アースクライシス2019③〜語り部の守護者達
●英雄を紡ぐ語り部を
「ヒーローズアースで始まった戦いについては、もう皆さん周知のことと思います」
集まった猟兵達を確認して、センリは持っていた地図を広げた。その指が指し示す先は、ニューヨーク。
「私からお願いしたいのは、ニューヨーク都市、そのとある一角の防衛です」
かつてダストブロンクスを恐怖で支配したという『スカムキング』。彼は『全米を恐怖に陥れる暴虐な作戦』を思い付き、配下のオブリビオンへと実行を命令した。
「これから向かう先の敵が受けた命令は、『物語を消滅させろ』。命令を受けた本、絵本、新聞、雑誌……敵は物語が描かれたものを徹底的に破壊しようとするでしょう」
絶望に染まった人々の心が再び希望へと向かうのは何か。
人々の心を再び奮い立たせることは何か。
人々は、悪が潰える物語を期待する。英雄が輝く物語を切望する。
ならばそれを、全て壊してしまえばいい。恐怖の底に至った人々の目に、二度と触れることがないように。再び前を向くことがないように。
「この暴虐を許してしまえば……正義を信じる心は失われ、人々はきっと悪に負けてしまうでしょう」
そんなの、絶対許せません。
グリモアが刻まれた魔導書をぎゅっと胸に抱きながら、センリは前を見据える。
「敵はガイノイド、人型女性ロボットの集団です」
彼女達は周囲の無機物から配下を作り出す力を持つ他、洗脳効果のある音声を併用した話術を使い、一般市民まで味方につけるなど、周囲のものを巻き込んだ戦いを行ってくる。また、猟兵達の心理にも影響をもたらす攻撃もしかけてくるだろう。
「当然、一般人への被害は最小限に抑えて頂きたいのですが……困ったことに、敵が向かう先には、大型の図書館があるんです」
あらゆる物語の媒体を壊して回る彼女達にとって、そこは格好の標的となるだろう。逆に、その場所へと向かうと分かっているからこそ、対策を練ることも可能だ。
「物語は、人々を救うためにあるものです。彼らをどうか、守ってください」
ぺこりと頭を下げて、センリは胸に抱いていた魔導書からスペードのグリモアを起動させた。
●シュヤクのいない物語
紙が破れる音がする。インクの焦げる匂いがする。
「対象確認。『幼児向けの絵本』破壊を実行します」
笑いながら漫画を破く男がいる。泣きながら雑誌を燃やす少女がいる。
「新聞に絵物語の記載を発見。破壊を実行します」
幼子から、絵本を取り上げる母親がいて。その目からは涙をながしながら、ナイフでその表紙を突き刺した。
阿鼻叫喚の群衆の中、それは淡々と、与えられた命令を実行していた。
「前方3km先、破壊対象が大量に納められた建物を発見しました。殲滅の命令を実行します」
「了解。こちらも後に続きましょう」
全ての物語の消失を。
英雄譚の根絶を。
人々の夢が、潰えんことを。
天雨酒
ヒーローズアース初のシナリオが戦争となりました。
前にもこの流れありましたね、天雨酒です。
●目的
スカムキングによって命令され、物語を壊して回るオブリビオンを退治してください。
●戦場
町のとある一角です。少し離れた先に図書館があります。
敵の大半はそちらに向かおうとしますが、その他の攻撃対象がある場所に向かおうとする者も少なくありません。
足場、立地は戦場に問題ありません。
●特殊ルール
今回のシナリオでは敵の作戦を妨害する行動をすると有利になるというプレイングボーナスがあります。
今回の敵へ下された命令は『物語を消滅させる』です。
敵は物語を伝えるあらゆる媒体を破壊して回ります。攻撃目標が明確な分、行動の先読みは比較的容易いでしょう。敵から物語を守り、人々の正義を信じる心を守りましょう。
●プレイング募集について
このシナリオは1章のみで完結し、戦争に影響を及ぼす特殊シナリオとなります。
その為、プレイングの採用人数は最小限とさせて頂きます。人数が多く来た場合、不採用の方を多く出してしまうかもしれません。ご了承お願いします。
採用は先着順ではなく、 内容とダイス判定で決めさせて頂く予定です。
今回は断章を入れず、シナリオ公開と同時に募集開始です。
締切に関しては、MSページ、Twitterにて最後ご案内致します。
それでは皆さま、希望を紡ぐ英雄譚を守りましょう。
第1章 集団戦
『『モデル・アジテーター』絶滅ちゃん』
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POW : 『絶滅人類.oblに接続します』
自身からレベルm半径内の無機物を【部品に含む機械やロボ等(猟兵除く)を手下】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD : 愚者の盾
戦闘力のない、レベル×1体の【一時的に洗脳されている一般人】を召喚する。応援や助言、技能「【かばう】」「【奉仕】」「【時間稼ぎ】」を使った支援をしてくれる。
WIZ : 断滅騒乱
【世界の終末を騒ぐ内容のアジテーション演説】を披露した指定の全対象に【滅亡する前に好き勝手やってしまえ、という】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
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シキ・ジルモント
◎
◆SPD
破壊されようとしている本を改良型フック付きワイヤーで絡め取って手元に引き寄せる
その本を敵に見せつけて『挑発』する事で注意を引き付け、周囲の本や人、図書館へ向かう事を妨害・阻止したい
「壊したかったら、力づくで奪ってみろ」
一般市民を洗脳だと…?厄介な以上に、気に入らないやり方だ
ユーベルコードを発動する
スピードを上げて一般人の反応速度を上回る事で妨害を『見切り』回避、速度を保った『ダッシュ』で敵に接近を試みる
間違っても一般人を盾にさせない為、確実に敵だけに当たるよう肉薄して『零距離射撃』で攻撃する
敵が片付いたら一般人に本を渡して退避させる
本を守るという目的があれば、避難も速やかに済むだろう
リタ・キャバリエーレ
な……なんてことしてるんですか!!
物語とか書物とか貴方達が壊そうとしているものがどれだけの人の想いや時間の上に生まれたと思ってるの!!
そんな粗末に扱っていいものじゃないの!
しかも自分で行うだけでなく強制するなんて…!
幼い頃から物語の世界に親しんできた事もあり相手のやり方に怒り心頭
近くの敵は巨大なハンマーに変化させた武器と怪力でぶん殴り遠かったり複数なら鈴蘭の嵐で相手の行動を阻害する様に心がけつつ攻撃するわ
本当に信じらんない!!
それに!滅亡するのは貴方達の方よ!
でも怒りに身をまかせるのではなく冷静に
一般の方々へ被害が増えない様に花びらで守るなど避難誘導も含めて気をつけるわ
●扇動者は夢を見ない
街の図書館へと続く道を、女性型の機械兵士の群れが進行していく。
「強制起動。絶滅人類.oblに接続します」
「世界は滅亡します。故に、その心のままに破壊を尽くすのです」
彼女達が近づけば、周囲の機械類が忽ち姿を変えていく。彼女の声を聴けば、逃げ遅れた人々は忽ち彼女の傀儡となっていく。
つぎはぎの様な機械の兵士、虚ろな目をした人々の群れを引き連れて、機械兵士は『スカムキング』から受けた指令を遂行していた。
「物語に、消滅を。虚構の英雄に、死を」
突き進んでいく機械兵士の目が一点に留まる。それは、雑貨店の入り口に置かれた、巷で有名となっている文庫本だった。
数人の機械兵士が本体から離れる。破壊目標は手近で、尚且つ遂行が容易なものから。彼女達の頭部備わった演算機能が、そのように優先順位を入れ替えた為だ。
「抹消目標を再設定。命令を遂行します」
「命令受諾。火炎放射、用意」
機械兵士の命令の元、配下の機械が持つ銃口が本へと向けられる。
――その時。
「な……なんてことしてるんですか!」
怒りを露わにした女の声と共に、フック付きワイヤーが伸び、配下から殲滅の対象を奪い取った。 突然消え去った本に、機械兵士と配下が知覚センサーの範囲を伸ばし行方を追う。それを邪魔するようにぶつけられたのは、鈴蘭の花弁の奔流だった。
「物語とか書物とか、貴女達が壊そうとしているものがどれだけの人の想いや時間の上に生まれたと思っているの!! そんな粗末に扱っていいものじゃないの!」
リタ・キャバリエーレ(空を夢見た翼・f22166)は怒りのままに、敵の機械達を叱りつける。
隣では、ワイヤーで絡めとった本を受け止め、ひらひらと敵へと掲げて見せるシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の姿もあった。
「そういうことだ。壊したかったら、力尽くで奪ってみろ」
機械兵士達の視線が一斉に、二人へと向けられる。
「命令遂行に、妨害者を確認しました」
「これより、排除にかかります」
「絶滅人類.obl、起動――突撃命令」
「命令受信。攻撃開始します」
どうやら、敵の注意を引くことは充分に成功したようだ。リタとシキは同時に顔を見合わせ、お互いに一つ頷いた。
覚束ない足取りで、洗脳された一般人の波が押し寄せてくる。波の中には、機械兵士が造り出した人造の手下も含まれていた。
一般人の波はあくまで時間稼ぎと囮。下手に攻撃をしてしまえば、彼らは怪我では済まなくなる。
「一般市民を洗脳だと……厄介な上に気に入らないやり方だ」
敵の攻撃方法を確認して、シキが吐き捨てる。
彼らの思惑通りにいかせてたまるものか。一般人を肉の壁として扱うというのなら、その意図ごと叩き伏せるまでだ。
自分の持てる、全ての力を使って。
シキの瞳が光る。
寿命を対価として人狼本来の獣性を解放したシキの反応速度は、一般人のそれを大きく上回っていた。
掴みかかってきた男の手首を逆に掴み返す。足払いを仕掛け、相手の勢いを利用して地面へと転がした。続いて襲ってきた女の爪を掻い潜ると、低い体勢でシキは足に力を溜め、一気に駆け出す。
一般人を相手にしていてもキリがない。狙うなら、指揮する機械兵士の方だ。
と、それを見透かしたように、我楽多を寄せ集めたような巨大な機械が立ちはだかり、拳を振り下ろす。
一瞬だけ、躊躇った。回避行動に移るべきか、逃げ切れると判断してさらに踏み込むか――。
「そのまま、行って!」
シキと機会の拳に、リタが割って入った。
「自分で行うだけでなく、強制させるなんて……本っ当に信じられない!」
楽器を変形させた巨大な槌を大きく振りかぶり、機械の拳を打ち払う。華奢な体には似合わぬ怪力からの一撃は、敵の拳を叩き壊すには十分な威力だった。
「第一陣瓦解。絶滅人類.oblに接続――」
機械兵士が崩された陣形を立て直すべく、兵士へ招集をかける。しかし、それをわざわざ見過ごす程、シキもリタも甘くはない。
「滅亡するのは、貴方達の方よ!」
「そういうことだ」
鈴蘭の花弁が機械兵士の視界を覆う。かちりと、その眉間へとシキが持つハンドガンの銃口が押し当てられた。
「壊されるのは、あんたの方だな」
躊躇わず引き金を引く。重い発砲音が辺りに響いた。
洗脳されていた一般人に怪我は無い様だ。司令塔であった機械兵士が壊されると間もなく、彼ら意識を取り戻した。
「おい、そこのあんた。これ持って逃げてくれ」
「えっ……どうしてこれを?」
シキは起き上がった青年に、自身が守った本を差し出した。事態が読み込めない青年は戸惑うようにシキと本を見比べる。
「お前、本は好きか?」
「ええ、まぁ……」
「なら、こいつを守ってくれ。俺達にはまだやらなきゃいけないことがあるからな」
頼むぜ、と背中を叩き、青年を敵の居ない方へと追いやった。
あの本は彼が守ってくれる。そして彼も、守るという役割を持てば避難を迷うことは無いだろう。
「さて、次の本を守りにいこうか」
少し先で待っていたリタに追いつき、二人は次の敵の元へと急いだ。
敵の数は無数。破壊の対象である『物語』もまた、多数。
襲撃ははまだ、始まったばかりだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
荒谷・ひかる
物語の、消滅……
それも、意に反してむりやりさせられるなんて。
そんなの、ぜったいに許せないんだよっ!
