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The Race is On!

#ヒーローズアース

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#ヒーローズアース


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●危険な速さよ、さらば
 ――さらば、さらば哀しき事故よ! 文明は今、この街から全ての事故を消し去った!

 偉大なる技術を持つヒーローであった前市長、アクストンは生前にこのような言葉を残している。ここはヒーローズアース世界に数多に存在する都市の一つ、アッチェレランド。
 アクストンが生涯身を捧げた故郷でもあり、彼が残した技術の恩恵を最も大きく受けている街でもある。
 この街は数年前まで、ヒーローズアースで最も交通事故が多く、治安も悪い都市としてその名を馳せていた。歴史の浅いこの街の道路は、慌ただしいまでの街の発展に合わせて無理やり生まれたもの。長い直進があると思えば連続してカーブが続き、広い道の終着点はやたらに入口の狭い裏道になる。高低差の激しい道はドライバーの思わぬミスを誘発し、曲がりくねった道は一つ角を曲がった先に何があるのか人間に教えることを拒否している。
 そのような街で、おびただしい量の車が速度を出して走れば――、引き起こされるのは数多くの悲劇であることなど、誰しもが分かることでもあった。一時期は世界中の走り屋にも目を付けられたこの街の道路は、まるで意地悪なレース場のようにクラッシュを生み出して、出し過ぎたスピードと注意不足は避けられぬ不運をまき散らしていた。
 さて、である。では果たして、アクストンはこの街に何を残したのか? 答えは簡単。アクストンは、この町の公道を走る車の全てを『全自動車』に変えてみせたのである。
 仕組みはこうだ。アクストンは長い開発期間を経て、市内全域の車の全てを全自動化する装置の実現に成功した。街中の至る所に大量のカメラとミリ波レーダーを設置して走る車の情報を収集して地下サーバーで情報を一括管理、街中のGPSと紐付けてアッチェレランドの公道上であればどのような車でも最適な走行を実現する、夢のような外付け装置――『Axel』を。
 装着は義務だが、外付け工事にかかる費用は市民であれば全額免除。工事にかかる時間はほんの僅か。市外から入る車には、街に繋がるメインルートに設置された関所で予め工事を済ませてもらう。
 内側の車を全て変え、外からの車への対応も行い、公道を走る車は全て全自動化されてスムーズに走る。これがアクストン前市長がアッチェレランドに残した最大の偉業であり、功績であった。
 既にアッチェレランドの公道を走る車は全て人の手を介さず走るようになった。人の目では見えなかった危険は大量の機器類が予め見つけ出し、ヒューマンエラーは機械の手で全て消え去った。この街で哀しき事故は過去の遺物になった。
 この街で運転を楽しむ者は、広い私道を有する人物や、個人的なレース場を持っている一部の富豪だけ。アッチェレランドにおいて、『手動運転』は交通手段から金持ちの道楽に代わったのである。
 最悪の治安と最高の事故を誇ったのももはや昔のこと。アクストンは街の仕組みだけではなく、街の空気をすら変えて見せた。彼はまさにヒーローであったのだ。
 ――だが、笑顔を浮かべる市民たちはまだ知る由もなかった。アクストンの事業に終ぞ反対していた街のチンピラや不良たち、そして街の外から訪れたヴィランたちが、この街でひっそりと新しく生まれたオブリビオンの指揮の元、アクストンの作り上げた平和を壊そうとしていることを。

●Accelerando alla fine.
「よう、お前ら。急ぎで悪いが、単刀直入に言うぜ。今回は、お前らの『速さ』が欲しい」
 開口一番にそう告げるのは正純である。今回も何やら急を要する件らしい。一室に集まった猟兵たちへ、今回の事件の詳細――アッチェレランドの情報や、今回の事件を引き起こそうとしているオブリビオンの情報などが記された資料が手渡されていく。
「今回の敵の狙いは、アッチェレランドの崩壊だ。これは現地の協力者から得た情報なんだが、奴らはアクストン前市長が開発した『Axel』を破壊し、この街を支配することを企んでいるという。現時点で首魁と思しきオブリビオンの居場所は不明。だが、付け入る隙が無いわけじゃない」
 そう言って正純が指し示した資料の一ページには、今回の敵の組織の情報が載っていた。
 組織名、『Formula』。どうやら彼らは街中で非合法的なレースを楽しんでいたチンピラや不良など、アクストン前市長に敵対していた人物などがメンバーの大半であるらしい。そして、重要なのはその次だ。
「奴らは今も来るべき時のためにメンバーを集めている。つまり、皆にまず求めるのはこうだ。――敵の首魁の場所を探るため、奴らの入団テストを受けてきて欲しい」
 そう、敵組織はまだ活動を本格化してはいない。今はいわゆる準備期間のようなものなのだろう。猟兵たちが持つ手持ちの資料を更にめくれば、今の所こちらで掴んだ入団テストの情報が記載されていた。
「入団テストは二種類ある。まず、街のチンピラやヴィランなんかを相手にする一人用のレース。次に、首魁の配下と思しきオブリビオンたちを相手にする二人用レースだ。便宜上、前者を1、後者を2と呼ぶことにする」
 1の参加条件はこうだ。『一人で参加し、好きなレース形式を選んで自分の速さを証明する』こと。
 ドラッグレースやチキンレースなどの度胸を試すレース、もしくは一対一のチェイスやチェックポイントランで純粋な速さを競ったり、ドリフトレースやスラロームに挑むことで自らのテクを証明するのも良いだろう。他にも自分の希望があればそれを試してみるのも良い。
 そして、2はこうなる。『二人組で参加し、市内全域で行われる非合法な市内レースで自らの速さとタフさを証明する』ことだ。
 形式が複数存在する1とは異なり、2は基本的に全員同じレースに参加する形になる。相手がオブリビオンであることも考えると、相当にタフなレースになる事は間違いないだろう。妨害や攻撃を受ける可能性もある危険なレースだ。速さとタフさ、そして相棒との連携が試される。
「さて、説明は以上だ。まずは入団テスト1に参加する奴らから転送を開始するぜ。1と2、両方の試験に参加することはできないらしいから、今のうちに自分がどちらを受けるか決めておいてくれ。皆の無事と幸運を祈る」


ボンジュール太郎
 お疲れ様です、ボンジュール太郎です。三章依頼をやるのすごい久しぶりですね。
 今回のテーマは『速さ』です。手段は問いません。バイクでも車でも、もしくは自分の身体などでも構いませんので、まずは敵首魁の位置を探るために入団テストで自分の速さを証明してやってください。

 ●構成
 以下の構成でお送りします。
 1章は冒険、『ヒーローズレース!』。名うてのチンピラやヴィランたちを相手に、私道で様々な形式のレースを行ってもらいます。妨害はありません。
 2章は集団戦、『スペクター』。複数存在する敵を相手に、二人組を組んだ状態で非合法な市内レースに参加してもらいます。妨害があります。
 3章はボス戦、『黒龍』。1章、2章で無事に勝利した方々は、首魁の現在地に案内され、敵への挑戦権を得ることが出来ます。

 ●参加条件
 今回、【1章と2章の同時参加はできません】。
 1章は一人で好きな形式のレースへ参加してもらいます。凄腕のドライバー相手に、自分の技術や速さを余すことなく発揮してください。
 2章は必ず二人組で市外レースに参加してもらいます。一人は運転に集中、一人は敵の攻撃への対応などで役割分担をするのも良いでしょう。
 人数次第になりますが、3章は1章ないしは2章で採用した方のみの採用を考えています。

 ●アドリブについて
 アドリブや絡みを多く書くタイプであることを強く自覚しています。
 アドリブ増し増しを希望の方はプレイングの文頭に「●」を、アドリブ無しを希望の方は「×」を書いていただければその通りに致します。
 無記名の場合はアドリブ普通盛りくらいでお届けします。

 ●判定について
 その時々に応じて工夫が見えたり、そう来たか! と感じた人のプレイングはサイコロを良きように回します。

 ●プレイング再提出について
 私の執筆速度の問題で、皆様に再提出をお願いすることがままあるかと思います。
 時間の関係で流れてしまっても、そのままの内容で頂ければ幸いでございます。
 ※プレイング募集は10/30(水) 08:31~からとさせて頂きます。
 その前に頂いたものは流してしまうと思いますので、その旨よろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『ヒーローズレース!』

POW   :    体力の続く限り全力で走り抜ける

SPD   :    最高速で走り抜ける

WIZ   :    知略を駆使して走り抜ける

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Reconnaissance Lap.
 アッチェレランドの路地裏を進み、いくつかの角を曲がった先の広場には、すでに多くの人が集まっていた。人、人、人。数えるのも馬鹿らしいほどの人たちの間に、外見の共通点は皆無のように見える。
 スーツ姿で眼鏡をかけた中年、分かりやすく悪ぶっている様子の不良少年、狐面を被った女子学生、サングラスかけて煙草を咥えたチンピラ、身なりの良い老紳士、元ヴィランの警官……。その他の人々も含めて、彼らには一切外見や仕事、生まれに共通点は無いように見えた。
 しかし、彼らに共通点があるのは間違いのないことだ。『レースが好き』。『バイクが好き』。『スリルが好き』――つまるところ、彼らないし彼女らは『速さが好き』なのだ。
「ジェイク、聞いたか?」
「おォ、聞いた。どうだったよ、見た感じ」
「そうだな、アイツらは……なんつーかな、他の奴らとは違う感じがすンぜ」
「オメーがそういうってことはよ、少なくともパンピーじゃねェんだろ?」
「ああそォよ、ありゃきっと元ヒーローかヴィランかどっちかだ。俺も遠目からしか見てないからよ、何とも言えねェけど。奴らァ普通と違ェぜ」
「……バレット。もっと分かりやすく言えッつの。違うッて、具体的にどういうこった? 何が違うっつゥんだよ」
「――――どいつもこいつも、速そうな目をしてやがる。今回の入団希望者共は、何か……自信がありそうなんだよ」
「自信って……だから、何に」
「そりゃ、だから……決まってんだろ。自分の速さって奴にだよ」
「ふゥん……。そりゃ良いな。そりゃ最高だ。こんなクソみたいな街のクソみたいな集団で、速いってのは分かりやすい王冠だ。『Formula』で遅い奴はいないのと同じ。いても気付かないからな」
 彼らとて、自分が何に加担しようとしているか知らない訳ではないだろう。彼らのトップのオブリビオンがやろうとしているのは危険な行い――ともすればテロリズムとも言えるようなそれだ。
 だが、それでも彼らは速さを求めることを止められなかった。いや、もしかすればだが、【黒龍】の速さに魅せられてしまったのかもしれない。思うところがない訳ではないだろう。
 それでもだ。法に、親に、家族に、世間の目に、あるいは世界に。彼らは際限ない速さを求める道を選んだ時点で、何かを裏切り、何かに裏切られてきたのだ。残されたのは身を裂くような『速さ』への執着のみ。
 敵組織『Formula』にとっては、速さこそが全てだ。何も変わらない。それだけが彼らを支配するたった一つの法律である。『彼らにとって一番速い奴がオブリビオン』だったから、彼らはそれに従っているのだ。
 スタートは間近だ。走れ、猟兵。何があっても、何を置いても、今日という日はただ速さを求めてひた走れ。アッチェレランドに、レッド・フラッグは存在しないのだから。
「違ェねェ。今更遅い奴にチームに入られたとこでよ、一秒後には顔さえ覚えちゃいないだろうぜ。なんにせよ――速い奴はチームに入れるし、尊敬される。それだけだろ?」
「そういうこった。遅い奴はうちの頭に会わせるまでもねえ。遅い奴なんざ要らねえよ、俺らのチームには。いつも通りだ。『走るなら』――」
「『走るなら、とことん速く』って? ヘッ、お前もようやくボスの教えが分かってきたな」
「うるせェ、別に良いだろうが。どうせ走るなら速い方が良い。今回の新入りもそうだ。進んで仲良くする気はねえけどよ……速い奴は、尊敬できる。このクソみたいな世界で、速いってのは分かりやすくスゲーことだろ」
「……ま、そうだな。つっても、ボスより速い奴とか見たことねーけど。――ンじゃいくか。楽しいレースの始まりだ」
「速さのカッコ良さが分かる奴だけここに残りな。分かんねえ奴はどっかに行っちまえ。……さて。お前らはどっちだ、新入り候補? カッコよくて速い奴か? それとも、ダサくて遅い奴か?」
 レース、開始。
国栖ヶ谷・鈴鹿
⚫︎
【ハイカラさんの心に響くもの】
アクストン市長かぁ、生前にお会いしたかったね。
いつの時代も、機械は間違えない。
間違いを起こすのは人間、それを糺すのも人間。

ぼくがそれを証明してみせる。

【フォーミュラー・アウト(F−O)】
ぼくの勝負は規格外、車輪を持たないマシンでのレース!

なんだい?車輪がなければ車じゃない?
そんな枠に収まるような組織で、「すごいこと」なんてできるとは思えないけれどね。

ぼくの愛用の紅路夢の走破性、小回り、そして道を選ばない立体軌道、オール・ワークス!の操縦(装備品)技術で、この世界の人たちだって圧倒してみせる!

ぼくの腕と機械の技術、何か大きいことするなら買わせてあげるよ。



●Overtake, From Over.
「……最初の挑戦者は嬢ちゃん、アンタで良いんだな? ……それがアンタの相棒かい? その……それが?」
「お嬢ちゃんじゃない。ぼくは国栖ヶ谷・鈴鹿(超科学技術機械技師兼天才パテシエイル・f23254)だ。……なんだい? 車輪がなければ車じゃないとでも? そんな枠に収まるような組織で、『すごいこと』なんてできるとは思えないけれどね」
 敵首魁の情報を探るため、入団テストへ最初の挑戦状を叩きつけたのは鈴鹿である。彼女の愛機は赤銅のボデーに先進的なテクノロジヰをふんだんに詰め込んだフロヲトバイ、【百弐拾伍式・紅路夢】。ヒーローズアースのバイクとはそもそも技術系統を異にする発明品だ。
 集まったチンピラの中から代表して出てきた男も意表を突かれたのだろう、彼女のマシンに物珍しそうな視線を投げて寄越している様子。だが、そこに侮蔑の感情はない。むしろ――。
「ああいや、気を悪くさせたならスマネエな。こういう仕組みのマシンは初めて見たもんだからよ。――ヘッ。速そうな良いマシンだな、って言いたかったのさ。路地裏レースで良いか?」
「ぼくの勝負は規格外、車輪を持たないマシンだから、レース形式は何でもOKさ。このマシンの速さを証明するには、行動で見せるのが良いだろうからね」
「ヘッ……。悪かった、粋なマシン乗りに野暮を言ったな。忘れてくれや。……ジェイクだ。良いレースにしようぜ」
「よろしく、ジェイク。もちろんだ。思ったより組織のメンバー自体は腐ってないようで安心したよ。……やろうか」
 高いビルが生み出した大きすぎる影の中で、二つの嘶きが轟いていく。路地裏のその奥、速さだけが身を証明する光となった無法地帯で、鈴鹿たちが相棒に火を灯す。
 息を吹き返した鋼鉄の馬たちは、唸りながらその時を待っていた。
 ――もうそろそろコインが落ちる。審判役のごろつきが投げた硬貨が、高く跳ねて硬質なアスファルトにレース・スタートの合図を響かせる、その時が来る。
 ――チャリン。
「俺たちみたいなチンピラでもよ、速そうな奴には敬意を払うのさ。最も、お前が遅かったら……、その時は相手になんてしてやらねえけどな。……さあ、行くぜ!」
 先んじて圧倒的な加速を見せながら、路地裏の狭い道を飛ばして駆けるのはジェイクである。
 彼にとってこの街は既に自分の庭と同義。細く、曲がりくねった路地を潜り抜けながらそのタイミングでブレーキを踏めばいいかなど、彼にとっては考えるまでもないことなのだろう。気が狂っているか、もしくは街中に目があるかの如く、鈴鹿の相手は飛ぶように街の裏を駆けていく。
「アクストンのクソ野郎がこの街を変えてから、全自動車は路地裏を走ろうなんて考え付きもしやしねえ! ここは俺たち専用のレース場なんだよ、お嬢ちゃん! 俺について来れたらそれだけで褒めてやる!」
「アクストン市長かぁ、生前にお会いしたかったね。いつの時代も、機械は間違えない。間違いを起こすのは人間、それを糺すのも人間……ぼくがそれを証明してみせる。さあ行くよ、紅路夢!」
「――ッ!?」
 敵であるジェイクの走りは、なるほど確かに大したものだ。一流と呼べさえする。このような場所にいるのが不思議なほど。しかし、だからと言っておめおめと負ける鈴鹿ではない。
 彼女の強さは二つある。一つ目は、彼女の愛機である紅路夢の純然たる性能だ。走破性、小回りの良さ、そして道を選ばない立体機動は、当然道が曲がりくねって中々トップスピードを出しにくい路地裏レースにおいては脅威と言うほかない。
「ピッタリ付いてきやがる!? マシン性能がダンチかよ――! だが! 先攻してンのは俺だ! 路地裏の細い道で、嬢ちゃんのテクで俺を抜くのは不可能――」
「――甘いね。帝都の『ぱふぇ』みたいにさ。君は確かに一流の腕を持ってるんだろう。でも、段違いなのはマシン性能だけじゃない。ぼくはこのマシンと、ぼくの技術で、この世界の人たちだって圧倒してみせる!」
 そして、二つ目。それは、鈴鹿の単純な『操縦』テクだ。【オール・ワークス!】。彼女は今、操縦の技能という点においても目の前の敵を圧倒している!
「――ッ、馬鹿野郎! 何考えてやがる!? 死ぬ気かテメェ!?」
「さて、どうかな。車輪がないってことはさ――言い換えれば、どこを走るかもぼくの自由って事なんだよ! いけぇっ!」
 そして、その時が来た。複数のカーブが連続しているゴール間際の最難関ポイントで、鈴鹿は確かにその目で見たのだ。先行するチンピラが、安全のためにアクセルから足を離して、やや速度を落としたことを。
 翻って、鈴鹿はアクセルを踏み込む。思い切りだ。目の前のバイクにぶつかるのではないかと言う程の急加速。あわや激突か――と思われた次の瞬間。鈴鹿と愛機は、路地裏の壁を足場にして目の前の敵を完膚なきまでに『跳び越えた』のである。上側からの追い越し――Overtake!
「……ウソ、だろ……。まさか、俺が……初見の相手に、チギられるなんざ……!」
「ふう……。さて、どうだった? ぼくの腕と機械の技術、――何か大きいことするなら買わせてあげるけど?」
「……く……っくっくっく、ハッハッハッハ! 上等だ、お嬢ちゃん! いや、鈴鹿! お前は速い! 見事だぜ、今から『Formula』の一員だ!」
 まずは一人。速さを証明してみせた『天才』は、『Formula』の輪の中に歓迎されながら入っていった。まさしく彼女の腕と技術、両方が揃ってこその快挙である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイズ・ペレンナ
名うての悪党に腕を売るなら
多少お行儀の悪さも腕の内かしら
なので入団テストしようという方々を見繕って
盗み攻撃で財布など金品を掏り取ってみましょうか
取り返せたら貴方がたの勝ち
逃げ切れたらわたくしの勝ちと言う事で如何?
宇宙バイクの速度と
街中の地形を障害物代わりに存分に活かして相手を振り切りますわ
建物の高低差を利用したり細い路地を駆け抜けたり
走る自動運転車の間隙を縫いながらスピードは落とさず
街中での逃げ足の早さは自信ありますわ。泥棒ですもの

闇雲に逃げる振りをして高速道へ誘導
なお追って来る方はUCで一気に加速して振り切りますわ

負ければ勿論、勝っても財布はお返しいたしますわ
入団料代わりと言う事で、ふふ



●Steal a March On 『Formula』.
「失礼。先ほどから見物していたのですが、『Formula』の入団テスト受け付けはここでいらっしゃる?」
「ア? アンタもかい、美人で速そうな姉ちゃん。構わないぜ。レース形式はどうする? 一対一のチェイスでもやるかい?」
 次に現れたのは、汚い路地裏には似合わぬ貴婦人であった。見目麗しい外見と落ち着いた佇まいが、街の裏側にあって華麗である。
「そうですわね……。ふふ。ええ、でしたらチェイスに致しましょう。ですが、一対一ではなく、多対一で。勿論わたくしが一、皆様が多ですわ」
「へェ? ……何だい姉ちゃん、随分と腕に覚えありッて感じだな。――上等だ。速いのは歓迎するぜ。だが、多対一ってのは呑めねェ。ここじゃ一対一がルールなんでな」
 趣味の良いトーク帽を都会のビル風になびかせながら、彼女は相棒に腰かけて『Formula』一行との交渉を進めていく。彼女が一対一ではなく多対一を望むのは、その方が自らの技量を証明するのに手っ取り早いからだろう。
 勿論彼ら――『Formula』が、ここで多対一でのテストを基本的に認めていないことも、彼女は当然知っている。そして当然、解法も。『怪盗』には、細かな下調べが欠かせぬものだ。
「わたくしは別に一対一でも良いのですわよ? ですが、あなた方にとってはいかがかな、と――ふふ。『これ』に見覚えがおありでしょう?」
「――ッ、へェ……そういうことかい……。良いぜ、受けてやるよ……。だがな、そこまでやッてよォ……遅いッてのは無しだぜ、姉ちゃん!」
「あなた方のような名うての悪党に腕を売るなら、多少お行儀の悪さも腕の内でしょう? 印象付けも成功したところで、チェイス開始といきましょうか」
 そして、彼女は見事に自らの腕を立証する場を設けてみせた。彼女はここにいる腕利きの走り屋たちの懐から、特に腕の良さそうな輩を複数人見繕い、そして彼らから『財布を盗んでやった』のである。
 彼女自身の怪盗としての腕前が、敵地にあって見事に効果的に働いたということだ。走り屋たちも掏られた財布を目の前で見せつけられては堪らない。
 一瞬にして、路地裏を殺気混じりの熱狂が支配していく。複数の炉に灯が入って――レース・スタート。
「財布を取り返せたら貴方がたの勝ち、逃げ切れたらわたくしの勝ちと言う事で如何?」
「チィッ……! 舐めてくれたな、姉ちゃん! オイお前らァ! 数と地形の利はこっちにある! 回り込んで生意気な新入りの鼻ッ柱をへし折るぞ!」
 オブリビオンならいざ知らず、彼らも浮世で暮らすもの。浮いた異名も欲しくはあるが、懐寒しは何とする。
「バレット! そうは言っても、……ック! あの姉ちゃんヤベェぜ! 何であんなにスイスイこの街の細い路地を進めンだ!?」
「わたくし、こういう無法図な道に慣れておりますの。路地裏は怪盗の友ですので」
 彼女が駆るは相棒の、宇宙バイク『JET-WIDOW』。JETの名前は黒玉と、噴射をかけての名称さ。お代は見てのお帰りだ、ごま塩程度に覚えて帰れ。
「やべェのは姉ちゃんの腕だけじゃねェ、マシンの性能もだ! 加速がエグい――ッ、高架下のメインルートに出られた、追い付けねェ! クソ――――がッ?!」
「この子に見惚れるのも分からなくはないですが、今はレース中……。前方と同じくらい、足元もよく見なくてはね? そうでないと、開いたままのマンホールに落ちてしまいますわよ」
 華麗に踊れや高架下、盗みて止まんチェイス・レース。高架下からバイパスへ、今や彼女は人気者。試されるなど真っ平御免、あいやしばらくご覧あれ! 誰が呼んだか『怪盗淑女』、ルイズ・ペレンナ(怪盗淑女・f06141)が罷り通る!
 彼女――ルイズは丁寧かつ激烈なハンドリングと、流麗かつ苛烈なルート選びで複数方向から追い付こうとするチンピラたちをブッ千切っていくではないか。
 ルイズは時に細い路地裏を手慣れたように走り抜け、時に街中の所外物を巧みに利用して追っ手を躱す。時にマシンパワーと純粋な技術で階段をバイクで駆け下り、時に看板の上を走りながら高さを稼いで追跡の目から逃れる。
「手慣れてやがる――! 姉ちゃん、堅気じゃねェな?! ッと、あぶねえ……! クソッ! 引き離される……ッ!」
「ええ、その通り。街中での逃げ足の早さは自信ありますわ。何せわたくし、泥棒ですもの」
 街中を走る自動運転車の間隙を縫いながら、スピードは落とさず追跡者との距離を更に離していくルイズ。彼女は衝動的に、闇雲に逃げるようなルートを選びながらも、その実先を見据えて走っていた。
 バイパスに降りたのは一度敵を撒くためだ。そして、高速道へ向かうのは――そこで一気に引き離すため。
 ルイズのテクに付いてきた腕利きすらを黙らせる、【ゴッドスピードライド】の轟音が甲高くアッチェレランドの空に響いて――そして、ルイズの姿は誰からも見えなくなった。

「……チクショォ、すげェぜアンタ……。いや、参ったよ。是非『Formula』に入ってくれ。大した速さだ」
「あら嬉しい。それでは、これはお返しいたしますね」
「おっ……! ああ、嬉しいね。もう財布は帰ってこないもんだとばかり……ア?」
「いえいえそんな、負ければ勿論、勝っても財布はお返しするつもりでしたわ。『財布の重み』は、入団料代わりと言う事で、ふふ」
 これで二人。速さとテクを多方面から見せ付けた怪盗淑女も、まんまと『Formula』への入団権を奪取してみせた。実に見事な一幕である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜


スピード狂どもの集いとあっちゃ、
アタシもじっとしてやいられないからね。
悪いが邪魔するよ!相棒のカブに『騎乗』してエントリーさ!
こんな感じで、見てくれで侮ってくれるなら有難いけどね……
どっちにせよアタシは全力を出すだけさ。

こっちにレースを選ばせてくれるんなら、
チェックポイントラン一択。
ついでにラリーばりにコースが過酷だといいねぇ。

起伏やカーブの多いコースを、楽勝とばかりに
アクロバティックな『操縦』で駆け抜けるよ!
相棒の出力がただの小型バイクだと思ったなら大間違い。
型番は「JD-1725」、排気量は軽くリッターを超えてるんでね!
そこに小型フレームの小回りの良さも付け加えて、
飛ばしていくよッ!



●I’m going crazy.
 『スピード狂どもの集いとあっちゃ、アタシもじっとしてやいられない』。そう意気込んで入団テストに名乗りを上げたのは、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)。
 そして、彼女の相棒は『宇宙カブJD-1725』。見た目通りのカブである。そんな相棒を引っ提げて多喜が挑戦することにしたのは、いわゆるチェックポイントラン。
 加速、ハンドリング性能、最高速、ブレーキ性能、ルートへの正しい選定眼、本人の操縦技術――その全てを最もバランスよく駆使することになるレースの一つであった。
 多喜は裏路地で次のレースを準備していた『Formula』のメンバーを見かけるや否や、『悪いが邪魔するよ!』の一言と共に、そのまま相棒のカブに騎乗して、すぐさまチェックポイントランへのエントリーをブチ決めちまったのである。ここにいるのはいずれもスピード狂いのバカばかり。話が早いってのは最高だ。
「……おい、そこのお前」
「あ? アタシかい? 悪いけどさ、マシンについての冷やかしはお断りだよ」
「そんなんじゃないさ。『Formula』に、外見だけで速さを疑うような奴はいねェぜ。……そのマシン、すげェな。初めて見たぜ、ンな大事に使い込まれたカブなんざ。大したモンじゃねえか」
 そう言いながら多喜に声を掛けるのは、彼女のチェックポイントランの相手である。跨がっているのは随分旧式のバイクではあるが、相当の愛着と時間をこのマシンにつぎ込んできたのだろうということは、過剰なカスタムから見て取れた。
 だからだろうか、彼は多喜のマシンを見てもそこに非難の色などを浮かべたりはしなかった。伝わってくるのは、同じ一つのマシンを長く使っているレーサーとしての純粋な仲間意識である。
「おっと……こりゃ意外だね。見てくれで侮ってくれるなら有難いって思ってたけど……。どうやら、油断はしてくれなさそうじゃないか?」
「油断しても構わないが、それだと速い奴――アンタとのレースを楽しめそうにない。……ダニーだ。良ければ名前を聞かせてくれ。良いレースにしよう」
「……上等。数宮・多喜だ。そっちが油断しようとしまいと、どっちにせよアタシは全力を出すだけさ。ああ、良いレースにしようじゃないか」
 アッチェレランドに住むスピード狂たちは、外見やレッテルなどで相手を評価しなかった。彼らの判断基準は、ただ『速いかどうか』に尽きる。
 物の感じ方も、人の気に入り方も、もしかしたら善悪も、全てはそこに集約されるのだ。詰まる所、彼らは悪人でもないが善人でもない、スピード狂いなのだろう。
 それを知ってか知らずか、多喜はただ相棒に身を預けて薄く笑うのであった。
「コースはそっちの希望を通した。ラリー・チェックポイントランで行くぞ。道の整備が成されていない、良い具合の山道がある」
「おやおや、随分紳士だこと。……それじゃ、やろうか」
 スタートの合図が二人に下されるのと、二人の姿があっという間に路地裏から消え去ったのは同時のこと。
 レース・スタートだ。
「まずは小手調べだ。こんなとこでクラッシュすんなよ!」
「ハハッ、冗談! 楽勝さ、自分が抜かれる心配だけしてな!」
 二人が走っているのは、アスファルトで整備された道とは打って変わっての山道である。土や砂が生み出す僅かな傾斜や起伏が、二人のハンドルを直接揺らしていた。
 最初のチェックポイントを通過した時点では、道を知らない分走り出しが遅れた多喜が追う形。最後に目指すはこの道の多くの廃工場である。昨日雨が降っていたのだろうか、所々ぬかるんだ地面が否応なく二人のマシンの足に負担をかけていく。
 すでに何度も走っていて慣れているのであろう『Formula』のメンバーは、荒れた地面をものともせず絶妙なハンドリングテクとルート選択でマシンへの負担を少なめにして走っている。同じコースに挑み続けた経験が出た形か。
「そうかい、それじゃ――飛ばすぜ、付いてきやがれ!」
「後ろばっか気にしてる余裕があるとは驚きだ!」
 しかし、多喜も負けてはいない。彼女は起伏やカーブの多いラリーコースを、アクロバティックな『操縦』で駆け抜けていくではないか。初めて走るためにコースへの理解度は乏しいが、彼女自身のテクと度胸はそれを補って余りある。
 浮きかけた車体をいち早く戻すための体幹を駆使した重心移動、目の前を走る男が残した路面を上手く活用するレーサーとしての勘。
 彼女の操縦テクに裏打ちされた見事な走行だと言えるだろう。二つ、三つのチェックポイントも乗り越えて、ゴールは既に目前だ。だが、そんな彼女たちへ不運が襲い掛かる。
 雨で緩んだ地盤が、二つのバイクの振動で刺激されたか――。廃工場前の大樹が、まるでコースを塞ぐように倒れ込んできたのである。
「ッ、……! おい、危ねェぞ! その速度で突っ込めばまず間違いなく死ぬ! レースは中止だ! オイッ! 聞こえねえのか!」
「アタシの相棒の出力がただの小型バイクだと思ったなら大間違い。型番は「JD-1725」、排気量は軽くリッターを超えてるんでね! そこに小型フレームの小回りの良さも付け加えて、――飛ばしていくよッ!」
 しかし、いくら目の前に危険があろうとも多喜はアクセルを踏み込んでいく。猟兵として、命の危機に瀕したことは何度もあった。だから『わかる』。
 今は怖気付いてブレーキを踏む時じゃない。今は――因果を見極め、駆け抜けるべき場面だということが!
「――いけぇッ!!」
「――クレイジーだぜ、全くよ……。こいつは降参だな、ちくしょうめ」
 大樹が倒れてズシンという音が辺りに響いたのと、大樹が倒れ込む前に廃工場前に相棒と滑り込んだ多喜が【ゴッドスピードライド】を解除したのは、ほぼ同時のことだった。
 レース終了。チェッカーフラッグはないが、この場の勝利者は誰の目にも明らかだった。これで新しいスピード狂いが三人目。猟兵たちは着々と入団テストに受かっていく。さァ、次は誰だ?

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリシア・マクリントック
レースですか……それなら私はシュンバーに乗って参加です!
単純なスピード勝負で勝つのは難しいですから、チキンレースにいたしましょうか。

私の度胸だけでなく、危険に向かう命令を馬が聞いてくれるか……シュンバーとの信頼関係が試されることになりますね。
彼女とは半年程度の付き合いですが……共に生活をし、戦場を駆けました。少なくとも私は彼女を信頼しています。
あとはあなた次第です、シュンバー。指示は出しますが、あなたの意思で駆け、あなたの意思で止まってください。

開始前にスタートからゴールまでの距離を確認しておきましょう。それがわかれば止まるべき時もわかります。

さぁ、勝負です!ハイヤー!シュンバー!!



●A two-horse race.
「レースですか……それなら私はシュンバーに乗って参加です!」
「……あなた、馬で私たちに挑むつもり?」
 乗馬。20世紀以降、自動車の登場によって陸上での移動手段としてのそれはほとんど失われ、以降は趣味や競技などで普及している文化の一つである。ヒーローズアースの歴史博物館にも、そのような記述は確かに為されている。
 しかし、だ。車が登場する前までは、陸上において最も早かった移動手段はやはり馬であったことは間違いない。一部のヒーローは別にして、という話になるが。
「はい! 単純なスピード勝負で車に勝つのは難しいですから、チキンレースに挑戦しようかな、と」
「ふゥん……。面白いね、あなた。舐められてるような気もするけどさ……そこまで言うなら、証明してよ。あなたと、あなたの相棒の速さって奴をさ。そうすれば、『Formula』に入れてあげるから」
 アリシア・マクリントック(旅するお嬢様・f01607)とその愛馬、シュンバー。彼女ら一人と一匹は、狐面を被った女子学生とその相棒である大型のバイク相手に、なんとチキンレースを挑もうというのだ。
 傍から見れば無謀なゲームである。しかし、彼女は信じているのだ。自分の腕以上に、シュンバーとの信頼関係を。
「私の度胸だけでなく、危険に向かう命令を馬が聞いてくれるか……シュンバーとの信頼関係が試されることになりますね。彼女とは半年程度の付き合いですが……共に生活をし、戦場を駆けました。少なくとも私は彼女を信頼しています。必ずや、貴方に速さの何たるかを御覧に入れましょう」
「……へェ。上等。相棒との信頼関係、か……。良いじゃン。それならあたしも分かるよ。……どっちにする? 『崖』? それとも、『お互い』?」
「……? あ、成る程……。では、崖でお願いします。お互いに向けて走ってしまえば、きっと――、シュンバーが貴方のマシンを壊してしまいますから」
「言うね。……ハハ、上等。楽しくなってきた。……あたし、クリスタ。あなたの名前は?」
 アリシアの言葉の響きを聞いて、彼女の対戦相手であるクリスタは挑発か何かかと一瞬考えたが、次の瞬間にはその考えをひっこめた。
 分かったからだ。アリシアは別に挑発や相手を貶めるつもりでこう言っているのではないと。シュンバーと自分ならば、全速力で走るバイクすら障害にはならないと、彼女は本当に思っているのだろう――。
 最早クリスタの目からも油断は一切なくなった。相手は『速い』奴だ。そうでなきゃ、ハッタリでも今の言葉は吐けない。
「私はアリシアです。アリシア・マクリントック。よろしくお願いいたします」
「うん。よろしく、アリシア。――良いレースにしよう」
 軽く握手を交わした女性二人は、相棒と『二人立って』それぞれのスタートラインに移動していく。
 今回のチキンレースの詳細はこうだ。まず、二人は路地裏から一斉にスタートして、一直線に波止場まで向かう。細い道路を二つ横切り、大型車両も行き交うメインルートを一つ越えれば、ゴールの波止場は見えてくる。全速力で駆け、ギリギリを競う一発勝負だ。
「開始前にスタートからゴールまでの距離も確認できましたね。それがわかれば止まるべき時もわかります。あとはあなた次第です、シュンバー。指示は出しますが、あなたの意思で駆け、あなたの意思で止まってください」
「……行くよ、あたしの相棒。今日も速く走ろう」
 二人はレース前に自らの相棒と語らっていた。そういうものなのかもしれない。馬とバイク、生き物と機械という違いはあれど、一匹と一台は間違いなく彼女たちにとって『速さ』を求める相棒なのだから。
 そして今、アッチェレランドの空に号砲が鳴り響いた。接触事故を避けるため、今回二人のスタート位置はやや離れている。スタート合図がどちらにも良く聞こえるためのそれだ。
 ――レース・スタート。
「さぁ、勝負です! ハイヤー! シュンバー!!」
「行くよ、相棒。いつも通り――!」
 二人は互いに全速力で相棒を加速させていく。アリシアはシュンバーに声と足でその意を伝え、対するクリスタは迷いのないアクセルで加速を続けていく。
 二組が二つの路地を横切ったその時、彼女たちは正に互角であった。いや、やはりマシン性能の差でアリシアがやや遅れているか。
「これからです――!」
「まだまだ、加速するよ――! 、ッッ?!」
 その時である。二組の目の前に、予期せぬアクシデントが現れた。『大型無人トラックの長蛇の列』が、いきなり彼女たちの目の前を横切ったのである。この時間に車両が来ないであろうことは『Formula』の方で確認済であったが、恐らく街の方で急ぎの輸送などがあったのだろう。
 メインルートに飛び出したクリスタが、トラックの列を見るや否や方向を転換、レースを一旦中止するべくブレーキを踏んだのは決して間違いではない。だが、その判断が勝負を分けた。
「あなた……!? なに、やってるの……!?」
「シュンバー、右! そして左、ジャンプ! もっと速く! もっと! もっともっと! ――そうです、ありがとう、シュンバー!」
 そう、『アリシアは足を止めなかった』。トラックの列を目の前にしても、彼女は臆することなく愛馬であるシュンバーを駆って見事に前進を続けてみせたのである。
「……あたしの、負け、か……。今回の新入りは……大したもんだね」
 チキンレースとは、度胸試しの面が割合大きい。その意味において、アリシアはこれ以上ないほどの証明をここに残して見せたのである。四人目のテスト合格者は、危険に身を投じながらも愛馬と共に笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
なるほど……なかなか面白い試みですね。
潜入捜査は調査の基本、一つやってみるとしましょうか。

……と言っても私は、騎馬くらいは出来ても乗り物の操縦はからっきしですからね。
ここは己の身で頑張るとしましょうか。
種目はチェックポイント・ラン……そうですね、そちらは乗り物も好きなように。
皆さんがコースを走る間、私は最短距離を行くだけですから。

アンカーショット……こいつを使います。
高所に食いつき、障害物を飛び越え、壁を蹴り、跳ぶ。
【戦闘知識】で最適ルートを割り出し、【早業】の【ロープワーク】で蜘蛛男ばりに空を駆けるとしましょう。
速やかな狙撃ポイントの確保も射手の必須技能です。これくらいは軽いものですよ。



●『Anchorwoman』
「なるほど……レースが入団テスト代わり、ですか。なかなか面白い試みですね。潜入捜査は調査の基本、一つやってみるとしましょうか」
 路地裏の影から『Formula』の団員を一瞥していたその少女は、言うが早いか中心人物と思しき男に目を付ける。サングラスをかけ、煙草を咥えたチンピラがそれだ。
 少女は相手の見た目に何も臆することなく『Formula』の輪の中に入っていくと、開口一番にこう告げた。化け物だって何度も相対してきた彼女にとって、今更街のチンピラに何を恐れることがあろうか。
「あの、すいません。入団テストを受けたいんですが。あなたに言えば、きっと通してもらえますよね」
「アァ? ……嬢ちゃん、どうしてそう思ったよ」
「簡単ですよ。先ほどから、あなたは身内で意見が割れた時のみ口を出しては、その度会話の流れをコントロールしていましたよね? それが出来るのは、実力者しかいません。それも、相当な」
「……クク……。良い目してンな。嬢ちゃん呼ばわりは失礼だったか。――レオだ。名前は?」
「シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)。親しい人からはシャルと呼ばれています。テストを受けさせてもらえるんですね?」
 掴みは上々、というべきところか。シャルロットは先んじて敵の中から実力者を探り当てることで、会話の主導権を握って見せたのである。
 『Formula』のチンピラたちから無駄に相手を威圧するような素振りが消え、代わりに現れたのは誠意と敬意の感情だ。『速そうなやつだ』と思わせることには成功した、ということだろう。
「勿論だ、シャルロット。お前のマシンを出しな。それに見合った種目を用意してやるよ」
「種目はチェックポイント・ランを希望します。……そうですね、そちらは乗り物も好きなように。皆さんがコースを走る間、私は最短距離を行くだけですから」
「……マシンを見せない内から随分自信満々じゃねェか。良いだろう、要求を通してやる。その目に免じてな」
「……と言っても私は、騎馬くらいは出来ても乗り物の操縦はからっきしですからね。ここは己の身で頑張らせてもらいますよ。……こいつを使います」
「――こりゃ――ククク、ブッたまげたぜ……。上等だ。お前のその自信が、ハッタリじゃないことを祈ってるよ。準備は?」
「いつでも」
「オーライ」
 『Formula』のメンバーは、速そうな相手に敬意を表する。たとえその相手がどれだけ変わった手段を用いようが、だ。
 手段や経緯はどうあれ、彼らの中では『速さ』こそが唯一無二の価値基準である。シャルロットがどんな手段を用いて彼らにレースを挑もうと、重視されるのはそこ以外にない。
 結局、この組織に入るためには『速いかどうか』をレースで証明するほかにないのだろう。やるしかないし、他に方法はない。――レース・スタート。
「悪いがこっちはハナから全力だ、文句は聞かねえぞッ!」
 今回のレースはチェックポイントラン。自動運転車が行き交う街中を進み、決められたポイントを通って先に路地裏に戻ってくれば勝ちというものだ。道順は自由なため、参加者のルート選択がカギになる。
 開始の合図が轟くと同時に、颯爽と前に出るのはレオだ。立ち上がりも良い、最高速への伸びも抜群だ。彼は曲がりくねった街の構造を熟知している上に、油断することなくマシンパワーを最大限に発揮してシャルロットを引き離そうとしているのだろう。
「お互い様です、後から待ったは無しでお願いしますよ!」
 しかし、シャルロットも負けてはいない。彼女の相棒は先端に銛のついたワイヤーを火薬の力で射出する、拳銃型の道具――いわゆる、アンカーショットと呼ばれるものを使って、文字通り街を『飛び回っていた』。
 高所の看板や街頭に食いつき、ビル壁を蹴り、その推進力とアンカーショット自体の巻取機構を利用して更に跳ぶ。
 シャルロットの頭に入っている豊富な戦闘知識から、速度を殺さない最適ルートを即座に割り出し、連続したロープワークを早業の如くに繰り出すことで、彼女はどこぞの蜘蛛男ばりに空を駆け回っているのである。その速度は決してバイクに負けるとも劣らない。
「成る程、その身軽さと目が武器ってことかい!」
「速やかな狙撃ポイントの確保も射手の必須技能です。マップ把握も先ほど済ませてある――これくらいは軽いものですよ」
 レオの腕前は一流と呼んでよいものだ。だが、それはシャルロットの『超一流スナイパー』としての腕前に適う程ではない。彼が曲がりくねった道を曲がったり、自動運転車を一つ避けるたびに、シャルロットは何も障害物の無い空中を颯爽と駆け、チェックポイントへ距離を詰めていく。
 時折目の前に現れる大型トラックや柵などの障害物すらも飛び越え、彼女は街の構造に支配されることなく『全き直線で』次のチェックポイントに向かっているのだ。恐ろしいまでの位置把握能力があってこそ成し得ることのできる、彼女だけのスゴ技であろう。道に支配されてしまうバイクと、道に支配されることなく街中を飛び回れる彼女――結果がどうなったかは、言うのも野暮というものだ。

「あ~ァ! 負けたぜちくしょォ……。決まりだ。シャルロット、お前もこれからは『Formula』の一員だ。後でボスに会わせてやるよ。……しかし、大したもんだぜ。このコースのベストタイムまで塗り替えちまうとはな」
「それはどうも、ありがとうございます。言ったでしょう? 軽いものですよ、って」
 シャルロットも、上手く『Formula』への潜入切符を手に入れた。猟兵たちは確かに速さを証明し、彼らからの信頼を勝ち取っていく。五人目の合格者は、記録を塗り替えるという偉業を達成したにもかかわらず――ただ、その目を次の目標に向けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リンタロウ・ホネハミ


ほう、レースの類ならなんでもOKなんすね
単純な速さ比べとなると、車どころか馬を操るのも怪しいオレっちの出る幕はないっすけど……
チキンレース、度胸比べならちょいと自信があるっすよ

つーわけで互いが互いに向かって走るタイプのチキンレースをやるっす
乗るのはバイクでも車でも何でも、どうせアクセルベタ踏みでまっすぐ走るだけっすから!

こういう度胸比べに必要なのは決してハンドルを切らない【勇気】
そしてそれを相手に分からせる【パフォーマンス】っす
ブレーキをぶっ壊す、あるいはハンドルを投げ捨てる……
そういったイカれたとこを見せつけてやれば、勝負は始める前に決まったも同然
相手にハンドルを切らせてやりまさぁ!



●Take one's courage in both hands.
 再確認をしておこう。
 猟兵たちの目的は、『Formula』の入団テストに受かって敵首魁の位置情報を手に入れる事。問題は入団テストがどのようなものかだ。
 彼らの入団テストに受かるには、『レースと名がつく競技で自らの速さを証明する必要がある』。レースと名の付くものであれば良い。
 今回の挑戦者、つまり彼にとっては、重要なのは『レースの類ならなんでもOK』――まさにその一点のみであった。
「単純な速さ比べとなると、車どころか馬を操るのも怪しいオレっちの出る幕はないっすけど……。チキンレース、度胸比べならちょいと自信があるっすよ。……で、どうっすか?」
「つまり、テメェはこう言う訳だな? 一つ、『黙ってバイクを貸せ』。二つ、『その上でチキンレースをやらせろ』。……ハッ! とんだイカレが来たもんだ、頭のねじが足りてねェと見える。だが――」
 そう、その通り。『彼』はなんと、自前のマシンを用意しないままここに訪れていた。しかもその上、『Formula』からマシンを借りようというのである。
 全く狂った提案だ。しかし、この場に狂っていない人物などいないのかもしれない。真っ当に速くて、真っ当に上手い奴は、そもそもこんな非合法に速さを求める場所にいないだろうから。
「――そこが気に入ったぜ、クソ坊主。良いだろう、俺のバイクを一つくれてやる。『貸し』じゃねェ。『くれてやる』ッてンだ。壊そうが何しようが、お前の自由にしな」
「お、こいつはどうも! 随分気前が良いじゃないっすか?」
「お前の目が狂ってンのが気に入ったのさ。『速そう』なレースができる奴の目だ。……俺ァヴィンセントだ。坊主、名前は」
「オレっちは"骨喰"リンタロウ! どうぞよろしくっす! 勝っても負けても恨みっこなしのレースにしましょうや!」
「クク……上等だぜ。ああ、良いレースにしよう」
 リンタロウ・ホネハミ(骨喰の傭兵・f00854)が名乗りを上げ、そして彼の提案にほれ込んだ男――警官姿の、ヴィンセントと言ったか――が、バイクを一台彼にプレゼントすることが決まって。
 互いが互いに向かって走るタイプの『チキンレース』が、今始まろうとしていた。
「お、コイツは格好の良いバイクっすねー。よっしゃ、見た目も気に入ったんでコイツにしますわ! どうせアクセルベタ踏みでまっすぐ走るだけっすから!」
「あァ、『One time』か……。悪いがコイツはダメだ。修理中なモンでな、ブレーキが完全にイってやがる。『プレゼント』には向かねェだろ」
「――へェ? じゃ、尚更コイツが欲しいっすね。オレっちはアクセル以外を踏む気は無いんすよ」
「――ハッハァ! さてはオメェ、狂ってやがンだろ!? ……良いぜ。それなら、くれてやらァ」
 マシンの選択と授受も終わった。リンタロウもヴィンセントも、既にお互いスタート位置についている。これから二人のうちのどちらかが命を落としかねないというのに、不思議と二人は笑ってた。
 狂っている。だが、それが良い。狂っていなきゃ、こんな街で『Formula』なんかに潜入するなんざできっこない。二つのエンジンは既に温まっている。熱と音がはちきれる時を待っている。
 ――そして、その瞬間が来た。開始を告げる空砲が空に響いて――レース・スタートだ。
「こういう度胸比べに必要なのは決してハンドルを切らない勇気、そしてそれを相手に分からせるパフォーマンスっす! イカれたとこを見せつけてやれば、勝負は始める前に決まったも同然!」
「坊主――いや、リンタロウ! オメェの考えてることは大体分かンぜ……! だが悪ィな、俺だってチキンレースじゃ負け知らず! そう簡単にはビビんねェよ!」
 遠く離れた場所から互いに向かってスタートを切った彼らであったが、それでも何故か互いの声を二人は聞いたような気がしていた。
 レースの熱か、もしくはクソ度胸という共通点がそうさせたのか。それは分からない。とにかく、今できることは一つしかない。アクセルだ。アクセルを踏むこと。ここで『誰にも負けない速さ』を証明するには、それ以外にない。
「さァ――ハンドルを切らせてやりまさぁ!」
「言ってやがれ、このクソ青二才風情がァ! ――ッ!!」
 加速、加速、加速。接近し続ける相手がすぐ近くに迫ってくるのが分かる。風が自分の身体を通り抜けていく。アクセルを踏む脚が己の全てであるような気がする。世界が引き延ばされていく。アドレナリンが過剰に分泌されているのだ。
 もはや二人の間に戦略などない。あるのはどこまでもプリミティブな意地の張り合いだ。――しかし、それでも勝負を左右するものがあるとしたら?
 そう、ヴィンセントは確かに見た。リンタロウの底知れなさを。『コイツは恐らく本当にハンドルを曲げないだろう』という確信を、彼は得たのだ。リンタロウの笑みと経験がそうさせたのだろうか。
 衝突まであと0.2秒の瀬戸際で、ヴィンセントは――リンタロウとの『レベルの違い』を思い知らされてしまったのだ。
「――――ッ! ……クックック……。お前はクレイジーだぜ、リンタロウ……」
 先にハンドルを切ったのはヴィンセントだった。ややあって振り返ってみれば、リンタロウは未だに彼方までバイクに跨がって走っている。
 ここから導き出せる答えは二つだ。一つ、『勝ったのはリンタロウである』こと。二つ、『彼はバイクが自然に止まるまで降りられないだろう』こと。
 おっと、三つ目。『六人目の合格者が現れた』ことだ。それも、とびきりホットでクレイジーな。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トルメンタ・アンゲルス


速さ勝負、良いですねぇ。
とことん速く、っていう教えも実に良い。
速さとは文明の基本法則、何事にも勝りますからねぇ(持論)

どんな場合であれ、速さを一番とする人に悪いヒトは……まあ、はい。

地上ならば普通に足だけでも勝てますが……
折角です、相棒に地上の走りを堪能してもらいましょう。

さて、純粋な速さを競う、というならばドラッグレースと行きましょうか。
ゼロヨンでは物足りない、一マイル走りましょうよ。

俺は相棒、NoChaserに騎乗して、操縦技術を見せてやりますよ。
さぁ、行こうか相棒!
俺らの早業、ダッシュの速さ、存分に見せつけてやろうぜ!

音の壁の向こう側へ!
マキシマム!!
グッドスピイイイイイド!!



●Storm and stress.
「速さ勝負、良いですねぇ。とことん速く、っていう教えも実に良い」
「おや。分かっていただけますか、入団希望者殿」
「分かりますよ。というより、速さを求めるものにとっては義務教育でしょう? これは俺の持論ですが、速さとは文明の基本法則、何事にも勝りますからねぇ」
「ほっほ……話せますな。そう、速さとは即ち文化そのもの。人の持つ思いと経験と技術の全てを凝らして、どんな状況でもスピードを追求することの何と尊きことか」
「いやー、正に正に。どんな場合であれ、速さを一番とする人に悪いヒトは……まあ、はい。それはいったん置くとして」
「それはそうでございますな。私たちは所詮『逸れもの』。今更善人を気取ることは致しません。儂らはいきなり現れた無二の速さにどうしようもなく魅せられ、魂を惹かれてしまった。最早引き返せないのですよ」
 今までのメンバーとの話を聞く限り、どうやら『Formula』のメンバーは全員共通して以下のようなことを思考形態であるらしい。
 まず、『速さ』こそが至上の価値であること。次に、犯罪を行っている自覚はあるということ。最後に、それでも今のボス――オブリビオンの速さに魅了されてしまったこと。
 彼らの声を聞いて、トルメンタ・アンゲルス(流星ライダー・f02253)は何を思っただろうか。『もっともっと』と速さを求め、速さに強いこだわりを持つ彼女は、『Formula』の面々に何を思ったのだろうか。スポーツサングラスの奥からは、彼女の何もかもをうかがい知ることはできなかった。
「……では。始めましょうか、お嬢さん。希望はございますかな」
「ドラッグレースを。純粋な速さを競いたいんですよ」
「大変結構。距離は」
「ゼロヨンでは物足りない、一マイル走りましょうよ」
「素晴らしい。機体は」
「地上ならば普通に足だけでも勝てますが……。折角です、相棒に地上の走りを堪能してもらいましょう」
「エクセレント。フッ……速そうなマシンだ。老骨の身ではありますが、年甲斐もなく血潮が騒ぎますな」
 ここにいるのはスピード狂いが二人だけ。話が早くて結構なことだ。トルメンタの相手を務めるのは、どうやら彼女の相手をしている老紳士であるらしい。
 物腰穏やかな彼がどうしてこのような場所にいるかは定かではない。だが、きっと『ロクでもない』理由なのは間違いないだろう。だが、それもどうでも良いことだ。
 速さに気持ちは介在する余地はない。速さを求める数式に必要なのは、練り上げられた技術と積み重ねた経験だけ。どこまでもソリッドな鉄と血の掟だけなのだから。
「申し遅れました。私、フェリックスと申します。お嬢さん、よろしければお名前をお聞きしても?」
「俺はトルメンタです。トルメンタ・アンゲルス。で、こっちが俺の相棒のNoChaser。俺の――いや、俺たちが生み出す操縦技術を見せてやりますよ」
「それは良い。実に、実に楽しみでございますな? ……では。良きレースに致しましょう」
「当ォ~~然! ええ、ええ、良いレースにしましょうとも! 話が早くて最高だ、俺もウズウズしてきましたよォ!」
「よろしい。私もスピード狂いの教義に基づき、トルメンタ様に恥じぬ速さを出さねば失礼ですな。遠慮は無沙汰というもの」
「もッちろんですともォ! 遠慮は無し、気遣いも無し! お互いにマキシマムなスピードだけで勝負と行きましょうやァ!」
 これ以上の口上は野暮になる。人気の少ないメインルートに移動して、相棒に跨がった二人にはもう、この先のどこまでも伸び続ける真っ直ぐな道しか見えていない。
 この先の道は全て歓喜に繋がるそれだ。口を閉じれば、鋭敏になった全身の感覚がこのレースの開始を祝福しているのが分かる。ああ――、なんという幸福か! この先の一マイル上で考えることは、ただ『速さ』を出す事のみで良い! やろう、すぐやろう! 自分の持てる全てを速さに変換して見せようじゃないか!
 ――――レース・スタート!
「さぁ、行こうか相棒! 俺らの早業、ダッシュの速さ、存分に見せつけてやろうぜ!」
「御膳上等……! 私とて、そう簡単に負けるつもりはございませぬ!」
 ドラッグレース。それは、直線コース上でただひたすらに速さのみを競うレース形式である。しかしコースが直線だからと言って簡単な訳では当然ない。
 決して失敗は許されないシフトチェンジ、超微細な技術が求められるハンドリングコントロール、絹のように滑らかな操作が必要なペダルワーク、スタートシグナルと同時にマシンを発進させる反射神経、そして何よりもゴールまでにそれら全てを持たせるための集中力。
 ドラッグレースで勝つために必要なのは、強靭なマシンスペックではない。むしろそれは前提条件だ。必要なのは、ドライバーの意地! ドライバーの『速さ』への執念である! そして、――トルメンタのそれは、誰にも負けてはいなかった! 【マキシマムグッドスピード】――発動!
「――ッ?! 伸びが、止まらない……!?」
「何度も思う訳ですがやはりこうやって相棒に跨がって加速を続けているこの瞬間は堪らない! この身に感じる風! 足から伝わってくる大地の息吹ィ!! ハンドルを通して肩までブッ飛んで痺れるこのマシンパワーッ!!! 最高だッ! この感覚を味わっている限り俺と相棒はどこまでも速く走れる気がしてなりませんねえそれこそ地平の彼方までも火星の裏側までも往けるとは思いませんかあなたもォ! さァさァさァさァまだ行くぜェ! C'mon! NoChaser! まだまだまだまだ伸びる俺達の速さ、見せてやろうぜ! 音の壁の向こう側へ! マキシマム!! グッドスピイイイイイド!!」
 『NoChaser』。トルメンタの愛車であり、自身の装甲でもある相棒である。彼女と相棒が本気になれば――『この機体に追い付ける者なし』。
 さてさて、これで七人目。まだ行こうぜ。次のレースはすぐそこだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア


レースかぁ…結構面白そうねぇ。
…ねぇ、「ヤブサメ」って、知ってるぅ?
コースの途中に的を置いといて、通り過ぎ様に撃ち抜いてくの。
速さを求めるのは当然としても。「それだけ」ってのもつまんないと思わない?

乗物はバイク。
…えーと。エンジンをかけるにはこーして…あ、よかった。かかったわぁ。
…やー、実は免許取ったの、ついこないだなのよねぇ。

レース開始と同時にアクセル全開、フルスロットルでブッ飛ばすわぁ。
動体○視力と〇第六感全開でコース取りを○見切って●射殺で撃ち抜いてくわねぇ。
…実際あたしドシロートだし、常識とかカッ飛ばした相当無茶苦茶な○運転にはなると思うけど。
その分、見栄えはするんじゃないかしらぁ?



●Horseback Archery.
「レースかぁ……結構面白そうねぇ」
「あ、おい! 危ねェからよ、むやみに部外者が近付くンじゃねェぜ。今ここは『Formula』の入団テストを受ける挑戦者でいっぱいだ――」
「あら、うふふ。残念ね、お兄さん? あたし、部外者じゃないわぁ。お兄さんの言う、挑戦者の一人なのよねぇ。……ねぇ、『ヤブサメ』って、知ってるぅ?」
「……あ? アンタが? ……だがよ、アンタ自分のマシンはどうした? マシンがないのに参加もなにも――って、……なんだよ、ヤブサメってのは」
 ――かかった。ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)はこの瞬間、自分が話の主導権を握ったことを強く確信せずにはいられなかっただろう。
 そう、彼女は自分のマシンを持っていない。さらに言うなら免許を取ったのも、ついこないだの話である。だから、試験を受けるには――こうして、マシン以外の何かで相手から興味を引き出すのがベストであったのだ。
「あら、知らない? それじゃ教えてあげましょうかぁ。『ヤブサメ』っていうのはね、コースの途中に的を置いといて、通り過ぎ様にそれを撃ち抜いてく競技のことよぉ」
「……へェ? 撃ち抜いていくって……銃でかよ? ハッ。それがもし本当に出来りゃ、ここにいる奴らは全員カウボーイにでもなってるさ」
「本当は『弓』を使うんだけどね――あたし、出来るわよぉ。銃で、『ヤブサメ』。速さを求めるのは当然としても――。『それだけ』ってのもつまんないと思わない?」
「――オイ姉ちゃん、聞き捨てならねェなァ。『速さを求める』のが、『それだけ』だと? ……上等じゃねェか。そンだけ言うなら是非ともやってみろよ」
 来た。来た、来た、来た。ティオレンシアの思い通りの展開である。ここはまず、多少無理やりにでも相手からの言質が欲しかったところだ。『やってみろ』。今の状況ではなんと甘く聞こえる響きであろうか。
 彼女はいつも通りのにこやかな表情を崩さず、そのまま話を進めていく。大事なのはまず機会を作ること。機会を作ってさえしまえば――あとは、テクで全員黙らせられるから。
「あら、良いのぉ? あたしは構わないけどぇ。それじゃそうねぇ、乗物はバイクを用意してもらえるかしらぁ」
「応、何でも持っていけ。何でもくれてやるよ。成功したら『Formula』にも入れてやる。だが、もしアンタがその『ヤブサメ』ってのに失敗したら――、アンタにはすぐにでも消えてもらうぜ」
「ええ、もちろん良いわよぉ。あたし、失敗しないからぁ」
「……フン。的は幾つだ」
「普通は三つなんだけど……それじゃ、六つでお願いねぇ」
「その言い分じゃ獲物はリボルバーか、舐めてくれるぜ。……すぐ用意させる」
 話は決まった。ティオレンシアはこの場で『Formula』の連中との交渉を経て、なんとレースではなく、流鏑馬を披露することを決定させたのだ。
 やや地位の高そうな男が下っ端たちに声を掛けると、路地裏の一本はすぐさま馬場に早変わりしていく。長さは2町の倍、4町ほどある道沿いに、一気に六つの的が設置されていくではないか。
「……えーと。エンジンをかけるにはこーして……あ、よかった。かかったわぁ」
「……おいおい……。マジで頼むぜ、姉ちゃん。こっちだって皆に頭下げて何とか場所を作ってもらってんだ。……意地、通して見せてくれよ」
「当然よぉ。格好いい所、見せてあげるからぁ」
 全ての準備は整った。ティオレンシアは『Formula』の人員から譲ってもらったバイクに跨ると、手持ちの愛銃の握りを確かめていく。
 ガンプレイ向きに改造が施されている、ティオレンシア愛用のシングルアクション式6連装リボルバー。オブシディアンという名前の『相棒』は、今日も彼女の手にしっくり来ていた。
「いつでも良いぜ。あんたのタイミングで始めな」
「あらぁ、それはありがとう。それじゃ――行くわよぉ!」
 レース開始の空砲と同時に、ティオレンシアはバイクのアクセルを全開にし、フルスロットルでブッ飛ばしていく。片手のみの運転にはなるが、それでもまっすぐ走って速度を出していくだけならまだ何とでもなる。
 大事なのはこの先だ。――ひとつ、ふたつ! 彼女は見事にオブシディアンから二つの銃声を響かせて、壁に立てつけられた的の中心を撃ち抜いていくではないか。
「……だが、まだだぜ。反動の大きいリボルバーじゃ、最初は出来てもあとに響いてくるはずだ。腕の見せ所だぜ、姉ちゃん……!」
「これで、三つ……四つ!」
 一発当たれば音の字だろうと予想していた男の思惑に反して、ティオレンシアはよくやっていた。バイクの運転は決してうまくはない。だが、それ以上に彼女は『射撃』が上手いのだ。
 そもそもティオレンシアの最も得意とするのはクイックドロウ。射撃の中でも、最小限の時間の中で照準を合わせる能力を必要とされるやり方だ。その技術を持っている彼女は、その応用で見事に流鏑馬をもクリアしていく。的はあと二つだ。
「バカな……! 出来る訳がねえ! 見ろ、転倒しそうじゃねェか――!」
「これで――六つ目!」
 そして、彼女は見事にやり遂げた。半ばバイクから崩れ落ちそうになりながらも、優れた動体視力と第六感をフルに用いて、コース取りを行っていくそばから的を見切り、見事にユーベルコード【射殺】で全ての的を撃ち抜いてみせたのだ。
「さ、こっちは約束を果たしたわぁ。後は、そっちが約束を守る番ねぇ」
 ティオレンシアの運転は素人だったが、常識などをカッ飛ばした無茶な運転と、見事に六つの的に銃弾を命中させた手捌きからは、彼女のガッツと――そして、テクを感じずにはいられなかった。
 銃声が、鏑矢の如くに嘶いて。そしてその音は、八人目の合格者が現れたことを、街中に広く知らせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四方城・麻仁

走り屋への潜入調査? カッコイーじゃん!
まあ高校生だから免許ないんだけど。

そのへんの看板もぎ取って、念動力(UC)を使って地面から浮かせるよ。ごめん、後で返すからー!
そのままスケートボードの要領で地面を滑走。
エンジンが無いから、直線距離だと太刀打ちできないかも。でも、小回りは効くからスラロームとかなら…イケるかな。

看板の推進力や、姿勢の制御もUCで操作。
高段差がある所でジャンプしてトリックなんかキメちゃったり…!

そしてラスト!
恐らく人類がこれ以上回す事が出来ないだろうとされる技!
フロントサイドダブルマックツイスト・コークスリューじゃー!(技名適当)

キマっ…た!(ゴール後、目が回って倒れる)



●Psychological-Moment.
「走り屋への潜入調査? カッコイーじゃん! まあ高校生だから免許ないんだけど……代わりの案はあるし、まあ……何とかなるかな! たのもー!」
「オイオイ、随分と派手な登場だな? 良いぜェ、そういう奴は大歓迎だ!」
 『少女』が空中で駆るのは何の変哲もない木製のボードのような何か。裏側に大きく『Psycho-Babble』と記されているそれは、アッチェレランドに訪れていたサーカス団の看板である。
 その看板は彼女の特別なチカラ、【念動力】によって地面から浮かされていた。『少女』はそれをスケートボードの要領で実に素早く、なめらかに地面のスレスレを滑走させて――『Formula』の集団の目の前でテールブレーキを行い、まずは目を惹いてみせたのだ。
「そこのてめェー! 木製看板風のボードを浮かせてのご登場とはよォ、中々洒落たセンスじゃねェか! 褒めてやるぜコラァ! そりゃ俺たちへの挑戦状ってことで良いんだよなァ!?」
「さあ? そういうことにしてあげても良いけど……。その場合、君たち私に負けちゃうよ?」
 『少女』の派手な登場に、『Formula』の連中も色めき立つ。
 ――実際のところ、くだんのボードは『少女』のモノという訳ではなく、先ほどその辺りで客引きを行っていたサーカス団から『無許可で』借り受けて来たものなのだが――。まあ、その問題は一回置いておこう。後で返せば大丈夫だ。多分。
「……クク……。テメェ、中々言うじゃねえか? 上等だぜ、テメェの獲物に合わせてスラロームでやってやるよ! 負けて吠え面かくんじゃねェぞコラァ!」
「あれ、良いの? いやまあ、その方が私は助かるけどさ」
「ボードにゃエンジンが無ェから、直線距離だと俺のマシンに太刀打ちできねェだろうがコラァ! ボードの強みは小回りだ、テメェのテクなら速さも悪くねェ! スラロームでなら良い勝負イケっかもしれねェだろォが!」
「へぇ、意外に話が分かるじゃん! OK、それじゃその勝負乗ったぁ!」
 ――そういうことになった。『速さ』のみを信奉している『Formula』のメンバーたちは、挑戦相手がどのような道具を用いようが気にしないのだろう。
 どんな速さだろうと、速いのならばそれでいい。彼らは本気でそう思っているし、そう思うからこそレースに対してはとことん真摯で、フェアなのだ。
「俺ァブロンクス! そっちの名前も一応聞いといてやるぜコラァ! 良いレースにすっぞォ!」
「麻仁だよ。四方城・麻仁(サイキッカーJK・f14117)。……良いね、もちろん! 良いレースにしよう!」
 レース形式はスラローム。ストレート上に等間隔に置かれた障害物を交互に避けながら進む、『速さ』と『テク』が求められるそれだ。今回はストレート最後に連続ジャンプ台も用意してある。そこでどんなテクを決められるかも重要になってくるだろう。
 分かりやすく悪ぶっている様子の不良少年はバイクに跨り、その横で麻仁は浮かせたボードに乗る。二人の相棒は異なるが、それでも、スラロームに限れば二人の実力は伯仲しているはずだ。
 ――レース・スタート!
「オラァ!」
「それっ!」
 スタートの合図と同時に飛び出した二人は、全く同じ速度でスラロームをスイスイと進んでいく。経験面ではブロンクスが勝るが、直感的かつダイレクトな機体コントロールでは麻仁が勝っている形か。
 スラロームで最も重要になってくるのは、連続して行う障害物への動作の無駄を省くこと。その点において、麻仁が看板の推進力や、姿勢の制御すらも自らのユーベルコードで思うがままに操作できるのは強みだ。
「やっぱテメェー、速いじゃねェか! 最高だぜ! だが、俺のテクに適うかよォ!」
 二人のテクは正に互角。勝負の命運を分けるのは――最後の連続ジャンプ台だ。
 麻仁が最初のジャンプ台で繰り出したのは、ジャンプしながらボードの後部を後ろ手で掴むトリック、テールグラブ。着地間際にボードの角度も調整し、実に見事なジャンプに仕上がっている。
「そっちこそ! 私のテクに見惚れて事故るのは無しにしてよね!」
 更に次。ジャンプテクを繰り出した場合、普通のボードであればスピードが足りなくなるところであるが、麻仁のユーベルコードに物理法則などは全くかかわりのないこと。
 彼女が加速しながら繰り出したのは、オーリー・ノーズボーン・テールグラブの複合系エアトリック、ベニハナだ。意思の力によって精密に操作されているボードは、麻仁の思うがままに動かすことができる。アクロバットかつダイナミックな上級テクニックさえも、彼女にとっては序の口だ!
「そしてラストいくよ! 恐らく人類がこれ以上回す事が出来ないだろうとされる技……! フロントサイドダブルマックツイスト・コークスクリューじゃー!」
「なッ……なにィ~ッ?! フロントサイドダブルマックツイスト・コークスクリューだとォ!?」
 出た! これぞ麻仁の真骨頂のテクニック! ジャンプを行う際に重心を後方に残し、上半身は開いたまま背中からジャンプ! そして体の軸を残しつつ、縦に3回転、横に4回転半のバックスピンを決め、華麗に着地を決めて見せる――それが彼女以外の人類にはまだ再現不可能な大技、フロントサイドダブルマックツイスト・コークスクリューなのだ!
「キマっ……た!」
「う、ウソだろ……! あの回転量、生半可な転回速じゃ到底不可能! ゴールタイムは全く同時! だが、あのテクを成し遂げるための『速さ』、そしてあの絶好のタイミング! 認めざるを得ねェ……!」
 これで合格者は九人目。最も、ゴール後に目が回って倒れてしまった麻仁がその事実を知ることになったのは、もう少しだけ後のことなのだが。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン

ココを再び天国に一番近い街にするって?
アハッ、おもしろーい☆

▼入団テスト前
持ち前の【コミュ力】を活かして
ヴィランやチンピラと分け隔てなく談笑&【情報収集】を。
仲良くなった処で
アッチェレランド外周付近で公道ナイトレースを提案。

▼テスト
宇宙を駆けるオレとGlanzにとって
この高低差は児童公園のタコ滑り台レベルだ。

FMXの要領でスーパーマンをキメたりしながら
圧巻の【運転】テクと
【パフォーマンス】力で悪党どもを魅了したい。
ラスト外周で時速300k/hを超えたら
UC発動―そろそろ本気で遊んでもイイよね、Glanz!

ダウンヒル直前のフルスロットルで宙へ。
先行車両の上を飛び前方へ、抜き去るよ!

※絡み歓迎!



●A Night On The Town.
「ココを再び天国に一番近い街にするって? アハッ、おもしろーい☆ そンじゃ、オレも一枚噛ませてもらおっかな」
 最後の挑戦者として現れたのは、パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)。猟兵向け旅行会社で運転手を務めている彼にとっては、今回の『仕事』は慣れっこなのだろう。
 だが、どうやら少々時間も遅かった様子。既にアッチェレランドの日は落ちて、まばらに設置された街頭から少しでも離れた場所は何も見えない有様だ。
「お、兄ちゃんも新入り候補の一人かい? でもよォ、悪ィねェ。今日はもう終いにしようとしてたとこだ」
「アレ、そーなンすか? タイミング悪かったかな。ちなみに何すけど、終わりにしようとしてる理由って――例えば、時間とか関係してます?」
「そーなんだわ。ホラ、もう暗いだろ? 俺らはナイトレースも全然OKなんだが、まァ夜のテストで死人出すのもイマイチ後味悪ィんでな」
「あー、成る程! その気持ち分かりますよ! 運転に慣れてない頃は先も見えない夜に速度出すのちょっと怖かったっすもんね!」
「そうそう、そういうこと。だからさ、兄ちゃんも今日は諦めて、明日――」
「――オレなら、ナイトレースイケますよ。やりません? アッチェレランドの外周で、公道ナイトレース」
「――へェ? 面白いじゃん、兄ちゃん。……良いだろ。その目がクソ気に入った。乗ったぜ。俺ァナイトレース専門でな、そう言ってくれる奴を探してたんだわ」
 実際のところ、パウルは全てを熟知していた。彼は持ち前のコミュ力を活かし、他の猟兵たちが行っていたレースを肴に周りのヴィランやチンピラと分け隔てなく談笑しながら情報収集を行っていたのである。
 『夜間に入団テストをあまり行わないのは何故か』。『ナイトレースなら誰が出るのか』。『その人物が得意なコースはどこか』。その全てを、パウルは予め知っていた。
 これは互いの実情を探り合って妥協点を探す交渉ではない。相手の希望を叶え、こちらの希望も通すための『提案』である。スーツ姿で眼鏡をかけた中年を会話の相手に選んだのも、全ては計算通り、という訳だ。
「コース把握は?」
「オレの方はもう済ませてるんで大丈夫っす」
「良いマシンだな。フォルムが最高だ」
「でしょ? オレはタコですけど、Glanzは相当イカしてますよ」
「ヤスペルだ。兄ちゃん、アンタの名前は?」
「パウルっす。パウル・ブラフマン」
「パウル、良いレースにしようぜ」
「ええ、ヤスペルさん。良いレースにしましょう」
 夜闇に二人のバイクのヘッドライトだけが明るく燈る。月明りも雲に隠れてほとんどないこの状態では、頼れるのは相棒の『艶やかな蒼き光線』しかないという訳だ。
 それも良いだろう。マシンのライトは乗り手の目だ。後は、それを頼って飛ばすだけ。――レース・スタート!
「久しぶりのナイトレースだ、感謝するぜパウル。勝ちを譲る気は――ねェけどよッ!」
「宇宙を駆けるオレとGlanzにとって、この高低差は児童公園のタコ滑り台レベル――! 遊ぼうぜ、Glanz!」
 二人のスタートは正に同時。いや、ヤスペルがやや前に出た形か。二人はアッチェレランドの道を全て暗記しているかのように、超が付くほどの急加速を行いながら夜闇に消えていく。
 圧巻なのは、パウルの運転テクニックだ。彼は加速を行いつつも要所要所で街の階段などの高低差を利用しながら空高く飛び、しかも空中でエアトリックまで決めて見せている。
 彼はキメているトリックは、FMXの要領でハンドルを握りながら重心を後ろに回し、一瞬身体を空中に浮いた状態にする――。ノーハンダー系のトリック、『スーパーマン』だ。
「オイ、あの新入り候補すげェな!」
「ヤスペルさんの速さに付いていってるどころか、エアトリックまで決めてんのか?」
「ヤベェ奴が入ってくるな、こりゃ……」
 二人のレース展開を路上で見物している『Formula』のメンバーたちも、パウルのパフォーマンス力に魅了されていく。
 彼らにとって『速さ』はどこまでも追及するもの。テクニックもまた速さを求めるための一つの方法だが、『トリック』は人を魅せるためのものだ。
 『Formula』のメンバーもそれを分かっているからこそ、パウルの『速さ』とテクに裏打ちされた『トリック』が両立していることに度肝を抜かれているのだろう。
「そろそろラストだ――! 悪いがこのまま逃げ切らせてもらうぜ、パウル!」
「もうラスト外周か――。時速300k/hは越えてる……。OK、UC発動――!」
 ただひたすらに『速さ』を求め、前を走っていたのはヤスペル。だが、パウルはまだ奥の手を出していない。猟兵の真骨頂――ユーベルコードを!
 【ゴッドスピードライド】、発動だ!
「そろそろ本気で遊んでもイイよね、Glanz! いけェッ!」
 パウルはレースの最終盤、ダウンヒル直前ストレートでユーベルコードを発動すると、フルスロットルのまま宙を走る。
 圧倒的な速度を保ったまま、空のラインを描いて飛んだ彼と相棒は、そのまま目の前を先行するヤスペルの頭上を飛び越え――抜き去る! そしてそのまま――ゴールだ!
「――ッ、チィッ……! 俺の、負け、か……。あーァ、遊び心を忘れちまうとはよォ……。歳は取りたくねェなァ」
「イェーイ! 皆、ありがとー☆」
 パウルの勝因は二つ。一つ目は、『相手に対して真摯に向き合った』こと。相手の情報を探り、自分の持てるカードの中から最適な攻略法を編み出して見せたことだ。
 そして二つ目は、『心からレースを楽しんだ』ことだ。勝ちにこだわることは悪いことではない。だが、その結果肩に力が入ってしまえば、最高な走りはその分遠のいていく。
 観客を味方につける程レースを楽しみ、そして最高のスピードも模索し続けたパウルが勝ったのは、当然の結果と言えるだろう。

 これで、十人。まずは上々というところだろう。役者は徐々に壇上に集まり始めている。第二幕の結果を待って、勝者たちは次の切符を手にするはずだ。次のレースの準備は良いかい?
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『スペクター』

POW   :    無音致命の一撃
【その時の状況に最適な暗器】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    不可視化マント
自身に【生命力で駆動する姿を隠せる透明化マント】をまとい、高速移動と【自身の気配を掻き消す超音波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    無法の手管
技能名「【恐怖を与える・傷口をえぐる・恫喝・殺気】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●A Bad Dancer.
「――それで?」
「今回の新入りは見所がある――。でも、危険な感じがするわ」
「猟兵の可能性があると?」
「恐らくは」
「……そうだとしても、私たちのテストは変わらない」
「街の奴らはテストを真っ当なレース形式にして楽しんでいるらしいけど――私たちは違う」
「必要なのは、クーデターを起こした後に街を破壊するための戦力だけ」
「求めるべきは『戦闘力』。『速い』だけの奴なんて要らないわ。ボスや街の連中は速さを浪漫だなんだとかっていうけど……私たちの知ったことじゃない」
「テストを集団レース形式にしているのは、ボスの顔を立てるため。他の全てを捨ておいて、速さだけを求める奴なんてクズよ」
「全く面倒。まとめて集団レースを行って、上位のタイムを残した組だけを組織に入れる――だなんて、ボスの命令じゃなきゃやらないわ」
「来なさいよ、挑戦者。強い子だけ残してあげる。役立ずの弱い子は殺すわ」
「来なさいよ、挑戦者。速さでどう戦えるのか――私たちに見せて頂戴?」

●Dance The Night Away.
 アッチェレランドの夜。全自動車の群れが整然たる行列を作り、そして街単位で一糸乱れぬ行進を行っているのが、ヘッドライトの進みで分かる。
 ここに来た君たちは、『一人でレースに参加する』ことではなく、『二人でレースに参加する』ことを選んだのだろう。
 しかし残念。
 『純粋なレース』を求めていたのならば、一人で参加するべきだった。
 『純粋に速さを楽しんでいる相手』を求めて、夜のアッチェレランドに足を踏み入れたのであれば、それは大いなる間違いだ。
 ボスと呼ばれる首魁は違うのだろう。街のメンバーである人間たちも違うのだろう。だが、君たちの相手は――真っ当にレースを楽しむつもりはないらしい。
 複数の影。夜闇にあるもの。眩しい光に追従するもの。『Specter』。それが君たちの相手だ。
 彼女たちは『速さ』をゴミクズのようにしか思っていない。そしてきっと、街のメンバーのような『速さ』を一つの価値基準にしている者たちのことも、内心見下しているのだろう。否定と破壊の権化である、オブリビオンらしいとも言える。
 レース形式は、超大量の人員を用いて行うチェックポイントラン。全てのチェックポイントさえ通れば、どのルートを通るかは君たちの自由だ。
 開始場所はアッチェレランドの中央を走るメインルート。そして、今回の敵たるスペクターたちは街中のどこかに潜伏し、『必ずどこかで君たちを襲撃する』だろう。彼女たちは、最初から真っ当なレースを行うつもりはないのだ。
 その襲撃をやり過ごすのか、反撃するのか、――奴らの嫌う『速さ』でブチ切ってやるかといった対策も全て自由だ。『チェックポイント』を全て回った時点でレースは終了。奴らは君たちに攻撃できなくなる。
 チェックポイントは四つ。
 一つ目は、街の外れにある廃工場。整備されていない山道を通らなくてはいけない場所だ。森や茂みで見通しが利かない上に路面状況も悪く、敵の襲撃が最も予想される場所の一つでもある。
 二つ目は、高架下から高速道へ繋がるバイパス。街中のどこに行くにも便利な道であるが、それ故に全自動車の交通量は最も多い。敵の襲撃以外にも、一般の車への注意も必要になるだろう。
 三つ目は、細く入り組んだ裏路地を何本も通った先にある広場。入るのは簡単だが、出るのは難しい難関である。襲撃箇所や方向は絞られているという事実を吉と見るか凶と見るかは自由だ。
 四つ目は、街の入口に繋がるメインルート。とても広く見通しが利くため、全方位からの襲撃が予想されるが、最も速度を出しやすい場所でもある。逃げ切るなら最適の場所、というわけだ。
 好きに走ると良い、猟兵。四つのチェックポイントをどう回るかは自由である。『どこ』で襲撃を受けるか予想し、それに対して『どんな』対策を講じるか――相棒とよく考えて見て欲しい。
 レースの楽しさを理解せず、『速度』は何かも分からない、クソつまらなくて退屈な、過去の遺物の鼻を明かしてやれ。とにかく生きてレースを完遂させろ。夜のアッチェレランドで、夜通し踊って見せてくれ。ライトは街中に転がってるさ。上手く踊り切れたら拍手喝采。
 ――レース・スタート。
 
※プレイング募集は、11/04(月)の08:31~からとします※
ザザ・クライスト
●【狼鬼】

頑丈さが取り柄のドイツ車を用意
速度はそれなりだが、とにかくタフで壊れにくい

「順番通りに行くぜ。まずはアインツ」

ハンドルを握るのはオレ
慎重に、しかしドライブ日和だと鼻歌

「街中だと一般車が厄介だが、手はある」

バイパスに入ると速度アップ
サイレンと回転灯で緊急車両のフリして突破

「手っ取り早く行くぜ。障害物は吹っ飛ばせ、ジャスパー!」

裏路地に入ると空からドローンで【情報収集】
リンクした左目のサイバーアイに最短ルートを転送

最終ポイントで【鉄血の騎士】を発動
車両が紅く染まり凍りつくような音で哭く

「車も武器には違いねェ!」

迫る敵も攻撃も無理矢理突破

「派手に踊るぜ、ロックンロール!」

フルスロットル!


ジャスパー・ドゥルジー

【狼鬼】
イイ車だ
無傷で返してやるぜ

腹にナイフ走らせ溢れた血で【イーコールの匣】
宙に浮かぶ盾を作る
俺が作れる最大サイズでだ
バイパスでは敵の流れ弾から一般車を護る為に使用

ルート選択はザザに任せる
カーナビの設定要る?ドリンク開けてやろーか?
助手席の俺はヒロイン気取りさ

ヘイ、楽しいドライブ邪魔する奴はどいつだァ?
身を乗り出し迎撃だ
盾で攻撃を弾きシールドバッシュ
運よく逃れた奴は俺のナイフ投げを喰らいな
いつもより多く投げておりますってね
出血大サービスだぜ、腹から血ィ流してるだけにな

あんたって時々クレイジーだよな
嫌いじゃないぜ
エンジン音がロックギターなら俺のナイフがドラムスだ
16ビートで突き刺してやるぜ


ジャガーノート・ジャック
◆ロクと/メインルート攻略

(戦闘機を召喚。自身が操縦桿を握り、ロクはその後方座席に。)

(ザザッ)
同乗感謝する、ロク。
本機の出せる最速で行く。

今回君に頼む事は一つ。
"楽しんでくれ"。では行こう。

(ザザッ)
(戦闘機の速度は微塵も緩めず、地を這う様に低空飛行。全ての障害物を躱しつつ超速飛行〔操縦×早業〕。
奇襲を受けても戦わず、アフターバーナー全開〔ダッシュ〕で只管に速さだけで敵を置き去りに。)

この速度、君も楽しんでくれているか?

そうか。
(戦場と戦いを"楽しむ"。今まで意識をした事はなかった。が)

そうだな。
君と共に行くのは"楽しい"。

(幾許か、お前の言う"愉しさ"も理解できたかもしれない。"鷲野"。)


ロク・ザイオン
※ジャックと

…それがジャックの作戦なら。
いいよ。

(ジャックの喚んだ戦闘機にともに乗り込む。
車ではないこの機体は、多分敵を警戒させるだろう。
襲われるならある程度手札が読まれた後。最後の、メインルート。
キミが戦わなくていいと言っても
襲撃には備えるつもりでいた。
――けれど!)

(トップスピードに至りボルテージ最高潮。
森番はキミの後ろで子供のように大はしゃぎしているのだ)
おれたちは、まだ、
――もっと速く、この先まで!
どこまでも、一緒に飛ぼう!!
ジャック!!!
(「啀呵」の声を上げるほどに機体は加速する。
それが心地よくて。
楽しくて)

……なぁ、
ジャック。
キミは、楽しい?


黒江・イサカ
ロカジ/f04128と

うわ、いいもん乗ってるなあ!
これで夜がなベッドまでのドライブを楽しんでるわけだ
格好いいなあ!楽しみだねドライブ!

……ああ
だから凶器持ってこいって…
まあそうだね、こんなドライブは滅多にない
やるからにはいちばん前の景色が見たいな、僕
楽しみにしてるよ、ロカジ

じゃ、また後で

へえ、みんなの車もいい車だな
ただ僕の日本刀ってば頑丈なのが取り柄でね、
窓のひとつごと人間ぶん殴るなんてわけないのさ
屋根がないならなお手っ取り早いけどね
1台、2台、3台、4台…
何コンボいけるかな?
早くお迎え、来てもらわなきゃ

空いたハイウェイを駆け上がってくる相棒に跳び帰っておしまい
僕らの息ピッタリ超格好いいシーン


ロカジ・ミナイ
イサカ/f04949

白の高級外国産スポーツカー
ルートはノリで

2のバイパスに差し掛かった辺りで
来たよイサカ
上玉の走り屋ちゃん達が
あんな子達と追いかけっこなんて楽しいゲーム、滅多にないよ
一番目指さなきゃ

煙草に火をつけて本領発揮
任せとけって
僕の逃げ足は履物が変わったって一級なの
退治する役は譲るからしっかりついて来なよ
もし道路に落ちたら大人しく死んできて

敵の車に幅寄せしてイサカを送り込み
後方につけてイサカのステージを鑑賞
わぁ鬼畜!(キャー)
一般車両なんて僕の速さからすれば並木道みたいなもんだ
事が済んだら一気に踏み込んで
ギャギャギャギャっていう例の音と共にイサカを回収
ここは息ピッタリ超カッコ良いシーン


鎧坂・灯理
【鋼色】神楽耶/f15297と

選ぶのは「街の入口に繋がるメインルート」
速度が出しやすいなら、まあここだろうな

勿論あるとも、我が友刃
速さを笑う奴らは速さに泣くのさ
デッドリーチェイスだ、しっかり捕まっててくれよ

私と神楽耶と白虎をオーラ防御で覆ったなら、【DCサーキット】の始まりだ
神楽耶が更に加速させてくれる
貴様ら程度で追いつけるかよ 暗器は爆破して突き破る
アスファルトを焼く地上の流星と洒落込もうか

はは、悲鳴あげなくなったんだな、残念だ!
では、もう少しギアを上げようか!


穂結・神楽耶
【鋼色】灯理さん/f14037と

仕掛けてくるのはメインルートのチェックポイントと見ました。
あそこならどんな手段も取り放題ですもの。
だから、鼻を明かす手だてもいくらでも。
策はおありですか、お友達?

オーライ、ではそのように!
後ろ失礼しますね。

【朱殷再燃】──
纏う炎を束ね、そこだけ灯理さんのオーラ防御から突き出し。
思いっきり後方へ噴射。
『白虎』の速度を押し上げ、敵を振り切ります!
いいですよ、その身をもって止めに来ても。
この速度と熱量――止められるものならの話ですけど!

ねぇ、灯理さん!
これだけ早いと──ちょっと楽しいですね!


輝夜・星灯
【煌宵】

こんなところでまた奇遇な
ああ、いい夜だ
綺麗な空は、美味しいものが食べたくなるね

私も割合に好きだよ、こういう競いごとは
まあ、あんまり勝ちに縁はないのだけれど

えっ腰?掴むの?お、お邪魔します…
さて、運転…運転?は巴さんに任せて
こちらはチェイスの露払いでもしようか
広場や入り組んだ路地だって、虱潰しに制圧してやる
――串刺しだ
〝月詠の冥府川渡〟
今日の天気は大太刀の雨霰
気に入って頂けたかな?

春風、援護ありがとう
巴さんと君が汚れなくて良かった
生憎掃除は得意じゃないから

――無いよりマシか
巴さん、この子たち食べちゃっていい?
お腹減っちゃってさ、少しあっち向い…
えっ、ばーがー。…行く。これ食べるのやめる。


五条・巴
【煌宵】

やあいい夜だね。ね、星灯?

チキンレースにでも参加しようとここに来たら遊びすぎて夜になってた。
近くにいた彼女に(無理を言って)参戦したこのレース
僕こういうの大好きなんだ。

乗り物は車じゃなくていいなら春風と走ろうか
"宵の明星"

はい、安全バーとかないからちゃんと腰に手を回してくださーい

さあ春風、一緒に遊ぼう
GO!

あはは!楽しいね!どんどん行こうか!

敵の妨害が来ても星灯がいるから安心だ
近くに来すぎたら春風に蹴飛ばしてもらおう

ああ、ごめんね、わざとだよ。
春風が汚れなくてよかった。

ああ楽しかった
お腹すいたな、帰りにバーガー食べない?



●Make it flashy guys...Let's rock!
 ――――車の窓越しからだと、まるで夜闇が目の前を通り過ぎていくようだった。
「で、どうすんだ?」
「順番通りに行くぜ。まずはアインツ」
 UDCアースで生まれた頑丈さが取り柄の車が、猛りながら夜の森を進んでいく。速度はそれなりだが、とにかくタフで壊れにくく、整備性に優れて乗り心地も悪くないのが売りの堅い女だ。
 唸りは彼女の前足が岩や木の幹を踏んづけて悪路を踏破していく音。街中の灯火さえも届かぬ気高き闇の中で、灰色のボディと白いライトは行く先だけを見つめていた。まるで月に照らされた森を進む女狼である。それに跨るのは、【狼鬼】の二人。
「まァ、ルート選択はあんたに任せてるけどよォ。カーナビの設定要る? ドリンク開けてやろーか?」
「ハハ、オィオィ、助手席に座ってヒロイン気取りってか? そろそろ街に出る頃だ、そうすりゃすぐにでもバイパスに着く。アレやンぞ」
 見通しの悪い森を抜け、そのまま山道を一気に抜けたその車。『彼女』が次に自らのグレーの体を輝かせるためのステージに選んだのは、高速道に繋がるバイパスだ。
 どうやら【狼鬼】のドライバーは、チェックポイントをそのまま順番に回って街を南下していくつもりのようである。何の工夫もなく行えば、オブリビオンにはこの辺りで捕捉されてもおかしくない手だが――。
「街中だと一般車が厄介だが、知恵と工夫を一振りすれば――こうして手はある、ッてな」
「前もどっかで言ったけどさァ、あんたってホント、腕は立つわ料理はうめェわ……。その上車の運転も人並み以上と来るモンだから、コイツは悪魔も参っちまうぜ」
 しかして【狼鬼】の二人を乗せた車は、誰の目にも気づかれずにバイパスを往く。静かに、目立たないように――ではない。むしろ逆だ。
 彼ら二人は、バイパスに入ると一気に車の速度を上げ、サイレンと回転灯で緊急車両のフリをすることで、最も込み合う危険地帯をすぐさま突破してみせたのだ。
「勘違いさせたままッてのもアレなんで説明しとくが、オレは別に運転が特別上手ェって訳じゃないぜ? この車が優秀なのさ。このために伝手から仕入れた甲斐があるってもんだ」
「マジ? どーりでイイ車だと思ったわけだ。OK、無傷で返してやるぜ。ちなみにお名前なンてーの?」
「メーカーが売り出していた頃の名前は……『Dämmerstunde』だッた。『逢魔が時』ッて意味があるらしい」
「ハハ、良いね。そりゃ最高。狼と鬼にとってはまさに相棒じゃン。――気合い出るねェ」
 この辺りで、【狼鬼】の二人は誰なのか語らねばなるまい。まず、ハンドルを慎重に握るのはザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)。しかし、その手捌きとは裏腹に彼の表情はドライブ日和と言わんばかりに気楽そのもの。鼻歌混じりという様である。ザザは知っているのだ。『本気』とは、肩ひじを張れば出てくるような代物ではないという事を。
 そして、助手席に座ってケラケラと嗤っているのがジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)。表情と振る舞いを見るに、彼もまたこの道中を夜のドライブと捉えている節がある様子。だが――手すさびを行うジャスパーの手付きは、ザザのハンドルさばきと同様に冷たく、研ぎ澄まされて――『その時を、静かに待っていた』。
「――――発見したわ。ポイント3、Dの路地から侵入中。私はこのまま頭を押さえて時間を稼ぐ。他の道から入って包囲して」
「……いよいよおいでなすったってか? 手っ取り早く行くぜ。目の前の『障害物』は吹っ飛ばせ、ジャスパー!」
「ヘイ、楽しいドライブ邪魔する奴はどいつだァ?」
 ――きた。エンゲージ。裏路地を真っ直ぐ進む【狼鬼】の二人を、『スペクター』のバイク部隊が一斉に包囲し、全ての逃げ道を順々に潰していく。
 しかし、敵が行動を開始していたことなど、既にザザたちは掴んでいた。手品の種はこうだ。ザザは路地に入るタイミングで、偵察用小型ドローン『KBN Ghost3DV』をアッチェレランドの上空に撒いておいたのだ。後はドローンが得た景色を、同メーカーの品物であり、視覚情報を分析することで解を導き出すサイバーアイ、『Eyes-O』とリンクさせれば――。
 後は単純。彼らは敵の全員を倒さずとも、得た情報から逆算した最短ルートを通り、目の前の『障害物』さえ退かせば済む話。
「ジャスパー! あと三秒後、曲がり角で鉢合わせる!」
「オーライオーライ。さーってカワイ子ちゃん、恥ずかしがらずに出ておいで――ッと」
「――な――ッ?! う、あああッ!」
 全く、敵にしてみればたまったものではない。猟兵たちの進路を読んで曲がり角で待機。その上で気配を消し、姿も消して、車がこちらに顔を出した絶好のタイミングで、その身に隠していた小型銃火器を一気に放ったのに――。
 こちらが放った銃弾を全て防がれ、しかも反撃まで貰ってしまったのだから。
「悪いねカワイ子ちゃん。夜の裏路地は治安が悪いんだぜ、鬼に襲われても知らねェぞ。……つッても、もう聞こえてねェだろうけどよ」
 当然、それは偶然が成し得たものではない。ドライバーの腕でもない。そう、この攻防は助手が成し得たそれである。【イーコールの匣】。自分の血を用いて、極めて精巧な戦闘用の道具を作成する、ジャスパーの奇跡の力だ。
 彼はザザ経由で敵の位置を先に掴むと、すぐさま車の窓から身を乗り出しつつ腹にナイフを走らせ、溢れた血で車の前面に宙に浮かぶ盾を作ってみせたのだ。それも生半可な大きさではなく、車の前面全てを守れるようなデカいやつを、である。それが出来るのが彼の力なのだ。
 敵が放った全ての銃弾は、哀しいかなジャスパーの作った血の盾を貫通することは無く。手応えが消えたことから敵の弾が空になったことを見越したジャスパーは、そのまま巨大な盾をまっすぐ突き出して敵の身体を跳ね飛ばしてみせたのである。『障害物』は、潰してしまうのが一番だ。
「いやいや、この辺は『障害物』が多くてイケねェなァ」
 【狼鬼】の二人が裏路地に入ったのを確認した敵陣が、数を生かしてそれぞれの道から別々に入り、彼らを包囲しようとしたのは悪くない。最初に彼らに気付いた敵が、真正面から立ちふさがることで時間を稼ごうとしたこともだ。
 だが、敵にとって計算外であった事柄が二つある。一つ目は、ザザの情報取得と処理の圧倒的な速さ。彼が一瞬で裏路地から目的地へと進む最短ルートを割り出したことで、敵は後手に回らざるを得なくなってしまったのである。
 そして二つ目は、ジャスパーの攻防自在な力の存在だ。移動し続ける車を守りつつ、同時に敵を処理するという複合的な働きを彼が一人でやってのけたからこそ、ザザが裏路地の運転に集中できたとも言える。闇の中、朧月夜に照らされて、彼らは実に良いペアであった。
「ジャスパーご苦労ォ、目の前が開けばこっちのモンだぜ! ――飛ばすぞッ!」
「――これ以上先に進めると思ってる? お生憎様だけど、そうはさせないわ!」
 裏路地から転がり出るように高速でメインルートに現れた【狼鬼】は、最終ポイント――この道を只管に真っ直ぐ行った先にあるゴールに向かってひた走る。
 だが、敵もそうはさせぬと必死だ。裏路地を包囲しようとしていた集団とは別の『スペクター』たちは、今度は彼らと同じく車に乗って現れた。それも、大量に、だ。
「舐めンなよ、止められると思うならやってみなァ! 車も武器には違いねェ!」
「あんたって時々クレイジーだよな。……でも、嫌いじゃないぜ。後ろの敵は俺がやる」
 しかし、今更敵の登場で足を止めるような二人ではない。後方に付いた敵の攻撃から車を守るため、ジャスパーは再び自らの血をコントロールし、今度は車の後方を守るために盾を展開させていく。
 そして、己の力を解放してみせるのはジャスパーだけではない。ザザもだ。彼はユーベルコード【鉄血の騎士】を発動すると、『Dämmerstunde』を超常の魔器形態へと変形させ、前に位置した敵に備えてみせた。
 彼の力は、自身の血液を代償にすることで、自身の武器を魔器形態に変化させるもの。そして、他の場所ではどうだか知らないが――少なくとも、レースにおいては、車だって立派な武器であることに違いはない!
 彼ら二人がここで用いるのは、車輪が生み出す速度と血液が生み出す武器の二つだけ。まさしく、『鉄と血によってのみ問題は解決する』のだ。
「派手に踊るぜ、ロックンロール!」
「……ッ! あの車、普通じゃない――ッ!!」
 月の下、夜のアッチェレランドで、紅く染まった車両が凍りつくような音で哭く。ゴールを目指して突き進む紅い『狼』は、目の前に立ちふさがる敵の車に体当たりを行うと、たちまちそれらを無造作に突き飛ばし、地面に転がして破壊する。
 魔器形態となった車の体当たりは、つまり『圧倒的な速度』と『圧倒的な質量』を持った物体の突撃に他ならない。敵が用意してきた車両などで太刀打ちできるものかよ。
「エンジン音がロックギターなら、俺のナイフがドラムスだ。16ビートで突き刺してやるぜ」
「見えないはずなのに、何でコイツ、私たちの位置が……!? あ、ああっ!」
 後ろからの攻撃を防ぐジャスパーも負けてはいない。彼は車の後方全てを防げるよう再度盾を巨大化、複数方向からの敵の攻撃に難なく対処を行っていた。メインルートの周りを走る一般車両への流れ弾が生まれたのを確認すると、敵陣のリロードの隙を付いて一瞬だけそちらの方へ盾を流し、それも打ち落とす粋さである。
 そして彼の真骨頂はここからだ。彼は複数方向からの攻撃の角度を、盾から伝わる銃弾の方向から察すると、瞬時に盾を解除して連続したナイフ投擲を行っていくではないか。――実際に投げているのは、ナイフだけではなく、カッターや鋏、メスなども、であるが――ともかくとして、角度を把握したうえでのジャスパーのナイフ投げは、見事に敵の手首を手酷く痛めつけてやることに成功したのだ。
「いつもより多く投げておりますってね。出血大サービスだぜ、腹から血ィ流してるだけにな」
「こ、の……!!」
 そして、遠距離攻撃を失った敵が焦れて加速を行い、距離を詰めれば――待っているのは、ジャスパーの巨大な盾による直接的な打撃だ。タイヤの一つでも飛ばしてやるか、エンジンルームを直接砕いてやればそれで済む。
 前はザザが食い破り、後ろはジャスパーが守り切る。さしずめ『前面の狼、後面の鬼』とでも言おうか。そのまま迫る敵も攻撃も無理矢理突破すれば、話は簡単。
「――フルスロットル! ……ッてな?」
「お疲れ様サン。快適な運転をありがとよ、ザザ」
 優秀な相棒と、優秀な脚。全てが揃っていれば、妨害など何のことも無いって話だ。ゴール・イン。


●Black Hawk 『Like Sixty』.
 風切音が聞こえている。森、バイパス、路地、ステージを変えて味わったアクセルとアフターバーナーのコンツェルトが何度聞いても心地よい。
 森の木々は彼の者が飛び立つさまを見て一拍遅れてから恐ろし気に身を震わせ、バイパスを走る全自動走行の一般車両は自らのすぐ至近を何が通り過ぎたいのかすら理解できていないような呆けた顔で今も走っている。
 狭い路地裏の壁々は身を揺るがすほどの速度で以て滑りぬけていくそれを見、都会の闇の中で沈黙を預かる以外に行動の択を失っていた。
 彼の者はまるで夜の森に溶け込んで駆ける梟。否、街中のライトで照らされながらも身の漆黒を証明せんとして巡る燕か。否、裏路地を舐めるような正確さで強靭に空を往くのは夜鷹のようにも見える。
 否だ。断じて否である。慌ただしいダートを抜け、白痴の如くにある障害物らを抜き去り、細くねじくれたカーブを過ぎて、ホームストレートに戻った彼の者は、上記のいずれにも当てはまらぬそれだ。
 速い。速い速い速い速い速い速い速い速い速い速い――。どこまでも、どこまでも速い。彼の者の真骨頂はここにある。ストレートで何物をも置き去りにする、豪胆かつ欲深き速さ。それはまるで、黒豹が獲物に向かって飛び掛かる時のように獰猛で。
 それはまるで、鳥の王者。それはまるで、速度の化身。それはまるで、愉悦に浸りてひたすらに歩を進めるナニカ。そう、それはまるで、有り得べからざることだが、――都会の灯りからも身を隠すような速さで飛ぶ、夜闇に紛れた黒い鷲のようであった。
「同乗感謝する、ロク。ここからは本機の出せる最速で行く」
「ここからまだ速くするのか? それは楽しみだ」
「今回君に頼む事は一つ。"楽しんでくれ"。では行こう」
「……それがジャックの作戦なら。いいよ。たくさん、楽しませてもらう」
「栄誉なことだ。期待に応えて見せるとしよう」
「――ねえ、もっと速くッ! チェックポイント間際でも良い、奴らを止めるのよッ!」
「こんな、馬鹿な――――! 何をやっても追いつけない、どうやっても追いつけない!」
「私たちの方を見てもいない……ッ!? 歯牙にもかけられていないというの、私たちが……!」
「有り得ない! 有り得ないことよ! こんな……ッただ『速い』だけの奴らに、私たちが無視されるなんてッッ!!」
 自らの術式にて召喚せしめるのは戦闘機。ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)はただ操縦桿を握り、そして目の前の広く、あけっぴろげな道を見詰めていた。
 そして、彼の駆る戦闘機の後方座席にいるのはロク・ザイオン(未明の灯・f01377)。彼女も同様である。見詰めているのはただ前方のみ。後方など見る価値は無いと断ずるような傲慢さで、二人はただただあまねく速度を翼に変えて走っている。
 ノイズ混じりの金打声と、ざらつく鑢の声音のみが、全てが残響に変じていく世界の中で唯一確かなもの。そしてそれ以外はいらぬ。道と、速さと、相棒の声があれば、他に何者さえもいりはしない。邪魔者など――――論ずるにも値しない!
 メインルートに入った二人が行った行動はただ一つ。彼らの持つその全ての術理を、ただ暴力的なまでの速さに変じるということだけ。無論『スペクター』共もそれは既に分かっていた。彼らが過ぎ去ったあとの三つのチェックポイントからの連絡により、二人の動きと目論見は分かっていたからだ。
 しかし、それでも止められない。群の邪魔者は、個の速さを止めるに能わぬのだ。思うに『スペクター』たちは欲張りすぎた。『レースに参加して』、『参加者を探し』、『参加者の強さを試して』、『強い奴らだけ取り込もう』――など。ちゃんちゃら可笑しいというものだ。そもそもの話、レースというものの主題を見失っている。
 陳腐な話になってしまうが、『スペクター』たち集団の力を数値化して10と見た場合、彼女たちは『レース航続』『索敵』『吟味』『迎撃』の四つに、10の力を均等に四分割して割り振っているのだ。
 だが、ジャガーノートとロクの二人は、彼らの持った全ての力を『速さ』のみに集中させ、それで勝負することにしたのである。勝負というものは、突き詰めれば自らと対手の能力を見、その中で『なにを出し』、『どう勝つ』かだ。
 2.5対10ならば――――もはや語るまでもない。一つの方向性に特化させた彼らの速さという嚆矢は、夜のアッチェレランドにあってひどく素早く、黒き雷鳴の如くにひたすら走っていた。
 【Call: Hawk】。ジャガーノートのユーベルコードたるそれは、超速飛行する戦闘機を召喚・搭乗するもの。彼なりの、『速さ』に対する答えである。
「――――ははっ! すごい! すごいぞ、ジャック! 街がひかって見える!」
「そうか。何が聞こえる?」
「聞こえるのはジャックの声と、まっしろな音色だけだ!」
「……この速度、君も楽しんでくれているか?」
「勿論だ、ジャック! おれは楽しいぞ! なあジャック、まだいこう!」
「もっと飛ばせ、と? 生憎、こっちは既に最速だ」
「それじゃ、それはおれがやる! おれたちは、まだ、――もっと速く、この先まで! どこまでも、一緒に飛ぼう!! ジャック!!!」
「――そうか。そういうことなら、よろしく頼む。コントロールは任せろ」
 ともすれば、ジャガーノートの呼び寄せた戦闘機に相乗りする形になったロクなどはこう思案していたかもしれぬ。
 車ではないこの機体は、多分敵を警戒させるだろうと。襲われるならある程度手札が読まれた後だろうと。即ち、迎撃態勢を組むのであれば、最後のメインルートだろうと。
 そして、ロクの想像は正しかった。『スペクター』の面々が二人の速度をようやく捉えて行動を開始したのはレース終盤、最後のチェックポイント前であったのだから。
 もしもジャガーノートが戦わなくていいと言っても、ロクは襲撃に備えるつもりでいた。――――だが。
 不思議なものだ。微塵も速度を緩めず、地を這う様に低空飛行する戦闘機の上で、全ての障害物を躱しつつ超速で飛行するのは――――『彼女』にとっては思ったよりも楽しかった。
 敵からの奇襲を受けても全く戦わず、とかくアフターバーナー全開で只管に速さだけで敵を置き去りにする心地よさは、一種の歓喜ですらあった。
 ここには血も、病も、悲鳴もない。敵も、障害物も、何もかもを置いてきぼりにただ走るのは、まるで自らが翼を持った地を駆ける帚星となったようで。トップスピードに至った今、ボルテージはすでに最高潮。森番は、キミの後ろで子供のように大はしゃぎしている。
 これは楽しい。目の前の全てが、広がりを持って視界の外へと消えていく。邪魔するものは何者も存在しない。ただ走り、ただ速度を出すことが、こうまで爽快であったとは思わなんだ。
 これは楽しい。ジャガーノートが操るこの戦闘機に乗っていると、まるで自分にも翼が生えたようだ。敵の縋りつくような声だって、もはやこの世界においては何の価値も持たない。
 これは楽しい。――――だから、敵への対策を取りやめて、彼女は叫んだのだ。【啀呵】。ロクのユーベルコードである。明日を求める雄叫びを聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する力のそれは、事ここに至っては戦闘機の速度のみを向上。特化された力の増幅が何物をも超える速度を打ち出して、敵の補足・追跡さえも許さぬ神速を編み出した。
 風も最早無い。空気すらもだ。空気の壁を音速で越えた時に生じるショックウェーブが、金打音のように甲高く両の鼓膜を叩いている。
 あるのはただただ引き延ばされたメインストレート。ここはそういう領域だ。速さは全てを置き去りにし、そして置いてけぼりを喰らった世界の残滓は、過たずゴールへ飛び立つ鷲の残像を恨めしく見上げるのみ。
 ロクの口を衝いて出るのは歓喜の雄たけび。声を上げるほどに、猟兵二人を乗せた機体はどこまでも加速する。それが心地よくて、楽しくて。だから、こう声が漏れ出たのだ。
「……なぁ、ジャック。キミは、楽しい?」
「――――」
 不意を打たれたような気持であったかもしれぬ。いや、もしかすれば、もはや彼もまた心のどこかで気付いていたのかもしれぬ。
 しかし今まで、まるでそんなことを考えてみたことは無かったのだろう。思いも付かなかったというべきか。歴戦の兵士の如く、冷静沈着たるを心掛けてきた我が身には、戦場と戦いを"楽しむ"など――――。
 彼はきっとそう思っている。今まで意識をした事もなかったのだから、仕方あるまい。……だが、彼の胸に去来した思いは、戸惑いだけではなかった。
 心の隅にあるのは、ひとかけらの心当たりだ。戦いを経て、自分の力の一部となった、かつての……。
 『結局、僕はお前のことを何一つ理解できなかった』『――最期まで、お前の事は良く解らなかった』『けれど、幾許か、お前の言う"愉しさ"も理解できたかもしれない。"鷲野"』。
「――――そうだな。君と共に行くのは"楽しい"」
「……そうか。なら、良かった」
 絞り出すように、ゆっくりと口を開いて出た言葉は、意外なほど自分の胸にすっと落ちていった。見えはしないが、後部座席でロクが微笑んでいるような気がした。
 少しだけ、想像と実際の顔を見比べたくなる気もしたが、まあ、良い。もうすぐチェックポイントに着く。戦闘機の速度を緩めて、足を止めて、それから――相棒に向き合って、自分の目で確認すれば良いことだ。
 ゴール・イン。


●Camera's rolling and...Action!
 それは『あらそい』ではなかった。
 例えていうのであれば、『たわむれ』。それも双方向性を持ち得るそれではなく、やおら一方的な交わりだ。ひどい男が、女たちを啼かせている。
 彼は『速さ』というステージの上でやたらにすばしっこく、それでいて不安定で、周囲の目線を惹き付けるかの如くにように踊っていた。その上で、自らと一緒に踊っている踊り手たちを、ひとりひとりステージから下ろしていく。
 ああ、だから、やはりこれは戯れなのだろう。夜の闇を照らし得るのは街の灯と車のライトのみではあるが、今彼を照らしているのは、その手元で白銀にぎらぎらと光るそれしかない。
 日本刀の輝きを得て、彼はいやらしく舞い踊る。艶やかに、危なげに、狂おしく、まるで蛾のように、あるいは誘蛾灯のように。
「これで、1台、2台、3台、4台……。何コンボいけるかな? 早くお迎え、来てもらわなきゃ」
 彼が誰に言うでもなくこう呟いた。独り言は即座に高速道路の冷えた空気の上で霞み、アッチェレランドを包んでいた夜の闇にくるまれて見えなくなった。
「――――イサカ、跳びなよ」
 そして、彼がステップを踏み終わった時、彼の後ろから聞きなれた声が聞こえた。だから――――、彼は踊り狂うのを終わりにして、ステージの端から跳び降りたのだ。それが、丁度さっきの話。
 だから、ここからは少しばかり時間を戻して過去の話をすることになる。事を奇麗に説明するにあたっては、恐らくこの手法が最も適しているだろうから。
 ともあれ、ひとまず説明しておこう。この幕間での主役は二人。黒江・イサカ(青年・f04949)とロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)の二枚看板が、共演してのご登場だ。

「――――うわ、いいもん乗ってるなあ! これで夜がなベッドまでのドライブを楽しんでるわけだ」
「下品。あ~~~~~~あァ。この車に僕以外の男を座らせる席は未来永劫無いハズだったんだけどなァ……」
「格好いいなあ! 楽しみだねドライブ!」
「パツキン美人なら嬉しいけどさ、良いおっさんがはしゃぎ過ぎないでくれる?」
 この舞台の幕はこうして上がった。二人が乗っているのは、ロカジの運転する白の高級外国産スポーツカーである。
 趣味の良いチョップされたラウンド・ウィンドゥに、甘いマスクのフロントカナード。そこだけ紫に塗装された大型のブレーキキャリパーが、白いボディにアクセントを加えている。
 つまりは、ロカジの『武器』の一つという訳だ。彼の経歴を洗い直す術はないが、ともかくとして、彼の操縦技術は相当のもの。全自動車の隙間を縫って、高架下を滑るように走っているにも関わらず、彼の車はちいとも揺れていなかった。
 その理由は恐らく、彼のアクセルワークの冴えであろう。ロカジはまるで、車を自らの足の延長であるかのように扱っている。ブレーキなどと言う無粋なものには一切触れず、彼は絶妙かつ繊細な足さばき一つのみで、件の車の速度を完全にコントロールして見せているのだ。
 真っ当な経験からくる正道の技術――に、多分に邪道も混じっているか。恐らくは、『今まで隣に乗せたもの』たちを喜ばせるために覚えた精緻の技。『押し引き』については一流という訳だ。要はアクセルも恋も踏み抜くかどうかの細かな具合が肝要という事である。さて、彼らがバイパスに着いた頃。
「発見したわ。バイパスに入ったところ。交戦に入る。援軍よろしく」
「おっと……来たよイサカ。上玉の走り屋ちゃん達が」
「え? ……ああ、だから凶器持ってこいって……」
 イサカが単なるドライブを望んだとして、そうはさせぬのが今回の敵、『スペクター』の一群である。彼女たちは高速道に入った男二人を確認するや否や、連携の取れた動きで彼らを包囲していく。
 前に一つ、左右に一つずつ、後ろに二つ。一つの車を囲う五つの車が、まるで鳥を囲った檻のようであった。
「あんな子達と追いかけっこなんて楽しいゲーム、滅多にないよ? ほら、一番目指さなきゃ」
「まあそうだね、こんなドライブは滅多にない。やるからにはいちばん前の景色が見たいな、僕。楽しみにしてるよ、ロカジ」
「任せとけって。僕の逃げ足は履物が変わったって一級なの。退治する役は譲るからしっかりついて来なよ? もし道路に落ちたら大人しく死んできて」
「酷い男だなあ。じゃ、また後で」
「今更、お相子でしょ。また後で」
 二人連れ立って動くのはそれで終わりだった。
 まず最初に目立ったのはロカジである。彼は一気にハンドルを右に振ると、右に位置する敵のオープンカーへ『自分から幅寄せを行ってみせた』。いつの間に火を付けたのだろうか、水色の巻紙煙草が生んだ煙が彼の顔の目で揺蕩っている。
 『火が付いて』、本領発揮という訳だ。
 次に目立つのはイサカだ。彼は横付けされた敵のオープンカーに向け、車が安定しない内から窓に足掛け跳び、敵の車の助手席に座る女に飛び掛かってみせた。その手の中には、赤と白の皮巻柄が洒落た一本の刀が握られている。たまに持ち出す彼の刃の一つ、椿坊だ。
 そうなると不都合が生じるのは右に位置したオープンカーの敵群である。そもそもの話として、彼女らは『自分たちが彼らの車に』乗り移るのを目論んでいたのだ。これでは話があべこべであると文句を言いたげな顔をした助手席の女が、悪態を突くべく口を開いたところで――その顔は、熟した柘榴が割れるように赤に染まった。
「この車、屋根ないの? 手っ取り早いなあ、僕のため?」
「お前――クソ野郎ッ」
「――ッ、死ねッ」
 仲間をイサカに一人減らされたのを見て、黙っていないのはオープンカーの後部座席で待機していた二人の敵。彼女たちは思い思いの暗器を構えると、イサカに向かってそれらを揮う。
 だが、そう簡単にはいかないものだ。安定しない足場の上では、当然ながら足腰の踏ん張りが利かなくなるもの。そして、彼女たちの持つナイフや針などの暗器は『突き』が主流の攻め手となるが、体幹の不安定さが最も響くのも『突き』であるのだ。
 高速道を飛ばしながらの車の上で武器を振り回すなら、むしろ独立した重さを持つ長物による振り下ろしこそが、最も素早く攻撃を行う上で最適解となる。足腰の力が利かない状況ならば、重い武器に身を預けて身体ごと切り結ぶのが常道なのだ。
「視えた」
 【炯眼】。イサカの持つ力の一つ。死線を見定め、武装による素早い一撃を放つそのユーベルコードは、イレギュラーなこの状況においても過たず最適解を導き出していたのである。
 定まらぬままの体の軸から生み出された彼女たちの突きは遅く、不安定で。イサカの放った振り下ろしに、速さの面で叶うはずがなかったのだ。あるいは、奇襲を仕掛けられたという心理的な負い目もあったのやもしれぬ。
 ともあれ、一太刀目はこのようにして軍配が下った。そして戦においては、一太刀目に勝ったものに有利が続くもの。イサカは身体ごとの揮った一刀にてその身を移動させながら後部座席の一人を沈めると、移動の余波で突きを外させたもう一人の胴を狙い、返す刀で二刀目を放つ。反応が最も遅れたドライバーの首に刃を突き立てて、イサカは一つ目の車を完全に沈黙させたのだ。
「わぁ鬼畜! いたいけな女の子たちを突き刺しするなんて!」
「人聞きが悪いなあ」
「まあまあ。ほら、次はあっちだよ! さっさと行った行った!」
「ロカジさあ、僕のこと、馬か何かと勘違いしてない?」
 イサカが車の上で大立ち回りを行うのを、きゃあきゃあと叫びながらステージを鑑賞するようにして楽しんでいるのはロカジである。幅寄せしたままの車の屋根にイサカが戻ってきたのを確認すると、彼はそのまま左にハンドルを切って――――イサカという男を、今度は左側に位置した敵の車の上に送り届けて見せた。
 そしてロカジはそのまま運転手が消えた右車線に車を滑らせ、一気にブレーキ。新しくできた後ろへの逃げ道を、最大限に活かした形である。イサカのステージを、後方の特等席で見物する腹積もりらしい。
「逃がすわけないでしょ……ッ!」
「おや、悪いね。お嬢ちゃんたちの走らせる一般車両なんて、僕の速さからすれば並木道みたいなもんだ。それよりほら、前前」
「なッ――――!?」
 ロカジの走らせる車に追従しようとして、敵陣後部に位置する車の一団が焦り始めた時である。フロントガラス越しに、何かの影が見える――と思ったのも束の間。後ろのボックス車の一台を運転していた『スペクター』が最後に見たのは、白銀の一閃であった。
 そう、イサカはこの一瞬のうちに左側に位置した敵の車を排し、その勢いのままに後ろの車へ飛び移ってきたのである。話は簡単だ。
 ロカジの車越しに左のオープンカーに飛び掛かった彼は、跳んだ体の勢いそのままに、運転手の首元へ死を届けて見せた。鮮血を鮮やかに咲かせた運転手が死の間際でもがくその間に、彼は刀を振り下ろしてオープンカーの操縦桿を破壊。
 これで左右のオープンカーのどちらもを沈めたイサカは、そのまま振り返ると、後方に見える敵のボックス車の中から、彼の視点で右側の車の運転手に向かってオープンカーの座席から跳躍。再度跳びながらの突きを放ち、窓ごと敵の一団を流れるように仕留めた、というわけだ。
「へえ、みんなの車もいい車だな。ただ僕の日本刀ってば頑丈なのが取り柄でね、窓のひとつごと人間ぶん殴るなんてわけないのさ」
「ふざけた男……ッ! 化け物がッ!」
「やだなあ、褒め言葉?」
 イサカの戦い方はプリミティブだ。銃に比べて、『鉄の棒を振り下ろす』ことの、なんと単純で、なんと恐ろしいことか。日本刀はそこが良い。わかりやすくて、怖くて、恐ろしいからだ。
 残った後部の一台をすら、その一閃は裁断する。『スペクター』を。車の窓を、ガラスを、フレームを――この場合は、合金の壁というべきものを、彼は一刀の元に切り伏せた。敵が透明であろうと知ったことか。どうやら、死線は――敵の身体が見えるかどうかに関わらず、彼の目に見えているらしい。
 竹のように綺麗に割られたそれらは、ある種幸せだったろう。苦しまずに逝けたのだから。それが出来るなら、その方が好い。
「これで、1台、2台、3台、4台……。何コンボいけるかな? 早くお迎え、来てもらわなきゃ」
 彼が誰に言うでもなくこう呟いた。独り言は即座に高速道路の冷えた空気の上で霞み、アッチェレランドを包んでいた夜の闇にくるまれて見えなくなった。
「――――イサカ、跳びなよ」
 そして、彼がステップを踏み終わった時、彼の後ろから聞きなれた声が聞こえた。だから――――、彼は踊り狂うのを終わりにして、ステージの端から跳び降りたのだ。
 イサカが跳び帰ったのは、空いたハイウェイを駆け上がってくる相棒の車。ロカジは事が済んだ瞬間にアクセルを一気に踏み込んで、アスファルトをタイヤで斬りつけながらのギャギャギャギャっていう例の音と共にイサカを回収してみせたのである。
 片方が前で暴れ、片方が後ろで逃げの算段を整える。彼らの『息ピッタリ超カッコいいシーン』という奴だ。
「な――――ッ、待て! クソ、逃げるな!」
「悪いね、あー……決め台詞はさっき言ったんだった。ばいばい」
「またね、カワイ子ちゃん」
 残った目の前の敵の車の横を、滑るように走っていく車。爽やかな一陣の風と共に、二人の男は夜の闇に消えて――――敵の追撃から逃げきって見せたのである。
 彼らの行く先を知るのは、街角に置かれた街頭だけ。ゴール・インだ。


●Tigerish a brick burner.
「どう思う?」
「仕掛けてくる場所について、ですか?」
「そうだ。といっても、もう街の入口に繋がるメインルートに想定を固めて動いているんだが」
「あら、奇遇ですね。わたくしも、来るならメインルートのチェックポイントと見ていました」
「はは、何だ。意思疎通を図るまでもなかったか。それじゃここからは相談じゃない、確認だ」
「ふふ、そういう事ですね。見晴らしのよいあそこなら、敵はどんな手段も取り放題ですもの」
「速度が出しやすいなら、まあここだろうな。敵が動きやすいということは、裏を返せば……」
「そうですね、敵の鼻を明かす手だてもいくらでもございます。策はおありですか、お友達?」
「勿論あるとも、我が友刃。速さを笑う奴らは速さに泣くのさ。デッドリーチェイスだ、しっかり捕まっててくれよ」
「オーライ、ではそのように! 後ろ失礼しますね。しっかり掴まっていますから、どうぞ思うまま飛ばして下さい」
 森の多くの廃工場、高速道に繋がるバイパス、裏路地の多くの広場。その全てを通り抜け、二人の猟兵は最後のチェックポイント、メインルートまで訪れていた。
 二人が駆るバイクを、決して敵は眺めていただけではない。むしろ逆だ。『スペクター』は彼女たちを仕留めるにあたり、まず最初に観察を行っていたのだ。
 敵めらは透明にはならずとも、街の影の至る所に潜むことで彼女たちを遠巻きに観察。武装と足の詳細をことさら密に知り、その上で自分らの取る方途を一つ限りに絞ったのである。『スペクター』共の思考はこうだ。
 猟兵たちの搭乗する鉄馬に纏わりつく神気のような靄から察するに、恐らく乗り手側の手妻は『念動力』に近い何かだ。サイコ・キネシス。造形や形状は定かでなくとも、近付いてのバイク・チェイスによる接近戦となれば、レンジの差でこちらが不利を得るのは必定。手を介さずとも思念のみでこちらに対抗できる時点で、相当の有利はあちらにあると見て良い。
 果たして後部座席に座る女の武器であるが、あちらは恐らくその手に握る一本の鉄――黒塗りの鞘に朱の柄糸、『しろがね』の刃。こちらにとっては忌むべき形状だ。日本刀。こちらの武器が暗器である以上、またしても殺傷距離の面で不利は確実。猟兵の刀による攻撃を乗り越えて反撃を行うには、あの刃を避ける躱すか、少なくとも一太刀目は防がねばなるまい。
 要約して、被害を惜しむ形の単なる『バイク・チェイス』では、圧倒的に猟兵有利と言える。そして正道で戦えば、能力と技能の差でこちらは負けるであろうこともはっきりしている。
 ――だからこそ、『スペクター』は目的を通すために邪道を取る。
 レースに対しても、戦いに対しても、彼女たちは正道を持つことをしなかった。猟兵たちが結果に向かって過程を諳んじる生き物であるのに対し、オブリビオンである『スペクター』は過程に見るべき価値を見出すことがない。
 ――だからこそ、このような策も取れるのだ。
「残念、貴方たちはこれ以上先に行けないわ」
「その通り。だって、貴方たちの前に、道はもうないもの」
「成る程」
「そうきましたか」
 『スペクター』が取った方策はこうだ。
 即ち、メインルートを通っていた全自動車――――幸い、その全ては夜間の物資輸送を担っていた無人トラックである――――を、片端から壊し、転ばせ、横転した車の山によるバリケードを猟兵たち二人が進むメインルートの進行方向に作成。
 その上で、彼女ら二人の周囲から大群にて押し寄せ、バリケードで足を止めたところを狙い撃ちにし、再起不能にしようというのである。敵はもはや、『レースをするつもり』が無いのだ。その上で、被害を出すことも厭わぬ物量作戦に切り替えてきたのである。
 全く下策。詰まらぬ方策だ。粋の一片もありはしない。だが、それでも――『猟兵たちの止めを刺す』という一点に絞るのであれば、これ以上ない妙策にも見えた。
 ――――『スペクター』たちの誤算は二つ。一つ目は、バイクを駆る女がバリケードで足を止めるような手弱女ではなかったこと。二つ目は、後部座席に座る女が四方八方からの襲撃にたたらを踏むような常人ではなかったことだ。
 さあ、さてさて。これより皆さまお立会い。これから始まりますは、二人の猟兵の織り成す突破劇。駆り手は鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)が、守り手は穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)務めまする。敵は既に胡乱な策を盤上に広げたのみで満足に至り、捕らぬ狸の皮算用の真っただ中。枕が長くなってしまいまして失敬をば。これより主役のお通りでござい。
「『駆け抜けろ『白虎』、驀地に』。【DCサーキット】!」
「『燃え盛れ、我が悔悟──』。【朱殷再燃】──!」
 呪句発動。祝詞発現。幕が上がる。灯が燈る。冷たい闇は朱い焔に焼かれて爛れ、如何なる壁も白い獣が引き裂かんとして牙を剥く。
 灯理がその力を発動したその後ろで、神楽耶もまた同様に自らの力を解放していく。空気が変わる。夜の都会を走らせて、今まで感じていたあの風がぬるく感じてしまう程の加速が始まる。これから先は止まれない。既にポイント・オブ・ノー・リターンは過ぎている。
 目の前に合金の壁を持つトラックで出来たバリケードがある? それがどうした。
 四方八方から無法の手管を身に付けた敵の一団が襲ってくる? それがどうした。
 今やあらゆる何もかもが、不死鳥と化して地を滑る二人の道を阻むことは無い。
「貴様らに取れる道は、もはやバリケードに突っ込んでの死しかない! さもなくば、私たちの手によって死ね!」
「どうぞ、目の前にうじゃうじゃと現れてくれ。その全てを噛み千切って爆ぜるとしよう」
 灯理の駆る『白虎』の行く先はバリケードである。そして、その両端はバイクに乗った『スペクター』たちが待機している。この状況、つまりは二つに一つ。
 『バリケードにぶつかって死ぬ』か、『左右のどちらかに進路を変えて敵に囲まれて死ぬ』か。おっと失礼、三つ目。『敵諸共バリケードを食い破ってまっすぐ進む』かという策もあったな。
「無駄だ……! 貴様らが何をしようと、ここから先に逃げられるはずがあるものか! 死ねッ!」
「いいですよ、その身をもって止めに来ても。この速度と熱量――止められるものならの話ですけど!」
 背後より来る敵もご苦労なことだ。そこにいては危ないというのに、自らの身の危険を鑑みる余裕すらないと見える。熱と速さに当てられたか?
 さて、ここで二人の能力――――ユーベルコードについての詳細を語らせて頂く。彼女らの状況について、これ以上説明を行うためにはまず情報を共有しておくべきであるからだ。
 まず、灯理の持ち得る【DCサーキット】について。彼女のこの力は、微浮遊・慣性無視かつ超音速で走るバイクが命中した対象を爆破し、更に互いを任意に解除出来る思念の鎖で繋ぐというもの。
 通常であれば、運転中のバイクが何かに接触するなどと言う事態は避けて通るべき事柄であるのだが、明かりがこのユーベルコードを使用した場合は異なる。この力は即ち、バイクによる接触をそのまま攻撃に転じる力なのだ。『白虎』は、すでに牙を持った。
「ッ、?!」
「――そんな――ッ!? 自分から、私たちのバイクに、衝突――ッ?!」
「随分脆いな。歯ごたえがない」
 灯理が取った行動はこうだ。バリケードに接触する前に、側面からの挟撃を防ぐため先んじて左右の敵バイクに自ら体当たりを仕掛け、即座に二度の爆破にて左右の敵を黙らせる。バイクも暗器もお構いなし、障害はすべて取り除くのが彼女のやり方だ。
 後は簡単。そのまま彼女は直進を行うと――倒れたトラックの荷台を、シャフトを、窓を、ドアを、合金の壁の全てを破壊しつくして道を作り、前へ出た! 敵の包囲に風穴を開けて見せたのである!
「はは、悲鳴あげなくなったんだな、残念だ! では、もう少しギアを上げようか!」
「ッ、ふざけないで! ここまで来て逃がすわけないでしょ……ッ!」
「――お言葉を、返させて頂きますね。『無駄です』。もはや貴方たちが何をしようと、私たちを追うことはできませんよ。永遠に」
「――なッ!? あ、ああ、あああああああッ!!」
 次に、神楽耶の用いる【朱殷再燃】について。彼女が使うこの力は、自らの身を炎に焼かれ続ける無名の神霊に変じつつ、纏った炎を飛ばすことで攻撃する力である。つまり、『炎の放射』という力を得ることができるという訳だ。『白虎』が炎の翼を得て、夜闇を照らす不死鳥に変じていく。
 神楽耶は構える刀の先端に纏う炎を束ね、そこだけ灯理がバイクに纏っていたオーラから突き出し、思いきり後方へ炎を噴射してみせた。圧縮された質量を持つ炎が一気に一方向に対してのみ発現し、彼女ら二人の後方に位置する空気すらが焼かれていく。
 圧倒的な熱によって焼かれた空気中の酸素は一斉に膨張し、開いた一方向のみに向かって一斉に向かい始める。即ち、二人は後方の敵や瓦礫を燃やし尽くしてみせたと同時に――『白虎』の速度を押し上げる、圧倒的な揚力をすら得たという事だ。
「これは良い! アスファルトを焼く地上の流星と洒落込もうか!」
「ねぇ、灯理さん! これだけ早いと──ちょっと楽しいですね!」
 もはや彼女らの目の前に立ちふさがるものはなにも無い。後ろから追いすがる邪魔な手もない。ここにあるのは、アッチェレランドのアスファルトを焼きながらどこまでも、どこまでも加速を行い、ゴールに向かってひた走る一筋の光のみ。
 炎の尾をたなびかせる光芒は、彼女らを邪魔する全ての介入を拒み、そして進む。ゴールに向かって、ただひたすら速さのままに。ゴール・イン。


●A (Falling) Shooting Star. By Gold/Silver
「やあ」
「やあ」
「いい夜だね。ね、星灯?」
「こんなところでまた奇遇な……。ああ、いい夜だ」
「僕さ、こういうの大好きなんだ。君に無理を言った甲斐があったよ」
「……私も割合に好きだよ、こういう競いごとは。まあ、あんまり勝ちに縁はないのだけれど」
「そうなの? 僕とは逆だな。こういう競いごとじゃ、負け知らずなんだ」
「……ホント?」
「さて、どうでしょう? はい、安全バーとかないからちゃんと腰に手を回してくださーい」
「えっ腰? 掴むの? お、お邪魔します……。……こういうのって何て言うんだっけ。役得?」
「役得ときたかあ」
 このレースに、乗り物についての規定はない。意味もない。
 意味があるのは、参加者たちである猟兵が『スペクター』たちの襲撃をどう乗り切るか? ただそれだけなのだ。まったく無粋な話である。まるで遅々として進まぬ渋滞のように、ごみごみとした事情ではないか。
 だが、規定がない以上、五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)が召喚し、宵闇に染まる街並みを走る相棒として選んだ『それ』を、誰も咎めることなどできなかった。
 輝夜・星灯(迷子の星宙・f07903)は、巴が呼び出してみせた『彼』に、巴と一緒に跨ってみる。『彼』の毛並みは彼女が思ったよりも硬質で、深夜の街灯の灯を受けて輝いていた。誰にも負けぬカラーリング、何にも劣らぬフォルムだ。
「おいで、星灯。彼と僕が、つれていってあげる」
「それじゃ、謹んで誘いをお受けしようかな。この子の名前は?」
「春風。はるかぜ、だよ。さあ春風、一緒に遊ぼう――GO!」
「君は春風っていうんだね。見た目と同じで、とても光っていて奇麗な名前だ。よろしくね、春風」
 元々巴は昼の部に行われていたチキンレース辺りに参加しようとしていたらしいが、到着が夜になったことから推察するに、どうやら遊びすぎて夜になっていた様子。
 しかし、それでも構わない。どれだけ周りが物騒になろうとて、巴が駆るのはユーベルコード【宵の明星】にて呼び出した美しいたてがみを持つ黄金のライオン。そして、後部座席に座る座するのは無理を言って共に来てもらった頼もしい女性だ。
 邪魔、妨害はなんのその。まずはこの裏路地の多くにある広場から飛び出てやることにしよう――――。二人がそう思案し、春風が近くの道に駆け込んだ矢先のことである。
「わざわざここからレースを始める奴がいるとはね」
「全く楽な仕事をさせてくれるものだわ」
「貴方たちは既に包囲されてる。逃げ出したいなら――実力を見せてくれる?」
 そこに現れ、彼らを包囲してみせたのは『スペクター』である。もはや広場から大通りに出るための道の全ては彼女たちの管理下に置かれ、抜け出るには実力行為以外にあり得ない状況だ。
 ここ、三番目のチェックポイント――裏路地奥の広場の攻略でメジャーなのは二つ。一つは、先に他を回ってきた加速のままにここに突入し、その勢いのままにここを抜け出る事。もう一つは、この場所を最後のチェックポイントにすることで、広場から抜け出す必要性を消してしまうことだ。
 ここからレースを始める参加者はほとんどいない。普通のマシンでは広場で立ち往生したまま『スペクター』に襲われることを警戒する故だ。完全に静止した状態から加速を行い、敵の待ち伏せが完了してしまった道へ歩を進めなくてはいけないという状況を生み出してしまう――。そんなデメリットは、普通なら避けるべきなのだ。『普通』ならば。
「おやまあ、夜のデートを邪魔するなんて無粋な連中がいるもんだ。星灯、春風、飛ばしていくよ」
「運転……運転? まあいいや、そっちは巴さんに任せるね。私はチェイスの露払いでもしようか」
 だがそれはあくまで『普通』の話。今しているのは、巴と星灯の二人の話だ。こんな話を知っているだろうか? 獣の走りのことについてだ。
 獣の走行は、最高速の持続にこそ鉄の馬に負ける。人間が生み出した英知という代物は、燃料を入れさえすれば継続的に速度を生み出し続けるエンジンという結晶を生み出した。
 しかし、だからといって――。それが獣が機械に劣る理由になるかどうかで言えば、それは余りにもナンセンスに過ぎるというものだ。獣の走りが機械よりも優れている点は幾つもある。例えば――『一瞬で最高速に到達する、加速力』とか。
「――ッ?!」
「ウソ、はや――ッ」
「入り組んだ路地なら、攻撃の方向は限られる。方向が分かれば虱潰しに制圧してやるのも簡単。――串刺しだ」
「んー、この様子じゃ敵の妨害が来ても星灯がいるから安心だ。あはは! 楽しいね! どんどん行こうか!」
 チーターという動物がいる。彼らの凄まじいのは、狩りの際に見せる異常なまでの加速だ。彼らは僅か3秒ほどで瞬間時速100キロに達する脚を持っている。動物の脚力という自然が生み出した技巧は、時に人間の技術をすら凌駕するという話。
 翻って――これで分かっていただけたことと思う。巴の生み出した『春風』と、『普通のバイク』などを同列に見、油断していた『スペクター』の愚かしさというものが。
 春風は眼前に敵が現れたのを確認するや否や、その脚の本領を発揮してみせたのである。後脚が一つ地面を蹴るたびにアスファルトには微小な罅が入り、前脚で跳ぶようにして揚力を得れば、たちまち彼の速度は増していく。
 その加速は傍から見れば瞬間移動にも近いそれであったろう。傍から見ていてそれなのだから、巴たちの目の前に位置していた『スペクター』らなどが、呆気に取られて何も出来ず仕舞いであったのを――咎めることなど、誰も出来はしないのだ。
 そして彼らが裏路地に入ったことで、敵との距離が詰まり、敵との位置関係による攻撃の方向性も定まれば――。後は露払い担当の出番である。【月詠の冥府川渡】。星灯のユーベルコードである。
 彼女の用いる力は、他を害す部位のある武器を複数複製し、念力で全てばらばらに操作するというシンプルな物。そして、シンプルだからこそ強力な力。『機先を制した』。『敵の方向は掴んでいる』。『距離はそろそろ至近となる』。
 おおよそ、不意打ちという行いを成す上での条件はクリアしていると言って良いだろう。全ての環境が、星灯にコトを成せと囁いていた。
「ア――、ッ、アアアッ!」
「――今日の天気は大太刀の雨霰。気に入って頂けたかな?」
 降り注ぐは白銀の雨。夜空に登った月の光など、街の暗がりで見えはしない。だから、代わりに敵に見せてやろう。『冬空の黒曜刀』の雨あられを。敵が見るのは月の柄、しろくかがやく一閃の無限。
 春風が進む侵入路上に立ちふさがった敵はもういない。ここにあるのは、身体中に月光を浴びてモノを言わなくなった亡骸たちのみだ。春風は動かなくなった獲物に見る目を持たず、ただひたすらに開いた小道に走り込む。
 泥濘と瓦礫、過去の残滓が彼の足を止めようとしても無駄だ。金色の獅子は、掃きだめにあってなお強く輝きを増している。泥濘を踏み付け、瓦礫を突き崩し、横合いから現れる過去の残滓――『スペクター』とかいう名前を持っていたそれ――を無惨に蹴飛ばし、砕き、潰して押し通る。
 気高き獣はそれを成すことができるのだ。進む方向が狭く、定まっているのならば、尚のこと。彼がひたすら前にあるすべてに牙と爪を以てその威を示すに易いというものだ。
 後方から追いすがる敵も、慌てて姿を消しながら彼らを追跡せんとして走るが――。星灯にとっては、敵の姿が見えなくとも構わぬのだ。『自分たちが通ってきた狭い道に振り向いて、否応なく月光の雨を降らせればよいのだから』。
 彼女の力によってふり注ぐ月の光に照らされて、真っ黒な影に時たま赤い雫が光る。それが即ち、後ろの障害物を排除した証となっている。
 前は巴の駆る春風が拓き、後ろは星灯の力が照らす。この二人の通る道が狭いことを、敵は好機と思ったのかもしれぬ。だが、それは大いなる間違いでしかない。二人の力は今も、流れる方向を見定める濁流の如くに路地裏を駆け巡っていた。
「好きにさせて――」
「――堪るかァ!」
「遅いね。君たち」
「春風が速いんじゃない? これじゃ、チェイスにならないよ」
 最後のあがきと言わんばかりに、敵は彼らが大通りに出たタイミングを狙って全方位からの襲撃を行ってきた。どうやら、この時のために残存する全ての戦力をかき集めてきたらしい。
 四方八方からの敵の襲撃が、巴と星灯に向かって空を走る。ナイフの薙ぎが、カッターの振り下ろしが、針の突きが、彼らを包囲して――。
 一瞬の後、全ての敵の視界が黄金に染まる。先ほどまで最高速のままに走っていた春風が、その場で一気に減速を行った後、前足を地面に引っ掛けてその身を一回転させた故だ。
 更に一瞬、全ての敵の視界が白銀に染まる。念力にて武装を構えていた星灯が、春風の回転に合わせて全方位への回転斬りを放ってみせた故である。
 黄金、そして白銀。その輝きは空に浮かぶ星であったか、はたまた月であったか、もしくは地に落ちた街頭の灯であったのか。その答えすらも分からぬまま、敵は全て沈黙に至るのであった。その身に、冬空の月光を付きたてられて。
「春風、援護ありがとう。巴さんと君が汚れなくて良かった。生憎掃除は得意じゃないから。……」
「ああ、ごめんね、わざとだよ。春風が汚れなくてよかった。機嫌を直してくれる? ……うん、良い子だ」
「――無いよりマシか。巴さん、この子たち食べちゃっていい? お腹減っちゃってさ、少しあっち向い……」
「ああ楽しかった。そうだね、僕もお腹すいたな、帰りにバーガー食べない? 星灯ちゃんも一緒に。どう?」
「えっ、ばーがー。……行く。これ食べるのやめる。綺麗な空は、美味しいものが食べたくなるね」
「同感。それじゃ春風、レースが終わった後も少しだけ付き合ってね」
 裏路地からは見えなかった月も、大通りからは良く見えていた。月の光は何者にも平等に降り注いでいる。
 黒い都会の夜の闇を、しろいひかりを受けながら、黄金の獅子が走っていた。その軌跡を、ただ、月だけは遠い空から見詰めていた。ゴール・イン。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立

傭兵さん/f01612

このオレを通さずそんな面白そうな悪事を働こうとは。ムカつくので妨害します。
【紙技・炎迅】、バイクを作成。
後ろに乗っけた傭兵さんがナビと砲台。オレは操縦だけに集中します。

①②④は夜の《闇に紛れて》駆け抜けられる。
障害物は避ける。一般車両の間を縫う。直線は全速力で走るだけ。

だから、勝負所は③です。スピードは絶対に落とさない。
『幸守』『禍喰』を傭兵さんにつけておきました。
「上空からの情報を伝えろ」と。
伝達までのラグはありますが、そのくらいの逆算はしてくださいね。
“全部言う通りに動かします”から。
ああでも、ブレーキだけはかけませんので。

…ハ?負担?知りません。働いてください。


鳴宮・匡

◆夕立(f14904)と

【六識の針】で耳を変異
嗅覚と味覚は捨て可聴域と感度を極限まで強化

①②間は障害物や一般車両の配置を視ると共に
音の反響を頼りに反響定位で把握
逐次伝えながらルートを指示

③では上からの眼もある
地形把握はそっちに任せて
敵の接近を察知するのに耳を使う

次で追いすがられても面倒だ、敵の多いルートにするぜ
スピードはそのままでいい、どうせ近づかれる前に墜とす
死体踏まないようにだけ気を付けてくれよ

超音波で気配を攪乱するってのは合理的だよな
相手に聴こえなければだけど
わざわざ位置を教えてくれるなんて親切なもんだ
捕捉した順に額か胸を撃ち抜くよ

ところでこれ、俺の方が負担デカくない?
いや、いいけどさ


リア・ファル
ヌル(f05378)さんと

「Dag's@Cauldron」スペシャルオーダー、
確かに承ったよ!
モチロン……友達として!

速さだけだと思ったら大間違いだよ、
なにせイルダーナは、制宙高速「戦闘機」だからね!

「妨害と回避はボクが。ヌルさんは攻撃ヨロシク!」

経路策定、敵性襲撃ポイント予測
ステルス性を活かして奇襲してくる公算が高い

であれば超音波、レーザー照射、電磁波による探査、サーモグラフ
辺りをリアルタイム演算検知
ヌルさんになら、その場でリンク接続で情報交換

UC【五光の神速疾走】を使用して、速度を維持したまま
高速戦闘機動で相手の背後をとって撃墜!
グラヴィティアンカーも利用してアクロバティックに!


ヌル・リリファ

リアさん(f04685)と

ん、ありがと。

わかった。まかせて。わたしはマスターの最高傑作だもの。リアさんにまけないはたらきを約束するよ!

リアさんが感知した敵がいる場所に光の武器をぶつける。位置情報があるなら。わたしのぶきはわたしのおもうとおりにうごかせるから、はずしたりしないよ。どこからきても平気。

……なにをしようがこわくはないかな。リアさんのイルダーナにのってるわたしたちになにかできるとはおもえないし。そもそも、なにかするまえに殺せばいいだけだもの。

わあ!すごいね!ふふ、なにかにのるのもたのしいな。(乗り物にあまり乗らないのでリアさんのアクロバティックな運転が楽しいようだ)


ヴァン・ロワ

【犬烏】
乗るバイクがないなら乗っていきなよオニーサン
その代わりた~くさん働いてね~

軽い調子でナンパして
先ずはバイパスで肩慣らし
ガンガンスピードをだして
曲がる時は月蝕の手をクッションがわりに
思いっきり体を倒してギリギリを
道具は使いようってね
免許?ああ、
ウンウン持ってる持ってる

広場を越えて
さぁ、ここが正念場かな?
結構いそうな気配がするよねぇ~
根拠?野生の勘
ってオニーサンも感じてるんでしょ
それじゃまぁ、生け贄の羊を探そうか
【君は子羊】で影に無数の目を
地形を利用するなら襲撃箇所は限られてる
アタリをつけて索敵しよう
来たぜ、右だ
俺様今手が離せないから
攻撃はよろしくね~

あとは思いっきり突っ切るだけってね


杜鬼・クロウ
【犬烏】●
ライダースーツ着用
順路:バイパス→広場→廃工場→メイン
襲撃は廃工場と推測

レース出てェケド運転…
ち、それで貸し借り無しだ

好奇心の勝利
駄犬のバイクへ2ケツ
八咫烏に騎乗時とは違う臨場感
目爛々
車の間を縫う運転テクに内心脱帽

つーか免許あンのな
ガキが偉そうに…(俺も取ろ

銀ピアス二つ代償にUC使用
剣を分解し二刀流
広場で襲われたら一方向目掛け十字斬り

…癪だがお前の勘は当たりそうだ
指図すンな駄犬が
オニーサンの実力見せてヤんよ

索敵利用
駄犬やバイク護衛
剣回し振り返り跳ぶ
周囲省みず玄夜叉に業火宿し少ない手数で息の根止める
敵や木を辿りバイクに戻る

メイン走る時は剣に風宿し追い風で更に加速
逃げ切る
障害物は叩っ斬る


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

起動術式、【怒りに燃えて蹲る者】
嵯泉を背に乗せて飛ぶ
正真正銘二人組だし竜は乗り物だ
何の問題もあるまい?

燃やす意志は「この街を守ること」
本当なら敵は殲滅したいくらいだ
振り落とされねえようにしてくれよ、嵯泉
はは、信頼には応えねえとな!

チェックポイントは一つ目から順に回る
襲撃の予測位置は一番目だ
迎撃は任せて私は飛ぶ方に注力しよう
任せとけよ、嵯泉
おまえに一番有利な位置取りにしてやる

見通しが悪いのは敵とて同じ
木々や茂みを避け、高速での低空飛行
第六感で敵がいそうなあたりの木々に当たりをつけて
飛びながら爪で薙ぎ払って撹乱してやろう

派手に暴れて良いよ、嵯泉
竜の鱗はそう簡単には傷付かねえ!


鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)同道
乗るものには違いあるまい
生体だと云うだけで拒むと?
……此方は強く、速いぞ?

護る事を信条とする身に此の状況は見過ごせん
心配要らん、落ちはしない
そもそもお前が振り落とす様なヘマをするとも思っていない

チェックポイントは1から順に通過
大きさと見通しの悪さから、襲うには1が有利と取るだろうが
此方は共に己の意志で動ける
任せたぞ、ニルズヘッグ

敵と定めたモノは総て的だ、逃がしはせん
戦闘知識からの位置や方向を先読みしたカウンターを使い
怪力乗せた迎撃を加え「襲撃者」を総て叩き潰してくれる
此の刃の内に近付けると思うなよ

では互いに全力で行くとしよう
何、最後まで鱗1枚傷付けさせやせんさ


ネグル・ギュネス
【アッシュ&ホワイト】
全く最強のナビが居たもんだ。
チューンナップしたスポーツカーで、ガンガン行くぜ!

第一ポイント!
ヴィクティムの能力で悟られぬよう、模範的な運転でスルー
障害物も綺麗にターンし、【騎乗】スキルの活かしどころ!

第二!
あらら、lucky!
車が退いたならば、ストレートはベタ踏み、カーブはドリフト気味に突き抜けっちまうからな!

第三!
お前なんちゅー仕込みしてんだよ
てか普通に運転の阻害──ああ、ったく!
サングラス掛けて、耳栓素早くしてから走る!

第四!
【勝利導く黄金の眼】起動!
最低限の障害は先読みして回避しながら、フルパワーでタコメーター振り切れ!

凄ぇGがくっから覚悟しろ!
さあ、振り切るぜ!!


ヴィクティム・ウィンターミュート
●【アッシュ&ホワイト】

まずは第一ポイントだ!
大丈夫だ、ここで奴らは俺達に"何もできない"
セット、『Dilution』
ルート選定に専心、マシンごとステルスにしてやる

次!第二!少々行儀は悪いが一般車両を【ハッキング】
強引に動かして道を開けさせ、敵の襲撃には壁のように配置して妨害

第三!予測される襲撃個所を選定!
右の仕込みクロスボウ展開、【目潰し】の【マヒ攻撃】──そう、爆音と閃光のフラッシュボルトだ!ネグル!耳潰れるぞ!指令はARで知らせる!
俺は内耳サイバネの音声選別フィルターで無効化する

ラスト!【ハッキング】でマシンパワーを最大までオーバーロード!
最後は速度で抜いてやれ!GOOOOOOOOO!!



●KILL YOUR SPEED.
「このオレを通さずそんな面白そうな悪事を働こうとか……。ムカつくので妨害します」
「お前毎回そんなこと言ってんな。そこ右。で、突き当りを左。左に曲がる辺りに木の根があるぜ」
 彼らは虚空を斬っていた。比喩ではない。彼ら二人はアッチェレランドの夜にただ広がり続ける虚空を、その軌道にて切り裂いていたのである。
 俯瞰して見れば分かることだが、彼らの運転は局所的に見れば荒い割に、大局的には実にスマートなそれであった。
「人間、だいたいの原動力は『悔しい』って気持ちなんですよ。無駄口叩いてる暇があったら集中してください」
「もう集中してる。そっちこそ、危ないからしっかり前見て運転しとけよ? そろそろ一般車両の列がこの先を通る。今のうちに加速してくれ」
 運転手は乱暴な運転で目の前の木立を無理やり反射で躱して避け、バランスを崩しそうな車体をハンドルワークと重心移動で無理やり立ち戻す。森を抜けて一般車両の陰に入ったかと思いきや、目の前を横切る自動運転車の列の隙間スレスレを無理やり加速して通っていく。
 このように、一つ一つのポイントだけで見るならば、彼らの挙動は余りにも杜撰であった。だがどうだろう。チェックポイントを二つ抜けてきて、彼らが今まで通った道筋を思い返すと――――。不思議なことだが、考え得る限りでの最短ルートを奇麗になぞっているではないか。
「誰に向かってモノ言ってるんですか。傭兵さんにしては生意気ですね」
「お前な……。もうそろそろ裏路地入るぜ。お客さんも来るみたいだ」
 思うに、彼らの運転は類稀な反射と集中力による操縦技術と、そして夜の道筋の中で何億通りもあるだろう中から、最適解を導き出せる技で成り立っているのだ。
 さぞかし高級なナビゲーションシステムと、じゃじゃ馬なギヤを積んでいると見える。思うにシャフトも特注性なのだろう。
「オレはああいう輩にお茶組みとかしたくないんで。対応は傭兵さんやってくださいよ」
「頼まれた中で、自分にできる分はやるよ。ナビも、砲台も、それから来客対応も」
 急激な加減速とそれに伴うギヤの切り替えを無理やりこなす運転手の実力は、成る程確かに一級品だ。恐らく彼は操縦以外のことを頭から抜き去っているのだろう。ひたすら夜の闇に紛れてバイクを走らせ、障害物は避け、一般車両の間を縫い、直線は全速力で走るだけ。止まるなどという事は一切しない。
 そして恐らく、後部座席に乗ったナビ担当の男――。こちらもかなり尖った思想体系を有している。彼は目でナビを行うのではなく、『耳で街中の状況を三次元的に脳内で再現して』、案内を行っているのだ。恐らくは反響定位。そうでなくては、運転手に下す指示の中に、まだ見えないはずの障害物や一般車両の配置を知ってなくてはできぬようなそれが成る訳がない。
 要約すると、彼ら二人がデザインした『速さ』のコンセプトは相当歪なのだ。だが、強烈な思想性も有している。何も知らぬメカニックが適当にマシンを組み立てたとして、このような『速さ』は出来上がらない。その思想性とは、即ち『効率重視』だ。
 乱暴な運転だろうが、最終的に帳尻を合わせるためなら構わない。どれだけ無謀に思えようが、最後に得を取れるなら構わない。彼らの走りはそういうものだ。
 テクニックの話ではない。コンセプトからして異常なのである。彼らが行っている走りは、つまり『操縦』と『ナビゲーション』の両面で、互いに相方が一度も失敗しないことを前提として初めて成り立つものなのだ。一度でもどちらかが自らの役割を果たせなければ、その瞬間二人は即死するだろう。
 狂っている。『ただの一度も失敗を許さぬ』ことからして異常ではあるが、それは『速さ』の世界においてはままあることでもある。彼らが狂っているのは、『それを互いの連携にて成し遂げようとしている』ことだ。
 彼らの走りは、『お前ならできるだろう』という信頼を互いが互いに持っていて、『効率重視』という視点で盤面を互いが全く同じ目で見ていなければ成し得ぬ狂気の産物だ。
 だが、それが良い。狂気こそ、速さの世界では必須のものだ。
 システム・オブ・アート。狂気によって成り立たせた、絶対論理の上でのみ成り立つ禁忌の芸工を、彼らはその身で駆っていた。
「そうやって、また……。毎度毎度良いカッコしいですね。気取り屋ですか?」
「お前も人のこと言えないだろ? 次で追いすがられても面倒だ、敵の多いルートにするぜ」
「チッ」
「舌打ちすんなって」
「…………ッ……」
「すげぇ静かに舌打ちしても聞こえてっからな?」
 路地裏の奥にある広場に行くにして、使える道は限られている。そして敵の数が多い以上、もはややり過ごすことも出来ぬであろう。であれば、方途は元より一つ。これきり終いの善後策のみ。
 元々、二人の猟兵は敵の襲撃が行われるならここだろうと踏んでいた。それは彼らが『不意打ちを行うのであれば路地裏が適しているだろう』とどこかで思ていたからかもしれぬ。だが、過程はどうあれ実際に敵はここで現れた。いよいよ以てやるしかあるまい。
 路地裏を走る二人の猟兵が乗っているのは、矢来・夕立(影・f14904)の【紙技・炎迅】によって作成された式神のバイク。重量対比率の面で見ればこれ以上ないほどの材料である。これなら確かに、異常な加速とハンドリングを両立させられるだろう。だが、ドライバーの安全は一切考慮されていないと見える。
 その後部座席で【六識の針】を発現させるのは鳴宮・匡(凪の海・f01612)。自らの感覚機能の一つを限界まで強化するその力で、彼はこのバイクのナビゲーションを見事に務めていた、という訳だ。脳への負荷を抑えるために嗅覚と味覚は完全に捨てているが、これはレースだ。多少計器が狂ったとて、走るのならば何の不都合もない。
 ――――そして、その時が来た。可聴域と感度を極限まで強化した匡の耳に、『スペクター』の到来を知らせる前兆の音のような何かが僅かに響いた。そして、彼にとってはその僅かで十分だった。
「来るぞ。スピードはそのままでいい、どうせ近づかれる前に墜とす。死体踏まないようにだけ気を付けてくれよ」
「何言ってんですか? 言ったでしょ、伝達までのラグはありますが、そのくらいの逆算はしてくださいねって。“全部言う通りに動かします”から、死体はオレが通らない場所に落としてください。何があっても、ブレーキだけはかけませんのでそのつもりで」
「ところでこれ、俺の方が負担デカくない? いや、いいけどさ」
「……ハ? 負担? 知りません。働いてください」
 ――瞬間、『BHG-738C"Stranger"』の発砲音が二度路地裏に響く。匡がいよいよ引き金を引いたのだ。それからややあって――、二体の死体が、はるか頭上から落ちて来る。落ちた場所はそれぞれバイクの左右前方である。『スペクター』の死骸だ。いずれも眼球に鉛玉を喰らって死んでいる。
 またしても発砲。発砲。発砲。発砲。
「夕立、2秒後に右に10度。次に左に6度。一拍置いてアクセル強めてくれ。その後落下音が聞こえたら左折。左折したら再度アクセル吹かしながら右に15度で」
「注文多いんですけど」
「出来るだろ、お前なら。合わせてくれ」
「……」
 四つの銃弾の一つは、これからビルの頭上から不意打ちを仕掛けようとしていた『スペクター』の額を射抜いた。四つの銃弾の一つは、夕立が曲がろうとしていた道の先に潜んで機を窺っていた『スペクター』の心臓を破壊した。
 四つの銃弾の一つは、ビルの横壁に設置されていた室外機に伸びるパイプの上で身を潜めていた『スペクター』の肺を壊した。四つの銃弾の一つは、地面に跳弾してすぐ背後まで忍び寄っていた『スペクター』の脳みそを抉った。
 瞬く間に六つの死体を作って、尚も二人の表情は変わらない。夕立はただ持ち前の『速さ』に任せて式神のバイクを走らせるだけ。匡はただ持ち前の『速さ』に任せて敵の位置を知り、撃ち抜くだけ。
 二人は全くスピードを落とさぬまま進み、匡が障害を一発も外さずに撃ち抜き、夕立が落とされた障害を全て躱してバイクを進める。ごくごくシンプルな――狂気の沙汰の産物だ。
「……なんで、……化け物……、か……!」
「超音波で気配を攪乱するってのは合理的だよな。――――相手に聴こえなければだけど。わざわざ位置を教えてくれるなんて親切なもんだ」
「化け物相手に喧嘩売るそっちが悪いんですよ。おとなしくレースにしとけばよかったのに」
 『匡は聴覚を強化していた』。それはつまり、『スペクター』の発する自身の気配を掻き消す超音波の放射、その中心がどこであるかを聞き取れるという事でもある。
 不意を突くタイミングで透明であることは、『凪の海』にとってのアドバンテージになり得ない。さらに言えば、路地裏に入る前に夕立はもう一つ細工をしていたのだ。意地の悪い細工を。
 それは、彼の式神を空に飛ばし、式神経由で匡へ上空からの情報を伝えること。『幸守』『禍喰』は空を飛び回りながら路地裏に潜んでその時を待つ『スペクター』の大まかな位置情報をあらかじめ匡に知らせていたのだ。
 敵の数を知っていた匡がやることは単純だ。敵が接近するか、待ち構えている敵を撃てるタイミングで撃ち、弾を相手の急所に当てるだけ。そして、夕立は逆算して生み出された匡の指示を的確に、どこまでも丁寧に、かつ荒っぽくこなすだけ。
 『それだけ』だ。特別なことなど何もない。スピードを出し、撃てる敵を撃って、躱せるものを躱して、ゴールするまでその全てをこなし続ける。『速度を落とせ』の看板の言う事なんて聞かなくて構わない。
 ――――簡単だろ? ゴール・インだ。 


●Make a Delivery.
「『Dag's@Cauldron』スペシャルオーダー、確かに承ったよ! モチロン……友達として!」
「ん、ありがと」
「妨害と回避はボクが。ヌルさんは攻撃ヨロシク!」
「わかった。まかせて。わたしはマスターの最高傑作だもの。リアさんにまけないはたらきを約束するよ!」
 二人の猟兵――あるいは、二機の、と呼ぶべきだろうか。さておき、その二人組は一つのバイクに身を預けて黒影が支配する街を進んでいた。
 二人が今歩を進めているのは、アッチェレランドの真ん中、四つ目のチェックポイントに繋がるメインルートの一角である。既にゴールは目前、後は暁闇の上で滑るようにその身を先へと投じるだけ。
 だが、そうはゆかぬ。その所業を、そう簡単に許さぬものがここにいる。過去からの残影、オブリビオン、『スペクター』。彼女らは、メインルートを進む二人を仕留めるべく街中の影から現れた。
 彼女らは、その手に無法の手管に不可視化マントという二つの武器を遊ばせて、猟兵を叩き潰さんとしてここに現れたのである。リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)とヌル・リリファ(未完成の魔造人形・f05378)、二人の力を試すためにだ。
「残念だけど……貴方たちを通す気は無いわ」
「『速い』だけの奴なんて、私たちの組織には不要なの。消えてくれる?」
「それが嫌なら、私たちに強さを証明して見せなさい」
「速さだけだと思ったら大間違いだよ、なにせイルダーナは、制宙高速『戦闘機』だからね! ヌルさん!」
「なんていうんだっけ、こういう時……。あ、わかった。委細承知」
「御託が済んだなら、死ねッ!
 言うが早いか、敵の一人がビルの頭上から自身の姿を消した上で飛び降りながらの奇襲に入る。一人は二人の背後からバイクで近づき、至近で攻撃を仕掛ける肚か。もう一人は先の道路中央で待ち構え、もう一人は横合いから一気にバイクで距離を詰めての体当たりを仕掛けようとしている。その行動は極めて迅速かつ正確で、間違いの一つ足りとて存在し得ない。
 人の身では出来ようはずもない所業を、過去の残影は軽々とこなす。当然だ。奴ばらめは人の道理を介さぬ悪鬼であるが故に、尚以て人を害する手練手管のみは削ぎ澄まされておるのだ。
 全く詰まらない。浪漫の欠片もなく、醜悪で、俗悪で、ただただ人の足を引っ張ることしかできない愚か者の策だ。 
 『そんなもの』に、リアの運転が、ヌルの迎撃が、劣る訳があるものか! 鼻を明かしてやれ、猟兵よ。貴殿ら二人は先に進み、過去の残影は未だ以て後ろに留まるばかり。彼此の差は言わずもがな離されていくだけのものであると、今この夜闇を照らす月の元、胡乱な敵に知らしめてやれ!
「経路策定、敵性襲撃ポイント予測。超音波探知、レーザー照射、サーモグラフ、振動探知、全てオン。数秒前との風圧の変化を察知、敵性オブリビオンの身体的特徴、及び武装から成る攻撃パターン予測完了、ヒーローズアースの世界法則感知終了。ヌルさん、リアルタイム演算検知並びに同期、開始するよ!」
「了解。……なにをしようがこわくはないかな。リアさんのイルダーナにのってるわたしたちになにかできるとはおもえないし。そもそも、なにかするまえに殺せばいいだけだもの。どこからでも、きなよ。どこからきたって、結果はかわらないから」
「ほざくなッ!」
 そして、ダンスが始まった。これはレースではない。そもそもレースとは、『相手』がいて初めて成り立つそれだ。誰かと誰かが速さを競う上で、ようやく形になる競技なのだ。無論一人で行うレースもあるだろうが、それはこのように他のものからの妨害を受けながら完遂しなくてはいけない代物ではあるまい。
 だから、これはダンスなのだ。方や姿を消して参加者に襲い射かかる無粋者と、ステルス性を活かして奇襲してくるだろうと予想していた洒落者の、これは一方的なダンスマカブルでしかない。ダンスが終わった後に、立っているのはどちらか片方でしかありえない、という話。
 まず最初に自身の持ち得る景気を最大限に利用して情報収集を行い、その上で背後に座るヌルとの直接的なリンク接続を行うことで情報共有を行うのはリアである。
 情報は何を行うにしたって重要なもの。エンゲージと同時に敵の手妻を明らかにしたリアは、それぞれの敵の攻撃に対して考慮しながら解決策を練り、そしてそれを言葉は介さずにヌルと共有していく。これがどれだけのアドバンテージであるか――――結果はすぐに現れた。
「『突撃形態(アタックモード)へ移行。いくよ、イルダーナ!』 【五光の神速疾走】!」
「『かけゆく閃光は暗翳をけしさり、乱立するひかりはうせたのぞみをてらす。―――【死斬光雨】』!」
 【五光の神速疾走】。リアのユーベルコードであるそれは、制宙高速戦闘機『イルダーナ』を変形させ騎乗する事で、自身の移動速度と戦闘力を増強する力。『速さ』と『強さ』の二つを同時に必要とするこの場面で、最も向いた力である。
 そしてもう一つ、【死斬光雨】。こちらはヌルのユーベルコードだ。自在に動かせる、実体を持たない光の武器を放つその技は、常人よりも遥かに高い少女の演算能力によってコントロールされることで、ただの武器から強烈な力へとその一面を変えていく。
 それからは後のことは、実に一瞬。まずリアは上空から襲い掛かってくる敵の狙いを僅かに外すため、グラヴィティアンカーを街の街頭に一瞬引っ掛けることでイルダーナの軌道を僅かに止め、敵の攻撃を避けると同時に背後に付いて見せた。
 背後を取る――。単純ではあるが、戦においてその効果は絶大なものがある方策の一つ。渾身の狙いを外されて戸惑った敵は、そのまま背後から伸びるヌルの光刃にて背面を切り裂かれ沈黙。『撃墜』、と言い換えても良いやもしれぬ。これで一人。
 二人の視界状況は、ダイレクトリンクによってリアルタイムで『情報』として共有されている。相棒の行動を目視で確認するまでもなく、リアは『敵だったもの』を避けながら再度加速し、横合いから体当たりを狙って突撃してくる敵のハンドル付近へ先んじてアンカーを飛ばし、敵の視界を少々遮って驚かせてやる。
 リアの狙いは妨害だ。敵の機体の速度が速くとも、こうして一瞬隙を作ってやれば、虚を突かれた敵の進行方向は真っ直ぐのみに絞られる。――そうなれば、式の組み立ても容易だ。ヌルの光刃を無理に当てに行かずとも、『光刃を敵の進行方向に置いておくだけ』で片が付く。これで二人。
 次にリアは、横に伸ばしたアンカーをしならせつつ手元に戻すことで眼前の道路標識に絡ませ、一瞬のうちにイルダーナを持ち上げながら空のラインを走ってみせる。狙いは勿論、背後から近づいてくるバイクの意表を突くためだ。背後から接近してきた敵の刃が、地上を走るイルダーナの影に向かってナイフを空振りさせたところで、ヌルの光刃が真下の敵を切り刻んでみせた。これで三人。
 さあ、最後のステップ。空中にて高度を落としながらも進むリアたちの着地点に、待ち伏せていた敵が先回りする。身動きの取れない彼女たちが着地した瞬間に仕留めるつもりか。
 ならばとリアは空中でアンカーを再度射出。狙いは待ち伏せを行っている敵自身だ。高速で放たれたアンカーを受けた敵に狼狽える間も与えず、着弾確認と同時にリアはアンカーの巻取りを開始する。
 地上で隙を狙っていた敵の呼吸を崩し、逆に空中へ無理やり釣り出して見せたのである。敵がイルダーナの前輪と熱いキスを交わし、ヌルが着地の際に邪魔にならぬようにと細かく刻んで、これで四人――フィナーレだ。
「わあ! すごいね! ふふ、なにかにのるのもたのしいな」
「お褒め頂きありがとうございます、なんてね。そっちもお見事! やるね、ヌルさん」
「位置情報があるなら。わたしのぶきはわたしのおもうとおりにうごかせるから、はずしたりしないよ」
「だから、どこからでも平気、って? 頼もしいね、このまま行こうか!」
 瞬く間に四人の敵を排除し、イルダーナが地上に着地して、二人の猟兵は互いに互いの手腕を褒め称えている。
 驚くべきは、この速度でも光刃のコントロールを一切乱すことのなかったヌルの腕前。そして、この一連の流れを経てさえ、最初の敵の攻撃を避ける以外では速度を全く落とさなかったリアの運転技術であろう。
 二人は互いの力を実にうまく用いながら、そのままどこまでも前へと進んでいく。猟兵は、足を引っ張り合って足を止めるのではなく、手を取り合って前に進むのだ。
 乗り物にあまり乗らないためか、リアのアクロバティックな運転に楽しげな笑顔を浮かべるヌルの顔を見て、更にリアは速度を上げていく。だが、いくら速度を上げてもイルダーナに不快な揺れは全くなかった。実に快適なドライブだったとすらいえるだろう。
 今回のドライバーにとって、『運搬』は慣れたものだった、という話。それに、これは『Dag's@Cauldron』が引き受けたスペシャルオーダーである。頼まれた物を不要に揺らすなど三流の仕事。一流にとっては、引き受けた仕事で顧客を楽しませることだって造作もない。
 ゴール・イン。


●A Three-Legged Race.
 話は今日の昼頃まで遡る。
 昼間の『Formula』の入団テストで行われていたレースの様子を、どことなく羨まし気に見詰めている男がいた。
「……参ったな、レースは出てェケド運転か……。免許、俺も取らなきゃな……」
 彼の名は、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)。元よりこれはアッチェレランドの非合法レース、免許など必要ではない。しかし、それでもそこを気にするのが彼という人物である。
 それに、クロウがレース参加を諦めかけていたのは、免許以上に実際的な理由もある。ズバリ、脚だ。バイクがないのである。そこを知ってか知らずか、クロウの後ろから現れて声を掛ける人物が一人。
「ねえ」
「……チッ」
「舌打ちで返事しないでよ、傷付くな~」
「何のようだ」
「乗るバイクがないなら乗っていきなよ、オニーサン♪ その代わりた~くさん働いてね~」
「……テメェ、どうして俺が……。……ち、まあ良い。それで貸し借り無しだ。テメェこそ、キッチリ走らせろよ。俺を後ろに乗せて、無様な走りなんて許さねェからな」
「ずいぶん強気だな~、俺様の協力が無ければオニーサンはそもそもレースに出れないんだけど? ……おごりね」
「ハ?」
「だから、おごりだよ。こないだみたいにさ、またランチ奢ってくんない? 高いとこのメシが良いな~」
「この、クソ……! …………上等だよ、クソガキ。テメェの運転が一端のモンだったら考えてやる」
 このように話はまとまった。軽い調子のナンパで『泥除け』を手に入れたのはヴァン・ロワ(わんわん・f18317)である。
 彼とクロウは元々既知であり、こうした会話は常の事であった。それに、この取引はクロウにとっても有用だった。何せ、ランチ一食分(奢るか奢らざるは別にして)で、焦がれた『脚』を見付ける迄に至れたのだから、これは僥倖であろう。好奇心に負けたともいうが。
 ――――舞台は、夜。
「オニーサンさ~、実際に走るのは俺なんだけど? 何そのカッコ~、ライダースーツってカッコ付けすぎじゃな~い?」
「うるせェ。人の格好のケチ付けてんじゃねェぞクソガキ。テメェこそレースなのに普通のカッコでよォ、やる気あんのかやる気は」
「ん~、少なくともオニーサンよりはあるかな」
「ああ言えばこう言うヤロウだ……」
 ヴァン、そしてクロウ。二人の作戦は至極単純かつ合理的である。バイクを運転できるヴァンが脚、そして手の空いたクロウが泥除けだ。運転やルート選択はヴァン、外敵や妨害への対処に対してはクロウが担う形。
 先ずはバイパスで肩慣らしとばかりに、自動運転車が大量に行きかうバイパスの中でもガンガンスピードを出していくのはヴァン。滑らかなアクセルワークで車の群れに開いた僅かな道を押し通り、見事なハンドルワークで車と車の隙間を抜けていく。
 時にカーブの角度がキツく、身体が倒れてあわや接触という場面でも、ヴァンは冷静に自らの影に寄り添う『月蝕』の手をクッション代わりに用いることで、急旋回時の路面との接触や、急加速した際にトラックと擦れ合うような場面を上手く乗り越えて見せていた。
「よっ、と……道具は使いよう、ってね」
「…………」
「あり? どしたのオニーサン、黙っちゃって。あ、さては俺様の運転に見惚れてたでしょ~」
 ヴァンが見事な技術を発揮しているその後ろで、時折自らが呼びだす八咫烏との騎乗時とは違う臨場感に目を爛々とさせつつ――――恐らく、鳥と車両における視点の高低差がそう感じさせるのだろう――――、ヴァンの車の間を縫う運転テクに内心脱帽しているのはクロウ。
「うるせェ。何でもねェよ。……つーか免許あンのな。ガキが偉そうに……チッ」
「メ……? ……免許? ああ、ウンウン持ってる持ってる。――さぁ、ここが正念場かな? 結構いそうな気配がするよねぇ~」
「ア? ……根拠は」
「根拠? 野生の勘。……ってか、オニーサンも感じてるんでしょ? 『ここだ』ってさ。それじゃまぁ、生け贄の羊を探そうか」
「……癪だがお前の勘は当たりそうだ。指図すンな駄犬が……。オニーサンの実力見せてヤんよ」
 『襲撃は廃工場近くの山道で』。奇しくも、猟兵とオブリビオンの両方がそう感じていた。暗闇に閉ざされ、街頭すらもなく、月明かりだけが孤独なライトであるそこは、深夜のダンスには丁度の良いホールであったのだ。
 バイパスを抜け、裏路地奥の広場を越え、そして役者はここに揃った。ヴァンとクロウの鋭敏な感覚は、既にダンスが始まっていることを捉えていた。まだ剣戟による金打音と、悲鳴によるビートは聞こえてこない。だが――――この雰囲気は余りに不穏だ。既に敵は攻め手を展開してきていると考えるべきだろう。故に、こちらも先手を打たれる前に動くべきだ。
 【君は子羊】。ヴァンの用いるユーベルコードの一つであり、影に潜む無数の眼を召喚する力だ。彼は整備の整っていない山道で無数の岩や茂みを避けつつ、怪しげな場所を探るため影に目をバラ撒いていく。
 幸いと言うべきか、山道は曲がりくねっていて傾斜はあるものの、ほとんど一本道といえる。故に、敵が地形を利用するのであれば自ずと襲撃箇所は限られてくるもの。幾らでもアタリは付けられる。例えば――。そこの、少し曲がった後にある木立の影とか。
「来たぜ、あそこ曲がって右の木だ。俺様今手が離せないから、攻撃はよろしくね~」
 移動速度は十分。索敵はもう存分に済んでいる。これはつまり、『待ち伏せのアドバンテージが消失した』ということでもある。そもそも待ち伏せとは、移動を行う対象へ奇襲を行うことによって不意を突き、一撃のチャンスを見出すというもの。
 だが、もうそれは通じない。最早この状況で敵は猟兵の不意を突けないからだ。ヴァンの目は、鼻は、勘は、既に敵の位置を看破した。だからこれはもう、待ち伏せではなく打ち合いなのだ。
『神羅万象の根源たる玄冬に集う呪いよ。秘められし力を分け与え給え。術式解放(オプティカル・オムニス)──我が剣の礎となれ!』
 【無彩録の奔流】。クロウが身に着けているアクセサリーや小物を、代償にした物に応じた力を持つ黒魔剣に変じさせるという力。クロウは今回、銀ピアス二つを代償にした。
 銀の呪物は月の下で力を発揮し、銀は闇夜の中でなお輝きを増す。そしてなによりも、銀は魔を除ける力を有している。この状況で過去の残影たるオブリビオンに振るうには、勿体ないほどの力だ。
 剣を分解して二刀流に構えたクロウは、ヴァンの駆るバイクが『襲撃箇所』に近付くや否や、後部座席を蹴って――――森の中に跳んでみせた。
「上等。テメェばっか働かせンのも飽きてきたとこだ。……オラよォッ!」
「ッ、ッ!! ……! 不意は、付けないって、わけ……」
「それなら、バイクの方を数で囲めば――ッ!」
 それで焦るのは敵の方である。バイクの不意を突こうと構えていた矢先、まさかバイクから跳んで先制を行う輩がいるとは夢にも思っていなかっただろう。
 クロウの動きに翻弄され、敵は一瞬動きを止めた。そして、それで十分だった。クロウは空中にて両の腕をクロスさせつつ、柔らかな手の内から敵のいる木立に向かって二刀による十字斬りを放ってみせた。『木立ごと』、敵を斬ってみせる肚だ。
 ――ほんの一瞬の間を置いて、クロウの斬撃の結果が現れる。斬れ味が良すぎるツルギは、時に斬った対象に懺悔の時間を与えるもの。木立は奇麗に四分割されて沈黙のうちに身を伏せ、その奥に潜んでいた『スペクター』も、首元に十字赤い線を浮かび上がらせながら影に消える。
 猟兵たちを不意打ちでは倒せぬと悟った『スペクター』たちは、もはや隠れることを止めてヴァンの駆るバイクの方を包囲していく。二、四、六、まだいる。――しかし、無意味だ。
「――ま、全部見えてたんだけど。ね、オニーサン。斬る順番、教えてあげた方がいい?」
「クソガキは黙って運転してな。俺を無視するとはよォ、『障害物』のクセに生意気じゃねェか」
「――ウソ、あの態勢から――どうして、一瞬でここまで――――ッ!」
 クロウは待ち伏せていた敵を斬り伏せた後、空中で縦に半回転しながら斬った敵の胴体を蹴って再度跳躍。ヴァンのバイクを襲おうとしていた敵の背後に圧倒的な速度で追い付くと、まずは手にした二刀で敵の首へ袈裟斬りを放っては敵を黙らせる。
 そしてそのまま視える位置にいる敵二体の頭を狙って両手のツルギを投擲し、二つの頭を斬り落として、これで三人撃墜。
 間を置かずクロウは足元の岩を蹴りながら加速しつつ、やや離れた場所にいる敵に対しては先ほど両断して空に浮いたままの敵の胴体を掴み、そのまま投げつけることで動きを止める。
 敵が怯んでいるうちに玄夜叉に業火を宿し、相手の心臓に突き入れてトドメを刺し、次のステップでヴァンのバイクに立ち戻ったクロウは、後方から飛び掛かってきた敵の一群を慣れた手つきで薙ぎ払ってみせた。
「まだ――――ッ」
「まだ、はもうないんだよね~。こうなっちゃえば、あとは思いっきり突っ切るだけってね。それじゃ、バイバ~イ」
 クロウが前半のヴァンの運転に負けぬ鮮やかな手並みを魅せたなら、その次の手番はヴァンである。彼は後部座席にクロウが戻ってきたのを確認すると、まだ追いすがってこようとする敵に泥を跳ねさせながら急加速。
 そのまま敵との距離を離してメインルートへ一気に逃げ切り、見事敵を撒いてみせたのだ。クロウが生み出した追い風による加速もあるだろうが、山道で一気に加速を行うのはマシンパワー以上に腕がいる。ヴァンもまた、人並外れた猟兵であるという事だ。
「で、どうだった?」
「……アア?」
「やだな~、おごりの話に決まってんじゃん! もちおごってくれるでしょ?」
「……考えとく」
「ハ~イ、ゴチで~す」
「考えとくっつってんだろがクソガキ!」
 ゴール・イン。


●Chase The Dragon.
「起動術式。幻想展開――、【怒りに燃えて蹲る者】」
「貴様らの乗り物は『それ』? ……ハッ! 醜いわね。何かと思えば竜などと! 車でもバイクでもなく、それとはね!」
「その翼でどこへ行こうというのかしら? 貴方たちの『速さ』なんかで、私たちの追跡は振り切れないことくらい、貴方たちだってわかっているでしょう?」 
 良い機会だから、ここで一度整理をしておくことにしよう。
 今回のレースのルールは簡単。アッチェレランドの街中にある四つのチェックポイントを全て回ることでゴール。何から回るかは参加者の自由だが、クリアタイムに響く可能性があるので、ルート選びは慎重に――――。というのが、このレースの一応の建前。
 その実、このレースの正体は『スペクター』たちによる実力者を炙り出すためのテストに過ぎない。彼女たちが『Formula』のメンバーに求めているのは、何を置いても『強さ』のみ。粋もいなせも速さも何も、彼女らにとっては価値がない。
 このルールに詳細な規則が存在しないのはそのためである。クリアタイムを図るとは言っても、『スペクター』はゴールする気がないのだからその数字にもほとんど意味はない。武器の持ち込みなど禁止するはずもないし、車両の改造など今更過ぎる話だからだ。
 故に――。ユーベルコード、【怒りに燃えて蹲る者】の効果を用いて、四肢持つ有翼の黒い蛇竜とその身を変じさせたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)に跨り、塗り固められたような暗闇が支配する森を駆ける鷲生・嵯泉(烈志・f05845)たちの行いを、誰も咎めることなどはできなかった。
「人が乗るものには違いあるまい。生体だと云うだけで拒むと? ……此方は強く、速いぞ?」
「どうとでも言え。こっちは正真正銘二人組だし、竜は『乗り物』だ。何の問題もあるまい? ――嵯泉」
「応」
「聞かせてくれよ。俺たちは奴らに劣ると思うか?」
「否だ。現今、森の静寂を初陣の友とし、敢えて速度を落としてやっているのも、全ては矮小な蠅共を潰してからレースに挑まんとしての事に過ぎない」
「聞かせてくれよ。俺たちは奴らよりも弱いのか?」
「否だ。人と竜が手を合わせた戦においての勝率の高さは、数々の物語が証明している。無論、この戦いも、私たちの勝利で終えて見せよう。神仏に願う迄もない」
「聞かせてくれよ。俺たちは奴らに負けると思うか?」
「断じて『否』だ。速さの面でも、強さの面でも、私たちが奴らに負けることはあり得ない。信条も無い過去の残影に、私たちが負ける道理は万に一つもありはしない」
「――クク――ハハハハ! 良く吠えたぜ人間! 俺が燃やす意志は、『この街を守ること』! 本当なら敵は殲滅したいくらいだ――出し惜しみは無しで行こうぜ!」
「……フ。良いだろう、こちらから追うことはすまい。だが、この目に入った敵は落とす。護る事を信条とする身に此の状況は見過ごせん。お前の翼を貸してもらうぞ、ニルズヘッグ。私はお前と共に飛ぼう」
「は、信頼には応えねえとな! ――振り落とされねえようにしてくれよ、嵯泉!」
「心配要らん、落ちはしない。そもそもお前が振り落とす様なヘマをするとも思っていない。委細任せたぞ」
「上等! ――――行くぜッ!」
「応」
 彼ら二人が宙を舞う舞台に選んだのは、廃工場へと続く山道である。瓦礫土くれ林の梢、その他すべてが高速で駆けるに当たり邪魔になる難所だ。
 見通しは極めて悪く、通れる道や隙間もほとんどありはしない。整備されなくなって久しい廃工場への道を通るものなど、『命知らず』しかおらぬ故、当たり前ではあるのだが。
 常人であれば、ここは大人しく静かに通ることで敵の監視から身を隠し、この次につながるバイパスや裏路地、もしくはメインルート辺りでの敵の迎撃を考える場面である。何を置いても、ここでの争いは『危険』だからだ。ただのレースでさえ命を落としかねない危機が転がっていて、二束三文でも売り払えないというのに、増してや命のやり取りなど。
 だが――それでは、うざったい蠅共を落とすまでは、少なくとも道中を共にしなくてはならぬ。だが、『それは通らない』。ニルズヘッグも、嵯泉も、街の敵を目の当たりにしながら己の身を隠すという所業を行うに耐えかねる肚を持ってはおらぬ。
 『街を守る』。それは言い換えれば『人の営み』を守るという事だ。二人の芯金に共通しているのは、正にそれである。彼らはその信条を武器に災厄と戦うが故に、災厄を前にして逃げ隠れる道を知らぬのだ。
 だから往く。危険であるなど知ったことか。いや、知っていたとてそれがどうした。ここには我が爪と友がいる。ここには友の翼と剣がある。不足は今以て何もなし。やるしかないのだ。生来、彼らがそういう生き方である故に。
「本当に馬鹿なのね! 貴方たちの機体の『図体の大きさ』ときたら、まるでこの森を駆けるに適していないのに!」
「見通しが悪いからって、もしかして逃げやすいとでも思ったのかしら? むしろね、この見通しの悪さは私たち襲う側に有利なのよ!」
「――そちらがそう思うことなどお見通しだ。此方は共に己の意志で動ける。これが果たしてどう左右するか――その身を以て知るが好い」
「皆まで言うな、任せとけよ、嵯泉。おまえに一番有利な位置取りにしてやる。今だけは、俺がお前の脚指になろう。俺とお前の二人掛かりで、敵を斬るための一刀を練るぞ!」
 事態を確認させて頂く。
 嵯泉とニルズヘッグは、廃工場に繫がる森の中で木々の隙間や茂みの上などに道を見出しながら進んでいる形だ。敵の位置詳細は分からず終いである。
 対して『スペクター』共は、猟兵たちが飛来する様子を随時確認しつつ、茂みの中や木々の上、岩の影などに身を潜めて彼らを待ち伏せている形になる。
 この場合、当然ではあるが有利であるのは『スペクター』の側だ。戦場において、敵の位置を一方的に掴んでいるという事実は相当大きなアドバンテージを生む。
 更に言えば、情報の面で先手を往かれている以上、先制権を有しているのも敵方である。先制攻撃は何を置いても最も有効な防御策だ。先に敵を叩き、その一撃で敵を沈黙させられるのであれば、それ以上のことは無い故である。
 つまり、ニルズヘッグと嵯泉は些か厳しい状況にあるという事だ。反撃の機を練るにせよ、まずは見えぬ敵からの攻撃を防ぐことから始まるためである。今はまだ四分六分の差ではあるが、現状の優劣の流れを良しとすれば、いずれ押し切られての敗北は必定。故に――。
 『一手』を加える必要があった。敵の位置を看破し、さらに言えば、こちらの先制攻撃を可能にするための一手が。そしてそれは――ニルズヘッグが行わんとする方策そのものであった。
「……ニルズヘッグ。あちらの木々の裏が怪しい。不意打ちに向きすぎている」
「――ッ、そこかァッ!」
「――――ハ――――何で――――?」
 瞬間、ニルズヘッグの一手で状況は逆転に至る。そもそもの話――見通しが悪いのは、敵とて同じこと。奴らは互いの密な連絡と、ニルズヘッグの飛来する『音』を頼りにして猟兵の位置を予測しているに過ぎない。
 詰まり、『こちらの行動の詳細を見て取れる』訳ではないということだ。この闇の中であれば当たり前の話である。そして、敵が音によって猟兵がいる『何となく』の位置を掴めるように、嵯泉の『戦闘知識』が、ニルズヘッグの『第六感』があれば、『敵の何となくの現在地』を知ることも可能であるのだ。
 木々や茂みを避けながら、高速での低空飛行を行っていたニルズヘッグは、嵯泉の予測と合わせて自らも怪しいと踏んだ木々に当たりをつけ、飛来しながらその爪で薙ぎ払い、敵が隠れるための遮蔽物を無くしながら距離を詰めてみせたのだ。
 環境の激変に攪乱された敵がその身を一瞬止めたなら、嵯泉の刃がその隙を見逃す筈もない。
「派手に暴れて良いよ、嵯泉。竜の鱗はそう簡単には傷付かねえ! 『生半可な刃が通ると思うな』!」
「では互いに全力で行くとしよう。何、最後まで鱗1枚傷付けさせやせんさ。敵と定めたモノは総て的だ、逃がしはせん。此の刃の内に近付けると思うなよ。『残らず叩き潰す』」
 赤い双眸が隠れた敵を見付けだし、カウンター気味に振り下ろされた怪力を伴う薙ぎ払いが、『襲撃者』の総体を総て叩き潰していく。
 【破群領域】。鞭状に変形させた刃での乱打を放つその力は、この状況にあってむしろ破壊力を増す技だ。ニルズヘッグの翼によって生み出された揚力の全てを、打撃に転じる力へ変えて放たれる鞭打のような斬撃は、打ち据えるに留まらず敵の身を刻んでいく。
 茂みに隠れた敵は翼の風で炙り出し、振り下ろす形での袈裟斬りが敵の上体を完膚なきまでに破壊する。木々の上に潜んだ敵は、竜の爪が幹ごと打倒した際にその位置を看破され、腰元からの斬り上げにて胴体と泣き別れていく。
 岩の裏は竜の爪が諸共に崩し、梢の懐は容赦のない斬撃で木っ端みじん。過去の残滓が恃む夜闇にもはや隠れるところなどなく、彼女らが月の裏側の影に隠れたとて、命の保証は出来かねただろう。
「まだだ! まだ行くぜ!」
「まだだ。まだ行くぞ」
 二人は真っ直ぐ廃工場に進みながら、隠れたオブリビオンたちを斬っていく。そして進む。進む。進む。速度は異常の域に達しているが、止まる気配は見受けられない。
 ブレーキは無しだ。何故ならそもそも、このマシンにブレーキは付いていないのだから。このままどこにだって行けそうだ。ゴール・イン。


●Depress The Accelerator.
 『静寂』がその道を支配していた。
 比喩ではない。何も聞こえぬのだ。月光のみが視界を得るための灯りであるここ、廃工場へと向かう山道において、視界のみで何かを成そうとする者はいない。
 それは敵も味方も、どちらにとってもの話である。猟兵たちはここを通る際、聴覚やレーダー、第六感などの様々なものを視覚の代用感覚器に置き換えることで進み、そしてまた敵もここで猟兵たちを待ち構えるにあたっては同じくであった。
 しかし、本当に――。異様に静かだ。何処にも誰も存在しないかのようだ。ここにはただ敷き詰められた闇と、鬱蒼とした森だけがある。敵でさえ、余りに平常過ぎて警戒を怠めてしまったほどだ。
 だれも、ここを『彼ら』――――『アッシュ&ホワイト』が通っているとは思わぬだろう。それ程に、この森には誰の気配もなかったのだ。
「マジかよ? あちらさんはもうこの辺りに待機してるはずだろ?」
「マジだって。大丈夫だ、ここで奴らは俺達に"何もできない"。セット、『Dilution』――――。俺はルート選定に専心する。マシンごとステルスにするから、とにかく丁寧に走ってくれ、チューマ」
「ま、その辺は信頼してるさ。確認みたいなもんだ。とにかく、森を抜けるまでは静かに動くってことで良いんだよな?」
「そうだ。雪が積もった冬の平原みたいに、静かにだぜ。チルなドライブといこう」
「こっちは車だぞ? 無茶を言ってくれるな、全く。――やってみせれば良いんだろ?」
 誰にも知られず――――当人と相棒を除けば、の話だが――――、一つのユーベルコードが静かにその力を発揮していた。
 【Stealth Code『Dilution』】。『アッシュ』が非戦闘行為に没頭している間、プログラムが起動し、指定した味方全員が如何なる存在にも知覚・干渉されなくなる――――。これはそういう類の力。
 其処にいても、誰も気づかない。此処にいても、誰も触れられない。故に、真の意味で、彼らは何処にも居なかったのである。森の中で誰にも気づかれなかったのだから、誰にとっても彼らは存在しない者のまま。
 彼らは何かへ干渉しない限り、誰にも存在を気付かせない。この時のためにチューンアップを重ねたスポーツカーを駆る『ホワイト』が、全ての岩を、茂みを、木の枝を、小石を。『全てを躱して』車を走らせる限り、彼ら二人は森の奥で眠っている闇と同質の存在。何にも触れず、誰にも気付かせず。その所業は、まさに幻影(ファントム)のそれである。
 結局、森で警戒に当たっていた『スペクター』たちは、最後まで『アッシュ&ホワイト』の存在に気付くことは無かった。それで良い。誰も幻の如くにある影には気付かないのが普通なのだ。第一ポイント、クリア。
「……ふゥ! しかし、チートみたいなモンを引っ張り出してきたもんだな? 全く最強のナビが居たもんだ」
「お褒め頂き恐悦至極だぜ、シャグはハッカーの基礎の基礎だからよ。……さて、お次は華々しくハックといこうか」
「こっからはベタ踏みで良いんだろ?」
「良いぜ。ミサイルみたいに飛ばしてくれよ、クエイカーズ」
「――そうか。そういうことなら、ガンガン行くぜ!」
 森を抜け、山道を抜け、二人はいよいよ第二ポイントであるバイパスにまでやってきた。『ホワイト』ことネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)が、いよいよその本領を発揮する。
 今までのアクセルは速度をコントロールして、あくまでも静かに、丁寧に走るためのものだった。しかし、今はもう違う。ナビからの許可も下りたのだ、ここで速さを追求しなくてどうする?
「外付けの回路でオートになってンなら、そこの電波に介入すりゃやりようはある! 少々行儀は悪いが――!」
「あらら、lucky! コイツは良いな、目の前が一気に広くなった! それなら――遠慮は抜きで!」
「ッ、何……ッ?!」
「どうして、コイツら、今までどこに――――!」
 『スペクター』が彼らの存在に気付いたのはそこからだ。込み合っていて速度を出しにくいバイパスを『アッシュ』ことヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)のハッキングが支配する。物資輸送のために夜間も動いていた無人トラックの群れがその動きを変えたところで、ようやく敵は猟兵の存在に気付いたのである。
 ヴィクティムは所狭しと走り回る一般車両に付けられた『Axel』をすぐさま解析し、この自動運転が地下サーバーからの命令によって成り立っていることを知ると、その命令を書き換えるべくハッキングを行ってみせたのだ。
 『空いた路線を走れ』は、『とにかく真ん中を開けろ』に。『いつでも安全に、街のために走れ』は、『とにかくこの一瞬だけは俺たちのために走れ』に。コイツらがプログラムと電波によって動かされているのなら、それは即ち電脳魔術師が介入する余地があるという事に他ならない。
 彼は見事なハッキングの末に無人トラックの列を強引に動かして道を開けさせ、敵の襲撃を防ぐように、敵の視線を妨げるように、壁のように配置することで敵の追跡を妨害してみせたのである。電脳の曲芸師に、不可能は無い。
 そして車が退いたならば、お次はドライバーの出番である。ネグルの駆る車は、バイパスにおいて何よりも速く、王者のような風格でそこを過ぎ去っていく。
 彼の前では全ての車が国民の如くに道を譲り、そしてまた全ての車は臣下のように敵の邪魔を行い始める。ネグルのストレートはベタ踏み、カーブはドリフト気味に突き抜けていく運転に、敵はどうあがいても追いつけやしない。第二ポイント、クリア。
「そこまでよ……! バイパスじゃ上手くやったみたいだけど、もう逃がさない……!」
「貴方たちはここで死になさいッ! 裏路地で、ひっそりとね!」
「来たかよ、揃いも揃って工夫の欠片もない面構えだ! ネグル! 耳潰れるぞ! 指令はARで知らせる! 詰まらないウィルソン共に一泡吹かせてやろうぜ!」
「……ッ、おい! お前なんちゅー仕込みしてんだよ! てか普通に運転の阻害──ああ、ったく! ちょっと待ってろ……良いぜ! 『やれ』!」
『応よ!』
「えッ……?!?!」
「あッ、が……ッ、ッ」
 今の状況はこうだ。裏路地を進み、広場へと向かう二人を、『スペクター』たちは待ち伏せている。広場の影、ビルの上、広場の出口の近く。とにかく『スペクター』は至る所にその身を隠し、猟兵が訪れるのを待っていた。
 また、バイパスからの『スペクター』たちもネグルたちの後ろから列を成して追っている。足を止めることはできないという訳だ。『伏せ』と『追い』。その二つを組み合わせて、猟兵を逃げ場のない場所に追い詰めるのは悪くない戦略であるように思える。
 だが――。ヴィクティムにとって、そんな作戦は下の下でしかない。どこまでいっても、彼女たちのこの作戦は急ごしらえで作り上げた粗悪品であることは、幾ら形が良く見えたとて分かり切っている。
 予測される襲撃個所を選定。窓から片腕のみ出し、右の仕込みクロスボウ展開。矢筈に仕込むのは二つ。『目潰し』、それから『マヒ』。──これはそう、爆音と閃光のフラッシュボルト。粗悪品には消耗品で対処してやればいいだけだ。
 作戦を直前で聞かされたネグルが急いでグラサンと耳栓による対処を行い、ヴィクティムは内耳サイバネの音声選別フィルターでデバフを無効化して。彼らの駆る車が路地裏奥の広場に登場し、それを見た敵たちが一斉に襲い掛かって――。
 ――BLAM! 静寂、ハッキングときて、今裏路地を支配したのは閃光と爆音の狂騒曲。FLASH IMPACTをまともに受けた敵は全ての感覚を狂わされ、たちまち追跡能力を失っていく。第三ポイント、クリア。
「ここまで来るなんて――――ッ!」
「いい加減に、死ねッ!」
「ラストだぜネグルッ! ハッキングでマシンパワーを最大までオーバーロードさせてやるッ! 最後は速度で抜いてやれェッ! GOOOOOOOOO!!」
「勿論だ、ここからは凄ぇGがくっから覚悟しろ! さあ……。全て、――――振り切るぜ!!」
 第四ポイント、というよりもゴール前のホームストレートに到着した彼らは、最早小細工を弄しない。
 ゴールの方から、『スペクター』が二人、バイクで道を逆走しながら迫ってくるのが『視える』。そう、ネグルには全て『視えていた』。
 自らのゴールへの辿り着き方も。敵のゴールが、絶望であることも。
 【勝利導く黄金の眼】――。超高速演算により、近未来予測を可能にするこのユーベルコードが起動した今、もはや最後の見せ場は決まっていた。
 アクセルはひたすらに踏みっぱなし。最高速を越えて、タイムレコードを更新するようにただただ速さだけを求めて今は行く。敵の襲撃が来る。一台目は真っ直ぐこちらに体当たりを仕掛けてくる肚か。そうはさせない!
 ネグルは車の最高速を維持したまま僅かにハンドルを左に切り、車体を左へ傾けたかと思うと――瞬く間に右ハンドルを全開にし、わざとタイヤを滑らせながらの一回転にて敵のバイクの突撃を見事に避けて見せた。無論、どのタイミングでもタコメーターは振り切れ、ネグルをアクセルを踏み切っていることを証明している。
 更に続く二台目には、道路の僅かな突起にわざと片輪を乗せて車体の片方を上げ、片輪走行を行うことで敵のバイクの突撃を最小限の減速で回避していく。ネグルの未来予知と類稀な運転技術、ヴィクティムのハッキングによるマシンパワーがあって初めて成り立つ人類未踏の技だ。
「な、え――?」
「嘘、でしょ……?」
「――――ナイス運転。タイム、聞きたいか? メインルートに入ってからのホームストレートのみの記録だけどよ」
「――――そっちこそ、ナイスナビ。ああ、気になるな。どんなもんだった?」
「……9.8秒だ。アッチェレランドのドラッグレース記録、0.2秒塗り替えだぜ」
「……フ。悪くないな」
 街の記録を塗り替える程の走りを見せ、敵の攻撃を全て躱しながら『レース』を続けることで、彼らは『スペクター』の自信を完膚なきまでに打ち砕いたと言って良いだろう。
 妨害も邪魔も、『速さ』が支配するストレートにおいては何の意味もなかった、という話。ゴール・イン。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『黒龍』

POW   :    “黒雲翻墨既遮山”
【機体内部に格納していた鋼の四肢を解放する】事で【格闘戦形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    “灰雨跳珠亂入船”
【随伴ドローン機と翼下の副砲】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    “卷地光來忽吹散”
【機首】を向けた対象に、【機首下の主砲から発射される緑色の光線】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フォルティナ・シエロです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●The Race is On!

「そンで……お前らが今回の新入りって訳だ! ハハ! 良ィ~~ねェ、どいつもこいつも速そうで最高じゃねェか。……皆まで言うなよ、俺には分かってる! お前らが猟兵だろうってことは、もうとっくにな! ここまで来てそれを知らないなんざ、ただの馬鹿だろ! ……あー……」
 『Formula』への入団テストは、大きく分けて二つのやり方があった。
 一つ目は、昼間に行われたタイマンでの自由形レース。こちらの相手は、誰もが『速さ』こそに価値を置くスピード狂いたちだった。
 二つ目は、深夜に行われた集団でのサバイバルレース。こちらの相手は、『速さ』について何もかも理解しようとしないオブリビオンだった。
「いや、ちょっと何を言うか悩んでてな。あ~……。ともかく、そうだな。昼間の奴ら! お前らのレースは街中に設置されてるカメラから、モニター越しで全部見てたぜ! いや、クソ最高だったな! お前らの誇る『速さ』ッてもんを堪能させてもらってたぜ。ここはアクストンの工場さ。今じゃ、サーバールームなんて名前が付けられてるけどな。結構前に俺らが見つけて、ちっとばかり間取りを変えさせてもらった」
 ここまで来た猟兵たち――――いわゆる、『入団テスト』をくぐり抜けてきた君たちは、どこかに連れてこられていた。
 ここは街の遥か下。街のメインルートを越え、裏路地を抜け、バイパスを通り過ぎて、廃工場に隠された巨大なエスカレーターで移動する地下空間。
「で、次に……。あ~~~……。いやァ、悪かったな、夜の奴ら。アイツらは一応俺の部下ではあるんだが、どうも……なんつーかな、クソつまんねえんだよなァ。硬すぎるっつーか、粋じゃねェっつーか。楽しむってことを知らねーからよ、クソみたいなレースになっちまうんだよなァ。ともかく、お前らの『速さ』は見せてもらったよ。良く生き残ってここまで来たもんだ、褒めてやるぜ」
 ここは、アッチェレランドの全自動車化を成し遂げた、夢のような装置――――『Axel』の、地下サーバールームである。
 だが、どうやらそれだけじゃないらしい。エスカレーターから降りた君たちの目に広がっていたのは、途轍もなく巨大な『レース場』であった。恐らく、レース場の真ん中に存在するやたらに大きな塔のようなものが、『Axel』の中枢であるサーバーなのだろう。
「まァ、ともかくだ。お前ら、ここに来たってことは……俺とバトりたいんだろ? アッチェレランドの『Axel』って仕組みをぶっ壊そうとする、俺を始末するように言われてるんだろ?」
 見れば、ここにあるのはそれだけじゃない。レース場の周りには、観客席のような設備も存在しており、そこにはすでに何人かの人間が座っていた。
 まるで、今からここで始まる『レース』を心から楽しみにしているような表情で。
「しかし、コトはそう単純じゃないぜ。この事件は、『俺を殺してハイ終わり』、じゃないんだ。例え俺が死んだって、俺の後を継いで『Axel』をぶっ壊そうとする奴はいくらでもいるよ。それが新しいオブリビオンなのか、ヴィランなのか、一般人なのかは知らねェけどな。だから――――やろうぜ。俺と最後のレースだ」
 やはりそう来たか、と思った猟兵もいるだろう。しかし、事ここに至って話は実にシンプルになった。
「簡単だ。お前らももう気付いてるだろうが……、オブリビオンじゃねェ、『Formula』の普通の構成員共は、『速さ』に――――『俺』に、魅入られちまったんだよ。だから、ただ俺を殺したところで事態の根本は解決しねェ。お前らが真にこの事件に向き合うなら、お前らは、『俺の速さを越えなくちゃ』ダメなのさ」
 その通り。敵が言うのは、つまりこういうことだ。
 こちらにも、『速さ』という主義主張がある。それを無視しての暴力行為で首魁を殺したとして、『Formula』のメンバーは非合法なレースを止めないだろう、ということ。
 ここにいる全員を強制逮捕と言うてもなくはないが、問題は山積みだ。そもそも、構成員はここにいる人物のみなのか? 逮捕したとして、心からの改心が期待できるのか? などなど。
「分かったかい? 『レースでお前の速さを証明しろ』ッてこった。俺も、どうせ戦って負けるなら俺より速い奴と戦いてえ。その代わり、お前らが遅かったり、レースを楽しんでなきゃ――容赦しねえぜ? その時はオブリビオンらしく、どんな方法を使ってでも今ここで『Axel』のサーバーをぶち壊す」
 つまり、地下サーバー場に設置されたレース場は『敵』なりのバトルグラウンドであると同時に、地下サーバーは人質のようなものであるのだろう。
 オブリビオンがその気になれば、いつでも彼はサーバーを破壊できるということだ。口ぶりを聞く限り、猟兵たちがレースを楽しみながら行えば文句はないらしいが――。
「……俺はよォ、今のアッチェレランドが嫌いなのさ。『Axel』なんてクソみたいなシステムで、今じゃ手動運転は金持ちの道楽だとォ? ふざけんな! 『速さ』はンな規則正しいお利巧なもんじゃねえだろうが!」
 敵の口調から察するに、恐らく敵は『この街の人間が安全や平和を得たこと』についての憤り――いわゆる、『オブリビオンとしての性』よりも、『この街の速さに首輪が付けられたこと』の方に憤っているらしい。
 オブリビオンになる前の人間的な性格の影響が強いのだろうか。彼から伝わってくるのは、『純粋な速さへの執着』と、『レースに対する期待』であった。無論、猟兵たちが負けてしまえば、敵は予告通りにこの街を狂乱の底に沈めるだろう。オブリビオンとしての軸はブレていない、という訳だ。

「――さて、枕が長くなっちまったなァ。やろうぜ、ベイビーズ。俺に、『お前らの速さを見せてみろ』。『お前らにとって速さたァ何なのか』? 『俺の主張に言いたいことはあるか』? 言いたいことがある奴は、レースの合間にでも喋っておきなァ」
 敵の話から察するに、もしも『速さ』について表明したいことがあるのならば、言葉と行動で証明しろ、という事らしい。だが、時間は有限だ。レース中ともなれば、それは余りにも短い時間である。
 『もしも誰かに言いたいことがある場合、一つに絞った方が良いだろう』。それが主張なのか、速さへの思いなのかは人によって違うだろうが、言葉を練りたければそうするべきだ。それが、自分の立ち位置を自覚する手助けにもなるだろう。 
「で、実際のルールは簡単。このレース場で、お前らが俺を攻撃して、俺を倒せたらそっちの勝ちだ。ただし、待ち伏せだの何だのは禁止だぜ? 『俺に攻撃するのは、速度で俺に追いついてから』だ。ま、俺もただ攻撃を喰らうのは癪なんで、反撃はさせてもらうがな。誰かと組んでの参加も当然OKだ。機体についての制限もない。ここで新しくチームを組むのだってかまわないぜ?」
 レース場は非常に広く、相当多くの構造を有している。非常に長いホームストレートから始まり、緩いバンクやS字カーブ、スプーンカーブはもちろんのこと、割合勾配のある坂や、見通しの悪いトンネル、曲がりくねった連続ヘアピンカーブなどの難所も揃っている。記述しきれないが、とにもかくにも、『考え得る限りのレース場に存在する要素を全て詰め込んだ』コースといえるだろう。
 故に、君たちはまず『どこか一つのポイントに狙いを絞り』、『どうやって敵に追い付くか』という方策を練った上で、初めて『どのように敵と戦うか』を考えられる、という事らしい。
 難しいように思うかもしれないが、その実考えるべきことは三つしかない。やりたいことや狙いを一つに絞れば絞るほど、作戦の成功率は上がるだろう。
「――――やろうか。アッチェレランドのこの事件、最後の舞台は『非合法地下レース』! 楽しもうぜ猟兵、俺は楽しむ! アクセルブッちぎってかかってきなァ!」
 最後のレースが始まる。
 スタートシグナルが点灯していく。
 ひとつ、ふたつ、みっつ――――。
 ――――レース・スタート!


※プレイング募集は、11/11(月)の08:31~からとします※
※プレイングは一章、ないしは二章で参加した方を優先して採用します※
※人数次第ですが、再送をお願いすることになると思います※
※プレイング募集は11/11からと言っておいてなんですが、個人的な事情により11/22まで執筆速度が著しく落ちています。再送などの詳細はMSページに記載してありますので、確認の程よろしくお願い申し上げます。※
リア・ファル
ヌル(f05378)さんと

アドリブ共闘歓迎
POW

武器持たぬ者が安全と平穏を得る事に
ボクとしては異論もない、戦うのはボクの使命さ

マッピング完了、周辺情報解析
つづら折りのカーブがボクの仕掛けるポイント
ソレまでは相手の挙動を把握演算
(情報収集、追跡、操縦、空中戦)

「ここだ! 一気にショートカットで吶喊する!」
UC【天空を舞う星】で突撃!
防御は歪曲力場に任せて直線距離を征く

後はヌルさんの攻撃に合わせて、
『ライブラリデッキ』から雷属性の電脳魔術をロード
ミサイルのように自動追尾する弾丸を射撃する

「当たれば制御系にウィルスをプレゼントだ!」
(援護射撃、毒使い、属性攻撃、誘導弾、マヒ攻撃)

「悪いね、お先に!」


ヌル・リリファ

リアさん(f04685)と

速さにこだわるきもちはよくわからないけれど。そうやってなにかを大事にしているのはきらいじゃないし。

すくなくとも、いま。リアさんのうしろでこうしているの、たのしいよ。

……おいつくのは、リアさんにまかせる。リアさんならできるはずだもの。
おいついたら、リアさんのうしろからとびおりて近接戦闘をしかけるよ。
最初は【見切り】で被害をできるかぎりおさえつつ、リアさんの行動阻害がはいるようにうごきの邪魔をすることを優先させる。

うごきにラグができたら攻撃力を強化、攻勢にてんじて【属性攻撃】で強化したルーンソードできりつける。

(ぴょん、と跳躍してリアさんのうしろに戻って)

ん。おさきに。



●Formation Lap.
 かくして、最後のレースが始まった。
 『Race』。多くの乗り物とルールが生まれた結果多様性を増した、しかしどの形式であっても『速さ』を競うそれ。
 今行われているのは、その中でも相当にシンプルで、かつ王道。基本中の基本。速度を競うストレートに、テクで渡り合うカーブ。その他すべてが詰まっているレーシングだ。
 レース場の周りに置かれた客席に座る街のチンピラ――『Formula』のメンバーたちは、ただただ目の前で繰り広げられる速さの祭典に見入るばかり。彼らは『速さ』に魅入られた者たちだ。だからこそ、このレースの邪魔などするはずもなく。
 この街一番の速さを決める大きな祭りに、この場にいる全員がのめり込んでいた。
「武器持たぬ者が安全と平穏を得る事にボクとしては異論もない、戦うのはボクの使命さ。ヌルさんはどう思う?」
「速さにこだわるきもちはよくわからないけれど。そうやってなにかを大事にしているのはきらいじゃないし。……すくなくとも、いま。リアさんのうしろでこうしているの、たのしいよ」
「……そっか。よぉし! それなら、もっと飛ばすから――――楽しんでいこう!」
「……おいつくのは、リアさんにまかせる。リアさんならできるはずだもの」
「仕掛けはヌルさんに任せたよ! 二人であいつに追い付こう!」
 制宙高速戦闘機『イルダーナ』。それが彼女たちの乗る鉄馬の銘である。量産型艦載機の1機を、今回のドライバーであるリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)向けにカスタムを施した一品であるそれは、艦載機のエンジンはそのままに推進機関、電脳機構、二輪を追加したワンオフ機だ。
 宇宙の闇を斬って走るための艦載機の心臓は、外見を変えて都会の地下を駆ける鉄馬に埋め込まれている。舐めるなよ。速さを競う展開であれば、彼女の宇宙バイクだって負けてはいない。今も彼女たちの先、リードを作って飛んでいる敵のマシンスペックが如何様なものであろうとも、リアのイルダーナの性能が一方的に劣る訳がないのだから。
「マッピング完了、周辺情報解析――。ヌルさん、そろそろやるよ!」
「わかった。みせて。リアさんのはやさを」
 イルダーナを華麗に操縦しながらヘアピンカーブを最低限の減速とこれ以上ないほどのアクセルワークで抜け、視覚のみに頼らないハンドル捌きで闇が支配するトンネルを越えながら、リアは自らが用いることのできる全ての機器を利用して敵機の挙動を逐一確認し、勝負所を探していく。
 ホームストレート――いや、ダメだ。恐らく背後から見る相手の動きから考えるに、純粋な速さだけでは少々分が悪い。
 連続シケイン――これも分が悪い。純粋なマシンのブレーキング性能だけで戦えば互角は必至。追い付くまでには至らない。
 今回の勝負で肝要なのは、彼我の戦力差と性能差の全てを理解した上で、そしてどこならば敵のリードを食い破って追い付くことができるかだ。マシンスペックは横並び。であれば、それ以外で勝機を探さねばならぬ。
 互角では足りぬ。足らぬのだ。レースでは一度ついた戦力差はそのまま視覚的に明らかなリードというものに置き換わって現れる。だからこそ、リアはイルダーナの性能と自らの性能の全てを駆使して『黒龍』との差を縮める術を見付けださねばならなかった。
 ――――故に、勝負所は必然的に消去法による算出になる。
 現今、目の前の敵の間に存在するリードを縮めるために必要な手段を突き詰めて考えた場合、それはたったの二つしかない。 
 『持っているもので戦う』か、『今この場で戦える何かを作り出す』か。そして、リアが選んだのは後者だ。彼女は何も敵の背後をただぼんやり眺めていたわけではない。
 彼女が今この場で『黒龍』という敵の背後に甘んじているのは、学習するためだ。敵を追跡して追い付くための道が無いのなら、敵の背後から見える情報から学んでその道を作るほかに手は無い。
 敵機のハンドリング、ブレーキング、アクセルタイミング、etc。その全てを把握、把握、把握、把握。そして演算、演算、演算、演算。
 目の前に広がる無限のラインから、最適解はたったの一つしかない。だから、『敵の情報だけ』ではまだ足りない。答えを見付けだす式の中に、リアは自らが培ってきた操縦経験とブチ込んで演算を加速させていく。そして――。
「――――ここだ! 重力および空間制御開始。……フィールド展開! 一気にショートカットで吶喊する――――ッ!」
「――――ほォ! 見事なレーサーじゃねェかよ猟兵! ハッハァ! まさか――――ここを『最短距離』で突っ走ってくるとはなァ! 狂ってるぜお前! 最高じゃねえか! もっと来なァ! まだまだいけンだろォ!」
 そして、その時が来た。リアはつづら折りのカーブに狙いを絞り、全ての経験と知識をそこだけに集約させてひた走る。連続したカーブに対し、彼女はイルダーナのサイズと速度から算出したほぼ直線の『最短距離』を見付けだしたのである。
 イルダーナの装甲がレース場の外壁と擦れ合ったかのようにも見えたそこに、空間的な猶予は数ミリしかない。しかもリアはそのミリ単位しか余裕のない直進を、愚直にも連続で行い、『黒龍』とほぼ横並びのところにまで至って見せる。
 全ては、減速を抑えて目の前の敵との差を埋めるために編み出した魔の道のり。『黒龍』でさえ行わなかった狂気の道を、リアはその類まれな空間把握能力と計算力を用いて実に見事に作り上げて見せたのである。……いや、それだけではない。リアはユーベルコード【天空を舞う星】を発動させ、不可視の歪曲力場を全身で纏うことによって、数ミリの余裕しかないその道を半ば無理やりに通っている! クレイジーだ。だが、それで良い。狂っていなければ、狂った敵には追い付けない!
「だがまだ甘ェ! 確かに俺に追いついたのはすげえよ、褒めてやる! だが……これでどうだァ!? 【“黒雲翻墨既遮山”】ッ! 俺の目の前にはよォ、誰も通してやりたくねえんだよなこれがァッ!」
 イルダーナと『黒龍』が超高速でつづら折りのカーブを抜け出し、やや長めのストレートで並んだ時、事態は動いた。敵がユーベルコードを用いて反応速度を上げ、そして横にいるイルダーナへ鋼の手を用いて殴りかかってきたのである。
 全ては、自分の目の前を走るすべてのものを破壊するため。
「あまいのはそっちのほうだよ。わたしは、リアさんなら、おいつくとおもってた。あなたはどう? ――――おいつかれると、おもってた?」
 ――――だが。動いたのは敵だけではない、イルダーナの後部座席に座っていたヌル・リリファ(未完成の魔導人形・f05378)もだ!
 傍から見ていれば、敵とヌルの動き出しはほぼ同時に見えたことだろう。だが、厳密にはそうではない。
 リアが敵に追い付くことを心から信じていたヌルと、追い付かれることを想像すらしていなかった『黒龍』。敵がリアの接近にようやく気付いてユーベルコードを発動、イルダーナを攻撃しようとして手を伸ばしたその瞬間には――――既に、ヌルはその行動を開始していたのである。
 彼女は【トリニティ・エンハンス】を用いることで自分の身に風の魔力を纏うと、そのまま超高速で駆け続けるバイクから跳躍。――――敵機に飛び掛かって見せたのである。なんという――――。足を滑らせれば即死であるそのアクションを、彼女は表情一つ変えずに行って見せるではないか。そして、飛び掛かりが成功したならば――――これでようやく戦闘開始だ。
「テメェッ、クソが! 降りろッ! 俺の走りの邪魔すんじゃねえよォッ!」
「そうは、させない、よ……っと」
 『黒龍』はユーベルコードで増やした鋼の四肢にて自らの頭上にいるヌルを引きずり落とすべく手を尽くす。だが、彼女はそう簡単に引きずり落とされるようなタマじゃない。
 ヌルは『黒龍』の上を踊るようにしてステップを踏み、敵の右腕を潜り込むようにして躱し、左腕をジャンプで避けて『黒龍』の翼の上でタップダンスを踏んで見せる。自分から斬りつけたりはしない。最初は見切るだけだ。彼女はもう少しで手が届きそうなギリギリを見極めると、敵の更なる攻勢を誘うように危険な踊り場で舞って見せる。舞うだけだ。攻撃はまだで良い。
 ――――なぜなら、これは陽動なのだから。
「前しか見てないって言うのも結構だけど、もっと横にも気を配っておいた方が良かったね!」
「……ッ、コイツはッ! ウィルスかッ!」
「御明察! 当たれば制御系にウィルスをプレゼントだ!」
「……ガ、ッ、ッアアアッ! 電圧系を、テメ、ェ……ッ!」
「ついでに、おまけ」
 敵が頭上のヌルに気を取られてくれれば占めたもの。この作戦の肝は主にこの二つだった。リアが敵に追い付けるか、ヌルが敵の気を上手く引けるか。
 そしてその二つの条件をクリアできた今、話しは簡単。リアはイルダーナの速度を落とさずに、片手で複製魔術符『コードライブラリ・デッキ』の中から雷属性・毒属性の複合式電脳魔術をロードしてみせると、連続でミサイルのように自動追尾する弾丸を射撃してみせる。
 弾速は決して速くないため後ろからでは当てられなかったが、横並びになった今ならば当てられる。魔術符に込められたデータがウィルスのように当たった敵の内部回路へと侵入し、そして敵の動きを一瞬だけ麻痺させていく。
 それはつまり加速も、迎撃も、敵の何もかもをほんの一瞬封じたのと同じことで――――そして、ヌルが敵の装甲を切り刻むためには、その一瞬で充分であった。
 ヌルはリアの援護射撃に合わせ、敵の動きが鈍くなった瞬間に攻撃力を強化。炎を纏わせたルーンソード片手に攻勢に転じ、伸ばされた敵の両手や装甲を何度もルーンソードで斬りつけていく。
 斬り下ろしで敵の第二装甲に罅を入れ、動きが止まって伸びきった敵の右腕の内側を焔のツルギの横薙ぎにて痛めつけていく。そのまま敵がマヒを解く瞬間を見計らってバク転しながら頭上に伸びる左腕を斬りつけつつ跳躍し、リアのバイクに飛び移って見せた。
「悪いね、お先に!」
「ん。おさきに」
「見事じゃねえかよ、クソ……ッ!」
 二人の猟兵はそのまま敵を後方に置き去りにして加速を続ける。速さの面でも、戦いの面でも彼女たちは敵に見事に勝ってみせたのだ。これ以上の勝利は無い。
 麻痺を喰らった敵が立ち直るその瞬間にも、二人を乗せたイルダーナは速度を伸ばしていく。彼女たちの速さに追い付いたのは、観客たちの声援だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザザ・クライスト
●【狼鬼】

コントロール重視のバイク
ピーキーな"女"は、直線勝負の前にイカされンのがオチだ
ってジャスパー聞いてねェな

冷静に【追跡】しつつ、バラライカで【先制攻撃】
頭ァ抑えて直線まで【時間稼ぎ】

奴ァプロだ
マトモに"レース"してちゃ勝ち目はねェ
なら少しでもオレらの"流儀"に倣わせる

「"速さ"がナニかァ? ンなモンひとつだろォが!」

"ブッチ切る"コトに決まってらァ!
スピードだけなら戦闘機でも乗ってろ!

直線で銃撃の【なぎ払い】
命中時に【檻の鎖】を発動

「捕らえたぜ、幕引きだ!」

が、逆に鎖を利用されて吹っ飛ばされる
クラッシュアウト寸前もジャスパーがキャッチ

「ったくオレ様がヒロインかよ」

お楽しみはこれからだ!


ジャスパー・ドゥルジー
●【狼鬼】
速度最重視のバイクに跨る
只のバイクがストレートで埒外の怪物に追いつけるとは思わねェ
本領発揮は難所に差し掛かってからだ
羽でバランス取り無茶な体勢で強行
俺は経験もテクニックも無ェ
奴に勝てるのは「度胸」だけ
とにかく極限までスピードを緩めない

ザザの奴が鎖引いて「お散歩」してるだろ
デートの時間に遅れねェようにしないとな

ザザに黒龍サン、待ったー?
軽く上げた手には【九死殺戮刃】の力を込めた無数のナイフ
寿命の代わりに自分を斬り

吹っ飛ばされたザザをキャッチ
俺の細腕に野郎は荷が重いねェ
後ろ乗ってろよと促してタンデム

ナイフ投げつけ奴の軌道を削ぐ
「派手にブチかませ、ザザ!」
こんな過激なヒロインがいるかよ全く



●Stop and Go.
 二機が駆ける。いや、その前を走る敵も含めれば三機か。
 駆けているのは鉄の馬が二匹と、戦闘機のようなフォルムをしたオブリビオンが一機。走っている場所は地下のレース場。観客はチンピラ共の寄せ集め。演者は一流のスピード狂い。掛け金はこの街の未来である。
 ああ、如何にすれば彼らを止めることが出来るのだろう。転倒、衝突、スリップ、スピン――。考えれば考える程、ここには命を落とす要因がいくつもありすぎる。高速の世界とは、得てして危険なものだ。速度には果てがない。だが、人の命が耐えられる衝撃には果てがある。光速、音速などという贅沢品でなくったって、人の身体はほんの僅かにスピードを乗せたバイクから落ちれば『壊れる』のだ。
 それなのに、なぜ彼らはこうも駆けるのだろうか。なぜ、悪魔と狼は敵を追いかけるように命をチップにしたこの賭けを挑んだのだろうか。ここにいるのはただのオブリビオンで、レースをする振りをして殺せば話は済むだろうのに。何故彼らは命を危険にさらしながらも、ここまで『スピードを緩めない』?
 ――――その答えは、ひどく簡単だ。それは偏に、彼らが伊達男だからである。彼らは流儀に従ってここにいるのだ。彼らは敵の流儀に従って、その上で敵をねじ伏せるためにここにいるのだ。
 言葉にすればひどく簡単で単純な冗句みたいな流儀を、二人の男――――ザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)とジャスパー・ドゥルジー(Ephemera・f20695)は口の端にも出さず、ただただバイクのアクセルを踏むための糧にして前に進む。
 狼のバイクに悪魔のバイクが、目の前を走る鉄機を追いかけていた。
「……只のバイクがストレートで埒外の怪物に追いつけるとは思わねェ……。本領発揮は難所に差し掛かってからだ……」
 二人のスタイルは対極だ。かたや速度最重視のバイクに跨り、形の崩れたようにも見える無理な体勢でバイクを無理やり操りながらアクセルを吹かすジャスパー。羽も最大限に用いながら、空気抵抗や加速への最適解などお構いなしといわんばかりに、彼はただアクセルを踏み抜いてカーブを無理に曲がっていく。
 それもそうだ。ジャスパーには運転の経験もテクニックも無い。そして、彼はそれをよくよく自覚していた。『奴に勝てるのは「度胸」だけである』ことを、彼は全て承知の上で、この走りを貫こうとしている。それが彼の強みである。とにかく極限までスピードを緩めない彼の走りは、成る程確かに度胸によって成り立っているそれだ。
 彼は『黒龍』相手にカーブに差し掛かる寸前でも無理やりの加速を断行することで距離を詰め、そしてカーブ後は無理やり速度を御しながら曲がるためにラインが膨らみ、その結果『黒龍』との距離が離れる――ということを繰り返していた。だが、それで良い。これは個人戦ではない。これはチーム戦だ。ジャスパーの強みがカーブ前であるのなら、それを活かすために他の人物が動けばいいだけのこと。強みを活かしあうのが猟兵の強みだ。
「焦ることはねェ。ピーキーな"女"は、直線勝負の前にイカされンのがオチだ。……ってジャスパー聞いてねェな? しゃーねェ、そンなら……よっと」
 ブレーキタイミングをクソ度胸でズラし、とにかくカーブ前で距離を詰めようとするジャスパーに対して、ザザの走りは正に対極。
 彼が駆るのはコントロール重視のバイクだ。彼は冷静に敵の背中を見つめながら追跡しつつ、時折手に持つドラムマガジン式の短機関銃、『KBN18 バラライカ』でのバースト射撃を敢行していく。
 この射撃によって目指すのは敵の撃破ではなく、制圧射撃で敵の頭を抑えることによる時間稼ぎ。この勝負では見極めが肝要だ。緩いカーブでいくら敵の速度を制圧射撃で絞っても、ストレートでは純粋に速度で負けるだろう。そして、カーブでは純粋にテクで負けるのがオチだ。それをザザは理解している。
 レースにおいて敵は余りにも強く、強靭である。『奴ァプロだ』と理解しているからこそ、勝ち筋は絞るべきなのだ。マトモに"レース"してちゃ勝ち目は無いことは重々承知だ。ならば、少しでも――――『オレらの"流儀"に倣わせる』。それがザザの狙いであった。こうして制圧射撃で一瞬でも敵のリードを削り、距離を詰めて時間を稼ぐのはそのためである。
 勝負所は、連続したカーブが続いて、その後も直角カーブが待ち受ける僅かなストレート。難所であるが、そこしかない。速度でも技術でも無く、彼ら二人がレース・チャンプに挑むために用いるのは『度胸』と『チームワーク』だ。
 位置関係はまず『黒龍』が先頭。そしてカーブを冷静にこなし、ロスを減らして走るザザが続き、そのすぐ後ろにジャスパーが続く形。だが、ここから先は長いストレートだ。純粋な速度が試される場面ならば、ジャスパーが追い付く頃であろう。現今、度重なるカーブを走る抜けながら行ってきた制圧射撃にてザザは敵を狙える立場におり、そしてジャスパーもザザが仕掛けた後に噛める位置にいる。故に――――勝負所は、ここしかないのだ。
「ヘイ、チャンピオン! "速さ"がナニかァ? ンなモンひとつだろォが!」
「ハッ、言ってみろやチャレンジャー! 詰まんねえ答えだったら無視するぜ!」
「ンなモン、"ブッチ切る"コトに決まってらァ! スピードだけなら戦闘機でも乗ってろ!」
「――――ク……ッ、ギャハハハハハッ! 良ォく分かってるじゃねえかチャレンジャー! 粋な野郎共だ、ぶっチギるだけで許してやるよォ!」
 直線を進むに当たり、コントロール重視のカスタムであるザザの機体が『黒龍』から徐々に離されていく。それは避けられない事実だ。最高速と加速において、『黒龍』は異常なまでに優秀である。
 もう少しで敵に追い付きそうなこの距離は、あくまでザザがカーブのたびに行っていた制圧射撃が功を奏したまでのこと。ストレートに入ってしまえば、敵の眼前に射撃のラインを置くのは難しくなる。敵の進行方向へ置くように射線を通すには角度が必要なのだ。
 ――――あくまで、難しいのは『敵の進行方向を狙う場合』は、の話だが。今までの作戦を切り替え、直接的への攻撃を狙うのならば――――距離が縮まった今こそがその時である!
「生憎と、そうはいかねェんだよなァ! 逃がすかよッ!」
「ッ、テメェ?! 味な真似を……!」
「踊れ、叫べ、嗤え、足を踏み鳴らせ――――捕らえたぜ、幕引きだ!」
 薙ぎ払われるようにバラライカから飛び出していく鉛玉が、加速を行おうとする敵の背後を捉えて見せる。この攻撃自体に込めた力はほとんどない。いってしまえば、これはただのバースト射撃だ。
 だが、敵が『攻撃を受けた』この瞬間、ザザのユーベルコードがその威を示す。【檻の鎖】。ザザが放った攻撃を受けた敵に、爆破と決して切れない鎖をプレゼントしてみせる彼の力だ。
 爆破は敵に少なからぬ手傷を負わせ、『決して千切れぬ鎖』は『黒龍』とザザの二人を結んで決して離さない。状況は猟兵たちにとって大きく傾いたと言って良いだろう。
 『黒龍』は爆破で体勢を崩した上に、自分の背後に突如として現れた鎖と重荷の影響で、自らが持つ純粋な最高速を出し切れなくなっている。対して、ザザはむしろ機体の制御のみを行っていれば敵との距離をこれ以上離されることは無い、という状況だ。
 逃げる厄介者には首輪を付けておく。基本中の基本である。
「だがよォ……ッ! それなら、テメェを引っ張って落としちまえばそれで済む話だぜッ!」
「――――そう来ると思ってたぜ。俺ばっかり見詰めてて良いのかい? いや、俺は良いんだがよ」
「おうおう、ザザの奴が鎖引いて『お散歩』してらァ。デートの時間に遅れねェようにしないとな? ザザに黒龍サン、待ったー?」
 そして、そこに更に加わるのはジャスパーだ。『黒龍』が千切れぬ鎖を利用してザザを思い切り引っ張り、バイクごと空中に持ち上げながら彼のみを大きく投げ飛ばしたのを見て、ジャスパーはザザを見事にキャッチしてみせる。
 既に二人は敵が鎖を利用してザザを放り投げるであろうことを予想していたのである。戦術という面においては、彼らの方がオブリビオンよりも上を行ったのだ。
 後部座席にザザを乗せ、タンデムの形を取るジャスパーの手には、【九死殺戮刃】の力を込めた無数のナイフが握られている。寿命の代わりに自分を斬り、既にデメリットもクリア済み。そして、後部座席に座るザザの手には、今も尚繋がったままの鎖が握られている。
 ナイフと鎖は手元に揃い、後は目の前の厄介者に痛い目を見てもらう段という訳だ。悪魔と狼は、首輪の付いた過去の残滓へと容赦のない攻勢を行うべく加速を続ける。
「俺の細腕に野郎は荷が重いねェ、後ろ乗ってろよ」
「ったくオレ様がヒロインかよ」
「ま、実際にそうなってる訳だし? 派手にブチかませ、ザザ!」
「おゥよ! お楽しみはこれからだ!」
「クソがッ、振り切れねェ……! アアアアッ! うざッてェッ! ……アアア、アアアアアッ!!」
 既に鎖が繋がれている以上、これよりも距離が離されることはない。それを三者が分かっているからこそ、必然的にこの場での戦闘はこの距離で行われることになる。
 『黒龍』は猟兵を排除するべくユーベルコード【“灰雨跳珠亂入船”】を用いることで随伴ドローン機を大量に射出、全方位からザザとジャスパーを殺すべく手を打つが、それらを悉く墜とすのはジャスパーである。
 彼はバイクの操縦を片手で行いながらも、適宜運転する手を持ち換えながら片手で用意しておいたナイフをドローンに向かって連続で投擲していく。彼は射撃を行われる前に全てのドローンを墜とし、その上で焦れた敵が放とうとした副砲をすら寸分の狂いもないナイフの投擲で事前に潰して見せる。悪魔相手に『手数』で勝負したのが運の付きという訳だ。
 敵の攻め手をジャスパーが引き受ければ、打って出るのはザザである。彼は再度バラライカを構えると、今度は薙ぎ払うようにではなく全弾を敵に向けて浴びせていく。ジャスパーが潰した副砲付近や、他の猟兵が攻撃して脆くなっている装甲部まで、全ては狼の牙が蹂躙する前の柔い肉でしかない。
「こんな過激なヒロインがいるかよ全く」
「いるンだから仕方がねェだろ? ほら、飛ばせよ! ヤロウを周回遅れにしてやろうじゃねェか!」
「良いぞーッ! 【狼鬼】――――ッ!」
「ザザさーーん! ジャスパーさーーん! カッコイイーーッ!」
 苛烈なまでに弱点を狙い続けるザザの攻撃に、『黒龍』もたまらず速度を落とす。そうなれば、後は敵を置き去りに走り去るだけ。得意な戦術で勝つ。それが彼ら二人の――――あるいは、猟兵の専売特許であるが故に。彼らは、戦闘でもレースでも勝ちを収めてみせたのだ。
 最初は怪訝な目で『どうせボスの圧勝に終わる』と見ていたのだろう街のチンピラたちも、今では彼らの速さに見惚れて声援を飛ばし始めていた。そしてそれこそが、彼らが勝利したことを何よりも雄弁に語っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

杜鬼・クロウ
【犬烏】●
見通し悪いトンネル狙い

お前まだ未成年だろうが
あァ…なら話は別だ
盛大に酔わせて祝い潰してヤるから精々覚悟しとけや

俺は力で捻じ伏せる派なンでなァ…
速ェ敵には辛酸を舐めてるンだわ
テメェの速さには惚れ惚れするが、今回は一人じゃねェからよ
ガキだし鼻につく野郎だが…今だけは相方なンでな

片手で駄犬の腰に手回し身屈める
空気抵抗減らす
【奏上・三位一体之祓剣】使用
攻撃力up
トンネル出たカーブで勝負
乗物同士の間隔が狭まったら玄夜叉で炎宿して鋼の四肢を燃やす
敵の機動部や核に剣を食いこませ勢いよく斬り裂く
動き鈍らしコースアウト

レースというテメェの土俵で戦ってこそだろ
”フェア”にな
お前の上をいって完全勝利するぜ


ヴァン・ロワ

【犬烏】

うわっすごく面倒
けどまあ、ここで引き下がるのも癪だしぃ?
追い付くっていうか追い抜いちゃうから
勝ったら食事のついでにお酒でも奢ってよ
それが俺様もう誕生日でね?
飲めちゃうんだなぁこれが
酔うまで奢ってくれるならはりきらないとねぇ~※酒はワク

追い付くならやっぱトンネルでしょ
見通しが悪かろうが
闇は常に傍にある
この程度の暗さも視界もなんてことはない
乗ってるバイクを己の手足だと暗示をかけるように
バイクごと自身を闇で覆う
【命の逆さ時計】
漆黒のそれを飛ぶ様に操り敵へ迫る
追い付いたらガンとぶつけてそのまま並走
このまままっすぐ走ったらどうなるかなぁ?
なんて口のはしをあげ
そんじゃオニーサンお仕事よろしくね~



●A three-legged race.
「うわっまたレース? すごく面倒」
「面倒とか言ってンなよ、ガキ。覚えとけ。勝ち方はこだわった方が良いんだぜ」
「出た~オニーサンのカッコ付け。……けどま、ここで引き下がるのも癪だしぃ?」
「うっせぇなクソガキ。テメェはとにかく目の前のあの野郎に追い付くことだけ考えてればいいんだよ」
「へェ~? 追い付くだけで良いの? ……あのさあ、追い付くっていうか追い抜いちゃうから、勝ったら食事のついでにお酒でも奢ってよ」
「お前まだ未成年だろうが。生意気言うのは二十歳超えてからだクソガキ」
「いやさ~、それが俺様丁度今日が二十歳の誕生日でね? もう飲めちゃうんだなぁこれが」
「……あァ……祝い酒か。なら話は別だ。盛大に酔わせて祝い潰してヤるから、精々覚悟しとけや」
「マジで? 酔うまで奢ってくれるならはりきらないとねぇ~」
「ハッ、まだまだガキだなテメェは。酒に酔う自分に酔ってるうちは青いンだよ。もしもお前がレースに勝ったら教えてやる。強敵を越えた後に呑む、『勝利の美酒』の味わい方をな」
「……ふぅん? そこまで言うなら、……ちょっとくらいは、期待しちゃおうかな」
「おゥよ。……飛ばせよ、ガキ。お前が目の前のあいつに追い付いたら――――、ちっとくらいは褒めてやるッ!」
「人の後ろでべらべらと――――、誰にモノ言ってんだよ、オニーサン!」
 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)、ヴァン・ロワ(わんわん・f18317)。二人が選んだ機体は、夜間のアッチェレランドを走った時と同じ一台のバイク。
 彼らはそれに二人で跨り、運転による接敵と接敵後の仕掛けに完全に役割を分担していた。適材適所という奴だ。猟兵たちは各々特異なことが異なる存在であるが故に、だからこそ、『適材適所』は基本中の基本であり最重要な戦略でもある。
 目の前を奔る『黒龍』の背中を見て、ヴァンは何も思うところは無いらしい。彼の脳裏によぎったのは、ただ『面倒』だなという思考と、その後の報酬のことくらいだ。
 勝ち方にはこだわらないタイプだからこそ、こういったレースのような決まりごとの存在する競技に対し、実際的な戦闘にはない手間を感じてしまうのかもしれない。『気に入らない相手は殺せばいいのに、どうして相手の定めたルールなんかに従わなくてはいけないのか』。もしかすれば、そのように考えているのかもしれぬ。
 だが、クロウは違う。彼は勝ち方にこだわる男だ。彼はレースに参加するための足も機体も何もかもを持ってはいない。しかし、彼には自分自身に通すべき仁義がある。だからこそ、相手の仁義を理解し、それを組む度量もある。
 きっと、彼はどちらかと言えば勝ち方にこだわるタイプなのだろう。彼は良く分かっているのだ。勝負と戦いの違いというものを。もしくはこう言い換えても良い。クロウは、『気持ちの良い勝ち方を知っている』。
 『黒龍』の技量に負けず劣らずバイクを走らせる腕前を持つヴァンと、脚は持ってはいないものの、敵の唱えるような仁義をよくよく介するクロウが組んで走っているのは、ある意味では運命であったのやも知れない。
 バイクを自らの手足の延長のように走らせる一流のテクニック。そしてレース相手の惚れ惚れするような速さを認め、その上で真っ直ぐ勝負を挑むハート。
 今、二つの歯車はぴたりと噛み合って一つのバイクを動かしていた。レース場の全ての障害は、今や彼ら二人が乗り越えるだけのほんの小さな壁に過ぎない。これは命を奪い合うための闘争であり、それと同時に速度を競い合う競技でもある。猟兵として、レーサーとして、二人の男は今まさに一心同体。
 ヴァンとクロウは、異常な速度で駆ける『黒龍』に引き離されることなく互角に走っている。一流のレーサーである敵と同じようにカーブを曲がり、同じようにアクセルを吹かして、引き離されずしっかりと付いていく。
 そして、その時が近付いてきた。無論、レースは先を走る敵と同じ速度を出しているだけでは勝利者になり得ないもの。どこかで勝負を仕掛ける必要がある、という事だ。
「どうしたよ、お二人さん! 本気の俺に付いてくるとは中々大したもんだが、俺の背中に見惚れてばかりじゃ勝てないぜ?! お前らの速さはそんなもんじゃねえだろうが! もっと笑いな! 楽しく踊ろうぜ、ベイビー!」
「言ってろよ。俺は力で捻じ伏せる派なンでなァ……。テメェみたいな速ェ敵には辛酸を舐めてるンだわ。テメェの速さには惚れ惚れするが、今回は一人じゃねェからよ。ガキだし鼻につく野郎だが……今だけは相方なンでな。――――やれよッ、クソガキ!」
「後ろで怒鳴らないでよ、オニーサン。言われなくても分かってるって。追い付くならやっぱトンネルでしょ。俺様に取っちゃこの程度の暗さも視界もなんてことはない。見通しが悪かろうが、闇は常に傍にある――――オニーサン、落ちンなよ!」
 彼らが勝負を仕掛けるポイントとして選んだのは、レース場中盤に存在するトンネル付近。長さがそこそこあり、トンネルを抜けた先には直角のカーブが存在するため、何よりも速度の見極めが肝となる難所の一つだ。
 先頭を走る『黒龍』を追うようにして、ヴァンは勢いよくバイクを走らせて暗闇の中へと歩を進める。トンネルの中の光源はほんの僅かな照明のみで、明るかった地下レース場から一気に突入すると、まるで一面が闇のような錯覚に陥るほどの暗さである。
 しかし、それでもヴァンは加速を緩めない。暗闇など意にも介さぬと言った様子で、彼はひたすらにアクセルを踏んで速度を伸ばしながら進む。無論、ヘッドライトなどは全てオフの状態で、だ。
 【命の逆さ時計】。ヴァンのユーベルコードの一つであり、呪力を帯びた闇を纏うことで戦闘力と速度の増強を果たすその力を用いて、彼は『己の手足だと暗示をかけるように』、自らが乗っているバイクごと自身を闇で包み込んでみせたのだ。
 成る程、トンネルの暗闇程度で彼の足が止まらぬわけだ。もともと闇に親しむ力を持つ彼は、漆黒の闇の中でもまるで昼間の運転と変わらぬような気楽さでバイクを転がしていく。
 トンネルを抜けた先のカーブに合わせて適切な減速を行う『黒龍』とは違う。ヴァンはトンネルの中でユーベルコードの力を用いながら、更に加速を行っていく。あの速度では直角カーブを曲がり切れずに衝突するであろう。明らかに危険な速度に達している。狂気の沙汰だ。もはやブレーキも間に合うまい。
 だが、違う。ヴァンは壁にぶつかって死ぬ道を選んだわけではない。この気が狂ったような加速はクレバーな理由から成っている。そもそもだ、敵と同じ走りだけでは追い付けぬのだ。ならば、どこかで無茶を通さねばいけないのは道理である。どこかで必要なのだ。『敵に追い付くための何か』が。
 彼がここまでする理由は一つしかない。もうお分かりだろう。ヴァンは、『敵への体当たり』を選択したのだ!
「テメェ……! 馬鹿かよッ! 俺が取ってた完璧なライン取りが、テメエの体当たりで崩れちまったろうがァ! さっさと退けやァ!」
「さて、これで追いついた。このまままっすぐ走ったらどうなるかなぁ? そんじゃオニーサンお仕事よろしくね~」
「良くやったぜ、クソガキ。ルール違反スレスレだが……。ま、レース中でのクラッシュは日常茶飯事か。――――『鬼も隠れし十重二十重にて消えし我が銘をクロウと号す。天照へ祝を奏上し請い願う――八咫が守りし遍く輝きにて、昏き禍つを祓う力をと!』」
 カーブを曲がるために速度と体勢を整えていた『黒龍』の横っ腹目がけて、ヴァンの駆るバイクは真っ直ぐに走り――――インパクト。
 二つの機体はトンネルを抜けたすぐそこで衝突し、もつれあったままカーブに突入しようとしていた。当然、敵であり速さを目指す『黒龍』はそれを良しとせず、【“黒雲翻墨既遮山”】を用いることで格納していた鋼の四肢を展開し、バイクごとヴァンたちを無理やり退かそうとして腕を振り上げた。
 敵の迎撃行動に対して、いち早く動いたのはクロウである。彼はヴァンの操縦を信頼していたからこそ、バイクが敵機に衝突したその瞬間にユーベルコード、【奏上・三位一体之祓剣】の使用を重ね、敵が衝突に気付いて腕を振り上げるよりも早く、自らのチカラとツルギを構えていたのである。
 『玄夜叉(アスラデウス)』から流れ込む精霊属性の力が、彼の全身へと染みわたっていく。炎を宿すその刀身が、全てを切り裂かんとして燃え盛っている。トンネルの暗闇を抜けて、今この場を支配するのは魔を裂かんとして燈った焔だ。
「レースというテメェの土俵で戦ってこそだろ? ”フェア”にな。お前の上をいって完全勝利するぜ」
「……ッハハァ! ちくしょォがよォ、クソが! テメェ『理解って』ンなァ! そういう訳ならよォ、俺だってテメェらの土俵に上がってやらねえと無粋追ってもんだなオラァ! 真剣勝負だ、ステップはミスんじゃねェぞコラァァァ!」
 超高速でレース場を走る二機の間に、数え切れぬほどの火花が散っていた。『黒龍』が用いる鋼の腕と、クロウの用いる焔のツルギが打ち合う証左である。
 勝因は二つ。まず、『衝突』というレース場のアクシデントに対する心構えが両者で全く異なっていたという事。『黒龍』にとって『衝突』は単なる事故であり、本来であれば避けるべきそれだ。しかし、猟兵たちにとっては戦略であり、覚悟していたそれである。その意識の差が、そのまま一刀の速度に現れたという話。
 そしてもう一つは――――純粋な話だ。『レース』においては敵の方が上手であっても、『戦い』においてはクロウも敵に負けてはいなかったという話。
「――――ハァァッ!」
「――――ウガアァァッ!? 俺の、サブアームが……ッ! 粋な真似しやがってクソ野郎……ッ!」
 クロウの動きは正に俊敏。彼は迎撃のために伸ばされた敵の右腕の機動を見切ると、敵の手首を切り落とすように左の切り上げにてこれに対処。
 高速の舞台上で片腕を弾かれ、敵の体幹が揺らいだ瞬間にクロウは刀を引き戻して一瞬で構えなおすと、そのまま敵の装甲の薄い敵の右関節部へと刀を静かに伸ばし、見事な突きを放ってみせた。
 敵の機動部の一端であるそこを、クロウの焔は容赦なく焼いていく。そのまま彼は敵の迎撃を許さぬように、思い切り上体を傾けながらの蹴りを敵の顔面に見舞いつつ、蹴りの反動を利用して剣を引き抜きつつ薙ぎ、敵の右腕を一本引きちぎるように斬り飛ばしていく。見事な一合だ。
「あばよ。お前は確かに一流だったぜ。レースにおいては、な」
「出ました~オニーサンのカッコ付け」
「うっせェなクソガキ。コース出るまでバイクコカすなよ」
「ヴァン! ヴァン!」
「クロウ! クロウ!」
 そのまま二人はコースアウト。もともと衝突するかどうかのギリギリの策であったのだ、体当たりでバイクにも相当の負担がかかっている。これ以上の航続は無理に行うものではない。とにかく――――二人はオブリビオンに勝ったのだから、勝負はここで終わりで良いという話でもあった。レースでも、戦いでも、どちらの面においてもだ。観客席から聞こえる彼らへのエールが、それを何よりも強く証明していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎧坂・灯理
【鋼色】神楽耶/f15297と

ぐだぐだと――よく喋る。
ああ、ああ。もちろんだとも、バディ。
我々のゴールは勝利――それ以外は決してあり得んさ。

コースはストレート一択 さあ起きろ『白虎』
あのノロマの心をへし折るぞ 完膚なきまでにな
【DCサーキット】起動
『甪端』 長さ調節し風の抵抗を減少
『玉兎』 己の脳を操縦し生理的心理的限界を一時的に解除
『カルラ』 背後にてジェットエンジンの代行を
『黄龍』 念動力による空間圧縮の反動で爆発的な加速を
『索冥』 私、白虎、神楽耶をオーラ防御で覆う

攻防は神楽耶に一任だ 信じてるぞ
魅せてやろう そして絶望しろ
二度と我々と走れないという事実に


穂結・神楽耶
【鋼色】灯理さん/f14037と

首魁が死すとも自由は死せず、ですか。
つまりここで勝てば平和は約束されたようなもの。
とあれば──せいぜい見せつけて差し上げましょう、バディ。
大丈夫、一緒にいますから。
──勝ちますよ。

速度の方は完全に灯理さんにお任せ。
わたくしの方で防御と攻撃を請け負います。
おいで、【焦羽挵蝶】。
触れれば焦がす炎蝶に、格闘戦形態で迂闊に突っ込んでは来れないでしょう?
逆にこちらからは、装甲の隙間に蝶を突っ込ませます。
格闘用四肢が展開する、すれ違いざまの一瞬──
チャンスは一度きり、だからこそのレースでしょう?

お魅せしますよ、オブリビオン。
わたくしたちの速さをね。



●Royal Blue Flag with Diagonal Yellow Stripe.
「ぐだぐだと――よく喋る」
「首魁が死すとも自由は死せず、ですか」
 二人の言には、現今に至って尚も正しさのみが光っていた。ここは地下のレース場。今はレースの真っ最中。
 二人の猟兵はひたすらに地を駆け、目の前を走るオブリビオンに向けて機体を転がす。ここは『速さ』を問う場所であり、言の葉による議論を行う場所ではないのだが、それでも彼女たちの言葉は小動もせず。
 踏み切ったアクセルの轟きだけが、広い地下空間に木霊していた。
「つまり、ここで勝てば平和は約束されたようなもの。とあれば──せいぜい見せつけて差し上げましょう、バディ」
「ああ、ああ。もちろんだとも、バディ」
 オブリビオンであり、此度の敵首魁である『黒龍』の主張に則って思考回路を回すのであれば、今回求められているのは『完全なる勝利』のみ。
 一方的な『暴力』だけでは足りぬ。ルールを介さず無理にでも敵に力を揮えば、敵は反撃の手間をさえ惜しんで『Axel』のサーバーを破壊し、その上で『Formula』のメンバーに街中でのテロリズムを指示するであろう。
 今も観客席に座ってレースを楽しむ敵の一団は、自由な速さに魅せられてここにいるのだ。速さの競い合いには乗らず、主張を押し付けるようにして首魁を沈黙に至らしめたところで、むしろ一団の唱える主義を刺激、助長してしまいかねない。
 故に、今回は『速さ』の面においてさえも敵を上回らねばならぬのだ。これは『速さ』の戦いであると同時に、『主義主張』のぶつけ合いでもある戦だ。真の意味で勝利を目指すのならば、猟兵たちはオブリビオンと戦うのみならず、速度に心酔しているアッチェレランドのはみ出し者たちに、新たな理を説いてやらねばならぬのだろう。
 これはそういった類の勝負だ。そして、鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)は、当然それをよくよく理解している。だが、その上で彼女は敵の主張を斬って捨てる。
 灯理の駆る『白虎』の後部に跨る穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)も同様だ。そして、その上で彼女も敵の主張は呑まず、自体の完全解決への唯一の道をぴたりと言い当てる。
 世に蔓延る主義主張は数え切れぬほどあるが、ともかくとして――――この場においての正解はただ一つしかありえない故に。それ以外のことは無駄になる。
 ここは言葉を交わす場所じゃない。ここは速度を競う場所だ。妥協も議論も何もかも、今は無用の長物だ。この世の全てが熱と時間で構成されているのなら、無駄な思考プロセス一つとってもコストがかかる。
 だから、この場で彼女たちは『現今必要な思考』のみを武器に選んだのだろう。どうすれば敵より速く駆け、その上で敵に一太刀入れることができるのか。『速さで勝ち、戦でも勝つ』にあたって、どう行動するのが適切であるのか。
 今考えるのはそれだけで良い。武器も思考も何もかも、切れ味が適切である方が良いに決まってる。鋭い光を讃えたナイフが、二人の思考回路の行く末を示していた。
「大丈夫、一緒にいますから。──勝ちますよ」
「勿論。我々のゴールは勝利――それ以外は決してあり得んさ。コースはストレート一択だ。さあ起きろ、『白虎』。あのノロマの心をへし折るぞ。完膚なきまでにな」
 幻想起動。奇跡執行。終幕履行。星を動かす全ての理から外れたチカラ、ユーベルコード。今、灯理の持つそれが、目を覚ます。【DCサーキット】、起動。
 彼女は自らの髪である『甪端』の長さを調節し、風の抵抗を減少させていく。現状況では、空気抵抗は僅かにでも減らすべきだ。まだ足りぬ。
 『玉兎』の機能によって、自らの脳を外部操縦し、生理的心理的限界を一時的に解除。この場に躊躇を生み出す要因は必要ない。まだ足りぬ。
 小竜『カルラ』に 自身の駆るバイクの背後にてジェットエンジンの代行を行わせる。最高速上昇はこの場において必須である。まだ足りぬ。
 『黄龍』発現。念動力によって自身と『黒龍』の狭間、前方に広がる空間を圧縮、空間を削り取る。爆発的な加速を得るためだ。まだ足りぬ。
 『索冥』現界。自身の身、白虎、神楽耶を思念防壁で覆う。質量のかからぬ念動の壁ならば、無駄な空気抵抗は一切かからない。まだ足りぬ。
 アクセルワーク、ハンドリング、ブレーキング、MAPの把握から適切なライン取りの予測、敵機の走行ラインと合わせて最適なルートの誤差を修正。まだだ。まだ足りぬ。まだだ。まだ足りぬ。もっとだ。もっとだ。速さに全てを賭ける敵に挑むのであれば、こちらとて全てを出し切って見せよう。敵に出来ることが、自分たちに出来ぬ道理はない。これは敬意ではない。これは同情ではない。これは理解ではない。これは優しさではない。これは勝利への手法だ。全てを燃やして脳から得られる全てを発現させ、手足の動作は全てバイクと同化させて只管に走る。アクセルとシナプスのみに全リソースを割け。やれ。研ぎ澄まされた速さは研ぎ澄まされた思考から生まれる。無駄は無い。あってはならない。無駄を入れるためのスペースがないからだ。思考から速く走るための思考以外をそぎ落とす。やれ。速さを上げることだけを考えて、突き詰めて、束ねて、そうして武器にしてみせる。そうしてようやく『黒龍』に追い付ける。目の前のキャンバスに、純然たる速度のみがもたらす絵図が浮かぶ。
 成る程――――『ここ』は、こんな景色なのか。
「……ヘッ、来たかよ。お前らも、この世界に! 歓迎するぜ――――そうだよ、それが『速さ』だ! 誰もが焦がれる、熱狂のそれだ!」
「これはまた大きく出ましたね。――――何かを求め焦がれるものには、休む涯など要らぬでしょう。燃やし尽くして差し上げます」
「魅せてやろう、そして絶望しろ。二度と私たちと走れないという事実に」
「その通り。お魅せしますよ、オブリビオン。わたくしたちの速さをね」
 『速度充分』。灯理の行う全ての行いは、一猟兵に赦されたリソースの全てを推進力に回すことに成功してみせた。内燃機関が燃やすのは、何も形あるものだけではない。
 並走。彼女ら二人が乗る『白虎』は、いよいよ『黒龍』との距離を詰めるに至り、敵機の後ろにビタリと付いて見せたかと思えば、折よくぶつかった深いカーブにて無理やりに外側から大きく抜きにかかった。そしてその瞬間、敵機と彼女らの機体は紛れもなく横並びになったのである。
 最適な速度を出してインを走り、悠然と前へ出ようとするオブリビオン。強引とまで言える狂気の速度にて、アウトから彼の敵を追い詰めんとして駆ける猟兵。
 両者の速度はほぼ同じ。アウトを走りながらも追い付く猟兵たちの方が、ほんの僅かに脚では勝っているか。であれば、次に行われるのは一つしかあるまい。有利なポジションを巡っての争いだ。
 灯理は文字通り殆ど全てのリソースを走行に費やしている。そうしなければ敵に追い付けなかったからだ。彼女の判断は正しい。しかし、敵は走行に加えてライバルの迎撃を行うための動的リソースを残していた。それもまた当然である。ここにはオブリビオンは一体しかおらぬ故、全てを己の身一つで賄うことでしかオブリビオンに勝ちは無いのだ。
 だからこそ、『そこ』に勝機がある。
 圧倒的な速度と猟兵に対する迎撃、その二つを両立させながら走るのは至難の業だ。成る程、確かに敵もまた優れた強者であるといえるだろう。
 しかし、猟兵たちは一手で強烈な手を繰り出せるオブリビオンに対しての秘策がある。役割の分担、そして行動の最適化だ。戦術の基本中の基本、祖にして秘。
 彼女ら――――灯理と神楽耶は、それぞれの役割を完全に分けることで、敵に対しての突破口を見出したのである。
「俺の前を走ろうって奴は邪魔なんだよ……! 大したもんだったが、悪ィな! ここで消えてもらうぜェ! たった一回のチャンスを棒に振ったことを悔みなァ!」
「そう。チャンスはたった一度きり、――――だからこそのレースでしょう? わたくしは、この一度の攻め、一度だけのチャンスに全てを賭けてここにいます。片手間に行う迎撃に、負ける道理はありませんよ。おいで、【焦羽挵蝶】」
「――――ッ?! チクショォ……! 迎撃した時点で、速度を捨てた俺の負け、……かよ……ッ!」
 勝負は一瞬であった。
 二機は高速でカーブを攻めながら走る。その距離はもはや衝突間際という所。並び立って走る今、最早どちらかが速度を落とさぬ限り、カーブの終盤で二機が衝突することは避けられないという状況であった。
 『そうなれば、オブリビオンは必ず猟兵を潰すための手を打ってくる』。
 ――――神楽耶はそれを理解していた。
 そして、勝ちを拾う目はそこしかないという事も。
 先に手を伸ばしたのはオブリビオンである。【“黒雲翻墨既遮山”】。敵は鋼の四肢を伸ばすことで近接格闘に対する柔軟性を増すこの力を発現させると、隣を走る猟兵たちに向けてその腕を揮う。実に奇麗なタイミング、実に見事な攻撃であった。これ以上ないほどの絶好機を捉え、敵は猟兵への手痛い一撃を編み出したのである。
 ――――だが。そこまで含めて、最早敵は神楽耶の手の内から逃れることは無かった。『奇麗な攻撃ほど読みやすい』もの。迎撃はこの時しかないと踏んでいたからこそ、全く同じタイミングで神楽耶も敵に合わせて力を解放していく。【焦羽挵蝶】。
 炎で出来た蝶を放ち、周りの全てを焼き焦がす力。それを神楽耶は見事に操作し、まずは敵の右拳で振るわれたバイクへの叩きつけを炎の蝶を壁のように展開させることで防いで見せると、すぐさま壁を崩して熱に腕を焼かれて崩れた敵の胴体へと焔の羽を持つ蝶を染み込ませる。
 狙いは装甲の隙間である。敵がここまでの速度を出すための機構を有しているのならば、複雑で繊細な機構を持つ内部への攻撃こそが最善手だと彼女は見たのだ。事実、それは正しかったと言えるだろう。
 敵の格闘用四肢が展開する、すれ違いざまの一瞬──。そこだけに集中し、研ぎ澄まされた迎撃の一手は、見事に敵の装甲内部を焼き、敵に大きなダメージを与えていく。もはや敵の四肢は満足に動かせまい。『そういう部分』を焼いたのだから。叫びながら速度を落した敵を尻目に、二人は開いた目の前の空間にバイクを走らせる。一撃離脱だ。
「見事な手腕だ、バディ。このまま走るぞ。周回遅れになった敵にもう一撃加えてやろう。そこまで奴が持つかは疑問だが」
「そちらこそ、バディ。速度に身を焦がしてはいても、身を焦がすような熱には耐えられなかったと見えますね」
「――――あの二人、奇麗……」
「……ああ……。すげェな、あの二人……」
 そして二人は走る。速度を上げて、ただ走る。二人はどの面においても敵に勝利してみせた。実に見事な手際である。街のチンピラ達も、彼女たちのストイックな走りには脱帽したことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン


イイね、記念に残るファイナルレースにしよう!
SSW産車載カメラをGlanzに搭載し
仲良くなったこの街のワル達のアドレス宛に動画を送信。

オレの最高にロックな
【運転】技術と【パフォーマンス】力を駆使して
仕掛けるのはトンネルが断続的に連なるエリア。
行くよ、Glanz―ヤスペルさん、動画を見てるお前ら全員!
UC発動!!
上体を下げて一気に推進力を増加。
Krakeを後方に向け【一斉発射】して更なる加速を!

Ai yo!今日は卒業パーティーだ。
出頭するもヨソへ行くもスキにしな。
速度を殺すな、旅立ちの時だ!

抜き去る瞬間に
最大出力の【零距離射撃】をプレゼント。
黒龍、オレはアンタのビートの先を往くぜ。

※絡み歓迎!



●Speedster.
「ヘイ、チャンピオン! 具合どう? まだまだやれる?」
「……ッ、ヘッ! 舐めンじゃねェぜ猟兵野郎が! どんだけテメェらが来ようが構うもんかよ、かかってきなチャレンジャー!」
「そりゃ最高! イイね、記念に残るファイナルレースにしよう!」
「最強に楽しい良い思い出にしてやるよ、さっさとアクセル踏み込んできなァ!」
 既にオブリビオン『黒龍』は何人かの猟兵たちに手傷を負わされている。それはつまり、敵の速さに猟兵が立ち向かえていることの証明でもあり、同時に敵の主張――――『速さ』の絶対主義への根拠が薄れ始めているという事でもある。
 『速度』一つでのし上がり、街のチンピラの意思を一つに束ねて見せた敵の手腕は確かに大したものだ。だが、それはあくまで敵の速度が唯一無二、絶対のものであったからこそ『秩序破壊』と『速度探究』の二つを結びつけることが出来たのである。
 そして、敵の主張の根拠となっていた速度が絶対のものでないと証明できている今ならば――――そこにこそ、この事件の大元を解決するための糸口がある。
 パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)はそこを狙って術を組み立てる。彼はSSW産の車載カメラを愛機であるGlanzに装備すると、テストの一件を経て仲良くなっていたこの街のチンピラのアドレス宛に、ストリーミングで動画を送信し始めた。そうなれば、人の口に戸は立てられぬ。ストリーミングのURLを受け取ったメンバーは知り合いのメンバーへ、そのメンバーはまた知り合いへ。そして誰かがネットの海に広く公開すれば――――この動画に、秘匿性はもはや存在しなかった。
 今やこのレースは観客席の連中だけが見れるものではない。アッチェレランドに潜んでいた『Formula』のメンバー全てが、そしてアッチェレランドに住む市民全員が、このレースをリアルタイムで目にしているのだ。地下の走りの様子が、ネットの海で広がっていく。『速度の正しさ』を問うための物語が、今多くの人々の目に届き始めていた。パウル・ブラフマンというスピードスターが、それを成し遂げてみせたのである。今やこのレースは隠された世界の危機じゃない。アッチェレランド中に公になった、『速度とは何か』を問う一大イベントだ。
「行くよ、Glanz――――。ヤスペルさん、動画を見てるお前ら全員! UC発動!! オレの最高にロックな走り、魅せてやるから覚悟しとけ!」
 パウルは宇宙の運転手。地下のレース場を滑るように走るなど造作もないことだ。デブリ群の中を最高速を維持したまま無理くり抜けたことや、流星群が横切る宇宙の通りを時間短縮のために走り切ったことに比べたら、このレース場の傾斜や凹凸、カーブなどは手ぬるいもの。
 宇宙仕立ての彼の洗練された操縦テクは走行の中の余裕を呼び、余裕は客を魅せるためのテクニックとパフォーマンスを呼び込んでいく。
 観客席の連中がエールを送り、ネットのストリーミングに良いねが付きまくっているのを横目に、パウルが仕掛けるのはトンネルが断続的に連なるエリアだ。既に『黒龍』とパウルの速度は同等に近い。ならば、あともう一工夫が要る。敵を抜き去るためには、敵よりも速く走らねば。簡単な話である。
「Ai yo! 見てるかアッチェレランドの野郎共! 今日は卒業パーティーだ。出頭するもヨソへ行くもスキにしな。速度を殺すな、旅立ちの時だ!」
「行かせるかよクソがァァァァァァ!!」
 トンネルゾーンに突入してからの二機の動きは正に対照的であった。両者ともユーベルコードを発動させたという点までは同じだが、その後の動きは全く異なっていたのである。
 『黒龍』が用いるのは【“灰雨跳珠亂入船”】。敵は自らを追うパウルへ向けて、随伴ドローン機と翼下の副砲による迎撃を選択した。
 パウルが用いるのは、【ゴッドスピードライド】。彼は敵が放った迎撃の雨――――レーザーや鉛玉の嵐を目の当たりにしても、ただひたすらな加速を求めた。
 上体を下げ、一気にGlanzの推進力を増加させたパウルは、ダメ押しと言わんばかりにKrakeを後方に向け、一斉発射して更なる加速を行っていく。敵の武力による迎撃に対し、彼は速度で対抗する道を選んだという事だ。スマートである。彼らのレースを動画で見ているチンピラたちは、果たしてそこから何を見ただろう。
 自分の目の前を走るものは何も許さぬとして力による制圧を狙う『黒龍』と、武器を向けられても尚自らの速さのみで結果を語ろうとするパウルの走り。どちらがCOOLかは、言葉で説明せずとも良いだろう。
「クソ、なんでだ……! どうしてテメェらの方が俺よりも速ェ! どうしてお前らの方が俺よりカッコイイんだ……チクショォ!」
「前に進むのは猟兵の専売特許だからさ。悪ィ、オレは――――オレらは、アンタのビートの先を往くぜ」
「――――行けッ、パウル――――!」
 レーザーの雨を巧みなハンドルさばきで躱し、ドローンの発射する鉛玉の嵐は急加速による無理やりなライン変更で避ける。加速は絶えず行われ、そして速度も申し分ない。
 連続したトンネルを抜けた頃、パウルと『黒龍』の位置関係は完全に逆転していた。パウルは抜き去る瞬間、最大出力の零距離射撃を後方の敵にプレゼントすると、更に速度を増して前に進む。
 置いてきぼりの過去は後塵を拝し、猟兵は前に出た形。こうあるべきだ。これこそが美しく純然としてそこにある、勝利の摂理というものである。最後に彼の耳に届いた声は、果たしてアッチェレランドに住む誰の声であったのか。それは分からずじまいである。ともかくとして――――、お見事な勝利であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜


へっ。
話が分かる奴じゃねぇの。
命懸けのスピード勝負、悪くない。
悪くないどころか最高さ。
良いぜ、アタシと相棒の全力フルスロットル……
見せてやろうじゃないのさ!
【人機一体】を発動し、カブを身に纏って準備完了。
常人を超えた『ダッシュ』で追い縋るよ!
勝負所はただ一つ、連続ヘアピンからホームストレートへの立ち上がり!
ヒトの脚で走っている事によるカーブでの機動性を活かして
スピードを殺さぬまま、ストレートに入った瞬間にバイクへ変形!
更なる加速でぶっちぎる!

テールランプからメーザーを放ちながら、吼える!

限界の向こう側を目指すのは最高だ!
けどここに拘るのは頂けねぇ!
外にゃでっかいフロンティアがあるのによぉ!!



●Fastest.
 目の前には緩やかなカーブが広がっていた。先んじてラインを取り、加速を僅かに緩めて速度を活かすための適切な速度へと身を整える。奇しくも目の前を走っている『黒龍』と同じラインになった。まあいい。
 そのまま程度の良い加減速を行い続けながら緩やかなカーブに入る。緩いカーブとはいえ、超高速度で走っている今なら、一歩間違えれば大惨事の事故まっしぐらだろう。だから、集中を欠かさずにただ一つの正解の道を選んで走る。走り切る。カーブを抜ける。目の前には短めのストレートがあり、その奥にはヘアピンの入り口が見えた。勝負所だ。あそこは連続ヘアピンからのホームストレートに繋がっているはずだ。立ち上がりを見せてやるための場が近付いている。勝負はそこだ。飛ばせ。そこだけに賭ければ良い。作戦も、速さも、この世に存在する理の全ては研ぎ澄まされているべきだ。更に飛ばせ。一点賭けの大一番、命がチップのバカ勝負。クソボケみたいに燃えるシチュだろ、ここで速度を出さずにどうすんだ?
「――――へっ、話が分かる奴じゃねぇの。命懸けのスピード勝負、悪くない。悪くないどころか最高さ。良いぜ、アタシと相棒の全力フルスロットル……見せてやろうじゃないのさ!」
 現今、彼女は正に【人機一体】。それこそは数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)の持つユーベルコードの一つ、超常の一、奇跡の力の一粒である。
 多喜は今、自らの愛機である宇宙カブ、JD-1725が変形したパワードアーマーをその身に纏い、そして前に進んでいる。タイヤはない。トルクもない。エンジンもハンドルも何もない。彼女が武器にしているのはその脚だ。一対の脚がたった一つだけ。
 そして、それで充分でもある。内部の構造や機構こそ違えども、全ての車やバイクの根底にあるのは、『速さ』を求めたコンセプトだ。つまり、『速さ』の形をデザインするのは技術体系などではなく、作り手の思想そのものだという話。古めかしいヴィンテージの機体も、今を時めく最新鋭の機種だって、根底は何も変わらない。それらは速くあれと考えて作られたからこそ『速い』のだ。
 そうなれば、浮かぶ疑問は一つだけ。速度を出すという意味において、多喜の武器は一対の脚しかない訳だが、果たして彼女の脚――――彼女のダッシュは、『黒龍』の走りに劣るのか?
 答えは否だ。断じて否である。
「テメェ――――ックク、ハッハッハッハ! バッカだろテメェ! 初めてだぜ、俺の走りに――ダッシュで付いてくるバカはよォ!」
「バカはお互い様だろうがよ! 『速さ』にこだわるアンタの主張は分からんじゃないね! だけどな――――残念だよ、アンタの主張は小せェのさ!」
 多喜は連続ヘアピンカーブに突入するや否や、『黒龍』との距離を尋常ならざる勢いで詰めていく。常人のスペックを超えた圧倒的なダッシュによって、彼女は『黒龍』にいよいよ追い付いてみせたのだ。
 ここで重要なのは『機動性』の話だ。『速度』の話とはまた少し異なる概念である。『可動性』と言い換えても良いかもしれない。車輪――――いわゆるホイールのメリットは、何を置いても運動エネルギーを活かすために効率的な形をしていることだ。
 内燃機関によって生み出されたエネルギーをくべてやれば、車輪はひたすらに回るだけでエネルギーに矢印を付けることが可能である。その意味において、タイヤは運動エネルギーの変換という意味で人の脚よりも優れた機構だと言えるだろう。
 だが、ヒトの脚で走っている事によるメリットも当然ながら存在する。そしてそれこそが『機動性』なのだ。ヒトの脚は、速度を出しながらの急激な角度変更にも耐えられる。対して、車輪は速度が上がれば上がるほど、急激な角度変更には耐えられないようになっている。速度が出ているときに急激にタイヤの角度を変えると、車輪の横力がもたらす遠心力と求心力のつり合いが取れなくなる故だ。
 だからこそ、カーブではヒトの脚こそが活きるのだ。インもイン、先を飛ぶ『黒龍』の走行ラインよりもさらにインを悠々と走りながら、――――多喜は、先んじてヘアピンカーブを抜けてみせた!
「限界の向こう側を目指すのは最高だ! けどここに拘るのは頂けねぇ!」
「テメェ……何が言いてえんだよッ! 邪魔だッ、俺の目の前から退きやがれェェェェ!」
「たった一つの街の最速ぽっちで、お山の大将気取りかよって話だ! どうせ言うなら全世界最速でも目指して、世界を舞台に走れば良かったのさ! 外にゃでっかいフロンティアがあるのによぉ!!」
「――――……クソがよォ。……クク……デケぇ奴らばっかりじゃねェか、猟兵って奴らは……! スケールの差で、俺の負け、か……ッ!」
「当然だろォが! アタシら猟兵は――――世界を股にかけてんだッ! 覚えときなオブリビオン! スピード狂いを自称するならよォ……後ろ見てる暇ねェんだぜッ!」
 瞬間、僅かに『黒龍』の前に出た多喜が、その姿を変じていく。人型から宇宙バイクへ変形――――彼女は真の意味で人機一体である。であれば、『その場に応じた形態で走る』なんてことは当たり前の戦略だと言えるだろう。
 ヘアピンカーブのような『機動性』重視のコースでは人型で、そしてストレートのような『パワー』が必要な時はバイク型で。これこそが多喜なりの速度への答えだ。
 彼女はスピードを殺さぬまま、ストレートに入った瞬間にバイクへ変形すると、テールランプからメーザーを放ちながら、すぐ後ろの敵に向かって吼える。敵の反撃諸共、全てを過去のものにして見せた多喜は、更なる加速でぶっちぎり――――。
「イェーッ!! 多喜さーーんッ!!」
「クソ程アガるレースをありがとよー! アンタ、超イカしてたぜーッ!」
 見事、速度で敵の上に立ってみせた。鮮やかな勝利である。『バカ程ブッ千切った』と言い換えても良い。そうしようか?
 多喜は今、見事に敵をバカ程ブッ千切ってやったのさ! タリホー、お見事、一昨日きやがれオブリビオンってなモンだ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイズ・ペレンナ
なるほどわたくしも束縛を嫌えばこその泥棒
他者を咎めるべき言葉はありませんわ
ただルールがあればこそ破る自由と楽しみがある
ルールそのものを破壊するのはわたくしの趣味ではない
そういう事で

UCで振り切られないよう加速
接近を防ぎ機首の前に出ないよう
着かず離れずで黒龍の彼と並走
勾配のある坂を目指しますわ

上り勾配に来たら最大加速でジャンプ
翼下まで接近し加速を最大限乗せた短剣の一撃で片翼を狙いますわ

副砲とドローンの攻撃は避け難いでしょうけれど
地上では加減速を調整、空中では交錯の時間をなるべく短縮し
損害を減らす試みを

あわよくばドローンの一機も撃ち落としがてら盗めるかしら
速さとは盗みの手段。行動で証明いたしますわ



●Steal the Scene.
「なるほど、わたくしも束縛を嫌えばこその泥棒。他者を咎めるべき言葉はありませんわ」
「おォ、そうかよ怪盗サン! だったら俺が何をやろうと構わねえってコトだよなァ!」
「いいえ。ただ――――、ルールがあればこそ、それを破る自由と楽しみがあるのです。そこを履き違えれば、面白いことは何もありませんわ。美学とは得てしてそういうものではなくって?」
 たった一つの曲がり角を、二つの機体が駆けていた。三つ数えているうちに、四方のどこにも見えなくなった。
 『黒龍』相手に引かぬのは、黒が似合いの美学麗人。オブリビオンのエンジンなどに、なにを恐れる訳がある。
 彼らの走りはまさに疾風、名を付けるならば舞台風。さてもこれより幕が上るは、強敵『黒龍』との一騎打ち。
 かの人こそは『怪盗淑女』、知る人ぞ知る梁上君子。副砲ドローン何するものぞ、こちらの獲物はバイクのみ。
 宇宙の海を股に掛け、お宝求めて幾星霜。折目正しく颯爽と、宇宙バイクのジェットが唸る。善悪正邪の隔てなく、金銀財宝狙って奪う。誰が呼んだか『怪盗淑女』、ルイズ・ペレンナ(怪盗淑女・f06141)が罷り成る!
「……ハッ、ハハハァ! そォかい粋だねェ! 確かにアンタの言う事にも一理あらァ! だがよォ、それでも俺は――――縛られることに耐えられなかったもんでね!」
「ルールそのものを破壊するのはわたくしの趣味ではない……。交渉は無事、決裂ですわね。では、そういう事で。これ以上の言葉は不要でしょう?」
「おうよ、良く分かってるじゃねェか! 何か言うなら証明してみせな! アンタの速さは何なのか、ってなァ!!」
「良いでしょう、一つご指導して差し上げます。ああ、お代は結構ですわよ。けれど――――懐には注意なさいませね?」
「吠えてやがれよ怪盗淑女ッ! 楽しくやろうぜッ!」
 状況を説明させて頂こう。現今、先を往くのは『黒龍』である。しかし、怪盗淑女の相棒こと、宇宙バイク『JET-WIDOW』に跨ったルイズも速度の上では負けてはいない。
 彼女はレース開始と同時に【ゴッドスピードライド】を発動すると、敵機に離されないようひたすら加速を行うことで『黒龍』に喰らいついていた。さらに、その上で近づきすぎれば迎撃を貰うと考えたルイズは、敵の機首をのらりくらりと避けるように、着かず離れずで『黒龍』と並走の形を取っていた。
 何もせずに敵を抜けば、それこそすぐさま後ろからの奇襲を貰ってしまう。だからこそ、彼女は並走の位置に甘んじることで『その時』が来るのを待っている。即ち、敵に一泡吹かせてやる時を。だが、そうはさせじと『黒龍』も上手くルイズからの奇襲を防げるよう位置取りを行いながら、隙があれば副砲でルイズを狙い撃たんとしている。
 状況は既に始まっている、という事だ。二人はまるで付き添っているかのような至近距離を維持しながら、三つのカーブ、二つのストレート、一つのトンネルを越えていく。
 そして、その時が来た。登り勾配の坂に二人が至ったその瞬間、状況は一気に加速する。登り坂に入ったルイズが、最大限の加速を行った故だ。
「仕掛けて来やがったか――――ッ! 当たるかよォ!」
「あら、つれませんわね。当てようとしているのだから、避けられると困ってしまいますわ」
 ルイズが仕掛けたことに気付いた『黒龍』は、すぐさま彼女の進行ライン上に狙いを付けて副砲による射撃を行っていく。ルイズに当たれば御の字、当たらずとも地面をえぐり取ることで加速を殺す肚だ。
 しかし、敵のそんな攻撃は関係ないといわんばかりに、ルイズは目の前で起こる爆発にも怯えず急加速。そして――――『跳躍』してみせた。彼女は加速器を調整することで得た急激な加速にて爆風を文字通り乗り越え、そして爆風すらも推進力に変えて空を駆ける。元々彼女の愛機は宙を走る代物だ、大気を駆けることなど朝飯前。
 跳躍しながら敵に接近していくルイズの狙いは、敵の片翼。彼女は一気に加速を行いながら跳躍を敢行することで、敵の視界の外に潜り込みながら『黒龍』のほぼ真下へ入り込むことに成功していた。目視が不可能になってしまえば、副砲はもはや使えない。敵の迎撃手段はドローンのみに限られた。
「狙いは翼か……ッ、させるかよォッ! 出ろ、ドローンッ!」
「あら。ドローン』というのは、この子のことでいらっしゃる? 可愛いものですわね」
「テメ、何を――――!?」
「あら、これは無粋な質問ですわね? わたくしにとって、速さとは盗みの手段。行動で証明させて頂いた迄の事。――――わたくし、怪盗ですから」
 中空を走るルイズの武器は、何もバイクだけではない。彼女の本質は『盗み』だ。ルイズは『黒龍』の真下に潜り込むや否や、敵装甲の下部から展開されていく無防備なドローンの全てを撃ち落とし、その上で一機手元に残す余裕すら見せつけた。つまり、『怪盗淑女』の手並みを見事に発揮したという訳だ。
「言ったでしょう? お代は結構ですが――――懐には注意なさいませ、と」
「クク――――ハッハッハッハ、やられたぜチクショォ! 味な真似してくれるじゃねェか、クソ……ッ! クソがァァァァ!!」
 後の仕事は簡単だ。迎撃という名の羽をもがれた『黒龍』に対し、ルイズは加速を最大限乗せた短剣、『虎の牙』こと『Les Dents du tigre』による鋭い振り上げにて、敵の左翼に甚大な傷を与えることに成功した。つまり、ルイズは『黒龍』相手に自らの速度を証明して見せた形になる。実にスマートな仕事ぶりであった。
 ――――尚、これは余談だが。不思議なことに、ルイズの姿はネットで配信されていたこのレース動画のどこにも映っていなかったとか。また、彼女が手に入れた『改造次第でまだ操作できるだろう』ドローンの行方については、以後どのように捜索を行っても見つかることは無かったとか。全ては余談である。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
ニルズヘッグ(f01811)並走
正しくレース勝負であるならば此方を使おう
最高速競争の産物とやらに更に改造を加えた代物だ
ああ……以前宇宙バイクに乗った位だがな

よりコースを熟知している者が相手だ、無茶をせねば追い付けまい
勾配下り連続S字にて勝負を賭ける
アウトインアウトなぞ知った事か、転倒さえしなければ其れで良い
第六感と極限まで引き上げた反射神経、怪力での制御にて
ノーブレーキ、荷重移動のみで蜘蛛糸よりも細い追い付く為の最短コースを選び取り
ニルズヘッグとは逆側から1刀叩き付けてくれる

今やお前自身の行いが「速さ」を穢しているに過ぎん
人の命を軽んじた時点で、お前の言う「速さ」は唯の「迷惑」に堕ちたと気付け


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
嵯泉/f05845と

相手が真正面からやるってんなら礼儀は通す
普段は安全運転だけど、私のバイクは妹が改造してる
違法レベルのスピードだって出せる代物だ
……嵯泉、バイク乗れたんだ?
(また無茶すんだろうなあ……)

スピードが出せるとはいえ、当然相手のが早いわけだ
狙うのは一か所、下り坂の連続カーブ
ノーブレーキで突っ込むぞ!
この体は機体制御にお誂え向きだ――幻想展開、【済生】
大きく開いた翼でバランスを取る
得物を持つのは最接近した一瞬だけで良い
懐の蛇竜を黒槍に変えて串刺しだ

そういう娯楽を否定はせんよ
だがそれを望まん奴の命を危険に晒すのはいただけんな
誰も巻き込まんところで、やりたい奴だけ、勝手にやっていろ!



●Break the Speed Limit.
「それで? どうする」
「相手が真正面からやるってんなら礼儀は通す」
「同意だな。正しくレース勝負であるならば、私は此方を使おう。其方の馬の力は如何程だ」
「普段は安全運転だけど、私のバイクは妹が改造してる。違法レベルのスピードだって出せる代物だ」
「それは重畳。今回の共駆けも、先だってのレースに恥じぬものにしてみせよう」
「……嵯泉、バイク乗れたんだ?」
「ああ……以前宇宙バイクに乗った位だがな。しかし、此奴は最高速競争の産物とやらに更に改造を加えた代物だ。馬の力を信じることにするさ」
「……」
「……なんだ?」
「ああ、いや、何でも。――――そんじゃやろうぜ」
「応。奴に明日の落陽は拝ませぬとも」
 二人の猟兵――――先ほどの夜間レースでは、『一機』に乗り合わせながら組んでの参加出会った二人組が、今度は並んでレース場を駆けていく。
 追うのは『黒龍』の背中ただ一つ。片方の男が何かを言い淀んだか。しかし、どうやらお互いその先の言葉は良く分かっているらしい。口をつぐんだ彼が口にしなかったのは、『相方が無茶をすることに対しての思案』だ。だが、ここで『無茶するな』は通るはずもない道理である。故に、彼は思ったことを言葉にはせず、ただ胸の奥で思いを噛んだのだ。恐らくは、自らもその無茶に乗るために。
 彼らはそれぞれ既にチカラを発動している。ユーベルコード。この世に自然発生することを許されなかった奇跡の力を、彼ら二人は立ち並んで同時に発現せしめる。周辺の神気が収斂し、世界は彼らに悋気する。――――発動。
『――――それでも、世界は愛と希望に満ちている』
 幻想展開、呪術顕現、天罰招来。【済生】、起動。今この時に至っては、温かみを持つ人肌など不要である。力を解放し、自らの身体を鱗を持つ竜人に変じてみせるのは、灰燼色の呪いの忌み子。不信心者。呪竜。ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)である。
『――――箍は要らん。擁するのは討ち砕く力のみ』
 極度結実、武芸際涯、志操堅固。【終葬烈実】、起動。今この時に至っては、心身を縛る箍など不要である。力を解放し、自らの心身に存在する不必要な箍を退かすのは、総てを喪った一人の男。禍断の刃。砕禍。鷲生・嵯泉(烈志・f05845)である。
 『スピードが出せるとはいえ、当然相手の方が速い』。『よりコースを熟知している者が相手だ、無茶をせねば追い付けまい』。
 二人の思考はどちらも正しい。レースとは乗り手の技術と経験、そしてマシンの性能の全てによる総合的な競技である。三つあるうちのどの要素も高くなければならぬ。
 技術、経験、性能――――そのうちのどれか一つが突出していれば、多少の欠点はもみ消せるだろうが、それはあくまで『消せる』だけ。それでは遥か頂にある『最速』は目指せない。技術は即ちハンドリング、経験はイコールでMAPの把握とブレーキング、性能はそのままマシンの速度結果に直結して現れる。どこかが欠ければ、その分そこでの勝負が不利になる、という話。
 ――――だから、今回のレースはその裏を返した話になる。乗り手の技術は申し分ないと言って良いだろう。やや粗削りではあるものの、十分すぎるほどの素質はある。性能については何をか況やである。問題は経験だ。MAP把握とブレーキングの面においては、猟兵たちは明らかに『黒龍』には勝てないと言って良い。――――ならば。
 『経験が無いならば、その分何かで取り返せばいい』。これはそういう話なのだ。
 MAPへの慣れが劣っているのなら、狙いを絞ってやればいい。ブレーキングの腕で負けるなら、ブレーキを踏まなければ良い。
 そもそも、猟兵たちが一刀を入れるために必要なのは『手を尽くして敵に一瞬でも追い付くこと』だ。継続して敵の前に出続けることではない。だから、狙いは少なくて良い。少ないどころか、一点で良い。研ぎ澄まされた日本刀が煌めくように、暗闇の中で龍の眼光が光るように。狙うは点だ。線じゃない。お利巧なレース展開など組み立てるより先に、全てを燃やして奴の頭を叩き、腸を抉るための熱量が必要だ。狙いは絞らなくては意味がない。
「ニルズヘッグ」
「ああ。嵯泉も」
「無論だ。合わせてみせよう」
「諒解だ」
 狙うのはたった一か所。『下り坂の連続カーブ』だ。『勾配下り連続S字』と言い換えても良い。ともかくとして、二人の猟兵は敷き詰められながら引き延ばされた空白が広がる視界の隅で、隣を走る相棒の目だけを見た。
 相手の声は聞こえなかった気もする。自分の口は動かさなかった気がする。だが、確かにニルズヘッグは嵯泉の声を聴き、そして嵯泉はニルズヘッグの思考を掴んだ。二人に迷いはない。二つの角度から研ぎ澄まされた思考が、一つの最適解に結び付いた。
 果てしなく遠くにある『竜』と『人』の思考という点と点が、ある意味ではマセマティカルな境界線上で、たった一つだけの『敵を追い抜くための最適解』で交差した。後は、その式を実行に移すだけ。ミスは許されない。式を黒板に描くためのチョークは、彼らの命の蠟燭だ。今も燃え続けている彼らのそれは、一つでも途中式を間違えれば根元から折れてしまうだろう。
 だが、そういうものだ。敵とて命を懸けている。こちらも命を懸けねば、何も成すことなどできまい。――――ああ、狂っている。狂っているとも。敵も彼らも、皆狂っている。それで良い。それが良いのだ。『速度』のために命を懸けるなど、狂っていなくては出来ないのだから。さあ、笑わず喜劇を続けよう。それが役者の務めなら。
「――――アウトインアウトなぞ知った事か、転倒さえしなければ其れで良い!」
「――――ノーブレーキで突っ込むぞ!この体は機体制御にお誂え向きだ――!」
「……来やがったかよッ! 来いッ、抜かせやしねェッ! こっちだって面子ってモンがあるッ!」
 先攻してS字に侵入、大きな機体を巧みに操って見事にカーブを通り抜けていくのは『黒龍』だ。敵の技術もやはり見事。猟兵たちがどのような腕前を有していようと、敵が速さという一点においては明らかな強者であることは認めざるを得ない。
 僅かに時間を置いて二人の猟兵たちもS字に入る。大きく開いた翼でバランスを取り、まるで敵のラインをなぞる様にして奇麗にコースを駆けるのはニルズヘッグ。彼が敵のラインをなぞる様にして飛ぶのには、無論訳がある。気圧低下による吸引効果、及び空気抵抗の低減――――スリップストリームを狙ってのことだ。超高速で走れば走るほど、空気の壁はその厚みを増す。敵機と同じように空を飛ぶニルズヘッグだからこそ得ることのできる、数学的なアクセルである。その効果は著しい。壁にでもぶつかれば、恐らくその瞬間に命は断たれるほどの速さだ。
 ニルズヘッグとほぼ時間を置かず、自前のバイクで走るのは嵯泉。彼が駆るバイクは最高速記録を生み出すために作られたモンスターマシンだ。速度は出せても、大きく曲がるなどは苦手なそれだ。だからこそ、彼は『不必要に曲がらない道』を選んだ。嵯泉は持ち前の第六感と、ユーベルコードにて極限まで引き上げた反射神経、怪力での制御を用いて、ノーブレーキ、荷重移動のみのみの走行を実現してみせたのである。蜘蛛糸よりも細い追い付く為の最短コースを選び取った結果、サーキットの壁と擦れたバイクの塗装が剥げていく。危険だ。一つ壁の至近を通るたび、坂を駆け降りる風切り音が黄泉比良坂からの呼び声に聞こえる。
 二人の走行はまるで異なるそれだった。かたや流麗な翼のはためきにてバランスと加速を両立させるニルズヘッグと、速度を活かすために加速以外の要素を無駄を省き続ける嵯泉。二人の走行は実に危険だ。だが――だからこそ、今二人は『黒龍』の至近まで迫ることに成功していた。
 経験に置き換わる武器を、彼らは見事に見付けてみせたという訳だ。距離は申し分ない。速度充分。踏み込みの代わりにアクセルを踏め。後は一撃馳走するまで。
「~~~~ッ!! ちきしょォ、負けるのかよ……ッ! まだだッ、まだ俺は負けねェ……ッ! 抜かされなきゃァ、俺は負けねェんだよッ!!」
「今やお前自身の行いが『速さ』を穢しているに過ぎん。人の命を軽んじた時点で、お前の言う『速さ』は唯の『迷惑』に堕ちたと気付け」
「『速さ』を求める――――そういう娯楽を否定はせんよ。だがそれを望まん奴の命を危険に晒すのは頂けんな? そういう『迷惑』は、誰も巻き込まんところで、やりたい奴だけ、勝手にやっていろ!」
「――――イカした走りしやがって……気に入らねえンだよ、クソッ! クソックソックソッ、クソがァァァァァァッ!」
 得物を構え、武器を揮う。地に足がついていれば簡単な動作であるが、今はレース中で足が地についているわけではない。なればこそ、上体の力を意識して最低限にとどめ、身体のこわばりは全て失くしていく。
 膂力以上に重要なのは、最接近した一瞬に合わせてツルギを揮う反射神経だ。過剰な剛力は身を崩す因となる。故に、その時が来るまでは力を抜く。居合いの要領だ。呼気を整え、かんばせは前のみを向き、手の内は丸く、手首は尚柔らかく。
 『黒龍』の右翼脇合より来て、先に仕掛けたのはニルズヘッグだ。彼は懐の蛇竜、『Ormar』を瞬時に黒槍に変え、敵が鋼の四肢を伸ばして迎撃態勢を取る、その瞬間を狙う。レース場のライトを浴びて、黒く輝く穂先が夜闇に浮かぶ星の如くに瞬いた。
 敵が自らの背後に向けて放つ薙ぎ払いのような右の裏拳の『起こり』を、ニルズヘッグは第六感にて捉えて見せた。彼は敵の攻撃のタイミングに合わせて黒槍を展開すると、敵の装甲内部から現れ、まだ折り畳まれた状態の右腕の軌道上に乗せるように黒槍を穿つ。
 狙いすまされた点の攻撃は機械仕掛けの右腕をいとも容易く貫通し、敵へ打撃を与えると同時に右腕の可動性すらを封じていく。
 ニルズヘッグの攻撃と同タイミングにて敵の背後、やや左側から走り寄るのは嵯泉である。彼が目指すのは、ただどこまでも純粋な一刀を叩きつけてやること。ニルズヘッグへ迎撃を行ったように、『黒龍』が左腕を展開させながら左後ろにいる嵯泉のバイクを叩き潰さんとして叩き下ろしを行う。
 だが、ユーベルコードによって身体能力を増している嵯泉は、頭上より来る敵の叩き下ろしを真っ向から『受けとめて』みせた。ライトの光を浴びて尚、唯只管に黒く昏くツルギ、縛紅を左手一本で扱いながら敵の攻撃を受け止めた彼は、開いた右手で片手運転を行いながらもその時を待つ。
 ――――『来た』。敵の叩き下ろしに込められた力が、ほんの僅かに緩まった。ニルズヘッグの一槍が、敵に痛みと怯みを送り込んでくれた証であろう。これを機と見るや否や、嵯泉はすぐさま左手の押し込みを強め、敵の左腕を上空へ弾く。瞬間、左手に握った武器をハンドルへ持ち替えつつ右手を開け、瞬く間に悉くを断つツルギ、秋水を右手に構えたかと思えば、ニルズヘッグとほぼ同時の機に合わせて敵の胴体へ斬り込んでみせた。 
 他の猟兵が斬り込んだ後の残るそこに届いた斬撃は、敵の欠陥の代わりになる主要な配線を幾つか斬り飛ばし、敵の走行に甚大な影響を与えて見せた。竜が崩し、人が繋いだ形である。敵はもはや『穴あき』同然だ。
「……」
「……如何した?」
「いや、やっぱ無茶したな……ってさ」
「お互い様だろう。……ニルズヘッグ」
「なんだ?」
「感謝を。助かった」
「はっ……。それこそ、お互い様だろ?」
 二人の猟兵は個人技の粋によって敵に追い付き、息を合わせた連撃にて敵へ手痛い一撃を加えて見せた。
 速度で勝れば、敵の主張に穴を開けられる。その上、レースという難しい状況でオブリビオンへ打撃すら与えてみせたのだ。これ以上の勝利は無いと言って良いだろう。
 観客共が物すら言えずに見惚れる御手腕、実に御見事である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
イサカ/f04949

アイツ早くてムカつくな
僕も一発やりたくなっちゃった
イサカ、運転代わって
左がブレーキね

ルーフに出ると
おやおやイサカ早ーい
絶妙に死線を回避する様な走り
こりゃ交代して正解だったかもね

僕の鋭い勘によると
この車は丁度良い所でブレーキがかかる
イサカは「分かってる」って予感
だから僕はそれに合わせて跳べばいい
あの【連続ヘアピンカーブ】なんて格好の舞台だ

敵のフロントガラスにこんにちは
ガラスを割って顔面を殴る、殴る
なんとこの妖刀は不思議な力でメリケンサックにもなるのだ!
拳の血を吸って稲妻を帯びたら仕上げの必殺パンチ

追い抜いた愛車に飛び移って離脱
はースッキリ

…この車こんなに事故車風だったっけ?


黒江・イサカ
ロカジ/f04128と

え?僕が運転するの?
ふんふん…なるほどね ブレーキくらいわかるわ
結構得意なんだよ、運転

それに、免許持ちの彼の沽券の為に言わなかったけど…
僕、スピードなら自信があるんだ

僕の眸は、越えれば死ぬラインが見えるから
つまり、それを越えなきゃいいのさ

狙うは【連続ヘアピンカーブ】
僕の運転だし、正道でレースに勝とうなんて思っちゃないよ
タイミングは敵の車体がカーブの向こうに目の前一直線に並んだ時
此処じゃ彼も減速する
だから僕は最高速で、死なないギリギリで、ブレーキを踏む
僕にとっての速さって、手段を問わないってことさ

じゃ、着地は頑張ってね、ロカジくん
後でちょっと事故ってでも追いつくから



●A Life-And-Death Situation.
「――――…………アイツ、早くてムカつくな。イサカ、運転代わって」
「え? 僕が運転するの?」
「僕も一発やりたくなっちゃったのさ。こんなイイ女に跨る機会なんてそう無いんだからさ、感謝してよ?」
「ふんふん……なるほどね。珍しくやる気ってわけだ。分かった、いいよ。ベッドの天蓋で見てなよ。自分以外の男のテクで、この子が啼くの」
「面白い冗談だねぇ。ま、いくら他の男に乗り回されたって、コイツは最後に僕の元へ戻ってくるさ。それが一番しっくりくる、ってね。そういう風に僕が『作り変えた』んだから。……そうそう、左がブレーキね」
「ブレーキくらいわかるわ。結構得意なんだよ、運転」
「あれ? 免許持ってたっけ、イサカ」
「さぁて」
「不安だなあ。それじゃ、後よろしくね」
「少しくらいは信頼しててよ。また後で」
 二人はそれで相談を完結させ、『黒龍』を追いかけるためにレースを開始する。彼らが取る作戦は一つ。たった一つきりだ。それ以上は無い。全てはそれくらいシンプルな方が好ましい。
 彼らの思考にまずあったのは、『敵に勝つためどうするか』ではなく、『敵の勝ち方は決まったからどうするか』だ。結果を出すために方途を問うものではなく、確立した勝ちという結果に向け、どうやって事態を『こじつけるか』。彼らはそのような考えで作戦を決め、未だ青写真のままの『勝ち』目がけて走る。
 作戦の概要が少ないはずだ。彼らには、勝ちへのビジョンが既にハッキリと見えているのだから。黒い翼をはためかせて飛ぶ『黒龍』を、白いボディのイカした車がライトに照らされ追い駆けていた。
 さて、彼らの作戦が何であるのかについて、この辺りで説明を行う必要がある。
 彼らの作戦は、ドライバーとエンターテイナーの変更だ。彼らを乗せる脚は変わらず、先ほどまで都会の漆黒を走っていた、白の高級外国産スポーツカーである。が、ドライバーは異なっている。先ほどの絶妙かつ繊細な走りと比較して、やや走行の色が変じているのはそういう訳だ。
 夜間のレースを担当していたドライバーの運転は、実に精妙かと思えば大胆、繊細かと思えば命知らず。まるで『九つの面がある』かのように千変万化、その場その場で適切なドライビング・テクニックにて『スペクター』たちを撒いて見せたものだが、現今車を走らせている人物の走りは――――そう、どこか妙だった。
 何が、とは具体的に言えぬ。言いたくても分からぬのだ。観客席に座っている『Formula』のメンバーたちでさえ、何とも言えず不思議な面持ちで望洋たるチャレンジャーの運転を眺めていた。あえて例えて言うならば、『彼』の走りは歪なのだ。確かに速い。速い、が、しかし、『どうしてそう走れる』のか理解できぬ。
 そのドライブは、明らかに異質であった。これは真っ当なテクではない。これは正気の沙汰ではない。黒江・イサカ(青年・f04949)の運転は、たった一つの異質なものによって成り立っていた。『事故を起こさぬ上で最速ギリギリの速度を保つ』という、ただただその一点のみで。九つの面を持つ彼の運転とは全く違う。イサカの運転は、どの角度から見ても『同じ』だ。一つの――――くるった何かがエンジンの中で蠢き、真っ白いボディペイントがそれに覆い被さっている。イサカの走らせるその車は、どの面から見ても、まるで――――死の直前で笑うように滑っていた。
 短いストレートでもイサカはひたすらにアクセルを踏み続ける。その後のシケインにもお構いなしに、だ。加速。加速。加速。加速。観客席から悲鳴が上がる。あれではシケインを曲がり切れず壁にぶつかる――――という寸前で、イサカの駆る車は魔法のように一瞬の減速を見せ、そしてシケインを圧倒的な速度で乗り越えていく。いや、スリップしているのだろうか。アレはドリフトのようなお行儀の良いものではない。しかし、『速い』。意味が分からないほどに。
 緩いカーブが三つ続くそこでも、イサカの走行に対して観客席に上がるのは歓声ではなく息を吞む音。彼の走行は考え得る限り最速だ。だが、それ走りは余りにも死に近い。一歩間違えれば事故死は避けられぬであろう。
「おやおや、イサカ早ーい! ひゅーひゅー」
「でしょ? 僕、スピードなら自信があるんだ」
「こりゃ交代して正解だったかもねぇ」
「あれ、降伏宣言?」
「違うよ。だってほら、――――僕の見せ場はここからだし?」
 ドライバーの紹介が終わったところで、次はエンターテイナーの紹介に移ろう。白い車のルーフに出て、開いた窓越しにイサカと会話を行っているのは、ロカジ・ミナイ(薬処路橈・f04128)。彼はイサカの運転を見ても表情一つ、眉一つすらも動かさずに、青い目の奥に笑みを湛えていた。
 イサカとロカジ、二人の狙いは一つであった。いや、彼らが詳細について話した訳ではないのだが、それでも彼らが見ている場所は一つきりであった。このストレートの先にある、連続ヘアピンカーブ。勝負所はそこだ。
 車のルーフでロカジはこう思案する。勘を働かせた、と言い換えても良いかもしれない。まず、イサカが走らせているこの車は『丁度良い所でブレーキがかかる』。そして、この車の特徴を既にドライバーであるイサカは掴んでいるはずだ。そのように、ロカジは憶測を巡らせる。
 丁度良い所でブレーキがかかる――――それはつまり、ブレーキング性能が高いという事だ。それはイコールで、アクセルをより長い時間踏み続けることが可能だという話でもあり、ドライバーの腕次第では加減速のメリハリが利く走行ができるという事でもある。だから、恐らく――――『その時』が来るとしたら、ヘアピンカーブこそが格好の舞台。『跳ぶ』には実にお誂え向きなのだ。後はイサカがそれをやってくれるかどうか。
 車の運転席でイサカはこう思案する。事態をこう解釈した、と言い換えても良いかもしれない。彼は自らの運転を、『正道でレースに勝てる』代物であるとは認識していなかった。速度を出すという点では異常なまでの適性を持つイサカではあるが、レース全体を通してみれば、やはり敵とのテクニックの差が響いてくるだろう、と。
 だが、それはあくまでレース全体を通してみた時の話。そもそも、猟兵たちからすれば、レース中に敵に一度でも接敵すればいいのだ。通してレースに勝つ必要はない。だから、必要なのはたった一瞬。そして、適切なタイミングは――――敵の車体がカーブの向こうに目の前一直線に並んだ時だ。深いカーブを曲がるなら、敵も必ず幾ばくか減速する。だから、イサカはそこに付け込んで、最高速で、死なないギリギリで、敵よりも遅くブレーキを踏むつもりであった。後はロカジがそれに合わせてくれるかどうか。
 ヘアピンカーブが見えてきた。リハーサルはなしだ。一発勝負でいこう。
「――――ッ、ハァ?! テメ――――バカかよ!? そんな速さ――――意味、分かんねえだろッ! クソッ! カッコ良いクソ共がッ、俺を差し置いて魅せやがってェ! 無駄に死ぬ気かボケがァッ!」
「ごめんね。僕にとっての速さって、手段を問わないってことさ」
 ――――イサカの眸には、越えれば死ぬラインが見えている。いわゆる『死線』という奴だ。彼は比喩でも何でもなく、自分の死が見えている。つまり、それを越えて走らなければ良い、という話なのだが――――。やはり、それは酷く歪な運転だった。だが、不思議なことに誰もが魅了されるような走りでもあった。『目が離せない』のだ。息を吞む観客でさえ、その目は吸い付くようにイサカの走りだけを見ている。
 イサカは死に近すぎる。だからこそ、死の際をだれよりも見定められる。そして、レースというものは、極論『最も死に近付いたもの』が速度の上で頂点に立てる競技でもある。危ない走りだ。だが、それが良い。狂ってるほど最高だ。そこには美がある。命綱に頼らない高所での綱渡りのような、そういう危険な美が、【楽園】を用いたイサカの運転にはあった。
 死に誰よりも親しいからこそ、彼は誰よりも死に近い生を見つめることが出来ている。絶妙に死線を回避する様な走りは、彼にしかできない芸当だ。免許持ちの彼の沽券の為に言わなかったらしいが――――死の直前ギリギリまでアクセルを踏み続けられるイサカの走りは、冗談みたいに速かった。
 接敵。ヘアピンカーブに先んじて入った『黒龍』と、カーブへの入射角が重なった。そこに向け、イサカはただひたすらに速度を出す。出し続ける。そして――――あわや高速で衝突――――の直前で、思い切りブレーキ。二つの機体は、もはや至近となった。
「――――ンだとォッ?!」
「じゃ、着地は頑張ってね、ロカジくん。後でちょっと事故ってでも追いつくから」
「いやいや、事故前提はなしでしょ。――――や、こんにちわ」
 瞬間、影が弾丸の如くに飛んだように見えた。その影の正体は、イサカの走らせる車から敵機に向かって跳躍したロカジであった。彼は横合いから敵の真正面、フロントガラス付近目がけて跳ねると、車の加速と飛び跳ねた推進力の全てを用いて一発、大きな一撃を放ってみせた。
 水を滴らせたかのように湿って輝く、窈窕たる抜き身の妖刀を握り込んでの強烈なショベル・フック。ロカジは一撃でガラスを割ってみせると、そのまま連続で敵の顔面を殴る、殴る、殴る、殴る。割れたガラスも気には留めず、むしろ自らの肉に深く突き刺さったガラスの破片を利用して、敵の顔面を引き裂くように殴打を重ねる。フック、ジャブ、アッパー、スイング、ブロー。滴る血にもお構いなしの猛攻だ。
「どうぞご覧あれ、なんとこの妖刀は不思議な力でメリケンサックにもなるのだ!」
「ガッ、ギッ……ッ! テメェ、離れろやァ! 前が見えねェ――――俺の走る道が見えねえだろうがァ!!」
「あーあー、怒らない方が良いと思うな。尚のこと顔が不細工になるよ? ――――言われなくとも離れるってば」
 不意を突かれた敵が、ようよう痛みの中で無理やり反撃の手を繰り出してくる。だが、遅い。余りにも、余りにも遅い。そもそも敵は何か勘違いをしているようだ。ロカジは別にこれから更なる猛攻を仕掛ける訳じゃない。欲張りは身を滅ぼすものだ。敵の動き出しの前に、ロカジはセット・アップしていた必殺を発動する。
 【誘雷血】。自身の血液を呼び水に雷電を召喚、殺傷力を増すロカジの幻想の一だ。先ほど迄の猛攻は、ロカジにとっては事前準備のようなもの。ガラス越しに殴ったのは、雷を鳴らすために血を流す必要があったからだ。
 ばりばりと、音を伴って地下レース場に火花が散る。拳に付いた血を吸って、ロカジの掌に稲妻が現れた音だ。かみなり。神鳴り。音よりもなお速い光の速度を持つ神の怒りのごとき殴打が、敵の苦し紛れの迎撃よりも速いなんて――――当然のことだろ?
「……ア…………アアアア……ッ!! 電圧ガ……ッ!! 狂、ッグ、ギャアアアアアアッ!!」
 仕上げの必殺パンチと言わんばかりに敵の顎にシビれるような一撃を喰らわせたロカジは、殴打と同時に両脚で後ろに跳躍、敵の反撃が来る前に敵の射程から離脱していく。ロカジの一撃は敵の顎を通して敵機の計器を狂わせたか、『黒龍』は速度を落して沈黙に至る。
 背後の状況を確認していないまま跳んだ彼であったが、丁度彼の足元にイサカの走らせる車がやってきていた。『息ピッタリ超カッコいいシーン』、その二だ。
「はースッキリ……。……ねえ、イサカ? この車こんなに事故車風だったっけ? 随分傷ものにしてくれたじゃん」
「うーん、そうだな。ほら、もともと生娘じゃなかったんじゃない?」
「あのねぇ……」
 彼らの後ろに留まるオブリビオンには目もくれず、二人の男はバキバキにバンパーを凹ませた車に乗って鮮やかにレース場を駆けていく。ここに残る理由もない。後に吹くのは色風のみ。
 二人はチェイスに勝ち、自分たちの速さと強さを証明してみせた。実に軽妙な一撃、実に狂おしい運転であった。車の修理代の行く末については、――――また別の機会にでも語られるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス
【アッシュ&ホワイト】
やれ、何かに狂うたやつは手に負えんな
──ま、人の事は言えんが

幾ら私が相応に技術があれど、普通にやればまず勝ち目は無い
故に、ラフファイト上等で行く!

最初はケツに張り付いて敵の走りを見る
テクニック、癖、それは染み付いたもんだ、拭えない
そして下り勾配カーブ手前で、一気加速!

止まらない?──いいや、止まる気は無い、だ!
【勝利導く黄金の眼】で、敵の走行ラインは見えた
カーブ中で膨れ上がるインを突いて、敵のマシンにぶつけ、クッションにしてやりながら、銃で頭、手、タイヤを射撃し、走りも命も終わりにしてやる!


スリルは嫌いじゃない
然るべき場所でやらず、関係ない人を巻き込むのは三流のやるこった


ヴィクティム・ウィンターミュート
●【アッシュ&ホワイト】

Formulaに教えてやりな
我らが『ネグル・ギュネス』のテクとスピードは、アイツらなんかじゃ追いつけもしない領域にあるってことをよ

操縦は全て任せる。どんな荒い運転でも構わない
合図を出してくれたらとびっきりの加速をくれてやるぜ

──ここだな
『Wind Ruler』アクティベート!
マシンは疾風を纏い、守護風域が展開される!
GOGO!エンゲージしろ!ぶちかませ!
反撃は風が全て逸らしてくれる!

俺にとって速さとは、『自由』だ
だからお前の言うことも理解できる
だけどな
自由には大いなる責任が伴う
故に速さには…誰かを殺すかもしれない責任が伴う
その責任を皆が持ち続けるなんざ、出来やしねえんだ



●Gone With the Wind.
「やれ、何かに狂うたやつは手に負えんな。――――ま、人の事は言えんが」
「本当にな。ま、アレだ。自分以外の連中に迷惑をかけてない分、俺たちの方がマシってことで良いだろ」
「違いない。……ナビと、それから例のアレ。頼むぜ、相棒。目の前を走るあの野郎に、『ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)』のサポートを見せてやってくれ」
「おうよ。お前こそ、『Formula』の連中に教えてやりな。我らが『ネグル・ギュネス(Phantom exist・f00099)』のテクとスピードは、アイツらなんかじゃ追いつけもしない領域にあるってことをよ」
「はは、――――そりゃ良い。随分と買われたもんじゃないか!」
「おいおい、謙遜か? くく……似合ってねーぜ、ネグル。――――オーライだ、ブッ飛ばしな!」
「Ash! Ash!」
「White! White!」
 【Ash & White】。既に彼らのコンビ名は、アッチェレランドに住む全住民が知るところとなっていた。別の猟兵がこのレースの存在をこの街に発信し、ネットの海でレースの状況がリアルタイムで広まり続けている今、夜間のレースの様子ですら、いつまでも隠し通せるものではない。
 街中に仕掛けられた監視カメラにアクセスできるのは、何も『黒龍』やヴィクティムだけではないという話。その動画をネットに上げた手法が合法か非合法化はさておいて、夜間に行われたレースで見せた彼らのスマートな走りの様子を収めた動画は、既にアッチェレランドでトレンド最上位に入るほどの人気を博していた。
 それが故の、このコール。やはりと言うべきかなんと言うべきか、『黒龍』がそもそも『スペクター』の考えを詰まらないと断じている以上、街のチンピラたちも『スペクター』には好感情を抱いていないらしかった。そこに、純粋なテクとスピードで夜の都会を場所を問わずに走り去るクールでダーティな二人組――――。
 コードネームのようなコンビ名と相まって、彼らが一気に人気を得たのも分からない話ではないだろう。しかも――――、彼らがまたしても粋な走りを見せているともなれば、この熱の高まりも納得というものだ。
 目の前を走る『黒龍』を追うに当たり、彼らの作戦はこうだ。
 まず、ドライバーであるネグルに幾ら技術があれど、普通にやればまず勝ち目は無いだろう。そのように二人は前提を置く。理由は簡単、そもそも論として今回の敵は速度に特化しているからだ。そこに至って、速度のみで勝てると考えるのは少々見通しが甘いだろうと、二人は思考したわけである。
 ――――故に、彼らはラフファイト上等で『黒龍』の影を追う。どこまでも敵のケツに張り付いて、至近距離で敵の走りを見る。カーブへの入射角の癖、ハンドリングの挙動、加速をどのタイミングで行うのか、減速をするのは目の前のカーブとの速度対角度が何度以上の時か、勾配にぶち当たった時のエア・テクニック――――。大きく括れば『慣れ』や『癖』というような、敵の身体の奥底に染み付いた拭えないそれらを、ネグルは全てその目に抑えていく。
 戦闘機である『黒龍』に勝つために、まず彼は敵の全てを学習することから始めたのだ。学ぶべきところは自分の中に取り入れ、そして必ず存在するであろう付け入る隙を探してひたすらに走る。走る。走る。――――そして、『見えた』。敵を攻略するためのカギは、『下り勾配のカーブ手前』にある。というか、そこにしかないというべきか。
 車輪で走るネグルたちと、翼で走る『黒龍』。今なお眼前に広がる距離の差を縮め、一気に敵に追い付くためには――――そこしか、ない。
「――――見付けた。相棒、準備は良いな?」
「もちろんだよ、いつでもいける。……おい、ネグル。確認だ」
「ああ、なんだ?」
「『操縦は、お前に全て任せる』。どんな荒い運転でも構わない。合図を出してくれたら――――俺が、お前に、とびっきりの加速をくれてやるぜ」
「……ははっ、そりゃ……最高だな! ヴィクティム、答えろ! ――――オレと一緒に狂う覚悟はあるか!?」
「――――誰に向かって言ってんだよ、相棒!」
「上等ッ! やるぞ! この勝負で勝つのはオレたちだ! 【勝利導く黄金の眼】ッ!」
「そっちこそトチんなよッ! 『Wind Ruler』、アクティベート!」
 【勝利導く黄金の眼】。ネグルの用いるユーベルコードの一つである。超高速演算によって近未来予測を可能にするその力は、今まで得てきた敵の癖やテクニックの情報から、ある一つの道を指し示した。
 即ち、目の前に広がる『下り勾配カーブ手前』を、敵がどう走るかの予測ラインだ。そしてそれが分かれば、解を求める式への代入も済む。――――ある一つの答えへの道が開けていく。敵に追い付き、一刀を加えるために必要な唯一の最適解が、ネグルの目には見えていた。
 故に、彼は愛機のアクセルを吹かして一気に加速しながら下り坂を転がるようにして駆けていく。まだだ。まだ足りない。全ての加速を駆使してもまだ足りない。アクセルによる運動エネルギー、下り坂を転がり落ちる位置エネルギー、その二つを用いてもまだ足りない。――――だが、ネグルは知っていた。その足りないピースを埋める男はもう、自分のすぐそばにいることを。
「――――ここだな。ネグルッ!! GOGO!! エンゲージしろ!! ぶちかませ!! 反撃は風が全て逸らしてくれる!! とにかく飛ばせ、バカみたいにだッ! 『ウィスケペル』はマシンから零れるまでなみなみ注ぎ込んでやるからよォッ!!」
「~~ッ、テメェら――――ヘッ、フハハハハハッ!! 本物のバカだろ!? 中々良いスピードだがよ、それじゃ俺に追い付くどころか壁に激突してお陀仏だぜ! 命が惜しけりゃ止まることだな! 止まらないと死ぬぜ!? 止まったら止まったで、俺が殺してやるけどなァ!」
「止まらない? ――――いいや、止まる気は無い、だ! 勘違いすんな、このウスノロ野郎ッ! 『人』の生み出した技術で、『人』の生み出した知識で、『人』の生み出した経験でもってその身に成り果てた割には――――、随分お粗末なエンジンじゃねェかッ!」
 ヴィクティムの用いる力が、下り坂を駆け墜ちるようにして走る車に作用していく。ネグルのテクとスピードに、ヴィクティムのサポートが重ねっていく。彼らはコンビだ。一人じゃァない。二人だからこそ成し得るスピードを、彼らはその手に握っている。
 【Extend Code『Wind Ruler』】。自分を含む味方に疾風を纏わせ、高速移動と敵の攻撃を防ぐ守護の風域の放射を可能とするヴィクティムのコードだ。翼と比較した場合の車輪のメリットは、何を置いても『ホイールのグリップ』にこそある。ヴィクティムの呼び寄せた力はネグルが走らせる車に強烈なダウンフォースを与え、彼らの車は急こう配の下り坂の中にあって尚地面を強く噛み、そして車輪を回し続けて際限なく加速していく。
 何もかもを吹き散らして、何もかもを置き去りにする。風のように疾く。風のように苛烈に。そう、まさしく彼らの歩みは疾風。何者にも止められない浚いの風だ。今や彼らのマシンは疾風を纏い、展開していく守護風域は全ての障害を打ち払っていく。それだけじゃない。ヴィクティムの呼び寄せた風は、ネグルの駆る車に『命の水』を注ぎ込んでみせたのだ。ガソリンなんて目じゃないほどの、圧倒的な推進力を生み出す力の源を。
 先行する『黒龍』が突っ込んでくるネグルたちに対し、ユーベルコードにて呼び寄せた随伴ドローン機による迎撃を行うが――――無駄だ。もはやすべてが無駄でしかない。今この場を支配しているものは、純然たる『速度』のみ。無粋な迎撃など何するものかと言わんばかりに、ヴィクティムの生み出した風が目の前に立ちはだかるドローンの群れを一気に退かし、空いたスペースを利用してネグルがさらに機体を突っ込ませる。
 二機の距離はもはや至近。勝敗を分けたのは、ドライバーの取った行動の差。『黒龍』は迎撃を弾かれたことでわずかに焦れたか、ほんの少しだけラインをアウトにずらしてカーブを曲がっていく。ネグル達の乗る車との接触を避けることで、彼らの自滅を狙う形。逃げの形だ。
 対してネグルは――――カーブ中で膨れ上がるインの、更にそのインを突いていく。無茶だ。進入角度がキツ過ぎる。これでは自力で曲がることなど不可能である――――と、観客たちは思った事だろう。だが、違う。ネグルは命を捨てに走った訳じゃない。これはあくまでも追いの形。勝ちへの形に他ならない。
 そう、【Ash & White】の二人は最初からこれを狙っていたのである。カーブ最奥での、『黒龍』に対する体当たり。ネグルはヴィクティムの加護を受けた車を尚も加速、敵機の横合いから思い切りぶつかっていく。
 『敵機に体当たりをかますことでクッションにし』、敵にダメージを与えながらも無理やりカーブを回り切る肚だ。
 そのままネグルは開けた窓越しに片手で構えた精霊銃、ペネトレイトブラスターの連射を行うべく、至近距離で敵機を睨む。体当たりで敵は怯んだ、横っ腹はバッチリ開いている。ここで撃たない手は無いというものだ。
「俺にとって速さとは、『自由』だ。だからお前の言うことも理解できる。――――だけどな、自由には大いなる責任が伴う。故に速さには……誰かを殺すかもしれない責任も伴うのさ。その責任を皆が持ち続けるなんざ、出来やしねえんだ」
「スリルってやつは嫌いじゃない。だがな、然るべき場所でやらず、関係ない人を巻き込むのは三流のやるこった。関係ない人を巻き込んだ時点で、お前のそれはもう純粋な『速さ』なんかじゃないよ」
「ま、そういうこった。ンじゃ喰らいな――――『fu●kin'PEACE』!」
 ネグルの構えたその銃は、誰かさんからの贈り物。だから、脇に座る『誰かさん』も、その銃の特性は理解していた。彼の武器には複数の加護が宿っている。今回ネグルが特に強く顕したのは、『加速』と『貫通』のチカラ。合金によって作られている敵の装甲をブチ破るには、これ以上ないほどの加護である。
 そして、連射、連射、連射、連射。小気味良い音を立てて圧倒的なレートで放たれる銃弾は、その全てが正に一撃必倒の力を持った魔弾である。そして、その魔弾の雨を見事に操って束ね、敵の弱点へと向かわせるのはヴィクティムの風による芸当だ。
 『ペネトレイトブラスター』。ネグルの武器はその名の通り、全てを貫通することが叶う銃でもある。だが、貫通の加護を強化した代償として、従来の精霊銃が持つような属性の加護は低下している。『だからこそ』、外付けでヴィクティムの風がネグルの銃弾をサポートしてみせるのだ。風の加護、守護の風域は全ての障害を打ち払うために存在している。『オブリビオン』だって――――例外ではない!
 強烈な貫通力を持った魔弾は、風のエスコートでコックピットのさらに奥、敵の頭部や手足へと辿り着き――――敵の行動の選択肢を削ぐに至るダメージを与えてみせた。ドローン操作を担う敵の補助脳を、彼らは完全に破壊したのである。
「ッ、ガッ……!! ッ、ッ、ッ~~……ッ! 補助脳が、クソッ……! 破壊された、だとォ……!?」
「ヘイ、チューマ」
「なんだ?」
「運転、ナイスだったぜ。快適なドライブだった」
「……フッ。当然だろ、誰に向かって言ってんだよ。――――そら、まだ行くぞ! 奴を周回遅れにしてみせる! 引き続きナビは頼むぜ、相棒!」
「ハッハー、欲張りだねェ!」
 そのまま二人は走り去る。疾風と共に、唯一無二の速度に乗って。彼らを讃える声だけが、レース場にいつまでも残っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア


機体についての制限はないのよねぇ?だったら、あたしの「得物」はバイク。
…ただし。こないだ戦争依頼でぶんどってきた「バイク型UFO」よぉ。
…実際のところ。あたし入団テストは一芸で突破しただけで…単純なレース技術、って面で言うなら間違いなくド底辺なのよねぇ。
マトモにやったらヒラ団員にも負けるんじゃないかしらぁ?
これなら、少なくとも力負けだけはしないはず。
足りない技量はマシンパワーで強引にカバーするわぁ。

道中はなんとか食らいつくことに集中、狙うはホームストレート一本。
フルスロットルのドラッグレースで並んで●射殺をブチこむわぁ。
…見てたんでしょぉ?あたしの「ヤブサメ」。
しっかり体験してちょうだいな。



●Side By Side.
「……実際のところ。あたし入団テストは一芸で突破しただけで……単純なレース技術、って面で言うなら、間違いなくド底辺なのよねぇ。マトモにやったら『Formula』のヒラ団員にも負けるんじゃないかしらぁ?」
 そう言いながらも、彼女――――ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、あまり例を見ないタイプのバイクに跨り、『黒龍』に負けず劣らずの速度でレースを行っていた。
 不思議な型だ。UDCアースのバイクメーカーによる最新機でもない。SSWの宇宙バイクにどこか似ているような気もするが、フォルムからして全く違う。サクラミラージュの蒸気バイク……でもないことは一瞥すればすぐに分かるか。ヒーローズアースの文明によるものでもない。
 ティオレンシアが用意したバイクは、恐らく参加者の中で最も異質なもの。『ビームハイウェイ』で奪取し、そのまま乗り回していた『バイク型UFO』に乗って、彼女はこのレースに参加しているのだ。
 このレースに、機体についての制限はない。竜人の翼や、独自開発のマシンすらもが参加できているのだから、ティオレンシアの用意した機体が参加できない理由もない。
「へェ……! 考えたな嬢ちゃん! だがよォ、見たとこアンタの技術はそこまででもねェ……! 俺に追い付けるかどうか、見ものじゃねェか!」
「お褒めの言葉を頂戴できるなんて思ってなかったわぁ、ありがとう。これなら、少なくとも力負けだけはしないはず。足りない技量は、マシンパワーで強引にカバーしてみせるわぁ」
「読めてんだぜ、どうせストレートで追い付こうとしてるんだろ?! だったらよォ、カーブでチギってやらァ!」
「あらあら、参ったわねぇ。……ま、元々道中はなんとか食らいつくことに集中するつもりだったけどぉ」
 そう、ティオレンシアの狙いは『自分の強み』をぶつけること。何を置いてもそれに尽きる。そしてこのレースにおける彼女の強みとは、即ち『マシンパワー』である。
 ガワと操作法だけは確かにバイクに酷似しているが、彼女の機体の中身は一般の技術で造られたバイクとは全く異なるそれだ。エンジンの強さは段違いだし、ステアリング性能だって明らかに異なる。ホイールの材質の差だろうか、明らかにグリップが違うのだ。伸びも良い。マシンパワーに脅されて、他の部品がへこたれるような機体設計ではない。最高速と加速については折り紙付きの代物だ。
 だからこそ、狙うのはホームストレートしかありえない。この速度を活かすためには、レース場で一番長いあの道を使う以外の選択肢は無いのだ。
 故に、ティオレンシアはひたすら『黒龍』に付いていく。泥臭く粘る。走行の技術が低いことを自覚している彼女は、敵が走ったラインに合わせてできるだけ正確に走り、スリップストリームも活かして、敵のラインを『丁寧に』なぞる様にして走る。
 カーブを曲がるラインが膨らんでも、僅かなストレートがあれば彼女はそこで加速を行い、敵の走りに喰らいついていく。類稀なマシンパワーと、そしてじゃじゃ馬なマシンを乗りこなせるだけの彼女の天性の勘の良さ――――第六感というべきものがあって、初めて成せる業だ。
「ちょこまかと――――うぜェんだよッ! 俺の後を付いてくることしか出来ない素人はここで死ねェッ!」
「……フー……。言ってくれるわねぇ。……見てたんでしょぉ? あたしの『ヤブサメ』。――――良いわぁ、もう一回見せてあげる。しっかり体験してちょうだいな」
 ティオレンシアの執拗なまでの『追い』に焦れたか、カーブの終盤に至った敵がユーベルコード【“灰雨跳珠亂入船”】による副砲の射撃を行い始めた。狙いはティオレンシアのバイク兼、彼女の進路。バイクを潰せれば追ってくるチャレンジャーを撃退できて良し、そうでなくとも彼女の走行ラインを潰せればそれで速度は潰れるだろうと見ての行いだ。つまり、敵の銃弾を避けるだけでなく、空中で打ち落とす必要があるという話。
 ――――『好都合だ』。最高じゃないか。ティオレンシアの最も得意とするチカラの見せ場を、どうやら敵の方から用意してくれたと見える。 
 そう、ティオレンシアの狙いは『自分の強み』をぶつけること。何を置いてもそれに尽きる。そしてこの段、敵の迎撃に対する対処における彼女の強みとは、――――即ち『ヤブサメ』であった。【射殺】、発動。魔道など無用、派手さなど不要。ここにあるのは純然たる理だ。射撃とは数式である。数式とは過程である。ティオレンシアの『ヤブサメ』は、決して過程を違えない。
 一発目。空を切ってバイクの前輪を狙って飛来する敵の弾丸を目視で確認。バイクの速度調整。角度修正。
 片手でオブシディアンを扱うことなど、今まで幾らでもあった。懸念は無い。愛用の銃についての確認など、もはや彼女にとっては必要ない。BLAM!
 魔法か、あるいは奇跡かのように観客は感じたであろう。何せいきなり炸裂音が響き、『黒龍』が放った銃弾が消えたのだから。それはまるで、『空中で二つの弾丸がぶつかって弾けたような音』だった。
 二発目。三発目。何かの間違いかと感じたのは観客だけではない、『黒龍』もだ。敵は続いて二射を放ち、今度はティオレンシアの走行ライン上に銃弾を放ってみせる。BLAM! BLAM! 炸裂音が二つ。冗長な見世物だ。同じことを繰り返すつもりかよ?
 四発目。五発目。いよいよ敵も気付き始めてきた。これは『魔法』でも『奇跡』でもない。彼女――――ティオレンシアが、狙ってこちらの迎撃を潰しているのだと。 BLAM! BLAM! 炸裂音がまた二つ。ほら、そうこうしている間にカーブは終わり――――もう、ここはストレートだ。
 ここはもうテクニックがものを言う場面じゃない。ここはあたかもフルスロットルのドラッグレース。物を言うのはマシンパワーだ!
 ――――BLAM!
「……、っ、っ、……?! やる、じゃねェか……嬢ちゃん……! これが『ヤブサメ』、か……ッ!」
「そういうことよ。あたしの速さ、今度はしっかり見てくれたみたいねぇ?」
 六発目の弾丸は、今度は銃弾ではなく『黒龍』の装甲にブチ当たって進み、敵の油圧をガタガタに破壊していく。迎撃をすり抜けて横並びになった時点で、勝利の女神はティオレンシアにほほ笑んだという話。勝ち筋を絞った素晴らしい勝利である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリシア・マクリントック
お利巧なものではない……ですか。枷をかけられたことに対する怒りで大切なものを見失ってしまったのですね。貴方がなすべきだったのは……枷をかけた事を後悔するほどに魅せることだったのです。ルールを守る守らないではなく……あなたは道を外してしまった。残念です。

今回もシュンバーと……といきたいですが、長距離のギャロップはさせられません。コースも複雑ですし、私がこの脚で駆けます!変身!フェンリルアーマー!
最高速では敵いませんから仕掛けるべきは複雑なカーブ……壁を使って跳躍するように加速、一気に距離を詰めます。追いついたときの勢いでそのまま引っ掻いてやりましょう!



