぎ接ぎの体は崩壊しかかっている。最早体を保つことにさえ限界を迎えるそれを前に、平素と変わらぬ笑みを浮かべたままの加里生・煙(だれそかれ・f18298)が、ゆらりと一歩を踏み出した。
「誰かに認められたかったのか?」
 ――これは鬱憤晴らしだと、眼前の過去は言った。
 鬱憤を晴らすためだけに、彼曰く『ゴミども』しかいないこの地に降り立った。『クズども』に己を顕示して、その注目に酔っている。
 クライング・ジェネシスは――。
 煙を見遣って、嗤った。
「認められてェ? 違うな●
「ずいぶんとちぃさいじゃねぇか」
 静かな侮蔑の言葉が、その底に狂気を揺らめかせていたことに、クライング・ジェネシスは気付いただろうか。
 業火の波が失せたのちも、首魁はなお立っていた。体中が焼け焦げている。継ぎ接ぎの体は崩壊しかかっている。最早体を保つことにさえ限界を迎えるそれを前に、平素と変わらぬ笑みを浮かべたままの加里生・煙(だれそかれ・f18298)が、ゆらりと一歩を踏み出した。
「誰かに認められたかったのか?」
 ――これは鬱憤晴らしだと、眼前の過去は言った。
 鬱憤を晴らすためだけに、彼曰く『ゴミども』しかいないこの地に降り立った。『クズども』に己を顕示して、その注目に酔っている。
 クライング・ジェネシスは――。
 煙を見遣って、嗤った。
「認められてェ? 違うな! このオレの力を! 正しく伝えてやってるだけだ!」
「――そう、“可愛そう”に」
 一歩。
 踏み込めば、クライング・ジェネシスの咆哮が響く。それが何を言っているのか、煙にはよく聞き取れない。
 どうでも――良い。
 『正しくない』ものの声など、聞こえなくて構わないのだ。
「そうだろう」
 ――何も知らぬにんげんだった、『加里生・煙』。
 眼前に立つ男の、何と平凡なことだろう。己の中に眠るこの悍ましいまでの狂気も、青い焔も、黄昏の色も知らぬまま、両目を開いてこちらを見ている。そうして育った。そうして生きていくはずで――。
 足許で。
 狼が嗤う。
 踏み出した一歩と共に、見開くのは色の違う両目。見ることのなかったはずのだれそかれ。裡の焔が場に満ちる狂気と混沌を喰らい尽くし、赤々と燃える夕陽の色。
 狼が嗤うのは。
 ――ああ、違うな。
 ――これは俺の声だ。
「なあ。あんたにこの狂気が扱いきれると思っているのかい」
 逃げ惑う人々の。己の裡より湧き上がる狂気の。戦場に満ちる張り詰めた混迷の。その全てを喰らう、蒼い焔の。
 その力は――ただの一般人『だった』煙にとっては、過分な情報だ。
 声なき絶叫が生まれるようだった。幻影が吐き出す感情を、もう一つ喰らって黄昏が盛る。
「呑まれて狂うか? 獣になるか? ――俺はどちらにだってならない」
 何故ならば。
 煙は――『正しい』からだ。
 ごうと拳を包む蒼に、遠吠えめいた笑声が響く。赤々と揺らぐ誰そ彼が、己を穿ち、そのまま。
「いとおしくて、クソ喰らえで、誰かに肯定されなきゃ強くなれない――俺に似ていて大嫌いだ」
 肉薄した首魁の鎧の向こうにて、過去は確かに、正義に狂うばけものを見ただろう。
「狂うのなら、キチンと“狂いきれよ”」
 復讐の蒼牙は――。
 その身を穿って破滅へ誘う。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート


『俺』の攻撃はハッキングしかないだろうな
昔の俺は直接戦闘を避け続けてきたんだからな
一番自信ある手札は必然的に絞られる──だがな
今まで自分が使ってきたコードもプログラムも
対抗策を用意してねえわけねえだろ

