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夢幻

#キマイラフューチャー

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#キマイラフューチャー


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 深々と雪の降り積もる、寒い日が続いていた。
 一面の銀世界。こんな寒い日には寄り添う誰かの温もりが欲しくなるというもの。ウェイウェイ言い合いながら雪を楽しむ恋人達の姿に路上に唾吐いて、悴む手を擦り合わせてSNSにアクセス。目に飛び入って来たのは『新作うpしました』の書き込み。最近突如としてネットに現れた新進気鋭の作家のアカウントから発信されたそのリンクを素早くタップすると、流れる動画と字幕にほう………と白い息を漏らしながらついうっとりと魅入ってしまう。
 画面の中では、3Dモデルで作られた美男子が視聴者に向かって手を差し伸べ何事かを囁いている。まるで本当に男性とお付き合いしている幻覚が見えてくる程にリアリティのある繊細な行動描写。思わずニヤける口元を『はしたないわ』とマフラーに埋めて、逢瀬を楽しむのだ。
「ハァ……Alpacaさんの新作良かった。ンッフ、推し様……貴方様のご好意に、甘んじてしまっても良いのですか……?」
 そう恍惚の表情を浮かべながら世界に浸る女性の背。噴水を挟んだ向こう側では奇しくも全く同時刻、同じ動画を視聴している女性の姿が一人。
「ンンッ! そういう推しのコト、嫌いじゃないよ。……いや、寧ろ好き、……大好き。チュッ! なんちゃって!」
「あ?」
「ん?」
 互いの発言を耳にし、振り返れば目が合った。それと同時に開戦のゴングが鳴り響く――!
「先ず『様』を付けろよこのクソアマ!」
「ハァ? 汚い言葉。程度が知れるわね! 私と推しは真の愛で結ばれてて、そこに身分の垣根なんて無いの。勿論、名前で呼んでくれって彼が言ったのよ!」
「私は不幸な身の上があって推し様に囲われたのよ! 愛を育んでいる最中なんだから邪魔しないでくれる!?」
「フン、女中の分際で、ちょっと可愛がられた位で調子に乗るんじゃない事ね!」
「んだとコラァッ!!」


「ようこそ、あなたは6人目の猟兵-Jarger-……」
 自分の呼び掛けに集まってくれた猟兵達を無機質な声でカウントするテイア・ティアル(パラドックスブルー・f05368)の目は何処か遠くを見ていた。勧められた温かいハーブティーに口を付けると、漸く思考が纏まったのか、今回は愉快な事になりそうだよだなんて己の話に耳を傾ける猟兵達に笑って見せる。
「そこから先は、言わずもがな、血で血を洗う戦争さ。百年の恋も尻尾を巻いて逃げ出す程の。いやはや、ある意味仲良くなれそうなのにな?」
 自分の予知でありながら少しばかり困った様子で首を傾げると、今回暗躍している敵の壮大な計画を語り出す。
「どんな創作物だって、受け取り方は十人十色だからねぇ。でもこれは怪人の立派な作戦だ。ちょっとばかり想像力豊かなキマイラ達を虜にして、解釈の違いやポリシーとかそんなこんなで喧嘩をさせて、自滅の道を辿らせようっていう」
 そう捲し立てながら、彼女は用意していた紙を配っていく。だが、そこに印字されていたのは事件に関する事でもなく、よく見れば小説か何かの様だ。
「夢小説って知ってるかい? もうインターネットの骸の海にポイ捨てされた様な古い文化だから若い子は知らないかも知れないけれど。え、これ? わたしの2人前の持ち主が執筆した物だね」
 人形として100年、顕現してから15年。齢115歳のおばあちゃんであるテイアは、孫が作った物を内容に関わらず嬉々として勧める祖母の様に容赦も無ければ慈悲も無い鬼畜の所業を平然としてやってのける。何なら音読すらしかねない勢いで。やめて差し上げろ、と誰もが頭を抱えてその紙からは目を逸らした。
 夢小説とは、最初に名前を打ち込むとまるでその名前のキャラクターが様々な創作世界で青春を謳歌したり、男性達が寄ってたかって愛を囁いて来たりだとか、様々な『夢の様な事』を文章を読む事によって体験する様なコンテンツである。尚、名前を打つと言っても、自分の名前を入れて徹底的に自己を投影したいタイプ、イマジナリーフレンドの名前を入れて箱庭を眺めて楽しむタイプなど様々な楽しみ方があるが、良い子の猟兵達は気になっても気軽に足を踏み入れてはいけない。
 兎に角、これにハマった女性の事を『夢女子』『夢女』などと言う事。それから、同じキャラクターが好きで推していても、他の女性の存在を認めたく無いと感情を『同担拒否』と言い、その思いを抱いた過激派は何時だって戦って来た。今回起こる事件はそれの亜種、進化版の様なものだと説明したい為の取っ掛かりとして刷られたその紙は今は皆の手元で折り紙とされる事で紙としての存在意義を果たしている。
 ――結局、自分達はどうすればいい、と言う質問の声が上がった。このおばあちゃんにずっと話の主導権を握らせていてはいけない。集められたからには、解決へ導かねばならぬのだから。
「うん、そうだね。君達が各々、生身で動く『推し』になれば良いんじゃないかな。喧嘩の内容だって、推し――好きになった人が一緒だったから起きた訳だしさ」
 キマイラフューチャーでは猟兵達は絶大な人気を誇るヒーロー達だ。ましてや美男美女揃い、そんな存在に口説かれたりしちゃった日には夢から現へと帰って来るだろう。先に争い始めた女性2人の他にもたっぷりと夢女子達は居るし、何なら男子も居るので安心して事に当たって欲しい。つまる所、心が乙女なら老若男女は問わないのが『夢コンテンツ』だ。
「キマイラが君達に夢中になれば、その内業を煮やした怪人が自ずと姿を現わすだろう。今から飛べば、最初の喧嘩が始まる前後位には着けると思うよ。嗚呼、それから――」
 これも怪人の仕業で、人恋しさを助長させる為に降雪量が凄い事になってるんだ。とテイアは言う。暖かい格好をしておいで、とよっこらしょと腰を上げて、グリモアの起動を始めるのだった。


しらね葵
 しらね葵(――・あおい)と申します。
 この度は当シナリオのオープニングを読んで下さり、有難う御座います。2作目、新年おめでたい感じでコミカルに行きましょう。皆さんに向かって頂く先は『キマイラフューチャー』の世界です。

 怪人がとんでもない爆発物をインターネット上に投下してジワジワと信者を広めていた為、如何にパリピ勢としても互いに譲れぬものが生じてしまっている様です。

 解決方法はオープニング内でもテイアが語っておりましたが、皆様が『推し』になる事。動画の中の彼より素敵!と夢から醒ます事が出来れば夢動画からは興味が薄れて行くでしょう。
 素のままでも、コスプレなどをしてキャラ付けをして頂いても構いません。(版権に抵触する様な物は描写出来ないのでご注意下さい)。
 また、男性が女装を、女性が男装をしても美男美女補正とキマイラ・アイによる補正が掛かるので、同性を口説く事も可能です。

 プレイングには、【どういう格好やキャラ付けで】、お相手に関しましても【こんな夢キマイラを口説く】と言った旨を記載して頂ければ、可能な限りご希望に沿った形でリプレイを描写致します。
 【名乗る名前】や【こう呼ばれたら嬉しい】などといったものも有りましたらどうぞ!

 1章目ではキマイラ達をめろめろにし、2章目では悪天候ではありますが、彼や彼女等とデートをしながら(協力して貰いながら)雪の出所を突き止めて頂く様な流れを想定しております。
 その後、怪人との戦闘です。
 完全にギャグ方面にぶっちぎっているので、プレイングもあまり細かい事は気にせずに頭を空っぽにしてはっちゃけて頂けたら幸いです。

 以上です。皆様のご参加、プレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『ブームを終わらせろ』

POW   :    熱意と勢いで新たなブームを広める

SPD   :    怪人が広めたブームを乗っ取る

WIZ   :    文化の問題点を指摘する動画をアップする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ローウェン・カーティス
キマイラフューチャー…
まるで楽園の様な世界がある、そう伺っていたのですが
ええ、中々の地獄絵図なのではないでしょうか

飾る方がボロが出ると云うものです
私はこのままで行きましょう
そも、こちらでは私の服装は元から目立つ様ですし
【ファンタジー世界の貴族】みたい、ですか?
まあ、後ろ半分ぐらいは合ってますけども

まだまだ未熟たる身ではありますが
紳士たることを常日頃心掛けております故
そう言った相手をお望みの方にならば、応えられるでしょうか

お望みとあらば、出来る限りを尽くしましょう
直に触れ合うところにいるからこそ、出来ることもありますから
お姫様抱っこ?とやらもええ、叶えますとも


…もしかしてこれ、今日一日やります?




 ぴーちくぱーちく。ぴーちくぱーちく!
 ――まるで楽園の様な世界がある、そう伺っていたのですが。
 争い合う夢女キマイラ達、稀に混ざってる夢男キマイラの姿等という中々の地獄絵図を乗附から見せられたローウェン・カーティス(ピースメイカー・f09657)は、公園のベンチに座って遠い目をしていた。
 自らが推しキャラとなる使命を課せられた猟兵の一人たる彼は、一先ず気を落ち着けるのに必死だが、その中性的な面立ちには太い油性マジックで『もう帰りたい』と書いてあったし、酷く憔悴しきってる様子で、頭と肩に降り積もった雪の量が内心のアレソレを雄弁に物語っている。
「あの、大丈夫ですか?」
 そんなローウェンに声を掛けて来たのは一人のキマイラだ。『こんなに冷えてしまって、お辛そうだわ』と体の雪を叩いてくれるその人は、言葉使いこそ少しばかし芝居掛かっていたが、見た感じ――それが実はパッドで偽られた物だろうが巨乳であったので、其れには素直に彼の男としてのハートに元気を齎した。
「まぁ、貴方……まるで……」
「まるで”ファンタジー世界の貴族”みたい、ですか?」
 彼女の言いそうな言葉に被せる様にして自分を準え微笑んで見せて。言いたい事を当てられて恥じらう姿は中々愛らしいではないか。
「まあ、後ろ半分ぐらいは本当にそうなんですけども」
 そんな女性の手を取って追い打ちを掛ける事にするが、そう上手く事が運ぶ訳もなく、此処で夢女子達の性質と言う試練が彼に襲い掛かる。
「ふぇ? 今何か言いました? きょとん」
 夢女子あるあるランキング上位に入る突発性の難聴だ。男性のアピールに靡かず、または全く気付けない鈍感な主人公。夢主の大半はこの病気を患っている。しかもこのキマイラ、『きょとん』まで口に出して言って来たではないか。出鼻を挫かれたローウェン。何だかもうこの時点で死にたい気分。
 だが、旅の恥はかき捨てって言うだろう、彼女の腰と膝に腕を回すとぐい、と力を入れて強引に引き寄せお姫様抱っこ。周りで見ていた女性達からキャー!と黄色い悲鳴が上がった。
「まだまだ未熟たる身ではありますが……お望みとあらば、出来る限りを尽くしましょう、ですからお嬢様、私をお側に置く事を許しては下さいませんか?」
「で、でもっ…… 私、人間じゃないんですの! 貴方と一緒にいて良い訳がない……ッ!」
 知ってる、キマイラだしね。
 涙を滲ませる彼女の瞳はカラーコンタクトレンズで不自然に左目だけが赤かった。どうやら彼女達との会話にはそれ程整合性を図る必要も無く、ストーリーも好き勝手に反応するのでノリ重視でいい様子だが、この10分かそこいらのやり取りで既に体力も精神力も大分持っていかれている。もしかしなくても、怪人を倒すまで今日一日中はずっとそうだ。頑張って欲しい。
「ああ、失礼……お名前を伺ってませんでしたね。お教え頂いても?」
 それは古き良き夢小説サイトで、キャラが名前を訊いてる名前変更ページのあれだ。入力フォームが手元にないか探す仕草を見せる女性。一先ず、ローウェンは先陣を切って『推し』になる事を無事果たしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皐月・灯
匡(f01612)と同行

話がまるで理解できねーが……。

「簡単に言うな。じゃあ匡、アンタやってみろよ」

……普通にできんのかよ。くそ、もう退けねー!

オレはいつも通り、フードを目深に被って行く。
相手は……ボーっとしてるヤツがいいな。

「おい、アンタ」

フード越しに、色違いの目でじっと見つめてやる。
目を逸らさずに、間合いを詰めて相手を覗き込む。

こんな雪の中で突っ立ってんじゃねー、雪だるまにでもなる気かよ。
とりあえず近くの建物まで行くぞ、ついてこい。
いいから来い。風邪でも引いたらどうすんだ。
……初対面なのに何で世話焼くか、って?

「別に……アンタみてーな隙だらけな女、ほっとけねーんだよ」

おい何笑ってんだ、匡!


鳴宮・匡
灯(f00069)と同行


あ、昔こういう仕事したことあるぜ
要はうまく懐柔しろってことだろ
やってみろって? いいけど……


年下っぽい子がいいかな
この雪で足を滑らせる子なんかもいそうだ
助け起こす感じで接触

「危なかったな、大丈夫?」
一人でふらふら歩いてたら危ないぜ
そうでなくても、寒い時に一人でいたら気が滅入るだろ
ほら、こんなに手冷やして(と自然な感じで手を取る)

俺でよかったら付き合うけど……あ、でも
こんな初対面の、得体の知れない奴じゃ駄目かな?


なんだ、灯もちゃんとできてるじゃん
……いや、笑うなってほうが無理なんだけど?


「人懐っこいがちょっと陰のある青年」設定
女心と良心に訴えかける感じ
アドリブ大歓迎




「悪い、話がまるで理解できてねーんだが……?」
「おー? 俺、昔こういう仕事したことあるぜ。要はうまく懐柔しろってことだろ?」
 コーヒーショップの壁を背に、キマイラ達の品定めをする男と少年のふたりの姿があった。何で来ちゃったのかなぁ、と頭を抱える皐月・灯(灯牙煌々・f00069)を余所に、飄々と人の好い笑みを浮かべているのが鳴宮・匡(凪の海・f01612)だ。
「簡単に言うな。じゃあ匡、アンタやってみろよ」
 年の差は一回り以上違うものの、生き方こそはきっと根本では似ているであろうふたりであったが、女性への耐性や扱いは匡の方が上手だった様で、朝まだきの青と夕景の橙の二色の瞳で睨みあげては悔し紛れに悪態をつく灯。
「やってみろって? いいけど…… オーケイ、じゃあオーディエンスをより沸かせた方がコーヒーを奢るってのは?」
「それかなりオレに分が悪くない? けどその賭け、ノってやるよ。先ずはお手並み拝借」
 ――ミッション開始。
 そう遠くはない距離に、これだけの量の雪は中々ないのだろう、えっちらおっちら歩き難そうにしている年下らしきキマイラが一人。それに目を付けた匡が雪を諸共せず駆け寄る。程なくして、見立ての通り、案の定少女が足を滑らせた。
「きゃんっ!」
 やけに可愛らしい声を上げるキマイラ。夢女子はいつ何時であろうとも、鈴を転がす様な声を出す為の弛まず厳しい訓練をしている。大変だなあ。
 即座に匡はその子を助け起こすと、腰を屈めて目を合わせ、不自然さを全く感じさせぬ流れで手を取って冷えた手を摩ってやりながら話しを切り出す。
「危なかったな、大丈夫? ただえさえ足元が悪いんだから、一人でふらふら歩いてたら危ないぜ」
 其れに、そうでなくても、寒い時に一人でいたら気が滅入るだろ? と言われると、大きく潤んだ瞳から流れるのは一筋の涙。
「私、小さい頃にお父さんとお母さんが事故で死んじゃって……それからずっと、一人で生きてきたから、大丈夫、平気だよ。……でもどうしてかな、優しくして貰えるのが嬉しくて……ッ!」
 不幸な身の上を突然語り出したかと思えば堰を切った様にわぁっと泣く少女。だがこれは真っ赤な嘘であり、両親もピンピンしている。可愛そうなキマイラは居なかったんだ、良かったね。
「不幸な出自にも限らず健気な生き様……!」
「天涯孤独設定よ、出逢ったふたりはどうなってしまうの……?」
 観衆がひそひそとそんな事を囁きながら、匡がどう出るのかを固唾を飲んで見守っている。成る程、そういうストーリーか。
「実はさ、俺ずっとお前の事見てたんだよね。お前は俺の事なんか眼中になかったみたいだけど……あの葬式の日から、ずっと、何も出来なかった自分を悔いてるんだ」
 騒めき立つ夢女子達。突然のストーカー宣言と取れなくもないが、今はいい感じに皆の頭が茹っていた。それ故に――。
「貴方は、小さい頃近所に住んでいてよく遊んでくれたお兄さん……?!」
 少女、迫真の演技。勿論近所に住んでいた覚え等もさっぱりないが、夢物では、一歩引いた場所から主人公を見て支えるポジションの為中々スポットの当たらない『世話焼き系の近所のイケメンお兄さん』。しかし、一度舞台へ踊り出れば美味しい所を持っていく事請け合いの! ほんのり此方側も後ろ暗い過去を滲ます事で匡は完璧にその役割に嵌っている様だ。
 こんな奴じゃ駄目かな。そう自嘲気味に笑って見せれば、いいえ、と少女の方から手を握る力を強めて。幸せになってねーとやいのやいのと周りの夢キマイラ達から祝福の声が上がった。見事に一人のキマイラを連れて戻って来た匡の一部始終を見ていた灯は生気がごっそり抜け落ちた様な顔をしている。
「……普通にできんのかよ。いや、普通なのか……? くそ、もう退けねぇ!」
 入れ替わりで灯のターン。フードを目深に被り、『相手はぼーっとしてるヤツが良い』と目を配る。程なくして、ずっと噴水の近くでスマートフォンで何かを見ながら佇んでいる女キマイラの元へと辿り着いた。
「おい、アンタ」
 声を掛ければ、その女は酷く驚いた様に後退り、口をぱくぱくとさせているではないか。何か嫌な予感がする。それが杞憂であれと灯は祈るが、その願いは虚しく。
「君、私の事が見えるの?! だって私は車に跳ねられて死んで……それで神様が……」
「えっ」
「神様が、お前は手違いで死んじゃったから、あの世界に行くといいって私は飛ばされて……!」
「お、おう……?」
 斜め45度から抉る様なジャブを3回程喰らわされた気分の灯は助けを求めようと振り返ると、匡は笑いを堪えるのに必死といった顔でゴーサインを出していた。嗚呼、何たる非情。フード越しに色違いの瞳でじぃ、っと女を見つめて、見えてる、と答えるだけで精一杯だ。
「トリップ系ね」
「ええ、ベタですけど深い事を考えなくても特別視が受けられるあの……!」
 それを見ているキマイラ達が言う様に、その女が演じているのは所謂『異世界トリップ系夢主』。トリップもへったくれもなくキマイラで間違いないが、大体トリップ物の導入では事故死などをした上でやけにフランクな神様が出て来て、代わりと言ってはなんだが、と別世界での春を謳歌する為に飛ばしてくれるのがお約束である。
「オレには見えてるし、ほ、ほら、触れるから……」
 もう何事も言ってくれるなと心の底で思いつつ、間合いを詰めて目を合わせてやった。ひんやりと死人の様に冷たくなった手を取ると、段々と彼も勝手が分かって来たのか、その手を己の頰へと導いて、あったけーだろ? と熱を移す。
「とりあえずさ、こんな雪の中で突っ立ってんじゃねー、雪だるまにでもなる気かよ。近くの建物まで行くぞ、ついてこい」
「で、でもわたしこの世界のお金とか持ってなくて……!」
 ごねる女。『持ってるだろ!』とツッコミを入れたくなるが、それは無粋というもの。
「いいから来い。風邪でも引いたらどうすんだ」
「だって、初対面なのに! 何でこんなに優しくしてくれるの!」
 全夢キマイラが、呼吸すら止めかねない勢いで灯へと視線を注ぐ。そう、此処での模範解答は――!
「別に……アンタみてーな隙だらけな女、ほっとけねーんだよ!」
 百点満点の答えに湧き上がる観衆。クラッカーでもあったら鳴らしているレベルで。そう、トリップ系の導入において大事なのは、突然現れた王子様が『放っておけるか』と連れ去り、何かと世話を焼いてくれるか否かに掛かっている。ライフラインの確保は必要不可欠なのだから。
「おい、何笑ってんだ、匡!」
 すっかり懐いた夢キマイラに片腕に纏わり付かれながら灯が戻って来た頃には、匡は片腹を抑えてひぃひぃ言っていた。
「……いや、笑うなってほうが無理なんだけど? でもなんだ、灯もちゃんと出来てるじゃん」
「で、勝敗は?」
「灯の健闘を讃えて俺の奢りで良いぜ、なぁ、君達もそれでいい?」
 事が飲み込めぬという顔でいた2人の女キマイラも、Wデートね! と頷いてくれた。今や推しを違えた身、不毛な争いも起きぬ模様。
「砂糖とミルクは? それともアレ、映えるってやつにするか?」
「子供扱いすんなよな。オレはもう14だ」
 ――乾杯!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘラ・テンタクルス
(貴族階級でしたり令嬢同士のやり取りに憧れる夢見がちな女性を野生の勘で探します)
(通常通りの装いに雪よけの傘、厚いコートを羽織った姿でその場を訪れます)

まずは事が荒立つ前に雪の中に立つ女性にそっと声を書けてみましょうか。
『ごきげんよう、こんなところにいてはお風邪をひいてしまうわよ?」
声をかけたら彼女にかかる雪を払い、そっと傘を渡します。
『こんな雪に打たれて……折角の美人が台無しよ?そうだわ、少しお時間頂けないかしら。一緒に温かいお茶でもいかがかしら。』

(こんな感じでお茶に誘ってみます。ぱっとみ貴婦人なのでいける!
怪しまれたら催眠術と勢いでゴリ押しします。熱意と勢いで新たなブームを広めるのです)




 満たされぬ、日々だった。裕福な家庭に産まれ家族仲も良好、友達も多く、こんな事自分で言うものでもないが、異性にだってそこそこ、いやかなりモテる方だと思う。でも、なんかつまらないや。
 贅沢な悩みだというのは重々承知の上。それでも、この胸の痞えは取れなくて、ずっとずっと私を苛んで止まない。つい、癇癪を起こして着の身着のまま、スマートフォンだけ持って外に飛び出して来てしまった。そんな私に声を掛けて下さったのは――。
「御機嫌よう、こんな所に居ては、お風邪を引いてしまうわよ?」
 歪なアンモナイトで表情の窺い知れぬその女性は、とてもお似合いの上品そうなコートを着込んで、ぷかりと浮かぶ海月の様な真白の傘を私へと差し出してくれていた。何やら突然の夢主の長文の身の上話が挟まったが、その傘を差し出した女性というのはヘラ・テンタクルス(キマイラのUDCエージェント・f05286)である。
「放っておいて下さい、嗚呼、私。……このまま雪に埋もれて、死んでしまいたいのです」
 そうだわ、それが良い。独り言ちて傘を受け取らぬ夢キマイラにヘラは困った様にして彼女の顔を覗き込む。貝殻の下、真紅の双眸が細められた。
「泣いていらっしゃるのね」
「べ、別に泣いてなんか……」
 咄嗟に顔を背けて袖口で顔を拭おうとしたその手をヘラがやんわりと止めると、代わりにそっと細く美しい指で優しく撫ぜて。
「擦っては駄目……腫れてしまいますもの、折角の美人が台無しよ? 私はヘラ、宜しかったら、暫しの間お側に居ても?」
 押し黙る女性。沈黙を肯定と受け取ってその横に腰を下ろすと、彼女が冷え切ってしまわない様にと肩に腕を回し、自分の方へと引き寄せる。その力は、嫋やかそうに見える姿にそぐわぬ力強いものだ。
「……ッ!」
 不意に与えられた温もり。それは女性の隙間風の吹く心をじわりと埋めて行く。やがて、自分の方から優しいその人へと体重を掛けて静かに、泣いた。ヘラもそれを受け止め、優しく背中を一定のリズムで叩いてやる。きっと、彼女が欲していたのは、打算有りきの好意でも、称賛でも期待でも無く、対等な立場の者の『愛情』。
「ねぇ、貴女。私の……嫌ですわ、案外こう言う場面って気恥ずかしいものね」
 言葉に詰まり困った風に笑うと、女性も腕の中でふふっと擽ったそうに笑ってくれた。
「もう少し、貴女のお時間が頂けるなら、一緒に温かいお茶でも如何かしら」
 ――その前にゴミ拾いね、と言うのは内心に押し留める事にしておく。何時の間にかヘラの肩で寝息を立て始めた夢キマイラの息はかなり酒臭い。彼女の周りには大量のアルコールの空き缶が落ちている。事としてはこうだ、『推し』に関しての喧嘩に負けて昼間からの自棄酒。上着も何も着ていなかった訳ではなく単に取っ組み合いでボロボロになったので捨てただけで、その後酔っ払った勢いで夢主としてのキャラ路線を変更し、とっくに成人済みであるにも関わらず学園物の燻るヒロインに成り切っていたのであった。
「キマシ?」
「同性物夢ですって……! これは良きよ、アリアリのアリ!!」
 カシャカシャとふたりの姿をカメラに収める夢キマイラ達。ヘラは新たなるブームの火付け役へと一躍買い、その後ひっそりと、大人のお姉さんの夢物が流行ったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
まァ、何というか、世の中にはいろいろな趣味があることよなァ。
それに付き合うのも、オブリビオンの暗躍を止めるためならば仕方がない……のか?

急場だがいろいろと調べてはきたぞ。
私みたいな出で立ちの者は、アレだろう。「傍若無人な王子様」みたいな分類になるのだろう。ああいうのは。
壁に押し付けて「私の女になれ」とか言って、気丈に睨み返されたら、
「貴様、面白い女だな。ますます気に入ったぞ」
……とか、言えばいいんだったよな。調べたところによれば。

何というか、うむ。ものすごく疲れるな。
アレだ、こういうのを、「しんどい」と言うのだったかな……。




 急拵えながらも『そう言った世界』を調査した結果、己の似合いだと決めた演じる役目を書き留めたメモを捲り、今一度内容を読み込むのに余念がないのはニルズヘッグ・ニヴルヘイム(世界竜・f01811)だ。
 柔らな灰燼の髪をショウウィンドウの前で掻き上げて映る自分へと笑うと、満を持して夢キマイラの群れる中へと歩を進める。自信に溢れた足取りでマントを翻すと、白の世界に赫の騎士装束が目を引いた。
「ニル様だわ!」
「ニルズヘッグ様ーッ!」
 忽ち周囲が女性で埋め尽くされ、皆が口々に彼の名前を呼び『此方を向いて』と乞う。何故彼がこうも円滑に自分の名前を彼女達へ知らしめたかと言うと、答えはシンプル。背中に『私の名前はニルズヘッグ』と書かれたメモが貼り付けてあった。マメな男である。さっきからマントをバサバサさせて居たのはその為だったのか。
 民草の歓声には目もくれず、探すのはこの王子たる己に相応しき骨のある女の存在。そんな者、そうそうおらぬだろうな――。
「ねぇちょっと! 邪魔なんだけど。大体ニル様って誰よ」
 居たわ。しかもちょっとこれから如何にも何処かに行きますって感じでおめかしをしていた夢キマイラが1人、怒った様に此方を見ていた。
「この領土で私を知らぬとは、貴様、その口次第では極刑に処されても可笑しくない所だぞ」
「は、はぁ……?! 私急いでるの、お城の舞踏会に行かなきゃいけないんだから!」
 彼女は申し訳程度に小脇に抱えられる程の大きさの南瓜を持っている。悲しいかな黄金の馬車はこの雪道では転倒必死だし、馬と6人の従者と太っちょの運転手の雇用も予算オーバーであったらしい。
「あれは童話パロ……!」
「確かに必修科目ね、実現が不可能な物ばかりだからぬかったわ……」
 囁き合う夢キマイラ達。夢主童話ヒロインのスタンダードな王道物から、何らかの作品とのクロスオーバーまで、広く愛されるジャンルである。幼い頃に読んだ物であればとっつき易いので作り手も後を絶たない代物だ。成る程、本当に辛うじてのフレーバー要素からではあったが、ニルズヘッグも妹が愛読していた童話のストーリーに行き着いた。
「それならば、城などに向かわずとも良い」
「えっ……?」
 彼女から南瓜を取り上げると壁へと追いやり、驚きに目を見開いているその顔に手を這わせ、賺さず顎を上げさせ視線を交差させる。
「私の女になれ。逃げるのではないぞ、硝子の靴など落とすまでもない」
 足元なら普通のパンプスだけど。しかし、一国の王子からの直々の言葉すら、彼女は気丈に跳ね飛ばしてみせるのだ。
「馬鹿言わないで! 私の王子様は私で見つけるわ!」
「ほう……貴様、面白い女だな。ますます気に入ったぞ。私の名はニルズヘッグ・ニヴルヘイム。忘れるな!」
 そう言って解放してやると、彼女は走り去って行く。形だけなら、ニルズヘッグは夢キマイラを逃してしまった様にも見えるが、どっと疲弊して座り込みそれどころではなかった。その感情に『こういうのを、しんどいと言うのだったか……』と名前を付けている間に、普通に先程の夢キマイラが着替えて戻ってきて、非礼を詫びてくれた。曰く――、
「『面白い女』って、あるあるネタですけど、言われるとやっぱり興奮するわね!」
 そう語る彼女の目は、とてもきらきらしたものであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋稲・霖
口説くなら可愛くてもかっこよくてもどんとこい!

一応歌とか声には自信あっから…サングラスとか帽子とか被って、いかにもお忍びなアイドルです!的な見た目でいくぜ!
あんまり俺様…っつーの?そーゆー感じなことはできねえから、この世界らしく明るくてパリピな感じで…えっチャラい?よく言われる!

どーせなら、あっちから声掛けてきてくれそーな積極的な子見つけたいな

会った子の話を聞きながら
「はは、アンタおもしれーな!…あ、ほら!寒いんだしもっとこっち来なって。ほんとはこーゆーのダメなんだけどさ…もっと俺の声聞いてほしいし、アンタのためだけに歌いたいってなんでか知らないけど思っちゃうんだよな!不思議!」

※アドリブ歓迎




 サングラスに目深に被ったハット帽。ビシッと決めたスーツ姿で登場したのは秋稲・霖(ペトリコール・f00119)。如何にも、といったその姿に反応したキマイラ達があっという間に彼の周りを囲む様に集う。先程から度々上がる女性達の黄色い悲鳴を聞き付けてやって来た一般の夢キマイラまでなんだなんだ、と群がりその輪の規模は凄いものとなっていた。
「困ったなー! 一応お忍びのつもりだったんだけど、まぁいいか。サイン? おっけーおっけー」
 お忍びならいっそヨレヨレのトレーナーとジーンズとかにすれば案外バレないんじゃないか、とも思わなくはないが、例えそうだったとしても彼から溢れるアイドルオーラはキマイラ達が放っておかないのだろう。霖は気さくにサインやツーショットに応じてやる。いなりって気軽に呼んでなぁ、なんてチャラチャラする彼は、この世界に共にやってきた中でも一番馴染んでいる様に見えた。
「いなり、こんな所で油売ってるんじゃねぇよ」
 人集りを掻き分けてグイ、と霖の手を引く夢キマイラ。コンサート前に何やってんだ、風邪でも引いたらどうする。そう叱る彼女だったが、無論彼にコンサートを開くスケジュールなどは入っていない。
「えー、じゃあ夢主ちゃんあっためてー。俺さむーい!」
 取り敢えずスルッと話に乗ってみた霖は、まぁなんとかなるっしょ!と軽い感じで彼女に凭れかかってみた。
「やめろ、私だって大事な最終公演の前に風邪など引きたくない。喉から来るタイプだし」
 なんと、夢キマイラ自身もアイドル設定。しかも多分、口振りから伺えるに同グループとかだこれ。そこはマネージャーとかじゃないのか。それが悪夢の集団だとはつゆ知らず集まってしまった一般キマイラはすっかり勘違いした様で、彼女にもサインを求める始末。
「禁断のリアルアイドルグループ夢……!」
「男性オンリーの筈のグループの中で一人だけ女として受け入れられてるってアレね!」
 言われてみれば確かに中性的な服装と顔立ち。先程から猟兵達に的確なアドバイスをくれる謎の声に感謝しつつ、彼は夢キマイラの方に腕を回してがっちりホールド。
「えー、今から皆んなに報告がありまーす!」
「「「なぁーにぃー!」」」
「俺、実はこの子の事が好きでーす!」
 ざわめく観衆。まさかの同グループ内での恋慕だなんてスクープものだ。スマートフォンのカメラのシャッター音が至る所で上がる。
「なっ…… 馬鹿、私はお前の事なんか……」
「好き、……だろ? こーゆーの、本当はダメなんだろうけどさぁ……」
 芸能界、特にアイドルの恋愛に事務所は厳しい。でも、彼女も自分を好いていてくれるのなら、そんな世界、追放されても構わないと彼は周りに語ってみせた。
「別にアイドル辞めても歌は唄えるしー? これからは、誰よりも俺の声と歌を近くで聴いていて欲しいって不思議と思っちゃうんだよな!」
「本当に、良いのか……? あいつらに、迷惑掛けちまう」
 ニッと笑う彼に対して、何処か後ろめたそうな夢キマイラ。『あいつら』なんて言うが、多分きっと空想上のその仲間達なら――。
「アイツらなら、祝福ってヤツ? してくれるっしょ。なぁ、アンタの為にだけのラブソングを作っても?」
 跪いて手の甲にキスを落とすと、彼女も観念した様で呟いた。
「……ありがとう、私も、いなりの事、好きだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

襲祢・八咫
ふむ、昔からこの手の物語はあったな。
「特別な者」に「選ばれる」乙女の話は多い。
要するにそれを演出してやれと言うことか。
おれの服装は此処では珍しかろうし、元より神の器物。
自然に話を合わせられるかは、……まあ、運だな。

……目立たなそうな、大人しそうな娘から選ぼうか。

「……やっと見つけた。ずっと、きみを探していた」

触れそうで触れない距離で、じ、と見下ろすのはただの癖。
平凡な日常で唐突に選ばれるなんて、物語の中には有り触れている。
おれと来い、と。
動かなければ腕を取ろうか、早く、と急かすように。

「きみのことは、おれが護ろう」

だからその身を委ねろと。
この手を取って、行こうと。
狙われる者を護る役割のように。




 一人の夢キマイラが、デザインナイフを手にしてずっと震えていた。その切っ尖を自分に向けて、意を決して振り下ろそうとした時、何処からかちりぃん、と小さく鈴が鳴る。
「ねぇ、きみ。それはよした方がいい」
 襲祢・八咫(導烏・f09103)がそれを制すと、ふわりふわりと雪を踏んで近寄りナイフを取り上げて。女の子が、自分で自分を傷付けよう等という痛ましい事は放っておけなかった。
「返して、返してよ!」
「きみがそうしようとしたのは、選ばれなかったから? 愛されなかったから?」
 目に涙を溜めて彼の腕を掴み反抗していた少女はその言葉を聞いて力を弱めた。
「……そうよ! 推しは私を選ばなかった。だから、罪を擦りつける事が出来れば!」
 如何にも平凡で、目立たなそうな娘だ。これと言った得意もなく、何時だって幸せな恋物語の隅っこにすら描写されない、何のエピソードすら持たない存在。夢主と同じ土俵に上がるには、何かしらの事件でも起きない限り無理だと踏んだのだろう。
「自分で自分を傷付けて……? 『悪女ちゃんどうしたの!?』『これは夢主が!』っていうあの!」
「でもアレは諸刃の剣よ! 真実が明るみに出れば二度と推しの愛は得られない!」
 そう、少女がしようとしていたのは陰湿な策ながらも夢物では効果的なライバルキャラになる為のもの。夢主とふたりっきりの場所で自分を傷付け、悲鳴を上げる。それを聞きつけやってきた他の女の子や推しの前で『夢主ちゃんが突然……!』と夢主の所為にする罠だ。上手くいけば推しの心配や愛を得られる事もあるが、解説の通り一度主人公が信頼を取り戻してしまった時には全てがパァになる。
「なら、おれがきみに意味をあげる」
「は……!?」
 夢くらい素直に見れば良いじゃないかと八咫は思わなくもないが、自分に卑屈になり過ぎて選ばれざる者へ自己投影をしてしまったり、『嫌われ夢』の互換版として楽しんでしまう数は割とそう少なくない数居るものだ。
 並々ならぬ覚悟を持っての行動とは把握せど、それを容認する事は出来そうにない。痕は、これから先、一生残るのだから。
「……やっと見つけた。ずっと、きみを探していた気がする」
 少しでも顔を動かしたら触れてしまいそうな距離で、藍を溶く瞳で見下ろして呟く。それは彼の単なる癖だったが、夢キマイラは真摯にも映るその顔で見つめられて、耐えられず戸惑いを見せる。だって、それは、まるで――。
 『特別な者に選ばれる乙女の話』の様ではないか。
「おいで、おれと来い」
 腕を取り、急かして歩き出す。平凡な日常が、突如として終わりを告げるのを感じながら、少女は言った。
「来いって、何処へ行くつもり?」
 男は答える。きみが望むの所へなら、何処へでも。
「どんな所でも、きみのことは、おれが護ろう」
 はやく、はやく行こうと手を握る。指を絡めると、身を委ねる様に返された。
「いいこ」
 軽快にふたり、雪の中を走り行く姿はまるで、自分という檻から解き放たれたお姫様と、それを守る騎士の様であったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジンガ・ジンガ
わァーい、どう見ても地獄ゥ~!

俺様ちゃん、ハクシキだから知ってるぜ
悪役系ポジに対するオハナシとかもあるンっしょ?

【生まれ持った角のために忌み児として迫害されてきた、軽薄クズ系】とかどうよ
いや後半はともかく、別に迫害とか一切経験無いけどネ?
だってフツーの羅刹だもの

この手のが刺さるオトメちゃんも一人ぐらいは居んじゃね?
適当にノリ良さそうなコ見繕って、馴れ馴れしく絡んでくじゃんよ

……どうしてお前はいつも
何故、そう簡単に他人を信用できる?
全て許して、そうやって笑って手を差し伸べられンだよ

俺様ちゃんが本当に欲しかったのは
金やお宝なんかじゃなくて
……お前みたいなヤツ、だったのかも、な

ヤバい腹筋ヤバい死ぬ



「わァーい、どう見ても地獄ゥ~!」
 其処はもう閻魔様だって仕事を放棄する程にこの世のありとあらゆる悪夢を濃縮して作られた地獄の様相を呈していた。一体皆何と戦っているのだろうか、本来の悪とは何だったのか。誰にも判らない。
 そんな光景を高みから見下ろしていたジンガ・ジンガ(塵牙燼我・f06126)はこれ愉快とばかりに手を叩いて、自らもその中へと身を投じる。
 素黒の匂う角を尖らせ、空を眺む目は虚ろ。誰も足跡をつけていない新雪の中で転がるのは存外心地が良い。それ等は全て、汚泥に塗れた己の持たざる、或いは下殴り棄てた色をしていたから。
「ねぇ、こんなとこで何してるの」
 そんな彼の領域に、足を踏み入れた者がいた。――うわ、もう釣れちゃったじゃンよ、と思わずには居られない。何はともあれこんな状態の己に声を掛けて来た闖入者の存在は有難かった。役作りの為とは言え、ちょっと寒かったものだから。
「村のお金をくすねて、駄目だよ。早く帰って謝らないと。村長様達がお怒りになって、また……痛い目に合うよ」
 此処はリゾートの筈であったが、村と来たぞ。しかも意味有り気に腕を抑えてちょっとよろめいて居る。嗚呼、はいはい。この子も蔑みを受けてきたとかそんな感じのね、多分。生まれ持ったその角の為に忌み児として、周囲や果ては親兄弟にまで迫害されて来た――と、いう設定のジンガが彼女に応える。
「どうせ、早かろうが遅かろうが痛い目にゃ合うだろ。お前、馬鹿か?」
「でも、早く帰ればご飯もくれるよ。……優しく……してくれるよ。だから、ね、帰ろう」
 あっけらかん、それ如きの理由で。飢えが苦しいから? いや、『女』であるからこその『持つ意味』もあるのだろう、でもそれ等も全てが馬鹿馬鹿しい。自分の知った事か、と吐き棄てた。
「じゃァ一緒に帰ろ。でさ、ゴール!って所で俺様ちゃんはお前を裏切って、金の事もなにもかもお前のセイ」
 眉を下げて困った様に笑うと、彼女は『それでも良いよ』と言うではないか。『君が痛い目に合わなくて済むなら、それでも良い』。
「嫌われの異世界版よ! 忌み児同士支え合いたいと望む夢主、対するヒーローは何処までもクズ!」
「ふたりが淡い恋に目覚めた時無残にも切り裂かれ女は男の前で見せしめという名の鬱に続く鬱展開が待ち受けているというやつだわ……!」
 本当にこのお姉さん達何者なんだろう。地雷無しなのか、怖いもの知らずなのか。
「……どうして! どうしてお前はいつも。そう簡単に全てを許して、そうやって手を差し伸べられンだよ」
「だって、私にはあそこしか帰る場所がないもの」
「縋れよ! もっと無様に理想を掲げてぐちゃぐちゃに足掻いてもがいて、それから諦めろ!」
 差し伸べられる聖母の様なその手を荒々しく引き、雪の上に組み敷く姿勢を取って大声でがなる。それでも柔な笑みを湛える彼女にポツリ、雪ではない温かな物が降った。
「……悪い。『何もない』って、とっくの昔に諦めてたのは俺様ちゃんの方だ……ッ! 本当に欲しかったのはこんな金やお宝じゃなくて……お前みたいなヤツと、ソイツの平和だったのに」
 背中に腕が回される。抱き留められて、抱き締めて、未だ降り止まぬ雪の中で青年も、彼女も、初めての互いの本当の気持ちを知る――。
 はい、カーット! ジンガさんお疲れ様です、クランクアップです。
「ンひひ、ゴメン、ヤバい腹筋死ぬマジヤバい死ぬ」
 夢キマイラも、なんだか無茶振り設定でごめんなさいとかなり笑ってくれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『季節外れの雪の謎』

POW   :    力づくで怪しい敵を探す

SPD   :    技術を駆使して、雪を止める

WIZ   :    知恵を絞り、敵をおびき出す

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 動画のアップロードとSNSでの宣伝を終えた怪人は眉間を指で解すと、最高傑作パカーと疲れた体を椅子の背凭れに寄り掛かって伸ばしている内に襲い来る眠気に負けて寝落ちをしていた。
「ンーーームニャムニャ、昨日も徹夜だったパカね。さてさて動画の再生数や如何に……」
 開きっぱなしにしておいた動画画面をリロード。きっとあのアホな夢キマイラ達が挙って再生して、今頃各地で暴動が起きている筈――。
「パカァ!?」
 再生数は此処最近の10分の1以下、呟くヤツも全くと言っていい程に拡散されていない。何時もなら自分の動画が座すべきデイリートップランキング1位。その場所に躍り出ていた動画はこの様な物だ。

『貴女は誰推し!? 突如現れたイケメンイケ女にメロメロ! 夢女子達への供給始まる』

 それは某公園での猟兵達と夢キマイラ達の一部始終を収めた動画である。いい感じに推しの数が増えた事で、あんなにも醜く争っていた夢キマイラ達が呑気に『私の推しは~』等と和気藹々とコメントし合ってるではないか。
「ゆ、許せないパカ! Alpacaがどれだけ努力を重ねて動画を作ったかも知らないで! こんな奴等、全員纏めてこの『雪ゆきジャンジャンEX』で凍え死んでしまうといいパカーッ!」
 胡散臭げな機械名であったが、最近の天候バグを見るに効果の程は信用出来る。怪人、遠隔操作用のリモコンの出力ボタンを最大までギュインと上げる。バチバチと火花が散って、ボタンがポロリ。
「も、戻せなくなってしまったパカ…… お高かったのに。まぁいいパカ」
 ともあれ、視界がホワイトアウトする程の猛吹雪が猟兵と夢キマイラ達に襲い掛かる――!
鳴宮・匡
灯(f00069)と同行


少しだけ昔のことを思い出す
あの時もこういう感じだったな
それで、最期は――

「……ああいや。何でもないよ」
お前に逢う前のことを考えてたんだ、とか誤魔化しつつ
まあこれは別に嘘でもないし
……ところでいつまでこの「設定」でいればいいんだ?

とりあえず情報収集からかな
相手の分の飲み物も頼んで手渡し
「いつ頃から降り始めたんだっけ。変わったこととかなかったか?」
前後で怪しい奴を見なかったか、とかも聞いておこう

ま、焦っても仕方ない
こういうのは地道にやってかないとな
……処で、隣の会話ちょっと面白すぎるんだけど

一通り情報が出揃ったら、店を出てそっちへ向かおう
ほら、手出しな
また冷えたら困るだろ?


皐月・灯
匡(f01612)と同行

どうすりゃいいんだ?

……この女の話に合わせてみるか。
オレは本当に別世界から来てんだし、いける、だろ……多分……。

とはいえ情報も何も、体が冷え切ってちゃ話にならねー。
建物の中に連れて、温かい飲み物でも手渡してやる。
「……アンタに風邪引かれちゃ面倒ってだけだ」
ほら、頭にまだ雪載ってんぞ。払ってやるから動くな。

「オレはこの雪を追ってるんだ。だって変だろ、こんなに降り出すなんて」
「……おかげで、アンタには会えたけどな」
「と、とにかく。この雪について何か知らねーか?」

おい、早く出てこい、怪人。
てめーの出待ちでオレはもう死にそうだ……!
匡、助け……こ、この野郎まだ笑ってやがる……!




 こんな日は、少しだけ昔の事を思い出す。あの時もこういう感じだった。それで、最期は――
 枯色の眼に愁いを滲ませ、じっと手を見たまま動かない自分を怯えた様に見上げる存在に気付けば、匡は頭を振って笑みを見せた。
「……ああいや。何でもないよ。お前に逢う前の事を考えていたんだ」
 なんて甘い言葉で誤魔化して、夢キマイラの耳に口を寄せ。ずばり、気になっていた事を切り出す。
「……ところでいつまでこの『設定』でいればいいんだ?」
 すると彼女は悪く笑んで、寒さから逃げる様に取り敢えず入った喫茶店のカウンター席で、横並びになっているもう1組のカップルを見遣ってから青年の耳に口を寄せ返した。
「別に私はもう良いんですけど、あんまりにあっちが面白くて」
「嗚呼、成る程。全く同意見」
 悪よのう、お前もな、と囁き合って可笑しくって笑い合った。だって、このふたりの横ではさっきからずっと一部始終を録画したくなる程のコントが繰り広げられているのだから。

「気になってたんだけどさ、なんでアンタ、その……えーっと、トリップ? しちまったんだ?」
「そ、それは…… その、野良猫を追ってたら…… どうせ信じてくれないんでしょう! 私やっぱり帰る!」
「あー! 待てって、信じるからこれでも飲め!」
 そもそもその設定なら何処に帰ると言うのか。灯は席を立とうとする女の腕を引っ張って、温かいコーヒーのカップを握らせた。
「別に、勘違いするなよ。……アンタに風邪引かれちゃ面倒ってだけだ」
 長い間、自分は異世界から飛ばされて来たと言う役割りに徹していたのだろう。それは非常に孤独な戦いであったが、彼女の頭に積もる雪に本気さが垣間見える。『設定』に付き合いながら、動くな、と言ってそれを全部払ってやる少年の何と甲斐甲斐しい事か。
「オレはこの雪を追ってるんだ、だって変だろ、こんなに降り出すなんて」
「わ、私がこの世界に来た時にはもう降ってたから……」
 もう灯を解放してやっても良くないか、と誰もが思うかも知れないが、こちらの夢キマイラはまだまだ夢を見ていたい様であった。さて、焦点を戻すと共に本題に入ろう。

「で、いつ頃から降り始めたんだっけ。変わった事とかなかったか?」
「んー、ここら辺は元々レジャースポットとして映える様にこの時期はチラチラ雪が降るんですけど、何か変だなーって感じになったのは1週間ちょっと前、とかかなぁ」
 打って変わってこちらは真面目に推理を始めた匡組。コーヒーを啜りながら、少女が頭を捻り言葉を紡ぐ。次に問われた怪しい人物などについては心辺りが無い様で、然し何かしらを思い出した様にスマートフォンを取り出した。
「そうそう、夢動画! これがバズったのが丁度、其れ位前から」
「へぇ、作者とか分かるの?」
「えっとね、Alpacaさんってヒト。この夢動画シリーズが処女作だった様な……」
 ほらね、と差し出されたその動画は10日前の日付の物で、『期待の新人』とタグが付けられている。どうやらその投稿主はその日から毎日動画を投稿している様だ。匡は、恐らく依頼された内容的にはこの投稿主が犯人――怪人と見て間違いないだろうと踏んで振り返る。
「おい、あか――……」
「……知らねーって言うんだったら別にいい。でも……おかげで、アンタに会えた。それだけで十分」
 それまでの遣り取りを端折って見れば、灯がじゃじゃ馬を諭す様に女の手を取り、目を見つめて口説いている最中だった。
「隣の会話ちょっと面白過ぎるんだけど…… おーい、犯人の目星はついたぜ」
「匡、助け…… この野郎また笑って……! って、ホントか!?」
「と言っても動画の投稿者の名前が分かったってだけだけどな」
 青年どころか、彼の隣の少女にまで笑われている事に気付いた灯は居た堪れない気分で机を叩く。
「く、クソ……ッ! 早く出て来い怪人。てめーの出待ちでオレはもう死にそうだ……! とっ捕まえて痛い目見せてやる」
「えっ、Alpacaさんって、あれ作ってた作家さん怪人なの?! え、マジ? 引くわー……」
 遅れて、灯側についていた女が一気に夢から醒めたと言う様に項垂れ世界観も口調も元来の物に戻る。キマイラフューチャーの世界において、怪人は何処でも面倒ごとを招き、関わり合いたく無い対象であった。あと単純にノリが寒かったりもする。
「ま、焦っても仕方ない、後は地道にやっていくしかなさそうだ」
 硝子を突き破らん威力で吹き荒ぶ雪に匡と灯は店に夢キマイラを置いて行こうとしたが、地の利はあるから行ける所までは手伝う、との力強い申し出を受けてはそれに甘んじる他無い。夢物語は、冒険活劇へと早変わりだ。勇者一行の話を聞いていた店主が、お代は結構ですよと笑って言ってくれた上に懐炉を差し入れに送り出してくれた。
 ヤバそうな奴を見つけたら何とか逃げる事、他の猟兵を道中で見付けたら情報の共有を図る事等の幾つかの取り決めをすると、ふたりは彼女達へと手を差し出す。
「ほら、手出しな。冷えたり逸れたら困るだろ?」
「おい、手出せって。行くぞ!」
 一度手を離してしまえば、見失ってしまっても仕方がない程だ。手の温もりを確かめ、吹雪の中へと歩を進め始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

秋稲・霖
【WIZ】
さーて、色々調べてみるとしますかねっと
どーせ色んなとこ回ってデートすんならこーゆー寒いとこじゃなくて、家であったまーるようなデートがいーんだけど

何かやばいぐらい雪降ってね?すげー怪しい感じする!
もしかして、俺らの関係をよく思わないのがわざと雪降らして
二人に風邪引かせよーとしてるんじゃ…っくしゅん
さすがにこんなの怪しいっしょ!ライブで歌えなくなんのもやだし、ここよりももっと雪がめっちゃ降ってたりするとこに何か怪しいヤツとかいたりしねえかな

あんまりこの世界のこと知らないから、夢主ちゃんを焚きつけて一緒に雪の出所探したり、何か知らないか聞いてみよ
話合わせてれば何とかなる!

※アドリブ歓迎です




 悴む手を擦り合わせて、霖もまた雪の中を夢キマイラと探索している最中であった。
「あーもう! どーせならこーゆー寒いとこじゃなくて、家であったまーるようなデートがいーんだけどー! ねー、夢主ちゃんもそう思わないー?」
 ふたりでさ、逃げちゃおうか。そんな風に耳元で囁けば、夢キマイラが『よせよ』とやんわりと顔を遠避ける。その手は酷く冷たくて、『人恋しさの助長』という意味ではこの雪は功を成している様に思えた。
「こんなに冷えるまで黙ってちゃダメっしょ。はっ……! もしかして俺らの関係を切り裂こうってアレ? こんなんじゃふたり共風邪引いちゃうよー……っくしゅん!」
 大きなくしゃみをして寒さに凍える霖を見かねて彼女が首に巻いていたマフラーを解き首に掛けてくれる。けど今度はそれじゃそっちが寒いっしょ、いや平気だと押し問答を繰り広げた末、ひとつを分かち合う事にしたふたり。
「おい、いなり。そんなにくっつくなよ」
「えーだってじゃないと寒いし。ライブで歌えなくなんのもやだし! それにしても何かやばくない?」
 勿論、これに至るまでに傘も試したが、最早頭頂部のカバー以外の役割りを果たさず、横から叩き付ける様に吹き込んで来る雪によって早々にお釈迦様となり何処かに吹き飛んでいった。誰かに当たっていない事を切に願うばかりである。
「ね、夢主ちゃん、ココよりもっと雪がめっちゃ降ってたりするとこないかな? 流石にこんなの怪しいっしょ!」
「怪しいと言うか、こんなのずっと続けてたら心臓に悪い…… いなりは雪を止めたいんだな?」
「うん、だって俺、雪も好きだけど雨の景色の方が好きだし…… って、アレ?」
 何かが引っ掛かる。『雪を止める』。流石に、天候までは如何に猟兵であろうと干渉する手段を持たない。道すがら擦れ違ったキマイラ達や任務を共にする猟兵達にも訪ねてみてはいたが、怪しい人物の目撃証言は一向に出て来なかった。あと、可能性があるとすれば――。
「そうだ! えっと、ほらアレ。なんか雪を降らす機械? とかそーいうのある?」
「え、それだったらあるけど。でもここら辺じゃ最大でも粉雪くらいまでしか降らない様になってた筈……」
 はっと彼女も何かに思い至ったらしく、スマートフォンで何かしら調べて通販サイトから一つの商品を開いて彼に寄越した。
「雪ゆきジャンジャンEX? 夢主ちゃんビンゴじゃない?」
 全国何処でも送料無料。有料会員、即日配送。
「これ皆んなに探すよーに言ってみるか! いや、でもさ……」
 お手柄!と頭を撫で回されてすっかり茹だった様に顔を赤くして照れていた彼女が、何だ? と不思議そうに首を傾げる。
「いや、ちょーちそのネーミングセンス、どうにかならなかったのかなって。俺でももっと良いの思い付くと思うな!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ローウェン・カーティス
どうやら我々は黒幕の企みを阻止することが出来たのでしょうね
この尋常でない気候の変化が何よりの証拠…
あちらは随分と焦っていることでしょう、ええ

非常に険しい状況です(あらゆる意味で)
が、このまま続けることで黒幕をこの舞台に誘き寄せることが出来るかもしれません…!

さて、此方の御嬢様は人ならぬ者と人の恋路について憧れを持たれている様です
…然し、種族の違いなど些細なことではありませんか?
想い通わせた2人が此処にいる
それよりも優先されるべき重要なことが、果たしてあるのでしょうか
喩え貴女の御身が人で無く、生きる時の長さが違えど
私は変わらず、貴女をお慕い申し上げますよ

…ところで、そろそろ暖かいものが恋しいです


ジンガ・ジンガ
ねェーーーー超絶さっみィんだけどォーーーー!!!!

夢主ちゃんダイジョブ? 寒くない?
ごっめんねェー、マジ付き合わせてー
ハイ、俺様ちゃんのコートとマフラー貸してあげっから
もーちょいガンバって?
……ばーか。お前に風邪でも引かれる方が迷惑なンだよ
折角、ホントのキモチに気付けたってのにさ

猛吹雪から彼女を庇う様に寄り添い
冷えた手繋いで、そっと指に唇落とし
俺様ちゃん、デキるオトコだから唐突に夢の世界に誘うわよ
ンひひ、設定はともかく
こういうノリのデートもたまには楽しいじゃんよ?

ところで夢主ちゃん、最近ヘンなモンとか見なかった?
あと、雪がヤベぇ場所とか
なさそうなら【情報収集】しつつガンバッて探すしかないにゃー




「どうやら我々は黒幕の企みを阻止する事が出来たのでしょうね……」
 ずばり、この尋常でない気候の変化が何よりの証拠。あちらは今頃随分と焦っているでしょう、そうキメて見せるローウェンの顔色は白いを通り越してやや青かった。雪に長い間晒されていた上にこの吹雪だ、無理もない。
 そんな彼の姿を見て夢キマイラがコンコンコンと防寒具を出してくれたので事無きを得たが、凡ゆる意味で非常に険しい状況である。王子様ルックになんかパリピっぽい装備でちょっと見た目に難があったり、それに命とか諸々。怪人との戦いを前に風前の灯火だ。
「ねェーーーー超絶さっみィんだけどォーーーー!!!!」
 隣で雪に負けじと叫ぶジンガ。ローウェン共に傘を差そうとした所、何処かの誰かが手放してしまったのであろう、無残にも引っくり返って骨の折れた傘が凶器の様に頭上を通りすがって行って肝までキンキンに冷えたので、今は杖代わりとなっていた。
「夢主ちゃんダイジョブ? 寒くない? ごっめんねェー、マジ付き合わせてー」
 ざくり、ざくり、雪を踏めば男達でも膝下くらいまでには埋まる為、小柄な夢キマイラは非常に歩き辛そうだ。しかし、着せて貰った彼のコートとマフラーをぎゅっと握って、健気に『大丈夫だよ、あったかいから』と笑ってみせる、そんな彼女の盾になり、庇う様に寄り添ってジンガは歩く。
「えぇっと、すいません。それで何でしたっけ、雪ゆき……?」
「ジャンジャンEXーーーー!」
 ふふっと誰からともなく笑いが漏れ何だか暖かい気持ちになった。地域型SNSでの拡散により、今は皆がその機械の捜索に当たっている最中だ。何とも気の抜けた名前に怪人のセンスの悪さは散々たる言われようであったが、開発者が名付けたのであって怪人は単にそれを喜んで買っただけ。ある意味では怪人だって被害者だ。愈々以って、目を開けている事すら難しい程の場所へと近付き始めた一行は、息を飲む。
「もーちょいガンバれる? ……ばーか。折角、ホントのキモチに気付けたってのにさ。これしきで手を離す俺様ちゃんじゃないっての」
 冷えた手を繋ぎ直して、そぅっと愛しき君の指に脣落とし。此の儘、忌み児ふたり、誰も知らぬ村に逃げおうせて、そこで束の間の幸せと寄り添って、それで、それで。――お前の本当の笑顔が見れればイイ。せめてそんな己の見せた不恰好な愛と夢までは搔き消えません様にと彼女を誘うジンガのデキるオトコっぷりと来たら。
 それを見せ付けられたローウェンも、少しの期待を込めた目で自分を見る夢キマイラに向き直った。
「……種族の違いなど些細な事ではありませんか。私と貴女、想いを通わせた2人が此処にいる。例え御身が人で無く、生きる時の長さが違えど…… 私は変わらず、貴女をお慕い申し上げますよ」
 嗚呼、何だかちょっとリメンバー前前前世。因みに紹介が遅れたが、ローウェンに着いた夢キマイラは暗殺に使われる機械の身でありながら心を持ってしまった為に組織から逃げて来たという設定であったらしい事を、不自然な眼の色に関して問うたら答えてくれたのだ。
「……ところで」
「きゃっ?!」
「暖かいものが恋しくて。……いけませんか?」
 そう抱き締めて暖を取る。離したくない、という彼のこの行動の半分くらいは演技じゃなくて本気で寒いからという本能に基づいていた。
「ヒュウ、やるねェ。ンひひ、設定はともかくこういうノリのデートもたまには楽しいじゃんよ?」
「出来れば本当に、この様な日で無ければ良かったんですけどね……」
「まァ、此処で全員遭難して死にましたー! なンてのはゴメンだからもーちょいガンバって探すしかないにゃー え、なァに夢主ちゃん、どしたのー?」
 ジンガの服の裾を引っ張って、耳を立てた彼女が雪荒ぶ、ある区画を指差す。
「あの、あっちから、ごー、ごー、って変な音が!」
「え、マジで。そー言われてみると確かに……?」
 耳をそば立てる男2人。風の音に混じって、微かに聴こえる『変な音』――機械音。
 言葉なく顔を見合わせば頷き合って、夢キマイラ達の手を引いて転げる様に走り出した。凍える髪を振乱し、キャラクター性や形振りと言ったものをかなぐり捨てて叫び合う。きっとこれは死に瀕した時の最期の悪足掻き、謂わば火事場の馬鹿力。
「うぉー! 早く、壊セ壊セ! 新聞の見出しに『雪に埋もれた4人死亡、死因は窒息死か』みたいに載りたくなかったらッ!」
「洒落になってませんよ、そんなの私だって嫌です! 『各地で遭難相次ぐ』とかあんな感じのでしょう!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘラ・テンタクルス
雪ゆきジャンジャンEX?なんですかこの頭の悪そうな名前……
力の抜けるようなネーミングセンスですね、私ちょっと頭痛くなってきました。

ひとまずこれが元凶の様ですので、見つけ次第ぶっ壊してしまいましょう。
それはもう完膚なきまでに。

一眠りした夢キマイラさんをエスコートしつつ、怪しい機械がないかさがしてみます。
これだけの事をするものなのできっと大きいはず。
ネーミングセンス的にも隠密性とか機密性とか一切考えてなさそうですし、すぐ見つかるんじゃないかしら。

機械を見つけたら夢キマイラさんと一緒にさっさと壊してしまいましょう。
自棄酒に至ったフラストレーションを今ここで発散するのです!

ね、すっきりしたでしょ?




「雪ゆきジャンジャンEX? なんですかこの頭の悪そうな名前……」
「ですよねお姉様」
 スマートフォンに表示されている、この雪の元凶たる機械の名前を読み上げると、その力の抜ける様なダサいネーミングセンスにちょっと頭痛がする、とヘラは貝に包まれた頭を抑えた。
 対する夢キマイラは上質な夢を見せて貰い一眠りしたからかご機嫌でヘラに懐いたらしく、腕に体を絡めて激しく同意だと頷く。非常に歩き難い事この上なかったが、其の儘この雪の中で寝かせておいたら凍死まっしぐらだったので仕方がない。
 然し、とヘラは思案する。これだけの事をするものなのだから、そこそこのサイズはありそうだと。そして――。
「嗚呼、やっぱり。在りましたね」
 先に居た公園から、最も雪の色濃い方向へと一心不乱に進んだ、あまり人通りの無い場所。其処にその機械は鎮座して、パイプから轟々と雪を吐き出し続けているではないか。
 蛍光黄緑のボディにオレンジの文字で『雪ゆきジャンジャンEX』とロゴの入ったそれは、あまりにも隠密性とか機密性とかそう言ったものを一切考えて居なさそうなデザインであった。自分の出した雪で半分位埋もれてはいるものの、尚自己主張の激しいカラーリング。頭が痛過ぎて倒れ込みたくなる。開発者を呼び立てて、小一時間問い詰めたいレベルである。
 ――ガッ。
 取り敢えず傘でありとあらゆる力の限りで一発殴っておいた。
 ――ゴッ。
 次に腰に捻りを十分に効かせて、コートの裾から覗く長く伸びるエイの尾で横殴りで一発。
「ほら貴女も! そんな所に突っ立ってないで! 自棄酒に至ったフラストレーションを今此処で発散するのです!」
 表情が伺えない分、貴婦人のその行動は大分怖い様で呆けていた彼女だが、傘を授けられれば機械を殴る輪に加わり、それを振り被り何度も何度も叩く。
「ハァッ、フンッ……! こうですかお姉様!」
「いい感じですわよ! もっと強く、こう、この世の柵とか、世知辛さとかも断つ勢いで!」
「分かりましたお姉様!」
 すっかり気分が高揚して殴り続ける2人だが、とっくの昔に機械は動くことを停止していた。見るも無残に凹みひしゃげた物言わぬそれはもう二度と雪を吐く事はない。保証書があっても修理はお断り、パーツ取り等といったリサイクルも効かず有料で廃品回収して貰うのを待つ他に手立ては無かろう。
 一丁前にトレイルカメラまで取り付けてあったが、それも途中で気付いて完膚無きまでに叩きのめした。モニターの前の怪人は敵に回した勢力の恐ろしさに気付いて泣いている所だ。
「……あら、嫌だわ。私ったらついムキになってしまって……、でもね、貴女。すっきりしたでしょ?」
 ヘラが得意気に唇を釣り上げれば、パッと夢キマイラの顔も煌めく。
「はい! お姉様!」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『怪人アルパカマッスル』

POW   :    ポージング
自身の【肉体美の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    鋼の筋肉
全身を【力ませて筋肉を鋼の如き硬度】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ   :    つぶらな瞳
【つぶらな瞳で見つめること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【瞳から放たれるビーム】で攻撃する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニィ・ハンブルビーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「パ、パカー…… もう後には引けないパカ……」
 ふわふわとしたワカイヤの毛を涙で濡らした『Alpaca』――もとい、怪人アルパカマッスルは誰が見る訳でもないが、何となくアジトにしてた場所に遺書を書き置くと、雪の止んだ広場へと繰り出した。その足取りは、酷く重い。逃げないで律儀に顔を出しに行くだけ、大分偉いと言えよう。
「すいませんでしたって素直に謝ったら許して貰えないパカね……」
 寝不足でお筋肉の具合も悪いし。照りとかもちょっと物足りないし。くるぶしとか暖房に当たり続けてカサついて痒いし。
 本当はちょっとだけ、持て囃されて嬉しかった自分がいる。作戦と言い張りつつ、夢動画がバズって全国の夢見る乙女達からのコメントを貰えたのは作者冥利につきた。それがあったから連日の動画投稿だって頑張れた。
「もう皆んな、『推し君』の事は嫌いになってしまったパカか……? はっ、そんな事はないパカ! きっとあの良さをもう一回説ければ和解出来るパカ!」
「あっ、もしかしてAlpacaってアイツじゃない!?」
 目をギラつかせた夢キマイラ達が遠回しながらに取り囲む。そんな彼女達を見て怪人は腰を90度に曲げて頭を下げ叫んだ。
「す、すいませんでしたパカーーーー!! でもその…… アッ、痛ッ」
 
「ゆ、雪玉位投げてくれて構わないパカ。でも石を中に入れるのはやめて欲しいパカー! それは協約違反パカよ……」

 それは夢キマイラ達の反撃。丹精込めて作った、握力で圧縮しきちんと水を絞ったカチカチの雪玉~石を添えて~が輪の中央で泣き崩れる怪人に殺到する。
 ひょっとしなくてもこのまま雪合戦に混じって倒せちゃうんじゃないだろうか? いやいやそんなの前代未聞だ。猟兵達の心の在り方が問われる――!
皐月・灯
匡(f01612)と同行

「よう、やっと会えたなアルパカ野郎……」

随分と手こずらせてくれたじゃねーか……ああ?

……なんかもうタコ殴りにされてるみてーだが……
てめーのやったことのツケだろ。
オレにもそのツケ払ってもらうからな!

目からビームとか撃ってくるらしいが、ヤツの目に凝視されなきゃいいんだろ。
こんだけタコ殴りにされてる状況で凝視なんぞできるか疑問だが…
まあ、キマイラどもが巻き込まれても面倒だしな。
早々に距離を詰めて、《猛ル一角》を叩き込んでやる。

……けど、このボコられようは……

「……思ってたよりやりづれーな」

後はもう匡に任すかな、すげー疲れたし……。

「……。しょーがねーからやってやるか……肉な」


鳴宮・匡
灯(f00069)と同行


「おーおー、あっちは随分やる気だな」
俺としては個人的な感情はない
敵なら殺す、それだけだ

「あ、下がっててくれると助かるんだけど」
……と、キマイラ達に一応避難勧告
怪我でもされちゃ困るしさ
ヤバそうな奴からは逃げるように言ったろ?

前衛は灯に任せて後方から【援護射撃】
相手の動き出しや攻撃機会を削ぐのに徹しよう

相手が不動になって攻撃が通らないなら
【抑止の楔】で封じにかかる
長引かせてもいいことはないしな
そっちから進んで動かないでくれるなんて優しいじゃん
こんないい的、他にないぜ?

疲れた顔をしてる灯には、軽く発破をかけとくか
「まあまあ、やる気出せって。これ終わったらなんか奢ってやるよ」




「よう、やっと会えたなアルパカ野郎……」
 ぎゃあぎゃあ、わあわあ。キマイラ達の輪を割って入って来たのは灯と匡だ。ぎゃあぎゃあ、わあわあ。よく分からない侭に夢キマイラへと雪玉の供給を行う一般キマイラ達や野次を飛ばす輩達も含めると、其処は随分な数が集っていた。
「え、な、なにパカー!?」
「やっと会えたな、アルパカ野郎ぅぅぅっ!」
「ヒッ」
 吠える灯。怯える怪人。最早何方が悪人か判らない。
「あー、下がっててくれると助かるんだけど。そそ、ヤバそうな奴からは逃げるように言ったろ?」
 匡の言葉に渋々頷いて、熱くなっていた夢キマイラ達が退き始める。ひょっとして救世主かと、匡にそんな顔を向ける怪人だがところがどっこい猟兵である。
「アッ、灯クンと匡クン、パカね!?」
 お噂は予々。いえいえ此方こそ。匡が拳銃を構えると、次の瞬間顔の横スレスレを銃弾がすり抜けて行って、ちりちりと怪人の毛が燃えた。
「……なんかもうタコ殴りにされてるみてーだが…… てめーのやったことのツケだろ。オレにもそのツケ払ってもらうからな!」
 目と目が合う。然し、その目から出たのはビームではなく大粒の涙。マッスルな男が見るも無惨に泣いていた。まだ殆ど何もしてないのにこの有様。
「嗚呼もう! 泣いても! 駄目だから!!」
 速やかに距離を縮めて術式を内包した拳――アザレア・プロトコル、幻釈顕理の名を冠す魔術の1番《猛ル一角》で殴打する。叩き込まれたその拳は小柄な少年から吐き出される暴力である処の大凡の範疇を遥かに超えた一撃で、如何に鍛え抜かれた筋肉にも応えた様で見事にその肉体が弾け飛んだ。
 雪の中を転がる怪人の体を見遣れば、自分が付けた真新しい傷に加え幾つもの打撲痕が見受けられ、そのボコられ様に途端に灯はやる気を失くす。
「なんか、……思ってたよりやりづれーな」
「まあまあ、やる気出せって。これ終わったらなんか奢ってやるよ」
 『すげー疲れた』と長く溜め息を吐く少年に、匡は軽く発破を掛けた。
「……。しょーがねーからやってやるか……肉な」
「なんと今ならデザートにケーキも付いてくる」
「マジか。やるわ」
 灯が現実と向き合い直し、いつの間にか起き上がっていた怪人に目を向けるとサイド・チェスト、即ち此方に横向きになり胸筋を強調するポージングでこちらを見ている。なんかやっぱり帰りたくなって仕方ない。
「そう言えば無敵化出来たんパカ、これで全然痛くないパカー」
「へぇ、そっちから進んで動かないでくれるなんて優しいじゃん。こんないい的他にはないぜ?」
 腕や脚、関節部や駆動部。ラフな姿勢で無造作に撃っている様でいて、確実にそれらを狙った銃撃の一つ一つが全て抑止と成して、そのユーベルコードを封じた。
「パカー!?」
 身動きが取れる様になった事で、無敵化が解除されたのを理解し慌てふためく怪人。好機とばかりに灯がもう一発拳をくれてやる。
「おーおー、随分やる気が出た様で」
「そりゃ、肉とケーキだ。あと、出来れば早いとこ終わらせて帰りたい」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

秋稲・霖
…うっわあ…いたいけな女の子たちの心を弄んだバチが当たったって感じ?自業自得っしょ
それにしても見るからにフルボッコって感じだし…
マジでほっといても倒せるんじゃねこれ?ダメ?
雪玉に石とかちょっと殺意マシマシが過ぎるってゆーか…俺も女の子は敵に回さないようにしよっと

…ま、このまま見過ごすわけにもいかないし、これからもっと痛い攻撃喰らってもらうんでよろしくって感じで!
やるのは俺じゃないんだけど!ってわけで歌でのサポートは任せとけ!

女の敵みたいなことすんのは許せないって気持ちが俺と一緒なら御喝采!めーっちゃ強くしてやるぜ!

ビームとか当たるの痛そうだからとりあえず距離は取っとく!


※絡み、アドリブ歓迎です




「……うっわあ…… いたいけな女の子たちの心を弄んだバチが当たったって感じ?自業自得っしょ……」
 一応の警戒は怠らず、距離を十分に取った所からそんな怪人の成りを眺めて『おお怖い』と霖は肩を竦めてみせる。
「俺も女の子は敵に回さないようにしよっと。家訓にするわー……」
 怪人の周りには幾つもの雪玉が転がっていた。割れたものからさぞ当たったら痛いであろう石がこんにちはしていて、夢キマイラ達の殺意の程がお判り頂ける事だろう。
「……ま、このまま見過ごすわけにもいかないし、これからもっと痛い攻撃喰らってもらうんでよろしくって感じで!」
「パ、パカー! そんなの酷いパカ!」
「やるのは俺じゃないし!! って訳でゲリラライブ始めるぜー!!」
 指をパチンと鳴らせばふわふわと幻想的な狐火が辺りを取り囲み、くるりくるりと回って雪を照らす。歯車印のマイクを携えて――ミュージック、スタート!
「はいはーい、お手手を拝借! 女の敵みたいなことすんのはー?」
「「「みなごろしー!!!」」」
「そんな気持ちは俺も一緒! はいはい御喝采!」
「「「Foooo!!!」」」
「皆、あーりがとー!! って、何混ざってんの!?」
 よくよく見ると大盛り上がりを見せる夢キマイラ達の後ろで怪人がサイリウムと即席の団扇を振っていた。『いなり♡』って書いてあるやつ。そんな、さっき凄い殺意増し増しの観衆の声は聴こえてなかったのだろうか。こいつも突発的な難聴とか患ってるのかなぁ、霖はちょっとだけゲンナリとしながら怪人を摘まみ出した。
「ダメだったパカ!? ワァァァン、自分もいなりクンのライブ楽しみたいパカー!」
「だーめ、お前はあっちに行ってて!」
 彼の歌に共感した猟兵達、それから何なら夢キマイラ達だって思いを共にして、戦闘力はうなぎ登り。南無三、と取り敢えず手を合わせれば、彼は更に場を煽り盛り立てて行く。
「ささっ、今だぜ。猟兵さん達やっちゃってーーーッ!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ローウェン・カーティス
やはり黒幕が出て来ましたか
予想通りの展開です…ね…?
あの、何やら既にキマイラの皆さんに倒されてしまいそうな勢いすらあるのですが…

いや、然し彼も怪人の名を冠する猛の者
これしきの事で折れる器ではないでしょう
…何故に私が敵を応援するみたいなことになってるんです?

それはそれとして、人心を誑かし扇動しようとしたその悪事
決して見過ごすことは出来ませんよ
ここで贖って頂くとしましょうか

トリニティ・エンハンスを攻撃力重視にて発動し
近接戦闘を仕掛けます
【属性攻撃】で剣に炎を纏わせて毛刈りと行きましょうか
その無駄に健康的に鍛えた堅牢な肉体、打ち破って見せますとも

然し、この展開…この歓声…
恐ろしく決まらない…!




「黒幕を炙り出す事が出来ましたか、予想通り……、予想通りの展開です……ね……?」
 自分の発言にも関わらずかなり懐疑的なローウェンは先程から首を傾げるばかり。この怪人、あまりに哀れ過ぎやしないか。良く言えばポジティブなのかも知れない。
「……いや? 然し彼も怪人の名を冠する猛の者……」
「そうパカ!」
「……、……これしきの事で折れる器ではないでしょう」
「ローウェンくん良い事言うパカね!」
 怪人が円らな瞳に涙を溜めて手を取り縋って来ていた。首から下がマッチョな男にそんな眼で見つめられても正直扱いにかなり困る。
「……何故に私があなたを応援するみたいな事になってるんです?」
 落ちる沈黙。えっ、何なのそのさぞ『違うんパカ?』とでも言いた気な顔。小首を傾げられてもそんな、凄く、凄く居た堪れない! 取り敢えず、あとは無言で剣を鞘から引き抜いて、炎の魔力をそれに纏わせた。
「ヒッ……! そんな、救いはないんパカか!」
「有りません! 人心を誑かし扇動しようとしたその悪事、決して見過ごすことは出来ませんからね!」
 そんなローウェンを見て、2歩、3歩と下がっていく怪人。彼のDNAに根深く刻まれた、今は未だ無自覚である事の『女好き』故に。――女の敵は成敗あるのみ!
「ここで贖って頂くとしましょうか」
 ぐん、と右足を踏み込みその剣で一突き。躱されれば、身体を一度左へ撚り右肩を前へ、更に一突き。
「ヌゥンッ!」
 これは堪らない、と筋骨隆々なその身体を上腕二頭筋を誇示して見せるポーズ――フロント・ダブル・バイセップスを取り威嚇する怪人に、驚いた、と青年は目を見開く。
「あなた、ちゃんと戦えるじゃないですか!?」
「そんなぁ、照れるパカー!」
「褒めてないです、いや、褒めた……? くっ、その無駄に健康的に鍛えた堅牢な肉体、打ち破って見せますとも!」
 やっと何だか真面目な感じだと内心喜ぶローウェンだったが、その反面で己が敵に求めるものの様々な要素のハードルが大分下がっている事にも気付いてしまい渋い顔をしてしまう。――だって。
「「「ローウェン君、頑張ってーーー!!!」」」
「がっ、外野は黙ってるパカー! これは男と男の戦いパカー!」
「うっ、この展開、この歓声……恐ろしく、決まらない……!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジンガ・ジンガ
俺様ちゃんね、別に怪人ちゃんに恨みとかねーのよ
なんだかんだ、色々役得で楽しかったし
俺様ちゃんのコト推してくれた夢キマイラちゃん、可愛かったし
正直マジタイプだったから、ちょっとお別れ寂しんぼちゃんだわよ

だからさァ、ソコに関してはパカちゃんアリガトー的なキモチもあるワケよ?

でもね
(カッチカチの雪玉をしっかり握り締めたうえでの、さりげない羅刹旋風)

それと俺様ちゃんが死にかけたのは話が別だオラァッッッッ!!!!
(急所を狙った全力のだまし討ち投げ×2回攻撃)(魂からの恫喝)

遭難からの窒息死フラグとか、シャレになんねーじゃんよ!!
アルパカの毛皮って高級品らしいなァ!!
慰謝料として剥いでくしかねェッしょ!!




「まァ、俺様ちゃんね、別に怪人ちゃんに恨みとかねーのよ」
 なんだかんだこの今日一日の珍道中、色々役得で楽しかったしとジンガは振り返り、握っていた少女の手を名残惜しそうにしながらも離して。最後に少しだけ触れた指と指、その温もりを確かに感じ呟く。
「夢キマイラちゃん、可愛かったし正直マジタイプだったから、ちょっとお別れ寂しんぼちゃんだわよーーー」
 見送る夢キマイラの顔が、それを聴いてまるで火でも出そうな位に赤くなる。本日最もカップルらしかったで賞を受賞する勢いの彼と彼女だ、他の女性達もそれには涙しながら『わかる』『ジンガ君夢マジ推せる』『しんどい』と口々に囁き合う。
「ジンガ君エモかったもんパカね……あの愛の逃避行……」
 うんうん、と怪人までもが深く頷いていた。そりゃドーモ、と答えて頭を掻き一先ずの謝辞をジンガは述べる。
「だからさァ、ソコに関してはパカちゃんアリガトー的なキモチもあるワケよ? ……でもね」
「パカ?」
 直後、怪人の腹にカッチカチの雪玉~石と羅刹旋風のマリアージュ~が炸裂した。ングフゥ、とか声にならない音を漏らしながら吹き飛んだ怪人は、お腹を抑えながら何が起きたか分からない顔をしていた。鳩に豆鉄砲、アルパカに雪玉。
「それと俺様ちゃんが死にかけたのは話が別だオラァッッッッ!!!!」
 夢女達の手によって粛々と彼の元にリレーで送られて来る雪玉をただひたすらに急所――周りで見ていた男達なら誰もが竦みあがる様な場所にジンガは容赦なく当てて行く。そこばかりは筋肉のつけられないのだから、仕方があるまい。
「遭難からの窒息死フラグとか、シャレになんねーじゃんよ!!」
 それは魂からの恫喝。死にたくない、そんな心を弄ぶ様に悪戯に天候を弄って呑気にプロテインを飲みながらカメラで見ていた者へ制裁を――完全に瀕死寸前で蹲る怪人の上に馬乗りになり、むっしむっしとその顔周りの毛を毟る。 
「アルパカの毛皮って高級品らしいなァ!! 慰謝料として剥いでくしかねェッしょ!!」
 その細かく柔らかい毛は手触りがよく、また染料が要らない為に自然にも優しく高価であるとされる。人生一度でもそんな素敵な物に包まれてみたいと評する者も多い。
「フゥー、まぁこれだけでもチョイ短いマフラー位にはなるっしょ!!」
「だ、誰か助け……」
「アァッ!?」
「ヒッ、すみませ……!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘラ・テンタクルス
雉も鳴かずば撃うたれまいと言いますのになぜ全力で出てきて即謝罪しているんでしょう?
このアルパカさん、アレなのか脳みそまで筋肉なのか疑いたくなるレベルですわね……

とはいってもこの残念なアルパカさん、何故か憎めないので倒す倒さないの判断は他の方におまかせしましょうか
私はこのまま石入り雪玉を触手総動員で投げ続けてサポートしていましょう
まぁもし当たりどころが悪くて倒れてしまってもそれはそれという事で。

それにしても残念ですわね。せっかく憎めないキャラしているのだから
世間を騒がす動画じゃなくて、無人島で身体一つで生活したり
激辛チャレンジだったり身体を張った笑える動画をあげてくだされば私毎週見に行きますのに




「雉も鳴かずば撃たれまいと言いますのに……」
 全力の謝罪会見から1時間にも満たないこの間で、ボコられ、燃やされ、毛を毟られたアルパカ――否、アルパカだった何かの怪人の成れの果て。そこにコツコツとヒールを鳴らして出て来たヘラは、怪人にとって最後の救いとも言えた。
「アルパカは、頑張ったパカ……モデリングソフトに、動画編集ソフト。技巧書に、ネットでの宣伝……雪ゆきジャンジャンEXだってさんきゅっぱかと思ったら0が1つ多かったパカ……」
 そう言って項垂れて体育座りをする怪人の肩に優しく手を載せると、あなたのそういう所ですよ、と彼女は諭す。
「脳みそまで筋肉なのかと疑いたくなる所業ですが、まぁそれはそれとして。女心は値段では買えないのです。……でも、あなたの動画、私も見せて頂きました」
「パカ……?」
「乙女の柔肌を優しく扱う様な洗練された仕草、時折いじらしく笑う顔。どれも素敵でしたわ。確かに夢を見る様な感覚でしたもの」
 ひょっとして女神パカか? と見上げる怪人。あらあらまあまあ、いえ、猟兵ですけど。
 ですから、とパパンと手を叩いて大衆の注目を集めると、ヘラは声高らかに謳う。
「皆さん? 夢を見して頂いたでしょう。素敵な動画の作者と推し君に『ありがとう』と先ずは伝えるべきでは?」
 それを聴けば、夢キマイラ達は顔を見合わせて『確かに……推しは格好良かったし……』『有難う御座います、雪投げちゃってごめんなさい』と口々にする。それから、『さっきは叩いてごめんね』等と和解を始める夢女子同士。途端に和やかムードが漂った。
「ぱ、パカー……! 生の声って嬉しいのパカね……!」
「それはそれとして」
「ヒャイッ」
 声をガチトーンに下げると、怪人の肩にめきめきと手がのめり込ませて貴婦人は凄んだ。逃すものですか。あまりの恐怖に語尾を忘れる怪人。
「これで互いにチャラとは言え女心を弄んで悪さをしようとしたのも事実です。然し私はあなたを憎めない感じが凄くするので……倒すか倒さないの判断は他の方々にお任せしましょうか。さてさて皆さーん? 女の敵はー?」
「「「やっちゃってヘラお姉様ー!!!」」」
「承りました。えいっ☆」
 身に隠し持つ触手を総動員させて振るうと、怪人の体が宙に浮かぶ。コンボを繋げる様に悍ましい触手で追い討ちを掛ければ、その肉体はカッキーンと遥か空へと、消えた。
「次の、次のアルパカは、きっと上手くやってくれるパカーーー!!」
 そんな言葉を残して。

「ふう……」
 良い花火でした、と汗を拭うヘラはこうも思案する。
「折角憎めないキャラをしているのだから、今度は世間を騒がす動画じゃなくてこう……無人島で身体一つで生活したり、激辛チャレンジとか……身体を張った笑える動画をアップしてくだされば、私も毎週見に行きますのにね」
 そう、口元を下げて苦笑いを見せると、『確かに』と言う声と、笑い声が所々から上がった。
 斯くして、諸悪の根源である怪人アルパカマッスルの打倒に成功した猟兵達は、夕暮れに差し掛かったキマイラフューチャーで、甘味処や肉屋等に入ると、其々が心ゆくまで胃を満たし、帰路に着くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月08日


挿絵イラスト