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アースクライシス2019⑪~守護者の誇り

#ヒーローズアース #戦争 #アースクライシス2019 #ダストブロンクス

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 ――ダストブロンクス、『巨大汚水槽』某所。
「くっ……、これは……!」
 白銀のヒーローソードを構え、ヒーロースーツに身を包んだ少年が、高笑いと共に放たれた女から放たれた魔眼の瞳を真正面から受け止めながら、舌打ちを一つ。
「オーホッホッホ! 貴方の様な小僧ヒーローにこの私が敗れると思いまして?!」
 女は、高笑いを上げながらヒーローズアースのとある都市を守っていた少年ヒーロー……拓海に向けて解き放つ無限大とも言える弾幕の嵐。
 その弾幕の嵐を紙一重で躱しながら、白銀のヒーローソードを振るわんことを欲する拓海。
(「くそっ……! 僕だけの力じゃ、とてもじゃないけれどこの弾幕を……彼女を倒してあの罠を解除することは出来ない! けれど、他のヒーロー達に協力を要請すれば戦力のバランスが崩れる……!」)
 ――僕だけじゃ、手が足りない。
 倒せなくても良い。せめて『彼女』の弾幕と間断無き攻撃を潜り抜けられるだけの協力を誰かから僕が得ることが出来れば、ダストブロンクスを汚染するこの巨大汚水槽を破壊できるというのに……!
 内心でそう冷汗を垂らしながら。
 ヒーロー……嘗て、猟兵達と手を取り合いとある町からオブリビオンを守った少年ヒーロー……『拓海』は、悔しげに歯軋りを一つするのであった。


「……そう。あの子、自分の町だけじゃ無い。ヒーローズアースという一つの『世界』を守るために今は行動しているのね……。志は立派だけれど、それだけじゃ、この作戦を成功させるのは難しいわよ……」
 その掌の花形のグリモアに映された光景を目の辺りにしながら。
 エリス・シルフィード(金色の巫女・f10648)がグリモアベースの片隅で小さく息を一つついている。
 エリスの様子が気になったのであろうか。
 何人かの猟兵達が姿を現し、エリスにどうかしたのかという表情を浮かべる。
 そんな猟兵達の姿を見て、実はね、とエリスが微苦笑と共に溜息を一つ。
「ヒーローズアースで起きている大規模な戦争……通称アースクライシス2019の事は皆知っているわね? その戦いの中でニューヨークの地下に広がる、広大な下水道迷宮『ダストブロンクス』で起きている戦いについても」
 ダストブロンクスでの戦い。
 即ちそれは、それまで反撃の機会を伺っていたヒーロー達がダストブロンクスに仕掛けられたスカムキングの『巨大汚水槽』を破壊するべく行動を起こしたヒーローとオブリビオンによる戦い。
 ――通称、ダストブロンクス・ダウン。
「で、そのヒーローの中に、拓海さんって言う、ヒーローが関わっているのよね……。ダストブロンクスに仕掛けられた『巨大汚水槽』の解除の任を負わされて、尚且つそれなりに戦闘能力のあるヒーローなんだけれど」
 その拓海がダストブロンクス・ダウンの戦いに介入したのには勿論理由がある。
 拓海は解除する方法などを『学ぶ』技術に長け、且つそれなりに戦闘能力を持ち、オブリビオンとの交戦経験もある為、ある程度危険な地域に派遣してもその爆弾を解除できる、と判断されたからの様だ。
「でも、運悪くというか、案の定、と言うか……拓海さんが派遣された所のオブリビオンは、此方の想定より強かったみたいなの。その影響で、拓海さんは爆弾を解除するのに手をこまねいている……下手をすれば、拓海さん自身が殺される可能性もあるわ」
 だから……と、エリスが小さく息を一つつく。
「場所はもう特定できているから、皆には拓海さんのいる戦場に急行して貰って、彼を助けてオブリビオンを撃破、拓海さんが爆弾を解除する為に力を貸して欲しいの。彼は、皆には友好的だから、上手く行けばスムーズに事は運ぶ筈よ」
 と言う訳で……と、天使の様な微笑みを浮かべながら春風のライラを爪弾くエリス。
「どうか皆、宜しくね♪」
 エリスの言葉と爪弾きに押される様に。
 金色の光に包まれた猟兵達が……グリモアベースを後にした。


長野聖夜
 ――ヒーローを援護せよ。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 ヒーローズアース2019開催中(2019/11/21)ですね。
 と言う訳で一本シナリオをお送りさせて頂きます。
 尚、此方のシナリオに登場する『ヒーロー』は、下記拙著のヒーローと同一人物となります。
 シナリオ名:宵闇の組織~新たな敵の発見を
 URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=7159
 尚、拓海が使用している武器はヒーローソード(改)、取得ユーベルコードはスーパー・ジャスティスとなります。
 拓海君は前回の事件の経緯から猟兵達に対して好意的です。
 彼との親睦を深めるも良し、彼が行なおうとしている爆弾解除の手伝いを如何にするか、或いは、敵を倒すために彼と如何な協力をするか。
 どの様な戦い方を行なうのかは皆様にお任せ致します。
 尚、プレイングボーナスは下記行動に該当すると、私が判断したものになります。
 プレイングボーナス:ヒーローを守り共に戦う。
 プレイング受付期間及び、リプレイ執筆期間は下記の予定です。
 プレイング受付期間:公開~成功数達成迄。
 リプレイ執筆期間:11月23日(土)14:00~11月24日(日)一杯。
 尚、成功数に達した場合、それ以降に頂いたプレイングを却下する可能性がございますので、その点、ご了承頂けますと幸甚です。

 ――それでは、良き戦いを。
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第1章 ボス戦 『絶対防御司令官・鮮血千手のラスト』

POW   :    防御は強襲高速司令官による試されし技能
【覚悟の無き者は囚われる魔眼の迷宮】【逃げ足の無き者は逃れられぬ弾幕の嵐】【封印をとく事の出来ぬ者は封じられる呪縛斬】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    栄光の手~ハンド・オブ・グローリー・紅~
技能名「【手をつなぐ】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ   :    司令官による承認!戦隊紅蓮領域~レッドゾーン~
【手をつなぐ×レベル分の紅き英雄達】の霊を召喚する。これは【赤に集いし五色の集団波状攻撃】や【合体ロボットによる必殺技】で攻撃する能力を持つ。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は遠藤・兎卯飛です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

拓海さんとの面識はないが、この事態は放っておけないな
微力だが加勢させていただこう

拓海さん、お初にお目にかかる
自分の町だけでなく、この世界(ヒーローズアース)そのものを守ろうというその決意、しかと受け取った

とはいえ私自身に攻撃力がないのは相変わらずでな
今回は拓海さんを「拠点防御」で護衛しつつ、拓海さん含めた味方全員の覚悟と気概、抵抗力を歌でさらに増強しよう
「歌唱、鼓舞、祈り、パフォーマンス」+【反旗翻せし戦意高揚のマーチ】だ
皆、心おきなく戦ってくれ

戦闘後は拓海さんや他の猟兵が爆弾解除を行うのを見守るな
必要なら【サウンド・オブ・パワー】で増強だ(※演出なので却下可)


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

今まであまり動けていなかった分、動こう
拓海さん、今加勢するよ

【魂魄解放】発動
環境的にちょっと辛いかもしれないが、この世界を守るためだ
…手を貸してくれないか

基本は拓海さんの護衛
「暗視、視力、戦闘知識」で敵の挙動を観察・予測しながら
「第六感」も活用し拓海さんへの攻撃を通さぬよう警戒
拓海さんが攻撃されそうなら「かばう」で肩代わり
「オーラ防御、武器受け、激痛耐性」で全力で耐える
…僕なら大丈夫だから、君は自分の仕事を

隙あらば「闇に紛れる、ダッシュ」+高速移動で背後を取り
「早業、2回攻撃、怪力、マヒ攻撃」+衝撃波で斬りつける
背中ががら空きなままで、僕らを排除できると思うなよ!


ウィリアム・バークリー
久しぶりだね、拓海君。大変そうだ。手を貸すよ。

ぼくらがオブリビオンを抑えている間に、君は君のなすべき事を!

それじゃActive Ice Wall展開。敵の弾幕攻撃を「盾受け」出来るよう、いつもより厳重に何重にも。
ボロボロになって使えなくなったら、Icicle Edgeを放つ要領で砲弾として敵に向け射出します。
こちらの優勢に傾いたら、「高速詠唱」「全力魔法」のIcicle Edgeを連射します。弾幕を張るのが得意なのは、あなただけじゃないんですよ。
流れ弾が拓海君や汚水槽に誤射しないよう注意。

とどめを譲れるなら拓海君に。

拓海君、あれからMr.Jokerに会った? 彼もこの戦場のどこかにいるのかな?


彩瑠・理恵
拓海さん、ですか
面識はないですが早く駆けつけて協力しないといけませんね
だから、リエ。此処は私に任せください。リエは協調とか不得意でしょう

転移したら即座にスレイヤーカードで武蔵坂制服とバベルブレイカーで武装します
そして巨大汚水槽がある方向の天井付近に向けて指鉄砲を構えます
拓海さんも、猟兵の仲間も、これで援護します
これこそ、かつて母さん達が幾多の戦争を勝ち抜いた切り札の再現。【模倣再現・殲術再生弾(キリングリヴァイヴァー・コピー)】です!
これなら拓海さんも十分対抗出来るはずですし、倒れることは早々無いはずです

殲術再生弾は私にも効いてますから私も前に出て戦います
慄け咎人、今宵はアナタが串刺しです!


荒谷・つかさ
お久しぶりね、ヒーロー。
手が足りないなら、貸してあげるわ。
……安心なさい。
貴方の物語、こんな所で終わらせはしないから。

【超★筋肉黙示録】発動
「弾幕や迷宮や封印等に頼る奴に私の筋肉は負けない」と自己暗示(セルフ言いくるめ)し、真正面から突撃
迷宮は壁を砕いて進むから囚われないし、弾幕なんて豆鉄砲私の無敵の筋肉なら避ける必要も無いし、呪縛は斬撃に乗るなら見切って手甲で叩き落とす(武器受け・オーラ防御)から効かないわ
(命中してるけど無敵なので全部無効化していく)
……と、いう感じに目だって引き付けられればこちらのもの
その隙に突破なり私を盾にするなりしてもらいつつ、連携して撃破するわよ!


白石・明日香
男の娘じゃねえのかよ・・・・
他の方との連携、アドリブは歓迎
さて、小僧を死なせるわけにはいかねえな。
かばうのは他の味方に任せてオレは小僧と敵の間に立ち塞がり
弾幕の嵐はオーラ防御、激痛耐性で耐え、呪縛斬は怪力、武器受けで流す。
迷宮は・・・そんなものあってなきが如しそこの小僧にとってもな?
残像で攪乱しながらダッシュで接近。相手の挙動を見切りながら攻撃をかわし背後に回り込む。自身の間合いに入れば怪力、2回攻撃、鎧無視攻撃で叩き切る!
お前面倒だ・・・・さっさと死ねよ。


文月・統哉
【文月探偵倶楽部】
合せ・アドリブ歓迎

拓海!
こんな最前線に出るなんてすっかり逞しくなったな
必要に応じ庇いながらオーラ防御展開
にゃははと笑い援護を

大丈夫、拓海は一人じゃない
街の皆が、ヒーローズアースの皆が
そして俺達も付いているから

心配は何もない
この戦いに必要なモノを拓海は既に持っている
ヒーローとして皆の想いに応える『意志と覚悟』を
その意志に比例した『強さと速さ』を
勇気づける事で拓海の中の不安という『封印を解き』送り出す

重要なのは護るという『意志の力』
街を世界を護る
俺もまたそんな拓海の意志に共感して
使うUCは勿論、着ぐるみの空!

敵の足止めは俺達に任せとけ
拓海は拓海の役割を
汚水槽の爆弾解除は任せたぜ!


彩瑠・姫桜
【文月探偵倶楽部】

拓海さん、頑張ったわね
ここからは私達も一緒よ
オブリビオンは任せて
貴方の中の貴方のやるべき事をやりきるのよ!

もしもためらう心が拓海さんの中にあるなら
私達がその[封印を解き]、背中を押すわ

守ってみせるわよ
拓海さんも、頑張ってるヒーロー達も、この世界も
その[覚悟]はあるわ

ヒーローは常に勝つんだから
貴女の敗北、私達がここで見せてあげるわ

仲間と連携しできるだけ前へ
拓海さんの立ち回りを阻害しないよう援護
必要応じ敵の攻撃から[かばう]わね

逃げることなどしない
弾丸は[武器受け]で受けて立つ

[第六感]駆使し敵の動きを[情報収集]
タイミング見て踏み込み【双竜演舞・串刺しの技】で[串刺し]にするわ


木元・祭莉
【文月探偵倶楽部】で、ひまわりイエロー、再登場!

わわ、拓海兄ちゃんだー!
久しぶりー、元気してたー?(にぱ♪)
こないだ、ジョーカーにも会ったよー。元気そうだったー♪

っと、はしゃいでばかりもいられないっと!(キリッ)
事情はだいたい。
おいらたちが、あのお姉さんは引き受けた! だよね?

統哉兄ちゃん、姫桜姉ちゃん、行こ!
お姉さんの魔眼を正面から見つめ返し、突っ込む!
弾幕は舞扇で受け弾きながら、つ、と扇を投射して呪縛を爆破。

捕まえたよ、お姉さん。
見える? おいらとの絆。

この世界では、骸の海に戻るしかないケド。
次に、別の世界で桜に出会えたら。
おいらのコト、思い出してね?

拓海兄ちゃん、罠終わったー?(にぱ♪)


森宮・陽太
【POW】
アドリブ連携大歓迎
装備品アリスランスの色は「濃紺」(イラスト参照)

よお、ヒーロー
手を貸しに来たぜ

…ま、俺も駆け出しユーベルコヲド使いだから
先輩方の足を引っ張らないようにするが

俺は前に出たほうがよさそうか?
【アリスナイト・イマジネイション】で戦闘鎧を召喚、着用
拓海や他猟兵の邪魔をしないように、左手の槍でラストを正面に捉え「ランスチャージ」
避けるなんてまず無理だから、戦闘鎧の性能を信じて耐えるさ
この鎧には絶対的な信頼を置いているからな

もともと逃げる気はねえ
それくらいの覚悟は持っている
ここであんた…俺らの世界で言う影朧を倒してしまわねえと
拓海が護りたいこの世界が終わっちまうんだからな


日向・史奈
ヒーロー…いえ、拓海さん!助けに来ました!

爆弾解除をしてもらっている時はそれに専念してもらいましょう
解除作業中に直接敵が拓海さんを狙ってくることもあると思いますので、その時はかばって攻撃が当たらないようにし、魔法で反撃を試みます

解除作業が終わって攻撃に専念出来るようになったら拓海さんと一緒に戦いましょう
拓海さんへの攻撃を引き続き庇いながら雷の魔法で攻撃します
霊を召喚されても、範囲攻撃で問題なく倒せると思いますので

【アドリブ歓迎です】




「拓海さん、ですか。私は面識がないのですが、助けに言った方が良さそうですね」
 小さく息を吐きながらポツリと呟いたのは、彩瑠・理恵だった。
「と言うか、あの拓海って奴、男の娘じゃなかったのかよ……?」
「……何故、男の娘になる……?」
 白石・明日香の何処となく残念さの混じった独白とも、問いとも思えるその呟きに、藤崎・美雪が何だか疲れた様に溜息を吐いた。
 鋼鉄製ハリセンを一瞬頭に叩き込もうかと言う想いが過ぎったが、流石にそれはやり過ぎだろう、と軽く頭を振って自粛する。
「それにしても拓海君、頑張っているみたいね」
「そうですね。あの頃は確かMr.Jokerとの戦いをして、それからも街を守り続けていたみたいですし……それが今度は世界を守る事を誓ったわけ、ですからね」
 彩瑠・姫桜が懐かしそうに目を細めながら呟くそれに同意する様に頷いたのは、ウィリアム・バークリー。
「ああ、そう言えば姉さん達は、拓海さんに会ったことがあるんでしたか」
「ええ、そうよ。あの時は怪盗ジョーカーとの戦いで一杯一杯で、オブリビオンと戦う余裕は無かった筈なのだけれど」
「まあ、ヒーローだって成長するものよ。私だって、あの頃から随分と様変わりしたわけだしね」
 姫桜の呟きにそう答えながら、パラパラと零からでもよくわかる『超★筋肉黙示録』に復習を兼ねて目を落としながら、キッパリと頷くのは荒谷・つかさ。
 嘗ては戦巫女であったつかさも、力を求めて世界を流離うその間に破戒僧と化し、完全なる力持ち……一言で言うなら、【脳筋】と化した。
 つくづく人も鬼も変わろうと思えば幾らでも変われるものよね、というつかさの呟きには、自らの経験に裏打ちされている確かなものがある。
 つかさ達が昔話に花を咲かせている間に、美雪の明日香への衝動を何となく感じ取ったか、館野・敬輔が天を仰ぐ様な表情をしながら溜息を一つ。
(「後輩に、すっかりツッコミ属性がついてしまった……確か、この間予知していた事件も、ツッコミの無くなった世界を潤す事件では無かっただろうか」)
 げに恐るべきは、ツッコミハリセン持ちICでは無かろうか。
 そんな天の声を聞いた様な、そんな気もするが。
「先輩方は、余裕だなぁ……」
 つかさ達の軽口の叩き合いを見ながら、その様子を何処か眩しいものを見るような眼差しで見つめていたのは森宮・陽太。
「にゃふふっ、こういうのは大事だぜ? 戦う直前の緊張を解すためにもな!」
 マジマジとその様子を見つめている陽太に対して、口元に微笑を綻ばせてそう返したのは文月・統哉である。
 そうしている間にも、先程取り出した『超★筋肉黙示録』を聖典の様に天に掲げ、ズンズンと真正面から敵が作り出していた『覚悟の無き者は囚われる魔眼の迷宮』に堂々と乗り込み、文字通り鉄塊と化した拳を叩き付けてその壁を叩き壊すつかさ。
(「弾幕や迷宮や封印等に頼る奴に私の筋肉は負けない」)
 その思い……想像の力は、拓海を捕らえん事を欲していた魔眼の迷宮の壁を易々と崩落させる。
 その先にあった、光景は。
「オッホホホホホホホホッ! どうしたの、ヒーロー!? お前如きがこの私の弾幕の嵐を避けきれる筈がないでしょう?!」
「この……っ!」
 下水道……ダストブロンクス・ダウンの唯でさえ複雑な迷宮構成の中で、更に魔眼の迷宮を生み出すラストの攻撃を飛翔し、時にその地形を利用し、時に白銀のヒーローソードで受け流しながら好機を図って果敢に刃を振るうも、苦戦を免れ得ぬ状況に陥っている拓海の姿。
 そんな彼に……。
「にゃはは……拓海! こんな最前線に出るなんて、すっかり逞しくなったな!」
 全身にちょっと目つきが悪い? その首にトレードマークの赤いスカーフを巻いたクロネコの着ぐるみを纏い。
 拓海より上からヒラリと戦場に飛び出す、赤い線を曳いたクロネコ・レッドの影。
 見覚えのあるそれに、思わず拓海が息を呑む。
「あっ……! クロネコ・レッド?!」
「にゃははっ、その通り! クロネコ・レッド、見・参!」
 統哉の決めポーズに驚きの表情に息を呑んだ拓海に向けて、イェーイ、とにっぱり笑顔を浮かべ、クルクルとその場で踊るひまわり着ぐるみな木元・祭莉。
「やっほー、拓海兄ちゃんー! 久しぶりー、元気してたー?」
 祭莉の姿に気が付いた拓海が、思わずと言った様子で目を瞬かせる。
「そ、そっちはひまわりイエロー?! 皆さん、どうして……!」
 大地に降り立ち無限の弾丸を咄嗟に白銀のヒーローソードで受け止める拓海の前に、躍り込む様に敬輔が全身に白い靄を纏いながら姿を現し黒剣を一閃。
(「場所が場所だから、ちょっと嫌かも知れないけれど……力を貸してくれ、皆」)
 ――大丈夫だよ。
 ――私達は、そこに存在している『意志』だから。
 ――不潔とかそう言うのは、戦いでは考えないわ。
 少女達の思念に思わず微苦笑を零す敬輔の耳の中に入ってくるのは、歌。
 マーチ・オブ・アゲインスト・バトル……姫桜達の心を奮い立たせ、その戦意を昂揚させるその歌の響きに合わせる様に、ラストはオホホホホホホッ! と甲高い笑い声を一つあげる。
 すると突如として、ダストブロンクス・ダウンの地面から一本の長い柱がぬっ、と突き出した。
 頭を決して壊れることがないのであろうカバーに覆われたそれが、ピコッ! と厳かな音を立ててオープンされ、現れたのは『承認』のスイッチ。
「ヒーローには、ヒーローで対抗よ! ……承・認!」
 ラストの呟きと、ほぼ同時に。
 ――ポチ。
『承認』のスイッチが押され、現れたのは何百……もしかしたら何千かも知れない……紅き英雄達の霊。
「って、ちょっと待ってなんだこの英雄達の数!? これ、宿命言う、英霊達の物語じゃないよな!?」
 等と思わず口走っている明日香の様子には構わず、拓海は自分を庇った目前の敬輔と、自らの心の内から溢れ出てくる力の源の歌い手である美雪を交互に見つめながら、愕然とした表情で呟いた。
「あなた達は……?」
「明日香さんに、敬輔さんに、美雪さんだよ拓海君。ぼくらの仲間だ」
「そう言うことよ、拓海さん。大丈夫。オブリビオンは……彼女は、私達に任せて」
 ウィリアムが左の人差し指を伸ばしてチョイチョイと青と紅葉色の混ざり合った魔法陣を作成し、そこに魔力を収束させるのを見つめて一つ頷きながら、姫桜がschwarzとWeißを構え直しながら、内心でポツリと姫桜が呟く。
(「覚悟無き者を捕らえる迷宮、ね」)
 美雪の奏で始めた歌に共鳴し、心の内に常に育まれている戦いへの恐怖が薄らぎ、ある種の高揚を感じた美雪の桜鏡の鏡面が、自らの覚悟を指し示すかの様に、水面で弾ける波面の様な、澄んだ淡い輝きを発するのを見つめながら。
「Active Ice Wall!」
 ウィリアムが昂揚する想いを代弁する様に叫ぶと同時に、展開するは無数の氷塊。
 混沌とした迷宮の中に数珠繋がりの様に現れた無数の氷塊達は、弾避けとしても足場としても有効そうだ。
 手慣れた様子で着々と戦闘準備を整える統哉達の姿に、感心しながら、よぅ、と軽く手を挙げ、濃紺のアリスランスと、淡紅色のアリスグレイヴを構えた陽太の呼びかけに、拓海がちらりと其方を見て微かに首を傾げて問いかけた。
「あなたは……?」
「初めまして、ってところだな。森宮・陽太。まっ、駆け出しの『ユーベルコヲド使い』って奴だよ」
「私達は、自分の街だけでは無く、この世界そのものを守ろうというあなたのその決意を、確かに受け取っている」
 飄々と深紅のアリスグレイヴを肩に担ぎ、濃紺のアリスランスを狙いを定める様に構えている陽太に頷き、行進曲をグリモア・ムジカのキューブ内に描かれた音符と記号で書き表してその力を持続させながら美雪が続け、姫桜がそれに力強く首肯する。
「だから、私達はあなたを守りに来た。行くわよ、拓海さん。……この世界を守るために頑張る皆の為にも、私達は必ず勝つのよ!」
「あのお姉さんはおいら達が引き受けた! だからね? 統哉兄ちゃん、姫桜姉ちゃん、美雪姉ちゃん、行こ!」
 ピョコン、ピョコン、とウィリアムの呼び出した氷塊を軽快にステップして渡りながら、にっぱり笑った祭莉に、姫桜と統哉も同意の頷きを返した、丁度その時。
(「リエ。ここは私にお任せください。リエは協調とか、不得意でしょう?」)
 どこかで見た事がある様な制服と、バベルブレイカーで武装した理恵が戦いたいと喘いでいる自らのもう一つの人格『殺人鬼』のリエへと呼び掛けながら、巨大汚水槽がある方向の天井に向けて、指鉄砲を構えている。
「これで拓海さんも、皆さんも援護します」
 ――それは、『切り札』
 嘗て理恵が読んだ事のある御伽噺の世界で起きた、数多の戦争。
 その物語で使われていた『切り札』とも呼ぶべきものを基に、理恵が想像から創造した、『複製品』
「行きます……『キリング、リヴァイヴァー!』」
 叫びと共に理恵の指先から射出されたのは、一発の弾丸。
 天空に放たれたその弾丸が弾け、巨大な光条が辺り一帯を満たしていく。

 ――無限に等しい力と回復力を注ぎ込む光を浴びた姫桜達が、一斉にラストに踊りかかった。


 ――それは『光』に安らぎと力を、『闇』に畏怖を与える光条。
「オーホッホッホッホッホ! 私の呼び出した紅き英雄達に、たかが10人程度で勝てる等、おこがましいにも程があるわ!」
 その光を見て内心で微かな動揺を現しながらも高らかな笑い声と共に、『承認』のスイッチを押した手で印を結ぶラスト。
 白昼堂々そう宣言するラストの命令に応じる様に、何百……もしかしたら何千……この戦場を血の海の如く覆う紅き英雄達が一斉にウィリアム達に襲い掛かろうとした、その時だった。
「ヒーロー……いえ、拓海さんでしたね! 私達が彼女を引きつけている間に、爆弾解除を、お願い致します!」
 ――轟!
 それは、深紅の英雄達を斬り裂く様に踊り狂う雷光の嵐。
「……新手っ?!」
 雷光の嵐に、何千と泥濘の如く呼び出された紅き英雄達が飲み込まれ撃ち落とされていく様子を見ながら微かに驚き、息を呑む表情になるラスト。
 雷光が解き放たれたその先には、左手に叡智の杖を構えて突き出し、右手に太陽の如き眩い輝きを放つ、星と魔法陣のヒーローシンボル、Zodiacal signを構えた少女……ホワイトナイト、日向・史奈の姿。
 新手が現れたことに動揺を隠せぬラストに向かって、明日香が全てを喰らうクルースニクを抜刀し、撥ね上げる様に振るう。
 その生命力を『喰らう』刃の一撃に血相を変えたラストが、隼の翼を形どった鍔を持つ、青き光を刃と化した『呪縛』の剣を袈裟に振り下ろした。
 ――キーン!
 その刃が、明日香の全てを喰らうクルースニクの刃と交差し、火花が散る様な、美しい音が辺り一帯に響き渡る。
「真正面から打ち込んでくるなんて、大した度胸ですこと! この私が、その程度の一撃で倒せると本当に思っておいでかしら?!」
「さっきはあんだけビビっておいて、よく言えるぜ。……そうだろ!」
「まあ、そうかも知れねぇな。先輩方に比べて戦い慣れてこそいないが……元々『逃げる』気はねぇ。その位の覚悟は、持っているぜ」
 その身に戦闘鎧を纏った陽太が、濃紺のアリスランスを突き出し、更に淡紅色のアリスグレイブを横薙ぎに振るう。
 ランスによる刺突と、グレイブによる斬撃が、ラストの体に掠り傷を負わせた。
「オーホッホッホッホッホ! この程度で私を倒そう等とは片腹痛いですわっ!!」
 高笑いと共に接近してきた陽太をぶち抜くべく、無数の弾幕を左手のガトリングガンから撃ち出すラスト。
 陽太に向けて撃ち出されたそれだったが、その時、陽太の前に滑る様に現れたのは……。
「ほらほらどうしたの。この程度の豆鉄砲による弾幕なんかで、私の無敵の筋肉を貫ける筈ないでしょう?」
 威風堂々、全身の筋肉を張り巡らして、肉体に突き刺さった筈の弾丸を全ておしのけるつかさ。
「わ、私の弾幕の嵐が通用しないと言うのですの?!」
「あなた如きの攻撃じゃ100……いや、1000%、私の無敵の筋肉を打ち倒すことなどできはしないわ」
 まるで、外れる事の無い予言の様に。
 無慈悲にそう告げながら、ぶん、ぶん、と鉄拳制裁の如く拳を振るい、容赦なくラストを打ち据えていくつかさ。
 美雪の戦意高揚の歌と、理恵の放った一発の弾丸が、この『筋肉は無敵』理論を、更に加速させていることは言うまでもない。
「ぶっ、べっ、ばっ?!」
 ――打つべし、打つべし、打つべし!
 遮二無二つかさに無敵の鉄拳を叩きこまれて、体中に痣を作るラストに上空から統哉が光条の中を駆け抜ける一条の宵闇の光となった『宵』を袈裟に振り下ろして、ラストの体を斬り払い、更に……。
「理恵!」
「はい、姉さん。行きましょう」
 二槍を構えた姫桜とバベルブレイカーを構えた理恵が左右から同時に襲い掛かる。
『はあっ!』
 阿吽の呼吸で白と黒の波動を纏った二槍を姫桜が振り抜き、理恵がラストを貫くべく、バベルブレイカーの杭を解き放った。
 解き放たれた白き波動を纏ったWeißと、黒き波動を纏ったschwarzが、ラストの胸と右腕を抉る様に貫き、更に左腕は、理恵のバベルブレイカーによって突き通されている。
 怒涛の連続攻撃に一瞬身動きが取れなくなったラストに、ウィリアムの呼び出した氷塊を蹴って真正面から向き合った祭莉。
 その瞳は、ラストの魔眼をじっと見つめ返していた。
『忘れない、覚えとく!』
 決意を込めた叫びと共に、舞扇の幻影を投擲する祭莉。
 ひゅるひゅるひゅる……と、ブーメランの如く回転しながらラストの体に突き刺さって爆発を起こした。
「ゲェェッ?!」
 突然の爆発に体を嬲られよろけたラストの目を真剣に見つめながら、祭莉が静かに言の葉を告げる。
「捕まえたよ、お姉さん」
 祭莉の誰かを吸い寄せる様な、銀の瞳に射抜かれたラストが、微かに怯む様子を見せた。
 ラストと祭莉の間に横たわるは、夢色の絆。

