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哀色の牙

#ダークセイヴァー #同族殺し

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#ダークセイヴァー
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#同族殺し


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●サッドネス・インディゴブルー
 かつて、とある領があった。
 ありふれた村の連なった、そこそこに大きな領だ。ヴァンパイアの圧政に苦しみ、民が喘ぐ、このダークセイヴァーでは哀れなまでに普通の地域だった。
 ただその領には、気高き剣狼がいた。それがその領を、唯一特別たらしめたところであり、そしてあるいは――その領の滅ぶ遠因であった。
 領民は、圧政の余りにもう滅ぶ寸前となっていた。明日のパンすら惜しみ、分けるほどにもないその堅い小麦のかけらを分け合い、濁った水でふやかして食んでいた。
 病が蔓延し、飢えと病で落命するものも少なくないのに、領主は相も変わらず重税を強いてくる。
 堪りかねて、ある村長が嘆願しに領主の館に向かった。彼は、その翌日に首に直接脚を生やした姿で帰参し、『逆らうな』との言葉を最後に絶命した。その妻は夫の悍ましき最期に狂を発し、首を吊った。誰もが無言となった。
 逆らえばこうなる。人体改造をしての見せしめであった。

 ――最早あの暴虐の領主を捨て置けぬ。我が同胞のためにも。

 この話を聞くに至って、剣狼は剣を取った。彼の家族を、隣人らを救う為に。それは純粋な義憤と愛のためであった。
 実際のところ、彼がそのように蜂起せねば死ぬものが山ほどいた。村はもう、度重なる重税と遊興のための人員供出で疲弊しきっていたのだ。
 ――だが、残酷なことに、剣狼はその悪逆の領主を殺せるほどに強くはなかった。
 領主は、このダークセイヴァーの黄昏を支配しだした『初めのものども』の一人だったのだ。
 神獄滅殺の大刀を振るい、その身に礼装『神獣鎧装』を纏って、剣狼は雄々しく戦った。ともに立ち上がった戦士たちが、一人、また一人と、領主の傀儡の前に倒れる中、剣狼は最期まで雄々しく戦い、……そして、領主の手にかかり、志を果たすことなく死んだ。
 造反者たる剣狼を擁した領民らのうち、村を逃れた若い民以外は、その後、残らずその領主に殺され、やがてその地方は、ノー・マンズ・ランドとして地図に記されることになる。

 剣狼はその無念の余り、死後、骸の海に沈み――今なお、仇を求めて彷徨っているという。
 哀色の牙を、今も手放せず。
 仇を狩るために、同族殺しに身を窶して。


「作戦を説明する」
 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)はドライな口調で呟いた。
「ダークセイヴァーの一地方にいるヴァンパイアの討伐が依頼内容になる。敵はエインシェント・ヴァンパイア……『祖』に値するヴァンパイアだ。真名不明。領主としての個体名称は『フェイリア・ドレスデン』。ダークセイヴァーの支配が始まった頃から所を変えて生き続けた、老獪な個体らしい」
 データを空中にホロ投影しながら、灰色は静かに続ける。
「『祖』だとか名乗るぶん、その個体性能は強力だ。おれも何回かダークセイヴァーの仕事を斡旋してるけど、その中でも間違いなく強力な部類だろう。……正面作戦はうまくない。そこで、今回は機に乗じることにする。――『剣狼』の襲撃にね」
 新たなホロ投影。『剣狼』の情報が表示される。
「剣狼は初めにも話したとおり、このヴァンパイアに深い恨みを抱えている。現界した剣狼は、まっしぐらにフェイリアの屋敷を目掛けて攻め寄せる。この時点では、剣狼は攻撃しない限りはこちらの邪魔をしてこない。彼の突撃に乗じて敵の尖兵を殲滅し、屋敷内のフェイリアを撃破するのが第一目標だ」
 では、第二目標は?
 猟兵らの問いに、灰色はうっそりと目線を上げた。
「……剣狼の撃破だ。オブリビオンに仇なすオブリビオンとはいえ――最早正気を失った存在を、ハンドリングもせず現界させておくわけにはいかない」
 それは余りにも無体ではないか、という言葉もあるだろう。しかしこの剣狼が目標を見失い、生ける民を戮殺しないとも、また限らない。
 とはいえ苦しいのだろう、灰色の無表情な眼も、どこか陰っているように見える。
 それを振り切るように、少年は続けた。
「……おれたちは、その滅びた村のことを識らない。だから、剣狼の想いにすべて寄り添ってやることもできない。……ただ、その魂に安息あれと祈って、葬ってやるしかないだろう。フェイリアを倒した後――もしその気持ちがあるなら、『おまえの願いは果たされた』と、彼に教えてやってくれ。それがおれたちにできる、彼への唯一の手向けだろうから」

 灰色は立体パズル様のグリモアを回し、六面揃える。
 白い光が発されて、“門”が開いた。

「転送地点はフェイリアの屋敷、正門前。まずはフェイリアの悪逆の実験の果てに生まれた怪物たちの排除からだ。剣狼は既に戦っているだろう。彼とともに戦線を突破し、屋敷を目指してくれ。用意ができたものから転送を開始する。――よろしく頼むよ」

 灰色は軽く礼をし、開いた門を見上げる。
 蒼白い門の向こうに、ダークセイヴァーの夜闇が広がっていた――。



 無念の彷徨える牙に、猟兵達は何を思うのか。

 お世話になっております。
 煙です。

●章構成
 第一章:集団戦『弄ばれた肉の玩具』
 第二章:ボス戦『老獪なヴァンパイア』
 第三章:ボス戦『全てを亡くした剣狼』
 敵詳細、その他補足は適宜各章間の断章にて描写致しますので参考になさって下さい。

●プレイング受付開始日時
『2019/10/29 08:30』

●プレイング受付終了日時
『2019/11/01 23:59』

●お受けできる人数について
 今回の描写範囲は『無理なく(日に三名様程度)』となります。再送は基本的にお願いしないor1回程度までの範囲で、お届けできる範囲で努力いたします。
 プレイングの着順による優先等はありませんので、お手数に思わなければ、受付中の限りは再送などなどお待ちしております。

 それでは皆様、此度もよろしくお願い致します。
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第1章 集団戦 『弄ばれた肉の玩具』

POW   :    食らい付き融合する
自身の身体部位ひとつを【絶叫を発する被害者】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    植えつけられた無数の生存本能
【破損した肉体に向かって】【蟲が這うように肉片が集まり】【高速再生しつつ、その部分に耐性】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    その身体は既に人では無い
自身の肉体を【しならせ、鞭のような身体】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 後には残らなかった。何も残らなかった。
 皆、皆、死んでしまった。ただ少数、生き残り逃れた者の末路さえ分からない。
 あの悪鬼が我らに向けたのものは侮蔑と嘲弄。人としての在り方を否定し、ただの家畜であると繰り返し洗脳し――その涯てが、あの最果てのノーマンズランドだ。
 私が殺された後、何人が死んだというのだ。何人が、私の咎を濯ぐのに使われたというのだ。
 そも、私が進んだことは咎だったのか?否、そうではない。そうではない!!
 あの悪逆を見過ごし、黙して耐えることは最早出来なかった。戦える者が打って出る以外になかった!!
 それを、私を討っただけでは飽き足らず、民を殺し、大地を血に染めたのは奴ではないか!!
 神にでもなったつもりか。支配者にでもなったつもりか!!
 今ならば届く。我が刃は貴様にも届く!!
 殺してやる、必ずや殺してやる。
 この狼の牙を、貴様の心の臓に突き立て、それを以て墓標としてくれる……!



  剣狼は夜闇を征く。
  その表情の皺は深く、
  まるで彼は怒れる修験者のよう。
  道の先を照らすものは、
  ただか細い月の光だけだ。
  しかし彼は足を止めることはない。
  行き先が闇の中だろうと、
  地獄のただ中だろうと。
  骸の海より再来した彼は、
  今だあの日の地獄に囚われているのだ。
 
 
 
    Chapter / 1
      遠吼エヲ月夜ニ哭ブ
 
 
 
●コンフリクト
 屋敷前、広い庭園に開かれた多数の“門”より飛び出した猟兵達が目にしたのは、無数の拗くれた肉の塊だった。
 あれはなんだ、と呟く猟兵に、別の猟兵が『元人間だろう』と応えた。
 此度の敵はグリモア猟兵曰く、『初めのものども』である。……人間の肉体操作と眷属の操作が得手であるというそれが、好き勝手にいじくった人間の成れの果て。それが、猟兵達の行く手を塞いでいる。
 屋敷までの道を埋め尽くすほどの群れを成す歪な肉の塊を、蹴散らしながら一体の刃狼が、刃片手に駆け抜けていく。彼の征く軌跡はまるで道。真っ赤に染まった血の花道だ。
 ――嗚呼、剣狼が征く。
 あの後ろを征くも、追い越すように横を征くもいいだろう。しかし後の挟撃を防ぐため、可能な限りここで敵を蹴散らしておくのが無難なはずだ。
 血の風が吹く。肉塊の流す血の涙が、『もう存在しない村の名を呻く』肉塊の声が、荒れ出した夜風の中で残響している。

 ――始めよう。
 仕事の時間だ。
ショコラッタ・ハロー
剣狼にも住人にも義理はねえ
だが、ココでふんぞり返っているヤツが気に入らない
だからぶっ殺す
それ以上の理由は必要ねえだろ?

生憎とおれは正々堂々正面からぶつかるほどお行儀良くなくてね
突撃を仕掛ける剣狼の片翼から、敵の死角を突くように攻め上がる
道化師の慧眼を展開し、半数をバラ撒いて敵の数減らしに用い、
もう半数は敵からの攻撃を防ぐ刃の盾に用いる

押し寄せる敵に剣狼が手こずるなら、横手から切り込んで手助けしてやる
怪物の懐に飛び込んで、脳や心臓を叶う限り手早く貫こう
仇敵のタマを盗ろうって大仕事なんだろ
同胞に食われるようなマヌケな姿を、おれに見せてくれるなよ
そうでなきゃ、命懸けで戦う理由にならねえからな



●道化の刃と剣狼の道
「……ま、おれには住民にも、剣狼にも、味方する義理もねえ」
 大量のねじくれた肉塊を前にぼやくように言うのはショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)。
 ぴ、とダガーの刃先をつまんでは、顔の高さに持ち上げて。指を刃越しに擦るようにずらせば、じゃりん、と音を立て、一つの刃が六つに増えた。
「けど、戦う理由ならあるぜ。ココでふんぞり返っているヤツが気に入らない。だからぶっ殺す。それ以上の理由は必要ねえだろ?」
 おおぉぉぅ、おおぉぉおお……!
 ピンク色の肉を剥き出しにした、かつてヒトであった者達が呪いの呻きを上げる。真正面からまともに相手をすれば、いかな精鋭といえども難儀することだろう。しかし、
「生憎とおれは正面からぶつかるほどお行儀良くなくてね――騎士道精神だとか、正々堂々だとか、そういうのを期待してたなら悪いが、他を当たってくれ。どうせ他にも山ほど来てるからな」
 素気なく言いつつ、ショコラッタは走り出した。
 正面突破は端から択にない。彼女の狙いは、剣狼に注意が集まった部分の側撃である。
 敵を避けるため大回りにはなるが、大量の肉塊に遮られつつ漸進する剣狼の速度に追いつけぬショコラッタではない。
「そら、そいつにばっかり気を取られてるとな、食い殺しちまうぜ」
 ショコラッタはカードめいて広げたダガーを手首のスナップを効かせ投擲。放たれた六本のダガーは回転しながら唸り飛び――やがてその一本一本がさらに三本に分裂する。瞬く間に六本の刃風は十八本の刃嵐と変じた。
 奇妙不可思議な複製飛刃、これぞショコラッタのユーベルコード、『道化師の慧眼』である!
 回転しながら剪断力を活かし、うねる肉塊らの触手を断って、ダガーは次々と肉塊らの頭部に突き立ち、その歪な命を絶っていく。
 反撃に繰り出される無数の触手。ショコラッタは三連続バック転を打ち、伸びる触手を回避しつつ次なるダガーを抜き、腕をぐるりと一閃。じゃららららら、りんっ!
 音とともに宙に複製された十七本のダガーが、彼女を中心に放射状に並び高速回転! 乱転する回転鋸めいて、寄りつく触手を切り刻んでいく!
 突然の介入者に、手を止めることなく肉塊を屠りつつ、剣狼はギラリと光る眼をショコラッタに向ける。
「――貴公は」
「話をしてる場合かよ」
 ショコラッタは衛星のごとく自身の周囲にナイフを巡らせながら、風のように疾った。突き刺さった攻撃用の十六本を引き戻し、念動力で操って敵を屠り続けながらも、十七本の防御用刃を高速回転、近くの敵を切り刻みつつ、手の内に残る真作一振りにて、間合いに潜り込んできた敵の喉を断つ。
「仇敵のタマを盗ろうって大仕事なんだろ。頼むから無駄口叩いた挙げ句に同胞に食われるようなマヌケな姿を、おれに見せてくれるなよ。そうでなきゃ、命懸けで戦う理由にならねえからな」
 刃の嵐が吹き荒れる! ショコラッタが操るダガーの群れが攻撃の外渦、防御の内渦の二重螺旋を描き、彼女に迫る肉塊どもを鏖殺、鏖殺、鏖殺!
 ニヒルに告げるショコラッタの台詞に、剣狼は今一度眼前に大きく神獄滅殺の太刀の一撃を振るい、道を拓く。
「……感謝する」
「いらねえよ。おれは、誰のために来たわけでもない。おれの怒りのためにここにいるんだ」
 剣狼の礼にショコラッタはドライに応えて、再び駆け出す剣狼を見送りつつ、剣舞を続けた。また道行きに詰まることあれば、そのとき援護をしてやる心づもりだけは用意して。
 未だ屋敷は遠く――おぼつかぬ月の光が、かすかに彼らの道行きを照らしている。

成功 🔵​🔵​🔴​

安喰・八束

……剣狼、なあ。
"狼"としても、用心棒(ヴィジランテ)としても
他人事じゃあ、ねえやなあ。

相手が多勢なら、俺は退いて後方から支援しよう。(援護射撃)
お前さんらにゃ焼夷弾を呉れてやる。「狙い撃ち」だ。(スナイパー)
油と炎で燃え尽きちまえば再生も出来ねえだろう。

……何ぞ、恨み節の一つも遺せるかい。
見向きもしねえ剣狼の代わりに聞いてやるよ。
無理か。
お前さんらもとっくに、外道か。

…………やりきれねえな。全く。



●炎の雨
 前衛に降り立った猟兵らが華々しく戦闘を開始するその遙か後方で、一人狙撃の態勢を整える猟兵がいた。安喰・八束(銃声は遠く・f18885)である。
 剣狼、という響きを、他人と思いかねるのは自分が狼と交わったものだからだろうか。あるいは、狼殺しの名を頂く用心棒としての血が騒ぐのか。
 愛銃『古女房』に装填するための銃弾を弾薬盒から摘まみ出しながら沈思する。
 グリモア猟兵に曰く、剣狼は全てを失ったのだという。おそらくは愛した妻も、友も、ほかの家族も。彼のいた地は残らず滅ぼされ、今は人も寄りつかぬ不毛の地が跡に広がるのみ。
 仮に妻を――良を、そして子を、殺されたとしたなら己はああして爆ぜ駆けたろうか。そう、思いを馳せずにはいられない。
(他人事じゃあ、ねえやなあ)
 不憫に思う。オブリビオンに堕した身とはいえ、今敵対する理由がないのなら、その背を撃つ理由もまたない。
 初弾として装填するのは空砲。八束は擲弾筒を銃口にロック、弾薬盒から大ぶりの擲弾を取り出した。
「こりゃ八方、どこに撃っても当たりそうだな」
 ため息を一つ。擲弾を筒にセット。照門の向こう側には一面の肉塊。照星を上に重ねずめくらに引き金を引いても、そのいずれかには当たるだろう。
 しかし狙う。より多くを、より早く葬送るために。膝立ち、銃身の自由度を上げた姿勢。草いきれに銃弾が弾かれぬよう、周囲は既に銃剣で刈り終えている。
 八束は擲弾が最長の放物線を描くよう、トリガーを引いた。
 しゅ、ぼんっ!
 どことなく間抜けな音が響いて、空砲のガス圧により擲弾が遙か遠くへ飛ぶ。八束はなめらかに古女房から空薬莢を排出、次弾に実弾を装填。擲弾が敵の上方に至ったのを視認するなり、即座に次弾を放った。

 空に爆炎が裂く。炎の雨が降る。

 空気を食って炎が膨れ上がり、炎が降り注いだ。八束が放った擲弾は焼夷弾。それを空中で射落とすことで、内部の高粘度・強燃性の油が引火しながらに飛散したのだ。八束は二射、三射と同様の焼夷弾を放ち、炎の雨を恐れるように呻きながら逃げ惑う敵陣目掛け悠然と歩を進める。
 炎はつきず肉塊どもを焼いた。再生しようとする矢先から燃え落ちていく。八束が狙った再生防止の策が奏功している。
 燃える、燃える、燃えていく。
 ――あついよう、あついいい、おれのからだがもえるよう、
 呪詛めいて肉塊どもが叫ぶ。そこにきっと、人としての意識など残っているまい。
 人間の精神はあのようにぐちゃぐちゃに弄られて、隣の肉塊と癒着して二個一になって、それでも個を保っていられるほど強靱ではない。
 遠目に暴れ狂う剣狼を一瞥した後、八束は大声で問うた。
「――よう。何ぞ、恨み節の一つでも遺せるかい。あいにくと剣狼はお前さんらには見向きもしねえ。俺でよけりゃあ代わりに聞いてやるよ」
 しかし、返ってくるのは……
 ――ああ、ああ、フェイリア様、お慈悲を……お慈悲を……お望みのままに殺します……皆殺しますからぁ……あついよう……助けて……あれを殺しますからあ……いのちだけはぁ……
 さざめく呻き。残った生存本能と声帯が、無意味に主への命乞いを続けている。
 誰かを踏み台にしてでも生きたい。その醜悪な姿を晒してでも。
 ――ああ、それは、
「……そうか。お前さんらもとっくに、外道か」
 最早、ひとではない。
 八束はボルトを引いた。流れるように指に挟んだ通常弾を装填。ボルト閉鎖と同時に射撃。頭を一つ潰す。即死。廃莢。装填、射撃、潰す。歩きながらにして、彼が捧げ持つ銃身は僅かにぶれることもなく、機械のように正確に燃える肉塊どもを射貫き続ける。……進む。
「……やりきれねえな。全く」
 八束は苦々しく息を吐いた。
 まるで、不味い安煙草を吸い込んだ後のような調子で。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロク・ザイオン
◎ジャックと

(ひとの血肉の匂いがする)
(歪んだ肉から、「歌」がきこえる)

――っ、

(殺意はまだだ
憎悪もまだ早い
哀れな病葉には、安息が与えられるべきだ)

……大丈夫。
ジャック。
……キミの力を貸して欲しい。

(ジャックの力で更に加速し【ダッシュ】で肉薄
湧き上がる頭部が悲鳴を放つ前に尽く「燹咬」で刎ね飛ばし
烙印刀、閃煌の【二回攻撃】で灼き断ち炭にする)

どうか、
どうか、
……森に、迎えられますように。


ジャガーノート・ジャック
◆ロクと

(ザザッ)
唾棄すべき冒涜だ。
悪辣極まりない。

――君は平気か、ロク。
――そうか。

他ならない君の頼みだ。
援護は本機に任せろ。
此れよりミッションを開始する。
オーヴァ。
(ザザッ)

良く戦場を共にするカウボーイの真似事をしよう。
電脳体を一部変質、電気信号に変換しロクに射出・送信――

"FLASH"。

援護対象の神経伝達速度の上昇を確認。
エンチャントを完了。
今の君は正に閃光と言うにふさわしい。
駆けろ、ロク。

――出現する頭部を先読みし、熱線にて敵らの攻撃を牽制。
叫びを上げる暇も与えはしない。
(学習力×情報収集×早業×援護射撃×スナイパー)
トドメは君に任せる、ロク。
彼らに安息を齎してやれ。
(ザザッ)



●赫光、闇を引き裂いて
 戦場に満ちるのは狼の咆吼。人の呻き、血の匂い。
 ああ。歪んだ肉から『歌』が聞こえる。
「――っ、」
 思わず蹌踉めくロク・ザイオン(未明の灯・f01377)を、傍らでジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)が支える。
 ザザッ、ラジオめいたノイズ。
『唾棄すべき冒涜だ。悪辣極まりない』
「……ああ」
『君は平気か、ロク。本機には、君のコンディションが良くは見えない』
「……大丈夫。大丈夫だ」
 慮るように問うジャガーノートの声に、ロクは首を縦に振って応じた。
『――そうか』
 ジャガーノートは、それ以上は問わなかった。うごめく肉塊らに向ける紅いバイザーの内側に感情は窺えない。……それでも語勢から、彼の憤りだけは伝わってくる。
(でも……怒るのも、憎むのもあとだ)
 ロクは細く息を付く。殺意も、憎悪も、彼らに向けるべきものではない。衝動的に溢れそうになったものを全て裡に押し込め、ロクは前を見た。
 利用され、果てた哀れな病葉たちには、殺意でも憎悪でも憤怒でもない。ただ、安息が与えられるべきだとロクは思う。
 ロクは体勢を立て直して自立しながら、願うように、自分の肩を支えたジャガーノートに空色の瞳を振り向けた。
「ジャック。キミの力を貸してほしい。……おれに、かれらを弔うための力を」
 真っ直ぐで素直なロクの言葉を、ジャガーノートが否定するわけもない。
『他ならない君の頼みだ。援護は本機に任せろ』
 ジャガーノートは紅いスパークを帯びた腕でロクの背中を圧した。紅く光る電流がロクの身体を押し包む。それは痛みを伴うことなく、目映い明滅として彼女の視界を揺らした。
 ――刹那、ロクの時間が鈍化する。感覚は鋭敏化され、欲しい情報がどこまでも仔細に目に飛び込んでくる。肉塊から聞こえる『歌』の速度が鈍く落ちる。主管認識速度の向上と精密化による体感時間の遅延。
『“FLASH”、エンチャント完了。援護対象の神経伝達速度の上昇を確認。――あのカウボーイの真似事だが、効果は劣らないはずだ』
 何もかも鈍り、ゆっくりに聞こえる世界の中で、ジャガーノートの言葉だけがただただはっきりと耳に――否、脳に届く。赤き雷のパルスを通してリンクするジャガーノートの思考こそが、泥を泳ぐめいてスロウな世界の中で、最もクリアなものだった。
 これこそ、ジャガーノートを構築する『電脳体』の一部を電気信号へ変換、受信対象の能力を増幅するパルスとして送信するオプション・プログラム、“FLASH”である。
 ジャガーノートの手が、力強く、ただ倒れぬようゆっくりと、ロクの背を押す。促すように、あやすように。彼女が憂い無く駆けられるように。
『此れよりミッションを開始する。――今の君は、正に閃光と言うにふさわしい。駆けろ、ロク。誰も、君を止められない。本機が、止めさせない』
『ああ。――ああ。ありがとう、ジャック。――借りる、この力を』
『持っていくといい。君のためのものだ。……彼らに安息を齎してやれ、ロク』
 赤きパルスを介したやりとりはそこまで――一瞬の間の後、ロクは地を蹴立て、無明の空に赤き後れ毛を翻して駆けた。
 おおぉぉぉぉおおおおぉおぉぉぉぉ……!!
 妄執の肉塊らが群がり声を上げる。捻れ伸びた肉で触手を構築し、ロク目掛け雨霰と振り下ろす。しかし、ZAPZAPZAPZAPZAPZAPZAPZAPZAP!! 耳を聾するスパーク音! 赤い熱線が、跳ねる山猫目掛け振り下ろされた触手の群を焼き払う!
 肉塊らへ向けて駆け抜けるロクを援護するのは言わずもがなジャガーノートだ。彼は展開したブラスターを拡散モードで射撃して敵の打撃を遮った後、敵の群をマルチ・ロックオン。光線の集束率を変更し、すかさず射撃。――放たれた光が、的確に敵の頭を焼いていく!
 あ”――
 あ”あ”、――
 あ”ッ……!!
 音韻を発そうとした首が次から次へと焼かれていく。肉塊は食らう都度頭部を新しく生やそうとするが、それよりもジャガーノートの射撃補正の方が早い。周囲の歪なる肉塊の挙動を多数観測・捕捉し、次の動きを予想した上で先読みで熱線を連射している。もう全てのパターンは学習したとばかりに、その動きはよどみなく、万一予測を外してもすぐにリカバリーを行うことで巻き返し、さらに次以降の予測を修正する。スーパーコンピュータが裸足で逃げ出す演算速度だ。
 ――もう、眠れ。
 頼もしいジャガーノートの援護射撃を背に、ロクは駆けた。次々と焼け落ちる病葉たち。叫びこそ聞こえなけれど、すすり泣くような呻きは止まぬ。精神にヤスリを掛けるような声。
 ――この上叫びを上げ、同情を引くことは、させない。ジャガーノートの光閃に晒され、頭部の焼け焦げた者達へ向け――ロクは左右の二刀を抜いた。
 右手に光るのは、彼女の代名詞、『烙印刀』。そして左手には永海・頑鉄が作、緋迅鉄製剣鉈『閃煌』。烙印刀に刻まれた印から炎迸り、閃煌が激情に従うように白く燃える!
 圧縮された時の中を、普段に倍する速度で駆け抜けながら、ロクはただ祈る。
 この哀れな病葉どもが、燃えて炭となったなら。全てが濯がれたら。
 どうか、どうか。……森に、迎えられますように。
 ロクはざらざらとした声で叫び、飛び込んでまず一体目の首を狩り落とした。焼くだけではない、断ち落としたのだ。再生のスピードが鈍る。それを見て、『脳がなければ再生の効率が落ちる、もしくは不能となるのでは』という仮説を誰かが立てたやもしれぬ。
 しかしロクにとっては関係のないことだった。皆、断つ。そしてこの終わらぬ苦悩めいた生から解放してやる。そのために一番簡単で早いのは、首を落とすことだと本能的に知っていたから。
 最初に断った首が地に落ちる前に次を。それが地に落ちる前にその次を。初めの首が地面に弾んで燃え尽き、バウンドした宙で灰となってほどけるまでに、実に七つの首が飛んだ。
 次々に放つ炎の牙は、その全てが肉塊の首を討つべく放たれる。せめて悲鳴を上げる前に。苦痛も何もかも置き去りにせよと、願うばかりに。二刀はまるで炎の大鋏めいて、少女が一転するたびに首を一つ宙に舞わせる。
 首を全て失った肉塊から、次々に、ロクが発した炎に呑み込まれて燃え尽きて灰になっていく。舞い散る灰の中を、ロクは旋風を纏い飛び駆けた。その後ろにブーストダッシュで従うジャガーノート。
 彼らが通り過ぎた後には、最早毒々しい肉の色はなく――
 ただ、灼き尽くされた病葉の灰が積もるのみである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日向・士道
かつて人であったモノの残骸。
であらば、たとえ世界が違えど、天に還すが學徒兵の務めである。

暮らしがあったろう。
絆があったろう。
想いがあったろう。
今、こういった形で君達と相まみえるのを残念に思う。
せめて安らかに逝くがいい。
輪廻の次では、どうか幸せに。

ああ、ああ。
小生に触れようというのであれば無駄だ。
この体は煙。この体は影。
けして触れ得ぬこの世あらざる怪奇故に。

呂之型【煙羅煙羅】。
敵陣に堂々と立ち入り、首を“酒呑童子”にてはねて回る。

剣狼よ、この有様を受け入れられぬ心はわかる。
だが、小生らは君を止めねばならぬ。
しばし待て……すぐに、追いつく。



●煙風に血錆の荒ぶ
 かつて人であったモノの残骸とあらば、空が変わろうが、天に還すが己の宿業、學徒兵たる我が務めである――
 謳って踏み出したその學徒兵こそ、名を日向・士道(パープルシェイド・f23322)という。
 踏み出した彼の表情は冴えない。招集に応じた際の語調とは対照的に、彼は唯々、悲しみを宿した瞳で肉塊を見つめる。
 ――一体きりでこちらを睨む者もあれば、二体、三体と寄り添うように在る者もいた。或いは、寄り添ったその複数体は家族だったやも知れぬ。
 暮らしがあったろう。
 絆があったろう。
 想いがあったろう。
 もっと生きたいと、いつかこのどん底から抜け出して、幸せになりたいと、心の底から願っていたろうに。
 思いを馳せると、たまらなくなる。
 士道は無造作に踏みだし、妖刀“酒呑童子”を抜刀。抜き身を右手に提げ、堂々たる歩調で敵陣へ迫る。
「今、こういった形で君達と相まみえるのを残念に思う。剣狼が立ち上がったその日その時、小生らがそこにいたのならと願わぬ事は無い。……しかしそうはならなかった。悔しいことにな。……せめて安らかに逝くがいい。……輪廻の次では、どうか幸せに」
 攻撃を恐れる様子もなく、男は真っ直ぐに進んでいく。その身体を目掛けて、或いは生を羨むように、肉塊らが己が肉を束ねて触手を伸ばした。その数無数、雨めいて降り注ぐ。その先端は錐めいて尖り、そのまま進めば士道は早晩、蜂の巣になって息絶えるであろうと思われた。――しかし。
「ああ――、ああ」
 ど、ど、どどど、と音がして、降り注ぐ触腕槍が士道の身体に突き刺さる。幾つも、幾つも、無数に。
 ああ、その通り。確かに突き立つ音がした。士道は避けなかった。
 なのに彼は歩き続けた。何もなかったかのように。
 ……肉槍の突き立ったはずの彼の肉体が、ゆらり、揺らめく。
「小生に触れようというのであれば無駄だ。この体は煙。この体は影。――けして触れ得ぬこの世あらざる怪奇故に」
 ――おお、なんと面妖な!
 士道の肉体が霞み煙り、触腕槍を透過している! 彼は猟兵分類においては怪奇人間に相当する。彼の言の全きその通りに、肉塊らの攻撃は士道をすり抜け地に突き立ったのみだ。
 士道は無造作に刀を投げ上げる。唯一の武器を投げるとは、勝負を捨てたか――
 否。
 ひゅうるり、風が吹く。士道の身体がゆらめいて、ほどけて風に乗った。しかし吹き散らされるわけでなく、彼は風と同化したまま陣中に吹き込み、敵陣、ど真ん中で凝集、人の形を取り戻す。
 おお、おぉぉぉあぁ……?
 肉塊らの戸惑うような声が理解に繋がる前に、士道は手を高く上げ、落ちきた妖刀の柄を取った。
 落ちきた妖刀の速度に腕力をロスなく足して一体を唐竹割りに。身を躍らすように回して二体目の首を刎ね。今一度迫る攻撃を煙化してすり抜けながらの刺突で頭を貫く。
 堂々たる太刀振る舞い、剛の刃と煙としての回避・移動性能の重なった不可思議な剣を前に、肉塊たちが抗うこと能わず……!
 ――この肉塊らが、かつての知己であったと言うならば。剣狼よ、この有様を受け入れられぬ心は分かる。……だがそれでも、小生らは君を止めねばならぬのだ。君もまた――かつてを生きた生者の残骸である故に。
 士道は、驀地に屋敷を目指す剣狼を遠目にして、眦を決する。
「――しばし待て。すぐに、追いつく」
 揺らめく士道の手で、血に塗れた“酒呑童子”がぬらりと輝いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

青葉・まどか


第一目標の領主は強敵
『剣狼』の襲撃を好機として利用するのは悪くないよね
悪くはないけど……その後の事を思うと色々と考えちゃう
……良くないね、今は目の前のことに集中しよう

(庭園の様子を見て)ああ、此処の領主は絶対に倒そう

目の前の『存在』は犠牲者だ
だけど救うすべはこの手に無く、刃でしか彼らを終わらせることしか出来ない
なら迅速な最期を送るよ

フック付きワイヤーを駆使してワイヤーアクションでのヒット&ウェイが基本戦術
敵の攻撃は【視力】で【見切り】で【カウンター】

『神速軽妙』発動
その身を一瞬たりとも止めず動き回り、斬撃や刺突、投擲で攻撃

余裕があるなら『剣狼』を見る。何故見るのかは自分でもよく分からない



●飛刃
 領主たるフェイリア・ドレスデンは極めて強力なヴァンパイア――『初めのものども』であるという。
 故にこそ、剣狼を利用しての異例の共同戦線。作戦の趣旨も有効性も理解出来る。悪くはない――そう理解してもいた。
(けど、後のことを色々と考えちゃうよね)
 利用したあと、その剣狼もオブリビオンとして倒さねばならぬこと。そのときに剣狼が感じるであろう想いなどを慮ると、青葉・まどか(玄鳥・f06729)の胸には重苦しいものが去来する。
 うぅぅぅううぅうう……、
 ゾンビ映画もさながらのうめき声がさざめく。まどかは首を横に振った。……その心配も、この局面を乗り切ってからだ。
(今は目の前のことに集中しよう)
 まどかは庭園を改めて見回す。見渡す限り、肉塊、肉塊、肉塊。腐肉のような淀んだピンクの肉でできた、人のなれの果てがうぞうぞと蠢いている。中には人の形を保っているものもあった。だが、ほとんどは既に四肢のいずれかがなく、うねりながら這いずり、肉の触手をひらめかせるだけの怪物と成り果てている。
 奇妙に嗤った唇と、空っぽの眼窩が、まどかに向けられていた。
「……ああ、此処の領主は絶対に倒そう」
 酸鼻極まる庭園の状況に、まどかは決意も新たに呟いてダガーを引き抜く。煌めく刃を構え、敵の群れ目掛けて真っ直ぐに突撃する。
 ――彼らもまた犠牲者だ。玩具にされ、弄ばれた命のなれの果てだ。……きっと、人間としてのまともな生命活動はとっくの昔に終わっている。あれを救うすべは、まどかにはない。ただ、この手にした強靱な鉄で終わらせてやることしかできない。
 ――なら、一刻も早く終わらせてあげる。
 まどかはユーベルコードを起動。『神速軽妙』。前傾姿勢で駆ける彼女のスピードがさらに上昇する。
 肉塊は触手を編み、棍棒として振り下ろしてくる。岩をも砕くがごとき、雷轟めいた敵の一撃。しかし、その切っ先さえまどかを捉えられぬ。サイドステップで回避した彼女の残像を掠め、地面を砕くのみ。
 一際大きい肉塊に狙いを定め、まどかはフック付きワイヤーを放つ。肉に食い込むのを見て取るやまどかはワイヤーを巻き上げ、走る速度と巻き上げの速度を相乗させながら地を蹴る。軽い彼女の身体が、まるで風に巻き上げられたかのように空を飛ぶ。
 まどかは空中で閃転、飛ぶコース上に存在した敵の首を次から次へと刈り落とし、あるいは頭蓋をその鋭いダガーの一閃によってえぐり、殺していく。
 空中の彼女を追ってなおも肉の触手が伸びた。その中でも一際巨大な、まどかの脚ほどもあろうかという太さの触手が迫る。まどかは脚を縮め、ワイヤーを切り離し。あろうことかその触手に蹴り飛ばすように踵から『着地』。そのまま身を丸め廻し、刃の車輪めいてダガーを突き立てながら触手の上を転がり抜け、終端で蹴立てて跳躍する。ズタズタに裂けた触手から血が飛沫を上げ、おお――と、嘆くような肉塊の呻きが響き渡る。ユーベルコードの名のまま、まさに神速軽妙の神業である。彼女を捉えられる肉塊などこの場には存在しない。
 まどかは空中より、遠くで戦う剣狼を観た。
 肉塊を寄せ付けぬ鬼神のごとき強さだ。警戒するように命じられているのだろう、剣狼の周りには、猟兵一人に群がるよりも遙かに多くの肉塊が集ってその進路を妨げている。
 ――なぜその背中を見たのかは、自分でもよく分からない。追いかけ、追いついて対峙した時、その答えが分かるのだろうか――
 自問は一瞬。伸び来た次なる触手を斬り払い、まどかは次なるワイヤーフックを放った。
 答えを出すには、まずはこの哀れな犠牲者らを踏み越えねばならない。――ワイヤーを巻き上げ、まどかは再び魔女めいて宙を舞った。

成功 🔵​🔵​🔴​

リオ・ブレンナー
不細工な肉塊だぜ、とりあえずココのボスがセンスのねぇ野郎だってのはよーくわかるな。
ま、この元村人連中にも剣狼にも思うところが全くねぇと言ったら嘘になるが……同情はしねぇぜ。している暇もねぇ。

んでもってオレにできるのは唯一つ、敵を正面からぶん殴る。そんだけだ。
だから細けぇことは他の奴らに任せて、オレは有象無象共を打ちのめす!!

攻撃はシンプルに打撃。
自慢の怪力で相手を捻じ伏せ、急所に「スクラップフィスト」を叩き込む!
生憎オレは不器用で、コレしかやり方をしらねぇからよ。
コイツで押し通らせて貰うぜ!
いくら改造されてるって言ってもよ、頭や心臓を叩き潰しゃそれなりに効果があるだろ!



●パワード・リム
「ハッ、全く不細工な肉塊だぜ。とりあえずココのボスがセンスのねぇ野郎だってのはよーくわかるな」
 嘲るような声が鳴った。女の声だ。小柄ながら、その身体の其処此処には金属光沢が煌めく。ウォーマシンか? ……否、見るものが見れば分かっただろう、それは戦闘用義体だ。『KURENAI』の名を持つ戦闘用義体を擁し、橙に明るく燃える瞳で戦場を見るのは、リオ・ブレンナー(スクラップフィスト・f23265)である。
「ま、この元村人連中にも剣狼にも思うところが全くねぇと言ったら嘘になるが……同情はしねぇぜ。している暇もねぇ」
 戦場においては些少な情など邪魔なだけだ。殺すのを躊躇って殺されるのは阿呆のすること。故にリオは躊躇わない。
「オレがてめぇらにくれてやれるモンはたった一つだ。同情しながら戦うような器用な真似はハナからほかの連中に任せてるもんでね。――っつう訳で」
 ギィ、ッゴォン!!
 紅の双腕が持ち上がり、その鋼の拳を打ち合わせる!
「かかってきな、有象無象共。何体来ようが、このオレが打ちのめしてやるよ!!」
 リオの挑発をはっきりと認識した様子で十数体の肉塊が、新たに構築した脚で地面を蹴り跳躍、リオ目掛けて襲いかかる。それに対するリオの行動は全く単純。
 ――正面から、力で応ずるのみ。
 ドォウッ! 土礫をあげて地面が爆ぜる! KURENAIのアクチュエータとマッスルパッケージがフル稼働、天に昇る稲妻めいた速度でリオは跳躍!
 空中から襲いかかってきた敵の一体を、飛び上がりざまのアッパーカットで迎撃!! その威力、まさに暴力的である。直撃した位置を中心として同心円状に伝わる撃力。肉塊は衝撃に耐えきれず、弾けるように、血と肉の雨になって飛散した。びちびちと降り注ぐ。
 恐るべきはその破壊力。怪力自慢は伊達ではない。それしかできない故に、それのみに特化した故に手に入れた、圧倒的なまでの『暴力』……! 彼女の放つ鋼の拳、『スクラップフィスト』の一撃である!!
「生憎オレは不器用で、これしかやり方をしらねぇからよ――」
 空中、粉砕した肉塊の後ろより、次なる敵手が触手を伸ばす! 強靱な肉の触手が彼女の両腕を捉え、その動きを封じんとするが、
「コイツで、押し通らせて貰うぜ!!」
 しかしその程度で止められるわけもない。リオは空中で逆部を振り回しウェイトシフト、ピンと張った触手を逆用して敵を振り回し、鎖分銅めいて周囲の肉塊を薙ぎ倒す。仕上げに地面に、振り回していた敵を叩き付け――
 その上へ流星めいて落ち、全体重を乗せた右腕を叩き込む。一撃で心臓粉砕、五体四散! 単純な打撃では相性が悪い、高速再生をなす個体を相手にしてなお圧倒的なその威力。
「いくら改造されてて高速再生するって言ってもよ、頭や心臓を叩き潰しゃそれなりに効果があるだろ。……その様子だと、当たりみてぇだな」
 リオは鮫のように笑い、飛び散ったきり再生もできず、塵になって消えていく足下の肉塊を見下ろした。
 燃える双眸を上げ、リオは次なる敵手に向けて悠然と歩む。肉塊が群れて、寄り固まり、彼女に抗するべく巨大化するが、それすらリオは鼻で笑ってみせた。
「群れようがどうしようが同じこった。幾らでもでかくなって見せろよ。その全部を殴ってブッ壊してやる」
 獰猛なるサイボーグは、鋼の拳を火花を散らして打ち合わせ――今一度、爆ぜ駆ける!

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立

やってるコトがアリを潰して喜ぶガキと同じ。
しかし領主と言えば暗殺。暗殺と言えば忍者。
前哨戦。始めましょうか。

位置はできる限り後列。戦場の様子が分かりやすいので。
《闇に紛れて》《忍び足》でついていきます。

危うそうな人がいましたらそちらへ。
姿を極力隠したまま、色んな式紙をばら撒く。

さて。
…今投げたうち、どれが“ホンモノ”だったかわかりますか?
伏式起動。【紙技・影止針】。
そことそことそこの三枚ですよ。
何もコレで致命傷を与えようってんじゃない。
再生が止まればよろしい。
三枚だけを本命とした《だまし討ち》です。

あとは任せるか、必要なら協力してあげてもイイです。
数がいるでしょ。とっとと殺して次に行きます。



●影風、嵐めいて鳴る
「呆れますね。やってるコトがアリを潰して喜ぶガキと同じ。メンタル乳幼児、道徳〇点。ま、オレも道義を語れる身分じゃありませんけど」
 素たるヴァンパイアが聞けば激怒するであろう煽りが風に乗った。
 嘯いたのは影。戦場の直中だ。――雲に陰っていた月が僅かばかりの灯を覗かせると、その影の不健康に白い膚がひやりと月光に濡れた。
 矢来・夕立(影・f14904)である。
 夕立がいるのは戦場の最後方に近い。ナパームをばらまいた猟兵がいるらしく、そこかしこに燃え燻る炎と肉の焼けた匂いが漂っている。
「領主と言えば暗殺。暗殺と言えば忍者」
 そして忍者と言えば、“紙忍”矢来。
「前哨戦。始めましょうか」
 夕立はその両手に千代紙を――否、『式紙』を広げた。彼が後方を戦場に選んだのは戦場を一望できるため、そして援護が必要な猟兵を見て取るためである。他の猟兵も流石の精強さ、今のところ助けが必要な猟兵は見て取れぬ。
 ならばと夕立、その気配を潜めて戦場を疾る。闇に紛れる隠形の技能は、忍者としての基礎能力であるように思われているかも知れないが、彼の隠形は特筆すべきものだった。目の前を走っているはずなのに、足音も気配も敵に気取らせぬ。
 走りながら夕立は手挟んだ千代紙をびらり、打つように振った。
 千代紙はひとりでに身もだえするように捩れ、鋭くピンと尖った棒手裏剣になる。式紙『牙道』。完成した紙の棒手裏剣を携え、夕立は敵の密集した位置へ突貫した。
 敵の目を『盗み』、間近まで距離を詰めての跳躍。『盗まれた』側にしてみれば、外套を翻した忍びが、突如中空に躍り出たようにしか見えぬことだろう。
 夕立はそれを識っていた。故に、敵が浮き足立ち、一瞬惑ったことも容易に想像できた。
 なればこそ逃がさぬ。その隙を掻っ攫う。
「鏖だ」
 酷薄な声とともに、夕立は地獄の旋風と化した。超高速で一転、手挟んだ牙道を投擲投擲投擲投擲投擲投擲投擲投擲ッ!! 紙製の棒手裏剣など玩具に劣ると言うものがあれば、一度その鏖殺の嵐の下に身を晒してみるがいい。紙は紙でもそれは『式紙』、その強度は鋼鉄と同等である!
 次々と突き刺さる棒手裏剣は、呻く肉塊の頭部を的確に射貫いていく。ねじれた肉塊となり、臓器すらどこにあるか分からぬ肉塊共ではあったが、頭だけは共通して存在する。そしてそれを全て破壊すれば、再生すること罷り成らぬ。夕立は事前に他の猟兵の戦闘を観察し、それを確認していた。慎重にして周到!
 鏖殺の風が吹き荒れるも、しかし討ち漏らしの巨大な一体――頭が五つほどある――が数十の肉の触手を編んだ。尖端を錐めいて尖らせ、着地した夕立を目掛けて反撃を放つ。
 だが。

        カゲシバリ
「――伏式起動。影 止 針」

 びたり、と夕立の一寸手前で肉の触手が停止する。
 否、そればかりではなく、肉塊の動きそのものが停止している!
「さて。……今投げたうち、どれが“ホンモノ”だったかわかりますか?」
 うぅ、うう……?
 夕立の淡々とした問いに戸惑うような呻き。――その肉塊に点々と突き立つ、『黒い』牙道。その数三。
「はい時間切れ。正解はそことそことそこの三本です。ご苦労様でした」
 ――多数の鏖殺手裏剣に混ぜた三本の黒い棒手裏剣。この命中を以て敵の動きを、行動を縛る。忍法・影止針、鮮烈なり!
        カゼ
 夕立は再び黒き影風となる。動きの止まった巨大な肉塊を駆け上がりざまに抜刀。斬魔鉄製脇指『雷花』が閃けば、瞬く間に宙に五つの首が飛ぶ。
 塵に変わる肉塊を背に、夕立は今一度闇にその身を溶かし、次なる獲物目掛け距離を詰める……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルイーネ・フェアドラク

哀れという言葉すら、軽い
地獄のようだ、とはよく言いますが
ここは、地獄でも煉獄でもなく、ただの現実でしかない
手向ける言葉すら持たぬのならば、いっそただ無慈悲に

肉塊に、死を

剣狼を追う形で駆けていきます
触手で薙ぎ、千切り、捻り潰していく
私は、お綺麗な戦い方など知りませんからね
まさかこれらを相手に、丁寧に銃で撃ち抜いてやれるほどの腕もない
私は私のやり方で、彼らを終わらせてやるしかない
どれほど胸糞が悪かろうとね

強き者がいれば支援に回り、子どもがいれば庇いもするでしょう
そうでなければただ、感情を凍らせ駆けるのみ



●死を捧ぐ
 最早他者と己の境界すらも曖昧となり、ぐちぐちと蠢く肉塊の群れ。口々に、かつて生きた村の名を、己の犯したとされる罪を、喘ぐように漏らし続ける、『人のなれの果て』。
 猟兵らが戦い、剣狼が駆け抜ける最前線のその一呼吸後ろを、ルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)が走る。
 これをいかなる言葉を以て表すればいいのか、ルイーネは識らぬ。月並みに言うのならば『地獄のようだ』とでも言うだろう。しかしここは地獄でも煉獄でもない。ただの現実だ。
 祈りも、この凄惨な光景の前ではただただうそ寒いだけ。ならば、最早ルイーネにできることは一つしかない。――彼は聖職者でも何でもない。一介のグールドライバーだ。

 差し出せるのは、無慈悲な死だけ。

 剣狼が最短経路を蹴散らしながら駆けるその左翼後ろを固めるようにルイーネは駆ける。当然といえば当然のことだったが、肉塊共は、無双の大刀を振るい同胞を蹴散らす剣狼よりも、武器も持たず走る細身の男――ルイーネを優先して狙った。
 ――しかし見た目だけで判断し襲いかかった者には、手痛い反撃が待っている。
 ルイーネは拳銃を腰に提げていたが、よもや視界を埋め尽くすほどの数の敵目掛けそれを放とうとは考えていなかった。もとより射撃はサブの攻撃手段。この数相手に連射すれば、弾丸がいくらあっても足りはしない。
 ……いや、そもそも、本来的にはグールドライバーに手持ちの武器など必要ないのだ。彼らの武器は、その刻印に巣喰う契約者であるが故に。
「起きろ」
 ――一度食らえと刻印に命ずれば、ぞるり這い出る漆黒の触手。側面に肉棘を、先端には牙を備えた口吻を持つ。これぞルイーネのユーベルコード、『醜悪なる漆黒の契約者』である。
「――征け」
 ルイーネは強く腕を打ち振った。それを命令と取ったか、黒い触手は放射状に、レーザーめいて伸びる。
 牙で食いつき、そのまま噛み千切る。或いは、速力に任せて振るい、茨の鞭めいて肉塊を斬り裂く。首に触手を搦めて縊り、或いはそのまま首をねじ切り。動きを封ずるべく放たれた敵の肉の触手を、遙かに上回る出力で引き千切る。
 ルイーネは、黒い台風の目になったかのようだった。彼一人が、鏖殺の渦の中で涼しげに駆ける。お綺麗な戦い方など知らぬ。彼に出来る、たった一つきりの方法がこれだった。漆黒の契約者は、文字通りに玩具を得たかのように肉塊共に襲いかかり、喰らい、血を呑み、次々殺して暴れ狂う。ルイーネはそれを止めることなく、より狂えとばかりに刻印に己が血液を送り込む。
 苦痛なく、一瞬で、清らかに、安らかに――
 そんな眠りめいた死など、そこにはない。肉塊に成り果てた亡者共は、あまりの苦痛に泣き噎ぶような声を上げる。だが、ルイーネはそれを一顧だにせぬ。よしんばその声が手加減を誘う擬態でなく、真に慈悲を請う哀れなる声だったとしても、結果は変わらぬ。
 ――感情は既に凍らせた。ルイーネが亡者共にかけうる慈悲は、ただ一つ。
 一滴でも多くの血を刻印に送り込み、より触手を猛らせて、一秒でも早く死ねるようにと願ってやることだけだ。――どれだけ胸糞が悪かろうとも。彼に出来ることは、それだけなのだから。
「願わくば安らかに……というのも、エゴに過ぎないのでしょうね」
 ルイーネはかそけく囁きつつも、足を止めぬ。
 この乱痴気騒ぎの主因となったヴァンパイアに応報を誓う。……恐らくは、それが、たった一つ……滅び行くかつての人間達に、彼がこれから報いる方法であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フローリエ・オミネ
アドリブ歓迎

憐れだとか
痛ましいだとか
そのような感情は一切無いわ

わたくしの任務は目の前の敵を一体でも多く散らす、それだけ

行動は【空中戦】で常に浮遊、極力体力を温存し行動

術で陶器人形と針を召喚
…向かってくる敵一体一体に明確な殺意を向ける
ああ、そんな姿でも体は動くのね
穢れた血肉…何ておぞましい

人形に針を刺す
脳に、心臓に、急所を貫くように

【高速詠唱】でしなる敵の体が向かってくる前に針で刺し地に押し止め、動きを抑制
複数を相手する場合もあくまでとどめは一体ずつ、他の敵は針で縫いとめる

ねえ、わたくしとっても優しいと思わなくて?
あなたに苦しみを長引かせたくないだけなの
お願い、上手に殺させて

ふふ、…きれい、ね



●棘まみれの華
 憐れだとか。
 痛ましいだとか。
 そのような感傷めいた感情は不要だし、存在しない。
 ただ目の前に存在するその敵を散らす。それだけ――ただそれだけが、フローリエ・オミネ(シソウの魔女・f00047)がそこに存在する理由だった。ただ任務に従い、敵を屠る。それだけが。
 宙に浮かぶ、美しい女だった。紫水晶の瞳と青みのかかった、月光を縒ったような銀糸の髪をしている。
 年齢的にはまだ年端もいかぬ少女に過ぎぬはずだ。しかしその容貌は完成しすぎていた。均整の取れた長身に、ドールめいた美貌。完成され、成熟した美しさの故、彼女は童女ではなく魔性の妖女として余人の目に映る。
 宙に揺蕩い、彼女は肉塊の群れを見下ろした。蠢く肉塊らが空っぽの眼窩をして、呻きとともに天のフローリエを睨む。
 おぉぉぉおおおぉぉぉ……。
 地を揺るがす死者の呻き。まるで押し寄せる波濤のよう。それを聞きながら、死者の醜悪なる姿にフローリエは秀麗な眉目を歪める。
「ああ、そんな姿でも動くのね。穢れた血肉に浅ましい呪詛……何ておぞましい」
 侮蔑を吐く唇までもが可憐で艶やかである。フローリエは左手の中に小さな陶器人形を喚び出す。続いて右手にじゃらりと手挟むは針、針、針。フローリエは嫋やかな指先で針をつまむと、陶器人形の頭を徐に突き刺した。
 まるで病んだ子供の児戯めいた所作。――だがフローリエとて歴戦の猟兵。この戦場のど真ん中で意味もなく人形遊びにふけるわけもない。
 針が人形の頭に食い込んだ瞬間、地上、雷鳴に打たれたように一体の呪肉が動きを止め、そのまま地に伏して痙攣。陶器人形が砕けるのと同時に、地上でざふりと音を立てて灰となる。
 何が起きたのか。フローリエが己が術式を行使したのだ。殺意を向けた敵対象の依代となる陶器人形を召喚し、その人形を針で直接的に攻撃することで、縁を辿って敵そのものを破壊する。
 ――それは呪いに似ている。フローリエのユーベルコード、『執行既得権』である。
 フローリエは眼下に視える全ての肉塊に等しく、ためらいなく、平等に殺意を向けた。肉塊の数だけ陶器人形が浮かび上がる。
 数体の肉塊らが急いたように触手を伸ばししならせ、中空のフローリエを叩き落とそうとした。しかしフローリエは行動に出た肉塊と繋がる人形、その脚と腕に針を突き刺す。見えぬ針に縫い止められたように触手が血を噴き、空中で静止。
 ――一度術中に嵌まれば、対魔力・対呪詛抵抗力のない呪肉共ではそこから逃れること叶わぬ。
 宙に浮く多数の人形らの間を踊るようにフローリエは舞い、攻撃を試みる肉塊の攻撃を、人形の手足を針で抉ることで阻害しながら、人形の頭に、心臓に、一体一体丁寧に丁寧に針を埋め込んでいく。急所を呪詛に貫かれ、次々と倒れ伏す肉塊ら。
 無垢な笑みを浮かべて、フローリエは歌うように言った。
「ねえ、わたくしとっても優しいと思わなくて? あなたに苦しみを長引かせたくないだけなの。――ああ、ほら、そんなに藻掻かないで」
 暴れる呪肉の触手を四肢を、針で留めて、幼子を窘めるような口調で、
「お願い、上手に殺させて?」
 いかにも可憐に死を謳う。
 そうして肉塊らは、抵抗を許されずに鏖殺された。呪肉の身体はやがて崩れて、白く舞う灰殻となる。風に舞うその欠片は、まるで少し早い雪のように宙を飾るのであった。

「――ふふ、……きれい、ね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
邪神にしろ吸血鬼にしろ、支配者気取りのオブリビオンなんて碌なものじゃないね

――守れなくてごめんなさい
仇は必ず討つわ。だから……せめて安らかに眠って

UC【天災輪舞】で加速、剣狼の戦いとぶつからないように《空中戦》を展開。
まず《気合い+狂気耐性》を引き上げた上で《破魔+慰め》の《祈り》を込めた《精神攻撃+催眠術+誘惑+歌唱》の鎮魂歌で犠牲者の意識に《ハッキング》して干渉、精神やその苦痛を鈍らせて《時間稼ぎ》ね
更に剣狼への《支援射撃》として雷羽の《属性攻撃+マヒ攻撃+範囲攻撃+制圧射撃》。
再生や耐性付与の阻害が機能していればこのまま荼毘に付せる筈よ
不意を打たれないよう戦況の《情報収集》は絶やさないわ



●慈悲の雷羽
「邪神にしろ吸血鬼にしろ――支配者気取りのオブリビオンなんて碌なものじゃないね」
 宙を蒼雷めいて飛ぶカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)は、地に満ちた呪肉塊を見下ろして痛ましげに表情を歪める。……せめて剣狼が立ち上がったそのときに、そばに在ることができたのなら、何かができたかも知れないのに。そう思わずにはいられない。
 ――守れなくてごめんなさい。仇は必ず討つわ。だから……せめて安らかに眠って。
 目を伏せ、一度閉じ。もう一度開けば、その双眸にためらいの色はなく。
 カタリナは、高空から急降下するように戦場の最前線へ突っ込んだ。


 ユーベルコード『天災輪舞』を使用したカタリナはその身に蒼雷を纏い、すさまじい速度での機動を可能とする。
 カタリナは剣狼が戦線を展開するその一歩手前、その戦闘を阻害せぬ範囲を射程範囲として距離を詰めた。地上からレーザーめいて放たれる肉の触手を、カタリナは翼をはためかせ空中でサイドロール回避。次々と襲う肉の触手と超高速でのドッグファイトを繰り広げる。追尾してくる触手をダガーで次々と斬り払いながら、カタリナはすぅ、と深く息を吸った。
 飛翔しながら、カタリナは厳かに、高らかに声を上げる。戦場に朗々と響くのは、彼女が歌う歌だった。高い戦闘能力を持つカタリナだが、何も戦闘一辺倒に偏った猟兵というわけではない。此度最初に取った行動は歌唱であった。物悲しく――しかし慈悲深く、歌い響かすのは、鎮魂歌。死したる亡者、死んでなお苦しむ呪肉共を哀れむ歌。
 もはやそれを解すかどうかも分からない呪肉塊共であったが、カタリナの歌は決してただのパフォーマンスではない。僅かなりとも残っているであろう深層意識に干渉し、未だ常世に縛られるその苦痛、精神的な摩耗を緩和する。大丈夫。目を閉じて、もう眠れ、迎えに来たのだ、もう苦しまなくていいのだ――そう、語りかける。
 長きに渡る呪いの時を生きたのだろう。呪肉塊の中に残った僅かな人間性の残滓が、その空っぽの双眸から涙となって零れ落ちるのがカタリナにも見えた。
 あからさまに呪肉塊らの動きが鈍り、カタリナの歌の影響下に措かれた一角の声が潜まる。呻く声が静まっていく。己を狙って放たれる触手の数が減るのを見て取るやいなや、カタリナは急激に高度を上げ、翼を力強く打ち広げ急制動。蒼雷をその羽に纏わせ、
「――おやすみ」
 かそけき囁きとともに、雷羽、射出! 紫電がダークセイヴァーの無明の闇を引き裂く! 無数の羽散弾が降り注ぎ、地を這いずる多数の呪肉塊が焼け焦げ、感電し、呻きを上げる暇もなく死に絶えていく。歌により動きを鈍らせ、放つ雷羽により一網打尽とする作戦であった。
 突き立った羽より蒼雷跳ねて、次々と肉塊を焼け爛れさせ殺していく。着弾後も暫時帯電し続ける蒼雷が傷の再生を阻害し――それに何より、その雷に身を任せ楽になりたいと願ったのか。みずから再生を停止し、死を選ぶ肉塊も少なからずあった。
 カタリナは狙った区画の肉塊を全滅させると、黙祷もそこそこに剣狼を一瞥。羅刹の如く戦うその背に痛ましげに目を細めると、せめて彼の道行きを援護すべく、翼に蒼雷を再装填。
 突き進む剣狼を導くように、彼の周囲の敵影目掛け、今一度雷羽の雨を振る舞う!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト

承知しているとも
これらが番兵ですらない只の警報装置である事も、最早彼らがヒトに戻る術など無いことも
何もかも一切合切、承知しているとも
「救うべき者の無い戦場のなんと味気ないことか。だけどボクらの後ろに居る民の為、そして未だ魂が解き放たれぬ犠牲者の為。血の花道を、正義と勝利のレールで駆け抜けよう!」

【線路開通、発車準備よし!】でレールを射出してかの眷属達を倒していこう
銃弾並の速度で飛来する重量物だ、抵抗しなければ死んだ事にも気付かず還れるさ
「と言っても、もう言葉も通じないよね。一人も逃さないから、せめて安らかに眠ると良い」
この場では鏖殺こそが、最大の慈悲なれば。



●来世への片道切符
 ――分かっている。
 彼らは既に、単なる警報装置に過ぎないのだということを。
 そして、彼らが只人に戻るすべなど、この世のどこにも存在しないことを。
 何もかも、一切合切、承知している。
 故に悲しい。この戦場は、既に終末を迎えた地獄そのものだ。
「救うべき者の無い戦場のなんと味気ないことか」
 密やかに呟くのはジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)。
 そう、救うべきも、救えるものも、既にここには何もないのだ。……しかし、参じた理由ならばある。
 邪悪なる吸血鬼――フェイリア・ドレスデンが、かつて滅ぼした領と同じく、新たな領地でも放埒を働いていることなど容易に想像できることだ。
 故に彼女は進む。
「……ボクらの後ろに居る民の為、そして未だ魂を解き放たれぬ犠牲者の為。血の花道を、正義と勝利のレールで駆け抜けようじゃないか!」
 高らかに告げるジュリア。その声を遮るように、肉塊らのうめき声が響く。大きな声で耳目を集めたジュリアに、瞬く間に肉塊が群がり、攻撃が集中する。
 鞭嵐の如く放たれる肉の触手を次々と動輪剣――チェーンソーで刻み落としながら、ジュリアは飛び退いて距離を開ける。敵を十分に引き寄せ、彼女はホイッスルを吹き鳴らし、ユーベルコードを起動した。

 ――『線路開通、発車準備よし!』

 刹那、宙に異空間へ繋がる“門”が連続開通、鉄道のレールが次から次へと射出され地に並ぶ。
 レールはその軌道上にいる肉塊らを貫き、下敷きにし、滅殺していく。異空間から射出されたレールの速度はそれこそ銃弾並。鉄と枕木の集合体がその速度で叩き付けられれば、軟らかな肉の塊などひとたまりもない。直撃のたび、肉片と穢血が飛び散り、潰れた骸が灰になって散る。多くの個体が、その第一射で鏖殺された。立て続けに第二射、第三射。息をもつかせず、異空間より招来した線路を敷設し続けるジュリア。
 大きい個体の中には肉の触手を束ね受け止めることを試みるものもいた。肉の触手を拉がせながらからくもレールを受け止めきる個体が出た、その時には、獰猛な音を立てて回転するチェーンソーを握り、ジュリアが弾けるように駆け出している。
「……諦めろ。もう、そんな呪われた身体にしがみつくことはないんだ。切符をあげよう。来世への切符だ。往復切符には、できなかったけれどね」
 ジュリアは言いながら飛びかかり、残虐動輪剣を一閃。三つの頭持つ呪肉塊の首を悉く刎ね飛ばし斬り抜け、再召還したレールで残った肉体を轢き潰す。
 語りかけたこの言葉も、きっともう通じていないのだろう。ジュリアは唇を引き結び、敵を見つめた。
「一人も逃がさない。せめて安らかに眠るといい。――切符はまだまだたくさんある」
 最早癒やすことも、蘇らせることも、救うことも出来ぬ、呪いにとらわれた亡者の群れに、ジュリアがしてやれることは一つきり。
 この場では鏖殺こそが、最大の慈悲なれば。
「あの世行きの線路の開通式だ。――お乗り遅れのないように」
 唸る動輪剣。降り注ぐレール。飛び散る穢血、嘆き恐れる肉塊の断末魔、滅び死したる骸が灰になり、風に煽られ崩れ舞う。
 ――駆け抜ける彼女の後には、白き灰を被った、鈍く光りを放つ線路が残るのみ。

成功 🔵​🔵​🔴​

紅呉・月都


…マジで胸くそわりぃ事しかしねぇな
ここのオブリビオンは


「死者を愚弄するのも大概にしやがれ!!!」
【マヒ・気絶攻撃】で敵を怯ませる
また、ユーベルコードで呼び出した銀狼と連携し、できた隙をついて【怪力】による【鎧無視攻撃・串刺し】で攻撃


敵からの攻撃は【野生の勘・見切り】で回避を試みる
回避出来ないなら【武器受け・なぎ払い】
受けた怪我は【激痛耐性】で誤魔化す


…彼の世に還す
もう、何もわかんねえだろうけどよ
それがお前らにやれる最期の贈りもんだ



●突き立てる狼牙は墓標
「……マジで胸くそわりぃ事しかしねぇな、ここのオブリビオンは」
 無明の闇に覆われ、植物も食物にも乏しく、吸血鬼の放埒と悪辣が罷り通り、無辜の人々がただ無為に死んでいく――文字通り、日の光の射さぬ世界。
 その在り方を、紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)は強く憎む。
 呻きを上げながら群がる肉塊らに、月都はぎりりと歯を噛み締めながら前進。
「死者を愚弄するのも――大概にしやがれ!!」
 一喝しながら、月都は日本刀『紅華焔』を抜刀。
 レーザーめいて放たれ伸びる敵の肉棘を回避し斬り払い、鋭く前進。間合いに踏み込んでくるものあれば刀での斬撃だけでなく、拳脚による打撃を叩き込んで吹き飛ばしながら駆け抜ける。敵の群れの中程まで、自ら包囲されにいくような形で吶喊すると、月都は急激に制動。
「狩りの時間だ。奴らを彼の世に還してやれ!」
 ねじれた肉の塊という形にまで歪められた哀れな犠牲者らの姿、今なお帰れぬ村の名を呟き続ける声、痛みを、贖罪を訴えて許しを請う声――
 それら全てを作り出したのは“祖”たる吸血鬼。フェイリア・ドレスデン。
 ――絶対に許さない。
 月都の中で燃える義憤が、炎となって陣を成す。
 狩猟結界、『遁走許さぬ銀の狩人』。月都のユーベルコードだ!
 地に走る炎の陣より、四肢に焔纏う銀狼が次々と現界! その総数、実に三十四体。包囲されに飛び込んだかに見せかけ、その実陣を内側から食い破る作戦だ!
「行くぜ!」
 月都が鋭く命ずるなり、狼らが高らかに吼えて応ずる。月都は狼を率いて呪肉塊に突撃した。三体を一組として突っ込ませ、触手を、四肢を髪ちぎらせて動きを鈍らせ、そこにすかさず飛び込んだ月都が紅華焔を苛烈に一閃。頸を刎ね飛ばす。
 首を刎ねられた肉塊は即座に白い灰となって爆ぜた。このような人外めいた姿になってなお、敵の弱点は脳だ。それは周囲の猟兵が戦うのを見て既に周知された弱点。頭を潰せばそれ以上再生できない。月都は躊躇いなく頸を切り、隙を見ては狼を嗾け、その爪牙で頸を、四肢を、触手を断っていく。
 破竹の勢いで敵を蹴散らす月都だが、しかし敵も群れれば油断ならぬ。複数体の肉塊が寄り集まり、巨大な一個の肉塊として融合、最早弾幕めいた勢いで触手を連射してくる。月都はそれを飛び退き、バック転を二度打って回避。数体の狼が貫かれて悲鳴を残し、煙と消える。第六感めいた野生の勘働きなくば、月都も危ういところである。
 ……近づかなけりゃ、倒せねぇ。
 地面にめり込んだ触手を、巨肉塊が引き戻そうとする前に、月都は決然と前進! 地面に突き立った触手を狼に噛ませ、引き戻しきるまでの時間を稼ぐ! 
 新たに放たれる触手を刀で切り、受け、はじき、薙ぎ払い――それでも数本が突き立つのを、激痛を堪えて素手で毟り抜き、疾る!
「もう、何もわかんねえだろうけどよ――これがお前らにやれる最期の贈りもんだ。――迷わず逝けよ」
 触手の嵐を抜けた。相対距離五メートル。射程内。
 月都は戦闘中とはとても思えぬほど哀切に満ちた、静かな声で言うなり、十分な助走を乗せた身体を撓めた。
 爆ぜるように跳ねる。肉塊を蹴り上り、点在する五つの人頭めがけ切っ先を引く!
「じゃあな」
 ――紅華焔の黒鉄の刃が、ダークセイヴァーの翳る月に朧な閃を引いた。瞬息、またたきの間に五つ――
 巨大な肉塊の上を駆け抜けざまの、目にも留まらぬ刺突五連撃が、巨大な肉塊の五つ頭を串刺しに射貫き、破壊する。
 お、おお、お、あぁ、ぁ……
 鈍く地を揺るがす五つの呻きの合唱、倒れ伏し、弾けるように白塵と散る呪肉塊。
 それを背に月都は着地、残る狼を伴って共駆ける。
 立ち止まる間も、振り向く間も惜しい。――ただ、今は。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴェポラップ・アスクレイ
【ヴィックス(f22641)とペア】

神の子、ね
とんだ奇蹟だ
マァ主が目を瞑られたなら、その合間に敵共を討ち払うのが我等の仕事
救ってやるとしましょう、シスタァ・ヴィックス
イヒヒ


・感情
初の他世界でワクワク黄色後光
剣狼への同情、憐憫で赤色後光
ヴィックが楽しくなってODしないか警戒の白い後光


・戦闘
現着後、剣狼から極力離れつつ攻撃の所作や前動作の癖などを記憶しておく
後々活かせるだろうから

自身やヴィックの近くで絶叫しようとする敵の口に手裏剣を突き立て阻んだり
肉の鞭は融合合体で装備した甲冑で弾いたり

剣狼がいない範囲にUCで面攻撃
彼奴等に魂が有るか怪しい所だが
少なくとも肉に毒は効くだろう
どうかその魂に安らぎをー


ヴィックス・ピーオス
ヴェポラップ(f22678)とペア

復活と言えば神の子だけど
流石の神もこれには目を背けちまうかもね。
だったらアタシたちで救ってやろうか
ブラザァ・ヴェポラップ
ケヒヒ

・感情
ポーラと同じくワクワク
剣狼へは多少同情
阿片が吸いたい

・戦闘
剣狼の分析はポーラに一存し
自分は目の前の集団敵を対処する。
相手からの攻撃は技能の各種耐性を使用。
絶叫はポーラになんとかしてもらいながら
自身のUC『天変地異・劇薬之雨』発動
再生が追い付かないほどの勢いで溶かしていく。

最期に与えるのがこんなので悪いが
もはやこの場にアンタたちの安寧の場所はないんだ。
ゆっくり眠っときな、祈りぐらいはしてやるさ。
──Amen



●破綻代行者の宴
 呻きが風に乗って吹き抜けていく。消えることのない、肉塊共の呪いの声が。
「ケヒヒ……こりゃあ酷い、酷いね」
 無数に蠢く、かつて人間だった亡者を一望し、皮肉っぽい声を上げて笑うのは、サイケな蛍光ピンクのメッシュを入れた藍短髪の修道女。両手を広げて彼女は嘆くように言う。
「復活といえば神の子だけど、流石の神もこれには目を背けちまうかもね。残念無念、みィんなご破算だ。神の威光もこの地の果てまでは届かない」
 まぁ、世界最大の宗教のことを語り出せば長くなるから止めにしよう。それに、神も流石に目の前の醜悪な光景と奇跡を一緒にされたくはあるまい。
 どうあれ、少なくともこの戦場に神がいないのは自明のことだ。だって、あまりにも救いがなさ過ぎる。
「神の子ね。とんだ奇蹟があったもんだ。マァ、主が目を瞑られたとあればその合間に敵共を討ち払うのが我らの仕事」
 その傍らを固めるのは、これまたけばけばしいルミナスグリーンのメッシュを入れ、サイドを刈り込んだ藍短髪の男。黄色の後光を帯びたこちらは恐らく修道士。服の意匠は修道女のものとよく似ている。

「おゞ、だったらアタシたちで救ってやろうか、ブラザァ・ヴェポラップ。ケヒヒヒッ」
「いいともいいとも、救ってやると致しましょう、シスタァ・ヴィックス。イヒヒヒッ」

 修道女はヴィックス・ピーオス(毒にも薬にもなる・f22641)。修道士はヴェポラップ・アスクレイ(神さま仏さま・f22678)。まるで対になるよう定められたような名前の二名が、己が武器を構えて肉塊共へと突撃した。


 サイケ&ノォフュゥチャァな見た目に反して、ヴェポラップはクレバーであった。特彼はあらかじめ到着時から通して、肉塊らと剣狼の戦闘を観察していた。……剣狼は出鱈目に速い。そして、攻撃の一つ一つが並外れて強力だ。生前にも名の知れた戦士だったのだろう。それが、骸の海より持ち参じた力により数十倍に増幅されている。その動きの中で、目立って強力な攻撃の帯動作を頭に叩き込む。
(……後々、きっと活かせるだろう)
 グリモア猟兵の言に依るなら、きっと激突は避けられぬ。ヴェポラップはその時を思い、僅か眉を下げた。彼の境遇には同情を禁じ得ない。
 剣狼が何を思い骸の海より蘇ったことか。深海めいた悲しみを抱き、溶岩めいた怒りを燃やして、激情のままに駆けるあの狼を、殺さねばならない。
 それを思うと気が重い。帯びた後光が憂いの赤色に陰る。
「ポォォォォォラ、余所見は良くないねェ! ほォら、速く走んないと置いてッちゃうよ!!」
 ヴィックスがその同情を吹き飛ばすように言った。速力を上げる。……本音ならば彼女とて同情していないわけではあるまい。だが、発破をかけるようにそう口にしたのだとヴェポラップは取る。
「ヴィック、あまり突出しないでくださいねェ。私の腕の長さにも限界があるのですから」
 言いながら、ヴェポラップは手裏剣――いわゆる苦無と呼ばれる類のもの――を抜き、ヴィックスを追い越す勢いで踏み込んだ。
 二人の接近に身構え、耳を聾する絶叫をあげようとする肉塊の喉奥に、瞬刻、苦無が突き立つ。言わずもがなヴェポラップが投擲したものだ。立て続けに四体ほどが同様に苦無の餌食となる。ならばと言わんばかりに肉塊らは、その肉を捩らせ変形させて鞭を象り、空を裂いて繰り出される複数の鞭打を繰り出した。ヴェポラップを狙った集中攻撃。
 しかし、
「残念、少ゥしばかり届きませんね」
 ヴェポラップはそれを、瞬時に身に纏った黒き装甲で阻んだ。聖職者の身にして彼は怨霊を身に降ろして戦う化身忍者でもある。無数に炸裂した鞭の衝撃を活かして高く跳びながら、返礼とばかり、ヴェポラップは両手に一挙に数十の手裏剣を展開。それに白き聖なる光を纏わせて、一息に腕を一閃。ヴィックスと剣狼にだけは当たらぬよう、全方位に手裏剣をバラまく。
 その様まさに、白き刃風。突き刺さる手裏剣は聖なる力を帯び、邪なる魂を焼き祓う。無数の手裏剣が十数体の肉塊に突き立ち――
 ……その聖なる力が作用する前に、肉塊の血が、肉が、煮えた。声帯を壊さんばかりの絶叫をあげ、血のあぶくを吹きながら、立て続けに倒れ臥していく肉塊共。手裏剣が帯びていたのは聖なる力のみではない。塗布された致死性の毒が、傷つけたものを鏖殺する。
 狂乱怒涛・選別ノ儀。ヴェポラップの選別は無慈悲だ。
「どうかその魂に安らぎあれ――」
 ヴェポラップが歌うように言う下で、今度はヴィックスに攻撃が向かう。立て続けの鞭打を転がり避ける。ヴェポラップが敵の数を削いだために、彼女に向かう攻撃が少なかったことが奏功した。生まれた隙を活かし、跳び避け稼いだ時間でユーベルコードを発動する。
「ケヒヒッ。悪いね、アタシたちの術は、ほんの少しばっかり優しくないんだ。痛み無く葬送ってやるなんて出来やしない」
 ヴィックスが眼鏡の位置を直すなり、彼女の身体から濛々たる霧が立ち上った。――それは薬液の霧。彼女は『薬』という属性を定められた怪奇人間である。とある製薬会社が作り出した実験体――それが彼女のルーツだ。最初は嘆きもしたが、今は結構気に入っている。合法阿片を生成してキメることもお手の物の身体だ。
 ……そして、作れるのはなにもプラスに作用するものばかりではない。
 濃霧が彼女の姿を覆い隠し、肉鞭が次々と空を打つ中、宙に舞い上がった霧は低空に、黒き雲として結実する。か細い月光の一切を遮断する黒雲だ。完膚なきまでの暗闇に包まれた一帯に――雨が降った。
 最初の数滴はそれこそただの水滴かと思われたそれが、瞬く間に症状を現す。
 悲鳴を上げのたうち回る肉塊がいた。その肉体は浴びた雨によりブスブスと煙を上げ、とろけ出していた。悲鳴も上げられず卒倒する肉塊がいた。その身体は這い上る病的な発疹に犯され、ぱんぱんに腫れ上がって、やがて爆ぜた。
 次から次へと、悉く、肉塊のみが何らかの病的急性症状を呈して死んでいく。再生など到底追いつかない速度での症状の発露。霧の向こうで敵の悉くが倒れる音を聞きながら、ヴィックスは紙に巻いた阿片煙草に火をつけた。文字通り紫の煙を吐き出しながら、彼女はゆるりと眼鏡の位置を直す。――如何なる訳か、彼女と、着地したヴェポラップの周囲には、その黒き雨は注がぬ。まるで降りつける対象を選んでいるかのようだった。
 尋常ならざるこの事態、当然、自然の雨ではない。彼女が、ヴィックスが作り出した人工的な雲による雨……彼女の体液から生成された、劇薬の雨である。

     アポカリプス・ヘヴィウェザァ
 名を、天 変 地 異・劇 薬 之 雨……!

 死ぬ、死ぬ、死んでいく。
 呪詛の肉塊が迎える最後を、なんともなしに眺めながら――
「最期に与えるのがこんなので悪いが――もはやこの場にアンタたちの安寧の場所はないんだ。ゆっくり眠っときな、祈りぐらいはしてやるさ」
 ヴィックスはただ一言手向けるように言い、十字の飾りの成された手袋をした手を垂直に立て、もう片手で、慣れた所作で十字を切ってみせるのだった。
「──Amen」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティオレンシア・シーディア


…趣味が悪い…とは、また違うような気がするわねぇ、これ。
趣味がどうこうというよりは、「暇つぶしにいじくりまわした挙句、面倒になって雑にほっぽりだした」って感じがするのよねぇ。
正確なトコはわからないからなんとなく、だけど。

あたしは剣狼さんの少し後ろを○ダッシュでついていこうかしらぁ。
●射殺で狩り漏らしを潰しつつ、突貫する剣狼さんに○援護射撃も飛ばすわねぇ。
刻むルーンはラグ・アンサズ・ユル。
クー・デ・グラ(慈悲の一撃)の名のとおり、「浄化」の「聖言」で「悪縁を断つ」わぁ。

最終的には討たなくちゃいけないってのはわかってはいるけれど。
せめて本懐を遂げさせたい、ってのは…やっぱり、感傷かしらねぇ。



●ミセリコルデ
(趣味が悪い……とは、また違う気がするわねぇ、これ)
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は、肉塊を大刀でまさに『ブチ撒け』ながら進む剣狼の後ろについて走りながら考える。
 敵は『初めのものども』の一人。永き時を生きたエインシェント・ヴァンパイア。大方これは趣味がどうこうの問題ではなく、単純に暇つぶしで弄くり回して、飽きたので放り出した――というところだろう。
 この世の悪辣を見つめてきたティオレンシアには、それがなんとなく分かった。吐き気のするような邪悪さと、自覚のない無邪気なまでの気まぐれさの結果がこれだ。
(ま、あたしは本人じゃないし。なんとなく想像するだけだけどね)
 そこまで考えたところで、沈思を破る大音声が響いた。
「邪魔を――するなッ!!」
 剣狼が吼え、その剣を振るう。
 彼の前に立ち塞がった巨大な肉塊が半分ほど消し飛ぶが、すぐにその後ろから大量の肉塊が押し寄せ、消えた半分を補うように融合、まさに肉の壁として剣狼を阻む。
「おのれ……!」
 単純な戦闘能力では肉塊と剣狼は比べるべくもない。千体肉塊がいようと剣狼はその全てを滅ぼしてみせるだろう。しかし、肉塊が戦闘ではなく妨害を目的にするとするならば、彼の進攻は困難になる。
 剣狼の表情は優れぬ。憎悪と怒りだけでここまで戦ってきた。しかし闇雲に剣を振り、嘗ての同胞を斬るその心痛、いかばかりか。
 ティオレンシアにはそれも想像が出来た。彼女は普段は酒場をひとつ営む身だ。苦いも酸いも、涙の塩気も、命の水と合わせて飲んできた。
 ――最終的に、剣狼を討つべきであるという事はわかっている。だが、せめて――骸の海に堕してまで、仇を殺そうと願った、その悲壮なまでの決意だけは報われて欲しい。本懐を遂げさせてやりたい。
 そう思うからこそ女は黒曜石を抜く。シングルアクション、六連装、.45ロングコルト弾の牙。『オブシディアン』。そして、抜いた時には彼女の攻撃は既に始まっている。
 BLAMN!! 銃声はたった一つだ。しかし、剣狼を阻むべく飛び出してくる肉塊、六つの頭が弾けて血の霧を散らす!!
 ハンマーを掌で煽ることによる連射技術、ファニング。熟達した射手のファニングは、まるで銃声のずれを感じられないという。
 ティオレンシアは、まさに一射に聞こえる六連射を放ったのだ。いかな達人とて、六射のファニングをほぼ一瞬で極められるものか。
 ――出来るのだ。ティオレンシア・シーディアの技巧を以てすれば!
 剣狼が一瞬、ティオレンシアに目を走らせる。ティオレンシアは銃弾を即座に再装填、細い目であえかに笑ってみせ、銃口を振った。
 ――行きなさい。前へ。
 BLAMN! BLAMN! BLAMN! 六射一組の『射殺』連射! ルーンを刻んだ虎の子の銃弾は、クー・デ・グラ、慈悲の一撃の名の通りに――余計な傷をつけることなく、ただ肉塊の頭のみを破壊し次々と滅却していく!
 剣狼はティオレンシアの視線の意味を悟ったか、目礼を一つ。ティオレンシアの射撃によって薄くなった肉壁を突破し、再び疾走を開始する!
 その背を見送りながら、ティオレンシアはオブシディアンをスピン。
「邪魔はさせないわよぉ。あたしに出来る手伝いはこのくらいしかないけれど――」
 キャッチした瞬間には撃鉄が跳ね上がっている。
「だからこそ、その範囲でだけは譲らないわぁ。来なさいな」
 刃の如く細めた目で、ティオレンシアは肉塊らを睨む!

成功 🔵​🔵​🔴​

向坂・要
妄念とか執念とかっていうもんなんでしょうね、あの御仁のは。いいか悪いか、なんてもんでなく
なんて嘯きつつ剣狼の背を見送って
追いすがる敵を阻む様に

まずはこちらさんのお相手からですかね

しっかしほんと趣味の悪い事で…

UCで呼び出すは陽炎と猛毒を宿す不可視の鴆

こちらの攻撃、位置を誤認させつつ毒で動きを鈍らせられりゃ御の字
動きが鈍れば不可視の毒羽は灼熱の彼岸花へと姿を変え肉塊たちを飲み込んで

特別な同情などはせず
されど哀れには思う心があり
ゆっくりおやすみなせぇ

アドリブ
絡み歓迎



●不可視の炎羽
 死してなお死にきれず、骸の海に堕してまで、仇を殺しにこの世に舞い戻った剣狼。その心中はいかばかりか。余人が推し量ることが出来るものでもあるまい。
 向坂・要(黄昏通り雨・f08973)は思う。戦線の最前衛を駆け抜ける剣狼の少し後ろを走りながら、彼はその背を一瞥した。
「妄念とか執念とかっていうもんなんでしょうね、あの御仁のは……いいか悪いかなんてもんでなく」
 ただただ、強い一念を持っていることだけは分かる。
 要は剣狼に対して、格別の想いを抱いているわけではない。ただ、その道行きをほんの少しだけ後押ししてやろうと思う。
 後方、追い縋る敵が集中しだすのを確認するなり、要は出し抜けに制動してくるりと反転。追い縋る敵勢を遮るように立ち塞がる。
「行かせませんぜ。まずは俺がお相手しやしょう」
 追い縋る肉塊らは、バネ状に縮めた触腕で跳ねて追いかけてくる。最早人の形の四肢では、肥大した肉体を運びきれぬのだ。肉体の変形には痛みを伴うのか、すすり泣くような呻きがいくつもいくつも連なり、呪いの風めいて吹き寄せる。思わず要は眉をひそめた。
「しっかし……ほんと趣味の悪いことで」
 この世の悪性を詰め込んだかのような露悪趣味。疾く葬ってやるべく、要は手元で印を組んだ。ユーベルコードを起動。
 しかし功を奏すまでには少々時間が要る。要は即座に短刀『Lücke』を抜いた。ルーン起動、一般的な打刀ほどにまで刀身を延伸し、肉塊らが振るう肉の触手を斬り払って掻い潜る。
「ッハ、まったく大人気だ。少しくらい放っておいてくれてもいいんですがねぇ」
 減らず口を叩きながら要は継戦。時折リボルバー『Farbe』から銃弾を放ち、数体を打ち倒すものの、数に圧されて後退を余儀なくされる。ほぼ防戦一方、じり貧になるのも時間の問題――
 そう思われた矢先、異変は起きた。
 触手が震え、肉塊らが戸惑うような呻きを上げる。――動きが明確に鈍る。
「効き始めましたかね。やれやれ、もうちょっと早く効いてくれりゃ楽が出来るのに」
 最初に切った印。あの瞬間、要は不可視の鴆を喚び出していたのだ。
 鴆とは故事にある、毒を宿す鳥。実在するかも定かではない――現象、幻想の類いと言っても過言ではないものだ。羽撃いたその下にある作物を枯らし、生き物を殺す猛毒を持つとされる。
 ……そしてユーベルコードで喚び出したそれが、ただの鴆である筈がない。
 要はぱちんと指を鳴らした。
 空に急激に、紅蓮の炎が、灼熱の彼岸花めいて咲いた。炎は動きの鈍った肉塊らに纏わり付き、飲み込み、絶叫を上げるその身を焦がして焼き滅ぼしていく。
 何が起きたのか。――空を舞う不可視の鴆には、予め陽炎――炎熱の属性を備えてある。撒き散らした毒羽に眠る陽炎を、要が呼び覚ましたのだ。
 瞬息、毒の羽はその悉くが燃えさかる炎となり、膨れ上がって肉塊たちを抱擁した。上がる悲鳴に苦しげに唇を引き結ぶ要だったが、それ以上の感情は示さない。
 可哀想だとは思う。しかし、荼毘に付す以外に出来ることもない。
「……ゆっくりおやすみなせぇ」
 踵を返す。燃え尽き、灰になった肉塊が空に白塵として舞うのを見送ることもなく、要は再び、屋敷に向けて駆けだした。

成功 🔵​🔵​🔴​

アウレリア・ウィスタリア
人、ひと、ヒト
ここにいるのは人間だったもの
生きている人間だったもの
もしもこの中にボクの知り合いがいたとしたなら
ボクは刃を向けれたのだろうか?
剣狼が正気だったのなら刃を向けれたのだろうか?

いえ、刃を向けないといけないのでしょう
彼らに死という安息を与えるために

鞭剣に凍てつく蒼い火焔を纏わせ進もう
痛みを感じるのかわからないけれど
一瞬で凍てつかせ、一瞬で砕こう

剣狼の後ろから
せめて彼の復讐に邪魔が入らないよう
せめてこれ以上、彼らが苦しまなくて良いように

鞭剣で凪ぎ払い
全てを氷の塵に、焼き払った灰に変えて……
今は墓標を用意している時間はないから
代わりに夜風と共に鎮魂歌を奏でよう

アドリブ歓迎



●凍炎と踊る
 人、ひと、ヒト――
 今やくすんだピンクにぬらぬらと光る、ねじれた肉の塊に成り果てた怪物たち――それらは全て、かつて人間だったものだ。笑い、泣き、語り、食べ、息をして――生きている、人間だったもの。

 もしもこの中に、ボクの知り合いがいたとしたなら――ボクは刃を向けれたのだろうか? 剣狼が正気だったのなら刃を向けれたのだろうか?
 アウレリアは自問する。剣狼の内心は分からない。狂を発して最早、かつての同胞のことすら分からなくなったのか、あるいは識りながらにして刃を向けているのか。
 ……分からないけれど。
 きっと、刃を向けなければならないのだ。
 祈って浄化するような力もなく、ほかに手段がないのなら――彼らに死という安息を与えるために、その頸に刃を突き立てなければならないのだ。
 アウレリアは翼をはためかせた。その鞭剣『ソード・グレイプニル』に凍てつく蒼炎――『蒼く凍てつく復讐の火焔』を纏わせ、低空を滑空するように飛び進む。進路上に敵十数体。血の涙を流す肉塊たち。
 痛みを感じるかは分からない。――けれど、苦しみがないのなら、涙など流すわけがないとアウレリアは思う。
 アウレリアは、彼らに掛ける言葉を持たぬ。――ぎゃりりりりりっ! ソード・グレイプニルを展開、蒼く燃える炎を纏わせた鞭剣を放ち、複数体を絡め取って一瞬で凍結。飛行の速力に任せ地を引きずる。張り出した庭園の石柱、石柵に叩き付け粉砕! ダイアモンドダストめいて、砕けた肉塊が霜づき、白い冷気を散らし光る。数体を屠りながらアウレリアは剣狼を追った。
 剣狼を遮る肉塊の群れが、侵攻を物量作戦で強引に止めつつ、口々に彼に罵声を浴びせている。おまえさえいなければ、私たちが死ぬことはなかった――と。それを吸血鬼が言わせているのか――あるいは、肉塊らに残った人としての部分がそうさせるのかは分からない。
 剣狼は心を凍らせたかのように、ただ遮二無二剣を振り肉塊を斬り裂き続ける。
 それを見ながら、アウレリアは手のひらをソード・グレイプニルで裂き、血を迸らせた。流れ落ちる血はしかし滴にならず、糸のように寄り合い――
 否。生成されたそれは糸そのもの。アウレリアが編む血糸『レージング』である。
 せめて彼の復讐に邪魔が入らないよう。
 せめてこれ以上、彼らが苦しまなくて良いように。
 アウレリアはレージングをソード・グレイプニルに絡ませ、そこに復讐の蒼焔を纏わせた。
 すかさず一閃。レージングによって飾られたソード・グレイプニルは、まるで暴れ狂う多頭の大蛇めいて広範囲を薙ぎ払い、その軌道上の全てを凍らせ、即死せしめる。芯まで凍った骸は即座に砕け、まるで昇華するように灰となった。
 敵の防御網に穴が開く。
 剣狼が空のアウレリアを一瞥し、目礼を一つするのが見えた。彼にかける言葉はなけれど、アウレリアはその背を後押しするように頷いた。
 それを確認してかせずにか、剣狼は跳ね、手薄になった部分を突破し侵攻を再開する。
 駆け出す背中を見つめながら、アウレリアは唇より歌を紡ぐ。――今は墓標を用意している暇などないが、ほんの少しだけでも慰めになればいい。
 翳る一方の夜気に鎮魂歌が響く。
 どうか、どうか、天に召された彼らが、優しい来世に生まれられますようにと強い願いを込めて――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヨハン・グレイン

ムルヘルベルさん/f09868 と

醜悪ですね
この肉塊の光景を好むヴァンパイアは
……後の憂いを断つために必要な事でもありますけど、
苦しむだけの生を長引かせることも無いでしょう
手の届く範囲のものは全て蹴散らすつもりでやりますよ

共に戦場に立つのは初めてだが、背は預けられる、有り体に言うなら信頼しているというところ
戦う姿も見てみたかったですしね。年長者の戦いぶりを見せてもらましょう

指輪の闇に呪詛を纏わせ、広範囲に展開する
派手な攻撃はお任せして、討ち漏らしのないよう一つ一つ刻んでいきましょうか
敵に近寄らせない事を第一に、万一の場合には【影より出ずる者】で対処を

血の臭いが鼻につく
さっさと先へ進みましょう


ムルヘルベル・アーキロギア

同行:ヨハン/f05367

いかなオブリビオンとて狂気からは逃れられぬか
そして狂気がマイナスに対するマイナスとして働くとは
思うところがないわけではないが、そもこれは前哨戦
ヨハンよ、オヌシの嫌悪には一言一句違わず同意しよう
過去を終わらせるのが、我ら猟兵の仕事なれば

さて、このような状況ではあまり戦いを愉しんでもいられぬ
ヨハンの術式はつぶさに観察しつつ、手早く【ウィザード・ミサイル】といこう
敵の肉鞭をあえて誘い、『コズミック・フォージ』で宙空に防御印を描いて弾く
あとはあらん限りの火力を〈高速詠唱〉し叩き込む

……狼よ、いかなる狂気がその恐ろしい牙を造り得たか
悼むことを知らぬオヌシは、やはり残骸なのだ



●闇焔城塞
「醜悪ですね。この肉塊の光景を好むヴァンパイアというのは」
 うっそりと、ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)が呟いた。蠢く肉塊は、視える範囲だけで総数、百では効かぬ。広大な庭園をみっしり埋め尽くすほどの数。
「その嫌悪には一言一句違わず同意しよう、ヨハンよ。……征こうか。過去を終わらせるのが、我ら猟兵の仕事なれば」
「ええ。……後顧の憂いを断つために必要なことでもありますけど、苦しむだけの生を長引かせることもないでしょう。手の届く範囲のものは全て蹴散らすつもりでやります。付いてこられますか?」
「愚問よ。ワガハイのことは気にせず、己の全力でやるが良いぞ」
 ムルヘルベルは禁断の魔筆、『コズミック・フォージ』を抜錨。ヨハンの影を興味深げに眺めながらも空中に遊色の印を書き並べつつ、口の中で詠唱を転がす。
「承知しました。……では、年長者の戦いぶりを見せて貰いましょうか」
 ヨハンとムルヘルベルは互いに知己だが、常は、ヨハンがムルヘルベルの依頼に応える事が殆どであり、ヨハンがムルヘルベルの戦闘を見るのは実のところ、今回が初めてである。グリモア猟兵としての能力に疑いはないと知っていたし、信頼していた。不安要素はなく、いかにして戦うのかという期待だけがある。
 ヨハンは膝を付き、闇が溢れ出す指輪をした手を影に突き、『広げる』。まるで空を巨大な雲が覆ったかのように、闇を喰って、地に瞬く間に影が広がった。空に雲は無く、か細い月光が今も降り注ぐのに。
 ――眼鏡を押し上げる。それを合図としたように、地に広がった影の其処此処が、剣山めいて尖った。同時に間欠泉の如く影から無数の刃が吹き上がる。――ユーベルコード、『影より出ずる者』!
 おおぉぉぉう、ぅうぅ……!!
 前触れのない奇襲に、肉塊らが驚きともどよめきとも付かぬ声でざわついた。一瞬で範囲内にいた二十数体を貫き、磔刑めいて宙に晒す。圧倒的広範囲に対する一斉攻撃はヨハンの特技の一つ。
 しかし、浮き足立ったのは一瞬だ。突如攻撃を加えられた肉塊らは、すぐに攻撃の出元がヨハンであることを看破。戦闘を繰り広げる他の猟兵ではなく、ヨハンとムルヘルベルを振り向き、スライムめいて不定形の下肢を変形させた。縮んだ撥条めいた形状。それを伸張させ、一斉に肉塊共が空に舞い、飛びかかってくる。ヨハンは揺らめくように立ち上がり、構えを取ることもなく、けしかけるように地を踵で打った。
「鳴け」
 声と同時に無数の影の刃が射出される。影はロックオン・レーザーめいて跳び、近づいてくる者のうち近い者から順に殺到して、空中でバラバラに刻みブチ撒けていく。
「見事な術よな。目を瞠るばかりよ」
 感心した風に、術に見入っていたムルヘルベルが呟く。範囲だけではなくその精度もまた桁外れだ。一瞬にして肉塊五体が細切れになり、再生の間すらなく滅ぼされた。
 しかし、その光景を見てもなお敵は怯まぬ。当然だろう。そもそも彼らは一度死んでいるし、他者の死など見飽きた。恐ろしき主からの命令に逆らうよりも、前に出ることを優先するのは当然。
 空中、生き残りの肉塊らは己の肉から触手をひり出し、びゅるりと撓らせて肉鞭の如く繰り出す。先端が音速を超え、破裂音を奏でる。一体につき七本ばかりの肉鞭を同時に放ち来る。そうなればヨハンとムルヘルベルを襲うのは、一瞬にして百近い数の鞭打の雨だ!
 だが、迷い無く賢者が動く。ムルヘルベルが空中に描いた印に、結びの一画を足した。その瞬間、印が光輝き障壁を発生! 二人目がけ降り注ぐ肉鞭を弾く弾く、弾く!
「さて、このような状況ではあまり戦いを愉しんでもいられぬ。……もっとゆっくりとオヌシの術式を眺める時間が欲しかったのだがなあ、ワガハイとしては」
 ヨハンの特異な影術を指しての言葉だろう。しかして、そのわがままを通すほど子供でもない。ムルヘルベルは圧縮魔術言語により高速詠唱、無手の左手を天を掴むように伸ばす。
 ボッ……ボボボボボボボ、ゴォオォッ!! 鬼火めいた無数の火焔矢が障壁外に発生、その数一瞬にして二六〇!
「然らば」
 ムルヘルベルの淡泊な一言と共に無数の炎の矢が射出! 宙で肉鞭を引き戻そうとして藻掻く肉塊を、火焔矢の嵐が穿ち燃やし灼き尽くし、残らず灰にして宙に舞わせる。
 そればかりではない。天を焦がさんばかりに放ったその一射だけでは終わらない。ムルヘルベルは詠唱を中断せず、更に魔力を巡らせる。高速詠唱に加え、今度はコズミック・フォージの魔印を攻撃に使う。空中に描いた増幅印に手を宛がい、ムルヘルベルは続けざまに襲わんと身構える第二波目掛け、
「燃えよ」
 無慈悲に言って、魔力を解き放った。
 増幅印を通って発現した術式は先程より威力を増し、一発一発がまるでライフルド・スラッグめいた速度とインパクトを持って飛翔。着弾と同時に爆裂、そのインパクトと熱量で肉塊を爆ぜさせ、苦しむ間もなく即死に追い込んでいく!
「さてヨハンよ、進むぞ。討ち漏らした者を頼む」
「心得ました。……さっさと先に進みましょう。ここは、血の臭いが濃すぎる」
 二人は走り出す。移動砲台めいて火焔矢の斉射/再装填を繰り返すムルヘルベルの後ろを、精密動作する影の刃によって、弾幕を抜けた敵を即座に切り刻む事が可能なヨハンが固める。魔術師が二人というのに、まるで要塞めいたコンビネーションだ。
 攻め寄せる肉塊らの悉くを屠りながら、炸裂する火焔矢の嵐の切れ目に、ムルヘルベルは疾り征く剣狼の姿を見る。ムルヘルベルは目を細めて、火焔矢を再詠唱。
 ――いかなオブリビオンとて狂気からは逃れられぬか。狂気がマイナスに対するマイナスとして働くとは皮肉な事よ。――狂える狼よ、いかなる狂気がその恐ろしい牙を造り得たか。オヌシはその憎しみを果たすことが、この肉塊らに報いる事と思っているだろうが、しかし――
 風に乗り、庭園を吹き渡る怨嗟の呻き。
 その中にはただひたすらに、哀れを誘うような声での啜り泣きも混じる。

 ――帰りたい。帰りたい、故郷に。死にたくない。死にたくない。

「大儀の為に盲目となり――この声も聞こえず、悼むことを忘れたオヌシは、やはり残骸なのだ。剣狼よ」
 ムルヘルベルは火焔矢を放ち、全てを灼き尽くしながら道を開く。開いた道にヨハンの影が伸びた。二人の猟兵は、剣狼を追って屋敷へと駆け抜けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶

少しだけ、分かるような気がします。
無念は、後悔は、悔悟は、──憤怒は。
焼き付いてしまったら、もう前には戻りませんから。

だからこそ、その怒りは果たされるべきです。

剣狼様のやや後方に位置。
あの様子ですと防御には気を払わないでしょう。
彼の方を襲う攻撃を【神遊銀朱】の複製太刀で受け、切り払い。
特に遠距離からの攻撃は速やかな対処を。
剣狼様の届く範囲の敵には串刺し縫い留める形の援護射撃を送り、
こちらの刃でもできうる限り多くを屠ります。

……彼らも被害者なのです。
出来るだけ苦しめることなく、速やかに終わらせて差し上げましょう。
それだけが、今差し出すことのできる慈悲と心得ます。



●刃の慈雨
 一度焼き付いた無念は、後悔は、憤怒は、二度と消えることはない。
 身体に残る烙印のように、いつになろうとも解き放たれることなく残り続ける。
 ――穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)は、それを知っている。
 故にこそ、怒りは果たされるべきだ。そうでなくば、報われぬではないか。二度と消えぬ怒りは身の裡で燃え続け、膨れ上がった憎悪の涯てに己が身を焼くのだから。
 神楽耶は速力を上げ、前方を走る剣狼の補佐をするべく走る。荒れ狂う剣狼の剣を見つめながら、自らの本体たる『結ノ太刀』を構える。剣狼には当然ながら、猟兵と共同戦線をしている意識はない。故に後ろに神楽耶が続くのを知っていようとも、彼女に火の粉がかからぬよう丁寧に守るようなことはせぬ。己の道を塞ぐ肉塊のみを斬り伏せ、砕き、ただ走り抜ける。
 必定、討ち漏らしが神楽耶を襲う。それもわかりきっていたこと。しかして彼女は非力な少女ではない。一流の猟兵だ。伸びる触手を鎧袖一触に斬り払い、即座にユーベルコードを発動。――『神遊銀朱』。結ノ太刀の複製が空中に発生、瞬息、五〇本余り!
 結ノ太刀を差し向ければ、指示に従うかのように高速で数本が射出、敵を地面に縫い止める。留めに頭を射貫いて始末しつつも、神楽耶の視線は再度、身を守ることなくひたすら前に突き進む剣狼の背中に向かう。
 予想通りと言うべきか、剣狼は己の身を守ることなど一切考えていないようだった。なまじオブリビオンとしての耐久力を得た故にか、或いは気が急くばかりで防御に意識が回らぬのか、攻撃など喰らうに任せて圧倒的な力で叩き潰し斬り裂き薙ぎ払い突き進む、という豪快かつ大雑把な戦闘スタイルが目立つ。
 それを予見していたからこそ、神楽耶は彼の盾となることを選んだ。
 肉塊共が牙を剥く。前方より面攻撃。放たれるのは数百に及ぶ、先端の尖った触手による刺突。それを前に、多少の被弾は構うまいと言わんばかりに、姿勢を低めて被弾面積を最小限にして突っ込む剣狼。
 言わぬことではない。知っていた。故に神楽耶は即座に太刀を奔らせる。タクトめいて振るう結ノ太刀に従って、先回りするかのように神楽耶の太刀が飛んだ。電光石火の勢いで爆ぜ駆ける剣狼をなお上回る速度で、五十数本の刀が群れて飛ぶ。
 自身を追い越す形で飛ぶ刃に警戒したように制動する剣狼を、しかし五十余の刃が守る。人の手に取られぬが故に、神遊銀朱の太刀は天衣無縫。空中を飛燕めいて飛び回り、或いは大車輪の如く回転し、無数の串めいた肉棘を斬り払う、斬り払う斬り払う斬り払う!
「――なんと」
 剣狼、その鮮やかな護りに瞠目する。数百に及ぶ肉棘の大半を打ち落としたばかりか、刀は中空にて向きを変え、第二射を放たんと構えた肉塊共目掛けて降り注ぐ。次々と刃が肉塊の頭に突き立ち、ざふりざふりと、亡者を灰へと変えていく。
 ――彼らもまた被害者だ。出来るだけ苦しめず、せめて一太刀にて終わらせてやりたいと、そう感ずる神楽耶の思いが映ったような刃雨である。慈雨に似た刃の嵐が、己を助ける物であると知った剣狼の歩みは、一層速く。神楽耶の後押し受けて、首魁が待つ屋敷へと跳ね駆ける。
 神楽耶もまた、その後を追う。剣狼の道行きを助け――見届けるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
同族殺しで在りながら、其の在り方は別のもの
復讐へと牙を、刃を振るう様をよく知っている
――其の姿が重なる……あれは、私だ

先ずは刃を腕に滑らせて血を与え呼び起す
戦闘知識と第六感にて先読みして攻撃は見切り躱し
多少の傷は激痛耐性で無視して前へ
なぎ払いでの牽制にて隙を作り一気に距離を詰める
嘗ては人で在ったのだろうに無残な事だ
救う事は叶わんが、せめて解放してやろう
此の一刀、手向けと受け取るがいい

唯、生き残った
私と彼の剣狼との違いは其れに尽きる
大切なものを、護るべきものを総て奪われた「あの時」
もし死していたなら同じ姿へと変じていたやもしれん
だからこそ――其の復讐、果たすを見届けねばならん
もう1人の、私の姿を



●相似形の牙
 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、苛烈に猛る剣狼と併走しつつ、その姿を見ていた。同族殺しとはいうが、彼の行動動機は復讐だ。牙を剥き、刃を振るい、ただ、己の憎しみに報いるために苛烈に突き進む。
 その姿には覚えがある。
 嘗て護るべき全てを喪い、復讐のために駆けた事を憶えている。……あれは、私だ。
 傷を厭わず、ただひたすらにがむしゃらにひた走るその様子が痛ましい。
 嵯泉はその姿を見つつも、進行方向に現れた数体の肉塊を捕捉。ちき――と音を立て、『秋水』の鯉口を切る。抜刀、即座に刃を腕に走らせた。溢れる赤一筋、刀に這わせて呼び覚ますは天魔鬼神――『妖威現界』。
「お相手仕る。この一刀、手向けと受け取るがいい」
 この敵とて、かつては人であったのだろう。それぞれの暮らしがあっただろう。だというのに、今は空の両目から血を流して、うわごとめいて呻きながら、肉で編んだ触手を鞭めいて振るう化生と成り果てた。
 無残なことだ。屹度もう二度と、人としての身体に戻ることは出来まい。いかなる奇跡の御業であろうとも、彼らを人に作り直すことは不可能だ。ましてや嵯泉に、そのような奇跡の持ち合わせなどない。
 ならばせめて解放してやるほかあるまい。この太刀にて、無明を斬り裂いて。
 襲いかかる肉塊共。無数の触手が肉鞭めいて放たれた。薙ぎ払うような鞭打の嵐を、しかし嵯泉は飛び来る順に危険度を勘案、打ち落とすべきものから順に、刀を振るって切り払う。打ち落とすのが間に合わぬものが肩口を、太腿を抉るが、いずれも致命傷には程遠い。
 痛みはあるが耐えるのには慣れている。食らっても大過ないものは無視し、致命的なもののみを避ける――巧みにして豪胆なる立ち回り。
 第六感めいた軌道予測と見切りによって敵の攻撃を防ぎ潜り抜け、嵯泉はステップを踏んで敵の攻撃を誘導。幾つも放たれる肉鞭と肉鞭の軌道を重ねて絡める事で、引き戻し――つまりは次撃を遅らせる。
「その隙、貰った」
 嵯泉は絡まった肉鞭を引き戻そうと肉塊らが体重をかけた瞬間を狙った。天魔鬼神、一刀献上。踏み込みから薙ぎ払いの一撃がまさに快刀乱麻、絡まった触手を一息に断ち切る。張り詰めていた触手が断たれることで、バランスを崩した肉塊らがよろめいた。
 嵯泉を前に、その隙は死に等しい。
 地が爆ぜる。燐光帯びた嵯泉の隻眼が光の軌跡を残す。電光めいた踏み込み。紅纏う刀が無明の闇に四つの閃を引き、断たれた首が呆気なく宙を舞う。迅雷の刀術に戦駆け引き。腐肉の塊では、束になろうとも嵯泉を止められぬ。
 嵯泉は再び、剣狼を追って駆け出す。
 ――生き残ったこと。剣狼と、嵯泉を分けるのはその一点のみだ。全てを喪ったあの時、命を落としていたならば――己もまた、あのように堕していたやもしれぬと、嵯泉は思う。
 ――だからこそ、見届けねばならん。
 もう一人の『自分』の姿を。彼が、復讐を果たす様を。
 進む嵯泉の前に立ち塞がる如く、幾体もの肉塊が湧いて出る。嵯泉は姿勢を低め、鋭く切り込んだ。剣狼の道行きを見逃さぬ為――そしてこの悪夢めいた夜の仕掛け人に、一刻も早く一太刀を叩き込む為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リンタロウ・ホネハミ
ヴァンパイア共の悪ふざけは何度も見てきたっすけど……
ここのヤツはその中でもぶっちぎりで最悪っすね
オレっちは……いや、俺は、絶対に許すことができねぇ
腸が煮えくり返るぞ、ドレスデン……!

闘牛の骨を食って【〇〇四番之玉砕士】を発動
この身を理性なく暴れるケダモノに変え、ひたすら敵に突貫してぶった斬るのを繰り返す
噛みつかれる前に斬り伏せる、噛みつかれようが治療の間も与えず斬り伏せる、その覚悟をもって

俺の曾祖父さんが仕えてた領主も、こいつみてぇなヴァンパイアの策謀によって殺されたって話だ
だからだろうな、剣狼に肩入れしたくなるのは
騎士だなんて口が避けても言えないが……それでも、見逃せないものってのがあるんだ



●それを騎士道と、誰かが呼んだ
 ここはダークセイヴァー。闇と魑魅魍魎の跋扈する不毛の世界。人の命は羽の如く軽く、悪辣のヴァンパイア共は、それを手玉のように弄び笑う。そういう世界だ。
 悪巫山戯は山のように見てきた。許せぬ事も幾度もあった。リンタロウ・ホネハミ(骨喰の傭兵・f00854)はその度憤り、悪を断ってきた。……その彼をして、肉塊蠢く末法の光景は、頭ひとつ抜けて最悪だった。
「オレっちは……いや、俺は、絶対にてめえを許さねぇ。腸が煮えくり返るぞ、ドレスデン……!!」
 リンタロウは、辺り一帯を蠢く肉塊を作り出した憎むべき敵――悪逆の『初めのものども』、フェイリア・ドレスデンの名を呟く。無論真名ではあるまい。奴らは、真名を晒すことを嫌う。名の付かぬ物こそ、真の恐怖であると知るが故だ。
 だが、関係ない。真の名が分からなかろうが。いかに凶悪な能力を備えていようが。今まさに怒り猛るリンタロウを止められるのは、それを上回る力だけだ。
 リンタロウは手持ちの骨に食いついた。噛み砕き、嚥下。
 名の如く、彼は『骨喰』。骨を喰らうことで、喰った骨の動物を模した能力を手に入れる能力を持つ。此度喰らうは闘牛の骨。――『〇〇四番之玉砕士』、発動。
 リンタロウの目が、ぎらりと尖った。刃のごとき光を放つ。その速力が急激に増した。今の彼の四肢に満ちるは、進路上の全てをその角と突進力で破壊する闘牛の力だ。
 速度変化について行ききれず、肉棘を放つ機を逸した敵のもとへ、リンタロウは迅駛の前進。手に携えた骨そのもののような剣、呪いの骨剣『Bones Circus』をバックスイング、力任せに薙ぎ払う。速力、膂力の全てが剣先に乗り、剣を叩きつけられた肉塊は大きく爆ぜて吹き飛んだ。身体の半分ばかりが抉れ飛んでいる。首がごとり、と音を立てて落ちる。弾けるように灰になり、骸が散る。
 〇〇四番を使ったリンタロウは理性を無くし、その代わりに鬼神めいた膂力と並外れた耐久力を得る。八方敵のこの状況下に使うユーベルコードとしては非常に適していた。敵に吶喊し、斬り倒す。敵の群の只中に突っ込んで刃風の如く荒れ狂うリンタロウ目掛け、四方から肉塊の触手が伸びた。触手の先が開き、肉棘が牙めいて並んで顎を形作った。幾つもそれがリンタロウの四肢に嚙み付き、食い千切ろうとする。だがそれすら、リンタロウは斬り裂き、引きちぎり、もぎ離し、あげく食いついてきた触手を掴んで敵を振り回して、分銅めいて他の個体に叩きつけ吹っ飛ばす。もんどり打って倒れた肉塊の頭を骨剣で叩き潰し、灰に還す。一瞬たりとて彼は止まらない。リンタロウは暴虐の竜巻めいて、骨剣とその手足が届く範囲の肉塊を、一撃につき一殺、鏖殺し続ける。
 ――そう。聞けば、彼の曾祖父もまた、ヴァンパイアの策謀により命を落としたという。人の痛みと悲しみを甘露としてむさぼり、この暗黒の世界に起きる、人間の悲劇を娯楽として鑑賞する屑共を、リンタロウは決して許さない。
 ――だからきっと、俺は剣狼に肩入れしたくなったんだ。
 リンタロウは暴れながらも、先を行く孤高なる剣狼を思った。
 もう騎士と名乗るには遠い。口が裂けても名乗れやしない。傭兵まがいの遍歴騎士の彼でも、決して見逃せない事が、悪辣の所業がある。――見届けようじゃないか、この復讐を。手が足りなきゃ、貸したっていい。今こうして、あの剣狼が駆け行く道を支えているように。
 ――おお!
 リンタロウは獣めいて吼え、巨大な肉塊を唐竹割りにぶった斬り、裂ける骸の間を抜けて、次なる敵手へ襲いかかる!

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬幸・夢人

人間こうなっちまったら憐れなもんだ
……しかし狼さんも薄情なもんだ、見向きもしねぇとはよ

先々のリスクを考慮し積極的に倒す方針
UCを使って理想の自分達と連携をとりながら手数をひたすら増やして効率よく敵を殲滅していく

一人……いや、三人くらいか
疲れるからあまり数は増やしたくねぇんだがね

疲れるなどと愚痴を言いながら、戦闘は分身に任せて本人は煙草を吸いながら時折援護する程度に
仲間と連携する際はそちらを優先して

……まぁ、あんたらの無念も後悔も実際のところ知らねぇんだが
敵討ちくらいはしてやるよ
俺がアンタ等の立場だったら、ソイツがのうのうとしてるのは許せねぇからな
……それぐらいは汲んでやるよ



●スモーキィ・カルテット
 群れた肉塊は、下肢を肉の撥条にして跳ねて襲い来る。
 彼らにはまともな骨格がない。人間の形をした脚を形作ったとして、自重を支えることが出来ないのだ。その結果、不定形のピンクの肉の塊が、ぺらぺらの笑みを顔に貼り付けて無数に跳ね回るという、悪夢にも似た光景が展開されることになる。
「人間こうなっちまえば憐れなもんだな。……しかし狼さんも薄情なもんだ。見向きもしねぇとはよ」
 皮肉っぽく呟くのは斬幸・夢人(終焉の鈴音・f19600)。敵を蹴散らして進む剣狼を揶揄するように一言漏らすと、彼は黒刀を抜いた。その操る武器は鋼糸の一本に至るまで黒尽くめ。彼の姿が唐突に、じり、とノイズが走っためいてぶれる。
「一人……いや、三人くらいはいた方がいいな。疲れるからあんまり数は増やしたかねぇんだが」
 愚痴を零しつも、夢人はユーベルコードを発動する。『神さえも覆せない理想』。ぶれた夢人の影より、そのまま三体の分身が遊離する。
「――よし。そんじゃ行け。ヤバくなったら援護くらいはしてやるよ」
 夢人は抜いた刀を敵の群へヒュッと指揮棒めいて差し向けた。同時に分身三体が地を蹴り疾駆。直ちに戦闘に入る。
『神さえも覆せない理想』とは、理想の自分を複数体、分身として生成し、思うままに操るユーベルコードである。夢人が自分自身の能力を疑う事があればその性能は大幅に弱体化するが、自信の塊めいた彼が疑念を抱くことなどそうそう無い。――つまり、打ち破るのが非常に困難なユーベルコードである。
 分身らは三位一体となって敵を襲った。一人がまず先駆け、五指より放った黒糸にて敵を捕らえる。そのまま断つも容易だが、単純に断ってはすぐに再生され、旨くない。敵は首を狙わなければ一撃では殺せない。
 それを知るが故、まずは鋼糸を絡めて動きを封ずる。走らせた鋼糸は狙い過たず複数体を絡め取り、動けば食い込み斬り裂く糸によってその動きを縛する。
 そこへ残り二体の分身が駆けた。一体は黒刀を、一体は黒銃を。黒刀を抜刀した分身が、中に張り巡らされた糸の上を曲芸めいて跳ね、刀を振るって次々と肉塊の首を落としていく。黒銃を持つ分身は安全装置を親指で弾き、首を擡げる蛇めいて銃口を上げ、駆け抜けながら連続で射撃。マズルフラッシュが辺りを染め上げ、次々と拘束された肉塊の頭を吹っ飛ばしていく。
「いいね。さすが理想の俺だ」
 夢人は涼しげに言いながら、自身に注いだ肉鞭を手にした黒刀で斬り払いつつ、瞬刻抜き放った黒銃で攻撃手の頭を撃ち抜き、銃口に残る熱で煙草の切っ先を炙る。煙を吐く。
「……まぁ、アンタ等の無念も後悔も実際のところ知らねぇんだが。敵討ちくらいはしてやるよ」
 言いながら、撃ち抜いた骸が灰に変わっていくのを一瞥し、夢人はゆっくりと歩き出す。視線を前に戻せば三体の分身が血路を切り拓いている。開かれた道をただ悠然と、紫煙煙らせ歩いて行く。強く吸い上げた煙草は瞬く間に短く燃えた。
「俺がアンタ等の立場だったら、自分をこんな風にしやがった奴ががのうのうとしてるのは許せねぇからな。……それぐらいは酌んでやるさ」
 ぴん、と煙草を親指で弾いて棄て、煙を散らし――夢人は進む。
 ジ、ィッ。地面に弾けた煙草が、赤い火の粉を散らして消えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

五条・巴
祖、始めのものども。
なるほど、趣味が悪いのと自分とは合いそうにないことはよく分かったよ。
目前で蠢く悲しい子達、もうおやすみ
少しの間だけ、元の姿で過ごした時の夢を見ようか
"明けの明星"
剣狼と、猟兵達の後ろから弓をつがえ放つのは、眠りに導く安らかな光。
先ゆく彼らの死角から迫る敵を中心に射止めていくよ。

…この後僕達が剣狼を討たなければならないのはわかってる。
せめて剣狼が、村のため、民のために戦った勇敢な姿で終われるように。
今は剣狼の進みが止まらないように、できる限り援助するよ。



●微睡みに導く終矢
 祖。『初めのものども』。このダークセイヴァーの無明の闇を作り出し、人間を支配した最初の存在。――言うなれば、この尽きぬ夜を作り出した者達。
「なるほど。趣味が悪いのと、自分とは合いそうにない事はよく分かったよ」
 前線の様子を、やや後方より広く見つつ独りごちるのは五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)。三日月の意匠の施された長弓、『紫月華』を手に携え、醜悪なる肉塊へ堕した人々と、猟兵と剣狼の戦いを見遣る。
 知っている。彼らが望んでああなったのではないという事くらいは。巴は蠢く肉塊を悲しげな瞳で見つめながら弓弦を引いた。ばじ、ィッ、宙に帯電し生み出されるのは、どこか温かみを覚える色合いの蒼雷。巴が弓を引ききると、蒼雷は矢の形となって弓に番えられる。――『明けの明星』。巴のユーベルコードだ。
「もうお休み、蠢く悲しい子達よ。――少しの間だけ、元の姿で過ごした時の夢を見ようか。何も怖くはないよ。――ただ少しだけ、長く、眠るだけのことさ」
 巴は蒼雷を矢の形に番え、それをそのまま射った。戦場をよく観察し、戦う剣狼や猟兵らの死角より飛びかかって攻撃せんとする個体を、己が雷矢で狙撃する。彗星めいた矢がダークセイヴァーの闇を斬り裂いて飛んだ。立て続けに雷矢が肉塊の頭を穿つ。穿たれた個体はバランスを崩し、勢いのまま地面に転がり、存在の仕方を忘れたように解け、灰となった。
 巴はほぼ、一射一殺の勢いで肉塊を葬っていく。
 事ここに至るまで、猟兵らの殆どが側撃を喰らわずにいたのは、こうして巴や他の狙撃要員が腕を揮い、密かに脅威を排除していたことが大きい。彼らはそれを誇りもせず、淡々と己の仕事を果たす。
「――きっと、いい夢を見られるよ」
 巴は密やかに、子守歌を歌うようなトーンで囁いた。
 ――彼の雷矢に貫かれた者に、恐らく苦悶はあるまい。雷矢とはいえ、その光は安らぎを覚えるほどに柔らかい。それは煌めく夢を呼ぶ、眠りに導く安息の光、へレル。彼の雷矢は、この末法の光景の只中にあってなお、幻想めいて優しい。
 巴は狙撃を続けながらも、戦線のほぼ先頭を直走る剣狼の様子を伺った。ただ、真っ直ぐに、愚直に――幾度肉の鞭に打たれ、幾度肉の棘に貫かれようとも、一度として止まることなく駆け抜けていく。まるで修験者めいて、彼は走ることを、この先にいる悪魔を屠ることを定められてでもいるかのように、ただ真っ直ぐに走っていく。巨大な個体がいようとも、肉の壁と見紛うほどの群がいようとも、引くことも迂回することもなく。まるで、放たれた矢のようだった。
(この後、僕達が彼を討たなければならないのはわかってる)
 眉を少しだけ寄せて、巴は目を細め、走る剣狼の背中を見つめた。防御になど頓着せぬその左右に敵影三。考えるよりも早く手が動く。直ぐさま弓弦を軋ませ引いて、敵を射貫く三矢を放ち、貫く。
(……それでもせめて、剣狼が、村のため、民のために戦った勇敢な姿で終われるように。今は剣狼の進みが止まらないように、できる限りの援助をしよう)
 誰に宣言するわけでもない。誰かのために戦って死んだ、英雄になりきれなかった剣狼のために――密やかに巴は決意を新たにし、新たな明星の矢を引き絞るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

天春御・優桃

この世界は肌に合わねえなあ?全くよ。

ああ、分かってるよ。待たせやしねえ。その姿、一片も残さず吹き散らかしてやるさ。

塵風
纏った風に荒ぶように高速移動を可能にしてダッシュ。部位ごとを吹き飛ばしてジャンプも重ねて追撃、空中戦だ。
体を戻す暇も与えやしない。切って、割って、刻んで、断ち、裂く。
苦しいだの言ってられるか、一秒も早く、一寸でも速く。
肉塊を解体して回るぜ。

手向けの言葉もねえ。ただ一様に刃で弔う。
どうやっても報われねえだろうよ。

報いを受けるのは、コイツらじゃねえ。
どうせふんぞり返ってやがるんだ多少急いていた待たせちまっても、構わねえよな?



●空刃
 ――ああ、全く、つくづくこの世界は肌に合わねえ。

 ううううぅぅううぅうう……、
 地に満ちる呻き声。嘆きの声にも似たそれは、全て肉塊共、かつての人間達が絞り出す声だ。苦しげに、悲しげに、或いは怨嗟と憎しみを込めて……、彼らの声が響く。
 ――お前たちも私たちと同じになれ。私たちだけがなぜこのような目に遭わねばならない。なぜ、なぜ、なぜ。早く。早く来い。この地の底まで下りてこい……!
「ああ、分かってるよ。待たせやしねえ。……その姿、一片残さず吹き散らかしてやるさ」
 応じたのは、亡者らの前に立つ一人の男だった。
 ハンド・ポケット。武器も持たずにゆるりと気を抜いた態勢で立っている。茶髪に、桃色がかった乳白色の瞳、身長は一七〇センチメートル台後半と言ったところか。しかしがっしりとした体つきのおかげか、上背の実数値よりも大きい印象を余人に与える。紺色のスーツにストライプのネクタイ、着るものを選ぶバイオレットカラーのシャツを洒脱に着こなした偉丈夫である。
 名を、天春御・優桃(天地霞む・f16718)という。
「お前らに怨みなんぞねえ。が、見過ごしても置けないんでな。――せめて一瞬でも早く、弔ってやるよ」
 おぉおおぉぉぉ、おおお……!!
 優桃を敵と認識した肉塊らが、一斉にその肉体から撓る肉鞭を、鋭い肉棘を生み出す。それが繰り出される前に、優桃はポケットから手を抜いた。
 ――転地鉄塵、展開――戴天空刃、展界。
 優桃の周囲の空気が渦巻き、瞬く間に烈風が巻き起こる。気流に巻き上げられた砂礫、草、石塊が黒き鉄の輝きを帯び、彼の四肢に纏わり付く。これぞ優桃が持つ、物質変換術『転地鉄塵』と、烈風操作術『戴天空刃』の合わせ技。――その名も、『塵風』!
 巻き起こった風に乗り、優桃の身体が宙に浮く。
「始めようぜ。――俺を地獄まで引きずり下ろしたくてたまらねえんだろう。やってみろよ」
 優桃が啖呵を切るなり、即座に四方八方より肉棘が放たれた。優桃は風を蹴るようにして空中をダッシュ。まるで見えない壁を蹴り飛ばすかのようにジグザグに駆け抜け、肉棘を避ける。
 点で当たらぬならば線でとばかり、優桃が走るコースを薙ぐように放たれる肉鞭。しかし優桃はそれを予見していたかのように転地鉄刃で構築した金属刃を投射、肉鞭を切断しながら敵地に突っ込む!
 ――最早手向ける言葉もない。ただ一様に、刃で弔うのみ。どのようにしたところで、彼らが報われることはもうないのだから。
「はあぁああぁっ!!」
 低空を飛翔して駆け抜け、優桃は転地鉄刃の鉄を纏い、刃そのものとなった手脚を揮った。再生速度など関係ない。再生したそばから切り、割り、刻み、断ち、裂き、また斬るッ! 細切れの肉塊が灰となって散るのを一瞥もせず、次なる個体に襲いかかる。ガードのために上がった触手ごと、
「せぇああぁっ!!」
 斧めいた蹴りが烈風と唸り、肉塊の首を刎ね飛ばすッ!!
 ――圧倒的高速機動、そして高威力。身体に負荷がないわけがない。しかし優桃は決してそれを表に出さない。苦しいだの、辛いだの、口に出すのは伊達男のすることではないのだ。
「――どうせふんぞり返ってやがるだろ。少しくらいは待たせちまっても、構わねぇよな?」
 ニヒルに言って、優桃は速度を落とさず次の肉塊へと飛ぶ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
泣いている。
悲しみと、憤りと、相反するはずの二つの気持ちが混ざりあって、涙となって溢れてくる。

人としての全てを奪われた被害者達の成れの果てへの悲しみが、
思い果たせず復讐鬼へと落ちた狼への悲しみが、
それを行った無情な吸血鬼への憤りが、
そして、それらをただ『終わらせる』ことしかできない自身の無力への憤りが、止まらない。

『神聖にして侵すべからず』(オン・ガナン・スヴァーハ)
――その体がユーベルコードで保たれているのなら、その全部を、消してあげる。
もう、眠っていいよ。悪いものは全部、マリアがなくしてあげるから……おやすみなさい。
あなた達のために戦った狼さんも、任せて。
大丈夫、マリアは聖者、だから……



●ほほをつたうあめ
 ほろり、ほろりと、止め処なく涙が零れた。
 蠢く肉塊は、大小は様々であるものの、その全てが一つ以上の頭部を備えている。それはつまり、少なくとも肉塊一つにつき、一人以上の犠牲が出ている、という事に他ならない。
 人々の末路――人としての全てを奪われ、陵辱され尽くし、何もかもを奪われて、死後もこのように冒涜される――成れの果てに抱く悲しみと。
 想い果たせず、志半ばに倒れ、今まさにかつての同胞を手にかけながら、慟哭を上げて突き進む――哀れなる復讐鬼に堕した剣狼への悲しみが。
 この末法の光景を作りだし、今なお己の屋敷でのうのうと、この地獄を鑑賞しているであろう、悪辣たる吸血姫への憤りが。
 そして――これら全てを、ただ『終わらせる』ことしか出来ない自身の無力への憤りが、止まらない。
 怒りと、悲しみ。相反するはずの二つの気持ちが混ざり合い、アヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)の瞳から熱いしずくとなって零れ落ちた。ピンクダイアモンドの瞳から漏れる光に煌めいて、地に弾けて染みる涙。
 アヴァロマリアは聖者だ。少なくとも、彼女はそう自認している。いつか、初めて、助けを呼ぶ声が聞こえた時から。その手から、癒やしの光が漏れることを知った時から。
 だが、この時ばかりは彼女も堪えた。
 ――ここにはもう、救える者はいない。何もない。皆、『終わってしまった』後なのだ。肉塊も、剣狼も、真なる意味では決して救えぬ。
 世界を、皆を救おうと途方もない夢を抱いた少女にとって『決して救えぬもの』という存在は、呪いのように重い鎖となってのし掛かる。
 単純に、滅ぼすべき敵として対することが出来ればいかほどに楽だったろう。――それが出来ぬ故の聖者、それが出来ぬ故の苦しみだ。彼女の優しさが、そのまま真綿の縄となって彼女の首を絞める。
 おお、おぉ、おおぉぉぉおおぉ……
 呻きが鳴る。決して救えぬ者達の悲しき呻きが。呪われた肉塊に成り果ててなお、かつての故郷の名を、父の名を、母の名を呻き、蠢く。
 生者を羨むように。或いは救いを求めるように、アヴァロマリア目掛けて幾つもの肉棘が放たれた。身を守らねば、即座に串刺しとなり死に至るであろう密度の攻撃。はらはらと落涙しながら、アヴァロマリアの猟兵としての本能が、極光のヴェールを作り出す。

 オン・ガナン・スヴァーハ
『 神聖にして侵すべからず 』。

 降り注いだ肉棘が、ヴェールに触れた瞬間に崩壊した。――美しき極光のヴェールは、その実ユーベルコードを通さぬ堅固なる護り。触れたユーベルコードを相殺する性質を備えた光幕である。
 アヴァロマリアは涙を拭うことなく歩む。その一歩ごとに、オーロラのヴェールが揺らめきながら、少しずつ広がっていく。肉棘が、ユーベルコードの影響下から離れた瞬間に崩壊したという事は……彼らの身体を固定しているのも、恐らくは彼らの『作り手』のユーベルコードに他ならぬ。
「もう、眠っていいよ。悪いものは全部、マリアがなくしてあげるから。……おやすみなさい。あなたたちのために戦った狼さんも、任せて。大丈夫――」
 アヴァロマリアは笑おうとした。――くしゃくしゃの涙にかすれた顔で、どこまでうまくできたのか。
「マリアは、聖者、だから。――きっと、救ってみせるわ」
 広がるヴェール越しに彼女の顔を見た肉塊だけが、その答えを知っている。
 広がるヴェールが、肉塊達を分解した。上がる悲鳴も一瞬、崩壊すれば再生もなにもない。塵芥に還って消えゆく亡者らを悼み、祈るように、アヴァロマリアは両手を組んだ。
 その上に滴が弾ける。

 ――まだ、雨は止まない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

李・蘭玲
アドリブ歓迎
古兵B
白斗さん/f02173
軍曹さん/f01737
と連携、行動

酷い光景ですねぇ、えぇ
ですから根こそぎ狩りましょう
慈悲なく哀れみなく

死角は軍曹さんの指示で補います
なので、私は剣狼を追うように前進を。
暗視できますし、危険物は友軍に伝達

武器は、刻印を宿す我が身が放つ八極拳
立ち塞がる者は拳、掌打、肘撃、肩や背中の当て身などで応戦
脳以外は機械なので、人工皮膚で良ければどうぞ
代わりに捨て身の一撃で返礼をば

突破しようという者は『猛虎破穿』を叩き込みます
軍曹さんへ接近させないようにしませんと。

白斗さん、剣狼の攻撃で瀕死になった連中は率先して倒しますね
足止めしてもらえれば絶招の威力も増しますので。


九十九・白斗
【古兵B】
老獪な吸血鬼が相手と聞いたんでな、こっちも老獪な連中を集めさせてもらったぜ
煙さんが三人づつ送ると聞いたんで、A(アルファ)チームとB(ブラボー)チームに分けさせてもらった

さて、俺は前衛に出た蘭ねーちゃんを狙撃でサポートする
狙撃で敵の脳天ばっかり見てると、戦場全体を把握できなくなるので、そこは軍曹に任せて,効率的に敵を撃っていくとしよう

ある程度のめどがついたら、タバコを取り出し一服する

最近はソロばかりだったからな
こうして年の近い連中とまた戦場に出れるとは嬉しいもんだ

少し感慨にふけると、大きく紫煙を吐き

「さて、次の戦場に行かねえとな」

と、タバコを指ではじき

ぐしゃり

と踏みつけ、歩き出す


マクシミリアン・ベイカー
【古兵B】で参加

九十九・白斗氏と李・蘭玲女史に戦況に穴を穿つポイントを指示。
特に敵の守りの浅い部分、かつ剣狼の勢いを後押しできる位置を見極める。

味方に指示をしつつ、UCの演説で剣狼含めて鼓舞。
詠唱台詞後、以下

立ちはだかる肉の化け物は、過去から蛆のように湧くオブリビオンに喰われた悲しき人々だ!
だが躊躇うな。死んでなお肉体を穢されている人々は、貴殿らの刃と弾丸を待っている!
見ろ、老いの衰えを感じさせぬ古兵の強さを! 彼らは成すべきことを知っている!
見ろ、剣狼の勇ましさを! 骸の海から這い出してなお、奴は使命を果たさんとしている!
彼らに続け、猛き猟兵たちよ! 亡き人々の悪夢を終わらせてやれ!



●古強者のウォーパーティ・上
 戦況は混迷を極めた。そこかしこで巻き起こる戦闘。猟兵を殺すことのみが存在理由であるとばかりに群がる肉塊に、果敢に応戦する猟兵達。
 その中に、古兵らの姿があった。
 猟兵らの多くは若年、中には少年、少女の姿もある。その中で彼らの姿は一種異質に映る。
 ――だが、重ねた齢のみが醸す強さが確かにある。彼らの瞳には譲らぬ心の強さが光っている。
「さて、老獪な吸血鬼が相手ってことでな。こっちも老獪な連中を集めたわけだが――準備はいいかい、お二人さん」
 問いかけるのはスコープ付きの対物狙撃銃を肩に負った壮年の男。九十九・白斗(傭兵・f02173)である。
「ええ、いつでも。問題ありませんわ」
「問題ありません。いつでも作戦に移れます」
 クラシカルなメイド服の老メイドと、カーキの軍服にそろいの色のハットを被った厳めしい顔つきの男が頷く。
「酷い光景ですねぇ、――えぇ、ですから根こそぎ狩りましょう。慈悲なく哀れみなく」
 老メイド――李・蘭玲(老巧なる狂拳・f07136)が進み出た。その年齢は優に七十を超えるほどであるが、動きに鈍いところはない。滑らかに歩み、顔の高さに上げた指をゴキリと鳴らし、構えを取る。――その練度は相当のもの。達人の域、八極拳の構え。
「軍曹さん、指示をお願いできますか。蹴散らします」
 呼ばれて胸を張った直立姿勢のまま応えるのは軍服の男だ。
「了解であります。――ではあの部分、敵陣右翼にもろい部分がありますな。あの穴から側撃を叩き込み、敵の陣形を崩しましょう。李女史の突破力ならば容易でありましょう」
 名を、マクシミリアン・ベイカー(怒れるマックス軍曹・f01737)という。叩き上げのアグレッサー、教官である。厳めしい顔つきによく通る低い声。その風貌を一言で表すならば、『鬼軍曹』といったところか。
「そんじゃあ俺はその後ろから援護かね。即興だが、スポッターを頼んでもいいかい、軍曹殿?」
「はっ。了解であります」
 打てば返るような返事に満足気に笑って頷く白斗。五五歳のマクシミリアンが最若年となる三人組は、役割を決めると即座に行動を開始した。
 まずは蘭玲が突っ込む。乱戦だ、横合いから狙われていようとも、正面に気を取られていれば気づかない。マクシミリアンの見立てはそこにあった。正面の猟兵に攻撃を仕掛けようとしている敵の横っ腹を食い破って攻め上がり、敵を蹴散らして剣狼に追いつこうというのだ。
 蘭玲は真っ直ぐに踏み込む。漆黒の筈の彼女の瞳が闇に赤々と曳光したかに見えた。
 駆け近づく足音に気づいた肉塊が蘭玲を振り向くが、遅い。八極拳の打撃は一打のみ、二の打ち要らず。
 撃拳咆吼。助走のスピードと重い拳の繰り出されるタイミングがぴたりとかみ合い、肉塊の頭部に叩き込まれた。 叩き込まれた拳が余りの威力で頭部をひしゃげさせ、そのまま吹き飛ばす。一撃、必殺。頽れ灰となる骸を踏み越えて蘭玲は進む。左右より敵が蘭玲目掛け迫るが、しかしそれを後方からの支援射撃が吹き飛ばした。白斗による狙撃。アンチマテリアルライフルの弾丸はその圧倒的な威力で肉塊の半身を抉り食いちぎり、即死せしめる。
 近接できぬとみた数体が蘭玲目掛け肉の鞭を振るった。音速を超える肉鞭を、蘭玲は盾も武具もなく素手で受ける。服が裂け、皮膚が裂け――
 ――しかし身の裡に潜むクロームメタリックの装甲だけは、裂けない。
「その程度では私は止められませんよ」
 李・蘭玲はその脳以外を戦闘用義体に乾燥したフルメタル・サイボーグ・メイドである。肉塊の鞭は彼女の外装を僅かに削ったに過ぎぬのだ! 再び爆発的な前進、蘭玲は敵との距離を詰めて音高く地を踏む! 地面が小揺るぐような錯覚を受けるほどの震脚から放たれる渾身の崩拳が、肉塊を重い音を立てて跳ね上げ、打ち砕く!
 飛び散る肉塊と血が灰となって昇華する中を、一瞬も留まらず蘭玲は駆け抜ける。拳、肘、肩、あるいは背。その全てが鋼鉄製の武器だ。拳法として一撃必殺の威力を備える八極拳に、戦闘用義体の性能が重なれば、その威力は想像を絶する……!
 前線を鋼鉄の魔人めいて暴れ回る蘭玲を援護するように、白斗とマクシミリアンが動いた。
「ハッハァ! こりゃすげぇ、まるで装甲車だ。蘭ねーちゃんに負けちゃいらんねえぜ、軍曹!」
「はっ。ではナビゲートしましょう、弾はまだありますか、九十九氏」
「そんなに外すと思うかよ、俺を誰だと思ってんだ。まだまだいけるぜ」
「心強くあります。では右奥から狙撃を。足を止めれば李女史が大技を叩き込めるはずです」
「任せとけ」
 白斗は大ぶりなマガジン式、セミオート、一二・七ミリメートルの牙を放つアンチマテリアルライフルを再装填。。構えは機動性を重視したまさかの立射、しかしその強靱な体躯は小揺るぎもせぬ。
 BLAAAAM!! 巨大な火の玉が爆ぜたかに見える。実際、スローカメラで映したとすれば、画面いっぱいにマズルフラッシュが広がるところが見られたはずだ。アンチマテリアルライフルの弾丸はコンクリート壁や鉄板をブチ抜いて、その向こう側の敵を殺傷することすら可能だ。
 正しい訓練を経なければ伏せて扱うことすら出来ないその高威力弾を、白斗は涼しい顔をしてセミオートで連射。マクシミリアンが指示した巨大な個体を、その下肢に相当する部分を狙撃でブチ抜き、移動を阻害!
「デカいのは封じた。小せえのを潰していくぜ」
「はっ。別途問題があれば即座に報告します」
「ありがとよ」
 マクシミリアンがスポッター――観測手として動くことで、彼らの狙撃は滞りなく素早く行われる。狙撃手は視野が狭くなるのが常だが、そこを指揮能力に優れたマクシミリアンが補う、抜群の連携である。
 ボルトストップ。白斗はマグポーチから即座に新しい弾倉を抜いて再装填。ボルトを引いて初弾を薬室に叩き込み、射撃、射撃、射撃!
 一射ごとに肉塊が一体、半ばから引きちぎられたように歪んで吹き飛ぶ。すさまじい威力、対物狙撃銃の面目躍如である。
 白斗が奏でる狙撃楽章に彩られ、蘭玲が風のように疾る。白斗が脚を抉り止めた個体に、丹田に力を込めての爆発的な突進――『絶招・猛虎破穿』!!
 優に数百キロはあろうかという肉塊が、蘭玲の突進をまともに受けて、まるで車にはねられた只人のように宙に飛び、砕け、崩壊。灰となって昇華する。
 その劇的な光景に注意を引きつけるように、大音声が響いた。人を鼓舞することに慣れた――男の、雷鳴のような声だ。
「クソを殺す手を止めずに、聴け! 私はマクシミリアン・ベイカー。諸兄姉と志を同じくする猟兵である!」
 鳴り渡る様な声で叫ぶのはマクシミリアンである。戦況に逐一目を走らせながら、大演説を一つぶる。
「立ちはだかる肉の化け物は、過去から蛆のように湧くオブリビオンに喰われた悲しき人々だ! だが躊躇うな。死んでなお肉体を穢されている人々は、貴殿らの刃と弾丸を待っている! 解放せよ、解放せよ、解放せよ! 腐肉となって彷徨う捻れた輪廻の輪を正せ!」
 吼える、吼える、吼える! 拡声器『ミリオンデシベル』を通した声が、まるでサイレンのように遠く鳴り渡る!! 戦線の最前衛を張る剣狼の耳さえ、それを聞いたようにピクリと動く!
「見ろ、老いの衰えを感じさせぬ古兵の強さを! 彼らは成すべきことを知っている! 故に迷わない、故に躊躇わない! 見ろ、剣狼の勇ましさを! 骸の海から這い出してなお、奴は使命を果たさんとしている! 己の牙を突き立てる先へ、脇目も振らずに走っている!!」
 すうっ、溜めるような息継ぎは一瞬。
「彼らに続け、猛き猟兵たちよ! 亡き人々の悪夢を終わらせてやれ!」
 おおっ――!!!
 マクシミリアンの演説の結びに、鯨波の声が応えた。
 猟兵らが前線を押し上げ、肉塊らを蹴散らし、前へ進む。未だ屋敷は遠くとも――一人一人が止まることなく進むならば、いずれ必ず至ると識っている。
 アングリー・マックスは吼えながら、アサルトウェポンを構え前進! 肉塊の頭に銃弾を叩き込み灰に還しつつ、進む!
 その背を見ながら、白斗は取り出した煙草に火をつけた。深く吸い付けつつ、アンチマテリアルライフルのボックスマガジンを再度換装する。気づけば、彼らが戦う区画には敵の姿は少なくなっていた。前進する頃合いだろう。
「おうおう、熱い演説だこって……しかし、嬉しいもんだな。こうやってまた年の近い連中と、戦場に出られるとはよ」
 近頃はソロばかりだったからな――と自身の遍歴を顧みつつ、暫時の感傷にふける白斗。視線の先では、また蘭玲が新たな敵と対し、それをマクシミリアンが援護している。
「……さて、俺も次の戦場に行かねえとな」
 白斗はくわえた煙草を摘まんで弾き飛ばし――地に赤い火を散らす吸いさしの煙草をコンバットブーツの底で踏み潰して、仲間二人の背を追うのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

東雲・一朗
【古兵A】
熟達の兵と共に戦場に出る、まさに盤石の布陣だ。

▷アドリブ歓迎です

▷服装と武装
帝都軍人の軍服、少佐の階級章付き。
刀と対魔刀の二刀流、2振りとも腰に帯刀。

▷戦術行動
「悲しい事だがこれは戦争だ、ゆえにどのように哀れな存在でも利用し確実に敵を叩く…我々はその為にいる」
【戦闘知識】で同族殺しを確実に利用し、かつ仲間を援護出来る布陣を【見切り】大隊を配置、その上で【大隊指揮戦術『壱』】を発令、哀れな雑兵を掃討する。
「剣狼…もはや人ではなく、ただの獣に成り果てたか…」
大隊を【武器受け】と【オーラ防御】で守りつつ、私は味方を援護するよう射撃命令を出して戦況を見守る。
三つ巴の戦い、油断は出来ない。


ゲンジロウ・ヨハンソン
【古兵A】東雲、パラスと共に行動
○アドリブ歓迎

剣狼なぁ。
面倒くさそうな運命と、拘りから解き放たれたってのに、
化け物に生まれ変わっても縛られるとはのぅ。
ま、一先ずは目の前の掃除からじゃな。

○戦闘
パラスに、東雲の部隊が心強い後方支援してくれるみたいじゃからの、
わしは最前線で暴れるとしよう。
敵の噛みつきや鞭のUCに合わせ【指定したUC】にて【カウンター】しよう。
そのまま奴らの身体を武器代わりに振り回し、大太刀周りで【挑発】行動しようかの。
前に別依頼で戦ったことあるが、本能で動いとるような奴らじゃからの
素直に気配が強いとこに集まってくれるはずじゃ。
防御面は【装備8】の技能で耐え抜くとするかね。


パラス・アテナ
【古兵A】
アドリブ歓迎

弄ばれた肉の玩具、ね
元は生きていた人間なんだろうが
こうなっちまったら二度と戻せやしない
ここで終わらせてやるのが慈悲ってもんだ
…剣狼とやらも含めてね

連携して事に当たるよ
まだ緒戦。ここで足を止める訳にはいかないんでね
効率よくやらせてもらうよ

【弾幕】に【2回攻撃】と【一斉発射】を乗せて攻撃
ゲンジロウの【挑発】で集まった敵を【マヒ攻撃】で足止めしつつ各個撃破
確実に個体数を減らしていく
援護は一朗の大隊に任せようか
帝都軍少佐の指揮、見せて貰おう


それでも抜けてきた敵の噛みつき攻撃は、武器受けと激痛耐性で対処
せっかく近づいてくれたんだ
【零距離射撃】で強烈なのをお見舞いするよ
骸の海へお帰り



●古強者のウォーパーティ・下
「剣狼なぁ――」
 ごりごり、と頭を掻きながら、金の瞳をした壮年の偉丈夫――ゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)が呟いた。浅黒い膚に灰色の髪、筋骨隆々の大男。左目上より荒々しく這う刃傷が凄みを醸す、いかにも歴戦の猟兵といった風情の男である。
「面倒くさそうな運命と、拘りから解き放たれたってのに、化け物に生まれ変わっても縛られるとはのぅ」
「解き放たれたのではなく……囚われたまま死んだのだろう。守れぬままに死ねば、悔いが残るは必定」
 ゲンジロウの呟きに応ずるのは、同じ年頃だがゲンジロウとは対照的な印象の男だった。身長はゲンジロウよりもやや小柄だが一般的に見れば十分な長身。丁寧に整えた顎髭と口髭に黒曜石の目。壮麗な軍服に身を包み、流麗な拵えの刀を二振り、腰に帯びた男。ゲンジロウが動ならば、その男は静か。
 ――帝都第十七大隊、大隊長。帝国軍少佐、東雲・一朗(帝都の老兵・f22513)である。
「いずれにせよ止めねばなるまい。幸い、熟達の兵が揃っている。正に盤石の布陣だ。詰めを誤らなければ、負けるべくもない」
「まぁなあ。何にしても目の前の掃除からってことじゃな。わしは前に出る。東雲、パラス、お前さんらはどうする」
「大隊投入の機を測る故、私は今しばらく後方にいる」
「……アタシはそうさね、アンタのバックアップに回るよ、ゲンジロウ。派手に暴れてくれるんだろう?」
 一朗の答えた後に老女がいらえた。老女――とは言ってもその黒髪の艶は衰えを知らず、ぴんと伸ばした背は年齢を感じさせぬ。女性としては長身、長い腕の先に二丁の拳銃を携えた彼女は、パラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)。死神の名を恣にした女。
「おう、任せとけ。得意中の大得意よ」
「そりゃ楽しみだ」
 わんぱく坊主がそのままでかくなったようなゲンジロウの台詞に、パラスは薄く笑って応える。
 ――弄ばれた肉の玩具、ね。
 パラスは口の中で呟き、敵を改めるように、前方を見る。
 既にマクシミリアンが指揮する二名の仲間が、反対側、敵左翼より切り込んで前線を押し上げている。今から彼女らが襲いかかるのは敵右翼。合わせる形で攻め上がる格好だ。
「元は生きていた人間なんだろうが、こうなっちまったら二度と戻せやしない。ここで終わらせてやるのが慈悲ってもんだ――剣狼とやらも含めてね。さぁ、仕事を始めようか。アンタ達の牙をアタシに見せとくれ」
「おうよ!」
「承知」
 弾けるように駆け出すゲンジロウ。それにパラスが続く。駆けていく二名を見送り、一朗は戦場の最前線にちらと目を這わせた。
 悪鬼の如く暴れ回る剣狼の苛烈なこと、苛烈なこと。
「――最早人ではなく、ただの獣に成り果てたか」
 力及ばず全てを奪われ悔死した。その境遇には同情しよう。……しかし、同情だけでは救える者も救えない。
 ひとまずこちらには向かってこない。敵対しないうちは戦力の当てにしても良いだろうが、これが三つ巴の戦いであることを忘れてはならない。一朗は冷静に戦局を観察しながら、一人静かに呟く。
「悲しい事だがこれは戦争だ、ゆえにどのように哀れな存在でも利用し確実に敵を叩く……我々はその為にいる」
 一朗がばさりと外套を翻せば、その後ろに軍靴の音が鳴る。
「総員装填、構え。安全装置外せ」
 無数の金属音。彼の指揮する精鋭数十名が、一朗の後ろで七・六二ミリメートルの殺意を薬室に送り込む。
 引き金は、既に彼の舌の上に在るようなものだった。一朗は機を伺うまま、ゲンジロウとパラスの行く先を見つめている。


 ゲンジロウが取った策は実にシンプル。たった一言で解説できる。
 即ち、『掴んで、投げる』。ただそれだけだ。だが、ただそれだけのことを忠実に履行できるのがどれほどのことか、その光景を見ねば分かるまい。
 中空より錐のようになって射出される数十の肉棘。ゲンジロウはそれを転がり避けるが、避けたところに撓る肉の鞭が来る。
 当たれば身を裂き肉を弾けさせるはずの一撃を、ゲンジロウは左手を突き出し、ガントレットの蒸気機関からスチームを迸らせて受け止め掴む。大音が鳴る。ガントレットは軋みもなく、ゲンジロウの手を守り抜く。
「ほれ掴んだ。覚悟は良いの?」
 ゲンジロウはからっと笑った。良かろうが悪かろうが、一瞬後にすることは決まっている。
 肉塊が真面に答える前に、ゲンジロウはその肉鞭を持って、優に一〇〇キログラムはくだらないであろう肉塊を勢いよく振り回す。
 一度掴めば藻掻こうがわめこうが二度と離さぬ。『豪腕スイングアラウンド』!
 肉鞭が頑丈であったことが敵の不幸であった。肉塊の重量がそのまま、ゲンジロウの武器となる。振り回し叩きつける、粉砕! 振り回し叩きつける、撃砕! 振り回し叩きつける――轢砕!!
 大振りな動作であるものの、ただ振り回して叩きつけるという単純な戦法を打破する事が出来るのは、恐らくはそれを上回る力のみだろう。言わば竜巻と化したゲンジロウに近づける肉塊はその場には存在しない。
 ――ならば肉棘で穿てば良い、と考えたか。注意を引くための大太刀回りを演ずるゲンジロウ目掛け、四方八方より肉棘が注ぐが、それを鉄風雷火の銃声が迎える。
「考えが見え見えだねぇ」
 パラスだ。二丁の拳銃が立て続けに火を噴き、肉塊共に着弾、その動きを鈍らせていく。たった二丁の拳銃から放たれているとは思えぬ数の銃弾である。ゲンジロウの暴風めいた暴力に加え、パラスが完全に連携し高効率で敵の攻撃を阻害する。動きが鈍った者から順に、ゲンジロウが振り回すハンマーめいた肉塊の餌食となっていく。
 隙あらばパラスもまた肉塊の頭部を銃弾で破壊し、次々と肉塊を灰に還していく。向かうところ敵なしの様相だったが――しかし、一事が万事、そう上手くいくわけでもない。
 肉塊達が、その下肢に触手で撥条を形成、ゲンジロウの竜巻の射程外から飛び跳ねたのだ。それも一斉に、である。
 これにはパラスも虚を突かれた。そればかりではない、空中に飛び上がった十数体が、呼吸を合わせて一気に肉棘を放つ。ゲンジロウが持った肉塊を敵に叩きつけるよりも、肉棘がゲンジロウに届く方が速い。
「ぐ……!」
 次々とその身体に突き立つ肉棘――援護せんとするパラスだが、それよりも先に防御を強いられる。敵数体が、地面にアンカーめいて肉棘を撃ち込み、縮めることで急速河口、パラスに襲いかかったのだ。
「くっ!」
 外套を翻して距離を取ろうとするが、それよりも降り立った敵が数メートルの距離より、弾丸めいた肉棘を放つ方が速い。パラスの脇腹を肉棘が穿つ。
 零れる苦悶の声。――よもや、窮地か!

 ――その時だ。ゲンジロウとパラスの口元に、不敵な笑みが刻まれる。

 窮地? この程度、苦境の内にも入らない。
 これの百倍酷い地獄を、修羅場を、幾度も潜り抜け、死に損なった老兵を舐めるな!


「オオオォォッ!!」
 ゲンジロウが吼えた。自分の身体に突き刺さった肉棘を、纏めて一束にして引っつかむなり、力を込めて振る。身体に穴の開いた人間のやることではない。だが出来るのだ。ゲンジロウ・ヨハンソンならば!
「そうかそうか、一個じゃあ足りなかったようじゃな! それならもっとたらふく食え、そおらっ!!」
 空中から攻撃してきた都合四体の肉塊を右腕一本で支え、踵を軸にゲンジロウは今一度竜巻となった。計五体を同時に振り回す荒技、当たる部分は単純に先程の五倍! 
 今度こそ手のつけられぬ死の渦となったゲンジロウを横目に、脇腹を貫かれたままのパラスが、引くどころか踵で地面を抉り前進、白い軍服を地に染めながらも、一つの躊躇もなく敵に迫った。激痛に耐えることなどお手の物。長く生きれば、苦痛との向き合い方も変わってくるものだ。
「せっかく近づいてきてくれたんだ。喰っていくだろう?」
 老獪に笑い、パラスは逃れようと身を捩る肉塊に接敵、殴り飛ばすように右手の銃を突き出して発砲。BLAM!! 続いて左、BLAMッ!! 右、左、右左右左右左ッ!! 連続で立て続けに叩き込まれる銃弾のラッシュ。言うなれば零距離『弾幕』、拳代わりの銃弾を叩き込み、瞬く間に接敵した四体を葬るパラス!
 虚を突いての奇襲だったはずが、一瞬で形勢が逆転する。たじろぎ気圧されたように、肉塊らの前衛がじり、と後退した瞬間、それを見越していたのか、後方で刀が月光に閃いた。
 一朗が抜刀したのだ。まるで旗印のように光る帝都守備隊の識別章。
「――総員、放て! 勇士の作った隙をこじ開けよ!!」
 吼える一朗が旗を振るように、天に掲げた刀『影切』を振り下ろすなり、第十七大隊の精鋭らが放つ軽機関銃の火線が一斉に伸びた。
 居並ぶ肉塊を穿ち、即死には至らずともその前線を押し下げ、あわよくば葬りながら、一朗は剣狼の背を示すように真っ直ぐに影切の刃を突き出す。
 ――征くぞ。
 轟音轟く戦場で、彼の唇がそう動いたことを、ゲンジロウもパラスもすぐに悟った。
 不敵な笑みを浮かべ、ゲンジロウは五つの肉塊を敵の前線に投げつけて穴を開ける。その穴を埋めようとする敵をパラスの銃が逃がさぬ。カバーしきれぬ範囲を一朗の大隊が掃射する。
 ――完全な連携。かくて三人の古兵は、敵右翼を破壊しつつ進撃する!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

四・さゆり

あら、エスコートする気はないのね。
元気な子は嫌いじゃないわ、
そう、けれど。

わたしも得意よ。傷を抉るのは。

ーーー

死にたくないなら、退きなさい。
それでも進むのなら、死になさい。

「終わりたいなら、手伝ってあげる。」
可哀想とは思わないけれど、
これは、仕事だもの。

さあ、良い子たち、
整列なさい。
わたしの傘が、
赤い花が、ぽつ、ぽつ、咲いて。

刺さって、花が散るように、
飛び散るのも、赤。

「安心なさい、」
あんたたちの無念だけ、連れて行ってあげる。



●漫ろ雨の降る
「あら――エスコートする気はないのね。自分のことで精一杯、というところかしら。元気な子は、嫌いではないけれど」
 剣狼は猟兵らに一目すらくれない。彼を直接に助けた猟兵らは、あるいは一言二言程度のやりとりをしたかも知れないが――四・さゆり(夜探し・f00775)はわざわざ追いかけて何かくれてやる言葉を持つわけでもない。
 己の過去と対峙し、それを抉り立て進む剣狼の背を見て、何を思うのか。さゆりはいつも通りの無表情で、赤い傘を構える。
「――わたしも得意よ。傷を抉るのは」
 遠くを駆ける剣狼から手前にフォーカスすれば、さゆりに迫るは数十からなる肉塊の群れ。いずれも帰りたい、帰りたいと泣く、人間だったものの成れの果て。
「死にたくないなら、退きなさい」
 警告の言葉。雨が降るわけでもない闇天の下、さゆりは場違いな赤い傘をくるりと回す。
「それでも進むのなら、死になさい。終わりたいなら、手伝ってあげるわ。このわたしが」
 人とは思えぬ凄絶な末路を迎えた彼らのことを、可哀想だとは思わない。これは仕事。ただの仕事。そこに感慨など必要あるまい。
 おおぉぉぉおぉぉぉおおおぉ……
 泣き噎び唸るかつての人間たち。蠢き這いずるその動きが、さゆりの言葉で止まるわけもない。さゆりはそれを知っていたかのように、赤い傘を指揮棒めいて振った。
「そう。そうだと思っていたわ。――それなら、さあ、良い子たち、整列なさい」
 さゆりが命じる声とともに、ダークセイヴァーの無明の闇に、『赤い花』がぽつ、ぽつ、と咲いた。――彼女の傘。赤く、尖って、赤に塗れるための花。咲き乱れるその数、最終的に四四本。
 肉塊たちが己の身体を歪め練り上げ、肉の棘や触手を作り出すのを前に、さゆりは只一言、命じるように言った。
「暴れてらっしゃい」
 刹那、傘が赤い雨めいて敵に注ぐ。『漫ろ雨』。鋭い切っ先の傘は、彼女の意志を映したように、暴力的に、真っ直ぐに、穿ち血の華を散らすために飛翔する。
 突き立つ、突き立つ、突き立つ。頸を頭を、確実に見える肉塊の急所を、矢嵐めいて飛ぶ傘の切っ先が貫いて殺していく。赤い花が血の薔薇を開いて、終わった命を再殺していく。
 うぅぅぅぅぅううう……!
 未だ無事な敵がその身体より肉棘をひりだし、さゆりを穿たんと四方から連射する。
 しかし迫る肉棘に対するさゆりの対処は迅速だった。身の回りを衛星めいて回る数本の赤い傘を開き盾とする。持ち手を軸に傘膜を回して弾き散らし、他の傘を操って敵手の頭を貫き、ためらいも迷いもなく葬っていく。
 貫いて咲いた血の赤薔薇は、とどめを刺された骸が白き灰となることで、まるで枯れるように、なかったことになったように散っていった。
 次から次へと絶えていく、呪いに蝕まれた成れの果ての人間たち。
「安心なさい、」
 さゆりは灰殻となって散っていく呪肉塊らを一瞥することもなく、広げた傘で呪いの棘雨を払いながら、フードを目深に被り直して密やかに告げた。
 呪いの雨の直中を、俯き加減で少女は歩く。
 ――果たしてやるなどと約束は出来ぬが。
「あんたたちの無念だけ、連れて行ってあげる」
 ――止まぬ雨の下で、紡ぐ密やかな手向けの言葉。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リリヤ・ベル

【ユーゴさま(f10891)】と

ユーゴさま、……――。

言葉に迷って、マントの裾を掴むだけ。
救いたいと願って、祈って、剣を手に取って。
それが叶わない事の方が、ずっと多いと、知っています。

はい。おまかせください、ユーゴさま。
溢れる名をひとつひとつ聞きながら。
零れる涙を拭って差し上げることはできません、けれど。
もうなにも、毀れるものがないように。
……どうか、この先にひかりがありますように。

頼まれたのです。ちゃんと、できるのですよ。
おわってしまったことを、おわらせましょう。
攻撃から守ってくださるのなら、
わたくしはユーゴさまのおこころを守るのです。

……、あのひともまた、重たい剣を持つひとなのですね。


ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

……この世界じゃ、よくある話だな。
英雄に成れなかった男。
或いは、力不足の英雄と呼ぶべきか。

……切り替えていこう。
リリヤ、あの"人"達を頼む。
俺の剣では、あの狂った狼と同じ事にしかならない。
せめて俺達の相手は、お前の光で楽にしてやってくれ。
リリヤを狙うすべての攻撃は俺が防ぐ。

剣狼が往く血染めの道……
姿形が変わっているとはいえ、感情のままにその手でこの人達を殺すのか。
お前は躊躇いも無く、護りたかった人達の血で大地を染め直すのか。
彼らの流す涙が、お前を求める声が、分からないのか。

なるほど、お前はもうオブリビオンだよ。



●血に染まる涙道
「……この世界じゃ、よくある話だな。英雄になれなかった男――或いは、力不足の英雄と呼ぶべきか」
「ユーゴさま、……」
「何も守れず、何も果たせぬ――分不相応を求めた末路はいつも苦い」
 男は――ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)は、荒れ狂う剣狼を見てか、或いは――自分自身を省みてか、静かに呟く。
 その傍らに寄り添うのはリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)。そんなことはないと、己の口から軽々しく言えるはずもない。かける言葉に迷っては、そっとマントの裾を掴むだけ。
 ――救いたいと願って、祈って、剣を手に取って。それが叶わない事の方が、ずっと多いと、知っている。かつてユーゴが、何を思い剣をとり、燃える国を見て何を感じたのか――リリヤは知らぬ。
 けれど寄り添うことは出来る。だから、リリヤはユーゴの隣を離れない。
「……すまない。感傷だ。切り替えていこう。リリヤ、あの“人”達を頼む」
 ユーゴが示すのは、肉塊達――かつて人だった、今なお苦痛に呻く呪肉達。それをして、ユーゴは彼らを人だと称す。
「俺の剣では、あの狂った狼と同じ事にしかならない。……斬ることは救いではない。責め苦をもう一度負わせるだけだ。俺はそう思う。……だからせめて、俺たちの相手だけでも――お前の光で楽にしてやってくれ」
 言いながら、ユーゴはずらりと長剣『灰殻』を抜き放つ。
「お前を狙うすべての攻撃は俺が防ぐ。……だから頼む、リリヤ」
「はい」
 否やがあるわけもなかった。リリヤは一つ確かに頷くと、そのちいさな両手を組み合わせて、祈りを捧ぐ。
「おまかせください、ユーゴさま」
 風に祈って聞こえてくる村の名前。母を呼ぶ声、父を呼ぶ声。子を案ずる声、痛みを嘆く声。もっと生きたかったと嘆く声。リリヤはその全てを聞いた。血の涙を流す肉塊達の思いを。
 その中には、当然のように――剣狼を罵るものもあった。お前が立ち上がらなければ、私たちは死なずに済んだかも知れないのに、と。剣狼の弱さを嘆き罵り、死んだ今なお憤る肉塊達もいた。……しかし、その反対に。剣狼様が来てくださった。もう一度来てくださった……今度こそ、今度こそ、本懐を遂げられますよう……お助けください、剣狼様……――と、剣狼を求める声も、少なからずに流れている。
 リリヤはユーゴを見上げた。口元を引き結び、眦を尖らせる。
 きっと、彼にも聞こえたのだろう。かつて騎士として、人々のために戦った男の耳にも。
 リリヤが言葉を発する前に、肉塊達が肉の鞭を縒り、振るった。音速を超える先端が、空気を弾く衝撃波音を発する。ユーゴは全く恐れることなく、灰殻を振るって鞭の切っ先を斬り飛ばした。
「リリヤ、俺の影に入れ。お前には指一本触れさせない」
「――はい」
 それ以上、ユーゴの表情を伺うこと罷り成らぬままに、リリヤは彼の背に隠れる。リリヤからしてみれば余りにも速過ぎる敵の鞭打の嵐を、ユーゴはその長剣一つで斬り、弾き、受け続ける。時折混じる、直線的に伸びる肉の棘が彼の身体に突き立つも、声一つとしてあげはしない。剣で折り飛ばし、引き抜いて傍らに棄てる。
 斬り払った鞭は次々と再生する。ユーゴの剣の腕を以てすれば、斬り払いながら接近し、あの肉塊らの首を刎ねることなど造作も無かっただろう。だが、そうしない。祈りによって、彼らを還してやると決めたために。
 ――その信頼に応えたかった。
(頼まれたのです。ちゃんと、できるのですよ。――おわってしまったことを、おわらせましょう)
 奮戦するユーゴの影で、リリヤは祈りを重ねる。ああ、呪肉一つ一つが目より流す紅い道を拭ってやることは出来ない。哀れな彼らを、望み通りの道に戻してやることは、決して叶わない。彼らは既に過去の染み。終わってしまった無念の塊。……けれど、そこからもうこれ以上――何も、毀れるものがないように。
「……どうか、この先にひかりがありますように」
 リリヤは祈りを解き放つ。
 或いは、――リリヤの物理的な盾となったユーゴの、心の盾とならんとするかのように。
 真っ直ぐに差し向けたリリヤの指が指し示す肉塊らの上から、光が降った。まるで主が救い給う、経典にある光景のような光の柱。
 うぅ、う、うううぅぅぅぅぁああぁぁあ……!
 肉塊らの声がざわめく。リリヤが天より放った光に晒された呪肉は、その在り方を忘れるかのように末端より崩れていく。呪いにより練り合わされ、結合していた肉体が崩壊していくのだ。
 だが、そこに畏れの響きはない。きっと、痛みもないだろう。……ああ、これで終われるのか。そう悟った者から、光を回避することなく、その中に身を委ねていく。
 ッざぁっ……、
 灰が吹き散る。浄化された肉塊らは、他の猟兵が屠った肉塊らと同じように――風に舞う塵埃となって中に吹き消えていく。


 ――リリヤの祈りを見ていた。
 光に晒され、かのひとびとが、天へ還るその瞬間をただ見つめていた。
 ユーゴとリリヤが対した呪肉達――ひとびとが散ったその向こうには、刃を振るう剣狼が、肉塊を屠りながら、決して己の道を曲げず――避けることも、迂回することもせず、ただ真っ直ぐに進む姿が見えた。
 血染めの道。或いは、ひとびとが流した涙の道。それを鉄靴で踏みしめて、奴は走り続けている。
 ぎり、とユーゴは歯軋りひとつ。
 姿形が変わっているとはいえ、感情のままにその手でこの人達を殺すのか。生前、勝手を通して多くの人々を殺すこととなった己の所業の上に、再三骸を重ねるのか。
 お前は、躊躇いも無く、護りたかった人達の血で大地を染め直すのか。彼らの流す涙が、お前を求める声が、分からないのか。
 ――『力を手に入れたから今度は失敗しない』と、本気で思っているというのか。
「なるほど。お前はもう、オブリビオンだよ。剣狼」
 吐き捨てるように言うユーゴのマントに、リリヤのちいさな指先が掛かる。
「……、あのひともまた、重たい剣を持つひとなのですね」
 リリヤの言葉に、ユーゴはごく僅かに頷いた。
「だろうとも。――だが、剣には責任がつきまとう。道を正すとは言わないが――既に道理を違えた奴を、野放しにしておく訳にはいかない」
 重い声で言うと、ユーゴは歩き出した。リリヤがその後を小走りに追う。
「行くぞ、リリヤ。剣狼を――そして、奴が狙う吸血鬼を、止める」
「はい、ユーゴさま。……おそばに」
 重い軍歌と軽い靴音。
 舞う灰の中を、二人の足音が踊っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェルト・フィルファーデン

いつ来ても相変わらずね、この世界は……ええ、しっかりと務めを果たしましょうか。

わたしはUCで、肉塊と化したこの方達の動きを止めるわ。
本来は、意のままに操る術なのだけれど……わたしが命ずる事はただ一つ。安らかに眠りなさい。
……ただの自己満足だけれど、意識があるまま斬られるよりは幾分かマシだものね?

さあ、騎士達よ。わたしの操る絡繰の騎士達よ。わたしの力となって。
この者たちが安らかに旅立てるように、一撃の元に、葬り去るわ。

……大丈夫よ。あなた達の仇は、わたしが討ってみせる。だから、安らかに眠ってね。



●亡者を葬送る人形劇
「いつ来ても相変わらずね、この世界は……ええ、しっかりと務めを果たしましょうか」
 ぽつりと独りごちるのはフェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)。金糸の髪に琥珀の瞳、常に笑顔を絶やさぬフェアリーの美姫だったが、今日の表情はやや陰っている。
 無理もあるまい。数も知れぬほどの亡者が、屋敷への道を塞いでいる。視界を埋め尽くすほどの、この肉塊の全てが、かつては笑い合い生きていた人間達だったと言うのだから。
 フェルトはその小さな身体で羽撃き、鱗粉めいてきらきらと光るなにかを振りまく。肉鞭が、光る翅持つ彼女を狙って幾つも振るわれた。空気を裂く鞭閃をフェルトはひらりひらりと、水面に浮く葉のように避け躱しながら、哀れむような視線を肉塊達に注ぐ。
 ――ただ美しく輝き、蝶のように舞うだけか? 否。既に、フェルトの攻撃は始まっている。
「命じます。――安らかに眠りなさい」
 うぅううぅう、う……?
 毅然としたフェルトの声――眠りを促す音韻。その声を聞くなり、肉塊達はまるでそうなることが決まっていたかのように肉鞭を力なく下ろし、まどろんだように停止する。
 翼から零れた鱗粉、或いは金砂のようなものは、敵手の意識を掌握し、フェルトの傀儡と化すウイルス――『Sleep-marionette』であった。
 常ならばこのウイルスを利用して的の制御を奪い、傀儡として意のままに操り、同士討ちをさせるなどの活用をするところだが、今回はそこまではしない。ただ、安らかに眠ってくれれば、それでいい。
 或いは自己満足かも知れぬ。眠りに落とした中で殺されたならば、そのまま夢を見るように死ねるはずだなどと。意識があるまま殺されるよりは、随分ましだなどと。
 ――けれど、それでも、やらないよりは良いはずだ。フェルトは低空に舞い戻り、両手を胸の前で交差させ、祈るように己が騎士らを呼ばわった。
「さあ、騎士達よ。わたしの操る絡繰の騎士達よ。わたしの力となって」
 彼女の十指の指輪が光った。広がる光に引かれるように、宙に描かれた十の陣より次々と召喚され地に降り立つのは、Knights of Filfaden――フィルファーデン騎士団。彼女の指を飾る十の指輪に対応した、只人ほどの大きさの絡繰人形達。
「さあ、行きなさい。この者達が安らかに旅立てるように。眠りのままに逝けるように。一撃で葬り、弔いなさい」
 フェルトの命じる声とともに、いの一番に双剣士と大剣使いが突っ込んだ。舞うように首を刈り取る双剣士と、剛剣一閃、二つ三つの首を一挙に刎ね、一瞬で葬る大剣使い。斬られた肉塊らは、眠るまま、声も上げずに塵埃となって風に吹かれ散る。
 他八の個性豊かな人形騎士団は、全てフェルトの指先と意思一つにより千変万化の戦法をとる、彼女の、彼女だけの騎士団だ。
 眠りに落ちた肉塊らを葬る己が騎士団の戦働きを宙より見下ろしつつ、フェルトはただ一言、贈る言葉を呟く。
「……大丈夫よ。あなた達の仇は、わたしが討ってみせる。だから、安らかに眠ってね」
 手向けの言葉は届いたろうか。届いているといい。
 フェルトは敵が座す大きな屋敷を睨んだ。――ああ、もう少しで、その喉元に手が届く。

成功 🔵​🔵​🔴​

冴木・蜜

村が亡びなければ
同族殺しに身を窶さねば
人が人として終われぬとは

ああ やはり
この世界はあまりにも救いがない

…私は最後尾から追いかけて
討ち漏らしが出ないよう動きましょうか

注射器で己に『偽薬』を投与
体内毒を限界まで濃縮
強化しておきます

肉塊どもと接敵したら
身体を液状化し地面を這い
彼らの身体に触れることで
毒蜜を塗り込みながら進みます

私を喰らおうとするなら好都合
内側から融かし落として差し上げましょう
その肉体で攻撃するならば
身体を伝い上がり包み込んでやりましょう

ああ、良いのですか?
私の毒は触れるものを全て融かし命を侵す
貴方達とて例外ではない

もう終わりにしましょう
私の毒に溺れて下さい



●黒泥は謳う
 最後方を走り、討ち漏らしを探していた。
 彼らが死んだ後の、遺灰めいた塵埃が、今も風に乗ってさまよっている。
 退廃的な庭園の光景の中を、男はただ一人、走っていた。

 彼らは人としてありたかっただけのはずだった。
 ただ、人間として当たり前に生き、当たり前に死にたかった。人としての尊厳のある人生を歩みたかった。ただそれだけのはずなのに――それを果たそうとして、払った犠牲のなんと大きいことか。村が亡びなければ――立ち上がった勇士が、同族殺しに身を窶さねば。人が人として終われぬとは。――否、それどころではない。
 村が滅びて、勇士が死に、その勇士が、死より蘇って力を尽くしても。
 今ここにいる呪肉達は、成れの果ての姿で呻いているというのだ。

「ああ、やはり――この世界は、あまりにも救いがない」

 無明の闇に相応しい救いのなさだ。誰も、幸せに終わることを許されていないかのよう。
 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)は口元から零れる黒いタールを指先で拭った。白衣を纏い、どこか悲しげな表情をした紫瞳の男だ。
 蜜は走りつつ自身の腕に注射器を突き立て、薬液を体内に押し込む。蜜は腕に吸い込まれて消えていく薬液をぼうとして眺めてから、うっそりと目を前に戻す。
 生き残りの肉塊らが数十体、恐らくは猟兵らを後方から襲おうと寄り集まっているのを見る。
「――残念ですが、行かせませんよ」
 後ろから唐突に欠けられた声に、肉塊らがぐりん、と振り向いた。即座に複数の肉鞭が翻り、蜜を打たんと振るわれる。
「ッ」
 肉鞭の先端は、人間が振るうそれと同じく音速を超えた。まるでスタートピストルめいた弾ける音と同時に炸裂する肉鞭が、蜜の身体を捕らえる。その身体が弾けた。二発、三発、四発。立て続けに炸裂した鞭が彼の身体を引き裂き――飛来した肉鞭の先にできた顎が、蜜の喉を食い裂いた。
 ふらり、蜜はよろめいて倒れ――

 どぷ、ん。

 その身体が全く唐突に、人の形を失って、どろりと黒く液化した。
 蜜に止めを指したはずの肉顎が、筆舌に尽くしがたい苦鳴を上げ、内側から溶ける。腐食と侵食は止まらず、火の付いた導火線めいて肉鞭を這い上り、やがてそれを振るった個体を内側から蝕み溶かして殺した。
 驚愕のあまりにか、肉塊らの攻撃の手が止まったその瞬間――黒い液は、まるで波のように地面を這いずって敵勢へと襲いかかる。――その黒い粘液は、言わずもがな蜜だ。彼はブラックタール。不定形の黒毒。
 数十体集まった肉塊らの足下を濡らし、ずるりと彼らの身体を這い上る蜜。じゅうう、と肉が焼け溶ける音が響く。苦鳴らしきものをあげる肉塊らを、しかしぞるりと這い上る黒毒は決して許さない。足下より蝕み、這い登り、溶かし蝕み殺していく――
 初めに腕に打ったあの試薬は『偽薬』。体内毒を限界まで濃縮・強化するもの。今や蜜の身体を構成する黒泥は、触れるだけで肉が焼け爛れ溶け落ちる猛毒である。
『私の毒は触れるものを全て融かし命を侵すもの。貴方達とて例外ではない――』
 呪いにより保持された肉塊だろうとも、構成要素は蛋白質を主とする有機物。
 分解し溶かし壊してしまえば、通常の肉と何ほどの違いも無い。
『――もう終わりにしましょう。これが救いとは言いませんが。――私の毒に溺れてください』
 無慈悲に言う蜜の声が、黒い粘膜の内側に閉じ込められた、哀れな肉塊の呻きを上塗りした。
 ――肉塊らの声はやがて遠ざかり、

 死に、沈む。

成功 🔵​🔵​🔴​

セリオス・アリス

【双星】

ちらりとアレスを横目で見て、目を閉じる
村が滅びるなんざここじゃよくある悲劇だ
けど
それでも
慣れることのないこの怒りは
よくあるなんて言葉じゃ片付かない
それはきっと、滅んだ故郷で戦い生き残ったアレスの方がもっと…
…ああ、アレス
ちゃんと、終わらせてやろうぜ

歌で身体強化
旋風を炸裂させてダッシュで距離をつめたら先制攻撃
横凪ぎに一閃まず一撃
見切り最低限の回避はするが
防御を捨てて速さを優先
わりと慎重なアレスが最初から前に出てんだ
なら、剣の役割は決まってる
炎の属性を剣に纏わせて
強く燃やせ

アレスの陣に合わせ【暁星の盟約】
歌い上げるは鎮魂歌
恨み辛みの声をあげ、声を聞きながら死んでくより
こっちの方がいいだろ


アレクシス・ミラ

【双星】

…剣狼、か
守れなかったことが、救えなかったことが
どれ程の無念だったか、絶望だったか
奴らへの激しい怒りと共に…痛い程、それが伝わる
そして…滅ぼされた僕達の故郷も…思い出す
ーー征こう、セリオス
支配された運命を変えよう
その前に…彼らを葬送らなければ

セリオスの攻撃をカバーするように
脚鎧に光を爆ぜさせダッシュ
彼へと迫る攻撃はかばい、盾で防ぎ
隙を突くように剣で突きと同時に衝撃波で穿つ
盾として引きつけてみせるよ
剣に光を纏わせ、二回攻撃

敵の噛みつきには盾で受け止める
…悲痛な声が、聞こえる
せめて、その魂が或るべき場所へ還れるように…導かせてくれ
敵を押し返し、【天聖光陣】を展開
天地を繋ぐような光柱を放つ



●葬送歌
 ――守れなかったことが、救えなかったことが、一体どれほどの無念だったことだろう。絶望だったことだろう。最前線を駆け抜ける剣狼の吼え声は、見方を変えれば慟哭なのやもしれぬ。天を焦がすほどの激しい怒り。打ち合ったわけではないが、剣狼が振るう剣を見ていれば、それが痛いほどに伝わってくる。
 誘われたように、アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)は失われた自分と親友の故郷のことを追憶する。あのとき、今のような力があればと思わぬ日はない。そうすれば、或いは故郷は滅びずに済んだのではないだろうか、と。
「アレス」
 静かな声が、隣から一つ。
 アレクシスが目を向ければ、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)が、気遣わしげな横目を彼に注いでいる。
「……大丈夫だよ、セリオス。僕は、大丈夫だ」
「なら、いいけどよ」
 答える言葉に、セリオスは大きな瞳を閉じる。――眉根を寄せたその表情からすぐに分かる。彼もまた、この光景に怒りを感じているのだろう。
 村が滅んで失せるなど、ダークセイヴァーでは有り触れたことだ。しかし有り触れているから許容できるというわけではない。幾度悲劇を繰り返そうとも、慣れることはない。悲しみが増えるだけのことだ。よくあることだと納得してしまえるわけがない。
 ――アレクシスには、剣狼の内心が朧気ながら想像できる。彼にもまた、滅んだ故郷で最後まで戦った経験があるからだ。あのとき死んでいれば――そう、或いは彼も剣狼のようになっていたやも知れない。
 止めてやらねば。
 アレクシスは、最前線を血で彩り、狂ったように刃を振るう剣狼を遠目にしながら、長剣『赤星』を抜いた。
「――征こう。セリオス。彼らを葬送り――支配された運命を変えよう。もうこれ以上、誰も何も、失わないように」
「……ああ、アレス。ちゃんと、終わらせてやろうぜ」
 セリオスの応ずる声。
 二人共に、思うことは様々ある。しかし、今は――ただ、終わらぬ苦痛に呻く元人間達を、ただ導いてやらねばならぬ。
 双ツ星は天翔るように走る。彼らを、歪んだ輪廻に囚われた無辜の人々を救うために。


 セリオスは風を、アレクシスは光を、足下にて炸裂させてその反動で跳び駆ける。彼らの得手、元はセリオスが編み出した魔力による発破歩法である。超高速で敵の群目掛け迫る彼らはまるで隼と狼。
 敵が肉鞭を唸らせ二人を迎撃しに掛かれば、アレクシスがセリオスの前に割り込み、盾で殴りつけるように肉鞭を弾きながら進む。
「はっ!!」
 アレクシスは気合一閃、赤星を突き出した。赤星に巡らせた光のオーラが衝撃波となって顕現、まるで赤星の刀身を延伸しためいて光閃を放つ。伸びた光が数体を貫き、即死とはいかずともその攻撃の手を鈍らせる。
「今度は俺の番だぜ」
 アレクシスの影から黒歌鳥が舞った。歌を紡ぎ、風を爆ぜさせ、或いは疾風そのものとなったかのようにセリオスは走る。放たれる肉棘をステップワークで回避、距離を詰めてまず一閃。斬、と一体の首を刎ねる。灰となって散る呪肉の末路に目もくれず、最低限のみ攻撃を見切っての連続斬撃、肉塊の首を達、刎ね、次々と滅ぼしていく。
 肉塊らは数に任せセリオスを包囲しようとするが、包囲され切る前にアレクシスが追いつく。嚙み付くように、打ち据えるように、肉鞭とその先端に出来た顎門がセリオスに襲いかかるのを、立てにオーラを集中させたアレクシスが守る。
 ――うううぅうぅぅ……!!
 悲痛な、呪縛に縛られた、元人間の声が聞こえる。アレクシスは胸の内側に燃える吸血鬼への怒りを抑えつつ、ただ、哀れむべき彼らに祈りを捧げる。
「――せめてその魂が在るべき場所へ還れるように……導かせてくれ」
 盾に注いだオーラを炸裂、肉の鞭を弾き飛ばしながら、アレクシスは地に赤星を突き立てて己の力を注ぐ。アレクシスを中心とした五十メートル半径に巨大な光の陣が敷かれる。
 ユーベルコード、『天聖光陣』。アレクシスが念じるままに、陣のそこかしこから天地を繋ぐ光柱が吹き上がり、次々と肉塊らを射貫いていく! その威力は凄まじく、一度光の奔流に巻き込まれれば次々と光に貫かれ、再生する間もなく肉塊らは浄化され、灰へと還っていく。
 そしてこのユーベルコードにはもう一つの副次作用がある。――それは、セリオスの強化だ。
「求むるは今! 拓くは明日! 闇夜に最果てが迫る時、青き星はその空に暁を見た――暁を知る星よ! 深奥に眠る光を我が手に!」
 それは黒歌鳥の誓い。『暁星の盟約』である。セリオスは天聖光陣の光の陣に立ち、その光と己の持つ『根源の魔力』を重ねることで増幅、自己強化を果たす。剣から、最早留めても置けぬといったように蒼き炎が溢れ出す。
 ――強く燃やせ。もっと、もっと、もっと。親友が燃やす怒りを代弁するように。セリオスはアレクシスの剣。アレクシスが猛るならば、彼もまた燃え猛るが道理。
 セリオスは高らかに鎮魂歌を歌い上げながら、蒼く燃え上がる剣『青星』を翻し、正に彗星のように走った。
 天聖光陣の光柱を逃れ、下肢を撥条めいて変形させて飛び回る敵個体を目掛け、風を足下で炸裂。その旋風にさえ蒼き炎が混じり、今やセリオスは穹を翔る蒼き不死鳥のようだった。
 宙を駆け上り、燃える剣を大車輪に一閃。一撃必殺、首を刎ね飛ばし、骸が灰に変わる前にそれを蹴り飛ばして方向転換、次なる敵手へ襲いかかる。宙を縦横無尽に、狩猟者めいて跳ね回るセリオス。
 ――盾を掲げる白き騎士、宙を舞う苛烈なる蒼の剣と、厳かなる光の柱。そして全てに憐れみをと歌う鎮魂歌。
 まるで絵画のような光景の中を、死した亡者が灰となって舞う。
 舞い散る塵埃となった亡者らを悼むように、アレクシスは一瞬だけ目を閉じ――そして開く。
 倒した敵のその先に、また敵の群が見えた。
 幾つでも、弔おう。響く鎮魂歌を聴かせてやろう。
 それが自分とセリオスに出来る、たった一つの手向けだろうから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


さて──ランだ
随分とまぁややこしい状況みたいだが…やることは変わりないな
オブリビオンを全員殺す──それが猟兵の勝利条件だ
…同情しないわけじゃねーけどな
掲げたものが何も為せないで折られるのは、無念だろうさ…

前座を片付ける時間だぜ
右腕の仕込みクロスボウ展開、【クイックドロウ】で高速射撃
【早業】で次のボルトを装填し、【援護射撃】に回る
接敵されたらナイフの機構を解放、二刀流にして【二回攻撃】
必要に応じて、左の仕込みショットガンで【零距離射撃】だ

よし、傷はもういいな──『Dead Mark』セット
悪いが、再生する前に傷を複製させてもらう
再生が間に合ったとしても、59倍に増えた傷に耐えられるかな?



●Copy & Paste
「さて――ランだ」
 ダークセイヴァーの漆黒の闇間を、一人の猟兵が縫う。
 年若い少年の声だった。光学迷彩を起動、誰の目にも留まらずに闇に沈み走る。
「随分とまぁややこしい状況みたいだが……やることは変わりないな。オブリビオンを全員殺す──それが猟兵の勝利条件だ」
 ドライな声で言い切る影。皆等しく、鏖殺するのみと謳う。……けれど、そのようにして割切ったなら。割切ってしまえたら、きっと彼は彼ではなくなってしまう。合理性の怪物、零と壱で出来たフリークスに成り果ててしまう。
「……同情しないわけじゃねーけどな。掲げたものが何も為せないで折られるのは、無念だろうさ」
 その失敗に寄り添ってやることはしない。かわいそうにと言うつもりもない。トチッた奴から死んでいく、それはこの無明の闇の世界でも、かつて彼が生きたストリートでも同じ事だ。――ただ、少しだけ悼む。戦ったことを肯定も、否定もしない。
 ――そして。
「その形見の願いだけは、果たさせてやるのも悪くねぇ」
 どうせ全てを鏖殺するのなら。死ぬ前に、夢の成就を見せてやるくらいは、悪いことではないだろう。


 彼は両腕のサイバーデッキを起動した。ジッ、と闇の中に走ったノイズに肉塊が気づいたように振り向いた瞬間には、攻撃は始まっている。
 風切り音と小さなスプリングの作動音以外、ほぼ無音で放たれるのはクロスボウの短矢。それが次から次へと、肉塊、二〇体あまりの一団目掛けて降り注いだ。
 突き立つ短矢、噴き出す血。短矢には空気穴が設けてあり、血液がそこから外に噴き出て失血を狙う仕組みとなっている。
 闇の中に揺らめく影を、本能、或いは匂いで検知しているのか、肉塊らは肉鞭を振り回し影を狙った。鋭く撓る肉の鞭を、揺らめく影は飛び越え、ヒットするコースの物を即座に展開した生体ナイフ『エクス・マキナ・カリバーン』で斬り払い――
 斬ッ。
 着地地点近くの一体の肉塊の首を断ち落として着地――ジジジッ、
 ステルス・カモフラージュ、タイムアウト。揺らめく影が解け、闇の中に少年の姿が浮かび上がる――
「悪いが、前座にゃ早々に消えてもらうぜ」
 その少年こそヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)。サイバーデッキと勝利への執念が生み出した、異端のランナーである。
 右腕に展開した仕込みクロスボウから矢をオートで連射しつつ、振り向きざまに近くの敵に静音散弾銃をぶっ放す。BLAM!! 無数の鉛玉が肉塊に炸裂し、肉を抉って大きな傷をつける。
 おおおぉぉぉおおぉぉ……
 さざめくような惨憺たる呻き声。
 ヴィクティムの攻撃は苛烈だったが、肉塊共を一撃で殺すには足りない。彼がここまで倒したのはただ一体きり、エクス・マキナ・カリバーンで首を落とした個体のみだ。肉鞭に加え、伸びる肉棘による中間距離射撃が彼を襲う。
 しかし――やって無意味なことを、ヴィクティムがするわけがない。
「こんなもんだろ。……『Dead Mark』、セット」
 ジッ――闇の中にノイズが走る。連射した短矢、そしてショットガン、或いは斬り払った触手の断面。ヴィクティムがつけたあらゆる傷が、その瞬間――五九倍に増幅された。
 振るわれていた肉鞭が千切れ、肉塊らは即座に自壊していく。膨れ広がる『傷』の概念。ヴィクティムのユーベルコード、コピープログラム『Dead Mark』によるものだ。
「再生が間に合おうと、五九倍に増える傷には耐えられんだろうさ。バズ・オフ」
 顎を聳やかして言うと、増幅され広がる傷に脳を犯され破壊された肉塊らが、一斉に灰となって散る。
 ――その灰吹雪が収まった時――ヴィクティムの姿は、既にそこにはなかった。
 端役は走る。次の戦闘を求めて。

成功 🔵​🔵​🔴​

アトラ・ジンテーゼ
人以外の生き物なら、素材にするのに抵抗はないんですけどねぇ。
これは、なんというか…なんとも…
いや、姿かたち的な意味では、もはや抵抗なんて無いんですけども。
元が人間って事なら…武器の素材にするっていうのも、ちょっと。

…まぁ、仕方ないですよね。
ヴァンパイアとやらを素材にできれば、きっと良いモノになりますし。
ここで欲張る事もないでしょう。

では。「霊衝鉄」と、「援羽晶」を使って…【錬装法】。
なるべく軽い、かつ、大きな剣を作ります。
最後に…「炎霊・ヒエン」。刀身に炎を。
「武霊・ミツハ」。あたしに宿って…その『戦闘知識』で、良い感じに動かして下さい。
さぁ、それでは。炎の剣で、元人間の火葬といきましょうか。



●炎剣、闇を切り裂いて
 空よりかそけき月光降り注ぐダークセイヴァーの暗中に、未だ多数蠢く呪肉塊。既にその大半が猟兵らの活躍、そして剣狼の剣の前に灰となった後だが、それでもなお未だ健在な者もいる。そもそも最初の母数が多すぎたのだ。完全に駆逐するのならば、やはり時間が必要だろう。
「はぁ……人以外の生き物なら、素材にするのに抵抗はないんですけどねぇ。これは、なんというか……なんとも……」
 そんな中、口をチルダの形にし、もにゃもにゃと呟くのはアトラ・ジンテーゼ(四霊の統造師・f22042)。精霊術師にして鍛冶師である彼女は、旅から旅の道行きの中、素材を探すのが最早ライフワークの一環となっているのだが――
 さすがに、呪肉蠢くこの光景を前にして、素材を剥ぎ取る、という考えにはならないようだった。呪肉はまあ、あの伸縮性、再生力など、見るべき所はある素材だと思うのだが。
「いや、姿かたち的な意味では、もはや抵抗なんて無いんですけども……元が人間って事なら……武器の素材にするっていうのも、ちょっと、ねえ。……仕方ありませんねえ」
 嘆息し、アトラはいくつかの素材を懐から取り出す。今回は『霊衝鉄』と、『援羽晶』。それなりに大きな素材が懐から突如姿を現すのは、彼女と共に在る精霊の一つ、位霊『ヨマ』によるものだ。素材を圧縮世界に管理することで、多数の素材を任意の時に喚び出すことを可能としている。
 取り出した素材を同じく喚び出した金床に並べ、炎霊『ヒエン』の魔力を宿した霊鉄槌にて強撃一打! 金属を打つ大音がし、渦巻く炎によって『炉』が成され、瞬刻、その魔術炉の中から飛び出すのは軽く、大きく、羽めいて軽い剣。これぞアトラの秘技、『錬装法』。即座に武装を作り出す能力!
「この惨状を作り出したヴァンパイアとやらを素材に出来るのなら、それこそきっと良いモノが作れるでしょうし――ここで欲張ることもないでしょう。――では、そういうわけで参ります。ミツハ、お願いしますね」
 炎霊『ヒエン』がいまだ宿り、炎熱で周囲の空気を揺らがせる大剣を取り、アトラは目を伏せて、更にその身に魔を降ろす。武霊『ミツハ』。闘争を教え、アトラを導く者。
 再び眼を上げた時には、彼女の瞳には鋭い刃めいた輝きがある。
「さぁ、それでは。焔の剣で、元人間の火葬といきましょうか」
 呪肉の肉鞭が唸る。鎚にて大音を立てた時点で、多くの肉塊が彼女のことを認識していた。当然、即座に攻撃が集中するが――地面を蹴り抉り、アトラは鋭い動きで切り込んだ。自分に当たるものだけを炎発する大剣にて斬、斬、斬と斬り払う。ミツハが操るアトラの動きには全く無駄がない。乱打を飛葉の如く避け、ながら、力を注ぐことで、刀身に帯びるヒエンの熱を焦炎と化す。
「特に怨みも何もありませんが、これで終わりです。よく眠ってください」
 燃え上がる炎によって刀身が延伸! 敵陣に切り込むなり真一文字に振り抜く炎剣が、一挙に十数体の敵を天地上下に両断、その傷口に這った炎が瞬く間に全身を抱き、灼き尽くす……!
 燃え爆ぜるように灰になる呪肉らの狭間をアトラは駆け抜ける。錬装法により作成した装備は加速度的に劣化する。
「素材を無駄にするわけにはいきませんからね。一体でも多く倒すべし、ですよ。ミツハ」
 自分に宿る精霊に命じつつ、アトラは次なる敵の一団へ疾風と駆ける!

成功 🔵​🔵​🔴​

鵜飼・章


何だかすごく邪魔だ
人であったものにこんな感想を抱くのは
間違いだから黙っておくけれど

人体改造、眷属操作、洗脳
全ては僕の得手とする所
僕と彼の憎む領主の間に大差はないな

敵の再生速度以上の【早業】で殲滅する事を主体に行動
UC【裏・三千世界】を発動
【範囲攻撃】により仲間を巻き込まない程度に射程を絞って鴉達を使役する
集まってくる肉片は針の【投擲】で
一つ一つ地面に縫い止め再生を許さない
虫の標本は人よりもっと美しいんだ
偽物は鴉達に食べてもらおう

剣狼さんに追いついたら挨拶を
こんばんは
僕は『正しいこと』をするのが苦手なんだ
だから復讐の手伝いなら喜んで
…ふふ
きみは自分が正しいと思う?
どっちだっていいさ
さあ、行こう



●標本を焼べよ
 ――そして、剣狼は見た。
 屋敷のドアを。間近に迫った敵の牙城を。
 そこに至るまで、あと僅か。しかし敵の抵抗も必死だ。
 呪詛と唸りを上げ、剣狼を罵る声が響き渡る。剣狼は、それを聞き容れることもなく――或いは心を凍らせたかのように、ただ静かに――大刀を持ち上げ、推し通るために構えを新たにする。

「こんばんは」

 出し抜けに挨拶が響いた。男の声だ。剣狼が弾かれた様に声の方を見ると、そこには一人の男が立っている。
 他の猟兵は未だ、周辺か、やや後方で、剣狼の射程範囲から漏れた肉塊らを駆逐して回っているところだ。黒髪の猟兵は、挨拶もそこそこに、出し抜けに言った。
「僕はね、『正しいこと』をするのが苦手なんだ。……復讐っていうのは、一般的に言うのならよくないことだろう。復讐なんて何も生まない、なんてね。――ふふ、だからこそそれを手伝いに来たわけだけど」
「……貴殿らは何者だ」
 剣狼とて、独力でここに至ったとは思っていない。肉塊らを屠るたび、幾つもの助力が己の背を押したことを認識している。問いかける言葉に、黒髪の男――鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、アルカイックスマイルで答えた。
「通りすがりのお節介焼きだよ。……ねぇ、剣狼さん。きみは自分が正しいと思うかい?」
 剣狼はその問いに少しだけ、胸が痛んだような顔をした。
 答えが返るその前に、肉塊らが肉鞭を振り下ろし、二人を四方より猛撃する。
 章は地を蹴り、鴉のように夜空を舞って言った。
「答えにくかったら言わなくて良いよ。どっちだって良いことさ。僕はきみの手伝いをするだけ。――さあ、行こう」
 ――ばさり――、
 羽音がした。幾つも、幾つも、宙を打つ羽の音。か細い月光を遮り、無数の翼影を地に落とすのは鴉の群。章が喚び出した人食い鴉の群は、その名を『裏・三千世界』という。
 肉塊共が翼に気を取られた刹那、剣狼が突撃し肉塊らを薙ぎ倒す。そちらに注意が集まるその瞬間を狙って、章は人食い鴉たちを嗾けた。
「食べ放題だよ。たくさんおあがり」
 鴉たちが黒い風となって襲いかかる。肉を啄み、空の眼窩に嘴をねじ込み、爪で肉を裂いて喰らう。鋼めいた嘴が頭骨を削り脳を啜る。それによって暴れる肉塊あらば、章は手を閃かせ図太い針を投擲。暴れさせる肉鞭をその身体に、或いは地に縫い止めて動きを止める。
「そうしていると標本のようだね。――けど美しくないな。虫の標本は人よりももっともっと美しいんだ。きみたちじゃ、偽物にしかなれないね。――偽物は、鴉たちの餌だ。肉片も残さず食べて貰おうね」
 薄い笑みのまま言うと、章は鴉の群を追加召喚。暴食の鴉たちが肉塊らを貪り、剣狼が突破する隙を作る。剣狼が敵の包囲網を突破し、矢の如く屋敷に向けて駆け抜けるその背を見ながら、章は思う。
 ――ああ、醜いな、邪魔だなあ。
 ひとであったものにこんな感想を抱くのは、きっとひととして間違いだから、決して口にはしないけれど。
 再生速度以上の速度で肉塊らを喰らっていく鴉らの様子を見ながら、章は思う。作るならもっと美しいものを作れば良いのに、と。
 人体改造、眷属操作、洗脳。それら全ては章の得手でもあった。その彼が思うに、領主のやり方は下手すぎる。そこまで考えてから、僕と彼の憎む領主の間に大差はないな、と章は笑った。
 必ずしも全ての真実を口にする必要はない。いらぬことは口にせぬまま、章は悠然と剣狼を追う。彼が歩き抜けるその後ろで、脳を食い尽くされた肉塊達が弾けるように灰となった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『老獪なヴァンパイア』

POW   :    変わりなさい、我が短剣よ
【自身の血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【真紅の長剣】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    護りなさい、我が命の源よ
全身を【自身の血液】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ   :    立ち上がりなさい、我が僕よ
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【レッサーヴァンパイア】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠館野・敬輔です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 気づいたのは、村の名前でだった。
 生前、過ごした村の名前。
 ――私はすぐに察した。今、斬り殺しながら走っていたのは、居並ぶ肉塊は全て、あの頃をともに過ごした同胞たちのものであった。
 なんたる悪辣だ。このようなことが許されていいはずがない。
 しかし、気付いたところで何ができよう。
 私は牧師ではない。祈るすべを持たず、彼らに安息をもたらす功徳もない。
 仮に、仮にだ、襲いかかる肉塊らに身を委ねてこのかりそめの命を捧げ、骸の海に還れば許してもらえようか? よしんばそうして許しを得て、誰が救われよう?

 血に塗れたこの手に持つのは十字架ではなく剣。
 
 ならば、ならばこそ、屠ることしか許されぬ。既に多数を手に掛けた。今更後ろに退けるものか。
 それしか出来ぬこの不徳の身を許せとは、言えるまい。すぐに地獄に追いつく故、待っていてくれとしか、言えるまい。
 そして殺して、殺して、殺して、殺した。
 嘗ての同胞たちを。真っ赤な血に塗れ、塵埃と散る骸に煤けて。


 おまえのせいだ、
    おまえのせいだ、
  おまえのせいだ、
      おまえのせいだ、
   おまえのせいだ、
      おまえのせいだ、
        おまえのせいだ――

 おまえさえいなければ。
 おまえが余計なことをしなければ。
 私たちはこうして惨めに彷徨うことはなかったのに。
 あるいは、今も生きていられたかも知れないのに。


 嘗ての同胞の口から漏れる、呪いの言葉が耳にこびりついて離れない。
 ああ、そうなのか? 皆そう思っているのか?
 私のした事は全て無駄だったのか。……ああ、そうであろうとも。なるほど確かに、力及ばずし損じた。フェイリア・ドレスデンの喉には、私の剣は届かなかった。それについては詫びようもない。
 だが今度は違う。今度こそは。
 罵る嘗ての同胞に、ただ全力で剣を叩き付け、私は走った。
 呪うような言葉が彼らの本心なのか。あるいは、あの吸血鬼が言わせたことなのか。分からない。何も分からない。
 何も分からないまま、私は最後の同胞を斬り、その血飛沫も乾かぬままに屋敷の扉を蹴り開けた。
「――騒々しいと思ったら、野犬風情が墓から戻ったのね。どう? この歓待の趣向は。感動の再会は楽しめたかしら?」
 声が上から降ってくる。
 広いエントランス、真っ直ぐに伸びたレッドカーペット――真っ直ぐ前の階段の上、巨大な自身の肖像画の下に、その吸血鬼はいた。
 フェイリア・ドレスデン。『初めのものども』の一人。――その姿を見た瞬間、私の世界は赤く染まった。
 ただ、殺せ、殺せと、本能と、我が積み上げた業が、そうせよとだけ叫ぶのだ。
 あの悍ましき夜の王を殺せ。
 それだけが、おまえがここに参じた意味なのだと。



  いくつもの死があった。
  いくつもの怨嗟があった。
  誰一人も救われぬ。
  憎悪が渦を巻き、
  誰一人として剣狼を肯定せぬ。
  かれは、どこまで行っても孤独だった。
  
  民のために立ち上がり、
  民のために死に、
  そして、その反逆を贖うために民が死んだ。

  ――その弱さを罪と定めたのは、
  ただ一つの悪辣に過ぎなかったのに。

  夜闇の果て、かれは祖とまみえた。
  不倶戴天の敵、“初めのものども”。
  慟哭が鳴り渡る。

  夜は、まだ終わらない。



    Chapter / 2
      叫ビ、届クニ能ワズ



●夜の王の座
 その絶叫は、まだ外にいる猟兵にさえ聞こえるほどだった。
「フェイリアアアアァアァァアアァアッ!!!!!」
 剣狼は真っ直ぐに踏み込み、斬りかかる。しかしフェイリアは落ち着き払った所作を崩さぬ。
「様をつけなさい、犬ころ。汚い脚で私の屋敷に上がっただけで、万死に値するというのに」
 指を鳴らしたその瞬間、彼女の足下に魔法陣が展開。飛び出した肉の触手が電瞬の早撃ちめいてその身体を打つ。息を詰めた剣狼、当然その一撃程度では致命傷にはほど遠いが、攻撃に圧されて窓を突き破り、外へ弾き出される。
「っぐ、ウゥオオオッ!!!」
「やかましいこと。もう少しは品のある声で鳴きなさいな――と」
 剣狼の叫びが尾を引いて消えていく中、剣狼に続いて踏み込んだ猟兵達に、フェイリアはやや目を瞠る。
「なあに、おまけ付きだったの。……識っているわよ、『過去殺し』。あの犬ころと並んでかかれば、私を殺せるなどと逆上せ上がったのかしら?」
 しかし、それだけだ。すぐに皮肉っぽい笑みを唇に引っかけると、フェイリアは魔法陣から召還した肉の触手に手を触れる。
 触手が沸騰。ボコボコと沸いた肉から、無数のヴァンパイア――彼女自身によく似た姿をしている――が生まれ出でた。
 あの肉塊はそれすなわち死体。そこから、複数の眷属を作り出しているのだ!
「勇気だけは認めてあげるわ。蛮勇だけれどね。全員まとめて、一つにこねて肉種にしてあげる。一人たりとて、逃がしはしないわ」
 放たれる圧倒的な威圧感! 強大なるエインシェント・ヴァンパイアは戦闘態勢を取り、君たちに襲いかかる。
 ――剣狼は外だ。君たちはこの強大な夜の王を、君たちの力で討たねばならない!
 さあ、武器を取り過去に立ち向かえ!

 敵対象、エインシェント・ヴァンパイア『フェイリア・ドレスデン』!
 グッドラック、イェーガー!
 
 
 
◆プレイング受付期限
 2019/11/10 23:59:59(以降、再送分のみ受付)
 
 
 
カタリナ・エスペランサ
私は懺悔も贖罪も望む気は無いの
疾くこの世界から失せなさい、吸血鬼

《先制攻撃+高速詠唱+全力魔法》で【失楽の呪姫】を全力起動、励起した魔神の魂で《念動力》を強化。展開した力場で敵の動きを阻害しつつ、領域内を直接知覚する事で《第六感+戦闘知識+見切り》の先読み精度を上げるわ

機動力の優位を活かす為に《空中戦》を展開。
劫火の嵐を放ち《属性攻撃+範囲攻撃+吹き飛ばし+ハッキング》、炎の持つ終焉の属性で概念的に侵蝕して敵の反撃ごと押し潰すように攻め立てましょう
更に黒雷の《属性攻撃+鎧無視攻撃+スナイパー》も織り交ぜて守りを崩していこうかしら

貴女のような外道を屠る為に得た力よ
骸の海の底の底まで沈めてあげる!



●黒閃一条
「残念だけど、私は懺悔も贖罪も望む気はないわ。疾くこの世界から失せなさい、吸血鬼」
「大口を叩くわね。惰弱な猟兵ごときが、私に命じられる立場だと思っているのかしら!」
「思うわよ――私は、そのために力を手に入れた。貴女のような外道を、骸の海の底の底まで、二度と浮かんでこれないように沈めてやるためにね!!」
 嘲笑うような吸血鬼の声に、苛烈に応えるのはカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)。窓を突き破って外に叩き出された剣狼からの援護は期待できまい。頭数には数えず、カタリナは初手から全力を込めて魔力を集中。敵が攻撃を放つ前に自らのユーベルコードを起動する。
 それは魔神の魂を励起し、黒雷と終焉の劫火を纏う術。カタリナの背の翼が赤々と燃え、黒雷跳ねる。――ユーベルコード、『失楽の呪姫』! カタリナは炎を纏って直進、誰よりも先に打ちかかる。すさまじい速度、ダガーより跳ねる黒雷は、かつて神より奪い取った力の混合体、破壊の権能。励起した魔神の魂により強化した念動力によって力場を作り上げ、敵の動きを阻害せんとする。
「鬱陶しいわね。見えざる手にせよ、品がなくてよ」
 ――しかし祖の吸血鬼、強大なり! いかに強化したとてただの念動力ではその動きを妨げること、罷り成らぬ! 魔眼によって念動力の作用する力場を解析、血で作り出した魔剣にて力場を解れさせ引き裂き、拘束を無効化!
「!」
 動きの阻害は難しい。感じ取るなりカタリナは即座に領域を再展開、作用領域を狭めず偏在させ、敵からの攻撃を即座に知覚するためのレーダーとして使うことを選択。濃度を薄めて偏在させれば、敵とてまとめて吹き飛ばすような真似は出来まい。
 カタリナは空中を高速移動、敵の狙いを絞らせずに、ダガーに集中させた『終焉の劫火』――あの日世界を焼いた炎を火炎弾として嵐の如く速射、その終焉の属性によりフェイリアを焼き滅ぼさんとする。しかしフェイリアもまた老獪なるヴァンパイア。己の血を使用した障壁を何重にも張り、炎弾を防ぎ止める!
 ――今まで幾人の血を飲んだのか。何人を殺せば、斯様な力を身につけられるものか!
 フェイリアは肉塊より複製した分身を走らせ、それらの肉体を操作、肉棘と肉鞭を繰り出させる。カタリナは空中で翼を打ちサイドロール二転、次々繰り出される攻撃を悉く回避しながら、
「はああぁっ!!」
 ――ダガーを一閃、炎の出力を上げて、迫る壁めいて燃やす!
「この程度、防ぎ切れないとでも思っているのかしら!」
 フェイリアは血の障壁の範囲を広げ、三重にして真っ向から炎の壁を受け止めた。壁めいて吹く終焉の劫火と血の障壁がきしみ合い、余波で調度が吹っ飛び燃え、巻き添えを食らったフェイリアの分体が炎に捲かれて燃え尽きる。屋敷の中は一瞬で戦場の様相を呈する。
 カタリナの終焉の劫火がいかに強力であるとて、面と面でその熱量を上回る盾をぶつけられればその先を焼き滅ぼすこと叶わぬ。
 火勢に限りが見えた瞬間、フェイリアは笑い、障壁を変形させ血の刃として放とうと術式を組み替え――
 
 障壁の向こう。燃える炎の中に黒雷を視た。

 カタリナが纏う終焉の炎は、彼女自身を燃やさぬ。
 彼女自身がその炎の源泉、権能の主であるために!
「行くよ……!!」
 失楽の呪姫、最大出力。反動に口から血を流しながらも、黒雷を纏い、最大戦速にてカタリナは突っ込む。炎を受けるために拡大された血の障壁を、黒雷を収束・集中したダガーによって突き破り、弾丸めいて飛ぶ!
「炎をブラフにッ……くっ!」
 フェイリアは意図を汲むが、さりとてそれは最大戦速のカタリナから逃れられることを意味しない。
「これが、貴女が嘲る猟兵の――底力よ!!」
 一閃ッ!!!
 黒雷の雷轟が跳ね、カタリナが放ったダガーの刺突、黒閃一条がフェイリアの胸を穿ち、後方に弾き飛ばす……!!

成功 🔵​🔵​🔴​

日向・士道
言うに及ばず。
語るに至らず。
死者を愚弄し王を名乗る貴様こそ、小生が斬るべき怨敵にほかならぬ。

仁之型【陰摩羅鬼】
呼び出された吸血鬼共を、片端から斬り伏せよう。
吸え、酒呑童子。
死してなお辱められる者たちの怨嗟を。
歪められ、在り方を損なわれ、なおも従属を強制される哀れな者共を。
恨みを、憎しみを汲み上げて、魂を救済せよ。

小生の体は感情の器。
君達の全てを力に変えよう。
故に委ねて安らかに、輪廻に返り来世で幸を受けると良い。

……さあ覚悟せよ悪鬼
この体、いかに傷つこうと、手足が千切れようと。
貴様の首だけは刎ね飛ばし、無限の死へと叩き込むぞ



●呪怨斬月
 最早、言うに及ばず。語るに至らず。
「――死者を愚弄し王を名乗る貴様こそ、小生が斬るべき怨敵にほかならぬ」
 カタリナが吹き飛ばしたフェイリアは柱を一本叩き折り、その奥の調度を薙ぎ倒して、もうもうと上がる埃の中に沈む。それを追い、地を削って爆ぜ駆けるのは日向・士道(パープルシェイド・f23322)。蹴り飛ばした床板が撓み、その踏み込みの強さを示す。
「吸え、酒呑童子。死してなお辱められる者達の怨嗟を。歪められ、在り方を損なわれ、なおも従属を強制される哀れな者共を。――全ての恨みを憎しみを、刃幅満ちども汲み上げて、その魂を救済せよ」
 朗々、歌う。士道は駆け抜けざまに、肉塊より生み出された分体を、フェイリアがコントロールを失っている間に片っ端から斬り伏せていく。
 斬ると同時に『妖刀“酒天童子”』が妖しく光り、分体を構成している肉の元の持ち主――無辜の人間らの恨み、辛み、悲しみをその刃に吸い上げていく。
「小生の身体は感情の器。……君達の全てを力に変えよう。かつて届かなんだ恨み、憎しみ、その全てを小生が負おう。――故に委ねて安らかに、輪廻に返り来世で幸を受けると良い」
 士道は努めて優しく語った。魂がそれで真に救われるかどうかは分からない。士道は學徒兵、戦士だ。浄土を視たことがあるわけでもない。死後の真実を識るわけでもない。
 ――ただ彼は、死者を慈しみ、悪を憎む。正しい心を燃やすことの出来る男だった。死者の安息を祈り、死者の想いを酌んだ刀を持ち。
「覚悟せよ悪鬼。いかに傷つこうと、譬え手足が千切れようと、貴様の頸だけは刎ね飛ばし、無限の死へと叩き込む」
「嘗めたことを言うのね――過去殺し風情が!!」
 己に積もった、ガラクタとなった調度や建材を撥ね除け、フェイリアが跳ね起きざまに士道へ向かって駆けた。二人は互いに吸い込まれるように近接、すさまじい勢いで剣戟を重ねる。
 フェイリアは短剣をコアとした真っ赤な長剣――血により作り出した刃だ――にて苛烈に打ち込む。それを士道、仁之型【陰摩羅鬼】にて、亡者の怨嗟を吸い上げた刀にて真っ向迎え撃つ! 刃が跳ね合い、フェイリアの苛烈なる剣閃が次々と士道の四肢を、あるいは脇腹を、肩を、裂き傷つける!
「口ほどにもないわね、このまま刻んでやるわ――!」
 避けようのない位置から振るわれた剣が、士道の左腕を半ば断った。圧倒的な実力差。

 ――眼差しを尖らせる。
 今一度、その深い怨みを思い出せ。

 士道は引かぬ、決して退かぬ。
 許せぬ外道がいる。果たさねばならぬ正義がある!
 怨嗟の声が、悲しみの声が、正義の學徒の背なを押す!

 今一度士道は前に出た。片手だというのに、常世の鉄では決して打ち合えぬほどの鋭利さと靱性を備えているはずの血剣を、おお、その刀が弾き、そればかりか押し込む!
「な、あっ」
 祖たる女が瞠目するほどの瞬間出力!
 重なる剣戟、少しずつ、少しずつ士道が圧す! それは決して派手な優勢ではない。しかし、彼そのものの性格を示すかのように、決して譲らず、確実に圧していく! それが目に見える頃になれば、フェイリアの表情に怒りと焦りがちらつく――
「っこの、人間風情が、」
「これは」
 言おうとした夜の王の声を、『ただの人間』の声が遮った。
「これこそは、貴様がかつてそうして嗤った、『人間風情』の憎悪の塊。――貴様の生んだ嘆きの声だ。貴様に返すのが筋であろう?」
 が、っぎいいいいいいいいいんっ!!
 一際強く打ち合った、まさにその刹那。大音と同時に血剣が綻び、酒呑童子がその刀身に食い込む。今度こそ瞠目する吸血鬼を前に、士道はその刃が軋るように低く吼えた。
「仁之型【陰摩羅鬼】。――御命、頂戴」
 斬ッッッッ!!!
 血の剣を断ち切った酒呑童子の一撃が、フェイリアの身体を深く薙ぎ――散る血と、壮絶なる苦鳴が響き渡る!

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬幸・夢人

つくづく報われないね、あの剣狼さんもよ

もしとどめを刺せるならコイツの首くらいはくれてやってもよかったんだが

……ま、こうなっちまったらしょうがない
運がなかったと思ってもらうしかねぇな
俺もアンタを殺す理由は道すがら作ってきちまったしな

分身体は可能なら1章から継続して戦闘を行う
銃撃のクロスファイア、鋼糸による四肢切断をもって相手の動きを鈍らせる
最後は分身体を囮又は犠牲にして、UC「神さえも覆せない確実」で仕留める

そろそろ生きるのも飽きただろ
――くれてやるよ
神様も覆せねぇ絶対の理――即ち
テメェの死だ



●次元一刀
「やれやれ。つくづく報われないね、あの剣狼さんもよ」
 斬幸・夢人(終焉の鈴音・f19600)は、壊れた窓と外から聞こえる戦闘音に肩を竦めて、参戦の隙を伺う。外で剣狼が、おそらくは大量に召喚された眷属と戦っているのだろう。
 フェイリアがそれに一定のリソースを割く必要がある中、猟兵達にその縛りは存在しない。剣狼が戦う間も、猟兵らは代わる代わる、自信が最適なパフォーマンスを発揮するタイミングでフェイリアと対し、最大火力を叩き込み続けている。
「小賢しい過去殺しどもね……!」
 苛立った風にフェイリアが柳眉を逆立てるのもどこ吹く風。夢人はゆらりと構えを取り、フェイリアと戦闘中の前衛の挙措を観察。ぼやくように呟く。
「並んで戦えたならコイツの首くらいはくれてやってもよかったんだが――ま、こうなっちまったらしょうがない。俺達は俺達でやらせてもらうさ」
 その脇を固めるのは、三体の分身。――ユーベルコード『神さえも覆せない理想』で作り出したものだ。
 交戦中の猟兵とフェイリアの間合いが開いた瞬間に、分身を先行させ、夢人は割り込むように襲いかかった。
「――よう、吸血鬼。そろそろ生きるのも飽きただろ、今日で幕引きと行こうぜ。……道すがらアンタを殺す理由をいくつか作ってきちまったんだ。悪いが、ここで死んでくれ」
「人間風情が私を殺すですって? ダークセイヴァーの無明を作った一人であるこの私を? ――冗談も休み休み言うことね!」
 吼える声と同時にフェイリアは腕を打ち振るうなり、赤く透明な硝子壁めいた障壁――『血壁』を展開。それを正面に、まさかの高速射出!
 血液を無敵の鎧の如く纏う骸装術の応用だ。初めのものども、祖たる彼女が扱う骸装術はそれ単体が恐るべき武器!
 展開された血壁が超高速で迫る。分身の一体が正面からまともに衝突、その撃力で砕け、薄れて消える。残二体と夢人は間一髪回避。
「危ねえな」
 囮として分身を先行させたことが命を繋いだ。敵の手札をさらに明らかにせねばならぬ。残る二体の分身に命令、即座に銃での十字砲火に切り替え。射線を重ねず、二体が同時に放つ銃弾を、フェイリアは壁を多面展開、銃弾を弾いたそばから血壁を射出、夢人の分身を猛撃する。かろうじて掻い潜りながら分身が伸ばす黒き鋼糸の悉くを、フェイリアは手にした優美な血の長剣をタクトめいて振り、不可視の筈の鋼糸を断ち落とす。
 夢人は踏み込みかねたように立ち止まる。攻略の糸口を探す。
 敵の能力を整理する。銃弾は壁に防がれる。壁は発生から任意のタイミングで射出、身を守るだけでなく攻撃に使用可能。近づけば血の長剣による斬撃が待つ。距離を取れば眷属を増やし襲わせる――穴がない。
 夢人はフェイリアを凝視する。圧倒的な夜の王を。その目の前で――中空に発生した血壁が、まるでプレス機めいて夢人の分身を纏めて叩き潰す。
 しん、と一瞬の沈黙、
「お前を潰せばおしまいね。今視た通りにしてあげるわ」
 夢人の分身術を見抜いていたか、嗜虐的な笑みを浮かべ、血壁を編むフェイリアに――しかし夢人は吐き捨てるように言った。
「――言ったはずだぜ。死ぬのはお前だ。くれてやるよ。これが神様も覆せねぇ絶対の理――即ち」
「御託を並べるなら地獄でなさいな!」
 血壁が夢人目掛けて放たれる、まさにその刹那。
 彼は回避の構えすら取らず、その腰に帯びた刀の鯉口を切った。

「テメェの、死だ」

 その斬撃こそ――『神さえも覆せない確実』。
 まるで因果の刃。発された、ただ虚空を斬っただけの筈の居合が――

 飛ぶのではなく、血壁を越え。
 空間そのものを跳躍したかのように、フェイリアを断った。

「は……っ?」
 斬撃に一瞬遅れ、戸惑うようなフェイリアの声。彼女が打ち振った右腕は半ばより断たれ、宙にひゅるひゅると飛び、どさりと落ちた。――術式が途切れ、血壁が解け、思い出したようにその腕から血が飛沫く!
「く、うああああっ……!?」
「何発でもくれてやる。――コイツがアンタの頸を断つまでな」
 発するは不可視、必中の次元一刀。
 今一度放つべく夢人は納刀、再び敵を睨み据える!

成功 🔵​🔵​🔴​

ジュリア・ホワイト

正義の味方は後手に回りやすい存在でね
『憎いあいつを代わりに討ってくれ』という声に応える復讐者もヒーローの側面の一つなのさ
「対象の殺害が許されるかどうかはその世界に寄るのだけど……」
今この場では、敵も含め誰も咎め立てはしないだろうね

石炭をかじって【圧力上げろ!機関出力、最大開放!】を発動
敵の技量と武器からして隙の大きい攻撃は危険かな
何より力ある吸血鬼相手に出血をするのも誘うのも悪手
守りを重視して負傷を避けつつ
『No.4』の魔法弾と黒のスコップの打撃でコンパクトに攻撃を仕掛けていこう
「ボクは過去を殺すのより、未来を切り開くほうが好きでね!悪意で希望を阻むなら、力づくでも退いて貰う!」



●前照灯が夜を裂く
 傷を再生しながら飛び退くフェイリアに、朗々と発される声一つ。
「正義の味方というのは、後手に回りやすい存在でね。――『憎いあいつを代わりに討ってくれ』という声に応える復讐者もヒーローの側面の一つなのさ。対象の殺害が許されるかどうかはその世界に寄るのだけど……少なくとも、今この場では誰も咎め立てはしないだろう。君もそのつもりみたいだしね、吸血鬼」
 がり、がりり、と取り出した石炭を噛み砕き、交代するフェイリアのサイドから長台詞を一つぶるのはジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)。ここまでの戦闘を見るに敵は高い技量を備え、戦況に応じて戦法を切り替える柔軟性のある相手だ。大技を使ってその隙を衝かれるのはよくない。
 ましてや吸血鬼。敵の血を奪い己が力とする化物どもの、そのまた頂点に位置する怪物だ。出血はなるべく避けたい。
「そうね、ここでは私が法だもの。莫迦を殺して晒すのに否やはないわ。でも一つ訂正してあげるわ、猟兵。殺すのは私、殺されるのは貴女。正義は私、裁かれるのは貴女よ。履き違えないで頂戴な?」
「――君みたいなのが正義を語ると、言葉が汚れる。口を閉じなよ」
 ジュリアは今一度石炭を噛み砕く。年若い少女の姿をしているが、彼女の正体はかつてヒーローズアースを駆け抜けた蒸気機関車、そのヤドリガミだ。飲み下した石炭が彼女の中のボイラーで燃え、その出力を上げる。
 ――『圧力上げろ!機関出力、最大開放!』
 ジュリアは、いわば己が本体の心臓部であるボイラーを最大火力で燃やし、己の身体能力を最大増幅して突っ込んだ。 右手にしたのは黒光りする、燃料用のそれと思しき大型スコップ。少女が持つには無骨すぎるその武器――否、武器ですらない凶器を振るい。立ち塞がるレッサーヴァンパイアを文字の通りに粉砕。立て続けに三体を血と骨片に還し、フェイリアへと迫る!
「猟兵風情が私にしたり顔で命令とはね。頭を垂れなさい、無礼者が!」
 最早言葉もない。旋風の如く踏み込んだジュリアが唸りを上げてスコップを叩き付ける。
 而してフェイリア・ドレスデン、精強である。その血長剣が金属音を立ててスコップの一撃を弾き、返す刀で流麗な剣筋の斬撃を走らせる。ジュリアのスコップの一撃の間にフェイリアの斬撃はおよそ四。攻撃速度に圧倒的な差があり、瞬く間に劣勢に陥るが、ジュリアはなおも内燃機関を熱く燃やす。スコップを軋ませながら斬撃を受ける!
 劣勢に陥れど守りを固め、決して攻めきられることなく食い下がる。
「思いのほかしぶといわね……、このッ!」
 振り下ろされる紅の長剣! ジュリアはスコップの刃先でそれを受け、軋ませながらも止める!
 ぎゃぎ、ぎぎぎぃっ! 噛み合い軋る長剣とスコップ、不安定の中に作られた一瞬の均衡。その隙に食いつくようにジュリアは左手を疾らせる。
 腰に伸べた手が『No.4』のグリップを掴んで掻っ攫う。雷光めいたクイック・ドロウ。
 銃声銃声銃声銃声!! 抜きざまの高速連射、至近距離でマズル・フラッシュが瞬き、フェイリアの視界を奪いながら弾丸を炸裂させる!
「くうっ!?」
「君はボクを過去殺しと呼んだけど――生憎ボクは過去を殺すのより、未来を切り開くほうが好きでね!」
 銃弾を斬り払いつつも数発を受け、よろめくフェイリア目掛けジュリアはもう一歩だけ踏み込む。内燃機関全開! ありったけの蒸気を回せ! 機関出力、最大解放!!
「悪意で希望を阻むなら、力づくでも退いて貰う! ――吹き飛べ、吸血鬼……!!」
「が……はっ?!」
 渾身の一撃。風を孕んで唸るスコップの平が、ジュリアの身体を歪ませながら、横殴りに吹き飛ばす……!

成功 🔵​🔵​🔴​

アウレリア・ウィスタリア

お前の在り方は不快です
だからボクの、私の……
お前が汚してきた人々の絶望を送りましょう

魔銃で牽制しつつ地を空を駆け抜けて隙を伺います
これだけ自信家なのです
牽制を外したりすれば隙の一つぐらい…
ダメなら駆け抜ける合間に血糸を張り巡らせて
一瞬でも良い
敵の動きを封じましょう

その隙に【空想音盤:絶望】を発動
私は弱者だからこそ
この痛みを受けた
弱者だからこそ、この絶望を受け止めきった
受け止めざるを得なかったから

お前はどうですか?
強者であるお前はこの絶望を受け止めきれますか?

思い出すと頭痛がする
けど、私は動けないほどじゃない
だから魔銃に込めた一発の弾丸
破魔の呪殺弾にありったけの力と血糸を絡めて
敵を撃ち抜きます



●絶望あれと彼女は歌った
 フェイリアの身体が、猟兵の攻撃により大きく撥ね飛ばされる。最初に彼女自身が剣狼にそうしたように、その身体は窓を突き破って館の外に弾き出された。
 そんな中、建物から駆け出てそれを追う猟兵よりも早くそれを捕捉した猟兵がいた。アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)である。
「不快です。お前の、その在り方が。……お前が汚してきた幾千幾万の……そして、ボクの、『私』の、絶望を贈りましょう。残さず飲んで、悔いて詫びなさい」
 フェイリアの身体は地面でバウンド、地面にヒールが衝いた瞬間に跳躍、回転、運動エネルギーを回転に逃がして、血剣で辺りを払いつつ復位。追撃に対する備えだろう。……敵の動きから油断が消えつつある。
「……劣等種がよくも吼えるものね! 悔いなどないわ、私は常に私に正直に正しく生きてきた! 後悔するのは貴様の方よ。すぐに引きずり下ろしてあげる……!」
 フェイリアは宙に描いた魔法陣よりいくつもの呪肉塊を召喚。呪肉を変形させ肉鞭めいて空中のアウレリアを射貫くように伸ばす!
 アウレリアは即座にそれを回避、魔銃『ヴィスカム』を抜き、地上のフェイリアを撃つが、フェイリアは血壁を展開、それを弾きつつさらに続けざまに肉塊を喚ぶ。ひたりと手を押し当てれば、肉塊から幾人ものフェイリアのコピーが産まれる。吸血鬼もどきを即座に作り上げ、傀儡として操る秘術である!
「遊んでらっしゃい」
 フェイリアの号令一下、生み出された分体たちが紅い長剣を手に、肉塊が伸ばした触腕の上を駆け、空のアウレリアを目掛けて攻め上がる!
 その数、十二! ヴィスカムで個別で狙うには手が足りない! 判断は素早い。アウレリアは即座にソード・グレイプニルを抜き、敵が足場とする肉塊の触腕を斬り捨てて距離を離す。
 だが、一撃、二撃で七つ斬り払ったとて残五! 空へ飛んだフェイリアの分体たちが、血の長剣より紅き呪いの飛刃を放つ!
「っく、ぁう……!」
 アウレリアは連射される飛刃を掻い潜るように飛ぶが、まるで滝の如く集中して放たれる飛刃は、最早回避する隙間すらない密度……! 否応なしに数発を被弾、翼に食らった一撃が止めとなり、アウレリアは全身より血を噴きながら地上へ急速落下。
 下には、先ほど足場を斬り払って地に追いやった分体が七体。上から追ってくる気配が五体。フェイリアのにやつく視線が、己に絡みつくのを感じた。
 少女は歯を食いしばり、目を決然と開く。

 ――絶望に抗え。

 アウレリアは噴き出す血を撚った。
 血糸、『レージング』。鋼鉄に勝る強度の糸。
 垂れ流す血に魔力を通わせ糸とし、傷ついた翼がさらに裂けるのにも構わず羽撃く! 
 地面に激突するその寸前で広がった翼が揚力を生み、急上昇軌道に転じる!
「なっ」
 驚愕の声も一瞬。伸ばしたレージングがフェイリアの身体を引っ掛け絡め取り、宙に引きずり上げる!
「私は弱者だからこそ、この痛みを受けた。弱者だからこそ、この絶望を受け止めきった。……受け止めざるを得なかったから」
 アウレリアは捉えたフェイリアに訥々と呟く。
「――お前はどうでしょうね? 強者であるお前に、この絶望を受け止めきれますか?」
 言葉と同時に放つのは、かつて彼女が受けた責め苦と同質のもの。苦痛と絶望を再現する空想音盤。
 ――『空想音盤:絶望』。
「なッ……あ、ああァァァァッ!?」
 高貴であるからこそ。高位であるからこそ。
 放たれた思念波から伝わる陵辱と拷問の苦痛と絶望など、識るわけもあるまい。いつも彼女は『それをする側』だったのだから!
 思わずと悲鳴を上げ、頭を掻きむしるフェイリアを宙に放り出し、アウレリアは最後の力で右手のヴィスカムの銃口を跳ね上げた。
 相手に味合わせるために追憶した、吐き気のするような記憶。――しかしそれは彼女にとっては越えてきたもの。耐えられぬものではない。
 ただ一発残った呪殺弾をフェイリアの胸の中心を狙い――

 トリガー。

 突き抜ける銃声。フェイリアの胸から血が散り、背中の肉が弾け、貫通。
 ――響く苦鳴が、ダークセイヴァーの夜空を揺らす。

成功 🔵​🔵​🔴​

ティオレンシア・シーディア


人間風情・猟兵ごとき・高貴なる血…
毎度毎度聞き飽きた御託ゴクローサマ。
あなたがヒルだろうが蝙蝠だろうが、あたし別に興味ないの。
――さっさと死んでくれる?

とはいえ、無策じゃさすがに無謀ねぇ。
下準備兼ねて聖水充填したグレネードバラ撒くわぁ。
当たらなくてもいいの。ラグ(浄化)とエオロー(結界)で領域を塗りつぶし、隙を○見切って●封殺を○一斉発射。
銀の弾丸に刻むルーンはダエグ・シゲル・ユル。
「黎明」の「陽光」をもって「訣別」の証とするわぁ。

「無明を作った」って自分で言ったんじゃないの。
…初めからそういう法則の世界だったならいざ知らず。「作られた」物である以上、壊せない、なんて道理はないでしょぉ?



●真夜中にさよなら
 背中より血を散らしながらもフェイリアは即座に宙で身を翻し、態勢を整え着地。
「憎らしい連中だこと……群れるばかりか、こうまで虚仮にしてくれるとはね……! 人間如きが、少し調子に乗りすぎよ!」
 フェイリアは胸に開いた穴を一瞬で復元。その魔力量は底なしか、彼女は傷を負うたびその身体を魔力で編み直し、即座に復元する。
 なるほど、エインシェント・ヴァンパイアには物理的な傷など、魔力さえあればものの数ではないのやも知れぬ。
 だが、復元を要すると言う事は、その損傷をそのままにしておけば不都合があるということだ。今まで幾度も強大な敵を倒してきた猟兵達は識っている。
 ――殺せぬ過去など、いはしない。
「人間風情、猟兵ごとき、高貴なる血……長く生きた割に貧弱なボキャブラリーねぇ。毎度毎度聞き飽きた御託ゴクローサマ」
 皮肉を滲ませた甘い声が揶揄するように言った。――ティオレンシア・シーディア(f04145)である。手に提げた一丁のリボルバーをスピンさせながら、木立の影より姿を現す。
「悪いけどねぇ、あなたがヒルだろうが蝙蝠だろうが、あたし別に興味ないの。――さっさと死んでくれる?」
「無礼もここに極まるわね。そのまま返してやるわ、劣等種が!!」
 フェイリアは腕をスイング。瞬間、『血壁』が構築される。フェイリアの血と魔力によって編まれたその強靱なる壁は、敵の攻撃を通さぬと同時に――
「死ね!!」
 ――放つことで、超高速で敵を撥ね飛ばす面攻撃武器となる!
 ティオレンシアは既にその攻撃を予見して横に走っている。所見ならともかく、他の猟兵が戦う中で見ている攻撃だ。ティオレンシアは鋭く駆け抜けながら、左手に三本、手挟むように柄付きグレネードを抜いた。
 こちらをナメ切っているとはいえ、敵は強大なるヴァンパイア。下準備を怠るつもりはない。
 即座に投擲。空中に飛んだグレネードを、敵が壁を編み落としにかかる前にリボルバー『オブシディアン』で撃ち抜く。
 ――爆裂!!
 破片を警戒したフェイリアが飛び退き、壁を張って身を守るが――
「……?」
 爆ぜたグレネードは少々の破片と、聖水を撒いただけ。
 立て続けにティオレンシアはありったけのグレネードを投げ、敵の周囲で爆発させる。
「――単なる虚仮威しをいつまで続けるつもりかしら!」 聖水とてもろに浴びれば脅威となれど、フェイリアほどのヴァンパイアをそれだけで滅せるものではない!
 無視できる脅威だと踏んだか、フェイリアは紅い剣を構え、グレネードの爆発の間を駆け抜け、ティオレンシアへ迫る。
 剣先が閃く。一瞬で四閃、空中に刻まれた斬閃の形をした、赤き魔力の飛刃がティオレンシアへ襲いかかる。即座に回避、さらに銃弾で落としつつ後退。だが、迫る吸血鬼の速度並ならず、両者の距離は瞬く間に縮む!
 さらにはティオレンシアのリロードの隙、そして回避跳躍の着地際を見切って、フェイリアが繰り出す三連斬波! 身をよじるティオレンシアだが、その脚を深く裂いて剣波が抜ける! 
「ッ――」
 足が止まる。彼女の身体を立て続けに残り二つの剣波が刻み、血を飛沫かせる。よろめく彼女へ向け、フェイリアが瞬息、突撃――
「叩いた大口を後悔しながら死になさい、虫螻!!」
 紅き長剣を翻した、まさにその刹那。
 ティオレンシアの目が、白々と、刃の切っ先めいて光った。
 右手首のスナップで跳ね上げた銃口。叩き付けるように振り下ろす左手。ハンマーを叩く掌底、激発、反動に跳ねる銃口を制御、復位させる動きと合わせ再びハンマーを叩く、銃声、叩く、銃声。
 ――瞬きの間とない三連射。放たれる弾丸にルーンは順に『黎明』『陽光』、そして『訣別』。
 このルーンの銃弾のみでは敵を貫けまい。分かっていたからこそ、浄化と結界のルーンで祝福された聖水入りのホーリー・グレネードで周囲を塗りつぶした。周到に、重ねた準備のその上で。


 いま、この刹那にヤツを穿つ。


 三つの銃弾がほぼ同時に胸部に着弾。口と背、胸から血を噴きながら、瞠目し蹈鞴を踏むフェイリアに、「驚くようなことじゃないでしょ」とティオレンシアはいらえた。
「『無明を作った』って自分で言ったんじゃないの。……初めからそういう法則の世界だったならいざ知らず。『作られた』物である以上、壊せない、なんて道理はないでしょぉ?」
 リロード、ガンスピン。
 キャッチ、サイトの間にヤツを捉える。

「今から夜を明かすわ。あなたって夜をねぇ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

青葉・まどか


ノー・マンズ・ランドの支配者
領民を殺しつくした暴君
実にこの世界の支配者らしい外道
こんな奴が『初めのものども』ならば、この世界に絶望が溢れているのも納得できる

だけどね、私はこの世界がこのままなんて嫌だし、フェイリア・ドレスデン。お前が存在することが赦せない
だから殺すよ。お前を

フック付きワイヤーを駆使してワイヤーアクションで接近
敵の攻撃は【視力】で【見切り】、【残像】を残しながら回避

相手は強い。私じゃ攻撃を躱すだけで精一杯だ
このままでは押し切られると思い、捨て身の攻撃に転じるが逆にカウンターをうける羽目に
ボロボロになりながら得た戦果はかすり傷一つのみ

それで充分
『逆しまの毒』
暴君には毒がよく似合う



●暴君の酒杯に毒を
 曰く、ノー・マンズ・ランドの支配者。領民を殺しつくし、人一人も残さなかった邪悪なる暗君。
 ダークセイヴァーという世界を煮詰めて戯画化したらこうなる――というほどに、絵に描いたような外道ぶり。
(こんな奴が『初めのものども』ならば、この世界に絶望が溢れているのも納得できる)
 青葉・まどか(玄鳥・f06729)は庭園に茂る木を、東屋を、石柱を、次々とワイヤーで飛び移りながらフェイリアに迫る。他の猟兵の攻撃を撥ね除け、フェイリアが彼女を向き直る。
「次から次へと羽虫のように、よくもまあ群れるものね……!」
「その羽虫にこれから殺されるんだよ。お前は。――私はこの世界がこのままなんて嫌だし――何より、フェイリア・ドレスデン。お前が存在することが赦せない。――だから殺すよ。お前を」
「嘗めるな、矮小な劣等種が……!!」
 まどか目掛け、フェイリアは魔力と己の血を混ぜて『血壁』として現出。斥力術式によりそれを超高速射出! 斥力で支えられた、銃弾すら防ぐ硬度の壁! 激突すればただでは済まぬ!
 まどかは残像を残し、次々放たれる赤壁を回避する。すさまじい密度で連射される壁を、まどかは四手先まで見切り回避。ワイヤーの張りを調整して加減速、切り離して次のワイヤーを射出して張り、紙一重で避け続ける
 ――強い言葉を使った。それは、彼女の虚勢でもあった。
 敵は強い。猟兵達はかろうじて一矢を報い、傷つきながらもフェイリアの体力を削り続けている。歴戦の猟兵をしても、敵を即座に死の淵に追い込むことはできない。
 まどか自身とてそうだ。攻撃を躱すだけで精一杯――このままではジリ貧、追い込まれて負ける。
 ワイヤーで近づけるところまで近づき、切り離して身体をひねり猫めいて着地。まどかは姿勢を低め、まるで飛燕が地を這ったかと見紛うようなスピードで駆け出す。
 ――捨て身にならねば、一太刀すら浴びせられない。
 まどかは放たれる壁をサイドステップで避け接近! もう数歩で敵まで届く!
「無駄な努力ねぇ」
 嘲笑うような声がして、先読みの血壁が放たれる。真正面、避けようのない位置からの攻撃。直撃すればいかにまどかとて重傷は免れぬ。しかし、まどかは『ガジェット・ドリル』を引き抜き、高速回転させながら突き出す!
「く、うううううっ……!!」
 赤壁を削る耳障りな音が響き渡る。壁の推進力のあまりに、まどかの腕が軋む! しかし火花を散らしながらも、ドリルの刃は負けることなく高速回転――回避不能の筈の赤壁を、今まさに突き破る!
「……虫螻が藻掻く様も、過ぎれば不快ね」
 苛立ちを隠さぬフェイリアの声を一顧だにせず、まどかは反対の手に即座にダガーを抜き、ドリルを捨ててフェイリアへと襲いかかる!
 フェイリアは紅の長剣にて迎撃! 僅か一瞬で十数合の剣戟が響き渡る! 圧縮された時の中に生きているかのような、超高速での剣戟連弾。
 まどかはダガー二刀、対するフェイリアは一刀にもかかわらず、その手数はまどかを上回る。それどころか、時が経つほどにまどかの傷は増えゆく。
「いいざまね、猟兵。このまま斬り刻んであげるわ!」
「……!」
 フェイリアの哄笑。剣先がぶれるように揺らめき、幻影を交えた超高速での連続斬撃が来る。次々、まどかの手足、肩、脇腹、太股から血が噴き出す。受けきれない!
「っ、ああああっ!!」
 まどかは一か八かと言わんばかりにダガーの片方を投擲。
 しかしせせら笑うように弾くフェイリア。返す刀で長剣を振り下ろし、まどかを断ちにかかる。逆手に握ったダガーで必死に受けるまどか。
「終わりよ」
 ぞ、りっ、
 ダガーに紅の長剣が食い込んだ。そうなれば後は一瞬。ダガーが断ち切られ、長剣がまどかの身体を深く裂く。
「、あっ……」
 血が噴き出す。膝を折るまどか。
 罪人を断ずるようにフェイリアは剣を高く掲げ、まどかの頸目掛けて一刀を振り下ろす――

 まさに、その刹那。その背中に、ダガーが突き立った。
「……な、っ……」
「……ふふ、」
 膝を地に着きながら、まどかは小さく嗤った。
 その手から伸びたワイヤー。――放つダガーにワイヤーを結びつけておき、操ったのだ。
「……古今東西、暴君は毒で死ぬと決まっているわ。……お似合いよ、吸血鬼」
「貴、っ、様……!」
 暴君は唇をわななかせ、数歩後ずさるように蹌踉めいた。
 ダガーに塗られた『逆しまの毒』が、
「っぐ、ううああああぁっ……!??」
 フェイリアの血を沸騰させ、無限の苦痛でその身を満たす……!!

成功 🔵​🔵​🔴​


●盗賊姫の刃雨
「私を殺すために遙か彼方からご苦労なこと……! どれだけ数を揃えても無駄よ、全員叩いて潰して挽肉にしてあげるわ……!!」
 攻撃をいなし、受けた損傷を治癒し、フェイリアは猟兵らを寄せ付けぬように四方目掛け紅き壁を『撃ち放つ』。魔力と自らの血を合わせて生成する、防御用の『血壁』を、斥力術式と組み合わせることで攻撃に活用しているのだ。
 その壁の間を、軽業師のような身のこなしでショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)が駆け抜ける。
「おい、何か勘違いしてねえか、ババア」
「は――?」
 遠慮も会釈も、ついでに言うなら容赦もない語勢で言うショコラッタ。フェイリアからすれば無礼もここに極まれりというところか。あまりのことに言葉を失うフェイリアに、ショコラッタはやれやれと言った調子で続ける。
「おれたちゃもっとデカい獲物を狙って集ったんだ。誰もテメエなんざ眼中にねえ。前座はとっとと失せろ」
「前座? 前座ですって、この私が……!! どうやらよほど死にたいらしいわね、この愚物がァ!!」
 即座にフェイリアはショコラッタ目掛け、複数体の分体――眷属を嗾ける。
 鼻でその怒りをせせら笑い、ショコラッタは力を解放した。
 ざ、ぁっ――
 白と水色を基調としたドレスが、まるでダークセイヴァーの漆黒の闇を映したかのように黒く染まる。闇に沈むドレスと、変わらず燦然と煌めく美しい金糸の髪。
 命盗む盗賊姫。ショコラッタ・ハローの真の姿である。
 少女は弾けるように駆けた。その手に二刀を抜き、無造作に振るう。――刹那、放たれるは命奪い切り刻む竜巻。――ユーベルコード、『騎士王の凱旋』! 近づく眷属を竜巻でズタズタに裂き、短剣で貫き、竜巻に捲いた肉塊を散らしつつ、眷属どもを次々に散らしていく!
「生意気よ、定命の劣等種が!!」
 フェイリアは差し向けた眷属ごと圧殺する如く、複数の血壁を弾き出す。巻き込まれた眷属がその破壊力の前に五体四散する中を、しかしショコラッタは圧倒的な速度で回避、くぐり抜け、地を蹴りフェイリアに肉薄。
「自分で出して自分で殺してりゃ世話ねえな」
「五月蠅い!」
 皮肉交じりのショコラッタに吼えて応ずるフェイリア。やりとりの間に、が、ぎ、ぎん! 既に刃が三度跳ねている!
 ショコラッタは真の姿を晒し、さらにユーベルコードによる超高速軌道を交えることでフェイリアの剣と対する。一撃打ち込むたびに位置を変える、鋭き幻惑のステップワーク。フェイリアに対してさえ一歩も譲らぬ!
「ちょこまかと舞うものね……!! ならこれはどうかしら!!」
 フェイリアは剣に魔力を注いだ。同時に紅く輝いた長剣の切っ先が――ぶれたように霞む!
「ッ」
 ショコラッタが跳ねるその脚の軌跡が、止まる。同時に彼女の身体のそこかしこから赤い血が飛沫いた。
 ――何が起きた? ショコラッタは一瞬後に認識する。……敵の紅き刃が形を変えて伸び、踊った刃先が彼女の身体を鞭めいて裂いたのだ。
 傷は浅からず。先ほどまでのようなステップはもう刻めない。
「いいざまね猟兵。見切れないでしょう? このまま斬り刻んであげるわ――!!」
 再度、剣が紅く光る。フェイリアによる変幻自在の赤剣術が今一度ショコラッタを襲う、まさにその刹那――
「そうやって、好きに出来ると思ってずっと生きてきたんだろ。――おめでてー頭だ。何一つだって、テメエの好きにはさせてやんねーよ!」
 ショコラッタは吼える。彼女の羅刹としての本能が全身を選んだ。烈風、足下で渦巻く! ショコラッタは敵に放ち斬り刻むために用いる竜巻を足下で炸裂、その風圧をカタパルトにし、ロケットめいて前進する!
 ――フェイリアが驚愕の声を上げる、その暇すら与えぬ!! 二刀が蜻蛉の羽めいて閃き、悪鬼の全身を斬り刻むッ――!!
「が、……ッア……!」
「さっきの台詞、そのまま返すぜ。いいザマだな、吸血鬼」
 フェイリアの横を抜けて制動、踵で地を削りながら滑り、ショコラッタは刃の切っ先を今一度フェイリア目掛けて振り向ける。
 刃が、その殺意を点したかの如く、かそけき月灯に煌めいた。

「――おまえから盗む価値のあるモンは一つもない。大人しく海の底へ沈みな」
矢来・夕立

…なるほど。あいつが“肉さんたちにウソをつかせた”のかだけ、知りたいですね。
直接聞かなくても分かります。

この首を切って増えてれば是。そうでなければ非。
【神業・影暗衣】。
“ウソをつかされただけの人間”を殺すのは、悪です。
オレを強くするものが増えているのなら、オレの働いた悪事が増えているのなら。
それは、“肉さんどもはウソをつかされていた”って証左です。
…突っ込んでって吹っ飛ばされたバカが、バカ真面目に真に受ける必要はない。

ただの確認ですよ。マジで心底呪われてたんならしょうがない。
世界には報われない努力の方が多いし、どうせどっちも死ぬし。
ところでコレ超痛いんで、超痛い目に遭ってもらいますね。



●ウソつきの証明
 矢来・夕立(影・f14904)が取った行動は、意外なものだった。
 汚れ仕事だろうがなんだろうが、最も効率的な手を取り、虚言嘘吐き暗殺奇襲、起き攻め夜襲に騙し討ち、手段を選ばず任務をこなすのが常の彼は、今――人の業の重さを測ろうとしている。
 館の屋根の上から猟兵らとフェイリアの戦闘を俯瞰していた夕立は、フェイリアが肉の触手より多数の眷属を捻り出すのを見て、斬魔鉄製脇指『雷花』を抜刀。その切っ先をくるりと回し、自身の頸へと押し当てる。
 そのまま真一文字に滑らせた。ば、と裂けた頸より血が飛び散り、ずうん、と夕立を重いプレッシャーが包む。それは彼がこれまで殺してきたものの、ありとあらゆる怨念と罪業の重圧だ。

 その身に纏うは怨毒一切。

        カゲグライ
 これぞ忍法、『影 暗 衣』。

「……!」
 館の上に唐突に発生した重いプレッシャーに反応し、フェイリアが視線を跳ね上げた時には夕立の姿はそこにない。彼は既に屋根の縁を地に向けて蹴り、まるで放たれた矢めいて急降下している。爪先が地面に届くなり、そのまま地面を掻き毟るように蹴飛ばし、超高速で駆ける。
 忍としての身体能力に、己の罪科の重さを身に纏う『影暗衣』による戦闘能力増幅を掛け合わせた夕立の速度は、もはや人の目では捉えきれず、吸血種の視力を持ってようやく視認できるほどだ。
 夕立は全身を棘が巡るような激痛に苛まれながらも、それをおくびにも出さずに、逆手に構えた雷花を閃かせる。
 接敵と攻撃は同義。迎撃せんと身構えようとした、進路上の眷属に反応すら許さぬ。首がぱぱぱぱん、と飛んだ。なんたる速度、そして切れ味!
 刹那、夕立の肩に掛かる重さが増した。
 神業・影暗衣は、罪業の重さによって自身の能力を増幅するもの。
 それを夕立は試料として使った。かつて滅ぼされた村の人々、その骸より作られた眷属共を斬り――罪の重さが増せば彼らはウソをつかされていた、否ならば彼らは自らの意思で剣狼を罵ったのだ、と、測ったのである。――『“ウソをつかされただけの人間”を殺す』のは、悪だ。わかりやすい罪なのだ。
 測定結果に、夕立は表情を動かさなかった。
 斬撃のたび変化する重さ。全員が全員、ウソを強要されて剣狼を罵ったわけではない、と分かる。――少なからず、剣狼を呪った者もいた。
 しかし。命ぜられてそうした者もいたことが、はっきりと分かる。――比率で言うなら、そういったものの数の方が多い。
 確認がしたかったのだ。どうせこの世には報われない努力の方が多いし、剣狼はこのあと死ぬ。何故なら猟兵達が殺すからだ。そうせよ、と説明があったからだ。
 ――それでも。
 あの、真っ直ぐに進んだバカが、ほんの少しでも報われていたとするのなら。
 それを教えてやりたいではないか。どうせ最後には殺さねばならないけれど。
 この真っ暗な世界の中で、おまえに光を見た誰かがいたのだと。
 剣狼に、そう告げてやりたいではないか。
 夕立は普段通りの無表情で、確認を終えると、「ああ、」とくたびれた風な息を吐いた。その口の端から血が零れる。影暗衣を使うことに依る肉体負荷、身体を巡る毒めいた呪詛が、刻一刻と彼の寿命を削っている。――しかして夕立、それを気にした風もなく。更に七体の首を心臓を刎ねて捌いてずんばらり、血を吐き捨てざまに、刃鳴るように告げた。
「――ところでコレ超痛いんで、超痛い目に遭ってもらいますね。えーっと、名前は忘れましたが」
 夕立は、いまや、研がれすぎて容易に欠けてしまう刃のようだった。フェイリアが攻撃せずとも、そのスピードで動き続ければ早晩行動不能になるだろう。
 ――しかし。故にこそ。
 鋭すぎるその刃を、影を、『紙忍』を、何者も捉えること罷り成らず。
 恐れるようにフェイリアが繰り出した十数の『血壁』の間を、縫うように最短距離で駆け抜け回避。まるで稲妻が地を駆けたよう。手にした斬魔鉄が、蒼き月を映し、しかして紅く煌めいた。
「どうぞ。これで痛み分けですよ」
 二十三の斬閃が、瞬きの間もなくフェイリアの全身を刻んだ。血が霧めいて噴き出し、苦鳴が響き渡る……!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

向坂・要

おまけ扱いなのはお互い様ですかねぇ

大した若作りだと軽口叩きつつ油断せず

八咫影戯に第六感を生かし俯瞰で全体を捉える様意識
右眼の先と認識した空間に生み出すは暉焔によるプラズマすら帯びた高火力の小さな火球
分かれ集まり自在に操るそれと念動力により僅かでも隙が生まれれば相手の体内へ瞬間で練り上げた全力魔法、最大出力の焔にルーンの毒をおまけして鎧無視した毒と属性の攻撃をお見舞いしてやりまさ

油断や隙を誘えるってんなら多少の負傷は安いもんで

別にお前さんにもあちらさん(剣狼や村人)に思い入れがあるわけじゃありやせんがね
ま、運が悪かったって事で諦めてくだせぇや
見過ごす理由もねぇんですよ



●黒炎、舞う
「おまけ扱いたぁご挨拶な。――ま、それにしたってそいつはお互い様ってもんです。俺たちの目当てもお前さんじゃぁねぇもんで」
 向坂・要(黄昏通り雨・f08973)は、尊大なフェイリアの言葉を意にも介していないかのような調子で言った。その影から、バサリと羽音がして次々と飛び立つのは影の鴉、『八咫影戯』。八咫影戯の影鴉は戦場を俯瞰し、その状況を要と共有する。彼の互換は影鴉と共有されるのだ。視野が広がることに他ならぬ。
「そのなりで、このダークセイヴァーの闇の中に数十年数百年といたってんでしょう。大した若作りだ」
「吸血種は人間どもと違ってね、すぐに劣化するような身体をしていないのよ。生物として、私たちはおまえたちのような脆弱な存在とは違う。根本からね。――そんな目当てでもない私のために、こんな地の果てまでご苦労だこと。正義の味方というのも楽ではないものね?」
 要の意趣返しめいた挑発を鼻で笑い飛ばし、フェイリアは虚空に発生する陣より肉塊を次々と招来。それに魔力を通して、自身そっくりの眷属を数十体、瞬く間に作り上げる。
 しかし要はそれを恐れることなく、短刀『Lücke』を抜いた。
「別に正義の味方を気取ってるつもりはありやせんよ。お前さんにもあちらさんにも、格別思い入れがある訳じゃあなし――ま、強いて言うなら、見過ごす理由もまたなかった、ってとこでしょうかね。運が悪かったってことで、諦めてくだせぇ」
「そう――これから死ぬにしては、冴えない理由ね!」
 要のドライな台詞に吼えるように返すと、フェイリアは一斉に眷属を放った。眷属らは主と同じ紅の長剣を持ち、要目掛け襲いかかる。
 迎え撃つは要。その右目が赫奕ときらめき、ユーベルコード『暉焔』を発動。
 眷属の数は数十体、未だ増加中! それを屠るために要が取った手とは――己の『目』を増やすことだった。暉焔の炎は、彼の視線の先に飛ぶ。ならば、彼の視線が複数あったとするのなら――?
 宙に、プラズマ帯びる高火力の火球が立て続けに発生! 明るく燃え、無明の地を照らす! 空より見下ろす影鴉の視線を、己の視界と同調させ、鴉の数だけ火球を発生させたのだ。
「行きなせぇ」
 短刀を振れば、即座に火球が降り注いだ。十数の火球が降り注ぎ、眷属どもを猛撃する! 眷属を貫き灼き尽くす火球も、あるいは眷属の剣に叩き切られ、爆炎を撒き散らして消える火球もある。いずれにせよ、場は一瞬で爆炎と眷属の絶叫渦巻く煉獄と化した。
 煉獄の内を迷いなく駆け抜ける影二つ。言うまでもない、要とフェイリアである。要は打刀ほどまで伸ばしたLückeを片手に、フェイリアは己が紅き血の長剣を携え、刃を重ねて打ち合う、打ち合う!
 フェイリアの剣速は凄まじく、純粋な剣技では要は遠く及ばぬ。まるで、一本の剣ではないかのような神速の連続斬撃が、周囲に燃ゆる紅蓮を照り返して、美しき驟雨の如く要を打つ!
 斬撃が立て続けに入り、要の肩が、脚が裂けて血が吹き出る。蹈鞴を踏む要。それをよそに加速するフェイリアの剣戟。
「口ほどにもないわね、猟兵! そんな調子では『本命』の歯牙にも掛からないのではなくて?」
「生憎肉体派じゃねぇもんでね。――すぐに分かりやすよ」
 言いながら要は大上段より大振りの一撃。それをくぐり抜けたフェイリアは血の長剣を縮め、間合いを掌握すると要の胸をダガーサイズの血剣で貫く!
「ぐ、……――!」
「おまえの負けがすぐ分かる、という話かしら」
 せせら笑うフェイリア。しかし。
 胸を貫いた剣を取る彼女の腕を、要の手が、がッ、と掴んだ。
 瞠目するフェイリア。にやりと笑う要。
 重傷だが、まだ一発カマすくらいの余裕はある。
 刹那――収束した炎が駆け抜けた。『暉焔』複数個が集まり、プラズマ・カノンめいた火線を描いて疾った。フェイリアの脇腹を食いちぎって抜ける暉焔の炎!!
「……、か、ふ……!」
 蹌踉めくフェイリアを追い、要は一歩だけ、最速で踏み込んだ。残る、フリーな暉焔の炎をすべて自らの握る刃に集める。Lückeに刻むルーンは『毒』。結果、怨毒めいた黒炎に燃える刃を構え、要は己に出来る最速の一刀を、フェイリア目掛け叩き込む!
 黒き炎が女を焼いた。炎を振り払うように藻掻き、吸血鬼は己が身を霧と化して、逃れるように後退する……!

成功 🔵​🔵​🔴​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ

「はじめのものども」
どんなに永く生きてても、ただ「それだけ」なんだね
自分たちより弱いものを思いやることのできない、可哀想な人

マリアは聖者だけど……ううん、聖者だから、あなたは救われちゃいけないって思う

『人の血を流すものは、人に血を流される』
やっと眠れた被害者の人たちも、戦って倒れた人達も、
ヴァンパイアの下僕にされる前に引き離して、少しだけ力を借りるね
弄ばれて生まれた力でも、それを覆すためにだって使えるはずだから

借り受けた無数の生存本能で耐えて、既に人では無い身体を模して捕まえて、食らい付く……融合は、したくないけど

マリアはあなたを許さない
此処に居る誰も、あなたの好きにはさせないんだから……!



●聖蛇の行進
 食らうあらゆる攻撃に、苦痛を示しはするが、しかしその存在量は無限に等しいのか。攻撃を受けた部位を、あるいは全身を赤い霧に換え、フェイリアはその傷を瞬く間に回復してみせる。
 ――そのヴァンパイア、フェイリア・ドレスデンは『祖』にして、『初めのものども』であるという。
 この、人が生きるには暗すぎるダークセイヴァーの闇を作り出した首魁の内の一人にして忌むべき悪。いかに永く生きようが、結局の所、彼らフリークスは『ただそれだけ』に過ぎない。なるほど生きた時間に比例し、すすった血の量に従い、彼らの力は増すだろう。
 だが、他者を攻撃せねば、血を飲み殺さねば生きられぬ――彼らの中には優しさがない。自分より弱いものを思いやり慈しみ、愛でる心がない。全てを捕食対象としたが故に、あらゆる愛をなくしたのだと、アヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)は解釈する。
 この世全てを救うと決めた光の娘の目には、フェイリア・ドレスデンは哀れなエゴの塊としか映らぬ。
「マリアは聖者だけど……ううん、聖者だからこそ、あなたは救われちゃいけないって、思う。――『人の血を流すものは、人に血を流される』。それを、教えてあげるわ」
「猟兵風情が高説をぶるのね! いいわ、見せてごらんなさいな、おまえ如きに何ができるものか!」
 フェイリアが指揮棒めいて紅き血の長剣を振ると、アヴァロマリア目掛け、フェイリアの劣化コピーめいた姿形の、多数の眷属が殺到した。
 アヴァロマリアは眷属が振るう紅の長剣を飛び退き躱しながら、ユーベルコードを解放する。――その名も、彼女が言葉の中で口にしたとおり。『人の血を流すものは、人に血を流される』。
 フェイリアが使役する眷属の群れは、いわば人の死骸より鋳造されたリビング・デッドのようなもの。放たれる刃を掻い潜ってアヴァロマリアが眷属の身体に触れるたび、眷属の身体は光に包まれ、戦場より『隔離』される。
 同時に眷属らがその身に帯びたユーベルコード――死肉となった身体を自在に操るすべ、そして強烈なまでの生存衝動を鹵獲し、己がものとする。
「少しだけ、力を借りるね」
 ――弄ばれて生まれた力であろうと、それを覆すために使えるはずだ。アヴァロマリアは祈るように手を汲む。ざわり、と彼女の髪が変質し、豊富な髪がまるで蛇めいた無数の触手と化す。髪を依代とし、死肉の身体をフィードバックなく模して反撃に転じる!
「なッ」
 驚愕を隠せぬフェイリアの前で、アヴァロマリアは繰り出される赤剣を身に受け、身体をズタズタに裂かれながらも、眷属たちより写し取った生存本能一つで耐えきり、聖者の蛇と化した己が髪を眷属に食いつかせ――光に包んで、次々と戦場より隔離していく。隔離した対象から力を少しずつ借り受けることで、彼女の力は加速度的に増していく!
 流れた血で真っ赤に染まった身体で、しかし少女は倒れずに前を見る。
「マリアは、あなたを許さない。もうこれ以上、此処に居る誰も、あなたの好きにはさせないんだから……!」
「嘗めるなッ!! 私は君臨者、治めるもの! おまえたちのような暗愚に、正される謂われなどないのよ――!」
 聖者の叫びと暴君の怒号がぶつかり合う。
 踏み込んだアヴァロマリアが放つ髪蛇を、赤剣が斬る、斬る斬る! しかし斬ったそばから押し寄せる蛇、決して尽きることなし!
 一匹、また一匹! 食いつくたびに牙から聖なる光を発する蛇は、夜の王たるフェイリアにとってはまさに毒蛇に等しい! 動きが鈍るフェイリアを、さらに数匹の蛇が襲い宙に吊り上げる!
「が、ああっ……!」
 闇雲に振るう赤剣が、全ての蛇を断つ前に、アヴァロマリアはその身体を光へと変換。
 瞬刻、彼女の身体は純エネルギー体に変じ、天へ翔る流星の如くに飛んだ。――すなわち、『光あれ』。
 一閃の光条として疾駆したアヴァロマリアの渾身の体当たりが、ビーム・カノンめいてフェイリアを貫く――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

安喰・八束

出来りゃ、誰かと組んで後ろから補佐してぇな。
(援護射撃)
……あの剣狼に、見せてやりたくてよ。
狼は群れるもんだ。

否、あの外道共を見てりゃ解るさ。
何もかも無い物強請りで、何もかも今更だろうがよ。
……でもなぁ。


傷が多い程に強くなる術か。
ならば、俺が増やす傷口はたった一つだ。
真の姿、黒狼の獣人に変じて精度を上げ
同じ風穴から「狼殺し・九連」全弾、てめえの心臓に呉れてやる。(スナイパー)

生命を吸いに距離を詰めて来るなら、"悪童"で応戦する。(見切り、咄嗟の一撃)
てめえ如きに呉れてやる命なぞ、欠片も無い。


穂結・神楽耶

申し訳ありませんが、肉塊になる趣味はございませんので。
「逃がさない」はこちらの台詞です。

【朱殷再燃】──
炎の《オーラ防御》を纏って接近、近接戦闘にてお相手をば。
負傷は《激痛耐性》によって無視。
できるだけ守勢に回り、前線を維持します。

『初めのものども』が熱と光を厭うかは分かりませんが…
光に目を奪われれば闇が見通せなくなるのは必定。
他の猟兵様から意識を逸らすには十分でしょう。

猟兵は──あなたを刈りに来たのは、ひとりではないのですよ。
気付いたとて対策はさせない。
他の動作に移ろうものならまず出がかりを潰します。
ただわたくしと踊って頂きますよ、フェイリア・ドレスデン──!



●炎へ駆けよ、黒狼
 猟兵の攻撃が直撃し、腹に風穴を開けて地を嘗めるフェイリア目掛け、風の如く、凜と駆ける影一つ。
 その身に燃えるは朱殷の炎。炎に焼かれ続ける無名の神霊。――穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)である。
「申し訳ありませんが、肉塊になる趣味はございませんので。――それに、『逃がさない』はこちらの台詞です。この期に及んで、まだ狩る側でいるつもりなのですか?」
「言ってくれるわね……! 所詮私たちの糧になるだけの畜生風情が、思い上がった口を叩いたこと、後悔させてあげるわ!」
 襲い来る神楽耶の纏う炎に、フェイリアは小揺るぎもしない。おそらくは吸血鬼の弱点とされる陽光さえも、彼女にとっては微風に等しいのだろう。闇に人々を閉じ込めたのは、『その方が快適だから』とか、『その方が人間どもが苦しむから』だとか――そのような理由に過ぎぬ。
 そのような力ある者の暴挙を赦せぬが故、神楽耶は刃を持って駆けるのだ。
 フェイリアが一瞬で十数体の眷属を呼び出し嗾けた。神楽耶はすぐさまそれに応じ、朱殷の炎をなお強く燃やす。褪せた血の朱色――取り返しの付かぬ、惨劇の色。そのような昏き炎であろうとも、この無明の闇の中では激しく、煌々と燃えて見えるものだ。



 故に男はそれに乗じ、ボルトを引いて初弾を装填した。弾薬盒から手挟んだ弾丸の数は九発。狼殺しにゃ一発で良いが、『初めのものども』とやらには何発要るか?
 撃ってみなけりゃ分かるまい。
「――見てろよ。狼ってのは、群れるもんだ。狩りってのはこうするのさ」
 男は――否、その顔がずず、と変形し、マズルが伸び、漆黒の毛皮が膚を覆い――獣人の姿を成す。一言で表するのならば、狙撃銃を携えた黒狼。
 彼は伏せ、狙いを定める。朱殷の炎が、彼を導くように燃えている。
 ――分かっている。剣狼にはもう、味方などいなかった。たった一人、ここに馳せ参じて剣を振るしかなかったのだ。眷属と成り果てたかつての村人は、凄絶に作り替えられて助くるべくもない。何もかもが今更、後の祭り。
 ――それでもだ。黒狼は剣狼に示したかった。
 何もなくなってしまったかもしれない。もう誰も救えないかも――否、救えないだろう。そればかりか、この戦が終われば、次にはこの牙は剣狼の首に向くだろう。
 けれど。
 誰かを助けたがったおまえの思いは、間違いなどではなかった。かつて潰えたその意志に、今牙を貸そうとする狼がいるのだと――ただ、それを示したかったのだ。



『朱殷再燃』。神楽耶のユーベルコードが燃える。彼女の本体たる結ノ太刀に朱黒の炎が纏い付く。炎は彼女に向かう攻撃を焼き遮り、太刀に纏う闇炎は敵を焼断する。攻防一体の術である。
 これを纏った神楽耶の前では、眷属などは鎧袖一触。しかし、一触とて敵の数が多くなればその数だけ太刀振るう必要がある。
 一体斬るごとに敵は二体増えた。神楽耶は貴刃舞うが如くに廻り踊り、朱殷の太刀で敵を断つが、それに倍する物量で襲い来る眷属が放つ紅い剣が、彼女の身体のそこかしこを斬る。
「っ」
 血が飛沫く。息を詰めつつも、神楽耶は太刀廻るのを止めぬ。攻め寄せるよりも守勢を保ち、しぶとく食い下がることを選んで継戦。
 それはあるいは無駄な足掻きのように映ったやも知れぬ。瞬く間に圧倒的な物量の軍勢を生み出し、フェイリアはその中心で哄笑した。
「あははははははっ! 不様に足掻くばかりじゃないの、猟兵! 私を『逃がさない』のではなかったかしら? その程度の力でよくもよくも、私を狩るつもりでいたものね!」
「……」
 神楽耶は応えぬ。ただ、その代わりにその身に宿した炎を強く強く燃やした。赤々と燃える、血と悔悟の泥濘めいた色の炎。
 その炎と同色の瞳が。朱殷の瞳が。睨む様にフェイリアを射竦めた。



 そして鋼の瞳が、そのきらめきを追った。
 き、きききききききんっ、
 黒狼は宙にカートリッジを弾きあげた。咲くはかすかな金属音、数八。宙に舞う一一×六〇ミリメートル実包。
 世界の流れが鈍化する。鋼の瞳が光を帯びる。
 照門と照星の間に、赤いドレスの女を捉える。彼女の目は当然のように、朱殷の炎を睨んでいる。当然だ。その炎を発した猟兵の狙い通り。光に目を奪われれば、闇を見通せなくなるのは必定。あらゆる闇を見通すはずのフェイリア・ドレスデンの瞳は、目先に燃える獲物の炎を睨み、黒狼までは届かない。
 黒狼は伏せた姿勢のまま、両目を開いて照準を研ぎ澄ませる。
 ヤツは傷を負うほどに強くなるという。
 聞いた黒狼は謳ったものだ。

 ――ならば、俺が増やす傷口はたった一つだ。

 黒狼は、名を、安喰・八束(銃声は遠く・f18885)という。
 その異名、人呼んで、『狼殺しの』八束。
 駆ける俊狼をさえ一弾で射貫く射撃の名手が、猟兵としての技能を全て狙撃に注げば、果たしてどうなるものか。その答えがそこにある。
 鈍化した、スローモーションの世界の中で、八束がトリガーを引いた。銃声。一一×六〇ミリメートル弾が初速四三五メートル秒で激発。ボルト開放、薬莢を弾き出した刹那、落ちてきた実包を装填、ボルト閉鎖、第二弾。廃莢。装填、第三弾、四弾、五弾、六七八ッ!!!!!!
 最後の一発を摘まみ取るまでもなく薬室で受け止め装填、引き金を絞る。

 九。――是ぞ、『狼殺し・九連』。

 まさに絶技。フルオートめいた速度で放たれる銃声は、余人の耳には一発に聞こえる。しかもその一発一発が全て、『狙撃』。
 放たれた九発の殺意は、超音速でフェイリア目掛けて唸り飛び――



 吸血姫の心臓が爆裂したように吹き飛んだ。あまりのことに、彼女は声も上げられず口を戦慄かせ蹌踉めいた。眷属の増加が止まる。九射、一点射撃。集中した銃弾の衝撃が敵の体内で共鳴し、その胸腔を爆裂させたのだ。ぽっかりとえぐれた心臓に、さしものフェイリアとて動きを止めずにはおれぬ。
「猟兵は――貴方という病葉を刈りに来たものは、ひとりではないのですよ」
 神楽耶は謳うように言った。彼女の期待していた最高の援護が、今まさにこの瞬間に届いたのだ。
 神楽耶はすぐさま太刀に炎を集中させ、力の限り振り抜く。描く大紅蓮の弧が周囲の眷属を一瞬で灼き尽くす! 燃えて藻掻き灰となりゆく眷属を薙ぎ倒して炎の中より飛び出し、神楽耶はついに本体へ迫り打ちかかる! すぐさま心臓を再生したフェイリアが、神楽耶の炎剣を赤剣にて防ぎ止め、わなわなと震える唇で憎々しげに唸る。
「劣等種の……下等種の分際で……この私の心臓に傷を、貴様ァッ!!」
「上等も下等もあるものですか。ここまで絶った多くの命に――あの剣狼様に、詫びる言葉を考えなさいな。――わたくしと踊っていただきますよ、フェイリア・ドレスデン!」
 神楽耶は吼え、悔悟の炎を強く燃やす。朱殷の炎は猛る彼女を写し取ったかのように苛烈に燃える! その剣勢、峻烈なり! 未だ再生中とはいえ、フェイリアに反撃の暇を与えぬ! 赤剣と朱剣が激しくぶつかり合う!! 響き渡るは無数の剣戟。余人割り込むこと叶わぬ刃の殺界!
「ぐ、う、ううッ……!! 殺す!! 殺してやるわ!! その身体を心の臓を、頭を瞳を臓腑の奥を、残らず掻き回して犯して、血を搾り尽くしてやる……!!」
 刹那。殺意を吼えるフェイリアのその後ろ。
 黒き雷めいて、黒狼が走る。
「悪いが」
 ど、と、フェイリアの背中に突き立った銃剣『悪童』の刃が、胸先より突き出た。
「てめえ如きに呉れてやる命なぞ、欠片も無え」
 狼牙、一擲。
 銃声! 今一度フェイリアの胸が銃弾に爆ぜる!
 隙を盗み前進してきていた八束の、居合いめいた刺突銃撃が決まり、声なき声を叫ぶ吸血姫を、
「然様なら」
 真ッ赤に燃える結ノ太刀が、完膚なきまでに両断した。
 最早再構成以外に路もなし。フェイリアの肉体は爆裂するように血の霧と化し、散華する……!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
…、醜いですね
何もかもが
きっと貴女には理解できないでしょうけど

濃縮した体内毒はそのままに
人型を維持したまま接敵
医療器具での白兵戦に持ち込みます

近接攻撃を引き出せれば良い
領主が長剣を具現化してきたら
敢えてその一撃を防がず
真正面から受けましょう
躱し損なった風にできれば理想ですね

飛び散った血肉さえ利用して
攻撃力重視の捨て身の『毒血』

触れるもの全てを溶かし侵し
猟兵が刻んだ傷痕に
死毒を塗り込んで差し上げましょう

私は死に到る毒
故にただ触れるだけで良い

…まぁ
相当高貴な血の方のようですから
簡単に死んだりはしないのでしょう

ならば
死ねぬまま私の毒に溺れ
地べたに這いずり苦しみ抜いて下さい

貴女が弄んだ命と同じように



●王の酒杯に死毒
 致命傷に思える攻撃があった。幾度も、鮮烈な攻撃が叩き込まれた。そのたび、フェイリアは己の身体を再構成し、屋敷でまみえた当初の如き美貌と、疵一つない滑らかな膚を再生する。
「この私にこうも重ねて疵を付けてくれた罪は重いわよ、人間ども……!!」
 美貌を怒りに歪め、女は吼える。――ああ、その表情が。その在り方が。どうしようもなく、喩えようもなく、
「……醜いですね、何もかもが。きっと貴女には、理解できないでしょうけれど」
 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)がぽつりと言った。赤き霧となって逃れたフェイリアの身体が再構築された地点に、最も程近くいた猟兵が彼であった。
 じゃ、ざりっ。蜜はまるで手品のように、数本の刃物を手の内に顕す。――それは錆び、赤茶けてざりざりと軋む医療用のメスだ。まるで久方ぶりに沼の底から浮かび上がったような有様の刃。
「その醜さに気付かないのは、あるいは幸いなのかも知れません。自分が高貴な存在だと、信じ続けていられるのですから」
「ごちゃごちゃと御託を並べるのが近頃の猟兵の流行なのかしら? 耳障りよ、おまえ!!」
 蜜の挑発への反応は苛烈。高いプライドは耳に痛い言葉にほど強く反応する。フェイリアは怒りにまかせ、再び紅の長剣を成す。
 相対距離十メートル。
 蜜は腕を鞭のようにしならせ、錆びたメスを同時投擲。一度の投擲動作で三本。投げつつ前進、投擲、投擲、投擲! 立て続けに四度、十二本の飛刃がフェイリアに迫る。
 フェイリアは即座に反応、流麗な剣で飛び来る刃を弾きとばし、低姿勢を取って疾駆。蜜目掛けて突撃をかける。
 蜜はさらに飛刃を投ずるが、それも全て弾かれる。フェイリアの剣はなるほど、恐ろしいほどに冴えている。まともに武器格闘を挑めば、蜜では到底叶うまい。強大なるオブリビオンにして、永き時を武器の練達にも用いたのであろうという達人の技であった。
 抗するように、ざりっ、と音を立て、大ぶりな医療鋏を手元に取り出し、蜜は疾る。――ああ、しかしその刃さえ、あの紅の長剣の前ではなんと心細く映ることか!
 瞬く間に距離が詰まる。先手はフェイリアだ。袈裟懸けの斬り下ろしが来る。蜜は後ろに体重を傾けてスウェーしつつ、鋏を横薙ぎにして弾くが、手首を返しながらフェイリアがもう一歩踏み込んだ。重心が後ろに寄っている状態からでは攻撃はままならない。
「――ッ」
「口ばかりね、おまえ。ここで死になさい」
 蜜が鋏を彼女に向けて振るう前に、横薙ぎの一閃が放たれた。直撃。赤き血潮が飛び散る――、その瞬間。
 真一文字に深く裂かれた身体から、噴き出したのは血だけではない。黒の毒蜜が混じり、間近のフェイリアにぶち撒けられた。――そう、ブラックタールたる蜜を構築する蜜毒である。
「なッ――ぎ、いいぃいいあああああっ!???!」
 毒はすぐに奏功した。
 じい、じうう、と音を立ててフェイリアの身体が蝕まれ溶ける。その美しい膚が黒く腐食し、フェイリアは壮絶な絶叫をあげる。
 ――冴木・蜜は死に至る毒。彼は捨て身、ダメージ覚悟で敵に己を構築する死毒を浴びせたのだ。
「この、おおぉぉっ、貴様、ぎさ、まァああっ!!!」
 フェイリアは血の長剣に凄まじい魔力を纏わせ、痛みに叫びながら、赤き衝撃波で蜜を薙ぎ払った。凄まじい威力に、半ば裂かれた状態の蜜の身体は今度こそ破断され、黒い毒を撒きながら後方へ吹き飛ぶ。
 ず、ぐゅり――砕かれ吹き飛んだ身体が寄り集まり、再生する。蜜は身体を再構築し、深い息をついた。
 自身の構成要素をブチ撒けての捨て身の攻撃だ。蜜にダメージがないわけがない。しかし、それでも、この捨て身の策を取ってでも、一矢報いてやらねば気が済まなかった。
「相当高貴な血の方というお話ですし、この程度ではまだまだ死なないのかも知れませんが――その毒もまた、容易には消えません。死ねぬまま私の毒に溺れ、地べたを這いずり苦しみ抜いて下さい」
「猟兵ァアアァ……ッ!!!」
 痛みに呻きつつ、怨み骨髄に凄むフェイリアへ、蜜は眼鏡を押し上げて言葉を結んだ。

「――いつか貴女が弄んだ、幾つもの命と同じようにね」

成功 🔵​🔵​🔴​

リンタロウ・ホネハミ
悪辣な業ばかりで数多の人々を苦しめてきたヤツに取るべき戦法は一つだけ
ただ真っ直ぐに近づいて、真正面からぶった斬る――!

サイの骨を食って【〇六三番之城砕士】を発動
眷属共はすべて無視
攻撃はすべて力とスピードで振り払い、呪骨剣を担いでドレスデンへ突っ込む!(怪力・ダッシュ)
ヤツがどんな武器を取り出そうと関係ねぇ(先制攻撃)
突っ込んだ勢いそのままに、力と怒りに任せて武器の上からテメェに刃をブチ込んでやる!!(なぎ払い)

俺のひいひい爺さんの頃から、テメェみてぇなヴァンパイアは絶対に許すなってのが家訓の一つになってんだ
だから、五代の『ホネハミ』と俺自身の怒りをもって――テメェを必ず、誅伐する



●乾坤一擲
 度重なる戦闘で、豪奢な屋敷の庭園は既にボロボロだ。退廃的な光景の中、戦いは続く。
 受けた傷、毒、呪詛に魔術、あらゆるものがフェイリアを苛む。しかして猟兵らの全力を以てしても、いまだフェイリア・ドレスデン、健在である。その剣の冴えはこれだけの猟兵が攻撃を加えても未だ鈍らない。
 勝てるのか、この敵に。殺せるのか、この強大なオブリビオンを。そう疑う者が出てもおかしくない長期戦となった戦場で――フェイリア目掛け、正に流星の如く駆ける猟兵がいた。リンタロウ・ホネハミ(骨喰の傭兵・f00854)である。
 ヤツの、フェイリア・ドレスデンの悪辣なる業が、一体何人の人々を巻き込んだか。死ねたのならばまだ幸せだ、一体何人が――いまも、この世に繋ぎ止められ責め苦を受けていることか。
「ようやく会えたな、ドレスデン……!! 覚悟しやがれ。テメェを必ず誅伐する!!」
「大きく出たものね、惰弱な劣等種が!」
 フェイリアはリンタロウに向けて長剣を差し向けた。宙に描かれる魔法陣から即座に肉塊がひり出され、複数の眷属が形を成す。正面から突っ込むリンタロウにとってはよくない展開だ。敵が増え、防御の陣を敷かれれば、そこで足止めと集中攻撃を食らうのは必定。
 しかしてリンタロウは一瞬とて怯まない。その口元に白き骨。ばきり、と噛み砕いて呑み込む。
 ――それは犀の骨。発動するユーベルコードは『〇六三番之城砕士』。彼は、『骨喰』リンタロウは、動物の骨を喰らい己が能力を強化する特異能力者だ。
「俺をその程度で止められると思ったかよ!」
 眷属が出ようが、いかなる武器が出てこようが、関係ない。リンタロウは呪骨剣『Bones Circus』を構え、真っ向から突っ込んだ。――骨を食み、彼が得たのは犀の体表硬度、そして膂力。
 ど、ごおおんッ!!
 轟音が響き、宙高く数体の眷属が吹っ飛んだ。リンタロウを止めようと数体の眷属が襲いかかったが、いずれもその足を止めること叶わず。犀の突進力を宿したリンタロウを、通常の方法で止めること罷り成らぬ……! リンタロウは眷属に向けて攻撃をしたわけではない。彼はただ真っ直ぐに、フェイリア目掛け駆け抜けているだけだ。――突進が、その推進力が、既に一つの武器なのだ!
「呆れた力ね……止めなさい、眷属共!」
 フェイリアが下した命に従い、眷属らは主と同じ紅の長剣を作り出し、魔力を込め、斬撃より放たれる赤き衝撃波でリンタロウを猛撃する。次々と着弾、着弾、着弾! あまりの威力、そして数に、濛々たる土煙が上がる。――だが。
 ――ばうっ!!
 土煙を突き破ってリンタロウが駆け出る。
 止まらない。止められない。彼の速度は加速する一方。その身体は今や犀の膚鎧めいて固く、眷属共の剣波などではその身には傷一つつけられぬ! 
 進路上の眷属を刎ね飛ばし、リンタロウは突き抜け、吼える!
「俺のひい爺さんの頃から、テメェみたいなヴァンパイアは絶対に許すなッてのが家訓になってんだ。――五代の『ホネハミ』と俺自身の怒りで、テメェを殺す!!」
「こっ、の、化物め……!!」
 人の身に、数多の動物の力を宿せばどうなるか。リンタロウの姿はその答えに近しかった。フェイリアはリンタロウを迎撃せんと自ら赤き剣の衝撃波を放つ。それは眷属の者とは威力が違う、強化されているはずのリンタロウの膚が裂け、腕から脚から頬から、血が噴き出て伝う!
 しかしそれでも。
 走り出した犀は、敵を突き殺すまで止まらない。
 血を流す脚で地を爆ぜるほどにリンタロウは強く踏み込む!
「おおおおおおぉぉおぉらぁッ!!」
 天雷の如く振り下ろされた剣が、フェイリアを襲う! フェイリアは避ける間もなく受け太刀、甲高く刃の軋る音が響き――受けたフェイリアが、押し返さんと力を込める。
 だが、動かぬ。それどころか押される。
「、は――」
 フェイリアがそれに目を見開いた瞬間、ぎらりとリンタロウの目が曳光した。
「っせええええあああアっ!!!」
 力と怒りが、彼の身体を駆動する。
 紅の長剣が砕けた。驚愕の表情のフェイリアに骨剣が食い込み、斬り裂き――斬撃のインパクトに弾かれるように、吹き飛んだフェイリアの身体が塵埃にまみれ、地を舐める……!

大成功 🔵​🔵​🔵​

五条・巴
品がないのはそちらだよ
知らなかったの?
そんな君が夜の王と名乗るのか。
今すぐ引きずり下ろしてあげるね。

"薄雪の星"
君という醜い肉塊は実によく燃えそうだね
銃弾に炎を灯し、血剣を、肉塊を、言葉の呪を撃ち砕く
自分の役割は心得ている方だ。先程と同様に他の猟兵たちの攻撃が届くよう召喚されたモノ達を中心に撃ち抜いて。

その肖像画も見たくないな。
ついでに派手に壊しちゃおうか
ほら、もう君の顔を飾ることも無いだろうし、先に処分しておいたよ。

その犬ころとおまけに君は殺されるんだよ。
ああ、高貴な人に相見えるには何か貢がないといけないんだっけ?
それならば永久の眠りを献上しよう

貢物はお気に召したかな?



●夜王に捧ぐ終止符
 ――館の中で、一人の猟兵がフェイリアの肖像画を見上げていた。
 誰が描いたものとも知れぬ。厚塗りの油絵だ。描き上げられ、随分と長くの歳月が経っているであろう事は容易に知れた。
 館の外からは、今も猟兵達とフェイリアの激戦の音が響いている。そんな中、彼――五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)は、ちき、と音を立てて美しい彫金の成された銃――『Edelweiss』の銃口を上げた。
「僕らを揶揄する君の『品』とやらも底が知れたものだね。――夜の王を名乗るなら、相応の格を身につけてからにすべきだったな」
 銃口に熱が集う。炎が銃身の中で燃えた。『薄雪の星』。五大元素の一つ、炎を宿す銃弾が牙を剥く。
「今すぐ引きずり下ろしてあげるね。――これは号砲だ。君の、終わりの、始まりの」
 銃声がした。
 燃える銃弾がフェイリアの肖像画の、その額を貫き――めらめらと燃えさかる炎が、一枚の油絵をたちどころに灼き尽くした。
 踵を返し――巴は歩き出す。その歩みは小走りに――やがて疾走に変じ。灰になった額縁が地に落ちる前に、彼は窓から、戦場に向けて飛び出した。


 フェイリアが打ち合う猟兵を払いのけ、飛び退いて傷を再生した刹那、彼女を横殴りに、炎の弾丸の嵐が襲った。
「ぐっ……!?」
「君という醜い肉塊は実によく燃えそうだね。――さっき始末してきた肖像画と同じように、きれいに灼き尽くしてあげよう」
 言わずもがな、放ったのは巴だ。Edelweissから凄まじい速度で炎の弾丸を吐き出し、フェイリアを猛撃する。フェイリアは魔力と己が血を混ぜ、『血壁』を構築。連射される銃弾を防ぎ止めつつ、
「――犬ころのお伴風情が、また思い上がった言葉を吐くものね。起きなさい、眷属共。不届者を殺すのよ!!」
 虚空に刻んだ魔法陣より、呪肉塊を招来。そこからまた数十体の眷属――外見的にはフェイリアとよく似ている――を生成し、巴にけしかける。
「不届者、ね。君、本当に王様になったつもりでいるんだな。めでたいことだよ」
「当然のことよ。私は『祖』たる吸血鬼。誇りある血統の前にはね、人間の命なんて芥に等しいもの。おまえもここで塵埃と散りなさい!!」
 フェイリアの言葉と同時に数十体の眷属が巴に向けて殺到する。紅の長剣を携え、皆一様に薄笑いを浮かべて巴目掛け走ってくる。
 巴はを目を細め――より強く、バレルの中に炎を燃やした。
「――ああ、そうだった。高貴な方に相見えるには貢ぎ物がいるんだったね。それなら、献上するのにぴったりのものがある」
 巴は斬りかかってきた眷属の斬撃を身を沈めて回避。ハンドガンの銃口を跳ね上げ、顎下から後頭部までを撃ち抜く。身体を廻して腕を振り、銃口の延長線上に敵の頭が来た瞬間にトリガーを引く。吐き出される紅蓮の弾丸が、立て続けに三体の胸を射貫いて瞬く間に炎上、滅却する。連射、連射、連射、連射! 灰となった眷属の身体が地に付かぬうちに駆け、自らを斬るために振るわれる赫剣を銃で撃ち砕き、迫る眷属らを片っ端から撃ち抜いて駆け抜ける! 
 マガジンをリロード。まるでステップを踏むように最後の眷属を撃ち抜き、再び眷属を喚ぼうとしたフェイリアの横、魔法陣から喚び出されたばかりの肉塊二つへ目掛け、それぞれ三発ずつ銃弾を叩き込んで巴は静止。Edelweissの銃口を、フェイリアの額にポイント。奇妙な一瞬の沈黙。ごう、と肉塊が燃え上がるのを見ながら、巴は皮肉っぽく呟いた。
「長い夜にもそろそろ飽いただろう? ――永久の眠りを献上するよ、夜の王。きっとお気に召すはずさ」
「人間、ごときがッ――……!」
 激高するフェイリア、今再び放たれる巴の炎弾。銃弾と銃声、それを弾き鳴り渡る剣戟。
 巴が眷属を散らして開いた血路に機を見て、複数の猟兵が飛び込んでいく。無明の夜を騒がす戦いは、未だ激しさを増すばかり――。

成功 🔵​🔵​🔴​

フローリエ・オミネ


その高圧的な態度をとっていられるのも今のうち
…御相手宜しく

『空中戦』は継続して行う
地に落ちたが最後、わたくしは攻撃を避ける術を持たないから

死者を安らかに眠らせて差し上げない彼女を心から軽蔑するわ
『高速詠唱』で生み出すは【氷の爆発】
氷塊を精製、爆発させ、砕いて敵へ降り注ぐの
うろちょろするのならば、砕かなくても良いかもね

氷漬けにして差し上げるわ

雑魚は丁寧に屠る
屍人をいたぶる趣味は無いの
わたくしが気に食わないのは、…ええと。名前、何だったかしら
そうそう、フェイリア。あなたのことだけなのよ

攻撃は空中にて回避
そらはわたくしのための戦場

『傷口をえぐる』ことで、さらに敵の体力を削るわ

え? 笑ってなくてよ



●アイシクル・クラスター
「頭が高いのはどちらの方かしら。その高圧的な態度を取っていられるのも今のうちよ」
 宙に浮いた、水晶めいた女が言った。フローリエ・オミネ(シソウの魔女・f00047)である。
「私は祖、『初めのもの』。このダークセイヴァーの黄昏を見た偉大なる種よ。――その私を見下ろすばかりか、あまつさえ、高圧的ですって? 度し難い言い草ね、おまえ」
 フェイリアは不快感を隠さずに秀麗な眉目を怒りに歪める。だが、その怒りを買う買わぬなどどうでもいいことだ。
 死者を安らかに眠らせず、今なお生き地獄の中で嬲るような所業をするこの女を、心底より軽蔑する。フローリエは肉塊とされた者達を哀れむことはなかったし、そこに抱く感傷など不要だと思っていたが、ひとをそうして嬲ることを受け容れるような猟兵でもなかった。
「度し難い、なら何? ええと――名前、何だったかしら、あなた。 黙らせたければそうしてみせればいいわ。もっとも、あなたに出来るかどうかは知らないけれど」
「――自殺志願もここまで来ると呆れを通り越すわね。引きずり下ろして、その首をねじ切ってあげるわ!! フェイリア・ドレスデンの名を魂に刻んで死になさい!!」
 言い捨てるフローリエに柳眉を逆立てたフェイリアは、即座に魔法陣を生成、そこより産み落とした肉塊から数十という眷属を作り上げる。数十、その各々が紅き血の長剣を手の内に生み出し、宙の女を見仰ぎ睨む!
「いやね、乱暴なことばかり言うのだから。――少し頭を冷やされてはどう?」
 対するフローリエは高速詠唱。彼女の詠唱に誘われたかのように、ぎゃぎっ、と音を立てて宙に氷塊が凝結する。一本一本が人の胴ほどの太さ、一つ二つではない、両手に余るほどの数が、同時に!
 しかして一本を一体に当てたとて敵の全ては屠れまい! それこそ敵の眷属は数十体。一発一殺したところで、過半数にすら届かない。だが、フローリエはそれでいいのだと言わぬばかりに下方へ向けて手を振り下ろした。
 十本あまりの巨大な氷塊が降り注ぐ! 眷属らはそれを落とそうとするかのように紅の剣より衝撃波を放った。同時に放たれた数十の赤き剣波が氷塊を削るようにぶつかり――
 ――あっけないほどあっさりと、十数の氷塊は爆ぜ散り粉々になった。

 しかし。
 それは、攻撃が無効化されたことを意味しない。

「氷漬けにして差し上げるわ」
 言うならばその氷塊はクラスター爆弾。一発の母弾に無数の子弾が搭載された集積爆弾だ。爆ぜると同時に、氷のダーツめいた細片が高速で散り、地でフローリエを見仰ぐ敵らを猛撃する……!!
「なっ……!」
 まるで氷の絨毯爆撃。殆ど反応を許されず次々と子弾に貫かれ逃げ惑う眷属ら。唯一、高度な判断力と剣術を備えるフェイリアのみが、子弾を弾きながらその影響範囲外に飛び退き離脱! それでもその身体にも数発の子弾が刺さり、苦鳴が漏れる!
「ぐううっ……!」
 氷の嵐が一過すれば、無事な眷属らは痛みに呻きつつも、氷の針まみれになった身体でなおも剣を持ち上げようとする。然し――
「残念ね、嗚呼、本当に残念。わたくし、屍人をいたぶる趣味はないの」
 子弾を全身に受けた眷属らの動きが止まる。その全身より血が飛沫き――いや、その血さえ凍った。
 何が起きたのか。フローリエが放った氷の弾丸が、食い込んだ眷属達の身体の中で、血を凍らせることで爆発的に伸張。茨の如くに身体を食い破って血を飛沫かせたのだ。無論、即死。次々に倒れ臥し、灰と散る眷属達。
「おのれ……小細工をッ!!」
 数十からなる眷属が全滅する段となって危険性を認識したフェイリアが、自ら嵐のごとく赤き剣波を放つも、数十から放たれる赤き弾幕ならいざ知らず、縦横無尽と空翔るフローリエを、フェイリア一人で捉えるに能わず……!
「私が気に食わないのはあなたのことだけなのよ。フェイリア。――だから精々藻掻いて、素敵に踊って頂戴ね」
 性急に落とそうとしたところで、成るわけもない。回避の合間にフローリエはぱちりと指を鳴らし、フェイリアに命中した氷の棘を伸ばして傷口を抉る!
「ぐう、っううう……!」
 噴き出す血さえ、茨めいてやはり凍った。呻きながらも体内に熱を熾し、氷の弾丸を解呪せんと藻掻くフェイリア。
 ――それを見ながら。
 美しい女のくちびるは、見て取れるか分からぬほどの弧を、――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リオ・ブレンナー
気に入らねぇ目をしてやがんな
全てがテメェより下だと信じて疑わねぇ、クソッタレな目だ
いいぜ、上等だよ
テメェの思い上がりは、この拳でぶっ壊す!

【怪力】を使って拳を地面に叩きつけ、即席の瓦礫を作りフェイリア目掛けぶん投げるぜ
それと同時に接近、思い切り拳を叩きつける……ように見せかけて地面の魔法陣をUCで殴る!
オレはバカだけどよ、なんの工夫もない一撃が通ると思ってるほど甘くはねぇ
この魔方陣、それなりに大事なもんなんだろうが……地面ごとぶっ壊されたら、もう機能しねぇよな!
んでもって足場も崩せて一石二鳥、その足場じゃ華麗に回避ってわけにゃいかねぇだろ?
フェイリア自身にも、地砕きの一撃をお見舞いしてやるぜ!



●ミーティア
「あぁ――思った通り気に入らねぇ目をしてやがんな、テメェ。全てがテメェより下だと信じて疑わねぇ、クソッタレな目だ」
 猟兵らと激しく相争うフェイリア目掛け、粗野な口調の少女の声が飛ぶ。
「私こそが至上。一にして全、祖たる至上の種、それがエインシェント・ヴァンパイアよ。この常闇の日没を実現した偉大なる種。――それに勝る種があって? 当然のことを確認しないでほしいものね、猿風情が」
 先行した猟兵を朱剣より迸る衝撃波で弾き飛ばしたフェイリアが、当然のことを云うな、という風に肩を竦める。
「ハッ! ……いいぜ、上等だよ」
 ガシュッ!! バシュウッ!
 肩部ボルトオープン、余剰熱排出! 戦闘用義体『KURENAI』の装甲が煌めく。拳と拳をガツンと叩き合わせ、爛々と光るオレンジの瞳が、敵を真っ直ぐに、射貫くように睨み据える!
「テメェの思い上がりは――この拳でぶっ壊す!」
 吼えるは、リオ・ブレンナー(スクラップフィスト・f23265)!
 彼女は即座に拳を流星めいて足下の石畳をぶん殴る。石を切り出して敷き詰めた、手の掛かった石畳がまるで爆弾でも食らったかのように吹き上がる。宙に舞った石塊を、リオは投げ、拳で、脚で、次々と弾いてフェイリア目掛け連射、連射、連射!
「何て莫迦力なのかしら、野蛮極まりないわね。山猿と言うのすら憚られるわ」
「言ってやがれ、クソ女!」
 飛礫より身を躱し、ステップ踏んでダンスめいた回避を繰り返すフェイリアに、リオは瓦礫を撃ち出しながらも飛び込むように駆けていく!
 それを嘲笑うようにフェイリアは宙に二つの魔法陣を地に刻み、そこから肉塊を招来する。眷属を呼び出す予備動作だ。
「やらせるかよ!!」
「無駄よ。既に陣は起動して――」
 フェイリアの言葉など聞かず、ドウッ、と音を立て、リオは地を蹴立て即座の前進! 右拳を振りかぶり――拳を叩き付けるに見せかけ、
「オラァッ!!!」
「な、っ」
 彼女が狙ったのは、足下!
 流星めいて叩き付けられた拳の威力は先ほどよりもさらに高い。ユーベルコード、『メテオフィスト』!!
 圧倒的な威力の拳が、地に描かれた陣を、地形ごと二つ纏めて叩き潰す! 転送術式が乱れ、詠唱不完全にて破却! 眷属を呼ぼうとしたフェイリアの目論見を見事叩き潰し、リオは口端を吊り上げ凶暴な笑みを形作る。
「オレはバカだけどよ、なんの工夫もしないわけじゃねえ。この魔法陣、連発は出来ねぇだろ。先に潰しちまえば暫くはオレとテメェのタイマンだってことだよなぁ!」
 ――そう。連発が出来るのならば、一斉に多数を展開し場を眷属で埋め尽くせばいいのだ。その方が有利になるに決まっている。なのにフェイリアはそうしない。そうなれば、『出来ない理由がある』と考えるのが至極妥当。合理的な思考である!
 宙ではなく、陣を地に描いたことがフェイリアの運の尽きであった。笑うリオに憎々しげにフェイリアが呻く。
「くっ……この、山猿如きが生意気に頭を使ったつもりかしら!!」
 フェイリアは即座に紅の長剣を手のうちに生成するが、近接攻撃の構えを取る前にリオが襲いかかった。
「その山猿にしてやられてんじゃぁ世話ねぇなあ、吸血鬼さんよォ!!」
 ――戦いには流れというものがある。フェイリアは、突撃するリオの勢い、流れに巻き込まれた。この一局は既にリオのペース。守勢になったフェイリアは、リオの行動に後手での対策を強いられる!
 KURENAIのマッスルパッケージが最大出力で稼働! 繰り出す腕はまさに破壊の旋風を纏った豪腕である! 紅の剣がボディを削るように突き出されるのを前腕部分で火花を散らしながらそらし――
「ッだらぁああああ!!」
 隕石の名を冠す拳が、真正面からフェイリアに叩き込まれる!
「――ッ!!!!」
 打撃力、壮絶!! 骨が砕け、臓器が破損!
 まるで真正面からトラックに撥ねられたように、フェイリアの身体は後方へ吹っ飛び、スリーバウンドして地を滑る……!!

成功 🔵​🔵​🔴​

紅呉・月都
……。
何が祖だ…何が夜の王だ……
人の命踏みにじって“今”に縋ってるだけの屑女だろうが
俺らを嘗めてかかって泣きを見るのはテメエだ

ゴチャゴチャうるせえな…
テメエへの贈りもんは“死”で十分だ、二度と戻ってくんじゃねえ!!
攻撃は炎属性
武器としての【戦闘知識】を基に戦闘を行う
【怪力】による【鎧無視攻撃・鎧砕き】にて攻撃
【気絶・マヒ攻撃、衝撃波】で怯ませ今までの【傷口を抉る】

敵の攻撃は【見切り・野生の勘】を活かして回避
回避不可能なら【武器受け】で受け流すか【残像】で致命傷を避ける

小細工かましてんじゃねえぞ!!
敵の血は風もしくは水の【属性攻撃でなぎ払う】

操られている味方は峰打ちか鞘の【マヒ攻撃】で怯ませる



●紅蓮閃く
 何が、祖だ。何が夜の王だ。
 人の命を、生を悉く踏み躙り、己の『今』に縋り付くだけの過去の残滓が、偉そうに言葉を吐くのが赦せない。
 紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)は、『紅華焔』を抜刀。前線で防御壁を構築していた眷属らが一掃されるのを見るやいなや、真っ直ぐにフェイリア目掛けて突っ込む。
「散々言ってくれたな、おまけだの過去殺し風情だのと。俺らを嘗めてかかって泣きを見るのはテメエだ」
「嘗めてかかる? 虫螻をそんなに警戒する必要があるかしら。五月蠅い小蠅どもが私をどうできるというのか、見せてご覧なさいな」
 フェイリアは流れるように言って、血の長剣を今一度構築し、駆け寄せる月都に合わせるように踏み込んだ。
 が、ぎぃいいんっ! 紅華焔と血の長剣が打ち合い、凄まじい金属音を奏でる。華麗にして流麗なフェイリアの剣技に真正面から対する月都。しかし剣速が足りぬ。鼻持ちならぬ怨敵とは言え、フェイリアの剣技はやはり確かだ。瞬く間に守勢に追いやられ、時折身体を掠める刃が月都の血を飛沫かせる。
「ほら、ほら、どうしたの? 威勢の良さは初めだけかしら? 少しはやるかと思ったら、期待外れね!」
「ゴチャゴチャうるせえな……今、とっておきの“死”をくれてやる。二度と戻ってくんじゃねえ、クソ吸血鬼が!!」
 月都の怒りに呼応するように、紅華焔の剣先に炎が纏い付く。それは刀の名を示すような紅蓮の炎。赤々と燃え上がり、打ち合うたびに爆ぜるような音を立ててフェイリアの膚を焦がす!
「っ……少し調子に乗りすぎね!!」
 フェイリアは自身に血の鎧を纏いつつ飛び退いた。追撃が来る前に、四方八方に『血壁』を発生させる。自身の魔力と余剰血液を合わせることで作製した高強度の壁を、背面に仕込んだ斥力術式で射出! 四方から月都を押し潰さんと叩き付ける!
「おお、ッらぁっ!!」
 しかし月都は怒号一閃、正面から迫る壁に真っ向から紅華焔の平突きを叩き込む! 峻烈なる刀の一撃が、高強度の筈の血壁をよもや、一撃にて突き破る――月都が誇る怪力のなせる技だ!
 背中から襲う血壁を蹴り跳び、加速の一助とさえしながら、フェイリア目掛け再び肉薄する月都!
「くっ、猪め……!」
 罵り言葉もそこそこに、迎え撃つように剣から紅の衝撃波を放つフェイリアだが、月都も一歩も譲らずその剣より紅蓮の剣波を放つ。炎が乗った衝撃波が、フェイリアの衝撃波を叩き潰し、紅蓮の炎を撒き散らして視界を塞ぐ!
「おのれ、小細工を……!」
 フェイリアの言葉に月都は応えぬ。燃える炎が視界を塞いだこの一瞬が千載一遇の好機。
 純粋な近接格闘では悔しいが及ばぬ。ならば策を弄するのみ!
 月都は散った紅蓮の炎の中を駆け抜け様に、己の周りに三十六本のナイフを召喚した。柄に三日月、血に濡れたような、赤み差す刀身。彫金の入った平が美しい。――それは月都自身の模造品。『錬成カミヤドリ』、開帳!
 三十六本の惨殺ナイフを一斉にフェイリア目掛けて射出、射出、射出!
「なッ……?!」
 フェイリアにしてみれば、爆裂した紅蓮の衝撃波が視界を塞いだ次の瞬間、紅蓮のカーテンの向こう側から数十本の飛刀が飛来したようなものだ。剣先を翻し、それでも二十数本を打ち落とす技前は流石のものだが、しかし全てに対応しきれるわけがない! 数発が血液鎧に阻まれるも、五本あまりがフェイリアの身体に突き立つ!
「ぐうっ?!」
「おおぉぉっ!!」
 風を己の背で爆ぜさせながら、月都はなおも加速! 突き立ったナイフに蹌踉めくフェイリアに、全力の一刀を浴びせる!!
「っが、ああああああっ!!」
 炸裂する紅蓮一刀。裂けた傷口に炎這う! フェイリアは炎に包まれて飛び退いた。月都は劫火に燃える紅華焔を彼女へ差し向け、
「テメェの行き先は、骸の海の底の底だ。終わらせてやるよ、吸血鬼……!」
 爛々と光る銀の瞳で、祖たる吸血鬼を睨め据える……!

成功 🔵​🔵​🔴​

ショコラッタ・ハロー
何か勘違いしてねえかババア
おれたちゃもっとデカい獲物を狙って集ったんだ
誰もテメエなんざ眼中ねえ……前座はとっとと失せろ

だが、楽な相手じゃねえ
真の姿を解放し、全力でかましていくぞ
騎士王の凱旋で眷属どもをぶっ飛ばし、数減らしをしていく
多少の怪我は気にせず突き進み、おれと仲間が前進するための道を作ろう

敵を間合いに捉えたら、もう小細工はいらねえ
足を使って敵の剣撃を回避することを第一に
相手の攻撃の隙を突いて接近、確実に二刀で切り刻む
血液で身体を覆ったり眷属を生もうとしたら、竜巻を起こして阻害を試みる
何一つ、テメエの好きにはさせてやんねーよ

おまえから盗む価値のあるモンは一つもない
大人しく海の底へ沈みな



●盗賊姫の刃雨
「私を殺すために遙か彼方からご苦労なこと……! どれだけ数を揃えても無駄よ、全員叩いて潰して挽肉にしてあげるわ……!!」
 攻撃をいなし、受けた損傷を治癒し、フェイリアは猟兵らを寄せ付けぬように四方目掛け紅き壁を『撃ち放つ』。魔力と自らの血を合わせて生成する、防御用の『血壁』を、斥力術式と組み合わせることで攻撃に活用しているのだ。
 その壁の間を、軽業師のような身のこなしでショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)が駆け抜ける。
「おい、何か勘違いしてねえか、ババア」
「は――?」
 遠慮も会釈も、ついでに言うなら容赦もない語勢で言うショコラッタ。フェイリアからすれば無礼もここに極まれりというところか。あまりのことに言葉を失うフェイリアに、ショコラッタはやれやれと言った調子で続ける。
「おれたちゃもっとデカい獲物を狙って集ったんだ。誰もテメエなんざ眼中にねえ。前座はとっとと失せろ」
「前座? 前座ですって、この私が……!! どうやらよほど死にたいらしいわね、この愚物がァ!!」
 即座にフェイリアはショコラッタ目掛け、複数体の分体――眷属を嗾ける。
 鼻でその怒りをせせら笑い、ショコラッタは力を解放した。
 ざ、ぁっ――
 白と水色を基調としたドレスが、まるでダークセイヴァーの漆黒の闇を映したかのように黒く染まる。闇に沈むドレスと、変わらず燦然と煌めく美しい金糸の髪。
 命盗む盗賊姫。ショコラッタ・ハローの真の姿である。
 少女は弾けるように駆けた。その手に二刀を抜き、無造作に振るう。――刹那、放たれるは命奪い切り刻む竜巻。――ユーベルコード、『騎士王の凱旋』! 近づく眷属を竜巻でズタズタに裂き、短剣で貫き、竜巻に捲いた肉塊を散らしつつ、眷属どもを次々に散らしていく!
「生意気よ、定命の劣等種が!!」
 フェイリアは差し向けた眷属ごと圧殺する如く、複数の血壁を弾き出す。巻き込まれた眷属がその破壊力の前に五体四散する中を、しかしショコラッタは圧倒的な速度で回避、くぐり抜け、地を蹴りフェイリアに肉薄。
「自分で出して自分で殺してりゃ世話ねえな」
「五月蠅い!」
 皮肉交じりのショコラッタに吼えて応ずるフェイリア。やりとりの間に、が、ぎ、ぎん! 既に刃が三度跳ねている!
 ショコラッタは真の姿を晒し、さらにユーベルコードによる超高速軌道を交えることでフェイリアの剣と対する。一撃打ち込むたびに位置を変える、鋭き幻惑のステップワーク。フェイリアに対してさえ一歩も譲らぬ!
「ちょこまかと舞うものね……!! ならこれはどうかしら!!」
 フェイリアは剣に魔力を注いだ。同時に紅く輝いた長剣の切っ先が――ぶれたように霞む!
「ッ」
 ショコラッタが跳ねるその脚の軌跡が、止まる。同時に彼女の身体のそこかしこから赤い血が飛沫いた。
 ――何が起きた? ショコラッタは一瞬後に認識する。……敵の紅き刃が形を変えて伸び、踊った刃先が彼女の身体を鞭めいて裂いたのだ。
 傷は浅からず。先ほどまでのようなステップはもう刻めない。
「いいざまね猟兵。見切れないでしょう? このまま斬り刻んであげるわ――!!」
 再度、剣が紅く光る。フェイリアによる変幻自在の赤剣術が今一度ショコラッタを襲う、まさにその刹那――
「そうやって、好きに出来ると思ってずっと生きてきたんだろ。――おめでてー頭だ。何一つだって、テメエの好きにはさせてやんねーよ!」
 ショコラッタは吼える。彼女の羅刹としての本能が全身を選んだ。烈風、足下で渦巻く! ショコラッタは敵に放ち斬り刻むために用いる竜巻を足下で炸裂、その風圧をカタパルトにし、ロケットめいて前進する!
 ――フェイリアが驚愕の声を上げる、その暇すら与えぬ!! 二刀が蜻蛉の羽めいて閃き、悪鬼の全身を斬り刻むッ――!!
「が、……ッア……!」
「さっきの台詞、そのまま返すぜ。いいザマだな、吸血鬼」
 フェイリアの横を抜けて制動、踵で地を削りながら滑り、ショコラッタは刃の切っ先を今一度フェイリア目掛けて振り向ける。
 刃が、その殺意を点したかの如く、かそけき月灯に煌めいた。

「――おまえから盗む価値のあるモンは一つもない。大人しく海の底へ沈みな」

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルト・フィルファーデン

そう、アナタが……領主でありながら民を苦しめ、その上異形の姿へと変え弄び、剣狼様を殺して、全ての想いを踏み躙った。そうよね?
ふふっ、単純な外道で助かったわ?……何の躊躇もなく殺せるもの。

わたしの絡繰の騎士よ、力となって。さあ、完膚無きまでに滅ぼしてあげる!
傷つける程に力を増し命を吸い取るならば、一度の攻撃で一瞬のうちに葬ればいい。……ええ、その為なら多少の命は惜しくもないわ。
十の騎士人形による九の連撃、更に技能を載せたこの技に耐え切れるかしら!
【先制攻撃・早業・力溜め・2回攻撃・捨て身の一撃】

……ええ、仇はとったわ。そして、ごめんなさい。
これから、皆の為に勇敢に立ち向かった者を討つことを。



●亡者に祈りを、暴君に牙を
「そう――アナタが、フェイリア・ドレスデン。領主でありながら民を苦しめ、その上異形の姿へと変え弄び、剣狼様を殺して、全ての想いを踏み躙った。そうよね?」
 光の翅持つフェアリーが強い語調で言った。フェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)である。
「今更何を言うかと思えば。いかにも全て私がしたことよ。それで? おまえのような羽虫がそれを確認して、今から何を見せてくれるというのかしら」
 フェルトはフェイリアの挑発に応じず、己の指に煌めく十のアーマーリングを見せつけるように煌めかせ、十体の騎士を召喚する。ナイツ・オブ・フィルファーデン。フェルトが誇る、己を守る、姿とりどり十体の人形騎士。
 フェルトの戦意を映したかのように、十体の騎士はその各々がそれぞれの戦闘態勢を取る。
「逆に訊くわよ。わたしが、アナタに人形劇を見せるつもりでここまで来たとでも思うのかしら? ――単純な外道で助かったわ。なんの躊躇もなく殺せるもの」
 フェルトは嘯くように言うと、十のリングを通し、己の命を燃やした。彼女の全身が発光しているかに見えるのは、その命を己が力として人形騎士団に注ぎ込んでいるからだ。
 命を糧としても惜しくない。この外道は――ここで滅する!
「わたしの絡繰の騎士よ。我が力となって――この外道をただ滅ぼす、正義の鉄槌となりなさい!」
 じゃぎ、ぎんっ!!
 騎士団はそれぞれが各々の武器を構え、フェイリアに向けて構えを取る!
「私を殺すですって? 思い上がりも甚だしいわね。貴様のような矮小な羽虫が人形遊びをしてどうこうできるほど、エインシェント・ヴァンパイアは弱くなくてよ。――それを今から、骨の髄まで分からせてあげるわ!!」
 フェイリアは即座に『血壁』を展開。彼女の血と魔力を混ぜることで構成される不可侵強固な魔術障壁だ。それを、背面に斥力術式を作用させることで高速射出!
 つまりはその進路上の全てを、血壁という作用面を持たせた斥力で砕く、単純にして強力な攻撃だ!
 フェルトは迷いもなく己の人形に己の命を注ぐ。彼女は己の騎士団に絶対の信頼を置いている。故にこそ、ためらいも恐れもない。
 その注いだ命に初めに応えたのは、三番、Hammerであった。跳ねるように前進するなり、戦槌を一度スイング、身体を回転させてその勢いを乗せ、赤き壁に真正面から――CRUUUUUUUUUUSH!! 凄まじい大音と共に、迫る赤き壁が砕け散り、散る破片が空気に赤き霧となって混じる!
「なっ」
「人形遊びと言ったわね。これが単なる飯事に見えるなら、そのつもりでお受けなさい。瞬きの間もなく葬ってあげるわ!」
 ――そう、フェイリアはその身体の損傷を己の力に変換するすべを持つという。ならば選ぶべきは速攻、即座の撃破。中途半端に傷を付ければ手痛い反撃が待つというなら、徹底的に叩き、一瞬のうちに葬ってやればいい。
 故にこそ、フェルトは初手から命を削っての全力攻撃をかけた。今この瞬間も少女は死に向かって摩耗していく。――この命が摩耗しきる前に、決着を付ける!
 戦槌持つ人形の後ろから、二刀持つ人形がまず駆けた。フェイリアの剣は想像を絶する峻烈さ、双剣疾らせての速攻を、傷一つも無く受け止める。然しその顔に余裕はない。
 絡繰人形が更に後ろより迫る。大剣を、槍を、弓矢を、暗器を。爪を、鞭を、拳を、黒き呪術の波動を――各々の武器を携えて、攻め寄せるのだ。
 フェイリアに警戒心を抱かせるほどの、凄まじい技の人形騎士が更に九体! フェルトが命削って演ずる騎士団の実力は生半ではない!
「く、ううううっ……!」
「どうかしら、私の『人形遊び』。気に入って頂けて?」
 フェルトは、己の命を削りながらそれでも涼しげに笑い、フェイリアに皮肉を投げ返す。
 傷つきズタズタに裂かれ、斬られ、砕かれ、転げるフェイリアを見下ろしつつ、フェルトはアーマーリングをした十指を祈るように組む。
 祈りを捧ぐ。もう、この世を離れ召された者達へ。

 ――仇を取るわ。そして――ごめんなさいね。お詫びするわ。
 これから、アナタたちの為に戦ったあの狼を、討つことを。

 遠く、剣狼の遠吠えが聞こえた気がした。
 フェルトは十指に繋がる人形に、さらなる力を込め、フェイリアを猛撃する!

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・ミラ

【双星】

どれほどの未来を奪い、命を愚弄すれば気が済む
…貴様達吸血鬼は
再び燃え上がりそうな怒りを抑える
…本来なら、剣狼が討ちたかっただろうが…
覚悟を決め、剣を握る

先ずはセリオスの援護
攻撃からかばうように盾で受け止め
引きつけるような斬撃と光属性を奔らせ範囲攻撃

ああ…決定打を与えられない
…セリオス
背中を押され、彼の目を見る
ーー分かった、預かるよ
…周りは頼んだ

首魁目掛けて走る
…研ぎ澄ませ
剣と盾を以って
その隙を見切れ
隙を見切れば盾で弾き飛ばし
剣を構え、光を収束させる
…彼の歌声と、剣に応えろ
思いは全て、この剣に乗せる
骸を浄化し、邪悪なる者の剣ごと両断する極天光の一振り
ーー【天空一閃】
此処で終わらせる!!


セリオス・アリス

【双星】
祖、だったか
始まりが間違ってるから
ヴァンパイアはこうも腐ったヤツしかいねえのか?
怒りも哀れみも飲み込んで
代わりに挑発、睨み付け

歌で身体強化
ダッシュで距離を詰めたら炎の魔力を剣に
2回攻撃をいれて跳び上がり

いくらでも沸いてくるんじゃキリがねえな
…アレス、俺の剣
お前に預けるぜ
アレスの背を押し首魁の方へ
アレスが自由に攻撃できる時間だけ稼げばいい
そうすりゃ操られてるコイツらは還れるだろう
周囲の敵を誘う様に
歌うは【赤星の盟約】
きっと、俺より剣狼に心を寄せてるアレスの剣を
吸血鬼に届けるための歌を…!
敵の残撃を見切りギリギリで躱しながら
あの剣狼の為にも、死んでった奴らの為にも
終わらせてやれ、アレス!



●届けよ光、と黒歌鳥は云った
 祖。『初めのものども』。その名前を聞いた時、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)が抱いたのは強い怒りだった。
「――始まりが間違ってるから、ヴァンパイアってのは一から十までみんな腐ってやがるのか。なあ、エインシェント・ヴァンパイアさんよ」
 怒りも哀れみも今は飲み込む。戦いの邪魔だ。剣を曇らせるものは、今は要らない。
「言葉を慎むのね、惰弱な劣等種が。この常闇の世界では我らこそが正義にして法なのよ。私たちに間違いなどないわ。――過ちを指摘するものがあれば、それこそが過ちよ」
 フェイリアは軽やかに応えながら、魔力と血液にて『血壁』を構築。四方へ放つことで数名の猟兵を薙ぎ倒す。 セリオスはそれを跳び避けながら、鋭く目を眇めた。なんという独善、なんという手前勝手な理屈か。己こそが絶対だとそう言ってのける吸血鬼。こいつを生かしておけば、必ずやまた誰かが死ぬ。誰かの涙が流れる。
「どれほどの未来を奪い、命を愚弄すれば気が済むんだ。……貴様達、吸血鬼は」
 凜とした声が鳴った。セリオスはその声を誰よりよく知っている。星の片割れ、アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)のものだ。
「それは難しい質問ね。おまえたちだって、腹を満たした翌日にはまた空腹を覚えるでしょう? それと同じことよ。満たされてもいずれは飢えるわ。私にとっての吸血衝動や愉悦もまた同じもの。飽くことなく続くものよ」
「貴様……!!」
 激しそうになるアレクシスの隣にセリオスが降り立つ。手を出して制するような言葉。
「アレス。相手にすんな。……剣狼だってそうだ。怒って突っ込んであのザマだ。二の轍を踏むわけには行かねぇだろ」
「……ッ、ああ」
 アレクシスは息を吸い、しかし抜いた剣を納めることなく頷いた。いつもとは逆の構図。セリオスは、アレクシスが剣狼に少なからず思い入れを持っていることを悟っている。
 だからこそ、今日は自分がブレーキにならねばならないと分かっていた。二人で我を失えば、その先にあるのは敗北だけだ。
「あらあら、虫螻でもそれなりに学ぶものね。ま、怒っていようがいまいが、おまえたちでは私を殺せはしないでしょうけれど」
 フェイリアが指を鳴らすと、宙に展開された魔法陣より肉塊がボトボトと産み落とされる。肉塊は瞬く間にフェイリア自身のコピー――眷属を形作る。無数の銀髪の吸血鬼が、その手に次々と紅の長剣を携える。
「遊んであげるわ。踊りなさいな」
「……本来なら剣狼が討ちたかったろうが、僕らとて譲るつもりでいては勝てるものも勝てない。本気で行く。良いね、セリオス?」
「当たり前だ。やろうぜ、アレス」
「ああ!」
 セリオスとアレクシスが構えを改めるのとほぼ同時に、眷属らが彼ら二人目掛けて殺到した。
 眷属らが振り下ろす紅の剣より、赤色の衝撃波が迸る。セリオスとアレクシス目掛け集中する衝撃波を、まずはアレクシスが受けた。
 大楯を振りかざし、光のオーラをそれに纏わせる。流れるようにセリオスはその後ろに隠れる。まさに阿吽の呼吸。アレクシスの盾が光を纏い、衝撃波の悉くを弾き飛ばす!
「肩借りるぜ!」
「いつでも!」
 攻撃の切れ目を狙ってセリオスが跳ぶ。アレクシスのショルダーアーマーを踏み台に跳躍したセリオスは、既に歌――『青星の盟約』を口ずさみ、その身体能力を増幅している。
 空中から炎の魔力を帯びた剣を振るい、紅蓮の衝撃波を飛ばす。迎撃の構えを取った数体をそれにより爆殺しながら、地に降り立つなり走って瞬く間に数体を斬り伏せる。
 機敏に動くセリオスだが、敵の数が多くなればなるほどに、彼の脚は活かしづらくなる。逃げるため、躱すためのスペースが少なくなるためだ。
「セリオス!」
「!」
 囲まれかけるセリオスに、後ろからアレクシスの声。セリオスは振り向きもせず、宙に逃れるように跳んだ。刹那、光の斬撃がごう! と音を立ててセリオスの足下を薙いだ。――アレクシスの長剣、『赤星』の切っ先から伸びた光の斬撃が、一気にセリオスが引きつけた敵を薙ぎ払ったのだ。
 抜群のコンビネーションの前に、眷属が次々と屠られていく。――しかしフェイリアの余裕ぶった笑いは崩れぬ。いくら倒そうと痛手にもならぬとばかり、女はまたも肉塊を招来し、新たな眷属を作り出す。
 セリオスは舌打ち混じりにアレクシスの元へと跳び下がった。
「チッ……いくらでも沸いてくるんじゃキリがねえな」
「ああ……決定打を与えることが出来ない。このままじゃあいつに近づけもしない」
 歯痒げな表情で呟くアレクシス。悔しさを滲ませるその顔に、セリオスは深く息を吸った。
 ばし、と鎧越しに、彼の背中を叩く。
「……セリオス?」
 空色の瞳がセリオスを見やる。返すようにセリオスは不敵に笑って見せた。
「アレス。俺の剣、お前に預けるぜ。……俺が時間を稼ぐ。その間に、お前がヤツを討て」
 セリオスは歌い出す。失った故郷の歌、アレクシスとセリオスの亡き故郷を、交わした約束を謡う歌。『赤星の盟約』。――剣狼に心を寄せるアレクシスの剣を、吸血鬼に届かせるための歌……!!

 ――往け。後ろは振り返るな。俺はお前を信じる。だからお前も、俺を信じろ。

 目を閉じればかつての故郷の光景が瞼の裏に蘇るようだ。――しかし懐かしんでいる時間はない。アレクシスは、セリオスに首肯し、静かに返した。
「……ああ。君の剣、確かに預かった。周りは頼んだよ」
 その瞳には怒りも焦りもない。ただ、確固たる意志と信頼だけがあった。
 口端を持ち上げて応じるセリオス。やりとりはそれで最後だ。アレクシスは放たれた矢のように、一直線に駆けだした。


 セリオスの歌、『赤星の盟約』は、共感した対象の戦闘能力を爆発的に増強する。その効果範囲は極めて狭い。亡き故郷を謡う歌に、対象が共感せねばならぬからだ。
 ――しかし、一人に届けばそれでいい。アレクシスに届きさえすれば。
 疾るアレクシスの横をセリオスが固める。炎纏う剣で、アレクシスを狙う敵を斬り、焼き祓う。アレクシスは援護を受けながら真っ直ぐに首魁――フェイリア目掛けて走り抜ける!
「あら、小癪にも抜けてくるのね。……いいわ、少しばかり構ってあげるとしましょうか」
 アレクシスの背で、激戦の音。セリオスが時を稼いでいる。アレクシスは最早言葉もなく、真っ直ぐに打ちかかった。
 赤星と紅の長剣が打ち合う! まるで板金工場のような激音が連なり、二者の打ち合いの壮絶さを語る!
「鈍いわね、猟兵! おまえを殺したら次は後ろの長髪よ。可愛らしい顔をしているし、玩具にしてやるのも悪くないかもねぇ!」
「させるものか! 僕がいる限り、セリオスを二度とそんな目に遭わせはしない……!!」
 強く返すも、フェイリアの剣勢は凄まじい。今までも数々の猟兵がこの吸血鬼に白兵戦を挑み、少なからず傷を刻まれた。アレクシスとてその例外ではない。『赤星の盟約』により身体能力を増幅されているはずの彼でさえ追いつけぬ速度の剣。鎧が歪み傷つき、空隙を狙う剣を受けるたび、赤い血が散る。
 だが、アレクシスは不退転の覚悟を以て臨んだ。背では今も、セリオスが、この一対一の状況を維持するために激しく戦っている。赤星の盟約を謡う間は、根源の魔力を強くは引き出せぬ。その状態でなお、戦線を支えているのだ。
 ――その覚悟に報いねばならぬ。
 研ぎ澄ませ。隙を見切れ。いかに鋭い斬撃であろうと、隙は必ずある。
「しぶといわね――もう良いわ、退屈よ。沈みなさい……!」
 焦れたか。捨て台詞を吐きながら、剣を引いての一瞬の溜め。アレクシスはその瞬間に盾――『早天の盾』の面積を増し、まさに壁めいた状態として踏み込んだ。足下に光が爆ぜる!
「なっ?!」
 フェイリアにしてみれば突如自分の前に、迫る巨大な壁が現れたようなもの。引いた剣を叩き付けるが、十分な加速を経ぬ剣などで破れるほど、アレクシスの守りは柔ではない!
 ――あの剣狼の為にも、死んでった奴らの為にも。終わらせてやれ、アレス!
 セリオスの歌声が高まる。痛みを、湧き上がる力が凌駕する。
「おおおっ!!」
「ぐうっ……!?」
 そのままシールド・バッシュ! 叩き付けた盾で敵の身体が浮く!! 刹那のこの好機に、全ての力を集中する。アレクシスの手の内で、赤星がかつてないほどに目映く輝く!

 是なるは骸を浄化し、邪悪なるものを絶つ為の一撃。
 極天に至る光の聖剣!

「これで、終わりだ――ッ!!!」
 光迸る赤星による全力の一撃。天まで裂けよと光迸り、剣先より伸びるは極大光刃、『天空一閃』!!
「ッグ、うああアアアッ?!」
 苦鳴、壮絶! 光の衝撃波がフェイリアを飲み込み、その後ろの東屋と木立を巻き込み薙ぎ倒し、諸共に吹き飛ばす……!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィックス・ピーオス
ヴェポラップ(f22678)とペア

アレがあの剣狼が恨み恨んでるヴァンパイア様ってわけかい。
てっきりイケメンが出てくると思ってたんだけどねぇ。
これと言って特徴もないただの女、気分が盛り上がらないねぇ。
ま、でも不死の化物退治は古今東西聖職者の獲物ってのがお決まりだからね
パパっと救済してやろうか、ポーラ。


・戦闘
初手で一旦ヴァンパイアたちから離れることで距離を置く
そこから大きく「V」を吸って
UC『変幻自在・合法阿片』を発動
敵集団の足元の床を全て合法阿片に変換し、一瞬で戻すことで床にヴァンパイアたちを嵌める。
足止め程度ではあるが…

お膳立ては済んだんだ、後は頼むよポーラ。


ヴェポラップ・アスクレイ
ヴィー(f22641)と

・心情
不死者という教義的な異端に対する呆れ:緑
剣狼への不安(一撃を受けて狂乱に陥らないか):灰
緊張:黒

あの戦いぶり
我々とてただの女性と侮れば容易く死ぬでしょう
であれば貴女の言う通り
さっさと救済するが吉
……しかし
三度の飯より恨み辛みを啜りながら今日まで生きてきた理由
気になりますねぇ

・戦闘
手裏剣で敵の四肢を重点的に攻撃
ヴィーや私から間合いを稼ぐ
腱を切れば怪異と言えど動きは鈍るでしょう
配下は適宜千切って投げる

ヴィーがUCを発動後、UCで配下とフェリシア引っ括めて攻撃

ありがとうヴィー
さぁドレスデン公
過去殺し風情で恐縮だが
世界の為貴女を勝手に救います
苦情は主にどうぞ
イヒヒ



●聖毒の刃
 どこにそんな力があるのか。あるいは、骸の海を汲み上げれば斯様に途方もない力を得ることが出来るのだろうか。猟兵らの苛烈な攻勢を受け切り、フェイリア・ドレスデンはさらに身体を再構成。
「これほどしつこい過去殺しは見たことがないわね……今まで何人も食ってやった中で、最悪よ、おまえたち」
「最悪ってのはこっちの台詞さ。あの剣狼が怨みに怨んだヴァンパイア様ってんだから、どんなイケメンが出てくると思ってたら――出てきたのはこれといって特徴もないただの女。これじゃ気分が盛り上がらないよ」
 うんざりしたような調子で呟くフェイリアに肩を竦め、眠たげな調子を作って応じたのは、ヴィックス・ピーオス(毒にも薬にもなる・f22641)。サイケデリックなピンクカラーのメッシュを入れた短髪の女だ。
「なんですって――死にたいらしいわね、口の利き方を誤ったことを後悔させてやるわ!!」
 ヴィックスの言葉に激したように、フェイリアは即座に肉塊を招来し、数十体に及ぶ眷属を生成する。それに対してたしなめるように、横合いでルミナスグリーンのメッシュを入れた男が口を開いた。
「ヴィー。油断は出来ませんよ。他の仲間もいずれ劣らぬ強者ばかり。それでも攻め落とせないという事は、彼女もまた強者という事。我々とてただの女性と侮れば容易く死ぬでしょう」
 眷属らがフェイリアと同じ血の長剣を構えるのを見やりながら言うのは、ヴェポラップ・アスクレイ(神さま仏さま・f22678)。彼の纏う後光は今は黒く、敵に対する強い警戒を示している。
「はいはい。分かってるよ。――不死の化物退治は古今東西、アタシら聖職者の仕事ってのがお決まりだからね。油断も加減も躊躇もなく、灰ひとひらまで平等に――パパっと救済してやろうか、ポーラ」
 歌うように紡ぐヴィックスの口上に、ヴェポラップが口端を吊り上げながら応えた。
「そうしましょうとも。さっさと救済して、棺桶に蓋と、山査子の棘を。――しかしまァ、今世を創ったと謳う『初めのものども』ともあろうものが、三度の飯より恨み辛みを啜って生きた理由――」
 実に、気になりますねぇ。
 ヴェポラップの呟きは、突撃してくる多数の眷属の足音と鯨波の声に飲み込まれた。
「悠長なことを言っている場合でもなさそうだ。ヴィー、時を稼ぎます。後は手筈通りに」
「ケヒヒッ、うまく行くかは分からんがねぇ。ま、しくじっても死ぬだけさ。楽しもうか、ポーラ!」
 ヴィックスが地を蹴り飛び退いた。突撃してくる敵の群を正面から相手取るのはヴェポラップだ。彼はその両手に無数の手裏剣を抜き、腕を鞭のように撓らせて投擲、投擲、投擲! 手が霞み視えなくなるほどの高速のスイングから放たれる手裏剣が、眷属達の額を貫き着実に葬っていく。
 しかし敵の数は膨大、対するヴェポラップは一人。多勢に無勢とは正にこのこと。大量の手裏剣をばらまき、殺せるものは額を射貫いて殺し、難しければ下肢を、特に腱を狙って動きを鈍らせるが、やがては追い詰められ近接を許すケースが出てくる。
「――流石にこの人数相手というのはなかなか厳しいものですねぇ、っと!」
 間に合わぬならば仕方が無い。投擲をメインに戦っていたが、ヴェポラップは逆手に握った苦無で応戦。振り下ろされる紅の長剣をぎゃりり、と受け流し、もう片手に握った苦無を頭蓋に突き立てて一殺。続く敵二体にバック転しざまの手裏剣投擲、首に突き立ち血飛沫!
「ポーラ! やるよォ!」
 後ろから声。待っていたとばかりにヴェポラップは高々と跳躍! 追って跳躍しようとする眷属達が身を沈めたその次の瞬間――
「何、……ですって?!」
 下で戸惑いの声を発したのはフェイリアであった。
 眷属達が、いや、眷属だけではない。地面が突如として、流砂めいた暗褐色の粉末に姿を変えたのだ。踏んでいたはずの石畳が得体の知れぬ砂に変じた影響は大きい。足を取られ転倒するものが続出し、フェイリアさえもがよろめいた。
「ケヒヒッ! 思ったよりもよく効くもんじゃないか! さぁてそれじゃお膳立ての仕上げといこうかねぇ!」
 哄笑したのはヴィックスである。その口の端からは、戦闘の最中にキメた合法阿片――『V』の煙が漏れている。
 肉塊らとの戦闘の際、薬毒の雨を降らせ敵の悉くをを鏖殺した彼女が今度見せるのは、『変幻自在・合法阿片』。ありとあらゆる無機物を高純度の合法阿片に変換し――更に、
「こいつで一丁上がり、ってワケさ」
 パチン、とヴィックスが指を鳴らすなり、流砂めいた一面の合法阿片が、突如として石畳の形を取り戻す!
『変幻自在・合法阿片』はなにも、一方向の変換ではない。解除すればその瞬間、変換された合法阿片は元の形を取り戻す。――液状化現象めいて阿片となった地面を即座に平素の形に戻すことで、ヴィックスはこのユーベルコードを敵を捕らえるトラップとして用いたのだ!
「さぁ、お膳立てはこれでいいだろ? 後は頼むよ、ポーラ!」
「ありがとう、ヴィー。――ではやるとしましょう」
 身を撓らせて獣めいて着地したヴェポラップが、疾風めいて前へと駆ける!
「クッ……、この程度で捕らえたつもりなら甘いわよ……!」
 石畳に亀裂。直ぐさま脱出しようとするフェイリアに、「ああ、」とヴェポラップは幼子を窘めるかの如くに息を漏らした。彼の後光はいつしか緑色――この不死者に対する呆れにも似た思いを表現する色に染まっている。
「知っています。なので、念を入れて片付けようかと思いましてね」
「飛刀と非力な格闘だけが得手の身で何が出来るというのかしら!」
 ヴェポラップの戦いぶりを見ていたのだろう、フェイリアは嘲笑うように言いながら脚を片方、地面から引き抜く。
 それを見ながら、ヴェポラップは最大加速。
 同時に、ぎゃらり、と両手に濡れた刃を手挟んだ。
 それは煮詰まった怨毒の塗布された、聖なる短剣。

   スナッグル・コンサクレヰション
 ――狂 乱 怒 涛・選 別 ノ 儀。

 風のように前進しながらの投擲、投擲、投擲、投擲、投擲、投擲投擲投擲投擲投擲投擲投擲投擲投擲ッ!! 銀の毒刃が嵐と吹いた! おお、飛刀だけが得手と侮ったフェイリアさえ目を見開いた。ユーベルコードの域に達した投擲術は正に嵐の如し! 狂瀾怒濤の名にふさわしく投擲された刃が、悉く眷属達に着弾し、傷口から這い上る毒で彼女らを壊す。
 ――あああ、あ、ああ、あああああああああああああッ!!!
 悲鳴の合唱! 足を取られ身動きも取れぬままに刃を受け容れるしかない眷属達が、苛烈な毒と聖別された刃金の前に泣き叫び、次々と灰になって散っていく!
「な、何ッ……貴様、何をしているッ……!!」
 その異常な光景に、さしものフェイリアとて焦りを表出する。しかし答えてやる義務も言われもない。ヴェポラップは容赦も躊躇いもなく、持てる刃の全てを次々と投げ放つ! 彼が途切れなく連射できる刃の数、およそ百七十。――眷属を片端から殺し駆け征く様子は、まるで導火線に火が這う如し!
 ヴェポラップは常ならば細めたままの目を、薄く開いて刃めいて光らせた。
「侮るならばその身で確かめていただきましょう。さぁ、ドレスデン公とやら。過去殺し風情で恐縮だが――世のため人のため、貴女を勝手に救います。苦情は主にどうぞ、イヒヒッ!」
「おのれ、猟兵ぁああぁぁぁッ!!!」
 怨嗟めいた言葉を吐くフェイリアのその全身を、聖毒併せ持つ刃が射貫いた。
 筆舌に尽くしがたい悲鳴がダークセイヴァーの夜空を揺らし――フェイリアの肉体が崩壊し、赤き霧として散る。――今宵彼女が迎えた数度の滅びの内の、その一つがそこにあった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

東雲・一朗

【古兵A】
逆上せる?
愚かな…どうやら長生きはしても戦に関しては素人のようだ。
我らのような老兵が、歴戦が戦場で隊伍を組むという事はそれ即ち必勝を確信しているから…これは戦力分析から導き出した答えだよ。

▷服装と武装
帝都軍人の軍服、少佐の階級章付き。
刀と対魔刀の二刀流、2振りとも腰に帯刀。

▷戦術行動
私とゲンジロウ殿が前、パラス殿が援護、豊富な【戦闘知識】を活かした一切の隙が無い万全の連係【団体行動】で攻め立てよう。
「私の二刀、受け切れるか」
桜の霊気【オーラ防御】を纏い、斬り込む。
敵の動きを【見切り】【武器受け】しながら【破魔】の力宿す二刀による二重【二回攻撃】【剣刃一閃】を放ち、微塵に斬り捨てる。


李・蘭玲

古兵B
白斗/f02173
軍曹/f01737
と連携
ハイテンション=機嫌がよい

「野郎ども、見惚れて外すんじゃないよ!」
そんなクソはいないと思うけど…景気づけさ
久々の大物狩りだからね!
白斗のハイタッチ応じ

今度は後衛から白斗と軍曹を射撃で援護するよ
得物は対物ライフルと記憶消去銃(光線銃
ライフルはスナイプと援護射撃に特化した怪異殺しさ
今の機体なら片膝撃ちもいけるハズ

攻撃は二人に合わせてUCでの追撃を狙う
もし敵が空中にいる場合はアタシから撃ちこむ
落ちるまで続けるよ

けど接近されたら小回りが効かないからね
矛先が向いたら光線銃を最大出力で早撃ち

こんなジジババに目くじら立てて…余裕がないねぇ始祖サマ?(ニタニタ


九十九・白斗
◎【古兵B】
よし、蘭ねーちゃん交代だ
パシンと手をタッチして前線に移る
あの肉塊相手に攻撃を受け切ってくれたのだ、次は自分が前に出る番だ
ライフルなど、荷物をおろし身軽になる
少しは対策になるかもと、持ってきたニンニクも齧っておく
あとはナイフ一本
それだけあれば十分だ

軍曹、俺は突っ込むから露払いは任せるぜ

軍曹の部隊の一斉射撃で吸血鬼の眷属を蹴散らしてもらい、一気に女吸血鬼に詰め寄りナイフを突き立てる

刺したナイフの傷から出た血で強力な反撃をしてくるだろう
捕まって生命力を吸収されそうになったら、かみ砕いたニンニクを顔に吹きかけてやる

それでひるんでくれたら、軍曹と蘭ねーちゃんの狙撃に助けてもらうとしよう


ゲンジロウ・ヨハンソン

【古兵A】

剣狼のやつ、見事に吹っ飛んじまったのぅ。
可愛そうじゃが、世の中英雄に導かれる奴もいるなら、
英雄になれない運命をもつ奴もいるってこったな。

○戦闘
外見の割に、奴さんは近接型か。
戦闘開始早々に【選択したUC】を発動し、真の姿を開放じゃな。
【盾受け】で敵の攻撃を凌ぎつつ、懐へ潜り込もう。
【装備1】を片手に、【早業】の剣撃と【属性攻撃】を交えつつインファイトの間合いで【挑発】しよう。
強化された身体を存分に活かして敵の気を引き、東雲の旦那やパラスの姐さんが攻撃をクリーンヒットできるチャンスを作っていくぞ。

トドメの一撃には、【鎧無視攻撃】の蒼炎の【属性攻撃】を【捨て身の一撃】で突き入れ追撃じゃ。


パラス・アテナ


【古兵A】

胸糞悪いオブリビオンを生み出したのは胸糞悪い女とは
韻を踏んで結構なことだね
心置きなく存分にぶちのめせるってモンだよ
骸の海へお還り

連携を重視して事に当たるよ
相手は腐ってもエンシェントヴァンパイア
一瞬の油断が命取りだ
アタシ達に油断は無いがね

前へ出る味方を援護
命中重視の【一斉射撃】でフェイリアの行動を阻害
アイギスのマヒ攻撃で動きを鈍らせてニケの連射で手と足を止める
攻撃回数は2回攻撃と一斉発射でカバー
援護射撃で味方の援護に徹するよ

広い視野で戦場を見渡して
情報収集と戦闘知識、第六感を駆使して敵の攻撃を見切り味方に伝達
連携で味方の攻撃を最大限活かすのがアタシの仕事だ
後ろは気にせず存分に仕事おし


マクシミリアン・ベイカー
◎【古兵B】

もはや前線に出ることはないと思っていたが……たまには前に出んと、後進に示しがつかんか。

UCにてかつて育てた部下を呼び出す。
「よく聴け死にたがりども! 敵はヴァンパイアのビッ●だ。遠慮はいらん、クソ女の下品な面を蜂の巣にしてやれ!」

蘭玲女史の狙撃の火線を遮らぬよう展開、敵へ射撃を集中させる。
俺自身もアサルトライフルで撃つが、あくまで部下への指揮を主とする。

敵は強大なオブリビオン。精鋭兵と最新火器とはいえ、大した傷は負わせられんだろう。
だが構わん。白斗氏の白刃と蘭玲女史の狙撃を届かせる、それが我らの役目だ。
二者の援護が終わり次第、後退する。猟兵ではない部下を死なすことは、極力避けたい。



●レジェンズ・アサルト
「しかし剣狼はどこまで飛んだものやらなぁ。可哀想じゃが、世の中英雄に導かれる奴もいるなら、英雄になれない運命をもつ奴もいるってこったな」
「天運一つで分かれること故な。――ゲンジロウ殿、会敵する。気を引き締められよ」
「おうさ」
 前進。戦場を旋風の如く駆け抜けた古兵らが走る。肉塊どもを蹴散らして参じたのはゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)と東雲・一朗(帝都の老兵・f22513)である。他の猟兵との壮絶な近接格闘を演ずるフェイリアを見て、ゲンジロウが一言。
「外見の割に、奴さんは近接型らしい。初手から全開で行くぞ」
「是非もなし」
 ぎいんっ!!
 先行した猟兵の武器とフェイリアの長剣が弾けあい、その距離が開いた瞬間を見計らい、ゲンジロウと一朗が飛び込む。
 ――その刹那、ゲンジロウの膚に紫炎走る! その身体に、過去に殺したものの怨嗟を炎として纏っているのだ。錯覚ではなくその身体が膨れ上がり、常でさえ筋骨隆々とした身体がなおもバンプ・アップ、ただならぬ威圧感を帯びる。ユーベルコード『怨嗟の炉』、起動状態である。
 一方の一朗もゲンジロウと並び駆けながら、ずらり抜刀。帝都軍少佐、大隊長として駆け抜けた彼の相棒たる名刀『影切』と旧式の退魔刀の二刀流。その身に纏う、炎めいて揺らめく桜色の霊気の輝きが、風を孕んで揺れる軍服を美しく濡らしている。
 最早存在を隠そうともせず駆け寄せる二人を、フェイリアの嘲笑うような声が迎えた。
「はっ――またぞろ逆上せ上がった英雄様のご到着というわけ。次から次へとご苦労なことね!」
「逆上せる? 愚かな。どうやら長生きはしても戦に関しては素人のようだな。上位種気取りで格下をいたぶることしかしてこなければそれも当然か」
 痛烈な一朗の面罵にフェイリアが憎々しげに顔を歪める。それにも構わず一朗は続けた。
「我らのような老兵が、歴戦の士が戦場で隊伍を組むという事。それ即ち必勝を確信しているからだ。……この攻勢こそ戦力分析から導き出した答え。我らを嗤わば、これを耐えてみるがいい」
「大きく出たじゃない、それが口だけじゃないかどうか確かめてあげるわ、死に損ないども!!」
 フェイリアは凄まじい勢い――音速など優に超えているだろう――で手にした血の長剣を振るった。尖端がぶれて伸びたかに視えたその刹那、疾り伸びるは赤き衝撃波。ゲンジロウと一朗を嵐のように襲う衝撃波を、しかし一歩前に飛び出したゲンジロウが、手にした蒼炎纏うスティレット――『劫火』で、シールド・ガントレットを備えた左腕で、あるいは怨嗟の炎を厚く纏わせたその肉体で、受け防ぎ止めつつなおも前進。その勢いは衰えることを識らぬ。
「効かねぇなあ、軽いぞ、お前さん。薄っぺらな今までの生き様が剣に出とるようじゃな」
「言うに事欠いて、貴様……ッ!!」
 攻撃を防ぎきった上でのゲンジロウの挑発は覿面に効いた。気色ばみ攻撃をなおも強めようとするフェイリアだが、その鼻先を押さえるように銃弾が降り注ぐ!
「ッ!!」
「あぁ――物言いから態度ひとつ、何から何まで鼻持ちならないね。胸糞悪いオブリビオンを生み出したのは胸糞悪い女とは、韻を踏んで結構なことだよ」
 飛び退くフェイリアを、なおも銃弾が追いかける! 型式番号EK-I357N6“ニケ”と、IGSーP221A5“アイギス”から放たれる銃弾の嵐が、フェイリアの反撃を許さない!
「アンタが最高に最低でよかったよ。心置きなくぶちのめせるってモンだ。――ようやく会えたね、エンシェントヴァンパイア。骸の海に還る時間だよ」
 後方支援を買って出たパラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)の『一斉射撃』が、フェイリアの反撃の機を奪い、動きを封じる!!
 彼女の役割はその二丁の銃を用いてのフェイリアの行動阻害である。味方の攻撃力を援護によって最大化する、パラスが得意とする作戦行動の一つだ。
「小賢しい真似を……!」
「ああ、小賢しくもなろうとも。年を食うとね、闘い方も変わっていくものさ。——アタシらのやり方を見せてやろうじゃないか。アンタは腐っても強大なオブリビオンだ。アタシらはそれを識ってるからね――油断なんぞしない。姑息に慎重に、アンタを追い詰める。絶対に逃がさないよ」
「くうっ……!」
 フェイリアは跳び下がりつつ立ち位置を換え、ゲンジロウと一朗を射線上に挟もうと走るが、パラスは射線が味方に重なる前に的確に射撃を停止。射線の通る位置まで回り込む。常に周りを見る冷静さが可能とする的確な援護射撃だ。
「おうおう、姐さんの銃ばっかり構ってもらったんじゃあ寂しいのう!」
 ゲンジロウが飛び込み、スティレットによる刺突の一撃! フェイリアは軽やかにそれをいなすが、スティレットでの突きの後にシームレスに左のショートアッパーが繋がる。筋肉の塊といった見た目によらず、彼の動きは俊敏である。
「この筋肉達磨が……!」
「褒め言葉にしか聞こえんわい」
 フェイリアはスウェーしてアッパーを回避、紅の長剣に強烈な魔力を込めゲンジロウの脇腹を薙ぐように振るうが、その一撃を一朗が二刀にてインタラプトする。金属の軋り合う壮絶な音!
「私を忘れて貰っては困る。――この二刀、受けきれるか」
 嘯き、二刀で赤の長剣を圧し払い、一朗は白刃による白兵戦を仕掛けた。
 ゲンジロウの剛撃に対して、一朗の剣は流れる水のような流麗さ。しかし、水は苛烈に流れば岩をも砕く激流となる!
「人間風情が生意気に、剣を二本持ったところで……ッ!!」
 フェイリアは怒りもそのままに一朗の剣に対する。剣先を撓らせるような独特の剣術、そして剣先より迸る赤色の衝撃波。フェイリアの剣はなるほど、人を殺すことに特化した凄まじき撃剣だ。
 だが一朗もまた負けていない。これまでの人生、長きに渡り共に駆けてきた愛刀との記憶。戦いの経験が、感覚的に敵の攻撃の脅威となる部分を教えてくれる。翻るフェイリアの剣先をいなし、紅の衝撃波をそらし、守りも堅く防ぎ止め続ける。
「剣を二本持ったところで、なんだというのだ? 攻め切れていないようだが」
「こ、っの……! 嘗めるな!!」
 フェイリアの剣は加速し続け、受けそびれる攻撃が出てくる。腕から脚から血が飛沫くのにも一切頓着せず、一朗は敵の大振りを待った。
 焦れれば必ず大振りになる。――己の勝利を確信している強者ほど、敵を派手に叩き潰したがるものだ。
 ――果たして、その機はすぐに訪れた。
「はああっ!!」
 赤色のオーラが長剣を覆い、凄まじい威圧感を放つ。大上段に構えての振り下ろし!! 当たれば一朗とて即死だろう。本能がそれを教えてくれる。
 だが同時に中段、がら空き。一朗はそこに活を見る。姿勢を低く取り、一朗は全力を賭して踏み込んだ。桜色の霊気が剣を這い上り、斬魔の輝きを帯びる。
 ――剣刃、二刀二閃。
 飛燕舞う如くに振るわれた破魔の斬閃が、フェイリアの身体を深く断つ!!
「ぐうっ?!」
 長剣からオーラが霧散した瞬間を狙い、横合いからぎぃいぃいい、と耳障りな高周波音! パラスだ!
「足が止まったね。ついでにこいつも喰って行きな!」
 アイギスに仕込まれた発振器が稼働、その銃弾に運動機能を麻痺させる特殊な電磁波を纏わせ――射撃、射撃射撃射撃射撃! 次々と着弾する銃弾が血の薔薇を咲かせ、フェイリアの運動能力を封じる!
「があああっ!?」
 苦鳴をあげるフェイリア。
 ――おお、三者がまるで呼吸を共にしているかのような三位一体の連携! 刹那の好機を見定め、一朗がこじ開けた隙を、周囲の状況、戦況を敏感に掴み、パラスが広げてゲンジロウに託す。
 ――そして!
「さぁ、ゲンジロウ。暴れどころだよ」
「こいつはお誂え向きな所を貰っちまったのう。ようし、そんじゃあ一つホームランコンテストと行こうじゃないかい」
 進み出るはゲンジロウ! その右手のスティレットを怨念の炎が覆い、元の蒼炎と混じって蒼紫に燃え上がらせる!
「見せ場がねえんじゃ拍子抜けじゃからな、助かったわ。――そういうわけで、すまんが、吸血鬼。この辺でお開きにさせてくれや。わしらにゃこれからもう一仕事あるもんでの」
「っ、おのれ、ええッ……!!」
 呪うような声を上げ、フェイリアは動かぬ身体を守るべく、召喚した肉塊より眷属を作りだし、肉の壁めいて防御壁を構築!
 ゲンジロウはそれにも構わず、ぐっと膝を撓めて踏み出した。重い足音が連なり、すぐに地鳴りめいた疾走音に変わる。
 右手で燃える『劫火』は、最早炎の柱の如く高く轟炎をあげる!
 飛びかかってくる眷属達をその腕の振り一つ、体当たり一つでブチ撒け散らし、戦車の如くに突撃!
 フェイリアの運動機能は未だ麻痺状態! 直撃したアイギスの弾丸の効果から未だ逃れられぬ!
 一朗がこじ開け、パラスが引き寄せ、そしてゲンジロウが打ち砕く――
 レジェンズ・アサルト、――ここに完遂である!
「燃え尽きろ!!」
 ゲンジロウが振り下ろした劫火の剣が、フェイリアを巻き込んで轟焔を周囲に撒き散らした。
「ああああああああああああああぁぁあっ!!!」
 壮絶な悲鳴がダークセイヴァーの静寂を裂く。爆ぜ吹き上がる火柱の中に、悪鬼の影がかすれて消える……!



●レジェンズ・パースーツ
「はぁっはは! 景気が良いじゃねえか、負けてらんねぇなあ! 蘭ねーちゃん! 次は俺が前に行くぜ!」
 ゲンジロウが上げた紫焔の大爆発を見やりながら豪放磊落に笑う声ひとつ。九十九・白斗(傭兵・f02173)だ。
「それなら後ろを支えてやろうじゃァないか。アタシらも一つ派手に決めてやろうかねぇ、白斗!」
 ぱぁん、とハイタッチの音。白斗が出した手に己の手を音高く重ねたのは、李・蘭玲(老巧なる狂拳・f07136)だ。交代の意味と景気づけの意味を半々にしたハイタッチが鳴るなり、前衛を張っていた蘭玲が下がり、代わりに銃と、バックパックや予備弾倉のポーチを捨てた白斗が前に出る。
 身ひとつに、ナイフのみ。突撃するには潔すぎる武装。
 だが、それでいい。ここまで生き抜いた経験が、その身体には染みついている。
「突っ込む。軍曹、露払いは任せるぜ」
「了解した。武運を祈る」
 軍曹――マクシミリアン・ベイカー(怒れるマックス軍曹・f01737)が白斗の言葉に応じ、手元のアサルトライフルのマガジンを交換する。
「そんじゃアタシは一番後ろから撃とう。――アタシの花火は派手でデカいからね、野郎ども、見惚れて外すんじゃないよ! 久々の大物狩りだ!!」
 じゃ、っがっ!!
 ボルト操作による金属音。対UDC戦対応型アンチ・マテリアル・ライフル、『ミーチェL666』が、ペンを一回り太くしたような巨大な実包を薬室に咥え込み、凶悪な音を立てる。蘭玲は鮫のように笑い白斗とマクシミリアンを鼓舞。
「へヘッ、頼もしいぜ。心配しなくたって外しやしねぇよ――ナイフだろうが、ライフルだろうが、急所にブチ込みゃ敵は死ぬ。それをあの女に、とっくり教えてやる頃合いだ」
 白斗は吸いさしの煙草を吐き捨て、コンバットナイフを逆手に抜いた。
 ――長く伸びた紫の爆炎の内側より、転げるように飛び出したフェイリアを視認した瞬間、三名は行動を開始した。


 フェイリアは即座に弾よけのため、数十体の眷属を召喚。襲いかかる猟兵らに罵倒を投げかける余裕もいまやない。
 しかしそれでも、未だ脅威。油断すれば喰われるのはこちらだ!
 而して怖じてもならない。この夜の王を絶つために、猟兵達はここへ集ったのだから!!
「よく聴け死にたがりども! 俺の声を忘れちゃいないだろうな!!」

   サージ  サージ  サージ
 ――軍 曹! 軍 曹! 軍 曹!

 突如吼えるマクシミリアンに、応えるように鯨波の声が湧いた。宙に開いた光のゲートから、次々と屈強な兵士達が表れて降り立つ! マクシミリアンのユーベルコード『集え戦場に生きる者よ』による召喚。マクシミリアンの後ろに、コンバットブーツの鳴る音がピタリと揃う!
 ああ、懐かしき声だ。自分が叩き上げ、地獄の底でも生き抜けるようにした、とびきりのナイフどもの声だ。
「そうだ!! 待たせたな。貴様らの出番が来た!! 言ってみろ! 貴様らの仕事はなんだ!!」

 ――殺しだ! 殺しだ!! 殺しだ!!!

 響き渡る声は朗々、地を揺らす屈強な男達の熱き叫び!

「オーケイ!! 敵はヴァンパイアのファッキン・シット・ビ●チだ。ヤツは村を幾つも滅ぼし、幾人もの人間を、罪も無き人民を殺したクソの中のクソだ!! 貴様らの持つ五・五六ミリの牙が、ヤツに食いつきたくて哭いているぞ!! 遠慮はいらん、クソ女の下品な面を蜂の巣にして、地獄の底に叩き返せ!!」

 ――サー・イエス・サー!!

 マクシミリアンが猟兵にした時よりも激しく強く、己が兵を擽るように煽り立てれば、兵士らは即座に散開! 血を吐くような訓練を受けたあの日のように銃を上げながら、吸血鬼、その眷属らに狙いを絞る!
「スナイパーの射線を塞ぐな! 位置確認! モタモタするな、足の遅い死神なんぞ笑いものにもならんぞ!!」
 マクシミリアンもまた安全装置を外し、アイアン・サイトの向こう側に敵を捉える。
 ――退役間近だったこの身。最早前線に出ることなどなかろうと思っていたが――まったく、老いても休ませてくれんとは、この世界も残酷なものだ。
 しかし後進に示しをつけるも、教官の仕事だ。兵らの展開を確認すると、マクシミリアンは命じるように吼えた。

 オープン・ファイア
「 発 砲 解 禁 !!」

 マクシミリアンは吼え、先導するようにトリガーを引く。同時に兵士達は最新鋭のアサルト・カービンによる斉射を開始。耳を聾する銃声!! 無数の火線が伸び、眷属らをメインに掃射、その行動を封じ、あわよくば滅ぼしていく。
 最新鋭の装備に、最新鋭の訓練。ダークセイヴァーでは決してお目にかかれない集団戦闘。眷属らはそれを知らぬ。フェイリア・ドレスデンはそのような戦い方を知らぬ!
「くっ……おまえ達!! 反撃なさい! そんな鉛弾ごときで死ぬような身体ではないはずよ!!」
 フェイリアが言う。
 そうとも。銀の弾丸ならばいざ知らず、単なる五・五六ミリメートルアサルトライフル弾では奴らを一方的に葬ることは出来ないだろう。しかし、それでもおよそ五十名からなる小隊による、近代火器の一斉射撃だ。その勢いは猛烈、見たことのない火砲の攻撃を警戒し、眷属らは腕をクロスし顔面と心臓を守る防御姿勢を取る。
 ――そうとも。この轟音と銃火の恐ろしさは、威嚇にこそある。貴様を狙っているぞ、という殺意の表明だ。
「グレネード!!」
 そしてマクシミリアンが命じるなり、数人の兵がアサルトカービンにマウントしたランチャーからグレネード弾を放つ! BOOOM!! 炸裂!! 榴弾の威力は凄まじく、ガードの上から無理矢理に眷属どもを薙ぎ倒す!!
 マクシミリアンの的確な指示により、敵集団の動きが鈍り機能不全を来したところに――
 ――ッズウゥォォオンッ!!
 轟音が響いた。
 耳を聾する音。それがマクシミリアンらが放つ銃声と同質のものだと誰が思おうか。圧倒的だ! 巨人の咆哮かのような銃声のたびに、炸裂するは火球めいたマズル・フラッシュ。一発ごとに眷属がメチャクチャに千切れて吹き飛ぶ!!
「アッハハハ! いいじゃないか軍曹! その調子でもっと煽っとくれよ!」
 笑い声が響き渡る。言わずもがな蘭玲のものだ。
 ハイテンションのままに、彼女は対物ライフルを連射する。白斗も異常だったが、彼女もまた異常だった。
        ニーリング
 対物ライフルを膝 撃 ちでブッ放すなど、正気の沙汰ではない。大の男が依託射撃でようやく発砲できるほどのリコイルを持つ火器を、蘭玲は反動を制御しながら、膝立ちで連射、連射、連射! 
 蘭玲は一見すれば瀟洒なる老メイドだが、しかしてその皮一枚下に隠すのは最新鋭の戦闘用義体。どこにでも居る年寄りですよと常に笑うその本性は、こうして戦場に酔い猛る戦狂い。
 先にも彼女は、地の果てまでをも埋め尽くさんばかりに大挙する肉塊共を、義体をなめらかに駆動させての八極拳で撃砕したばかりだったが――今度の得物は対物ライフルである。かつて怪異殺しの破壊工作員として暗躍した彼女の技前は未だ健在! 手にしたアンチマテリアルライフル――ミーチェL666ならば、彼女は二キロ先でも狙撃して見せただろう。
 ミーチェL666は狙撃と援護射撃に特化した『怪異殺し』。その初速は実に九百メートル秒を上回る。つまりは、マクシミリアンらが放つ五・五六ミリメートルNATO弾と同等の初速で、〇・五インチ口径を誇るタングステン弾芯の金属塊を叩き込む、フリークス・キラーである!
 その狙撃性能、そして蘭玲の技術をして、況んや、数十メートルの距離にいる眷属――人間大の的など、射場のマンターゲットに等しい!
 圧倒的な砲火と火線の前に、次々と千切れ飛ぶ眷属達をフェイリアが怒鳴りつける。
「くうっ……!? おまえ達! 恐れず進みなさい! 進まないならそのかりそめの生、今すぐにでも奪ってやるわ!!」
 マクシミリアンらの一斉射撃のみならず蘭玲の射撃までもが加わり、いよいよ浮き足立つ眷属らに苛立ちをぶつけるフェイリアに、蘭玲は嘲笑うように唇の端を吊り上げた。
「おやおや、器の底が知れるねぇ、『お嬢ちゃん』。煽るんだったらもっと上手くやりなよ、やる気が出るように、それこそウチの軍曹みたいにねぇ」
 遠く鳴り渡る台詞は、ともすればマクシミリアンの罵倒並みの切れ味だ。
「このッ……死に損ないの婆ごときが……!!」
 ぎり、と歯を軋る音さえ聞こえそうなほどに牙を剥くフェイリアに、蘭玲は涼しげに笑った。
「おお怖い怖い。そのジジババごときに目くじら立てて、余裕がないねぇ、始祖サマ?――そのお綺麗な顔を吹っ飛ばしてやる。そら――お前さんの死が走って行くよ!」


 ――マクシミリアンが率いる歩兵らの、一糸乱れぬ制圧射撃が。
 蘭玲が撃ちまくる一二・七ミリメートル、〇・五インチの牙が。
 雑魚を血霧と散らして祓い、作った血道のその上を、最後の古兵が駆け抜ける。

「よぉ。墓に刻む言葉は決まったか?」

 白斗だ。
 たった一本のナイフをその手にして、フェイリア目掛けて疾駆する!
「その言葉――そのまま返してあげるわ。よくも私をここまで虚仮にして、その台詞が吐けたものね!!」
 フェイリアは最早矢も盾もたまらぬと言ったふうに、地面を踵で掻き毟り、爆発的に前進。白斗目掛けて赤き剣を振り下ろす。
 が、が、ががが、がきいんっ!! 凄まじい剣戟!
 白斗は決して、特異な能力を持たぬ。目立つのは精々が並外れた怪力、恵まれた体躯、卓抜した狙撃技能程度のもの。長く戦場を渡り歩き培った勘働きを勘定から外すのなら、彼はごくごく平凡な猟兵に過ぎない。
 ゲンジロウのように怨念の轟炎を纏うでもなく、蘭玲のように機械の身体を持つでもない。一朗やマクシミリアンのように軍を率いるのでもなければ、パラスのように専用武装を派手に撒き散らす火力を持つわけでもない。
 ――だがしかして、その彼が全てを動かした。五名の古兵は彼の求めに応じて馳せ参じた古強者。フェイリアを追い詰める、勝利のパズルの一ピースとなったのだ!
 零距離でのナイフ格闘! 幾度も幾度も紅の長剣が白斗を掠めるが、その程度では彼の精強たる身体は止まらぬ! 血を飛沫かせながらも、老練たる戦いぶりを存分に見せつけ、食い下がりに食い下がる!
「この――……ッ!!」
「どうした? 罵倒もそろそろ品切れか? ――そんじゃそろそろ終わりにしようぜ。こちとら、テメェの顔も見飽きたところでよ」
 飄々と言い放つ白斗に、いよいよフェイリアの怒りも極まった。その瞳孔が収縮し、言い表せるぬほどの怒気を示す。
 フェイリアは最早言葉もなく峻烈な斬撃を振り下ろす。コンバットナイフでそれを受けた白斗の踵が地面にぐんと沈むほどの撃力。
 コンバットナイフに亀裂が走ったその刹那、白斗は口に含んでいた白い塊を噛み砕いた。
 ――吸血鬼退治には、これと相場が決まっている。
 白斗は力の限り強く息を吹く。噛み砕かれた白片――ニンニクがフェイリアの顔面に吹き付け、その視界を塞ぎ、目を焼く!
「……ッ!?!?!」
 振り下ろされた剣の勢いが緩んだ刹那、白斗は砕けかけたナイフでフェイリアの首に必殺の一撃を叩き込む。首が裂け血が飛沫き、かひゅ、とひずんだ息を吐くフェイリアの横を白斗が駆け抜け――


 ――殺してやると振り向いた、彼女が気づけばもう遅い。
 ぐるりと周囲全方位。無数の銃口が、フェイリア・ドレスデンを睨んでいる。

 ガンホー
「ブチ殺せ!!」

 マクシミリアンが怒鳴るなり、彼の精兵が、蘭玲が、追いついたパラスが、一朗の狙撃兵部隊が、ゲンジロウが擁す槍翼の揮士が――その武器の全火力を尽くし、フェイリアを猛撃した。
 最早声もない。億の細片に化すまで滅却され、フェイリアは今一度血の霧と化して風に吹き散る……!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユハナ・ハルヴァリ
…追いついた。

永く生きた、吸血鬼。
それなら。『さようなら』の言葉を、知っていますか?
知らないなら、今日この時に、教えましょう
君が、この世界に、云う言葉ですから

複製に目を細める
翫び尽くしたものを、まだ、弄りますか
長杖を解いた貴石の花弁を纏わせて、手には透いた刀身のナイフを
花弁を時に盾とし刃としながら、駆け回り隙を見る
複製の首を落としたところで再び傀儡となるだけだろうけど
少しでも動きを鈍らせておければ

根を断つのが、一番早そうですから
本物のフェイリアを狙います
出来たら短時間で仕留められると、いいですが
駆ける間隙に撒く氷の種
変幻の芽は杭にも、枷にも育つ
僕が動けなくなっても、それはきっと誰かを、助ける


ルイーネ・フェアドラク
殺せますよ
――殺します。何故なら、私たちは『過去殺し』、猟兵ですから

接近すれば剣の餌食だ
自身も距離を保ち触手を振るうが
チッ、埒があかないな
無駄にこちらの体力を消耗するだけであれば、いっそ切り離してしまえと
有りっ丈の血液と共にワームを形成、解き放つ

確かにあなたは強いのでしょう
独りで太刀打ちできるなど、端から思ってはいませんよ
私も所詮はか弱い人間に過ぎませんからね
けれど――猟犬は群れで敵を屠るんです

ワーム越しにGB-10で敵を狙う
一瞬でいい
刹那でもいい
この刹那の隙、誰でもいいから繋げてくださいよ



●さよならのいいかた
 三度、フェイリアは風に乗り、離れた地点でその身を再構成。頭を掻きむしるように抱え、怨念と怒りの極み、怨嗟の声を吐き散らす。
 おお、おおおおおお、おおおお……!!
 悪辣の吸血鬼の地を揺るがすような怒号。美しき女の身体から放たれたとは到底思えぬ大音声。
「小癪にも、二度ならず三度までも私の玉体を砕くとはね……!! もう手段など選ぶものか、おまえたちはただ無為に、死ぬために死ね!! その死に意味などやるものか!! 名など残さず記憶も残さず、誰とも分からぬ挽肉になるように殺してやる……!!!」
 壮絶な怒り。その怒りの声を向けられれば、常人ならば恐れのあまり精神を失調したやも知れぬ。
「畏れなさい、私を!! 私は祖たる吸血姫! おまえたちでは私を殺せない――三度殺そうと蘇る、私は不死なのよ!!」
「――いいえ。殺せますよ」
 冷静な声が言った。
 同時に、銃声、銃声銃声!! フェイリアを狙う銃撃を、二体の眷属が割り込み盾となって受ける。縦断を食らった眷属は、まるで見えない壁に圧し潰されるように膝を折り、ず、ずん! と地面に沈む。重力の名を冠す自動拳銃――『GB-10』の弾丸が炸裂したのだ。
 フェイリアが怜悧な声を振り向けば、そこには二人の猟兵が立っている。
「殺します。……何故なら、私たちは『過去殺し』、猟兵ですから。あなたが言ったことの筈ですよ、フェイリア・ドレスデン」
 眼鏡をついと押し上げるのは、ルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)。そしてその言葉を継ぐのは、
「たしかに、君は永く生きたのでしょう。でも、それなら、きっと『さようなら』、の言葉を識っているはず。それとも、吸血鬼にお別れなんてないのかな。――だとするなら、今日この時に教えましょう。君が、この世界に云う別れの言葉を」
 無垢なる声で、しかして刃めいてユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)が言った。その手の内側で長杖が解け、無数の輝石の花片と化す。
「思い上がるのも大概になさい、凡愚どもがァ……!!」
 吼え、喚びだした肉塊より無数の眷属をひり出すフェイリア。それを前に、ルイーネとユハナは畏れることなく構えを取る。
「接近すれば剣の餌食――まずは中距離から攻めます」
「はい。……でも、僕、隙を見て前に出ます、ルイーネ。遠くからじゃ、本体まで届かない。きっと僕一人じゃ近づけもしないけど……」
 ルイーネがいるなら、と大きく丸い瞳がルイーネを見上げる。
 無垢な薄氷のようなこの少年を、危なっかしくいろいろな厄介ごとに突っ込むユハナを戒め窘める立場であるところのルイーネだが――
 今日この日、今この場なら、伸べた手が届く。
「……必ず無事に帰りましょう。二人でね」
 肯定しルイーネはユハナの頭をひと撫で。
「はい」
 弾むユハナの返事。
 前を向き直れば、最早数えるのも億劫になる数の眷属が迫る!
「散らします」
 ルイーネが言うなり、身の裡に飼った触手を喚び出した。触手は鞭めいて撓り、眷属どもの身体を打ち据え、薙ぎ倒す! 吹き飛び、あるいは触手に絡め取られ動きを止める眷属らに、ユハナが目を細める。
「翫び尽くしたものを、まだ、弄りますか」
 ユハナは透ける、薄氷めいた刀身のナイフを握る。ルイーネがこじ開けた前線を駆け抜けざま、自身の周りに揺蕩う輝石の花弁を寄せ集め、鋭利な飛刃を構築。嵐のように放ち、フェイリアの複製――眷属らの首を刎ね飛ばしていく!
 無論眷属らとて反撃せぬ訳がない。手にした赤の長剣より衝撃波が迸り、ユハナを猛撃する。横っ飛びに幾つかを回避、ユハナは即座に輝石の花弁を寄せ集め盾を成し、衝撃波の嵐を防ぎ止める。
 ユハナに攻撃が集中すれば今度はルイーネがフリーになる。GB-10より放つ重力の弾丸が次々に眷属を射貫き、彼らを数十倍の重力によって地面に沈める。それだけではない。暴虐の隣人たる触手が、獲物を求めて撓り翻り、先端に生えた乱杭歯で食いつき、絡みつき、あるいは撓って敵を打ち、薙ぎ倒していく!
 戦闘は二人の猟兵の優位に運んでいるかに見えた。しかし、眷属を倒しても倒しても、後から後から敵が押し寄せる。フェイリアの表情は嗜虐的に歪み、このまま圧し潰してやると語るかのようだ。
「チッ」
 ルイーネは密やかに舌打ち。埒があかぬ。このまま戦闘が長引けば疲弊するのはこちらの方だ。――それならば、思い切って打って出るしかない。
「ユハナ。あれを出します」
「――はい。無理しちゃ、だめですよ。ルイーネ」
「心得ておきましょう」
 ルイーネは自らの刻印に、自身の行動に支障が出ない範囲で、限界ギリギリの量の血液を突っ込んだ。――触手が伸張、新規発生、結合と成長を繰り返し――ルイーネより遊離する!
「なっ……!?」
 ルイーネがひねり出したのは触手で出来た巨大なるワーム。しかも、それはルイーネから独立し、自らの意志で眷属どもを食らい出す。
 死肉が巨大な蠕虫と相争う地獄の底めいた戦場を、氷の種を散らしながらユハナが駆け抜ける――それを見ながら、ルイーネは蒼白い顔で言う。
「――確かにあなたは強いのでしょう、フェイリア。私とて、独りで太刀打ちできるなどとは、端から思っていませんよ。私もあなたが言う、『か弱い人間』のひとりに過ぎませんからね。――けれど」
 ワームが暴れ、次々と眷属どもを叩き潰す!
「私たち猟犬は、群れで敵を屠るんですよ」
「犬如きが何体来ようが私の脅威になるものかッ!」
 吼えるフェイリアだが、事実眷属どもは巨大なるワームの前に悉く蹴散らされ――今まさに、フェイリア目掛け電柱めいた太さの長大な触手が振り下ろされる!
 ずううんっ!! 巨大な音が響き、土煙が上がる!
 しかし当然ながらフェイリアは回避! この戦闘巧者がその大振りの一撃を食らうわけがない。
 ――だが、それは布石に過ぎない。
 突如、触手の横から、じゃ、じゃぎ、がっ! と音を立てて氷の杭が伸びる!
「ぐうっ!?」
 フェイリアは身をよじり回避するも一本が肩に命中、氷の杭は命中した部位から分化、枷が如くその身を捉える!
 そうだ。ルイーネは独りではない。
 彼と共にあるのは冱霞。ユハナがワームの触手に仕込んでいた氷の種が芽吹き、ついに悪辣たる祖を捉えたのだ!
 その好機を狙い、土煙を裂いて、黒き重力の弾丸が放たれる!
「――ッ!!」
 フェイリアは赤の長剣でそれを弾くが、GB-10は命中した対象を重力で支配する重力弾を放つ銃! 紅の長剣を重くし、バランスを崩した瞬間にその身体を射貫いてフェイリアの動きを封じる!!
「小細工をッ……!」
「その小細工が重なって、きっと君を倒すんです」
 暴れるワームが八方に伸ばすの触手のうち一本が突如として凍結。宙にのたくったまま凍った触手をジェットコースターのレールめいて利用し、その上を輝石のボードでユハナが駆け抜ける!
 ユハナは翔るその軌跡にキラキラと宝石めいた氷粒を散らしながら、最大加速でフェイリア目掛け突っ込んだ。輝石のボードを乗り捨てて、加速もそのままに上方より襲いかかる!
 フェイリアが剣を上げる前に。彼女が重力より逃れ防御の構えを取る前に――
「『さようなら』、――覚えましたか。これでお別れです」
 ユハナの絶対零度の凍刃が、フェイリアの左肩上から入り、食い裂くように右腹へ抜けた。吹き出る血はない。凍ったのだ。
 その死を思わせる冷たさに――身の毛のよだつような絶叫が鳴り渡った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


  

 
 凍刃にて身体を半分に分かたれかけた所から、なおも再生するフェイリア。傷を重ねに重ねるほど、その力は増す。恐ろしい力。己を縛る重力を魔術的に分解、牙を剥き出しに、女は殺意に吼える。
「殺す……殺す殺す殺す殺すッ!!! 今すぐに……なんの価値もない肉塊にしてやる、劣等種がッ……!!」
 激怒、ここに極まる。最早元にあった優美さなど欠片も残っていない――。
 
 
 
四・さゆり


数多に想われているのね。

お前が犬ころと呼ぶ子に
わたしが、つい先程殺してきた子たちに

ね、
想いに応えて頂戴、ね。

わたし、お前を殺しにきたの。

ーーー

気に食わないの、あの女
下僕は大事にするものよ

【鬼雨】

わたしの首無しが相手をしましょう
之に血は流れていないから
あの女の糧になんてしてあげない

わたしの指差す女を
わたしの望むままに嬲り殺しなさい

わたしに指一本触らせないこと、守りなさい

従属はわたしが殺しましょう

首無がどう壊れようがどうでもいいわ、今は。
また、直してあげるから

お前の腕が折れようが、足が飛ぼうが、
その刃で、女の首を掻き切ってきなさい。

気に食わないと言ったでしょ、
わたし、許せないものは、許さないの。



●朱に濡れた傘
 そこに来て、可憐な鈴を鳴らすような声が、吸血鬼の耳朶を打った。
「――お前、数多に想われているのね、」
 レインコートの裾揺らし、小柄な眼帯の少女がフェイリアの前に出た。唐突な語りだしにフェイリアが返しを迷った瞬間に、少女は続ける。
「お前が犬ころと呼ぶ子に。わたしが、つい先ほど殺してきた子たちに。そして、お前が過去殺しと蔑むわたしたちに」
 その右手に赤い傘。
 雨など降らぬこの夜に、しどどに濡れたその傘は、屹度さっきのあの血の路で、誰かの涙を汲んできたから。
「ね。想いに応えて頂戴、ね」
 少女は鋼色の目に、とびきりの殺意を込めて言った。
「――わたし、お前を殺しにきたの」
 四・さゆり(夜探し・f00775)のいとけない声が、殺気に尖って悪鬼を刺す!
「……ッ!」
 フェイリアは即座に飛び退き、宙に刻んだ魔法陣から肉塊を喚ぶ。肉塊は宙でほぐれるようにばらけて、地に着くまでにフェイリアと同じ姿を取った。大量の眷属の招来! しかしさゆりがすることは何一つも変わらない。
「ああ、ほんとうに気に食わないわ、あの女。下僕は大事にするものでしょう。さっきあれだけ使い捨てて、この上それを重ねるなんて。赦せないわ。赦せないでしょう?」
 さゆりの問う声に従って、彼女のしもべがありもしない頭を垂れた。彼女のそばに侍るのは『首無』。いっとうはじめの彼女のしもべ。
「わたしの首無しが相手をするわ。之に血は流れていないから。お前の糧になんてしてあげない」
 すう、とさゆりは左手を挙げ、指し示す指を、フェイリアに向けてピタリと止めた。首無し人形が応じたように、夜色のインバネスをはためかせ、軍刀を抜く。
「いい? 私に指一本と触らせては駄目。守りなさい。お前が壊れようがどうでもいいわ。……今は」
 ――また直してあげるから。
 さゆりはかそけく言う。応ずる声はない。当然だ。彼には首がないものだから。しかし――首無に意識があるのなら、彼もまた識っているはずだった。きっとどんなに壊れても、自分がゴミ箱に行くことはないのだと。
「わたしの指差す女を、わたしの望むままに嬲り殺しなさい。お前の腕が折れようが、足が飛ぼうが、その刃で、女の首を掻き切ってきなさい。――示しなさい。お前の有能さを」
 訥々と語る声。間合いを計る眷属、わなわなと震えるフェイリアの唇が、怒りを纏って今一度開いた。
「ごちゃごちゃと喧しい餓鬼ね!! 殺せ!! 殺しなさい、おまえたち!!」
 十数体の眷属が弾かれた様に動き、その手に赤剣を作り出して駆ける! とん、とさゆりは後ろにステップ一つ、
「餓鬼じゃないわ。レディよ」
 嘯いて赤い傘を打ち振る。ず、ずずず、ずぅっ、宙に瞬く赤い花、彼女の手にする赤い傘の複製。
 予報をお伝えいたします。晴れ時々、『漫ろ雨』。
 襲い来た眷属らを、一瞬にして多数召喚された赤い傘が穿つ、穿つ、穿つ!! 瞬く間に開ける前線、驟雨の如く吹き荒れる漫ろ雨が眷属を殺す殺劇のただ中を、首無人形が直走る。
「このっ、傀儡如きが……!」
 駆け至った首無が振るった軍刀が紅の長剣に弾かれる。フェイリアの剣勢は衰えるどころかいや増すばかり、首無は数合を打ち合うも瞬く間に守勢に追い込まれる。
「人形が、一丁前に刀を持って、私をどうしようというのかしらね!! 壊れて仕舞いなさい! ばらばらに、意味の無い我楽多になればいい!!」
 打ちかかるフェイリア! インバネスが裂け、一太刀受けていた右腕に罅、そこにもう一閃入って腕が飛ぶ。軍刀ごとくるくると空を飛ぶ首無の腕。
「いいざまね! ほら、次は中身を見せて御覧なさいな!」
 哄笑しながらフェイリアは紅の長剣で首無の胴を穿った。

 ――その刹那、肉を貫くような、重い音がした。

「、ッか ……ぅ、」
 苦しげな息が漏れた。蹈鞴を踏んだのは――フェイリアだ。
 首無の左手に刃。――インバネスの内側から抜いた惨殺ナイフだ。貫かれながらに、フェイリアの喉に突き立てたのだ。迸る真っ赤な血が首無の指先を濡らす。
「其の中を見ていいのは、あたしだけよ」
 漫ろ雨を伴い、さゆりが歩く。
 酷薄な刃の光を、その目に映して。
 気づけば眷属は雨中に消えていた――ああ、また宙に幾つもの赤い傘が浮く。
 フェイリアは逃れようと後退ろうとするが、それを首無が許さない。足を踏み、ナイフをなおも深くに突き入れる。
「気に食わないと言ったでしょ。――わたし、許せないものは、許さないの」
 さゆりは、迷い無く腕を振り下ろした。
 今一度、漫ろ雨が降り注ぐ。

 ああ、屹度女の銀の髪も、きれいにあかく染まるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ムルヘルベル・アーキロギア

同行:ヨハン/f05367

苦悶と惨憺に浴し、狂喜と愉悦をさぞかし貪ったのだろう
とるに足らぬ残骸よ、いまさらワガハイが云うことはあまりない
――浴し貪った悲嘆のぶん、痛みを浴びて滅びるがよい

さて、任されたならば多少は無理を
ここは彼奴の長剣をへし砕いてみせるとしようか
『魔力結晶』を一つ……いや二つ喰らい力とする
真の姿は未だ追いつかぬが、機を得るには十分のはず
防壁が彼奴の攻撃を止めた瞬間、魔力をつぎ込み疾駆
彼奴の長剣ごと、その柔肌を魔力打撃で撃ち抜こう
見様見真似……にすら遠いが、ここに来れなんだある男の代わりだ
ワガハイの腕は細く軽い、然し籠もったものは重いぞ
それがオヌシを滅ぼす。しかと味わえ毒蛭よ


ヨハン・グレイン

ムルヘルベルさん/f09868 と

さて、首魁のお出ましですね
気に食わない面をしているが、苦痛に歪んだ顔は見てやりたいものだ
人々を肉塊へと変えた贖いには、醜い末路が見合うでしょう

『蠢闇黒』から闇を喚び、<呪詛>と<全力魔法>で強化
術士二人となると懐に入られるのは避けたいですから
蜘蛛の巣状に周囲に這わせ、近付く対象を穿つ防壁を作り上げる

護りに関しては任せていただきましょうか
代わりに攻撃はお任せしますよ

防御の必要がないと判断できれば、【降り注ぐ黒闇】で援護を行う

「実験」はさぞ楽しかったのだろうな
相対するだけで反吐が出そうだが、少しくらいはこちらも楽しませてもらおうか
醜く哭き喚いてみせろよ、吸血鬼



●闇に乗せ、彼方より届け
 血に塗れ、傷を癒やす。傷の治りが鈍りつつあるのを、多くの猟兵が見て取っていた。
 そう、その通りだ。フェイリアの回復力は鈍り、まるで尽きぬ泉のように思われていた存在量は既に枯渇しだしている。
「お、ッのれ……ええぇぇええ……!」
 しかして未だ、心臓を抉ろうとも、腕をもごうとも元に戻る。げに恐ろしきは吸血鬼の再生能力。――そして敵が追い詰められれば追い詰められるほどに、その攻撃力、戦闘力は増すという。つまり、今のフェイリアは正に手負いの獣。今まで以上に危険であると言う事だ。
 だが、そんなことにも構わずに、ハッ、と嘲るような息をつき笑う猟兵の声があった。
「ようやく対峙できたが、冴えない顔が少しはマシになったじゃないか。人々を弄んだ贖いをする気分はどうだ、吸血鬼。似合いの末路に近づいているぞ。お前のその苦痛に歪む顔で、何人の溜飲が下がるか数えてみたいものだな」
 ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)の容赦のない言葉がフェイリアを抉る。血走った目でヨハンを睨むフェイリアに、更に掛かる声がもう一つ。ヨハンの隣にいた、オパールの賢者が口を開く。
「苦悶と惨憺に浴し、狂喜と愉悦をさぞかし貪ったのだろう。――その放埒と悪辣を極めた涯てが此処というわけだ。とるに足らぬ残骸よ、いまさらワガハイが云うことはない。――浴し貪った悲嘆のぶん、痛みを浴びて滅びるがよい」
 ムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)が、無表情に告げる。
「贖い? とるに足らぬ残骸? 定命の劣等種ごときが、この私に向かって? ああ――殺して、殺して、殺して、殺してもまだ足りないわ……!! バラバラにして粉々にして引き砕いて潰して、ブチ撒けてあげる!!」
 じゃ、ぎりっ!!
 フェイリアの手の中より二本の朱剣が伸びる!! 一刀でさえも苛烈な攻勢を見せたフェイリアだったが、それが二刀。血の長剣の光はいや増し、威力の躍増を否応なしに感じさせる。
「此方は術士二人。近づきたくない相手ですね。――ムルヘルベルさん、護りは任せてください。代わりに攻撃をお任せします」
「心得た。――たまには多少の無理を通してみせるとしよう。一つ、彼奴にくれてやりたいものもあることだ」
 一瞬で意思疎通を終えると、二人は同時に行動を開始した。

 フェイリアがまず狙うはヨハン。初動がほぼ見えぬほどの瞬息の踏み込み。ヨハンはムルヘルベルにちらりと目配せをくれながら後方へ飛び退いた。追従するムルヘルベルを横目にしつつ、ヨハンは闇を固めたかに見える石――『蠢闇黒』の指輪が光る右手を打ち振るい、石より闇を溢れさせる。
 ヨハンはその黒尽くめの格好からも推測できる通り、影と闇を扱う魔術師だ。ありったけの呪詛と魔力を突っ込んで闇を編み上げ、一瞬で広範囲に蜘蛛の巣めいた闇の茨陣を展開する。
「こんなものぉおっ!!」
 フェイリアは罵声一喝、目にも留まらぬ二刀裁きで闇の茨を断つ、断つ断つ断つ! しかし断てど断てど闇茨は伸張し分化、鋭く伸びてフェイリアの四肢を棘で穿つ!
「っぐ……!」
「『実験』はさぞ楽しかったのだろうな。貴様のその顔を見るだけで反吐が出そうだが、苦痛に歪んでいるのならまだ目を向けてやる価値がある。不様に呻いてのたうち回れ、醜く泣き喚いてみせろ、吸血鬼。貴様がかつて虐げた人々の、その全ての苦痛を味わってな」
「その薄汚い口を閉じろ、劣等種ぅううぅうッ!!」
 赫閃二十重、赤く輝く血の長剣の切っ先が、籠めいた美しい軌跡を描き、自身を襲う闇棘の全てを斬り払う!! 同時に横薙ぎに力の限りの衝撃波一閃! ヨハンの闇茨を斬り裂き吹き散らしながら荒れる斬撃光波!
 ヨハンは即座に広げていた闇茨を一カ所に収縮、ムルヘルベルと己のみを守るほどの闇壁として圧縮し、赤き衝撃波を防ぎ止める!
 壮絶に激突し削れ合う赤光と闇!


 ――闇のその壁の内側、ヨハンの背で、ムルヘルベルが動く。


 ムルヘルベルは常備した、予備タンクとでも言うべき魔力の塊――『魔力結晶』をおもむろに口に放り込み、噛み砕く。一つ――否、二つ。ターボチャージャーめいて過剰供給される魔力に、ムルヘルベルの全身の魔術回路がオーヴァードライブ。巡る魔力に反応して、珪素細胞群『エクスリブリス』が過剰励起! オパールの賢者は、真の姿には未だ遠けれど――その全身より淡く遊色の光を発する。
 言うなれば撃鉄の起きた銃。装填された鋼の慟哭。
「小細工も此処までよ、根暗男!! 言い遺す台詞を考えなさいな!!」
 衝撃波爆ぜたその余波を圧倒的高速の踏み込みで突き破り、駆け寄せたフェイリアの渾身の一撃が、ヨハンの構築した闇壁を力任せに引き裂き、破る!
 ――その剣が、翻る前に。
 振り抜いた姿勢のその刹那に。
 ヨハンの影から虹の賢者が奔った。
「これはここに来れなんだ、ある男の代わりだ」
 見様見真似――或いは、それにも至らぬかも知れぬ。だが、原理は分かる。魔力を増幅し、集束、加速し、運動エネルギーに変換。それを拳を介し敵に伝えることで、途方もない撃力を発揮する術。
 ――、起動。
 その魔術回路の名を知っている。ムルヘルベルは巨人の名を口の中で転がし、励起したエクスリブリスを再配列、行使する魔術に特化する!
 運動エネルギーは蒼雷めいて可視化、賢者の両肘より迸った。天を衝かんばかりの『衝撃』の牙!!
「ワガハイの腕は細く軽い。然し籠もったものは重いぞ――それがオヌシを滅ぼす。しかと味わえ、毒蛭よ……!!」
「――ッ!?」
 ムルヘルベルを直ぐさま斬る態勢に移ったフェイリアが、その圧倒的なプレッシャーを前に防御を選ぶ。十字に交差するように上がった剣、その上から、ムルヘルベルは真っ直ぐに、最短距離で拳を叩きつけた。
 ――撃雷、爆轟!!
 まるで雷鳴めいた空気の縮爆音! 魔力の限りを尽くしムルヘルベルの拳から発された『衝撃』が、フェイリアの血の長剣を打ち砕きへし折るッ!!
「な、あっ……?!」
 両手までもが撃力に押され跳ね上がった、その隙を逃さぬ。次いで左腕――大雷鳴、再び!! 胴にめり込んだ拳から炸裂した衝撃が、フェイリアの身体を高々と打ち上げる。内蔵のおよそ四割が破裂液化、着弾位置周辺の骨格、その悉くが粉砕骨折ッ!!!
 最早呼吸すら出来ずに、かっと開いた目と口を戦慄かせる吸血鬼を、せせら笑う如くに再び闇が凝った。
 ヨハンがパチンと指を鳴らした刹那、蠢闇黒より喚ばれた闇が、今度は刃の形を取る。
 黒闇は天へと注ぐ逆時雨のように、無数の黒閃となってフェイリアに伸び――その身体を、二百を超える数の鋭刃にてズタズタに裂き貫いた。

 おお、闇空に血の薔薇が咲く。
 フェイリアは身体を維持できず、爆ぜるように四散する。――終わりは、近い!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アトラ・ジンテーゼ
さてさて、来ましたね。あたしにとっての本命が。
狙うのはもちろん、【強圧法】です。
ここに来るまでにも、結構な素材を使いましたからねぇ。
元は取らせてもらわないと。報酬があるにせよ、ね。

とはいえ、真正面から殴りかかって、当てられるかというと…
身体能力もそうですが、長剣となると…リーチが厄介ですねぇ。
…ヨマ。少々無茶ですが、手伝ってくれますか?

「位霊・ヨマ」の力は…圧縮世界の管理。
即ち、空間を圧縮する力。
あたしと相手との空間を圧縮して…距離を詰める。
まぁ、擬似的な瞬間移動…ですかね?

タイミングを誤れば、あたしが串刺し輪切りですから。
そこは、鍛えたカン…『見切り』や『第六感』を総動員、って所でしょうか?



●祖より出ずるは
「さてさて、来ましたね。あたしにとっての本命が。……ここに来るまでにも結構な素材を使いましたからねぇ、元は取らせてくれないと困りますよ。報酬があるにせよ――ね」
 アトラ・ジンテーゼ(四霊の統造師・f22042)は呟きながら、風に運ばれてくる赤い霧を見上げた。
 他の猟兵に撃砕され、堪らず霧となって逃れたフェイリアだ。風に乗り、所を変えて今一度結実する。
「なぜ……何故よ、私は祖、エインシェント・ヴァンパイアよ!! 何故こうまで、惰弱な劣等種如きにいいようにやられなくてはならないの……!!」
 地団駄を踏むように地を蹴り飛ばすフェイリアに、アトラはこともなげに言った。
「それはあなたが弱いからでは? あ、あなたが弱いと言うより、あたしたちが強いから、と言った方が慰めになりますかね」
 とぼけた口調での挑発。アトラの言に、血走ったフェイリアの目がぎん、と向く。
「調子に乗った下等種がここにもいたようね。斬り刻んで血を啜って、腹を満たす役に位は立つかしら!」
 フェイリアは両手に短剣を握り、魔力を注いで紅の長剣を二本生成。相対距離十メートルの位置から、アトラに向けて振り下ろす。
「……っと!」
 アトラは背に這い上る危険信号に従って跳び避けた。果たしてそれは正しく、フェイリアの赤き剣先から迸った衝撃波――紅の剣波が、地面を裂き削りながらアトラを狙ったのだ。
 先読みで避けたものの、これをいつまでも続けるのは難しい。……ミツハの力を借りれば真正面から打ち合うことも可能かも知れないが、その場合は素材の採取が困難となる。アトラは戦士ではなく鍛冶師だ。素材の取れないただの殴り合いなどをしに来たわけではない。
(身体能力もそうですが、あの二本の長剣に、発される衝撃波――リーチが厄介ですねぇ。直接素材を取るのなら、少し工夫が要りますか)
 アトラは心の内側、己と共にある四精霊の四、位霊『ヨマ』に語りかける。
 ――少しばかり無茶をしますが、力を貸してください、ヨマ。
 応じたヨマの力を、アトラは右手に集中する。紅の衝撃波を放ち続け、猛撃してくるフェイリアとの間合いを精密に把握。鍛冶師は、客に合わせた寸法に装備を創ることに慣れている。故、アトラは目測でかなり精密な距離計測が可能だ。
 フェイリアは十メートルと二十センチの位置から、凄まじい速度で赤き剣波を連射してくる。
 狙うのは敵が刃を振りきり――放たれた剣波の軌道から、自分が身を躱した、そのほんの一瞬。アトラは苛烈に猛り剣を振り回すフェイリアを冷徹に観察し、――果たして、その一瞬を選び取った。
 ぎゅ、うん、
 刹那のこと。『空間』という概念が圧縮され、縮んだ。
「なっ――」
 アトラとフェイリア、両者の距離が一瞬で四〇センチメートルまで圧縮されたのだ。僅か一瞬で。
 アトラが地を蹴り駆けたわけではない。そもそも彼女にはそこまでの身体能力はない。まるで空間を跳躍したかに見えたそのからくりは、位霊『ヨマ』による空間圧縮。彼我の間にある空間を圧縮し、文字通りに『距離を詰めた』のだ。余人には、超高速の瞬間移動にしか見えるまい。フェイリアにしてみたところで、アトラが一瞬で己の前に現れたようにしか見えなかっただろう。
 涼しい顔で実行したアトラだが、しかしタイミングを一つ誤れば空間圧縮に巻き込まれぺしゃんこ、フェイリアの攻撃の最中に縮めてしまえば輪切り、剣が上がりかけでも串刺しと、まさに綱渡りの一手であった。それをおくびにも出すことなく、アトラはフェイリアが跳ね上げようとする赤剣の切っ先を踏みつけてもう一歩だけ詰めつつ、右手に宿したヨマの力を最大解放。
「さぁ、どんな素材が取れますかね……!」
 ヨマの力は、『圧縮』。
 始祖たる吸血鬼のその胸へ繰り出されたアトラの右手が食い込み、フェイリアを構成する血肉を千切り取り圧縮! ――ユーベルコード、『強圧法』の発動である!
「がっあ、ああああああっ!!?」
 胸に洞を穿たれて跳び下がり逃れるフェイリア。アトラの手の中に残るのは、強大な魔力籠もる、ルビーめいたティアドロップ型の宝石――『祖たる吸血鬼の涙』とでも名付けようか――である。
「――確かに頂きましたよ。ふふふっ」
 最早逃げる吸血鬼を追うことはなく。アトラの頭の中には、新素材の活用法が目まぐるしく去来するばかりであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート


随分とはしゃいだアバズレだなオイ
何を思い上がってんだ?ん?
テメェみたいな古いだけのババア、簡単に殺せるんだよ
つまんねえお山の大将気取ってるテメェに、分からせてやるよ
"意志"は何もかもを凌駕するってな

セット、『Reverse』
なーに、"まだ"影響は無いよ
さぁ、俺もフル装備で行こうか
右と左の仕込み武装を展開、ナイフの機構を解放、二刀流化
常に【ダッシュ】で移動しつつ、近中遠を切り替えて器用に立ち回る
近距離はナイフの【二回攻撃】とショットガンの【零距離射撃】
中~遠はボルトを切り替えつつクロスボウで

…そろそろ効いてきたかな?
"負傷するほど強くなる"
それはもう"ひっくり返った"
テメェ、弱くなり続けるぜ



●チェックメイト・カウボーイ
 実に四〇名近くの猟兵らによる総攻撃。猟兵達の攻撃は、確実にフェイリアを追い詰めていた。後もう少し、一押しがあれば倒すことが出来る。
(そろそろ頃合いかね。――俺のビズの時間だ)
 ステルス・カモフラージュ解除。
 血走った目と怒りに染まった表情のフェイリアの前に、オゾン臭とハム音がするなり、一人の猟兵が姿を現した。ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)である。
「随分とはしゃいだアバズレだなオイ。何を思い上がってんだ? ん? テメェみたいな古いだけのババア、簡単に殺せるんだぜ」
「青瓢箪が、出来もしないことをほざいたわね……!! 燥いでいるのはおまえの方よ。殺してやるわ!」
 血の鎧を纏い、二刀の血の長剣を構えるフェイリアに、最早余裕は無し。最初のごとき無限の力、再生能力は最早底を衝きつつあるが、その戦闘能力、高度な判断能力は戦闘を経るごとに未だ成長し続けている。決して油断できる相手ではない。
 然しランナーは笑う。
「ハッ、やってみな。この真っ暗闇の世界でつまんねえお山の大将気取ってるテメェに、教えてやるよ。"意志"は何もかもを凌駕するってな」
 突撃してくるフェイリア目掛け、ヴィクティムは火薬を内蔵したエクスプローシヴ・ボルトを『フェアライト・チャリオット』に装填、連射。フェイリアは即座に剣を振るって叩き落とすが、その度に爆炎が生まれてその膚と目を焼き、出鼻を挫く。
「くうっ! ……小賢しい真似を!」
 敵が足を止めた瞬間、ヴィクティムは相手を射程内に納める。
「セット、『Reverse』」
 ――きん、と何かが張り詰めるような音がした。しかし、何も変化はない。フェイリアも怪訝な顔を一つしたのみ。ダメージもない。
(そうさ。――『まだ』、影響はない)
 ヴィクティムは笑いながら、足を止めた敵へ接近。右手のショットガンを連続射撃!
 弾丸を立て続けに浴びせることで、敵の注意を自身に引き戻す!
「ぐうっ! ――その程度の鉛弾で私を殺せると思わない事ね……!」
(思っちゃいないさ。それだけじゃな)
 ヴィクティムは内心で言ってのけながら、突っ込んでくるフェイリアに応じた。生体ナイフ『エクス・マキナ・カリバーン』の機構を解放、至近距離での激しい打ち合いを演じる。
 しかしここに至って、フェイリアの剣は壮烈である。凄まじい剣勢での打ち込みに、生体ナイフと運動能力ブーストを経たヴィクティムでさえ圧倒される。次々に振るわれる剣が、ヴィクティムの身体に傷を刻んだ。正面戦闘では分が悪い! 至近距離からのショットガンでの射撃さえ、小手打ちに手を斬り払いながら身を捌くことで回避してみせる。流麗にして峻烈な太刀筋!
 合わせて三〇合あまり、致命の傷は避けるが、ヴィクティムは明らかな劣勢のまま飛び退く。
「口ほどにもないわね、猟兵。両手から出す玩具もタネ切れかしら? ならそろそろ死になさい。おまえの生意気な顔、目障りなのよ!」
「ハハ。言ってくれるぜ。……だが死ぬのはテメェの方だ、吸血鬼。テメェ、負傷するほど強くなり続けるんだってな」
「……?」
 ヴィクティムは唐突に切り出し、にやりと笑った。
「――そろそろ効いてくる頃だ。そいつはもう"ひっくり返った"。テメェ、弱くなり続けるぜ」
 少年が言うなり、フェイリアの二刀のうち、一刀が輝きを失ってただの短剣に戻った。
「なッ……!?」
 ブラフなどではない。これは、Attack Program『Reverse』の効果。最初のあの妙な緊張感の瞬間には発動していた、対ユーベルコード用、効果反転ウィルスが奏功したのだ。
 効果時間は無論永続的ではないが、それを教えてやる義理もない。敵が泡を食って血の鎧を解除した瞬間、ヴィクティムはその戦闘のうちで最も速く動いた。
 そう。解除すれば弱体化は止まるだろう。だが、同時に、解除すればこちらの攻撃も通る。
「猟兵ナメてんじゃねーぞ。バズ・オフ、フェティシュマン!」
「あぐ、ッうううううっ!?」
 逆手に握ったカリバーンの殺傷機構が展開! 露わとなったフェイリアの柔肌を、鋭い鋸刃がざきざきと引き裂く――!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
……全く、吸血鬼と云う輩は
現れる者のどれもこれもが下種の見本の様な連中ときている
逃げられぬのは此方では無い、お前だ

戦闘知識と第六感に因る、動きと軌道の先読みにて攻撃を見切り躱し
フェイントから死角へ移動、怪力乗せた斬撃をカウンターで叩き込む
多少の傷等構いはせん、激痛耐性と覚悟で捻じ伏せ無視だ
腐り果てた過去の残滓なぞ、未来を穢すだけの代物に過ぎん
醜く生にしがみ付く其の手を離せ
此れまでの悪行、其の万分の1にしか成らんだろうが
死した者達の痛みを味わって骸の海へ還れ

復讐の為だけに蘇った彼の刃の悲願が果たされぬ事は望まない
出来得るなら戻る迄引き延ばしたい所ではあるが……
――其の牙が届く様を見届けたかった



●剣狼に祈る
 屈辱だろう。理解は出来ずとも想像は付く。
 劣等種と断じた者達に、幾度も体を傷つけられ――そればかりか未だに一人とて屠れていない。今まであり得なかったことなのだろう。あの悪逆の女王が、今日これまで生きてきたという事は――フェイリア・ドレスデンの長き生において、彼女を殺せるものは一人として無く、全てを思うままに恣にしてきたのだろう。
 故に怒る。ものを知らぬ子供のように、地団駄を踏んで喚く。
「貴様らのような下等種が……この私をこれ程までに虚仮にしてくれるとはね……!! 必ず殺してやる、一人とて逃がさないわ!!」
「下等種、か。その台詞、鏡を見て投げ直すがいい」
 それに顎を撫でながら答えたのは鷲生・嵯泉(烈志・f05845)。
「……全く、吸血鬼という輩の言う事はいつも同じような紋切り型だな。現れる者のどれもこれもが下種の見本の様な連中ときている。辟易するぞ。――逃げられぬのは此方ではない。お前だ」
 きん。
 鍔鳴り音を立てて抜刀。銘、『秋水』。
「ここで殺してやる。これまでの悪行を精々悔いるがいい」
「……舐めるな、定命種!! 誇り高き血統の私が貴様ごときの刃に掛かる訳がないでしょう!!」
 フェイリアは今一度二本の赫剣を再生成。嵯泉目掛けて襲いかかった。
 迎え撃つ嵯泉はその太刀筋を目で追う。――否、嗅ぎ取っているといった方が正しいか。今までの戦闘経験、電撃めいて閃く第六感に従っての受け太刀、回避。刀を繰り出すに見せかけて、敵が振り抜く刃を潜り抜けて脇に抜けつつ一刀繰り出す。
「っぅぐっ!」
 血が飛沫く。だが浅い。
「腐り果てた過去の残滓など、未来を穢すだけの代物に過ぎん。醜く生にしがみ付く其の手を離せ、吸血鬼。此れまでの悪行――其の万分の一にも成らぬだろうが、死した者達の痛みを味わって骸の海へと還るがいい」
「人の身で説法を説かれても聞いてやろうとすら思わないわね! 私が法よ、このいとしい暗闇を作った私こそが正義なの!! おまえは死刑よ、小五月蠅い過去殺しがッ!!」
 赤き風が吹く!
 至近距離よりフェイリアが、衝撃波を纏わせた赤剣を振るった。嵯泉は剣先が加速しきる前に自らの剣で斬撃を押さえるも、加速半ばにして解放され吹き荒れる赤き衝撃波が嵯泉の身体を圧し刻み、血を舞わせる! 踵で地面を削って下がる嵯泉に、再三フェイリアが襲いかかった!
「死になさい猟兵、その血は私の腹の足しにしてあげるわ……!」
「――貴様の悪臭のする臓腑に収まる趣味はない」
 嵯泉は然し、一歩も引かぬ。この相手を前に退けば、己が積み上げてきたものを否定することになる気がした。
 赤き瞳で、剣を振り被ったその瞬間を捉える。痛みも、傷も、覚悟と思い一つで捻じ伏せて。
 嵯泉が取るは後の先。爆発的に踏み込む。剣技の極地、武芸際涯。彼を縛る箍はなく、その心身は常世の全てより解放される。
 無空へ至る剣。『終葬烈実』。ただ一条、しかし阻むもの全てを両断する銀の閃。
 フェイリアが片手の剣でとっさに成した防御など、その剛剣の前には藁束と同じ。
 叩き込む嵯泉の一刀が、赤き剣を一本へし折り、フェイリアの身を深く裂いた。
「あああああああああああっ……?!」
 噴き出す血、血を散らしながら吹き飛び、よろめき蹈鞴を踏む女。
 嵯泉とて傷浅からぬ。極地を引き出すために身体と脳に多大なる負担をかけている。追撃のため再び練気。
 ――嗚呼、剣狼よ。
 復讐のためだけに蘇った其の悲願が果たされることを望む。其の牙が奴に届く様を、見届けたかった。
 だが、この上引き延ばすことは敵うまい。敵は手負いの獣。殺せる時に殺さねば、滅びるはこちらの方――
 そう、嵯泉が思った時だ。
 狼の遠吠えが聞こえた。空の上から。
 まるで彼の祈りが通じたように、真ッ赤な怒りに濡れた声が届く。
 幻聴か? 否、そうではあるまい。
 嵯泉は空を見仰ぐ――

大成功 🔵​🔵​🔵​


 
 
 
 
 
 
 ――振り仰いだその空に、隼に乗った剣狼と猟兵の姿があった。
 
 
 
 
 
 
鵜飼・章


あ、落ちちゃった
しょうがないな
指定UCで隼に乗り剣狼さんを助けに

手伝うって言ったでしょ
きみがやらなきゃ虚しいだけじゃない
傷は【医術】で簡単な手当てを

正しくないから諦めるの?
『世界の敵』なんでしょう
だったらそれらしくしなよ
間違ってても殺しちゃえばいい
その為に帰ってきたんじゃないのかな
隼に乗るか否かはきみ次第

急いで戻り敵が余所見している隙に破れた窓から急襲をかける
僕は皆や剣狼のサポートを
【早業】で闇による【目潰し】をかけたら
図鑑から蛭や蚊等の吸血動物を大量召喚
力の源である血液を少しでも減らすと共に
不快感による【精神攻撃】で攻撃精度を更に落とす
注射器を【投擲】して採血もできたら

気分はどうかな
患者様



●果たせ、その宿願を
 剣狼は、一人きりで戦っていた。

 肉の触手に強烈な打撃を喰らい、吹き飛んだ先で、彼は一人での戦闘を強いられていた。
 もとより彼とて強大なオブリビオン。ただの肉塊による攻撃だけであれば、直ぐさま斬り払って即座に前進して見せたことだろう。然し、その受けた責め苦は生半ではない。フェイリアの悪辣を煮詰めた趣向がそこにあった。
「おお――おお、」
 剣狼は呻きながら、眷属の吸血鬼の爪牙を受け、弾き、避ける。
 ――おまえのせいだ、おまえが立ち上がらなければ、私たちはまだ生きていられたのに。隣村の村長も言ったはずだ。逆らうなと。逆らわなければ……命は永らえられるのだと。幾人も死ぬかも知れぬ、しかし決して絶えることだけはなく、種として永らえることが出来るのだと。それを、おまえが――
 剣狼を弾き飛ばした肉塊からひり出された眷属吸血鬼らは、まさに、剣狼が過ごした村の住民達の顔をしていた。そうとも、誰とも知れぬ肉塊となっていればこそ、鈍らなかった刃。覚悟を決め前進したつもりでいながら、未だ振り切れぬ迷いがあったか。
 数十体に囲まれていては、いかに剣狼が強かろうと、殺さず受け続けることは困難。避けきれずやむなく、ついに剣狼の神獄滅殺の太刀が、数体の眷属を斬り払い、塵に還した瞬間に。
 ――おお、なんということ。そうしてまたも我らを殺すのか。おまえは、おまえのせいで死んだ我らを、死してなお殺すのか。贖罪をせよ、その罪を己が血で濯げ、剣狼……!
 村人達は声を合わせ、音も高くに唱和する。
 剣狼は決して刃を手放さぬ。その言葉の前に言い訳も、弱音も吐かぬ。ただ、少しだけ、フェイリアを殺すという真っ直ぐな意思に罅が入りつつあった。まさに――その時。
「しょうがない人だな。――正しくないから諦めるの? きみの復讐を」
 声は天から響いた。ばさ、と大きな羽音。怪鳥と呼んでいいサイズの隼。
 そこから何者かが飛び降りた。黒尽くめの男だ。――剣狼は目を見開く。自身の横に降り立った猟兵は、先程にも自身の突破を補助した男だったからだ。
 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)である。
「貴公、なぜここに」
「なぜって……手伝うって言ったでしょ。きみの復讐。きみ達オブリビオンは『世界の敵』なんでしょう? だったらそれらしくしなよ。きみが正しいかどうかなんて僕は知らないし、興味ない。でもね、きみがやらなきゃフェイリアに、何の借りも返せないままこの夜は終わるよ」
 ぴゅうい! と章が指笛を鳴らすなり、隼が烈風巻き起こし低空飛行! 偽りの村人達をその烈風で転げさせ、時を稼ぐ!
「そんなの、虚しいだけじゃない。――間違ってても、殺してしまえばいい。きみは復讐のために帰ってきたんだろ。誰から責められても、誰から罵られても。きみが遂げるべきだと思った事のために帰ってきたんじゃないのかな」
 まるで悪魔のようなことを、アルカイックスマイルで言う章。
 降りきた隼の背に飛び乗り、彼は剣狼に手を伸ばす。
「――連れて行くよ、フェイリアの所まで。乗るか否かはきみ次第」
 転げた村人達が怨嗟に噎びながら立ち上がる中――


 剣狼は、悪魔の手を取った。


 斯くして、猟兵らが見上げた夜空に羽撃く大翼の姿がある。
「感謝する」
「僕はしたいことをしただけさ」
 僅かな手当を受け、剣狼はその身を天より下へ躍らせた。章もまた並んで飛び降りる。
「性懲りも無く戻ったのね犬ころ。かつての同胞の声からまた逃げたのかしら、浅ましいこと!」
 嘲笑うようなフェイリアの声に、剣狼が応じる前に幾つもの銀針が飛んだ。
「ッ!」
 章だ。取れる手はいくつかあったが、剣狼の戦闘を邪魔しない――視界に対して影響しないとなればこの援護が最善と判断。
 十数個の注射器を同時投擲! フェイリアが防御に回ったその瞬間、手に開いた図鑑――より複数の吸血生物を召喚。羽音が唸り音めいて響き渡るほどの量の血吸い虫――蚊がフェイリア目掛けて襲いかかる!
「逃げたわけじゃないよ。彼はね、きみの所に来ただけさ」
 章の声が剣狼の背中を押す。剣狼、馳せ駆ける!!
「小賢しい……! このような羽虫を何匹使ったところで私は殺せなくてよ!!」
 群がる虫に吼えるフェイリアだが、そもそも章の目的は殺傷ではない。彼女の注意力を、攻撃の精度を落とすことにある。
 剣狼が剣をかざし、おお、と吼えた。
「――地獄より参じ戻ったぞ、フェイリア・ドレスデン!! 貴様を殺す!!」
「恋みたいに一途な台詞だね。気分はどうかな、患者様? ――さあ」
 唸る剣戟、疾風怒濤! フェイリアと剣狼がついに打ち合うその戦闘をバックに、章は謳うように言った。

「ようやく、復讐劇の始まりだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

リリヤ・ベル

【ユーゴさま(f10891)】と

現在のわたくしにだって、わかることはあります。
できることもあります。
鐘ではなく、うたを紡ぎましょう。

……、剣狼のあなた。
ここに来るまでに、ひとびとのことばは聞けましたか。
悼む声。
嘆く声。
怨む声。
罵る声。
でも、あなたを待つ声だってありました。
届かなかった英雄譚。
うつくしくはなくとも、かなしくとも。
いきていた、その証。

ユーゴさまにも、誰にも、……叶うなら剣狼にも。
傷を残すことのないように。
いつかあったかもしれない、なかった過去に、手助けを。

……――ユーゴさまを留めることばを、わたくしは持ちません。
届かない手はもどかしいのです。けれど。
目を逸らすことは、ないように。


ユーゴ・アッシュフィールド

【リリヤ(f10892)】と

どうした、辛そうだなエインシェント・ヴァンパイア。
余裕が無くなってきているように見えるぞ。
助かりたいなら、自らの行いを反省し命乞いでもしてみるか。

剣狼は復讐の為にオブリビオンにまでなった。
だと言うのに、こいつはまともに取り合おうともしない。
こいつにしたらいい迷惑だろうが、関係ない。
俺には、それがたまらなく不愉快だ。
剣狼の代わりとまで言うつもりは無いが、貴様を討たせてもらう。

出し惜しみする相手でもなければ、気分でもない。
起きろ、火の鳥。奴を滅するぞ。
代償に俺の命を焼べてやる。

その身に宿した闇が深ければ深いほど、この炎は熱いだろう。
そのまま灰に還るといい。



●祈りの歌と灰焔
 剣狼とフェイリアが打ち合う、打ち合う! 壮絶なオブリビオン同士の白兵戦、一瞬にして煌めく白刃四〇合あまり! 圧縮された金属音が爆ぜて散り、戦いの激しさを告げている。
「オオッ!!」
「ふ、ッ……!」
 血飛沫。刃の纏う衝撃波がその飛沫を宙に散らして、互いの身体を弾き合った。それぞれの刃がそれぞれの急所を捉えている。着地。剣狼は一時膝を付くが、フェイリアは直ぐさま膝を撓め再度前進! 再生速度は、この段に及んでもフェイリアの方が速い!
 だがその表情には最早余裕はない。知っているからこそ、その男は戦いに割って入った。
「どうした、辛そうだなエインシェント・ヴァンパイア。余裕が無くなってきているように見えるぞ」
 ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)である。『灰殻』を既に抜剣、剣狼を援護するように乱入し、真正面からフェイリアの撃剣を受け止める!
「ハッ! この程度で私が膝を折るわけがないでしょう。死ぬのはお前達よ……!!」
「その割には先程から随分と顔色が悪いな。助かりたいなら、自らの行いを反省し命乞いでもしてみるか?」
「寝言は死んでからほざけ、劣等種!!」
 フェイリアの紅の長剣、二刀が唸りを上げてユーゴを襲う! しかしユーゴは真っ向よりその朱剣を灰殻で受け止め、弾き、受け流す!
 ――この傲慢なる吸血鬼が赦せぬ。
 オブリビオンとなり、かつて自分が守った同胞を蹴散らしてまで進んだ剣狼に対して、思うところがないわけではない。かつてユーゴも国を守る騎士だった。人々を守るということがどういうことか、それを誇りを以て成した彼であるからこそ、剣狼も最早唾棄すべきオブリビオンに堕したのだと先刻、吐き捨てたものだ。
 ――しかし、しかしだ。それでも、かつて果たせなかった復讐を果たすために、骸の海を游いでまでまた立ち上がった剣狼を、まともに取り合う事もなく吹き飛ばし、その戦いを、想いを笑い飛ばす蚊のようなこの暴虐の吸血鬼が、たまらなく不愉快だ。ユーゴはその悪を、決して赦すことはない。
「貴様にしてみればいい迷惑だろうが、関係ない。――剣狼の代わりを務めるなどと言うつもりはないが――俺は、俺の意思で貴様を討つ、フェイリア・ドレスデン。……起きろ。火の鳥」
 ――ッゴオオゥウッ!!
 灰殻が赤熱。その刃が、赫奕の焔を点して燃える!
「出し惜しみはするまい。加減をしてやる気分でもない。――俺は、今、久しぶりに怒っているんだ」
「知ったことかッ!! 死ね、定命の虫螻がッ!!!」
 剣戟、激化!
 炎纏う剣と、紅の長剣が鎬を削る! 鍔迫り合いの音すら、まるで空が軋んだように重い!


 ――その戦いを、後方より伺う小柄な影があった。
 少女の名前は、リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)。ユーゴの半分強ほどの背丈の、小さな少女。彼女は、きゅっと手を握り締め、吹き飛んだ剣狼に向けて駆けた。
 彼女は、知っている。戦いに赴いた、あの灰の腕を、留める言葉など持ち得ぬという事を。かつて彼が燃える国に何を思ったか、今この戦いに何を見るのか、その仔細を分からぬ以上は。彼の戦いを、己が留めて良いものではない、ということを。
 或いは袖に縋り付き、その戦いを止めるように言えば、ユーゴは剣を納めたやも知れぬ。
 けれど、彼女はそうしない。リリヤがこの戦いに心を痛めたように、ユーゴはこの戦いに、斬らねばならぬ何かを見たのだ。――だから、留めない。届かぬ手はもどかしけれど、決して――かつて騎士として生きた男の戦いから、目を逸らさずに、その背を支えようと決めたのだ。
「――剣狼の、あなた」
 リリヤはそっと、膝を付く剣狼に言葉をかけた。
「む、――……、貴公、は」
「だいじょうぶ。味方です。……ここに来るまでに、ひとびとのことばは聞けましたか」
 リリヤの問う声に、剣狼はくしゃりとその獣面を歪めた。
「ああ――ああ、私の戦いは、無意味だったのだと。そんなことを望みはしなかったのだと――幾つも、幾つも、声を……聞いた、とも」
 きっと、心ない言葉を幾つもかけられてきたのだろう。知っている。悼む声、嘆く声、怨む声、罵る声。リリヤとてそうした声があったのを知っている。夢に見るほどの、風に渦巻く怨嗟は、今もリリヤの耳の中にこびりついている。
 ――嗚呼――でも、だけれど、
「……あなたを待つ声を、わたくしは聞きました。信じられないかも、知れませんけれど。確かに聞いたのです」
 その言葉に、光を見たように剣狼は目を見開いた。
 リリヤは忘れない。覚えていたその言葉を諳んじる。

 ――剣狼様が来てくださった。
 もう一度来てくださった。
 ……今度こそ、今度こそ、本懐を遂げられますよう。
 ……お助けください、剣狼様……。

       サーガ
「届かなかった英雄譚を、無意味なものとわらうひとも、そしるひとも、いるかもしれません。ただ、うつくしくなく、かなしいだけの、物語だと。でも、わたくしはそうは思いません。――これは、あなたがいきた、いきていた、その証」
 人狼の少女は、剣狼を鼓舞するように歌った。声高く、包み込むようなソプラノで。此度紡ぐは光齎す鐘ではなく、ただ、その身を癒やすうた。シンフォニック・キュア。
 共感した全ての対象を癒やすその歌は、前線を支えるユーゴの傷を、そして今まさに傷に蹲る剣狼の身体を瞬時に癒やす!
 ――オブリビオンたる剣狼の強大な生命力、全てを補填することは罷り成らずとも。
 その身を、今しばらく支えるだけの力を齎す!
「――わたくしには、これしかできません。けれど……これが、あなたのたすけになりますように」
「――感謝する。狼の仔よ。其の志、決して無駄にせぬ」
 万感の思いを込め、剣狼は呟いた。その膝はもう、決して折れることはあるまい。
 見送るリリヤの視線を浴びるまま、剣狼は矢の如く前進する!


 ユーゴの剣を覆うは『灰焔』。その速度は常の九倍、この強大なる始祖、エインシェント・ヴァンパイアを前に一歩も譲らぬどころか、圧倒せんばかりの剣である!
 命を代償に焼べるその剣、峻烈にして煥発! フェイリアの表情が焦りに染まるほど!
「くッ……!!」
「いい顔だな。――かつて貴様が手にかけた、数多の人々の思いをその身に刻むがいい。俺の剣は――彼らの、鋭い慟哭の塊だ!!」
「然りッ!!!」
 凄まじい速度で奔った剣狼が、ユーゴを援護するように飛び込んだ。その剣勢もユーゴに負けず劣らぬ!
 ぎうんっ、ぎいんっ!!!
「っ、な……!?」
 フェイリアの二剣が続けざまに上に跳ね上げられ、胴ががら空きとなる!!
 その瞬間、かつての騎士と剣狼は一条、視線を交わし。
 全く同時に、左右より交差軌道で踏み込んだ。

 剣狼が右より。
 騎士が左より。
 
 全く同時に駆け抜ける、二人の男の剣が、祖たる吸血鬼の身体を十字に裂く――!!

「あ、あああ、あがっ、が、ぎ、」
「――その身に宿した闇が深ければ深いほど、この炎は熱いだろう。そのまま灰に還るがいい」
「ぎ、いぃぃいああああああああああああああああああっ?!!!?」

 燃える。初めのものどもの一柱が、今まさに。
 ユーゴが奔らせた灰焔に囚われ、燃えていく――!!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 
 
 
 斯くて、最後の二人が駆け抜ける。
 
 
 
ジャガーノート・ジャック
◎◆ロクと

("ヒト"の在り方を歪める存在。弄り回した物を自分の玩具かそれ以下としか見做してない、その邪心。一番憎く嫌いな手合だ)

(――ザザッ)
討伐対象を補足。
ロク。

(感情は一度胸と鎧の奥に仕舞う。いつもに増して芯を冷やす。
怒るなら)

狩るぞ。
(冷静に、怒れ。)

(剣士の強者は複数回交戦した。戦闘経験を基に見切り、或いは残像での撹乱回避をし)〔学習力×戦闘知識×見切り・残像×フェイント〕

Pursuit.
(猟犬の如き悪禍に合わせ追撃を撃つ。)

狩られる側がどちらか理解をしたか?
――癇に障ったか。
しかしいいのか。

お前を狙ってるのは本機達だけではない。
(自身達の攻撃を剣狼の攻撃の布石に。(援護射撃))


ロク・ザイオン
◎ジャックと

(あれが、全ての元凶)
(眼の前が怒りで赫く、眩む)
お前が。
ひとを。
骸を。
お前が――――、

(相棒の声が狩りの始まりを告げる。
それを引鉄に、解き放たれる「悪禍」)
――――ああァアアア!!!
(灼熱する殺意と憎悪は唾棄すべき敵を何処までも追跡し
下僕共も区別なく食い千切り、灰に還ることすら赦すまい。
己のこころの全てを以て、)

燃え尽きろ!!!

(お前には、森の慈悲すら与えない)



●悪禍に燃ゆる剣狼の牙
 燃える女を見た。まるで油を被せられ、火を点けられたかに見えるほど。ぎゃあぎゃあと五月蠅く喚き、それでもなお生きている。生きようと足掻いている。振り回す剣を、剣狼が最前で受け、弾き続けている。
 剣舞う二体のオブリビオンを前に、森番は――ロク・ザイオン(未明の灯・f01377)は、その髪を逆立てて、かつて見せたことのないような怒りを露わとした。
 あれが全ての元凶。この、最低に最悪な夜の仕掛け人。
「お前が。ひとを。骸を。お前が――――、」
 まるで燃える女のその赤に囚われたように、ロクは口に上った言葉を調えることなく垂れ流した。完全な文にならぬ言葉。しかし、もう文とする必要すらあるまい。燃えさかる吸血鬼は、誰の声をも聞いていない。痛みと怒りに支配され、遮二無二剣を振り回すだけだ。
 ――ザッ。ノイズ。
『討伐対象を捕捉』
 平板な電子音声。ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)のものだ。
“ヒト”の在り方を歪め、弄り回した人間を自分の玩具かそれ以下としてしか見做さず、自分は支配する側であると思い上がって、長く人々を苦しめた邪悪なる鬼。
 ジャックが最も憎む、絵に描いたような支配者が、今まさに二人の前で燃えている。
 火が収まりつつある。ヤツは、この上まだ再生している。
 ――させるものか。
『ロク』
「――」
 うなずき一つ返事に、ジャックもまた大きく一つ頷く。嫌悪の情も、憎しみも必要ない。それはロクが充分以上に抱えている。自分のそれはこの装甲の奥に、深く抱えて仕舞い込んでしまえ。
 冷たい装甲、冷徹な引き金。芯をこれ以上なく冴えさせて、――ただ、撃滅する対象として敵を視ろ。
 怒るのならば、冷静に怒れ。
『――狩るぞ』
 断つように言ったその言葉を引き金として、ロクは両手の二刀に焔を帯びさせた。
「あぁあアァァァアァ!!!」
 吼える。同時に、彼女の周囲に悪意の火球が浮き上がる。『悪禍』。彼女の憎しみと、殺意のカタチ。
 ロクは山猫めいて跳ねた。その後ろにジャックが従う。
 フェイリアは剣狼と打ち合いつつも、最後の力を尽くすように虚空より肉塊を連続召還、百に届こうかという眷属を一瞬で錬成! 群れを成してロクとジャックの到達を遅らせんとする!
 しかし、憎しみの火球は、護ることを忘れた森番の焔は、ともすれば病葉諸共に森そのものを焼くような勢いで猛る。悪禍が疾る、眷属が焼ける。一切の容赦も何もない。悪禍の焔は滅びの焔。火球が直撃した眷属は、その火球のカタチに刳り抜かれ、その後回った火球の熱で、骨すら残さず燃え尽きる。有象無象の区別なく、悪禍の焔は赦しはしない、逃がしはしない。慈悲の一つもありはしない。灰に還り、森の糧になることすら許さない。この外道は、それに連なるものは、その存在の一切を滅却せねばならない! 
「焼いてやる。灰も、残さず!!」
 ロクの叫びが意味するものは、一切の鏖殺だ。
 悪禍の火球が駆け抜け、地で炸裂。爆風に巻き込まれた数体の眷属がただの火柱のようになって、その炎熱のあまりに踊り狂って燃え尽きる。ジャガーノートは、その凄惨なる攻撃の光景の向こうに、真に射貫くべき敵を捕らえる。
 ロック・オン。敵の攻撃パターンはここに至るまで仔細に観察済だ。これまでに対峙した手練れの剣士と、行動パターンを照合し予測精度を向上。剣狼が攻撃するその隙間を縫い、ロクに指示を飛ばす。
『ロク。三秒後に全火力を集中。ナビは本機がする』
「わかった……!」
 ジャガーノートはファイアレーンをホロ投影。ロクは悪禍の火球を再生成、号令に備える!
『剣狼。威力支援砲撃を開始する。直ちにその場を離脱せよ』
「……!」
 駆けられた無機質なノイズ混じりの音声に、剣狼は目を見開いた。
 未だ焔を燻らせ、既に声という声も発せなくなったフェイリアの二剣を力任せに打ち払い、彼が飛び退いたその刹那――
「お前には、森の慈悲すら与えない、森が許そうとおれが許さない!! ――ただ、枯葉の如くに燃え尽きろ!!」
 ロクが吼える! 彼女の周りの中天に、悪禍の火球が立て続けに燃える。その数六十に届こうかというほど。紅蓮の炎に照らされて、山猫の髪が真っ赤に煌めいた。
 烙印刀を一振り。号令めいたスイングに、一斉に放たれる火球の群れ。その悉くが、ジャガーノートが空中に投影したファイアレーンの上を忠実になぞり疾る!!
「おっ、の……れええぇ、ええ……!!」
 フェイリアは二刀より赤色の衝撃波を放ち、その火球の嵐を叩き落とそうとした。事実それはうまく行った。十あまりの火球が宙で叩き潰され、盛大な爆炎を上げて散った。――だが、
『貴様の失敗は、最後まで――狩られる側がどちらか、理解しなかったことだ。吸血鬼』
 ZAPZAPZAPZAPZAPZAPZAPZAPッ!! 空気を斬り裂くレーザー・ランチャーの砲声! ジャックが装備するホーミング・レーザーランチャーが複数同時に火を噴いたのだ。収束率を極限に高め、貫通性能を強化したレーザーが、フェイリアの四肢を貫通し、その動きを鈍らせる!
「ぐ、うっ!?」
 ジャックの支援攻撃、『Pursuit』である。
 立て続けに着弾したレーザーにより動きが鈍れば、悪禍を落とすスピードが落ちる。悪禍とレーザーの両方に対処するには――と考えたのだろう。
 フェイリアは、血の鎧を生成。全身防御を固め、前進した。
 悪禍が立て続けに着弾!! レーザーのほぼ全てが命中!! 筆舌に尽くしがたい絶叫が鳴り、その苦痛のほどを語る。
 ――爆炎の中から飛び出すフェイリアは、最早ケロイド様の全身やけどに左腕欠損、右の瞼も焼損し、瀕死の有様だった。それでもロクを、ジャックを殺そうと進む!
「ころ、し、て、やる……!!」
「――どうやら癇に障ったらしい。しかし、いいのか?」
 ジャックは迎撃の武装を構えることもなく、静かに言った。
「忘れているようだが――貴様を狙っているのは、何も本機らだけではないぞ」


 ずんッ、と重い音がした。


「あ――?」
「……この時を!! 骸の海で待ちわびたぞ、フェイリアアアアァァァッ!!!」
 剣狼の大刀、神獄滅殺の太刀が、フェイリアの胴を真横から貫いていた。彼はジャガーノートのナビゲートに従い離脱後、攻撃のチャンスを横から伺い――致命的な隙を晒したフェイリアを、今まさに側撃したのだ。
 神獄滅殺の太刀がフェイリアの心臓を破壊する。唇を戦慄かせ、何かしらの罵り言葉を発そうとしたフェイリアの首に、悪禍の焔に真っ赤に燃えた烙印刀が食い込んだ。
「ォ、 あ」
 空気の漏れる音がした。最早言葉もなく、ケモノめいた速さで飛び込んだロクによる、駆け抜けざまの怒りの一刀。喋らせてなどやるものか。――これ以上、この世になんの染みも遺せず、生きた証も遺さず、消え失せろ!!
 首から飛沫く血が熱のあまりに蒸発しジュウジュウと音を立てる。
 最早絶叫、声も無し。震える紅の長剣が、応じるために上がるその前に――心臓を斬り暴きながら抜けた、神獄滅殺の太刀が――ダークセイヴァーの闇天を貫くように掲げられ、
「報いを受けよ!! 下劣なる悪鬼よ!!」

 ――一閃!!

 かくして、フェイリア・ドレスデンは頭から、唐竹割りの真っ二つに分かたれ――
 今度こそ、再生も許されずに、骸の海に還された。



 ――かに、見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『全てを失くした剣狼』

POW   :    神獄滅殺の太刀
【対象の死を願う怨念】を籠めた【極刀『禍色』】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【戦意と正気と寿命と免疫】のみを攻撃する。
SPD   :    召喚・白魔大帝
自身の身長の2倍の【蹴りだけで大地を割る事が出来る狂暴な白馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    神獣鎧装
防具を0.05秒で着替える事ができる。また、着用中の防具の初期技能を「100レベル」で使用できる。
👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠セシリー・アリッサムです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
 
 
 ――おのれ、おのれ、おのれ……!!
 こんなことがあっていいはずがないわ! 私は永遠、悠久を生きる“祖”なのよ!! 私が、こんなことで死ぬなんて!! 認めない、認めないわ! 絶対に認めない……!!
 フェイリア・ドレスデンは両断されてなお思考していた。しかし、現実は覆らぬ。今はまだ意識がある。しかし、彼女は、此度の現界を終えざるを得ない。骸の海より持ち参じた存在量は尽き、身体を再生することもままならぬ。敗北だ。
 フェイリアはそれを認められぬと言うかのように呪った。呪い続けた。しかし身体の崩壊は留まらず、いかに彼女が認めぬとても、滅びの刻はやってくる。存在が拡散し、維持できなくなった身体が末端より崩壊していく。
 爪先から赤き塵と化し、消え失せていく身体。おお――免れえぬ滅び。フェイリアは忍び寄る死の足音が、止まらぬことを受け容れざるを得なかった。

 ――嗚呼、死ぬのね、口惜しい。

 ならば。只で死んでなどやるものか。
 かつてこの牙に掛かって死した剣狼よ。
 おまえはそれを忘れたかしら?
 なら思い出しなさい。
 今も、おまえの中には私がいるのよ。

 フェイリアは、崩れ拡散していく自らそのものをリソースとして、最後の呪いを動かした。
 狂化の呪法。ただ、狂えとだけ記された式。細かい指示、場合分け、状態変化などの詳しい条件付けなど無い。
 発動すれば最後。
 刻まれたものは、血を求め駆け回る凶刃となる。

「ぐ、ゥッ……!?」

 遠くに剣狼の呻きを聞いた。
 その首に光る牙の跡。そう、パスは既に通っている。あの日噛み殺した、その時に。
 捨て身になって命を賭せば、彼の存在そのものを書き換えることも出来よう。
 ――そして皮肉にも。
 フェイリア・ドレスデンには、既に失うものなどありはしないのだ。
 かつて突き立て絞った獣臭い血の味を思い出しながら、フェイリアは、散りゆく肉体をリソースとして魔術を発露した。

「が、アアアアアアアアアアあっ――!!!!」

 嗚呼、せいぜい苦しんで死ぬことね。
 貴様にも、猟兵にも。
 満ち足りた死などくれてやるものか。

 それが、フェイリア・ドレスデンの最後の思考だった。



  赤き雷が轟き、剣狼を打った。
  それは刹那のこと。止める術を誰も持たぬ。
  迸る苦鳴は、やがて猛るような咆吼に変わる。

  やがてだらりと刀を下げて、
  ぐるりと振り向く狼の、
  血よりも赤きその瞳――

  咆吼が、今一度闇を裂く。

  斯くて剣狼は堕し、刃狼となった。
  握らば身を裂く魔性の刃。
  最早、かれをつなぎ止めるものはここになく、
  その様、ただ動くものを戮殺する魔剣が如き。
  この結末を、誰が予期できたことか。
  悪辣、ここに極まれり。
  祖たる女の最後の悪意が、
  猟兵らへと襲いかかる。
  
  嗚呼、刃狼が往く。
  今や祈りの一つも解さぬ、
  ただ野を駆ける獣となって。
  
  最早や狂い、かれは世界の敵となった。
  赤色の狂気に理性を焼べて。
  あの日の憤怒と後悔を、剣に込めて振り下ろす。
  
  ――断て。
  きっと、許された弔いは、ただそれだけだ。
 
 
 
    Chapter / 3
      刃、尽キル刻
 
 
 
●インセイン・クリムゾン
 神獄滅殺の太刀に、礼装『神獣鎧装』。
 骸の海から持ち参じた力に加え、フェイリア・ドレスデンの悪辣たる狂化呪法により、剣狼――否、刃狼の戦闘能力はその極致に至っている。
 かれに届く言葉はないのだろうか。それは分からない。少なくとも会話できる状態でないことだけは、膚で知れることだったが。
 ――無慈悲にして悪辣なこの世界で、何が正義なのか、正しさとは何か。それは万華鏡めいて、覗くものによって答えを変える問いだ。
 ただ、一つだけ、確かな事がある。

 きみ達がここでかれを屠らねば――
 かれは、きっと他の誰かを手に掛けるということだ。

 猟兵達は武器を上げる。
 哀色の牙に、別れを告げるために。
 
 
 
 
 
 
●プレイング受付期間
 2019/11/18 20:00~2019/11/21 23:59(以降、再送のみ受付)
 
 
 
日向・士道


君の役目は終わった。
よく戦い、よく抗い、よく挑んだ。
君の義憤も激怒も憎悪も、確かにこの小生が刻んだ。

故に、あとは君の生涯に幕を下ろそう。
来世で、良き生を得る為の道程としての死を、君に送る。

嗚呼、もはや小細工は不要。
剣士と剣士の戦いだ、必要なものは剣戟で十分だ。

――伊之型【片葉之葦】

たとえどれほど君の刃が、小生の戦意を、正気を削ろうと――止まらぬと知れ。



●太刀合い
 ああ、君の役目は終わった。
 君の戦いがあってこそ、悪辣の領主は滅びた。よく戦い、よく抗い、よく挑んだとも。
 ――君の義憤も激怒も憎悪も、確かに小生が、この身、心に刻んだ。君という勇者がいたことを、屹度忘れまい。
「オオオオオオオォオオオォォォオオオオオオオオオォォッ!!!」
 剣狼が吼える。吼え猛る。それを見ながら、日向・士道(パープルシェイド・f23322)は妖刀“酒呑童子”を抜刀。
「――故に。あとは、君の生涯に幕を下ろそう。来世で、良き生を得る為の道程としての死を、君に送る」
 剣狼は最早言葉など解さぬ。しかし士道は、言わずにはいられなかった。
 かつて弱きものを護るための剣として立ち、志半ばにして折れ、その後悔を糧に立ち上がった、悲しき刃狼に――手向ける言葉すらないのは、残酷ではないか、悲しいではないか。
 刃狼が跳ね来る。
 その速度、フェイリアなど問題にならない。初撃のあまりの速さに、士道は斬撃を受けきれずに吹き飛んだ。酒呑童子、堅牢なり。折れず曲がらぬ刀のおかげで身を守れたが、その刀でなくば刀身ごと身体を断たれていただろう。 ――さらには、その太刀の特異なる性質が、士道を襲う。神獄滅殺の太刀――極刀『禍色』の恐ろしさは、物理的な威力のみならず、対手の戦意、そして生存に必要な機構を、不可視の領域で破壊するところにある。
 禍色が斬り削るは戦意に正気、そして免疫系、寿命――つまりは生命力。相対し、打ち合うだけで消耗する、げに恐ろしき太刀である。況んや、直接浴びれば刃傷も加わる。恐るべき、まさに殺すための剣だ。
 ――しかし。
「雄々ッ!!」
 士道は吼える。燃え立つように。今更、いかに戦意を削ろうと。正気を削られようと、小生は止まらぬぞと。
 踵で地を削り制動。追い来た刃狼を迎え撃つ。が、が、ががが、がきいんっ!! 火花を散らして大刀と酒呑童子が火花爆ぜさせ剣戟を奏でる!
 最早小細工は不要。剣士と剣士の戦いに、その他の全ては余計余分。ただ、己に出来る全てを用いて、全身全霊太刀合うのみ!
 瞬きの間に打合いが七合響いた。斬撃の軌跡は最早人の目には追えぬ。白刃が嵐めいて両者の間を閃き荒れる!
 真っ向の打ち合い、あまりに凄烈。純粋な剣技では剣狼が上回る、しかしそれを士道が気魄で埋める! その刃は、生命力を削られるごとに鈍りゆくはずなのに、衰えぬ! 
 戦意は消えぬ。斬ると決めた故!!
「がああアァァあっ!!」
「く、……うううおオォッ!!」
 数十合の打ち合いの涯て、一際強く打ち合った瞬間、ついに士道が体勢を崩した。刃狼のあまりの膂力が、士道の刀を押し切り、仰け反らせたのだ。
 刃狼がその隙に刃を走らせた。ぞぶり、と食い込む太刀、士道の脇腹から血が飛沫く。――刃は抵抗なくそのまま士道を、天地上下に両断する――!!
「――嗚呼、君は強かった。誇り高き狼よ」
 しかし断面より漏れるのは、血ではなく煙。
 呂之型【煙羅煙羅】! 紙一重、否、実際に士道の身体は半ばまで断たれていた筈! 斬られた瞬間に士道はその身体を煙と変え、死を回避したのだ! 刀が抜ける、剣狼が身を返す――ほぼ同時に、士道の手元で鍔鳴りの音。いつの間に納刀したのか。刃狼が刃振り切ったその隙にか。――絶技である!
「その生に、この剣を捧ぐ。受けるがいい」
 傷を押し、鬼刃、今一度鞘走る。


 ――伊之型【片葉之葦】。


 居合一閃、踏み込み様の抜き打ちの刃。
 切っ先、煙めいて揺らぎ。守勢に回った剣狼の大刀を、おお――すり抜ける!!
 まさに士道を模ったような一撃、閃く刀が刃狼を裂く――!

成功 🔵​🔵​🔴​

カタリナ・エスペランサ

そうして白馬を駆る姿はまるで騎士様ね
……貴方の最期がただ狂気で終わるのは、あまりに惜しい

使うUCは【暁と共に歌う者】
61の不死鳥を1体に合体させ《騎乗》、《武器改造》で魔力を通したダガーを騎士剣に再錬成して《空中戦》でお相手するわ
不死鳥と共に紡ぐ歌は《歌唱+精神攻撃+ハッキング》、正気を取り戻す事は叶わないとしても仇を滅ぼせた事だけは伝えたいの

白馬の相手は不死鳥に任せましょう
剣狼の動きは《第六感+戦闘知識》で《見切り》、《早業+怪力》に重力の《属性攻撃》を付与する事で膂力の差を補って正面から切り結び手数で押し切るわ

その刃を向ける敵はもう居ないの
だから……願わくば。貴方も心残り無く眠ってほしい



●気高き貴方を葬送る歌
 斬撃が入り血が飛沫くが、刃狼の傷は、ほぼ逆再生めいた速度で治癒。ともすれば、そのタフネスはフェイリアを遙かに超えているのではあるまいか。――いかにあの悪辣の夜王を打倒した猟兵達とて、油断すること罷り成らぬ! ――刃狼が一つ声高く吼えれば、それに喚ばれたように宙が裂け、白き雷が落ちきた。
 ど、うっ!! 地に落ちた雷は蟠る光となり、瞬く間に巨大な馬の姿を取った。刃狼が跨がるあやかしの駿逸、『白魔大帝』である。
「――そうして白馬を駆る姿はまるで騎士様ね。弱きものを護るために戦った、白馬の騎士。――……貴方の最期がただ狂気で終わるのは、あまりに惜しいわ」
 小さな声で噛みしめるように呟いたのはカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)。宙を羽撃き、刃狼を眼下に見下ろす。
 刃狼の咆吼に従い、白魔大帝が嘶く。二体の視線がカタリナを捉えている。カタリナは迷わずユーベルコードを起動。使うは――『暁と共に歌う者』。六十あまりの、紅蓮に燃える翼持つ不死鳥の群れを招来。自身を取り巻き燃えさかる群れを、カタリナは拳を握る動作をして一点に重ねた。不死鳥は一体の巨大な大鳥となり、その炎熱で空を焦がす。カタリナは、その背に乗った。
「――貴方が正気を取り戻すことは、きっとないんでしょう。叶わないと知っているわ。けれど……貴方が、貴方の手でフェイリアを斬ったことだけは……宿願を遂げたことだけは、伝えたい」
 カタリナは、自らが騎乗する大鳥と共に歌った。歌詞も、旋律も即興で。ただ、『剣狼』が、本懐を遂げたことを歌う歌を。カタリナの歌は対象の精神に作用するが、果たしてそれがどこまで届いたかは分からない。刃狼は、小揺るぎとてしないのだ。
 それでも、歌いたかった。それが自分に出来る、最後の手向けだとカタリナは思ったのだ。
 歌が鳴り響き、赤々と不死鳥の羽があたりを照らす中、ちきり、と神獄滅殺の太刀――極刀『禍色』の鍔が鳴る。
 構える音。刃狼と白魔大帝が、空のカタリナを目掛けて跳躍した。

 激戦が始まる。

 カタリナは右手のダガーを錬成、騎士剣として再構築して敵を視た。まるで空に足場があるかのように、足下で魔力を爆ぜさせ天翔けくる馬とその主。
「行きなさい。アタシが戦ってる間だけでいい――あの白馬を抑えて」
 不死鳥は高く鳴き、プラズマの翼を揺らめかせて白魔大帝目掛け突撃する。焔の翼斬撃を飛ばす不死鳥と、それを魔力帯びた咆吼で散らし落とし突撃する白魔大帝!
 その激しい戦いを尻目に、カタリナは己の翼を翻して、宙を駆け上ってくる刃狼と真正面から打ち合う!
 刃狼の剣はフェイリアより疾く、そして重い! 真っ向から速度で圧倒しにかかったカタリナの速度を、なおも上回る手数だ。
「く、ううっ……!」
 その身体に掠める禍色の刃が、カタリナを傷つけ生命力を奪い、衰弱させに掛かる! しかしカタリナもまた譲らない。その怪力で振るう剣に更に重力術式を付与、瞬間的なインパクトを稼ぐ。敵の剣筋を学習し、次撃はより滑らかに弾き。足捌きを見て取り、その癖を把握し。刃狼の隙を穿つべく、己の動きを改め続ける。
 最高速の乱撃。打ち合う剣は正に嵐めいて刃鳴る。跳ね合う剣と剣の火花、白馬と不死鳥の苛烈なる戦いが背景を彩る中、カタリナは呼吸さえ止め、劒を奔らせた。
 ――かれの、人々を守るために戦う『騎士』としての姿に、憧憬を抱いた。
 今やかれは堕ち、殺すために殺す悪鬼となったが。かつて高潔に、人々のために立ち上がった剣狼のことを、カタリナは忘れまい。
「はああああああああああああっ!!」
「る、うううゥゥゥウウウうおォォッ!」
 カタリナの裂帛の気合と、刃狼の気勢が重なる。空を踊るように駆け抜けながら剣火花を舞わせ――
 ひととき間が開いた、その次の瞬間。
 刃狼が空を蹴り、カタリナが翼を一際強く羽撃いた。
 ――空中、交錯!
 カタリナの翼から血が噴き出、紅く染まる羽――
 落下軌道に入るカタリナは、血に濡れる翼もそのままに、呟くように言った。
「もう、その刃を向ける敵は居ないの。貴方が、断ったのだから」
 ――背後。剣狼の胸鎧が割れ、真一文字の傷より血が迸った。
「ぐ、ウ、ウウッ……!!」
 痛みにか、吼える刃狼の声を聞きながら――刻んだ一撃の重さを確かめるように、カタリナは騎士剣のグリップを強く握る。
「だから……願わくば。貴方も心残り無く眠ってほしい」
 刃狼はバランスを崩し落ちる。
 傷ついた翼でカタリナは空を滑り、歌声を結ぶ。

 ――ああ。
 これは、誇り高き騎士への葬送歌だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

安喰・八束

何処まで武士の戦を汚しゃあ気が済むんだ
……糞が……!!

莫迦でかかろうが馬は馬。
狙撃で足と目を潰し(スナイパー)
奴を馬から引摺り落せたなら
死合いと行こうか。

……刀で相手が出来なくて、済まねえな。
遥か異邦より罷り越した
猟兵。"狼殺し"の安喰八束。
――「狼牙一擲」にて、御首頂戴仕る。

猟兵が来たこの世界には、遠からず泰平の世が来る。
俺の世界がそうだったように。
だがなあ。
それでも俺たちは、遅すぎたな。

恨みも、嘆きも、俺が負おう。
吼えろ。猛り狂え。
泣き喚いて、後は死に損ないに任せろよ。

……お前さんの名乗りが聞けりゃいいがね。
狼として死ぬのは侘しかろうよ。



●忘れ得ぬ牙
「何処まで武士の戦を汚しゃあ気が済むんだ……糞が……!!」
 黒狼は憤然と言った。
 生前立ち上がった剣狼は、人々の人間としての尊厳を守るために戦ったはずではないか。
 ――果たせなかった、その誇りを守るための戦いを未練とし。骸の海を泳いで参じた剣狼を、この期に及んでまだ侮辱するか。叩き込んでやった九発では到底足りない。今、あの悪辣の吸血鬼が目の前にいたのなら、弾薬盒が空になるまで銃弾を撃ち込んでやったろう。
 ――剣狼は、否、刃狼は、今一度愛馬『白魔大帝』を駆り、近接戦闘を挑んだ猟兵らを猛撃。その刃の射程に入れば、かれが振るう白刃は魂を削り、命と、正気と、戦意さえも刻む。
 黒き狼は、手の中にある銃に銃弾を装填する。手のつけようがないほどに暴れ狂う、刃馬一体の有り様を、遠く数十メートルの距離より、照門の間に挟み込む。
 巨大だ。――至近で挑めば踏み潰されて仕舞いだろう。
 だが、莫迦でかかろうが馬は馬。狙い所は脚と目だ。
 刹那の九連射。狼殺し・九連。連なる九つの銃声が響き渡り、大地を揺るがすような嘶き、苦鳴。半狂乱の竿立ちとなり、制御を失う愛馬より、刃狼がバランスを崩しつつも飛び降りた。
 ――その瞬間に、黒狼は、安喰・八束(銃声は遠く・f18885)は駆けた。隙を盗んで、ただ一直線に。
 刃狼とただ、涯ての死合いを演ずるべく。


「刀で相手が出来なくて、済まねえな。この常闇の世より外、遙か異邦より罷り越した。……猟兵――"狼殺し"の安喰八束」
 八束は刃狼へ駆け寄せ、名乗った。人狼としての本性を晒した姿で。
「――我が涯ての術。『狼牙一擲』にて、御首頂戴仕る」
 名乗りと、宣言。

 人狼はその手に、銃剣つきの猟銃、“古女房”を。
 刃狼はその手に、神獄滅殺の太刀、『禍色』を。

 互いを断つための牙を持ち、二体は真っ向正面よりぶつかり合った。


 猟兵が来たこの世界には、遠からず泰平の世が来る。
 俺の世界が――サムライエンパイアがそうだったように。
 ――だがなあ。
 それでも俺たちは、遅すぎたな。
 お前さんが、立ち上がったその日に、ここにいられたとしたら。
 俺は、それが悔しい。


 隙がない。盗めない。
 八束は銃剣にて峻烈たる刃狼の剣を受け流し、弾いた。攻撃を防いでも、残り少ない命が削れていくのがはっきりと分かる。八束の口の端を、ぬらりと光る血が濡らす。剣術では及ぶべくもない。刻まれる刃傷、禍色の特質により、見えずとも確実に削られていくいのち。
 たった一発の銃弾の行き先を定められず、八束は遮二無二銃剣を振るう。
 嗚呼、刃狼が吼える。


 口惜しかったろう。恨みも、嘆きも、俺が負おう。
 吼えろ。猛り狂え。
 泣き喚いて、後は死に損ないに任せろよ。
 ――残り少ないこの命だが、お前さんのことを、きっと忘れやしないだろう。


 剣狼が腕を閃かせた刹那、剣先が飛燕の如く踊った。
 不意を打たれ、右腕をざっくりと断たれる。血が迸る。傷口より痛みと倦怠感が這い上る。
 八束の背より忍び寄る、死の気配。
 ――けれど死ねない。理由がある。
 死ぬのなら、自分の仔と、女、――良と同じようにと決めている。
 八束は千切れかけた右腕を振った。スプリンクラーめいて飛び散る血で、敵の目を潰す。
 一瞬。血糊を拭い取るその隙。
 それを盗む。


 お前さんの名が知りたかった。
 でも、きっともう聞くことも叶わねえんだろう。
 だから、一等雄々しく戦った剣狼として、お前さんのことを胸に刻む。
 ――さあ、これがお前さんのための牙だ。
 鱈腹食らえ。


 ど、
 地面を蹴る音。右に回り込む。瞬間移動したかのような速度。
 恐らく刃狼はそれを知覚できなかっただろう。隙を盗んでの回り込み。
 しかし刃狼、本能でそれを捕捉。視界も開けぬのに、禍色の切っ先で人狼を穿たんと突いた。
 閃光めいた突きが、八束を貫く。

 ゆらり、揺らめく、その姿。

 真逆、真逆。刃狼の野生の勘が繰り出す刃が貫いたのは、残像。
 八束の姿は、刃狼の背後。隙を盗み、回り込み、更に一度の軌道転換。稲妻めいた動き。筋肉が爆ぜ切れるような痛みにも構わずの、強引な挙動。
 技術に捨て身を掛け合わせ、突き出す牙が、刃狼の背中へ閃いた。

   ロウガイッテキ・マガツムジ
 ――狼 牙 一 擲 ・ 凶 旋。

 涯ての一撃が刃狼を貫いた。
 銃声は遠く――痛哮が天を穿つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青葉・まどか


……噓でしょ!?
ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!
あの、クソババァ!!
なんでよ!なんで剣狼がフェイリアの為に生き様を、在り方を歪められなくちゃならないのよ!
……許せない。悔しい!

……止めよう、私が嘆いたところで何も解決しない
フェイリアが嘆きを聞けば、ほくそ笑むだけだ。あのババァを喜ばせてたまるか
このまま剣狼をフェイリアの呪縛に囚われ続けさせない
呪縛から解き放つ為に……剣狼を討つよ

剣狼の激しい攻撃にまともに撃ち合うのは難しい
剣狼の攻撃は【視力】で【見切り】、回避に集中

『破魔焔』発動
最大複数合体させた破魔の炎を剣狼に纏わりつかせる
せめて、フェイリアに付けられた魔術痕を破魔の力で焼き尽くしたい



●誇りがために
「嘘、でしょ。……嘘でしょ、」
 こんな結末を、誰が望んだというのだ。
 猟兵と、剣狼が激突する。それも、誰もが想像しなかった最悪の形で。
 あの悪辣の女吸血鬼が描いた最低のシナリオに、青葉・まどか(玄鳥・f06729)は拳を握り固め、歯を食いしばった。
 ――ふざけんな。ふざけんな、ふざけんな!!!
「あのっ、クソババァッ!!!」
 身体に負った傷は、最低限の治療を受けただけ。吼える慟哭は、血の味がする。
 ――なんでよ。どうして! どうして剣狼がフェイリアの為に、生き様を、在り方を歪められなくちゃならないのよ!! 最後まで誇り高くあろうとした彼を、この期に及んでまだ汚すつもりだっていうの?! こんなの――許せない、許せるわけない! 悔しいっ……!!
 ダガーの柄が軋むほどに握る。まどかは、猟兵らと激戦を繰り広げる刃狼を見て、眦を決する。
 ああ、こうして嘆いたとて。剣狼は既に堕し、向こう側へ行ってしまった。
 仮にフェイリアが、こうして歯が砕けるほどに噛み締めるまどかを見たならばなんと言うか。きっと、楽しげにほくそ笑むことだろう。おまえたちに呪いあれと、不敬の報いあれと。きっとそう思いながらあの女は死んだろうから。
 ――あのババァを喜ばせてたまるか。
 心の中でさえ罵声を抑えられぬほどの怒り。それを噛み殺して、まどかは狂ったように太刀を振るい、その力を揮い続ける刃狼を見た。
 フェイリア・ドレスデンの呪縛よりかれを解放する手段は、たった一つ。
 かれを討つこと。それだけだ。
「……ごめんね。これしか、私たちにはできない」
 まどかは神速軽妙の構えを取り、刃狼目掛け飛び込んだ。同時に自分の周りに、六十に迫ろうかというほどの数の破魔の火球――『破魔焔』を浮かべる。
 刃狼の攻撃は苛烈だ。まともに打ち合うのは難しい。
 故にまどかは神速にて動き、刃狼の刃を避け、掻い潜り、ダガーで受け流し、ひたすらに防戦を重ねる。自分を攻撃させることで、剣狼の移動範囲を制限。未だ傷ついたその身体に、受けきれぬ太刀による斬撃が刻まれ、その服を赤々と染め上げていく。
 痛みを噛み殺す。まどかはキッと、凜とした瞳で刃狼を見据える。決して目をそらさずに。
「あなたを、解き放つよ」
 言葉と同時に破魔焔を全て寄せ集め、至近の刃狼の身体に纏い付かせて焼く!
「がッグ、ううぅぅううッ……!!」
「あのババァの痕を、あなたに残すもんか。……ここから消え失せろっ!!」
 まどかは破魔の力を高め、出力を全開。破魔焔は白熱し、刃狼の頸筋に残った赤き痕を――おお、白熱にて焼灼する!
 ――ああ、それで剣狼が正気に返るわけではあるまい。知っている、分かっている。フェイリアの因子はおそらくは、骸の海に堕ちる前、剣狼というオブリビオンが発生する以前に仕込まれたもの。表面を焼き祓って清められるようなもので花鋳。
 そうとも。堕ちた彼は戻らない。けれど、まどかは彼からその烙印のような痕を拭いたかった。消せない染みのように残った痕を。
「ううぅううウゥうっ!!」
 刃狼が大刀を一閃、焔を振り払った。
 赤い痕あった位置を確認するように見ながら、まどかは振り払われた破魔の焔を己のダガーに纏わせる。
 刃狼が踏み込んでくる。再びの打ち合い。
 神獄滅殺の太刀は、間近で振るわれるだけで彼女の生命力を、正気を削っていく。息を吸う間もない高速格闘の中、まどかは隙を縫って最低限の吸気。
 眼鏡の内で眦を決する。神速軽妙、破魔業焔。
 過去最高の速度で、彼女は踏み込んだ。焔纏うダガーで、刃狼の鎧の隙間を縫い通し、貫く!!
「ぐ、があアァァアあっ!!!」
 血と共に苦鳴が飛沫く。駆け抜けたまどかは再び破魔焔を呼びながら、構えを改める。

 ゆめ
「悪夢から覚める時間だよ。……今、起こしてあげる」

 まどかは謳うように言った。
 朝の来ない、ずっと真夜中の世界の底で。

成功 🔵​🔵​🔴​

リオ・ブレンナー
クソみてぇな呪い残しやがって…正気の剣狼とヤりたかったってのによ

けどまぁ、結局の所やることは予定通り
オブリビオンはぶっ潰す

さぁて、オレの拳がアンタに届くか
試させてもらうぜ!

相手は肉体を傷つけずに攻撃してくる、弾いたり受け止めたりはできねぇ
だったら、無理を承知で道理を叩き潰してくか

剣狼の一撃、敢えて避けずに致命打にならないように「受ける」
寿命も免疫もくれてやる
正気はそもそもそんなにねぇ

んでもって戦意は…一撃で捻じ伏せられるほどヤワじゃねぇ!

肉体を傷つけねぇ斬撃ならよ、オレを斬っても止められねぇよなぁ?
お前がオレを斬った時!それは同時にオレの間合いだ!!
《スクラップフィスト》を喰らいやがれ!



●鋼の拳を届かせよ
「チッ……あのババァ、クソみてぇな呪い残しやがって。オレは正気の剣狼とヤりたかったってのによ」
 リオ・ブレンナー(スクラップフィスト・f23265)はぼやくように言った。今やかれより正気は失われ、辺り全てを薙ぎ斬る刃狼となった。
 しかし、結局の所やることは変わらない。もとよりグリモア猟兵からの指示は『その場の全てのオブリビオンを撃破せよ』だ。
「ま、予定通りっちゃ予定通りだよな。――オブリビオンはブッ潰す」
 剣狼の末路を悼む猟兵らも少なからずいる。リオはそれを否定はしない。だが、彼女自身がその手の感傷を抱くわけではない。彼女の目に映るのは、強者としての敵だけだ。
「オレの拳がアンタに届くか、試させて貰うぜ……剣狼!」
 ヴォウッ!! 背面ブースターに点火! バックファイアを上げながらリオは加速、刃狼に接近する!!
 刃狼の反応は鋭い。神獄滅殺の太刀を取り回し、リオを迎撃する。リオが放つ拳を大刀で受け、その圧倒的な膂力と敏捷性にて切り返す。
 パワーは同等。リーチ、スピードで刃狼が勝る。接近戦でその二つが劣るというのは致命的なことだ。刃狼の刃は変幻自在、まるで複数本の剣を持ち戦っているかのような、天衣無縫の連続斬撃!
 リオは二本の腕でかろうじてそれを受け止める。瞬く間に義体の前腕が刀傷だらけになる。やや旧式とはいえスペースシップワールドで造られた戦闘用義体の腕を傷つけるとは、刃狼の剛剣の恐るべき威力が垣間見える。
 ――それに加え、こうして実体の剣閃は止められるが、生命力と免疫系が破壊されていくのを止めることは出来ない。戦意と正気も同様だ。このまま長く打ち合えば、正気も戦意も肉体機能も失い廃人となるだろう。
 ガードしてさえこれだ。直撃すればいかほどの威力となるか。分からない。だが、亀のように守りを固めたところで摩耗する一方。何より、守勢を通すのはリオの趣味ではない!
(無理を承知で押し通す、道理なんぞは叩き潰す!)
 リオはガードを開き、右腕を引きながら無造作に一歩踏み出した。当然のように刃狼は反応し、そこに大きく振りかぶっての袈裟斬りを合わせる! 受ける気も無い。
 ぎゃがっ、ぎいいいいいいっ!!! 戦闘用義体、KURENAIのボディ装甲が引き裂かれ、内部機構が露出。リオの視界にレッドアラートが明滅し、甚大なダメージを受けたことによる警告が表示される。同時に、致命的なまでに免疫機構が破壊され、リオの生命力が劇的に削られた。口内にこみ上げる血に正気を失いかける。
 ――だが。こんな痛みはかつて身体の多くを失ったあのときに経験済みだ。失う正気なんぞそもそもない。端からリオは戦狂いのウォーモンガーだ!!
 リオの瞳は狂気的に光り、決して刃狼から逸れることはない! 防御を捨てバックスイングした右手がなんのためにあるかなど、わかりきったことだ。ボディから上がってくるアラートを無視、伸ばした左手で剣狼の外套、その襟首を引っ掴んで捕まえる!
 多大な傷を負ってもその無限の戦意は絶えることなし! 神獄滅殺の太刀を持っても、戦への狂奔を止めること叶わぬ!
「戦意を斬るッつったがよ。そんな一撃で、オレの欲を全部削れるとでも思ったか? よう――お前のその剣が届くってこたァ、ここはオレの間合いでもあるんだぜ」
 刃狼、手を振り払いバックステップを打とうとするが時既に遅い! 流星めいた我楽多の拳が――敵を我楽多にするための拳が――
「コイツを喰らいやがれ!!!」
 彼女の代名詞、『スクラップフィスト』が唸りを上げる!!
 ――その打撃力、凄烈!
 プレス機めいた轟音。ブレスト・プレートが拳の形にへこみ歪み、刃狼は弾丸めいて後方へ吹っ飛んだ。空中で胸装甲の拳痕より亀裂が広がり、おお――神獣鎧装が砕け散る! それほどまでの威力――!
 フェイリアの屋敷の壁を突き破り、刃狼の身体が瓦礫に沈む!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジュリア・ホワイト

例え狂気の術に呪われずとも
その身は今と未来を塗りつぶす過去なれば
「この凄惨なグランギニョルに、血の終幕を下ろすのにも否やはないさ」

相手はかつての英雄、しかもオブリビオン化と狂化で更に力を増してる
今のボクでも、打ち合うには足りないか
なら【オーバーキル・ドライブ】を発動し本気の本気、敵を打倒する事だけを考えるモードへ転身
この場で最も疾い、狂える剣狼へ挑みかかろう
「キミの怨念がボクの戦意を削り落とすのが先か!ボクの疾走がキミの剣気を砕くのが先か!―勝負!」


でも、あの吸血鬼の思惑通りなのは癪だから
剣狼に戦意を削られモードが終わると同時に
「【ディアブレイブ】発動!その狂気だけを砕かせて貰う!」
―届け



●勇士へ捧ぐ
 ああ、譬え狂気の術に呪われずとも、その身は今と未来を塗り潰す過去なれば。骸の海より析出し、世界の敵となった身なれば。
「この凄惨なグランギニョルに、血の終幕を下ろすのにも否やはないさ」
 ジュリア・ホワイト(白い蒸気と黒い鋼・f17335)は呟く。仮に剣狼が、フェイリアの齎す狂気を受けていなかったとて、取る行動は変わらない。猟兵の役割は過去殺しと決まっている。
 敵はかつての英雄。オブリビオンとなり、さらにフェイリアの呪怨を一身に受けたその戦闘能力は強大だ。フェイリアとまともに打ち合って見せたジュリアでさえ、あの圧倒的な力の前では膝を折らざるを得まい。
 ――ならば。
 彼女はさらに石炭を囓り飲み込む。フェイリアを倒すために己が炉心に焼べた焔をさらに燃やす。ユーベルコード、『圧力上げろ!機関出力、最大開放!』――その超過駆動状態。『オーバーキル・ドライブ』。
 ほかのことは、何一つ考えなくていい。ただかれを打倒することだけを考えればいい。そうした時にしか使えないユーベルコードだ。今や、ジュリアは素早く動くものを無差別に攻撃する殺戮機械に等しい。
 ジュリアの、前照灯の輝きに似たオレンジの瞳が、吹き飛んで屋敷に突っ込む剣狼を追った。
 同時――地を蹴り、真っ直ぐに追う。
 轟音。他の猟兵の攻撃により刃狼は屋敷の壁をぶち破り転がる。埃もうもうと舞う中を、ジュリアは躊躇うことなく駆けて追う。
「キミの怨念がボクの戦意を削り落とすのが先か! ボクの疾走がキミの剣気を砕くのが先か! ――勝負!」
 どるんッ!! ジュリアの右手で残虐動輪剣――チェーンソー剣が唸りを上げて駆動! 跳ね起きる剣狼へ踏み込み、振り下ろす!
「がぁゥうっ!!」
 当然の如く受け太刀、ぎゃがっ、ぎりッっぎりり、ぎゃがぎぎりりりりッ!! 極刀『禍色』と残虐動輪剣が凄まじい音を立てて軋り合う!!
 高速回転する動輪剣の刃が、刃狼の太刀を弾く。一時とは言え、ブーストにブーストを重ねたジュリアの身体能力が、刃狼のそれを凌駕した。動輪剣が幾度も鎧を裁ち、剣狼の身体を抉って血を飛沫かせる!
「ぐ……うぅゥゥルルル、があぁあっ!!」
 しかし剣狼はなお倒れずジュリアに応じた。間近で振るわれる太刀の力が、ジュリアの戦意を、その中心に点った熱を、生命力をそぎ落としていく。
(これは――思ったより、きついな)
 直撃を許していないのにもかかわらず、戦意と体力が削れていく。まるで毒かのようだ。瞬く間に、オーバーキル・ドライブの高揚が遠ざかっていく。――途切れれば、劣勢に追い込まれることは間違いない。
 動輪剣と禍色が今一度打ち合い、鍔迫り合いとなったその瞬間――
「はあああぁあぁっ!!」
 ジュリアは掛け値無しの最大出力で踏み込み、剣狼を圧した。蹈鞴を踏み、踵を滑らせて、剣狼がバランスを崩したまさにその瞬間。オーバーキル・ドライブの効果が切れる。
 同時に彼女は『THINKER』を抜く。シームレスに、そうすることを決めていたかのように。
 最早声すら挟めぬ、最高速の世界。剣狼が復位するまで刹那の間しかない。その間隙にねじ込むように、ジュリアは一発の銃弾を放った。

 ――届け。

 願いと共に撃つのは、対洗脳術式弾『ディアブレイブ』……! 胸の中央を銃弾が射貫き、蹌踉めいた剣狼の目に、一瞬だけ正気の光が点る。
 ――そのほんの一瞬に滑り込め。
「全てを果たしたキミを――ボクらが解放する!!」
 その一節で、伝わればいいと思った。この言葉が。キミは、宿願を果たしたのだと。一瞬で伝えられる言葉はそれで精一杯だったが、ジュリアは目一杯に叫び――
 棒立ちとなり見開かれた剣狼の目が再度、尽きぬ狂気に淀みきる前に、動輪剣でその身体を一閃した。
 血が飛沫き、咆哮が響いた。

 ああ、届いただろうか。届いているといい。
 叫んだ言葉が。――怨敵を討ち果たしたという、そのいさおしが。

成功 🔵​🔵​🔴​

リンタロウ・ホネハミ
流浪の傭兵、ヨウタロウ・ホネハミの子、リンタロウ・ホネハミ
我が宿命の呪骨剣にかけて剣狼殿に決闘を申し込む
貴殿が無辜の民を手に掛けることがなきように

今回は骨を喰む必要はねぇ、何故なら俺の中に既にあるからだ
魂にこびりついた、今まで食らってきた獣(ツワモノ)共の骨が!
【〇〇〇番之奇骨獣】によって真の姿となる
肉の剥がれた骨の身に、あらゆる獣の骨で組まれた盾と鎧とを纏う骸骨戦士の姿に
そして俺が七年戦場で培ってきた全てを、正々堂々真正面から叩きつけて倒してみせらぁ!!(戦闘知識)

……相手が俺みてぇな騎士のなり損ないですまねぇが……
せめて、高潔な騎士の最期に相応しい決闘にするとしようや



●弔いの骨剣
 ドォウッ!!
 屋敷の窓を突き破り、刃狼が息を衝く室内へ闖入する影がある。
「――我が宿命の呪骨剣にかけて、剣狼殿に決闘を申し込む」
 朗々たる声。刃狼の答えは咆吼。その剣先が、進み出た男に向く。
 男は骨剣を、刃狼の太刀――『禍色』に応えるように向けた。
「我が名は流浪の傭兵、ヨウタロウ・ホネハミが一子、リンタロウ・ホネハミ。これより後、貴殿が無辜の民を手に掛けることがなきように」
 名乗りを上げるのは、リンタロウ・ホネハミ(骨喰の傭兵・f00854)。その身体から只ならぬ重圧が立ち上る。動く敵とみるやすぐさま襲いかかるはずの刃狼が、そのプレッシャーを前に様子を伺うように停止する!
 ず、ずず、ずうっ……、
 リンタロウの身体から肉が削げ落ち、剥がれ堕ちる。眼窩が落ちくぼみ空洞に。――おお、まるで立ったまま骸となり、早回しで朽ちたかのよう。
 しかし――彼は死んでいない。ぎうん、と闇を引き裂く赤褐色の眼光。朽ち堕ちたかに見えるリンタロウの眼窩の中に、彼の瞳と同じ灯が点る!
 なんたる異様。朽ちた骸骨の内側から、喰らった動物たちの骨がまろび出て組み合わさり、その継ぎ目が薄れ強固に固着。変異の完了まで二秒と無い。
 ――おお、これが。これこそが、『骨喰』リンタロウの真の姿!! ユーベルコード『〇〇〇番之奇骨獣』による形態変異、彼はケモノの骨鎧を纏い、骨盾を構える骸骨騎士へと姿を変える!!
『いざ。尋常に』
 地獄の戦士めいた容貌となったリンタロウが、促すように告げるなり――
「ガアア、アアアアァァアァッ!!」
 刃狼もまた応えの咆吼を返す。
 二者は吸い寄せられるようにぶつかり合い、激しい剣戟を奏でだす。
『おおぉぉぉぉおおおぉっ!!』
 今や彼は喰った数々の獣たち、総勢二〇六に及ぶ魂を纏うリンタロウの動きは鋭い。 ただこの一瞬のためだけに蓄積した軍勢の全てを解き放ったのだ。その威容、まさに骨の王!
 ゴリラの膂力が、犀の防御力が。闘牛の突進力が、パンサーの速さが、全て乗る。剣狼の剣に、リンタロウは真正面から応じて激しく打ち合う!
 七年間。戦場で積み上げ、培ってきた全てを活かす。斬撃の後に回り込み。調度を薙ぎ払ってその破片で目を狙い、逸った様に繰り出される反撃を盾で受け弾き、大振りな一撃を、剣で引き寄せ、捲くようにしての払い。体勢を崩したところに呪骨剣の斬撃が入り、鎧が歪む!
「がァ、ああっ?!」
 その手練手管の全てを、リンタロウは一人で覚えたわけではない。
 殺し合う中で対手から学び、あるいは強敵との戦いの中で編み出した――いわば、この一戦は彼の歴史そのものだ!!
 洗練された実戦剣術、そして劇的に増加したリンタロウの戦闘能力が、真正面から剣狼を追い詰める。
『相手が俺みてぇな騎士のなり損ないですまねぇが――それでも全力で、あんたを葬送る』
 リンタロウは、刃狼を悼むように言った。最早騎士としての剣狼はいない。狂気に飲まれ、屹度消えてしまった。その彼を見送るために。せめて、高潔なる騎士の最期に相応しい決闘にせんがために、リンタロウは〇〇〇番を解き放ったのである。
 その覚悟、並々ならぬ。
 剣狼が振るう神獄滅殺の太刀に、戦意と正気を、生命力を削られながらもなお、リンタロウの意気は軒昂にして煥発! 飛び込み、さらに四連斬撃!
 真正面からの連撃に防御が綻んだ瞬間を、押し切るようにさらに一歩。ケモノの膂力が、突進力が、速力が、踏み込む脚と剣先に乗る!!
 その硬き骨の総身が軋むほどの力を込めて――
「オオオオオオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!」
 一閃、爆轟。
 叩きつけた呪骨剣の刃が刃狼の受け太刀を圧しきり、鎧を砕き血をしぶかせ、凄まじき撃力で吹き飛ばす――!
 威力、壮絶である! 刃狼は最早一声も洩らせず、背中で屋敷の外壁をぶち破り、今一度外へと弾き出された!

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
貴方も殺さねばならなかったのは確かです
…ですが
こんな最期になってしまうとは

全てに幕を引きましょう

『無辜』で体を気化
目立たなさを活かして闇に紛れ
静かに近付きましょう

気化した身体を維持したまま
鎧ごと何もかも融かし落とします
立派な装備も溶かしてしまえばいい

その剣を振るって抵抗するようなら
身体を液状化し
得物を這い上がり隙間から
その身体に触れて差し上げましょう

どんな堅牢な装備で己を鎧っても
私の毒の身の前には無意味です

私は死に到る毒
触れるもの総てを終わらせて
差し上げましょう

さあ 目を閉じて
私の毒に溺れて
…どうか眠るように逝けますように



●優しい猛毒
 初めから、殺すこと自体は決まっていた。
 グリモア猟兵からの指示にもそうあった。最後には、きみが断つべき敵はもう滅びた、安心して逝け――そう伝えてやってくれと、説明があった。
 だというのに、
「――こんな最期になってしまうとは。これでは、もう、何も伝えられない」
 フェイリア・ドレスデンの悪辣は想像以上であった。悲しげに、冴木・蜜(天賦の薬・f15222)は表情を曇らせる。もとより明るい面差しの男ではなかったが、それとはっきり分かるほどに表情が固い。
 前線では、未だ他の猟兵が刃狼の刃を凌ぎ、紙一重で戦線を保っている。
 ――わかっている。どうせねばならないか。
 もう、こうするより終わらせる方法など無いことを。
「……全てに幕を引きましょう」
 蜜は密やかに呟いて、ユーベルコードを発動した。
 起動するのは『無辜』。万死の蜜毒である蜜の身体が、端から解けるように気化していく。
 無辜とは、彼の毒としての本性を解放する術だ。その身体に宿す毒の血『黒血』の毒性を増し、伸縮性を持つ半流体――スライム様の形態から、完全な気体まで、自身の形態を操作する能力を得るユーベルコードである。
 ダークセイヴァーの暗黒は、気体となった彼の姿を一瞬で包み隠す。
 ひゅう、と吹く荒涼たる闇夜の風に、蜜は黒い霧となって紛れた。
 剣戟も激しく打ち合う他の猟兵と刃狼。その戦闘の最中に、蜜は誰にも知られず滑り込む。その移動音は、当たり前に吹く風の音以外は無音、剣が軋り合う鉄火場では、誰も彼の存在に気づけない。
 初めに違和感に気付くのは、やはり刃狼であった。
 ず、ずず、と銀の甲冑が腐食し、溶け、対手の攻撃に貫かれる。分厚く頑強なはずの『神獣鎧装』が、こうも容易に貫かれるわけがない――
 そう考えたかは分からないが、刃狼は逃れるように後ろに跳んだ。ばひゅ、と闇と同化していた黒き霧、つまりは蜜を肩で斬り裂き、影響範囲から逃れるように。しかし、
「残念ですが、逃がしません」
 霧が粘性を持った様に刃狼の動きが鈍る。――否、凝集した霧が黒い手を形作り、飛び下がる刃狼の脚を掴んだのだ。それに気付いた他の猟兵が攻撃を中断。巻き込まれるとの判断だろう。
「がァアッ!!」
 刃狼は、己を捉えようとする黒き霧、そして黒い手を神獄滅殺の太刀『禍色』にて斬り払う。刹那、かたち無き霧、そしてタールめいた流動体に変じているはずの蜜を、湧き上る倦怠感と寒気が襲う。禍色は寿命を、戦意を、正気を断つ凶太刀。この毒の霧の中にあって、溶けることも腐食することもない。
 だが、その太刀を恐れることなく、蜜は動いた。脚に絡みついた手を再び液化、ぞるりと全身鎧を這い上り、他の猟兵が開けた傷から、鎧の隙間から、液化した蜜毒が滑り込む。
『どんなに堅牢な装備で己を鎧っても、私の毒の身の前には無意味です。――私は、死に到る毒。私の手は、蜜毒は、貴方に既に触れている』
 ――終わりをもたらす毒が、剣狼の身に染みこむ。
「ッがあぁアァア、ああああああゥううっ!!!」
 激痛に刃狼は身悶えし、転げ回る。加速度的に死に近づいていく
『さあ、目を閉じて。――私の毒に溺れて、どうか眠るように逝けますように』
 その身を悼むように祈りの言葉を捧げる蜜。
 全身に染みこんだ毒を、しかし刃狼は拒むように暴れた。腐食した鎧を破棄、未だ衰えぬ怒号を上げながらに再装!! 膚の内より析出するように再度実装される『神獣鎧装』が、結実の圧力で蜜毒を振り払う!
 ――しかしそのダメージは甚大。はじけ飛んだ蜜毒は寄り集まり、ずるりと男のかたちを取り戻す。
 手負いのケモノを見つめて、蜜は呼吸を今一度整える。
 まだだ。一度で足りぬなら、何度でも。
 ――救う為に、私は手を伸ばす。

 今一度、その身を死毒の霧に換え――蜜は、剣狼へと直疾る!

成功 🔵​🔵​🔴​

ショコラッタ・ハロー
いい感じに場が暖まったところで真打ちと一戦交えるとするか

真の姿のまま相対し、前座相手と同じく回避を第一に動くぜ
白馬の横っ腹を常に正面に捉えられるよう、脚が動く限り駆けてやらぁ
馬と刃狼の両方が攻撃を空振りした時のみ攻撃に移る

ヴェールを投げ捨ててシーブズ・ギャンビットで加速する
馬の蹴りも刃狼の剣も怖かねえ、懐潜り込んでダガーをお見舞いしてやる
攻撃を加えるごとに離脱し、舞踏家の嬉戯も用いて上下の動きで翻弄を試みよう

ムカつく戦い方だろ
だが、これがおれの本気で、おれなりの敬意だ
安心しろよ
おまえの憎悪も無念も、おまえの魂と一緒におれが盗んでやる
おれの宝石箱に、おまえという名の記憶を永遠に仕舞ってやる



●屹度おまえを忘れまい
 ぶあ、と黒いドレスが翻った。優美さは姫のそれ、しかしその美しさの下にあるのは情け知らず容赦なしの攻撃性。ショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)が突っ走る。その身体に風を纏い、両手にダガーを握り。
 刃狼は愛馬『白魔大帝』を駆り、戦場を広域に回って駆け抜ける機動戦を展開している。駿馬に並び駆ける速度で、ショコラッタは併走しながらにやりと笑った。
「いい感じに場も暖まってきたトコだ。そろそろおれと一戦どうだい」
「ぐるぅアアあぁつ!!」
 吼え声が返答。馬上の高さを活かしての打ち下ろしの斬撃が来る。剣先は衝撃波を伴い、届かずともその刃風が既に脅威だ。衝撃波により大地に次々と裂傷、まくれ上がる芝、石畳!
 ショコラッタは紙一重で攻撃の隙間を駆け抜けながら攻撃の機をうかがう。白魔大帝そのものにも高度な戦闘能力があるのは分かっている。故に完全に回避するなら、刃狼の攻撃だけを見ていては片手落ちだ。
 刃狼の攻撃を潜った矢先、白魔大帝が強烈に前足を踏み降ろす! 轟ッ!! 地が裂け石畳が吹き上がり、ショコラッタへ岩礫が襲いかかる。ショコラッタは吹き上がるその勢いに逆らわず、まるで踊るように石塊となった石畳を蹴り、ムーンサルト!
 宙に舞ったショコラッタを狙うように、刃狼が太刀『禍色』を振り回し、浮いた瓦礫をその平で打った。散弾銃めいて射出される細かな岩礫! しかし、
「遅ぇな」
 跳んだ。ショコラッタは、空中をまた蹴ってさらに跳び、ショットガンを思わせる岩礫の嵐を回避してのけたのだ。
 おお、盗賊姫のダンスステージは地ばかりではない。カルカネアムは彼女の爪先にあれば、踊る場所を選ばぬ。ユーベルコード、『舞踏家の嬉戯』! ショコラッタは空を蹴りさらに稲妻めいて機動!
「そら、くれてやる」
 バサリとヴェールを剥ぎ取れば、金糸がこの無明の闇でなお美しく煌めいた。投げ捨てたヴェールが風に嬲られ、白魔大帝の顔に掛かる!
 地を揺るがすようないななき、竿立ちになる白魔大帝。それを見越していたかのようにショコラッタは加速。脱ぎ捨てた装備の分、その動きは鋭くなる。シーブズ・ギャンビット。
 竿立ちとなった馬上でバランスをとりつつ振るわれる剣は、体幹が伴わぬ軽い剣だ。ショコラッタはその軌道上から身を躱し、両手のダガーを翻した。狙うは鎧の薄い関節部。関節部を埋めるチェインメイルが、鋭いダガーの前に引き裂かれて血が飛沫く!
「ごあアアァッ!?」
 主人の危機を察して前足を降ろすなり、白魔大帝が今度は後ろ足を跳ね上げて、宙を駆け抜けるショコラッタを狙う。しかしショコラッタは連続跳躍、彼女は五〇歩近く空中で跳ねることが出来る。
 刃狼の刃も、馬の蹴りも、ショコラッタは恐れない。真の姿となり風を纏って駆ける盗賊姫を、刃狼と白魔大帝は捉えあぐねて唸る!
 そこに不満と怒りを感じて、ショコラッタは美しい顔に皮肉っぽい笑みを乗せた。
「ムカつく戦い方だろ。だが、これがおれの本気で、おれなりの敬意だ」
 ショコラッタは鎖で鈍ったダガーを放り捨て、複製ダガーを再召喚。再び脚を使い駆け出す白魔大帝に追従し、その横腹へ狙い澄ます。
「安心しろよ。おまえの憎悪も無念も、おまえの魂と一緒におれが盗んでやる。おれの宝石箱に、おまえという名の記憶を永遠に仕舞ってやる」
 ショコラッタはいつもと同じ、硝子を鳴らすような美しい声で、けれどいつもの荒々しい口調を少しだけ抑えて――
「おまえが誰かのために戦った事実は、おれの宝石箱で永遠になる。――だから眠れよ。帳は降りた」
 刃狼に謳い、飛刃を放つ。
 
 嗚呼、金糸の盗賊姫が月下を趨る。
 白馬の狼騎士との間に、命を狙う火花を咲かせて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬幸・夢人

年を取ると執念深ぇなぁ
アンタも大変だねぇ、あんな女に最後までちょっかいかけられてよ
それとも見た目は意外と嫌いでもなかったか?

煙草を吸いながら軽口をはきつつ、刃狼の反応を見つつ

まぁ最後はアンタもってのが最初からこっちの方針だったんだがな
だからいいぜ
誇りある最後でも本能の赴くままでも、最後くらい好きにやってみりゃいい
……終わらせてやるよ
俺としちゃ少し不本意だがね

一番頑張ったやつの最後がこれか、と
使用するUCは「神さえも覆せない反逆」
より前のめりにより素早く精密に、あらゆる行動にカウンターをとり続ける
瞬きの間に幾多も刃と言葉を重ねるように
アンタが救いたかった人数くらいは追加で頑張ってやるよ、と



●後の先にて断つ
「――ったく、年取った女ってのは執念深ぇもんだな。アンタも大変だねぇ、あんな女に最後までちょっかいかけられてよ。――それともなんだい、満更嫌でもなかったか? 確かにツラはそこそこだったしな」
 飄々とした、冗談めかした声の方向目掛け、刃狼は咆吼一つ、馬上より鋭く刃を振るった。白魔大帝より供給される魔力、そして速力によって、刃狼が振るう刃には衝撃波が付随する。
 只の斬撃が飛び道具となったようなものだ。放たれた衝撃波から身を躱し、削れ跳ぶ地面を背に、男がポケットから手を抜いた。その口元で、回避時の風圧で火種が千切れた煙草が揺れる。
「……吸いかけだってのによ」
 舌打ち紛れに煙草を吐き捨てるのは、斬幸・夢人(終焉の鈴音・f19600)である。
 やはりというか案の定というか、刃狼は既にまともな対話が出来るような状態ではないようだ。軽口の内容に怒ったというよりは、敵がいたのでとりあえず攻撃を加えた――という反応に見える。
「もう聞こえちゃいねぇか。……仕方ねぇな。どっちにしたってアンタも倒せってのがこっちの仕事の内容だ。……俺としちゃ、少し不本意なんだがね」
 夢人は黒刀を抜刀し、敵の動きを見る。刃狼は巧みに巨馬、白魔大帝を操り、右に左にと縦横無尽に跳ね回りつつ、空中より次々と衝撃波を放ち猛撃してくる。
 衝撃波の嵐を掻い潜り駆け抜けながら、夢人は機を伺う。
「誇りある最後でも、本能の赴くままでも。――好きにすりゃいい。俺たちが終わらせてやるよ」
 ――かれは、力を尽くしたはずだ。無辜の人々のために。命を燃やし尽くし、それでも報われず、失意の中に死んだ。そのかれが――一番、心技尽くして戦った男の最期が、これか。夢人は、世の惨さと儚さを心の内で呪う。
 今更自分にはどうしてやることも出来ない。言ったとおりに、終わらせてやることしか出来ぬ。
 だからせめて、最も間近でかれのことを見続けてやろうと思った。
「アフターサービスだ。あんたが救いたかった人数分くらいは、追加で頑張ってやる」
 夢人の黒い目が、刃めいて光った。発動するユーベルコードは、『神さえも覆せない反逆』。夢人の感覚が研ぎ澄まされ、世界の時間が鈍化する。恐ろしい速度で太刀振るう刃狼を見仰ぎ、鈍化した世界の中でただ疾る。敵の同左一つ一つ、降り注ぐ衝撃波の雨の下を、まるで縫い進む針のように! 感覚を敵の攻撃への対処に特化させた結果成せる、神業めいたカウンターだ。
 夢人は着地際を狙った。次に跳ねる前までの一瞬の間隙を、凄まじい早業にて穿つ。
 巨大な馬の体躯を蹴り登り、流星一条の刺突。黒閃疾り、刃狼は受け太刀!
「降りて来いよ。俺の刀の届くところまで」
 夢人は言い捨てるなり斬撃を二条!! 刃狼は神獄滅殺の太刀『禍色』にてそれを弾くも、剣圧に圧されて鐙を蹴り離した。剛馬の背より落ちる刃狼を夢人がおう。
 剣戟。落ちながらに、夢人の黒刀と刃狼の禍色が打ち合う。火花咲き、無明の闇を裂く電光石火の閃き。
 刃狼の攻撃が少しでも鈍れば、夢人の刀の切っ先がそこを穿つ。無論、夢人も無傷では済まない。避け損ねた禍色の切っ先が身体を抉り、同時に、打ち合うだけで彼の戦意と生命力を削っていく。
 続ければ劣勢やむなし。しかし、そこで終わるのをよしとするなら、そもそも夢人は前になど出ない!
 夢人は踏み込んだ。それは今までの彼からすれば無謀な前進。大きな踏み込みに隙を見た刃狼が、ここぞとばかりに大振りの一撃を振る。必殺の一撃は夢人の首を裂こうと迫り――
 ぎゃり、いっ、と音がして、その軌道が逸れた。
 その瞬間、夢人は、左手一つで、剣狼の斬撃を払い逸らした。いや、手は前腕中程までざっくりと裂けたが――下ろした魚のようにはならず、何より、必殺の筈の一撃を経て夢人はまだ生きている!
 何が起きたか。初めに、声を掛けた時には既に手袋の下にぐるぐる巻きに仕込んでいた、ナノメートル級のワイヤー。何重にも束ね編んだそれを、ただ一撃に対する仕込み盾として使ったのだ。
 一歩間違えば腕が開きになり、死ぬところだ。
 絶技である。刃狼さえもが息を呑む。

 刃狼が切り返すよりも、当然――
 夢人が後の先を叩き込むのが早い。

 最早言葉もなく、黒の瞳に苛烈なる戦意を燃やして。
 神域に至る刃狼の剣を抜けるは、たった一人の男の反逆。
 右片手に翻す黒刀が、刃狼の鎧の隙間を縫い断つ。血と、地を揺るがす咆哮が迸る……!