●Mechanical Grip.
「お利巧なものではない……ですか。枷をかけられたことに対する怒りで大切なものを見失ってしまったのですね」
 静かに、しかし真っ直ぐ。彼女の言葉は小さく、しかしてレース場に良く通っていた。アリシア・マクリントック(旅するお嬢様・f01607)。
 昼間の試験に合格し、そしてここまでやってきた猟兵の一人である。彼女はどうやら『黒龍』に伝えたいことがあるらしく、ひたすら敵の背中を追いながらも言葉を紡いでいく。そんな彼女の様子を、観客席からチンピラたちは固唾を飲んで見守っていた。
 アリシアは猟兵である――――つまりは『Formula』を率いているオブリビオンの敵である事実が分かったとしても、彼女やほかの猟兵たちは既にレースを通じて同じ速度を共有した仲間だと、街のチンピラたちは感じていた。だからこそ、彼らはどちらの味方をするでもなく、ただひたすらにこのレースの向かう先を見詰めていた。
「貴方がなすべきだったのは……枷をかけた事を後悔するほどに魅せることだったのです。ルールを守る、守らないではなく……あなたは道を外してしまった。残念です」
 今回アリシアは昼間のレースに乗っていた相棒、シュンバーに乗っているわけではない。無論、気持ちだけで言えばそうしたかっただろう。だが、それ以上に連続して、しかも長距離の走行は相棒のみに負担がかかるとしてのアリシアの配慮である。
 では、彼女はいったい何が走っているのか? 答えは簡単。彼女は、この複雑なコースを『自らの脚』で駆けているのだ。
 レースが始まるや否や、アリシアはスタートラインにて咆哮を唱えるとともにフェンリルアーマーを纏うと、そのまま重さを感じさせない足さばきにて駆け出していったのである。
 その速度は『黒龍』に負けるとも劣らない。純粋なストレートではやはり『黒龍』のトップスピードに軍配が上がるが、勾配のある坂や角度の付いたコーナー、ヘアピンや240°などの『脚の可動性』を重視するポイントでは、自らの脚で走るアリシアが巻き返していく。
 人の脚の持つ柔軟性、可動性の高さは異常なものがある。両の脚の筋肉と関節が大地を蹴ることで生み出される、『跳躍』のような性質を持つ推進力は、その方向を選ばないのだ。
 ホイールや翼は、やはりどうしても走りに『流れ』が存在する。大幅な角度変更はできないし、無理やり行えばバランスを崩して速度を掴むことは叶わない。だが、人の脚はそうではない。二足歩行の素晴らしい点は、方向と速度の転換行いやすさとバランス感覚の両面において優れていることだ。
 鋼の翼に対しては最高速では敵わない。それをよくよく分かっているからこそ、アリシアは勝負を仕掛けるべきは複雑なカーブと分かっていたのである。
 ――――狙うは、短いストレート、長いトンネルと続いた後の深いカーブだ。あそこなら、敵も必ず伸びた速度を抑えるために減速を行うはずである。狙うのならば、そこしかない。
「……ご高説どうも、お嬢様? ……だがよォ、やっぱりアンタは何も分かっちゃいないのさ。アンタの言う事は奇麗事だ……! 世の中にはなァ! こういうクソみたいな場所でしか走れない奴もいるんだよォ!! それならよォ、場所を失った奴らのために……俺がこうしてやる以外にねェだろうがァ!」
「それでも! あなたが『速さ』を名乗るものであるのなら、やはりあなたは道を違えた! 『それでも』なのです! 破壊に頼るのは間違っている!」
「言葉じゃ分からねェみたェだなァ……! ここじゃ速いもんが正義だ! そんなに言うなら……俺に勝ってからもっかい言いなッ!」
「ええ! もはや言葉はこれまで! 参ります! 『嵐はだれにも止められません!』」
 深いカーブに入った瞬間、アリシアは壁を使って跳躍するように加速。加速、加速、加速。ここはレース場で、しかもカーブだ。進行上に壁はいくらでもある。ならば、跳躍による加速だって連続して行うことが可能なのである。
 一気に距離を詰めていく彼女に対し、敵も【“卷地光來忽吹散”】による迎撃体勢を取っていく。機首下の主砲が、跳ね回るアリシアの頭を正確に捉えていた。発射まで、残り幾ばくも無い。この距離で敵が攻撃を外す期待はできないだろう。だから、やるべきことは一つだった。『さらに加速して、敵が主砲を発射する前に片を付ける』。これしかない。
 アリシアが用いる力は、【フェンリルテンペスト】。両手のフェンリルクローから高速のラッシュを繰り出す力である。そして――――その攻撃の対象は、敵に限った話ではない!
 彼女はこの土壇場で、『壁に向かって』捉えることが出来ないほどの高速攻撃を行っていく。それはつまりクローによる引っ掻きのラッシュであり、そしてそのモーションは、壁に爪を引っ掛けて推進力を得る行為によくよく向いた行動でもあった。そう、アリシアは壁に連続で爪を立てることで『壁を足場にし』、そこを高速で駆けることで、一瞬だけ敵の予測を上回る速度を出すことに成功したのである。
「――――そこですっ!」
「――――ガ、アアア――――ッ! 猟兵、猟兵……ッ!! クソが……ッ! 俺は、間違ってね、ェ……!!」 
 追いついたときの勢いでそのまま敵の主砲を思い切り引っ掻き、主砲を完全に破壊したアリシアは、自分の主張の正しさをそれ以上宣言もせず、ただ静かにレースに戻っていった。
 だが、――――観客席の中から響くアリシアコールが、彼女の言葉の正しさを証明しているようにも聞こえたとか。

成功 🔵​🔵​🔴​

矢来・夕立
【通り雨】●
傭兵さん/f01612

①追いつく
②追い越す
③跳ぶ
④撃たせる

キライじゃないです。
そういう、クズの癖にキッチリしてるの。
オレに声をかけなかったことは不問にしてあげますね。
でもオレより優れてるってだけでムカつくので、速さでボロクソ負かします。

あっちは戦闘機ですが、陸と同じルートを走るはずですよ。
速さバカだから。速さの勝負にズルを持ち込まない。

ハーフパイプでキメましょう。二輪ならでは。
このコースでは重力が速さの味方をします。
それに――…一瞬だけ、“飛べる”。
……追い抜いた瞬間。
届いたそのときに、跳びます。
エアトリックで黒龍の真上へ。
傘はお持ちでないですね。結構。少し強めの通り雨です。

殺れ。


鳴宮・匡
【通り雨】●
◆夕立(f14904)と

追い越すまで攻撃するなって言うんだろ
その間は相手の観察に努めよう

戦闘機型ならエンジンの位置は読める
火砲の位置、状況別にどんな動きを優先するか
加減速のクセ……いや減速はしないか?
走りと外観から読み取れるすべてを観察し
相手の癖を覚え込む

意地とかそういうのは生憎持ち合わせてないけど
……気に入らないことがあるとすれば
“速さとはそうであるべき”なんて
自分の中の世界だけのことを勝手に押し付けて
手前勝手に満足しようとしてる根性かな
……そういうの、嫌いなんだ

上空を取った一瞬が勝負か
……逆に言えばそれだけで十分だ
撃つべき場所は判り切ってる
【千篇万禍】、一つ残らず食らっていきな



●At last the rain has ceased.
「準備は?」
「良いよ。そっちは」
「当然。言っておきますけど、仕掛けるのはオレなんで」
「分かってるよ、追い越すまで攻撃するなって言うんだろ」
「当り前じゃないですか。ああいうクズに勝つんなら、そうした方が面白い。……なにより、」
「――――そうした方がスッとする、とか?」
「ちょっと。人の考え読まないでくださいよムカつくな」
「同じこと何度も言ってれば嫌でも分かるって。気に入らないんだろ? 『アイツ』のこと、さ」
「……キライではないですよ、割と。ああいう、クズの癖にキッチリしてるのは。だから、オレに声をかけなかったことは不問にしてあげるつもりですけど」
「けど? なんだよ」
「オレより優れてるってだけでムカつくので、速さでボロクソ負かします」
「………………意地、か」
「おいちょっと。その『いつものか』みたいな話し始めの沈黙やめてくれません? 傭兵さんこそ、オレの話に乗った時点で動機は十分でしょ」
「……まあ、な。夕立みたいに、意地とかそういうのは生憎持ち合わせてないけど……。気に入らないことがあるとすれば、“速さとはそうであるべき”なんて自分の中の世界だけのことを勝手に押し付けて、手前勝手に満足しようとしてる根性かな。……そういうの、嫌いなんだ」
「ふうん。……じゃ、オレたちの論理でブチ殺しますよ。ああいう手合いは分からせてから殺さないと、負け惜しみの時に吠えるんで」
「ああ。もともとそのつもりで来てる。大丈夫だ。…………」
「何ですか、まだ。歯の奥に物が挟まったみたいな沈黙やめて下さいよ」
「……いや。……今のこと、俺が言えたことなのかなって、少しな」
「……ハァ……マジで言ってんですか? オレ、傭兵さんのそういう所が気に食わないんですよね。棚上げすれば良いじゃないですか、自分のことなんて。あっちがハナから手前勝手を押し付けてきてんだから。嫌いとか丸い言葉使わないでくださいよ。『ムカつく』んでしょ? アイツのこと」
「……」
「だったら――――速さでも、戦闘でも、思想でも、『全ての面でアイツの上を行けば、それでちょっとはスッとする』じゃないですか。もっと欲張って、もっと本気で、もっと自分勝手にやれば良い。こっちは傭兵さんの――――アンタの腕に任せてんだ。オレの『依頼』は、そういう類のものなんですけど?」
「……――――そういう、『依頼』か。……良いぜ、分かった。オーダーは?」
「アイツ追い越すんで、撃って下さい」
「了解。他には」
「勝ちますよ、オレたち二人で。あのクソ野郎に一位は似合わない」
「了解。――――行ってくれ、夕立」
「上等。傭兵さんに言われなくても」
 二人の歩んできた人生において、『レース』などというものは殆どその陰も形もありはしなかった。例えあったとして、聞こえてくるのはたまの風聞が関の山。
 人殺しの身で観戦を楽しむものでもなかったし、傭兵の身で結果を聞いて楽しむものでもなかった。いわんや、レースの参加など。
 だが、何の因果か彼らはコンビを組んでここにいる。レースの参加者として、彼らはここにいるのだ。しかも、これは夜間に行ったようにバトルロイヤルの色が濃いようなイロモノのレースではない。少なくとも、敵に追い付くまでこれは『本物のレース』なのだ。
 だから、選手としてここに立った以上、もはや彼らに言い訳は通じない。ここにある不文律は、『レースに勝ったやつが正義』だってことだけだ。それ以外に彼らを縛る決まりもルールもマナーもクソもありはしない。
 極論すれば、参加理由ですらどうでも良いのだ。二人の猟兵がここに立ち、走り、『黒龍』の後を追うのならば、今この場で考えるべきは『どうやって敵に勝つ』かだけ。個人個人の主義主張だって、そもそもの話――――『敵が速いから正しいように聞こえているだけ』に過ぎないという見方だって、やろうと思えばいくらでもできる。
 戦いとは主張のぶつけ合いだ。レースとは意地の張り合いだ。『負けても良い』なんて思った時点で、敵に道を譲っているのと同義である。
 だが、そうはいかぬ。【紙技・炎迅】。式神によって作成された例のバイクは、些か負けず嫌いな性格であったらしい。『黒龍』が地面すれすれを走るラインに合わせて少しでも空気抵抗を減らし、敵の速度に食らいつく。
 バイクがそんなだからこそ、気付けば"Stranger"の銃口もいつしか敵の方を向いていたような気もする。『バイクに乗せられた』のやもしれぬ。『熱に当てられた』のやもしれぬ。
 しかし、最早そんなことすらどうでも良かった。二人の猟兵の目的は、今ハッキリと『敵に勝つ』という一点で定まった。であればこれ以上の前座は要らぬ。
 これより語り上げるは、神速の中で巻き起こる絶技の連続。
 矢来・夕立(影・f14904)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)の織り成す、手前勝手な勝負道だ。

「あっちは戦闘機ですが、陸と同じルートを走るはずですよ」
「分かるのか?」
「アイツ、速さバカだから。速さの勝負にズルを持ち込まないでしょ」
「そういうもんか」
「そういうもんです」
 夕立の推測は当たっている。『黒龍』は戦闘機であり、しかもその身に受けている損害は既に計り知れないが、それでも彼は猟兵たちに合わせ、空を駆けることができるから、と一方的に有利を取るような真似はしていなかった。それは彼に残った最後の矜持であったのやも知れぬ。さておき――――。
 高速で走る敵機の背中を、夕立がマシンを鳴かせて追う間、後ろに跨る匡は相手の観察に努めていた。【千篇万禍】。万事を見つめ、零とも言うべきの最適解を編み出す彼のチカラだ。単なる集中と言い換えても良い。彼がやっていることは奇跡などではないのだから。
 ただ集中して良く観察し、敵の行動を予測した分銃撃の精度を増す――――匡の他に、なんなら一般人でも良くやるような行い。しかし、その信頼度は『折り紙付き』だ。しかも現今、匡は『味方に運転を任せ』、『敵の観察のみを行っている』。彼が引き金を引くその時が楽しみだという話。
 匡の眼を以てすれば、戦闘機型のエンジンの位置は簡単に読める。火砲はいくつで位置はどこか、装甲の厚みは如何ほどか、状況別にどんな動きを優先するか。加減速のクセはどうか、アクセルを踏むタイミングと状況をまとめてパターン化。ブレーキングをいつどんなシチュエーションで行うのかも全て把握。敵の走りを見るに当たり、すぐ背後というこのポジションは最高だ。匡は『黒龍』の走りと外観から読み取れるすべてを観察し、相手の癖を覚え込んでいく。
 そして二人は敵を追っていよいよ『そこ』にやって来る。『幅の広いハーフパイプ』。
 そう、夕立は二輪ならではの強みを活かそうとしているのだ。四輪や戦闘機では、ハーフパイプを通るに当たり、道は真ん中の一つしか見付けられないだろう。だが、二輪はそうじゃない。
 若干の勾配があるこのコースでは、重力が速さの味方をする。そしてハーフパイプの傾斜では、速度は揚力と高さを生む。運動性に優れたバイクという『形』と、重量対比率に優れた紙という『材』。条件はすべてそろっている。後はやるかどうかだけ。加速も申し分ない。翼を広げてハーフパイプの真ん中を落ちるようにして飛ぶ『黒龍』を追って、紙のバイクは夕立の手に操られて飛ぶように走る。
「一瞬が勝負か」
「出来ませんか?」
「いや、それだけで十分だ」
「なら良いです」
「――――来やがったかよ、猟兵ども! ……ハッハハァ、アアァ……! テメェらにも理屈だの何だのがあるのは理解した……だがなァ! 俺は負けねェ! この狭いハーフパイプで、俺を抜けるならやってみやがれェ!」
「狭い? アンタ、自分の走れるトコだけが『道』だと思ってんですか? 傘はお持ちでないですね。結構。少し強めの通り雨です」
「知ってるか? 俺たちは根性が悪いんだ。少なくとも、頭に血が上ったお前よりはな。――――夕立、頼む」
「分かってますよ。――――殺れ」
「ああ。――――分かってるって」
「――――ッ、跳んだァッ?!」
 瞬間、『黒龍』に可惜夜が訪れた。静寂と漆黒のみが支配する、得も言われず見事な夜であった。今まであったライトの光はどこにもない。それを遮る『影』が――――燃え広がる炎のように迅速に、彼の頭上を奪った故だ。
 夕立は加速を続けながらハーフパイプの傾斜を利用して左右に推進力を得続け、敵の機体に追い付くその瞬間――――彼の操る紙のバイクは、魔法のように一瞬だけ『飛んだ』。これは跳躍ではない。比喩表現でも何でもなく、彼は『黒龍』の頭上を駆けているのだ。
 道なき道、インの更にそのイン。夕立は抜く隙間の一切ないハーフパイプで、空中に新しいラインを描いて見せたのである。エアトリックの如くに右の壁を利用して空へ駆けあがり、そして速度を活かして空中で敵機を抜き去りつつ回転、接地面を合わせて左の壁に着地する肚。夕立の技術とバイクの材質の軽さがあったからこその神業だ。
 だが、不意を突かれた『黒龍』も夕立の狙いに気付き、ユーベルコードによる妨害を行おうとする。そう簡単には進まないということだ。敵の狙いは夕立の着地点である向かって左の壁。空中では動きの微調整が利かぬため、バイクが着地した瞬間を狙って副砲で撃ち抜くつもりか。
 ――――しかし、遅い。最早勝負は決したと言って良いだろう。何せ敵が迎撃の準備を行うよりも早く、猟兵たちは準備を終わらせていたのだから。観察は、とっくの昔に済んでいる。撃つべき場所は判り切っている。今こそ引き金を引く時だ。
「【千篇万禍】――――、一つ残らず食らっていきな」
「ッ、ッテメ……?! ~~~~ッ!! やる、じゃねェ、かよ……速度に、テクの二重奏……! 雨、みてェじゃねェか……ッ!!」
 たった一発。たった一つの銃声が、レース場の中で妙に響いた。匡の放った銃撃が、余りにも研ぎ澄まされていたからかもしれない。良く磨き上げられた日本刀の瞬きを見る時、人が寡黙になるように。彼の放った銃撃に、全ての人が見惚れていた。
 現時点での速度。角度。進行方向と敵の動き。癖。現状で当てはまるパターン。敵の迎撃に用いられる副砲の位置。発射までの残り時間。空気抵抗。大気の湿度。火薬の状態。夕立の挙動と、『黒龍』の弱点。その全てを視て、知って、そして匡は一射を練り上げる。
 今この状態で何を撃てば最も良いのか。その答えは、既に彼の視界の中にある。後は当てられるかどうかだけだが――――なに、彼にとっては簡単なことだ。
 『空中で回転しながら超高速で進むバイクの後部座席に跨り、同じく超高速で走る敵機が今展開しようとしている副砲の銃口を狙って撃ち、敵の弾詰まりを意図的に引き起こす』など、凪の海には簡単に過ぎる。
 そして、着弾。狙い通りに敵の迎撃を防ぎながら敵の武器に打撃を与えたら、後は隙に乗じて敵の装甲の薄い所へ連射するだけだ。発射。発射。発射。発射。それはまるで、災厄の如き通り雨。黒く大きな雨粒が、まるで敵の身体を溶かすように連続で振り続いて――――そして、『黒龍』は多大な損害を受けながら速度を落としていく。もはや副砲は満足に撃てまい。撃ててもあと一、二発が限度という所だろう。翼も折れた。バイバイだ。
「やればできるじゃないですか」
「要望の多いクライアントに怒られたくはないからな」
「生意気」
「お互い様だろ」
 匡がマガジンを撃ち尽くしたの同時に、夕立も無事着地を決めて更に走る。彼らは文字通り、敵の上を行ってみせた。
 戦闘でも、速度でも、思想でも、意地の張り合いでも、それから――――物理的にも、位置的にも、だ。お見事。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
ジャックと

(引き続き、ジャックと一緒に搭乗)

(そうか。キミは、楽しいのだ。
おれとともに飛ぶこと、その他にも、
この戦いが。この速さが。そのものが。)

(黒い鎧の内側で。
きっと、何かに挑む目をしているのだろう。
挑んで、勝つことを楽しむ目を。
おれはその目をとても好ましく思うから)

…ジャックは追い付いた。
なら、おれは逃さない。
("LIGHTNING"。刃で指し示す先に跳躍。
機首を此方に向け減速しようものなら、いい的でしかない。
撃たれる前に【早業】で貫く)


ジャガーノート・ジャック
●プレイング
◆ロクと
(ザザッ)

(引き続き"Hawk"に搭乗。
競うなら直線、ホームストレートで。純粋な速さの勝負を挑もう)

(速度を以て黒い龍の機体に齧りつく。
問いたい事。
何が彼(黒龍)をそうまでして駆り立てたのか。
速さとは彼にとって何か。
未だ自分に知り得ず、彼なら答え得るかもしれない問いが数多にある。だが)

――君は、今
楽しいか。
(唯、此れだけを問おう。)

――そうか。
"僕"も楽しい。

(負ければ死と知りつつも、"楽しむ"為にこの勝負に挑む。少しだけ、君は。僕の戦ったアレと似ている。)

――勝負だ。
(機体を操縦し攻撃を見切り躱しつつ、戦闘機と融合したブラスターで狙撃。)



●Tale to Nose.
 ――――最初は、ただ楽しかった。今よりも速度を上げるのが、ただひたすらに楽しくて仕方がなかった。
 風を斬る音ばかりが耳に入る。音の速さに近付けば近づくほど、自分の耳は狂ってしまったかのように全ての音をかき消していた。
 『黒龍』は先ほどまで、今までに味わった事のない焦燥感の只中にあった。何故? どうして? そのような疑問符ばかりが、彼の頭の中に浮かんでは消えていく。
 アッチェレランドにおいて、自分は最速であったはずだ。今までは間違いなくそうであったし、これからもそうであるはずだった。だが、今のこの有様はいったいなんだというのだ。この鋼の翼は、何物にも負けぬのではなかったのか。
 焦りを覚え始めたのはもしかすると、オブリビオンになってからであったからかもしれぬ。『自分よりも速く走るものが許せない。そんなものは全て破壊すべきだ』などというこの詰まらない気持ちは、一体いつから生まれたものであったろうか。負けるのが悔しいなどと――――そんな詰まらないことを感じながら走るようになったのはいつからだったろうか。このどす黒い気持ちが、オブリビオンになった代償なのか?
 だが、不思議な気持ちだ。猟兵たちの走りを見て、猟兵たちの速度に負けるたび――――不思議と、心は晴れやかになっていく。身体に傷を負ってばかりではいるが、何故だか今、『黒龍』の心は晴れやかだった。
 ――――何かが聞こえた。ザザッ。耳鳴りかとも思った。ザザッ。違う。耳鳴りではない。これは――――金打音。自分の後ろから聞こえている。何だ? 何が来ている? この音は、一体何が発しているのだ?
 気になって、『黒龍』はバックミラー越しに後ろの状況を確認する。そこに映っていたのは、夜の闇よりもなお黒く、宙を駆ける流星のような速度で飛ぶ――――『真っ黒い鷲』そのものであった。
「来やがったな……猟兵ッ!! 来いよ……ハハッ!! 俺に勝てるなんざ思うなよッ、チャレンジャーッ! 速さに自信があるんならよォ……少なくとも、俺を越えてみるんだなァ!!」
「『黒龍』。一つだけ問う。――――君は、今楽しいか」
「――――ッッッッ、当然ッ!! お前みたいな強敵がいるンだぜ!? サイコーに楽しいに決まってらァ!!」
「――――そうか。"僕"も楽しい」
「そいつはサイコーだなベイビー! やろうぜ、勝負だ! 純粋な速さの勝負だ!! 挑んで来いよ、猟兵ッ! お前らが俺に勝てたなら、オブリビオンとしての勝負も受けてやるよォ! 名前を教えな、イカした猟兵ッ!」
「ジャックだ。ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)。――――勝負だ」
 『黒龍』が幻視した黒鷲の正体は、ジャックと呼ばれる猟兵だった。電脳体のUDCオブジェクト。戦場を駆ける黒豹。レースに乗った猟兵の一人である。
 彼は夜間に『スペクター』と戦った時に引き続き、ユーベルコード【Call: Hawk】で呼び寄せた超速飛行を可能にする戦闘機、"Hawk"に搭乗して、敵の後を追っていた。
 現今の状況としては実に単純。先行する『黒龍』を追うジャックは、速度を競うなら直線だとし、ホームストレートでの純粋な速さの勝負を敵に挑んでみせたのだ。
 緩いカーブは出来るだけ速度を維持しながらライン取りに苦心し、深いヘアピンは加減速のテンションを無理やり先行する敵機に合わせて飛ぶ。視界の悪いトンネルを超高速で飛ぶときなど、頼れるものは目の前を駆ける『黒龍』のテールランプしかなったし、テクが要求される連続シケインでは空気抵抗を抑えるためにスリップストリームでも何でも使って敵の速度に齧りついた。
 ジャックの行動の全ては速度に関するそれだ。そして、『黒龍』の行動の全ても速度に繋がるそれだった。妨害も何もない。あるのは純粋な速さだけ。
 だからかもしれぬ。ジャックは、内心に『黒龍』に問いたい事をいくつも浮かばせていた。何が、『黒龍』をそうまでして速度に駆り立てたのか。速さとは、『黒龍』にとって何なのか。
 未だ自分に知り得ず、彼なら答え得るかもしれない問いが、ジャックの胸の中には数多にあった。きっと、時間が許せば――――ジャックは、『黒龍』に様々な事を問うたかもしれぬ。
 だが、時は有限だ。限りがある。猟兵であるジャックは、進んでいく時の何たるかなど、既によくよく知っていた。
 だから――――『君は楽しいか』、と――――。唯、此れだけを問うたのだ。
 負ければ死と知りつつも、"楽しむ"為にこの勝負に挑む。少しだけ、君は、『黒龍』は。僕の戦ったアレと似ている。そんなことを、ジャックは思っていた。思いだしていたのかもしれない。遠い、いつかの誰かのことを。愉しそうに、悲しそうに笑っていた怪物のことを。
 このレースに挑み、競って、楽しんで、そして、そしたら、その後、ほんの僅かには……きっと、またもう一歩『前に進める』のかもしれぬ。オブリビオンは過去に囚われるだけの存在だが、猟兵は未来に進むことができる存在だ。
 故に、今は――――このレースを誰よりも楽しもう。それがきっと、勝ちに繋がるだろうから。それがきっと、未来に繋がるだろうから。もはや言葉は要らぬ。このホームストレートで、ひたすらにアクセルを吹かすのみ。全てを火にくべて、ただ、今は――――速さだけを求めて。

 黒鷲の後ろに乗って、ジャックと共に飛ぶのはロク・ザイオン(未明の灯・f01377)。森番。獣。箒星。夜の時と同じ形だ。引き続きジャックが運転を担当し、ロクが彼のカバーに入る形である。
 彼は今、『黒龍』相手に真っ直ぐに速度を出しながら、直線での真っ向勝負を挑んでいる。勝負のカギになるファクターは、マシンのパワーと乗り手の度胸の二つだけ。ストレートでの勝負になり、立ち上がりは同等であった以上、もはや小手先は要らぬのだ。
 そのため、ロクは敵に向かって一つ二つを語り掛けるジャックの後ろで、ただただ前だけを向いていた。何を見ていたのだろう。ベルベットのような青い瞳で、彼女は何を見ていたのだろうか。
 ロクは見ていた。眼前に勢い良く現れては広がり、そして後方へとすぐさま消えていく周囲の景色を。超高速で飛来していく二機の戦闘機を応援している様子の観客たちを。目の前を素早く飛び、背中ばかりを見せている『黒龍』を。そして、ジャックの横顔を。
 彼の表情は黒い鎧に閉ざされて、その詳細をうかがい知ることはできなかった。だが、『見ることが出来ない』からといって、彼が何を思っているのか『分からない』ということではなかった。
 二人は多くの戦場を共に駆けてきた。多くの時間を共に過ごしてきた。多くを語らい、そして多くを斬ってきた。だから分かる。きっと全世界の誰もが分からなくとも、黒鷲を駆るジャックの後ろに座るロクだからこそ、彼の気持ちは良く分かった。
 『そうか』とロクは思い至った。『キミは、楽しいのだ』と。『おれとともに飛ぶこと、――――その他にも、この戦いが。この速さが。そのものが』と。
 高速で走っているために、前に座るジャックの『黒龍』に対する声をロクが受け取ることは無かった。全ての音は風の中に置いてきてしまった。ここでは何も聞こえない。ザザッという金打音以外、ここでは何も届かない。
 だが、それでも分かるのだ。ジャックは今も、黒い鎧の内側で、きっと、何かに挑む目をしているのだろうということが。挑んで、勝つことを楽しむ目をしているのだろうということが。――――『おれはその目をとても好ましく思うから』、ロクにはよくよく分かるのだ。
 さあ走ってくれ、ジャック。きみが追い付くのなら、きっとおれもそうしよう。きみが前に進むならば、きっとおれもそうしよう。奔ろう。追い抜こう。ヤツに勝とう。
 故に、今は――――このレースを誰よりも楽しもう。それがきっと、勝ちに繋がるだろうから。それがきっと、未来に繋がるだろうから。もはや言葉は要らぬ。このホームストレートで、ひたすらにアクセルを吹かすのみ。全てを火にくべて、ただ、今は――――速さだけを求めて。
「――――追い付いたぞ、『黒龍』」
「――――……ジャックは追い付いた。なら、おれは逃さない」
「クク……。やるじゃねェか、お前ら。色んなモンを積み重ねてきた速さだろ? 俺には分かるぜ、プロだからな……。ホントはお前らを讃えて終わりにしたいんだが……あァ、悪ィな。俺は、……オブリビオンなんでよォッ!」
「ジャック」
「ああ。合わせる」
 徐々に徐々に速度を伸ばしたジャックたちは、いよいよストレートで『黒龍』に追い付いて見せた。並走。二機の戦闘機は、広いストレートを贅沢に使いながら共駆けしている。若干速度で勝っているのはジャックたちの方か。先を走る敵に逃げ切られずに追い付いたという事は、敵よりも速く走ったからこそである。こうなったレースは、後追いの方が有利。
 状況膠着による不利を悟ったか、先に動いたのは『黒龍』であった。彼はユーベルコード【“灰雨跳珠亂入船”】による迎撃を選択すると、やや減速しながら既に壊れかけている副砲の機首をすぐ隣のジャックの機体に向けていく。それが『破壊の権化』たるオブリビオンの宿命だというように、どの様はどこか痛々しいほどであった。
 機首がジャックの機体を捉え、あとコンマ数秒もしない内に敵の迎撃は成る――――誰もがそう思ったその時、黒い鷲から跳び立つ一つの影があった。その影はまるで"疾走する閃光"。稲光のように、雷鳴のように、異常な速さで『黒龍』へと接近していくではないか。
 その正体は、【"LIGHTNING"】を用いたロクである。彼女の獲物である二刀、森奥の烙印刀と永海の閃煌、その切っ先を向けた対象に、超高速で接近せしめ、灼熱する刃での斬撃を行う彼女のチカラ。
 ロクはジャックの黒鷲から跳び、そして刃で指し示した敵――――『黒龍』の心臓部目がけて鋭く前方の空を駆ける。前に進むことは、猟兵の専売特許だといわんばかりに。
 敵の敗因はただ一つ。彼はこの場で減速しながらの迎撃など行うべきではなかったのだ。機首を此方に向け減速しようものなら、ロクにとってはいい的でしかない。レーサーとして、オブリビオンとして、敵の行動は余りにちぐはぐであった。故に――――『速度』でも『戦闘』でも、敵を上回った猟兵が勝利を収めてみせたのだ。
「ゲ……ガ、ハッ……。あァ、クソ……。『速い』な、お前ら……ク、ククク……。アァ、楽し、……かった、な……」
「……こちらもだ。楽しかったよ、『黒龍』」
「さようなら、森にはいない速さのきみ。おれも楽しかった」
 ロクは副砲で撃たれる前に、先んじての早業による二刀の突きで『黒龍』の副砲を完全に破壊し、引き抜きながらの薙ぎによって敵の腹に大きな斬り傷を入れていく。そして二刀を引き抜くと同時に宙返りしながら敵の装甲を蹴って再度跳躍。
 ジャックは安定した機体の運転を行いながらも、ロクの攻撃によって怯んだ『黒龍』のコックピットへ、戦闘機と融合したブラスターで狙撃を行っていく。敵機から離脱したロクを後部座席で上手くキャッチしたのと同時に、彼らの背後で大きな爆発音が轟いた。
 『黒龍』が、完全に破壊された音だろう。標的は完全に沈黙した。二人の猟兵は、完膚なきまでに敵に勝ち――――止めを刺してみせたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トルメンタ・アンゲルス


――嗚呼
アナタの理念、実に共感できます。
速さは、縛られてはいけない。

それだけに――
アナタと、「立つ場所」が違う。
それが実に、実に残念です。


全力で走りますよ、相棒。
速さには、更なる速さで引導を渡しましょう。
行くぞ!アクセルユニゾン!
『MaximumEngine――Mode:Formula』

相棒を攻撃力重視の装甲に変身合体し、走ります!
コースを見切り、展開を第六感で感じ取り、物理法則を無視したようなダッシュの早業で、コースを走破してみせます!

攻撃?
「レース」には不要でしょう?
只管に、俺が追い求め、追い続ける。
圧倒的な速さを魅せつけるまで!

『FullThrottle――』
――HyperDrive!


国栖ヶ谷・鈴鹿

SPD

【ぼくのやり方】
ユーベルコヲド、ハイカラさんは止まらない。
これがぼくのやり方。

この街で、速さを求める人達とレースをして気付いたんだ。
とても気持ちの良い、自由な風を求めてる人達だった。
これは速さの先にある心の戦い。

ぼくの生まれた世界では、傷ついた魂が慰められて生まれ変わる。
だから、ぼくは君を殺さない。
その魂に納得の行く終わりをぼくが与えてみせる!

【レース】
レースに集中を、ぼくの紅路夢は勾配に左右されない。距離を詰めるならそこだね。
妨害は、UCで徹底的に防御して、集中を切らさないこと。
純粋な速さを求めたレースを、みんな望んでいるなら、ぼくは貫いてみせるよ。

速さで勝つ、これが真の勝利でしょ?



●Checkered Flag.
 レースは終わった。『黒龍』は猟兵たちの速度に納得したし、充分レースを楽しんだ。彼はもう多くのダメージを喰らって飛べないはずだったし、きっと彼自身も飛ぶ気はもうなかっただろう。速度の面でも、主張の面でも、きっと『黒龍』は負けを認めたのだから。
 しかし、戦いは終わらなかった。
 『黒龍』は飛べないはずの身体を無理やり起こし、その上で今までにないほどの速度で以て走り出した。猟兵によって破壊しつくされた銃器だけが、破壊されたまま爛々と黒い光を保っていた。
「アア……、ア、アアア……ガアアアアアアアアアアア!! 俺ヲ、縛るナ……!! 俺ガ一番速いッ! 邪魔だ……!! 邪魔ダ、邪魔だジャマだ、お前ら全部ゥゥアアアアアアアアアアアア!!!」
 その様子を、何と言って良いのかは分からなかった。敢えて言うなら、暴走というべきか。オブリビオンの持つ『破壊』という本能が、それ以外の全てを抑えて『黒龍』の全面に溢れ出ているのだろう。
 彼は正気を失って、レース場の路面や壁を撃てないはずの銃器を無理に発砲しながら破壊の限りを尽くしていく。混乱は観客席にも広がり、もはやこの場はレースの様相を呈さなくなったかに見えた。
 その時である。『黒龍』の背後から、良く通る一つの声が響いた。澄んだ声だった。まるで、自分の為すべきことを良く分かっているような、自信に満ちた声だった。
「――――この街で、速さを求める人達とレースをして気付いたんだ。とても気持ちの良い、自由な風を求めてる人達だった。だから分かったんだ。これは速さの先にある心の戦いなんだって」
「ア、ギ、アアアア……?」
 その声は誰が発したものだと観客席に座る全員がレース場を見渡すと、すぐにその正体は明らかになった。
 国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)だ。今の声は、『黒龍』の後ろから超高速で駆けている彼女が発したものである。鈴鹿の愛機は昼間のレースでも使用した、彼女の発明品である『百弐拾伍式・紅路夢』。
 フロヲトバイである鈴鹿の愛機は、先進的な走りによって傷ついた路面を全く気にせずに走っていくではないか。その速度は、『黒龍』に負けず劣らず。ほぼ互角といっても良かった。
「ぼくの生まれた世界では、傷ついた魂が慰められて生まれ変わる。だから、ぼくは君を殺さない。その魂に納得の行く終わりを――――ぼくが与えてみせる! さあ、『黒龍』! レースで勝負だ!」
「レース……? ……レース、レース、レース! ククキクククキククカカカギャハハハハァ!! 良いゼェ! 俺に適ウと思ってンのカよ……、この、ウスノロ猟兵がァッ!」
「さて、どうかな! ――――少なくとも、今の状態の君よりは速いと思うけどね!」
「ほざけよクソガキィッ!」
 鈴鹿の言葉に僅かに理性を取り戻したのか、『黒龍』はレース場の破壊を止めて再加速を行っていく。破壊にリソースを込めずに走れば、敵もやはりさるもの。レースのみに集中しているからか、折れかけた翼でも『黒龍』は異常な速度で鈴鹿の前を飛ぶ。それでも、鈴鹿は必ず食いついて走る。
 そんな鈴鹿のマシンと、彼女自身の運転の冴えを見て、オブリビオンの目にも光が戻っていく。理性の光だ。レースを心から楽しんでいた、あの目だ。
「速いナ、てめェ……ッ! 楽しイじゃねェか……ッ、ア、ギ、ガァッ?! ギャ、アアァッァ、ガアアアアアッ!!」
「また、暴走……!? でも! 純粋な速さを求めたレースを、みんなが望んでいるなら、――――ぼくはそれを貫いてみせるよ!」
 だが、『黒龍』が正気に戻ろうかというところで、またもや彼は暴走状態に陥った。オブリビオンとしての意思が、『破壊』以外のことを良しとしないのだろう。
 『黒龍』は自分のすぐ後ろを走り、さらに加速を続けながら迫ってきている鈴鹿に向け、壊れた副砲を無理やりに向けて発砲を繰り返す。撃つたびに『黒龍』の身体は衝撃に耐えられず崩れていくが、それでも彼は撃つのを止めない。
 それでも、鈴鹿は一切敵の迎撃にアクションを起こさない。反撃もだ。彼女はひたすらにレースに没頭していた。それが彼女のやり方なのだろう。眩しかった。速度を求めたアッチェレランドのチンピラたちに、鈴鹿の姿勢はどこまでも眩しかったのだ。
 不正や妨害に襲われたとしても、非合法な手段には手を染めず、ひたすらに走り、集中を切らさず、純粋な速度での勝利を目指す。そんな彼女に――――観客たちも、心を動かされたのかもしれない。
「鈴鹿さーーんッ! 勝って――――ッ!!」
「鈴鹿ッ、ぶっち切れーーッ!!」
「……ッ! 俺たちも……アンタみたいに……! 鈴鹿ッ、速さを……ッ! 正しい速さは何よりも速いって、証明してくれェーーッ!」
「――――もちろん! 速さで勝つ、これが真の勝利でしょ?」
「――――ア、アア……。……その、通りかも、な……」
 そう、レースに集中しているのは何も『黒龍』だけの話ではない。後光を背負いながら走る鈴鹿もそうだ。【ハイカラさんは止まらない】。純粋なストレートでは『黒龍』に軍配が上がるものの、彼女の紅路夢はフロヲトバイである強みを活かし、急な勾配では一気に差を縮めていくではないか。
 戦闘機である『黒龍』は、どうしても高度を上げるために推進力のいくらかを揚力に回さねばならない。敵は地面から浮いているわけではなく、空を切り裂いて飛ぶ必要がある故だ。だが、鈴鹿のフロヲトバイは角度のある坂に対しても、平地と同様の距離を保りながら進んでいける。
 坂を上るのに推進力のいくらかを犠牲にしなくてはいけない『黒龍』と、坂を上る際も推進力を犠牲にせず進める鈴鹿。敵の妨害にリソースを割いてしまった『黒龍』と、純粋な速度のみを見つめていた鈴鹿。
 勝敗を分けたのは、ほんの僅かな『マシン性能差』と『姿勢の差』であった。あるいは、マシンにかけた技術と、速度にかけた情熱の差と言い換えても良いかもしれない。速度を落とさず進めるかどうかが、勝負の明暗を分けたのだ。
 鈴鹿はそのまま進んでいく。『黒龍』よりも更に先へ、『黒龍』よりも速く。オブリビオンの妨害になど目もくれず、彼女はただレースを行っていた。
 純粋な速度の眩しさを、鈴鹿はここに示してみせたのだ。それを見て、『黒龍』の目に理性の光が戻り始めていた。彼女は真の意味で、オブリビオンに勝ったのである。


●Pole to Finish.
 鈴鹿の速度を目の当たりにした『黒龍』は、純粋にレースを楽しむという事をようやく思いだしたらしい。猟兵たちに幾度も負け、圧倒的な速度で上回られ、それでも、やはり――――レースは楽しかった。
 そんな簡単な真理に、『黒龍』はようやく気付いたのだ。彼の身体は既に崩壊が始まっている。当然だ。彼の受けた損害は大きい。限界が来た、という事だ。
 しかし、多くの猟兵たちがレースに真剣に向き合い、そしてオブリビオンや街のチンピラ相手に公平な戦いを繰り広げて見せたからこそ、『黒龍』は最後に純粋な速度対決を行う余裕を手に入れることが出来たのかもしれない。
「――――嗚呼。アナタの理念、実に共感できます。速さは、縛られてはいけない。それだけに――――アナタと、『立つ場所』が違う。それが実に、実に残念です」
「……そォだな。俺はオブリビオン、お前は猟兵だ……。俺たちは最初から、別の視点で速さってもんを見ていたのかもな。――――やろうぜ。最後の勝負だ」
「ええ、勿論。勝負です。全力で走りますよ、相棒。速さには、更なる速さで引導を渡しましょう」
「……最後に、聞かせてくれよ。お前の名前、なんてンだ?」
「トルメンタ。トルメンタ・アンゲルス(流星ライダー・f02253)。未踏の先の希望に向かって、最速で走り続けるしがない猟兵ですよ」
「そうかい、トルメンタ。……楽しくやろうやッ!」
「当然ッ! 行くぞ! アクセルユニゾン! 『MaximumEngine――Mode:Formula』ッ! 最初っから――――全力でッ!」
 そして二人は駆け出していく。ピリオドの向こうへ、アステロイドの裏側へ、水星への旅へ。二人は今こそ、純粋な速度だけを獲物にして、遥かなコースを走り出したのだ。
 これが、正真正銘のファイナルラップ。泣いても笑っても、これが最後の勝負になるだろう。
 まず差しかかったのは、このレース場の中でも最も角度のえぐいスプーンカーブ。だが、二人はそれを目の前にして、些かも速度を緩める様子は無かった。
 『黒龍』が見事な姿勢制御と、威力を最低限にした主砲の発砲による反動で無理やり曲がっていくのに対し、トルメンタは――――ただ、小細工も無しに走っていた。比喩ではない。彼女は二本の脚で、本当に走っているのである。
 『NoChaser』。トルメンタは愛車にして装甲、唯一無二の相棒であるそれを攻撃力重視の戦闘形態、『Formula』にして身に纏うと、変身合体を行ってみせたのだ。彼女は今まさに人馬一体。人『機』一体かもしれぬが、まあ良いとしよう。
 ともかく、彼女はスプーンカーブを一瞥しただけでコースの癖を見切ると、そのまま最高速を維持した状態でひたすらに駆ける。際どい角度のカーブなど、『壁を足場にして』走ってみせれば良いだけのことだ。
「やるじゃねェか、トルメンタッ!」
「そっちこそ、主砲を使うとは! 中々いいバーニアでしたよ!」
 次に二人はトンネルに突っ込んでいく。もともと見通しの悪いそこは、先ほど『黒龍』が自我を失って暴れた影響で完全に照明が落ちてしまっていた。
 しかし、『黒龍』はこのコースを何千回も走っている。灯りがなくとも、トンネルの中を走ることくらいは造作もない。
 そして、トルメンタもそれは同様だ。彼女はこのコースの走行経験はないが、先を進む『黒龍』の音を聞き、展開を第六感で感じ取れば――――先が見えないトンネルの中だって、加速しながら進むことが可能なのだ。
「まだやろうぜ! ……もっとだ! もっと速く走ってみな! 俺に追い付けたら、――――お前を攻撃してやるよォ!」
「――――攻撃? そんなもの、この最高な『レース』には不要でしょう? これから起こるのはただ一つですよ! 只管に、俺が追い求め、追い続ける。――――アナタに圧倒的な速さを魅せつけるまで!
  『FullThrottle――』――――――【HyperDrive】!
 ゼロヨンでは物足りない、一マイルでも物足りない! 走りましょうよ、いつまでも! こんな楽しいレースで足を止めるなんて――――詰まらないッ!」
 そして差し掛かったのは、正真正銘最後のホームストレート。これ以上は『黒龍』の身体が持たない。追い抜くチャンスは、この一瞬しかない。だが、『黒龍』はここにきて速度を増している。音速の上、光速の上、いや、もしかするとそれよりも速く走っていたかもしれぬ。
 だから――――トルメンタも本気を出した。【HyperDrive】。彼女の持つ、速度特化の奇跡のチカラ。スーパーブラディオン粒子を全身に巡らせる事で光速戦闘モードに変身し、寿命と引き換えに自らの速度を爆発的に上昇させる、この世の物理法則では再現不可能な、彼女にだけ許された力だ。
 物理法則を無視したようなダッシュの早業で、二つの光はほぼ同等の速度でホームストレートを駆けていく。駆けた軌跡は、まるで一筋の流れ星のよう。勝敗を分けたのは、やはり一つの差だけだった。 
「――――あァ……。猟兵って奴は、……これだから、ちくしょォ……。眩しいじゃねェか……。速いぜ、お前ら。お前らの、――――勝ちだ」
「――――当然。私たちは、未来に進む存在ですからね」
 そう、二人の技術は真髄にして至高にして全く同じ域に達していた。ならばやはり、差を分けたのは一つだけ。トルメンタは猟兵で、『黒龍』はオブリビオンであったというだけだ。
 オブリビオンには進化がない。どんなに高度な知性、高度な技術、高度な経験を持っていたとして、彼らは『過去』でしかありえない。
 対して、猟兵は――――より強く、より速く、より強固に。更なる『先』へ到達するために、その一歩を踏み出すことができる存在である。
 互いに至高。勝負を分けたのは、二人の姿勢の差であったという話。見事だった。実に見事な――――レースであった。
 レースに負けた『黒龍』も、どこか満足そうに消えていく。後に残ったのは、『黒龍』の残した部品がいくつかと、猟兵たちに対する観客たちの声援のみ。これ以上の言葉は要らず、ただ、この場は歓喜に満ちていた。



●次第に早く
 ――――レースから二日後。猟兵たちの活躍により、事件は無事に収束を迎えていた。
 『黒龍』は最終レースの結果、無事に消滅。『スペクター』も殆どの個体が猟兵たちの手で駆逐されていた上、『黒龍』が消滅したことで僅かに潜伏していた個体もすべて消滅していったらしい。
 『Formula』のメンバーたちは、その全員が自首を選択したそうだ。中には学生や警察官、年端も行かぬ少年や老紳士のヴィランもいたらしいが、その全員が、である。
 警察当局やヒーローたちの活動により、潜伏メンバーの捜索なども行われたらしいが、どうやら本当に全員が自首したらしい、という事実の裏付けにしかならなかったとか。
 有識者たちは、恐らくはアッチェレランド中に拡散された『黒龍』と猟兵とのレースの様子を見て、『Formula』のメンバー全員が猟兵の行動や言葉に思うところがあったのだろう、というような見解を残している。
 彼らはオブリビオンが引き起こそうとしたテロリズムと、それまでの迷惑行為に参加したことを全面的に認め、真面目に罪を償おうとしているそうだ。
 『Formula』のメンバーの反省と状況を受け、アッチェレランドでは街を挙げてのプロレース発足を求める市民活動の様子も見られるようになった。それについて、アッチェレランドの現市長は公式に声明を出していない。
 最後に『黒龍』が残した生体部品と、『Axel』のサーバールームに作られた非合法なレース場の顛末についてだ。
 どうやら『黒龍』の消滅に伴って残されたこのいくつかの部品は、改造次第で猟兵たちの装備にも転用できる可能性を秘めているとか。主要な走行機関は勿論、主砲や副砲、ドローンそのものなども残されているらしい。事態の解決を導いた猟兵が希望すれば、アッチェレランド側も快く譲ってくれることだろう。
 『Axel』の地下サーバールームが隠されていた廃工場は、知る人ぞ知る観光スポットとしてそれなりに賑わうようになっていた。――――アッチェレランドで開催されるプロレースに向け、模範囚となった『Formula』のメンバーたちが夜な夜な地下のレース場を用いて練習をしている、という噂もある。
 ともあれ――――真偽は風の中。アッチェレランドには平穏が戻り、『Formula』のメンバーは今もどこかで正しき速度を求めて走っているのだろう。
 これは、ただそれだけの話である。速さは『個性』だ。速さは『特徴』だ。速さの在り方は、誰にも迷惑のかからない場所で『自由』になった。もしくは、きっとそうなっていくはずだ。アッチェレランドはこれからも進歩を遂げ、そしてもしかしたら、レースで賑わう街になるだろう。
 お見事であった、猟兵。君たちは、ここに一つの街を救ったのだ。ともすれば、一つの街だけではなく――――『速度』に魅せられた、多くの人々の未来すらも。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年11月22日


挿絵イラスト