 ――忘れてはいけない約束……それは祭莉の、少年時代の宝物。

 爆光の中で見る事の出来たそれはラストの心に激しい揺さぶりをかけていた。
「な、なんですの、これは……!」
「お姉さんには見える? おいらとの絆」
 ――思い出により紡がれる、その夢色の絆の色が。
「……! そんなものでこの私を揺さぶれると思わない事ですね……!」
 夢色の絆に飲み込まれ、自らが断ち切られることを恐れたか。
 必死になって頭を振って、史奈の雷光に撃ち抜かれる難を辛うじて免れたヒーロー達を合体させ、超強力な全てを破壊する深紅の光線を解き放とうとするラスト。
「! Active Ice Wall、Full Boost!」
 ウィリアムがそう叫び、振り上げた両手を振り下ろして命じる。
 その命令に応じた無数の氷塊の盾が一つに繋がっていき、巨大な氷壁となって紅き英雄達の呼び出した合体ロボットが打ち出した極太の赤い光線と正面からぶつかり合い、爆ぜた。
「拓海君、今のうちに!」
「ありがとうございます、ウィリアムさん!」
 ――バラ……バラ……。
 雲散霧消し、ボロボロになった氷塊の盾達を霧と化させたウィリアムの呼び掛けに頷き、風の様に戦場を疾駆する拓海。
 彼の目的は、たった一つ。
 即ち、理恵が作り出した【模倣再現・殲術再生弾】から放たれた光条に照らし出された、巨大汚水槽の解除。
「この……行かせは……!」
「Icicle Edge!」
 矢の様に巨大汚水槽に向かっていく拓海を逃がさんとばかりにヒーロー達に命じて彼を追撃させようとするラストだったが、その時には既にウィリアムは振り下ろした両手で魔方陣を描き出しながら、その術式を発動させている。
 ボロボロになり霧と化していた氷塊達が、そのウィリアムの命に応じる様に200を優に超える無数の氷柱の槍と化して、一斉に紅い英雄達を貫き、更にその一部でラストを貫かんと襲い掛かった。
「この……!」
 怒りに肩を震わせながら無数の弾幕を拓海に向けて叩きこむラスト。
 だがそれには白い靄を帯びて戦場をチーターの如き速さで駆け抜けた敬輔が即応し、拓海の前に割って入る様にしてそれらの弾丸を白い靄を帯びた斬撃の衝撃波で叩き落している。
「敬輔さん……!」
「僕達なら、大丈夫。急いで、拓海さん」
 敬輔に背を押された拓海が頷き、そのまま巨大汚水槽へと向かっていく。
 尚追い縋ろうとするラストだったが、その時には、先程正面から自分に一太刀を叩きこんだ明日香が残像と共にその姿を掻き消して、ラストの背面を取っていた。
「お前は邪魔だ!」
 そのまま全てを喰らうクルースニクを逆袈裟に振り下ろす。
 振り下ろされた斬撃がラストの背中を強かに斬り裂いて、その生命力と存在を喰らい、喰らいきれなかった生命力の一部が、目にも鮮やかな深紅の血飛沫となって、宙を舞った。
「うっ、うぐぅ……?!」
 苦しげに呻きながら、自らの魔眼を輝かせるラストだったが……。
「もう、気がついているんだろう、ラスト。その程度の力じゃ、拓海も、町の皆も、ヒーローズアースの皆も壊せない! ヒーローとして皆の想いに応える『意志と覚悟』を、その意志に比例した『強さと速さ』を持つ拓海を……その力では封印できない事を!」
 統哉が勇ましい叫びを上げながら、拓海と入れ替わる様に空中で宙返り。
 ひらりと舞う様に空中で回転しながら、美しき淡い輝きを発した『宵』による一閃を再び放つ。
 自らの意志の力を乗せたそれは、宵闇を斬り裂く星々の光の如き美しき弧を描き、明日香に背中から斬り裂かれて深手を負ったラストを容赦なく横薙ぎに斬り払った。
「く……くぅ……?!」
 苦痛にのたうちながらも尚返す刃で呪縛斬を放つラストの懐に、陽太が飛び込む。
「ここであんた……俺等の世界で言う影朧を倒さねぇと、拓海が護りたいこの世界は終わっちまう。……そんな事を、させるわけには行かないんだ」
 統哉から懐に飛び込んできた陽太へと標的を変えて手首を返して、半円を描く様に振るわれた呪縛斬だったが……陽太自身が作り出した無敵の戦闘鎧が、その一撃を通させない。
「俺の鎧は、絶対無敵だ。そんな俺の鎧と……」
「私の筋肉を、あなたに抜ききることなどできはしないわ」
 陽太が傷口を抉る様に振るったアリスグレイブの一撃でその半身を斬り裂かれたラストに向けて。
 自らの絶対無敵を信じるつかさが握りしめた両拳……重拳による一撃が、ラストの腹部を容赦なくぶち抜いている。
 鬼瓦から生み出された赤きオーラに包まれた重拳が、姫桜の二槍、理恵のバベルブレイカー、そしてウィリアムの氷柱の槍に貫かれたラストの体を陥没させる様に抉り取り、彼女の腹部に大仰な穴をこじ開けた。
「がっ、ガハッ、ガハッ……!」
 喀血するラストの返り血を浴びながら、つかさが鮫の様な笑みを浮かべる。
「……もう、終わりかしら?」
「こ……この……っ!」
 ぜい、ぜい、と肩で息を切らしながらも尚、まだ僅かに残っていた紅き英雄達に思念のみで命令を下して彼等の元に集った赤・青・黄・緑・桃色の英雄達に、拓海を守る敬輔、戦意を高揚させる歌を歌い続ける美雪、背後から自らに迫ってきた明日香を襲わせるラスト。
 各色の英雄達がそれぞれが持っているに相応しい技を敬輔達に叩きこみ、何としてでも拓海を守る厚い壁を叩き割ろうとするが、その時には既に史奈が動いている。
「拓海さんの解除作業が終わる前に、皆さんを倒させるわけには行きません」
 告げながら、Zodiacal signに小さな祈りと願いを込める史奈。
 その願いと祈りに答える様に、史奈の黒髪とヒーローコスチュームの衣装がふわりと舞い、突風と共に雷光が雨の様に降り注ぎ、戦隊英雄達を次々に打ちのめしていった。