成功 🔵​🔵​🔴​

アトラ・ジンテーゼ
おやおや、少し目を離してる隙に、また厄介な事になってますねぇ。
やはり、ああいう面倒そうな輩は、しっかりトドメを刺しておけ…という事でしょうか。

ふーむ…あの剣、嫌な気配がありますねぇ…
ここは…目には目を、でしょうか。
こちらには、数もいる事ですし。

他の猟兵と戦えば、刃のひとつぐらい欠けるでしょう。
その欠片を失敬して…【錬装法】で、「霊衝鉄」と合わせて武器を作ります。
剣客…素早い相手を捉えるなら…長柄で振り回せる得物。槍でしょうか。

あとは、「武霊・ミツハ」。任せます。
わかってるとは思いますが…
『なぎ払い』や『衝撃波』。距離を活かして戦って下さい。
ただでさえ、あたし達は寿命が短いらしいんですから…ね。



●紅血閃
「おやおや、少し目を離してる隙にまた厄介なことになってますねぇ」
 アトラ・ジンテーゼ(四霊の統造師・f22042)は戦況を俯瞰し、状況を確認した。多数の猟兵が剣狼――否、刃狼に波状攻撃を仕掛けている状況だ。
「ああいう面倒そうな輩にはしっかりトドメを刺しておくべきって事でしょうか。……それにしてもやるせない話ですが」
 刃狼は確かに悲願と宿業を果たしたろう。しかし、最後の最後でまたあの悪辣たる吸血鬼――フェイリア・ドレスデンの思惑に嵌まり、彼女の意のままの傀儡となって猟兵らを相手に壮絶なる死闘を演じている。
 指先でアトラは『祖たる吸血鬼の涙』を弄び、暴れ狂う剣狼を遠目に見て溜息をついた。
 ――ま、感傷に浸っている場合でもないですね。
 運命に翻弄される、彼の哀れさ、悲しさはともかくとして、先ずはこの状況を切り抜けねばならない。先ずは観察。敵の得物――神獄滅殺の太刀『禍色』に目を留めれば、アトラは面倒そうに目を細めた。
「あの剣、嫌な気配がありますねぇ」
 呟きに、彼女の中にいる精霊が是といらえる気配があった。武霊『ミツハ』の気配である。
 その見立ては正しい。神獄滅殺の太刀は太刀合う敵の寿命を、正気を、戦意を削る呪いの剣。
「ここは一つ、目には目を、といきましょうか」
 アトラは地形を見る。他の猟兵が使い捨てたと思しき、魔力を帯びたダガー、魔術的な加護のありそうな剣片を拾い上げる。同時にそれを炎霊『ヒエン』により作り出した炎熱の炉で熱し、金床で打ち形作る! 手持ちの素材から『霊衝鉄』を出し、これを柄に。魔法のような速度で『練装』されるのは、魔力帯びる斧槍――ハルバードだ。
 アトラ・ジンテーゼは四霊を統べる異色の鍛冶師。瞬く間に武装を作り出すその魔技を、彼女は『練装法』と呼ぶ。
「わかってますね、ミツハ。あれの影響範囲には入らないで下さい。ただでさえアタシ達は寿命が短いらしいんですから、ね。任せますよ」
 鍛冶道具を位霊『ヨマ』による圧縮空間に放り込むと同時に、身体の制御をミツハに明け渡すアトラ。一度閉じて開いた目の中に、きらり、金剛の煌めきが過ぎる。
 アトラは熟達の戦士のように斧槍を取り回し、力を込めて突きを連打した。
 他の猟兵が格闘戦を挑む最中の刃狼を、遠間より連続する衝撃波の突きで猛撃する!
「ぐぁっ、ぐウ、ゥゥゥウルルウァッ!!!!」
 爆ぜる衝撃波に跳ね飛ぶも、即座に剣狼も身を翻し、ジグザグに跳ね駆けアトラを狙う! 間近に迫ろうとする刃狼を放つ衝撃波と薙ぎ払いで牽制するアトラだが――いかに武霊ミツハの力を借りていたとて、圧倒的な速度を誇る刃狼を『完全に寄せ付けず戦う』のは困難を極める!
 飛び退きながら距離を稼いで戦っていたアトラを、ついに刃狼が射程に収め、身体を廻しての斬撃で首を狙う。アトラはハルバードを軋ませ受ける。
 脱力感と倦怠感が四肢を這い上る。たった一太刀、受け太刀しただけでこれだ。アトラは衝撃を殺さず活かして後方高くに跳び、振り下ろしから衝撃波を放って刃狼を狙うが、彼もまた己が剣に魔力を伝わせ、衝撃波を放つことで相殺!
「くっ……!」
 厄介だ。
 作戦自体は決して間違っていない。ただ、相手が規格外なだけだ。
 規格外を倒すには――自らも規格外のことをする必要がある。
「早速使わされるとは思ってなかったんですが」
 祖たる吸血鬼の涙は、元を正せば吸血鬼の血。強い魔力を帯びている。その圧縮された固化した血は、未だ『生きて』おり、それそのものが魔力を産生するアミュレットだ。
 取り出した『涙』を、アトラは手元のハルバードの刃根元に『装填』。
「ミツハ。外さないで下さいね」
 全幅の信頼を寄せ、アトラはミツハに身体の制御を戻す。
 呼吸は深く。瞳は刃めいて細まり、
「グウウルルルルルァァッ!!」
 爆ぜるように駆け来る刃狼目掛け、少女はハルバードを片手突きで放った。

 紅の閃光が、刃狼の身体を突き抜けた。

 それは、フェイリア・ドレスデンが用いた斥力術式と紅き剣波。
 敵を斬り裂く赤き魔力の衝撃波を、突きを土台に銃弾めいて、赫閃として飛ばしたのだ。
『涙』の一応用。たとえ武器砕けるとも、涙は残る。他に用いたければまた練装法を用い、『涙』を填め直せばよい。
「ガ、アッ……!?!」
 腹に空いた鎧孔より血が飛沫き、刃狼が蹈鞴を踏む。アトラはそれを見ながら飛び退いた。
 今暫くは連射は出来ぬ。しかし、間は通常の衝撃波で稼げばよい。
「ものを言うのが彼女の力なのは皮肉ですが――そろそろ眠る時間ですよ。剣狼さん」
 アトラは十分な距離を保ち、刃狼目掛け嘯いてみせるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鵜飼・章

宿願を果たした気分はどう

これでいい
復讐なんて全てを失ったひとが
世界へ刃向かうための最後の手段
憎むものすら失えばもう空っぽだもの

そうして正しくない僕が
助けたきみの抜け殻を殺すんだ

為す事を為した彼に憐憫はいらない
此方もUCで隼に【騎乗】し全力で狩る
上に居るからと油断せず馬の脚力に注意
敵の攻撃を【早業】でかわし反撃するよう身構える
昆虫針の【投擲】で馬の脚を【串刺し】にして
じわじわと機動力を奪いながら
隼の高速急降下を叩きこめる瞬間を待つ

偶には痛み分けでもいい
激痛耐性あるけど

あのね
かっこいいんだよ
きみみたく孤高なやつって
少なくともここに居る何人かは
昔いた何人かは
その背中にどうしようもなく惹かれてたんだ



●復讐の涯てを、僕と
 鎧を再装。幾度破られようとも、刃狼は瞬時に神獣鎧装を纏い直す。削れた鎧は瞬時に元の形を取り戻し、彼の不死性を表すかのようだ。
 ――しかし猟兵らは手を止めぬ。死なないモノなど、いるわけがない。今まで幾度も困難を、恐ろしい敵を乗り越えてきた。故に、彼らは立ち止まらない。
「宿願を果たした気分はどう」
 一人の猟兵が、刃狼に問いかけた。鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)だ。
 刃狼は獣そのもののうなり声で、章に応じた。もう、彼は人の言葉も介さぬ獣。章の声に、望む応答が返るわけもない。
 そこにいるのは、フェイリアに中身を追い出されて空っぽの、ただ一騎のオブリビオンに過ぎないのだ。
 章は、その寂寞に笑った。アルカイックスマイルからは感情が読み取れぬ。
 ――これでいい。
 復讐などというものは、持てる全てを失った者が、世界へ刃向かうための最後の手段だ。
 命を賭して、怨みをぶつけ、憎しみを遂げる為の手段。そうして憎むものをすら失って仕舞えば、後に残るのは空っぽの抜け殻だけだ。
 全てを果たして、刃狼は空っぽになった。だから、
「よく成し遂げたね。後は、葬送るよ。――最後に。正しくない僕が、きみを殺してあげる」
 助けたきみの抜け殻を殺すのは、僕だ、と。章は酷く冷たく冷静に告げた。
 為すべき事を為した彼に、これ以上の憐憫など不要だ。宿願を果たした戦士に捧げるべきは憐憫ではなく賞賛、そして祝福だろう。
 章は隼に再び騎乗し、地を蹴らせ空に舞い上がった。
 その隼の機動性能、そして戦闘能力を間近で見て知っている刃狼は、迷わず白魔大帝を再召還。騎乗し、魔力を爆ぜさせ空に飛び上がった。
 白魔大帝はかつて刃狼と共に生きた名馬にして、今は刃狼の魔力によって構成される強大な使い魔。足下で魔力を爆ぜさせることで、高空すらも駆ける!
 章が駆る隼と空を併走しつつ、章目掛け次々と衝撃波を放つ!
 だが隼は空気の動きを察したように風を羽に受け、巧みな軌道変更。章は波に乗るように、吸い付くように隼の背で膝を縮めて、乱高下の隼の機動を華麗に乗りこなす。
 同時に左手を閃かせる。放たれ光るは昆虫を止めるための虫ピン――しかし、問題はそのサイズ。駆ける馬の脚を貫くに足る長さと太さを持った虫ピンだ。留める対象に応じてその長さと太さを変じる魔法の針。
 流石の刃狼も、馬上にて馬脚を狙う攻撃を全て弾けるほどに器用ではない。……そもそも騎馬に対する攻撃は、騎手を狙うことが常だ。馬は再利用出来る資産、故に殺さずに騎手を殺し、鹵獲するのが常。故に馬上戦術は、騎手に攻撃が向くことを前提として組まれる。
 そこに迷わず、馬から機動力を奪う策をぶつけられれば、防御が追いつかぬも必定。白魔大帝が嘶き、徐々に落ちる高度。それを見て、章は隼の背中を蹴った。
 主人の意図を酌み、隼は一瞬で急上昇、空気が薄くなるほどに高度を上げる。
 落ちていく刃狼らにむけて回頭。急降下。
 落下エネルギーの全てを、速度と攻撃力に変える。刃狼が刃を振るうたび、驟雨の如く放たれる衝撃波が、章を、隼を掠めて血を飛沫かせる。
 最早再度の上昇は不能。この一撃に全てを懸ける。


 ああ――あのね。これはきみには言わないけれど。
 かっこいいんだよ。きみみたく孤高なやつって。
 少なくともここに居る何人かは――昔いた何人かは。きみに従って殉じた戦士達は。
 きみの大きな背中に、どうしようもなく惹かれてたんだ。


 致命的な一撃。どうっ、と音がして、隼の翼の根元が裂ける。衝撃波の直撃。命を共有する章の心臓がじくりと痛む。召喚を解除。翻した手先に闇を集める。『友愛数』。
 鋭く、隼の嘴を思わせる穂先を持つ闇の槍を作り出す。
 衝撃波が肩を、脇腹を襲い、血が飛沫いた。しかし章は止まらぬ。狙った刃狼の、その真芯を、胸を捉えるように、流星の如く落ち――

 繰り出した闇槍が刃狼を貫いた。
 当てると決めたただ一撃。
 吹き散る血。痛みに叫ぶ刃狼の咆哮が、夜闇を裂いて響き渡った。

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
――そうか
総てを喪い、お前は自身をも喪ってしまった
ならば絶ってくれよう
嘗て吸血鬼を討つ事を望み、甦り復讐を望んだお前が今望むのは
……民に災い為す「もの」を討つ事だろうから

攻撃は戦闘知識と第六感にて致命的な物のみ躱し
他は戦力増強用に敢えて受けて力へ変えよう
痛み等激痛耐性で捻じ伏せ前へ
怪力に鎧砕き、鎧無視の力をも乗せ、真っ向から剣戟を叩き付ける
引きはしない……退けはしない
此の刃は護る為に在る――お前の刃が嘗てそう在った様に

成すべきを為し、其の復讐の果たされた事を穢す訳には行かん
腐った血の戒めからの解放を以って為さねば全てを終わりとは出来ん
還るがいい、骸の海へ……もう1人の私――其の成れの果てよ



●今はもう彼方の君へ
 総てを喪い――己の命までも、憎悪の炉に焼べて、戦い、戦い、戦って、その涯てでついには自身をも失って仕舞った。悲しき剣狼、否、刃狼。
 哀れむことはするまい。彼は目的を果たした。勝ったのだから。
「――ならば、絶ってくれよう」
 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、再三その刀を、『秋水』を抜刀した。
 かつて吸血鬼を討つことを望み、甦り復讐を選んだかれが今望むのは――きっと、二度とは同じような民が出ないこと。――きっと、民に災い為す『もの』を、討つことだろう。
 この結末を悲しくないとは言うまい。だが、最早否やは無し。
 為すべき事を為し、果たされた復讐を他者の血で穢すわけには行かぬ。腐ったあの吸血鬼の血から、刃狼自身を解き放ち――この復讐を、完結させねばならぬ。
「来い。剣狼。その亡骸よ」
 嵯泉はずいと進み出て、刀を青眼に構え、真っ向から刃狼と対した。挑まれた、という事くらいは刃狼も理解が出来るのだろう。地面をどうと蹴る音がして、一瞬後には刃狼は嵯泉の目の前にまで距離を詰めた。八メートルあまりを一歩で詰める爆発的な歩法。
 しかし嵯泉、それを第六感めいた予見、予感にて予期している。振り下ろされる神獄滅殺の太刀『禍色』を半歩横に避けて躱し、即座に斬り上げにスイッチしてくるのを、加速しきるその前に刀で押さえつけるようにして受ける。重力が乗る嵯泉の振り下ろしと、充分に速度が乗らぬ、しかも重力に逆らっての刃狼の斬り上げでは、前者が勝るは当然であろう。
 力負けを厭って刃狼は一旦飛び退き仕切り直し。嵯泉は追わず構えを改め、迎撃の姿勢。ヒュッと息を吸うなり、身を撓めて刃狼が踏み込んだ。
 圧倒的な速度で連撃が繰り出された。刀が増えたかに見える連続斬撃。総てを受け切るのは到底困難と判断した嵯泉は、喰らえばを免れぬと見える斬撃のみを受け、弾く。急所から外れて肉を裂く攻撃はあえて受けず、喰らうに任せる。
 常人ならば激痛で、四肢のコントロールに支障が出るところだ。しかし、嵯泉は巌のように固い意志でその痛みをねじ伏せる。いくら喰らおうとも、関係ない。
「オオッ!!」
 獣が吼えるその声よりも強く雄々しく、嵯泉が吼えた。血でしどどに濡れた身体のどこにそんな力があるのか。嵯泉が振り被った刀に凄まじい勢いが乗り、禍色の一撃を迎え撃つ。空気が軋むような大音が響き、禍色の刃が後ろに弾かれた。刃狼の連撃のリズムが崩れ、止まる。その一瞬に隙を見つけたように、嵯泉は真っ向飛び込んだ。
 その怪力、並々ならず。踏み込み、斬撃。受けられれば、ぶつかり合ったその応力を利用して刀を退いてもう一合。斬撃、斬撃、斬撃。傷を負ってなお、攻撃が冴え渡るのはなぜか――それは、彼が使うユーベルコード『剣怒重来』の特質によるものだ。
 全身を氣で覆い、敵から受けた攻撃の重さと回数に比例した戦闘力を得る――命を燃やすほどに強くなるユーベルコード。
 斬撃が連続で刃狼に入り、その鎧が割れて砕ける。一瞬で再生する神獣鎧装、しかし!
「何度守りを改めようとも、都度砕くのみ」
 嵯泉は意にも介さない。次なる斬撃を叩きつける!
 ――今更退けようものか、引くものか!
 手にした刃は護るためにある。かつて、剣狼の刃がそうであったように。
 刃狼が鋭く繰り出した突きの一撃が、嵯泉の脇腹を穿った。血が飛沫く。しかし嵯泉は、引くどころか、刃が尚も突き刺さるのを厭わずに前に踏み込んだ。抜けぬ刃をどうするか、刃狼が迷ったその刹那に。
 嵯泉は刀を振り被る。
 氣を纏う『秋水』が、破邪の光を宿して、自ずから白く煌めいた。
「還るがいい、骸の海へ……もう一人の私――其の成れの果てよ!!」

 ――かつて、すべてを護ろうとした二人の男がいた。
 二人とも、理想果たせず敗れたが――
 一人は、ただ己一人生き残り――己の意味と、贖罪の重さに喘ぎながら果てない道に戻った。
 もう一人は、理想を目指す戦いの中で、護りたかったすべての者と共に死に――復讐のため、骸の海に沈んだ。
 
 それは、一体どちらが倖せだったのだろう。
 答えは、その斬撃の中にあったのだろうか。

 嵯泉が振り下ろした白刃が、再三再生した神獣鎧装を斬り裂き、刃狼の身体から血を飛沫かせた。噴き出す血、苦鳴が響き渡り、夜を揺らす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

穂結・神楽耶

…分かることはひとつ。
「あなた」はきっと、無辜の民を手にかけることは由としない。
だから、あなたを止めねばならない。
あの日あなたが祖たる吸血鬼に挑んだように。
暴虐がひとの営みを害すなど、あってはならないのですから。

…だから。
あなたが果たせなかったことを、果たします。
この後ろにいる民と、いつか彼らを救えなかったあなたと……わたくしの為に。
希望の証明を以て、あなたへの手向けとしましょう。

剣狼様の技には《武器受け》にて対応。
非実体物を攻撃する技であるなら、たとえ斬られようと体は動きます。
そして刀は、ひとを斬るのは当然の存在。
故に戦意ではなく慈悲を以て、この一刀を揮います。
──断ち、散らせ。


向坂・要
なるほど…
そういうオチですかぃ
まぁ、これもなんかの縁、ってもんで
手向けの1つくらいはさせて貰いますぜ

なんて言葉は胸に留め
ある種予測の範囲内な事もあり冷静に
語るは言葉ではなく刃にて
いやまぁ、そんな武闘派でもねえんですけどね

noeが吐き出す煙に紛れる狼の群れ
形なき牙に宿るは毒使いの猛毒
少しでも吸い込んでくれりゃ体内で霧の牙は焔を宿し葬送の炎へ

第六感も使い戦場を俯瞰で見るよう心がけ何かありゃすぐに声かけ
念動力も使い連携を意識しますぜ

本体さえ無事なら、ってね
怪我の一つや二つ増えたところで今更ってもんで
必要なら躊躇なく庇うなり囮として露払いならさせてもらいますぜ。

連携アドリブ歓迎



●狼牙を焼べよ
 刃狼は、いかに深い手傷を負わされても、その都度滅びの淵より蘇る。怨念めいた吸血鬼、フェイリアの呪法と、彼が元から持つ存在量がその超速再生を可能とする。
 おおよそ予想通りの展開に、向坂・要(黄昏通り雨・f08973)は草臥れた風に息を吐いた。
「あー……やっぱりこうなりますか」
 あの悪辣な吸血鬼が、ただで終わるわけはないと思った。しかし、ここまで予想通りだと厭になる。
 弔わねばなるまい。同情はない。憐憫もない。これは果たすべきを果たした骸を、荼毘に付すだけのことなのだから。
 ――お疲れさん。いい加減ゆっくり休みなせぇ。
 心の中で告げるなり、要はユーベルコードを発動した。
 濃霧が浮かぶ。それを覆い隠すように、要は銀煙管『noe』を吸い付け、凄まじい量の煙を生み出した。紫煙はまるで膨れるように広がり、一帯を覆う。刃狼の紅い瞳が、周囲を睨めつけるように左右に巡るのが、濃い煙の向こう側に見えた。
 ――この段に及んでは、語るは言葉ではなく刃にて。
 要は印を組み、濃霧を固めて己の眷属を喚んだ。煙に紛れ、複数の足音が響く。地を蹴立て疾るのは狼の群――要の魔術に依り、形を得た『霧の狼』である。
「ごあアァァッ、うゥゥう……!!」
 刃狼が唸るように吼えた。振り回す神獄滅殺の太刀『禍色』にて即座に霧狼を叩き潰し退けるが、霧狼はこの濃霧存在する限りは、要の指先一つでまた幾度でも呼び出せる傀儡に過ぎぬ。
 しかして、刃狼の守りをこれだけでは崩せぬ。敵も第六感めいた速度で霧狼の接近を察知し、爪牙を喰らう前に討ち滅ぼすことで巧みに身を守っている。いずれはこの狼らを操る要に気づき、牙を向けてくるに相違あるまい。時間の問題だ。
 しかし要の不敵な表情は崩れない。
「まぁ、こいつらだけじゃあ足りないかもってのは織り込み済み。生憎、猟兵ってのは一人で敵を狩るより、群れて敵を狩る方が得意なもんで――さあ、今ですぜ! 誰ぞ、我こそはってな猟兵はいませんかい!」
「――では、不肖、わたくしが」
 要の声に応じて、闇に吹く煙の中に、一人の少女が踏み出した。
 その影はすぐに、ぼう、とした真朱の輝きを帯び、
 ――ああ、燃えている。そう錯覚するほどに、どこか神々しい女であった。
 煙の中でこそ、闇の中でこそ、その輝きは恐ろしく映えた。朱殷よりも明るく――血が光を放つならば、あのようないろで輝くのかと――要は、その背を見て思った。


「……穂結・神楽耶。参ります」
 穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)が、己の本体たる結ノ太刀を引っ提げて進み出る。歩みは弾み、小走りに、すぐに全力の疾走へ。抜いた刀に真朱の光。
 疾る先には、深紅の目をした刃狼一人。霧の狼を更に四匹叩きのめして神楽耶へと向き直る。

 ――分かることはたった一つ。『あなた』はきっと、自分が無辜の民を手にかけることを由としない。かつて無辜の民を救うために立ち上がり、その命を擲ったあなたならば。けっして、そんなことは望まない。そうなってまで、生きていたいとも思わないはず。
 故にこそ、ここであなたを止めねばならない。
 あの日、全てが喪われた日。あなたが祖たる吸血鬼に挑んだように……
 暴虐がひとの営みを害すなど、あってはならないことなのですから。

 神楽耶は内心で呟きつつに、踏み込んで刃を振り下ろした。真朱に燃える結ノ太刀が、刃狼の『禍色』と真っ向から打ち合う。ずん、と神楽耶の肩を脱力感と倦怠感が襲う。
 禍色は、敵の正気を、戦意を、そして生命力を喰らうという。そしてそれから身を守る術はない。そこに更に、太刀そのものの物理攻撃力と刃狼の剣技が乗る。凄まじい相乗効果。
 しかして、引かぬ。一歩も引かぬ。
 神楽耶は果たしに来た。あの日剣狼が、果たそうとして為しえなかったことを。
 今度こそ、吸血鬼の脅威と暴威に晒されて、泣き伏し命失う者が出ぬようにと。
 ――いつか立ち上がった剣狼が点した光。誰もが無為に思ったかも知れないそれが、報われる時が来るのだと。その希望の証明をしにきたのだ。
 禍色が踊る。真朱の炎が応じて跳ねる!!
 飛燕の如くに翻る禍色の斬撃を、神楽耶は受け、弾き、そればかりか己の斬撃をその間にねじ込んで斬り返す!
 真っ向からの大太刀回り。一歩も譲りはしない。
 刃狼の剣勢は並々ならず、撃剣打ち込まれれば神楽耶の軽い身体は木っ端のように飛ぶ。しかし地面に脚で杭を打ち、土と石畳を蹴り散らしながら再度前進、負けず劣らずに強く打ち込み返す!
「とんでもねぇ立ち回りだ、こいつァ間に入るのも野暮って気もしなくはねぇが――しかしさっきも言った通り。猟兵ってのは群れるもんでさぁ。ご容赦願いたいもんですねぇ!」
 背後の煙より声一つ。
 真っ向打ち合う神楽耶と刃狼の横から、尚も霧が凝って狼となり、複数体が宙を奔って刃狼に食らいついた。神楽耶の峻烈なる剣を受け止めるのに専心していた刃狼、今度はそれを止めるに能わず!
              おくりび
「牙は毒に、毒は焔に。為すは葬送り火、荼毘に付せ!」
 要の吼える声と同時に、霧狼たちの牙から毒が流れ込み――刃狼の内側で炎を上げて燃え上がる。
「ごああああぅ、うるるルルアアアッ!!」
 理性無き叫び。血の内側で焔が燃え、その熱が表出して、刃狼の周囲が蜃気楼めいて歪む。
 ごうっ――
 神獣鎧装がラジエーターめいてその熱を体外に伝え、放熱。鎧が紅く染まり、まるで刃狼が燃えているかのように映る。
「耐えるってかい、こいつァ魂消た――」
「いえ。効いていないわけはないはずです。効いていないのなら――あのように、熱を外に逃がす意味が無い」
 煙の中より軽口を叩く要に、神楽耶が真剣な調子で応じる。ハッ、と笑いを一つ返し、要がいらえた。
「道理ですな。なら、続けやしょう。……決め手はお任せしやすぜ、お嬢さん」
「お任せを」
 赤く燃える刃狼が、唸りながら刃を構え直す。
 要が放つ霧狼が再び数体、刃狼へ向けて襲いかかる。一拍遅らせて神楽耶が突っ込んだ。狼を斬り払う刃狼の太刀、その隙を狙って神楽耶が打ち掛かる。
 袈裟。弾かれた。変形して胴打ち、受け太刀が軋る。刃狼背後より霧狼の接近、それが嚙み付くまで太刀を抑え続ける。嚙み付いたのを確認。軋り合う太刀を突っ張って大きく下がり、敵が苦悶に構えを揺るがせたその刹那に逆袈裟に打ち込む。入る。鎧が裂ける。苦悶の声。熱く燃える血が吹き出し、夜霧を紅く赫奕と染める。
 神楽耶は大きく息を吸って止め、己が持てる力の総てを太刀先に集中した。
 刀とは人を斬るために生まれたもの。戦意と殺意を宿す前提の存在。
 しかし、この一刀にそれは不要。込めるは、この悲しき宿命より刃狼を解き放つ『慈悲』。
「――断ち、散らせ」
 赫く、赫く。『神業真朱』の刃が光る。
 ほぼ捨て身と言ってもいい、真っ向からの踏み込み。隙を断とうと、刀を動かそうとした刃狼が、凍えたように動きを止める。見えざる手が剣先を押さえつけたのだ。全くの不意に。
「露払いをさせてもらいますぜ。――ほんの少しの助力でも、所を過たねばほれ、この通り」
 念動力での一瞬の足止め! 引いた刃の動き出しを一瞬だけ留めたのだ! そしてその一瞬があれば、結ノ太刀の加速には充分!
 ――斬ッ!!
 振るった刃が一直線に、刃狼の鎧を裂いた。鎧はすぐには再生できず、熱血が飛沫き、蒸気を上げて、尽きぬ苦鳴が繰り返される――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ティオレンシア・シーディア


…正直、こいつぐらい性根が腐ってるやつが大人しくくたばる、なんて思ってはいなかったけど。
想定してた中でもトップクラスに下衆いとこ来たわねぇ…

一瞬ごまかす程度ならともかく、あたしじゃ本職相手にまともに接近戦は無理ねぇ。
イサ・ソーン・ニイドのルーンを刻んだ弾丸やグレネードの〇投擲での〇援護射撃メインで立ち回るわぁ。
○目潰し・足止め・武器落とし、鎧砕きに部位破壊。徹底的に邪魔するわよぉ。

…●射殺で撃ちこむのは、ウル・ギューフ・ユル。
「不屈の精神」を「贈り」、「悪縁を断つ」…ちょっとでも切先が鈍れば御の字、ってのが大部分だけど。
…ただあの女の思惑通り介錯してお終い、なんて。いくらなんでも癪じゃない。



●願わくば正しき路へ
「正直、こいつぐらい性根が腐ってるやつが大人しくくたばる、なんて思ってはいなかったけど――想定してた中でもトップクラスに下衆いとこ来たわねぇ」
 ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は唸るように呟いた。
 敵の卓抜した格闘戦能力の前には、自分ではまともな接近戦は不可能――とティオレンシアは判断。ルーンを刻んだ弾丸の残数を確認し、手榴弾を手挟む。
 戦況を確認、前衛に立った猟兵が押されつつあるのを見るなり、ティオレンシアは大音声を上げる。
「援護するわぁ。前衛は気をつけてねぇ!」
 言うなり、銀のルーン銃弾を六発斉射。刻むルーンはイサ・ソーン・ニイド、凍れる棘にて刃狼の停滞を呼ぶ。一瞬で放たれた六弾が刃狼の鎧を削り穿ち、僅かながら血を飛沫かせる。僅か動きの鈍った刃狼の注意が、ティオレンシアに向く。
「あんまり見つめないで欲しいわねぇ。火傷しそうよぉ」
 軽口を叩きながら、即座にリボルバー『オブシディアン』を再装填。刃狼が自分目掛けて襲いかかるのを、予期していたようにグレネードを投擲した。ピンはタイミングを計って抜いてある。
 破片飛散型の手榴弾。投げ放つと同時に後ろに身を投げ出すように跳び身を丸める。炸裂。的確な狙いが奏功し、炸裂する手榴弾の破片が敵の身体を立て続けに穿つ。鎧が吹き飛び、爆煙の中にその影が消える。
 転がって滑らかに受け身を取り、復位するティオレンシアの視界で――
 手榴弾が上げた爆煙が、不意に身悶えした。
 ば、おうっ!
 その内側から飛び出す巨馬。『白魔大帝』!
 跨がるは当然ながら刃狼である。傷を一瞬で癒やし、鎧を再び纏い、先にも増す速度でティオレンシア目掛け駆け来る!
「くっ……!」
 誤算とは言うまい。相手が規格外過ぎる。
 この速度で駆け来られては相手の土俵だ。援護をするつもりでも、前衛が引き離されてはこちらも一対一で対するほかない!
 即座に左手に抜いたクロスボウから、グレネードを搭載したボルトを放つ。敵が剣でそれを断つ前に――馬の目と鼻の先で、右手の銃で弾頭を射貫き爆破。爆音、重い嘶き。破片と黒煙を散らし、目くらましを喰らわせる。一瞬しか保たぬと承知のこと。クレインクィンを即座に再装填、竿立ちになった馬の後ろ足付け根にもう一発榴弾を射出。しかしそれを飛び越えるように後脚を突っ張り、白魔大帝は榴弾矢を回避、再びティオレンシアへ駆け寄せる!!
 リボルバーでは、この戦車のごとき魔馬を止められまい。榴弾が直撃すれば或いはダメージを通せるかも知れないが、この恐ろしい機動性能の敵に有効打を確実に入れるのは、困難を極める。
 ならば本体を狙うしかない。
 ティオレンシアはクロスボウを棄て、手榴弾を手に取る。
 敵の奔ってくる軌道、速度、総てを頭の中に入れる。
 駆け来る刃狼は、馬上より刃を振り被りティオレンシアを狙ってくる。
 白魔大帝の足先を避けねばあの魔馬の下で挽肉になり、避ければその隙を刃狼が断つ。隙を生じぬ二段構え。
 ……ならば、こじ開けるしかない。ティオレンシアは、馬の突撃をサイドステップにて回避。
 同時に手榴弾をトスした。この間近で。炸裂すれば、己にも破片が及ぶ距離で。
 刃狼、先程も受けた破片の痛みを思い出したかのように、真っ二つに榴弾を断たんと刃を奔らせる。――神獄滅殺の太刀が榴弾を二つに裂いた瞬間――
 閃光が、溢れた。
「がっあ、あああぁぁぁ……?!」
 その時にはティオレンシアは既に目を閉じている。
 目を閉じてなお瞼の上から視覚を焼き、耳を効かなくするほどの光量、音量。――ティオレンシアが放ったのはフラッシュバン、閃光手榴弾であった!
 そして彼女は思い出す。敵の速度と一秒前の位置から類推される現在地を。狙うは、瞼の裏側に描いた刃狼の姿。
 幾万回と繰り返した動作。腰撓めに構えたオブシディアンのハンマーに左手を添え――
 BLAM!!!
 激発、六連ッ!!
 刻まれたルーンはウル・ギューフ・ユル。『不屈の精神』を『贈り』、『悪縁を断つ』意味を持つ。――所詮は気休め、あの狂気が僅かでも鈍れば御の字、というところだろう。
 しかし、――ただあの女の思惑通り介錯してお終いなどとは、癪に過ぎる。
 これは決まり切った運命に対する、ほんのすこしの反逆だ。
 願わくば、この弾丸が――少しでも、この先の運命のレールを正せたならと願う。

 放たれた銃弾は、手榴弾の残光を貫き――
 光の向こう側で、狼の咆哮と、落馬する鈍い音が響き渡った。

 ティオレンシアはオブシディアンに銃弾を込め直す。
 光に霞む目を慣らし、沈んだ闇間に刃狼の姿を探しながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

ムルヘルベル・アーキロギア

同行:ヨハン/f05367

オブリビオンとは皆"そうである"もの
いまさら迷い逡巡するようなことはないが……
(ちらりとヨハンのほうを見)
憐憫が湧いてしまうのも、また人の性よな
剣狼よ
ワガハイは生前のオヌシを深く識るわけでも
此処が"オヌシ"の最期の地というわけでもないが
此度の生は我らが責任を以て終わらそう
荒ぶり狂った果て、せめて安らかに還れ

ヨハンめが足止めを請け負ってくれるのであれば
ワガハイはあの鎧を【封印文法】で無力化し
渾身の魔力の一撃が確実に通るようにする
蹴り足によって大地が砕けるほど
狭間の闇がヨハンの力となるはず
この世界を救うには、闇をも味方に付けねばなるまい
獣よ、これが人の智慧というものだ


ヨハン・グレイン

ムルヘルベルさん/f09868 と

……俺としてはやり易くなりましたね
思う事はあれど、掛ける言葉はありませんでしたから
哀れなものですよ。義憤に駆られて暴虐な吸血鬼に挑み、
その末路が狂った殺戮狼とは

唾棄すべき吸血鬼はもう消えた
不愉快極まり無いが、ぶつける相手がいないのでは仕方ない
不快に揺れる闇を抑え、制御に集中しよう
俺には特に言える事はありません
さっさと終わらせる、それだけです
あなたが彼になんと言葉を掛けるのか。それは聞いておきましょう

小細工は必要ないでしょう。最初から全力で行きます
<呪詛>と<全力魔法>で指輪の闇を強化
【蠢く混沌】で確実に穿ちその場に足止める
近寄らせはしません。その場で沈め



●闇は不器用にお休みと言った
「……俺としてはやり易くなりましたね。思う事はあれど、掛ける言葉はありませんでしたから」
 うっそりと口にするのは、ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)。
 刃狼は、愛馬『白魔大帝』を駆り、戦場を縦横無尽に駆け巡る。それを遠目に見ながら、静かに、声低く呟く。
「哀れなものですよ。義憤に駆られて暴虐な吸血鬼に挑み、その末路が狂った殺戮狼とは。嗚呼、まったく――報われない話だ」
「そうさな。……もとよりオブリビオンとは、そのように人を喰らい殺すもの。剣狼は今や、本来の機能を取り戻したと言っても良いのやも知れぬ。――しかし多少なりと憐憫が湧いてしまうのもまた――人の性か」
 静かに応ずるは虹の賢者、ムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)。ちらりと伺うムルヘルベルの視線に、ヨハンの藍闇の瞳が絡んだ。見透かすようなムルヘルベルの目を厭うように、ヨハンは一歩前に踏み出す。
「俺に、特に言うべき事はありません。唾棄すべき吸血鬼はもう消え――苛立ちを叩きつけるべき相手はもういない。さっさと終わらせましょう。言いたいことがあるのなら、告げれば良い。その手伝いくらいならしますし――あなたが彼になんと声をかけるのか、それはしかと聞かせて貰いますよ」
「口下手な男だなオヌシも。……まあ、今はそれを追求するのはやめておくとしようか」
 ムルヘルベルは、ヨハンの口調の中に、あの吸血鬼に対する怒りと、狼に対する僅かばかりの憐憫を感じ取った。
 然りとてそれを表出はしない。或いは、出来ないのか。感情表現の下手な少年だというのは知っている。故、ムルヘルベルはそれ以上の追求をせずに前に出た。
 二人の布陣は先程と同じ。ムルヘルベルが前衛、そしてヨハンが後衛である。
「ぐ、うっルルルル、るうぅぅぅうおおおおおォォォオオオおんっ!!!」
 天を揺るがすばかりに咆哮する刃狼。その動きは先程に増して鋭い。白魔大帝が地面を蹴りたて、阻む猟兵数名を撥ね飛ばし、斬り払い、全力でムルヘルベルとヨハンの方向へ攻め上げてくる。白魔大帝の蹄の音はもはや地鳴りに等しい。ただでさえ見上げるほどの上背の刃狼が、小さく見えるほどの巨馬だ。
「――凄まじきものよ。しかし、いかに恐ろしいとて、いかに強大であるとて。それはワガハイらが脚を、手を止める理由にはならぬ」
 ムルヘルベルが呟くのと同時に、刃狼と白魔大帝の影が――そう、かそけき月光が地に刻んだ、彼ら一匹と一人分の巨大な影が、ずるりと変形して、地に漆黒の沼の如く蟠る。
 言うまでもなく、ヨハンの所業だ。ユーベルコード『蠢く混沌』による敵影操作!
 沼めいて泥濘んだ地の影より、無数の影の刃が飛び出した。全くの不意打ちは、正確に白魔大帝の脚を狙う。数発が突き立ち、動きが鈍ったその刹那――
「近寄らせはしません。その場で沈め」
 ヨハンが冷たく告げた。
 他の猟兵が身を以て立証していたことだ。白魔大帝は足下に対する攻撃に脆弱である――もっとも、攻めきる火力が無ければ踏み潰されて終わりだが。
 少年の声に応えるが如く、影は次々と凝って、まさに夜を、この月の細やかな光すらも塗りつぶすかのような闇の嵐として疾った。刃に、錐に、棘に、貫き絡めて敵を縛る総てのものになった闇が、彼らのほぼ足下――無警戒の『影』より迸ったのだ。正に不意打ちである。
 加えて、ヨハンは、端から全力だった。己の魔力をほぼ全て使用して呪詛を練り、それを増幅術式に通して真っ黒な石――指環の先の『蠢闇黒』に込めていたのだ。
 影の刃が錐が棘が、次々に白魔大帝の足を取った。斬り払おうと神獄滅殺の太刀を掲げた、刃狼のその手すら奪うように貫き絡め取る。迅駛の早業だ。
 ヨハンは目の高さに、指環を敵へ見せつけるように掲げ、もう片手で手首を支える。術に込めた全力のあまり、こめかみに血管が浮いて脈打つ。
「それ以上、進ませるものか。そこで死ね。これ以上、何も傷つけずにな」
 ヨハンの冷たい声――そこに、どうしようもなく不器用な優しさを見て、賢者はほんのかすかに笑みを浮かべた。
 直後には、口元からその笑みは拭われたように消える。
「剣狼よ」
「ガアァッ、ぐうぅぅうゥルルるッ……!!」
 白魔大帝が力の限りに暴れる。闇を軋ませ、刃狼自身も身悶える。それを拘束しておくというのは並ならぬ事だ。ヨハンは決して弱音を吐くことはないが、噛み締めた唇の端から、見開いた目の端から、血が一筋ずつ垂れ落ちる。凄まじいばかりの術式のフィードバックが、彼を襲っているのだ。
 ムルヘルベルは二色の術式を発露。右手に、魔力の総てを撃力へと変換した結果生まれる蒼きプラズマ――『衝撃』を宿し、左手に、遊色に光る原初文字を浮かべる。
「ワガハイらは、生前のオヌシを深く識るわけではない。或いはオヌシは、その呪われし極刀と、『神獣鎧装』とやらを纏うことを赦された、数多の内の一体なのやも知れぬ。なれば尚更に……ここがオヌシという概念の終焉となるわけでもない。だが」
 魔力で構築された光る文字を握り締め、ムルヘルベルは足止めを受け暴れ狂う刃馬一体の刃狼目掛け駆け出す!
「此度の生は我らが責任を以て終わらそう。――荒ぶり狂った果て、せめて安らかに還れ」
 無数の影が形を無し、刃狼と猛馬を留めている。それが軋み、砕け千切れてしまう前に、ムルヘルベルは魔力を呪装に注ぐ。
 ――胡蝶装、限定起動。
 蝶の羽めいた極彩色の魔力発露。その蹴り脚は地を穿ち捲り上げるほどの激烈さ! 地面を蹴ったムルヘルベルは高々と空に浮かび上がり、諸手に宿した蒼と虹の輝きで刃狼を照らす!
 ――光強まれば、闇もまた濃くなる。
「……動かせまい。これだけ濃く、昏い影ならば」
 ヨハンが務めてと言った調子で静かに呟いた。ムルヘルベルが照らすことにより影はより濃くなり、ヨハンの術式の威力を補強するのだ。そして!
「この世界を救うには、闇をも味方に付けねばなるまい。――戦とは、己と敵だけで成り立つものではないのだ」
 天より真っ直ぐに降下しながら、ムルヘルベルは左手を突き出した。遊色の『原初文字』が、鎧に叩き込まれる! 無論、それはただそれだけでは何の効果も発せぬもの。技には続きがある。
 
「――■■■■■」

 ロストフォニム
 遺 失 音 韻による詠唱。それとほぼ同時、ムルヘルベルは左手を、何かを握りつぶすように眼前で拳とした。
 ――砕けよ、という意味の動作。そして遺失音韻による、破壊の詠唱。ビシッ――音がして、神獣鎧装に罅が入る。
「ガアァッ……!?」
 刃狼は鎧を即座に纏い直そうとした。神獣鎧装は〇・〇五秒で再装が可能な堅固な鎧。しかし、それが叶わぬ。刃狼は目を見開く。
 ――ムルヘルベルが放ったのは、そのユーベルコードをこそ封ずる魔技。
 是ぞ、賢者の手管が一つ。『封印文法』也!
 そして、巨馬の背中に膝を折って着地した、ムルヘルベルの右拳には未だ、蒼きプラズマの輝きがある!

「獣よ、これが人の智慧というものだ。この輝きを目に焼き付け、逝くがいい。然らば」

 ムルヘルベルは言葉と同時に、馬の背を蹴って踏み込み、蒼き衝撃を解き放った。
 宝石賢者の右拳が、刃狼の胸の中央に叩きつけられ――
 衝撃発動。命中した拳を中心に、同心円状に衝撃が伝播。罅の入った神獣鎧装がまくれ上がるように砕け、激烈な衝撃が、フルにその身体に伝わり揺らし――
 弾丸めいて、刃狼の身体を吹っ飛ばした。
 ゴシック様式のフォリーを一つ薙ぎ倒し、地面をどう、どう、と削り飛ばしながら、刃狼の身体は遙か後方へと吹き飛ぶ……!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四・さゆり


ええ、きこえているわ

夢叶えたのなら、
しになさい。

ーーー

首も無い上に片腕も無いのだから、お前は留守番よ

この傘、一本。

血溜まりでステップしましょ
踊るように刃を交えて
ふたりきり

わたしの戦意を、正気を削ろうが、
あなたにわたしは止められない

わかるでしょう?

わたし、怒ってるの
あなたがそうだったように

ずうと探し続けて
歩き疲れて
それでも
ずうと

もう、進めない
哀や愛じゃ、もう縋れない
もう、進めない、
なら、

爆ぜる怒りならば。


下僕の掌から零れたナイフ
わたしのポケットの中へ

そして、今は、わたしの掌へ

あの女を裂いた刃で、あなたを殺してあげる

もう、ねむっていいわ。
誇りなさい。

あなたは、成し終えたの

わたし、心底羨ましいわ



●あかりをおとして
 ――ええ、きこえているわ。
 あなたから終わりたいと、そう、きこえているわ。

 とつ、とつ、と靴音がした。
 小さなレディの歩む音。
 しもべは後ろに置いてきた。首も片腕もないものだから、鞭を打ったら壊れて仕舞う。お前はそこで留守番よ。
 少女が手にするのは、赤い傘一つ。彼女そのものを示すような、真っ赤な花のような傘。
 この傘、一本、これで充分。
「ねえ、踊りましょう。終わる場所を探すあなた。――夢叶えたのなら、死になさい」
 少女は、――四・さゆり(夜探し・f00775)は、荒れ狂う刃狼を恐れもせず、再三猟兵を撥ね除けた刃狼の前でステップを踏んだ。
 刃狼が応えるように吼える。ど、と地面を蹴れば、土塊が跳ねて舞った。
 神獄滅殺の太刀『禍色』の切っ先が電光石火、宙を引き裂きさゆり目掛けて跳ねる。荒々しくも鋭い、ケモノそのものの様な剣を、しかしさゆりは赤い傘を使って弾き、後ろに下がった。数多の猟兵と、刃狼の血が染みた地で、少女と野獣がワルツを踊る。
 剣が閃き、傘が受ける。まともな傘なら砕けていたろう。しかしそれは、さゆりが頼みとする赤い花。折れず、曲がらず、砕けもせぬ。
 ――だがいかに武器が保つとて、太刀振るう両者の膂力、そして速度差は歴然だ。
 刃狼が踏み込み、凄まじき刃を振るう。その都度、赤傘は右に左にと弾かれ振れた。さゆりの身体もそれに合わせて振り回される。乱暴な獣のステップに翻弄されているかのように、それでも華奢な脚で地に杭を打ち、ステップ、ターン、傘をスイング。打ち合う火花に身を返し、なおも踊る。
 受けきれぬ一撃があった。レインコートが裂けて肩口から血飛沫、赤い血玉がコートを滑る。灰の瞳がそれを見て、僅かに翳ったかに見えた。長く打ち合えば打ち合うだけ、補いきれぬ力量差に、傷は増えるばかり。
 打ち合うたび、禍色の力が、さゆりの正気と戦意を、そして生命力を削っていく。倦怠感と寒気が身体の末端から這い登り、さゆりを死に追い詰めていく。
 打ち合えばじりじりと追い詰められていくほかにない。そのステップは緩慢なる自殺に似ている。……しかし、それでも彼女は――さゆりは、舞うのを止めなかった。
「――わたし、」
 そこで退けば。
「怒っているの」
 怒りに背を向ければ。自分が、自分でなくなってしまう様な気がして。
「――わたしの戦意を、正気を削ろうが、あなたにわたしは止められない」
 確かめるように言う。腕も、脚も、まだ動く。
 ――だって分かっているでしょう。あなたも。あの日、誰かのために馳せ駆けたあなたなら。
「あなたがそうだったように。ずうと、ずうと、探し続けて――歩き疲れて。わたし、それでも、ずうと怒っているの」
 刃狼は獣の声で吼えた。お前の事情など知らぬと――あるいは、世の理不尽そのものめいて、さゆりを殺すために駆ける。撃剣が疾る。が、ぎ、ぎ、ぎんっ!! 一際強い金属音! 傘が弾かれ、さゆりの身体が大きく振られる。 ――ああ、もう愛や哀じゃ縋れない、進めない。
「怒りが、この思いだけがわたしを動かすの。意志を、命を、削っても、血を流して肉を断っても。――この怒りだけは、消えないわ」
 無理矢理に身体を振り、さゆりは次撃を傘で止める。大音。――無理な姿勢から受けたツケか、盤石な体幹から繰り出された刃狼の一撃が、さゆりの傘をその手から弾いた。
 ああ、空も高くに赤い花が飛ぶ。
 無手となったさゆりは、最早死を待つばかりか。

 否。

 少女はレインコートの袖を閃かせた。
 飛び出すのは、彼女のしもべが持っていた、ただ一丁の惨殺ナイフ。少女の手には余るような、折れず曲がらぬ鉄の塊。あの女を、一度は殺した殺意の楔。
 さゆりは飛び込んだ。正確には、傘が跳ね上げられる瞬間には、最早踏み込みだしていた。
 禍色が翻り彼女を襲う前に、その手の刃の内側に潜り込み――
「もう、ねむっていいわ。誇りなさい」
 さゆりは常になく優しい声で、ささやくようにかそけく言った。

「あなたは、成し終えたのよ」

 鋭いナイフが、鎧の隙間を縫って刃狼を穿った。
 血が飛沫き、吹き出す血が、レインコートの上で少女の血と混ざった。
 ――わたし、あなたが、心底うらやましいわ。
 溶けるようなかそけき声が、獣の絶叫の中に消えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユハナ・ハルヴァリ
自分で望んだことなら、少しは、苦しくないんでしょう
わかります。魔術師ですから
戻せない事も
苦しい事も
そうして、君が僕なら、願うんでしょう
殺せ、と

その牙を折らなければもっと苦しいでしょう
なんて、自分よがりだと
─抑制、反転。
僕は自ら牙を折った。この茨で
そうしなければ、死ぬか殺されるか
…結果はあまり変わらなかったけど
記憶を失くし死んだように生きて
いっそ君のように狂い咲けたら、僕は
それをしあわせと呼べたでしょうか
今ならきっと、狂える

短刀に氷を纏って、太刀へと
穿ち合う牙としましょう
ただ我武者羅に喰らい合うだけでいい
今だけは僕を見て?
君のいのちを見せて
最期なら吼えて凌ぎ合って奪って
刻め
刻め
刻め

君と僕に。



●呪い児が夜を謡う
 ――もう、彼は戻せない。
 少なくとも、自分にそうする手管はない。
 あるいは、あの術式の綻びを、誰かが見つけるのかもしれないけれど――それは屹度、自分のすることではない。
 ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)は魔術師だ。故に、魔術的な観点、見地から見て、刃狼を剣狼に回帰させることがいかに難しいか分かっている。
 ――きっと、殺せと願うんでしょう。
 願いを果たしたはずなのに、結局憎き仇の傀儡とされて、最後まで道具のように扱われる屈辱はいかばかりか。推測するしか出来ないが、自分ならばきっと、死を望むだろうとユハナは思う。

 かつてユハナは、自らの牙を折った。そうしなければ死ぬか殺されるかの極地にいたのだ。――折って迎えた結果とて、記憶を失い死んだように、過ぎゆく日々を眺めるだけの、ただ息をしているだけの生だったが。
「苦しいでしょう。いま、折ってあげる」
 吼声を上げる刃狼は、未だその勢い衰えず。己を傷つける猟兵を薙ぎ払い、一瞬の隙を見出すなり鎧と傷を修復して次なる猟兵と対する。
 ユハナは、強大なる刃狼に向けて踏み出した。十六歳としては小柄な――否、幼く過ぎる容貌が、一歩ごとにず、ずず、と変貌していく。
 抑制、反転。
 刃狼が気配を認めてユハナを振り返った時には、そこには――聲の魔物がいた。
 その全身には絡みつくが如き茨の聖痕。背は高く伸び、長く踊る銀糸の髪。凜とした青年の容貌。その周囲を衛星のように氷の砕片が渦巻き、まるでそれは、吹雪が人の形を取ったかのようだ。
「いっそ君のように狂い咲けたら、僕は――それをしあわせと呼べたでしょうか」
 問いかけ。ユハナを脅威と認めたように、刃狼が声高く吼える。答えはなく――ただ濃密な殺意が、ユハナ目掛けて突き刺さる。

 ――ああ、今ならきっと、狂える。
 かれも狂っている。同じ凶刃として踊ろう。

 ユハナは短刀を抜き、氷の砕片を纏わせて瞬く間に伸張、身の丈以上の大刀を形作る。サイズ的にも神獄滅殺の太刀『禍色』に何ら劣らぬ。
 ユハナの青い瞳が、刃狼の紅の瞳とカチ合った。
 重なる視線は一瞬。踏み込みは、正に同時。
 獣と獣は、一瞬後には己が牙を叩き付け合っていた。
 火花はない。氷の刃と鉄の刃が弾け合う。
 刃狼の動きはそれまで同様、剣士としての技と、獣としての荒々しさが同居する撃剣であったが――ユハナの動きはそれまでの戦闘から一変していた。
 ――彼の方が、よほど獣のようだ。
 振るう剣に型などなく、ただ我武者羅に食らいつくような剣戟。刃狼の刃に氷剣削られれば、剥離した氷片を即座に成長・伸張させ支配下に置き、氷柱として射出。刃狼の鎧の間隙を縫い貫く!
「がぁッ?!」
「今だけ、僕を見て。君の命を見せて。最期なら吼えて、凌ぎ合って。この夜を刻め」
 が、っぎいいん!!
 禍色と氷の太刀がぶつかり合い、軋む! もとを正せば非実体の氷の刃が強度で劣るは必定か、軋み削れていくのはユハナの刃ばかりだ。だがユハナは強引に魔力をドライブ、削れ壊れていく氷刃を、リアルタイムで再生成することで拮抗する!
 ――刻め、
 鍔迫り合いになるなり、聲の魔物は吼えた。彼の“こえ”は、空中に爆ぜるように鳴り渡る。周囲の空気がぴんと張り詰めたように冷え切り、空中に含まれる水分が薄氷の刃となって現出。か細く注ぐ月光を乱反射させ、美しく煌めく。

 刻め、刻め、……刻め!
 このよるを、君と僕に!

 ユハナの聲は、氷の刃の形を取って現実となった。
 鍔迫り合いは刃狼をその場に留めるための一手段に過ぎず――言葉通り、己が身に刃降り注ぐとも構わぬ、相打ち覚悟の一手。
 薄氷の刃は、触れれば何もかもを裂き、砕けてなお突き刺さる美しき狂気。二匹の獣に注いだ氷嵐が、血飛沫を散らせる。
 ユハナは、降り注ぐ刃に血混じりに吼える刃狼を見てあえかに笑んだ。
 鎧裂け、血に塗れ。きっと自分も同じ赤色をしている。
「寒くなってきたかな。きっと、もう、おやすみの時間だよ」
 聲の魔物は死神めいてささやいた。
 ともすれば、本物の死神よりも冷たい息で。

成功 🔵​🔵​🔴​

フローリエ・オミネ
理性を亡くした獣
そのいのちを屠ることによってしか止められぬのならば
やりましょう、やりましょう

彼を殺すことが、彼を救うただひとつの手段なのだから

空はわたくしのための場所
【空中戦】で攻撃から逃れ彼の届かぬ所から攻撃
【高速詠唱】で攻撃される前に発動もしくは素早く相殺を狙う
ターゲットはたった一体、狙いは定めやすいわ

地面諸共抉り押し潰し
彼のいのちを止めましょう

肉体すら残さぬのは、わたくしの慈悲そのもの
異形の彼も、魔の刃も
全てを重力の下へ

何を言っても無駄だと言うのならば
【傷口を抉る】ことで、その臓腑に骨に傷を付けましょう

おもい、重い、想い
あなたのような勇敢な方が大好きなの
だからその身体を天国へと送らせて



●その先にヴァルハラは見えたか
 ああ、もう命屠ることでしか、止められぬのならば。
 やりましょう、やりましょう。
 彼を殺すことが、彼を救うただ一つの手段であるならば、それを果たしましょう。
 フローリエ・オミネ(シソウの魔女・f00047)は、一度として大地を踏まぬまま、刃狼とまみえた。――空は彼女のためのステージ。宙より刃狼を見下ろす。
 少女の敵意を鋭敏に感じ取ったように、刃狼は地を爪で掴み、身体を撓める。
「動かないで。狙いを過ってしまうわ」
 刃狼が聞き容れるわけもない。即座に跳躍。空中のフローリエを目掛け、空を駆け上ってくる。
 フローリエは目を細め、術理を纏わせた指先を空中に這わせた。爪の軌跡を象るように空間が裂ける。
 それは空間を裂き、重力を偏向・収束して叩きつける不可視の鉄槌、『存在不許可』。
 発動は早かった。狙いも正確。敵はたった一体。狙いは定めやすいはずだ。
 ――だが忘れてはならない。
 刃狼は、元の強さに加えて強大にして凶悪なる『祖』の魔力を受け発狂し、力の権化となった怪物なのだ。
「がぁアッ!!」
「!」
 どん、と音がして、刃狼は宙を真横に蹴った。不可視の重力塊が遙か下で地面を、見えない槌で均したかのように潰す。
「速い、のね」
 フローリエは逃れるように後方に飛んだ。立て続けに空間を裂く。重力偏向。見えないハンマーめいて落ちる重力塊の有効範囲が、まるで見えているかのように、刃狼は天翔る。
 回避、回避、回避。魔力を足下で爆ぜさせての、強引なロケットエンジンめいた前進。だが、速い。そして鋭い。飛下がるフローリエへ、猪突が如くに襲いかかる!
 刃狼は届かぬ距離より、神獄滅殺の太刀を唸りを上げて振るった。背を這い上る危機感に突き動かされたフローリエが横にスライドするなり、彼女のすぐ横を風が逆巻き通り抜けた。同時に血が、びしゃりと散る。
「っ……、」
 痛みを噛み殺すように鳴る少女の喉。フローリエの腕から血が流れ落ちた。――危機感に従い避けなくば、今頃身体が上下に分かたれていたろう。刃狼は、空駆けと同質の魔力放出を、剣に乗せたのだ。射程は長くあるまい。威力も距離に従い減衰するだろう。しかし――空にいるのは、最早絶対のアドバンテージではない。刃狼もまた、翼無くして空を駆け来て、唸り飛ぶ斬撃でこちらを猛撃する。
 嗚呼、とフローリエは嘆息した。
「……もう、何を言っても無駄、みたいね」
 かけた声に応ずる様子はなく――今や刃狼はただ真っ直ぐに、フローリエを殺すために突っ込む餓狼の様相だ。理性の影はなく、表出するは殺意のみ。
 左腕を流れ落ちる血を右手で押さえ、血に濡れた爪の先に魔力を集める。
「……地面諸共抉り圧し潰し、あなたの命を止めましょう。もう身体も刃も残さずに、総て重力の元へ」
 目眩のするほどの魔力消費にも構わず、中間距離より放たれる刃狼の衝撃波を舞い避けるフローリエ。一度見たならば、二の轍は踏まぬ。躱してのけながら、少女はまるで抱き迎えるように両手を開いてみせた。
「届かないわ、そこからでは。――こちらへいらして、勇敢な方。あなたのように勇猛な方が、わたくし、大好きなの」
 挑発するめいてフローリエが言うなり、当たらぬ飛刃に焦れたように、刃狼が宙を蹴って走り抜けた。
 ど、ど、どどど、どどどどどばぁァんッ!!
 魔力爆ぜる音が機関銃めいて連なるッ! 魔力の爆ぜた軌跡が白光と共に空気を裂き、まるで稲妻のように夜気に線を曳く。圧倒的な速度で襲いかかる刃狼が、七メートル半径に至ったその刹那。
「――だから、その身体を天国へと送らせて」
 フローリエは、怜悧な魔力と血に濡れた指先を踊らせ、芙蓉の如くに一度回った。
 言葉は、戦士を主神の宮殿に導く戦乙女めいて。
 彼女の指先が、今一度、重力をねじ曲げた。
 不可視の重力塊が今一度落ちる。刃狼は、回避せんとした。しかし、それはあまりに範囲が広すぎる。何より完全に攻撃用の前傾姿勢。方向転換が間に合わぬ。
 今までよりも遙かに規模が大きい――歪んだ空は巨大。一瞬では到底離脱できぬ。いや、そもそも、この距離でこんな威力での術式発露など、自爆覚悟ではないのか――?
 否。否である。
 彼女は、あの一瞬で、自分の爪先をコンパスの軸として、指先で円を描いたのだ。
 その半径七十センチあまりの円をドーナツの孔めいて除外し、自身の周囲に円筒状に構築した重力塊にて、刃狼の突撃を迎え撃ったのである!
「さよなら、ね」

 その声を刃狼が聞いたか否か。落ちる重力塊が、刃狼を叩き落とし、そのまま地面に叩きつけ――
 ずん、と重い音がして、大地に昏く深い虚が穿たれた。闇に紛れ――その底は、未だ視えぬ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィックス・ピーオス
ポーラ(f22678)と


あぁ、そうだね。
もはや祈りを聞く耳すらありゃしないだろうが
せめて修道者であるアタシらだけでも祈ってやらなきゃね。
ええ、最期の救済を始めましょう
ブラザァ・ヴェポラップ


・戦闘
ポーラが盾となってくれている間に
UC『過剰投薬・本能覚醒』を始動。
戦意も正気も寿命も免疫も関係ないね
今のアタシに残ってるのは純粋な狂気のみさ…!
ケヒャヒャヒャ!!!


お膳立てご苦労ポーラ!
受け取りな!アタシの「メメント・モリ」の一撃を!
これが死すら忘れたアンタに届けるアタシの精一杯さ。


救えなかった英雄に暫しの休息を
Amen.


ヴェポラップ・アスクレイ
ヴィー(f22641)と

迷える仔羊よ
我々は主に魂を委ねる他ない
どうか安らかに……
とか言っとけばそれっぽいかね
じゃ
最後の救済を始めましょうか
シスタァ・ヴィックス

・戦闘
ヴィーの準備が整うまでの盾役
白馬がいる場合は前脚や傷を暗器で刺突し鈍らせ
剣戟は甘んじて受け止める

斬りたくば斬りなさい
かつて主が頬を叩かれた様に
私は貴方を赦します
……しかし正気を削れるというのは
阿片と違いネガティブにキマるな
ダウナァ系ってヤツかね
イヒヒ

頃合いを見計らい
ヴィーが見えない場所でUC発動
剣狼の視界を奪う

イヒ、イヒヒ
私の戦意を殺ごうと
俺の代わりは山程いる
要するに……
ヴィック
奴を救っちまえ

怨みつのりし英雄に休息を
Amen.



●死を忘れるな、そうあれかしと
 あれだけの連撃を喰らいながら、刃狼は砕けた骨を、失われた血肉を、骸の海の黒く冷たい力で補って再び立ち上がる。瞳には紅蓮の狂気。地に開いた洞より、血まみれの刃狼が飛び上がる。満身創痍の筈が、その剣気に些かの衰えもなし。
「迷える仔羊よ。我々は主に魂を委ねる他ない。どうか安らかに……とか言っとけばそれっぽいかね」
 破戒修道士が冗談めかして言えば、傍らで破戒修道女が嗤っていらえる。
「ケヒャヒャヒャッ、仔羊どころか奴は狼じゃないか。でも、まぁ、そうだね――もはや、アレには祈りを聞く耳すらありゃしないだろうが。せめてアタシらくらいは祈ってやらなくちゃあね」
 ヴェポラップ・アスクレイ(神さま仏さま・f22678)とヴィックス・ピーオス(毒にも薬にもなる・f22641) のペアである。肉塊の排除に始まり、こうして人狼を絶つ絶つ段となっても、二人のペースは崩れない。即ち、
「然り然り、イヒヒッ。ならば、最期の救済を始めましょうか、シスタァ・ヴィックス」
「えぇ――救いましょう、ブラザァ・ヴェポラップ。この夜に迷った、哀れな戦士の御霊を」
 ヴェポラップとヴィックスは、互いを形式張って呼ばわり、刃狼に向けて構えをとった。
 紅蓮に燃ゆる狂気の瞳が、
二人を捉えてなお紅く燦めく。
「がアア、ああぁぁぁアァッ!!」
 咆え声はまさに獣そのものだ。人の恐怖を掻き立てる為デザインされたかのような凶声。しかしヴェポラップもヴィックスも怯むことはない。
「ポーラ! 少しの間任せるよ!」
「なるべくさっさとお願いしますよヴィー。他の猛者の手にも余るというのに、この両手だけでは些か細すぎる」
 言葉の通り、前衛を張るのはヴェポラップだ。ヴィックスは後方の闇に紛れるように飛び退き、そのまま隠形。ヴェポラップは両手に苦無を抜くと、たった一人で刃狼と対する。
 刃狼はすぐさまズタズタの身体を再生、砕けかけた『神獣鎧装』を再臨させ、ヴェポラップ目掛けて爆ぜ駆けた。その速度、剣勢、この段に及んでも並ぶものなし。数多の猟兵が挑んだが、この刃狼に始終優勢を保ったものはない。
「良いでしょう。斬りたくば斬りなさい。かつて主が頬を打たれ、逆の頬を差し出したように――私は貴方を赦します」
「がぁあああアアるるルッ!!」
 ヴェポラップの説法など耳に入っているまい。狂った狼は神獄滅殺の太刀『禍色』を唸りを上げて振るい、ヴェポラップを引き裂くべく斬撃、斬撃、斬撃!!
 ヴェポラップは逆手に構えた苦無で応じるが、出力の桁が違う。一手受け流しては体勢を整え、決して崩されぬように連撃を流すので精一杯、反撃など交えようべくもない。
 ――しかも、刃狼の攻撃は決して、受け続ければ活路が見える類のものではない。
「……しかし正気を削られるというのは、阿片と違いネガティヴにキマるな。ダウナァ系ってヤツかね、イヒヒッ」
 この状況でなおも笑う余裕のあるヴェポラップをさすがと言うべきか。彼の戦意と正気、そして生命力は、禍色の斬撃を弾き止めるたびに刻一刻と削られていく。
 刃狼の斬撃をいつまでも防ぎ止めていられるわけでもない。受けきれぬ斬撃がヴェポラップの身体を裂き、服をじくじくと溢れる赤き血で染め上げていく。
 息は上がり、傷は最早一箇所二箇所ではない。刃重ねれば重ねるだけ負う傷は増え、彼は死に近づいていくというのに――
「イヒ、ヒヒ……」
 ヴェポラップは薄く歯を剥いて笑いを漏らした。
 ――正気など、あるいは初めから持ち合わせていないのか。血をだくだくと垂れ流しながら、ヴェポラップは今一度、罅の入った苦無で刃狼と真っ向から打ち合った。
 満身創痍の筈なのに、声音はことさら涼しげに。
「聞け、剣狼よ。……私の戦意を削ごうと、私の代わりは山ほどいる――」


 あぁ、あんたの代わりになれるかどうかは知らないがね、こっちもそろそろキマッてきたところさ。
 噛み潰した強化薬物のケミカルな味が舌の上で踊り、苦みと甘みと酸味がぐるぐると巡る。
 光など無いはずのダークセイヴァーの闇の中に、きらきらちかちかと星が瞬き、理由も故もない全脳感が身体を満たした。
 闇の中で女は、仕上げとばかりに阿片を吸った。甘くて毒々しくて煙たくて、吸い飽きるほどに吸った煙を、深く吸い込んで吐き出せば――
「ケヒ、ケヒヒヒッ、ケヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
 けたたましい笑いが口から迸る。


        ヤ
「要するに、だ。救っちまえ、ヴィック」
 ――全く唐突、突然。
 ヴェポラップが纏う後光が、まるでストロボライトめいて激化! 視界全てを真っ白な光で埋め尽くす!
「が、あアァァあっ?!」
 不意を突いて放たれるのは『明々白々・燦然世界』。十万ルクスの光が闇を焼いた。スタジアム・ライトの全力照射でも二六〇〇〇ルクスが精々というのに、その実に約四倍の光! ましてや闇に慣れきった刃狼の目に、その光は強すぎる!
 飛び離れるヴェポラップ――そして、
「ケヒャヒャ、ヒヒッ!! ああぁいいねぇ、キマッて来たぁ!! お膳立てご苦労、ポォォォオオラ!!」
 狂人が疾る。
 一瞬の天照の後に、再び闇に沈む世界の中を駆け抜けるのはヴィックスだ。
『過剰投薬・本能覚醒』。ヴィックスは手持ちの薬物をオーバードーズし、身体能力と認知機能をブーストしたのだ。メイスを引っさげてケモノめいて駆ける!
 ヴェポラップが前線を支える間にヴィックスが自己強化を完遂し、ヴェポラップが光によって刃狼の感覚機能を破壊――そこに、バフをてんこ盛りのヴィックスが突っ込むコンビネーション。打ち合わせもなしにこれを行えるのは、互いに対する理解度が並ならぬためであろう。
「ケヒャヒャッ! そら剣狼、自慢の剣を振ってごらんよ!! 生憎と――今のアタシにゃ戦意も正気も寿命も免疫も関係ない!」
 目が見えぬながらに刃狼は反応。駆け寄せながらに哄笑するヴィックスの方へ向き直り防御姿勢を取った。――そればかりか、足音から距離を測っての果敢な斬撃!
 しかし当然、視界がなければ力の入れ方も太刀筋も変わる。ヴィックスは真正面から、ブーストされた筋力でメイスを叩き付けて大剣を弾き、
「今のアタシに残ってるのは純粋な狂気のみさ――ケヒャヒャヒャ!!!」
 些かも戦意衰えぬトーンで、狂い笑った。
 体幹揺らぎ蹈鞴を踏む刃狼。その好機を、最大集中のヴィックスが逃すわけもない。飛び込むようにもう一歩、間合いの内側に潜り込み、ヴィックスはメイス――『メメント・モリ』を振りかぶる。
「コイツが、死すら忘れたアンタに届ける、アタシの精一杯さ。――思い出しな、死の温度を、匂いを、色をッ!!」
 メメント・モリ――『死を忘れるな』。
 訓戒にしては激しすぎる、鈍器横薙ぎの一撃が、刃狼の鎧を砕いて遙か後方へ吹き飛ばした。立木を数本なぎ倒し、土煙上げ――水を切る石めいて跳ね転がる。
 ヴィックスとヴェポラップは、十字の刻まれたグローブの甲を、互いをねぎらうように軽く重ねた。
 口から零れる言葉は、一つに聞こえるほどに同時。

「「――救えなかった――怨みつのりし英雄に暫しの休息を。Amen.」」

 ッゴウンッ!!
 激音。屋敷の外壁に激突した刃狼が、壮絶な塵埃を散らす……!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート


──ったくよぉ
虚しい話じゃあねえかよ…なぁ。
果たせなかったことを果たすために、走ったってのに
今じゃあただの世界の敵だ
断頭台に自分で行けねえのなら──俺が導いてやる

馬に乗ったか…速いな
こうも動かれちゃ、俺のプログラムで座標をロックする前に逃げられちまう
故に求められるのは、予測
そこからの先回り、決め打ちしかない

よく視ろ、奴の動きを
次の移動先を常に予測し、癖を読み取り、周囲環境を考慮しろ
奴は次にどこに行く?絞り込め…『賭け』じゃダメだ
『確定』させるまで、耐えろ

──ここだ、ここしかない!
座標確定、対象指定は『剣狼"のみ"』
行き先は味方の元へ
…5秒のスタンだ

ギロチンを落すのは、俺じゃあない
後は…頼む


五条・巴
死に際まで美しくないことをするね。
肖像画先に燃やしておいて良かった。

分かっていたことだから、静かに銃を構える。迷わないよ。彼の本意じゃない。終わらせてあげよう。

庭先での彼の戦闘を思い出す。
荒くて、強くて、重い、剣戟
あれからフェイリアより狂化されてこちらへ攻めてくることを考慮して、間合いは充分に。

ホローポイントは痛いね、HV弾を装填しよう
無理やり動かされた肢体を、剣狼の中に潜むフェイリアの意識を貫く弾丸

"薄雪の星"
無駄打ちはしない。
的確に、最小限に、
関節を、太刀を握る拳を狙って

仲間の援護射撃も抜かりなく

君にもこの言葉を送るね
おやすみ
どうか夢の中までフェイリアに侵されませんように



●断頭台への介添
 建物と刃狼がぶつかり合って生まれた塵埃、埃煙が、怒りの咆吼によってびりびりと震え、身悶えるように裂けた。ひび割れ、砕けた鎧がずるりと元の形を取り戻し、折れた骨が、開いた傷が、何もなかったかのように健常な状態へと回帰する。異常なる再生能力。
 それを見ながら、唇を噛む少年がいた。
 ――世界にゃ、報われないことの方が多いと知っている。だからこそ物語は希望を謳うし、人々はそれに縋るのだ。現実には絶望だらけ、上手く行くことの方が少ないと来た。
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、悲しむでもなく――哀れむでもなく、ただ、やるせなさそうな顔をして呟いた。
「──ったくよぉ。虚しい話じゃあねえかよ……なぁ。果たせなかったことを果たすために走ったってのに、今じゃあただの世界の敵だ」
「同感だね。……はあ、死に際まで美しくないことをするね、あの吸血鬼は。肖像画、先に燃やしておいて良かったよ」
 横合いで応えるのは五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)。
「……でも、こうならなくても、僕たちが彼を弔わなければいけないことは分かってたことだ。ああして迷って誰かを傷つけることは、きっと、彼の望みじゃない。終わらせてあげよう」
「……ああ。ひとりじゃ断頭台に乗れないってなら――俺達が手を引いてやらねぇとな。やってやろうぜ、チューマ」
「了解。僕の得手は援護だ。君は?」
「なんだろうとこなしてみせるさ。俺はArsene、超一流の端役だからな。主役のお前の穴を埋めるのが俺の仕事だ」
 ヴィクティムは生体ナイフを抜き、『フィジカル・エンハンサー』を起動。身体機能をブーストし、近接戦闘対策を取る。
「頼もしいね。それじゃ、お手並み拝見といこうかな」
「任せときな」
 ヴィクティムと巴が会話を結ぶ。
 同時に、刃狼は咆吼と共に愛馬“白魔大帝”を召喚。ひらりと騎乗して、土を二度蹴立てさせるなり――怒濤の如く巴とヴィクティムの方向へ駆け寄せる!!
「速えな。……ヤツの動きを止めるぜ。手伝ってくれ」
「分かった」
 返事を聞くが早いか、ヴィクティムは疾風の如く駆け出した。


 速い。ヴィクティムも速いが、やはり――刃狼が速い。庭先での戦闘で見せた、荒れ狂う強健な剣勢。フェイリア・ドレスデンの悪辣の狂化術式がその剣にさらなる威力と凄みを与えている。
 ヴィクティムが加速。残像を残して機動、しかもその残像をそれぞれ別パターンで動いているように視覚欺瞞し、擬似的に分身しているかのように見せかける。巴ですら一瞬本体を見失うほどの精度だったが、白魔大帝の上で大刀を振り上げた刃狼に迷いはなかった。
 一閃、振り下ろし。剣先より衝撃波が迸り、分身の内の一体を襲う!
「チッ……!!」
 鋭い舌打ち。ヴィクティムは左腕、トランシス・アヴァロンに内蔵されたショットガンを間近でブッ放し、その爆圧で衝撃波を散らしながら転がって回避。残像が消え失せる。
 十数体といたはずの分身の中から瞬時に本体を峻別して攻撃に移る恐るべき識覚だ。視覚より気配に頼っているのか。
 ――いや、分析より援護が先だ。巴はEdelweissのマガジンを排出、マグポーチから新しいものを取り出して装填。スライドを一度引き、チェンバーに残ったホローポイント弾を弾き出す。
(肉体を滅茶苦茶に壊してやるならHP弾だけど、彼を痛めつけたいわけじゃない。――僕が撃ちたいのは彼じゃない)
 そう。
 巴は、刃狼――否、剣狼ではなく。
 その内側に巣喰う、あの女の悪意を憎む。
 スライドから手を離す。金属音がしてスライドが閉鎖、マガジンから装填されるのはHV弾――高速徹甲弾。
 刃狼を狙う。ヴィクティムがその右手にした生体ナイフを絶えず変形させつつ、神獄滅殺の太刀『禍色』と打ち合う。左腕内蔵型の静音ショットガンを連射、白魔大帝から血を飛沫かせるも、その動きを止めるには到らない!
 刃狼もその愛馬も、強健すぎる。多少のことでは彼らは揺らがぬ。ロデオめいて跳ね回りながら、ヴィクティムを剣と蹄で付け狙う!
「――得意は援護とそう言ったしね。一つご覧に入れようか」
 芝居掛かった調子で謳い、巴は銃を跳ね上げた。銃口がかすかな月光に、煙ったスモークシルヴァーの光を放つ。
 照準は一瞬。巴はEdelweissの銃口を些かも揺らさず――照星で敵の関節を、剣握る手を、鎧の隙間をなぞりながらに銃爪を絞った。

 吐き散らされるのはタングステン弾芯の牙。
 哀色の牙を弔うための、白雪の慟哭。

 ワンマガジン分の銃声が、まるで機関銃のように連なった。高速で立ち回るヴィクティムの身体が、マズル・フラッシュを切り取って影絵のストップ・アニメーションを描く。
 噴き出す血の影が、影絵に混じる。刃狼が痛みに吼えた。徹甲弾が超高速で唸り飛び、刃狼の関節を、手首を、立て続けに撃ち抜いたのだ。
 拳銃弾程度の損傷、いかに関節部に当たったとて、再生までたったの一瞬だろう。
 しかし――巴の銃弾は恐ろしく熱かった。貫いた部分が熱により煮えたぎり、再生をほんのわずかだけ遅らせる。損傷が逆回しになったような速度での再生は……不能!
 ――その瞬間だけ、刃狼の動きが鈍る。手綱を取ることも、鐙を踏みしめることも、一瞬出来なくなる。
 長くて二・七秒の影響。だが、それで充分だった。
「これで足りるだろう? Arsene」
 巴は歌うように言った。分かっていると言わんばかりに。
 ――そう。ヴィクティム・ウィンターミュートには、ただそれだけで充分だったのだ。


 白魔大帝に乗ってのロデオめいた挙動に嵐のごとき攻撃が乗れば、いかにウィザード級のハッカーであるヴィクティムとて、座標をロックする暇が無い。前衛として、攻撃に対処する必要があるとなれば尚更だ。
 ――だから、彼は耐えるしかなかった。同道した射手の、巴の、シャープな銃声を期待して待つほか無かった。
 実のところ近接格闘など、専門家に比べれば得意と言えるほどではない。それでも、意地を張り、あらゆる手練手管を総動員して、そつなくこなす振りをして見せて。一瞬でも油断すれば、あの大刀の餌食になる――死と隣り合わせの戦場を、唯々苛烈に駆け抜けた。
 待った銃声の最初の一発が鳴り響いた瞬間に、ヴィクティムはプログラムを起動。走らせ出せば、もうキャンセルは効かない。発露までに敵を捉えきれなければ、プログラムは不発に終わる。
 だが見切り発車というわけではない。敵を最適な、射線が通る位置へ誘導し、敵と巴を結ぶ射線の間から離脱した上での行動。
 ――この瞬間を、援護を得意とする彼が外すわけがない。その確信を込めて、ヴィクティムは拳を握り固めた。紫電を纏う立方体、グリモアに似た何かが彼の掌の上で高速回転。
 万雷の拍手めいて、十数発の徹甲弾が炸裂。ロデオが止まり、白魔大帝が主の指示を伺うように身を揺らしたその刹那。
 腕も足も上がらずに、動きを止めた刃狼を貫く如く。ヴィクティムは、距離十五メートルから立方体を刃狼に差し向けた。
「ギロチンを落すのは、俺じゃあない。――後は頼むぜ」
 ヴィクティムが浮かべた光の立方体がワイヤーフレームモデルめいて幾十のブロックに分解!
 分解された立方体が刃狼に殺到――彼を瞬く間に、砂嵐めいて取り捲き囲み、蒼き雷で包み込んで昇華する……!!
 ユーベルコード、Warp Program『Welcome』!
 指定座標の敵を、五秒間だけスタンさせ――他の猟兵の元に転移させるプログラムだ。白魔大帝を対象外とすることで、転送されたのは刃狼のみ。彼を孤立させ、他の猟兵が最大限に戦い易い環境を作り出す――それが、今回のヴィクティムの狙いだったのである。
「……出来るだけキレイに終わらせてやってくれ」
 ヴィクティムは、主人を奪われ、猛り竿立ちになる白魔大帝目掛けナイフを構え直した。
 ――このクソッタレな話に、少しくらいの救いを求めたって悪かないだろう?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ゲンジロウ・ヨハンソン

【古兵A】

○戦闘
味方を守りつつ、UCを最大限の威力で放つ準備をしていくぞ。
戦闘開始早々に【オーラ防御】を展開し、【早業】の防具も重ねた【盾受け】で味方を【かばう】ぞ。

●神獣鎧装には【装備1】に蒼炎を纏わせ【鎧無視攻撃】を打ち込もう。

●召喚・白魔大帝は対象が大きくなってくれとるからな、味方に合図して【装備6】を投げ込み広範囲の【属性攻撃】で白馬ごと焼いてやろう。
【装備6】の爆炎にゃあえて飛び込み剣狼に追撃かますぜ。
ここまでのダメージの蓄積に爆炎の熱も加え、【選択したUC】を発動。

この怨嗟らはわしを恨む故にわしの生を望む変わった奴らでな、その死の願いとどっちがつえぇか比べっこといこうじゃねぇか。


マクシミリアン・ベイカー
◎【古兵B】
……クソったれめ。さっさと終わらせるぞ。

蘭玲氏、白斗氏両名と戦う剣狼を指し示し、ミリオンデジベルにて以下演説

見ろ!剣狼はクソ女の呪いを受け、今や世界の仇となった!
では、奴の信念は蹂躙されたか?その誇りは無に帰したか?剣狼の戦いは無意味だったか!?
断じて違う!奴は己の誇りを賭け、その精神を剣とし盾として、最期に己が使命を全うしたのだ!
剣狼の誇りに応えんとする老兵を見ろ!彼らは正しく理解している。誇り高い戦士であった剣狼を讃える術は、戦にしかないと!
傷ついてなお武器を取る諸兄姉よ、戦ってくれ!
「貴様の守ろうとした世界は、貴様を討ち倒すこの力を以て我らが救う」と、剣狼に示してやれ!


李・蘭玲

古兵B
白斗さん/f02173
軍曹さん/f01737
と連携

さあ、還る時間ですよ
家族の元へお逝き

調伏する意味を込め、銃器は外して素手で参ります
白斗さんも?止めはしませんが、悪運が強いからと過信は禁物ですよ

通常の斬撃は防具の防刃機能で軽減できますし、白斗さんが回避困難な場合は庇います
私への攻撃は手首を払い除けたり、砂をかけて目潰しするなど小賢しく妨害を
衝撃波で一瞬でも痺れたら御の字です

強固な鎧装でも中身の脆さは変わりません
接触時に衝撃波を発生させ、鎧無視攻撃で内臓にダメージを与えます
掌底、肘、拳、当て身、いずれも命中優先

白斗さんが合気で投げた際、UCで追撃
その後も懐へ踏みこめたらUCを叩きこむ


東雲・一朗

【古兵A】
真なる狂獣に成り果てたか、剣狼。
ならば我らは獣狩りの作法に則りただ討ち取るのみ…それが軍人の、戦場に長く身を置いてきた古兵の務めだ。

▷服装と武装
帝都軍人の軍服、少佐の階級章付き。

▷戦術行動
ゲンジロウ殿、パラス殿と連携し豊富な【戦闘知識】を活かした一切の隙が無い万全の【団体行動】で決着をつける。
「呪いか、確かに強くなっているが…無軌道すぎる、戦士としての質は落ちたな」
桜の霊気【オーラ防御】纏う二刀で敵の攻撃を【見切り】【武器受け】しつつ、機を見て【破魔】の力を込めた【強制改心刀】を叩き込みその身を蝕む呪いと怒りを断つ。
「もう貴殿は休んでいい、全ては終わった…もう止まっていいのだ」


パラス・アテナ
◎古兵A

誰かのために戦場を駆けて
失って失って、終いには自分自身さえ失っちまった
一歩間違えば、アンタはアタシだったかもね
せめてこれ以上アンタ自身を失わないために
アタシが引導を渡してやる
「骸の海へお還り」

引き続きアタシは援護だ
敵の動きの癖を情報収集しながら見極め援護射撃で援護
味方の攻撃を最大限活かせるよう誘導
2回攻撃にマヒ攻撃を乗せて少しでも敵の動きを止めて隙を作る

【神獄滅殺の太刀】には刀身に向けた命中重視の【一斉射撃】
敵の刃を狙って銃弾を叩き込んで軌道を変えて大きな隙を作る

アタシがとっておきを叩き込んだんだ
この隙を逃すんじゃないよ!

味方を鼓舞しながらアタシも鎧無視攻撃で鎧の隙間に銃弾を叩き込むよ


九十九・白斗
◎【古兵B】

これはもうだめだな
亀裂の入ったナイフを剣狼に投げつける

ライフルも置いてきた
ナイフもない
全身傷だらけだ

一人なら逃げるところだが、仲間がいる
もうひと踏ん張りだ

戦意と正気と寿命と免疫に攻撃されてもすべて気の持ち方
戦意と正気はもちろん、病は気から、気が萎えたときが死ぬ時だ
幸い俺らにゃ、気持ちを奮い立たせてくれる鬼軍曹がいるんでな
そういう攻撃だったら軍曹の檄で回復だ

さあ、蘭ねーちゃん行くぜ
ゆっくり剣狼にむかって歩を進める
相手の攻撃は恐ろしく速いが、素直でまっすぐだ

一撃かわして深く入り込めばこちらの間合いだ
相手の勢いを利用してぶん投げる
合気と呼ばれる技だ

投げた剣狼に蘭玲が一撃入れてくれるだろう



●呪い断つ剣
 空間歪曲に巻き込まれた刃狼の身体が、中空より放り出されて地を転がった。かろうじて膝を立て、立とうとするが、その運動機能はあと五秒は復調せぬ。ヴィクティム・ウィンターミュートが使用したユーベルコードによるスタン状態だ。
 ヴィクティムの策により、刃狼は白魔大帝を奪われた。
 少なくとも、召喚したあの愛馬が一度破壊されるか、足止めを越えて自身の元へ馳せ参じるまでは再使用は罷り成らぬ。
 値千金の五秒に目掛け、駆け寄せるのは古兵達。
 誰かのために戦場を駆けて――失って失って、終いには自分自身さえ失ってしまった。
 どこかで聞いたような話だと、パラス・アテナ(都市防衛の死神・f10709)は目を細める。
「一歩間違えば、アンタはアタシだったかもね」
 口火を切るなり、パラスは左手にした銃のマズルを跳ね上げた。先陣を切り、IGSーP221A5『アイギス』による連射を浴びせる!
 アイギスが発振器より耳障りな高音を立て、電磁波を発振。その電磁波をたっぷりと纏った銃弾が次々と刃狼に突き刺さり、ヴィクティムが設けた五秒の好機を引き延ばす。
 銃弾は一発、二発どころではない。機関銃めいた楽章を奏で、刃狼に鉛弾の嵐が降り注ぐ!
 ――せめて、これ以上、何かを失わないで。これ以上アンタが犠牲になることはないんだ。アタシがここで終わらせてやる、引導をくれてやる。
「骸の海へお帰り、剣狼。いま――橋を架けてやる!」
 パラスがアイギスをリロードするその間に、その左右から二人の壮年が飛び出す。東雲・一朗(帝都の老兵・f22513)に、ゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)だ。
「真なる狂獣に成り果てたか、剣狼。最早言葉も解さず、猛るのみとあらば――我らもまた獣狩りの作法に則り、ただ貴殿を討ち取るのみ」
 厳めしい顔の中に、一抹の寂寞を滲ませて言う一朗。悲しけれど、しかし手を緩めるつもりもなかった。それが軍人の、戦場に長く身を置いてきた古兵の務めであるからして。纏う桜気が淡く光り、今一度その両手の二刀を覆う。
「もう問答は不要じゃな。となりゃあ、全力を叩き込むのみよ。覚悟はできとるな、剣狼よ?」
 対してゲンジロウはからっとした口調で言い、一朗とは対照的な蒼炎を手のスティレット――『劫火』に纏わせる。一朗とゲンジロウは一瞬の目配せを交わし、タイミングを合わせて飛び込んだ。刃狼の身体が動くようになる、その前に!
 ゲンジロウが放つ、蒼炎纏うスティレットでの刺突が炸裂! 砕けた鎧の隙間に錐めいてねじ込めば、燃えさかる蒼炎が身体の内側と外側、両面より刃狼を焼いた。天を揺るがす痛みの咆吼。それすらも焼き焦がすように、蒼炎が燃えたぎる。
 その後ろから、一朗が操る銀の刃が閃いた。邪なる者断つ退魔の刃と、魔を打ち払う一朗の霊気が相乗し、刃狼の身体を深く裂く。
 吹き出る血が蒼炎に焼かれてじゅうじゅうと音を立てた。もんどり打って転がった刃狼が――おお、手をついてその力だけで跳ね、空中で一転、しなやかに着地する。両目の紅蓮の光は、この段に及んでなお強く、弱まることを知らぬ!
「うおおオォオォォォオぉおおおぉん!!!」
 咆吼。並のオブリビオンならば三度殺して余りあるほどの古兵の連携を受けてなお、傷を癒やし――神獣鎧装を再生し、刃狼は神獄滅殺の太刀『禍色』を振り翳した。
「呆れたタフさじゃのう。こちとら本気で打ち込んでやったっつうに」
「あの女がかけた呪法のせいもあると見える。――油断召されるな、ゲンジロウ殿。我らの全力で、彼奴を屠るのだ」
「わかっとるわい。手を抜くつもりなんざぁ毛頭ねえよ!」
 言葉を交わすゲンジロウと一朗の元へ、刃狼は一足で距離を詰める。たったの一歩で八メートル余りを無にする、正に縮地の名にふさわしい踏み込み。薙ぎ払いの一閃を、しかし両名素早く左右に退くことで回避。開く射線を、今度は二丁の銃口でパラスが睨む。
「ヤツの動きはさっきより速い! 動き自体は直線的だが、真っ直ぐ下がって避けると食いつかれるよ、曲線を意識して避けるんだ! 気張りな、アンタ達!」
 パラスが的確な分析と指示を下しつつ、銃の連射を叩き込む。神獣鎧装を再生して銃弾を防ぎつつ、刃狼はパラス目掛け遠間より剣をスイングした。
 同時、剣先から魔力が迸る。剣圧に魔力を乗せた遠隔斬撃! 衝撃波の如く剣波が唸り飛ぶ!
「当たりゃしないよ……!」
 しかしパラスは横駆けつつ跳躍、無手空中側転回避からの射撃射撃射撃射撃射撃射撃ッ!!地に踵が着くと同時にアイギス・ニケが同時ホールドオープン! 弾切れだ!
 弾切れのタイミングを計っていたのは刃狼ばかりではない。パラス目掛け吶喊しようとしたその路を遮るのは一朗!
「行かせん……!」
「るうァアアアッ!!」
 刃狼が振り下ろす神獄滅殺の太刀『禍色』を一朗が真っ向から受ける。剣と剣が弾けあい、凄まじい音を立てて火花が散る。
 剣を一合合わせただけで、一朗の身体に少なからぬ倦怠感が走る。禍色は見えざる呪力にて生命力、正気、戦意を纏めて削る魔性の刃。その効果を身で味わいつつ、しかし一朗は譲らない。
 刃狼が打ちかかる、その雷迅が如し斬閃を、受けて弾いて流して絡め、紙一重のところで凌ぎ続ける!
 ――確かに、力も、速度も凄まじいものだ。先ほどまでの剣狼よりも、今の方が出力は当然上だろう。
 しかし、一朗は一歩も退かず刃狼の一刀を捌き続ける。一朗の脳裏に蘇るのは、怒りに我を忘れながらも、決して曇ることのなかった剣狼の剛毅にして流麗たる剣技であった。
 あの剣にあった技が、今の刃狼の剣にはない。長き戦闘経験によりそれを見通し、一朗は防戦を続けているのだ。二手先までを常に読み、軌道上から身を躱し、刀を割り込ませ受け弾く……!
「――曇った剣だな、堕して戦士としての格を落としたか。それでは私たちを断つことは出来ん」
 透徹とした目で言ってのける一朗に向けて猛るような声を上げ、刃狼は荒縄めいた筋肉を腕に浮かべた。最小のバックスイングからの渾身の一閃を、風音も鋭く叩き付ける。一朗、桜気纏う二刀で真っ向それを受けるも、地面を踵で削り飛ばしながら数メートルを滑る!
 すかさずの刃狼の追撃! だが古兵らの連携に綻びなし! 流れを断ち切るように、シールドガントレットにオーラを纏わせたゲンジロウが刃狼の踏み込みを遮る!
「ちぃと通行止めでな。次はわしと遊んでもらえんか!」
 剛毅に笑ったゲンジロウがオーラ纏う左腕のガントレットで、嵐めいた刃狼の刃を防ぐ。籠手が蒸気を上げてゲンジロウの膂力を底上げし、攻撃を防ぎ続ける――
 しかし、いかに強固なガントレットとて、全力の刃狼を前に無茶を続ければ早晩破損するだろう。敵の膂力もまた並ではない!
 そんなことは分かっている。故に、
「東雲の旦那! 下がってな!」
「応!」
 すかさず飛び離れる一朗を見るまでもなく気配で確認、ゲンジロウはスティレットの代わりに蒼い結晶を手に取った。――『Bestia del sol』。
 この距離ならば最早投げ放つまでもない。大振りの斬撃を紙一重で掻い潜り――
「フッ、飛べぃ!!」
 ゲンジロウは膝のバネを使い、結晶を乗せた掌底を刃狼の胴に叩き込む――
 その瞬間。蒼炎、爆裂!!
 青き結晶の正体は、可触なまでに凝縮された蒼炎! 砕けることで解き放たれた爆炎が、高々と刃狼の身体を吹き飛ばした。
 ――その後を追うように――爆心地に荒れる爆炎を引き裂きゲンジロウは跳躍。身体は裂傷、火傷だらけ。先ほどからの戦いで受けた傷も満足に癒えておらぬ。しかし、彼は止まらない。
「どれ、剣狼よ。お前さんが死を願う強さと、わしに絡み追い縋る『怨嗟』――どっちがつえぇか、比べっこといこうじゃねぇか?」
 ――言うなり、ゲンジロウの右腕に紫苑色の溶岩が纏い付いた。『Bestia del sol』の爆炎を、ゲンジロウが纏う焔を喰い、それはゲンジロウの右腕を核として、急激に成長を果たす。
 現出するは、紫苑色の溶岩巨人――その右腕。ユーベルコード、『怨嗟の鑪』の最速限定発露! ゲンジロウは禍々しき溶岩巨腕と化した右腕を、力任せに空中の刃狼に叩き付けるッ!!
「ご、がああああアァァアアアッ?!」
 アタックされたバレーボールめいて地面に叩き付けられバウンドする刃狼。その身体には消えぬ紫の焔。転がりつつも受け身を取って復位するなり、刃狼はすかさず大刀をバックスイングし衝撃波を放とうとするが、大刀が引かれ切ったその瞬間を目掛けて無数の銃声が轟いた。パラスである。
 ――かの獣の膂力を以て加速し始めた大刀の質量を、銃弾で阻むことはいかなパラスとて困難だ。銃弾のストッピングパワーには限界がある。――だが。同時着弾させ、打撃力を稼ぎ――加速する前の刃身を叩くのならば話は別。パラスは、刃狼が刃を繰り出す直前、刃が、加速し出す前を狙ったのだ! 
 着弾、着弾着弾着弾着弾着弾!! 限界まで腰を溜めひねった所に更に、溜める向きへの衝撃。いかに刃狼とて、関節の可動域は無限ではない。バランスを崩し、よろめく!
「さぁ、お膳立ては済んだ。――アタシのとっておきを見せたんだ、この隙を逃がすんじゃないよ!」
 残弾を残らず、よろめいた刃狼目掛けて叩き込みながらパラスが吼える。
「――無論だ。この呪いも、怒りも、総てをここで終わらせる」
 答える声があった。――桜気舞い、東雲・一朗、馳せ駆ける。
 桜気が双刀に通い、熱く決然とした光となる。破魔の力満ちる二本の刀を引っ提げ、一朗はその両腕を身体を捲くように引き寄せた。交差する腕に力を溜め、風を引き裂いて駆け抜ける。
 一朗の疾る先、パラスの銃弾が刃狼の鎧の隙間を縫い、アイギスの電磁波が刃狼の動きを鈍らせた。老練たる猟兵達のコンビネーションが、刃狼の強大なる力を今まさに凌駕する。
「剣狼よ。貴殿はよく戦った。――休んでいい。全ては終わった――もう、止まっていいのだ」
 悼むような声を手向けに、一朗は真っ直ぐに刃狼の懐へ飛び込んだ。鈍った身体で振り上げる神獄滅殺の太刀を置き去りに。
 ざッ、斬!!
 凄まじい速度で放たれたのは、呪いと怒りを、形無き悪しきものを断つ斬閃。――『強制改心刀』。
「があ、ああァアァァッぐ、う、ぐううッ……?!!?」
 身体に傷など刻まれていないはずなのに、刃狼が苦悶の声を上げる。
 ――声? ――そう。それは声だった。
 咆哮ではない。かれの瞳の紅蓮が薄まる。
 正に今、聖なる桜光纏う刃に断たれ、邪悪なるフェイリアの凶呪が緩んだのだ。……それ即ち、刃狼の出力低下に他ならぬ!
 藻掻くかのように反撃に振るわれる禍色を掻い潜り、一朗は次なる戦士らに託すように刃狼の横を駆け抜ける!