毒使いが自分の毒のワクチンを必ず用意するのと同じ
お前が持つ万の手札は全て知っている、故にカウンターも容易だ

そして──お前には無いものがある
山ほどのオブリビオンを屠り、多くの達人から学んだ
技も叡智も、盗んできた
俺は成長した──戦闘技術は格段に向上してんだぜ

これはその結晶──ある傭兵から学び、ある剣豪から学び
ある陰陽師から授かった
だからお前には、負けない

さぁ、始めようか
世界を救う悪党の舞台ってやつを




 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)の手札の大半は、電脳工作にある。
 なればこそ、眼前の過去が何をして来るのかも、ヴィクティムにはよく分かっている。
 彼は決して不慣れな手札を切らない。『勝てる』方策を打ち出して、勝負をかけてくるに違いない――それが、最悪の敗北を招くと知らず。
 撃ち出されたプログラムをバイザー越しに見る。サイバネを強化するまでもない、己の中に集積されたものと照らし合わせれば、照合は即座に終わった。
 発される電波より電磁クロークの情報を解析。後方に回り込む高速機動に局所的なサイバネの活性化で応じる。振り下ろされるナイフは頬を掠めることすら叶わず、ヴィクティムの体に傷はつかない。
 再び交錯する視線へ――。
 少年は目を眇める。
「今まで自分が使ってきたコードもプログラムも、対抗策を用意してねえわけねえだろ」
 ――彼の使う『プログラム』という手札は。
 味方に齎せば薬になる。敵に齎せば過分な毒となる。なればこそ、解毒薬を用意していないはずがない。プログラムを編み出すたび、一つて札を増やすたび、ヴィクティムはそれを覆すすべをも同時に編み出してきた。
 なればこそ、不意に発射した刃が幻影の腕に突き立ったのも、自明と言えよう。
 そして。
「俺には――お前には無いものがある」
 数多の過去を屠った。数多の技術をこの目で見た。数多の達人たちと共に戦ってきた。その全てを盗み、時に刃を交えてすら、その力を得ようとしてきたのだ。
 単純なサイバネのアップグレードだけではない。戦闘能力の飛躍的な向上は、彼が掴んだ『未来』の道だ。
「見せてやるよ」
 それは、眼前の少年が手札とする万の『プログラム』ではない。
 頑健な意志だ。見て、聞いて、感じてきたものだ。『冬寂の犠牲者』でなく――今ここに在る『ヴィクティム・ウィンターミュート』が、その手に掴んできた全ての縁だ。
 桃色の陰陽師に授けられた力の結晶がある。共に戦う傭兵が見せた技術がある。並び立つ剣豪と刃を交えた記憶がある。
 ナイフに巻き付く結界霊符が、魔を破るための力を与える。得手としない接近戦とて、極限に至るまで『視て』『聴け』ば成せる。残る心に必要なのは、生まれついて宿した勝利への覚悟と――気高き獣の如き意志の一つだけ。
「アイツがくれたもの、アイツらが教えてくれたもの。全部使って、過去(テメェ)を出し抜く」
 ――I'm not alone.
 限界を超えて行使される目から血が零れ落ちる。割れんばかりに食い縛った歯で、限界を超える肉体に走る激痛をこらえる。
 この程度が何だという。
 これを――教えてくれた彼らの技術は、演算すら及びもせぬほどの研鑽の上に生まれたもののはずだ。
 それを、この痛みで扱えるのなら。
「安いもんだよな、おい」
 一閃――。
 白刃をひらめかせ、崩れ落ちる己の幻影を踏み越える。その先にある首魁の首を、じっと見詰めるまま。
 同じ悪党で。
 同じく選ばれる気もなかったものに選ばれて。
 同じくその期待を背負って立ったダークヒーローが言ったのだ。
 ――勝つために、利口に生きろ。
「さぁ、始めようか。世界を救う悪党の舞台ってやつを」
 悪党が世界を救って、何が悪い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶
【朱殷再燃】──
敵正面に炎の壁を展開。
防御と目眩ましを同時に叶えます。
馬鹿正直に維持していれば、
当然、敵はその裏にいるものだと思い込むでしょう。