「如何に嘗ての英霊達であったとしても。それは既に過去の存在。今の私達を止める為には、役者不足だと思います」
「お……おのれっ!」
 柔らかな物腰で、諭す様に、教えを説く様に。
 静々と言の葉を紡ぐ史奈のそれに、穴の開いた腹部を押さえながらギリギリと歯軋りするラストを自らと夢色の絆で繋いだ祭莉が、理恵の撃ち出した光条の下で、巨大汚水槽を鮮やかな手つきで解体していく拓海へと視線を向けた。
「拓海兄ちゃん、罠、終わったー?」
 にっぱりと、向日葵の様に温かい笑みを浮かべた祭莉の呼び掛けと、ほぼ同時に。
 拓海が何かを動かすと同時にカシャリと何かが外れる様な音が聞こえ、同時に拓海が向き合っていた巨大汚水槽が動きを止める。
「そ……そんな……?!」
 つかさと陽太の攻撃を振り払い、最後のあがきを行おうとしたラストの口から零れ落ちたそこに含まれるは、茫然自失の念。
「チェックメイト、だな。ラスト」
 美雪が静かにそう告げると同時に、束の間の時間を使って声調を変える。
 戦意を高揚させる歌から、統哉達の身体能力を強化するその歌へ。
「にゃふふっ! 流石だな、美雪!」
 統哉がぐっ、とサムズアップを一つしてから宵闇を照らし出す赤い太陽を思わせる緋色の輝きを『宵』の刃に這わせながらその刃を振るった。
 夜明けを告げる、日の出の如き、強き意志と熱を持った輝きと共に。
 統哉の振るった『宵』が、最後のあがきとばかりに出鱈目に射出してきた弾幕の嵐を擦り抜けてラストの右脇腹から、左肩にかけてを斬り上げて。
「僕達にその背を見せたのが……運の尽きだったな!」
 その間に、ウィリアムの呼び出した氷塊の残滓と周囲の地形に紛れてラストの背を取った敬輔が、刀身を赤黒く光り輝かせた黒剣を逆袈裟に振り下ろし。
「お前面倒だ……さっさと死ねよ……!」
 明日香が敬輔の方を振り向いた瞬間を狙って残像を曳いてラストを捲り、その背に全てを喰らうクルースニクを突き立てて。
「理恵! 終わらせるわよ!」
「はい、姉さん」
 姫桜の呼び掛けに応じた理恵が頷いて、得物を一度引き抜いて後退し、前後から挟撃を仕掛けた敬輔と明日香、天空から『宵』を振り下ろした統哉とは逆に大地から得物を突き出している。
『慄け、咎人! 今宵はお前(アナタ)が串刺しよ(です)!』
 母の口癖だったというそれを口走りながらの、突貫。
 姫桜の白き波動を纏った『Weiß』がラストの左胸を、黒き波動を纏った『schwarz』がその左目を貫き、そして……。
 理恵のバベルブレイカーは、ラストの右目を強かに撃ち抜いていた。
「あっ……ああああああああああっ!」
 目は愚か、そのまま脳まで達さんばかりの勢いで放たれたその二撃に両目を完全に潰され、そのあまりの痛みに耐えあぐねて絶叫するラスト。
「鍛え上げた筋肉は無敵。そう言う事よ」
「終わらせるぜ!」
 淡々と自らの鍛え抜かれた筋肉を誇示したつかさが鳩尾に掌底を叩きつけてラストの全身に罅の様な痛みを走らせ、そのつかさがするり、と体を軽く左に傾けた瞬間、その背後から陽太が突き出したアリスランスが、つかさの一撃で大きく仰け反ったラストの鳩尾を貫いた。
「!?!?!?!?!?!?!?」
 最早悲鳴を上げることもままならないラストの様子を見て、ウィリアムが天に向けて手を掲げながら、傍にいた史奈に呼び掛ける。
「史奈さん、ぼくに合わせて下さい」
「そうですね。この戦いに決着をつけるためにも……!」
 合図と共に天へと掲げた手から、青と紅葉色の球体を撃ち出すウィリアム。
 撃ち出されたそれが、既に盾としての役割を果たさなくなった氷塊達の上に粉雪の様に降り注いで雹塊を生み出しそれに合わせる様に、史奈が願いと祈りを込めて、雷嵐を呼び出した。
 雹と雷嵐が重なり合って生まれ落ちたのは、全てを凍てつかせる裁きの雹嵐を与える大吹雪。
 雷と雹による化粧を施した嵐がラストを飲み込みその身を雷で貫き、雹で打ち据え、ラストを徹底的に追い詰めていく。
 同時にそれは、ラストが呼び出した全ての英霊達を飲み込み、貫き、この場から一掃していた。
「あっ……ああっ……!」
 まるで、十字架に磔にされた、死刑囚の様に。
 言葉にならない絶望の呪詛を紡ぐ彼女を見つめながら、ウィリアムと史奈が拓海さん、と呼び掛ける。
『後は、お任せします』
「はぁぁぁぁぁっ!」
 呼び掛けられ、全身を駆け巡る血を沸騰させる叫びを上げながら。
 拓海が白銀のヒーローソードを突き出して、一閃。
 それは……ラストの胸を確実に貫いていた。
「そ……そんな……わ、私がっ、こ、この私がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 絶叫を上げる、ラスト。
 そんな彼女が、『死』の直前に垣間見たもの、それは……。
「……この世界では、骸の海に戻るしかないケド」
『オトナ』には、見ることの出来ない、夢色の絆。
 本来であればラストに見える筈のないそれが、見えていることを何処か確信した様子のままに。
 祭莉が、訥々と祈る様に呟いている。
「次に、別の世界で、桜に出会えたら」
 ――おいらのコト、思い出してね?
「祭莉さん……」
 祭莉の弔いの言葉に、姫桜がきゅっ、と締め付けられる様な思いを胸に抱いた事に、果たしてラストは気が付いたのだろうか。
 ――分からない。
 ――分からないけれども。
 けれども……苦しげな絶叫とともに消えていくラストは……或いは、ラストに召喚される事を強要されていた、紅き英雄達の表情は……。

 何処か穏やかであった様にも、美雪や統哉、そして陽太には、思えたのだった。


「終わったねー♪」
 パタパタ、パタパタ。
 狼耳を何処か嬉しそうに動かしながら呟く祭莉にそうですねと拓海が頷きを一つ。
「これも皆さんのおかげです。ありがとうございました。やっぱり皆さんは、強いですね」
 感心した様に呟き何処か寂しげに微笑する拓海の肩をそんなことないぜ、と軽く叩く統哉。
「ここに来た皆は、拓海がヒーローとして、自分の街だけじゃない、この世界を守りたいと思って戦う覚悟を持っていたから、その手伝をしたくてやってきたんだ。拓海の勇気が無きゃ、こんな風に上手く行かなかったさ」
「どうせだったら、男の娘の方が良かったけれどな……ってぇ?!」
 ――バチン!
 自分の趣味をポツリと呟く明日香の頭に、唐突に叩きこまれる鋼鉄製のハリセン。
 目を瞑り、すました表情のままに流れる様な動作でハリセン突っ込みをかました美雪の姿を見て、敬輔が何となく天を仰ぐ。
 拓海はそんな明日香と美雪の警戒なやり取りを見て、クスクスと少しだけ愉快そうに微笑んでいた。
「まあ、私の筋肉の前には、どんなオブリビオンでも歯が立たない、と……そういう事ね。まあ、あなたの物語が終わらなくて良かったわ、ヒーロー?」
 つかさの、何処かからかいの混じったウインクに、気恥ずかしそうに微かに頬を赤らめる拓海。
 そんな拓海の様子を見ながら、それにしても、と陽太が軽く首を傾げてつかさに問う。
「あの、超★筋肉黙示録って、何だったんだ……?」
「そうね。あれは最強の鍛え抜かれた己が肉体。自分の筋肉は自分を裏切らないという確信を籠めた最強の力よ」
 さもあらん、と言った表情で頷き答えるつかさに陽太が何故だか少しだけ引き攣った笑みを浮かべつつ、今度は理恵へとその視線を向けている。
「後、そっちはなんだっけ? キリング・リヴァイヴァー?」
「はい、そうです。あれは……」
「まあ、千差万別なユーベルコードの一つって事よ」
 理恵が自慢げに、そしてどこか誇らしげに語ろうとするそれに気が付いた姫桜が、軽く息をついて会話に割り込み、誤魔化す様に微笑みを一つ。
「拓海さんも無事で、この地域の巨大汚水槽は破壊できました。これは確かな前進ですね」
 そう呟く史奈の言の葉に、そうですね、と同意するウィリアム。
 そこで、はた、と気が付いた様にそーいえば、と祭莉が拓海に話しかけた。
「こないだ、ジョーカーにも会ったよー。元気そうだったー♪」
「! 怪盗ジョーカーに、会えたんですね。最近出没しないと思っていたら、別の街に潜んでいたのか……」
 にっぱりと向日葵の様な笑みを浮かべてくるくるりん、とヒマワリダンスを踊る祭莉の衝撃的な告白に、一瞬だが目を見開く拓海。
 その拓海の様子を見たウィリアムが、好奇心を刺激されたか、拓海に問いかける。
「Mr.Jokerは、この戦場の何処かにいるのかな?」
「すみません……僕はこの戦いの中でまだ怪盗ジョーカーには会っていませんから……分からない、ですね」
 すまなそうに謝罪する拓海に、大丈夫だよ、と軽く肩を叩くウィリアム。
(「ヒーローと怪盗が手を取って共に戦う、ね……。もしかしたら、ジャスティス・ワンの旗の下、集まっていたのかもしれないわね」)
「にゃふふっ。まあ、怪盗ジョーカーには機会があったらまた会えるだろう。何だろうな。何となくそんな気が、俺にはするんだ」
 つかさが内心である思案を張り巡らせているのを知ってか知らずか、そういって笑顔を浮かべる統哉。
 そんな統哉に、そうかも知れませんね、と微苦笑を零して拓海が頷いた。
「さて、此処での戦いは終わったか。だが、全てが終わったわけではないのだな」
「はい、そうですね。ですが、大丈夫でしょう。私達が力を合わせれば……きっと」
 美雪の懸念に、小さく史奈が頷き返した。

 ――かくてダストブロンクス・ダウンの戦いの一つが、終わりを告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月24日


挿絵イラスト