●砕くは奥義
 ヒュオッ、と音がして白刃が飛んだ。クラックの入った、鈍色のコンバット・ナイフだ。刃狼を狙ったもの。
「う、るルルルう、ゥ、……がああァァァあっ!!」
 刃狼は瞳に先ほどよりも薄れた紅蓮の光を点し、竜巻めいて神獄滅殺の太刀『禍色』を振り回した。激剣の威力、健在。ナイフが弾かれて割れ砕け地に散る。
 砕ける刃を見ながらも、尻込み一つせず次なる古兵が前に出た。
「やれやれ。一人だったらケツまくってるところだが――今日は仲間がいるしな。もうひと踏ん張り――いいとこ見せてやるとしようかね」
 九十九・白斗(傭兵・f02173)だ。徒手空拳の出で立ちである。ライフルは放棄したし、ナイフは先程の戦闘で破損していた上、今投擲して完全に砕けた。全身、既に傷だらけ。この上何ができようか、と思わせるような格好でありながら、刃狼を目指し歩むその爪先に迷いはない。
 その隣を固めるように、足音がもう一つ重なる。
「あら、気負いますねぇ。止めはしませんが、悪運が強いからと過信は禁物ですよ、白斗さん」
 隣をゆくのは李・蘭玲(老巧なる狂拳・f07136)。彼女もまた徒手だ。もっとも蘭玲のそれは必要に駆られてではなく、刃狼の調伏、弔いの意味を込めての徒手であったが。
「わぁーってるよ、蘭ねーちゃん。俺ァ勝算のあること、出来ることしかしねぇさ――さぁ、行こうぜ」
「はいはい。ゲンジロウさんといい、腕白の絶えないこと」
 軽やかな応酬。ゆっくりと近づく二人の老兵に、刃狼は再三咆吼をあげ、警戒も露わに構えを取った。今し方一朗らに手ひどく傷を刻まれたばかり、その警戒は並ならぬ。
「先に参ります」
「おうさ」
 蘭玲は言うなり、歩みを早め――ど、ど、ど、と音を立てて加速。
 機械の身体、特別製の義体を持つ蘭玲は、当然ながら白斗よりも頑健だ。彼女が前衛を張るのは自然な流れ。義体の出力を全開にして刃狼目掛け一直線に突っ込む!
「――さあ、還る時間ですよ。家族の元へお逝き」
 繰り出す鋼鉄の手刀に反し、蘭玲の声は柔らかですらあった。先制攻撃の貫手を刃狼はショルダーアーマーで受け流し回避、そのまま踏み込んで肩を当てに行く。甲冑組手術。然りとて蘭玲もそれを黙って喰らうわけがない。逸らされた貫手を敵の肩に当てて、バスケットボールのフェイントめいて身体を回し、強力な体当たりを受け流しながら敵の後に回り抜ける。
 両者、背後の対手に背を向けたは一瞬。
 がッ、キィインッ!!
 刹那の後には反転し、手刀と太刀が軋り合う!
 鋼鉄製の義体と防刃機能付きの特殊メイド服が、刃狼の太刀を防ぎ止める。だがいつまでも保つとは思えない。敵の攻撃は苛烈にして峻烈、義体が機能不全を起こす前に片を付ける必要がある!
 太刀が凄まじい勢いで振り下ろされる。義体とて、渾身の振り下ろしを受ければ裂け、砕けゆくのは避け得ない。故にこそ蘭玲は刀の腹を撫でるように受け流し防戦する。「こっちも忘れて貰っちゃ困るぜ、剣狼よ」
 男の声が横合いから。白斗だ。太刀を振り下ろした所を横から飛び込み、脚を掛けて体勢を崩すと同時、傾く重心を転がすように背を圧してやる。まるで冗談のように刃狼の身体が浮き、背より地面に叩き付けられた。
「がぁッ!?」
「速いが、素直で真っ直ぐすぎるな。まだまだ青いぜ」
 すかさず追撃の踵。怪力を誇る白斗全力の右踏みおろしを、刃狼はすかさず横に転がることですれすれの回避!
 三転して柄で地面を叩き、その反動で剣狼は跳ねた。地面と平行に高速スピンしつつの牽制斬撃三閃! 魔力が衝撃波と化し剣先から迸り、白斗を狙う!
「させませんよ!」
 そこに割り込む蘭玲。鋼鉄の義体に勁を込め、掌底三打で剣波を立て続けに叩き潰す!
 蘭玲、白斗、共にまだほぼ無傷だ。蘭玲の前腕は受け太刀の影響でイエロー・コンディションというところだが、バイタルに関わるような負傷はない。
「わりぃな、蘭ねーちゃん」
「いいえ。……しかし、長期戦はよくないですね」
 返す蘭玲の声は戦況を憂慮してか、抑えめの静かなものだった。蘭玲は刃狼の攻撃を捌いた――衝撃波を消し飛ばし阻んだにも関わらず、込み上げるような倦怠感が全身を席巻していくのを感じている。
 敵の攻撃は空ぶった、不発に終わったかに見えて、その実見えぬところで確実に蘭玲と白斗の戦意を、生命力を削っていく。神獄滅殺の太刀『禍色』の恐ろしさである。
「そうかもしれん。――けどよ、気持ちが折れちゃ負けだぜ」
 ――だが、白斗はそれでも笑うのだ。
 戦意と正気と寿命、それに免疫だったか? そんなものを攻撃されたところですべて気の持ち方一つ。病は気から、気が萎えたときが死ぬ時だ、とでも言うように。
「それに、幸い俺らにゃ、気持ちを奮い立たせてくれる鬼軍曹がいる――」
 白斗の呟きを聞いたかのように、後から拡声器越しの怒鳴り声が響いた。
 このクソったれな戦場を、あの誇り高き狼を踏みにじった吸血姫の策謀を終わらせるために。


『見ろ! 同志諸君!! 剣狼はクソ女の呪いを受け、今や世界の仇となった!』
 叫ぶのはマクシミリアン・ベイカー(怒れるマックス軍曹・f01737)。数多の精兵を育てた彼の舌鋒は鋭い。兵を鼓舞することに長けている。
『――では諸君、問おう! 奴の信念は蹂躙されたか?』 前方で激戦。白斗と蘭玲が代わる代わるに刃狼と渡り合う。白斗にまたも傷が刻まれ、血が噴き出し、蘭玲の義体が動作不全を起こし始める。しかし、老兵は両者ともに退かない。――それは何故だろうか。傷つき、命を賭してなお、意地を張るように彼らが退かぬのは。
『その誇りは無に帰したか?』
 マクシミリアンは知っている。それは、この演説で言わんとしていること、そのものだ。
『剣狼の戦いは無意味だったか!?』
 ああ、刃狼が疾る。今や狂える怪物となって、哀れなる、倒すべき獣となって跳ね駆けるあの狼。
 ――その生涯は、ただ哀れむべき、陰惨なものだったろうか?
 マクシミリアンは息を大きく吸い。
 そして、一際高く叫ぶ!!

『断じて違うッ!!!!!』

 かれの剣は、確かに、フェイリア・ドレスデンに届いた。
 最期にあの女を断ったのは、まさにあの神獄滅殺の太刀であった。それを見た猟兵もいただろう、マクシミリアンもまたその一人だ。
 マクシミリアンは左手にした拡声器に力の限り声を吹き込みながら、真っ直ぐに右手を前に突き出す。指し示すは二人の古兵、蘭玲と白斗。
 死神の舞踏めいた激戦を繰り広げる三者を示して、マクシミリアンはまくし立てるように続けた。
『奴は己の誇りを賭け、その精神を剣とし盾として、最期に己が使命を全うした! 代償は確かに大きかったが、宿願を果たしたのだ! その誇りに応えんとする老兵を見ろ! 彼らは正しく理解している。誇り高い戦士であった剣狼を讃える術は、もはや戦にしかないと! せめて奴を、この誇りの陣中で死なせてやれと!』
 マクシミリアンは拳を握りしめる。
 周囲の猟兵は、度重なる戦闘で傷つき、中にはもう戦えぬと思われる負傷のものもいた。
 これは、膝を折りかけたそんな彼らのための勇壮なる演説だ。――ユーベルコード、『進め正義の旗掲げ』!
「もう立てぬ、そう思わばこの声を聞け! 傷ついてなお武器を取る諸兄姉よ、どうかあと少しだけ戦ってくれ! ――この闇の中に我らありと。この闇の世界にも、我らという光が射すのだと見せてくれよう! 『貴様の守ろうとした世界は、貴様を討ち倒すこの力を以て我らが救う』と――剣狼に示してやれ!」
 おおっ――!
 大演説を聞いた猟兵らが鬨の声を上げる。マクシミリアンの演説に共感した猟兵らの負傷が癒えていく。今一度、戦うための力が湧き上がる!
 マクシミリアンは、友が戦う前線――太刀廻り続ける剣狼を見据える。
 もう、貴様がかつて這いずったような暗澹たる統治を、貴様の代わりに我らが赦さぬ。この世界に、きっと光をもたらすと。
(そうして安心できねば、眠れもするまい)
 マクシミリアンは前線を見守る。
 自分の仕事はここまでだ。――後は、最期まで見守るのみ。


「へヘッ、いい声だぜ」
 マクシミリアンの演説が、蘭玲と白斗にも染みた。二人の傷もまた癒え、動きに鋭さが戻る。
 しかし、この回復とて無尽蔵ではない。打って出なければ千日手だ。
 傷が癒え、義肢の機能不全が改善した蘭玲が白斗に目配せ一つ! 白斗はアイコンタクトを取ってにやりと唇を吊り上げる。
 意思疎通は一瞬。蘭玲がまず爆ぜるように踏み込んだ。振り下ろされる禍色を左手を盾に受ける!! 受け流すのではない、真っ向から受け止めた! 刃が半ばまで食い込み、スパークと火花を散らす。今までと違う受け方に、刃狼の動きが止まる!
「はあァっ!!」
 蘭玲は震脚。地が歪んだかと思われるほどの大音での踏み込みと同時に、残った右手で寸勁を叩き込む!
「ご、オ、ッ……」
 浸透勁。衝撃波は鎧を伝い、その内部に浸透して内臓を揺らす! 派手に口から血を吐きよろめく刃狼目掛け、滑るように踏み込むは白斗!
 刃狼も応じて刃を繰り出すがしかし、打撃が後を引き精彩を欠く! 
 そして鈍い斬撃の隙を、白斗は見逃さずに食らいついた。
 刃をくぐり抜け、深く間合いに侵徹する。掴みの間合い。この距離に到っては長物など無意味、刃すら当てられぬ至近距離。刃狼が振るった刃の勢いを殺すことなく活かし、相手の勢いを利用して投げる。
 敵の気と己が気を合わせて放る。故に、『合気』。
 しかし此度はそれだけにあらず!
「い、っくぜぇ、蘭ねーちゃん……!!!」
 投げ飛ばす筈だったところを、手を離さず、踵を軸にもう一転! 刃狼の身体を、勢いを増幅し振り回す!
 そこへ、狙っていたかのように蘭玲が走った。
 白斗の投げだけでは、威力が足りぬ。蘭玲の靠撃だけでは、そもそも当たらぬ。
 故の合わせ技。白斗は刃狼を蘭玲目掛け叩き付けるようにスイング――
 同時に、蘭玲の脚部に仕込まれた装薬加速式シリンダーが炸裂! 踵より発露する爆圧により蘭玲の身体は急加速! 
 おお、刮目せよ! 最新技術と極致に至った八極拳が重なり生まれるその一撃こそ――


     絶
     招

  破
  山
  波
  割
  靠


 超加速した蘭玲による肩を使った靠撃と、白斗の合気術がぴたりと重なり、まるで高くから砂袋を落としたような――重く肉を打つ音が地を揺るがした。鎧の破片が飛び散り、殆ど水平に刃狼が吹き飛ぶ。
 絶招とは、此、即ち絶命に至る妙技也。壮烈たる一撃の前に、その瞳から光すら失せた。刃狼は全身を拉がせ、足と手があらぬ方向を向いた状態で瓦礫に突っ込み、沈黙する……!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェルト・フィルファーデン

……せめて、安らかに逝かせてあげたかったのだけれどね。

まずは暴れ馬を大人しくさせましょうか。
【空中戦】を仕掛け、UCと【フェイント】によって攻撃を躱しつつ壁の近くまで誘導するの。
そして壁を背にして劣勢を【演じ】つつ、【挑発】するわ。「そんな傀儡と化したアナタの振るう刃でわたしが殺せるとでも?」ってね。
……言葉は届かないかもしれない。でも、何の意味もないとは思わないわ。

上手く突撃してきたらギリギリで躱し壁に馬を激突させましょう。最低でも体制は崩せるはず。
その隙に、魔女の騎士人形で【破魔】の力を矢に与え、その矢で眼を狙い撃つ!【スナイパー】

まだ諦めない。僅かな魔を祓う力だけど、正気に戻って……!



●嚆矢
「……せめて、安らかに逝かせてあげたかったのだけれどね」
 フェルト・フィルファーデン(糸遣いの煌燿戦姫・f01031)は、未だその可能性を棄てきれずにいた。
 もう、剣狼の中から正気は総て失せてしまったのだろうか。あの狂気を拭う方法はないのか。
 人々を護るために戦った、その在り方はまさしく騎士のもの。亡国の姫は、密やかに思う。これを他の猟兵に強いることは出来なけれど――叶うのならばもう一度、正気に返って、せめて総てを果たしたと、満足の中逝って欲しい。
 フェルトは、三体の人形を喚ぶ。
 そのまま、金の鱗粉めいた魔力光を軌跡に残し、空を舞った。――いまはただ一騎、ナンバーエイト――狼の絡繰人形を伴って。

「さあ、掛かってらっしゃい。わたしに臆するような器でもないでしょう。その剣が飾りでないのなら、力を示してみせるがいいわ!」
 フェルトは声高く、挑発するように叫んだ。
 刃狼、傷を再生しつつ瓦礫から跳ね起き、天を裂くがごとき遠吠え。呼ばれたように白き雷が真っ直ぐに駆け馳せた。『白魔大帝』。
 ひらりと騎乗した刃狼が、鐙に足を載せ脇腹を蹴る。同時に、エンジンの始動したレーシングカーめいて白魔大帝が地を蹴り飛ばした。……凄まじい速度!
 フェルトは即座に身を翻して飛び、狼の絡繰人形を繰った。供行きをこの一体に絞ったのは、より精密に、より素早く、より即応性を高めて妨害を行わせるためだ。
 狼を打ち掛からせる。爪で白魔大帝の前肢付け根、脇腹を狙わせる。攻撃命中、血が散るが、白魔大帝はその程度ではびくともしない。馬上の刃狼が刃振り、魔力の衝撃波を放って狼を狙うが、一瞬だけフェルトが速い。手首を返せばその動きを感じ取り、狼はバックフリップを打って四肢を曲げてしなやかに着地、再び弾丸めいて併走、機を見て白魔大帝へ食らいつく!
「傀儡と化したアナタの振るう刃で、このわたしを、わたしの騎士を殺せるとでも? 安く見られたものね!」
 高飛車な響きを意識しての挑発。滴るような悪意を滲ませて言ってやる。
 ――言葉は届かないかも知れない。しかし、響きは、そこに滲む感情は、獣とて端で嗅ぎ分けるものだ。
「がぁアッ!!」
 果たして、刃狼は噛みつくような声を上げ、神獄滅殺の太刀を前を飛ぶフェルト目掛けて振るった。衝撃波が唸り、フェルトを狙う。
「ッ――!!」
 凄まじき暴威。一般の猟兵でさえ余波で傷つくような太刀風を前に、ましてフェアリーの小さな身体では!
 直撃ではない。近くを掠めた衝撃波の、その余波だけで翅の一枚がざくりと裂けて、右腕がまるで楊枝のようにへし折れる。フェルトは宙をきりもみに吹き飛んだが、しかし、痛みを噛み殺した。歯を食いしばる。急激に方向転換。狼を嗾ける。狼が、捨て身で隙を作る。その隙に、高速演算。光屈折率の操作。

 ――ああ、わたしは、まだ諦めたくない。諦めない。

 捨て身めいて飛び込んだ狼は、今度こそ一蹴された。一刀両断にされ、〇と一に還元され、データの渦に還る。暫くは操作できない。――構わない。フェルトは欠けた翅で、懸命に飛んだ。真っ直ぐに。
 それを追う。白魔大帝が、刃狼が。距離は加速度的に縮み――最早衝撃波でなくとも、その神獄滅殺の太刀が、直接に彼女を捉えるかに思われた瞬間。

 突如、白魔大帝の鼻先が潰れ。
 景色がぐしゃりと砕けた。飛び散る瓦礫。

「――?!!?」
 驚愕に竿立ちとなる白魔大帝。馬上にてバランスを失う刃狼。景色にノイズが走り――積み石の塔めいた、崩れ掛けの建造物が姿を現す!
 ごく初歩的な視覚欺瞞。フェルトはこの夜闇に、ゴシック様式のフォリーを溶け込ませたのだ。設けられた窓を擦り抜けて彼女は飛び抜けたが、刃狼らがそう出来るわけもない! まともに正面から激突したのだ!

 そしてその隙を、彼女の騎士団、そのナンバーファイブ・シックスの連名が狙う。
 六番が破魔の力を矢に与え、五番がそれを番える。
 初めに三体、人形を喚んだ時に――描かれていたパズルが完成する。

「――どうか、正気に戻って……剣狼様!」

 光の矢が放たれ、煌めきが疾る。
 光は刃狼の左目を、ああ、まさに、フェルトが思い描いた通りに貫いた。
 目が潰れ、壮絶な苦鳴に落馬の音が重なった。
 紅蓮の光が一つ消えるも、――ああ、それだけでは狂狼は止まらぬ!



 ――そう。まだ。
『それだけ』では。

成功 🔵​🔵​🔴​

紅呉・月都

言葉が通じるかどうかは関係ねえ
あいつが護るために振るった刃を傷付ける刃にしたくねえんだ
あの女の思い通りにさせてたまるか

剣狼…お前、今更寝惚けてんじゃねえぞ
何のためにその姿になってまでここに来たんだ!
最期まで自分の意思を貫いてみやがれ!

【気絶・マヒ攻撃】で【傷口を抉り、鎧無視攻撃】
太刀、白馬、鎧は【武器落とし・部位破壊・鎧砕き】で攻撃
【戦闘知識・野生の勘】で敵の攻撃を【見切り】回避
地面が割れても【地形を利用】して戦闘を続行
戦意、正気を失えど、心の奥底にある本能に従い護るための刃を振るう

お前のその剣は人を傷付けるためのもんじゃねえだろうが!
哀しみを穿つ牙じゃなく、村の奴らの希望の牙のまま逝け!!



●執念の血刃
 ――もう、言葉が通じるかどうかなど、関係なかった。
 言わなければならないと思った。あの女の思う通りにさせてはならないと。
 だって、そんなのは悲しすぎる。救うために掴み、護るために振るった刃を、傷つけるためのものに変えられて――そのまま終わりなんて、あんまりだ。
 これは、エゴかも知れない。
 いや、きっとエゴだろう。猟兵としての使命を最優先するのなら、刃狼はただの敵性オブリビオン。斬り、倒して、それで仕舞いのはず。
 ――でも、そうはできない。したくない。
「なあ、聞けよ、剣狼。お前、今更寝惚けてんじゃねえぞ。何のために――何のために、骸の海に沈んでまで、この世全てを敵に回してまでここに来たんだ。確かにもう、あの女は死んだ。けど、お前がそのままじゃあの女の思う壷じゃねえか。――あと少しだろ。あと少しじゃねえか!!」
 痛切に訴えるのは、紅呉・月都(銀藍の紅牙・f02995)。
 鋼色の目が刃狼を見る。未だ刃狼の目には緋色の狂気。左目の光はやや薄れているものの、未だフェイリアの術式はかれを縛り続けている。
「あの女と戦った時の気持ちを思い出せよ。最期まで――自分の意志を貫いてみやがれッ!!」
「が、あぅ、ううルルルルッ……ッ!!」
 獰猛に唸る刃狼には、届かないのか。
 刃狼は神獄滅殺の太刀『禍色』を再三構え、獣めいた速度で月都目掛けて襲いかかる。地面を爆ぜさせての超高速前進。
 瞬く間に詰まる距離を、己からも詰めるように月都は踏み出す。その刀、『紅華焔』に朱が纏い付いた。月都がこの戦闘を通じて流した血が、傷の痛みが、刃に纏い付いてその長さを一回り増す! ユーベルコード、『奮迅する諸破の紅牙』!
 激戦が始まる。剣戟は苛烈、両者一歩も譲らぬ。
「おおおおぉぉッ!!」
「があァァァアッ!!」
 乱打戦だ。互いに互いの斬撃が引っ切り無しに食い込む。月都に禍色の斬撃が決まれば、彼は噴き出す血を刃に集中させ、破壊力を増した紅華焔で刃狼の身を引き裂く。
「諦めてんじゃねぇ……!! 俺はお前がそのまま逝くなんて、認めねぇ!! お前は血を吐くほど戦って、戦って――自分の正義のために、村の奴らのために戦い抜いたじゃねぇか! それがあの女の魔術に掛かって狂ったまま死ぬなんて、俺は絶対に認めねぇッ!!!」
 傷は浅からぬ。最早月都も倒れる寸前であった。流れる血の全てを、ここまでにたまった疲労の全てを、身を今も苛む激痛の粋を。
 全て集めた刃は、月都が死に瀕するほどに鋭さを増していく……!
 刃狼が振るう太刀が、目に見えぬ月都の正気を、生命力を、戦意を削れども――吼え猛る月都の心の焔を、完全に消すことなど出来はしない!
「があァアッ!!」
 刃狼は吼えながら峻烈たる上段打ち下ろし。唐竹割り、一刀両断の一撃を、月都は刀で受け流しながら右前に跳ねる。生命力と出血の限界。視界はどんどん暗くなり、音が遠くなる。ブラックアウトの前兆。
 月都は歯を食いしばり、全てを紅華焔の剣先に込めた。最早刃狼の太刀筋さえ視えぬ。身体に染みついた動きが、迫る殺意に反応して応撃し、火花を散らし持ち堪えるのみ。
「お前の……その剣は、人を傷つけるためのもんじゃねえはずだろうが!! 救う為に立ち上がったお前の刃を、これ以上誰かの血で染めるな!!」
 一際強く禍色を弾いた瞬間、月都は残る体力の全てを振り絞った。
 これを放てば、もう立っていることもままならないだろう。
 それで構わない。そのまま倒れ臥しても良い――
「――剣狼ッ、お前は!! 哀しみを穿つ牙じゃなく――、村の奴らの希望の牙のまま逝けッ――!!」

 だから、この声よ、どうか届いてくれ。
 狂気の淵に沈んで喘ぐ、剣狼のその心まで……!!

 月都は、振り上げた刃を真っ直ぐに振り下ろした。
 ここまで紅華焔に纏わせた全ての血液が、痛苦が、ただ一条の、十メートル級の血閃として伸びた。それは刀一本で受け止められる質量ではなく――
「が、アアアアアアアアアアアアアッ!!!」
 ――受け太刀に回った刃狼は、受けきれずに刃を身に受け、その撃力、質量に押され後方へ吹き飛んだ。



 ――紅蓮の瞳が明滅している。
 まるで何かを訴えるように。

成功 🔵​🔵​🔴​

アウレリア・ウィスタリア

魔銃の弾丸は尽きた
ボク自身もダメージが大きい
だけど……

全身から流れる出る血糸で網を
いえ、蜘蛛の巣のように張り巡らし
剣狼……刃狼を捕らえる
それは脆くすぐに破られるでしょう
でもそれで良い
むしろボクの鞭剣で糸ごと刃狼を切り裂く
血の印と剣撃を叩き込む

あとは向かってくる刃狼に自分を囮に迎え撃つ
全力のオーラと血糸を編み込んだ壁で受け止めて
その瞬間にソード・グレイプニルの枷を放つ
吹き飛ばされたって構わない
ずたぼろになったって構わない

【貪り喰らうもの】
刃狼、アナタの狂気を
この一時でも喰らい封じ込めます

ボクにできるのはここまで
あとは皆と剣狼、アナタの誇りを信じましょう

さぁ、幕引きを……

アドリブ歓迎



●アナタがアナタで終われるように
 最早魔銃の銃弾は尽き、彼女の身体も限界に程近い。
 それでも、アウレリア・ウィスタリア(憂愛ラピス・ラズリ・f00068)はその手に鞭剣『ソード・グレイプニル』を執る。
 全身から未だ止めどなく流れる血。このまま放っておけば命も危うかろう。しかし、今はこの血でなくば成せないことをしたかった。
 血を失い、冷え切っていく身体を推して、アウレリアは地を蹴り駆けだした。狙うは刃狼。
 応じて身構える刃狼が踏み込んでくる前に、アウレリアは全身より溢れる血に魔力を伝え、無数の血糸――『レージング』を紡ぎ上げる。
「行け」
 通わせた魔力でそれを操る。一斉に放つ血糸の数はそれこそ一瞬にして千をくだらない! 蜘蛛の巣めいて張り巡らされ、瞬く間に刃狼を全方位から包囲、絡め取り捉える!
「ガアァアッ!!」
 しかし刃狼を、強靱とは言え細い血糸で即席に編み上げた程度の網で捕らえておけるはずもない。肉に糸を喰い込ませつつも、刃狼は網を引きちぎりながら即座に離脱に掛かる。
(ひとつ)
 それを、アウレリアも座して見ているわけではない。既に次の攻撃に出ている。脱出に躍起になる刃狼目掛け、ソード・グレイプニルの刃を伸ばした。狙い過たず刃狼に直撃し、ぎゃららららっ! と波打つソード・グレイプニルの刃が刃狼の身体を、今し方絡め取った糸諸共に引き裂く!!
「がッ……グウうルルッ……!」
(ふたつ)
 アウレリアは命中を確認。心の中でカウントを進め、ソード・グレイプニルを引き戻しながら、刃狼と真っ向向かい合った。最早刃狼の目は完全にアウレリアだけを見ている。獣が己を断たんとする脅威を狩り殺そうとするのは、当然のことだ。
 刃狼が地面を蹴った。凄まじい速度だ。最早目視することすら困難。しかし、苦手な近接格闘に突入する段になっても、アウレリアの表情は凪いだまま崩れぬ。
 自分に出来ることは、すべきことは、ただ一つきり。
 刃狼が突撃してくる。その刃が少女に襲いかかるまさにその時、アウレリアは腕を一閃した。血糸を伸ばして緻密に編み張り、そこにオーラを通わすことで、壁を作り出す。熾烈な斬撃が壁と軋り――ああ、砕く!
 壁を砕いて突き抜けた刃がアウレリアの腹を深く抉る。だが、血を吐きながらもアウレリアは剣持つ右腕を振るった。――翻るは、ソード・グレイプニルに設えられた『枷』。
(――みっつ)
 が、きっん!!
 歯車がかみ合うような音がした気がした。
 血によるマーキング、血に染まる刀身による斬撃、そして呪いの枷での捕縛。この三点を果たすことで成立する儀式魔術――此れなるは、邪を断ち喰らう奇跡の呪い――あるいは、その剣の名前そのもの!!

    ソード・グレイプニル
 ――『貪 り 喰 う もの』――!

「その狂気を。……この一時でも、喰らい、封じ込めます」
「が、うがあアアあああアアアッ?! っぐ、ううっ、!」
 刃狼は思わず太刀すら取り落とし頭を抱えた。苛むは割れるような頭痛か。その瞳から紅蓮の狂気が、薄れて消えていく。
 ここに到るまで、幾人もの猟兵が――戦うだけでなく、かれの狂気を濯ごうとした。それに加えて、刃狼の狂気を、あの悪辣たる魔女の術式を断つために特化した攻撃を放ったアウレリアがいてこその効果。決して消えぬ、濯げぬかに見えた狂気の術式が、今や綻びつつある。
(……完全には消せない。けど、ボクに出来るのはここまでですね)
 いまだ、刃狼の瞳には緋色の光が残っている。しかし闇に曳光するような紅蓮は最早無い。確かに、あの女の支配は弱まりつつあるのだ。
 アウレリアは飛び退き、苦悶の声を上げる刃狼に語りかけるように呟いた。
「後は皆と――剣狼、アナタの誇りを信じましょう。――さあ、幕引きを。カーテンコールです」
 アウレリアは歌うように言って、次なる猟兵に攻撃を託す。
 それを送るように少女は歌い上げる――
 かつて居た勇士への、とむらいのうたを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
◎ロクと

(元から倒すのは折込済み。
こうなる事は必然だ。)

(が。)

"僕"は
ああいうのが嫌いだ。
(悪辣極まりない女吸血鬼の手管でこうなったなら)

何一つ
奴の思い通りにはさせてやらない。

(多くと戦い、体力が無くなり動きが鈍る頃を見計らう。友の手も借り誘導し)

"Undo".
(空間内に拿捕。
「呪い」のみを限定的に遡及し「呪われる前」に回帰。
またいつ呪いが降りかかるか解らないが、その前に)

――"騎士として"手合を望む。
受けるか、否か。

(アレの狙い通り
狂った剣士としての死などさせない。)
(責めて矜恃と共に剣を持つモノとしての最期を彼に。)

黒と赤の獣が此度の相手だ。
白馬駆る狼騎士よ。いざ尋常に。
(ザザッ)


ロク・ザイオン

ジャックと

(最早戻れぬ、狂い果てた「病」なら。
今すぐに。灼いて、土に還すべきだ。
……だけれど。)

……わかるよ。
ジャックがしたいこと。
おれもまだちょっと怒ってる。
だから。

(走り、跳ね、翻弄する
薙ぎ払い抉り鎧を穿つ
なんだっていい。全てを賭して
ジャックが動く隙を抉じ開けろ!!)

――おれたちは、まだ、
「人間」を、あきらめていない!!!

(「啀呵」よ遍く届け
哀しい男にも、病(のろい)に打ち克つ力を
キミは最期まで人間だったと、
せめてこの地に刻ませてくれ)

いざ。じんじょう、に。
勝負!!!



●騎士達に泪は要らない
 確かに、倒さねばならぬとグリモア猟兵は言った。
 剣狼もまたオブリビオンであり、殺すべき過去なのだと。それを承知で集まったのだ。剣を交えるのは必定だったろう。
 ――だが、
『“僕”は、ああいうのが嫌いだ』
 外れかけるロールプレイ。ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)は、多くの猟兵と刃を交え、それでもなお雄々しく応戦する刃狼の姿を真っ直ぐに見る。
『彼は、操られているに等しい。あの悪辣の女吸血鬼に。理性を無くし、暴れ狂うのは、彼の意志ではない』
「ああ」
 隣で、森番が頷いた。ロク・ザイオン(未明の灯・f01377)だ。
 ジャガーノートが言葉を続ける気配を察してか、彼女はただ頷いて先を促した。
 ジャガーノートは、刃狼から視線を外し、ロクに目を向ける。バイザーの中に、赤い光が点る。
『だとするなら、本機の考えは一つだ。――何一つとして、奴の思い通りには、させてやらない』
「うん。――分かるよ。ジャックがしたいこと。おれもまだ、ちょっと怒ってる。だから」
 す、とロクは左手の拳を軽くジャックの前に上げてみせた。

 ・・・・・・
「やってやろう、ジャック。おれたちで」

 ジャックは応じるように右拳を、頼もしき相棒のちいさな拳に当てて、ざ、と前を向き直った。
「――ああ。作戦目標を拡張する。行こう、ロク」
 対象の魔力スペクトルのスキャン。術式強度の低下を確認。ここまで、多数の猟兵が刃狼自体の力を削り、あるいはあの術式を破壊しようとしたが故の状況。
 これならば、充分に可能性はある。
「ごおオアアアアアアゥうううぅっ!!」
 刃狼が吼える。
 咆吼を恐れることなく、森番とアヴァターは全速で踏み込む!


 先行するのはロク。両手に火炎の山刀と剣鉈を引き抜き、翼めいて広げた両腕に焔を捲いて駆け抜ける。
 ジャックの援護は今は期待できない。彼にはすべきことがあるからだ。――故にひととき、この強大なるオブリビオンを、彼女は単身で相手取らねばならぬ。
 ――ああ、でも、少しも怖くない。後に友が居る。共と、目的を同じくして戦う。そのためならば、ほんの僅かの可能性にかけて、自分の命をダイス代わりに未来に投げ込むことすら恐れない!
「ッアアアアあああアアァアァア!!」
 鑢を掛けたようなざらざらの声で、ロク・ザイオンは吼えた。その咆吼は刃狼の吼え声を凌駕するほど。剣鉈と山刀が白熱するほどに燃える!
 刃狼もまた姿勢も低く高速に駆け、
 が、が、がががが、がキィイインッ!!
 文字の通りに両腕の焔が踊った。凄まじい速度での乱撃に型など無い。刃狼の剣技は精強にして峻烈であったが、勢い任せに襲いかかるロクの剣勢は、ひとときその熟達の剣技をも凌駕する!
 ――最早戻れぬ、狂い果てた『病』だとするのなら、それは今すぐに灼いて土に還すべきだ。
 けれど、そうでないのなら。
 誰かが、諦めずに戦い、あの紅蓮の病を打ち壊そうとしたのなら。
 そこに、可能性が僅かでもあるのなら。
 ――ジャガーノート・ジャックが、あの女の思惑を崩すカードを持つのなら!
(おれの役目は、ただひとつだ。なんだっていい――全てを賭して、ジャックが動く隙を抉じ開ける!)
 神獄滅殺の太刀による連続斬撃をロクは屈んで回避、髪の一房を持って行かれながらも、屈みついでに敵の脚を斬り、即座に追撃を跳び避ける。一瞬前まで居た位置に天雷の如き打ち下ろし。紙一重で回避。追い縋るような薙ぎ払いに、身体を一転させて勢いを稼ぎ、二刀揃えての打ち込みで応じる! プレス機めいた大音がして、三本の刃が弾け合う! 刃狼が踵で地面を削りながら半歩後退、ロクは小さな身体を空中で回しひねって着地!
 着地で撓めた膝が、そのまま飛び込みの予備動作だ。跳ね、駆け、跳び、打ち、突き、薙ぎ、――灼く!
「っがあぐ、ううううるるるるるウォオオオオオ!!」
 刃狼は焦れたような叫びと共に強く剣鉈を弾き返した。ロクの攻撃に傷ついた神獣鎧装が一瞬にして再生。
 蹈鞴を踏んだロク目掛けて踏み込み放つは、神獄滅殺の太刀によるラッシュめいた連撃。
 ロクは二刀にてそれを受ける、受ける受ける受けるッ!! 身体から力が失せる、戦意の灯が消えていく、おそらくは今この瞬間、命さえもが削られていく。神獄滅殺の太刀『禍色』の持つ見えざる刃が、生気を、正気を、戦意をまるでグラインダーに掛けたように削り飛ばしていく。
 萎えかける腕の力を刃狼が見逃さず、一際速くの三連撃。走った刃を受けきれず、ロクの肩から、脇腹から、血が飛沫く。
 血に塗れながら、しかし――ロクは絶対に折れぬ意志と共に叫んだ。
「――おれたちは、まだ!! 『人間』を、あきらめていない!!!」
 明日を求める如く、ロクは吼えた。
 ――それは、『啀呵』。彼女のユーベルコード。
 支配され、反逆し、その涯てにまたも支配され、今まさに終わろうとしているかれに――あの哀しい男にも、病(のろい)に打ち克つ力をと、ロクは願う。
 ――キミは最期まで人間だったと。
 せめて、この地に刻ませて欲しい。
 叫びながらに、ロクは飛び退く。真っ直ぐな後退。突進の餌食になりたがっているようなもの。
 刃狼は果たして、狂気に推されるままにロク目掛け真っ直ぐに突撃した。
 ロクを眼前に捕らえ、最後の一歩を踏んだ瞬間――

『よくやってくれた、ロク』

 刃狼を、ワイヤーフレームめいた立方体が包み込んだ。


 プログラム“Undo”、起動。
 限定時間流遡上プログラム。ジャガーノートはかつて、それを消えない傷跡を負った少女達の傷を、『負う前に戻す』ことで治療するために用いた事がある。
 今回も文脈としては同じだ。
 あの刃狼の『呪い』を、『受ける前』に巻き戻す。それが彼の取った策だった。
『Undo』にも制約はある。取り返しの付かないものは巻き戻せない。例えば、死したる命を呼び戻すことは出来ない。そして、死に準じる回避不能な強制力を巻き戻すことも困難だ。恐らく、フェイリアの全魔力を込めた狂化の術式も、何の工夫も無しには巻き戻せなかったろう。
 ――だが、ここには。
『不屈の精神』を『贈り』、『悪縁を断つ』ルーンを込めた銃弾を撃ち込んだガンスリンガーがいた。
 対洗脳術式弾を放ち、その狂気を削ろうとした猟兵がいた。
 紅蓮の瞳を射貫き、狂気を浄化せんとした妖精がいた。
 最後まで剣狼を呼び続け、心揺さぶるように吼えて雄々しく打ち合った少年がいた。
 その『狂気』に枷を填め、浄化しようとしたオラトリオがいた。
 刃狼にダメージを与え、かれが正しく逝けるように、ここで弔うため力を尽くして戦ったたくさんの猟兵達がいた――
 そして。
 今、高潔なる剣狼を鼓舞する叫びを上げた、彼の友がいた。

『Drive.』

 ジャガーノートはプログラムを全開で走らせる。立方体に閉じ込められた刃狼が左右を見回し、逆回しの声で叫びながら暴れる。神獄滅殺の太刀が壁を打つたびに蒼白いフラッシュとノイズが走り、プログラムに綻びが出る。それをジャガーノートは計算リソースのほぼ全てを使用し抑え込む。障壁強度上昇。目標時間座軸固定。存在証明開始。オーバーヒートしかける脳を紙一重で繋ぐ。――ロクの叫びが、彼の背中を押す!
『終わりだ。フェイリア・ドレスデン。……本機は、貴様を否定する!!』
 一喝! 過去へ向け加速する時間流が、刃狼に一体化するほどに染みついた呪いを――おお、今まさに遊離させ――深紅の霧で出来た女の影のようなものが、叫びと共に刃狼から遊離する――!


 ワイヤーフレームの立方体が、ガラスめいて砕けた。
 そして、静寂。


「……、」
 刃狼は、あせた血の色をした目で、手許を見下ろした。呪いの痕のように、変じた彼の目の色だけは戻らなかった。
 視線を上げる。黒き機械仕掛けの豹と、赫き山猫が、かれを見つめている。
「――貴公らは」
 声が出る。
 動くことが出来る。
 いつまた、あの呪いが再来するかも分からないが。今は。
『言葉は無用だ。本機らは、したいと思ったことをした』
「ああ。……それに、おれたちは、これからお前を灼かないといけない」
 空色の目をほんの少しだけ歪める山猫――少女。
 ああ、悼んでくれるのか。この不徳の身を。愚かに戦い、獣に堕したままに死のうとしていた自分を。
 黒の獣が、雑音混じりの声で言う。
『――狼騎士よ。本機らは、貴騎と、"騎士として"手合を望む。受けるか、否か』
「――!」
 剣狼は、込み上げるものを抑えるように牙を噛んだ。
 骸の海より浮かび上がった、世界の敵となったこの身を、まだ騎士と呼んでくれるのか。

 ――ああ。
 否などあろうはずもない。

 狂った剣士として死せず。
 矜恃を乗せて剣を持つ、義のための刃として死ねるのならば。
「受けよう、――いと強き異界の騎士よ。これよりこの神獄滅殺の太刀の粋、貴殿らにお見せ奉る」
 涙はいらない。誇りを抱いて戦おう。あの狂気を忘れていられる間、ずっと。
 構えを取った剣狼に、黒と赤の獣が応じて構えた。

『いざ』「じんじょう、」「に――」

 音は同時。三箇所の地が爆ぜる。
 白と、黒と、赤。三つの色彩が夜闇に閃き、

「『「勝負ッッッ!!!!」』」

 騎士を葬送る為の戦いが、幕を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立

勝手に突っ込んでったバカと共闘した覚えはありません。
同情の余地もない。予定通り殺す。

《闇に紛れ》やすくて《だまし討ち》も容易です。
【紙技・速総】
投擲した式紙と自分の場所を入れ替える。
飛び道具による不意討ち、かと思ったらすぐ傍にいるって絵図です。
この奇襲で、一つ二つ言ってやる時間は稼げるでしょうか。

「“誰にも”怨まれていない」
「“皆にとっての”光だった」
…と。
通じるかどうか、信じられるかどうかは知りませんけど。
それじゃ、言うことは言いましたので。
死ね。

…共闘はしていませんが、借りはあります。
これは色をつけて返すべきものだと、そう判断したまでのこと。
“誰にも怨まれてない”。

ウソですよ。


ルイーネ・フェアドラク
最後には剣狼も倒さねばならないと、知ってはいたけれど
それは彼を彼のまま、還すつもりで
あの女、余計なことをしてくれる

聞こえていますか
見えていますか
あなたの怨敵がついに滅びたことを
終止符が打たれたことを
届けばよいと願いながら、戦いましょう

とはいえ、これ以上血を使えば死ぬのはこちらかな
意識を失わないでいるのが奇跡のようだ
全身はつめたく、目眩は抑えようがない
支援に留め、ーーあとは、頼みます
弾丸にすべてを込めて



●化かす優しい嘘一つ
「ああ――佳かった」
 ルイーネ・フェアドラク(糺の獣・f01038)は、剣狼が、本来の理性を保ったままに戦駆けるのを見ながら呟いた。あの女――フェイリア・ドレスデンが仕掛けた悪辣の呪法は今やここにはなく、そこにいるのは高潔たる武人としての剣狼だけだ。
 確かに、グリモア猟兵から受けたオーダーは剣狼を滅ぼすことだった。しかし、それはあくまでかれを、かれのまま骸の海へ帰すことだとルイーネは思っている。――だからそれを為した猟兵に、密やかに感謝の念を抱く。
 遠く、前衛の猟兵と打ち合う剣狼の姿を見つめながら、ルイーネは眩しそうに目を細めて呟いた。
「――剣狼。あなたの怨敵は、あなたの剣がついに断ち切った。あなたは、成し遂げたんですよ」
 長き戦いにもついには終止符が打たれ、後は帰参の時が待つ。騎士として全力で太刀振る舞い、最後の一瞬まで武人たらんとする彼目掛け、ルイーネもまた踏み出す。血が足りず、ぐらりとよろめき、紙一重で踏みとどまる。血を使いすぎたか。使った血の量からしてみれば、いつブラックアウトしてもおかしくない。ぐらぐらと揺れる視界に、刻印を使うのは諦める。
 狭まる視界は止めようがない。揺れる視界の一中央に剣狼を捉え、ルイーネは愛銃『GB-10』を引き抜いた。シングルアクション式、細かなエングレーヴィングが施された、銀の美しき銃。優美な外見からは想像も出来ぬ威力の重力弾を吐き出す、彼の牙。
 ルイーネは、押し寄せる目眩と吐き気を押しのけるように駆けだした。あと僅かだけ動いてくれ――彼を葬送る、ただその時まで。


 ――そのルイーネの横を、凄まじい勢いで飛び駆ける影が一つ。
 恐ろしい速度だ。疾るは影そのもの、かそけき月光が空から照っても、その『影』の影が地に映らぬかに錯覚するほどの速さ。
「むッ……!」
 そのあまりの速さに剣狼、バックステップから構えを改めて警戒。
「――勝手に突っ込んでったバカと共闘した覚えはありません。同情の余地もない。予定通り、殺す」
 影は酷薄な刃のような声で言い、腕を鞭のように撓らせて何かを投擲した。
 ――月下、光を照り返し閃くは千代紙の手裏剣。『式紙』。剣狼が鋭い呼気ひとつ、刃を振るって弾き散らした瞬間、影が消えた。
「なんと?!」
 影がいた位置に浮いているのは、今し方剣狼が弾いたはずの式紙手裏剣、『水練』! 影は一体どこに? ――おお、なんと奇妙な。弾かれた水練が浮いたはずの位置に、影――少年、矢来・夕立(影・f14904)が浮いている!
 瞬間移動か。否、違う。――座標のすり替え。手裏剣の位置に己の身体を飛ばしている!
「面妖な術を……!」
「オレから言わせれば、戦場で正々堂々してる方がよっぽど面妖です」
 夕立は空中から更に式紙手裏剣を投擲! 剣狼はそれを横っ飛びに避けるが、突き立った手裏剣の位置に再び少年の姿が発生。地より再三投擲された手裏剣を剣狼が弾こうと剣を振るった瞬間、太刀の射程に入る前に座標を入れ替え、太刀を掻い潜り抜刀。
 夜闇に閃く緋色の刃、斬魔鉄製脇指、雷花。
 ざ、斬ッ! 鎧の隙間を縫う剣閃! 剣狼の脇腹から血が飛沫く!
「ぐゥっ?!」
「――冥土の土産になるかどうかは知りませんが、伝えとくことがあります」
 夕立は雷花から血を払いながら身を翻し、剣狼からの反撃を屈み避け、剣狼の股下を潜らせ投げた手裏剣と己の位置を入れ替えて再三剣狼の背後に逃れる。
「あんたは、」
 夕立は口を開く。もとより共闘などした覚えなどないが、借りだけならある。――矢来・夕立は酷薄な人でなしだったが、損得勘定と貸し借りについては真っ当な感性を持っている。――この借りは、色をつけて返すべきだと。ウソつきは、そう思ったのだ。
「――『“誰にも”怨まれていない』。村の、『“皆にとっての”光だった』」
「……!」
 夕立の言葉に、剣狼はぐっと息を呑んだ。或いは、泣きそうに。
 夕立はその表情の――空気の変化を感じながらも、努めて冷たく冷静に言葉を続ける。
「――信じるかどうかはあんた次第です。じゃ、言うことは言いましたので――死ね」
「……応とも。ならば、その信に示さねば。その『光』は、最後まで眩くあったと!」
 剣狼、猛るように吼える! 反転し迫る剣狼、夕立が手裏剣を投げるよりも早く刃が来る! 目の覚めるような峻烈な剣に、夕立は目を細めた。

 彼は知っている。真に怨む声もあった。
 でも、そんなのは伝えなくて良いことだ。
 今から弔う男に、当たり前の絶望を添えるのを愉しむ口でもない。
 だから、――『ウソですよ』という最後の言葉を呑み込んだ。

 夕立は神獄滅殺の太刀『禍色』の斬撃を次々と受け流し、払った。剣狼の剣勢凄まじく、夕立ほどの手練ですら推されて下がりながらの戦闘となる。『紙技・速総』による瞬間転移も、手裏剣を放つ隙すらなければ放てぬ。
 夕立が次なる策を繰り出す、その一瞬前――横合いから銃声が響いた。マズルフラッシュと同時に剣狼、凄まじき速度で禍色を振るい、次々と銃弾を弾いてのける。しかし、
「ぐっ……!?」
 剣狼が呻きを零した。銃弾そのものは神獄滅殺の太刀を閃かせ――或いはその強固な鎧、神獣鎧装にて弾いたはず。だがしかし、次の瞬間、彼の身体を襲ったのは常の数十倍の重力だ。思わず動きを止めざるを得ぬほどの、見えざる力が剣狼を押さえつける。
 放ったのはルイーネだ。追いついてきた妖狐の銀の銃から放った特殊精霊弾、六連射。――この世遍く万物を捉えるは重力――『支配者の弾丸』による重力干渉だ! 即座の再装填を為しながら、屍蝋のような顔色をして、ルイーネはそれでもなお立ち言葉を紡ぐ。
「――全てを成し遂げたことを、尊敬します、剣狼。皆、あなたに言葉を伝えたがっていた」
「聞こえていた。……聞こえていたとも。フェイリアの術の中にいた私にも、聞くことだけは出来た。私には勿体ない言葉ばかりが鳴っていたと、覚えている」
「……、」
 佳かった、とかすれた声。ルイーネは蒼白い顔で、ごく僅かに笑った。悼むような――未来変えられずとも、それに懊悩せずにいられるほどに強くもない――そんな表情をして。
「あなたを、葬送らなければなりません」
「それが猟兵たる者の責務であろうッ。――貴公が、そのような顔をすることはない。終わったはずの復讐騎が、望外の幸運に恵まれ――事を遂げた今、再び終わっていく。これはただそれだけの話だ!」
 ルイーネの表情を見たか、剣狼は強く言った。最後のその一瞬まで騎士として太刀振る舞うことを赦された剣狼には、ある種の清々しさがあった。
 ――これから消えていくのだとしても。ああ、自分は、何一つとしてやり残すことなく、終わっていけるのだと。そう知っているような表情で。
 凄まじき重力下でもなお、剣狼は剣を放さぬ。夕立の攻撃に応じ神獄滅殺の太刀を閃かせ、受け、弾き、応戦する。しかして苛烈な重力はその剣速を鈍らせ、今度は夕立が一転攻勢。手裏剣を投げる隙が生まれれば今一度、忍法・速総によって攪乱飛行。複数投げ放った手裏剣のそのうち一本に姿を変えて背を取り横を取り虚を衝き隙を盗む!!
「悔いず前を向いて征け、猟兵殿。死んだ過去が何を言うかと笑うやも知れぬが――私の所に現れた死神が、貴殿らであったことを――心の底より、幸運に思う」
「――はい」
 ルイーネは、かすかの間うつむいて――か細い月の光で眼鏡を濡らし、ゆっくりと顔を上げた。
 光るレンズの内側は見通せぬ。
 ――ああ、身体は冷たく、もう目眩も限界だ。ただ一射の精霊弾に、残りの力を、精神力を全て込める。撃鉄を起こす。くらく沈んだ視界の中、相争う夕立と剣狼。夕立が矢のように跳ね、その速力から生み出される撃力にて刃狼の刃を強く弾いた、その瞬間を狙い。
「さようなら、誇り高き狼よ。……佳き旅路を」
 ルイーネはトリガーを引いた。特殊精霊弾が唸り飛び、体勢を崩した剣狼の鎧の継ぎ目を縫い、その身体に食い込む。
「ぐう、っお……!!」
 重力が更に増す。動きが更に鈍ったその一瞬に、夕立が稲妻のように踏み込んだ。順手に持ち替えた雷花を閃かせること、一瞬で七! 駆け抜けざまの驟雨のごとき突きが、剣狼を穿って血を飛沫かせる――!!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ

せっかく、ヴァンパイアをやっつけられたのに……狼さんも、そうしないとダメなんだね。

あの狼さんはすごく疾くて強いから、捕まったらおしまい。
空中浮遊からの空中戦、念動力とオーラ防御でとにかく距離を取らないと。
それからサイコキネシスで、全身を包み込んで動きを止めるね。
外からの力だけで抑えるのが難しくても、ほんの少しの傷を付けられれば、
そこから体内まで「力」は届く。中と外の両方からなら、きっと止められる。


ごめんなさい。
あなたはきっと救われないといけない人なのに。
マリアの光が、ヴァンパイアの呪いも消し飛ばせるくらい強かったら、救えたのに。
ごめんなさい。
もう誰も傷つかないように、骸の海に、帰って……!



●救済の路を拓く
 重力の弾丸と刃が、剣狼を引き裂いた。
 もはや剣狼の存在力は底を突きつつあった。当然だろう。ここに至るまで三八名、約四〇名弱の猟兵と渡り合い、その力を、攻撃の全てを受け止めてきた。その上、存在量をブーストする、あのフェイリア・ドレスデンの呪いも最早ない。
 だが、追い詰められ、死に瀕してなお、剣狼の顔は唯々晴れ晴れとしていた。
 呪いより解き放たれ、一人の武人として死ねることを、喜ぶ者の顔だった。
「――せっかく、ヴァンパイアをやっつけられたのに……狼さんも、そうしないとダメなんだね」
 悲しむような声が一つ。アヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)のものだ。確かにフェイリア・ドレスデンはもう亡く、呪いは一時的に剣狼の身体より引き剥がされ、ともすればもう剣狼はオブリビオンだとしても無害なのかも知れない。UDCアースにはそのような、友好的なオブリビオンも存在するのだと聞く。或いは剣狼も、そのような無害な隣人として、共存することは出来ないのかと考える。
 ――しかし、あの悪魔、フェイリアの呪いが、いつまた再来せぬとも限らぬ。仮にまた、剣狼が暴走したら。今は理性を保っていても、オブリビオンとしての性質が、人の血を求めだしたとしたなら。――そうならない保証はどこにもないのだ。
「ごめんなさい。あなたはきっと、救われないといけない人なのに。――マリアの光が、ヴァンパイアの呪いも、未来の憂いも、何もかも消し飛ばせるくらい強かったなら――あなたを救えたのに」
「――悲しむことはない。私のことで、君が悔いることはないのだ、小さな猟兵殿。私は望のまま駆けた。そして、望みを果たした。最後に、騎士として太刀振るうことを赦された。――これ以上、何か望むことがあろうか。何ら気に負わず、使命を果たしてくれ。私はただ、それだけを望む」
 剣狼は神獄滅殺の太刀をまっすぐ、腹を見せる形で眼前に捧げ持ち、踵を揃えて儀礼的な礼を一つ。その後、アヴァロマリアに向けて構えを取る。
「騎士として参る。遠慮は不要。我が神獄滅殺の太刀は神さえ断つと謳われた刃。これより死すばかりの哀れな獣と思って貰っては困るぞ、猟兵殿!」
「……、」
 アヴァロマリアは悼む痛むように目を閉じたのち――こくりと、決意を込めて頷いた。
 剣狼は笑い、少女を目掛け――正に獣めいた速度で、真っ直ぐに踏み込んだ。

 剣狼の速度は凄まじい。まともに近距離戦をすれば一方的に蹂躙されて終わりだ。
 アヴァロマリアは近接格闘を挑んでくる剣狼から逃れるように空へ舞った。空中に飛び、念動力を使って己の身体を後ろに飛ばす。しかし、全速機動でもなお剣狼が駆け走る方が速い。
「はあぁっ!!!」
 裂帛の気合と同時に剣狼が振るう刃に、魔力の衝撃波が乗った。近距離戦闘のみならず、剣狼は刃に魔力を載せての衝撃波を放つことで中間距離戦闘をも可能とする。まともに直撃すれば死を覚悟せねばならぬほどの、凄まじい威力の剣閃を、アヴァロマリアは眩く輝く守りのオーラで障壁を作って防ぐ。驚異的な威力の前に、障壁が割れ爆ぜて余波がアヴァロマリアの身体を裂く!
「く……うっ!!」
「どうした、そこまでか、猟兵殿!」
 剣狼が煽るように言うのに、アヴァロマリアは眦を決して応ずる。
「……いいえ。ここからよ、剣狼さん」
 アヴァロマリアは両手を力一杯に突き出す。瞳のピンクダイヤの輝きが増し、強く強く煌めいた。
「むうっ……!?」
 ぎッ、と軋んだように剣狼の動きが鈍る。アヴァロマリアの手から放たれるのは『サイコキネシス』による不可視のサイキックエナジー。
 なにくそ、とばかり止まらず前進する剣狼を睨むアヴァロマリア。
 ――まだ動く。分かっていたことだ。今作用しているのは、『外からの力』。外的力積。これだけで抑えるのは難しい。
 ならば、剣狼の前進に刻まれた癒えぬ傷から、体内へ力積を浸透させる。
 不可視のサイキックエナジーを浸透させ、動きを――封じる!
「ぬ、ぐ、…………ッ!!」
 油の切れたロボットのように、――おお、剣狼の肉体が静止する。
「何という術よ……! この私の動きをこうまで、完全に封じるとは……!」
 剣狼が驚嘆の声を上げる。アヴァロマリアに、最早余計な言葉を発する余力はない。
 押さえつけることが出来たとして後数秒。
 ――その間に、

「もう、あのひとに誰も傷つけさせないであげて。
 骸の海に、還してあげて……!」

「ああ!」
「任せておけよ」

 叫ぶ宝石聖者の言葉に、応えた二人の猟兵が馳せ駆けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アレクシス・ミラ

【双星】

…剣狼殿
貴方は今度こそ全てを終わらせる為に蘇った
これが正しいのか、過ちなのかは僕にはわからない…が
貴方の剣は確かに奴に届いた
…守る為に、救う為にと戦った貴方を
あいつらのような奪う側にはさせない
僕達が止めてみせる

セリオス
君の剣を返すよ。…さっきはありがとう
ああ――分かってるさ。征こう!

盾を構え、【蒼穹眼】で刃狼を視る
見通せ。未来を、刃狼の攻撃を!
行動を予測し、セリオスの回避をサポートする
今度は僕がセリオスの剣を届かせる為に
盾で防ぎ、逸らし、回避しながら隙を探る
そして見つけたらセリオスを呼び
同時に祈りと破魔を込めた剣を叩きつける

僕達の剣を以って貴方を導こう
願わくば――その魂に、夜明けを


セリオス・アリス

【双星】

どんな状態になっても
剣狼はかつて守ろうとしていたヤツで
自分で選んだ、それですら
悔いることはないと思っている事ですら
たまに夢に見るというのに
…そんなヤツが正気を失い誰かを傷つけるなんざ…悲劇にしても笑えねえ

ああ、アレス
終わらせてやろう
お前も俺も、今回は出来る限りの怪我は無しな

『歌』で身体強化して
攻撃を『見切り』全力で回避
アレスが隙を見つけるその瞬間にいつでも剣を振るえるように
一定の距離は保ちつつ
アレスの導きに従う

少しでも早く剣狼が眠れるように
剣に『全力』の魔力を送り【彗星剣】
アレスが見つけた隙に、同時に重たい一撃を叩き込んでやる…!

安心しろよ、お前の剣は届かねぇ
これ以上奪う事はねぇから



●導く双星
 かつて護ろうとした、誰かを救うために立ったかれの剣を眩いと、尊いと思った。

 そのかれが、――望まずして正気を失い、かつて護るために取った剣を人殺しの道具として使われたとあれば、一体どう感じるだろうか。自分で選んだ――悔いることなどあるまいと、そう思ってしたことですら、時たま夢に見て顧みるというのに。
 セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は、操られ、今や対手を殺すだけの殺戮機構となった剣狼を止めねばという一心で、戦場へ友と共に馳せ参じた。

 戦場に到り彼が見たのは、――正気の光を宿した目でこちらを見据える剣狼の姿。
 ここまで積み重ねてきた、薄氷を踏むような数々の戦が――剣狼に、一時の正気をもたらしたのだ、と、他の猟兵から聞かされた。――それがいつまで続くか分からない、という事も。
 ――もう、あの人に誰も傷つけさせないであげて。骸の海に、還してあげて。
 剣狼の動きを封じた猟兵の言葉を、駆けながらセリオスは反芻する。
「アレス」
「なんだい」
「――終わらせてやろう。俺たちに出来る全力で。――もう、あいつには、何も奪わせない」
「君ならそう言うと思ってた。――セリオス、君の剣を返すよ。さっきはありがとう」
 託された青星をセリオスに返しつつ、アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)が、セリオスの隣で応じた。
「君を導こう。どこまでだって」
「……くすぐったいこと言うなよな。俺もお前も、怪我無しで帰ろうぜ。……行くぞ!」
「ああ、分かってるさ。征こう!」
 地面を蹴立てる音を上げ、まず突撃するのはセリオスだ。口ずさむ歌により己が身体に『根源の魔力』を宿し、セリオスは急加速。
「歌声に応えろ……力を貸せッ!!」
「速い……ッ! ぬうう、神獣鎧装よ! 我が声に応えよ!」
 動かぬ身体ではその剣を受けることも困難! しかし剣狼、自らに纏った『神獣鎧装』の力を解放! 身体動かねども鎧が動く! 神獣鎧装がなんとその形を変じながら、打ち込むセリオスの斬撃を受けて弾いて凌ぐ! 鉄壁の防御だ。鎧が解け、金属の帯となってセリオスの剣を遮っている!!
「固ぇっ……!」
「この神獣鎧装は幾度砕けようとも、我が意に応えて形を変ずる究極の鎧! 易々と貫かせぬはせぬぞ、猟兵殿!」
 剣狼、朗々と吼える。セリオスが攻めあぐねる間に、剣狼を押さえつけるサイコキネシスの効果が徐々に薄れていく!
 歯噛みするセリオスと、重たげに動かした腕で交戦し出す剣狼。
 二人を後方より見つめ、アレクシスが大きく息を吸い、割って入るように突撃した。


 ――剣狼殿。貴方は今度こそ全てを終わらせる為に蘇った。
 それが正しいのか、過ちなのかは僕にはわからない。復讐の是非など、その答えは千差万別。是とする者もいれば、否とする者もいることだろう。その結果、貴方の剣は確かに奴に届いた。確かに、あの悪逆の領主を終わらせたのだ。貴方の剣が。
 それはもう、護るための剣ではなかったろう。
 でも、初め、確かに貴方は、――守る為に、救う為にと立ち上がった。いつか、この常闇の世界で、誰かの光になるために立ち上がったんだ。それを、僕は忘れない。決して否定しない。
 アレクシスはその空色の目を一際強く輝かせた。それは友を護る為の瞳、『蒼穹眼』。アレクシスは思考速度を加速し、剣狼の動き全てを見通すべく目を凝らす。
「剣狼殿。貴方を、あいつらのような奪う側にはさせない。――僕達の剣を以て貴方を導こう!」
 黎明の騎士の口上に、剣狼は緋色の目を吊り上げて笑った。
「その意気やよし! 参られよ、騎士殿! 我が神獄滅殺の太刀の精髄、ここでお見せする!」
 セリオスと打ち合いながら、剣狼は未だサイコキネシスにより動きの鈍っている身体をぐいとひねり、力任せに太刀を引いた。
 ――その瞬間、アレクシスの背に電撃的な危険信号が這い上る。
「セリオス!! 下がるんだ!」
「……!!」
 セリオスが弾けるように飛び退く。彼がいつでもアレクシスの指示に従えるようにしていたことが功を奏した。神獄滅殺の太刀が一閃した瞬間、凄まじい勢いで巻き起こった遊色の衝撃波が、一瞬前までセリオスがいた位置を凄まじい太刀風と共に薙ぐ。余波で地面が抉れ割れ、まるで耕運機で耕した後のようになる。
 あの吸血鬼を殺した究極の一閃。剣狼は、今一度その魔剣を開帳したのだ!
「なんつー威力だよッ……!」
「これぞ神獄滅殺の太刀、真打・“極閃”なり!! ――一度で終わると思うてかッ!」
 飛び退いたセリオス目掛け、剣狼が刃を返して次撃を振るう!
「させるか!」
 アレクシスの蒼穹眼はそれをも予期していた。故に彼は最速で前進し、セリオスと剣狼の間に割り込んだ。
 白き盾にてその虹の斬撃――『極閃』を受ける!
 金属が拉げるような、筆舌に尽くしがたい轟音……!
「っぐ、うううううっ……!!」
 アレクシスは、盾越しにさえ腕がねじ切れそうな衝撃に悲鳴を噛み殺した。オーラで身を守ってさえ、盾越しに腕の骨が軋み、魔力による衝撃が浸透してアレクシスの身体、各所の血管を爆ぜさせる。その苦痛、壮絶にして耐えがたし。
「アレスっ!!」
 地面に踵が沈み、堪えるような呻きを零す相棒を案ずるセリオスの声。だが!
「僕のことはいい!! 前を見るんだ、セリオス!! ――彼を還すんだろう、もう何も傷つけさせずに!!」
 アレクシスは決して折れない。曲がらない。
 傷つき砕けそうになりながらも、決して斃れぬ。セリオス・アリスの盾であるという自負ある故に!
「――ッ、ああ!!」
「我が極閃を盾にて受けるとは誠に天晴れ! だが二度目はない――唸れ禍色よ、敵は真なる騎士、相手にとって不足なしッ!!」
 剣狼は盾で弾かれた斬撃を素直に引き、身をひねり溜めを作る。アレクシスの蒼穹眼がそれを捉えた。次の一撃は、ついにサイコキネシスの拘束からも解き放たれて、万全の態勢より繰り出される。
 今のと同じ、――否、今以上の一撃が来る。
 受けられるのか。
 蒼穹眼が無数の死のビジョンをアレクシスに突きつける。断たれ、砕かれ、背後のセリオス諸共に死ぬ自分の映像が、まるで死出の走馬灯めいて瞼の裏に閃く。だが、
 ひたり、
 セリオスの右手が、アレクシスの背に触れた。
 ――歌が聞こえる。遠い故郷を、亡郷を歌う歌が。
 頼む、という言葉ではない。頑張れ、と発破をかけるでもない。
 二人共通のあの頃の思い出、『お前と共にある』という、飾らぬ思いを歌う声。黒歌鳥の歌う歌。
 それが背を圧す。
 アレクシスは今一度振るわれる一撃を前に、盾にオーラを込め最大強度、最大サイズに。盾の切っ先を地面に突き刺してアンカーめいて用い、剣狼必殺の極閃を真っ向より受け止める……!! セリオスの歌声が、極地の剣撃を防ぐための力となったのだ!
「おおおぉぉぉぉおおっ!!」
 剣狼が吼える!
「く、ううぅ、うううう……ッ!! セリ、オスッ!! 今だッ!!」
 吹き飛びそうになりながらも、決して後へ攻撃を逸らさず、盾の騎士が吼える。
 そう、ただ一瞬。極閃を放ち、それが盾に食い込んで剣狼の動きが制限された瞬間。

 ダークセイヴァーの無明の空に、流れる彗星一つ。
 剣は青く、その名、青星の如く、黒の虚空に煌めいた。
 飛んだのは黒歌鳥。その魔力の全てを集約した剣。
    メテオール
 ――『彗 星 剣』。セリオス・アリスが持つ、希望の白蒼――無窮の魔力剣が、その名が如く、彗星めいて落ちた。
「なんと――眩い、」
 美しい剣の煌めきに、剣狼は目を奪われたように眦を見開く。
「眠れ、剣狼。――もうお前の剣は、何も奪わなくていい」
 セリオスは歌を結ぶように囁き、全力の一刀を叩き込む。疾る一刀、袈裟懸け一閃! 鎧が裂けて、血と白光が飛沫く!
「ぐ、ッうおおああああっ!?」
 蹌踉めくように下がった剣狼のその隙、値千金。剣狼が下がったということは――
 アレクシスの手から、重さが消えたという事に他ならない。
 盾さえ捨て、手にした剣に残る全ての力を込め。破魔の光散らす刃を引き、ひねった身体の力を乗せる。
 ――夜明けの赤星が、足下で魔力を爆ぜさせ、希望の光と共に駆け抜けた。

「願わくばその魂に、夜明けのあらんことを!」

 赤星、一閃ッ!!!

「お、おお……、」
 自然に漏れた、という風な感嘆の息。
 剣狼が燃える。白き光に燃えていく。
 剣狼は己が胸を見下ろした。Xの字を描くように刻まれた、双ツ星の切創から溢れる光と血が、闇夜の中に眩く散った。

 ――ここで終わりか。

 かすかに動いた口元より、冗談のような量の血が迸った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーゴ・アッシュフィールド

【リリヤ(f10892)】と

……別な未来もあると思ったが、予知は覆らないか。
相変わらずグリモア猟兵の仕事は正確だな。

リリヤ、俺はあいつと斬り結んでくる。終わる迄は手を出さずに居てくれないか?

よお、大変そうだな、もう疲れたか?悪いな、もう少し付き合え。
何をしに来たかは、分かるだろ?
久々に剣で競い合いたくなった。
いくぞ。

道中で、吸血鬼狩りで、お前の剣は見ているんだよ。それを出せよ。神具だの狂化だの、そういうのはいい。
……数秒でいい、呪いに抗え。
お前が血反吐を吐いて鍛え上げた技を見せろ。

……結局、お前の名前はなんて言うんだ。
お前の名と技は、俺とここに居る奴等が覚えておいてやるよ。


リリヤ・ベル

【ユーゴさま(f10891)】と

もとより、還さなくてはいけないひとであっても。
でも、それでも。いまは、この時しかありません。
いまのあのひとに伝えることは、きっと、無駄ではないのです。

はい、ユーゴさま。
わたくしはレディですもの。ちゃあんと、帰りを待てるのですよ。

斬り結ぶふたりを見つめて、留まるまま。
普段の声とも、怒っているときの声とも、すこしだけちがう。
あれはきっと、かつてのユーゴさまなのでしょう。
わたくしの知らない、名誉を取り戻すために戦う、騎士の顔。

レディの祈りは、騎士の旅路を守るためにあるのです。
……剣狼のあなたにも、待つひとはいたのでしょうか。

このうたは、旅路のうた。
“おかえりなさい”



●哀色の牙
 もとより、還さねばならぬ、と。
 そう決まっていたことだ。
 断たねばならない。いかに害無く見えようとも。そういう世界で、そういう仕事だ。猟兵達は、そこを過つことはない。
 けれど、それでも。伝えるべきと思うことがあり、今、伝えられるのならば。この後骸の海に沈み、全て忘れられてしまうかも知れなくても。次にまみえるこの剣狼が、何をも知らぬとしても。
 ――伝えることに、意味がある。きっと無駄ではないと、リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)は思う。
「リリヤ」
「はい、ユーゴさま」
「俺は、あいつと斬り結んでくる。終わるまで、手を出さないで居てくれるか」
「――わたくしはレディですもの。ちゃあんと、帰りを待てるのですよ」
「そうか」
 リリヤの物言いに、背の高い、煤けた金髪の男――ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)が笑った。ほんのわずかに。
「そうだったな、小さなレディ」
 リリヤとて、彼が心配でないわけがない。
 けれど、彼が請うのなら。それを望むのなら、否とは言わない。信じている。無事に戻ってくると。
 マントを翻し、ユーゴが歩き出す。
 リリヤはその背中に向け、祈るように手を組み、目を閉じた。

 ああ、願わくば。
 かの騎士の旅路に、幸運と息災のあらんことを。


 猟兵らの総力が、あの狂気の呪いを撥ね除けたその時は、もしかしたら予知が覆るのではないかと期待した。
 ――結果、それは成らなかったわけだが。まったく、いつものことながら、グリモア猟兵の仕事は正確すぎる。
「……甘い夢を望んでいたわけじゃないが、な」
 呟きながら、ユーゴはルーンソード『灰殻』を抜剣した。
 胸から散る光は消え、しかし流れる血は最早止めようもない。胸に十字の傷を残したまま、ふらり、ふらりと後退する剣狼。
 天を仰ぐ孤高の狼へ、ユーゴは無造作に声を掛ける。
「よお。まだ生きてるか。意識はあるか」
「――ああ、ああ。もう終わりかけているが。貴公は……、」
「なんだ、まだ口が動くのか。……それだけ喋れるなら分かるだろう。俺が何をしに来たか、それくらいは」
 鍔鳴りの音も無く。ユーゴは、右手にした抜き身を、真っ直ぐに――剣狼を指し示すように突き出した。
 七メートルの距離を置き、すう、と伸ばされた剣の切っ先へ、剣狼が目の焦点を絞る。
「久々に剣で競い合いたくなった。――お前の剣を見たからかもな」
「……それは、くく、なんとも……面映ゆいものよな。ならば、」
 ユーゴの言葉に応じ、剣狼は裂けたブレストプレートを最後の力で補修。
 最早再生罷り成らず、力尽きれば、終わるのみ。
 しかしそれ故、最も危険。

 正に手負いの狼が、哀色の牙を手に握る。

「期待に、応えねばなるまい。貴殿の剣を、冥土の土産にするとしよう」
「ああ。――あの吸血鬼はもう居ない。さっきまでの狂ったような、雑な剣は見飽きた。『お前の』剣を見せろ、剣狼。あの女を殺した――お前が血反吐を吐いて鍛え上げた技を」
 叱咤するようなユーゴの声に、剣狼は擽ったそうに笑い、巨大な刃――神獄滅殺の太刀『禍色』を構え直す。

 いまやそこに居るのは、
 ――猟兵とオブリビオンではなかった。
 ただ手合いを望む、二人の武人の姿があった。

「かは、ははは。応。ならば。いざ、」
「尋常に」

「「勝負」」

 宣言は静かに、踏み込みは苛烈に。
 火花散らして噛み合う刃が、終わりの歌を奏で出す。


 それは、近いようでとても遠い眺めだった。
 ユーゴが剣狼に語りかける声は、常の、リリヤに見せる彼の声とは違っていた。ぶっきらぼうだけど――然りとて怒っているわけでもない。リリヤが見たことのない男の顔が、そこにあった。
 ――それもまたきっと、ユーゴなのだ。リリヤは聡くもそれを知る。あれはきっと、かつての彼の顔の一つ。誇りと名誉を、誰かの暮らしを、守り取り戻すために戦う騎士の顔。
 斬り結ぶ。剣狼とユーゴが、凄まじい音を立てて打ち合う。リリヤの目をしても追いかけるので精一杯。死力を尽くして剣を学んだ、二人の男のぶつかり合いだ。
 撃剣打ち合い火花散らす度、灰殻の刃が、禍色の刃が、二人の剛力に絶えきれずに零れて銀砂のように散る。一歩間違えば死に繋がる剣と剣のぶつかり合い。それを前に出来ることは、祈ることだけ。
 ――手を出さないで居てくれるか。
 ええ、ええ、出しません。
 けれど、ユーゴさま。その無事を祈ることは、きっとゆるしてもらえるでしょう? レディの祈りは、騎士の旅路を守るためにあるのです。
 ――剣狼のあなたにも、待つひとは、いたのでしょうか。あなたが守りたかった誰かは――今、どうしているのでしょうか。
 問いは形にならず。
 少女が見守る中、剣戟は最高潮の高まりを迎えている。


 ユーゴは兜割りの一撃を灰殻で流す。流した矢先に、剣狼の手首の動きだけで剣の切っ先が翻る。幻影の如くに翻る剣先が首を断ちに来る。それを打ち上げて潜り抜け、身体を捲く動作を加えて胴一閃、断たんと振るった剣をしかし、剣狼は起伏に富んだ形状の大刀にて絡め取り、火花散らせながら鍔競り合う。
 柔も、剛も兼ね備えた剣。ここまで技を錬磨するために、一体如何ほどの努力を払ったものか。それこそ、血反吐を吐いたことなど一度や二度ではあるまい。いつまででも退屈せずに打ち合っていられそうだ、とユーゴは思う。
 騎士二人の術比べは、しかし、永久には続かない。
 緋色の瞳に、紅蓮の光が戻りつつあった。あの女が、この期に及んで彼の身体に巻き戻ろうとしている。剣狼は、歯を噛み砕くほどに噛み締め、唸る。
 ああ、また狂気が押し寄せてくる。剣狼の練達の技は、誇りが、今度こそ完膚なきまでに喪われてしまう。
 その前に。
 軋り合う剣を、突き放すように圧し離して、ユーゴは背を見せるほどに身体を捲いた。
「後数秒で良い。呪いに抗え。長くはかけんさ」
 ぶっきらぼうな台詞。
 けれど、それが彼なりの優しさだ。
「応。――ならば、後一合。ヴァイ・ランの氏族の名にかけて」
 剣狼は全てを受け容れて笑い、最期とばかりに名乗った。
 個体名を省いたそれが、この場で唯一――
 ユーゴのみが聞いた、哀色の牙の名であった。


 アウロラ
「 極閃 、披露奉る」
「来い」


 剣狼は流星となった。
 あの空を駆け下り、滑り降りて、燃え尽きて消えてしまう星の如く。
 極閃。アウロラと銘打たれたその技を、最後の全力を込めて放った。
 極彩色に光る魔力光波が剣に纏い付き、何者をも粉砕する威力を以てユーゴに迫る。
 ユーゴはそれに少し遅れて動き出した。
 捲いていた身体を、そこに溜めた力を。ただ愚直に磨き上げた剣術に載せ、己に出来る最速で、己に出来る最大の力で放つ。鍛え上げた剣。魔力を帯びさせることも、何らかの術を使うこともなく。ただ、折れず、曲がらずの一閃を繰り出す。
 剣と剣がぶつかり合い、手に伝わる圧倒的な衝撃が腕を痺れさせ、爆ぜる虹色の魔力光波がユーゴの全身を引き裂く。
 血をしどどに流しながらも、――ユーゴは青の目で、剣狼を見つめた。

 ――この技も。お前の名も。俺が覚えておいてやる。

 ぴし、
 禍色の刀身にクラック。
 幾度も猟兵と打ち合い、疲労した刃。――それに先程の打ち合いを重ねた。ユーゴは同じ部位を酷使させるよう打ち合っていたのだ。目を見開く剣狼。ああ、極閃は確かに凄まじき術。しかし、刃がそれに耐えかねれば、戦の中では死あるのみ。
 ユーゴは声低く吼え、己の力の限りを尽くし刃を振り抜いた。――『絶風』が吹く。ただ質実剛健に磨き上げた、奇蹟も何も伴わぬ、灰の騎士の一閃こそが――
 剣狼に与えられた、最後の手向けだった。

 ッ、きいぃいいィンッ!!!

 禍色がほぼ根元より斬り断たれ、刀身がくるくると宙を舞う。
 振り抜いた灰殻の一閃が、牙を喪った剣狼の身体を、袈裟懸け二つに断ち切った。


「御、美事」
 血が吹き散る。そこまで派手な出血ではなかった。或いは流す血すら、もう残っていなかったのか。
「……ああ、ここが……私の、墓、か。――感謝する、異邦の、騎士、ら……よ――」
 ――嗚呼。望外の幸運だ、と。
 剣狼は歯を剥いて笑うと、そのままぐらりと後ろに傾いで、どう――と重い音を立てた。舞う土埃を散らすように、その身は解けるように爆ぜて塵と化し――
 一陣の風に、吹き散らされて消えた。
「――」
 ユーゴは風に消えていく塵を、しばらく目で追っていた。見えなくなってしまうほどまで。
 かれがいたことを証明するものは、もう、折れて地に刺さった禍色の刀身と、ユーゴを初めとした猟兵に刻みつけられた傷のみだ。
 贈る言葉も持たずに立ち尽くすユーゴの耳に、風に乗って、耳慣れた歌声が届く。
 リリヤだ。彼女が歌うのは――旅路の歌。帰還の歌。
 なるほど、自分が最後に馬鹿力を出せたのは――或いは、あの小さなレディの歌声を心のどこかで聞いていたからなのかも知れぬ。
 ユーゴは灰殻を鞘に収め、最後まで見届けてくれた、小さなレディの元へ歩き出した。

 ――ああ、剣狼。勇壮なるヴァイ・ランの氏族が一人。
 お前のことを忘れまい。全て果たした今こそ、穏やかな闇に抱かれてあれ。
 然らば、然らば。

 駆け寄ってくる少女。よろめきかけながらもなんとかこらえ、ユーゴは彼女を迎えた。
 手の血を拭って、リリヤの髪を撫でる。
 リリヤは目を細め、つぶらなエメラルドの瞳を和ませて、万感の思いを込め息を吸う。

 死闘より帰りし灰の腕に。
 使命を果たし風に消えた剣狼に。
 在るべき場所へ登っていった、幾多数多の魂たちに。


「――“おかえりなさい”」



 ――後年となって、ある旅人が語った。
 ノー・マンズ・ランドの、とある朽ちた屋敷の片隅に、簡素な墓がある。
 十字に組まれた木の前に、半ばから折れた大刀が突き立てられただけの墓。
 木には、消えぬように深く、こう刻まれていたのだと。


 ――誇り高きヴァイ・ランの氏族
            哀色の牙、ここに眠る――
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年12月02日
宿敵 『全てを失くした剣狼』 を撃破!


挿絵イラスト