ウソですよ馬鹿野郎。
クライング・ジェネシスの側面に回り込み、
炎を纏わせた刀を叩き込みます。

…ああ、はい。
止めると思っていましたよ。
だって炎は怖いでしょう。
燃えて、焼いて、すべてを奪っていく、破滅を。
恐れて当たり前。

でもね。
わたくしは──もう、逃げないと決めた。

ダメ押し一手のだまし討ち。
あなたが止めたそれ、鞘ですよ、
本命はこちら、わたくし自刃の太刀なれば。

愛も希望も友も持たず、奪った力しかない輩が創世を語るんじゃない。
今すぐここで、絶えて死ね。




 ――燃え盛れ、我が悔悟。
 撃ち出された弾丸を溶かし尽くすのは、穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)の放つ破滅の焔。彼女の全てを奪った熱を、過去の前にて盾として、少女のやわらかな姿は壁の向こうへ包まれる。
 相対するクライング・ジェネシスは、既に立っていることすらままならぬと見える。それでも胸の砲撃は変わらず起動し、錆びた音を立てて弾丸を撃ち出すのだ。
「そんな炎なんかでよォ! このオレに、勝てると思ってんのか!」
 手負いの獣の抵抗か――再度の弾丸は遥かに質量を増し、焔を裂いて風穴を開ける。その先に何もいなかったことを、男の血に曇った眼は『獲物をしとめた』ことと確信した。
「ギャーッハッハッ! この程度か! やっぱり猟兵なんざ」
「ウソですよ馬鹿野郎」
 ――翻る。
 側面より翳された白刃を、咄嗟に腕が受け止める。宿る焔の力が、ごうと音を立てて周囲へ広がったのを、クライング・ジェネシスの瞳が安堵を湛えて見遣る。焔色の瞳がゆらりと眇められるのは――見たのだか、そうでないのだか。
 止めるだろう――と、神楽耶には予想がついていた。
 獣の身に宿る炎への忌避は、即ちそれが普遍的に恐ろしいものだと雄弁に語る。燃えて、焼いて、全てを奪う――破滅だ。
 神楽耶はその身で知っている。焔のもたらす熱の恐ろしさを。焼き奪われていく己の記憶。滅していくひとに寄り添うモノであるための機能。免れ得ない最期が、過去の残焼の再燃であることも。
 それを――諦めて、受け入れていたけれど。
 その手に残ったものは、諦めることを許してはくれない。密やかに燃え朽ちて、どこかへ消えていくことを許してはくれない。
 否。
 違う。
 ――神楽耶が、神楽耶へ許さない。
「わたくしは――もう、逃げないと決めた」
 虚言嘘吐き暗殺奇襲――とはいかずとも。
「あなたが止めたそれ、鞘ですよ」
 ダメ押し一手のだまし討ち。
 三千世界を屠る焔を。怒れる竜の雷を。凍てる空気を、道化の刃を。意志の炎銃を。未来を拓く剣と弾丸を。凍れる牙を。緑の斧槍を。容赦のない送り火を。幸福のお呪いを。甘やかな花の香りを。過去を越えた牙を。ヒーローたちとサイドキックを。信ずる強さを知る獄炎を。狂気の蒼を。少年の刃を。
 全てを結ぶ――太刀一閃。
「――ひとが、幸福である為に」
 りぃん、と、咲って背を押す鈴の音。
 『穂結』の白刃が――首を。
 捉えて、結火が燃え盛る。
 それでも。
 見据えた先の悪党の瞳は、まだ『生きて』いるようだったから。
「愛も希望も友も持たず、奪った力しかない輩が創世を語るんじゃない」
 持ち上がった唇は、何がためだったろう。
 これで救いが成せるからか。
 世界の愛と希望を示すためか。
 きっと、眼前の過去がこの台詞を聞くのは二度目だろうと――そう思ったせいか。
「今すぐここで、絶えて死ね」
 ――断末魔をも斬り裂かれ、何をも手にしえなかった男は、過去の海へと還り行く。
 結ばれたのは勝利。この世界を救う、未来への道行き。
 過去は過去へ。現在は――未来へ。
 遍く世界を照らす希望(ひかり)は、何かを掴もうと伸ばされる手と、その背を優しく押していく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月30日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ヒーローズアース
🔒
#戦争
🔒
#アースクライシス2019
🔒
#オブリビオン・フォーミュラ
🔒
#クライング・ジェネシス


30




種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト