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アースクライシス2019⑮〜虐殺命題

作者：墓異鈍

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●選ぶこと能わざる死
　ぬるりとした血の感触が両手に溢れるのを、その男は感じていた。自ら掻き切った首から絶え間なく流れ出す、赤色の河。なぜ自ら死に至る傷を負うに至ったか、理解することができなかった。敵に突き立てようとしたその刃を、なぜだか自分に突き立てていたのだった。
　気を付けろ、そう叫ぼうとした口から真新しい血液が吐き戻される。息が出来ない。
　わずかに動く思考回路が、これは敵の攻撃なのだと、確信に近い推論を叫んでいる。声が出ない。
　背筋が凍る。殺意に似た感情が突きつけられている。だけれどそれが、自己から自己へ向けた殺意なのか、他者から向けられた殺意なのか、どうしても、どうしても、最期の瞬間までわからなかった。

●グリモアベースにて
「連日の戦闘でお疲れかとは存じますが、どうやら厄介な敵が現れたようで――失礼」
　或鴉・意味停止音（欠陥品・f13972）は片手を机について、ふらつく体を支えた。頭痛に見舞われているのだろうか、もう片方の手で眉間を押さえている。
「予知がひどく血みどろだったもので……すみません。敵はダークポイントと呼ばれている強力なオブリビオンです。皆さんの中には既に会敵された方もいらっしゃるかもしれませんが……あれは遠距離からの銃撃だけでなく、厄介な精神干渉攻撃も行うようですね」
　或鴉はしばらくの沈黙の後、やや事務的な口調で続けた。
　今のダークポイントはマンハッタンの高層ビル街を縦横無尽に駆け回り、立ち向かうヒーローを狩っていること。攻撃の速度は並のオブリビオンの比ではなく、猟兵といえども何らかの対策をしなければ、先制攻撃を真正面から被弾してしまうであろうということ。
「厳しい戦いになるでしょうが、ここが正念場です。皆さんの無事を祈っております」
　険しい顔で告げ、或鴉は猟兵たちを送り出した。

第1章 ボス戦 『ダークポイント』

POW   :    ダーク・フレイム 【ダークポイントの視線】が命中した対象を燃やす。放たれた【漆黒の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。 SPD   :    ダーク・リボルバーズ 自身に【浮遊する無数のリボルバー】をまとい、高速移動と【全方位・超連射・物質透過・弾丸】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。 WIZ   :    ダーク・アポトーシス 【銃口】を向けた対象に、【突然の自殺衝動から始まる自分への攻撃】でダメージを与える。命中率が高い。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

　見ただけでモノを燃やすなど、チート、ズル、イカサマの類だ。オブリビオンというのはこれだから。とんだビックリ人間のお出ましだと目を細めて、仕事道具を忍ばせた懐に指先を遊ばせる。
　当たるも八卦当たらぬも八卦と巷では言うが、玉ノ井・狐狛（代理賭博師・f20972）の賭けが外れることはない。賭博師としての直感で放り投げた花火玉の放物線は、見事にダークポイントの視線と交わった。花火と黒炎が弾け、それぞれを塗りつぶして華を咲かせる。表皮を舐める火が皮膚を食い破り体内に牙を立てる前に、光に紛れて身を躍らせた。
「派手にやらせてもらうぜェ！」
　視線の方角からあたりを付けて、ダークポイントが隠れ潜んでいるであろうビルを薪にでかい焚き火をぶちあげる。燃やし殺すには密度不足だが、熱と陽炎とで視線照準を歪める程度には十二分に有用だろう。
「さあて、仕込みは上々……あとは腕っこきの連中がなんとかすんだろ？」
　一仕事済ませた狐狛は、漂う白煙をふうと吹き散らした。

成功 🔵​🔵​🔴​

　狂おしい。狂おしい。狂おしい。
　呪わしい。呪わしい。呪わしい。
　己自身の生が、狂おしいほどに呪わしい。
　意識する間もなく、セシリア・サヴェージ（狂飆の暗黒騎士・f11836）は自らの腕に刃を突き立てていた。黒っぽい血が刀身を伝いぼとぼとと地面にハイコントラストなモザイクを描くのを見て、既に敵に攻撃を受けていたことを知る。
　狂気も呪いも、全て闇の力のひとつ。鋭い痛みが頭を覆っていた黒い靄のようなものを切り払い、代わりに全身を鎧う暗黒のオーラが、戦うための力を与える。
「護るためならば、この程度の痛み……！」
　そう自身を鼓舞し、爆音の響くビル群を縫って駆ける。普段の出力ならば追い付けないだろうが、セシリアを捉えたはずの苦痛の枷は、今や翻って彼女の背を押す風となっていた。壁面を蹴って攻撃を躱し、空を舞って敵に肉薄する。ダークスレイヤーの名を冠する大剣を振りかぶり――放つは、狙い澄ました一撃。はたして、漆黒の一閃はダークポイントの肩口に命中し、その身を抉り飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔴​

　死を！　死を！　自らの速やかなる死を！　思考を遮り轟く、自殺衝動の絶叫。耳をふさぎたくなるようなその叫びは、しかし栗花落・澪（泡沫の花・f03165）自身の内側から奏でられるもの。握りしめた魔除けのお守りも、卵に入った己の分身も、衝動から自分の身を守る助けにはならない。
　――もとより、覚悟の上だ。僅かに残った理性を手繰り寄せて炎魔法を発動し、自らの腕を焼き焦がす。激痛が全身を走り、涙のように薄黄色の汁が破裂した傷口から垂れ落ちた。だが、これでいい。この痛みが正気を、勝機を齎す。
　鮮明になった視界で状況を確認する。苦しみもがく分身のいる方角が、敵が通してきた射線だ。その方角に向けて、分身を盾にしながら突進する。
　卵が割れて弾け、悲鳴を奏でても、歩みを止めることは無い。悲鳴を掻き消し、痛みを殺して、歌を叫び続ける。
　ダークポイントを射程距離に捉えた澪の歌は、やがて高密度に圧縮された炎の詠唱呪文へと変わった。黒い火焔と赤い火焔がお互いを喰らいあい、一瞬の間隙に澄んだ声が割りこむ。残存した分身たちと澪による全力の光魔法。ダークポイントは影もろとも真っ白く塗りつぶされ、眩い空間に涼やかな残響が木霊した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　自分が死んでしまえばいい。自分が、自分が、幾度も繰り返す衝動に任せて、ヴィリヤ・カヤラ（甘味日和・f02681）は己の肉体を削る。抉れた空洞に触れる空気は、絶望を孕んで氷のようだ。
　――駄目だ。私では、駄目。父を殺す代わりに自分が、と思ったこともあった。だけれど、父を殺すという頼みを達成しなければ。
　――私でなければ、駄目なのだ。この血で洗わなければならない血がある。だから、今ここで終わるわけにはいかない。
　影に混じる月輪が、昏く瞬き形を成す。弾丸より遅れて届く残響を聞き流して、既にヴィリヤはダークポイントを攻撃射程に捉えていた。的の逸れた銃弾が皮膚を掠めて焦がすのと引き換えに、血の武装をダークポイントの脚部に巻き付ける。心を刺した絶望の返礼の如く、棘が敵の肉を刺し穿った。
　この痛みを、この冷たさを、感じられるならば感じるがいい。感じられないならば、もはや逃げる術はない！
「氷よ！　射抜け！」
　高らかな詠唱。空間に生成された鋭利な氷晶は、過たずダークポイントを串刺しにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

　既に複数の猟兵を相手取っているダークポイントに一撃を叩き入れるべく、フィーナ・ステラガーデン（月をも焦がす・f03500）が戦闘圏内に入った瞬間。文字通り視線に射抜かれた、心臓がどくんと跳ねる。激しい衝動は制御不可能。慣れ親しんだ炎が異常な出力で暴発し、自らを焼き焦がす。激痛に耐える視界が歪み、煙る肉のにおいがつんと鼻をついた。
　燃える、痛い――だが、それが何だ？　炎は私のもの。奪われたならば、奪い返すのみ！
「“炎（それ）”は私の専売特許よ！」
　足元めがけて杭を撃ち込み、炎を自身の魔力に還元。痛みは残るが、歯を食いしばって杭の召喚に集中。ダークポイントに向けて突っ込みながら杭を撃ち、襲い来る黒炎を相殺する。弾幕の如き炎を抜けて、ついに杭の先端がダークポイントを捉えた――続けざま、怒涛の連撃が、獲物をビルの壁面に縫い留める。
「捕まえたわよ！　覚悟しなさい！」
　激痛の頂、意識を支配する痛覚を振り払って、召喚した最後の杭。抗うダークポイントが放つ黒炎を、その命の灯火を、黒炎よりなお黒い杭が貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2019年11月22日