わたしは主に操られた一般市民の無力化をしていくんだよ
【精霊さんのくつろぎ空間】発動
暴徒化してる人達は、これで落ち着いてくれるはず
洗脳されている人も一旦は動きを止めてくれると思うから、この隙に雷の精霊さんの電撃(スタンガン程度の出力)で気絶しててもらうんだよ
もし、わたしにUCを向けられたら……
うん、滅亡する前に好き勝手やらせてもらうんだよ。
そう……「その前にあなたたちを全員ぶっ壊す」!
それが、わたしの好き勝手なんだよっ!
(炎・水・風・大地・草木・雷・氷・光・闇、全ての精霊魔法で我武者羅に畳みかける)
鶴来・桐葉
【心情】物語を奪うだぁ…?ひでぇ真似しやがって…たくさんの物語を楽しみにしてる坊ちゃん嬢ちゃん大人の皆さんを悲しませる訳にはいかねぇなぁ!
【作戦】図書館の前で敵を妨害するように立ちはだかり「ようそこの可愛いお嬢ちゃん。ちょっとこの兄ちゃんと遊んでかねぇか?」と刀を抜いて交戦だ!敵の部下や一般市民による攻撃は【見切り】【武器受け】【残像】で対処。洗脳された一般市民は【気絶攻撃】で眠らせ、絶滅ちゃんや部下には【二回攻撃】のサイコスラッシュセカンドをお見舞いだ!「子供たちを悲しませるいけないお嬢ちゃんはお仕置きだぜ!」(アドリブ・絡みOK)
●赴く先は
破壊対象を図書館としなかった兵士たちが、猟兵との戦闘を開始した頃。
より多く、効率的な破壊を選んだ機械兵士達の前にもまた、それを防ぎ、守る者達の姿があった。
「よう、そこの可愛いお嬢ちゃん。ちょっとこの兄ちゃんと遊んでいかねぇか?」
図書館へと続く道路の真ん中に立ち、鶴来・桐葉(サイキック剣豪・f02011)は敢えて軽い口調で機械兵士へと呼びかける。
「目的遂行に対し、障害を確認」
「障害、確認しました。効率的な任務遂行の為、排除を優先します」
返す機械兵士達の対応は、取り付く島もない。やれやれ、というように桐葉はため息をついた。
「聞く耳持たねぇってか……」
なら、こちらも相応の対応をするとしよう。桐葉は脇に下ろすだけにしていた腕を上げると、腰に差した刀の柄へと触れる。
正直な所、彼女たちの反応がどうであれ桐葉はこの先を通すつもりはなかった。
物語は多くの人々に愛されるものだ。本を、漫画を開き、映像を眺め、幻想の人物達の活躍を楽しみにしている者は、今も数知れない。
「ひでぇ真似しやがって……沢山の物語を楽しみにしている坊ちゃん嬢ちゃん、大人の皆さんを悲しませる訳にはいかねぇな!」
災禍に見舞われた都市を救う為だけではない。その先にある、都市の人々の笑顔を守るため。桐葉はここに立っている。
「物語の、消滅……」
そして、同じ思いを抱え迎え撃つ少女がもう一人。荒谷・ひかる(精霊ふれんず癒し系・f07833)である。本来であれば戦いに向かない性格の彼女であるが、それでもひかるは、機械兵士達の前に立ち塞がっていた。
胸に抱える怒りの気持ちは、桐葉と同じであったから。
「それも、意に反してむりやりさせられるなんて。そんなの、ぜったい許せないんだよっ!」
道中、彼女は機械兵士によって操られた人々を見てきた。
自らの手で本を壊した人達は、きっと本が好きだった。我が子の絵本を燃やした彼女だってきっと、そんなことをするために与えたのではない筈だ。
彼らの物語を愛する心を、目の前の機械兵士達は物語と共に、踏みにじった。それが何よりも許せない。
だから、とひかるは桐葉に向けて宣言する。
「操られた一般市民の無力化はわたしがしますっ! だから、アイツを倒して欲しいんだよ!」
「へぇ……」
少女の赤い瞳に宿る、確かな決意を桐葉は感じて。
「なら、お言葉に甘えるぜ、嬢ちゃん!」
故に、背中を預けることを決めた。
「妨害対象の接近を確認。排除します」
一歩前へ出た桐葉に、機械の手下が組み込まれた銃を発砲する。それを避けることは、一剣士たる彼にとっては造作もない。銃口の向けられた先を瞬時に見切り、飛び退く。次点で頭上から降ってくる鉄の塊は、迷いなく抜いた刀で受け止めた。
「――手品はどうだい?」
鶴来・桐葉は剣士である。されど、彼は超常の力を併せ持つ猟兵だ。
『手品』と、彼は一貫してそう呼ぶけれど。その能力には文字通り種も仕掛けもない。
刀とかち合った鉄塊――寄せ集めの機械の配下の腕が、それだけで八つに分断された。
落下する鉄の雨をかいくぐって、桐葉はさらに機械兵士へと接近する。距離だけでいうなら、彼の足であと数歩。しかし間には、生ける屍のような足取りの一般人の群れが存在していた。
だが、彼は歩みを止めない。
何故なら、少女は宣言したから。目の前の彼らを、無力化すると。
一陣の風が吹く。植物独特の緑の香が、鼻をくすぐった。
「リラックス、リラックス……ゆっくりしよう?」
ひかるの意思に従い、木、そして風の精霊が沈静の効果をもたらす風を一般人へと吹かせたのだ。
のんびりとしたひかるの声に従い、人々の動きが目に見えて鈍くなる。その隙に、ひかるは雷の精霊を走らせた。
威力は、例えるならスタンガン程度。しかし、大人一人を気絶させるには十分な程に。精霊はひかるの命令に忠実に従って跳ねまわり、その場にいた一般人全員を昏倒させた。
「やるねぇ」
内心舌を巻きながら、桐葉は倒れていく人々の合間を縫って歩を進める。
機械兵士が、間合いに入った。
「子供たちを悲しませるいけないお嬢ちゃんは、お仕置きだぜ!」
桐葉の『手品』を纏った刀が振るわれる。まずは目の前の二体を丸ごと両断。返す刀で、さらに残った一体を斬り裂いた。
しかし、桐葉は直後に眉を顰める。最後の一体、手ごたえはあった。しかし、浅い。
「……任務遂行が困難と予測されます。増援を『製作』します」
斜めに斬り裂かれ、上体が地面と平行になりながらも、機械兵士は宣言する。
一般人はすでに全員無力化されている。周囲は斬り裂かれた鉄屑ばかりで、まともな配下は造れない。
機械兵士の視線の先には、ひかるがいた。
「嬢ちゃん!」
機械兵士の演説が始まる。
「世界に終末は、訪れます。幻想に囚われず、自らの欲に、従いなさい」
心を揺さぶり、自暴自棄へと起こす言葉がひかるを刺し貫く。
「夢を見るなど、非効率的です。物語など、不要な存在です。終末の前では、何もかも無意味。なら、自らの欲望のまま、破壊しなさい」
「……うん、滅亡する前に、好き勝手やらせてもらうんだよ」
ぽつりと、ひかるが呟く。それに従って、彼女の周囲に四大要素を気とした精霊が集まった。
「そう……『その前に、あなた達をぶっ壊す』! それがわたしの、好き勝手なんだよ!」
火が、水が、風が、大地が。草木が、雷が、氷が、闇が。彼女の使役する全ての精霊が、演説を謳った機械兵士へと走った。
「……任、務。シッ……パ、イ」
あらゆる森羅万象を敵に回した機械兵士は、その言葉を最後に、今度こそ完全に機能を停止したのだった。
大成功
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トリテレイア・ゼロナイン
その行為、私への最大限の侮辱と挑発と見なしました
物語があったからこそ、私は「私」となったのです
夢物語は夢物語に過ぎぬと理解し、立ち塞がる現実に膝を屈し騎士の誇りを捨てることもままありますが、理想の原点だけは譲れません
センサーの感度を上げ敵の所在を●情報収集
図書館に進攻する敵群を見つけ次第UCで突撃
全身の格納銃器での●なぎ払い掃射を浴びせながら
●怪力で振るう剣と●シールドバッシュで粉砕してゆきます
集中する攻撃はセンサーで収集した敵の挙動から●見切り●武器受け●盾受けで防御
愛読書を持ち運んでいる人間を攻撃するかもしれません
狙われている方を見つけたら●かばいにいきます
…大切な本がご無事でなによりです
●機械兵士は英雄の夢を見る
物語を壊せと。悪は唆した。
残る機械兵はすでにまばらだ。間もなく、襲撃は成功の下に終わるだろう。
多くの命が救われた、多くの物語が救われた。
それでも、失った物語はゼロではない。消えた文字は、紙は帰らない。
物語を壊せと、悪が命令したのだから。
「その行為、私への最大限の侮辱と挑発と見なしました」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は灰となった紙片を見送り、そして残る兵士を睨み、淡々と告げる。
トリテレイアは冷静に、極めて冷静に、激怒していた。
物語は――『彼』が『彼』で在るための起源であったから。故に、機械兵士の暴虐を出来なかった。
「理解できかねます。何故、機械の身体を持つ貴方が絵物語に執着を?」
機械兵士は鉄屑となった配下から、新たな手下を生み出しながら冷淡に問いかける。
「所詮は虚構の情報でしょう。怒りを起動させる目的がわかりません」
「……ええ。夢物語は、いつまでも夢のままでしょう」
夢は全て叶うものではない。立ちふさがる現実に膝を屈し、騎士の誇りを捨てることもある。
けれど、だからと。理想は変えられない。その起源を冒涜していい理由にはならない。
「理想があるから、変化は訪れるのです」
トリテレイアの脚部パーツが機動する。格納されたスラスターを展開、機動力、突撃力を向上させ、剣と大楯を持って鉄屑の配下を蹴散らす。
同時に、全身の銃器を稼働。全砲門展開――発砲。トリテレイアは、彼の持てる武器、全てを使って、機械兵士を掃討していく。
弾幕の後に残されたのは、全身を蜂の巣にし、身体から火花を散らした機械兵士一体のみだった。
「か、斯クなる。上は、は」
機械兵士が周囲を見渡す。視線の先に止まったのは、逃げ遅れた少女と――抱えられた古びた絵本。
「いけない!」
トリテレイアが駆け寄るよりも、機械兵士が少女を襲うのが早かった。
ほんの一欠片。一頁、一篇、一葉。
それだけでも、報いなければ。与えられた使命へと。機械兵士は絵本を掲げ持つ。身体を走る火花が大きくなる。対象諸共、爆発する気だ。
いいや、誰がそれを許そうか。
トリテレイアは許さない。許してはいけない。
言の葉ひとひら、それだけで幾人か救われるか。幾人が奮い立たせられるか。
彼はそれを知っている。知っているからこそ、駆け出し、鋼鉄の手を伸ばす。
機械兵の手から、古い背表紙の本を奪い取った。同時に傍で泣いていた少女を抱き抱え飛び退いた。
瞬き一つの間を置いて、轟音が響く。
爆風は背で受けた。それだけでは堪えきれず、トリテレイアの体躯は吹き飛び、ビルのショーウィンドウに直撃した。
硝子片が降り注ぐ。それでも、少女と、彼女の本をしっかりと抱えて、トリテレイアは機械の身体で全てを庇い切った。
「……キカイのお兄ちゃん、大丈夫?」
「……ええ、お嬢さんにお怪我は?」
「ううん、ご本もね、綺麗だよ」
少女の胸には、トリテレイアが奪い返した本が大切そう抱きしめていて。
「大切な本がご無事で何よりです」
ありがとう、と涙で顔をぐしゃぐしゃにした少女に対し、トリテレイアは視覚センサーの光を細めて、傷だらけの手を彼女の頭の上に置いたのだった。
――少女のはいつか、語るだろう。
自分の夢を守った、物語を愛する騎士の英雄譚を。
そして人々は語るだろう。
悪の兵士を打ち払い、彼らの夢を守った正義の存在を。
彼らは――『物語の守護者達』だ、と。
そうしてまた一つ、夢を守る『物語』は、ここに今、新たに生まれたのだ。
大成功
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